「Ord」と一致するもの

Terrence Parker - ele-king

 テレンス・パーカーと言えば、デトロイトでもっとも最初にハウスをプレイした先駆者だが、日本のファンにはDJノブとの交流でも知られている。昨年は〈プラネットE〉から久しぶりのアルバムを発表し、相変わらずのクオリティの高さにデトロイト・ファンをうならせたこのベテランがまたしても来日する。今回の共演者は、日本の大ベテラン日の DJ EMMA。
 7月7日のデトロイトと東京のハウス・リジェンドの対決(?)、目撃しようじゃないか。

Terrence Parker Boiler Room Chicago DJ Set


■Terrence Parker
7/7 (SAT)@VENT

出演:Terrence Parker〈Intangible Records〉, Detroit
DJ EMMA
And more
時間:OPEN 23:00
料金:DOOR : \3,500 / ADVANCED TICKET:\2,500

VENT:https://vent-tokyo.net/schedule/terrence-parker/
Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/2060397747553633/

interview with Jon Hopkins - ele-king

 この透明感はどこから来るのだろう。初めて『Small Craft On A Milk Sea』を聴いたとき、その音のあまりのクリアさに驚いた。ノイジーな展開をみせる曲でさえそうなのである。洗練、あるいはある種の雅と言ってもいい。それはたぶん、イーノひとりの力によるものではなかったのだろう。共作者としてクレジットされたレオ・エイブラハムズ、そして彼の古くからの友人であるジョン・ホプキンス。彼らの貢献は想像以上に大きかったのではないか――このたびリリースされたホプキンスの新作『Singularity』を聴いて、改めてそう思った。
 じっさい、海の向こうでの彼の評価はとても高い。たとえば昨年『ピッチフォーク』で企画された特集「The 50 Best IDM Albums of All Time」では、2013年の前作『Immunity』が37位に取り上げられている。その記事のなかで選ばれた2010年代以降のアルバムが2枚のみだったことを考えると、これは快挙と言っていい(ちなみにもう1枚はジェイリンのファースト)。同作はマーキュリー・プライズにもノミネイトされており、やはりそのどこまでも豊饒なる音響とテクスチャーが高く買われているのだろう。


Jon Hopkins
Singularity

Domino / ホステス

ElectronicTechnoAmbient

Amazon Tower HMV iTunes

 そのホプキンスにとって今回の新作はじつに5年ぶりのアルバムとなる。その間に彼が出会ったのはヨガと、そして瞑想だった。新作のサウンド・デザインにもその体験は大きな影響を与えており、アルバム後半のアンビエント寄りの曲群からはもちろんのこと、本人曰く「攻撃と美しさ」をミックスしたかったという“Emerald Rush”や、あるいは“Neon Pattern Drum”や“Everything Connected”といった機能的でトランシーな曲からも、ますます磨きのかかった透明さと精密さを聴き取ることができる。
 もしいまあなたが素朴に「美しいもの」に触れたいと思っているのなら、何よりもまずこのアルバムを手に取ることを強くお薦めしたい。(小林拓音)


揺るがない世界観と自分の素直な気持ちを表現することが音楽の大きな役割。音楽に限らず、アート全般の役割だと思うね。

いろんな国からの取材を受けていると思いますが、プロモーションはたいへんですか?

ジョン・ホプキンス(Jon Hopkins、以下JH):アルバムがリリースされてから1週間が経つけど、いまのところ、すごくエキサイティングだよ。イギリスではトップ10に入ったけど、ああいう音楽がトップ10に入ることなんてほとんどないしね。先週最初のショウをやったんだけど、心配だったヴィジュアルもうまくいって、すべてがいい感じだった。いまからはインタヴューよりもライヴ・ショウが多くなる。あとはラジオだね。移動も多くなるし、忙しくなるよ。

前作『Immunity』が2013年ですから5年ぶりになりますよね。この間、ライヴや映画の仕事で忙しくしながら、今回の新作の準備も着々と進めていたと思います。あなたにとってこの5年間はどんな意味のある5年間でしたか?

JH:5年のうち、2、3年はツアーで忙しく、ツアーが長かったから、そのあとはちょっとオフをとった。その間はロンドンのバービカン・プロダクションの学校で教えて、そのあと2015年の終わりに今回のアルバムの制作をはじめたんだ。仕上がったのは2017年の10月。そして、いまやっとそれをリリースできてまたツアーがはじまるところ。

通訳:制作自体には2年間かかったんですね?

JH:そう。といっても、2年間まるまる制作していたわけではなくて、じっさいに制作に費やしたのは1年半くらい。制作しては休み、制作しては休み、といった感じだったね。

この5年間で、あなたのまわりの人びとや環境、あるいはUKや世界の状況など、世の中は変わったと思いますか? もし変わったとするなら、どのようなところに変化を感じますか?

JH:複雑で、どう言葉で表現したらいいかわからない。でも、その変化はすべて音に出ていると思う。サウンドのレイヤーや複雑さに自然とそれが反映しているんだよ。とくに制作をしていた2年間は波のように変化が起こっていたと思う。でも変化が起こるなか、音楽を作る上でたいせつなのは、ピュアな感情をそのまま表すことだと思うんだ。揺るがない世界観と自分の素直な気持ちを表現することが音楽の大きな役割。音楽に限らず、アート全般の役割だと思うね。それが人びとをハッピーにすると思うし、いい意味で影響するんじゃないかな。不安や恐れを振り払ってくれる。不安を抱えていても、音楽は自分のそばにいる味方、みたいな感じ(笑)。

通訳:あなたにとっていちばん大きな変化はなんでしたか?

JH:僕はカリフォルニアに住んでいたから、それ自体が人生の大きな変化だったね。住む場所が変わって、もっとヒッピーになったと思う(笑)。ヨガや瞑想をはじめたりさ(笑)。それは音楽にも深く影響していると思う。

通訳:いまもヨガは続いていますか(笑)?

JH:続いているよ。呼吸が重視されたヨガで、痩せはしないけど、精神的にすごくいいんだ。だから、身体のためには他のエクササイズもしてる。不眠症だったからはじめたんだ。おかげで治ったよ。人生でいちばん大切なのは、自分の脳内をコントロールできることだと思うね。それは学ばないと習得できないことだと思う。

人生でいちばん大切なのは、自分の脳内をコントロールできることだと思うね。それは学ばないと習得できないことだと思う。

作曲はどんなところからはじまるのですか? あなたの音楽には瞑想的な側面もあるし、アンビエントの要素もありますが、作曲は理論的にはじめるのか、それとも感覚的にはじめるのでしょうか?

JH:ほとんどは即興だね。音を即興で演奏してみて、そこから広がっていく。だから、感覚的だね。たとえば“Recovery”はピアノを弾いているうちにあのアルペジオが生まれた。あれはそのアルペジオをもとに東京にいたときも曲を書いたんだ。そこでも何も考えず、何が起こるかわからないまま音を出してみた。あの曲は、そのアルペジオをもとに曲が自分でできていった感じだね。曲によってはじまり方は違うけど、スタジオに入ると、スタジオの外で考えることはあまりない。スタジオのなかで即興で演奏して、そこから曲を作っていく流れがほとんどだよ。

先ほど少し出てきましたが、今回のアルバムの制作期間中に瞑想を経験されたそうですね。なぜ瞑想を必要としたのか、そして、じっさいに経験したことが音楽にどのようにフィードバックされたのか話していただけますか?

JH:瞑想は、はじめて3年くらいになる。瞑想をはじめてから、サウンドがもっとオープンになったんだ。そして、もっとポジティヴになったと思う。だから、このアルバムでは、前回以上に喜びが表現されていると思うよ。

通訳:瞑想はどれくらいやっているんですか?

JH:1日に2回、20分ずつ。時間がないときは1日1回。

通訳:けっこうしっかりやってますね!

JH:瞑想は、僕にとってやらないといけないからやっていることではないんだよね。やりたいからやっていることなんだ。すごく気分が良くなるから瞑想をする。課題ではないんだよね。

前作もそうでしたが、今回もアルバムの曲順は重要ですよね? アルバムは物語であり、そしてそこにはあなたの考えが潜んでいるようですが、それを教えていただけますか? それは人生についての考えですか?

JH:もちろん、曲順はいつだって重要。曲を作っている時点で順番を考えているほど、作品の流れは僕にとってたいせつなんだ。抽象的だから、その物語や考えを言葉で説明するのは難しい。込められているものは、すべて言葉では表現できない。だから、リスナーがそれぞれにストーリーを感じ取ってほしいんだ。

“Everything Connected”のような曲もその成果のひとつでしょうか? 曲名にも深い意味があるように思いますし、曲調もトランシーですよね。

JH:その曲は、セレブレイションを音にした作品なんだ。生きていることの祝福。人生は素晴らしいものだということに気づく美しい瞬間を表現したかった。このトラックを作るのは、すごく楽しかったよ。音ができていくままに自由に作業を進めていったんだ。この曲もそうだし、今回のアルバム全体が新しく、アグレッシヴで、奇妙で、長くて……話せばきりがないけど、新しいことをたくさん試みているんだ。アルバム全体が革新的だし、長い物語、旅のような仕上がりになっていると思う。

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「singularity」という言葉は、僕にとっては一体感(連帯感)と飾り気のないことを意味する。そして、少しだけ宇宙創世のビッグ・バンも連想される。すべてが何かに向かって成長していくようなイメージかな。

各曲のタイトルは詩人であるリック・ホランドとの共作となっています。前作でも彼の力を借りたそうですが、今回曲名を決める際に、あらかじめテーマのようなものはあったのでしょうか?

JH:テーマがあったというよりは、僕とリックの会話から生まれたアイディアを使って曲のタイトルを決めていったんだ。もちろん、彼が書いていた美しい詩からインスピレイションを受けたものもあるけれど、メインのインスピレイションはふたりの会話だった。テーマはあまり考えない。しばらくアイディアとして出てきた言葉を使って言葉を操ってみて、曲にフィットするタイトルを考えることがほとんどだね。たとえば“Emerald Rush”は、曲を書いているときにキラキラした緑色のカラーがイメージできていて、それを表現できる言葉は何かを考えていた。だから思いついた言葉を組み合わせていろいろ候補を考えて、あの言葉にたどり着いたんだ。

“Emerald Rush”はヒットしていますね。幻想的というか、サイケデリックとも言える響きを有していますが、この曲の狙いはなんでしょうか?

JH:それは自分でもわからないんだ(笑)。自分の直感に従って曲を書いていってでき上がったトラックだからね。とにかく、魅力的で美しい作品を作りたかった。攻撃と美しさのミクスチャーというか。目をつぶって、自分自身でも説明ができない自分の意識に導かれるがままに音を作っていった感じ。そしてあるとき、仕上げようと思って音をまとめた。だから、すごく長いプロセスだったんだ。これは、逆にシンプルにすることが大変だった曲だね。仕上げるために、思いついていたアイディアをけっこう却下しなければいけなかった。前回のアルバムとはまったく違うサウンドを作りたかったから、それが必要だったんだ。


その“Emerald Rush”にはドラムのプログラミングでクラークが参加していますが、彼はどのような経緯で参加することになったのですか?

JH:彼は仲の良い友人のひとりで、自分が知るなかでもベスト・プロデューサーのひとりだから、彼にオファーすることにしたんだ。彼は、あのトラックにさらなるパワーをもたらしてくれたと思う。

続く“Neon Pattern Drum”ではティム・イグザイルが Reaktor のパッチを作っています。彼は前作にも参加していましたが、彼とはどのように出会ったのですか?

JH:彼とは同じ事務所なんだ。その関係でベルリンで出会って、一緒にショウをやって、友だちになった。それからずっと友人なんだよ。

本作のアートワークの夜明けの写真は何を表しているのでしょう?

JH:あのアートワークは存在しない場所なんだけど、あのランドスケープがすごく気に入ったんだ。自分が持っているアルバムのイメージと一致したから、あのアートワークを使わせてもらうことにした。行きたくても絶対に行けない場所、というアイディアに魅力を感じたんだよね。なにせ、存在しない場所だから(笑)。

アルバム・タイトルを『Singularity』にしたのはなぜですか? 「singularity」は人工知能などテクノロジーの分野で使われる言葉であると同時に、哲学でも使われる言葉です。あなたはこの言葉から何を思い浮かべますか?

JH:アルバム・タイトルはシングルからとっているんだけど、じつは、そのタイトルのアイディアは長いことずっと頭のなかで眠っていたものなんだ。12年くらいかな。それ以上かもしれない。2005年だったと思うから、もうなんでそのアイディアを思いついたのかまでは覚えていないけど(笑)。でもとにかくそのアイディアがずっと好きで、でもそのタイトルの曲を作る準備ができていなかった。だから寝かせておいて、いつか曲を作るときにそのタイトルを使おうと思っていたんだ。「singularity」という言葉は、僕にとっては一体感(連帯感)と飾り気のないことを意味する。そして、少しだけ宇宙創世のビッグ・バンも連想される。すべてが何かに向かって成長していくようなイメージかな。“Singularity”という曲も、ひとつの音符からどんどん広がってひとつの曲が完成している。それがしっくりきたんだ。


今回のアルバムを聴いて瞑想に興味を持ってくれる人がいれば、そして瞑想を学ぶきっかけになってくれれば、彼らは自分以外の人間との接し方を学ぶだろうし、自分のなかの幸福が増していくと思う。

その“Singularity”にはギターであなたの古くからの友人であるレオ・アブラハムが参加しています。8~9年ほど前にあなたは彼とブライアン・イーノの3人でアルバム『Small Craft On A Milk Sea』や映画『The Lovely Bones』のサウンドトラックを作ったり、ナタリー・インブルーリアをプロデュースしたりしていました。そのため、個人的にはその3人でひとつのチームのような印象を抱いているのですが、ご自身ではどう思っていますか?

JH:どうだろう(笑)。最近はあまりその3人では作業していないから、僕にはあまりそのような感覚はないかな(笑)。2009年と2010年はけっこうコラボしたけど、最近はブライアンとは会えてもいないからね。レオは毎回アルバムに参加してくれるけど、彼はほんとうに天才なんだ。僕にとってはいちばんのギタリスト。彼は、いつも僕だけでは作り出せない彼のテクスチャーを作品にもたらしてくれる。感謝しているよ。

2年前のイーノのアルバム『The Ship』に収録されたヴェルヴェット・アンダーグラウンド“I'm Set Free”のカヴァーもそのチームによるものでした。録音自体は同じ頃だと思うのですが、あの曲を録音することになったはなぜだったのでしょう?

JH:それ、忘れてたよ(笑)。たしかにあのトラックで自分がプレイしたのは覚えているけど、流れは覚えていないな(笑)。たぶんブライアンがやりたがって、5分くらいジャムをしたのかも(笑)。自分がそのカヴァーに参加したことさえ忘れていたよ(笑)。

あなたはかつてコールドプレイをプロデュースしてもいます。あなたにとってナタリー・インブルーリアやコールドプレイのようなポップ・ミュージックはどのようなものなのでしょう? テクノやアンビエントなどのエレクトロニック・ミュージックと通ずる部分はありますか?

JH:コールドプレイに関しては、ブライアンが彼らを僕に紹介してきたんだ。それで意気投合して、彼らにもっとイクスペリメンタルなサウンドを提供した。クリス(・マーティン)のソングライティングにはいつも感心していたし、彼のスキルは素晴らしいと思っていたからね。エレクトロニック・ミュージシャンやイクスペリメンタル・ミュージックのミュージシャンは、スタジアム級の曲を作ることがいかに難しいかを理解している。だから、僕は彼をリスペクトしているんだ。すべてのジャンルに通ずる部分はあると思う。今回のニュー・アルバムでも、ポップの要素があることは聴き取れると思うよ。僕自身が、ディペッシュ・モードペット・ショップ・ボーイズ、伝統的な構成の曲を楽しんで聴いてきたから、それは影響として自分の音楽にも出てくるんだ。ヴォーカル・メロディは僕には書けないけどね。ブライアンは、そのジャンルの架け橋だと思う。テクノやアンビエントとポップ・ミュージックに限らず、質のいい音楽はすべて共有するものがあるんじゃないかな。やっぱり、良いサウンドと人を惹きつける、そしてひとつにするという点で音楽は繋がっていると思うね。

あなたはもともと王立音楽大学で学んでいましたが、クラシック音楽の道に進まなかったのはなぜでしょう?

JH:興味がなかったからさ(笑)。何百年も前に書かれたものをふたたび作ることにおもしろみを感じないんだ(笑)。学べたことは良かったとは思っているけど、影響を受けているとも感じないな。

あなたが自分の音楽をとおしてもっとも到達したいもの、もっとも表現したいものはなんですか?

JH:音楽で何ができるかをより意識していくことかな。「人びとをひとつにする」ということが、音楽にはできると思うんだ。あと、今回のアルバムを聴いて瞑想に興味を持ってくれる人がいれば、そして瞑想を学ぶきっかけになってくれれば、彼らは自分以外の人間との接し方を学ぶだろうし、自分のなかの幸福が増していくと思う。そして彼らに会ったまた他の人びとが、彼らからインスパイアされてそれを学んでくれたら嬉しい。音楽はそのきっかけになれると思うし、良いフィーリングを広げることに繋がると思うんだ。それが目標だね。

通訳:ありがとうございました。

JH:ありがとう。また日本に行けるのを楽しみにしているよ。

interview with Theresa Wayman (TT) - ele-king


TT
LoveLaws

LoveLeaks / ホステス

Indie RockDowntempo

Amazon Tower HMV iTunes

 かのハリー・スタイルズが、昨年~今年のワールド・ツアーでオープニング・アクトに指名したのは、ケイシー・マスグレイヴスとリオン・ブリッジズ、それからウォーペイントだった。ガーディアン誌は以前、この1Dのメンバーによるプリンスと同名異曲のヒット曲“Sign of the Times”を紹介する際に、NYを代表する燻し銀のインディー・バンド、ザ・ウォークメンの名前を挙げていたものだが、彼が選んだ3組――現代カントリーの花形と、レトロ・ソウルの新星、独立独歩のLAガールズ・アート・バンドという並びには、英国の白人ポップ・スターから見た「いまのアメリカ」が反映されていた気がしてならない。

 ウォーペイントのヴォーカル/ギター、テレサ・ウェイマンによる初のソロ・アルバム『ラヴローズ』の制作は、バンドが2016年に発表したサード『ヘッズ・アップ』よりも早くからスタートしていた。彼女はみずから歌い、ギターを弾くばかりか、ベースやシンセ、ビートのプログラミングまで一手に担当。ポップで開放的だった『ヘッズ・アップ』に対し、『ラヴローズ』は繭に包み込まれるように、内向きでパーソナルな音像を描いている。シューゲイザーやトリップホップの要素も見え隠れするが、実際にはこのあとのインタヴューでも語られているように、ヒップホップの影響がとにかく大きかったらしい。

 共同プロデューサーとして、ケイシー・マスグレイヴスにも携わった実兄のイヴァン・ウェイマンと、ウォーペイント人脈とも縁の深いダン・キャリー(フランツ・フェルディナンドの3作目『トゥナイト』など)がクレジットされており、バンド仲間のジェニー・リーとステラ・モズガワ、古参リスナーには驚きのマニー・マークなど多彩なゲスト陣にも目を惹かれる。しかし一方で、密室的な『ラヴローズ』は「ひとり」を強く感じさせるアルバムだ。そんな本作のテーマは「愛」。他の記事によると、かつて交際していたジェイムス・ブレイクとの破局も(あくまでポジティヴな形で)反映されているそうだが、ウォーペイントとしてデビューしてから14年が経ち、37歳の母親となった彼女は、月が夜を照らし、孤独がやさしさをもたらすように、一面的ではない「愛」のかたちを歌っている。


自分がキュレーターだとしたら、楽曲はアートギャラリーね。私はギャラリーにさまざまな絵画を並べることで、一編のストーリーを作り上げていくの。

そもそも、どういう動機でソロ・アルバムを作ろうと思ったのでしょう?

テレサ・ウェイマン(Theresa Wayman、以下TW):自分自身をもっと探求してみたかったの。それに曲を書いたり、いろんな楽器を弾いたりすることで、いちミュージシャンとしても成長したかった。そう考えて取り組んでいくうちに、100%自分の音楽をやることの必然性を感じるようになったのよ。

昔からバンド活動と並行して、そういう個人としてのレコーディングもおこなっていたんですか?

TW:ええ。昔からPCを使って少し作ってたんだけど、2009年に入ってから本格的に制作するようになって。その頃はLogicのUltrabeatという安っぽいのを使ってたんだけど、2年後にGeistというソフトウェアと出会ったことで、曲作りの仕方が一変したの。LogicとGeistを組み合わせながらの制作は自分のワークフローとすごく合っていて、アイデアもどんどん湧くようになった。

今回のアルバム収録曲とは別に、まだ世に出ていないデモもたくさんありそうですね。

TW:何百とあるわ(笑)。

そういう自分の曲って、どういうモチベーションで作っているんですか?

TW:普段から音楽をよく聴いていて、そこから自分でも曲を作りたくなるの。それで、真っ白なキャンパスのうえにいろいろ描いていくうちに、最初に想定していたのと違う方向にどんどん進んでいったりして。そういうのが楽しくて仕方がないのよね。

へぇ。

TW:例えば、アルバムに“Mykki”という曲があるでしょ。これはミッキー・ブランコの“Wavvy”を聴いていたときに生まれた曲で、ワーキング・タイトルをそのまま採用したの。とはいっても、彼の音楽とはまったく雰囲気の違う曲になったんだけど、サビの部分で「make it feel」と歌ってるくだりが、なんとなく「Mykki」って聴こえる気もするのよね。

じゃあ、6曲目の“Dram”はラッパーのDRAMから?

TW:違う(笑)。これは「ドラマティック」からきているの。

話を伺いながら納得するところも多いですが、ギタリストによるソロ・アルバムだからといって、ギターを弾きまくる類の作品ではないですよね。音作りについてはどんなテーマを設けていたのでしょう?

TW:ただ感じるがままに、それぞれの曲に相応しいものを作っていった感じかな。出だしのパートにギターを入れるのがベストだと思ったら弾くし、他のサウンドを入れるべきだと思ったらた迷わずそうする。自分がキュレーターだとしたら、楽曲はアートギャラリーね。私はギャラリーにさまざまな絵画を並べることで、一編のストーリーを作り上げていくの。そもそも、私自身いろんなパーソナリティをもっていて、ギタリストであることがすべてではない。「この楽器じゃなきゃいけない」というこだわりは特にないのよね。

ウォーペイントの一員という立場を一旦離れて、ソロになったからできたことってなんだと思いますか?

TW:ベースが弾けることかな(笑)。あと、ドラムビートを自分で作ったりね。音楽を作るのは、自分がどういった人間であるのかを理解する手段でもあると思うの。今回は私自身のためにアルバムを制作したから、いつもより自分のなかに深く潜り込むことができたと思う。きっと私は、そういう探究心が強い人間なんでしょうね。

このアルバムは、エレクトロニック・ビートも聴きどころだと思います。ヒップホップやファンクの要素も感じましたが、どんなことを意識しながら打ち込んだのでしょう?

TW:うまく言えないけど、Geistを通じて自分好みのサウンドを見つけたり、それらをPro Toolsで組み立てながら、ピッチを下げたり、フィルターをかけてファジーで温かみのある音にしていく感じかな。そうやってループを作ったら、そのバリエーションを構築していく。個人的には、ストレートなものよりもランダムな要素を入れていくほうが好き。

なるほど。

TW:私がヒップホップを好きな理由のひとつは、完璧なループさえ用意できたら、あとはそれを永遠に鳴らしているだけで曲が成立するところ。それって物凄くパワフルだと思う。あとはそうね……私の場合は、必要に応じて生ドラムも入れるようにしている。100%エレクトロニックではないかな。

いまの話にもあったように、BPMが全体的に緩やかですよね。

TW:そうね。ムードのある音楽が作りたかったし、聴き手に押し迫るようなものではない、ダウンテンポなアルバムにしたかった。でもグルーヴはあるはずだし、スロウだけど踊ることのできる音楽になっていると思う。だからこれは、夜向きのアルバムじゃないかな。

あと、歌声の使い方も興味深かったです。ウォーペイントにはあなたも含めて複数のヴォーカリストがいますけど、ここではコーラスで自分の声を重ねたり、普段と違うアプローチに取り組んでいますよね。

TW:それはハーモニーが大好きだから(笑)。ただ、声を重ねすぎるのもそんなに好きではないの。だから、(音を重ねない)一本のヴォーカルをよりよく聴かせようというのは意識したわ。そうすることで、サビで声を重ねたり、曲が進むにつれて和音を増やしたり――チョコレートケーキのように豊潤なハーモニーも活きると思うから。あと、ハーモニーのなかに低音が結構入っているはずだけど、そういう声の使い方がもたらすフィーリングも好きなの。

収録曲でいうと、“Love Leaks”のハーモニーはいいですよね。ゴスペルっぽさもあったりして。

TW:たしかに。5曲めの“Tutorial”にも、ゴスペルっぽい分厚いハーモニーが入っていると思う。


愛についてだったら、いくらでも曲が書けると思う。『ラヴローズ2』や『ラヴローズ3』だって作れるくらい(笑)。

ハーモニーという観点で、誰か好きなアーティストはいますか?

TW:いい質問ね。ヴィンス・ステイプルズの“Dopeman”かな。歌っている女の子の名前が思い出せないけど(筆者注:キロ・キッシュのこと)、ハーモニーの重ね方が素晴らしくて、あの曲には大いにインスパイアされたわ。あとはリアーナも……うーん、どうだろう(少し考え込む)。とにかく、ヒップホップのコーラスで好きなものはたくさんあるわ。

アルバムのゲストや制作陣のなかで、個人的にはマニー・マークの参加が気になったんですが、彼とはどのように知り合ったのでしょう?

TW:一緒にコラボしている友人を通じて知り合ったの。アルバムが完成目前のところでマークを紹介してくれて、2日間くらい一緒に音を出したりしているうちに意気投合してね。それで、彼の意見も知りたかったから、アルバムの音源を聴いてもらったら、「こうしたらどう?」って適切なアドバイスをしてくれたの。

前情報のせいもありますが、マークが参加している“Love Leaks”と“Tutorial”のメロウネスは、彼が鍵盤を弾いているビースティ・ボーイズのインスト曲とも重なる雰囲気がある気がします。

TW:どうだろう。さっき話したように、曲自体はほとんどでき上がっていて、彼はそこに少し音を加えてくれた感じだから。

一昨年、ウォーペイントの“New Song”をマイク・Dがリミックスしていたじゃないですか。だから、あなたがビースティの大ファンだとか、密接なコネクションがあったのかと予想していたんですが……。

TW:ううん、そうじゃないの(苦笑)。

そのあたりはさておき、ウォーペイントの『ヘッズ・アップ』では90年代のスタイルを意識していたそうですが、今回のアルバムもトリップホップなど、当時のある種の音楽と同じようなフィーリングを感じました。

TW:そこは全然意識してなかったつもりだけど、「トリップホップっぽい雰囲気だね」って感想にも納得できるの。ダークな曲調でビートがあるけど、かといってヒップホップではないし、やっぱり白人が作った音楽だなって。それに、もともとトリップホップの醸し出すムードは好きだったし、自分が若い頃にミュージシャンを志すきっかけをくれたのも、トリップホップのアーティストが多かったから。ようやくここにきて、自分でもそういう音楽が作れるようになったのかもね。

最初に「自分を掘り下げたかった」という話がありましたが、歌詞の面ではどういったことを伝えたかったのでしょう?

TW:テーマになっているのは、大きな意味での愛。実体験に基づくものもあれば、ファンタジーもあるし、束の間のロマンスや、失恋についても歌っている。ほかにも友情とか、自分を愛すること――いろんな種類の愛を歌っているけど、どの曲もすべて自分の人生経験から生まれている。私自身、母親でありながら、世界中をツアーで廻る生活をしていることに思うところもあってね。どこにも還る場所がないと感じることもあったけど、音楽こそが自分の居場所なんだなって、このアルバムを作りながら強く感じたの。

そうですよね。男女のロマンスのみに留まらない、広くて深い視点は歌詞からも伝わってきます。

TW:愛についてだったら、いくらでも曲が書けると思う。『ラヴローズ2』や『ラヴローズ3』だって作れるくらい(笑)。

愛(love)に法則(Law)があるとすれば、それはなんだと思いますか?

TW:人間関係における根本的な部分、もっとも根底にある法則こそが愛なんだと思う。お互いをリスペクトしたり、愛し合う気持ちがあってはじめて社会が成り立つわけで。でも、いまの時代は憎しみの感情が氾濫していて、バランスが取れなくなっている。

ええ。

TW:それに恋愛も含めて、人との付き合い方にはいろんな関係性があるわよね。ロマンチックなものに、友情とか家族との繋がりだってそう。それに、必ずしも上手くいく関係だけではないわけで。人との繋がりがうまく機能しなかったり、自分自身を大事にすることができなかったり、いろいろな事情で苦しむこともある。そういった話も含めて、私たちが生きていくうえで、愛はものすごく重要で大きな位置を占めている。それぐらい普遍的なテーマだと思うな。


jan and naomi - ele-king

 静かに尖っています……4月にリリースされたフル・アルバム『Fracture』がじわじわと話題のヤン&ナオミ。その収録曲“Forest”のMVが公開されているで、それをチェックしつつ、6月からのツアーの詳細も発表されているので、ライヴにも足を運んで欲しい。彼らへのインタヴューは近々ele-kingでも掲載されます!

“Forest” music video


ウェブサイト:https://janandnaomi.localinfo.jp/
ライブ情報: https://janandnaomi.tumblr.com/



■Fracture tour 2018
全公演チケット:前売り¥2,500 (税込・1Drink別・整理番号有り)
チケット発売 5/26(土)11時~
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■6/23(土) 札幌 PROVO
OPEN 19:00 / START 20:00 <チケット取り扱い>
PROVO電話予約:011-211-4821
メール予約:osso@provo.jp ※お名前・人数・連絡先をメールにてお送りください。
【問】PROVO 011-211-4821

■7/14(土) 福岡 UNION SODA
OPEN 18:00 / START 19:00 <チケット取り扱い>
チケットぴあ P-コード: 118-465
Live Pocket : https://t.livepocket.jp/e/4dw_4
メール予約 : info@herbay.co.jp
※お名前・人数・連絡先をメールにてお送りください。
【問】HERBAY 092-406-8466 / info@herbay.co.jp

■7/16(祝月) 京都 UrBANGUILD
OPEN 18:00 / START 19:00
guest : SOFT <チケット取り扱い>
UrBANGUILD HP予約:
https://www.urbanguild.net/ur_schedule/event/180716_fracturetour2018
【問】UrBANGUILD 075-212-1125

 オカルトじゃありませんよ。アニメーション界のレジェンドと、現代のミュージシャンとの世代を超えたコラボレーションを行う「チャネリング」シリーズです。坂本慎太郎が現在90歳のクリヨウジ(久里洋二)の貴重な実験アニメーション作品にあわせて自身のオリジナル曲をフルセットライヴで演奏する。キュレーターはDOMMUNEの宇川直宏。これは見逃せません!

■「GEORAMA2017-18 presents チャネリング・ウィズ・ミスター・クリヨウジ」
日時:2018年6月19日(火)18:30開場/19:30開演
会場:WWW X(東京・渋谷)
出演:クリヨウジ aka 久里洋二 x 坂本慎太郎
キュレーター 宇川直宏(DOMMUNE)
※クリヨウジ氏(90歳)の実験アニメーション作品を投影し、その映像に呼応しながら坂本慎太郎氏がフルセットライヴでオリジナル曲を演奏するという歴史的な試みです。

前売:5,500円/当日:6,000円(共に税込、ドリンク代別)
チケット:e+(イープラス)にて、5月26日(土)10:00より発売。
公演詳細:https://channeling-kuri.info

主催:ニューディアー/DOMMUNE
協力:zelone records
助成:アーツカウンシル東京(公共財団法人東京都歴史文化財団)

「チャネリング・ウィズ・ミスター・クリヨウジ」メインビジュアル(デザイン:宇川直宏)

■本企画キュレーター宇川直宏によるコメント

「戦後日本にアートアニメーションという新しい地平を切り開いた(久里洋二改め)クリヨウジは偉大だ!!!!!!! 氏は、生誕90歳の卒寿を迎えた今も日夜セル画に命を吹き込み、この世界を動かし続けている!!!!!!! NHK『みんなのうた』で"動く絵”を体感し(MTV開局の16年前に既に)NTV『11PM』で"動くポピュラーミュージック”を享受した僕らは、"クリヨウジ"と書いて”アニメーション"と読んでいる...そう、クリヨウジこそが日本アニメーション界の真の創世神なのだ!!!!!!!! そんな偉大なクリヨウジの実験アニメーション作品を投影し、その映像に呼応しながらあの坂本慎太郎がフルセットライヴを行う空前絶後の歴史的試みがこの度、実現する!!!!!!! 新奇な歌と演奏でお伽話を口承する坂本慎太郎は、空虚な現代日本における弁士であり、サイケデリックな吟遊詩人である!!!!!! クリヨウジと坂本慎太郎!!!!!! この二大巨星の邂逅は、米朝首脳会談よりも意義深い、ドラマティックな皆既日食だ!!!!! 太陽と月が重なって描かれるダイヤモンドリングのように神秘的な天体現象が、この日、立ち現れるに違いない!!!!!!!!」宇川直宏(DOMMUNE)

Mary Halvorson - ele-king

 なんだかよくわからない、が、なぜだか魅了されてしまう。メアリー・ハルヴォーソンが奏でる音楽はそのようにして聴き手の耳を掴まえていく。

 わからないとはいえいくつかの特徴を列挙してみることならできる。ゴツゴツと刻まれる乾いた弦の響き。流暢というよりはどこか無骨に辿られるフレーズ。あるいはエフェクト・ペダルを使用して急にピッチをあらぬ方向へと変化させ、メロディーやハーモニーがつんのめるような感覚に陥らせる奏法。むしろこれらの特徴は非常に強く表されていて、一聴して彼女が弾いているとわかるほどに個性的なサウンドだ。

 それだけではない。彼女が作る楽曲もまた特徴的なのである。どこかで聴いたことのあるメロディーが顔を覗かせたかと思えば、わたしたちの予想を斜め上方で裏切りながら、次から次へと奇妙な展開をみせていく。ポピュラー・ソングの断片がとてつもない想像力によって縫合されているかのようだ。楽曲のテーマというのは緊張から弛緩へと連なることで解決=快楽をもたらすものだが、ハルヴォーソンの場合はいつまでも経っても解決らしい解決が訪れることはなく、あるいはつねに緊張状態であり弛緩状態でもあり、だから聴き馴染みのある叙情的なハーモニーは琴線ではなくあくまでも鼓膜に揺さぶりをかけてくる。

 ポピュラー・ソングにはふつう喜びを表すメジャー・キーと悲しみを表すマイナー・キーがあるものの、ハルヴォーソンの音楽はこの二分法にまったくひっかかることがない、あるいはどちらにもひっかかりながら人間の複雑な感情を複雑なままに提示する。とにかくここには確立された固有の響きと固有の構造がある。だがそれらがなぜ魅力的に聴こえてくるのかはやはりわからない。聴けば聴くほどに謎は深まるばかりなのである。

 1980年に米国マサチューセッツ州ブルックラインで生まれたメアリー・ハルヴォーソンは、幼少期はヴァイオリンに親しみ、子供たちが集うクラシカルなオーケストラにも参加していたという。だが10代前半で出会ったジミ・ヘンドリクスの音楽に衝撃を受けてギタリストとしての道を歩むようになった。始まりはジャズではなかったものの、両親に勧められてイスラエル出身のジャズ・ギタリストのもとでギターを学び始め、ほどなくしてジャズの世界にのめり込んでいった。実は父親が大のジャズ・ファンだったらしく、家には聴ききれないほど大量のレコードがあったそうだ。

 高校卒業後はウェズリアン大学に進学しアンソニー・ブラクストンに師事する。ここでの体験が自らの音楽人生に決定的な影響を与えたことをハルヴォーソンは複数のメディアで公言している。ただし同時期にはギタリストのジョー・モリスによるプライベートなレッスンにも通っており、ブラクストン同様に大きな影響を受けたという。モリスの指導は非常にユニークなものだった。ハルヴォーソンが独自のギター・サウンドを獲得するために、スタイルの模倣には陥らないよう、モリスはギターではなくコントラバスを弾いて教えていたそうだ。ハルヴォーソンのあまりにも個性的なギター・サウンドとコンポジションは、ブラクストンとモリスというふたりの偉大なミュージシャンなくしては獲得しえなかったものであるに違いない。

 2002年にニューヨーク・ブルックリンへと拠点を移したハルヴォーソンは、04年に最初期のレコーディング作品をクレイトン・トーマス、中谷達也とのMAP名義でリリースする。当初はフルタイムで昼の仕事も兼ねていたというが精力的に音楽活動もおこない、アンソニー・ブラクストンをはじめトレヴァー・ダン、ウィーゼル・ウォルターら数多くのミュージシャンと共演。ドラマーのケヴィン・シェイと結成したアヴァン・ロック・デュオ「ピープル」やヴァイオリン奏者のジェシカ・パヴォーンとの継続的なデュオ活動ではメランコリックなヴォーカルも披露している。

 2008年には自身の名義による最初のアルバム『Dragon's Head』を〈Firehouse 12 Records〉から発表した。ベースのジョン・エイベア、ドラムスのチェス・スミスを従えたギター・トリオ編成を核としてハルヴォーソンの作曲作品を演奏するというコンセプトはその後も継続し発展していく。そこには師であるブラクストンの「より大きな編成のための作曲を」というアドヴァイスも影響していたようだ。10年から12年にかけてはトランペットのジョナサン・フィンレイソンとアルト・サックスのジョン・イラバゴンを加えたクインテット編成で2枚のアルバムをリリース。さらに13年にはテナー・サックスのイングリッド・ラウブロック、トロンボーンのジェイコブ・ガーチクを加えセプテットとして『Illusionary Sea』を出し、ここでリーダー作では初めて既存の楽曲のカヴァーもおこなった。16年にはペダル・スティール・ギターのスーザン・アルコーンを迎えオクテットとなり『Away With You』をリリース。その間に初のソロ・ギター作品でありジャズ・レジェンドから同世代まで様々なミュージシャンの楽曲のカヴァー集でもある『Meltframe』を完成させた。

 他にも数え切れないほどの録音があり、これまでに100枚を超すアルバムに参加してきている。だが一貫して言えることがひとつある。メアリー・ハルヴォーソンは確立された個性を身につけながらもつねに新しい音楽へと挑み続けているということだ。今回リリースされた『Code Girl』もまた個性的かつ新鮮な響きに溢れている。

 これまでソロを特異点としてトリオからオクテットまで共通したコンセプトのもとに〈Firehouse 12 Records〉からリーダー作を出し続けてきたことを踏まえると、メンバーを一新した本盤は方向性を大きく変えて新境地へと突き進んだものだとひとまずは言えるだろう。ベースのマイケル・フォルマネクとドラムスのトマ・フジワラはハルヴォーソンが2011年に結成したトリオ「Thumbscrew」のメンバーでもある。そこにトランペットのアンブローズ・アキンムシーレとヴォーカルのアミリタ・キダンビが加わった編成だ。そして本盤の特徴はハルヴォーソンがヴォーカリストとともに組んだ初のリーダー作であるという点にある。

 アミリタ・キダンビはこれまでダリウス・ジョーンズのア・カペラ・グループで活躍する一方で、ルイジ・ノーノやカールハインツ・シュトックハウゼンの声楽曲をこなすなど、クラシック音楽あるいは西洋現代音楽の分野でも才能を発揮してきたヴォーカリストである。ポピュラー・シンガーに比して器楽的に声を使用することに長けた声楽家としての技量が本盤では見事に発揮されている。歌は入っているものの通常のジャズ・ヴォーカル作品のように歌が主役としては聴こえない、それどころかまったく「歌もの」にさえ聴こえない。声がアンサンブルのなかにごく自然なかたちで溶け込んでいるのだ。それはどこかハルヴォーソンの歌声を彷彿させる物憂げなキダンビの声質にもよるのだろう。自らをあまり主張することのない声質と器楽的な声の使用法。ハルヴォーソンはおそらく歌声を特権的なものとして扱わずに他の楽器群と同等の地平で捉えながら、演奏全体がひとつのアンサンブルとして成立するように『Code Girl』を構想していたものと思われる。

 たとえば本盤ではキダンビを除いたインストゥルメンタル・トラックが2曲収録されている。“Off The Record”と“Thunderhead”だが、どちらも「歌声が欠如している」というふうに聴こえることがない。だからわざわざ他の楽曲と区別して「インストゥルメンタル」と呼ぶのも本当は正しくない。それほどこの2曲は他の楽曲と同じように、あるいは他の楽曲がこの2曲と同じようにアンサンブルとして成立している。

 極めつけはハルヴォーソンとキダンビのデュオ・トラック“Accurate Hit”だろう。ふつうギターとヴォーカルのデュオであればギターは歌声を彩る伴奏楽器になるわけだが、ここではコードのストロークとアルペジオに工夫が凝らされた、一小節ごとにサウンドのありようを変えていくハルヴォーソンのギターが前面に出てくる。もちろん歌声が反転してギターの伴奏を務めているわけではない。それは同じくデュオ・トラックである“Armory Beams”において、まるで鯨の鳴き声のようなアキンムシーレのトランペットの響きがギターと絡み合うように、声とギターが主従関係を結ばずに対話することで成り立つ音楽なのだ。いずれにしても本盤はジャズ・フォーマットに則りヴォーカル・アルバムとしての体裁を保ちつつ、メアリー・ハルヴォーソン色に染め上げられた奇妙にポップなコンポジションのなかで声をアンサンブルに溶け込ませた傑作であると言えるだろう。

 ちなみに『The Wire』のウェブ版では本盤を制作するにあたってハルヴォーソンがインスピレーションを受けたという楽曲のプレイリストが掲載されている。「種明かし」というよりも、こうした影響源がありながらこれまで述べてきたようなアンサンブルが編み上げられてしまう「離れ業」のほうに驚きを感じる。なぜ『Code Girl』のような傑作が生み出されたのか。やはりメアリー・ハルヴォーソンの音楽は謎めいている。

interview with Kamaal Williams - ele-king

 まずは“Catch The Loop”を聴いてくれ。


Kamaal Williams
The Return

Black Focus/ビート

Broken BeatJazzFunk

Amazon

 ジャズ・ファンクにはじまり、ヒップホップ・ビートに転じるこの展開はそうとうに格好いい。この曲を聴けば、カマール・ウィリアムスのアルバム『ザ・リターン』への期待も膨らむというものだ。もう1曲チェックして欲しいのは、“Salaam”という曲。ドラム、ベース、そしてキーボードというシンプルな構成を土台に、この音楽はアクチュアルなファンクを描く。ときには突っ走り、ときにはスローに展開するが、エネルギーが損なわれることはない。
 さて、カマール・ウィリアムスとはヘンリー・ウーの本名で、ヘンリー・ウーとはこの2〜3年のUKのディープ・ハウスを追っているファンのあいだではわりともうビッグネームである。生演奏のときはカマール・ウィリアムス、打ち込みのときはヘンリー・ウーというわけだ。中国系とアラブ系の両親を持つ彼は、多人種が暮らしている南ロンドン・ペッカムで生まれ育ったトラックメイカーであり、キーボード奏者。10代前半でヒップホップにはまって、やがてごくごく自然にロイ・エアーズやロニー・リストン・スミスやドナルド・バードなどを聴き漁るようになった彼のバイオ的な話は、別冊エレキングのジャズ特集「カマシ・ワシトン/UKジャズの逆襲」に長々と収録されているので、宣伝になってしまうが、ぜひそちらを読んで欲しい。生粋のペッカムっ子である彼が、ペッカム出身ではない人間が運営する〈Rhythm Section International 〉において、なぜ「Good Morning Peckham」なるEPを出したのかというエピソードは、自分が言うのもなんだが、じつに面白い。
 以下に掲載するインタヴューは、誌面に載せきれなかった部分であるが、これを読んでいただければ、フィーリングはつかめると思う。カマール・ウィリアムスたちのコミュニティがどんな感じで、この音楽がどんな風に生まれたのか──それではweb版「UKジャズの逆襲(2)」、カマール・ウィリアムスのインタヴューをどうぞ。

あの手の音楽をいまの時代に持ち帰ってきて、新たな聴き手に提示する、そうやって再びクールなものに、いまの人びとにとっても今日性のあるものにしたい、そういう責任を感じた。で……自分はその役目を果たしたな、そう思っていて。だからだしね、バグズ・イン・ジ・アティックに4ヒーロー、それにベルリンのジャザノヴァみたいな人たち、彼らがみんな、俺を「同類」と看做してくれるのは。

とてもムードがある作品だと思いましたが、今作においてあなたが重視したのはどういった点でしょうか?

KW:俺たちが重視したのは……まず何よりも、「自分たちはある時間のなかのある瞬間を捉えようとしているんだ」っていう、そのアイディアだね。

ああ、なるほど。

KW:ある時間のなかに生じる瞬間、それを捉えるのは、俺からすればもう……本当の意味での「旅路」だったからね。っていうのも、まず第一に……俺はユセフ・カマールを作り出して、あれは本当にビッグなものになったけれども、にも関わらず、(YK解散によって)俺はまた一からやり直さなくてはいけなくなったわけ。だから、作品にあるエネルギーやエモーション、それらは部分的には悲しみだったし、葛藤でもあったし、と同時に歓喜も混じっていた、と。というのも、俺は自分を改めて発見しなくちゃならなかったからね。自分でも思ったんだ、「人びとは俺のことを信じていないな」と。だから、みんな疑っていたんだよ、「ヘンリー・ウーはこれで終わった。あれが彼の絶好のチャンスだった、ユセフ・カマールが彼のひとつっきりのチャンスだったのに」って具合に。

それは厳しいですね……。

KW:ほんと、そう言われていたんだよ。「せっかくのチャンスをあいつは潰してしまった」って風に。メイン・ステージに出ることができて、みんなが音楽に耳を傾けていたのに、ユセフ・カマールは解散してしまった、と。で、そこからどうやってお前にカムバックができるんだ? と。

あらためて自分の実力・力量を証明しなくちゃならなかった、と。

KW:そう、そういうこと。「ファイト」だった。だからあのアルバムは自分を再び証明する、そういう作品だし──とは言っても、別に他の連中に自分を証明するってことではなくて、自分自身に「自分はやれる」と証したかっただけだけどね。それもあったし、神に対しても自分を証明したかった。だから、「神よ、もう1回俺たちにチャンスを与え給え」と……そうやって、どうぞ自分に家族を支えていけるようにしてください、と。っていうのも、音楽が俺の生き方なんだし、音楽の面でうまくやっていけないと、自分には何もないからさ。

(笑)それってもう、いにしえのジャズ・ミュージシャンみたいな生き方ですよね。

KW:(苦笑)。

アルバムに参加したメンバーについて教えて下さい。ドラムのマクナスティとベースのピート・マーティンについて教えて下さい。彼らはどのようなミュージシャンなのでしょうか?

KW:マクナスティは友だちで、彼とは8年来の付き合いだね。一緒にプレイしたことがあって……一緒にいくつかショウで共演したんだ。で、会ってその日に即、すっかり意気投合して仲良しになってさ。「わぁ、こいつ良い奴!」みたいに、たちまちお互いに親愛の情が湧いたんだ。だから、たまにいるよね、会ってすぐに「うん、こいつとは理解し合える」って感じる、そういう相手が。

ええ。

KW:で……でも、彼とは8年音信不通でね。いや、っていうか、共演した後の7年間かな、それくらいコンタクトをとっていなかったんだ。彼も忙しかったし、子供が3人いる人で、南アフリカに住んでいて。で、ユセフ・カマールが解散したとき、彼に電話をかけたんだよ。「マクナスティ、いまどこにいるんだ?」と。彼の返事は「南アフリカに住んでる」ってもんで、俺は「どうしてもお前に南ロンドンに戻って来て欲しい」と。「俺のために、ひとつギグをやってくれないか?」と。で、「自分にはすごく大事なギグが控えていて、細かいことをいまここでいちいち説明している余裕はないんだけど、お前がロンドンに来てくれたらすっかり説明してやるから、とにかく来い」と(苦笑)。

(笑)はい。

KW:彼は「ほんとにぃ? マジな話なの、それって?」と怪しんでいたんだけど、俺は「いや、これはマジにシリアスな、めちゃ大事な話だから!」と。

(笑)。

KW:で、彼に言ったんだよ、「(彼がロンドンにいた)2010年以降、いろんなことが起きたんだって!」と。だから、あの頃とは違って、俺は自分自身のプロジェクトをやっていて、自分の拠点も持っているし、サクセスも掴んでいるんだよ、と。彼はそういった過去数年の変化をまったく知らなかったんだ。というわけで、彼は南ロンドンに戻ってきてくれた、と。で、彼が戻ってきて……彼に会ったのはキングス・クロス&セント・パンクラス駅だったな(※同駅はユーロスターの発着所のひとつ)。

はい。

KW:で、俺たちはそのままブリュッセル、ベルギーに向かうユーロスターに乗り込んだ、と。ってのも、俺が話していた「ギグ」の第一弾は、ブリュッセル公演だったから。彼に言ったんだよ、「イギリスに戻ったら、そのままキングス・クロス&セント・パンクラスに直行してくれ」と。ってのも、ブリュッセル行きの列車が発車するまで10分しか余裕がなかったから。

ハハハハッ!

KW:(笑)で、彼はホームに走ってきて、「来たよ!?」と。そんなわけで、俺たちは列車に間に合って──

(笑)。

KW:その晩のギグに向かった、と。会場に直行して、そこでサウンド・チェックをやることになったんだけど、会場は広くてね。キャパは1000人くらい。で、会場を前にして、マクナスティは「おい、本当にここでいいのか? 住所間違ってるんじゃない?」みたいな。

(笑)。

KW:こっちは「イエス! 俺たちは今夜ここでプレイするんだよ」と答えたわけ。そしたら、マクナスティが「以前、自分もここでプレイしたしたことがあるよ」と教えてくれてね。何年も前の話だけど、彼は当時人気のあった、すご〜〜くビッグなポップ・アーティスト、キザイア・ジョーンズって人のバックで演奏したことがあったんだよ。

ああ、覚えてます。

KW:……(苦笑)で、マクナスティに「なあ、ヘンリー? なんだってお前はこの会場、キザイア・ジョーンズと同じヴェニューでライヴをやれるようになったんだ??」と訊かれたから、俺は言ったんだ、「ギグにようこそ! いらっしゃいませ!」と。

(笑)。

KW:(笑)。で、そのショウを終えた後……彼はすっかり状況を気に入ってしまってね。「すごい、信じられない!」みたいなノリで、バンドに残る、と言ってくれて。ロンドンに戻るし、このギグは続けたい、と。そんなわけで、その後の12ヶ月間、彼は俺のドラマーになってくれた、と。

ピートはどうですか?

KW:ピート、彼は……当時はトム・ドゥリーズラー(YKのメンバー)がベースを弾いてくれていたんだけど、ギグを2本終えたところで、トムが言ってきたんだよ、「どうだろう、自分はこのギグには不向きな気がするんだけど」と。ってのも、変化したからね。マクナスティが加わったことでリズムが変わったし、ヴァイブも変わった。だから俺たちは、誰か……新しいヴァイブにフィットする人間を見つけてこなければならなかった、と。そしたらマクナスティが「ぴったりの人材を知ってる」と言い出して。「その人は6年近くプレイしていないし、彼の連絡先も知らないけど、とにかく探し出そう」ということになって。そこで彼の連絡先を突き止めて、マクナスティが彼に電話してっていうね。

ああ、そういうことだったんですね。

KW:で、ピート、彼は俺たちよりもずっと歳上でね。彼は50歳なんだ。90年代末から00年代にかけて、コートニー・パインともプレイしたことがあったんだよ。

わーお。

KW:だから、コートニー・パインのバンドのベーシストだった、と。それにピートはデニス・ロリンズ、フランク・マッカムといった優れた面々ともプレイしてきた、そういうUKベーシスト界のレジェンドみたいな存在なんだけど、長いこと活動していなかった、もうギグはやらない、という状態にいたんだよ。ところがマクナスティが「これは特別だから!」と彼を説得して。
 で、この作品のストーリーにはマクナスティの帰還って面も含まれていて、彼が音楽の本当のエッセンスに帰ってきた(returning)、という。ってのも、彼はここ10年近くポップ・ミュージックをプレイしていたし、だからこれは彼が本当に愛する音楽に帰還した、という意味でもあるんだ。それはピート・マーティンにしても同じことで、彼もまた、彼の愛する音楽のエッセンスに回帰を果たした、という。
 ってのも、忘れちゃいけないのは、ピート・マーティンは70年代に育った人だし、ウェザー・リポートにハービー・ハンコックに……だから、彼はああいうレコードが発表された当時、まさにその頃にベースを学んでいたっていう。俺が後にHMVで買いあさっていたああいうレコード、ドナルド・バードだとか(※別冊ジャズ特集参照)、ああした作品が世に出た頃に彼はもうこの世に生きていて、ああいうベースラインを自分のベッドルームで弾いていた、っていうね。
 だから、彼からすれば「おおー、こういう音楽がまだいまの時代に存在するのか!」ってもんだったし、マクナスティにとってもそれは同じだった。俺としては「カムバックするぞ」という思いだったし、映画みたいなものにしたいな、と。
 だから、俺たち3人が集まった経緯も映画っぽかったし、そこで「オレたちにはまだもうひとつ、やり残した仕事がある」みたいな。そんなわけで、とてもエモーショナルな作品なんだ──っていうか、俺は毎回音楽を通じて自分のエモーションをチャネリングさせているんだけどね。決してただ単に「こういうサウンドの音楽を」ってだけの話ではないし、その音楽をプレイしていて、そこで自分は何を感じているのか、自分は何を考えているのか? そこだからね。で、あそこで考えていたのは、「これが自分に残されたすべてなんだ」ってことで。だから、「もしもこれが俺にとっての生き残っていくための術(すべ)であるのなら──どうか神様、お願いです、俺にチャンスを与えてください」と。そして、「どうか、この音楽が聴く人びとにとって何か意味を持つものにしてください」と。この音楽をプレイすることで、人びとに何かをお返ししたい、そうやって聴く人びとが喜びを感じ取ったり、あるいは彼らに安心感を与えられれば、と。

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ああ、シャバカ! シャバカはレジェンドだよ! 彼とは2009年に一緒にプレイしたことがあってね、ブリクストンで。ちょっとしたジャム・セッションを彼とやったんだ。だから彼のことは知ってるし、彼は本当に長いことプレイしてきた人だし、うん、ものすごくリスペクトしているよ。とても、とてもリスペクトしている。

お話を聞いていると、あなたは「松明を受け渡す」ということにとても意識的みたいですね? あなた自身のヘリテージはもちろん、ジャズからダンス・ミュージックに至る長く多岐な歴史、その歴史を受け継ぎ、そして未来の世代に渡していこうという、その意識はあなたの音楽的なDNAなのかもしれません。

KW:うん、その点は間違いなくあるね。

どうしてそういう意識が強いんでしょう? その「伝統の継承」が、現在のシーンには欠けているから?

KW:うん、だから、どこかにそういう人間がいなくちゃいけない、というか……思うんだよね、要するに、デジタル音楽が一般的になって──ダウンロード、ストリーミングなんかが発展していった時期……2006年後期から2008年くらいの時期だったと思うけど、あの時期に、たくさんの音楽やアーティストが消えてしまったんじゃないか?と。たとえばバグズ・イン・ジ・アティックとか、アシッド・ジャズ系のアーティストとか。というのも、あの時期はまだいまみたいなソーシャル・メディア網が存在していなかったし、彼らのようなアーティストたちにはソーシャル・メディアという手段がなかったわけ。

なるほど。

KW:彼らは違う世代から出て来た人びとだし、彼らはこの、新たに変化した音楽産業にどう適合していいか、そのやり方を知らなかった。そんなわけで、彼らのような世代のアクトたちは(デジタル・メディア/音楽の世界から)姿を消してしまったんだよ。だから、俺の系統の元にあった人たちはみんな消えてしまった、みたいな。
 対して俺は、ソーシャル・メディア時代に生まれた、っていうか、ぎりぎりその世代に含まれる時期に生まれたわけだよね。だから自分は新世代の人間だし、でもああしたかつての音楽を聴いていた、と。そこで感じたんだよ、責任感を。あの手の音楽をいまの時代に持ち帰ってきて、新たな聴き手に提示する、そうやって再びクールなものに、いまの人びとにとっても今日性のあるものにしたい、そういう責任を感じた。で……自分はその役目を果たしたな、そう思っていて。だからだしね、バグズ・イン・ジ・アティックに4ヒーロー、それにベルリンのジャザノヴァみたいな人たち、彼らがみんな、俺を「同類」と看做してくれるのは。
 というのも、俺の音楽を聴けば、彼らにも俺が彼らの音楽を聴いてきたこと、彼らの音楽を聴いて育ってきたのがわかるだろうし、しかも、いまや俺は彼らを再びシーンに引き戻すこともできる、と。今後、自分のレーベル、〈Black Focus〉からアフロノートのアルバムを出すつもりだし、カイディ・テイタムやマーク・フォースのアルバムも出そうと思ってる。そうやって、彼らを新しい時代に生き返させることで、自分の受けてきた彼らからの影響に敬意を表したい、ということなんだ。

“Rhythm Commission”のようなディスコ調のファンク、こういうリズムはペッカムのハウス・シーンのトレードマークのひとつと見て良いと思いますか? 〈Rhythm Section International〉あたりから出てくるサウンドもこのようなリズムが多く見られます。

KW:っていうか、あれは「ペッカムのトレードマーク・リズム」じゃなくて、「ウーのトレードマーク」なんだよ。

(笑)なるほど、了解です。

KW:(笑)だから、ヘンリー・ウーのトレードマークってこと! あれが俺のシグネチャー・サウンドの鳴り方なんだ。アルバムのなかに何か、橋渡しをするもの……ジャズ・ファンクとハウスとの間のギャップを繋げるもの、そういうものを入れたかったからね。だからあの曲は、むしろ「ヘンリー・ウーのチューン」、「ヘンリー・ウーのビートが鳴ってる曲」みたいな。だからなんだよ、あの曲をアルバムに入れたかったのは……アルバムはもちろんバンドと作ったけれども、あの曲を含めることで文脈の繫がりを見せたかったっていうか、「ほらね、(名義は違うけれども)中身は同じなんだよ」と。だから本当に、聴き手にこのアルバムをじっくり聴いて欲しいと思っていて。エレクトロに聞こえることもあれば、ジャズ・ファンクな面もあって、新しいんだよ。だから、ただ単に(昔ながらの)「ジャズ・ファンク・アルバム」ではないし、モダンなサウンドやシンセも入っている。わかるよね? だから、フレッシュなものにしたかったんだよ。

“LDN Shuffle”に参加しているマンスール・ブラウン(Mansur Brown)ですが、彼はTriforceで演奏して、今年のはじめに出たコンピレーション・アルバム『We Out Here』にも参加していますよね。

KW:うん。

で、あなた自身はシャバカ・ハッチングスやジョー・アーモン・ジョーンズなんかとも繋がりはあるのでしょうか?

KW:ああ、シャバカ! シャバカはレジェンドだよ! 彼とは2009年に一緒にプレイしたことがあってね、ブリクストンで。ちょっとしたジャム・セッションを彼とやったんだ。だから彼のことは知ってるし、彼は本当に長いことプレイしてきた人だし、うん、ものすごくリスペクトしているよ。とても、とてもリスペクトしている。ジョー・アーモン・ジョーンズ、彼は逆にすごく若い世代って感じの人で──

エズラ・コレクティヴをやっている人ですよね?

KW:そう、エズラ・コレクティヴ。で……彼はもっと若いし、グレイトな、ファンタスティックなミュージシャンだと思う。すごく優れたキーボード奏者だよ、彼は。ただ、シャバカは……彼のことは本当に昔から覚えているし、だからそんな彼がいまや有名になって雑誌の表紙を飾ったりするのを見るのは、俺も本当に嬉しいんだ。彼に対してとても良かったな、と思う。ってのも彼は実にハードに働いてきた人だからね。10年経ってもまだがんばって活動を続けている、そんな人がいまや成功を収めるようになった、そういう光景を見るのは俺には最高なんだ。そういうのを眺めるのは大好きだね。

“Broken Theme”のような曲もまた、あなたなりのブロークン・ビーツの挑戦ということだと思うのですが、カイディ・テイタムやディーゴのようなオリジナル世代からの影響はありますか?

KW:うん、それは確実にそう。彼らからはものすごい、ビッグな影響を受けたよ。ああいう連中は……だから彼らは、いまの俺がやっていること、それと同じようなことを過去にもうやっていた、みたいな。もちろん、彼ら独自のスタイルで、ね。彼らみたいな人たちがほんと、フュージョンの手法を開拓していったんだし……っていうか、ディーゴ、彼はドラムン・ベースのオリジネイターだったからね、彼があれを見つけたっていう。彼みたいな人たちだったんだよ、ドラムン・ベースをはじめていったのは。で、それが後になってブロークン・ビートの一部になっていったわけだし、一方でカイディはちょっと若い世代で、だから彼はブロークン・ビートにそのまま入っていって……カイディはアメイジングな人だよ。ってのも、彼はライヴでの演奏もできるし、しかもビートも作っていたから。だから彼は、俺みたいなアーティストなんだよな。

なるほどね。

KW:でも、カイディに関して言えば、彼はバンドとのライヴ・アルバムを1枚も作ったことがなくてね。で、俺は「彼があのバンドとのライヴ作品を作っていてくれたらなぁ」と思ってしまうんだ。というのも、彼がバンドとやったライヴは何回も観たし、どのショウも素晴らしくて。だから「なんで彼はあのバンドとの生演奏のライヴ、あのショウを作品化しなかったんだろう? 惜しい!」と。そんなわけで、俺はいまだにカイディにお願いし続けているんだよ。「カイディ、ぜひライヴ・アルバムを作ってくださいよ」って。

今作を作るにあたって、70年代のロイ・エアーズであるとかロニー・リストン・スミスのような人たちの作品を参照しましたか?

KW:ああ、そういう人たちみんな、だね。アルバムのサウンド、そして自分たちがどんなものをプレイしたいか、その面で大きな影響だった……それから、ヴァイブなんかも。まあ、俺が本当に一番好きな時代、それは70年代だ、みたいなもんだしね。ロニー・リストン・スミス、ロイ・エアーズ、ハービー・ハンコック、ウェザー・リポート……ああいったレコードは、俺のオールタイム・ファイヴァリットなんだ。

カール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラの作品なんかはあなたの今作『ザ・リターン』とも似たムードを持っているんじゃないでしょうか?

KW:なるほど……。でも、正直なところ、彼らのアルバムはちゃんと聴いたことがないんだよ。だから何とも言えないけど、うん、もちろんカール・クレイグはよく聴いてきたし、彼の音楽がどういうものかは知っているけど、そのアルバムは聴いたことがないな。

なるほど。いや、あなたの友人であるK15はデトロイトのカイル・ホールのレーベル〈Wild Oats〉からも作品を出していますよね。なので、そういうデトロイト繫がりがあったのかな? と。

KW:ああ、まあ、俺はデトロイトの音楽は何でも好きだしね。それに、K15(ケー・ワン・ファイヴ)、彼はたしかにモロにそういう感じだし、彼はデトロイトから強く影響を受けているから。

ヒップホップで育ったあなたがラッパーとは組まないのは何故でしょうか?

KW:いや、ラッパーと仕事はしているんだけどね。ただ、これまでの段階では、まだちゃんとしたものはやっていない、というか……作品はまだ何もリリースしていないんだ。というのも(やや慎重に言葉を選びながら)──UKラッパーたちというのは、いずれ俺も一緒にやっていきたいと思っているけれども……自分は過去にもうやってしまったことだからね。ガキの頃、成長期の若かった自分の背景はUKラップにあったわけで、それはもう自分はやり終えたことだ、みたいな。そこから自分は前進・発展していったと思っているし……それにUKヒップホップは、現時点ではそんなに良い地点にいないんじゃないか?と思ってもいて。俺が大きくなっていった時期、あの頃のUKヒップホップはすごく良かったけれども、いまではMC云々という意味で言えば、むしろグライムの方が「UKの声」になっていると思うし。でも、いずれ将来的にはMCやラッパーと仕事したいと思っているよ。

さきほども話に出ましたが、あらためて訊くと、アルバムのタイトルの『ザ・リターン』とは何を意味しているのでしょうか?

KW:俺たちの帰還──音楽の本当の意味でのエッセンスに回帰していくこと、音楽の純粋さに立ち返る、ということなんだ。だから、俺は、俺は……自分のハートに戻っていくんだ、と。自分のハートに響く音楽に戻っていく、というね。それに、一緒にプレイしてくれるグループ、彼らとも素晴らしいコネクションを結べているし、とにかくポジティヴなんだ。これはポジティヴな帰還だよ。……それに、ちょっと映画っぽいよね? だから、俺はブルース・リーの映画『Return of the Dragon』(※『ドラゴンへの道』のアメリカ公開タイトル)が好きだし(笑)。だから、そういう面も少しある作品なんだ、映画みたいに作った、という。

K15とのWu15プロジェクトでの作品は予定されていますか?

KW:うん、ぜひやりたいね! ってのも、日本のブラザーたちがこのアルバムを気に入ってくれるのは自分でもわかるし、俺が日本に行くと彼らはK15も聴いてくれていて……K15は俺の大親友のひとりなんだ。だから、彼と俺とで一緒にアルバムをやることになった暁には──それはきっとすごくスペシャルなものになるはず。で、そのときは間違いなく、東京にいるブラザーたちが真っ先にそのニュースを知るようにするよ! うん、なるべく早くKu15のアルバムを作れたら良いな、そう思ってる。

※なんどもうるさいですが、このインタヴューの前半は、5月30日発売の別冊エレキング『カマシ・ワシントン/UKジャズの逆襲』に収録されております。カマール・ウィリアムスの良い兄さんぶりをぜひ、そちらでもチェックしてください。

Vincent Moon - ele-king

 パリ出身の映像作家、ヴィンセント・ムーンの名前は、2006年にはじまったウェブ向けの音楽シリーズ「Take Away Show」によって広まった。「Take Away Show」ではミュージシャンを街の至る所へ連れ出し、彼らの素顔を捉えたリアルな映像を収めている。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLB11F2A75B21884EC&feature=plcp

 ちなみに現在彼は、2019年の実施を目指し、日本のシャーマニズムや伝統音楽を追いかける「響 HIBIKI」プロジェクトの準備をすすめている。
 牧野貴もまた、映画、音楽、インスタレーション、オーディオビジュアルパフォーマンスなど多分野で活動し、ジム・オルーク、大友良英、坂本龍一など著名な音楽家とのコラボレーションも活発に行っている映像作家。3台のプロジェクターから作られるイメージの重なり合いが幻想的だ。

(『ENDLESS CINEMA』音楽:ジム・オルーク2017)

 当日は、ヴィンセント・ムーンと写真家で作家のプリシラ・テルモンによるライブ・シネマと、牧野貴 によるライヴ・パフォーマンスが予定されている。
 映像詩人たちによる当日限りの特別プログラムに足を運んでみてはいかがだろうか。

■ FOUNDLAND feat. VINCENT MOON + 牧野貴

2018年6月11日(月)@ VACANT
18:30 open / 19:00 start
前売 3,500yen / 当日 4,000yen(+1D別途)

出演:
Vincent Moon & Priscilla Telmon
牧野貴
音響:福岡功訓(Fly sound)
予約:https://foundland.us/archives/1961
イベント詳細:https://foundland.us/archives/1961

Vincent Moon web site:VINCENTMOON.COM
響HIBIKI project web site:https://hibikiproject.com
牧野貴 web site:https://makinotakashi.net/
Priscilla Telmon web site:www.priscillatelmon.com

K-HAND - ele-king

 1990年代初頭から活躍するデトロイトのDJ/プロデューサー、K-Handことケリー・ハンドの来日が東京、大阪で決定しました。この女性DJは、昨年は、Nina Kravizのレーベル〈трип〉から作品を発表しており、近年はまさに再評価を高めている。いまでこそ女性のDJ/プロデューサーは珍しくないが、ケリー・ハンドが自身のレーベル〈アカシア〉をデトロイトではじめた時代は、右も左もブースでレコードを回すのは野郎ばかりだった。まさに先駆者であり、偉人ではないだろうか。


K-HAND Japan Tour
5/26(土)大阪 @ALZAR
5/28(月)東京 @Contact K-HAND

≪Boiler Room DJ set 2015≫

≪Nina Kravizが選曲したK-HANDの15曲≫
https://www.youtube.com/playlist?list=PLnZOad80R4noDs94C1e6CsMgydiS_UWuE

あの時代が残したもの - ele-king


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 レヴューには書きそびれてしまったのだけれど、『ザ・スクエア 思いやりの聖域』でジャスティスの“Genesis”がかかったとき、何とも言えない気持ちになってしまった。それは主人公のクリスティアンが低所得者が暮らす住宅に脅迫めいたビラを配るのに向かう車のなかで流されるのだが、暴力的な気分を上げるためのものとしてドラッグのように「使用」されている。ジャスティスのファースト・アルバム『†』が2007年。当時、ニュー・エレクトロと呼ばれたエレクトロニック・ミュージックのイメージがまったく更新されないままそこで援用されている。まあジャスティスの場合はロマン・ガヴラス監督による“Stress”の超暴力的なヴィデオの印象を引きずっているところも大きいだろうが、いまから振り返って当時のインディ・ロックとエレクトロのクロスオーヴァーの思い出は大体そんなところではないだろうか。粗暴で子どもっぽく、刹那的。それ自体はけっして悪いことではない。ニュー・レイヴと呼ばれたシーンにまで拡大すれば、事実としてインディ・ロックを聴いていたキッズたちを大勢踊らせたし、自分もけっこう楽しんだほうだ。オルター・イーゴの“Rocker”で何度も踊ったし、ヴィタリックのファーストも買った。デジタリズム(ああ!)のライヴも観たし、クラクソンズの登場も面白がった。が、2010年に入るとかつてのニュー・エレクトロのリスナーの少なくない一部がEDMに回収されていくなかで、00年代なかばのクロスオーヴァーが何を遺したかと問われれば答に詰まるところがある。いや、はっきり言える……何も残らなかった、と。ジャスティスやクラクソンズのデビュー作が発売された2007年、まったく別の場所からべリアルの『アントゥルー』が届けられているが、どちらに史学的な意義があるかははっきりしていることだ。

 ジェームズ・フォードとジャス・ショウによるデュオ、シミアン・モバイル・ディスコ(以下SMD)もまたニュー・エレクトロ、ニュー・レイヴの渦中から現れた存在である。フォードは実際クラクソンズのプロデュースを務めていたし、彼が所属していたバンドであるシミアンの曲をジャスティスがリミックスしたシングル“We Are Your Friends”はニュー・レイヴのアンセムだった(覚えていますか?)。が、そのなかにあってSMDはどこか違っていた。粗暴でもないし刹那的でもない。チャイルディッシュな人懐こさはあったものの、フォードがプロデューサーということもあり何やら職人的な佇まいは隠されていなかった。何しろデビュー作のタイトル(これも2007年)は『アタック・ディケイ・サステイン・リリース』だ。音のパラメータを触ることによって生まれるエレクトロニック・ミュージックの愉しさ。同作はニュー・エレクトロの勢のなかでもじつはもっとも純粋にエレクトロ色が強い作品(つまり、オールドスクール・ヒップホップ色が濃い)で、じつにポップな一枚だが、同時に音色の細やかな変化自体で聴かせるようなシブい魅力もあった。
 その後ニュー・レイヴの狂乱が忘れ去られていくなかで、しかしSMDはアルバムを約2年に1枚のペースで淡々とリリースし続けた。その傍らフォードはアークティック・モンキーズやフローレンス・アンド・ザ・マシーンのような人気バンドのプロデュースを続け、職人としての腕も磨いていく。セカンド『テンポラリー・プレジャー』(09)の頃はゲスト・ミュージシャンを招いたポップ・ソングの形式――「ニュー・レイヴ」――をやや引きずっていたが、作を重ねるごとにエレクトロを後退させ、よりアシッド・ハウスやテクノに近づいていく。モジュラー・シンセとシーケンサー、ミキサーのみというミニマルな形態にこだわりながらクラウトロックの反復をテーマとした4作目『ウァール』を経て、 とりわけ、自主レーベル〈Delicacies〉からのリリースとなった『ウェルカム・トゥ・サイドウェイズ』(16)は非常にストイックなテクノ・アルバムとなった。ヴォーカルはなく、固めのビートが等間隔で鳴らされるフロアライクなトラックが並ぶ。とくに2枚目は50分以上に渡るノンストップのミックス・アルバムになっており、これはほとんどミニマル・テクノのDJセットである。そこにニュー・レイヴの陰はまったくない。

 そしてやはり2年間隔でのリリースとなった新作『マーマレーションズ』は、そうしたクラブ・ミュージックとしてのテクノの機能美を引き継ぎつつ、いま一度ヴォーカル・トラックに向き合った一枚である。ロンドンの女性ヴォーカル・コレクティヴであるディープ・スロート・クワイアをフィーチャーし、リッチなコーラス・ワークを聴かせてくれる。それはいわゆるカットアップ・ヴォイスのように断片的にではなく、比較的メロディを伴った形で導入されているのだが、やはりテクノのDJプレイのようにフェード・イン/フェード・アウト、カット・イン/カット・アウトするものとしてパラメータを絶妙に変化させながら現れては消え、また現れる。クワイア単体では演劇的な仰々しさがあるのだが、それが硬質なエレクトロニック・ミュージックと合わさることで異化され、抽象化される。モダン・ダンスを思わせるヴィデオとともに先行して発表された“Caught In A Wave”や“Hey Sister”などは比較的まとまったポップ・ソングとしての体裁があると言えなくもないのだが、アルバムでは長尺となる“A Perfect Swarm”や“Defender”辺りは一曲のなかで組曲のような壮大な展開を見せる。

 パーカッションなど生音が多く使用され、声が音響化されているため耳への響きは柔らかく、前2作の硬さとは対照的だ。あるいはビートレスのまま音の揺らぎが重ねられる“Gliders”などを聴くと、10年代のアンビエント/ドローンをうまく吸収していることがわかる。初期のローレル・ヘイローを思わせる部分もあるし、あるいはそのスケール感とエレガンスからジョン・ホプキンスと並べてもいいだろう。要はモダンなのだ。それは、彼らがデビューから静かに音の「アタック・ティケイ・サステイン・リリース」を細やかに練磨し続けてきた成果であり、『マーマレーションズ』ははっきりとキャリアでもっとも完成度の高いアルバムだと言える。
 フォードはアークティック・モンキーズの最新作のプロデュースに携わっており、プロダクションの面で大いに貢献している。裏方としての役割をいまも粛々とこなす彼には、ひょっとしたらSMDを過去の遺物として葬る選択肢もあったかもしれない。名義を変えてエレクトロニック・ミュージックをやるとか。だがフォードとショウのふたりはそんなことはせず、地道な変化と前進でこそニュー・レイヴではないテクノ・ミュージックをしっかりと作り上げていった。あの時代が残したものがそれでももしあるのだとすれば、それはシミアン・モバイル・ディスコという存在自体なのではないか……『マーマレーションズ』を聴いていると、そんな気分になってくる。


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