「Ord」と一致するもの

好評の書評集第二弾!
「科学する心」があなたと世界を変えるかもしれない

本当に読者の役に立つ書評――良い本はしっかりと評価し、ダメな本はしっかりと批判する。そんな「まっとうな書評」が高く評価された山形浩生の書評集、第2弾は「サイエンス・テクノロジー」編。

「科学する心」の尊さ、テクノロジーの楽しさと未来に託す夢。そしてデマやあおりに惑わされない冷静な思考を解く、古びることのない、今の時代に必要な本の数々が紹介されています。その数およそ120冊!

目次

はじめに

第1章 サイエンス
 科学と文明と好奇心――『鏡の中の物理学』
 「わからなさ」を展示する博物館――The Museum of Lost Wonder
 星に願いを:天文台に人々が託した想い――No One will Ever have the Same knowledge again
 「別の宇宙」は本当に「ある」のか? 最先端物理理論の不思議――『隠れていた宇宙』
 若き非主流物理学者の理論と青春――『光速より速い光』
 物理学のたどりついた変な世界――『ワープする宇宙』
 「ありえたかもしれない世界」にぼくは存在するか? 確率的世界観をめぐるあれこれ――『確率的発想法』
 スモールワールド構造の不思議――『複雑な世界、単純な法則』
 分野としてはおもしろそうなのに:特異な人脈の著者が書いた変な本――『人脈づくりの科学』
 トンデモと真の科学のちがいとは――『トンデモ科学の見破りかた』
 真の科学理論検討プロセス!――『怪しい科学の見抜きかた』
 あらゆる勉強に通じるコツ――『ファインマン流物理がわかるコツ』
 あれこれたとえ話を読むより、自分で導出して相対性理論を理解しよう!――『相対性理論の式を導いてみよう、そして、人に話そう』

第2章 科学と歴史
 人々の格差は、しょせんすべては初期条件のせいなのかしら――Guns, Germs and Steel『銃・病原菌・鉄』
 参考文献もちゃんと収録されるようになり、単行本よりずっとよくなった!――『銃・病原菌・鉄』
 『銃・病原菌・鉄』のネタ本のひとつ『疫病と世界史』を山形浩生は実に刺戟的な本だと思う――『疫病と世界史』
 マグル科学の魔術的起源と魔術界の衰退に関する一考察――『磁力と重力の発見』
 魔術と近代物理学との接点とは――『磁力と重力の発見』
 文化を創るのは下々のぼくたちだ――『十六世紀文化革命』
 社会すべてが生み出した近代科学の夜明け――『世界の見方の転換』
 コペルニクスが永遠に奪い去ったもの:地動説がもたらした人間の地位の変化を悼む――Uncentering the Earth: Copernicus And the Revolutions of the Heavenly Spheres
 「星界の報告」新訳。神をも畏れぬ邪説を唱えたトンデモ本。発禁にすべき――『望遠鏡で見た星空の大発見』
 イスラムの現状批判とともに、もっと広い科学と宗教や規範の関係を考えさせられる――『イスラームと科学』
 アメリカとはまったく別の技術の系譜――『ロシア宇宙開発史:気球からヴォストークまで』
 有機化学がイノベーションとハイテクの最前線だった時代――『アニリン―科学小説』

第3章 環境
 脱・恫喝型エコロジストのすすめ:これぞ真の「地球白書」なり――The Skeptical Environmentalist『環境危機をあおってはいけない』
 地球の人々にとってホントに重要な問題とは? 新たな社会的合意形成の試み――Global Crisis, Global Solutions
 温暖化対策は排出削減以外にもあるし、そのほうがずっと効果も高い!――Smart Solutions to Climate Change: Comparing Costs and Benefits
 環境対策は、完璧主義ではなくリスクを考えた現実性を!――『環境リスク学』
 マスコミのあおりにだまされず、科学的な環境対応を!――『環境ホルモン』
 温暖化議論に必要な透明性とは?――『地球温暖化スキャンダル』
 壮大な地球環境制御の可能性――『気候工学入門』
 真剣なエコロジストがたどりついた巨大科学への期待――『地球の論点:現実的な環境主義者のマニフェスト』
 いろいろ事例は豊富ながら、結局なんなのかというのが弱くて総花的――『自然と権力――環境の世界史』
 誇張してあおるだけの温暖化議論でよいのか?――『地球温暖化問題の探究』

第4章 震災復興・原発・エネルギー
 震災復興の歩みから日本産業の将来像を見通す――『東日本大震災と地域産業復興 II』『地域を豊かにする働き方』
 原発反対のために文明否定の必要はあるのか?――『福島の原発事故をめぐって』
 正しく怖がるための放射線リテラシー――『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』
 主張は非常にまっとうながら、哲学はどうなったの?――『放射能問題に立ち向かう哲学』
 頭でしか感じられない怖さの恐怖――『廃墟チェルノブイリ』

第5章 建築
 いろんな表現の向きと具体性のこと――『住宅巡礼』『日本のすまい―内と外』
 真に自然の中に位置づく建築のあり方などについて――『時間の中の建築』
 人間くさく有機的な廃墟の本――『廃墟探訪』
 失われゆく現代建築の見直し――『昭和モダン建築巡礼 西日本編』
 楽しい探訪記ながら明らかにしたかったものは何?――『今和次郎「日本の民家」再訪』
 家の持つ合理性を見抜いた名著――『日本の民家』
 「構想力」の具体的な中身を分析したおもしろい本――『群像としての丹下研究室』
 長すぎるため、どうでもいい些事のてんこ盛りに堕し、徒労感が多い一冊――Le Corbusier: A Life
 言説分析が明らかにしたのはむしろ分析者の勝手な思い込みだった――『未像の大国』
 記憶術が生み出した建築による世界記述と創造――『叡智の建築家』

第6章 都市計画
 街と地域の失われた総合性を求めて――『廃棄の文化誌』
 都市に生きる人たちと、都市を読む人――『恋する惑星』&『檻獄都市』のこと――『檻獄都市』
 土建政治家の構想力とは――『田中角栄と国土建設』
 都市開発とぼくたちの未来像など――『最新東京・首都圏未来地図―超拡大版』
 次世代に遺すインフラ再生問題――『朽ちるインフラ』
 数十年にわたって継続する都市開発を養うには――『ヒルサイドテラスウェストの世界』
 槇文彦も村上龍も、ハウステンボスの怪にはまだかなわない――『記憶の形象』
 電気街からメイド喫茶へ:おたく的空間のあり方とは――『趣都の誕生』
 古代中世の話で9割が終わる都市空間デザイン論というものの現代的意義は?――『都市空間のデザイン』
 日本のバブル永続を想定した古い本。すでに理論は完全に破綻、今更翻訳する意義はあったのか?――『グローバルシティ』
 うーん、いろいろやったのはわかるが、それで?――『モダン東京の歴史社会学』
 その金科玉条の「オーセンチック」って何ですの?――『都市はなぜ魂を失ったか』
 建築と都市が重なる奇妙な空間へ――『S,M,L,XL+: 現代都市をめぐるエッセイ』

第7章 医療・生命
 肥満二段階仮説、あるいはデブの免疫療法に関する一考察――『免疫の意味論』
 死体になったらどうなるの? 決定版:ぼくらの死体完全マニュアル本!――Death to Dust: What Happens to Dead Bodies?
 死体関連のネタ満載。この分野のおもしろさを何とか知らせて認知度をあげようとする著者の熱意が結実――『死体入門』
 医学生がジョークで撮った解剖記念写真集。医学と死体解剖のあり方を考えさせる、二度と作れないだろう傑作――Dissection: Photographs of a Rite of Passage in American Medicine 1880-1930
 現実のドリトル先生にして現代外科医学の開祖――The Knife Man: The Extraordinary Life And Times Of John Hunter, Father Of Modern Surgery
 おおお、エミリー・オスターきたーっっっっ!!――『お医者さんは教えてくれない 妊娠・出産の常識ウソ・ホント』

第8章 遺伝・進化
 歪んだ標的にされた、遺伝とは無関係な知能偏重社会批判の書――『ベルカーブ:アメリカ生活における知能と階級構造』
 人種とスポーツと差別について――Taboo: Why Black Athletes Dominate Sports and Why We Are Afraid to Talk About It
 遺伝子分析とITが交差する新分野の魅力書――『実践バイオインフォマティクス』
 きみは進化のために何ができるか? バカやブスの存在理由について――『喪失と獲得』
 ラスコー展とニコラス・ハンフリー
 進化論の楽しさと威力、そして宗教との共存――Evolution for Everyone: How Darwin's Theory Can Change the Way We Think About Our Lives
 生得能力と最適な社会制度について考えさせられる本――『心の仕組み』
 人間での遺伝の役割をドグマから救う勇気の書――『人間の本性を考える』
 初歩から最先端の成果までを実に平易に説明、日本の研究水準紹介としても有益。あとは値段さえ……――『自己変革するDNA』
 日本人は昔からあれこれ混血を進めてきました、という本――『ハイブリッド日本』
 日本人の起源を総合的に見直すと?――『日本人はどこから来たのか?』
 すばらしい。創発批判本!――『生命起源論の科学哲学』
 人間の遺伝子分布についての立派な百科事典。ネトウヨどもは本書についてのインチキなデマをやめるように――The History and Geography of Human Genes
 人類進化と分布のとても優秀な一般向け解説書。インチキに使わずきちんと読もう!――The Great Human Diasporas: The History Of Diversity And Evolution
 クローン生物の可能性と現実――『第二の創造:クローン羊ドリーと生命操作の時代』
 ネアンデルタール人の精神世界にまで踏み込む――『ネアンデルタール人の正体』
 すべての人工物の理論と進化について――『システムの科学』『進化と人間行動』

第9章 脳と心
 異分野を浸食する脳科学の魅力がつまった一冊――『脳のなかの幽霊、ふたたび』
 脳科学から倫理と道徳を考える――『脳のなかの倫理』
 心や意識の問題でも、もはや哲学はジリ貧らしいことについて――『MiND』
 Do Your Homework! 思いつきの仮説だけでは、脳も心もわからない――『脳とクオリア:なぜ脳に心が生まれるか』
 意識とは何か? 「人間である」とは?――Conversations on Consciousness: What the Best Minds Think About the Brain, Free Will, And What It Means to Be Human
 妄想全開:フロイトの過大評価をはっきりわからせてくれる見事な新訳――『新訳 夢判断』
 インチキだと知って読むと、読むにたえないシロモノではある――『失われた私』
 原資料をもとに、多重人格シビルのウソを徹底的に暴いた本。でも批判的ながら同情的でフェアな視点のため、非常に感動的で悲しい本になっている――Sybil Exposed: The Extraordinary Story Behind the Famous Multiple Personality Case
 え、プラナリアの実験もちがうの?!!――『オオカミ少女はいなかった』
 人を丸め込む手口解説します――悪用厳禁!――『影響力の武器』
 意識の話はむずかしいわ――『ソウルダスト』
 うーん、ヤル気の科学よりいいなあ――『WILLPOWER 意志力の科学』
 文明を築いた「読書脳」――『プルーストとイカ』

第10章 IT
 マイケル・レーマンの偉大……それと藤幡正樹――『FORBIDDEN FRUITS』
 さよなら「ワイアード」――「ワイアード 日本版」
 がんばれ!! 微かに軟らかい症候群――『マイクロソフト・シンドローム――コンピュータはこれでいいのか!?』
 コンピュータはあなたの知性を反映する!――『あなたはコンピュータを理解していますか?』
 プログラミングの傲慢なる美学と世界観――『ハッカーと画家――コンピュータ時代の創造者たち』
 気分(だけ)はジャック・バウアー!――『世界の機密基地―Google Earthで偵察!』
 意味を求める人間と、自走する情報のちょっと悲しい別れ――『インフォメーション―情報技術の人類史』
 バーチャル世界だけで人類は発展できるのだろうか――『ポスト・ヒューマンの誕生』
自分でできる深層学習――『Excelでわかるディープラーニング超入門』

第11章 ものづくり・Maker・テクノロジー
 技術的な感覚のおはなし――『root から/へのメッセージ』が教えてくれるもの
 夢のロボットたち:「ロボコンマガジン」は楽しいぞ――「ロボコンマガジン」
 狂気の自作プラネタリウムの教訓と可能性など。――『プラネタリウムを作りました。』 出来の悪い後輩たちの空き缶衛星物語と、草の根科学支援の方向性について――『上がれ! 空き缶衛星』
 本気で夢を実現しようとする驚異狂喜の積算プロジェクト――『前田建設ファンタジー営業部』
 施工見積から見えてくる空想と現実の接点――『前田建設ファンタジー営業部Part 3「機動戦士ガンダム」の巨大基地を作る!』
 トンネルの先の光明――『重大事故の舞台裏』
 ピタゴラ装置の教育効果――『ピタゴラ装置DVDブック1』
 世界に広がる、ミステリーサークルの輪!――The Field Guide: The art, History and Philosphy of Crop Circle Making
 自分で何でも作ってみよう! 農作物からITまで――『Made By Hand』
 よい子は真似しないように……いやしたほうがいいかな?――『ゼロからトースターを作ってみた』
 アンダーソンは嫌いだが、Makersビジネス重視の視点はおもしろく、実践も伴っていてえらい――『MAKERS―21世紀の産業革命が始まる』
 ものづくりとしての科学的お料理解説書――『Cooking for Geeks: 料理の科学』
 ジブリ『風立ちぬ』に感動したあなたに!――『名作・迷作エンジン図鑑』
 新ジャンルに取り組むアマチュアたちの挑戦とその障害をまとめた、わくわくする本――『バイオパンク―DIY科学者たちのDNAハック!』
 量産からバイオまですべてに貫徹するものづくり思想とは――『ハードウェアハッカー』

あとがき

著者
山形浩生(やまがた・ひろお)
1964年、東京生まれ。東京大学大学院工学系研究科都市工学科およびマサチューセッツ工科大学大学院修士課程修了。
大手シンクタンクに勤務の頃から、幅広い分野で執筆、翻訳を行う。
著書に『新教養主義宣言』『たかがバロウズ本。』ほか。訳書にクルーグマン『クルーグマン教授の経済入門』、ピケティ『21世紀の資本』、スノーデン『スノーデン 独白:消せない記録』、ディック『ヴァリス』ほか。

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Tunes Of Negation - ele-king

 電子音楽プロデューサーのサム・シャックルトンがベルリンを拠点に率いるグループ、チューンズ・オブ・ニゲーション(Tunes of Negation, 以下TON)の前作、『Reach the Endless Sea』は13世紀のペルシャの神秘主義詩人、ジャラール・ウッディーン・ルーミーから着想を受けている、ということを担当した自分のライナーの結びに書いた。それが全てではないにしろ、シャックルトンが、パーカッショニスト/作曲家タクミ・モトカワ、ヴィブラフォニストのラファエル・マイナートとともに新たなサウンドの地平を目指すプロジェクトが、TOGである。2020年、その2作目となる『Like the Stars Forever and Ever』が一年という短期間で我々のもとに届いた。
 まずは〈Skull Disco〉時代のシャックルトンの円循環的リズムのごとく、自分のライナーから反復させてもうが、イスラム神秘主義、つまりスーフィズムにおいて、無限的な存在である神への消滅を目指すことが主眼におかれている。それを実行する上で非常に重要な役割を果たすのが、高校の世界史の授業でも登場する、自我忘却へと向かうあの旋回するダンスである。音楽を通し、スーフィーたちは無限へと回転する。
 シャックルトンがやってきたダブステップとそれ以降のエレクトロニック・ダンス・シーンを見渡せば、このような非西洋由来の音楽の影響は散見される。シャックルトンとは共作で『Pinch & Shackleton』(2011)という名盤を残しているブリストルのピンチによる “Qawwali”(2006)(カッワーリーはスーフィズムの宗教童謡である。著者が住むロンドンでは、ムスリム系の住民たちは地域の大学や公民館などにあつまってその演奏会などを定期的に開いており、コミュニティの壁がないわけではないが、イギリスでは一般市民たちがその文化に触れる機会は決してゼロではない)、西欧の外側からやってきたトライバル・リズムと重低音のミクスチャーのある種の完成形を見せたクラップ!クラップ!の『Tayi Bebba』(2014)などは大きな例である。
 それらはダンスフロアにおいて、リズムを経由し非日常的な空間を出現させたわけだが、TONはよりコンセプチュアルな方向へと向かい、サウンドの持つ思弁性や崇高なアレンジメントを駆使し、各楽曲のタイトルが持つイメージを聴き手に想起させる。 それはアルバムに先立ち公開された “Your Message Is Peace” のビデオが、VRゴーグルを装着しているような一人称の視点から、ジャケットに描かれているサイケデリックの世界を探索していくように、「外側」の「内側」へと埋没させていく感覚に近いかもしれない(「矛盾」もTONのテーマであると今作のプレスリリースにはある)。
 これまでのシャックルトンのソロ作のように、敷き詰められたビートがあるわけではなく、太鼓がゆっくりと聞き手の意識を揺れ動かしながら空間を分割し、星のようにこぼれる旋律が、ソファにうずくまる身体を飲み込んでいく。埋没するVR的美学の採用という点や、彼と同世代のティム・ヘッカーが濃霧という自然現象が持つ超越性をアンビエントのフォーマットで表現していることを考慮すると、ここにはある種の同時多発的現代性も認めることができるだろう。

 フロアでの昇天というよりは、神秘的な感覚へと向かうTONだが、シャックルトンがこれまでに我々の身体を震わせてきた重低音も、今作では基調的に機能している。前作に引き続きゲストとして参加している、演奏家/ヴォーカリストのヘザー・リーが冒頭部分を飾る “Naked Shall I Return” では、多層化されたコーラスと入れ替わるように登場するサブベースが主導権を握り、ダブが発生させる磁場によって他パートの演奏にグルーヴを生んでいる。
 平均して一曲9分という長尺で構成されている今作は、一曲中だけでもドラマチックな展開がなされているが、アルバムの構成という点においても、異なるナラティヴが登場する。“You Touched Us With Light” では、それまでに生まれたリズムの磁場が消失し、視界の奥で微かになるヴィブラフォンと宙を舞う蝶のようなスネアが弾くポリリズムが、オルガンの旋律とともに奇妙なテクスチャーを生成している。光を経由して我々に接触してくる「You」という二人称は、おそらくは「神」のような超越存在を指しているのだろう。そのような抽象的存在と、触れることはかなわないが、確かに存在している光という「物体」の性質を表現するように、身体に響くという意味でのリズムの具象的な物質性がここでは後退していくかのようである。
 『Like the Stars Forever and Ever』で最後に登場する概念は、終曲のタイトルにも現れているように “Impermanence / Rebirth”、つまり「無常」と「転生」である。前作からの共通概念として今作に引き継がれているのは「無限」だが、今作においてシャックルトンはその対概念ともいえるものに触れているのだ。アルバム最長の15分にも及ぶ再生時間のなかで、これまでとは対照的により静かに進行していく楽曲は、光り輝く前半部とは逆方向の隠を写している。異なる概念たちをそれ相応のサウンドで鳴らしてみせる描写力は、電子音楽作家としてシャックルトンのひとつの到達点だろう。
 2020年はポーランドのマルチ楽器奏者ワクロー・ジンペル(Wacław Zimpel)との共作『Primal Forms』 を、今作と同様に〈Cosmo Rhythmatic〉からもシャックルトンはリリースしている。そちらはユニットであることに主眼が置かれ、より電子的なサウンドとリズムがサックスなどの楽器をシンプルに包握していく過程がスリリングな一枚だが、TONは四人のパフォーマンスにより、さらにアンサンブルな表現形態となっている。この流れでいくと、当然のことながら待たれるのは、この共作過程をへて「転生」したシャックルトンのソロ作品だろう。
 TONにあえて的外れの粗探しをすれば、ここにないのは、これまで我々をフロアで汗だくにさせてきた強靭で最高に滑稽なシャックルトンのダンス・ビートである。前作から引き続き無限と対面することにより、新たなサウンドをそこから引き出し、変化を予期させるタイトルで終わる今作。輝く星々のように無限ではないものとは何か。それは他でもない人間である。2021年、一度粉々に砕け散った世界の再生が期待されるタームにおいて、無限に接近した孤高の作家がその有限な生で何を作るのか。我々はそれを心して待たなければならない。

「良くわからないけどサウナに興味がある!」という初心者から、「いろんなサウナに行ってみたい!」という玄人まで、すべての女性サウナーが待っていたサウナ情報が満載!

「サウナはおじさんの行くところ」というのは過去の話、美容・健康面など女性からも注目を集めているサウナ。しかし、いまだに男性専用施設も多く、女性がリラックスして楽しめるサウナ情報はまだまだ限られています。
本書では、国内250施設、海外18カ国のサウナを探検してきた女性サウナーが厳選した施設紹介を中心に、おすすめの入浴方法やバッグに常備しているコスメ情報、サウナ後のお楽しみである飲食店など、カップルで行ける混浴施設、家族や友達同士で楽しめる貸切施設など、初心者から玄人まで幅広くサウナに興味のある方に応える一冊です。

目次

はじめに
サウナ入門編
サウナQ&A
サウナ用語集
サウナ女子のサウナ体験 思い出あれこれ
サウナレポート
  サウナと天然温泉 湯らっくす/東京新宿天然温泉テルマー湯/サウナラボ/8HOTEL CHIGASAKI
Part 1  国内サウナ施設ガイド
・東京
  ルビーパレス/センチュリオンホテル&スパ上野駅前/Smart Stay SHIZUKU/東京荻窪温泉 なごみの湯/改良湯/マンダラ・スパ/タイムズスパレスタ/東京ドーム天然温泉 スパ ラクーア/ドシー恵比寿/東京染井温泉SAKURA/黄金湯/おふろの王様 大井町店/ひだまりの泉 萩の湯/桜館
・関東
  ヨコヤマ・ユーランド鶴見/ファンタジーサウナ&スパ おふろの国/桜庵/スカイスパYOKOHAMA/横浜天然温泉SPA EAS/宮前平源泉 湯けむりの庄/お風呂cafe utatane
・静岡
  サウナしきじ/湯らぎの里/スパリゾートオアシス御殿場
・関西
  サウナの梅湯/タテバ/空庭温泉OSAKA BAY TOWER/大東洋レディス・スパ/神戸レディススパ
・名古屋
  リラクゼーション・スパ アペゼ
・北陸
  スパ・アルプス/舟橋・立山天然温泉 湯めごこち/シティスパてんくう
・北海道
  すすきの天然温泉 湯香郷/ログホテル メープルロッジ/スカイリゾートスパ プラウブラン
Part 2 カップルに、家族に、友達同士に――混浴サウナガイド
豊島園 庭の湯/大磯プリンスホテル Themal Spa S.Wave/蓮台寺温泉 清流荘/錦糸町SAUNA GARDEN/ume, yamazoe/THE SAUNA/Tocachi Sauna & Avanto/オーシャンスパ Fuua/舞浜ユーラシア/Mineralism

Part 3 サウナの後はご飯が美味しい! おすすめサウナ飯
サウナ施設/和食/中華・韓国/麺類…

Part 4 世界のサウナから――海外施設ガイド
SPA lei(韓国)/森の中の漢方ランド(韓国)/喬莉女子三温暖 July Lady Plaza(台湾)/Golden Lotus Healing Spa Land(ベトナム)/山忠(フィリピン)/Lavish spa(マレーシア)/Banya More(ロシア)/No,3 Banya(ロシア)/yu spa(アメリカ)/Archmedes Banya(アメリカ)/Wall Street Bath & Spa(アメリカ)/Vabali spa Berlin(ドイツ)/CopenHot(デンマーク)/Sauna Deco(オランダ)/AIRE Ancient Baths barcelona(スペイン)/Kulttuurisauna(フィンランド)/Kotiharjun Sauna(フィンランド)

コラム:「サウナ女子」ができるまで/サウナ旅のすすめ/テントサウナのすすめ/ラブホサウナのすすめ/男性専用サウナに行ってみました!/サウナーたちの憧れ、サウナフェス/サウナハット・マット・タオル/サウナバックの中身/入浴剤・アロマで家サウナ!

あとがき

著者
サウナ女子(サ女子)
SNS・ブログ「サウナ女子の世界」で女性とカップルのためのサウナ情報を発信。会社員として事業責任者、大学院生(MBA)、複数の副業などを行いながら世界・日本全国で約250施設、海外18カ国のサウナ、スパを探検。各種メディアへの連載、講演、テレビ出演などでサウナを広めている。アイコンの画像は、サウナの中でかぶる帽子「サウナハット」。
Twitter:@3unajoshi Instagram:@saunajoshi Blog:https://saunajoshi.com/

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Billy Nomates - ele-king

NOはもっとも大きな抵抗
あなたを無にすることにNO
NOは歩くこと、お喋りではない
ノー、それはいいことに思えない
YES、私たちが共闘すれば強い
しかし、NOはパワー
どんなときも、どんな場所でも
ビリー・ノーメイツ“No”

 ノー、ダメですよ、ダメ。洗練された我らが日本においては、権力や富の世界に向かって二本指を立てることなんてことはもう流行らないでしょう。だが、セックス・ピストルズを生んだ国では、2020年はビリー・ノーメイツ(友だちのいないビリー)という名の、ずば抜けた才能と熱いパッションをもったシンガーがデビューしている。夜中にいそいそとスーパーストロングの500mlを買っているような、いつだって財布が薄くて軽い人たちへの励ましの歌、スリーフォード・モッズに続く労働者階級からのみごとな逆襲である。
 レスター出身のビリー(本名Tor Maries)は、売れないバンドで歌いながら一時期はうつ病を患ったというが、スリーフォード・モッズに勇気づけられてふたたび音楽をやる決意をする。ぼくが彼女の存在を知ったのも、年明け早々に新しいアルバム『スペア・リブ』をリリースするスリーフォード・モッズの先行シングル曲、“Mork N Mindy”がきっかけだった。
 で、意外というかさすがというか、彼女の才能をいち早く見抜いたのは、ブリストルのジェフ・バロウ(ポーティスヘッド)だった。彼女のデビュー・アルバムはバロウ・プロデュースによる彼のレーベルからのリリースとなる。アルバムがリリースされたのは去る8月、だからこれは4ヶ月遅れのレヴューです。

プロテインシェイク飲んで鏡を見るのは、NO
恐れのない夜のジョギングには、YES
デジタル世界の物語には、NO
無意味な比較には、NO
私にはあなたの言葉がある

 しかしなんだろう、デビュー曲“No”のMVにおいて踊っている彼女を見ると、ぼくはそれこそザ・スリッツやザ・レインコーツといったポスト・パンクの偉人たちを思い出さずにいられない。男の目線なんかをまったく気にしていないその服装、その髪型、その立ち振る舞いがまずそうだし、ダンスのレッスンなどクソくらえと言わんばかりの動きがまた最高なのだ。
 “No”に続くシングル曲、“FNP”=Forgotten Normal People(忘れられた普通の人びと)は、鋭いシンセベースとエレクトロ・ビートの反復をバックに彼女がラップする。この曲もキラーだ。

私は床に寝る
狭い部屋で
やりたくない仕事のために
私はフォークでスプーンじゃない
すべては失敗にて終了
生活はあまりにも高価だし
あー、私を守るものなどない
そう、血が欲しい?
私はポジティヴだよ
 
かつてそのために走ってもみた
いつからやってみたけどダメ
1マイル離れても連中は私をかぎつける
だから私は不名誉ながら辞職
で、いま私にあるものと言ったら
私は何も所有していないという事実に
なにごとも私を所有できないということ

 もうひとつのシングル曲“Hippy Elite”では、題名通り環境のために活動する裕福なリベラルを面白く皮肉っているようだが、彼女の歌詞の主題もまた、スリーフォード・モッズとリンクしている。格差社会における持たざる者たちから生まれた詩であり、風刺であり、そして怒り。ひるむことのない情熱。

 ビリーの音楽もスリーフォード・モッズ・スタイル(あの冷酷なループ&ベース)を発展させたものだが、ジェフ・バロウがその卓抜したプロデュース能力をもって、そのフォーマットを鮮やかなポップ作品へと改変している。彼は本当に良い仕事をしたと思う。サウンドをざっくりと喩えるなら、スリーフォード・モッズ・ミーツ・ブロンディーとでも言えるのかもしれないけれど、全収録曲にはバロウらしく機知に富んだ実験(グリッチ、ミニマリズム、そしてベース&エレクトロ等々)があり、耳も心も楽しませてくれるわけだ。ええと、ジェイソン・ウィリアムソンも1曲参加しております!
 UKではコロナ禍においてスリーフォード・モッズのベスト盤がチャートの上位になったが、まあ、いまの日本ではこうしたパンクな音楽は売れないということでとくに話題にもならなかった。だが、政治のトップがことごとく不信を増幅させているご時世、この手の音楽を必要としている人たちは必ずいるはずである。そもそもビリーの音楽は、消費生活を気ままに謳歌することなど到底できない、まったく味気ない日常を送っている人たちが日々をオモシロ可笑しく過ごすための知恵でもあるのだ。いやー、良かった。2020年という悪夢のような1年にもひと筋の光があった。

New Order - ele-king

 いまから20年後の未来では、音楽ファンはこう振り返るでしょう。「ああ、2020年の最悪な年にはニュー・オーダーが“ビー・ア・レベル(Be a Rebel)”を発表したっけ……」。ニュー・オーダーの5年ぶりの新曲、まあ、ずいぶん話題になりました。多くのリスナーのなかにNOには少なからず熱い思いがあるからでしょう。で、その熱い曲のミュージック・ヴィデオが公開されました。これもまた、シュールかつ暗示的な、なかなかの力作です。また、限定アナログ12インチが12月4日(金)に発売されます。こちらには、バーニーとステファンによりリミックス・ヴァージョンが収録されます。

[YouTube] https://youtu.be/JOoyPT6RoF4
[LISTEN & BUY] https://smarturl.it/nobar

■以下はレーベルからの資料より

 ミュージック・ヴィデオはスペインのNYSUが制作し、バンドは次のように述べている。

“マドリードのNYSUには、「レストレス」(最新アルバム『ミュージック・コンプリート』収録)のミュージック・ヴィデオを以前作ってもらったんだけど、彼らの映像に対するイマジネーションには僕らバンドも心底感銘を受けていたんだ。今回「Be a Rebel」で再び彼らとタッグを組んだんだけど、インスピレーションあふれる独特の美的感覚で独創的なヴィデオを作ってくれました”


 コロナ禍の影響により発売が延びていたアナログ12インチは、12月4日(金)に発売が決定した。この12インチには、オリジナルの他、バーナード・サムナー、スティーヴン・モリスのリミックスなど全4曲が収録されている。またバーナード・サムナーのリミックス「Be a Rebel (Bernard’ s Renegade Mix)」は、adidas Spezialとのコラボレーションで使用された曲のオリジナル・ヴァージョン。

[adidas Spezial CF/ YouTube]
https://bit.ly/3mvGsTg

 「タフな時代だからこそ、この曲をみんなに届けたかったんだ。ライヴはしばらくできないけれども、音楽は今なお私たちみんなで分かち合えるもの。楽しんでもらえると嬉しい……また会える日まで」──バーナード・サムナー

 本来この曲は、今年秋に予定されていた彼らのツアーに先駆けて発売される予定だったが、そのツアーは2021年に延期され、それでも困難な時にこの曲を発売することの意義をバンドが感じて発売に至った。また、今年3月に予定されていたジャパン・ツアーは、コロナ禍の影響により2022年1月に実施される。(https://www.creativeman.co.jp/event/neworder2020/)

「反逆者になろう 破壊者じゃなくて」と歌われるこの高揚感あふれる曲は、このタフな時代においてわれわれ自身を祝い、いま持っているものに感謝しようというメッセージが込められている。その歌詞の対訳は以下の通り。

■「ビー・ア・レベル」(Be a Rebel)歌詞対訳
https://trafficjpn.com/news/nobar/

■ジャパン・ツアー日程
大阪 2022年 1月24日(月) ZEPP OSAKA BAYSIDE
東京 2022年 1月26日(水) ZEPP HANEDA
東京 2022年 1月28日(金) ZEPP HANEDA
制作・招聘:クリエイティブマン 協力:Traffic
https://www.creativeman.co.jp/event/neworder2020/

■商品概要(アナログ12インチ)
NOBAR Insta Square 3.jpg
アーティスト: New Order
タイトル: Be a Rebel
発売日:2020年12月4日(金)

― Tracklist ―
A1. Be a Rebel
A2. Be a Rebel (Bernard’ s Renegade Mix)
B1. Be a Rebel (Stephen’ s T34 Mix)
B2. Be a Rebel (Bernard’ s Renegade Instrumental Mix)

[BUY] https://smarturl.it/nobar

■最新オリジナル・アルバム『ミュージック・コンプリート』(2015年)まとめ
https://bit.ly/1FHlnZJ

■ニュー・オーダー バイオグラフィ
https://trafficjpn.com/artists/new-order/

今里(STRUGGLE FOR PRIDE/LPS) - ele-king

敷居を高くしていないとご飯が食べられない人達のお茶碗を、
夜な夜な割っていく作業に従事しています。

1.META FLOWER /DOOM FRIENDS
誠実な人柄が全ての作品に現れていて、動向がとても気になる。LSBOYZのALBUMも最高でした。

2.JUMANJI/DAWN
くそみたいな気分で目が覚めた朝方でも、再生した瞬間にFRESHにしてくれる。

3.YOUNG GUV/RIPE 4 LUV
AOYAMA BOOK CENTERの店員さんが教えてくれた。どうもありがとうございます。

4.HATCHIE/KEEPSAKE
今は亡きBONJEUR RECORDS LUMINE新宿店の店員さんが教えてくれた。どうもありがとうございます。

5.ISAAC/RESUME
こういう気持ちにさせてくれる音楽が身近にあることに、心から感謝しています。

6.MULBE/FAST&SLOW
DO ORIGINOOを聴きながら豊洲を歩いていたら、一瞬どこに居るか解らなくなった。

7.SHOKO&THE AKILLA/SHOKO&THE AKILLA
武道館ライブ楽しみにしてます!

8.HIKARI SAKASHITA/IN CASUAL DAYS
誕生日を過剰にアピールしたら送ってくれた。どうもありがとう。

9.CAMPANELLA/AMULUE
今になって思うと待ち続けてた時間も楽しかったし、
聴いてすぐに報われた。

10.CENJU/CAKEZ
「もしもVINがいたらあんなもんじゃ済まなかった」って笑って帰宅して、
すぐに再生した。
発売には立ち会えなかったけど、当時の我々の空気が全て詰まってる。

Battles - ele-king

 先日強者ぞろいの面子が参加したリミックスEP(ブラック・ミディ、シェッド、デルロイ・エドワーズ、DJニガ・フォックス)をリリースしたばかりのバトルズが、最新作『Juice B Crypts』収録曲 “Sugar Foot” のMVを公開している。

 日本のお祭りがモチーフとなった同映像には、コロナ禍で動けない音楽関係者や祭事関係者を励ます意図が込められているそう。暗いニュースが続く毎日だけれど、明けない夜はない。このMVを観て元気を出していこう!
 ちなみに、『Mirrored』時代のTシャツが復刻されるとのことなので、下記をチェック。

Cuushe - ele-king

 京都から世界にむけてドリーミーなエレクトロニカ・ポップを発信してきたクーシェ(Mayuko Hitotsuyanagi)が、前作EP「Night Line」から5年の歳月を経て待望の新作アルバムをリリースした。アルバムとしては2013年の『Butterfly Case』より7年ぶりである。
 エレクトロニカ・リスナーにとっては、まさに待望のという言葉に相応しいアルバムだが、そんな聴き手の思い入れを吹き飛ばすほどに、とても強い意志が光のシャワーのように溢れていた。
 とはいっても過激な音楽というわけではない。2009年のファースト・アルバム『Red Rocket Telepathy』から続くエレガントでポップな音楽世界がアルバム全編にわたって展開されており、聴きはじめた瞬間にクーシェならではの透明な世界観に一気に引き込まれてしまうことに変わりはない。だから過去2枚のアルバムを長年愛聴してきた熱心なリスナーは安心してクーシェ的電子音楽世界に飛び込んでいってほしい。

 と同時に『WAKEN』には明らかに進化している面がある。変化ではなく進化だ(深化といってもいいかもしれない)。「WAKEN」というアルバム名どおり、朝の目覚めのような生命力に満ちたエレクトロニック・ミュージックとなっているのだ。
 まず、楽曲を包み込むサウンド・レイヤーの緻密さ、美しさが、これまでのアルバム以上に磨きがかかっている点だ。たとえば1曲め “Hold Half” を聴いてほしい。電子音、アナログ・シンセサイザー、ギター、彼女の声が折り重なりあい、大きなハーモニーを形成し、清冽な音響を展開していることがわかるはずである。
 続く2曲め “Magic” はややダークなムードのなか、少しずつ光が差し込んでいくような楽曲だ。無駄のないトラックの構成、和声感とメロディの絶妙さに聴き入ってしまう。ディレクター田島太雄、アニメーション・ディレクター久野遥子が手掛けたMVも楽曲の世界観を見事に映像化した傑作だ。

 加えてビート/リズムの深化にも注目したい。クラブ・ミュージックの音響と音圧を取り込んだ複雑かつ大胆なビートは、クーシェの歌と絡み合うことによって、彼女の音楽にかつてないほど疾走感を生み出すことに成功している。
 特にUKガラージ的なビートと、水墨画のような音世界のなかで、エモーショナルなヴォーカルを展開する “Emergence”、ドラムンベースを導入したミニマル・ポップな “Not to Blame”、重低音のキックに優雅なピアノを交錯する “Drip” などは、クーシェがこれまでと違うフェーズに突入したことを告げる楽曲たちである。
 そして最終曲 “Spread” では日本語の歌詞をはっきりとした声で歌唱する。ヴォイスのまわりに電子音のレイヤーが美麗に重なり、まるでエレクトロニカ・ウォール・オブ・サウンドのように壮大な音響を生成していく。アルバムの最後を飾るに相応しい曲であり、自分と心の中の宇宙とが交信していくような壮大で感動的な曲である。アルバムを聴き終えたとき、一作の物語を読み終えたような感慨に耽ってしまったほどだ。

 全曲、これまでのアルバム・楽曲以上に、メロディが明瞭になり、歌詞などの言葉と共に「伝えたい意志」がより明確になっていた。そしてベースとコードとビートの関係が密接になることでより疾走するようなエモーショナルな感覚が楽曲に生まれてもいた。
 かつて瀟洒なエレクトロニカ・ドリーム・ポップによって多くのリスナーを魅了したクーシェは、「夢」の世界から目覚めて、この不穏な「現実」を肯定し、2020年の世を力強く生きていく「意志」の音楽を作り上げた。
 その「肯定の意志」こそ、この現代おいて、とても大切な「希望」をわれわれに伝えてくれるものではないかと思う。多くの音楽ファンに届いてほしいアルバムである。

Public Enemy - ele-king

 80年代後半、Boogie Down Productions らと共にコンシャス・ヒップホップのムーヴメントを作り出し、さらにその革新的な音楽性によって、ヒップホップ史上最も偉大なグループのひとつとして高く評価されている Public Enemy。1987年にリリースされた1stアルバム『Yo! Bum Rush the Show』から代表作である2nd『It Takes a Nation of Millions to Hold Us Back』(1988年)を経て、4thアルバム『Apocalypse 91... The Enemy Strikes Black』(1991年)くらいまでが彼らの作品としてのピークであるが、2000年以降も精力的に制作を続けており、今年(2020年)9月に通算15枚目のアルバムとしてリリースされたのが本作『What You Gonna Do When the Grid Goes Down?』である。

 80年代の Public Enemy をリアルタイムに知っているようなヒップホップ・ファンであっても、おそらく近年の彼らの作品をチェックしていた人は多くはないだろう。個人的にも90年代後半の時点で、彼らのメッセージや音楽性も含めて全てが時代遅れに感じていて、過去の偉大なアーティストという位置付けであったのは否めない。しかし、コロナ禍かつBLMムーヴメントが盛り上がっていた今年6月にリリースされた、DJ Premier のプロデュースによる先行シングル “State of the Union (STFU)” を初めて耳にした瞬間、あの最も輝いていた頃の Public Enemy を思い起こさずにはいられなかった。(リリース当時)大統領再選を目指していたドナルド・トランプへ向けた、Chuck D と Flava Flav が発するストレートなメッセージと DJ Premier のハードなビートは、いまの時代の空気感にも完全にフィットし、ヒップホップの持つ普遍的な力を改めて証明してくれた。

 アルバム・タイトルにある「Grid」はインターネットを意味しており、Cypress Hillと George Clinton をゲストに迎えた “GRID” では、インターネットに依存した現代社会へ警鐘を鳴らしている。正直なところ、このテーマにはあまりピンとこないのだが、2010年代以降、Public Enemy のほぼ全てのアルバムに参加し、本作のメイン・プロデューサーとも言える C-Doc が手がけるロックテイストの強い、90年代前半頃の Public Enemy らしいサウンドに乗った Chuck D のラップには往年の勢いを感じさせ、自然と頭が揺れてくる。

 本作の目玉と言えるのが、Public Enemy の代表曲のセルフリミックスである “Public Enemy Number Won” と “Fight The Power: Remix 2020” の2曲だろう。前者はオリジナルの “Public Enemy #1” そのままのトラックの上で、Beastie Boys の Mike D と Ad-Rock が初めて Public Enemy のデモを聞いたときの思い出話をイントロで語り、さらにメインの部分には Run-DMC が参加。残念ながら Run-DMC のラップに最盛期のキレは感じられないものの、Public Enemy、Beastie Boys、Run-DMC という3者の夢の共演には興奮せずにはいられない。BLMムーヴメントに呼応してシングル・リリースされた “Fight The Power: Remix 2020” には Nas、Black Thought、Rapsody、YG などベテランから若手まで幅広くゲストが参加し、原曲のメッセージ性がいまなお色褪せないことを教えてくる。

 ちなみに本作は Public Enemy の古巣でもある、いまなおアメリカを代表するヒップホップ・レーベルの〈Def Jam〉からリリースされており、実に26年ぶりのレーベル復帰となる。もちろん、今後も〈Def Jam〉との契約が続く保証もないし、本作によって彼らが第一線に復帰したというわけでもない。しかし、このアルバムによって、Public Enemy があの黄金時代の輝きを一瞬でも取り戻したことは、一ファンとしても実に喜ばしいことである。

ジオラマボーイ・パノラマガール - ele-king

 このごろ90年代のことをよく考える。夢にみるほどである。そこで私はオシャレなサブカル雑誌の編集者で六本木にある編集部を出て大通りを交差点のほうから西麻布にむかって東北へ歩いていると、大きいだけで味気ないビルが建っているべき「六本木六丁目交差点」のあたりに、私は20余年前になくなったはずの小ぶりなビルが建っていた。
「WAVE」の文字をかかげた青灰色の窓のない概観はミズっぽさがなかなか抜けない六本木の空間で異彩を放っており、甘い水にさそわれる蛍のように建物内にすいこまれると、フロア一面を無数の棚がしめており、そこには世界各地から集めたレコードがびっしりならんでいる。そうだ、ここでは4階から順繰り降りながら全フロアをくまなくみてまわるのがノルマだったと気づいた私はエレベーターで現代音楽コーナーをめざすのだが、お客さんも店員も、建物内のすべてのひとたちが知り合いなのにしだいに気味がわるくなり、地下の映画館に逃げ込むも、次から次にあらわれるモギリのみなさんがまたしても顔見知りで、ことばにならない不安をおぼえながら、おそらくフィリップ・グラスが音楽つけただかなんだかの映画をみるともなくみて、逃げ帰るようにその建物をあとに、たちよった書店で手にした雑誌の表紙に、あっ、と声をあげたのはそこに「特集岡崎京子」とあったからである。

 私はサラリーマン編集者だったときも競合他誌なるものを意識したことはないが、勤めはじめてほどない、たしか2000年あたりだったかに出た「スイッチ」のこの特集と、会社に三行半をつきつけたあたりに出た「ペン」のキリスト教の特集にはやられたと思った。なんとなれば、雑誌の特集には時代のほかにたよるあてもない。追認や迎合や、ましてや広告宣伝などではなく、それが世に出てはじめて、読みたかったのはこれなのだと気づかせるなにかを、私は先述の2誌の特集にみたのであろう。
 とはいえ「スイッチ」の特集は「岡崎京子×90年代」だった(と思う)。また恐縮なことに、私はこの号を青山ブックセンター六本木店で購入したものの1ページもめくることなく編集部内で紛失してしまい、いまにいたるも内容のひとつも知らない。やられたとかいえた義理でもないのだがしかし、テーマや書名だけでなりたつ本や雑誌というものもある。2000年代初頭岡崎京子をとりあげるのはその典型であるように私に思われた、その一方で思うのである、なぜ90年代なのか。幕を下ろしたばかりの90年代への追慕の意味合いがあったにせよ、岡崎京子は90年代の表象なのか。岡崎京子の(六本木WAVEが開店した)1983年から96年にいたる(現状での)活動期間を考えると80年代のほうが長いではないか。そしてまた90年代は特定の人物や事象に収斂する時代なのか。それはひとことでいえるようなことなのか。

 そもそもいつからが90年代なのか。この問いが多くの識者を悩ませてきたのはひとの世は数値ほどデジタルではないからである。2020年代に入った途端に2010年代が蒸発するはずもない。その線でいけば、90年代と80年代もたがいにのりいれているであろう。それさえもみるものによる視差がある――とはいえ90年代を起点に2年以上は前後しないのではないか。そうでなければディケイド切りそのものがあやふやになる。この点をふまえ、仮に1990年代のはじまりは2年前の88年だったとしよう。
 1988年は昭和63年である。世はバブル景気に湧き、リクルート事件が起こり、4月の東京ドーム公演をもってBOØWYが解散した。その2年前のチェルノブイリ事故を受けたブルーハーツの「チェルノブイリ」は自主レーベルからは出せたけどRCの『Covers』は大手だったので発売できなかったのも88年。この年の3月10日号から掲載誌が休刊の憂き目をみる11月10日号まで『ジオラマボーイ・パノラマガール』は雑誌「平凡パンチ」に連載した、作者の経歴では中期の代表作ということになろうか。

 物語は東京郊外の高校生である津田沼ハルコと神奈川健一のすれちがいと出会いを軸に、ふたりの家庭や学校生活がからまる構図をとっている。設定への特段の註記はないが、時制はおそらく作品連載時と同じく1988年、舞台は東京の郊外であることは主人公の名前があっけらかんとしめしている。本作はほかにも、岡崎作品を同定する指標である音楽、ファッション、風俗への遊戯的な言及があり、そのことは文化系男女の共感の入口であるばかりか、作者の人間観ひいては人物造形の土台ともなる。事物性をつきつめたはてにあらわれるモノになった身体同士が擦れるさいにたてるあの乾いた孤独な音が岡崎京子の主調音であれば、それは1989年の『Pink』で剥き出しになり、このあたりを90年代のはじまりとするのが至当だが、すでにしてそれは1988年の『ジオラマボーイ・パノラマガール』に潜んでもいた。
 80年代から90年代へのグラーデションが『ジオラマ~』を彩っている。『リバーズ・エッジ』や『ヘルター・スケルター』など、映画にもなった後期の代表作と比して『ジオラマ~』には作家として洗練の課程で整理すべき雑多な要素が手つかずでのこっている。広津和郎なら散文精神とでも呼びそうなものと娯楽性の帳尻をどのようにあわせるか。瀬田なつき監督の『ジオラマボーイ・パノラマガール』にのぞむにあたって、私がもっとも興味をおぼえたのはその点だった。

 結論からもうしますと、瀬田なつきは原作の輪郭をなぞりながらも『ジオラマボーイ・パノラマガール』をまったく新しい物語に「再生」している。主人公の渋谷ハルコと神奈川ケンイチを演じるのは山田杏奈と鈴木仁。俊英ふたりの存在感には高校生の男女の出会いとすれちがい、恋や片思いといった一大事を描くにうってつけのみずみずしさがある。
 その一方で、物語の設定には異同がある。ハルコの苗字は津田沼から渋谷にかわり、彼らの生活圏もどこぞの匿名的な郊外から湾岸方面に移っている。そのことはスクリーンに映る光景が如実に物語るが、現在の空気と地続きの景色を前にして、私は90年代にはしぶとくのこっていた中心と周縁といった二項対立の枠組みがきれいさっぱりなくなっているのに気づいた。渋谷と津田沼は本来、パルコとパルコレッツ、ラフォーレ原宿とラフォーレ原宿・松山ほどの隔たりがあったはずだが、標準化の波にあらわれた世界における差異は類似性のバージョンとして誤差の範疇に収斂する。このことは些末なようでいて1990年代と2020年代の懸隔をみるうえで不可避であるばかりか物語の主題とも密接にかかわっている。なんとなれば『ジオラマボーイ・パノラマガール』とはタイトルがあらわすとおりトポスの物語なのである。

 原作の副題「“BOY MEETS GIRL!” STORY “IN SHU-GO-JU-TAKU”」もまた、作者がこの作品を場所性から構想していたことをほのめかす。むろん創作における構想などきっかけにすぎず、マンガも映画も、ときにそのことをわすれたようにすすむが、彼らがよってたつのもそのような場所であるのにかわりはない。作中では集合住宅に住むハルコと戸建て住まいのケンイチの対比が基調となる。では集合住宅と戸建てとのちがいとはなにか。この問いに橋本治は『ぼくたちの近代史』で家には外があるがマンションには内側しかない、と答えている。さらに家庭の主婦などはちょっとばかしカンちがいしているのかもしれないが、彼女らは家庭に仕えるのでも家庭というカテゴリーに仕えるのでもなく、「家」という建物に仕えている、と喝破するのである。
「家というものが町の中に、そのような置かれ方をしてしまっているんだから、家に仕えるしかないわけで、これを断つ為には家から消えるしかないってんで、俺もう、家なんか見るのもやだってマンションに行っちゃったのね、逃げるように。
 家っていうのは一つの観念なんだよね。この観念てのは、とっても土着的なもので、とってもオバサン的なもので、主人を待望するものでもあるけど、決して主人を存在させないようなもので、適応というものを強制するもの。「家庭が」じゃないのね。家ね。家という建物ね。建物が存在する為、存在するだけで、そこに意味というのが派生しちゃうから、家というものは、それだけの意味を持つのね」(橋本治/ぼくたちの近代史/河出文庫)

 橋本の論旨は戸建て住まいのケンイチの両親が不在のかたちで空位になっているところなど、物語の無意識をいいあてるかにみえる。「オバサン的」など、PC的にどうかなーといわれそうなものいいもあるにせよ、そこにはおそらく江藤淳が『成熟と喪失』でこころみたような家父長制分析への橋本からの柔和な回答の側面もあっただろう。本稿ではただでさえ広げすぎの風呂敷をこれ以上広げないためにもこの点は指摘するにとどめるがしかし、橋本の上の発言が1987年11月15日のものであることには留意すべきであろう。
 なぜ日づけまではっきしているかといえば、『ぼくたちの近代史』の元になった講演がこの日おこなわれたから。会場となったのはパルコやWAVEの親会社でもある西武百貨店は池袋店のコミュニティカレッジ、企画の担当者はカルチャーセンターに勤めていたころの保坂和志である。二度の休憩と三度衣裳替えをはさみ三部構成で都合六時間、しゃべりまくりだったという講演のテーマは多岐にわたる。先の発言があらわれるのは「リーダーはもう来ない」と題した第二部。ここで橋本は先の発言につづき「これ(家/筆者註)は何かに似ているって、実はこれ、「田舎」に似てるんだよ」とつづけている。なかなか刺激的な発言だが、そのことばはバブル期につきすすんだ80年代末の時代の空気をまとっている。そしてその空気はおそらく『ジオラマボーイ・パノラマガール』執筆時の岡崎京子が呼吸していたものでもある。
 都市が郊外にむけて自己増殖するような、80年末から90年代初頭にかけたうわついた感じはいまはどこにもない。瀬田なつきはそれらを二度目の東京五輪をあてこんだ2019年の再開発の風景で代用する。舞台が湾岸らへんなのはそのせいだろうが、その一方で橋本のいう「マンション(都会)vs家(田舎)」的な対立の構図もいまでは描きづらい。90年代から現在にいたる失われた30年は成長だけでなくそこから派生する都会や理想的な生活への憧憬をも阻害した。原作のハルコが嫌悪する生活臭も都心へのあこがれも当時よりはずっとうすい。閉塞感の質がちがうといえばいいだろうか、ケンイチは原作でも映画でもある日衝動的に学校を退学するが、そのような高校生はいまでは稀少な部類なのではないか。いまなら辞める前にひきこもるか不登校になる。時間の重み、いや刹那の質みたいなものがきっと変わったのだろう――そんなふうにも30年前に高校生だった私は思う。
 それらの変化にたいして場所性だけが例外というわけにもいかない。先に述べた『ぼくたちの近代史』の第二部「リーダーはもう来ない」につづく第三部を橋本は「原っぱの理論」と名づけている。橋本はそこで原っぱという社会がほしいという。世の中がいくら縮まってもみんなでつくる混沌を存在させる場所、町という秩序のなかにあって、私有権はありそうだけど世間の支配体制のおよばない子どもたちの社交の場のような。高度経済成長期はそんなのが近所のそこここにあった、昭和の最後にバブル景気がおこり、平成がはじまり時代が90年代にはいったころ、街中の原っぱは不動産になった。むろん拡張する都市は郊外をうみだしつづけその外殻には原っぱがある。とはいえ橋本のいう原っぱは阪神淡路大震災とオウム事件が分断する90年代の後半にいたって、岡崎京子が『リバーズ・エッジ』で描く不吉なものが横たわる現実界にも似た境界域になった。

『ジオラマボーイ・パノラマガール』が描くそこからさらに四半世紀後の世界である。そこではファッションも音楽も流行も、村上春樹の受容の程度も十代の男女の性愛の経験値も90年代とはへだたりがある。日々の暮らしの平坦さひとつとってもそうだ。あの時代からこの方ずっと真っ平らな日々ばっかだったわけはない――、大袈裟にいうとそのことの希望も絶望も描くのが物語の再生であり、この文字面からしてめんどくさそうなことを瀬田なつきは『ジオラマボーイ・パノラマガール』でやってのけている。注目すべきは終始すれちがいつづけたハルコとケンイチがはじめて出会うマンションを建設中のタワマンに置き換えたところ。それにより瀬田は原作の主題は現代的にアップデイトし、あからさまな文明批評を回避する。ゴダール風の冥府降り(昇り?)や不法占拠のパンキッシュさは瀬田なつきと岡崎京子というふたりの作家が二重写しになる場面である。そのはてにあらわれるハルコとケンイチの対面の場面での山田杏奈の表情の変化はとても印象にのこった。このときのハルコの表情の変化には顔色が変わるという慣用句をこえて物語のそれまでの時間をひきうける輝きがある。また余談めいて恐縮だが、映画版は「パン屋襲撃」のくだりがないぶん、『東京ガールズブラボー』が自転車泥棒の逸話を援用している。ほかにも、おばあさんの魂がのりうつるというオカルト要素がUFO的なセカイ系の話に置き換わるなど、90年来来のファンには原作との異同をくらべる楽しみもあるが、私をふくめた古株たちは作中で大塚寧々が演じるハルコの母親と同じ場所にすでに退いているともいえる。小沢健二の「ラブリー」が流れる場面は1990年代(前半)と2020年の若者をつなぐ回路となるが、時間的にも空間的にも多層性を潜在させる世界を側面から支えているのは山口元輝の音楽である。映画音楽を手がけるのははじめということだが、クラブのくだりやエンディング曲など、懐の広さと作品との距離のとりかたなど、映画音楽作家の資質のゆたかさをしめしている。

映画『ジオラマボーイ・パノラマガール』予告編

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