「Ord」と一致するもの

black midi - ele-king

 ele-king 28号のブラック・ミディのインタヴューは読んでくれましたか? 彼らが何ものなのか、ほかと何が違うのかがよくわかる内容になっているので、ぜひ! で、その取材でもメンバー3人ともが自信満々に語っていた3枚目のアルバム『Hellfire』から先行リリース第二弾の曲“Eat Men Eat”のMVが公開されました。多彩なパーカッションからすさまじい叫びまで駆け上がります。曲の終わりの奇妙なレイヤーは、ファンから送られてきたものによって構成されているそうです。まずはこの規格外サウンド楽しみましょう。新作のリリースと来日ライヴを待ちましょう。

black midi - Eat Men Eat

Buttering Trio - ele-king

 新世代のソウル・バンドとして近年その名をあげているテルアヴィヴのバターリング・トリオ。ベノ・ヘンドラー、ケレン・ダン、そしてリジョイサー名義で知られるユヴァル・ハヴキンからなるこの3人組が、8月3日に6年ぶりの新作をリリースする。通算4枚目のアルバムで、今回は当地のジャズ・シーンを支えるドラマー、アミール・ブレスラーも加わった強力な布陣。先行シングル曲“Come Hither”が公開中です。

Buttering Trio『Foursome』

ネオ・ソウル、フューチャー・ソウルバンドとして大注目のバターリング・トリオが、スマッシュ・ヒットを記録し来日公演も果たした2016年の名盤『Threesome』に続く、最新作を遂に完成!! ドラマーとしてアミール・ブレスラーも参加し、フューチャリスティックなソウル・サウンドと、エキゾティックなヴォーカルがさらに輝きを増した、最高傑作の4thアルバム!!

バターリング・トリオが遂に戻ってきた。しかも、ケレン・ダン、リジョイサー、ベノ・ヘンドラーのオリジナル・メンバーに、ドラマーのアミール・ブレスラーを加えた最高の組み合わせが実現した。10年に及ぶキャリアが作り上げた、この上なくグルーヴィなリズム、ドリーミーで魅惑的なメロディと緻密なアレンジ。それらが織りなす『Foursome』は、間違いなくバターリング・トリオの最高傑作だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

先行シングルMV公開中 !!
「Buttering Trio - Come Hither (Official Video)」
https://www.youtube.com/watch?v=yYSRq60dzOY

Artist : Buttering Trio
(バターリング・トリオ)
Title : Foursome
(フォーサム)
Release : 2022/08/03
価格 : 2,400円+税
レーベル : rings / Raw tapes
品番:RINC89
フォーマット : CD
解説:原 雅明
Official HP : https://www.ringstokyo.com/items/-Buttering-Trio

Tracklist:
01. Good Company
02. Come Hither
03. See If It Fits
04. Move In
05. Desert Dream Romance
06. When I Face Your Beauty
07. Air In Rest
08. Keep It Simple
09. Don't Book Me
10. Succulent For Valentine
11. Close to You
12. Dancing with Insomnia
& Bonus Track収録予定

Big Thief - ele-king

 2019年の2枚『U.F.O.F.』と『Two Hands』で大いなる飛躍を遂げ、今年2月に発表したアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』も好評のビッグ・シーフ。いまやUSインディ・シーンを代表するバンドにまで成長した彼らですが、この絶好のタイミングで初の来日公演が決定。11月14日大阪、15日名古屋、18日東京の3都市をまわります。

 6月29日発売の紙版最新号『ele-king vol.29』ではビッグ・シーフを表紙&巻頭にフィーチャー。アルバム・リリース時にジェイムズ・クリヴチェニア(ドラムス)のインタヴューをウェブで掲載していますが、今回はバンドの精神たるエイドリアン・レンカー(ヴォーカル/ギター)とバック・ミーク(ギター)が登場。じつにさまざまなことを語ってくれています。こちらもぜひチェックを。

BIG THIEF
『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』全世界絶賛!
大注目バンド、ビック・シーフ待望の初来日、遂に実現!

グラミー・ノミネートによって一躍USインディ・シーンの中心的存在となったビッグ・シーフ。
2019年には『U.F.O.F.』、 『Two Hands』と2枚の傑作を発表し、2020年にはそれぞれソロ作品をリリースするなど充実した活動を送り、2022年2月11日にリリースされた2枚組の最新アルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』は、全世界から大絶賛されている。コロナ禍でソールドアウト公演が延期~中止となり、まさに待望の初来日が遂に決定した。

https://smash-jpn.com/live/?id=3692

BIG THIEF JAPAN TOUR

2022/11/14 (月) 梅田 CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00 (問) SMASH WEST:06-6535-5569 (smash-jpn.com)

2022/11/15 (火) 名古屋 CLUB QUATTRO
開場 18:00 / 開演 19:00 (問) CLUB QUATTRO:052-264-8211 (club-quattro.com)

2022/11/18 (金) 渋谷 Spotify O-EAST
開場 18:00 / 開演 19:00 (問) SMASH:03-3444-6751 (smash-jpn.com)

オフィシャル先行予約:6/14 (火) 17:00~6/20 (月) 23:59 https://eplus.jp/bigthief/

最速プレオーダー先行予約:6/21 (火) 12:00~6/26 (日) 23:59 https://eplus.jp/bigthief/

一般発売:7/2 (土) 10時~発売
【大阪】 e+ (Quattro Web先行:6/27-28)・チケットぴあ (P:219-564)・ローソンチケット (L:53062)
【名古屋】 e+ (Quattro Web先行:6/27-28)・チケットひぴあ (P:219-634)・ローソンチケット (L:45427)
【東京】 e+・チケットぴあ (P:218-458)・ローソンチケット (L:70117)
□お問合せ: SMASH 03-3444-6751 (smash-jpn.com)

エイドリアン・レンカーとマックス・オレアルチック、バック・ミーク、ジェームズ・クリヴチェニアの4人で構成されるビッグ・シーフは2020年、ニューヨーク州北部、ロッキー山脈のトパンガ・キャニオン、コロラド州のロッキー山脈、アリゾナ州ツーソンの4カ所で5カ月間をかけてレコーディングを敢行。その中で完成した45曲から厳選された20曲が収録されたアルバム『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』は、ドラマーのジェームズ・クリヴチェニアがプロデュースを手掛けた。また、それぞれのロケーションでアラバマ・シェイクスなどを手掛けグラミーも獲得しているショーン・エヴェレットや米SSWサム・エヴィアン、ビッグ・シーフの前作と前々作『U.F.O.F.』と『Two Hands』を手掛けたドム・モンクスらがエンジニアを務めている。各所で絶賛され続けているビッグ・シーフ最新アルバムは絶賛発売中。

ドラゴンが連れていく最高の飛翔 ──rockin’on

豊かな土地に色とりどりの花が咲き乱れるような多様な楽曲群 ──Music Magazine

現代USインディの顔役 ──MUSICA

USで最も素晴らしいバンドの1 組 ──The Guardian

瞬時に満足させるが、その魅力と謎は何年も響き続けるだろう ──Uncut 9/10

ゆっくりと堪能して消化しなければならない、不定形でスタイルが多岐に渡るレコード ──Mojo ★★★★

ビッグ・シーフの魔法を垣間見ることができる…… ──Loud and Quiet

label: BEAT RECORDS / 4AD
artist: Big Thief
title: Dragon New Warm Mountain I Believe in You
release: NOW ON SALE

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12242

Carlos Niño & Friends - ele-king

 ジャズ、ヒップホップ、アンビエントを横断、多方面に活躍するLAのキイパーソン、カルロス・ニーニョ。2020年にプライヴェートでリリースされ速攻で売り切れとなっていた貴重な作品が、リマスタリング+新曲追加の仕様で公に発売されることになった。コズミックなアンビエント・ジャズに仕上がっているようで、これは楽しみ。ライナーノーツは岡田拓郎、CD盤を入手しましょう。

Carlos Niño & Friends『Extra Presence』

サム・ゲンデルやネイト・マーセロー、ジャメル・ディーンにディアントニ・パークスといったロサンゼルスのキーパーソン達が集結した、カルロス・ニーニョの最新作!!

「スピリチュアル、インプロヴィゼーション、スペース・コラージュ」をテーマにした、コズミック・アンビエント・ジャズサウンド。2020年にプライベートでアナログとカセットテープでリリースされ、即完売していた話題の作品をリマスタリングを施し、新曲とボーナストラックを追加して日本限定盤ハイレゾMQA対応仕様の2CDでリリース!!
ライナー解説:岡田拓郎

カルロス・ニーニョはサウンドの旅を続ける。ジャンルという層の下にあるサウンドを探査し、驚くべき洞察力で捉え直す。サム・ゲンデルやジャメル・ディーンら信頼を寄せる者たちも、その旅に加わる。そして、リスナーもまた旅の参加者の一人だと、カルロスは捉えている。パンデミックを挟んで出来上がった本作は、そのサウンドが持つ存在感を伝える、まさに特別な一枚だ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

先行シングルMV公開中 !!
「Carlos Niño & Friends - "WaterWavesArrival" (featuring Jesse Peterson)」
https://www.youtube.com/watch?v=xPO1LIJycfk

Artist : Carlos Niño & Friends
(カルロス・ニーニョ・アンド・フレンズ)
Title : Extra Presence
(エクストラ・プレゼンス)
CD Release : 2022/08/03

価格 : 2,800円+税
レーベル : rings / International Anthem
品番:RINC91
フォーマット : 2CD
解説:岡田拓郎
Official HP : https://bit.ly/3tPGBXx

ele-king vol.29 - ele-king

特集:フォークの逆襲──更新される古き良きモノたち

巻頭インタヴュー:ビッグ・シーフ
インタヴュー:マリサ・アンダーソン、キャロライン、スティック・イン・ザ・ホイール、ローラ・キャネル、ランカム
特別インタヴュー:ベル&セバスチャン

もっとも古い民衆の音楽、いま広がるフォークの時代、
ネットでは読めない貴重なインタヴュー、歴史やシーンの概説~コラム、そしてディスクガイド

※増ページ特別価格

contents

revenge of folk
フォークの逆襲──更新される古き良きモノたち

●それは “金のかからない音楽” である by 松山晋也

[interview] Big Thief
ビッグ・シーフ──世界は変わっても、変わってはならないもの by 木津毅

[interview] Marisa Anderson
マリサ・アンダーソン──旅路の彼方に by 野田努

●概説アメリカーナ by 松村正人

●フリー・フォーク──ゼロ年代のニュー・ウィアード・アメリカとは何だったのか by 野田努

●それはいまも進化している by 岡村詩野

●歌い継がれる生 by 木津毅

●女性アーティストたち by 岡村詩野

[interview] caroline
キャロライン──美しくスローな黄昏 by 野田努

●英国フォークの復興と新世紀 by 松山晋也

[interview] Stick In The Wheel
スティック・イン・ザ・ホイール──労働者階級の声としてのフォーク by 松山晋也

●UKウィアード・フォーク by ジェイムズ・ハッドフィールド(James Hadfield)

[interview] Laura Cannell
ローラ・キャネル──縦笛とヴァイオリン、その時空超えのあらすじ by 野田努

●インディっぽいブリティッシュ・トラッド10枚 by ジョン・ウィルクス(Jon Wilks)

[interview] Lankum
ランカム──アイルランドの伝統と実験 by 松山晋也

■ディスクガイド by 松山晋也、木津毅、松村正人、小林拓音、小川充、岡村詩野、野田努

[interview] Belle and Sebastian
ベル&セバスチャン──いまも温かなグラスゴー・インディの魂 by 妹沢奈美

■ジャック・ケルアック生誕100年記念座談会 by マシュー・チョジック(Matthew Chozick)、水越真紀、野田努

アート・ディレクション&デザイン:鈴木聖

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無秩序と混迷の時代、その出口とは?

この腐った世界で、真にラディカルであるために。 ──斎藤幸平(『人新世の「資本論」』ほか)

ドナルド・トランプ、ジョー・バイデン、バーニー・サンダース、ウラジーミル・プーチン
ジュリアン・アサンジ(ウィキリークス)、グレタ・トゥーンベリ
ブレグジット、黄色いベスト運動、雨傘運動、中東紛争とパレスチナ闘争、そしてコロナ禍──

『パンデミック』シリーズで大きな注目を集めた
スロヴェニアの知の巨人が、激動する現代を斬る!

目次

序章 それでもこの状況は「大好」なのか
第一章 サウジアラビアへのドローン攻撃は、本当にゲームチャンジャーか
第二章 クルディスタンを荒廃させたのは誰か
第三章 我々の楽園にある種々の厄介
第四章 アサンジとコーヒーを飲むことの危険性
第五章 クーデターの解剖──民主主義と聖書とリチウムと
第六章 チリ―新しいシニフィアンに向けて ニコル・バリア‐アセンジョとスラヴォイ・ジジェク
第七章 左派労働党の敗北──検死の試み
第八章 そうだ、ユダヤ人差別は健在だ──だが、どこで?
第九章 完全に理にかなった行為。狂った世界の
第十章 イラン危機の勝者と敗者
第十一章 本当にアメリカの道徳的リーダーシップは失われたのだろうか? 合衆国が四大勢力制になりつつある現状
第十二章 ほどほどに保守的な左派を求める嘆願
第十三章 アマゾンが燃えている──だから何?
第十四章 同情ではなく、ラディカルな変化を
第十五章 トランプ対ラムシュタイン
第十六章 恥の日だ。まったく!
第十七章 民主主義の限界
第十八章 COVIDの絶望という勇気
第十九章 トランプの床屋のパラドクス
第二十章 トランプをその概念において亡き者にする方法
第二十一章 民主主義の再生? ジョー・バイデンじゃ無理!
第二十二章 情勢と選択
第二十三章 「グレート・リセット」? ええ、お願いします──でも、本当のやつを!
第二十四章 コロナ禍のキリスト
第二十五章 最初は茶番、それから悲劇?
第二十六章 トランプの最大の背信は何か
第二十七章 ジュリアン・アサンジ、君に捧げる
第二十八章 バイデン、プーチンの魂について語る
第二十九章 階級差別に抵抗する階級闘争
第三十章 「死ぬまで生きねば」 パンデミック下の〈生〉について、ラムシュタインから知るべきこと
第三十一章 あるヨーロッパのマニフェスト
第三十二章 ストップしたのは、どのゲーム?
第三十三章 トンネルの先に光が見える?
第三十四章 三つの倫理的態度
第三十五章 パリ・コミューンから百五十年
第三十六章 なぜ私はまだ共産主義者なのか

監修者解説 ジジェクの現状分析──「分断された天」と「ラディカルな選択」(岡崎龍)

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interview with Huerco S. - ele-king

 ブライアン・リーズ、フエアコ・S以外にもいくつかの名義を持つこのアーティストのキャリア、そのサウンド・スタイルは一貫したものもありつつも、そのスタートとなった2010年代というディケイドは端的にいって前半後半で異なる。2010年代初頭、キャリア初期には朋友アンソニー・ネイプルズのレーベル〈Proibito〉を中心に、このフエアコ・S名義も含めていくつかの名義でディープ・ハウス・トラックをリリースしじわりじわりと知名度をあげた。どちらかと言えばダンサブルな12インチを主体にしたアーティストであったと言ってもいいだろう。その後、ひとつ転機となったのはやはりフエアコ・S名義のファースト『Colonial Patterns』だろう。初期のシングルのハウス路線をその後のアンビエント・タッチの作品へとつなげたその音楽性で、やはり OPN の〈Software〉との契約ということもあり、より広い層へと名前を広げていった作品となった。以降、どちらかと言うと、アルバム・サイズの作品で大きく注目される感覚で、2016年のセカンド『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』は、2010年代のダブ・アンビエントの金字塔ともなった作品だ。さらにディケイドの後半は、クラブ・トラックスというよりも、後述する活動を含めてより幅広いカッティング・エッジなエレクトロニック・ミュージックを牽引する存在であり続けている。

 この2010年代後半から現代の彼の活動ということで言えば、自身も含めた、その周辺のアーティスト・コミニティというのがひとつ強い印象を持って浮かび上がってくる。抽象度のさらに高いダーク・アンビエントなペンダント名義、そしてペンダント名義をリリースした主宰レーベル〈West Mineral Ltd.〉からは彼の朋友とも言えるアーティストたちの作品を次々とリリースしている。またこのアーティストの連なりはさらにスペシャル・ゲスト・DJ(Special Guest DJ)主宰の一連のレーベル〈3XL〉とその傘下〈Experiences Ltd. / bblisss / xpq?〉のリリースへとつながっていくのだ。自身の参加するゴーストライド・ザ・ドリフト(Ghostride The Drift)のようなプロジェクトも含めて、この一団でそれぞれコラボ・ユニットなどを形成し、どこか匿名性が強くミステリアスな印象を受ける。リリースされるサウンドも雑多で、ダブ・アンビエントからIDM、ベース・ミュージック~ダンスホール~ジャングル、さらにはブルータルなメタルコアのような作品まで、エレクトロニック・ミュージックのレフトフィールド・サイドを突っ走っていると言えるだろう。

 そんななかで2022年の春にリリースされたフエアコ・Sの『Plonk』は驚くべく完成度でまたもやシーンを驚かせた。エコーの霧が晴れたクリアなエレクトロニック・サウンドは、どこかDAW~グリッチ流入前の1990年代の実験的なテクノの、言ってしまえばリスニング~アンビエント・テクノにおける「リズム」の冒険を現代へと引き寄せたという感覚がある。いや、そう感じるのは古い人間だけで、彼が言うように現在の音楽がそうした傾向を持っていると考えた方がいいのかもしれない。ともかくそうした断片的な流れ、要素が、彼の才能を通して新たにシーンに提示されたということだろう。フエアコ・S名義のアルバムは、現代のところ毎回サウンドががらりと変わっている。それは彼のアーティストとしての進化の発表の場ということなのかもしれない。2020年代のエレクトロニック・ミュージックのシーンを占う上でも、またひとつ分岐点となりそうな作品だ。
今回はコロナ禍を経て、4年ぶりとなる待望の来日公演直前に、シーンの新たな流れの推進力となるかもしれない新作の話題を中心に、通訳の方に質問を託したのだった。

オウテカの存在は大きくて、1990年代後期と2000年代初期のIDMや電子音楽全般に影響を受けている。

ベルリンを活動拠点にされているようですが、音楽制作に関して影響はありましたか?

ブライアン・リーズ(Brian Leeds、以下BL):2019年から2021年までの、パンデミックのほとんどの期間中はベルリンに住んでいたけれど、実は2021年の末に地元のカンザスシティに戻ってきたんだ。カンザスでは家族と自然の近くにいられることを楽しんでいたけれど、今回の日本のツアーの後に、フィラデルフィアに引っ越すよ。

新作『Plonk』は、ラストの “Plonk X” こそアンビエントですが、ホエアコ・S名義としてはある意味でパーカッシヴで新たな境地へと至った傑作だと思っています。まず、アブストラクトな『Plonk』というタイトルはどこからきたのでしょか?

BL:タイトルの『Plonk』(日本語で「ポロンと鳴る音、ドスンと落ちる音」などの意味)は、アルバムのサウンドを端的に説明するのにちょうど良かったんだ。アルバムのプロジェクトのいちばん初期のファイルを保存するために付けた名前で、自分の中でその言葉が引っかかっていたんだよね。“Plonk” というワード自体が、今回のアルバムを上手く言い表す機能をしていると思う。あと、これまでのアルバムがすごく長い名前になりがちだったから、その流れを断ち切るためでもあったんだ。

『Plank』の、特に、3、4、6、8のようにパーカッシヴなサウンドは、前作の『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』とも、また初期の同名義でのハウス・サウンドとも違った印象を持ちます。強いて言えば最初期のオウテカなど、93年ぐらいの、まだDAW登場以前の実験的なテクノを彷彿とさせます。こうしたスタイルの楽曲はなにか、意図があったものでしょうか? それともたまたまデキたパーツから膨らませていったものなんでしょうか?

BL:うん、オウテカの存在は大きくて、1990年代後期と2000年代初期のIDMや電子音楽全般に影響を受けている。ただ、そういった音楽からの影響はアルバムにはっきり出ていると思うけれど、自分はラップをよく聴いていて、それも確実に今回の作品に関係しているね。

今回のリズムの打ち込みに関して、例えばスケッチに使っている入力機材などが影響を与えたとか、そういったテクノロジーの部分での影響はありますか?

BL:このアルバムはDAWの FL Studio 20 だけで作った。コンピュータのみの制作は制約があるけれど、自分にとってはいちばん強力な機材でもある。アルバムの中のメロディやパーカッションの多くでランダマイザーを取り入れている。今回のアルバムのテーマでもある自動車や自動車工場、メカニックといったものの影響に立ち返って、人間味のある要素を取り除いて、機械自身が語るようなサウンドにしたかったんだ。

今回は同名義の以前の作品のような深いダブ・エフェクトがかかったサウンドとも違ったクリアな音像が印象的です。こうした変化はどこからきたものでしょうか?

BL:ダブの要素や音響のフィデリティ(忠実度)にはいつも興味があって、特にロウな音質に惹かれるのかもしれない。でも今回のアルバムでは新しい方法を探求して、いままでとは違う制作のプロセスを試したいという気持ちが強かった。普段聴いたり、DJでかけたりする大半の曲から確実に影響を受けている。うまく成功したかどうかはわからないけれど、正しい方向に向かって間違いなく一歩進み出せたと自分では思っているよ。

今回のアルバムのテーマでもある自動車や自動車工場、メカニックといったものの影響に立ち返って、人間味のある要素を取り除いて、機械自身が語るようなサウンドにしたかったんだ。

SIRE.U の参加、そもそもヴォーカル曲には驚かせられたんですが、彼の起用はどのような経緯で?

BL:Sir E.U は、自分が昔リリースしたことのある〈Future Times〉から作品をリリースしていて、今回自然とフィットするように感じたんだ。彼は幅広いタイプのトラックでもラップができる人で、その才能にも興味があった。今回僕が用意したトラックでも、素晴らしい仕事をしてくれたと思う。今後は、自分の作品でも誰かのレコードのプロデュースでも、もっとヴォーカリストと一緒に曲を作ってみたいね。ラップでもポップでもなんでも。

逆に前作との境界線にあるような “Plonk VII” “Plonk X” などのアンビエント曲も印象的です、アルバムの選曲にはわりと時間などをかけたんでしょうか? なにかコンセプトなどがあればお教えください。

BL:これらのアンビエントなトラックを一緒に含んだのは、自分の過去と現在の橋渡しをするためでもある。自分の過去の作品との繋がりをリスナーに与えながらも、これからの未来に対して同意を促すような役割を果たしているんだ。

『Plonk』直前には ペンダント名義のアンビエント・アルバム『To All Sides They Will Stretch Out Their Hands』がリリースされていますが、本作との関係性はあるんでしょうか? 例えばそれぞれしっかりとサウンド・コンセプトを作って別々のタイムラインで作ったのかとか、作っているうちにそれぞれ振り分けていったとか。

BL:『To All Sides~』は、ペンダントの最初のアルバム(『Make Me Know You Sweet』)を作った2017、2018年と同時期にできていたんだ。かなり時間が経って古くなっているから、いまの自分との繋がりはもはや薄れたといえるね。曲を作るときは、基本どのプロジェクトのためのものかは把握しているよ。ペンダントではダークな一面を、ホエアコ・Sではメロディックで、遊び心に富んだ一面を表現している。自分にとってホエアコ・Sはジャンルに縛られずフィーリングを重視するプロジェクトで、ペンダントはダーク・アンビエントってところだね。

『Plank』のリズム・アプローチの変化のひとつに、ゴーストライド・ザ・ドリフト(Ghostride The Drift)などの周辺アーティストとのコラボからの影響ありますか?

BL:確かに影響を受けているし、他の人との音楽制作自体もそうだね。他のアーティストとのコラボレーションと、自分が聴く音楽、そしてDJをすること、これらの組み合わせが『Plonk』にいちばん大きな影響な影響を及ぼしている。

あなたのレーベル〈Western Mineral〉とスペシャル・ゲスト・DJことライアン・フォール(Ryan Fall)の〈3XL / Experiences Ltd. / xpq?〉といったレーベルは、あなたのカンザス時代からの仲間=Rory O’Brien、Exael、Ulla Straus and Romeu といったアーティストとともにひとつのシーンというかコミニティを作っているような印象を受けます。彼らとのコラボレートはやはりあなたにとってとても良い刺激になっていますか?

BL:もちろん、僕の友達と彼らの音楽は、いままでの創作にすごく影響を与えているし、今後も進化し続けたいと思っている。計り知れない才能があって、作りたい音楽を限りなく追い求める意欲を持った友達に出会えてラッキーだったよ。彼らの音楽にはすごく遊び心があるし、インスピレーションをもらえるんだ。

ちなみにスペシャル・ゲスト・DJは、アメリカ時代からのつながりですか?

BL:Shy(スペシャル・ゲスト・DJ)とは、当時のパートナーの Naemi(exael)を通じてだね。彼らが2013年ごろにカンザスシティを訪れた時に知り合った。そのとき Shy はシカゴに住んでいたんだ。

また今回はアンソニー・ネイプルズとジェニーのレーベル〈Incienco〉からのリリースとなりましたが、彼のレーベルは、あなたやDJパイソン、そしてアンソニー自身のようなエポックメイキングな作品をリリースするアーティストばかりです。アンソニーのそうした審美眼に関して、あなたの印象をお教えください。

BL:アーティストたちが本当にやりたいことを表現できるようなレーベルの運営に情熱をそそぐアンソニーとジェニーには愛をささげたいね。大きなレーベルと契約する代わりに、自分の音楽をリリースしたがっている友達がいてくれるのは嬉しい。僕にとってはつねに個人的な繋がりが大切なんだ。

ちなみにさきほどあげたオウテカのような90年代初期の実験的なテクノで好きなアーティストはいますか?

BL:オウテカ、モノレイク、パン・ソニックヴラディスラヴ・ディレイ、T++ だね。だけど『Plonk』に関しては間違いなく、もっと新しい音楽からインスピレーションを受けているよ。

ペンダントではダークな一面を、ホエアコ・Sではメロディックで、遊び心に富んだ一面を表現している。自分にとってホエアコ・Sはジャンルに縛られずフィーリングを重視するプロジェクトで、ペンダントはダーク・アンビエントってところだね。

あなたの初期のハウス作品にはベーシック・チャンネルのようなダブ・テクノとセオ・パリッシュのようなローファイなハウスのハイブリッドのような印象を受けます。このふたつのアーティストはあなたの音楽に影響を与えていますか?

BL:ベーシック・チャンネルは、自分の音楽性に最も影響を与えているもののひとつだね。セオ・パリッシュはそれほどかな。カンザスシティに住んでいて、ハウス・ミュージックに興味があったときは彼の影響を受けてたけれど。最近あまりハウスは聴かなくなったんだ。

上述のアーティスト、影響を受けた作品としてあげるとすれば?

BL:たくさん選びたいのはあるけれど、最初に挙げるならベーシック・チャンネルの「Radiance」だね。

■ジャマイカのルーツ・ダブは聴きますか? もしお気に入りの作品があればお教えください。

BL:いや、ルーツ・レゲエはあまり興味がないね。どちらかといえば、ダンスホールやラテン・ミュージックを現代的に解釈した人の音楽からインスパイアを受けることが多いかな。

■あなたはつねに、カテゴライズを拒むようにエレクトロニック・ミュージックに新たな道を作り続けています。それと同時に初期の作品や今作には、ダンス・ミュージックへの愛情も感じることができます。こうしたアーティスト像はあなたが考えていることとマッチしますか?

BL:確かに、過去の音楽は現在の自分に影響している。だけどそれを従来の形でそのまま焼き直すというよりは、新しい方法を通して音楽への愛やリスペクトを伝えようとしているんだと思う。だから過去の音楽だけにフォーカスするのではなく、いまの新しい音楽を聴くことで、そのためのアイデアを多く得ることができるんだ。

生涯で最も衝撃的だったDJは誰でしょう?

BL:とても答えづらい質問だから、最近感動したセットで、自分の世界の中で踊れたDJをふたり選ぶよ。Djrum と Barker だ。

Huerco S. 来日情報

熊本公演

EVEN

2022年6月17日(金)
開始:22時
料金:3500円(1ドリンク付)

Line up:
Huerco S. from KC
egg
IWAKIRI
Kentaro
jpn

東京公演

Sustain-Release presents 'S-R Tokyo 2.0'

2022年6月18日(土)Day1
開始:10:00pm~6:00am
料金:DOOR ¥4,500 / W/F ¥4,000 / GH S MEMBERS ¥4,000 / ADV ¥3,250 / BEFORE 23 ¥2,500 / UNDER 23 ¥2,500

Line up:
-STUDIO X
Aurora Halal (NY)
Huerco S. (KC)
食品まつり a.k.a Foodman -Live
Lil Mofo

-CONTACT
Kush Jones (NY)
YELLOWUHURU
DJ Trystero
Kotsu

-FOYER
Hibi Bliss
suimin
k_yam
Loci + sudden star
T5UMUT5UMU

2022年6月19日(日)Day2
開始:4:00pm~11:00pm
料金:DOOR ¥3,000 / W/F ¥2,500 / GH S MEMBERS ¥2,500 / ADV ¥2,250 / BEFORE 17 ¥2,000 / UNDER 23 ¥2,000

Line up:
-STUDIO X
Hashman Deejay & PLO Man (VBC / BE)

-CONTACT
Mari Sakurai
ASYL
DJ Healthy

https://www.contacttokyo.com/schedule/sr-tokyo2-day1/

愛知公演

DENSE#

2022年6月24日(金)
料金:Door 3000YEN / Adv 2500YEN / U25 2000YEN(0時までに入場のみ)

Line up:
HUERCO S
KURANAKA aka 1945

live:
CRZKNY

dj:
DJ UJI
Karnage
abentis
Good Weather in Nagoya

大阪公演

2022年6月25日(土)

料金:BEFORE 0:00 : 2000yen DOOR : 3,000yen
開始:23:00

Line up:
Huerco S. (West Mineral Ltd.)
and more

https://circus-osaka.com/event/huerco-s/

 ラッパーの Moment Joon が初めてソロ曲としてドロップした楽曲 “BAKA”。名作『失点 in the park』とおなじ2003年に ECD が発表した重要曲 “言うこと聞くよな奴らじゃないぞ” をサンプリングした同曲は、その後あっこゴリラと鎮座DOPENESS を迎えたヴァージョンが制作されているが、このたびさらなるリミックス・ヴァージョン “BAKA (Mega Remix)” が公開されている。新たに GAGLE の HUNGER、ACE COOL、Jinmenusagi をフィーチャー。強力さを増したメッセージに注目しましょう。

Moment Joon - BAKA feat. あっこゴリラ, 鎮座DOPENESS, HUNGER (GAGLE), ACE COOL & Jinmenusagi (Official Video)
https://youtu.be/bRMCFxx2C2E

Title: BAKA (Mega Remix)
Artist: Moment Joon / feat. あっこゴリラ & 鎮座DOPENESS & HUNGER (GAGLE) & ACE COOL & Jinmenusagi
Music: NOAH
Producer: NOAH
Mixing & Mastering :Sota Furugen
Directed by Udai Yabuta
Label: GROW UP UNDERGROUND RECORDS

https://linkco.re/489d21cB

「言うこと聞くよな奴らじゃないぞ!!」――6人のラッパーがステージで前のめりになりながら声を合わせてくり返し大声で歌っている。その迫力にただただ圧倒される。2021年12月8日、Moment Joonのワンマンライヴ「White Lies & Blue Truth」でのワンシーン。その場面を目撃した少なくない人が強い衝撃を受けたのではないだろうか。このパンチの効いたことばは、Momentが敬愛するいまは亡きラッパー・ECDの曲名で、偉大な先達が曲のなかで力を振り絞ってくり返したものでもあった。ECD はその楽曲を、2003年のイラク戦争に抗する反戦デモの参加者たちを鼓舞するために作っている。日本における“少数派”を勇気づけるためだった。Momentは最初にソロ曲として発表した「BAKA」で、そんな約17年も前の日本のヒップホップをサンプリングしたのだ。その後、鎮座DOPENESSとあっこゴリラが参加したヴァージョンがリリースされ、さらにHUNGER、ACE COOL、Jinmenusagiが加わったメガ・リミックスが完成した。そして、この6人の怒りのこもったマイク・リレーが初めて披露されたのが例のワンマンライヴだった。Momentは曲の冒頭で「血は繋がってないけど、シスター/ブラザー」と言う。それはきっとあなたのことであり、私のことでもある。「BAKA」という曲は、“言うこと聞かないBAKAな奴ら”のためのヒップホップにちがいない。(二木信)

interview with Kentaro Hayashi - ele-king

 はっとさせられたのはまだまん防中だった3月5日。DOMMUNE の阿木譲追悼番組でのパフォーマンスを目撃したときだ。小ぎれいな PARCO の上階で流すにはあまりにダークでひずんだサウンド。思い返せば2021年、デンシノオトさんがレヴューした『Peculiar』ですでにその神秘は開陳されていたわけだけれど、ライヴで体験する Kentaro Hayashi の濁りを含んだ音響は盤には収まりきらない魅力を放っていた。この2年、パンデミックがメディテイティヴな音楽を増加したことにたいする、ちょっとした異議申し立てのようにも聞こえた。なにせあの炎の男、ザ・バグでさえアンビエント作品を量産した時代である。あるいは、(一見)豊かだった日本の幻想から抜けきれない近年の風潮だったり、どんどんクリーンアップされていく都市の風景にたいする、素朴な疑問符だったのかもしれない。なんにせよ、いまの日本からなかなか出てこない音楽であることは間違いない。

 UKはニューカッスルのレーベル〈Opal Tapes〉から送り出された『Peculiar』は、もともと阿木譲の〈remodel〉からリリースされていた作品だ(リミックスでメルツバウジム・オルークが参加)。その音楽をひと言で形容するのは難しい。インダストリアル、ノイズ、エクスペリメンタル、テクノ……そのすべてであると同時にそのすべてから逸脱していくような感覚。「いちばん影響を受けたのはだれですか?」と PARCO で尋ねたとき、真っ先に返ってきた固有名詞はデムダイク・ステアだった。たしかに、それを想起させる部分もある。アルバムは凍てついた彫刻作品のごとき美を放射する一方、ところどころダンスへの欲求を垣間見せてもいて──おそらく手がかりはそこにある。大阪を拠点に活動する Kentaro Hayashi は、ハイブロウなサウンド・アートの文脈からではなく、より肉体的なものに根差した場所から世界を眺めているのではないか。

音楽的な影響という意味ではDJクラッシュ、DJシャドウ、DJフード、DJカムとか、〈Mo’Wax〉や〈Ninja Tune〉とかのアブストラクト勢、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドなどのブリストル勢のほうが大きいと思います。

3月5日の DOMMUNE でのライヴがとても良くて。昨年『ele-king』でアルバム・レヴューは掲載していたんですが、もっと前にライヴを観ておくべきだったと反省しました。

ハヤシ:DOMMUNE は初めてだったので緊張しました。DOMMUNE にはたまたま来ていただいた感じですよね?

そうです。編集長が急遽サプライズ出演することを知って。これまでも東京でもライヴはされているんですよね?

ハヤシ:中目黒の Solfa で数回、あと落合 soup、Saloon でもやりました。

大阪ではライヴはよくされているんですか?

ハヤシ:以前はそうでした。environment 0g [zero-gauge] という阿木譲さんがやっていたお店をメインに活動しています。コロナ前はちょくちょくイヴェントをやっていたんですが、いまは年に数回くらいですね。

DJもされますか?

ハヤシ:むかしはやっていたんですが、いまはDJはほとんどしていません。ライヴがメインですね。

environment 0g が足場とのことですが、ほかのアーティストやシーンみたいなものと接点はあるのでしょうか?

ハヤシ:少しはという感じですね。個人的にはそんなに頻繁に交流がある感じではないです。environment 0g まわりのミュージシャンや、東京から友だちを呼んでイヴェントをやったりしていて、大阪のアーティストで固まっているわけではないという感じですね。

なるほど。

ハヤシ:大阪はシーンがあるようで、じつはあまりないのではという気がします。そこがいいところでもあると思います。ハコが持っているお客さんも東京に比べて規模が小さいでしょうし、シーンといえるのかどうかというレヴェルかなと。たしか風営法のときに一気にいろいろなくなって、いまは朝までやってるイヴェントも少ないです。デイ・イヴェントが多い印象ですね。

音楽をはじめたのはいつからですか?

ハヤシ:高校生のころはギターを弾いていましたが、19~20くらいのときに打ち込みをはじめました。DJクラッシュを聴いて興味を持って、そこからヒップホップのイヴェントでよく遊ぶようになったんです。大阪に DONFLEX というヒップホップのハコがあって、そこで一時期働いていたのでいろいろな知り合いができました。

意外ですね!

ハヤシ:それが90年末から00年代初頭で。チキチキ・ビートってありましたよね。ちょうどティンバランドが出てきたころで。あとDJプレミアやドレーあたりもよく聴いていました。DJのひとたちとよくつるんでいたので、友だちの家にレコードがいっぱいあったんです。ずっと聴いてましたね。音楽的な影響という意味ではDJクラッシュ、DJシャドウ、DJフード、DJカムとか、〈Mo’Wax〉や〈Ninja Tune〉とかのアブストラクト勢、マッシヴ・アタックやポーティスヘッドなどのブリストル勢のほうが大きいと思います。その流れでダブやジャングルなども聴いていました。

“Odyssey” はダブ的ですよね。

ハヤシ:キング・タビーは好きでレコード買っていましたね。むかし INDICARDA というアブストラクト・ヒップホップのユニットをやっていたんですけど、そのときイヴェントに呼んでくれた方たちがダブ寄りだったので、ちょこちょこ遊びにも行ってました。モア・ロッカーズと共演したことがありますよ(笑)。

それはすごい! しかし最初からインダストリアルにどっぷりだったわけではないんですね。

ハヤシ:ヒップホップを通ったあとにハウスやテクノも聴くようになって、そのあと2014年ころに阿木さんと出会ってから、インダストリアルとかも聴くようになりました。阿木さんはイヴェントをやるときレコード・バッグの中をぜんぶ見せてくれたり、曲をかけるときもアーティストがわかるようにレコードを置いてくれたり。それで知識や音のデザインを吸収できた気がします。

阿木さんとの出会いが大きかったんですね。

ハヤシ:そうですね。もともとはアブストラクト・ヒップホップをつくっていたんですが、そのダークな感じから、テクノや4つ打ちの踊る方向に行きました。そのときは4つ打ちが最強のツールだと思ってました。いろんなジャンルを取りこんでぜんぶつなげられるので、これ以上のものがあるのかと思っていたくらいで。でも、いま思えば、あまり自分自身と噛み合ってなかった気がします。阿木さんと出会って、あらためてアブストラクトで暗い感じが自分に向いてるなと思って。もう一回やろうかなと。

向いてるというのは、単純に音としてしっくりきたということですか?

ハヤシ:そうですね。ドラムのダーティな感じとか、サンプリング音楽を聴いてた影響からか、荒い質感が好みで、つくるのが得意だなと。あと、踊れなくてもいいところとか。

アルバムを聴いてぼくは逆に、ダンスへのこだわりがあるのかなと思ったんですよ。“Peculiar” や “Octagon” もそうですし、〈Opal Tapes〉盤に入っている “Arrowhead” のジャングルとか。

ハヤシ:ダンス・ミュージックの進化はとても興味深いですし、それを表現したいとは思っていました。ただ一時期、新しさを感じることが減って飽きてしまって、ドローン系やダーク・アンビエントをよく好んで聴いていたんです。ライヴでもそういう音楽もやっていました。反復やうねりはあるけど、具体的なリズムがないような音楽が新鮮でした。でも、似たような作品がたくさん出てきてから興味がなくなってしまったんです。その反動でまたリズムのある作品をつくりたいと思いました。

10年代前半~半ばころですかね。

ハヤシ:阿木さんのイヴェントでも、リズムが入っている作品をよく聴いていました。衝撃を受けた作品の多くにはリズムが入っていましたし、その影響でリズムを意識的に取り入れたのかもしれません。語弊があるかもしれませんが、ドローン系とか持続音が中心の作品は見せ方とかで、それっぽく聴こえる気がして、もうちょっとつくりこんだものをやりたいとは思いました。

ちなみにベース・ミュージックは通っていますか?

ハヤシ:ロゴスやマムダンス、ピンチは好きですね。

やっぱり暗いですね(笑)。

ハヤシ:はっはっは(笑)。でもベース系のイヴェントにはぜんぜん行けてないですね。

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クリアな音より汚れた音のほうが好みなのは、ヒップホップを通ったからかもしれません。ハードのサンプラーの音が好きですし、自分の作品にとって重要な要素です。作品を聴いたら、そのひとがどれくらい手をかけているかってわかると思うんですよ。そこはしっかりやりたいなと。

こうしてお話ししていると、まったく暗い方には見えないのですが、ダークなものに惹かれるのはなぜでしょう?

ハヤシ:暗いと言われている音楽もストレートに「かっこいい」とか「美しい」と感じているだけで、あまり「暗い」とは考えていない気がします。雰囲気や空気感、緊張感が好みなのかもしれません。

なるほど。ちょうど最初にアルバムが出たころは穏やかなソウルが流行っていたり、日本ではシティ・ポップ・ブームがつづいていたり、そういうものにたいするいらだちみたいなものがあったりするのかなあと、勝手に想像していたのですが。

ハヤシ:いらだちはないですね。好みではないですけど。ワルい雰囲気を持った音楽が好きなんですよ。むかしはクラブに行くとなんか緊張感がありましたし、イカつくてカッコいいひとたちがいて。ワルい音楽というか、イカつい音。そういうのが好きなのかなとは思います。クラブには音を聴きに行っていたので、社交の場には興味がなかったですね。テクノでも、タナカ・フミヤさんとか、本気で遊んでいる雰囲気のイヴェントが好きでした。

アルバムでは1曲めの “Gargouille” だけ、ちょっとほかの曲とちがう印象を受けました。賛美歌みたいなものも入っていますし、題もガルグイユ(ガーゴイル)ですし、最後の曲も “Basilica” (バシリカ=教会の聖堂などで用いられる建築様式)で、もしかして宗教的なことに関心があるのかなと思ったんですが。

ハヤシ:まったくそういうことはなくて、イメージですね。鳥ではないけれど、ああいうグロテスクなものが飛んでいるイメージで、曲名は後づけです。本を読んで単語をストックしてそれを使うという感じで、深い意味はまったくないです。

本はどういうものを読まれるんですか?

ハヤシ:そんな頻繁には読みませんが、昨年までメルツバウのマスタリングをしていたので、そのときは秋田(昌美)さんの『ノイズ・ウォー』(1992年)を読んでいましたね。

ものすごい数のメルツバウ作品のマスタリングをされていますよね。

ハヤシ:去年までで50~60枚くらいは。制作ペースがすごく早くて、クオリテイも高くおなじものがないんですよ。展開も早いですし。すごいなと思います。

リミックスでそのメルツバウと、ジム・オルークが参加しています。

ハヤシ:おふたりには、デモ音源を渡してリミックスしてもらったんです。そのリミックスのほうが先に完成してしまったので、影響を受けつつ自分の曲をそこからさらにつくり直しています(笑)。

オリジナルのほうがあとにできたんですね(笑)。

ハヤシ:「このままじゃ自分の作品が負けるな」と思って。ジム・オルークがあんなにトゲトゲした、バキバキなものをつくってくれるとは思わなかったので、嬉しかったんですが、それと並べられるような作品にしないとと。プレッシャーでした(笑)。

ちなみに〈Opal Tapes〉盤のジャケはなぜウシに?

ハヤシ:ほかにも候補はあったんです。きれいな模様みたいなものもあったんですが、それよりはウシのほうがレコード店に並んだときに手にとってもらえるだろうなと思って。なんでウシなんだろうとは思いましたけど、デビュー・アルバムだし、インパクトはあったほうがいいかなと。ノイズっぽいジャケだと思いましたし、写真の雰囲気や色合いも好きだったので。でも、希望は伝えましたが最終的にどっちのジャケになるかはわからなかったんです。

ノイズというのはやはりハヤシさんにとって重要ですか?

ハヤシ:ノイズは効果音やジャパノイズのような使い方だけではなく、デザインされた音楽的な表現や、ギターリフのような楽曲の中心的な要素にもなると思うので、とても重要だと思います。感情も込められるというか。

音響的な作品でも、クラブ・ミュージックを経由した雰囲気を持っているアーティストにはシンパシーを感じますね。いろいろな要素が入っている音楽が好きなのかもしれません。

ではご自身の音楽で、いちばん欠かせない要素はなんでしょう?

ハヤシ:いかに手をかけるかというか手を動かすというか……音質というか雰囲気というか、色気のある音や動きが重要な要素なので、ハードの機材を使って手を動かしていますね。ただハードでも新しい機材は音がきれいすぎるので、古い機材のほうが好きです。クリアな音より汚れた音のほうが好みなのは、ヒップホップを通ったからかもしれません。ハードのサンプラーの音が好きですし、自分の作品にとって重要な要素です。作品を聴いたら、そのひとがどれくらい手をかけているかってわかると思うんですよ。そこはしっかりやりたいなと。

シンパシーを抱くアーティストっていますか? 日本でも海外でも。

ハヤシ:デムダイク・ステアですね。とくに、ベルリンの《Atonal》でライヴを体験してからそう思うようになりました。ほかの出演者もかっこいいと思っていたんですけど、ちょっときれいすぎたり、洗練されすぎている印象だったんです。おとなしい印象というか。でもデムダイクのライヴは洗練された、そのさらに先を行っていて、ジャンルは関係なく荒々しく、自由にライヴをしていたのがすごく印象に残っています。テクノなスタイルだけではなく、ブレイクビーツを使い意図的にハズしたり、そのハズしかたがすごくかっこよかった。京都のメトロに彼らがきたときに本人たちとも喋ったんですけど、彼らもヒップホップがすごく好きで。そこを通ってるのがほかのひととちがうのかなと。スタジオのセットアップについて話をしたときも、彼らは自分たちはオールドスタイルだと言っていました。

なるほど。

ハヤシ:あとはピュース・マリーとかローリー・ポーターとか。イヴ・ド・メイ、サミュエル・ケリッジ(Samuel Kerridge)、ヘルム、FIS、エンプティセットパン・ソニック、ペシミスト、Metrist とかですね。ペダー・マネルフェルトもすごく好きです。最近はテクノっぽくなってきていますけど。阿木さんが『Lines Describing Circles』をよくかけていて。音響的な作品でも、クラブ・ミュージックを経由した雰囲気を持っているアーティストにはシンパシーを感じますね。いろいろな要素が入っている音楽が好きなのかもしれません。テクノでもたんに4つ打ちだけではなくて、ジャングルやダンスホール、ブレイクビーツの要素が入っていたり、インダストリアルな要素が入っているとシンパシーを感じます。

ヒップホップをはじめ、いろいろルーツがあると思うのですが、ご自身の音楽をひと言であらわすとしたら?

ハヤシ:難しいですね……エクスペリメンタル・ノイズ、インダストリアル・テクノ、アブストラクトなどの要素を混ぜた感じでしょうか。定義するのは難しいです。自分としては、クラブ・ミュージックの発展形のようなイメージです。先端音楽というのかわかりませんが、いろんな要素を含んだハイブリッドで新しい作品をつくりたいと思っていますね。

音楽で成し遂げたいことってありますか?

ハヤシ:まずは2作目をちゃんとつくりたいです。ライヴももっと頻繁にやりたいですし、もっと大きなステージでもやってみたい。いつか《Berlin Atonal》のステージにも立ってみたいです。映画音楽も興味があります。テクノもつくりたいし、モダン・クラシカルも好きなので、ピアノだけの作品も出したいですね。

それはぜひ聴いてみたいです。

ハヤシ:でもいまピアノ作品出したら逃げてる感じがしちゃうので(笑)。そこは1作目の続きでマウンドに立ってフルスウィングしたいなと(笑)。でも2枚めでコケるパターンってよくあるので、2枚めで終わらないようにしないと(笑)。

いいものができると思いますよ。というのも、ヒップホップ時代もあり、テクノ時代もあり、阿木さんとも出会ってという、いろんな経験をされてきてると思うので、20歳くらいのひとがセカンドをつくるのとはぜんぜんちがうと思うんですよ。

ハヤシ:いろんな経験をしてきたからこそわかるものにはしたいですね。深みのある作品をつくりたいです。

ダンスの夏へ - ele-king

 ダンス・ミュージックの良いところは、幅広い人にアプローチできるところであり、基本ピースなところであり、また、サウンドの実験場としても機能するところ。海の向こうは、いよいよダンスの夏を前に準備万端といった感じだけれど、日本はどうなるのでしょうか。先週末、ぼくは京都のイーノ展を観にいって、稲岡健とオキヒデ君と文字通り浴びるように呑んだ翌日、静岡に寄って、小さなクラブ〈Rajishan〉にて、CMTほか地元のDJたちがかけるハウスやテクノでダンスしました。当たり前だけど、音を身体に感じながら踊るって、いくつになっても楽しいよね。


Ron Trent presents WARM - What Do The Stars Say To You Night Time Stories /ビート

Deep House

 シティ・ポップが世界で大流行だって? いい加減なことを書いてしまう人がいるものだ。南米やアフリカのクラブでも、日本の70年代末〜80年代のポップスが種々雑多にかかっているならそう言えるだろうけど。つまりレゲトンやダンスホールのように、アマピアノのように。ぼくが知る限りでは、世界で大流行する音楽はだいたいダンス・ミュージックだ。ハウス・ミュージックは、そういう意味では30年前に世界で大流行した音楽のひとつで、いまでもこの音楽は老若男女問わずに踊らせてくれる。
 ロン・トレントは、1980年代なかばの彼が10代のときに作ったデビュー曲によって一世を風靡し、1990年代のシカゴ・ディープ・ハウスのもっとも輝かしい存在として影響力をほこったDJ/プロデューサーだ。トレントのような人は、ダンスフロアが歓喜の場であり、同時に魂を洗浄する場であることにも自覚的だった(彼の伝説的なレーベル名は〈処方箋〉=〈Prescription〉という)。ほとんど外れ無しだった彼が90年代に残した音楽は、いまでもその深さを失っていないが、トレントは年を重ねるなかで、柔軟に変化を受け入れて彼の音楽に磨きをかけている。
 今年49歳のベテラン・ハウス・プロデューサーの新作には、共演者として(驚くべきことに!)ヒューストン出身のクルアンビンがいる。そして、79歳のフランス人ヴァイオリニストのジャン=リュック・ポンティ、66歳のイタリア人ジジ・マシン、ブラジリアン・ジャズ・ファンクの大御所、アジムスのリズム隊=アレックス・マリェイロス(ベース)とイヴァン・コンチ(ドラム)がいる。トレントはこうした豪華ゲスト陣を的確な起用法をもってフィーチャーし、スムーズで快適なアルバムに仕上げている。大人のハウス・ミュージックだが、この音楽の奥深さに興味のある若い世代にも聴いて欲しい。


Joy Orbison - Pinky Ring / Red Velve7 XL Recordings

UK GarageTechno

 昨年アルバムを出したUKベース世代の人気DJによるキラー・チューン。いや〜、カッコいいです。もうすぐ限定で10インチも出るそうで、君がDJならゲットしよう!


Various Artists - The Assurance Compilation

AmapianoAfrobeatHouseTechnoBaile FunkGqom

 ベルリン在住のDJ、Jubaは欧米以外の国々で活動する女性DJの音源をコンパイルしてリリースした。ベトナム出身DJ/プロデューサーのMaggie Tra、ブラジル出身プロデューサーのBadsista、南アフリカ出身DJ/プロデューサーのDJ IV、台北出身のSonia Calico、ナミビア共和国出身のGina Jeanzなどなどによるマルチ・カルチュアラルなコンピレーションで、なおかつ女性アーティスト限定。これもまた、ブラック・ライヴズ・マター(創始者の金のスキャンダルには失望したが、しかしそれ)を引き金とした、ポスト植民地主義時代の大きな波(ムーヴメント)に乗って生まれた作品と言える。


Phelimuncasi - Ama Gogela Nyege Nyege Tape

GqomGhetto

 南アフリカのゴム3人衆。DJ MP3、DJ Scoturnといった以前からの仲間のほか、韓国のIDMアーティスト、 NET GALA。ダーバンのDJ Nhlekzinらも曲を提供している。激しいことこのうえないが、DJ MP3によるドローンの“uLalalen”には至福の境地が、NET GALAによる“ Dlala Ngesinqa”ではゲットーテック、DJ Scoturnによる“Maka Nana”ではヒプノティックなアフロ・ハウス……といった具合に、じつにヴァラエティー豊かな内容になっている。4つ打ちのキックドラムが入る“Kolamula Ukusa”も推進力がある曲で、ウガンダのアンダーグラウンド・シーンの勢いと濃密さをしたたかに感じる。ドミューンでイーノについて喋った翌日、浅沼優子とそこそこ呑んで、ネゲネゲ・フェス体験談を聞かされたばかりなんで、とくに。


Slikback - 22122

Experimental

 ケニアのクラブ・カルチャーにおける実験精神を負っているひとり、スライクバックによる最新作で、bandcampからは定価無しでゲットできる。なので、この機会にぜひ聴いて欲しい。彼のユニークな音楽の背後には、いろんなもの(テクノ、ノイズ、Gqom、グライム等々)があるのだろうけれど、咀嚼され、はき出されるサウンドはきわめて因習打破的だ。君が好む好まざるとに関わらず、彼のようなサウンドの挑戦者がいるからこそクラブ・カルチャーは風俗にならず、文化としての強度を保っているということもどうか忘れずに。


Dopplereffekt - Neurotelepathy Leisure Systems

Electro

 ドレクシア(最近弟がWavejumpers名義でシングル出しました)のオリジナル・メンバーだったジェラルド・ドナルドによるプロジェクトとはいえ、ドップラーエフェクトはデトロイト・エレクトロにおける異端だ。黒人男性と白人女性によるデュオによる電子音楽という点では、ハイプ・ウィリアムスの先達でもあるのだが、そのコンセプチュアルな作風においても先を行っていた。ただし彼らは少し風変わりで、ある種病的なテーマ(ファシズム、エロス、科学者、遺伝子学等々)を扱いつつ、それらはつねに冷酷なマシン・サウンドによって形作られている。新作においても、その美学が1995年からブレていないことが確認できるだろう。ドップラーエフェクトは非人間性=機械のなかにエロティシズムを見いだし、人工物と人間との融合を夢みているかのようだ。ドレクシアの感情をかき立てる激しさとは対極の、人気のない病院のような、静的でひんやりとした感触が広がっている。


Compuma - A View Something About

AmbientDubExperimental

 日本からは、欧米の物まねではない独自のセンスを持ったおもしろい表現者がポツポツと生まれるわけで、最近でいえば食品まつりなんかがそう。で、Compumaもまた、オリジナリティを持ったDJ/プロデューサーのひとりだ。食品まつりは、いちぶの欧米人から見ると横尾忠則のナンセンスなサイケデリアを彷彿させるそうだが、それに倣って言えば、Compumaは(京都のお茶の老舗店からCDを出しているし)千利休のダブ・ヴァージョンだ……というのは冗談です。が、彼には独特のダブ・センスがあって、それは派手にかまさないからこそにじみ出る魅力を持っている。その抽象化された音像と間の取り方は、じつに独特だ。
 Compumaのソロ・アルバム『A View』は、アンビエント、フィールド・レコーディング、ダブ、シンセサイザー音楽、エレクトロ、そういったものからヒントを得て作られた立体的かつ空間的な音楽で、題名が示すようにサウンドスケープ(音で描く風景)作品とも言えるのだろう。山っ気やエキセントリックな要素はまったくない。その代わりここには、強固な意志によって創出された「ゆるさ」というものがある。Compumaは息苦しいこの時代のなかで、みごとなシェルターを立ち上げているように見える。音素材自体は演劇のために制作されたものだという話だが、そうした予備知識を抜きに聴いてぜんぜん楽しめるし、さすがベテラン、抽象的であるがゆえになんど聴いても飽きない。


Overmono - Cash Romantic   XL Recordings

Techno

 とりたてて目新しくはない、でも、とにかくカッコいい。こういうトラックを聴くとオーヴァーモノがUKのダンス・シーンで幅広く支持されているのが理解できる。ミニマルなテクノにソウルフルなヴォーカルが若々しい感性によってミックスされる。いかにもUKらしいトラックというか、君がDJでテクノが好きなら、フロアの熱を上げたいとき、これをスピンすれば間違いないよ。


Petronn Sphene - Exit The Species

No Wave RaveExperimental

 以前紹介した衝撃のジ・エフェメロン・ループの変名によるなかばガバの入ったハードコア・レイヴ・アルバム。日本は、梅雨が終われば参院選かぁ。サマー・オブ・ヘイトにならなければいいけれど……。とまれ。この音楽、ダンスフロア向きかどうかは議論の余地がありますが、ライヴハウスで暴れたい人にはコレでしょう。

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