「Ord」と一致するもの

Amnesia Scanner & Lorenzo Senni - ele-king

 2018年に出た『Another Life』は強烈だった。以降も実験的かつコンセプチュアルな電子音楽を送り出しつづけている〈PAN〉のデュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラから成るアムニージャ・スキャナーが初めての来日を果たす。今年出た最新作ではいま話題のNYのアーティスト、フリーカ・テット(OPN最新作収録曲の、あの印象的なMVも手がけていましたね)とコラボしていた彼らだが、今回の東京公演はハイマラとそのテットのコンビで敢行。
 また同時にミラノからネオ・トランスの先駆者、みずからを「レイヴ・シーンの覗き屋」だと称するロレンツォ・センニも来訪、東京と大阪の2か所をめぐる。東京では上記アムニージャ・スキャナーと、大阪ではSoft Couとの共演だ。エレクトロニック・ミュージックの前線に触れるまたとない機会。お見逃しなく。

WWW & WWW X Anniversaries

Local 25 World -FIESTA! 2023-
Amnesia Scanner & Lorenzo Senni

2023/11/17 FRI 18:00 at WWW X
早割 / Early Bird ¥3,900 (+1D) *LTD / 枚数限定
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

LIVE:
Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
Lorenzo Senni [IT / WARP]

+++

4F Exhibition: TBA

curated by ippaida storage / Soya Ito
artwork / painting: Nizika 虹賀
layout: pootee

https://www-shibuya.jp/schedule/017250.php

現代ポップ&レイヴ・アートの伝説2組、ベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えた世界を巡るサウンド・アドベンチャーLocal Worldが本編25回目となるWWWの周年パーティを開催。

2016年12月渋谷WWWを拠点に始動、本年7年目を迎えるイベント・シリーズ兼ディレクターLocal World本編第25回がベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えWWWの周年イベントとして開催。

10年代前期の元流通/レーベル業のmelting botからイベント業への変換機に生まれたLocal Worldはクラブとアートにおけるコンテンポラリーな電子音楽のモードを軸に立ち上げ当初の脱構築期(Deconstructed)から始まり、アジアやアフリカを念頭に多種多様なサウンドとリズムのキュレーションしながら世界各国のアーティストを招聘、並行してディレクションを務めるWWWの最深部”WWWβ”を基盤に新しいローカル・シーンを形成する担い手としてコロナ禍では下北沢SPREADを拠点にハイパーポップ期へと突入、都内のクラブにてメディアのAVYSSのイベント制作やアーティストのリリース・パーティのサポート含む断続的な活動を続け、本年からWWWにカムバックを果たす。下記のテキストとフライヤーのアーカイヴ・リンクから本パーティを始め前身のシリーズBONDAID、過去のブッキングやツアー・プロモーターとしての活動リストが確認出来る。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic -halloween nuts-
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX1 World DJ Sprinkles
Local XX2 World Oli XL
Local XX3 World Pelada
Local XX4 World Piezo & Liyo

Lorenzo Senni Japan Tour 2023

トランスのその先へ!〈Warp〉から最新アルバムをリリースするイタリアの鬼才、現代レイヴ・アートの始祖Lorenzo Senni待望の来日ツアー開催。

11/17 FRI 18:00 at WWW X Tokyo w/ Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

11/19 SUN 18:00 at CIRCUS Osaka w/ Soft Cou [IT]
https://eplus.jp/sf/detail/3980020001-P0030001

今回のテーマ”FIESTA!”は8年前の2015年11月にLorenzo SenniとInga Copelandを招いてWWWで開催したLocal Worldの前身イベントBONDAIDの記念パーティBONDAID#7 FIESTA!から踏襲し、10年代のエレクトロニック・ミュージックの文脈において最重要な現代ポップ&レイヴ・アートの伝説とも言える2組、ニューヨークのフリーカ・テトを迎えた新形態のオルタナティブ・エレクトロ・デュオAmnesia Scanner(本公演ではフリーカ・テトとヴィレ・ハイマラのみ出演)をベルリンから、トランス系脱構築レイヴの始祖Lorenzo Senniをイタリアから迎えた”祝祭”をコンサートと展示を通して表現する。

またLorenzo Senniは11/19日に大阪公演をCIRCUS OSAKAにて予定、両公演追加アクトの詳細は後日発表となっている。

[プロフィール]


Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]

Amnesia Scannerはベルリンを拠点とするフィンランド人デュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラ。2014年に結成されたグループの活動範囲は、作曲、プロデュース、パフォーマンス、そしてクリエイティブな演出と循環に及ぶ。システムの脆弱性、情報過多、感覚過多への深い憧憬を特徴とするAmnesia Scannerは、現在をカーニバル化する。ストリーミング・プラットフォームが主流となり、アーティストとファンの間のフィードバック・チャンネルがより直接的になるにつれて、音楽やライブ・パフォーマンスの聴き方がどのように進化しているかを含め、彼らの作品の中核には、現代の体験がどのように媒介されているかという関心がある。

2014年のミックステープ『AS Live [][][][][]』をベースに、グライム、トラップ、レイヴのデータ・リッチなメッシュと、2015年のオーディオ・プレイ『Angels Rig Hook』で絶賛された機械仕掛けのナレーターを織り交ぜた。その直後には、アーティストのハーム・ヴァン・デン・ドーペルとビル・クーリガス(PANの創設者)とのサイバードローム・オーディオ・ビジュアル・プロジェクト、Lexachastを発表した。純粋なAmnesia Scannerの領域に戻ると、Young Turksの2枚のEP(ASとAS Truth)が2017年に到着し、デュオがますます知られるようになった没入的な環境を、ダークなレイヴ・ツールの研磨されたコレクションに抽出した。Angels Rig Hookの実体のないヴォーカリストは、デュオ初のLP『Another Life』(2018年 PAN)で "オラクル "として姿を変えて戻ってきた。このアルバムは、ポップな曲構成とアヴァンギャルドなEDMをカップリングし、子守唄から過熱したドゥームバトンやニューメタル・ギャバまでスイングする。2021年、Amnesia Scannerはセカンド・フル・アルバム『Tearless』をリリースした。このアルバムは「地球との決別の記録」であり、サウンド的にもメロディ的にも、彼らの特徴であるオーヴァークロック・ポップという作品の幅を広げている。ラリータ、LYZZA、コード・オレンジがアムネシア・スキャナーに加わり、迫り来る崩壊へのボーダレスなサウンドトラックを作曲している。

Amnesia Scannerは、デンマークの大規模なRoskilde FestivalからベルリンのBerghain、ロンドンのSerpentine Galleriesまで、幅広い会場や環境でパフォーマンスを行ってきた。デザインとビジュアル・ディレクションは、PWRとコラボレーションしている。ヴィレ・ハイマラは、独立して、デヴィッド・バーン、FKAツイッグス、ホリー・ハーンドン、アン・イムホフなどのアーティストのために作曲し、プロデュースもしている。Amnesia Scannerでの活動以外にも、マルッティ・カリアラは建築家、文化批評家、クリエイティブ・シンクタンク「ネメシス」の共同設立者でもある。

https://pan.lnk.to/STROBE.RIP

https://www.youtube.com/watch?v=mgbSR7f4K-o&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=3MzBSV-_mjQ&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=N8mT3-YvmxE&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=5CEmVTzmzpw&t=143s


Lorenzo Senni [IT / WARP]

ダンス・ミュージックのメカニズムや動作部分のたゆまぬリサーチャーであり、尊敬されるエクスペリメンタル・レーベルPresto!!!の代表であるこのイタリア人ミュージシャンは、この10年で最もユニークなリリース『Persona』(Warp 2016年)、『Quantum Jelly』(Editions Mego 2012年)、『Superimpositions』(Boomkat Editions 2014年)を手がけている。

2016年にWarpと契約し、EP「Persona」は、デジタル・カルチャーと音楽の分野で最も有名で、最も長く続いている年間賞の1つであるプリ・アーツ・エレクトロニカで名誉ある「Honorary Mention」を受賞した。Pointillistic Trance(点描トランス)」や Rave Voyeurism(窃視レイヴ)という造語で自身のアプローチを表現するロレンツォ・センニは、トランスから脊髄を引き抜き、目の前にぶら下げるサディスティックな科学者のようである。

彼の作品は、90年代のサウンドとレイヴ・カルチャーを見事に解体し、その構成要素を注意深く分析して、まったく異なる文脈で再利用できるようにしたもので、反復と分離を重要なコンセプトとして、多幸感あふれるダンス・ミュージックに見られる”ビルドアップ”のアイデアを出発点として、高揚感はほどほどに、より内省的な作品を作り、暗黙のうちに感情の緊張とドラマを保っている。

Presto!!! レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に高く評価されているアーティストのアルバムをリリースしてきた。レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に評価の高いアーティストのアルバムをリリース。映画、演劇、映画音楽の作曲も手がけ、ユーリ・アンカラニの受賞作『ダ・ヴィンチ』や『ザ・チャレンジ』のサウンドトラック、ウェイン・マクレガーの『+/- Human』(コンピューター制御のドローンとロイヤル・ナショナル・バレエ団のダンサーによるダンス・パフォーマンス)などがある。また、アメリカの歌手ハウ・トゥ・ドレス・ウェル(How To Dress Well)の音楽も手がけ、テート・モダン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、MACBA(バルセロナ)、カサ・ダ・ムジカ(ポルト)、MACBA(バルセロナ)、Auditorium Nazionale Rai(トリノ)、Auditorium Parco della Musica(ローマ)、Zabludowicz Foundation(ロンドン)、ICA(ロンドン)などでLasers & CO2 Cannonsを含む作品を展示し、パフォーマンスを行っている。

https://linktr.ee/lorenzosenni

https://www.youtube.com/watch?v=qNlbN_YZHFY
https://www.youtube.com/watch?v=0UH2tqHTi_M&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=v_AjXH0xu4A&t=174s&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=X2Yh8zkC-0g&ab_channel=ka1eidoscopic2

インタビュー@eleking “パンデミックの中心で「音楽を研究したいだけ」と叫ぶ!”
https://www.ele-king.net/interviews/007574

インタビュー@SSENSE “ロレンツォ・センニ:情熱の規律”
https://www.ssense.com/ja-jp/editorial/music-ja/lorenzo-senni-discipline-of-enthusiasm?lang=ja

Japan Vibrations - ele-king

 パリに生まれ東京で育ったDJ、アレックス・フロム・トーキョーがこのたび、日本のエレクトロニック・ダンス・ミュージックに特化したコンピレーション・アルバムをリリースすることを発表した。細野晴臣からはじまり、Silent Poetsや横田進、オキヒデ、Mind DesignやC.T. Scan等々、ジャンルを横断しながら駆け抜ける。(トラックリストをチェックしましょう)この秋の注目の1枚ですね。

 また、このリリースに併せて、11月2日から13日までDJツアーも決定。(11/2 鶴岡 Titty Twister、3日 京都Metro、4日 大阪House Bar Muse、5日は東京で6年振りにGalleryを開催、8日 東京Tree@Aoyama Zero、9日 熊本Mellow Mellow、10日 福岡Sirocco、11日 旭川Bassment。なお、11月1日にはDOMMUNEにて特番も決定しております。

V/A
Alex from Tokyo presents Japan Vibrations Vol.1

world famous
アナログ盤は日本先行で2023年11月01日発売
CDは2023年11月22日発売

トラックリスト:
1. Haruomi Hosono - Ambient Meditation #3
2. Silent Poets - Meaning In The Tone (’95 Space & Oriental)
3. Mind Design - Sun
4. Quadra- Phantom
5. Yasuaki Shimizu - Tamare-Tamare
6. Ryuichi Sakamoto - Tibetan Dance (Version)
7. T.P.O. - Hiroshi's Dub (Tokyo Club Mix)
8. Okihide - Biskatta
9. Mondo Grosso - Vibe PM (Jazzy Mixed Roots) (Remixed by Yoshihiro Okino)
10. Prism - Velvet Nymph
11. C.T. Scan - Cold Sleep (The Door Into Summer)

 Alex From Tokyoが日本で重ねた25年以上の人生における音楽の回想録、第一章!

 『Japan Vibrations Vol.1』で、80年代半ばから90年代半ばまでの日本のエレクトロニック・ダンス・ミュージック・シーンの刺激的な時代に飛び込もう。東京でDJ活動をスタートした音楽の語り部でもあるアレックス・フロム・トーキョーが厳選したコレクションは、シーンを形作った先駆者たちや革新者たちにオマージュを捧げている。
 この秋にリリースされるこのコンピレーションは、日本の現代音楽史における活気に満ちた時期を記録したタイムカプセルとなる。また、その時代を生きた本人からのラヴレターでもある。
 アンビエント、ダウンテンポ、ダブ、ワールド・ビート、ディープ・ハウス、ニュー・ジャズ、テクノにまたがる11曲を新たにリマスター。国際的なサウンドに日本的な要素が融合した、楽園のような時代のクリエイティビティに満ちた創意工夫と、そのエネルギーを共に紹介する。
 シーンのパイオニアである細野晴臣、坂本龍一、清水靖晃、クラブ・カルチャーを形成した藤原ヒロシ、高木完、ススムヨコタ、Silent Poets、Mondo Grosso、Kyoto Jazz Massive、そして新世代アーティストのCMJK(C.T.Scan)、Mind Design、Okihide、Hiroshi Watanabeのヴァイブレーションを体験しょう。このクラブ・シーンの進化をDJセットの進行とともに展開します。

 本作はサウンドエンジニア熊野功氏(PHONON)による高音質なリマスタリングが施され、日高健によるライセンスコーディネート、アルバムアートワークは北原武彦。撮影は藤代冥砂とBeezer、と全員がアレックスと親交の深い友人達が担当。プレスはイタリアのMotherTongue Records。販売流通先はアムステルダムのRush Hour。サポートはCarhartt WIP。
 『Japan Vibrations Vol.1』は、リスナーを日本の伝説的なクラブで繰り広げられるエネルギッシュな夜にタイムスリップさせ、音楽の発見と内省の旅へといざないます。


Alex from Tokyo/アレックス・フロム・トーキョー
(Tokyo Black Star, world famous, Paris)
https://www.soundsfamiliar.it/roster/alex-from-tokyo

 パリ生まれ、東京育ち、現在はパリを拠点とする音楽家、DJ、音楽プロデューサー(Tokyo Black Star)、サウンドデザイナー(omotesound.com)&インタナショナル・コーディネータ。world famousレーベル主宰。
 彼のキャリアは約30年に及び、日本、フランス、ニューヨーク、ベルリンそして現在の拠点であるパリと、世界を股にかけて国際的に活躍中。
 アレックスを、限られた時空や芸術の連続体の中に閉じ込めてしまうのは、とても考えられないことであり、誰がそんなことをするというのだろう。
 4歳の頃から、東京に住んでいたアレックス・プラットは、地球最大の都市の音と光景の中で育つ。1991年9月に生まれ故郷のパリに帰国。当初は大学進学のためだったがパリのアンダーグラウンド・クラブ・シーンに飛び込み、1993年にパリでDj DeepとGregoryとのDJユニット「A Deep Groove」を設立してDJキャリアーをスタート。
 1995年に東京に戻ってきたAlexは、日本を目指した交流あるヨーロッパのレーベル、DJやアーティスト達の橋渡し役として活躍する事となる。Laurent GarnierのレーベルF Communicationsの日本大使になり、ロンドンのレコードショップ/レーベルMr. Bongoの渋谷店及びレーベルDisorientで働き、そしてフランスのYellow ProductionsとBossa Tres Jazz 「When East Meets West」の企画と日本側のコーディネートを行う。同時に東京のレーベルP-Vine, Flavour of Sound、Rush Productions、Flower RecordsやUltra VybeからミックスCDを製作。
 1990年代末にサウンドエンジニアの熊野功とTokyo Black Star名義でオリジナル楽曲やリミックスの制作を開始(2015年に高木健一が正式メンバーとして加入)。ベルリンのトップ・レーベルInnervisionsから2009年にファースト・フル・アルバム「Black Ships」を発表。
 クラブ・シーンを超えて、もうひとつのパッションである音楽デザイナーとしてAlexはインタナショナル・ファッション・ブランド(Y-3, Louis Vuitton, Mini, Li-Ning, wagyumafia)やセレクトされたクライアントのために音楽コンサルティングや制作を提供。2006年9月に日本の河出書房社から出版されたLaurent Garnierの自伝「Electrochoc」の日本語訳を担当。
 DJとしては日本と世界の音を吸収して「ディープ・ハッピー・ファンキー・ポジティブ」なサウンドを共有しています。
 2022年までの2年間ベルギー、ブリュッセルのKioskラジオで隔月に放送されている番組「ta bi bi to」(旅する人達のための音楽)では、世界中のリスナーに多彩な音楽の旅を提供。
 現在では、ベルリンのトップ・ゲイ・パーティCocktail D’Amoreでのレギュラー、そして日本ではDj Nori、Kenji HasegawaとFukubaと共に25年続けているSunday Afternoonパーティ「Gallery」のレジデントを務める。
 2019年にはベルリンからworld famousレーベルを再起動して、2023年の秋には日本のエレクトロニック・ダンスミュージックのコンピレーション企画シリーズ『Japan Vibrations Vol.1』を世界リリース。
 2023年9月1日にリリースされた所属のイタリアのDJエージェンシーSounds Familiar の10周年記念コンピレーション・アルバム『Familiar Sounds Vol.2 』に新曲 "Wa Galaxy "で参加。
 アレックスは、今も絶えることなく、音楽の旅を続けている。

interview with Ed Motta - ele-king

 人間ウーファーとでも言いたくなるようなダイナミックな歌声の巨漢、エヂ・モッタは1971年、ブラジル・リオ生まれ。ブラジルを代表するソウルマン、故チン・マイアの甥にあたり、子どもの頃からソウルやロックを聴いて育った。88年、17歳でファースト・アルバムを発表。ソウル~ファンク系のシンガー・ソングライターとして人気を確立した。
 97年、70~80年代のソウル、ファンクを散りばめた名盤『Manual Prático para Festas, Bailes e Afins Vol.1(パーティー・マニュアル)』が日本でも発売された。2000年代には Mondo Grosso の『MG4』、坂本龍一がジャキス&パウラ・モレレンバウム夫妻とのユニット、Morelenbaum2/Sakamoto でアントニオ・カルロス・ジョビンの名曲をリオで録音した『Casa』にゲスト参加した。
 「俺がブラジル音楽を聴き出したのは1992年以降に過ぎない。でも聴き始めてからレコードをコレクションしまくり、今では全部持ってるぞ(笑)」と豪語。数万枚のレコード・ライブラリーはブルース、ソウル、ロック、ジャズ、映画音楽、クラシック、そしてブラジル音楽など広範囲に及び、日本のジャズ、シティ・ポップのコレクションも豊富だ。
 自身の音楽も2000年代以降、幅を広げてジャズや映画音楽などを取り入れ、2013年のアルバム『AOR』は日本でもヒット。同年の来日公演では山下達郎の「Windy lady」も歌った。
 50代を迎えたエヂ・モッタが10月20日、世界同時リリースした最新作が『Behind The Tea Chronicles』。全曲、エヂが作詞作曲し(歌詞は英語)、リオを中心にデトロイト、プラハでもレコーディングを行なった。彼の音楽の多彩なバックグラウンド、映画に対する愛と知識などを反映した、美食家エヂ・モッタの真髄ここにあり!と言える新作だ。メール・インタヴューで全曲についてコメントしてくれたので、鑑賞の参考にしてほしい。

レコード・コレクターとして、僕はこの数年間、実に多くのことをリサーチしてきた。この趣味は、毎日人生について教えてくれるんだ。

『Behind The Tea Chronicles』からは、R&B/ソウル、ジャズ、ブルース、フィルム・ミュージック、AOR、そしてスティーリー・ダンの音楽など、さまざまな要素が聴き取れる。君が書いた歌詞が映画のストーリーのようであることも含め、フィルム・ミュージックの要素が強いと感じた。コロナ禍で外出できずにいた期間、家で多くの映画を見ていたことの影響がある?

エヂ・モッタ(以下EM):音楽以外にも、僕はティーンの頃からずっと映画に夢中で、80年代後半には名作映画のファンジンを自主制作していたんだ。僕は妻のエヂナ(注:漫画家、イラストレイター)と一緒に、以前は毎晩、映画を2本、見ていた。だから映画は僕にたくさんの情報と感情を与えてくれるし、それは僕の音楽制作に繋がっているよね。レコード・コレクターとして、僕はこの数年間、実に多くのことをリサーチしてきた。この趣味は、毎日人生について教えてくれるんだ。

約3年に及ぶコロナ禍はあなたの音楽、そしてこのアルバムの制作プロセスに何か影響を与えた?

EM:もともと僕は、基本的に自宅にいるんだ。本当にたまにしか外出しないから、僕の生活はそもそもロックダウンのような感じでね。このアルバムのいくつかのパートを録音したスタジオも家の2階にあるし、本、映画、ピアノ、ワイン、僕の大好きなものは全部家の中にあるからね。

アルバムの制作プロセスについて聞きたい。まずベーシックなレコーディングをリオ郊外の自然に囲まれた環境にある、ホシナンチ・レーベルのスタジオで行なった理由は? ちなみにホシナンチ・レーベルは近年、レチエリス・レイチのアルバムなどを通じて日本でも注目されている。

EM:これは実務的な理由でホシナンチ・スタジオは、最近ではブラジルのベストのスタジオなんだ。僕はいつも、どうやったらベストのサウンドが録音できるのかを研究して、彼ら(注:ホシナンチのスタッフ)はオーディオ・マニアで、たくさんのマイクを所持していて、素晴らしい録音機材も揃っている。おかしな話だけど、都会のほうが好きな僕にとって、自然の中で過ごすのは結構おかしな気持ちになるのだけど、それでも良いサウンドで録音したいからね。

ストリングスの録音をプラハのスタジオで、ホーンズの録音をデトロイトで行なった理由と、手応えは?

EM:ミュージシャンがどこを起点に活動しているかってことだね。アメリカのビッグ・バンドの伝統とヨーロッパのクラシック音楽、それぞれのミュージシャンのサウンドから力を借りたかったんだ。

USAで行なったバッキング・ヴォーカルの録音に、ポーレット・マクウイリアムス、フィリップ・イングラムが参加したことが興味深い。彼(彼女)とは録音の前から知人だった? それともカマウ・ケニヤッタの紹介?

EM:私は彼らのことを、彼ら自身のプロジェクトで知ったんだ。ポーレットはたくさんの名作をレコーディングしているし、フィリップの Switch は素晴らしいバンドだよね。カマウはヴォーカルだけでなく、ホーン・セクションも手伝ってくれた。僕は彼らがとても複雑なハーモニーを驚くべき仕事の速さで録音してくれて感動したよ。素晴らしいね! とてつもないよ!

これから、各曲についてコメントしてほしい。まず “Newsroom customers” には、君が書いた歌詞にストーリーがあり、編曲は映画音楽を想像させる。参考にしたものは?

EM:音楽的にはブラジリアン・ミュージックらしいコード・チェンジとパーカッションが目立つ、ソウル・ミュージックとブラジル・ミュージックをブレンドした楽曲だと思っている。ストリングスは、僕が1990年にリリースしたセカンド・アルバムでとても重要な役割を果たしたんだけど、今回もストリングスを録音する機会を得たことが光栄だったし、楽しめたよ。この曲のストーリーは、偉大な作家になる才能を持っていたライターがマフィアとつるみ始めるようになる話だ。この曲でのマフィアは、アート・ビジネス、音楽、映画などのことを描写している。この曲を作るにあたって、僕が好きなふたつの映画、ビリー・ワイルダーの『地獄の英雄(Ace In The Hole)』、アレクサンダー・マッケンドリックの映画『成功の甘き香り(Sweet Smell Of Success)』(注:共に50年代のUSA映画)からも影響を受けていると思うよ。

歌詞がSF的な “Slumberland” の発想は?

EM:“Slumberland” の名前はアニメーション映画の創設者であるウィンザー・マッケイのコミック・ストリップ作品『夢の国のリトル・ニモ(Little Nemo In Slumberland)』から来ているんだ。「彼らはスウィートな妖精のように塔の中でタバコを吸って、毎日繰り返される悲痛な “善意の誇示”」という歌詞に、現実離れしていてシュールな雰囲気が漂っていてね。ミックスを終えたとき、チャールズ・ステップニーやボーンズ・ハウの気持ちになったよ。サンシャイン・ポップだ。

僕が音楽を制作するときに、スティーリー・ダンはいつも側にいるんだ。アレンジやミックスの段階でかなり影響を受けていると思う。

“Safety far” のファンキーなサウンドの参考にしたものは?

EM:ノーマン・コナーズ、スティーヴィー・ワンダー、リオン・ウェアらの、面白いコード・チェンジを使って洗練されたソウル・ミュージック。この曲は既に20万回以上、Spotify でプレイされていて、とても嬉しいね(注:再生回数は2023年10月初頭現在)。

“Gaslighting Nancy” のサウンドは、スティーリー・ダンへのオマージュ? それだけではなく別の音楽の要素もあるように思う。

EM:この曲は、かなりボサノヴァのコード・チェンジを利用しているんだ。特にブリッジでね。アントニオ・カルロス・ジョビン風だよ。でも僕が音楽を制作するときに、スティーリー・ダンはいつも側にいるんだ。アレンジやミックスの段階でかなり影響を受けていると思う。リリックについては、ジョージ・キューカーの映画『ガス燈(Gaslight)』に関係があるね。

ミシェル・リマ(ピアノ他)とふたりだけで録音した “Of Good Strain” が、アルバムの中で効果的だ。日本で言えば “ワビ” “サビ” のような。この曲のコンセプトは?

EM:「wabi」「sabi」という用語を知れて嬉しいよ! そうだね、これはミニマリズムだ。この曲はブロードウェイ・ワルツで、フランク・レッサー、サイ・コールマン、ハリー・ウォーレンといったレジェンドな作曲家たちから影響を受けたよ。曲のストーリーは、手塚治虫のアダルトなグラフィック・ノベルに関連しているかもしれないね。現実的でファンタスティックだ。

“Quatermass has told us” は歌詞もサウンドもSF的だ。この曲のコンセプトは?

EM:『クウェイターマス』は、BBCで最初に放送されたサイエンス・フィクションのテレビ・シリーズで、最終的にはカラー放送で3つの映画が公開されたんだ。アルバムの中で最もファンキーな曲で、いちばん複雑なコード・チェンジが繰り広げられる。僕の中ではジェネシスのアルバム『Wind And Wuthering』と、坂本龍一のコードが偶然、出会ったかのような曲だ。

“Buddy longway” でのエヂ・モッタは、ブルースマン?

EM:そうだよ! 田舎のブルースマンさ。僕はキャリアの最初の頃からブルースマンが大好きでね。サン・ハウス、ブッカ・ホワイト、スキップ・ジェイムスとか。“Buddy longway” は、70年代のフランスのコミックのキャラクターなんだ。

“Shot in the park” も、1本の映画を見ている想いにさせられる曲だ。コンセプトは?

EM:この曲は、不良のボーイフレンドにキャリアを台無しにされた歌手のことを歌った、とてもフィルムノワールな曲だ。音楽的にはドナルド・フェイゲンの『Nightfly』へのラヴ・レターだよ。このアルバムでのブルースの使われ方は本当に見事で、音楽に対する私のヴィジョンを変革させたんだ。

“Deluxe refuge” も映画のような歌詞と曲で、サウンドにはサンバ・ジャズの要素も感じる。この曲のコンセプトは?

EM:タブラを含んだエレクトリック・ジャズ・サンバで、『刑事コロンボ』に登場する宝石窃盗団の物語のように、冒険的なムードで楽曲を盛り上げているよ。

“Tolerance on high street” は “bluesy jazz cinema” な曲だ。コンセプトは?

EM:この曲もブロードウェイから影響を受けた。ホーギー・カーマイケルとハロルド・アーレンは僕のお気に入りの Blue-Jazzy コンポーザーで、ふだんからよく聴いている。彼らのクラシックである “Skylark” や “Blues In The Night” をよく歌っているよ。僕はこの曲に30s~40sのムードを感じるかな。

ピアノを弾きながら歌う “Confrere’s exile” の歌詞が印象的だ。この曲(歌詞)に、どんなメッセージを込めた?

EM:この曲は密度、感情、複雑さが詰まった、アルバムの中でいちばん奥深い曲だね。リリックはたぶん成熟についての僕の詩的なヴィジョンで、このリリックは中性的な雰囲気を作り出すのが狙いだったんだ。

アルバム・タイトル『Behind The Tea Chronicles』について。約10年前、リオの君の家を訪れたとき、君が「ワインのほかに最近、Tea をコレクションしている」と話していたことを覚えている。一口に Tea と言っても、日本の “お茶” を含め世界中にさまざまな種類の Tea があるが、中でも君の好きな Tea は、どの国のどんな Tea?

EM:ヴェージャ・オンライン(注:ブラジルの大手サイト)でお茶とワインについてのコラムを連載していたことがあって、エミリアーノという有名なホテルのために莫大なお茶のリストを作ったこともある。日本のものだと玉露がお気に入りで、eBay で複合されたヤツを見つけたこともある。他には台湾の Oolong High Mountain というお茶が大好きだね。

ブラジルを代表するレコード・コレクターとして、最近はどんな音楽を中心に dig している? 国籍、ジャンルを問わず、思いつくままにあげてほしい。

EM:数え切れないほどたくさん聞くよ。これが最近のベスト10かな。

1) Mariano Tito - Mariano Tito Y Su Orquestra De Jazz (ARGENTINA)
2) Lasse Färnlöf - The Chameleon (SWEDEN)
3) Ion Baciu Jr. - Jazz (ROMENIA)
4) Claudio Cartier - Claudio Cartier (BRASIL)
5) The Galapagos Duck - The Removalists OST (AUSTRALIA)
6) Michel Sardaby - Night Cap (MARTINIQUE)
7) Fernando Tordo - Tocata (PORTUGAL)
8) Pacific Salt - Jazz Canadiana (Canada)
9) Louis Banks - City Life (INDIA)
10) Heikki Sarmanto Sextet - Flowers In The Water (FINLAND)

最後に、日本のジャズ、シティ・ポップについて。最近、知って、気に入ってる音楽家・歌手は?

EM:日本の音楽はいつも僕のスピーカーから鳴ってるね。これがトップ5かな。

1) 鷺巣詩郎 with Something Special - Eyes
2) 松本弘&市川秀男カルテット - Megalopolis
3) 濱田金吾 - Midnight Cruisin'
4) 丸山繁雄 - Yu Yu
5) ゲルニカ - 電離層からの眼差し

Chihei Hatakeyama - ele-king

 畠山地平の『Hachir​ō​gata Lake』を毎日繰り返し聴いている。音を流すだけで、周辺の空気が変わり、「環境」について意識的になるし、その蕩けるような音の持続が心身のコリを解してくれる。個人的な感覚で恐縮だが、どこか良質なシューゲイザーのアルバムを聴いているような音の快楽があった。
 要するに日々の疲労のなか、自分を労わるように聴いてしまうのだが、秋田県にある「八郎潟」という湖を主題にしたアルバムが、なぜ聴き手の心身を癒すような、よりパーソナルな効能を持っているのだろうか。そこがとても重要に思えた。おそらくそこには90年代以降の「アンビエント・ミュージック」の大きな展開が内包されているのではないかと。

 90年代中期から00年代中期のあいだに「アンビエント・ミュージック」は、「環境のための音楽」から「環境についての音楽」という面が加わったという仮説を付け加えてみたい。かのブライアン・イーノが提唱したアンビエント・ミュージックの概念から離れつつ(拡張しつつ)、環境について問い直しつつ、「心身に効く」音楽の方へと接近していったように思えるのだ。いま思えば、この時期にアンビエントのニューエイジ化ともいえる事態が進行したのかもしれない。
 そうして生まれた00年代以降の「新しいアンビエント・ミュージック」は、環境音もドローンも環境それ自体を再考するような音楽であったとするべきだろうか。同時に音楽スタイルは、淡いドローンを基調としつつ、クラシカルからフォーク、ミニマル・ミュージックから電子音楽まで、さまざまな音楽が混合し溶け合っていくようなものとなっていった。上記のような意味でも、アンビエント・ミュージックにおいてスターズ・オブ・ザ・リッドは重要かつ偉大な存在であったといえる。加えてイックハル・イーラーズやシュテファン・マシューの初期作品もまた重要なアルバムである。

 そして畠山地平のアンビエント・ミュージックは、まさに「環境についてのアンビエント」ではないかと私は考える。彼の音楽には彼自身の旅の記憶、つまり環境への記憶が音楽のなかに溶け合っている印象があるのだ。これは畠山の多くのリリース作品に共通する傾向だが、本作はそれがさらに高みと深みを獲得しているように思えた。同時に彼の音には体のいたるところに届くような圧倒的なまでの心地よさがある。
 彼の活動歴は長く、作品も多岐に渡るが、なかでも本作は、そんな環境と心身に効く音楽として素晴らしい出来栄えを示していた。傑作といっても過言ではない。畠山は、これまで老舗〈Kranky〉やローレンス・イングリッシュが運営する〈Room40〉、自身が主宰の〈White Paddy Mountain〉などの国内外の電子音楽レーベルからアルバムを多くリリースしてきた。本作『Hachirogata Lake』は、そんな彼の作品の中でも一際、重要な指標になり得るアルバムである。

 『Hachirogata Lake』は、秋田県にある湖「八郎潟」、その草原保護区、尾形橋、排水路などでフィールド・レコーディングした音をモチーフに、彼ならではのドローンを交錯させていく実に美しい作品である。リリースは、オランダの電子音楽レーベル〈Field Records〉。このレーベルは Sugai Ken の「利根川」もリリースしており、日本の「湖」をテーマにしたシリーズの2作目だ。「日本とオランダが共同でおこなった水管理の歴史を探求するシリーズ」だという。
 じっさい八郎潟は、「第二次世界大戦後に、オランダ人技師 Pieter Jansen と Adriaan Volker の協力を得て、政府が大規模な干拓工事をおこない、1977年の工事完了後、周辺地域から植物が繁殖し、鳥類をはじめとする野生生物の種類も増え、新たな生態系が確立された」というのだ。オランダと日本の「水」をめぐるこんな素晴らしい歴史を知ることができただけでも、このアルバムを知る/聴く意味はあった。
 もちろん、先に書いたように畠山地平の音楽自体も大変素晴らしいものだ。畠山のギター・サウンドとドローンがレイヤーされ、ロマンティックな音世界が美麗に折り重なり、ずっと聴き込んでいくと、たとえようもないほどの心地よさを得ることができた。単にシネマティックというのではない。雄大・壮大であっても人の心に染み込むようなサウンドスケープなのである。身体に「効く」音なのだ。
 全9曲が収録されたアルバムだが、どの曲も環境音とギター、ドローンが溶け合うように交錯し、記憶の中に現実が溶け合っていくような感覚を得ることもできる。中でも二曲目 “水に鳥 / Water And Birds” に注目したい。水の音、鳥などの野生動物のフィールド・レコーディングされた音からはじまり、次第に音楽的な要素、アンビエントなドローンやギターなどがレイヤーされ、やがて環境音は消え去り、畠山のサウンドのみが時間を溶かすように流れ続ける。とにかく冒頭の水の音からしてアンビエントのムードを醸し出している。
 「八郎潟」という湖(の音)と、その歴史、その場所でフィールド・レコーディングした畠山の記憶が交錯し、融解し、ひとつの「アンビエント=音楽」に生成されていったとでもいうべきか。このアルバムに限らずだが、畠山地平の音楽にはいつもそういう溶け合っていく記憶のような音楽のような感覚がある。
 同時に畠山の音はとても気持ちが良い。聴いていると、あまりの心地よさに意識が遠のいてしまうそうになるほどである。この深い「癒しの感覚」は何か。彼の音楽が環境と身体という具体的なものからはじまっていることに起因するのだろうか。
 いずれにせよ『Hachirogata Lake』は、湖の「環境」を音として感じ、心と体に心地よさを与えてくれる最良のアンビエントである。
 じじつ、私はこのアルバムを聴いているとき、日常の疲れが溶けていくような感覚を得た。日々の暮らし、生活の中でも大切なアルバムになるだろう。

liQuid × CCCOLLECCTIVE 中野3会場回遊 - ele-king

 「死ぬまで遊ぼう!!!」

 AROW(fka Ken Truth)が最後に放った飾り気のない一言。それを受け彼を抱き締める拳(liQuid)。電池切れ寸前まで走り抜いたふたりの主催者の素の人間くささが表出して、音楽は鳴り止む……そんな実にありふれた幕切れを迎えたこのパーティは、ありふれているからこそ特別な一夜として記憶に焼き付いた。平日も休日も音楽について考えてばかりだと「あー楽しかった」で終われる日も次第に目減りしていってしまうものだけど、この日ばかりは100%の純度で、スカっとした感覚のまま走り切ることができた。まずはそこに純粋な感謝を。

 2021年に旗揚げされ、トレンドの潮流を汲みつつ独特の違和感をブレンドしたオーガナイズを続けるプロモーター・拳(こぶし)によるパーティ・シリーズ〈liQuid〉と、2010年代末にコレクティヴ〈XPEED〉を立ち上げ現行インディ・クラブ・シーンの潮流をいち早く築き上げた立役者・AROWが新たに始動したコミュニティ〈CCCOLLECCTIVE〉初の共同企画としておこなわれたのが、この「中野3会場回遊」だった。なお同日、世間ではTohji率いる〈u-ha〉とコラボレーション開催された「BOILER ROOM TOKYO」やゆるふわギャングによる「JOURNEY RAVE」などのビッグ・パーティが各地で開催されていたが、それらと一見同質のようで全くの異物である、人と人との有機的なつながりに基づく営みであったことも印象深い。

 総計30組以上が知名度やシーンを越境して混ざり合う特異点となったこの日、メインステージのheavysick ZEROではアンビエント~ノイズ~エレクトロニカ~デコンストラクテッド(脱構築)・クラブといった実験性の強い電子音楽や、トランス~ジャングル~ゲットー・テック~レフトフィールド・テクノなどの異質さを備えたクラブ・ミュージック、レゲトンやトラップ、ダブステップなどバウンシーな熱気に下支えされたストリート・ミュージックが2フロアで同時多発的にプレイされ(B1Fではマシン・ライヴも!)、サブ・フロアとなる2022年オープンの小箱・OPENSOURCEと〈Soundgram〉主催DJ・PortaL氏が営むバー・スミスではハウシーなクラブ・マナーを下地にしつつジャンルレスな音楽がスピンされ続けた。

 無論、出演者単位で切り取るべき素晴らしいアクト、素晴らしい瞬間はいくつもあった。国内Webレーベルの筆頭〈Maltine Records〉からのリリースも話題となったDJ・illequalの希少なライヴが見せた激情と繊細さのコントラスト、世界的に活躍しながらも日本のロードサイドの慕情をこよなく愛する電子音楽家・食品まつりa.k.a FOODMANが〈ishinoko 2023〉帰りの足で披露した戦慄の前衛サイケデリック・ドローン(これはかなり怖かった)、かつて2010年代後半にアンダーグラウンド電子音楽シーンを築いたDIYレーベル〈DARK JINJA〉を率いたShine of Ugly Jewelのゴシックなレイヴ・セットなど、副都心エリアの小箱というスケール感を大きく超えたギグが同時多発的に各ヴェニューで繰り広げられていた。知らない人は知らないが、知っている人には垂涎のラインナップ。いま、クラブ――けっしてビッグ・ブランドの支配下にない、人の息遣いがすぐそばに在るインディ・クラブ――を追いかけているすべてのユースは、このタイムテーブルを前に「他会場の様子を覗きに行きたくても行けない!」というアンビヴァレントな悩みに苛まれたことだろう。

 けれど、そういったアーティスト個々の表現にフォーカスするよりは、なんとなく全体を取り巻くムード自体の方にエポックな一時があったように思える。スミスでのオープニングDJをきっかり128BPMで果たしてからはひたすら3拠点を駆けずり回り、フロア・ゾンビとなって朝を迎えた身としては、羽休めに立ち寄ったヴェニューをソフトなサウンドでロックしていた初めて出会うDJの所作や、移動中偶然会った友人と公園で過ごす10分限りのチルタイム、夜明け前の空のあの群青色、フロアの熱狂を尻目に閑散としたバーで頼んだ鍛高譚(ソーダ割り)の味……そうした合間合間に訪れるエア・ポケット的な一時がただ愛おしかった。フロアの内にも外にも色濃くクラブ的な体験が根付いている、そんな極上の遊び場を20代の我々が自力で作り上げた、という実感も含め、忘れられない高揚感に包まれた。

ちなみに、朝7時近くまで続いたパーティの終盤には、前述した複数のイベントから流れてきたユース・クラバーもいつしか合流してきていた。「みんな」というのは実に恣意的な括りであり、現象を俯瞰するには適さない表現だが、そこには最後、たしかに「みんな」がいてくれた。その事実も、ただただ嬉しいことで。

 パーティの開放感はそのままに、各々が隠し持つ美意識がラフな形であけすけに表出してゆくような美しい一幕が、3つの拠点で同時多発的に展開されていく。それは市井の人々の暮らしを切り取って提示する群像劇のように。生活と地続きであり、音楽シーンを未来へと後押しするあらゆるインディペンデントな営みを「ハシゴ」という体験とともに凝縮する、というのがおそらく裏側にあるコンセプトなのだけど……そんな説明も野暮かもしれない。とにかくめちゃくちゃ楽しくて、めちゃくちゃ刺激的だった、みたいな。もう、それに尽きる。最高の夜だった。世のさまざまな不和を打ち破るには、アクチュアルに「死ぬまで遊ぶ」ことと本気で向き合い続けるしかないと改めて痛感した。

 たぶん、なにかを粛々と続けていけば、どこかで別のなにかが生まれて、潮目が変わっていく。そんな絵空事を馬鹿正直に信じて日々を紡ぐ覚悟を無意識のうちに持っている人々が、中野の小箱に(少なく見積もっても)160名以上が集まったというのだから、それは感動的な事実なのではないだろうか?(世代的にはやや外れた年頃の自分ではあるが)我々ユース層が大人たちに「Z」と十把一絡げに括られることへの抵抗感は、やはりこうした場を知らない層への反発から起こるものだろう。だって、そんな括りでは説明できない営みが、この国の各地で日々、ハレでもケでもない夜として確実に存在しているのだから。そう、遊び場に必要なのは純度のみ。いつの時代も人々が追い求めるのはピュアネスだろうと僕は信じている。フロアは暗く、クラブ文化の未来は明るい。

追記:本パーティについて一点だけ文句をつけるとしたら、それはフォトグラファーやビデオグラファーといった記録媒体を操るプロフェッショナル(ないしはプロを超越したアマチュアの才人たち)を迎え入れなかったことにある。本記事の執筆中、自身のカメラロールを見返してもそこにあったのは数本の動画のみで、写真の用意に窮する事態となった(オーガナイザーふたりの笑顔は、iPhoneのスクリーン・ショットで無理やり用意したもの)。

 そこで、InstagramやTwitter(現X)の各地に「なにかフロアの感じが伝わるような写真を送ってください!」と呼びかけてみたものの、寄せられたのはパーティの終わりごろに訪れた青年から送られてきた画素数の粗い1枚のみに留まった。つまり、そう、これは……「ナイス・パーティ」だったことを決定的に証明する事実でもある、ということ! アーカイヴという行為がここまでイージーとなったこの時代に、デバイスの存在を失念させるほどの体験を与えてくれたふたりに改めて謝辞を送る。
 AROW、拳、heavysick ZERO、OPENSOURCE、スミス、そしてすべての来場者と出演陣へ。過去/現在/未来を繋いでくれてありがとう。でも、あくまでここはスタート地点にすぎない。満足してなんかいられない。まだまだゴールしちゃいけない。そうでしょ?

※以下はパーティーと主催コレクティヴについての概要です

liQuid × Cccollective 中野3会場回遊

2023/09/30(sat) 22:00
at heavysick ZERO / OPENSOURCE / スミス

▼heavysick ZERO

B1F

LIVE:
Deep Throat
illequal
Misø
食品まつりa.k.a FOODMAN

DJ:
電気菩薩(teitei×Zoe×DIV⭐)
DJ GOD HATES SHRIMP
Hiroto Katoh
ippaida storage
PortaL
Shine of Ugly Jewel

B2F

AROW
Egomania

KYLE MIKASA
London, Paris
MELEETIME
Rosa
Sonia Lagoon

▼OPEN SOURCE

AI.U
ハナチャンバギー速報
Hue Ray
DJsareo
テンテンコ

▼スミス

かりん©
Hënkį
kasetakumi
kirin
kiyota
mitakatsu
NordOst
shiranaihana

『liQuid』
2021年より東京でプロジェクト開始。オーガナイザー・拳(こぶし)の音楽体験をもとにHIPHOPからElectronicまで幅広く取り込み、ジャンルやシーンに捉われない音楽イベントのあり方を模索している。PUREな音楽体験/感動を届けることに重きを置き、オーバーグラウンドからアンダーグラウンドまで幅広い層の支持を集めている。
Instagram : https://instagram.com/liquid.project_

『CCCOLLECTIVE』
2022年末に始動した〈CCCOLLECTIVE〉は、有機的な繋がりを持ったオープンな共同体を通して参加者に精神の自由をもたらすことを目標として掲げている、自由参加型のクリエイティヴ・プラットフォームである。これまで『Orgs』と題したパーティを下北沢SPREAD、代官山SALOONにて開催。また、2023年8月からは毎月最終水曜日の深夜に新宿SPACEにて同プラットフォーム名を冠したパーティを定期開催中。シーンを牽引するアーティストらを招き、実験と邂逅の場の構築を試みている。
Instagram : https://instagram.com/cccollective22

Clifford Jordan Quartet - ele-king

〈AMBIENT KYOTO 2023〉現地レポート - ele-king

 10月14日正午、ぼくは京都駅から東京方面の新幹線に乗って、余韻に浸っていた。つい先ほどまで、取材者の特権を使い、〈AMBIENT KYOTO〉における「坂本龍一 + 高谷史郎 | async ‒ immersion 2023」をもういちど聴いて観て、感じていたばかりである。京都新聞ビル地下1階の元々は印刷所だったその場所で繰り広げられている、『async』の最新インスタレーションを、ぼくはその前日にも聴き、観て、感じている。音楽も映像も、音響も場所も、すべてが完璧に共鳴し合ったそのインパクトがあまりにも強烈だったので、京都を離れる前にもういちどと、その日の早い時間、午前10時過ぎに同所に行って、「async ‒ immersion 2023」を焼き付けておこうと思ったのである。

 この話をしたら長くなるので、後回しにする。まずは、昨年に続いて〈AMBIENT KYOTO〉が開催されたことを心から喜びたく思う。ぼくは「アンビエント・ミュージック」が大好きだし、そう呼ばれうる音楽をこの先も可能な限り聴き続けるだろう。そして、この「アンビエント」なる言葉が広く普及することを願ってもいる。だから〈AMBIENT KYOTO〉がシリーズ化されたことが、率直な話、いちファンとして嬉しい。
 とはいえ、ぼくが思う「アンビエント」なるものとは、やかましくなく、強制もせず、静寂控え目であることの強度を抽出し、BGMでありながら同時に実験的であるということであって、そこにはひねり(ウィット)を要する。つまり、静寂こそやかましく、変わらないことこそ変化であると。しかしながら今日では、もっと幅広く、場所の雰囲気(の調整のため)に重点を置いたサウンドも「アンビエント」に括られている。だからというわけではないのだろうが、〈AMBIENT KYOTO〉は、今回はサウンド・インスタレーション(音響工作によって、さまざまな空間と場を創出するアートの総称)の領域にまで広げて展示している。それはそれで意味がある。サウンド・アートという創造的分野を広く知ってもらえる機会を用意しているのだから。
 とまれ。そんなわけで、ぼくは10月13日の午後3時、京都駅から展覧会場である京都中央信用金庫を目指して歩いたのだった。
 人混みを避けるため地下道を使って歩いていくと、通路の両側のガラスのなかに〈AMBIENT KYOTO 2023〉のポスターがいくつも設置されていることに気が付く。おお〜これはすごい。わずか1年でここまで市民権を得たのかと、ちょっと感動してしまい、その風景の写真を撮りながら会場へと向かったのだった。

 地下道から出て、通りを挟んで見えるあの古い建築物には、ちゃんと今回のキーヴィジュアルが飾られている。絵になっているじゃないですか。町の風景のなかに溶け込んでいる。

 そして建物に入って、まずは3階のコーネリアスから。


Photo by Satoshi Nagare

 それはもう、コーネリアスらしいというか、コーネリアスそのものというか、ファンタズマの世界というか何というか、いきなり“霧中夢”の、言うなれば、音と光で夢を見るトリップ装置だ。サウンドとライティングがシンクロし、ちゃんとミスト(霧)も噴射される。比喩としていえば、子供も楽しめるエンターテイメントとしても成立してしまっている。




上から、ZAKが新たにミックスした立体音響のバッファロー・ドーター “ET” と “Everything Valley” 。そして山本精一の“Silhouette”。Photo by Satoshi Nagare
 “霧中夢”によってSF的な夢の世界に入ったぼくは、そのまま同階に設置されている、バッファロー・ドーターと山本精一の部屋へ。ふたつの巨大なスクリーンに投影された映像とサウンドが連動し、ここではまた別のエクスペリエンスが待っていた。ぼくはメモ帳に、忘れないようにと、いろんなことを書いてきたのだが、我ながら字が汚くて読めない。バッファロー・ドーターのきらびやかで躍動的なサウンドスケープ(“ET”と“Everything Valley”の2曲)、そして山本精一の、おそらく多くのアンビエント・ファンが思い描くであろうアンビエントの定義に忠実な、つまり川や海のように、遠くで見れば静止状態で、近く見れば変化しているかのような没入感のある映像と音響、今回の展覧会のために作られた“Silhouette”。


Photo by Satoshi Nagare

 とまあ、刺激的な空間をたっぷり堪能したので、3階のラウンジスペースでひと休み。居心地が良いので気を緩めると眠ってしまう。

 ところで今回は、どの作品においても、ZAKの手による高性能の立体音響が効いている。きわめて緻密にこれら音響空間は考慮され、設計されているのだろう。ここには、聴覚的体験におけるあらたな座標がある。その立体音響をとくにわかりやすく体感できるのが、2階に設置されたコーネリアスの“TOO PURE”である。ライヴでもお馴染みのサウンドと映像のシンプルな構成だが、しかしライヴでは味わえない宙を浮遊するサウンドたちによる、心地よい聴覚/視覚体験だ。鳥のさえずりは部屋のなかを旋回し、ギターの音色は森のなかに響いている……そんな感じで、あまりにも気持ちいいので、ぼくはここでもしばらく寝た。


Photo by Satoshi Nagare

 1階の“QUANTUM GHOSTS”も、ZAKの立体音響とコーネリアスとの共作と言える作品だ。部屋に入るとすぐベンチがあるので、ついついそこに座ってしまいそうになるかもしれないが、これは奥に設置された正方形の舞台の上に立って体感するべきもので、またしても目眩のするようなトリップ装置である。思わず踊っている人がいたが、それはある意味正しい反応だといえよう。
 最後に、アート展に行ったらショップに寄ってしまうのが人のサガ。今回もいろんなものがあって見ていて楽しい。しかも、別冊エレキング『アンビエント・ジャパン』号も売られているじゃないありませんか! ぼくは、テリー・ライリーのTシャツと「AMBINET KYOTO」Tシャツを買った(コーネリアス・タオルも迷ったのだけれど、家にいくつもタオルがあるので断念)。

 平日の午後なので空いているのかと思いきや、けっこう人がいた。その日はとくに若い人たちが多かったように思えたが、コーネリアス、バッファロー・ドーター、山本精一という名前に反応した人たちなのだろうか、各作品の解説があるような格式張ったアート展というよりは、喩えるなら、なかばクラブやライヴハウスにいるみたいな開放的な雰囲気があり、ぼくはリラックスして楽しめた。



Photo by Satoshi Nagare

 ざっとこのように、〈AMBIENT KYOTO〉の本拠地における、いわば「時間の外の世界」をおよそ1時間かけて楽しませてもらい、さて、続いては今回のクライマックスといえる京都新聞ビル地下1階を目指して地下鉄に乗る。親切なスタッフの方から7番出口を出るとすぐ入り口だと教えられ、その通りに行くと、ほんとうにすぐ会場だった。

 階段を降りて、地下一階へ。

 そして入口のドアを見つけてなかに入ると、ちょうど運良く、かかっていたのが“andata”だったので、『async』をほぼ最初から聴くことができた。
 会場内は、写真のように、じつに雰囲気のある広いスペースで、横長に、芸術的な意図をもった、素晴らしい映像が映されている。立体音響はここでも効いており、ぼくは遠い昔、タルコフスキーの『サクリファイス』を映画館で観たときのことを思い出した。あの、サウンドと映像で語りかける深淵なる何か。リスナーへの問いかけ。

Photo by Satoshi Nagare

 人の生とは何か、死とは何か、この大きなテーマに(ありきたりの宗教性に陥ることなく)立ち向かったのが『async』の本質だったことを、ぼくは感じざるえなかった。家のスピーカーではわからなかった各曲の繊細な構造的な変化や揺らぎも、ここでは充分感知することができるし、体内に入ってくる。その美しさ、そして重さも、同時に入ってくる。これは『async』に違いないのだが、高谷史郎との共同作品でもあって、そしてこれはもう、この忘れがたい場所でしか体験できないのだ。ぼくを惹きつけて止まない映像は、アルバムに合わせて毎回同じようには反復しない(非同期している)。だから目の前には、そのときだけの音楽と映像のコンビネーションがある。
 この日の夜は、テリー・ライリーのライヴがあったのだけれど、ぼくのなかでは『async』の余韻がまったく消えず、二日酔いのようにずっと残ってしまい、よって翌日もまた冒頭に書いたように同じ場所に来てしまった。敢えて極論めいて言うけれど、「坂本龍一 + 高谷史郎 | async ‒ immersion 2023」のためだけに来ても、〈AMBIENT KYOTO 2023〉には価値はある。いまだにうまく言葉にできないし、楽しむというよりは頭も使う作品であることは間違いないのだけれど、ドイツの美術館でロスコの巨大な原画の前に立ちすくんでしまった経験に近い、何か圧倒的なものに出会ってしまったときの感動を覚えた。もっと長い時間あの場所にいたかったというのが正直な気持ちである。ちなみにぼくが行った2日ともに、来ている人たちの年齢は明らかに高めで、外国人も混ざっていた。

 もちろん、京都中央信用金庫でのドリーミーな体験があったからこそ、ある種の相互作用によって「坂本龍一 + 高谷史郎 | async ‒ immersion 2023」が異なる次元において際だって見えたのだろうし、結局のところ、それぞれが独自の世界を持っていて味わい深く、面白かった。ありがとう、〈AMBIENT KYOTO 2023〉。

Clifford Thornton - ele-king

 新作『Again』はワンオートリックス・ポイント・ネヴァーにとって記念すべき10枚目のオリジナル・アルバムにあたる。さらに今年は2010年代を代表する名作『R Plus Seven』からちょうど10年の節目でもある。いい機会だし、ここでダニエル・ロパティンの15年以上におよぶキャリアをおさらいしておきたい。オリジナル・アルバムは当然として、さまざまな相手と積極的に関わっていくところもまた彼の大きな特徴ゆえ、コラボやプロデュース仕事にも光を当てる。

主要作品紹介

 まずはやっぱりダニエル・ロパティン本人がメインとなる作品から聴いていくべきでしょう。というわけでワンオートリックス・ポイント・ネヴァー名義のオリジナル・アルバムを中心に、サウンドトラックや一部のEPもピックアップ。最初期の3枚は入手困難なため、かわりに編集盤を掲載している。

1

Oneohtrix Point Never
Rifts Software (2012)

いまとなっては入手困難な2007年のデビュー・アルバム『Betrayed In The Octagon』、2009年の『Zones Without People』、そしてNYの〈No Fun Productions〉から送り出された『Russian Mind』(同2009年)の初期3枚に、カセットやCD-Rで出ていた音源などを加えたコンピレイション。当初は09年に〈No Fun〉からリリース。3年後、再編集のうえ自身のレーベルから出し直したのがこちら。まだ素朴にシンセと戯れている。ロウファイ文脈を意識させる曲もあり。

2

Oneohtrix Point Never
Returnal Editions Mego (2010)

フェネスやジム・オルークなどのリリースをとおして実験的な電子音楽の第一人者ともいうべきポジションを築いていたウィーンのレーベル、〈Editions Mego〉からリリースされたことが重要で、これを出したがゆえにOPNは注目しないわけにはいかない音楽家の仲間入りを果たした。まずは冒頭のノイズにやられる。以降のドローンやサンプルの美しさといったら。

3

Chuck Person
Chuck Person's Eccojams Vol. 1 The Curatorial Club (2010)

当時は正体が伏せられていたため、ダニエル・ロパティンがヴェイパーウェイヴの先駆者のひとりでもあったことを知る者はリアルタイムではいなかったはずだ。退屈な仕事の合間にポップ・ソングをスクリューさせてつくった楽曲たちの集まり。いくつかはもともとYouTubeで発表されている。某超有名ポップ・スターも異形化されている。

4

Oneohtrix Point Never
Replica Software / Mexican Summer (2012)

人気作にして代表作のひとつ、通算5枚目のアルバム。自身のレーベル〈Software〉がチルウェイヴやローファイ・サウンドの拠点だった〈Mexican Summer〉傘下に設立されたのは見過ごせないポイントで、まさにインターネット時代を表現するかのごとく謎のノイズや音声が縦横無尽にサンプリングされていき、美しいシンセと合体させられていく。ジャンクなものが放つ美。

5

Oneohtrix Point Never
R Plus Seven Warp (2013)

エレクトロニック・ミュージックの名門〈Warp〉への移籍は事件であると同時に、納得感もあった。音響はデジタルなものに変化、種々の声ネタや切り刻み、反復の活用などでかつてない個性を確立した名作で、以降ロパティンが繰り広げることになる数々の冒険の起点になった6枚目のアルバム。今年でちょうど10周年。

6

Oneohtrix Point Never
Garden Of Delete Warp (2015)

メタルにハマっていた少年時代を回顧、過剰な電子音でポップ・ミュージックのグロテスクさを表現した7枚目。音声合成ソフト Chipspeech を用いた奇妙なポップ・ソング “Sticky Drama” は、これまでとは異なるファンを獲得するにいたった。のちに「半自伝的3部作」の第1作として位置づけられることに。

7

Oneohtrix Point Never
Good Time (Original Motion Picture Soundtrack) Warp (2017)

サフディ兄弟監督作の劇伴。これまでもソフィア・コッポラ作品などに作曲で参加していたロパティンの、本格的なサウンドトラック仕事としては2作目にあたる(OPN名義では初)。とにかくダークで緊張感に満ちている。最後はイギー・ポップの歌で〆。カンヌでサウンドトラック賞を授かった。

8

Oneohtrix Point Never
Age Of Warp (2018)

中世の民衆からインスパイアされたコンセプチュアルな8枚目。自身の歌を初披露。チェンバロ、ダクソフォンなど音色もかなり豊かになっている。加速主義で知られる哲学者ニック・ランド(CCRU)から触発された “Black Snow” の詞も注目を集めた。本作直後のライヴ・ツアー「MYRIAD」ではイーライ・ケスラーらとバンドを結成。

9

Oneohtrix Point Never
Love In The Time Of Lexapro Warp (2018)

『Age Of』の続編的な位置づけのEP。最大の注目ポイントは日本の巨匠、前年にOPNがリミックスを手がけていた坂本龍一からの返礼リミックスで、繊細な音響空間を味わうことができる。テーマが抗うつ剤なのはロパティンが時代に敏感な証。

10

Daniel Lopatin
Uncut Gems (Original Motion Picture Soundtrack) Warp (2019)

邦題『アンカット・ダイヤモンド』のサウンドトラック。サフディ兄弟監督とは2度目のタッグだ。名義が本名に戻ったのはただの思いつきだそう。スティーヴ・ライシュ風あり、芸能山城組風あり、アシッドありと、じつに多彩な1枚。声楽やサックス、フルートが新鮮に響く。

11

Oneohtrix Point Never
Magic Oneohtrix Point Never Warp (2020)

ロックダウン中の内省の影響を受け、自身の原点たるラジオ放送(「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」はラジオ局「106.7(ワンオーシックス・ポイント・セヴン)」のもじり)をコンセプトにした通算9枚目。初期を思わせるシンセ・サウンドからバンド風、ラップ入りの曲、歌モノまで、まさにラジオを聴いているかのように展開していく。のちに「半自伝的3部作」の第2作として位置づけられることに。

12

Oneohtrix Point Never
Again Warp (2023)

満を持してリリースされた通算10枚目、聴きどころ満載の最新アルバム。意表をつく弦楽合奏(指揮はロンドン・コンテンポラリー・オーケストラ創設者のロバート・エイムズ)にはじまり、OpenAI社の生成AI、存在感を放つリー・ラナルドのギター、さりげなく参加しているジム・オルークなど、注目ポイントが盛りだくさん。「半自伝的3部作」の完結編にあたるそうだ。

コラボレーション&プロデュース作品

 孤高の精神、ただひとり屹立するやり方はOPNの流儀ではない。MVやアートワーク含め、いろんな作家たちと積極的に関わろうと試みるのはダニエル・ロパティンという音楽家が持つ魅力のひとつだ。というわけでここではコラボ作&プロデュース作を見ていくが、あまりに数が多いため厳選している。以下を入口にほかの作品にも注目していただけたら。

13

Borden, Ferraro, Godin, Halo & Lopatin
FRKWYS 7 RVNG Intl. (2010)

ダニエル・ロパティンのみならず、ジェイムズ・フェラーロやローレル・ヘイローなど、当時若手でのちに2010年代のキーパースンとなる面々がミニマル・ミュージックの巨匠デイヴィッド・ボーデンを囲む。いま振り返ると歴史的なコラボレイションだ。サイケ感もある魅惑のアンビエント。

14

Ford & Lopatin
Channel Pressure Software (2011)

ロパティンが同級生のジェイムズ・フォードと組んだシンセ・ポップ・プロジェクト、ゲームズ名義から発展。そのレトロな佇まいは、素材をスクリューさせる『Eccojams』とはまたべつの切り口から80年代を再解釈しているともいえる。歌モノも楽しい。

15

Tim Hecker & Daniel Lopatin
Instrumental Tourist Software (2012)

00年代後半以降におけるアンビエント~ドローンの牽引者ティム・ヘッカーと、『Returnal』や『Replica』で音楽ファンを虜にしていた当時新進気鋭のロパティンとの組み合わせは、時代を象徴するようなコラボだった。どこまでもダークなサウンド。寂寥の極致。

16

Anohni
Hopelessness Secretly Canadian (2016)

ルー・リード作品に参加したことから注目を集め、アントニー・アンド・ザ・ジョンソンズとして大いに賞賛された稀代の歌手による改名後第1作。ロパティンはハドソン・モホークとともにプロデューサーとして貢献しており、OPNらしい音色も確認できる。

17

DJ Earl
Open Your Eyes Teklife (2016)

まさかフットワークにも挑戦していたとは。ダンス・カルチャーとは接点を持たないように見えるOPNとシカゴのシーンにおける最重要クルー〈Teklife〉との合流は、当時もかなり意外性があった。3曲で共作、ミックスも担当している。

18

David Byrne
American Utopia Nonesuch / Todomundo (2018)

巨匠デイヴィッド・バーンとのまさかの出会い。OPNはたまに「現代のイーノ」と形容されることがあるが、まさにそのブライアン・イーノらに交じって作曲と演奏で5曲に参加、4曲目ではそれこそイーノ風のシンセを響かせている。

19

The Weeknd
After Hours XO / Universal Music Group (2020)

本格的にメジャー・シーンに進出することになったターニング・ポイントが本作かもしれない。『Uncut Gems』時に共作したトロント出身のポップ・スター、ウィーケンドの4枚目。このときはまだ関与は3曲のみだが、次作『Dawn FM』ではがっぷり四つに組むことになる。

20

Moses Sumney
GRÆ Jagjaguwar (2020)

インディ・ロック・シーンとも接点を持つガーナ系シンガー・ソングライターのセカンド・アルバムに、ロパティンはシンセ演奏と追加プロデュースで参加。サムニーのソウルフルなアヴァン・ポップ・サウンドをうまく補強している。

21

Charli XCX
CRASH Asylum / Warner Music UK (2022)

関わっているのは1曲のみではあるものの、UKのポップ・スターとも接点を有していたとは驚きだ。ここでは〈PC Music〉のA・G・クックと “Every Rule” を共同プロデュース。しっとりしたシンセ・ポップを楽しもう。

22

Soccer Mommy
Sometimes, Forever Loma Vista (2022)

ナッシュヴィルのシンガー・ソングライターの3枚目を全面プロデュース。ロパティンは基本的には黒子に徹しているものの、スウィートなポップ~シューゲイズ・サウンドの影に、たまにその存在が感じられる。

※当記事は小冊子「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーとエレクトロニック・ミュージックの現在」掲載の文章をもとに、加筆・修正したものです。


 フィンランドはヘルシンキに注目しておきたいレーベルがある。ジャズ・フェスティヴァル《We Jazz Festival》を母体に、DJの Matti Nives が2016年に設立した〈We Jazz Records〉がそれだ。〈Blue Note〉にも作品を残す当地のヴェテラン・サックス奏者 Jukka Perko からジャズ・ロック、フリー・ジャズ、実験的なものからカール・ストーンによるリワーク集まで、すでに多くのタイトルを送り出している同レーベルだが、このたび初めて日本盤がリリースされることになった。今回発売されるのは2タイトル。
 1枚は、昨年〈ECM〉からアルバムを出したベーシスト、ペッター・エルドが率いるバンドのコマ・サクソ。もう1枚は、おなじく〈ECM〉から作品を発表し、スクエアプッシャーのバンドでも演奏したことのあるピアニスト、キット・ダウンズを中心とするトリオのエネミー。どちらもなかなかよさそうです。ぜひチェックをば。

Koma Saxo『Post Koma』
2023.11.22 CD Release

Edition RecordsやECMでも活躍するスウェーデンのベーシスト/プロデューサーのペッター・エルド率いるKoma Saxo(コマ・サクソ)最新アルバム『POST KOMA』。常に進化を続け、エッジと流動性に満ちた様々なサウンドスケープを表現した最高傑作!!ボーナストラックを追加収録し、CDリリース決定!!


photo by Maria Louceiro

気鋭のジャズ・ベーシストで作曲家、プロデューサーのペッター・エルド率いるコマ・サクソを、遂に紹介できるタイミングが訪れた。2022年の傑作アルバム『Koma West』からさらに進化したサウンドとヴィジョンを、このアルバムで提示している。ジャズを出発点に、クラシック音楽、ルーツのスウェーデン民謡、中東音楽、ソウルとファンク、ヒップホップとエレクトロニカ、様々の音楽の断片が交錯しながら、大胆で美しいアンサンブルが出現する。掛け値なしにいま最も観たいグループだ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

[リリース情報]
アーティスト名:KOMA SAXO(コマ・サクソ)
アルバム名:Post Koma(ポスト・コマ)
リリース日:2023年11月22日
フォーマット:CD
レーベル:rings / We Jazz Records
品番:RINC115
JAN: 4988044094314
価格: ¥2,860(tax in)

https://diskunion.net/jazz/ct/detail/1008736163

http://www.ringstokyo.com/koma-saxo-post-koma/

ENEMY『The Betrayal』
2023.11.22 CD Release

ピアニストのキット・ダウンズが中心となり、ECMからリリースされた『Vermillion』の続編ともいえるメンバーで構成されたピアノ・トリオENEMY(エネミー)による、新たな方向性を示した大注目のサード・アルバム『The Betrayal』が、ボーナストラックを追加収録しCDリリース決定!!


photo by Juliane Schutz

ピアニストのキット・ダウンズ、ベーシストのペッター・エルド、ドラマーのジェームズ・マドレンによるエネミーは、ECMから『Vermillion』のリリースでも知られる、欧州きっての先鋭的で美しいピアノ・トリオだ。この最新作では、爆発的なエネルギーと繊細な叙情性を併せ持つトリオの真髄を聴くことができる。全てがダウンズとエルドのオリジナル曲で、「意図的な矛盾と脱皮」がテーマとなっている。スリリングというしかない展開のアルバムに仕上がった。エルドが率いるコマ・サクソの『Post Koma』と共に本作を紹介できることもこの上ない喜びだ。(原 雅明プロデューサー)

[リリース情報]
アーティスト名:ENEMY(エネミー)
アルバム名:THE BETRAYAL(ザ・ベトレイアル)
リリース日:2023年11月22日
フォーマット:CD
レーベル:rings / We Jazz Records
品番:RINC114
JAN: 4988044094307
価格: ¥2,860(tax in)

https://rings.lnk.to/mQLhFXsS

http://www.ringstokyo.com/enemy-the-betrayal/

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