「Ord」と一致するもの

interview with Shugo Tokumaru - ele-king


トクマルシューゴ
In Focus?

Pヴァイン

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 素敵なメロディのポップ・ミュージックとして気軽に楽しむこともできるし、次々に変化していく緻密な音の組み合わせや謎めいた歌詞をじっくり味わうこともできる。トクマルシューゴの『イン・フォーカス?』はそんなアルバムだ。
 80年代末から90年代の前半にかけて、既成の音楽の要素をサンプリングして再構成する作り方が広まったとき、編集感覚という言葉が脚光を浴びた。しかし既成の要素を再構成するだけでは、批評的な機能は果たせても、新しい音楽は生まれにくい。方法のいかんにかかわらず、創造的であるかないかを分かつのは、意識的にせよそうでないにせよ、作り手の音楽的意志の存在ではないのか。手法の目新しさが一段落したとき浮上してきたのは、やはりそのような伝統的な原則だった。
 とはいえ、いったん編集感覚を体験した後で、それ以前の世界に戻ることもできない。トクマルシューゴの音楽は、そんな時代の悩みと喜びの渦の中から登場してきた。
 制作や記録方法のデジタル化が進むにつれて、音楽の制作や流通でサーヴィスやおまけ化と、アート志向への分極が進んでいるが、彼の音楽はそのどちらでもない。彼は自分で楽器を演奏して多重録音するという、いまでは伝統的となった方法のひとつで音楽を作っている。『イン・フォーカス?』でも彼は世界のさまざまな文化から生まれたアコースティックな楽器を数多く演奏している。そこには響きが出会い、交錯しては、別れていく豊かな空間と時間がある。それでいて音楽全体はデジタルな時代の編集感覚に包まれているのだ。
 ぼくにとっては不思議なところをいっぱい持っている彼に会える機会をいただいて、話を聞いてきた。

自分のなかの世界に閉じこもって作っちゃっていたからかもしれないですが、曲たちが勝手に人格を持ちはじめたというか......キャラクターのように見えてきたんですね。それぞれの曲が自我とおのおのの意見を持つようになったという感覚が生まれてきて(笑)。

今回のアルバムのレコーディングはどんなふうにしてはじまったんでしょう?

トクマルシューゴ(以下トクマル):前作を2年半ほど前に作り終えて、そのあといろんな種類の曲をいっぱい作りたいなと思いまして。好きな音楽を聴き直して、こんな音楽をやりたいなというのをもういっかいあらためて試して、録りためていったという感じですね。そうやってはじまりました。コンセプトを決めて作ろう、と考えていたわけではなくて。わりとファースト・アルバムとか、初期のアルバムを作るような感覚に近いかもしれないです。

最近はデジタルの配信なども多くなってきていて、アルバム単位ではなくて楽曲単位で発表される方が増えていると思うんです。でも今回のアルバムは、1曲1曲もとても丁寧に作っていらっしゃいますが、間にインストの曲がはさまっていたり、エンディングも工夫があって、アルバムとしてのまとまりを意識されているのかなと。

トクマル:世代的には、まだ音楽はアルバムで聴くという習慣があったほうですし、性格的にもそうなんです。でも1曲単位で聴いたり、適当につまんできて聴いたりする時代でもあるのは事実なので、欲張りに(笑)、どちらにも対応したくなってしまいますね。1曲にもものすごく時間をかけて、1曲でも聴けるように。さらにアルバムにしたときにアルバムっぽくも聴こえる、っていうのが理想だとは思っていて。それを追求してるんですけど、まだまだ先は長いですね。

いやいや。バランスがとれていて素晴らしいなと思いますよ。曲順やアルバム・タイトルは、ある程度曲がたまってから決められたんですか。

トクマル:そうですね。そういうパターンが多いです。

その場合、たとえばこの曲を1曲めにしようとか、ここにインストゥルメンタルを入れようとかっていうのはどんなふうにして決まっていくんですか?

トクマル:そうですねえ......それが今回いちばん難しくって、曲を作りすぎたというのもあるんですけど、まずアルバムにしたときに聴きやすい時間――自分がいつもアルバムを聴いてちょうどいいなと思うくらいの時間なんですけど――に収めようとすると、だいたい15曲ぐらいかなと。それで、ほんとは歌ものとインストゥルメンタルを半々くらいで入れたかったんですけど、やってみるとあんまりうまくいかなくて、インストゥルメンタルが、歌もののあいだにちょっと挟むっていうアクセント的な扱いになってしまったところはあります。曲順は迷いながらですね。

インストゥルメンタルのほうも同時進行ですか?

トクマル:同時進行です。インストの楽曲の方ができる確率が高くて。「歌ものを作ろう」っていうふうにはやってなくて、インストっぽいかたちを作ってから歌を乗っけるほうが多いからかもしれないです。

タイトルの『イン・フォーカス?』というのは、「?」がついていますがこのタイトルに込められているのはどんなようなことなんでしょう。

トクマル:自分のなかの世界に閉じこもって作っちゃっていたからかもしれないですが、曲たちが勝手に人格を持ちはじめたというか......キャラクターのように見えてきたんですね。それぞれの曲が自我とおのおのの意見を持つようになったという感覚が生まれてきて(笑)。それで、見ているうちにそれらが揉めだすというか、争いだすというか......(笑)。それがなんか、現実世界と似たような感じになってきまして。ひとつの国ではないですが、たとえば日本とかアメリカとか、同じひとりの人間が作った曲なのにキャラクターがわかれて争いだして、けれどそれで成り立っているという感じが出てきたんです。いいのか悪いのかちょっとわからないんだけど、そのままで進んでいるっていう。これが正しいのか正しくないのか、焦点が合っているのか合っていないのか、というところで「?」がついています。「フォーカス」という言葉をつかったのは、ジャケットの写真のように、螺旋階段に虫眼鏡をあてて、フォーカスがあっているのかな? っていう感じにしたかったからです。

そういうアイディアは昔から自然に湧いてくるほうだったんですか?

トクマル:そうですね、わりとひとりで考えて想像しているタイプではありましたけど......創造的なタイプ、という感じではないと思うんですけどね。

ぼくも閉じこもってぼんやりしていることが多いんですけど、文字通りぼんやりとして、空白のままなんですね。

トクマル:(笑)

だからいろいろイメージが湧いてくる人がうらやましいですけどね。あと、夢を見てすぐ忘れる人と覚えてる人がいますが、ぼくはたぶん見てるはずなんですけど、すぐ忘れちゃうんです。だから夢を見てノートをつけている方は、素晴らしい記憶力と才能だなあと。

トクマル:はははは。無理やり起きて、日記をつけてる感覚なんで、記憶力より意地でつけてる感じはありますね。

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子どものころはピアノをやっていて、10代半ばでギターをはじめて、ギターを突き詰めようと思ったんですけど、突き詰めようと思えば思うほど、だんだんほかのこと、ほかの楽器がやりたくなったりもしてきて。それで、いろんな楽器をいいなと思ってちょっとずつ買い集めているうちに、楽器のかたち自体というものにすごくとりつかれてしまって......


トクマルシューゴ
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歌でいちばん最初に録音したのはどの曲ですか。

トクマル:うーん、よく覚えていないんですよね。たぶんまとめて歌は録ったんだと思います。

アルバムにまとめようという段階で歌詞をつけていって、歌も録っちゃったという感じですか。

トクマル:歌詞はいちばんあとですね。

歌詞のイメージはどこから湧いてくるんでしょう? 曲によるかとは思うんですが。

トクマル:夢日記をつけたりしていたんで、いままでのアルバムはそこからとっていたんですけど、今回のは半々くらいですかね。1曲1曲に夢のイメージとプラス自分の言葉をつけ加えるといったかたちです。でも、歌詞はすごく苦手なので......

曲も詞もできない凡人から見ると、そのプロセスは本当に不思議なんです。

トクマル:そうですねえ、僕もポンポン出てくるわけではないので、どうやっていいのかわからないまま無理やりひねり出しているという感覚があって。もともと本当に作れなくて、たまたまつけていた夢日記からとってみたらなんとなく合った、というのが最初なので、その延長で足したり引いたりしています。単語のストックがあんまりないし、本もそんなに読むほうではないので、自分の想像できる範囲内でしか言葉が浮かんでこない。そのなかでなんとか......「でてこい」って感じで(笑)、がんばって当てはめてますね。

かつてロック畑には、でたらめな英語の鼻歌で歌って、後からそれに近い日本語に入れかえて、つじつまを合わせて歌を作っていった人もいました。一種の遊びなんだけど、遊びに終わらないものに仕上げていく。そういう、鼻歌で歌って、そのあと整えるといったようなことはあるんですか?

トクマル:そうですね、鼻歌のような感じでメロディを入れていくという、仮歌というのはありますね。

トクマルさんにとって歌詞はどのくらい重要なんでしょう? 夢日記からも使われているということですが。

トクマル:うーん、そうですね......。歌詞に関しては難しいところですけど、まずはじめに、夢日記を使い出したというのは、歌詞を書く段階でとくに誰かに伝えたいことがなかったからということがあったりして。夢日記の言葉を使うときでも、具体的な言葉を削除していくようにしていて、たとえば「Pヴァイン」っていう言葉があったとすれば「Pヴァイン」という言葉を使わないで、なにかほかの言葉に置きかえていく。そうすると自然とふわっとした歌詞になってしまって。それを乗せて自分の曲を聴いてみると、その、なにもわからないですよね(笑)。もう、なにを言いたいのかがまったく。自分でさえわからないという状況で、ただなんとなく物語や想像はどんどんふくらんでいくし、その状態をただただ楽しんでいるという感じに近いですね。歌詞が重要かといえば、その意味では重要なんですかね。逆に選び抜かれた言葉というか。

『新古今和歌集』の象徴的な言葉とか、説明されなければよくわからない、あるいはもうすでに意味のわからなくなっている枕詞とか。そういうようなものに近いんでしょうか。後世の人はそんなふうにこの詞を読むかもしれないですね。押韻はどうですか? 意識されているように感じますが。

トクマル:どうなんでしょうね。自然になっちゃうものかもしれないです。

フォークの人がギターでコードを弾きながら曲の構成を考えて、メロディを作っていったというのが一方にあるとすれば、ヒップホップ以降だと思いますが、リズム・トラックやループみたいなものを作ってそれにあわせてあまり起承転結のないメロディやフレーズを乗せていくものが他方にあるのかなと思うんですが、トクマルさんの音楽を聴いているとどちらでもないという感じがするんです。シンプルなメロディとギターがいちばん基本にあるのかなと思ったりはするんですが。

トクマル:いちばん強いメロディというか主旋律を軸にして、それを一本立ててから、そのまわりにたくさんの細かいフレーズをまとわりつかせているというか。ひとつの塔のようにしている感じです。コードで作りはじめたり、リズムで作りはじめたりというのではなくて。リズムから作るにしても、それはメロディアスなリズムであったりとか、わかりやすいものであることが多くて、そこにフレーズや楽器で色づけをして曲を大きくしていくっていう、そういうかたちですかね。

典型的なロックのバンドだと、まずドラムのパターンを決めてベースのパターンを決めてといったふうにフォーマットで曲を作っていくということが多いかと思うんですが、そういう束縛から自由であるように見えますね。

トクマル:作曲のしかたについては、現代音楽の人たちのやり方とかをよく本で読んだりするんですけど、固定の概念にとらわれない作り方がいっぱいあって、そのなかから自分に合うやり方を探していったというのが近いです。僕はなにかすごくアーティスティックなやり方ができたりするわけではなかったので、まずメロディを作って、というわりと基本的な方法をとっています。

ひとりでレコーディングをされているということが、それを助けてもいるんでしょうね。伝統的な意味でのポップスやR&Bに似ている部分もあるんだけれども、なにかちがうなと感じるのは、そういう根本的な曲作りのあり方のちがいなんですね。定形のポップスにおもしろさがあるのはわかるけれども、そこには同時に不自由さもあって、どちらかに開き直っちゃうとつまんなくなるんだけど、両方の可能性を探りながらやってらっしゃる感じがおもしろいです。
 ところで、楽器をたくさん使ってらっしゃいますね。ディスクにいろんな楽器の音源のサンプルが収録されて付属しています。これは何か、わけがあるのですか?

トクマル:子どものころはピアノをやっていて、10代半ばでギターをはじめて、ギターを突き詰めようと思ったんですけど、突き詰めようと思えば思うほど、だんだんほかのこと、ほかの楽器がやりたくなったりもしてきて。それで、いろんな楽器をいいなと思ってちょっとずつ買い集めているうちに、楽器のかたち自体というものにすごくとりつかれてしまって......なんだろう、これは? っていう(笑)。宇宙人とかからしてみれば、なんだか得体の知れないかたちをした、そのモノ自体。今度はそれを集めたいという衝動に駆られるようになってしまって、どんどん買っていくから楽器だらけになって、せっかくなんで録ってみよう、という感じが強かったですね(笑)。

そうは言っても、それぞれの楽器が要求する技術というものがあると思うんですが。すべての楽器に習熟されているわけではないでしょうし、大変だったでしょうね(笑)。

トクマル:そうですね、大変でしたね! もっと時間があれば。もっと楽器を練習してすべてうまくなりたいという気持ちはあるんですけどね......。

基本的にはめずらしいサウンドやかたちであったりというのが、使うきっかけみたいなものになったんですね。で、それが自分の音楽にふさわしいと。あるいは自分で探していた音に近いものが、そこでたまたま見つかったり。

トクマル:ああ、たまたま見つかる、ということはありますね。楽器を好きになったせいか、いろんな音色を探すためにいろいろなCDを買ったりするようにもなりました。「めずらしい楽器」みたいなCD。

自分で新しい楽器を作っちゃったりとか。

トクマル:そこまではしないですね(笑)。

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だんだん自分の音の1個1個のなかにオリジナルをちょっとずつ超えてるものがあるのが見えたりすることもあって。たとえばリズムであったりメロディであったり。それをちょっとずつ積み重ねて、組み合わせていってみよう、それがわりと間違いじゃないと考えられるようになってきましたね。


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"Gamma"って曲を聴いたときに、マリンバ風っていうか、パーカッシヴな心地よい音が入っていて・・・ブラジルのウアクチってバンドご存じですか?

トクマル:はい、はい。

彼ら、ビニール・パイプとかで打楽器みたいなの作ったりしていますけれども、そういうものに通じるような気がしたんですが、特に関係はないですか? 

トクマル:これはパーカッシヴなイメージと民俗っぽい音色を足して、子どもが喜びそうな、スピーディでわかりやすいメロディを作ってみたいと思って。

トクマルさんはいっぱい音楽を聴いていらっしゃると思うんですが、世界には伝統的なスタイルのポピュラー・ミュージックがたくさんありますね。それぞれ独特の間とかリズムを持っているんだけど、そういうものを真似ようというつもりはないんですよね? 、「トップランナー」というテレビの番組に出られたとき、観客の人たちに手拍子を打ってもらうくだりがあって、あれはキューバ音楽のクラーべというパターンに近いものですよね。

トクマル:そうですね。

でも、曲自体はキューバ音楽とは縁もゆかりもないという(笑)、その組み合わせがおもしろいなと思ったんですね。日本人は几帳面だから、自分が素晴らしいと思う音楽があったら、勉強してまねることができちゃう。けれど、そういう方向性じゃないですね。トクマルさんが几帳面じゃないという意味ではないんですが。

トクマル:ぼくも、どちらかというと几帳面で、はじめはまず完全に真似てみたりするんですよ。

あ、そういうプロセスを経てるんですか。

トクマル:いちど完全に真似てみて、でも聴き比べてみると、やっぱりどう考えても追いつけないレベルだったりするんです。結局それはぼくでしかないというか、ぜんぜん本物の音楽の足元にも及ばないなって気づいてしまうと、やっぱり人には聴かせられないというか。でもそういう作業をいっぱいしていくと、だんだん自分の音の1個1個のなかにオリジナルをちょっとずつ超えてるものがあるのが見えたりすることもあって。たとえばリズムであったりメロディであったり。「あ、この音楽にはないけど、僕の作ったものにはちょっといいメロディがあるな」とかって思えたものをちょっとずつ積み重ねて、組み合わせていってみよう、それがわりと間違いじゃないと考えられるようになってきましたね。

リズムの面でも音色の面でも、ロックだけやっている人よりずっと間口が広いですよね。トクマルさんの音楽をロックと呼ぶのかどうかわからないんですが(笑)。今回はいつもより各地の伝統的な生楽器の音が目立つようには作ってあるかなと思いました。これは意識されていたんですか?

トクマル:さっきの音の人格化の話のつづきのようでもありますけど、だんだん(アルバムのなかに)いろんな世界の人たちを住まわせよう、みたいな感覚になってきて。たとえば東南アジアの人とか南アメリカの人とかを、ちょっとだけ限定的に、現実寄りに想像してみたときに、南アメリカなら南アメリカの楽器を持ってきちゃおうと思ったんです。それでその音を入れてみたら、いままでのアルバムよりもうちょっとだけ現実味が出たというか。

あまりアーティストに曲のことをこまごまときくのは申し訳ないんですけれども、"Decorate"という曲はどのようにしてできたんですか?

トクマル:ジャケットのデザインもそうなんですが、螺旋というか、円というか、回っているという自分のなかのイメージを再現したものですね。ちょっとサビも強めの曲を作ってみたいなと思って。

アレンジの段階で、ラテン系の曲とかあるいはカリプソなんかを参照にするようなことはあったんですか?

トクマル:特別にこれということはないんですが、今回はわりとそういうものが残りましたね。

スティール・パンっぽい音の聴こえる、"Call"ですとかね。"Shirase"は、ちょっとフォルクローレっぽい。他にアメリカの伝統的なフォークを思わせるものもあるし、サンバっぽいものもある。一枚岩ではぜんぜんないですね。10代の頃はアメリカにいらっしゃったそうですけど。

トクマル:アメリカに行ったのは、そもそもアメリカの古いミュージシャン、レジェンド的なミュージシャンを観たいと思ったのがきっかけだったんです。

古いというのはどのあたりの?

トクマル:たとえばジャズの大御所......エルヴィン・ジョーンズとか。演奏できるおじいちゃん、他にも日本に来ないような人たちがいっぱいいたので。来てもブルーノートとか、大きなところでしか観れなかったりしましたし。そういう人たちを身近に、真後ろとかから観たい! と思いました。そうするとサポート・ミュージシャンが南米の人たちだったりすることが多かったし、連れまわっているので、どうしても目が行っちゃうんですよね。そういう人びとに惹かれたというのが、当時の体験として強く残っていますね。

そのあたりから南米の音楽も聴きはじめたということですか。

トクマル:はい。特にキューバ、行きたいなと思ってるんですがまだ行けてないんですよね。

アメリカに行ったらキューバや南米の人たちとかがいっぱいいた、という感じなんですね。

トクマル:そうですね。いてくれた、という感じです。それ以外にもさまざまな国の凄腕ミュージシャンたちが集まっていて、その体験は大きいですね。

レコードやCDをこっちでたくさん聴いてから行ったというよりは、まず向こうで生で体験したことなんですね。

トクマル:そうですね。ギターから入ったので、ギター・ミュージックの中に入っているパーカッションってイメージで、ラテンの音楽も聴いていました。生で聴くと、CDに入らない音っていっぱいあるんだなって思うことがありましたね。そこでしか伝わらない......音というか。そういう体験がはじめにありました。

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ひとつの楽器に精通してる人はとくにそうなんですけど、それだけしか見てない感じだと思うんです。それで、そういう生き方もあるんだなって。それは「仕事にする」という感覚じゃないなと思ったんです、たぶん。それがその人にとって生きるということなんだなと思って。


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そのころはジャズをやっていたんですか? ジャズ・ギターが好きだった?

トクマル:ジャズ・ギターがそんなに好きになれなかったので、ジャズ・ピアニストの音楽ばかり聴いていたんですが。ジャズ・ピアノをギターで弾いてみる、みたいなことをやってましたね。

じゃあ、そのころはもう音楽を仕事としてやっていこうと思っていたわけですか。

トクマル:うーん......そうですねえ、たぶん。仕事という感覚もなかったかもしれないですけどねえ。なんか、そういう生き方ができるんじゃないかなあって......。やっぱり、アメリカに住んでいるミュージシャンたちもそういう感覚というか。見てないんですよね、まわりを。ひとつの楽器に精通してる人はとくにそうなんですけど、それだけしか見てない感じだと思うんです。それで、そういう生き方もあるんだなと思って。
 それは「仕事にする」という感覚じゃないなと思ったんです、たぶん。それが、その人にとって生きるということなんだなと思って。僕はそれができなかったんですけどね。いろんな楽器に手を出して、作曲をしたりして。

どうしてそういう興味の持ち方になったか、考えたことがありますか。

トクマル:それは、ひとつのものに執着している人を見てたからかもしれませんね。そういうことはぼくにはできないなという諦めでもあったかもしれないですけど。ほんとはやってみたかったという気持ちもあったんですけど、でもほかにやりたいこともありましたしね。作曲だとか、楽器を集めたり、弾いたり、CDを出してみたいって気持ちもあったり。

トン・ゼの影響についても耳にしてるんですが。

トクマル:もちろん好きで(笑)。変わった人が好きで、よく聴いていました。たまたまそれに影響されてるような曲が何曲か入ってたっていうお話じゃないかと思うんですが。

具体的には、どのあたりの曲なんでしょう?

トクマル:"Porker"とかじゃないですかね。ああいう、へんな音楽を追求している人は大好きで、よく聴いてますね。

ブラジルはほんとに、へんな人が多いですよね。ほかの国だと、伝統なら伝統、伝統に背くなら背く、ってはっきりしてるんだけど、ブラジルはすごく曖昧な人がいっぱいいて。

トクマル:ははは! 曖昧な人多いですよね(笑)。

あとこの、"Ord Gate"。どういう意味なんでしょう?

トクマル:「オード」は「オーディナリー」の「オード」ですね。

歌詞の世界が、カフカに通じるような気がして。

トクマル:特に何かを意識したというわけではないんですが......

トクマルさんの歌を十分理解できているかどうか自信がないんですが、イメージとしてカフカに通じる作品が他にもいくつかあるように思いました。

トクマル:(激しく咳き込んで)すみません、咳がとまらなくて。あさって雅楽を観にいくのに、こんなんじゃ追い出されそうですね......。

雅楽お好きなんですか?

トクマル:はい、すごい好きで。たまたま宮内庁で定例でやっている演奏会に行けることになったので、行ってみようと思ってるんですが、咳が出そうになって、地獄のように耐え忍ばなければならないかもしれないですね(苦笑)。

雅楽っていえば、奈良の春日大社で12月におん祭りっていうお祭りがあって、山の中にいる神様をその日だけ公園のお旅所ってところまでお招きして、民の奏でる音を楽しんでもらってお帰しするっていう日なんですけど、午後から夜10時くらいまでずーっと芸能の奉納があって。

トクマル:へえー、うんうん。

暗くなってからは雅楽とか舞楽が延々と続くんです。実際その場で聴いたのは去年がはじめてだったんですけれど、いやすごいなと思いました。あれは何なんだろうとか思いますよね。

トクマル:思いますよね。ほんとに不思議な世界です。なんか、すべてをくつがえされるような思いになります。いつも聴くと。

ああいうテンポというか、リズムがあるのかないのかわからないような世界とトクマルさんの音楽とは、いちおう対極にありますよね。

トクマル:そうですね(笑)。でもそういう「瞬間」みたいなものを取り入れることはあるんですけどね。それをフルに1曲にするということはいままでのところないですね。いつかやりたいとは思うんですけど。

今回のアルバムは、果てしなく楽器が出てくるなかで、雅楽的な音色に聴こえる部分もあったりするかもしれませんね。(封入されているイラストを見ながら)ボーナス・ディスクに入ってる楽器の中で、これは笙でしょう?

トクマル:そうですね。

以前、若いアーティストさんに笙を吹いてもらうレクチャー・コンサートを開いたことがありますが、あれはすごいですね。こんな音が出るのかって。

トクマル:あれも僕は正確な演奏の仕方がわからなくて。

電熱もってきてあたためながらね。

トクマル:そうですそうです、大変ですよね。むかしの人はどうやってたんだっていう。

(笑)。ちょっと変わった印象を受ける"Pah-Paka"ですが、クラシック風の曲ですけれども、これはどのようにしてできたんですか。

トクマル:音数の多いものを声でやったらおもしろいかなって。どうやって作ったかとなると言いづらいんですが、一瞬だけクラシックっぽい旋律を入れたりして......遊んでますね。気に入ってる曲です。

インストの曲で、"Micro Guitar Music"ですけど、この弦楽器の部分のリズムは、たとえばアイリッシュ・フォークとか意識したものですか?

トクマル:特に考えていたわけではないですが、ギターだけで遊んでみようかなって、早回しの技術も好きだったんで早回しもやってみたり、それで展開のあるような、小曲っぽい感じにしました。これもクラシックっぽいつくりで展開していくような曲ですね。

"Katachi"って曲では途中で不思議な弦楽器の音がするんですが、これは何ですか?

トクマル:シタールと大正琴の音を混ぜたらどうなるのかなと思ってやってみたら、こんな音になりました。

スタッフ・ベンダ・ビリリってコンゴ民主共和国の車椅子ストリート・バンドご存知ですか? そこに男の子がいて......

トクマル:ああ、へんな自作楽器弾いてますよね。

1弦のね。音色がちょっと、あれに近いかなと思ったりして(笑)。

トクマル:ははは!

これ、合成されたということは、発想としてはシンセサイザーと近いものがありますよね。

トクマル:ああ、そうかもしれないですね。

でも基本的には、電気よりは生の楽器の音がお好きなんですね。

トクマル:そうですね、電気を使う楽器はよく使いますけど、打ち込みってことはあまりしないですね。というか、自分で演奏してマイクで拾うというやり方をとりあえず守ってます。

何がそうさせるんでしょう。

トクマル:うーん、やっぱりそのときの空気を録りたいっていう気持ちがあるのかもしれないですね。ラインですべて済ませてしまうと、今日と明日とあさってでほぼ同じ音が録れるわけですよね。でもマイクで録ると次の日やってちがう音になる。それがやっぱりおもしろいというか......なにかあるんじゃないかって。そのときしか録れない、なにかが(笑)。

合成された音があふれてる時代に、生楽器の音のほうが好きというのは、そういう環境に育ったりしたからですか。

トクマル:いや、そういうわけではないんですけどね。いろんな人の音楽を聴いていくと、やっぱり生で演奏して生で録られた音にはっとするんですね。新鮮に思えるというか。ラインで録られたありきたりの音を聴くと、あ、これはこの音だなってすんなり入っていけちゃう。それも良さだとは思うんですけど、そうじゃないものを探しているというか、そんなところはあります。

じゃあ、機材にもこだわったり?

トクマル:わりかし、ですけど。マイクが好きでマイクを集めたりはしてますね。

奥の細道ですね(笑)。今日はどうもありがとうございました。これからも素晴らしい音楽をつくり続けていってください。

interview with DJ Fumiya - ele-king


Beats For Daddy

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 DJ Fumiyaは、リップスライムのトラックメイカーとして瀟洒たるポップネスをグループにもたらし、ヒップホップ/ラップ・ミュージックを広く世間に知らしめた立役者のひとりであり、今日まで一貫してカラフルでダンサブルなトラックを作り続けている。
 『ビーツ・フォー・ダディ』は、DJ Fumiyaの長いキャリアのなかで意外なことに初のソロ・アルバムである。ここでも、彼はブレることなくクラブ・ミュージックを彼なりにポップに咀嚼した楽曲を、人気のシンガー奇妙礼太郎や森三中といったような想定外だがその軽妙なキャスティングに納得させられるユニークな共演を交えて披露している。
 今作でのトラックの行き先は、リップスライムで見せてきたカラフルさを持ちつつも、ダンス・ビートをいかに親しみやすく聴かせることができるかに向かっている。"ENERGY FORCE"などを聴くとギャング・ギャング・ダンスがジャングルのなかJ-POPを流して満面の笑顔で踊っているみたいだ。とくにメロウなクラシック・ギターの音色に激しいドラムが絡むロリータ・ポップ"HOTCAKE SAMBA"は、聴いていて本当に幸福な気持ちにさせてくれる。DJ Fumiyaは、多彩なダンスの要素を取り入れ、ポップ・ミュージックとして結実させる。そこにいやみなく窮屈なメッセージは忍ばせようとしたりもしない。とにかく楽しそうなトラックと声、そしてスクラッチがここにある。

 しかし、そのヒップホップ/ポップのトラックメーカーとしての熱量は、池を何時間でも見ていられるという自然児の平静な心にともなって生まれている。今作のテーマカラーらしきパープルは、いささか性的で猥雑な印象をあたえる色でもあるが、冷静のブルーと興奮のレッドの間に位置する色だ。寡黙なヒップホップ/ポップ・ヒーローに、クラブ・ミュージックとポップの関係について語ってもらった。

僕は単純に動物が、とくに水辺の生き物とかが、すごく大好きなんですよ。池とか小川とか田んぼとか海とか。なのでメダカとか亀とか。犬とか猫も飼っているんですけど。小学生のころは毎日のようにザリガニとかカエルとかを捕っていましたね。

野田:フミヤさんのことはリップスライムがデビューした時から名前は存じていたんですけども、デビューの頃はテクノDJの田中フミヤと間違えられたりしませんでしたか?

DJ Fumiya:全然ないですね。僕がデビューした時にはすでに田中フミヤさんは有名な方だったので。僕はまだお会いしたことないんですけども。

野田:まあ、ジャンルも世代も違いますしね。とはいえ、田中フミヤはテクノの第一人者でやってきているので、フミヤさんがリップスライムでデビューした時、「あ、もうひとりのDJでフミヤがいる」と思ったんですよ。

DJ Fumiya:ああ、いえいえ......!

野田:なんか、すみません。

......では、はじめます。すみません。

DJ Fumiya:はい!

リップスライムでメジャーデビューしたのが2001年で、遡るとインディーのリリースは1995年からですね。長いキャリアをお持ちですが、元からソロ・アルバムを出したいっていう願望はあったのですか?

DJ Fumiya:(※即答)もう、ずっとありましたね。24~25歳のころから。リップ(スライム)で使っていないトラックのなかで自分のお気に入りトラックをまとめて出してみたいなと思っていました。

おお、ということは、2004年前後からすでに構想があったのですね。リップスライムでのインタヴューで、トラックは70%くらいまで作ってラップが乗る約30%の隙間をつくるとフミヤさんが仰っていたんですけども、今作『ビーツ・フォー・ダディ』はどうですか?

DJ Fumiya:今回はもうオケの状態でけっこう作り上げていたので、声が乗ってからシンプルにしていくという作業があったかもしれないです。

ああ、削ぎ落としていったわけですね。

DJ Fumiya:そうですね。どういうレコーディングをしていらっしゃるのか把握できていない人たちと共演したので、やりながら探っていったという具合でした。トリプル・ニップルズ(Trippple Nippples)は曲を通してつくるのではなく、断片をいっぱい録っていって、「ではフミヤさん、あとよろしくお願いします」みたいな。

素材だけで、まさにサンプリング的な感じで。

DJ Fumiya:そうですね。「べつに意味が通らなくてもいいんで」という具合でした。

リップスライムのときから、ありもののサンプリングというより、スタジオ・ミュージシャンの方を呼んでレコーディングしていたんだと思いますが、それは今作でも同様ですか?

DJ Fumiya:いや、今作はほとんど自分でギターなどを演奏しましたね。リップ(スライム)のときも、スタジオ・ミュージシャンとはいえど、家に来て弾いてもらって、僕がそれをサンプリングするというやり方が多かったんです。だいたいもの凄くバラバラにチョップして、レコードからサンプリングして録ったかのように乗せるというのをよくやっていたので、そのまんま乗せるっていうことはあまりしたことがないんです。

野田:とくに好きな音楽エディターっています?

DJ Fumiya:チョップとか打ち込みが上手いと思うのはテイ(・トワ)さんですね。緻密ですし、チョップされたスネアとかを聴いてすぐテイさんだとわかるその個性が打ち込みに表れてますね。あとは、アトム(Atom™)とかもそうだと思いますし、まりんさん(※電気グルーヴの砂原良徳)とか。

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鎮くんはどうしても1回やってみたいというのがありましたね。声がすごいし、本人自体もすごいですけど、やっぱ、声がすごいなって。で、この曲が一番時間かかったんですよ。3ヶ月くらいかかったかな。


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フミヤさんはテイ・トワさんによる事務所〈huginc.〉に所属していますね。今作の"HOTCAKE SAMBA"という曲に参加している事務所メイトのBAKUBAKU DOKINというユニットについて調べたんですが、情報があまりなく、謎めいていて......。いったいどういう人たちなんですか?

DJ Fumiya:もう5年位前にクラブで「プロデュースしてください」って。

おお、急に頼まれたんですか!

DJ Fumiya:そうですね。それからよくデモを作っていたりなんかして、2年前にはテイさんのところからちょこっと出していて、今回の曲もほんとうは彼女たちにあげてたんですけど、ちょっと返してって言って(笑)。

(一同笑)

DJ Fumiya:そして、もうひとり参加してもらった方が僕のソロっぽくなるかなと。BAKUBAKU DOKINがオモチャっぽい声をしているので、大人っぽい声の人とギャップを出してもらうためにorange pekoeのナガシマさんにお願いしました。

なるほど。共演の話でいくと、ライムスターや鎮座DOPENESSやリップのリョージさんなどのラッパーをフィーチャーするのはよくわかるのですが、芸人である森三中の黒沢かずこさんをフィーチャーしていますね。これにはどういう思惑があったんですか?

DJ Fumiya:森三中のことはむかし「ガキ使」(テレビ番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!!』)とかに出はじめた頃からすごく好きで、黒沢さんもリップのことを好きでいてくれて、自分でチケットを買ってライヴに来てくれていたんです。テレビでよく黒沢さんがフリースタイルで歌いはじめたりするのを観ていて、「この人、やっぱ、歌いけんじゃね~かな~」と思って、なにか曲をふってみたいなという考えがありましたね。

すごくクレイジーな歌ですよね。

DJ Fumiya:クレイジーでしたね。

イントロからすごいなと思って。

DJ Fumiya:あのモードにガラっと変わるのが、やっぱ......。

すごいですよね(笑)。演技力がヤバいなと思いました。

DJ Fumiya:プロだな、っていう。ただ、その、歌は上手いんですけど、やっぱ、こう、人とは違うな、っていう。全然キーと違うところを歌ったりするんで。

面白いですね。

DJ Fumiya:面白いですし、それが大変でした。

大変そうですね(笑)。"TOKYO LOVE STORY"でフィーチャーしている奇妙礼太郎はいま人気の歌い手ですけども、どういう経緯で共演になったんですか?

DJ Fumiya:名前をずっとお聞きしていました。やっぱり、声が好きなんです。この曲が今作中で一番最後に声録りをした曲だったんですけど、録音の1週間前くらいにお願いをして、お忙しいギリギリのなかでウチに来てもらって、その場で詞も書いてもらうようなかたちでした。

野田:あと、"JYANAI?"で鎮座DOPENESSをフィーチャーしてるのがいいと思いました。

DJ Fumiya:や、もう鎮くんはどうしても1回やってみたいというのがありましたね。声がすごいし、本人自体もすごいですけど、やっぱ、声がすごいなって。で、この曲が一番時間かかったんですよ。3ヶ月くらいかかったかな。

野田:どこでかかったんですか?

DJ Fumiya:鎮くんは、やっぱ、けっこうリリックで悩んでくれて。あのフリースタイルを見てると、すごく早く書けるんじゃないかって思うんですけど。

たしかに。

DJ Fumiya:逆なんですね。たぶん言葉が出て来すぎて。それで言葉のチョイスに時間がかかるっていう。だから、ほぼ飲んで終わるみたいなのがすごく続きましたね。

(一同爆笑)

打ち合わせという名の飲み会だったり。

DJ Fumiya:飲んで終わるみたいな。

野田:そういうキャスティングするうえでの基準というかポイントってどんなところに置きました?

DJ Fumiya:まずオケがあって皆さんにふっていくというかたちが多かったので、そのオケに対してのカウンターでもイメージどおりでも、パッと思いついた人たちと共演したという感じでしたね。



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僕はやっぱポップが好きなので、もともと聴いているヒップホップなどの音楽にしてもそういうのが多かったと思いますし、とくに無理してるっていう感覚はないんですね。


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音に関して言うと、今作『ビーツ・フォー・ダディ』もそうですし、リップスライムのときから一貫してポップなトラックをつくってきていますね。このインタヴューで主に訊きたいのは、フミヤさんがポップに開けていることについてなんです。一貫したポップさはやっぱり意識的なものなのですか?

DJ Fumiya:僕はやっぱポップが好きなので、もともと聴いているヒップホップなどの音楽にしてもそういうのが多かったと思いますし、とくに無理してるっていう感覚はないんですね。

僕は中学生の頃からリップスライムのファンで、インターネットも普及していたのでいろんな情報が見れたわけですが、例えばキングギドラの"公開処刑"という曲でK・ダブ・シャインがリップスライムとキック・ザ・カン・クルーの二組にちょっかいを出していたことをインターネットを通して当時知りました。その二組はラップというものを知らなかった子供さえファンにしてしまうポップ・スターでもあった訳ですが、ポップを打ち出していたフミヤさんの側に葛藤みたいなものはありましたか?

DJ Fumiya:僕個人はまったくなかったんですよ。

おお、そうなんですね。

DJ Fumiya:なんでしたっけ、「屁理屈ライム」と言われたんでしたか。いや、もう、めっちゃ「屁理屈」だしなって思いましたね(笑)。

あ、でも、「屁理屈」だと思ったんですか?

DJ Fumiya:そうですね、なんというか、詞が言葉遊びのグループなんで、そのとおりと思いましたね。でも、僕はそれが全然悪いと思っていないし、そこが楽しいとこだと思っているから、ちっきしょーとかは全然思わなかったですね。

その横槍へのアンサーだと言われている"BLUE BE-BOP"のミュージック・ヴィデオの最後に出てくるメッセージ「THANK YOU FOR YOUR KIND ADVICE AND SUPPORT!」は誰の発案だったんですか?

DJ Fumiya:俺、全然知らなかったんですよ。できあがったらああなってたんです。

そうなんですか(笑)。

DJ Fumiya:あの頃、すごく忙しかったので記憶があまりないんですよ。

野田:とくに当時はいろんな意味で熱かったし、「ヒップホップとはこうでなければいけない」みたいな空気も強かったように覚えていますね。

DJ Fumiya:そうですね。いまでこそあまりないですが、僕が昔にやっていたころは強くあったなという気がしましたね。

野田:まあ、いきなり売れてしまったわけだし(笑)。

DJ Fumiya:そうですね。だから、逆に「ここで守んない! もっと破んなきゃ!」という......(笑)。自分はずっとヒップホップ好きで聴いてきて、だから「僕が新しいことをしていかないと」というか。「僕がやることはヒップホップだから」っていう。なんかこう、変な......(笑)。

おお、使命感みたいなものはあったんですね。

DJ Fumiya:はい。そうですね。

野田:そう考えてみると、リップスライムみたいなグループのほうが少数派かもしれないね。

DJ Fumiya:本当にそうなんですよね。たぶんアメリカのヒップホップ・シーンでさえ少ないんじゃないかと思います。

今作『ビーツ・フォー・ダディ』のタイトルは、自分と同じ父親の立場にいるような世代のひとたちに向けた音楽だという意味だそうですね。

DJ Fumiya:僕が父親になったっていうのと、ビル・エヴァンスの"ワルツ・フォー・デビー"をちょっと捩らせてもらいました。それで1曲目もワルツなんです。

そういった父親世代とは逆に、リップスライムやキック・ザ・カン・クルーを聴いて育ってきたような子ども世代からユニークなヒップホップのアーティストがインターネットを通じるなどして現れていますが、そういう若い世代の音楽って気にされたりますか?

DJ Fumiya:あ、はい、ちょくちょく。例えば、鎮くんなんかも曲作り終わってみて、やあ、本当に頑張ったね、時間かかっちゃったね、みたいな話をしてる時に、「本当すみません。すっげー緊張してました」って言い出してきて。「5年前じゃフミヤさんとやるなんてことは有り得なかったから」と言われて、「そうなんだ」と思いました(笑)。全然わからなかったです。

なるほど(笑)。

野田:一応、斎藤くんもラップをやってるんで。

DJ Fumiya:あ、そうなんですか!

野田:それを言いたかったんじゃないかと(笑)。

DJ Fumiya:ははは(笑)。

いや、全然そういうことじゃないですよ(笑)! 僕だけではなくて、例えばシミ・ラボ(SIMI LAB)の人たちもele-kingのインタヴューでアメリカならエミネムあたり日本ならリップスライムやキック・ザ・カン・クルーを聴いていたと言ってるんです。なんていうか、言ってみればフミヤさんはヒーローなんですよ、本当に! ヒップホップの道をひとつ切り拓いたひとりだと思います。

DJ Fumiya:いやいや(笑)。僕はネットとか恐いのであまり見ないんですが、嫌われてるんじゃないかとずっと思ってたんです(笑)。

えー! そうなんですか?

DJ Fumiya:でも最近、そういったお褒めの言葉を言われることが多いから、嬉しいですね。

あ、でもそれは最近になって改めて言われるようになったという感じなんですか?

DJ Fumiya:そうですね。それこそ、小学生くらいだった子が大きくなって自分でも音楽をやるようになって、「あの子たち、リップ好きらしいよ」っていう話を聞くようになりました。リョージくんなんかは日本語ラップをよく掘っているので、そういう話をよく聞くみたいですね。

ではまさにシミ・ラボはその一例ですね。リップスライムとは方向性が違いますけど、シミ・ラボについてはどういう感想をもっていますか?

DJ Fumiya:すごくカッコいいと思います。なんか、爆発力というと違うかもしれないですけど、なんていうんですかね。初期衝動っていう感じのものがありますし。

野田:『ビーツ・フォー・ダディ』はとても良いアルバムだと思ったんですね。リミックスしているからっていうわけではないのですが、やっぱディプロっぽいというか、コミカルな感じとか、パーティっぽい調子、ビートや展開がころころ変わる面白さなんか、ある意味メイジャー・レイザー(Major Lazer)のヒップホップ版かなと思いました。彼らはダンスホールですけど、フミヤさんはああいう突き抜けた感覚をヒップホップのスタイルでやってるのかなと思ったんですね。彼らに対する共感はありますか? 

DJ Fumiya:ありますね。音楽を楽しんでる感じのところに。ディプロが歳も同じくらいの同世代で、あの音楽の雑多さが......たぶん色んなの好きじゃないですか。あのふたりには「さすが!」って思いました。ビートとメロディで好きなように遊んでるなっていう。なんかこう、例えばテクノのいいところも入ってるんですけど、全部それとは言えなくて、完璧にメイジャー・レイザーの音楽というか。すごく楽しそうだなと、やっぱり「楽しそう」というのが重要ですね!

野田:バカなことやりながら、アンチ・ゲイ的な暴力を批判したりとか、ああいうところも良いですよね。あとフミヤさんと共通しているのは、リズムの面白がり方だと思うんです。色んなリズムをカット・イン/カット・アウトして。

DJ Fumiya:で、レゲエやっても、それがすごく楽しそうで。本場のひとに言わせたら思うことがあるのかもしれないですけど。

野田:しかも、あれがジャマイカで売れたっていうのがすごいですね。

DJ Fumiya:やっぱり、ディプロだけでなくスウィッチ(Switch)がいるからすごくいいんだと思います。

野田:ああ、なるほどねー。

ディプロと実際にお会いしたことはありますか?

DJ Fumiya:DJのとき一度だけ会いました。すごかったですね、彼のDJも.........テイ(・トワ)さんと「軍隊みたいだ」って。

野田:軍隊じゃないまずいじゃないですか(笑)、なんでですか!?

DJ Fumiya:身体も屈強そうだし、ずっとなんかもう、こう(※右に左に身体を動かして機材をいじっていく真似)......後ろから見たら兵隊に見えて。汗もビショビショで。

野田:ああ、ちょっとスポーツが入ってる感じなんですね。

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ピート・ロックとDJプレミアはコスリも上手かったですね。当時はコスリのコピーばっかりやっていました。DJプレミアのコスリは、いまでも口ずさめるコスリですね。


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「楽しそう」という面についてですと、リップスライムの『Masterpiece』がリリースされた頃、NHKの『トップランナー』に出演なさっていましたよね。そこでファーサイドの"ソウル・フラワー"を流していらっしゃったのが、当時エミネムしか知らない中学生だった僕にはすごく衝撃的でした。90年代のヒップホップというのはなかなか知りえなかったですし、「こんなに楽しそうでカッケえヒップホップがあるんだ!」と思うと同時に、リップスライムがそれを標榜していたのかなというのも感じました。

野田:僕もファーサイドは好きだったんですけど、でも、微妙ですよね、日本でも(笑)。昔「ヒップホップで何が好き?」って訊かれて「ファーサイド」って答えて怒られたこともありますね、硬派な人から。

そうなんですか...! 本国でも叩かれていたらしいですしね。

DJ Fumiya:ファースト・アルバムが売れて、本人たちもちょっとハードな感じに変わっていったりもしたんですけどね。それでメンバーやめちゃったりとかもあって。

アルバムを発表順番に並べると、メンバーがだんだんと減っていったのが目に見えてわかりますよね。

DJ Fumiya:やっぱり、ジェイ・ディーが参加していた頃が最高ですね。本当、5人揃って好きだって言えるグループってファーサイドくらいしかいなかったですね。

ソロをやるにしてもファットリップなんかもファーサイドをやめてからだったわけで。そういう意味ではリップスライムって、バラバラになっていったファーサイドとは対照的に、ソロ活動と並行してちゃんと5人揃ってグループが長く続いていますよね。それって凄いことだと思うのですけど、どういう実感がありますか?

DJ Fumiya:そうですね.........みんな、あんまり、深く考えてないのかもしれないですね。

フミヤさんはなにか考えていることってありますか?

DJ Fumiya:曲自体にはありますけど、「これからリップはこう変わっていくんだ」みたいなことは考えてないですね。俺だけ考えても絶対無理なんで! また具合悪くなっちゃうんで、そんなこと考えても。

なるほど。最近だとリップのペスさんもソロ活動をしてイルマリさんもバンドを始動させていますよね。リップスライム以外の横の活動が積極的に行なわれているように感じますが、そういう流れは自然にあるいは同時多発的に起こったりするものなのですか?それとも「ちょっとしばらく休もうか」とみなさんで決めていたりとか?

DJ Fumiya:どっちもと言いますか。たぶんこのタイミングで、休憩じゃないですけど、自分で違う場所に行ってみて呼吸して戻ってみて、またリップスライムの活動に活かすこともあるんだと思います。ちょっと、リップの一番最近のアルバム『STAR』を作り終わってから、それからどういう曲を作ったらいいのか個人的にわからなくなっていた時期でもあったので。次をすぐ作れって言われても無理だな、と。他の刺激が欲しかったんですね。

ソロ作品をつくることはメンバーと話してからでしたか?

DJ Fumiya:いちおう言いましたが、みんなも同じことを考えいたのではないかと。

リョージさんがツアーDVDのなかでリップスライムはスライムみたいに柔軟なんだというようなことを言っていたと思うんですが、まさにそのとおりですね。その柔軟さの出処はどういうところでしょうか?

DJ Fumiya:たとえば楽曲制作でいうと、どんなトラックを持っていってもラップを乗せてくれるので柔軟だなと思います。ふざけて作っためちゃくちゃ速い曲とかリズムがない曲とかでも、みんな詞を頑張ってつけてくれるので、自分の遊びを引き受けてくれる柔軟さがありますね。

そもそもトラックはいつから作られてたんですか?DJ活動は14歳からということですけども。

DJ Fumiya:トラックは16歳くらいからですね。

野田:最初のサンプラーはなんだったんですか?

DJ Fumiya:最初はAKAIのS01っていう、8個しか音が出ないし、ツマミが一個しかついてないもので、本当にただのサンプラーでした。ただ音が出てくるだけっていう。それからAKAIのS900とか950とかヒップホップの名機に戻ったっていう感じですかね。ピート・ロックだとかが使っていたような。

DJやトラックをはじめた時の模範の音っていうのはありましたか?

DJ Fumiya:やっぱりヒップホップでしたね。90年代前半の......。

ニュー・スクール的な?

DJ Fumiya:そうですね。それこそピート・ロック、DJプレミア、ジェイ・ディーとかですね。あと、トライブ。あそこら辺のひとたちはいまでも聴きますね。ピート・ロックとDJプレミアはコスリ(※スクラッチ)も上手かったですね。当時はコスリのコピーばっかりやっていました。DJプレミアのコスリは、いまでも口ずさめるコスリですね。

それを聴きながら、当時はどういう現場でやられてたんですか?

DJ Fumiya:DJでよくプレイしていたのはライムスターさんたちとの「FG NIGHT」が中心ですね。

野田:ああ、クラブは渋谷のFAMILYですよね。僕も行ったことあります。

その時からすでにFGの中にいらしたのは、ダンサーだったお兄さんとの繋がりがあってですか?

DJ Fumiya:ですね。リップのスーっていうやつとウチの兄が同じチームでダンスをしていて、イースト・エンドのダンサーになって、そこからですね。中二とか中三の頃だったと思います。

野田:黄金時代ですね。

DJ Fumiya:黄金時代ですね(笑)。まだイースト・エンドも売れる前の時代ですね。

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日本のクラブとターンテーブルがないところもありますからね。あってもメンテナンスされてないボロボロのものとか。「あー、もうダメかな」とけっこう諦めモードになる瞬間があります。


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リップスライムに加入した時はペスさんもトラックを作っていた訳ですが、ライバルというか、競い合っていましたか?

DJ Fumiya:あー、でも僕は最初ペスくんのトラックがカッコいいなと思って、ペスくんみたいな音を作りたいというところから始まってたんですよ。

あ、なるほど。

DJ Fumiya:"STEPPER'S DELIGHT"っていう曲がメジャー・デビューのシングルになるとき、「なんで俺のトラックじゃねえんだ」ってペスくんは怒ってましたね。

なるほど(笑)。

DJ Fumiya:でも、そのときの他の候補がペスくんの"ONE"だったので、どっちにしろリリースされたんですね。

リップスライムのベスト盤『グッジョブ!』が2005年の夏にリリースされた頃、フミヤさんが自律神経失調症でお休みになったじゃないですか。その後の1年間は沖縄県の小浜島で暮らしていたとのことですが、それらの一連の事象で音楽的に作用している事ってありますか?

DJ Fumiya:小浜島ではほとんど音楽を聴いていなかったです。信号もないような島だったので。民謡しか本当にないみたいな(笑)。その間に耳を休ませたっていうのがあって、また音楽活動をはじめるにあたって、どんな音楽も刺激的に聴こえましたね。だから、すごく作りたいっていう欲求が出てきたということがありました。

あー、なるほど。その島にいた間は自分の音楽も聴いたりしなかったんですか?

DJ Fumiya:一応機材は持っていったんですけど、打ち込みをするっていうことがまったく似合わない環境だったので(笑)。やる気が全然起きないっていう。でも、いいやそれで、と。無理して作ることもないしな、と思いましたね。

それで、逆に、制作を再開するときにまた気持ちがドライヴしたんですね。

DJ Fumiya:そうですね。気持ちが跳ね返りました。

野田:トラックの話でいえば、トラックを作るときにヴァイナルを掘るのってフミヤさんの世代が最後なんじゃないかと思うんですよ。いまの20代前半の子が曲を作るとき何処へ行くかって言ったら、TSUTAYAだっていう話を聞いたことがあります。

DJ Fumiya:TSUTAYAですか、あああ......(笑)。

野田:たしかに安上がりですからね。

SLACKなんかは父親のレコード・コレクションも使ってるんだと思いますが、たしかに若い世代になると、トラックを作るときって自分で全部打ち込んでしまうかサンプルネタをネットで拾うかということが少なくないかもしれません。

DJ Fumiya:僕は音の面でヴァイナルじゃないとっていうのがあるんですよね。ちょびっとでも隠し味的に入れると曲の表情が本当に変わるので。音域が広がりますね。

野田:お金をかけずにネットで拾ったようなデジタル音源のサンプルだと、音質が均質化されがちで、個性を出すのが難しいですよね。 

DJ Fumiya:僕もスクラッチは入れてるんですけど、PCのヴァイナルを使ってるんです。波形を見れば一目瞭然なんですけど、デジタルだとどんなに激しくコスっても波形が一定なんですよ。ちゃんとやるんだったら本当は皿(ヴァイナル)に焼いてやらないといけないくらい、アナログは深いですね。

いまアナログはどのくらい買っていらっしゃいますか?

DJ Fumiya:月に何万円とかですね。ビートポートでもいいんだけど、皿で持っていたいなっていうのがありますね。でもビートポートでしか売らない人たちもいますよね。

フミヤさんのいまのDJスタイルは完全にPCですか?

DJ Fumiya:僕はヴァイナルを買って、PCに取り込んでプレイします。4~5年くらい前からそうなりましたね。CDJはすごく下手で、それまではずっとアナログでした。アナログの感触でも回せるということでPCに移行しました。

デジタルのよさも活かしたいっていう思いもあったんですね。

DJ Fumiya:やっぱもう、(ヴァイナルは)重いっていう......。

(一同笑)

野田:最初にDJがデジタル化したのってヒップホップなんですよね。

DJ Fumiya:けっこう前にジャジー・ジェフ(Jazzy Jeff)が来日した時に、誰かが「PCでやってたよ」と言っていて、すげえなと。ジャジー・ジェフがPCでやっていたっていうのは自分にとって大きいきっかけでした。

野田:でも、また最近アメリカのヒップホップのDJもヴァイナルに戻ってきているみたいですよ。

DJ Fumiya:やっぱり、PCでの自分のDJから次のヴァイナルのDJに交代すると、ヴァイナルの音のほうが明らかに良くて、考えちゃいますね。

野田:ハウスのシーンでいえば、ニューヨークではギャラが違うっていう話も聞いたことありますよ。どこまで本当かわからないですけど、ヴァイナル使った方がギャラが高いとか(笑)。

DJ Fumiya:えー、そうなんですか......! じゃあ僕アナログにします(笑)。でも日本のクラブとターンテーブルがないところもありますからね。あってもメンテナンスされてないボロボロのものとか。「あー、もうダメかな」とけっこう諦めモードになる瞬間があります。もうCDにいくか、完全にアナログに戻るしかないかな、と。

フミヤさんから見て、いまの日本のクラブ界隈と言うか業界ってどういう風に見えますか? 機材のこともありつつ、昔と比べてでもいいですし。

DJ Fumiya:どーですかねえ.........。あの、その、いいかわるいかは別ですけど、みんなすぐDJになれていいなって思いますね。

(一同笑)

羨ましさもあるという。

DJ Fumiya:ピってCDをかけてBPMも合っちゃうのが、いいなあって思います。

クラブの話だと、いま風営法で営業形態に関して色んな議論がでていますが、フミヤさんとしてはどう思いますか?

DJ Fumiya:やっぱり、夜中から朝までというパーティを経験してきていますし、そういうところに入っちゃいけない中学生の頃から通っていたので、ちょっと悲しいなとは思いますね。逆に早い時間から終電までのイヴェントにして、それこそ高校生とかを呼べるようなパーティにしていくっていうのもありなんじゃないかと思いますね。そこでクラブって楽しいだろっていうふうに教えていくということができますし。もし日本が「(深夜営業を)絶対やらせないよ」ということになったら、そういうふうにしていくのもありだと。

風営法について、それこそリップスライム内で話題にあがることはありますか?

DJ Fumiya:「あー、また何処そこの箱がやられちゃったね」っていう感じですね。東京はまだそうでもないですが、ツアーで全国をまわっていると、僕が最後で夜1時までとかってあるので。みんな、いきなりバサッと終わられて可哀相だなと思います。

野田:あと、公共の交通手段が深夜に動いていないこともどうにかしてほしいと思うんですね。現代の都市として、ナイト・ライフというものに対する寛容さや公共の施設がなさすぎるっていうか。

DJ Fumiya:そうですね。お正月だけですもんね。

野田:ロンドンなんかだとなぜか3時までのパーティってあるじゃないですか。

僕が行ったイヴェントもそうでした。

野田:あれいいと思うんですけどね。別にがんばって朝5時までやる必要ないっていうか。

DJ Fumiya:けっこうみんな3時とか4時で帰りますからね。

みんなどこかで休んでから始発で帰りますよね。

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ディプロなんかはアメリカなので、雑なんですよね。スウィッチがそれを綺麗にまとめる構図がメイジャー・レイザーはいいですね。僕の今作のリミックスでもディプロはザックリしてますね。


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野田:レコードは中古屋さんに売らないですか?

DJ Fumiya:ヴァイナルは売ったことないですね。全然かけない曲とかでも思い入れがあるというか。CDはちょいちょい友だちにあげたりします。

ヴァイナルの話でいうと、リップスライムは主に『Masterpiece』あたりのちょっと昔のリリースがヴァイナルでも出ていますよね。最近だとフミヤさん選曲のベスト盤ですね。最近の若い世代でも、ヴァイナルとかカセットを聴くというアナログの風習が、アメリカとかイギリスのインディーの精神といいますか、日本にも流れてきてはいるんですよ。

DJ Fumiya:ふーむ。ふむふむふむ。

子供のときからデジタルだった世代にしてみれば、リヴァイヴァルというよりは、アナログの音が新しいものとして受け止められているんです。そういう世代に対して、ヴァイナルのべテランとしてなにかコメントはありますか?

DJ Fumiya:やっぱり、あの音を知ってるか知らないかっていうのはけっこう変わってくるんじゃないかと。とにかく自分が聴いてきたなかで一番いい音なので。箱とかで聴いてもいい音だし。たとえば、レコーディングのとき音の設定で僕は44kHzにするんですが、96kHzとかでやる人もいるんですよね。本当にノイズも聞こえるくらい、違った意味でめちゃくちゃいい音っていうか。僕の趣味はわざと44kHzでやっています。結局CDを取り込んだときに44kHzになっちゃうんですが、でも、アナログを取り込むときはなるたけそのままの音を取り込みたいという気持ちはあります。

アナログのリリースはリップでも一昔前ですし、今作『ビーツ・フォー・ダディ』もアナログではリリースされないですよね。せっかく若い世代がアナログを買いはじめているので、ぜひこれからもアナログを作って欲しいのですが、そういう願望はありますか?

DJ Fumiya:ありますあります! こないだもリップのヴァイナル・リリースのときに、レコードの溝を見るマスタリングの技をイギリスまで観に行きました。本当、手に職っていう感じでしたね。

野田:あれはもう職人芸ですよね。海外だと、プロデューサーの次にクレジットが書かれてるくらいマスタリングは地位が高いというか、認められていますよね。

DJ Fumiya:ヴァイナルは盤にマスタリング・エンジニアの名前が彫られているので、見たりします。

リップスライムのマスタリングはロンドンのスチュアート・ホークス(Stuart Hawkes)という人がずっとやっていらっしゃいますよね。どういう経緯でそうなったんですか?

DJ Fumiya:テイ(・トワ)さんが同じエンジニアさんで、おすすめされたんです。その人はドラム'ン'ベースもやっていて、僕もロニ・サイズ(Roni Size)とか〈フルサイクル〉系のドラム'ン'ベースをずっと聴いていたので、いい音だな、と。その人は4ヒーローもやってましたし。でも、去年くらいにロンドンへ行ってはじめて会ったんです。

あ、そうなんですか(笑)?

DJ Fumiya:飛行機が恐くて。

(一同笑)

どんな人でしたか?

DJ Fumiya:(リップの)イルマリに似てましたね。イルマリに似てるなっていう...。

.........(笑)。

DJ Fumiya:あと、飯が激マズいっていう。「いい加減お前ら聴きにこい」と言われたので、リップのメンバーでその人に会いにいったんです。ロンドンには何回か行っているんですが、マスタリングに立ち会ったのはそのときが初めてでした。イギリスのクラブは音もいいし。でも、日本になんとなく似てるなと思いますね。音楽の好みとか、曲の作り方も緻密な人が多いイメージがありますね。

なるほど。

DJ Fumiya:だから、ディプロなんかはアメリカなので、雑なんですよね。スウィッチがそれを綺麗にまとめる構図がメイジャー・レイザーはいいですね。僕の今作のリミックス("Here We Go feat. Dynamite MC(Diplo Remix)")でもディプロはザックリしてますね。

ロンドンでDJはやらなかったんですか?

DJ Fumiya:ミレニアム・パーティというか、年末にもの凄く広いところでドラムンベースやらテクノやらをかけるパーティに行きました。DJはやらなかったんですけど、レコードは買いました。

ロンドンでやりたいと思いますか?

DJ Fumiya:やりたいと思いますね。もうすこし飛行機が速かったら......。

(一同笑)

DJ Fumiya:一睡もしなかったこともありました。映画を観たり、飯をいっぱい食べたり。でも最初に海外の飛行機に乗ったとき、英語が分からなくて全部「Yes」と答えてたらご飯がでてこなくて。

(一同爆笑)

アメリカではなくロンドンというのも......。

DJ Fumiya:イギリスの音楽が好きだからですね。それこそドラム'ン'ベースですね。

野田:ミックスCD『DJ FUMIYA IN THE MIX』なんかだと、ヒップホップって感じではなかったですよね。

ダンス・ミュージックで。

DJ Fumiya:そうですね。あれはもう本当に四つ打ちでいくっていうのがコンセプトだったんです。

野田:それはDJをやっていくうちに選曲の幅が広がっていったということなんですか?

DJ Fumiya:時期によってはドラム'ン'ベースばっかり回してることもあったし、いまは、四つ打ちカッコいいなあと思ってハウスとかを掘り下げています。打ち込みの音楽だと四つ打ちが一番難しいとずっと思っていて、奥が深いなあっていつも思いますね。

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いまは、四つ打ちカッコいいなあと思ってハウスとかを掘り下げています。打ち込みの音楽だと四つ打ちが一番難しいとずっと思っていて、奥が深いなあっていつも思いますね。


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最近聴いた音楽でとくに素晴らしかったものととくにくだらなかったものをそれぞれ教えてください。

DJ Fumiya:えー! なんでしょう.........。

言いづらかったら、無回答で大丈夫ですので。

DJ Fumiya:今作の"LOVE地獄"っていう曲はすごくくだらないなーと思いますけどね。

ご自身の曲ですか(笑)。

DJ Fumiya:あはははははは(笑)! いや嘘です、嘘です(笑)。

くだらない音楽というか、嫌悪感がわく音楽ってありますか?

DJ Fumiya:嫌悪感のわく音楽ですか...(笑)。大丈夫かな......。なんですかね...。でも本当に家でテレビの音楽番組とか観ないので.........最近よかった音楽の話をしましょうか!

(一同笑)

DJ Fumiya:最近よかった音楽は.........。

(沈黙。8秒)

DJ Fumiya:サブトラクト(SBTRKT)とかすっごく好きですね。

野田&斎藤:おー!

DJ Fumiya:打ち込みなんだけどいい音していて、耳にガッて来ない。あと黒人のシンガーの声もよくて。制作作業に入る前によく聴いていましたね。

野田:そろそろ最後の質問にしましょうか。

最後にカッコいい質問をしたいんですけど......。あ、ではふたつお願いします。ペットが家にたくさんいらっしゃるそうですがそれはなぜなのか、というのと、リップスライムのウェブサイトを見たら「将来の夢:バカみたいな幸せ」と書いてあったのですが、現在のその達成率を教えてください。

DJ Fumiya:僕は単純に動物が、とくに水辺の生き物とかが、すごく大好きなんですよ。池とか小川とか田んぼとか海とか。なのでメダカとか亀とか。犬とか猫も飼っているんですけど。小学生のころは毎日のようにザリガニとかカエルとかを捕っていましたね。

それは地元柄(※神奈川県藤沢市辻堂)ですか?

DJ Fumiya:そうですね(笑)。田舎だったからっていうのもあります。でも、つい最近も用水路に手を突っ込んでザリガニを捕りましたね。嫁さんはビックリしてたんですけど(笑)。

(一同爆笑)

DJ Fumiya:気持ち悪いって言って、走って逃げてっちゃいました。僕は自然児だったので、毎日のように虫とか捕っていましたね。

野田:まさかタガメとかゲンゴロウとかは飼ってないですよね?

DJ Fumiya:さすがに......子供が生まれてからペットに手間をかけれなくなりましたね。

でも、時間があったら......。

DJ Fumiya:もう自分の家に池つくりたいですね。

ははは(笑)。クラブの文化とは真逆の......。

DJ Fumiya:真逆だから、それがなんかこう.........池とか見て何時間でもボーっとしていられるというか。

なるほど。では、最後の「バカみたいに幸せ」についてお願いします。

DJ Fumiya:「バカみたいに幸せ」.........いま「幸せ」ですけど、まだ「バカみたいに」はなってないですね...。

まだ未経験なのですね。

DJ Fumiya:「バカみたいに幸せ」って生きてるうちに経験できるのかがわからないですけど。もしかしたいまのこの状態で「バカみたいに幸せ」だったのかもしれないですけど......。

ああ、あとで気づくかもしれないと。なるほど。

(沈黙。5秒)

DJ Fumiya:なんかちょっとさみしい感じになりましたけど。

(一同笑)

いえいえ、それはそれで、また味わいが。今日はありがとうございました!

DJ Fumiya:ありがとうございました。楽しかったです。これで大丈夫ですかね?

滅相もないです。長い時間ありがとうございました!

----------------

 帰り際、エレヴェーターを待つ間、なにとなく「『自分もラップをしたい』と思ったことはありますか?」とDJフミヤに問うた。その答えは、同時に話しかけてきた野田編集長の声によって僕の記憶から消えてしまった。DOMMUNEでもういちど訊こうか.........。


Chart - DISC SHOP ZERO 2012.11 - ele-king

この1年くらいで、所謂"ポスト・ダブステップ"を超越し「新入荷した時点ではどうにも説明できない」
サウンドが増えてきています。今回はそんなレコードの代表格を10枚紹介します。コメントにキーワードをちりばめたので、それらも要チェックで。

FIS - Duckdive EP (Samurai Horo)
ドラムンベースのレーベルとして知られるSamurai Musicのサブ・レーベルから、ニュージーランドのプロデューサー。何処に向かおうとしているのかさえわからないエクスペリメンタルな3曲と、トライバルなミニマル・ドラムンベースの4。このレーベルは全て要チェック。

ENA - Purported / Whereabouts (7even Recordings)
海外の精鋭たちとリンクしながら、リリース毎に「何処へ向かっているんだ?」度を上げている日本人Enaの最新作。今回も間違いありません!

AIRHEAD - Pyramid Lake (R&S)
James Blakeグループのギタリストとしても知られるプロデューサーの最新シングル。"ポスト"なダブステップよりも更に先、「ここからどこへ向かうんだ??」と思わずにいられない作品が数多く出始めてきた昨今のなかでも、本作はポップなセンスとその破壊力で群を抜いていると思います。

PANGAEA - Hex / Fatalist (Hemlock)
Ramadanman、Ben UFOと共にHessle Audioを運営するPangaeaによる、UntoldのHemlockからのシングル。両レーベルのキレキレの部分が露出したような(してしまった?!)「ヤバいよね~」としか言えない2曲。先日リリースのアルバムも素晴らしいです。

EGOLESS - Before/After EP (LoDubs)
クロアチアのプロデューサー2作目。前作に続くヴィンテージなキラー・ダブ1、ジャジーなブロークンビーツ2、そしてコロンブスの卵的なダブ・ガラージ3と、やっぱりヤバい!!!!

A MADE UP SOUND - Take The Plunge (A Made Up Sound)
2562別名義。1は、昨年末のHessle Audio日本ツアーでPangaeaがプレイし、そのクレイジーなビートにフロアも盛り上がった曲。ヒプノな感触もありつつ、ビートの根っこにはザックリした感じがしっかりあるのが◎。

STICKMAN - The Verge (Mindset)
マンチェスターのIndigoが運営するMindsetからの新鋭。ここ数年、ポスト~な流れからベース・ミュージックを追ってきた方々には、今まで「ヤバい!」と盛り上がってきた要素の多くがサラリとここで溶け合わされているという風に感じるんじゃないかと思います。レーベル他作はもちろん、Indigoも要注目。

VERSA - Shadow Movement (On The Edge)
そのIndigoやSynkroもリリースするマンチェスターのOn The Edgeから。ガラージを抜きに抜いたようなミニマルなテック・サウンドに、ザラザラとした上モノがBurialというよりはRhythm & Sound的に響く1ほかダブ好きテック派に大推薦の3曲。

CHAMPION - Crystal Meth / Speed (Butterz)
Blackdownが"Eskifunk"と名付ける、グライムとUKファンキーの突然変異体。全ての音がリズムとなって飛び回ります。

MORPHY & THE UNTOUCHABLES / FLATLINERS - Tread This Land / Raw Fi Dub (45Seven)
dBridgeのExitと、Boddika(Instra:mental)によるNonplusを中心としたAutonomicなど、ハーフステップのドラムンベースがここ数年面白いことになっていますが、その中でジャマイカ流のダブワイズに焦点を当てた新レーベルがこの45seven。ここから新しい流れが生まれるはず。

Chart JET SET 2012.11.05 - ele-king

Shop Chart


1

Robert Glasper Experiment - Black Radio Recovered: The Remix Ep (Blue Note)
大ヒット作『Black Radio』収録曲を素晴らしいメンツがリミックスした限定盤!リミキサーには9th WonderやPete Rock, ?uestlove, Georgia Anne Muldrowが参加し、さらに自身もセルフ・リミックスした全6曲入りEp! J DillaトリビュートのB-3は本盤オンリー。

2

Poolside - Pacific Standard Time (Poolside Sounds)
Future Classicからの『Do You Believe』が大ヒットとなったL.a.のニュー・ディスコ・デュオによるファースト・アルバム!!

3

Joe Bataan - Ordinary Guy Jazzanova Rework / (Sonar Kollektiv)
Ltj X-perienceによるカヴァーもヒットしたラテン・ソウル・クラシックを絶品メロウ・グルーヴに。プロモの時点で話題となっていた1曲が遂にリリース!

4

Kindness - That's Alright (Female Energy)
説明不要の1st.アルバムから、彼のセンスを見せ付ける大傑作曲がカット!!B面のBbcライヴ・ヴァージョンは、さらにソリッドでクールな80'sファンク全開の必聴音源です。

5

Flume - Sleepless (Future Classic)
オージー・インディ・ディスコの牙城、Future Classicからの新提案。シドニーのエレクトロニカ・クリエイター、Flumeの初ヴァイナル・リリース!!ダウンロード・コード封入。

6

Jesse Boykins lll & Melo-x - Zulu Guru (Ninja Tune)
2012年Sonarsound Tokyoで初来日を果たした大注目シンガー=Jesse Boykins lllと、ニューヨーク出身のMc/Dj/プロデューサーMelo-xのタッグ・アルバムが、Ninja Tuneよりリリース!

7

Kota Motomura - Sun (King Kung Foo)
Cos/MesやMutronといった日本人アクトによるリリースでも注目を集めるベルギー"King Kung Foo"の最新作、東京を拠点に活動するKota Motomuraによる話題のEpが遂にリリース!!

8

Resonators - The Constant (Wah Wah 45s)
好調なペースでシングルをリリースしていたロンドン産ダブ~レゲエ大本命バンドが、遂にニュー・アルバムをドロップです!!

9

Dub Is A Weapon - From The Vaults (Jump Up)
Usネオ・スカ・シーンの顔役Slackersのメンバーで結成され、神様Lee Perryと共に全米ツアーをまわったことでも知られる全世界大注目のダブ・バンド。待望の最新作!!

10

New Mastersounds - Out On The Faultline (One Note)
フジロックでも熱いステージを繰り広げた、現在のファンク・シーンのトップに立つNew Mastersounds。最高傑作と言っても過言ではない強力な新作が登場!!

こんにちは、マシューデイヴィッド! - ele-king

 アメリカ、ロサンゼルスを代表する非営利ネットラジオ局、ご存じ〈dublab〉の日本ブランチdublab.jpが、MatthewdavidとAnenonを招聘しての楽しいイヴェントを開催!

 「はじめはアンビエント・サイケのカセットを作ろうと思っていた」......のちに〈ダブラブ〉を通して本格始動した〈リーヴィング・レコーズ〉の立ち上げに際して、マシューデイヴィッドは創設メンバーのジェシリカ・モリエッティと長い時間をかけてサウンドのキュレーションを行ったという。ほぼ全リリースに及ぶというマスタリング作業を通じて、彼はズブズブに夢見心地なサウンドを確立し、鮮やかなレーベル・イメージを提示した。いまそれは時代と切り結びながらより広いリスナー層へと波及しつつある。彼の周辺にはサン・アローなど刺激的なアーティストも多く、現在のLAのもっともおもしろい部分を体現する存在としても今回の初来日は貴重であり、学ぶところは多いはずだ。一方のアネノンは〈ダブラブ〉のDJとしても活躍する新鋭プロデューサー。サックスとピアノが印象的なEP『Acquiescence』につづき、アルバム『Inner Hue』をリリースして間もない新鋭であり、やはりLAのエレクトロニックなシーンとの関わりが深い。
 詳細は明らかになっていないが、この企画ではマシューによる音楽制作についてのワークショップもあるという! 企画自体が彼らの来日公演であるという以上の性格を持った複合的なカルチャー・イヴェントであり、その他のワークショップや上映会等を含んだ意欲的なものだ。ライヴとあわせて楽しみたい。

LAからは、dublabに深く関わる2アーティスト、MatthewdavidとAnenonを招聘します。
Matthewdavidは、Flying Lotus率いるBrainfeederに所属し(アルバム『Outmind』をリリース)、LAでいま最も神秘的なレーベルといっていいLeaving Recordsを主宰しています。
Anenonは2011年のRed Bull Music Academyにも招待されたアカデミックなキャリアをバックボーンに持つプロデューサーで、レーベルNonprojectsを主宰しています。
日本からは、今年LAに赴きdublabにもライヴ出演したBUN/Fumitake Tamura、dublabでエソテリックなDJミックスを配信しているShhhhhというdublab.jpの核となるアーティストに、ワールドワイド に活動するChihei Hatakeyamaを迎えます。

また、当イヴェントは単にライヴやDJのみならず、子供のためのワークショップの開催や、dublabが制作した映像作品の上映など、複合的 な催 しとなります。開催場所となる東京芝浦の新しいコミュニティ・スペースSHIBAURA HOUSEにもぜひご注目ください。

詳細→ https://www.shibaurahouse.jp/event/dublab-jp1/

■dublab.jp & SHIBAURA HOUSE present
"Future Roots" feat. Matthewdavid & Anenon


Matthewdavid


Anenon

■日時
2012.12.9(日)
13:00~
WORKSHOP for children
14:30~
WORKSHOP feat Matthewdavid
16:00~20:30
Live:
Matthewdavid
Anenon
Bun / Fumitake Tamura
Chihei Hatakeyama

DJ:
Shhhhh

■場所
SHIBAURA HOUSE/ 1F, 5F
東京都港区芝浦3-15-4

■料金
1500円(出入り自由、中学生以下無料、ワークショップ参加の場合:2000円)

主催:dublab.jp(https://dublab.jp)/ SHIBAURA HOUSE
協賛:Sound & Recording Magazine
サウンドシステム:Forestlimit
協力:PowerShovel,Ltd

*子供のワークショップには、必ず保護者の方が同伴の上、参加ください。保護者1名に付きワークショップ参加料金は2000円となります (16時以降の音楽イヴェントも入場いただけます)。申込フォームは詳細が決まり次第用意します。

禁断の多数決 - ele-king

 面白い。くだらない。そして、素晴らしい(田中宗一郎なら「ははは」と書くところだ)。てんぷらちゃん、尾苗愛、ローラーガール、シノザキサトシ、はましたまさし、ほうのきかずなり、処女ブラジルを名乗る、まったく名乗る気のない7人組=禁断の多数決のデビュー・フルレンス『はじめにアイがあった』は、最初からリミックス・アルバムとしてレコーディングされたような、奇妙な位相差を含んだ作品である。

 半年ほど前になるだろうか、編集部から送られた『禁断の予告編』なるプレ・デビュー作は、はっきり言ってパロディとしか思えなかったが、本作がそこから遥かに飛躍しているのは、すべての行為がパロディ/引用として振る舞ってしまうポストモダンの辛さを、前向きな貪欲さで迎撃しているからだろう。TSUTAYAで面陳されたJ-POPと、親の書棚から拝借したオールディーズと、YouTubeで聴き漁ったアニコレ以降のUSインディを片っ端からメガ・ミックスしたあと、派手なエディットでぶっ飛ばしたような......そうした音楽がここにある。
 あらゆる表現においてメモリがほぼ食い尽くされた同時代への意識がそうさせるのだろうか、そうした編集者目線は彼らのポップに奇妙な分裂性(リミックス感)をもたらすことになる。驚いたことに、もしかすると本人らは意識していないかもしれないが、"The Beach"や"Night Safari"は完全にヴェイパーウェイヴ・ポップで、人工度の高いオフィス・ミュージック(のフリをしたサイケデリック・ミュージック)の上に、メンバーの声が無表情に浮かんでいる(これがけっこう、コワい)。
 また、壊れたロックンロール、ないしブルックリンのフリーク・フォークを思い出させる"World's End"、ノイジーなハウス・ビートにクリーン・ギターが浮つくシンセ・ポップ"アナザーワールド"、フレーミング・リップスを思わせるハッピー・サッドなドリーム・ポップ"チェンジ・ザ・ワールド"と、目まぐるしいエディットのなかで世界というタームがクリシェのような使い方をされ、問題を提起する前にさらっと消費されているあたり、このバンドの身軽さを象徴するようだ。



 まんまオールディーズ・パロディな"Sweet Angel"もいい。けれども、教養主義的な名盤ガイドで仕込んだようなポップ音楽の記憶は、もしかしたらもう邪魔なだけなのかもしれない。昨今のポップ・ミュージックをめぐる膨大な情報量(https://www.ele-king.net/columns/002373/)は、これまでの常識からすれば、すでに一人の人間が体系的に俯瞰できる量を物理的に超えている。だから、極論すれば、iTunes/Soundcloud/Bandcampなどのネイティブ・ユーザーにとって、録音音楽の一義的な差異は、もはやURLやタグの違いでしかないわけだ。
 『はじめにアイがあった』は、あるいは音楽をそのように扱っている。ヴェルヴェット・アンダーグラウンドとパフュームのどちらが偉いかなんて、まるで考えたこともない。そう、禁断の多数決は、例えばそのような狭量さの先へとずんずんカット・インしていく。批評性を失効させることで立ち上がる何か。正史が定められたかに見えるポップ音楽の記憶を、彼らはリズミックに改ざんしている。「ポップ(多数)」なき時代のポップはどこにある? 一見、軽薄に見える態度とは裏腹に、彼らの問いかけは切実である。

 もっとも、『はじめにアイがあった』に一票を投じるなら、村社会内での終わらない相互孫引き(=近親相姦)がこの国のポップ・ミュージックを疲弊させている事実にも目を向けなければならないだろう。ぐるぐると無限に再流通する音楽群を前にして、「俺たちは音楽を知らない」とシャウトすること。無限に可視化されてしまった情報を前に、目を閉じて叫び散らすこと。批評性と呼ぶのが大げさなら、神聖かまってちゃんが体現したそれは、何かしらのSOSとも言えただろうか。
 とするならば、禁断の多数決から感じるのは、この広い海を引用にまみれながらも泳ぎ切ってやろうとする前向きさである。どう聴いてみても、器用さやシニカルな愛情だけでなせる業ではない。彼らはここで、どこにも行けないその場所で、楽しんでやると決めたのだ、おそらくは満場一致の多数決で。みんなで寝そべって、ポップ音楽のアーカイブをフラットなトランプにして、ババ抜きでもして遊んでいるようじゃないか。副題を付けるなら「さらば相対性理論」。J-POPの退屈さを呪ったJ-POPによる逆襲である。

Avalanche - ele-king

 書かなければ、と思っている間に2ヵ月が経ってしまった! ああぁぁ、記憶は、やはり薄らいでいる。まったく、自分の怠惰を呪いたくなる。しかし、いまからでも遅くはない。それだけ素晴らしく充実したライヴ・イヴェントだった。去る8月26日、僕はインディ・ヒップホップ・レーベル〈サミット〉が主催する〈アバランチ2〉に行った。〈サミット〉はいち早くPSGやシミ・ラボに注目して契約を交わしたレーベルで、僕はこのレーベルの"嗅覚"というものを信じている。〈アバランチ2〉のラインナップを見たとき、絶対観に行こうと決意した。

 シミ・ラボやパンピー、キエるマキュウやエラも観ることができる。あの瑞々しい"Pool"のミュージック・ヴィデオ一本で巷の話題をさらった新星、ザ・オトギバナシズも出演する。僕は彼らのライヴを、その前の週に青山の〈オース〉という小さなDJバーで観ていた。やけのはらやパンピーという人気者がいながら、オーディエンスの熱い視線はザ・オトギバナシズの3人に注がれていた。彼らは少し戸惑っているように見えたが、その状況を乗り切るだけの気迫と若さがあった。フロントのふたりがアグレッシヴな態度でラップする姿が印象的で、僕は〈ユニット〉規模のステージで改めて彼らのライヴを観たいと思った。

 イヴェントは夕方4時から始まり、僕が会場に到着した直後、ちょうどザ・オトギバナシズがステージに姿を現した。3人は堂々というよりも飄々としていた。インターネットを通じて、彼らのスタイリッシュな映像や"チルウェイヴ以降"の音、その抑制の効いたラップだけを聴いている人は、もしかしたらチャーミングな彼らの、とくにビムの強気なステージングに戸惑うかもしれない。"Pool"と、その日会場で販売していた『Avalanche 2 Bonus CD-R』に収められた"Kemuri"、"Closet"、どの楽曲もたしかに現実逃避的で、幻惑的であるのだけれど、ライヴではそこに生々しい感情が込められていく。そのどこかちぐはぐな感じが、彼らの現在の瑞々しさであり、魅力だと思う。

 会場を見渡すと、男も女もシュッとしたおしゃれな人が多い。夜中のクラブにはない、爽やかな雰囲気が漂っている。そのフロアにD.J.エイプリルは、ジュークを次々と投下し、フットワークのダンサーは扇動者となって輪を作り、ダンスの渦を巻き起こしていった。みんな笑顔で、手足をアクロバティックに動かしている。フットワークというダンスには、人の奥底にある何かを解放する陽性の魔力があるようだった。僕はといえば、スピーカーの前に陣取って、腰をくねくねしながら、はじめて大音量で聴くジュークを堪能していた。ソウル・シンガーのヴォーカルがずたずたに切り裂かれ、ベースはうなりをあげ、キックとスネアとハイハットがびゅんびゅん飛び交っていた。身も蓋もないが、「こりゃ、すごい! ジュークには黒人音楽のすべてが詰まっている!」、そう感じて熱くなった。はじめてムーディーマンの黒さに魅了されたときのような興奮を覚えた。

 ジュークの嵐のあと、エラがステージに颯爽と現れ、いい感じに脱力したメロウでルードなパフォーマンスを見せた。エラのあの渋い声とスペーシーなトラックが会場に響くだけで充分だった。ラウ・デフとゲストとして登場したQNの人を食ったような、挑発的な態度から繰り出すラップは、ラッパーとしてのスキルの裏づけがあるからこそ成立する鋭い芸当だった。ふたりは現在、ミュータンテイナーズ(ミュータントとエンターテイナーを掛け合わせた造語)の活動をスタートさせている。

 そして、僕ははじめて観るキエるマキュウのライヴがどんなものなのかと期待しながら、待った。ソウルやファンクの定番ネタを惜しみなく引っ張り出した彼らの9年ぶりの新作『Hakoniwa』はサンプリング・アートとしてのヒップホップがいまも未来を切り拓けることを証明し、フェティシズムとダンディズムの美学を追及したマキ・ザ・マジックとCQのラップは、感動的なほどナンセンスで、下世話で、ファンキーだった。
 誰もが正しいことを言おうとする時代に、彼らは徹底して正しさを拒絶した。それは言ってしまえば、Pファンク的であり、ふたりのラップはゴーストフェイス・キラーとレイクウォンのコンビを連想させた。僕はこのアルバムを聴きながら、笑いながら泣いた。
 彼らのライヴに期待していたのは僕だけではなった。多くの人が期待していた。イリシット・ツボイは、ブースの前でスタンバイすると、唐突にCDJをステージの床に置き、会場を爆笑に包む支離滅裂な言葉を吐き、クラウドを激しく煽った。そして、ビートが鳴り響いた瞬間、僕はその音の太さに一瞬にして痺れた。マキ・ザ・マジックとCQのラップは、上手さではなく、味わいで勝負していた。まさにベテランの凄みと粋だった。
 マキ・ザ・マジックはよく喋り、イリシット・ツボイと絡み合う謎の身体パフォーマンスを見せた。会場からは終始笑いが起こり、僕の後ろで観ていた女性は、「なに、あれ、意味不明、自由過ぎる! アハハハハ」と笑っていたが、僕もその通りだと思った。彼らは昨今なかなかお目にかかることのない最高のアホで、素晴らしく自由だった。その時点で、この日のMVPはキエるマキュウだと確信した。

 一息つこうとぶらぶらしていると、会う人、会う人、キエるマキュウのライヴを賞賛している。ある人はエラが良いと言っていた。いろんな意見があった。その後すかさず始まったDJのセックス山口とサイドMCのゼン・ラ・ロックのショータイムは、サービス精神の塊だった。セックス山口は、僕がパフュームの曲の中で唯一大好きな"マカロニ"のイントロを執拗にループさせたかと思えば、マイケル・ジャクソンの"ビート・イット"をスピンした。こんなにベースがかっこいい曲だったのか、と思った。セックス山口のDJには、誰もが知っている有名曲の新鮮な魅力を引き出す面白さがあった。大きな眼鏡をかけ、奇抜なファッションをしたゼン・ラ・ロックは体を激しくバウンスさせて、フロアのダンサーたちを煽り、女の子をきゃあきゃあ言わせていた。その流れでのパンピーのソロ・ライヴも大盛り上がりだった。パンピーは生涯2回目(だったか?)というソロ・ライヴを大いに楽しんでいるようだった。PSGと曽我部恵一が共作したサマー・チューン「サマーシンフォニーver.2」のイントロが流れた瞬間、フロアの盛り上がりはピークに達し、その日いちばんの黄色い歓声があがった。あの曲は、完璧にアンセム化していた。パンピーは今年こそソロ・アルバムを出すとMCで語っていたから期待しよう。

 パンピーやゼン・ラ・ロック、シミ・ラボといった面々の功績も大きいのだろうが、いま、ラッパーやヒップホップのDJがちょっと意外なところに呼ばれることもあるようだ。アイドルとブッキングされるとか、そういう話もちらほらと聞く。
 〈アバランチ2〉から数週間後の9月15日、QNとロウパスのギヴン、ビムが出演するという噂を聞きつけ、下北沢で早朝近くまで飲んだあとに、〈トランプルーム〉という渋谷のタワーレコードの近くのビルの一角にあるスペースで開かれるパーティに行って、驚いたことがある。
 足を踏み入れた瞬間に僕は、その熱気に大きな衝撃を受けた。身動きできないほどの人の多さと西洋の貴族の屋敷を思わせるゴージャスの内装にも驚いたが、まるで仮装パーティのように着飾った男女の豪奢なファッションに圧倒された。べらぼうに高価な服というわけではないのだろうが、それぞれに独自の個性があり、男も女もセクシーで若く、尖がっていた。僕は赤いパンツを履いていたのにもかかわらず、「こんな地味な格好で来て、しまったな~」と気まずくなった。ビールが500円だったのにはほっとした。
 さらに僕を興奮させたのは、5、6割が外国人だったことだ。白人もいれば、黒人もいれば、ラテン系やアジア系もいる。そして、その場はとにかく底抜けにエネルギッシュだった。僕はファッション事情にはまったく疎いし、そのパーティの背景も実はよくわからない。レディ・ガガは日本に来ると、原宿あたりの服屋で大量に服を買っていくらしいという噂はよく耳にするが、そのあたりの文化圏につながっている雰囲気をなんとなく嗅ぎ取ることはできた。〈トランプルーム〉も元々もは服屋だったそうだ。
 たまたま酒を飲み交わしたフランス人は不服そうな顔をして、「スノッブだ」とこぼしたが、僕は、おしゃれに着飾ったいろんな人種や国籍の若者が入り乱れながらパワフルに踊る光景を見て、〈KAWAII TOKYO〉と銘打たれたこの開放的なパーティにQNとギヴン、ザ・オトギバナシズのような新世代のラップ・アーティストが呼ばれていることに、なんだか明るい未来を感じた。

 とにもかくにも、〈アバランチ2〉には、豪華な面子が集まっていた。そして、彼らは素晴らしいパフォーマンスを見せた。僕は途中まで、キエるマキュウがこの日のMVPを持っていったと思っていた。が、その日のトリを飾ったシミ・ラボがひっくり返した。彼らは間違いなくその日のベスト・アクトだった。マリア、ジュマ、オムスビーツ、ウソワ、ディープライド、DJハイスペックの6人の凄まじい気迫がこもったライヴは、僕がこれまで観た中でも最高のパフォーマンスだったと思う。彼らは相変わらずファニーで、ファンキーだったが、シリアスな態度も忘れなかった。彼らはジョークを言いながらも、主張することは主張した。オムスビーツとジュマは、スピーカーの上に乗って、激しく体を揺らし、ラップした。マリアとディープライドは彼らのソロ曲を披露し、オムスビーツは、「いろんな意見があるだろうし、自分も本当は言いたくはないけれど、言わせてくれ」というような主旨の前置きをしてから、「ファック・ザ・ポリス!」と職質に対する不満を痛烈な言葉にして吐き出した。それはリアルに心に響く言葉だった。シミ・ラボの新曲"We Just"のたたみかける怒涛のビートと5人の隙のないマイク・リレーも圧巻だった。彼らは見るたびにラップのキレが増している。ライヴとはアーティストの変化を楽しむものでもある。

 オムスビーツは数日前にファースト・ソロ・アルバム『Mr. "All Bad" Jordan』をリリースした。不覚ながら、僕はまだ聴けていないが、ユニークな作品に仕上がっているに違いない。聴くのが楽しみだ。11月3日には町田で彼のリリース・パーティがある。ザ・オトギバナシズは、〈サミット〉とディールを交わすことをこの日のステージで宣言していた。『Avalanche 2 Bonus CD-R』にはエラとパンピーの共演曲も収められていた。とにかく、僕がここで伝えたいのは、2ヶ月経ってしまっていようが、レポートを書く意義を感じるほど、〈アバランチ2〉はライヴ・イヴェントとして充実していたということだ。次も僕はきっと行くだろう。

(special thanks to 増田さん@summmit)

DBS 16th. Anniversary - ele-king

 UKアンダーグラウンド・サウンズのリアル・ヴァイブスを伝えるべく1996年11月にスタートしたドラムンベース・セッション、通称DBSが16周年を迎える。
 この16年間、ジャングル/ドラム&ベース、ダブ、ブロークン・ビーツ、クラック・ハウス、グライム、ダブステップ等、さまざななベース・ミュージックを紹介し数々の伝説を生んできた。
 今回、ダブステップの最高峰、DMZからDIGITAL MYSTIKZのCOKIが初来日! 
 Deep Medi Muzikからフューチャー・ソウルの才人、SILKIEが待望の再来日! UKベース・ミュージックのブラックネスを体感してほしい!


2012.11.03 (SAT) at UNIT

feat.
COKI / DIGITAL MYSTIKZ
(DMZ, Don't Get It Twisted, UK)
SILKIE
(Deep Medi Musik, Anti Social Entertainment, UK)

with: KURANAKA 1945 , G.RINA

vj/laser: SO IN THE HOUSE

B3/SALOON: ITAK SHAGGY TOJO, DX, KEN, DOPPELGENGER, DUBTRO
FOOD:ポンイペアン"ROOTS"

open/start 23:30
adv. ¥3500 door ¥4000

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

★COKI / DIGITAL MYSTIKZ (DMZ, Don't Get It Twisted, UK)
ダブステップのパイオニア、DIGITAL MYSTIKZはサウス・ロンドン出身のMALAとCOKIの2人組。ジャングル/ドラム&ベース、ダブ/ルーツ・レゲエ、UKガラージ等の影響下に育った彼らは、独自の重低音ビーツを生み出すべく制作を始め、アンダーグラウンドから胎動したダブステップ・シーンの中核となる。03年にBig Apple Recordsから"Pathways EP"をリリース、04年には盟友のLOEFAHを交え自分達のレーベル、DMZを旗揚げ、本格的なリリースを展開していく。そして名門Rephlexのコンピレーション『GRIME 2』にフィーチャーされ、脚光を浴びる。05年からDMZのクラブナイトをブリクストンで開催、着実に支持者を増やし、FWD>>と並ぶ二大パーティーとなる。COKI自身は05年以降、DMZ、Tempa、Big Apple等からソロ作を発表、ダブステップ界の重鎮となり、08年にBENGAと共作した"Night"(Tempa)は爆発的ヒットとなり、ダブステップの一般的普及に大きく貢献する。10年末にはDIGITAL MYSTIKZ 名義でアルバム『URBAN ETHICS』を発表(P-VINEより日本盤発売)、血肉となるレゲエへの愛情と野性味溢れる独自のサウンドを披露する。その後もDMZから"Don't Get It Twistes"、Tempaから"Boomba"等、コンスタントに良質なリリースを重ねつつ、11年から謎のホワイト・レーベルのAWDで著名アーティストのリワークを発表、そして12年、遂に自己のレーベル、Don't Get It Twistedを立ち上げ、"Bob's Pillow/Spooky"を発表、今、ノリに乗っている。悲願の初来日!
https://www.dmzuk.com/
https://www.facebook.com/mista.coki
https://twitter.com/coki_dmz

★SILKIE (Deep Medi Musik, Anti Social Entertainment, UK)
ダブステップのソウルサイドを代表するプロデューサーとして"ダブステップ界のLTJブケム"とも称されるSILKIEはウエストロンドン出身の26才。2001年、15才でシーケンスソフトを使って音作りを始め、多様なビーツを探求、またDJとしてReact FMでR&B(スロウジャム)をプレイする。03年にDAZ-I-KUE (BUGZ IN THE ATTIC)の協力でシングル"Order" (P Records)を初リリース。その後QUESTらとAnti Social Entertainmentを立ち上げ、"Sign Of Da Future"(05年)、"Dub Breaks"(06年)を発表。やがてDMZのMALAと出会い、08年に彼のレーベル、Deep Medi Musikから"Hooby/I Sed"、"Skys The Limit/Poltigiest"を発表、またSoul JazzやSKREAM主宰のDisfigured Dubzからもリリースがあり、SILKIEの才能は一気に開花する。そして09年、Deep Mediから1st.アルバム『CITY LIMITS VOL.1』が発表されるとソウル、ジャズ、デトロイトテクノ等の要素も内包した壮大な音空間で絶賛を浴び、ダブステップの金字塔となる。その後も彼のコンセプト"City Limit"(都市の境界)は"Vol. 1.2"、"Vol. 1.4"、"Vol.1.6-1.8"とシングルで継続され、11年6月には2nd.アルバム『CITY LIMITS VOL.2』を発表(P-VINEより日本盤発売)。DJとしても個性を発揮し、11年の"FACT Mix 255"に続き、12年7月に盟友Questと共に名門TempaのMixシリーズ『DUBSTEP ALLSTARS VOL.9』を手掛けている。震災直後に単独でDBSにやって来てくれた11年4月以来、1年半ぶりの再来日!
https://deepmedi.com/
https://www.facebook.com/silkie86
https://twitter.com/silkierose

Ticket outlets: NOW ON SALE !
PIA (0570-02-9999/P-code: 179-674)、 LAWSON (L-code: 70250)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/ https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、
TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、
Dub Store Record Mart(3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

Chart JET SET 2012.10.29 - ele-king

Shop Chart


1

Greg Foat Group - Girl And Robot With Flowers (Jazzman)
11年のシングル、アルバムは一瞬で完売。エレガントでサイケデリックでグルーヴィーな独自の世界を進化させた話題の新作が登場です。即完売必至の1000枚限定プレス!!

2

Frank Ocean - Thinking About You (Unknown)
2012年にアルバム『Channel Orange』で公式デビューを果たしたR&bシーンの注目株Frank Oceanによる"Thinking About You"の5リミキシーズ! どれも原曲を生かしたナイスな仕上がり!

3

Martha High & Speedometer - Soul Overdue (Freestyle)
Vicki Andersonをカヴァーした大ヒット・シングル続く待望のアルバムは、ソウル/ファンク名曲の数々をカヴァー。

4

Egyptian Hip Hop - Syh (R&s)
鮮烈なデビューから早くも2年。遂に出たアルバムから500枚限定の7インチが登場!!

5

Kendrick Lamar - Good Kid, M.a.a.d City
玄人をも唸らせるフリースタイル・スキルを持つ若手ラッパーが、Cd/mp3音源でのリリースやDrake, 9th Wonder等の客演を経て、遂にAftermathからメジャー1stアルバムが投下されました!

6

Stepkids - Sweet Salvation (Stones Throw)
2011年の1st.アルバムが高い評価を得た西海岸の腕利きトリオ、Stepkids。年明けリリース予定のセカンド『Troubadour』からの先行12インチが到着です!!

7

Enzo Elia - Balearic Gabba Edits 3 (Hell Yeah)
Enzo Elia自身の主宰する要注目のイタリアン・レーベルから、ヴァイナル・オンリーで展開される大人気シリーズ"Barearic Gabba Edits"第三弾!

8

Beauty Room - Beauty Room ll (Far Out)
A.o.r.、ブルーアイド・ソウル、ソフトロックまで取り込んだ、洗練を極めた究極の都市型音楽が誕生!!

9

La Vampires With Maria Minerva - Integration Lp (Not Not Fun)
ごぞんじ100% silk主宰者Amanda Brownのソロ名義、La Vampires。当店超ヒットのItal、Octo Octaに続くコラボ盤は、ロンドンの女性クリエイターMaria Minervaがお相手です!!

10

Sir Stephen - House Of Regalia (100% Silk)
12"「By Design」が最高だったニュー・オーリンズの鬼才クリエイターによる8曲入りアルバム。アシッド・ハウス~ヒップ・ハウス~アーリー・90's・ハウスを極めた入魂の全8トラック!!

vol.4 『Fez』 - ele-king

 みなさんこんにちは。連載もあっという間に4回めですが、今回は前回の予告通り今年発売されたインディーズのゲームから1本、『Fez』をご紹介したいと思います。

 『Fez』はカナダのインディーズ・スタジオ〈Polytron〉が開発で、今年4月にXbox Live Arcadeで発売されたアクション・パズルゲームです。このゲームは内容的にも業界内の立ち位置的にも、いろいろな意味で現代のインディーズ・ゲームを体現している作品で、本連載でもインディーズ・ゲーム紹介の第1号としてこの上なく適任だと判断しました。

 まずそもそもインディーズ・ゲームとは何かという説明からはじめると、その業態は音楽におけるインディーズ・シーンと似たようなものだと考えてもらっておおむね間違いないでしょう。メジャーの流通や資本に頼らず、小規模な体制で自主制作的に開発・販売が行われるゲームを指します。

 2000年代中頃からゲーム業界では既存の流通にかわりダウンロード販売が台頭しはじめ、それによって後ろ盾のない個人でも、容易に自作のゲームを販売できる手段として注目されるようになりました。インディーズでもゲームを世界規模で販売できる時代がやってきたのです。

 現代のインディーズ・ゲームのほとんどはパッケージとして店頭販売されることはありません。しかし〈Steam〉や〈GOG〉、〈Xbox Live Arcade〉等のゲームのダウンロード販売サービスを見ると、インディーズ・ゲームはメジャー作品たちと並んで確たる市場を形成しているのが見てとれるでしょう。


ダウンロード販売サービス最大手の〈Steam〉では、毎日のようにインディーズの新作が発売されている。

 『Fez』はこうした近年勢いを増すインディーズ・ゲーム業界内で、ひとつの象徴としてかねてから注目を集めつづけていた作品です。2007年の開発開始から5年という長い歳月をかけて作られた本作は、その斬新なアイディアが発売前から高く評価され、インディーズ・ゲームの一大祭典、IGF(Indie Game Festival) での08年の受賞をはじめ、各方面で多くの賞を獲得しています。

 また今年公開されたインディーズ・ゲームの開発現場にスポットを当てたドキュメンタリー映画、『Indie Game: The Movie』で中心的に取り上げられていたことも記憶に新しいでしょう。

『Fez』以外にも『Super Meat Boy』や『Braid』といった数々のヒット作の舞台裏が描かれている。

 本作のディレクターで〈Polytron〉代表のPhil Fish氏もなにかと話題になることが多い人物です。彼は過激な言動で知られており、今年のGDC(Game Developer Conference)では最近の日本のゲームはひどいという趣旨の発言をしたり、ゲームのパッチの配信の際には〈Xbox Live Arcade〉のオーナーであるMicrosoftと規約の件で揉めることもありました。その姿勢は常識知らずとも呼べれば、勇敢とも言えるでしょう。とにかく彼は業界の慣習やタブーに臆しません。

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■多くのインディーズゲームにとっての理想の体現者

 以上駆け足で『Fez』の周辺事情について解説してみましたが、既存のゲーム業界に対するカウンターとしての存在感の強さを感じていただけたかと思います。そしてそれは肝心のゲーム内容においても同様だと言えます。

 『Fez』はパッと見は昔懐かしい8bitスタイルの2Dプラットフォーマーです。しかしそれは半分は当たっていますが、もう半分は間違っている。本作の画面は、じつは奥行きのある空間が平面に錯視して見えているのです。ゲーム中は基本的にいつでも画面を90度ずつ回転させることができ、そうすることで平面に見えていたマップも、遠近感がないだけでしっかり奥行きがあることがわかります。


ちょうど45度の角度から見るとこんな感じ。

 本作がユニークなのはここからで、画面を回転させると当然奥行きに応じて物の角度や位置関係は変わるわけですが、プレイヤーは画面に映っているものは手前奥の関係を無視して、地続きの同一平面として歩き回れるのです。

 これは例えればエッシャーの騙し絵のなかを歩き回っている感覚とでも言いましょうか。しかしこう説明してもたぶんサッパリわからないでしょうし、僕もこれ以上うまく説明できる自信がありません。なので論より証拠ということで、実際のゲーム中の映像を見ていただきましょう。どういうことか一発で理解できるはずです。

まさにヴァーチャルでしか表現できない空間である。

 本作はまさに「発想の勝利」のゲームであり、3Dの概念を一風変わった方法で2Dプラットフォーマーに落とし込んだそのスタイルは、いままでにない新鮮な魅力があります。

 またその発想をプレゼンテーションする術に長けているのも評価できるポイントです。本作は全編を通じてこの錯視を利用したパズルで構成されていますが、この錯視効果はともすればかなり複雑で難解になってしまうおそれもあります。しかしそれを回避し直感で遊べるとっつき易さと錯視の不思議さをうまく両立できているのはみごとと言うしかありません。

 少し話が逸れますが、インディーズ・ゲームでは『Fez』のような8bitスタイルの2Dプラットフォーマーは非常によく見るジャンルのひとつです。それはメジャー・ゲームへのアンチテーゼ=過去の2D時代のゲームの復権という意識がインディーズ業界全体にあるからでしょうし、また限られた開発環境でも作りやすいスタイルであるという現場の事情もあるでしょう。

 ただ多くの作品はそこからもうひとつアイディアが足りず、流行の後追いどまりだったり、単なる懐古趣味に落ちついてしまったりすることがほとんどです。『Fez』もまたその王道路線の上に立っている作品であるのは間違いありませんが、しかしひたすらに典型的な立ち位置でありながら、錯視というアイディアによって並みの作品とは一線を画す存在になっています。

 おそらくはそれが本作がインディーズ・ゲーム業界内で多くの支持を集める理由でもあるのでしょう。ビジュアルからゲーム・システム、はたまた作中に散りばめられたオマージュの数々に至るまで、本作はかつての2Dゲーム時代の郷愁に満ちています。あるいはそれは現在のメジャー・ゲームへの痛烈な批判にも映るでしょう。その上で他にはない最高のアイディアを持っている。

 これはまさに多くのインディーズ・ゲームが望み、求め、しかし得られない条件をすべてクリアしているのです。言うなればインディーズ・ゲームの黄金比。このへんの事情は業界を普段から眺めていないと見えてこないかもしれませんが、確かなおもしろさや新しさとしては誰しも等しく感じとることができるはずです。

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■面倒くささはおもしろさたり得るのか

 ここまで褒めちぎってみましたが、それだけではフェアじゃないので問題点も挙げてみることにしましょう。ご愛嬌といえばそれまで程度のものかもしれませんが、しかし決して無問題というわけでもありません。

 問題は大きくわけてふたつあり、ひとつは難易度がやさしめか激ムズの両極端で中間領域がやや貧しいという点。先ほどの項で本作は直感で遊べてとっつきやすいと書きましたが、それは言いかえれば難易度が低いということでもあるのです。通常のステージは全体的に難易度は低めに抑えられており、後半はもう少し歯ごたえがほしいと感じる場面がいくつかありました。

 一方でクリアのために絶対必要というわけではない、一種のチャレンジ的なパズルも用意されているのですが、こちらはうって変わって非常に難易度が高い。ほとんどの場合はノー・ヒントで、ヒントがあってもそれ自体もまた謎のひとつになっており、相当注意深くないとそれがヒントであることすら気づけません。本気で解こうと思ったらすべてを疑う心持ちと、メモは必須と言えるでしょう。


大きな謎のヒントがここに......ってわかるかい!

 もうひとつの問題はアクションの鈍重さや複雑なマップ構成等による、移動にまつわる部分での快適さに欠けている点です。本作のステージは相互に連なるハブ状になっており、同じ箇所を何度も通ることが多い。それは一度解いたパズルをもう一度解き直すということでもあり、プレイヤー・キャラのノソノソした動作も相まって次第に面倒になってきます。またファストトラベルも限定的。

 この移動にまつわる問題は、ひとつめの難易度の問題とも連動してくるのが厄介です。なぜなら本作のパズルは複数のステージをまたぐものも多いからです。ときには正反対のステージへ向かわなければいけない場合もあり、ファストトラベルを駆使してもたどり着くだけでひと苦労。また先ほども述べたようにゲーム側からのヒントはほぼ無くプレイヤー自身の推理に頼るしかないので、思い違いによる骨折り損も多々起こり得たりと、情報の整理を難しくしています。


全体マップ。わかりやす......くない!

 しかしこれがいまどきのメジャー・ゲームだったら、「ユーザビリティがなっていない」と即批判の対象になりかねないところですが、本作にいたってはそんな頭ごなしの批判をすべきかやや迷ってしまいます。上記の問題点はかなり意識的にそうデザインされている節があるからです。

 メモが必須であること、それがすべての意図になっている気がします。思えば昔のゲームもそうでした。かつてのゲームはいまほど親切ではなかったし、理不尽な難易度のものも少なくありませんでした。インターネットを使って攻略サイトという便利な方法もなかったので、必然メモを取る機会がいまよりずっと多かったのです。本作はわざと不親切、高難易度にすることで過去のプレイ・スタイルを復刻しようとしたのかもしれません。

 だとすればその意図はうまく実現できていると言えるでしょう。それを愛嬌ととるか欠陥ととるかはプレイヤーの嗜好次第というわけです。こうした前提の上で意見を述べると、少ないヒントから自ら推理しメモを使いながら解いていく楽しさは確かにあるでしょう。しかしそこに面倒くささが介在してはならないというのが僕の考えです。

 面倒くさいこと、それ自体は郷愁を取りのぞくと何のおもしろみもありません。同じおもしろさの遊びでより面倒くさい要素の少ないゲームがあれば、そっちの方がいいはずだし、それを信条にして面倒くささを徹底して省いていったことが、今日のメジャー・ゲームの広範な訴求力につながったと思っています。

 たとえノスタルジーがテーマの作品でも、現代で作る以上そこは追求するべきであって、『Fez』の場合はマップの使い勝手の悪さ、移動の億劫さが足を引っ張っているように思えます。現状の全体マップでは各ステージが小さいサムネイルで表示されるのですが、ここで個々のステージの全体像をもっとしっかり確認できれば、思い違いもなくなりかなり効率が上がるでしょう。

 またステージの気になる箇所をスクリーン・ショットを撮っていつでも参照できる機能があってもいいかもしれません。もちろんファストトラベルはもっと拡充するべき。以上ざっと思いつくことを書いてみましたが結局は面倒くささが払拭されればそれでいいのです。こうしたユーザビリティへの配慮がもっと全体に行き届いていれば、『Fez』はより完璧に近い作品になれたのでしょう。その点がやはり少し残念でした。

■まとめ

 インディーズ・ゲーム入門に最適な1本です。枝葉の部分で多少の問題点はありますが、ゲームの核心部のできは確かなものがあり、とくに錯視のシステムのユニークさはメジャーもインディーズも問わず突出した魅力があります。またいろいろな面で王道路線を行く作品なので、インディーズ・ゲームとは何たるかを理解する上でも非常にわかりやすい実例のひとつと言えます。

 最後に本文中ではほとんど触れませんでしたが、Phil Fish氏の過激な言動についてひとつ。何かと槍玉に挙げられやすい彼の発言ですが、とりわけ今年のGDCでの日本のゲームへの批判は国内外問わず大きな議論を呼ぶことになりました。

 それでなくとも近年は日本のゲーム業界の衰退論が話題に上がりやすく、そのたびに日本は終わったいや終りじゃない等といった水掛け論が繰り返されています。そうした状況下で、インディーズ畑出身のPhil Fish氏がGDCという場で、しかも日本人質問者に対して強い口調で批判的な回答をしたことは、相当センセーショナルなできごとだったのです。

 しかし彼の発言の是非はおき、個人的にはインディーズの開発者の発言がここまで話題になるということ自体に、時代は変わったのだと感慨深く思わされます。数年前まではこんなことは考えられなかったわけで、それだけインディーズの重要度が高まったということなのでしょう。

 もちろん彼の発言内容は聞き捨てならないところが多々ありますが、そこでちゃんと議論が起こるのはむしろ健全で、喜ばしささえ感じます。願わくばPhil Fish氏においては今後もひるむことなく、その挑戦的な姿勢で引き続き業界を引っ掻き回してほしいと思う次第であります。

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