「Ord」と一致するもの

The KLF──ストリーミング開始 - ele-king

 1992年の活動休止宣言以来、すべての音源を廃盤としていたザ・KLF(ザ・JAMs、ザ・タイムローズ、ジャスティファイド・エンシェンツ・オブ・ムー・ムー)が、ついにストリーミング・サーヴィスを開始すると、これが2021年元旦のニュースとして世界に流れたことは、すでにご存じの方も多いことと思います。遅ればせながら、ele-kingでも取り上げておきます。

 ちなみにこのニュースは、最初はロンドンの鉄道橋下に貼られたポスターや落書きによってアナウンスされたようです。まあ、俺たちは俺たちのやり方をいまでもやっているんだぜってことでしょう。大晦日にはジミー・コーティのガールフレンドがその落書き現場の写真をインスタにアップしたことも話題になっているし。……しかし、いい歳なのにすごいなぁ。。。

 ストリーミングのシリーズ名は、「 Solid State Logik」。まずは「1」なので、この後、いろいろ続くのでしょうな。
 なお、懐かしのヴィデオはこちらまで(https://www.youtube.com/channel/UCbsEHtpoQxyWVibIPerXhug)。


Time Cow - ele-king

 ダンスホールに新時代を切り開いたイキノックスからタイム・カウことジョーダン・チャンによるソロ1作目。これがまたダンスホールをさらに未来へと、それもかなり遠く未来へ突き進めるものになっている。アルバム・タイトルの「Live Prog」はリアルタイムでプログラミングを行なったという方法論と「生成発展し続けている」という意味を掛け合わせたものなのだろう。「From Home」はもちろんジャマイカのこと。この変化はイギリスではなく、ジャマイカで起きたことだとタイム・カウは告げ知らせている。レゲエ文化はそのすべてをイギリスに奪われてしまったわけではないと彼は言いたいのだろう。ラヴァーズ・ロックもドラムン・ベースもイギリスで生まれた。しかし、ダンスホールはあくまでもジャマイカで「生成発展」しているレゲエの本流なのだと。

 このアルバムには前日譚がある。イキノックスの2人がバーミンガムのMC、RTカル(RTKal)にジャマイカの首都キングストンで人気のエアーBnBに招かれた時のこと。カルが街の騒音をシャット・アウトしようとしていたのを見て、改装中で使えなかったスタジオの代わりにバーに機材を設置させてもらおうと2人は考えた。3人は2018年にフォックスらを加えて総勢6人で“Jump To The Bar”というオールド・スタイルのダンスホールをリリースしていたこともあり(これはブルージーなフォックスのデビュー・アルバム『Juice Flow』として結実)、夜になるとバーでダンスホールの話で盛り上がり、とりわけ2000年代初めに活躍したエレファント・マンの話になると勢いは増した。3人はエレファント・マンがパロディ文化を広めたことに最も意義があるという点で考えが一致し、言ってみれば彼はグレース・ジョーンズとリー・ペリーがバスタ・ライムスと出会ったジギー(イケてる)なミクスチャーだと。その時に勢いで録音したのが、以下の“Elephant Man”。

 最初はたしかにバーで行われたディスカッションの延長上にある曲に思える。しかし、早々にエレファント・マンがどうしたというMCが途切れ、簡素なビートとひらひらとしたメロディだけになってからは僕はむしろホーリーな気分に満たされ、どちらかというとプランク&メビウス『Rastakraut Pasta』を思い出していた。彼ら自身が「ゴースト」と表現するシンセサイザーの雰囲気も桃源郷を思わせる恍惚としたそれであり、クラウトロックに特有の鉱物的なムードが強い。正直なところ、エレファント・マン云々というエピソードはこの曲のリスナーを限定してしまう気がしてもったいないと思うほどである。『Time Cow’s Live Prog Dancehall From Home』も明らかに“Elephant Man”のそうした側面を拡大してできたアルバムで、もしかすると、勢いでできてしまった“Elephant Man”をもう一度再現しようとしてつくり始めた側面があるのかもしれない。いずれにしろ同作はアルバム・タイトルに「Dancehall」と入っていなければミニマル・ミュージックとして認識するリスナーの方が多いかもしれず、ダンスホールとの連続性は作家性の内面に大きく依存するものではある。ダンスホールとは思えないほど抽象化したビートに「ひらひらとしたメロディ」は同じフレーズの繰り返しに置き換えられ、全体的にはアカデミックな印象もなくはない。聴けば聴くほどタイム・カウというプロデューサーのバックボーンが謎めいていく。

 『Time Cow’s Live Prog Dancehall From Home』に収められているのは“Part1”と”Part2”の2パターン。淀みなく伸び伸びとした“Part1”に対して”Part2”は少しダークな変奏が加えられ、イキノックスの作品では大きな比重を占めるダブ・テクノとの境界も取り払われていく。“Elephant Man”が醸し出していたホーリーなムードが抑制されているのはちょっと残念だけれど、ダンスホールの可能性をここまで押し広げたものに文句を言うのはさすがにおこがましい。名義もタイム・カウだし、丑年というだけですべてを受け入れてしまおう。

- ele-king

 あけましておめでとうございます。今月からコラムを書かせていただくことになりました、小山田米呂です。普段は学生の身分を利用して得た時間で音楽を作ったり、たまに頼まれたら文章を書いたりしています。
 ここ3年くらい海外の学校に行ってたのですが、なぜかはわからないのですが、オンライン授業に移行したこともあり、久しぶりに東京で生活しております。僕は自己紹介が苦手なので僕のことは追々、少しずつ書いてみたいと思います。
 僕が最近聴いた音楽、買ったレコードのなかからにとくによかったもの、皆さんとシェアしたいものを紹介します(予定)。
 せっかくの機会なので、ele-king読者の聴かなそうなものもを紹介していければと思います。

1. Shitkid - 20/20 Shitkid

 スウェーデンはストックホルム、PNKSLM Recordingsから、ガレージ・ポップ?バンド、Shitkidのアルバムです。Shitkidは Åsa Söderqvistという女性のプロジェクト。僕が彼女を知ったのは2019年の『DENENTION』というアルバムからですが、2016年から活動していて’17年にファースト・アルバムを出していてコンスタントにリリースしています。'17年リリースのデビュー・アルバム『Fish』は割れたボーカル、歪んだギターとディケイのかかった乾いたドラムとシンプルでDIYなサウンド。

ShitKid - "Sugar Town" (Official Video)

みんな大好き長い黒髪と赤リップ
ShitKid - "RoMaNcE" (OFFICIAL VIDEO)

 ミュージック・ヴィデオの手作り感がフロントマンの Åsaをものすごく映えさせている。お金かけてヴィジュアル作ったり外注しても、ここまで彼女を強く、セクシーに写せない、それを自覚しているであろう眼力。ミュージック・ヴィデオはRoMaNcEにも出演したりライヴではベースやシンセを担当したり、かつてはÅsaのルームメイトでもあった相方的存在、Linda Hedströmが作っているそう。 何より星条旗のビキニとライフルがよく似合ってる!!
 過去のインタヴューで彼女はエレクトロニック・ミュージックに対してあまり興味がないようなことを言っていたが、今作は割とエレクトロニカ・テイストを凝らしていて、格段に音質が良くなり、いままでの荒削りな雰囲気より安定感のある印象の曲が多く、Shitkid第二章とでもいうような洗練を感じる。でもローテンションで割れたヴォーカルは相変わらず。自分のいいとこわかってる。
 こういう音楽が好きだと、時を経るごと上手になってきたり、露出が増えて注目されはじめると“普通”になっていっちゃって曲は良いんだけどなんだか寂しいな〜……なんて思いを何度もしているのですが、今作『20/20 Shitkid』はまだまだ僕のなかに巣食うShitkid(クソガキ)を唸らせる。
 パンクでもロックでも、才能でたまたま生まれちゃう名盤よりも、自分の才能に自覚的だったり、もしくは自分に才能がないのがわかっていながらもストラテジックに、少し無理して作られた物のほうが僕はグッとくるのかも。


 2020年、僕もほとんどの人と同じくいつもと変わった1年を過ごしたわけですが、多くの人と違ったのは僕が今年20歳になったということ。いままで何度行きたいイヴェントの会場の前でセキュリティにごねたことか。このご時世、未成年は深夜イヴェントやクラブに出ているアーティストの一番のファンであったとしてもヴェニューは入れられないのです。
 そしてようやっと20歳になったと思ったら誰も来ないし何もやってないじゃないか! 話が違う!
 とはいえ悪いのはヴェニューでもなく、インターネットの余計なお世話でも相互監視社会でもなくコロナウイルスなのです。多くの人から奪われた掛け替えのない時間の代わりに僕らに与えられたのは美しい孤独。

2. Skullcrusher - Skullcrusher

 アメリカインディレーベル〈Secretly Canadian〉からHelen Ballentineのソロプロジェクト、Skullcrusherのデビュー・シングル。アメリカの田舎の湖畔の情景が浮かびます。ニューヨーク北部出身でロサンゼルス在住でこの曲は長い失業中の孤独の中で書いたそう。だいぶノスタルジーとホームシックにやられてるな。しかし僕らも今年家にいる孤独のなかで少年少女時代の豊かな記憶に思いを馳せ現状を憂いたのは一度や二度ではないはず。ただ目まぐるしく世界が動く慌ただしいこの世のなかに飽き飽きしていた人にとってコロナが与えた孤独はなんと優雅で慈悲深く美しい時間であったことでしょうか。このEPはおそらく去年作られたのでしょうが、きっと彼女はその孤独のなかでこの儚いEPを作り上げたのでしょう。目新しく独創的なでは無いけど、繊細で柔らかな声と胸の痛くなるような問いかけをする歌詞は涙ものです。

Skullcrusher - Places/Plans

3. caroline - Dark blue

〈Rough Trade Records〉からロンドンの8人組バンドcaroline。全くやる気の感じられない名前。ほぼインストのバンドで曲もだらだらと長いのですが8人もいるから手数豊富で飽きない。いまの段階ではギター、パーカッション、ヴァイオリンにベースとドラムという編成ですが、元々3人で出入りを繰り返して8人で落ち着いたらしい。派手ではないけどセンス抜群で気持ちの良いタイミングで聞きたい音が入ってくる。さすが天下の〈RoughTrade〉、Black MidiやSOAKなど話題性のあるアーティストも輩出しつつこういうバンドももれなく拾う懐の深さ。

caroline | Pool #1 - Dark blue

4. Daniel Lopatin - Uncut Gems-Original Motion Picture Soundtrack

〈Warp Records〉から言わずと知れた巨人、OPNことダニエル・ロパティン。OPNのニュー・アルバムはすでにele-kingでもその他多くのメディアでも取り上げられていますがこちらも聴いて欲しい……。映画『Good Time』でもダニエルとタッグを組んでいたJoshua and Benjamin Safdie兄弟監督の映画『Uncut Gems』(邦題:アンカット・ダイヤモンド)のサントラです。アダム・サンドラー演じる主人公、宝石商のハワードはギャンブルにより多額の借金を背負っており、ある日手に入れた超デカイオパールを使って一攫千金を狙い、家族に愛人、借金取り果てにはNBA選手も巻き込みどんどんドツボに嵌っていくという映画だが、アダム・サンドラーがいつもの調子のマシンガントークで借金取りをケムに巻こうと幕しているので状況は切迫し、悪化する一方なのにどこか笑っちゃう。だが音楽はどんどんテンポが上がり不安を掻き立て、ハワードの借金は増えて後がなくなっていく。
 なんだか映画のレヴューみたいになっちゃったけど、サフディー兄弟の写す宝石とダニエルのシンセは双方壮大でギラッギラで最高なので映画もサントラもぜひ。

『アンカット・ダイヤモンド』予告編 - Netflix

Behind the Soundtrack: 'Uncut Gems' with Daniel Lopatin (DOCUMENTARY)

5. 坂本慎太郎 - 好きっていう気持ち/おぼろげナイトクラブ

〈zelone recordsから坂本慎太郎のシングル。僕は日本のアーティストってあまり聴かないのですが、その理由のひとつは歌詞が直接入ってきすぎて嫌なんです。僕は音楽は歌詞よりも音色が心地よかったりよくなかったり、リズムが気持ち良かったり悪かったりが優先されるべきで、音自体がより本質的だと思っているのですが、坂本慎太郎の歌詞は言葉や詩というよりも楽器的で言葉遊びの延長に感じてファニーだしとにかく気持がいい。

The Feeling Of Love / Shintaro Sakamoto (Official Audio)


 ele-king読者の知らなそうなと冒頭に書いておきながら割とみんなすでに聴いていそうな曲ばっか紹介しております。レヴューという形をとっているので仕方ないですが僕がとやかく言っているのを読む前に一度聴いて欲しい……聴いてから読んで欲しい……
 年末に書き出したのにダラダラしてたら年が明けちゃった。今年から、今年も、よろしくお願いします。
 音楽も作っているのでで自己紹介代わりに僕の曲も是非聴いてください。

filifjonkan by milo - Listen to music

Shades Of Blue by milo - Listen to music

Theo Parrish - ele-king

 セオ・パリッシュが6年ぶりにアルバムをリリースした。6年という月日は随分と待たせたなと思うかもしれないが、個人的にはあまりそう待った感覚はしなかった。前作『American Intelligence』もなかなかの衝撃的な内容だったし、何より曲数も多かったのもあって……消化するのにかなり時間がかかった記憶がある。
 14年以降は自身が追求していたライヴ・バンド「The Unit」のプロジェクトも一段落したが、拠点であるデトロイトのアーティストをフィーチャーした「Gentrified Love」シリーズで彼のミュージシャンやプロデューサーとのいわゆる「コラボレーション熱」がより一層加速しているように思えたし、レーベルも個人のリリースよりも後輩や仲間のリリースが目立った印象だ。ジオロジー「Moon Circuitry」やバイロン・ジ・アクエリアス「High Life EP」は彼らのキャリア出世作になったし、UKのベテラン、ディーゴ&カイディ、そしてシカゴの同胞スペクターのアルバムも手がける姿を見ると、自身が先陣を切ってシーンの成長を後押ししているような動きも感じられるくらいだった。

 さて、満を辞してリリースされたアルバム『Wuddaji』。とにかく目を引くのはこの不思議なアートワークだろう。何か等高線のようなものが切り貼りされたアートワークはセオ・パリッシュ自身がコラージュしたもの。LPの中に1枚のインサートが入っておりアートワークについても脚注があるのだが、どうやら「Idlewild(アイドルワイルド)」という地図を用いているのだ。
 脚注の中でこの場所はデトロイトから北西部に300キロほど、シカゴからは北東に450キロほど離れたミシガン湖に近い避暑地のような場所で、1912年以降「アフリカ系アメリカ人(African Americans)」の憩いの場として親しまれ、自然観察やスポーツ・レジャーだけでなく、アレサ・フランクリンやフォー・トップスらがライヴを行なったとも記されている。1964年にアメリカで起きた「公民権運動」の影響で一時利用が禁止される時期があったなどしたが、先祖代々この場所での思い出や記憶を語り継ぐ事で第五、第六世代になった家族たちが現在もこの地でヴァケーションを楽しんでいると綴られている。
 おそらくインサートに記されたアイドルワイルドはまさしくハウス・ミュージックのメタファー(比喩表現)だと推測できる。多くの「アフリカ系アメリカ人」にとって精神的、肉体的な癒しの存在であったり、そこで行なわれてきた様々なクリエイション、そして世代を超えても忘れ去られることなく脈々と紡がれる文脈も非常にシンパシーを感じるところがある。「歴史」とは? 「伝承」とは? 過去から現在まで続くストーリーをセオ・パリッシュ自身はこのアルバムを通してとても丁寧に伝えている。

 アルバム全9曲(E1. “Who Knew Kung Fu” はアナログのみ)を通して基本的に全曲「四つ打ち」をベースとした5分から10分のストイックで全く隙のないロング・トラックがびっしりと並んでいる。アートワークのコンセプトに引っ張られてか少し開放的でオーガニックな雰囲気を随所に感じつつも、相変わらずのセオ・パリッシュ節が随所で炸裂している。
 エレクトリック・ピアノの美しい旋律と共に淡々とトラックが進むA1. “Hambone Cappuccino”にはじまり、アルバムに先駆けて先行でリリースされたB. “This Is For You” ではアルバム唯一のヴォーカル・トラックとしてデトロイトのソウル・シンガー、モーリサ・ローズが力強くもどこか妖艶に歌い上げている。

 タイトル・トラックにもなっているC1. “Wuddaji” では激しいリズム・セッションを披露したかと思えば、続くC2. “Hennyweed Buckdance” ではジャジーなギターリフのようなサウンドがアルバムの音楽性をグッと高めているなど、どの曲も非常にミニマルで渋さもありつつも、サンプリング主体のトラックメイクから本格的なバンド制作や数多くのプロデューサーとのコラボレーションを経て進化~深化したセオ・パリッシュがプロデューサーとして新たなステージに到達した証拠だろう。

 アナログから、CD、カセットテープ、ストリーミングまで全てのフォーマットで積極的にリスナーに届ける気概も含め、アルバム全体のコンセプトやパッケージングまでディテールに拘っている部分はさすがの完成度。ハウスの偉大な先生が2020年に見せてくれた「プライド」に背筋がピンと伸びる。

Common - ele-king

 4年前、2016年のアメリカ大統領選挙直前に通算11枚目となるアルバム『Black America Again』を発表した Common だが、今回の選挙でも投票の4日前に本作『A Beautiful Revolution (Pt 1)』をリリースした。本作はアルバムではなくEP、あるいはミニ・アルバムという位置付けのようであるが、『Black America Again』および昨年(2019年)リリースのアルバム『Let Love』と同じく Karriem Riggins がメイン・プロデューサーを務めており、さらに Common、Karriem Riggins とのスーパーユニット=August Greene の一員でもある Robert Glasper も参加するなど、ここ数年の Common 作品と同じ流れにある。ヒップホップとジャズを軸にしながら、優れたミュージシャンたちと共に高い音楽性を実現すると同時に、人種差別など様々な社会的な問題に対して自らの姿勢を表明し、そして聞く人々を励まし、気持ちを鼓舞する。

 アルバムの核となっているのが先行シングルでもある “Say Peace” だ。エッジの効いたアフロビートのトラックに乗った Common と Black Thought によるマイクリレーが凄まじい格好良さで、平和を勝ち取るための彼らの「美しき革命」がポエティックな表現によって綴られている。Common 自ら「黒いダライ・ラマ」をラップしているように、彼らの戦い方はあくまでも平和的な姿勢が貫かれていて、それは女性シンガー、PJ(Paris Jones)のコーラスにある「Say peace, we don't really want no trouble」という一節にも表れている。その一方で Capleton、Super Cat、Shabba Ranks といったレゲエ・アーティストの声がスクラッチで挿入されるパートは実に戦闘的でもあり、アフロビートの本質が強く引き出された一曲となっている。

 Black Thought 以外にも、デトロイトの詩人 Jessica Care Moore など、多数のゲスト・アーティストが参加している。たとえば Lenny Kravitz が参加した “A Riot In My Mind” は、ロックの要素が強いこの曲のテイストに Lenny Kravitz のコーラスが見事にマッチしている。さらにインパクトが強いのが、Stevie Wonder が参加した “Courageous” だろう。タイトルが示す通り、「勇気とは何か?」ということを問うこの曲であるが、最初のヴァースで「It's like a lyric by Stevie Wonder」という一節を挟んだ上で、曲の最後の最後で Stevie Wonder の吹くハーモニカが登場するという構成が実に見事で、ハーモニカを手にした Stevie Wonder の姿が見えてくるような生々しく美しいメロディに心打たれる。

 『A Beautiful Revolution (Pt 1)』というタイトルから察するに、本作はシリーズとして今後も続いていく可能性が高いが、この「美しき革命」という言葉は今現在の Common が行なっている表現活動そのものとも非常にマッチするし、本作の示す方向性を見事に表している。Common による「美しき革命」がアメリカ社会はもちろんのこと、音楽シーンに対しても少なからず影響を与えることを期待したい。

Tokyo Dub Attack 2020 - ele-king

 毎年年末になるとやって来る〈Tokyo Dub Attack 〉。今年も開催するとのことです。ただし、ホント、マジな話、いまのコロナの感染状況を鑑みるに、くれぐれも油断は禁物です。最高のダブを全身で浴びたい方は充分過ぎる感染予防をしたうえで、かならずルールを守ってお楽しみください。場所は恵比寿ガーデンルーム。入場者数は150人限定。なお、ご自宅で楽しみたい方のために有料配信もあるので、そちらもご検討下さいね。

2020/12/30 (水)
Open 16:00-21:00
*配信は18:00-21:00

Tokyo Dub Attack 2020
At 恵比寿 The Garden Room

-Line ups-
Scorcher Hi Fi with Soundsystem
Riddim Chango Showcase with eastaudio Soundystem
(Bim One Production, Night Scoops (Dub Kazman & Element) from Osaka

CHARGE :
Adv 3,500yen / Door 4,000yen (共にドリンク代別) / LIVE STREAMING (有料配信) 1,500yen
※再入場不可
※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)
※本公演は、内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室のガイドラインに従って収容人数を50%以下(150名)として開催いたします。

-TICKET-
>>一般販売 : 12/5(SAT) on sale
ローソン 0570-084-003 [L] 70842
e+ https://eplus.jp

>>LIVE STREAMING (有料配信)
Tokyo Dub Attack 電子チケット(ZAIKO)https://tokyodubattck.zaiko.io/e/TDA2020

10 Selected Ambient / Downbeat Releases in 2020 - ele-king

 2020年のほとんどを、僕はロンドンの自分のフラットで過ごした。コロナ禍による二回に及ぶロックダウン(都市封鎖)や、それに準ずる段階的外出規制によって、イギリスに住む者の行動はかなり制限されていた。2月までクラブやライヴ・ヴェニューへ行っていたのが別の世界の出来事のように感じられるほど、自分の生活スタイルも変わった。運動のため頻繁に外出するようになったり、自転車で遠出するようになったり、人混みへ注意を払うようになったり。自分が4年ほど住んでいる街を違った視点から見る機会が増えた。
 今年自分が聴いてきた音楽を振り返ってみると、ダンス・ビートよりも、アンビエントやダウンビートと呼ばれる作品が多い。変わりゆく周囲の環境と自分との関連が放つ何かを理解するうえにおいて、頭やケツをバウンスさせる運動神経よりも、隙間がある音に消えていく感覚の方が研ぎ澄まされていくのかもしれない(と言いつつも、年末の紙エレで選んだエレクトロニック・ダンスたちには心底感動させてもらった。アンズのNTSレディオでのヘッスルオーディオ・スペシャルセットを聴くといまも涙が出そうになる)。
 というわけで、今回のサウンド・パトロールは、いわゆるダンス系ではないものを10作品選んだ。もちろんここに載っていない素晴らしい作品もたくさんある。これは自分の独断で選んだ作品リストに過ぎないが、2020年という音楽シーンである種の停止ボタンが押された一年とはなんだったのかを振り返るきっかけになれば幸いである。2年前と同様にフィジカルで持っているものを中心に選び、以下、テキストと写真とともに掲載する。

Kali Malone - Studies For Organ | Self-Released

 アメリカはコロラド出身で現在はストックホルムに拠点を置くパイプオルガン奏者、電子ミニマリスト、カリ・マローンの去年出たサード・アルバム『The Sacrificial Code』は、非常に多くの関心をひいた。この自主リリースされたカセット作品『Studies For Organ』は、去年作品のリハーサルとしてレコーディングされたもので、2017-18年の間にストックホルムとヨーテボリで録音されたと帯にはある。再生してみて驚いたのが低音の力強さである。その屋台骨の上でミニマルに展開されるメロディーは、スザンヌ・チャーニらシンセシストたちが描いてきたサウンドスケープと重なる部分があるかもしれない。不断なく動いていた旋律が変化をやめて持続のみに切り替わるエンディングに息を呑んだ。サラ・ダヴァチやカラーリス・カヴァデイルの活躍を鑑みるに、現代の電子音楽シーンにおけるパイプ・オルガンの存在感は増している。この「呼吸をしない怪物」が現在においてサウンドに内胞しているものを感じる機会が今後も増えていくのかも。

Alex Zhang Hungtai & Pavel Milyakov - STYX | PSY Records

 まさかのコラボレーションである。LAのサックス奏者、アレックス・チャン・ハンタイ(aka ダーティ・ビーチズ)とモスクワの電子作家、パヴェル・ミリヤコフ(aka バッテクノ)がタッグを組み、後者が今年新設したレーベル〈PSY X Records〉からリリースされたのが、このアンビエント作品『STYX』だ。フォーマットはカセット(とデータ)で、テープはモスクワのミリヤコフから直接届いた(彼は今作のミックスとマスタリングも手掛けている。ミリヤコフは自身のプロダクション技術をサブスクライバーに提供する試みも最近スタートした)。オクターバーなどのエフェクターを駆使したミリヤコフのギターとAZHのサックスが、朝焼けのような美しいテクスチャーを生んでいる。モジュラー・シンセが作り出すアグレッシヴなグリッチとサックスの掛け合いなどもあり、単なるアンビエント作品の範疇にもとどまっていない。半透明の青いケースに包まれたカセット・ケースのデザインも秀逸。化学記号のようなシンプルなタイトルは、音の物質性へとリスナーを誘い込む。

Lisa Lerkenfeldt - A Liquor of Daisies | Shelter Press

 オーストラリアはメルボルンを拠点に活動するリサ・ラーケンフェルドは、自身のデビュー・アルバム『Collagen』を、バルトローム・サンソンとフェリシア・アトキンソンが率いる〈Shelter Press〉から今年の8月に出していて、6月に先行する形で同レーベルからカセットでリリースされたのが今作『A Liquor of Daisies』である。アルバムは持続するシンセ、金属的テクスチャー、ディストーション・ドローンなど、手法面で多彩。それに対して、このテープ作は同じピアノのモチーフをループ+電子音というシンプルな構成ではあるものの、モチーフを変調させて驚きを生み、分厚い壁から高原を吹き渡る風のような音へと徐々に変化するエレクトロニクスが、39分48秒を永遠へと変化させる。この呼吸の長さが、LPよりもこのアルバムを特別なものにしている。ジャケットには「ゼロクライサム・ヴィスコサムへの詩、永遠のデージー(註:両方ともオーストラリアの花)、多様な祈る者たちと機械のためのプロポーザル」とある。なお、このカセットのバンドキャンプでの売り上げのすべては、ブラック・ライヴス・マター運動の一環として、オーストラリアのアボリジニ支援団体へと寄付された。

Jon Collin & Demdike Stare - Sketches of Everything | DDS

 2月、僕はロンドンのカフェ・オトで二日に渡って行なわれたデムダイク・ステアのライヴへ行った。そのときのライヴ・リハーサルがカセットになった『Embedded Content』が素晴らしいというのは、別冊紙エレの家聴き特集でも書いた。その次の彼らのリリースになったのが、このランカシャー出身で現在はスウェーデンに拠点を置くギタリスト、ジョン・コリンとのコラボレーション作品『Sketches of Everything』で、さらに連作となる形でカセット『Fragments of Nothing』も出た。フォークやブルースを電子的に自由解釈したコリンのギターを、DSがリヴァーヴやエコーで空間にちりばめ、それがフィルターでねじ曲げられ、カモメの音が遠くへと運んでいく。ジャケットにはコリンの家族写真アーカイヴが借用されていて、ある種、記憶がテーマになっていることは間違いない。ここには憑在論的ホラーではなく、「ああ、昔こういうことがあったよね」という単純な回想が音になっている優しさがある。冒頭10分のなんと綺麗なことだろうか。

Pontiac Streator - Triz | Motion World

 ポンティアック・ストリーターはフィラデルフィアを拠点に抽象的なビートとアンビエントを世界にドロップしている。その生態はアンダーグラウンドに潜っているため、サブスクにはコンピ参加以外作品がなく、流通が少ないレコードかバンドキャンプでその作品にアプローチするしかない。他にもいくつかグループでの名義があり、『Tumbling Towards A Wall』という傑作を今年発表した同じくフィラデルフィアのアンビエント作家ウラ・ストラウスとはアルバム『11 Items』を去年リリースしている。今作『Triz』はソロとしては2作目のアルバムにあたる。彼の作るビートは、LAのようにコズミックではなく、ロンドンのようなハードなホットさがあるわけでもなく、そのアンビエンスはベルリンのようにダークでグリッチィでもない。彼は自分の音を持っている。リズムはアメーバのように俊敏さ柔軟さを兼ね備え、ベースは鼓膜に息を吹きかけるように流れ、ベリアルのようにどこかから採取された音声が滑らかにこだまする。最後の曲名は “Stuck in A Cave” であり、抜けられない洞窟にいるものの、鳥の声が聞こえてくる。困難にいるときでも、想像力は外に向くことができる。ここには希望がある。

Experiences Ltd.

 ベルリン拠点のプロデューサー、シャイ(Shy)はスペシャル・ゲストDJやフエコSとのゴースト・ライド・ザ・ドリフトなどの名義で活動している。彼は〈bblis〉や〈xpq?〉のレーベルを通して、いわゆるアンビエントやダウンテンポという既存ジャンルの両地点の間を漂う楽曲を紹介してきた。それに加えて彼が2019年に開始した〈Experiences Ltd.〉は、今年に入り、頭一つ抜けた力作を続々とリリースした。フィラデルフィアのウラ・ストラウスのウラ名義『Tumbling Towards A Wall』は、テープ・ループで劣化してくような淡いベールに包まれたテクスチャーを、ピアノなどのサウンド・マテリアルのループや重低音で色づかせ、3~5分ほどの長さの楽曲で8つの異なる光景を描いた傑作である。彼女がベルリン拠点のペリラ(Perila)と組んだログ(LOG)はよりクリアなテクスチャーのもと、肉声などを取り込み、異なる角度から静寂へとアプローチ。他にレーベルからは、ニューヨークのベン・ボンディや、日本のウルトラフォッグも参加しているプロジェクト、フォルダー(Folder)といったトランスナショナルな人選が続いている。2020年最後のリリースになったカナダのナップ(Nap)による7インチ「Íntima」は、90年代のアブストラク・ビートがよぎるなど、レーベルが今後もそのカタログを変形させていく可能性を示唆している。なお、レーベル・リリースのマスタリングの多くを手掛けているのは、デムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカー。

Vladislav Delay | Bandcamp Subscription

 今年僕が最も聴いたプロデューサーはヴラディスラフ・ディレイことサス・リパッティである。〈Chain Reaction〉諸作をコンパイルした『Multila』のリマスター、ソロ作『Rakka』とスライ&ロビーとの『500-Push-Up』、マックス・ローダーバウアーとの『Roadblocks』、ルオモ名義の『Vocalcity』リマスターなど、力強いリリースが今年は続いた。いま、彼はバンドキャンプで自身の作品のサブスクリプション・サービスを行なっている。この機会に彼のキャリアを聴き込んでみようと思い、僕は現在それをサブスクしている。月10ユーロでVD名義の作品ほとんど全てが非圧縮音源でダウンロードできるうえ、サブスク限定の音源発表も毎月ある。フィンランドの孤島に建つスタジオで、グリッチ・ノイズからフットワークにいたるあらゆる音像を、毎朝早起きしてリパティはせっせと作り、自然とジャズ、読書からインスピレーションを受けている(まるで村上春樹である)。あるインタヴューによれば、リパッティはオシレーターとフィルターでできることの限界に早い段階で気づいたらしい(といっても充実したユーロラックのセットを使用している)。そして向かったのはダブである。その可能性をミュージック・コンクレートやテクノ以外のリズムへ切り開いた点において、彼は当初つけられたベーシック・チャンネル・フォロワーという枠を超えて自身のスタイルを確立した。改めて、すごい作家である。グリッチの空間化を極めた『Anima』(2001)と高揚感溢れるリズム&サウンドの “Truly” のリミックス(2006)は同じ宇宙に存在しえるのだ。

Suzanne Ciani - A Sonic Womb: Live Buchla Performance at Lapsus | Lapsus Records

 ブクラ・シンセサイザーを駆使し、電子音楽からピンボールの効果音に至るまで、70年代から歴史的な仕事をしてきたシンセシスト/作曲家、スザンヌ・チャーニ。彼女の昨今の電子音楽シーンにおける再評価は、デザイナー/DJ、アンディ・ヴォーテルが共同設立者に名前を連ねる〈Finders Keepers〉からの2016年作『Buchla Concerts 1975』にはじまる。それ以降、彼女はブクラ200eを抱え世界をツアーし、コンサートとトークによる教育を通し、いまもなお音を合成する意義を説いている。今作は2019年のバルセロナでのコンサートの録音であり、70年代にチャーニが使用していたシーケンサーを発展させた即興演奏を聴くことができる。往年のチャーニ作品で使われているアルペジエーターの旋律が、ステレオの左右を拡張せんとばかりに旋回し(オリジナルは左右ではなく四方の異なるスピーカーを使用したクアドロフォニック)、スネア化した短波ノイズが連打されるとき、客席から歓声が上がる。今作の開始と終わりには波の音がある。ただ理想化しているだけかもしれないけれど、あなたがブクラで作る波の音はなぜかとてもオーガニックに聞こえるんです、という2016 年のレッドブルミュージック・アカデミーの受講生の質問に、チャーニはシンプルに「それは複雑だからです」と答えている。楽曲が生む興奮に加え、独自の発振回路を持つブクラでオシレータとフィルターを入念に組み合わせて生まれる彼女の波の音は、自然を人間の側から思考する重要な事例でもあるのだ。

Drew McDowall - Agalma | Dais Records

 70年代から90年代にかけて、コイルやサイキックTVの長年の共作者、あるいはそのメンバーとしても知られる、スコットランド出身で現在はブルックリンを拠点に置くドリュー・マクドウォル。近年はモジュラー・シンセを表現メディアの主軸においている。2年前に出た、同じくニューヨーク拠点のモジュラー・シンセシスト、ヒロ・コーネとのEP「The Ghost of George Bataille」が示唆していたかのように、ソロとしては5作目の『Agalma』は、数々の客演が目白押しになっている。ともに実験的シンセシストであるカテリーナ・バルビエリロバート・アイキ・オーブリー・ロウとの共同作業において、逆行するサウンドや加工された肉声が、ハープなどの異なるマテリアルとともに、あらゆる方向から飛び交ってくる。先に書いたカリ・マローネの参加曲は、とぐろを巻くようなベースと左右の空間を埋め尽くすリードが、オルガンと奇怪に絡み合う。ヴァイオリンやダブルベースといった楽器も今作には多数散りばめられている。ノイズ/エクスペリメンタルの若手として知られるバシャー・スレイマン、エルヴィン・ブランディや、カイロのズリとの共作や去年のデビュー作『Dhil-un Taht Shajarat Al-Zaqum』で頭角を現したサウジアラビアのシンガー、ムシルマ(MSYLMA)らが参加したLP盤の終曲は、楽器とエレクトロニスのオーケストレーションとヴォーカルが圧巻のシンフォニーを見せる。ギリシャ語で彫像を意味する「agalma」が各楽曲の番号とともに割り振られた今作は、曲ごとに異なるサウンド・フォームを模索している。一貫して広がる暗さに引きずり込まれ、聴くことを止めることができない傑作だ(レコードは手に入れるタイミングを逃してしまった……)。

Burial + Four Tet + Thom Yorke - Her Revolution / His Rope | XL Recordings

 最後はウワサのアレ。ロンドンの三つのレコ屋がこの12インチの入荷を告知した翌日に在庫をチェックしたところ、すべての店舗ではソールドアウトになっていた。限定300枚だしな、と諦めていたところ、その一週間後にとあるレコ屋のサイトを眺めていたら、どういうわけか入荷していて入手することができた。フォー・テットが自身のレーベル〈Text〉から、それまでのデザインとは異なる黒ラベルで発表したベリアルとの最初のコラボ12インチ「Moth / Wolf Club」が出たのが2009年。そこにトム・ヨークが加わった「Ego / Mirror」が2011年、そして翌年には再び2人に戻って「Nova」をリリースしている。今回の曲調は前回のようにハウスではなく、減速したツーステップでもなく、いわゆるダウンテンポと括られるスローなビートになっている。これまでもそうであったように、今作にもベリアル的なクラックル・ノイズが散りばめられ、フォー・テット的な色彩を加える流浪のシンセ・リードがあり、どこからか現在に回帰してくるサンプリングが澄んだ情景を生む。ヨークの声はトラックの前面に出ているというよりは、キックによって区切られる間隔でこだましているかのよう。レコードのランナウト(曲とラベルの間)に「SPRING 2020」とあるので今年になって録音されたものなのだろうか。であるならば、ヨークの歌詞が放つ、犠牲がともなう革命、完璧な自己破壊といったモチーフは、パンデミックやブレグジットとも時代的に呼応しているのかもしれない。それが透き通るようなトラックのなかで鳴っている。2021年、この12インチ はどのように聴こえるのだろうか。

 日本ではKダブ・シャインによるブラック・ライヴズ・マター批判が話題になったけれど、アメリカでBLM批判の急先鋒といえばキャンディス・オーウェンズである。最初は若い黒人の思想家がドナルド・トランプを称揚していると話題になり、TVでも事あるごとに取り上げられるようになった。2年前にカニエ・ウエストがツイッターで彼女の思想を持ち上げたことで一気に注目の的となり、その直後に2人は急接近したようで、黒人が奴隷になったのは自らにもそう望んだ面があったからだとか、カニエ・ウエストの言動が以前よりもオルタナ右翼に近づいたのは彼女の影響によるところ大だったと考えられる。この秋の大統領選では「Brexit」の「R」を「L」に変えると「民主党からの離脱」を意味する「Blexit」という単語になり、民主党批判のキャンペーンにこのスローガンを使っていたオーウェンズが「ロゴをデザインしてくれたのはカニエ・ウエスト」だと吹聴していたところ、自分はデザイナーを紹介しただけだとカニエ・ウエストが抗議し、オーウェンズがブログで謝罪するという展開もあった。ちなみに選挙以前からオーウェンズが攻撃し続けたのは早くからバイデン支持を表明していたカーディ・Bで、オーウェンズは「あなたはバイデンやサンダースに利用されているだけだ」と執拗にカーディ・Bをバカ扱いし、SNS上で口汚く罵り合うこともしばしとなる。なお、カーディ・Bはトランプ支持者に自宅の住所を公開されて火をつけると脅されたため、犯人を特定したところ10代の若者が容疑者として浮かび上がったため、やるせない気持ちになったと述懐している。

 キャンディス・オーウェンズは最初からオルタナ右翼だったわけではないという。25歳で立ち上げたマーケティングの会社ではむしろ「共和党の狂気」とかドナルド・トランプのペニスのサイズがどうとかいったような記事まで書いていたとも。これがゲーマーとフェミニズムが対立して殺害予告や爆破予告の嵐となった「ゲーマーゲート論争」に巻き込まれて、個人情報をネットに晒され、窮地に陥った時にオルタナ右翼に救われ「一夜にして保守派になった」のだという。「リべラルは実際にはレイシストなんだと悟った。リベラルはネットを荒らしてドヤ顔をしたいだけ(=trolls)なんだと」。オーウェンズだけでなく、ゲーマーゲートの多くがこの論争を境にオルタナ右翼になったと言われている。女性のゲームプログラマーによる枕営業の有無が発端となって14年から16年にかけて大きな社会問題となった「ゲーマーゲート論争」はプログラマーの回想録を元に現在、映画化も検討されているそうで、業界の癒着やフェミニズムなど多くの議論が交わされたなか、やはり焦点のひとつとして浮かび上がるのがポリティカル・コレクトネスである。ネット・リンチに発展してしまうこともあるPCに対して、オーウェンズはここで強く否定的な感情を抱き、「攻撃対象を探しては潰しにかかるリベラル」という図式を固定させたのである。

 どちらに向かうかはともかく、オーウェンズが若くして才能を発揮した人物だということは疑いがない。それが黒人で女性だとなると、おそらくは黒人だから優遇されたんだろうとか(オーウェンズは「ブラック・カード」を使うという言い方をする)、女性だからチャンスをもらえたんだろうというやっかみに遭遇したことも多々あったに違いない。PCに対して息苦しい思いをしている人はたくさんいるだろうけれど、PCによって守られている人にも同じことはいえるということである。オーウェンズにとっては個人の才能に帰結することなのに、アファマーティヴ・アクションと呼ばれる優遇政策のおかげで現在の地位があると捉えられることは自分の才能を否定されるに等しく、アファマーティヴ・アクションをいとましく思うこともあったに違いない。そして、その優遇政策が何に由来するかというと、黒人は不当に扱われているという「考え方」であり、構造的な人種差別があるという「思い込み」だとオーウェンズは主張する。「そんなものはない。黒人は差別されていないし、私はやろうと思えば白人男性と同じことができる」とオーウェンズは繰り返し強調する。いわば民主党によって黒人たちは自虐史観に染められてしまい、何もできない人種だという考え方から抜け出られないだけだと。それがアイデンティティ・ポリティクスの正体だとオーウェンズは「見破った」。黒人のステロタイプな表現から逸脱したカニエ・ウエストが個人の能力を評価するという思想に共鳴したことも、だから、不思議ではないし、多少とでも社会性を持っていればマイケル・ジャクスンだって共鳴した可能性はある。プリンスやビヨンセはそうではなかった(『ブラック・パワー別冊』参照)。

 黒人は不当に差別されているという「間違った考え方」に基づくBLMは、だから、ただのテロ行為であり、「BLMは西欧社会を破壊する行為だ」とオーウェンズは続ける。BLMは初めから民主党が仕掛けた詐欺で、ジョージ・フロイドは黒人の悪しきカルチャーを象徴する人物だと彼女は断じて止まない。実は前述したカーディ・Bとは最初から言い争いになったわけではなく、保守系メディアで彼女が持つ番組に2500万円という破格のギャラで出演をオファーしたところ、「ジョージ・フロイドの死は当然だったとする人間とは口をききたくない」と一蹴され、先の論争がはじまったという流れだった。30代になると、オーウェンズの議論は結論ありきのものでしかなくなり、新たに起きている事象や事件から何かを読み解こうとするものではなくなっていく。最近ではアナ・ウィンターによって最高の男性モデルだと持ち上げられたハリー・スタイルズがデヴィッド・ボウイばりに中性的なファッションでヴォーグ誌に登場すると「男は男らしくしろ」とオーウェンズがツイートし、スタイルズはこれを無視、さらに過激なファッションで登場するなど、頭のいい人からは相手にもされなくなってきた。カニエ・ウエストがオーウェンズに共感の意をツイートした翌月、ドナルド・トランプも「キャンディス・オーウェンズはとても賢い思想家だ」とツイートし、大いに持ち上げていたのだけれど、「バイデンやサンダースに利用されているだけ」という彼女の言葉が固有名詞を入れ替えればブーメランとなって彼女の元に戻ってくるような気がするのは僕だけだろうか。


Various - ele-king

 ときに、人は生きるために踊ることがある。社会に変革をもたらすダンスを。反戦、反差別のメッセージを掲げ、巨大なスピーカーから流れるダンス・ミュージックと共に国家権力や法体制に対抗するサウンドデモは社会運動のひとつとして定着し、いまもなお世界各地でおこなわれている。日本も例外でなく、最近では Mars89、Mari Sakurai、篠田ミルといった東京のパーティー・シーンを率いるDJ陣を中心としたサウンドデモ・Protest Rave が都市部で定期的に開かれ、非道な法改正などに対抗すべく爆音のダンス・ミュージックで街全体を轟かし、人びとの意識を奮い立たせている。
 彼らの強烈なプレイは怒れる民衆の叫びにさも似たり。耳をつんざくサウンドが社会に示すのは、新たなる未来へ生きのびようと奮闘する我々のスタンスでもあるのだ。〈Live From Earth Klub〉と〈Never Sleep〉による共同コンピレーション・アルバム『United Ravers Against Fascism』は、まさにそういった反ファシズムを掲げるサウンドデモ的なスタンスで、ガバというダンス・ミュージックの未来を切り開く革命を起こそうとしているように思えた。

 ダンス・ミュージック・シーンの最先端を走るヨーロッパ発の二大コレクティヴが贈る本作は、HDMIRROR の “Burst Open” をはじめに、昨年渋谷WWWで開催されたネオレイヴパーティー・FREE RAVE にて来日公演をおこなった Von Bikräv が所属する Casual Gabberz の “F Le 17” と、けたたましくも華々しいトラックで幕を開ける。Merzbow 的なジャパノイズの影響を感じる Lizzitsky の淡々とした “Hd is off Anxiety Attack” に並ぶのは、TRANCEMAN2000 としても活動中の Falling Apart が繰り出すダークでアシッドな “Sex With God”。Skander による7分越えの “Paraphobia” のあとには、対照的に Powell の2分にも満たないエクスペリメンタルなショート・トラック “Z-Plane” がやってきて……と、ときおり変化球も飛んでくる現代的な進化系ガバ・サウンドがふんだんに詰め込まれている。

 メッセージ性の強い本作のコンセプトを象徴するのは、重厚な雰囲気を歪みに歪んだキックが切り刻む “Grande Raccordo Anulare” だろう。The Panacea と共にこのトラックを手がけた Gabber Eleganza ことアルベルト・ゲリーニは、2011年に tumblr で同名のアーカイヴ・プロジェクトを開設以降、コレクティヴとしての活動のほかガバのアーキヴィストとしても知られている。DJ、プロデューサーといった楽曲面以外にも、ZINEの出版やアパレルの販売、アート・キュレーションを手掛けたりと各方面でガバの魅力を発信する彼は、次のステップとして2019年にレーベル〈Never Sleep〉を立ち上げた。ガバの新しいプラットフォームとなる〈Never Sleep〉が目指すのは、古き良き時代を懐かしみ楽しむだけでなく、新世代のアーティストと共同しガバのカルチャーを新たに発展させてゆくこと。明確なヴィジョンを持ってガバの美学を追求する彼らは今回、ガバがオランダの労働者階級のユース・サブカルチャーからヨーロッパの中で突出したジャンルへと成長していった90年代において、ナショナリズムやファシズムなどの政治的イデオロギーにも結び付けられていたという複雑な歴史的背景を本作でアーカイヴすることで、今日のシーンに対してポスト・ガバ視点でのアプローチを仕掛けた。

 ダンス・ミュージックのサブジャンルを鋭く捉えたサウンドでシーンのさらなる展望を描く〈Live From Earth Klub〉と手を取り合い、忌避しがたい過去を踏まえいまの時代にガバの再解釈に挑んだ〈Never Sleep〉一行。なかなかに先鋭的なトラックが全体を彩ったのち、参加アーティストの中では大ベテラン枠に位置する Ilsa Gold の “Autre Chien” で王道ともいえるオールドスクール・ガバから、最近 Bladee との共作をリリースした注目株のプロデューサー・Mechatok の “Powder” と、透き通ったアンビエントへとつながるラストの流れは、彼らがかつてのシーンと現在をつなぐ架け橋となる様をもアーカイヴ的に物語っているようにも聴こえる。この屈強で愛すべきダンス・ミュージック、ガバがこれからも生きながらえる明るい未来を目指す勇姿を。

New Project of Jeff Mills - ele-king

 先日リリースしたバイロン・ジ・アクエリアスも好評なアクシス。2020年は、ベネフィシアリーズをはじめ、ジェフ・ミルズのミルザート名義の「Every Dog Has Its Day」シリーズがいつの間にか「vol.13」までリリースされているほか、おそろしく積極的に他のアーティストの作品も毎月のようにリリースしている。コロナ禍において、かえってやる気がみなぎってしまっているようだ。ちなみに「Every Dog Has Its Day vol. 4」は今週までフリーダウンロードできる。
 さて、その休みなきジェフだが、年明け1月には彼の新プロジェクト、ザ・パラドックスのアルバム『Counter Active』がリリースされる。これは故トニー・アレンのバックも務めていたガイアナ移民としてフランスで暮らすピアニスト、ジャン・フィ・デイリー(Jean-Phi Dary)とのコラボレーションになる。アフロ・キューバンとコンパ(ハイチの音楽)からの影響のなかに、ジャズ、レゲエとファンクが融和されたデイリーの演奏の評価は高く、ピーター・ゲイブリルやパパ・ウェンバ(コンゴの歌手)、有名なドラマーのパコ・セリー(ザヴィヌル・シンジケート)らのバックも務めている。

「トニー・アレンとの『Tomorrow Comes The Harvest』でのコラボレーションの延長としてこの企画は生まれた」とジェフの弁。「演奏のセットアップ後にジャン・フィと僕で簡単なジャム・セッションをするのが通常で、実際の演奏ではトニー・アレンが加わって、そしてサウンドチェック時のグルーヴを発展させていく」、このセッションのなか楽曲は「数分のうちに完成した」という。
「そのアイディアをスタジオに持ち込みレコーディングしたのが今回のアルバム。1年をかけてパリ周辺の様々なスタジオで膨大な量の曲をレコーディングした」
「『カウンター・アクティヴ』はふたつのクリエイティヴな精神が妥協や制限なくぶつかり合った結果。音楽が我々の人となり、言いたいことを如実に表している。タイトルは目的を持って成し遂げることを意味している。ちなみに『カウンター・アクティヴ』は二部構成の第一部なんだ」
 まずはその一部を楽しみに待とう。

The Paradox
Counter Active

Axis / AX096

Track Titles:
A1. Super Solid
B1. The X Factor
B2. Residence
C1. Twilight
C2. Ultraviolet
D. Residence (Alternate version)

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