「Ord」と一致するもの

Clifford Jordan - ele-king

Clifford Jordan Quartet - ele-king

Clifford Jordan - ele-king

共演者らの証言から浮かび上がる坂本龍一の実像

目次

INTRODUCTION
國分功一郎 坂本さんはずっと考えていた

INTERVIEW
デイヴィッド・シルヴィアン
アルヴァ・ノト(カールステン・ニコライ)
フェネス
テイラー・デュプリー
小山田圭吾
ZAK
サイモン・レイノルズ

ESSAY
岩井俊二 坂本さんからのメール
北中正和 とりとめもない思い

「日本のサカモト」
近藤康太郎 音が生まれ、響き、消える。
湯山玲子 奢らず、乱用せず、堕落しない。
水越真紀 「人民の音楽」と「人民の森」

「世界のサカモト」
ジェイムズ・ハッドフィールド インターナショナルな坂本龍一
リズ・ワーナー 坂本龍一がデトロイトに与えた永続的な影響
緊那羅デジラ 3つのフェイズ

DISCOGRAPHY
ディスコグラフィー(デンシノオト、内田学、三田格)

千のサウンド
三田格 ①タイトで、マッシヴに
高橋智子 ②深く、広く
伊達伯欣 ③「音楽」から「音」へ

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Autechre - ele-king

 去る6月20日、突如オウテカによる最新ミックス音源が公開されている。彼らのルーツであるエレクトロやヒップホップからノイズ、アンビエントまでを横断する2時間強のこの旅は、フランスはレンヌのネット・レーベル、〈Neuvoids〉(neuvoids.bandcamp.com)のためにショーン・ブースがこしらえたものだそうだ。仙台の a0n0、ヒューマノイドピンチ、ESG、DJスティングレイオト・ヒアックス、〈CPU〉からも出している Cygnus、KMRU、故ピタ、盟友ラッセル・ハズウェル、BJ・ニルセンといったアンダーグラウンドな面々に交じって、ラッパーのウィリー・ザ・キッドや大御所ボブ・ジェイムズ、まさかのストラングラーズまでがプレイされている。下記サウンドクラウドから聴けます。

Ed Motta - ele-king

 80年代から活躍するシンガー・ソングライター、エジ・モッタはブラジリアンAOR~ジャズのヴェテランだ。4ヒーローのマーク・マックとコラボしたり、クラブ・ミュージックとも接点のあるアーティストだが、ここ10年のあいだも、タイトルどおりの内容の『AOR』(13)や、AORとジャズの両方を試みた『Perpetual Gateways』(16)など話題作を送り出しつづけてきた。前作から5年のときを経て放たれる新作『Behind The Tea Chronicles』は、なんともメロウでグルーヴィンな1枚に仕上がっている模様。発売は10月20日。先行シングル “Safely Far” が公開中です。

interview with Matthew Herbert - ele-king

馬は、猫なんかよりもはるかに深く人間とつながっている。人間と多くの関係をもったナンバーワンの動物なんだ。

 ユニークなることばは日本では「風変わりな」「奇抜な」といったニュアンスで使われることが多い。本来の意味は「唯一無二」だ。マシュー・ハーバートのような音楽家がほかにいるだろうか? ハウス、ジャズ、フィールド・レコーディングにコラージュ、コンセプト、メッセージ──どれかひとつ、ふたつをやる音楽家はほかにもいる。ハーバートはそれらすべてを、30年近いキャリアのなかでずっと実践してきた。しかも、シリアスなアーティストが陥りがちな罠、深刻ぶった表情にはけっしてとらわれることなく。ハーバートこそユニークである。

 90年代後半、彼はまずミニマルなテック・ハウスのプロデューサーとして頭角をあらわしてきた。トースターや洗濯機といった家にあるモノの音を用いた『Around The House』(98)、人体から生成される音をとりいれた『Bodily Functions』(01)などの代表作は、彼が卓越したコラージュ・アーティストでもあることを示している。ビッグ・バンドを迎えた『Goodbye Swingtime』(03)はひとつの到達点だろう。政治的な言動で知られる言語学者チョムスキーの文章がプリントアウトされる音をサンプリングしたりしながら、他方で大胆にスウィング・ジャズ愛を披露した同作は、ブレグジットに触発された近年の『The State Between Us』(19)にもつながっている。
 ここ10年ほどを振り返ってみても、一匹の豚の生涯をドキュメントした『One Pig』(11)、ふたたび人体の発する音に着目した『A Nude』(16)などコンセプチュアルな作品が目立つ一方、『The Shakes』(15)や『Musca』(21)では彼の出自たるダンスの喜びとせつなさを大いに味わうことができた。パンデミック前は意欲的にサウンドトラックにも挑戦、尖鋭的なドラマーとの目の覚めるようなコラボ『Drum Solo』(22)もあった。彼の好奇心が絶える日は永遠に訪れないにちがいない。

 この唯一無二の才能が新たに挑んだテーマは、馬。気になる動機は以下の発言で確認していただくとして、ロンドン・コンテンポラリー・オーケストラと組んだ新作『The Horse』ではサウンド面でも新たな実験が繰り広げられている。馬の骨はじめ、全体としてはフィールド・レコーディングの存在感とフォーク・ミュージック的な気配が際立っているが、自身のルーツの再確認ともいえるダンス寄りの曲もある。コンセプトとサウンドの冒険が最良のかたちで結びついた力作だと思う。
 もっとも注目すべきはシャバカ・ハッチングスの参加だろう。ほかにもセブ・ロッチフォード(ポーラー・ベア)やエディ・ヒック(元ココロコ)、シオン・クロスと、サンズ・オブ・ケメット周辺の面々が集結している。2010年代に勃興したUKジャズ・ムーヴメントのなかでも最重要人物たるハッチングスまわりとの接続は、長いキャリアを有するハーバートが現代的な感覚を失っていないことの証左だ(ハッチングスが若いころに師事した即興演奏のレジェンド、エヴァン・パーカーの客演も大きなトピックといえよう)。

 ちなみに本作で馬との対話を終えた彼は現在、バナナに夢中だという。スーパーやコンビニなど、いまやどこにでも安価で並んでいるバナナ。その光景がグローバリゼイションと搾取のうえに成り立っていることを80年代初頭の時点で喝破したのが鶴見良行『バナナと日本人』だった。どうやらいまハーバートもおなじ着眼点に行きついたらしい。早くも次作が聴きたくなってきた。

彼にお願いしたことは、「フルートを演奏した世界初のミュージシャンになった気持ちを想像しながら演奏してくれ」ということだけ。彼が参加してくれたのはほんとうに光栄なことだった。シャバカ・ハッチングスというミュージシャンはつねに疑問を持ち、考えている。

新作のテーマは「馬」です。音楽と馬との関わりでまず思い浮かべるのは、ヴァイオリンの弓が馬のしっぽからつくられていることです。つまりクラシック音楽の長い歴史は、馬なくしては成り立ちませんでした。また音楽以外でも馬は、移動手段としての利用をはじめ、人間と長い歴史を有しています。今回馬をテーマにしたのはなぜなのでしょう?

H:じつは最初から馬を選んだわけじゃないんだよ。馬のほうからぼくを選んでくれたんだと思う。最初のアイディアは、なにか大きな生き物の骸骨を使ってレコードをつくるといういうものだった。そこで eBay でいちばん大きな骸骨を検索したんだ。ティラノサウルス・レックスとか、恐竜のね。でもそれはなくて、購入することができるいちばん大きな骨は馬の骨だったんだ。だから馬の骨を買ったら、数週間後にものすごく大きな箱がスタジオに届いてさ(笑)。「なんてことをしてしまったんだろう」とそのときは少し後悔したよ(笑)。でもぼくはその骨格から楽器をつくりはじめて、それで音楽をつくりはじめた。そしたらどんどん馬の魅力に夢中になっていったんだ。馬や、馬にまつわる物語にね。馬は、猫なんかよりもはるかに深く人間とつながっている。人間と多くの関係をもったナンバーワンの動物なんだ。そこで、馬は自然界と人間の関係の謎を解き明かす鍵であり、その関係をあらわすとても素晴らしい比喩になると思った。そんな成りゆきで、今回のアルバムを作るに至ったんだよ。

通訳:そもそもどうして骸骨を使いたいと思ったのでしょう?

H:正直、それは覚えてない。そのアイディアを気に入ったのはたぶん、骨というものが多くの動物が共有するものだからだったと思う。骨は見えないけれども私たちのなかに存在しているものだから。毎回レコードをつくるたびにぼくにとって重要なのは、その作品制作をとおしてなにかを学ぶことなんだ。自分が知らないことに触れ、それを学び、そしてそれをオーディエンスを共有することがぼくの野心なんだよ。

以前は「豚」をテーマにしたアルバムを出していますよね。それと今回の「馬」とは、テーマのうえでどう異なっているのでしょう?

H:豚の場合、あれは一匹の豚の人生の旅路がアルバムの大きなテーマだった。その豚が生まれてから食べられるまでの人生を記録したのがあの作品。そして、その豚が食べられた瞬間にその記録はストップするんだ。その記録はある意味ドキュメンタリーのようなもの。ある一匹の豚のドキュメンタリー、あるいは物語なんだよ。僕は、あの一匹の動物の一生のほとんどすべてを知っていた。その豚が生まれたときも、食べられたときもその場にいたし、旅の間中ずっと一緒だった。でも今回の馬についてはなにも知らないんだ。競走馬であること、ヨーロッパ生まれであること、そしてメスであることだけは知っているけど、知っているのはその3点のみ。だから今回のアルバムはほとんどその馬の死後の世界のようなもので、その馬の霊的な旅、幻想的な旅、神聖なる旅といった感じなんだ。馬の骨を手にしたときからすべてが未知だった。つまりぼくにとってこのアルバムはドキュメンタリーではなく、探検や未知の世界であり、かなり抽象的な作品。この馬は数年前に亡くなったんだけれど、ある意味アルバムをつくることで、その馬のために死後の世界を作ったようなものなんだ。

非常にさまざまな音が用いられていますが、制作はどのようなプロセスで進められたのでしょうか? リサーチと素材の収集だけでかなりの時間を費やさなければならないように思えます。

H:そう。かなり大変だったね。今回はレコードの制作期間が半年しかなかったから、骨組が届いてから完成するまではとても早かった。最初はなにをどうしたらいいのかわからないままアルバムづくりをスタートさせて、まずヘンリー・ダグに脚の骨を使って4本のフルートをつくってもらったんだ。そのあと骨盤からハープをつくってもらい、サム・アンダーウッドとグラハム・ダニングに骨を演奏できる機会をつくるのを手伝ってもらった。そうやってできあがった新しい楽器の演奏方法を発見しながら素晴らしいミュージシャンにそれを演奏してもらったんだ。とにかく即興で音を演奏し、ストーリーをつくっていった。今回はカースティー・ハウスリーという監督と一緒に作業をしたんだ。彼女はイギリスの有名なシアター・カンパニー Complicite で多くの演劇を手がけている。そしてもうひとり、イモージェン・ナイトというムーヴメント・ディレクターとも一緒に作業した。ぼくと彼女たちの3人は、ドラマツルギー(戯曲の創作や構成についての技法、作劇法)について考え、物語の構成や内容について考えることにかなり長い時間を費やし、この馬の骨にまつわるストーリーと、音楽にまつわるすべての可能性について話しあったんだ。最初のアイディアがエキサイティングであったと同時にすごく厄介だったし、時間も限られていたから、けっこう途方にくれてしまってね。そこでカースティーとイモージェンが物語の構成を考えるのを手伝ってくれたんだ。

アウトサイダーやエキセントリックなひとたち、もしくはシーンの端っこで面白い音楽を作ってきたひとたちをこのレコードに招き、ここで彼らに自分の居場所を見つけてほしかったんだよ。そして彼らをこの空間で祝福したかったんだ。

今回の制作でもっとも苦労したことはなんでしたか?

H:もっとも苦労した、というか大変だったのは、その馬に対して誠実で忠実な作品をつくること。ぼくはその馬のことをなにも知らなかったから、自分が知らないものについて音楽をつくるというのはかなり難しいことだった。まるで、会ったこともないだれかのプロフィールを書くようなものだからね。もうひとつは、骨という唯一残されたその馬の一部に魂を見出すこと。骨はぼくが持っているその馬のすべてだったから、もちろんぼくはその骨に敬意を払いたかった。でも骨というものに魂を見出すことが最初は難しくてね。生きているものと違って、骨はカルシウムと炭素とシリコンでできている。骨はもう生きていないわけで、生き物の遺骨と魂の関係とは何かを考えるというのが、ぼくにとってはすごく複雑だったんだ。

“The Horse’s Bones And Flutes” では、馬の骨からつくられたフルートをシャバカ・ハッチングスが演奏しています。彼はサックス奏者ですが、日本の尺八などさまざまな管楽器を探究しています。また彼はアフリカの歴史を調べたり、非常に研究熱心です。彼の探究心について、あなたの思うところをお聞かせください。

H:最初に今回の件を依頼したとき、彼は「無理だね。俺には演奏できないよ」と言ったんだ。でも、もちろん彼は才能あるミュージシャンだから、10分後には完璧にフルートを演奏していた。そこでマイクをセットし、ひたすら彼に演奏してもらい、2時間かけてそれを録音したんだ。そしてその演奏をとにかく聴きまくりながら、僕らはたくさん話をした。僕が最初に彼にお願いしたことは、「フルートを演奏した世界初のミュージシャンになった気持ちを想像しながら演奏してくれ」ということだけ。そこから2時間の即興演奏ができあがり、ぼくがそのなかからとくにいいと思った部分をいくつか取り出し、曲をつくりあげたんだ。ぼくは彼の探究心が大好き。だからこそ彼を選んだし、彼が参加してくれたのはほんとうに光栄なことだった。シャバカ・ハッチングスというミュージシャンはつねに疑問を持ち、考えている。音楽というものはときに超越を意味するものだと思うんだ。そして、考えるということと降伏することのあいだにはとても複雑な関係がある。彼はかなり興味深い視点やヴィジョンを持ってるんだ。演奏や即興をやっているときはとくにそう。彼は演奏しているときつねに考え、つねになにかを創造しながらも、そこには同時に自由が存在する。彼のなかではそのアンバランスが成り立っていているんだよ。自由で好奇心旺盛でありながらなにかを達成しようとするのはすごく難しくて複雑なことだと思う。でも彼はそれをとてもうまく表現できていると思うね。

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人類が最初に音楽をデザインしたとき、それは複雑なものではなかった。でも人間が進化するにつれて、音楽もより複雑に進化してきた。だからぼくたちは出だしのほうの音をすごくシンプルなものにしたかったんだよ。

本作にはポーラー・ベアのセブ・ロッチフォードや元ココロコのエディ・ヒック、またシオン・クロスも参加しています(全員サンズ・オブ・ケメットでも演奏経験あり)。2010年代後半はロンドンを中心に新たなジャズのムーヴメントが勃興しました。これまでもジャズを小さくはない要素としてとりいれてきたあなたにとって、そのムーヴメントはどのように映っていますか?

H:イギリスには昔から面白いジャズが存在していて、その歴史は長い。以前は新しい世代は昔からの物語を引き継ぎ、昔からのまともなジャズを継承してきたんだ。イギリスのジャズにはつねに、ある種のアンダーグラウンドで探究的な伝統が尊愛してきたからね。でもいまはジャズとダンス・ミュージック、そしてリズムのあいだですごくエキサイティングなコラボレーションがおこなわれていると思う。ジャズの歴史のなかでリズムというのはこれまでとくには追求されてこなかったと思うんだ。でもいまの新しい世代は、ダンス・ミュージックからリズムとアイディアを借り、それを即興演奏にとりいれている。しかもそれをかなりうまくやっていると思うね。ぼく自身そういったサウンドが大好きだし、例えばシオン・クロスのようなミュージシャンはチューバを演奏しているけれど、ぼくはそこが好きなんだ。チューバは通常ジャズの楽器ではないからね。新しい楽器、新しい音、そして新しい声を見つけるというのは本当にエキサイティングだと思うし、彼らが集まっていっしょに演奏するようなコラボレーションがあるのもこのシーンの素晴らしさだと思う。彼らは互いにサポートしあっているし、まるでエコシステムのように機能している。ほんとうにポジティヴだと思うよ。

ひるがえって、エヴァン・パーカーやダニーロ・ペレス(Danilo Pérez)といった巨匠も参加しています。彼らを起用するに至った理由は?

H:エヴァン・パーカーはぼくの近所に住んでいるんだ。彼とは友人の紹介で知り合い、参加してもらうことになった。ダニーロ・ペレスとは数年前パナマで一緒に映画のサウンドトラックを制作したことがあって知り合ったんだ。ぼくにとって今回のレコードに昔の世代のミュージシャンも招くのは重要なことだった。今回は若い世代から年配の世代まで、幅広い世代のアーティストをフィーチャーしたくてね。楽器の製作者にかんしても同じ。ヘンリー・ダグは昔の世代の楽器製作者だし、ぼくらは彼以外に若い楽器製作者にも参加してもらった。ぼくはアウトサイダーやエキセントリックなひとたち、もしくはシーンの端っこで面白い音楽を作ってきたひとたちをこのレコードに招き、ここで彼らに自分の居場所を見つけてほしかったんだよ。そして彼らをこの空間で祝福したかったんだ。

馬と権力はこれまでずっと結びついてきたし、いまでもそれは続いている。王や貴族、権力を象徴するものとして。馬に乗れるということは、自然をコントロールできるということなんだ。馬は権力と自然を支配することの象徴なんだよ。

通訳:エヴァンとダニーロとの実際に曲づくりをしたプロセスを教えてください。

H:エヴァンは、彼がぼくのスタジオに来て、彼に骨のフルートを渡し即興で演奏してもらった。彼はサックスも吹いているんだけど、あれがいちばんの成功だったと思う。というのは、今回のアルバムでぼくにとって大切だったのは、音楽が自由であることだったから。その自由さで、馬の精神、想像力の精神、音楽家の精神を表現し、それを感じてもらいたいと思っていたんだ。エヴァンはそれを表現してくれた。彼は自由に、とても美しく、感動的なものをもたらしてくれたんだ。
 ダニーロとの作業はそれとは少し違っていた。パナマでレコーディングし、彼にも即興で演奏してもらったんだけれど、彼には馬と対話するように演奏してもらうようお願いしたんだ。「馬が出す音を聴いて、それに合わせてピアノを弾くれ」ってね。そうすることで新しい表現の形をいっしょにつくっていった。その異なるプロセスがそれぞれ違ったものをもたらしてくれたんだ。

2曲目の太鼓の響きや4曲目の旋律などからは、西洋ポピュラー・ミュージックとは異なる、民族音楽やフォーク・ミュージックと呼ばれるものを想起しました。そういった点もテーマの「馬」と関係しているのでしょうか?

H:原始的な楽器を使ったから、民族音楽のように聞こえないことはむしろありえなかったと思う。馬の皮やウサギの皮といった動物の皮を引き伸ばして作られたものだから、かなりベーシックな楽器なんだ。そのシンプルな太鼓を演奏しているだけだから、フォーク・ミュージックのように聞こえないほうが難しいと思うね。現代の楽器と比べると、その楽器から得られる音やテクスチャーの幅はかなり限られているから。ぼくは今回のアルバムで音楽の歴史も表現したかったんだ。人類が最初に音楽をデザインしたとき、それは複雑なものではなかった。でも人間が進化するにつれて、音楽もより複雑に進化してきた。だからぼくたちは出だしのほうの音をすごくシンプルなものにしたかったんだよ。2曲目では、最後にひとつのコードが出てくるんだけど、それはハーモニーの出現を表現している。そんな感じで、このアルバムでは音楽の進化も表現しているんだ。だからアルバムの最初のほうはフォーク・ミュージックのようにとてもシンプルにはじまり、そこからオーケストラのようになり、エレクトロニックになっていく。アルバムのなかで、音楽がどんどん複雑で奇妙なものに発展していくんだ。

本作には、かつてサフラジェットのエミリー・デイヴィソンが命を懸けて馬の前に立ちふさがった、その競馬場で録音した音も含まれているそうですね。フェミニズムもまた本作に含まれるテーマなのでしょうか?

H:あの音源を使ったのは、ぼくが権力の表現に興味があるから。もちろんフェミニズムはその重要な一部ではあるんだけれど、フェミニズムがテーマというわけではないんだ。馬と権力はこれまでずっと結びついてきたし、いまでもそれは続いている。王や貴族、権力を象徴するものとして。馬に乗れるということは、自然をコントロールできるということなんだ。馬は権力と自然を支配することの象徴なんだよ。そして、自分たちの楽しみのために馬を競わせる競馬という点もそうだし、女性が権利のために立ち上がるという点もそうだし、あの場面ではいくつかのストーリーがひとつになっているように思えたんだ。権力がどのように交錯するかを説明するための有力なストーリーがね。権力とフェミニズムの関係だったり、権力と環境の関係だったり、貴族制度と競馬、つまりはスポーツやギャンブルの関係、権力と搾取の関係もそう。権力がどのように社会と交差しているのかを表現するのに役立つと思った。ほんの小さな出来事だけれど、僕にとってあの出来事と場所は、権力にかんするいくつかの物語が結晶化したものなんだ。

ダンスフロアはたんにレッドブルやウィスキーを飲むための場所じゃない。ダンスフロアが政治的でありつづけること、政治化されつづけることは、ぼくはすごく重要なことだと思っている。

今回フィールド・レコーディングだけでなく、インターネットから集められた馬の鳴き声も使用されているのですよね? パンデミック中はIT関係のテック企業やシリコンヴァレーのひとり勝ちのような状況になり、富める者がさらに富むような側面もありましたが、それでもインターネットを使わざるをえない現代のアンビヴァレントについてどう思いますか?

H:インターネットのよさは、その巨大さ。インターネットは人間の脳の巨大な地図のようなもの。だから、クリエイティヴな部位もあり、怒りの部位もあり、セクシーな部位もあり、情報の部位もあり、機能的な部位もある。ぼくはその詰まり具合が好きなんだ。インターネットをとおして過去のさまざまな人びとやアイディアとコラボレーションできるのも素晴らしいことだと思う。それに、ぼくは新しい技術を使うことに興味があるんだ。たとえば機械学習とかね。馬の鳴き声を集めるために使ったのがこの技術。このアルバムでは非常に初期の原始的な技術である骨のフルートから機械学習にまで触れたかったんだ。

“The Horse Is Put To Work” や “The Rider (Not The Horse)” にはダンス・ミュージックの躍動があります。90年代~00年代初頭、あなたはハウスのプロデューサーとして名を馳せ、2021年の『Musca』もハウス・アルバムでした。あなたにとってハウス、もしくはダンス・ミュージックとはなにを意味していますか?

H:ぼくが最初にダンス・ミュージックをつくりはじめたころは、ダンス・ミュージックのレコード会社もそれをつくるアーティストもそれほど多くはなかった。それがいまでは何百万人、何千万人という人びとがそれをつくっている。だからダンス・ミュージックは以前と比べると薄くなり、パワーが少し弱くなった気がするんだよね。政治的な意味も希薄になってしまった。とくにハウス・ミュージックはアメリカのブラック・クィア・カルチャーとして、安全にプレイされるための場所としてはじまったのに。ダンスフロアはたんにレッドブルやウィスキーを飲むための場所じゃない。ダンスフロアが政治的でありつづけること、政治化されつづけることは、ぼくはすごく重要なことだと思っている。とくにイギリスでは政治も新聞も、どんどん右傾化してしまっているんだ。そんななかでダンスフロアのような安全な空間をつくり、それを育てていくことはほんとうに重要だと思う。なのにダンス・ミュージックの形態が、音楽的に言えば、少し保守的になってきてしまっているのは残念だよ。気候変動だったり、ぼくたちはいま実存的な危機的状況にあると思う。そんななかで音楽があまりにも保守的だったとしたら、それはぼくらの助けにはなれないと思うんだ。

これまでもあなたは人間の身体やブレグジットなど、さまざまなテーマの作品をつくってきました。ただ音の効果や作曲行為などのみに専念するアーティストがいる一方で、あなたがそうしたなにがしかのコンセプトを自身の音楽活動に据えるのはなぜなのでしょうか?

H:好奇心と、なにかを学びたいという気持ちだろうね。いまぼくは映画やテレビ音楽の仕事をしている。次のプロジェクトはバナナがテーマなんだ。いまはドミニカ共和国でバナナにマイクをくくりつけて、ドミニカ共和国からぼくの朝食として出てくるまでの道のりを録音し、記録しているところ。これはもう映画のような作品なんだ。映画であり、記録ドキュメンタリーでもある。今回バナナをコンセプトにした理由は、ぼくがバナナについてなにも知らないことに気がついたから。毎朝バナナを食べているのに、それについてなにも知らなかったから、バナナについて調べなきゃと思ったんだよね。バナナは世界でもっとも食べられている果物なのに、品種はひとつしかない。そして、パナマ病のせいで危機に瀕している果物なんだ。もしよかったらチキータ・ブランドについて調べてみて。バナナの歴史に暗い影を落としているから。

通訳:以上です。今日はありがとうございました。

H:こちらこそ、ありがとう。

DJ Girl - ele-king

 松島君に、DJ Girl(の曲)はかけるのかと訊いたら、彼は表情を変えずに「かけますよ」と言った。「けっこう盛り上がるんですよ」、と20代のDJは表情を変えずに付け足した。へぇ〜、盛り上がるんだ。いいなぁ、若いなぁ。松島君は表情を変えない。いや、でもね、気持ちはわかるよ。ぼくと同世代人たちも、若者と言える頃はあの手の曲(たとえば「Analogue Bubblebath 4」の1曲目)で狂ったように踊ったものだった。時代は変わっているようで変わっていないが、変わらないようで変わった。デトロイト出身のDJ Girlはジェフ・ミルズの大ファンだった。しかし彼女はジェフ・ミルズの模倣はしなかった。
 
 ぼくがDJ Girlに興味を抱いたのは、ノンディがきっかけだった。ノンディのアルバムは素晴らしい。フットワークとヴェイパーウェイヴとエレクトロニカが融合しスパークする、インターネットにおけるアンダーグラウンドなあやしげな動きから誕生した雑食のダンス・ミュージックで、さらに驚いたのは、彼女のアフロ・アメリカンとしての反抗心を象徴するアートワークのともすれば挑発的な政治性とは裏腹に、彼女が主宰するレーベル〈HRR〉——これがちょっと奇妙で「カワイイ」ことになっているのだ。マイメロ、クロミ ハローキティ? ノンノン? で、このギークな女子コミュニティのなかには8歳のTerri Howardsちゃんもいるし(AFXも真っ青の、「どうぶつの森」のグリッチを聴きたまえ!)、そしてDJ Girlもいると。ノンディの〈HRR〉は、DJ Girlのレーベル〈Eat Dis〉とネット・コミュニティとして繋がっているのだ。……にしてもこれは……いったい……なんというシーンだろうか……衝撃的というか、新しい何かが広がっているというか、恥ずかしながら歳も忘れて興奮してしまった次第なのである。(ノンディのアルバム・コンセプトを思えば、これは閉鎖的なオタク村でも退行現象でもあるまい)
 
 新しいと言ってもDJ Girlは、調べてみると2016年あたりから作品を出しはじめているので、すでにキャリアはある。コロナになって、デトロイトからテキサス州オースティンに移住したという情報も得た。アルバム『Hellworld』はノンディの『Flood City Trax』と同様に〈プラネット・ミュー〉からのリリースで、オールドファンはヴェネチアン・スネアズの『Songs About My Cats』などを思い出したりしている。つまりこれは〈プラネット・ミュー〉らしい作品と言えるのであって、フットワークにブレイクコアの激しさが混ざった“Get Down”ではじまる『Hellworld』には、多彩で奔放な、激しくて愉快なエレクトロニック・ミュージックが8曲収録されている。
  サイボトロンを彷彿させる“Technician”やラップをフィーチャーした“Opp Pack Hittin” にはオールドスクール・エレクトロへの愛情が注がれているかもしれないが、魅惑的なノイズや弾力性のある振動の楽しげな展開は若々しく新鮮だ。子供っぽいというか、いまノりにノっているというか、“Lucky” のような曲で見せる歪んだブレイクビートの暴走の合間に発せられる「俺ってラッキー」という声とのコンビネーションに生じる面白さに、このアルバムのひとつの魅力が象徴されていると言えるのかもしれない。頭が悪そうに見えながら決して悪くはない、いやしかし悪いかもというねじれた愉快な感覚は、おそらくはAFXに端を発しているのだろうけれど、サウンドでそれをうまく表現することは決して簡単なことではないのだ。もっとも、“When U Touch Me”のようなナイトコアの曲までこの老害が楽しめるはずはなく、本作を必聴盤と言うつもりもないけれど、面白いのはたしかです。エネルギーとユーモアがあって、“So Hot”のような曲を松島君が表情を変えずにDJでかければ、フロアはきっと笑顔に包まれるのだ。君たちの未来は明るいぞ。Peace!

Meitei - ele-king

 日本文化をテーマにする広島のプロデューサー、冥丁の国内ツアーが開催されることになった。7月21日にリイシューされるファースト・アルバム『怪談』(オリジナルは2018年)をベースにしたライヴ・セットとのことで、これは貴重な機会だ。東京、豊田、和歌山、熊本、福岡、うきは、京都の7都市を巡回。会場もユニークなところが多そうで、土地全体、空間全体で音楽を楽しめるかもしれない。詳しくは下記より。

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