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HOUSE definitive 増補改訂版 - ele-king

始めにハウスありき……
全音楽ファンが知っておくべき、
ハウス・ミュージックの名盤900枚以上を紹介!

監修・執筆:西村公輝
編集協力・執筆:猪股恭哉/三田格
執筆:野田努/Nagi/島田嘉孝/DNG/Alex Prat/板谷曜子(mitokon)/Midori Aoyama/Shhhhh/Alixkun/水越真紀/SISI/小林拓音/木津毅

cover photograph by Bill Bernstein
装丁:真壁昂士
A5判/並製/オールカラー/304ページ

contents

改訂版序文 (西村公輝)

CHAPTER 1 Disco 1974–1983
CHAPTER 2 Chicago House 1984–1987
CHAPTER 3 Second Summer Of Love 1988
CHAPTER 4 Deep House 1989–1995
CHAPTER 5 French Touch / Detroit House 1996–2000
CHAPTER 6 Disco Dub / Nu Disco 2001
CHAPTER 7 Translocal 2002–2013
CHAPTER 8 Nu School / Multipolar Of House 2014–2022

INDEX

監修
西村公輝

90年代後半から輸入レコード業界にて働き始める。現在はLighthouse Recordsに所属。DJとしてはDr. NISHIMURAの名前で活動中。悪魔の沼の三分の一。

協力
猪股恭哉

1977年仙台市生まれ青森育ち。90年代中頃よりテクノを聴き始め、99年にディスクユニオンに入社、07年より渋谷クラブミュージックショップで中古買取とバイヤー業務を開始。14年よりハウスのメインバイヤーとして異動。23年現職。

三田格
ライター、編集。監修・編著に『AMBIENT definitive 増補改訂版』『TECHNO definitive 増補改造版』『永遠のフィッシュマンズ』ほか多数。

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aus - ele-king

 アウス(aus)、約14年ぶりの新作がリリースされた。

 いや、そんな軽いひと言で済ませていい年月ではないだろう。14年はとても長い年月だし、アウスことヤスヒコ・フクゾノにとって辛い出来事を乗り越えていく時間だったのかもしれないのだから。
 だが何にせよ、「ゼロ年代以降のエレクトロニカ」を振り返るときに欠かすことのできない重要なアーティストが復活したのだ。困難を乗り越えてふたたび動き出したのだ。まずはそのことを心から祝福したい。

 そして何より新作アルバム『Everis』が普遍的な音楽性を持った作品だったことを心から喜びたい。どの曲も瑞々しさと音楽的成熟が同居している、そんなアルバムなのだ。
 モダン・クラシカル、ジャズ、フォーク、エレクトロニクスなどが交錯する新作『Everis』は美しくて、魅惑的で、しかし不可思議で多様な「音楽」の結晶体だ。もっと限定的にいうならば、エレクトロニカとモダン・クラシカルの融合、その洗練の極みとでもいうべきかもしれない。

 私が彼の音楽を最初に知ったのはご多聞にもれず2006年にリリースされた『Lang』だった。東京のエレクトロニカ・レーベル〈Preco〉からリリースされたアルバムだ。
 彼は『Lang』以前にも、ベルギーの〈U-Cover〉のサブレーベル〈U-Cover CDr Limited〉から『Kangaroo Note』(2004)と『Crowding』(2005)をリリースしている。加えて『Lang』と同年の2006年にもUSの〈Music Related〉から『Sonorapid』もリリースされている。
 だが、2006年の『Lang』には、「ゼロ年代エレクトロニカ」を象徴するような特別なアウラがあった。透明な電子音、繊細なサウンドスケープ、細やかなリズムの心地良さに惹きつけられたことを記憶している。海辺の陽光と捉えたアートワークも、「あの時代」のエレクトロニカの本質(自分はそれを電子音による日常のサウンドトラックだと思っている)をうまく表現していた。
 翌2007年にはイギリスの〈Moteer〉からコキユがヴォーカルで参加した『Curveland』をリリースする。2008年には〈Preco〉から『Lang』のリミックス盤『Lang Remixed』を発表した。
 そして2009年、ローレンス・イングリッシュの〈room40〉のサブレーベル〈Someone Good〉からザ・ボーツやグリムらと作り上げた『Light In August, Later』と、自身のレーベル〈flau〉からアルバム『After All』をリリースした。
 特に『After All』は重要作だ。シルヴァン・ショヴォー、コキユ、ゲスキア、リミックスにモトロ・ファームらが参加したこのアルバムはさながら00年代末期のエレクトロニカの総括のようなアルバムなのである。
 リリース当時は、どこか悲しみすら感じさせる音楽性に、私は『Lang』の作風との違いを感じて、最初こそ戸惑いはしたものの、これまでにない音楽的な広がりに驚き、結局は愛聴することになったことを覚えている。2013年に〈Plop〉からリミックス・アルバム『ReCollected - aus Selected Remixes』をリリースをして、リリースはいったん途切れることになる。むろん〈FLAU〉のレーベル・オーナーとして継続的に活動を続けていたので「沈黙」していたというわけではまったくない。

 アウスが動き出したのは、2023年に入ってからだ。まず、シングル「Until Then」をリリースし、次いでアルバムとしては約15年ぶりの新作『Everis』を送り出した。『Everis』を聴いてみると、『After All』と対になるような音楽を展開していたことに驚いてしまった。彼は、エレクトロニカを経由した「総合音楽」をずっと追求していたのだ。その間に、あの「空き巣事件」があり、音源データが盗まれるという悲劇に見舞われながらも、彼は彼の音楽をついに完成させた。
 新しいアウスの音楽もまた、これまでと同様に、モダン・クラシカル、ジャズ、フォーク、エレクトロニカなどの音楽が交錯し、聴くものを優しく、しかしエモーショナルな音楽世界へと連れていってくれる。同時に、彼の音楽性はより成熟し、より深みを増していた。
 前作『After All』が「夜」のアルバムとすれば、新作『Everis』は「昼」のアルバムとすべきだろうか。
 「昼」といっても何かと忙しいオンタイムの「昼」ではない。日々の雑事から解放され、ほんのひとときで暖かい陽光の中で日常の美しさを感じるような「昼」だ。その感覚は『Lang』から一貫している。
 じっさい、ストリングス、ピアノ、クラリネット、フルート、ドラム、声、エレクトロニクスが交錯する極上のアンサンブルは、まさに「光」としか言いようがない感覚を発している。もちろん単に明るいだけというわけではない。日常のなかに不意に現れる不思議な感覚のようなものも感じられるのだ(まさにアートワークのように!)。
 ゲストも多彩だ。ヘニング・シュミート、高原久実、ノア(Noah)、ダニー・ノーベリー、エマ・ガトリルなどの〈FLAU〉と縁の深いアーティストが多数参加し、加えてあのグーテフォルク、横手ありさなどの日本人(電子)音楽家、ハルダンゲル・フィドル奏者のベネディクト・モーセス、オーストリアの音響作家グリムというエレクトロニカ、モダン・クラシカルの音楽家たちが多数が参加している点も重要だ(個人的に驚いたのは、英国の即興音楽パトリック・ファーマーがドラムとハーモニウムで参加している点である)。

 全10曲、作曲・編曲・ミックスなどどれも完璧だ。2017年に起きたあの悲しく辛い事件のあと、楽曲データを喪失したアウスは、自身の心の奥にあるストーリーから音楽を作り上げようとしたという。本作がこれまでの作品以上にエモーショナルなのはそこに理由があるのではないかと思う。携帯電話に残っていたさまざまな環境音を用いつつ、過去と現在をつなぐ「記憶」のような音楽を構築したらしい。以下、各曲をみていこう。
 まず1曲目 “Halsar Weiter” では、声のエレメントと透明なカーテンのような持続音が重なり、少しづつ音に厚みがましてくる。やがて細かな環境音がレイヤーされ、ストリングス的な音も折り重なる。記憶を浄化するようなアルバムの入り口でもある。
 続く2曲目 “Landia” は、子どもたちの声のサンプル、シンセのフレーズ、リズム、環境音、横手ありさのコーラスが重なり、モダン・エレクトロニカとでも形容したいようなエレガントな音を展開する。休日の平和な公園のような「微かな多幸感」がたまらない。
 そのままシームレスに3曲目 “Past From” につながる。声のサンプルが流れ、ピアノのリズミカルなリフが奏でられる。やがて浮遊感に満ちたストリングスも鳴りはじめる。まるで「複数の音楽が同時に存在する」ような本作を象徴するようなサウンドだ。曲の終わり近くのストリングスもとても美しい。
 そして4曲目 “Steps” では、Gutevolk(西山豊乃)をヴォーカルに迎えたフォーク/クラシカル/エレクトロニカな楽曲を展開する。透明で澄んだ声とエレクトロニクスなどの音の交錯が素晴らしい。夜道に迷い込んでいくような深淵さもあり、アルバム中、もっともダークなムードを内に秘めている曲といえよう。
 さらに5曲目 “Make Me Me” は、オーストラリアのシンガーのグランド・サルヴォをゲスト・ヴォーカルに迎えたピアノと弦楽器を中心とするヴォーカル・トラック。慈悲深い声が優しく心に染み入る。
 6曲目 “Flo” は、横手ありさの声と静謐なエレクトロニクスが交錯する曲だ。アルバムの「深さ」「深淵さ」「夜」のムードを象徴するような曲ともいえよう。
 アルバムのクライマックスといえる7曲目 “Swim”、8曲目 “Memories”、9曲目 “Further” は、あえて解説を省略したのは、ぜひとも無心に聴いて頂きたいパートだからである。モダン・クラシカルとエレクトロニクスが交錯する圧倒的な音世界がここにはある。
 ラストの10曲目 “Neanic” は、柔らかく静謐なピアノに、ベネディクト・モーセスが奏でるハルダンゲル・フィドルのミニマルなアンサンブルが祈りのように重なっていく。アルバムのラストを飾るのにふさわしい曲だ。
 どの曲も繰り返しの聴取に耐える質の高い曲ばかりである。『Everis』は、リリース直後のみ話題になり、その後は忘れられるというような「消費される音楽」ではない。今後10年、ずっと聴き続けられるアルバムではないかと思う。
 ちなみにリリース・レーベルは英国の老舗レーベル〈Lo Recordings〉とアウス自身が主宰する優良レーベル〈FLAU〉からである。

 『Everis』、この美しい音楽が多くの人の耳に届き、それぞれの暮らしを彩ることを切に願う。それほどまでのアルバムだ。ゼロ年代エレクトロニカ以降の優しい音世界がここにある。

Ryuichi Sakamoto - ele-king

 坂本龍一のソロ楽曲を集めたコンピレーション『Travesía』(英語で「journey」の意)が〈Milan Records〉からリリースされている。〈Milan〉といえば、これまで海外で坂本の『async』や『ASYNC - REMODELS』などをリリースしてきたUSのレーベルだ。
 キュレイターは映画監督のアレハンドロ・イニャリトゥ。『レヴェナント: 蘇えりし者』で共同作業をした際に、今回の選曲を依頼されていたという。当初はイニャリトゥ自身の誕生日のためのコレクションになるはずだったが、坂本の逝去を受け彼の回顧録として公開。収録されているのは下記の20曲。フィジカルでも2CD盤(RZCM-77722A)、2LP盤(RZJM-77720A)が5月3日に発売されている。

Travesía
Tracklist:
01. Thousand Knives
02. The Revenant Main Theme (Alva Noto Remodel) *未発表音源
03. Before Long
04. Nuages
05. LIFE, LIFE
06. Ma Mère l’Oye
07. Rose
08. Tokyo Story
09. Break With
10. Blu
11. Asadoya Yunta
12. Rio
13. Reversing
14. Thatness and Thereness
15. Ngo/bitmix
16. +Pantonal
17. Laménto
18. Diabaram
19. Same Dream, Same Destination
20. Composition 0919

Milan公式サイト:
https://www.milanrecords.com/release/travesia/
commmonsmart:
https://commmonsmart.com/collections/compilations

 そしてもうひとつ、最新情報をお知らせしておこう。坂本龍一のマネージメント・チームにより彼の「最後のプレイリスト」が公開されている。自身の葬儀でかけるために生前、坂本本人が選曲していた33曲のコレクションで、バッハやラヴェル、ドビュッシーといった彼のルーツにあたる曲からデイヴィッド・シルヴィアンアルヴァ・ノトのような彼のコラボレイターたちの曲までをピックアップ。最後はなんとローレル・ヘイローで締められている。同時代の音楽への関心を失わなかった坂本らしいプレイリストだ。

Jessy Lanza - ele-king

 フットワークからYMOまで、前作で独自の折衷センスを聴かせたシンセ・ポップ・アーティスト、ジェシー・ランザ。Yaejiとの全米ツアーを終えた彼女の新作情報が解禁されている。『Pull My Hair Back』(13)『Oh No』(16)『All The Time』(20)につづく4枚目のアルバムが〈ハイパーダブ〉より7月28日 (金) にリリース。CD、LP、ストリーミング/デジタル配信で世界同時発売とのこと。現在UKGを取り入れた新曲 “Midnight Ontario” が公開中だ。アルバムへの期待が高まります。

JESSY LANZA

ハイブリッドなR&Bスタイルでシーンを牽引!
ジェシー・ランザによる最高傑作が誕生!
最新アルバム『Love Hallucination』
7月28日リリース
新曲「Midnight Ontario」をMVと共に解禁!

卓越したセンスとスキルによって構築されたハイブリッドなスタイルで、FKAツイッグスやグライムス、ケレラらと並び、インディーR&B~エレクトロポップ・ファンからの支持を集めるジェシー・ランザが、最新アルバム『Love Hallucination』のリリースを発表! あわせて新曲「Midnight Ontario」をMVと共に解禁! アルバムは7月28日に発売される。

Jessy Lanza, Midnight Ontario
https://youtu.be/BHt2RXRKCSE

『Love Hallucination』で、ジェシー・ランザはソングライター兼プロデューサーとして完璧な采配を振っている。当初は他のアーティストたちのために曲作りをしていたが、自分のスタイルを屈折させたり実験したりすることに解放感を感じ、実験する過程に自由を感じ、書きためてあったトラックを書き直し、最終的に自分の作品のためにレコーディングすることを決断した。本作のためにジェシーはスタジオでのスキルをレベルアップさせ、自身のサウンドを再構築している。高い評価を受けた2021年の『DJ Kicks’ Mix Series』の足跡をたどるクラブサウンドの曲から、ダウンビートでなまめかしい曲まで、プロダクションスキルと四方八方に広がるエネルギーを駆使して冒険している。

今まで、あけすけにオーガズムを扱ったりサックスを演奏したりしたことはなかったけれど、『Love Hallucination』ではそれがしっくりきた - Jessy Lanza

本作では、その瞬間の自分自身を信じるというテーマが、作品を前進させる大きな力になっている。直感に重点を置いた『Love Hallucination』は、恋に惑わされながら、たとえ納得できるまで時間がかかろうと、自分の感性を最後まで信じる強い意志で完成させた作品である。

『Love Hallucination』では、2013年リリースのデビュー作『Pull My Hair Back』のまだ荒削りなアプローチから、『DJ-Kicks』で見られたエネルギッシュなサウンドまで、まるで彼女の成長を一つにまとめたかのような集大成的作品であり、新たな才能の開花を示す作品とも言える。

オープニング曲「Don't Leave Me Now」、ジャック・グリーンと共同制作した「Midnight Ontario」、テンスネイクことマルコ・ニメルスキーと共同制作した「Limbo」など、生の感情をダイレクトかつパーソナルに歌い上げるアルバムであることがわかる。またジェシーは、ロンドンでピアソンサウンドとして知られるデヴィッド・ケネディーとも仕事をし、プロダクション面やクラブ向けの洗練されたアレンジで楽曲を強化するのに貢献している。他には、ジェレミー・グリーンスパンと共同制作した「Big Pink Rose」「Don't Cry On My Pillow」「Drive」「I Hate Myself」、そしてポール・ホワイトと共同制作した「Casino Niagara」や「Marathon」が収録されている。『Love Hallucination』は、ジェシー・ランザにとってこれまでで最も野心的なアルバムであり、メッセージ性と完成度においても間違いなくキャリア最高傑作と言える。

ジェシー・ランザの最新アルバム『Love Hallucination』は、CD、LP、デジタルで7月28日 (金) に世界同時リリース。CD、LP、ストリーミング/デジタル配信で世界同時リリース。国内流通仕様盤CDには、解説書と歌詞対訳が封入される。

label: Hyperdub
artist: Jessy Lanza
title: Love Hallucination
release: 2023.07.28

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13397
Tracklist
01. Don’t Leave Me Now
02. Midnight Ontario
03. Limbo
04. Casino Niagara
05. Don’t Cry On My Pillow
06. Big Pink Rose
07. Drive
08. I Hate Myself
09. Gossamer
10. Marathon
11. Double Time

NHK yx Koyxen - ele-king

 これまで〈Diagonal〉〈DFA〉〈Pan〉〈L.I.E.S〉〈Mille Plateaux〉〈WordSound〉〈Scam〉といった一癖も二癖もあるレーベルから作品を出しているNHK yx Koyxenこと松永コーヘイが、久しぶりにアルバムを出す。やった。ベルリンの〈Bruk〉から5月26日リリース予定の『Climb Downhill 2』は未発表音源集で、コーヘイのムズムズしたシュールなエレクトロニカ・ダンスの魅力がコンパクトに詰まったショーケースだ。聴こう。
 このアルバムを機に、完全なる新作もリリースされるかもしれない。わからないけど。

NHK yx Koyxen
Climb Downhill 2

Bruk
BRUKLP1
Release Date: May 26th
 

Debby Friday - ele-king

 音楽におけるジャンルというものは考えてみるとイメージを共有するために必要になるものなのかもしれない。新しい音楽を聞く足がかりとなる情報、あるいは他の誰かに伝えるときに必要になる道具、SNSが発展してそこで興味をかきたてられることも多くなった時代においてその情報はひとつのフックとして重要な働きを果たしているように思える。
 だが最近ではジャンルの枠を超えるアーティストや既存のジャンルではしっくりこないような活動をしているアーティストも多く出てきた。たとえばUKのラッパー、スロウタイの最新作『Ugly』は〈Speedy Wunderground〉のダン・キャリーのプロデュースで、ジョックストラップのテイラー・スカイやイーサン・P・フリン、フォンテインズD.Cが参加するなどサウス・ロンドンのインディ・シーンのツボを突くような陣容で、実際にインディ・ロック・リスナーからも高い評価を得た。この傾向はレーベル側にもあって、大きな注目を集めていたインディ・ロック・バンド、ブラック・カントリー・ニュー・ロードと契約した老舗〈Ninja Tune〉、あるいは〈Warp Records〉に所属していたジョックストラップが素晴らしいクラブ・チューンである “50/50” をひっさげて〈Rough Trade〉に移籍するなど、レーベルの既存のイメージとは離れた印象のアーティストと契約するというのも珍しくなくなった。これはアーティスト側がリスナーとして様々な音楽を聞き、そのアウトプットとして音楽を作るというアクションが反映された結果なのか、シーンというものに定まった服装や音楽的共通項を必ずしも求めない現代の感覚が出たものなのかはわからないが(彼らはみんなアティチュードで結びつく)、いずれにしてもSNS上のプロモーションとしてのわかりやすさが求められる一方で制作側のジャンルの意識は薄れ、その音楽はどんどん形容するが難しいものなっていっているように思える。

 〈Sub Pop〉から1stアルバム『GOOD LUCK』をリリースしたデビー・フライデーはまさにこの流れの中に存在するアーティストだ。「ナイジェリアに生まれ、モントリオール、ヴァンクーヴァー、トロント、カナダのあちこちに移り住んだデビー・フライデーの時空を巡る放浪は、太陽が沈んだときから始まった」と心が躍るようなプレス・リリースの文言があるように彼女の音楽はクラブ・ミュージックがベースにある。クラブで育ち、DJとして活動を始めそうしてすぐに自らの音楽を作ることを志したという彼女はジェイペグマフィアデス・グリップスをリリースするロサンゼルスのレーベル〈Deathbomb Arc〉から2枚のEPを出し、インディ・ロックの名門レーベル〈Sub Pop〉と契約しアルバムをリリースすることになる。

 そうしてリリースされたこのデビュー・アルバムは彼女の特徴であった暗く呪詛的な硬質なビートに加え、これまでの2枚のEPと比べてよりインダストリアル・ロックの要素やポップな側面が強く出ている。アルバムのオープニング・トラックでありタイトル・トラックである “GOOD LUCK” は漆黒のビートの重さを保ったまま、より軽やかに解放されたかのような彼女の声が響く。ヒップホップの要素とインダストリアルの要素が混じりあい、エレクトロニクスの痛みがやがて突き抜けた快感に辿り着くかのごとく変質していく。続く “SO HARD TO TELL” はこれまでのデビー・フライデーとはまったく違う甘いファルセット・ヴォイスが聞こえてくるユーフォリックなトラックだ。その声は甘く、決意を固めたかのように芯があり、挑みかかるようだったいままでの彼女の声とは違う魅力を見せる。孤独を抱えたメランコリックなエレクトロ・インディ・ポップとも呼べそうなこの曲はアルバムの中で異彩を放っているが、しかしこの曲こそがこのアルバムのデビー・フライデーを特別な存在にしているのかもしれない。かつて “BITCHPUNK” を標榜し牙を剥いていた彼女の違う側面、彼女の内に潜んでいたものが少しずつ溶け出して、それがより一層硬質なビートを輝かせている(それは漆黒の闇の中で輝く光がそれぞれをより引き立たせているようなこのアルバムのアートワークにも現れているようにも思える)。
 デビー・フライデーはそんな風にしていくつものジャンルを並列に並べ、異質を本質に変えていく。邪悪なポストパンクのような “WHAT A MAN” で電子音の世界からギター・ロックにアプローチするスケールの大きいロック・スター然とした雰囲気を見せかと思えば、“SAFE” では再び狭くて暗い地下室に潜り硬く小さいビートの中で自問自答を繰り返すといった具合に。

 このデビュー・アルバムにはデビー・フライデーが影響されてきた音楽の影がそこらかしこに潜んでいるのだ。そこにマッシヴ・アタックを感じデス・グリップスの影を見て、違う世界のイヴ・トゥモアの形を思い浮かべる。自分のようなインディ・ロック・リスナーの耳にも馴染みやすいのはこの音楽の中に様々な影を見ているからなのかもしれない。このハイブリッドな音楽はどの方向からも接続可能なアクセス・ポイントを持っていて、ジャンルの境界を意識させることなく越えていくのだ。ジャンルとは受け手が感じ取るもので、そこに隔たりなどなく、ただフックがその音楽の中に存在するだけなのかもしれない。デビー・フライデーのこのアルバムはそんなゆるやかに変わる世界の流れを感じさせる。そのうちにもっと感覚が変わって、ジャンルの枠を越えたなんて誰も言わなくなるかもしれない。

interview with Overmono - ele-king

 なんだかんだと今年もまた、いや、今年になってようやく(と言うべきか)、ま、なんにせよ、ダンス・ミュージックの季節到来である。良かった良かった。
 UKはセカンド・サマー・オブ・ラヴを契機として、アメリカのブラック・コミュニティと同じように、ダンスフロアのための音楽のもうひとつの産地となって、この30年のあいだ、大量かつ多彩なダンス・ミュージックを生産し続けている。1969年のUSのR&B曲、ザ・ウィンストンズの “アーメン・ブラザー” におけるドラムブレイクが1990年代のUKに渡ってルーピングされたときには、もう、すでに準備オッケー。DJ、クラブ、レイヴ、レーベル、12インチ、ラジオに音楽メディア——それ以来、UKからは絶えることなくこの音楽はアンダーグラウンドにおいてもオーヴァーグラウンドにおいても動き続け、まったく飽きられることもなく、世代から世代へと、多くの人たちに享受され続けているのである。で、最近の成果が、日本で知られたところで言えばジョイ・オービソンディスクロージャーバイセップであって、いまオーヴァーモノがその最前線に躍り出るというわけだ。

 オーヴァーモノとはトム・ラッセル&エド・ラッセル兄弟によるユニットで、彼らにはすでにアンダーグラウンドでのキャリアがあり、多くの賞賛がある。たとえば初期の代表作、10年前にエドがテスラ名義でリリースした「Hackney Parrot」と「Nancy’s Pantry」のような12インチは、「踊らせたるぜ」という気迫が生んだみごとな創造物の一例で、ぼくのような元クラバーにもそのヴァイナルを買わせるほどパワフルで、若々しいグルーヴを有している。
 オーヴァーモノは、ジョイ・オービソンやディスクロジャーのように、USの影響を受けながらもじつにUKらしいハイブリッド性、つまりなんでもアリ感があるのだが、そのまとめ方がいかにもUKらしくスタイリッシュだ。また、この10年のあいだに登場してきたプロデューサーの多くにUKガラージからの影響が色濃くあることも、クールだと思う。シングル・カットされた “So U Kno” はその典型だ。ピッチを速めにループさせたヴォーカル・サンプルとブレイクビートの組み合わせは、初期ジャングルから続いているUKのお家芸なのだが、ラッセル兄弟にはその魅力を最高にモダンなものとして際立たせる特別なスキルがあるようだ。要するに、明らかにこれはいまイケているダンス・ミュージックで、それが好きなら聴け、である。

もちろんUKガラージからの影響もあるけれど、それ以前のスタイルの影響もある。それがUKガラージと融合して、どう発展していまのスタイルになったのかはよくわからないけど、俺たちはとにかく永遠とヴォーカルを切り刻んでいるんだよ(笑)。

オーヴァーモノはどのようにはじまって、制作に入ったのでしょうか?

トム(写真の右):とくに考えというものはなかった。オーヴァーモノは俺たちにとって長期的なプロジェクトとして捉えていた。俺たちだけのやり方で進めていたら、もっと早いタイミングでアルバムをリリースしていたと思う。
 オーヴァーモノのプロジェクトをはじめたとき、俺たちはふたりとも自分たちのソロ・プロジェクトに窮屈さを感じていたんだ。エドも自分のプロジェクトをやっていたし、俺もやっていたんだけど、各自がやっていることの境界線が狭いと感じていた。そこで、俺たちが育ったウェールズの近くにある、田舎のコテージを借りて、機材をたくさん持って行って、5日間くらいそこに篭って、ふたりでたくさんの音楽を作った。14曲くらいできたと思う。その楽曲ができた時点で、これらの音楽には一貫性があり、自分たちでも一緒に制作をしていてすごく楽しかったと気づいた。そこでオーヴァーモノというプロジェクトをやろうということになり、〈XL Recordings〉と契約を結んだ。
 当初はアルバムをすぐにリリースしようと俺たちは考えていたんだけど、いろんな人たちと話し合った結果、まずはシングルとして出していく方がいいということになった。いま、振り返ってみるとそういうリリースの仕方をして本当に良かったと思う。ある一定の期間を経て、楽曲を発表していったことで、オーヴァーモノのサウンドの枠組みがどんなものかというイメージが受け取る側のなかで形成されていったと思うからね。そしてオーヴァーモノのサウンドがどういうものかというブループリント(設計図)を人びとに対して提示できたと感じられた時点でアルバムを発表した。だが、俺たちは「よし、いまからアルバム制作に入ろう」と言って作りはじめたわけではなかった。アルバムの核となる曲が1、2曲ができてから、そのまわりが肉付けされてアルバムという形になっていった。

通訳:そのとき、おふたりともソロ・プロジェクトをやっていたと思うのですが?

エド(写真の左):もうソロ・プロジェクトはやっていないよ。すべてはオーヴァーモノとしてやっている。最初もオーヴァーモノとして作曲しようと決めたわけではないけれど、俺もトムもソロとして表現したいことはやり切ったと感じていた。だからそれ以降はすべてがオーヴァーモノとしての楽曲になっている。俺はオーヴァーモノをはじめて以来、1曲もテスラ名義の曲を作っていない。自然にそうなったんだ。だから(ソロ作品は)無理して作る必要はないと思っている。トムも同じように感じていると思うよ。

トム:そうだな。

エド:だからアルバムの楽曲はすべ、自然な流れで、無理なく出来たものばかりなんだ。

アルバムは、ここ最近のUKのアンダーグラウンド・シーンで起きていることからの影響が反映されたものなのでしょうか? それとも完全に自分たちのなかから生まれたものなのでしょうか? 

トム:どうだろうな。俺たちの音楽は、自分たちがUKで育ち、いままで聴いてきた音楽などの影響が大きな基盤となっているのは当然のことだからね。アルバムはここ2年間くらいかけて書かれたものなんだけど、その期間中、俺たちはあまり最近の音楽——とくに俺たちの背景にあるシーンの音楽——をあまり聴いていなかったんだ。最近聴いている音楽と言えばアメリカの音楽で、R&Bやポップを聴いている。だからアルバム制作中は、俺たちがいままでいた世界(UKのアンダーグラウンド・シーン)から自分たちを大きく切り離していたという自覚はあるね。

エド:UKのアンダーグラウンド・シーンの影響はもちろん昔からあったし、いまでもあるよ。

トム:もちろんある。

エド:俺たちのなかに刻まれているようなものだから。

トム:俺たちは、例えば、アメリカの音楽などを聴いて新鮮な刺激を取り入れたいと思っている。でもそれを俺たちの音楽に反映させるとき、それは俺たちの基盤にあるUKのダンス・ミュージックやエレクトロニック・ミュージックという俺たち特有のプリズムを通してアウトプットされる。

ちなみに、今日のUKのアンダーグラウンド・ダンス・シーンで、おふたりが注目しているのは何でしょうか? ジャングルが面白いという話は耳にしているのですが。

エド:面白いものはたくさんあるよ。俺たちはアルバム制作プロセスというトンネルの終盤をようやく通り抜けて、浮上しはじめてきている状態なんだ。2年間、自分たちをそういったシーンから遮断して、再びシーンに目を向けた時、面白いことが起きていると気づいた。とても良い感触だよ。俺が住んでいるブリストルでは、多くの若手が出てきていて、面白いことがたくさんあるけど、具体的なことはあまり知らない。でもUKは常にエキサイティングなことが起こっているし、新しいシーンが生まれていると思う。

去年のハイライトのひとつはジョイ・オービソンの『still slipping vol.1』だと個人的に思っています。しかし、これはアルバムと呼ばれることを忌避し、ミックステープと呼びました。それに対して、オーヴァーモノの『Good Lies』は思い切りアルバムになっていると思います。

エド:ピート(ジョイ・オービソン)も『still slipping vol.1』をアルバムと呼んでも全然良かったと思うよ(笑)!

トム:ハハハハ!

エド:でもそれがピートなんだよなぁ。あのアルバムは最高だよ。

トム:(頷いている)

エド:あれはアルバムと呼んでもおかしくない作品だった。だが俺たちはアルバムを作ろうという姿勢で制作をしていたね。ミックステープを作るときは、アルバムを作るほど焦点が定まっていないことが多いと思う。ピートのミックステープだけはこのルールが適応されないけど。彼のアルバムは、すごく焦点が定まっているし、「ピート」としての表現が完璧になされている。

トム:ひとつの作品としてまとまっているよね。

エド:そう、一貫性があるんだ。俺たちも一貫性のある音楽を作りたいと思っていて、すべての楽曲に同じプロセスに通すから、すべての楽曲が俺たちが表現したいようなサウンドの特質を持った楽曲に仕上がる。そういうことを俺たちは重視していて、アルバムを作るときも、(個々の楽曲の集まりではなく)ひとつの大きなものとして成り立つようにしたいと思っている。

バイセップもディスクロージャーもブリアルも俺たちが大好きなアーティストたちだから、比較対象にされるのは嬉しいよ。UKからはいい音楽がたくさん出てきているし、俺たちはそういうアーティストたちからいろいろな影響を受けて自分たちの音楽に取り入れている。

作っていて、いちばん難しかったところと、作っていていちばん嬉しかったことは何だったのでしょう?

エド:終わりのタイミングがわからないところ(笑)。

トム:(笑)

エド:いちばん難しいのはそれだな。いちばん嬉しかったのは曲を書いているときだった。本当にいろいろな場所で曲を書いていた。昨年、俺たちはツアーをかなりたくさんやっていて、楽曲の多くは、ヴァンの後部座席やホテルの客室などで書かれたものなんだ。よくあったパターンとしては、ギグが終わると、こうやっていまみたいに、ホテルのベッドにもたれながら、明け方になって、次の公演の出発時間になるまで、ふたりでずっと音楽を作っている。それがいちばん楽しかった。いつでも、どこでも、作曲できる時に作曲する。楽しかったし、楽な作業だったよね。

トム:ああ。スタジオでの時間はいつも楽しい。スタジオというのは、実際のスタジオの場合もあるし、ホテルの部屋でヘッドフォンをお互いにパスしながら曲作りをしている場合もある。作曲が面倒な作業のように感じてしまったら、やる価値はないと思うよ。

常にUKにおける土着のダンス・ミュージックに根差した音楽。映像的で、ときにメランコリックであることなど……。こうした視点でみるとオーヴァーモノは、バイセップやディスクロージャーよりもブリアルに繋がっているように感じます。

トム&エド:ハハハハ。

エド:それはジャーナリストに決めてもらうのがいいと思う(笑)。どちらの側もすごいと思うから、何と答えていいのかわからないよ。

トム:バイセップもディスクロージャーもブリアルも俺たちが大好きなアーティストだから、比較対象にされるのは嬉しいよ。UKからはいい音楽がたくさん出てきているし、俺たちはそういうアーティストたちからいろいろな影響を受けて自分たちの音楽に取り入れているよ。

エド:(トムに向かって)じつに外交的な答え方をしたね(笑)。

トム:ダハハハ。

では、ダンス・ミュージックのプロデューサーの作ったアルバムでとくに好きなのがあったら教えてください。

トム:(笑って考えている)

エド:ピートのアルバム……あ、失礼「ミックステープ」だったね、あれは俺たちがふたりとも好きだった。最近聴いたエレクトロニック音楽のアルバムはなんだったけなぁ……?

トム:(考えている)

エド:昔のUKからの音楽の方が黄金時代だったような気もする。エイフェックス・ツインとか。

トム:ソロウ(Sorrow)( https://sorrowgarage.bandcamp.com/)のアルバム が最近聴いたなかで素晴らしいと思った作品かな。つい先日も自宅で聴いていたんだけど、圧倒されたよ。アルバムの中には彼のキャリア史上最高な楽曲がいくつかあった。同じような時期だと、サージョンの『Breaking the Frame』も最高だった。

エド:クラインというプロデューサーがいて、とても素晴らしいレコードを出している。エレクトロニック・ミュージックのようなフリー・ジャズとでも言えばいいのかな、変な説明だけど、すっごくいいんだ。テクスチャーがすごく豊かな音楽で、音楽にルールがまったくない感じに、すごく刺激を受ける。

トム:Skee Maskの『Compro』も大好きなアルバムだな。その前のアルバム『Shred』もよく聴いていたんだ。

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ダンス・ミュージックがどのようなものかまだわかっていなかったから、「レイヴってきっとこういう感じなんだろうな」というイメージだけがあった。おそらく自分のイメージと実際のものとは、まったく違っていたんだろうけどね。

Instagramのポストでは、今作について「これまでの旅へのラヴ・レター」とあります。「これまでの旅」とはこれまでの「人生」ということでしょうか?

エド:俺たちがふたりで一緒に音楽を作ってきた、ここ5年間と言う意味だよ。俺たちがいままでやってきた活動のロジカルな結論というか。アルバムが完成したとき、ひとつの章が終わるのだと思っていた。でも、それは新たな何かのはじまりだったということがわかったんだ。だから俺たちはもうすでに新曲を書きはじめている。アルバム制作が終わった時点から、さらにアイデアが生まれているというのは良い流れだと思う。

というわけで、あなたたちの「これまでの旅」、つまりあなたがたの簡単なプロファイルを教えて欲しいと思います。エド(テスラ)とトム(トラス)、あなた方は兄弟で、レコード店がないほどの田舎町で育ったと。そもそもダンス・ミュージックにハマった契機を教えてください。

トム:俺はエドより少し年上だから、ダンス・ミュージックに先にハマったのは俺だった。友だちのお兄さんからテープをもらったんだけど、元のテープがダビングされた、さらにそのダビングみたいなものでひどい音質だった。80年代の初期のハードコアなレイヴの音楽が入っていた。そこからは(不思議の国のアリスの)ウサギの穴に落ちて行くように、その音楽についてもっと詳しく知りたくて深く掘っていった。いままでそんな音楽は聴いたことがなかったからすごく異質なものに聴こえたよ。これほどまでに反復が続く音楽は聴いたことがなかった……初めて聴いたテクノが、結構ハードなテクノだったんだけど、すごく不快で気に障る(obnoxious)感じが最高だと思った。「ダン!ダン!ダン!ダン!」っていうのがね。それからエドも俺が聴いているものに気づいて……

エド:昔、住んでいた家の部屋の壁越しに聴こえてきたからね。「ドン、ドン、ドン、ドン」という音が聴こえてきて「トムはいったい何を聴いてるんだ?」と思ったね。ちょうどその頃にライムワイヤーやカザー(ファイル共有サービス)が登場して、それを漁って、あらゆる音楽をダウンロードしまくっていたんだ。トムの部屋からレコードを盗んだりもした。だから、ダンス・ミュージックのほぼすべてのことはトムから学んだんだよ。

どんな子供だったんですか?

トム:どうだろう、けっこう普通の子供だったと思うよ(笑)。ダンス・ミュージックにハマる前からふたりとも音楽が大好きだった。物事の仕組みを理解するのが好きだったから、父親のレコード・プレイヤーにレコードをかけて、面白がっていた。母が、プラスチックの盤面に息を吹いてホコリを取り、それをプレイヤーに置いて、針を乗せるとそれが回って音が出る。それに魅了された。テープレコーダーも家にあったから、いろいろな音楽をテープに録音していて、BBCのEssential Mixもそうやってテープに録音していた。ラジオから流れる曲で気に入ったものをテープに録音していだんだ。すると、自分のお気に入りばかりが入ったアルバムのようなミックステープができあがる。
 当時は、ラジオの曲をどうやって手に入れたらいいのかがわからなかった。どの店に行けばいいのかもわからなかったし、そもそも俺たちの住んでいる街にはそんな店もなかった。近くの大きな街にはそういう店があったけれど、どういうふうに店員さんに曲を説明して、自分が欲しい曲を買うのかなどもよくわかっていなかった。ダンス・ミュージックを知ったばかりで、それについて学んでいたというとても素敵な時期だった。摩訶不思議な感じがしたな。ダンス・ミュージックがどのようなものかまだわかっていなかったから、「レイヴってきっとこういう感じなんだろうな」というイメージだけがあった。おそらく自分のイメージと実際のものとは、まったく違っていたんだろうけどね。でも自分の頭のなかには独自の世界観ができていた。だから摩訶不思議な感じだったよ。

なぜ自分たちはダンス・ミュージックにのめり込んだんだと思いますか?

エド:俺たちが若い頃は、まわりのみんながダンス・ミュージックにハマっていたよ。だからなぜかはわからない。俺は若い頃からいろいろな音楽にハマっていたんだ。ダンス・ミュージックはそのひとつだけど、他にもニルヴァーナなどのグランジ・ロックにもハマっていたし、奇妙な実験音楽にもハマっていた。若いときは、いろいろな音楽に一度にハマるってことが可能だった。サウスウェールズの小さな街ではダンス・ミュージックの影響は大きかったんじゃないかな。トムは当時、近隣のひらけた場所でレイヴをやっていたんだけど、それまでこの辺りではそういうイベントはやっていなかった。でも野外でそういうイベントをやりたいという気持ちはあった。その欲求とダンス・ミュージックは相性が良かったんだと思う。だから自然とダンス・ミュージックにハマっていった。つねに俺たちのまわりにあったからね。

レイヴをやるときも、ジャングルからトランスからハード・ハウスまで、なんでもかけていて、それが受け入れられていた。ロンドンに移ってから初めて、シーンによってはトライブ的要素が非常に強いということを知ったよ。

エドは学校でお手製のミックステープを売り、かたやトムは仲間と地元でフリーパーティ、レイヴをしていたと。ある種制限された状態で音楽と出会いつつも、こうして自分たちなりに音楽を追求しはじめたことは、あなたたちのいまのサウンドに何か特別な影響を及ぼしていると思いますか?

トム:もちろんあると思う。最近、別のインタヴューで同じような質問をされて、あらためて、自分たちの育った環境に感謝したいと思ったよ。俺たちが当時、ダンス・ミュージックにハマりはじめていたころ、ある特定のシーンという概念が俺たちのなかになかったんだ。つまり「このジャンルが好きな人は、別のジャンルを好きになってはいけない」みたいなスノッブな精神——そういうのがいっさいなかった。俺たちはなんでも好きだった。もちろん人によって多少の好みはあったけれど、他人の好みに対して批判的な考えはなかった。だから音楽に対して、ものすごく自由奔放でいられた。レイヴをやるときも、ジャングルからトランスからハード・ハウスまで、なんでもかけていて、それが受け入れられていた。ロンドンに移ってから初めて、シーンによってはトライブ的要素が非常に強いということを知ったよ。人によってはある特定のジャンルやサブジャンル、そしてそれらの関連要素にしかハマっていなかったりして、シーンが分断されているという印象を受けた。俺たちが育ってきた環境とはまったく違ったんだ。だから自分たちが作る音楽では、当時感じていた自由な精神を捉えたいという思いがある。

90年代に活躍したDJやプロデューサーで、とくに好きな人がいたら教えてください。

トム:エイフェックス・ツインはすごく尊敬しているね。サージョン、リージス……

エド:ジェフ・ミルズ

トム:ジェフ・ミルズ。あとは……

エド:ビッグネームの人たちすべて(笑)!

トム:そうだな(笑)。あとは誰がいたかな……DJとしてのカール・コックス! 彼の初期の、というか93年、94年くらいのミックスにはすごく引き込まれた。だからカール・コックス(*80年代末から第一線で活躍する超ベテランDJ)は超リスペクトしてる!

overmonoというユニット名はどこから来たんですか?

トム:俺たちが育った地域の名前なんだ。

通訳:そうでしたか!

トム:オーヴァーモノ小学校に通っていたんだよ。

エド:「オーヴァーモノ」って書いてある学校のジャンパーがあったから、あれを見つけたいんだよな(笑)。

トム:実際の綴りは少し違うんだけどね(笑)。綴りは少し違うけど発音は全く同じ。

今回のアルバム・リリースにあたって、フロアとの距離感、バランスなどは意識されましたか?

エド:俺たちが作っているのは、実は「車のための音楽(music for the car)」なんだ。

通訳:車ですか?

エド:そう、車のなかで聴いたときに良い音楽かどうかってこと(笑)。

トム:俺たちにとって、それが究極の審査法なんだよ。

通訳:それは面白いですね!

エド:車のための音楽を書く方がずっと自由度があるんだ(笑)。深夜、車を運転しながら、自分たちが作った音楽を車のなかで聴いてみて良い感じだったら、それは良い音楽だと納得がいって満足する。オーヴァーモノのダンスフロア寄りのトラックもやはり車で聴くことを想定して作られているんだよ。自分たちの領域を狭めたくないし、毎回ダンスフロア受けするクラブ・チューンを書かないといけないと思いたくないからね。俺たちは、この車でこのスピードで進んでいる限り、どんな音楽を発表してもいいような感じがするから、その感覚を大切にしていきたいんだ。

トム:俺も同感だ。エドも俺も、クラブにフォーカスされたダンス・ミュージック・アルバムというものがあまり好きではないんだ。ガンガンのクラブ・チューンを12曲も聴きたくはないと思ってしまう。

エド:(いやだいやだ、と頭を振っている)それは嫌だね。近年はアルバムというフォーマットを宣伝目的に使っている人たちもいて、アルバムというひとつの作品になっていないものも多い。なかには良いものもあるけれど。でも、俺たちのアルバムに関しては、そういうものにはしないように意識した。

プロダクションについても少しだけ。あなたのアイコニックな、あの繰り返すヴォーカル・カットはどう培われましたか? UKダンス・ミュージックのメソッドに倣うならば、R&Bのヴォーカルをサンプリングしたくなるところ、「Is U」ではティルザの声を使ってみたり、そんなところもちょっと奇妙で面白いと思います。このセンスはどこからきているのでしょうか。

エド:昔のUKハードコアから元々は来ているんだと思う。ヴォーカルが切り刻まれて、リピートされているからね。UKハードコアの方がリピートの仕方がより激しくて不快かもしれない。UKハードコアの多くがそうであるようにね。ヴォーカルを、もっとリズミカルにしたいというのか、何と説明すれば良いのかな……もちろんUKガラージからの影響もあるけれど、それ以前のスタイルの影響もあると思う。それがUKガラージと融合して、どう発展していまのスタイルになったのかはよくわからないけど、俺たちはとにかく永遠とヴォーカルを切り刻んでいるんだよ(笑)。

トム:ハハハハ。

エド:「ヴォーカルの刻み方を教えてくれませんか?」と人に訊かれることがあるんだけど、俺たちはただ、ずっとその場で、ヴォーカルを切り刻んでいって、自分が求めるサウンドや、良いと思うサウンドができるまで、とにかく切り刻んでるだけなんだよ。特殊なデヴァイスに素材を録音して……みたいな特別なトリックがあればいいんたけど、そうではなくて、とにかく、いいサウンドになるまで切り刻み続けるんだよ。

アートワークやヴィデオに多用されるドーベルマンとBMWについて。これらのモチーフはなにかを現しているのでしょうか? それともただ好きなだけ?

エド:どちらもかな。

トム:ただ好きなだけ(笑)。俺たちは犬が大好きでBMWが大好きだから! ドーベルマンに関しては一応昔のネタがあるんだけど、まあ要するにドーベルマンが大好きってこと。

通訳:あなたたちが飼っているんですか?

トム:いや、友人のだよ。

あなたたちはこれからどういう道を歩むつもりですか。今後の展開について言えることがあればお願いします!

エド:今後はどうなるんだろう? ここ1〜2年は本当に目まぐるしかったから、この先の1〜2年がどうなるのかわからない。でも俺たちはいままで以上に刺激を受けているし、今年もたくさんツアーをする予定があって楽しみにしている。ライヴではアルバムからの新曲を披露する機会もあって、ライヴをやるたびにどんどん新曲を取り入れている感じがあってとても良い感じだよ。今後はもっと音楽をリリースしていきたい。いまも、企画中のものがいくつかあるんだ。だから、今後もオーヴァーモノとして続けていくよ。

通訳:フジ・ロックが待ち遠しいです。今回はDJセット? それともライヴ・セットですか?

トム:ライヴだ。

エド:そう、待ち遠しい。すごいことになるよ!

トム:そうだな。

DUB INVASION - ele-king

 現行のDub、サウンドシステム・カルチャーを東⻄から盛り上げるDub Meeting Osaka、Tokyo Dub Attack、newdubhallそして eastaudio soundsystemの4者が大阪に集結!

DUB INVASION
Undefined (live) / Bim One Production / Element / Dub kazman / Sak-Dub-I

Sound System by eastaudio
shop by grassroots food by mr.samosa
VENUE : 心斎橋SUNHALL
OPEN/START : 16:00
CHARGE : 超早割 2,500yen / 前売 3,500yen / 当日 4,500yen / under 23 1,000yen
※ 全てD代別
※ 小学生以上チケット必要/未就学児童無料(保護者同伴に限る、ドリンク代不要)
※『under 23 1,000yen』23歳以下は公演当日に身分証をご提示いただければ1000yenでご入場頂けます。
超早割 >> 5/8 (MON) 21:00 on sale (枚数限定、特典付き)
Tokyo Dub Attack Ticket (ZAIKO)
ーーーhttps://tokyodubattack.zaiko.io/e/DUBINVASION

*特典
Dub meeting Osaka監修Zine 「HEAVYWEIGHT」
Tokyo Dub Attack Zaikoチケットページにて、超早割または前売券を購入した先着50名様限定でプレゼント(当日受け渡し)

チケット一般発売 5/15 (MON) 12:00 onsale
チケットぴあ : https://w.pia.jp/t/dubinvasion-o/
ローソンチケット : https://l-tike.com/order/?gLcode=52766 (L-code:52766)
e + : https://eplus.jp/sf/detail/3870130001-P0030001
Tokyo Dub Attack Ticket (ZAIKO) : https://tokyodubattack.zaiko.io/e/DUBINVASION

INFO :
心斎橋SUNHALL 06-6213-7077 https://sunhall.jp/
Tokyo Dub Attack Ticket (ZAIKO) https://tokyodubattack.zaiko.io/e/DUBINVASION

1昨年のStudio Patitta(名村造船所跡地)、昨年の神戶ハーバースタジオにて、脳天まで慄わす完膚なき超低音を轟かしその名を知らしめた eastaudioのサウンドシステムを難波サンホールに導入し、そのシステムを操るセレクターは国内外でのリリースや活動を続ける
Bim One Production (1TA & e-mura)、Sak-Dub-I、Dub Kazman、Element、さらに実験的でミニマルな視点を取り入れ、 先鋭的なDubを表現する2ピース・バンド、Undefinedが盟友のChequeをダブミキサーに迎えてライヴを行う。サウンドシステム・カルチャーを起源とするジャングル等のベース・ミュージックと現行のダンス・ミュージック・シーンの交わりが 盛り上がりを見せるなか、そのルーツから最新鋭まで新旧のDubを体感しよう。

ご好評につき重版出来!

ワールド・チャンピオン・サウンド=マイティー・クラウン。
その中心メンバー、サミー・Tの「俺のストーリー」

横浜から世界へ。
何者でもなかった少年がジャマイカ発祥のサウンド・システム・カルチャー、その最もハードでディープなエンターテイメント「サウンド・クラッシュ」の世界王者に立つまでの軌跡と葛藤。
ニューヨーク、ジャマイカ、日本。
「今までに話してこなかったストーリー」

「俺はビビリかもしれねぇけどナメられたくねぇんだ。バカにされたくないんだ。ずーっと奴等にナメられていたからさ、ずーっとふざけんなって思ってたからさ」
(サミー・T)

装丁:茂呂千里(Morrow)
表紙写真:五十嵐一晴
協力:有限会社マイティー・クラウン・エンターテイメント

四六判/並製/ソフトカバー/288ページ

CONTENTS

CHAPTER ZERO TOKYO 2020
マイティー・クラウン/サミー/俺のストーリー/「どんな感じ?」/「後はヨロシク」

CHAPTER 1 YOKOHAMA KID
横浜中華街/センジョとサッカーとスケート/ムロちゃんとゼマとバナナ・サイズ/ターン・テーブルとボブ・マーリーとアルバイト/カセットとサウンド/マイティー・クラウン結成/サミー・T

CHAPTER 2 NEW YORK 1992
ニューヨーク留学と「引いてはいけない」とタカ/フラッシュ・バック・ジャパン/草とロウワー・イースト・サイド・レコードとレヴレン・バドゥ/初めてのブルックリンとニコデマスと初めてのダブ録り/バドゥズ・レストランとパトワと「チン」/聖地ビルトモアと覚醒/90s ダンスホール/恩人キムさん/濃密過ぎた最初の三ヶ月

CHAPTER 3 BROOKLYN / STRUGGLE
ドロップ・アウトと田中ヒロと草/ナイジェルと「ウェルカム・トゥ・アウトロー」と「ニガー」/ニューヨークの日本人達と「みんなの館」/コージ君/ジャマイカ初渡航と「クソみてぇな国」/ジャマイカ・ジャマイカ/ジェネラルとスターライト・ボールルーム/スランプ/帰国と地元と「ふざけんな」

CHAPTER 4 YOKOHAMA / PROGRESS
辻堂とブレイン・バスターと全部パー/チューパとサウンド・クラッシュ/「ヨコハマ・レゲエ・バッシュ」/フラッシュ・バック・ジャパン/日本のサウンド/ボストンとレガシーとボコボコ/「火と拳」と希望/フラッシュ・バック・ジャパン/イエローとタクシー・ハイ・ファイ/ベイサイド・ジェニーと「頂点」

CHAPTER 5 ROAD TO WORLD CLASH ’99
ワシントンと「ワールド・ウォー」/ボストンと「ヴィンテージ・ウォー」/「来たー!!」とジェネラルとの別れ/決戦前夜

CHAPTER 6 WORLD CLASH ’99
「ワールド・クラッシュ」と「燃えよドラゴン」/シミュレーションと「チェイス・ヴァンパイア」/チューパとチューン・フィ・チューン/「わからせてやった」/「俺の人生が変わった」

CHAPTER 7 YOKOHAMA 2023

Reaching out to the Readers!!

監修
SAMI-T/サミー・ティー

1991年に横浜で結成したサウンド・システム・クルー、マイティー・クラウンのオーナーの一人でありメイン・セレクター。8つの世界主要サウンド・クラッシュのタイトルを持つチャンピオン・サウンド。20年以上世界各国をツアー、イヴェントに出演。日本を代表するサウンドの中心人物であると同時に世界的に活躍するレゲエ・アンバサダー、カルチャー・アイコン。国内最大級の野外レゲエ・フェス「横浜レゲエ祭」主催、「サマー・ソニック」「エアー・ジャム」他の大型ロック・フェスからサウンドとして日本で初めて首相官邸でプレーする等幅広く活動。プロデューサー、トラック・メイカーとして数多く楽曲も手掛け、アーティストとしても活動中。

著者
八幡浩司/やわたこうじ

レコード会社勤務を経て2000年に24×7レコード(有限会社トゥエンティー・フォー・セヴン・レコード)設立。ジャマイカ、ニューヨーク他海外のレゲエ・レーベルの作品・楽曲、アーティストとカルチャーを国内に発信する活動を展開中。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
●Mighty Crown Official Site
https://www.mightycrown.com/
●書籍予約サイト(予約限定版2冊セット:メンバーのサイン+特典ステッカーつき)
https://mcepremiumshop.stores.jp/ *販売終了

24×7 RECORDS

●版元直接販売
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★イースト・プレスより同時発売
世界サウンドクラッシュ紀行
MIGHTY CROWN(著)
2023年6月2日発売
定価(本体1,800円+税)
四六判 ソフトカバー 320ページ(カラー32ページ)
イースト・プレス
https://www.eastpress.co.jp/goods/detail/9784781622170

本邦初訳となる
「ヒップホップ・ジャーナリズムのゴッドファーザー」
と呼ばれた黒人批評家による博覧強記の代表作!

ジョージ・クリントンの “メタなバカさ” が
アミリ・バラカの “変わっていく同じもの” へと放り込まれ
フリー・ジャズもマイケル・ジャクソンもギャングスタ・ラップもジェイムズ・ブラウンもトニ・モリスンも、すべては同一線上で語られる

ヒップホップは、逆さまの資本主義
ヒップホップは、植民地主義の逆再生
ヒップホップは、黒人化された衝撃の未来に送り込まれた、
奴隷主たちが作り出した世界
ヒップホップは、地下からの略奪品、
喜んで他のすべてを弄ぶ
ヒップホップは我らが文化の消費と商品化、
潜在意識の誘惑とアメリカン・ドリーム機械の
黒い美的副産物 ──本書所収「ヒップホップとは何か?」より


著者紹介:押野素子

翻訳協力:Kinnara : Desi La、江口理恵、宇野瑠海、Neil Ollivierra、魚住洋子、高橋勇人、五井健太郎、dream hampton

目次

イントロダクション――欲望、あらゆる物事(ブラック)

第一部 黒人男性の展示会

追悼:アミリ・バラカ/ウェイン・ショーター/ジミ・ヘンドリックス/ジョン・コルトレーン/釣りに行く──レスター・ボウイを偲んで/ザ・ブラック・アーティスツ・グループ/ブッチ・モリス/チャールズ・エドワード・アンダーソン・ベリーと私たちの未来史/独学の砂男、ロニー・ホーリー/マリオン・ブラウンとジンジ・ブラウン/塵埃のダークな天使──デイヴィッド・ハモンズとストリートの超絶主義/ビル・T・ジョーンズ──舞踏における戦闘的振り付け/ゲイリー・シモンズ──コンセプトの爆撃者/ヴィジョンの持続性──ストーリーボード・P/アイス・キューブ/ウィントン・マルサリス──ジャズの改革者/ソーントン・ダイアル──自由、ブラック、そして世界の暗闇を照らすこと/ケヒンデ・ワイリー──黒人の男らしさをめぐって/ラメルジー──地下鉄のグラフィティ、そして偶像破壊のサムライ/リチャード・プライヤー──プライヤー健在/追悼:リチャード・プライヤー/追悼:ギル・スコット=ヘロン/鏡のなかの男──追悼:マイケル・ジャクソン/マイルス・デイヴィス

第二部 笑う彼女は意地悪だけど、魅力的

ボーン・トゥ・ダイク──笑うシスターへの我が愛、意地悪そうでクィアで印象的なシスター再び/ジョニ・ミッチェル──ブラック&ブロンド/アジーリア・バンクス──『ファンタシー』/シャーデー──ブラック・マジック・ウーマン/もしジェイムズ・ブラウンがフェミニストだったら/イタバリ・ニジェリ著『最後の農園』について/カラ・ウォーカーについて話そう/空間、時間、芸術の境界線にいる女性たち──カンディダ・ロメロ『リトル・ガールズ』をめぐる考察/アート界のホープ、エレン・ギャラガー/黒と抽象の詩人に贈る/“ギクユ神話と宇宙から来た有色のライオット・ガールの戦い”──ワンゲチ・ムトゥ特集/象形文字のゾンビ・パレードに参加しよう──デボラ・グラント/第二幕のビョーク/キュレーター、セルマ・ゴールデンの挑戦

第三部 やあ暗闇、私の懐かしいミーム

ウォール街占拠に黒人女性が少なかった理由トップ10+4/ヒップホップとは何か? ドリーム・ハンプトン、対話的インスピレーション、そしてミシェル・ンデゲオチェロがミシェル・ンデゲオチェロであるために/諜報データ──ボブ・ディラン『ラヴ・アンド・セフト』/三〇歳になったヒップホップ/愛とクランク──アウトキャスト『スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ』/白い自由──エミネム/ウー・ダニット──ウータン・クラン『ウータン フォーエヴァー』/アンロック・ザ・トゥルースvsジョン・ケージ

第四部 スクリーニングス

スパイク・リー『バンブーズルド』/『ザ・マック』的なるもの──ブラックスプロイテーション映画の語法/セックスとニグロシティー──ジョン・シングルトン監督の映画『サウスセントラルLA』/白塗りのリンカーン──スーザン・ロリ・パークス作『トップドッグ/アンダードッグ』におけるジェフリー・ライトとドン・チードル/ドキュメンタリー『ブラックパワー・ミックステープ』(二〇一一)──ふたたび語られる闘争の時代

第五部 人種、性、政治トリック、文芸

巨匠、クラレンス・メイジャー/大西洋の音──キャリル・フィリップス著『アトランティック・サウンド』/アポカリプス・ナウ──パトリシア・ヒル・コリンズ著『ブラック・セクシャル・ポリティクス』、トーマス・シェヴォリー著『ノートリアスHIV』、ジェイコブ・レヴェンソン著『秘密の伝染病』/血と橋──一九九九年、ニューヨーク市警とジュリアーニの抗議運動/“ニガ” チュード/脅威の三人──ジェリー・ガフィオ・ワッツ著『アミリ・バラカ』、ヘイゼル・ローリー著『リチャード・ライト』、デヴィッド・メイシー著『フランツ・ファノン』/底辺のえさ箱──桐野夏生著『アウト』/高台を登る──マリーズ・コンデ著『風の巻く丘』/雑種惑星の憂鬱──ゼイディー・スミス著『ホワイト・ティース』/スキン・トレードの冒険──リサ・ティースリー著『グロー・イン・ザ・ダーク』/ジェネレーション・ヘックス──ジェフリー・レナード・アレン著『背中の下のレイル(Rails under My Back)』/地下に潜る──ゲイル・ジョーンズ著『モスキート』/審判の日──トニ・モリソン著『ラヴ』とエドワード・P・ジョーンズ著『地図になかった世界』について/ブラック・モダニティと笑い、あるいは “N*g*a” はいかにしてジョークを手に入れたか?/カラハリのけんけん遊び、あるいは二〇巻におよぶアフロ・セントリックなフューチャリストのマニフェストのためのノート

『フライボーイ2』日本語刊行に寄せて 押野素子

索引

著者
グレッグ・テイト(Greg Tate)
1957年10月14日、アメリカはオハイオ州デイトン市に生まれる。本名はGregory Stephen Tate。ハワード大学でジャーナリズムを映画について学ぶと、『ヴィレッジ・ヴォイス』への寄稿をきっかけに、ニューヨークを拠点とし、批評家としての活動をはじめる。白人至上主義の世界に抗う、その先鋭的な批評はたちまち評判となって、80年代半ばには、主に黒人文化に関する批評家としては第一人者となる。そして、『ニューヨークタイムズ』、『ワシントンポスト』、『ダウンビート』、『ローリング・ストーン』、『ヴァイブ』など複数の雑誌や新聞にも寄稿、有名なヒップホップ専門誌『ソース』は、テイトを「ヒップホップ・ジャーナリズムのゴッドファーザー」と呼んだ。1992年には初の評論集『Flyboy in the Buttermilk』を上梓する。その2作目が本作『Flyboy 2』となる。テイトは執筆活動の傍ら、いくつかのバンドでフリー・ジャズ、ファンク、サイケデリック・ロックなどの音楽活動も続けた。他方では、白人優遇のアメリカの音楽産業への異議申し立てとして、〈Black Rock Coalition〉という連合を組織した。また、2003年にテイトが編集した『Everything But the Burden』は、黒人芸術の白人による流用をテーマにしている。2009年にはコロンビア大学ジャズ研究センターの客員教授、2012年にはブラウン大学のアフリカーナ研究客員教授を務めている。2021年12月7日、64歳で永眠すると、その夜、ハーレムのアポロシアターは追悼の意を込めて彼の名前を表示した。

訳者
山本昭宏(Akihiro Yamamoto)
神戸市外国語大学准教授。1984年、奈良県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程修了。博士(文学)。専門は文化史、歴史社会学。著書に『残されたものたちの戦後日本表現史』(青土社、2023年)、『戦後民主主義:現代日本を創った思想と文化』(中央公論新社、2021年)、『大江健三郎とその時代:戦後に選ばれた小説家』(人文書院、2019年)など。

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