「Ord」と一致するもの

--山崎: 今回は、Pヴァインのレアグルーヴ・リイシューシリーズ、Groove-Diggersの2023年の下期のベストをMomoyama Radioでまとめましたので、軽く解説ができたらと思います。

--水谷: 去年も色々とリイシューさせて頂きました。


□ Clifford Jordan Quartet - John Coltrane

--山崎: オリジナル盤は最近は高額になってしまい、なかなか入手できなくなりました。

--水谷: ストラタ・イーストからリリースされているもう一つのアルバム、Clifford Jordan名義の『Clifford Jordan In The World』は一般的なジャズ界でも非常に評価されているアルバムです。

--山崎: 50年代以降からブルー・ノートやリバーサイドなどでリーダー・アルバムを残している人なので、ストラタ・イーストの中でもレアグルーヴ的ではなくストレートなジャズというイメージですね。

--水谷: この『John Coltrane』はこの盤にもメンバーとしてクレジットされているビル・リー(映画監督スパイク・リーの父)が作曲で、彼の他のグループ、The Descendants Of Mike And Phoebeの『A Spirit Speaks』でも演奏されています。レコーディングはどちらも1973年で、Clifford Jordan Quartetの方が2ヶ月早いくらいですね。

--山崎: The New York Bass Violin Choirの1978年のアルバムにも収録されていますね。

--水谷: Museからリリースされている、Clifford Jordan Quartetの『Night Of The Mark VII』にも収録されています。

--山崎: Bill Leeは自身のリーダーアルバムはこれまでに無いのですが、その作曲が評価されている彼ならではのスピリチュアル・ジャズ名曲ですね。


□ Weldon Irvine - Mr. Clean

--山崎: Weldon Irvineの記念すべきデビュー・アルバムから。

--水谷: やっぱりWeldonはかっこいいですね。作曲センスが抜群です。

--山崎: この曲はFreddie Hubbard – Straight LifeやRichard Groove Holmes – Comin' On Homeでもカバーされています。どちらもWeldonからしたら大先輩にあたる人物に取り上げられるという、当時はまだ新人であったWeldonの作曲力がシーンでは評価が高かったことが伺えますね。

--水谷: Weldonが自主制作で出した最初の2枚、昔(90年代)はこのアルバムとTime Capsuleを比べるとレア・グルーヴの文脈で最初に再評価されたTime Capsuleの方が派手でポップな印象でした。どちらかというとこの1stアルバムは地味に感じた。ただ今は世の中のムードはどちらかというとこっちの1stな気がします。
アンビエント再評価の流れからフリージャズも聴かれるようになっていますし、今は他ジャンルがクロス・オーヴァーされた楽曲よりも硬派でよりストレートなジャズ色が強い方が時代にフィットしているかもしれません。

--山崎: 70年代当時はサウンドが新し過ぎて評価されず、90年代にアシッド・ジャズ・ムーヴメントやレアグルーヴにより発掘、評価された曲が、その後のネオ・ソウルなどの影響で2000年代以降に一般的になり、2020年代以降はむしろ70年代の王道ラインの方が評価されている再逆転現象が起きている。今のソウルやジャズの中古市場ではみんな定番系を漁っていますからね。レコード屋もマーヴィン・ゲイとかダニー・ハサウェイが壁に面だしになっています。


□ Phil Ranelin / Sounds From The Village

--水谷: Tribeってスピリチュアル・ジャズの中でもStrata Eastやブラックジャズのなどと比べて最初は好きになれない感じはありました。Strata Eastの方がグルーヴあったりポップだったりして聞きやすかったので。
好きだったのはマーカス・ベルグレイヴくらいですかね。Wendell HarrisonやPhil Ranelinはフリーな印象が強かったです。でものちに改めて聴くとジャズ・ファンクとしてかっこいい。Farewell To The Welfareとかもあとでいいなと思いました。

--山崎: 僕もTribeを理解できるようになったのはアシッド・ジャズやレア・グルーヴの流れではなくて、ハウスやテクノを聴くようになってですね。
90年台中盤頃にSpiritual Lifeとかカールクレイグの作品に漆黒のグルーヴを感じるようになってから最初にwendellの『An Evening With The Devil』を買って「Where Am I」を聴いたときに「これってテクノだ」と思って。


□ Wendell Harrison /Ginseng Love

--水谷: 僕はこの辺を「聴きづらい音楽ではないんだ」って思うようになったのは、どちらかというとこのWenhaとかRebirth Recordsなど80年代の方が先でした。爽やかな楽曲が多くて聴きやすかった。Tribeの本道はこっちじゃないんだろうなとは感じつつ。でも今はまわりまわってこっちに注目が注がれているのも面白いなと思います。

--山崎: 僕は逆に80年代のものはあまり買わなかったかもしれないですね。Wendell Harrisonの「Reawakening」くらいしか持ってなかった。でも70年代のものも滅多に市場に出なかったので買えなかったですが。


□ Rick Mason And Rare Feelings / Dream Of Love

--山崎: オリジナルはかなりレア盤です。

--水谷: 僕が買った当時はYouTubeにもなかったですね。でもこれは相当な奇盤です。

--山崎: そうですね。歌い方がだいぶ変ですね。
こういう奇盤って当時は誰が買ってたんだろうとか、どうやってお金を捻出してレコーディングしてリリースまで漕ぎ着けたのか不思議だなといつも思います。でもやっぱり今、人気のある盤は曲がいいんですよね。だから70'sブラックは面白い。

--水谷: レアグルーヴで評価された人ってこういうカチっとしていない人が多いですよね。
いわゆるヘタウマ系なのですが味わい深い。こういう人を評価していきたいです。

--山崎: これオリジナル盤は今いくらくらいするんですか?

--水谷: 僕は自分が買った時しか見たことないです。

--山崎: 今、Discogsで売ってるのは50万円超えですね。中間点も15万円くらいします。

--水谷: 「欲しい人」は748人もいる。こんな奇盤なのにすごいですね。


□ Three Of Us / Dream Come True Part 1

--水谷: Hilton Feltonによるグループ、Three Of Usのアルバム『Dream Come True』からの一曲です。

--山崎: Hilton FeltonをピックアップするのはLuv N' Haightが早かったですね。1993年にコンピレーション『What It Is!』に「Be Bop Boogie」が収録されています。

--水谷: 昔の話ですけど、その頃は月に一度仕事で大阪と京都に行っていたのですが、もちろん行く度にレコード屋さんを回るじゃないですか。それで大阪のとあるレコード屋さんにこのアルバムがレジ裏の壁に飾ってあってジャケを見ると写真も無しでDREAM COME TRUEという文字だけあって「ドリカムのなんかなのかなぁーと(そんなのが売ってるレコ屋じゃないのですが・・・)」。しかもしばらく売れていなかったんですね。毎月、そのレコード屋に行っては壁のこのレコードを眺めていたんですが、ある日、店員さんに勇気を出してあのレコードはなんですかって聞いたんです。そしたら聴かせてくれて、とても良かったので買いました。これが僕の最初のHilton Feltonとの出会いですね。そこからです、Hilton Felton関連は全部買おうってなったのは。

--山崎: その時はいくらだったんですか?

--水谷: あんまり覚えてないですが、べらぼうに高い金額ではなかったと思います。1万円はしたと思いますが3万円のレコードはなかなか買わない時代でしたので。

--山崎: それはすごいですね。このレコード見たことないですし、Discogsには販売履歴ないですね。そんなにバカみたいに高いレコードではないと思いますが珍しいかもしれないですね。

--水谷: Hilton Feltonがやっていることも知らない人が多かったと思います。


□ Hilton Felton / Never Can Say Goodbye

--水谷: ジャクソン5の曲のカバーですが、なんかこの人の鍵盤の手癖がいいんですよね。

--山崎: こっちの盤は近年、本当に中古市場が上がっていますね。「Be Bop Boogie」が収録されている『A Man For All Reasons』と共に人気盤です。

--水谷: Hilton Feltonはゴスペル出身なのですが、たくさん作品があるんですけどこの3枚が圧倒的にいいですね。
ただE.L. Jamesというボーカリストの『The Face Of Love』っていうアルバムはHilton Feltonが全曲アレンジしていてこのアルバムもすごく良いです。


□ Main Source / Time

--山崎: Diggersではないですが、昨年の目玉です。メインソースはなんだかんだやっぱり人気がありましたね。

--水谷: これ90年代のお蔵入りで出なかったトップ・クラスですから。
ブートやなんだでほぼ出てましたけど、でもちゃんと正規で発売されるとみなさんちゃんと買ってくれますね。

--山崎: このネタはMUROさんの「真ッ黒ニナル迄」でも使われているRoy Ayersの「Gotta Find A Lover」ですね。


□ A.P.G Crew / Daily Routine

--水谷: ディガーズでもヒップホップをやりたいと思っていて、なんかないかなって探した時にこれが出てきたんですけど。オークランドのギャングですね・・・契約するの苦労しました・・・。

--山崎: ネタはRoy Porter Sound Machineの「Panama」ですね。

--水谷: こういうヒップホップのいいとこでもあるんだけれど、かなり雑なんですよ。
A.P.G CREWのアルバムって収録曲中の3曲でRoy Porter Sound Machineの『Inner Feelings』収録曲をサンプリングで使っている。Roy Porterと同じ西海岸なので地元のレコ屋でLP見つけてサンプリングしがいのある曲がたくさんあるので摘んだのかと想像しますが、的確にチョイスしてサンプリングしてますね。

--山崎: 「Panama」に「Jessica」、「Party Time」と使いすぎですね。

--水谷: でもちゃんと91年当時にこの3曲をセレクトしてそのまんま使ってるけどポイントを的確に使っていることに評価。Vistone盤の再発が90年にリリースされているので、こっちらかもしれませんが。DJ Spinnaの「Rock」よりも全然早いですから。


□ Funkgus / Memphis Soul Stew

--山崎: シンガポールのサイケ・バンドですね。この曲はキング・カーティスのカバーです。

--水谷: こういうファンキーなサイケデリックは日本のサイケに通じるところがありますね。
70年代のアメリカの黒人でサイケな人ってあまり多くないイメージですが、アフリカやアジア・モノを掘っているとサイケ色強いバンドが多いです。Numeroが2007年にアイランド・ファンク系のコンピレーション、『Cult Cargo: Grand Bahama Goombay』を出しているんですけどサイケ感が出ている曲が多かったです。

--山崎: アメリカからサイケ・ムーブメントが日本やアジア、アフリカ、カリブ諸国に流れつくと同時にジェームス・ブラウンを筆頭としたファンクの波も押し寄せたから、それを融合したようなサイケファンクが多いのではと話を聞いていて思いました。

--水谷: 一理あるかもしれないですね。でもサイケ入ってるとあんまり今のトレンドに乗らないんですよ。だからアフロ・レアグルーヴも一部熱狂はありましたがあまり広がらず、ここんところのDIGマーケットでは少し落ち着きましたね。

--山崎: レアグルーヴの人はロック嫌いだし、ロックのひとは暑苦しいファンクを嫌いそう。狭間ですね。
でもサイケなファンク、これから人気出るかもしれないですよ。聴き方次第では今っぽい気もします。


□ Ernie Story / Disco City

--山崎: この人はインプレッションズとかにも参加している白人ミュージシャンです。
やっぱりロックっぽいですね。こういう盤、どこで見つけてくるんですか?

--水谷: この辺のPRIVATE盤もdiscogsをはじめ、今や情報が氾濫してるのでとても高くなりましたが、個人間でネット売買が始まった2000年代後半〜2010年代前半は比較的にモノもあったし買いやすかったと思います。ただ、こういった無名盤は一部のコレクターで止まっており、レアグルーヴの定番としての人気と評価は今だに90年代から2000年代前半のライナップで止まっている気がしますので、我々ももっといろいろなものを紹介していきたいですね。


□ The Mighty Ryeders / Let There Be Peace

--水谷: 僕は昔からこの曲が「Evil Vibrations」の次に好きでした。

--山崎: この曲は当時7インチも出ていますね。

--水谷: CDアルバムのライナーにも書きましたが、アルバムとシングルではバージョンが違うんです。
今年はこのシングル・バージョンも7インチで再発します、

--山崎: 裏面はMUROさんによる「Evil Vibrations」のエディットですね。

--水谷: でもこのアルバム、本当に全体的にいい。「Evil Vibrations」が突出しているので目立っていますが、どの曲も洗練されているけどファンキーでソウルでもあるレアグルーヴ王道な盤ですね。

--山崎: リーダーのRodney Mathewsさんはアルバムはこの作品のみですが、才能があったんでしょうね。


□ The Turner Brothers / Sweetest Thing in the World

--山崎: この曲もとてもいいですよね。楽曲自体がしっかりしている。
マイナー系でここまでクオリティ高いのも珍しいかもしれません。ソウル・ファンからは昔から評価が高い盤ですね。

--水谷: それにしてもこの盤も1999年に再発させているLuv N' Haight (Ubiquity)は早熟でしたね。先ほどのHilton Feltonしかり、91年にRoy Porter Sound Machineを12インチでリリースしたり、Weldon Irvineも1992年にはStrata East盤と『Weldon & The Kats』を再発している。

--山崎: Weldon Irvineの1st、2ndの2枚を最初に再発したのはPヴァインですね。1996年です。

--水谷: あの頃はまだまだ未発掘なものがたくさんあってよかったですね。

--山崎: ただ、先程もおっしゃってたように、無名盤はまだまだあるので新たなライナップを我々も提示していきたいですよね。


□ Joyce Cooling / It's You

--水谷: これはみんな好きですね。こういうのが今また売れるならもっと色々ありそうですが。

--山崎: 須永辰緒さんが2000年にカバーして有名になった曲であの頃は流行りましたね。
こういうブラジリアン・クロスオーヴァーが全盛期でした。

--水谷: この頃はPヴァインでもブラジリアン・クロスオーバーものはたくさん出してました。

--山崎: でも今、この辺のオリジナルの中古盤安いですよ。Joyce Coolingのオリジナル盤はそこそこしますが、昔は高かったのに今、こんなに安いんだっていうのをよく見かけます。またそのうち高くなるんですかね。


□ Cantaro Ihara / I love you

--山崎: イハラくんのいいとこって自分のエゴを出しすぎないからこれはオリジナルに忠実ですね。
とても良い仕事だなと思います。バランスがいいんでしょうね。

--水谷: うまく日本語にしてくれたと思います。こういうのは流行り廃りがないので、これからクラシックになっていくんじゃないでしょうか。


□ Southside Movement & Jackie Ross -- You Are The One That I Need

--山崎: この曲は素晴らしいですね。

--水谷: 1991年にPヴァインからSouthside Movementの『Funk Freak』というアルバムをCDでリリースしておりまして、1995年にはLPもリリースするんですが、これは未発表曲集という形でリリースされているんですね。そこに「You Are The One That I Need」が収録されているんですけれど、でもこれらの曲が含まれている盤がもっと昔にあるんですよ。おそらく80年代初頭ですかね。ジャケットもないプロモ盤で超レア盤なので滅多に出ないんですけど。

--山崎: なので今回はその盤にさらに曲を足してリリースに至ったんですね。

--水谷: 前述の『Funk Freak』って中古市場でも昔から高くならないんですね。「You Are The One That I Need」を手に入れるのってオリジナルはまず難しいので、『Funk Freak』しかなかったと思うんですけど。でもこれ誰も知らない曲だなって思っていたらMUROさんが2010年にMIX CDに入れていました。この時はさすがだなと思ってシビレましたね。

--山崎: 先ほどからの繰り返しになりますが、こういう曲こそ広がって定番のライナップに入ってほしいですね。

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--水谷: エンドロールはレアグルーヴ好きならピンとくる方も多いと思いますが今の時点ではシークレット・トラックとしておきましょう。

--山崎: 2024年もP-VINE GROOVE DIGGERSとVINYL GOES AROUNDチームではたくさんの面白い企画を考えておりますので引き続きよろしくお願い致します。

interview with Mahito the People - ele-king

自分の作品ではあるんですけど、自分という範疇を超えてるものでもあるので。映画って、コントロールできない部分がすごく大きいと思うんですよ。

 胸にずしんと響く映画だ。
 ママチャリに乗って愉快に声をかけあう若者たち。楽器を背負った彼らは海の見える坂道を駆けのぼっていく。舞台は明石。それまで味気ない日々を送っていた主人公のコウ(富田健太郎)は、強烈な個性を放つバンドマン、ヒー兄(森山未來)と出会ってから、その弟キラ(堀家一希)たちとともに自身でもバンドをはじめていたのだった。そしてそれはいつしかコウの居場所のようものになってもいた。一般常識に縛られないヒー兄の存在はそんなコウたちに刺戟を与えつつも、なにかと目立つその行動は種々の問題を引き起こしていくことにもなる──
 かつてどこかで起こったのかもしれない出来事。あるいはもしかしたらいまも列島のいずこかで繰り広げられているのかもしれない光景。何度も登場する「赤」のモティーフが象徴するように、青春映画でありながら幻想的な演出やメタ的な挿入を退けない『i ai』は、現代を舞台にしたおとぎ話のようにも映る。
 バンド GEZAN はもちろんのこと、小説の執筆や入場フリー/投げ銭制の大胆なフェス《全感覚祭》の開催、反戦集会の決行など多面的な活躍を見せ、ここ10年ほどで日本のオルタナティヴな音楽シーンを担うひとりとなったマヒトゥ・ザ・ピーポー。今度は、映画だ。初監督作『i ai』は、たとえば「汚い」ものや「危ない」ものが排除されるクリーン志向の今日、もしくは人びとが電子上のコミュニケーションによってホルマリン漬けにされているような現代日本にあって、見過ごせないヒントを多く含んでいる。あるいはこう訴えかけているとも言えるだろう。株式会社に就職したり起業したり、逆に引きこもってモニターを眺めつづけたりすることだけが人生ではないのだ、と。
 これまでのマヒトゥ・ザ・ピーポーを知るひとはむろんのこと、いろんなことに悩んでいる20代の方たちにこそ、『i ai』はぜひ観てもらいたい映画だ。(小林)

なんの映画なのかってカテゴライズするのはけっこう難しいかもしれない。ただ、アートの映画にはしたくなかったんですよ。

もういろんなところで喋っているとは思うのですが、まず、そもそもなぜ映画を撮ろうと思ったのでしょうか?

小説や音楽はひとりでもやろうと思えばできるけど、映画は予算も人員も規模がまったく異なるよね。

マヒトゥ:まあ、映画の神様に肩を叩かれた、みたいな。

神秘主義者だよね、マヒトゥ・ザ・ピーポーは(笑)。

マヒトゥ:冗談です(笑)。全感覚祭をやったりして、もうBPM250くらいの勢いでエンジンがかかった状態だったときに、ちょうどコロナのタイミングになってしまって。ライヴも映画館も止まっちゃってなにもできないし、ひとにも会えない状態が続いてくなかで、エネルギーの出し方を探さなきゃエンジンが焼き切れると思ったのがはじまりです。全感覚祭は祭りですが、そのとき祭りにいちばん近いと思ったのが映画だったんですよね。個人の力だけではなく、役者も裏方も、関わるいろいろなひとのエネルギーが立体的に集まってひとつのかたちになっていく点で、映画と祭りは似ているな、と。

全感覚祭をとおして得た集団作業の経験が大きかったんだ。

マヒトゥ:やっぱり大きいですね。ぜんぶ自分の作品ではあるんですけど、自分という範疇を超えてるものでもあるので。映画って、コントロールできない部分がすごく大きいと思うんですよ。たとえばフィクションだと、その日の天候だったり役者が背負ってきた歴史だったりが反映されるわけじゃないですか。逆にノンフィクションでも、音楽をつけたり都合の悪いシーンをカットしたり演出が入るから、フィクションの要素があるし。その境界って曖昧だと思っていて。そういうふうにコントロールできないもの、自分が自分の外側に広がっていくことに興味があったからかな。

もともと映画自体を観るのは好きだった?

マヒトゥ:そうですね。総合芸術としてのパワーがありますよね。もちろん音楽もですけど。

とはいえ映画って気軽に撮れるものではないじゃない?

マヒトゥ:だから、俺けっこう映像作家の友だちとかに嫌われてますよ。普通は、たとえばMVをいっぱい撮ったり、助監督とかでいろいろ経験を積んでから初監督、って流れですけど、スキップしちゃっているから。正面からウザいって言われましたよ(笑)。

愛情表現じゃないの(笑)。

マヒトゥ:いや、目が笑ってなかった(笑)。

経験がないからこそできる表現っていうのもあるから。そういう意味でいうと、『i ai』は音楽家っぽいやり方だなと。

マヒトゥ:フリーインプロの衝突を記録するという意味ではそうなんですかね。音楽でも、やっぱファースト・アルバムを出したころには戻れない。経験を積んで知識が増えると成長っていわれがちだけど、それが意外と制限になったりもするじゃないですか。だから映画も、この先絶対ここには戻れなくなるだろうなって思って、ルールでがんじがらめにするようなチームではやらずに、最初はバンド・メンバーや〈十三月〉のチームではじめていった。撮影の佐内正史さん含め、「映画とはこう撮るものだ」っていうルールを持たないひとたちとつくろう、っていうのはありましたね。

ホームレスもスケーターも街の観察者で、ほんとうはそういういろんな視点があることは豊かさなのに、対話に自分のエネルギーを割くのを省いて、楽に自分の欲しい情報だけをいかに早く手に入れるか、みたいな状況が加速している。

この映画が具現化される、最初の一歩はどこだったんですか?

マヒトゥ:最初にヴィジュアルを撮りました。この(ポスターやチラシに掲載されている)炎のやつ。クラウド・ファンディング用に佐内さんが撮ってくれて。そのあと1か月後くらいに佐内さんから電話がかかってきて「ぼくがムーヴィーまわそうかな」って。その唐突な電話が映画のはじまりです。

映画を撮るのにどれくらいの期間をかけたんですか?

マヒトゥ:どうだったかな。1年かな。脚本の書き方とか映画監督がなにをやるのかとかは一応わかっていたけど、現場はほぼ見たことがなかったので。豊田利晃監督の『破壊の日』(2020年)って映画に出演したときに現場を見たのが初めてだった。豊田組の「ヨーイ、はい!」の怒号の出し方みたいなのだけはっきり影響受けてます。細胞を起こすための怒号。

さきほど祭りの延長という話がありましたけど、じっさいに映画をつくってみて、フェスや音楽との違いや新しい発見はありましたか?

マヒトゥ:世に出る速度がぜんぜん違いますよね。ラッパーとかって有事のときの反応がすごく早いよな、って震災のときに思いました。そういうふうに思ったことにすぐリアクションできるのが音楽なんですけど、この映画は公開までに3年ぐらいかかってます。そもそも映画って時代をとらえるような感覚より、もっとプリミティヴな題材に合ってるんだろうなと思ってて。もちろんそれにも時代の空気感とかは含まれるんですけど、『i ai』をつくるときはコロナがいつ明けるかもわからないタイミングだった。だから、もうちょっとそういうものに接近した題材にするっていう手もあったのかもしれないけど、時代の最先端のものって一瞬で過去になって、タイムラインで流されていくじゃないですか。そういうことよりも、永遠に古くならないもののほうがたぶん映画の持ってる資質のなかで重要なんじゃないかな、と。

ちなみに舞台を兵庫県の明石市にした理由は?

マヒトゥ:俺というより俺らが音楽をはじめるときにいろいろな影響をくれたひと、ヒー兄のモデルになったひとがいた場所だから。自分たちにとっては今回こういうかたちになったけど、それぞれの場所で挑戦してるひとってだれかしらいると思うんですよ。ライターさんでも、自分の前を走ってるひと、かつて見上げてたひとっているだろうし。だからやっぱ、はじめるならこの原風景からかな、っていうので明石に。

これはもう、下津(光史)君の青春を描いているものとばかり……

マヒトゥ:いや、違う(笑)! それ言うのは野田さんだけ。

はははは。観ていてすごくメッセージを感じた。要所要所でどちらかといえば映像よりもマヒトくんの言いたいことが前に出てるんじゃないか、ぐらいに思ったんだけど、それはここで繰り広げられているライフスタイルや人間像みたいなものが、現代に対する批評にもなっているからじゃないかな、とぼくは思ったんだよね。さっき「時代性をとらえることはできない」と言ってたけど、ひょっとしたら地方都市のどこかにいまでもああいうやつらがいるかもしれない。

マヒトゥ:いるでしょ。

ね。そういうライフスタイルって表に出てこないけど、ああいうところにいるんだと。『i ai』には不器用な、世の中とうまく折り合いをつけられないひとたちに対する愛情をすごく感じたんだよね。

マヒトゥ:そこを奪い取られたら、もう自分の軸がわからなくなりますよね。世の中でいう成功とされるものだとか、あるいは逆に自殺しちゃうとかもそうで、「あの人は負けた」「人生だめだった」って烙印を押されることがあると思うんですけど、それでいえばみんな最後は死ぬし、ひとが何人集まったとかCDが何枚売れたとかで数字が積み上がったところで、いったいなんなんだろう? って疑問はつねにありますよ。なんて言ったらいいんだろ……生産性のあるものには価値があって、なにかを生み出せないものには価値がない、みたいな。けど、ヒー兄のモデルになったひとは、自分たちに映画を撮らせるところまでいかせて、いまだに影響を与えていて。それってやっぱ力があるってことだと思うし、数字でいえばただの「一」、たったひとり動かしただけなんだけど、その「一」が横の広がりだけじゃなくて縦の深いところにまで潜っていく。そういうことってメディアに載るときはないものにされてる気がするんですよ。ひとりのひとが感動したっていうことは一万人が感動したことより数は小さいかもしれないけど、ひとりの深度はたしかに存在していて。それは電子の海には乗らない、まだ翻訳しきれないものだと思ってて。それはひとが生きる上での営みにとってはすごく重要で、もちろんAIでは代替できないことだと思う。その愛おしさは、けっして器用・不器用の軸では測れない。そういうものが無価値なものだ、っていう行為を俺は全身全霊で軽蔑します。

きれいなモデルを見て「わたしもキレイになって、自分に自信を持たなくちゃ」って服を買って真似をして、でもその主導権は事務所側にある。自分がそこにいることを否定させて、資本主義と結びつけてよりお金を生み出すような流れだと思うんですよ。

印象に残っているシーンのひとつに、ヒー兄がるり姉とつきあうきっかけになった回想の場面があります。ヒー兄は初めて出会ったるり姉を前にして、ケータイもお金も海に投げ捨てる。いまの数字とか価値の話につうじるというか、型にはまらない生き方の体現ですよね。ヒー兄のモデルになった方にも、そういうところがあったんでしょうか。

マヒトゥ:ありましたよ、イーグルから聞いた話ですけど六甲山っていう山があって、心霊スポットなんですけど、そこで夜遊んでて石を持って帰ってきたんです。三日後ぐらいにそのひとと歩いてたら、ぜんぜん知らないおじさんにポンと肩を叩かれて、「石、返せよ」って言われてて。だれもいない真っ暗ななかで遊んでたのに。ヒー兄の説明にはならないけど、そういう引き寄せがたくさんあったひとでしたね。

ぼくはこの映画を一種のゲットー・ファンタジーだと思ったのね。もちろんリアリズムもありつつ、全体としてはある種のおとぎ話としてもつくられているんじゃないかなと。

マヒトゥ:なんの映画なのかってカテゴライズするのはけっこう難しいかもしれない。ただ、アートの映画にはしたくなかったんですよ。佐内さんとも最初に話したんですけど、「俺らはただ普通に撮ってもねじれるから、まっすぐつくろう」って。みんな奇をてらって、新しいカメラの技法とかいろいろトライしてると思うんですけど、そういうのは他人に任せて、自分たちは気配を撮ろうよ、と。

役者さんたちもすごくよかったです。みんな素晴らしくて、とくにK-BOMB(笑)。あの演技力!

マヒトゥ:野田さん、K-BOMB好きっすね(笑)。

(笑)いや、K-BOMBが映画デビューしたってだけでもすごいよ。

マヒトゥ:でも、森山未來さんもすごくて、「あのひとは何者なんだ……」みたいな感じで。俺はああいう「たゆたっている」ようなひとが街にとってすごく重要だと思ってて。たとえばグラフィティもただ街になにか描けばいいわけじゃなくて、あれは視点のゲームなんですよ。「こいつ、こんなところにいたんだ」っていう、「was here」のゲーム。でもグラフィティやってる友だちは最近むなしいわ、って言ってて。みんな携帯ばかり見てて街を見てない。たとえば俺の家の前にもホームレスのおじさんがいるんですけど、街の経過をずっと見てるのってそういうおじさんか、あとはカラスとかネコとかしかいないんですよ。いまはみんなノイズキャンセリングのイヤホンつけて音楽聴いて、移動中もみんな携帯を見てる。その一方で、街の観察者であり定住しない「たゆたう」存在が異なる世界へのレイヤーをまたげることは実体験としてある。だからあの役はK-BOMBさんにやってほしいなと。ただ、たまにクレームがあって、「セリフが地鳴りのように低すぎてなに言ってるか全然聞きとれない」って(笑)。俺はK-BOMBさんの声に耳が慣れすぎてるから全然聞こえるんですけど。

その話に通じるんですが、ぼくがこの映画でいちばん印象に残っているのが、商店街の入口にある道でヒー兄がおかしくなってふらふらしているときに、カップルが通りかかるところです。女性のほうが心配そうに声をかけようとしたら、男性のほうが「こいつヤバいから」みたいな感じで止める。それに対してヒー兄が「コミュニケーションとろうや」って繰り返す。そういうふうに現代では「普通」から外れた相手とのコミュニケーションを避ける状況がある一方で、逆に現代はものすごくコミュニケーションにあふれた時代だとも思うんですよ。固定電話の時代や手紙を書いて送っていた時代と違って、ケータイや電子メールがあって、さらにスマホが出てきてからはSNSがありソシャゲがありストリーマーもいて、だれもがスマホをいじっていて、コミュニケーションが多すぎる。あのヒー兄のセリフには、そういうコミュニケーションのいろんな層が重なっているように感じたんですよね。

マヒトゥ:ちなみにこの男のほうは神戸薔薇尻っていう、小林勝行というラッパーです。おもしろいひとですよ。コミュニケーションが多いっていうのはそのとおりだと思うんですけど、SNSなんかに溢れてるのは対話ではないと思ってて。対話っておなじ線上で話すことだと思うんですが、いまあふれているコミュニケーションは無数の飛び交う一方通行。俺はどちらかというと、ノイズに感じますね。SNSなんかは顕著ですけど、みんな自分が対話すべき相手のテリトリーみたいなものに自覚的で、線を引いているようなのが多い気がする。対話ってわかりあえないところからはじまるのに、カルチャーの趣味とか政治的な方向性とかでバイアスがあって、自分に都合のいいシーンがつくれる。そういうものに警鐘を鳴らす存在として、以前は街の異端がいたと思うんですけどね。絶対にわかりあえないひとがちゃんといること。政治的に押さえこめるわけではない感じのひとがいること。(『i ai』に)ヤーさんが出てくるのもそういう風景のひとつなんですけど、いまはそういうものが均一に慣らされてる感じを整頓と呼んでる。ホームレスもスケーターも街の観察者で、ほんとうはそういういろんな視点があることは豊かさなのに、対話に自分のエネルギーを割くのを省いて、楽に自分の欲しい情報だけをいかに早く手に入れるか、みたいな状況が加速している。やっぱりみんな疲れてるんだろうな。ある程度はそれでもいいとは思うんですけど、いちばん手放しちゃいけない叫びとか、人間が持ってる存在の揺らぎとか、そこまで省いていっちゃうと人間がデータになっちゃう。それらへの反逆は『i ai』に限らず、俺の全部の表現にあって。

むちゃくちゃ詰まっているよね。それをちゃんとフィクションで伝えようとしていることはすばらしいと思う。メッセージではなく、物語で伝えようとすることが。

マヒトゥ:壁にぶつかっていくというか、俺はカウンター側じゃないですか。もしかしたらもっと説明的に、もっときれいに筋を立てられるひとがいたらまた違ったのかもしれないけど、そこはべつにいいっすね。

不完全であることの生々しさもあるよね。

マヒトゥ:そうですね。いまってほんとうにみんなキレイになりすぎてて。写真とかもレタッチが施されてるし。雑誌とかでも、ここのホクロはとるけどこっちは残すとか(笑)。たとえば、すごくきれいなモデルを見て「わたしもキレイになって、自分に自信を持たなくちゃ」って服を買って真似をして、でもその主導権は事務所側にある。自分がそこにいることを否定させて、資本主義と結びつけてよりお金を生み出すような流れだと思うんですよ。でも俺は表現の目的って、そのひとがそこにいることがすべてで、それを肯定することだと思ってて。不完全な気持ちを持っていていいし、不完全であることが許されるような。それが映画や音楽、フロアに求めることでもあるし、自分がそういうものに救われてきたから、完璧を達成することにはあまり興味がないんですよね。広告っぽい映画とか広告っぽい音楽は、だれか他の広告っぽいひとがやればいい。バンドも、俺は隙が残ってる音のほうが好きですね。「こうすべきだ」っていう軸に寄せれば寄せるほど、機械がつくったものと変わらなくなるというか。「生産性だけじゃないんだ」って言ってるやつの音が嘘をついてることもよくあるじゃないですか。そういうのは俺はわかんないです。

やっぱり現代への批評性があるよ。

マヒトゥ:ムカついてるだけですよ(笑)。

だからこそ『i ai』は観てほしい映画ですよ。とくにいまの20代には観てほしい。こういう生き方も全然やっていいんだよ、アリなんだよ、ってことを言っている映画じゃないですか。しかも武骨なパンク・バンドが。あと、みんなママチャリで移動するところもいい(笑)。

マヒトゥ:あれはもう、ほんとにイーグル・タカが中学のころから使ってるママチャリで。東京にまで持ってきて使ってるやつをまた向こうに戻して使って。すごい執着があるんですよ。GEZANにはママチャリしかダメってルールがあって。バンドのルールはそれだけで、ほかはなんでもいいんですけど、チャリはカッコいいのに乗っちゃダメっていう(笑)。タイヤ太いのとかも。2ケツできるのが重要なんじゃないですか、ママチャリって。

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無音になったクラブにいる幽霊たちのステップを、コロナのときに思ったんです。そいつらの今が気になって浮かんだことばですね。それはだれかがすくいとらないと、そいつらの衝動が昇華されない。そういうイメージが “Third Summer of Love” で。

そういえば、登場人物が音楽をやっているところ以外をあまり描かなかったじゃない。一瞬、アルバイトをしてるところとかはあるけど。

マヒトゥ:アルバイトもそうですけど、じつは「家族の匂いがない」ところはこだわってます。子どもが生まれたりとかは作中にありますけどね。みんな友だちはいるけど、基本的にみなしごが集まって、新しいコミュニティをつくっているというベースがあるんです。ある種の孤独の集団というか、露骨にそれを打ち出すわけじゃないんだけど、家族の匂いはあまり出さないようにして。

ちなみに、赤に対するオブセッション、強迫観念的なこだわりはどこから来ているの?

マヒトゥ:赤には煽られつづけてるっすね。理由はわかんないけど、でもそんなもんじゃないですか? たとえば野田さんも、カレーとシチューだといまはなんとなくカレー食べたいな、みたいな自我があるわけですよね。どっちが好きかと聞かれたら、やっぱ赤かなってなる。スタイリストさんが「このシーンに、こういう服を用意しました」ってハンガーで20着くらいかけてくれるんですけど、やっぱり赤を選んじゃうんですよ。好きだから。

GEZANも昔から赤色が印象的で。

マヒトゥ:血の色でもあるし、遊廓のひとも赤いものを着ていたりするじゃないですか。やっぱなにか感情を沸騰させるような、情熱の色なんだろうなと思う。

信号のように、警告や注意喚起の色としても使われますよね。

マヒトゥ:信号も、ずっと赤ばっか見ちゃうときありますね。青になったらまた赤を待つ。

そういう格好で街を歩いているとよく見られるでしょう。声とかはかけられない?

マヒトゥ:かけられますね。あと、渋谷でタバコ吸ってぼーっとしてたら、知らない女の子が電話で「いま赤いひとの近くにいるから」って、目印にされて(笑)。「俺ここから動けねー」って、しばらくそこで待ったり(笑)。俺、GEZANをはじめる前の大阪時代に、灰野敬二さんの付き人をやってたんですよ。16、7くらいのときで、そのころも赤かったんですけど、灰野さんに見た目のことを聞いたら、「自分という現象が外の世界からどういうふうに扱われるかの実験なんだよ」って言ってて。そのときは聞き流したけど、いまなら理解できるかもしれない。だれかと対話するときって、鏡のように自分を突きつけられるじゃないですか。ポジティヴな場合もあるし、目が合わせられないこともあるし。そういう自分がいることによる波紋とか揺れみたいなものを見て、「ああ、俺の現在地ってここなんだ」って感じることはありますね。そういうものを赤が手伝ってくれてるかもしれない。

ヒー兄もその対のように描かれる久我も、子どもを残して死にます。ひとは死んでも子どもは残る、なにかが受け継がれていく、というようなメッセージを感じました。

マヒトゥ:まあ多少は輪廻の話でもあるというか。そのひとがいた形跡がいろんなものに形を変えて手渡されていくと思うんですよね。たとえば野田さんが書いた文章を、野田さんが死んだあとにだれかが読んで、べつにそのひとは野田さんの墓へ祈りに行ったりはしないけど、でも読むことで一瞬だけでも時間を共有するわけじゃないですか。それってすごくスピリチュアルなことでもある。肉体はもう介在していないのに、肉体が持つ情報以上のものがあって。とくに表現だとそれはある。自分が死んだとしても、音楽や映画とか本とか、墓よりもそっちのほうが祈りの対象になるというか、祈りたいならそっちに祈ってくれと思うし。そういうことって意外とみんな自然とやってるんですよね。そういうものが受け継がれて、身体の有無にとどまらない時間の流れがたくさんあって、それに関わることができるから俺は表現が好きだし。時計の針が一分一秒を刻んでいくわかりやすい時間もあるけど、生きてるなかではたくさんのリズムが同時進行で起こっていると思うんです。なんとなく雨が降って、なんとなく春が夏に向かっていくように、だれかが思い出になっていったり、そういうものが並走していると思うんですよ。だからその子どものことも、すべてが受け渡されてそこで終わりじゃなくて、次のチャプターに入っていくようなイメージがありますね。

主題歌が “Third Summer of Love” で、アルバム『あのち』に入っていた曲ですよね。「サード」ということはファーストとセカンドがあるわけですが、歌い出しが「拝啓 UNHAPPY MONDAYS」で、途中でイアン・カーティスも出てくる。セカンド・サマー・オブ・ラヴ~マッドチェスターに継ぐものを自分がやる、あるいはこの映画をそう位置づけたい、というような意図でしょうか。

マヒトゥ:映画のはじまりがコロナのタイミングで、ダンスが奪われた時期だったので。クラブやライヴ・ハウスのような場所にはゴーストがたゆたってると俺は思ってて。そこの照明のなかにしかいられないというか……たくさんひとがいるときは紛れ込んだその隙間でステップを踏めるけど、だれもいなくなって、音も鳴っていないしライトもついていない、どこへ行けばいいんだろう、みたいな。そういう無音になったクラブにいる幽霊たちのステップを、コロナのときに思ったんです。そいつらの今が気になって浮かんだことばですね。それはだれかがすくいとらないと、そいつらの衝動が昇華されない。そういうイメージが “Third Summer of Love” で。でも自分にとってのゴーストってダークなものではなくなってきていて、歌詞にも「天国はにぎやかそう」って一節があるけど、ほんとうににぎやかそうだなって思います。いまはまだこっちにいたい理由を増やしている最中ですけど、そっちもそっちで楽しそうじゃんって気持ちもありますね。

いまはなにかをはじめるスタートの時点でインターネットがあって、答えみたいなものもウェブ上に落ちてるんですよ。ほんとうは自分の肉体を使って、時間をかけて、自分自身で答えにたどり着いて、でも自分だけの身体でたどり着ける答えなんてたかが知れてるってことに気づいて、っていうプロセスが重要なんだけど。

『i ai』はとくに若者に観てほしい映画だと思いますが、マヒトさんにとって現在の、自分よりも年下の世代はどう見えていますか?

マヒトゥ:俺は平成元年の生まれなんですけど、学校でパソコンの授業がはじまったり、みんなが携帯を持ちはじめたり、2ちゃんねるが流行ったり、デジタル化が進むちょうどあいだくらいの過渡期を過ごした世代なんですけど、いまはやっぱりインターネットが基本だから、音楽も時系列で変化していくというより、並列化した状態でウェブ上にあるというか、流れがほとんどないというか。いまはなにかをはじめるスタートの時点でインターネットがあって、答えみたいなものもウェブ上に落ちてるんですよ。ほんとうは自分の肉体を使って、時間をかけて、自分自身で答えにたどり着いて、でも自分だけの身体でたどり着ける答えなんてたかが知れてるってことに気づいて、っていうプロセスが重要なんだけど、あまりに答えが多すぎて答え自体もほとんど意味をなさず、ただの情報になってる。時間の経過がなくて全部が並列化されてるから、答えも問いかけもデマもすべて等価値な情報として充満しているから、ものをつくったり感動したりする、そのペースが自分とはまったく違うなと思ってますね。だからこの映画もそうですけど、なにか明確な答えを提示するというよりは、揺れを大事にしてるんですよ。もちろん2時間のなかでエンディングに向かっていく流れはあるんだけど、瞬間瞬間の振動でいいというか。アートの映画にはせず青春映画でそれをやるっていうのはテーマだったかもしれないです。

いまは情報がありすぎて、ぼくからすると気の毒だと思うんだけど、でもそういうなかでみんな器用に生きてるんだろうし、嗅覚があるやつはこういうものにたどり着けるだろうし。だからマヒトくんがこういう映画をつくることはすごく意義があると思う。

マヒトゥ:逆張りですよね、それはある種の。情報が多くなってサイクルが速くなればなるほど。

こういう生き方があるということを打ち出しているのはすごくいいですよ。

そうだね、いま時代はマヒトだから(笑)。ジブリの『君たちはどう生きるか』の主人公も「眞人」だったでしょ。映画館で観てて、ここまで来たのか! って驚きました(笑)。

マヒトゥ:初日に観に行ったけど全然ストーリー入ってこなかったです(笑)。「眞人がセキセイインコになっちゃった!」ってセリフが強すぎて(笑)。

マヒトゥ・ザ・ピーポー初監督作
新星・富田健太郎に、森山未來、さとうほなみ、永山瑛太、小泉今日子ら
実力派俳優陣が集結した新たな青春映画の誕生!

GEZANのフロントマンで、音楽以外でも小説執筆や映画出演、フリーフェスや反戦デモの主催など多岐にわたる活動で、唯一無二の世界を作り上げるマヒトゥ・ザ・ピーポーが初監督を務め、第35回東京国際映画祭<アジアの未来部門>に正式出品され話題を呼んだ映画『i ai』。マヒト監督の実体験をもとに、主人公のバンドマン・コウと、コウが憧れるヒー兄、そして仲間たちが音楽と共に過ごした日々が綴られていく青春映画が誕生した。
主人公コウ役には、応募数3,500人の大規模オーディションから抜擢された新星・富田健太郎。そして主人公の人生に影響を与え、カリスマ的な存在感を放つヒー兄役には、映画だけでなく舞台やダンサーとしても活躍する森山未來。さらに、コウとヒー兄を取り巻く個性豊かな登場人物たちに、さとうほなみ、堀家一希、永山瑛太、小泉今日子、吹越満ら多彩な実力派が顔をそろえた。
マヒト監督の紡ぐ“詩”と、キーカラーでもある“赤”が象徴的に使われる、寺山修司を彷彿させる独特の映像美が融合した本作。この純文学的な味わいの作品を撮影カメラマンとして支えたのは、木村伊兵衛写真賞受賞の写真家・佐内正史。そして、美術に佐々木尚、衣装に宮本まさ江、劇中画に新井英樹など、監督の思いに共鳴したカルチャー界の重鎮たちが集結。また、ヒー兄がフロントマンを務める劇中バンドのライブシーンで、実際の演奏を担うのは、監督をはじめとするGEZANのメンバーたち。ライブハウスの混沌と狂乱が臨場感たっぷりに描かれる。

7回連続満席で大ヒット上映中! SNSでも話題で小沢健二もXで称賛
パンフ購買率、驚異の50%!グッズも売れ行き好調

3月8日(金)渋谷ホワイトシネクイントで映画が封切られると、7回連続満席を達成するロケットスタート。しかもチケット販売開始から1日も経たずに完売するほどの注目を集めている。SNSでも、マヒト監督と親交のある小沢健二が「現実とファンタジーと言うけれど、現実「も」巨大なファンタジーであること。それをご存じだから、マヒトさんとぼくは同期するのだなと思いながら、赤色と「亡くなること(ほんとうに?)」をめぐる映画を観ました。SNSの短文の不明瞭さに紛れて、重奏する、重走する時間を祝っております」と称賛の声を寄せたほか、観客からも「見て見ぬふりをしてきたいくつかの感情が剥き出しになった」「自分の過去を思い出して堪らない気持ちになる瞬間や 観てきた映画や出会った作品が必然だったと感じる作品」「またヒー兄に逢いに行く」など、単なる映画の感想にとどまらない、それぞれが“自分ごと”として語る熱量の高いコメントが続出している。また、マヒト監督監修の72ページにおよぶパンフレットは、購買率50%を記録。そのほか、TシャツやサウンドトラックCD、ステッカーなどの売れ行きも好調だ。


撮影:水谷太郎

3月9日、大強風のなかの限定ライブでは、
小泉今日子の生歌と森山未來のパフォーマンス、さとうほなみの演奏に観客涙

公開2日目の3月9日(土)、富田健太郎、森山未來、さとうほなみ、小泉今日子、そして監督であるマヒトゥ・ザ・ピーポーやバンド・GEZANが出演する公開記念ライブイベントが、渋谷PARCOの屋上広場“ROOFTOP PARK”で開催された。SNSキャンペーンの参加者から抽選により選ばれた限定120名のためのスペシャルライブ。風が吹き荒ぶなか登場したマヒト監督は、「『i ai』は、見えなくなったものとか、これから見えなくなるものについての映画です。撮影中もたくさん風が吹いていたんですが、途中から見失ってしまって。そうして風のしっぽを追っていたら、映画ができていました。『i ai』は風と海が作った映画です」と話し、「Wonderful World」と「待夢」を弾き語りで披露。
続いてライブハウスの店長役で出演した小泉今日子が登場。小泉は「私が演じた店長は、昔、バンドをやっていたという役どころ。昔のカセットテープが出てきて、この曲が流れるシーンがあるんです。映画のために作った歌です」と明かし、劇中歌「AUGHOST」をマヒト監督と共に披露した。階段上からは、シャボン玉を飛ばす森山の粋な演出も。
そして映画のエンディングを彩る楽曲「i ai」では、ドラマー(ほな・いこか名義)でもあるさとうほなみ(るり姉役)がパーカッションで参加&GEZANメンバーが演奏する中、ダンサーとしても活躍する森山未來(ヒー兄役)がダンスパフォーマンスを披露。青空に向かって手を広げ、天国から舞い降りたかのように階段を降り、圧巻の存在感とパフォーマンスでその場を掌握していくその姿は、カリスマ的な存在だったヒー兄を彷彿させる。
曲の終盤には、コウ役の富田健太郎が現れ、森山を見つめながら「わからないまま滑走した日々へ。わからないまま詩に抱かれた日々へ。わからないままコウになろうとした日々へ。『お前はエンドロールまで見ておけよ』と言った、夏のあの人へ」と渾身のひとり語りを見せる。マヒト監督が映画に込めた「エンドロールが終わっても共に生きよう」というメッセージをなぞるかのようなイベントの終幕に、観客の中からはすすり泣きの声も聞こえた。なお、この日の模様は3月20日(水・祝)にDOMMUNEでの『i ai』特別番組で初お披露目されるのでぜひチェックしてみてほしい。

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【STORY】
兵庫の明石。期待も未来もなく、単調な日々を過ごしていた若者・コウ(富田健太郎)の前に、地元で有名なバンドマン・ヒー兄(森山未來)が現れる。強引なヒー兄のペースに巻き込まれ、ヒー兄の弟・キラ(堀家一希)とバンドを組むことになったコウは、初めてできた仲間、バンドという居場所で人生の輝きを取り戻していった。ヤクザに目をつけられても怯まず、メジャーデビュー目前、彼女のるり姉(さとうほなみ)とも幸せそうだったヒー兄。その矢先、コウにとって憧れで圧倒的存在だったヒー兄との突然の別れが訪れる。それから数年後、バンドも放棄してサラリーマンになっていたコウの前に、ヒー兄の幻影が現れて……。

【CREDIT】
富田健太郎
さとうほなみ 堀家一希
イワナミユウキ KIEN K-BOMB コムアイ 知久寿焼 大宮イチ
吹越 満 /永山瑛太 / 小泉今日子
森山未來

監督・脚本・音楽:マヒトゥ・ザ・ピーポー
撮影:佐内正史  劇中画:新井英樹
主題歌:GEZAN with Million Wish Collective「Third Summer of Love」(十三月)
プロデューサー:平体雄二 宮田幸太郎 瀬島 翔
美術:佐々木尚  照明:高坂俊秀  録音:島津未来介
編集:栗谷川純  音響効果:柴崎憲治  VFXスーパーバイザー:オダイッセイ
衣装:宮本まさ江  衣装:(森山未來)伊賀大介  ヘアメイク:濱野由梨乃
助監督:寺田明人  製作担当:谷村 龍  スケーター監修:上野伸平  宣伝:平井万里子
製作プロダクション:スタジオブルー  配給:パルコ
©STUDIO BLUE(2022年/日本/118分/カラー/DCP/5.1ch)

公式サイト:https://i-ai.jp
■公式X:https://x.com/iai_2024
■公式Instagram:https://www.instagram.com/i_ai_movie_2024/

渋谷ホワイトシネクイントほか全国順次公開中!

る鹿 - ele-king

 モデルとして活動する一方、ゆらゆら帝国 “空洞です” のカヴァーで歌手としてもデビューを果たしている「る鹿」。昨秋リリースされたその最新シングル「体がしびれる 頭がよろこぶ」の7インチが7月17日に発売される。
 作詞は坂本慎太郎、作曲とプロデュースは山本精一という、豪華2名による書き下ろしの1曲。10月に出た12インチ・シングルには岡田拓郎食品まつりによるリミックスが収録されていたけれども、今回の7インチのB面ではなんと、いまぐんぐん注目度を高めている広島のエレクトロニック・プロデューサー、冥丁がリミックスを担当している。興味深い組み合わせによる化学反応、これは期待大です。

坂本慎太郎作詞、山本精一作曲・プロデュースによる、る鹿の3rdシングル曲「体がしびれる 頭がよろこぶ」と、世界のエレクトロニック~アンビエント・シーンで注目を集めるアーティスト、冥丁による同曲のリミックスをカップリングした7インチ・シングルのリリースが決定

モデルとして活動しながら、ゆらゆら帝国「空洞です」のカヴァーで2021年に歌手デビューしたる鹿。彼女が、真島昌利の楽曲提供による「遠い声」(21年)に続き、23年10月にリリースした3rdシングル「体がしびれる 頭がよろこぶ」。坂本慎太郎と山本精一という、日本のオルタナティヴ・シーンを牽引してきた二人の共作による書き下ろしで、キャッチーでダンサブルでありながらもサイケデリックな楽曲と、深遠でミステリアスな詩世界が絶妙に絡み合い、る鹿の新たな魅力を引き出している。その日本語ヴァージョンと、かつて存在した日本の情景をエレクトロニック、アンビエント、ヒップホップ、エクスペリメンタルを融合させたオリジナルな音楽で表現する広島在住のアーティスト、冥丁による同曲のリミックスをカップリングし、7インチ・シングルとしてリリースする。ホルガー・シューカイ「Persian Love」にも通じるねじれた浮遊感がたまらない冥丁のリミックスが含蓄に富んだ詩世界を増幅し、“頭がよろこぶ”こと必至。12インチに引き続き、アートワークには、1960年代からアートの最前線で作品を発表しつづける巨匠、沢渡朔による撮り下ろし写真を使用。また、4月3日より冥丁リミックスの先行配信も予定されている。

■る鹿(るか)
中国出身。2015年にスカウトされモデルとしてのキャリアをスタート。ファッション雑誌でモデルとして活動する傍ら、2021年にはビクターエンタテインメントより歌手デビュー。各界クリエイターも注目する話題曲のリリースが続き、唯一無二の存在としてアーティストとしての活動にも注目が集まる。また一児の母として、仕事と子育てに奮闘中。
https://www.instagram.com/luluxinggg

《商品情報》
アーティスト:る鹿
タイトル:体がしびれる 頭がよろこぶ
商品番号:P7-6612
フォーマット:7 INCH SINGLE
価格:定価:¥2,475(税抜¥2,250)
発売日:2024年7月17日(水)
初回生産限定盤

収録曲
A) 体がしびれる 頭がよろこぶ (Japanese)
B) 体がしびれる 頭がよろこぶ (冥丁Remix)

《ライブ情報》
UNION SODA “7th Anniv” Live
公演日:2024年4月5日(金)
会場:UNION SODA(〒810-0041 福岡県福岡市中央区大名1-1-3-201)
ACT:荒谷翔太(solo set)、る鹿
FOOD & DRINK:出張ほぐれおにぎりスタンド / cocoperi(今泉スパイスカレー)/ Hobo Beer Store / UNION SODA
時間:OPEN 19:00 / START 20:00
チケット:前売 ¥4,500 / 当日 ¥5,000
※1 drink order 600円 / 全席自由 / 並び順入場 / スタンディング / ドリンク&フード持込み不可
※店頭での販売なし / お一人様2枚まで購入可
https://t.livepocket.jp/e/r1f6y
問合せ:070-5270-3937(平日11:00~18:00)
協力:bud music / Herbay / Luuna management / Cloudy

Seekersinternational & Juwanstockton - ele-king

 日本のダブ・レーベル〈Riddim Chango〉から初のアルバムがリリースされる。カナダのエクスペリメンタルなダブ作家チーム seekersinternational と juwanstockton による共作だ。サンプリング主体で制作されたというそのアルバムは、どこかJ・ディラ『Donuts』を彷彿させる感覚も持っているようだ。ヴァイナルを買おう。

Artist: seekersinternational & juwanstockton
Title: KINTSUGI SOUL STEPPERS
Catalog Number: RCLP001
Format: LP・アナログ盤

Side A:
1. AKAI Telecom
2. Bruk Encounter
3. Shinjuku Skanking
4. Never 4get EDIT

Side B:
5. Wind Rider
6. Mercury Rising
7. Riddim Changes pt.1 & 2

Recorded at Aquaboogie Studios, East Richmond, BC and Aki’s Kitchen

Tracks 2 & 5 featuring Manila Dread Horns, recorded at The Penthouse, Quezon City, Metro Manila

Artwork by Boram Momo Lee
Layout by Zongchang

■発売日:2024年3月15日

serpentwithfeet - ele-king

 エクスペリメンタルなR&Bでクィアなエロティシズムをエレガントかつ妖艶に奏でてきたサーペントウィズフィートことジョサイア・ワイズは、本作の予告的な位置づけだったという舞台作品『Heart of Brick』を昨年上演している。日本では観るすべがないので海外評などを読むしかないのだが、ブラック・クィアのクラビングを題材にしたもので、彼らの恋愛的ないざこざをクラブを舞台にして軽妙に描いたミュージカル的な作品だったようだ。想像するにブラックのゲイやクィアの恋愛や友情を飾らずに提示するものなのだろう。それはアメリカでもいまだポップ・カルチャーのなかであまり見られないもので、ワイズがサーペントウィズフィートの表現として意識的に世に出そうとしているのだと推察できる。〈ザ・ニューヨーク・タイムズ〉の劇評を読んでいて自分が興味を持ったのは、「だがほとんどの場合、このショーはセックスではなくゆっくりとしたロマンスの恩恵についての、心地よく快適な体験である。恋人たちは後ろからハグをするが、キスさえしない」という箇所だった。セックスへの期待や興奮よりも、リラックスした親密さこそがゲイ・クラブで求められているというのだ。何かとセクシュアルなイメージが求められるゲイのクラビングにおいて、これはけっこうレアな例ではないかと思う。
 ただ、それはサーペントウィズフィートが前作『DEACON』においても追及していたことだった。デビュー作『soil』では絢爛なオーケストラとともにドラマティックに性愛を描いていたワイズだが、『DEACON』ではもっと落ち着いた雰囲気で恋人と過ごす時間の心地よさを噛みしめていたのだ。とりわけ自分が惹かれたのはミドルテンポの柔らかいR&Bナンバー “Same Size Shoe” で、彼氏と靴のサイズが同じだから共有できるという内容のものだ。その他愛のなさ。けれどもそこでは、同性愛であること(同じサイズの靴)と日常的な安らぎの両方が鮮やかに示されていた。

 その点、3作目となる『GRIP』は『Heart of Brick』と同様ナイト・クラビングからインスピレーションを得た作品であり、タイ・ダラー・サインとヤング・ヤヤが参加した1曲目 “Damn Gloves” のダークなムードに象徴されるように、前作に比べて緊張感が戻ってきている。この曲はノサッジ・シングがプロデュースに入っており、もう1曲彼が参加した “Hummin'” といい、重たく硬めのビートによって前作に比べればハードな印象を与える。
 しかし同時に、“Safe Word” や “Lucky Me” といったラテン・フレイヴァーのあるアコースティック・ギターが耳に残るアトモスフェリックなソウル・チューンが醸すソフトな側面にぐっと引きこまれるアルバムでもある。ざっくり言えば1枚目と2枚目のよい部分を融合させた3枚目と位置づけられるかもしれないが、フランク・オーシャンの長い不在のなかで、サーペントウィズフィートはブラック・クィアとしての性愛表現とオルタナティヴR&Bの「次」を本作では模索しているようなのだ。
 深いリヴァーブによる濃密な空気に包まれた “Deep End” はアルバム中もっとも緊張感と親密さがせめぎ合う一曲で、そこでワイズは「ぼくたちが愛し合ったあとで、ぼくたちがファックしたあとで」と透明なファルセットで歌う。硬と柔、聖と俗、そしてメイク・ラヴとファックの間をさまようこと、あるいはそれらを行き来すること。クラブで出会った相手と「一夜限りの関係」が続けば、それは甘いロマンスになるのだろうか? そんなどこにでもある、しかし切実な問い。ゴスペルの影響は健在ながら、ホーリーなムードが強かった初期を思えば『GRIP』はより大衆的な場所でモダンR&Bとして実験とポップの駆け引きを演出するアルバムである。
 “Damn Gloves” でダーティなビートと戯れながら「きみにオペラより長いキスをする」と歌うのを聴きながら、あるいは “Lucky Me” でメロウなギター・サウンドに包まれながら「きみがいてくれて幸運だよ」と告げるのを聴きながら、あらためてジャケットを眺めてみる。大胆なイメージだと思う。けれどもそこでは、刹那的なエロスよりも肌と肌が重なることの心地よさと安らぎが希求されているのだ。

Alex Deforce & Charlotte Jacobs - ele-king

 声と音。言葉と音。その交錯、その融合、その反発、その共存。独自の世界観を持ったアルバム『Kwart Voor Straks』は、それらの問題を考えるヒントが込められていた。非常に批評的な音楽作品であった。
では、このアルバムを作ったのは誰か。ひとりは、ベルギーはブリュッセルにおいて詩人として活動しているアレックス・ディフォースである。もう一人は、ブルックリンのサウンドアーティスト/ボーカリスト シャーロット・ジェイコブである。この二人のコラボレーション・アルバムが本作『Kwart Voor Straks』だ。
 リリースは、ベルギーのエクスペリメンタル・ミュージック・レーベル〈STROOM〉からである。この〈STROOM〉は、オランダのニューウェイヴ・バンドW.A.T.の『WORLD ACCORDING TO』の再発、ヴォイス・アクターのアルバムなど、リイシューから新譜まで広くリイシューしている注目のレーベルだ。 
 昨年リリースされたヴォイス・アクターの新作『Fake Sleep』もそうだったが、「声と電子音」のミックスも、このレーベルの方向性なのだろうか。じじつ本作『Kwart Voor Straks』も、アレックスとシャーロット、二人の声によるポエトリーリーディングと独創的でどこか優雅な電子音のミックスによる楽曲によって成立している。
 『Kwart Voor Straks』 のポエトリーリーディングとエレクトロニクスのコンビネーションによるサウンドは、なかなかユニークである。実験的な電子音楽からリズム/ビートを導入したトラックまで変幻自在なサウンドを展開し、そこにアレックスの言葉がレイヤーされ、まるで映画/演劇のサウンドのような音世界を存分に展開しているのだ。
 越境的な音楽・音響作品であり、ある意味では、アレックスとシャーロットによるヴォイス・パフォΩマンスを音源として定着した作品ともいえる。ここで語れている「詩」を理解できる能力を持たな自分としては、本作を(無理を承知で)まずもって声と電子音による「電子音楽作品」として位置付けしたい。

 じっさい声と電子音というのは不思議と相性が良い。有機的なものと無機的なものという対称的なものだからという面もあるだろう。声の持っている「音の肌理」と電子音が放つ「音の肌理」の相性はとても良いように感じるのだ。どちらの「音」のテクスチャーが複雑かつ繊細、かつ強靭という意味で。
 アルバムには全7曲収録されている。1曲目“Kwart Voor Straks (Deel 1) ”では、アレックスによる詩を朗読する「声」がグリッチ状に加工され、そこに透明なシャーロットの歌声に近い「声」が折り重なる。この見事に対称的な音/声は、本作のサウンドを象徴しているように感じられた。声がエディットされ電子音に近くなることで、より物質的な音になるし、なにより「声」の言葉を伝えるという機能性が若干「遅延」するような感覚も生まれ、その「ズレ」の感覚こそ、本作の肝ではないかと思ったのだ。2曲目“Kwart Voor Straks (Deel 2+3)”は曲名からして、1曲目からして連作だが、ミニマルで乾いた音色のピアノに、シャーロットの歌声が折り重なる曲だ。どこかフォーキーな印象があるが、時折、挿入されるアレックスの声/朗読と微かなノイズがレイヤーされていく。
 3曲目“Aeiou”(どうやら日本語モチーフにした言葉らしい)は声と電子音のコラージュ的な楽曲だ。4曲目“Turquoise”は二人の声のコンビネーションに、アトモスフィリックな電子音とどこか古典的な電子音のアルペジオが展開し、どこか映画の1シーンのようなサウンドを展開する曲である。5曲目“Mantra Voor Mikes”も声と電子音のコラージュ的なトラックだ。楽曲前半では実験的なドローン・サウンドに、二人の声による朗読と歌声が交錯し、中盤以降は、分断されたビートのようなサウンドへと変化していく。本作中でも多彩な音楽性が圧縮された曲といえよう。
 6曲目“Umami”(この曲名も日本語由来だという)では、リズムが明瞭化し、ウワモノのシンセがコードを鳴らすにより、さらに「楽曲」的になっていく。二人もユニゾンで朗読すれる。その結果、」「声」と「電子音」が一体化する。アルバムに満ちていた「ズレ」と」「遅延」の感覚が希薄なり、何かが統合されたような、感動的ともいえる躍動感に満ちた曲に仕上がっている。まさにこの曲こそアルバムのクライマックスともいえよう。アルバム最終曲にして7曲目“Dit Gedicht”もアレックスとシャーロットのユニゾンによる朗読に、透明な電子音が重なり、アルバムは終焉を迎えていくだろう……。

 『Kwart Voor Straks』は、電子音はドローン、ノイズ、テクノ、アンビエントと多彩なサウンドを展開しつつ、アレックスとシャーロットの朗読/歌声によって、どこか「アルバム全体でひとつの楽曲」とでもいうような不思議な統一感が生まれている作品だ。
 何より、他にはない独自の世界観に満ちているアルバムなのである。エレクトロニック・ミュージックの形式を包括しつつも、しかし、ジャンル内の方法論のマナーにとらわれることなく、自由に音楽/音響世界を展開している、とでもいうべきか。だからといって破壊的というわけでもない。どこか優雅なのだ。貴族的な実験音楽作品?
 しかし不穏と不安に満ちた現在において、この「優雅さ」はとても貴重とも思う。未聴の方は日常のふとした隙間にこのアルバムを1曲目から聴いてみてほしい。時代の空気から浮遊しているような、エレガントな電子音楽作品とわかるはず。何より声と電子音のエレガントな舞踏のように鳴り響いていることに驚きを感じるはずだ。声と音。歌声と電子音。声とノイズ。有機と無機の交錯。そんな優雅で実験的な音の舞、音の舞曲、それがこの『Kwart Voor Straks』なのである。


Kamasi Washington - ele-king

 10年代以降のジャズにおける最重要人物のひとり、現代にスピリチュアル・ジャズを復権したLAのキーパースンがひさびさのアルバムを送り出す。題して『Fearless Movement』、カマシ・ワシントン本人曰く特別な意味の「ダンス・アルバム」だそうだ。ゲスト陣も豪華で、昨年要注目のニューエイジ作品を発表したアンドレ3000ジョージ・クリントンサンダーキャットテラス・マーティンBJ・ザ・シカゴ・キッドらが参加している。5月3日、前作『Heaven And Earth』に続き〈Young〉から世界同時リリース。

KAMASI WASHINGTON
カマシ・ワシントン待望の最新作
『Fearless Movement』を5月3日にリリース!
アンドレ3000、ジョージ・クリントン、サンダーキャット、テラス・マーティン、BJ・ザ・シカゴ・キッド他、多数参加!

圧倒的なカリスマ性で現代のジャズ・シーンを牽引するサックス奏者、カマシ・ワシントンが新作『Fearless Movement』を〈Young〉から5月3日にリリースすることを発表した。アルバム発表と合わせて公開された新曲「Prologue」は、長年のコラボレーターであるAG・ロハスが監督したビデオと共に公開された。

Kamasi Washington - Prologue
https://www.youtube.com/watch?v=c8cKN1rbJl4

新作『Fearless Movement』は、〈Brainfeeder〉からリリースされた2015年の『The Epic』、〈Young〉に移籍しリリースした『Heaven & Earth』に続く作品で、カマシ本人は本作をダンス・アルバムと説明する。「それは文字通りの意味ではないんだ。ダンスは動きであり、表現であり、ある意味、音楽と同じである。つまり、身体を通して自分の精神を表現するということ。このアルバムはその点を追求しているんだ」とカマシは振り返る。以前のアルバムが宇宙的なアイデアや実存的な概念を扱っていたのに対し、『Fearless Movement』は日常的なもの、つまり地球上の生活を探求することに焦点を当てている。この視点の変化は、数年前にカマシに第一子が誕生したことによるところが大きい という。

父親になるということは、自分の人生の地平線が突然拓けるということなんだ。自分の死すべき運命がより明白になっただけでなく、自分の不滅性も明らかになった。つまり、娘は生き続け、私が決して見ることのできないものを見ることになるのだ。私は、その事実を受け入れる必要があったし、それが自分の作る音楽に影響を与えた
──カマシ・ワシントン

このアルバムには、カマシの娘(「Asha The First」のメロディーは、彼女が最初にピアノで実験していた時期に書かれた)が参加しているだけでなく、新旧のコラボレーターが多数参加している。アンドレ3000(OutKast)がフルートで参加し、ジョージ・クリントン、BJ・ザ・シカゴ・キッド、イングルウッドのラッパーD・スモークがヴォーカルを提供し、さらに西海岸の伝説ラス・キャスの双子の息子たちである、コースト・コントラのタジとラス・オースティンも参加している。また、生涯の友人でありコラボレーターでもあるサンダーキャット、テラス・マーティン、パトリス・クイン、ブランドン・コールマン、DJ・バトルキャットという最強布陣で挑んだ。また本作には米人気TV番組『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』で初披露した「The Garden Path」も収録されている。

カマシ・ワシントンの最新作『Fearless Movement』は5月3日世界同時にリリースされる。国内盤2CDは高音質UHQCD仕様で解説書を封入。輸入盤は2CDと通常2枚組ブラック・ヴァイナルに加え、数量限定2枚組レッド・ヴァイナル+ブルー・ヴァイナルと、日本語帯付き数量限定2枚組レッド・ヴァイナル+ブルー・ヴァイナルが発売される。

Kamasi Washington / カマシ・ワシントン
ロサンゼルスで生まれ育ったマルチ演奏者、バンド・リーダー、作曲家。彼の現在までの3作品-『The Epic』、EP『Harmony of Difference』、『Heaven and Earth』は今世紀で最も高く評価された作品の中に入るだろう。『Heaven and Earth』の対の一方である短編映画「As Told To G/D Thyself」は2019年サンダンス映画祭で初公開され大絶賛された。2020年、ワシントンはミシェル・オバマのドキュメンタリー映画『Becoming』の音楽を担当し、エミー賞とグラミー賞にノミネートされた。また2020年、長年の友人でありコラボレーターでもあるロバート・グラスパー、テラス・マーティン、ナインス・ワンダーとスーパーグループ、ディナー・パーティーを結成し、彼らのEP『Dinner Party (Dessert)』はグラミー賞の最優秀プログレッシブR&Bアルバム賞にノミネートされた。2021年には、メタリカのカヴァー・プロジェクト「Metallica Blacklist」で「My Friend of Misery」をカヴァーした。ワシントンは世界中をツアーし、今までケンドリック・ラマー、フローレンス・アンド・ザ・マシーン、ハービー・ハンコックその他多数のアーティストたちと共演・コラボレーションしている。

label: Young / Beat Records
artist: Kamasi Wasington
title: Fearless Movement
release: 2024.05.03 (FRI)
2CD国内盤(高音質UHQCD仕様/解説書付き):¥3,200+tax
2CD輸入盤:¥2,400+tax

LP限定盤(数量限定/2枚組レッド・アンド・ブルー・ヴァイナル):¥5,300+tax
LP国内仕様盤(数量限定/2枚組/レッド・ヴァイナル+ブルー・ヴァイナル/日本語帯付き):¥5,600+tax

LP輸入盤(2枚組ブラックヴァイナル):¥5,000+tax

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13956

TRACKLISTING
01. Lesanu
02. Asha The First (Feat. Thundercat, Taj Austin, Ras Austin)
03. Computer Love (Feat. Patrice Quinn, DJ Battlecat, Brandon Coleman)
04. The Visionary (Feat. Terrace Martin)
05. Get Lit (Feat. George Clinton, D Smoke)
06. Dream State (Feat. Andre 3000)
07. Together (Feat. BJ The Chicago Kid)
08. The Garden Path
09. Interstellar Peace (The Last Stance)
10. Road to Self (KO)
11. Lines in the Sand
12. Prologue

都内屈指の繁盛店の店主がその半生と裏話を惜しみなく公開!

セブン・イレブンやハウス食品など数々の企業コラボ、「情熱大陸」をはじめメディアでもつねに注目を浴びる都内屈指の繁盛店の女性店主がその裏側を惜しみなく公開!

これは飽くなきパッションと、探究心と好奇心と食欲とを持ちあわせ、どこまでも人懐っこくてやさしい1人の女性がカレーと共に駆け抜けた青春物語であり、令和の細腕繁盛記!
読んだ後は魯珈のスパイシーなカレーを食べた後のようにスッキリ。
そして活力がどんどん溢れてくる。
さあ、読むべし!
──黒沢 薫(ゴスペラーズ)

2016年大久保にオープンし、瞬く間に都内有数の行列店に上り詰めたスパイシーカレー専門店〈魯珈〉。
スパイスカレーと台湾料理の「魯肉飯」のあいがけを看板メニューに掲げ、毎回工夫を凝らした週替りメニューで人気を集める。
2023年6月に店舗移転した後もますますエネルギッシュにワンオペで店を切り盛りする女性店主がその半生を振り返り、繁盛店の裏話やノウハウを惜しみなく語り尽くします!

目次

はじめに~開店日の話~
第1章 カレーとの出会い
第2章 修行時代のこと~エリックカレーとエリックサウス~
第3章 独立へ!~「魯珈」誕生前夜~
第4章 人気店への道、あるいは行列との闘いの日々
コラム 齋藤絵理の日常
第5章 「限定カレー」という戦略
コラム 私のセルフ・メンテナンス方法
第6章 コラボは踊る1~レトルトカレー、パン、ラーメン~
コラム お店を始めて「やめた」こと
第7章 コラボは踊る2~イトーヨーカドー、そしてセブン・イレブンへ~
コラム インドで学んだこと
第8章 お店を始めたい人に伝えたいこと

[著者]
齋藤絵理(さいとう・えり)
東京・八重洲の名店「エリックサウス」にて7年間の修行ののちに、2016年に大久保に魯珈をオープン。2017年『Japanese Curry Awards』で新人賞を受賞し、開店からわずか2年で名店の仲間入りをする。「ミシュランガイド東京」にて、2020〜2023年で4年連続でビブグルマンを獲得。2019年には人気ドキュメンタリー番組「情熱大陸」で取り上げられ、注目を集める。カレー店を経営する傍ら、コンビニ商品や大手スーパー取り扱いのレトルト商品の監修も手掛ける、カレー業界が生んだスパイスの女神。

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* 発売日以降にリンク先を追加予定。

RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec - ele-king

 ルーマニアから凄腕のエレクトロニック・ミュージック三人衆、RPR SOUNDSYSTEMが来日する。5年前の公演でも、ミニマル通たちを唸らせた東欧テクノのいまも体験しよう。嬉しいことに、DJ KENSEIがリキッド上でオープンから最後までDJでサポート。刺激を求めて夜に待機だ。

RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ @LIQUIDROOM

■日時
2024年4月5日 (金) 23:30 OPEN/START

■会場
LIQUIDROOM 03-5464-0800
http://www.liquidroom.net

■出演者
ー 1F LIQUIDROOM ー
RPR SOUNDSYSTEM (Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh / [a:rpia:r])
Dreamrec VJ

ー 2F LIQUID LOFT ー
DJ KENSEI -Open to Last-

この日本に、あの奇跡の夜を再び! 世界のミニマルアンダーグラウンドシーンの最高峰
RPR SOUNDSYSTEM (Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh / [a:rpia:r]) がLIQUIDROOMに帰還する。

オフィシャルVJであるDreamrecの同行も決定!
「音+映像」 究極の完全体による世界最高水準のパフォーマンスが実現。
最高という言葉では言い尽くせなかったあの夢のような夜。コロナ禍を経て新しくこの音楽、シーンの虜になったニュージェネレーションを始めとする全国の熱いファンのみんなと再び体験できる日を、私たちも心から待ちわびていた。新しく歴史が動く瞬間を共に目撃しよう!
2F LIQUID LOFTは、以前から温められていた構想がついにお目見えする。満を持してDJ KENSEIがOpen to Lastで登場。必見!

■BIOGRAPHY

ー RPR SOUNDSYSTEM (Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh) ー 世界のアンダーグラウンドミュージックを席巻するルーマニアン・シーンのトップ、Rhadoo, Petre Inspirescu, Raresh。 現行のワールド・シーンにおけるキングの一人として全世界に君臨し、ルーマニアシーンの事実上 のボスであるRhadoo、卓越したプレイはもとよりその生み出される作品群が世界最高レベルのクオリティーの評価を獲得している唯一無二のアーティストPetre Inspirescu、3人の中でも特にメ ジャ・ーシーンにおいても抜群の名声を確立しているRareshの3人による、最重要レーベル・そして アーティスト集団がこの [a:rpia:r] (アーピアー)である。 そして、その3人による別名義のスペシャル・ユニット『RPR SOUNDSYSTEM』の名で出演するイベ ントは、バルセロナ『OFF SONAR Festival』やロンドンの名門クラブ『Fabric』などと言った、世界で も彼らにより選ばれたトップ・イベント・フェスのみとされ、年にごく数回しか実現する事はない。東 京LIQUIDROOMのパーティは、その選ばれた数少ないなかのひとつである。

■MOVIE


Rhadoo, Petre Inspirescu with Dreamrec VJ @Chinois, Ibiza 2023.09.23 https://youtu.be/LVEi99Nij7U


clubberia TV - Event Report (アフタームービー)
RPR SOUNDSYSTEM with Dreamrec VJ @LIQUIDROOM 2017.04.01 https://www.clubberia.com/ja/videos/748094-Party-Report-RPR-SOUNDSYSTEM-with-Dreamr ec-VJ-2017-04-01-at-Liquidroom/


■料金

・前売 - Standard Advance / STAGE 2 ¥6,000
・グループ割 - Group Ticket(4p) ¥22,000 (Limited)
ZAIKO https://clubberia.zaiko.io/item/361619
e-plus https://eplus.jp/sf/detail/4019970001

・ U-23 ¥4,000 (50 Limited)
ZAIKO https://clubberia.zaiko.io/item/361619

・当日 - Door ¥7,000


Total Information:
https://linktr.ee/rpr2024tokyo
Produced by Beat In Me

 スクエアプッシャー4年ぶりのオリジナル・アルバム『Dostrotime』はだいぶ破壊的だ。高速かつアシッディなブレイクビーツが爆発する先行シングル曲 “Wendorlan” が好例だけれど、アナログ機材を使用し原点回帰的な側面をもった前作『Be Up A Hello』(2020)における、素朴に音と戯れるような楽しみからは一気に反転、「電子音の暴力」なんてことばさえ思い浮かぶ。この激しさは前々作『Damogen Furies』(2015)と近い。ブレイクコア・リヴァイヴァルが起こっている昨今、こうしたアグレッシヴなスタイルはタイムリーではあるものの、彼はなぜあらためてこのような方向性を選びとったのだろうか。

 近年、アーティストの口からスクエアプッシャーの名が発せられるのをときおり見かけるようになった。筆頭は、エレクトロニックなダンス・ミュージックの分野で今日もっとも注目すべき存在といえるほどの活躍をみせているロレイン・ジェイムズだが、エレクトロニックの領域のみにとどまらず、モーゼス・ボイドJD・ベックといったジャズ・ドラマーまでもが彼の名を口にするようになっている。
 スクエアプッシャーはエイフェックス・ツインマイク・パラディナス同様、90年代のアンダーグラウンドなUKレイヴ・カルチャーから生まれたジャングル~ドラムンベースのスタイルに触発されたひとりなわけだけれど、その最大の個性は本人が凄腕のベーシストでもある点だろう。生楽器を軸にしたジャズ作品『Music Is Rotted One Note』(1998)はじめ、彼はその特技を活かしこれまでじつに多彩な音楽をつくりつづけてきた。そうした演奏家ならではの独特のセンスがもしかすると今日のジャズ・ミュージシャンたちに刺戟を与えているのかもしれない。
 吹き荒れる『Dostrotime』の電子の嵐のなかには、プレイヤーとしてのジェンキンソンの存在を随所で感じとることができる。たとえば疾走するビートのうえで彼らしい泣き節が炸裂する “Enbounce” では、ギターによるものとおぼしきフレーズがねじこまれてもいる。似た発想は “Holorform” でも試みられているし、アシッドぶりぶりの “Stromcor” でうなりまくる低音はジェンキンソンのプレイヤーとしての力量をあらためて見せつけるものだ。ドリルンベース・タイプの曲も気を吐いていて、“Duneray” や “Domelash” からは彼のルーツともいうべきジャングルへの愛を再確認することができる。振りかえれば一昨年の来日公演時、彼はデジタルなサウンドでさえもベースを用いて鳴り響かせていたのだった。あの日の曲目は未発表のものが多かったけど、ひょっとするとそのとき披露されていたのが本作のプロトタイプだったのかもしれない。
 全体的にアグレッシヴであるからこそ、逆に、もっとも耳に残るのは冒頭・中盤・最後に配置されたギターの独奏だったりもする。こちらは技巧の披露というよりも聴き手の感情に揺さぶりをかける、穏やかでセンティメンタルなタイプの演奏だ。この手の曲が収録されるのはたぶん、ベース1本でステージに立つ様をとらえたライヴ盤『Solo Electric Bass 1』(2009)以来、オリジナル・アルバムとしては『Just A Souvenir』(2008)以来ではなかろうか。戦闘的な曲と心休まる曲とのこうした同居は、まもなく20周年を迎える00年代スクエアプッシャーの代表作『Ultravisitor』(2004)を想起させもする。

 しかしまあなんでこれほど荒々しいのだろう? おなじく凶暴だった『Damogen Furies』には、当時の世界情勢にたいする怒りがこめられていた。では新作『Dostrotime』はなににたいして腹を立てているのか。
 ここ10年ほどに限ってみても、スクエアプッシャーはアイディアやコンセプトの面においてさまざまな試行錯誤を繰り返してきた。架空のバンド(2010/2017)、ロボットによる演奏(2014)、ソフトウェアの開発(2015)、ブレグジットにたいして世界各地のアーティストたちとの連帯を試みる「国境なきMIDI」(2016)、睡眠導入ヴィデオのサウンドトラック(2018)、クラシック音楽家への楽曲提供(2019)、レイヴ・カルチャーがふたたび注目を集めるようになった時代に実体験者として当時の気持ちを振りかえること(2020)、あるいはファースト・アルバムのリイシュー(2021)。
 新作のもうひとつのポイントは、リリース形態がCD、LP、ダウンロード販売のみである点だ。今回ジェンキンソンはみずからアートワークやTシャツのデザインまで手がけている。だからストリーミング・サーヴィスの排除をメッセージとして受け止め、深読みすることも可能だ。たとえばワン・タップ/ワン・クリックで音楽を流しっぱなしにすること。アルゴリズム(それは大企業の利益最大化に貢献する)による誘導に身をゆだねること。どの曲をいつどのタイミングで再生しどこで止めたか、監視されること。『Dostrotime』がもつ破壊的パワーはそうした聴き方にたいする考察をリスナーに促しているともいえるのかもしれない。
 かつて「テクノロジーに使われてしまう」ことを懸念していたジェンキンソンだ。このアルバムで彼は、音楽を聴くことが能動的な行為でもあることを思い出させようとしているのではないか。スクエアプッシャーのサウンドや演奏力が幾人かの後進たちのインスピレイション源となったように、『Dostrotime』の問題提起もまた、よりよい未来をのぞむ新たな世代への遺産となっていくにちがいない。

スクエアプッシャー自身による『Dostrotime』各曲解説 >>

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スクエアプッシャー自身による『Dostrotime』各曲解説

 トム・ジェンキンソンみずからによる『Dostrotime』の解説が到着しました。アルバム収録の12曲すべてについて本人が説明してくれています。以下、特別に日本語訳を掲載。読みながら聴いて理解を深めましょう。[編集部・3月8日追記]

1) Arkteon 1
この曲はロングスケールのエレクトリック・ギターを使って演奏した。僕は、より明瞭で伸びのある音が出る、レギュラー・タイプのエレクトリック・ギターの方が好きなんだ。サウンドは、ピエゾ・ピックアップ(※1)とマグネティック・ピックアップをミックスしたもので、Eventide H8000(※2)を使ってカスタム・プロセス録音したんだけど、今回はイコライザーとリヴァーブを少し加えた。

(※1)「ピエゾ・ピックアップとは、圧電素子を使ったピックアップのこと。エレクトリックアコースティックギターに多く使われている」(出典:https://www.digimart.net/spcl/agwords/piezo_pickup.html
(※2)Eventide H8000:「長年の実績からなるベストアルゴリズムを、高いオーディオパフォーマンスで提供するEventideのフラッグシップモデル」(出典:https://shop.miyaji.co.jp/SHOP/ka-r-072716-wa03.html

2) Enbounce
このトラックは、ヤマハCS-80やローランドV-シンセXT、ローランドTB-303のベースライン、そしてローランドTR-909とTR-707のパーカッションなど、さまざまなハードウェアのライヴ・ミックスダウンからはじまった。ギターはディストーションを与えるため、“Arkteon 1” と同じセットアップを使ってオーヴァーダブされ、一方で弦の曲がったところにリング・モジュレーション(※3)を加えるカスタム・モノシンセを作動させた。このマテリアル(素材)は、元々BBC『Daydreams』(※4)のサウンドトラックのために作られたものから引用された。

(※3)「主にシンセサイザーやエフェクターにおいて、金属的な非整数次倍音を含むサウンドを生み出すセクション(または機器)のこと」「2種類(以上)の入力に対しそれぞれの周波数の和と差を生み出すことで、ベルなどの金属的な非整数次倍音を含むサウンドを生み出すことができる」(出典:https://info.shimamura.co.jp/digital/support/2019/04/130104
(※4)BBC、子ども向け番組『CBeebies』のコーナー。

3) Wendorlan
“Wendorlan” は、2014年に『Damogen Furies』を制作するために使用したシステム4(と僕が呼んでいる)(※5)を進化させた、デジタル・システムで制作された。「Wendorlan 10月16日、日曜日」のヴォーカルは、1993年に放送されたロンドン・アストリアでのレイヴのための海賊ラジオ広告からとったもの。映像の終わりには、「“タリスマン・レッドはそれが未来への突破口だと思ったと言った” と沈むイカダの上でデヴィッド・ボウイが歌った」というテキストが流れる。これは、このビデオが完成する少し前に見た夢の中の出来事を描写している。

(※5)システム4:編集を一切おこなわずにリアルタイムでオーディオを生成すること、オーディオのマルチトラッキングも、ステムも、編集も、素材の手直しもない独自のソフトウェア・パッチのこと。

4) Duneray
この曲は『Be Up a Hello』の制作中に作ったカスタム・ゲート・リヴァーブを使っている。これは言うまでもなく、“Vortrack (Fracture Remix)” で聴くことができるんだけど、この曲はそのすぐ後にローランドTB-303(ここでは音色の多様性とポリフォニー(※6)のためにRoland SH-101と組み合わせている)を使って録音した。パーカッションが止まると、コンプレッション・スウェル(※7)がシンセ音の減少とともにバックグラウンド・ノイズを浮かび上がらせ、音源のハードウェアな側面が最後にはっきりと聴こえる。

(※6)「ポリフォニーは、複数の独立した声部(パート)からなる[……]多声音楽を意味する」(出典:https://ja.wikipedia.org/wiki/ポリフォニー
(※7)「真空管(特に整流管と出力段にあるもの)が高い出力レベルで動作中に大きな負荷がかかった際に、回復しフルパワーに戻るのにかかる時間を指」す(出典:https://line6.jp/model-citizens/dave-hunter-whats-behind-the-sag-bias-and-bias-x-controls-in-helix-amps/)。

5) Kronmec
このトラックではメロトロンのサンプルが使われ、交互コードは微分(微調)音程(※8)でピッチアップ(調整)されている。モノシンセのベース・サウンドは、TB-303のコピーをプログラムするために僕がパートタイムで続けている取り組みの最近のイテレーション(反復)(※9)で、明らかに柔軟性を高めている。これを試したことのある人なら誰でも、矩形波に近似させるのが難しいことに同意すると思うが、パルス(波の)幅でピッチに相関したヴァリエーションを使うのは有効だ。これは、オリジナルの機械では不可能だが、ここではパルス幅が0%に向かってプッシュされているのを聴くことができる。

(※8)microtonal interval:微分音(びぶんおん)とは、音楽において半音より小さな音程を用いることで、「微小音程」とも呼ばれる。また、西洋の慣習的な調律である、1オクターブあたり12等分された音程以外の音程を使う音楽も含まれる。言い換えれば、マイクロトーンは、平均律で調律されたピアノの「鍵盤の間」にある音と考えることができる。
(※9)イテレーション:「プログラミングで終了条件に達するまで一定の処理を繰り返すこと」(出典:http://pubspace-x.net/pubspace/archives/9447)。「一連の工程を短い期間で何度も繰り返す、開発サイクルの単位」(出典:https://lychee-redmine.jp/blogs/project/tips-iteration/#:~:text=イテレーションは、「一連の工程,がしやすくなります。)。

6) Arkteon 2
この曲は “Arkteon 1” と同じセットアップを使用しているが、ギターは違う方法でチューニングされている。規則的なE-A-D-G-B-E(標準的なチューニング)を基本としており、トップのEは規則的なピッチ(音の高低)でチューニングされているが、そこから下に続く弦は微分音程(前述)を増やしてチューニングされている。特定の陽性波のところで強制的に静止させるため、トレモロ・ブリッジにGクランプを付けることにより実現した。演奏には不便だが、効果はあった。

7) Holorform
このセット(アルバム)で最も古いトラックで、オリジナル・ヴァージョンは2018年に録音され、その後昨年リミックスされた。例えば『Just a Souvenir』収録の “The Coathanger” と同じアプローチでまとめられている。基本的な手法は、インストゥルメンタルの演奏(この場合はギター・ソロ)を取り込み、段階的に処理を加え、調子を合わせて進行させることで、ライヴではありえないほど複雑かつ正確にエフェクトをコントロールするというものだ。このアプローチを推し進める確固たる意志は、僕がどのようにある種の未来的なSF音楽性(どのように音楽を作るか)を思い描いているかである。

8) Akkranen
この曲の出発点は、〈No U-Turn〉レーベルの『Torque』に収録されている “Droid” でデチューン(離調)(※10)された形で使われている有名なレイヴスタブ(※11)だが、エド・ラッシュやその類のミュージシャンが作るミニマル・アプローチを踏襲することはできなかった。他のハードウェア・ベースの作品と同様、2トラックに直接録音したので、リアルタイムの調整を一発でうまくまとめる必要があった。“Duneray” と同じゲート・リヴァーブ(前述)とTB-303の組み合わせを使っていて、特に、適切な瞬間にリヴァーブが際立つようにフィルターを正しく微調整することが不可欠だった。

(※10)デチューン:「電子音楽で、音高を微妙にずらした音を重ねて響きにふくらみを持たせること」(出典:https://eow.alc.co.jp/search?q=デチューン
(※11)「単一のスタッカート音符やコードで形成された、音楽に強いエッセンスを加えるサウンド。特にレイヴスタブとは、KORG M1のピアノ音源など著名なシンセサイザーの音色をサンプリングした、レイヴ・ミュージックに特有のもの」(出典:https://raytrek.net/dtm/voices/10min_dtm/03/

9) Stromcor
この曲はライヴで演奏するのがとても楽しくて、ベース・シュレッドが恥ずかしげもなく多少施されているが、スタジオ・レコーディングにはライヴ演奏とは異なる部分がある。“Arkteon 1” のギターに使用されたのと同じH8000のセットアップで処理され、独自に修正したMusic Manの 6弦ベースを使って録音されたのだけど、今回はH9ペダルによるリング・モジュレーション(前述)とワウペダルがフィーチャーされている。イントロではTR-909が外付け振幅エンベロープを通して処理されているのが聴こえる。

10) Domelash
“Akkranen” と同様、〈No U-Turn〉のパラノイド・ミニマリズムのヒント(影響)がこの曲をスタートさせるが、最終的にはマキシマリズムに辿り着く。“Wendorlan” と “Stromcor” にも使われている、僕が数年かけて少しずつ作り上げたカスタム・シーケンサーを使用している。とりわけこのシーケンサーは、メイン・テンポからシーケンスを切り離すことができ、その間もその切り離しをコントロールすることができるのだが、それは、冒頭部分のブレイク・プログラミングではっきりと聴くことができる。さらにカスタムのゲート・リヴァーブも全体を通して使われている。

11) Heliobat
“Arkteon 1” のロングスケール・ギターもフィーチャーされているこの曲のために、さまざまなハードウェアが少しずつ慎重にチューニングされ、プログラムされた。メロディの一部にSH-101が聴こえ、ヤマハFS1Rがポリフォニックのかなりの部分を生み出している。イントロ部分では、メジャーサード(長3度)が(イコール・テンペラメント(等分調律 、平均律)ではなく)対応するルート音(根音:コードの土台となる音)の整数比になるようなピッチ・イントネーション(※12)の形式が使われている。

(※12)ピッチ・イントネーション:「基準の音の音程の高低のことを「ピッチ」というのに対して、それぞれの音の音程の高低のことは「イントネーション」とい」う(出典:https://suiso-gaku.com/ピッチとイントネーションの違い/)。音楽におけるイントネーションとは、ミュージシャンや楽器の音程の正確さのことである。

12) Arkteon 3
この曲は、チューニングも含めて “Arkteon 2” と同じセットアップを使っている。当初はギター演奏の伴奏用に他の楽器を使うつもりだったが、最終的にはソロ曲としての方が理にかなっていると思った。“Arkteon 4” という曲もあるのだけれど、どういうわけかこのアルバムには合わなかった。何時間もかけてシグナル(信号)ルーティングやケーブルの配置、演奏ポジションなど、邪魔になるような原因を排除したにもかかわらず、ポーズ(休止)では50hzメイン(主電源)のハム(ズーという音)が聞こえる。他の “Arkteon” 曲とともに、この曲はライヴで忙しかった夏の後、22年秋に録音された。

翻訳:近藤麻美

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