「Ord」と一致するもの

Bonobo - ele-king

『Fragments』の仕上がりがすこぶるよい。せっかくなので作者であるボノボの進化の過程をふりかえってみよう。
 ボノボことサイモン・グリーンが英国南部のブライトンに生まれたのは1976年、前年には CAN がこの地でおこなったライヴの模様が先日出た未発表のライヴ盤『Live in Brighton 1975』でつまびらかになったが、まだ生まれてもいないサイモンは当然その場にいあわせていない。他方で長ずるに音楽の才能を開花させ20代前半には地元のクラブ・シーンを中心に頭角をあらわしはじめたグリーンはミレニアム期に地元の〈Tru Thoughts〉のコンピにクァンティックらとともにボノボ名義で登場、2000年には同レーベルから『Animal Magic』でアルバム・デビューもかざっている。くすんだジャズ風の “Intro” にはじまり、個性的な組み立てのビートが印象的な “Silver” で幕をひく全10曲は、形式的にはブレイクビーツ~ダウンテンポに分類可能だが、細部のモチーフがかもしだすエスニシティやトリップ感とあいまってラウンジ的な風合いもただよっている。むろんすでに20年前のこととてサウンドにはなつかしをおぼえなくもないが、いたずらにテクノロジーに依存しすぎないグリーンの音楽的基礎体力が本作を時代の産物以上のものに仕立てている。その3年後、ボノボはこんにちまで籍を置く〈Ninja Tune〉から2作目の『Dial 'M' For Monkey』をリリース。ヒッチコックの『ダイヤルMを廻せ!』をモジったタイトルがあえかな脱力感をさそう反面、スピードに乗せた場面転換は本家もかくやと思わせるほどスリリング。フルートやサックスの客演、サスペン仕立ての設定もあって、前作よりもジャズのニュアンスがせりだしているが、そのジャズにしても、キレよりもコク重視のハードバップ風味だった。

 管見では、ワイルドな表題の上記2作をもってボノボの野生期とみなす。形式的にはダウンテンポという先行形式に範をとって自身の立ち位置を定めるまでの期間とでもいえばいいだろうか、母なる森から音楽シーンという広大な平原にふみだそうとするボノボの冒険心を感じさせる黎明期である。むろんそれによりボノボの歩みがとどまることもなかった。むしろ野生期の記憶をふりはらうかのようにボノボの歩幅は伸張していく。前作から3年後の2006年の『Days To Come』──「来たるべき日々」と名づけたサード・アルバムはその例証ともなる一枚といえるだろう。サウンドは機材環境を刷新したかのようにクリアさを増し、アルバムも全般的にみとおしがよくなっている。とはいえボノボらしいオーガニックさは減じる気配なく、グリーンはみずから演奏する生楽器のサウンドや民俗楽器のサンプル・ソースとデジタル・ビートを巧みに組み上げている。ヴォーカリストの起用も本作にはじまるスタイルであり、インド生まれのドイツ人シンガー、バイカと同郷のフィンクを客演に招き、現在につながるスタイルの完成をみた。その基軸はなにかといえば、種々雑多な記号性とそれにともなうサウンドの多彩さと耳にのこるメロディといえるだろうか。サイモン・グリーンのセールスポイントはそれらを提示するさいのバランス感覚にある。クンビアであれアフロビートであれ、ベース・ミュージックであれ、ボノボはそれらをフォルマリスト的にもちいるのではなく、響きに還元し自身の声として構成する。グリーンはアーティストであるとともに第一線で活躍するDJでもあるが、ボノボのカラーはDJカルチャー以降の音楽観の反映がある。2006年の『Days To Come』、次作となる2010年の『Black Sands』ではサウンドのデジタル化がすすんだせいでその構図はより鮮明になっている。これをもって私はボノボの技術革命期と呼ぶが、このころはまた作品の評価とともにボノボの認知度が高まった時期でもあった。
 呼応するように『Black Sands』でボノボはミックス作を発表しフルバンドでのツアーにものりだしていく。グリーン自身も、このころを境に拠点をブライトンからニューヨークに移し、余勢を駆るかのごとく制作入りし2013年にリリースした『The North Borders』では “Heaven For The Sinner” にエリカ・バドゥが客演するなど話題に事欠かなかった。作風は彼女が参加したからというわけではなかろうが、ニューソウル~R&B風の流麗さと、ダブステップ以後のリズム・アプローチをかけあわせてうまれた2010年代前半の空気感をボノボらしいリスニング・スタイルにおとしこむといった案配。さりげない実験性とくっきりした旋律線がかたどるフィールドはボノボの独擅場というべきものだが、その領域はクラブのフロアとリスニング・ルームの両方にまたがっているとでもいえばいいだろうか。没個性におちいらない汎用型という何気に難儀なスタイルを確立したのが『The North Borders』であり、本作をもって私はボノボの認知革命期のはじまりとする。ものの本、たとえば数年前の大ベストセラー『サピエンス全史』では認知革命なる用語をもって「虚構の共有による人類の発展」と定義するが、サピエンスではなくボノボをあつかう本稿においては「創作上の発見による音楽的な飛躍」となろうか。これはサイモン・グリーンの内面の出来事ともいえるし、ボノボの音楽が私たちにもたらすものともいえる。この場合の認知はかならずしも意識にのぼらないこともあるが、2013年の『The North Borders』以降、2017年の『Migration』、最新作の『Fragments』とこの10年来のボノボの3作が認知革命期におけるボノボの長足の進歩を物語っているのがまちがいない。
 とりわけ「断片」と題した新作『Fragments』ではこれまでの方法論の統合、それもボノボらしい有機的統合をはかるにみえる。

 『Fragments』は “Polyghost” のミゲル・アトウッド・ファーガソンによるポール・バックマスターばりの流れるようなストリングスで幕をあける。場面はすぐさま題名通り陰影に富む “Shadows” へ。この曲に客演するUKのシンガー・ソングライター、ジョーダン・ラカイをはじめ、『Fragments』には4名のシンガーやかつてグリーンがプロデュースを担当したアンドレヤ・トリアーナのヴォイス・サンプルなど、12曲中5曲が歌もの。その中身も、シルキーなラカイから “From You” でのジョージの雲間にただようようなトーン、〆にあたる “Day By Day” でのカディア・ボネイのポジティヴなフィーリングにいたるまで多彩かつ多様。それらの要素を最前から述べているグリーンのバランス感覚ともプロデューサー気質ともいえるものが編み上げていく。『Fragments』という表題こそ認知革命期らしく抽象的だが、むろんその背後にはこの数年のグリーンの経験と思索がある。ブライトンからニューヨーク、ニューヨークからロサンゼルスへ、拠点を移しツアーに明け暮れたこの数年の生活が導くインスピレーションは2017年の『Migration』に実を結んだが『Fragments』における旅はそれまでとは一風かわったものだった。というのも2019年にはじまった『Fragments』の制作期間はパンデミック期とほぼかさなっており、物理的な移動はままならなかった。この期間グリーンはあえて都市を離れ、砂漠や山、森などの自然にインスピレーションをもとめたのだという。そのようにして時機をうかがう一方で、リモートによるコラボレーションもすすめていったとグリーンは述べている。シカゴの歌手で詩人のジャミーラ・ウッズとコラボレートした “Tides” もこのパターンだったようだが、アトウッド・ファーガソンの弦、ララ・ソモギのハープ、グリーンの手になるリズム・セクションとモジュラー・シンセが一体となり、潮のように満ち引きをくりかえすこの曲はアルバム中盤の要となるクオリティを誇る。しからば制作の方法は作品の質に関係ないのかと問えば、そうではないとボノボは答えるであろう、生き物が環境の変化に適応するように音楽家が制作環境に順応することはあっても、音楽が進化の過程を逆行することはないと。
 進化とはいつ来るとは知れない未来へ向けて手探るようになにかをすることであり、不可逆の時間(歴史)の当事者として現在を生きつづけることでもある。アンビエントやノンビートにながれがちな昨今の風潮をよそに、ダンス・ミュージックにこだわった『Fragments』の12の断片こそ、ボノボの次なる進化の起点であり、その背後にはおそらくサイモン・グリーンの音楽という行為へのゆるぎない確信がある。

誰だって傷ついている
そんな個人的なことが
政治につながる

女性議員、活動家らが自らの人生と政治理念を語る──
吉田はるみ、大石あきこ、五十嵐えり、福島みずほ、三井マリ子、田村智子、石嶺香織、辻元清美

好評のエレキング臨時増刊シリーズ第五弾は、女性政治家たちへのインタヴュー集!

菊判/192頁

目次

呪文という序文──期待と期待外れと絶対の信頼について (水越真紀)

 現場で聞く声
吉田はるみ 「成長」より「分配」が先です
大石あきこ 多数派でなくてもやり方次第で物事は動かせる
五十嵐えり 「自己責任だから貧困でも我慢しなさい」は不正義

 世界につなぐ声
福島みずほ 「生きづらさ」は社会を変える契機にもなる
三井マリ子 ノルウェーに学んだ「ジェンダー平等」社会
田村智子 ジェンダー問題を通して資本主義を乗り越える

 闘う歌の声
石嶺香織 生活と政治はこんなにもつながっている
辻元清美 経済成長を促すカギは女性政策にある

「女がいないと1日も社会は回らない」 (土田修)

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Cantaro Ihara - ele-king

 70年代ソウルのマナーを取り入れたグルーヴィなサウンドで注目を集めるミュージシャン、イハラカンタロウ。彼によるウェルドン・アーヴィンのカヴァー「I Love You」が7インチで2月2日にリリースされる。イハラ本人による訳詞が印象に残る、メロウな1曲です。ミニライヴも予定されているとのことなので、下記をチェック。

 ちなみにウェルドン・アーヴィンはニーナ・シモンのバンド・リーダーだったキイボーディストで、ブラック・アーツ・ムーヴメントとリンクした“To Be Young, Gifted and Black” の作詞者として知られている。90年代にはモス・デフとコラボ、2002年の死の後にはマッドリブが丸ごと1枚トリビュート・アルバムをつくったり、Qティップがその名をシャウトしたりするなど後進への影響も大きい(ドキュメンタリー「Digging for Weldon Irvine」にはジェシカ・ケア・ムーアも登場しコメントを述べている)。

Weldon Irvineによるレア・グルーヴ~フリー・ソウルクラシック「I Love You」を日本語カヴァーした“イハラカンタロウ”最新シングル解禁! 完全限定生産7インチシングルの発売も記念してタワーレコード渋谷店でのインストアライヴも決定!

70年代以降のソウルやAORをベースに幅広い音楽スタイルやエッセンスを吸収したサウンドで現代のクロスオーヴァー・ソウルを体現する“イハラカンタロウ”。本日解禁となるWeldon Irvineの名曲「I Love You」日本語カバーは、全国各地のラジオ局でパワープレイも続々決定するなど現代のジャパニーズ・ソウルとも言うべきメロウ&グルーヴィーなサウンドで好評を得ています! さらに極上のメロディと洗練されたアレンジやコードワークで聴かせる自身の新曲「You Are Right」と「I Love You」とのカップリングによる7インチシングル発売を記念して、2/6にタワーレコード渋谷店でのインストアライヴも決定、お見逃しなく!

・「I Love You」(Official Audio)[日本語歌詞字幕付き]
https://youtu.be/dMyNM4NzAT4

イハラカンタロウ インストアイベント
■日時:2月6日(日) 15:00~
■会場:TOWER VINYL SHIBUYA(タワーレコード渋谷店6F)
■内容:ミニライブ&サイン会
■参加方法:観覧フリー

詳細はこちら
https://p-vine.jp/schedules/145605

【リリース情報】
アーティスト:イハラカンタロウ
タイトル:I Love You / You Are Right
7inch Single (2022.2.2 Release)
レーベル:P-VINE
品番:P7-6291
定価:¥1,980(税抜¥1,800)

[Track List / Digital Single]
・I Love You (2022.1.19 Release)
・You Are Right (2022.2.2 Release)

[Purchase / Streaming / Download]
https://p-vine.lnk.to/T4f5Ij

【イハラカンタロウ プロフィール】
1992年7月9日生まれ、作詞作曲からアレンジ、歌唱、演奏、ミックス、マスタリングまで手がけるミュージシャン。都内でのライヴ活動を中心にキャリアを積み2018年に1st EP『CORAL』を発表、聴き心地の良い歌声やメロディ、洗練されたアレンジやコードワークといったソングライティング能力の高さで徐々に注目を集めると、2020年4月に1stアルバム『C』(配信限定)、同年12月にはアルバムからの7インチ「gypsy/rhapsody」をリリースし各方面から高い評価を受ける。またギタリスト、ミックス&マスタリングエンジニアなど他アーティストの作品への参加など幅広い活動を行なっている。

Twitter:https://twitter.com/cantaro_ihara
Instagram:https://www.instagram.com/cantaro_ihara/

interview with Boris - ele-king

 幕開けとともに閉塞感が増しつつある2022年の世相を尻目にボリスは加速度を高めていく。起点となったのは2020年の夏あたり、最初の緊急事態宣言が明けたころ、主戦場ともいえるライヴ活動に生じた空白を逆手に、ボリスは音楽プラットフォーム経由で多くの作品を世に問いはじめる。新作はもちろん、旧作の新解釈やデジタル化にリマスター、ライヴやデモなどのオクラだし音源などなど、ザッと見積もって40あまりにおよぶ濃密な作品群は、アンダーグラウンド・シーンの牽引車たる風格にあふれるばかりか、ドゥーム、スラッジ、シューゲイズ・メタルの代表格として各界から引く手あまたな存在感を裏打ちする多様性と、なによりも生成~変化しつづける速度感にみちていた。
 なぜにボリスの更新履歴はとどまるところを知らないのか。そのヒントはルーツにある轟音主義に回帰した2020年の『NO』と、対照的な静謐さと覚醒感をもつ2022年の『W』——あわせると「NOW」となる2作をむすぶ階調のどこかにひそんでいる。
 取材をおこなったのは旧年12月21日。同月だけで彼らはBandcampにライヴ盤と3枚のEP(「Secrets」「DEAR Extra」「Noël」)をあげており、前月にはフィジカルで「Reincarnation Rose」をリリースしていた。いずれも必聴必携だが、クリスマス・アルバムの泰斗フィル・スペクターが聴いたら拳銃をぶっぱなしかねないドゥーミーな音の壁と化したワム!の「ラスト・クリスマス」(「Noël」収録)と、「Reincarnation Rose」EPの20分弱のカップリング曲「知 You Will Know」の水底からゆっくりと浮上するような音響性が矛盾なく同居する場所こそボリスの独擅場であり、その土壌のゆたかさはおそらく今年30年目を迎える彼らの歴史に由来する。
 そのような見立てのもと、最新アルバム『W』が収録する「You Will Know」の別ヴァージョンに耳を傾けると、浄化するようなサウンドと啓示的なタイトルに潜む未来形の視線までもあきらかになる。現在地からその先へ――Atsuo、Takeshi、Wataのボリスの3者に、30年目の現状と展望を訊いた。

スタジオでの作業は日々絵を描きつづけるような、どんどんアップデイトされていくような感じなんです――Atsuo

ボリスは海外を中心にライヴ活動がさかんですが、このコロナ禍で制約があったのではないかと想像します。実際はどうでしたか?

Atsuo:こんなに(海外に)出ていないのは何年ぶり? という感じだよね。

Takeshi:ぜんぜん行っていなかったのは2006年よりも前だよね。それ以降は毎年かならず行っていたもんね。

2006年より前というのは、いかに長く海外での活動をされているかということですよね。でも逆に、ライヴ・バンドのメンバーに取材すると、ツアーがなくなって最初は悲しかったけど、ツアーしない時間にいろんな発見があったという意見もありました。

Atsuo:前はツアーをしなければ食べていけないと思っていましたから。コロナに入ってアルバムをすぐに作ってBandcampで2020年の7月に出したんですけど、その反応がすごくよくて世界中のリスナーからガッチリサポートしてもらえたんです。Bandcampの運営とか、楽曲の管理を自分たちでやりはじめたらツアーに出るよりも、経済的によい面もあって、制作にも集中できた。あと、すごく大変なことをしていたんだ、という実感もあります、ツアーに出るということが(笑)。その反面、あらためて再開するのも大変かなと思っています。いちおう今年は米国ツアーを予定してはいるんですけどね。

アメリカはどこをまわられるんですか?

Takeshi:全米をほぼ1周する感じです。

「周」という単位を聞くだけでも大変そうですよね。

Atsuo:感覚を戻すのがね。ほんと体力も落ちているんで。コロナ以前の状態まで自分たちのコンディションを戻さなければならないというのはたしかに大変です。

Takeshi:オフ無しで7本連続とかね。

ツアーと制作中心の生活ではメンタル面での違いはありますか?

Atsuo:スタジオでの作業は日々絵を描きつづけるような感じなんです。そういった生活のほうが個人的には好きなんですけどね。新曲を作ってレコーディングしていると精神的にはめっちゃ安定するんですよ。日々新しい刺激が自分に返ってくると、やっぱりいいなと思います。コロナ禍で気づいたのは、自分の性質が絵描き的というか、描いて作られていく感覚に惹かれるということでした。いわゆるバンドマンとはちょっと違う感覚というか、描き続けていかないと完成しない、その感覚が強いです。

Wataさんはコロナ禍でご自分の生活や性格の面で新たな気づきはありましたか?

Wata:家にずっといてもけっこう大丈夫でした(笑)。

意外とインドアだったんですね。Takeshiさんは?

Takeshi:ライヴができなかっただけで、あとはあまり変わらなかったですね。スタジオにもしょっちゅう入っていたし。音楽が生活に占める割合は変わらないどころか、逆に増えた気がします。

Atsuo:制作ペースは上がっているものね。

Wata:スタジオはふつうに使えていたので、思いついたらスタジオに入ってセルフレコーディングして家にもってかえって編集して。

Takeshi:前はその合間にツアーのリハーサルがあったりして、制作に集中できない局面もあったんですけど、コロナ禍では制作に没頭していました。

Atsuo:今回のアルバム『W』はリモート・ミックスなんですね。

リモート・ミックスとは?

Atsuo:担当していただいたエンジニアが大阪在住で、そこのスタジオの音響を「Audiomovers」というアプリで共有して、オンラインで聴きつつzoomで話し合いながらミックスを進めました。家の環境で聴けるのでかえってジャッジもしやすかったりするんですよね。

東京で録った素材を大阪に送ってミックスしたということですか?

Atsuo:そうです。今回はBuffalo Daughterのシュガー(吉永)さんに制作に入ってもらったので、シュガーさんに音源をいったんお送りして、シュガーさんからエンジニアさんへ素材が行き、確認しながらミックスという流れです。

通常のスタジオ・レコーディングとはちょっと違った工程ですね。

Atsuo:僕らはもう20年以上セルフレコーディングなんです。リハスタで下書きしたものを完成品に仕上げていくスタイルです。ミックスだけはエンジニアに手伝ってもらっています。

その前の曲作りの段階はふだんどのような感じなんですか。

Atsuo:曲はリハスタでインプロした素材をもとに編集して曲の構造を作り、必要であれば肉づけするというプロセスでできあがります。CANと同じです。

Wata:最初は作り込んでいたけどね。

Takeshi:初期のころはわりと普通のバンド的だったね。

Atsuo:うん、リフを作って、何回繰り返したらここでキメが入ってとか決めていたね。セルフレコーディングをはじめたあたりからいまの方法になっていきました。いわゆるレコーディング・スタジオではどうしても「清書」しなければならない状況になると思うんですよ。それが苦痛で(笑)。間違えちゃダメというのがね。でも間違えたり、逸脱することに音楽的なよさがあったりするじゃないですか。だったら自分たちで録れば、たとえ失敗しても問題ない(笑)。そのぶんトライできるというか。

Takeshi:曲を作る工程は、みんながそれぞれ素描をしていて「こんなのが描けたんだけど」と互いに見せ合うような感じです。そこでやり取りしながら色を入れていったり、線が決まっていったり、そういった感じです。

Atsuo:いわゆるバンド的な曲作りだと、下書きみたいなリハーサルを何度も重ねてレコーディングがペン入れみたいなイメージな気がするんですね。清書するというのはそういう意味なんですが、僕らはそうじゃなくて下書きから一緒にドンドン塗り重ねて描き上げていく感じですね。

KiliKIliVillaとはインディペンデントにおける基本理念を共有している感覚があります。KiliKiliVilaの契約は利益が出たら折半なんですね。それは欧米ではごく普通のことなんですが、国内でそれをやっているレーベルはある程度以上の規模では極端に少なくなる。――Atsuo

プロセスを重視するからなにがあっても失敗ない?

Atsuo:失敗も2回繰り返すと音楽になる。そういう観点から以前はガチガチに決め込んでいた構成も、失敗を受け入れられる意識になり、(演奏の)グリッドも気にならなくなりました。反対に、ポストプロダクション全開な作り方を試した時期もありましたけどね。同期などを使っていた時期です。いまは自分たちにしかできない方向、グリッドレスな方向に行っています。

方向性の変化はどんなタイミングでおとずれるんですか?

Atsuo:そのときどき好きなことをやっているだけです。これだけ長いあいだやっていると、なにをやっても世間的な評価は変わらないんですよ。であれば好きなことをやったほうが単純に楽しい。それこそカヴァーとかやると、高校のころやっていた楽しい感じを思い出したり。

若々しいですね(笑)。

Atsuo:(笑)楽しいことをやっていたいとは思いますよ。とくにいまのような状況下では各自の死生観みたいなものも露わになってきますし、楽しいことをしないと意味がないですよね。

とはいえコロナ禍で音楽をとりまく状況は厳しくなりました。たとえば今後どのようにバンドを運営していくかというような、現実的な話になったりしませんか?

Atsuo:ずっとインディペンデントでやってきてレーベルに所属することもなく、すべてを自分たちで舵取りしてきたんですね。原盤もほとんど自分たちで持っています。コロナ禍では自分たちで判断して行動するという、ずっとやってきたことがあらためて重要な気がしています。

KiliKIliVillaから出すのでも、いままでと体制は変わらないということですね。

Atsuo:体制は変わりませんが、環境はよくなりましたよ。たまたま知人を介しての紹介だったんですけど、KiliKIliVillaとはインディペンデントにおける基本理念を共有している感覚があります。KiliKiliVilaの契約は利益が出たら折半なんですね。それは欧米ではごく普通のことなんですが、国内でそれをやっているレーベルはある程度以上の規模では極端に少なくなる。レーベルの与田(太郎)さんからそういう契約だと聞いたときも、自分たちには普通のことなので、「はい、お願いします」――だったんですが、いざまわりを見渡すと日本でそれをやっているレーベルはあまりない。インディペンデントにおける価値観もシェアできるし、やりやすいですよね。そういうインディペンデントにおける美意識を共有している方がKiliKiliVillaのまわりにはたくさんいるので、いろいろなことがスムーズですね。

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それこそ高校生のころの感じというか、影響を受けたことを直で出してしまうような。――Atsuo

レコーディング、作品づくりに話を移します。ボリスは2020年夏にアルバム『NO』を出し、2021年はBandcampを中心にデジタル・リリースを含めるとかなりの数の作品を出されています。そして2022年の第一弾アルバムとして『W』が控えています。『W』の制作はいつからはじまったんですか?

Atsuo:『NO』のレコーディングが終わった時点で『W』の方向性が見えてきて、『NO』をリリースする前には『W』のレコーディングは終わっていました。

『NO』は2020年の7月です。一度目の緊急事態宣言が解除になってしばらくしたころ。

Takeshi:そうですね、その年の6月には終わっていたんですよ。

同時進行ですか?

Takeshi:『NO』が先に終わって、その後にすぐつづく感じでした。つながっている感じといいますか。

『NO』が「Interlude」で終わっていたのが不思議でした。

Atsuo:出す時点で『W』が決まっていたので、2枚でひとつという感じでした。

ということは制作前に2枚にわたる構想をおもちだった?

Atsuo:『NO』の終わりごろにそうなった感じですかね。

では『NO』はもともとどういう構想のもとにたちあがったのでしょう。

Atsuo:いま思えば現実逃避だったかも(笑)。とりあえずスタジオに入って肉体的にもフルのことをやって、疲れてすぐに寝てしまうような、現実を見なくてすむようにしたいというコンセプトだったかもしれません(笑)。不安な感じやネガティヴなエモーションを音楽でポジティヴな方向に昇華する、それが表現の特性だと思うんですね。無意識にそのことを実践していたのかもしれないです。

そういうときこそ曲はどんどんできそうですね。

Atsuo:それはもう(笑)。

Takeshi:血と骨に刻み込まれているから(笑)。

Atsuo:それこそ高校生のころの感じというか、影響を受けたことを直で出してしまうような。『NO』のときはわりとTakeshiと僕のルーツにフォーカスしていました。僕がメインのヴォーカルをほとんどとって、曲作りの段階からこれはツアーでやろうともいっていました。僕がヴォーカルでサポート・ドラマーを入れてやるんだという前提があって、いまは実際そういうライヴ活動をしていますからね。そこで僕とTakeshiにフォーカスしたので『W』ではWataの声にピントを当てて――ということですね。

僕も高校のときはパンク、ハードコアの影響をもろに受けていて、『NO』ではノイズコアの方向に突き進んでいきました。Takeshiとそういった部分を共有できるのはソドム。カタカナのソドムのノイズコアな感じが大好きだったんです。――Atsuo

おふたりのルーツというのはひと言でいうとなんですか?

Takeshi:パンクとハードコア、ニューウェイヴも聴いていて、いちばん衝撃を受けたのはそのあたりの音楽なので、初期衝動とともに、身体に染みこんでいます。そういったものがコロナでグッと閉塞感が高まったたタイミングでウワーッとあふれでてしまった(笑)。

Atsuo:僕も高校のときはパンク、ハードコアの影響をもろに受けていて、『NO』ではノイズコアの方向に突き進んでいきました。Takeshiとそういった部分を共有できるのはソドム。カタカナのソドムのノイズコアな感じが大好きだったんです。『NO』はイタリアのF.O.A.D.というパンク~ハードコアのレーベルにアナログ化してもらったんですけど、そのレーベルがソドムの再発(『聖レクイエム + ADK Omnibus』)をしたんですよ。そういう流れもあってF.O.A.D.に決めたという(笑)。

高校時代ソドムをカヴァーしていたんですか?

Atsuo:ソドムはやっていなかったですね。『NO』では愚鈍の「Fundamental Error」をカヴァーしています。

原点回帰的な側面があったんですね。

Atsuo:あとはロック・セラピー。実際僕らは高校時代、そうした激しい音楽を聴いて精神を安定させていたところがあったんですね。

ことに思春期では激しい音楽が精神安定剤の役割を果たすのは、わが身に置き換えてもそう思います。

Atsuo:ヘヴィメタルが盛んな国は自殺率が低いという話を耳にしたこともある(笑)。精神に安定をもたらすメタルといいますか。それもあって『NO』はエクストリームなんだけどヒーリング・ミュージック的なおとしどころになっていきました。自分たちにとってもそういう効果がありましたし。

『NO』というと否定のニュアンスが強いですが、『W』と連作を成すことで激しさや衝動に終始しないボリスの現在(NOW)のメッセージを感じますよね。そのためのWataさんの声という気がします。

Atsuo:チルなんだけど逆に覚醒できる感じになっていったんですね。

『W』にはシュガー吉永さんがサウンド・プロデュースで入られていますが、かかわりはいつからですか?

Wata:EarthQuaker Devicesというアメリカのエフェクターメーカーから「Hizumitas」という私のシグネチャー・モデルのファズが出たんです。そのメーカーの親睦会が2016年にあって、そこで初めてお会いしました。

Atsuo:TOKIEさんもその集まりで初めてしゃべったのかな。そこからシュガーさんがライヴに来てくださったり、だんだんつながりでできていきました。もともとBuffalo Daughter、好きでしたしね。『New Rock』のレコ発とか行きましたもん。

意外なようなそうでもないような。ともあれ90年代的なお話ですね。

Atsuo:自分のなかではBuffalo Daughterはインディペンデントな位置づけ。ゆらゆら帝国などともに認知度が高かったですし、そういう日本の状況からの影響も当時は受けていました。

シュガーさんの手が入ったことでもっとも変化したのはどこでしょう?

Atsuo:エレクトロニカというか電子音的なアプローチはシュガーさんの手腕です。ローが利いたキックであるとか。でも聴いてすぐにおわかりになる通り、僕らの演奏にはグリッドがないんですよ。録音はスタジオで適当に録っているのでリズムも揺れまくっているんですが、それを前提にシュガーさんは縦の線をプログラムしてくれてバンドのノリに合うような感じでアレンジを追加してくれました。曲の構造はほぼ決まっていましたが、シュガーさんに、曲の間口を広げてもらったというか、見える、聴けるアングルを増やしていただいたという感じです。サウンド・プロデュースの依頼ではありましたが、曲が並んで、今回の個展はこんなテーマなんだ、というようなものが見えてきたとき、どのようにプレゼンテーションしてもらえるのか? そういった感覚です。

ちなみにボリスがいままでやってきた外部との協働作業というと――

Atsuo:成田忍さん、石原洋さん、NARASAKIさんにも1曲手がけていただいたことがあります。

Takeshi:あとはコラボレーションが多いですね。

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僕らはバンドというものに対するこだわりは強いですよ。だけど、バンドの運営や方法論で音楽の可能性が閉じられるのがイヤなんです――Atsuo

さきほどAtsuoさんは自分が歌うとき、別のドラマーに叩いてもらっているとおっしゃっていましたが、フォーメーションみたいなもがどんどん変わっていっていいというお気持ちがあるということですか?

Atsuo:僕らはバンドというものにたいするこだわりは強いですよ。だけど、バンドの運営や方法論で音楽の可能性が閉じられるのがイヤなんです。

でもそれはアンビバレンスですよね?

Atsuo:はい。だから基本この3人で音楽の可能性を広げたい、新しいものを追究して作っていきたいという思いもあって、シュガーさんへサウンド・プロデュースをお願いしたり、新しい血としてサポートのドラマーに入ってもらったり、以前は栗原(ミチオ)さんに入ってもらったこともありました。

そうでした。最近なにかと栗原さんのお話をしている気もしますが、栗原さんが参加された『Rainbow』がペダル・レコードから出たのが2006年ですね。

Atsuo:その後で正式にサポートで入っていただいて、本格的にツアーをまわるようになったのは2010年から11年あたりでした。

Takeshi:栗原さんはサポートと言うよりも、僕らの認識としては4人目のメンバーだったんですよ。当時新しいアルバムのデモを作っていたときも、栗原さんがいる体でやっていましたから。

Wata:2014年の『Noise』だよね。

Takeshi:曲に必要なギター・パートが1本ではなくて2本、無意識にそうなっていたんですね。ある程度までかたちになってきたときに栗原さんが離脱しなくてはならなくなって、いままで作った曲をどうしよう?ってなったときに、4人のアレンジだったものを3人用にリアレンジをする必要になり、それでWataが死にそうになるという(笑)。

Wata:『Noise』の何曲かは栗原さんの音も入っているんですよ。デモで弾いていたテイクをそのまま使ったりしました。私は栗原さんと同じようには弾けないので、どうしようって(笑)。

Atsuo:3人であらためて完成形を作らなきゃならなかったので、それは大変でした(ため息)。

Wata:すごく助けてもらっていたので、いなくなったときは心細かったです。演奏面ではとくに。

Atsuo:でもあの時期があったのでWataもヴォーカルに集中できるようになった。

ボリスは3人ともヴォーカルをとるのがいいですよね。

Wata:ヴォーカルというほど歌えているかはわからないですけどね。

Atsuo:さっき言っていたエフェクターメーカーのSNSでWataのことを「ボリスのギター、ヴォーカル」と紹介していたんですが、「いや、ヴォーカリストじゃないし」と本人がつぶやいているのを耳にした憶えがあります(笑)。

Wata:ヴォーカリストというよりは楽器的な感じ、ヴォイスという言い方が近いです。主張とかメッセージを伝える役割ではなくて、楽器の一部として存在している声ですね。

でも『W』ではメイン・ヴォーカルをとっていますよね。プレッシャーはなかったですか?

Wata:最初から音響的という作品内でのイメージはあったので構えたりはしはなかったです。

歌メロはWataさんが書かれた?

Wata:メロディはTakeshiです。

Atsuo:ほとんどの手順としては楽曲ができあがって、仮の歌メロをTakeshiがインプロで作って、曲ごとに見えたテーマをもとにふたりで歌詞を書くんですけど、Wataが歌うという前提だと出てくる言葉も違ってきますよね。

Wata:私は歌詞にはタッチしていないですけどね。ふたりが書く詞も、言葉で風景が見えてくるような内容なんですね、主張とかメッセージではなく。

Takeshi:逆に『W』では自分だと歌わないような言葉を歌わせることができたともいえるんです。Wataの口から出てくるであろうと想像した言葉だったり旋律などを使えたりしたので。

Atsuo:歌詞においてはWataの担当は「存在」ですよね。

歌詞も全員で書いているというイメージなんですね。

Atsuo:その点もKiliKiliと考え方が通じているんですよ。僕らは楽曲の登録も連名なんです。たとえばWataはじっさい歌詞を書いていないけれども作詞者はバンドとして登録しています。それはWataの存在があるからその言葉が生まれてくるという理由です。バンドというのはそういうものだと思うんです。

それならメンバー同士のエゴがぶつかって権利問題に発展するということもなさそうです。

Atsuo:エゴを聴きたいリスナーもいるとは思うんですよ、誰が曲を担当し、歌詞を書いているのかということですよね。そこをはっきりさせたいリスナーは多い気がします。

レノン、マッカートニーもそうですし、はっぴいえんどでも細野さんの曲と大瀧さんの曲は違いますから、そういう腑分けの仕方も当然あるとは思うんですが、ボリスの場合みなさんはキャラが立っているのにエゴイスティックな打ちだし方はしていないですよね。

Atsuo:自然とそうなったんですが、共通している考え方は、いちばん大事なのは「ボリス」という存在、バンドということなんですよね。

そのスタンスをとりながら、今年で――

Atsuo: 30年。

エゴという意識は僕らは薄いと思いますね。自分にとって音楽、曲というのは、言いたいことを言う場ではないんですね。曲のかたちがだんだんできてきて、仮のメロディを乗せたときに、「こういう言葉が乗るよな」と導かれるというか委ねるというか。――Takeshi

30年といえば、ひとつの歴史ですが、長くつづけてこられた秘訣はなんですか?

Atsuo:さっきも言ったようなエゴとかが音楽の可能性の狭めるのが僕らはイヤなんです。

そこもCANと同じですね。リーダーがいない、けっして誰かが中心ではない。

Atsuo:傍から見たら僕がリーダーに見えるかもしれませんが、いちばん雑務をしている、ただのアシスタントなんですよ(笑)。

与田(KiliKiliVilla):その考えを持っているだけでバンド内の格差を生まなくなりますよね。イギリスはバンドに権利が帰属することが多いですが、日本だと作詞作曲で個人を登録する習慣があります。そういったことを長いことみてきて、イヤな思いもしてきたから若いバンドにこういう登録の仕方があるから、そうしてみない?とアドバイスすることもけっこうあります。ボリスはそれを自分たちでやっていたという驚きはありましたよね。

日本の場合芸能界の習慣ともいえますよね。

Atsuo:だからバンドの地位が低いといいますか、フロントマンとバックバンドという序列のヒエラルキーになっていく。そういうビジネスモデルが主体になっている気がします。

Takeshi:エゴという意識は僕らは薄いと思いますね。自分にとって音楽、曲というのは、言いたいことを言う場ではないんですね。曲のかたちがだんだんできてきて、仮のメロディを乗せたときに、「こういう言葉が乗るよな」と導かれるというか委ねるというか。音にしても、僕はほっとけば、ガンガン弾き倒しちゃうんですよ。でも、バンドやとその音楽を主体に考えれば、曲がそうなりたいであろうというコードストロークや弾き方に自然になっていきますよね。楽器をもっているミュージシャンのエゴではなく、楽曲のほうへ自分を寄せていくというか、ボリスで音楽を作っているときはそういう感じになっていますね。

Atsuo:CANとの違いは音楽的な教育を受けているかどうかということかもしれないです。僕らは独学ですからね。外部とは共有できるかはさておき、バンド内での音楽言語はいろいろあるんですけどね。

とはいえ共演は多いですよね。秋田昌美さん(MERZBOW)、灰野(敬二)さん、エンドン、カルトのイアン・アストベリーなど、ボリスはいろいろなバンドやミュージシャンと共演していますが、他者と同じ場を作るには共通言語を見出す必要があるんじゃないですか?

Atsuo:秋田さんは誰とでもできるし、誰とでもできないと言えますからね。

Takeshi:秋田さんとやるときはおたがい干渉していないよね。

Atsuo:それもエゴがないということなのかもしれないですね。自分たちの曲を放り出していますからね。秋田さんで埋め尽くされてもぜんぜんかまわないというか、それで自分たちの曲が新しく立ち上がる感じを聞きたいというのがまずあるので。シュガーさんにしてもバンドのグリッドレスな感じを尊重してくれたので、『W』ではうまくいったんだと思います。

■ボリスにとって今年はアニバーサリーイアーですが、アメリカ・ツアーのほかに計画していることがあれば教えてください。

Atsuo: 『W』もKiliKiliで30周年記念第1弾アルバムと言っているので、第何弾までいけるか挑戦しようと思っています(笑)。アルバムはだいぶ録り進んでいるし。

KiliKiliからは昨年暮れに「Reincarnation Rose」が出ていますが、あれを聴くとやりたいことをやったらいいやという感覚を受けますよね。極端なことをいえば、売れなくてもいいやというような。

Atsuo:そもそも売れようと思ったことはないですよ。

とはいえ「Reincarnation Rose」もメロディはキャッチーじゃないですか。

Atsuo:キャッチーさは大事ですが、売れたいというのは違うんですよね。ヘヴィな曲でもキャッチーかそうでないかという判断基準がある。楽曲の世界観がしっかり確立されたとき、初めてキャッチーと言えるのかもしれないですね。

さきほどソドムとか栗原さんとかの話が出ましたが、70年代、80年代、90年代とつづく東京のアンダーラウンド・ロックシーンの牽引車は片やボリス、片やゆらゆら帝国というような見え方もあると思うんですよ。このふた組にはアンダーグラウンド、モダーンミュージックのようなセンスをポップアートにしているような側面があると思うんですね。ゆらゆら帝国とボリスはぜんぜん音楽性が違うけど、出てきているところってすごく近いところだったりするじゃないですか?

Atsuo:同じスタジオを使っていたり、近いようで遠い感じですか。いちばんの違いはメタル以降の文脈だと思うんですね。

ボリスはメタルにもリーチしていますよね。

Atsuo:海外では完全にメタル・バンドあつかいですね。

Takeshi:自分たちでメタルだと言ったことはないんですけどね。でも向こうから手を差しのべてくるんですよ。

メタルにもいろいろありますが、どのようなメタルですか?

Takeshi:メタル・シーンの裾野が欧米では広いというか、単純に規模が違います。

Atsuo:ドローン・メタルというジャンルがあるんですよね。僕らはそのオリジネイター的な扱いではありますね。SUNN O)))とかですね。あとはシューゲイズ・メタル、シューゲイズ・ブラックという呼び名もあって、そういった風合いも感じさせるようで、総じてポスト・メタル的な言われ方をします。

Takeshi:何かと後ろについてくるんですよ、メタルって(笑)。

Atsuo:日本と海外だとメタルという言葉がカヴァーする領域に差があると思うんですね。向うはものすごく広い。あのスリル・ジョッキーがメタル的な音楽性のバンドをリリースするくらいですから日本とは捉え方が違いますね。

日本だとどうしても様式的なものというイメージが強いですよね。

Takeshi:いわゆるカタカナの"ヘビメタ"のイメージなんですよね。

Atsuo:僕らは速く弾くよりはシロタマを伸ばしたいほうなので(笑)。もっとオーガニックなんですよね。音を伸ばしてそこでなにが起こってくるかというドローン・ミュージック的な方法を結果的にメタルに取り入れている。

一方でアメリカには日本のアンダーグラウンド・ロックの熱心なリスナーも多いですよね。

Atsuo:かつては音楽好きが最後のほうにたどりつく辺境という位置づけでしたよね。

いまではボリスや、それこそメルツバウやボアダムスのような方々の活躍で日本のアンダーグラウンド・シーンは一目置かれている気もします。

Atsuo:でも気をつけておきたいのは、一目を置かれると同時に大目にみられている部分もあるんですよね。日本人だからメチャクチャやっても許されるというか。

それを期待されているともいえないですか?

Atsuo:並びがボアダムス、ギター・ウルフ、メルト・バナナですよ。ルインズにしても。

ややフリーキーな音楽性ですが、いい意味で根がないからからフリーキーさなんじゃないですか?

Atsuo:それはそうかもしれない。

ボリスも、みなさんの佇まいも相俟って欧米の観衆に独特な印象を与えるのではないでしょうか? Wataさんなんかはすでにアイコニックな存在だし。でも「Reincarnation Rose」のMVはもうちょっと説明があってもいいかと思いました。

Wata:私以外のメンバーもあのなかに女装して参加していると思われていますよね。

そう思いました。検索してはじめて知りましたよ。

Atsuo:けっこうちかしい友だちからもAtsuoとTakeshiはどこにいるの? って訊かれましたもん。

ついにマリスミゼルみたいになるのか、いまからその展開は逆に攻めているというか、真の実験性とはこういうことをいうのだろうかと、いろいろ考えましたよ。それもアーティスト・エゴの薄さからくる展開なのかもしれないですね。あれは反響も大きかったですよね?

Atsuo:すごかったですよ。最初に写真を公開したときは、「ボリス、ヴィジュアル期に突入」とか書かれました。発表前はコスプレとか言われるかなと思っていましたけどね。

どなたのアイデアですか?

Atsuo:流れなんですよ。シュガーさんとTOKIEさんにMVに参加してもらうアイデアは最初からあったんです。それだったらドラムもよっちゃん(吉村由加)にお願いしようということになって。衣裳はpays des feesというランドにお願いして、TOKIEさんもWataも一緒にお店に行って衣裳合わせをして、メイクとウイッグに関してはビデオの監督のアイデア。当日ヘアメイクさんとかも入ってできあがったのがあれだったんですが、当日までメンバー自身どうなるかわからなかったです。

Takeshi:自分も知らなかった。PVの撮影だと聞いてスタジオに行ったら、あのメイクを済ませたみなさんがスタンバイしていて「えっ!?」って、なったんですよ。

Atsuo:写真を公開した直後の反応はこっちも不安になるような感じだったんですが、翌日にはMVが出て、音を聴いてもらえればふつうにロックですし、わかっていただけたと思います。

30年経ってもまだまだノビシロあるな、ボリスと思いました。

Atsuo:(笑)。でもそんなふうにみなさんの頭のなかにいろんな考えが湧き起こっていたのだとしたら、やってよかったと思いますよ。

Broadcast - ele-king

 90年代半ばから10年代初頭にかけて活躍したバーミンガムのバンド、ブロードキャスト。1995年にヴォーカリストのトリッシュ・キーナン(2011年1月14日急逝)とベーシストのジェイムズ・カーギルによって結成された同バンドは、翌96年に〈Wurlitzer Jukebox〉からデビュー、ステレオラブの〈Duophonic〉からもシングルを送り出している。
 その後〈Warp〉に移籍した彼らは、97年に初期シングル集『Work and Non Work』をリリース。以降、3枚のオリジナル・アルバムと1枚のコラボ・アルバム、1枚のサウンドトラックともう1枚の編集盤を残している。そのポップかつサイケデリックな音楽は、ボーズ・オブ・カナダとともに憑在論の文脈においても語られてきた。
 そんな彼らの主要作は2015年に一度リイシューされているのだが、このたびさらなるリイシューとレア音源のリリースがアナウンスされた。
 タイトルは三つ。ひとつは、03年と05年に発表されたシングル尺のCDを合体した『Microtronics』。もうひとつは、09年にツアー会場のみで販売された『Mother Is The Milky Way』。最後は、96年10月から03年8月にかけて録音されたBBCラジオのセッション音源集『BBC Maida Vale Sessions』。いずれもリマスタリングが施される。発売は3月18日。フォーマットはそれぞれCD/ヴァイナル/デジタルの3形態が用意されている。
 現在『BBC Maida Vale Sessions』より “Sixty Forty” が公開中。かつて〈Warp〉20周年のコンピにて初公開された、ニコのカヴァー曲だ。シューゲイズなギター・アレンジと「べつの機会はあるの?」という歌詞が、せつなすぎる……。予約・試聴はこちらから。

ジャズとアンビエントの境界で - ele-king

 最近のジャズ界の潮流を見て思うのは、アンビエントやチルアウト、もしくはニューエイジやヒーリング・ミュージック、メディテーション・ミュージック、音楽療法(セラピー)といった概念を取り入れたり、そうしたテイストや要素を感じさせるアーティストが増えていることだ。イスラエル出身のリジョイサーことユヴァル・ハヴキンはじめ、アメリカのジョン・キャロル・カービー、イギリスのキンカジューなどがそれにあたり、イギリスではアルファ・ミストイシュマエル・アンサンブルなどがそうした方向性の作品を作ることがある。楽曲単位で見ればほかにもいろいろなアーティストからアンビエントなどの要素を読み取ることができるし、昨年リリースされたファラオ・サンダースとフローティング・ポインツのコラボもこうした一例に上げられるだろう。

 しかしながらこうした試みを以前にもおこなっていたアーティストはいて、シネマティック・オーケストラはその最たる例であるし、その名もズバリのアンビエント・ジャズ・アンサンブルというグループもあった。カルロス・ニーニョは現在まで一貫してアンビエントなジャズを追求している。もっと遡れば、アリス・コルトレーンや一時期のポール・ホーンなどは大きくアンビエントやニューエイジの世界に入り込んでいったし、マリオン・ブラウンはエリック・サティに傾倒し、ハロルド・バッドの作品を演奏したこともある。演奏という側面を見れば、ビル・エヴァンスやキース・ジャレットのピアノにアンビエントの世界観を感じることもできる。瞑想的なスピリチュアル・ジャズは一種のメディテーション・ミュージックである。つまり、ジャズとアンビエントの融合は決して新しい潮流というわけではなく、そもそも現代音楽やフリー・ジャズが発生した時点で存在していたものである。ただし、ここにきてこうした方向性が再び見直され、それに取り組むアーティストが増えていることは興味深いことである。

 ナラ・シネフロもこうしたジャズとアンビエントの境界線にいるアーティストのひとりだ。ナラは現在はロンドンを拠点に活動するが、祖先をたどるとカリブ系のベルギー人で、マルティニークにルーツがあるという。フランスの海外県のひとつであるマルティニークは、ジャズの分野でもいろいろ優れたミュージシャンを生んでいて、彼らの演奏は独特のラテン風味を有しているところが特徴だ(もっとも、ナラ自身はそうした自分のルーツはあまり意識していないと思うが)。音楽好きの家に生まれ、幼少の頃から身近に音楽があり、ピアノやヴァイオリンなどの楽器に自然と触れていった。高校でジャズの理論や楽譜などを学んだが、基本的にはそうした楽理に則った音楽教育には馴染めず、耳や心で感じたままに演奏をしていくほうが性に合っていたそうだ。

 そして、彼女の音楽性を形成する上で重要な要素として、幼い頃より自然界の音が身近にあったことが挙げられる。子供の頃はベルギーのソワーニュの森でよく遊んでいたという彼女によると、「音楽好きの家庭だったから、生まれた時から常に音楽に囲まれて育ってきた。家の中にはCDも楽器も沢山あって、それを自然に吸収していたの。(中略)もう一つ私の周りにあったのは鳥の声。家の近くには森があって、鳥たちが会話をする鳴き声をずっと聴いて育ったの。私には、鳥の鳴き声の中に美しいメロディとリズムが聴こえる。庭に出るといつもそれが聴こえてきて、刺激を受けていた。鳥の声を聴くと、ホームにいると感じるのよね」(オフィシャル・インタヴューより。以下同)。アンビエントを環境音楽と捉えるなら、自然界にある音、日常の生活音などがもっとも身近な音となるのだが、そうした動物や鳥、虫たちの鳴き声が後の彼女のアンビエントな音楽性に結びついていったと考えても不思議ではないだろう。

 ナラは18歳のころから本格的に作曲をはじめ、22歳のときに作曲、制作、演奏、エンジニアリング、録音、ミキシングを全て自身でおこない、9か月間の制作期間を経て完成させたのが『スペース1.8』である。このアルバムでナラはモジュラー・シンセサイザーの他、ペダル・ハープも演奏している。ピアニスト及びオルガン奏者であり、ハープ奏者でもあり、そこにシンセサイザーを交えて音楽制作をおこなっていたアリス・コルトレーンを想起させるスタイルである。特に今回はシンセを用いたことが彼女にとって大きな鍵となっている。

今回のアルバムが一番影響を受けているのはシンセ。今までずっと使ってみたかったけど買えなくて、今回始めて手に入れたの。使い方を自分で考えたり、新しい発見が沢山あって楽しかったから、あまり他からの影響やインスピレーションは必要なかったのよね。シンセという特定のものを使ってどこまでディープにいけるか、一つのものを使ってどこまで広がりを持たせることができるかが自分の中で大きかった。何時間もシンセを触れることが嬉しかったのよね。

 アルバムはそうした彼女の独演や孤独な創作作業と、同時に友人のミュージシャンたちとのコラボやセッションを融合してできている。参加するのはヌバイア・ガルシア、シャーリー・テテ、エディ・ヒック、ジェイムズ・モリソン、ジェイク・ロングなど、いわゆるサウス・ロンドンのジャズ・シーンで知られる面々だ。ナラはサウス・ロンドンのジャズ・ライヴ・コレクティヴとして名を馳せるスティーム・ダウンのメンバーとして活動していたことがあり、そうした中で繋がりが生まれたミュージシャンたちである。こうしたミュージシャンたちが参加し、ナラ自身がカリブの血を引くとなると、サウス・ロンドン・ジャズに頻繁に見られる土着性の強いアフロ・ジャズ、カリビアン・ジャズ的なモチーフを想像しがちだが、『スペース1.8』に関してはそうしたアフロ・リズムやブラック・ジャズ色が前面に出た作品ではない。アフリカ音楽の要素があるとしても、それは瞑想性や牧歌性といった部分でのことで、むしろ一般的なサウス・ロンドン・ジャズ・シーンとは切り離して見るべきだろう。それよりもナラ・シネフロというアーティストの個性や作家性が強く表れた作品である。

 『スペース1.8』の収録曲は全て “スペース” という単語が付けられ、その1番から8番までの合計8曲が収められる。「アルバムを作っている時に、各トラックがそれぞれ一つの空間のように感じたの。異なった季節とか、昼とか夜とか。全ての曲が、それぞれの時間や世界、場所、フィーリングを持っていた。だから、トラックを “ルーム” と呼び始めたの。(中略)曲を空間だと考えることで、自分に自由が与えられた感じがした。(中略)スペースというのは、宇宙じゃなくて空間を意味するスペースなのよ」。具体的な単語による曲名はときに聴く前にリスナーに先入観を与えてしまい、結果的に自由な感受性を阻害することがある。抽象的な空間という “スペース” を使った理由はそこにあり、現代音楽や環境音楽の作曲家が用いる題名と同じような意味合いを持つ。

 アルバムは周波数の違いが人間の身体に与える影響にナラが魅力を感じたことからはじまったという。ナラはサウンド・エンジニアとしてキャリアを積んでいたこともあり、音の周波数に強い興味を持っていた。そして日頃の研究を通じ、錬金術的な音の力を探求するために様々な波長に調整した層をモジュラー・シンセによっていくつも重ねている。また、モジュラー・シンセやハープを演奏することは、彼女自身にとっても深いセラピー的な効果をもたらしているという。「シンセサイザーとハープが出す音のほうが優しく感じられるの。過ぎたるは及ばざるがごとしと言うし、人間ならではの不完全さがたくさんあるから」。音響心理学だけではなく、ナラの興味は物理学にも及んでいる。ペルセウス座銀河団のブラックホールから発せられる周波数という、人間が聴くことができる範囲をはるかに超える音についても学び、そうした概念を『スペース1.8』に取り入れている。

 音楽セラピーということについてさらに掘り下げると、ナラは20代の初めの頃に腫瘍を克服したという体験があり、そうした闘病生活から得られたものが『スペース1.8』の制作にも反映されているそうだ。シネフロ自身の言葉で言うと、このアルバムが見つめるのは、彼女が “傷を金へと変えたこと”、つまり、錬金術的プロセスであり、人生を変える力を持つサウンドの実験的探求だ。「アルバムのレコーディングには強い薬効があって、そのときに私の身体が必要としているものなの。身体の内的な働きにいっそう焦点を当てるようになったし、自分を治療するような音世界を作るようになったわ」。

 アルバムにはフィールド・レコーディングによる素材も盛り込まれており、そのひとつが鳥の鳴き声である。「鳥は私の最初の教師だった──鳥たちが呼んだり、応えたりする鳴き声や、その音程とリズミカルなフレージングが」とナラは言う。幼少期のベルギーのソワーニュの森や、彼女の祖先が住んでいたマルティニーク島のセント=ジョセフ、ブーリキにある緑豊かな山の尾根を、こうした鳥の鳴き声によって表現したのが “スペース1” である。こうした自然の中で遊んでいた記憶が『スペース1.8』の随所に見られ、それは彼女の音楽に対する姿勢にも表われている。つまり、音をいろいろいじって遊び、変化させて楽しむこと。モジュラー・シンセによる音の実験はまさにそれで、エディ・ヒック、ドウェイン・キルヴィングトンとの3時間に及ぶ即興セッションを切り取って短くした “スペース3” である。彼女はこの自由で制約のないセッションを心から楽しみ、ルールのない作品を作った。

 幼い頃の学校での音楽授業に対してナラはこう述べる。「音楽教育って何を教えるかとか、教え方が決まっているじゃない? 私はそれがあまり好きじゃないのよね。聴いて学習するのではなく、読んで学ばないといけない音楽は私にとっては窮屈。ヴァイオリンを習った2年間でそれを感じて、楽譜はもう読みたくないなと思った。脳じゃなくて、ハートや耳で音楽を勉強したいという気持ちが強くなったの」。そうした昔の自分といまの自分を比べて語る。

私は5歳から音楽をプレイしているんだけど、その時から変わってないことを祈る(笑)。私はいつも、あの頃のピュアな部分を取り戻そうとしているの。物事を判断しすぎたり考えすぎることなく、ルールもなかったあの頃。何が良いとか悪いとかはなく、フィーリングが全てだった。そうやって音楽を作るのはいつだって楽しかった。でも、音楽を勉強することでその情報を吸収しすぎちゃって(笑)。前はすごく純粋だったのに、音の決まりや譜面への収め方を知ってしまうと、それにとらわれるようになる。先生にダメだと言われて、なんでダメなの? と思ったこともよくあった。だから、知識を取り入れ過ぎてしまってもダメなのよね。今は、自分が学んできたことをそれにとらわれ過ぎずに自由に使って音楽を作りたい。知識をツールとして使っていけたらいいなと思う。5歳の時が自分のベストだったと思うの(笑)。ハートでサウンドをプレイしていたから。スキルや学習は、それに圧力をかけちゃうのよね

 『スペース1.8』はナラが心の赴くまま、自身を自由に開放して作ったアルバムである。

 NYのヴァイナル熱、これはもう熱と言うよりは普通になっている。NYにレコード屋はたしかにたくさんある。イートレコード、ブルックリン・エクスチェンジ、レコード・グロウチ、キャプチャード・トラックス、アカデミー、マテリアル・ワールド、ヒューマン・ヘッド、スペリア―・エレヴェーション、セカンド・ハンド、ヴァイナル・ファンタジー、フェイス、A 1などなど、これらの店はほとんどがヴァイナルを扱っている。ヴァイナルを買う人が多いので、必然的にこうなるのだろう。CDを置いている所もたまにあるが、セクションは小さいし、カセット、Tシャツ、ジン、ポスターなどのマーチ系の方が多い気がする。DJをやっている人も多いし、ディスコグなどで売買している人も多い(それを生活の糧にしていたり)。
 私はイベントを企画するので、DJを探すが、いまはほとんどがヴァイナルDJだ。「DJ探しているんだけど」と、まわりに言うと、だいたいすぐ見つかる。聞くのが好きでヴァイナルを買い、DJはやらない人も多いが、ヴァイナルを買う人のDJ率は高いと思う。バーに行くとだいたいDJがいて、いい感じのチューンをかけてくれるし、ライヴに行ってもDJがいる。それだけDJをする場所、機会が多いのだ。そうするとよいチューンをかけるために、良いレコードを探すことになる。と言う感じで、熱があるのかはわからないが、ヴァイナルのある生活が普通になっているし、時間ができたらちょっとレコード屋行ってくる、とささーっとレコード屋に寄る人もまわりには多い。いつも何か良いネタはないか探しているんでしょうね。
 以下、いくつかのお店に簡単な質問を投げてみました。

■Academy Records

──開店はいつ?
Mike:お店は2店舗あるんだ。イーストヴィレッジ店は2001年4月1日。ブルックリン店は2004年4月1日。

──在庫のレコード数
Mike:イーストヴィレッジ店には40,000枚ぐらい? ブルックリン店には100,000ぐらいだと思う。

──主に売れているジャンルは?
Mike:2店舗ともにジャズ、ソウル、ロック、ヒップホップ、レゲエ、ブルース、ラテンなど。

──客の年齢層/男女比率は?
Mike:ブルックリン店の年齢層は20代から30代が大半で、イーストヴィレッジ店はもう少し年齢層が上です。男女比率は、女性が30〜40%。いままで以上にレコードを購入する女性が増えているね。

──なぜいまレコードが人気だと思う?
Mike:色んな人が、色んな違う理由でレコードが好きだと思うけれど、何と言ってもレコードは楽しいからでしょう。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Mike:イーストヴィレッジ店ではWorld's Experienceの『As Time Flows On』が$2000。ブルックリン店ではO’Seisの同名シングルが$3000。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム(新旧問わず)
Mike:毎日変わるけど John Coltrane『A Love Supreme Live In Seattle』とMarvin Gaye『What's Going On』。

Academy Records (イーストヴィレッジ店)
415 East 12th St
NY, NY
10009

Academy Record Annex (ブルックリン店)
85 Oak St
Brooklyn, NY
11222

■Second Hand Records NYC

──開店はいつ?
Fatik:2016年10月。

──在庫のレコード数。
Fatik:10,000枚。

──お店が推しているジャンルは?
Fatik:選べる良い音楽はたくさんあります。ファンク、ソウル、ジャズ、エレクトロニック、ヒップホップ、ロック、ラテン、レゲエなどです。

──客の年齢層/男女比率は?
Fatik:20~50歳くらい。40%が女性、60%が男性

──なぜいまレコードが人気だと思うか?
Fatik:ヴァイナルは、それを追いかけている人たちにとっては、いつも人気でした。最近私が関心を寄せているのは、いまのヴァイナル人気は、物理的な経験と繋がる方法を探している人びとから来ているということです。私たちがしている多くのことはインターネットを中心に展開していて、1日の終わりに少し空虚な気持ちを残します。そこへいくと、手に持つことができるものは違いますよね。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Fatik:ヴェルヴェッツの1stのMONO盤が$700で売れたね。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム。
Fatik:1枚を選ぶのは難しいですが、年末にかけて、FBIと言うバンドの同名のセルフタイトル・アルバムが良かったです。

Second Hand Records NYC
23 Lawton St
Brooklyn NY

■Eat Records / Scorpion Records

──開店はいつ?
Casey:2003年9月11日。

──在庫のレコード数は?
Casey:約5,000枚。

──売れているジャンルは?
Casey:ロック、ジャズ、ファンク、ソウル、レゲエ、ヒップホップ。

──なぜいまレコードが人気だと思うか?
Casey:良い音、物理的なメディア・ライブラリーを提供してくれるし、その価値を保持し、あなたにストリートの信用を与えてくれる。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Casey:$800で、Tool『Ænima』。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム。
Casey:Grateful Dead『Fox Theatre, St. Louis, MO』 4 x Vinyl lp box set

Scorpion Records
792 Onderdonk Ave
Queens, NY 11385


■Superior Elevation Records

──開店はいつ?
Tom:お店は、2015年にオープンしましたが、僕は、2000年からレコードを売っています。

──在庫のレコード数は?
Tom:いつも100,000ぐらいが在庫にあります。お店に出ていたり、倉庫に入っていたり、地下にあったりなどです。

──主に売れているジャンル。
Tom:ロック、ソウル、ジャズ、ラテン、ジャマイカンなどですが、ディスコとハウス・ミュージックに力を入れています。

──なぜいまレコードが人気だと思うか?
Tom:理由はたくさんあると思いますし、この質問の背後にはミステリーがあります。個人的には、心理的な問題があると思います。現在多くの人たちは、彼らの好きな音楽に愛着を感じていません。ほとんどが、コンピュータ(のアルゴリズムなど)が、彼らのために選んだものですから。それを人びとはそれほど気にしていませんでしたが、ある時点で、彼ら自身がアイデンティティをもっていないのではと不安になったのでしょう。ヴァイナルは所有できるものです。視覚的な魅力があります。さらに、ストリーミングのプラットフォームで失われてしまう、自分の好きなバンドはどんなヴィジュアルか、何年に発売されたか、自分が何を好きか、なぜ好きになったのかなどを学ぶのに役立つであろう、良き情報源でもあります。

──昨年売れたレコードでいちばん高価だった盤は?
Tom:$1200、Cerebral HemmorhageのレアなシンセLP『Other Worlds』(1981)です。

──あなた個人の昨年のベスト・アルバム。
Tom:難しい質問ですね。1枚がすぐには出てきませんが、ファンとして、最近エキゾチカという音楽ジャンルに惹かれはじめています。

Superion Elevation.com
+1 (415) 624-6905
100 White st.
Brooklyn, NY

Jenny Hval - ele-king

 それまで足場にしていたブルックリンの〈Sacred Bones〉を離れ、ロンドンの名門〈4AD〉へ移籍することが報じられたのが去る11月。言葉とサウンド、その両面で高い評価を得てきたオスロのシンガー/プロデューサー、昨年はロスト・ガールズとしてもすばらしいアルバムを送り届けてくれたジェニー・ヴァルの新作がリリースされる。それに先がけ、ほのかにアフロを感じさせる新曲 “Year of Love” のMVも公開。“Jupiter” に続きまたも意味ありげな映像に仕上がっています。発売は3月11日。楽しみに待っていよう。

JENNY HVAL
ジェニー・ヴァル〈4AD〉移籍第一弾アルバム3月11日発売決定
同作より新曲「Year of Love」MV解禁!!

2019年にリリースされた前作『The Practice of Love』が絶賛され、ホーヴァル・ヴォルデンとのユニット、ロスト・ガールズでの活動も高い評価を獲得している北欧アヴァン・ポップの至宝ジェニー・ヴァルが最新アルバム『Classic Objects』を3月11日に〈4AD〉よりリリース。同作より作品の冒頭を飾る「Year of Love」のMVが解禁された。

Jenny Hval - 'Year of Love'
https://youtu.be/2i2oJJwgLTk

〈4AD〉デビュー曲「Jupiter」に続く今回のシングルは、ポール・サイモンの『The Rhythm Of The Saints』を彷彿とさせるパーカッシヴなサウンドスケープにヴァルのシルキーな歌声がたなびく楽曲で、ライヴ・パフォーマンス中に目の前でオーディエンスから求婚されたという実話に基づき、この困惑から既婚者であるプライヴェートな自分とアーティストとしての自分の関係性を問うアイデンティティの探求をテーマにしている。また、MVはヴァルとジェニー・バーガー・マイハー、そしてアニー・ビエルスキーの3人によって監督された。

パンデミックによりアーティスト活動が中断されたことによって、音楽や芸術活動がいかに不安定な労働であるかという普通の人間として当然抱く感覚を経たことによって、とにかくシンプルな物語を書くことにフォーカスしていったという本作はどの曲にも透明感と高揚感のあるヴァースとコーラスが存在するポップ・アルバムへと昇華されていった。また、アルバムは前作に続き坂本龍一やビョークといった大物アーティストからアレックスGやプーマ・ブルーといったインディ・アクトまで幅広く手がける才媛ヘバ・カドリーがエンジニアを務め、作品の神秘性を引き出している。

2022年3月11日(金)に世界同時発売となる最新作『Classic Objects』の国内流通仕様盤CDには解説および歌詞対訳を封入。アナログ盤は通常盤に加え、数量限定ブルー・ヴァイナルが同時リリース。本日より各店にて随時予約がスタートする。

label: BEAT RECORDS / 4AD
artist: Jenny Hval
title: Classic Objects
release date: 2022/03/22 FRI ON SALE

CD 国内仕様盤
 4AD0431CDJP(解説・歌詞対訳付) 2,200円+税
CD 輸入盤
 4AD0431CD 1,850円+税
LP 限定盤
 4AD0431LPE(Blue Vinyl / LTD) 2,850円+税
LP 輸入盤
 4AD0431LP 2,850円+税

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=12331

Ehiorobo - ele-king

 ソフィーラスティーで知られるフューチャー・ベースから分岐したバブルガム・ベースやカワイイ・フューチャー・ベースをメインにリリースする〈DESKPOP〉から2016年にデビューしたエヒオロボによるセカンド・フル(ほかミックステープ多数)。ニュージャージー育ちのナイジェリア系で、Seiho とはプリンスのトリビュート・カヴァーでタッグを組んだり、Tomggg との “Feel Ya” など日本のアンダーグラウンドにもすでに浸透しているプロデューサーである。とはいえ、『Joltjacket』からはこれまで日本に見せてきた顔とは少し異なる気配が漂い、レーベル・マナーに沿ってカワイイ・フューチャー・ベース全開だった『Limeade』から一転、完成に4年もかけたという『Joltjacket』にはもっと多種多様な音楽性が詰め込まれている。ブルックリンの実験的ソウル・シンガー、レイン(L’Rain)のセカンド・アルバム『Fatigue』(https://lrain.bandcamp.com/album/fatigue)にちょっと引きずられた感もあるけれど、全体にかなり破天荒で、とくに前半のポスト・ロックの導入は強引に耳を引っ張る。『Limeade』にはEDMをチープにしたような面も強くあったことを思うと、この変化はかなり大きく、「これはもうフューチャー・ベースではない!」といったカワイイ主義者の叫びがいまにも聞こえてきそう。確かにぜんぜんきゃりーがぱみゅってないし、カワイくもなんともない。レーベルも伝統と変化を等しく重んじるのがポリシーだという〈Grind Select〉に移り、デザインもカワイイは卒業。ちなみにテキサスのブラゾス(Braz_OS)とともに〈DESKPOP〉を運営するオハイオ(現ペンシルヴァニア)のフューチャー・ババが2015年にリリースした『Gamewave』がいまのところPCミュージックを抑えてヴェイパーウェイヴとバブルガム・ベースの接点に立つカワイイ・フューチャー・ベースの代表作とされている(https://floorbaba.bandcamp.com/album/gamewave)。

 冒頭からカッさばいてくる。ピタ『Get Out』が始まるのかと思ったらリズム・ギターだけで山下達郎ばりに歌い出す。途中からギターはソニック・ユースかダイナソーJr ばりに轟音を撒き散らし、ヴォーカルと演奏は分裂状態のまま曲は進む。基調はR&Bで、どの曲もこれまでと同じく丁寧に歌い上げながら、サウンドがとにかく荒々しい。時にリスナーを振り回すようなレインの疾走感もそうだけれど、2010年代のヒップスターR&BやサイケデリックR&Bとは明らかに手触りが異なり、どちらかというとクリッピングのようなミュジーク・コンクレート・ヒップホップをR&B化させたような感じだろうか。歌詞では♪愛が戦場なら君はバズーカ砲を手にしている~(“Fusion Bazooka”)とか、コーラスワークが冴える “Shit’s Creek” では♪ドアマットのように僕は精神を踏みつける~など日々の葛藤を洒落た言い回しで歌っている感じが多い(そういう意味では同じナイジェリア系のマイクに近い)。♪遺体安置所で過ごし、君の塊から記憶が霞んでいく~とか♪墓地でモノクロームに溶けていく~など複数の曲で親しかった人の死が示唆され、どの曲でもエヒオロボは暗闇に取り囲まれている。一方で、♪人生は豪華なものだ~とも歌い、さらに♪人生はバリー・マニロウのようにトロピカル~と、曲調も全体に暗いわけではない。コーネリアスのように明るく跳ね散らかす “Caramelized!” など、むしろ希望にあふれてもいるし、アルバムも終盤に差し掛かるとカワイイ・フューチャー・ベースのヴァイブスが戻ってくる。しかも、それがバカみたいに感じられることもなく、わりと普通に楽しい。♪君にケタミンは必要ない、ここに垂直のロールス・ロイスがある~というのはロード “Royals” に対する卑猥なアンサーだろうか。♪僕はもう戦いくない、争いはやめうようと君に言って欲しい~ ♪旅に行きたい~料理が好き~幸せが好き~好きな人のそばにいたい~と、FKAトゥイッグスの新作ミックステープとメッセージがほとんど同じ。

 ジェイ-Z が出てきた頃、よくこんなヘンなトラックの上でラップができるなと思ったものだけれど、エヒオロボの歌にもにたような違和感があり、それがとにかく楽しい。ほぼ全編スロッビン・グリッスルのようなトラックで攻めるワシントンのサーE.u+トゥース・クワイアやJペグ・マフィアなど奇天烈なトラックを売りにしているユニットはあれこれあるなか、ヴォーカルに力があって、トラックがどれだけ無茶苦茶でもきちんとヴォーカルに意識が向くようにつくられているのもいい。むしろ中盤は比較的大人しい展開で、いってみれば楽器演奏の比重を増したこともあり、音楽性の複雑なエモ・ラップをやってみたということなのだろう。


ニッポンカレーカルチャーガイド - ele-king

世界有数のカレー大国──ニッポンのカレーがこれ一冊でわかる!

欧風カレーにインドカレー、スリランカ、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、タイ等々の多様なルーツ
カレー麺にスープカレー、スパイスカレーにご当地カレーなどの日本独自カレーの数々

4,000軒以上のカレー店を食べ歩いた著者による「奥深きカレー文化」と200軒以上の「おすすめ店」のガイドブックが登場!!

目次

はじめに
第1章 日本カレーのパイオニアたち
第2章 洋風・欧風カレー
 老舗洋食系カレー/大衆洋食系カレー/欧風カレー/欧風カレー(ボンディ系)/フレンチカレー/カツカレー/ドライカレー
第3章 カレーライス
 大手チェーン系/東京カレーライス/東京カレーライス(喫茶店カレー)/関西カレーライス/金沢カレー/ご当地カレーライス/焼きカレー/ダムカレー
第4章 カレーパン
第5章 和カレー
 カレーうどん/カレーそば/カレー丼/スパイス和食
第6章 中華カレー
 中華カレー(咖喱飯)/中華カレー(ネオ中華カレー)/カレーラーメン/スパイスラーメン
第7章 世界のカレー
 インド料理のカレー/パキスタン料理のカレー/バングラデシュ料理のカレー/ネパール料理のカレー/スリランカ料理のカレー/ビリヤニ/タイ料理のカレー/その他の国のカレー
第8章 スープカレー
第9章 クラフトカレー(スパイスカレー)
 大阪スパイスカレー第1世代/大阪スパイスカレー第2世代/大阪スパイスカレー第3世代/大阪スパイスカレー第4世代以降/京都クラフトカレー/神戸クラフトカレー/関東クラフトカレー(老舗系/印度カレー)/関東クラフトカレー(新世代/スパイスカレー系)/九州クラフトカレー/名古屋クラフトカレー /静岡クラフトカレー/東北クラフトカレー
第10章 スパイス居酒屋&BAR
第11章 肉料理店のカレー
第12章 カレー・イノヴェイティブ
第13章 レトルトカレー
第14章 カレー+カルチャーイベント
おわりに

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