「Ord」と一致するもの

interview with !!! (Nic Offer) - ele-king

 言うまでもなく、パンデミックは世界じゅうのミュージシャンに甚大な被害をもたらした。部屋に閉じこめられた多くの人びとは内省へと向かい、それと関係があるのかないのか、アンビエント作品のリリース量も増えた。あれから2年。欧米ではライヴもパーティもほぼ普通に開催されるようになっている。20年間つねにダンスを追求しつづけてきたNYのパンク・バンド、!!! (チック・チック・チック)の面々はこの期間、どんなふうに過ごしていたのだろう。
 新作を再生すると、アコースティック・ギターが感傷的なコードを響かせている。なじみのある声が控えめに「普通の人びと、普通の人びと」と繰り返している。エネルギッシュなライヴ・パフォーマンスで知られる彼らが、まさか弾き語りに活路を見出す日が来ようとは。まったくコロナ恐るべし……

 嘘だ。2曲めからアルバムはフルスロットルで走り出す。ちょっとしたジョークなのだろう。R.E.M. のカヴァー(というよりはリリックの拝借と言ったほうが近いが)からデンボウ(*)にインスパイアされた曲まで、相変わらずヴァラエティに富んだ内容である。軸になっているのはやはりダンス。!!! がそれを手放すなんてありえない。
 むろん変わったところもある。ドラムマシンの存在感。通算9枚めのスタジオ・アルバムは、かつてなく打ち込みの度合いが高まっている。集まってセッションするのが困難なら、機械を活用するまで。ダンス・パンク・バンドが踊れない時代に突きつけた回答、それが新作『ブルーなままに(Let It Be Blue)』だ。パンデミックの「暗い」思い出を否定することなく、ポジティヴに前へと進んでいこう──ビートルズの曲に引っかけたこのタイトルにはきっと、そんな想いが込められているにちがいない。
 幸いなことに、日本でもだいぶライヴやパーティが復活してきている。先日《LOCAL GREEN FESTIVAL’22》への出演がアナウンスされた !!! だが、ここへ来て単独東京公演も決定した(詳細は下記)。リモートで制作されマシン・リズムに身を委ねた楽曲たちが生のステージでどのように暴れまわるのか、いまから楽しみでしかたない。

* シャバ・ランクスの(反ゲイ感情を含む)問題曲に由来し、その後ドミニカで独自に進化を遂げた、レゲトンの発展形。

普通でいたくないんだけど、普通でいたくないと思うのは他の皆が思っている普通のこと。それって感情の戦いだからね(笑)。ユニークであること、ユニークでありたいと思うことは普通のことなんじゃないかな。雪の結晶と同じさ。ひとつひとつが違って当たり前。それが普通のことなんだ。

つい最近スペインでツアーをされたのですよね。いまだパンデミックは継続中かと思いますが、オーディエンスの状況やパフォーマンスの手ごたえはどうでしたか?

ニック・オファー(以下、NO):すごく良かったよ。久々のコンサートだったから特別感があったし、手ごたえもすごく良かった。パフォーマンスを永遠に続けていたいような感覚だったね。まあ、メンバーのひとりでもコロナにかかったらショウをキャンセルしなきゃっていうプレッシャーはあったけど、その他はいつものライヴと同じように楽しかったし、雰囲気も同じだった。3日だったから、違いを感じる時間もなかったっていうのもあるかもしれない。アメリカに戻って長いツアーをやったらどんな感じなのかな? っていうのはいま俺も気になっているところなんだ。

住まいはいまもニューヨークですか?

NO:そうだよ。

NYはどういう状況なのでしょう? マスクをしている以外は以前のNYに戻りつつあるというような記事も見かけましたが……

NO:ニューヨークって感染者の数も多かったし、アメリカのなかではコロナを気にかけてるほうだとは思うけど、正直いまはもうコロナはあまり影響していないと思う。スーパーとかに行くと、けっこう皆マスクをしていたりするけど、それ以外は前のニューヨークと変わらないね。クラブにいったらワクチンの接種証明のカードを見せないといけないとか、以前と違うのはそれくらい。

前作もヴァラエティに富んでいましたが、今回もだいぶヴァラエティに富んだアルバムに仕上がっています。パトリック・フォードによるトラック、ドラムマシンも印象的です。こういう打ち込み寄りのアルバムに仕上がったのは、ここ2年のパンデミックと関係がありますか? たとえばエレクトロの “Panama Canal” は、ラファエル・コーヘンとマリオ・アンドレオーニのファイル共有から生まれた曲だそうですね。

NO:!!! はエレクトロニックな要素を年々増してきているけど、今回はそれがMAXになっている。やっぱりそれは、バンドとして集まることができなかったから。俺たちはエレクトロニック・ミュージックが好きだし、それは常に !!! のサウンドの要素としては存在していたけど、今回はさらにそれを強化せざるをえなかったんだ。だから逆に、次のアルバムはもっとアコースティックになるかもね。今回は、リモートでエイブルトン・セッションをやりながら曲をつくっていったんだけど、“Panama Canal” もそのひとつ。誰かがまずサウンドを作って、それにまた違うメンバーが自分の音を乗せていく、というのが主な流れだったんだ。

R.E.M. の時代は、皆もっと無知だった。だから、情報を与えられると皆がそれを信じざるをえなかったと思う。でもいまは、皆ある程度知識がある。いまは、陰謀論をつきつけられても、俺たちはそれを信じるか信じないかの選択肢を持ってるんじゃないかな。

今年は “Me And Giuliani Down By The School Yard (A True Story)” から19年、来年で20周年です。最近就任したエリック・アダムス市長はどんな印象の人物ですか? 銃の暴力からの脱却やホームレス問題の解決などを掲げているそうですが。最近は、仮想通貨で給料を受け取るというニュースも話題になりましたね。

NO:俺はあんまりそういう話題はフォロウしてないんだよね(笑)。ジュリアーニよりはマシなんじゃないかな。もちろんエリック・アダムスも大衆が嫌がることをしてはいるんだろうけど。でも、彼なりにニューヨークという街をより多くのビジネスや観光業で潤わせようとはしてると思う。それが俺が望むことかと聞かれたらそうではないけど、彼は彼のやり方でやってるんじゃないかな。完璧ではなくても、ジュリアーニよりマシなのは確か(笑)。ジュリアーニより良くなるのはぜんぜん難しいことじゃないしね(笑)。

“Me And Giuliani” が出た当時は、アメリカやイギリスがイラクに戦争を仕かけていました。いまはロシアがウクライナを侵略中です。今回バイデンはあまり積極的には介入していないように見えます。彼は、米国民からの支持は高いのでしょうか?

NO:俺はあまり政治のことを理解していないから、この質問に答えるのに適してはいないと思う。ニューヨークでは絶対に見ないのに、アメリカの真ん中なんかに行くと、トランプ支持の垂れ幕が掲げてあったりしてさ。俺もびっくりするんだ。それくらい、アメリカ全体がなにを考えているのかはわからない。バイデンの文句を言っているひとたちもいるけど、彼が完全になにかをやらかしたとも思わないし、エリック・アダムスと同じく、彼は完璧ではないけどトランプよりはマシなんじゃないかな。

初めて1曲目を聴いたとき、アコースティックな曲でびっくりしました。まるで違うバンドになったかのような印象を受けました。リスナーにどっきりを仕かけるような意図があったのでしょうか?

NO:そうそう。このアルバムにはサプライズがあるぞってことを知らせるため。あと、気に入らなかったらスキップしやすいとも思ったし(笑)。

同曲は、タイトルどおり「普通の人びと」がテーマの曲ですが、逆にあなたにとって「普通ではない人たち」とはどのような人びとですか?

NO:なにを普通とみなすかがまさにこの曲のテーマなんだ。自分自身でいることへの葛藤とかね。でも、誰だって普通なんだ。みんなそれぞれ違うし、それは当たり前のこと=普通なんだ。皆、最初は似たような希望や夢を持っていて、成長するにつれそれにそれぞれのフィルターがかかってくる。自分自身でありたい、ユニークでいたいという思いは皆が共通して持っている普通の思いだし、イコール、それは他と違う、つまり普通ではないということ。この曲は、その「もがき」について歌っているんだ。普通でいたくないんだけど、普通でいたくないと思うのは他の皆が思っている普通のこと。それって感情の戦いだからね(笑)。そういうわけで、なにが「普通でない」のかは逆にわからない。基本、皆普通だと俺は思ってるからさ。ユニークであること、ユニークでありたいと思うことは普通のことなんじゃないかな。雪の結晶と同じさ。ひとつひとつが違って当たり前。それが普通のことなんだ。

いまUSもしくはNYで「普通の人びと」が最も気にしていること、心配していることはなんでしょう?

NO:難しい質問だな(笑)。たぶん、みんなまた自由を手にして普通の生活を取り戻したいと思ってるんじゃないかと思う。パンデミックでいろいろ学んだし、シンプルなことのありがたさ、すばらしさに気づかされた。だから、皆それを恋しがり、ふたたび手にしたいと思ってるんじゃないかな。皆で集まったりとか、一緒に出かけるとかさ。当たり前だと思っていたけど、それがどんなに特別なことかを知った。俺にとっては、人前でパフォーマンスすることもそのひとつ。以前の普通の生活に戻りたい、それが皆がいちばん気にかけていることだと思う。気候変動とかも心配だけど、パンデミックがまた戻ってくるんじゃないかっていうのがいちばん心配だよね(笑)。

4曲目 “Un Puente” は歌詞も一部スペイン語ですし、サウンドもこれまでになかったタイプの曲と感じ、!!! の新機軸かなと思ったのですが、ご自身たちではどう思っていますか?

NO:この曲は、こないだスペインで演奏したときオーディエンスの皆が一緒に歌ってくれたんだ。あの時間はすばらしかった。俺たちはいつだって新しい領域に足を踏み入れようとしているし、もちろんこの曲もそれを試みた作品のひとつ。この曲が特に影響されているのはドミニカ共和国のデンボウという音楽で、なかでもエル・アルファというアーティストが大きなインスピレイションなんだ。俺たちはポップ・ミュージックが好きなんだけど、ビートルズもプリンスも、ティンバランドもアウトキャストも、ポップの流れのなかである境界線を超え、音が奇妙になる時期があった。ドミニカのポップ・ミュージックは、いまその時期に突入していて、それが俺たちにとってはすごく魅力的だったんだよ。聴いていてすごく楽しかったから、取り入れてみることにしたんだ。

“Man On The Moon” はシングルで先に出ていた曲ですね。ちょうど30年前にリリースされた R.E.M. のこの曲は、なにごとも疑ってかかるひとや、もしくはなにが真実なのかわからないということがテーマの歌かと思うのですが、これをカヴァーしたのは昨今の陰謀論の流行を踏まえてですよね?

NO:正直、なんでカヴァーしたのかは自分たちにもわからない(笑)。そのトラックをつくっていたときに、たまたま思いついて。つくっていたトラックに “Man On The Moon” の歌詞を適当にのせてたんだけど、それがすごくしっくりきて、この曲にこれ以上の歌詞は書けないなと思ったからそのまま使うことにしたんだ(笑)。逆にその歌詞にあわせてベストなサウンドをつくりたくもなったし、やっていてすごく楽しかった。だから理由は陰謀論が流行っているからではないけど、カヴァーをつくっていたとき、20年前にこの曲の歌詞を聴いたときとは時代がぜんぜん違うんだなとは感じたね。昔といまでは陰謀論の捉え方や、なにを信じてなにを信じないかも違っているから。

[[SplitPage]]

自分たちなりのパンクな “Let It Be” って感じかな。パンデミックのことを明確には語らずに、パンデミックについて触れているんだ。「レコードがつくられた2020年に起こった悲劇を、いまは素直に受け入れよう」というのが “Let It Be Blue” なんだよ。

これまであなたがもっとも仰天した陰謀論はなんですか?

NO:ははは(笑)。なんだろうな。月への人類の着陸ってのはけっこうワイルドだと思う(笑)。アイディアもすごいし、その様子を撮影してつくり上げるってすごくない(笑)? あとは、19歳のときにエイリアンが政治に関わってるっていうのを聞いてさ(笑)。そのときはもう興味津々で、それについての本を読んだりもした(笑)。あのときは若かったんだな。本を読んで、そんなの馬鹿げてるとちゃんとわかったからよかったけど(笑)。でも、R.E.M. の時代は、皆もっと無知だった。だから、情報を与えられると皆がそれを信じざるをえなかったと思う。でもいまは、皆ある程度知識がある。いまは、陰謀論をつきつけられても、俺たちはそれを信じるか信じないかの選択肢を持ってるんじゃないかな。10年ごとに、人びとは騙されにくくなっていると思う。アメリカのクリスチャンみたいな宗教やその考え方だって、日に日に解体されてきているし。皆、前よりもなにを信じるかを選ぶ自由を得ていると思うんだ。それってすごく良いことだよね。

現在も、ロシアやウクライナをめぐり真偽が定かでない情報が流れてくることもあります。なにが真実かわからないとき、あなたならどう行動しますか?

NO:俺は、それが真実かどうかを無理やり見極める必要はないと思ってる。SNSで配信されることをそこまで真剣にはとらえていないし、もしなにかをツイッターで見たとしたら、それが本当かどうかは自分でもっとちゃんとしたリサーチをしないと真に受けてはいけないと思ってるしね。まあ、ニュースってどんなニュースももしかしたら真実でない可能性はあると思うし、信じるかは自分次第。俺の場合は、いろいろあるうちのひとつの情報として頭のなかに入れておく程度にしてる。情報が不確かなものが多いから、フォックスニュースやフェイスブックはあまり見ないようにしてるかな。すぐに突き止めようとしなくても、時間をかけてそれが真実かそうでないかを判断してもいいんじゃないかなと俺は思うけどね。

“Let It Be Blue(ブルーなままにしておこう)” というのは、悲しいことやつらいこと、憂鬱なことは無理に忘れようとしないほうがいいということでしょうか?

NO:理由はさまざま。ひとつはビートルズの “Let It Be” の言葉遊び。前にマイケル・ジャクソンの “スリラー” をもじったみたいに。自分たちなりのパンクな “Let It Be” って感じかな。あとは、きみがいったとおり。パンデミックのことを明確には語らずに、パンデミックについて触れているんだ。「レコードがつくられた2020年に起こった悲劇を、いまは素直に受け入れよう」というのが “Let It Be Blue” なんだよ。

ちなみに、わたしは五年ほどまえ東京での取材時にあなたに薦められたのがきっかけで Spotify をはじめたのですが、最近の Spotify についてはどう見ていますか? 利益をアーティストに還元しないという話もよく聞きます。最近はニール・ヤングやジョニ・ミッチェルが曲を引き上げたことも話題になりました。

NO:ニール・ヤングが曲を引き上げたのは良かったと思う。そういうことをするからこそ、俺はニール・ヤングが好きだしね。それは心からリスペクトする。でも俺は、Spotify はプレイリストを交換するのにも便利だし、悪くはないと思う。俺たちだって、他のミュージシャンたちと同様 Spotify に悩まされてもいるのは確か。やっぱりだれかがなにかを完全にコントロールしてしまうのはよくないことだし、Spotify だけが音楽のアウトレットになってはいけないことはじゅうぶんわかってる。そうなってしまったら、それは恐るべきことだよね。だけど、やっぱり便利な部分もあるんだよな。好きな音楽が気軽に聴けるっていうのは事実だし。

振りまわされるのは悪いことじゃない。自分を楽しませてくれるなにかのファンであること、それに影響を受けることは大切なことだからね。ビートルズもボブ・ディランも、ライヴァルでありながら互いに学び合い、ともに成長してきたんだ。俺もその流れのなかにいたい。

あなたたちはプレイリストなどのトレンドとは無縁に、自身の固有のサウンドを追求しています。“Fast Car” や “Man On The Moon” のカヴァーが原曲とは似ても似つかないのもそうです。振りまわされない秘訣は?

NO:振りまわされるのは悪いことじゃない。自分を楽しませてくれるなにかのファンであること、それに影響を受けることは大切なことだからね。でも同時に大切なのは、自分が好きなもののファンであること、影響を受けている理由が、「それが流行っているから」じゃダメなんだ。自分が興奮できるなにかのファンになることが大事。いま俺は、60年代のアーティスト同士が互いにどう影響し合っていたかという本(『The Act You’ve Known For All These Years』Clinton Heylin)を読んでいるんだけど、ビートルズもボブ・ディランも、ライヴァルでありながら互いに学び合い、ともに成長してきたんだ。俺もその流れのなかにいたい。これからの音楽を、他の音楽と影響し合いながらより良いものにできたらと思うんだ。もちろん、オリジナリティを保ちながらね。

最後の曲では「これはポップ」と連呼されます。あなたにとって「ポップ」とはなんですか? あなたにとって最高のポップ・ソング、またはポップのレコードはなんでしょう?

NO:ポップには悩まされたこともあった。ポップはダサいなんて思ってたときもあったけど、結局は、自分が子どものころにいちばん強いつながりを感じていた音楽がポップなんだ。ラジオから聴こえてくる音楽。それが聴きたくてラジオをつけてヴォリュームをあげてた。でも、ニューウェイヴやパンクが出てくると、そういうちょっとポップとは違うものがクールだと思うようになってさ。でも、ときが経つと、ポップを疑う必要はないことがわかった。自分が好きな音楽なら、なんだって受け入れていいんだ、と。俺にとっては、子どものころに直感でつながりを感じ、俺を魅了してくれたのが俺にとってのポップ・ミュージック。聴いていてそのつながりや魅力を感じられる音楽ができあがると、これはポップ・ミュージックをつくったんだ、と思える。そういう子どものころに感じた音楽の魅力を感じさせてくれる音楽はすべて、俺にとっては最高のポップ・ミュージックだね。

通訳:ひとつ選ぶとしたらどうですか?

NO:最高っていうのは選べないから、最近いいなと思ったのを言うと、ロザリアとニルファー・ヤンヤかな。2022年のなかでは、いまのところ彼女たちの作品がいちばんのポップ・ミュージックだと思う。すごく良い音楽だから、チェックしてみて。超ポップで言えば、テイラー・スウィフトも好きだし、ドジャー・キャットが賞をとったのも嬉しかった。ブルーノ・マーズとアンダーソン・パークも好きだしね。自分たちが好きな音楽をつくってるなと思う。あの70年代のソウルの感じが、すごくつくられた感もあるんだけど、それはあえてで、なんか聴いていてすごく楽しいんだよね。どうやってあの魅力がつくりだせているのかは俺にはわからない。でも、彼らの音楽のいくつかはすごくいいと思う。

通訳:ありがとうございました!

NO:こちらこそありがとう! またね。

キャリア25年を超え今もなお最狂!!!
最新アルバム『Let It Be Blue』遂にリリース!!!
LOCAL GREEN FESTIVAL’22出演発表に続き、単独東京公演も決定!!!
グルーヴの旅路の、さらにその先へ導く最狂のライブ・バンド=チック・チック・チックによる、魅せて聴かせる最新ライヴ!!!
主催者先行スタート!!!

史上最狂のディスコ・パンク・バンド、チック・チック・チックによる待望の最新アルバム『Let it Be Blue』がいよいよ日本先行リリース!!! そんな中、さらに嬉しいニュースが到着!!!

昨年、一昨年とGreenroom Festival出演が決定していたにも関わらず、新型コロナの水際対策の影響で来日を果たせなかった我らがチック・チック・チック。しかし遂に先日LOCAL GREEN FESTIVAL’22への出演が発表され、最新アルバム『Let It Be Blue』と共に3年振りに来日しリベンジを果たすことが明らかになった。そしてその発表の熱が冷めやらぬまま、何と単独東京公演が決定! 最新アルバムでは、今までよりミニマルなアプローチを取り入れながらも、ファンク、ディスコ、アシッド・ハウスからレゲトンまで、パーティ・ミュージックをゴッタ煮にしたカオティックでエネルギッシュな音楽性はそのままに、さらにはメランコリック且つほの明るい希望的なフィーリングを同時に持ち合わせ、まさに人々を解放へ導くダンス・ミュージックを展開しさらに磨きがかかった万全の状態だ。最も感染対策が難しいと思わる最狂のライブ・バンドによる、魅せて聴かせる免疫増強ライヴ!? 開催決定!

[公演概要]
!!! (Chk Chk Chk) チック・チック・チック来日公演

公演日:2022年9月5日(月)
会場:O-EAST
開場/開演:OPEN 18:00 / START 19:00

前売:¥6,800(税込) ※別途1ドリンク代
※オールスタンディング ※未就学児童入場不可

先行発売:
4/28 (thu) 12:00~ BEATINK主催者WEB先行(※限定数…Eチケットのみ)
https://beatink.zaiko.io/e/chkchkchk2022
4/29 (fri) 12:00~5/5 (thu) 23:59 イープラス最速先行(抽選)
https://eplus.jp/chkchkchk/
5/7 (sat) 12:00~5/9 (mon) 18:00 イープラス プレオーダー
https://eplus.jp/chkchkchk/

一般発売:
5月14日(土)~
イープラス
https://eplus.jp/chkchkchk/
ローソンチケット(Lコード:74982)
https://l-tike.com/search/?lcd=74982
Zaiko
https://beatink.zaiko.io/e/chkchkchk2022

チック・チック・チック待望の最新アルバム『Let it Be Blue』は、CDとLPが4月29日に日本先行で発売され、5月6日にデジタル/ストリーミング配信でリリースされる。国内盤CDにはボーナストラック “Fuck It, I'm Done” が収録され、歌詞対訳・解説が封入される。LPはブラック・ヴァイナルの通常盤と、日本語帯・解説書付の限定盤(ブルー・ヴァイナル)で発売される。また国内盤CDと日本語帯付限定盤LPは、オリジナルTシャツ付セットも発売される。

label: Warp Records / Beat Records
artist: !!! (Chk Chk Chk)
title: Let it Be Blue

release: 2022.04.29 FRI ON SALE
2022.05.06 (Digital)

国内盤CD BRC697 ¥2,200+税
解説+歌詞対訳冊子/ボーナストラック追加収録

国内盤CD+Tシャツセット BRC697T ¥6,000+税

帯付限定輸入盤1LP(ブルー・ヴァイナル)
WARPLP339BR
帯付限定輸入盤1LP(ブルー・ヴァイナル)+Tシャツセット
WARPLP339BRT

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12382

TRACK LIST
01. Normal People
02. A Little Bit (More)
03. Storm Around The World (feat. Maria Uzor)
04. Un Puente (feat. Angelica Garcia)
05. Here's What I Need To Know
06. Panama Canal (feat. Meah Pace)
07. Man On The Moon (feat. Meah Pace)
08. Let It Be Blue
09. It's Grey, It's Grey (It's Grey)
10. Crazy Talk
11. This Is Pop 2
12. Fuck It, I'm Done *Bonus Track

interview with Shuya Okino (KYOTO JAZZ SEXTET) - ele-king


KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男
SUCCESSION

Blue Note / ユニバーサル ミュージック

Jazz

Amazon Tower HMV disk union

 DJ/プロデューサー/作曲家/クラブ運営者として四半世紀にわたりワールドワイドな活躍を続けてきた沖野修也。その活動母体とも言うべき Kyoto Jazz Massive と並行し、彼は2015年にアコースティック・ジャズ・バンド Kyoto Jazz Sextet も始動させ、これまでに2枚のアルバム『MISSION』(2015)、『UNITY』(2017年)を発表してきた。そして先日、待望の3作目『SUCCESSION』がリリースされたのだが、アーティスト名義は “KYOTO JAZZ SEXTET feat. TAKEO MORIYAMA”。そう、山下洋輔トリオなどで60年代から日本のジャズ・シーンを牽引してきた、あのドラム・モンスター森山威男(1945年生まれ)が、Kyoto Jazz Sextet のドラマー天倉正敬に代わり全曲で叩きまくっているのだ。

 森山ファンにはお馴染みの “サンライズ” や “渡良瀬” といった名曲に沖野が書下ろした “ファーザー・フォレスト” を加えた計7曲には、沖野がずっと掲げてきた「踊れるジャズ」というテーマから逸脱せんとするポジティヴな意志が溢れ、コロナ禍によって変わりつつある世界の今現在のジャズとしての新たなヴィジョンが提示されている。もちろん、これまでの作品のようにクラブでDJが客を踊るせることもできるだろう。が、同時に、自宅のソファに身を沈めてじっくりと聴き浸ることもできる。「匠の技」とも言うべきその微妙なバランス感、匙加減に、DJ/プロデューサーとして沖野が積み上げてきた経験の豊饒さ、感覚のリアルさを改めて思い知らされよう。

 何はともあれ、破格のパワーとグルーヴを堪能すべし。過去から現在、そして未来へとジャズが「継承(SUCCESSION)」されてゆく瞬間を体験できる、格調高い作品である。

僕がやってきた踊れるジャズをベースに、どうやって森山さんを引き入れるか。いったん踊れることを実現させた上で、どうやって逸脱していくか。踊らせたいけど同時に聴かせたい曲をどこに着地させるか。そこの格闘はなかなか痺れるものがありました。

森山威男さんは昨年11月20日の《Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021》にゲスト参加し、それと前後してこのアルバム『SUCCESSION』の録音にも参加したわけですが、あのイヴェントに森山さんが参加した経緯から話していただけますか。

沖野:新木場の STUDIO COAST の閉館に伴い、クラブ・イヴェント《ageHa》もなくなるということで、昨年7年ぶりに《Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021》の開催が決定したのですが、コロナ禍で海外勢は呼べる状況ではない。でも、日本人の出演者だけでやる以上、海外のファンが絶対うらやましがるようなラインナップにしたいと思いました。それで、目玉となるヘッドライナーを誰にするか考えた時に思い浮かんだのが森山さんでした。誰もが知っているジャズ・レジェンドであり、近年はイギリスのレーベル〈BBE〉から『East Plants』(83年)も再発されたし。あと、KYOTO JAZZ SEXTET のトランペットの類家心平が、以前森山さんのバンドでも吹いていた。これはもう森山さんしかいないなと。「KYOTO JAZZ SEXTET featuring 森山威男」にすれば、海外のジャズ系リスナーやクラブ・ミュージック好きはきっと注目してくれると思っていました。

マーク・ジュリアナとか、ここ近年のドラマー・ブームみたいなのも関係あったのかなと思ったんですけど。

沖野:まさにご指摘の通りで。ロバート・グラスパー周りとか、今、ドラムがジャズのイニシアティヴを握っているというイメージが世界的に広がりつつあるじゃないですか。「打ち込みを生で再生しているドラマー、すげー」みたいな。日本でも若いリスナーが「新しいジャズはドラマーだ!」みたいに言ってて(笑)。もちろん僕もそういった側面を否定しないです。でも、ベース・ラインとかコード進行とか、ドラマー以外のミュージシャンが醸し出す現代性や革新性も僕は常に意識しているし、プロデューサーやヴォーカリストも含めて、総合的に進化していると思っているわけで。そういった状況下で、レジェンドのドラマーを引っ張り出すのって、言わば逆の発想ですよね。KYOTO JAZZ SEXTET の上物というか、コード楽器や管楽器がオーセンティックなジャズで、ドラマーが今っぽい若手という選択肢もありましたが、それは他の人がやっているから、あえて逆にレジェンドを起用して、更に強烈な現代感覚を僕らは表現できるんですよ、というトライだったわけです。

なるほど。

沖野:やる前は、ひょっとすると森山さんワールドに僕らが持っていかれて、いわゆるメイン・ストリームのジャズになる可能性もあったし、はたまたフリー・ジャズになってダンス・ミュージックと完全に乖離してしまうという可能性もあった。どうやってジャズの現代性を表現するか、どうやって KYOTO JAZZ SEXTET らしさを出せるか、それは僕にとっても挑戦ではありました。

今、「ダンス・ミュージックと乖離する」とおっしゃいましたが、ということは沖野さんとしては今でもやはり根底には、自分達は踊れるジャズ、ダンス・ミュージックをやっているという意識があるんですね?

沖野:ベースとしてダンス・ミュージックはありますけど、今はむしろそこから離れてみたいという思いに駆られています。特に KYOTO JAZZ SEXTET はその方向性が強いですね。KYOTO JAZZ MASSIVE はやっぱりダンスありきですけど。KYOTO JAZZ SEXTET はむしろ踊れなくてもいい、もしくは踊れない方向にどんどん踏み出していきたいという気持ちが強いです。

権力との闘争なのか、メーカーとの闘争なのか、ミュージシャン同士の闘争なのか、わかりませんが、そういうぶつかる感じは若い世代のジャズ・ミュージシャンにはない。サラッとしてるというか、スマートというか。

実際に去年11月に初めて森山さんと共演した時の素朴な感想、印象を聞かせてください。

沖野:そうですね……初めてスタジオでお会いした時、僕が思っていたのと違って、森山さん、慎ましいというか、とても遠慮がちで(笑)。コロナ禍でライヴが2年間なく、全然叩いてなかったので、引退も考えられたそうなんですよ。もちろんカリスマ性というか、レジェンドに会ったという感動はありましたが、レコードでのプレイから感じていたエネルギーみたいなものは、お会いした瞬間はなかった。小柄で、とても寡黙な方だし。ところが、ドラム・ブースに入って叩き始めた瞬間に僕らの懸念は一気に吹き飛びました。リハーサル段階からものすごい音量、ものすごい手数で。音の洪水というか。アート・ブレイキーのドラムがナイアガラの滝に例えられますけど、本当に滝が流れ落ちるような状態で。メンバー全員で滝に打たれる修行、みたいな(笑)。

滝行(笑)

沖野:びっくりしましたね。2年間叩いてないって嘘でしょ、と。とにかく音がすごかった。1音目からすごかったです。

今回のアルバムでも、いきなり1曲目 “Forest Mode” の、特に後半なんてすごいですよね。

沖野:そうなんですよ。録音にもそのまま入っていますが、レコーディング中に雄叫びを上げて。あの小さな体から、これだけのパワーがどうやって出てくるのかな、と。衝撃でした。多分いつも一緒に演奏している方は、それが森山さんだという認識があるんでしょうけど。

ライヴやレコーディングでの森山さんの反応はどうでした?

沖野:ご自分でも仰ってましたが、本当に対等の目線でセクステットのメンバーと真剣勝負してくださって。ワンテイクの曲もいくつかありましたが、曲によっては森山さんが全くOKを出さず、これは違うと言って何度かやり直したんです。実はセクステットの過去2枚のアルバムでは採用テイクは全部ファースト・テイクでしたが、今回の3枚目では初めて、ファースト・テイクが採用されなかった曲がいくつもあります。

具体的には?

沖野:ワンテイクでOKだったのは⑤ “サンライズ” と⑥ “渡良瀬”、⑦ “見上げてごらん夜の星を” の3曲だけで、それ以外は森山さんが納得いくまでやりました。たとえば④ “ノー・モア・アップル” では、納得するリズム、納得するテンポが見つからないと森山さんが言って。あと、メンバーとのコンビネーションの問題とか。これじゃダメ、これじゃダメと何度も仰って。体力的に大丈夫なのかなとか、こっちはいらぬ心配をしましたが、森山さんが妥協されることはなかったですね。これでどうでしょう? と言っても、いやー違う、正解が出てない、と。

沖野さん以下メンバーの方では、どこがまずいのかな、と戸惑う感じですか?

沖野:いや、しっかりコミュニケーションをとりました。森山さんがノレるテンポとかグルーヴ、考えているアレンジと、メンバーが一番実力を発揮できるテンポなりリズムなりグルーヴなりの接点をどうやって探すかという。もう一回音を出してなんとなくやりましょう、ではなくて、問題点が速度のことなのかリズムのことなのか、誰かの演奏なのか等々をとことん話し合った上で次のテイクに臨むという感じで。

じゃあ、レコーディングはけっこう苦労されたんですか?

沖野:とはいっても、《ageHa》の本番前の2日間で録ったので、想定内です。森山さんが加わっての僕なりのクラブDJ的グルーヴ感というか理想の照らし合わせというか、森山さん曰く「激突」みたいな部分では、苦労したというより非常に興味深かったです。だって僕は元々森山さんの曲をDJでかけていたんですから。僕がやってきた踊れるジャズをベースに、どうやって森山さんを引き入れるか。いったん踊れることを実現させた上で、どうやって逸脱していくか。踊らせたいけど同時に聴かせたい曲をどこに着地させるか。そこの格闘はなかなか痺れるものがありました。

[[SplitPage]]

KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男
SUCCESSION

Blue Note / ユニバーサル ミュージック

Jazz

Amazon Tower HMV disk union

日本のジャズ・ミュージシャンは、50~60年代からやってる人たちと今現在の若手では感覚もノリも気質もかなり違う気がしますが、いかがですか?

沖野:あくまで僕の主観ですが、上の世代のジャズの人って、それこそアメリカと日本とか、メジャーとマイナーとか、闘争の歴史から音を紡ぎ出していたと思うんです。でも僕らの時代って、そういうカウンター精神はあまりない。若いジャズの子たちもスルッとメジャーに行ってブレイクしたりする。闘うことの是非はともかく、あまりないのかなというのは感じます。権力との闘争なのか、メーカーとの闘争なのか、ミュージシャン同士の闘争なのか、わかりませんが、そういうぶつかる感じは若い世代のジャズ・ミュージシャンにはない。サラッとしてるというか、スマートというか。

ですよね。端的に言うとあの世代の日本のジャズ・ミュージシャンは、全てが喧嘩という感じがするんですよ。話しててもそうだし、音聴いてもそうだし。つまり、喧嘩にこそ意義があるというか、まず喧嘩しなくちゃ始まらないというか。それがまた面白さでもあるんだけど。そういった根本的な感覚のズレみたいなものは今回はなかったですか?

沖野:いや、僕が知っているジャズ・レジェンドの中では森山さんは人間的にかなり柔和だし。ただ演奏は完全に喧嘩でしたよ。《ageHa》のライヴDVDを観ていただくとわかりますが、お互いがかなりやり合っていて。特にフリー・ジャズ・パートでは、それこそ僕もカウベルやウィンドチャイムを叩きまくり、シンセサイザーの効果音で森山さんを煽りまくって。普段、僕のようなDJ/プロデューサーがライヴに絡むのは難しいのですが、本当に喧嘩状態でした(笑)。とにかく森山さんは、予定調和はダメだとずっと仰っていました。僕らもどうやって森山さんに仕掛けていくかというのが、メンバー間のミッションでしたね。

77歳でこのオファーをもらい、《ageHa》でやれて、生きててよかったよ」という森山さんの言葉を聞いて、20年後の自分にだって生きててよかったと思う可能性があるはずだという気持ちになりましたし。本当に今回は、ミュージシャンとしてだけでなく人間として森山さんからは影響を受けました。

沖野さん自身は、森山さん世代のそういった「出会い頭の即興的な喧嘩」というものに憧れがあったりしますか?

沖野:ありますね。僕は多分、ジャズDJと呼ばれる人たちの中でもそこに一番憧れがある一人だと思います。後でリミックスしやすいようにクリックを鳴らして安定したテンポで録りたがるプロデューサーもいますし、インプロは踊れないからとカットしてテーマだけでつなぐジャズDJもいる。でも僕はやっぱりインプロがあってなんぼの世界だと思うし、想像もしなかった録音が実現した時の喜びも何回も体験してきたわけで。森山さんが今まで感じてきたことや積み上げてきたこと、森山さんだけが見てきた景色が絶対あるはずです。そういった経験から僕たちに投げかけられる疑問や挑戦や挑発は、他では絶対に味わえないものでしょう。50~60年代からやってきた人たちの出す音の説得力や迫力ってやっぱり違うと思うんですよね。技術だけでなく、ここでそういくか!?  という想像を超えた表現力はレジェンド・クラスになると別格ですね。

今のコメントがこのアルバムのタイトル『SUCCESSION』(継承)をそのまま表現してるような気がします。

沖野:そうなんですよ。うちのメンバーだけではこういう作品にならなかったと思います。僕たちが知っているつもりで実は知らなかった表現方法とか、ジャズとは何かという、音による説得力をこのレコーディングとライヴでは学びましたし、それを更に僕らが継承して次の世代に伝えていかなくてはと思いました。あと、「77歳でこのオファーをもらい、《ageHa》でやれて、生きててよかったよ」という森山さんの言葉を聞いて、20年後の自分にだって生きててよかったと思う可能性があるはずだという気持ちになりましたし。本当に今回は、ミュージシャンとしてだけでなく人間として森山さんからは影響を受けました。

近年は海外でも日本の様々な音楽が注目されています。60~70年代の日本のジャズの人気も高まっていますよね。

沖野:元々、日本のフュージョンやジャズは、海外のマニアの間では人気があったんです。僕だって最初は、ジャイルズ・ピーターソンを含むロンドンの友人やDJ、ディストリビューターなどから教えてもらって日本のジャズの魅力に気づいた人間ですし。

それはいつ頃のことですか?

沖野:25歳くらいだから、今から30年ほど前です。でも、ここ数年の盛り上がりはちょっと違いますね。層が変わってきたというか。ロバート・グラスパー人気やサウス・ロンドンのジャズの盛り上がりとかもあって、若い世代のジャズ・リスナーの規模全体も大きくなっているし。お父さんがディスコのDJで生まれた時からレコードがいっぱい家にあったとか、お母さんがアシッド・ジャズ大好きで子供の頃からブラン・ニュー・ヘヴィーズを聴いてましたとか、そういう20代のジャズ・ミュージシャンやDJもヨーロッパ中にたくさんいます。今の若い子たちにとっては、トム・ミッシュクルアンビンサンダーキャットなどが、僕らが若かった30年前のジャミロクワイやブラン・ニュー・ヘヴィーズなわけです。で、トム・ミッシュやサンダーキャットなどは、多分僕らがかけてきた音楽、僕らがやってきた音楽を好きだと思う。つまり、今は二重のレイヤー、昔からのリスナーと若いリスナーが混在し、層が分厚くなっているんです。今はその両方の層に日本のジャズが受け入れられているんじゃないかな、というのが僕の分析です。

アメリカ大統領の娘さんが KYOTO JAZZ MASSIVE とか KYOTO JAZZ SEXTET のファンだったとしたら、「お父さん、日本に核兵器落とさないで、私の好きなシューヤ・オキノがいるから」みたいになるかもしれないじゃないですか。極端な例ですけど(笑)。

昔の日本のジャズのどういった点に面白さを感じるのか、そのポイントは、外国人と日本人では微妙に違うと思いますが、沖野さん自身は、日本の当時のジャズの、欧米ジャズと比べた場合の面白さ、特殊性についてどのように考えていますか。

沖野:まずは、メロディーの独自性ですね。論理的説明は難しいのですが、民謡とか童謡などのエッセンスが作曲家の潜在意識の中にあると思います。あと、使用楽器によるエキゾチシズムというのもあるんじゃないかな。60~70年代には和楽器を導入する実験も盛んにおこなわれていたし。海外のDJからも、メロディーのことはよく言われます。すごく日本ぽいと。日本のメロディーはシンプルでわかりやすいんだと。それはきっと、母音が連なる日本語の特性とも関係していると思いますね。あと、演奏テクニックが素晴らしいというのもよく言われます。それはフュージョン系の作品を指していると思いますが。

昨年(2021年)暮れに KYOTO JAZZ MASSIVE の久しぶりのアルバム『Message From A New Dawn』も出ましたが、ここで改めて KYOTO JAZZ MASSIVE と KYOTO JAZZ SEXTET の立ち位置の違いを簡単に説明してもらえますか?

沖野:KYOTO JAZZ MASSIVE は、僕と弟(沖野好洋)の合議制によるダンス・バンド。演奏の中にジャズもフュージョンもテクノもファンクもソウルも入った、よりハイブリッドなダンス・バンドです。KYOTO JAZZ SEXTET は、僕のプロデュースのジャズ・バンドで、踊れることは特に目的にはしていません。

今日のインタヴューでも何度か「踊れるジャズ」「踊ることを目的としないジャズ」という対比がありましたが、踊れない/踊らないというのは、この2年間のコロナ禍の状況も関係あるのかしら?

沖野:関係あると思います。僕自身のことも含め、この2年間家にいて、リスニング体験を楽しむ人が劇的に増えたと思います。アルバムの中から踊れる曲を1~2曲ピックアップして繋いでいくDJの僕ですら、家ではアルバム1枚かけっぱなしです。踊れる踊れないに関わらず、自分が好きな作品を通して聴くという風にリスニング・スタイルが劇的に変化した。KYOTO JAZZ SEXTET のこの新作がこの内容、構成になったのも、家で日本のジャズのアルバムを針置きっぱなしで聴き続けたことが影響していると思います。だからひょっとすると、コロナ前に森山さんとやっていたら、全編踊れるジャズになっていたかもしれない。でもコロナ禍を経て、踊れる曲ですら、聴いて楽しんでもらえるんじゃないかな、という期待もあります。同時に、僕が踊れないと思った収録曲も別のDJがダンス・ミュージックとして再発見してくれるんじゃないかという楽しみもある。今までの KYOTO JAZZ SEXTET 以上に、リスナーにとっての音楽聴取の自由度を上げる作品になったんじゃないかなと。僕自身、解き放たれた感じなんです。

沖野さんは文筆家でもあるし、Twitter でも積極的に発言されています。普段から政治意識、社会意識が強い方ですよね。社会の中でのDJ/音楽プロデューサーとしての自分の役割をどのように考えてますか?

沖野:やっぱり世代と国境を越える、というのが自分のミッションだと思っていて。

それは最近に限らず、以前からずっと?

沖野:そうです。自分の音楽を違う国の人に聴いてほしいし、上の世代とも若い世代ともコラボレートしていきたいと思ってきました。そういう気持ち、そういう音楽は偏見や憎悪から人の意識を解放する働きがあると思うんですよ。60~66年の〈ブルーノート〉作品のカヴァー・ワークだった1stアルバム『Mission』(2015年)は、アメリカと日本のジャズの関係というのが自分のテーマでしたが、僕のオリジナル曲で構成された2作目『Unity』(2017年)は、平和とか調和とか、結構ポリティカルなことを自分なりに表現したんですよ。だからヴォーカリストにも、歌詞はそういう趣旨で発注しました。世代、国籍、人種を超えるというメッセージを音楽で発信して、この世界がより良くなることに少しでも貢献できたらいいかなとは考えています。

実際に今まで活動してきて、多少なりとも実効力があったと思いますか?

沖野:日本人に対するイメージの変化に、微力ながらも貢献できたかなとは思います。もちろん坂本龍一さんとか北野武さんとか、サッカー選手や野球選手の活躍ありきですよ(笑)。ありきだけど、実際僕がDJとして行くことで、様々な国の人が一か所に集まったりした。音楽大使と言うとおおげさですが、世界平和への貢献実績はゼロではないと思います。時々冗談で言うんですが、アメリカ大統領の娘さんが KYOTO JAZZ MASSIVE とか KYOTO JAZZ SEXTET のファンだったとしたら、「お父さん、日本に核兵器落とさないで、私の好きなシューヤ・オキノがいるから」みたいになるかもしれないじゃないですか。極端な例ですけど(笑)。音楽とか文化が持っている力は侮れないと僕はずっと思ってきました。微力ではあるけど、これからも世代と人種と国境を越えることをテーマに音楽を作り続けていきたいですし、世界を旅していきたいです。

 

[LIVE INFORMATION]

KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男
~New Album “SUCCESSION” Release Live

2022年5月26日(木)ブルーノート東京
www.bluenote.co.jp/jp/artists/kyoto-jazz-sextet

FUJI ROCK FESTIVAL’22 出演
2022年7月30日(土)新潟県 湯沢町 苗場スキー場
https://www.fujirockfestival.com/

[RELEASE INFORMATION]

沖野修也率いる精鋭たちとレジェンダリー・ドラマーの劇的な出会い。
日本ジャズの過去と現在を繋ぎ、その延長線上にある明日を照らし出す。

●ワールドワイドな活動を展開するDJ/楽プロデューサー・ユニット、Kyoto Jazz Massive の沖野修也が2015年に始動させたアコースティック・ジャズ・ユニット、KYOTO JAZZ SEXTET。単なる懐古趣味にとどまらず、“ジャズの現在” を表現することをコンセプトとし、これまでに『MISSION』(2015年)、『UNITY』(2017年)という2枚のアルバムを発表しました。
●5年ぶりの新作では、ジャパニーズ・ジャズ・ドラムの最高峰、森山威男を全面フィーチャー。両者は2021年11月20日に新木場ageHa@STUDIO COAST にて開催された Tokyo Crossover/Jazz Festival 2021 にヘッドライナーとして出演し初共演。世代を超えた気迫みなぎるコラボレーションで、オーディエンスを圧倒しました。
●アルバムには、クラブ・ジャズ・リスナーにも人気の森山の代表的レパートリーに加え、沖野修也書き下ろしの新曲「ファーザー・フォレスト」を収録。オール・アナログ録音による骨太でダイナミックなサウンドも魅力です。

artist: KYOTO JAZZ SEXTET feat. 森山威男
title: SUCCESSION
label: Blue Note / ユニバーサル ミュージック

KYOTO JAZZ SEXTET
類家心平 trumpet
栗原 健 tenor saxophone
平戸祐介 piano
小泉P克人 bass
沖野修也(vision, sound effect on 渡良瀬)
featuring
森山威男 drums

Produced by 沖野修也 (Kyoto Jazz Massive)
Recorded, Mixed and Mastered by 吉川昭仁 (STUDIO Dedé)

tracklist:
1. フォレスト・モード
2. 風
3. ファーザー・フォレスト
4. ノー・モア・アップル
5. サンライズ
6. 渡良瀬
7. 見上げてごらん夜の星を

クラウトロック大全 増補改訂版 - ele-king

ドイツ・ロックの決定版ディスクガイドが復活!
70年代クラウトロックから80年代ノイエ・ドイチェ・ヴェレまでの主要作品を網羅

約40ページ増加、新たにタイトルを追加し合計868タイトルを掲載、
旧記載部分も大幅に差し替えや加筆修正を施した増補改訂版

A5判/オールカラー/304頁

[著者]
小柳カヲル
1967年新潟県生まれ。大学時代は高校の理科教員を目指していたが、卒業後は化学エンジニアとして数年間のサラリーマン生活を経験。
1996年より Captain Trip Records で勤務し、クラウトロックをはじめとする数々のリリース企画を担当。
2011年よりスタジオ兼レーベルの Suezan Studio として独立。独自の視線や考察、あまたのミュージシャンとのコネクションは、ごく一部から熱狂的な支持を受けている。
現在は新潟に住み、クラウトロックだけでなく新潟県と近県の過去の音楽シーンにも目を向け、編纂と記録を続けている。


オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
disk union
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA
未来屋書店/アシーネ

Abraxas - ele-king

 PiLのマスターピース『Metal Box』(79)に収録された“Radio 4”はキース・レヴィンがひとりで多重録音したもので、2016年のデラックス・ヴァージョンに収録されたレコーディング・テイクを聞くと、当初はカウボーイ・インターナショルのケン・ロッキーがドラムを叩いていたことも明らかになった(尺も倍近い→https://www.youtube.com/watch?v=se-Z6EO5pfA)。ベースもわざわざジャー・ウォッブルをマネて弾いたものだとレヴィンは述懐していて、広いスタジオでポツンと作業していた「冷たさ」が曲のムードに反映されているという。そして、最終的にドラムを抜いて短くエディットしたものが『Metal Box』のラストに収められ、それはまるでビートルズ“Good Night”と同じくチル・アウト効果をもたらすことになる。『Metal Box』という複雑怪奇な迷宮に鮮やかな出口を用意してくれたというか。“Radio 4”はビニール袋のようなものが膨らんだり縮んだりするようなイメージを繰り返す。それはオーケストラが短いコードしか弾かないとどうなるかというアイディアから出発した結果だそうで、ドラムを抜くことでその効果は最大限まで引き上げられた。『Metal Box』はどの曲も印象深く、いまだに得体の知れない感じがあり、とりわけ“Radio 4”はミステリアス度が高い。

 チリからフアン・マッジョーロ(Juan Maggiolo)とドイツ系らしきヴェルナー・ハインツ(Werner Heinz)によるデビュー作を聴いた時、それはまるで“Radio 4”が8つのヴァリエーションに増幅されて蘇ってきたという印象を僕は持った。かすかにジャー・ウォッブルのようなベース・ラインが聞き取れる曲もある。スピーディーなアンビエント・ドローンを基本にポップな味付けが多種多様に施されたカラフルな展開。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインが“Radio 4”をカヴァーしたり、リミックスしたり、様々な手法を用いてカスタマイズしたような……。ドローンといっても大して持続せず、細切れになっているせいでそう感じるだけかも知れない。とはいえ、キース・レヴィンのいう「冷たさ」も似通っているし、頻繁に転調するのも一因をなしている。何度も聴き込んでいるうちにやはり違うとは思うものの、初期イメージから脱却したくない気分も手伝って、いまのところ『Abraxas』は僕にとっては43年後の“Radio 4”である。アブラクサスとはちなみにグノーシス思想における偽神で、選ばれし者を天国に連れていくというニューエイジのフェイクのような存在。その姿はヒトの体にライオンの頭と下半身は蛇。



 南米のアンビエント・ミュージックはどうも得体が知れない。フアン・ブランコであれ、トマス・テロであれ、アカデミックな手法を使ってもその様式美に呑み込まれないという共通点があり、アブラクサスの2人がアカデミックなキャリアを持っているかどうかも想像がつかない。ついでにいえばアロンドラ・デ・ラ・パーラのようなクラシックの人でさえ、指揮をしながら踊りだしたり、パリの観客が手拍子を始めるなどアカデミックの枠組みは崩壊している。アブラクサスの背景にはなんとなくクラブ・カルチャーが横たわっているような気もするけれど、ヴィラロボスやアトム・ハートが撒いてきた種が花開いたにしてはタイミングが遅いし、そもそもドイツ資本とつながりがあるのかないのかよくもわからない。ここにあるのはイメージ豊かな曲の数々と曲の雰囲気には悪い予感のかけらもないこと。チリは一時期はコロナによって危機的状況を呈したものの、現在では南半球でもっともコロナの危険から遠い国という評価を受け(新自由主義に基づく税制に改められたことで連日のようにデモが起こったコロンビアとは対照的)、フランツ・エデルマン賞まで受賞している。そういった国の気分が感じられる作品でもある。つーか、『アンビエント・ディフィニティヴ 増補改訂版』を校了した10日後にリリースされやがった。く~。

Caterina Barbieri - ele-king

 〈Editions Mego〉からリリースされた2019年の前々作『Ecstatic Computation』が高い評価を獲得したミラノのプロデューサー、カテリーナ・バルビエリ。ロックダウン中に録音されたという新作『Spirit Exit』が7月8日にリリースされる。なんでも詩や哲学にインスパイアされたそうで、バルビエリ本人のコメントによれば「世界の終わり、もしくはテレパシーのいち形態へのラヴ・ソング」だという。最終曲 “The Landscape Listens” は、イーノの人気曲 “An Ending (Ascent)” のような上品さと穏やかさで死にアプローチしている曲らしい。現在 “Broken Melody” が先行公開中です。


artist: Caterina Barbieri
title: Spirit Exit
label: light-years
format: digital / 2LP / CD
release: July 8, 2022

tracklist:
01. At Your Gamut
02. Transfixed
03. Canticle of Cryo
04. Knot of Spirit (Synth Version)
05. Broken Melody 04:26
06. Life at Altitude
07. Terminal Clock
08. The Landscape Listens

Sonic Youth - ele-king

 サーストンには2014年の『The Best Day』の来日時取材したし、その4年後のキムのファースト・ソロ『No Home Record』は待った甲斐のあったというしかない力作だった。リーはリーとてポップ・ソングから実験作まで意欲的で、リリースした作品のいくつかにはスティーヴ・シェリーの名前もみえる──と、ソロ活動もすっかりイタについたいま、それぞれの事情もふまえると再結成の可能性は遠のいたにちがいないが、ソニック・ユースと聞くとパブロフの犬のごとき反応をみせるものもすくなくない。かくいう私がそのくちで『In/Out/In』と題した未発表曲集のリリースを知るやいなや5曲45分ほどの音源に耳を傾け、ソロ作ともことなるソニック・ユースという集団に固有の磁場とも空間性ともいえるものを再認識したのだった。
 『In/Out/In』は2000年から2010年にかけて録音した楽曲を編んだコンピレーションで企画盤への既出音源をふくむ。SYは2011年に活動を休止したので、2000年代の十年紀はSYの最後の10年にほぼかさなっている。アルバムでいえば、2000年の『NYC Ghosts & Flowers』から2009年のラスト・アルバム『The Eternal』まで、いわば成熟期の背景を記録したのが本作といえるであろう。
 30年を超えるSYの活動歴をステージごとに区切ると、81年の結成から88年の『Daydream Nation』にいたるアングラ期、90年代の幕開けをつげた『Goo』以降のオルタナ期と、2000年代以降の成熟期となろうか。とりわけ本作の射程となる成熟期は編成的にも音楽的にも実験性が高く、大作志向から楽曲主体まで作品の傾向も多様性に富む。収録曲の内訳をみると、1曲目の “Basement Contender” と3曲目の “Machine” が2008年、2曲目の “In & Out” は2010年と本作中もっとも新しい。レコードではB面にあたる後半の2曲 “Social Static” と “Out & In” は2000年で、タイトルの由来となった “In & Out” と “Out & In” は本作のリリース元である〈Three Lobed Recordings〉のオムニバス『Not The Spaces You Know, But Between Them』でいちど世に出ている。発掘作の例にもれず、本作もアイデアスケッチのきらいはあれど、おのおのの素描にはこの時期特有のタッチがある。ラスト・アルバム『The Eternal』と相前後する前半の3曲は中平卓馬にならえば「原点復帰」となる2000年代後半らしくソリッドなバンド・スタイルを深い諧調のギターで肉づけする方向性をとっている。変則チューニングをとりいれたリフと分散和音のコンビネーションはサーストンとリーの専売特許だが、『Rather Ripped』(2006年)のツアーを境にペイヴメント~フリー・キトゥンのマーク・イボルドが加入を経てキムをふくめたトリプル・ギター体制へと編成の選択肢の幅はひろがり『The Eternal』を基礎づける変化となった。前半の3曲はその前段階だが、気心しれた四者のリラックスした音のやりとりからSYというほかないサウンドがたちあがるのが興味深い。反復フレーズを土台に多彩な音色を交換するなかで加速度を増す冒頭の “Basement Contender”、つづく“In & Out” はよく似たムードの対になる2曲だが、前者が2008年当時マサチューセッツ州ノーサンプトンにかまえていたサーストンとキムの自宅地下での録音であるのにたいして、後者は2010年のポモナでのサウンドチェック音源に手を加えたものと、時期的な隔たりがある。一方で『The Eternal』のセッション時のアウトテイクとなる3曲目の “Machine” は先の2曲とは対照的に構成もかたまっておりアルバムに入ってもよかった気もするが陽の目をみなかった。もうひとひねりほしいと判断したと思しいが、ベースレスながら分厚いサウンドは『The Eternal』のみならず、その先の展開までも彷彿させただけに活動休止はなんとももったいない──と嘆息をもらす一方で、形式としてのロックの可能性をためしつづけた30年の道のりには頭がさがるばかり。
 後半の2曲は遠大なSY史において実験性がピークをむかえたころの楽曲で、不動の4人にジム・オルークを加えた布陣による。録音はいずれも2000年、この年SYはアルバム『NYC Ghosts And Flowers』をリリースし『Murray Street』(2002年)、『Sonic Nurse』(2004年)とつづくNY三部作の端緒をひらいた。他方前年の1999年にはケージ、カーデュー、ウォルフ、ライヒ、小野洋子や小杉武久ら20世紀前衛の作品をとりあげた『Goodbye 20th Century』を自主レーベル〈Sonic Youth Records〉から世に問うている。“Social Static” “Out & In” と題した2曲の背後には上記のようなながれがあり、それを反映するようにこの2曲では実験的な要素が前面に出ている。ただし楽曲の出自にはちがいがある。本作中もっともアブストラクトな4曲目の “Social Static” はクリス・ハビブとスペンサー・チュニクによる同名の短編映画のサウンドトラック。私は全編は未見ながら動画共有サイトにアップした抜粋版──大勢の男女が全裸でダイインする──から想像するに、政治的意図をもった実験映画との印象をもった。制作の過程はさだかではないが、おそらくフリーフォームの即興音源(の断片など)を映像にあわせてエディットしたのであろう。スーパー8の質感がノイジーなサウンドにマッチしている。サウンドは出だしこそSYらしさを感じさせるが、楽器の記名性はまもなく後景にしりぞき、中盤以降はピエール・シェフェールとアルヴィン・ルシエをかけあわせてノイズ化したような展開をみせる。つづく “Out & In” はバンド・サウンドではあるものの、前半とはうってかわって、どんよりとした展開にさまざまな音楽的情景が去来する構成をとっている。ともすれば単調になりがちな10分を超える長尺曲を持続させる手法にはスティーヴ・シェリーのドラミングもあいまってクラウトロックを想起するが、SYはさらにそこに音の襞にわけいるような響きをつけくわえる。『Murray Street』に入っていてもおかしくない仕上がりにうなりつつ、このような音源が眠っているなら出し惜しみしないでほしいと思ったのだった。

Soccer Mommy - ele-king

 グラミーにもノミネイトされたことのあるUSのシンガーソングライター、ソフィー・アリソンによるプロジェクト=サッカー・マミーが6月24日に新アルバム『Sometimes, Forever』を発売する。プロデューサーは意外なことに、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー。ポップなロック・サウンドと10年代を代表するエレクトロニック・プロデューサーの組み合わせ、どんな化学反応が起きるのか注目です。

米シンガー・ソングライター、サッカー・マミーがワンオートリックス・ポイント・ネヴァーをプロデューサーに起用した新アルバムから2ndシングルをリリース!
米シンガー・ソングライター、サッカー・マミーが6月24日にリリースする新アルバム『Sometimes, Forever』からの2ndシングル「Unholy Affliction」をリリースしました。この曲は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパティンをプロデューサーに起用し、サッカー・マミーことソフィー・アリソンが持っている美しいテクスチャーと不穏な雰囲気を同時に表現しています。

ソフィーはシングル「Unholy」について「スタジオでのレコーディングは当初思い描いていたものとは全く違って本当に楽しかった。ダンがデモ・ボーカルでとてもクールなシークエンスを作ってくれて、それが曲の大部分になったの。2つの異なるバージョンの曲が混ざり合っているのも気に入っている」とコメントしています。

“悲しみも幸せも永遠ではない” というアルバムのコンセプトを掲げ、『Sometimes, Forever』は、レトロなサウンド、個人的な動揺、現代社会から影響される障害など、様々なアイディアを統合してオリジナルな作品に仕上げています。アルバム・タイトルの『Sometimes, Forever』は、良い感情も悪い感情も循環しているという考え方にちなんでいます。「悲しみや虚しさは過ぎ去りますが、喜びと同じように必ず戻ってくるのです」とソフィー・アリソンはコメントしています。

ニューウェーブやゴスといったシンセ系のサブジャンルを巧みに取り入れた今作で、ソフィーは彼女のビジョンをサポートするために、プロデューサーにワンオートリックス・ポイント・ネヴァーのダニエル・ロパティンを起用しました。この組み合わせは意外に思われるかもしれませんが、実際に聴いてみると、2人のアーティストが同じような創造性を持っていることがわかります。アルバムでダニエル・ロパティンは無数のシンセサイザーと緻密なアレンジを駆使し、ソフィーが行った素晴らしいライブ・テイクを卓越したスタジオ技術でミックスし壮大な作品に仕上げています。新アルバムは、これまでで最も大胆で冒険的な作品であり、現代のロック・シーンの中で最も才能あるソングライターの一人としてのソフィー・アリソンの地位を確固たるものにするでしょう。

サッカー・マミーは、2020年にグラミー賞にノミネートされ、高い評価を受けた2ndアルバム『color theory』をリリース。このアルバムのリリース後、アリソンはバーニー・サンダースのオープニングを務めるなどして大絶賛を浴び、グラストンベリーなどの大型フェスティバルに出演。『color theory』は、ビルボードチャート「トップ・ニュー・アーティスト・アルバム」と「オルタナティブ・ニュー・アーティスト・アルバム」の2部門で1位を獲得しています。

先行シングル「Shotgun」のMVはこちら
https://youtu.be/I1xOoqD8jkI

[アルバム情報]

アーティスト:Soccer Mommy (サッカー・マミー)
アルバム:Sometimes, Forever (サムタイムス、フォーエヴァー)
レーベル:Loma Vista Recordings
発売日:2022年6月24日(金)

トラックリスト
01 Bones
02 With U
03 Unholy Affliction
04 Shotgun
05 newdemo
06 Darkness Forever
07 Don’t Ask Me
08 Fire in the Driveway
09 Following Eyes
10 Feel It All The Time
11 Still

ストリーミング・リンク:https://found.ee/pGb6O

バイオグラフィー

アメリカ、ナッシュビル育ち、ソフィー・アリソンによるソロ・プロジェクト、サッカー・マミー。Tascamのデジタル・レコーダーを買ってレコーディングした楽曲がBandcamp内でバズが起き始め、いくつかのライブか決定、最終的にはレコードの発売契約とともに、2017年賞賛の声を集めたベッドルーム・レコーディングのコンピレーションへの参加を果たした。その後、ベッドルームを飛び出しフルバンドを率いて、初のスタジオ・アルバム『クリーン』を2018年にリリース。2019年には初来日を果たす。2020年にセカンド・アルバム『color theory』をリリース、ビルボード「トップ・ニュー・アーティスト・アルバム」と「オルタナティブ・ニュー・アーティスト・アルバム」の2部門で1位を獲得。第64グラミー賞「最優秀ボックスセット/スペシャル・リミテッド・エディション・パッケージ」にノミネート。今までスティーヴン・マルクマス、ミツキ、フィービー・ブリジャーズ、ケイシー・マスグレイヴスなどと共にツアーを周っている。

The Smile - ele-king

 昨年より大きな話題を集めていた新バンド、トム・ヨーク、ジョニー・グリーンウッドトム・スキナーからなるザ・スマイルがついにアルバムをリリースする。告知にあわせ、新曲 “Free In The Knowledge (知のなかの自由)” のMVも公開された。
 6月15日に発売される同名のアルバムには、これまで単発で発表されてきた5曲すべてが収録される。プロデューサーはおなじみのナイジェル・ゴドリッチ。フル・ブラス・セクションも参加しているという。どんな作品に仕上がっているのか、楽しみに待っていよう。

The Smile - Free In The Knowledge

THE SMILE
トム・ヨーク×ジョニー・グリーンウッド×トム・スキナー
ザ・スマイル待望のデビュー・アルバム
『A LIGHT FOR ATTRACTING ATTENTION』発売決定!!

レディオヘッドのトム・ヨークとジョニー・グリーンウッド、フローティング・ポインツやムラトゥ・アスタトゥケのバックを務め、現在はサンズ・オブ・ケメットで活躍する天才ドラマー、トム・スキナーによる新バンド、ザ・スマイルが待望のデビュー・アルバム『A Light For Attracting Attention』を〈XL Recordings〉よりリリース。新曲 “Free In The Knowledge” とレオ・リー監督による同曲のMVが公開された。

今回公開された “Free In The Knowledge” は2021年12月にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで行われたイベント「Letters Live」の一環として、パンデミック以降初めてトム・ヨークが観客を前に演奏して話題を呼んでいた。ザ・スマイルはこれまでにシングル “You Will Never Work in Television Again”、“The Smoke”、“Skrting On The Surface” を連続リリースし、4月3日に発表された “Pana-vision” は英人気BBCドラマ「ピーキー・ブラインダーズ」の最終回に起用された。

アルバムは5つのシングルを含む全13曲を収録し、盟友ナイジェル・ゴドリッチがプロデュースとミキシングを務め、名匠ボブ・ラドウィッグがマスタリングを担当。収録曲にはロンドン・コンテンポラリー・オーケストラによるストリングスや、バイロン・ウォーレン、テオン&ナサニエル・クロス、チェルシー・カーマイケル、ロバート・スティルマン、ジェイソン・ヤードといった現代のUKジャズ奏者たちによるフル・ブラス・セクションが参加。5月13日(金)にデジタル配信され、日本盤CDは6月15日(水)、輸入盤CD/LPは6月17日(金)に発売。

本作の日本盤CDは高音質UHQCD仕様で解説および歌詞対訳が封入され、ボーナス・トラックを追加収録。輸入盤は通常盤CD/LPに加え、限定イエロー・ヴァイナルが同時リリース。本日より各店にて随時予約がスタートする。

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: The Smile
title: Free In The Knowledge
release date: 2022/06/15 WED ON SALE

CD 国内盤
XL1196CDJP
(解説・歌詞対訳付/ボーナストラック追加収録/高音質UHQCD仕様)
2,600円+税

CD 輸入盤
XL1196CD(6/17発売予定)
1,850円+税

LP 限定盤
XL1196LPE(6/17発売予定/限定イエロー)
4,310円+税

LP 輸入盤
XL1196LP(6/17発売予定/通常盤)
2,600円+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12758

Raw Poetic - ele-king

 流行のスラングを使わない、ポップ・ミュージックを参照しない。そんなヒップホップがあってもいいだろう。小学校の先生をやりながら、子ども向けの本を執筆し、音楽も続ける、そんなラッパー、いるに越したことはない。で、ここにいる。ワシントンD.C.のロウ・ポエティック、2年前に叔父のアーチー・シェップと一緒に1枚の、傑出したジャズ・ラップ・アルバムを発表した男だ。いま聴いても、収録曲の“チューリップ”はすごいと思う。

 本人はそれを強調されたくないだろうけれど、60年代〜70年代のブラック・パワーの時代に活躍したジャズのリジェンドが親戚にいるというのは、まあ、インパクトはある。しかもそのカタログのなかの1枚でコーラスを担当した元ブラックパンサー党員が母親だったりして、きっとロウ・ポエティクスは幼き頃から良き教えを受けたのだろう。鷹は飢えても穂を摘まずではないが、彼にとってのプライドはメインストリームとは別の方角に向いている。
 だからといって、ロウ・ポエティックの通算6枚目のソロ・アルバムは、マニア向けの取っつきにくいものではない。むしろその逆で、聴きやすく親密でさえある。ここにはア・トライブ・コールド・クエストやデ・ラ・ソウルの成分があるし、古典主義的なのだが、クリシェに収まらないフリーキーさがあって、そのコンセプトはちょっとムーディーマンなんかとも近い。
 でもね、これはなんと言ってもリズムが格好いいんだ。ジャズ・ファンク、生ドラムと打ち込み、オールドスクール流のスクラッチ、ドラムンベース風のリズムだってある。とくにすごいのはベース。でしゃばったりしないし、あくまで黒子なのだけれど、ゴムのように音符に絡んではシンコペートし見事なうねりを生んでいる。調べてみたらムーア・マザーと一緒にジャズ・コレクティヴのイリヴァジブル・エンタングルメント(Irreversible Entanglements)をやっている人だった。
 
 とにかく、シェップとの『Ocean Bridges』によってさらにその知名度を上げたロウ・ポエティック(といっても彼にはすでに15年以上のキャリアがあり、ゼロ年代はジャジー・ヒップホップ・グループ、パナセアのメンバーでもあった)は、同作を作った主要メンバー──旧友でありトラックメイカーのダム・ザ・ファッジマンク、そしてIEからベースのルーク・スチュワート、ギターのパトリック・フリッツ──とのセッションにおけるリズムを継承した。その結果が本作『ラミネイテッド・スカイズ』というわけだ。UKのレーベルからのリリースとあって注目されているし、賞賛を集めてもいる。『Ocean Bridges』ほどジャズ全開ではないが、叙情的で、曲の細部にまで手が込んでいるがアルバムとしてのまとまりは良く、全体的に清らかで聴いていて気分が良い。この暗澹たる時代、カラフルな意匠をまとった、グルーヴィーで微笑ましいレコードが歓迎されないはずがない。

 黒人の社会的立場の不条理を描いたラルフ・エリソンの小説『見えない人間』にインスパイアされた曲もあるが、ぼくが気に入っているのはアルバム中盤の3曲。ストリングスがこってり入った“Intertwined”、そのエレガントな叙情詩を引き受けながらロウ・ポエティクスのメロディアスなラップが歌へと移行する“Sunny Water”、そしてジャズ・ファンクの大作“Hey Autumn”。リズムを基軸に、シンセサイザー、ギターとヴィブラフォン、パーカッションやスクラッチで構成されるこの曲には、本作の良いところが凝縮されている。みんなでジャムっているライヴ感覚があって、ファンキーかつスペイシーで、しかも緻密で温かい。1曲だけ選ぶなら迷わずこれ。

 ラップをしながらいつの間に歌っているというのがロウ・ポエティックのひとつの芸風で、それはそれでメロディアスだったりするのだが、彼の本作におけるいちばんの功績は、このコレクティヴをまとめ上げたことだろう。そして、繰り返すが、このアルバムのもうひとりの主役はルーク・スチュワートだ。彼のベースとダム・ザ・ファッジマンクのビートによる相乗効果こそ本作の肝である。
 アルバム制作はコロナ前の2019年からはじめたというが、周知のように世界ではそれからいろんな大きなことが次から次へと起きている。時間はあったが、ロウ・ポエティックは当初のメッセージを変更しなかった。『What's Going On』を改変する必要がないように、その必要がないものを目指していたからだと彼はある取材で話している。アルバムを締めるラヴリーな“Cadillac ”には、パートナーへの愛情表現に混じって、教室で子供に九九を教える際に使ったフレーズも入っているそうだが、たしかにそれなら戦争が起きようと変える必要はないよね。

interview with Seiji Rokkaku - ele-king

 六角精児は、たたずまいそのものが表現として成立する稀有な役者である。面構えにも、声にも、なにげない仕草にも、苦難続きの人生(今年6月で還暦)で蓄積されたすべての経験が体内でどろどろに混ざり合い発酵したような匂いがまとわりついている。猥雑にして崇高なエロスを湛えたその匂いを、あるいは “ブルース” と呼ぶ者もいるだろう。

 そんなブルースマンが、このたび初めてのソロ・アルバム『人は人を救えない』を発表した。無類の音楽好きの六角は、これまでもシンガー・ソングライターとして精力的に活動を続け、六角精児バンド名義での2枚のアルバム『石ころ人生』(2014年)、『そのまま生きる』(2019年)や下田逸郎とのコラボ・ワーク『唄物語/緑の匂い』(2017年)など、何枚もの音楽作品をリリースしてきた。シンガーとしての卓抜した技量があるわけではない。ポップ・スター的容姿に恵まれているわけでもない。音楽好きな個性派俳優の余技とみなされることだってあるだろう。だが彼の歌は誰にも似ていないし、誰の耳にも確かなひっかき傷を残す。快・不快は別にして。その歌が波乱に富んだ還暦男の人生そのものだから。その歌が素っ裸だから。

 『人は人を救えない』は、日本のフォーク/ロック系の名曲をカヴァしたコンセプト・アルバム(ラストの1曲だけは六角のオリジナル)だが、そのほとんどが70年代の、しかもかなりレアな作品で占められている。若林純夫 “雪の月光写真師” とか休みの国 “追放の歌” といった曲をカヴァする俳優がいたなんて、そしてそれがオリジナル・ヴァージョン以上にリアルに響くなんて、私は想像もできなかった。

 このアルバムを企画し、選曲作業でもイニシアティヴをとったのは、音楽マニアの間では70年代から伝説的に語られてきたレコード・ショップ、パイドパイパーハウスのオーナー長門芳郎氏である。そして、すべてのアレンジを手掛けるなど全体の音作りを仕切り、演出家として六角の歌を支えたのは、キーボード奏者の谷口雄氏(元・森は生きている)だ。「この数十年、僕がずっと聴きたかった作品が生まれた」という長門の言葉は、六角や谷口の気持ちも代弁しているはずだ。

 けっしてスマートではない。もちろんオシャレでもない。しかし六角精児の武骨な歌は確かに、私の胸にまっすぐに届き、深く強く響いている。


向かって左からパイドパイパーハウスの長門芳郎、六角精児、サウンド・プロデュースを手がけた谷口雄

自分で手さぐりで見つけてくるってのが大切だと思うんですよ。僕もそういう考え方で音楽を選んできて、今、アメリカン・ルーツ・ミュージックとかブルーグラスが心地良くなってる。

音を聴いて以降、今日の取材日がこんなに待ち遠しかったことも珍しいです。傑作ですね。

六角:いやあ、嬉しいなあ。最初、嫁さんに聴かせたんだけど、振り返ったら、まともに聴いてなくて、せんべい食ってましたから。大丈夫かな? って心配してたんですよ。いいのか悪いのか、自分ではわからないですからね。

長門:音は去年(2021年)暮れには完成していたけど情報解禁はこの3月だったので、周囲の反応もわからなかったしね。

自分ではわからないってのが、六角さんの魅力の大きなポイントだと思うんですよ。つまり、「俺はかっこいいことをやってるんだ」って自意識がまったくない。それがこのアルバムの良さでもあるし、六角さんの本質でもあると思います。

六角:僕はただ、アメリカンなアルバムにしたいなということぐらいしか考えてなかった。すごく信頼している音楽好きの友達に① “やつらの足音のバラード” と⑤ “各駅停車” を聴いてもらったら「これはいい、アリメカンだな、楽しみだ」と言ってもらえてホッとしましたが。

谷口:猫のオリジナル・ヴァージョンだと8ビートだった⑤ “各駅停車” は西海岸路線でやってもいいとは思ったんですけど、そのままだと平坦になってしまうなと、リトル・フィートやポール・バターフィールドのラインでアレンジしてみたんです。

最初聴いてすぐにこのアルバムはフライング・ブリトー・ブラザーズや初期イーグルス、ポコといったサザン~ウェスト・コーストのアメリカン路線で攻めたんだろうなと思いました。それにしても、一曲目が『はじめ人間ギャートルズ』のテーマ曲 “やつらの足音のバラード” ってのが驚きで。

六角:あれによって、アメリカンだという全体の方向性を提示したつもりです。

とにかく選曲がいいですよね。歌い手としての六角さんの身体の中で一番響く言葉とメロディだけを厳選したんだなと。どの曲もオリジナル以上に六角さんの曲になっていると思います。選曲はみなさんで話し合って?

六角:そうです。あと、もう一人、昔タワーレコードで働いていた北爪啓之さんと。元々、彼と長門さんが僕のソロ・アルバムを作りたいと言ってくれたんです。それで皆で選曲を始めたわけだけど、僕は僕で自分の歌いたい曲がありますが、僕が歌ったらどうなるんだろう? 楽しいんじゃないか? というような曲もみなさんがちょっとずつ持ち寄ってくれた。そこには長門さんや北爪さんの思い入れもあったりするわけで。それを全部アレンジしてくれたのが谷口さん。そのアレンジによって、ここでの自分の方向性が改めて決まった感じでした。一連の流れが芝居稽古のようなものですね。

人がお作りになられた曲なので、いい加減にはできない。自分なりの物語をちゃんとひとつ持たないといけない。役者だったらどうだろう? とか、より客観的に向き合ったりもしました。

準備段階での候補曲は全部でどれくらいあったんですか。

長門:30曲近くありました。すべて日本のフォークやロックの曲です。そこから11曲を選び、六角さんのオリジナル曲⑫ “お前の町へ” で最後をしめるという形にしました。

日本のフォークやロックのカヴァーだけをやることは最初から決まってたんですね。

長門:うん、そういう気持ちがありました。ただ、若い世代の谷口くんはオルタナ・カントリーなど新しい音楽にも詳しいし、六角さんもブルーグラスやカントリーなどへの造詣が深いので、ただのフォーク・カヴァー・アルバムにはならなかったというわけですね。

そもそも、長門さんと六角さんのつきあいはいつ頃からなんですか。

六角:僕は一方的に40年前から存じ上げてました。浪人時代、代々木ゼミナールの帰りによくパイドパイパーハウスに寄っていたから。

長門:2013年、NHKの『仕事ハッケン伝』というドキュメンタリー番組で、六角さんは2週間くらい渋谷タワーレコードで働いたんですが、その時の指導役が北爪さんでした。そして、同じ渋谷タワーレコード内で2016年にパイドパイパーハウスが復活したんですが、その時のタワー側の担当も北爪さんでした。「六角さんは若い頃にパイドパイパーハウスによく通っていたそうですよ」と北爪さんから聞き、ご本人にお会いしたのが2017年かな。

その時点では、六角精児バンドのデビュー・アルバム『石ころ人生』(2014年)は聴いていましたか。

長門:大好きで、パイドでも売ってました。普通には流通していない、六角さんと下田逸郎さんのコラボ作品『唄物語/緑の匂い』(2017年)とかもご本人から仕入れていたし。六角さんにはこれまでに4回ほどパイドでもインストア・ライヴもやってもらうなど、ここ数年、かなり密な関係でおつきあいさせていただいてるんです。

六角:『石ころ人生』は今も売れ続けているんですよ。NHKの僕の番組「六角精児の呑み鉄本線・日本旅」で流していることもあって。おかげで2枚目のアルバム『そのまま生きる』(2019年)もほぼはけました。6000枚作ったんだけど。

長門さんは六角さんの歌のどういうところに惹かれてアルバムを作りたいと思ったんですか。

長門:はたから見ると、僕はフォーク系じゃなく、AORやソフト・ロック系のイメージが強いようだけど、実は昔からフォークのアルバムを作りたいと思っていたんです。フォークの人たちとは70年代初期からいろいろつきあいがあったし。でも、フォークのアルバムを作りたいと思ってもなかなかいないんですよね、自分で聴いてみたいと思う人が。で、六角精児バンドのアルバムを聴いた時「あっ、六角さんしかいないな」と思い、北爪さん経由で六角さんに提案したわけです。

六角さん自身も、バンドの作品とは別に、自分のソロを作ってみたいという思いはあったんですか。

六角:自分のソロ作品を作りたいとは特に思ってなかったんですが、2017年にその話が来た時はすごくうれしかったです。長門さんとだったら、是非一緒にやってみたいなと。長門さんの仕切りで、日本の昔のフォークを自分の肉体で歌ってみたらどうなるのか……六角精児バンドでやるのとはかなり違うと思ったのでワクワクしました。

その時点ではまだ六角精児バンドの2作目『そのまま生きる』(2019年)は出てないわけですが、『そのまま生きる』と並行してこのソロ・アルバムも作ったわけですか。

六角:そうです。全然違うアルバムになると思ったので、まったく問題なく。

長門:実際の選曲作業が始まったのが2018年で、レコーディングはコロナのせいで延び延びになって、去年の10月でした。

[[SplitPage]]

僕は芝居とリズムは密接な関係にあると思ってます。セリフには概ね理想的なリズムがあって、それをニュアンスと共に頭の中で考え、肉体を通して表現を試みる、そして相手役などから違うリズムを貰ったりしつつ、新たに構築していく。

全体のアレンジ/サウンド・プロデュースを谷口さんに依頼したのも長門さん?

長門:そうです。ただのフォーク・アルバムにしたくないと思った時、アレンジャーは谷口くんが適任だなと。

谷口:2017~18年くらいのけっこう早い段階にお話をいただきましたね。

長門:谷口くんはすごく研究熱心で、暇があればレコード屋に行ってるし、話がツーカーで通じる。スワンプからウッドストック系、シンガー・ソングライターものまでなんでも。最初にデモ・テープを作った時は、全ての演奏だけでなく、歌も谷口くんが自分で入れたんだよね。

谷口:そう、全部歌いました。だから実際はもう一枚作ってるんですよ(笑)。

六角:で、僕はそのカラオケ版を聴きながら、歌の練習をしてましたね。

録音現場での演奏は、ハウス・バンドのような固定メンバー(谷口雄/KB、江上徹/AG、宮下広輔/Steel G、伊賀航/B、増村和彦/Dr)でおこない、プラスでいろんなゲストを呼んでますが、六角精児バンドの江上徹さん以外はすべて谷口さんが連れてきた感じ?

六角:江上さんは、僕というよりは長門さんが是非と。

谷口:鈴木茂(EG)さん、鈴木慶一(EG)さんには長門さんからお声がけいただきました。

六角:あと、僕がブルーグラスの人を呼んでほしいと谷口さんに頼んで。

谷口:サボテン楽団(Banjo)くん、井乃頭畜音団のヒロヒサカトー(Mandolin)くん、それから宮下広輔くんあたりは、僕の周りでもとくにカントリーやブルーグラスに造詣が深いので、ピッタリでした。演奏はもちろん、空気感や人柄も含め、最高のメンバーが集ってくれたと思います。

宮下さんのペダル・スティールは全体を通して、かなり効いてますよね。

谷口:いいですよね。宮下くんが弾くことで、オルタナティヴな感覚が作品に加わったと思います。彼と、森は生きているのバンドメイトだった増村和彦くん(Dr)は真っ先に決めたんです。

若林純夫の④ “雪の月光写真師” とか中塚正人の⑪ “風景” とか、かなりレアな曲も入ってますよね。

六角:どちらも長門さんがリストアップした曲です。若林純夫さんという人が歌っている “雪の月光写真師” なんて曲、そんな音源どこにあるの? って感じだったんだけど、たまたま自分の家に「春一番コンサート」の73年のライヴCD『春一番コンサート・ライヴ '73』があったのでちょっと聴いてみたら、その曲が入ってたんですよ。「おお、これか」と(笑)。「あの曲をまた聴きたい、やってほしい」って長門さんに言われたから、これは絶対入れようとまず最初に思った。“風景” もそういう感じで。

“風景” は、まさにフライング・ブリトーみたいな感じですね。

六角:“風景” はいろんな人のヴァージョン(ディランⅡ、センチメンタル・シティ・ロマンス、斉藤哲夫など)がありますからね。歌っていることはすごいシンプルなんだけど、音楽として楽しめるのはこういうものなんだと今回改めて思いましたね。バンド・サウンドとして実に楽しい。最後の自分の曲 “お前の町へ” は別として、オープニングで “やつらの足音のバラード” を出し、“風景” でしめることで、アメリカンなアルバムなんですよと言い切っているわけです。

選曲だけでなく曲順でもアルバム・コンセプトを主張したと。

六角:あと鈴木慶一さんの⑥ “スカンピン” は、全員一致で「これは、六角さんが歌うべきだ」って。これ、僕か? 使っているコードもいつもの自分の雰囲気とは違うんだけどなと思いましたが(笑)。

オシャレなメジャー7thとか(笑)。やっぱり歌詞の内容ですよね。酒焼けした六角さんの声も貧しさ溢れる歌詞にぴったりはまる感があるし。

六角:長門さんからお願いして鈴木慶一さんにも参加していただいて。そういう意味でも長門さんがいなければこの曲はできませんでしたね。

休みの国の⑦ “追放の歌” は、特にアレンジが好きな曲です。冒頭の生ギターが効いてますよね。

六角:あのヨレがいいよねえ。しかも非常にドライで。

谷口:ありがとうございます。岡田拓郎くんをガット・ギターで呼べるのは僕くらいだろうと(笑)。彼もグリニッチ・ヴィレッチ周辺や〈Folkways Records〉ものはもちろん、コンテンポラリーなフォークへの理解が深い人なので、そのあたりを発揮してもらえればなと。ミックスではちょっとバーバンク・サウンドっぽさも狙ってもらいました。実は、伊賀さんにお願いしてウッド・ベースを2本重ねてもらっています。ギターよりベースの方がトラック数が多いんですよ。

長門:休みの国の高橋照幸さんは、当時カイゾクって呼ばれていて、青山店時代のパイドの社友というか身内のような感じでした。パイド初代店長の岩永正敏さんが照幸さんと仲良くて。照幸さんはパイドにしょっちゅう来てました。だから六角さんがこれは是非歌いたいって言ってくれて、すごく嬉しかった。

芝居は、ご縁があってやらせていただいている仕事だけど、本当に好きなものはやっぱり音楽なんですよ。

六角さんがギターを弾いているのは高田渡の② “告別式” 1曲だけですが、もっと弾きたいとは思いませんでしたか。

六角:いや、今回はとにかく歌をちゃんとやりたかったですからね。

長門:歌はねえ……早川義夫さんの⑩ “この世で一番キレイなもの” が特にいいよね。

うん、あれはちょっと泣きそうになりました。

六角:僕も自分で泣きそうになりましたもん。

谷口:しびれるレコーディングでした。

ヴォーカリスト六角精児の真骨頂というか。

六角:最初、どうやって歌えばいいかわからなかったんですけどね。他の曲に関してもそうだけど、谷口さんがデモ音源のサウンドをすごくしっかり作ってくれてたので、そこに乗っかって、自分なりの表現が工夫できたんだと思います。演奏陣もそう。だから、せーので全部一発で録音できたんですよ。

谷口:僕は今回はまず演奏メンバーを決めていたので、当て書きといいますか、アレンジも「この人だったらこうやってくれるだろう」って感じで作っていったんです。メンバーはレコーディング本番で初めて全員顔を合わせたんですが、当て書きでアレンジをしたおかげか、プレイヤーも自分の色を出しやすかったみたいです。皆さん本当にすんなり現場の空気に入ってくれました。

六角:役者が台本を読んでセリフを覚えてくるようなもんですよ。各人が練習してきて、それでせーのでやってみるとこんなふうになるんだと。

六角さんの歌もバンドと一緒に録ったんですか。

谷口:そうです。全部一緒。ほぼ一発OKだった。ダビングも必要最低限に留めました。

六角:なんか遊んでいたら全部できちゃった感じでした。リハとかしないでできちゃうのか、音楽の人ってすげえなって(笑)。

長門:レコーディングが本当に楽しくてね。スタジオでプレイバックを聴いて拍手が起こったり。昔、シュガー・ベイブやティン・パン・アレイほかたくさんのレコーディングに立ち会ったけど、そんなことは初めてでした。

録音スタジオが「studio 土の上を歩く」とクレジットされていますが、これはどういうスタジオですか?

谷口:僕が普段からお世話になっているシンガー・ソングライターで、今回は⑫ “お前の町へ” でアコギを弾いてもらっている笹倉慎介さんが作ったスタジオです。

クレジットを見た時、スタジオ名までこのアルバムらしいなと思ったんですよ。今作にも入っている “各駅停車” じゃないけど、飛ばさないで、自分で地面を歩いてひとつひとつ手探りでものを掴んでいくってことだけが今は信用できるというか、かっこいいものじゃないかとずっと思っていて。この作品はそれをすごく体現しているし、このスタジオ名も作品に合わせて勝手につけた名前かなと、それくらいぴったりだと思った。

谷口:たまたまです(笑)。古いビルの一室で、笹倉さんが自分で防音の施工をして、ひとつずつ作ったんです。僕もお手伝いして。そういう手作りの雰囲気も含めてぴったりだなと思い、ここで録音したんです。

六角:何がいいかってのは本当に人それぞれなわけだけど、今おっしゃったように、自分で手さぐりで見つけてくるってのが大切だと思うんですよ。僕もそういう考え方で音楽を選んできて、今、アメリカン・ルーツ・ミュージックとかブルーグラスが心地良くなってる。自分の好きな音楽がいい塩梅で合わさった音作りをバンドがやってくれて、そこに僕が気持ちよく乗っかれたって感じがします。長門さん以下、関わった人たち全員が音楽のことをよく知っている。やっぱりそこが一番良かったなと。「これはこういう感じ」だと言ったら、皆がそれを即座に理解してくれる。俳優の世界にはその世界ならではの言葉があって、それでやりくりしているわけだけど、まったく違う形で自分の好きなことができるのは、なんて幸せなんだろうと思います。

音楽に対する六角さんの情熱は本当にすごいなと、今回改めて思いました。俳優さんでここまで音楽に通じている人は、六角さんと松重豊さんぐらいじゃないですか?

六角:今日ね、実はここに来る前、松重さんと対談をしてきたんですよ(笑)。うん、松重さんは確かに詳しいですよね。僕がいろんな音楽を聴き始めたのは中学生の頃で、そこからどんどん広がっていったんですが、20代半ば以降は劇団での活動が大変になったりして、正直、音楽はあんまり聴かなくなっちゃったんです。で、40才過ぎたあたりからまた熱心に聴き始めて、いろいろ掘り下げていった感じです。

谷口:さっき話に出てた『仕事ハッケン伝』で、最後に六角さんがアルバム10枚選んだんですが、そこにニール・カサールが入ってたんですよ。うおっ、すげえと思って。テレビからニール・カサールという名前が聞こえるなんて、しかも俳優さんが推してるって。

改めて、選曲についてですが、今回カヴァした11曲以外に、リストアップされていたものにはどんな曲があったんですか。

谷口:あがた森魚さんとか。

六角:斉藤哲夫 “悩み多き者よ” や細野晴臣 “ろっか・ばい・まい・べいびい” もありましたね。

長門:あと僕が出していたのはダッチャの “26号線” という曲。1973年に1枚だけアルバムを出していたシンガー・ソングライターです。

六角さんが、これだけは絶対に歌いたいと主張した曲は?

六角:けっこうありました。① “やつらの足音のバラード”、② “告別式”、⑤ “各駅停車”、⑨ “女の証し”、あと⑩ “この世で一番キレイなもの” などですね。その他は長門さん、谷口さん、北爪さんの推薦です。特に、休みの国の⑦ “追放の歌” は北爪さんが絶対に入れてくれと。人から選んでもらったものを自分で具体化する楽しさ、それって芝居に通ずるところがあります。僕にとっては芝居より楽しいですよ。

結局、最後、自分のことは自分の力でなんとかするしかない。だけど、その時にふと素敵な音楽があって、それを聴いたことで自分を奮い立たせることはできるかもしれない。この音楽にはそういう気持ちが込められているんです。

自分のバンドで歌うことと、今回みたいにシンガーに徹することの違い、難しさみたいなものはありましたか。

六角:六角精児バンドとして何かを表現するっていうのは、やっぱりバンド全体での表現ですから、自分の中ではわりとおおらかさがつきまとうんです。「これくらいでいいよね」みたいな。今回の場合は自分のソロですから、それを自分でどう歌うかというのに直面しなければならないんですよ。良い意味でも悪い意味でも、バンドというごまかしがきかない。どうすればいいか、どうしたいのか、自分の中で判断しなくちゃいけない。

つまり、責任が分散しないと。

六角:その責任と判断を、谷口くんにもらったデモのカラオケで歌いながら少しずつ自覚していった感じですね。で、スタジオでの本当の演奏になった時、自分が思っていたことばかりじゃなくて、バンドと融合するためにはどうしたらいいかと。そこは役者と似てますね。

シナリオをもらって、その段階で自分でいろいろ考えるわけだけど、実際の現場では相手がいて、その場で表現も変わってくる。

六角:そこで相手がくれる力を、一回ちゃんと自分なりに受け止めて出す、それがレコーディングですね。でも、自分がやりたいことの筋立てだけはしっかり考えておかなくちゃいけなかったので、まあ簡単に言うと、わりとしっかりやりました(笑)。人がお作りになられた曲なので、いい加減にはできない。自分なりの物語をちゃんとひとつ持たないといけない。役者だったらどうだろう? とか、より客観的に向き合ったりもしました。

亡くなった志村けんさんはソウルやファンクなどの音楽に精通してて、身のこなしや演技そのものにソウルやファンクのビートが影響していたと思います。六角さんの表現にも何がしかの音楽的影響がありますか。

六角:そうですね、僕は芝居とリズムは密接な関係にあると思ってます。セリフには概ね理想的なリズムがあって、それをニュアンスと共に頭の中で考え、肉体を通して表現を試みる、そして相手役などから違うリズムを貰ったりしつつ、新たに構築していく。呼吸もリズムの変化によって全然変わってきますから。

つまり、六角さんの演技や身のこなしそのものが音楽的だと言っていいと。

六角:自分はそういうふうに思っています。でもまあ、芝居は、ご縁があってやらせていただいている仕事だけど、本当に好きなものはやっぱり音楽なんですよ。でも、才能の問題があるし。自分としてはあまり大きな形で参加はできないけど、寄り添うことができればと思っています。

最後に、アルバムのタイトルについて。自分でつけたそうですが、そこに込めた意図を教えてください。

六角:自分で救えってことです。

自分は自分でしか救えないと?

六角:そうです。人は人を救えない。ただ、人からもらったもので心を支えて、自分でなんとかすることはできるじゃないですか。そんなささやかな支えになれるアルバムであってほしいなと。

それは、これまでの、山あり、谷あり、谷あり、谷ありみたいな人生がかなり影響してる言葉ですよね?

六角:ですね。結局、最後、自分のことは自分の力でなんとかするしかない。だけど、その時にふと素敵な音楽があって、それを聴いたことで自分を奮い立たせることはできるかもしれない。この音楽にはそういう気持ちが込められているんです。決して乱暴な言葉ではない、これは人への、ある意味励ましなんです。

六角さんの過去のインタヴューで、すごく感銘を受けた言葉がありました。ご自身の生きるうえでの信条を聞かれて、六角さんが「許す、忘れる」と答えてて。六角さんの演技も今回の歌も、すべてこれだよなと。

六角:忘れる力です。そして、人も自分も許す。

そう、これは「許す」アルバムなんですよ。後ろ向きのように見えるけど、聴き終わると前向きな気持ちになっている(笑)。一歩ずつ歩いている。

六角:後ろ向きな感じがするけど、けっして死なない、と。人は人を救えない。まずは自分の心を開かなくちゃ。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431