Jaga Jazzist Starfire BEAT RECORDS / NINJA TUNE |
加齢にしたがって人のハッピー度が下がっていくものである。シニカルになりがちなのも、新鮮味という感覚を得る機会がどんどん減っていくからである。あれほど驚きに満ちた世界も、どんどん既視感に埋められていく。ゆえに、環境の変化が必要になってくる。問題は、その変化に身体がついていけるかどうか……だ。
ジャガ・ジャジストって良いよと僕に教えてくれたのはたしかハーバートだった。彼がジャズにアプローチしていた時代、2002〜2003年あたりの話だ。ノルウェーで出会った大所帯のバンドの何が、無闇に他を褒めないイギリスの左翼系電子音楽家のハートを捉えたのだろう。ハーバートはリミックスも手掛けているし、「マシュー・ハーバート・ザ・ビッグ・バンドのノルウェー公演へサポート・アクトとして出演したときの盛り上がりは、伝説的なステージ・パフォーマンスとして高い評価を得た」とビートインクのサイトにも記されている。
僕は、バンドのリーダー、ラーシュ・ホーンヴェットの『Pooka』(2004年)が好きだった。このアルバムは、その年、もっともよく聴いた1枚だ。ジャガ・ジャジストが交響楽団だとしたら、こちらは室内楽団といった趣だが、同じように茶目っ気あるエレクトロニクスが散らばっている。
ジャガ・ジャジストは、基本、ハッピーなバンドだ。エクレクティックなところはこのバンドの特徴だが、音楽のなかに何を混ぜようが彼らは最終的には桃源郷に向かっていく。イギリスのプログレッシヴ・ロックやクラウトロックへと大接近した前作『ワンアームド・バンディット』を経てリリースされる新作『スターファイヤー』も、いろんなものが混ざっているけれど、彼らの旅の出口は、最終的には明るい。トッド・テリエのリミックスもご機嫌である。
誰にでもうまくいく話ではないのだけれど、ジャガ・ジャジストの場合は、変化を与えたことでまたひとつ若返ったようだ。人生もこうありたいものである。
LAでは免許なしではやっていけないから、免許をとったんだ。で、それをきっかけにハウス・ミュージックをたくさん聴くようになったんだよ。運転中にはちょうど良いよね。いまでは運転が大好きだ(笑)。
■LAでの生活はいかがですか? またなぜオスロからLAに越されたのですか?
ラーシュ:とても気持ちいいよ。明日からまたノルウェーに帰る。で、また寒くなったらLAに戻ってくる。ノルウェーの冬は、ずっと暗くて気がめいるからね。
LAに越したのは、アルバム制作を新たな気持ちでスタートさせるためだったんだ。これまでも曲作りのためにいろいろと場所は変えてきたけど、普通滞在するのは1、2ヶ月。でも今回は休暇で訪れたLAがすごく気に入った。人がたくさんいる場所でもあるけど、一人にもなれるし、集中できる。毎日太陽を浴びれるっていうのもすごくポジティヴになれるしね。ノルウェーの冬から逃げるっていうのが一番の理由だけど、マネージメントやブッキングエージェント、レーベルのみんながこっちをベースにしてるっていうのも理由のひとつだよ。
■このアルバムにおける重要なポイントのひとつに、LAというはありますよね? LAを選んだ理由について訊きます。オスロの外で録音することが重要だったのか、それともLAという場所が重要だったのでしょうか?
ラーシュ:そうだな……自分でもわからない。環境や自然が音に大きく影響してるとは正直思わないね。でも、LAって、作業ひとつひとつにすごく時間がかかるんだ。すごく広いから移動に時間がかかるし、渋滞もすごい。だから、ゆっくりなペースのプロセスっていう意味ではLAが影響していると思うし、もしかしたらそれが音にも出ているからもしれないね。あと、こっちに越してきたばかりの時は、車の免許をもっていなかったんだけど、LAでは免許なしではやっていけないから、免許をとったんだ。で、それをきっかけにハウス・ミュージックをたくさん聴くようになったんだよ。運転中にはちょうどよいね(笑)。それで曲の尺が長い曲を聴くようになった。だから今回は、自分が運転中に楽しめるような曲を作りたいっていう気持ちもあったんだ。音の中を旅しているような気分になれる、長めの曲を意識したね。
通訳:運転するようになったことが影響しているっていうのは面白いですね。
ラーシュ:いまでは運転が大好きだ(笑)。オスローから地元までの1時間半のドライヴだったらすごく長く運転しているように感じるけど、LAでのドライヴは全くそれを感じない。こっちでは、1時間の運転なんて当たり前だからね。わざわざ友だちとコーヒーを飲みにいくのに1時間かけて行くこともあるくらいさ。それを普通にやってるっていうのは変な感じもするけど(笑)。
■どんな偉大なバンドにも難しい時期というのがあると思うので訊きますが、大所帯のバンドを長続きさせるコツを教えて下さい。
ラーシュ:この人数でこれだけ長い間活動を続けるというのは、決して容易ではない。でも僕たちはスタートした時点からいろいろなアイディアに対してオープンだったから、それも長く続いている理由のひとつだと思うし、それがあるからこそワンパターンに収まらず新鮮さを保てているんだと思う。メンバー全員がアルバムを作る度に何か新しい要素をいれようと心がけているし、ライヴでも即興や自分たちが面白いと思うものを取り入れて、自分たち自身も飽きないように心がけているしね。だからこそ、1回2時間という長い公演を何度もこなして経験を積んでこれた。
あと、メンバーそれぞれがJagaだけではなく他のプロジェクトに参加していることも鍵のひとつだと思う。ずっとJagaだけではうんざりしてしまうかもしれないけど、他のプロジェクトにも参加することで気分転換ができるんだ。他のこともやりつつ、活動が楽しいと思う気持ちを持ち続けるっていうのがいいんじゃないかな。
通訳:20年以上も活動しているわけですが、その中で危機というか、いちばん大変な時期はありましたか?
ラーシュ:2006年くらいだったかな。続けようか、それとも止めようかっていう時期はあった。重要なメンバーたちがバンドから出て行ってしまった時で、当時はどうしていいかわからなくなってしまった。『What We Must』(2005年)のあとだね。でも、『One Armed Bandit』(2009年)を作りはじめて、また新たなスタートをきることができた。その2作品のあいだ、たぶん4年くらい何もしてなかったんだじゃないかな。重要なメンバーが去ってしまうことは危機ではあるけど、同時に、これだけ長く活動してるんだからメンバーが変わっても大丈夫だとも思えた。新しいメンバーが抜けたメンバーと全く同じことができるわけではないけど、逆にそれで新しいことができるならそれはそれでいいと思ったんだ。
■やり続けることの難しさということもありますよね?
ラーシュ:たしかに難しいとは思う。とはいえ、同じメンバーで違うことをやり続けるっていうのは、やはりその分やりがいがある。僕はとくにメロディーに対して決まったテイストを持っているんだけど、過去のJagaの作品を聴いてもらうとそれがわかると思うし、同時にそのテイストを保ちながらも様々なプロダクションが試されていることもわかると思う。……元々の質問はなんだったっけ(笑)?
通訳:(笑)やり続けることの難しさについてです。
ラーシュ:そうだそうだ。20年かけて、このバンドでは本当にたくさんのことを試してきた。だからいまでは、完全に新しいことを見つけるのがすごく難しくなってきている。アルバムを作る度に、前とは違うもの、前とは違うバンドからインスピレーションを受けようと努力している。僕ら自身もそうだし、Jagaのオーディエンスも定番の音楽を聴き続けたいタイプのオーディエンスだとは思わない。みんな、常にオリジナルで新しいものを求めていると思うんだ。活動を続けていく上で大切なのはそれだね。自分たちをリピートしないことが長続きに繋がるとも思うし、それをやるからこそアルバム作りにどんどん時間がかかるようになるんだよ。
■そうやってアルバムごとのに新しいことに挑戦したり、いろいろと乗り越えてきたわけですが、今回のアルバムは、完成まではスムーズに進行した作品なのでしょうか?
ラーシュ:少なくとも僕個人にとっては、今回はいつもよりスムーズだった。このアルバムでは1回もリハーサルしなかった。僕が曲のアウトラインを書いて、それをメンバーそれぞれに渡して演奏してもらった。8人、9人同時に演奏してレコーディングするより、少人数でレコーディングするほうがそれぞれからいろいろ引き出せると思って。だから時間も長くかかったんだ。それぞれのアプローチをまとめるのにも時間がかかったしね。
通訳:それはこれまでにない初めて挑戦したプロセスだったんですよね?
ラーシュ:そう。完全に新しかった。いままではレコーディングの前に4、5ヶ月リハーサルしてきたから。レコーディング前に全てが書き終わっていたし、演奏が難しい部分はとことんリハーサルした。レコーディングの時も、大人数で一斉にレコーディングすると、かならず誰かが浮いてしまったり埋もれてしまったりする。だから今回は、バラバラにレコーディングすることでそれぞれの特徴を活かしたかった。その中でも、とくにギターのマーカスとキーボードのオイスタインは他のメンバーよりも長くスタジオに入って、いろいろと試してみたよ。
[[SplitPage]]ジェントル・ジャイアントっていうプログ・ロックのバンド知ってる? 彼らのジャケに妖精をデザインしたものがある。そこからインスピレーションを受けたのが前作。対して、今回のアルバムはもう少しダークなサウンドにしたくて、あまりユーモアの要素は入れたくなかった。
Jaga Jazzist Starfire BEAT RECORDS / NINJA TUNE |
■今回のアルバムの推進力は何でしょうか?
ラーシュ:そうだな……何だろう……自分自身にとってオリジナルなものを作るっていう気持ち。このアルバムのサウンドをどういったサウンドにしようかと考えるのに結構時間がかかったんだけど、さっき言った長旅のフィーリングというか、そういうアイディアを思いついてからはそれに従って制作を進めていった。だから、いままで以上に尺が長くなってる。
このバンドにせよ、他のプロジェクトにせよ、いつも僕は新しい何かを求めていて、いちど何か面白いものを思いつくと、できるだけそれに従って制作を進める。いろんなやり方で、自分の好きな音楽、そしてその演奏の仕方を広げて行く。それを見つけ出すのは容易ではないし、長いプロセスだね。
■たぶん、スタジオ録音盤としては、いままでもっとも曲数が少ないアルバムになったと思います。曲をたくさんつくることよりも、1曲のなかの展開やアレンジの濃密さを重視しているというか。
ラーシュ:このアルバムは、いままでのアルバムと形式が違う。収録されている曲のほとんどが、まるで1曲の中に曲が2〜3曲入っているような作りになっている。トラックを作るために15〜20くらいセッションをやって、プレイリストを作ってその中から重要なアイディアをピックアップしていくうちに、それを繋ぎ合わせて曲にしたら面白いんじゃないかと思ってね。アルバムに収録されているのは5曲だけど、実際はそれ以上に曲が入っているようなものなんだ(笑)。
■過去にはユーモアの込められた、IDM的なアプローチに特徴があったと思いますが、今回はもっと優雅な感覚を感じます。このアルバムが大切にしているものは、何でしょうか?
ラーシュ:さっきと同じ答えになってしまうけど、大切なことは、前回のアルバムと逆のものを作ることだった。たしかに2009年の『One Armed Bandit』では、60年代後半〜70年代前半のプログ・ロック・シーンっぽい要素に加えてユーモアがあったね。ただオシャレなだけな音楽は作りたくないから、面白くしたり、キャッチーにするためにユーモアっぽい要素を入れた。例えばあのアルバムに収録されている「Prognissekongen」っていうのも作った言葉で、“プログレッシヴのノーム(妖精)の王"って意味がある(笑)。
ジェントル・ジャイアントっていうプログ・ロックのバンド知ってる? 彼らのアルバムのジャケにノームをデザインしたものがあって、そこからインスピレーションを受けてそのタイトルにした。そういう意味でのユーモアはあった。対して、今回のアルバムはもう少しダークなサウンドにしたくて、あまりユーモアの要素は入れたくなかった。さっきも言ったようにこれまでとは違ったものからインスパイアされたものを作りたかったし、正直これまでの作品にも果たして実際どの程度ユーモアが入っていたか自分でもわからない。曲のタイトルはジョークだったりするけど、音自体はそこまで面白おかしくはないから。
■今回に限らずですが、あなたのソロをふくめ、ジャガ・ジャジストにはロック的な雑食性も感じます。今回はギターの演奏が前面に出ているので、とくにそう思うのかもしれませんが、ソフト・マシーンのような60年代末〜70年代初頭のプログレッシヴ・ロックのことは意識しましたか?
ラーシュ:それを意識したのは『One Armed Bandit』だよ。ソフト・マシーンやジェントル・ジャイアントからはインスピレーションを受けている。あとはクラウトロックからもね。カン、ノイ!、ファウスト、クラスター、そういったバンドから影響を受けているんだ。
こういうことは、自分たちよりも周りの方がそれに気づくことが多いんだよね。フランク・ザッパと似てるって言われるけど、実は僕たちはあまりフランク・ザッパのファンじゃない。だからとって、みんながなぜそう言うかはわかるんだ。彼らのジャンルとある意味同じものを作ろうとしているからね。キャッチーでありながらも新しく、驚きのある音楽を意識している。だから、そういった昔のプログ・ロック・バンドの要素が感じられるのは自然なことだと思うよ。僕にとってはそれはいいことで、その要素が入っていることで『One Armed Bandit』ではオーディエンスの幅が広がった。これまではもっとエレクトロニック・ミュージック・シーン寄りだったけど、リアルタイムでそういったプログ・ロックを、とくにイギリスの作品を聴いてきた自分たちよりも年上の人たちが僕らの音楽を聴いてくれるようになった。あれはよかったね。
■ここ数年、日本では排外主義が目に見えるようになりました。ノルウェーでは、数年前に移民に対する連続テロ事件がありましたよね。あながたの音楽は、むしろいろいろな文化を受け入れことで成り立っています。それはノルウェーにおけるある種の理想郷のようなものを描こうとしているとも言えるのでしょうか?
ラーシュ:あれは移民に対するテロというか、テロを起こした犯人がかなりの人種差別者だったと言ったほうがいいかもしれない。あれは政府に対する攻撃で、ノルウェーの労働党に対するものだったから。30年も力を持ち続けて来た政党だから、犯人は彼らがやってきたこと全てに対して鬱憤がたまっていたんだ。彼はかなりイカレていたから、あれは例外で、ノルウェーとはあまり関係がないと思う。みんなにかなりショックを与えたし、政治に対して考え直すきっかけを与えたというのはあるかもしれないけど。理想郷を描こうとしているっていうのはちょっと考え過ぎかもね(笑)。
僕はいま35歳なんだけど、20〜26歳くらいの時は、もっと音楽に対して堅かったし、好みが偏っていたと思う。26歳くらいから、もっと音楽に対してオープンになっていったんだ。自分があまり好きだと思っていなかったものにも耳を傾けるようになったし、それを自分のやり方で作ってみたりするようになった。それは自分でも良いことだと思うし、たしかに前よりも柔軟で、いろいろな要素を取り入れるようになってるとは思う。だから理想郷っていう言葉は褒め言葉ではあるね。ありがとう(笑)。
透明感のあるサウンドといえば、とくにノルウェーのジャズ。ドイツのECMが有名だけど、僕はそれを聴いて育ってきた。いまだに好きな音楽のひとつさ。でも、そういった音楽はロマンティックすぎるとも思う。
■LAという土地にも関わる話ですが、フライング・ロータスに触発されたところはありますか? あるいは、彼らの周辺の音楽とか。
ラーシュ:ビート・ミュージックとサイケデリック・ジャズがミックスされた音楽にとってはすごく良い時代が来ていると思う。フライング・ロータスはそのマスターだと思うし、彼の作品は素晴らしいと思う。曲の作り方は彼と僕では全然違うけどね。彼はもっとサンプルを使うし、即興をよくやる。でも僕はもっと曲っぽいから。でもフライング・ロータスがやっていることは好きだよ。お互いの音楽にはジャズ要素が常に存在しているし。フライング・ロータスと僕が影響を受けてきた音楽も共通していると思う。
■『Starfire』とはどんな意味が込められたタイトルなのですか?
ラーシュ:音楽を作りはじめる時は、その作品がどんな内容になるのか全く見当がつかない。だから、よく適当に意味のない仮のタイトル=呼び名をつける。あと、特定の意味を持たないオープンなタイトルが好きでもある。例えば”Starfire"っていう言葉は、宇宙のイメージがある。そこからみんな、銀河とか惑星とか、いろいろなことが想像できる。長い旅っていうイメージもあるし、良いタイトルだと思ったんだよね。しかし、元々は、「Starfire」の曲を"starfire"っていうギターで書いたからそのタイトルになった。理由はそれだけさ(笑)。でも、みんながそれぞれに理解してくれたらそれでいいんだ。
■SMALLTOWN のコミュニティはいまも継続されているのようですね。今回もデザインはキム・ヨーソイ(Kim Hiorthøy)? 今回はトッド・テリエ(Tod Terije)によるリミックスがあります。
ラーシュ:僕自身はもうSMALLTOWNには関わっていないんだ。今後はまたソロ作品をSMALLTOWNからリリースする可能性はあるよ。今回のデザインはキムじゃなくてMartin Kvammeなんだ。彼は『Live With Britain Sinfonia』のデザインも手掛けてくれている。ちなみにKimは、今もSMALLTOWNで働いている。
トッド・テリエのリミックスに関しては、僕はトッド・テリエのライヴ・バンドでプレイしているんだけど、彼とはノルウェーの音楽フェスティヴァル、オイヤ・フェスティヴァルのためにコラボレーションをはじめたんだ。だから彼の音楽は本当に良く聴いて知っていたし、彼も僕たちの曲を長い間聴き続けてくれていた。そういうわけで、彼が一番最初にリミックスを依頼したかったのが彼だったんだ。彼とはその前から共演していたけど、このリミックスに関しては去年の夏から話していたと思う。彼のスタイルが大好きだし、リミックスを初めて聴いたときも素晴らしいと思った。大満足だったね。
■いまでもクラブ・ミュージックは好きですか?
ラーシュ:大好きだね。いままでで一番聴いていると思う。このアルバムは、実はそれに影響されてかちょっとダンスできるような作品を作りたかった(笑)。結果的にはそうならなかったかもしれないけどね(笑)。元々そういうアイディアはあった。少なくとも、もう少しハウスっぽくしたいっていう気持ちはあったんだ。ハウスという点で特に聴いていてインスピレーションを受けたのは、トッド・テリエとジョン・ホプキンス。とくにジョン・ホプキンスは、曲を盛り上げて、少ない要素で音を面白くする天才だと思う。それを自分でも試してみたいと思ったんだ。
Jagaは違うタイプのバンドだし、人数も8人だし、かなり楽器を使うから、それを再現するのはすごく難しかった。でもそういった音楽が持つ、ひとつのソウルに入り込んでいくようなフィーリングというか、長い時間をかけて盛上がっていくようなものは少なからず表現出来たんじゃないかな。ある特定の時空じゃなくて、宇宙空間に放たれるような、そういうエンドレスなフィーリングはあると思う。彼らの音楽よりも、トラックの構成はもっと”曲っぽい”けどね。
■昨年出したライヴ盤では、クラークやマシンドラム、ティーブスなどクラブ系のプロデューサーのリミックスがありましたが、これはあなたがたの希望でしょうか? それともレーベル側からの意見でしょうか?
ラーシュ:半分は僕がオファーしたし、半分はレーベルやマネージメントの意見だった。いろいろなアーティストによるさまざまなヴァージョンが聴けて、すごく面白かったよ。
■いま、あらためて「ジャガ・ジャジストのコンセプトは?」と訊かれたら、あなたはなんと答えますか?
ラーシュ:ワーオ(笑)。バンドのコンセプトは、ゆっくりと進化し続けて、新しいスタイルを常に試みていくことかな。あとはたくさんの種類の音楽をブレンドすること。そして、自分たち自身にとってオリジナルなものを作り続けていくことだね。だから、もちろん影響を受けている音楽はたくさんあるんだけど、それをなるだけわからないようにしている。そうやってオリジナルのものを作ろうと心がけているんだよ。
■ノルウェーらしさというと、我々は小綺麗で透明感のあるサウンドを思い浮かべますが、あなた方のように、実際そこに住んでいる者にとってそれは何だと思いますか?
ラーシュ:ノルウェーの音楽シーンは、すごく幅広い。エレクトロ・シーンも盛んだし、個人的にはロイクソップが大好きで、彼らはエレクトロのシーンでは一番ビッグだと思う。すごくクリーンなサウンドが特徴的だよね。あと、トッド・テリエのようなハウスやディスコのアーティストがたくさんいるのと同時に、良いロックバンドやジャズ・バンドもたくさんいるんだ。僕もそのシーンにハマっているんだけど、小さい国だからそれぞれのアーティスト同士が近い。だから、何か面白いことをやっていて自分がコラボしたいと思うアーティストが見つかったら、電話一本でオファーが出来る。そういう意味では、すごくオープンなシーンなんだ。
透明感のあるサウンドっていうのは、とくにノルウェーのジャズかな。そういうサウンドで言えばドイツのECMっていうレーベルが有名だけど、僕はそれを聴いて育ってきた。いまだに好きな音楽のひとつさ。でも、そういった音楽はロマンティックすぎるとも思う。次に何が起こるかがわかるっていうか、ちょっとお決まりなんだよね。だから自分の音楽を作るときは、もっとエッジの効いたものを作るよう意識しているんだ。
■オスロの音楽シーンは、10〜15年前とはどのように変化しましたか?
ラーシュ:10年前のオスロの音楽シーンは全然違ったよ。当時はBlå(読みはブローみたいです。英語でブルーという意味だそうです)っていうクラブがあったんだけど、僕たちはそのクラブやジャズ・シーンに大きく関わっていたんだ。ジャズとはいえエレクトロもあったし、すごくオープンなシーンだった。そのクラブは今もありはするんだけど、前とは違う。前はもっとミュージシャン達の場所って感じで、オーディエンスがたくさん入っていたからね。今はもっとクラブ・シーンが盛んかな。ハウスなんかもそうだし、それはそれで面白い。良いジャズ・シーンもあるよ。とくにエレファント9っていうバンドは面白いし、僕自身のお気に入りでもあるんだ。もっとプログレッシヴ・ジャズっぽくて、エッジが効いてるんだよね。前よりもシーンは広がっていて、バンドもたくさん出て来ているし、徐々に大きくなっていってると思うよ。
■夏で楽しみにしていることは何でしょう?
ラーシュ:ツアー以外では、オスロのビーチでのんびりすること。夏はオスロの中で一番いい時期だからね。水はあったかくて綺麗だし、オスロの人たちは休暇で外に行ってるから空いていていい。それが楽しみだね。まあでも、メインはツアーだよ。Jagaのショーはもちろん、トッド・テリエとのパフォーマンスもあるし。今はLAにも住んでるから、オスロにいるのが前よりも楽しめているんだ。