「Ord」と一致するもの

interview with Yo Irie - ele-king

いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。

 水、仕事、SF、FISHときて、恋愛。なんのことだかわからないかもしれないが、それが入江陽という異才シンガーソングライターのディスコグラフィである。

 デビュー・アルバム『水』(2013年)の発表からちょうど10+1年。大谷能生がプロデュースした『仕事』(2015年)、soakubeatsらとの『SF』(2016年)、自主レーベルからの『FISH』(2017年)と、入江は4作のアルバムをリリースしてきた。その間に、ネオ・ソウルやヒップホップやジャズやエレクトロニック・ミュージックを大胆にかき混ぜながら、滲みでる前衛性と溢れでる歌心と諧謔に満ちた歌詞とで彩られた異形のポップ・ソングを歌ってきた。

 異才、異形と似たような貧しい語彙で形容したものの、今回、『恋愛』での入江からは「異」がぽろっととれた、かもしれない。映画やドラマやゲームといった対外的な現場での音楽制作などを経て、ツイストした自我の中からストレートな志向を発見した入江は、まっすぐにポップへと向かった。ビースティ・ボーイズとの仕事で知られるマリオ・Cを筆頭に、あまりにも幅広いコントリビューターたちからの助力も得た結果、アルバムは清々しく、実に風通しがよい、群像劇のような作品に磨きあげられている。

 アルバムのタイトルでありコンセプトの「恋愛」は、自ら語るとおり、2010年代以降のジェンダーとセクシュアリティの多様性の(遅ればせながらの)認識の拡大、アロマンティックやアセクシュアルについてのそれを含む知識が広がった時代に、どこか古臭さと、古臭いがゆえの滑稽さを帯びている。それでも、少なからぬ人びとがいまも恋愛に心をかき乱されているし、それらが商品や見世物として流通してさえいる。その「恋愛」という不思議な共有性を通じて、入江がポップの鍵を掴んだことは想像に難くない。

 ところで、今回のインタヴューで入江の口からたびたび出てきたのは、「信用」や「信頼」といった言葉だった。それは、他者へのものであるのと同時に、音楽それ自体に向けられたものでもある。この歌い手は、「恋愛」というミクロなものを拡大し、なにか大きなものにアクセスしようと試みているようだ。

影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。

入江さんの新作、7年ぶりですか!

入江陽(以下、YI):気づいたら、浦島太郎のように7年も経っていました(笑)。体感は2、3年……っていうと嘘で、さすがに5年くらい経っていそうな気がしたんですけど、7年も経っているとは思わなかったですね。「7年経っている」とみんなが言っていることが、嘘かもしれません(笑)。ただ正直、もっと早くつくればよかったって思ってはいます。

2019年から配信シングルを継続的に出していて、映画音楽の仕事もされていたので、それほどタイムラグを感じません。

YI:自分でおもしろいと思うのが、シングルを大量に出していたにもかかわらず、アルバムにほとんど入っていないことですね(笑)。

シングル集的なアルバムにはしなかったんですね。

YI:『FISH』やそれ以前のアルバムを聴き返すと、曲がバラバラすぎて、どういうシチュエーションで聴いたらいいのか悩むなって、リスナーとして客観的に思ったんです。それで、ジョン・コルトレーンの『Ballads』(1962年)のようなロマンティックなジャズ・バラード集が好きなので、「恋愛」というコンセプトのアルバムにまとめることで、聴くシチュエーションがわかりやすくなるかなと。……ですが、いま聴くと、意外と曲調がバラバラで(笑)。

いえ、入江さんの作品の中で最も統一感やコンセプチュアルなまとまり、完成度の高さを感じますし、最高傑作だと思います。ゲストも多いですし、入江さんがつくっていない曲もあって風通しがよく、それなのにこの統一感はなんなんだろう? と。

YI:アレンジャーさんも制作経緯もバラバラで、ドラマや映画への提供曲も収録していますからね。まとめる作業はストロング・スタイルで、曲をひたすら並べ替え、夜に散歩しながら聴きまくったんです(笑)。その作業をずっとやっていたら、自然と物語性が出てきました。前半は楽しげで恋愛のワクワク感があって、後半は切なげになってくる感じで。

そもそも、なんで恋愛がテーマなんだろう? と思ったんです(笑)。「はいしん狂」の入江さんだから、恋愛映画やドラマを見まくっていたのかな? とは考えましたが。

YI:まさにそれはあって、恋愛リアリティ・ショーを見まくっていたんです(笑)。『あいのり』や『テラスハウス』あたりがクラシカルなところだと思うんですけど、最近は各社乱立していて。ご覧になりますか?

まったく見ませんが、存在していることは知っています(笑)。

YI:たとえば、ふたつの島が舞台で、移動のタイミングが限られているから、その偶然性でカップルが成立するかどうかが決まる番組とか。元カレと元カノを集めて嫉妬させあう、醜悪な……「醜悪」は言い過ぎました(笑)。そういう練られた座組の番組とか。いま、恋愛リアリティ・ショー戦国時代で、自分は楽しく見ていたんですけど、興味を示さない人もいて、自分が恋愛ごとやオチのない恋バナに興味が強いタイプなんだなと理解したんですね。
あと、「恋愛」って言葉自体が古びてきていると思うんです。ジェンダー観が多様化し、アップデートされて、10年前と現在とでは『恋愛』というタイトルのアルバムを出す意味がかなりちがっているなと。そこで、「恋愛」という旗をあえて振る少数派になってみたらおもしろいかなって思ったんです。

たしかに、漢字で「恋愛」というタイトルのアルバムがどーんと出ると、すごくインパクトありますね。

YI:あえての「恋愛」なのか、単にやばい人なのか、わかりづらいですね(笑)。この古びた「恋愛」って言葉、ちょっと笑える感じがするんです。

昭和感がありますね。

YI:平仮名で「れんあい」とすることも考えたんですけど、そういう逃げはやめて、ストレートにわかりやすく「恋愛」としました。
過去のアルバムはコンセプトがわかりにくくて、内面的で抽象的なテーマだと思った理由もありましたね。ひねくれたことをやめて、自分を知らない方々にも興味を持って聴いてもらえ……るかはわからないんですけど、フックがある作品にしたかったんです。

亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。

入江さんって、井上陽水が好きですよね。入江さんにも井上陽水にも、滲みでる変態性と、どストレートなポップさがあると思うのですが、今回は後者が強調されていると感じました。そのぶん、エゴが抑えられているとも感じたんです。

YI:変な曲はなるべく外す方針でした。最近のシングルだと “Juice”(2023年)は気に入っていて、入れるかどうか迷ったんですけど、流れやバランスがよくならなかったので、泣く泣く外したんです。恋愛がテーマの曲なんですけど、それでも外すくらいアルバムの空気を尊重したんですね。変態さを抑えたサウンドにしたつもりなんですけど、“すあま” はピアノの即興演奏だったり、“Dracula” はアヴァンギャルドめだったり、匙加減がわからなくて不安になったので、ポップにかなり寄せたかもしれないです。

作品を客観視していたんですね。

YI:そうしつつ、実は、制作しながら素直な自分を発見しました。恋愛リアリティ・ショーをおもしろがって、キャッキャして見ている自分とか。あと、TikTokでバズっている曲を普通にいいなって思う自分とか。照れ隠ししていた素直な自分にアルバムの制作で出会えたというか、自分は難解なサウンド・プロダクションの曲が本当に好きだったのか? と疑問に思ったり(笑)。

ただ奇を衒っていただけなんじゃないかと。私が好きなエピソードで、入江さんとhikaru yamadaさんがエリック・ドルフィーのmixiコミュニティで出会ったというのがあるんです。でも今回は、エリック・ドルフィー成分は影を潜めているなと(笑)。

YI:変にしなきゃいけない、と思っていた部分もあったかもしれなくて。そこで音数を極力減らして、歌を聴かせるトライをしたんです。

TikTokのヴァイラル・ヒット曲の話がありましたが、参考にした曲はありますか?

YI:意識的に参考にはしていませんが、影響を受けたのは、「プロジェクトセカイ」というスマホ・ゲームの仕事に関わっていたことですね。その仕事で、20代や下手したら10代の若いボカロPの方々の曲をずっと聴いていたので、その素直さに影響を受けたんです。ストレートな初期衝動の強さを目の当たりにして、ハートに火がついたのはあったかもしれないですね。
“酔いどれ知らず”(Kanaria)って曲、わかります? TikTokの全動画についているんじゃないかってくらいバズった曲なんですけど、「プロジェクトセカイ」でその曲をボカロや声優さんにカヴァーしてもらうために聴いていたら、「みんなが好きな曲、自分も好きだな」と気づいて。抵抗なく自然に体が動いてる自分がいて、「俺、ひねくれていないかもしれない」と(笑)。

ところで、歌詞にご自身の恋愛経験は反映されていますか?

YI:当社比50%以上は入っているかもしれないですね(笑)。自分で歌う曲だと照れやひねくれたところがあって、実体験をさりげなく込めがちなんですけど、このアルバムにはドラマやほかのアーティストへの提供曲もあるので。たとえば、4曲目の “ごめんね” はNONA REEVESの奥田(健介)さんのZEUSというソロ・プロジェクトに提供した歌詞なので、「奥田さんが歌うんだったら」ということで赤裸々に書けたりしたんです。あと、ほかの方が作詞された曲で、自分の気持ちにも合っている曲を取り入れたり。実体験もなるべく込めたものにしたほうが、おもしろいかなと。
 ただ、自分の話をずっとされるのも、リスナーが聴いていてしんどいかなと思いました。生々しすぎてイヤホンを外されるなり、スピーカーをオフられるなり、再生を止められるなりされるのも怖かったので、メタ視点は心がけました。

“ごめんね” について、奥田さんが「彼の音楽って、ちょっと不吉じゃないですか。(中略)スイートな曲のなかにも不吉・不穏な部分を入れたくなる、そういうことをやってるのがラー・バンドだったりするんですけど、入江くんの魅力も良い意味で不吉なところなんですよね」、「すごくストレートなんですが、ちょっとコワい歌詞なんですよね」とMikikiのインタヴューで語っていました(笑)。

YI:「不穏」はいいんですけど、「不吉」というのはすごいですね(笑)。『水』を出したときに、柴田聡子さんから「もう死んだ人が歌っているみたい」って言われたんですよ。スピっているわけじゃないんですけど、それはちょっと意識しています。亡くなった人の憑依というか、他人の思い出とか、もし前世があるとしたらその記憶とか、人類に共通する原初的な経験──恐怖や温かい気持ちにアクセスしたいなって。そう考えると、なおさら自分が作詞作曲した曲じゃなくてもよくなってくる。そういう意味で、「自分がつくる」というエゴが薄まってきているかもしれないですね。

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映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

入江さんってコラボレーションや他者に委ねる制作をしてきたわけですが、その傾向が近年は前景化したと思うんです。

YI:それはかなりありますね。他人に任せてできたものに修正希望を出して直したものより、最初の形のほうがおもしろいなって感じた経験が多くて。それで、任せた方の判断を尊重して信頼する傾向が強まりました。

先日、「これまで音楽に対して信じて倒れ込む、倒れ込み方がちょっと足りなかったかもしれません。次のアルバムでは完全にゆだねて、音楽をベッドと思って倒れ込んでおる気がします」とXにポストしていましたよね。いまのお話と関係しているのかなと。

YI:それ、忘れていました(笑)。そうなんですよ。以前は音楽を信じきれていなくて、ちゃんと倒れ込めていなかったんです。人類が音楽をずっと好きでいる事実――カラオケで歌うのが楽しいとか、子どもたちは歌うのが好きだとか、料理しながら歌をつい口ずさんじゃうとか、そういう音楽と人類の深い、ズブズブの関係に対する信用が足りなかったんですね。なので、個性的なものやエゴを込めないといけないと思っていたのですが、今回はそういうものをなるべく外して、人類と音楽のズブズブの関係に安心して倒れ込もうと。……なにを言ってるのか、自分でもよくわからなってきたんですけど(笑)。いろんなこだわりを脱ぎ捨てよう、という気持ちは強まっていますね。

パンツ一丁、いや、真っ裸になったという(笑)。

YI:まだパンツとタンクトップは着ちゃっていますね(笑)。それでも、だいぶ脱ぎ捨てられました。一時、軽い鬱っぽくなったりもしていたので、精神的にやばくなるのを予防するために、カウンセリングを定期的に受けるようになったんですよ。

“続・充電器” の歌詞にもありますね。

YI:歌詞にも出てくるスズキさんのカウンセリングを受けていて、内観するようになって、素直な自分を発見したことも影響があったかもしれないですね。日本のカウンセリングって、村の老賢者みたいな方が人生訓やアドバイスを授けるようなものも多いんです(笑)。西洋的なカウンセリングは、自分の話を鏡のようにずっとミラーリングしてくれて、自分のイメージが歪んだときにだけちゃんと映してくれるんですね。そういうスタイルのカウンセラーであるスズキさんにたまたま出会えたのは幸運でしたね。

“続・充電器” は内省的な歌詞ですよね。

YI:前半部分は元々の “充電器”(2019年)の歌詞で、後半に後日談を継ぎ足しました。

原曲の、バキバキのエレクトロニックなアレンジからも変わっています。

YI:あれは服部峻さんという狂気じみた……「狂気じみた」は言い過ぎかも(笑)。服部さんというかっこいいサウンド・クリエイターの方によるものでしたが、歌を活かしたアレンジにしたかったのと、「生のストリングスを録ってみたい!」って無邪気な願望があって。ストリングス・アレンジを廣瀬真理子さんという方にやっていただいています。
廣瀬さんが実は、このアルバムの隠れたエリック・ドルフィー性をかなり担っているんです(笑)。「廣瀬真理子とパープルヘイズ」というビッグ・バンドをやっていらっしゃるのですが、微分音を使ったり、かなり変態的なサウンドで。廣瀬さんに参加いただいたのは、“続・充電器” とシングルの “知ってる”(2023年)ですね。今回、ストリングスを入れた曲が増えました。

ストリングスが入っている曲では、“気のせい” の編曲がシンリズムさんで、“道がたくさん” が大沢健太郎さん(元・北園みなみ)。“道がたくさん” はフレスプの石上嵩大さんが作詞作曲をされていて、歌はsugar meさんとのデュエットですね。大沢さんの編曲は、スティーヴィー・ワンダーやシュガー・ベイブなんかのそれを感じさせるものです。

YI:“道がたくさん” は、石上さんのプロジェクトで10年ほど前につくったままお蔵入りになっていた曲のデータが残っていたので、サルヴェージしたんです。ずっと気になっていて、デモを聴きつづけていたんですけど、アルバムの締めくくりに合いそうだと思って。

“気のせい” のシンリズムさんの編曲は、冨田ラボの愛弟子感がよく出ている見事なシティ・ポップですね。

YI:エンジニアの中村公輔さんが京都精華大学でレコーディングの授業を受け持っていて、歌を録音する実践として、当時の生徒さんだった清田(尚吾)さんが書いた曲に、僕が急いで作詞した曲ですね。あとで聴き返したら、意外といい曲だな~と思って。ばーっと書いたから軽やかで、こだわりが希薄になったのかな。

「LINEの返事 書くだけで時間かけて」なんて、すごくいい歌詞だと思いました。

YI:「LINEの返事を返さない人にどうしたらいいの?」みたいな恋愛相談の動画がTikTokで流れてくるんですよ。それで「返事がこないってことは、大切に書いている可能性があるから待ってみて!」と言っていて、なるほど~! と思ったんですよね(笑)。

1曲目の “とまどい” は元々、NHK Eテレのドラマ『東京の雪男』(2023年)の挿入歌だったんですね。

YI:雪男と人間の女性が出会う話なんですけど、前半の歌詞がその出会いを描いたドラマに提供したもので、後半の藤岡(みなみ)さんパートはアルバム用に追加しました。

藤岡さんの声がすごく儚げで、それこそ霊界から響いてきているような歌ですね。藤岡さんは「タイムトラベル指南」ともクレジットされているのですが、これは(笑)?

YI:藤岡さんって、タイム・トラベルがすごく好きなんです。タイム・トラベル専門書店の「utouto」というのをやっているくらい。

タイム・トラベル専門書店ってすごいですね。

YI:明らかにタイム・トラベルしたであろう人も店に現れるらしくて(笑)。まったく同じ人が店の前を2回通過したり、侍が付近を歩いていたりするって、藤岡さんが言っていましたね。
以前、『ミュージック・マガジン』さんの連載(「ふたりのプレイリスト」)で藤岡さんにインタヴューしたとき、縄文土器とか藤岡さんが好きなものはタイム・トラベルに繋がっているとおっしゃっていたんです。それで今回、タイム・トラベル指南をレコーディングの際にしていただきました。僕は、タイム・トラベルはできなかったんですけど(笑)。

「指南」って、具体的にどういうことなんでしょうか(笑)?

YI:タイム・トラベルのおすすめ映画を教えてもらったりとか、それくらいです(笑)。タイム・トラベルという要素やテーマは僕も大切にしていて、時間軸を引き延ばしたり短くしたりするのが好きなんですね。なので、藤岡さんを今後のタイム・トラベルの師匠として招き入れたく、まず歌の客演でオファーしました。

他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。

“とまどい” は、若干ローファイ・ヒップホップっぽいプロダクションですよね。

YI:前半と後半でビート・チェンジする曲が好きで。“とまどい” では、商用利用OKのサンプリング素材を使って、エンジニアの林田涼太さんにミックスしていただいたんです。その素材と歌とのバランスをどうするかという点で、なるべく歌以外の音を減らしたかったので、楽しみながらつくって勉強になりました。

ミックスで歌を大きくしてど真ん中に置いたことも、アルバムをポップにしているのでしょうね。

YI:ドレイクをずっと聴いていたら、歌心やラップが生々しくて真に迫るから、みんなドレイクが好きなのかなって思ったんです。ドレイクの影響っていうと、恥ずかしいんですけど(笑)。ドレイクの影響で、どんどん「歌デカ」にしていこうと思ったんですね。

ビート・スウィッチの話がありましたが、近年の入江さんの作品の特徴ですよね。それもやはり、最近のヒップホップと関係していますか?

YI:かなりありますね。「別曲だと思って聴いてたわ~」みたいなビート・スウィッチの曲って最近、多いじゃないですか。ドレイクと21サヴェージの『Her Loss』(2022年)も、頻繁なビート・スウィッチの曲が多くて好きなんです。それをポップな歌ものでやれたらおもしろいんじゃないかなって。自分は多動傾向があるので、多動欲求を1曲で2曲分満たせるって理由もあるかもしれません(笑)。

あと、やはり気になるのが3曲目の “ときめき” で、マリオ・Cことマリオ・カルダート・Jr.が参加していることに驚きました。

YI:マリオさんから「入江くんの歌、おもしろかったから、なんか一緒にやってみない?」とフランクなメッセージをいただいて、送っていただいた曲に歌をのせてつくった曲です。OMSBさんとの “やけど”(2015年)で知ってくださったんだったかな? カクカクした譜割りじゃない、ふわっとのっている歌の気持ちよさをおもしろがってくれたようです。

作曲にマリオさんと並んでジョナサン・マイアさんという方がクレジットされていて、調べてみたところ、ラテン・グラミー賞を受賞しているブラジルのプロデューサー/エンジニアのようですね。

YI:全楽器をマリオさんとジョナサンさんが担当されている、としか書かれていないので、分担はわからないんですけど、たくさん演奏してくれているのかもしれません。

“ときめき” は「メロディの作曲」が入江さんと記されていますが、入江さんがトップラインだけを書いているというのが、いまどきのコライト的な作曲法だなと思いました。

YI:送られてきたトラックに歌をのせて、お互いの仕事を全尊重、全活かしで完成させたので、楽しかったですね。

ラブリーサマーちゃんとの “海に来たのに” は、シングルとして2023年にリリースされていましたね。

YI:元々、ラップ・デュオのOGGYWESTのメンバーであるLEXUZ YENさんとつくっていた曲です。それを下地に、僕と林田さんがつくり直して、ラブサマさんに歌をのせてもらったので、これもコライト色が強いですね。

ラブサマちゃんのヴォーカルが普段の歌い方とはちょっとちがっていて、90年代J-POP/J-R&Bっぽい発声がいいですね。

YI:ご本人はCharaさんのオマージュだと言っていました。

なるほど! グランジっぽいギターが途中から入ってきますが、これはラブサマちゃんの演奏ですか?

YI:そうです。ラブサマさんだったらギターと一緒にじゃないと、って気持ちがあって。シューゲイザー的な音も好きなので入れたかったんです。
こういうコライト的なつくり方は自分の頭の中と合っているようで、楽しいんですよね。完成したCDを送るために関係者リストをつくったら、70、80人ぐらいいて(笑)。みなさんには感謝しているんですけど、思ったより多かったのが自分でもおもしろかったですね。逆に、全部自分だけでつくったアルバムもおもしろいかなと思うんですけど、多動傾向にあるので、おそらく今後もこのスタイルだろうと思います。海外の作品のクレジットを見ると、作曲者がめちゃくちゃ多くて笑っちゃいますよね。

カニエ・ウェストの作品とか、そうですよね。そこに近づきつつあると。

YI:20人くらいで作曲するスタイルは、いつか挑戦してみたいですね(笑)。

息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

6曲目の “interlude(映画「街の上で」より)” は、サウンドトラックから収録されたのでしょうか?

YI:ミックスは直しましたが、そうです。今泉力哉監督の『街の上で』は下北沢を舞台にした若者たちの恋愛映画なんですけど、そのオープニングで流れる曲だったので、遊び心でアルバムに入れました。
曲として気に入っているのもあるんですけど、今泉監督は映画に参加した作家や俳優を活かそうとするタイプで、僕もすごくのびのびと音楽をつくらせていただいたことが楽しかったんですね。あと、映画音楽をやっている自分と歌を歌っている自分をもうちょっと繋げていきたいというか、壁を溶かしていきたので、アルバムに入れたのもありますね。

そう考えると、『恋愛』というアルバム自体が映画のようで、先ほど関係者リストの人数が多いという話があったとおり、たくさんの出演者やスタッフが関わっている群像劇のように感じますね。

YI:たしかに、自分は映画をつくりたいのかもしれないですね。映画って音楽とちがって、カメラに映りこんだものが全部映像に入っちゃうじゃないですか。たまたま映りこんだものをすべて肯定するというか、そういう意図はあるかもしれません。

8曲目の “あ・ま・み” は元々、姫乃たまさんがnoteで発表した曲ですよね。作詞作曲はスガナミユウさんで、入江さんが編曲しています。姫乃さんが精神的にしんどかった時期に、スガナミさんから贈られた曲だという経緯がありますね。

YI:スガナミさんって、LIVE HAUSの店長をされていて、コーディネーターやイベンターとして世間的に知られていると思うんですけど、ソングライターとしての顔をもっとムキムキ出していってほしい、という思いを勝手に抱いているんです。もちろん、この曲が純粋に好きだったので収録しました。

私も最近、LIVE HAUSのカウンターでしかスガナミさんと会っていなくて、しばらくちゃんとお話ししていないし、ライヴも見にいけていないんです。でも、ソングライターやパフォーマーとしてすごいんですよね。

YI:そうそう! パフォーマーとして最高なんですよね。すごく派手で、エルヴィス・プレスリーばりのステージングをしますからね。
アルバムの流れとして、“続・充電器” で辛い気持ちになって気絶して、“あ・ま・み” は夢の中、“すあま” でみんなが「入江さん!」と呼んで起こそうとしている、というひとつの解釈があります。

たくさんの人びとの声が入江さんに呼びかけている “すあま” は、このアルバムを象徴する曲だと思うんです。どうしてこの曲をつくったんですか?

YI:ポップなアルバムをつくりたかったので、実験的な要素を抑えてたのですが、それを発散しようと思って “すあま” と “Dracula” に込めました。ちょっと自分を解放するというか、こういう変なことをする自分も忘れずにいようと。

入江さんの活動に関わっているKotetsu Shoichiroのええ声なんかも聞こえますが、関係者や友人が参加しているのでしょうか?

YI:姉や甥のような家族、制作期間に会った友だち、恩師や同級生、〈P-VINE〉の前田(裕司)さんとか、全方位的に入江と関わってくれている方々の声です。あと、飼っている猫のすあまも「入江さん」と言っています(笑)。「プロジェクトセカイ」でお世話になっている初音ミクさんの声も入っていますね。

LPはヴァージョンちがいで、CDと配信が “にぎやかVer.” となっているのは?

YI:LPは尺がちょっと短くて人が減っているんです。単純にCDのほうが納期が長かったので、その間に人が増えたんですね(笑)。LP版でフィックスしてもよかったんですけど、諦めきれなくて。

次の “Dracula” はヴォーカルの変調が特徴的ですね。それこそ初音ミクのようにも聞こえますが。

YI:ムーグのアナログ・ヴォコーダーを入手して、そのリッチな音と自分の声を重ねています。ジョルジオ・モロダーの “E=MC²” なんかで使われているヴォコーダーの復刻版らしいですね。林田さんがセッティングに詳しいので、お力添えいただきました。

ポップなアルバムの中で、“Dracula” は最もエレクトロニックで実験的ですよね。

YI:この曲もビート・スウィッチさせるために、前半と後半で音の作家さんが別々なんです。前半が黄倉未来さんで、後半が耶麻ユウキさんというhikaru yamadaくんのサークルの先輩で、アンビエントをつくっている方ですね。おふたりにはどうなるかを知らせずにつくってもらって、それを強引に繋ぎました。歌詞もぐちゃぐちゃしているので、やりたい放題、楽しんだ曲ですね。

“Dracula” の歌詞、すごいですよね。「ウーバー」という言葉が耳に残ります。

YI:Uberで知り合った人たちをモチーフに、いろいろな意味でのマイノリティ、社会からちょっとはぐれている者たちの出会いを描きたかったんですよね。あと、「目を見りゃわかる」って暴力的な表現が好きで。僕は他人のことなんてわからないと思っているんですけど、「目を見りゃわかる」と言いきる直感があってもいいのかなと。はぐれ者どうしって、なんとなく「あっ」って直感的に同じ属性だってわかる気がするんです。“ときめき” でも、そういうことは歌っているんですけど。

恋愛に引きつけるなら、一目惚れがありますよね。

YI:一目惚れとか、気が合うと思っていたけど全然そんなことなかったとか、そういう勘違いを含めて豊かなことだなと思うんです。
よく考えたら、息を吸って吐いているだけで、どんどん時間を食いつぶしているというか、人生に残された時間が減っていっているんだなって、ふと気づいて。呼吸しながらだんだん死に向かっていくって、実はリッチな体験だなと。

4月6日にタワーレコード渋谷店のTOWER VINYL SHIBUYAで、4月13日にタワーレコード梅田NU茶屋町店でインストア・ライヴの開催が予定されていますね。

YI:ライヴはリハビリも兼ねてなんですけど、自信がなくなってきたので、ギタリストの小金丸慧さんにサポートしてもらいます。小金丸さんは「プロジェクトセカイ」でもお世話になっているし、このアルバムでも “ごめんね” のアレンジとか、かなりがっつりといろいろな形で参加してもらっています。“海に来たのに” では、ラブサマさんのギター・テックもやってもらっていますね。ほんとに、小金丸さんなしでは成り立っていない作品です。

小金丸さんって、メタラーでありながらジャズ・シーンでも活躍されていて、ユニークなミュージシャンですよね。先日、ちょうど取材しました(https://mikiki.tokyo.jp/articles/-/36890)。

YI:もともと音大を次席で卒業するくらい優秀なミュージシャンなんですけど、ジャズ科の卒制がメタル作品だという破壊的な部分もあり、人柄はすごく優しくて、最高におもしろい方ですね。

入江さんのひさびさのライヴ、楽しみですね。

YI:今年からは、ライヴもやっていけたらと思ってます。全然やっていないくて、今回のインストアはかなりひさしぶりなので、入念に準備して、「絶対にできる!」って確信した状態じゃないとできない(笑)。

【入江陽『恋愛』 リリース記念 ミニライブ&サイン会】
◎TOWER VINYL SHIBUYA
日時:4/6(土) 15時~
場所:タワーレコード渋谷店6F
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://towershibuya.jp/2024/04/06/193759

◎タワーレコード梅田NU茶屋町店
日時:4/13(土) 14時~
場所:タワーレコード梅田NU茶屋町店(NU茶屋町 6F)
出演:入江陽(Vo./Key)、小金丸慧(Gt.)
イベント詳細
https://tower.jp/store/event/2024/4/096003
※ミニライブ・サイン会の参加方法は各店のHPをご参照ください。

【ライヴ情報】
「入江陽 New Album「恋愛」Release Event in 愛知」
日時:4/14(日)open18:00 start18:30
会場:金山ブラジルコーヒー
https://kanayamabrazil.net/index.html

出演:
・入江陽(れんあいset)
・森脇ひとみ(その他の短編ズ)
・The Kota Oe Band

予約:¥2500(+1d¥600) 当日¥3000(+1d¥600)
予約窓口:nqlunch@gmail.com(金山ブラジルコーヒー)

Gastr del Sol - ele-king

 1991年、ポスト・ハードコア・バンド、バストロを継承するかたちでデヴィッド・グラブスにより結成されたバンドは、93年にファースト・アルバムを発表、ガスター・デル・ソルと名乗ることになる。同年、ジョン・マッケンタイアとバンディ・K・ブラウンがトータス結成のために脱退すると、入れ替わるようにジム・オルークが加入。デュオ体制となった彼らは94年から98年にかけ3枚のアルバムを残し、ポスト・ロックを代表する1組となった。
 そんなガスター・デル・ソルの、じつに26年ぶりのリリースがアナウンスされている。これまでまだまとめられたことのないスタジオ・ワークと未発表のライヴ音源から構成される『We Have Dozens of Titles』は、〈Drag City〉より5月24日に発売。90年代のデヴィッド・グラブスとジム・オルークによる冒険を、いまあらためて確認するチャンスだ。

artist: Gastr del Sol
title: We Have Dozens of Titles

label: Drag City
release: 24th May 2024
format: 3LP Box Set / 2CD / digital
tracklist:
01. The Seasons Reverse (live)
02. Quietly Approaching
03. Ursus Arctos Wonderfilis (live)
04. At Night and at Night
05. Dead Cats in a Foghorn
06. The Japanese Room at La Pagode
07. The Bells of St. Mary's
08. Blues Subtitled No Sense of Wonder (live)
09. 20 Songs Less
10. Dictionary of Handwriting (live)
11. The Harp Factory on Lake Street
12. Onion Orange (live)

https://www.dragcity.com/news/2024-03-27-gastr-del-sol-reforged

Sadistic Mika Band - ele-king

 日本のロック史にその名を刻むバンドのひと組、加藤和彦、高中正義、小原礼、高橋幸宏、今井裕、後藤次利らから成るサディスティック・ミカ・バンド。そのボックスセットが本日3月27日発売されている。
 MIKAがヴォーカルを務めた第1期および桐島かれんヴォーカル時代の第2期に発表されたオリジナル・アルバム&ライヴ・アルバム全6作に最新リマスタリングが施され(うち2枚は砂原良徳が担当)、新たに発見された京都でのライヴ音源を収める1枚、レア音源で構成される1枚を加えた計8枚のCDが封入される……のみならず、さらにBlu-rayとブックレットまで同梱という、なんとも豪華な仕様だ。
 また、ロキシー・ミュージックのフロントアクトとして演奏した際の音源として名高い『Live In London』、そのアートワークをあしらったTシャツの予約も開始されているので、そちらもチェックしておきましょう。

アーティスト:サディスティック・ミカ・バンド
タイトル:PERFECT! MENU
レーベル:Universal Music
品番:UPCY-90244
仕様:CD8枚組+Blu-ray+ブックレット
発売日:2024年3月27日
価格:22,000円(税込)
公式ページ

interview with Keiji Haino - ele-king

俺はラリーズに関しては、皆がけなすとほめたくなるし、絶賛すると批判したくなる。そういうフラットな立場でずっと接してきた。なにごとも、神話化されることが嫌いだし。

 灰野敬二さん(以下、敬称略)の取材を始めてからちょうど3年が経った。周辺関係者インタヴューも含めて今なお継続中である。この取材は、「灰野さんの本を書いてくれ」というエレキング編集部からの依頼がきっかけだが、私自身の中にも「灰野さんの軌跡をちゃんと残さなくてはならない」という思いがずいぶん前からずっとくすぶっていた。灰野敬二ほどオリジナルな世界を探求し続けてきた音楽家は世界的にも稀、というか他にいないという確信があったから。半世紀以上にわたり、自分だけの音楽を追い求め、膨大な数の作品を残してきた彼の評価は、日本よりもむしろ海外での方が高いし、灰野の全貌を知りたがっているファンが世界中にいる。この貴重な文化遺産をできるだけ詳細かつ正確に文字として残さなくてはならないという一種の使命感に背中を押されて、私はこの仕事を引き受けた。

 灰野と私の関係についても少し説明しておく。私が灰野の存在を知ったのは1979年、彼が不失者を結成して間もなくの頃で、私は大学2年生だった。10月14日に吉祥マイナーで初めて不失者のライヴを体験し、続く27日にも法政大学学館ホールで観た。当時の不失者のベイスはガセネタの浜野純。その後も80年代には不失者だけでなくソロなどいろんな形態での彼のライヴに通い続けた。85年頃からは個人的なつきあいも始まり、不失者のライヴ・ツアーを主催したこともあったし、互いの家でレコードに聴き浸ることもしばしばだった。90年代以降は、ライヴを観る機会がめっきり減り、雑誌の取材などで時々会う程度の希薄な関係になったが、レコード・リリースやライヴ・ツアーなど海外での活躍が目立つようになった彼を遠くから眺めつつ、「ようやく灰野敬二の重要さが認められる時代になってきたな」とうれしく思っていた。そして、ここ3年間、100回以上のライヴに通い、彼の自宅でのインタヴューを続けてきた。

 今年秋に出すつもりで進めている本は、灰野敬二の音楽家としての歩みをまとめた、伝記的なものになるだろう。2012年に出た『捧げる 灰野敬二の世界』(河出書房新社)は、灰野が音楽家としての哲学を語った対談集とディスク紹介、年譜という内容だったが、今回の本では自身の言葉で音楽活動の軌跡を詳細に語ってもらっている。また、私生活や様々な交友関係など音楽からちょっと離れたことにもできるだけ触れてもらい、人間・灰野敬二の全体像、それを取り巻く時代の空気を描くことをめざしている。雑談的に語られるエピソードが彼の本性を照らし出すことは少なくないはずだ。まだリストアップされていないが、灰野が好きな音楽家やレコードを紹介するページは、私も楽しみにしている。

 というわけで、今月から、本の前宣伝を兼ねて、これまでにおこなってきた灰野インタヴューの中からちょっと面白いエピソードをランダムに紹介していく。単行本にする際は、膨大な発言を整理、編集しなくてはならないわけだが、ここではできるだけ対話を素起こしのまま(若干の補足説明を加えつつ)紹介したいと思う。単行本には載らないであろう言葉も多いはずだ。第1回目は、「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」、そして「ダムハウス」について。

■《エレクトリック・ピュア・ランド》と水谷孝

 《エレクトリック・ピュア・ランド》は、ロスト・アラーフのヴォーカルの灰野とドラマーの高橋廣行=通称オシメ、そして裸のラリーズの水谷孝が共同で企画したライヴ・イヴェント・シリーズで、73年から74年にかけて計5回開催された。ロスト・アラーフ(当時はキーボードの須田とベイスの斉藤も随時参加)とラリーズ以外に出演したのは、頭脳警察、カルメン・マキ&OZ、セブン(アシッド・セブン)、紅とかげ、南正人などである。

《エレクトリック・ピュア・ランド》の第1回は73年7月3日、池袋シアターグリーンですね。

1秒をどれぐらい自由自在に操れるかの訓練を自分でやった。別の言い方をすれば、間と呼吸の訓練。それは、生易しいもんじゃない。

灰野敬二(以下、灰野):1回目の出演者はロスト・アラーフと裸のラリーズだけだったけど、その後、南正人さんなどいろんな人たちに出てもらった。中心になって企画を進め、現場を仕切っていたのはオシメ。彼は元々プロデューサー志向が強い人だったからね。

灰野さん自身とラリーズとの接点は?

灰野:水谷氏と初めてちゃんと話したのは70年、7月に富士急ハイランドで開催された《ロック・イン・ハイランド》の少し後だったと思う。場所は、ちょうど楽器セールをやっていた渋谷道玄坂のヤマハだった。「君の声と僕のファズ・ギターを絡めたい」と言われたんだよ。でも、俺が初めて彼を見たのは、70年3月の南正人さんの《魂のコンサート》の時だった。俺が学生服姿で飛び入り参加したそのコンサートでは、南さんが「渋谷を歩いていたら雰囲気のある奴がいて、シンガーだというから連れてきた」と言って水谷氏をステージに上げ、彼は弾き語りをしたんだよ。俺はそれを観ていただけで、彼との会話はなかったけど。水谷氏が俺を初めて認識したのはさっきの《ロック・イン・ハイランド》にロスト・アラーフが出た時だったみたいだね。「ラリーズが会場に着いた時ちょうどロスト・アラーフをやっていた」と、後日、山口富士夫がオシメに言ったそうだよ。だから、水谷氏はヤマハで俺に話しかけたのかもしれない。あと、俺がロスト・アラーフに加わって最初に練習した(70年7月)のが渋谷の宮益坂のミウラ・ピアノ・スタジオという場所だけど、後にラリーズもそこをよく使っていたね。
 当時の我々の行動パターンは、道玄坂のヤマハでレコードを買って、ブラックホークかBYGかムルギーに行くという流れだったから、そのあたりで音楽関係者と顔見知りになることが多かった。水谷氏と道玄坂ヤマハで立ち話をした時、俺は下の部分がない中途半端なフルートとコンガを買ったのを憶えている。持って帰るのが大変だった。フルートはその頃から練習し始めたけど、人前で吹き出したのは80年代以降だね。

オシメはロスト・アラーフ解散後の75年には、一時期、ラリーズのドラマーとしても活動してましたよね。水谷さんと仲が良かったのかな?

灰野:《エレクトリック・ピュア・ランド》からのつきあいに加え、オシメが経営していた渋谷のアダン・ミュージック・スタジオをラリーズがよく使っていたからね。ラリーズはちょうど、ドラムの正田俊一郎が脱退した頃だったから、オシメが代わりのドラマーになったんだよ。で、オシメの後にサミー(三巻俊郎)がドラマーになった。

ヤマハで水谷さんから「君の声と僕のファズ・ギターを絡めたい」と言われた時、灰野さんはラリーズに関してはどの程度知ってたんですか?

灰野:ほとんど聴く機会はなかったけど……まあ、普通の8ビートのロックだなと思っていた。《ロック・イン・ハイランド》の時も俺は観ていない。ライヴをちゃんと聴いたのは、《エレクトリック・ピュア・ランド》の第1回(1973年7月3日 池袋シアターグリーン)の時だった。その時俺は水谷氏に「ヘタだけど好きです」と言ったんだ。水谷氏は「ヘタは余計じゃないか」とあの口調で言った。俺はいつも正直に言うからね。それに、上手い下手よりも、好きかどうかが大事だし。気持ちって、隠そうとしても、どうしても伝わってしまうからね。ラリーズはロックの新古典派だと思っている。

水谷さんは灰野さんの歌に関してはどう言ってました?

灰野:その頃ではなく、『わたしだけ?』(81年)が出た頃のことだけど……彼とは《エレクトリック・ピュア・ランド》の後もずっとつきあいがあり、時々会ったりもしていたし、喧嘩も何度もした。アルトーとマラルメのことでもめたり(笑)。で、『わたしだけ?』が出た後、「歌詞もしっかり読んだよ」と彼に言われてうれしかった。


灰野敬二『わたしだけ?』

 俺と水谷氏はみんなが思っているほど仲が良かったわけじゃないし、みんなが思っているほど仲が悪くもなかった。俺はラリーズに関しては、皆がけなすとほめたくなるし、絶賛すると批判したくなる。そういうフラットな立場でずっと接してきた。なにごとも、神話化されることが嫌いだし。
 時間と共に、皆、優等生になっていってしまう。90年代に流行ったロウファイとかヘタウマも、そういうスタイルの優等生にすぎない。自分たちの世界を作り上げたがゆえに、それを保険にして、その枠から出ようとしなくなる。俺は絶対に自分の形を守ろうとはしないよ。

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あの体験がなかったら、ポップ・スターになっていたかもしれないよね。音楽の何に着目するかで、その後の音楽家としての生き方が全然違ってしまったわけで。

■ダムハウスのアニキ

73年に京都にしばらく滞在していたそうですね?

灰野:銀閣寺の近くにあるダムハウスという喫茶店ね。俺がアニキと呼んでいるそのマスター飯田さんと最初に会ったのは渋谷のアップルハウスだった。オシメが浅海さん(ロスト・アラーフの初代ピアニスト浅海章)と出会い、ロスト・アラーフ結成のきっかけにもなった場所で、ビートルズ・シネ・クラブの本部があった場所。俺も時々行ってて、京都からふらりと遊びに来たアニキとそこで出会った。ジャズやブルースに非常に詳しい彼から、「ジャズを聴いた方がいいよ。君だったらいつ来てもうちに泊めてあげるから」と言われたんだ。当時俺はジャズにはほとんど興味がなかったんだけど、時間もあったので、京都まで行ってみた。結局ダムハウスの2階に一ヵ月半滞在し、ひたすらジャズとブルースのレコードだけを聴いていた。店の手伝いをしながら。店が1階で、2階が住居。毎日、定食もごちそうになって。隣が風呂屋だったから便利だったな。バックパッカーみたいな連中もよく泊まってた。音楽中心のちょっとしたコミューンみたいな感じだった。後の「どらっぐすとぅあ」などにつながってゆく感じだね。

京都では演奏はしなかったんですか?

灰野:いや、その一ヵ月半は一切しなかった。レコードを聴くだけ。でも、ライヴを観に行ったりはしたよ。思い出深いのは、京都大学西部講堂での山下洋輔トリオだね。アニキはチャーリー・パーカー以上はいないと言い切るほどのパーカー信者で、巷間「フリー・ジャズ」と呼ばれているものにはまったく興味ない人だったけど、なんとなく一緒に観に行ったの。オシメが山下洋輔ファンだったから、俺も彼から『木喰』(70年)だけは借りて聴いていたけど、あまり惹かれなかった。既に聴いていたセシル・テイラーの二番煎じみたいだな、という印象で。彼らはステージ上ではなく、フロアで演奏しており、俺は一番前、彼らのすぐ目の前で聴いていた。21才の若造が、フーン、なるほどね……みたいな感じで。で、演奏の途中で突然ブレイクして音が一瞬止まった時、俺はジャンプしたんだ。彼らを試してみたくなって。でも、彼らはまったく動揺することなく、また演奏が始まった。その時、彼らの覚悟を見た気がした。これは違うなと。

その時のメンバーは?

灰野:山下洋輔(p)、坂田明(as)、森山威男(ds)。30年ぐらい後、一緒にやるようになってから坂田さんにその時のことを話したけど、彼は全然憶えてなかった。


山下洋輔トリオ『Clay』

で、ダムハウスでは具体的にどういうレコードを聴きこんだんですか?

灰野:ジャズとブルースだけ。毎日、何度も何度も聴き続けた。これだけを徹底的に聴けば他は必要ないと、アニキが12枚のLPを選んでくれたんだよ。その12枚は、チャーリー・パーカー『"Bird" Symbols』(61年)、チャーリー・パーカー・クァルテット『Now's The Time』(57年)、ピアニスト/シンガーのリロイ・カーとギタリストのクラッパー・ブラックウェルのデュオ作『Naptown Blues 1929-1934』(73年)、ファッツ・ナヴァロ『The Fabulous Fats Navarro Volume 1』(57年)、セロニアス・モンク『Genius Of Modern Music Vol. 1』(56年)、ブラインド・レモン・ジェファーソン『The Immortal Blind Lemon Jefferson』(67年)、ジョン・リー・フッカー『No Friend Around』(69年)、T-ボーン・ウォーカー『Stormy Monday Blues』(70年)、ゴスペルのコンピレイション盤『Ain't That Good News』(69年)。タイトルがすぐ出てこないけど、レスター・ヤングとグレン・グールドもあったな。彼にとってはグールドもジャズというとらえ方だった。あっ、一番肝心なのを忘れてた。チャーリー・クリスチャン & ディジー・ガレスピー 『Dizzy Gillespie / Charley Christian 1941 (Minton's Playhouse & Monroe's Uptown, New York City)』(53年)。これは特に徹底的に聴かされた。

アニキとはその後のつきあいは?

灰野:ずっとある。いつだったか、ダムハウスはその後閉店したんだけど、アニキとは10年に1度ぐらい連絡を取り合い、うちにも遊びに来たことがあった。彼はその後、新たな店を始めたんだ。バロック音楽しかかけない「ロココ」という喫茶店。

このダムハウスでの修行的な集中リスニング体験は、その後のミュージシャンとしての活動にどのような影響を与えたと思いますか。あるいは、土台になってますか?

灰野:もちろんなっているんだけど、特にジャズは勉強として聴いたし、こうあるべきだという聴き方をしたせいで、ジャズが楽しくなくなっちゃたんだよね。ずっと呪縛があった。反対に、スワン・シルヴァートーンズなど50年代のゴスペルはロックとして聴けるようになったけど。

でも、モンクやチャーリー・クリスチャンなどは大好きだとずっと言ってきたじゃないですか。昔、僕にもずいぶん勧めましたよね。実際僕は、80年代半ばに灰野さんに言われてチャーリー・クリスチャンのレコードを買ったし。

灰野:ジャズの美しい形として聴くべきだと言ったの。なんでもそうだけど、ひとつのことをやると、もう一方のことを忘れてしまいがち。俺の場合は、ジャズの色を楽しむということを遮断されちゃった感じなの。音の表と裏の関係は深く理解できたけど。だからこそ俺は、表と裏の真ん中を自分で勉強したわけ。そこから生まれたのが不失者だよ。微妙なタイミングのとらえ方は、この時のジャズとブルースの勉強が土台になっていると思う。そこから更に、1秒をどれぐらい自由自在に操れるかの訓練を自分でやった。別の言い方をすれば、間と呼吸の訓練。それは、生易しいもんじゃない。俺は京都から戻ってから、この12枚を自分で揃えて、更に徹底的に聴いて学習した。冬、コタツに入って夜中にずっと聴き続けてそのまま寝落ちして、明け方牛乳配達の音や小鳥のさえずり、通りを箒で掃く音などで目が覚めるんだけど、そういった一つひとつの音を裏、表、裏、表……と感知して、頭がおかしくなりそうだった。物と物が触れているか触れていないか、その関係を無限に探求し続けるぞと思った。

京都での一ヵ月半は、その後の音楽家人生にとってものすごく重要だったわけですね。

灰野:そう。笑っていいけど、あの体験がなかったら、ポップ・スターになっていたかもしれないよね。音楽の何に着目するかで、その後の音楽家としての生き方が全然違ってしまったわけで。俺はあの時から、音楽の根源を知りたいと思うようになったの。あれが本当の始まりだったと思う。当時、アニキは「君は既にやっているよ、無意識で」と言っていたけど。よせばいいのにということをやっちゃう、それでしか得られないことがある。アルバート・アイラーはやったけど、コルトレインはやっていない。だから俺はずっとアイラー派なの。アニキと俺の関係は、ボクシングの名トレーナーが一つの才能を見つけて育てたようなものだと思う。間違いなく恩人だよ。彼と出会わなくてもモンクもチャーリー・クリスチャンも聴いただろうけど、彼はそこに違う見方や回路を示してくれたんだから。

灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回「ロリー・ギャラガーとレッド・ツェッペリン」そして「錦糸町の実況録音」について

exclusive JEFF MILLS ✖︎ JUN TOGAWA - ele-king

 子どものころTVを観ていたら「宇宙食、発売!」というコマーシャルが目に入った。それは日清食品が売り出すカップヌードルのことで、びっくりした僕は発売初日に買いに行った。ただのラーメンだとは気づかずに夢中になって食べ、空っぽになった容器を逆さまにして「宇宙船!」とか言ってみた。カップヌードルが発売された2年前、人類は初めて月面に降り立った。アポロ11号が月に降り立つプロセスは世界中でTV中継され、日本でもその夜は大人も子どももTV画面をじっと見守った。翌年明けには日本初の人工衛星が打ち上げられ、春からの大阪万博には「月の石」がやってきた。秋にはイギリスのTVドラマ「謎の円盤UFO」が始まり、小学生の子どもが「宇宙」を意識しないのは無理な年となった。アポロが月に着陸した前の年、『2001年宇宙の旅』が1週間で打ち切りになったとはとても思えない騒ぎだった。

 ジェフ・ミルズが2008年から継続的に続けている「THE TRIP」は宇宙旅行をテーマにしたアート・パフォーマンスで、日本では2016年に浜離宮朝日ホールでも公演が行われている。COSMIC LABによる抽象的な映像とジェフ・ミルズの音楽が混じり合い、幻想的な空間がその場に満ち溢れていた。このシリーズの最新ヴァージョンがブラックホールをテーマにした「THE TRIP -Enter The Black Hole-」で、ヴォーカリストとして初めて戸川純が起用されることとなった。公演に先駆けてアルバムも録音されることになり、戸川純は2曲の歌詞を書き下ろし、ジェフ・ミルズがあらかじめ用意していた4曲と擦り合わせる作業が年明けから始まった。レコーディングはマイアミと東京を結んでリモートで行われ、ジェフ・ミルズによる細かい指示のもと〝矛盾〟と〝ホール〟の素材が録音されていく。当初は〝コールユーブンゲン〟のメロディが検討されていた〝ホール〟には新たなメロディがつけられることになり、様々なエデイットを経てまったくのオリジナル曲が完成、オープニングに位置づけられた〝矛盾〟には最終的にギターを加えたミックスまで付け加わった(それが最初に世の中に出ることとなった)。
 レコーディングを始める前からジェフ・ミルズに戸川純と対談したいという申し出を受けていたので、本格的なリハーサルが始まる前に機会を設けようということになった。ジェフ・ミルズがオーストラリアでトゥモロー・カムズ・ザ・ハーヴェストのライヴを終えて、そのまま日本に到着した翌日、2人は初めてリアルで顔を合わせた。戸川純がソロ・デビューして40年。ジェフ・ミルズが初めて日本に来て30年。2人にとってキリのいい年でもある2024年に、2人はしっかりと手を取り合い、短く声を掛け合った。初顔合わせとなるとやはりエモーションの渦巻きが部屋中に満ち溢れる。それはとても暖かい空気であり、2人の話はアポロ11号の月着陸から始まった。

ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。――戸川純

ジェフにコンセプトを訊く前に、戸川さんはこれまで宇宙についてどんなことを考えたことがありますか?

戸川純:いまの宇宙について、どんなことが問題かとか、そういうことは考えたことがありませんでした。子どものころの宇宙観と変わらないままです。私は1961年生まれだから、60年代の未来観のまま来ちゃいました。

今回、「ブラックホール」というテーマで歌詞を書いて欲しいというオファーがあった時はどんな感じでした? オファーがあった日の夜にすぐ歌詞ができましたね。

戸川純:はい。ブラックホールについて考えたことはしばしばあります。何度も考えました。でも、それについて問題点とか、よくないことはあんまり考えませんでした。今回、焦点を当てたのは「恐れと憧れ」ということです。

「恐れと憧れ」でしたね、確かに。ジェフはどうでしょう。同じ質問。ブラックホールに最初に興味を持ったきっかけは?

ジェフ:もともと宇宙科学にはすごく興味があったし、僕は1963年生まれなんだけど、僕が子どもの頃、アメリカはNASAとかアポロ計画とか、アメリカ人には避けて通れない騒ぎとなっていて、子ども心にすごく影響を受けました。あと、アニメとかコミックス、映画やSFにと~~~っても興味があった。ブラックホールについて具体的に考え始めたのは、92年にマイク・バンクスとアンダーグラウンド・レジスタンスというユニットをやっていて、その時にX-102名義で土星をテーマにしたアルバム『Discovers The Rings Of Saturn』をつくって、その次に何をやろうかと考えた時、ブラックホールはどうだろうという話をしたんです。その時から企画としては常に頭にありました。

最初にかたちになったのは〝Event Horizon〟ですよね(DVD『Man From Tomorrow』に収録)。

ジェフ:どうだったかな。曲が多過ぎてもうわからない(笑)。

戸川純:63年の生まれなんですね。60年代の終わりまでにアメリカは月へ行くと大統領が宣言していて、ぎりぎり69年にアポロ計画が遂行されました。あれを中継で観ていて、宇宙ブームが全世界で起きて、日本も同じでした。NASAもそうだし、60年代の風景はアメリカと同じじゃないかな。日本はアメリカの影響をすごく受けてますから。子ども向けの「宇宙家族ロビンソン」とか「スター・トレック」(*当時の邦題は「S.0401年 宇宙大作戦」)、あと、私は観てはいけないと言われてたけれど、遅い時間に起きてTVでこっそり観た『バーバレラ』とか。

お二人はSFを題材にすることが多いですよね。ジェフの『メトロポリス』へのこだわりと戸川さんが参加していたゲルニカは同じ時代を題材にしていたり。

ジェフ:SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。自分の経験を有効活用することができるんです。アポロが月面着陸した時は学校中の子どもが講堂に呼び出されて、みんなでTVを観ました。

戸川純:Me too.

ジェフ:僕はそれにとても感銘を受けたんですけれど、ほかの子どもたちは全然、興味なくて。

戸川純:ええ、そう?

ジェフ:まったく違う方向に行ったりと、受け取り方は人それぞれですよね。僕はその時のことが現在に繋がっていますね。

2人とも月面着陸を観た時は宇宙旅行に行ってみたいと思いました?

戸川純:Of course.

ジェフ:小学生にはそれがどんなに大変なことだったかはわからなくて、マンガとかSFではもうどこにでも行くことができていたから、僕はやっと本当の人間が行ったんだなと思いました。

戸川純:大変なことだというのは私もわからなかった。宇宙旅行に行くにはどれだけ訓練しないといけないとか、耐えるとか、何年も地球に帰ってこれないとか、精神が持たないとか、そういうことはわからなかった。

ジェフ:うん(微笑)。

〝矛盾〟の歌詞では宇宙旅行が「13度目」ということになっていますけれど、この数字はどっちから出てきたんですか?

戸川純:(手を挙げる)

どうして13だったんですか。

戸川純:不吉だから。

ジェフ:初めて知った(笑)。

戸川純:謎めいた感じにしたかったんです。

ジェフ:アポロ13号は事故を起こしたよね。

戸川純:ああ。

ジェフ:アメリカにはエレベーターに13階がないんです。

戸川純:日本のホテルにもそういうところはあるかもしれない。リッツ・カールトン・東京は13階には人が泊まれなくて、会社が入っています。

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SFというのは特別な科学のジャンルで、イマジネーションが教育や勉強よりも大切だということを教えてくれる分野だと思う。自分のヴィジョンやアイディアを具現化することによってミュージシャンになったり、作家になることを可能にしてくれます。――ジェフ・ミルズ

前回の「THE TRIP」では「地球がもう住みにくくなった」から宇宙旅行に行くという設定でしたよね。

ジェフ:どちらかというと地球が住みにくくなって宇宙に出ざるを得なかったというよりは宇宙に出ればもっといろんな答えが出てくるという考えでした。

戸川純:うん。

ジェフ:宇宙に出て、ここまで来ちゃったら、もう戻れない。「THE TRIP」というのはそのポイントから先のことを指しています。地球と自分がまったく別の存在になっちゃって、そこから何が起きるのか。リアリティとフィクションを混ぜ合わせることが「THE TRIP」のコンセプトなんです。

戸川純:もっとポジティヴなんですね。

ジェフ:そう、そう。でも、ノー・リターンなんです。帰ることはできないと悟った時点で、そこから冒険が始まる。進むしかないんです。

ノー・リターンは厳しいな(笑)。

戸川純:そこがどんな場所か、ですよね。帰りたくないと思うような場所かもしれないし……

ジェフ:いまはまだ空想上の話にしているけれど、現実的に片道切符で宇宙に行くという必要は出てくるんじゃないかな。

戸川純:そうですよね。

ジェフ:ワン・ウェイ・ジャーニーだとわかっていても火星に行きたい人を募集したら、けっこう集まってたでしょう。地球上でもたとえばイギリスからオーストラリアに島流しにあった人たちは、そこまでたどり着かないと思っていたのに、たどり着いた人たちは生き残ってオーストラリアという国をつくったじゃない?

戸川純:そうなんだ。へえ。

ジェフ:昔から地球規模では起きていたことですよ。

戸川純:面白いですね。ポジティヴでいいですね。

ジェフ:うん。

戸川純:私はネガティヴに考えているところがあるなと反省しました。

ジェフ:いや、それはある意味、当然のリアクションじゃないかな。やっぱりすごく大変なことですから。現実的に宇宙には酸素がないわけだし、酸素がなければ人間は生きられないし。

戸川純:うん。

ジェフ:そういうことを全部克服していかなければならないから。

じゃあ、イーロン・マスクが進めている火星移住計画には賛成ですか? 同じ質問をブライアン・イーノにしたら、そんな金があったら地球環境をよくするために使えと怒っていました。

ジェフ:僕は賛成です。火星に行くことによって地球のこともわかると思うし、地球環境の研究も進むんじゃないかな。

戸川純:なるほどね。

ジェフ:火星も昔は地球みたいな星だったから、どうしてああなったのかという変遷がわかれば地球を救えるかもしれないし。

戸川純:興味深い考え方ですね。

イーロン・マスクはロケットの名前をすべてイアン・バンクスのSF小説からつけていて、SFが現実になっていくという感覚はジェフと似ているかも。

ジェフ:そうなのかな。

では、なんで、今回は行き先がブラックホールになったんですか?

ジェフ:僕にとってブラックホールは自然な現象で、スパイラルというものに僕は関心があるんです。地球が回っているように、太陽系も回っているし、銀河系も回っているし、物理的に回ってるだけでなく、時間や自分たちのライフ・サイクル、昔の考え方ではリーインカーネション……?

戸川純:輪廻転生。

ジェフ:そう、輪廻転生。すべてがサイクルになっていて、その大元はなんだろうと考えた時に、もしかしたらそれはブラックホールなんじゃないかと。ブラックホールがすべての源だとしたら、それに影響を受けない人は誰もいないんじゃないかということをテーマにしています。

壮大ですね。

戸川純:ビッグ・バン。

ブラックホールとビッグ・バンにはなんらかの関係があると多くの学者は考えています。

ジェフ:そうです。こういうことを考える人はほかにもいると思うんですけれど、この世の中にあるものが全部回りながら動いているのは事実ですから。

戸川純:それは科学的根拠に基づいた事実だと思うんですけれど、私が思う矛盾のひとつに、死んだら意識が闇のなかに消えてしまって、何にもなくなってしまうという感情を持ちつつ、お寺では亡くなった人に祈ったりもするんですね。そういうところが私は矛盾しているんですよ。信じているのか信じていないのか。

ジェフ:そうですね。両方あるのかも。

素粒子の性質も矛盾していますよね。物質なのか、波なのか。

ジェフ:生まれる前に何もなかったとしたら、死んだら何もないと考えるのは自然な考えだし、すべてのものが回っているなら、命も回っていると考えるのも自然なことです。古代のマヤ文明とかで輪廻転生が信じられていたのも何かしら理由があるんじゃないかな。

戸川純:マヤ文明にしても、科学的に立証されている事実として物事が回っているにしても、私はさみしいなと思っていたんですよ。自分が死んだらすべてが終わってしまうということは、自分がこの世に未練が何もないみたいで。また、生まれ変わってこの世に生まれ落ちたいと思う自分の方がポジティヴだから。そうなりたいと思ってはいたんですよ。だからジェフさんの哲学には、すごく影響を受けます。

ジェフ:実際に自分たちの感覚とかサイエンスでは本当のことはまだ知り得ないと思うんですけれど、古代の人たちの知恵というのは無視するべきじゃなくて、そこには何かしら理由があったんじゃないかと思うから。すべてのものが回っているということは、みんなで考えるに値するテーマじゃないかなと思います。

私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。――戸川純

ジェフから年末に「戸川純とコラボレートしたい」というオファーが届いた時、あまりに意外な組み合わせでびっくりしたんだけど、ある種の根源的なものというか、戸川さんのヴォーカルに生きる力みたいなものを感じたのかなと。実際に戸川さんとコラボレートしてみて、オファー前と印象が変わったということはありますか。

ジェフ:いや、思っていた通りでした。ジュンさんのことはかなりリサーチして、音楽を聴いて、映像もたくさん観たんですけれど、複雑な事情をうまく表現できる方だと思いました。そのことはコラボレーションして、さらに実感が深まりました。

戸川純:ありがとうございます。私はジェフさんの90年代の音源を聴いて非常にアグレッシヴだなと思ったんですけど、東京フィルハーモニー交響楽団とコラボなさっているやつではまったく違ったことをやっていて、それはそれでアグレッシヴだし、ジェフ・ミルズさんの表現なんだけど、違う驚きを与えてくれて、それが「THE TRIP」でまた違う驚きを与えてくださって、すごくわくわくしました。

ジェフ:ジャンルで差別するようなことはしないようにしていて、なんでも聴くようにしてるから、ひとつのことだけをやっていればいいとは思っていないんです。

常にチャレンジャーですよね。

ジェフ:人によってはそういうのは好きじゃないとか、がっかりしたという反応も当然あるんですけど、カテゴライズされたものをやるよりは自分のクリエイティヴィティはいつもチャレンジすることに向かわせたい。

戸川純:ジェフさんほどスケールは大きくないですけれど、私もチャレンジしてきたつもりです。ポップだったり、前衛的だったり。それでがっかりされることもあったのは同じですね。でも、新しく支持してくれる人を発見して、その都度やってきたつもり。私もチェンジしていく方が好きです。たまたまだけど、いま着ているTシャツは21歳ぐらいの時に撮った写真で、いまはこんなことはしないんですけど(と、舌を出している図柄を見せる)、リヴァイヴァルというか、チェンジし続けていたら、それこそまわりまわって、ここにまた戻ってきて。いまの若い人たちがこの頃の、80年代の私を支持してくださるので、その人たちにありがとうという気持ちでつくったTシャツなんですね。そういう回帰みたいなことはありますね。

ジェフ:いいものは時代を超えて評価されるということですね。

戸川純:わあ。

ジャンルとはまた別に、戸川さんがスゴいなと僕が思うのは、オーヴァーグラウンドとアンダーグラウンドの区別がないというか、国民的な映画やCMに出演したかと思うとパンクはやるわノイズ・バンドともコラボしたりで、なのに戸川純というイメージに揺るぎがないこと。

ジェフ:究極のアーティストなんですね。

戸川純:ありがとうございます。

では最後に、自分にはなくて相手は持ってると思うことはなんですか?

戸川純:アートですね。いま、究極のアーティストと言っていただきましたけれど、自分では自分のことをエンターテインメントな人間だと思っています。いつもどこかショービズに生きている。アクトレスとシンガー、それから文筆業としてやってきましたけれど、エンターテインメントはそれなりに大変だし、アートとエンターテインメントのどっちが偉いとも思わないし、突き詰めて考えたこともありませんが、私はエンターテインメントで、ジェフさんはアート、この組み合わせが今回のコラボは面白いんじゃないかと思います。

ジェフ:ああ、僕ももっとエンターテインメントできればいいんだけど(笑)。もうちょっとオーディエンスを楽しませるとか、そういうことができれば。

ぜんぜんやれてると思うけど(笑)。

ジェフ:ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。僕とジュンさんは2歳しか違わないけれど、やはり61年生まれと63年生まれでは60年代の記憶がだいぶ違うと思うんです。60年代に起きたことの記憶が僕にはあんまりなくて、60年代のことをもっと実感したかった。60年代のことをアーティスティックな視点から理解することができなかったことは自分としてはかなり残念なことです。60年代というのは現在の音楽シーンや文化のスターティング・ポイントだったと思うので、いろんなことを繋げて考えていくと、どうしても60年代に回帰していく。ジュンさんの声には60年代が感じられます。

ジュンさんにあって、自分にないものはやはり「歌う」ことです。人間の声にはどんな楽器にも勝る強い力がある。音楽のなかではやっぱり一番のツールが声なんです。それが才能だし、すごくパワフルなことだと思っています。 ――ジェフ・ミルズ

ちなみに、お互いに訊いてみたかったことって何かありますか?

ジェフ:……。

戸川純:……。

一堂(笑)。

戸川純:たくさんあるけど……。

ジェフ:80年代や90年代から現在までずっと、音楽やファッション、あるいは発言によっていろんな人、とくにいろんな女の子たちに強い影響を与えてきたことを本人はどう思っています?

戸川純:いや、自分で言うのは照れますよ。実際に影響を受けましたと言ってくれる人もいるんですけど、それについて自分でいざ何か言うのは……

一堂(笑)。

戸川純:こんな和やかな場で言いたくはないんですけど、去年亡くなった最後の家族……お母さんが、えーと、暗い影響を私に与えたんですけれど、そのことによって私は奮起してきたんです。お母さんは私に「産まなきゃよかった、産まなきゃよかった」って私に言い続けて、小さい頃から、50代になってもずっと言い続けたんです。私は認めてもらおうと思って、がんばって活動してきて、その時々で喜んではくれるんだけど、ついポロっと「産まなきゃよかった」って。それに負けまいとして、なんとか、その言葉を覆そうとしてやってきたんです。ずっとやってきたので、これからもやり続けることに変わりはないんですけど、だから、なんて言うのかなあ、ジェフさんの話を聞いていて、ほんとにいろんなところでポジティヴだし、タフでらっしゃるし、今日は良き勉強をさせていただきました。Thank you.

ジェフ:こちらこそThank you.

(3月19日 南麻布U/M/A/Aにて)

「COSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』」 Supported by AUGER
会 場:ZEROTOKYO(新宿)
日 程:2024 年 4 月 1 日(月) 第 1 部公演: 開場 17:30 / 開演 18:30 / 終演 20:00 第 2 部公演: 開場 21:00 / 開演 21:45 / 終演 23:15 ※第 2 部受付は 20:30
出 演: Sounds: JEFF MILLS  Visuals: C.O.L.O(COSMIC LAB) Singer: 戸川純  Choreographer: 梅田宏明  Costume Designer: 落合宏理(FACETASM) Dancer: 中村優希 / 鈴木夢生 / SHIon / 大西優里亜
料 金: 一般前売り入場券 11,000 円
チケットはこちらから https://www.thetrip.jp/tickets
主 催:COSMIC LAB 企画制作:Axis Records、COSMIC LAB、Underground Gallery、DEGICO/CENTER
プロジェクトパートナーズ(AtoZ):FACETASM、株式会社フェイス・プロパティー、日本アイ・ビー・エム株式会社、一般社団法人ナイトタイム エコノミー推進協議会、株式会社 TST エンタテイメント
オフィシャルサイト:https://www.thetrip.jp

サウンドトラック盤『THE TRIP -Enter The Black Hole-』

■配信
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全12曲収録
リリース日:2024年3月20日 0時(JST) ダウンロード価格:通常¥1,833(税込):ハイレゾ:¥2,750(税込)
配信、ダウンロードはこちらから https://lnk.to/JeffMills_TheTripEnterTheBlackHole

■CD
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全13曲収録  ※CDのみボーナストラックを1曲収録
リリース日:2024年4月24日 (4月1日開催のCOSMIC LAB presents JEFF MILLS『THE TRIP -Enter The Black Hole-』会場にてジェフ・ミルズ サイン特典付きで先行販売) 価格:¥2,700(税込) 品番:UMA-1147
[トラックリスト]CD, 配信
01. Entering The Black Hole 02. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * 03. Beyond The Event Horizon 04. Time In The Abstract 05. ホール* 06. When Time Stops 07. No Escape 08. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Long Radio Mix)* 09. Time Reflective 10. Wandering 11. ホール (White Hole Mix) * 12. Infinite Redshift CDのみ収録ボーナストラック 13.矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Radio Mix)*  *戸川純 参加曲

■アナログレコード
タイトル:『THE TRIP – ENTER THE BLACK HOLE』
アーティスト:ジェフ・ミルズ 全8曲収録 LP2枚組、帯・ライナー付き、内側から外側へ再生する特別仕様、数量限定
リリース日:2024年5月下旬 価格:¥7,700(税込) 品番:PINC-1234-1235
[トラックリスト]
A1. Entering The Black Hole A2. Time In The Abstract B1. Wandering B2. 矛盾 - アートマン・イン・ブラフマン (Silent Shadow Mix) * C1. When Time Stops C2. Time Reflective D1. Infinite Redshift D2. ホール*  *戸川純 参加曲

戸川純 ライヴ

3/31 渋谷プレジャープレジャー(ワンマン)
https://pleasure-pleasure.jp/topics_detail.php/2492

4/12 台北THE WALL(プノンペンモデルとツーマン)
https://www.ptt.cc/bbs/JapaneseRock/M.1709920228.A.4E3.html

ele-king books 既刊

新装増補版 戸川純全歌詞解説集──疾風怒濤ときどき晴れ 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007905/

戸川純エッセー集 ピーポー&メー 戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/006617/

戸川純写真集──ジャンヌ・ダルクのような人 池田敬太+戸川純(著)
https://www.ele-king.net/books/007462/

Larry Heard - ele-king

 シカゴ・ハウスのレジェンドのなかのレジェンド、ラリー・ハードが13年ぶりに来日する。ディープ・ハウスを定義した“Can You Feel It”、ハウスの妖しい光沢を示した“Mystery Of Love”、アシッド・ハウス・クラシックの“Washing Machine”……多くのクラシックを残した重鎮、この機会を見逃すな。

■Larry Heard aka Mr.Fingers Japan Tour 2024

4.26(Fri) 名古屋 @Club Mago

music by
Larry Heard aka Mr.Fingers
ayapam D.J. (WIDE LOOP)
Longnan (NOODLE)

2nd room DJ:
xxKOOGxx (Raw Styelz, VINYL)
HIROMI. T PLAYS IT COOL.

food: ボヘミ庵

Open 22:00
Advance 3,000yen(https://club-mago.zaiko.io/item/363289
Door 4,000yen

Info: Club Mago http://club-mago.co.jp
名古屋市中区新栄2-1-9 雲竜フレックスビル西館B2F TEL 052-243-1818


4.27(Sat) 東京 @VENT
=ROOM1=
Larry Heard aka Mr.Fingers
CYK
=ROOM2=
SHOTAROMAEDA
SATOSHI MATSUI
Pixie
Hikaru Abe

Open 23:00
DOOR: 5,000yen
ADVANCE TICKET: 4,500yen (優先入場)
(https://t.livepocket.jp/e/vent_20240427)
SNS DISCOUNT: 4,000yen

Info: VENT http://vent-tokyo.net
東京都港区南青山3-18-19 フェスタ表参道ビルB1 TEL 03-6804-6652


4.28(Sun) 江ノ島 @OPPA-LA
- the ORIGINAL CHICAGO -

DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ IZU
artwork SO-UP (phewwhoo)
supported Flor de Cana
Open 16:00 - 22:00
"Limited 134people" Mail Reservation  *SOULD OUT*
5,000yen / U-23 : 3000yen (http://oppa-la.net)
Door
6,000yen / U-23: 4,000yen
Info: OPPA-LA http://oppa-la.net
神奈川県藤沢市片瀬海岸1-12-17 江ノ島ビュータワー4F TEL 0466-54-5625


5.2 (Thu) 大阪 @Club Joule
DJ: Larry Heard aka Mr.Fingers, DJ Ageishi, YAMA, Chanaz (PAL.Sounds)
PA: Kabamix
Coffee: edenico
Open 22:00
Door 5,000yen
Advance 4,000yen (e+ 3/22~販売
https://eplus.jp/sf/detail/4073520001-P0030001)
U-23 3,000yen

Info: Club Joule www.club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F TEL 06-6214-1223

Larry Heard a.k.a Mr.Fingers (Alleviated Records & Music)

 ゴッドファーザー・オブ・ディープハウス、シカゴハウスのオリジネーター、Mr.FingersことLarry Heardはシカゴのサウスサイドで生まれ、両親のジャズやゴスペルのレコードコレクションから音楽に興味を示すようになる。ローカルバンドでドラムを演奏していたが、シンセサイザーに魅かれ、1984年からシンセサイザーとドラムマシンでの音楽制作を開始する。1985年、Mr.Fingersとして”Mystery Of Love” でレコードデビュー。シカゴではハウスミュージックが全盛期を迎える中、1986年にリリースされたMr.Fingers ”Can You Feel It”は説明不要のハウスミュージック名曲として知られる。
 1988年にリリースされたMr.Fingersファーストアルバム『Amnesia』や、Fingers Inc.(Larry Heard、Robert Owens、Ron Wilson) アルバム『Another Side』ではハウスミュージックの創造性を追求し、シカゴハウス最高峰アルバムとして評価されている。1992年、ディープハウスを背景にR&Bやジャズ、コンテンポラリーな要素を取り込んだ、Mr.Fingers アルバム『Introduction』でMCAよりメジャーデビュー。
 1994年、Black Market Internationalよりリリースされた、Larry Heard名義としてのファーストアルバム『Sceneries Not Songs, Volume One』では、フュージョンやニューエイジをLarry流に昇華し、チルアウトやダウンテンポに傾倒した作風によってアンビエントハウスという言葉を産んだ。
作品はその後もコンスタントにリリースされながらもLarryは突如シーンからの引退を宣言し、コンピュータープログラミングの仕事に専念するためにメンフィスに移る。
 Track Mode主宰のBrett Dancerを筆頭に、アトランタのKai AlceやデトロイトのTheo Parrishらの功労によって、アンダーグラウンドなネットワークを通じてLarryは再度シーンと接触し、2001年にLarry Heard名義のアルバム『Love's Arrival』のリリースを伴いカムバックする。
現在もメンフィスを拠点に活動し、Mr.Fingers名義での最新アルバム『Around The Sun Pt.1』(2022年)、『Around The Sun Pt.2』(2023年)を自身主宰のレーベルAlleviated Records&Musicからリリース。
 彼の過去の作品が数多く再発されている近今、13年振りの来日となる。

http://alleviatedrecords.com

Kim Gordon - ele-king

 キム・ゴードンの2枚目のソロ・アルバム『The Collective』、このアルバムを聞いてからというものその断片がずっと頭の中にひっかかり続けている。
 もちろん先行曲 "BYE BYE" を聞いたときから予感はあった。暗く、頭のなかの狭いところからやってきたかのようなインダストリアルなビートと空間に点を記していくような言葉、もはやキム・ゴードンという名前の持つイメージや、元ソニック・ユースという枕詞、1953年生まれ70歳であるなんて情報はかえって邪魔ではないかと思ってしまうくらいこのアルバムの持つ不穏で暗いサウンドスケープには魅力がある。もしキム・ゴードンのことをまったく知らないでこの音楽を聞いていたとしたらどうだっただろう? あるいは違う名前でなんの前触れもなくスピーカーから流れだしてきたとしたら? キム・ゴードンが活躍してきた時代、それが80年代、90年代のラジオやTVからだったらきっと名前を言うその瞬間を逃すまいとドキドキしながら待ちかまえていたはずだし、インターネット以降だとしたら情報を求めてそれらしいキーワードを打ち込んで検索した。このジャケットに描かれている現代のスマホも時代ならおそらくぼんやりと方向性を考えながらShazamする。それが味気ないとか便利になったという話ではなく、いつの時代でも変わらず大事なのは目の前の音を気にかけこれはなんなんだと考える時間ときっかけを与えてくれるということだ。狭い場所からやってきたある種の音楽は広がりを持っている。イメージを想起させ、心を動かし、次々に様々なものを繋いでいく。これはなんなんだ? どこから来たものなのか? どこに向かっていくのか? そうやって考える時間は何ものにも代えがたい。

 このアルバムのサウンドの方向性から、自分の頭にはザ・スウィート・リリース・オブ・デスやネイバーズ・バーニング・ネイバーズなどのバンドで活躍するオランダのアーティスト、アリシア・ブレトン・フェレールがコロナ禍ロックダウンの最中で作り上げたソロ作『Headache Sorbet』のことが浮かんだのだが、キム・ゴードンの本作はよりインダストリアルでもっと言葉の響きの要素が強く出ているのかもしれない。いずれにしてもノイズにまみれるアヴァンギャルドなギター・バンドで活躍していた人物がビートが主体の、自身の頭のなかの世界で鳴り響いているかのような音楽を指向しアプローチしたものがなんとも魅力的に思える。“The Believers” では暗くひび割れたインダストリアルなビートと金属的な打撃音が不穏な空気を生み出し、そこに不安を煽るようなトーンのギターが重なる。キム・ゴードンのスポークン・ワードとシュプレヒゲザングの間みたいなヴォーカルは何かを訴えかけるというよりは、少しだけ熱を帯び目の前の事実を述べているかのような雰囲気で、それが焼け跡から立ち上る煙のような空気を作り出している。悪夢の世界に迷い込んでしまったような “I'm A Man” のドローンのループのなかで聞こえる声もやはりそうで、暴力的とも言える不穏なバックトラックと比べるとどこか醒めていて距離があるように思える。そのコントラストがなにか異様に感じられ、誰かが書いた秘密のノートを見つけそれを盗み見ているような気分になるのだ。小さな部屋で背徳感を抱くような出来事が巻き起こる、どこか後ろめたさがあり落ち着かずゾクゾクと心を下から撫で上げるようなスリルがやってくる。地を這う弦のフレーズとノイズ、言葉と、エレクトロニクスで作られた衝動の静かな爆発、その断片を繋ぎ合わせたコラージュ・アートみたいな “It’s Dark Inside” は最たるもので、このアルバム、そしてキム・ゴードンがいま、いる地平を教えてくれる。
 そこにいるのが当たり前のように余裕があって、あざとく見せつけるような様相はなく、ただ美学や価値観を提示する。40分と少しのこのアルバムは、ボリューム過多、情報過多に陥らずコンパクトで聞きやすくもあり『The Collective』というタイトルの通り、頭に残り続けるバラバラのトピックの断片が、どこかで繋がるような抽象的で奇妙な象を描き続けている。

 誰かが価値観を提示しそれを聞いたものが受け取り考え、そうして時間が経って変化してまた新たな価値観が生まれていく。そんなオルタナティヴのサイクルのなかで、さらりと提示されるキム・ゴードンの当然、頭がそれに揺さぶられる。 刺激とイメージ、格好良さとはやはりこういう場所にあるのかもしれない。

Jeff Mills - ele-king

 ブラック・ホールをテーマにしたジェフ・ミルズのニュー・アルバム、戸川純が参加したことでも話題になっている『The Trip – Enter The Black Hole』が3月20日より配信にて先行リリースされている。またCDとアナログの発売も決定(CDは4月24日、LPは5月下旬)。なおCDは、サインつきのものが4月1日におこなわれる同名の舞台作品の会場(ZERO TOKYO)にて先行販売されるとのこと。LPは、内側の溝から外側の溝へ向かって再生されるという、かつてURもやっていたデトロイト仕様だ。これはぜひアナログ盤を入手しておきたいところ。下記のリリース情報およびイベント情報をチェックしておこう。

CEDEC AWARDS 2023 サウンド部門優秀賞受賞

40年以上の歴史のなかから選び抜かれた名盤950枚を紹介

好評につき在庫切れ状態がつづいていた一冊が
絶えることなき需要に応えるべく新装版として復活!

監修者にしてゲーム音楽研究の第一人者、田中 “hally” 治久によるロング・インタヴューを追加掲載。この5年の変化を語りつくす。
現状に合わせ一部のレヴュー内容をアップデイト、柱や索引も読みやすく再レイアウトした決定版。

「日本のゲーム音楽は、この国が生んだもっともオリジナルで、もっとも世界的影響力のある音楽だ」と『DIGGIN'』のプロデューサー、ニック・ドワイヤーは言う。これは、長年ゲーム音楽を研究し続けてきた本書執筆陣が、それぞれに思い続けてきたことでもある。ゲーム音楽は単なるゲームの付随物で終わるものではなく、かけがえのない価値を様々な形で具有している。〔……〕本書はゲーム音楽の歴史に散らばる何万枚ものサントラ盤やアレンジ盤から、これはという名盤たちを「音楽的な」観点から選び抜いた、ありそうでなかったディスクガイド本である。 (本書序文より)

監修・文:田中 “hally” 治久
文:DJフクタケ/糸田屯/井上尚昭

A5判並製/304頁

目次

新装版の刊行に寄せて──田中 “hally” 治久インタヴュー

序文
凡例

第1章 試行錯誤の黎明期

ゲーム音楽レコードの胎動 | ヒア・カムズ・マリオ! | アレンジの模索 | 声なき時代のゲーム歌謡

第2章 サウンドチップの音楽

任天堂 | ナムコ | コナミ(アーケード) | コナミ(家庭用) | タイトー | セガ | カプコン | データイースト | アイレム | SNK | アーケードその他 | 家庭用その他 | 古代祐三 | 崎元仁・岩田匡治 | 日本ファルコム | 日本テレネット~ウルフチーム | パソコン系その他 | 海外 | リバイバル

第3章 ミニマムサンプリングの音楽

スクウェア | コナミ | タイトー | ナムコ | セガ | カプコン | ソニー系 | 任天堂 | 家庭用その他(SFC) | 家庭用その他(PS・SS・N64ほか) | アーケードその他

[コラム] インターネットミームと非公式ゲーム音楽リミックス ~All Your Base are Belong to Us~ (糸田屯)

第4章 ハード的制約から解放された音楽

最初期(カセットテープ~CD-ROM初期) | 劇伴作家の仕事 | シンフォニック | シンフォニックロック | アコースティック~ニューエイジ | プログレ | フュージョン | ジャジー | シンセロック | ハードロック/ヘヴィメタル | ロックその他 | アンビエント~エレクトロニカ | クラブミュージック | ディスコ~ダンスポップ | ポスト渋谷系 | 音楽ゲーム | ヴォーカル | ジャンルミックス | その他 | CD-ROMから聴けるゲーム音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト

第5章 ダウンロード配信世代のゲーム音楽

エレクトロニカ | エレクトロニック・ダンス | 80sリバイバル&ウェイヴ系 | レトロモダン(チップチューン進化系) | ロック | シンフォニック | アコースティック | ジャジー | ジャンルミックス | 民族音楽

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト2

第6章 アレンジバージョン

第一次バンドブーム | フュージョン | プログレ | ロック | 管弦・器楽 | アコースティック | シンセ | ダンス&クラブ | ジャンルミックス | ヴォーカル | その他

シリーズ作品や関連作品をまとめて聴ける「CD BOX系サントラ」リスト3

第7章 アーティストアルバム

日本(バンド) | 日本(ソロ/ユニット) | 海外

索引
あとがき

田中 “hally” 治久(たなか・はりー・はるひさ)
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。チップ音楽研究の第一人者で、主著に『チップチューンのすべて』、共同監修書籍に『ゲーム音楽家インタヴュー集──プロのベテラン18人が語るそれぞれのルーツ』『インディ・ゲーム名作選』ほか。さまざまなゲーム・サントラ制作に携わる傍ら、ミュージシャンとしても活動しており、ゲームソフトや音楽アルバムへの楽曲提供を行うほか、国内外でDJ・ライブ活動も展開している。

DJフクタケ
90年代よりDJとして活動。95年に世界初のGAME MUSIC ONLY CLUB EVENT「FARDRAUT」開催に関わるなど最初期から活動するVGMDJであり、ゲーム音楽関連アナログ盤のコレクターでもある。2014年より歌謡曲公式MIX CD『ヤバ歌謡』シリーズをユニバーサル・ミュージックよりリリース、2017年には自ら企画した玩具・ゲーム関連タイアップ楽曲集CD『トイキャラポップ・コレクション』シリーズを発表。『レコード・コレクターズ』、『昭和50年男』など雑誌連載の他、書籍『アニメディスクガイド80’s』や各種WEB媒体への寄稿なども精力的に行う。

糸田 屯(いとだ・とん)
ライター/ゲーム音楽ディガー。本書以外の執筆参加書籍に『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』(DUBOOKS)、『ハヤカワ文庫JA総解説1500』(早川書房)。共同監修書籍に『ゲーム音楽家インタヴュー集──プロのベテラン18人が語るそれぞれのルーツ』(ele-king books)。『ミステリマガジン』誌にてコラム「ミステリ・ディスク道を往く」連載中。

井上尚昭(いのうえ・なおあき)
2001年、ウェブサイト「電子遊戯音盤堂」を開設。“レコード会社別で捉えるゲーム音楽レビュー” を主旨とし、当時はrps7575というペンネームを用いていた。洋邦・映画・アニメ・実写問わずサウンドトラック全般が守備範囲で、別名義でDJプレイなども行う。商業誌初寄稿となる本作を機に、リアルサウンドやIGN Japan、CDのライナーノーツなど、執筆領域を伸長。 本業はサウンドデザイナーで、TV・映画・広告・イベントなどを主とし、ゲーム関連ではeスポーツの大会映像や、開発会社のCI、プロモーション動画の為のサウンド制作歴がある。

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アリス・コルトレーン - カーネギーホール・コンサート

 365日かけて元の位置に戻るこの地球という美しい岩の上では、作品を聴き、理解し、前日とは違った見方ができる日が365ある。私たちは、地球上の多くのひとがアリスやジョン・コルトレーンのステージを見たことがないであろう時代を迎えようとしている。コルトレーンは2人とも、やがてモーツァルトのように男女の神話のような空間に住むことになるだろう。幸いなことに、私たちには写真があるし、アーカイヴ映像も少しはある。今後新しい世代がこのコンサート、ファイアー・ミュージックとスピリチュアル・ジャズの両方を、そしてアリスとジョン・コルトレーンの一期一会のみごとな融合を解釈し、再評価することになるだろう。

 本作『アリス・コルトレーン~カーネギー・ホール・コンサート』は、ノスタルジアの魅力が二重に構成されている。アルバム・タイトルには「アリス コルトレーン」の名前だけが反映されており、初心者にとっては、そこで聴ける音楽への期待を膨らませることになる。 ただし、実際の録音は追悼と祝福だ。アリスとジョン、2人のアーティストは2024年現在では故人だが、これが録音された1971年当時においては、ジョン・コルトレーンはその4年前に他界しており、依然としてジャズ界のヒーローだった。私たちはまずここで、アリスがジョンのライフワークのなかに創造性と愛を見出していることを知る。そしてまた、アリスが自分の種を植え、宇宙の木々に囲まれているのを聴くことができる。このコンサートは、ある伝説的な人物の出発が、別の人物の上昇の夜明けを始めるという、彼らの芸術的パートナーシップの図式なのだ。

 本作では、スピリチュアルな瞑想やヴァイブに満ちたリラクゼーション集中法からフリー・ジャズ世代の衝撃的なカオスの叫びまで、レコーディングのバランスはシーソーのように変化している。この音の組み合わせが当時どう捉えられ、いまどう捉えられるかは興味深く逆説的だ。往年のジョンの『アセンション』(1965)の爆音をまだ渇望している聴衆にとっては、アルバムの後半はカタルシスだったろう。しかし、それはアリスが必ずしも望んでいた姿ではない。本作において彼女は、 『ジャーニー・イン・サッチダーナンダ(Journey in Satchidananda)』(1971)に収録された表題曲と “シヴァ・ロカ(Shiva-Loka)” で自分自身とその正体を示している。1968年から1973年にかけて、アリスは4人の子供を持つポスト・ジョンの世界での大きなプレッシャーにもかかわらず、信じられないほど多作で、作品のなかで東洋(インド)のスピリチュアリティを探求することに熱心だった。同世代の他のアーティストとは異なり、アリスはそれから何十年も経った2007年に他界するまで、彼女のスピリチュアルな旅から離れることはなかった。ゆえに1971年以降のアリス・コルトレーンの音楽が具現化していった芸術的ヴィジョンの息吹を考えると、このレコーディングには必ずしもアリスの世界すべてが録音されているわけではない。

 しかし、本作を歴史のない音楽として、ジャズの長大な理念のなかに漂う音として受け止めるなら、味わうべきものは多い。アリスがハープという楽器を選んだことは、彼女がジョン以降をどのように歩みたいかを表現する上で重要な意味を持っている。ハープにはジャズの歴史がない。つまり、典型的なヴィルトゥオーゾ(名演奏家)的ジャズの装飾を忌避する、記憶のないサウンド・クリエーターとして機能できる。ジョンもそういうアーティストだった。ハープによってアリスはムード、質感、感情、純粋な表現、メロディ、瞑想、そしてもっとも輝かしいに悟りに集中する。歴史の重みを軽やかに避け、アーティストたちは新しいものの先駆者として自由に表現する。

 アルバムの後半の、獰猛な “アフリカ(Africa)” と “レオ(Leo)” に近づく前に、アリスが選んだ “ジャーニー・イン・サッチダーナンダ” と “シヴァ・ロカ” は、夜の闇と昼の明るさの完璧なコントラストであり、東洋のスピリチュアリティと自由な表現のユニークな融合を示している。アメリカがまだベトナム戦争という失敗に膝まで浸かっていた頃、アリスのゆらぎのあるハープ・フライトのクレッシェンドは、その世代で誰もが苦しんでいた不安に対する治癒として機能したのだろう。

 そして、ノスタルジアへの頌歌として、アリスは楽器をピアノに替え、ジョンがそばにいた時のポジションを再現した。“アフリカ” と “レオ” におけるエネルギーの放出は、グループがどれだけ爆発を起こせるかの耐久テストとなった。ジョンは不在だったが、代わりにファラオ・サンダースアーチー・シェップ、セシル・マクビーなど、ジョンがもっとも信頼したコラボレーターたちが参加している。感動的な音のカデンツは、幸運にも彼らに導かれた聴衆に畏敬の念を抱かせた。音楽はインスピレーションを与え、自己発見へと駆り立てる力を秘めている。そのエネルギーは決して衰えることはない。最後の音が鳴りやむのを心いっぱいの拍手で祝福する聴衆に温められている。

 

Alice Coltrane - The Carnegie Hall Concert

written by Kinnara : Desi La

  On this beautiful rock called Earth, that takes 365 days to return to its original position, there are 365 different days to listen and understand a work or see it differently than the day before. We are coming at a point in time where no one on Earth will have seen Alice or John Coltrane on stage. Both Coltranes will soon inhabit a space like Mozart as a myth as much as a man and woman. Luckily we have pictures. And a few bits of archival footage. Each following generation will from now on interpret and reevaluate this concert, both fire music and spiritual jazz, and the unique once in a lifetime union of Alice and John Coltrane.
The allure of nostalgia is two fold in this release, Alice Coltrane - The Carnegie Hall Concert. The title reflects only Alice Coltrane’s name and to the uninitiated, that would be their expectation of the music contained. The actual recording though is a reflection and/or a celebration. Both artists, Alice and John are now deceased as of 2024 but at the time of recording in ’71, John Coltrane was a not so distantly deceased hero of the jazz world having passed away almost 4 years previously. We see Alice view the love of her life’s work within herself and creative work. In the same concert we hear Alice plant her own seeds and surround herself with cosmic trees. This concert is a diagram of their artistic partnership with one legend’s departure initiating the dawn of another’s ascent.
The balance in this recording is a seesaw from spiritual meditation and vibe-filled relaxation concentration techniques to the shock chaos screaming of the free jazz generation. How this sound combination was viewed at the time and could be viewed now is intriguing and paradoxical. For the audience still craving the sonic blasts of yesteryear ASCENSION, the latter half of the recording was catharsis. But that isn’t who Alice necessarily wanted to be. She showed herself and what she is with “Journey in Satchidananda” and “Shiva-Loka.” Between 1968 and 1973, Alice, despite the immense pressures of a post-John world with 4 children, was incredibly prolific and intent on exploring eastern (Indian) spirituality within her work. Unlike other artists of that generation, Alice never left that spiritual journey until she passed away many years later in 2007. Given the breath of artistic vision that Alice Coltrane`s music would come to embody after 1971, the recording in a way robs us of completely experiencing Alice’s world.
If we take the album as just music without history, as just sounds floating in the lengthy ethos of jazz, there is much to savor. Alice’s choice of instrument in the harp is instrumental in expressing how she wished to navigate post-John. The harp has no real history with jazz. So it operates as a memoryless sound creator avoiding the trappings of typical virtuosic jazz. The type that John was clearly known for. The harp allowed Alice to focus on mood, on texture, on feelings, on pure expression, on melody, on meditation and most gloriously enlightenment. Without the weight of history, artists can embrace freedom maneuvering as vanguards of the new.

  Alice’s choice of “Journey in Satchidananda” and “Shiva-Loka” before approaching the ferocious “Africa” and “Leo” were perfect contrasts of the darkness of night and brightness of day displaying her unique blend of Eastern spirituality and freeform expression. As the US
was still knee deep in the failure that was the Vietnam War, Alice’s fluctuation crescendos of harp flight acted as band aids to the anxiousness everyone suffered from in that generation.
Then in an ode to nostalgia, Alice switched to piano refilling the position she held with John by her side. Here the burst of energy with both tracks “Africa” and “Leo” became endurance tests for the number of explosions the group could launch. John was absent but supplanted by some of his most trusted collaborators like Pharoah Sanders, Archie Shepp, and Cecil McBee among others. Cadences of sonic emotion left a sense of awe for those in the audience lucky enough to be initiated by them. The music is inspiring and holds the power to nudge towards self-discovery. The energy never wanes, cherished by an audience that blesses with heart filled applause as the last sounds die off.

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