「Ord」と一致するもの

Flying Lotus - ele-king

 通算6作目、じつに5年ぶりとなる待望のアルバムをリリースし、大いに称賛を浴びているフライング・ロータス。この秋には単独来日公演も決定し、ますます熱は昂まるばかりだけれど、多彩なゲストを迎えさまざまなスタイルを実践した渾身の新作『Flamagra』は、彼のキャリアにおいてどのような位置を占めているのか? そしてそれはいまの音楽シーンにおいてどのような意味を担っているのか? 原雅明と吉田雅史のふたりに語り合ってもらった。

ひとりで作ってきたトラックメイカーがそこからさらに成熟したことをやろうとすると、たいていは生楽器を入れたり、あるいは壮大なコンセプトを練るじゃないですか(笑)。彼は今回の新作でそれにたいする答えを出したんだと思います。 (原)

吉田:まずは、原さんが最初に『Flamagra』を聴いたときどう思われたか教えてください。

原:初めて聴いたときは、『You're Dead!』と比べると地味だなと思った。ゲストはたくさん参加してるけど、ひとりで作っている感じがして、すごくパーソナルな音楽に聞こえたんですよ。『You're Dead!』もいろんな人が参加していて、聴いた箇所によってぜんぜん音が違うという印象を受けたんですが、『Flamagra』は、もちろん各曲で違うんだけど、全体をとおして落ち着いていて、統一感のある作品だなと思ったんです。オフィシャルのインタヴューを読むと、今回は自分で曲を書いてキイボードも弾いて、クラヴィネットの音がポイントになっていると。じっさいに使われている音数もそれほど多くない。要素はたくさんあるけど、決めになる音が『You're Dead!』よりも拡散していない感じで、ずっとある一定のレヴェルでアルバムが進んでいくような印象を受けましたね。

吉田:曲のヴァリエーションは多様だけど、ひとつの原理に沿って聴こえるように「炎」というコンセプトを立てて、作り貯めたものをそこに全部入れたかったんだと思います。そのときひとつの軸になるのがクラヴィネットの音色で。ギター不在の今作では、鍵盤と弦楽器の両方の役割を担っているところがある。ソランジュとの曲(“Land Of Honey”)も4、5年前に作ったって言っていたけど、統一感のためにクラヴィネットの音はあとからオーヴァーダブしたんじゃないかと思うくらいで(笑)。それから今作の新しさを考えるにあたって、サンダーキャットを中心としたミュージシャンと一緒に書いてる曲が多い中で、ひとりで書いている曲がポイントになるのではないか。5曲目の“Capillaries”は、ビートやベースのパターンはこれまでのフライローっぽいんだけど、アンビエントなピアノの旋律が中心になることでピアノ弾きとしての彼の新しいサウンドに聴こえる。それから“All Spies”という曲もひとりで書いていて、これはひとつのリフをさまざまな音色のシンセやベースで繰り返し、その周縁でドラムが装飾的な使われ方をするという、シンプルながらひとつずつ展開を積み重ねる楽曲です。重要なのは、特定のサウンドで演奏されたメロディをサンプリングしてループするのではなくて、あくまでもリフとなる「ラドレファラド~」というひとつのシンセのメロディがあって、それをさまざまな音色がユニゾンしながら繰り返し演奏していく。つまりサンプリングループからアンサンブルへの移行を見てとれる。結果としてこの曲は、YMO的な印象もありますよね。そういう多様な楽曲がひとつの原理で繋がっている。

原:YMOは好きだったみたいな話を実際にしているよね。今回はやっぱり自分で曲を書いて、アンサンブルを活かしているのが大きい。

吉田:これまでは仲間のミュージシャン陣が演奏したラインをサンプリングフレーズのようにして彼が後から編集していた印象だけれど、今回はメインとなるリフや楽曲展開をあらかじめ書いて皆で一緒に弾いているようなところがある。今回ジョージ・クリントンが家にきて一緒に曲作りをしたとき、その場でぱっとセッションをしたらスポンティニアスに曲ができて、それがすごく自信になったと言ってますよね。それは自分で理論を学び直したことなんかもあって、ある程度即興的に楽曲を形にできるようになったからだと思うんです。とくに、『Cosmogoramma』以降は超絶ミュージシャンたちの演奏を編集するエディターの側面も強かったと思うんですが、今回は作曲者兼バンドマスターとしても自信をつけたんじゃないかなと。ちなみに俺は最初に聴いたときはポップなところがすごく印象に残りました。これまでのアルバムより多様性があるなと思ったとき、リトル・ドラゴンとやった“Spontaneous”や“Takashi”辺りが、とくにこれまでにない新しい景色だと。じっさいフライローは「もっと売れなきゃいけない」というようなことを言っていたから、意識的にポップな部分を入れているのかなと。そのあたりはどう思いました?

原:ポップさはあまり感じなかったかな。ポップだと思った曲もあるけど、相変わらず1曲が短いから、感情移入する前にすぐ変わっちゃうんですよね。だから、「この曲をシングルカットするぞ」みたいな感じは受けなくて。

コルトレーン一家という自身の出自へのがっぷり四つでの対峙がようやく終わって、みそぎが終わったというか。「俺が考えるジャズをひとまずはやり切った」みたいな感じがありますよね。 (吉田)

吉田:フライローの曲って、たとえばヒット曲とか代表曲がどれかって思い出しにくいですよね。曲が短くてたくさんあるから、曲単位で「あの曲がシングルでヒットした」というよりもアルバム単位で「あのアルバムはこういう感じだったよね」と記憶されている。だけどあらためて聴くと楽曲をさらに細分化した各パーツの部分、たとえば『Cosmogramma』だったら“Nose Art”のキックとベースの打ち方だったり、“Zodiac Shit”のエレピとストリングスとか“Table Tennis”のピンポン玉の音なんかは、とても印象的なんですよね。曲単位では残ってないんだけど、断片としてはけっこう残っている。
フライローがもともと持っているほかのアーティストと違う点は、アヴァンギャルドやアブストラクトさを追求しつつも、そういったエッジの効いたポップさのあるフレーズを量産しているところだと思うんですね。そういうポップさは昔から持っていた。ただ、全体としてはシリアス・ミュージックだった。扱ってきたテーマも、ジャズとどう向き合うかだったり、死とどう向き合うかという、スピリチュアルですごくシリアスで、その番外編としてキャプテン・マーフィーがあったり『Pattern+Grid World』があったりした。『KUSO』で雑多なイメージをコラージュできたことも活かされていると思うんです。今作も最終的にはアルバム後半に並ぶシリアスな楽曲群に回収されるけれど、そこまで展開はこれまでの雑多な世界観全部をひとつのアルバムにミックスしてもいいという感じになっている気がしますね。たとえばティエラ・ワックとやった“Yellow Belly”のように、『You're Dead!』のときのスヌープ・ドッグとの“Dead Man's Tetris”の奇妙なビート路線もひとつのイディオムになってきていたり、その雑多な世界観の中にクラヴィネットの裏拍のサウンドも含まれている。シリアス一辺倒ではない垢抜け感のようなものが、サウンド面でもリリック面でも楽曲構造面でもさまざまに表れている。リターン・トゥ・フォーエヴァーに『Romantic Warrior』というアルバムがありますよね。〈Polydor〉から〈Columbia〉へ移籍して、チック・コリアが使いはじめたARPの音色が印象的で、そしたらアルバムのサウンド全体も一気に垢抜けて。シリアスから脱皮したというか、ポップな要素もすごく入っている。少し似ているなと思いました。それこそ中世のシリアス・ミュージック=宗教音楽とポップ・ミュージック=世俗音楽の分裂という対置で考えられるかもしれない。ポップ化する以前のフュージョンやフライローのシリアスさにはそれこそスピリチュアルだったり、プレイを崇拝する宗教的な側面がありますし。

原:基本的に今回の作品は、ゲストを自分のところに呼んできたり自分がどこかへ行ったりして録り溜めてきたものが膨大になってしまって、自分でもどうしたらいいか見えなくなっていたところがあったと思うんですよ。時間をかけたというのも、個々の録音を録り溜めていた期間が長きに渡ってということで、そこから実際に曲として仕上げるまでの、手を動かしていない空白の時間も相当長かったんだと思う。それで「炎」というストーリーやクラヴィネットの音を見つけて、ストーリー立てできると思ったんじゃないか。そして、キイボードを習って、アンサンブルや理論を学んだうえで、ようやく見えてきた結果なんだろうなと思いましたね。素材となる録音物はたくさんあったにしても、最終的に完成に導いたのは彼の作曲の能力とか構成力とかそういった部分なんだろうなと。『You're Dead!』はコラボしたものをそのままバッと出したという面もあったと思うけど、コラボして融和的なものができ上がったとして、じゃあその次はどうするかというときに、もう一回、個に戻った表現をしようとすると、ふつうは変にコンセプチュアルな方向に走りがち。でも彼はそうではなくて……『Flamagra』も一応コンセプチュアルなふうにはしてありますが、僕はじつはそんなにコンセプトはないと思う。

吉田:意外とそうですよね。プログレのバンドとかに比べたらワンテーマでガチガチではない。だからこそこれだけ雑多な楽曲群をゆるくつなげてるんだと思います。デンゼル・カリーもジョージ・クリントンも「炎」をテーマにリリックを書いているけど、たとえばラヴ・ソングも「燃える想い(炎のように)」「あなたが好き(炎のように)」みたいな感じで、アンダーソン・パークも「ソウル・パワー(炎のように)」みたいな。もうなんでも炎じゃんみたいなところがある(笑)。

原:「炎」の話も読んだけど、コンセプト的には隙がある。だからやっぱりそれよりも、要となる音、音色を見つけたとか、作曲に関して自信を持てたとか、アンサンブルを作れるようになったとか、そういう手応えの方が大きかったんじゃないかな。

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自分はこういうのを期待されているからそれを裏切って、もっと尖った方向に行かなきゃいけないとか、そういう意識もぜんぜん感じない。本人は「誰かがクリエイティヴになるのを励ますような作品にしたい」とふつうに良いことを言っているんですよ(笑)。 (吉田)

原:フライローが出てきた当初は、いわゆるひとりでこつこつと密室でビートを作っているビートメイカーのようなイメージでした。〈Stones Throw〉でインターンをやったりして、LAのビートメイカーのコミュニティのなかにはいたんだけど、じっさいはヒップホップ色は薄かったと思う。デビューも〈Plug Research〉だったし。当時『1983』は日本では「ポスト・ディラ」みたいな紹介のされ方をしていたけど、ぜんぜんそれっぽい音ではなかった。

吉田:いわゆる後期ディラの影響のあるブーンバップに電子音、サイン波ベースというイディオムで作られてるのも1曲目だけですね(笑)。

原:「黒い」か「白い」かでいえば「白」っぽい音だった。レコードより、ネットの隅を掘っているというか、マッドリブみたいな感じではない。だから〈Warp〉と契約したのもすごく納得がいって、むしろああいうのがLAのブラック系の人から出てきたということのほうが当時はおもしろかったんですよね。〈Warp〉は当時プレフューズ73を推していたけど、そのあたりの白人のビートメイカーもなかなかそのあとが作れないという状況だったから。ダブリーもそうだったけど、ヒップホップじゃなくて、テクノなどエレクトロニック・ミュージックの人が作るビートが、期せずしてディラのようなビートとシンクロする流れがあって、そこに影響されたのがフライローや初期の〈Brainfeeder〉のビートメイカーたちだった。その先駆けみたいなところはある。それでフライローをきっかけにLAのビート・ミュージックが注目されて、00年代後半から10年代頭にかけて広がったんだけど、それも頭打ちになった。フライローははやい段階で「俺のビートのマネするな」とか言ってたけど、そのころから特殊な位置に居続けている。

吉田:確かに『Los Angeles』で確立される16分音符で打つヨレたハットに浮遊感のあるシンセのウワモノ、シンセらしさが前面に出た動きの大きいベースライン辺りのビートの文法がフォロワーたちの間で蔓延する。それで本人は『Cosmogramma』に行っちゃいましたからね。

原:そこから先、ビートを作っている人たちがどういうふうに音楽的に成長できるか、成熟できるかということをフライング・ロータスは考えていたと思うんですよ。彼の音楽って、いろいろとごちゃごちゃ入っている要素を抜くと、根本にあるものはティーブスに近くて、すごくメランコリックな音楽の組み立て方をしていると思うんです。ティーブスとかラス・Gとかサムアイアムとか、あのへんが彼にいちばん近かった連中だと思う。そのコミュニティで作ってきたものがベーシックにあって、そのうえに何をくっつけていくのかというところでいろいろ思考錯誤して、それがその後の〈Warp〉での彼の音楽だと思う。
それで、それまでひとりで作ってきたトラックメイカーがそこからさらに成熟したことをやろうとすると、たいていは生楽器を入れたり、あるいは壮大なコンセプトを練るじゃないですか(笑)。彼は今回の新作でそれにたいする答えを出したんだと思います。『You're Dead!』までは筋道がわかるんです。『Cosmogramma』ではアリス・コルトレーンを参照して、じっさいにハープの音を印象的に入れてストリングスも入れたり、『You're Dead!』では凄腕のジャズ・ドラマーを4人も入れてフライロー流のジャズに接近する側面を見せたりして、でも今回の作品ではもう一度、密室でひとりでビートを作っていたころの感じがある。いろんなゲストを交えながらも、原点に戻っているようなところが。

吉田:ジャズとの距離感が変わったというか、ジャズの磁場をそれほど意識していない印象ですよね。コルトレーン一家という自身の出自へのがっぷり四つでの対峙がようやく終わって、みそぎが終わったというか。「俺が考えるジャズをひとまずはやり切った」みたいな感じがありますよね。

いまはもうネタはすぐバレちゃうし、なんでも組み合わせられちゃうし、「こうすればこういうトラックができますよ」というのが当たり前の世界になっちゃったので、つまらないなと思うわけ。そういう意識は当然フライローにもあったと思う。 (原)

吉田:フライローのインタヴューで、今作のドラムの音色には大きく3つあって、それぞれを「小宇宙」だと思っていると言っていたんですよね。MPCとかソフトウェアサンプラーでブレイクビーツをサンプリングしてチョップしたドラムと、ミュージシャンが叩く生ドラム、そして808なんかのドラムマシンという3つです。それぞれのドラム・サウンドは探求し甲斐のある小宇宙と呼べるほどの深みを持っているわけですが、フライローはそれらを並列に扱っている。それぞれの楽曲やアルバムごとに3つの小宇宙の力関係が異なるという。「Reset EP」のときも、“Vegas Collie”という曲ではLAMP EYEの“証言”など多くの曲でお馴染みの、ラファイエット・アフロ・ロック・バンドの“Hihache”のドラムを16分で刻んで複雑なパターンにしていたけれど、他方で最後の“Dance Floor Stalker”ではドラムマシンも使っている。ふつうはそういうふうにまったくソースの異なる音色のドラムをひとつのアルバムに散りばめると、いかにも「さまざまな手法を取り入れてます」みたいな感じになっちゃいますが、フライローは初期からそれがうまくできている。ドラム・サウンドに限らず、ネタと生楽器と電子音をミッスクしたときに徹底的に違和感がない。今回のアルバムも1曲のなかでソースがさまざまに切り替わったりしているし、そういう素材の扱い方はすごく優れていて、それがよく発揮されたアルバムだと思います。

原:もちろんこれまでもやっていたんだけど、その混ぜる能力がすごく洗練されてきている感じはするね。自分ですべての音のデザインまでやる感じになっている。前回まではミックスやマスタリングはダディ・ケヴがやっていて、今回もケヴが関わっているけれど、フライロー自身がけっこうやっている。録音全体にもすごく気を使っているし、いままで以上にアルバム全体を見る力、構成力みたいなものがアップしていますね。ちなみに『You're Dead!』って、じつは40分くらいしかないんですよね。

吉田:意外と短い。

原:今回は60分以上ある。『You're Dead!』はたしかに、あの構成でやると40分しかもたなかったという感じはするんだよね。60分も聴いていられないと思うんだけど、今回は何度でも聴ける感じがある。

吉田:フライローは「ミックスはすごく難しい」と『Cosmogramma』のころに言っていて、当時もダディ・ケヴにも伝わらないから自分でもトライしている。『You're Dead!』では生ドラムの音をめちゃくちゃ歪ませていてすげえなと思いましたけど、あれに行きつくのにそうとう思考錯誤があったと思うんですよ。『Cosmogramma』ではアヴァンギャルドな楽曲のベクトルに合わせるようにベースやドラムは歪みや音圧に焦点を当てて、次作は空間的なアンビエンスに焦点を当てて電子ドラムはハイを出してレンジが広がっている。そういった実験もひと通りやり終えた感じがします。だから今回は極端な歪んだサウンドも聞こえてこない。そうなると普通は「売れ線に走った」とか「きれいになっちゃっておもしろくない」ってなるんだけど、フライローだと「あなたがあえて綺麗な音作りをするということは、そこに何か意味があるに違いない」という像ができあがっていて(笑)、でも本人は裏をかいているつもりはないだろうし、気にしないで自由にやっているだけだと思うんです。自分はこういうのを期待されているからそれを裏切って、もっと尖った方向に行かなきゃいけないとか、そういう意識もぜんぜん感じない。本人は「誰かがクリエイティヴになるのを励ますような作品にしたい」とふつうに良いことを言っているんですよ(笑)。

原:人の励みになる音楽を作りたいとか、そんなこといままで言ったことないよね。たぶん立ち位置が変わってきたんだろうね。〈Brainfeeder〉についてもかなりコントロールしているというか、たんに自分の名前を冠しているだけじゃなくて、アーティストのセレクトもちゃんと自分でやっているし。本腰を入れてやっているからこその責任もあるんだと思う。これまでは自己表現みたいなことで終わっていたのが、あきらかに違うレヴェルに行っている。

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ジョージ・デュークとかスタンリー・クラーク的なフュージョンを通過して、このままいくとプログレからフランク・ザッパとか、超絶技巧の世界に行くのかなともちょっと思ったけど、やっぱりそっちじゃないんだなということがわかった。 (原)

吉田:原さんはフライローの音楽を聴いて、何かヴィジョンって浮かびますか?

原:僕はそもそも音楽を聴いてもあまりヴィジョンが浮かばないんですよね。ただこのアルバムは映画的でもあるし、ヴィジュアルと連動している作品だなとは思っている。

吉田:インストの音楽って日常の生活の中で流しっぱなしにしたりして、多かれ少なかれBGMになりうるところがあると思うんです。歌詞があると、その内容と自分の経験がマッチしないとハマらないけど、インストはどんな場面にもハマる可能性がある。外を歩きながら聴いたり車で聴きながら走ることで街の見え方が変わったりするし、自分の個人的な体験と結びついたりもするから、ベッドルームで聴いていてもリスナー自身のサウンドトラックになるところがあると思うんです。でもフライローの曲はそういうものに結びつきづらいと思うんですよ。BGMとなることを無意識的に拒絶しているというか。今作は半分くらいの楽曲に言葉が入っているというのもありますが、彼は視覚的なヴィジョンを持っていて、自分が表現したいヴィジョンを聴いている人に伝える能力に長けている。たとえば今作の“Andromeda”とか『Cosmogramma』の“Galaxy In Janaki”なんて、そういったタイトルで名付けられているからとはいえ、めちゃくちゃ宇宙のヴィジョンが見えるじゃないですか(笑)。宇宙を表現するための音像や楽曲のスタイルが、この2曲で大きく変わってるのも興味深いですが。インスト作品には適当な曲名を付けてるケースも多いと思うし、フライロー作品のすべてがそうだとは思わないけど、明確に彼の脳内のヴィジョンとリンクしている曲もある。今回のアルバムにはそれが結実していて、聴き手が勝手に自分のヴィジョンを重ねられない感じがある。

原:たとえばニューエイジのアーティストが、この作品の背景にはこういうものがありますって言っても、それを聴いている人にはなかなか伝わらなくて、ヨガの音楽として機能するとか、具体的なところに作用する効果というのはあると思うけど、精神的なものと音楽じたいがどう結びついているのかわからないことが多いのとは対照的な話ですね。ジャズ・ドラマーのマーク・ジュリアナにインタヴューしたときに、彼はオウテカとかエイフェックス・ツインが好きで、理論を突き詰めてビート・ミュージックというプロジェクトもやってきたわけだけど、いまいちばん興味のあるのは、音楽のマントラ、レペティション(反復)、トランス的な部分をもっと精査することだと言っていたのね。人間じゃなくて機械をとおして表現される感情、精神を愛してるとも。理論と技術を突き詰めていった先にある、精神的なものをどう扱っていくのかという話で、それは機械の音楽、エレクトロニック・ミュージックをどう捉えるのか、ということでもある。フライローはその点でも、興味深いところにいると思うんです。彼はアリス・コルトレーンとも近いスピリチュアルな世界にも理解があって、一方でエレクトロニック・ミュージックにも当然深く関わってきた。さらに今回音楽理論も突き詰めはじめた。

吉田:フライローの音楽はフロア向きなのかベッドルーム向きなのかというのもちょっと判断しづらいところがおもしろいなと。曲は情報量が多すぎて1分とかで終わっちゃうし、踊りたくてもどこで乗ればいいのかが難しい。かといって静かに聴くものかというと、《ロウ・エンド・セオリー》出身ということもあって、フロアではバキバキにやってくる。《ソニックマニア》でもめちゃめちゃビートの音圧が凄くてオーディエンスも盛り上がっていた。だからフロアとベッドルームの間のグラデーションを行き来する音楽というか。

原:やっぱり曲がそもそも短いよね。1分、2分、長くて3分とか。初期のころはたしかに《ロウ・エンド~》の影響もあったと思う。《ロウ・エンド~》のDJはみんな1分か2分で次の曲をカットインでぶっこんで、それ以上は長くやらないという方針、スタイルだから、その周辺のビートメイカーも1分2分の曲ばかりだった。でもいま彼が1分2分の曲を量産しているのは、そうしたDJやフロア向けのためではないよね。なぜフロアでどんどん変えていたかというと、自分も、聴いているほうも飽きちゃうから。その「飽きちゃうから」という部分だけはいまの彼にも繋がっているような気がする。聴き手の意識をひとつの場所に留まらせずに、どんどん場面を展開していくという意味で。そのやり方が非常に巧みになってきた。

吉田:今回アンダーソン・パークとやった“More”はめずらしく4分以上あるんですよね。でも、最初の浮遊感のあるコーラスのシンガロング・パートは1分くらいで、次にラップ・パートが来ますが、それも1分半くらいすると一旦ブレイクが入ってアンダーソンのスキャット・パートへ展開する。だから1分から1分半で次々と展開する仕組みになっている。それこそテーマパークのライドみたいに飽きさせない構造になっている。それらの断片をどうやってつなげるかというのもポイントですよね。たとえば3曲目の“Heros In A Half Shell”も電子4ビート・ジャズという趣で、次の曲の“More”とはだいぶ毛色が違う。でも両者をうまくつなげるために、“Heros In A Half Shell”の最後の10秒ほどはミゲル・アトウッド=ファーガソンのストリングスだけが鳴るパートが入っていて、気が利いているなと。

原:ミックスとして非常におもしろいものになっているよね。だからある意味ではサウンド・アーティストみたいなところもあって、いまこんなミックスをしている人は特異だしおもしろい。ビートを作っていたときは短い曲の美学みたいなものがあったけど、そこにそのままコラージュに近いようなミックスの手法が入り込んでいて。今回の作品は謎のバランスで非常にうまくまとまっている。それが聴く人の意識を変えさせている。

吉田:27曲もあるから曲順はいろいろな可能性があったかと思いますが、同じようなカラーを持った曲が並ぶブロックがありつつも、個々の曲の並べ方はダイナミズムがある。たとえば中盤の流れだと“Yellow Belly”と“Black Balloons Reprise”とか、“Inside Your Home”に“Actually Virtual”とか、スムースにつなげるんじゃなくて、どちらかといえば対極のものをぶっこむ場面もありますよね。デペイズマンの美学というか。でもたんに落差を楽しむだけでなくて、落差のある両者をどうつなげば聴かせられるのかという点にはすごく意識的な感じがします。異質なものを突然入れるのはコラージュ的でもあるし、DJ的でもある。あるいはビートライヴをする際のビートメイカー的とも。現代音楽的なものに目配りをするクラブ・ミュージックの気配を反映しているともいえる。

原:でも、ヒップホップってもともとはそういうものだったからね。意外なネタを見つけてきて組み合わせて、そのなかにはふつうに現代音楽も入っていたんだけど、いまはもうネタはすぐバレちゃうし、なんでも組み合わせられちゃうし、「こうすればこういうトラックができますよ」というのが当たり前の世界になっちゃったので、つまらないなと思うわけ。それにたいする揺り戻しは、例えばザ・ルーツが『...And Then You Shoot Your Cousin』で突然ミッシェル・シオンのミュジーク・コンクレートを暴力的に挿入した様にも見て取れる。そういう意識は当然フライローにもあったと思う。

吉田:『KUSO』のコラージュ的な作風も含めて、いろいろなものをミックスする手つきの良さが際立つ。そういう意味で、スピリットの部分でヒップホップ黎明期のそれこそアフリカ・バンバーター的なものを体現していると考えると、またこのアルバムの聞こえ方も変わってくるかもしれない。

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『Cosmogramma』以降聴いていなかった人たちにもぜひ聴いてもらいたいですね。絶対ドープだと思える曲があると思う。ヒップホップが出自のビートメイカーにはとくに“FF4”を聴いてほしいです。 (吉田)

吉田:僕の周りのビートメイカーなんかは、ヒップホップの人が多いので、フライローにかんしては『Los Angels』までで、『Cosmogramma』からはビート作りに参照するようなものではなくなったという意見が多かった。『You're Dead!』も参照するのは難しかったと思うし、もしかしたらいまのヒップホップのビートメイカーたちはフライング・ロータスを自分とはあまり関係のない遠い存在と思っているかもしれない。でも今回のアルバムはどのジャンルのどの人が聴いても、それこそJポップの人が聴いても、自分のサウンドにフィードバックできるんじゃないかなと思います。もともとそうでしたが、ミュージシャンズ・ミュージシャンとしての懐がさらに深くなって、彼を参照しうるミュージシャンの母数が拡大している気がします。

原:生ドラムを使ったり808を使ったり、まったく質感の違うものを共存させるところなんかはふつうに参考になると思うけどね。

吉田:これまでは「あの変な歪みは下手に真似するとあぶねぇ」みたいな、真似できないという感じがあったけど、今回はサウンドのバランスもめちゃくちゃ良いですからね。荘厳なパッド系やコーラスっぽいシンセがだいぶ引いた背景で鳴っているんだけど、手前に来ている楽器隊はリヴァーブやエフェクトも控えめで、何を弾いているのかが聴き取りやすい。サンダーキャットがいて、ブランドン・コールマンのクラヴィネットがあって、ミゲルのストリングスがあって、本当に5ピースくらいのバンドで演奏している感じが目に浮かぶ曲もある。そこはいままでと違う。

原:やっぱり自分でアンサンブルを作っているのが今回はいちばん大きいんじゃないかな。これまではどうしてもミゲルがアレンジをして、ミュージシャンが演奏して、それをうまく合わせるという感じだったけど、今回はミックスまで含めてフライロー自身がちゃんとアンサンブルを作り直している感じがする。

吉田:インプロ含めた演奏データがありきの「切って、貼って」のやり方だと、各パート間の展開や繋ぎの部分がこんなにうまく成立しないと思うんですよね。曲としてちゃんとバンドっぽいキメやユニゾン、エンディングが多かったりするじゃないですか。もともとフライローの強みはループをベースとしたビート・ミュージックにいかに手打ちのドラムや楽器で展開をもたらすかにあったわけで、そこに完全に振り切っているともいえる。キャリアの初期に、ジョン・ロビンソンやオディッシーといったラッパーに提供しているヒップホップ・ビートは思いっきりワンループで作ってますが、そうするとフライローらしさをぜんぜん読み取れないんですよね。

原:アンサンブルって00年代後半以降、キイになっていたと思うんです。それまではダブの残響とか、ベースの音圧とか、楽音以外が構成するサウンドに魅力があって、もちろんアンサンブルが活かされている音楽もあったけど、多少乱暴に言うとポピュラー・ミュージックでも力を持っていたのは音響のほうだった。それが00年代後半からまたアンサンブルが重視されてきて、ミゲルのようなクラシック畑の人がたくさんフィーチャーされたり、ジャズの復活もそういう部分が大きいと思う。その時代にフライローが出てきて、当初はそういう流れとはぜんぜん違うところにいるように見えたけど、じっさいはその流れとも並走していたことに今回の作品で気づくことができた。

吉田:エヴァートン・ネルソンが活躍して、4ヒーローとかドラムンベースなんかでもアンサンブルが重視された時代の回帰のように見えるところもありますよね。でも今回のアンサンブルの作り方はバランスがいいんですよね。たとえばサンダーキャットって、やっぱり弾きまくるじゃないですか。でも今作はフライローや彼がフェイヴァリットに挙げるジョージ・デュークやスタンリー・クラークのようなテクニカルさはないですよね。『You're Dead!』では、そういうサンダーキャットのバカテクやBPM速めの4ビートのドラムのパッセージをいかに自分の音楽と融合させるかという試みでもあったと思うんですけど、今回は良く聞かれるユニゾンは速弾きではないし、むしろゆったりしている。

原:もしかしたらほんとうはサンダーキャットはめちゃくちゃ弾いていたのかもしれないけど、それをぜんぶカットしている感じだよね(笑)。

吉田:たまに思い出したように速弾きやワイドストレッチっぽいアルペジオが聞こえてきますけど(笑)、分量としては少ないですもんね。そういう意味でもフライローはテクニカルなフュージョンと対峙するというみそぎをも済ませた感がある。

原:そういうジョージ・デュークとかスタンリー・クラーク的なフュージョンを通過して、このままいくとプログレからフランク・ザッパとか、超絶技巧の世界に行くのかなともちょっと思ったけど、やっぱりそっちじゃないんだなということがわかった。

吉田:そこで、今回自分でピアノを学んだっていうのは良い話ですよね。坂本龍一の『async』に大いに影響されたって。

原:今回の作品を聴いてちょっと安心した感はあるよ。

吉田:『You're Dead!』からさらに突き詰めると「どこ行っちゃうの?」という不安がね。

原:ライヴではどうなるのかわからないけどね。そこでは超絶技巧になっているかもしれない。

吉田:それはそれで観てみたいですけどね。《ソニックマニア》のときも、映像との融合というのはこれまで多くのアーティストが試みた手法ではあるけれど、やはり静と動の展開というか、広大なランドスケープを想起させる「静」のパートと、バキバキのビートが引っ張る「動」のパートのギャップが際立つような映像の使い方をしていて、あらためて彼がやると違って見えたから。

原:立ち位置的にさらにおもしろいところに来たなという感じはある。『Los Angels』までは好きだけどそれ以降はダメという人がいるとして、そういう意味でもこの作品はいろんなところで人を励ます作品だと思うんだよね。

吉田:いまのヒップホップは、トラップが生まれたことによって、そっちの人たちと、ゴールデンエイジしか受けつけない人たちとに分かれちゃってると思うんです。トラップについては自分もある時期まではどう聴けばいいのかわからなかった。でもあるときイヴェントに行ったら、トラップがなんなのか身体的に理解できて大好きになったんです。

原:そういえば今回トラップは入っていないね。トラップをやる人は使っているけど。

吉田:たしかにトラップはないですね。フライローが808のハットを乱打したら、それはそれでおもしろかったんだけどな(笑)。他方で、いま日々リリースされるヒップホップ作品には、たとえば〈Mello Music Group〉周辺とかアルケミストやマルコ・ポーロやロック・マルシアーノ周りとか、誰でもいいんですが、ゴールデンエイジ以降のヴェテランから若手まで原理主義的なプレイヤーもたくさんいて、そういうアクトたちのレヴェルがすごく高い。しかもよりメインストリームにはオッド・フューチャー勢なんかもいるわけで。だからじつはゴールデンエイジのものを聴き直す必要すらなくなっていて、現在進行形のアーティストたちだけでじゅうぶんに成立する世界が広がっている。

原:ジャズと一緒だよね。いまのジャズもめっちゃうまいプレイヤーがたくさんいて、彼らは当然昔の作法を身につけてもいるから、それを聴いていればべつに昔のジャズをことさらに懐かしがる必要のない世界になっている。

吉田:そういう作品が元ヘッズの耳に届いてない状況があると思うんですよ。それはすごくもったいないなと思う。90年代の耳で聴いても、すごくクオリティが高くてドープなヤツらがたくさんいるのに。情報収集をして探すハードルが高いってのはわかるんですが。なにせ数が多すぎて、腰が重くなりますよね。で、ずっとATCQやギャングスターやウータン聴いてればいいやって(笑)。

原:だからフライローは今回デンゼル・カリーにやらせたんじゃないかな(笑)。『ファンタスティック・プラネット』のサントラの曲(アラン・ゴラゲールの“Ten Et Tiwa”)とか、大ネタをそのままバーンと使って、しかもそれをわざわざデンゼル・カリーに昔風にラップさせているでしょう。

吉田:あれは熱かった! 何この90年代感っていう(笑)。急に98年のアングラ・クラシックに回帰したみたいな。まあフライローはもともと『1983』と同時期に90年代後半のアングラ・グループのサイエンズ・オブ・ライフ(Scienz of Life)のプロデュースもしてますからね。得意分野(笑)。

原:彼はあのころのアブストラクトなヒップホップも当然好きで聴いていた。今回のビートにも《ロウ・エンド・セオリー》以前の音というか、それっぽいものがあって、それと対等な感じでポップなものも混ざっている印象です。そういう意味ではヴァリエーションがあるんだけど、それも含めて全体をフライローがひとりで作り直した感じがしますね。

吉田:そういう目配りがフライローはさすがだなと。だから今回のアルバムは、『Cosmogramma』以降聴いていなかった人たちにもぜひ聴いてもらいたいですね。絶対ドープだと思える曲があると思う。ヒップホップが出自のビートメイカーにはとくに“FF4”を聴いてほしいです。サンクラ世代のビートメイカーたちへのアンサーのような、かつてなくシンプルなキックとスネアとハットを。それから彼自身と思われるピアノにミゲルのストリングスの上ネタも、シンプルだけどいっさい隙がない。

原:音楽を組み立てるってどういうことなのかを、ここから学ぶことができると思う。他人の録音があって、生の音と機械の音といろんなレイヤーがあって、それをどうまとめるかということにかんして、すごくアイディアのある作品だと思う。

吉田:バンドスコアとか出てほしいですね(笑)。フライローの完コピのバンドスコアとかアツくないですか(笑)。サンダーキャットのベースはタブ譜付きで。これまでの過去作品だとしっくりこない曲もあると思うんですけど、今回は行ける感じがします。まあティエラ・ワックとの曲とかどうするんだっていう問題はありますが(笑)。


FLYING LOTUS in 3D
公演日:2019年9月26日 (木)
会場:新木場 STUDIO COAST
OPEN 18:30 / START 19:00
前売:¥7500(税込/別途1ドリンク代/スタンディング)※未就学児童入場不可

一般発売:6/29(土)~
イープラスローソンチケットチケットぴあBeatinkiFLYER

Aldous Harding - ele-king

 相変わらず女性監督作品のピックアップや受賞が少ないことが嘆かれているカンヌ映画祭だが、『ピアノ・レッスン』で女性監督として初のパルム・ドールを受賞した(1993年)のがニュージーランド出身のジェーン・カンピオンだったのはなぜだったのだろうということをときどき考える。それまでも欧米には才能のある女性監督がたくさんいたはずだが、男性監督たちの権威が確立しているフランス映画界で女性が評価されるためには、なにかエキゾチックな要素が必要だったのかもしれないと邪推してしまう。『ピアノ・レッスン』はなるほど、荒涼としたニュージーランドを舞台として、「声を失った女性」がマオリ族と暮らす男に狂おしく愛を求める物語であった。それは古典的なラヴ・ストーリーでありながら、欧米からは見えてこない風景だ。
 カンピオンのことを思い出したのは、現在インディにおいて熱い注目を集めるオルダス・ハーディングがニュージーランド出身だと聞いた僕のたんなるこじつけだが(カンピオンはオーストラリアで育ったというし)、ただ、彼女の表現がいま評価されているのは、英米を中心とするインディ・シーンの空気をさりげなく外しているからではないだろうか。ミニマルでメランコリックな彼女のアシッド・フォークにニュージーランドの土着性が入っているわけではないのだが、少なくとも英米インディのトレンドとはあまり関係ないところで凛とした表情をしている。

 『デザイナー』はインディ・メディアを中心に静かながらもたしかに評価された『パーティ』に続く3作めで、引き続きPJハーヴェイとの仕事で知られるジョン・パリッシュをプロデューサーに迎え、ウェールズでレコーディングされた。これまでゴシック・フォークと呼ばれがちだったその音は、けっして派手にはなってはいないが、パーカッションやストリングスのアレンジがやや増すことでより立体的なものとなっている。メロディをトラディショナルな響きの弦が追いかける“Fixture Picture”で幕を開け、コンガの軽やかな打音が聞こえる“Designer”では軽快に、フルートの音色がドリーミーなコーラスと戯れる“Zoo Eyes”では穏やかにフォークの時間が流れていく。この奥ゆかしさ。あくまでアコースティックの響きを生かして柔らかな耳触りを演出するのはいかにもジョン・パリッシュの仕事という感じで、たしかにPJハーヴェイの21世紀の傑作群を彷彿とさせる部分もある。たとえばミツキやシャロン・ヴァン・エッテンといった近年話題を集める女性シンガーソングライターのようにポップ路線に進むのでもなく、ましてやセイント・ヴィンセントのようにエキセントリックを標榜するのでもない。フェミニズム全盛の現在において、何かを主張しようというわけでもない。慎ましいが、さりげない豊かな時間をシンプルな音で追求しようとしている。牧歌的でありつつかすかにダークで、自然の風景を想起させるようで空想的でもある。混ざり合う不安と喜び、その愛の歌。
 とりわけ本作でのハーディングの魅力が炸裂するのが“The Barrel”で、控えめなパーカッションがゆるやかなグルーヴを醸すなか、ピアノやサックス、アコースティック・ギター、それに男女のなんだかファニーなコーラスが愛らしく通り過ぎていく。ハーディングの憂いと茶目っ気が溶け合ったような歌声。彼女自身が奇妙な衣装でぎこちない踊りをするミュージック・ヴィデオがまた面白くて、どこかシュールなユーモアが漂っているのがこれまでの作品との最大の違いなのだなと気づかされる。

 オルダス・ハーディングのフォーク・ソングには何かデリケートな形での「辺境」が息づいているように思わされる。時代や土地性に過剰に振り回されないがゆえの、秘境めいた佇まいを有しているのである。“Heaven Is Empty”における小さな音のアシッド・フォークのさりげない凄み、その生々しさは、トレンドが現れては去っていく音楽産業の産物ではない。来日も決定しているのでぜひその姿を目にしたいと僕は考えているが、それは彼女が「最旬の女性シンガー」だからではなく、彼女の歌にはいまもフォークの純粋な領域が残されていると感じるからだ。

interview with Joe Armon-Jones - ele-king

 UKジャズの快進撃が止まらない。「UKジャズ」というワードに触れるキッカケは人それぞれだと思うが、僕にとっては2017年に〈Brownswood Recordings〉からリリースされたユセフ・カマール『Black Focus』の存在が大きい。このリリースを皮切りに、アルファ・ミストサンズ・オブ・ケメットモーゼス・ボイドなど約2年の間に次々と新しい作品やアーティストが登場してきた。広い目で見渡せば、もはや円熟味を増したカマシ・ワシントン(彼はアメリカのアーティストだがUKジャズのムーヴメントにも多大なる影響を与えたと思う)、日本の地上波に出演するまで成長したトム・ミッシュ、R&B方面で言えばジョルジャ・スミスなど「ジャズ」をキーワードにしたアーティストがここ日本でも旋風を巻き起こしている。いわゆる典型的なジャズに限らず、ダブやアフロ、ヒップホップ、ベース・ミュージック、そしてハウスなど1枚のアルバムの中にいろんな要素を詰め込むフュージョン感は、人種や性別を超えたボーダレスで今っぽいサウンドだし、ジョー・アーモン・ジョーンズが2017年に〈YAM Records〉からリリースしたマックスウェル・オーウィンとの共作『Idiom』も間違いなくブロークンビーツ、ハウスといったクラブ・ミュージックの解釈が強かった。そしてソロ・デビュー・アルバム『Starting Today』で一躍UKジャズ・シーンの顔になったピアニスト/ソングライター。ムーヴメントを築いてるアーティストの半数以上が彼と同じく南ロンドン出身、そしてこれだけの短期間で一気に頭角を現した彼のキャリアは何か特別な秘密があるに違いない……!!! と、思っていた矢先の来日、そしてインタヴューは本当に貴重だった。熱の篭ったステージ上でのパフォーマンスとはうって変わって、シャイで物静かな雰囲気だったが、アルバム制作秘話、南ロンドンのリアルなシーン、インタヴューから見えてくるUKジャズ快進撃の真の裏側をたっぷりと丁寧に語ってくれた。


ジャズのミュージシャンだからってジャズだけをやるって思われるのは残念なことだよね。自分も他の奴らに比べたらあんまり騒がない静かな方だから、周りから緩いジャズだけをやってるって思われてたかもしれないし。

先日終わったばかりの日本でのツアー公演はどうでしたか?(6/1 (土) FFKT、6/2 (日) ビルボードライブ東京にて公演)

ジョー・アーモン・ジョーンズ(Joe Armon-Jones、以下JAJ):良かったよ、とても良い雰囲気だったね。すごく楽しめたし、野外フェスとコンサートホールで2日とも違った空気感だった。日本に来る前は周りの人から「日本のオーディエンスはとても行儀が良くて、声も出さずに聴き入ってる……」なんて聞いてたけど、FFKT ではみんな踊ってくれたし、ビルボードの1stはチョット静かだったけど、2ndは歓声もたくさん聞こえた。ショーの最後はみんな立って手を叩いたり踊ってくれたからね。来てくれたみんなに本当に感謝してるし、とても良い経験になったよ。

日本とイギリスのオーディエンスで何か違いは感じましたか?

JAJ:大きな違いを感じたのは日本の方がもっと「音楽に感謝してる」って印象だね。もちろんイギリスの人たちも間違いなくそれはあるんだけど、音楽が溢れすぎてて甘やかされてるというか……。なんか慣れちゃってる感じもするからね。その点、日本はわざわざ遠くの海外からアーティストが来日してるってこともあって、もっと強い価値を感じてライヴを聴きにきてる感じがしたな。

日本に来たのは初めてですか?

JAJ:自分の名義としては初めてだけど、2017年にチャイナ・モーゼスの公演でキーボードとして参加して Blue Note で演ったんだ(https://www.bluenote.co.jp/jp/artists/china-moses/)。彼女は素晴らしいシンガーで、あのときの公演も本当に楽しかったよ、良い思い出だね。

ではジョー・アーモン・ジョーンズがアーティストとしてデビューするまでの過程を聞きましょうか。ありきたりな質問かもしれませんが、いつから音楽をはじめたんでしょうか?

JAJ:母がジャズ・シンガーで、父もジャズ・ピアニストだったんだ。だから物心ついた頃から当たり前のようにピアノが目の前にあったし、親から影響を受けて自分も音楽を始めるのはまぁ普通な流れだよね。「子供の頃から音楽に没頭した!!」って程じゃないけど、自然にピアノは弾いてたし、その頃からなんとなくアドリブでやっていく癖もついてたのかも。ピアノのレッスンは7歳くらいからはじめたから、それが正式にスタートってことになるかな。

もちろん音楽学校にも通ったんですよね?

JAJ:ロンドンのグリニッジにある「Trinity College London」って学校に通いながら「Tomorrow's Warriors」っていう若いミュージシャンに向けたコミュニティでもよく演奏してたんだ。カリキュラムももちろんだけど、土曜日に若いミュージシャン同士で集まってプレイしたり、そこでの出会いや経験が自分にとって本当に大きかったと思う。

註:Tomorrow's Warriors はジャズ・ウォーリアーズのオリジナル・メンバーでもあるゲイリー・クロスビーによって1991年よって設立されたアーティスト育成プログラム。ジョー・アーモン・ジョーンズも所属するエズラ・コレクティヴも Tomorrow's Warriors のユースから生まれたプロジェクト。

 そこで、ジャズの要素が入ったヒップホップにすごいハマってJ・ディラとかロバート・グラスパーとかを聴きながらビートがどうなってるかとか、曲の構成についていろいろ学んでたね。で、自分でもビートを打ったり、曲を書いてるタイミングでエズラ・コレクティヴもはじまって、いまの仲間たちと一緒にプレイするようになったのかな。当時はいちばん多い時期で8つのバンドを同時に演ってたし、いろいろ違うジャンルもやって忙しくしてたよ。

8つも同時に抱えてたのはすごいですね……。その流れで自身のプロジェクトもスタートしたということですよね?

JAJ:そもそもジョー・アーモン・ジョーンズっていう名義でスタートしてまだ2~3年しか経ってないし、マックスウェル・オーウィンとやったアルバムも2年前のことだからね。それが自分の名前でリリースした最初の作品になるんだ。それから〈Brownswood Recordings〉とリリースの話になって、去年自分のソロ名義でのアルバムが出たという流れさ。

マックスウェル・オーウィンとはどうやって知り合ったんですか?

JAJ:5、6年前に共通の友人を通して知り合って、よく誰かしらの家で会ってたんだ。意気投合していまはふたりで家をシェアしてるし、スタジオもそこでセットアップして、曲も作ってるよ。

ということはふたりのアルバムもそこで創られたってことですよね?

JAJ:そう、まさしく家のリヴィングでね。

ふたりのアルバムは〈YAM Records〉というダンス・ミュージックが中心のレーベルからのリリースでしたよね。僕も仲のいいハウス/ブロークンビーツのDJやアーティストがふたりの楽曲をプレイしたり、チャートに入れてるのを見て初めて知ったのを覚えてます。で、そこからどんな作品が出るかなと思ったら……いきなり〈Brownswood〉からソロを出したのは驚きましたね。

JAJ:ジャズのミュージシャンだからってジャズだけをやるって思われるのは残念なことだよね。自分も他の奴らに比べたらあんまり騒がない静かな方だから、周りから緩いジャズだけをやってるって思われてたかもしれないし。そりゃジャズを聴いてるときは静かにしてたけど……(笑)。ヒップホップもダブも好きだからいろんなシーンの中で良い音楽だけを選んで一緒にするのがやりたかったのさ。ジャズ・ピアニストってことで他のジャンルをやるのも難しくないし、リリースした〈YAM Records〉もダンス・ミュージックの中で幅広い音楽をやってるから「ただのハウス・プロデューサー」とは思われなかったのは良かったのかもしれないね。

地元のサポートも大きかったと感じますか?

JAJ:もちろん。ロンドン、特にサウスロンドンのペッカムを拠点にしている〈YAM Records〉はレーベルとレコード屋もやってるし、同じアーケード街には Balamii Radio やアパレルストアもたくさんあって、みんなが集まってコラボレーションも頻繁におこなわれているんだ。マックスウェル・オーウィンも良い人脈を持ってたし、ここのエリアの雰囲気はいまでも良い影響をもたらしてくれるね。

そういえば〈YAM〉から出したアルバム、〈Brownswood〉からのソロ・アルバム、どちらもアートワークが最高ですよね。どちらも同じアーティストが担当したんですか? 

JAJ:〈YAM〉からリリースした「Idiom」はレーゴ・フットって奴が描いたんだ。4つのバラバラの絵を掛け合わせてできたアートワークで、4枚の絵はいまでも家の壁に飾ってあるよ。〈Brownswood〉から出した『Starting Today』はディヴィヤ・シアーロが担当してくれて、彼女は次にリリースするアルバムも描いてくれてるよ。ちょうど6月にアルバムに先駆けてニューシングル「Icy Roads (Stacked)」もリリースされて、そのアートワークもやってくれたんだ。

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自分のリヴィングがスタジオだから、家でゆっくりしてたら誰かが急に入ってきて曲を作りはじめるってこともよくあるんだ。いつも誰かが曲を作ってるからインスピレーションは無限に湧くよ。

いまアルバムの話も出たので、次のリリースについて聞いてもいいですか? もし秘密でなければアルバムについても少し教えてください。

JAJ:次のアルバムはもう作り終えてるんだ。ちょうどこの後東京のスタジオでバンドのメンバーとでき上がったアルバムを聴く予定で、いまから本当に楽しみだ。

具体的に前のアルバムと比べてメンバーの構成や曲調など変わった部分はありますか?

JAJ:メンバーは前回と全く同じ。でも間違いなく違った雰囲気になってるよ、完璧に違うプロジェクトと思っていい。言葉で説明するのはいつも難しいんだけど、前回と違って長い6曲のトラックものが中心になってるよ。前作の『Starting Today』は1曲にそれぞれ違ったストーリーがあって、ヴォーカルも多くあったけど、新しいアルバムはよりアルバムとしての全体感がより強いのかもしれないね。

制作にはどれくらい時間を要したんですか?

JAJ:去年の8月からレコーディングをスタートさせて、編集とかマスタリングを終えたのは……それこそ日本に行く1週間前とかだよ。

制作するときはソングライティングもしっかりやるタイプですか?

JAJ:もちろん譜面に起こしたりとかもやるけれど、基本はスタジオでセッションして曲を作り上げるパターンが多いかな。ソロのアルバムを作ってるときはピアノの前に座って、思いついたアイデアを弾いたり、いろいろ試すんだ。ベースラインはすごく重要にしてて、ベース・プレイヤーによって曲の表情も大きく変わってくる。そこにドラムを加えて、聴いてるうちに良いメロディーが思いついて自分も弾いたりとかかな?
それに、2枚のアルバムともバンド・メンバーがそれぞれのプロジェクトで忙しかったからリハーサルを組んだりっていう時間がなかったんだ。だからある程度自分で譜面に起こして、後はそこから即興で作っていく。お互いのことをよく知ってたり、それぞれ技術がないとできないことだけど、最初にみんなで合わせるときの熱量やフレッシュさも大事にしたかったんだ。最悪、誰かが間違えた場合も別のテイクを取って良い部分を張り替えれば良いしね。

それはテクノロジーが助けてくれる部分でもありますよね。

JAJ:昔だったら録ったテープを本物のハサミで切って貼り付けてなんて……いまだにそのスタイルでやってる人もいるけれど、僕らは100%技術の進歩の恩恵も受けているよ。とはいえ、たまにドラムのテンポがズレてるってときもリズムを修正しないでそのまま残すこともある。それは曲の中のひとつの熱量と思ってキープするんだ。

アルバムの他にもいろいろなコンピレーションにも積極的に参加してますよね。この前もマーラとヌビア・ガルシアとの共作も話題になりました。どれくらいの頻度でスタジオに入っていますか? 最近はツアーもあって忙しいように見えますが……。

JAJ:まさしくいまツアーが増えてきて、自分の中で制作とギグのバランスを考えはじめてるところだよ。ツアーがないときは基本的にスタジオ、というか家にいるよね。自分のリヴィングがスタジオだから、家でゆっくりしてたら誰かが急に入ってきて曲を作りはじめるってこともよくあるんだ。他のプロデューサーみたいに「スタジオに行って働く」とかそういう感覚じゃないのかも。それこそマックスウェル・オーウィンが友だちを連れてきて四六時中ビートを作ってるってこともあるし、いつも誰かが曲を作ってるからインスピレーションは無限に湧くよ。

なかなかすごい環境ですね。そんな状況でゆっくり寝られたりできるんですか?

JAJ:いい質問だね(笑)。幸い僕は上の階だからあんまり音も漏れてこないんだよ。隣の近所がどう思ってるかは正直わからないけど、苦情もいまのところないから大丈夫なんだと思う。

それはイギリスやヨーロッパの国ならではな状況かもしれないすね。日本でそんなことは滅多にできないので……。

JAJ:本当に?? そういえば誰かが言ってたな。日本は楽器を大音量で練習できる家が少ないからヘッドホンとかでやってるって。

それから、たぶん日本は自分のプライヴァシーを守りたい人が多いかも?しれないですね、自分の家に知らないミュージシャンが毎日出たり入ったりっていう状況はあまり考えられない気がします。

JAJ:そうだね、たまに20人くらいのミュージシャンが一気に集まって「これから曲を作るんだ」ってこともあったりするよ。そのときは知らない同士でも、共通の仲間を通して知り合えばお互いにとってプラスになることが多い。自分はとにかくいろんなミュージシャンやアーティストとのコラボレーションがメインで活動してるからこのスタイルが好きなんだ。もちろん日本の礼儀正しい部分だったり、お互いをリスペクトする部分は理解できるから、文化の違いってことかもしれないね。

まだデビューしていなかったり、ローカル・レヴェルで是非チェックすべきというアーティストやミュージシャンはいますか?

JAJ:プロジェクト・カルナック、ブラザース・テスタメント、シュナージ、それからCYKADA辺りはいいね。どれも違ったサウンドやジャンルだよ。

それだけ多くのアーティストを知ってるならレーベルをやっても良いかもしれないですね。

JAJ:いや、止めておくよ。事務作業とかが多いと思うし、多分自分には向いてないと思うな(笑)。

日本でご存じのアーティストはいますか?

JAJ:Kyoto Jazz Massive は素晴らしいよね。それから SOIL & "PIMP" SESSIONS も知ってるよ。この前リーダーの社長と FFKT であったけど、ファッションもマジで最高だったな。

アルバムのリリースも控えてますが、今後の予定は決まってますか?

JAJ:まずはアルバムのリリースに向けて、しっかり準備。その後は何も決めてないな(笑)。たぶん日本にまた戻ってライヴがしたいね、ここは本当に素晴らしい場所だよ。最高だ。

Scan 7 - ele-king

 テクノ好きに朗報だ。〈UR〉や〈Tresor〉からのリリースで90年代デトロイト・テクノの隆盛に一役買ったスキャン7が、なんと来る7月12日に、オランダはレーワルデンのレーベル〈Deeptrax〉より、アナログ3枚組の新作をドロップする。昨年は〈Transmat〉からEPを発表するなど、00年代以降もそれなりにリリースを重ねてきた彼らだが、アルバムは1999年の『Resurfaced』以来。ざっと試聴する限り、彼ららしいストリングスやエレクトロを目一杯堪能できる作品に仕上がっているようだ。これは楽しみ。

Scan 7
Between Worlds

Deeptrax Records
DPTX-021
2019/07/12

A1 Stringin me along
A2 No place like home
A3 A wonder of space
B1 It's time
B2 Cream dreams
C1 I'm covered
C2 Moments like this
D1 As above so below
D2 Trackmasta hoop
E1 Electronic evidence
E2 Smooth scan
F1 Deep roots
F2 Shadow spirit

Dave - ele-king

 2019年3月にリリースされたUKのラッパー Dave のデビュー・アルバム『Psychodrama(サイコドラマ)』はラップで物語を紡ぐことのパワーを力強く感じさせる傑作である。

 Dave が最初に注目されたのは、デビューEP「Six Paths」収録の“Wanna Know”が突然 Drake にリミックスされたときだった。Dave の憂いげに、ときに甘く歌い上げるフロウと、対照的に言葉遊びを混ぜたセルフボーストで攻撃なラップの際立った対比によって、弱冠18歳のラッパーは注目を集めた。2018年には、ロンドンのラッパー Fredo とのコラボレーション曲“Funky Friday”でウィットに富んだラップを披露し、UK総合チャートで1位を獲得した。

 しかし、彼が「物語を語る」というスキルの非凡さを世に知らしめたのは、2017年にリリースされた“Question Time”(「Game Over」収録)である。7分長に渡るこの曲で、UKの政治・戦争・警察・福祉といった幅広いトピックに対して意見を表明した。同EPに収録された“My 19th Birthdays”も自身の苦境を比喩を駆使しながら説明していく1曲で、リリシストとして印象付けた。

 Dave がこのアルバムのタイトルに付けた「サイコドラマ(心理劇)」とは、演劇を用いた心理療法のことである。心理劇にもいろいろなタイプがあるというが、例えば主人公役の人は過去の失敗や乗り越えたかった場面などを演劇を通して再現していく。観客を交えて、またときに観客と演者が入れ替わる形で進行するこの心理劇によって、参加した者の精神にポジティヴな影響をもたらしていくのだという。このコンセプト通り、Dave がこの心理劇の主人公となり、アルバムを通してセラピストに自分のストーリーを吐露していく。

 アルバムは“Psycho”で幕を開ける。セラピストの「これが最初のセッションだ、さてどこから始めようか」という言葉に導かれて、治療前の彼の深刻なメンタルが吐露される。曲の中盤でリズムが変わるパターンでセルフボーストの「俺最強」モードになったかと思えば、リズムが戻ると再び追い詰められた彼の心情が戻ってきてしまう。地元の地名が冠された 2. “Streatham”では、幼少時代や学校時代のエピソードや情景が、3. “Black”ではイギリスで黒人として生きることの難しさを吐き出している。トラックでは Dave 自身が弾くピアノが全面に出ており、彼の暗く行き場のない感情を代わりに代弁しているようである。

 重苦しい3曲から一転して、彼女との関係をロマンティックに歌う 4. “Purple Heart”、この曲の最後にセラピストは「君にとっては、誰か信じられる人が大事なんじゃないかな」という言葉をかける。5. “Location feat. Burnaboy” 6. “Disaster feat. J Hus”の2曲では、言葉巧みなセルフボーストで、ラップ・ゲームの中で差を見せつける。

 7. “Screwface Capital”では再び、彼の影が姿を表す。父親はおらず、母親との辛い日々がラップで綴られていく。生活のハードさを誇りながらも、音は常に物悲しく、彼の深い孤独を思い起こさせる。8. “Environment”では有名になった「ラッパー」の立場からセルフボーストするが、「有名になった自分」すらどこか批判的である。

 そして、アルバムのハイライトとなる11分に及ぶ 9. “Lesley feat. Ruelle”につながる。この曲は、Dave が心を寄せていた女性 Lesley の悲痛そのものの物語が語られる。「心理劇」のように、その場面が目の前で展開するような生々しさがあり、その生々しさはラップを通じてリスナーにもヒリヒリと伝わってくる。
 この曲を通じて、言葉を奪われた女性の悲しみや痛みを Dave 自身まで引き受けてしまっていたことが感じられる。その一方で、ラップという表現は過去を語り、言葉を与えることができる。最後の1分30秒では Ruelle が Lesley に言葉を与えるかのように演じて歌う。

 3年という短いキャリアの中で桁違いの成功を収めながらも、精神的に問題を抱える Dave、その心の奥底にあったトラウマを物語として語ることによって乗り越えた彼は、ガラージ・チューン 10. “Voices”を挟んで、そして懲役で刑務所で8年間過ごしている実兄へのメッセージとして語られる 11. “Drama”でアルバムは幕を閉じる。

 ラスト3曲には、ふたつの意味で「ラップ」という表現の根源的な力が宿っている。ひとつ目は、Dave 自身が心につっかえていたストーリーを11分のラップにし、「自分に語りかける」行為となること、それによって乗り越えるきっかけとなり癒されたこと。ふたつ目は、暴力を受けて声も出せなくなった女性の Lesley、そして 11. “Drama”で8年間刑務所で過ごしている実兄を登場させていること。このふたりはともに、打ちのめされて言葉が発せない、または声を届けることのできない存在である。Dave は彼らに対して語りかけることで言葉を与え、外に開かれた「声」をもう一度取り戻そうとしている。このふたりが登場する曲をつなぐのは、10. “Voice”である。

愛しい君よ、俺はいま自分の声を聴ける
愛しい君よ、俺はいま自分の声を聴けるんだ、寝てるときだって
愛しい君よ、俺はいま自分の声を聴ける
それでこの声は、君は僕の全てなんだ
“Voice”

 『Psychodrama』、その11曲を使って描き切った物語、それは無論1曲単位でなくアルバムという単位でしか成し遂げられないアートであり、ラップの素晴らしさを肌に感じることのできるUKラップの大傑作である。

R.I.P. Philippe Zdar - ele-king

 フィリップ・ズダールが6月19日パリのアパルトマンの窓から落下して亡くなった。52歳だった。新聞『Le Monde』によると、どうやら窓の外にある手摺が外れて落下してしまったらしい。2011年自宅メザニンが崩壊、落下して死去したDJ Mehdi を思い出させる悲劇だ。

 彼の死去が報じられて以来ここ数日、パリのエレクトロニック・ミュージック界はあまりにも大きな喪失に呆然としている感がある。「フレンチタッチ」のパイオニアを失ったというのがメディアの主な論調で、ズダールを知る人にとっては愛するメンターが逝ってしまったということかと。個人的に非常に思い入れのあるアーティストなので、きちんと客観的に書ける自信はあまりないが、いまのフランスのエレクトロニック・ミュージックの礎を作った一人である彼の功績をきちんと振り返りたい。

 90年代後半、フランスのエレクトロニック・ミュージックが勃興した時期があった。日本でもダフト・パンクやエールらで知られるその流れに「フレンチタッチ」と名前を付けたのはイギリスのメディアだった。そしてその記事は「モーターベース」というフィリップ・ズダール、エティエンヌ・ドゥ・クレシーからなるフランスのデュオについてだった。「フレンチタッチ」は全てここからはじまった。

 時計の針を少し戻そう。1991年、フランスのヒップホップ第一世代を代表するアーティストの一人、MCソラーのアルバムのエンジニアをしていたフィリップ・ズダールとそのアシスタント、エティエンヌ・ドゥ・クレシー、そしてズダールの師匠であったドミニク・ブラン=フランカーの息子ユベールはレイヴに出会う。その衝撃からズダールとクレシーはモーターベースを結成、DJ活動を開始する。スタジオでの仕事が終わると夜な夜な、当時は大変いかがわしく、でもエネルギーに満ちたレイヴに3人は足繁く通った。自分たちがプレイする時も、しない時も。MCソラーの1stアルバム『Qui sème le vent récolte le tempo』に続き、2ndアルバム『Prose Combat』に、ズダールとクレシーはエンジニアとして携わり、ユベールはブーンベース名義でビートメイカーとして参加していた。当時レーベル、モ・ワックスを立ち上げたばかりのジェームズ・ラベルは、いち早くブーンベースが「Prose Combat」に提供したビートに注目した。ラベルの「このビートすごいいいからもっと長くしなよ」という助言にしたがい、ブーンベースはモーターベースで長ったらしいビートを作っているズダールに声をかけた。こうしてラ・ファンク・モブが誕生する。

 ズダールとクレシーは、92 年「Visine」93年「 Trans-Phunk E.P」をモーターベース名義でモ・ワックスからリリース、クラブ・ミュージックの世界で頭角を現す。94年にはラ・ファンク・モブもEP「Les Tribulations extra-sensorielles 」をモ・ワックスからリリースする。95年には後のダフト・パンク・マネージャーとなるペドロ・ウィンターと出会う。この出会いをきっかけに、ペドロがパリのクラブ「Folie's Pigalle」でオーガナイスしていたパーティに、請われてズダールたちは頻繁にプレイするようになる。そこにはDJカム、DJ ディープ、DJ グレゴリー、ディミトリ・フロム・パリらとともにダフト・パンクもいた。ダフト・パンクのトマ・バンガルテールと初めて会ったときのことをズダールはFrance国営TVのインタヴューでこう回想している。「トマと初めて会った時、ヤツは俺の方に来て“Obsolète”やったのお前? あの音、いまのフランスで一番イカしてるよなって抜かしたんだ(笑)」ここから彼らの友情もはじまったらしい。

MCソラー 「Obsolète」

 96年にはシャンゼリゼ通りのゲイ・クラブ「Le Queen」で伝説的パーティ「Respect」がスタート。ここでも先述のDJたちが毎週プレイし、NYやデトロイトからもDJたちが招かれた。この入場無料のパーティは、当然ながら盛況すぎて入るのがとても困難で、毎回朝まで長蛇の列が続いた。ズダールとクレシーは、同年にモーターベースとしてアルバム『Pansoul』をリリース。「フレンチタッチ」勃興期が幕を開けた。

モーターベース「Flying Fingers」


 一方ズダールとブーンベースは同時期に今度は「L'Homme Qui Valait Trois Milliards」名義で「Foxy Lady」をリリース。この頃すでにイギリスのレーベルSomaからリリースしたEPが大きな話題となりクラブ・シーンのスターだった、ダフト・パンクのヘヴィ・プレイとなる。それは、当時のフランスではクラブ・アンセムとなることを意味していた。その年のMix Mag誌の「今年のシングル50」に選ばれ、数年後にカシウスと改名するズダールとブーンベースの快進撃がはじまった。

 ディミトリ・フロム・パリス96年、ダフト・パンク97年、エール98年らのファースト・アルバムに続いて、1999年、ラ・ファンクモブからカシウスに改名したズダールとブーンベースは、ファースト・アルバム『1999』を満を持してリリースする。グラフィック・デュオ、アレックス&マルタン(後にホワイト・ストライプス、U2、カイリーミノーグを手がけるようになる)の手による「Cassius 99」MVもMTVなどで話題になり、カシウスも「フレンチタッチ」祭りの中に巻き込まれていく。

カシウス「Cassius 99」

 その後も2002年に『Au reve』、2006年に『15 Again』とアルバム・リリースを重ねていくが、ブームは必ず去るもの。「フレンチタッチ」もすっかり下火になり、その牙城だったダフト・パンク、エール、カシウスらを擁したメジャー・レーベル、ヴァージン(日本だとEMI)も消滅する。FAとなったカシウスをキャッチしたのは、ペドロ・ウィンターだった。ジャスティス 、ブレイクボットなどのヒットを放ち全盛期をむかえていた自らのレーベル〈Ed Banger〉にカシウスを迎え入れたのだ。2010年移籍第一弾のEP「I <3 U So」はクラブでヘヴィプレイされ、カシウスは第2章を迎えた。

カシウス「I <3 U So」

 ズダールもブーンベースも、ソロやデュオでのDJ活動も活動初期から一貫して行ってきた。なにしろレイヴ直撃、アナログを真剣に掘っていた世代である。彼らは正真正銘のDJだ。「フレンチタッチ」が下火になって、おそらく減ったであろうオファーも、「I <3 U So」のヒットにより、再び上昇したのだろう。EDMのパーティにもブッキングされ「俺みたいなおっさんのとこにキッズたちがセルフィ、セルフィって寄ってくるんだぜ。世の中なにが起こるかわからないよな」とズダールは様々なインタヴューで語っている。

 カシウスの活動を続ける一方、ズダールはプロデューサー、エンジニアとして、大きな成功を収める。ブーンベースの父のアシスタントとして仕事をし、カシウスとしてファースト・アルバム『1999』をレコーディングしたスタジオを、ズダールはアルバム・レコーディング後に買い取る。「Studio Motorbass」と名付けたこのスタジオで、多くの傑作が生み出される。ズダールの裏方としての仕事をいくつか紹介しよう。フェニックスとは2000年のファースト・アルバム『United』で仕事をして以来、家族同然の仲間となり、グラミー賞を受賞した3rdアルバム『Wolfgang Amadeus Phoenix 』では5人目のメンバー&ケツ叩き役(ズダール談)として大きな役割を担う。またセバスチャン・テリエの最高傑作『La Ritournelle』もズダールの手による。『Les Inrocuptibles』誌のインタヴューでその時のことを「セブ(テリエ)がスタジオに入ってきて、ポロポロピアノを弾き始めて。すぐに魅了された。そして数分後に“Oh, nothing's gonna change my love for you”って歌い出して。ヤバイ! えらいことが起き始めてる! と思った」と語っていた。セバスチャン・テリエ自身にとっても、この時のことは忘れ難い体験だったのだろう。ズダールを追悼するインスタグラムの投稿で「きみが獅子の如く戦ってくれた“La Ritournelle”はきみのものだ」と記している。

セバスチャン・テリエ「La Ritournelle」

 それ以外にも80年代から第一線で活躍するフレンチ・ポップのエティエンヌ・ダオ、歌手としての評価も高いルー・ドワイヨン、言わずもがなのジャスティスらフランスの音楽界で一定の評価を得ているアーティストも多い。だが、ウス・ドゥ・ラケットという日本ではあまり知られていないデュオや、まだ無名だったカインドネスを手がけるなど、新人でも人間的、そして音楽的に心を打たれれば惜しみなくそのエネルギーを注いだ。
 もちろん、ズダールの仕事は世界のトップクラスのアーティストにも伝わり、ザ・ラプチャー、フランツ・フェルディナンド、キャット・パワー、ビースティー・ボーイズ、ワン・リパブリック、カニエ・ウエストまでキラ星のようなアーティストの作品を手がけた。
 ズダールを知る人が皆口を揃えるのは、彼の愛に溢れた人間的魅力だろう。彼は20年間以上に渡ってフランスのエレクトロニック・ミュージックを表と裏から支え、関わった人皆にリスペクトされ、そしてなにより愛された。彼自身、周囲の人に惜しみなくサポートと愛情を注ぐ人で、その連鎖に皆が引き込まれていったという印象だ。
 6月21日に5枚目となるアルバム『Dreem』のリリースを目前に、フィリップ・ズダールは予想もしない形でこの世から去った。これまでリヴィング・レジェンドであった彼は、今日フランスの音楽界の伝説となった。でも、こんなにも早く伝説になんてなってほしくなかった。

 最後に1996年Elekingに掲載された、日本で初めてフィリップ・ズダールの作品について触れた三田格氏の原稿をもってこの追悼文を締めくくりたい。
(※掲載までしばしお時間ください。編集部)

Caterina Barbieri - ele-king

 電子音楽と「反復」は親和性が高い。シーケンスされた音は延々と反復する。そして反復が持続に溶け合うとドローンが生れる。さらにマシンは人間には不可能な音色の変化や、その反復を「崩す」こともいとも簡単に実現してしまう。たとえばクラフトワークの反復には音色やトーンの変化が同時におこっているし、坂本龍一のノイズは和声の中に溶け合うことで反復を逸脱させようとするし、クリスチャン・フェネスのグリッチノイズは彼のギターと融解してもいた。コンピュータ、エレクトロニック、マシン、ヒューマン。電子音楽において人間とマシンの境界線が常に浸食しあいながら越境する。

 では2019年現在、電子音楽における反復はどのように変化しているのか。そのことを知る上で重要なアーティストがいる。ベルリンを活動拠点とするイタリア出身の電子音楽家/サウンドアーティストのカテリーナ・バルビエリだ。
 カテリーナ・バルビエリは自らのドローンを「ミニマリズム、減算合成、インド伝統音楽」を関連付ける。さらには「恍惚感のあるコンピューター処理」とも語っている。そう、モジュラーシンセを用いたカテリーナ・バルビエリのサウンドは、反復のミニマリズムを基調としながらも、その音は崩れ、変化し、別の音楽へと接続されていくものである。

 カテリーナ・バルビエリはこれまで〈Important Records〉から『Patterns Of Consciousness』(2017)、『Born Again In The Voltage』(2018)という2枚のアルバムをリリースしてきた。くわえて伝説のドローン作家Elehとのスプリット盤『Split』を同〈Important Records〉からリリースしている。この種のモジュラーシンセを用いた電子音楽は最近の流行だが、どれも頭一つ抜けている出来栄えであった。
 そして新作『Ecstatic Computation』は、これまでリリースを重ねてきた〈Important Records〉から離れ、音響音楽の老舗〈Editions Mego〉からリリースするアルバムである。マスタリングはお馴染の(?)ラシャド・ベッカーが担当している。
 『Patterns Of Consciousness』、『Born Again In The Voltage』までのアルバムがインド音楽的な音色のドローンであるとすれば、この『Ecstatic Computation』ではバロック音楽的電子音楽とでもいうべきか(じっさいチェンバロ的な音色を導入した曲もある)。古典的ともいえるシーケンス・パターンを積極的に導入し、音色、レイヤー、フレーズによって聴き手の認識のパターンを刷新するように変化するような構造へと変わっていたのだ。
 その結果、これまで硬質なドローンを展開していたアルバムと比べてみると、格段にポップな印象の仕上がりとなっている。むろんポップ音楽的になったという意味ではない。ひとつひとつの音色が、やわらかに、繊細に、かつ力強く生成されているため、「聴きやすい」のである。なかでもヴォイスとチェンバロ的な音色と電子音が交錯するM4“Arrows of Time”は、本作の独自性を象徴している曲に思えた。何より楽曲として美しい。

 クラフトワークのようにポップ(=シーケンス)でありながら、現代音楽(=持続・ノイズ)のように一筋縄ではいかない。そしてまるで未来のバロック音楽のように優雅で瀟洒である(=メロディ)。いわば反復と非反復の刷新としての電子音楽。
 本作『Ecstatic Computation』はカテリーナ・バルビエリの最高傑作であり、本年リリースの電子音楽の中でも注目すべきアルバムに思えた。反復の美学を刷新する電子音楽がここにある。

16FLIP × Georgia Anne Muldrow - ele-king

 これぞ幸福なコラボというやつでしょう。MONJU / DOWN NORTH CAMP のDJ兼トラックメイカーであり、ISSUGI の変名としても知られる 16FLIP がなんと、〈Stones Throw〉からのリリースで名を上げ、昨年〈Brainfeeder〉からアルバムを発表したLAのジョージア・アン・マルドロウをフィーチャーしたシングルをリリースする。発売日は7月10日。BudaMunk によるリミックスおよび 16FLIP 本人によるインストも収録される模様。芯のあるベースと酩酊的な音響の共存するトラックのうえを、ソウルフルでちょっぴり神秘的な美声が漂流していく……これぞ幸福なコラボというやつでしょう。

[7月4日追記]
 話題の 16FLIP とジョージア・アン・マルドロウとのコラボ曲、“Love it though”のティーザーが本日公開となった。なんとも味のある映像です。リリースはいよいよ来週!

ISSUGI の変名としても知られる 16FLIP が〈ストーンズ・スロウ〉や〈ブレインフィーダー〉からのリリースでも知られる女性シンガー、ジョージア・アン・マルドロウをフィーチャーした楽曲をリリース。BudaMunk によるリミックスも収録。

◆ MONJU / DOWN NORTH CAMP のDJ/トラックメイカーであり ISSUGI の変名としても知られ、MONJU や ISSUGI、仙人掌、5lack、SICK TEAM、BES らの作品でのプロデュースや自己名義のビート・アルバムのリリース/DJミックス、日本各地のクラブやレセプション、ショップのインストア・パーティでのDJなど、多岐に渡る活躍をみせる 16FLIP が自己名義のシングル作品をリリース!
◆ 客演には〈ストーンズ・スロウ〉からもアルバムをリリースし、〈ブレインフィーダー〉から昨年11月にニュー・アルバム『OVERLOAD』をリリース。ケンドリック・ラマーやエリカ・バドゥ、ロバート・グラスパー、モス・デフらが称賛し、「現代のニーナ・シモン」とも称されるLAアンダーグラウンドを代表する女性シンガー/プロデューサー、ジョージア・アン・マルドロウが参加! 16FLIP のスムースかつスモーキーなビートの上で、抜群のメロディが浮遊するアーバンメロウなR&Bが完成した。キーボードには ONRA 主催のレーベル、〈NBN Records〉からアルバム『Bussin’』をリリースしたばかりのデヴィン・モリソンも参加。
◆ 16FLIPによるオリジナル・ヴァージョンに加え、BudaMunk によるリミックス・ヴァージョンと 16FLIP 制作による2種のインストゥルメンタル・ヴァージョンを収録!
◆ また、16FLIP によるオリジナル・ヴァージョンが6/24(月)9:00~13:00放送のJ-WAVE(81.3FM)「STEP ONE」の番組内で超先行オンエアとなります!

【番組概要】
J-WAVE(81.3FM) 「STEP ONE」
MC:サッシャ/増井なぎさ
番組URL:https://www.j-wave.co.jp/original/stepone/
オンエア日時:6月24日 (月) 09:00-13:00

【アルバム概要】
アーティスト: 16FLIP (16フリップ)
タイトル: Love it though feat. Georgia Anne Muldrow (ラブ・イット・ゾウ・フィーチャリング・ジョージア・アン・マルドロウ)
レーベル: P-VINE / Dogear Records
品番: PCD-4643
ジャンル: R&B / JAPANESE HIP HOP
税抜販売価格: 1050円
発売日: 2019年7月10日(水)

[TRACKLIST]
1. Love it though feat. Georgia Anne Muldrow (Original Version)
2. Love it though feat. Georgia Anne Muldrow (BudaMunk Remix)
3. Love it though feat. Georgia Anne Muldrow (Original Instrumental)
4. Love it though feat. Georgia Anne Muldrow (Trastrumental)

[16FLIP プロフィール]
東京生まれ、HIP HOPのビートメイカー。
自身も所属するグループ MONJU が06年に立ち上げたレーベル〈DOGEAR RECORDS〉を中心に数々の作品をリリース。MONJU、5lack、ISSUGI、仙人掌、KID FRESINO、BES らの作品をプロデュースしてきた。
またDJとしての顔も持ち、5lack 主催のパーティー《weeken》でのレジデントをはじめ、全国各地からイベント出演のオファーが絶えない。
19年7月、LAアンダーグラウンドを代表する女性シンガー Georgia Anne Muldrow を客演に迎え、自身初となるシングル「Love It though」をリリース予定。ISSUGI のビートメイカー名義。

https://soundcloud.com/16flip
https://issugi.tokyo/disco/16flip

interview with Black Midi - ele-king

 ロンドン南部のブリクストンにあるインディペンデントなスペース「ザ・ウィンドミル 」における、ダモ鈴木と「彼ら」のセッションを収録した音源が素晴らしかった。以下のインタヴューにあるように、ほとんど何も取り決めのないなかでおこなわれたようだが、延々と続くビートとともにミニマルなフレーズが繰り返され、繰り返されていくなかで徐々に変化し、ときには意表をつくようなサウンドが飛び出してくることもある。ジャム・セッション、つまりインプロヴィゼーションは「彼ら」にとって創造の母体ともいうべき沃野であり、手探りだが自由におこなわれる演奏からは、設計図を描いていては出会うことのない音楽に巡り合うことになるのだろう。「彼ら」はジャム・セッションを長時間おこなうことで「最高な音楽ができる」とさえ述べるほどに、それを重要視している。

 だがそれだけではない。シングル「Crow's Perch」がリリースされたあと、「彼ら」はその素材となった音源集を公開している。そこでは楽曲に使用されているベース、ドラムス、ギターおよびシンセのフレーズ・パターンを聴くことができ、「彼ら」は自分たちの演奏の断片をリミックスであれ何であれ望むように用いてよいと言っているのである。それはしかしコピーレフトの思想というよりも、むしろインプロヴィゼーションのなかで生み出された素材がいかに「最高の音楽」であっても、それを楽曲としてまとめあげることは、それも「彼ら」のようにまとめ上げることは誰にもできない、つまり、「彼ら」のコンポジションのなかにある創造性には誰も追いつけないということの矜持にちがいない。インプロヴィゼーションは欠かせないがそれらをまとめあげるコンポジションもまた欠かせない。この両輪があってはじめて「彼ら」の音楽は成り立つのだ。

 そんな大胆かつ挑戦的な「彼ら」、つまり英国ロンドンを拠点に活動するブラック・ミディのファースト・アルバムが〈ラフ・トレード・レコード〉からリリースされる運びとなった。二十歳前後の四人組によるバンドだが、その音楽性は幅広い。いや、インターネットを介して様々な音楽の音源に気軽に触れることができるようになったからこそ、ひとつのジャンルに押し込めることのできない音楽になっているのだとも言える。あるいは、完全に独学だけで音楽を続けてきたミュージシャンというわけではなく、「ブリットスクール」で学び、メンバーと出会い、活動を始めたというその経歴もまた、時流に合ったものであるように思う。まだ結成してから2年も経っていないというブラック・ミディはどのようなメンバーによって構成され、どのように出会い、そしてどのような音楽を奏でていくのだろうか。来日公演を控えたメンバーのうち、ヴォーカル&ギターを務めるジョーディ・グリープとドラムスのモーガン・シンプソンに話を聞いた。

ユーチューブで「Black MIDI」の映像を見つけたんだ。ピアノの音を使って、宇宙船のような破壊的な音に変換できるってことがすごいと思った。コンピューターが音を破壊し始めてしまうところが、面白いと思った。まるで自身を解体してしまうアート作品みたいでさ。

ブラック・ミディはイギリスの芸術学校「ブリットスクール」で出会ったメンバーで結成されたと聞きました。どのような経緯でバンド結成に至ったのでしょうか。

ジョーディ・グリープ(Geordie Greep、以下GG): 俺と、ギター担当のマット・ケルヴィンはブリットスクールに4年間通い、他の2人は2年間通っていたのさ。最初はただの友達だったから、お互いの興味のあることを、教え合ったりしていたよ。自分の好きな音楽とかをね。それからみんな、ドローンっぽくて、催眠効果のありそうな、耳障りでうるさい音楽にはまっていった。ボアダムズやスワンズデス・グリップスのようなバンドの音楽。俺とマットは学校にあったリハーサル室を放課後に使って、1時間から2時間のジャム・セッションをやっていた。マットがオルガンを弾いて、俺がギターを弾いて、長いドローン音楽を鳴らしていた。ライヴ中でも感じられるような、ある一定の精神状態、フィーリングを感じるためにそれをやっていた。別に曲を作っていたわけじゃなくて、その感覚を楽しんでしばらくジャムを続けていた。その後、モーガンが入学してきて、彼とは友達だったから、バンドを結成するという考えはなしに、モーガンともジャムしてみようぜということになった。それでドラムも入れてジャムをしはじめたら、マイルス・デイヴィスみたいな、もう少しファンキーな感じになった。それから徐々に各自のスタイルを合わせていって、曲を作っていった。ピンと来た瞬間だったのは、「bmbmbm」ができ上がったとき。その音楽を聴いて、「これはたしかにちゃんとした曲だ!」と思ったから、そこに到達したときは、解放感を感じたよ。そうやってブリットスクールで毎日か1日おきに一緒にジャムしていた。俺たちが学校を卒業したときは、曲がいくつかでき上がっていたよ。でも当時、ロンドンのクラブで俺たちの音楽に反応してくれたのは、ザ・ウィンドミルだけで、そこだけがギグのオファーをしてくれた。ギグの数週間前に、ベース担当のキャメロンに、ベースを弾いてくれないかと頼んだ。それまではベース・プレイヤーがいなかったからね。ギグの当日に彼に曲を教えて、彼はギグで演奏した。それは、みんなの想像以上に上手くいって、それ以来、俺たちは毎月ギグのオファーが来るようになった。初めてのギグをやるときは、これは1回で終わる遊びのようなものかと思っていたけれど、ギグへの需要がどんどん高まっていったからバンドとして続けることにしたんだ。

ブラック・ミディ結成前はそれぞれどのような音楽活動をしていましたか。

モーガン・シンプソン(Morgan Simpson、以下MS):ジョーディが話していたように、俺たちはジャムをやっていたし、音楽学校に通っていて学校のコースの一部に、ライヴをやるというのがあったから、一緒にライヴをやったこともあった。そういうライヴでは主に西洋のポップ・ミュージックを演奏するんだけどね。あとは、セッション・ミュージシャンとして、俺は、ロンドンのアーティストたちのバンドでドラムを弾いていたし、ジョーディはギターを弾いていた。

GG:俺たちはみんな幼い頃から音楽に携わってきた。モーガンなんて教会にいたから、赤ちゃんの頃からドラムを触っていたんだぜ。他のみんなは7歳とか8歳くらいから音楽に関わってきた。俺は、音楽に興味を持ちはじめてからは、どんな音楽でも聴いてみようと思った。俺の父親が多様な音楽を聴く人で、彼は「音楽に種類はない。音楽は全て音楽だ」と言って、いろいろな音楽を聴かせてくれた。父親のCDをたくさん借りて聴いていたから、8歳~10歳になると俺は音楽に没頭していたよ。

「ブリットスクール」ではどのようなことを学んでいたのでしょうか。

MS:学校のコースはBTECレベル3と言うんだけど、何よりも重要だったのは、そこで、自分と同じような、音楽に対する情熱を持つ人たちと出会えたということだと思う。俺が入学した当初も、ジョーディとマハヴィシュヌ・オーケストラの話をしたり、ジョーディは俺にボアダムズの音楽を教えたりしてくれた。俺たちはしょっちゅう、お互いにメールして、音楽を紹介しあっていた。マットとキャメロンともそうしていたよ。バンドのみんなと一緒に、学校でジャムをするようになって、お互いが似たような状況にいるのだという実感があった。記憶に残っているのは、ブリットスクールで発表会があったときにやったライヴで、そのときがおそらく俺たちがこのメンバーで初めて一緒に演奏したときだったんじゃないかな。俺たちの他にもうひとりベース・プレイヤーがいたけれど。ノイ!の“Hero”を演奏したんだ。発表会自体が、トータルで30分くらいだったのに、俺たちは11分間くらい演奏していた(笑)。でも先生も俺たちの演奏を奨励してくれたし、聴いていた人たちも楽しんでいた。あれはすごくクールな体験だった。ジョーディとキャメロンがギターを弾いて、ギタリストのマットはクラッシュシンバルを叩いて、俺がドラム、そしてもうひとりの奴がベースを弾いていた。あれはブリットでのクールな瞬間だった。

GG:ブリットの良いところは、音楽業界について、幅広い知識を教えてくれるところだと思う。パフォーマンスについても学ぶし、フリーランスのミュージシャンについても学ぶし、音楽の歴史や理論、民族音楽学や世界中の音楽などについても学ぶ。だから、自分が音楽で何を追求すれば良いのかという扉がたくさん開けるんだ。何が自分に合っていて、学校を卒業したら何を追求したいのかがわかる。

MS:俺も全く同感だ。音楽学校の多くは、例えば、セッション・ミュージシャンになるための具体的なコースが中心となって生徒を教えている。だが、ジョーディが言ったように、ブリットスクールでは、生徒が自由に使える様々なツールを用意してくれて、音楽業界の様々な面について教えてくれる。その中で、生徒は自由にその後の進路を決めて良い、というように生徒にその決断を任せている。それがクールだと思う。

最近はコンピューターの方が、大部分の人間よりも感情を持っているようで面白い。

ブラック・ミディというバンド名は、MIDIファイルを用いた電子音楽ジャンルの「Black MIDI」から来ているのでしょうか。

GG:そう! それだよ。俺とモーガンが友達になりたての頃、いろいろな音楽を紹介し合っていたんだけど、それよりもずっと前にユーチューブで「Black MIDI」の映像を見つけたんだ。すごくクールなコンセプトだと思った。ピアノの音を使って、宇宙船のような破壊的な音に変換できるってことがすごいと思った。音符をものすごくたくさん使うからコンピューターが音を破壊し始めてしまうところが、面白いと思った。まるで自身を解体してしまうアート作品みたいでさ。ただ、「Black MIDI」は、ジョークのような遊び半分のものとして捉えられていた。ユーモアのある、インターネットの遊び、みたいな感じだった。でもそうやって音楽を作ることに俺は可能性を感じる。とにかく、「Black MIDI」を見つけたときは、バンド名としていいなと思っていたんだ。それで、マットと俺がジャムをしていたときに、とりあえずはバンド名をブラック・ミディにしよう、と話していて、もっと良い名前を後で考えようと話していたんだけど、結局しなかった(笑)。

電子音楽のジャンルの「Black MIDI」は日本のニコニコ動画から始まったと言われています。ニコニコ動画はよく見ますか? 

GG&MS:それは知らなかったな。それって何?

通訳:ユーチューブと似たような動画サイトで、日本でよく使われているサイトです。

好きな動画などがあれば教えてください。

GG:事故とかでバイクから人が落ちる映像をまとめたやつが好き。

電子音楽では人間には演奏不可能な音を作り出すことができます。それに対してあなた方ブラック・ミディはあくまでも人間によるバンドです。電子音楽にはないバンドの魅力は、どのようなところにあると思いますか。

GG:人間にはフィジカルな触感があるから、ニュアンスを即座に表現できる能力が断然高いと思う。人間の感覚の範囲内で、即座にすごく静かに演奏したり、すごくうるさく演奏したりすることができる。それから人間にしかない属性と言えば、ヒューマンエラー。本物のヒューマンエラーを機械で再現することは不可能だ。

MS:例えばヒップホップというジャンルの話では、ヒューマンエラーと、エレクトロニックのシステムを融合させて音楽が作られている。J・ディラは、エレクトロニックの機材に、ヒューマンエラーや、その他の人間味の要素を合わせて音楽を作るという才能があった。最近ではそれを再現しようとしている人たちがたくさんいるが、それは彼にしかできないことだったから、それを機械にインプットして再現することはできない。

GG:機械と人間は全く別のもので、どちらにも良い点と悪い点があるよね。最近はコンピューターの方が、大部分の人間よりも感情を持っているようで面白いけど。でも、人間によるライヴ演奏に対する需要は今後も永遠にあると思う。それを求める感覚から人間は逃れられないんだ。

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全てのジャンルの音楽において、そのほとんどが駄作だ。各ジャンルに、良いアーティストが数名、存在している。そういうアーティストは、どんな音楽を作ったって、良い音楽になる。

バンドのブラック・ミディからはマスロック、ポストロック、ポストパンク、サイケデリック、ノイズ、クラウトロックなど様々な音楽性が伺えます。メンバー全員が様々な音楽をたくさん聴いてきたのだと思いました。どのようなメディアで音楽を聴くことが多かったのでしょうか。

MS:俺は、違法なダウンロードをたくさんして(笑)、アルバム名を検索してジップファイルをいろいろなウェブサイトからダウンロードしていたよ。いろいろ試しているうちに、信頼できるサイトで、音の質も良いサイトがわかるようになって、そういうサイトを使うようになった。最初はストリーミング・サービスがあまり好きじゃなかったんだけど、徐々にストリーミング・サービスの餌食になっていった(笑)。別にいいんだけどね。俺の両親はたくさんの音楽をフィジカルで持っていたけれど、俺はそこには興味を持たずに、自分のパソコンから音楽を探してダウンロードしていたね。でも最近になってフィジカルな形の音楽にはまっているよ。

GG:俺はさっきも話したけど、父親が2000枚くらいの膨大なCDのライブラリーを所持していたから、俺が子供の頃は父親のコレクションから自由に音楽を選んで貸してもらっていた。俺はいまでもCDを買うよ。ストリーミング・サービスにはない音源がCDに収録されていることもあるし、ダウンロードでは見つけにくい音源もあるからね。

メンバー全員が共通して好きな音楽ジャンルはありますか。

GG:このジャンルだからという理由で、ある特定のジャンルに忠実だという人はバンド・メンバーにはいないと思う。俺たちは、全てのジャンルの音楽で、好きなものがあると思う。だけど盲目的に好きなジャンルというのはない。良いジャンルなんてものは存在しないと思うんだ。全てのジャンルの音楽において、そのほとんどが駄作だ。各ジャンルに、良いアーティストが数名、存在している。そういうアーティストは、どんな音楽を作ったって、良い音楽になる。俺たちが好きなアーティストというのはいるよ。

MS:俺たちが一緒にバンドをやっているのは、たしかに似たような好みがあるからだけれどね。

反対に、「他のメンバーはそうでもないが自分は好きだ」という音楽はありますか。

GG:誰かの方が、あるスタイルの音楽についてより詳しく知っていたり、経験があったり、というのはあるよ。でもそういう「他のメンバーはそうでもないが自分は好きだ」という白黒はっきりしたものはないな。モーガンはファンクが好きだけど、他の人は好きじゃない、ってわけじゃないから。

今年リリースされた12インチ・シングルには“Talking Heads”という曲がありますが、アメリカのバンドのトーキング・ヘッズに特別な思い入れがあるのでしょうか。

MS:もちろんだよ。この曲をそういうタイトルにしたのは、それがトーキング・ヘッズの音楽みたいに聴こえたからなんだ。曲ができてから、この曲はそういう風に呼んでいて、1年くらいが経った。その後に他の名前を考えようとしたんだけど、思い付かなかったから、この名前が定着したのさ。

何を弾けば良いのかを考えたりしていると、最悪な、ゴミのようなものが出てくる。けど、純粋な潜在意識に身を任せれば、空を飛びはじめるんだよ。

カンのヴォーカルとして活躍したことでも知られるダモ鈴木と共演した音源もリリースされています。ミニマル・ミュージックのようにフレーズを反復していくセッションはどこかカンのようにも聴こえます。あまり決め事を設けずにその場で即興的に演奏したのでしょうか。

MS:そうだね。彼とは45分のセットを2回やったんだけど、両方とも全てが即興だった。ダモ鈴木は、俺たちが最初のセットでステージに上がる5分くらい前に指示を出してくれたけど、それはただ「お前たちが先にステージに上がれ。俺はその後にステージに上がって、ジャンプしたりステージに寝っ転がったりするからお前たちはうるさい音をたくさん出してくれ」ということだった。あれはすごい経験だった。俺たちはそのギグの前の週に、ギグに向けて準備しようとしていたんだけど、結局、ダモ鈴木がやるように、その瞬間を大事にして演奏してみようということになった。

GG:とても実りのあるセッションだった。俺たちにとっては全てが即興だったけど、潜在意識で演奏している最中から生まれたリフにはかなり良いものがあった。後で、そのリフを使って、自分たちの曲へと発展させていった。あのセッションの音源は、セッションのしばらく後に公開されたから、あれを聴いて、「この部分はあの曲に似ているな。ブラック・ミディは自分たちの曲をダモ鈴木と一緒に演奏したのか」と思う人もいたけれど、実はその逆なんだよ。即興セッションで誕生したパーツを再構築して新しい音楽にしたんだ。

MS:WIN-WINなセッションだったよ!

デビュー・アルバム『Schlagenheim』では、5時間のジャム・セッションの中から作られた曲もあると聞きました。ジャム・セッションはブラック・ミディの音楽制作においてやはり重要なものなのでしょうか。

MS:ときが経つに連れて、ジャム・セッションから作曲するというやり方になっていったと思う。試行錯誤してそうなったという感じ。バンドの初期の頃の曲や、アルバムの曲の大部分は、ジョーディとマットが作曲したもので、俺たちはリハーサル室に集まって、その曲を学んで練習していた。そしてときが経つに連れて、ジャム・セッションがバンドの重要な部分になっていった。新しい音楽を作るときは、ジャムをやることが俺たちにとって効果的というか、実りのある作曲方法だということがわかってきたんだ。

GG:ジャムを長い間やっていると、それについて考えなくなる。そのときに、最高な音楽ができるんだ。そういうときは、潜在意識から直接的に音楽が生まれてくる。そこにはフィジカルな行為しかない。ジャムについて考えすぎていると、全くダメになってしまう。何を弾けば良いのかを考えたりしていると、最悪な、ゴミのようなものが出てくる。けど、純粋な潜在意識に身を任せれば、空を飛びはじめるんだよ。

MS:俺たちがジャムをするときは1時間から1時間半くらいなんだけど、その時間の前半はまだ、潜在意識に身を任せるという精神状態に自分を持っていくための時間。何を演奏するべきかとか、何を演奏しているのかとか、そういうことを考えていない精神状態になるための時間。そのときはまだ自分の演奏したものでひとつくらいしか「まあ良いな」と思えるものがない。だが、ある一定の境界線を越えると、その良いと思えるものが全体の3分の1くらいになる。それは自分の潜在意識から来ているからなんだ。だからジャムをやるときは、比較的長い間、続けていないとその精神状態になれないということがわかった。

『Schlagenheim』に収録されている中で、完成させるのが一番大変だった曲を教えてください。

GG:完成させるというのは作曲? レコーディング? レコーディングでは大変な曲はなかったよ。とてもスムーズにいった。

MS:それはプロデューサーのダン(・ケアリー)のおかげでもある。彼とは本当に仕事がしやすくて、全てを円滑に進めてくれた。彼は自分のスタジオのことを隅々まで理解しているから、例えばオーバーダブをするというときに、他のプロデューサーがどうしようかと数分間考えてから行動する所を、ダンはもうマイクを手に持って録音する準備ができていたりする。

GG:彼は「鉄は熱いうちに打て」という精神をよく理解しているのさ! アルバムで最高なパフォーマンスが聴けるのは、有能なミュージシャンたちが初めてスタジオで曲を演奏したときだ。それを正しく弾いているか弾いていないかを考えているときは緊張してしまうからね。初めて演奏するときは、多少のミスがあっても、集中できているし、曲の感覚もつかんでいるから、良いものが生まれる。そういう意味でダンは良いプロデューサーだった。

今年の秋には日本ツアーが控えています。日本にいらっしゃるのは初めてですか?

MS&GG:みんな初めてだと思う。すごく興奮してる!

通訳:私たちもブラック・ミディの来日を楽しみにしています!

日本の音楽で好きなものを教えてください。

GG:うるさいバンドが好き。ボアダムズ、メルト・バナナ、あと大友良英のグラウンド・ゼロも良いね。そういうのが好き。あと日本には良い作曲家もいる。武満徹は良いよね。いまい出すのに苦労しているけど、日本からは良い音楽がたくさん出ているよね。

どういったところが好きなのかもお聞きしたいです。

GG:昔、ボアダムズにはまったときは、スワンズやマイルス・デイヴィスのように、エネルギーを合わせて音楽を作るバンドだと思って衝撃を受けた。だがボアダムズはエディットの仕方がデジタルでプツプツとしていてその組み合わせが面白いと思った。それから、ボアダムズに関連するOOIOOの音楽などをどんどん聴いていった。そうしていろいろな日本の音楽を聴くようになった。

ダモ鈴木とのセッションのようにコラボレーションしたいと思う日本のミュージシャンやグループがいれば教えてください。

MS:俺たちは全ての可能性に対してオープンだ。

GG:俺たちとセッションしたい奴なら誰でも良いよ!

MS:俺たちは誰でもウェルカムだよ!

GG:ボアダムズのヨシミとか、グラウンド・ゼロの大友良英とか、セッションしたい人なら誰でも良いよ。


black midi live in japan 2019

ロンドン発、今最もアツい新生バンドと噂のブラック・ミディが
6月にデビュー・アルバム『Schlagenheim』をリリース!
そして初来日JAPANツアー決定! 超レアなライブになること間違いなし!

9/5 (木) 東京:Unit
9/6 (金) 大阪:Conpass
9/7 (土) 京都:Metro

ロンドンを拠点に活動を開始し、みるみる大注目バンドとなったブラック・ミディが、遂にデビュー・アルバム『Schlagenheim』を6月21日にリリースすることを発表した。
ブラック・ミディは、ジョーディ・グリープ(vo、g)、キャメロン・ピクトン(b、vo)、マット・ケルヴィン(vo、g)とモーガン・シンプソン(ds)の4人で構成され、メンバー全員が19歳か20歳で、アデルやエイミー・ワインハウス、キング・クルールらを輩出した英名門校ブリット・スクールで出会ったという。ゲリラ・ライブを敢行するなど精力的にライブ活動を行い、常に変化するセットリストやその演奏力とオリジナリティ溢れる楽曲から、噂が噂を呼び早くも完売ライブを連発。結成からわずか1年であることから未だに謎が多いが、今最もアツい新生バンドという評判を早々に確立した。
海外のバズを受け、ここ日本でもコアな音楽ファン達の注目を集める中、デビュー作を引っさげた初来日ツアーが決定し、明日よりチケット先行販売がスタート!

9/5 (THU) 東京:UNIT
OPEN 18:00 START 19:00 前売¥5,500(税込)
※別途1ドリンク代 / オールスタンディング ※未就学児童入場不可
INFO: BEATINK 03 5768 1277 [www.beatink.com]

9/6 (FRI) 大阪:CONPASS
OPEN 19:00 START 19:30 前売¥5,500(税込)
※別途1ドリンク代 / オールスタンディング ※未就学児童入場不可
INFO: CONPASS 06 6243 1666 [https://www.conpass.jp]

9/7 (SAT) 京都:METRO
OPEN 17:30 START 18:00 前売¥5,500(税込)
※別途1ドリンク代 / オールスタンディング ※未就学児童入場不可
INFO: METRO 075-752-2787 [info@metro.ne.jp]

label: ROUGH TRADE RECORDS / BEAT RECORDS
artist: black midi
title: Schlagenheim
release date: 2019/6/21 (金) ON SALE

国内盤CD RT0073CDJP ¥2,400(+税)
ボーナストラック2曲追加収録 / 解説・歌詞対訳冊子封入

!!! (Chk Chk Chk) - ele-king

 先日、両A面シングル「UR Paranoid / Off The Grid」をドロップし話題を集めたチック・チック・チックですが、やはりアルバムへの布石だったようです。彼らの8枚目となるニュー・アルバム『Wallop』が8月30日に世界同時リリースされます。収録曲“Serbia Drums”も新たに公開されました。むちゃくちゃポップです。そして嬉しいことに、来日ツアーも決定。10月30日から11月1日にかけて、京都・大阪・東京をまわります。今年の後半はチック・チック・チックで乗り切りましょう。

[7月12日追記]
 はい、恒例のアレです。本日、“Serbia Drums”の「カナ読みリリックビデオ」が公開されました。これで来日公演も大合唱の渦に包まれること間違いなし。チケットは明日13日より発売開始です。ウィヴノン ワーキンニ オブスキューリティ エーン ウィルノーイタゲン♪

ディスコ・ファンクの悦楽とロックの絶頂とが交差する狂騒のフロアへ
チック・チック・チックが最新アルバム『WALLOP』と
待望の来日ツアーを発表!!!
キャリア史上最高にポップなシングル「SERBIA DRUMS」をリリース!!!

先頃、両A面シングル「UR Paranoid / Off The Grid」とミュージック・ビデオを立て続けにドロップし、新たな動きをにおわせていた!!!(チック・チック・チック)が、キャリア史上最高にポップなシングル「Serbia Drums」を新たに解禁し、最新アルバム『Wallop』のリリースを発表した。さらに!!!待望の来日ツアーも決定!!! 東京公演と京都公演の主催者WEB先行はただいまよりスタート! 大阪公演は、主催者先行受付(抽選)が6月25日よりスタートする。

通算8枚目となるニュー・アルバム『Wallop』には、ディスコ~ハウス~ファンク~ロックを大胆に横断し、否が応にも体と心が踊り出す楽曲が満載!!! ニュー・アルバムをひっさげての来日ツアーは超必見!!! 最狂のライブ・バンドと謳われた彼らの真骨頂=ライブで、祝祭のダンスを!!!

とにかく自由になって、未知の世界に行きたかったんだ ──Nic Offer

今作では、ニック・オファーとともにアルバム全編に渡ってヴォーカルを務めるミアー・ペースに加えて、友人でもあるライアーズのフロントマン、アンガス・アンドリューや、シンク・ヤ・ティースのマリア・ウーゾル、グラッサー名義の活動で知られるキャメロン・メシロウらも参加。

プロデューサーには、元アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティで、ベックやザ・ヴァクシーンズの作品などを手がけたコール・M・グライフ・ニールやホーリー・ファックのグラハム・ウォルシュ、長年のコラボレーターであるパトリック・フォードが名を連ねている。

NYの馬鹿げたダンス規制法を痛烈に批判し一躍脚光を浴びた名曲「Me And Giuliani Down By The School Yard (A True Story)」から16年、突き抜けてエネルギッシュかつ痛快に反体制の姿勢を示し続けているチック・チック・チック。世界情勢が終わりの見えない崩壊を続ける今こそ、ダンス・ミュージックの濃密な歴史の中から生まれた、どこまでも自由で強靭な彼らの楽曲が必要とされている。

チック・チック・チック待望のニュー・アルバム『Wallop』は、8月30日(金)に世界同時リリース! 国内盤にはボーナス・トラック“Do The Dial Tone”が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。iTunesでアルバムを予約すると、公開中の“Off The Grid” “UR Paranoid” “Serbia Drums”がいち早くダウンロードできる。また限定輸入盤LPは、グリーン・ヴァイナルとピンク・ヴァイナルの二枚組仕様となっている。

!!! - WALLOP JAPAN TOUR -

東京公演:2019年11月1日(金) O-EAST
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
主催:SHIBUYA TELEVISION
INFO:BEATINK 03-5768-1277 / www.beatink.com

京都公演:2019年10月30日(水) METRO
OPEN 19:00 / START 20:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:METRO 075-752-2787 / info@metro.ne.jp / www.metro.ne.jp

大阪公演:2019年10月31日(木) LIVE HOUSE ANIMA
OPEN 18:00 / START 19:00
前売¥6,500 (税込/別途1ドリンク代/スタンディング) ※未就学児童入場不可
INFO:SMASH WEST 06-6535-5569 / smash-jpn.com

[チケット詳細]
一般発売:7月13日(土)~

label: WARP RECORDS/BEAT RECORDS
artist: !!!
title: Wallop
国内盤CD BRC-608 ¥2,200+tax
国内盤特典: ボーナス・トラック追加収録/解説・歌詞対訳冊子封入

[MORE INFO]
BEATINK
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10335

[Tracklist]
01. Let It Change U
02. Couldn't Have Known
03. Off The Grid
04. In The Grid
05. Serbia Drums
06. My Fault
07. Slow Motion
08. Slo Mo
09. $50 Million
10. Domino
11. Rhythm Of The Gravity
12. UR Paranoid
13. This Is The Door
14. This Is The Dub
15. Do The Dial Tone (Bonus Track for Japan)

〈WARP〉30周年記念ポップアップストアが大阪/京都でも開催決定!

先日東京・原宿で開催された〈WARP〉ポップアップストアに続き、大阪&京都での開催が決定!!

目玉商品は、昨年12月と先週に東京・原宿で開催されたポップアップストアでカルト的人気を誇ったエイフェックス・ツインの輸入オフィシャル・グッズ、「ニューシャネル」やYMOとのコラボTで知られる現代美術家:大竹伸朗によるデザインTシャツや、〈WARP〉30周年記念オリジナルTシャツ、来日公演も発表され、勢い止まらぬフライング・ロータス最新作『FLAMAGRA』グッズ、本レーベルを代表するオリジネイター:プラッドの最新作『POLYMER』グッズなどの最新アーティスト・グッズに加え、アニバーサリーを記念して製作された数々の〈WARP〉ロゴグッズが登場! その他にも、バトルス、チック・チック・チック、マウント・キンビー、ボーズ・オブ・カナダ、ブライアン・イーノなど、〈WARP〉を代表するアーティストのグッズや、レーベルの歴史を彩る数々の名盤のLP/CDなどがずらりと店頭に並ぶ。

また、東京を拠点にするファッションブランド、F-LAGSTUF-F(フラグスタフ)の人気アイテムである完全防水仕様のナイロン・ポンチョに〈WARP〉ロゴを胸にあしらった特別仕様アイテムの受注販売も行われる。

WxAxRxP POP-UP STORE
開催日程:6/29 (土) 〜 6/30 (日)

大阪:6/29 (土) 11:00〜19:00
W CAFE(大阪市中央区西心斎橋1-12-11-1F)

京都:6/30 (日) 11:00〜19:00
LaCCU(京都府京都市中京区御幸町通六角下る 伊勢屋町335-1アップヒルズ227 1F)

【入場に関するご案内】
・開場以前のご来店・整列はご遠慮ください。
・当日の混雑状況に応じて、ご案内の方法が変更となる場合がございます。
・皆様に気持ちよくお過ごしいただく為、スタッフの指示にご協力いただきますようお願いいたします。状況により中止せざるを得ない場合もございますので、ご協力のほどよろしくお願いいたします。

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