「Ord」と一致するもの

 音楽やそれを取り巻く風俗を現場の皮膚感覚から言葉にし、時代を動かすアンダーグラウンド・カルチャーをつぶさに眺めてきた人気ライター2人が、これからの音楽の10年を考える連続対談集『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』。

 著者の磯部涼さん&九龍ジョーさんによる、スペシャル・ゲストを交えてのトーク・セッションが開催されます! お迎えするのは、伝説的な"リトル・マガジン"『SUB』とその誕生の背景を追う瀟洒なノン・フィクション『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』などの著作や、数々の音楽本の編集・執筆で知られる北沢夏音さん。そして、高い詩情と文学性によって歌謡とロックの歴史の先端を繊細に掘削するシンガーソングライター、前野健太さん。本書の大きなテーマのひとつでもある「音楽のなる場所」──2010年代に音楽はどのような場所で鳴っているのか、それは政治や社会とどのように関係しているのか──をキーワードに、狭い意味での"音楽シーン"を超えて、わたしたちの生きる場所と、そこに結びつくさまざまな音について思いをめぐらせます。

 アンプラグドな前野さんの演奏も間近く聴ける!? 

 ファンのかたにも、初めてお名前を知るかたにも、素敵な時間をお届けいたします(トーク内容は変更する場合もございます)。

○日時:平成26年6月4日(水) 19:00~ (開場18:30)
○場所:紀伊國屋書店新宿本店 8階イベントスペース 
○定員:50名
○参加費:1,000円
○参加方法:2014年5月20日(火)午前10:00時より7階レジカウンターにてご予約を承ります。
ご予約電話番号:03-3354-0757
新宿本店7階芸術・洋書売場(10:00~21:00)

※当店に繋がる他の電話番号におかけになられてもご予約は承れませんのでご注意下さい。
※イベントに関するお問い合わせも、上記の電話番号までお願いいたします。

※参加料1,000円はイベント当日、会場受付にてお支払いいただきます。
※イベント終了後『遊びつかれた朝に』をお持ちのお客様対象にサイン会を行います。


出演者プロフィール

北沢夏音(ライター・編集者)
1962年生まれ。主にサブ・カルチュアに関する企画・編集・執筆を行う。著書:『Get back,SUB! あるリトル・マガジンの魂』(本の雑誌社)/監修:『80年代 アメリカ映画100』(芸術新聞社)/共著:『冬の本』(夏葉社)、『音盤時代の音楽の本の本』(カンゼン)、『山口冨士夫 天国のひまつぶし』(河出書房新社)/対談構成:山口隆 『叱り叱られ』(幻冬舎)/書籍編集:寺尾紗穂『愛し、日々』(天然文庫)、森泉岳土『夜のほどろ』(同)/CDボックス・ブックレット編集執筆:『人間万葉歌 阿久悠作詞集』三部作(ビクターエンタテインメント)、やけのはら『SUNNY NEW BOX』(felicity/SSNW)など。

前野健太(ミュージシャン)
1979年埼玉県入間市出身。シンガーソングライター。2007年に自ら立ち上げたレーベル"romance records"より『ロマンスカー』をリリースしデビュー。2009年にセカンドアルバム『さみしいだけ』を"DIW"よりリリース。
2009年元日に東京・吉祥寺の街中で74 分1 シーン1 カットでゲリラ撮影された、ライブドキュメント映画『ライブテープ』(松江哲明監督)に主演として出演。第22 回東京国際映画祭「日本映画・ある視点部門」で作品賞を受賞し全国の劇場で公開された。
2010年9月"Victor Entertainment"より発売された『新・人間万葉歌~阿久悠作詞』へ参加。2011年2月"romance records"より3 枚目のオリジナルアルバムとなる『ファックミー』をリリース。同年、松江哲明監督の新作映画『トーキョードリフター』に再び主演として出演。全国劇場で公開される。また主題歌をリレコーディングしたコンセプトアルバム『トーキョードリフター』を"felicity"よりリリース。
2011年末には第14 回みうらじゅん賞を受賞。2012年auの新CM「あたらしい自由」篇に出演。2013年1月、ジム・オルーク氏をプロデューサーに迎え制作された4 枚目のアルバム『オレらは肉の歩く朝』を発売。同年7月「FUJI ROCK FESTIVAL'13」へ出演。
公式HP: https://maenokenta.com/
公式twitter: @maeken_info

磯部涼(音楽ライター)
78年生まれ。主にマイナー音楽、及びそれらと社会との関わりについてのテキストを執筆し、04年に単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』(太田出版)を、11年に続編『音楽が終わって、人生が始まる』(アスペクト)を刊行。その他、編著に風営法とクラブの問題を扱った『踊ってはいけない国、日本』『踊ってはいけない国で、踊り続けるために』(共に河出書房新社)がある。

九龍ジョー(編集者・ライター)
76年生まれ。ポップ・カルチャーを中心に原稿執筆。『KAMINOGE』、『QuickJapan』、『CDジャーナル』、『音楽と人』、『シアターガイド』、などで連載中。『キネマ旬報』にて星取り評担当。編集近刊に、坂口恭平『幻年時代』(幻冬舎)、岡田利規『遡行変形していくための演劇論』(河出書房新社)、『MY BEST FRIENDS どついたるねん写真集』(SPACESHOWERBOOKS)などがある。

 音楽やそれを取り巻く風俗を現場の皮膚感覚から言葉にし、時代を動かすアンダーグラウンド・カルチャーをつぶさに眺めてきた人気ライター2人が、これからの音楽の10年を考える連続対談集『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』。

 本書の重要なテーマのひとつである「音楽のなる場所」──2010年代に音楽はどのような場所で鳴っているのか、それは政治や社会とどのように関係しているのか──をより発展的に考えるべく、著者磯部涼&九龍ジョーが、スペシャル・ゲストを迎えてトーク&ライヴを開催! お迎えするのは、それぞれに新しい「パーティ」のかたちを模索するキー・パーソンたち。 「新宿ロフト飲み会」等で知られ、日本のポップスにダンスと歌謡のダイナミズムを復権させる音楽集団、〈音楽前夜社〉のスガナミユウさん、「SHIN-JUKE」や「SCUM PARK」で、ジュークやフットワークを切っ先に音楽的にも空間的にも新しい場所をひらく〈オモチレコード〉の望月慎之輔さん、その〈オモチレコード〉になくてはならないバンドHave a Nice Day!の浅見北斗さん、そして、「24時間365日開放」されたスペースで、アーティストを中心にシェアハウスとは異なる共同生活のあり方を実践する〈渋家〉の齋藤桂太さん、としくにさん。

 さらにはライヴ・パートとして、いまもっともパフォーマンスや音盤化が切望される嫁入りランドさん、"ダンスミュージックを使ってブースからプレイするハードコア・バンド”LEF!!!CREW!!!のDJ MAYAKUさんと『Internet Dungeon EP』や『Sekai no Minasan Kon-nichiwa』で注目の集まるSOCCERBOYさん、パーティ・シーンの台風の目NATURE DANGER GANGさんのパフォーマンスも!

 音楽とともに、音楽を超えて、「パーティ」が我々に見せてくれる未来像を探る!

2014/05/27 (火)
19:00~21:00 磯部涼+九龍ジョー
『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』刊行記念
「パーティの現在、日本の未来」

出演:磯部涼、九龍ジョー
TALK GUEST:スガナミユウ(音楽前夜社)、望月慎之輔(オモチレコード)、浅見北斗(Have a Nice Day!)、齋藤桂太(渋家)、としくに(渋家)、寺沢美遊(写真家)
LIVE GUEST:NATURE DANGER GANG、SOCCERBOY+DJ MAYAKU

21:00~24:00 BROADJ Pionner
「Jeminic Records presents Off The Hook on DOMMUNE!!/BROADJ♯1294」
LIVE:Jimanica、RIOW ARAI  TALK: Jimanica、林永子、カワムラユキ

www.dommune.com


■6/4(水)は紀伊國屋書店新宿本店でもトーク&ライヴ!
ご予約受付中!

磯部涼+九龍ジョー+スペシャル・ゲスト北沢夏音&前野健太!
『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』刊行記念トーク・セッション

詳細:
https://www.kinokuniya.co.jp/c/store/
Shinjuku-Main-Store/20140520100013.html

○日時:平成26年6月4日(水) 19:00~ (開場18:30)
○場所:紀伊國屋書店新宿本店 8階イベントスペース 
○定員:50名
○参加費:1,000円
○参加方法:2014年5月20日(火)
午前10:00時より7階レジカウンターにてご予約を承ります。
ご予約電話番号:03-3354-0757
新宿本店7階芸術・洋書売場(10:00~21:00)


DJ歴 1994-2014 祝20周年!まだまだイキマス!!
Facebook : https://www.facebook.com/fumicro

>>DJ Schedule
2014/05/24-25 "Re:birth 2014" @千葉 富津岬
2014/05/31-06/01 "amitAyus" 12th anniversary @福岡 八女 グリーンパル日向神峡
2014/06/21(SAT) "GOKURAKU" @福岡 親富孝 graf
2014/06/28(SAT) "BlackOut周年祭" @福岡 今泉 BlackOut
2014/07/04(FRI) "ウルトラミィグルグル" @沖縄 宮古島 ウルトラミャーク
2014/07/12(SAT) "にわか ゴメンそ~れ" @沖縄 那覇 Mile Stone
2014/07/19-20 "Mind Of Vision open air 2014" @新潟 妙高杉ノ原スキー場

オンシーズン到来! 広大な大自然の中、爆音で鳴らしたい10曲(順不同) (2014/05/22)


1
Equitant - Body Vehement(Canzian Phase 01 Remix) - Black Leather Records

2
TIS - WHAAAATZZZZ(Original Mix) - Verform Records

3
Raphael Dincsoy - It's Fucking Rude(Remute RMX) - Remute

4
Ross Alexander - Broken Translation(Original Mix) - Forte Techno

5
Seri - Lunar(Original Mix) - Elektrax Recordings

6
Alex Jockey - Afrodescendente(Joseph Dalik Remix) - Tekx Records

7
Spirit Catcher - Voodoo Knight(Catz 'n Dogz Dub Mix) - Pets Recordings

8
Lutzenkirchen - Hurt Me(Original Mix) - Doppelgaenger

9
Pascal F.E.O.S. - Overflow(Timo Maas Remix) - Mixmag Records

10
Sunaj Assassins - Creepy Lover(Original Mix) - Cynosure Recordings

Talker - ele-king

 インダストリアル・リヴァイヴァルにおける再評価が高まるリージス(Regis)ことカール・オコナーであるが、しかしリージスも彼の〈ダウンワーズ(Downwards)〉も90年代から徹頭徹尾ブレない美意識を探求してきたわけで、単なるリヴァイヴァルに回収されない強靭な核を有していると思うのだ。

 とは言え、昨今のシーンの動向、具体的にはUSのニューウェイヴやミニマルウェイヴ流れのインダストリアルなアプローチにも柔軟に反応しているのが現在のカールの確固たる地位を維持してもいるわけで。〈ダウンワーズ〉は現在、活動拠点をNYに移し、スローペースながらも時代を反映した確実に良質なリリースを継続、昨年はレーベル20周年のコンピレーションをドロップ、また〈ダウンワーズ・アメリカ〉なるサブ・レーベルをサイレント・サーヴァント(Silent Servant)の協力の下に設立、カールの美意識の一旦であるノワールな世界観を共有するLAのポストパンク・ユニット、ディーヴァ・ダマス(Dva Damas)のリリースなんかも手掛けていたりする。

 んで先月〈ダウンワーズ〉からリリースされたシカゴのデュオ、トーカー(Talker)の12インチをいま聴いているわけなんだけども、じつはあんまりピンときていない。前振りで〈ダウンワーズ〉は最近の流行とはちがうんだぜ! みたいなことを抜かしといて申し訳ないんだけども。けっこう前の紙『ele-king』のインダストリアル対談で、インダストリアルは鉄槌感とファッショ感でしょ! みたいなことを言ってしまってじつは最近ものすごく後悔していて、これだけインダストリアルってタームが完全に飽和化し、コンポジション云々よりもテクスチャーや雰囲気を重視したレコードが氾濫している現状を目の当たりにしているとさすがにゲンナリしてくるわけですよ。いや、何が言いたいかっていうと、けっしてこのレコードが悪いわけではなくて(むしろ完成度は高いです)、2014年現在、ビートやコンポジションをないがしろにしてインダストリアルな質感や雰囲気のトラックをつくってもべつにもう尖ってないよってことなんです。

 先日ペインジャークの五味さんとそのあたりのシーンについていろいろとお話する機会があり、ウィリアム・ベネット(元ホワイトハウス)のカット・ハンズ(Cut Hands)なんかは、いい歳こいてぜんぜんいまの若手のノイズ→テクノなんかより尖りまくっているという意見には激しく同意したのが記憶に新しいわけで。個人的にもニューウェイヴ、ミニマル・ウェイヴ流れの雰囲気インダストリアル・テクノよりも、トライバルに、パーカッシヴに、プリミティヴに土臭い方向性を持った、暴力的な電子音楽のほうがいまは魅力的だ。と思っていた矢先に前述の雰囲気系インダストリアルのパイオニア、ドミニク・フェルノウの〈ホスピタル・プロダクション〉からこのイタリアのパーカッション・デュオ、ニノス・ドゥ・ブラジル(Ninos Du Brasil)がドロップ。ここでまた話の流れがふたたび崩壊してしまうわけですが、このアフロ・テクノ・パンク・サンバ祭りには有無を言わせずにブチあげられてしまう。夏には〈DFA〉からのリリースも控えている。

 やっぱりレーベルを偏見的に捉えてしまうのはよくない、と思わざるをえない昨今の2枚。猛烈にあのインダストリアル対談をアップデートしたい。


 ニノス・ドュ・ブラジルのYoutubeクリップを見ていて気づいた。この微妙にイケてない感じどっかで見たことがあるな。と思ってちゃんと調べてみたらやはりニコ・ヴァッセラーリ(Nico Vascellari)であった。ニコはもともとミラノのパンク畑のミュージシャンで、ミラノのスクワット・パンク・シーンをコンテンポラリー・アートに繋げたパイオニアである。サン(SUNN O))))のスティーヴン・オマリーとジョン・ウィーゼ等とおこなったカッコー(Cuckoo)や巨大なブロンズのモノリスをガンガン打ちまくり、ブリアル・ヘックス(Burial Hex)がフィードバッグをコントロールしたアイ・ヒア・ア・シャドウ(I hear a shadow)など、国内外のアーティストとのパフォーマンス・アートでのコラボレーションをおこなっている。

 本人名義でのハーシュ・ノイズは過去にドミニクのプリュリエントとのスプリットもリリースしていたはずだ。てなわけでなぜ〈ホスピタル〉なのかも納得がいきました。

The Mistys - ele-king

 ザ・ミスティーズは、ザ・ボーツのアンドリュー・ハーグリーヴスと女性ヴォーカリスト、ベス・ロバーツによるユニットである。
 透明で幽玄なヴォーカル、激しい電子ノイズ、歪んだビート。このアルバムを近年流行のインダストリアル/テクノとして分類することは当然可能だ。だが同時に、ヴォーカル入りゆえ、ポップ・ミュージックを「偽装」してもいる。これが重要だ。この偽装によって、聴き手の意識をノイズの奔流へとアジャストさせ、時代の「底」へと連れ出していくのだ。「底」とは芸術の底でもある。それはすべてが可視化されるインターネット環境下における「抑圧されたものの回帰」だ。暗く、不透明で、ノイジーな音などの抑圧されたものたちの回帰。ザ・ミスティーズに限らずインダストリアル/テクノは、そのような音楽とはいえないか。バタイユとフロイトの申し子のように。

 ザ・ミスティーズについて先を急ぐ前に、まずはザ・ボーツを振り返っておく必要がある。ザ・ボーツは、アンドリュー・ハーグリーヴス とクレイグ・タッターサルがオリジナル・メンバーのエレクトロニカ・ユニットであった。「あった」というのはその音楽性が、現在、大きく変化しているからだ。これまでの経歴を確認しておこう。
 ザ・ボーツは2004年に最初のアルバム『ソングス・バイ・ザ・シー』を〈モビール〉から発表した。〈モビール〉は、00年代中期において、エル・フォグやausなどのアルバムをリリースしていたUKのエレクトロニカ・レーベルである。ザ・ボーツは〈モビール〉から『ウィ・メイド・イット・フォー・ユー』(2005)、『トゥモロウ・タイム』(2006)と3枚のアルバムをリリースしている。総じてIDM的な響きにアンビエント的な持続が軽やかに持続し、いわばフォーキーなネオアコースティック・エレクトロとでもいうべき、いかにも00年代中期的なエレクトロニカである。
 2008年以降は自らのレーベル〈アワー・スモール・イデアス〉から『サチュレーション, ヒュム&ヒス』(2008)、『ザ・バラッド・オブ・ザ・イーグル』(2011)、『バラッズ・オブ・ザ・ダークルーム』(2011)などのアルバムや各種EP、ausが運営する〈フラウ〉から『フォールティ・トーンド・レイディオ』(2008)、〈ホームノーマル〉から『ワーズ・アー・サムシング・エルス』(2009)などのアルバムをリリースする。その作品は次第にモダン・クラシカルな要素が導入され、サウンドの色彩感にも変化を聴きとることができた。そして2011年。〈12k〉から『バラッズ・オブ・ザ・リサーチ・デパートメント』を発表する。このアルバムは彼らのエレクトロニカ/モダン・クラシカル路線の総括とでもいうべき作品だ(ちなみに、アンドリュー・ハーグリーヴスは、ザ・ボーツの他にもテープ・ループ・オーケストラなどを結成し活動)。

 以降、ザ・ボーツは大きな変化を遂げることになる。2013年、彼らは新たな自主レーベル〈アザー・イデアス〉を設立。そのサウンドはインダストリアル・サウンドへと急激な変貌を遂げる。ザ・ボーツは、〈アザー・イデアス〉からカセットテープ・オンリーで『ライブ・アット・St.ジェームス・プライオリィ,ブリストル』(2013)、アルバム『ノーメンカルチャー』を立て続けに発表。そのアートワークもインダストリアル/テクノのイメージを喚起させる赤とモノトーンの色彩を基調とした象徴主義的なイコンを思わせるデザインへと一変した。この変化は少なからずリスナーを驚かせた。あのザ・ボーツがこのような音になるとは誰も予想していなかったからだ。

 その〈アザー・イデアス〉最初のリリースが、ザ・ミスティーズの7インチ・シングル「ストーキング / ドロワーズ」(2003)である。この7インチ盤に続き、彼らは60ページのブックレットと5曲入りのCDがセットになった限定盤『レコンビナント・アーキオロジー』(2013)をリリース。ついでアルバム『リデンプション・フォレスト』をLP限定300部で発表した。そして本年2014年、日本のレーベル〈プレコ〉からオリジナル盤に4曲の未収録曲(傑作シングル“ストーキング”と“ドロワーズ”も収録)を加えた完全版とでもいうべきCD盤をリリース。さらに広いリスナーに彼らの音楽が届くことになった。
 インダストリアル化したザ・ボーツとザ・ミスティーズは同レーベルにおいてほぼ同時期にリリースされたこともあり、インダストリアル/テクノなトラックという音楽性には共通するものがある。だが、ザ・ミスティーズにはヴォーカルが入っている。エレクトロニカ時代のザ・ボーツからヴォーカル・トラックはあったが、現代的なインダストリアル/テクノにおいて、ヴォーカル入りはそれほど前例がない(アンディ・ストットはヴォーカルというよりヴォイスだ)。

 そして何より重要な点は、そのヴォーカルはメロディと歌詞があるにも関わらず、トラックに充満する歪んだノイズたちと同じように、それぞれの楽曲間のメロディの差異が消滅し、まるでトラックの中に蠢くイコンやサインのように耳に響く点である。
 たとえば本CD盤2曲めに置かれた“イノセンス”を聴いてみよう。ノイズの律動に、歪み切ったビートにヴォーカルが重なり、シンセベースの律動が耳を襲う。そうしたサウンドの洪水の中、ベス・ロバーツの声が意識へと浸透していく。そう、本作においてヴォーカルとノイズは同等なのだ。そしてドラムン・ノイズとでも形容したい激しいリズムを持った“ベヒモス“の衝撃。それはまさに時代への警告のように響く(ベヒモスとは旧約聖書に登場する怪獣の名であり、それは豊穣と破滅の両方を意味するという)。

 加えてザ・ミスティーズはヴィジュアルにも一貫したコンセプトがある。そのヴィデオは過去のモノクロ映画からシークエンスやシーンを丸ごと引用し楽曲を重ねていくという大胆なものだ。


A Birds Name


STALKING

 これらは20世紀の記憶を、音と映像によって再生成させる試みといえる。その音や映像には途方もない不安が漲っており、その不安がウィルスのように聴き手のイマジネーションを浸食する。過去を現在に蘇生すること。その不安、快楽、美。ザ・ミスティーズに限らず現代的なインダストリアルは20世紀のイコンとイメージを借用しているのだが、その大胆な借用の美学によって、ノスタルジアよりは同時代性を得ている。

 事実、現在の〈アザー・イデアス〉は、〈モダン・ラヴ〉や〈モーダル・アナリシス〉などのレーベルによって牽引される現代的なインダストリアル/テクノの動きと共鳴している。それはこの「暗い」時代と連動する美学的潮流でもある。絶望の時代を「暗さ」をゆえに嫌悪し、無理に明るく振舞うのではなく、その「暗さ」に積極的にアジャストし、絶望を「美学=アート」として変貌させていくこと。それによって時代の底から世界に抵抗すること。私は〈アザー・イデアス〉をはじめ〈モダン・ラヴ〉、〈モーダル・アナリシス〉、〈ホスピタル・プロダクションズ〉などのインダストリアル/テクノ/ノイズレーベルのリリース活動は、そんな世界への「抵抗/接続運動」の発露ではないかと思っている。

 小春日和のような2000年代を象徴する牧歌的なエレクトロニカから、ダークなインダストリアル/テクノへ。〈アワー・スモール・イデアス〉から〈アザー・イデアス〉へ。そう、イデアはいま、別の領域に至っている。

interview with Archie Pelago - ele-king


Grenier Meets Archie Pelago
『グレニアー・ミーツ・アーチー・ペラーゴ』

Melodic Records/Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

 要はタイミングである。だってそうだろう、生ジャズがハウスと一緒になった、珍しいことではない。新しいことでもない。が、アーチー・ペラーゴのデビュー12インチは、都内の輸入盤店ではずいぶんと話題になった。何の前情報もなしに売り切れて、再入荷しては売り切れ、そしてさらにまた売り切れた。
 僕が聴いたのは2013年初頭だったが、リリースは前年末。年が明けて、お店のスタッフから「え? まだ聴いてないの?」と煽られたのである。そのとき騒いでいたのは、ディスクロージャーの日本でのヒットを準備していたような、若い世代だった(……マサやんではない)。
 
 いまや人気レーベルのひとつになった、お月様マークの〈Mister Saturday Night〉が最初にリリースしたのがアンソニー・ネイプルスで、続いてのリリースがアーチー・ペラーゴだった。東欧やデトロイト、そしてUKへと、ポストダブステップからハウスの時代の到来を印象づけつつあった流れのなかでのNYからのクールな一撃だったと言えよう。

 アーチー・ペラーゴの結成は2010年、グレッグ・ヘッフェマン、ザック・コーバー、ダン・ハーショーンの3人によって、ブルックリンにて誕生。メンバーはPCやターンテーブルを使い、そして同時に、クラリネット、トランペット、チェロ、サックスを演奏する。全員が幼少期からクラシックとジャズを学んでいるので、うまい。PCにサン・ラーのでっかい写真(?)が貼られているところも好感が持てる。



 2013年以降は、自分たちのレーベル〈Archie Pelago Music〉を立ち上げて、コンスタントに作品をリリースしている。ジャズ/ハウスといったカテゴリーに留まらず、よりレフトフィールドな領域にもアプローチしている。IDMやブロークンビートの要素を取り入れながら、自分たちの可能性を広げているのだろう。

 この度NYの3人組は、サンフランシスコのDJ、ディーン・グレニアーとのコラボレーション・アルバム『グレニアー・ミーツ・アーチー・ペラーゴ』をリリースする。共作とはいえ、アーチー・ペラーゴにとっては初めてのアルバムとなる。



 このように、液体状のごとく溶けるジャズ・エレクロニカだが、これを中毒性の高い、夢世界を繰り広げるのがアルバムである。

いつもエレクトロニック・ミュージックは好きだった。ジャズのコンサートではなく、夜のクラブに行きはじめたのは2008年か9年頃。決定的なきっかけは、とあるバーにたまたま立ち寄った際に、素晴らしいサウンドシステムで、140bpmの音楽を聴いたときだったね。

バンドはいつ、どのようにしてはじまったのでしょう? 2012年、アーチー・ペラーゴが〈Mister Saturday Night Records〉から発表した「The Archie Pelago EP」は、同時期にリリースされたアンソニー・ネイプルスのEPとともに日本でもコアな人たちのあいだでずいぶんと話題になったんですよ。

Dan ‘Hirshi’:クローバとコスモとは、僕がニューヨークでDJをしていたときに別々に知り合った。ふたりとも僕のDJセットに生楽器をブレンドするという可能性を提示してくれてね、とても興奮したよ。彼らはエレクトロニック・ダンス・ミュージックの未来に関して、僕と同じような先見を持っていたからね。

Zach ‘Kroba’:大学を卒業してから、しばらくハーシと彼のDJのパートナーと一緒にいたんだけど、そのときに、ハーシがチェロ奏者と一緒にはじめる新しいプロジェクトに参加しないかと声をかけてくれた。コスモの家に行って曲を録音したのがはじまりだ。その後は知ってのとおりだね。

Greg ‘Cosmo D’:長いあいだ、僕らは、独自の方法でエレクトロニック・ミュージックを作ってきたんだよ。2009年から2010年にかけていろんなダンス・パーティに遊びに行っていたからね。とくにDub Warというパーティへよく行っていたんだけど、その後自分のまわりで起きていることをもっと深く自分のプロダクションへ反映させたいと思った。それがハーシに会ったときで、彼はクローバも紹介してくれた。そして、2010年にアーチー・ペラーゴがはじまったっていうわけ。

バンドをはじめようと言いだしたのは誰でしょうか?

G:とくに誰かがはじめようと言ったわけではないよ。セッションをしていくなかで、ごく自然に、有機的にはじまった。

メンバーのみなさん、クラリネット、トランペット、チェロ、サックスなど、生楽器を演奏しますが、それぞれの音楽のバックボーンについて教えて下さい。

G:子供の頃からチェロをならっていた。大人になってジャズとインプロヴィゼーションを学び、そしてエレクトロニック・ミュージックに興味を持ったんだ。大学の後にもっと真剣に楽曲の制作をするようになった。

Z:僕は、7歳の頃からクラリネットのトレーニングをはじめたんだ。1年後にはアルト・サックスの練習した。15歳でテナー・サックスに転向して、数年後にジャズの音楽学校に通いはじめた。学校ではギターのペダル・エフェクトをサックスに使う実験をはじめたり、ロジック・プロを使ってエレクトロニック・ミュージックの作曲もはじめたね。

D:僕は、5年生の頃からトランペットを吹きはじめている。バンドだったり、オーケストラ、ジャズ・バンドで演奏もしていたよ。ちょうど、自分の人格の形成期の頃だったね。大学でも演奏を続けていたけど、僕の音楽の探求はアカデミックな方向にも向かった。しかも、この頃にDJを覚えてWNYUというラジオ局で自分の番組も持ったんだ。また、リーズンというソフトを使ってアイデアを形にすることを覚えたのもこの頃。こうしたことが2014年のいまの自分が音楽的にどの立場にいるかを形成したと思う。

メンバーの役割分担はどうなっているのでしょうか?

G:僕たちはみんなで作曲して、クリエイティヴィティに貢献している。作曲後、さまざまなクリエイティヴなテクニックを通して、僕がミックスして、“アーチー・ペラーゴ・サウンド”を作り上げる。

D:僕たちの役割は絶えず変化する。たいていの場合、初めは誰かがアイデアを出して、それをグループで形作っていく。それぞれの得意な方向性があって、他のメンバーのフィードバックを受け入れている。

Z:他のメンバーと作曲することにはとても満足しているけどね。僕たちは楽々とお互いのアイデアを膨らますことが出来るから。そして、いつも互いに影響を受け合っている。

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〈Mister Saturday Night〉は特別な存在だよ。パーティをはじめたイーマンとジャスティンには明確なヴィジョンがあった。いちどなかに入ると、君はあることに気付くだろうね。それはイーマンとジャスティンがダンス・ミュージックの外にある音楽世界を意識していることなんだ。


Grenier Meets Archie Pelago
『グレニアー・ミーツ・アーチー・ペラーゴ』

Melodic Records/Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

ジャズのアーティスト/もしくは作品でとくに好きなのは誰/もしくはどの作品なのでしょうか?

G:エリック・ドルフィーで、『Out to Lunch』だね

D:リー・モーガンの『Lee-way』かな。

Z:それでは僕は、キース・ジャレットの『Fort Yawuh』をあげておこうか。

みなさんがクラブ・カルチャーに入ったきっかけは何だったのでしょう?

G:初めの頃から、僕は、いつもエレクトロニック・ミュージックは好きだった。ジャズのコンサートではなく、夜のクラブに行きはじめたのは2008か9年頃かな。決定的なきっかけは、カルガリーのとあるバーにたまたま立ち寄った際に、素晴らしいサウンドシステムで、140bpmの音楽を聴いたときだったね。ニューヨークに戻ってからは、もっと深いところを追求するようになった。

D:大学の頃にヒップホップのシーンに関わっていたんだけど、エレクトロニック・ミュージックは、単純に次のステップだった。とくにDub Warというイヴェントが新しいダンス・ミュージックへの扉を開いてくれた。2009年から10年にかけて、多くのUKのアーティストがプレイしていたような音楽だよ。この音楽とそのコミュニティにとても影響を受けている。想像力を掻き立てられたんだ。

Z:僕は若いころからジャングルとかIDMをたくさん聴いてたからね。2008年頃に、UKガラージとダブステップにハマった。当時はまだ21歳未満だったから、ニューヨークのほとんどのクラブには入れなかった。で、2009年から10年頃にオランダのアムステルダムに住んでいて、ようやくお気に入りのDJやクラブに行けるようになった。これが大きなきっかけになったね。

〈Mister Saturday Night〉はレーベルであり、ブルックリンのパーティでもあるそうですね。どんな特徴のパーティなのでしょう? あなたがたと〈Mister Saturday Night〉との出会いについて教えて下さい。

G:Mister Saturday Night(MSN)のスタッフとはジョーダン・ロスレイン(Jordan Rothlein)を通して知り合った。ジョーダンは、いまはレジデント・アドバイザーで記事を書いているよ。
 そうだな……僕は、当時はWNYUでレギュラー番組を持っていた。僕たちの曲をMSNのスタッフに渡してくれて、アーチー・ペラーゴとつながるべきだと推薦してくれた。MSNは特別な存在だよ。パーティをはじめたイーマン(Eamon)とジャスティン(Justin)には明確なヴィジョンがあった。MSNはきちんとブランディングするような会社が作ってきたわけじゃないからね。ふたりとその仲間たちが主導して進めてきたものなんだ。パーティ自体がとても独特で、いちどなかに入ると、君はあることに気付くだろうね。それはイーマンとジャスティンがダンス・ミュージックの外にある音楽世界を意識していることなんだ。だから僕たちが関われたんだよ。アーチー・ペラーゴではなく、プロとして活動するミュージシャンとして。

生楽器の演奏とPC(デジタル)との融合が〈Mister Saturday Night〉の特徴ですが、エレクトロニック・ミュージックでとくに影響を受けたのは誰でしょうか?

G:直接の影響は説明しづらいな。それぞれのメンバーがそれぞれの方法で演奏をはじめて以来、エレクトロニックな要素はミュージシャンとしての僕たちが求める重要なものだった。最近見たKiNK(※ブルガリアの炉デューサー)とVoices from the Lake(※イタリアの2人組)のライヴ・ショーにはとくに感動した。

Z:Voices from the LakeとKiNKは、エレクトロニックを混ぜたインプロを見せてくれたよね。まさに僕らの求めるものだった。僕らの好むパフォーマンスにはリスクが必要だし。

Archie Pelagoというバンド名の由来について教えて下さい。

D:このプロジェクトをはじめたとき、コスモと僕でバンド名のアイデアを出し合っていた。アーチー・ペラーゴは発音しても本当に面白い言葉だよね。僕は、本当に存在するかもわからないようなアーティストに魅了されてきた。アーチー・ペラーゴはひとつの名前だけど、バラバラの素材がひとつの完全体を作り上げているんだ。根底には、共通のヴィジョンを持った共同体、諸島、列島という意味がある。

G:それと僕たちのホームタウンのニューヨークは専門的に列島(archipelago)だろ。このこともバンド名には反映されている。

ライヴはよくやられているのでしょうか?

G:月に何回かね。それからSub FMでは毎月第1と第3日曜に自分たちの番組を持っている。こちらの現地時間で夜の11時からの放送で、ネット配信なので世界中から聴くことができるよ。

自分たちのレーベル〈Archie Pelago Music〉を立ち上げた理由は?

G:自分たちのやり方で、自身の音楽を出していきたかった。少なくとも2、3作をリリースしてみて、その過程がどのようなものか知りたかったんだ。

D:自分たちの音楽に対して、クリエイティヴなコントロールを自分たちで行うのはとても重要だし。

Z:僕たちの書いてきた音楽って、どこか他のレーベルが興味を持ってくるかわからないから。“Sly Gazabo”は素晴らしい曲だったし、自分たちのやり方で出来るのかやってみたかった。

シングルでは、いろいろなアプローチ──ジャズ、ハウス、ブロークン・ビート、エクスペリメンタル、IDMなどなど──を試していますが、これは、ひとつのスタイルを極めるよりも、たくさんのことをやりたいというバンドのスタンスを表しているものなのでしょうか?

G:僕たちは、自分自身の音楽的宇宙を創造したいと熱望している。自分らが共有してきた経験を取り囲むもの。発展させていく音楽とクリエイティヴに関する興味を反映させたものだ。ファンには音楽の進化として、過去の音楽ジャンルと僕たちの成長を見てもらいたい。

PCを使った音楽で、とくに影響を受けた作品はなんでしょう?

G:マトモスの『A Chance to Cut is a Chance to Cure』はコンピュータが制作の過程として機能するという意味においては、初期に大きな影響を受けたね。

D:ザ・フィールドの『From Here We Go Sublime』が大好きだな。極限にミニマルで、極小のサンプリングがとてもパワフルなんだ。

Z:オウテカ、エイフェックス・ツイン、ヴェネチアン・スネアズ、スクエアプッシャーには個人的にとても影響を受けた。自分はジャズ・ミュージシャンとして、彼らの興味深いシンコペーションの方法を楽しんでいるんだよ。

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オウテカ、エイフェックス・ツイン、ヴェネチアン・スネアズ、スクエアプッシャーには個人的にとても影響を受けた。自分はジャズ・ミュージシャンとして、彼らの興味深いシンコペーションの方法を楽しんでいまるんだよ。


Grenier Meets Archie Pelago
『グレニアー・ミーツ・アーチー・ペラーゴ』

Melodic Records/Pヴァイン

Tower HMV Amazon iTunes

今回、ディーン・グレニアーとのコラボレーション作品とはいえ、初めてのアルバムとなりました。シングルではなく、どうしてアルバムにまで発展したのでしょうか?

G:このアルバムは僕たちにとって未知の領域だよ。部分的にはフル・アルバムをリリースしたといえるだろうけど、いままでにも多くの曲を書いてきたからね。

D:これはただのはじまりに過ぎないよ。

Z:セッションではたくさんの曲を作ったよね。で、これはオーディエンスに聴かせる価値があると感じた。

ディスタルが縁でディーン・グレニアーと知り合ったと言いますが、ディスタルと知り合ったきっかけは何でしょうか?

D:2009年から10年にかけて、ディスタルがニューヨークにツアーに来ていたときに会った。そのとき僕らがWNYUの番組に誘ったんだ。それから連絡を取り続けて、〈テックトニック〉からリリースされたヘクサデシベル(Hexadecibel)とのコラボの「Booyant」のリミックスで初めて一緒にやれたんだよね。

ディーン・グレニアーのどんなところに共感したのですか?

G:スタジオでの化学反応がすごくよかった。アイデアが自然にすぐに出てくるんだ。

D:お互いの音楽を好きなことも要因だよね。

Z:実は、2011年末にグレニアーがニューヨークに来たときに一緒に数曲録音したんだ。実りの多いセッションでね、だから、その後のコラボを目指してきたんだ。

サンフランシスコでのセッションは、どんな感じだったのでしょうか?

G:建設的で、オーガニックな感じで、とても満足のいくものだった。

D:ペール・エールとソーセージが燃料になった感じ。

Z:数日の中でいろんな音楽を詰め込むことができたかもね。

生楽器の音色が、液体が溶けるようだったり、大気中に溶けるようだったり、とてもユニークな録音になっているように思います。

D:そうだね、アーチー・ペラーゴのサウンドとグレニアーのプロダクション・スタイルがピッタリとハマった感じだよね。

Z:グレニアーの特徴的なプロダクションがアーチー・ペラーゴの音色の幅のなかに溶け込んでいるのがきっと聴こえるよ。これは本当に偶然的なことだよ。

G:うん、まわりの状況がどうであれ、作曲して制作することは僕にとっては呼吸をするようなも。制作過程のなかで、時間と場所があって、音楽を広げることと、深くへ入り込んでいく好奇心を共有できたのはラッキーだった。

“Swoon”の出だしが最高で、思わず音楽のなかに引きずり込まれますが、とくにお気に入りのトラックは?

G:難しい質問だね。個人的には“Cartographer’s Wife”がアルバムの中心だと思っている。ジャングルのなかで宝箱を見つけたような感じじゃない? 他のメンバーは否定するかもしれないけどね。

Z:僕は、いまは“Tower Of Joined Hands”がお気に入りかな。だけど、心のなかには“Monolith”もある。

D:うーん、僕は、“Hyperion”と“Tower Of Joined Hands”がいまの気分だね。

ほかにも、“Navigator”のハウスのリズムとトランペットの重なり方も素晴らしいと思いましたが、今作には、テクノ寄りのダンス・ミュージックがありますね。たとえば、ミニマルな“Pliny The Elder”、あるいは“Phosphorent”、で、いま話に出た“Tower Of Joined Hands”もダンス・ミュージックへの情熱を感じる曲です。こうした曲には、ディーン・グレニアーの存在が大きいのでしょうか?

G:いろんな段階だったり、さまざまな方法で、僕たち全員がこのアルバムのすべての楽曲に関わっているんだ。とく誰かってわけではないよ、みんなで共有しているものだ。

あながたの好きなテクノについて話して下さい。

G:ピーター・ダンドフ(Petar Dundov)にはやられた。彼の音楽の組み立て方とシンセのパターンは素晴らしいと思う。

Z:〈ザ・バンカー〉(The Bunker)、〈トークン〉(Token)、〈スペクトラム・スプールズ〉(Spectrum Spools)、〈ジオフォン〉(Geophone)、〈プロローグ〉(Prologue)あたりのレーベルはいつも僕の鼓膜を喜ばしてくれる。迷宮のなかに深く潜り込んでいく感じがするね。

D:僕はロバート・フッドやアンダーグラウンド・レジスタンスが好きだね。

好きなDJの名前をあげてください。

D:ターボタックス・クルー(Turrbotax crew)、ヌーカ・ジョーンズ(Nooka Jones)、ベンUFO、ドナート・ドッジー(Donato Dozzy)……。

G:お気に入りはいつも変わっているんだけど、最近だとグラスゴーで見たジェネラル・ラッド(General Ludd)のギグが良かった。

Z:カルロス・ソーフロント(Carlos Souffront)は選曲もミックスのスキルの点でもマスターだと思う。デトロイトはいつも素晴らしいよね。ドナート・ドッジーもシャーマン的なマスターだよ。

アーチー・ペラーゴのインスピレーションの源はなんでしょう?

G:人生だね。

Z:ピザだね。

D:人生とピザだね!

アーチー・ペラーゴ単体のアルバムのリリース予定はありますか?

G:もちろん! 引き続き注目していて下さい!

Kouhei Matsunaga / Drawings - ele-king

 坂本慎太郎や中原昌也、あるいはドラゴン(カタコト)のように、絵の才能に長けたミュージシャンは少なくない。〈Skam〉や〈PAN〉といったレーベルからの作品で、我々の耳を楽しませているコーヘイ、NHK’Koyxenが、この度、スウェーデンの〈Fang Bomb〉から彼のペン画集『Kouhei Matsunaga / Drawings』を発表した。88ページのハードカバー仕様に40のドローイングが収められている。
 たいていの場合、ミュージシャンが絵を発表するときは、みんなこう言う。「驚いたよ、こんなにうまかったんだね」と。NHKコーヘイの場合もそうだ。彼の音楽とも似た、ユーモアとミニマリズム、そして控え目な異様さ/奇怪さが、おどろくほどシックに描かれている。パリのアニエスベーで出版記念パーティがあるというが、意外と言ったら失礼だろうけど、部屋に飾っておきたくなるような、なかなか洒落た絵だ。モチーフには動物、とくに鳥が多い。たしかに彼の『Dance Classics』シリーズにも動物の写真が使われている。なお、画集には、7インチ・シングルも封入されている。音はこんな音。



 ちなみにNHKコーヘイ、ただいまヨーロッパ・ツアー中。5月末には東京のClub Asia(ブラックテラー)での公演もある。Kボンとのセッションもあるとか……この機会に、ぜひ、彼のユーモラスなライヴを経験しよう。


Kouhei Matsunaga / Drawings

Fang Bomb
FB023
BOOK+7inch

3,780円+税

https://www.inpartmaint.com/shop/kouhei-matsunaga-drawings/


Sisyphus - ele-king

 シシフォス王は罰を受け、山頂まで岩を運んでいる。あと少しで山頂に届くところまで岩を押し上げると岩はその重みで底まで転がり落ち、それは永遠に繰り返される……徒労を意味するギリシア神話のひとつ、『シシフォスの岩』である。この逸話にどことなく漂う滑稽さの正体は何なのだろう。シシフォスは、どうしてこの罰を「やめる」ことができないのだろう?
 スフィアン・スティーヴンス、NYベースのオルタナティヴ・ヒップホップ・アーティストのサン・ラックス、シカゴ出身のセレンゲティによるプロジェクト(後者ふたりは〈アンチコン〉に関わりが深い)であるシシフォス。2012年のEPの時点では三者の頭文字を取ってs / s / sと名乗っていたが、フル・アルバムに際してアーティスト名を変更したようだ。そしてそのことが、このシュールなヒップホップ・プロジェクトの……というか、おそらくはスフィアン・スティーヴンスの表現のありようをよく示しているように思われる。もはや笑ってしまうぐらいに虚しく悲しい、人間たちの群像画。もちろんそこには、本人たちも含まれている。

 セルフ・タイトルのアルバムの内容は乱暴に一言で言えば、スフィアン・スティーヴンスがクラウド・ラップをやってみたら……というものだ。おそらくはサン・ラックスによるものが多いだろうエレクトロ調のビートを軸として、そこに時折スフィアンのメランコリックで美しいメロディと管弦楽器のアンサンブルが加わり、セレンゲティが抑揚のあまりないラップをブツブツと繰り広げる。感覚として近いのはスーパー・ファーリー・アニマルズのグリフ・リスがブーム・ビップと組んでエレクトロ・ヒップホップをやったネオン・ネオンだろうが、あそこまで(音として)コンセプチュアルではなく、シシフォスの音のほうがもっと現代風で抽象的だ。そうたぶん、壊れたエレクトロニカとオーケストラル・ポップの合体作だった『ジ・エイジ・オブ・アッズ』の続きと言ったほうがいい。カラフルなシンセ・ポップに突如として壮大なコーラスが重ねられる“リズム・オブ・ディヴォーション”や、ダウナーなヒップホップに急に可愛らしいチェンバー・ポップが加わってくる“マイ・オー・マイ”などは、確実にシシフォスにしかないオリジナリティである。
 シシフォスも他のこうした多くのプロジェクトのように、はじまりこそ遊びの要素が強かったのかもしれない。蛍光灯がビカビカ光るようなシンセ・サウンドのオープニング“カーム・イット・ダウン”の時点ではまだそれがあるし、ヴィデオでスフィアンがセレンゲティといっしょにラッパーを気取ってみせる“ブーティ・コール”なんかには、これはジョークなんだというポーズがある。だが、2曲めの“テイク・ミー”の時点でもう、スフィアンはアブストラクトなビートの上で物悲しげに「僕はきみの友だちになりたいんだ……」と繰り返している。『ジ・エイジ・オブ・アッズ』で「僕はよくなりたいんだ!」と気がふれたように繰り返していたのと何が違うというのだろう? 実際アルバムにはもう1曲ラップのないトラック、スフィアンが震える声で歌う“アイ・ウォント・ビー・アフレイド”というフラジャイルで美しいバラッドが収められていて、そうしたトーンが全体に色濃く影を落としている。
 それはセレンゲティでラップを乗せるトラックでも同様で、たとえば労働者のキツい生活を綴っているらしい“ディッシーズ・イン・ザ・シンク”のメランコリアにはもはや呆然としてしまうぐらいだ。続くトラックでは同じメロディが繰り返され、スフィアンは歌う……「これが僕の選択だった」。曲名は“ハードリー・ハンギング・オン”、「ほとんど耐えられない」だ。シシフォスの岩はまた落ちていく……。


Sisyphus - Alcohol (Lyric Video) from Sisyphus on Vimeo.

 ラストの“アルコール”に用意されたリリック・ヴィデオにもまたぎょっとさせられるものがある。それはビートに合わせてひたすらこの世界のありとあらゆる事象の画像が次々と映し出されるなかばグロテスクなもので、90年代以来のヒップホップVJ感覚とスフィアンのコラージュ・アートが接続されたと言えばいいだろうか、この世界で起きていること、そこで生きている人間たちの感情がごちゃ混ぜになって迫ってくる。曲にはいつしか勇壮なオーケストラが導入され、過剰なスケール感でアルバムは終わっていく。ここまで書いて思い出したが、アルバムはジム・ホッジというヴィジュアル/インスタレーション・アーティストの作品群、その「セックス、エイズ、ドラッグ、死の恐怖、孤独、愛や美」といった抽象的なテーマに強くインスピレーションを受けているという。
 単純に楽しいコンセプトとしてエレクトロ・ヒップホップをやることは、どうしてもスフィアン・スティーヴンスというひとにはできないのだろう。彼の誇大妄想が、その狂気がここでもまた一種のファインアート的展開を見せている。そこで繰り返し描かれる生の不条理や虚無感、愛や信仰といったモチーフは、作品を重ねるごとにますます深みにはまっていくようですらある。

interview with Plaid - ele-king




PLAID
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 コンセプトしてのチルウェイヴってやつには3つの切り口がある。ひとつ、ネット時代のコミュニティが生んだジャンルであると。もうひとつ、ベッドルーム・ミュージック。で、もうひとつはドリーミーであるってこと。この3つのポイントについて時間を遡ると、1992年の〈ワープ〉に行き着くわけだ。よって橋元優歩さんはオープンマインドになって、この時代のテクノを復習すべきってことですね。
 『アーティフィシャル・インテリジェンス』のジャケに、CGによって描かれているのは踊っている人の群れではない。部屋に佇む「ひとり」だ。ネットが普及するずっと前の話だが、ネット上の議論の模様をそのままジャケに掲載したのも『アーティフィシャル・インテリジェンス』の「2」だった。
 何故こんな懐かしい話をしているのかって? 橋元さんはそこまで強情なのかって? いやいや、そういうわけでは……ほら、聞こえるでしょう。パテン、リー・バノン、DJパープル・イメージ(D/P/I/)、あるいは、ブレイク必至のゴビー(ARCAのレーベルメイトで)……、そう、エイフェックス・ツインの足音がもうすぐそこまで来ているじゃありませんか。
 彼こそはクラブの壁を崩して、その向こう側にあるベッドルームとの往復を実現させた張本人。そして、プラッドは、その方向性に与した人たち。「僕は部屋で座って未来を夢想している(I'm sitting in my room imagining the future)」、出てきたばかりの彼らの有名な曲(“Virtual”)には、こんな科白があった。1989年、セカンド・サマー・オブ・ラヴの真っ直中に、ひとりになりたいと彼らは言っていたのである。(大幅に中略)……それでも彼らがダンス・カルチャーと離れることはなかった。このねじれ方、パラドキシカルな感覚こそ90年代的だったと言えるのかもしれない。

 そんなわけで、プラッドの最新アルバム『リーチー・プリント』、フィジカル・リリースとしては2011年の『シンティリ』以来の作品だ。

 『リーチー・プリント』はクセのない作品で、テクノ・マニア専用の音色があるわけでもない。こざっぱりとして、メロディアスで、とにかく、聴きやすいアルバムである。プラッドの音楽はもともと聴きやすかったけれど、新作は、さらにいっそう、まるくなったように思われる。一歩間違えればMORだが、いや、これは円熟と呼んであげよう。彼らの音楽は、際だったキャラのエイフェックス・ツインと違って、地味~に、地味~に(25年経とうが、コアなファン以外で、エドとアンディの顔が即座に思い描ける人はどれだけいるだろう)、長い時間をかけて愛されてきたのだから。
 ──ちなみに、エイフェックス・ツインやプラッド(当時はブラック・ドッグとして知られていた)を世界で最初に大々的に推していたのは、のちにアニマル・コレクティヴを世に広めるロンドンのファット・キャットである。


その時代はハウス・パーティが終焉を迎える時期だったと思う。プロパガンダによりパーティがたくさんあったけど、結局右翼とかが出てきて、取締りにあったりして、だんだんパーティ自体が消滅していったよね。

いまも、おふたりともロンドンで暮らしているのでしょうか?

アンディ:ロンドンのスタジオは一緒にシェアしているんだけど、僕はまだロンドンに住んでいて、エドはロンドンから1時間半の郊外に住んでるよ。

2枚のサントラを入れると10枚目のアルバムになるんですね。おふたりの場合、Black Dog 名義での活動もありますから、Plaidとしての10枚というのはどんな風に思っているのかなと。

エド:かなり長いあいだレコーディングしてたからこれが本当にリリースされるのかどうなのか正直不安になったほどだったけど……いまはリリースできて嬉しいよ。

オリジナルのフル・アルバムとなると2011年の『Scintilli』以来となりますが、この3年間はどんな風に活動していましたか? 

アンディ:ライヴがいちばん活動として多かったかな。あとはコマーシャル・プロジェクトや映画の仕事とか。でも曲は常に書いてる感じだね。

※ここでエドの回線がおかしくなり、通話から消える。

日本には根強いPlaidのファンがいることはもうご存じかと思います。日本のライヴの良い思い出があれば話してください。

アンディ:日本には良い思い出があるね。でもすごく覚えているのが日本に行った時に映画の仕事を同時並行でやっていたときがあって、締切の関係で日本でのライヴが終わった後も作業をしなくちゃいけなくて睡眠時間が少なくて、とても辛かったのを覚えているなぁ。
 あとは僕個人としては家族と一緒に富士宮に行ったことが一番印象深いね。いつもツアーであちこち行くだけで本当の意味でその国の街並みを見ることってあまりないんだけど、そのときはゆっくり日本を堪能出来てとても楽しかったね。

あなたがたの作品が日本で出回りはじめたのは1991年頃なのですが、実は、今年で結成25周年なんですね。1989年の、結成当時のことはいまでもよく覚えていますか?

アンディ:エドと僕は学生時代からの友だちなんだけど、卒業後は連絡先を失くしてしまって音信不通になっていたんだ。ところが、お互いロンドンに出てきていて、そこで再会したんだよ。当時僕はロンドンのラジオ局でDJをしていて、エドは曲を書いたりしていたんだけど、僕のライヴを見に来てくれて、そこで再会して、連絡先を交換して、一緒にやることになったんだ。

最初はどんな機材で作っていたのですか?

アンディ:最初は最小限の機材で作業してたんだけど、MIDIとかAMIGA500、あとたしかチーターっていうシンセと初期のローランドを使ってたかな。その後AKAI 950とかも使いはじめたと思う。

お互いの役割というのは、いまも昔も変わりませんか?

アンディ:うん、とくに変わってないね。

最近は90年代リヴァイヴァルだったり、セカンド・サマー・オブ・ラヴが再評価されていますが、若い子たちからあの時代の質問をされることが多いんじゃないですか?

アンディ:いや、実は他の人からもこのこと聞かれたんだけど、僕自身は自分たちがそういう風に取られられてることにあまりピンと来てないんだよね。だけど、君が言う通り、その質問は多くされるよ。

80年代末から90年代初頭は、おふたりにとっても良い時代だったと思いますが、あの時代のどんなところがいまでも好きですか?

アンディ:好きだと言うより、その時代はハウス・パーティが終焉を迎える時期だったと思う。プロパガンダによりパーティがたくさんあったけど、結局右翼とかが出てきて、取締りにあったりして、だんだんパーティ自体が消滅していったよね。

学生時代は、自分たちの将来に関してどんな風に考えていたんですか?

アンディ:残念なことに僕は家を早くに出たから、学生でいた期間はとても短いんだけど、そのときはあまりどうしようとか考えてなかったと思う。クリエイティヴなことをしたいなって思ってただけで、そこまでいろいろ考えていたわけでもなかったなぁ。

もし、ヒップホップやテクノと出会ってなかったら、何をやっていたと思いますか?

アンディ:もしやってなかったらMaster of Artの修士を取ってたと思うよ。さっきも話たけどクリエイティヴなことをやってたと思うんだ。例えばプログラマーとかね。

Plaidもそうだったし、エイフェックス・ツインもそうでしたが、デビュー当時、いろんな名義を使って匿名的に活動していましたよね。あれはあなたがたにとってどんな意味があったんでしょうか?

アンディ:実はとても最悪なレーベルと契約してしまったことがあって、別で活動するために名前を変えたっていうのがあるんだ。そのレーベルと契約したときにアルバムをリリースしても自分たちに一銭もお金が入らなかったりして、困ってたことがあったんだ。でも契約している名前を使って曲を作るとまたお金も入ってこないから、別の名前を使って活動するしかなかったというのが本当のところだよ。

シカゴ・ハウスやアシッド・ハウスよりもエレクトロやデトロイト・テクノのほうが好きだったのでしょうか?

アンディ:全体的には、そうだね。最初はヒップホップから入ったんだけどね。ラップのジャンルレス的な感覚に惹かれて、ヒップホップを聴きはじめて、その後デトロイ・トテクノに出会って、自分はこういうのが好きなんだってわかったんだ。なんていうか、いろんな要素を含んでいるのにメロディがあって楽しめる音楽っていうのがいいよね。

あなたがたの音楽がダンスの要素を強調しなかったのは、クラブで遊びよりも、どちらかといえば、部屋に籠もっているほうが好きだったからなのでしょうか?

アンディ:うーん……わからないなぁ。いまはもう40代も半ばだから昔ほど踊らないというのはあるけど……でも、いまでも出かけて音楽を聴いてるよ。


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もう遅いかもしれないけど、宇宙飛行士になりたいのはずっと昔から同じだよ。それがダメならクリエイティヴなことがいいかな。音楽じゃないならゲームデザインとかね。


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Black Dog Productionsとしての活動が、日本で暮らしている我々にとっての最初の出会いでした。いまでも『Bytes』(1993年)には愛着がありますか? それともPlaid名義の最初のアルバム『Mbuki Mvuki』のほうがより愛着があるものですか?

アンディ:僕は『Bytes』かな。これこそ僕らの原点だなって思うんだ。『Mbuki Mvuki』はもっとヘヴィーなサウンドなんだけど、これはそのときの雰囲気を詰め込んだっていう感じだから、ちょっと普段の僕たちとは違うよね。

オリジナル・メンバーだったKen Downieとは連絡は取り合っているのでしょうか?

アンディ:いや、もう別れて以来話してないね。

新作の『Reachy Rrints』は、いままで以上、とてもリラックスした感覚を持っていますね。メロディは魅力的で、音色も曲調も、ねらってやっている感じがないんです。そこは自然にそうなったのでしょうか?

アンディ:どちらもっていう感じかな。最初にあったレイヤーからいらない音を省いていくって作業をするんだけど、いろいろな作業を経て最終的にいちばん良い物だけを残すんだ。

録音がとてもクリアなのですが、特別に気を遣っていることがあれば教えて下さい。

アンディ:正直プロダクションの効果がいちばんあると思う。さっき話した通り、余分なものを取り除いたりしたから、クリアなサウンドが出たのかもしれないよね。

のりで作ったという感じではなく、時間をかけて丁寧に、緻密に作っているように思うのですが、実際のところいかがでしたでしょうか?

アンディ:基本的に曲はライヴでやることを前提に作っているんだよね。やっぱりライヴで聴きたいと思う曲を作る方が聴いてるオーディエンスにも伝わりやすいでしょ?

1曲目の“OH”をはじめ、音色の豊富で、弦楽器などいろいろな楽器の音を使っているようですが、音選びについてはどのように考えていますか?

アンディ:ストリングスを弾いているのは、ここ最近一緒にやってるギタリストなんだけど、生のストリングスとシンセサイザーのストリングと、どっちも使って音の質感の違いを出しているんだよ。

何か機材面での変化はありましたか?

アンディ:新しいドラムマシンをいくつか試したんだけど……エド! お帰り! 戻ってこれてよかったよ。もうインタヴューは進んでいて、機材の話だよ。ドラム以外で新しい機材何か使った?

※ここでエドの回線が復旧して戻ってくる。

エド:Razorっていう新しいシンセを試したよ。ヴォコーダーとしても使えるからこのアルバムでは結構使ったね。ちょっといままでと違う感じの音になるしね。

4曲目“Slam”には、ちょっとオールドスクール・エレクトロのセンスが入ってるように思いましたが、90年代のように、マニアックなテクノ・リスナーを想定していないというか、もっと幅広いリスナーに向けられているように感じます。そのあたり、映画のサウンドトラックの経験が活かされているのかなと思ったのですが、どうなんでしょうか?

アンディ:そうだね、さっきも話したけど、映画と自分たちのアルバムを作ることは違うプロセスがあるけれど、そういうことから学んだことを自然と活かせているのかもしれないよね。

老いることが音楽にどのように影響しているんだと思いますか?

エド:どうだろう、まぁ、少なからずとも経験値が増えたことでいろいろなことができるようになっているとか、そういうスキルアップはあると思うけど、歳をとることで何かが変わることはとくにないと思うよ。

作者からみて、今回のアルバムが過去の作品と決定的に違っているのは、どこにあると思いますか?

アンディ:すべて新しい曲だっていうことだね。コンセプトがあるわけじゃないから、何が違っていうのもはっきりはわからないけども、新しいことを取り入れていることも前と違うっていう意味ではそうなのかなぁ。

エド:同じことを何度もやらないようには気をつけてるよ。でも単純に好きなことをやるっていうのはあるかもしれない。基本的な核の部分は最初から変わってないと思うよ。

今回のアルバムのコンセプトは、人生における「以前」「以後」だと言いますが、どうしてそのようなことを思いついたんですか?

エド:アルバムをまとめはじめたときに、なんとなく君が言ってる意味に集約されている感はあったんだ。別に何も意図したわけでもなく、なんとなくまとめていったらそういう感じのものになっていたというか。「記憶」っていうキーワードが見えてきて、その記憶がよみがえったり、記憶が消えていたりっていう、それが自分のイマジネーションをどう掻き立てるのかっていうところに行きついたというか。

アンディ:アルバムをまとめるときに各ピースをあてはめていくんだけど、なんとなくハマらないピースとかもあったりするんだよね。それをのぞいてハマるものを探していったら、そういうテーマっぽいものにまとまったっていう感じだよね。

曲名はどのように付けられたのですか?

エド:いくつかは仮タイトルをそのまま起用したり、その他は曲が出来あがってからそのイメージでタイトルをつけたりしたね。タイトルをつけるときは聴いた人がその曲をはっきりイメージできるようなタイトルにするように心がけているけど、できるだけ抽象的に、聴いた人が自分の解釈で曲を聴けるようにっていうところは気をつけてるかな。

アンディ:曲名自体はそんな重要じゃないと思うんだよね。タイトルはシリアルナンバー的なものだと思うから、人と話すときに助けになるものあればいいと思ってるくらいかな。

いま現在のあなたがたの音楽活動を続ける以外の夢はなんでしょうか?

アンディ:僕もだけど、ふたりともプログラミングが少しできるからそういうのをやってもいいし、あとはアプリの開発をやりたいね。他にオーディオ・ヴィジュアルに関連することもいいね。僕たちの音楽に関係することがいいよね。

エド:もう遅いかもしれないけど、宇宙飛行士になりたいのはずっと昔から同じだよ(笑)。それがダメならクリエイティヴなことがいいかな。例えば、音楽じゃないならゲームデザインとかクリエイティヴなビジネスとかね。

Plaidの音楽は、政治や社会とは直接関わりのあるものではありませんが、そのことは意識しているのでしょうか? 

アンディ:まぁ頭にあることはたしかだけど、あまりダイレクトにそれを出さないようにはしてるね。あまりはっきりしたものよりも抽象的なもののほうが聴く人に委ねられるから、そのほうがいいかなって思ってる。

若い世代のエレクトロニック・ミュージックは聴きますか?

エド: ふたりともDJもやるからいろいろな音楽は聴くよ。それが若い世代かどうかまではよくわからないけど……

いま、Plaidがリスナーとして面白がっているエレクトロニック・ミュージックはなんでしょう? 

エド: いまは、MASTとエッセントっていうのが面白いと思う。

人生でもとくに今日は最悪な日だというときに聴きたい音楽は何でしょうか?

アンディ:わからない……自分にとってどういう意味で最悪だと定義するかで聴く音楽が変わると思うけど、全般的にエレクトロ・ミュージックを聴くかな。落ち込んでるときにハッピーな気分にさせてくれるからね。

エド:僕は、オールド・ソウルとかニューオリンズのファンク・バンドとかダンス・ミュージックを聴くかなぁ。

今年の予定を教えて下さい。

アンディ:3週間後からツアーがはじまるよ。いまのところはツアーがメインだね。その後もしやれるのであれば映画音楽をまたやりたいなと思っているよ。


 amazonさんでもすぐに品薄になってしまうのですが、おかげさまで『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』、好調な売れ行きでございます。お読みいただいているみなさま、ありがとうございます!
 さて、去る4月16日、インターネット・ラジオdublabさんにお迎えいただいて、著者おふたりが本書を紹介されました。dublabさんのアーカイヴにてそのときの模様が公開されましたので、ぜひお聴きください。ご都合のため九龍ジョーさんは途中からのご登場となっておりますが、磯部涼さんのDJとトークをたっぷりお楽しみいただけます。もちろんAZZURROさんによる、〈Ultimate Breaks & Beats Session〉も!

■DJ AZZURRO, Ryo Isobe w/ Yuho Hashimoto & Kowloon Joe – dublab.jp “Radio Collective” live from Malmö Tokyo (04.16.14)

こちらからお聴きいただけます!
https://goo.gl/WhfvY2

dublabさんサイト
dublab.jp

*磯部涼 選曲リストより
1. 浅野達彦 / LEMONADE(M.O.O.D./donut)
2. Gofish / 夢の早さ(Sweet Dreams)
3. 両想い管打団! / キネンジロー(Live at 元・立誠小学校、2013年1月13日)(NO LABEL)
4. うつくしきひかり / 針を落とす(MOODMAN Remix)(NO LABEL)
5. odd eyes / うるさい友達(less than TV)
6. MILK / My(Summer Of Fun)
7. soakubeats feat. onnen / Mission:Impossible(粗悪興業)
8. Alfred Beach Sandal / Rainbow(ABS BROADCASTING)
9. Hi, how are you? / 僕の部屋においでよ(ROSE RECORDS)
10. FOLK SHOCK FUCKERS / ロード トゥ 町屋(less than TV)
11. DJ MAYAKU feat. SOCCERBOY / DANCE WITH WOLVES(Goldfish Recordings)
12. LEF!!! CREW!!! x NATURE DANGER GANG / Speed(NO LABEL)
13. 嫁入りランド / S.P.R.I.N.G.(NO LABEL)

■『遊びつかれた朝に──10年代インディ・ミュージックをめぐる対話』
発売情報はこちらから! → https://www.ele-king.net/news/003740/


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