「Ord」と一致するもの

Amp Fiddler & Andrés - ele-king

 7月12日(金)、大阪の梅田クアトロにデトロイトからアンプ・フィドラーとアンドレスがやって来る。どちらもまったく素晴らしいブラック・ミュージックを聴かせてくれること請け合い。
 アンプ・フィドラーはライヴセット、アンドレスはDJセットです。ムーディーマンも新しいアルバムが出るというし、また、アンドレスのほうもアルバム『Andrés Ⅳ』のリリースを間近に控えているし、期待大です。大阪梅田クアトロの初のオールナイト・イベント。行くしかないでしょう。

■公演詳細

会場:梅田クラブクアトロ
〒530-0051 大阪市北区太融寺町8番17号プラザ梅田10F TEL.06-6311-8111
https://www.club-quattro.com/umeda/

公演日:2019年 7月 12日(金)
開場/開演:23:00
料 金:前売¥3,000【税込】/当日[1\4,000、2\2,500(24:00までに入場)、3\3,500(with Flyer)【税込】]
入場時ドリンク代600円別途必要
※オールナイト公演のため20歳未満の入場はお断りいたします。
※エントランスでIDチェックあり。必ず顔写真付き公的身分証明書をご提示ください。
(運転免許証、taspo、パスポート、顔写真付マイナンバーカード、顔写真付住基カード、外国人登録証)
ご提示いただけなかった場合、チケット代のご返金はいたしかねます。
整理番号付・営利目的の転売禁止


■Amp Fiddler
Amp Fiddler(アンプ・フィドラー)は、ミシンガン州デトロイトを拠点とするキーボーディスト/シンガー/ソングライターである。
George Clinton率いるParliament/Funkadelicに在籍し、またMoodymann, Brand New Heavies, Fishbone, Jamiroquai, Maxwell, Princeのレコーディングやツアーに参加してきた、現代を代表するSOUL/FUNKミュージシャンの1人である。
テープ編集でビートを作っていた若い頃のJ Dillaに、サンプリング・ドラムマシーンAKAI MPC60での制作をAmpが薦め教えたことでも知られ、そしてそのDillaをQ-Tipに紹介したのもAmpである。その後DillaはThe Ummahに参加する。
1990年、ベースプレイヤーであるBubz Fiddlerとの兄弟ユニット、Mr.Fiddlerとして、アルバム『With Respect 』をリリース。Amp Fiddlerとしてソロ名義ではアルバム『Waltz Of A Ghetto Fly』(2003年)、『Afro Strut』(2006年)をリリース、2008年にはSly & Robbieとの共作アルバム、Amp Fiddler/Sly & Robbie『Inspiration Information』をリリースしている。
2016年には10年ぶりとなるソロアルバム、『Motor City Booty』をMidnight Riot Recordings(UK)よりリリース。
2018年、Moodymann主宰Mahogani Musicから、最新アルバム『Amp Dog Knights』をリリース。
https://www.ampfiddler.com
https://twitter.com/AmpFiddler
https://www.instagram.com/Amp_Fiddler/
https://open.spotify.com/artist/39g75EmRFeFbvHhsGjUpLU?si=shLDKOFsTGSg2lD-12-wow

■Andrés (aka DJ DEZ / Mahogani Music, LA VIDA)
Andrés(アンドレス)は、Moodymann主宰のレーベル、KDJ Recordsから1997年デビュー。
ムーディーマン率いるMahogani Musicに所属し、マホガニー・ミュージックからアルバム『Andrés』(2003年)、『Andrés Ⅱ 』(2009年)、『Andrés Ⅲ』(2011年) を発表している。
DJ Dezという名前でも活動し、デトロイトのHip Hopチーム、Slum Villageのアルバム『Trinity』や『Dirty District』ではスクラッチを担当し、Slum VillageのツアーDJとしても活動歴あり。Underground Resistance傘下のレーベル、Hipnotechからも作品を発表しており、その才能は今だ未知数である。
2012年、 Andrés自身のレーベル、LA VIDAを始動。レーベル第1弾リリース『New For U』は、Resident Advisor Top 50 tracks of 2012の第1位に選ばれた。2014年、DJ Butterとのアルバム、DJ Dez & DJ Butter‎ 『A Piece Of The Action』をリリース。
パーカッショニストである父、Humberto ”Nengue” Hernandezからアフロキューバンリズムを継承し、Moodymann Live Bandツアーに参加したり、Erykah Baduの “Didn’t Cha Know”(produced by Jay Dilla)ではパーカッションで参加している。
Red Bull Radioにてマンスリーレギュラー『Andrés presents New For U』を配信中。

Bon Iver - ele-king

 傑作『22、ア・ミリオン』(16)リリース以降も、地元ウィスコンシンでの音楽フェスの開催、ザ・ナショナルのアーロン・デスナーとともにアート・コレクティヴ〈PEOPLE〉を発足、〈PEOPLE〉発のプロジェクトとしてビッグ・レッド・マシーンの結成とアルバム発表、エミネムの楽曲への参加など精力的に活動してきたジャスティン・ヴァーノンだが、久しぶりにボン・イヴェール名義の新曲を2曲発表した。“Hey, Ma”と“U (Man Like)”というタイトルで、どちらも『22、ア・ミリオン』以降のジャンル横断性やエレクトロニック・サウンドとオーセンティックなルーツ・ミュージックの混淆が聴ける。昨年、ロウのこちらも傑作アルバムである『ダブル・ネガティヴ』を手がけたBJバートンがプロデュースを担当し、ロブ・ムース、ザ・ナショナルのブライス・デスナーといったボン・イヴェール周りのお馴染みのメンツをはじめ、大御所ブルース・ホーンスビーから新世代の星モーゼズ・サムニー、ワイ・オークのジェン・ワズナー、それに地元の幼馴染ブラッド・クックら多彩なメンツが参加。分断がキーワードとなった2010年代にあってヴァーノンは断片化したものを懸命に繋ぎとめようとしてきたが、明らかにこの男はいま、世代も立場も土地もジャンルも超えたコミュニティ・ミュージックを生み出そうとしている。“U (Man Like)”の後半、様々な人間に歌い継がれていくメロディが美しい。

Hey, Ma

U (Man Like)

 ボン・イヴェールの最新の動向をアナウンスする〈iCOMMAi〉なるサイト(https://icommai.com/)も立ち上がっているが、これらの新曲がアルバムに続くものなのかはまだわからない。しかし、様々な「人びと」が集まってノイズを生みながらも美しい歌を生み出そうとしている様からは、2020年代のアメリカの音楽の理想主義のゆくえが見えてこないだろうか。期待しよう。(木津毅)

ジャスティン・ヴァーノンのプロジェクト、ボン・イヴェールが新曲“Hey, Ma”と“U (Man Like)”をリリース。


「Bon Iver - Hey, Ma - Official Lyric Video」
https://youtu.be/HDAKS18Gv1U


「Bon Iver - U (Man Like) - Official Lyric Video」
https://youtu.be/Hs5rXRPC0rc

【Bon Iver / ボン・イヴェール】
Bon Iver はシンガーソングライター、Justin Vernon のプロジェクトだ。2008年のデビュー・アルバム『For Emma, Forever Ago』が大絶賛され、2011年のセカンド・アルバムは全米チャート2位/全英チャート4位を記録。第54回グラミー賞で Best New Artist と Best Alternative Music Album を受賞した。2016年にはサード・アルバム『22, A Million』をリリース。全米チャート2位/全英チャート2位を記録した。

■More Info:https://bignothing.net/boniver.html

interview with DJ Marfox - ele-king

 ずっと待っていた。ベース・ミュージックの枠にもテクノの枠にも収まりきらない、かといっていわゆる「ワールド・ミュージック」や「アフリカ」のように大雑把なタグを貼りつけて片づけてしまうにはあまりにも特異すぎる〈Príncipe〉の音楽と出会い、昂奮し、惚れこんで、その中心にいるのが DJ Marfox だということを知ってからずっと、いつの日か彼に取材できたらと願っていた。だから2016年、タイミングが合わなくて初来日公演を逃したときはひどくがっかりしたけれど、幸運なことに彼はこの3月、ふたたび列島の地を踏んでくれることになり、こちらの期待を大きく上回る最高のセットを披露、まだ寒さの残るフロアを熱気で包み込んだのだった。
 とまあこのように、およそ15年前に彼や彼の仲間たちによってリスボンの郊外で生み落とされたアフロ・ポルトギースのゲットー・ミュージックは、いまや世界各地のミュージック・ラヴァーたちの心を鷲づかみにするほどにまで広まったわけだけれど、ではその背後に横たわっているものとはなんだったのか、いったい何が彼らの音楽をかくも特別なものへと仕立て上げたのか──じっさいに対面した Marfox はきわめて思慮深いナイスガイで、誠実にこちらの質問に答えてくれた。

100%ポルトガル人じゃないし、100%アフリカ人でもない。自分たちは「50%・50%(フィフティ・フィフティ)」な存在なんだよね。

そもそも音楽をはじめたきっかけはなんだったんでしょう?

DJ Marfox(以下、M):音楽をはじめたのは14歳のころで、創作というよりは、他の人の音楽──アンゴラのクドゥロ楽曲を再現するようなことをしていたね。それから徐々にリミックスを作ったり、いろいろな曲の気に入った断片をコラージュするようなことをはじめた。PCの、Virtual DJ というソフトでね。
 2004年に Quinta do Mocho (訳注:リスボン郊外の移民たちが多く暮らす団地地域)のパーティで、DJ Nervoso と知り合ったんだ。彼はそこでDJをしていたんだけど、自分の知らない曲ばかりかけていた。そのころ、自分はアンゴラ帰りの人にCDを借りたりして、アンゴラの音楽はだいたい知っていたから、衝撃だったね。だから──これはパーティでいいDJがいたらふつうの行動だと思うけど、DJがどんなヤツで、なんて音楽をかけているのか知りたくて──DJブースに近づいていって彼に話しかけたんだ。「ねえ、自分もDJなんだけど、誰の曲をかけてるの?」と聞いたら彼は「ああ、これは俺が作った曲だよ。俺はプロデューサーだからね」って答えたんだ。それがきっかけで仲良くなって、彼は自分に「プロデューサー」という新しい世界を紹介してくれた。Fruity Loops みたいなソフトの使い方とかもね。

あなたの音楽はクドゥロから大きな影響を受けていますが、ふつうのクドゥロとあなた独自の音楽との違いはなんですか?

M:子どものころからクドゥロを聴いてきたから、クドゥロは自分の音楽に不可欠な要素のひとつだ。クドゥロにはビートがあって、歌手がいる。でも、当時のリスボンにはクドゥリスタ(訳注:クドゥロ歌手のこと)がいなかったんだ。だから自分たちは、よりダンス・ミュージックにシフトし、躍らせるためのビートを構築することにフォーカスしていった。ホット・ビートと歌い手がいれば、リスナーにインパクトを与えることは簡単だけれど、ビートだけでそれを実現するのは難しい。クドゥリスタが不在であるがゆえに、自分たちリスボンのプロデューサーは、創意工夫をして独自の音楽性を確立していったんだと思うよ。

2005年に DJ Pausas、DJ Fofuxo とのグループ DJs do Guetto をはじめた経緯を教えてください。当時の野心はどのようなものだったのでしょう?

M:自分も、DJ Pausas と DJ Fofuxo も、アフリカ出身の両親のもとに、リスボン郊外で生まれ育ったキッズで、自分たちのアイデンティティを「ポルトガル人」とも「アフリカ人」とも定義づけられずにいた。自分たちは黒人だから、欧州系のポルトガル人たちには「ポルトガル人」には見えないし、アンゴラやカーボ・ヴェルデやサントメプリンシペのような、ポルトガルの旧植民地から移民してきた人たちにも「君らはアフリカで生まれてないから、僕らとは違うよね」と言われ続けてきた。この作品を発表することは、ポルトガル人でも、アフリカ人でもない、という自分たちの新しいアイデンティティを主張するために必要なことだった。グループを結成したときは、何をしているのか意識的ではなかったけど、「自分たちは何者なんだろう?」というのは当時からの自問だった。100%ポルトガル人じゃないし、100%アフリカ人でもない。自分たちは「50%・50%(フィフティ・フィフティ)」な存在なんだよね。

2011年の「Eu Sei Quem Sou (訳注:自分が何者か知っている)」は〈Príncipe〉の最初のリリースであり、決定的な一枚となりました。当時はどんな気持ちだったのですか?

M:〈Príncipe〉は自分にとってたいせつな存在で、この作品は最初の子どもみたいなものだ。一緒に〈Príncipe〉をやっている連中とは2007年に知り合っていて、彼らはリスボンの郊外で何が起こっているのか、どんな音楽が生み出されているのかをよく理解していた。でも、当時はまだそれらの音楽を都市部に、そして世界に紹介するコンディションが整っていなかったんだよね。自分たちの音楽はニッチだと思っていたから、適切なかたちでマーケットに紹介するためには準備が必要だった。その期間、自分自身もプロデューサーとして成長し、2011年に〈Príncipe〉は「Eu Sei Quem Sou」をリリースできたというわけさ。この作品は自分にとっては「表明」の作品で、この作品をリリースしたとき、自分が何者で、何がしたくて、どこに到達したいのかが明確な状態だった。〈Príncipe〉の連中も最初に出会った日から自分が何をしたいのか理解してくれていたし、準備期間にもずっと連絡を取り合っていたよ。

やはりあなたや〈Príncipe〉の面々が郊外出身であるというのは重要なポイントなのですね。

M:そうだね。おもしろいことに、いつも都市部で活躍したいと思ってきたけれど、都市部は長いこと自分たちに関心を払ってこなかった。DJ Nervoso が活動をはじめたのが2001年、自分が〈Príncipe〉の連中と知り合ったのが2007年、「Eu Sei Quem Sou」をリリースしたのが2011年。それぞれのプロセスに5~6年かかっていて、そのあいだ自分たちはずっと、都市部もメディアも注目しない郊外のアンダーグラウンドな存在だった。でも、もしもっと早く注目されていたら、いまのような活動はできていなかったように思う。メディアが「これは一時的なムーヴメントなのか?」と取り上げはじめたころにはすでに、自分たちは長く活動していて準備万端だったから、すべての出来事はベスト・タイミングで起こったと言えるね。

「Eu Sei Quem Sou」のころには自分が何者か明確になっていたとのことですが、あらためてあなたは何者なのでしょう?

M:自分は「顔」だ。声を持たない人びとの顔、居場所を持たない人びとの顔、見向きもされない人びとの顔、声を発しても聞いてもらえない人びとの顔。それらが「声」を持ったのが自分だと思ってる。思ったことを言い、何をしたいか主張し、互いに敬意を払う。これは「闘い」だったけれど、それはインディペンデントで、社会的な側面もある「音楽プロジェクト」という形態である必要があった。この音楽は人生を変えたんだから。
 最近、自分はとても幸せな気持ちで眠りにつくんだ。眠りにつくいまこの瞬間も DJ Nigga FoxNídia や Nervoso が地球のどこかでDJをしている、と思えるのはとても幸せな気分だ。いまや〈Príncipe〉には30人近いDJがいて、みんな、レーベル主催のリスボンでの定期イベント《Noite Príncipe》から、イギリス、アジアやアメリカまでDJしに飛び回っていて、もはやポルトガルだけでなくヨーロッパがホームだと感じるくらいだ。人びとのために、音楽で成し遂げなければならないことをやっている。人がいなければ音楽ではないからね。

他方で何がしたいかも明確になっていたとのことですが、そのあなたがやりたいこととは?

M:都市部と郊外の架け橋になることだね。自分の作る音楽がなければ、今日自分はここにいないだろう。音楽をやっていなかったら、自分は大学も出ていないし、多くの友人たちがそうしたように、イギリスかドイツにでも移民していただろう。この音楽は発表した当初から、国内外で注目されて、そのことによって「アフロ・ポルトギースも価値ある存在なんだ」「新しい存在、新しいリスボンを代表する存在なんだ」ということを革命的に示すことができた。以前より居場所があると感じているし、希望も感じているけど、まだまだ活躍の場を生み出すことはできる、ポルトガル社会においてアフロ・ポルトギースの存在を示すことはできると思っている。

自分は「顔」だ。声を持たない人びとの顔、居場所を持たない人びとの顔、見向きもされない人びとの顔、声を発しても聞いてもらえない人びとの顔。それらが「声」を持ったのが自分だ。

ペドロ・コスタという映画監督を知っていますか? 彼の『ヴァンダの部屋(原題:No Quarto da Vanda)』という映画を観たことは?

M:彼の映画『ホース・マネー(原題:Cavalo do dinheiro)』は観たことあるよ。ポルトガルにおける移民の扱い、移民がいかに疎外されているかにかんして鋭い批判をしている人だ。移民たちの抱える問題はゲットーを作ることではなく、ゲットーを抜け出せないことにある、と彼はよく理解しているよね。自分たちの親や祖父母の世代がアフリカからポルトガルに移民してきたのは、植民地化から解放されて何も残らなかった故郷にいるよりも、良い人生を送りたかったからだ。でも、たとえばポルトガルでの教育ひとつをとっても、義務教育レベルで優秀な教師は都市部の学校にいて、郊外には質の高くない教師があてがわれる。ペドロ・コスタは、そういった状況……「移民支援」のような「嘘のシステム」についても指摘しているよね。『ホース・マネー』でも、若くしてポルトガルに移民してきたカーボ・ヴェルデ出身の老人が、長年リスボンの工事現場で、都市の、ポルトガルの発展のために働いてきたにもかかわらず、社会保障や年金を受けられないまま死の床にある様子が描かれている。30年以上、陽の当たらないスラムに住みながら働いて、何も得られない、という作中の彼のような状況に置かれたアフリカ系移民はたくさんいると思う。
 とはいえ物事にはいろいろな側面があって、1974年4月25日(訳註:ポルトガルでカーネーション革命が起こり、独裁政権が終焉を迎えた日。同時に、各アフリカ植民地独立の契機となった)以前の祖父母世代の人びとの生活は、いまよりずっと苦しいものだったということも理解している。ペドロ・コスタはそういったことも含めた社会矛盾を指摘している映画監督だと思うよ。個人的にも知り合いだしね。

知り合いだったんですか! 彼とはどのような経緯で?

M:共通の知り合いがいて、その人がペドロに「いままでのリスボンにはなかったような音楽活動をしている人たちがいる」と言ったら、彼が興味を持ったらしいんだよね。彼はうちに遊びにきて、自分の母親にも会ったことがあるよ。

先ほど「架け橋になりたい」という話が出ましたが、郊外のあなたたちにとって都市はべつに「敵」のような存在だったわけではない、ということですよね。

M:ぜんぜん。僕らが Musicbox (訳註:リスボンのナイト・シーンの中心的クラブ)で毎月開催しているイベント《Noite Príncipe》は、Musicbox で続いているいちばん長い定期イベントで、2月20日にちょうど7周年を祝ったところだ。このときは特別に、ポルト含め5箇所でイベントを同時開催したんだけど、すべてソールドアウトだった。貧乏人も金持ちも外国人もほんとうにいろいろな人びとが遊びにきていて、これが音楽の力だなと実感したよ。リスボンも、世界も、ますますオープンになっていくし、世界じゅうの人びとが集まる自分たちのイベント《Noite Príncipe》がそれを証明していると思う。

ではもしあなたたちに「敵」がいるとすれば、それはなんでしょう?

M:自分たちに唯一「敵」がいるとすれば、それは自分たち自身さ。自分たちが音楽を作ることをやめてしまうこと、諦めること──それが最大の敵だね。

ということは、そろそろ DJ Marfox 名義の新作も?

M:うん、取りかかっているところ。だいぶ長いことかけているわりに、発表できていないんだけどね。自分は「アルバムを作らなきゃ」っていうプレッシャーだったり、「自分の作品を見てもらいたい」みたいな自己顕示欲が強いタイプじゃないから、気楽な気持ちで取り組んでる。こうしてあちこち旅行して、他のいろんなDJや音楽を聴いて影響を受けて、それでも自分のベースになる要素は忘れずに、プロデューサーもこなして……というスタイルが自分には合ってると思う。自分名義の作品は、プロデュースやリミックスの依頼をこなしつつゆっくり作っているよ。ヴェネツィア・ビエンナーレのドイツ館の音響を担当する話もあるし(註:7月には彼を含むドイツ館の楽曲を収録したLPもリリースされる模様)。

それはすごいですね。ちなみに〈Domino〉の Georgia の曲を5曲、共同でプロデュースしたという情報を見かけたのですが。

M:もう公開されているはずだよ(註:取材後に再度調べたところ、たしかに新曲は公開されているものの、ふたりがコラボしたという情報は本人の発言以外見つからず)。1月にロンドンに行ったのもその繋がりで、Laylow という新しいヴェニューで彼女が1月のあいだ、レシデンス・アーティストとキュレーションを手がけている、その最終日に出演したんだ。

Flying Lotus - ele-king

 みなさん覚えているでしょうか、昨年8月のあの衝撃を……。5年ぶりにリリースされた新作『Flamagra』が絶好調のフライング・ロータスですが、そのヒットを記念しなんと、彼の初長編監督作品となる映画『KUSO』が再上映されます。会場は渋谷・シネクイントで、6月14日(金)から20日(木)までの期間限定公開。昨年見逃した方はこの機会を逃すなかれ!
 ちなみに『別冊ele-king フライング・ロータスとLAビートの革命』にはフライロー本人の貴重なインタヴューをはじめ、映画の文脈から『KUSO』を論じた三田格のコラム、『Flamagra』収録曲“More”のMVを手がけた渡辺信一郎およびストーリーライダーズの佐藤大、『KUSO』に楽曲を提供したゲーム音楽家の山岡晃による濃厚な鼎談なども収録されていますので、未読の方はぜひそちらもチェックをば。

最新作『フラマグラ』が好調のフライング・ロータス
アルバムの世界的ヒットを記念し、初長編監督作品『KUSO』
まさかの再上映決定!!

底なしの創造力でシーンの大ボスとして君臨するフライング・ロータスが、マグマのごとく燃えたぎるイマジネーションを詰め込んだ超大作『Flamagra』。アンダーソン・パーク、ジョージ・クリントン、サンダーキャット、トロ・イ・モワ、ソランジュら、錚々たるゲスト・ヴォーカルに加え、デヴィッド・リンチまでもがナレーションで参加するなど、豪華客演も話題沸騰中の本作の世界的ヒットを記念して、フライング・ロータスが初映画監督を務めた作品『KUSO』が渋谷・シネクイントにてまさかの再上映決定!

『Flamagra』には、もともと『KUSO』のサウンドトラックとして起用された音源が多く収録されるなど、非常に関連の深い二作品。2017 年のサンダンス映画祭での公式上映の際には多数の観客が上映途中に席を立ち、“史上最もグロテスクな映画”とも称された本作品は、昨年8月に渋谷・シネクイントで公開され、再び6/14(金)より一週間限定で上映される。

『KUSO』上映情報
上映期間:6月14日(金)~6月20日(木)レイトショー
会場:渋谷・シネクイント(渋谷区宇田川町20-11 渋谷三葉ビル7階)
料金:通常料金(R18指定)
*チケットは6/7(金)21:30よりシネクイントHPにて発売。
残席のある場合は6/8(土)劇場オープン時より劇場窓口でも販売開始。
*内容はすべて予定です。いかなる事情が生じましても、ご購入後の鑑賞券の変更や払い戻しはできません。
*場内でのカメラ(携帯電話を含む)・ビデオによる撮影・録画・録音等は、固くお断りいたします。

[STORY]
ロサンゼルスでの大地震後、人々は奇病におかされながらの生活を送っていた。首に喋る“こぶ”ができた女、ある“とんでもない虫”で人を治療する医者、常にお腹を下している男の子、コンクリートを食べる女性……様々な人々が織りなす、それぞれの狂気のストーリーが描かれた94分間。もはや最後には感動すら覚えるこの作品、あなたは耐え抜くことが出来るだろうか……!

監督:スティーヴ
音楽:フライング・ロータス、ジョージ・クリントン、エイフェックス・ツイン、山岡晃
出演:ハンニバル・バーエス、ジョージ・クリントン、デヴィッド・ファース
2017年/94分/アメリカ/英語/カラー/DCP
原題:KUSO R18+
配給:パルコ
宣伝協力:ビートインク

フライング・ロータス最新作『Flamagra』は現在好評発売中。国内盤にはボーナストラック“Quarantine”を含む計28曲が収録され、歌詞対訳と吉田雅史による解説に加え、若林恵と柳樂光隆による対談が封入される。初回生産盤CDは豪華パッケージ仕様。またTシャツ付セット(BEATINK.COM限定でXXLサイズ取扱あり)も限定数発売中。2枚組となる輸入盤LPには、通常のブラック・ヴァイナルに加え、限定のホワイト・ヴァイナル仕様盤、さらに特殊ポップアップ・スリーヴを採用したスペシャル・エディションも発売。

なお国内盤CDを購入すると、タワーレコードではオリジナル・クリアファイル、BEATINK.COM / HMV / diskunion、その他の対象店舗では、GUCCIMAZEによるロゴ・ステッカー、amazonではオリジナル肖像画マグネットを先着でプレゼント。また、タワーレコード新宿店でアナログ盤を予約するとオリジナルB1ポスターが先着でプレゼントされる。

また、6/8より2日間開催される〈WARP〉30周年記念ポップアップストアでは、最新作『Flamagra』の発売を記念したTシャツ、ロングスリーブTシャツ、パーカーが発売される。

label: WARP RECORDS / BEAT RECORDS
artist: FLYING LOTUS
title: FLAMAGRA
日本先行リリース!
release: 2019.05.22 wed ON SALE

国内盤CD:BRC-595 ¥2,400+tax
初回盤紙ジャケット仕様
ボーナストラック追加収録/歌詞対訳・解説書付
(解説:吉田雅史/対談:若林恵×柳樂光隆)

国内盤CD+Tシャツセット:BRC-595T ¥5,500+tax
XXLサイズはBEATINK.COM限定

Skepta - ele-king

 グライム・シーンの立役者であるスケプタの5作目となるアルバム『Ignorance is a Bliss』がリリースされた。このアルバムは彼のシーンの「キング」としての地位を誇示するとともに、グライムの感覚を一歩前に進める意欲作だ。

 2016年にリリースされた前作『Konnichiwa』でロンドン発祥の「グライム」を世界に知らしめ、メインストリームに押し上げたスケプタは、ここ3年でも多くの話題を呼んだ。エイサップ・ロッキーとのコラボレーション曲“Praise the Lord”でプラチナの獲得、ナイジェリアへのカムバックツアーの成功、ウィズキッド(Wizkid)とのコラボレーション“Energy (Stay Far Way)”とのヒット、Nike とのコラボレーションの「Sk Air」シューズの発売、Louis Vuitton メンズのアーティスティック・ディレクターとなったバージル・アブローとの交友、など話題には事欠かない。

Wizkid - Energy (Stay Far Away)

 華々しい表舞台での活躍の一方で、スケプタはUKの次世代のラッパー、ミュージシャン、デザイナーもサポートしてきた。例えば、Levi's と協働し Levi's Music Project で若手のミュージシャンと新たな場作りをおこなったり、自身のブランド「MAINS」で若手デザイナーやアーティストを起用したりしている。音楽だけでなく、ファッションやデザインの領域でも様々な形でシーンをリードする存在となった。

Skepta | Levi’s® Music Project

 音楽面で言えば、新旧グライム・シーンのショーケース的なパーティである《Grime Originals》にサプライズ出演したり、自身のヨーロッパ・ツアーのサポートアクトにランシー・フォックス(Lancey Foux)、67、スロータイ(Slowthai)といったグライムの枠にとらわれない若手アーティストをラインナップしたりと、サポートを継続してきた。
 そしてリリースされた本作は、オーセンティックなグライムの感覚を一歩前に進めた意欲的な作品となっている。

 先行シングルでリリースされた“Bullet from A Gun”は、生まれ育ちや身の回りの刹那的な人間関係について突き放した目線で歌い出す。そこで彼自身に大きな力を与えていると語るのは、彼の両親のルーツであるナイジェリアであり、最近のスケプタ自身の家族である。MVでは最近赤ちゃんが生まれた彼が、地下鉄のプラットホームで乳母車を横置きしながらラップしている(アルバム・ジャケットの真ん中にも、赤ちゃんを抱えた男性が写っている)。

Skepta - Bullet from A Gun

 2. “Greaze Mode”からの3曲でセルフボーストが続く。彼のフロウはストレートに言葉をはめていくスタイルだが、アメリカ人にも聴き取れるクリアなデリヴァリーを意識していることに気づいた。『Konnichiwa』ではそのラップのフロウが不自然に感じられるほど意識的だったが、今回は肩の力が抜けているというか、自然なフロウになっているのが良い。

 ジェー・ハス(J Hus)を迎えた5. “What Do You Mean?”では得意のアフロビートではなく、ヒップホップで歌い上げる。6. “Going Through It”では一転してオーセンティックなグライム・ビートで、ワンラインで歌い続けるスケプタの本領を発揮し、オールドスクールなトラックの7. “Same Old Story”につながる。女性との関係を歌った1曲ではあるものの、以前ビーフがあったワイリーのビート・サンプルを使っていることで、ファンにとってはワイリーとの関係を(勝手に)深読みさせるラインとなっている。

 このアルバムの核心は次の3曲で、8. “Love Me Not”、ランシー・フォックスが客演の9. “Animal Instinct”、Wizkid 参加の10. “Glow in the Dark”でエモーショナルなメロディで畳み掛けるラップと歌い上げるフックのメロディが新しく、またUKらしさ、グライムらしさも感じさせ、リリカルな表現も多彩さが光る。最後の3曲は再びクラシックなグライムとなり、クルーの BBK を迎えたグライムレペゼンの12. “Gangsta”、そしてナイジェリアで袋詰めで売られている氷水パックにインスパイアされたという13. “Pure Water”で幕を閉じる。

Skepta - Pure Water

 このアルバムのステートメントは、まさにタイトルである「Ignorance is Bliss (無知はこの上のない至福だ)」に込められている。ここでは、むしろ「ignorance」と同じ語源を持つ「ignore」、つまり無視という能動的な言葉に寄って解釈できないだろうか。長年存在してきた“しきたり”や、自分が作り上げてきたこれまでの遺産を“無視”して、「やりたいようにやる」こと。または、他人が期待することや思考の枠組みを意図的に“無視”すること。新たなチャレンジに必要な無視によって、“無知”を肯定する哲学こそが、このアルバムを貫いている。

 サウンド面では前作『Konnichiwa』よりもグライム色がより強くなっているものの、懐古主義的なサウンドではなく新たなサウンドを模索している。また、ワンライン繰り返しのサビ、ハスラーの定型表現といった“お決まり”には縛られておらず、音、詩の両面で様々な挑戦をしている。コンパクトながらアルバムというフォーマットにふさわしい重層的な作品だ。

Zomby - ele-king

 すでにチェック済みの方も多いかもしれないが、去る5月17日、ゾンビーが新たなEP「Vanta」をリリースしている。これまでおもに〈Hyperdub〉や〈4AD〉から作品を発表してきた彼だけど、今回はイマジナリー・フォーシズやツーシン、メルツバウなどを送り出しているドバイの〈Bedouin〉からのリリースで、いやはやこれがじつにクールなテクノ・トラック集に仕上がっているのである(本日更新したスポティファイのプレイリストにも1曲選出)。アナログ盤はクリアヴァイナル仕様でこれまためっちゃかっこいいんだけど……なんと、デザイナーは『ゲーム音楽ディスクガイド』を手がけてくれた Zodiak こと Takashi Makabe なのだ! ぜひ現物を手にとって、サウンドもヴィジュアルも一緒に堪能してほしい。

Zomby
Vanta

Bedouin Records

All tracks produced, arranged & mixed by Zomby
Mastered by Rashad Becker at Dubplates & Mastering
Design by Takashi Makabe / Zodiak
Distributed by Kudos

www.bedouinrecords.com

A1 Void
A2 Bleed
B1 Emerald
B2 Threshold
B3 Zexor

Amazon / HMV / bandcamp / Spotify / Apple Music

The National - ele-king

 ザ・ナショナルが自分たちのことを自嘲気味に「ダッド・ロック」と呼んでいたのは、しかし、半分以上くらいは冗談ではなかったのではないか。彼らがアメリカで高い人気を誇ってきたのは(そして日本で本国ほどの人気が出ないのは)、マット・バーニンガーによるバリトン・ヴォイスとハードボイルドを思わせるリリック、そうした文学性を武骨に支えるダンディなロック・サウンドがアメリカの伝統的な良き父性を匂わせるからだと僕は考えている。「daddy」がスラングで「イケてる」を意味することもあるカルチャーで、強く頼れる父であることはつねに求められてきたし、揺るぎない魅力だとされてきた。00年代中盤頃から急浮上したザ・ナショナルの、スーツを着こなし赤ワインを呑みながら歌う髭を生やした中年のフロントマンであるバーニンガーは、ある種のセックス・アイコン性すら有していたと思う。
 だが10年代、フェミニズムの再燃とLGBTQの台頭、それらと対抗するかのように浮上したトランプ政権による男権力の横暴とジェンダー保守派の過激な言動を経て、アメリカ的男性性あるいは「父性」は大いに混乱している。社会問題化したインセル(不本意な禁欲主義者。自分の容貌を醜いと考え、それを動機として女性を憎悪するヘテロ男性)のこともある。フェミニズムを支持することは男性だってもちろんできる、が、白人でヘテロでよく教育された(中年)男性による「リベラル」が、どこかで説得力を持たなくなっているのも事実だ。多くの白人男性によるインディ・ロックが近年訴求力を失っているのは、それが原因のひとつでもあるだろう。自身のマジョリティ属性とどう向き合うかは、少なからず誠意を持ち合わせた側の男性にとって、いま抜き差しならない問題だ。もうトキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)を捨て去ることは決意した、が、では、たんなる「男性性」の行き場所はどこか?

 ザ・ナショナルは過去にもコンピレーション『ダーク・ワズ・ザ・ナイト』やグレイトフル・デッドのトリビュート・アルバムなどを編纂しUSインディ・ロックのリベラル勢のまとめ役を買って出ていたが、本作でまず実行しているのも現在における民主主義的なアプローチだ。ボン・イヴェールのジャスティン・ヴァーノンとザ・ナショナルのメンバーであるアーロン・デスナーが様々な立場のアーティストを繋ぐコレクティヴ〈PEOPLE〉を主宰していることの延長にあると思うが、じつに70人以上のゲスト・ミュージシャンが参加している。多様なアイデンティティや出自を持つ「人びと」によるアンサンブル。そして、なかでも目立つポジションが与えられたのが女性シンガーたちである。シャロン・ヴァン・エッテン、リサ・ハニガン、ミナ・ティルドン、ケイト・ステイブルズ、ゲイル・アン・ドロシーという多彩なメンバーによる歌声は女性の表現の多様さを強調する。
 思い出すのは、昨年のデヴィッド・バーンの『アメリカン・ユートピア』――やはりリベラルな白人男性によるアート・ロック作品――が大勢のゲストを招きながら、ひとりも女性が含んでいなかった点を批判されたことだ。バーンは過去に何度も才能ある女性とコラボレーションしてきたし、しかも彼女らを飛び道具のように扱っていなかったことを思えば、いささかアンフェアな批判のようにも感じるが、しかしそれだけジェンダー・イシューがマジョリティ側にも強く求められる時代だということの証明でもあった。その点、立場的に近い場所にいるザ・ナショナルが女性たちをステージの中央に立たせているのは、ある種いまもっとも「政治的に正しい」振る舞いのようにも見える。……が、これがPC対応型のたんなる「ダイヴァーシティ」作品だとは、僕は思わない。

 本作と同時にリリースされたマイク・ミルズによる同名の短編映画を観ると、そのことがよくわかる。というのは、同作もまた白人ヘテロ男性が彼なりの誠意を持って女性と向き合った作品だからだ。ザ・ナショナルの楽曲とスコアがずっと流れるなか、アリシア・ヴィキャンデル演じるひとりの「女性」の生から死までを26分ほどの詩的なモノクロ映像で綴ったもので、カメラしか知りえない彼女の細やかな感情を切り取っていく。それはまるきりミルズの前作『20センチュリー・ウーマン』の続きにあるもので、自分はラディカル・フェミニズムとアート・ロックを教えてくれた女性によって育てられたとあらためて語ったあの作品と同様の、一筋縄ではいかない女性に対する敬意と感謝で満ちている。彼女らを殊更に美化するわけでもない。ミルズは妻のミランダ・ジュライの作品群に影響されている部分も多いと思われるが、女性の多面性や感情の機微をできる限り丁寧に救い取ろうとする作家だ。それは事実としてあくまで「男の」まなざしなのかもしれない、が、彼女(たち)と向き合うことを諦めていない。

 ザ・ナショナルのほうの『I Am Easy To Find』でも似たことが起きていて、バーニンガーが女性たちと声を重ねれば、彼の低い声の色気はいや増していく。彼としては比較的ハイ・トーンとなる“Quiet Light”のようなドラマティックなユニゾンもあるが、“Oblivions”や“I Am Easy To Find”ではほとんど音程が聴き取れないほどの低音でゲストのフィメール・ヴォーカルを下方で支える。結果として、本作はこれまででもっとも官能的な作品となっている。10年後に振り返れば、2015年~18年辺りのことは男女間の対立が激化した時代と記憶されるかもしれない。が、そのときを経て、ここにはたくさんの人間たちが集い、そして、女と男が出会い直している。やはり白人男性としての立場から「結婚」をモチーフとして印象的な男女デュエットを取り入れたヴァンパイア・ウィークエンド『ファーザー・オブ・ザ・ブライド』にも通じる感覚だと思う。
 サウンド的にはこれまでのザ・ナショナルの良さをきちんと発展させており、英国ニューウェーヴとチェンバー・ポップの融合をデスナー兄弟による緻密なオーケストラ・アレンジとエレクトロニクスで洗練させている。その点は前作『Sleep Well Beast』(17)と同様なのだが、明らかにトランプ直後の空気を吸ってダークな作風だったそれと比べ、クワイアの参加や多人数のアンサンブルのせいもあってはるかに開放的な空気が感じられる。ロック的なカタルシスに満ちた“The Pull Of You”もハイライトのひとつだし、ほとんどブロークン・ソーシャル・シーンのような爽快感で駆け抜ける“Where Is Her Head”も新機軸だ。僕が一曲挙げるとすれば、清潔なピアノと弦の音が、ふくよかなデュエットと温かく響き合う“Rylan”だ。「誰だって心に少しは地獄を抱えているもの/ライアン、少しは太陽を浴びなよ」――日差しの下を走り出したくなる。

 ザ・ナショナルはかつて、保守的な故郷オハイオでの記憶とニューヨークでの都会のリベラルな暮らしに引き裂かる心情をこんな風に歌っていた――「ミツバチの群れが俺をオハイオに運んでいく/だけどオハイオは俺を覚えていない」。そして本作の“Not In Kansas”では同じ土地のことをこう綴る。「オハイオは悪循環に陥っている/もうあそこには戻れない/オルタナ右翼という麻薬が蔓延しているから」。
 彼らはどこかで、保守性を残した自分たちのことを自覚しているのだろう。だがだからこそそれを消し去るのではなくて、少しでも真摯なやり方で更新しようとする。マジョリティであることを痛いほどに自覚しながら、異なる立場への理解を諦めないこと。僕がザ・ナショナルを聴いていてアメリカ的父性を感じるとき、あるいはその男性性に色気を嗅ぎ取るとき、それが「政治的に正しい」のか倫理的に許されるのかはよくわからない。少なくとも時代遅れではあるだろう。それでも、『I Am Easy To Find』はザ・ナショナルの魅力が――文学性とロックの官能性が詰まった作品だと思う。それに……タイトル・トラック“I Am Easy To Find”で男女の声が「わたしを見つけるのは簡単なこと」と重なり合うとき、「I」にジェンダーの別はない。

ハテナ・フランセ 第20回 - ele-king

 みなさんボンジュール。5月25日に終了したカンヌ映画祭について。私自身が参加していたわけでも、インサイダー情報があるわけでもないが、カンヌの映像を見ていてぼんやり思ったことを。

 審査員賞を『Bacurau』と共に受賞した『Les Misérables』は、2008年のパリ郊外で起きた暴動事件を下敷きにしたLadj Ly(ラジ・リー)の初監督作品。5月15日に正式上映されたこの作品のレッド・カーペットと授賞式が個人的に非常に印象に残った。そこにはKourtrajmé(クートラジュメ。クー・メトラージュ=短編の逆さ言葉)の面々が顔を揃えていたからだ。Kourtrajméは、映画監督キム・シャピロン、同じく映画監督ロマン・ガヴラス、ラジ・リー、そして映像作家トゥマニ・サンガレによって96年に立ち上げられたアーティスト集団。所属するのは当時は駆け出しの映像作家、ラッパー、グラフィティ・アーティスト、ダンサーなど。それぞれの表現手段はさまざまながら、ヒップホップ色が強めだった。彼らは名前の通り短編映画をとにかく量産しまくっていた。内容は、内輪受けギャグ的なしょうもない&意味不明なものも多かった。だがとにかく衝動的に仲間とクリエイトする、ということを標榜していたのだと思う。当時のKourtrajméのなかでは、ラッパーたちが比較的知名度のある方だった。Kourtrajmé正式メンバーのモロッコ系兄弟2人によるLa Caution(ラ・コーション)はインディながら大きめでカッコいい〈ワーグラム〉レーベルと契約していた。また、当時〈ニンジャ・チューン〉傘下の〈ビッグ・ダダ〉と契約して話題となっていたTTCなどもゆるく繋がっていた(TTCのMVをキム・シャピロンが撮っている)。TTCのテキ・ラテックスは、彼らをフックアップするべく、キム・シャピロンやロマン・ガヴラスの名前を要チェックの映像作家としてインタヴューで当時よく挙げていた。2000年前後のパリでは、Kourtrajméは大変イケていたのだ。その後キム・シャピロンは2006年にいち早く初監督作品『変態村』を、ロマン・ガヴラスはジャスティスの超暴力的MV「Stress」で物議を醸した後、2008年に初監督作品『Notre jour viendra(日本未公開)』を発表する。さらに2012年にはジェイ・Zとカニエの「No Church in the Wild」も手がけている。そしてキムの初監督発表と同時期に、それぞれが個別のキャリアを築き始めたことで「Kourtrajméとしてできることは、やりつくした」として解散した。

 そもそも、70年代の伝説的グラフィック・アーティスト集団バズーカのメンバー、キキ・ピカソことクリスチャン・シャピロンとマチュー・カソヴィッツがお隣さんだったことから、Kourtrajméは始まったと言っていいだろう。クリスチャンの息子キムは子供の頃からカソヴィッツの撮影現場などに出入りし、その友人でもあり、監督2作目『憎しみ』の主演俳優でもあるヴァンサン・カッセルとも自然に親しくなったという(カッセルは『変態村』の主演も務めた)。95年にカンヌ映画祭で監督賞を受賞した『憎しみ』は、パリ郊外の移民系青年達の絶望的な状況を見事に描き切った傑作だ。だが、この作品の監督マチュー・カソヴィッツは、映画監督の父を持つ決して貧しいとはいえない家庭出身、主演のヴァンサン・カッセルは大物プロデューサーの息子。公開当初から作品そのものは非常に高い批評を得たが、なかにはブルジョワ出身であるカソヴィッツが、郊外のゲットー文化を我が物顔で語ることに疑問を呈する批評家もいた。

 そしてその疑問は『Les Misérables』のレッド・カーペットを見ながら私が抱いた「どうやったらラジ・リーとキム・シャピロンが繋がるんだろう」という素朴な疑問にも繋がるのかもしれない。パリ郊外モンフェルメイユのシテ(フランスのゲットー)でマリ人の両親の元、13人兄弟の中育ったラジ・リーと、当時のパリで相当イケていたであろう先鋭的グラフィック・アーティストの息子キム・シャピロンの行動範囲がどう重なったのかわからないのだ。だが、5月27日付の新聞『Le Parisien』のなかにその答えが見つかった。ラジ・リーの住むモンフェルメイユにあるエルジェのContre de Loisirs(ソントル・ドゥ・ロワジール=学校のバカンス中に子供を預けられる施設)で10代前半の2人は出会ったのだそう。この託児施設は、ラジ・リーの学区とは若干ずれていたが「親父がちょっと高くてもブルジョワの子供の行く施設の方が規律がしっかりしてるだろう」との判断で行くことになったそう。そして、キム・シャピロンは祖父母の瀟洒な家が近所だったということでバカンスの間、エルジェに行くことになったのだ。このように普段の生活の文脈から離れた場所で出会った、ブルジョワの子供と移民の子供が仲良くなったのだと想像する。

 今回のレッドカーペットでは当事者のラジ・リーはもちろん、Kourtrajmé創立メンバーに加え、今や売れっ子テレビ司会者(日本でいうと有吉弘行みたいな感じ)となっている、ムールード・アシュール、いつの間にかKourtrajméの一員になっていたストリート・アーティストで写真家のJR、Kourtrajméの一員というイメージではないポエティックで真面目系ラッパー、オキシモ・プッチーノ、そして創立当時からKourtrajméのゴッドファーザーであったマチュー・カソヴィッツやヴァンサン・カッセルまで、関わった作品がない限り簡単にスケジュールを押さえられないような超豪華なメンバーが総揃いした。おそらくそれほど彼らの繋がりは強いものなのだろう。主題的にも資金集めが簡単ではなかったはずのラジ・リーの初監督作品が、カンヌ映画祭の、しかも正式上映に選ばれたということは、Kourtrajméにとっては祭り以外の何物でもなかったのでは。受賞の際にもちろんラジ・リーは授賞式まで参加したKourtrajméの面々の名前を挙げ感謝を捧げた。

「ジレ・ジョーヌへの機動隊の暴行で注目が集まったけれど、彼らの暴力は今に始まったことじゃない。この作品は僕なりの警笛なんだ」という『Les Misérables(原題、邦題未定)』は日本でも公開予定だそう。

La Caution Thé à la menthe
Kourtrajméのメンバーも多数出演しているMV。ヴァンサン・カッセルが出演している『オーシャンズ12』の劇中で使用された。

TTC Je n'arrive pas à danser
キム・シャピロンによるTTCのMV。不条理なユーモアとKourtrajméのメンバーが満載。

Justice Stress
ロマン・ガヴラスによるジャスティスのMV。あまりの暴力描写にメディアで叩かれまくった。

『Les Misérables』のフランス公開予告

Lee "Scratch" Perry - ele-king

 たったいま6月末売りの紙エレキングの「日本の音楽」の特集号を編集している。そこで問われるのは、海外からの影響と土着性との関わりの問題だ。土着性はどのように意識され、海外の影響をどのように取り入れるか。たとえば70年代までのはっぴいえんどからシティ・ポップまでの系譜であれば、アメリカをどこまで受け入れそれをどう日本と混ぜるかということで、これがまんま100%アメリカであればまったく面白くないことは、たとえばジャマイカの音楽を聴いているとよくわかる。
 ジャマイカの音楽は同じようにアメリカの音楽(こと黒人音楽)の影響下にあるが、これがアメリカのR&Bやソウルの模倣に過ぎなかったら、世界の音楽ファンはジャマイカの音楽に目を向けなかった。R&Bやソウルの影響を受けながら、メントのような土着の音楽が残存したからこそスカやレゲエは生まれている。
 イアン・F・マーティンによれば、イギリスのメディアがイギリスっぽいUK音楽を賞揚するのも、骨随までアメリカ文化に支配されていない土着性を重視するからだそうで、なるほど、グライムをはじめ最近の Dave のようなUKラッパーの作品を聴いていても、アメリカに影響を受けながらアメリカを真似しないという姿勢が徹底されている。これは、音楽文化の力が強い国の特徴である。

 リー・ペリーには手に負えないほど強いジャマイカ訛りがあり、それを彼は決して捨てない。彼の代表曲のひとつ、1968年の“ピープル・ファニー・ボーイ”はポコマニア(アフリカ系の土着的な宗教)を取り入れているわけだが、ペリーは長いキャリアのなかで、歌い方、喋り、あるいはその歌詞の世界(スピリチュアリズムなど)においても、長年スイスで暮らしているこのジャマイカ人は、西洋テクノロジーとアフリカの魔術との両方を使いながらジャマイカの土着性を保存し、文化的な混合体を撒き散らしている。そしておそらく、彼に期待されているのはそういうことであることを彼自身もわかっている。ひとつの文化に染まらないこと、その姿勢は、エイドリアン・シャーウッドの〈ON-U〉レーベルにおいてより際だった形で表現されている。

 リー・ペリーとエイドリアン・シャーウッドは、すでに何枚ものアルバムを制作している。もっとも有名なのは1987年の『Time Boom X De Devil Dead』だが、その後も1990年の『From The Secret Laboratory』、最近では2008年の『The Mighty Upsetter』、そのダブ・ヴァージョンとしてリリースされた2009年の『Dubsetter』がある。今作『レインフォードは、このタッグではおよそ10年ぶりのアルバムというわけだが、まったく素晴らしい内容となっている。
 それはひとつの、持たざる者たちの知恵なのだろう。もしこれを読んでいる人があの過剰なダブ・ミキシングが施された『Time Boom X De Devil Dead』を聴いているなら、本作は、むしろ60年代末のジャマイカのサウンドに漂う〈温もり〉のようなものが断片的にではあるが響いていることに気が付くだろう。
 それもそのはずで、本作においてシャーウッドが取った方法論は、60年代のリー・ペリー音源まで遡って、ペリーのこれまでの作品の数々の音源をマッシュアップすることだった。言うなればこれは、サウンドによるリー・ペリーのバイオグラフィーであり、シャーウッドの愛情が込められたオマージュでもある。

 “月の上のコオロギ”というとぼけた曲からはじまる本作は、しかしメッセージも忘れていない。懐かしいジャマイカの響きが随所で鳴っているその音のスペースのなかで、リー・ペリーは国際通貨基金(IMF)を名指しで批判する。悪魔よ、この街から出て行けと繰り返すわけだが、IMFとは経済のグローバリゼーションを押し進めている機関で、外資参入をうながしている。結果としてその国の労働者の仕事が奪われ、格差者社会を加速させていることは、その歪みの表れであるフランスの黄色いベスト運動やイギリスのブレグジットを鑑みればわかるだろう。リー・ペリーは、グローバリゼーションの憂き目に遭う前のジャマイカのサウンドを使いながら、例によって道化たフリをしながらも、現在のジャマイカでおこなわれている経済政策に反論している。82歳という高齢になっても、こうした怒りを忘れないこともまた尊敬に値する。

 まあ、それはそれとして、とにかく本作を特徴付けているのは、その懐かしい響きであり、それこそ“ピープル・ファニー・ボーイ”に赤ちゃんの泣き声がミックスされていたような、ペリーらしいいろんなもののミキシングもまた随所にある。シャーウッドは彼自身のテイストはあまり表に出さず、サウンドにおいても彼なりの解釈でペリーらしさを出すことに注力している。
 「アルバム全体が彼自身についてなんだよ」と、鈴木孝弥によるオフィシャル・インタヴューでシャーウッドはこうコメントしている。「彼と一緒に、彼にとってとても近いレコードを作りたかった。これまでで彼にとって一番私的なアルバムを作るということは、俺にとってはチャレンジだった。でも俺は挑戦することが好きだし、よし、やってみよう! と思ったんだ」
 また、本作には、じっさいのリー・ペリーの人生が描写されている。最後に収められている曲“Autobiography Of The Upsetter”がそれで、歌詞ではコクソン・ドット、デューク・リード、ボブ・マーリーやマックス・ロメオらについて語られ、ブラック・アークを焼き払ったことについても、自分が狂ったと思われたことについても言及している。そのサウンドは70年代後半のブラック・アーク時代のペリーのようでありながら、しっかりと現在にアップデートしたものとなっている。
 久しぶりに昔のアップセッターズをレコード棚から引っぱり出して聴きたくなった。ほとんどの歌をジャマイカで録音し、1曲をブラジルで、1曲をイギリスで録ったという、リー・ペリーの本名を表題に冠した『レインフォード』は、決して過去の焼き直しではない。古くて新しい、これから何度でも聴くであろう愛らしいアルバムである。

野田努

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 アフロフューチャリズムが批評家のマーク・デリーによって1994年に提唱されたとき、音楽におけるその始祖とされるサン・ラーが土星から地球に降り立って50年近く経っていた。アフリカン・ディアスポラにルーツを持つものが、テクノロジーや未来像を用いて自身の物語を生み出すという、思弁的な未来主義が理論化される前から、サン・ラーはすでに彼自身であり続けていたのだ。
 その十数年後、1973年にジャマイカのキングストンから黒い箱舟が宇宙に打ち上げられようとしていた。その操縦士がリー・スクラッチ・ペリーである。彼もまた、アフロフューリズムの概念があとを追いかけた人物である。
 周知の事実のように、エコーやリヴァーヴというエフェクトそのものが楽器として使用されるペリーの録音テクノロジーは世界に衝撃を与えた。デヴィッド・トゥープの『オーシャン・オブ・サウンド』によれば、ペリーのブラック・アーク・スタジオは単なる録音場ではなく、彼の楽曲のタイトルが示すように“スクラッチ研究所(Scratch Laboratory)”であり、“アンダーグラウンド・ニュース局(Station Underground News)”であり、“音楽移植手術(Musical Transplant)”だった。
 電子的かつ思弁的なエンジニアリングは、スタジオをそういったヴァーチャル・リアリティが渦巻く場へと変容させ、ペリーは福音伝道者やフランケンシュタイン博士になったのである。彼のファッションがぶっ飛んでいなければならないのは、あの「装飾具」が、スタジオの潜在性が創出する空間に人間の身体性をフィットさせるための「宇宙服」的な、つまり生存に必要不可欠なアクターであったからだ。
 自身の本名を冠した今作『Rainford』でも、ペリーは宇宙へと飛翔している。6曲目の“アフリカ宇宙船(African Startship)”は、クリエーション・レベルによって1978年に組み立てられ、1980年に〈4D Rhythms / On-U Sound〉から打ち上げに成功している『Starship Africa』が捉えた宇宙空間からの皆既月食のヴィジョンを、船長にハイレ・セラシエ1世を迎え入れることにより、さらに拡大する。ここでペリーのミックス卓の下に置かれているのは、天空の星々すべてである。

船長 ハイレ・セラシエ1世
レッキー・レック 国王万歳 アフリカの王
国王万歳 アフリカの王
乗船せよ
天空の星すべて 私のコントロール下に
ハイヤーアップセッター
マーカス・ガーベイ宇宙船 黒い宇宙船 セブンマイル宇宙船
マーカス・ガーベイ デザイナー 音楽的に 過激に 音楽的に
アフリカ宇宙船 宇宙を飛んでいる
──“アフリカ宇宙船”

 宇宙船の移動速度に合わせトランペットが伸縮を繰り返し、乗船する宇宙飛行士としてのペリーが、アフリカ回帰運動指導者のマーカス・ガーベイが、さらにはイエス・キリストまでもが顔を出す。ここで彼が自らのスタジオをブラック・アーク、つまり黒い箱舟と読んだ理由が想起される。ペリーがトゥープに語るように、彼の目的あらゆるものの上空に位置する箱舟によって、動物、自然、音楽といった万物を平等に救うことである(なお、ペリーの言う「ark」は、宇宙船であるのと同時にモーセの十戒を運ぶ契約の箱「Ark of the Covenant」も意味している)。宇宙のヴィジョンを持つペリーは、偉人たちを対等に並べる。そこでは、同船者としてすべてがイコールになる。
 ペリーが浮遊する宇宙空間においては、その万物間のヒエラルキーは皆無に等しい。この宇宙論、つまりコスモロジーは、ペリーがかつて自身のブラック・アーク・スタジオについてトゥープに語ったことばにも確認することができる。彼によれば、スタジオの機材も人間のように生きており、そこを操作することによって、共存関係にある人間と機械が音楽を作り出す。よって、機械にも魂がある。このペリーのアニミズム的コスモロジーにおいて、機械が人間に操作される側にのみ位置しているような主体-客体関係は適応されない。この事物の水平的関係性は、先ほど触れた宇宙船内平等のアナロジーとしても考えることができる。

悔い改めよ 月の上のコオロギは言った
(……)
月の上でロックしてみろ ロックしてみろ
私は月でローマ法王を蹴っ飛ばした男だ
私は奴を追いだし 奴のケツを蹴り飛ばした
蹴り飛ばせ 蹴り飛ばせ
──“月の上のコオロギ”

 このペリー・コスモロジーは、彼が1曲目で降り立った月面上にも拡張し、動物と人間の垣根さえも曖昧になっている。彼のリリックによれば、月で説教を説くのは人間ではなくコオロギだ。かつてよりペリーの楽曲では自然物の存在が人間を凌駕することがあったように、『Rainford』でも各所にそのモチーフは現れ、バビロンの邪心を退治する存在として描かれている。ここでも従来のヒエラルキーなどなく、力を持っているのは、蹴られるローマ法王よりもコオロギの声である。
 このような彼の宇宙観は、あらゆるアフロ-カリブ文化の混合体でもある。それは黒人の人種的文化的アイデンティティの普遍性を謳歌するラスタファリアン神話にも由来しており、絶対的な王としてのハイラ・セラシエ1世がいるものの、ペリーの宇宙観そのものは絶対的なものではない。5曲目の“マクンバ・ロック”で歌われるように、ブラジルのマクンバや、アフロ-ジャマイカのオベアなど、中南米の黒魔術にもペリーは目を向けている。このように、ペリーの宇宙の捉え方において、ラスタの導きを得つつも、異なる宗教や魔術、エンジニアリング・サイエンスまでもが混在し、それらが楽曲のなかで奇妙なイメージの連鎖を作り上げている(また法王のケツを蹴り飛ばしてはいるものの、彼自身は反キリスト教徒ではないことでも知られている)。
 ボーナストラックの“天国と地獄”や、最後の“アップセッター自叙伝”などで語られるように、自身のルーツというマイクロで、ときに社会問題をつぶさに捉える視点と、宇宙に存在するアフロ-カリビアン文化というマイクロな視点を行き来している点も、『Rainford』を興味深いものにしている。これまでのキャリアで編み出された独自のペリー・コスモロジーだけではなく、彼の表現においていかに非合理的で魔術的で、フューチャリスティックなイメージが生まれようとも、そこにいたる自身のルーツをもペリーは忘れ去ろうとはしない。
 冒頭で述べたサン・ラーは、彼は宇宙を自分の場所とし、シンセサイザーと宇宙船というテクノロジーを装備し、人間に不条理に設定される人種のカテゴリーを拒否した。ペリーも同様に宇宙を目指すが、彼のベクトルはラーとは異なり、その目的は自分がやってきた場所を交差する関係性を増幅させることにあった。遠くへ行くためには、自分自身が何者であるかが分からなければならない。今作からはアフロフューチャリズムだけではなく、ペリーのそのような人生哲学までもが見えてくるようである。

髙橋勇人

Technics 7th in Tokyo - ele-king

 ヴァイナルとターンテーブルを愛するすべての人たちに朗報だ。DJカルチャーに多大な功績を残しながらも9年前に製造終了となっていた Technics の名器 SL-1200MK シリーズ、たとえばテクノ好きのあいだではリッチー・ホウティンとジョン・アクアヴィヴァによって設立され、スピーディ・Jやケニー・ラーキンといった才能を送り出してきたウィンザーのレーベル〈Plus 8〉の名が、同シリーズのピッチ・コントローラーの値に由来することはちょっとした豆知識になっているけれど、なんと去る5月24日、同シリーズ11年ぶりの新モデル SL-1200MK7 が発売となった。
 これを記念し、明後日6月5日 DOMMUNE にてスペシャル・プログラムが緊急配信。アナログをメインとするDJたちが一挙に集結する。第1部のトーク・パートには宇川直宏、DUB MASTER X、Technics の開発担当者である三浦寛らが出演し、SL-1200MK7 の魅力を徹底的に解剖。第2部のDJパートでは MURO、DJ EMMA、Mighty Crown、DJ KOCO a.k.a.SHIMOKITA、Dazzle Drums と、錚々たる面子がプレイする予定となっている。しかも通常3時間のDJタイムがこの日は4時間とのことで、見逃すと後悔する一夜になりそうだ。詳細は下記よりご確認を。

https://www.dommune.com/reserve/2019/0605/

SL-1200MK7 発売記念!!
DOMMUNE にてスペシャル番組配信が決定!!

世界中のレコード・ファン、ターンテーブリスト達が絶大なる信頼を寄せるターンテーブルが Technics SL-1200MK シリーズ。このターンテーブルが Hip Hop、クラブシーンに果たしてきた役割と功績は見逃せない。まさにこの優れたターンテーブルがあったからこそDJカルチャーが隆盛したと言える、そんな名器なのだ。しかし2010年に製造終了となり、世界中のターンテーブル・ファンから再発売を熱望されていたが、ついに5月24日に新モデル SL-1200MK7 が発売となった。

この発売を記念して DOMMUNE でアナログをメインにしたDJたちが集結するスペシャル・プログラムの緊急配信が決定。

出演は、今年1月のラスベガスでのお披露目イベント「Technics7th」でもプレイし話題になった DJ KOCO A.K.A SHIMOKITA、レゲエ界からは世界ナンバー・ワンの Mighty Crown の Masta Simon と Sami-T の2人、King Of Diggin こと MURO、Nagi と Kei Sugano による注目の男女ユニット Dazzle Drums、DJとして長いキャリアを誇る DJ EMMA というこの夜でしか有りえないジャンルを超えて選ばれた超豪華DJ陣が登場する。しかもこの夜は、通常3時間がDJタイムだが、この夜は4時間枠。
つまり前半のトークセッションは1時間に短縮だが、逆に濃い内容となる。Technics のターンテーブル開発担当、三浦氏に加え、リミキサーやエンジニアとして様々な機材を使いこなす DUB MASTER X も登場し、発売された SL-1200MK7 を解剖、また今年1月にラスベガスのベラージオ・ホテルで行われ DOMMUNE と BOILER ROOM で全世界配信され話題となったパーティー「Technics7th」の数百枚の写真から選んだフォト・ドキュメントや映像を交えたリポートも行われる予定。

【番組概要】
■番組名:Technics 7th in Tokyo
■日時:6月5日(水)19:00-24:00
■出演
1部(トーク):宇川直宏、DUB MASTER X、三浦寛(Technics)、石井志津男ほか
2部(DJ PLAY):DJ KOCO a.k.a.SHIMOKITA、Mighty Crown、MURO、Dazzle Drums、DJ EMMA
■配信サイト:DOMMUNE(https://www.dommune.com
※配信時間にPC/スマートフォン等からURLにアクセス頂ければ無料でご覧いただけます。

MURO
日本が世界に誇る King Of Diggin' こと MURO。「世界一のDigger」としてプロデュース/DJでの活動の幅をアンダーグラウンドからメジャーまで、そしてワールドワイドに広げていく。現在もレーベルオフィシャルMIXを数多くリリースし、国内外において絶大な支持を得ている。新規レーベル〈TOKYO RECORDS〉のプロデューサーにも名を連ね、カバーアルバム『和音』をリリースするなど、多岐に渡るフィールドで最もその動向が注目されているアーティストである。
毎週水曜日25:30~ TOKYO FM MURO presents 「KING OF DIGGIN'」の中で、毎週新たなMIXを披露している。

DJ EMMA
1985年よりDJを始め、東京各所のナイトクラブで数々のパーティーを成功させる。1994 年に「GOLD」と契約。クローズするまでレジデンスとして活躍、そのアグレッシブなプレイによって土曜日をまとめあげ、東京中の遊び人(ナイトリスト)たちに決定的な存在感を知らしめた。1995年にはDJプレイに留まらず音楽制作を開始。川内タロウと共に「MALAWI ROCKS」を結成する。同年〈NIGHTGROOVE〉より発売された12inchシングル「Music Is My Flower」が世界的ヒットを果たす。同じく1995年から発売され、日本を代表するMIX CDとなった『EMMA HOUSE』は、24bitマスタリングというMIX CDの枠を超えた徹底的な音作りとダンスフロアの雰囲気を閉じ込めた作品として好セールスを記録。2014年新たな活動を始めた〈NITELIST MUSIC〉から、日本発のACID HOUSE 『ACID CITY』を発売。〈HEARTBEAT〉から2年連続リリースとなったMIX CD 『MIXED BY DJEMMA vol.2』と共にダブルリリースツアーを全国15ヶ所で行う。常にダンスフロアと HOUSE MUSIC を中心に新しい音楽を最高の技術でプレイし続けるスタイルは KING OF HOUSE と呼ばれる。
2016年には活動30周年を記念した『EMMA HOUSE XX~30th Anniversary~』を〈ユニバーサルミュージック〉よりリリース。
2017年、プロデュースユニット NUDE 名義で「NO PICTURE (ON MY PHONE) feat. ZEEBRA」をリリースし、さらには最新作『ACID CITY3』を10月にリリースするなど、DJ及びプロデューサーとして精力的に活躍中。

Mighty Crown
1991年横浜で結成され、今では日本代表のみならず世界のレゲエアンバサダー/カルチャーアイコンとして活躍するダンスホールレゲエサウンド。
2017年11月にはボブマーリーファミリーの主催するカリブクルーズ船上でのサウンドクラッシュで3連覇を果たし、18年7月にはサウンド界のチャンピオンズリーグともいえるジャマイカでの世界大会 WORLD CLASH 20th Anniversarry で優勝を果たす。これまでに8つの世界タイトル、11回の優勝経験をもつ唯一無二の存在である。
観客を煽るMCと、曲をプレイする SELECTOR (いわゆるDJ)からなるチームとして、曲のメッセージ、音楽のパワーを倍増させてフロアに伝える彼らのスキルは随一。選曲やMCの妙で誰が一番観客を盛り上げるかを競う「サウンドクラッシュ」という音の戦いにおいても、早くから国内外で積極的に取り組み、1999年NYで行われた「WORLD CLASH in New York」で優勝。アジア人初のサウンドクラッシュ世界一の称号を勝ち取った。
以降は単に日本代表というだけでなく世界屈指のサウンドとして北米、カリブ諸島、ヨーロッパなど、海外各地を沸かし続けてきた。11個の世界タイトルを獲得し、トロフィーの数だけでなく、世界中にファンとリスペクトを増やし続けている。レゲエのメッカ、ジャマイカにおいても、サウンド文化の貢献者として表彰されるなどその存在と功績はジャンルを越え評価されている。
メンバーは設立からのメンバーである MASTA SIMON と SAMI-T の兄弟に加え、SAMI-T のNY修業時代に知り合い MIGHTY CROWN に加入したファンデーション担当の COJIE、そして MIGHTY CROWN 第二の拠点であるNY在住の NINJA。それぞれの得意分野を生かして単独でも活躍している。
国内外のクラブプレイ、レゲエフェスなどへの出演の他に、“信念とスタイル、そしてスキル”を持つアーティストとして、ジャンルを超え、ハイ・スタンダード主催の《AIR JAM》やモンゴル800 主催の《What A Wonderful World》などロックフェスのクラウドをもレゲエサウンドの手法と MIGHTY CROWN のスキルを活かして盛り上げている。また、人気ドラマ『HiGH&LOW』のサントラや般若、ANARCHY といった HIP HOP アーティストの作品にアーティストとして参加、イベント、レーベル、ブランドプロデューサーなどその進化はとどまることを知らない。

DJ KOCO a.k.a. SHIMOKITA
世界中のバイナルディガー達を圧倒させる選曲と、時折魅せるスリリングなテクニックで、オーディエンスを魅了する。これまでに、7インチのみでのライブミックスなど、数々のMIX作品を出し続けている現在進行形のヒップホップDJ。ファンク、ソウル、ディスコ、レゲエなど様々なジャンルの45'sを使い、ヒップホップ的な解釈で見せる彼のプレイは海外DJ達からも高い評価を受ける。現在、アジアでも活躍しながら、DJ Scratch がブルックリンから配信するDJパフォーマンスのストリーミングサイトで、「ScratchVision Tokyo」と題して定期に出演している。

Dazzle Drums
Nagi と Kei Sugano の2人組ユニット。それぞれが90年代からDJ活動を開始。ダンス/ハウスクラシックスを軸に幅広い選曲で新譜を織り交ぜプレイする。
2005年より楽曲制作を開始。〈King Street Sounds〉、〈Centric Music〉、〈Tony Records〉、〈Nulu Electronic〉、〈Tribe Records〉、〈BBE Music〉などこれまで数多くの海外レーベルからリリースを重ね、Danny Krivit、Joaquin Joe Claussell、Louie Vega、Tony Humphries、DJ Nori、DJ Emma や Tim Sweeney らがプレイし、幅広いDJからの評価を獲得。2010年、自主レーベル〈Green Parrot Recording〉を始動。2014年、1stアルバム『Rise From The Shadows』をリリース。2016年、Louie Vega ファミリー Anane Vega のレーベル〈Nulu Electronic〉から2ndアルバム『Concrete Jungle』をリリース。同年7月 Gilles Peterson 主宰、南フランス Sete で開催される《Worldwide Festival》に出演、12月 Ray-Ban x Boiler Room に出演。2017年、Mix & Compilation CD 『Music Of Many Colours』をリリース、同名のパーティーを Contact で始動。同年7月ヨーロッパツアー、10月アムステルダム ADE 出演。2018年7月2度目の《Worldwide Festival》出演を皮切りにヨーロッパ5ヶ国6都市をDJツアー。レギュラーパーティーは毎月第二日曜日夕方開催 Block Party @ 0 Zero。

DUB MASTER X
一発で彼の音と分る個性的な音作りをするが、そのバランス感覚は絶妙で、歌謡曲からクラブのフロアーを揺るがす音作りまで何でもこなすサウンド・エンジニア&DJ&クリエイター。ごく初期の Mute Beat 時代からダブ・エンジニアとして参加し、全ての作品に参加。Mute Beat 解散後は Remixer やレコーディング・ライブミックスエンジニア、DJとして活躍。「Dub Wa Crazy」シリーズで7インチ・シングルを10枚リリース(のちに全曲を収録した同名の2枚組CDをリリース)。92年にはファースト・アルバム『Dub Master X』を皮切りに『Dub Master X II』『Side Job』をリリース。また藤原ヒロシとの Luv Master X 名義のアルバム『L.M.X』も93年にリリース。Dub wa Self Remix シリーズを始めアンダーグラウンドでの活動をしながら00年には『Dub's Music boX』を、2009年には『Dub Summer Pop』をリリース。2010年には鬼才リミキサーユニット Moonbug に加入。2015年、盟友朝本浩文の事故をきっかけに集まった仲間達と DUBFORCE を結成。
リミックス・ワークとして浜崎あゆみ、倖田來未、Every Little Thing、globe、鈴木亜美、Do As Infinity、華原朋美などの〈エイベックス〉作品を多く手掛ける傍ら、ヤン富田、いとうせいこう、Pizzicato Five、ムーンライダーズ、The Blue Hearts、コレクターズ、キリンジといった玄人好みのミュージシャンの作品も多数制作。既に本人でさえ数え切れないほどの作品に関わっている。
PAエンジニア・レコーディングエンジニア・リミックス・プロデュース・アレンジ・プログラミング・DJ・舞台音響等々、アーティストサイドとスタッフサイドの両方を理解する希有な存在でもある。
2010 年頃より初心に立ち返り気持ちの良い音を探求すべくライブPAエンジニアを主戦場として活動中。Deftech、SUGIZO、柴咲コウ、m-flo、かせきさいだぁ、小島麻由美、MORE THE MAN、SOUR、KanekoNobuaki、POLARIS、柴田聡子、BASSONS、木根尚人等のFOH を担当している。

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