「Ord」と一致するもの

TSUBAKI FM - ele-king

 東京を拠点にさまざまな音楽を発信しているインターネット・ラジオ「TSUBAKI FM」が2周年を迎える。おのおのに精力的な活動をつづける Masaki Tamura、Souta Raw、Midori Aoyama の3人によって運営され、たんなるラジオに留まらない展開をみせているこの新型プラットフォームについては、ぜひともこちらのインタヴューをご一読いただきたいが、その2周年を記念したツアーが2020年1月末より実施される運びとなった。東京、広島、金沢、京都、静岡、名古屋の6都市で計7公演が開催される。現地からのライヴ配信なども予定されているとのこと。まだ知らないすばらしい音楽に出会えるこの絶好の機会を逃すなかれ。

東京発、インディペンデントミュージックを発信する音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』が2周年を記念したジャパンツアーを開催!!!

東京を拠点にローカルからワールドワイドまでクオリティーの高いアーティスト/DJを招き、毎週日曜日19:00~21:00にしぶや花魁にてライブブロードキャストを行う音楽プラットフォーム TSUBAKI FM。約2年の活動で京都八坂や加賀山代温泉などの出張放送やタイのローカルラジオとのコラボレーションイベントなど着実にその輪を広げるラジオ局が、昨年に引き続きアニバーサリーツアーを実施。

ツアーでは京都を代表する JAZZ / CROSSOVER イベント “Do it JAZZ!” を主催し、現在は Gilles Peterson 率いるラジオステーション “Worldwide FM” の京都サテライト “WW KYOTO” のホストも務める Masaki Tamura。アンダーグラウンドディスコを軸に長年に渡り茶澤音學館のクルーとして Sadar Bahar の来日サポートを務め、毎週火曜日の Aoyama Tunnel をレギュラーに都内を中心に活躍中の Souta Raw。そして東京ハウスミュージックシーンの人気パーティー /レーベル “Eureka!” を仕掛け、TSUBAKI FM の発起人でもある Midori Aoyama の3人を中心に、特定のジャンルに縛られない様々なジャンルを発信する TSUBAKI FM とリンクした全6都市のローカルアーティストがコラボレーション。現地でのライブ配信やイベントなどが融合したツアーショーケースを約1ヶ月通して開催する。

【Tour Schedule】
1/31 (Friday) Tokyo CITAN
2/21 (Friday) Hiroshima ONDO
2/22 (Saturday) Kanazawa Zuiun & DEF
2/23 (Sunday) Kyoto Metro
2/28 (Friday) Shizuoka COA
2/29 (Saturday) Nagoya outecords
3/07 (Saturday) Tokyo TBA
*追加公演や各公演のラインナップアナウンスは2020年1月以降順次リリース予定

【DJ's】

Masaki Tamura
DJ / Architecture Designer。2003年に活動開始以降、新譜・旧譜問わずJAZZを軸とした選曲を得意とし、京都を代表する JAZZ / CROSSOVER イベント “Do it JAZZ!” を中心にDJを行い、LIVEアーティストからの信頼も厚く、選曲の幅を生かしホテル、ラウンジ等のサウンドサポートも行う等、京都・大阪・東京を中心に活躍中。昨年はヨーロッパシーンで活躍する HUGO LX、Aroop Roy そして新世代バンド WONK を招待、Dego や floating points のサポートを務め、今年7月には mixcloud アワードに選ばれた経歴を持つフランスの GONES THE DJ との共作であるジャパニーズ・ジャズのみを選曲した Mix を発表し話題を集める。Gilles Peterson がスタートしたオンライン・ラジオステーション “Worldwide FM” の 京都サテライト “WW KYOTO” のDJを務め京都祇園のニュースポット “Y gion” から毎月第二月曜日に発信中。

Souta Raw
長年に渡り茶澤音學館でのレギュラー、そして7インチレコードに特化した45’sパーティ Donuts#45 のDJ/オーガナイズを担当して来た Souta Raw は、アンダーグラウンドディスコを軸に世界中の新旧問わず点在する辺境ダンスミュージックを織り交ぜるプレイスタイル。現在は毎週火曜日の AoyamaTunnel をレギュラーに都内を中心に DJ/パーティ・オーガナイザーとして活動中。

Midori Aoyama
東京生まれのDJ、プロデューサー。12年に自身がフロントマンを務めるイベント「Eureka!」が始動。青山 Loop での定期開催を経て13年にはUKから Reel People / The Layabouts を招き eleven にて開催。その後も、module、Zero、AIR と様々な会場に場所を移しながら、過去に Kyodai、Detroit Swindle、Atjazz、Lay-Far、Mad Mats、Session Victim など気鋭のアーティストの来日を手がけ東京のハウスミュージックシーンにおいて確かな評価を得る。過去に Fuji Rock や Electric Daisy Carnival (EDC) などの大型フェスティバルでの出演経験もあり、活躍は日本だけに留まらず、ロンドン、ストックホルム、ソウルそしてパリなどの都市やアムステルダムの Claire、スペインはマジョルカの Garito Cafe などのハウスシーンの名門クラブでもプレイ。15年には Eureka! もレーベルとして始動し、スウェーデンの新興レーベル「Local Talk」とコラボレーションし、自身が選曲、ミックスを務めた「Local Talk VS EUREKA! - Our Quality House」を発表。その後も立て続けにリリースを手がけ現在5枚のEPをリリースするなどレーベルの活躍も期待が高まる。現在は新しいインターネットラジオ局 TSUBAKI FM をローンチし、彼の携わる全ての音楽活動にさらなる発信と深みをもたらしている。

【about TSUBAKI FM】
東京発、インディペンデントミュージックを発信する新しい音楽プラットフォーム『TSUBAKI FM』
世界中から集まるクオリティの高いアーティストやリスナーをキュレーションしながら日本のシーンに対して新しい風を送ります。様々なカルチャーや多彩な音楽そしてライブブロードキャストを中心に毎週日曜日19:00~21:00にしぶや道玄坂のウォーム・アップバー「しぶや花魁」から配信中。
Tsubaki FM is a brand new platform for independent music, straight from the heart of Tokyo. We aim to bring new life to the underground music scene in Japan while also helping better connect artists and listeners worldwide. Get fresh tracks from diverse genres, music culture information, live broadcasts, and more.

Stolen@Tempodrom, Berlin - ele-king

 来年3月にニュー・オーダーの来日が決定、石野卓球と Stolen が追加出演することも発表された。その噂の Stolen とはいったい何者なのか? というわけで、この秋ベルリンで開催されたニュー・オーダーと Stolen のライヴの模様をレポートします。

世界が音楽に貪欲だった70年代の再来か!? 中国の新世代インディーズ・バンドがニュー・オーダーと共に欧州に君臨、そこで、手にした未来とは!?

 現代に残る社会主義国家でありながら、他の資本主義国家よりも圧倒的な経済発展を遂げている中国が閉鎖的であるというイメージはもはや過去の産物ではないだろうか。むしろ、時代を逆行するかのごとく、どんどん自由が制限され、それに気付く余裕さえないほど殺伐とした環境で、ピュアな感性が蝕まれていくように感じる今の日本の方がよほど危機感を覚えるのは筆者だけだろうか。物質的なものでも情報でも、いとも簡単に何でも手に入る環境が決して幸せで良いことであるとは言えないのだ。

 これは何も社会的なことに限った話ではない。アンダーグラウンドな音楽シーンにおいても同様に思うのだ。

 まだ10月初めだというのに冬物のジャケットが必要なほど冷え込んだ日、ベルリンのコンサートホール「Tempodrom」でヨーロッパ・ツアー真っ最中の New Order のライヴが行われた。そのサポートアクトを務めたのが、中国四川省成都出身の中国人5名、フランス人1名からなる6ピースバンド “Stolen” である。


Photo by Alexander Jung

 ヨーロッパでは未だ未知の領域である中国のインディーズ・シーンから、突如テクノの街ベルリンに現れたバンド Stolen とは一体何者なのだろうか? まず、アジア人のコンプレックスを隠そうとするありがちな “Too much なデコラティヴ” は一切なく、むしろ、全身黒の衣装で統一したシンプルなミニマル・スタイルに黒髪の彼らは控えめな若者の集まりと言った印象。

 それに反して、ライヴ・パフォーマンスはストイックと完璧主義の塊である。心の奥底に押し込めた欲望やら鬱憤やらをサウンドに打ち付けて、吐き出しているかのように激しく、それでいて荒削りで強引な演奏ではなく、インテリジェンスで完璧なまでのスキルに身震いするほどの衝撃を受けた。
 圧倒的な存在感を放つフロントマン Liang Yi による堂々たるナルシシズムを全面に出した独自の世界観に真っ先に引き込まれていく。歌詞はほとんどが英語で歌われており、その時点で中国だけでなく、世界の舞台を見据えているように思えた。そして、彼らの放つサウンドはポップではなく、一貫してダークである。VJ担当の Formol によるアートワークがその世界観をグラフィックと写真のコラージュで実にシュールに表現している。


Photo by Alexander Jung

 Kraftwerk や Joy Division に影響を受けているという彼らだが、全員まだ20代である。インターネットが監視下に置かれている中国で、違法ダウンロードによって手にした “外の世界の音” から、自分たちが生まれてもいない70年代のドイツのクラウトロックやイギリスのポストパンク、ニューウェイヴと運命的に出会う。そして、インスパイアされ、独自の解釈によって、ギターと打ち込みが疾走するオリジナリティー溢れる Stolen サウンドとして誕生したのだ。ダークでメランコリックであるが、そこに存在するのは絶望ではなく、暗闇で輝く生粋のアンダーグラウンドである。

 自国へ帰ればアルバイトで生活費を稼ぐ日常が待っている労働者階級出身の彼らに、ネット世界ではなく、本物のベルリンを見せ、スポットライトを当てた重要人物がいることを忘れてはいけない。彼らの成功への道は、プロデューサーの Mark Leeder の存在なくしては語れない。1990年、壁崩壊直後の混沌としていたベルリンで、自身のレーベル〈MFS〉を設立し、マイク・ヴァン・ダイクや電気グルーヴといったテクノ・アーティストのリリースを手掛ける傍、世界を飛び回り、アンダーグラウンド・シーンで光る原石を掘り続けてきた伝説のプロデューサーである。90年代から中国の音楽シーンに注目していた彼の目に止まったのが、平成生まれの若き Stolen である。マークは一体彼らにどんな未来を見たのだろうか?

 伝説のプロデューサーと言えば、もはや何度観たか分からない筆者の音楽人生のバイブル『24アワー・パーティー・ピープル』の故トニー・ウィルソンが頭に浮かんだが、壁に分断されていた80年代の西ベルリンを描いたドキュメンタリー映画『B-MOVIE』が、Mark Reeder そのものなのだ。彼の半生を描いた同作では、自身がストーリーテラーも務めており、狂乱に満ちた同じ時代を駆け抜けた同士として、当然ながらトニー・ウィルソンとの親交も深かったと言う。


Photo by Alexander Jung

 ベルリンは、時代を越えて心底アンダーグラウンド・ミュージックと共存している街であると言える。地下鉄の中やストリートでは日々パフォーマーたちによって様々なジャンルの音楽を耳にし、普通の女の子が Bluetooth スピーカーから爆音でビート・ミュージックを鳴らしながら闊歩する。世界最高峰と呼び名の高い Berghain では毎週末36時間ぶっ通しのパーティーが行われている。そこには年齢も性別も人種も関係ない、心底音楽が好きな人間たちが集まっている、ただ、それだけである。

 Joy Division の『Unknown Pleasures』のTシャツに身を包んだ熟練でシビアな New Oeder ファンを前で堂々たるプレイを見せつけ、取り込んだ Stolen は、アジアを代表するバンドとしてここヨーロッパで確固たる地位を築いていくだろう。この日、客席には彼らの楽曲 “Chaos” をミックスした石野卓球の姿があった。Stolen に昔の電気グルーヴの姿を重ねながら、70年代のマンチェスターやベルリンの再来を期待せずにはいられない一夜となった。

New Order (ニュー・オーダー)の来日公演に、ニュー・オーダーのバーナード・サムナー(Vo.)が絶賛する中国のインディーバンド Stolen と石野卓球が追加出演決定!!

1980年代後半から1990年代初頭にかけて起きたマンチェスター・ムーヴメントを描いた映画で2002年に公開され大ヒットした映画「24アワー・パーティー・ピープル』にも登場する、マンチェスター・ムーヴメントの象徴的アーティストで、ロックとダンスを融合させてサウンドが、ブラー、オアシス、レディオヘッドなど、その後のUKロックバンドに多大な影響を与えたイギリス、マンチェスター出身の伝説バンド、New Order (ニュー・オーダー)の来日公演に、中国のインディーバンド、Stolen と石野卓球の追加出演が決定しました。

Stolen はニュー・オーダーのバーナード・サムナー(Vo.)が彼らの音楽に惜しみなく賛辞を贈る、平均年齢26歳の5人の中国人と1人のフランス人による中国のインディーバンドで、10月からスタートしている、ヨーロッパでのニュー・オーダーのライブ・ツアーにスペシャルゲストとして帯同中。

石野卓球は、Stolen の全世界デビュー・アルバムとなる『Fragment (フラグメント)』にリミックスを提供していますが、実はこの3組のアーティストを繋ぐハブとなったのは、マンチェスター出身のプロデューサー、DJ、そしてドイツベルリンの伝説的音楽レーベル〈MFS〉のオーナーでもあるマーク・リーダーです。

マーク・リーダーはニュー・オーダーのバーナード・サムナーにいち早くベルリンのダンスミュージックを体験させた人物で、彼がいなければニュー・オーダーの名曲“Blue Monday”が生まれることはなかったと言われています。

また、電気グルーヴの『虹』を自身のレーベル〈MFS〉からリリースし、電気グルーヴと石野卓球がヨーロッパで活躍するきっかけを作ったのもマーク・リーダー。

そして、Stolenの全世界デビュー・アルバム『Fragment (フラグメント)』をベルリンでレコーディングし、このアルバムに石野卓球のリミックスが収録されることになったのもマーク・リーダーのプロデュースによるものなのです。

国も世代も異なるアーティストたちが、“音楽密輸人”の異名を持つマーク・リーダーを中心に日本公演で貴重な邂逅を果たします。

なお、ゲスト出演決定につき、開場・開演時間が変更になりますので、詳細は以下の情報をご覧ください。
【ライブ情報】

※ゲスト出演決定につき、開場・開演時間を変更させて頂きます。予めご了承ください。

東京 3月3日(火) 新木場 STUDIO COAST / special guest : 石野卓球
東京 3月4日(水) 新木場 STUDIO COAST / special guest : STOLEN / 石野卓球
OPEN 18:30→18:00 / START 19:30→19:00
TICKET スタンディング ¥10,000 指定席 ¥12,000(税込/別途1ドリンク)※未就学児入場不可
一般プレイガイド発売日:発売中 <問>クリエイティブマン 03-3499-6669

大阪 3月6日(金) Zepp Osaka Bayside / special guest : STOLEN
OPEN 18:30→18:00 / START 19:30→19:00
TICKET 1Fスタンディング ¥10,000 2F指定 ¥12,000(税込/別途1ドリンク)※未就学児入場不可 ※別途1ドリンクオーダー
一般プレイガイド発売日:発売中 <問>キョードーインフォメーション 0570-200-888

制作・招聘:クリエイティブマン
協力:Traffic

【ニュー・オーダー】
メンバー:バーナード・サムナー、ジリアン・ギルバート、スティーヴン・モリス、トム・チャップマン、フィル・カニンガム

マンチェスター出身。前身のバンドは、ジョイ・ディヴィジョン。80年、イアン・カーティスの自殺によりジョイ・ディヴィジョンは活動停止を余儀なくされ、バーナード・サムナー、ピーター・フック、スティーヴン・モリスの残された3人のメンバーでニュー・オーダーとして活動を開始。デビュー・アルバム『ムーヴメント』(81年)をリリース。82年、ジリアン・ギルバート加入。83年に2ndアルバム『権力の美学』をリリースし、ダンスとロックを融合させた彼らオリジナルのサウンドを確立した。85年リリースのシングル「ブルー・マンデー」は大ヒットを記録、12”シングルとして世界で最も売れた作品となった。同年初の来日公演を実施。所属レーベルのファクトリー・レコードが地元マンチェスターに設立したクラブ、ハシエンダ発のダンス・カルチャーは、80年代後半にマッド・チェスター、セカンド・サマー・オブ・ラヴといった世界を牽引する音楽シーンを生み出した。その一大カルチャーの中心的存在として、3rdアルバム『ロウ・ライフ』(85年)、4thアルバム『ブラザーフッド』(86年)、5thアルバム『テクニーク』(89年)をリリースし、その評価・人気共にUKユース・カルチャーの象徴となった。93年、ロンドン・レーベル移籍第1弾として、名曲「リグレット」等が収録された6thアルバム『リパブリック』をリリース。7thアルバム『ゲット・レディー』(2001年)と8thアルバム『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』(2005年)は、ギター・サウンドに比重を置いたサウンドとなった。2007年、オリジナル・メンバーのピーター・フック(b)がバンドを脱退。2001年と2005年にフジ・ロック・フェスティヴァルに、2012年にサマー・ソニックに出演。2014年、MUTE移籍が発表され、2015年9月23日に9thアルバム『ミュージック・コンプリート』をリリース。2016年、実に29年ぶりの単独来日公園を行う。2017年、ライヴ盤『NOMC15』をリリース。2019年6月、地元マンチェスターの伝説の会場で2017年6月に5夜に渡って行われたライヴを収録した『∑(No,12k,Lg,17Mif)』を発売。

タイトル:∑(No,12k,Lg,17Mif) / ∑(No,12k,Lg,17Mif) New Order + Liam Gillick: So it goes..
品番:TRCP-243~244 / JAN: 4571260589032
定価:2,600円(税抜)*CD:2枚組

【石野卓球】
1989年にピエール瀧らと電気グルーヴを結成。1995年には初のソロアルバム『DOVE LOVES DUB』をリリース、この頃から本格的にDJとしての活動もスタートする。1997年からはヨーロッパを中心とした海外での活動も積極的に行い始め、1998年にはベルリンで行われる世界最大のテクノ・フェスティバル“Love Parade”のFinal Gatheringで150万人の前でプレイした。1999年から2013年までは1万人以上を集める日本最大の大型屋内レイヴ“WIRE”を主宰し、精力的に海外のDJ/アーティストを日本に紹介している。2012年7月には1999年より2011年までにWIRE COMPILATIONに提供した楽曲を集めたDisc1と未発表音源などをコンパイルしたDisc2との2枚組『WIRE TRAX 1999-2012』をリリース。2015年12月には、New Orderのニュー・アルバム『Music Complete』からのシングルカット曲『Tutti Frutti』のリミックスを日本人で唯一担当した。そして2016年8月、前作から6年振りとなるソロアルバム『LUNATIQUE』、12月にはリミックスアルバム『EUQITANUL』をリリース。
2017年12月27日に1年4カ月ぶりの最新ソロアルバム『ACID TEKNO DISKO BEATz』をリリースし、2018年1月24日にはこれまでのソロワークを8枚組にまとめた『Takkyu Ishino Works 1983~2017』リリース。現在、DJ/プロデューサー、リミキサーとして多彩な活動をおこなっている。

www.takkyuishino.com

【STOLEN】
中国で今最も刺激的な音楽シーンになるつつある四川省の省都・成都(せいと)を拠点にする平均年齢26歳の5人の中国人と1人のフランス人で構成される6人組のインディーズバンド「STOLEN(ストールン:秘密行动)」。2011年の結成から7年、謎多き中国のインディーズシーンから全世界デビューアルバムとなる『Fragment(フラグメント)』はドイツベルリンの伝説的レーベル「MFS」のオーナーMark Reederがプロデューサーとなり、成都にある彼らのホームスタジオとベルリンのスタジオでレコーディングされた。テクノやロックといったカルチャーを独自に吸収したそのサウンドやライブステージ、アートワークは、中国の音楽好きな若者から人気を集めるポストロック〜ダークウェイブの旗手として、その注目度は世界中へ拡がっている。

STOLEN
日本デビュー・アルバム『Fragment』発売中
価格:¥2,500+税
商品仕様:CD / 紙ジャケ / リーフレット
品番:UMA-1121

 久しぶりのソウルは雲一つない秋晴れだった。ソウルにたどり着くといつもジョン・コルトレーンのアルバム『ソウルトレーン』が思い出される。音楽評論家アイラ・ギトラーが「シーツ・オブ・サウンド」と名付けたコルトレーンの超絶技巧が冴えわたる初期の名盤だ。ソウル市の「ソウル」は「魂」ではなく、「みやこ」を意味する。だが、「陰陽思想」と風水の自然観に基づいてつくられたというソウルの街角は韓国人の魂(ソウル)に満ちあふれている。

■無償のオーガニック給食

 今回のソウル市訪問は、パク・ウォンスン市長が実施している無償給食制度の取材だ。非営利組織「希望連帯」(白石孝代表、東京都)の調査ツアーに同行した。現在、ソウル市では小中高の児童生徒約90万人のうち72万人に学校給食が提供されており、2021年からは全校に拡大される予定だ。しかも食材はパク市長の提唱する都市農業政策の一環として無農薬・無化学肥料で遺伝子組み換えゼロの有機栽培作物を使っている。

 パク市長は2011年に給食無償化を公約にして初当選した。それまで給食費を払えない貧困家庭は、給食費の受給申請を出さなければならなかった。「無償給食が実施されれば、ご飯を食べる時に差別を受けずに友だちと付き合える」というのがパク市長の考えだった。オーガニック給食を実現するためには有機栽培農家との連携や流通システムの整備などが必要だった。


都市農業支援センターの農園=ソウル市江東区で

 ソウル市では9つの地域の生産者から有機食材を調達し、市の流通センターを通して各小中高の調理室に運んでいる。各校に配置された栄養士は学習会に参加して有機農業についての知識を深めている。また、定期的に有機農業の生産者を訪問して意見交換している。当初、栄養士からは「有機食材は形が不統一だから使いにくい」という声が上がった。だが、生産現場を視察してからは、安全性や栄養など有機食材の特質をよく理解するようになった。

 また、ソウル市は社会的弱者に対する「食の正義」を実現し、地域循環型農業や都市型農業を促進するため、「公共給食」という名目で保育園や地域の福祉施設、児童福祉センターにも無償の給食を提供している。現在、保育園と福祉施設の児童計約30万人のうち約10万人に公共給食が提供されている。2022年までには食材の7割を有機食材で賄う予定だ。公共給食のおかげでソウル市には「子ども食堂」がない。


ソウル市東北4区の公共給食センター=ソウル市江西区で

■ソウルは東アジアの “希望都市”

 パク市長は元々、人権派弁護士だったが、1994年に左派系市民団体「参与連帯」を創設。2000年の総選挙で腐敗した国会議員の落選運動を行い、多数の汚職議員のバッジを奪った。李明博政権下の2008年には米国産牛肉の輸入に反対するキャンドル・デモを主導。韓国NGOのリーダーとして注目を集め、06年にアジアのノーベル賞といわれる「マグサイサイ賞」を受賞した。

 2011年、「市民こそが市長である」をスローガンに初当選したパク市長は、新しい社会経済モデルである「社会的経済」〔註〕を市政の柱に据え、市民参画行政や脱原発政策、公共部門の非正規労働者の正規職化などを進めてきた。市民運動のリーダーから市長に転身したことについてパク氏は筆者に「李明博政権の下で韓国の民主主義は大きく後退した。再び政治運動が必要な時代になった」と語ったことがある。


パク・ウォンスン市長(右)と筆者=ソウル市役所で

 市長に就任して以来、「脱原発」政策を掲げ、エネルギー消費型都市からエネルギー生産型都市への転換を図ってきた。そのため小水力発電やソーラー・LED促進など自然エネルギーへの移行を進め、若者就労に寄与するグリーンファンドを設立。一方、市役所や外郭団体の非正規雇用をすべて正規職に転換し、残業ゼロの完全週40時間労働制を進めてきた。そのほか、最低賃金を超える生活賃金の設定、伝統市場の活性化、大学の学費半減、深夜バスの運行開始など「市民の声」を反映した諸政策を実施してきた。

 朴槿恵パククネ政権になってからは、「国の専権事項である労働法に抵触した」として国から提訴されたこともあるが、朴政権崩壊で裁判は無に帰した。日本同様、急激な少子高齢化や格差社会が進展する韓国でネオリベ政策に抵抗しているのはソウル市だけだ。「日韓の市民社会を基盤とし、アジアに成熟した市民社会を広げたい」と語ったパク市長の言葉が忘れられない。ソウル市は東アジア唯一の “希望都市” なのだ。

■安重根と伊藤博文、どちらがテロリスト?

 韓国は万物の根源である「理(ことわり)の国」だ。日本は戦前まで「義」に生きる「武士(もののふ)の国」だった。戦後、日本国民は民主憲法を担いだが、「サムライ・ジャパン」が跋扈する「武士の国」に変わりはない。豊臣秀吉の朝鮮侵略、朝鮮王朝時代の閔妃暗殺や皇帝廃位は、すべて武力に物を言わせてのことだった。日韓関係が悪化すると必ず、一部の月刊誌には「新・征韓論」や「断韓」など威勢のいい見出しが踊る。こうした見出しは「問答無用」と刀を振り下ろす武士と将校の姿を連想させ、後味が悪い。

 韓国の国旗「太極旗」の中央には赤と青の陰陽図が描かれている。森羅万象を「陰」と「陽」に分類する中国易学思想が基にある。陰陽によって万物の成流転や宇宙の成立を理解する陰陽思想は韓国人に共通のソウル(魂)だ。朝鮮独立運動を通して朝鮮民族を象徴する旗として使われ、大韓民国独立後の1949年8月に国旗として制定された。韓国の民族独立の国旗とは正反対に、「日の丸」は中国と太平洋で数百万人の血を流させた “侵略” と “隷属” の象徴でしかない。陰陽思想に基づく「理」の国と、天皇制の下で「武」を尊んだ国の違いは大きい。

 歴史的に見ると、ソウルは「2000年の都市」だ。紀元前18年に百済が首都を置いて以来、朝鮮半島の中心都市として発展してきた。いまだに市内では三国時代(漢城)、高麗時代(南京)、朝鮮王朝時代(漢陽)の史跡や遺構が見つかることがある。日本の植民地時代に起きた民族独立運動を伝える像やミュージアムもあちこちで見かける。

 ソウル市中心の仁寺洞インサドンは原州韓紙や硯、筆、骨董品の店が建ち並ぶ伝統と歴史の町だ。その通りの南にあるタプコル公園には1919年の「三・一独立運動」を記念した石碑と銅板レリーフが並んでいる。西大門ソデムン刑務所で獄死した “韓国のジャンヌ・ダルク” 柳寛順ユ・グァンスンの勇姿の前で思わず一礼。ソウルタワーのある南山公園には初代韓国統監・伊藤博文を中国ハルピン駅で射殺した安重根アン・ジュングンの銅像が、そしてソウル駅前には第3代朝鮮総督・斎藤實に爆弾を投げつけた姜宇奎カン・ウギョがまさに爆弾を投げようとしている姿の銅像が立っている。


西大門刑務所で獄死した「ユ・グァンスン」の象=ソウル市タプコル公園で


朝鮮独立運動の活動家たちを投獄し、拷問・処刑した西大門刑務所

 安も姜も日本ではテロリストと呼ばれるが、韓国では「独立運動の義士」だ。伊藤は、幕末に「朝鮮の属国化」を主張した吉田松陰の弟子だ。朝鮮半島を蹂躙した伊藤や斎藤こそが真のテロリストではないか。戦前の日本帝国主義に対するきちんとした批判と「三・一独立運動」に対する正当な評価がなければ日韓の歴史認識の溝は埋められない。日韓の明るい未来図を描くこともできない。


西大門刑務所の処刑場入り口わきに立つ「慟哭のポプラ」


〔註〕社会的経済:協同組合や社会的企業、社団法人などが主体となった新しい社会経済モデル。貧困や失業、高齢化などさまざまな社会問題解決のため社会・地域サービスを提供している。国連は2013年から、貧困・格差拡大が平和維持を困難にしているとし、社会的経済の促進を加盟国に要請。スペイン、エクアドル、メキシコ、ポルトガル、フランスでは社会的経済の関連法を制定。ソウル市は2014年に社会的経済基本条例を制定し、市民の自発性や地域性に基づいた社会的経済活動の支援を続けている。

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■ネットで聴く韓国ヒップホップ

 買い物客や外国人観光客でにぎわう仁寺洞の通りをはずれ、路地裏の安ホテルに入った。部屋の半分近くを占めるベッドに寝転がってテレビをつけると、韓国の演歌歌手の力のこもったこぶしが部屋中に響き渡った。日本なら北島三郎か細川たかしといったところか? 歌い方や雰囲気も日本の演歌歌手とよく似ている。言葉が違っていても庶民文化は底がつながっているようだ。

 ふと「K-POP」を聴きたくなった。テレビのチャンネルを回したが見当たらない。仁寺洞の通りを探してもCDショップが1軒もなかった。「韓国の若者はどうやってヒット曲を聴いているの?」と不思議に思い、現地の知人に聴いてみると「皆、ネットで音楽を聴いている」とのことだった。


ネットでヒップホップを聴いている韓国の若者。ソウルでは韓服が流行している=ソウル市内で

 実は韓国では音楽市場の90パーセント以上をストリーミング・サービスが占めている。それも iTunes のようなグローバル企業ではなく、韓国の音源サービス会社が独占している。月額で数百円程度で数十曲から無制限にダウンロードできるので、2000年以降、CD・レコードの売り上げは激減してしまった。街角にCDショップが見当たらないはずだ。

 仕方がないので、ネットで韓国ヒップホップを探すと、Beenzino(ビンジノ)の “Aqua Man(アクアマン)” が流れてきた。「男は金魚鉢に閉じ込められた魚、お前がエサのようにまいたメールと留守電がオレを混乱させる♪」。モテモテの女性を金魚鉢にたとえ、そこに閉じ込められた哀れな男たちの心理をユーモラスに歌った韓国ヒップホップのヒット曲だ。

 ニュージーランド生まれのビンジノは、ソウル大学の彫刻科の学生だった時、ネットにアップした自作曲が有名ラッパーの目にとまり、音楽活動を開始した。2012年にリリースしたアルバム『24:26』が高い評価を得たことから、そのイケメンぶりもあって韓国ヒップホップ界の貴公子の一人に躍り出た。

 歌詞も洗練されている。歌う姿もかっこいい。朝鮮半島は38度線で分断され南北の軍隊が軍事境界線をはさんで対峙している。韓国は徴兵制の国だ。男子は満19歳になると2年間の兵役が義務付けられる。休日に迷彩服姿で街角を闊歩する若者を時々見かける。久々に恋人にでも会うのだろうか? 実は入隊中に恋人の女性が他の男の元へ去ってしまうケースが結構多いのだそうだ。ビンジノの歌う金魚鉢とは「兵舎」のことではないかと思ってしまう。

 韓国ヒップホップ界のもう一人のスター、DOK2(ドッキ)はフィリピンとスペイン系だが、ハングルの発音がきわめて正確で歌詞に字幕が必要ないといわれるほどだ。かつてビルの屋上のコンテナで暮らすほど貧しかったというが、今や年収数十億ウォン以上を稼ぎ、ロールスロイスやランボルギーニを乗り回す。「おなかがすいても食べるものは水しかなかった」という歌詞は遠い過去の出来事だ。

■韓国の若者文化に溶け込むラップ

 韓国ヒップホップを聞いていてふと気がついた。ハングル文字はあまり読めないのに韓国のラップが耳になじむのだ。ハングルには文字を支える「パッチム(字母)」というのがある。しかも一つの文字や音節が「子音」で終わる言葉が多い。次の単語の初めの語頭が母音であれば、それと結合し、フランス語のリエゾンのような発音の連結が起きる。このリエゾンにラップ特有の「フロー」を生み出す秘訣があるのではないか。

 さらに、ハングルには喉を開いて息を強く吐き出す「激音」と、喉を締めて息を出さない「濃音」がある。これがラップのリズムに濃淡をつけている。単語の多くが「母音」で終わり、喉を締めるようにして発声する日本語と比べてハングルはラップのリズムを作りやすいのかもしれない。とはいえラップはリズムだけではない。川崎のラッパー、FUNI は NHK のドキュメンタリー番組で「ラップは声を上げられない人たちの代弁」と言っている。ラップは歌い手の内側から出てくる魂の叫びだとすれば、言葉の壁を意識する必要はないだろう。

 ハングルは「偉大な文字」を意味する。朝鮮王朝第四代の世宗大王が1446年に「訓民正音」の名前で公布した。朝鮮半島では長らく文字は漢字しか使われていなかった。庶民は漢字が読めないので役人が法律を浸透させるのに苦労した。そこで全国の民謡や民間伝承、俗話を集めて人工的に作った文字がハングルだ。

 韓国哲学の専門家、小倉紀藏氏は『韓国語はじめの一歩』(ちくま新書)の中で、「万物の音や声を貫く普遍法則(理)を鋭敏に感じ取り、敢然と抽象化・図形化し、それを完璧に定着させた記号だ」と書いた。ハングルは庶民文化と宇宙の原理を一致させた「理」に基づく言語なのだという。

 韓国のラップに慣れ親しむと町中で聞こえてくるハングルの響きが楽しくなる。話し方も独特だ。韓国の人はよくしゃべる。それも自分の意見を自信を持って口にする。昔、バスの運転手の話がナポレオンの演説に見えたことがある。乗客に対する単なる案内だったのだが、胸を張って堂々としていたからだ。どちらかというと控えめな日本人からはそう見えてしまう。言葉に対する構えが違うのだろう。


街角に貼られた「安倍NO」のポスター

 小倉氏は韓国には「筆の思想」があると言う。「朝鮮士大夫はまさに文を以て世界と対決する毅然さを持つ。文にめしを懸け、命を懸けているのである。文は逃げ道であるとされた日本の状況とは、全く異なる」(同書)というのだ。何事につけ「言葉」で論争し合う韓国人と、上の者に「忖度」するくせに、「武力」に訴える日本人との差は歴然だ。韓国は「理=ロゴス(言葉)」の国、日本は「義=パトス(感情)」の国なのだ。言葉に託し、言葉で戦うラップは韓国の若者文化にうまく溶け込んでいる。


日本大使館前の「少女象」。毎週水曜日には少女像の前で若者たちが元慰安婦を囲んで歌やダンスを披露する=ソウル市内で

■パク市長の政治の原動力

 ソウル市では有機農業が炭素排出量の減少に貢献するとして「親環境農業」と呼んでいる。給食の無償化政策の中には「地球温暖化」「有機農業」「社会的連帯」の概念が詰まっている。このほか、労働者の権利を守る労働政策、貧困対策と社会的企業の育成、若者版ベーシックインカム(青年手当)の試行……。ソウル市は世界でも例を見ない革新的政策の数々を打ち出してきた。どこかの国の金持ち優遇政策とは大違いだ。

 パク市長は2期目(2014年~2018年)に、「人間中心のソウル市、市民が幸せに暮らすソウル市」というビジョンを発表した。「安全な街、温かい街、夢見る街、息づく街」に向けた60の政策公約と市民の暮らしを変える101の革新公約を打ち出した。まるでラップの歌詞のように次々と繰り出される政策のほとんどは既に実行されている。ラッパーのソウル(魂)が「声を上げられない人たちの声」を代弁することであるなら、それは、政策決定に市民の声を反映させる血の通った政治を貫いてきたパク市長のソウル(魂)でもある。

Danny Brown - ele-king

 Q-Tip がエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるということで、個人的にもリリース前から期待度が非常に高まっていた Danny Brown の5作目となるニュー・アルバム。結論から先に言ってしまうと、その期待通りの素晴らしい出来で、間違いなく2019年を代表するヒップホップ・アルバムの1枚だ。

 2ndアルバム『XXX』を A-Trak 率いる〈Fool's Gold〉からリリースし、4枚目となる『Atrocity Exhibition』からは〈Warp〉と契約を結ぶなど、いわゆるメジャー・アーティストや、あるいはアンダーグラウンドのラッパーとも異なる道を辿ってきた Danny Brown。奇抜な髪型にさらに前歯も抜けていたりと、ルックス的にも個性的過ぎる彼であったが、それ以上にフリーキーとも言えるラップのスタイルと、天才と変態が表裏一体になっているようなリリックの世界観は、まさに唯一無二の存在であり、ヒップホップ以外のフィールドからも非常に高い評価を受けてきた。そんな、ある意味、アーティストとして完全に突き抜けた位置にいた Danny Brown であったが、今回、Q-Tip がアルバム制作に関わったことによって、彼の持つ混沌の方向性が見事に整理され、ひとつの作品としての強度は非常に増している。Q-Tip 自身もプロデューサーとして3曲手がけており、ファースト・シングルとなった “Dirty Laundry” は実に Danny Brown らしいフリーキーな1曲であるが、個人的にも本作のベスト・トラックと思っているのがセカンドカットの “Best Life” だ。リリック的にはドラッグにまみれたような最悪な環境から何とか這い上がるしかないという、どう見ても複雑な「最良の人生」をラップしているわけだが、Q-Tip ならではのソリッドなドラムを軸としたトラックの、程よくファンキーで明るい希望を見出してくれるような空気感が、全てを前向きに輝かせてくれる。

 ゲスト参加曲では Run the Jewels をフィーチャした “3 Tearz” がリリックの内容の酷さも含めて、Danny Brown の魅力を十二分に引き出しており、ナイジェリア出身のシンガー、Obongjayar をフィーチャしたタイトル・チューン “Uknowhatimsayin¿” も Danny Brown のまた別の顔が伺える一方で、盟友、Paul White が手がける浮揚感溢れるトラックが最高に素晴らしい。そして、参加プロデューサーに関しては、やはり “Negro Spiritual” での Flying Lotus は特別な存在感を放っており、Thundercat が奏でるベースラインとともに Danny Brown の持つ狂気を見事に増幅させている。

 Danny Brown 自身は本作を「スタンドアップ・コメディ的なアルバム」と語っているそうであるが、彼の持つユーモアと毒をひとつのアートとして見事に昇華させることができたのは、間違いなく Q-Tip の功績であろう。ATCQ 亡き後、Q-Tip の今後の動きにも注目してみたい。そう思わせてくれる作品だ。


Zonal - ele-king

 たしかに、ひとが生きていくうえで癒しは必要だ。穏やかで落ち着いたソウルに身を委ねたいときもある。ニューエイジに引きこまれそうになることもある。もうブームは過ぎ去ったようだけれど、シティ・ポップ・リヴァイヴァルだっておなじ穴のむじなだろう。それらすべてに共通しているのは、安心と、安全である。それらはなによりもまず国家と資本にとって都合のいいもので、ひとたび「や、みんなが安心・安全を欲してるんで」という民意が創出されれば、それを旗印にさまざまなとりしまりが可能になる。だれも反対しない、むしろみんなが望んでいる、どこを向いても安心だらけ。

 ここに、けっしてそんな潮流には与しない、タフなヴェテラン2人組がいる。ひとりは、JKフレッシュことジャスティン・K・ブロードリック。彼はインダストリアル・メタル・バンド、ゴッドフレッシュの創始者として知られるが、他方でたとえば近年はスピーディ・Jの〈Electric Deluxe〉から立て続けにアルバムを発表していることからもわかるように、テクノの探求者でもある。もうひとりは、ザ・バグ名義やキング・ミダス・サウンドで知られるケヴィン・マーティン。彼もまた今年はローレンス・イングリッシュの〈Room40〉から本名でアンビエント・アルバム『Sirens』をリリースしたり、ベリアルコラボしたりと、いまだに意欲的な姿勢を崩していない。このふたりが組んだプロジェクトがゾウナルである……というのは若い人向けの説明で、ようするにテクノ・アニマルである。
 テクノ・アニマルは90年代に強烈なノイズ・インダストリアル・ヒップホップを実践していた野心的なグループで、かの GOTH-TRAD の大きな影響源のひとつでもある(JKフレッシュは今年 GOTH-TRAD とのスプリット盤もリリース)。ジャスティンとケヴィンのふたりは、そのまえにゴッドやアイスといったプロジェクトでも手を組んでいるが、今回のゾウナルもじつは、2000年の時点ですでに、テクノ・アニマルに次ぐプロジェクトとして構想されていたらしい。それがようやく2019年になって実を結んだというわけだけど、じゃあなぜ彼らはいま、ふたたび手をとりあうことにしたのだろう?

 このゾウナルのファースト・アルバム『Wrecked(難破、崩壊)』では、ほぼ全篇をとおして重厚な低音が響きわたり、ディストーションが空間を覆いつくしている。インダストリアルであり、ダブであり、ドローンでもあるが、たとえば “System Error” にもっともよくあらわれているように、ビートはヒップホップのそれである。そのリズムに乗ってウェイトレスなシンセとディストーションが互いに互いを際立たせる表題曲や、よりダブ要素を強調した “Debris”、ドローンを前面に打ちだした “S.O.S.” など、どの曲も危険でまったく安心できない。ビートレスな最終曲 “Stargazer” も、ロマンティックなタイトルとは裏腹に、まるでこの世の終わりのような荒廃感を漂わせている。まさに、悪夢のような出来事が絶え間なく発生しつづける、現代のサウンドトラックと呼ぶべきアルバムだ。

 もっとも注目すべきは、前半6曲にムーア・マザーが参加している点だろう。ようするにゾウナルのふたりはアート・アンサンブル・オブ・シカゴ同様、2019年の主役が誰なのかを教えてくれているわけだけれど、彼女のことばは漆黒の音塊と渾然一体となり、容赦なくわたしたちにハードな現実を突きつけてくる。「わたしがこんなに怒っているのに、いまだに、いまだに、いまだに、わたしたちは思考停止状態」と繰り返される “In A Cage” (このリリックはスマッシング・パンプキンズの “Bullet With Butterfly Wings” から着想を得ているのではないかとの指摘もある)で彼女は、「貴様は暴力をもたらした、そうすることで沈黙までもたらした/貴様は神が消え去る手助けをした、宙に血を残して」と声を荒らげる。「バビロンの物語/選ばれし者、失墜する者/みんな忘れてしまった/システムは腐っている」とラップされる “System Error” も痛烈だが、とびきりクリティカルなのは「最初から/女は男に劣っていた/台所の死刑囚」という “Catalyst” の一節だろう。『家事労働に賃金を』で知られるイタリアのオートノミスト、マリアローザ・ダラ・コスタを想起させるメッセージだけれど、このようにムーア・マザーは臆することなくつぎつぎと、人種や性にのしかかるポリティカルな問題、すなわち現代の奴隷制にたいする怒りを巧みに詩へと昇華していく。そんな彼女の勇姿をまえにすると、「あー今日も疲れた、癒されよう」なんて気分にはなかなかなれない。

 反時代的にいこうぜ──ようするにそういうことだと思う。たしかに安らぎは必要である。でも、怒ることだってたいせつだ。ゾウナルのヘヴィかつダークなサウンドも、ムーア・マザーの「耳に痛い」リリックも、極力ノイジーであろうと努めている。彼らの音楽は、たとえば ASMR の隆盛が象徴しているような、フェティッシュとしてノイズが消費されてしまう昨今の状況において、ノイズ本来の意味をとりもどそうともがいているように聞こえる。すなわち、ひずんでいること、耳に痛いこと、安心できないこと。つまりは不和をもたらすこと。みんなが癒しをもとめることで喜ぶのは、ほかのだれでもない、やつらなのだから。

Aphex Twin - ele-king

 まもなく終わりを迎えようとしている〈Warp〉の30周年。ほんとうに今年はいろいろありました。いちばん大きかったのは、NTS のオンライン・フェスティヴァルでしょう。もちろん、ビビオフライング・ロータスプラッドチック・チック・チックバトルズ、ダニー・ブラウン、ダニエル・ロパティントゥナイトなど、リリースも充実していました。ステレオラブの一斉リイシューもありましたね。明日12月27日には、これまで限定的にしか発売されていなかった30周年記念ボックスセット『WXAXRXP Sessions』がレコ屋の店頭に並びます。《WXAXRXP DJS》を筆頭に、多くのアーティストが来日したことも嬉しい思い出です。エレキングも『別冊ele-king Warp 30』を刊行いたしました。そんな〈Warp〉イヤーをしめくくるだろう、おそらくは最後のニュースの到着です。

 30周年記念イヴェント《WXAXRXP DJS》で先行上映されていたエイフェックスのA/Vライヴ映像が、これまた明日12月27日、なんとユーチューブにてフル公開されることになりました(日本時間午前6時)。9月20日のマンチェスター公演で撮影された映像です。エイフェックスで終える2019年──すばらしい年越しになりそうですね。ちなみにこれは宣伝ですけれども、今年は『SAW2』の25周年ということもあり、エレキングも『エイフェックス・ツイン、自分だけのチルアウト・ルーム──セレクテッド・アンビエント・ワークス・ヴォリューム2』という本を出しています。ぜひそちらもチェックをば。

30周年記念イベントで上映されたエイフェックス・ツインの
A/Vライブ映像が12月27日に YouTube で公開決定!
30周年記念ボックスセット『WXAXRXP SESSIONS』も
今週金曜よりレコードショップにて販売開始!

『WXAXRXP (ワープサーティー)』をキーワードに、様々なイベントを通して、30周年という節目を祝った〈WARP RECORDS〉。その一貫として11月に開催された『WXAXRXP DJS』にて先行上映されたエイフェックス・ツインのA/Vライブ映像が、12月27日に YouTube でフル公開されることが発表された。上映される映像は、今年9月20日に行われたマンチェスター公演で撮影されたもの。日本での公開時間は、12月27日午前6時となる。

Aphex Twin – Manchester 20/09/19
https://youtu.be/961uG4Ixg_Y

また、イベント会場やポップアップストアでのみ販売されていた30周年記念ボックスセット『WXAXRXP SESSIONS』が、同じく12月27日より、レコードショップの店頭にも並ぶことも決定。以下の店舗にて販売される。

取り扱い店舗
BEATINK.COMhttps://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10754
タワーレコード 渋谷店
タワーレコード 新宿店
タワーレコードオンライン
Amazon.jp
HMVオンライン
ディスクユニオン・オンラインショップ
テクニーク

WXAXRXP Box Set
Various Artists

release date: 2019/12/27 FRI

WARPLP300
10 × 12inch / 8 prints of WXAXRXP images / 10 stickers

MORE INFO:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10754

収録内容はこちら↓(各12inch も販売中!)

Aphex Twin
Peel Session 2

放送:1995.4.10
エイフェックス・ツインが披露した2つのラジオ・セッションのうちの1つ。すべてが当時のオリジナル音源で、披露された全音源がそのまま収録されている。アナログ盤でリリースされるのは今回が初めて。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10526

Bibio
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
ビビオが、ブレイクのきっかけとなったアルバム『Ambivalence Avenue』に収録された3曲と、2016年の『A Mineral Love』収録の1曲を、ミニマルで美しいアコースティック・スタイルで再表現した4曲を収録。『WXAXRXP x NTS』の放送用にレコーディングされたもの。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10527

Boards of Canada
Peel Session

放送:1998.7.21
ボーズ・オブ・カナダによる唯一のラジオ・セッションが、オリジナルの放送以来初めて完全版で収録。これまで当時の放送でしか聴くことのできなかった貴重な音源“XYZ”が公開中。

https://youtu.be/JZYnw3GBAlU

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10528

Flying Lotus Presents INFINITY “Infinitum”
Maida Vale Session

放送:2010.8.19
フライング・ロータスの出世作『Cosmogramma』リリース当時、『Maida Vale Session』にて披露されたライブ・セッション音源。サンダーキャット、ミゲル・アトウッド・ファーガソン、そして従兄弟のラヴィ・コルトレーンらによる生演奏。ここ以外では聴くことのできない楽曲“Golden Axe”が収録されている。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10529

Kelly Moran
WXAXRXP Session

放送:- / - / -
今回の『WXAXRXP Sessions』用にレコーディングされ、唯一過去放送もされていない超貴重音源。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10530

LFO
Peel Session

放送:1990.10.20
デビュー・シングルを〈WARP〉からリリース直後に『Peel Session』に出演した際のパフォーマンスで、長年入手困難かつ、ここでしか聴くことのできない音源を収録。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10531

Mount Kimbie
WXAXRXP Session

放送:2019.6.21
『WXAXRXP x NTS』企画で初披露されたパフォーマンスで、マウント・キンビーがライブを重ねる中で、どのように楽曲を進化させていくのかがわかるセッション音源。ミカ・レヴィもゲスト参加している。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10532

Oneohtrix Point Never
KCRW Session

放送:2018.10.23
ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー(OPN)率いるバンド、Myriad Ensembleが『KCRW session』で披露したスタジオ・セッションから4曲を収録。OPN以外のメンバーは、ケリー・モーラン、イーライ・ケスラー、アーロン・デヴィッド・ロス。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10533

Plaid
Peel Session 2

放送:1999.5.8
プラッドが『Peel Session』に出演した際に披露したパフォーマンスを収録。『Rest Proof Clockwork』リリース当時のオリジナル音源で、ライブで高い人気を誇る“Elide”も含まれる。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10534

Seefeel
Peel Session

放送:1994.5.27
アルバム『Succour』リリース当時に『Peel Session』で披露されたセッション音源。ここ以外では聴くことのできない“Rough For Radio”と“Phazemaze”も収録。

https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10535

KANDYTOWN - ele-king

 いまさら言うまでもないことだが、KANDYTOWN は世田谷の喜多見をベースにするグループで、15人強のメンバーはみな学生時代からの地元の友だち。メジャー・デビューとなった前作『KANDYTOWN』での、90年代ニューヨークとのつながりを感じるソウルフルなサンプリング・ヒップホップ、クールでレイドバックしたラップ、またクールな洒落者としての存在感などから、男女問わずヘッズたちから大きな支持を得ている。
 10年代を代表するグループのひとつで、関連作もふくめると作品も山ほどある。なんといってもラッパーが7名、ラッパー兼ビートメイカーが2名、ラッパー兼映像ディレクターが1名、ラッパー兼俳優が1名、ビートメイカーが1名、DJが3名いて、それぞれがなにかしらリリースをしている。初期のミックステープやストリート・アルバムも含めた KANDYTOWN のアルバム4枚をはじめ、各メンバーのソロ・アルバム、EP、ミックスCD、ライヴ・アルバムなどは、2015年からでも30枚を超える。KANDYTOWN の面々がいかにハードワーカーなのかを感じるが、たとえば今年2月に出ている Neetz のアルバム『Figure Chord』は、KANDYTOWN の最新作でのトラップへの挑戦の前哨戦を楽しみつつ、KANDYTOWN よりもダンスやポップであることにも挑んでいて、興味深い内容になっている。

 最新作の『ADVISORY』で KANDYTOWN は、これまでのソウルフルでレイドバックしたサンプリング・ヒップホップから、現行ヒップホップの主流のひとつであるトラップに挑んでいる。でもそれは、たとえばケンドリック・ラマーが『トゥ・ピンプ・ア・バタフライ』から『ダム.』でやったように、大胆に舵を切ったという類のものではなく、あくまでトラップを自分たちなりにうまく消化しているといった印象だ。この音楽を聴きながら KANDYTOWN の地元の喜多見にも行ってみたのだが、行き帰りの道中で、最新作が夜の東京をドライヴするサウンドトラックとしてとてもしっくりくるな、という発見があった。アルバムの15曲中10曲を手がけている Neetz による、その打ち込みビートの立ちや力強さが、そのまま車のサウンドシステムでの鳴りの良さにつながっている。またアルバム収録曲の “Last Week” のMV、それにアルバムとは別曲が聴ける今年のEP「LOCAL SERVICE」のジャケットにも黒塗りの車がフィーチャーされているのも、それと無関係ではないかもしれない。

 そのサウンド面の変化が大きく影響しているのは、むしろラッパーたちの方かもしれない。前作までは、バックトラックに合わせラップもレイドバックした雰囲気を楽しんでいた印象だったけれど、それが打ち込みに変わったことで、(KANDYTOWN のラップの通奏低音であるクールさは保ちつつも)新しいヒップホップのモードにラップを乗せていくのを、アグレッシヴに楽しんでいるみたいだ。たとえば Gottz は収録曲でもっとも多くラップをしているひとりだが、KANDYTOWN のなかでは珍しく以前からソロでトラップを取り入れていた彼は、その経験を存分に活かしている。

 一方でこれまでと変わらず楽しめる部分もある。Neetz 以外の5曲のバックトラックを手がけた Ryohu は、前作までのサンプリング・ヒップホップを踏襲、アルバムにドラマチックな印象を加えている。また Ryohu による “Cruisin’” は、ミッドナイト・スターの名曲 “Curious” を思い出させる佳曲だが、タイトル通りこちらも夜の東京を車でクルージングするのにぴったりの曲でもある。

 新作関連で個人的なベストを選ばせてもらうとすれば、アルバムからの最新のシングルカット「In Need」に収録されている、Neetz と Ryohu のリミックスだろうか。Ryohu は “Last Week” を、スクリュー一歩手前と言いたくなるような重たいビートに差し替え。Neetz は、“In Need” にあらたにメランコリックなギターをフィーチャー、クールなオリジナルをドラマチックに生まれ変わらせている。両リミックスともすでに次のステップに進んでいる印象で、早くも次作への期待が煽られる。

 最後に、冒頭で「洒落者」と書いたけれど、それはユナイテッド・アローズの企画によるこちらの動画(https://youtu.be/lYdSKrB44Eo)を見てもらえれば一発でわかる。もう5年も前の映像だけど、マイクリレーの冒頭で KANDYTOWN の IO、DONY JOINT と YOUNG JUJU(KEIJU)が放つ存在感は、続く KOHH にも引けをとらない。シビれる。また、ファッションとヒップホップ、東京とヒップホップという話でいうと、上の映像で、マイクリレーのバックでブレイクビーツをつなぐ MURO(および、MICROPHONE PAGER の『DON’T TURN OFF YOUR LIGHT』)と KANDYTOWN をつなげて考えると、また見えてくるものがあるのではと思いついたりもしているのだが、それはまた別の機会にかな。

 目に見えるよりも先に、音が聞こえてくる。穏やかな秋の日の午後、高円寺と阿佐ヶ谷のあいだにある青梅街道を、数百の人々が笑いあい、踊りながら、先導する何台かのトラックにつづいてゆっくりと進んでいく。そのなかの一台には何組かのバンド──ジャンルはパンクからレゲエ、ファンク、サイケデリック、ロックなど様々だ──が乗りこみ、他のトラックは過去の名曲を爆音でプレイするDJたちを乗せている。音は道沿いを前後に広がって、路地へと滲みだしていき、お祭り騒ぎをしながら道路の上を進んでいく小さな群衆がすぐ近くまで迫っていることを予告している。買い物客や通行人たちは、だんだんと近づいてくる音の壁をどこか楽しげに、興味深そうに眺めている。それが何のためのものなのかは誰にも分からない。だが音が近づいてくることは誰にでも分かる。
 東京という街において音は、特定の空間を誰が所有しているかを定義し、その所有権を主張するさいの鍵となる役割を果たしている。たとえば人の往来がせわしない駅周辺のエリアは、数えきれない広告の音や、店の入り口からとつぜん漏れだしてくる四つ打ちの音、あるいははるか頭上の街頭ヴィジョンから聞こえてくる音でたえず溢れかえっている。結果として人は、そうした領域が商業と資本に属している場所であることを知らされることになるわけである。だが商業的な通りからほんの少し外れると、今度は住宅エリアに入っていくことになる──するととつぜん静けさが訪れ、屋内での音は、一軒家やアパートの薄い壁の外に漏れないように配慮されることになる。このルールが侵された場合、家主を呼ばれるか、警察の訪問を受けるはめになる。騒がしい隣人が歓迎されることはありえない。音楽が演奏されるのは基本的に、薄暗い地下の空間や、ビルの上層階など、防音のしっかりした場所に限定される。公共の場で音を出すことが許される場合があるとしてもそれは、ボリュームを抑えた路上パフォーマンスというかたちであったり、広告のBGMなど、商業的な目的をもったものとして以外にはありえないのである。
 政治という場がおもしろいのは、日本の場合それが、音が社会的に定められた境界を侵犯していくことになる場だからだ。たとえば、期間中ずっと候補者の名前を叫びつづけ、住宅街のなかをゆっくりと走る選挙カーや、30年代の愛国的な軍歌を爆音で流して走る黒塗りの街宣車のことを考えてみればいい。ザ・クラッシュの“ロンドン・コーリング”の音に合わせ街頭で踊る抗議者たちによる、今回のお祭り騒ぎも同様である。こういった例のなかでは、人々の普段の暮らしのなかにある均衡を破り、別の何事かへと関心を向けされるために音が用いられているわけだ。

 今回の高円寺の場合でいうなら、その参加者たちは、街の北側まで目抜き通りを拡大しようとするジェントリフィケーション計画にたいして異議申したてをおこなっているのだといえる。彼らは、街を二分し、小さな家を立ち退かせて、どこにでもあるような複合施設や不動産投資事業によって、近隣一帯の商店の活性化を目論む計画にたいして抗議しているわけである。とはいえ、話はそれだけで終わるものではない。突きつめていえば、街を練り歩き騒ぎを起こす数百人の人々はかならずしも、開発業者の連中や、役人たちや政治家たちの考えを変えようとしているわけではない。そういった者たちの決定を覆すための現実的な戦いは、裁判所や杉並区役所のなかでおこなわれることになるはずである。今回のデモがああいったかたちでおこなわれたのには、そういった現実的な理由とは別の理由があったはずなのだ。
 ではじっさいのところ、今回のこの抗議はいったいなにを目指してデモをおこなっていたのだろうか。この問いにたいして答えようとおもうなら、そこで流れている音楽それじたいに注意を向けてみればいい。参加したミュージシャンやDJの多くは、高円寺のローカルな音楽シーンで活躍する者たちであり、デモの場で彼らは、普段は防音された室内でプレイしている曲を演奏していた。またこの抗議のオーガナイザーである素人の乱は、ふかく地域のコミュニティにかかわり、音楽シーンにもつよい繋がりをもつコレクティヴである。以上をふまえるなら、今回の抗議は、そこに参加した者たちそれじたいに向けられたものなのだといえるはずだ。つまりそれは、自分たちを互いに結びつけるための方法であり、一つのコミュニティとして、自分たちがいったいなにを目指しているのかを思いださせるための方法だったのである。
 さらにいえばそれは、高円寺というローカルな場所だけにかかわるものでもなかった。この抗議は、広い意味での住環境の問題に関係する活動家たちによってサポートされたものでもあった。じっさい、昨年おこなわれた同様の抗議では、京都の吉田寮の追い出し問題〔訳註1〕にたいする抗議者たちや、香港からやってきた民主活動家を含む多様なグループの代表者たちがスピーチするすがたが見られている。今回の抗議と同様の音楽的な形式でおこなわれた2011年の反原発運動のときにも、ソウルのホンデ地区における反ジェントリフィケーション運動に参加する韓国のパンク活動家が参加していた。したがってこれらの抗議は、場所を問わずよりよいコミュニティを築こうとする者たちが互いに出会い、アイデアや共通の地平を確認しあうための祝祭としておこなわれたものでもあるのだ。
 こうした抗議のなかにおける音楽は、なんらかのメッセージの媒介として機能しているわけではない。むしろ音楽はそこで、単純にそれが一番得意なことをしているだけなのである。つまりそれは、参加者たちのあいだにコミュニティの感覚が生じる手助けをしているのだ。音楽は、東京のいたるところにあるあの暗く狭い防音された部屋のなかで密かに、数メーター離れた場所で買い物し、働き、往来している人たちから隠れたまま、たえずそうした役割を果たしてきた。じっさい、音楽をきっかけにして出会った人間たちが、何十人と今回のデモの場に集まり、その場で自分たちのつながりを、つまり自分たちをパンクやインディー好きやノイズ狂いのコミュニティとして結びつけているつながりを、あらためて確認することになった。今回の高円寺のデモは、間違いなくこうした役割を果たしている。とはいえ、防音された薄暗いライヴ・ハウスのなかでも一つのコミュニティとして集まれるにもかかわらず、いったいなぜそれを街頭へと持ちだす必要があったのだろうか。
 この記事の冒頭で私は、いかに音が公共空間にたいする所有権を誇示するための方法になっているかについてや、政治的な行動が、特定の問題にたいして人の注意を引くために、体制によって定められた空間の所有権を音を用いて侵犯したり、あるいはぼやかしたりする場合が多く見られることについて言及した。いうまでもなくそうした政治と音のかかわりは、今回のサウンド・デモのなかでも確認されたものである──外部の聴衆の必要性は、「身をもってなにかを示すデモンストレーション」という方法にあらかじめ備わったものだといえる。だがそれだけではない。この抗議における音楽の用いられ方は、公共空間の所有権の問題だけでなく、同時にまた、コミュニティのあり方についての省察へと向けられたものでもあったのだ。
 われわれは、商業的な領域が公共空間を支配するのを許し、その所有権を主張するのを許すことに、あまりにも慣れすぎてしまっている。たえずあらゆる角度からやってくる音と映像による広告の弾幕は、商業的なものや資本が、われわれの都市やローカルな場にたいして好き放題にふるまう権利を抵抗なく認めさせるための、致命的なプロパガンダとして機能している。だがそれにたいして、高円寺の通りラインに沿った音楽による抗議(や、数週間前の2019年10月におこなわれた渋谷から表参道へといたるプロテスト・レイヴのような最近の同様の出来事〔訳註2〕)は、一種の音によるグラフィティなのである。それはじっさいのグラフィティと同様、商業の側がもっぱら自分たちだけのものだと考えている空間にたいして、われわれじしんの所有権を主張するための方法として機能するものなのだ。それをとおしてわれわれは、防音された地下の部屋から飛びだしていくことになり、街頭は自分たちのものだと、大きな声ではっきりと主張することができるようになるのである。

*訳注1 現在進行形のこの問題については、文末のURLに読まれるサイト『吉田寮を守りたい』および、笠木丈による論考「共に居ることの曖昧な厚み──京都大学当局による吉田寮退去通告に抗して」(『HAPAX 11──闘争の言説』収録)を参照。https://yoshidaryozaiki.wixsite.com/website-9

*訳註2 DJの Mars 89 らの呼びかによって2019年10月29日におこなわれた路上レイヴ。「我々は自身の身体の存在を以て、この国を覆う現状に抵抗する」(ステートメントより)。以下のURLを参照。https://www.residentadvisor.net/events/1335758 (編註:Mars89 は『ele-king vol.25』のインタヴューでその動機や背景について語ってくれています)


You hear us before you see us. A couple of hundred people, laughing, dancing, slowly making their way down Ome-kaido between Koenji and Asagaya on a chilly autumn afternoon, led by a couple of trucks, one hosting a series of bands – punk, reggae, funk, psychedelia, rock – and another carrying DJs blasting out celebratory anthems from ages past. The sound carries down the road ahead and behind, bleeding down sidestreets, heralding the passing of the small crowd of marching revellers. Shoppers and passers-by peer towards the advancing wall of sound, amused, curious. No one really knows what it’s for, but everyone knows we’re coming.

In Tokyo, sound plays a key role in defining and asserting ownership over particular spaces. The area around a busy station explodes with the sounds of a thousand adverts, jingles blasting from shop doorways and booming down from towering video displays. In this way, we know the territory belongs to commerce and capital. Step away from these commercial streets just a short few steps, though, and you may find yourself in a residential area – suddenly silent, domestic noises diligently suppressed within the thin walls of houses and apartments. Transgressions here are greeted with calls to the landlord or visits from the cops. No one likes a noisy neighbour. Music is typically confined to its own designated spots: dingy, carefully soundproofed boxes in the basements or upper floors of buildings. Where it is allowed out into public spaces, it does so either in the form of volume-suppressed street performances or as the servant of commerce, soundtracking adverts.

Politics is interesting because it is a sphere of Japanese life where sound transgresses its socially designated limits. The sound trucks that crawl around your neighbourhood, screaming out the names of politicians endlessly during election periods. The black vans blasting out patriotic military songs from the 1930s. The carnival of protesters dancing down the street in Koenji to the sound of “London Calling” by The Clash. All these people are using sound to disrupt the equilibrium of people’s daily lives and draw their attention to something else.

In the case of the Koenji marchers, we are protesting gentrification in the form of plans to extend a main road up through the north of the town, splitting the neighbourhood in two, and replacing small houses and bustling neighbourhood shops with generic condo complexes and real estate investment projects. That’s not all we’re doing, though. After all, a couple of hundred people marching around and making a noise aren’t going to make a bunch of developers, civil servants and politicians change their minds. The real fight against these proposals is going to happen in the courts and in Suginami City Office. There must be another reason why this march is happening and in this form.

Who is this protest march for? One way to answer this is to look at the music itself. A lot of the musicians and DJs are people involved in the local Koenji music scene, playing the music they always play, locked away in their little soundproofed boxes. The protest’s organisers, the Shiroto no Ran collective, are deeply embedded in the local community, and have strong links with the music scene. In this sense, the protest is for its own participants: a way of bringing us together and reminding us of what we stand for as a community.

It’s not just about the local area though. Also supporting the protest were activists who are engaged more broadly with environmental issues. A similar protest last year brought in speakers representing groups as diverse as the Yoshida Dormitory protests in Kyoto and pro-democracy activists from Hong Kong. The 2011 anti-nuclear protests, which kicked off in Koenji with a very similar musical format, also incorporated South Korean punk activists who were involved in anti-gentrification protests in Seoul’s Hongdae area. These kinds of protests, then, are also festivals for the meeting and sharing of ideas and common ground between those looking to build better communities everywhere.

Music in this protest is not functioning as a vehicle for a particular message in itself, but rather to simply do what it does best: to be a facilitator for a sense of community among participants. This is what music does all the time in those small, dark, soundproofed boxes all around Tokyo, locked away and hidden from the daily lives of people shopping, working and walking just a few metres away. A few dozen of us gather, joined by music, and reaffirm the links between us that make us a community of punks, indie kids, noiseniks or whatever. So the Koenji march is doing this, yes, but if we can come together as a community in a dingy soundproofed live venue, why do we need to take it out into the streets?

At the beginning of this article, I talked about how sound is a way of marking ownership over various public spaces, and how politics often behaves in ways that transgress or blur those established patterns of ownership in order to draw attention to one issue or another. Of course, that’s part of what we’re doing with this musical march – after all, the need for an external audience is inherent in the word “demonstration”. More than that, though, I think the use of music in this protest is where the issues of community consolidation and ownership of public space come together.

We are too comfortable in allowing the commercial sphere to dominate and assert its ownership over public space. The constant barrage of advertising coming at us from all angles in sound and vision functions as a deadening sort of propaganda that makes us too easily accept commerce and capital’s right to do whatever it wants with our cities and neighbourhoods. However, just as graffiti can function as a way of asserting citizens’ ownership over spaces that commerce thinks of as uniquely its territory, musical protests along the lines of the Koenji march (and similar recent events like the Shibuya/Omotesando protest rave a couple of weeks previously on October 2019) are a kind of sonic graffiti in which we can come out of our soundproofed underground boxes and say loudly that these streets are ours.

KODAMA AND THE DUB STATION BAND - ele-king

 朗報です。去る20日、吉祥寺スターパインズカフェにてすばらしい、ほんとうにすばらしいパフォーマンスを披露してくれた KODAMA AND THE DUB STATION BAND が、来年の桃の節句、3月3日にふたたびライヴをおこないます。会場は渋谷クラブクアトロ。はやくも期待で胸がはちきれそうです。アルバム『かすかな きぼう』が良いのはもちろんですが、バンド・アンサンブルのほうもどんどん良くなっているので、まだ観たことない方はぜひ一度足を運ぶことを推奨します。詳細は下記より。

KODAMA AND THE DUB STATION BAND、2020年3月3日(火)渋谷クラブクアトロ公演決定

11月20日にリリースしたバンド初のオリジナル・フル・アルバム、『かすかな きぼう』が各方面で高い評価を受けているこだま和文率いる KODAMA AND THE DUB STATION BAND。実質的なレコ発となる、12月20日の吉祥寺スターパインズカフェにおけるワンマン・ライヴも大盛況だった彼らの渋谷クラブクアトロ公演が決定。2020年3月3日(火)、お楽しみに。

《公演詳細》
KODAMA AND THE DUB STATION BAND
MEMBER:
こだま和文(Tp / Vo)、ARIWA(Tb / Vo)、HAKASE-SUN(Key)、AKIHIRO(G)、コウチ(B)、森俊也(Dr)

2020/03/03(火)
渋谷クラブクアトロ
開場19:00 / 開演20:00
前売:4000円(税込 / 1DRINK別)
当日:4500円(税込 / 1DRINK別)
チケット発売日:01/11(土)
・DUB STATION BAND HP、チケットぴあ、ローソンチケット、e+、クラブクアトロ店頭、他

*先行予約
・DUB STATION BAND HP: 01/04(土)12:00 ~ 01/10(金)18:00
・QUATTRO WEB: 01/04(土)12:00 ~ 01/06(月)18:00
・e+ pre-order: 01/04(土)12:00 ~ 01/06(月)18:00
問い合せ:CLUB QUATTRO 03-3477-8750 / www.club-quattro.com

KODAMA AND THE DUB STATION BAND official site
https://dubstation.info/

《商品情報》

アーティスト:KODAMA AND THE DUB STATION BAND
タイトル:かすかな きぼう
レーベル:KURASHI/Pヴァイン
商品番号:KURASHI-003
フォーマット:CD
価格:定価:¥2,727+税
発売日:2019年11月20日(水)

収録曲
01. 霧の中でSKA
02. CHORUS
03. SUNNY SIDE WALK
04. かすかな きぼう
05. 雑草 (weed)
06. STRAIGHT TO DUB
07. GYPSY CIGARETTE
08. NEW WORLD
09. 霧の中でSKA (Mute Version)
10. STRAIGHT TO DUB (Tez Dub Version)

Tohji - ele-king

 2019年、大きな話題を集めたラッパーの Tohji が、人気曲“Rodeo”のMVをサプライズで公開している。USのユーチューブ・チャンネル No Jumper からのリリースで、監督は“aero”のMVも担当していた Havit Art。今年の活躍を締めくくりつつ、来年のさらなる飛躍を期待させてくれるような、なんとも勢いのある動画に仕上がっている。

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