「Ord」と一致するもの

Minmoa - ele-king

 いつまでも聴いていたい魅力的な歌声に、なんとも繊細なバンド・アンサンブル──なるほど、結成から5年かけてつくりこんだという話も納得だ。ひとつひとつの音が丁寧に絡み合っている。おいしいはなしの今野嵩朗を中心に結成されたフォーク・ロック・バンド、ミンモアのファースト・アルバム『帰郷の日』が2月3日にリリースされている。どこか懐かしいのに現代的、寂しげなのになぜかあたたかい、絶妙なニュアンスが表現されています。ぜひチェックを。

微睡みを誘う柔らかな歌声にそこはかとなく漂う寂寥感……、ソフト~フォークロックからの源流を現代的なサウンドへと昇華した至高の音世界~ミンモア『帰郷の日』本日発売&MV解禁!

微睡みを誘うような柔らかなサウンドでありながらどことなく漂う寂寥感、そして独創的な世界観を “うた” で表現する女性ヴォーカルで東京インディー・シーン唯一無二の存在感を示すミンモア。Salt Water Taffy や Eternity’s Children、Millennium、さらには Fairport Convention や Virgin Insanity といったソフト&フォークロックからの源流を現代的に解釈したサウンドで高い評価を受けていた彼らが、結成から5年の月日をかけて作り込んだ待望の1stアルバム『帰郷の日』がいよいよ本日発売&収録曲 “深夜の定期便” MV解禁! ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、フルート、キーボードといった多様な編成による印象的なアンサンブルとレイドバックしたフィーリングによるソフトなサイケデリック感は、半世紀という長い年月をかけて紡がれてきたまさに至高の音世界です!

・ミンモア「深夜の定期便」(Official Music Video)
https://youtu.be/bt-cvdCtKps

推薦コメント(五十音順・敬称略)

●岡村詩野(音楽評論家/TURN編集長)

「ニッポン・フォークロア」そんな名前をつけたくなる作品だ。
ブラジルはミナスの音楽や、アパラチアン・フォークへのアプローチを感じさせつつも、どうしようもなく日本の情緒が言葉とメロディに刻まれていて胸が甘やかに締め付けられる。
あの頃の風景と、これからの生活とを繋ぐ魔法の扉のような、柔らかで穏やかだけど意志の強い歌。
リーダーのコンノくんとは「おいしいはなし」の頃からのつきあいで、その頃からちょっとヘンテコな曲を作るソングライターだなと思っていたけれど、今はこんなにも地に足のついたヒューマンなコンポーザーだ。
どの曲も素敵だけど、私は「帰郷の日」が特に好き。旋律もハーモニーもアレンジもパーフェクトです。

●柴崎祐二(音楽ディレクター/評論家)

前バンド〈おいしいはなし〉の頃から、リーダーの今野くんは常になにか胸中に思いを秘めたところのある人だと思っていた。
やりたいことをやりながらも、同時に本当にやりたいことを探している、そんな佇まい。
ミンモアという新しいバンドを始動させたという便りを聴いて以来、その「やりたいこと」をどのように熟成させていくのかを密かに期待していたのだけど、このアルバムはその期待に応えてくれる、というかそれ以上の成果を聴かせてくれる。

バンドという形態をもってこういう繊細なニュアンスに富んだ音楽をやること。「ひとり」で音楽をつくることが常態化してしまった今、それはかなり難しい道であると想像する。けれど、ここに結実した音楽は、いかにも軽やかで、センスフルだ。

豊かな余白が全体を包み、さまざまなコミュニケーションの色彩が織り込まれてもいる。
彼らも私も、長らくインディー・ポップに執心してきた同志であるという気持ちを再確認させる、みずみずしい「懐かしさ」。経年とともに新たに生成する、音楽の芳醇。
今、こういう音楽があってくれることが、とてもありがたい。

やりたいことを焼き付けながらも、その余白でやりたいことを更に想像させる音楽。
思えば、私はそういう健やかな野心が秘められた音楽をずっと聴いてきたし、これからも聴き続けるだろう。

●元山ツトム(ペダルスティール奏者、ゑでぃまぁこん)

待望のミンモアのフルアルバム。素晴らしいですね。抜けるようなフルートやグロッケン、巧みに構築されたコーラス。
この大きな作業をやり遂げた後のライブを早く見てみたいと思いました。きっと素敵に違いないことでしょう。
ボーカルのサエコさん、ちょっとやそっとじゃ動じない佇まいで、なにやら元々ハードコアな界隈に出入りしてたそう。
ガンガンにディストーションだった人達が作るソフトなロックってやっぱりちょっと違いますよ。
僕や僕の周りも割とそんな感じなのでまた一人仲間が増えたみたいで頼もしくもあります。
そしてお坊さんでもありサッカー選手でもあると聞いた。もう逆らえないですよ。笑

[アルバム情報]
アーティスト:ミンモア
タイトル:帰郷の日
レーベル:P-VINE
品番:PCD-25316
定価:¥2,500+税
発売日:2021年2月3日(水)

試聴/購入 https://smarturl.it/minmoa_kikyoNoHi

《収録曲》
1. 誰かが私を通り抜けた
2. 帰郷の日
3. 音信
4. 深夜の定期便
5. オオカミ
6. あこがれ
7. 草原

Minmoa(ミンモア)
2016年、ギターの今野嵩朗を中心に結成されたソフトサイケ~フォークロックバンド。ヴォーカル、ギター、ベース、ドラム、シンセサイザー、フルート、キーボードといった多様な編成で都内を中心に精力的なライヴ活動を行い2018年にはゑでぃまぁこんの元山ツトムがマスタリングを手掛けた1st EP「Minmoa」を発表、60年代ソフト〜フォークロックを多彩なアンサンブルで現代的なサウンドへと昇華したスタイルで東京インディー・シーンにおいて唯一無二な存在感を示す。2021年2月に待望の1stフルアルバム『帰郷の日』を発売。

今野嵩朗(Guitar) / 沙恵子(Vocal, Synthesizer) / 古見千桜子(Drum,Chorus)

-Mimoa Official-
https://minmoaband.tumblr.com
https://twitter.com/minmoaband

The KLF - ele-king

 1990年2月5日にリリースされたザ・KLFの『Chill Out』は2021年2月4日に再編集されてリリースされた。そのタイトルは『Come Down Dawn』。
 言うまでもなく、ザ・KLFの『Chill Out』は歴史的なアルバムで、おそらく彼らの最高傑作。この“アンビエント作品”は、レイヴ・カルチャーの豊かさを補完する音楽だったが、と同時にサンプリング・ミュージックとしてのアンビエントの最初で最良の成果でもあった。もとよりザ・KLFは、アバからビートルズまで、他からのど派手な盗用(サンプリング)によって作品を作っていたが、『Chill Out』においても手法は同じだった。フリートウッド・マックの“アルバトロス”をこのアルバムで知った人間だって少なくない。しかしながら、今回の『Come Down Dawn』には、オリジナルにあったエルヴィス・プレスリーのサンプリングは削除されている。また、ほかにも修正点があるそうだ。以下は彼らのサイトからの転載。

「『Come Down Dawn』は2021年2月4日にリリースされた。『Come Down Dawn』はザ・ジャスティファイド・エンチェント・オブ・ムー・ムーによってドライヴされた。ドライヴは彼らをニューヨークのブルックリンにあるウェイド牧師の幕屋からメキシコシティ近郊のメソアメリカのピラミッドまで連れていった。ドライヴは43時間以上かかった。ドライヴは1990年2月4日の日曜日の夜明けのはじまりとともに終わった。ザ・ジャスティファイド・エンチェント・オブ・ムー・ムーによる『Come Down Dawn』は、1990年2月5日にリリースされたザ・KLFの『Chill Out』のプレ・ミックスでもある。『Come Down Dawn』は『Chill Out』から31年後の前日にリリースされた。すべての曲は1989年後半の、ザ・ジャスティファイド・エンチェント・オブ・ムー・ムーのトランセトラルにおけるライヴを録音したもの。ゲストとして、ペダル・スチール・ギターのEvil Graham Lee、喉歌には無名の犬羊飼い、スピリチュアル・ガイダンスとしてDoctor Wadeが参加している」

 というわけで、週末はCHILL OUT OR DIE!ですな。

2 僕の中のAriel Pink - ele-king

 こんにちは。光の速さで時が過ぎ、2021年もすでに2月ですが、世間は緊急事態宣言が出ていてもわりと賑やか。コロナ終結の兆しはまったく見えませんが、一足先に終わりを告げたトランプ政権。ですが、ドナルド・トランプは最後の最後までドナルド・トランプ。ビキニチューバッカ男や演壇泥棒、Qanon、過激なトランプ支持者たちを扇動し連邦議会突入し占拠するという米英戦争以来200年ぶりのド派手なクーデター未遂をやらかしたわけですが、インディー・ヒーローがその現場にいたとか。

Shame - Drunk Tank Pink

 Phoebe Bridgers, Mitski, Khruangbinなど近年ヒットが多い〈Dead Oceans〉からShameの待望のセカンド・アルバム『Drunk Tank Pink』です。 僕は2018年にLAで彼らのライヴを観たのですが、本国イギリスやEUはもちろんアメリカで も細かく回ってかなりの数をこなしていてだいぶ完成されているなという印象でした。『Drunk Tank Pink』のイントロと共にヴォーカルが登場、Tシャツを脱いで「We're white christian band from England!!」と怒鳴り、会場大ウケ。1曲目からバンドもオーディエンスもフルスロットル。その後もツバ吐いて体に塗ったり、ずっと乳首いじりながら歌ったり、ベースがステージを走り回って頭からコケたりめちゃくちゃだけど会場はもう盛り上がり過ぎじゃないかってくらいの熱気で、曲間のジョークもウケるウケる。サウスロンドンのインディー・シーンで頭ひとつ抜け出る理由はこれか、と妙に納得した思い出があります。そんなShameの新作は曲がかなり複雑で、ポスト・ロック的な、よりライヴを意識したアルバム。


 そうご存じ、Ariel PinkとJohn Mausです。正直僕は世代ではないけどもちろん大好きで、僕はAntiトランプというのもあり、わりと悲しかったけど、いままでヒーローと崇めていたのにいきなり掌返してレコード叩き割る人もいるのか……それはそれで落ち込む。  アメリカ国民の半分はトランプ支持者というのも事実で、言い出さないだけで隠れトランピストやレイシストのミュージシャンやアーティストもアメリカのみならず日本にもまだまだいるでしょうし、音楽業界内でのセクシズム関連の問題もいまだ根深い。批判も大いに必要。  Arielから話は逸れますが、トランピストに関してはバカと揶揄するのは簡単だが(バカじゃないとは言ってない)ただ“排除”していったところで怒らせるだけで、むしろその行為がこの分断のそもそもの一因なのでは? と思うのです。数は減ろうとも根絶には至らず、またいつか揺り返しとして“そういう”主義に同調する人びとが増える。これは永く繰り返されてきたことで、レイシズム、セクシズムその他諸々の悪習を根絶やしにするためには、吊し上げて制裁を加えるのではなく、彼らが何故そのような思想に陥ったかを検証し、対話し、忘れず、教育に生かすことではないでしょうか。BLMに関しても、僕の認識としては、個人単位での批判ではなく、BLMという運動のもとに個々の事件や問題を集約し、構造その物を標的に改革を目指すことがもっとも効果を出すという理論で動いているからこそいま大きな力を持つ運動となっているのではないでしょうか。

Holy Motors - Horse

 NYの〈Wharf Cat Records〉からエストニアのドリーム・ポップ・バンド、Holy Mortorsのセカンド・アルバムです。本人たちがルーツだとするアメリカン、ロカビリー・テイスト満載。でもいくらアメリカナイズされようとも拭えない寒い国ならではの霧がかかった様な陰鬱さ。そのバランスが心地よいドリーム・ポップです。ツイン・ピークス好きは必聴。


 それでも僕はArielがレイシストであれど彼のレコードに罪があるのか? 2009年に天邪鬼な変人オタク野郎を〈4AD〉と世界が受け入れただけで彼自身は子供の頃から何も変わって無いような人で、そこがみんな好きだったんじゃないの? とも思ったり。 ただ、変わったのは僕らでArielのレコードはいつも変わらずそこにいてくれる。

Viagra Boys - Welfare Jazz

 スウェーデン、ストックホルムのインディ・レーベル、〈YEAR0001〉からViagra Boysのセカンド・アルバム。もう最高っ! 前作よりも色付いたようにゴージャスになって再登場。基本ポスト・パンクだけど、ヴィンヴィンなベースと反復されるビートがずっと聴いてると気持ちよぉ~くなってくる。Suicideのそれと似てるかも。 彼ら見た目が怖すぎるのですが、なかでもヴォーカルの全身タトゥーでビールっ腹のおじさん、IDLESのヴォーカルとタメ張れるくらい怖い。でも半ケツでフラフラ踊りながら歌う姿が超笑えるので一見の価値ありです。これもライヴが楽しみなアルバム。早く生ケツ……大きい音で聴きたいな~。

Roberto Musci - Melanesia

 フランス〈Oxmose Records〉からイタリア・ミラノの実験音楽家、Roberto Musciの新作です。 前作『Tower of Silence』はエキゾチック・アンビエント、オリエンタルな雰囲気もあるけどアフリカの民謡っぽくもあり、彼は70年代から80年代にかけてインド、アフリカなどの国を放浪していたらしく、色んな国を旅している気分なれるわりと聴きやすいアルバムでした。
 今作は『Melanesia』というオーストラリアの北北東に位置するパプア・ニューギニアやソロモ ン諸島のある海洋一帯がテーマらしい。全然知らない。聞いたこともない。
 アルバムの説明によると、「メラネシアにある数千年の歴史のある民族音楽は人間と音楽の本質的なつながりを探究しており、その儀式的なサウンドと彼の音楽研究に基づく実験的、 電子的な手法がぶつかり合うメルティングスポットを発見できる。(中略)メラネシア海域ではその特徴から原始的な文化とおそらく音楽を保存している」(意訳) お分かりの通りだいぶ変わった方ですね。
 アルバム通して不穏なサウンドで、“Kauli Storm Song”という曲は雨音と雷が人の手が加わっていない自然の恐怖を感じる。前作も真面目なアルバムだったけど今作も本気(マジ)。


 このAriel騒動だけじゃなく、好きだったアーティストが突拍子もないことして幻滅なんてよくあることで、僕らは所詮自分から見た彼らしか見れないから、僕から見たAriel、友だちとしてのAriel、息子としてのAriel、アーティストとしてのAriel、Arielの自意識、と全部彼だけど彼じゃない。そしてArielの曲はArielだけどArielにあらず。これはアーティストや芸能人に限らず身近な存在にも適応すると思う。だからArielの政治的な態度は受け付けなくて批判しても、彼の曲まで嫌いになる必要は無い。そうやって考えると誰かを嫌いにならなくて済むんじゃないかと思った1月でした。罪を憎んで人を憎まず。アリエルのバカヤロウ!

Peel Dream Magazine - ele-king

 ニューヨークを拠点とするシューゲイズ/ドリーム・ポップ・バンドのピール・ドリーム・マガジンが2020年にリリースしたセカンド・アルバム『Agitprop Alterma』は、この時代のモダン・シューゲイズ・バンドらしく、ステレオラブなどの90年代的なインディ・ロック・サウンドを基底に、クラウトロックから60年代中期的なサイケデリック・ロックまでを臆することなく展開した見事なアルバムだった。リリースが米国インディ・レーベルの名門〈Slumberland Records〉ということも興味深い。

 ピール・ドリーム・マガジンは、ジョー・スティーヴンスのプロジェクトとしてスタートし、2018年にファースト・アルバム『Modern Meta Physic』を〈Slumberland Records〉からリリースした。この時点ですでにヴェルヴェッツ・チルドレン的な90年代リヴァイヴァルとでもいうべきインディ・ロックなのだが、そこには「60年代のリヴァイヴァルである90年代のインディ・ロックを10年代後半視点で再構成する」というような捻じれた感覚(つまりアルバム名にあるようなメタ)がある。おそらくいまの時代に90年代インディへの憧憬を示すということに批評性があるのではないか。
 それから2年を経てリリースされたセカンド・アルバムが『Agitprop Alterna』だ。ファーストの『Modern Meta Physic』ではジョー・スティーブンスの個人プロジェクトだったピール・ドリーム・マガジンだが、『Agitprop Alterna』ではよりバンド的な佇まいへと変化した。つまり参加したミュージシャンの存在感が重要になっているのである(メンバーの集合写真だったアーティスト写真にも表れている)。特にヴォーカルの Jo-Anne Hyun はツイン・ヴォーカルの重要な要である。彼女の声が重なることであのステレオラブを思わせるアンサンブルが生まれているのだから。さらにドラムスのブライアン・アルヴァレス(Brian Alvarez)とケリー・ウィンリック(Kelly Winrich)も、ときにクラウトロック的な曲も展開するピール・ドリーム・マガジンにおいて、その柱ともいえる重要なビートを鳴らしている。とうぜんジョー・スティーヴンスも、ギター、ヴォーカル、オルガン、ドラムマシンと曲・サウンド作りの中心として活躍だ。
 そんな新生ピール・ドリーム・マガジンが放つ『Agitprop Alterna』だが、なかでも1曲目 “Pill”、3曲目 “It's My Body”、9曲目 “The Bertolt Brecht Society”、11曲目 “Do It” などは格別の名曲だ。ツイン・ヴォーカルの妙、アナログ・シンセの音色、オルガン的な音色のドローン・バッキング、60年代サイケ・ロック的なサウンドなど『Emperor Tomato Ketchup』期のステレオラブやオリヴィア・トレマー・コントロールなどの90年代中期の米国インディ・レーベル〈エレファント6〉勢を思わせるエクスペリメンタル・ポップなバンド・サウンドを存分に展開していたのだ。

 そして『Agitprop Alterna』後にリリースされた「Moral Panics」にはさらに驚かされた。「Moral Panics」は2曲を追加したヴァイナル・エディションが2021年にリリースされているので、まさに今年の新譜でもある。
 「Moral Panics」は、特に1曲目 “New Culture” に打ち抜かれてしまった。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインの “You Made Me Realise ”、もしくは『Isn't Anything』を思わせるシンプルにしてソリッド、かつ浮遊感のあるシューゲイズ的なサウンドなのだ。もしくはロケットシップが1996年にリリースした『A Certain Smile, A Certain Sadness』収録の “I Love You Like The Way That I Used To Do” が2020年初頭に転生したらこうなるのではないかと思わせるタイニー・シューゲイズ・サウンドだったとでもいうべきか。つまりこの曲には初期マイブラへのオマージュとして90年代のロケットシップ、00年代のザ・ペインズ・オブ・ビーイング・ピュア・アット・ハートを継承する意志を感じてしまったのだ。むろん『A Certain Smile, A Certain Sadness』も『The Pains Of Being Pure At Heart』も、〈Slumberland Records〉からリリースされたアルバムなので、90年代以降のインディ・ロックの系譜を強く感じてしまうのは当然だろう。
 続く2曲目 “Verfremdungseffekt” はミニマル・シンプルな曲と演奏はどこかヴァセリンズを思わせる。そして3曲目 “Dialectrics” に至ってはジャングリーなステレオラブかといった趣の曲調で堪らない。ヴェルヴェッツ・チルドレン的な曲・演奏に90年代インディ・ロックへの憧憬すら感じる5曲目 “Life at the Movies” もいうまでもなく最高だ。さらにはコーネリアスの “Tone Twilight Zone” や “Blazil” をほんの少しだけ思わせる7曲目 “The Furthest Nearby Place” もチル&アンビエントなモンド・トラックで実に心地よい。

 サウンドの「凝り方」としてはアルバム『Agitprop Alterna』は実に作り込まれている。まさにモダン・インディな音だ。対して『Moral Panics』はサウンドや演奏の「風通しの良さ」「自由さ」「曲のよさ」という意味で群を抜いた魅力を放っている。また80年代~90年代以降のインディ・ロックとの継承を意識しているようにも思えた。要するに二作ともに2020年から2021年のインディペンデントなロック/ポップのありようを実にヴィヴィッドに聴かせてくれるアルバムなのだ。
 つまり二作、甲乙つけがたい。2021年には二作をまとめたデラックス・エディションも配信されている。まさに必聴の作品である。

R.I.P. Double K (People Under The Stairs) - ele-king

 LAを拠点に活躍し、2019年に引退を発表していたヒップホップ・デュオ、People Under The Stairs (以下、P.U.T.S.)のメンバーとして知られる Double K (本名:Michael Turner)が、1月30日に入院先の病院にて亡くなった。享年43歳で、詳しい死因は明らかになっていないが、彼の友人であるLAのベテランDJ、Mark Luv によると Double K は「安らかに亡くなった」という。


来日時の様子(写真:大前至)

 P.U.T.S.ではMC、プロデューサー、ライヴDJも担当していた Double K が、Thes One と共にグループを結成したのが1997年頃のことだ。LAのミッドシティと呼ばれるエリアにある高校に通っていた彼は、同じ高校に通う(のちに Living Legends を結成することになる) Murs、Eligh、Scarub らが中心となっていたクルー、Log Cabin Crew の一員として活動しながら、すでにビートも作りはじめていた。16歳のときにサンプルネタを探すために訪れたレコード屋にて出会ったのが同じくまだ十代であった Thes One で、それぞれ自分の作ったビートを聴かせあいながらお互いを認めるようになり、その後、彼らは P.U.T.S. としての活動をスタートすることになる。

 USC (University of Southern California)に通う大学生であった Thes One の学生ローンを元手に、1998年、彼らは最初のシングル「The Next Step II」とアルバム『The Next Step』をリリース。ともにDJでありラッパーでありビートも作っていたふたりに共通するのは、彼らが強く影響を受けた80年代から90年代半のヒップホップのフレイヴァーを継承しながら、自ら見つけ出した誰も知らないサンプリング・ネタで新しい音楽を作り出すという点で、いまで言うブーンバップのスタイルを彼らはデビューの時点で確立していた。自主制作盤を手に彼らは契約できるレーベルを探していたが、しかし、LAのヒップホップ・シーンの中で徒党を組むようなタイプではなかった彼らに後ろ楯はなく、最終的に契約を結んだのがサンフランシスコを拠点とするヒップホップ色の薄いレーベル、〈OM〉であった。しかし、〈OM〉と契約を結んだことで彼らはヨーロッパにファン・ベースを築くことに成功し、さらに世界的なアンダーグラウンド・ヒップホップ・シーンの盛り上がりの波にも乗り、日本を含む世界中に数多くのファンを獲得する。

 グループ結成から解散までの22年の間に、P.U.T.S.は通算10枚のフル・アルバムと2枚のコンピレーション・アルバムを残してきた。彼らの作品の中でも特に個人的に思い出深いのが、筆者がLAに住んでいた期間にリリースされた通算5枚目のアルバム『Stepfather』と次の『FUN DMC』だ。『Stepfather』リリースのタイミングに合わせて彼らの日本ツアーが行なわれたのだが、そのタイミングで筆者も一時帰国し、彼らが日本のヒップホップ・ファンから強く愛されていることをダイレクトに感じた。『FUN DMC』発売時のLAでのリリース・イベントではステージ上にビールサーバーが置かれ、様々なアーティストや関係者と共にステージ上でビールを飲みながらライヴを観るという貴重な経験もさせてもらった。そして、『FUN DMC』の後にシングル・リリースされた「Trippin At The Disco」のPVになぜか一瞬だけ出演することになったことも忘れられない。

 P.U.T.S.のふたりには取材などもさせてもらったが、一緒にいて感じたのがグループとしてのふたりのバランスの良さだ。Thes One は P.U.T.S.のスポークスマンであり、細かい事柄にも気を配りながら、オーディエンスを強く惹きつける勢いや爆発力もあり、明るくポジティヴな面も持っている。ライヴ中はラップもしながらDJもする Double K は、少し下がって Thes One の後ろのポジションにいながら、落ち着いて全体を見ながらムードを作っていくタイプで、決して口数は多くはないが彼のメローな雰囲気は人に安らぎを与える。全く異なるタイプのふたりだからこそ、お互いを補完することができたであろうし、絶対的な信頼が彼らの22年間のキャリアを支えてきたに違いない。

 前述したように、2019年にリリースされたラスト・アルバム『Sincerely, the P』を最後に音楽業界から引退し、ファンを驚かせた彼ら。地元LAでも引退に合わせたライヴは一切行なわれず、ラスト・アルバムだけを残して突然いなくなってしまった印象が強い。彼らの引退に関しては唯一『LA Times』にインタヴュー記事が掲載されているが、彼らが音楽をはじめたときとの環境の違いや自らの年齢なども理由としながら、アーティストとしてやり切ったという前向きな姿勢も感じられる。その一方で記事では Double K の健康状態にも少し触れており、もしかしたらそれが彼らが突如引退した理由のひとつであったのかもしれない。

 Double K の死は本当に悲しい出来事であるが、P.U.T.S.が残してきた音楽はこれからも色褪せることはなく永遠に残っていくだろう。彼らのライヴでの定番曲であり、間違いなく彼らの一番の代表曲である “San Francisco Knights” を聴きながら、この追悼文を締めたい。


https://open.spotify.com/track/0msneWUDfYKAGrifwEDhtl

KANDYTOWN - ele-king

 2019年、クルーとしてのセカンド『ADVISORY』を発表し、新たな一歩を踏み出した KANDYTOWN。来る2月14日、新作EP「LOCAL SERVICE 2」がリリースされる。
 これは、2019年2月に発売されたEP「LOCAL SERVICE」にはじまるシリーズの続編で、昨年の非常事態宣言の時期に公開されたものを再レコーディングした曲と、新曲3曲が収録される。おもなプロデュースを担当したのは Neetz。
 また、4月にはその両作をカップリングしたCD『LOCAL SERVICE COMPLETE EDITION』もリリースされる。
 どこまでも走りつづける KANDYTOWN、2021年もかっ飛ばしてくれそうだ。

KANDYTOWN
2nd EP「LOCAL SERVICE 2」を2月14日にリリース決定。
本日24時より “One More Dance” 先行配信!
更に4月21日には「LOCAL SERVICE」シリーズ2タイトルを初CD化した
限定生産 2CD EP「LOCAL SERVICE COMPLETE EDITION」を発売。

国内屈指のヒップホップクルー KANDYTOWN が2月14日に 2nd EP「LOCAL SERVICE 2」をリリースすることが発表となった。本日24時より “One More Dance” の先行配信がスタート。この楽曲は Neetz が手掛けたトラックに IO、Gottz、Holly Q が参加した楽曲。更に Official YouTube Channel には Neetz による収録曲をMIXした「SPOT LOCAL SERVICE 2」が公開されている。

この作品は2020年の4月・5月の Stay Home 期間中に公開された楽曲3曲を再度レコーディングしリアレンジしたものに新曲3曲を収録。楽曲のレコーディングやプロデュースをメンバーの Neetz が担当。海外作家との共作やアレンジャー起用して作られたトラックなど意欲作が並ぶ。

そして、4月21日には、配信リリースされていた2019年2月14日発売の 1st EP「LOCAL SERVICE」と2021年2月14日発売の 2nd EP「LOCAL SERVICE 2」の両作品を2000枚限定で初CD化し1枚にコンパイル。
DISC 1 の「LOCAL SERVICE」は過去に限定でレコードのリリースはあったがCD化は初となる。

●2nd EP「SPOT LOCAL SERVICE 2」YouTube URL
https://youtu.be/MfKYBFHFR34

●2nd EP「LOCAL SERVICE 2」&限定生産2CD EP「LOCAL SERVICE COMPLETE EDITION」購入URL
https://kandytown.lnk.to/localsevice2

●KANDYTOWN 2nd EP「LOCAL SERVICE 2」作品情報
title:LOCAL SERVICE 2
release date:2021.02.14
price:¥1,400(without tax)
track list
1. Faithful (Lyric: IO, Ryohu, Neetz, Holly Q, DIAN, Music: Neetz)
2. One More Dance (Lyric: IO, Gottz, Holly Q, Music: Neetz)
3. Dripsoul (Lyric: IO, Ryohu, Gottz, Holly Q, Music: Neetz)
4. Sunday Drive (Lyric: Dony Joint, KEIJU, Neetz, MASATO, Music: Ryohu)
5. Coming Home (Lyric: MUD, Gottz, Music: Neetz)
6. Sky (Lyric: BSC, Ryohu, MUD, DIAN, Music : Neetz)

Produced by KANDYTOWN LIFE
Recorded & Mixed by Neetz at Studio 991
Masterd by Joe LaPorta at Stearing Sound 
Sound Produce: Neetz (M-1, 2, 3, 5, 6), Ryohu (M-4)
Additional Arrange: Yaffle (M-2)
Art Direction: IO, Takuya Kamioka

●限定生産2CD EP「LOCAL SERVICE COMPLETE EDITION」作品情報
title:LOCAL SERVICE COMPLETE EDITION
release date:2021.04.21
price:¥2,500(without tax)

track list (DISC1)
「LOCAL SERVICE」
1. Prove (Lyric: Gottz, KEIJU, MUD, Music: Neetz)
2. Till I Die (Lyric: Ryohu, MASATO, BSC, Music: Neetz)
3. Explore (Lyric: Gottz, MUD, Holly Q, Music: Neetz)
4. Regency (Lyric: MASATO, Ryohu, KIKUMARU, Music: Neetz)
5. Fluxus (Lyric: Neetz, DIAN, Dony Joint, Music: Neetz)
6. Kapital (Lyric: BSC, KIKUMARU, Dony Joint, DIAN, Ryohu, Music: Neetz)

Produced by KANDYTOWN LIFE
Recorded & Mixed by The Anticipation Illicit Tsuboi at RDS Toritsudai
Masterd by Rick Essig at REM Sound
Sound Produce: Neetz
Additional Arrange: KEM
Art Direction: IO, Takuya Kamioka

track list (DISC2)
「LOCAL SERVICE 2」
1. Faithful (Lyric: IO, Ryohu, Neetz, Holly Q, DIAN, Music: Neetz)
2. One More Dance (Lyric: IO, Gottz, Holly Q, Music: Neetz)
3. Dripsoul (Lyric: IO, Ryohu, Gottz, Holly Q, Music: Neetz)
4. Sunday Drive (Lyric: Dony Joint, KEIJU, Neetz, MASATO, Music: Ryohu)
5. Coming Home (Lyric: MUD, Gottz, Music: Neetz)
6. Sky (Lyric: BSC, Ryohu, MUD, DIAN, Music: Neetz)

Produced by KANDYTOWN LIFE
Recorded & Mixed by Neetz at Studio 991
Masterd by Joe LaPorta at Stearing Sound
Sound Produce: Neetz (M-1, 2, 3, 5, 6), Ryohu (M-4)
Additional Arrange: Yaffle (M-2)
Art Direction: IO, Takuya Kamioka

●KANDYTOWN PROFILE
東京出身のヒップホップ・クルー。
2014年 free mixtape 『KOLD TAPE』
2015年 street album 『BLAKK MOTEL』『Kruise』
2016年 major 1st full album 『KANDYTOWN』
2017年 digital single 『Few Colors』
2018年 digital single 『1TIME4EVER』
2019年 e.p. 『LOCAL SERVICE』, major 2nd full album『ADVISORY』
2020年 Digital single 『PROGRESS』
2021年 2nd EP『LOCAL SERVICE 2』, 2CD EP『LOCAL SERVICE COMPLETE EDITION』

MULBE - ele-king

 バトルMCとして様々な大会で結果を残しながら、D.D.S とのラップ・デュオ、N.E.N としてもアルバムをリリースするなどアンダーグランド・シーンでその存在感を示してきたMULBE。一昨年(2019年)には NITRO MICROPHONE UNDERGROUND の MACKA-CHI がエグゼクティヴ・プロデューサーを務めるミックスCD『MOVE』にてソロ・デビューを果たし、そして、ついにリリースした 1st ソロ・アルバムが本作『FAST&SLOW』というわけだ。

 ラッパーとしての MULBE の最大の魅力であり、大きなアドバンテージとなっているのが、非常に特徴的な彼の声質だろう。喉の奥から絞り出すように発せられるその声は非常に荒々しくザラザラした感触で、一聴してそれと分かる存在感がある。90年代から2000年代にかけてのUSヒップホップと、さらに同時期の渋谷・宇田川町を中心とした日本語ラップシーンの流れなどが MULBE の音楽的な基盤となっていると思われるが、そういったソースを混在させながら作り上げる現行のブーンバップなスタイルのサウンドに、彼の声質は実に見事にマッチし、ガチガチに硬く韻を踏むリリックの世界観をよりドラマティックに演出する。

 ミックスCD『MOVE』と同様に、GRUNTERZ、MASS-HOLE、RUFF といった MULBE 自身とも繋がりの深いプロデューサー勢を中心に構成されている本作であるが、さらに今回が初共演という GRADIS NICE と DJ SCRATCH NICE の参加が作品により深い奥行きを与えている。GRADIS NICE がプロデュースを手がけた先行シングル曲 “STAY HERE” は、コロナによる自粛などがテーマとなっているが、ゲスト参加の MILES WORD (BLAHRMY)と共に世の中の閉塞感そのものをダークなトーンで表現しながら、どんな状況でも決して諦めない、強い不屈の姿勢を見せつける。一方、DJ SCRATCH NICE がプロデュースした “TAKE ME HIGHER” と “REPRESENT ME” はタイトルの通り自分自身が曲の中心にもなっているわけだが、サンプリングのネタ感が全面に出たプロダクションによってエモーショナルな部分がより引き出され、MULBE の特徴的な声質にまた別の彩りを与えている。

 フィーチャリング・ゲストも非常に魅力的なメンツが揃っている本作であるが、盟友 D.D.S (“WHAT WILL BE”)との相性の良さはもちろんのこと、メロウ・チューン “CAN'T KNOCK THE” での B.D. との共演も凄まじく格好良い。そして、AVE WORKS がプロデュースを手がける実にユニークでファンキーな “DO ORIGINOO” における、仙人掌とのコンビネーションは個人的にも本作のピークであり、サウンドとゲストとの組み合わせの絶妙さという意味でも突出している一曲だ。
 他にもイントロではじまり、ゲスト勢のシャウトを集めたスキットを挟んで最後はアウトロで締めるという、一昔前は当たり前であったようなアルバムの曲構成であったり、ときおり出てくるクラシック・チューンからのリリックの引用など、MULBE 本人の頑固なまでのこだわりが様々な箇所に詰まっており、そんな部分にもいちいちニヤリとさせられる。単なる日本語ラップ好きというよりも、ヒップホップが好きな人にこそぜひ聞いてほしいアルバムだ。

Bibio - ele-king

 やっぱりこのころから独特の音響だ。2006年に〈Mush〉からリリースされたビビオのセカンド『Hand Cranked(手まわし)』が、デラックス・エディションとなって15年ぶりに蘇る。レーベルは現在ビビオの所属する〈Warp〉で、おなじく〈Mush〉から出ていたファースト『Fi』(2005年)の復刻(2015年)につづくリイシュー企画となる。
 ぜんまい仕掛けのおもちゃのような「手まわし装置」が奏でるロウファイ・サウンドにインスパイアされた同作は、不完全であることの魅力を引き出そうとしている。最新作『Sleep On The Wing』もそうだったけど、つまり、いまのビビオのスタイルにつながるたいせつな原点のひとつというわけだ。
 デラックス・エディションには、今回初のCD化となる5曲が追加収録され、ビビオ本人によるライナーノーツが付属するとのこと。彼自身が同作をどう思っているのか確認できるのも楽しみだ。
 フォークトロニカの至極の1枚を、いまあらためて。

BIBIO
〈WARP〉との契約のきっかけにもなった〈MUSH〉期の名盤
『HAND CRANKED』が、初CD化音源5曲を追加した
デラックス・エディションとして
セルフライナーノーツ付の紙ジャケット仕様で再発決定!

聴く者の記憶や、心に浮かぶ情景に寄り添う心温まるサウンドで、幅広い音楽ファンから支持を集め、国内外のアーティストからも賞賛を集めるビビオの2006年にリリースした2ndアルバム『Hand Cranked』が、3月19日(金)にデラックス・エディションで再発決定! 現在では2010年代の〈Warp〉を代表するアーティストの一人と言っても過言ではないビビオだが、デビュー・アルバム『Fi』から3rdアルバム『Vignetting The Compost』までは、USのインディー・レーベル〈Mush〉から作品をリリースしている。今回再発が決定した2ndアルバム『Hand Cranked』は、2006年にリリースされ、当時からビビオを絶賛していたボーズ・オブ・カナダやクラークも所属した〈Warp〉との契約へとつながった作品である。

今回のデラックス・エディションには、今回初めてCD化となる “Madame Grotesque” “Cantaloup Carousel (1999)” “Firework Owl” “Odd Lips” “The Last Bicycle” の5曲が追加収録され、ビビオ本人によるセルフライナーノーツ付の紙ジャケット仕様となる。

当時持っていたのは、本当に最低限のレコーディング機材だった。手頃なマイクが数本、カセットレコーダー、音声レコーダー、MDレコーダー、手頃なサンプラー、手頃なギター数本、そしてiMacが1台。

デビューアルバム『Fi』に収録された楽曲のいくつかで用いたサンプリングやアレンジの粗削りな手法は、1998年に初めて採用したものだ。それらのトラックを制作した後に思い出したのは、ぜんまい仕掛けの玩具や、メリーゴーラウンドもしくは回転木馬の模型のこと、それから幼い頃に観ていた70年代の子供向けテレビ番組のことで、番組ではそうした玩具や模型が生き生きと動いていた。ループ音源を単純に重ねたサウンドは、いびつで不完全な周期に従っていて、そこには機械的な性質が活かされているだけでなく、有機的で人間味のある質感(その要因の一端は、自分で弾いたギターのサンプリングを手動で起動していたことと、クオンタイズすなわち機械によるタイミングの補正を行わなかったことにある)も表現されていた。そしてクランクを手で回す(hand cranked)装置というアイデアから生まれたささやかな発想が、このアルバムのテーマになった。そうした装置が生み出す素朴なローファイサウンドを再現し、簡素で不完全であることの魅力を引き出したいと思っていたんだ。

──Stephen Wilkinson

本作を聴けば、キラキラ輝くモザイク模様の音像の彼方に広がる光りに包まれた絶対的な安心感、幼少の頃の記憶へと皆を誘うローファイで心に響くメロディーラインはもちろん、サンプリングされた自然音、テクスチャー、カラー、そしてノイズ、そのすべてを通して、ビビオの独特な音世界が、当時すでに完成されていたことがわかるファン必携の一枚。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: BIBIO
title: Hand Cranked (Deluxe Edition)
release date: 2021/03/19 FRI ON SALE

国内盤CD
ボーナストラック追加収録/解説書封入
BRC-664 ¥2,200+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11683

TRACKLISTING
01. The Cranking House
02. Cherry Go Round
03. Quantock
04. Black Country Blue
05. Marram
06. Aberriw
07. Zoopraxiphone
08. Dyfi
09. Ffwrnais
10. Woodington
11. Above The Rooftops
12. Snowbow
13. Maroon Lagoon
14. Overgrown
Bonus Tracks
15. Madame Grotesque
16. Cantaloup Carousel (1999)
17. Firework Owl
18. Odd Lips
19. The Last Bicycle

Sleaford Mods - ele-king

 最新作『Spare Ribs』がUKチャートの4位を獲得したスリーフォード・モッズ(アナログ盤のチャートでは1位)。そのことからも彼らの人気っぷりがうかがえるが……そう、イギリスでは『ガーディアン』がジェイソンに「好きなTV番組は?」「好きな小説は?」「好きな食べ物は?」と尋ねる記事まで出るくらいのスターなのだ。他のメディアでも彼らは大人気である。
 さて、アルバムから3本目となるMVが発売日の少しまえに公開されていたのを報じそびれていたので、紹介します。曲は “Nudge It”。レーベルメイトにあたるメルボルンのバンド、アミル・アンド・ザ・スニッファーズのヴォーカリスト、エイミー・テイラーが客演している。

 この曲で歌われているのは階級制度にたいする不満と、もうひとつ、労働者階級のことをわかったつもりになって語る、労働者階級じゃないひとたちへのフラストレイションだ。「想像してみてくれ。自分に限られたオプションしか残されていなくて、今週どうやってやり切るかもわからない。住みたくもないジメジメしたアパートの窓から外を見ると、気取った奴らが写真撮影してるんだ。“クールな建物じゃん。俺らは君らの痛みがわかるよ” ってね」と、ジェイソン・ウィリアムソンはコメントしている。
 スリーフォード・モッズは、リアルだ。

最新作『Spare Ribs』から新曲「Nudge It」MV公開!

スリーフォード・モッズの最新アルバム『Spare Ribs』は、2021年1月15日(金)世界同時リリース。日本流通盤CDには解説書が封入される。アナログ盤は、通常のブラック・ヴァイナルに加え、数量限定クリア・グリーン・ヴァイナルが同時発売。各店にて予約受付中。

label: BEAT RECORDS / ROUGH TRADE
artist: Sleaford Mods
title: Spare Ribs
release date: 2021/01/15 FRI ON SALE

国内使用盤CD
 RT0197CDJP ¥2,000+税
CD 輸入盤
 RT0197CD ¥1,900+tax
LP 限定盤
 RT0197LPE (Clear Green Vinyl) ¥2,600+tax
LP 輸入盤
 RT0197LP ¥2,600+tax

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11535

Bicep - ele-king

 こいつはめでたい。先日リリースされたバイセップのニュー・アルバム『Isles』が、なんと、UKチャートの2位にランクインしている。そう、彼らはUKでは1万人規模の公演を即完させるビッグなグループなのだ。

 そのバイセップの新作が「島」をテーマにしているところは興味深い。タイトルの「島々」とは、彼らの故郷たるアイルランド島と、現在拠点を置くグレイトブリテン島を指しており、そこには複雑な感情が込められている。ベルファスト生まれのデュオにとってイングランドはべつの島であり、べつの国なのだ。
 かつて地元にシャインというクラブがあったこと、そこでロラン・ガルニエがDJをしたこと、同郷の先輩デヴィッド・ホルムズがシュガー・スウィートというクラブをやっていたこと──それらが彼らにとっていかに大きなことだったか、ふたりは「アイリッシュ・タイムズ」紙に語っている。緊迫した宗教問題を背景に持つ北アイルランドにおいて、特定のコミュニティに属さないクラブという場へ足を運ぶことは、ある種の解放でもあったと。
 また同紙で彼らは現在のコロナ禍についても、じぶんたちが2009年の金融危機のときに出てきたことを振り返りながら語っている。いわく、アーティストは互いに助けあい、互いに親切であらねばならない、と。この、クラブが満足に役割を果たせない時代において、バイセップのダンス・ミュージックがチャートの上位に食いこんだことは、とても大きな意味をはらんでいるだろう。

 2月26日にはオンラインでのライヴ配信が予定されている。下記よりチェック。

UKチャート初登場2位獲得!
ディスクロージャーに続く新世代UKダンス・アクトの大器、
バイセップの最新作『Isles』は現在発売中!
2月26日には貴重なオンライン・ライブ配信も開催!

UKダンス・ミュージックの新たな大器、ここに登場 - ele-king

近未来的な音色は我々の耳と脳を揺さぶるだろう - MUSIC MAGAZINE

次代のスタジアム級ダンス・アクトがルーツを見つめ表現力を格段に向上 - bounce

UKガラージからIDMまで内包、多様に広がるダンス音楽 - Pen

ブログからスタジアムへ──フリー・シェア時代のバイセップ成功物語 - Mikiki

逆境に立ち向かうためのダンス・ミュージック - Mikiki

北アイルランドのベルファスト出身でロンドンを拠点に活動するマット・マクブライアーとアンディ・ファーガソンから成るユニット、バイセップ。UKで1万人規模の公演を即完させる人気を誇る、今最も注目を集める彼らの最新作『Isles』がUKチャート初登場2位を獲得! 伝説のブログ "FeelMyBicep" から始まった彼らのキャリアだが、今やディスクロージャーに続く、新世代UKダンス・アクトの中心であり、名実ともにアンダーワールドやケミカル・ブラザーズといったスタジアム級のアーティストにも肩を並べるであろうトップ・アーティストとして世に認められる形となった。

Bicep - Isles
https://bicep.lnk.to/isles

本日より、代官山 蔦屋書店にてバイセップとブラック・カントリー・ニュー・ロード(Black Country, New Road)のアルバムリリースを記念し、〈Ninja Tune〉コーナーが登場! 両作品の新作展示に加えて、今週末からは〈Ninja Tune〉のレーベルグッズが店頭に並ぶ予定となっている。

期間:2月1日~2月18日
https://store.tsite.jp/daikanyama/

また、彼らは2回目となるオンライン・ライブ配信、"Bicep Global Livestream”を日本時間の2月26日19:30より公開する予定となっている。配信では過去作に収録されている曲のリメイク版や、最新作『Isles』に収録された楽曲のエクステンデッド・バージョンなどが披露される予定。前回同様、スクエアプッシャーのアートワークやビデオを手がける Black Box Echo によるビジュアルを楽しむこともできる。

日時:2月26日(金) 19:30~ (日本時間)
チケット:https://bit.ly/35C5WIn

更に、リリースを記念して現在彼らのアートワークからのインスピレーションを得た "Isle Album Filter" がインスタグラムで公開中!
https://www.instagram.com/ar/1259988877720444/

2年に及ぶ制作期間を費やした『Isles』は、2017年のデビュー・アルバム『Bicep』から表現力を発展させ、さらにベルファストで過ごした若き日から10年前にロンドンに移るまでの間に彼ら自身の人生と音楽活動に影響を与えてきたサウンド、経験、感動をより深く追求しており、その期間に彼らが触れてきた音楽の幅広さが、アルバムの極めて多彩な音を形成している。ふたりとも、ヒンディー語の歌声が遠くの建物の屋上から聞こえてくることや、ブルガリア語の合唱曲の断片が通りすがりの車から耳に届いてくることや、ケバブ屋で流れるトルコのポップ・ソングの曲名がわかるかもしれないとわずかに期待しながら Shazam を起動することが楽しかったと述べる。一方で、故郷を離れて過ごす時間は、自分たちが島を渡り今の場所にたどりついたことについて、より深く考える機会にもなったという。

待望の最新作『Isles』は発売中! 国内盤CD、輸入盤CD/LP、カセットテープ、デジタルで発売され、国内盤CDには解説が封入、ボーナストラックが収録される。また、輸入盤LPは通常のブラックに加えて、限定のピクチャー盤、さらには国内盤CDと同内容のボーナストラックが収録された3枚組のデラックス盤が発売されている。

label: Ninja Tune / Beat Records
artist: Bicep
title: Isles
release: 2021/01/22

国内盤CD、輸入盤CD、輸入盤LP(ブラック)、限定盤LP(ピクチャー盤)、カセットテープ商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11475

3枚組デラックス盤商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11477

tracklist:
01. Atlas
02. Cazenove
03. Apricots
04. Saku (feat. Clara La San)
05. Lido
06. X (feat. Clara La San)
07. Rever (feat. Julia Kent)
08. Sundial
09. Fir
10. Hawk (feat. machìna)
11. Light (Bonus Track)
12. Siena (Bonus Track)
13. Meli (I) [Bonus Track]

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431