「Ord」と一致するもの

King Coya - ele-king

 やはりマーラの存在は大きかったのだろう。サウンドそれ自体のおもしろさや強度はもちろんだけれど、彼の功績はディプロや M.I.A. 以後、ベース・ミュージックの新しい聴き方を用意したことにもある。以前からあった世界各地の民族音楽を、それそのものとは異なる角度から、つまりはダブステップ以降のベース・ミュージックの文脈において消化するという体験。それは受容法の更新でもあるがゆえに、「似たようなことはすでに誰それが十年前からやっていた」というテンプレートは著しくその効果を減退させることになる。

 ブエノスアイレスのレーベル〈ZZK〉は、近年はニコラ・クルースの活躍でその名を耳にすることが多いが、もともとはコンピレイション『ZZK Sound Vol.1』(2008年)でディジタル・クンビアを世に知らしめたレーベルである。コロンビアにルーツを有するクンビアがアルゼンチンでクラブ・ミュージックへ昇華されるというそもそもの経緯からして興味深いわけだけれど、そのシーンを牽引してきた同レーベルが設立10周年を迎えるこの年に、当時の活気を思い出させるようなアルバムを送り出してきた。

 キング・コジャことガビー・ケルペルは、本名名義で2001年に発表したフォルクローレのアルバム『Carnabailito』が〈Nonsuch〉によってライセンスされたことで注目を集めた、ブエノスアイレスのプロデューサーである。そのケルペルがフロアを志向し、大胆にエレクトロニクスを導入したプロジェクトがキング・コジャで、上述の『ZZK Sound Vol.1』への楽曲提供を経て、翌2009年にはフル・アルバム『Cumbias de Villa Donde』を発表している。IDMやアンビエント的な発想も導入するなど、ディジタル・クンビアに留まらないその多様な表現は、トレモールらとともにアルゼンチン音楽の新世代として脚光を浴びたわけだが、その後トム・トム・クラブやアマドゥ&ミリアムなどのいくつかのリミックス・ワーク、あるいはバルヴィーナ・ラモスとの共作を除けば、リリースは長いこと途絶えていた。そんな彼が9年ぶりに発表したソロ・アルバムが本作『Tierra de King Coya』だ。

 結論から述べると、フォルクローレとベース・ミュージックとの融合がこのアルバムの肝になっていて、そういうと以前とさほど変わりないように思われるかもしれないけれど、たとえば冒頭“Te digo Wayno”の中盤で乱入してくるベースに体現されているように、低音の鳴らし方がマーラ以降を感じさせる作りになっている。ほかにも、クドゥーロを独自に咀嚼しながらダークな雰囲気を演出する3曲目“Algo”(ラップを務めるのはケルペルの妻であり、〈ZZK〉からのリリースもある歌手のラ・ジェグロス)のように、前作とはまた異なる形でおもしろい試みが多くなされている。どことなく M.I.A. を想起させるヴォーカルが印象的な6曲目“Pa que yo te Cure”も、ナスティさを携えながらまったくといっていいほど下品さは感じさせず、ケルペルのさじ加減のうまさを堪能することができるし、最終曲“Icaro Llama Planta”でリズムと上モノが醸し出す不思議なムードは、リスナーを酩酊の境地へと誘うこと請け合いである。

 随所で顔を覗かせる笛のためだろう、アルバム全体としては前作以上にフォルクローレ色が強まっている感があるものの、それに負けじと低音のほうもぶんぶん度合いを増していて、この10年のあいだにダブステップ以降のベースが世界各地へ浸透したことを改めて教えてくれる。やっぱりジャイルス・ピーターソンの先見性はずば抜けていたというか、かつて彼がキング・コジャのファースト収録曲をモー・カラーズとサブトラクトのあいだに挟んで繋いでみせたのは、ある種の予言だったのかもしれない。とまれ、ブエノスアイレスのヴェテランによるこのカムバック作は、いわゆるグローバル・ベース~グローバル・ビーツの成熟を知るのにうってつけの1枚と言えるだろう。

Bliss Signal - ele-king

 今、音楽の先端はどこにあるのか。むろん、その問いには明確な答えはない。さまざまな聴き手の、それぞれの聴き方よって、「先端」の意味合いは異なるものだろうし、そもそも音楽じたいも現代では多様化を極めており、ひとつふたつの価値観ですべてを語ることができる時代でもない。
 だが、少なくともこれは「新しいのでは」と思えるという音楽形式がごく稀に同時代に存在する(こともある)。たしかに、その場合の「新しさ」とは、「歴史の終わり」以降特有の形式の組み合わせかもしれないし、音響の新奇性かもしれないが、ともあれ今というこの情報過多の時代において音楽を聴くことで得られる「新鮮な感覚」を多少なりとも感じられるのであれば、それは僥倖であり、得難い経験ではないかとも思う。
 聴覚と感覚が拡張したかのようなエクスペリエンスとの遭遇。例えば90年代から00年代初頭であれば、池田亮司、アルヴァ・ノト、フェネス、ピタなどの電子音響のグリッチ・ノイズから得た聴覚拡張感覚を思い出してしまうし、10年代であれば、アンディ・ストットやデムダイク・ステアによるインダストリアル/テクノのダークさに浸ってしまうかもしれないし、近年では今や大人気のワンオートリックス・ポイント・ネヴァーの新作や音楽マニア騒然のイヴ・トゥモアの新作が、われわれの未知の知覚を刺激してくれもした。
 ここで問い直そう。ではワンオートリックス・ポイント・ネヴァーらの新譜においては何が「新しい」のか。私見を一言で言わせて頂ければ、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーもイヴ・トゥモアもノイズと音楽の融解と融合がそれぞれの方法で実践されている点が「新しい」のだ。ノイズによって音楽(の遺伝子?)を蘇生し、再生成すること。彼らのノイズは、旧来的な破壊のノイズではなく、変貌の音楽/ノイズなのである。そう、今現在、音楽とノイズは相反する存在ではない。
 その意味で、2018年においてインダストリアル/テクノとメタルが交錯することも必然であった。むろん過去にも似たような音楽はあったが、重要なことはインダストリアル/テクノ、ダブステップ、グライムの継承・発展として、「インダストリアル・ブラック・メタル」が浮上・表出してきたという点が重要なのである。ジャンルとシーンがある必然性をもって結びつくこと。それはとてもスリリングだ。

 ここでアイルランドのブラック・メタル・バンド、アルター・オブ・プレイグスのリーダーのジェイムス・ケリーと、UKインスト・グライムのプロデューサーのマムダンスによるインダストリアル・ブラック・メタル・ユニットのブリス・シグナルのファースト・アルバム『Bliss Signal』を召喚してみたい。彼らのサウンドもまた音楽の「先端」を象徴する1作ではなかろうか。いや、そもそも「Drift EP」をリリースした時点で凄かったのが、本アルバムはその「衝撃」を律儀に継承している作品といえよう。
 アルバムは、闇夜の光のような硬質なアンビエント・ドローンである“Slow Scan”、“N16 Drift”、“Endless Rush”、“Ambi Drift”と激烈なインダストリアル・メタル・サウンドの“Bliss Signal”、“Surge”、“Floodlight”、“Tranq”が交互に収録される構成になっており、非常にドラマチックな作品となっている。ちなみにリリースはエクストリーム・メタル専門レーベルの〈Profound Lore Records〉というのも納得である。なぜなら同レーベルはプルリエントの『Rainbow Mirror』をリリースしているのだから。
 メタル・トラックもアンビエント・トラックもともに、ジェイムス・ケリーの WIFE を思わせるエレクトロニックなトラックに、マムダンスの緻密かつ大胆な電子音がそこかしこに展開されるなど、ブラック・メタリズムとウェイトレスなポスト・グライムが融合した音楽/音響に仕上がっており、なかなか新鮮である。もしもこのアルバムが2016年に世に出ていたらポスト・エンプティ・セットとして電子音楽の歴史はまた変わっていたかもしれないが、むろん「今」の時代にしか出てこない音でもあることに違いはない。

 ロゴスとの『FFS/BMT』などでも聴くことができた脱臼と律動を同時に感じさせる無重力なビートを組み上げたマムダンスが、すべての音が高速に融解するような激しいメタル・ビートの連打へと行き着いたことは実に象徴的な事態に思えるのだ。これは00年代後半にクリック&グリッチな電子音響が、ドローン/アンビエントへと溶け合うように変化した状況に似ている。そう、複雑なビートはいずれ融解する。ただその「融解のさま」が00年代のように「静謐さ」の方には向かわず、激しくも激烈なノイズの方に向かいつつある点が異なっている。エモ/エクストリームの時代なのである。
 いずれにせよブリス・シグナルのサウンドを聴くことは、この種のエレクトロニックな音楽の現在地点を考える上で重要に違いない。彼らの横に Goth-Trad、Diesuck、Masayuki Imanishi による Eartaker のファースト・アルバム『Harmonics』などを並べてみても良いだろうし、DJ NOBU がキュレーションした ENDON の新作アルバム『BOY MEETS GIRL』と同時に聴いてみても良いだろう。
 今、この時代、電子音楽たちは、メタリックなノイズを希求し、ハードコアな冷たい/激しい衝動を欲しているのではないか。繰り返そう。ノイズと音楽は相反するものではなくなった。そうではなく、音楽との境界線を融解するために、ただそれらは「ある」のだ。それはこの不透明な世界に蔓延する傲慢な曖昧さを許さない激烈な闘争宣言でもあり、咆哮でもある。「今」、この現在を貫く音=強靭・強烈なノイズ/音楽の蠢きここにある。

Sun Araw - ele-king

 去年このサイトで書いたように、やっぱり邦画は面白くなっているんじゃないかと思うんだけれど、あんまり変わらないかなと思うことに映画音楽がもうひとつピンと来ないということがある。吉田大八監督『羊の木』や濱口竜介監督『寝ても覚めても』は脚本も演出も演技もいいのに、どうにも音楽がマッチしているようには思えなくて作品への没入がどこか妨げられてしまった。今年の作品でいいと思ったのは瀬々敬久監督『友罪』ぐらいで、これは半野喜弘がラッシュを観た後に「音楽をつける必要はないんじゃないですか」と監督に告げたというエピソードがすべてを物語っているといえる。映像ソフトにはよく吹き替えヴァージョンや監督による解説の垂れ流しヴァージョンが選べるようになっているので、邦画に関しては音楽のアリ・ナシも選択機能に組み込んだらどうなのかなと思ってしまうというか。風景描写にポコッポコッとか音が入るやつとか、ほんといらねーよなーと思ってしまう。

 『Guarda in Alto』はミュージシャン名を伏せて聴かされたら、誰の作品か、たぶん、わからなかったと思う。イタリア映画のサウンドトラック盤としてリリースされたサン・アロウことキャメロン・スタローンズのソロ11作目。どの曲も圧倒的にシンプルで、ほとんど効果音に近い音楽が12曲収められている。イタリア映画は下火だし、日本ではほとんど公開されないので、どんな映画なのかさっぱりわからないままに聴くしかないけれど、これがひとつの世界観を明瞭に表現したアンビエント・アルバムになっていて、いろんなことで意味もなく心が揺れている夜などに聴いても、スッと心が落ち着いていく。メロディと呼べるようなものはほとんどなく、ベースのループやミニマルなパーカッション、あるいは弦楽器らしきもののコードをパラパラと押さえるか、ギターにリヴァーブだけにもかかわらず、しっかりとイメージを構築してしまう手腕はさすがとしか言いようがない。ジュークからベースやドラムを取り去ってもダンス・ミュージックとして成立させることができるかというテーマを追求し続けている食品まつりa.k.a foodmanがサン・アロウのレーベルから新作を重ねたことも必然だったのだなと納得してしまったというか。

 サン・アロウの作曲法はブライアン・イーノのそれとは何もかもが違っている。イーノのサウンドはよく湿地帯に例えられるけれど、単純にしっとりさせる効果があるのに対し、サン・アロウは圧倒的に乾いている。現代音楽を基盤としているかどうかも両者は異なるし、イーノが余韻で聴かせるのに対し、サン・アロウはリズムだけを骨格として取り出してくる。共通点があるとすれば、レゲエやダブへの関心、あるいは時代がニューエイジに埋没し切っている時に、それに染まっていないということだろう。これは大きい。サン・アロウはロサンゼルスというニューエイジの聖地にあって、しかもアンビエント表現を試みているにもかかわらず1ミリもニューエイジには接近せず、独自のヴィジョンを揺らがせることはない。こういうことは相当な意志の強さか音楽的信念がないと遂行できないのではないだろうか。もっと言えば2年前にはニューエイジの立役者ララージとジョイント・アルバム『プロフェッショナル・サンフロウ』をつくっているというのに……(同作はそれなりにダイナミックなプログレッシヴ・ロック風だった)。

 サン・アロウのこれまでの諸作もアンビエント・ミュージックとして聴くことはぜんぜん可能だった。しかし、『Guarda in Alto』はそれらとはやはり異なるアティチュードによってつくられたアルバムである。初めて聴いてから10年近くが経とうとしているのに、サン・アロウにまだ延びしろがあるとは驚きとしか言いようがない。ちなみにサン・アロウと食品まつりのコラボレーションはないのかな?

Drexciya - ele-king

 再評価がとまらない。なぜドレクシアはかくも海の向こうで称賛され続け、幾度も蘇生を繰り返すのだろう? 昨年から故ジェイムス・スティンソンのリイシューや未発表音源の発掘が相次ぎ(ジ・アザー・ピープル・プレイスジャック・ピープルズなど)、ジェラルド・ドナルドも活発にリリースを重ねている(ドップラーエフェクトXORゲイトなど)。あるいは、スティーヴン・ジュリアンやアフロドイチェらの新譜には如実にドレクシアからの影響が表れ出ている。
 そのような流れを踏まえてのことだろう、去る10月16日、ロンドンの音楽メディア Resident Advisor がドレクシアにかんするヴィデオ・エッセイを公開した。
 これがまた非常に良く練られたドキュメンタリーで、ドナルドをはじめ、DJスティングレイジェフ・ミルズらが音声で登場、それどころかスティンソン本人の肉声まで登場するから驚きだ(出典は、彼が他界する直前の2001年12月2002年5月に収録されたインタヴュー)。
 90年代の最重要盤といっても過言ではない『The Quest』、そのブックレットに記された決定的な神話、サン・ラーやリー・ペリー、ジョージ・クリントンなどのアフロフューチャリズム、YMOやクラフトワークの電子音楽、イジプシャン・ラヴァーのエレクトロなどについても説明されており、コドゥウォ・エシュンにも触れるなど最後までぬかりはない。船から女性が投げ捨てられるシーン、あるいは海中遊泳や惑星の映像など、視覚面でもとても丁寧に作り込まれている。素晴らしいドキュメンタリーです。

※ドレクシアについては紙エレ22号のアフロフューチャリズム特集でもとり上げていますので、ぜひそちらもご参照ください。

Time Grove - ele-king

 ジャズがすごいのはUKだけではありません。いまイスラエルでも独自のシーンが大きな盛り上がりをみせています。
 アヴィシャイ・コーエンとともに〈Blue Note〉からもリリースのあるピアニスト、ニタイ・ハーシュコヴィッツ。そして、フリー・ザ・ロボッツなどLAシーンとも接点を有し、この夏〈Stones Throw〉からアルバムを発表したばかりのリジョイサー。
 これまでも両者はコラボを重ね、ともにテルアビブの名門レーベル〈Raw Tapes〉から作品を発表してきた仲でもありますが、そんな彼らを中心に結成された新たなグループ、タイム・グルーヴのデビュー・アルバムが10月24日に発売されます。CDが出るのはなんと日本のみ。卓越したプレイヤーとプロデューサーたちによって紡ぎだされる極上の音楽をご堪能あれ。

イスラエルのジャズ&クラブシーンを代表するミュージシャンが集結!!
ジャンルを超越した最高のグルーヴを聴かせる、Time Groveのデビュー作が完成!!

日本企画限定CD(輸入盤CDは、ございません。)

ジャズ・ピアニストのニタイ・ハーシュコヴィッツと、バターリング・トリオのリジョイサーを中心に結成されたプロジェクト、タイム・グルーヴの全貌が遂にこのアルバムで明らかになる。イスラエルから登場した、いま最も注目すべき才能溢れるミュージシャンとプロデューサーたちが作り上げた音楽。真に自由度の高い、開かれた音楽とはまさにこのこと。(原雅明 rings プロデューサー)

Time Grove :
Amir Bresler – Drums,
Sefi Zisling – Trumpet,
Eyal Talmudi – Saxophone, Clarinet,
Rejoicer – Keyboards,
Nitai Hershkovits – Piano, Keyboard,
Yonatan Albalak – Guitar, Bass

アーティスト:TIME GROVE (タイム・グルーヴ)
タイトル:More Than One Thing (モア・ザン・ワン・シング)
発売日:2018/10/24
FORMAT:CD
BARCODE:4988044042285
規格No.:RINC44
LABEL:rings
税抜販売価格:2,130円
税込販売価格:2,300円

Tracklist :
01. TG THEME
02. SECOND ATTENTION
03. JUNGLE BOURJOIS
04. INDOPIA
05. PIANO BUBBLES
06. SIR BLUNT
07. TALEK
08. NEZAH
09. A_L_P
10. ROY THE KING
11. LATRUN

Amazon / Tower / HMV / disk union

DMBQ - ele-king

 今年2月に通算12枚目、じつに13年ぶりとなるアルバム『KEEENLY』を発表し話題をさらったDMBQ。その最新作のアナログ盤がなんと、〈DRAG CITY〉およびその傘下の〈GOD?〉からリリースされることが決定しました。発売は11月16日で、LP2枚組の仕様、ボーナストラックも追加収録されます。来年には〈GOD?〉を主宰するタイ・セガール(彼も今年新作『Freedom's Goblin』を発表)とのUSツアーも決まっているとのこと。
 また、今回のリリースを記念し、2本のライヴが開催されます。11月17日(土)@新代田FEVER、12月24日(月祝)@京都 METRO。ふたたび世界へ向け飛び立たたんとしている彼らの最新ライヴに、ぜひ足をお運びください。

DMBQ、今年2月発表のアルバム『KEEENLY』が米〈DRAG CITY〉 / 〈GOD?〉よりアナログ2枚組LPでリリース。全米及びヨーロッパで発売決定。ボーナストラックも2曲追加。Ty Segall とのツアーも。

2018年2月、13年ぶりとなるニュー・アルバム『KEEENLY』を発表し、その圧倒的轟音とノイズを武器に、ロック・ミュージックの全く新しい切り口を提示することで音楽シーンを震撼させた DMBQ。そのアルバム『KEEENLY』が、アメリカの名門レーベル〈DRAG CITY〉、及びその中に Ty Segall が設立したアナログ・レコード専門レーベル〈GOD?〉より、2枚組LPレコードとなって全世界に向けてリリースされることになった。

きっかけはこの春行われた Ty Segall の日本ツアーでの DMBQ との競演。DMBQ の凄まじい音の存在感とオリジナリティ、そして脅威的なライヴ・パフォーマンスを観て、まずは2週間後から行われるヨーロッパ・ツアーへの帯同を初日のライヴで即オファー。さすがに予定も合わず、さらにはここまで急な調整もつくはずもなく……でこれは断念したものの、ツアー中に『KEEENLY』を聴いた Ty は、本作のアメリカ他海外でのリリースと、アメリカ本国での Ty Segall との合同のツアーはできないか? とツアー中に続けてオファー。当の DMBQ としても、元々本作のリリースを足掛かりに、アメリカ及び諸外国での活動復帰を計画していた事もあり、話はあっという間に決まっていったという。リリースにあたり、〈DRAG CITY〉単体でのリリースも打診されたが、Ty が「絶対に自分が関わっている〈GOD?〉から出したい!」と熱く誘ったこともあり、〈GOD?〉制作・〈DRAG CITY〉販売という豪華さで、2枚組LPとしてめでたくリリースされる運びとなった。また、すでに来年には米国での Ty Segall とのスプリット・ツアーが予定されており、DMBQ の活動は再び海外へと羽ばたいてゆくこととなりそうだ。
 今回のリリースには、アルバム4面目を飾る2曲の新録ボーナス・トラックが追加されている。スプリング・リヴァーブを破壊的に振動させる強靭なベース音にアブストラクトなドラムが絡むへヴィ・ナンバー“When I Was A Fool”と、歪んだオルガンの裂け目から、極上の甘いエコーが香りたつ美麗なインスト・ナンバー“The Cave And The Light”。2曲ともに通常の DMBQ の楽曲とは少し趣を異にしつつも、DMBQ らしいノイズと音響の意匠が際立った、ボーナストラックならではの自由度の高いサウンドが聴ける。

リリースに際し、Ty Segall からコメントが寄せられている。
以下:

“There is no band like DMBQ. They are unique destroyers of sound, and lovers of sonic beauty, existing in the places between. Masters of harsh tone and psychotic rhythm. “Keeenly” is an alien planet type record, evoking images of landscapes and weather patterns found in other galaxies. Purple wind and green fire.”
「DMBQ のようなバンドは他にはない。彼らはハーシュ・トーンと狂気のリズムの名匠として、比類なき音の破壊者、または、音響美の恋人、その両側面の中間に存在する。『KEEENLY』は、紫の風や緑の炎のような、違う銀河系の景色や気候を思い起こさせる地球外型のレコードだ。」

 このリリースを記念して、11月17日(土)新代田 FEVERにて、12月24日(月祝)に京都 METROにて発売記念ライヴを行う。京都 METRO ではアメリカより一時帰国する嶺川貴子が、非常に珍しい本人名義でのライヴで参加。かつてと変わらない歌声と独自の空気感が会場を支配する、嶺川の深遠なライヴも見逃せない。
 来年より再び海外へと活動の場を広げてゆく DMBQ の、現時点での総決算となるライヴ。音響面でもいつも以上の万全の準備をして、堂々のライヴ・パフォーマンスと高圧力なサウンドを披露したいとのこと。DMBQ の今をしっかりと確認しておいてほしい。

DMBQ Album "KEEENLY" Vinyl 2xLP Release Anniversary Show

■11月17日(土)新代田 FEVER
出演:DMBQ, COMPUMA, K.E.I (VOVIVAV, OOO YY)
時間:OPEN 19:00~
チケット:前売¥2,800 当日¥3,300
LAWSON Ticket: L:75943, e+で取り扱い中。
問い合わせ:FEVER 03-6304-7899

■12月24日(月祝)京都 METRO
出演:DMBQ, 嶺川貴子
時間:OPEN 19:00~
チケット:前売¥3,000 当日¥3,500
*期間・枚数限定早割り¥2,500発売予定。詳しくは METRO HP にて。
問い合わせ:METRO 075-752-4765


DMBQ『KEEENLY』
2018年11月16日発売(米国)
発売元:DRAG CITY / GOD?
Catalog/Serial #:GOD#015
日本国内取り扱い:DISK UNION

Gottz - ele-king

 とどまるところを知らない KANDYTOWN からまた新たな一報です。同クルー内でもひときわ強烈なインパクトを放つMCの Gottz が、本日ソロ・デビュー・アルバムをリリースしました。MUD をフィーチャーした“+81”のMVも昨日公開済み。いやもうとにかく一度聴いてみてください。フックがあまりにも印象的で頭から離れなくなります。Neetz、Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young Vision)らが参加した『SOUTHPARK』、これは要チェックです。

KANDYTOWNのラッパー、Gottz の MUD をフィーチャーした“+81”のMVが公開!
その MUD や Neetz、Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young
Vision)らが参加した待望のソロ・デビュー・アルバム『SOUTHPARK』がいよいよ本日リリース!

 KEIJU as YOUNG JUJUやDIAN、MIKI、DJ WEELOWらとともに結成したグループ、YaBasta として活動し、IO や Ryohu らを擁するグループ、BANKROLL と合流して KANDYTOWN を結成。16年リリースのメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』でも“The Man Who Knew Too Much”や“Ain't No Holding Back”、“Feelz”といったライブでも定番な楽曲で猛々しいラップを披露して注目を集め、グループとしての最新曲“Few Colors”でもラップを担当。また IO や YOUNG JUJU、DONY JOINT、MUD といったメンバーのソロ作品にも立て続けに参加し、大きなインパクトを残してきたラッパー、Gottz(ゴッツ)! KANDYTOWN 内でも一際目立つアイコン的な存在でもあり、ラッパーとしてだけでなくモデルとしても活躍し、BlackEyePatch のコレクションやパーティに出演したことも話題に!
 その幅広い活動からソロ・リリースの待たれていた Gottz の正に待望と言えるソロ・デビュー・アルバム、その名も『SOUTHPARK』から KANDYTOWN の仲間でもある MUD が参加し、自己名義アルバムのリリースも話題な KM がプロデュースした先行曲“+81”のミュージック・ビデオが公開! Reebok CLASSICがサポートしており、BAD HOP や YDIZZY、Weny Dacillo らの映像作品にも関与してきた KEN HARAKI が監督を担当している。
 そしてその MUD や Ryugo Ishida(ゆるふわギャング)、Yo-Sea、Hideyoshi(Tokyo Young Vision)が客演として、KANDYTOWN の Neetz や FEBB as YOUNG MASON、Lil’Yukichi、KM がプロデューサーとして参加した『SOUTHPARK』がいよいよ本日リリース!

Gottz "+81" feat. MUD (Official Video)
https://youtu.be/Y15eBPsYL5g


[アルバム情報]
アーティスト: Gottz (ゴッツ)
タイトル: SOUTHPARK (サウスパーク)
レーベル: P-VINE / KANDYTOWN LIFE
品番: PCD-27039
発売日: 2018年10月17日(水)
税抜販売価格: 2,700円
https://smarturl.it/gottz-southpark

[トラックリスト]
1. +81 feat. MUD
Prod by KM
2. Makka Na Mekkara
Prod by Lil’Yukichi
3. Don't Talk
Prod by Lil’Yukichi
4. Count It Up (PC2)
Prod by Lil’Yukichi
5. Kamuy
Prod by KM
6. Move! feat. Hideyoshi
Prod by KM
7. Summertime Freestyle
Prod by YOUNG MASON
8. Raindrop
Prod by KM
9. The Lights feat. Ryugo Ishida, MUD
Prod by Neetz
10. Neon Step - Gottz, Yo-Sea & Neetz
Prod by Neetz
Guitar : hanna
* all songs mixed by RYUSEI

[Gottz プロフィール]
同世代の KEIJU as YOUNG JUJU や DIAN、MIKI、DJ WEELOW らとともに結成したグループ、YaBasta のメンバーとして本格的に活動を開始し、IO や Ryohu らを擁するグループ、BANKROLL と合流して KANDYTOWN を結成。15年にソロ作『Hell's Kitchen』をフリーダウンロードで発表し、16年にはKANDYTOWNとして〈ワーナー・ミュージック〉よりメジャー・デビュー・アルバム『KANDYTOWN』をリリース。

MR TWIN SISTER - ele-king

 ツイン・シスターが、「ミスター」を冠して、ミスター・ツイン・シスターと改名してから2枚目、改名前を入れると3枚目となるアルバムをリリースする。つまり、ドリーム・ポップのエースが帰ってきた!
 しかしヒプノゴナジック・ポップ、ドリーム・ポップ、チルウェイヴ、すなわち現実逃避ポップという巨大な流れは終わることをしらない(あったり前だよね。もうほんと、逃避したい)。ミスター・ツイン・シスターはそのジャンルにおけるいわば玄人好みめいたポジションにいるわけだが、新作は、ジャジー・ヴァイブにクラブ・ミュージック的アプローチも大幅に取り入れ、かなりの洗練化が果たされている。うん、これ、かなり良いんじゃないだろうか。パソコン音楽クラブが好きな人たちも好きになりそう。

MR TWIN SISTER
Salt
PLANCHA
※ボーナス・トラック4曲収録
※解説・歌詞・対訳: 清水祐也(Monchicon!)
2018.11.09 (CD) | 2018.10.25 (Digital)
https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/releases/artpl-107/

Mr Twin Sister - Jaipur

Mr Twin Sister - Tops and Bottoms

はてなフランセ - ele-king

 みなさんボンジュール。
 今日は昨今フランスの音楽業界で話題をさらっている兄妹をご紹介したく。
 日本の芸能界でも芸能一家は多いが、フランスでも芸能一家は結構いる。筆頭はジェーン・バーキンとその子供たちだろうか。セルジュ・ゲンズブールとの娘シャルロット・ゲンズブール、映画監督ジャック・ドワイヨンとの娘ルー・ドワインヨン。フランスのプレスリーと言われたジョニー・アリデイとその子供たちもこちらでは大メジャー。歌手シルヴィ・ヴァルタンとの息子で、父の路線を継ごうと頑張る(が大変微妙な)歌手ダヴィッド・アリデイ、実力派女優ナタリー・バイとの娘で女優のローラ・スメット。日本でもそれなりに地名度のある俳優ヴァンサン・カッセルの父は、フランスでは有名な俳優だったジャン=ピエール・カッセルで、妹はホリシーズという名義で歌手をやっている。階級&コネ社会のフランスでは、親のコネ&階級が物を言う。両親が業界人であれば、親に連れられて撮影現場やステージなどにも親しんでいる。それに名付け親が業界の大物だったりすることも多い。そのような環境に育った子供たちには、千載一隅のチャンスを頼りにオーディションを受けたりするより業界に入るチャンスも回って来やすいというもの。本日の主役のふたり、兄でラッパーのロメオ・エルヴィスと妹で歌手のアンジェルも芸能一家出身だ。一家はベルギー人なので厳密にはフランスの芸能一家ではないし、それほど有名でもないが、父がミュージシャン、母が女優の家庭だそう。それほど有名ではないとはいえ、フレンチ・ラップの伝説MCソラーは父の仕事仲間で、家族ぐるみの友人でもあるらしいので、立派な業界人と言えよう。
 では兄のロメオ・エルヴィス(25歳)のことをまず。このコラムでもフレンチ・ラップのことを度々取り上げているが、フランスではここ数年ラップがシーンの最重要ジャンルとなっている。そしてなかにはフランス語圏のベルギー勢も多い。そのなかでも思春期の子供から大人やインテリにも評価を得ているひとりがロメオ・エルヴィスだ。大人は眉をしかめるバカ&マッチョ&下品路線のコドモ向けラッパーたちとは違い、ウィード系でひねったユーモアに満ちたロメオ・エルヴィスの世界観は、評論家にも受けがいい。

Roméo Elvis x Le Motel - Nappeux ft. Grems

 このかっこいいんだか悪いんだかわからないMCネームは実は本名だ。ロメオはファースト・ネームでエルヴィスはミドルネーム。業界人か音楽好きの田舎者が付けそうなキラキラネームだ。そこそこ男前だが、それよりもダルダルな雰囲気と自虐ネタの方が目につく。ロメオ要素もエルヴィス要素もあまりないロメオ・エルヴィスは、本名であるそのMCネームとのギャップがインパクトを与えている。とはいえ、フランスではitモデルになりつつあるガール・フレンド、レナ・シモンとのイチャイチャをインスタグラムで披露しまくるあたりはロメオ感が出ているかもしれないが。この色男がラップを始めたきっかけは、美大の学生時代に友達のLe Motelにビートを作ってもらったところから。2013年には初のEPをリリース。ベルギーでは、同じブリュッセルのバンド、l’Or du Commun(ロール・デュ・コマン)にフィーチャーされたりして少しずつ注目を集め始めたが、2016年までラップ1本で食べていくことはできなかった。スーパー・カルフールのレジ係のバイトを辞めたのは2016年になってから。ここフランスでは2017年リリースの「Moral 2」あたりから注目され始めた。2017年は小さなものから大きなものまでフェスを制覇し、今年の11月に行われるパリの殿堂オランピア劇場でのライヴはすでにソールド・アウトだ。
 対する妹のアンジェル(22歳)は、音楽学校でジャズ・ピアノを習った後、パパのバンドに参加したり、ブリュッセルのカフェでライヴを行ったりして音楽の道へ。お兄ちゃんの曲に参加するなどしてバズった後、2017年10月に発表した最初のオリジナル曲「La Loi de Murphy(マーフィーの法則)」が、youtubeでいきなり100万ビュー超え(現在は1200万ビュー超え)を獲得した。

 徹底的についてない1日を、キュートでポップで間抜けに歌う。この肩の力の抜け具合と自虐ネタは兄妹ふたりの共通要素だ。「道を聞いて来たから親切に教えてあげたら、ヘタクソなナンパだった。バカのせいでトラム(路面電車)に乗り遅れた。ばあちゃんに銀行の順番譲ってあげたらクッソ時間かかるし。セキュリティドアに押し込んで閉じ込めりゃよかった」と絶妙なあるあるネタに、適度な毒舌が織り込まれている。金髪のかわい子ちゃんと毒舌と自虐。黄金のトライアングルである。続くシングル「La Thune(カネ)」では「みんなカネのことばっか考えてる。カネにしか勃たない。インスタに写真載せなきゃ。じゃなきゃなんで撮んの? でもそれってなんのため? 結局独りぼっちなくせに。人がどう思ってるかばっかり気にして」とSNSに振り回される虚しさをディスった後に「でもほんとはあたしもそのひとり」と自分を落とすことも忘れていない。こちらも現在600万ビュー超え。この2曲の大ヒットでアンジェルは2018年の夏フェスを制覇した。妹はお兄より歩みが早い。そのロメオ兄ちゃんとのデュオをドロップしてすぐ、つい先日待望のファースト・アルバムをリリースした。

Angèle feat. Roméo Elvis - Tout Oublier

 おそらく子供の頃から絶対美形だったはずなのに、前歯の抜けたブサイクな幼少期写真をジャケットにしたセンスはさすがだ。
 フレンチ・ポップ、シャンソンにはいくつかのパターンがある。例えばエディット・ピアフ・タイプ。歌唱力高く情念たっぷりに愛の歌を歌う。スタイルはアップデートされているが2018年現在もこれは健在。次にジェーン・バーキン型。センスあるプロデューサーが作り上げた、歌はへたっぴだが雰囲気は抜群のパリジェンヌ。そして日本でも80年代に少し名前の売れたリオのパターン。奇抜で突拍子も無いエキセントリックなポップがこのタイプ。自らのアートを突き詰めて誰も追いつけないところまでいく、アヴァンギャルドの女王、ブリジット・フォンテーヌもいる。もちろんそれらの型に必ずしも当てはまらないけれど、王道フレンチ・ポップ感を漂わせるアーティストもいる。だがアンジェルは、フレンチ・ポップの王道からあえてズレてDIY感を前面に出すことで、いまっぽさを強く印象付けたのだ。それこそが、彼女を2018年フレンチ・ポップ界のど真ん中にライジングスターとし押し出した要因だ。このパリジェンヌ幻想を一切寄せ付けない新世代フレンチ・ポップや、ダルダルでスモーキーなフランス語ラップが、日本で受ける日が果たして来るのだろうか。そんなことになったら、個人的にはとっても面白いと思うのだが。

 今年も、筆者の暮らすメキシコの「死者の日」が近づいてきた。「死者の日」とは毎年10月31日~11月2日の3日間祝われるお盆のこと。メキシコじゅうがカラフルな切り紙の旗、ガイコツの砂糖菓子や、鮮やかなオレンジのマリーゴールドの花で彩られる。数千年前から受け継がれる先住民の風習と、スペイン侵略後のカトリック信仰が混合された独特な祭礼で、故人と生きている者たちが交流する期間だ。お盆にしては、華やかであり、まるで死ぬのも、そんなに悪くはないと語っているようだし、身近に感じさせる。
 そもそも、メキシコの暮らしは、死と隣り合わせである。2018年上半期だけでも1万6000に及ぶ殺人事件数があり、ここ10年以内に起こった女性殺人は2万3800件と増加傾向で、毎日7人の女性が殺されていることになる。1か月前には、うちの近所のメキシコシティ中心部ガリバルディ音楽広場で、マリアッチ楽団の衣装を着た殺し屋たちが、麻薬倉庫前に現れ、ロバート・ロドリゲスの映画みたいな銃撃戦が起こった。ここまで暴力が近いと、命がいくらあっても足りない。怒りと恐怖を抱くと同時に、どうせ儚い人生、濃く生きてやると腹をくくらせる。
 2018年12月から、「左派」大統領の新政権がうまれ、変化が期待されるメキシコではあるが、筆者のような働く移民にとって、光はあるだろうか? 2002年に元メキシコシティ市長は、元ニューヨーク市長ジュリアーニをメキシコシティ中心部の再開発指導者として呼び寄せ、ジェントリフィケーションの波を起こしたが、その元メキシコ市長オブラドールこそが、私たちの新大統領なのだから。筆者が夫と営む、吹けば飛ぶよな小さなアジア食堂は、開発が進む、ダウンタウンの一角にあり、年々値上がりする家賃と、工事を名目に突然断たれる電気や水道の供給と、チンピラども(警察を含む)との駆け引きの合間で戦々恐々としている。 それでも、ここで踏ん張ろうと思うのは、市井の人々は温かく、いちいち空気を読む必要なんてないし、失敗も恥ずかしくない。自分のリズムで呼吸でき、何度でも生き返られる場所だからだ。

 そうは言っても、へこみそうな時に、食堂で店内音楽としてCDでよくかけるのがエル・ハル・クロイの音楽だ(当食堂のBGMはCDだ。メキシコではスポッティファイが音楽を聴くためのメインメディアになりつつあるが、あえて抵抗している)。
 スペイン語の定冠詞「EL」に、「黒い春」という日本語をミックスした名を持つこのバンドは、メキシコ系米国人=チカーノたちが多く暮らす、イースト・ロサンゼルス出身。哀感あるギターと可憐なヴォーカルのエディカ、ジャジーなベースのマイケル、変拍子を巧みに取り入れたドラムのドミニクから成るトリオだ。2007年にアルバム『サブン』でデビューし、今までに『カンタ・ガジョ』(2013年)、『192192192』(2016年)の、3枚のアルバムを発表。2016年には日本ツアーも行った。彼らの音には、60年代後半、ブラジルの軍事政権に抵抗して起こった音楽ムーヴメント、トロピカリアや、メキシコやキューバで古くから歌い継がれているボレロ、ラテン各国で鳴り響くクンビア、アフロペルー音楽、ジャズ、そしてパンクやロックの影響を受けているが、ミクスチャーではない。伝統と前衛が同居したエル・ハル・クロイとしか言いようがない世界で、その魂の底から立ち上るようなブルースに労われる。甘美でありながら、生ぬるい癒し音楽ではない。

 そんなエル・ハル・クロイが、なんと、日本でメキシコの死者の日を祝うイヴェントに参加し、ツアーも行うという。そこで、ヴォーカルのエディカにメールでインタビューした。

 エル・ハル・クロイの3人は、イースト・ロサンゼルスのパサデナにある音楽学校の同期生により生まれた、アーケストラ・クランデスティーナというアフロファンクや、フリージャズを演奏する楽団のメンバーとして出会った。エディカは当時、打楽器と歌を担当していた。

「楽団の解散後、地元図書館のメキシコ独立記念イヴェントでスペイン語曲を歌うバイトのためにエル・ハル・クロイの前身ともいえるトリオを結成した。それが成功し、本格的に活動を始めた。最初は、アコースティック編成で、スペイン語で歌うグループだったけれど、のちにポルトガル語曲も加えるようになった。私にとって、英語よりも自分の第一言語であるスペイン語で表現するのが自然だった。ポルトガル語は、父がたくさんのブラジル音楽を聴いたり、演奏したりするので、身近だった。ブラジル音楽のリズミカルな歌が大好きで、スペイン語で、それを再現したりもした。でも、本格的に勉強したくて、UCLAの語学コースや、ブラジルのバイーアでも勉強した」

 音楽家になろうと思ったのには、父親の影響が大きいと語る。

「父の一家は、音楽を生業としているので、私が幼い頃から、周囲に音楽があふれていた。父は、ギター、ベース、ピアノを演奏し、歌手でもあった。私は、5歳から父と歌い、思春期にはギターを演奏しはじめた。その時から自分の曲を演奏するのにやりがいを見つけた」

メキシコ人の両親が、メキシコシティからイースト・ロサンゼルスのボイルハイツに移住してから、エディカは生まれたのだが、「自分はメキシコ人だ」という。

「母は私を妊娠しながら国境を超えたので、メキシコ仕込みと言えるでしょ(笑)。両親はロサンゼルスで英語を学んだけど、家庭ではいつもスペイン語で会話したし、私をメキシコ人として育てた。10代までは、父の仕事の都合で、メキシコで過ごすことが多かった。幼少期には南部のオアハカやベラクルス、思春期にはメキシコシティや、グアナファトで数年暮らした。私の両親は、1960年代の公民権運動などのチカーノ・ムーヴメントの頃に、米国にはいなかったし、私はチカーノとして育っていない。エル・ハル・クロイは、 「イースト・ロサンゼルス出身の米国とメキシコにルーツを持つグループ」と言える。ただ、他の2人のメンバー(マイケルとドミニク)の両親は米国で生まれ、チカーノとして位置付けられる。でも、私たちの音楽は位置付けを必要としないし、カテゴライズは、表現を制限させる」

 メキシコとラテンアメリカの文化は、彼女のインスピレーションの源泉だが、ロサンゼルスも、音楽やアートを学び、大切な仲間たちと出会い、人生の転機となった、重要な場所であるのには変わりない。そんなロサンゼルスを舞台にした『ELLA(彼女)』という曲(2018年10月にEPとして発売)では、夜明けとともに自宅を出て、日中は遠くの高級住宅でハウスキーパーとして働き、夜更け前に帰宅して、ようやく、自分の子どもと過ごせる母親の日常を美しく歌い上げている。

「私が幼かった頃、母はビバリーヒルズの富裕層の家の清掃や、その家の子どもたちの面倒を見る仕事をしていた。週末に私をその家に連れて行くこともあったんだけど、そこで、彼らと私たちとの経済格差に気づいた。大人になって、イースト・ロサンゼルスからUCLAへへ向かう路線バスで、多くのラテン系の女性たちと乗り合わせた。彼女たちの多くは、ビバリー・ヒルズで降車した。そんな姿を見て、私の幼少期に母が同じような仕事をしていたのを思い出した。そこで、社会で不可視の存在とされている彼女たちに捧げる曲を作った」

 エル・ハル・クロイの曲の数々は、厳しい現実をまっすぐ受け止めながらも、あまりに詩的だ。それは、過酷な日々から一瞬でも解放させてくれるような、優しく強い音楽でもある。エディカは、ほどんどの曲の歌詞を担うが、どうやってこのスタイルに行き着いたのか。

「私はいつでも詩を書いていて、そこから曲が生まれることが多い。音楽以外には、ビジュアル・アートの勉強をしていたので、その一環でイースト・ロサンゼルスの美術学校で、浮世絵の北斎や広重、メキシコのグアダルーペ・ポサダのような古来からの方式で木版画を教えるクラスがあり、習得した。版画のモノトーンから表現する世界は、私の音楽にも影響を与えている。言葉のイメージを膨らませて絵を描くことも好き。私の夢の一つは、自らが描いた絵をアニメーションにして、エル・ハル・クロイの3作目のアルバム『192192192』に収録された日本語とポルトガル語の曲、「YAGATE」のプロモビデオを作ること。誰か日本のアニメーション作家とコラボレーションできたらと思っている。でも、曲を映像化することよりも、その曲じたいが、聴き手の想像力を掻き立て、それを視覚化できるのが大事だと思う」

 現在、4枚目にあたるエル・ハル・クロイの新作を制作中で、人間の眠っている能力や直感についてをテーマにし、リインカーネーションについての曲も含まれるという。

「音楽で表現したいのは、貧困層への不公平さ、差別、私のような移民の子どもたちに起こる、不特定の土地を移動しながら暮らす体験、人生と死、愛、そして亡くなった愛する人たちを思い出すこと」と語るエディカ。今回、日本で死者の日を祝うイベントに出演し、ツアーを行う(11月2日から代官山・晴れ豆を皮切りに全国6カ所を回る)ことについては、こう語っている。

「再び大好きな日本へ行けることが嬉しいし、興奮している。このことを謙虚に受け止めて、私たちの音楽や伝統文化を、日本のみんなと少しでも共有したい。音楽を作り、何年もグループを続けていくのには、とても努力を強いることだったので、報われる思い。この繋がりが続くといいな」

 エル・ハル・クロイの演奏は、日本へメキシコ、ロサンゼルス、ラテンアメリカの美しい空気を運ぶことだろう。その美しさは、わかりやすいものではないかもしれないが、暗闇の中の一筋の光のように、ひときわ強く輝いているのだ。(文:長屋美保)

■エル・ハル・クロイ「死者の日」ジャパン・ツアー

☆エル・ハル・クロイカリフォルニア州ロサンゼルスから登場した3人組音楽グループ。今やロサンゼルスの人口の半分を占める所謂ラティーノと呼ばれる中南米系住人の文化・社会的拠点であるイースト・ロサンゼルスの出身。現在まで3枚のアルバムを発表。ランチェーラと呼ばれる伝統のメキシコ音楽、クンビアというコロンビア発祥で中南米中に伝播したダンス音楽、またブラジル音楽、さらにアメリカの前衛音楽やジャズなどにも大きく影響を受け、今までのチカーノ・ロックやミクスチャー・ロックとは異なる独創性の高い音楽を奏でる。また、不法滞在、暴力、貧困などのコミュニティが抱える問題への高い意識、メキシコから国境を超えて伝わった伝統とアメリカ文化が融合・発展を遂げてきた豊穣なチカーノ文化・社会への誇り、ラティーノだけでなくアジア系など多様化するロサンゼルスの現在の空気感も巧みに混ぜ合わせ、その独創性高いサウンドのなかに、複雑なテーマ性も内包し独特の魅力を漂わせている。大熱演となった2016年のツアー以来、第2回目の来日。

メンバー
エディカ・オルガニスタ(Gt. Vo)
マイケル・イバーラ(Ba)
ドミニク・ロドリゲス(Dr. Vo)

11月2日(金)代官山 晴れたら空に豆まいて
Open:18:30/Start:19:00
予約\3,900 / 当日\4,400(+1ドリンク別途)
Live:Shoko & The Akilla、Los Tequila Cokes
DJs: Trasmondo DJs、星野智幸、Shin Miyata
Tacos: Taqueria Abefusai、Octa
Shop: Barrio Gold Records
詳細・予約:https://mameromantic.com/?p=60288


11月3日(土・祝)金沢 FUNCTION SPACE
Open:20:00/Start:21:30
予約\3,500 / 当日\4,000(1ドリンク付)
DJs: U-1、ハンサム泥棒(KYOSHO & YASTAK)、中村一子(Record Jungle)
Tacos: Ricos Tacos
Shop: Barrio Gold Records
後援:北國新聞社、北陸中日新聞、エフエム石川、HAB北陸朝日放送、テレビ金沢、
北陸放送
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60305


11月4日(日)大阪 do with cafe
Open:18:30/Start:19:00
予約\3,500 / 当日\4,000(+1ドリンク別途)
Live: Conjunto J、カオリーニョ藤原
DJs: TZ(EL TOPO)、Shin Miyata
Tacos: Cantina Rima
Shop: PAD、Barrio Gold Records
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60309


11月5日(月)高知 五台山・竹林寺
Open:17:30/Start:19:00
予約\3,000 / 当日\3,500
Tacos: Masacasa Tacos
Shop: Masacasa Music
Supported by Masacasa Music、 竹林寺、Bar a Boucherie 松原ミート、Mushroom
record
予約:Masacasa Music(9/27以降)担当:都筑 080-9832-6081 /
masacasamusic@gmail.com

11月6日(火)徳島 Amusement BAR Fly
Open:19:00/Start:19:30
予約\3,000 / 当日\3,500(+1ドリンク別途)
Live: 越路姉妹
Shop: Barrio Gold Records
詳細・予約: https://mameromantic.com/?p=60315


11月8日(水) 横浜 B.B. Street
Open:18:30/Start:19:30
予約\3,000 / 当日\3,500(+1ドリンク別途)
Live: gnkosaiBAND .
Shop: Barrio Gold Records
https://www.bbstreet.com/


■■公演予約方法■■
11/5高知公演、11/8横浜公演以外の公演については下記で承ります。
電話:晴れたら空に豆まいて:03-5456-8880(14:30-23:00)
MUSIC CAMP, Inc. TEL: 042-498-7531 e-mail:ehk@m-camp.net
※件名を「エル・ハル・クロイ予約」として、本文に公演日、お名前、人数、ご連絡
先電話番号を明記ください。

総合サイト⇒ https://www.m-camp.net/ehk2018.html

招聘・制作:晴れ豆インターナショナル / BARRIO GOLD RECORDS / MUSIC CAMP,Inc.

また文中に出て来る関連動画は以下です。
☆DIA DE LOS MUERTOS
https://www.youtube.com/watch?v=2luTdONIFfQ

☆ELLA
https://www.youtube.com/watch?v=3UbkD_3pVFs

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