「Ord」と一致するもの

DRUM & BASS x DUBSTEP WARZ 2013 - ele-king

 BIG BAD BASS 2013!! 今年初のDBS 〈DRUM & BASS x DUBSTEP WARS〉は世界最強のVALVE SOUND SYSTEMを保有し、20年以上のキャリアに培われた独自の重低音でドラム&ベースをリードする巨人、ディリンジャが5年ぶりに帰還! 
 一方のダブステップは昨年〈TEMPA〉からデビュー・アルバムを発表し、ディープ&ドープなサウンドで衝撃を与えたJ・ケンゾーが待望の初来日! WARNING!!!

DRUM & BASS x DUBSTEP WARZ 2013
2013.02.16 (SAT) at UNIT
feat. DILLINJA x J:KENZO
with: ENA, KEN, Helktram, TETSUJI TANAKA('93~'04 dnb 3decks set)

open/start 23:30

早割/2,013yen (枚数限定)予約開始日 1/13(日)11:00~1/18 11:00(金)まで
adv.3,150yen door.3,500yen

DILLINJA (Valve Recordings, UK)
DILLINJA (Valve Recordings, UK) 90年、16才で独自のサウンドシステムを編み出して以来、重低音にこだわったブレイクビーツの制作を開始。93~95年には"Deadly Deep Subs"、"Gangsta"(TRINITY名義)、"The Angels Fell"等でシーンに名声を博し、GOLDIEのアルバム『TIMELESS』に参加。Metalheadz、Prototype、V等から数多くの作品をリリース、CAPONE、D-TYPE等の変名を持つ。97年にはLEMON Dと共にレーベル、Valve Recordings及びPainを設立(後にTest Recordings、Beatzも増設)、"Violent Killa"、"Acid Track"を発表。01年、FFRRから1st.アルバム『DILLINJA PRESENTS CYBOTRON』を発表、以後LEMON Dとの合同名義を含め『BIG BAD BASS』(02年)、『THE KILLA-HERTZ』(03年)、『MY SOUND 1993-2004』(04年)の各アルバムと"Grimey"、"Twist 'Em Out" 、"Fast Car"、"This Is A Warning"等々のシングルを大ヒットさせる。近年も"Back To Detroit" (CAPONE名義)、"Time For You"を発表、ニューアルバムが待たれている。また彼はパワー出力96kW、サブウーファー52発からなる自己のVALVE SOUND SYSTEMを保有する、まさにキング・オブ・ベースである。
https://www.vlvmusic.com/
https://www.facebook.com/dillinjavalve
https://twitter.com/Dillinjavalve

J:KENZO (Tempa / Rinse FM / Artikal Music UK, UK)
J:KENZO (Tempa / Rinse FM / Artikal Music UK, UK) ジャングル、ヒップホップ、ダブ等を聞き育ち、実験的なドラム&ベース・トラックを創作していたJ:KENZOは、06年1月のDMZパーティーでダブステップに開眼して以来、ダブステップにフォーカスし、07年に自己のSoul Shakerzから作品を発表。08年の"Tekno Bass"が注目されて以降、Argon、2nd. Drop、Dub Policeといった人気レーベルからリリースを重ね、トップDJ、YOUNGSTAの支持を受け、ダブステップの名門レーベル、Tempaと契約。そして"Ruffhouse"(11年)、"Invaderz"(12年)でトップ・プロデューサーに躍り出て、シーンのトップ3DJ=YOUNGSTA、HATCHA、N-TYPEは勿論、LAURENT GARNIERからも支持を得る。また盟友MOSAIXとレーベルArtikalを立ち上げ、一躍シーンの台風の目となる。そして12年9月、Tempaからの1st.アルバム『J:KENZO』を発表、UKベース・ミュージックの真髄を遺憾なく発揮する。今まさに旬のプロデューサー、待望の来日!
https://www.tempa.co.uk/
https://www.facebook.com/pages/JKENZO/115497756739
https://twitter.com/JKenzo
https://soundcloud.com/jkenzo

Ticket outlets:1/19(SAT)発売!
PIA (0570-02-9999/P-code: 191-202)、 LAWSON (L-code: 76819)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/ https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、
TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、
Dub Store Record Mart(3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

 単に自分の知識不足のせいなのだが、韓国というのがホントによくわからない。たとえば12年12月26日付けの『Newsweek』によれば、とにかくごく一部のエリートが政治からメディアまでを牛耳っているそうで、そういう意味ではアジア的な支配構造がぬけぬけと継承されつつ、日米中関係の微妙さもさることながら、北朝鮮への複雑な感情もあるだろうし(民族的な同胞意識もあるだろうし)、サッカーのスタイルでは当たりが強いし、フィッシュマンズと忌野清志郎と素人の乱が人気があると聞くし、自分のなかの韓国像というのが落ち着きどころがない。
 興味はある。もっとも近距離の外国であるのにかかわらず、日本にいながら韓国の情報はごくいち部の選ばれたものしか入ってこないという不自然さが、興味を加速させる。
 今月末、韓国のインディ・シーンからYamagata TweaksterとWedanceがやって来る。昨年末リリースされたYamagata Tweaksterのアルバム『山形童子』の清水博之氏が書いたライナーによれば、「韓国ソウルのインディーズ・シーンは、90年代後半から、美術学科で有名な弘益(ホンイク)大学を中心に広がる、弘大(ホンデ)エリアで発展。現在も弘大がその中心となっており、ライヴクラブと呼ばれる、バーの一角を舞台にしたライヴハウスでは、週末ごとにインディーズ・ミュージシャンがライヴを繰り広げる」と記されている。そこから登場したのが、たとえばYamagata Tweaksterであり、Wedanceだ。
 Yamagata Tweaksterは社会批評とユーモアを盛り込んだシンセ・ポップで、男女ふたり組のWedanceは超絶的なノイズ・ロック・バンド、彼らは音楽として魅惑的なばかりではなく、臨み方というかその態度にも、当たり前の話だが、日本で知られるところのK・ポップとはまったく別の情熱が表れている。27日が東京、29日が大阪、26日には東京の幡ヶ谷でYamagata Tweaksterの弾き語りもある。行こう!
https://utakata-records.com/yt-wd-japan2013/

■<Tokyo> 2013.01.27 (Sun)
@新大久保Earthdom
OPEN 18:00 / START 18:30 
ADV. 2,500 yen / DOOR 2,800 yen (ともに+1D)
イープラス: こちら (1月25日 18:00まで)
メール予約:yamagata.wedance@gmail.com (~1月26日23:59。件名に『1.27予約』と書き、フルネーム(カタカナ)と予約枚数をお送りください)
出演:Yamagata Tweakster (withバックダンサーYamagata Boys and Girls)、Wedance、イルリメ、kuruucrew
☆「オルタナ・コリア」展 (展示&販売)もbarエリアで開催!(協力:IRA)
VEGEしょくどう & 元Vacantのyoyo.さんによる韓国フードも決定!
Facebook event page→ https://www.facebook.com/events/109776642525454/

■<Osaka> 2013.01.29 (Tue)
@心斎橋conpass

OPEN/START 19:30 
ADV./DOOR 2,500 yen (D込)
出演:Yamagata Tweakster (withバックダンサーYamagata Boys and Girls)、Wedance、ALTZ.wP、casio☆トルコ温泉 DJs: okadada、oswald
Facebook event page→ https://www.facebook.com/events/562930757054344/

■<Amature Amplifier special gig> 2013.01.26 (Sat)
@幡ヶ谷Forestlimit

OPEN 18:30 / START 19:00 
Price: 1,500 yen (+1D)
メール予約:yamagata.wedance@gmail.com (~1月25日23:59。件名に『1.26予約』と書き、フルネーム(カタカナ)と予約枚数をお送りください)
出演:Amature Amplifier (Yamagata Tweaksterの弾き語り名義)、トンチ、Alfred Beach Sandal、イ・ラン(Lang Lee)、DJ: 坂田律子

VEGE食堂 のyoyo.さんによる韓国フードも決定!
そして日本にすでにファンも多い、イ・ラン(Lang Lee)も特別出演決定!(2012.12.30追加)
Facebook event page→ https://www.facebook.com/events/135670996587564/

ザ・フューチャー - ele-king

あなたはいつも 許されたがっている

ビーチ・ハウス "マスター・オブ・ノーン"


 西洋占星術にはサターン・リターンという考え方がある。星占いの世界において、試練・現実・社会的責任などを意味する土星(サターン)が黄道の約29年の周期を一回りし、そのひとが誕生したときの位置に帰ってくる時期のことで、ここでは社会的な意味での子どもから大人への通過儀礼が行われるとされる。要するに28、29歳くらいの時期で、自分の人生の現実に誰もが向き合わねばらない、ということだ。いち部の占星術師は、カート・コバーンとエイミー・ワインハウスはサターン・リターンを迎えられなかった典型的なポップ・スターであると言った。その言説の是非はともかくとして、たしかに、30歳前後の大抵の人間が責任と役割を果たす「大人」になることを、この社会は強要しているように見える。女性誌は表紙に「30代女子」という(本来であれば語義矛盾の)コピーを踊らせるいっぽうで、定期的に結婚・出産の特集を組んでタイム・スケジュール的に人生をコントロールすることを提案する。星占いのページでは、「土星があなたに課す試練は、大人になるためのレッスン」だと言う。サターン・リターンを迎えた「女子」たちは、生理的にも社会的にも、ある選択を迫られる......。

 ミランダ・ジュライ監督作の『ザ・フューチャー』の画面のなかには呆れるほどの「女子」が映し出されるが、彼女、ジュライ自身が演じるソフィーはとっくに土星が2周目を走っている35歳の独身女性である。恋人のジェイソン(ハミッシュ・リンクレーター)とは同棲4年目で、この映画が物語の冒頭で設定する、怪我をした猫"パウパウ"を迎え入れるための30日間というのはつまりモラトリアムの期限のことである。ソフィーはその30日間のあいだに、自己表現の象徴であるダンスを創作しようとするがうまくいかず、彼女と同じように自己実現を控えめに目指す同胞のような恋人のもとを去り、単純に生物としての女を求めてくる別の男と過ごすことのラクさに甘んじてしまう。
 たとえばソフィア・コッポラ的にノスタルジックな意味の「少女」ではなく、もっとリアルで、そしてやっかいな自分のなかの「女子」との向き合い方。女優であり、アーティストであり、映画監督であり、作家であるミランダ・ジュライのような眩しい才能に恵まれた人物が、言ってしまえばこんなにごく普通の女性の問題を扱っていること自体に微かに驚きつつ、しかしこれ以上ない現代性をもここに嗅ぎ取れるだろう。僕には当然、女性の人生の岐路は実感としてはわからないが、だからこそ面倒な時代の女性の生き方の難しさを考えずにはいられない。「将来」は女性誌のなかでは希望に満ちたものではなく、たんにタイム・リミットのことである。この映画のなかにあるような、しばらく会っていなかった友人たちが揃って妊娠しているエピソードなどはどこででも聞く話だ。
 だからジュライは、そんな取るに足らない、くだらない現実に奇妙なやり方で遠慮がちながらも抵抗する。話者を猫に設定したり、月が喋ったり、Tシャツが地を這ったりするのもそうだが、決定的なのはソフィーが別の男の話をしはじめたとき、それ以上聞きたくないジェイソンが時を止めてしまう箇所だろう。そこでは、もしかするとこの国でいうセカイ系をも微妙に掠めつつ、しかし情けない逃避こそを的確に映画的に見せてしまう。

 そんな映画に流れるのがビーチ・ハウスなのである。彼女らの"マスター・オブ・ノーン"ははじめパソコンから流れるソフィーのダンス音楽として使用され、ダンスが思うように作れない彼女自身によってイントロ部分で止められてしまう。映画も終盤に差し掛かった頃、今度は純然たる映画音楽としてイントロから歌へと到達する。そこでソフィーはそのビーチ・ハウスの音楽、キミとボクのセカイの歌に合わせて、不恰好ながらも異物として奇妙なダンスを繰り広げるのだ。MOR? きっとそうなのだろう。それは強い主張もなく、将来への自信もない、「大人」になることができないか弱いひとたちのための歌と踊りだ。
 結局、ふたりの「ザ・フューチャー=将来」は想定していたものから瓦解し、取り返しのつかない痛みを残しながら何も解決を見せずに、ただ「いま」という時間だけが引き延ばされていく。けれどもその地点からしか続いていかないものとしての「ザ・フューチャー」はタイム・リミットから解放されて、ただ未知のものとしてふたりに還ってくる。その感触は、そう、ヴィクトリア・ルグランの歌声のように、切なくもどこまでも甘美なものである。

予告編


Beach House / Master of None

 ヒップホップ・フリークにとっては定期的にスケジュール・リストに印されるワードが「REFUGEE MARKET」なんだけど、今回は池袋の地下にて繰り広げてきたソレとは趣きが違うようだ......。
 このイヴェントはDOWN NORTH CAMP(以下DNC)というクルーにおいて“順番と感覚を重んじる男”SORAを中心とした、その仲間たちのオフィシャルな溜まり場が発端となっているようだ。DNCの核となるMONJUメンバーを中心に、それぞれの音楽カルチャーを投影してきたヒップホップ・イヴェントである。SORAたちに会えばわかるけど、彼らの周りは風通しが良く、些細なことがらについてはバリアフリーだったりする。

 そんなDNCの骨子ともいえるような出会いのレイヤーが重なる場所こそが下北沢だったという。平成に生きるわたしたちと昭和を生きた先人たちとでは捉え方が違うかもしれない街・下北沢で、BLACK MARKETならぬREFUGEE MARKETが開催される。
 今回のイヴェントはDJセットこそ組むらしいが、クラブ・イヴェントではなくリアルなマーケットであるらしい。SORAは「おとなのおままごと的なこと」と乱暴に言い放っていた。
 音楽の周囲を衛星的にとりまく諸カルチャーを、どの分量までトッピングできるかがそれぞれの器量だったりサンプリングの妙だったりするわけだけど、彼らに標準装備としてその感覚が備わっていることは、DNCとしてドロップされるアイコンひとつとってみてもわかることだろう。最近ではDNC所属アーティストの作品発表もおびただしく、公開されるPVにて音に違う奥行きをそれぞれが与えていくという点も非常に魅力的である。
 昨今ようやくその断片が見えてきたDNCメンバーそれぞれのバックボーン的なカルチャーの諸相。そこで収集した品々や魂を削って産み出された作品など、生きた血の通った品が多数陳列されるらしい。

 そして今回のイヴェントは2本軸で組まれていて、正式なイヴェント名は「REFUGEE MARKET x ゴローコサカ エキシビジョン アーカイビズ」となっている。ゴローコサカとは誰なのか......SORAからは「こいつの写真はヤバいから! さくっと撮影していたのにその場をうまく切り取って記録している。こいつの写真は新しい目線を与えてくれるんだよね」とこれまた乱暴に語ってくれた。SORAはまわりにいるヤバいヤツを紹介したくてしょうがないたちである。ラッパーの次はフォトグラファーをフックアップしたいらしい。個展なんてやったことないはずなのに......熱意が先である。順番を重んじる男SORAがプロデュースするREFUGEE MARKETは1/13(日)14(祝月) @下北沢 Stardustラウンジ3Fでポップアップ的に開催されるからぜひ行ってみよう!

PS.
SORAはお酒を飲まないので、乾杯の際はソフトドリンクがいいよ!
でも差し入れはアルコールにするとメンバーが喜ぶよ!!

■ゴローコサカ プロフィール
1983年、流しの料理人と田舎の箱入り娘の間に生まれる。
新宿区の団地にて、6畳2間のスペースに5人という家族構成で育つ。
幼児期、ひとりで勝手に家を飛び出し、近所の家のおばあちゃんに土足&正座というスタイルで、お茶やお新香をご馳走になっていたらしい。
時は過ぎ、下北沢のカルチャー・ショップSKARFACEの魅力にとり憑かれ、入り浸り、 一時、屋根裏に寝泊まりする。
SKARFACEでのさまざまな経験と出会いの結果、カメラを手にし、ダウンノースキャンプと遊ぶようになる。
現在、光の射す方に導かれるまま、日々撮影に励んでいる。

■『REFUGEE MARKET x ゴローコサカ エキシビジョン アーカイビズ』
トータルインフォ:DOGEAR RECORDS

https://www.dogearrecordsxxxxxxxx.com

■SORA twitter:
https://twitter.com/ill_com

SEKITOVA - ele-king

Sekitova - Premature Moon And The Shooting Star
Zamstak

amazon

 ele-kingの創刊は1995年1月、編集部を作ったのは1994年の秋、初めて友だちとクラブ・イヴェントを企画したのが1993年で、当時の僕はターゲットとする読者やオーディエンスの年齢層を訊かれたらはっきり「17歳」と答えていた。17歳に読んで、聴いて欲しい。企画書にもそう書いた。17歳、セックス・ピストルズの曲名にもあるし、大江健三郎の短編にも「セブンティーン」がある。
 セキトバは、昨年、17歳にしてデビュー・アルバム『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』を発表したDJ/プロデューサーである。「1995年生まれの高校生トラックメイカー兼DJ」として騒がれてしまったようだが、彼のバイオを知らなくても、いや、知らないほうがむしろ『PREMATURE MOON~』を素直に楽しめるんじゃないかと思う。スムーズなグルーヴも心地よいが、繊細なメロディ、アトモスフェリックな音響の加減も魅力的で、デトロイトのジョン・ベルトラン風の優しいアンビエント・テイストもあれば、クルーダー&ドーフマイスター風のダウンテンポからスクリュー、お茶目な遊び心もある。その多彩な曲調、お洒落さ、そしてバランスの良さを考えると、ホントに17歳なのかと信じられない。が、彼は間違いなく、日本のクラブ文化の未来の明るい星のひとつなのだ。
 元旦生まれなので、数日前に18歳になったばかりのセキトバへのメール取材である。


何歳から、どのようなきっかけでハウス・ミュージックを作っているんですか?

SEKITOVA:はじめてDTMを触ったのが14歳の頃なんですけど、その頃はテクノやハウスよりもエレクトロをよりたくさん作っていました。理由は「ディストーションをかけるだけでなんかそれっぽい音が出たから」っていう安直なものなんですけれど。逆にテクノやハウスなんかは音をつくるのがとても難しかったので僕にはなかなかつくれませんでした......。当時はちょうどDigitalismやJunkie XL、Justiceなんかが情報として得やすかったのでそこからエレクトロやその周辺の影響を受けたということもありますね。
 年月を重ねるうちに技術があがってきて、自分のやりたいことが徐々に思い通りに出来るようになってきたので、じゃあ自分のやりたかったことをやってみようって意気込みで始めたのが現在のスタイルです。

子供の頃、ピアノなど、楽器を習っていたんですか?

SEKITOVA:4歳か5歳の頃から10歳の辺りまでまさにピアノを習っていましたが不真面目すぎてまったく上達しませんでした。当時は音楽よりサッカーに夢中で、ピアノ=女々しいと思っていたくらいですし。
 そこからは楽器を習ったりすることだとかは今日までまったくないですね。ただ学校でたまにあった民族音楽を聴く授業はとても好きでした。東南アジアやアフリカのダンサンブルなものがとくに好きで間違いなくいまの僕はそこから影響を受けている部分があります。

たくさんの音楽を聴いているようですが、ご両親からの影響ですか?

SEKITOVA:両親のほかに母方の祖父がジャズの好事家だったり、トラック制作をはじめた頃知り合った人たちにとてもライブラリがあったり周りからの影響はとても強いと思います。
 中学の頃には友だちの母親から立花ハジメやkyoto jazz massiveだとかのCDを貸してもらったりしてました。昔から音楽だけに限らずなにかと大人と接する機会が多かったわけです。
 またインターネットの発達で、年代や距離の障壁がより薄くなっていたことも大きな要因の一つですね。なにせいまはとても簡単にレアトラックにアクセスできる時代ですから。
 あ、もちろんテクノディフィニティヴも買いましたよ!

あ、ありがとうございます! 機材は何を使っているんですか?

SEKITOVA:けっこう驚かれるのですが、GaragebandというDAW(DTM)をつかっています。iMacに最初から入っているソフトウェアで、手軽に遊び始めてからずっとこれですね。最近ではほかの有料DAWも色々使ってみたりしたのですが中々慣れなくて・・・。
Garagebandをシーケンサーとして利用してそこに様々なプラグインやソフトシンセを導入する形でやっています。ハード機材が一切ないので2013年はまずMIDIキーボードを入手するところから始めたいです。

DTMはどうやって学びました?

SEKITOVA:「曲を作ってるうちに出来るようになっていく」というパターンがいちばん多いですね。どうしてもわからないときはインターネットの知恵を借りたりもしますが基本的に面倒くさがりなのでDTM上でだらだらしながら解決策を探す感じです。たまに○○が上手だなんて言われたりもするんですが僕自身技術なんてほとんど勉強したことがないので褒められても言われてる本人はよくわからなかったりします。

レコードとCDではどちらが好きですか?

SEKITOVA:どちらもいいところがあるので難しいですね......。というかあまり対立させるものでもないのでは、と思ったりもします(あるいはもう対立させて語ってもしょうがないのでは、という考え)。
 レコードはやっぱりかっこいいです。よく音質を語る際に「レコードの音には温かみが~~~」なんて言われますが、視覚的にもけっこう温度を持っていると思います。アナログDJの動作なんかはそれだけでヴィジュアライザ要素を果たしてしまうくらいにかっこいいです。
 CDは取り扱いの手軽さが良いですね。手軽ゆえにいろいろ工夫が出来たりして、それを考えるのも楽しいです。レコードショップのドッシリ感も好きなのですが、CDショップでたくさんのCDがズラッと無機質に並んでいるのもテクノ感があって素敵です。

少し前、20代前半の連中に取材したとき、テクノに興味持ってクラブに行っても「30過ぎたおっさんとおばさんしかいなかった」と言われたことがありました。欧米では若年層がメインですが、日本では違います。だから、もし自分がいま20歳前後だったら同じことを思ったかなーと思います。逆に言えばセキトバ君のような若い人がよくテクノを作っているなーと思ったんですが、この音楽のどこが魅力だったんですか? セキトバ君にとってのハウスやテクノの魅力をがんがんに語って下さい!

SEKITOVA:そもそもの話になっちゃうんですけど、僕はテクノをつくってるつもりなんです。DJをするときも作った曲にもどこかしら「ハウス」の文字が入ってしまう僕ですが、ハウスのなかにとてもテクノを感じる曲が好きだし、自分で作るときにも常に頭のなかにはテクノへの憧れと尊敬があります。だから、音的にはハウスかもしれないし、どちらかに言いきっちゃうならばハウスなんですけど、実際ハウスを作っているつもりっていうのはあまりないんです。
 僕が好きなテクノっていうのはその曲やアーティストの思想や哲学をついつい深読みしたくなってしまうようなもので、その思想や哲学を理性で考えさせてくれるのではなく、もっと直感的なところで感じさせてくれるものです。

自分と同世代の人たちにもハウスやテクノを聴いて欲しいと思いますか?

SEKITOVA:常々思っています。

セキトバ君の世代では、たぶん、洋楽を聴いている子すら少ないと思うのですが、音楽の趣味が合う人はいますか?

SEKITOVA:お察しの通り、同じ年代のDJやアーティストでもなかなか僕の好きなテクノ、ハウスについて一緒に同じ価値観から一晩明かせるような人はいないですね。当然学校にもまったくいないです。僕はポップスやほかのジャンルの音楽にあまり抵抗はないので、こちらから話を合わせることはできるし、話に困ったりすることってそんなにないんですけど、やっぱり自分のいちばん好きなところの話をもっと同世代としていきたいです。

自分と同世代や自分に近い世代の音楽って、どんなイメージを持っています?

SEKITOVA:これは難しい質問......。というのも音楽を聴くときにあまり年齢を気にして聴いたりはしない(文脈を踏まえて聴く時には勿論必要な情報にはなってきますけど)ので、イメージって言うイメージが特にないんですよね......。
 基本的に僕らの世代はもう時代やジャンル関係なくいろんな音楽を聴ける環境なので、いろんなルーツを持ってる人がいて面白いなぁとは思います。

DJはどういう場所でやっているんですか?

SEKITOVA:すごく真面目に答えるなら風営法をなぞりながら「そもそもクラブとはなにか」ってところから説明をしないといけないのですが、長くなるので、まず先に省略して答えるなら「DJセットがあって、それなりに音が出るところ」ですね。大阪や関西もそうですが、東京でプレイする機会もそれなりにあって、月に一回とかそのくらいのペースで東京に出てきています。現場でDJをやる前はよくustreamなどインターネットでもやっていました。

IDチェックがあるようなクラブに行けない年齢なわけですが、ハウスやテクノで踊るのも好きなんですよね? 

SEKITOVA:むしろそれがいちばん好きです。

ダブステップ以降のベース・ミュージックだは好きになれなかったんですか? 

SEKITOVA:詳しくはないですけど、けっこう聴いたりしますし、嫌いではないです。好きな曲もいっぱいありますよ。ただ長時間聴くのはやっぱり辛いですね。

とくに影響を受けたDJ /プロデューサーがいたら教えてください。

SEKITOVA:Dave DK、Kink、Tigerskin、Robag Wruhme、Christopher Rau、ADA、Henrik Schwarz
 ほかにもたくさんいるんですけど、いつも必ず頭に出てくるのは彼らです。

80年代や90年代に対する憧れはありますか?

SEKITOVA:これは説明が難しいんですけど、懐古主義的、再興的な意味での憧れは全然ないんです。あくまで自分の理想のサウンドを追求する過程で90年代や80年代の環境や音や世界観が必要になってくるって感じで。だから「80年代や90年代あるいはそれ以前に残されたもの」に憧れはあっても、時代そのものにはあまり憧れはないです。これから後世に憧れられるような時代を僕が作っていけたら素晴らしいですね。

IDMやエレクトロニカにいかなかったのは、やっぱりダンス・ミュージックが好きだからですか?

SEKITOVA:そんなことないですよ、って思ったけれど、やっぱりそうかも知れないですね。もちろんエレクトロニカもすきですが、それ以上にダンス・ミュージックが好きです。エレクトロニカのような技術をもってダンス・ミュージックのなかに分解再構築が出来ればまた理想のサウンドに一歩近づくので、そう言う意味ではこれからもどんどん制作手法としてIDMやエレクトロニカの研究は続けていきたいです。

テクノ以外でよく聴く音楽、これから追求してみたい音楽ってありますか?

SEKITOVA:もっと漠然に「趣味」として最近はヒップホップとか、そういう音楽に興味を持っています。仲の良い知り合いにbanvoxってエレクトロのアーティストがいるんですが、彼がとてもヒップホップに詳しくて、そこから情報をいつも得ています。もちろん音楽としても僕の好きなアーティストもBPMが遅くなっていく過程でヒップホップの要素を入れていったり、もともとヒップホップ上がりだったりなんて事もよくある話になってきたので、これからどんどん聴いていきたいです。

やっぱマルチネ・レコーズの存在は大きかったですか?

SEKITOVA:とても大きいですね。明確な目標のひとつとしても、自分のなかでのトピックとしても、計り知れない大きさがあります。マルチネのサウンドって手広いようで絞られていて、僕がそのなかにいるかどうかって言うと微妙な話なんですが、そのどれもがいろいろな方向に手を伸ばしていて、なおかつ一定以上のクオリティがあってとても影響をうけています。マルチネ主宰のtomadさんなんかはいつも次の一手が気になる存在だし、彼からも大きな影響を受けていますね。

自分の作った音楽を同級生に聴かせることはありますか? その場合、どんな反応がありますか?

SEKITOVA:限定して言えば、むしろはじめは僕の曲を聴いてくれるのなんて親しい男友だちのふたりだけでしたよ。それ以外はネットにあげてもまったくビューなんて伸びませんでしたし。その彼らがいまだに僕の曲を喜んで聴いてくれるのが「SEKITOVA」にとってもっとも嬉しいことのひとつです。彼らはいつも「すごい」と褒めてくれますが、まぁそれは身近な「僕」の事を知ってくれているからこその評価だと思っています。

 本題に戻って答えると、ほか不特定多数の同級生らに自分の音楽を聴かせることはこれまでまったくないですね。僕の名前は龍生って言うんですけど、SEKITOVAと龍生ってある意味では別人というか、なんというかそう言う感覚があって、普段龍生として接している人にSEKITOVAとしての一面を見せる事に違和感が結構あるんですよ。その逆の場合はそうでもないんですけどね。

曲名はどんな風に決めますか?

SEKITOVA:大体の場合は曲から連想するか、いいなと思った言葉をメモっておいてそこから想起して曲を作るか、です。どうしても出てこない時はツイッターとかで呼びかけてもらった答えからつけたりする場合もあります。
 どの場合も基本的に曲を作ってる時間と同じくらい曲名に時間がかかります。曲の世界観をイメージしてその世界の人やモノになりきってインスピレーションを沸かす事がよくあるんですが、たまに親とか姉に見つかって奇異の目でみられます。

アルバムのタイトル『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』にはどんな意味がありますか?

SEKITOVA:もともと自然現象の名前にしようと思ってたのもありますが、僕のなかで「ノスタルジー」ってなんだろうって考えてたら、だんだん思考がそれちゃって、感傷に浸れるような世界ってなんだろうってことを考えるようになり、そのとき直感で出てきたのが思わず背筋が伸びるような、冬の朝の澄んだ青空に出る月だったんです。いわゆる昼の月というモノなんですけれども。それがビビッときてpremature moonとつけました。あとはさっきも書きましたけど名前が龍生なのでそこから音をとって英訳してshooting starとつけました。

アルバムの水墨画は何を表しているのでしょうか?

SEKITOVA:「空間」です。これは水墨画という手法に対してなんですけど。絵になったときに浮き上がってくる滲みであったり、基本的には白と黒の2色なんだけれども、濃淡によってとても表情豊かで眩しすぎるほどにその世界観を表してくれるところに、イーヴンキックのミニマルやダブ、そしてテクノの美学と通ずる所を感じて、という具合です。僕の好きな音楽の「空間」を絵画手法的に表すと、水墨画になるなぁと思ったんです。

DJ/トラックメイカーとしての将来の夢を教えてください。

SEKITOVA:良くも悪くも国内市場が大きくて、ガラパゴス化してしまっているが故の弊害がたくさんある音楽シーンに一石を投じられる存在になれればと思います。
 あと、DJとトラックメイクで生きていきたいです。もちろんセルアウト用の大衆主導のものじゃなくて、僕の好きな音楽だけを作り続けて。いろいろな考えがあるとは思いますが、大衆主導の音楽をつくったり、そういうDJしかしないのは、結局どこどこ勤めのサラリーマンと変わんないじゃんって気持ちがあって。もちろんそう言う人たちのことは本当にすごいと思いますし、サラリーマン自体のことも凄いと思っていますし、存在の必要性もわかっていますが、「僕が音楽で生きていくなら」、常にこちらから提示するアーティスティックな方向性でありたいです。
 そしていまの日本ではそういう生き方が尋常じゃなく難しいし、僕のやってるジャンルなら尚更も良い所なので、そう言う所のインフラ整備というか道も僕が作っていきたいなと思っています。
 ......という野望を達成するにはまだまだ実力も経験も足りなさすぎるので、そこをあげていく事が当面の目標です。

ありがとうございました! 最後に、オールタイムのトップ10 を教えてください。

1. Dave DK - Lights and Colours
2. Akufen - Fabric 17
3. Tigerskin - Torn Ep
4. Daft Punk - Alive 2007
5. Dr.Shingo - Nike+ Improve Your Endurance 2 / initiation
6. Chet Baker - Albert's House
7. MAYURI - REBOOT #002
8. Penguin Cafe Orchestra - Penguin Cafe Orchestra
9. Muse - H.A.A.R.P
10. Underwater - Episode 2

 厳選しすぎると10もいかず、ちょっと基準を緩めるとたちまち10どころか50、60となってしまって、この項目だけ1週間くらい悩んだのですが、やっぱりシンプルに思いついた順から答えていこうということで、こんな感じになりました。たぶんまだまだ経験が足りないのだと思います......。なのでトップ10というか、ここに書いてないものでも好きなのはたくさんあります。

 1はもう言わずもがな、僕が数少ない神と崇めているDave DKのアルバムです。彼はこのアルバム以外にもとても良い曲をたくさん作ってて、どれも本当に好きで、僕にとてつもない影響を与えています。

 2はAkufenによる名門FabricからのDJ MIX。
 Akufenといえば"Deck The House"がとても有名で、僕もそこから入ったんですが、こっちを聴いて本当に鳥肌が立ちました。もとより僕はクリック系の音数が少ないテクノやハウスが好きだったのはあるんですが、そこにグルーヴの概念を痛烈に刻み込んでくれたのは間違いなくこのアルバムです。

 4はおそらく中学2年生の頃、もっとも聴いたアルバムかもしれません。もともと僕が音楽なんて何も知らなかった頃に親が家でよくかけてたのが彼らの伝説的なアルバム、『Discovery』でした。そういう経緯もあってDaft Punkはどのアルバムもとても好きなんですが、その好きな曲たちがこの1枚に凝縮されてるのがたまらないです。ライヴ盤なので生のグルーヴがあるのが本当に良いです。もちろん出てる音はエレクトロニック・ミュージックに基づいた電子の音で、途中途中のアレンジも事前に仕込んだものとはわかってはいるのですが、それでもお客さんのあげる歓声の熱気や空気感から、最高に生のグルーヴが僕に伝わってくるんです。

 7は小学生の頃よく親がかけてました。その頃はうるさくて嫌いだったんですが、あるとき自分から指を伸ばして聴いてみたら、なにかが違って聴こえた感じがしました。ほんとに衝撃というか、いままで意識せずに聴いてきた音楽たちが、その瞬間にすべて脳内でつながった感覚をいまでもよく覚えています。このアルバムのバイオによるとMAYURIさんはセカンド・サマー・オブ・ラヴをリアルタイムで経験していたそうですが、僕にとってのサマー・オブ・ラヴは、間違いなくこのアルバムです。ちなみにこれに入ってるChester Beattyの"Love Jet"ネタのトラックはマジで超ヤバイです!

SEKITOVA
1995年、元旦生まれの高校生トラックメイカー兼DJ。14歳の頃よりDTM でのトラックメイク、16歳でDJとしてのキャリアをスタートさせる。2011 年にはインターネット・レーベル『Maltine Records』よりEP をリリース。その認知度をより深めた。初期には幅広いジャンルの制作を行っていたが次第にルーツであるミニマルテクノやテックハウスにアプローチを寄せるようになる。中でも昨年末にsoundcloudにて発表したアンビエンスなピアノハウストラック『Fluss』は大きな評価を得て、日本のみならずドイツなど本場のシーンからも沢山のアクセスを受けた。DJとしても歌舞伎町Re:animation、新宿でのETARNAL ROCK CITY Fes. への出演など大規模イベントへのブッキングも増えており、これからの活動に期待が寄せられる。

https://sekitova.biz
https://iflyer.tv/SEKITOVA
https://soundcloud.com/SEKITOVA
https://twitter.com/SEKITOVA
https://twitter.com/SEKITOVA_INFO

Dean Blunt - ele-king

 戦争中から戦後にかけて、センチメンタリズムは氾濫した。それは、いまだに続いている。しかし、わたしには、その種のセンチメンタリズムは、イデオロギーぬきの生粋のセンチメンタリストに特別にめぐまれているやさしさを、いささかも助長するようなシロモノではなかったような気がしてならない。
──花田清輝

 DLカードが入っていたのでアドレスを打ち込んでみたが、何の応答もない。彼ららしい虚偽なのかもしれない。だいたい世相が荒れてくると、人はわかりやすいもの、真実をさもわかった風に言うもの、あるいは勇ましい人、あるいは涙に支配された言葉になびきがちだ。未来はわれらのもの......この言葉は誰の言葉か、ロックンローラーでもラッパーでもない。ヒトラー率いるナチスが歌った歌に出てくるフレーズである。
 こんなご時世にロンドンのディーン・ブラントとインガ・コープランドという嘘の名前を懲りずに使用する、ハイプ・ウィリアムスというさらにまた嘘の名前で活動しているふたりの男女は、相も変わらず、反時代的なまでに、嘘しか言わない。希望のひと言ふた言でも言ってあげればなびく人は少なからずいるだろうに、しかし彼らはそんな嘘はつけないとばかりに嘘をつき続けている。

 DLカードが虚偽かどうかはともかく、『ザ・ナルシストII』は、ディーン・ブラントを名乗る男が、もともとは昨年冬に(『ブラック・イズ・ビューティフル』とほぼ同時期に)フリーで配信した30分強の曲で、金も取らずに自分の曲を配信するなんて、まあ、そんなことはナルシスティックな行為に他ならないと、間違っても、なるべく多くの不特定多数に聴いて欲しいからなどというつまらない名分を口にしない彼らしい発表のした方を選んだ曲(というかメドレー)だった。それから半年後になって、〈ヒッポス・イン・タンクス〉からヴァイナルのリリースとなったというだけの話だ。

 映画のダイアローグのコラージュにはじまり、ダーク・アンビエント~R&Bの切り貼りにパイプオルガン~ヴェイパーウェイヴ風のループ~ギター・ポップ~ノイズ、ダウンテンポ、R&B、アシッド・ハウス......ディーン・ブラントは一貫して、腰が引けた情けな~い声で歌っている......インガ・コープランドと名乗る女性が歌で参加する"ザ・ナルシスト"は、最後に彼女の「ナルシストでした~」という言葉と拍手で終わる......そのとたん、ライターで火を付けて煙を吸って、吐く、音楽がはじまる......。『ザ・ナルシストII』は、時期的にも音的にも『ブラック・イズ・ビューティフル』と双子のような作品だが、こちらのほうが芝居めいている。催眠的で、ドープで、ヒプナゴジックだが、彼らには喜劇的な要素があり、そこが強調されている。
 正月の暇をもてあましていたとき、エレキングからネットで散見できる言葉という言葉を読んで、この世界が勝ち気な人たちで溢れていることを知った。勝ち気と自己肯定の雨あられの世界にあって、怠惰と敗北感と自己嘲笑に満ちた『ザ・ナルシストII』は、微笑ましいどころか清々する思いだ。
 しかも、正月も明け、ゆとり世代の最終兵器と呼ばれるパブリック娘。が僕と同じようにこの作品を面白がっていたことを知って嬉しかった。音楽を鼓膜の振動や周波数ないしは字面のみで経験するのではなく、それらが脳を通して感知されるものとして捉えるなら、真っ青なジャケにイタリア語で「禁止」と描かれたこの作品の向こうに広がっているのは......苦境を生き抜けるなどという啓蒙すなわち大衆大衆と言いながら媚態を呈する誰かとは正反対の、たんなるふたりのふとどきものの恋愛の延長かもしれない。

小林祐介 (THE NOVEMBERS) - ele-king

初めまして。THE NOVEMBERSというバンドで活動をしている小林祐介です。2012年によく聴いた(最近よく聴いている)ものを選びました。今回書かせていただいたチャートを見返すと、個人的に2012年は新たなアーティストとの出会いは少なかったように思いました。(Wild Nothingはele-kingで知りましたが。)
あと、3/10が4ADという結果的な贔屓っぷりにも驚きです。

Chart


1
Godspeed You! Black Emperor - Allelujah! Don't Bend! Ascend! (Constellation)

2
Wild Nothing - Nocturne (Captured Tracks)

3
Chairlift - Something (Columbia)

4
Flying Lotus - Until The Quiet Comes (Warp)

5
Ariel Pink's Haunted Graffiti - Mature Themes」 (4AD)

6
THA BLUE HERB - TOTAL (THA BLUE HERB RECORDINGS)

7
Grimes - Visions (4AD)

8
Scott Walker - Bish Bosch (4AD)

9
OGRE YOU ASSHOLE - 100年後 (VAP)

10
Beach House - Bloom (Sub Pop)

Christopher Owens × Sintaro Sakamoto - ele-king

 親愛なる読者のみなさま、明けましておめでとうございます! 本年もよろしくお願い申し上げます。さて、以下の対談は、昨年12月上旬の、雨も降る肌寒い夜にやったものですが、2013年はふたりの素晴らしい新作ではじまります。どうぞ、お楽しみください。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

Amazon


坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

Amazon

 クリストファー・オウエンスがツイッターで呟いた、「坂本慎太郎に会いたい!」という一文を読んで、興奮した。もしこのふたりの対談が実現したら......という思っていた矢先だった。
 人生とは本当に面白い。編集長から、「再来週クリストファー・オウエンスが来日するんだけど、菊地君はガールズのこと超大好きだったよね。こないだのSXSWでもガールズ見たっていったよね? 取材やらない?」と電話がかかってきた。ガールズを解散後の最初のアルバム『リサンドレ』(1月9日発売予定)のプロモーションのための来日だという。ちょうど、坂本慎太郎も新しいシングル「まともがわからない」(1月11日発売予定)のリリースを控えている! 
 そして、この企画はトントン拍子で実現へと進んだ.....んだけれど......取材当日、まさかの「クリストファー・オウエンスが飛行機に乗り遅れました」という連絡......まじっすかーーーー(笑)!
 しかし、この企画に関わったみんながふたりの対談を望み、日程を調整してくれたおかげで中止は逃れた。
 2012年の寒い雨の夜、取材場所に到着するとクリストファーは部屋で待っていた。取材する我々ひとりひとりに丁寧に挨拶&「ごめんなさい」を言いながら、そして、時間通りに坂本慎太郎が入ってくると、彼の笑顔は最高潮に達するのであった......。

山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本慎太郎さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

ではさっそくですが、はじめさせていただきますね。

クリストファー・オウェンス:あの、最初の日から変更になってしまって本当にごめんなさい......。

坂本慎太郎:ああ、全然大丈夫です。

そもそも今回は、クリストファーさんが坂本さんに会いたいということで実現した対談なのですが、まず、クリストファーさんはどういったきっかけで坂本さんを知ったのですか?

クリストファー:えっと......、ガールズはアメリカでは〈マタドール・レコード〉からリリースしてたんだけど、ガールズを脱退してソロになったときに、僕は1年契約を結びたかったんだよね。でも〈マタドール・レコード〉はそれが嫌だって言ってきたから、〈ファット・ポッサム〉へ移籍したんだ。っで、〈ファット・ポッサム〉はアザー・ミュージックのレーベルもやっていて、僕がソロ・アルバムを作るときに、彼らがリリースしているレコードを僕の家に一箱ドンと全部送りつけてくれて、その山積みになったレコードのいちばん奥底に坂本さんのレコードがあって、それを聴いたらすぐに好きになったよ! 実際、他のレコードは全然気に入らなかったから全部アメーバに売っちゃったんだ(笑)。でも唯一キープしたのが坂本さんの『幻とのつきあい方』だったってわけ。

坂本:センキュー・ベリー・マッチ。

ちなみに、坂本さんはクリストファーさんのことをご存知でしたか?

坂本:いや全然知らなくて(笑)、いまの海外の新譜とかをチェックすることがあんまりないので、ガールズも全然知らなくて、今回この対談の話をいただいて、過去の作品を送ってもらって、それではじめて

おっ! ではガールズなどの作品も聴いていただいたということですか?

坂本:はい、聴いてきました。

どうでした!?

坂本:ああ、良かったですよ(笑)。

では、クリストファーさんは、具体的に坂本さんの音楽のどういったところにグッと惹かれましたか?

クリストファー:僕、いまのインディってあんまり好きじゃないんだ。いわゆるシューゲイズ・リヴァイヴァルとか、エレクトロニック・ポップの流行とかね。もともと昔ながらのクラシックなロックンロールとか、ポップ・ミュージックが好きなんだけど、『幻とのつきあい方』を聴いたときに、テイストっていうか、趣味が最高によくて、本当にパーフェクトなアルバムだと思ったよ! アレンジがものすごく好きだし、演奏もよくて、品のあるアルバムだと思ったね! おかしいのは、歌詞が全然分からないのにこんなに惹かれて、歌詞がなくても成立する、ジャズを聴くような感覚で聴きまくったんだ。とにかく、このアルバムのプロダクションが大好きで、ハーモニカのソロなんかはいままで聴いたなかでも最高のものだったし、コンゴとか、サックスとか、フルートとかも最高! あと、バック・ヴォーカルもすごい好きで、実際そのことについていろいろ聞こうと思ってたくさんメモをとってきたんだけど......(恥ずかしそうにメモをバッグから取り出す)。

はははははは。今日はいくつか質問を考えてきてもらったということですね(笑)。

クリストファー:うん(笑)。

"詞"というものが少なからずインパクトを与える坂本さんの音楽を、海外のミュージシャンがこう評価しているのに対してどう思いますか?

坂本:えっと、自分は20年くらいバンドをやってきて、それを解散したあとこのアルバムを作ったんですけど、ひとりで部屋にこもって、いちばんそのときに作りたかった曲を作って、自分では気に入ったものが出来たんですけど。うーん、まあ外国ではウケないと思ってたんで

(笑)

坂本:普通の音楽っていうか、地味だし、すごいこだわってるのが微妙な部分なんですけど、そういうのが伝わるのかなっていうのがあったので、そういう言葉が分からない外国の人が気に入ってくれてるっていうのはすごい嬉しかったです。

おふたりの新しい音源を聴かせていただいたのですが、それぞれ聴き比べてみると、かなり似た部分があるような気がしました。

野田:うん、ソング・ライティングというか、中心にあるのが歌っていうところがまず似てるかなっていう。

クリストファー:偶然ながら、はじめてサックスとかフルートを使ったアルバムだったから、坂本さんのアルバムを聴いたときは「ワォー!!!」って感じだったよ(笑)! でも同時に全然違ったアルバムだとも思うね。だって坂本さんの音楽はすっごいファンキーだけど、僕は全然ファンキーじゃないからね(笑)。

[[SplitPage]]

自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

Amazon


坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

Amazon

(笑)。ではさっそくですが、せっかく質問を考えてきてもらったということで(笑)。

クリストファー:オーケー(笑)。もういくつか答えてもらっちゃったんだけど、まずは、今日は本当にありがとうございます! じゃあ、えっと、最初の質問は(メモをめくる)............。僕は詞っていうのものが大好きだから、歌詞は僕にとってすごく大きなものなんだけど、たとえば、僕セルジュ・ゲンズブールが大好きでよく聴くんだけど、歌詞自体フランス語で何を言ってるのかわからないから、単純に音楽性に惹かれてるんだよね。んで、坂本さんの場合は、歌詞ってものがどのくらい重要で、僕は果たして、英語に翻訳したものをちゃんと読むべきなのか、それとも読まないでもいいのかっていう。

坂本:そうですね、えーと、自分は外国のレコードを主に聴いて育ったので、音楽聴くときは歌詞が何語でも気にしないんですけど、自分でやるときはなんでもいいっていうわけじゃなくて、一応こだわってやっているんですが、音として聴こえて面白い日本語っていう側面でも作ってるので、意味がわからなくても楽しめるとは思うんですが、うーん、まあ、歌詞読んでもいいと思います(笑)。

(笑)

クリストファー:オーケー(笑)、トライしてみるよ!

坂本:すごく日本語をロック・サウンドとかにのせるっていうのが難しいって長いあいだ言われてて、けっこうダサイ感じになっちゃったり、失敗してる例がいっぱいあるんですけど、そこをなるべく上手くやろうっていうふうにやってきた感じで。まあ、自分はなんかアジアのロックとかそういうわけ分かんないロックを聴いて楽しむ感じがあるんですけど、自分のレコードもそういう感じでいいです。

(笑)

クリストファー:もうすでに日本語のロックンロールとしてサウンドを楽しんでるけど、もちろん歌詞の意味もわかったらいいなって思ってね。そういうチャンスがあれば誰か訳してくれないかなーって思ってるよ。あと、女の子のバック・ヴォーカルもすごく気に入ったんだけど、クレジットを見たら三人の名前が書いてあって、そこにはそのうちのひとりがそのなかのリーダーだって書いてあったんだけど、実際のアレンジとしては坂本さんが全部バック・ヴォーカルを決めて、彼女たちに頼んだのか、それともある程度オープンな状態で彼女たちにやってもらって、彼女たちがアレンジをやった部分があるのか、それと、そのリーダーってクレジットされてる女性が誰なのか知りたいんだけど。

坂本:えっと、リーダーはなくて、リーダー............えっと

クリストファー:アレンジみたいなところに名前がひとりクレジットされてたと思うんだけど、彼女が友だちなのか、どういう人なのか気になって......えっと、たぶん、ジュンコ・ノギさん?

坂本:えっと、3人は同じ曲では歌ってなくて、曲によってひとりが何個も歌って、重ねて。えっと...(資料を見ながら)、1曲目と8曲目はそのノギさんがアレンジも考えて歌ったんですけど、その他の曲は僕が考えたラインを他の人に歌ってもらいました。

クリストファー:ノギさんは友だち? 他にどんな活動をしてるの?

坂本:ママギタァっていうバンドをやってて、今日持ってくればよかったんですけど、2月にアルバムを出して、僕のレーベルからリリースしました。僕がベースを弾いて、出しました。

クリストファー:アー! オーケー! 聴いてみる!!

坂本:持ってくればよかったですよ。

クリストファー:ハーモニカの人も友だち?

坂本:ハーモニカの人は、はじめて会った人なんですけど、初山博という年配のベテランのジャズの人で、ビブラフォンとクロマチックハーモニカなんかの名手と言われている人を紹介してもらって。

クリストファー:僕も今回ちょっと年上のジャズ・ミュージシャンの人を紹介してもらって一緒にやったから、似たような経緯だね。

坂本:そうですか。

クリストファー:えーっと、よし、オーケー、じゃあビッグ・クエスチョン。「スゴイ・クエスチョン!」(とっても緊張しながら)。

おお(笑)?

クリストファー:坂本さんは、他の人のアルバムをプロデュースしたことってありますか? 

坂本:うーん、まだやったことないですねー。

クリストファー:でも興味を持たれることはありますか? えっと、つまり、その............、僕のレコードのプロデュースをやってくれることってないかな?

坂本:うーん、ちょっと、いや、そうですね、あのー(苦笑)。

一同:(笑)

坂本:いや興味はあるんですけど、あんまり軽く言っちゃうとすごいあれなんで(笑)

クリストファー:オフコース! ここで「イエス」って言ってもらうつもりはないから大丈夫だよ。自分のアイデアとして思いついて、可能かどうか聞いてみたかったんだ。

坂本さんは、salyu x salyuなどで詞を提供されていたりするので、坂本さんがクリストファーさんに日本語の曲を提供して、それをクリストファーさんが実際に日本語で歌ったら面白いかもですね(笑)。

一同:(笑)

クリストファー:オーケー(しっかりsalyu x salyuをメモ用紙に書く)、じゃあ次の質問ね。僕はこの何年かのあいだ、ずっと日本でツアーをやりたいと思っているんだ。東京と大阪だけじゃなくてね、日本の小さな町なども廻りたいと思ってる。でもなかなかそれが実現しなくて......。アメリカとかヨーロッパなんかは10代のバンドがそうやってインディペンデントなツアーをずっと廻ったりして、それを観た更に若いキッズたちがバンドを作ったりしてるんだけど、日本はどうなのかな? あと、実際に僕がそれをやることの意味とかっていうのも気になるんだけど...

坂本:いいと思いますよ。日本のバンドも皆やってますね。車で運転して、小さい町に行くっていうのは皆やってるし、まあ、すごく狭いので、アメリカ・ツアーよりも全然楽だと思いますよ。

僕がはじめてガールズを聴いたときって、僕はまだ18歳とかで、もちろん僕も英語の歌詞が全部わかるわけではなかったんですけど、フィーリングだったり、どこかで同じ気持ちを共有できた気がして、すごく助けられました。なので、それは是非実現してもらいたいですね!

クリストファー:イェー! ティーンエイジャー! じゃあ、これが最後の質問ね。クラシック・ジャズは好きですか? モダンじゃないジャズ・ミュージック。

坂本:全然詳しくないですね。嫌いとかではないんですけど、いままで聴いてきてないので、よくわからないかなー。

クリストファー:何枚か僕が好きなレコードを送ったら聴いてくれる? 最近なぜかジャズをすごい聴きはじめてね。いきなり一つ大きな世界が開けたみたいにインスピレーションを受けてるんだ。もしかしたら興味を持ってくれるかなって思って聞いてみたんだけど。

坂本:たとえばどういうの?

クリストファー:コルトレーンとか、チャーリー・パーカーとか、マイルス・デイヴィスとか、チェット・ベイカーみたいな本当にスタンダードなやつ。細かいのは僕も全然知らないんだけど、最近聴きはじめて本当に気に入ってるんだ。

坂本:その辺の有名なところは、一応昔聴いたんですけど、他のジャンルを買うのに忙しくて、ジャズはまだ追求してないので、他が終わったら聴いてみます。

(笑)

坂本:でもチェット・ベイカー・シングスはヴォーカル・アルバムとして、昔から本当に好きです。

クリストファー:クール! 僕もだよ。えっと、これで一応終わりなんだけど、とにかく、素敵なアルバムと、今日という機会を作ってくれて本当にありがとう!

坂本:ありがとうございます。

[[SplitPage]]

最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?


クリストファー・オウエンス - リサンドレ
よしもとアール・アンド・シー

Amazon


坂本慎太郎 - まともがわからない
zelone records

Amazon

ではせっかくなので、逆に坂本さんがクリストファーさんに聞きたいことってありますか?

坂本:最初にアルバムをもらって聴いてて、さっき名前が出たから言うわけではないんですけど、コンセプトにしろ、ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』に近い印象を持ったんですけど、その辺を意識してたりするんですか?

クリストファー:ゲンズブールは昔から僕のアイドルで、すごい影響を受けてるんだけど、あまりにも偉大でクールな人だから僕と比較は出来ないよ(笑)。『メロディ・ネルソンの物語』は映画のサウンド・トラックっていう側面がかなり大きいよね。そこは僕のアルバムと違うところだけど、あのレコードも、ひとりの女性のキャラクターっていうのが中心にあって、それに基づいたレコードだから似てる部分もあると思うし、もっと大きな意味での影響はいままでものすごく受けてきたはずだよ。

坂本:あと、出身はサンフランシスコですか?

クリストファー:うん。

坂本:サンフランシスコは行ったことがないんですけど、知り合いのミュージシャンの話では凄い面白い場所で、世界で一番狂ったところだって聞いてるんですけど、いまのサンフランシスコの音楽のシーンっていうか、自分が所属しているシーンみたいなものがあるのか、もしくは孤立してひとりでやってるのかっていうのが気になったんですが。

クリストファー:音楽シーン自体はあるよ。ヘヴィーなガレージ・ロックとかサイケデリック・ロックとかね。皆友だちだし、僕は彼らの音楽が大好きなんだけど、音楽性としては、僕は孤立していて、彼らと違った音楽をやっているっていう感覚は少なからずあるかな。

坂本:なんかそういう実験的な、アヴァンギャルドなシーンとか、パンクのシーンがあるのかなって思ったんですけど、歌をメインでやられているので、ライヴとか普段どういうところで、どういう感じでやってるのかなと思ったんですよね。

クリストファー:ガールズのときはもうちょっとロックンロールなショーをやっていたんだけど、今回のアルバムに関してはこれまでのライヴとはまったく違うような感じだね。カーテンがあって、座席があって、画が飾られているような、古くて小さい劇場で、アルバムを最初から最後まで演奏するような感じ。

サンフランシスコでは、日本の音楽がどれくらい浸透していて、実際にどれくらい聴かれているんですか? 

クリストファー:サンフランシスコ自体はとっても大きな日本人街があるし、そこで音楽を売っているお店もあるから、アクセスしようと思えば出来るんだけど、僕も最近は新しい音楽を追いかけたり、どんどん掘り起こしていったりしなくなったから、日本の音楽は全然知らないんだよね。たぶん、坂本さんのレコードも、送られてこなかったら聴いていなかったかもしれないし、なかなかそういう機会はないかもね。

じゃあ、坂本さんがクリストファーさんに「この日本のアーティストは絶対聴くべきだ!」っていうをここで教えるのはどうですか?

クリストファー:イェー!!! やろう!!!

(笑)

クリストファー:実は今回の来日でいくつか変わったレコードを買ったんだけど、えっと、ぴんからトリオとか(笑)。

一同:おお(笑)!!

クリストファー:あと坂本九とかね。テレビでたまたまやってたから買ったんだけど(笑)。

坂本:どういうのが好きなんですか? というか、どういうのが聴きたいの?

クリストファー:うーん、僕のレコードに近いっていうか、日本の伝統的なフォークみたいな、歌ものの影響を感じられるロックとかポップとか。あとは女性のバック・コーラスがいいやつと、ゆらゆら帝国に似ているものも聴きたいな。

坂本:そのママギタァを持ってくればよかったんですけど(笑)。

一同:(笑)

坂本:最近自分が買ったのだと、八代亜紀がジャズ歌ってるやつ。あれは日本の古い歌も入ってるし、いま売ってるので、いいかもしれないですけど。

クリストファー:クール!

坂本:なんでしたっけ? あ、『夜のアルバム』だ。さっき古いジャズって言ってたから、日本の歌謡曲みたいな感じでぱっと浮かんだんですけど。うーん、でもいっぱいあるなぁ。じゃあ、なんか今度まとめて送ります。

クリストファーさんは、コーネリアスをご存知ですか?

クリストファー:まだちゃんと聴いてことはないんだよね。名前は聞いたことあるんだけど。今回たくさん取材を受けたんだけど、どこかの雑誌で見た気がする。

先ほど言っていた、salyu × salyuは、コーネリアスの小山田圭吾さんという方がアルバムをプロデュースされていて、そこに坂本さんが詞を提供されてるんですよ。

クリストファー:サウンズ・グッド!!!! ありがとう、聴いてみるよ。

では、あと少しで今年も終わってしまいますが、お互い、今年1年を振り返っていかがでしたか?

クリストファー:ふーーーーー。

(笑)

クリストファー:とってもクレイジーだったよ。ガールズを脱退したのが大きくて、僕にとっても辛い決断ではあったんだけど、でもそうしなきゃいけなかったんだ。すごくパーソナルなこともいくつか起こったし、はじめてソロ・アルバムも作った。本当に目まぐるしい1年だったね。

坂本さんはいかがですか?

坂本:僕はなんにもない、抑揚のない1年でしたね。

一同:(笑)

来年は、何か動き出したりはしないんですか?

坂本:動かないですね。まあ音楽はずっと家で作ると思うんですけど。淡々と作業する感じで。

次のアルバムも自分のタイミングで出す感じですか?

坂本:そうですね。凄いことは何も計画したりはしてないですね。

クリストファーさんは?

クリストファー:まず、またここに戻って来ること。あと、本当に日本をツアーするっていうのは大きな目標だね。このアルバムをリリースしたら、アメリカとヨーロッパでツアーをやる予定なんだけど、日本に関しては東京が出来るかなっていう状況で......。本当はさっきも言ったように、いろんなところでライヴをやりたいんだけど、何かそのためのアイデアとかってないかな?

坂本:僕はライヴやってないのであれですけど、精力的にライヴやってるいいバンドと友だちになって、車に乗せてもらって、ギター持って、やればいいと思います。

一同:(笑)

でもそれはメディアが頑張らなくていけない部分でもあると思うので、僕も頑張ります!

坂本:ちなみに『リサンドレ』の日本盤出るんですか?

〈よしもとアール・アンド・シー〉さんから出ます。

坂本:じゃあレーベルの人がブッキングしてくれますよ。

クリストファー:やらせます!!

本当に今日のこの対談が、お互いの何かのきっかけになればといいなーと、素直にそう思います。僕は坂本さんのライヴにも期待していますので。

坂本:ああ、そうですか。

クリストファー:とにかく僕はこのアルバム(『幻とのつきあい方』)の大ファンだから、いつか「僕と一緒にやりませんか?」って本当に連絡するかもしれないけど、そのときはよろしくお願いします!

坂本:あ、はい(笑)。

最後に何か言いたいことありますか?

クリストファー:えっと、坂本さんと一緒に写真撮っていいかな(笑)?

一同:(笑)


 坂本慎太郎の独特な間合い、滅多に表情を変えない、独特な佇まいと、初恋の人に会うようなクリストファー・オウエンスのあからさまにウキウキしている感じとの対照的なふたりが面白かった。あらためて、良い音楽は国境を越えることを知った。
 最後に、クリストファー・オウエンスの傑作『リサンドレ』についても触れておこう。インタヴュー中の彼の表情にも、自由を手に入れた嬉しさと自信が垣間見れたが、『リサンドレ』は、本当にトレンドなど無視して作った、ただの、素晴らしいポップ・アルバムだ。「さあまたはじめよう、前に進まなくちゃ」と、"ヒア・ウィ・ゴー・アゲイン"からはじまる『リサンドレ』は、対談中でも触れているように、女の子との出会いと別れが描かれている。セルジュ・ゲンズブールの『メロディ・ネルソンの物語』のようなフィクションが語る真実がある。

 個人的に2012年は本当にいろんなことがあった。大学を正式に辞めて、イヴェントやって、糞みたいなバイトで貯めたお金でアメリカ行って、上半期は本当に活動的だった。下半期は何もやらなかった。僕も前に進まなくちゃ。そう思っているあなたも、ぜひ『リサンドレ』を手にとって聴いて欲しい。彼は、2013年はあなたの街のライヴハウスにもやって来るかもしれないし。

 撮影が終わってもふたりは名残惜しむように話している......。「今度は新宿のゴールデン街で飲みながら話しましょう」と坂本慎太郎。クリストファーも目をキラキラさせながら「いいね」と言う。「それか、思い出横町とか」、「うんうん」とクリストファー......。編集長にあとで聞いたら、この手の対談で、ちゃんと質問までメモってくるような人はわりと珍しいとのこと。お互いのリスペクトがわかる、良い雰囲気の良い対談だった。

 そんわけで、2013年も音楽を聴きまくりましょう!

interview with Darkstar - ele-king

E王
Darkstar - News From Nowhere
Warp/ビート

Amazon

 公園のベンチに座るのが好きだ。色や匂いが違う。ただそれだけのことだが、ダークスターの『ニュース・フロム・ノーウェア』はその感覚を押しひろげているように感じる。その点で言えば、ビーチ・ハウスの『ティーン・ドリーム』を思わせる。USインディ音楽のドリーム・ポップがUKの湿った土壌で醸成されたというか、いずれにせよ、この音楽にはもうUKガラージやダブステップの記憶はほとんどない。

 ダークスターは、2009年末、〈ハイパーダブ〉からの12インチ・シングル「エイディーズ・ガール・イズ・ア・コンピュータ」によって大々的な注目を集めている。当時はふたり組だったが、その後3人組となった。後から加入したジェイムス・バッテリーはヴォーカリストだ。彼が入る前の「エイディーズ・ガール・イズ~」や「ニード・ユー」は、初音ミクよろしくコンピュータのソフトウェアが歌っている。
 2009年といえば、ダブステップが多様化を極めようとしていた時期だ。ブリアルの影響下でマウント・キンビーやジェームズ・ブレイクが登場、あるいはラマダンマンやSBTRKT、ジョイ・オービソンらが頭角を現していたが、ダークスターのエイデン・ウォーリーとジェイムス・ヤングは他の誰とも違ったアプローチを見せた。それは、ちょっとクラフトーク風の、ロボティックなシンセ・ポップだった。そして、3人組となって録音、2010年の秋にリリースされたデビュー・アルバム『ノース』では、明らかに、がつんと、バッテリーの甘い歌声を活かした楽曲を披露した。それはイングランド北部の喪失感をえぐり出すような、暗く寒い音楽だった。
 しかし、『ノース』は素晴らしいアルバムでもあった。90年代の〈モワックス〉からDJシャドウが、あるいはアイルランドからデヴィッド・ホームズが出てきたときのようなイメージと重なる。憂鬱が今世紀のクラブ・サウンドのなかで見事に音像化されている。いわば灰色の魅力だ。
 対して2年ぶりのセカンド・アルバム──〈ワープ〉移籍後の最初のアルバムとなる『ニュース・フロム・ノーウェア』は、前作以上に、多彩なテクスチャーを見せている。アルト・ジェイの電子版とでも形容できそうな、聴き応え充分のアルバムだ。たとえばこの曲とか。



最初にたまたま作った音楽がダブステップだったっていうのはあるけど......でもいつももうちょっとメロディのある歌ものを作っていたんだ。

そもそもダークスターという名前はどこから来たんですか? 

ジェイムス・ヤング:ダークスターという名前は......なんだろう、ダークな感じっていうだけなんだけど......。最初は『ダークスター』っていうレコードから名前をとったんだ。それで『ダークスター・ヒューマノイド』っていうのにしようと思ってたんだけど、変な名前だなーと思って短くしたんだよ。

オリジナル・メンバーのふたり(エイデン・ウォーリーとジェイムス・ヤング)はどうして出会ったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:もともと僕とジェイムス(Buttery)は友だちだったり、みんなバンドをやってたり、そして全員同じロンドンの大学に通う仲間だった。僕とジェイムス(Young)は当時同じ寮に住んでたりもした。それでジェイムス・ヤングと一緒にダークスターをはじめて、その後ジェイムス・バッテリーも誘って一緒にやりはじめたんだ。ロンドンの東にあるハックニーを拠点に音楽を制作しはじめて、それでいくつか曲ができはじめたって感じで、自然にはじまったっていう感じだね。

ダークスターにはいろんな音楽からの影響を感じますが、音楽をやりはじめたきっかけは、やはりダブステップだったんでしょうか? それとも、別の契機があって作っていたところに、たまたまダブステップが流行っていたから乗ったんでしょうか?

ジェイムス・ヤング:まぁ最初にたまたま作った音楽がダブステップだったっていうのはあるけど......でもいつももうちょっとメロディのある歌ものを作っていたんだ。

ジェイムス・バッテリー:僕たちはいろんな音楽を聴くんだ。もちろんエレクトロニック・ミュージックはたくさん聴くけど、バンドの音楽も聴くし。僕たちはいろいろなものを聴くから"コレ"っていうものにカテゴライズできないと思うよ。もちろんダブステップからはじまってその上にいろいろな音楽の要素が乗ってる感じだね。

〈2010 Records〉は自分たちの自主レーベルだったんですよね? 初期のシングルはダブステップのスタイルでしたが、2007年当時は誰からの影響が強かったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:そうだよ、自分たちを表現するためにもいいかなと思ってさ。さっきも話したけど、最初はダブステップからはじまったけど、僕たちはいろいろなジャンルの音楽を聴くし、とくにカテゴライズしてないと思うよ。

それが2008年に〈ハイパーダブ〉から出した「Need You」あたりから変わっていきますよね。そして2009年の「Aidy's Girl Is A Computer」でいっきに変化を遂げる。実は僕は「 Aidy's Girl Is A Computer」が最初だったんですけど、聴いて一発で好きになりました。ダークスターを語るうえで逃せない重要なシングルだと思いますが、当時、ここで音楽性がいっきに拡張して、ダブステップとは別の方向性を見せた理由は何にあったのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:たぶんここ最近の作品は「Aidy's Girl Is A Computer」の手法と同じように作っているからそういう印象を受けるのかもしれないね。とにかくそのとき考えたのは、最高に面白いものを作るってことだったしね。曲を作るときに気をつけたのはバランスだ。エレクトロニック・ミュージックのなかでヴォーカルとダンス・ミュージックの要素を上手くバランスを取って取り入れることが重要だと思うんだ。だからある意味僕たちにとってはチャレンジすることがまだたくさんある。

そしてジェイムス・バッテリーが加入して『ノース』が生まれました。歌が必要なだけならシンガーをゲストで入れれば済む話ですが、敢えてヴォーカリストをメンバーとして入れた背景には何があったのでしょうか? 言葉を必要としたということなのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:もっと「歌」を書きたいと思ったからっていうのはあるかな。「歌」があったほうがもっといろいろなチャレンジできるしね。

[[SplitPage]]

イースト・ロンドンのフラットで作ってたんだけど、けっこう荒んだエリアでね......。街ではいつもいろんなことが勃発してて、だからなんとなくそのときのことが反映されていて、エモーショナルで悲しい感じが出ているよね。

『ノース』が生まれた背景にはあなたのどんな思いがあったのか教えてください。そもそもあのとき、何故『ノース』という題名に決めて、インダストリアルな写真をデザインしたのでしょう? 

ジェイムス・バッテリー:基本的にイースト・ロンドンのフラットで曲を作っていたんだけど、8~9カ月くらい制作に時間を費やしたんだけど......いろんな曲を試したし、とくに変わったことをしたわけではなく、通常通りの曲作りをしていたね。正直そのとき自分たちに出来るベストなアルバムを作ろうっていう、ただそれだけだった。
 アルバム・タイトルについては、最後の最後まで決まらなくて、どうすればいいのか迷ってたんだけど、すごくアグレッシヴな"North"っていう曲があって、なんとなくアルバム全体を表しているような気もしたし、僕たち全員北部(ノース)の出身だから、それも意味を成してていいかなって思ったんだ。アートワークについては〈モー・ワックス〉の初期っぽい感じにした。

『ノース』のメランコリーや喪失感はあなた個人の抱えている問題でしょうか? それとも社会の反映なんですか?

エイデン・ウォーリー:イースト・ロンドンのフラットで作ってたんだけど、けっこう荒んだエリアでね......。街ではいつもいろんなことが勃発してて、だからなんとなくそのときのことが反映されていて、エモーショナルで悲しい感じが出ているよね。

ジェイムス・バッテリー:なんかこうやって前のアルバムを振り返るとそのとき気づかなかった点に気づいて、それはそれで面白いよね。そう思うと、最初に作ったアルバムって本当に小さな箱のなかで作業しているような、本当に狭い世界で出来あがったものだなって思うよ。でも僕たちはこの環境にしてはとても恵まれていると思うし、成功しているほうだと思うよ。

『ニュース・フロム・ノーウェア』は『ノース』よりも緻密に、手間暇をかけて作られていますね。音響の処理や録音も素晴らしかったです。まずはこのアルバムの制作に時間のかかった理由から伺います。それは技術的な問題からなのでしょうか、あるいは作品の方向性を決めるうえで慎重な議論を要したからでしょうか?

エイデン・ウォーリー:6~8ヶ月くらい?

ジェイムス・ヤング:まぁ、たくさん時間をかけて作った分、いろんなヴァージョンの曲も出来あがってるから、けっこうな曲数になってると思うね。

ジェイムス・バッテリー:でもマスターテープを作る作業から入れたら11か月くらいかかってない? それに僕が入院してたせいで作業が思うように進まなくて......。

どうしたんですか?

ジェイムス・バッテリー:この家の塀から落ちて背中を打ったんだよ。まだ重いものは持てないけどだいぶ治ってきているから、いまは大丈夫なんだけどね。でも、いいのか悪いのか、おかげで制作期間が延びたことで落ちついて、いろんなことができたのはあった。一回作ったものに対してひと呼吸おいて考えることができるというか。
 まぁ、とくに僕はしばらく寝たきりだったから、個人的には時間がたくさんあった。で、いろいろ考えられたんだけどね(笑)。いまはまたこうやって歩けるようにもなったし、元気になってから3~4曲出来あがったしね。

『ニュース・フロム・ノーウェア』はフィクションですか? 

ジェイムス・バッテリー:つねに「真実」は隠されていると思うけど......でも基本的にはフィクションだね。

エイデン・ウォーリー:リチャード・フロンビーとのレコーディングのあとで、どういうタイトルにすべきかっていう話になったんだ。そのときにアルバムにフィットする言葉じゃないかっていうことで、これにした。

アレンジを凝りつつ、アンビエント・テイストも深めていますよね。1曲目の"Light Body Clock Starter"もそうですが、続く"Timeaway"もそうだし。ビートが際立ってくるのは3曲目の"Armonica"からだし。

エイデン・ウォーリー:アンビエント? それはちょっと違うような気がするなぁ。自分たちとしては、もっとエネルギッシュだと思うし、アンビエントの要素はないように思うんだけどな。前のアルバムよりずっとエネルギッシュだし、ライヴではそれがより顕著に出るしね。

ジェイムス・バッテリー:アンビエントというより、オプティミスティックということだと思う。アルバム全体がいろんな音楽のコレクション的な感じになってるからね。なんていうの? スナップショットの集まりみたいな感じだと思うよ。

たとえば"Armonica"には『ノース』にはなかった気さくさがありますよね。この曲は何について歌っているのでしょうか?

ジェイムス・バッテリー:これはアルバムの最後のほうでレコーディングされた曲なんだ。この曲はとても変な作り方をしたんだよ。僕はクイーンズ・オブ・ザ・ストーンエイジを聴いていて、この曲をアコースティックギターで作った。そしてそれをそのままレコーディングに使って、曲を仕上げていった感じ。だから他の曲ともちょっと毛色が違うかも。いつもなんとなく成行きに身を任せて曲を仕上げていくと、それがいい方向に転がることが多いしね。

"A Day's Pay For A Day's Work"もとても魅力的なメロディの曲で、ダークスターなりのポップ・ソング的なところもある曲だと思います。これは何についての曲なのでしょうか?

エイデン・ウォーリー:今回のアルバムでは、制作とレコーディングのために田舎の一軒家を借りて、そこでライティングをはじめたんだけど、その曲は、家に引っ越す前からライティングをスタートしていた唯一の曲なんだよ。クラシックでありながらも、前進したメロディ・スタイルを持った曲。アルバムのためのデモはたくさんあったんだけど、そのなかでも、レコーディングの間中ずっと完成せずにつねに考えていたのがこの曲なんだ。曲のなかのある部分がいつまでたってもしっくりこなくてね......最後の2、3週間でやっと新しいコーラスを書いて仕上げた。作りはじめたときに感じた曲の可能性に、最後の最後で達成することができた。可能性があることは最初からわかってたんだけど、それをずっと形に出来ずにいたんだ。
 これはオールドファションなポップ・ソングだよね。最初にそれを感じたから、それに従ったほうが良いと思ってね。最後にコーラスができたときは本当にハッピーだったよ。

曲自体の内容はどういったものなのでしょう?

エイデン・ウォーリー:曲の内容は......幸というか......うーん、何ていったらいいかな。クールになることにとらわれていないこととか、自分は自分っていう内容だよ。ありのままの自分にハッピーで、いまの自分でいることでリラックスできてるってこと。気取ったり無理しなくても自分自身でいながら、そのなかに何か良い部分があればそれでいいって感じの内容だね。

とてもUKらしい音楽だと思ったんですが、たとえばシド・バレットや66~7年のジョン・レノンのようなサイケデリック・ロックのシンガー・ソングライターへの共感はありますか? またそうした要素を今回のアルバムで取り入れたいと思いましたか?

エイデン・ウォーリー:そういう音楽って、すごく影響力のある音楽だと思う。3人ともビートルズを聴くし、ピンク・フロイドも聴くし......ジョン・レノンもシドも、ヴォーカル&ピアノ、ボーカル&ギターっていう音楽がすごく上手いよね。彼らの曲を聴けば、感情がうまく表現されてるから、そういったものを思い出すんだ。彼らはふたりとも素晴らしいソングライターだし、評価してるし、たくさん聴いてもいる。だから、それが音楽に反映されてることはあるかもしれないね。共感があるから。

ジェイムス・バッテリー:そもそも僕たちの楽曲制作のアプローチの仕方が彼らに近いと思うんだよね。彼らの音楽に影響を受けたというよりも、何か面白くて新しいものを作るっていう点において共通しているところはあるかもしれないね。もしビートルズやピンク・フロイドからまったく影響を受けずに生きられるのなら、岩の下とか洞窟とか人が生活する環境から遠く離れて隔離された場所にいないと無理だと思うんだ。とくに僕たちイギリス人にとっては生活やカルチャーのなかに組み込まれているものだからね。

今回のアルバムのなかにそういう要素は含まれていると思いますか?

エイデン・ウォーリー:どうだろうね。意識的には何もしてないから。でもないとも言えないよ。僕たちがこのアルバムでやったのは、ただナイスなアイディアを出しあって、そこから全員一致で好きなものを集めて、そのアイディアに境界線は引かなかったってことだけ。もし誰かが本当にナイスでスローなクラシックなポップ・ソングのアイディアを持ってきたとしたら、みんなでその曲に何度も取り組んで、自分たちのサウンドを構築していく。僕たちは、何に対してもノーとは言わないんだ。それが良いアイディアで良いサウンドだったらプレイする。もしそのアイディアとサウンドが機能したら、それは大切なことだから、絶対に活かさないとね。

[[SplitPage]]

3人ともビートルズを聴くし、ピンク・フロイドも聴くし......ジョン・レノンもシドも、ヴォーカル&ピアノ、ボーカル&ギターっていう音楽がすごく上手いよね。

"Young Heart's"の悲しみはどこから来るのでしょうか? 

エイデン・ウォーリー:"Young Heart's"は、他人をリファレンスにした曲のひとつなんだ。自分じゃなくて、誰か他の人やその人のシチュエーションとかを題材にした。考えてみれば、アルバムのなかではそういうのってこの曲だけなんじゃないかな。ジェイムス・ヤングがほとんどの曲を書いたんだ。で、全員でその歌詞にいろいろとアイディアを加えていった。でもメインで書いたのはジェイムスだよ。
 アルバムに収録された曲をいまよく考えてみると、『ノース』でやったことに近い曲のような気がする。この曲は、他人のシチュエーションに関して語っている、他人のストーリーなんだ。悲しみは、たぶんそのストーリーから来てるんじゃないかな。ある女の子が恋人から捨てられるんだ。その恋人は彼女よりちょっと年上で、尊敬していた人。でも、彼女はおいてきぼりにされるんだ。こういうのってけっこう多くの人に起こることだよね。ノース・イングランドでもよくあるんだ。年上の魅力的な男と付き合ったけど最終的には最低な奴で、それを後悔する、みたいなことがね。
 すごく悲しいフィーリングだと思う。それに、ジェイムスの歌い方がすごく感情的なんだ。クールな曲だよ。彼のファルセットの声がすごくソフトでデリケートなんだ。これは最初の時点で「レコードに入るな」って確信した曲。アルバムの残りの曲は、もっと楽観的なフィーリングをもってるんだけど、これは違うんだ。

ジェイムス・バッテリー:僕にとって歌うことは「演じる」ことと同じなんだ。歌うときはとにかく深く自分の体験などを思い出してそのことに没頭するようにして、感情をうまく出せるように努めているよ。それにヨークシャーの風景は切なくてメランコリックな感触がにじみ出ていて、とくに秋は傾向が強くて人びとの仕事に影響を与えていると思うよ。実はこの曲のモチーフはテレビ・ドラマで『This is England』(2009年には日本でも公開されたスキンヘッズの映画のテレビ・ドラマ版。監督はストーン・ローゼズのドキュメンタリーを撮っている)っていうのがあってそこから来ているんだけど......そのドラマの父娘の関係性を描いているのがこの歌の歌詞だよ。ヨークシャー(英国北部の地域)のスラスウェイトはハワースからそんな遠いし、ブロンテ姉妹(ヴィクトリア時代を代表する小説家姉妹)が住んでいた場所だしね。湖に何かいるのかもね......。

"Amplified Ease"なんかとてもユニークな曲ですが、言葉の意味よりも音を重視しているということでもあるのでしょうか?



ジェイムス・ヤング:特別そういうわけではないよ。サウンドって人の気を引く最初のものだと思うから、僕たちは曲にいい雰囲気を盛り込めるように細心の注意を払っているんだ。できるだけ音にも歌詞にも出来るだけ意味を込めるようにしているんだ。ヴォーカルに関してはいつもこういう録り方をしているから、僕たちにとってはとくに目新しいものでないよ。歌詞はいつももっとチャレンジングなものだよね。歌詞は音より主観的になりやすい傾向にあるから難しいよね。歌詞に関しては曲と同じくらいの時間を費やしたからどちらも同じくらい重視しているよ。

エイデン・ウォーリー:トラックによるかも。ヴォーカルのサウンドと他の音が影響し合って良い音が生まれるっていうのは、すごく意味のあることなんだ。もちろん、ときには歌詞は何かを意味してなければいけないし、僕たち全員がその歌詞の内容にたいしてしっくりこないといけない。でもときに、その曲にとっては歌詞がそこまで大切じゃないこともあるんだ。君が言ったトラックは、まさにそういうトラックなんだけど、そのふたつの曲は、音楽で機能してるんだ。歌詞が良いっていうのももちろん大切だけど、控えめでもいいんだよ。つねにハイエンドである必要はないと思うしね。音楽そのものが曲のフィーリングを作って表現していることもあるし。僕たちは、ヴォーカルを音として、つまり楽器として使うことがあるっていうことさ。

ちなみに"Bed Muisc-North View"という曲名の「North View」という言葉にはどんな意味があるのですか?

ジェイムス・ヤング:「North View」というのは僕たちが西ヨークシャーでレコーディングのときに住んでいた家に関係あるんだけど......この家の名前が「North View」だった。

エイデン・ウォーリー:そう、アルバム制作のために借りて住んでた家の名前が、偶然にも「North View」だったんだよ。北を見渡せる家だったんだ。住むまでそんな名前だなんて知らなかったからビックリだったよ。で、ジェイムス・バタリーがレコーディング中にその家で背中を怪我したんだ(笑)。壁からおちて、背中を折ったんだよ。マジな話(笑)。あと2週間でレコーディングが終わるってときで、その夜にちょうどプロデューサーのリチャードと、もうちょっと(レコーディングに)時間が必要だなっていう話をしてたところだったんだ。
 その話をしたあと〈ワープ〉の人たちと何杯か飲みにいって、それからジェイムスが機材をもって家に帰ったら、それが重かったか取ろうとしたかで壁からおちて怪我しちゃってさ......もっと時間が必要って話してる矢先にそんなことが起きて、10週間もプラスで必要になったんだ(笑)。
 もちろんそれは不幸な出来事だったんだけど、彼は今完全に元気。まあ、背は少し低くなったけどね(笑)。それ以外は大丈夫だし、しかもその出来事が、3つのトラックを置き換える新たなチャンスをもたらしたんだ。アルバムに入るはずだったけど、自分たちがしっくりきてなかった3曲をね。"Bed Muisc"は、ジェイムスがその怪我をしてるときにベッドで書いた曲なんだ(笑)。バック・ブレース(背中を固定するもの)をつけながらね(笑)。次のアルバム制作のときも何が起こるかわからない。全員が転んだりしてね(笑)。

アンディ・ストットやレイムのようなインダストリアル・ダブな感覚には共感がありますか? 

ジェイムス・ヤング:とくにないかな。僕はどっちも好きだけどね。

エイデン・ウォーリー:共感で言えば、アンディ・スコットに対してはたぶんあるかも。彼の音楽は好きだし、すごく面白い音楽だと思うから。あの質感が好きなんだ。彼の曲もたくさん聴くけど、でも......ブリアルのほうが僕にとってはビッグ・アーティストだよ。『ノース』の前に12インチなんかを書いてた頃は、彼の音のパレットの素晴らしさに圧倒されていたよ。でも、そういうのを敢えて自分の音楽に取入れようとしてたわけじゃないけどね。

ダーク・アンビエントな感覚に対して興味はありますか?

エイデン・ウォーリー:ないね。そういうのはそこまで聴かないから。いくつかは聴くけど、ライティングで影響を受けるまでじゃない。エイフェックス・ツインみたいなアンビエントの一部はすごく良いと思うけど。彼のダークでアンビエントな作品のいくつかは素晴らしいと思う。だから聴きはするけど、意識的にそれをどうこうするっていうのはないね。自分たちの音楽には、もっと前向きなフィーリングが流れてるから。

フランク・オーシャン、ハウ・トゥ・ドレス・ウェル、エジプシャン・ヒップホップのなかではどれがいちばん好きですか?

エイデン・ウォーリー:フランク・オーシャンのファースト・アルバム。理由は、そのアルバムがとにかく素晴らしいから。すごく新鮮だし、良いヴァイブを持ってる。エナジーもすごいし、生まれたままのサウンドだよね。プロダクションがそうなんだ。でも同時に洗練されてもいて、ヴォーカルとメロディも最高。他の二つは......正直ハウ・トゥ・ドレス・ウェルはそんなにファンじゃない。ときどき頭に音楽が流れるときはあるけどね。
 エジプシャン・ヒップホップはあまり聴いたことがないんだ。でも、今回のレコードのプロデューサーのリチャード・フォームビーが彼らと仕事している。リチャードからいつも彼らがクールで良いミュージシャンだって聴いてるよ。だから、これから聴いてみたいと思ってるんだよね。

それでは、ジェイク・バッグはいまのUKの若者の代弁者ですか?

エイデン・ウォーリー:正直ファンじゃないんだ(笑)。彼がそういう存在なのかはわからない。彼に対して他の人たちにはない魅力やビッグさは感じないなあ......わからない、コメントできないよ。あまり興味がなくて......(笑)。彼が新鮮だとは思わないだけ。彼がやってることは前に誰かがやってきていることだからさ。オリジナルじゃないから。

では、〈ワープ〉のアーティストでいちばん好きなのは誰ですか?

ジェイムス・ヤング:エイフェックス・ツインの影響を受けているのようなやつらがいちばん好きさ(笑)。

エイデン・ウォーリー:うーん......いちばんか......難しいな......誰だろう。マーク・ベルだな。彼の音楽は面白いし、良い人だし、アグレッシヴでインダストリアルなサウンドだと思うから。彼が参加したビョークの作品は本当に素晴らしいと思う。

2012 Top 20 Japanese Hip Hop Albums - ele-king

 2012年の日本のヒップホップ/ラップのベスト・アルバム20を作ってみました。2012年を振り返りつつ、楽しんでもらえれば幸いです!!

20. Big Ben - my music - 桃源郷レコーズ

 スティルイチミヤのラッパー/トラックメイカー、ビッグ・ベンのソロ・デビュー作。いま発売中の紙版『エレキング Vol.8』の連載コーナーでも紹介させてもらったのだが、まずは"いったりきたりBLUES"を聴いて欲しい。『my music』はベックの「ルーザー」(「I'm a loser baby so why don't you kill me?」)と同じ方向を向いている妥協を許さないルーザーの音楽であり、ラップとディスコとフォークとソウル・ミュージックを、チープな音でしか表現できない領域で鳴らしているのが抜群にユニークで面白い。

Big Ben"いったりきたりBLUES"

amazon

19. LBとOTOWA - Internet Love - Popgroup

 いまさら言う話でもないが、日本のヒップホップもフリー・ダウンロードとミックステープの時代である。ラッパーのLBとトラックメイカーのOTOWAが2011年3月にインターネット上で発表した『FRESH BOX(β)』は2ケ月の間に1万回以上のDL数を記録した。その後、彼らは〈ポップグループ〉と契約を交わし、フィジカル・アルバムをドロップした。「FREE DLのせいで売れないとか知ったこっちゃない/これ新しい勝ち方/むしろ君らは勉強した方がいいんじゃん?」(『KOJUN』 収録の「Buzzlin` 2」)と、既存のシーンを挑発しながら、彼らはここまできた。ナードであり、ハードコアでもあるLBのキャラクターというのもまさに"いま"を感じさせる。

amazon iTunes

18. Goku Green - High School - Black Swan

 弱冠16歳のラッパーのデビュー作に誰もが驚いたことだろう。そして、ヒップホップという音楽文化が10代の若者の人生を変えるという、当たり前といえば、当たり前の事実をリアルに実感した。money、joint 、bitchが並ぶリリックスを聴けばなおさらそう思う。そうだ、トコナ・XがさんぴんCAMPに出たのは18歳の頃だったか。リル・諭吉とジャック・ポットの空間の広いゆったりとしたトラックも絶妙で、ゴク・グリーンのスウィートな声とスムースなフロウがここしかないというところに滑り込むのを耳が追っている間に最後まで聴き通してしまう。

Goku Green"Dream Life"

amazon iTunes

17. Zen La Rock - La Pharaoh Magic - All Nude Inc.

 先日、代官山の〈ユニット〉でゼン・ラ・ロックのライヴを観たが、すごい人気だった! いま東京近辺のクラブを夜な夜な盛り上げる最高のお祭り男、パーティー・ロッカーといえば、彼でしょう。つい最近は、「Ice Ice Baby」という、500円のワンコイン・シングルを発表している。ご機嫌なブギー・ファンクだ。このセカンド・アルバムでは、ブギー・ファンク、ディスコ、そしてニュー・ジャック・スウィングでノリノリである。まあ、難しいことは忘れて、バカになろう!

Zen La Rock"Get It On"

amazon iTunes

16. Young Hastle - Can't Knock The Hastle - Steal The Cash Records

 ヤング・ハッスルみたいなユーモラスで、ダンディーな、二枚目と三枚目を同時に演じることのできるラッパーというのが、実は日本にはあまりいなかったように思う。"Spell My Name Right"の自己アピールも面白いし、日焼けについてラップする曲も笑える。ベースとビートはシンプルかつプリミティヴで、カラダを震わせるように低音がブーッンと鳴っている。そして、キメるところで歯切れ良くキメるフロウがいい。もちろん、このセカンド・アルバムも素晴らしいのだけれど、ミュージック・ヴィデオを観ると彼のキャラクターがさらによくわかる。2年前のものだけど、やっぱりここでは"V-Neck T"を。最高!

DJ Ken Watanabe"Hang Over ft.Young Hastle, Y's, 十影, Raw-T"

amazon iTunes

15. MICHO - The Album - self-released

 フィメール・R&Bシンガー/ラッパー、ミチョのミックステープの形式を採った初のフル・アルバム。凶暴なダブステップ・チューン「Luvstep(The Ride)」を聴いたとき、僕は、日本のヤンキー・カルチャーとリアーナの出会いだとおののいた。さらに言ってしまえば......、ミチョに、初期の相川七瀬に通じるパンク・スピリットを感じる。エレクトロ・ハウスやレゲエ、ヒップホップ/R&Bからプリンセス・プリンセスを彷彿させるガールズ・ロックまでが収められている。ちなみに彼女が最初に発表したミックステープのタイトルは『恨み節』だった。凄まじい気合いにぶっ飛ばされる。

Download

14. D.O - The City Of Dogg - Vybe Music

 田我流の『B級映画のように2』とはまた別の角度から3.11以降の日本社会に大胆に切り込むラップ・ミュージック。D.Oは、「間違ってるとか正しいとか/どうでもいいハナシにしか聞こえない」("Dogg Run Town")とギャングスタの立場から常識的な善悪の基準を突き放すものの、"Bad News"という曲では、「デタラメを言うマスコミ メディア/御用学者 政治家は犯罪者」と、いち市民の立場からこの国の正義を問う。"Bad News"は、震災/原発事故以降の迷走する日本でしか生まれ得ない悪党の正義の詩である。ちなみに、13曲中8曲をプロデュースするのは、2012年に初のアルバム『Number.8』)を完成させ、その活躍が脚光を浴びているプロダクション・チーム、B.C.D.M(JASHWON 、G.O.K、T-KC、LOSTFACE、DJ NOBU a.k.a. BOMBRUSH)のJASHWON。

D.O"悪党の詩"

amazon iTunes

13. Evisbeats - ひとつになるとき - Amida Studio / ウルトラ・ヴァイブ

 心地良いひと時を与えてくれるチルアウト・ミュージックだ。タイトルの"ひとつ"とは、世界に広く開かれた"ひとつ"に違いない。アジアに、アフリカに、ラテン・アメリカに。元韻踏合組合のメンバーで、ラッパー/トラックメイカーのエビスビーツは、4年ぶりのセカンドで、すべてを優しく包み込むような解放的な音を鳴らしている。彼にしかできないやり方でワールド・ミュージックにアプローチしている。鴨田潤、田我流、チヨリ、伊瀬峯之、前田和彦、DOZANらが参加。エビスビーツが自主でリリースしているミックスCDやビート集も素晴らしいのでぜひ。

Evisbeats"いい時間"

amazon iTunes

12. BRON-K - 松風 - Yukichi Records

 これだから油断できない。年末に、SD・ジャンクスタのラッパー、ブロン・Kのセカンド・アルバムを聴けて本当に良かった。こういう言い方が正しいかはわからないが、クレバの『心臓』とシーダの『Heaven』に並ぶ、ロマンチックで、メロウなラップ・ミュージックだ。ブロン・Kはネイト・ドッグを彷彿させるラップとヴォーカルを駆使して、日常の些細な出来事、愛について物語をつむいでいく。泥臭く、生々しい話題も、そのように聴かせない。オートチューンがまたいい。うっとりする。長い付き合いになりそうなアルバムだ。

BRON-K"Matakazi O.G."

amazon

11. Soakubeats - Never Pay 4 Music - 粗悪興業

 新宿のディスク・ユニオンでは売り切れていた。タワー・レコードでは売っていないと言われた。中野のディスク・ユニオンでやっと手に入れた。これは、トラックメイカー、粗悪ビーツの自主制作によるファースト・アルバムである。「人生、怒り、ユニークが凝縮された一枚」とアナウンスされているが、怒りとともにどの曲にも恐怖を感じるほどの迫力がある。 "ラップごっこはこれでおしまい"のECDの「犯罪者!」という含みのある叫び方には複数の意味が込められているように思う。シミラボのOMSBとマリア、チェリー・ブラウンは敵意をむき出しにしている。"粗悪興業モノポリー"のマイク・リレーは、僕をまったく知らない世界に引きずり込む。ちょっと前にワカ・フロッカ・フレイムのミックステープ・シリーズ『Salute Me Or Shoot Me』を聴いたときは、自分とは縁のないハードな世界のハードな音楽だと思っていた。このアルバムを聴いたあとでは、音、態度、言葉、それらがリアリティを持って響いてくる。そういう気持ちにさせるショッキングな一枚だ。

粗悪興業公式サイト

10. AKLO - The Package - One Year War Music / レキシントン

 「カッコ良さこそがこの社会における反社会的/"rebel"なんです」。ヒップホップ専門サイト『アメブレイク』のインタヴューでアクロはそう語った。アクロが言えば、こんな言葉も様になる。2012年に、同じく〈One Year War Music〉からデビュー・アルバム『In My Shoes』を発表したSALUとともに、ひさびさにまぶしい輝きを放つ、カリスマ性を持ったトレンド・セッターの登場である。日本人とメキシコ人のハーフのバイリンガル・ラッパーは初のフィジカル・アルバムで、最高にスワッグなフロウで最新のビートの上をハイスピードで駆け抜ける。では、"カッコ良さ"とは何か? 最先端のUSラップを模倣することか? その答えの一つがここにある。

AKLO"Red Pill"

amazon iTunes

9. ECD - Don't Worry Be Daddy - Pヴァイン

 このアルバムのメッセージの側面については竹内正太郎くんのレヴューに譲ろう。"にぶい奴らのことなんか知らない"で「感度しかない」とリフレインしているように、ECDは最新のヒップホップの導入と音の実験に突き進んでいる。そして、このアヴァン・ポップな傑作が生まれた。イリシット・ツボイ(このチャートで何度この名前を書いただろう)が、サンプリングを大幅に加えたのも大きかったのだろう。USサウスがあり、ミドルスクールがあり、エレクトロがあり、ビッグ・バンド・ジャズがあり、"Sight Seeing"に至ってはクラウド・ラップとビートルズの"レヴォリューション9"の出会いである。

amazon iTunes

8. Kohh - Yellow T△pe - Gunsmith Productions

 Kohh & Mony Horse"We Good"のMVを観て、ショックを受けて聴いたのがKohhのミックステープ『Yellow T△pe』だった。「人生なんて遊び」("I Don`t Know")、「オレは人生をナメてる」("Certified")とラップする、東京都北区出身の22歳のラッパーのふてぶてしい態度は、ちょっといままで見たことのないものだった。しかし、ラップを聴けば、Kohhが音楽に真剣に向き合っているアーティストであることがわかる。シミラボの"Uncommon"のビートジャックのセンスも面白い。また、"Family"では複雑な家庭環境を切々とラップしている。"Young Forever"でラップしているのは、彼の弟でまだ12歳のLil Kohhだ。彼らの才能を、スワッグの一言で片付けてしまうのはあまりにももったいない。

Boot Street Online Shop

7. Punpee - Movie On The Sunday Anthology - 板橋録音クラブ

 いやー、これは楽しい! パンピーの新曲12曲とリミックス3曲が収録された、映画をモチーフにしたミックスCDだ。パンピーのポップ・センスが堪能できる。"Play My Music"や"Popstar"では、珍しくポップな音楽産業へのスウィート・リトル・ディスをかましている。そこはパンピーだから洒落が効いている。もうこれはアルバムと言ってもいいのではないか。ただ、このミックスCDはディスク・ユニオンでの数量限定発売で、すでに売り切れているようだ。ポップ・シーンを揺るがす、パンピーのオリジナル・ソロ・アルバムが早く聴きたい!

diskunion

6. ERA - Jewels - rev3.11( https://dopetm.com/

 本サイトのレヴューでも書いたことだけれど、この作品はこの国のクラウド・ラップ/トリルウェイヴの独自の展開である。ドリーミーで、気だるく、病みつきになる気持ち良さがある。イリシット・ツボイがプロデュースした7分近い"Get A"が象徴的だ。"Planet Life"をプロデュースするのは、リル・Bにもトラックを提供しているリック・フレイムだ。エラの、ニヒリズムとデカダンス、現実逃避と未来への淡い期待がトロリと溶けたラップとの相性もばっちりだ。インターネットでの配信後、デラックス版としてCDもリリースされている。

ERA feat. Lady KeiKei"Planet Life"

amazon

5. 田我流 - B級映画のように2 - Mary Joy Recordings

 「ゾッキーヤンキー土方に派遣/893屋ジャンキーニートに力士/娼婦にキャバ嬢ギャルにギャル男 /拳をあげろ」。ECDを招いて、田我流が原発問題や風営法の問題に真正面から切り込んだ"STRAIGHT OUTTA 138"のこのフックはキラーだ。これぞ、まさにローカルからのファンキーな反撃! そしてなによりも、この混迷の時代に、政治、社会、個人、音楽、バカ騒ぎ、愛、すべてに同じ姿勢と言葉で体当たりしているところに、このセカンド・アルバムの説得力がある。ヤング・Gのプロデュースも冴えている。まさに2012年のラップ・ミュージック!

田我流 "Resurrection"

amazon iTunes

4. キエるマキュウ - Hakoniwa - 第三ノ忍者 / Pヴァイン

 キエるマキュウは今作で、ソウルやファンクの定番曲を惜しげもなく引っ張り出して、サンプリング・アートとしてのヒップホップがいまも未来を切り拓けることを体現している。そして大の大人が、徹底してナンセンスとフェティシズムとダンディズムに突っ走った様が最高にカッコ良かった。「アバランチ2」のライヴも素晴らしかった! ここでもイリシット・ツボイのミキシングがうなりを上げ、CQとマキ・ザ・マジックはゴーストフェイス・キラーとレイクウォンの極悪コンビのようにダーティにライムする!

amazon iTunes

3. MC 漢 & DJ 琥珀 - Murdaration - 鎖GROUP

 ゼロ年代を代表する新宿のハードコア・ラップ・グループ、MSCのリーダー、漢の健在ぶりを示す事実上のセカンド・アルバムであり、この国の都市の暗部を炙り出す強烈な一発。漢のラップは、ナズやケンドリック・ラマーがそうであるように、ドラッグや暴力やカネや裏切りが渦巻くストリート・ライフを自慢気にひけらかすことなく、クールにドキュメントする。鋭い洞察力とブラック・ユーモアのセンス、巧みなストーリー・テリングがある。つまり、漢のラップはむちゃくちゃ面白い! 漢はいまだ最強の路上の語り部だ。長く現場を離れていたベスの復帰作『Bes Ill Lounge:The Mix』とともに、いまの東京のひとつのムードを象徴している。それにしても、このMVはヤバイ......。

漢"I'm a ¥ Plant"

amazon iTunes

2. QN - New Country - Summit

 QNは、この通算三枚目を作る際に、トーキング・ヘッズのコンサート・フィルム『ストップ・メイキング・センス』から大きなインスピレーション受けたと筆者の取材で語った。そして、ギター、ドラム、シンセ、ベース、ラッパーといったバンド編成を意識しながら作り上げたという。ひねくれたサンプリング・センスや古くて新しい音の質感に、RZAのソロ作『バース・オブ・ア・プリンス』に近い奇妙なファンクネスがある。そう、この古くて新しいファンクの感覚に未来を感じる。そして、今作に"新しい国"と名づけたQNは作品を作るたびに進化していく。

QN "Cheez Doggs feat. JUMA"

amazon iTunes

1. OMSB - Mr."All Bad"Jordan - Summit

 凶暴なビート・プロダクションも楽曲の構成の独創的なアイディアも音響も変幻自在のラップのフロウも、どれを取っても斬新で面白い。こりゃアヴァンギャルドだ! そう言いたくなる。トラックや構成の面で、カニエ・ウェストの『マイ・ビューティフル・ダーク・ツイステッド・ファンタジー』とエル・Pの『Cancer for Cure』の影響を受けたというが、いずれにせよOMSBはこの国で誰も到達できなかった領域に突入した。そして、またここでもミックスを担当したイリシット・ツボイ(2012年の裏の主役!)の手腕が光っている。シミラボのラッパー/トラックメイカーの素晴らしいソロ・デビュー作。

OMSB"Hulk"

amazon iTunes

 さてさて、以上です。楽しめましたでしょうか?? もちろん、泣く泣くチャートから外したものがたくさんあります。いろいろエクスキューズを入れたいところですが......言い訳がましくなるのでやめましょう! 「あのアルバムが入ってねえじゃねえか! コラッ!」という厳しい批判・異論・反論もあるでしょう。おてやわらかにお願いします!

 すでにいくつか、来年はじめの注目のリリース情報が入ってきています。楽しみです。最後に、宣伝になってしまって恐縮ですが、ここ10年弱の日本のヒップホップ/ラップをドキュメントした拙著『しくじるなよ、ルーディ』も1月18日に出ます。2000年から2012年のディスク・レヴュー60選などもつきます。どーぞ、よろしくお願いします!

 では、みなさま良いお年を!!!!

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431