「Ord」と一致するもの

Soundwalk Collective with Patti Smith - ele-king

 音響アートを扱うプラットフォームである、NYの「サウンドウォーク・コレクティヴ」。彼らがパティ・スミスと組んだコラボ・プロジェクトは、ランボーやアルトー、ルネ・ドーマルというフランスの3人の詩人から触発されたシリーズを展開、「The Perfect Vision」と題しすでに3枚のアルバム──『The Peyote Dance』(19)『Mummer Love』(19)『 Peradam(20)──を送り出している。
 そして本日、そのシリーズのリミックス盤がリリースされているのだが、参加面子がなかなかユニークなのだ。ブライアン・イーノやララージといった大物のみならず、ルクレシア・ダルトケイトリン・オーレリア・スミスロティックといった現代エレクトロニック・ミュージックの重要アーティストたちが加わっている。これはチェックしておくべきでしょう。
 なお、それらリミックス曲を収録した『The Perfect Vision: Reworkings』は、シリーズ3作をまとめたボックスセットの一部としてリリースされる模様。

artist: Soundwalk Collective with Patti Smith
title: The Perfect Vision: Reworkings
label: Bella Union
release: November 25, 2022

tracklist:

1. Peradam (Brian Eno Remix)
2. Song Of The Highest Tower (Kaitlyn Aurelia Smith Rework)
3. Ivry (Laraaji Rework)
4. Bad Blood (Lotic Rework)
5. Indian Culture (Lucrecia Dalt Remix)
6. Song Of The Highest Tower (Atom™ Remix)
7. Eternity (Jim Jarmusch Remix)

Koshiro Hino (goat & KAKUHAN) - ele-king

 バンドgoatを率いる一方、YPY名義でも電子音楽作品を発表している日野浩志郎。昨年は鼓童とのコラボ・プロジェクトがあったが、来る12月26日、大阪の枚方関西医大小ホールにて、goatとしては5年ぶりとなる国内公演が開催される。結成10周年を迎える2023年に向け、新作も準備中とのこと。
 そしてもうひとつニュース。日野がチェリストの中川裕貴と組むユニット「KAKUHAN」の初のアルバムが数日前にリリースされている。これが素晴らしい内容なのであらためてレヴューで紹介する予定ですが、そのKAKUHAN初の単独公演が今月の19日と20日、こちらは京都芸術センター講堂にて開催。
 年の瀬も押し迫るなか、日野浩志郎の動きから目が離せない。

日野浩志郎率いるバンド「goat」、約5年ぶりの国内公演開催が決定

電子音楽ソロプロジェクト「YPY」をはじめ、舞台作品「GEIST」や、太鼓芸能集団 鼓童とコラボレートした音楽映画「戦慄せしめよ/Shiver」(2021年公開、豊田利晃監督)などで知られる音楽家・作曲家の日野浩志郎を中心に活動を行うバンド「goat」が、今年の12月26日に大阪の枚方にて約5年ぶりとなる国内公演を行うことが決定した。

オリジナルメンバーの日野、田上敦巳、安藤暁彦に加え、MANISDRON、The Noupのドラマー岡田高史と、元鼓童の篠笛・パーカッション奏者である立石雷の5人編成で活動中の「goat」は、来年2023年の結成10周年に向け、約8年ぶりとなる新作アルバムを制作中だ。

今回の公演は、アルバム収録予定の新作楽曲を交えたおよそ60分ほどの演奏となる予定。

会場となるのは、昨年開館したばかりの枚方市総合文化芸術センター内にある関西医大小ホール。客席は約300席、内装壁面にレンガを採用し、豊かな響きと遮音性にも優れたホールとなっている。

宣伝美術は画家の五木田智央、音響は新作のレコーディングエンジニアでもある西川文章が担当。

公演に合わせて会場限定物販の販売や、北加賀屋 club daphniaでのアフターパーティーも予定している。

[公演概要]

goat 枚方関西医大小ホール公演

日時 12月26日(月)18:30開場 / 19:00開演
会場 枚方市総合文化芸術センター 関西医大小ホール(大阪府枚方市新町2-1-60)
チケット 前売り 4,000円 / 当日 4,500円 / U25 3,000円(https://goat-hirakata.peatix.com/)

出演 goat(日野浩志郎、田上敦巳、岡田高史、立石雷、安藤暁彦)
音響 西川文章
照明 渡辺敬之
宣伝美術 五木田智央(アートワーク)、真壁昂士(デザイン)
主催 株式会社鳥友会
文化庁「ARTS for the future! 2」補助対象事業

[プロフィール]


goat

2013年に日野浩志郎を中心に結成したグループ。元はギター、サックス、ベース、ドラムの4人編成であるが、現在は楽曲によって楽器を持ち替えていく5人編成で活動している。極力楽器の持つ音階を無視し、発音させる際に生じるノイズ、ミュート音などから楽曲を制作。執拗な反復から生まれるトランスと疲労、12音階を外したハーモニクス音からなるメロディのようなものは都会(クラブ)的であると同時に民族的。
https://emrecords.bandcamp.com/album/new-games-rhythm-sound
https://goatjp.bandcamp.com/

《 goat after party 》
日時 12月26日(月)23:00開場
会場 club daphnia(大阪府大阪市住之江区北加賀屋5-5-1)
チケット 当日 2,500円+1drink *goat枚方公演参加者は1,500円+1drink

出演者:
YAMA
MITAYO



YukiNakagawa2022

KAKUHAN「musica s/tirring」

開催日時:
2022年11月19日(土)・20日(日)
開場 14:30
開演 15:00(17時終了予定)

会場:
京都芸術センター講堂/フリースペース

出演者・スタッフ・クレジット:
出演 KAKUHAN(日野浩志郎、中川裕貴)
音響 西川文章
音響プログラミング 古館健
照明 渡辺敬之
美術 OLEO
舞台監督 十河陽平
宣伝美術 白石晋一郎(写真)、清田優(デザイン)

主催 株式会社鳥友会、京都芸術センター、公益財団法人京都市芸術文化協会

チケット料金:
前売り 3,000円
当日 3,500円
U25 2,000円

予約:
peatix
https://musica-stirring.peatix.com

京都芸術センターウェブサイト
https://www.kac.or.jp/events/32818/

京都芸術センター 窓口 [10:00-20:00]
〒604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
*窓口販売のみ。電話・FAXによる予約は不可。

アクセス:
京都芸術センター
604-8156 京都市中京区室町通蛸薬師下る山伏山町546-2
Tel: 075-213-1000 Fax: 075-213-1004
E-mail: info@kac.or.jp URL: https://www.kac.or.jp/

地下鉄烏丸線「四条駅」、阪急京都線「烏丸駅」
22番・24番出口より徒歩5分。
駐車場はございません。公共交通機関をご利用ください。

日野浩志郎と中川裕貴によるユニット「KAKUHAN」初の単独公演「musica s/tirring」を開催します。
大阪と京都を拠点とし、国内外で活動する日野と中川はそれぞれ、ライブ演奏だけでなく、舞台や映画の音楽制作などの多様な活動を続けるなかで、既存の音楽の範疇を逸脱しながら、音楽がもつポテンシャルに対して深い思考/試行を巡らせてきました。そうした両者は、オーケストラ公演など、これまで様々な作品を共に制作して作ってきましたが、デュオという最小単位での制作は、本公演が初めての機会となります。
公演タイトルの「musica s/tirring」は、日野と中川の制作コンセプトから名づけられました。「撹拌」を意味する「stirring」。それにスラッシュが付されることで、「s/t」という「セルフタイトル」を意味する表記が形づくられています。そうした語を「musica(音楽)」と結び付けること。すなわち、日野と中川は、音楽を攪拌することと、音楽そのものであることを、時に重ね合わせ、時に両者の間を往還することで、制作を行ってきたのです。
本公演では、そのようにして両者が制作した楽曲を「負(OU)」と「角(KAK)」というふたつに分けて構成し、京都芸術センターの講堂とフリースペースにて演奏を行います。


KAKUHAN - Metal zone

KAKUHAN is
Koshiro Hino - electronics
Yuki Nakagawa - cello

A1. MT-DMZ
A2. MT-STM
A3. MT-ZN1
A4. MT-BZSR

B1. MT-SS1
B2. MT-AUTC
B3. MT-RWV
B4. MT-ZUC

NKD06
Mastered by Rashad Becker
Mixed by Bunsho Nishikawa
Lacquer Cut by Loop-O
Artwork by Shinichiro Shiraishi
Art coordination by Yusuke Nakano
Designed by Takashi Makabe
Published by Edition Golfen & Reiten / Freibank

Koshiro HinoとYuki NakagawaによるKAKUHANの1stアルバム「Metal Zone」は「電子音楽/弦楽」、「現代音楽/クラブミュージック」、「トラディショナル/コンテンポラリー」、「フィジカル/メタフィジカル」、「作曲/即興」など、様々な異なる要素がそのユニット名の通り「攪拌」されている。それは、チェロと電子音、ヒトとマシーン、アコースティックとエレクトロニクスによる別の「レフトフィールド」のかたちとも言えるのではないだろうか。
これまでEM records、Workshop、WhereToNow?、Nous、Acido、BLACK SMOKER RECORDSなどから作品をリリースしているKoshiro Hino。彼の主な作曲作品として、電子音楽とエレクトロニクスのハイブリッドオーケストラ「Virginal Variations」(2016)、Eli KeszlerやJoe Taliaなどをゲストに迎えて行ったシアターピース「GEIST」(2018-)、FUJI|||||||||||TAと共に作曲を行った「INTERDIFFUSION A tribute to Yoshi Wada」(2021-)がある。そしてそれら全ての作品にYuki Nakagawaはチェロプレイヤーとして参加してきた。
Yuki Nakagawaは京都を中心に活動するチェリスト、作曲家、演出家。彼は独学でチェロを学び、独自で生み出した様々な特殊奏法やチェロを使用したライブエレクトロニクス演奏に長年取り組んでいる。また近年では自作のチェロ弓を使用した演奏も行うなど、「チェロ」という楽器のもつポテンシャルを最大限に引き出すパフォーマンスを10年以上にわたり行ってきている。ただこれまで正式なリリース音源はほとんどなく、このKAKUHANの音源は彼の貴重な演奏記録ともなる。
このデュオ「KAKUHAN」の音楽制作が半ば偶発的にスタートした。「GEIST」の制作の為にスタジオに入った二人だったが、息抜き的に即興演奏をエレクトロニクスとチェロで録音したことが活動の始まりとなった。二人は単なるライブや音源作品だけでなく、舞台芸術やダンス、映画などの音楽制作など、それぞれにジャンルをまたぎ幅広く活動してきたが、特にコンセプトや目的等を設けず音楽制作を開始することから多くの発見や様々な音が生み出された。その後も2021年に複数回にわたりレコーディングセッションを行い、デュオでのライブ活動も開始。2022年にユニット名を「KAKUHAN」とし、この作品がデビューアルバムとなる。
今回のアルバムはアートワークとして、イギリスの映画監督、舞台デザイナー、作家、園芸家であるデレク・ジャーマンの庭を写真家Shinichiro Shiraishiが撮影したものが使用されている。このアートワークの中にみえる人工物/自然物、具象/抽象、動的/静的のイメージは、KAKUHANの音楽のかたちをビジュアルとして現すものだ。KAKUHANの音楽には、デレクジャーマンの庭がそうであったように、自然/人工の間にひそむ何か、また様々な音楽の「状態」が在る。
「Metal Zone」の奥から聴こえるストリングの音や声(チェロは人間の声に一番近い楽器である)、響くビートや電子音は、現代音楽/クラブミュージックがこれまで遂げてきた変貌の道の上にある。電子音とアコースティック楽器の融合、楽器の音を電子化する、電子化された音から聴覚を通じて何かを想像することは、これまでの実験音楽や現代音楽でも行われてきたものだが、KAKUHANのこのアルバムから聴こえるものは、それをさらに別のものへと転化させている。
音楽の中で無自覚に生み出され、放置された様々な「ゾーン」をKAKUHANは今、さらに攪拌する。

20世紀のもっとも気色悪い、混乱させる、
超越的な小説、映画、音楽を扱い、
『資本主義リアリズム』の著者の新作にふさわしく、
読み応えがあって明確な主張がある。
──『クワイエタス』書評(2017)より

それがなぜ「奇妙なもの」に見えるのか?
「奇妙なもの」と「ぞっとするもの」という混同されがちな感覚を識別しながら、
オルタナティヴな思考を模索する

H・P・ラヴクラフト、H・G・ウェルズ、フィリップ・K・ディック、M・R・ジェイムズ、
デヴィッド・リンチ、スタンリー・キューブリック、アンドレイ・タルコフスキー、
クリスタファー・ノーラン、ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー、
ザ・フォール、ブライアン・イーノ、ゲイリー・ニューマン……
思想家、政治理論家、文化評論家マーク・フィッシャーの冴えわたる考察がスリリングに展開する、
彼の生前最後の著作にして、もう一冊の代表作。

目次


奇妙なものとぞっとするもの(不気味なものを超えて)

奇妙なもの
時空から生じ、時空から切り取られ、時空の彼方にあるもの──ラヴクラフトと奇妙なもの
現世的なものに抗する奇妙なもの──H・G・ウェルズ
「身体は触手だらけ」、グロテスクなものと奇妙なもの──ザ・フォール
ウロボロスの輪にとらえられて──ティム・パワーズ
シミュレーションと非世界化──ライナー・ヴェルナー・ファスビンダーとフィップ・K・ディック
カーテンと穴──デヴィッド・リンチ

ぞっとするもの
ぞっとするものへのアプローチ
何もないはずのところにある何か、何かあるはずのところにある無──ダフネ・デュ・モーリアとクリストファー・プリースト
消滅していく大地について──M・R・ジェイムズとイーノ
ぞっとするタナトス──ナイジェル・ニールとアラン・ガーナー
外のものを内へ、内のものを外へ──マーガレット・アトウッドとジョナサン・グレイザー
エイリアンの痕跡──スタンリー・キューブリック、アンドレイ・タルコフスキー、クリストファー・ノーラン
「……ぞっとするものは残りつづける」──ジョーン・リンジー

訳者あとがき
参考文献
索引

マーク・フィッシャー(Mark Fisher)
1968年生まれ。ハル大学で哲学の修士課程、ウォーリック大学で博士課程修了。ゴールドスミス大学で教鞭をとりながら自身のブログ「K-PUNK」で音楽論、文化論、社会批評を展開する。『ガーディアン』や『ファクト』、『ワイアー』に寄稿しながら、2009年に『資本主義リアリズム』(セバスチャン・ブロイ+河南瑠莉訳、堀之内出版、2018年)を発表。2014年に『わが人生の幽霊たち(五井健太郎訳、Pヴァイン、2019年)を、2016年に『奇妙なものとぞっとするもの』(五井健太郎訳、Pヴァイン、2022年)を上梓。2017年1月、48歳のときに自殺する。邦訳にはほかに、講義録『ポスト資本主義の欲望』(マット・コフーン編、大橋完太郎訳、左右社、2022年)がある。

五井健太郎(ごい けんたろう)
1984年生まれ。東北芸術工科大学非常勤講師。専門はシュルレアリスム研究。訳書にマーク・フィッシャー『わが人生の幽霊たち──うつ病、憑在論、失われた未来(Pヴァイン、2019年)、ニック・ランド『暗黒の啓蒙書』(講談社、2020年)、『絶滅への渇望』(河出書房新社、2022年)、共著に『統べるもの/叛くもの──統治とキリスト教の異同をめぐって』(新教出版社、2019年)、『ヒップホップ・アナムネーシス──ラップ・ミュージックの救済』(新教出版社、2021年)など。

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
Yahoo!ショッピング
HMV
TOWER RECORDS
紀伊國屋書店
honto
e-hon
Honya Club
mibon本の通販(未来屋書店)

P-VINE OFFICIAL SHOP
SPECIAL DELIVERY

全国実店舗の在庫状況
紀伊國屋書店
三省堂書店
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
旭屋書店
有隣堂
TSUTAYA
未来屋書店/アシーネ
くまざわ書店

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わが人生の幽霊たち』重版出来!
2022年12月2日以降順次全国の書店に入荷予定

interview with Dry Cleaning - ele-king

 『Stumpwork』というのはおかしな言葉だ。口にしてみてもおかしいし、その意味を紐解くのに分解してみると、さらに厄介になる。「Stump(=切り株)」とは、壊れたものや不完全なもの、つまり枯れた木の跡や、切断された枝があった場所を指す。そして、そこに労働力(= work)を加えるのは奇妙な感じがする。

 「Stumpwork」とは、糸や、さまざまな素材を重ねて、型押し模様を作り、立体的な奥行きを出す刺繍の一種で、もしかしたら、そこにドライ・クリーニングの濃密で複雑なテクスチャーの音楽とのつながりを見い出すことができるかもしれない。しかし、まず第一に、この言葉が感覚的に奇妙でおかしな言葉であることを忘れないでいよう。

 フローレンス・ショウは、いま、英語という言語を扱う作詞家のなかでもっとも興味深い人物の一人であり、面白くて示唆に富む表現に関しての傑出した直感の持ち主である。アルバム・タイトルでもそうだが、彼女は言葉の持つ本質的な響きというテクスチャーに一種の喜びを感じているようだ。“Kwenchy Kups”という曲では、歌詞の「otters(発音:オターズ)」という単語で、「t」を強調し、後に続く母音を引きずっているのが、音楽らしいとも言えるし、ひそかにコミカルとも言える。また、「dog sledge(*1)」、「shrunking(*2)」、「let's eat pancake(*3)」といった言葉や表現には、「あれ?」と思うくらいのズレがあるが、言語的な常識からすると、訳がわからないほど逸脱しているわけではなく、ちょっとした間違いや、型にとらわれない表現の違和感を常に楽しんでいることがうかがえる。このような遊び心あふれるテクスチャーは、「Leaping gazelles and a canister of butane (跳びはねるガゼルの群れと、ブタンガスのカセットボンベ)」のような、幻想的なものと俗なものを並列させる彼女の感性にも常に息づいている。ドライ・クリーニングの歌詞は、物語をつなぎとめる組織体が剥ぎ取られ、細部と色彩だけが残された話のように展開する。何十もの声のコラージュが、エモーショナルで印象主義的な絵画へと発展していくのだ。

*1: 正しくはdog sled(=犬ぞり)。「Sledge」はイギリス英語で「そり」なので、dogと合体してしまっているが、dog sledが正確には正しい。
*2: 正しくはshrinking(=収縮)。過去形はshrank、過去分詞はshrunk、現在進行形はshrinkingでshrunkingという言葉は存在しない。動詞の活用ミス。
*3: 正しくはLet’s eat a pancakeもしくはLet’s eat (some) pancakes。文法ミス。冠詞が入っていないだけだが、カタコト風な英語に聞こえる。

 音楽性において『Stumpwork』は、彼らの2021年のデビュー作『New Long Leg』(これも素晴らしい)よりも広範で豊かなパレットを露わにしている。ドライ・クリーニングのサウンドは、しばしばポスト・パンクという伸縮性のある言葉で特徴付けられ、トム・ダウズの表情豊かなギターワークからは、ワイヤーの尖った音や、フェルトやザ・ドゥルッティ・コラムの類音反復音を彷彿とさせるような要素を聴くことができるが、彼は今回それをさらに押し進めて、不気味で酔っ払ったようなディストーションやアンビエントの濁りへと歪ませている。ベーシストのルイス・メイナード、ドラマーのニック・バクストンは、パンクやインディの枠組みを超えたアイデアやダイナミクスを取り入れた、精妙かつ想像力豊かなリズムセクションを形成している。オープニング・トラックの“Anna Calls From The Arctic”では、まるでシティ・ポップのような心地よいシンセが出迎えてくれるし、アルバム全体を通して、予想外かつ斜め上のアレンジが我々を優しくリードしてくれる。このアルバムは、聴く人の注意を強烈に引きつけるようなものではなく、煌めくカラーパレットに溶け込んでいく方が近いと言えるだろう。

 だがこの作品は抽象的なものではない。現実は、タペストリーに縫い込まれたイメージの断片に常に存在するし、自然な会話の表現の癖を捉えるショウの耳にも、そして彼女の蛇行するナレーションとごく自然に会話を交わすようなバンドの音楽性とアレンジにも存在している。ある意味、このアルバムはより楽観的な感じがあって、人と人がつながる幸せな瞬間や、日常生活のささやかな喜びに焦点を当てているのだが、やはり、フローレンスの歌い方は相も変わらず、不満げで、擦れた感じがある。イギリスの混乱した政治状況は、曲のタイトル“Conservative Hell”に顕著に表れているのだが、私は、とりわけ混乱した状況の最中にトムとルイスと落ち合うことになった。イギリス女王は数週間前に埋葬されたばかりで、リズ・トラス首相の非現実的な残酷さが、ボリス・ジョンソンのぼろぼろな残酷さに取って代わったばかりで、リシ・スナックの空っぽで生気のない残酷さにはまだ至っていないという状況だった。

 3年ぶりにイギリスを訪れた私は、いきなりこんな質問で切り出した。

最近のイギリスでの暮らしはどのような感じですか?

トム:ニュースを見ていると、まるで悪夢だよ。しかも、すべてはいままでと同じような感じで進んでいる。新しい首相が誕生したことで、ひとつ言えることは、いまがまさにどん底だってことで、保守党政権の終焉を意味してるということ。12年間も緊縮財政を続けたのに、何の成長もなかったから、上層部の議員でさえ、もはや野党になる必要があるなんて言っているんだ。まあ、良い点としては、次の選挙で保守党が落選することだろう。デメリットは、保守党落選まで、俺たちは、彼らが掲げる馬鹿げた政策に付き合わなければならないってことだね。

ルイス:うちの妹みたいに政治に全く興味のない人でも、「ショックー! マジでクソ高い!」って言ってるんだ。 請求書や食料の買い出しなど、いまは本当にキツイ状況になってる。

トム:まさにその通りだね。もし次の選挙で負けたいなら、国民の住宅ローンをメチャクチャにしてやればいい!


by Ben Rayner(左から取材に答えてくれたギターのトム、中央にベースのルイス、そしてヴォーカルのフローレンスにドラムのニック)

ニュースを見ていると、まるで悪夢だよ。しかも、すべてはいままでと同じような感じで進んでいる。新しい首相が誕生したことで、ひとつ言えることは、いまがまさにどん底だってことで、保守党政権の終焉を意味してるということ。12年間も緊縮財政を続けたのに、何の成長もなかったから、上層部の議員でさえ、もはや野党になる必要があるなんて言っているんだ。

私の家族も同じようなことを言っていますよ。さて、この話題をどうやって新しいアルバムにつなげようかな......(一同笑)。先ほど、普段通りの生活をしながらも、現在の状況が断片的に滲み出てきているとおっしゃっていましたね。もしイギリスの政治情勢がアルバムに影響を与えているとしたら、それは日常生活のなかに感じられる、そういったささやかな断片なのだと思います。例えば、ある曲でフローレンスは「Everything’s expensive…(何から何まで物価は高いし...)」と言っていますよね。

トム: 「Nothing works(何をやっても駄目)」そうなんだよ。俺たちがフローの歌詞についてコメントするのはなかなか難しいんだけど、彼女は、ひとつのテーマについて曲を書くということは絶対にしない人なんだ。彼女の曲を聴いていると、脳の働き方がイメージできる。俺は以前、自転車に乗っていて車に轢かれたことがあるんだが、気絶する直前、不思議なことがいろいろと頭に浮かんできたんだ。でも、さっき俺が言った「いままでと同じような感じで進んでいる」というのは、「いままでと同じような感じで進んでいるけど、すごく抑圧的な空気が影に潜んでいる」という意味なんだ。それでも仕事に行かないといけないし、請求書も払わないといけないし、日常のことはすべてやらないといけない。ただ、政治情勢がね……俺たちは12年間この状況にいたわけで、少しでも好奇心や観察力がある人なら、その影響を受けていると思うよ。

ルイス:俺たちはいつもひとつの場所に集まって、一緒に作曲をする。フローは、自分の書いた歌詞を紙に束ねて持って来るから、それを組み合わせたり、繋げたり、丸で囲んだり、位置を変えたりしている。そうやって、様々なアイデアが集まるコラージュのようなものを作っているんだ。

(ドライ・クリーニングの音楽を)聴いていると、何かの断片が自分を通り越していくような感じがするんです。

トム:でも、ランダムってわけじゃない。彼女は、歌詞を一行書くと、次は、逆の内容を書くという性分みたいなものがあると思う。響き的にも、テクスチャー的にも、コンセプト的にも、まったく違うものを書くんだよ。例えば、絵を描くときに、すべての要素がうまく調和するようにバランスをとっているような感じかもしれない。

ルイス:俺たちが自分たちのパートを演奏することで彼女の歌詞に反応するという、会話みたいなことをたくさんやっているんだ。

(アルバムには)日常生活の断片のような一面もあるので、自分たちでアルバムを聴いていて「あ、この会話覚えてる……」と思ったりすることはあるんですか?

トム:ああ、たしかに俺たちの言ったこととか、自分がいた場で友だちが言ったこととかが、歌詞に入ってるよ。

ルイス:俺たちの演奏と同じように、彼女も即興で歌詞を書くことが多いし、あらかじめ考えたアイディアも持っている。バンドで演奏しているときは、その場の音がかなりうるさいから、ヴォーカルだけ別録りして、フローが言ったことを自分で聴き返せるようにしたんだ。今回のアルバムでは、ファーストよりも、レコーディングのプロセスで歌詞を変えていたことが多かったみたいだけど、それほど大きな違いはなかったと思う。

トム:それは、スタジオでの即興をたくさんやったからということもある。でも、だいたいの場合、フローは俺たちが曲を作り始めるタイミングと同じ時に作詞をはじめるんだ。曲を書きはじめる時はみんなで集まって、ルイスが言っていたように、フローがやっている何かが、俺たちのやっていること、つまりサウンドに影響することがよくあるんだよ。“Gary Ashby”を作曲しているときは、フローが、行方不明になった亀について歌っていると知った時点で、こちらの演奏方法が変わった。フローが言っていることをうまく強調する方法を探したり、フローの歌詞をもっと魅力的にできるように、もっとメランコリックにできるように工夫する。以前なら使わなかったマイナーコードなどを使うかもしれない。音楽を全部作った後に、彼女が別の場所で歌詞を書くということはめったにないよ。もっとオーガニックな形でやってるんだ。

ルイス:俺たちは、他のメンバーへの反応と同じような方法で、フローにも反応する。俺がドラムに反応するのと同じように、彼女のヴォーカルにも反応するし、その逆もしかり。(フローの声は)同じ空間にある、別の楽器なんだ。

初期のEPや、特に前作と比べて、(作曲の)アプローチはどのように変化したのでしょうか?

トム:作曲のやり方はいまでも変わらないよ。基本的にみんなでジャムして作曲するんだ。

ルイス:携帯電話でデモを録ることが多いね。みんなでジャムしていて、「これはいい感じだな」と思ったら、誰かが携帯電話を使って録音しはじめる。そして、翌週にその音源で作業することもあれば、半年間放置されていて、誰かが「そういえば、半年前のジャムはなかなか良かったよな」って思い出すこともある。ほとんどの曲はそんな始まり方だよ。今回はスタジオにいる時間が長く取れたから、意図的に、曲が完成されていない状態でスタジオに入ったんだ。

トム:そう、アプローチの違いは、基本的に時間がもっと使えたということ。前回は2週間しかなくて、なるべく早く仕上げないといけなかった。

ルイス:それに、ファースト・アルバムのときは、事前にツアーをやっていたから、レコーディングする前にライヴで演奏していた曲もあったんだ。今回は、ツアーができなかったから、アルバムをレコーディングし終わって、いまはアルバムの曲を練習しているところなんだ。

なるほど。曲を作曲している段階で、観客の存在がなかったということが、この作品のプロセスにどのような影響を与えたのか気になっていました。

トム: 実際に曲をライヴで演奏して試してみないとわからないから、何とも言えないね。その状況を受け入れるしかなかったよ。ライヴで曲を演奏することができなかったから、自分たちがいいと思うようなアルバムを作ることにしたのさ。

ルイス:(自分たちの曲を)聴くってことが大事だと思う。スタジオでは、また違った感じで音が録音されるから。スタジオで実験できるのはとてもいいことだし、俺たちの曲作りのプロセスには聴き返すという部分が多く含まれている、ジャムを聴き返すとかね。もし俺たちがレコーディングして、それを聴き直して編集するという作業をしていなかったら、ほとんどの曲は、演奏していて一番楽しいものがベースになるだろうけど、実際はほとんどそうならない。聴き返すということをちゃんとしているから。ライヴで演奏できなかったけれど、結局、同じようなことが起こったと思う。つまり、何が演奏して楽しいかよりも、何が良い音として聴こえるか、ということに重きが置かれることになるんだ。

トム:それと、1枚目のアルバムで学んだのは、あるひとつの方法でレコーディングしたからといって、必ずしもそれがライヴで再現される必要はないということ。だから、今回のアルバムをいまになって、またおさらいしているんだ。アルバムには絶対に入れるべき要素もあるけれど、また作り直していいものもある。『New Long Leg』のツアーでは、“Her Hippo”と“More Big Birds”に、新しいパートを加えたり、尺を長くしたりしていたから、この2曲は(アルバムヴァージョンより)少し違う曲になったんだ。

ルイス:偶然にそうなるときもあるよね。ツアーを通して、曲が自然に進化していくこともある。

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俺たちはいつもひとつの場所に集まって、一緒に作曲をする。フローは、自分の書いた歌詞を紙に束ねて持って来るから、それを組み合わせたり、繋げたり、丸で囲んだり、位置を変えたりしている。そうやって、様々なアイデアが集まるコラージュのようなものを作っているんだ。

今回のアルバムを聴いていてしばしば感じたことなのですが、曲が自然な形で完結し、これで終わりかなと思ったらまた戻ってきて、それが時にはそれまでとは全く違う感じになっているということがありました。それも、スタジオで色々と作業する時間が増えたからなのでしょうか?

トム:それにはいくつかの要因があると思う。まず、“Every Day Carry”を作ったときは、初めてスタジオで三つのパートを作って、そのなかでも即興演奏を加えたりした。“Conservative Hell”のときは、曲の最後の部分は、曲の最初の部分を完成させてから、何かが足りないと感じていたところに、ジョン(・パリッシュ、プロデューサー)が、何か作り上げようという気にさせてくれたから、出来たものなんだ。

ルイス:ファースト・アルバムでは、ジョンは曲を短くするのがとても上手だったけど、“Every Day Carry”では曲を伸ばそうという意図があった。ジョンにとっても、そのプロセスが実は楽しかったみたいだ。セカンド・アルバムのときも、ジョンはまた曲を短くするんだろうと覚悟していたんだけど、彼はもっと曲を伸ばそうとしていた。長くするのを楽しんでいたみたいだった。「曲は長い方がいいんだ!」とか言って。ジョンが曲を長くしてくれたことに、俺たちは驚きだったよ。

プロデューサーのジョン・パリッシュのことですね?

ルイス:そう。

ジョン・パリッシュは、私の地元ブリストル近辺の出身なんです。彼は、私が大好きなアルバム、ブリリアント・コーナーズの『Joy Ride』をプロデュースしたんですよ……(一同笑)。彼が他にも、さらに有名なアルバムを手がけているのは知っていますけど、私はとにかくブリリアント・コーナーズが大好きなんですよね。

トム:それがジョンのいいところだよね。自慢話をするような人ではないし、あまり有名人の名前を出したりしないんだけど、一緒に夕食をとっているときに、何か言ったりする。ジョンがトレイシー・チャップマンのレコードを手がけたって言うから、俺は「何だって!?」と思ったよ。彼にはそういうエピソードがあるんだけど、それは自然に彼から引き出さないといけないんだ。

ジョンとの制作は2回目ということで、親しみもあり、リラックスした雰囲気で仕事ができたのでしょうか?

トム:そうだね、それにはいくつかの理由があると思う。まず、自分たちの状態が安定していたということ。『New Long Leg』が好評だったことも自信につながったし、あの時点では、もっと大規模な公演にも出ていたから、とにかく気持ちが楽だったんだ。最初のアルバムでは、テイクを重ねながら、「これは絶対に素晴らしいものにしないといけないから、俺は全力を尽くさねば!」なんて思っていたんだけど、実際には、そんなこと思わなくていいんだと後で気づいた。アルバムを制作するということはとても複雑なことで、本当に数多くの段階があるから、ミキシングとマスタリングが終わる頃には、自分がそもそも何をしようとしていたのかさえ、すっかり忘れているんだ。だから、今回のアルバムでは、ある意味、ありのままを受け入れた。良いテイクを撮ろうとはするけれど、ジョンが満足すれば、次の作業に移るということをしていた。

ルイス:それにファースト・アルバムでは、ジョンと会った直後にレコーディングしたんだ。彼に会って、ほんの数時間で“Unsmart Lady”を録音して、次の曲に移って、また次の曲に移ってという感じ。バンドとして演奏する時間があまりなかったんだ。

トム:そうそう、それに前回は、彼が「それは嫌だから、変えて」とか言うもんだから、耐性のない俺たちにはショックだったよな(笑)。

ルイス:そうそう、で、トムは「え、今からですか?」ってなってたよね。前回は、日曜日に休みが1日だけあって、土曜日にジョンに「それは嫌だから、明日の休みの日の間に変えてくれ。では、月曜日に!」って言われたんだ。

トム:でも、前回のセッションが終わるころには、俺たちはすっかり溶け込んでいた。ジョンの仕事の仕方が気に入ったし、彼のコメントを個人的に受け止めなくていいってことが分かった。それに俺たちの自信もついたし、バンドとして少したくましくなったから、彼のコメントにもうまく対処できるようになった。だから、2枚目のアルバムでは、もしジョンが何かを違う風にやってみろと言ったら、俺たちは素直に違うやり方を模索した。

ルイス:それに、今回は音源に何か変更を加えるためにスタジオ入りしたという感じもある。最初のアルバムでは、多くの曲を既にライヴで演奏していたから、みんな自分のパートやアイデアに固執してしまっていて、それを変えるのは難しかった。でも今回は、もっとオープンな気持ちで臨んだんだ。

今回のアルバムは、ファースト・アルバムに比べて音の質感がかなり広がった感じがあります。それは自然にそうなったのでしょうか、それとも何か意識的に音を広げる要素があったのでしょうか?

トム:俺たちの音楽の好みが広いから、そうなることは自然だと思うんだよね。もし、もっと時間があれば、俺はアンビエント系のプロジェクトをやりたいと思うし、ルイスと一緒にメタル・バンドをやりたいとか、いつも思うんだよ。ニックはきっと何らかのダンス・ミュージックをやるだろうな。

ルイス:ドライ・クリーニングは、そうしたすべてのアイデアをさまざまな方向にうまく展開させた、素敵なコラボレーションなんだ。

トム:ルイスが1枚目のアルバムから今回のアルバムへの移行を説明したように、1枚目のアルバムでは、様々な方向に進むための余白がほとんど残っていなかった。2枚目のアルバムでは、そこから少し先に進めたという感じ。そして、もし次のアルバムを作る機会があれば、できれば3枚目のアルバムでは、さらにそれを発展させたいと考えているんだ。いろいろな道を模索していきたいと思っている。だから、もう少しアンビエントな方向に行きそうなときでも、「いや、こういう音楽は作りたくない」とはならずに、その流れに乗ることができるんだ。俺たちは、すでにそういう音楽が好きだからね。

ルイス:それに、スタジオで何ができるかということもいろいろと学んでいる。最初のEPはデモみたいなもので、2、3時間でレコーディングした。スタジオで演奏する時間があまりないから、リハーサルルームでいい感じに聴こえたものを、自分のパートとして書き留めていくような感じだった。2枚目のアルバムでは、スタジオ用に曲を書いていたという意識が強かった。曲を書いていて、トムが「この上に12弦ギターを乗せるべきだ!」などと言い出したりね。キーボードのパートがあったとしたら、ニックが静かに演奏しながら「アルバムではもっと大音量にするけど、こうやって弾くとすごくいい音になるんだよ」と言ったりね。そういう実験がもっとできるようになったんだ。

そのアンビエントな感じがもっとも顕著に表れているのが“Liberty Log”ではないかと思いますが、スポークン・ワードが大部分を占める曲のために作曲することというのは、従来のポップ・ソングのヴァース、コーラス、バースという構成に比べて、別のやり方で音楽を構成していくことになるのではないかと思うのですが。

ルイス:メンバーの誰かが「じゃあ、そろそろコーラスを演奏してみるか?」と言うんだけど、他のメンバーが「どれがコーラスなの?」って聞き返すことが何度もあったよ。

トム:そうそう、「どれがコーラス?」って。

ルイス:それで、どこがでコーラスなのか、みんなで決めるんだよ。

トム:それは実は良い傾向だと思うんだ。俺たちは皆、それぞれ別の考え方をしているけど、そんななかでも音楽は成立しているんだってこと。これは俺も同感なんだが、ルイスは過去のインタヴューで、俺たちのアイデンティティの強さのひとつは、すべての中心にフローがいることだと言っていて、彼女の声が俺たちをしっかりと固定して支えてくれることだと言っていた。たしかにミュージシャンとして、いろいろなものを取り入れる余地が与えられているように感じられるね。“Hot Penny Day”を書きはじめたとき、俺が最初にメイン・リフを書いたんだが、それは、『山羊の頭のスープ』時代のローリング・ストーンズみたいなサウンドに聴こえたんだけど...。

ルイス:誰かが、それをぶち壊したんだよ!

トム:それをルイスに聴かせて、一緒に演奏し始めたら、スリープみたいなストーナー・ロックみたいなものに変わり始めて、よりグルーヴィーになったんだ。

ルイス:そこにフローが加わると、一気にドライ・クリーニングのサウンドになるんだ。彼女の声や表現が、俺たちの音楽に幅を与えてくれていると思う。

トム:ミュージシャンとして、このメンバーと5年間一緒に仕事をしてきて、みんなそれぞれ、音のモチーフがあると思うんだ。ルイスだとわかる音があり、ニックだとわかる音があり、彼らにも俺だとわかる音がある。でもフローは間違いなくドライ・クリーニングという世界で、すべてを錨のように固定して、支えている存在なんだ。

by Ben Rayner

俺たちは皆、それぞれ別の考え方をしているけど、そんななかでも音楽は成立しているんだってこと。これは俺も同感なんだが、ルイスは過去のインタヴューで、俺たちのアイデンティティの強さのひとつは、すべての中心にフローがいることだと言っていて、彼女の声が俺たちをしっかりと固定して支えてくれることだと言っていた。

あなたがたが過去に活動していたバンド、サンパレイユとラ・シャークの作品を聴いていたのですが、例えばサンパレイユは一見パンク・バンドですが、わかりやすいパンク・バンドではないし、ラ・シャークは少しインディ・ポップ・バンドっぽいですが、これまたわかりやすいバンドではないように感じます。常に予期せぬ角度から攻めている気がするんです。

トム:俺たちが過去にいたバンドをチェックしてくれたのはすごく嬉しいよ! ドライ・クリーニングを理解するには、俺たちが過去にやってきたことがルーツになっていると思うからね。あなたが言う通り、俺たちは音楽の趣味が広い。俺が最初に経験した音楽はパンクやハードコアのバンドだったけど、スタイル的にかなり限界があると思っていたんだ。速い音楽のカタルシスも好きなんだけど、REMのメロディも好きなんだよ。ラ・シャーク(の演奏)は何度か見たことがあるけど、彼らは、明らかに歪んだ感じのポップ・バンドだったけど、後期の作品はインストゥルメンタルなファンカデリックのようなサウンドだったんだ。そんなわけだから、自分たちのいままでの影響をすべてひとつのバンドに集約するには時間が足りないんだよ。

ルイス:俺は運転中に、ふたつのバンドを組み合わせたらどうなるかっていう妄想をいろいろするんだけど、トムやニックやフローに会ったときに、そのアイデアを話すんだ。すると、彼らは「それ、やってみようよ!」と言ってくれる。で、やってみると、やっぱりドライ・クリーニングになるんだよね。ニュー・アルバムからフローのヴォーカルを抜いたら、いろんなジャンルに落とし込めそうな素材がたくさんあると思う。

フローレンスはすべての中心にいて、バンドのアイデンティティを束ねているとのことですが、同時に、彼女は少し離れているようなところもありますよね。新作では、ミックスの仕方だと思うのですが、以前よりもさらに、バンドがどこかひとつの場所で演奏しているように聴こえるのに、彼女のヴォーカルが入ってくると、まるで彼女が耳元で歌っているように聴こえるんです。まるで、自分がステージ上のバンドを観ているときに女性が耳元で囁いているような。

ルイス:それを聞いて、フローがバンドに入った経緯を思い出したよ。たしか、トムがバンド(の音楽)を演奏していたときに、フローがそれにかぶせるようにしゃべったのがはじまりだったね。

トム:俺たちは一緒にヴィジュアル・アートを学んでいて、当時は二人とも漫画の制作をしていて、その話をするために会ったんだ。彼女が「最近は他に何してるの?」と聞いてきたから、「ルイスとニックとジャムしはじめたよ」と答えた。そのときにちょうどデモがいくつかあったから、彼女に聴いてもらった。彼女はイヤホンを取り外して、「ふーん、面白いわね」と言って、喋りを再開したんだけど、まだイヤホンから音が出ていて、音楽が聴こえてきて、彼女の声がそれにかぶさっていた。ジョンが俺たちのバンドのことで一番興味があるのは、どうやってフローの声をミックスするかと言うことだと思うんだ。このアルバムでは、彼女の息づかいがかなり感じられるようになっている。フローはとても繊細なパフォーマーだから、彼女がするちょっとした仕草、例えば舌の動きとか、そういったごく小さな音も、ジョンは確実に取り込もうとする。このことについて、ジョンがインタヴューで語っているのを読んだことがあるけど、彼女がやっていることすべてを聴かなければならないと言っていた。それが第一で、それをベースにしてミックスを構築して、バンドの音を加えているんだ。

ルイス:レコーディングの時はいつも彼女も同席して、同時に彼女のトラックも撮る。スタジオには、隔離された部屋がいくつもあるから、俺のアンプは1つの部離すためにかなりの工夫がされているから、バンドの音の影響をあまり受けないようになっているんだ。トムが言ったように、ジョンはその点にかなり重点を置いている。

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The texture of broken things

by Ian F. Martin

Stumpwork is a funny word. It feels funny in your mouth, and it only gets more awkward once you start breaking it down to untangle its meaning. A stump is a broken or incomplete thing — the remains of a dead tree or the place where an amputated limb used to attach — and it seems like a strange thing to dedicate one’s labour toward.

It refers to a form of embroidery where threads or other materials are layered to create an embossed, textured pattern, giving a feeling of three dimensional depth to the image, and perhaps in this we can reach out and contrive a connection with the increasingly rich and intricately textured music of Dry Cleaning. But we shouldn’t forget that it’s first and foremost a viscerally strange and funny word.

Florence Shaw is one of the most interesting lyricists in the English language right now, and she has a remarkable instinct for interesting and evocative phrasing. Just as with the title itself, she seems to take a sort of joy in the inherent sonic texture of a word — the way she hangs on the hard t and trailing vowels of the word “otters” in the song Kwenchy Kups is both musical and quietly comical. There’s a constant delight in the awkwardness of small errors and unconventional phrasings that reveals itself in words and expressions like “dog sledge”, “shrunking” and “let’s eat pancake” that deviate disconcertingly but never incomprehensibly from linguistic norms. This playful texture is also ever-present in her instinct for juxtaposing the magical and the mundane that results in lines like, “Leaping gazelles and a canister of butane”. Dry Cleaning’s lyrics play out like a story where the connecting tissue of narrative has been stripped out, leaving only the details and colour — a collage of dozens of voices that adds up to an impressionistic emotional tableau.

Musically, Stumpwork reveals a broader, richer palette than the band’s (also excellent) 2021 debut full-length New Long Leg. The band’s sound has often been characterised with the elastic term post-punk, and you can hear elements that recall the choppy angles of Wire or the chiming sounds of Felt and Durutti Column in Tom Dowse’s expressive guitar work, but he takes it further this time, twisting it into queasy, drunken distortions or ambient haze. Bassist Lewis Maynard and drummer Nick Buxton make for a subtle and imaginative rhythm section that brings in ideas and dynamics from beyond punk and indie tradition. Smooth washes of almost city pop synth welcome you into opening track Anna Calls From The Arctic, and unexpected and oblique arrangements pull you gently one way and another throughout the album. It’s not an album possessed of an urgent need to grab your attention so much as a shimmering palette of colours to melt into.

It’s not an as disaffected and worn as ever. Britain’s confused political situation filters through, most explicitly in the song title Conservative Hell, and I catch up with Tom and Lewis in the middle of a particularly chaotic moment. The Queen has just been buried a couple of weeks prior, and the delusional cruelty of prime minister Liz Truss has recently replaced the ramshackle cruelty of Boris Johnson, but not quite yet given way to the vacant, lifeless cruelty of Rishi Sunak.

It’s been three years since I last had a chance to visit the UK, so I open with a big question.

IAN: So what’s it like living in Britain these days?

TOM: If you look at the news, it’s a living nightmare. Beyond that, though, things just carry on kind of as they were before, really. One thing that I think has happened now with the new prime minister is that this is the nadir: this is the endgame of Conservative politics. We’ve had twelve years of austerity and no growth, and even high ranking MPs are sort of admitting that they need to be an opposition party now. So one good thing about that is that the Conservatives are going to get voted out in the next election. The downside is that until that happens, we have to live with the stupid policies they have.

LEWIS:Even someone like my sister, who totally ignores it, even she’s like, “It’s shocking; it’s really fucking expensive!” — the bills, the food shopping, it’s getting really tough now.

T:That’s a really good point. If you want to lose the next election, fuck with people’s mortgages!

I:I’m hearing similar things from my family too, yeah. So seeing if I can segue this into the new album… (everyone laughs) What you were saying earlier about life going on as normal but with little pieces of the situation coming through, it feels like if the political situation in the UK informs the album, it’s in these little fragments filtering through normal life, like at one point Florence just remarks, “Everything’s expensive…”

T:“Nothing works.” Yeah, it’s quite difficult for us to comment on Flo’s lyrics, but she’s definitely the kind of person who wouldn’t make a song about one subject. Her songs remind me of the way your brain works. I remember being hit by a car on my bike once, and on the edge of the void there’s all sorts of strange things that come to your mind. But I should clarify what I said earlier about how everyone’s just getting on with things: everyone’s just getting on with things but under a very oppressive shadow. You still have to go to work, you still have to pay your bills, you still have to do all the normal things, it’s just that the political climate — we’ve been under this for twelve years, and if you’re an even slightly curious or observant person, it’s going to affect you.

L:We write together in the room at the same time, and she’ll have a stack of papers which will have lyrics that she’s written and will sort of combine and join together, and there’s lots of circling that and dragging it to that, making almost a collage where lots of different ideas come together.

I:When I’m listening, it feels like fragments of something flowing past me.

T:It’s not random though. When she writes a line, she has the sort of temperament to write the opposite line next — something completely different tonally, texturally, conceptually. It’s almost like when you’re making a painting or something, you’re trying to balance all the elements so it works nicely.

L:There’s a lot of reacting to us in the room playing our parts and us reacting to her, like a conversation.

I:There’s such an aspect of fragments of daily life to it and I wonder if there’s ever a sense where you’ll be listening to it and think, “Oh, I remember that conversation…”

T:Oh, there’s definitely things that we’ve said or things that friends have said when I was there and they’re in the lyrics.

L:And like ourselves, she improvises a lot when writing her lyrics as well as having some pre-formed ideas. We’ve had to get better at finding ways to record because the room’s quite loud when we’re playing, so a lot of times we’ll separately record the vocals so she can hear back what she said. I think on this record the lyrics changed more when it came to recording than on the first record, but not a huge amount.

T:That was partly because we improvised quite a lot of stuff in the studio. But generally, Flo will start at the same time we start writing the song. We’re all there at the start of it, and like Lewis says, a lot of the time there’s something Flo is doing that informs how we’re doing our thing as well — tonally, if that makes sense. When we were writing Gary Ashby, when I found out she was singing a song about a tortoise that’s gone missing, it changes the way you play; you find ways of punctuating what she’s saying, making it more charming or melancholy, you might use a minor chord or something that you wouldn’t have done before. It’s rare that we’ll write a whole song and then she’ll go away and write all the lyrics — that never happens, and it’s a more organic thing.

L:We’ll react to her in the same way we react to each other. I’ll react to the drums in the same way I react to the drums and the guitar, and vice versa. It’s another instrument in the room.

I:How has the approach changed, since the early EPs and the last album in particular?

T:We still write in the same way. We write by basically just jamming together.

L:There’s a lot of phone demos. We’ll be having a jam, think “This sounds OK” and someone just clicks on their phone and starts recording, and then sometimes we’ll work on it the next week or sometimes it’ll get lost for six months and someone will be like, “Hey, that jam from six months ago was quite good.” That’s how almost everything starts. This time, because we had more time in the studio, we intentionally went in with ideas less finished.

T:Yeah, the change in approach was basically that we got more time. Before we had two weeks to get it down as quickly as possible.

L:Also, with the first record, we were doing some tours beforehand, so we were playing some of that record live before we recorded it. This time we didn’t get a chance to do that: we recorded it and now we’re in the process of learning it.

I:Right, and I was wondering how not having the constant physical presence of the audience while you were developing the songs affected the process on this one.

T: It’s hard to say really, because without actually road testing the song, you never know. We just embraced it really: we couldn’t play live, so we just write the album the way we wanted to.

L:It comes down to listening, because things get captured differently in the studio as well. It’s quite nice to be able to try something in the studio and a lot of our writing process comes down to listening — like listening back to jams. It’s a nice way of doing it, because if we weren’t recording and listening back and editing from there, a lot of our songs would be based on what was the most fun to play, but that rarely happens because it’s all about listening. And I think that happens as well with not being able to play it live: it’s less about what’s fun to play and more about what sounds good.

T:I think also we learned from the first record that just because you’ve recorded a song one way, that’s not necessarily how it has to be live again, so that’s why we’re sort of relearning the album now. There’s things on the album that definitely need to be on there, but there’s also things that we can just make up again.Touring New Long Leg, there’s Her Hippo and More Big Birds where they just changed and became slightly different songs — added a new part to them, made them longer.

L:Sometimes by accident as well. Sometimes they kind of naturally evolve through a tour.

I:One thing that happens a few times on the new album is that a song will work its way to a natural sounding conclusion, I’ll think it’s ended, but then it will come back and sometimes as something quite different from what it was before. Was that something that came out of having more time to play around in the studio?

T:I think there’s several factors there. First, when we did Every Day Carry, that was the first time we did that in the studio, literally making three parts and kind of improvising some of them. When we did Conservative Hell, that whole last section of that song really came from the first part of the song down and feeling like there was something missing, and John (Parish, producer) was very good at motivating us to just go and make something up.

L:On the first album, John was quite good at making songs snappy, but with Every Day Carry we sort of extended it — and I think he quite enjoyed that process. When it came to the second album, we were kind of prepared for him to make things shorter again, but he seemed to extend stuff more. i think he kind of enjoys it, like, “It’s good when it’s longer!” He surprised us quite a lot by extending songs.

I:That’s John Parish, your producer, right?

L:Yeah.

I:He’s from around my hometown in Bristol. He produced one of my favourite albums, Joy Ride by The Brilliant Corners… (everyone laughs) I know he’s done way more famous albums than that, but they’re one of my favourite bands!

T:That’s one of the great things about John: he’s not the kind of person to brag about things or he doesn’t namedrop much, but when you’re having dinner, he’ll say something — he told me he did a Tracy Chapman record, and I was like, “What!?” He’ll have these stories, but you have to get it out of him naturally.

I:Was it more relaxing working with him this second time, with the familiarity?

T:I think in several ways. Firstly, we were more comfortable, just in ourselves; we’d been doing it longer and had more confidence. The fact New Long Leg did well gave us confidence, we’d played bigger shows by that point, and we were just feeling comfortable. I remember doing takes on the first record and feeling, “This has to be amazing, I have to give this everything!” and then you realise you don’t. Making an album is so complicated, there’s so many layers to it that by the time it’s mixed and mastered, you’ve completely forgotten what it was you were trying to do. So definitely on this one we sort of accepted things the way they were; you try to get a good take, if John’s happy, you move on to the next thing.

L:With the first one as well, we recorded it so quickly with John. We met him and within a few hours, we’d tracked Unsmart Lady, then we moved on to the next one and moved on to the next one. We didn’t have time to play so much.

T:Yeah. And it was a bit of a shock to the system last time when he would say things like, “I don’t like that. Change it.” (laughs)

L:And you’d be like, “Uh… now?” We had one day off last time, on the Sunday, and on Saturday, he was like, “I don’t like that. Change that tomorrow on your day off. See you Monday!”

T:But by the time we got to the end of that session, we were really onboard with it. We liked the way he worked and you just don’t take it personally. Because you’re more confident, a bit more robust, you can deal with it a bit better — you expect it and you welcome it. So with the second record, if he says to go and do something differently, that’s what you’re looking for.

L:And we’d go into the studio looking for things to change. With the first record, we’d been playing a lot of those songs live, so maybe people were a bit more fixed on their parts and their ideas, so that’s harder to change. This one was a bit more open to change.

I:The sonic texture of this album feels a lot broader than the first one. Did that come naturally, or was there some sort of conscious element to expanding the sound?

T:I think it’s natural in the sense that our listening tastes are so broad. I often feel that if I had more time, I’d do some kind of ambient project, or me and Lewis could do a metal band together. For sure Nick would do some kind of dance music, wouldn’t he?

L:And Dry Cleaning’s a nice collaboration of all those ideas pulling nicely in different directions.

T:The way Lewis described the transition from the first record to this one, it’s like the first record left little markers down for different directions to go in and on the second record we take them all a little bit further. And then hopefully on the third one if we get the opportunity to do another one, we’ll take it even further. It’s all about exploring different avenues. So when things seem to go a little more ambient, we’re already into that kind of music and we’ll go with it as opposed to being sort of, “Oh, I don’t want to make that kind of music.”

L:We’re learning more about what we can do in the studio as well. The first EP was really like a demo, recorded in a couple of hours. You don’t get much time to play in the studio, so you sort of write your parts for what sounds good in the rehearsal room. Writing the second record, we were writing for the studio more. We’d be writing a song and Tom would go, “There should be a twelve string on top of this!” There’d be a keyboard part here, or Nick would be playing really quietly and saying “On the record it’s going to be really big but it just sounds good the way I’m hitting it like this.” You get to experiment more like that.

I:I suppose it’s on Liberty Log where that almost ambient feeling is most pronounced, and I was wondering if writing for what’s mostly spoken word lends itself to a different way of structuring music compared to the traditional pop song structure of verse-chorus-verse-chorus.

L:There were a lot of times where one of us would say, “Should we do the chorus now?” and then we’d be like, “Which one’s the chorus?”

T:Yeah, “What’s the chorus?”

L:And we’d all have to agree on what’s the chorus.

T:Which I think was a good sign, actually. It shows how we’re all thinking in different ways but music is getting done. I think I agree: Lewis has said before in other interviews that one of the strengths of our identity is you have Flo in the middle of everything, and her voice anchors you, and certainly as a musician it feels that you’re given a lot of room to chuck things in. When we first started writing Hot Penny Day, initially when I wrote the main riff it sounded like Goats Head Soup-era The Rolling Stones to me…

L:And then someone fucked it up!

T:And then when I showed it to Lewis and we started playing it together, it started turning into something more like Sleep or stoner rock — made it more groovy.

L:And then Flo gets involved and it instantly sounds like Dry Cleaning. I think her voice and her delivery gives us a lot of scope.

T:I mean, as musicians, having worked with these guys for five years, I think we all have our own sonic motifs — I can tell it’s Lewis, I can tell it’s Nick, they can tell it’s me — but Flo definitely anchors things in Dry Cleaning world.

I:I was angles.

T:I’m really glad you checked our previous bands! I think if you want to understand Dry Cleaning, it has roots in what we’ve done in the past. Like you say, because we’ve got broad music taste, my first experiences in music were in punk and hardcore bands but I did find them stylistically quite limiting. I like the catharsis of fast music, but I also like the melody of REM. I remember seeing La Shark a few times and it was clearly a sort of skewed pop band but their later stuff sounded like instrumental Funkadelic, so it’s almost like there isn’t enough time to put all your influences into one band.

L:I’ll be driving and have little fantasies about combining two bands, and then I’ll meet up with Tom or Nick or Flo and I’ll say that, and they’ll be like, “We should do that!” And once again, it’s still Dry Cleaning. If you took Flo’s vocals off the new album, there’s so many different genres you could put stuff into.

I:You say Florence is in the centre of it all, holding the identity of the band together, but at the same time, she’s also a little bit separate from it in some ways. On the new album, even more than before, the way it’s mixed you hear the band playing, who sound like they’re in a room somewhere, but then her vocals come in and it’s like she’s right up against your ear. Like you’re watching a band on the stage and there’s just this woman whispering in your ear!

L:That reminds me of Flo’s story about her joining the band started with you playing the band and her talking over the top of it.

T:We’d studied visual art together — we were both making comics at the time, and we met up to talk about that. She asked, “What else have you been up to?” and I said, “I’ve started jamming with Lewis and Nick.” I had some demos and she listened to it. Then she took her earphones out, said, “Oh, that’s interesting,” and started talking, and I could hear the music still with her voice over the sound out of the earphones in the background. I think John’s key interest in our band is how he mixes Flo. On this record to a much greater extent you can hear bits of her breath. Flo is a very nuanced performer: just the little things she does, like the click of her tongue or something — very small sonic things that he’s very keen to make sure are in there. I’ve seen him talking about this in an interview, about how you have to hear everything she’s doing: that’s the first thing, and then around that, he builds the mix and brings the band in.

L:She’s always in the room when we’re recording, and she’s tracking at the same time. We’re lucky enough to have isolated rooms, so my amps can be in one room, Tom’s amps can be in another room, Nick could be behind some glass, Flo’s in the room with us, and she keeps a lot of those vocals. There’s a lot of effort put into isolating her vocals so there’s not too much bleed from the band. I agree with what Tom said, John puts a lot of focus on that.

Floating Points - ele-king

 先日は川崎の千鳥公園で開催された《Rainbow Disco Club》のスピンオフ・パーティ《Sound Horizon》への出演や、そのアフター・パーティとなる渋谷O-EASTでのロングセット、青山ZEROでのサプライズ・パーティなど、関東を沸かせたフローティング・ポインツ。興奮さめやらぬこのタイミングで新曲 “Someone Close” が公開されている。
 ビートレスで美しい同曲に加え、今年発表されたダンス・トラック3曲を収録する強力な12インチのリリースも決定。数量限定とのことなので、お早めに。

Floating Points

フローティング・ポインツ、新曲 “Someone Close” を公開
4曲を収録した最新12インチの発売も決定!

マンチェスターに生まれ、現在は作曲家/プロデューサー/DJとしてロンドンを拠点に活動するフローティング・ポインツ。昨年はファラオ・サンダース&ロンドン交響楽団とのコラボ作品『Promises』でThe Guardian (Contemporary)、TIME Magazine、The New York Times (Jazz)、Mojo、The Vinyl Factory他多数のメディアで年間ベストの1位を獲得、そして今年に入ってからは宇多田ヒカルの最新アルバム『BADモード』へプロデューサーとして参加し大きな話題を呼んだ。先日のRDC《Sound Horizon》やO-Eastでの日本初となるOPEN TO LASTのDJ SETを含むジャパン・ツアーも成功させた彼が新曲 “Someone Close” を公開!

Floating Points - Someone Close
https://floatingpoints.lnk.to/someone

また、今回公開された “Someone Close” に加えて、今年リリースされた “Grammar”、“Vocoder”、“Problems” を収録した4曲入り12インチを12月16日に数量限定で発売されることも明らかとなった。

“Grammar”、“Vocoder”、“Problems”は、PitchforkのBest New Trackを含む多くの称賛を受け、Resident Advisorは、シェパードを「エレクトロニック・ミュージックにおいて文句なしのMVPの一人」と評している。海外においてはGlastonbury、Coachella、Field Dayといったフェスティバルへの出演を経て、今後はクラブに戻っての活動を予定している。2023年の元旦には、ロンドンの新たな大型ヴェニューHEREでOPEN TO LASTのDJ SETを披露する。

待望の最新12インチは12月16日に数量限定で発売!


label: Ninja Tune
artist: Floating Points
title: 2022
release: 2022.12.16

商品ページ:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13136

Vinyl tracklist:
A1. Someone Close
A2. Grammar
B1. Vocoder
B2. Problems

現代メタルガイドブック - ele-king

「最新の先鋭的な音楽」としてのメタルを一望する「新しいメタルの教科書」!!

ジャズやポストロック、ヒップホップやエレクトロニック・ミュージックまで、
さまざまなジャンルを貪欲に取り入れた裾野の広さ
「激しさ」「過激さ」を極限まで追求してきたエクストリーム・メタル
そしてさまざまな形でメタルの影響を受けた最新のポピュラー音楽の数々

執筆:清家咲乃、村田恭基、脇田涼平、つやちゃん、西山瞳、川嶋未来、藤谷千明、梅ヶ谷雄太

目次

1 注目すべき10アーティスト

2 HR/HM(Hard Rock / Heavy Metal)
オリジネーター │ ハードロック │ NWOBHM │ ポップメタル、メロディアスハード │ メタル系テクニカルギタリスト(80~90年代) │ ヘヴィメタル/パワーメタル │ スラッシュメタル、クロスオーヴァー・スラッシュ │ スラッシュメタル、クロスオーヴァー・スラッシュ │ プログレッシヴ・ハード/プログレッシヴメタル

3 メタルの理解を深めるにあたって重要なジャンル外音楽①:90年代まで

4 エクストリーム・メタル
グラインドコア │ 初期デスメタル(OSDM) │ ブルータル・デスメタル │ プログレッシヴ・デスメタル │ テクニカル・デスメタル │ 1st wave of Black Metal │ 2nd wave of Black Metal │ ブラックメタルの広がり │ ヴァイキングメタル、フォークメタル

5 ポストHR/HM
グルーヴメタル │ インダストリアル・メタル │ オルタナティヴ・メタル │ メロディック・デスメタル │ メタリック・ハードコア │ メタルコア(ゼロ年代以降:メロデス通過後・現在に至る意味での)、スクリーモ │ デスコア │ プログレッシヴ・メタルコア/Djent │ ゴシックメタル │ ドゥームメタル、ストーナーロック、スラッジコア │ フューネラル・ドゥーム │ ドローン・ドゥーム、メタル隣接のアヴァンギャルド音楽 │ ポストメタル │ ポスト・ブラックメタル、ブラックゲイズ │ 上記全てを包含しうる境界例的なバンド

6 メタルの理解を深めるにあたって重要なジャンル外音楽②:00年代以降

7 2010年代以降のメタル
ポップミュージックのフィールドにおける活用 │ メタリック・ハードコアの発展 │ エレクトロニック・ミュージックとの接続 │ ジャズとメタルの交差関係 │ 不協和音デスメタル │ Roadburn Festival │ オールドスクールなスタイルの再評価を起点とした新たな広がり │ エピックメタル方面 │ 2022年の傑作群

8 日本のメタル周辺音楽
大きな影響をもたらした代表格 │ 日本のプレHR/HM │ 日本のHR/HM │ メタルに近いところにある日本のパンク/ハードコア │ 日本のエクストリーム・メタル │ 日本のポストHR/HM

COLUMN
ライフスタイルとしてのメタル
メタルと英語
近代・現代音楽とエクストリーム・メタル
メタルと声
Dave Grohl(Nirvana、Foo Fighters)の地下メタル愛
メタルとヒップホップの救い──逃避と革命の音楽
ヘヴィ・ミュージックの革新性と包括性、それを示す場としてのRoadburn Festival
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interview with Mount Kimbie - ele-king

 安心した。マウント・キンビーの新作は、LAに暮らすドミニク・メイカーとロンドン在住のカイ・カンポス、それぞれのソロ作をカップリングしたものになる──そう最初に知ったとき、てっきりこのまま解散してしまうんじゃないかと不安に駆られた。仲たがいでもしたのかと気が気じゃなかった。
 大丈夫。海を隔てようとも、ロックダウンを経ようとも、ふたりの絆はいまだ健在だ。『MK 3.5』なるタイトルが示しているように、今回は4枚目のフル・アルバムにとりかかるまえのちょっとした寄り道のようなもので、「メインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えて」「自分たちの頭のなかにあるアイディアを、あまりプレッシャーを感じずに、自由に実験し、探求すること」が目的だったようだ。
 といっても手抜きなどではもちろんない。00年代末、ポスト・ダブステップの時代にボーズ・オブ・カナダの牧歌性を持ちこむところから出発し、2012年に〈Warp〉と契約してからは生楽器を導入、バンド・サウンドを試みていた彼らだが、『MK 3.5』はこれまでのどの作品とも異なる新境地を拓いている。

 メイカーによるディスク1「Die Cuts」はUSメジャー・シーンからの影響が大きく、トラップのスタイルにUKらしいメランコリーが組み合わせられている。ジェイムス・ブレイク作品におけるメイカーの貢献度がいかに高いか、あらためて確認させてくれる内容だ。一方、カンポスによるディスク2「City Planning」は、彼のDJ活動からのフィードバックが大きい。徹頭徹尾アンダーグラウンドのテクノを志向しており、クラブのサウンドシステムで聴きたいミニマルなトラックがずらりと並んでいる。喚起される、夜の都市。
 ほかの面でも両者は対照的だ。「Die Cuts」にはブレイク以外にもスロウタイダニー・ブラウンなど多数のゲストが参加。サンプリングも使用されており、多くの人間たちとのコラボレイション作品と呼ぶことができる。ひるがえって「City Planning」は1曲を除き、カンポスひとりの手で制作されている。あるいは「Die Cuts」にはことばがあるけれども、「City Planning」にはない──

 みごとに性格の異なる2枚を最初から最後まで通して聴くと、長時間電車で旅をしているような、そしていつの間にか国境を越えてしまっていることに気づくような、不思議な感覚に襲われる。こればかりは2枚を通しで聴かないと味わえない。ある一定以上のまとまった時間を体験することによってしかたどりつけない風景もあるのだと、マウント・キンビーは主張しているのかもしれない。多くのリスナーがアルバム単位での聴取を手放しつつある現在、これは挑戦でもある。


向かって左がドミニク・メイカー、右がカイ・カンポス

ぼくらは、今回のアルバム制作の機会を、互いがメインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えてアルバムをつくった。(カンポス)

ハードなビートだけでアルバムをつくるのはどうも気が進まないんだ。ぼくは、叩くようなビートをつくることよりも、感情を表現するためにどうビートを使うか、ということのほうを意識してる。(メイカー)

メイカーさんがLAへ移住したのは2015年ころですよね。前作『Love What Survives』(2017)リリース時のインタヴューでは、LAとUKを往復しつつ、ふたりで一緒に作業したと語っていました。新作『MK 3.5』は完全な分業ですが、分業自体はファーストセカンドのころもやっていたのでしょうか。

ドミニク・メイカー(以下DM):いや、ファーストとセカンドのときは、ふたりともロンドンにいたから、一緒につくっていたよ。で、『Love What Survives』のときは、ツアーもあったし、ぼくがけっこうヨーロッパにいたから、一緒につくる時間ができたんだ。

今回、初めて互いの作品を聴いたときの感想を教えてください。

DM:めちゃくちゃ気に入った(笑)。カイのヴィジョンが伝わってきて、すごくよかった。ぼくにとって、彼の頭のなかを見るのはつねに興味深いことなんだ。もちろん、彼とはもう何年も一緒に音楽をつくってきたけど、それでもまだ、互いに出しあってないものがあるし、それぞれの世界というものがある。それに、ふたりとも今回のレコードをつくるプロセスは山あり谷ありだったから、完成した互いの作品を聴いたときは、よくぞ頑張った! と思ったね(笑)。

カイ・カンポス(以下KC):ぼくも同じだな。今回は、ドムが言ったとおり、お互いけっこうつくるのに苦戦したんだ。どうやって完成させたらいいのかわからなくなるときもあったし、ストレスもあった。でも、レコード制作の最後の10%で、いろいろなものがパズルみたいにハマっていったんだ。そして、アルバムの半分であるカイの作品を聴いたとき、その作品が素晴らしくて、作品をつくりあげる要素の最後のピースを糊づけしたみたいに感じた。彼が頑張っていたのもわかっていたから、ふたりともが頑張ってつくった作品がうまく合わさってひとつの作品になったときは感動だったね。細かいことなんだけど、一曲一曲をバラバラに聴くのと、アルバム全体をひとつの作品として聴くのって、やっぱり感じるものが違うんだよ。

相手のアルバムで好きな曲と、その理由は?

DM:ぼくは、最近公開された “Zone 1 (24 Hours)” かな。あの曲は、聴けば聴くほど引きこまれていくから。聴くたびに、新しいレイヤーの重なりに気づくんだ。聴くたびに魅力が増すって最高だと思う。カイは先週末にロンドンのファブリックっていうヴェニューでライヴをやったんだけど、アルバムの曲をライヴで聴くのもすごくクールだった。曲が、アルバムで聴くのとは、また違うフィーリングを持ってるように感じたんだよね。

KC:ぼくも最近出た “f1 racer” を選ぶ。まず、あのキャッチーなメロディがすごくいいと思った。聴いたその日じゅう、気づいたらあのメロディを口ずさんでいたしね。それに、トラックの構成自体もすごく好きだった。あのヒップホップとポップが混ざったような感じが、すごくミニマルでいいなと思ったんだ。

自分が好きだと思わない音楽をつくる方向に進むひとたちもいるけど、ぼくらのなかには、自分たちが面白いと思える、喜びを感じられる音楽をつくりつづけたいという思いがいまだに残っているんだ。(カンポス)

そもそもおふたりが大学で初めて出会ったとき、互いの印象はどのようなものだったのでしょう?

DM:ぼくは、自分以外にあそこまで音楽好きなひとに会ったのはカイが初めてだったんだ。それに、ぼくの周りには音楽をつくっている人がひとりもいなかったから、会った瞬間に興奮したよ。このためにロンドンに越してきたんだ! と思ったね。

KC:ひと目惚れさ(笑)。ドムに会ったときは、おもしろいヤツだなと思った(笑)。

今回『MK 3.5』をそれぞれ個別に制作するうえで、これだけは決めておくというか、最低限のルールのようなものはありましたか?

KC:ルールはなかったね。それでもなぜか、バランスのいいものができた。ぼくのほうが15分くらい長かったらどうしようなんて心配もしてたんだけど(笑)。あと、どっちが早く仕上げられるか、みたいな暗黙の競争みたいなのもはじまってたな(笑)。最初はドムがすごく順調に見えて焦ったんだけど、幸運なことに彼も途中で壁にぶち当たって、おあいこになったんだ(笑)。

ちなみにアウトキャストの『Speakerboxxx/The Love Below』は意識しましたか?

KC:意識はしてなかったけど、もちろんフォーマット的に同じだから、比較はされて当然だと思う。でもぼくにとっては、ぼくらの今回のアルバムとその作品はちょっと違うんだ。ぼくらは、今回のアルバム制作の機会を、互いがメインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えてアルバムをつくったから。でもアウトキャストのアルバムのほうは、自分たちの10年に一度のベスト・レコードの1枚を作る姿勢でつくったんだと思う。でも、ぼくらの目的はそれではなかったんだよね。あのレコードは10点満点中10点のレコードだけど、それは今回のぼくたちの目標や意識ではなかったんだ(笑)。

メイカーさんの「Die Cuts」はトラップのスタイルをUK的なメランコリーが覆っています。現在の居住地と故郷とのあいだで気持ちが引き裂かれたことはありますか?

DM:そうだね。ホームやイギリスの音楽が恋しくなるときもたまにあるから、それがノスタルジックなサウンドとして映し出されているのかもしれない。あとは、最近のラップ・ミュージックのトレンドのひとつとして、トラップの要素を取り入れるという流れがあるけど、ぼくの場合、ハードなビートだけでアルバムをつくるのはどうも気が進まないんだ。ぼくは、叩くようなビートをつくることよりも、感情を表現するためにどうビートを使うか、ということのほうを意識してる。そういうちょっと外れた感じがメランコリーに聴こえるっていうのもあるのかもしれない。メランコリーを意識しているわけではないけど、それっぽく聴こえると言われたらたしかにそうかもと思う。でも、ぼくはそういう音楽を懐かしんでいるというよりは、いまも現役でそれを聴いてるんだよね。だからそれが自然に出てくるんだと思う。

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(パンデミックについて)LAって極端でさ、最初のころはめちゃくちゃ厳しくて、みんな警戒してたんだけど、一度少し緩むと、誰も気にしなくなった(笑)。(メイカー)

前作のタイトル『Love What Survives』には、カンポスさんの解釈によれば、ファーストをつくったころの気持ちや勢い、動機が現在でも「生き残っている(survive)」、という思いが込められていました。いまも「survive」しているものはありますか?

KC:自分の数年前の発言を聞くのって、なんか心地わるいね(笑)。いまも生き残っているのは、面白い音楽をつくりたいという気持ち。音楽をつくるのと、音楽業界で仕事をするのって、まったく別物なときもある。なかには、音楽業界で働くことのほうが強くて、結果的に自分が好きだと思わない音楽をつくる方向に進むひとたちもいるけど、ぼくらのなかには、自分たちが面白いと思える、喜びを感じられる音楽をつくりつづけたいという思いがいまだに残っているんだ。高評価をもらったら、それをつくりつづけないといけないと感じるアーティストもいるかもしれないけど、ぼくらにとっては、昔と変わらず音楽づくりを楽しむということが最優先なんだよ。だからぼくたちは、いろいろなやり方で音楽をつくりつづけているんだ。いまも新作に取り掛かっているけど、そのサウンドも今回のアルバムとはまた違うしね。

通訳:もう次のアルバム制作にとりかかっているんですか?

KC:そうだよ。『3.5』は、1年以上前にはすでに仕上がっていた。で、そのあとすぐに次のアルバムをつくりはじめたんだ。

『MK 3.5』の「MK」はマウント・キンビーのことだと思いますが、「3.5」は何を意味しているのでしょう?

KC:3枚めと4枚めのあいだという意味だよ。

通訳:これは4枚めのアルバムではないということでしょうか?

KC:そう、違うね(笑)。

通訳:では、いまつくっているのが4枚めのアルバムということですね。どのようにつくっているのでしょう? バラバラに? それとも一緒に?

DM:ロンドンで一緒に作業してる。いい感じだよ。あと、ぼくらにはあとふたり、バンド・メンバーがいるんだけど、彼らも作業やソングライティングに参加してくれている。彼らが加わることで、いい意味でエナジーが変わるんだよね。集中力が高まるんだ。

『MK 3.5』が完全な分業形態になったことに、パンデミックの影響はありますか?

DM:多少はあったと思う。でも、ぼくはLAに住んでいて、カイはロンドンに住んでいるから、すでに分業形態ではあったんだよね。『Love What Survives』のツアーが終わったあとで、カイはDJ活動に集中して、ぼくはLAでプロダクション活動に集中していたから、パンデミックがなくても分業形態には自然となっていた気もする。まあそれに加えて、簡単に移動ができなくなったから、その状態が思ったより長くなったり多くなった、というのはあるかもね。

ちなみに昨秋出た限定シングル「Black Stone / Blue Liquid」は、今回の新作に連なるものというよりも、『Love What Survives』のアウトテイクだったのでしょうか?

KC:あれは、『Love What Survives』にもフィットせず、今後の作品にもフィットしなそうだったから、ああいう形でリリースしたんだ。ぼくたちがただインターネットでノイズをつくったようなトラックだったしね。ちゃんとできあがっていた曲だったから、シェアするためにはなにがベストだろうと思ってシングルにしたんだ。

ここ2年ほどのパンデミック中は、それぞれどのように過ごしていましたか? やはり家にこもっていることが多かったのでしょうか?

DM:ぼくらはふたりともラッキーで、パンデミックのあいだもスタジオに通えていたんだ。

KC:そうそう。ぼくのスタジオは、家から歩いてすぐのところにあってさ。みんな運動のために家の外に出ていいってことになってたんだけど、ぼくにとっての運動はスタジオに歩いていくことだったんだ(笑)。

DM:ぼくが家にこもっていたのは4週間くらい。あれはキツかったな(笑)。ヘッドフォンつけながら作業するのって好きじゃないんだ。でもそのあとは、スタジオに行けたからよかった。LAって極端でさ、最初のころはめちゃくちゃ厳しくて、みんな警戒してたんだけど、一度少し緩むと、誰も気にしなくなった(笑)。スタジオに入れない期間があったと思ったら、スタジオで大人数のセッションがすぐにはじまってさ(笑)。40人はいたんじゃないかな(笑)。しかもノー・マスクで(笑)。

「Die Cuts」は、ジェイムス・ブレイク作品におけるメイカーさんの貢献が非常に大きいことを確認させてくれるサウンドです。ブレイクの楽曲をプロデュースするときとはどのような違いがありましたか?

DM:違っていたのは、もちろんマインドセット。ジェイムス・ブレイクに限らず、自分以外のだれかをプロデュースするというのは、自分にコントロール権はない。でも今回のアルバムでは、自分のヴィジョンを自由に形にすることができた。ジェイムスの素晴らしいところは、カイも同じなんだけど、僕との合意点が必ずあるんだ。互いを評価しあって、最高のサウンドが生まれていく。でもやっぱり大きな違いは、タイムラインも含め、自分がコントロールを持っているかいないかだね。今回、自分がすべてのコントロールを持っている、というのを初めて経験したんだ。すごくユニークな経験だったし、その状況でどう作業していくか、かなり勉強になった。もちろん、だれかと一緒に作業すること、なにかをつくることも大好きだけど、クリエイティヴ・コントロールをすべて自分が持っているというのも、また気持ちがよかったね。

今回、自分がすべてのコントロールを持っている、というのを初めて経験したんだ。すごくユニークな経験だったし、その状況でどう作業していくか、かなり勉強になった。(メイカー)

“in your eyes” はスロウタイとダニー・ブラウンという、UKとUSのラッパーの組み合わせが興味深いです。メイカーさんはスロウタイの一昨年のシングルや昨年のアルバムにも参加していましたが、彼らふたりのラッパーの魅力はそれぞれどこにあると思いますか?

DM:スロウタイは、みんなが知っている以上に多芸多才なんだ。声だけでなく、彼のソングライティングもほんとうに素晴らしいんだよ。それに、ラップだけじゃなくて歌声も最高。あと、スロウタイとダニー・ブラウンという、イギリスとアメリカ、ふたつの異なる国のラッパーを迎えることができたのもよかった。彼らはそれぞれに独自のクレイジーなエナジーをもっているし、彼らがいると、周りにもそのエナジーが広がるんだよね。あの曲では、異なるラッパーのエナジーをつかって、いろいろと遊んでみたかったんだ。“in your eyes” は、曲自体は暗い感じだけど、ふたりが出てくることで、嵐のなかに太陽がのぼってくるような明るさが生まれる。あと、あの曲は、ふたりのショート・ストーリーがひとつの曲に入っているような感じだね。

カンポスさんの「City Planning」にはアクトレスを思わせる触感、音響性があります。じっさい、8月にアクトレスとの共作曲 “AZD SURF” が出ていますね。

KC:彼からはつねに影響を受けてる。ぼくらは、特定の時代の音楽への興味をシェアしてると思うんだ。いまって、エレクトロやダンス・ミュージックをノスタルジックな音楽と捉えてつくられているサウンドも多いよね。でも、そのなかには聴いていて面白くないものも多い。ぼくも90年代後半から2000年代のダンス・ミュージックは大好きだけど、最近つくられているものは、それをただつくりなおそうとしているものも多いと思うんだ。でもアクトレスは──それはぼくがやりたいと思っていることでもあるんだけど──ラップ・ミュージックをそういった音楽に取り入れて、ただのコピーでない新しいサウンドをつくってる。彼のそういう部分から影響を受けてるんだ。

“Satellite 9” などのエレクトロはドレクシアを、“Zone 1 (24 Hours)” などはジェフ・ミルズを想起させる部分があります。今回の制作にあたり、デトロイトの音楽を参照しましたか?

KC:デトロイト系はかなり聴いてたよ。あとは、当時のあのエリアの楽器の使い方にも影響を受けてる。でもさっきも言ったように、それをコピーしただけの、再現のようなサウンドはつくりたくなかった。それはぼくの専門分野でもないしね。でも、ぼくが好きなエリアだから、要素として取り入れたいと思った。アルバムのSFっぽさも、デトロイトの影響なんだ。

いまって、エレクトロやダンス・ミュージックをノスタルジックな音楽と捉えてつくられているサウンドも多いよね。でも、そのなかには聴いていて面白くないものも多い。(カンポス)

「Die Cuts」と「City Planning」は多くの点で対照的です。まったく異なる作品を、それぞれのソロとしてではなく、マウント・キンビーとして発表するのはなぜなのでしょうか?

KC:さっきも少し話したけど、今回のアルバムにかんしては、あまりアルバムをつくるという感覚はもっていなかったんだ。たぶん、ソロ・アルバムとして取り組もうとしていたら、もっと大変だったと思う(笑)。アルバムを意識せず、あまり構えなかったおかげで、今回のレコードでは、自分たちの頭のなかにあるアイディアを、あまりプレッシャーを感じずに、自由に実験し、探求することができたんだ。それに、ふたつの作品の対比がまた面白いとも思った。サウンドは違うけど、両方ともいまのぼくたち、つまりいまのマウント・キンビーがつくったサウンドであることに変わりはないしね。ぼくらの音楽の歴史の一部であることは変わりないから。

通訳:しかも、すでにもう、ふたりで共同作業をしながらアルバムをつくっているんですもんね。

KC:そうそう。今回の作品をつくって出したことは、次のアルバムのアプローチを定める助けにもなったしね。

通訳:次のアルバムの共同作業は、どんな感じでおこなわれているんですか?

KC:次のアルバムは、これまでのなかでいちばん共同作業が多いと言ってもいいかもしれない。アルバムを1年以上前に書きはじめたときは、ぼくがLAに行ってドムと一緒にデモをつくったし、そのあとは離れていたけど互いにアイディアを投げ合った。で、いまはドムがロンドンにいるんだ。今回は、リモートで曲を仕上げたことが一度もないんだよね。曲を仕上げるときは、かならず一緒にいるんだ。

『MK 3.5』を引っさげてツアーはしますか? その場合どのような形態になるのでしょう?

KC:まだわからないんだよね。2枚に分かれているから、それを一緒にやるとなるとどうしたらいいのかまだ考えていないんだ。ぼくはここ数年ひとりでDJをやってるんだけど、もしかしたらそういうヴェニューでぼくだけで自分の作品をパフォーマンスするのは考えてるんだよね。来年のはじめごろからやろうかと思ってる。で、来年の中盤くらいからまたマウント・キンビーでなにかやりはじめてもいいかなと。ドムがどう思ってるかは知らないけど(笑)。

DM:ぼくもDJセットは何回かやろうかなと思ってる。LAに戻ったら、またプロダクションの仕事で忙しくなるから、あまりパフォーマンスはできないかな。マウント・キンビーのアルバム制作もあるしね。

今回の『MK 3.5』のリミックス盤をつくるとしたら、参加してほしいひとはいますか?

KC:もうすでに、何人かのアーティストには頼んでいるんだ。でも、いまはまだ言えない。たくさんいるよ。発表されるのを待ってて。

通訳:以上です。ありがとうございました。

KC:ありがとう。ぼくは今年の末に日本に行く予定だから、もうすぐみんなに会えると思う。

DM:ぼくも、また日本に行けるのを楽しみにしているよ。ありがとう。

Babyfather - ele-king

 ティルザとDJ Escrowがフィーチャーされた、ディーン・ブラントのベイビーファーザー名義の新曲が公開された。すごく良い曲なので紹介します。リリースは彼のレーベル〈World Music〉(←ナイスなネーミングです)から。


https://open.spotify.com/album/6aazGhy1unBHW4nPE6uHlN?go=1&utm_source=embed_player_m&utm_medium=desktop&nd=1

Gina Birch - ele-king

 ポスト・パンクの草分け、ザ・レインコーツのジーナ・バーチが来年の2月、ソロ・デビュー・アルバムをリリースすることを発表した。アルバムのタイトルは『I Play My Bass Loud』、レーベルはジャック・ホワイトの〈Third Man Records〉。「長年にわたる自分の音楽的、政治的、芸術的人生を抽出したもので、音と言葉の、楽しさと怒りのストーリーテリングによる個人的な日記になる」と彼女は声明を出している。
 なお、サーストン・ムーアをフィーチャーしたリードトラックが公開されている。

interview with Gilles Peterson & Bluey (STR4TA) - ele-king

 〈ブラウンズウッド・レコーディング〉を主宰するDJのジャイルス・ピーターソン、インコグニートのリーダーとして活躍するブルーイことジャン・ポール・マウニックのふたりが手を組み、周囲のミージシャンを巻き込んで結成したプロジェクトのSTR4TA(ストラータ)。1970年代後半から1980年代初頭に勃興した英国のファンク・バンドやジャズ・ファンク・バンド、通称ブリット・ファンクと呼ばれるムーヴメントにインスパイアされたのがストラータで、実際にブリット・ファンクの時代から活躍するブルーイや彼と交流のあるミュージシャンたち、さらにアシッド・ジャズのころから一時代を築いてきたミュージシャンも参加し、2021年にファースト・アルバムの『アスペクツ』を発表した。アルバム・リリースに際してジャイルスへインタヴューをおこない、ストラータ誕生の話などを聞いたのだが、タイラー・ザ・クリエイターのブリット・アワードにおける「ブリット・ファンクから影響を受けた」というスピーチがひとつのきっかけになり、改めてブリット・ファンクを世に知らしめ、いまの時代にリアルタイムで表現しようというのが結成に理由だったそうだ。

 『アスペクツ』ではブリット・ファンクを下敷きに、そこにディスコ/ブギー、アシッド・ジャズ、クラブ・ジャズといったジャイルスが通過してきたエッセンスも加えつつ、あえて現代的な補正や加工を加えたりすることなく、サウンドが生まれたままの粗削りさをそのまま提示し、そうしたところがカッティング・エッジな音楽性も作り出していた。インコグニートのような洗練された音楽とは真逆をいくスタイルで、そこがストラータの魅力のひとつでもあったわけだが、そんな彼らが一年半ぶりとなるニュー・アルバム『ストラータスフィア』を完成させた。セッション・ミュージシャンが主となり、いわゆるゲスト・ミュージシャンの参加がなかった『アスペクツ』だが、今回はオマー、ロブ・ギャラガー、ヴァレリー・エティエンヌなど、かつてのアシッド・ジャズの時代からジャイルス主宰の〈トーキン・ラウド〉で活躍してきたヴェテラン・ミュージシャン、そしてエマ・ジーン・サックレイ、シオ・クローカー、アヌーシュカといった、ジャイルスやブルーイよりずっと下の若い世代のミュージシャンなどが幅広く参加する。そんな若い世代のアーティストとのコラボにより、『アスペクツ』からさらに進化した世界を見せてくれるのが『ストラータスフィア』である。今回のインタヴューにはジャイルスとブルーイの両名が揃い、そんな『ストラータスフィア』の世界についてじっくり話をしてもらった。

日本は70年代に誕生したジャズやフュージョン、ジャズ・ファンクなど、特別なシーンがあるから、それを記念するようなプロジェクトを僕たちでやろうと考えていた。今後やるかもしれないし、いまでもやりたいと思っているよ。(ジャイルス)

ミュージシャンというのは不思議なもので、特別な何かができあがったとしても、その特別さを忘れてしまって、次なる特別なものを求めてしまいがちだ。(ブルーイ)

通訳:こんにちは! 今日はお時間を取っていただき、ありがとうございます。通訳のエミです。ジャイルスさんとは以前、日本でお会いしたことがありますが、ブルーイさんは初めてです。今日はエレキングという雑誌のインタヴューで質問原稿をジャーナリストの方からお預かりしているので、それを読んで進めていく流れです。よろしくお願いします!

ブルーイ(以下B):こちらこそどうぞよろしく、エミちゃん¬♡

昨年ファースト・アルバム『アスペクツ』を発表したストラータですが、このたびセカンド・アルバムの『ストラータスフィア』がリリースされます。ファースト・アルバムの後にリミックスEPもリリースされ、それからさほどインターバルを置かずにセカンド・アルバムのリリースとなるわけですが、ファースト・アルバムに対する世間やリスナーからの反響はいかがでしたか? いい手応えや反響があったからこそ、こうしてセカンド・アルバムへ繋がっていったのかと思いますが。

ジャイルス・ピーターソン(以下GP):このような流れでブルーイと一緒に制作ができたことに正直驚いているんだ。僕とブルーイは以前から一緒に作品を作りたいと思っていたんだけど、これだと思うプロジェクトになかなか出会わなかった。プレス・リリースを読んでもらったらわかると思うけれど、僕たちは何年も前からずっと一緒に仕事をしてきた仲なんだ。そしていつだったか、日本でアルバムを作ろうという話をしていた時期があった。その話は実現に至らなかったんだけど、日本は70年代に誕生したジャズやフュージョン、ジャズ・ファンクなど、特別なシーンがあるから、それを記念するようなプロジェクトを僕たちでやろうと考えていた。今後やるかもしれないし、いまでもやりたいと思っているよ。とにかく、(プロジェクトの成り立ちとして)僕たちはロンドンにいて、お互いに近いところに住んでいるという状況だった。そしてふたりとも、イギリスのグラミー賞に値するブリット・アワードを見ていたんだけど、タイラー・ザ・クリエイターが特別功労賞(ライフタイム・アーカイヴメント・アワード)を受賞したときに、彼はスピーチでブリット・ファンクが大好きだということを述べたんだ。そこで僕はブルーイに電話して、「ブリット・ファンクのレコードを作ろう! タイラーのようなアーティストも好きだと言っているし、音楽界という広い領域でブリット・ファンクが評価されているんだよ」と彼に伝えた。これが僕たちの機動力となり、プロジェクトをスタートするきっかけになった。ロックダウン中という奇妙な時期に誕生したプロジェクトだったけど、素晴らしいプロジェクトになった。
 ファースト・アルバムの反応にはものすごく驚いたよ! だからすぐに次のアルバムを作りたくなった(笑)。でも今回のアルバムでは、後で詳しく話すけれど、ブリット・ファンクの域を超えて、それがどのように進化していったのかというのを表現したかった。だからアシッド・ジャズやストリート・ソウル(*1980年後半から1990年代前半のUKのクラブ・シーンや海賊ラジオなどで用いられた用語。ヒップホップやエレクトロの影響下にある80年代前半頃のソウルを指し、ドラムマシーンによるエレクトリックなビートやダブを取り入れたベースライン、ロー・ビットなアナログ・シンセの音色が特徴)を経て、シオ・クローカーやエマ・ジーン・サックレイといった最近のアメリカやイギリスの新たなジャズ・ムーヴメントを代表するアーティストたちまで包括されたものになっているんだ。

B:ファースト・アルバムは驚きだったね。私にとっては旧友を訪ねるような感覚だったから。同じような会話がなされると思っていたから。しかもレトロな感じで。つまり過去のことについて話すのかと思っていたんだ。でもこのプロジェクトでは、その古い言語を使って新しい音楽を作ったんだ。ミュージシャンというのは不思議なもので、特別な何か(この場合はブリット・ファンク)ができあがったとしても、その特別さを忘れてしまって、次なる特別なものを求めてしまいがちだ。それが成長の一部なんだがね。そして成熟とともに洗練さも増してくる。あの音楽(ブリット・ファンク)は当時の無垢な感じがあって、洗練さは欠けていた。ジャイルスはそれを見抜いていて、それを再現するのが上手だった。ジャイルスは私に「いったん俯瞰して、このテイクを使おうじゃないか」と言った。私はサウンドを洗練させようとしていたけれど、ジャイルスはあえてそれをしたがらなかった。彼は洗練度を取り除こうとしたんだよ。そのおかげで私は物事を考えすぎないで楽しむことができた。昔は時間がなかったり、資金がなかったりしたけれど、若さというエネルギーがあった。それらの要素が融合して音楽ができていた。今回は私と一緒に作品を共同プロデュースしてくれる人がいたということが重要だったと思う。そうでなければインゴグニートのアルバムがもう1枚できてしまっていたかもしれないからね(笑)。ジャイルスはインコグニートとこのプロジェクトの見分けがはっきりついていたから、その点が素晴らしかった。

ファーストのリリース後、ジャイルスが主催する「ウィ・アウト・ヒア」ほか、スペインの「プリマヴェーラ・サウンド」といったフェスティヴァルに参加し、「ジャズ・カフェ」などでライヴ・ステージも披露していますね。ライヴ・アクトとしてのストラータはどんな方向性を持つのですか? 以前のインタヴューではブルーイたちの生演奏を軸に、そこへジャイルスがDJミックスやエフェクトを加えていくということを伺ってましたが。

B:アルバムの音を荒削りにしたのと同じように、生演奏も荒削りな感じにしようとした。即興演奏をしたり、サウンド・エフェクトを入れたり……もっとジャズっぽい感じにしたんだ。私たちのバンドはライヴではより一層ジャズ色が強まる。

GP:フェスやライヴに出演するのは最高だったよ。あれ以来たくさんの出演依頼が来た。「プリマヴェーラ」は観客が僕たちのことをあまり知らないという、新しい層の人たちだったから面白かった。テストとして良かったと思うし、エキサイティングだった。「プリマヴェーラ」はナイトライフという文脈で行われているイベントだから、僕たちのバンドもクラブに近い状況でライヴをやったし、DJの存在も重要だった。そういう新しい領域でライヴをやり、熱狂的な反響を得られたことは、僕たちやバンドのみんなにとっても新鮮な体験だったと思う。「ジャズ・カフェ」でのライヴは、「プリマヴェーラ」よりもずっと安心感があった。「ジャズ・カフェ」は昔からある会場だから。日本(の東京)で言うと…「ブルーノート」みたいなところかな。あと、もうひとつのところ……なんだっけ?

B:「ブルーノート」はむしろ「ロニー・スコッツ」(訳注:ロンドンにある老舗のジャズ/ブルースのライヴ・スポット)に近いと思うな。ジャズ・カフェは……あれとあれの間だよ。えーと……

GP:「ビルボード」?

B:いや、「ブルーノート」と昔の(東京・新宿にあった)「リキッド・ルーム」だ。

GP:ああ、そうかもしれないね。ロンドンでは会場のチケットが即時で完売する。そしてチケットを買う人たちは昔からファンだった人たち、つまり年齢層が少し高めなんだよ。だからライヴも少し違ったものになる。最近は自分の音楽をさまざまな文脈に置き換えて、さまざまな空間に当てはめていくということをしていかないといけない。今回のストラータというプロジェクトに関しては、ストラータを従来の文脈、すなわち人びとが聞いたことのある会場や想定できる観客から取り出して、真逆の文脈(「プリマヴェーラ」など)に当てはめたりすることに楽しみを感じている。ストラータはそういう表現方法にとても適しているんだ。

B:ストラータの来日という目的だけのために(かつて東京・西麻布にあったクラブの)「イエロー」を再開させないとだな。

通訳:それは最高ですね!

GP:本当に最高だね。「イエロー」だったら完璧だ!

素晴らしいレコード・コレクションがあることはひとつの資質だが、レコードを2、3枚選んで、「これを参考にしてほしい。でもこれと同じ音楽は作りたくない。新しい音楽を作りたいんだ」と私に伝えられるということは、また別の資質なんだよ。(ブルーイ)

僕が15か16歳のころ、いろいろなレコード会社に手紙を書いていたんだ。「自分はDJで、大勢の前で音楽をかけている」って嘘をついてね(笑)。そしたらアンディー・ソイカはプロモ用の12インチを僕に送ってくれたんだ。(ジャイルス)

『ストラータスフィア』の制作に入るにあたり、次はこうしようとか何か話し合いましたか? 基本的にはファースト・アルバムの延長線上にあるもので、1970年代後半から1980年代前半のブリット・ファンクを下敷きにしたプロジェクトということに変化はないと思いますが。

B:ジャイルスのブリット・ファンクに関する知識と、私がそういう音楽を作ってきたという経歴は、この音楽を再び作るにあたり最高のコンビネーションだった。ファースト・アルバムで作ったのは1970年代後期の音楽だったんだが、『ストラータスフィア』は1980年代に踏み込んでいる。最初のトラックをいくつか作る前に、私はジャイルスに「80年代前半から中旬までの音楽を聴いてくれ」と言われた。ドラムマシーンやプログラミングを使い、そこにライヴの要素を加えるような音楽だよ。私は当時(80年代前半~半ば)その道を行かなかったから、今回はその旅路をすることができて興味深かった。当時は多くのバンドがその道に進んでいたけれど、私はそっちには行かないと決めていた。80年代の話だよ。私はインコグニートの活動でファンクをやっていて、その炎をまだ掲げていた。プログラミングとライヴの音をミックスする方向には行きたくなかった。ジャイルスは私にレコードを持ってきてくれた。自分の活動で忙しかった当時の私が体験しなかった時代の音楽を聴かせようとしてくれたんだ。私はジャズ・ファンクをやっていて、その流れから離れたくないと思い、80年代はレゲエの方向性に進み、マキシー・プリーストとアルバムを5枚作った。その後はアメリカに渡り、マーカス・ミラーと仕事をした。マーカスと一緒に音楽をやっていた時期は、クラブで80年代の音楽を聴いて踊ったりしていたよ。TR-808などの機材を使った80年代初期の音楽だ。ジャイルスはそういうレコードを私のために選んでくれた。私の家にレコードを持ってきてくれたんだが、ジャイルスが自宅に戻る前に、私はすでに新しいトラックをひとつ作っていたよ。ジャイルスも絶対気に入ってくれると思った。私たちのように音楽に対する認識が通じ合っていると、細かいことを話し合わなくても、完璧な曲が作れるんだ。ジャイルスにアイデアがあって、俺にアイデアがあったら、完璧にこなすことができるのさ。

GP:とても自然な流れでできたよ。ブルーイはご存じの通り、素晴らしいエンジニアで、素晴らしいミュージシャンだ。だから、非常にいい基盤があるし、スタジオでもリラックスして作業できる。僕がアイデアや考えを持ち込んでも、バンドがすぐに対応してくれるんだ。時間のプレッシャーもなく、数週間くらい時間をかけて、ブルーイは僕からの情報をゆっくりと消化して、音楽へと変換する。それを後で聴かせてくれて、僕が「イエス」とか「ノー」とか「素晴らしい!」とかコメントする。

B:私がジャイルスにミュージシャンを紹介するときもある。

GP:参加してもらいたいミュージシャンがロンドンに滞在中だと聞けば、その人たちをスタジオに呼ぼうという話になる。「エマ・ジーンにはこのトラックに参加してもらおう」とか「オマーも入れたらいいんじゃないか」とか「ピアノ演奏者のピート・ハインズにも再び参加してもらおう」など。ファースト・アルバムの要素を引き継ぐ形で今回のプロジェクトも進めた。とてもイージーで素敵なプロセスだったよ。僕とブルーイは昔からの仲だから、お互いのことも理解し合っている。僕の役割はA&R(訳注:レコード会社における職務のひとつ。アーティスト・アンド・レパートリーの略。アーティストの発掘・契約・育成とそのアーティストに合った楽曲の発掘・契約・制作を担当する)に近い感じだったね。でもA&R以外のこともやった。A&Rとプロダクションの間を担当する役割の名前があるとしたら、そういう役職だったね。

B:プロダクションA&Rだよな。

GP:まあ、そうだよね。でもA&Rは何でも屋みたいなところもあるから……紅茶を入れるのが仕事のA&Rだっている(笑)。

B:A&Rのきめ細かさというのを私は昔から評価してきた。インコグニートの時代の当初、私はジャイルスにインタヴューされたことがある。そのときからジャイルスの音楽に対する理解というか認識は素晴らしいものだと思ったよ。ジャイルスは素敵なレコード・コレクションの持ち主だけど、同時に音楽を介して私たちとコミュニケーションが取れるんだ。素晴らしいレコード・コレクションがあることはひとつの資質だが、レコードを2、3枚選んで、「これを参考にしてほしい。でもこれと同じ音楽は作りたくない。新しい音楽を作りたいんだ」と私に伝えられるということは、また別の資質なんだよ。ジャイルスは音楽に対する理解や見解が明確なんだ。わかりやすく伝えることができる。普通だったら、「このレコードのベースラインを使えばいいのか?」とか、「このドラムを使いたいのか?」とか、「これと同じキーボードのサウンドを入れたいのか?」などと考えてしまいがちだ。でも私にはわかる。ジャイルスが言いたいのは、「このレコードの素晴らしい要素を取り入れたい。その素晴らしい要素が何かというのは自身で聴きとってほしい」ということなんだ。曲の全体的な要素やフィーリングを感じてほしいということなんだよ。

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80年代初期のレコードが再び人気を博している。ストリート・ソウルと言われる音楽をいまかけている若い世代の人たちがいるということなんだ。だからいま、リイシュー盤が出ているんだよ。(ジャイルス)

計画なんて全くなかった。ファーストでもなかったし、今回もなかった。これが私たちのコミュニティであり、私たちの世界なんだ。周りの環境なんだ。近所に住んでいる仲間もいるし、仕事仲間もいる。みんな私たちの知り合いであり、私たちの世界の人間なんだ。(ブルーイ)

『ストラータスフィア』というタイトルは、ブリット・ファンクの代表的アーティストであるアトモスフィアからインスパイアされているのでしょうか? ストラータに参加するピーター・ハインズもアトモスフィアのメンバーでしたし、ブルーイも近い位置にいてライト・オブ・ザ・ワールドなどで活動していました。もちろんジャイルスにとっても、かつてアトモスフィアは大好きなバンドでしたし、ストラータとアトモスフィアはいろいろ関係が深いのかなと。

GP:そのとおりだよ。『ストラータスフィア』の綴り(STR4TASFEAR)はアトモスフィア(ATMOSFEAR)と同じで最後が「FEAR」となっているだろう? それがひとつのヒントだよ(笑)。

B:当時はライバル関係にあったバンドもいて、セントラル・ラインやハイ・テンションなどはインコグニートのライバルだった。だがアトモスフィアは違って、私たちにインスピレーションを与えてくれる存在だった。そのおかげで、アトモスフィアに対してはいまでも親愛なる感情を抱き続けている。

GP:ブリット・ファンクについて語るとき、忘れてはならないのは最近亡くなってしまったアンディー・ソイカだ。彼がDJとしての僕に初めてタダでレコードを送ってくれたんだ。僕が15か16歳のころ、いろいろなレコード会社に手紙を書いていたんだ。「自分はDJで、大勢の前で音楽をかけている」って嘘をついてね(笑)。そしたら(レーベルもやっていた)アンディーはプロモ用の12インチを僕に送ってくれたんだ。レヴェル42の “サンドストーム” とパワー・ラインの “ダブル・ジャーニー” という曲が入った両A面のシングルで、とても良いレコードだった。レーベルは〈エリート・レコーズ〉。僕にとっては嬉しくも、懐かしい思い出がある。それに、彼とはサッカーをやる機会もあったんだ。アンディーはミュージシャンたちが作るアマチュア・サッカー・リーグの審判を務めていたから、そのときに彼と初めて会った。僕は当時、自分のレーベル〈トーキン・ラウド〉のチームでサッカーをしていたんだ。とにかくアンディー・ソイカのレガシーは素晴らしいもので、彼はアトモスフィアのバンド・リーダーだっただけでなく、〈エリート・レコーズ〉を運営していたから、レヴェル42とレコード契約をして、彼らのファースト・アルバムのプロデューサーも担当していたと思う。それから、エキサイティングなストリート・ソウル系のレコードも数多く出していた。実はちょうど昨日、ストリート・ソウルのリイシュー盤が届いたところなんだ。ビヴァリー・スキートの7インチだよ。

B:彼女はインコグニートでもヴォーカルを務めてくれた。

GP:このような80年代初期のレコードが再び人気を博している。ストリート・ソウルと言われる音楽をいまかけている若い世代の人たちがいるということなんだ。だからいま、リイシュー盤が出ているんだよ。そういう形でアンディー・ソイカの輝かしいレガシーが受け継がれている。アトモスフィアは、フリーズと同様に普通という枠からはみ出ていたという印象があったね。アトモスフィアは比較的エレクトロニックで、実験的で、ダークで、それはそれで面白かった。その一方でフリーズはニュー・ウェイヴ色が強かった。アトモスフィアとフリーズは、従来のブリット・ファンクとは少し違う感じがあって、そういうところが僕には魅力だった。もちろん従来のブリット・ファンクも大好きだけどね。

B:アトモスフィアはピーター・ハインズがメンバーだったし、フリーズは私も結成に関わったバンドだよ。初期のメンバーだったんだ。そして今は、ピーターも私もストラータにいる。

GP:ハインズが一緒にステージで演奏してくれたら最高なんだけどな。彼はやってくれそうかい?

B:いや……

GP:スタジオでの演奏を好むほうか。

B:そうだな。ステージだと疲れるかもな。

ブルーイを軸に、ピーター・ハインズ、マット・クーパー、スキ・オークンフル、フランセスコ・メンドリア、リチャード・ブル、フランシス・ハイルトンなど、ファースト・アルバムの面々がそのまま参加していますが、今回はゲスト・ミュージシャンが多くフィーチャーされている点が特徴です。まず、オマー、ロブ・ギャラガー、ヴァレリー・エティエンヌと、アシッド・ジャズ時代から長い付き合いの友人たちが参加していますが、彼らにはどのように声をかけたのですか?

GP:最初から計画されたものではなかったよ。

B:計画なんて全くなかった。ファーストでもなかったし、今回もなかった。これが私たちのコミュニティであり、私たちの世界なんだ。周りの環境なんだ。近所に住んでいる仲間もいるし、仕事仲間もいる。みんな私たちの知り合いであり、私たちの世界の人間なんだ。だからさまざまなミュージシャンが自然に思いつく。このプロジェクトの話をしているときだけでなく、日常生活でも彼らの名前が出てくるからね。たとえばクラブに遊びに行ったときや、フェンダー・ローズのプレゼンテーションを「ロニー・スコッツ」でやったときでも、私が例として名前を挙げたミュージシャンが実際に5、6人くらいクラウドのなかにいるとか……そんなことがしょっちゅうあって、彼らと現場で話したりする。それがロンドンの素晴らしいところなんだ。このレコードは、さまざまなミュージシャンたちのハブであるロンドンで作られたものなんだ。ロンドンはいまでも才能ある人たちが世界各地から集まる坩堝なんだよ。シオ・クローカーが今回のアルバムに参加することになったのは、シオがロンドンでギグをやったときに観に行ったことがきっかけだった。ジャイルスにそのライヴに誘われるまで、そんな会場がロンドンにあることさえ知らなかったよ。あのころはコロナの真っ最中だったけど、私たちはライヴに行ってパーティーを楽しんだのさ。

GP:今回はアヌーシュカも参加していて、彼らは当時のフリーズを彷彿とさせるから面白い。僕は彼らのアルバムを〈ブラウンズウッド〉からリリースしたことがあるし、彼らの最近のアルバムは〈トゥルー・ソウツ〉から出ている。そのアルバムにお気に入りの曲があって、僕はその曲をラジオでかけていたから、曲のリミックスをしてくれないかとアヌーシュカに頼まれたんだ。そこでブルーイと僕でリミックスを作った。良いリミックスができたから、ストラータのアルバム用のヴァージョンをもうひとつ作ろうということになった。そこでアヌーシュカの曲のストラータによるリミックスではなく、ストラータがアヌーシュカをフィーチャリングする曲を作ったんだ。違うヴァージョンなんだけど、アヌーシュカの曲を使っている。それも自然な流れで思いついたことだけど、今回のアルバムに入れたらいいと思った。アヌーシュカはブライトンを拠点にしているミュージシャンなんだけど、とてもクールで、感じのいい人たちなんだ。
 ヴァレリー・エティエンヌが参加してくれたのも素敵だった。彼女はブルーイのシトラス・サンというユニットでヴォーカルを務めていたし、いまではジャミロクワイのシンガーのひとりとして活躍しているなど、素晴らしいキャリアの持ち主だ。彼女も……

B:すぐそこに住んでるんだよ。

GP:そうなんだ、ご近所さんなんだよ。そして、ロブ・ギャラガーと結婚している。ロブはストラータのアルバムのアートワークもやっているんだ。“ファインド・ユア・ヘヴンズ” という曲では、彼は歌詞も担当している。非常に素晴らしい詩人であり作詞家だからね。ロブは作詞家としても幅広く活躍していて、エヂ・モッタなどにも歌詞を提供している。

B:スキ・オークンフルにも歌詞を提供していたよ。

GP:そうだったね。それからエマ・ジーンが参加してくれたことも良かった。彼女はアーティストとしても特異な存在だからね。彼女がどのように貢献してくれるのかわからなかったけど、僕たちが用意した音源にヴォーカルだけでなく、トランペットなどを加えたりして素晴らしい曲を作り上げてくれた。

B:私たちの音楽に花とキャンドルと紅茶を加えてくれたのさ(笑)。

GP:とても素敵だったよね。オマーの参加も良かった。周りの人は「オマーには何を歌ってもらうんだい?」と聞いてきたけど、オマーにはヴォーカルじゃなくて、シンセを弾いてもらいたかった。

通訳:ちょうど次の質問がオマーについてです。

“ホワイ・マスト・ユー・フライ” でのオマーはてっきりリード・ヴォーカルをとると思ったのですが、そうではなくシンセサイザーを演奏していて驚きました。どうしてこの起用になったのですか?

B:この曲を作っているときに、何か要素を加えたいと思っていて、私たちで「ファン・ファン・ファーン♪」みたいな変な音を口から出していたんだ(笑)。それでお互いを見て、「なんでこんなことやってるんだ!? オマーにやってもらおう!」と言って、変な音を出すことが得意な彼に連絡を取ったんだ。

GP:オマーの全体的な音楽性は賞賛に値するし、〈トーキン・ラウド〉からリリースした作品も最高だ。その後はアメリカのシーンでも活躍して、エリカ・バドゥやコモンなどと共演したりして、素晴らしいキャリアを築いている。アメリカでも大人気だ。スティーヴィー・ワンダーとも共演したよね。しかもオマーはものすごく優れたプロデューサーでもあるんだ。

B:ミュージシャンとしても卓越している。腕の良いミュージシャンという枠を超えている。私が知っているなかで最も才能のあるミュージシャンのひとりだと思っているくらいだ。作曲も譜面に起こしてできるし、ストリングス向けの作曲もできるし、ブラスのアレンジもできる。彼のアレンジ能力はまるでチャールス・ステップニーのようなんだ。彼は真の逸材だよ。

GP:いまはイギリスのテレビ番組にも出演しているよ。「イースト・エンダーズ」という有名なテレビ番組に出ているんだ。

通訳:それは知りませんでした!

GP:イギリスでいちばん有名なソープ・オペラだよ。僕はまだ観ていないんだけど、出ているらしい。ブルーイは見たかい?

B:ああ、知ってるよ。オマーが殺されたかどうかまでは知らないが。ソープ・オペラは酷い結末じゃないと意味がないからな(笑)。

一方で “トゥ・ビー・アズ・ワン” ではあなたがヴォーカルを披露していますね。これも意外でしたが、どんなアイデアから歌おうと思ったのですか?

GP:僕は強制的に歌わされたんだ(笑)。

B:バック・ヴォーカルに、「作業中の男」の荒っぽい声を入れたくてね(笑)。

GP:とても楽しい経験だったよ。歌が下手な人でも、まあまあ上手いように聴こえさせることのできるとても良いツールがエンジニアのためにあるなんて、いままで知らなかったよ! だから僕の声も悪くなかった。でもライヴではできない。絶対に失敗する(笑)! でもレコードを聴くと、自分の声だと認識できるよ。

通訳:私もあなたの声だとわかりましたよ!

GP:そうかい、なら良かった。エンジニアの人たちはいい仕事をしてくれたよ。あれが最初で最後の機会だね。いや、じつは以前にも一度ある。これはジャーナリストの人がディグったら面白がるかもしれない。僕の別名のひとつにアンジェロ・へクティックというのがあるんだが、その名義で “フォー・オール・ザ・ガールズ・アイヴ・ラヴド” という名の曲を7インチで出している。(ロブ・ギャラガーが運営する)〈レッド・エジプシャン・レコーズ〉からのリリースとして入手可能だよ。最近ではかなり値が上がってるみたいだけどね(笑)。

通訳:それは貴重な情報ですね。ありがとうございます!

オマーらヴェテランの一方で、エマ・ジーン・サックレイ、シオ・クローカー、アヌーシュカといった若いアーティストも参加しています。特にエマとシオはジャズの新しい世代を牽引するアーティストとして注目を集めているのですが、彼らをゲストに迎えた意図はどんなものですか?

GP:僕はシオのことをけっこう前から知っていて、僕が日本に行くときは上海にも寄って、上海でDJをやっていたことがあったんだけど、そのときに彼と会ったんだ。シオは上海に何年か住んでいたんだよ。不思議な出会いだった。彼は僕がDJしているクラブに来て、一緒にジャムしていたんだ。毎回とても楽しいセッションだったよ。その後、 彼はディー・ディー・ブリッジウォーターと仕事をすることになって、彼女は彼のメンターになった。しかも彼の曾祖父はめちゃくちゃ有名なジャズ・トランペット演奏者なんだよ。名前が……なんだっけなあ。ルイ・アームストロングとかそれクラスの人だよ。そうだ、ドック・チーサムだ! だからシオはすごい血統から来ている。スタジオでの彼を見ても一目瞭然だよ。ワンテイクで済ませたからね。

B:しかも頭も相当キレる。ロサンゼルスのライヴでは、その場でラップもしはじめて……シオというアーティストにはものすごい尊敬の念を抱いているんだ。

GP:シオはJ・コールなどの大御所ラッパーたちとも一緒に仕事をしているよね。エマ・ジーン・サックレイも興味深い人物だ。彼女はこないだ日本でライヴをしていたよね。彼女のアルバムを買おうと、日本人のお客さんが長い列を成している画像を見た。あんな光景は初めてだよ! 彼女は唯一無二の存在で、彼女のようなアーティストはほかにいない。ジャズ・シーンに属してもいない。属してはいるんだけど、属してもいない。独自の道を歩んで、自分でなんでもやってしまう。仕事としてクラシックの室内管弦楽団のストリングスの演奏も引き受けられるし、クラシックの作曲もできる。ポップ・ソングを作ることもできるし、本当にさまざまな領域で才能を発揮できる人だ。それが彼女をとても刺激的なアーティストにしていると思う。

B:自由奔放という印象があるね。それに彼女のキャラクターも大好きなんだ。ずっと一緒にいたいと思うような人なんだよ。ジャズ・アワードに出席したときも、彼女の隣に座ってずっとおしゃべりしたいと思った。

偉大なジャズ・ミュージシャンはルールに従わなかった奴らばかりだ。ファラオ・サンダースが登場したときも、彼はルールに従わなかった。他のミュージシャンが出しているサウンドと同じようなサウンドを出したくなかったんだよ。(ブルーイ)

“ファインド・ユア・ヘヴンズ” はディスコ・ブギー調の曲で、ストラータとしては、多少は新しい領域だと思われるかもしれない。でもそのシーンも当時は人気で、ディスコ・ブギーとブリット・ファンクは密接に関連していたんだ。(ジャイルス)


アヌーシュカをフィーチャーした “(ブリング・オン・ザ)バッド・ウェザー” やエマ・ジーン・サックレイをフィーチャーした “レイジー・デイズ” など、今回のアルバムはヴォーカル面にも重点を置いたメロディアスな楽曲が目立ちます。ある意味でインコグニートにも通じる楽曲だと思いますが、ファーストからセカンドに向かう中で歌について何か意識した点はありますか?

B:俺はまさにそういう理由(インコグニート風になってしまう懸念)から、ヴォーカル面に関してはプロデューサーとして一切関与していないんだよ。ヴォーカルに関しては、ヴォーカルを担当した人自身にプロデュースを任せたんだ。そのほうが、私がプロデューサーやアレンジャーとして、自分のアイデアやヴォーカルやメロディや歌詞の方向性を持ち込んで作り上げるヴォーカルよりも、彼ら自身のヴォーカルが作れると思ったから。彼ら自身にメロディを作曲して歌を歌ってもらい、彼らの考えやサウンドを表現してもらうようにした。だから今回のレコードは特別なものに仕上がっていると思う。

GP:たとえば “ファインド・ユア・ヘヴンズ” はディスコ・ブギー調の曲で、ストラータとしては、多少は新しい領域だと思われるかもしれない。でもそのシーンも当時は人気で、ディスコ・ブギーとブリット・ファンクは密接に関連していたんだ。シェリル・リンなどのレコードは当時のDJがよくかけていたからね。

B:この曲を初めて聴いたときには少し戸惑ったよ。ロブとヴァレリーがまとめていたものだった。ロブが作曲してヴァレリーが歌っていたからね。ジャイルスとスタジオに入るとき、じつは私にはすでに自分でイメージしていたヴォーカルの方向性やメロディの方向性があった。だが、そういう案は彼らに送ったり聴かせたりしないで、彼らのやりたいようにやらせることにした。だから彼らのヴァージョンを聴いたときには、想定外のものができていて、少し驚いた。でも曲を聴いていたら、曲の終盤には「これは特別な作品ができたな」と確信に変わっていたよ。

GP:エマ・ジーンの “レイジー・デイズ” に関しては、デモがすごくエキサイティングで僕は大好きだった。あれはマット・クーパーが主に作曲したものなんだよ。

B:ああ、彼がバック・ヴォーカルの大部分を作曲した。

GP:とても良いデモができたから、これをエマ・ジーンに渡そうということになった。そして彼女がさらに曲を展開して全く違う、素晴らしい曲に仕上げてくれた。あの曲は面白いフェイズを経て完成したよね。

B:そうだったな。

“ヴァージル” はヴォーカル・ヴァージョンとありますが、これはもともとインストのヴァージョンがあったのですか? なお、この曲に見られるようにホーン・セクションの人数が増えて、ファーストよりさらに分厚く、ゴージャスなサウンドになった印象があります。

GP:そうかもしれない、インストのヴァージョンがあるなあ! それは近日リリース予定。まだはっきりとは言えないけど、ボーナス・トラックとしてあるんだよ(笑)。

今後もサード・アルバムなど継続的にストラータは活動していくのでしょうか? 今後の展望や計画などを教えてください。

B:じつを言うと、私はジャイルスとスタジオに行くのが恐ろしいんだ。スタジオに行ったらサード・アルバムの制作がはじまってしまうからな(笑)。

GP:僕はジャパニーズ・ヴァージョンのアルバムを作りたいな!

B:もし私にロサンゼルスで2、3曲作らせてくれるならやってもいいぜ。ロサンゼルスで一緒に仕事をしたいミュージシャンを何人か見つけたんだ。

GP:それはまた別のプロジェクトだよ。

B:本当にすごいミュージシャンたちなんだ。君も絶対に惚れ込む。シオと一緒に演奏しているミュージシャンたちだよ。

GP:それもやろうじゃないか。でも、ジャパニーズ・アルバムも作るべきだよ。

B:ジャパニーズ・アルバムか、よし。

GP:僕は絶対にジャパニーズ・アルバムを作りたい。

通訳:それは素晴らしい企画ですね。日本のファンは大喜びしますよ!

GP:日本にはレジェンドがまだ何人か健在だからね。若手もいるし。

B:でもジャイルスは焼酎を飲みすぎるから、そこだけ気をつけてもらわないと(笑)。

GP:お行儀良くしますよ(笑)。

通訳:その企画が実現したら最高ですね! 今日はおふたりともお時間をありがとうございました。

B:年末にインコグニートで来日するから、そのときに会えるのを楽しみにしているよ。

通訳:そうなんですね。では日本でお待ちしています。ありがとうございました!

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