「Ord」と一致するもの

Lee "Scratch" Perry × Brian Eno × Adrian Sherwood - ele-king

 今年発表したアルバム『Rainford』が好評のリー・ペリーですが、同作のダブ盤『Heavy Rain』が11月22日に日本先行でリリースされます。ミックス担当はエイドリアン・シャーウッド。そんなわけで本日、収録曲“Here Come The Warm Dreads”が公開されたわけですけれども、なんとブライアン・イーノがフィーチャーされています(原曲は『Rainford』の“Makumba Rock”)。イーノのソロ・デビュー作(73年)をもじったタイトルに思わずニヤリとさせられますね。なお、『Heavy Rain』が発売される11月22日には、エイドリアン・シャーウッドの来日公演も予定されています。詳細は下記より。

[12月19日追記]
 現在好評発売中の『Heavy Rain』から、イーノとのコラボ曲“Here Come The Warm Dreads”(ちなみに、左チャンネルをエイドリアンが、右チャンネルをイーノがミックスしたそう)のMVが公開されました。このコラージュ・センス……ヤヴァいですね。なお、12月26日に発売される『ele-king vol.25』は、巻頭でリー・ペリーを大フィーチャー。「ダブは赤ん坊」と語る本人インタヴューも掲載しています。ぜひチェックを。

リー・スクラッチ・ペリー×ブライアン・イーノ×エイドリアン・シャーウッド
11/22に日本先行リリースとなる『HEAVY RAIN』より、レジェンドが集った新曲“HERE COME THE WARM DREADS”を解禁!
発売日にはエイドリアン・シャーウッド来日公演も!

伝説中の伝説、リー・スクラッチ・ペリーが、11月22日(金)に発売となる最新作『Heavy Rain』よりブライアン・イーノとコラボレーションした新曲“Here Come The Warm Dreads”を解禁!

Here Come The Warm Dreads (feat. Brian Eno)
https://www.youtube.com/watch?v=41nLDnHbdhc

今作『Heavy Rain』は、今年4月にリリースされ各所から大絶賛されている『Rainford』をエイドリアン・シャーウッドがダブ・ヴァージョンに再構築。またゲストにはブライアン・イーノが参加! 他にもボブ・マーリーの作品群に参加していることでも知られる伝説的トロンボーン奏者ヴィン・ゴードンが参加している。
本日解禁された今曲は、『Rainford』収録の“Makumba Rock”をダブ・ミックスしたもので、ブライアン・イーノのアルバム『Here Come The Warm Jets』 をもじったそのタイトルにリーとエイドリアンのいたずら心が見える。

俺たちがブライアンにこの曲への参加を持ちかけた時、彼は戸惑いもせず、リー・スクラッチ・ペリーと一緒に何かやることを喜んでくれた。 ──エイドリアン・シャーウッド

国内盤にはボーナス・トラックが追加収録され、解説書が封入。数量限定でオリジナルTシャツセットも発売! LPは通常盤に加え限定のシルバー・ヴァイナルも登場し、オリジナルである『Rainford』のゴールド・ヴァイナルと合わせてゲットしたいアイテムとなっている。11月22日(金)に日本先行リリース(海外は12月6日(金)リリース)。
そして日本先行リリース日に、エイドリアン・シャーウッドのヘッドライン公演が大決定!! 詳細は下記をチェック。

label: On-U Sound / Beat Records
artist: Lee "Scratch" Perry
title: Heavy Rain
release date: 2019.11.22 FRI ON SALE
日本先行リリース!

国内盤CD BRC-620 ¥2,400+税
国内盤CD+Tシャツ BRC-620T ¥5,500+税
限定盤LP(シルバーディスク) ONULP145X ¥OPEN

BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10538

TRACKLIST
01. Intro - Music Shall Echo
02. Here Come The Warm Dreads
03. Rattling Bones And Crowns
04. Mindworker
05. Enlightened
06. Hooligan Hank
07. Crickets In Moonlight
08. Space Craft
09. Dreams Come True
10. Above And Beyond
11. Heavy Rainford
12. Outro - Wisdom
13. Drown Satan (Bonus Track for Japan)

UKダブのゴッドファーザー、エイドリアン・シャーウッドのヘッドライン公演!!
自身のセットに加え、ゲスト・アクトのライヴのダブ・ミックスをその場で行うことが決定!

ADRIAN SHERWOOD and more
Time Boom X The Upsetter Dub Sessions

Exotico De Lago Live Dub Set by Adrian Sherwood
and more...

2019.11.22 Fri WWW X
Ticket Adv. ¥5,800
Open 18:00 / Start 18:30

UKダブのゴッドファーザー:エイドリアン・シャーウッドが、マイティ・アプセッター=リー・スクラッチ・ペリーとの過去35年間の冒険を総括するライヴをここ日本で行うことが大決定!!
オリジナルのマルチトラック等マスター音源を用いて、エイドリアンとリーとの大名盤『Time Boom X The Devil Dead』『Secret Laboratory』から『Dubsetter』『Rainford』 そして最新作『Heavy Rain』、さらには伝説的な Upsetter Productions、Black Ark のアーカイヴにまで潜り込み、生ダブ・ミックスを行う。
さらに、ゲスト・アクトとして長久保寛之を中心に結成され、ヴィンテージな質感とレイドバックした空気感、そして、ストレンジでムーディーなサウンドを展開するバンド、エキゾティコ・デ・ラゴの出演も決定し、なんとライヴのダブ・ミックスもその場でエイドリアンが行うことが決定! ダブに浸り、目の前で繰り広げられる伝説のミックス技に圧倒される夜。見逃せない体験となるだろう。
来場者特典として、エイドリアン・シャーウッドが今回のために録り下ろした特典 MIX CD をプレゼント!

チケット一般発売中!!
詳細はこちら:https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10536

象は静かに座っている - ele-king

 1行目を書き出すことがこんなにも楽しく、そして、どこから書けばいいのか皆目見当がつかない作品も珍しい。題材から書き始めれば重苦しい作品だという先入観が生まれてしまうだろう。特異な撮り方から説き始めれば過剰にシネフィル的な作品だという印象を与えるかもしれない(まあ、シネフィルだけど)。上映時間が4時間近いといえば何を想像するだろうか。どうしよう。どこから書こう。あー楽しい。

 中国の地方都市を舞台にした中国映画だけれど、仕上がりはヨーロッパ映画。始まってほどなく中期ヴィスコンティやベルトルッチの名前が思い浮かぶ。フー・ボー監督は実際にタル・ベーラに師事したそうで、ベーラが94年に撮った『サタンタンゴ』が奇しくも今年、日本で初公開となっている。こちらは上映時間が7時間。さすがに観ていない。気合が足りない。

 やはり題材から明確にしていこう。重慶が人口で上海を抜いたとか、発展的な側面ばかり伝えられる中国とはまるで無縁の地方都市(北京から南東に50キロ)。かつては炭鉱業で栄えたらしく、中途半端に飾り立てられたショッピング・モールが逆に物悲しさを増幅させる。経済成長から取り残された地方都市だと一目でわかるということは格差社会の実相をリアルタイムで記録したということであり、今年のカンヌでパルムドールを獲得したポン・ジュノ監督『パラサイト』が中国では格差社会を意識させるという理由で前日になって公開中止になったという事実と合わせて考えてみると、一時的に忘れられるようなことがあっても、歴史的な文脈を持ち出される時には何度も思い出される作品になるだろうということが予見できる(『パラサイト』は日本では来年1月公開予定)。

 公団なのか低所得アパートなのか、画一的な間取りの集合住宅で朝を迎えるいくつかの家族。かなりの大人数を絡ませる群像劇なので、いきなり誰が誰だかわからなくなりかけてしまい、しかも、老若男女のすべてが荒んでいて、キャラクター的にも見分けがつかない。チャン・ユー演じるユー・チェンが窓を開けると「ゴミを燃やすな!」と怒鳴る声が路上から聞こえる。ユー・チェンは声が聞こえた方向に「燃やせ!」とハッパをかけ、路上からは「下りてこい!」と恫喝する声が戻ってくる。フー・ボー監督は登場人物が誰かと会話している時に、会話の相手をほとんど映さない。会話だけでなく、登場人物が何をしているか、手の先にあるものとか、登場人物が見ているものをまったくといっていいほどフレームに収めない。監督が撮っているのは登場人物の意識で、誰かが登場人物に話しかけても、ほかのことを考えていて相手の話を聞いていなければ、相手にはフォーカスを合わせず、ぼんやりとしか画面に映し出されない。後半でユー・チェンたちが食事をしていた食堂のコックが火を出してしまい、危うく火事になりかけるシーンでもカメラは厨房に入らず、長々と白い壁を映し出して意識的に情報をカットしていく。これは最近でいえばネメシュ・ラースロー監督が『サウルの息子』(15)で誇張気味に採用した手法と近いものがある。『サウルの息子』はホロコーストに収容されたユダヤ人の視点でその世界を描くというもので、主役となる人間は写らないというものだったけれど、もう少しカメラを後方に引いて、登場人物の背後から写したのが、同監督による『サンセット』(18)だった。神の視点を排除したとしてもいいし、スマホの世界観で視界を切り取ったと考えてもいいけれど、この撮り方を群像劇に応用したのが『象は静かに座っている』という流れに見えてしょうがない(実際には『サンセット』の公開前に完成している)。人物の周囲をあまり映さないということは、周囲で起きていることが登場人物にどんな影響を及ばしているのかよく分からないということで、どの人の人生もとても不安なモードに包まれて感じられる(『サイタマノラッパー3』にも同様な手法が効果的に用いられていた)。そして、何かが起きるとすべてが突発的な出来事のような印象を持ちやすく、ユー・チェンの弟が階段から落ちたり、リー・ツォンシー演じるワン・ジンの飼っている犬がほかの犬に噛み付かれたりしても、すべてが終わってからでないと事態を把握することはできない。実際にも事件を「目撃する」人よりは、事故直後に現場を「見た」という人の方が多いように、ある意味、現実の把握の仕方は(映画的ではなく)現実に近いものになっている。

 登場人物は全員が過度に荒んでいて会話の多くは怒鳴り散らすだけ。ワン・ユーウェン演じるファン・リンと母親の会話がとくにヒドく、全体に子どもを持つ親たちの大人気なさは際立っている。このような家族をいくつか見せたあとで、ここにいては子どもの教育によくないといって文教地区に引っ越そうとする一家が映し出される。引っ越すためには祖父であるワン・ジンに老人ホームに入ってもらわねばならない。ワン・ジンは納得がいかず、その場から逃げるように犬を連れて散歩に出る。この辺りを見ていて、日本で起きた殺人事件について中国の人がツイッターでつぶやいていたことを思い出した。登戸でバスを待つ子どもたちの列に刃物で切りかかった男の事件があった頃だったと記憶しているけれど、そういったタイプの犯罪者は「まるで社会に復讐しているかのように見える」と、その人はつぶやいていた。池田小事件や秋葉原通り魔、相模原障害者施設殺傷事件なども話題に上がっていたかと思う。え、しかし、待てよ。中国にも刃物を持った男が小学校に乱入したというような事件は年に1~2回あるじゃないか。なのに、日本の事件だと「社会」との関係で起きたように見えるというのか。中国の事件についてはそうではないというのだろうか。また、登戸の事件があった時、ひきこもり差別はよくないという声が起きるほど日本のTV番組ではそのように「予備軍」についての議論が拡大していったけれど、僕が奇妙に思ったのは予備軍がいるということは、どうも全員が共有している前提なのである。誰ひとりとして「個人が起こした犯罪」とは思っていない(というか、中国の人がツイートしていたように「復讐されるような社会に住んでいる」という自覚があるということである)。文教地区に引っ越そうとしている一家が「その地区」を見限っていることはわかる。その時に、それが日本で「社会」と感じられるようなものが中国でも同じように意識されているかどうかが僕にはよくわからなかった。中国は個人主義だというし、一度だけ北京と大同を旅行した時に、そのようにも感じたこともあるのだけれど、『象は静かに座っている』に描かれている人たちが一様に荒んでいるのはもはや個人にはどうすることもできない範囲の問題なのか、それとも……

 最後に時間のことも。坂本龍一が「4時間近くと長い映画だが、無駄なショットがあった記憶はない」と本作にコメントを寄せている。僕も同感である。とんでもない構成力だし、テーマに合った長さだと思う。主には4人が主役のような動きをしていて、誰にでも感情移入できるし、誰にも感情移入しなくていい。KLFならぬセルロイド・リベラシオン・フロントが寄せた「ジョイ・ディヴィジョンの歌の執拗なベースラインのよう」という評価もなるほどだけれど、「パンクの身体化を忘れず、低下層の視点を写している」と結ばれると、ちょっと違和感が。『象は静かに座っている』は社会派というよりはもっと神話を映像化したものに思えたから。「この世界、ヘドが出る」と、人生に絶望しているセリフのオン・パレードは、だから、ある特定の社会や時代と不可分ではなく、ユビキタスな価値観として機能する。「ヘドが出る」からどうするのか。変えるのか。消えるのか。諦めるのか。死ぬのか。(以下、ネタバレ)長距離バスで満州里に向かうポン・ユーチャン演じるウェイ・ブーは同じように孫の手を引いて同じバスに乗りかけてやめたワン・ジンに「どこも同じだ。だから行く前に自分を騙すんだ」と諭される。ワン・ジンが孫を連れていることにもおそらくは意味があり、中国では子どもの将来を親が決めすぎるということがよく言われる。文教地区への引越しはまさに「孫」の将来をワン・ジンの息子夫婦が決めようとしているからで、孫娘は自分の意思でそこから逸脱しようとしている。息子夫婦が表しているものは経済成長であり、孫娘がそれを選択しなかったことによって、この作品には対立していない親子はひと組も出てこないという図式が出揃うことになった。引き裂かれている。この部分はまさにディヴィジョン(分断)である。ワン・ジンはブーに向かって、こう続ける。「お前はまだ期待してる。一番いい方法は、ここにいて向こう側を見ることだ。そこがより良い場所だと思え、だが行くな。行かないから、ここで生きることを学ぶ」と。ウェイ・ブーは、しかし、その言葉に納得しなかったのか、それとも納得した上でなのか、ワン・ジンたちにも一緒に行こうと誘い、4人を乗せてバスは満州里を目指して走り出す。彼らが目指しているのは象が静かに座っている場所である。象は一生を立ったまま過ごす動物で、「象が座っている」ということは、それは死を意味している。

 フー・ボー監督は本作品を完成したのち、自殺。29歳だった。
                                    

『象は静かに座っている』予告編

interview with Dego - ele-king

何もかもがトゥー・マッチだね。情報にしても、表現方法にしても、世間の評判だって誇張して伝えられることがある。そうしたものに対して自分の中からストレートに出てきた言葉がトゥー・マッチなんだ。

 ディーゴのニュー・アルバム『トゥー・マッチ』が、自身のレーベルの〈2000ブラック〉からリリースされた。その前のアルバム『ザ・モア・シングス・ステイ・ザ・セイム』から4年ぶりだが、2017年にはカイディ・テイタム(正確な発音ではテイサン)とのユニットであるディーゴ&カイディでアルバム『アズ・ソー・ウィ・ゴーウォン』をリリースしていて、ほかにもEPや12インチをいろいろ作るなど、ここ何年かのディーゴの活動は活発だ。ソロやディーゴ&カイディのほか、カイディ、アクワシ・メンサー、マット・ロードと組んだ『テイサン、メンサー、ロード&ランクス』(2012年)があり、ほかのアーティストの作品も出すなど、〈2000ブラック〉の運営も精力的におこなっている。かつての4ヒーロー時代にはドラムンベースの道を開拓し、その後ジャズやソウルなどさまざまな音楽を取り入れ、テクノやハウス、ヒップホップなどを融合してブロークンビーツの世界へと進んだのだが、そんなディーゴもいまや大ヴェテランの域に達している。4ヒーローの『パラレル・ユニヴァース』(1994年)は今年でリリースから25周年を迎え、そんなディーゴの時代を実体験していた人も年を取ってしまった。一方で、ロンドンからは常に新しいアーティストが登場し、いまはサウス・ロンドンのジャズが盛り上がっていたりする。かつては時代の最先端を走り、エレクトロニック・ミュージックの牽引者だったディーゴだが、現在の彼はどんなことを考え、音楽とどう向き合っているのだろうか? 『トゥー・マッチ』のリリース・ツアーで来日中のディーゴに、アルバムのことを中心にDJや最近の音楽、ロンドン・シーンのことなどを訊いた。

いまの若いアーティストたちは、どうも俺からすると自分のサウンドを磨いたり、進歩させたりすることに時間や労力をあまり割いているとは思えないんだ。

『トゥー・マッチ』はソロ・アルバムとしては『ザ・モア・シングス・ステイ・ザ・セイム』から4年ぶりですが、その間もディーゴ&カイディのアルバムや12インチやEPなどのリリースがありました。また〈2000ブラック〉の運営や今回のツアーのようなDJ活動などで充実していたと思いますが、改めて『トゥー・マッチ』をリリースしようと思い立ったきっかけは何でしょうか?

ディーゴ:アルバムというか曲作り自体はどんなときも常にやっているんだ。それが俺のライフスタイルだからね。アルバムは自分を表現するいちばんの方法だから、どのタイミングで出すかはずっと考えているんだ。今回はそれが十分に熟した機会だと思ったからリリースしたのさ。

いつ頃から制作に取りかかりましたか?

ディーゴ:去年の10月頃にはじめて、今年の1月までの3、4ヵ月で作ったよ。

あなたはたくさんの名義で活動をおこない、ディーゴ&カイディのようなコラボも多いのですが、そうした中でディーゴ名義での作品はどんな位置づけになりますか? もっともあなたらしさが出たプロジェクト、好きな音楽が表われたものということでしょうか?

ディーゴ:ソロは自分ですべてをコントロールできるから、単純に楽しいよね。自分らしくいられるプロジェクトで、好きなことを追求しているというのはそうだよ。でも、他人と一緒にやることも、お互いに刺激を与えて高め合っていけるから、ソロとは違う面白さがある。だからソロにしろ、コラボにしろ、自分にとってはどちらも大切なことなんだ。

アルバム・タイトルにもなっている『トゥー・マッチ』にはどんな意味が込められているのでしょうか? 個人的には情報などトゥー・マッチなことが多くて複雑な現代社会、そうした中で音楽もトゥー・マッチな方向に進みがちだけど、それらトゥー・マッチなものを捨ててシンプルに取り組んだアルバムではないかなという気がします。プロダクションも比較的にシンプルにしているようですし。

ディーゴ:何もかもがトゥー・マッチだね。情報にしても、表現方法にしても、世間の評判だって誇張して伝えられることがある。そうしたものに対して自分の中からストレートに出てきた言葉がトゥー・マッチなんだ。今回は特にシンプルに取り組んでいるというわけではないけど、今までのソロやコラボを振り返りながら今回はどうやっていこうかと考えて、ディーゴ&カイディとか4ヒーローとかをクロスオーヴァーさせて、どういった方法が自分にとって適しているかをいろいろと探りながら作っていったね。アルバムの最初はダウンテンポではじまって、それが中間でアップテンポに変わっていって、最後にまたダウンテンポに戻っていくという流れがシンプルに映っているのかもしれないけど。

『アズ・ソー・ウィ・ゴーウォン』はカイディの影響もあってか、レゲエやアフロ、カリビアンなどの色合いが出た曲が多く、またジャズ系ミュージシャンの参加もあってフュージョン風の作品も散見されたわけですが、『トゥー・マッチ』に関してはどんな色合いのアルバムになったと思いますか?

ディーゴ:『アズ・ソー・ウィ・ゴーウォン』は自分たちのルーツを映し出したものなんだ。俺やカイディにはジャマイカやカリビアンの血が流れていて、ロンドンで生まれ育ってきた。自分たちのルーツはどこにあって、アイデンティティは何なのか、そんなことを考えながら作ったアルバムなんだ。言わば俺たちのステイトメントなんだよ。『トゥー・マッチ』は俺のもっとパーソナルな部分がベースになっていて、自分自身への問いかけに対してナチュラルに出てきたサウンドなんだ。

いろいろなタイプの作品が収められていますが、個人的には“ア・ストロング・ムーヴ・フォー・トゥルース” “アイ・ドント・ワナ・ノウ” “ライフ・キャン・ビー・アンリアル”など女性シンガーをフィーチャーしたソウルフルなナンバーが印象的で、かつてのあなたのプロジェクトのシルエット・ブラウンに近いイメージかなと思ったのですが。

ディーゴ:俺自身はあまりそういったことを考えたことはなくて、自然に作った結果じゃないかな。まあ、ヒップホップやソウルのヴァイブスを注入していくというやり方は意識したから、シルエット・ブラウンでやっていたことが多少の影響はあるのかもしれないけど。

プロダクションにはカイディ・テイサン、アクワシ・メンサー、マット・ロードなど〈2000ブラック〉の仲間たちが参加していて、そうした点であなたの昨今のソロ作やディーゴ&カイディ、『テイサン、メンサー、ロード&ランクス』などとも繋がっていますが、ある意味で現在の〈2000ブラック〉を映し出したような作品でしょうか?

ディーゴ:〈2000ブラック〉の音をもっとも表現しているのが『テイサン、メンサー、ロード&ランクス』で、それに対して『トゥー・マッチ』は、さっきも言ったけどもっとパーソナルなものなんだ。だから両者には違いがある。

ということは、たとえば同じメンバーが参加していても、それが個人のソロ作か、コラボ作品か、単なるゲスト参加作かで内容も異なるということですか? 曲作りまでじっくり関わるのか、それともでき上がったトラックの上でキーボードとかのソロを演奏するとか、共演といってもいろいろありますが。

ディーゴ:それは曲によって全然変わってくるよね。誰が舵を取るかによって曲の方向性は変わる。『トゥー・マッチ』に関しては、アルバム全体の舵取りは俺がやっているわけだけど、カイディとは2曲くらい一緒にやっていて、その中においてはディーゴ&カイディに近いアプローチになっているかな。それを含めて最終的に1枚のアルバムに仕上げるのが俺の役割なんだけど。

シンガーではレディ・アルマ、シャーリーン・ヘクター、イヴァナ・サンティリなど2000年頃の昔から交流のある面々が参加し、また近年の作品でよく歌っているナディーン・チャールズほか、オベネワ、サリーナ・レア、サミーとヴァラエティに富んだ女性シンガーが参加しています。彼女たちはそれぞれの曲のタイプによって選んだのですか?

ディーゴ:うん、最初に曲を作って、それに合ったシンガーとコラボをするという流れだよ。サミーはここ2年くらいで知り合ったけど、だいたいのシンガーは〈2000ブラック〉を立ち上げた頃からの20年くらいの付き合いがあって、基本的に自分にとってのファミリーという感覚なんだ。そうした家族に対してはいろいろとサポートしてあげたいという気持ちは常にあって、だから今回のアルバムにフィーチャーしたりとか、〈2000ブラック〉のほかの作品に起用したりするわけさ。

この中でオベネワは〈2000ブラック〉からのブラックス&ブルースというプロジェクトにもフィーチャーするなど、最近とても注目しているシンガーのようですが。

ディーゴ:彼女は確かガーナ系の血筋で、世界的に見ればアンダーグラウンドな存在かもしれないけど、俺たちの地元では既にとても有名なシンガーになっているんだ。だから俺なんかがいまさらプッシュする必要もないけれどね(笑)。

4ヒーローを知っていて、いまもドラムンベースの曲を作ったりリミックスしてくれと頼むプロデューサーやレーベル関係者がいたりするけど、いまの俺はもう違うんだ。過去を振り返って懐かしむ暇はないんだ。

アルバムの前半はソウルフルなダウンテンポやブギー、ネオ・ソウルなどヴォーカル曲が並び、後半はジャジーなブロークンビーツやフュージョン・タッチのインスト曲が並ぶという構成になっていますが、これは意識的に作った流れなのですか?

ディーゴ:意識して曲の順番を決めたというわけではないけど、アルバム全体を見たとき、あまりデコボコにしないように気をつけて作っているから、似たような傾向の曲を前後にまとめたりとか、そうした流れというものができるんだろうね。

“オガワ・オカーサン・セッド・ジャスト・プレイ”というタイトルは日本にも馴染みの深いあなたならではですが、どんなエピソードから生まれた曲ですか?

ディーゴ:俺の日本人の友だちでオガワさんという人がいるんだけど、そのお母さんが琴をやっていたんだ。2年くらい前に琴をインターネットで買って、でもモノは届いたけれど思いつきで買ってしまったから、弾き方がわからない。そんなときにその友だちのお母さんのことが頭に浮かんで、彼女に琴の弾き方を尋ねてくれと頼んだんだ。そうしたらお母さん曰く、「いろいろ考えずに、ただ琴に触って弾けばいいのよ(just play)」ということだったんだよ(笑)。

ということは、後半にまるで琴のようなフレーズが出てくるなと思ったのですが、これはあなた自身で琴を演奏しているのですね? なんでまた琴を買ったのですか?

ディーゴ:うん、俺が弾いた琴の音だよ。俺は興味が沸いたら何でもやってみるんだ。ブラジル、ガーナ、ナイジェリアと、いろいろな国の民族楽器を試したことがあるよ。さっき言った「ジャスト・プレイ」という言葉も、最初はただ触って音を出すという行為が、音楽における初期衝動にも繋がっているんだなと、改めて教えてくれたと思うよ。

最近のDJではあなたや〈2000ブラック〉の曲以外ではどんなものをプレイしていますか? また最近のお気に入りのアーティストや好きな音楽にはどんなものがありますか?

ディーゴ:ここのところは1970年代や1980年代の古いレコードをたくさん買っているね。ジャズにソウルやファンクとか。今日もインタヴューの前にレコード屋に行って、7インチをいろいろ買ってきたところさ。DJではそういったレコードをかけるわけだけど、特にいま現在のお気に入りのアーティストは思いつかなくて、ひとりのアーティストでも曲によって好きだったり、そうでなかったりする。これまでの俺のキャリア全体では、マッドリブやジョシュ・ミラン、ルイ・ヴェガがフェイヴァリッツ・アーティストだと言えるかな。彼らの作るサウンドは素晴らしいし、そのプロダクションはいつも興味深いものだよ。いまの若いアーティストたちは、どうも俺からすると自分のサウンドを磨いたり、進歩させたりすることに時間や労力をあまり割いているとは思えないんだ。でも、中にはいいアーティストもいるかもしれないから、これからもいろいろと聴いていきたいとは思うけどね。

古いレコードだと、昔はロイ・エアーズとかマイゼル・ブラザーズのレコードとかをよくプレイしていたと思いますが、最近はどんなものを掘っていますか?

ディーゴ:いいレコードならなんでも買っているけど、ここ2年くらいはゴスペルにハマっているかな。

いま住んでいるのはロンドン市内でしたっけ? 最近は日本でもサウス・ロンドンのジャズ・シーンが注目を集めたりしていますが、あなたから見てロンドンのシーンはどんな感じでしょうか?

ディーゴ:俺はウェスト・ロンドンだけど、じつはサウス・ロンドンのことは好きじゃないんだ(笑)。まあ、個人的にサウス・ロンドンにはあまりいい思い出がないからなんだけど(笑)、音楽的にはいろいろと注目されていることはよく知っている。でも、メデイィアはサウス・ロンドンと括っていたりするけど、実際にはイーストに住んでいたり、ノース出身者がいたりするんだ。いまのサウス・ロンドンのジャズ・ムーヴメントに一役買っている〈ジャズ・リフレッシュド〉も、もともとウェスト・ロンドンでやってたパーティーからスタートしているからね。だから、サウス・ロンドンと限定するんじゃなくて、大きくロンドンとして見るべきだね。

そうした中で面白いと感じるアーティストはいますか?

ディーゴ:アシュリー・ヘンリーヌバイア・ガルシアココロコ、ユナイテッド・ヴァイブレーションズのウェイン・フランシスとユセフ・デイズ、ジュニア、エディ・ナッシュ、オマネとかかな。

逆にカマール・ウィリアムズとかテンダーロニアスとかは、あなたから大きな影響を受けているんじゃないかなと思うのですが。

ディーゴ:う~ん、そうかい? 俺はよくわかんないね(笑)。俺は自分は自分、人は人という考えだから、誰かの影響とかをあまり気にすることはないんだ。実際DJよりも制作活動がメインだから、人のレコードをあまりチェックする時間もないし。だから逆に俺が誰かに影響を与えたとか、そんなことは思ったりしないね。

ロンドンでは次々と新しいアーティスト、若い人たちが出てきていますが、一方であなたやカイディのようなヴェテランも息の長い活動をおこなっています。カイディ以外にも昔の仲間とセッションしたりすることはありますか? たとえばマーク・マックとかダズ・アイ・キューとか。

ディーゴ:いや、いま一緒にやっているのはカイディ、アクワシ、マットの3人だけで、ほかとは一切やっていない。マークもダズも全然やっていないね。

じゃあ、マークとの4ヒーローも今後の活動予定はないと?

ディーゴ:残念だけどないね(笑)。

そうですか……(笑)。いま4ヒーローの名前を出したのは、『パラレル・ユニヴァース』が今年でリリースから25周年を迎えたので、その話を訊こうかなと思ったからです。このアルバムについて何か思い出とか、当時のエピソードとかありますか?

ディーゴ:25周年? そうかい、知らなかったよ(笑)。うん、いいアルバムだったね(笑)。でも、それだけさ。正直なところ、当時の俺にはまだ未熟なところがあって、いまはプロデューサーとしてもっと成長している。だから確実にいまのサウンドの方が優れていると言える。あの当時の俺や4ヒーローを知っていて、いまもドラムンベースの曲を作ったりリミックスしてくれと頼むプロデューサーやレーベル関係者がいたりするけど、いまの俺はもう違うんだ。俺にとってはいまとこれからも成長していくことが大事で、過去を振り返って懐かしむ暇はないんだ。

なるほど、では最後に今後の活動や展望について教えてください。

ディーゴ:〈2000ブラック〉としては、カイディの新しい12インチがこれから後にすぐ出る予定だ。『トゥー・マッチ』に参加してくれたサミーのソロEPも出るし、テイサン、メンサー、ロード&ランクスのライヴ・アルバムも来年頭に出す予定だ。これは10年ほど前のスタジオ・ライヴ音源だよ。俺個人としてはシングルやEPの予定がいくつかあって、〈ネロリ〉からリリースすると思う。それとディーゴ&カイディでも新作をやると思うよ。

BS0 - ele-king

 ブリストルのサウンドとスピリットを伝えてきたBS0が、彼の地からサム・ビンガとライダー・シャフィークを迎え2年ぶりに開催。これにあわせ、2人は名古屋/金沢/東京/高知/沖縄/大阪を巡るツアーを敢行する。

 サム・ビンガとライダー・シャフィークは、一緒にそして個別に、現在の英国アンダーグラウンドで非常に重要な存在となっている。〈クリティカル・ミュージック〉での爆発的なダンスホール・コラボレーションで知られる2人のアーティストは、2012年以来さまざまなスタイルとテンポで共同作業を行っており、ロンドン〈ファブリック〉からクロアチア〈アウトルック〉まで、そして遠く離れたニュージーランド〈ノーザン・ベース〉で、共同のサウンドを獲得。

 サム・ビンガは、プロデューサーとしてヒューストンの伝説的なポール・ウォールとの「オール・キャップ」のダーティなサウス・ヒップホップから、ブリストルのカルトなレーベル〈ホットライン・レコーディングス〉でのマーカス・ヴィジョナリーとのUKファンキーのコラボレーションまで、多種多様なスタイルとサウンドを制作してきた。ロディガン、トドラT、DJターゲットなどのDJによる定期的なラジオ・プレイによって、DJとしての彼に対する世界的な需要も高まっており、南アメリカから中国まで、そしてその間のあらゆるところでヘッドライン・ショーが開催されている。

 ベースビンとダブプレートの世界を超えて、ライダー・シャフィークは、スポークンワードや、英国でさまざまな背景を持つ黒人として育った彼自身の人生経験を検証するパフォーマンス「アイ・デンティティ」など、幅広く豊かな表現で知名度を上げている。写真家と協力し、彼自身が根付いているコミュニティとの自然なつながりを活かし、ライダーはブラック・ブリティッシュ・ヘアスタイルの美しさ、多様性、繊細さ、およびそれらの自己アイデンティティとの関係を記録することを目的とした写真展「ロックス」も進行中。また、サム・ビンガがエンジニアリングとプロダクションで関わるポッドキャスト「i-MC」では、英国およびその他の国のMCやヴォーカリストとのインタヴューを行い、彼らの人生経験とそれらが音楽にどのように影響したかについて話し合っている。

 BS0プロジェクトとのコラボレーションによる今回の日本への初ツアーは、英国のサウンドシステム文化の音の伝統に根ざした幅広いサウンドとスタイルが導くことだろう。

Osunlade - ele-king

 プロデューサーであり、ミュージシャンであり、レーベル〈Yoruba〉の主宰者でもあるオスンラデが2年ぶりの来日を果たす。セントルイス出身のこのスピリチュアル・ハウスのヴェテランは、きっと最高にソウルフルでディープな一夜を演出してくれるにちがいない。11月9日は VENT へ。

ハウス界のメシア。
魂を揺さぶるディープ・ハウスの最高峰、 Osunlade

大人気のレーベル〈Yoruba Records〉を率い、アメリカのディープ・ハウス・シーンの最高峰に君臨する OsunladeOfficial が11月9日のVENTに初登場! 存在そのものがアートとも言える重鎮による2年ぶりとなる超待望の来日公演が決定!!

Osunlade ほど多彩なアーティストもなかなかいないだろう。ブラック・ミュージックの代表格であるブルースやジャズが生まれたセントルイスに生まれ育ち、幼少の頃から作曲に興味を持っていたという。17歳でハリウッドへ渡り、プロデューサーとしての才能を開花させてからは、メジャー・レーベルのもとで多くのヒット作を手掛けてきた。

やがてメジャーの音楽スタイルでの音楽制作は自分の音楽への情熱を弱めてしまうと感じ、一念発起してアーティストの道を選択。1999年に〈Yoruba Records〉を設立したのだ。一切の妥協がないディープでソウルフルな作品をコンスタントにリリースすることで Theo Parrish や Dixon をはじめ多くのトップDJたちにサポートされると、レーベルとともに Osunlade はアーティストとしても広く認知され、「ハウス界のメシア」と評されるようになった。

Osunlade の魂を反映したアフロ、スピリチュアル、ソウルフルなディープ・ハウス作品と、彼の繰り出す壮大なDJセットは、オーディエンスのエネルギーとヴァイブスと混ざり合いマジカルな一夜を創り上げるだろう!

- Osunlade -
DATE : 11/09 (SAT)
OPEN : 23:00
DOOR : ¥3,500 / FB discount : ¥3,000
ADVANCED TICKET : ¥2,500
https://jp.residentadvisor.net/events/1317046

=ROOM1=
Osunlade
Motoki a.k.a. Shame (Lose Yourself)
KITKUT (ON and ON)
Atsu (東風 / 三楽)

=ROOM2=
A.M.A. (ON and ON)
Tonydot (TANGLE)
KenNYstyle
Yuri Nagahori
Cozzy
MOMO.

VENT:https://vent-tokyo.net/schedule/osunlade/
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※ VENT では、20歳未満の方や、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂いております。ご来場の際は、必ず写真付身分証明書をお持ち下さいます様、宜しくお願い致します。尚、サンダル類でのご入場はお断りさせていただきます。予めご了承下さい。
※ Must be 20 or over with Photo ID to enter. Also, sandals are not accepted in any case. Thank you for your cooperation.

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■プロフィール

Osunlade はアートそのものを擬人化したかのような存在だ。彼の音楽は、調和、人生、知性が融合されたメロディーを作り出す。彼の出身はブルースやラグタイム、ジャズなどが生まれたミズーリ州のセントルイスだった。7歳でピアノに運命的に出会った。12歳の頃までには作曲に興味を持っていたという。その後に地元でバンドを結成し、いくつかの楽器も習い、作品に磨きをかけるために学んでいた。

17歳のときの1988年に初めてプロとしてハリウッドへ旅行した。コリオグラファーでパフォーマーでもある Toni “Mickey” Basil にすぐに目をかけられ、セサミ・ストリートなど子供向けテレビ番組を含むいくつかのプロジェクトの音楽担当を任された。彼女の後押しもありロサンゼルスへ移住し、その後の壮大な楽曲制作のキャリアが始まったのだ。数年後に初めてプロデュースしたアルバム作品は、当時はまだインディーだった〈Intersope〉からのものだった。Gerardo というアーティストの作品で、今では友人であり、彼は俳優、ダンサーとしても活躍している。“Rico Suave”というラテン・ポップ初期作とも言えるキャッチーなフレーズの曲を制作した。GQerardo は素晴らしい機会を得た直後に、数作のプラチナ・アルバムと4枚のゴールド・シングルをリリースしている。

その後数年間で20作を超える作品に関わってきたが、Osunlade は音楽ビジネスを学ぶことは、自分の音楽への情熱を弱めてしまうのではないかと考えるようになった。マス向けで供給から成り立つものの元で働くのはやめようと決意したのだ。精神的な癒やしを求め、自分の魂に誇りを持つことを望んでいると、Ifa を知ることになった。それはアフリカのヨルバ民族やアメリカの奴隷達から伝わった自然を元にするの文化的/宗教的な占いのようなものだ。

1999年に Osunlade は夢を叶えるために動き出した。〈Yoruba Records〉を立ち上げたのだ。世界で最も重要なレーベルのひとつと認識されており、魂を昇華させる音楽を作り出している。

レーベルが成長していくと Osunlade の人気も高まっていった。2001年にはデビュー・アルバム『Paradigm』を人気の〈Soul Jazz Records〉 label からリリースした。このアルバムはその年の最も売れたハウス・アルバムの1枚となり、彼は「ハウス界のメシア」と評されるようになった。多くのDJが彼の音楽をサポートし、今ではより多くの人々に聴かれるようになりついには、ミュージシャンであり、コンポーザーであり、プロデューサーであり、そしてアーティストとして認知されたのだ。

DJセット、リミックス、アルバムそして数枚のミックスCDをリリースし Osunlade の唯一無二のクオリティの作品は常に高い評判を得ている。

Osunlade の率いる〈Yoruba Records〉は1999年の最初のリリース以来ダンス・ミュージック・シーンを牽引している。Ifa の教えのもとに立ち上げ、ディープ・ハウスからソウルフルなハウスまで幅広い作品をリリースしてきた。常に素晴らしい作品を心がけ一切の妥協がない。ダンスは昔から重要なものであり、ジャズやソウル、オルタナなエレクトロニックも作品を手掛けてきた。シンプルに良い音楽の事を考え続け、〈Yoruba〉は時代の変化を乗り越えてきた。様々なスタイルのアーティストの作品をリリースしてきた。コンセプトとして精神的な結びつきを最も重要視している。エネルギーとヴァイブスに導かれて、それぞれのアーティストが情熱に従ってクラシックだが誠実な、魂を反映するかのような作品を作り続けている。300を超える作品をリリースし、人々の中にある境界線を広げようとしているのだ

Ana Roxanne - ele-king

 アナ・ロクサーヌはサンフランシスコ出身のアジア系のニューエイジ音楽家だ。アナの生みだすドローン音楽には、北インドの古典音楽のヒンドゥスターニ音楽の響きがあり、同時に西カトリックの聖歌隊のような響きもある。西欧のクラシックとアジア音楽のエッセンスがアンビエントやアナの声やドローンの中に溶け合っている。アナの出自も大きく関係しているかもしれない。

 移民の両親によって育てられアナは、ジャズ、クラシック、合唱音楽を学び、その神聖さを知った。2013年、インドのアターカンドで過ごしたとき、アナは人生を左右するほどに重要な声/歌の教師に出会い、共に生活し、勉強をした。彼女はアナに古典的なヒンドゥスターニの歌を教えた。この体験はカリフォルニア州オークランドにある実験的なミルズカレッジで音楽研究を終了することになる大きなきっかけになった。2018年、アナは自身がインターセックスであるということも公表した。自身の性別とアイデンティティの探求が、アナの音楽には深く込められている。その意味で近年流行のニューエイジのリヴァイヴァルのような「見捨てられた20世紀音楽の再発見」のようなコンテクストからアナの音楽は遠く離れている。正式な音楽教育、民族性が混じり合う歴史を背景とした複雑な出自、自身の性別に関するアイデンティティの探究から社会正義への問題に至るという複雑な文脈を内包しているのだ。加えて母親のCDコレクションであった80年代/90年代のR&Bからも影響を受けているという。

 そうした状況から生まれたアナの音楽は攻撃性からは遠いものである。2019年に〈Leaving Records〉からリリースされたファーストアルバム『~~~』を聴けば、即座に分かる。たしかに辛い現世だ。不平等と差別に満ちている。しかしそこにある幸福を慈しみ、希求するような感覚も重要であり、それも音楽の力ではないか……。そんなことを思わせるような安らかなアンビエント/ドローンなのだ。現世を慈しみつつも、同時にこの世ではない天国を目指すような、ふたつの感覚が共存している。生命と臨死体験を経由したような音響とでもいうべきか。あらゆるカテゴライズを拒みつつも、自由に、端正に、静かに語りかけるような極めて独創的な新世代ニューエイジ、アンビエント音楽である。

 『~~~』は、まずカセットで発売され、即座に売り切れた。次いでレコードもリリースされた。マスタリングはマシューデイヴィッドがストーンズ・スロウ・スジタオでおこなった。ニューエイジとヒップホップ・カルチャーとの結びつきも感じられて興味深い。『~~~』には全6曲が収録されている。どの曲も声、電子音、環境音などが安らぎの中で交錯し、聴き手の心と体に深いところに「効く」アンビエント/ドローン音楽に仕上がっている。インド音楽と聖歌隊の音楽が交錯するような美麗な M1 “Immortality”と M4 “Nocturne”、ミニマルな電子音と声と持続音がミックスされる M2 “Slowness”、M5 “I'm Every Sparkly Woman”、ノイズが雨のように空間に満ちていく M3 “It's A Rainy Day On The Cosmic Shore”を経て、最終曲 M6 の“In A Small Valley”に至るとき、そこから聴こえてくるのは幸福な記憶のような話声や笑い声だ。人の真の安らぎとは何かと思わずにはいられない。

 「ジェンダー/とアイディンティティ」というテーマを持ったこのアルバムが希求するのは、互いの差異を認め、平等に、人と人が語り合い、笑うような世界かもしれない。そう考えると「天国」は意外とこの世界にも「ある」。本作の柔らかく、空気のような透明なアンビンスを浴びていると、思わずそんなことを考えてしまった。

Ronin Arkestra - ele-king

 ロウニン・アーケストラはマーク・ド・クライヴ=ロウを中心としたジャズ・バンドで、名前の由来は武士の浪人とサン・ラーが楽団(オーケストラ)を呼ぶときに用いたアーケストラである。とにかく今年のマークは精力的に活動していて、年初に5年ぶりのソロ・アルバム『ヘリテージ』とその第2集をリリースし、ドワイト・トリブルの『マザーシップ』でも中心となってピアノを演奏していた。最近も自身が主宰するイベントの「チャーチ」9周年を記念して、カマウ・ダウード、ジョン・ロビンソン、トマッソ・カッペラート、マイエレ・マンザンザらとのセッション集をリリースしたが、そうした中でロウニン・アーケストラは近年のマークがもっとも熱心に取り組むプロジェクトである。
 このバンドはマーク以外は全て日本人で構成されていて、そもそもマークもニュージーランド人と日本人のハーフなので、そうした日本人としてのルーツに向き合ったプロジェクトである。そうした点で日本の音楽を大きく取り入れた『ヘリテージ』にも繋がるものであり、発展形とも言えるだろう。『ヘリテージ』の制作については、2017年におこなった「未来の歴史」というイベントが元となり、そこでは琴、和太鼓、篠笛などの奏者やシンゴ・02を交えたパフォーマンスをおこなっている。そして、『ヘリテージ』では尺八や篠笛に通じる木管楽器演奏を用いて、“赤とんぼ”はじめ日本の童謡などをジャズ・アレンジで演奏していた。そうしたところからロウニン・アーケストラのインスピレーションが生まれたと思われる。

 マークは昔から年に何度か日本を訪れて、長いときは数か月に渡って滞在し、演奏活動を繰り広げてきた。『ヘリテージ』制作の際も、奈良で尺八奏者の薮内洋介とワークショップやライヴをおこない、そのときに作曲した楽曲も収められていた。ロウニン・アーケストラはそうした日本滞在中に、日頃からよくセッションする同世代のミュージシャンが集まったプロジェクトである。レッド・ブル・スタジオ・東京でおこなわれた初録音は今年の初夏にミニ・アルバムの『ファースト・ミーティング』として発表され、そこでは『ヘリテージ』で演奏された曲やコルトレーンの“至上の愛”のカヴァーもやっていた。それから数か月を経て、今回ファースト・アルバムの『ソンケイ(尊敬)』がリリースされた。
 『ファースト・ミーティング』のときと一部参加メンバーの変更があり、今回のラインナップはマーク・ド・クライヴ=ロウ(ピアノ、キーボード、エレクトロニクス、エフェクト)以下、ウォンクの荒田洸(ドラムス)、クロマニヨンのコスガツヨシ(ギター)、元スリープ・ウォーカーの藤井伸昭(ドラムス)、菊池成孔のデート・コース・ペンタゴン・ロイヤル・ガーデンなどに参加してきた類家心平(トランペット)、ウォンクのサポート・メンバーであるメルロウこと安藤康平(アルト・サックス)、キョウト・ジャズ・マッシヴなどに参加するルート・ソウルこと池田憲一(ベース)、ルーティン・ジャズ・セクステットなどで演奏してきた浜崎航(テナー・サックス、フルート)、テイラー・マクファーリン、リチャード・スペイヴン、カート・ローゼンウィンケルらと共演してきた石若駿(ドラムス)、DJ/プロデューサーのソース・81(エフェクト)となっている。

 日本と繋がりのあるふたつのプロジェクトだが、『ヘリテージ』がアコースティックなピアノ演奏に和楽器風の木管楽器、日本の古典音楽を題材としたメロディなどがふんだんに用いられていたのに対し、『ソンケイ』は部分部分で和風の意匠を用いながらも、それにいたずらに頼ったり、ことさら強調することはない。むしろ現在のアメリカやイギリスの新しいジャズに呼応し、その中で和的なモチーフや音色を融合していくエレクトリック・ジャズ・アルバムとなっている。“オンコチシン(温故知新)”に見られるように、ロウニン・アーケストラの持ち味のひとつはリズム・セクションの現代性にあり、荒田洸、石若駿という現在の日本の若手ドラマーの中でもワールド・クラスの感性と技術を持つふたりが、ロウニン・アーケストラの大きな鍵となっていることを物語る。
 マークの演奏はエレクトリック・ピアノやシンセが中心で、“エレジー・オブ・エントラップメント”におけるコズミックな飛翔感と後半のヒップホップ・ビートへの転換などは、LAビート・シーンにも繋がるマークらしさの表れと言える。スリリングなドラム演奏が繰り広げられる“テンペスチュアス・テンパーラメンツ”も、フライング・ロータスや〈ブレインフィーダー〉的なジャズと言えるだろう。“ジ・アート・オブ・アルターケイション”はジャズ・ロックやフュージョン、AOR的な要素が融合した作品で、サンダーキャットからジョー・アーモン・ジョーンズなどの作品と地続きで聴くことができる。“コズミック・コリジョンズ”に代表されるように、スペイシーなモチーフがアルバム全体に散りばめられていて、それがスピリチュアルなムードを生んでいる。鳥の囀りのエフェクトを交えた“サークル・オブ・トランスミグレイション”でのピースフルで牧歌的な風景は、カマシ・ワシントンの世界観にも通じるところがある。“フォーリン・エンジェル”での重厚なホーン・アンサンブルにもカマシの影響が見て取れるが、マークはカマシとも日頃からよくセッションしているし、またいまの日本のジャズ・ミュージシャンにもカマシの影響力は多大なので、その演奏には何かしら共鳴するものが生まれてくるのだろう。和ジャズという括りではなく、カマシはじめ現在のLAジャズ、NYジャズ、ロンドン~UKジャズなどと同じ土俵で語られるべき作品だ。


Gr◯un土 - ele-king

 大阪の音楽シーンには得体の知れないモノを生む出す力がある。ことクラブ・カルチャーにおいては90年代初頭からそれはずっとあったし、いまも失ってはいないようだ。
 大阪らしさのひとつには、ボアダムス的な折衷主義がある。思いも寄らないものが同じ宇宙で渦巻くようなアレである。Gr◯un土(グランド)にもそうした大阪らしさを感じる。彼の音楽は、ハウス・ミュージックを基調にしながら、今福龍太のクレオール主義よろしく世界のいろんな文化がパッチワークされる。じっさい彼が音楽を作るのは移動中=旅先なのである。南米や欧州やアジアや、それぞれのとある街で作られた彼の音楽には、日本には欠落しているのであろうなにか(文化)が注入されている。ゆえにその響きは、感性を拡張させる。
 昨年リリースされたアルバム『Sunizm』がひとつのきっかけになって、じょじょにではあるが、彼のスロー・ハウスの魔力により広く注目が集まりはじめている。とはいえGr◯un土(グランド)は、すでに10年以上のキャリアを持っているので、もうベテランと言ってもいいかもしれない。なんにせよ、ぼくはようやくこの天性の旅人と話すことができた。

自分が影響を受けたDJは京都のMamezukaさん、Sinkichiさん、Daichiさん、大阪だとマスモト・アツコさん、Dr Masher。YA△MAさんにダビーなハウスを教えてもらったり、Akio Nagase君からもダブとエレクトロニクスが融合してる感じのをたくさん教えてもらいました。

DJをはじめたのは何年?

G:クラブで働きはじめたのが19歳くらいのときでそのタイミングです。

大阪のクラブ?

G:大阪のfireflyというクラブです。東心斎橋というエリアに、fireflyという小さいクラブがあって。

15年とか17年くらい前の話?

G:はい。

じゃあ2000年代頭?

G:はい。

2000年代初頭の大阪には何があったんですか?

G:たくさんあったと思いますが、ひとつはMamezukaさんがオーガナイズしていたJAMs、あとはお店の先輩Dr.Masherがオーガナイズするアンビエントを主体にしたClearというイベント、単純に自分が働いていたお店でやっているパーティからの影響が強かったと思います。大阪・味園ビルの一角に週末だけオープンするクラブ『鶴の間』や京都の『活力屋』など、自分はFireflyで働いていたので、なかなか週末抜けるのは難しく、仕事が終わってから、先輩や同僚と鶴の間やMACAOに遊びに行ったりもしました。でも、なかなか他の箱に遊びにいくのは難しかったりしましたけど。

ALTZ君とか?

G:ALTZさんの名前はもちろん知っていました。ベータランドというVJユニットだったり、YA△MAさん。FLOWER OF LIFEに遊びに行ったりもしました。毎回参加はしていませんが、EYEさんが17時間? 18時間?セットをMACAOでやってたのはいまでも記憶に残っています。「凄いな〜」って。

じゃあ、影響を受けたDJも?

G:自分が影響を受けたDJは京都のMamezukaさん、Sinkichiさん、Daichiさん、大阪だとマスモト・アツコさん、Dr Masher。もともとFireFlyで働くきっかけを作ってくれた服屋の方がFireFlyでダブのイベントをやっていたので、初めはニュー・ルーツ、ON-U関連とか、そこからNew Tone RecordsでYA△MAさんにダビーなハウスを教えてもらったりして。あ、こういうのもかっこいいなって。YA△MAさんは本当にいろいろ好みな音を教えてくれましたね。他にもAkio Nagase君からもいろいろなUKのムーディー・ボーイズとかダブとエレクトロニクスが融合してる感じのアーティストをたくさん教えてもらいました。

そこから自分でもDJをはじめたの?

G:はい。働いているクラブでイベントをオーガナイズしながら。自分でオーガナイズをすると、自分でもDJをする時間ができるので、そこからはじめました。

最初からグラウンドという名義だったんですか?

G:はい。Groundです。10年経ったときに土をつけたんですよ。Оをでっかくして、グラウンドのDを土にして(Gr◯un土)、10年目だし進化させて変えていこうと(笑)。

いまはでも普通の表記だよね。

G:いまは。この前〈ESP institute〉というレーベルからアルバムを出したんですけど、あのときに名義が英語じゃないとややこしいからというレーベル側とのやりとりがあったんです。ならGroundにしようって。DJ Ground名義でもいろいろ出していますが。いまでも日本でDJする時はGr◯un土って表記して貰ったりしてますが。

〈Chill Mountain〉というのは?

G:〈Chill Mountain〉は2005年大阪・南河内でスタートした野外のキャンプ・イベントの名前で、5年前に野外での活動はストップしたんですが。その後もコレクティブとして各自メンバーは活動しています。自分は大阪のエンジニアKabamixさんの協力もあって、Chill Mountain Recという名でレーベルを運営したり、オリジナルメンバーにDJ のTOSSYとKAZUSHI、ギタリストのCHILLRERU(現在は陶芸家の松葉勇輝)、デコレーションを担当するm◎m◎、BARBA(現在 ウッドワーカー)、デザインやSILKSCREEN PRINT(SILK LOAD)をしているMT.CHILLs。いま現在も各自、形は変われど表現者として活動しているので、タイミングでまた集まって開催したいなとも思ってもいます。

いつから曲を作りはじめたんですか? 

G:25歳とか。11年前くらいですかね。はじめはDJだけでした。働くクラブが変わって。もともと東京で〈SOUND CHANNEL〉というレーベルをやっていたTAIYOさんが、大阪、難波、味園に『鶴の間』をオープンさせて、その移転後、大阪、大正(SOUND CHANNEL)をオープンさせて、僕自身もそこで併設されてたレコ屋でAkio Nagase君のMake dub recordsを手伝いながらSOUND CHANNELで働いていました。
Taiyoさんに手伝わせて下さいって言ったのを今でも覚えています。その時にじゃあAKIOの店を手伝えよって。
いままでのオーナーはザ・オーナーという感じだったんですけど、そのクルーは自分たちでも曲を作っていて。何をやっていきたいのかをTAIYOさんに訊かれたときに、「DJで食べていきたいです」と言ったら「じゃあ曲を作らなくちゃだめだよ」って。初めてパソコンで曲を作るやり方を見せてくれたのもTAIYOさんでした。機材が無いと作れないと思っていた自分に、「MAC BOOKに元から入っているGarage Bandっていうソフトでもできるよ、初めはそこからやってみ」、と。仕事明けに横に座って付き合ってくれたのをいまでも覚えています。ヨシオ君(Dollop)も丁寧に教えてくれましたね。みなさんもうそんなこと忘れていると思いますが……。

ファースト・アルバムは2015年の『Vodunizm』?

G:はい。それまではミックスCDだったり、1曲だけコンピに提供したりしていました。2008年(『Sync』)がたぶんいちばんはじめです。

どういうコンピレーションだったの?

G:アンビエントとかブレイクビーツとか。〈Chill Mountain〉メンバーのTOSSYがO.Rとはじめたレーベルでしたね。

とにかく、ずっとアンダーグラウンドでやっていたんだ?

G:はい。オーヴァーグラウンドというものにまだ触れていません。触れる機会すらないですよ。あるんですかね? 触れる機会……。

自分の音楽性みたいなものの方向には、野外でパーティをやった影響が大きかった?

G:だと思います。

グローバル・ビートというか、エスニックな感性がグラウンド君の音楽の特徴だと思うけど、それはどこからきたの?

G:レコードを買っていくときに、無機質なものよりワールド・ミュージック・テイストなものがやっぱり好きで。どつぼやったのがオーブとか、レネゲイド・サウンドウェイヴとか、レーベルでいうと〈セルロイド〉とか。先輩がそういうのを教えてくれて。だからダブからはじまったんですよね。最初はジャマイカのダブを聴いていたんですけど、その後ダブっぽいベースラインのエレクトロニクスを好きになって。それでレネゲイド・サウンドウェイヴとかムーディ・ボ-イズとか知って。それで24歳くらいのときにイギリスに行きました。ユースさんとかアレックス・パターソンさんは実際どんな感じでやってんねやろみたいな(笑)。

会いに行ったんだ(笑)。すごいな。本人とは会った?

G:会いました。ホワイトチャペルっていうエリアに2ヶ月半くらい住んで、ユースさんがブリクストンのJammという箱でイベントしていて、通いました。もう成熟した大人の方々なので、「日本からこいつ好きで来たらしいで」みたいな感じでしたが。ただ、同世代の子がユースさんのパーティを手伝っていて、その子が興味を持ってくれて、仲良くなって。「DJやらしてもらえるように俺が言うから」ってその子が言ってくれたんですけど、しばらく住んでてヨーロッパの他の国に行ったんですけど再入国できず、結局イベントに参加できずDJできませんでした(笑)。フライヤーはいまも部屋に飾ってあります(笑)。ちょうど地下鉄テロが起きたときで、とくに厳しかったみたいですね。ドーバー海峡のトンネル経由のバスでドーバー海峡渡る前のイミグレーションで引っかかり、フランスからドーバー海峡渡れず、フランスに2週間くらいいました。

よく日本に帰ってこれたね(笑)。フランスでは何をしていたの? 

G:とりあえずパリに行って、ゲストハウス探して、荷物は全部イギリスにあったので、カバンひとつでって感じで。記憶が結構断片的というか。相当テンパってたんだと思います。泊まったゲストハウスの壁がベロンベロンに破れてたのが記憶に残ってるくらいですね(笑)。あと、大阪で過去に共演したDJの方と偶然の偶然に再会したり、みんなで地べたでサラダ作って食べたのとか覚えてますね。どこかでまた再会したいですね。パリから航空チケット買って名古屋空港経由で帰ってきました。

いきなりミックスマスター・モリスの家に行ったのも笑えるな。

G:日本人の友だちのYUKIさんという方の誕生日会をやっていて、行ったらフラットメイトがモリスさんで。レコードもたくさん持っていて、すごく優しい人でしたね。でも何年かあとに日本にモリスさんが来て、そのときのことを話したら覚えてなくて。いっしょにサン・ラーのヴィデオ見たのにって(笑)。ま、そんなもんですよね(笑)。

ALTZさんはバンドマンなので、ただのDJとは違って音楽的な部分もちゃんとあって。ああいうふうに歳をとれたらいいなぁって思いますね。みんなでバンドして楽しそうだなって(笑)。同級生の親友と見に行ったんですが、2人で見ながら、こういう風なの憧れるよなって。ALTZさんは天才です。

『Vodunizm』はどういう意味なの?

G:これは4年前に東京のDJの7eちゃんが「Voodoohop(ヴードゥーホップ)のトーマッシュというプロデューサーが来日するんだけど、絶対合うよ!」って紹介してくれて、大阪で彼をゲストに〈Chill Mountain〉コレクティブでパーティしたんですけど、そのときに。2歳かな?  僕の年上なんですけど、話をきいたら世界中を飛び回っていて。すごくおもしろいコレクティブで。世界には同世代にこういう子らがおるんかと思いました。で何故かヴォダンとかブードゥとかアフリカ発祥のいろんな文化も興味が出て調べたりして。精霊のこととか、すごくおもしろいなと思って。それでヴォダンにニズムを付けて「Vodunizm」。造語を作るのが好きなんですよ。精霊別のイメージで曲作ったりして。
トーマッシュに、どうやったらそんな風に海外を回れるのと訊いたとき、サウンドクラウドに曲をアップして良かったら連絡がくるよみたいな感じで教えてくれて。とりあえず曲ができる度にひたすらSOUND CLOUDにアップしていた時期があるんですよ。そのときにいろんな方面から連絡がきまして。そっから海外からのリリースや海外でのDJ活動もはじまりましたね。3年前にはじめてドイツ、ケルンとか、ヨーロッパに行きました。その前に韓国に行ったこととかはあったんですけど、ヨーロッパはそのときがはじめてでした。去年はメキシコ、チリ、ブラジルに行ったり。

中南米ツアーだね。それはどういう繋がりなの?

G:Voodoohopにフローレンスさんというフランス人の美しく敏腕な女性がいるんですけど、その人が全部繋いでいってくれて。ここでできるから、もう話しているからと進めてくれて。その人がチケットとかも用意してくれたり。泊まるところを提供してくれたり。本当に感謝しています。

行く先々で曲を作っているみたいだけど。

G:はい。

それはPCで?

G:いまも持っているんですけど、ラップトップだけで。あとは一応レコーダーみたいなものも持っています。それで録ったものを取り込んだり。

じゃあ誰か人の家で作るの?

G:そうですね。いちばん多いのはプロデューサーの家に行って一緒に作ろうって。あとはどこでも。アパートの階段で作ったりもしますよ(笑)。

そうやって作ったものが去年出たアルバム(『Sunizm』)?

G:これはレコードが出たのは去年ですけど、曲自体は2016年にできたものなんですよ。

これ、とくに1曲目、2曲目が最高にかっこいいです。

G:ありがとうございます。“Osaka Native”というのは、大阪ごちゃまぜで、あんまりポリシーみたいなものを持っていないというか。アフリカの音楽だけでとか南米の音楽だけでとか、僕の頭のなかではそれがごちゃまぜになって、地球民族音楽みたいな。(笑)。おもしろいところを組み合わせたらおもしろいんちゃうかなみたいな。そういうところが根本なので。“Osaka Native”も大阪ネイティヴと言っているんですけど、いろんなところの、日本民謡とかも混ぜていたりとか。結局自分は大阪人なんで。笑えてなんぼなんですよ。

なるほどね。全然大阪ネイティヴじゃないね。

G:人によってそう感じるかもしれませんが、これは自分にとっては“Osaka Native”なんですよね(笑 )。ごちゃっとした感じというかいろいろ混ざってるというか。かっこいいと感じでもらえてたら自分的には何でもいいです(笑)。

大阪の人ってそういう感覚があるよね。ボアダムスもそうだったし、いろんなものをいろんなところから持ってくる独特の雑食性。しかも、わけのわからない、脈絡のないものを持ってくるみたいなところがあるよね。

G:発想力が重要なんじゃないでしょうか? 面白さというか、人が思いつかないようなもの。とか。そういうことが沁みつきすぎていて、それが自分の色になっているんかなみたいな。これとこれは絶対やらんやろとか。そんなことばっかり。これとこれを混ぜたらめっちゃおもろいねんけどみたいな。コピーみたいなものを自分は全然面白いと思わないので。

今年出たアルバムの『Cashoeiracid』。これはいつの録音なの?

G:これは去年の音源です。去年、ヨーロッパと南米で。

大阪にいるときは作らないんだ(笑)。

G:作らないわけではないんですが、最近は海外で作ってきた作品を、大阪にあるKabamix氏のLMDスタジオでミックスを教えてもらいながら作業したり、海外で作ったものを作品として仕上げる、のに一杯一杯な所もあります。で出来上がったらリリースして次の国へ、みたいな感じです。

旅しているときに作るんだね。おもしろいね〜。

G:ずっと住んでいる場所は安心はするんですけど。初めての場所にいると全てが違うので、なんていうかゾーンに入りやすいんですよね。作りたいというスイッチが絶えず入っていて。ずっと作っています。観光いかんでいいんかとか、みんなに言われますけど(笑)。今年行ったエクアドルもけっきょく全然観光していない。ずっとPablo君(Shamanic Catharsis)とJuan diego Illescas君のスタジオで曲を作っていましたね。あ、何箇所かは行きましたよ!

グランド君の音楽のベースにあるのはハウス・ミュージックだと思うんだけど、ハウスはどこに行っても通用する?

G:難しい質問ですが。通用するとこ通用しないところいろいろあるんではないかと思います。サンフランシスコやカナダのバンクーバーの野外フェスに行ってきましたが、主流はベース・ミュージックなんだと思いましたし。世界のいまのシーンはテクノの人が多いかなと感じることはありますが。それはRAが主体な(これが世界のクラブ・ミュージックの中心)的な風潮なんじゃないでしょうか、この地球は本当に広いので、そういう媒体に取り上げられていないシーンもたくさんあると思います。そういうシーンをもっと知りたいなって。自分の目で耳で見たものが自分にとってはリアルなんで。媒体に取り上げられてない素晴らしい天才達を自分は知っているので。
インターネットが地球上に普及しているので。そういう媒体からみんなこういうのがいまの主流と錯覚して拾ってきている感じがしますね。以前だと雑誌から情報を得ていたと思うので。ただそれは全て日本人が日本人用に作ったもので、あって、という感じですね。日本で異常に人気がある海外アーティストがヨーロッパの同世代のなかでは全然知られてないっていうのもたくさんありますね。誰それ? みたいな。

すごいね。スケールがデカいなぁ。

G:10数年前に比べると自分たちの世代はめっちゃ恵まれていると思っているんですよ。インターネットにしても、海外に行くにしても、昔は本当に大変だったんだろうなと感じます。google翻訳やgoogle mapもあるし、情報を調べればなんでも出て来る。十数年前は海外の現場とかまで行くにしろ、その現地の言葉で運転手に伝えて、行くわけじゃないですか、騙されたりたくさんあったと思います。いまは最悪どうしようもなければアプリのUberに目的地入れてそこまでの料金が出てドライバーが迎えに来てそのまま現場に行けるので、騙されることもだいぶ減っていると思うんです。料金も出ているし、そのドライバーは騙したら自分のポイントも下がるので。そういう意味でもテクノロジーが発達したことによって海外でもDJは動きやすくなっているんじゃないかなと思います。自分はマネージャーもいないので、そう感じます。マネージャーがいるDJの方々はまた違うと思いますが。音源のデモテープとかもいまはメール1本で1秒後には地球の裏まで届くわけじゃないですか。なんで昔の方に比べると本当に時代が変わったんだと思います。あ、あくまで自分の場合は、ですよ。

新しいアルバムはいつでるの?

G:8月にエクアドルで作ったEPが自分たちのレーベル〈Chill Mountain Rec〉からリリースされます。いままではずっと〈Chill Mountain Rec〉という自分らの媒体でリリースもやってきているんですけど、僕はほんまにプロモーション能力もひく過ぎて。

これからもっと売れるますよ! ところでALTZ君とか元気ですか?

G:この前会いました。Kabamix氏がP.Aで所属しているALTZ.Pというバンドのリリース・パーティで豊橋まで見に行ってきました。ALTZさんの歌のパートも増えていて、ボコーダーで。めっちゃかっこよかったです。もともとALTZさんはバンドマンなので、ただのDJとは違って音楽的な部分もちゃんとあって。ああいうふうに歳をとれたらいいなぁって思いますね。みんなでバンドして楽しそうだなって(笑)。同級生の親友と見に行ったんですが、2人で見ながら、こういう風なの憧れるよなって。ALTZさんは天才です。

いまの大阪のシーンはどうなっているの?

G:一時期の壊滅期に比べると新しく発生しているクラブとかもあって。厳しい環境でも止めずにDJとして頑張ってシーンを作っている方もたくさん知っています。いま現場で残っている人たち筋金入りの本気な人たちだと思います、死ぬまでみんな活動するんだなと思います。いまは箱で働いているわけじゃないので、細かなシーンの様子は自分は把握していませんが。僕はいまレギュラーパーティを持っていないのでMamezukaさんとChariさんが主催する『奇奇怪怪』というパーティに定期的に参加させてもらっています。Mamezukaさんは京都で昔、Mashroomというクラブ作ったり、MEGA道楽というライヴや喜怒哀楽やJAMsというパーティをやっていたり、フジロックの前夜祭で毎年DJしていたり、活動、人間性、すごく影響を受けました。関西で豆さんの影響を受けた方々はたくさんいるんじゃないでしょうか。

あの人はすごい初期からがんばってるよね。同じ世代なのでね。昔からアンダーグラウンドでやっている。

G:自分にとって心のお父さんみたいな感じです。

でもマメちゃんは京都じゃなかった?

G:京都です。おもしろいパーティやってます。新しい音楽も取り入れていて。いまだに進化しています。なので、最新の音をやっていますね。クラシックに頼らず、進化する姿勢は本当に素晴らしいです。歳を取っても自分もそうありたいなと思います。ただ、マメさんはデータにはいかずに、自分の曲も絶対に「レコードで出んと俺はかけられへん」って。「マメさんめっちゃええ曲できたんですよ!」って。報告しても「ごめんな」って(笑)。レコードにならないとマメさんに使ってもらえないんで、そういう部分含めて自分にとって心の父なんです。簡単にはかけてもらえないという。
あ、でも、いちばん新しいのは「AMANOGAWA EP」というレコードなんです。ドイツの〈SVS〉というレーベルから最近出たやつで。Bartellowというドイツ人アーティストと僕が一緒にプロデュースしたやつで、彼の来日ツアー時にKabamix氏のLMDスタジオで作った曲で。
シンセサイザーにMAYUKoさん、ヴォーカルにArihiruaさんやMt.Chills、Kabamix氏も参加してくれています。BARTELLOW & DJ GROUNDという名義で出てます。それはマメさんに使って貰えるかもですね。笑

ミッドナイト・トラベラー - ele-king

 スマホだけで撮ったドキュメンタリー。実験的な映像が随所にインサートされ、洒脱な仕上がりに。そして、なによりもアブストラクトな音楽が素晴らしい(エンディングはシガー・ロスみたいだったけど……?)。登場人物は監督の家族だけで、いわばホームヴィデオ。ただし、一家はタリバーンから殺害命令が出され、アフガニスタンには住めなくなった映画監督と妻、そして2人の娘である。監督のハッサン・ファジリには若い頃に意気投合した親友がいた。そいつがまさかのタリバーンに加わっていたため、だったら、捕まっても助けてくれるだろうと高を括っていた。が、彼が撮った映画の主演俳優が殺され、お前も危ないと忠告を受けてファジリは国外に脱出する。彼がどれだけ慌てていたかは、脱出部分の映像が一切ないことでも容易に推し量れる。

 一家はまずタジキスタンに逃れた。この時点であっという間に難民である。世界に約7000万人にいるという難民のうち国外に出た難民は2500万人だとされ、これに4人が加わったことになる。タジキスタンは中国に接していることやコンドリーサ・ライスらの経営する石油会社があることから米軍がそれなりの兵力を置く駐屯地となっている。アメリカとタリバーンの関係を考えると、確かにタジキスタンに逃れたのは賢い選択だったかに見えたけれど、難民申請は受理されず、賄賂を要求された一家は再びアフガニスタンに戻り、そのまま国を反対側へと突き抜けてイランにたどり着く。イランやトルコは最初からスルーで、目的地はヨーロッパと定められている。イランは確かに映画監督の追放が相次ぎ、『人生タクシー』(15)のような作品は命がけで撮られたりしているけれど、アスガー・ファルハディのように高く評価されている監督もいるし、麻生久美子が主演した『ハーフェズ』のような作品もある。トルコもエルドアンによる独裁が進んでいるとはいえ、ヌリ・ビルゲ・ジェイランやデニズ・ガムゼ・エルギュヴェンはなんとかやっていると思うと、イランやトルコが選択肢に入っていないのはちょっと納得が行かなかった。理由は娘たちの教育のことを考えて合法的に移民できる国に落ち着きたいからで、現在のヨーロッパがそう簡単に移民を受け入れる場所ではなく、仮りにヨーロッパに入れてもトルコに移送されて不法移民として落ち着く可能性が高いなら「最低でもトルコ」という可能性は残しながら、なるべく高望みをしたということなのだろう。だとしたら、その後の難民生活を「地獄めぐり」と呼んだことはその通りになっていったとは思うけれど、結果的にトルコに落ち着けば、家族がやったことはもしかして「しなくてもいい努力」だったのではないかというエクスキューズが残ってしまうことになった。

 難民としての苦労はフル・コースで襲ってくる。威嚇射撃はなかったものの、ファジリ一家は通称バルカン・ルートでブルガリアに辿り着く。まずは密航業者に騙されて大金を巻き上げられる。娘たちを誘拐すると脅される。食べ物がない。果樹園に忍び込む。寝る場所がない。冬山で野宿。フェンスをくぐる。廊下で寝る。走る。窓から雪が吹き込んでくる。そして難民キャンプに移民排斥デモが押し寄せる。カメン・カレフ監督『ソフィアの夜明け』(09)に移民が暗がりで殴られるというシーンがあったけれど、まさにブルガリアの首都ソフィアでファジリもまったく同じように殴られる。先の予定がまったくわからない。入国できるまでトランジットで何ヶ月も過ごさなければいけない。どれもキツい。セルビアで比較的まともな難民キャンプに入れた時は、もうそれ以上動かなくていいじゃないかとさえ思ってしまった。これらのハードなシーンの合間には、しかし、ファジリ一家の楽しい日常がこれでもかと詰め込まれている。妻のファティマ・ファジリは笑い上戸なのか、このような極限状態のなかでピリピリしそうなものなのに、料理をしながら笑いが止まらない様子。出発する前に大きな世界地図を広げ、娘2人にオーストリアまでの道のりを教えながら、途中で自分でもどこがどこだかわからなくなってしまう場面はなかなか愛らしかった。娘たちの無邪気さは難民の逃避行をどこか異常なピクニックといった趣に変えてしまい、思わず笑ってしまう場面も少なくなかった。ハッサン・ファジリはかつて女性は髪を隠さなければいけないと考えていたらしいのだけれど、髪を隠すのが面倒だと口に出して言うファティマの影響か、「お前はどうしたい?」と聞かれた長女のナルギスは思い切って「私は隠したくない」と意見を述べる。ナルギスが身をよじって、言いにくそうに話す様子を見てしまうと、イランという選択肢はなかったかなと。都市部はだいぶ緩くなってきたとはいえ、スマホでアングリー・ラップを聴きながらガシガシ踊るナルギスにイランはやはり過酷な環境になりかねない。法律が変わって女性が自由に行動できると思ったサウジアラビアでも考えの古い男たちが女性に暴力を振るうという事件も起きているし、最先端だけを見て行動するのは危険というか。

 ハッサン・ファジリが捉える娘たちの映像には彼女たちがぐっすりと眠りこけるシーンが何回もあった。次女のザフラはとんでもない寝相である。手足を好きなように伸ばして眠るポーズはまさに「自由」。

 2年前、日本中の電気が止まってしまい、鈴木一家が東京から九州まで自転車で旅をする『サバイバル・ファミリー』という邦画があった。なにがあっても家族は離れない。1人ぐらい途中で出会った人の家に残るとか、その方が自然な流れだし、いい人にはたくさん会うので、誰にとっても楽だろうと思うのに、バラバラだった家族が団結を固くするという教条主義が作品に柔軟性を与えず、とにかく不自然極まりなかった。これとは反対にファジリ一家の難民生活では家族と仲良くなる人が1人も現れない。現地の人たちは無理でも、かなりな日数を過ごした難民キャンプで多少は顔なじみになる人もいるはずだと思うのに、意図的にカットしたのでなければ、これもやはり不自然である。渡辺志帆氏による監督インタビューを読むと、ハッサン・ファジリは定期的に録画したデータをプロデューサーに渡し、スマホにはなるべく情報を残さないようにして撮影を続けたとあるので、外部との接触はプロデューサーがいわば集約的に引き受けていたのかもしれない。そのことによって純粋な難民生活というよりはやはり最終的には作品として回収されるプロセスとして、この旅は存在したという印象が強くなる。「カメラが入れないところにスマホが入った」的な考え方は、そういう意味では大した意味がない。撮影の道具があることによって明らかに意識は変性し、最終的に仕上げられた映像の美しさや音楽の素晴らしさは素材をまったく違う次元で昇華させているということもある。おそらくは難民生活を作品として完成させることで芸術家として他の難民とは区別され、ヨーロッパに認められる可能性も頭の片隅にはあったに違いない。映像のクオリティの高さはだから、ファジリが実力以上のクリエイティヴを爆発させた可能性もあるだろう。実際の生活はもっと過酷で芸術のことを考える余裕もないに等しかったのではないかと思うけれど、難民生活の悪い面に終始する作品ではなく、こんなにヒドいところでも人間は生きていけてしまうんだなということも含め、人が生きていることを力強く伝えてくれるドキュメンタリーになっている。強くなれることがむしろ人間の不幸だと思えてくるほどに。

*『ミッドナイト・トラベラー』は山形国際ドキュメンタリー映画祭(11日・15日)、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭(14日・17日)で上映予定。

また、名古屋国際センターで行われるUNHCR WILL2LIVE映画祭で13日と14日に無料上映会があります。詳しくは→https://unhcr.refugeefilm.org/2019/venue/nic-nagoya/

Stereolab - ele-king

 ステレオラブ復刻プロジェクトがついに完結。5月の2nd&3rd、9月の4th~6th に続き、今度は2001年の7作目『Sound-Dust』と2004年の8作目『Margerine Eclipse』がリイシューされる。発売は11月29日。これまで同様、全曲リマスタリング&ボーナス音源追加。両作ともにショーン・オヘイガンが参加しており、前者ではおなじみのジム・オルークとジョン・マッケンタイアがエンジニアリングとミックスを担当している。現在『Sound-Dust』より“Baby Lulu”が先行解禁中。

STEREOLAB

90年代オルタナ・シーンでも異彩を放ったステレオラブ
10年ぶりに再始動をした彼らの再発キャンペーン第三弾発表!
『SOUND-DUST』と『MARGERINE ECLIPSE』の名盤2作が全曲リマスター+ボーナス音源を追加収録でリリース!

90年代に結成され、クラウト・ロック、ポスト・パンク、ポップ・ミュージック、ラウンジ、ポスト・ロックなど、様々な音楽を網羅した幅広い音楽性で、オルタナティヴ・ミュージックを語る上で欠かせないバンドであるステレオラブ。その唯一無二のサウンドには、音楽ファンのみならず、多くのアーティストがリスペクトを送っている。10年ぶりに再始動を果たし、今年のプリマヴェーラ・サウンドではヘッドライナーのひとりとして出演。5月には、再発キャンペーン第一弾として『Transient Random-Noise Bursts With Announcements [Expanded Edition]』(1993年)、『Mars Audiac Quintet [Expanded Edition]』(1994年)の2タイトルが、9月に第二弾として『Emperor Tomato Ketchup』(1996年)、『Dots And Loops』(1997年)、『Phases Group Play Voltage In The Milky Night』(1999年)の3作がアナログ、CD、デジタルで再リリースされている。

7タイトル再発キャンペーンの締めくくりとなる第三弾として、ジム・オルークとジョン・マッケンタイア共同プロデュースによる2001年の『Sound-Dust』と、久々のセルフ・プロデュース・アルバムとなった2004年の『Margerine Eclipse』の2作が、全曲リマスター+ボーナス音源を追加収録した“エクスパンデッド・エディション”で再発されることが発表された。また合わせて『Sound-Dust』より“Baby Lulu”が先行解禁されている。

Stereolab - Expanded Album Reissues Part 3
https://youtu.be/5mlLux_PEhc

Baby Lulu
https://stereolab.ffm.to/baby-lulu

今回の再発キャンペーンでは、メンバーのティム・ゲインが監修し、世界中のアーティストが信頼を置くカリックス・マスタリング (Calyx Mastering)のエンジニア、ボー・コンドレン(Bo Kondren)によって、オリジナル・テープから再マスタリングされた音源が収録されており、ボーナス・トラックとして、別ヴァージョンやデモ音源、未発表ミックスなどが追加収録される。


『Sound Dust [Expanded Edition]』と『Margerine Eclipse [Expanded Edition]』は2019年11月29日リリース。国内流通盤CDには、解説書とオリジナル・ステッカーが封入され、初回生産限定アナログ盤は3枚組のクリア・ヴァイナル仕様となり、ポスターとティム・ゲイン本人によるライナーノートが封入される。また、スクラッチカードも同封されており、当選者には限定12インチがプレゼントされる。さらに対象店舗でCDおよびLPを購入すると、先着でジャケットのデザインを起用した缶バッヂがもらえる。

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: SOUND DUST [Expanded Edition]
release date: 2019/11/29 FRI ON SALE

[TRACKLISTING]

Disk 1
01. Black Ants In Sound-Dust
02. Space Moth
03. Captain Easychord
04. Baby Lulu
05. The Black Arts
06. Hallucinex
07. Double Rocker
08. Gus The Mynah Bird
09. Naught More Terrific Than Man
10. Nothing To Do With Me
11. Suggestion Diabolique
12. Les Bons Bons Des Raisons

Disk 2
01. Black Ants Demo
02. Spacemoth Intro Demo
03. Spacemoth Demo
04. Baby Lulu Demo
05. Hallucinex pt 1 Demo
06. Hallucinex pt 2 Demo
07. Long Live Love Demo
08. Les Bon Bons Des Raisons Demo

label: Duophonic / Warp Records / Beat Records
artist: Stereolab
title: MARGERINE ECLIPSE [Expanded Edition]
release date: 2019/11/29 FRI ON SALE

[TRACKLISTING]

Disk 1
01. Vonal Declosion
02. Need To Be
03. Sudden Stars
04. Cosmic Country Noir
05. La Demeure
06. Margerine Rock
07. The Man With 100 Cells
08. Margerine Melodie
09. Hillbilly Motorbike
10. Feel And Triple
11. Bop Scotch
12. Dear Marge

Disk 2
01. Mass Riff
02. Good Is Me
03. Microclimate
04. Mass Riff Instrumental
05. Jaunty Monty And The Bubbles Of Silence
06. Banana Monster Ne Répond Plus
07. University Microfilms International
08. Rose, My Rocket-Brain! (Rose, Le Cerveau Electronique De Ma Fusée!)

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