「Ord」と一致するもの

Burial Hex - ele-king

 ウェブ・レヴュー3度めの登場、久方ぶりのフルレンス・アルバム。え? 何枚めかって? 今年でデビュー10周年、CDRやカセットを含むと過去音源は通算80以上にのぼるブリアル・ヘックスのどれがスタジオ・アルバム仕様なのか、と遡るのを想像するだけでしんどい……。
 これがラスト音源だぜ! といったアナウンスが流れているが、過去に何度か同じことを言われ、騙されているわけで、今回もにわかに信じがたい……が、たしかに内容は最後を締めくくるにふさわしいと、言わざるをえないだろう。

 以前のレヴューでの紹介と重複するのでハショりますが、ブリアル・ヘックス(埋葬された呪い)は地底深くに隠されたある種のエネルギー・サイクルであり、それはヒンドゥー教の宇宙論において循環するとされる4つの時期の最終段階、万物が破滅にいたる終末の状態を表すそうだ。カリ・ユガ(Kali Yuga)である。
 クレイ・ルビー(Cray Ruby)にとってこのプロジェクトが自身の内包するドゥーム・スケープ(終末のヴィジョンとでも形容しようか)の具現化であることは過去十年間揺らがないのだ。ドゥーム/ドローン・メタル、パワー・アンビエントが台頭していたゼロ年代半ばにそのキャリアをスタートさせたブリアル・ヘックスはその後のネオ・サイケ・フォーク・リヴァイヴァルへの流れへと先陣を切りながら、自身が形容するところのホラー・エレクトロニクスという形で、近年〈デスワルツ・レコーディング(Death Waltz Recordings)〉がヴァイナルでの再発をおこなうようなカルト・ホラー・ムーヴィーのサントラから触発されたようなファンタジー性の高いソング・ライティングをおこなってきた。

 本作、ザ・ハイエロファント(The Hierophant)のタイトルは花京院のスタンドでお馴染み? の教皇のタロット・カードである。ステーク・ヘクセン(Sutekh Hexen)のケヴィンによる強烈な牛ジャケ・デザイン。そもそも教皇のカードを星座の牡牛に対応させるのは黄金の夜明け団による解釈であり、さまざまなオカルティズムにディープに精通するクレイによる暗喩がいつもより多めにこのアルバムに収められていることを象徴しているようだ。
 収録される楽曲も過去音源と比較してもダントツでキャッチーである。パワー・エレクトロニクス感は一切鳴りを潜め、同郷のゾラ・ジーザスばりにポップなアプローチを試みたと言っていいだろう。

 ちなみに過去の地元繋がりの両者による以下のコラボレーションは秀逸。)

 ハイエロファントの楽曲は上記のようなブリアル・ヘックスのポップ・センスが全面的にフィーチャーされたアルバムだ。ニューロマな方向にエモ過ぎる展開、じつはけっこう凝っているキャッチーな打ち込みビート、ファンキーな手弾きベース、やり過ぎなほどゴシックなオーケストレーション、そしてわりと全面通してウィスパーしたり唱いあげるクレイ。大聖堂のステンドグラスに降り注ぐ神々しい光と冬山に隠された洞穴でおこなわれる血塗られた儀式が交互にフラッシュバックする初冬に相応しいゴスな一枚。

Kero Kero Bonito - ele-king

 ここ数年、戸川純のライヴは皆勤に近いほど観に行っている。そのうち半分は対バン・シリーズで、大森靖子やマヒトゥ率いる下山など、なぜか彼女は若いバンドとしかカードを組まない。そして、そうした若手はしっかりとした美学を持っていることが多く、神聖かまってちゃんでもVampillia(ヴァンピリア)でもコンセプトが明快で、どこか80年代を思わせるムードに彩られている。先日もフロッピーというラップ・トップ使いが対バンで、氣志團がYMOに憑依したようなストリート風エレクトロニック・ポップを展開していた。つづいて登場した戸川純がMCで思わず「同期モノがやりたくなってしまった」というほど派手なステージだった。原宿〈クロコダイル〉で観たクリスタルバカンスがフラッシュバックするほど。

 可及的速やかに視野を狭めて80年代リヴァイヴァルがどうだとか言う気はない。プリンスがカムバックし、ブラッド・オレンジやカインドネスが呼び水になったとか、イギリスではABCが『レキシコン・オブ・ラヴ』(1982)全曲再現ライヴを何度もソールド・アウトし、ボーイ・ジョージやジョン・フォックスの復活も本格的だとか。そもそもヴェイパーウェイヴはどうして80年代のクズ拾いに躍起になっているのか。セイント・ヴィンセント、モリッシー、ディアフーフ……そういうことをいくつか並べ立てていれば、なんでも現象にしてしまえるのがメディアというものだし、もともとが見たいものしか見ないのが人間というものなので、インターネットは、その「見たいもの」を加速させる装置としては申し分ないこともわかっている。わかってはいるけれど……しかし、そう、サウス・ロンドンから現れた男女3人組はまったくもってフランク・チキンズではないか! 彼らの存在をほかに、どのような文脈に当てはめてケース・クローズドにすればいいのか(それは完全に職業病です)。関係ないけど、フランク・チキンズの歌を思い出そうとすると、山田邦子『邦子のかわい子ぶりっ子(バスガイド篇)』(1981)と歌詞が混ざってしまって、いつもヘンな歌になってしまいます……。

 ケロケロ・ボニトのデビュー・アルバムをまずは聴いてみるケロ。


 ラップ担当のサラはフランスと日本のハーフだそうで、歌詞も半分は日本語。微妙に感性を掴んでいるようなズレているような内容で、「発音のいい英語」に比べてどうも無表情に聴こえてしまう。音楽性でもいいし、バンドのコンセプトでもいいけれど、人工性を強調することは80年代におけるひとつの様式美だった。どこか覚めたところがあって、没入の否定=「呑み込まれていない」ということを示す必要があったケロだろう。それが、ここでは、そのような紆余曲折もなく、素直に人工的なセンスが実現されていて、なんとなく妙な気分ではある。それだけ日本のエイティーズが多様な屈折の上に咲いた花だったということかもしれないので、それがいつしか聴き応えというようなものにすり替わってしまい、僕の耳が素直なものにはそのまま向かい合えないということもあるのかもしれない。歌詞がストレートにティーンエイジのそれだということも手伝って、つまり、日本の音楽史のどこかに置こうとしても、どの時代にも属しようがないために、聴けば聴くほど、この妙な感じは増幅する。どう考えても歌詞が日本語でなければ、こんなことにはならなかったはずである。こんなことが続けば……そう、ヴェイパーウェイヴだって、いい加減、戸惑う時があるのに、この先、日本を意識したポップ・ミュージックが増えてきたりすれば、さらに混乱した気分になってしまいそう。

 ディプロがゴテゴテのマッチョにしか思えなくなってくるほどチープでシンプルなサウンドもその効果には一役買っている。イギリスから発信されている以上、90年代もゼロ年代もなかったかのようなエイティーズ・サウンドが繰り返されるわけもなく、ここにはUTFO・ミーツ・ジェントル・ピープルとでも言いたくなるような箱庭的世界観の敷衍からグライムの反対側にネクストを探ろうとする野心は見つけられる(身体性が希薄であることも80年代の様式美には組み込まれていた)。日本のラップがなんだかんだいって情緒過多だということもあって「乾いたサウンドに日本語」という組み合わせはそれだけで驚くほど新鮮で、さらにはオキナワン・エレクトロみたいな曲もドライさには拍車をかけている。

※日本先行CDにはスパッズキッドほかによる6曲のリミックスがプラスされている。

Katakoto - ele-king

 2014年、衝撃のデビュー・アルバムを発表した、愉快なヒップホップ・グループのカタコト──人気絵描きのドラゴン(『ボブ・ディランは何を歌ってきたのか』の表紙イラストもこの人)、人気ラッパーのヤノシット、快速テツマルを擁する──がいっきに4つのPVを公開。そして、REMIX&マッシュアップ音源の絶賛フリーDLサイトも公開中です。1曲、group_inouのimaiがリミックス。これはけっこう、面白いです。ちなみに、借りたいDVDがわからないときは、木津毅か三田格かテツマルに訊くのが良いみたいです。


HELLO KATY MV

Man In Da Mirror MV

デス!プルーフ MV

ピアノ教室の悪魔MV

トム・アット・ザ・ファーム - ele-king

 わたしたちは眩い才能が開花する瞬間に立ち会っている。グザヴィエ・ドランの話だ。1989年生まれ……25歳。初監督作は19歳のときに撮られた。わたしたち日本の観客の多くが彼の映画にはじめて出会ったのは長編3作め『わたしはロランス』だったが、それは、ある日「女になる」ことを決めた青年が痛切に愛を求めて彷徨する姿が鮮烈で幻惑的なイメージと甘いポップ・ミュージックに彩られつつ描き出されたもので、観る者の胸を激しくかき乱したのだった。そこにはたしかに狂おしい若さと、それを飛翔させるだけの大胆さと詩情があった。ゲイであることを公言しているこのハンサムな青年は、すでにアイコニックな存在として――「神童」などと言われながら――未来を嘱望されている。



 ドランの4作めとなる『トム・アット・ザ・ファーム』は、自身が脚本・主演・編集を務めながらも、彼のこれまでの作風とやや距離を置く心理スリラーだ。ジャンル映画と言ってもいい。しかもミシェル・マルク・ブシャールの戯曲を基にしているため、はじめて他者の原作に由来する物語を扱っており、結果としてこれまでのやや過剰なセンチメントは抑えられ、非常に醒めた一本となっている。そして、驚くほどに明確に「同性愛者として生きること」がどういうことかを突き放してえぐり出している。
 戯曲を下敷きにしているため舞台はほぼ田舎の農場に限定されている。ドラン本人演じる主人公トムは、交通事故で喪った同性の恋人ギヨームの葬儀に出席するため彼の故郷の農場を訪れるが、ギヨームは生前、母に自分の存在を隠していた。事情を知るギヨームの兄・フランシスに「母に真実を語るな」と脅され、やがてトムはフランシスからの暴力に晒されるようになっていく……。ブシャールの戯曲には序文で「同性愛者は、愛し方を学ぶ前に、嘘のつき方を覚える」と書いているそうだが、まったくもってその通りで、恋人ギヨームが自分の存在を隠していたことにトムは傷つくが、そのこと自体は別段驚くことではない。カミングアウトを受け入れない土壌が根強く残っていることは、日本で暮らしていればじゅうぶん理解できることだ。
 この物語で問題となっているのは、トムと恋人の乱暴な兄・フランシスとの関係だ。「真実を告げる」と言うトムに、フランシスは物理的な暴力で「黙らせる」。ここでのフランシスはホモフォビアの表象である……たしかにそうだろう。しかしながら、トムは同時にフランシスに強く惹きつけられてもいる。フランシス演じるピエール=イヴ・カルディナルはヒゲを生やした筋肉質な体格の男として最初の登場シーンでは上半身裸で現れ、度々トムに息のかかる距離に接近してみせる。また、幾分唐突にフランシスとトムがタンゴを踊るシーンの官能性は、映画の色気そのものになっている。自分たちに嘘を強要し、精神・肉体両面に対して暴力をふるう存在あるいは社会に、同性愛者たちが自らすすんで囚われの身となってしまうことを、『トム・アット・ザ・ファーム』は一種エロティックにあぶり出しているのだ。嘘をつき続けていたほうが楽だということを自分の幸福と錯覚し、あまつさえ、そうした状況と「契り」を交わすようにすら、なる。

 だからこそ、本作は後半で脱出もののスリラーとなるのだ。トムは逃げなければならない。フランシスの暴力から、非寛容から、あるいは、重ね続ける嘘から。そうした社会的なアングルはブシャールの戯曲の時点ですでに確立してはいただろうが、ドランがここでやっているのは、ヒッチコックが比較に挙げられるような「映画」的な文法にそれを乗せることである。弛むことのない緊張感。パーソナルな度合いが強かったドランのフィルモグラフィのなかで、明らかに『トム・アット・ザ・ファーム』は自分自身と、世の同性愛者が置かれた状況を異化して見つめることでそのフォルムの完成度を高くしている。
 ラストで流れるのはルーファス・ウェインライトの“ゴーイング・トゥ・ア・タウン”だ。「僕はアメリカにはうんざりなんだ」……。その歌声はそこで、逆説的に希望として響いている。「自由」はもしかしたら囚われの身でいることよりも困難で、不安なことかもしれないが、だからこそ踏み出す価値がある。逃げなければならない、僕たちは逃げなければならない……。

予告編

interview with Bok Bok - ele-king

 今年の元旦だっただろうか。リンスFMでの〈ヘッスル・オーディオ〉の番組でベンUFOとピアソン・サウンドとのB2Bに招かれたのは他ならぬボク・ボクだった。〈ヘッスル〉のふたりがダブステップをかけまくるなか、〈ナイト・スラッグス〉のリーダーはグライムで対抗。レコード屋の壁一面がダブステップだったゼロ年代初期、店員がヤングスタだろうがそこへグライムを求めに通っていたという男は、最後までけっして折れなかった。まさに現代版のセロニアス・モンクとマイルズ・ディヴィスによる喧嘩セッション。2014年のはじまりは血塗られていたのである(ちなみに、この3人はとても仲良しで後日にもB2Bをしています)。


Bok Bok
Your Charizmatic Self

Night Slugs / ビート

ElectronicDubstepGarageGrime

Tower HMV Amazon iTunes

 こんな出来事を紹介してしまったが、ボク・ボクは決してグライム原理主義者というわけではない。彼はロウ・ハウスからときにヒップ・ホップやジュークへと展開もさせられる技術と、あらゆるジャンルへの感受性と柔軟性の持ち主だ。〈ナイト・スラッグス〉のアーティストが集結するパーティのフロアに一時間立っていれば、彼ら全員がこの素養を持つフロアから「モテる」DJだという答えにたどり着く。ひとつのジャンルを一晩流しつづけるシリアスなパーティも最高だが、〈ナイト・スラッグス〉が持つどこにでも行ける「軽さ」(もしくはいい意味での「チャラさ」)もなければシーンのバランスが取れなくなってしまうのかもしれない。

 だがボク・ボクがグライミーでありつづけていることもたしかだ。EP『ユア・カリズマティック・セルフ』にはR&Bやファンクがある。〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルである〈フェイド・トゥ・マインド〉から2013年にアルバム『カット4ミー』をリリースしたアメリカのアンダーグラウンドの歌姫、ケレラが参加した“メルバズ・コール”。「ベース系」といわれるジャンルでは珍しくスラップ・ベースが使われている“ファンキエスト”。いままでボク・ボクがプロダクションであまり見せてこなかった姿がここにはあるものの、BPM130-140付近の曲の早さや空間を際立たせる技法、そしてベースの使い方はグライムである。自身のルーツとDJで培った「モテ感」が絶妙な作品だ。

 さて、このあたりでそろそろご本人に登場してもらいましょう。レーベルの過去と未来について、ロンドンの思い出、ディジー・ラスカルからDJラシャドまで、ボク・ボクは多くの質問に軽やかに答える。そして、最後まで読むといいことがあるかもしれません……。
(テキスト:髙橋勇人)

Bok Bok / ボク・ボク
音楽からファッションまで注目を集めるロンドンの若手クリエイター集団、〈ナイト・スラッグス〉の中心人物。そのネットワークはニューヨークにまで及び、姉妹レーベル〈フェイド・トゥ・マインド〉とともにアンダーグラウンド・シーンにおいて強い発信力と存在感を誇っている。自身のプロジェクトにおいては2011年の「サウスサイド」が脚光を浴び、本年リリースの『ユア・カリズマティック・セルフ』へは、デビュー・アルバム『CUT4 ME』(2014)が『ガーディアン誌』の年間アルバム・チャート7位にもなったヴォーカリスト、ケレラをフィーチャーするなど、先進的な動きをオーガナイズする嗅覚と手腕にも長けている。


建築って、建てられた時代によって当時の技術が反映される。なおかつ建築のプロセスでアナログ、つまり人力が使われないことはない。そういった感じで、自分たちは現在のテクノロジーをアナログの手法を取り入れながら音楽で表現したいという気持ちがある。

今日はあなたにプレゼントを持ってきました(『ele-king vol.12』を見せる)。この号では〈フェイド・トゥ・マインド〉を特集したんですよ。このグラフィックはキングダムがデザインしたものなんですよね?

ボク・ボク(以下BB):ワオー、ありがとう! このロゴをデザインしたのは僕なんだけど、背景のコラージュとかはキングダムがやっているよ。すごいね、見開きが4つも!

この会場(代官山〈UNIT〉)でDJしたことってありましたっけ?

BB:日本には何回か来ているんだけど、ここは今回が初めてなんだよ。この楽屋には友だちのサインがたくさんあるね(笑)。お、ヤングスタのサインがある。彼がロンドンのブラック・マーケット・レコードで働いていたときによくレコードを買いに行ったよ。2004年とかだったと思うけど、そのときにフロアで売っているレコードのほとんどがダブステップで、そんななか僕はグライムを買いによく店に行っていた。僕が聴きたいグライムのレコードを「この曲はクソだな! 俺が作るんならプロダクションはこうする」とかヤングスタは言っていたよ(笑)。

おお(笑)。それがいつの話ですか? 僕は店名がBMソーホーになってから行ったんですが、ダブステップはあくまでお店の一部という感じでした。

BB:それが2004年くらいかな。〈dmz〉とかがはじまった年でダブステップが盛り上がってくる時期だったんだよ。

以前、この部屋でアンディ・ストットとデムダイク・ステアにインタヴューをしたんですよ。デムダイク・ステアの「テスト・プレシング #5」はグライムみたいでしたよね。

BB:グライムが登場してからもう10年は経つけど、いまになってシーンに外のプロデューサーたちがグライムを取り入れたりしている印象だな。僕が最初にグライムを聴くようになったときと比べたら、現在はより多くのひとがシーンに注目しているのはたしかだ。僕は初期からシーンを追っていたから、当時を思い出してちょっとノスタルジアを感じるよ(笑)。ダニー・ウィードとかジョン・E・キャッシュとか懐かしい!

〈フェイド・トゥ・マインド〉と〈ナイト・スラッグス〉のロゴ・デザインはあなたが担当されたとのことですが、それらはポスト・インターネット世代のストリート感を象徴するデザインだと思います。

BB:おお! 僕も部分的にはそう思うかな。現在ってもう完全にコンピュータの時代だけど、僕がネットをはじめたときっていまほどユビキタスって感じではなかった。インターネットが発達する前後の境目が僕の世代なんだ。だから、僕よりちょっと年下のひとたちにも違和感を覚えるときがある。


グラフィティという意味でなら言うべきことはあるね。じつは僕はグラフィティをやっていたことがあるんだ。

初めて自分のパソコンを手に入れたのはいつなんですか?

BB:1999年くらいかな。でもそれは1.0世代のコンピューターだった。SNSも何もなくて、いまとはまったく違ったものだったな。マイスペース、フェイスブックもなければツイッターもなかった。

あなたのデザインを見ていると、いまはストリートがネットのなかにある気がするんですよ。ストリートというものはご自身のなかで重要なものなんですか?

BB:ストリートは広い意味だけど、具体的に言うと?

グラフィックのようなものから、自分たちだけの遊び場という意味です。

BB:グラフィティという意味でなら言うべきことはあるね。じつは僕はグラフィティをやっていたことがあるんだ。そのことをほとんど誰も知らないんじゃないかな。だから初期の〈ナイト・スラッグス〉のロゴもグラフィティ的なタイポグラフィの影響がある。だけど僕はもともと印字や文字列が好きなんだ。僕にはそういったデザインのバックグラウンドがあるからね。ストリート的なものが自分のデザインに関係しているだろうけど、それが直接的なのか間接的なのかはわからないんだ。

もし2014年の現在に〈ナイト・スラッグス〉をスタートさせていたとしたら、デザインは同じものになっていたでしょうか?

BB:判断するのは難しいけど、たぶん同じものになっていたと思う。僕たちはいろいろ経験を積んできたから、もちろん違ったデザインをする可能性もあるよ。でも僕はひとつのことに執着するタイプなんだ。いろんなものに毎日手を出すひともいるけれど、僕はそうじゃないかな。最初からそのマインドはずっと変わっていない。


僕たちは現在にいるから、そこから目を背けてしまったら偽っていることになると思うんだ。

もうひとつデザイン的な意味で言うと、近未来的な要素も〈ナイト・スラッグス〉にとっては特徴的だと思います。80年代へのオマージュのようにも見えますね。この数年来、そうしたリヴァイヴァルもありましたが、今度は時代が90年代へ向かっていると思います。90年代カルチャーで思い入れが強いものはありますか?

BB:その質問に答える前にいくつか付け加えることがあるな。僕は80年代に生まれて90年代に育ったから、そのあたりの文化に影響されているかもね。だけど、僕が音楽とアートワークをデザインするときは、自分の置かれていた環境を参照したりはしないよ。そのふたつがいかに上手く結びつくかをつねにチョイスしているから、創作のプロセスに取り入れるものは現在かもしれないし場合によっては過去かもしれない。
 2010年は本格的に〈ナイト・スラッグス〉をはじめた年なんだけど、当時のアートワークは80年代の初期にパナソニックが発表した「グライダー」(ロバート・エイブル・アンド・アソシエイツ制作)というヴィデオに影響を受けている。デザインを考えているときのリサーチをしている段階で見つけたんだよね。そこから僕たちのデザインは変わっていったけど、もとにはこの作品がある。



 これはかなり初期のCGによる作品で、シンプルだけど温かみがあるデザインが好きだ。全部デジタルだけど、ある種のソウルを感じない? これ以上細部にこだわったら、このテクスチャーは出ないだろうね。たしかに80年代を象徴するような作品だと思うけど、単純にこのヴィデオが持つフィーリングに惹かれたんだ。

未来を描いているようだけど、映像の主体が機械ではなく紙というところがおもしろいですね。

BB:そうなんだよ! 全部がデジタルなんだけど、冷たさは感じられないんだ。

そういう嗜好をお持ちなのは、アナログ的なものへの興味があるからですか?

BB:アナログのプロセスは大好きだ。現在ではかなり珍しいものになってしまったけど、大事にしていることのひとつだね。機材もアナログのものが多い。でも、それと同時にデジタルとアナログの組み合わせにも可能性を感じているんだ。仮にすべてアナログのみでプロダクションをしてしまったら、レトロ過ぎる仕上がりになってしまう。それだけはどうしても避けたい。だって僕たちは現在にいるから、そこから目を背けてしまったら偽っていることになると思うんだ。もちろん、現在だってアナログのみで作られた作品もたくさんあって、インスパイアされるようなものもあるけれど、同時におもしろくないものも多い。
 大事なのは最良の結果を導き出すことだよね。アナログの利点は暖かくて、人間味があって、操作の面でオープンであることだと思う。対してデジタルはプロセスが簡潔で音がクリーンだ。たとえば、建築って建てられた時代によって当時の技術が反映される。そしてなおかつ建築のプロセスでアナログ、つまり人力が使われないことはない。そういった感じで自分たちは現在のテクノロジーをアナログの手法を取り入れながら音楽で表現したいという気持ちがある。

『グライダー』を見てからいまの話をきくと、新作EP「ユア・カリズマティック・セルフ」は、まるであなたのトラックが部屋で、ケレラの歌が紙飛行機だというふうにも感じられます。

BB:その解釈はおもしろいね。じつは今回のEPのプロダクションではアナログの音源をかなりたくさん使っている。それを最終的にデジタルで処理するんだけど、それが僕のスタイルなんだよ。

[[SplitPage]]

「ファンキー」って言葉は自慢するときによく使われるんだ。そして、ファンクは滑らかなソウルへの反抗でもあったわけだからね。

このEPでおもしろいところは他にもあって、たとえば“ファンキエスト”という曲があります。「ファンキエスト」は「ファンキー」の最上級ですが、この曲はファンクネスからむしろファンクを削ぎ落して残ったものという感じがするんです。

BB:なるほど。スタイル的にはファンクじゃなくてグライムだしね。

どうして“ファンキエスト”という名前なんでしょうか?

BB:「ファンキー」って言葉は自慢するときによく使われるんだ。「俺が最高でもっともファンキーだ!」とか、「5分後、俺が最高にファンキーになってやるぜ」とかね(笑)。
 そうやって「ファンキー」は人間味とかを意味することもあるけれど、同時に堅くて尖っているものを指したりもする。たとえばファンクのスラップ・ベースも尖った音だよね。ファンクは滑らかなソウルへの反抗でもあったわけだからね。この曲のサウンド面で意識したのは、スタイルとしてのファンクではなくて、そういったフィーリング的なものだね。もともとそういう表現が好きで、それをテーマに作ってみた。

そういった堅さや尖ったイメージというものが、あなたのスタイルや〈ナイト・スラッグス〉にはあると思います。ファンクからファンクを削ぎ落していったようにも見えるけれど、いまおっしゃった意味でもっとも「ファンク」なんだというのが逆説的でおもしろいです。

BB:ファンクの定義を何とするかでファンク・ミュージックは大きく変わってくる。でも、自分にとってファンクとはいろんなものが集まってできたものなんだ。抽象的というのとは少し違うんだけど、多様な要素を取り込むという意味では自分がやっていることに繋がるものがある。それと同時にグライムというものが自分にとっては本当に大事な要素だったから、サウンドはぶれていないんだ。

あなたは過去にもグライムの素晴らしい曲をリリースしていますし、オールド・スクールのグライムにも精通しています。“サイロ・パス”という曲ではディジー・ラスカルの“ゴー”をサンプリングしていますよね。少し前ですが、2012年のロンドン・オリンピックの開会式にはディジー・ラスカルが登場しました。あなたはそれをどのように見ていたのでしょう?

BB:ディジー・ラスカルはもはや人間国宝みたいなものだからね。彼のファースト・アルバムはゲットーでの暮らしについてのものだった。最近の曲では、彼はふたつの選択で迷う自分についてラップをしたりする。「俺はゲットーに戻るべきか、それとも夢を追うべきか」みたいにね。いまとなっては、ディジーはグライムを超越する存在になった。ファッションに夢中になり過ぎていたこともあったけど、最近はまた昔のスタイルに戻りつつある。その一方で彼はポップ・スターなわけだ。彼のロール・モデルはすごいと思うよ。オルタナティヴであると同時に国宝級に大きな存在であるわけだからね。セレブの世界にだって彼はいける。オリンピックの開会式への出演はまさにそんなディジー・ラスカルの両義性を象徴していると思う。


ディジー・ラスカルはもはや人間国宝みたいなものだからね。彼のロール・モデルはすごいと思うよ。オルタナティヴであると同時に国宝級に大きな存在であるわけだからね。

ブリストルのカーン&ニークは〈バンドゥール〉を立ち上げて、グライムのリリースをレコードしています。彼らは現在もダブプレートを切っていますが、その活動についてどう思いますか?

BB:昔は僕もダブプレートを切っていたんだけど、値段が高くなってしまったからもうやらなくなった。それに、どんなメディアを使おうが自分の音楽には関係ないと思う。自分はCDJも使うから、ダブプレートの音がいいのはわかるけど、そこにこだわる必要はないんだよ。もちろん、いまもダブプレートを切っているひとたちを尊敬しているけどね。

ちなみに、グライムにはMCも重要な要素ですが、どうしてあなたはMCをやろうと思わなかったんですか?

BB:プロダクションの面に関しては自分はいけると思ったけど、MCの才能が僕にはなかったからね(笑)。

最近のダンス・ミュージックの傾向として、たとえばテセラらスペシャル・リクエストのようにジャングルやレイヴの要素を積極的に取り入れる動きがあります。このような流れのなかで、あなたはどうしてジャングルをやらないんでしょうか?

BB:単純に自分のバックグラウンドにジャングルがないんだよ。それに僕は起こったことをフォローするタイプの人間じゃないから、無理にトレンドを追うことはしない。

あなたにとってジャングルとグライムは何が違いますか?

BB:自分が15歳くらいのときにグライムをリアルタイムで体感できたことは大きな差になっているね。ジャングルには間に合わなかったからさ。取り巻く文化もぜんぜん違うよね。ジャングルはドラムンベースになって文化的な意味で「終わり」を迎えた。グライムはガラージから発展したものだけど、当時はそれが単なる移行ではなくて新しい文化が芽生えたように思えたんだよ。
 音楽そのものにしてみても、グライムはテクノのフォーマットにとても似ている。メロディとノン・メロディや、音楽的なものと非音楽的なものの境を行きできる点とかね。ジャングルだってもちろんそうだけど、なぜか自分にはピンとこなくてね。それに対してグライムは自分にとってとても響く存在だったんだ。


ジャングルはドラムンベースになって文化的な意味で「終わり」を迎えた。グライムはガラージから発展したものだけど、当時はそれが単なる移行ではなくて新しい文化が芽生えたように思えたんだよ。

〈ナイト・スラッグス〉は今年で6周年を迎えて、最初の領域からだいぶ広がって世界的な規模で動いていると思います。もともとの形──小さなパーティというレベルに戻したいという思いはありますか?

BB:戻りたくはない。たしかに前よりも多くの場所でDJするようになった。今度はツアーで南アフリカへ初めて行くんだ(笑)。でも自分の活動は同じものが長く連続しているだけだよ。僕はそれに関してかなり前向きに考えている。レーベルを6年やってきたけど、ジャンルについてもあんまり考えてこなかったな。つねにフィーリングを大事にしてきたからね。そういった姿勢は少なくとも僕の立場から見ると変わっていない。

パーティのような、集まりであったり現場であったりというところに原点があるわけではないんでしょうか?

BB:現在はスタジオにいる時間のほうが長いから、パーティの現場へ行く時間は前よりは減ったかな。最初の2年くらいは、音楽を作っている仲間の作品の発表場所として現場を重視していたけど、2008年くらいから曲をリリースできるようになった。活動の領域が変わったのはそこからだね。

作品をリリースしていくことがレーベルの大きな目的だったんですか?

BB:そういうわけでもなかったよ。最初はリリースするものが何もなかったからね。DJをはじめて曲を作る前から、僕は音楽のコレクターだった。だからレーベルを立ち上げて曲をリリースするのは夢ではあったよ。それがいまではできている。でも、「いまみたいになりたい!」と昔から強く思っていたわけでもない。当時の自分のまわりにいた音楽仲間に恵まれていて、彼らと何かやってみたいと思っただけなんだよ。

この質問は日本のファンのためにも整理しておこうと思うんですが、〈ナイト・スラッグス〉と〈フェイド・トゥ・マインド〉の関係はどういったものなんですか?

BB:オーケー! 〈ナイト・スラッグス〉のあとにできたのが〈フェイド・トゥ・マインド〉で姉妹レーベルにあたる。たまにぶつかることもあるけど、家族のケンカみたいなものだよ。だから双子ではなくて兄弟なんだ(笑)。クルーそれぞれがユニークなアイディアをもっているからね。〈フェード・トゥ・マインド〉はアメリカ的なものを、〈ナイト・スラッグス〉はロンドンの側面を体現していて、それぞれのアイデンティティがある。でも通じるものがあるからコラボレーションもするんだ。

ロンドンとアメリカの関係を作りたかったという意図はあるんですか?

BB:そうじゃないよ。〈フェイド・トゥ・マインド〉はキングダムが自発的にはじめたレーベルだからね。彼がレーベルをはじめるときに、僕はロゴのデザインを頼まれたんだけど、「そうしたらレーベルは〈ナイト・スラッグス〉みたいになっちゃうよ?」って言ったんだ。するとキングダムは「それでいいじゃん!」って快く答えた。そこからいまのような関係に発展したんだ。ちがう場所に尊敬できる相手がいることは、自分に夢がかなったような気分だな。


彼がレーベルをはじめるときに、僕はロゴのデザインを頼まれたんだけど、「そうしたらレーベルは〈ナイト・スラッグス〉みたいになっちゃうよ?」って言ったんだ。するとキングダムは「それでいいじゃん!」って快く答えた。

今日は〈テックライフ〉のTシャツを着ていますが、この会場はラシャドが東京でプレイした最初で最後の会場です。彼とフットワークについて意見があれば教えてください。

BB:彼は音楽的に多くのものを残した。80年代のシカゴ・ハウスのときからフットワークのシーンにはすごい才能を持ったプロデューサーがたくさんいるけど、ラシャドはそれを世界に広める役割、つまり大使のような存在だったね。彼はフットワーク以外のジャンルのプロデューサーと交流してメッセージを広めていた。

リンスFMでP.O.L.スタイルとともにラシャドの追悼セットをしていましたが、誰のアイディアだったのでしょうか?

BB:その日は僕がリンスでプレイする予定で、ポール(P.O.L.スタイル)が僕のゲストだった。前日のラシャドの訃報が届いたんだけど、そのときのムードがかなり緊迫したものだったから、なんとかしなきゃなと思ったんだ。だからいろんな種類の音楽をかけて追悼することにしたんだ。あれは正しい選択だったと思っているよ。ラジオでかけたことがない曲もたくさんかけて、世界中のリスナーと共有できたしね。

ファッションが昔ほど音楽カルチャーを引っ張らなくなりましたが、たとえばファッション、あるいはヴィジュアル表現へのこだわりはありますか?

BB:たしかにそのとおりだね。いま世界では文化が単一化していて、どこに行っても似たような格好のひとが増えた。ファッションに音楽が入る余地がなくなってきているように思える。
 僕の場合、ファッションと音楽って必ずしも結びつくものではないんだ。スケートボードにはまったときに、ヴィデオをみたりしてヒップホップとパンクが結びついていることに影響されたりはしたけどね。
 〈ナイト・スラッグス〉のヴィジュアルに関しては音楽のアイディアやフィーリングをもとにしている。ファッションについてはあんまり考えてはいないけど、いつかできたらいいな。

〈ナイト・スラッグス〉はひとつのスタイルを提示してきました。そして、その中心にはあなたがいましたね。2020年までにあなたが提示していくもののなかに何を期待できるでしょう?

BB:難しい質問がきたね(笑)。いまと同じ価値観を保ちつづけているかぎりは同じことをやっていくと思う。いまのスタンスでまだまだできることは多いと思うんだ。音楽的にはより多くの要素を取り入れてみたい。アートをより経験的なものにするアイディアも出てるんだよ。たとえばアートワークと音楽にしてみても、インスタレーションみたいな形で表現することだっておもしろそうだよね。こんな感じで可能性はたくさんはあるけど、自分がいままでやってきたことを続けていくよ。


■「記事をツイート」でBok Bokサイン本をプレゼント!

巻頭グラビアとしてキングダム(〈フェイド・トゥ・マインド〉)によるグラフィックを掲載した『ele-king vol.12』(2013年総括号!)を、抽選で3名様にプレゼントいたします。グラビアページにはボク・ボクによるサイン入り!

『ele-king vol.12』
特集◎2013年ランキング、ブリストル・ニュースクール、ポスト・ジャズ
ISBN 978-4-907276-08-9
192ページ、電子書籍版へのアクセスキー付
本体1,500円+税

■応募方法
以下3点を明記いただき、info★ele-king.net宛てにメールしてください。
(★部分を@に変えてご送信ください)
※ご挨拶文等はお書きいただかなくて大丈夫です!
・お名前(ペンネーム可です)
・この記事についてツイートしていただき、そのツイートページのアドレスを記載してください
・件名を「Bok Bokプレゼント係」としてください

■締切
10/31(金)24:00まで

■当選のお知らせ
11/7までにご当選者の方に弊社からメールにてご連絡いたします。
その際に送付先のご住所やご氏名をお訊ねいたします。

どうぞふるってご応募ください!

My Panda Shall Fly - ele-king

「ハッピーバースデイ、ニーナちゃん!」という宇川直宏の掛け声でニーナ・クラヴィッツのDJがはじまる。10月だけ秋葉原の〈3331〉で開催されているDOMMUNEは、家から歩いていこうと思えば行ける距離なので、買い物のついでに足が向けられる。先日もそんな調子で軽くフロアを覗いてから家に帰ってふと思った。いつの間にか英米だけではなくロシアだとかアルゼンチンのDJを気軽に見ることができるようになっていると。90年代の初めはドイツのダンス・カルチャーだって遠くに感じられたのに。

 今年に入ってからもようやくデビュー・アルバムをリリースしたモー・カラーズがモーリタニア、同じくアーカがヴェネズエラときて、ラッカー(Lakker)のリミックスに惹かれて興味を持ったスレン・セネヴィラトニ(Suren Seneviratne)もスリランカ出身だという(96年からロンドン在)。ラッカーが起用されていたEP『プッシュ』はモウ’リンとの共作だったので、どこからどこまでが彼の作風なのかは推し量ることができなかった上に、そもそも回転数がよくわからなかったので、〈サウンドウェイ〉からとなったセカンド・アルバム『トロピカル』が僕にとっては明確な導入部である。〈サウンドウェイ〉は〈オネス ト・ジョン〉をじりじりと追いかけているようなレーベルで、アンゴラのバティーダ(Batida)やコロンビアのメリディアン・ブラザーズなどクラブ・カルチャーとの境界線をなし崩しにするリリースが増えつつあり、どこか気取った〈プロジェクト・ムーンサークル〉からリリースされた『プッシュ』とはイメージが結びつかず、むしろ、そんなにもワールド寄りなのかと驚いたぐらいである。しかし、実際には、これはNYでレコーディングされたエスニック・ポップであった。同じくスリランカのMIAがクゥドロやバイレ・ファンキなど世界のリズムに目配せをしていたようなものとはまったく異なり、都会的な洗練に覆い尽くされていたのである。

 と、それで価値がなくなってしまうわけではない。僕には『トロピカル』がトーキング・ヘッズ『リメイン・イン・ライト』(1980)のソフィスティケイティッドされた後日談に聴こえ、フェイクの金字塔として輝けるその地位を補強するものに思えて仕方がない。かつて、トーキング・ヘッズは都会から足が抜けなくなったルー・リードとは対照的に、都会にいながらリモート的にどこへでも移動し、トポスからはかけ離れたポップの構造を生み出すことに成功した。まさに「you may find yourself in another part of the world」(「Once In A Lifetime」)である。「ノー・ニュークス」をモジッただけとはいえ、『ノー・ニュー・ヨーク』(1978)とはよく言ったものだけれど、自分がその場にいないという感覚は故郷喪失者たちによるロックン・ロールからヴェイパーウェイヴまで、ポップには必然的に伴ってきた要素ともいえる。アフリカ・バンバータしかり、マスターズ・アット・ワークしかり。ラプチャーやLCDサウンドシステムが『イエス・ニュー・ヨーク』(2003)を掲げた時期はハテナだけれど、現在ならOPNがそのフロント・ラインに立ち返ったといえるだろうか。

 途上国から出てきたミュージシャンには2タイプある。過剰に祖国やその文化圏を思い出す叙情型と、まったくのデラシネと化してしまう叙事型である。「僕のパンダが空を飛ぶ」とは上手くつけたもので、土地との結びつきをなくし、架空の世界に飛翔する契機がまずは言葉によって与えられる。それこそこの世界にパンダを私有している人間など存在しないし、それがさらに空を飛んでしまうとはファンタジーもいいところだし、それで「トロピカル」とくれば、トーキング・ヘッズを上回るフェイクが繰り広げられたところでまったくおかしくはない。そういえばアーサー・C・クラークは『スリランカから世界を眺めて』(1977)で同国を地上の楽園にたとえていたなー。

♪Letting the days go by~ (“Once In A Lifetime”)

Chim↑Pomに捧げる! - ele-king

 「三田さんは僕の音楽をいつも全否定するんですよ。だからプロデュースをお願いしようと思って!」「あはははは!」というやりとりののちに、制作者たちによるライナーを眺めて2度爆笑した。いや、黒笑というべきだろうか。三田格のブラック・ジョークが炸裂した名ライナー(しかもご丁寧に英訳されていて3度黒爆笑だ)も必見の、why sheep? 11年ぶりのサード・フル・アルバム『REAL TIMES』が〈U/M/A/A〉からリリースされた。

 ジャケットとなる作品は、きわどく社会への問題提起をつづけるアート集団Chim↑Pomによるものだが、3.11以前から彼らにジャケットを依頼することは決まっていたそうだ。震災は予定外の出来事だったが、その直後にChim↑Pomによって現地で制作された作品とその展示「Real Times」から大きく感銘を受けたwhy sheep? は、本作を『REAL TIMES -dedicated to Chim↑Pom-』として完成させた。ゲストにもUA、EYE(ボアダムス)、Cuizinier(TTC)など豪華な顔ぶれがそろう。また、ブックレットには渋谷駅にて撮影された写真も使用されている。

Chim↑Pomによるアートワーク
Red Card
2011 ©Chim↑Pom
Courtesy of MUJIN-TO Production, Tokyo

Why Sheep?
Real Times -dedicated to Chim↑Pom-

U/M/A/A

2014年10月8日(水)発売
UMA-1044 / 価格2,500円(税込)

Tower Amazon

■収録トラック
1.Rue Pierre Leroux
2.Radiation #1
3.11th (Away From The Borders, Close To The Borderless) feat.EYE
4.Somewhere At Christmas
5.Radiation #2
6.Grum Sai Grum
7.On My Answering Machine
8.relativisme extrême
9.Mandarake feat.Cuizinier(TTC)
10.Empathy feat.UA -PUSH-
11. Sênga (Empathy Reprise)

■プロフィール
Why Sheep? (内田学)
細野晴臣のレコーディング・アシスタント等を経て、WHY SHEEP? 名義でM.O.O.D(Moodman主宰)より1996年伝説的なファースト・アルバムをリリース。国内外のメディアで大きな反響を呼ぶ。その後アジア、ヨーロッパを中⼼に世界各国を放浪。7年間の沈黙の後、2ndアルバム『The Myth And i』が日・欧・米と世界発売される。数々のリミックスや映画等のサントラ、プロデュース等を手がけると同時にサマーソニック等、国内外での公演を精⼒的にこなす。2007年には、⾳を禅の作庭術になぞらえたサウンド・アートプロジェクト“枯⼭⽔サラウンディング”を⽴ち上げクリエイティヴ・ディレクターを務める。東急多摩川線全駅を使った多摩川アートラインプロジェクトでの作品「八水響」などが有名である。2010年には故マイケル・ジャクソンの伝記『マイケル・ジャクソン・レジェンド』(チャス・ニッキー=バーデン著)の監修も手掛け、初版1万部が予約のみで完売する。3.11以降、アーティスト集団Chim↑Pomの映像作品"気合い100連発"にリミキサーとして参画し、トークイベント"Rm311"を開始する等、⾳楽活動の領域を超えて勢⼒的に活動し、2014年秋、集⼤成ともいえる3rdアルバム「Real Times」をリリースする。

■Chim↑Pom の『Real Times』展とは
2011年5月20日-25⽇に無⼈島プロダクションで開催した芸術実⾏犯「Chim↑Pom」の個展。
2011年3月11日の東日本大震災と福島第一原発での事故を受けて制作された作品群。巨大な現実を前にアートの無⼒が語られ、多くの展覧会が⾃粛された中、Chim↑Pomは現地に赴いて作品を制作。また、渋谷駅に永久設置されている、日本の被爆/被曝のクロニクルとも言える巨大壁画「明日の神話」に福島原発の事故の絵をゲリラで付けたし社会的事件を引き起こした。それらの作品で構成された「Real Times」展は、日本における震災・原発事故への代表的なレスポンスとして、国内のみならず海外でも大きく報道された。
https://chimpom.jp


 すっかりと定着したインディ・ロックのライヴ・イヴェント、〈Hostess Club
Weekender〉。次回は来年2月21日(土)と22日(日)の2日間にわたって行われる模様で、ヘッドライナーには新譜のリリースを控えたベル・アンド・セバスチャン、そして第一弾のラインナップにはセイント・ヴィンセント、カリブー、チューン・ヤーズ、リアル・エステイト、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルの名が見える。これははっきり言って当たり回!
 毎度良質なインディ・ロックを高密度で味わわせてくれるイヴェントだけれども、ビッグでありながらいまだ瑞々しく前線を走る、あるいはシャープなままポップ・フィールドにその存在を刻み付けている面々が揃っている。
 続報を期待しながらチケットの発売を待ちたい。

■Hostess Club Weekender

出演:BELLE AND SEBASTIAN / ST.VINCENT / CARIBOU / TUNE-YARDS / REAL
ESTATE / HOW TO DRESS WELL and more…!

日程:2015年2月21日(土)& 22日(日)

場所: 新木場スタジオコースト

オフィシャルサイト: www.ynos.tv/hostessclub

※2日通し券先行販売は11月8日(土)から!
チケット他詳細、後日発表!

出演アーティストプレイリストはこちら:
https://www.youtube.com/playlist?list=PLVFVd1


■セイント・ヴィンセントの単独公演も決定!
日程:
2015年2月19日(木)梅田クラブクアトロ
2015年2月20日(金)渋谷クラブクアトロ

単独公演詳細はこちら:
https://www.creativeman.co.jp/artist/2015/02stvincent/

チケット販売は11月8日(土)から!

interview with Photodisco - ele-king


Photodisco
SKYLOVE

Pヴァイン

ElectronicDream Pop

Tower HMV Amazon iTunes

 子どもの頃、ずっと空を見上げていたあの時間はどこへ行ったのだろう? フォトディスコの3年ぶりのセカンド・アルバムとなるその名も『SKYLOVE』は、その時間をじつに自然なやり方で取り戻す。メロウで清潔で、そして無邪気にドリーミーなフォトディスコらしいメロディが豊かに色づいている本作は、はっきりと「空」をコンセプトとして掲げることで、彼が描こうとしているものが何かを簡潔に示している。ここでフォトディスコが映し出す空は、都市生活者がふと見上げるビルの谷間の空であり、幼い頃虹がかかっているのを発見してはしゃいで指さした記憶のなかの空であり、あるいはどこまでも広がる想像上の宇宙としての空でもある。

 日本におけるチルウェイヴとしてベッドルーム・ポップ愛好者から人気を集めたフォトディスコだが、海外のチルウェイヴがサウンド的に分散していったこの3年という期間を経て、より純粋な意味でエレクトロニカに近づいたように聞こえる。
 “Rainfall”における雨の音のフィールド・レコーディング、あるいは“Endless Love”の透明感のある音使いにはかつてフォークトロニカと呼ばれた感性が息づいているし、アコースティック・ギターの柔らかなリフレインと多重録音によるコーラスの重なりが光を乱反射させる“虹”は、彼のなかの眩い叙情性が溢れだすかのようである。ビビオやフォー・テットといったエレクトロニカ勢、あるいはノサッジ・シングやバスといったLAビート・シーン周辺のトラック・メイカーの現在とも緩やかにリンクしつつ、しかし日本的な色づけも忘れてはいない。“夕暮れ”ではポップスに対する野望を滲ませ、あるいは以下のインタヴューで本人も発言しているようにビートでの挑戦も見受けられる本作ではあるが、描き出す風景やムードはこれまで彼が育ててきたものをより純化させているように感じられる。
 移り行く季節や時間に不意に自分自身が溶け込んでいく瞬間や、過ぎ去った記憶が不意に蘇るような感覚。その甘美さこそが、フォトディスコのポップ・ミュージックとしての強度である。寝ていても醒めていてもいい、夢見心地でいることは、音楽がもたらす豊穣な時間であることを『SKYLOVE』は証明している。

■Photodisco / フォトディスコ
ギターを軸に、シンセ、環境音などをDAW上でミックスする東京在住の音楽家。作曲、演奏、録音、映像などすべて一人で制作している。2009年に本名義での楽曲制作をはじめ、2010年に自主盤としてそれまでのコンピレーションを、翌2011年には〈Pヴァイン〉よりファースト・フル『言葉の泡』をリリース。シネマティックな音像、ベッドルーム・マナーな楽曲群は“和製チルウェイヴ”として注目を集めた。その後〈アンチコン〉のビートメイカー、Bathsの来日公演に出演するほか、オムニバス作品などへも参加、さまざまなメディアで自身の楽曲が使用されるようになる。本年10月にはセカンド・アルバム『SKYLOVE』が発表された。


ガンダムとかって、宇宙のことも「そら」って言うじゃないですか。そういうのを描きたいなって思ったんですよ。

ファースト・アルバム『言葉の泡』からほぼ丸3年なんですけど、最近だと3年ってけっこう――。

PHOTODISCO(以下、PD):長いですよね(笑)。

ネット時代の体感では(笑)。この3年間ってどんな時間でしたか?

PD:自主で出したりもしたんですよ。

そうですよね、カセットで。

PD:はい、アナログ媒体に興味があったのでカセット出そうかなと。あとは……曲をけっこう作ってたんですけど。

曲はずっと作ってたんですか?

PD:作曲はずっとやってましたね。曲は溜まってたんですけど、ただ、これだっていうのがあまりできなかったので。今年に入ってやっと形ができてきたんですよね。

それはコンセプトが見えてきたという?

PD:いや、コンセプトの前ですね。曲が沸々と上がってきまして、じゃあアルバム出そうかっていうことで、じゃあコンセプトを考えようっていうことで。ただコンセプトを考えはじめたときから曲作りのスピードが速くなりました。僕は与えられたほうがけっこう作れる人間なんだなあって。

それまでによく聴いていた音楽ってありました?

PD:そうですね、いちばん聴いてたのは……トロ・イ・モワとかウォッシュト・アウトとかもそうですし。チルウェイヴ勢とか、デイデラスとかフライング・ロータスとかのLAビート周辺だったりとか。ティーブスであるとか。

じゃあチルウェイヴ・その後っていうのは丹念に追ってらしたんですね。

PD:はい、リスナーとして追ってましたね。

どういうふうに見てました? ポスト・チルウェイヴというか、チルウェイヴ第一世代のその後の展開というか。

PD:みんなバンド・サウンドに行きましたけど……彼らって結局バンドに憧れてたキッズたちなんだなって。バンドしても解散したりするし、意志の疎通がうまくいかないとかで曲が生まれないとか(笑)、音楽活動として思い通りに動かないじゃないですか。だけど根っこはロック・リスナーだと思うんですよね。それで成功してからバンド形態になってやってるんじゃないかなと。

たしかに。彼らの場合はライヴをやらないといけないっていうのもありますしね。そんななかで、フォトディスコとしてもバンド・サウンドに惹かれたりすることはそんなにはなかったんですか?

PD:やっぱり惹かれますよね。

ああ、そうなんですか。

PD:惹かれますけど、やっぱり自分の脳内でできた音楽が世に出るってことが僕にとっていちばん大切なことなので。やっぱりひとりでやったほうがいいかなと。

前作のときに「チルウェイヴを勉強した」ってお話されてたんですけど、やっぱりチルウェイヴがおもしろかったんですね。

PD:おもしろかったですね。

でも実際、どうでした? フォトディスコって和製チルウェイヴって紹介がすごくされましたけど、違和感とか抵抗感とかはなかったんですか? 

PD:それがまったくないんですよね。実際にはすごく大きな流れだったのに、なぜかちょっと否定的に言われましたよね。僕はそう呼んでいただけるんならそれはそれでいいって感じです。


エモのひとたちってある時期、だんだんフォークトロニカ風になるんですよね。

なるほど。今回、新作を聴かせていただいて、僕はチルウェイヴよりもエレクトロニカであるとか、10年ぐらい前フォークトロニカって呼ばれたものをすごく思い出したんですよね。そもそもフォトディスコのなかで、エレクトロニカみたいなものって好きなテイストとしてあるんですか?

PD:ありますね。昔エモって言われたひとたち――ゲット・アップ・キッズとか。で、エモのひとたちってある時期、だんだんフォークトロニカ風になるんですよね。ポストロックも結びつくし。そういうのも聴いてたんで、影響を受けてるところもあるのかなって。

ああ、なるほど。僕が84年生まれでウォッシュト・アウトと同い年なんですけど、ちょうどエレクトロニカあたりが記憶としてあるんですよね。その時代を思い出すというか。フォー・テットなんかもお好きですか?

PD:好きですね。

なんとなく、ウォッシュト・アウトがセカンド・アルバムでフォー・テットを勉強したって話とどことなくリンクするところがあるのではないかと思って。

PD:へー、そうなんですか。それおもしろいですね。

今回のアルバムで、いわゆるチルウェイヴと呼ばれる音と離れようと意識したっていうのはありますか?

PD:ありますね、やっぱり。僕はチルウェイヴっていうのは精神論だと思うので、それはずっとありつづけることだと思うんですけど。ただ音色的にチルウェイヴ的なものっていうのが広がり過ぎたかなって思ったので、そこはカブらないようにしようっていう意識で。

その音色的なもの、あるいはサウンド的な方向性ってどう位置づけてらっしゃったんですか?

PD:前回はビートがけっこう単調だったんで、今回はビートをいじろうかなと。そこをすごく意識しましたね。

じゃあ、けっこういろいろ試してみてっていう。

PD:そうですね。その前にノイズとかっぽいものをひとりでむっちゃ作ってたんですよ。でも、自分が気持ちいいだけで(笑)。ひとに聴かせると「ノイズは深く追求しているひとがめちゃくちゃいるからそこに無理に入らないほうがいいよ」って感じで言われまして。

そういう意味では、自分が気持ちいいってところはポイントではなくなってるんですか?

PD:いや、それは大前提としてあります。10曲とも自分にとっての「ザ・ベスト!」みたいな感じです(笑)。

いちばん最初に出来た曲ってどれなんですか?

PD:1曲めの“Skylab”ですね。これは頭にもってきたかったので。

そうなんですか。まさにこの曲について訊こうと思ってたんですけど、このロウビットな音色っていうのは、ベッドルーム・ポップなんだということをあらためて表明するように聞こえたんですがいかがでしょう。

PD:いやあ、ほんとに機材環境がやばいというか(笑)、安い環境なので。いま自分ができることを前提に作ってるんです。

録音の環境は変わってない?

PD:変わってないですね、ぜんぜん。

ほんとに機材環境がやばいというか(笑)、安い環境なので。いま自分ができることを前提に作ってるんです。

この曲のタイトルは後につけたんですか?

PD:これは後ですね。コンセプトが「SKYLOVE」なので、そのコンセプトとよく似た曲タイトルを作ろうと思ったので。

なるほど。じゃあそのコンセプトについてなんですけど、どのようにできたものなんですか?

PD:今回は空がテーマなんですけど。僕ずっとアニメも好きなんですけど、ガンダムとかって、宇宙のことも「そら」って言うじゃないですか。そういうのを描きたいなって思ったんですよ。空ってすごくロマンティックじゃないですか。宇宙もそうですし、空を見上げるのもそうですし。あと僕、海のなかも空だって思うんですよ。そういったアルバムを作りたいなと思ってタイトルをつけましたね。

その空っていうのは風景としての空なのか、記憶のなかの空なのか、ジャケットにあるようにSF的な空なのか――。

PD:それはもうすべてですね。僕の記憶のなかにある空とか、絵やイラストで見る空とか、ありますよね。それをすべていっしょにしたアルバムですね。

空がもともとお好きだったんですか?

PD:そうですね。写真を撮るのがもともと好きなんですけど、ひとを撮らずにずっと空ばっかり撮ってるんですよね。雲とか(笑)。今回トレーラーを作ったんですけど、あれも僕が空を撮って作ったんですよ。



その、空がお好きな理由って自己分析できますか?

PD:うーん……逃げたいんじゃないですか(笑)。逃避的な精神があるかもしれないですね。

なるほど。僕の場合は、空がコンセプトだとお聞きして、空見なくなったなーと思ったんですよね。子どもの頃はよく見てたのに。っていうことを踏まえると、空ってすごくフォトディスコっぽいコンセプトだなと思ったのと、あと風景や自然に興味が向かうっていうのも非常にエレクトロニカ的だなと思いましたね。
 フォトディスコの音楽って、これまでも風景からインスピレーションを受けたものが多かったですよね。このアルバムでも風景からインスピレーションを受けたと思われるタイトルの曲――“Rainfall”、“虹”、“夕暮れ”がありますけど、すべてヴォーカル・トラックになってますよね。今回ヴォーカルを入れようと思った理由はなんでしょう?

PD:それは……ヴォーカル曲があったほうが食いつきがいいんじゃないかなと(笑)。

とくに“夕暮れ”なんかはJポップ的なものに対する欲望も感じるというか。

PD:そうですね、もうJポップですよね。

そこに参照点はあったんですか?

PD:それは僕のバックグラウンドでしょうね。オルタナティヴ・ロックとか、日本のインディ・ロックに憧れてた時代を描写するような曲なんじゃないでしょうかねえ。

それはご自身の思春期的なものなんですか?

PD:そうですね。

なんでですかね、子どものときって空見ますよね。学校から帰るとき暇なのかわからないですけど。

“夕暮れ”はかなりヴォーカルを生で聴かせてますけど、“Rainfall”はヴォーカルにエフェクトかけてますよね。これはどうしてなんですか?

PD:ほんとは歌ってたんですけど、キーがもうちょっと高いほうがいいなと思ったんですよね。で、僕のヴォーカルじゃ合わないなと。それで声をめちゃくちゃ高くしたらああなって、これでアリだなと思って。

これはフィールド・レコーディングもあって、前作の手法を踏襲しつつっていう曲ですね。あと“虹”はヴォーカルを多重録音してますね。

PD:これは音質がすごく粗くて、ミックスのひとにもちょっと笑われたぐらいで(笑)。

これはどうやってできた曲なんですか?

PD:このなかでアコギがメインで作った曲ってなかったんですよね。で、1曲ぐらいアコギがメインの曲が欲しいなと思って作った曲ですね。

この「虹」っていうのは、本当に風景としてある虹なのか、あるいは概念としての虹なんでしょうか。

PD:これも記憶ですね。虹ってそんなに見ないじゃないですか。たまにツイッターとかで誰かが写したものとか、そういうものでしか見れなくて。だけど幼い頃、小学校の帰りなんかでよく見ませんでした?

たしかに。

PD:なんでですかね、子どものときって空見ますよね。学校から帰るとき暇なのかわからないですけど。そういう描写を思い浮かべて。自分で水を撒いて作ろうとしたんですけど、それは無理でした(笑)。

(笑)虹もお好きなんですね。

PD:虹も好きですね。

記憶のなかの虹だとしたら、ちょっとノスタルジックな意味合いもある?

PD:そうですね。そんなにいい思い出があるわけではないとは思うんですけど。

あそこで繰り返している言葉っていうのは――。

PD:「虹」って思い浮かんだ瞬間に言葉が出てきました。

[[SplitPage]]

たとえば怒りみたいなものをテーマにして作っちゃうと結局、自分では聴けないんですよね。自分がいちばんのリスナーなので、聴いてるとそのときの自分の怒りが蘇っちゃうんですよ。


Photodisco
SKYLOVE

Pヴァイン

ElectronicDream Pop

Tower HMV Amazon iTunes

あと“夕暮れ”を聴いてて思ったんですけど、やっぱりフォトディスコのなかでスーパーカーって大きいんですね。

PD:僕のなかでは大きいですね。

中村弘二さんのニャントラなんかも?

PD:そうですね、聴いてましたけど、でもバンドに思い入れがありますね。

へえー。僕も同世代なんですごく記憶にあるんですけど、スーパーカーが『Futurama』から『HIGHVISION』でエレクトロニック化したときってどうでした?

PD:僕は受け入れましたね。スーパーカーってアルバムごとにサウンドが変わるじゃないですか。ああいうのがいいなって思いますね。やりたいことをやってるんだろうなって。

フォトディスコって、その時期のスーパーカー的なエレクトロニカ感っていうのもあるように思えるんですけど、そこはあんまり意識されてなかったですか?

PD:ぜんぜん意識はしてなかったんですけど、僕のなかで根強くあるのかもしれないですね。

じゃあ逆に、リアルタイムで共感するトラック・メイカーっていますか?

PD:僕ティーブスはすごくいいなと思いますね。サンプラーだけで曲作ってるらしいんですけど、そのSP404SXってサンプラー僕も持ってるやつで。よくあれだけで曲作れるなあって。僕一回試したんですけど、作れないんですよね。そこはすごく尊敬します。とてもシンプルなスタイルなんですね。「ボールは友だち」みたいな感じでサンプラーと遊んでいて……。ビートの打ち込み方もすごくカッコいいし。

なるほど。あと先ほどLAビート周辺っておっしゃってましたけど、僕は彼らとも近い感性を感じるんですよ。ライヴで共演されたバスだったり、ノサッジ・シングだったり。フォトディスコが彼らと共通するのって、メロウな感覚なのかなと思うんですけど、どうしてそういうものが出てくるんだと思いますか? たとえば怒りや嘆きみたいな、激しい感情じゃなく。

PD:そうですね……たとえば怒りみたいなものをテーマにして作っちゃうと結局、自分では聴けないんですよね。自分がいちばんのリスナーなので、聴いてるとそのときの自分の怒りが蘇っちゃうんですよ。そんなの僕としては蘇らせたくないんですよ。自分が作る曲は日々感動したものをパッケージングしたいなと、そう思って作ってるんですよね。やっぱり僕が聴いていて気持ちいいものがいいなと(笑)。そういう感覚はありますね。

そういうところも含めての、今回のタイトルに「LOVE」が入っているのかなという気もしますが、けっこう思いきりましたよね。

PD:思い切りましたね(笑)。

これはどうして出てきた言葉なんですか?

PD:いや、「SKYLOVE」って言葉が出てきたときは恥ずかしいとも何とも思ってなくて、単純に「空が好きだな」って感じで。造語っぽい感じで2単語が続いてるんですけど、あとはアポロのスカイラブ計画とちょっとかけてるっていうのもありますね。

ああ、そこで宇宙的な意味もちょっとあるんですね。そういうちょっとSF的な世界観って反映された曲ってありますか?

PD:1曲めの“Skylab”の中盤あたりのぐちゃぐちゃっとしたアンビエントなんかはちょっとあるかもしれないですね。あと“Space Debris”って曲は隕石とかがぶつかり合うようなイメージで作った曲です。ちょっとジャズっぽい要素があって。ほんとはすごくメロディアスな曲だったんですけど、ちょっとダサいなと思って(笑)。で、自分の曲を4トラックのMTRに突っ込んで、ちょっとホワイト・ノイズを乗せて、またPCに乗せて、それを切り刻んでサンプリングしたらなぜかジャズっぽくなって(笑)。


これ作ってるとき、めちゃくちゃエイフェックス・ツインを聴いてたんですよ。

へえー、すごく実験した曲なんですね。とくに終盤が冒険したトラックが多いですよね。

PD:そうですね、後半あたりから自分のこれまでのカラーにないものになってきてます。次のアルバムに繋げたいという意思表示が入ってます。

ラストのタイトル・トラックである“Skylove”なんかはドラムンベース的なリズムで。

PD:ああ、これはエイフェックス・ツインをかなり意識したので(笑)。

おお!(笑) タイムリーな。

PD:これ作ってるとき、めちゃくちゃエイフェックス・ツインを聴いてたんですよ。

それは新譜の話が出る前ですから、偶然ですよね。

PD:これ作ってるとき、たまたますごく聴いてて。

エイフェックス・ツインはもともとお好きなんですか?

PD:好きですね。

どういうところが好きですか?

PD:エイフェックス・ツインはそうですね……生き方とか。

あ、いきなりそっちなんですね(笑)。

PD:いや、もちろん音もですけど。ガチのテクノっていうより、このひともロック的な感性もあるんじゃないかなあっていうところが僕は好きですね。

この曲ができたのはかなり終盤ですか?

PD:最後ですね。これは絶対いい曲を作ってやろうという意気込みで作りました。

“Tokyo Blue”っていうのはまさに東京の空ってことですか?

PD:そうですね、臨海方面というか、お台場方面を意識して作ったんですけど(笑)。

SF的な空であったり、リアルな空が混在してるのがおもしろいですよね。

PD:そうですね、リアルな空もありますね。

じゃあ、タイトルについてももうちょっとお訊きしたいんですけど、「LOVE」っていう言葉をタイトルに入れるのは、ちょっとためらわなかったですか?

PD:ああー……ダサく響くっていう?(笑)

いやいや、ダサいっていうより、誤解を生みやすい言葉だとも思うんですよね。狭い意味だと、それこそJポップ的な恋愛の意味にも捉えられかねない。

PD:まあでも、僕のなかでは、「LOVE」っていうと、二次元になっちゃうんですよね(笑)。アニメでカップルが宇宙見てる感じっていうのが、僕のなかで『SKYLOVE』ですね。

抽象的な概念として。

PD:そうですね。そう言われてみると、思い切ってますね。

まずこの絵、地球じゃないじゃないですか。それから、すべて揃っているところ。雲もあるし虹もあるし、地球もあるし海もありますから。

このアートワークはどういう風にできたんですか?

PD:コンセプトが決まって、自分でイラストレーターを選びたいなと思ったんですよ。でも制作期間がもうなかったので、これはもうpixivしかないと思って(笑)。pixivで宇宙とか空とかキーワード検索を入れて、しらみつぶしに自分の気に入る絵をずっと見てたんですよ。そしたらこのmochaさんが引っかかって、すごくいい絵を描かれるなと思って、ぜひこの絵にしてもらいたいなと。あと僕の頭のなかの映像とすごくリンクしていて。

どういうところに惹かれましたか?

PD:まずこれ、地球じゃないじゃないですか。そういうちょっとアニメっぽいところと、あとはすべて揃っているところ。雲もあるし虹もあるし、地球もあるし海もありますから。まさにこのテーマに合ってるんじゃないかなと思ったんですよ。

アニメは昔からお好きなんですか?

PD:昔から好きですね。

最近は何がよかったですか?

PD:最近は……『ばらかもん』とか(笑)。知ってます?

知ってますよ(笑)。

PD:あとは『月刊少女 野崎くん』にハマってましたね。おもしろかったです。

あ、そこはSFには行かないんですね?

PD:いや、SFも観ますけど、今期僕が好きだったのはそのふたつかなと。『Free!(Free! -Eternal Summer-)』とか。

今期っていうのがさすがですね(笑)。そういうアニメをいくつも見ている生活が、今回アルバムに反映されたところはあります?

PD:どうですかねえ……。あ、でも『残響のテロル』の菅野よう子さんも本当に素敵だったので。そういう感じも出てますかね……いや、出てないか(笑)。

(笑)まあ、後半いろんな音楽的要素が入ってくるあたりは遠からずかもしれないですね。

PD:そうですね、やっぱり刺激的な音楽は作っていきたいと思ってますし。

アニメの話が出たところで、ひとが作る映像に使われたいっていうのはありますか?

PD:もうめちゃくちゃありますね。

それはどうしてですか?

PD:自分の音楽でカッコいい映像を流してほしいんですよね。コラボレーションっていうかはわからないですけど、それが合わさったときに、さらに曲が引き立つんじゃないかなと思って。使ってもらいたいなといつも思ってます。

ご自身も映像を昔作られてたという話で。

PD:そうですね。そういう学校に行ってました。


この前アルバムをおじいちゃんに渡したら、「いやー寝れるわー!」って(笑)。

今後曲に合わせて映像作りたいなって思われたりはしないですか?

PD:とりあえずいま、『SKYLOVE』の曲に合わせてPVを作ってるんですよ。トレーラーとは別に。

ああ、そうなんですか。

PD:空ばっかり一眼レフで写して、素材はできてるんで。落ち着いたら作りたいと思います。

それぜひ観たいですね。そういった映像喚起的ところもエレクトロニカ的というか……いま、海外でEDMに対抗するものとしてエレクトロニカの存在感が増していますよね。日本も案外EDM的な土壌が広がっているので(笑)、フォトディスコがオルタナティヴとしていてくれるのは心強いと思いますよ。

PD:テレビCMとかからもEDMが聴こえてきますもんね。そうですね、カウンターになればいいですけどね(笑)。

バスとライヴをされてましたけど、今後ライヴはしていきたいと思われますか?

PD:そうですね、やっぱり勉強になるんですよね。ライヴってすごく発見の場だと僕は思ってるので、できれば飛び込みたいなというのはありますね。

そこで映像を使うライヴが、僕はフォトディスコにピッタリなんじゃないかなって思います。

PD:映像を作れる友だちを作らないといけない(笑)。すべてひとりでやっちゃってるんで。

ではそろそろ最後の質問なんですが、『SKYLOVE』はどういうときに聴いてほしいアルバムですか?

PD:東京だったら電車のなかで聴いてもらったり、帰り道に缶ビール飲みながら聴いていただけたらと。

生活のなかに溶け込んでいるイメージですよね。

PD:僕はだいたい、夜の静かなときに聴いてほしい感じはあります。この前アルバムをおじいちゃんに渡したら、「いやー寝れるわー!」って(笑)。

(笑)

PD:親にも渡したんだけど、寝る前に聴いてるって。兄貴も寝る前に聴いてるって言ってました(笑)。寝る前に聴く音楽なのかなって。

いいじゃないですか、入眠ポップ。ボーズ・オブ・カナダみたいで。

PD:なるほど(笑)。

Gr◯un土 (Chill Mountain) - ele-king

2014/10/15(wed)

Gr◯un土(ChillMountain)
◯S△K△生まれの古墳郡育ち。
今年10祭の誕生日を迎える大阪奥河内発のSoundCampParty (CHILL MOUNTAIN)主謀者。
全国各地大小様々なCLUB、LIVEHOUSE、BAR、CAFE、OPENAIRPARTY、寺社、はたまたTV塔展望台など。
DJをTOOLにRECORDSと供に年100回以上巡業するOSAKA UTORI世代 DJ。
大阪十三に四年間存在した幻しのDJ喫茶ChillMountainHutteを運営&プロデュース。
楽曲制作も行い
BLACK SHEEP ANTHOLOGY vol.1 LPにMOUNTAIN HOUSEが収録.
absolute timeとのスプリット12INCH(ChillMountainEp).
“御山△EDIT a.k.aTHE△EDIT”名義でMAGICWAND(UK)からの2枚の12inch.
ROTATING SOULS(US)からの1枚の12inch.
8枚のMIXCD.
FEELBACKRECからの計3枚のコンピCDにオリジナル楽曲を提供(ドイツのケーブルTVで使用放送される).
昨年ChillMountainRecより関西奇才19組大集合となる2枚組コンピCD
(ChillMountainClassics)をプロデュース。
自身初となるオリジナルALBUMが2015年の1月にリリース決定△

https://soundcloud.com/dj-ground

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431