「Ord」と一致するもの

Cavanaugh - ele-king

 J・G・バラードのことを久しぶりに思い出したのはジャム・シティ『クラシカル・カーヴス』を聴いた時だから4年も前のことになる。それはそれだけのことかと思っていたのだけれど、去年になって『マッドマックス 怒りのデスロード』はJ・G・バラードの世界観をストレートに映像化したものだという批評を目にしたり、B級映画しか撮らないと思っていたベン・ウィートリーが『ハイ・ライズ』をクローネンバーグばりにみっちりと映画化したりということが続くと、さすがにそれだけのことではないのかなという気分になってくる。そこへキャバノーである。

 スフィアン・スティーヴンスらとシジファスを組んでいたことでも知られるセレンゲティが同じシカゴのオープン・イーグル・マイクと新たに結成したヒップホップ・ユニットのデビュー作。これがまたタイトルからしてそれである。「時間と物質」が無尽蔵の記憶として蓄積された砂漠に緩慢な速度で向かうこと。いわばエントロピーの増大がエロチィシズムと結びつく時、J・G・バラードの「生」は異様な歓喜とともに呼び覚まされる。冷戦時代の再来とともに「終末感」も更新されつつあるということなのか。だとすれば、それは核戦争の予感なしに現代人は生きられないということであり、世界がフラットではなくなりつつあることを示唆しているのかもしれない。現代は「自由」ではなく「監視」、「平等」ではなく「格差」、「博愛」ではなく「ヘイト」だと指摘したのは西部邁だったけれど、「監視」も「格差」も「ヘイト」も生前のバラードがすでに作品のテーマとしていたことである。

 キャバノーのサウンドは妙に快楽性を伴っている。トラップをスクリュードさせたシカゴ南部のサウンドはチーフ・キーフ以降、ドリル・ミュージックと呼ばれるようになり、彼らはこれにもう少しヒネリを加えていく(セレンゲティもオープン・マイク・イーグルもソロではここまでトリップ・モードではなかった)。それによって与えられるニュアンスは逃避というよりセラピー的だとする評もあり、歌詞は断片的にしかわからないので、サウンドに的を絞ると、思い出すのはやはり〈アンチコン〉である。セレンゲティは〈アンチコン〉のホワイ?ことヨニ・ウルフともほぼ同時期にジョイント・アルバム『テスタロッサ』をリリースしていて、〈リーヴィング〉から新作を放ったオッド・ノズダムといい、マイク・パットンらと新たにネヴァーメンを組んだドーズ・ワンといい、少なくともセレンゲティが〈アンチコン〉のセカンド・レイズに歩を揃えていることは間違いない。スモーカーズ・デライトというよりはモゴモゴと燻るハッパが燃え尽きるのを見守るかのように、どこか儚く、何もかもが簡単に視界から消え去っていく(全部で26分しかないし)。

 ゼロ年代初頭に〈アンチコン〉と連動していたのもシカゴ周辺のアトモスフィアだった。カニエ・ウエストが去ったシカゴはここ数年、チーフ・キーフやチャンス・ザ・ラッパーによって新時代を迎え、ここにまたオープン・マイク・イーグルとセレンゲティがオルタナティヴの橋頭堡を築こうとしている。ミック・ジェンキンズも同じくで、こちらはもっと展開が派手。こういう人もいる。シティーズ・エイヴィヴ、フロストラダムス、ミック・ジェンキンズ、マンマンサヴェージ……実験的過ぎてもうひとつ浮上できなかったクウェルやモールメンといった過去の亡霊とイメージがダブるほど彼らの試行錯誤はどこまでも果てしない。シカゴという街はどうしてもそういう場所なのだろう。

金曜夜のロック・パーティ! - ele-king

 「あの頃起こっていたこと」──それぞれの記憶の中でもっともロックが輝いていた瞬間、そのつづきを追いかけながら、現在形のリアルなシーンにつないでいるレーベル〈KiliKiliVIlla〉。東京も地方も、若者も中年も関係ない。大好きな音について語り合いながらパーティやリリースをつづける彼らは、あらゆる音楽が横並びにアーカイヴされる時代だからこそかけがえのないつながりを生み出している。そしてNOT WONKらの活躍は、彼らが時代からずれていない……どころか、いまその真ん中に躍り出ようとしていることを証している。
 さて、その熱を感じたいなら〈KiliKiliVIlla〉が主催する週末パーティに繰り出そう。タイムレスな音をフレッシュな感覚で楽しむことができるだろう。

■KiliKiliVIlla presents Friday Night DANCEHALL
6月3日 新代田FEVER
出演:LEARNERS、井の頭レンジャーズ、JAPPERS、The Wisely Brothers
DJs:高木壮太 and more
18:30 open 19:00 start
前売り2,500+1D、当日3,000+1D
チケットはFEVER、e+、ローソン(Lコード:75471)で発売中

https://www.fever-popo.com
kilikilivilla.com

KiliKiliVillaが送る週末のパーティー!
時代を超えた名曲を独自のスタイルでカバーしているLEARNERSと井の頭レンジャーズを中心にウィークエンドを盛り上げるハンキー・ロッキン・パーティー!
For all the young music lovers, dancing rudies and rockers!

*LEARNERS
モデル・歌手のSARAと松田"CHABE"岳二によるユニットから発展した5人組ロックンロールバンド、LEARNERS(ラーナーズ)。
2015年BLACK LIPSとの共演などを経て、本格的に始動。エディ・リーダーをフューチャーした7インチ『RHODE ISLAND IS FAMOUS FOR YOU feat EDDI READER』や昨年11月の2タイトル同時に7インチも即完売、12月にリリースの1stアルバムで全国に旋風を巻き起こし中。
ニール & イライザやキュビズモ・グラフィコ・ファイヴ、そして数々のアーティストのサポートを担当してきたプロデューサー兼リーダーの松田"CHABE”岳二、オーディエンスとミュージシャン両方から愛されている彼の選曲はフロアを最高に楽しませてくれる。

*井の頭レンジャーズ
2013年春、井の頭公園に憩う地元の若者(ルーディー)たちによって結成されたジャマイカン・スタイルのインスト・ファンク・バンド。
ドラム佐藤メンチ、ベース藤村明星、ギター万助橋わたる、オルガンいせや闇太郎。
Soundcloudに公開された音源が話題となり、これまでに7枚の7インチをリリース、2015年にはアルバムを発売。
69年UK・スキンヘッド・レゲエ・スタイルでカバーされた「徹子の部屋のテーマ」や「ひこうき雲」は大きな反響を呼び、2016年ついにライブ活動を開始。

*JAPPERS
6人組ロックバンド。2009年頃高幡不動で結成。
2012年に「Lately EP」、2013年に3ヶ月連続7インチシングルのリリースを経て、2014年にDead Funny Recordsより1stアルバム「Imginary Friend」をリリース。 以降も東京都内ライブハウスを中心に活動中。

*The Wisely Brothers
2010年都内高校の軽音楽部にて結成。真舘晴子(Gt.Vo)、和久利泉(Ba.Cho)、渡辺朱音(Dr.Cho)からなるスリーピースガールズバンド。
2012年初ライブ開催。高校卒業とともに下北沢を中心に活動。
2014年10月に初の全国流通盤「ファミリー・ミニアルバム」リリース。2015年12月ライブ会場限定盤「オリエンタルの丘」リリース。東名阪ツアー「ファミリー旅行記」を大盛況に終える。さまざまなメディアでピックアップされる注目のガールズバンド。



interview with Holy Fuck - ele-king


Holy Fuck
Congrats

Innovative Leisure / ビート

ElectronicExperimentalPsychedelicPostrock

Tower HMV Amazon

 本インタヴューに応えてくれたブライアン・ボーチャードは、自分たちの音楽を他人に説明しなければならない場面では「うるさいけど楽しい音楽」「エクスペリメンタルで音はデカイけど、ダンサブルで楽しくもある」というふうに答えると述べている。これは、かつて彼らがそう呼ばれたという「エレクトロニカ」なるタグ付けではまったくたどりつかない見解だ。実験性を持ったエレクトロニックな音楽であることは間違いないけれども、彼らの場合「エレクトロニカ」と表現することで切り捨てられる要素はあまりに多い。

 対して「うるさくて、エクスペリメンタルで、ダンサブルで、楽しい」というのはホーリー・ファックの特徴をたしかに言い当てている。当初はみな、その強烈な個性を持ち合わせの言葉でどう形容していいかわからなかったのだ。ポストパンクとかネオ・エレクトロとか、サイケからクラウトロック、ハードコアにまで比較されていたし、レコード屋でもどこの棚に置いていいものか悩ましい作品だったことを思い出す。

 それでもあえて言うならば、ベア・イン・ヘヴンやブラック・ダイスにダン・ディーコンなど、2000年代半ばのブルックリンやボルチモアが持っていたエクスペリメンタルなムードをもっともダンサブルに咀嚼した存在というところだろうか。アナログシンセへのこだわり、卓越したテクニックに支えられた生アンサンブルを旨とするバンド志向、ミニマルで高揚をさそう楽曲構造……彼らの音のキャラクターは、その後バトルスの登場によってようやく少し整理されたのかもしれない。

 ホーリー・ファック。グラハム・ウォルシュとブライアン・ボーチャードという2つの中心を持った、トロントのバンド。2004年の結成、そして2005年のファースト・アルバム『ホーリー・ファック』以降、聴くものを盤で驚かせライヴで熱狂させてきた彼らは、3枚めのアルバム『ラテン』の後にしばしの休息をはさむこととなった。しかし、今般久方ぶりにリリースされる4枚め『コングラッツ』を聴けば相変わらずだ──古びない。今回は初めて「ちゃんとした」スタジオで録音したというが、少しへヴィで締まった印象がある以外、彼ら相変わらず楽しんでいる。

 そう、『ラテン』(2010年、サード)にほぼラテンの意味がなかったように、彼らの音楽は考える余地も要素もない。それは考えていないということではなくて、考えさせないということだ。感じて楽しむ、そこに純粋にエネルギーが注ぎ込まれている。今作でもそれは変わらず、ダサくならない理由はすべてそこにあると言えるかもしれない。

 時は移ろい、ポストロックへの再注目や、マシナリーなビートやプログラミングによる楽曲構築を「人力」で批評的に再現するような試みが、クラブ・ミュージックの文脈とも交差して受け止められる中、ホーリー・ファックの解釈にもさらに幅が生まれているかもしれない。しかし彼らが理屈ではなく感覚や演奏の中に自らの拠りどころを持つバンドなのだということ、そしてそのことが反復的に彼らの強度を高めていくのだということを『コングラッツ』はあらためて感じさせる。


■Holy Fuck / ホーリー・ファック
2004年にグラハム・ウォルシュとブライアン・ボーチャードによって結成。トロントを拠点として活動を展開している変則バンド。2005年のファースト・アルバム『ホーリー・ファック』が世界的な注目を浴び、ブロークン・ソーシャル・シーンのメンバーやオーウェン・パレットを迎えたセカンド・アルバム『LP』(2007年)では同国の主要な音楽賞ジュノ・アワードやポラリス・ミュージック・プライズにノミネートされた。翌2008年にはM.I.Aとツアーに出るなどさらに活躍の場を広げ、2010年にサード・アルバム『ラテン』をリリース。その後、ハードなツアーの疲弊を癒すべくしばしの休養期間が生まれたものの、2年の制作期間をかけて、本年2016年、4作めとなる『コングラッツ』が発表された。

共通しているのは、2人ともラップトップを使って音楽を作りはじめないということ。

みなさんはヴィンテージのシンセサイザーや、あるいはおもちゃのシンセなど、ラップトップではなく生の楽器で演奏することにこだわってこられたように思いますが、その考え方はいまも変わりませんか?

ブライアン・ボーチャード(G,Key/以下BB):前よりもよりハイテクなものを使ってはいる。サンプラーとか、あととくにグラハムはプログラミングを使ったりもするしね。でも、アナログのドラムマシンも使っているし、俺も自由なやり方で音楽を作っているんだ。俺たちの曲作りの方法は全く同じというわけではないけど、共通しているのは、2人ともラップトップを使って音楽を作りはじめないということ。「新しいギアを買えば」とよく人に言われるし、ソフトウェアを使った方が楽なときもある。でも、俺たちはそれをやらないんだ。それはいまだに変わらないね。

では、そのようにこだわる理由を教えてください。

BB:理由はたくさんあるけど、俺にとってのいちばんの理由は、そっちのほうが断然楽しいから。曲作りってせっかく楽しい作業なのに、スクリーンをじっと見ているんではもったいないからね。しかも、あんなに繊細で壊れやすいものだから、いちいち注意しなければいけないし、それをステージに持っていくなんて想像できないんだ。メールを打ったりするだけでも十分スクリーンを眺めてるんだから、それ以上画面を見ていたいなんて思わない(笑)。

トライしてみたこともないですか?

BB:ないね。エイブルトンとかコンピューターのソフトウェアとか、よく人に勧められはするんだ。そっちの方がもっと楽になるからって。そっちの方がもちろんサウンドもよくなるだろうし、もっと効率もよくなるかもしれない。でも俺は、ギターをプレイしているほうがいいんだよ。そっちのほうが、プレッシャーが少ないんだ。何より、楽しいしね。

たとえば“クラプチャー(Crapture)”において、ラップトップの中で完結できないものとは何でしょう?

BB:なんだろう……あの汚くてうるさいサウンドは、ラップトップでは作れないかもしれない。すごく変わった曲なんだけど(笑)。壮大で、うるさくて、醜いサウンドなんだ。あれは、俺たちの普通とはちがう自由な曲の作り方だからこそ生まれるサウンドなんだと思う。

『ホーリー・ファック』が2005年、『LP』が2007年です。2010年前後にクラウトロックのブームなどがありましたが、じつに約10年のあいだ、あなたがたはとくに流行に左右されるということもなく自分たちのスタイルを保持してこられましたね。実際のところ、トレンドを意識することはありますか?

BB:いや、それはない。モダンにも、時代遅れにも、ヴィンテージにも聴こえないサウンドを作りたいと思っているからね。ユニークさを意識している。いまから20年経っても聴きたいと思うサウンドを作りたいなら、トレンドを意識していてはそれは実現できないと思う。俺は「タイムレス」というアイディアが好きなんだ。


モダンにも、時代遅れにも、ヴィンテージにも聴こえないサウンドを作りたいと思っているからね。


それはいつ頃から考えるように?

BB:バンドをスタートしたときから、それがバンドのメインの目標だった。楽器をプレイして曲を作ることでリミットを定めつつ、慣習にとらわれないエクスペリメンタルなやり方で、いかにユニークでタイムレスな音楽を作り出すことができるかというのがいちばんの目標なんだ。さっき話に出たように、俺たちはヴィンテージとかおもちゃとかいろいろな種類のシンセを使うけど、それは、一つに限らないさまざまな時代感を出したいからなんだよ。

今作はスタジオ録音だということですが、設備や環境として影響を感じた部分があれば教えてください。

BB:そんなに影響はなかったと思う。レコーディングのときに4人でいっしょにライヴで演奏するのは変わらないから、そこまで変化は感じなかった。それよりも、今回ちがったのは、レコーディングの前にクラブやステージですべての曲をライヴ演奏したという点だね。今回は予算のかかるスタジオだったから、借りている日数が短かったぶん、スタジオに入る前にすべてを完璧にしておきたかったんだ。以前は、スタジオにお金をかけていなかったから、だらだらとスタジオにいて、スタジオの中で曲を作ったりもしていた。今回は、決まっていた3日間という短い期間の中でベストなものを録らなければいけなかったから、入る前の意気込みがちがったんだ。それは、レコードにも反映されているんじゃないかな。

そのやり方はよかったです?

BB:楽しかったよ。その後のミックスの作業はあまり楽しくないときもあったけど(笑)、いいスタジオに4人で入って、いっしょにバシっと演奏したのはすごく楽しかった。

あなた方の音楽にはつねにトランシーな高揚感がありますが、それはあなた方が音楽に求めるいちばん重要なものだと考えてもよいでしょうか?

BB:すごく重要。俺たちの音楽において大切なのは、メッセージ性や歌詞の内容とかではなくて、感情。曲を聴くことで他の場所に行ったような気分になれたり、ムードを作り出す音楽が、俺たちの音楽。俺たちのバンドは、テーマを持った曲やラヴ・ソングは書かないからね(笑)。自分で曲を作っているとき、どうやってその曲がいいか悪いかを判断するかというと、歩きながら聴いてみたりして、その音楽が特定のムードを作り出したり、自分に何かを感じさせたり、想像の世界につれていってくれるかを試すんだ。皆もそれを感じてくれてるといいけど(笑)。


「エレクトロニカ」には違和感があったね。俺たちの最初のレコードは2005年にリリースされたのに、エレクトロニカって言われるとなんか90年代みたいな感じがしてさ。


Holy Fuck: Xed Eyes (Official Video)


もしホーリー・ファックの音楽スタイルについて「ポストロック」と表現するとしたら、あなたがたにとっては違和感がありますか?

BB:ないよ。最初の頃は「エレクトロニカ」とか言われてたけど、自分たちはなぜそう呼ばれるのかわからなかった。俺たちの最初のレコードは2005年にリリースされたのに、エレクトロニカって言われるとなんか90年代みたいな感じがしてさ。「エレクトロニカ」には違和感があったね。だから、ポストロックでもポスト・パンク・ロックでもいいから、特定のエレクトロニック・ミュージックのジャンル以外の呼ばれ方であれば抵抗はない。エレクトロニック・ミュージックのステレオタイプのイメージを崩してくれる呼び名なら、俺たちは何でもいいよ。

どんな音楽やってるの? と聴かれたら自分ではどう答えます?

BB:ははは、よく飛行機で隣の席の人に聴かれたりするんだよな(笑)。やっぱり説明するのは簡単じゃない。あまり怖がらせたくないから、「うるさいけど楽しい音楽」って言ってるよ(笑)。「エクスペリメンタルで音はデカイけど、ダンサブルで楽しくもある」って普段は言うようにしてる。ジャンルよりも、サウンドがどんなものかを説明しようとするね。

7曲めのタイトルを“サバティクス(Sabbatics)”としたのはなぜですか? 少しトライバルなモチーフが感じられますが、どんなことを実践したかった曲なのでしょうか?

BB:「sabbatical(=有給休暇、研究休暇)」を思わせるタイトルになっているんだけど、なぜそうなっていたのか自分たちにもよくわからない。もしかしたら、俺たちもブレイクをとって、バンドの外の世界を旅して自分自身を見つめる期間があったから、それがサウンドに反映されたのかもしれないな。あまりスローな曲がないから、スローなものを作ろうと意識したのはあるね。とくにライヴでは、“レッド・ライツ”のような速くてアップ・ビートな曲が続いたときに“サバティクス”みたいな曲が入るとちょうどいいんだよね。演奏していて楽しい曲でもあるんだ。

曲作りの基本的なスタイルは、『ホーリー・ファック』の頃から変わりませんか?

BB:あまり変わらない。曲をつねに書くというのも変わらないし、変わったとすれば、前よりもそれが上手くなったことくらいだと思う。いまのほうが、よりメンバー同士がお互いを理解しているからね。

それぞれの曲は理論的に構築・演奏されているのでしょうか?

BB:俺たちは音楽を習ったことはないし、すべて独学なんだ。だから、答えはノー。耳で感じたままに曲を作ってプレイしている。曲の書き方はさまざまだから、少し理論的なときもあるかもしれないけど、大抵はちがう。構築、演奏のされ方に決まりはないんだ。


ライヴはもちろん楽しいけれど、バンドにとって何よりも大切なのはスタジオ・アルバムを作ること。


自分たちをライヴ・バンドとして定義しますか? 

BB:今回のアルバムは、前回のようにつねにライヴで皆の前で演奏しなければいけない、というよりは、アルバムを家で聴いて楽しんでくれたリスナーがそれを知りあいに勧めて、またその知りあいが自分の知りあいに勧めて……という感じで、家で聴いて楽しむというのも広がってくれたらうれしいと思う。でも、もちろんパフォーマンスも大好きだから、ライヴはたくさんやりたいけどね。ライヴ・バンドというか、自分たちにとってライヴが楽しいものであることはたしかだね。

あなたたちにとって、スタジオ・アルバム作品をつくる上で重要なことはどんなことなのでしょう?

BB:ライヴはもちろん楽しいけれど、バンドにとって何よりも大切なのはスタジオ・アルバムを作ること。俺は小さな街で育ったんだけど、好きなバンドが自分の街に来て演奏するということはまずなかった。だから、自分たちの音楽を知ってもらうため、聴いてもらうためには、まずレコードを届けることが大切になってくるんだ。時間が経っても永遠に残る物だし、いちばん重要だと思うね。

“シマリング(Shimmering)”はどのようにできた曲ですか?

BB:もともとの曲は、俺が10年前くらいに書いたんだ。ギターとヴォーカルをそのときに書いて、そのまま温めていたんだよ。それを数年前にメンバーの前でプレイしてみたら皆が気に入ったから、そこから皆がそれぞれのパートを自分たちなりにアレンジしてできあがったんだ。最初は、ソロでプレイするためのギター・ソングだったんだけどね。

あなた方の音楽では、人間の声もマテリアルのひとつとして器楽的に用いられていることが多いですが、そのような使い方をするプロデューサーやアーティストで、おもしろいと感じる人がいれば教えてください。

BB:たしかに。俺たちにとって声は楽器の一つって感覚だな。誰が似たようなアプローチをとっているかはわからないけど……俺自身が好きなのは、ヴォーカルの歌詞だけに頼りすぎていない音楽。ソニック・ユースなんかも、何を言っているかわからなくたってそれがクールな音楽だと感じることができる。俺たちの音楽もだけど、そういう音楽はラジオで流れてくるポップ・ソングみたいに、誰が何を歌っているかが明確な音楽ではない。フロントマンだけが主役の音楽ではないんだよ。カリブーもその一人だと思う。重要なのは、歌詞よりも音だから。

“クラプチャー”のようなマシナリーな16ビートと人力のドラムによる同様の演奏には、どのような差があると考えますか?

BB:あまり大きなちがいはないけど、マシン・タイプのドラムとたまに距離を置くことで、タイミングのずれが生じて、いいものが生まれる、という可能性は広がると思う。俺はジャズが好きなんだけど、ああいう感じの自由なリズムはやはり人の手で作り出されるものだからね。マシンに頼るとすべてがパーフェクトになってしまうから、最近はそういった要素が消えていってしまっていると思うんだ。パーフェクトも悪くはないけど、生演奏では感じられるソウルが感じられなくなってしまう。俺たちは、それは失いたくないんだ。

interview with Lust For Youth - ele-king

 何をきいても、きくだけ野暮になるのだ──。リズムボックスの規則正しいビートを無視して、右に左に奇妙に揺れながら、モリッシーを彷彿させるヴォーカリゼーションでオーディエンスを威嚇するハネス・ノーヴィドは、強くひとを惹きつけながらも近寄りがたいような緊張感をみなぎらせている。若く固く純粋で、土足で入ってくるものを許さない。こんなにロマンチックでドリーミーな曲なのに……いや、そうした曲でこそ彼の憮然とした表情と固い動作は美しく、聴くものの胸を打つ。

 4月某日、原宿のアストロホールでは、彼の一挙手一投足が意味を持ち、熱を生み、ひとびとの心を煽っていた。煽るといってもそれは威勢のいい掛け声やメッセージによってではない。そこで歌われていた言葉は、君に会いたいとかそんなような、きわめてささやかな、あるいは内省的なものにすぎない。音はきわめてロマンチックなシンセ・ポップ、生硬なポスト・パンク。
 そしてハネスはといえばリズムにもメロディにも、ホールの空気にすら乗ろうとしない。散漫に客を眺め、どうでもいいことのように歌い、拍を外して動く(踊るというより動き)。それは、自分の外にあるものすべてに向けての威嚇や挑発であるようにも感じられるし、ガーゼにくるまれた、純粋で傷つきやすいものを想像させもする。──わたしたちを強い力で陶酔させ、高揚させ、我を忘れようとさせていたものは、そんな繊細な姿をしていた。

 ロックにこんなふうにひりひりとしたものを聴き取るのは久しぶりだった。素晴らしく攻撃的で、ピュアで、ロマンチック。小器用なリヴァイヴァリストたちではない。ロックが説得力を失う時代を真正面から踏み抜いて、ブリリアントな曲を聴かせてくれる。ラスト・フォー・ユースは本当に特別なバンドだ。年長者が聴けば、なんだ、ニューオーダーやジョイ・ディヴィジョンのミニチュアじゃないかと言うかもしれないが、残念ながらそんなことは知らない。わたしたちが見ているのはそれではなく「これ」なのだ。そして、そこにいた人たちみなが切実に、かけがえのないものとして「これ」を感じていたからこそ、異様なほどの熱が生まれていた。わたしたちはいまここに、2016年にいるのだ。

 ラスト・フォー・ユース。ハネス・ノーヴィドを中心とする3人組。「いいバンドがいる地域」として数年来注目を浴びているコペンハーゲン・シーンの顔ともいえる存在だ。活動を開始した2009年当初はハネスの一人シンセ・プロジェクトともいえるスタートだったが、2014年の前作『インターナショナル』から現体制になっている。自分たちでレーベル活動も行う一方で、彼ら自身のアルバムはイタリアのノイズ・レーベル〈Avant!〉やエクスペリメンタルなサイケ・レーベル〈セイクリッド・ボーンズ〉などからもリリースされており、実際のところ、後者のように2010年代のシーンを賑わせたレーベル経由で世界に広く知られるところとなった。


Lust For Youth
Compassion

Sacred Bones / ホステス

Indie RockSynth Pop

Tower HMV Amazon

 先月、彼らは新作『コンパッション』を携えて来日した。先に述べた様子を思い浮かべていただければおわかりかと思うが、筆者が言葉でたずねるべきことなど本来なにもない。そこには、語らずにすべてを伝えてしまう、ハネス・ノーヴィドという名の心があるばかりだった。ライヴのあとに取材していたら、質問が変わっていたか、あるいは何もしゃべれなかったかもしれない……。

 しかしともかくもお伝えしよう。彼らはわずか30分足らずのインタヴュー中、注意力のない男子中学生のようにずっとふざけていたけれど、それはおたがいへの照れ隠しのようにも見えた。不真面目なのではない。真面目だからこそ言葉を接げないのだ。嬉々としてロックがアーティストの口からプレゼンされねばならない時代は不幸である。ジャケットには点字がならんでいる。


■Lust For Youth / ラスト・フォー・ユース
スウェーデン出身、ハネス・ノーヴィドによるシンセ・ポップ・プロジェクト。2011年にデビュー・アルバム『ソーラー・フレア(Solar Flare)』を発表。2011年に発表した2作め『グローイング・シーズ』はメンバーの脱退がありソロ・プロジェクトとして発表されたが、2014年リリースの前作『インターナショナル』よりマルテ・フィシャーとローク・ラーベクがラインナップに加わっている。自身のレーベルからの他、イタリアのノイズ・レーベル〈Avant!〉や、つづく作品はUSの〈セイクリッド・ボーンズ〉等からもリリースされている。2016年4月にニュー・アルバム『コンパッション』を発表、同月来日公演を行った。

掘り下げて掘り下げて、だんだんポップになっていった(笑)。 (ハネス・ノーヴィド)

ラスト・フォー・ユースは、歌詞が英語であることがほとんどですよね。スウェーデン語で歌わないのはなぜなんですか?

ローク:僕らの中でも2つの母国語があるからね。スウェーデン語とデンマーク語。でも世界から見れば、両方合わせてもごく少数の人数が話している言葉にすぎない。そんな中でより多くの人とコミュニケーションをしたいと思ったら、よりビガーな言葉を使うほうがいいよね。そして、僕らが知っているビガーな言葉といえば英語しかないんだ。

マルテ:英語はデンマークでも小さな頃から学校で教わるからね。

ハネス:音楽的な点からいっても、英語はいちばん通じやすいよね。ポップ・ミュージックの言葉だと思う。

マルテ:前のアルバム(『インターナショナル』2014年)は、イタリア語の曲が入っていたり、スウェーデン語の曲が入ったりもしているから、使ってはいるんだよね。でも歌うことにおいては圧倒的に英語ということになるかな。

なるほど。〈アヴァン・レコーズ(Avant! Records)〉からいくつかリリースがありますね。『サルーティング・ローマ(Saluting Rome)』(2012年)あたりはずいぶんダークで、ノイズやインダストリアル的な要素も強いかと思いますが、そこからくらべて現在はずいぶんポップなかたちになったとも言えるかと思います。そうなったことに何かきっかけや理由はありますか?

ハネス:あの頃も十分ポップだったと思うよ。

ローク:いや、最初につくっていたテープなんて、ただのノイズだったじゃん(笑)。

マルテ:ハネスがひとりでつくっていた頃でしょ? 初めて聴いたとき、「マジで?」って思ったもん。ほんとにこれをポップとして解釈することかできるのかなって。

ははは。とくにハネスさんだと思いますが、そういうノイズ・ミュージックに最初に触れたのは何がきっかけだったんですか?

ハネス:ウルフ・アイズ(Wolf Eyes)から入って、掘り下げていったかな……。10代の頃だから、何がきっかけだったかなんてあまり覚えてないんだけど。で、掘り下げて掘り下げて、だんだんポップになっていった(笑)。

僕にとってシンセ・ポップとか80年代の音楽のイメージは、「パンクのショウの後でかかってた、みんなで踊れる楽しい音楽」なんだ。(ローク・ラーベク)

それがラスト・フォー・ユースのポップの真実なんですね(笑)。一方で、ニュー・オーダーに比較されたりするように、ポスト・パンクだったりシンセ・ポップのような音楽は何が聴きはじめだったんでしょうか。それから、みなさんの国の同世代にとってそれらはポピュラーなものなんですか?

マルテ:いまでこそかからないけど、あの頃はラジオとかでかかっていたよね。ニュー・オーダーとかは。

ローク:僕にとってシンセ・ポップとか80年代の音楽のイメージは、当時僕が好きで通っていたパンクのショウ、それが終わったあとに飲みにいくところでかかってるって感じかな。パンクのショウではみんな暴れたりしていたけど、その後クラブのダンスフロアなんかに行くと、そっちから打ち上げで入ってきた男子がテーブルの上にのぼって、シャツを脱いで騒いだりしていた。そういう、みんなで盛り上がって楽しい時間を過ごしたっていう思い出が、あの手の音楽を聴くとよみがえってくるよ。「パンクのショウの後でかかってた、みんなで踊れる楽しい音楽」なんだ。

そうはいっても、みなさんは80年代当時がリアルタイムではないですよね。たとえばニュー・オーダーならどのアルバムから聴きはじめたんですか?

ローク:僕は映画『ブレイド』(1998年)のサントラとして収録されている“コンフュージョン”のリミックスだね。完全にレイヴの音楽って感じで……ニュー・オーダーの曲ですっていう感じではないけど、ニュー・オーダーの最初の思い出とかインパクトといえばそれなんだ。

マルテ:僕は「ブルー・マンデー」かな。ラジオでよくかかってたよ。

ハネス:僕は「クラフティ(Krafty)」(2005年)かな。その後は『ムーヴメント』に出会うまで気にならなかった。

私もそのアルバムが最初だと思います(『ウェイティング・フォー・ザ・サイレンズ・コール』2005年)。同世代ですね(笑)。でも、“ブルー・マンデー”がラジオでよくかかってたというのはなんなんでしょうね。さすがにオリジナルが出た当時じゃなさそう。

マルテ:そうだね。僕は32歳だから。

それは生まれたかどうかくらいですね。

実際には仲はいいんだよ。メディアが言うように、みんなオシャレな服を着て、みんなハンサムで、みんな才能があって……なんてことはないし、そうやって十把ひとからげにされるのは違和感があるっていうだけで。

コペンハーゲンのバンドについて、英米のメディアや日本でも話題になったりしたんですが、実際にシーンを呼べるようなつながりとか盛り上がりはあるんですか?

ハネス:僕らとしては、あまり「シーン」という実感はないんだけど、それぞれのバンドに友だち関係っていう結びつきはあると思うよ。

ローク:長くやっているバンドも多いから、そこには自然に友情みたいなものはできてくるかな。

なるほど。でもメディアがそう言っているだけってことでもない?

ローク:まあ、間違いなくコミュニティ的なものはあると思うよ。でも、(お菓子を食べてふざけあいながら)僕らが集まってやることなんてこんなことばっかりで、音楽の話なんてしてないよ(笑)。そんなふうに騒がれる前にとっくに僕たちのコミュニティはできてしまっていたから、いまさらって感じはあったけどね。だから「みんな仲がいいんでしょうね」っていうような質問を受けると、あえて「いや、仲良くないよ」「きらいだよ」って言いたくなっちゃうんだ。
 でも実際には仲はいいんだよ。メディアが言うように、みんなオシャレな服を着て、みんなハンサムで、みんな才能があって……なんてことはないし、そうやって十把ひとからげにされるのは違和感があるっていうだけで。それぞれに個性があるし、みんな音楽以外の興味も大きいから。

マルテ:それにみんなの音楽性もどんどん広がっているから、まとめて語るのはますます無理が出てきているだろうね。

基本的にはパンクとかロックとかって音楽が多いんですか? クラブ・ミュージックみたいなものとは混ざっていない?

ハネス:バンドが多いのは間違いないね。

マルテ:でも、テクノもわりとある気がするな。たしかに僕らのまわりではないけど、でもいろんな音楽があるよ。なんでも。ユニークなことをやっている人も多いし、そういう人たちもゆるやかにつながっているとは言えるんじゃないかな。

ミニマリズムを愛する感覚とか、歴史の古さとか。日本への共感みたいなものはあるよ。(マルテ・フィッシャー)

へえ。たとえばハネスさんはゴーセンバーグご出身かなと思うんですが、ゴーセンバーグは一時期、エレクトロニックなバンドやユニットがいくつも出てきて注目されていましたよね。JJとか、エール・フランスとか、タフ・アライアンスとか。彼らなんかとは交流があるんですか?

ハネス:ゴーセンバーグは以前しばらく住んでいただけなんだけどね。いや、友だちじゃないよ彼らは。じつは僕らのイヴェントに来たいってタフ・アライアンスのメンバーが言ってきたときに、断ってしまった経緯があるんだよね。僕は彼らが好きなんだけど、僕の友だちが、ああいう人たちを呼ぶのは日和ってるみたいなことを言って断ってしまったことがあって。
 じつのところスウェーデンの音楽はそんなにマジメに聴いてないんだ。スウェーデンは昔から、自分たちがいちばんの音楽の国だっていうようなことを外に向けて言ってきた。たしかに90年代にそういうことはあったかもしれないけど、いまはそんなことないと思うし、とにかくスウェーデンの人っていうのは、視線が内側に向いていて、外の音楽に対して無知なんだ。僕はそう思う。

マルテ:でもやっぱり、ポップ・ミュージックは強いよね。アバにはじまってさ……。あと、音楽の学校がすごく充実しているんだよ。デンマークだって、普通の学校に通っていてもけっこう音楽の教育はしっかりしていると思う。

北欧……と一括りにするわけにはいきませんけど、スウェーデンもデンマークも、福祉国家であり、合理的で進歩的な考え方を持つ国というふうなイメージがありますけれども、実際にみなさんもそう感じますか?

ローク:合理的っていうのはどうかなって思うところもあるけど、ほかの2つはそうだね。美意識みたいなところでは、スカンジナビアは日本と共通するところがあるんじゃないかって思うよ。

マルテ:そうだね、ミニマリズムを愛する感覚とかね。あとは歴史の古さとか。日本への共感みたいなものはあるよ。

基本的には音楽で生活できている人が多いよ。ただ、ひとつ言えるのは、音楽でリッチになっているやつはいない(笑)。(ローク)

なるほど、意外なものの造形が似ていたりもしますからね。……でも、若い人が絶望していたりしないんですか?

ハネス:それは世界中、みんなそうだと思うよ。

ははは、それは反論しにくいですね。

ローク:未来ってことを考えると、すごく恐ろしい場所のような気がする。もしかするとすごく楽しいこともいっぱいあるのかもしれないけど、不安の方が大きいよね。

ハネス:だから考えないでおくことにしたほうがいい。

あはは。金言です。でも、みなさんやお友だちは、みんな音楽で食べているんですか? それとも何か別に職業を持ちながら?

ローク:基本的には音楽で生活できている人が多いよ。個人差はあるけど。ただ、ひとつ言えるのは、音楽でリッチになっているやつはいない(笑)。なんとかやっていけてるってだけでね。

ハネス:僕らは例外だけどね。

では、いま聴いている音楽で刺激的だと思うものはどんなものですか?

マルテ:ブリアルとか。

へえ、意外なようで、みなさんにも相通じるようなダークさがあるかもしれませんね。

ローク:僕はコペンの仲間がつくっているのを聴くだけで手一杯だよ。

ハネス:僕も。


Lust For Youth “Sudden Ambitions”


ゴシックは嫌い。(ローク)

なるほど、音をシェアしているんですね。ところでLFYの作品は近年は〈セイクレッド・ボーンズ〉から出てたりしますけど、あのレーベルにはどんな印象を持っていますか? みなさんはカタログの中ではやや異質ですよね。

マルテ:たしかに僕らは異色かもしれないね。でもそれがいいことだとも言える。

ハネス:僕は同じくらいの規模の別のレーベルからのリリースの経験もあるけど、いい感じなんじゃないかな。必ずしも有名レーベルではないけど、おもしろいバンドのものを出してると思う。僕らからデヴィッド・リンチまでね(笑)。あとファーマコンとか。

ファーマコンはいいですよね。〈セイクレッド・ボーンズ〉の中には、特異な形でではありますけど、ゴシックの要素もあると思います。みなさんは自分たちの音楽の中にゴシックを感じることはありますか?

ローク:ゴシックは嫌い。

ハネス:ははは。

ローク:でも時間はかかったけど、僕らの音楽を理解してくれるレーベルが出てきたことはうれしいことだよ。僕も自分でコペンハーゲンでレーベルをやっているわけだし、やろうと思えば自分たちでも出せるけれど、そんな中で出そうと言ってくれる人がいるわけだから、いいことだよね。

そうですね。こうやってお会いしてみると、みなさんずいぶんやんちゃな印象なんですが、曲のなかで歌われていることはわりとどれもラヴ・ソングというか。それがちょっと意外でした。これはわざと意識しているというか、ポップ・ソングは恋愛を歌うものというような考えがあったりするんですか?

ローク:やんちゃはいまだけだよ(笑)。

ハネス:嘘をつくのがうまいというだけじゃないかな。

マルテ:曲の雰囲気にインスパイアされて歌詞を書くことが多いから、それで影響されるのかもしれない。曲自体がそんなムードを持ってるんだよ。

ローク:それがまあ、ゴスが嫌だっていうことにつながるんじゃないかな。もちろんラヴ・ソングを書いている人が恋愛をしているかといえばそうとは限らない。ゴスのひとたちもきっとそうで、彼らがつねにメランコリックでウィザラブルな自分たちを演じていて、それを見て周りの人も同じ気分になってしまうということがあるんだとすれば、僕たちも自分たちの世界を曲で提示して、聴く人たちをそんな気分にさせているということなのかなと思うよ。

点字って、つねづねおもしろいものだなって思ってたんだよ。デザイン的にとっても美しいものなのに、それを読める人には見えなくて、見える人には読めなくて、っていうのがね。(マルテ)

世界といえば、ジャケットの点字のモチーフはどこから?

ローク:まず、もとになる風景はあったよ。ハネスとマルテは同じアパートに住んでいたことがあって、そこが今回のレコーディングの場所でもあるんだけどね。それで、煮詰まってくると海を眺めて──海の色か空の色かちょっと区別がつかないような色をしてたよね──それを眺めて散歩したりしてたんだ。いい気分転換になった。

マルテ:で、点字については、僕がツアー中に飲んでいた薬があるんだけど、それについていた点字がヒントになってるんだ。その海か空かわからない色みたいに、何かがはっきり見えないひとのための字を使うというのは、おもしろいと思って。点字って、つねづねおもしろいものだなって思ってたんだよ。デザイン的にとっても美しいものなのに、それを読める人には見えなくて、見える人には読めなくて、っていうのがね。

それは、音楽も似たようなところがあるかもしれませんね。

マルテ:その通りだね。



Rouge Mecanique - ele-king

 セーラムなどに舞台を移したハリー・ポッターのアメリカ編やレイディオヘッドの新曲“バーン・ザ・ウィッチ”、そして、ロバート・エッガーズ監督『ザ・ウィッチ』が注目を集めるなど、2016年はなにやら魔女だらけの年となってまいりました。オノ・ヨーコの新作も『イエス、アイム・ア・ウィッチ・トゥー(Yes, I'm A Witch Too)』と、これはコラボ・シリーズの続編で、デ・ラ・イグレシアスが『スガラムルディの魔女たち』で示唆したように魔女表現にはそこはかとなくミソジニーへのカウンター的要素が盛り込まれているのだろう。そういえばフェミニズムの新たな顔となりつつあるエマ・ワトスンがパナマ文書に名前を発見され、イギリスの右翼メディアによる魔女狩りの対象になる可能性も拡大中(ハーマイオニ、火あぶりか?)。ブレイディみかこ著『ザ・レフト』から演繹してみるに、J・K・ローリングがはかせた赤いおむつがエマ・ワトスンをアリス・ウォーカーやグロリア・スタイネムに向かわせ(「フェミニスト・ブック・クラブ」)、右派もこれ以上は黙っていられないレヴェルに達したということなのか(ちなみに『ハリーポッター』の新作映画でハーマイオニ役は45歳の黒人女優が演じるとか。#OscarSoWhiteも#WomenInHollywoodもぶっちぎられましたね)。
 
 いい加減なまくらはともかく、2013年に〈リキッズ(REKIDS)〉傘下の〈ピラミッズ・オブ・マーズ〉から「ウィッチズ」でデビューしたイタリア系のルージュ・メカニークことロマン・アザロによるデビュー・アルバム。サンプリングしたブルース・ギターをテクノやハウスにペーストした例は過去にもあったけれど、自分でテレキャスターを弾きながらコズミックに仕上げてしまう逸材は稀でしょう。過去にパンク・バンドやサイケ・ロック・バンド、あるいは2000年代に入ってからはコールドウェイヴとして区別されるようになった南欧のシンセ・ポップ・ユニットなどで実際にプレイしてきたことがそのまま反映されているようで、なるほど、そういったキャリアの集大成になっていることはたしか。プリンスが亡くなった年に、こんなハイブリッドを耳にしてしまうとはある種の符合のようだけれど、シンセサイザーと溶け合うようなブルース・ギターがとにかく気持ちいい。どこかでシネマティックと評されていたのはちょっと違和感があり、それを言うならいまはヘルシンキのザイネがダントツだろうと。ルージュ・メカニークはもっとダイレクトにフィジカルで、基本的にファンキーだし、どの曲にもサイケデリックへと向かうヴェクトルが内包されている。

J9tZiBwtoxE

 コズモ・ヴィテッリのレーベルから新作の予定もあるとのことなので、これは20年めに現れたフレンチ・タッチの遠い子孫とも言えるのだろう(ダフト・パンクの新作もブルースのエディットだったし)。ビートルズ“ミッシェル”のジャズ・アレンジや『ブレイキング・バッド』を思わせるラテン・ドローンなどはジャム・シティの影響かと思ったり、無理してどこかに繋げなくてもいいんだろうけれど、トーン・ホークやマーク・マッガイヤーをきっちりとクラブ・ミュージックの範疇に押し込んだフォームとしては(ホーク関連の「フロム・ザ・リーガル・パッド・オブ(From The Legal Pad Of...)」を除けば)最上の出来ではないだろうか。ギターがいいと感じたのは、それにしてもかなり久しぶり。

 『ドント・タッチ・マイ・シスター』はルイ・ヴィグナによるエレガントなアート・ワークも話題で、モチーフとなっている「水没した女性」はタイトルから察するに姉か妹なのだろう(クレジットはローラ・アザロ)。撮影はエコール・デ・ボザールのジャンヌ・ブリアンで、血の気を感じさせない指先はすぐに溺死を連想させる。血管は収縮し、冷え切ったような質感が増幅されているにもかかわらず、逆説的にエロティシズムが導き出されている。女性の指先が好きな男性は女性に対する支配欲が強いと言われるけれど、これは触れることを躊躇わせるような指であり、赤いマニキュアがそれでも接点を主張しているかのよう。デビュー当初からファッション・デザイナーとのコラボレーションも多く、どこを取ってもフランスらしいプロダクションである。

PINCH&MUMDANCE - ele-king

 UKのアンダーグラウンド・ダンスシーンを追っている者にとって、もはや説明不要の存在、ピンチ。ダブステップのパイオニアのひとりとして知られる彼だが、2013年に始動したレーベル〈コールド・レコーディングス〉で聴くことができる、文字通り背筋が凍りつくようなテクノ・サウンドのイメージを彼に抱いている方もいるかもしれない。
 だがそれと同時に、彼のトレードマークとも言える〈テクトニック〉での重低音の実験も止むことはなく、近年も数々の傑作をリリースしている。そのなかでも一際輝きを放っているのが、マムダンス関連の作品だろう。2015年に盟友ロゴスと共に発表した『プロト』は、UKダンスミュージックの歴史をタイム・トラベルするかのような名盤であり、2014年のピンチとの連名曲“ターボ・ミッツィ”はグライムの粗暴さとコールドなテクノが融合したアンセムとなっている。同じ年に出た彼らのB2BによるDJミックスも、時代性とふたりの音楽性がブレンドされた刺激的な内容だった。
 現在もピンチはテクノとベースを行き来する重要プレイヤーであり、マムダンスもグライムMC、ノヴェリストとのコラボのスマッシュヒットが示すように、要注目のプロデューサーのひとりとして認知されている。今回の来日公演で、どんな化学反応を見せてくれるのだろうか?

DBS presents
PINCH B2B MUMDANCE

日程:5月20日金曜日
会場:代官山UNIT
時間:open/start 23:30
料金:adv.3,000yen / door 3,500yen

出演:
PINCH (Tectonic, Cold Recordings, UK) 、
MUMDANCE (Different Circles, Tectonic, XL Recordings, UK)
ENA
JUN
HARA
HELKTRAM
extra sound: BROAD AXE SOUND SYSTEM
vj/laser: SO IN THE HOUSE

info. 03.5459.8630 UNIT

Ticket outlets:
PIA (0570-02-9999/P-code: 292-943)、 LAWSON (L-code: 74580)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE(5458-4143)、GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)
原宿/GLOCAL RECORDS(090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)
Jar-Beat Record (https://www.jar-beat.com/)

Caution :
You Must Be 20 and Over With Photo ID to Enter.
20歳未満の方のご入場はお断りさせていただきます。
写真付き身分証明書をご持参下さい。

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
https://www.unit-tokyo.com

ツアー日程:
Pinch & Mumdance Japan Tour 2016
05. 19 (THU) Tokyo at Dommune 21:00~0:00 https://www.dommune.com/
05. 20 (FRI) Tokyo at UNIT  https://www.unit-tokyo.com/
05.21 (SAT) Kyoto at Star Fes https://www.thestarfestival.com/

PINCH (Tectonic, Cold Recordings, UK)

ダブ、トリップホップ、そしてBasic Channel等のディープなミニマル・テクノに触発され、オーガニックなサウンドを指向し、03年頃からミニマル・テクノにグライム、ガラージ、エレクトロ等のミックスを始める。04年から地元ブリストルでダブステップ・ナイトを開催、05年に自己のレーベル、Tectonicを設立、自作"War Dub"を皮切りにDigital Mystikz、Loefah、Skream、Distance等のリリースを重ね、06年にコンピレーション『TECTONIC PLATES』を発表、ダブステップの世界的注目の一翼をになう。Planet Muから"Qawwali"、"Puniser"のリリースを経て、'07年にTectonicから1st.アルバム『UNDERWATER DANCEHALL』を発表、新型ブリストル・サウンドを示し絶賛を浴びる。08~09年にはTectonic、Soul Jazz、Planet Mu等から活発なリリースを展開、近年はミニマル/テクノ、アンビエント・シーン等、幅広い注目を集め、"Croydon House" 、"Retribution" (Swamp 81)、"Swish" (Deep Medi)等の革新的なソロ作と平行してShackleton、Distance、Loefah、Roska等と精力的にコラボ活動を展開。Shackletonとの共作は11年、アルバム『PINCH & SHACKLETON』(Honest Jon's)の発表で世界を驚愕させる。12年にはPhotekとの共作"Acid Reign"、13年にはOn-U Soundの総帥Adrian Sherwoodとの共作"Music Killer"、"Bring Me Weed"で大反響を呼ぶ。またUKハードコア・カルチャーに根差した新潮流にフォーカスしたレーベル、Cold Recordingsを新設。15年、Sherwood & Pinch名義のアルバム『LATE NIGHT ENDLESS』を発表、インダストリアル・ダブ・サウンドの新時代を拓く。Tectonicは設立10周年を迎え、Mumdance & Logos、Ipman、Acre等のリリースでベース・ミュージックの最前線に立ち続ける。16年、MC Rico Danをフィーチャーしたグライム・テクノな最新シングル"Screamer"でフロアーを席巻、2年ぶりの来日プレイは絶対に聞き逃せない!
https://www.tectonicrecordings.com/
https://coldrecordings.com/
https://twitter.com/tectonicpinch
https://www.facebook.com/PinchTectonic

MUMDANCE (Different Circles, Tectonic, XL Recordings, UK)

ブライトン出身のMumdanceはハードコア、ジャングルの影響下、15才頃からS.O.U.Rレーベルが運営するレコード店で働き始め、二階のスタジオでプロダクションの知識を得る。やがてD&Bのパーティー運営、Vice誌のイベント担当を経てグライムMCのJammerと知り合い、制作を開始。ブートレグがDiploの耳に止まり、彼のレーベル、Mad Decentと契約、数曲のリミックスを手掛け、10年に"The Mum Decent EP"を発表。また実質的1st.アルバムとなる『DIFFERENT CIRCLES THE MIXTAPE』で'Kerplunk!'と称される特異な音楽性を明示する。その後Rinse FMで聞いたトラックを契機にLogosと知り合い、コラボレーションを始め、13年にKeysoundから"Genesis EP"、Tectonicから"Legion/Proto"をリリース、そして2nd.アルバム『TWISTS & TURNS』を自主発表、新機軸を打ち出す。14年にはTectonicからPinchとの共作"Turbo Mitzi/Whiplash"、MIX CD『PINCH B2B MUMDANCE』、グライムMC、Novelistをフィーチャーした"Taka Time" (Rinse)でダブステップ/グライム~ベース・シーンに台頭、またRBMAに選出され、同年東京でのアカデミーに参加した他、Logosとのレーベル、Different Circlesを立ち上げる。15年も勢いは止まらず名門XLからNovelistとの共作"1 Sec EP"、自身の3rd.アルバムとなるMumdance & Logos名義の『PROTO』、Pinchとの共作"Big Slug/Lucid Dreaming"のリリースを始め、MIX CD『FABRICLIVE 80』を手掛け、Rinse FMのレギュラーを務める。90'sハードコア・スピリッツを根底にグライム、ドローン、エクスペリメンタル等を自在に遊泳するMumdanceは現在最も注目すべきアーティストの一人である。
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https://soundcloud.com/mumdance
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interview with Shonen Yoshida - ele-king


吉田省念
黄金の館

Pヴァイン

RockPops

Tower HMV Amazon

 彼の知遇をえたのは2013年夏から初秋。不幸な事件で逝去された山口冨士夫さんの本をつくるにあたり、調べていくうちに、村八分と親交のあった京都の美術家ヨシダミノルさんのご子息が音楽をやられていると知った。吉田省念は当時、前年の10作目『坩堝の電圧』を最後、というか最初で最後にくるりを脱退した直後で、ソロ・アルバムの制作にとりかかったばかりのころだったと以下のインタヴューをもとに時系列を整理するとそうなる。私の原稿の依頼を省念さんは快諾され、あがってきた原稿はヨシダミノルさんと村八分(ことにチャー坊)との交流を、子どものころの曇りのない視線から綴った滋味あるもので、私は編集者として感心した、というのもおこがましいが、味わいぶかかったのである。

 3年後、吉田省念がソロ名義では初のアルバムを完成させたと連絡を受けた。『黄金の館』と名づけたアルバムは冒頭のインストゥルメンタルによる起伏に富んだタイトル曲にはじまり、「伸びたり縮んだり 人によって違うかもしれない」(「一千一夜」)時間のなかの暮らしの匂いと無数の音楽との出会いを映し出すやはり旨味のあるものだった。情景はゆるやかに流れ、季節はめぐり、見あげると音楽のなかで空は高い。これはなにに似ているとか、なにが好きでしょ、というのは仕事柄やむをえないにしても、それが音楽好きが集まって話に花を咲かせるように思えるほど、『黄金の館』の細部には血がかよっている。尾之内和之との音づくりは残響まで親しい。末永く愛聴いだきたい13曲の「ミュージック・フロム・黄金の館」。そういえばあのときお寄せいただいた原稿の表題は12曲めと同じ「残響のシンフォニー」でしたね。

■吉田省念/よしだ・しょうねん
京都出身。13歳でエレキ・ギターに出会ってから現在に至るまで、宅録を基本スタイルにさまざまな形態で活動を続ける。2008年『soungs』をリリース。吉田省念と三日月スープを結成、2009年『Relax』をリリース。2011年から2013年までくるりに在籍し、ギターとチェロを担当、『坩堝の電圧』をリリース。2014年から地元京都の〈拾得〉にてマンスリー・ライヴ「黄金の館」を主催し、さまざまなゲスト・ミュージシャンと共演。四家卯大(cello)、植田良太(contrabass)とのセッションを収録したライヴ盤『キヌキセヌ』リリース、〈RISING SUN ROCK FESTIVAL 2014 in EZO〉に出演。2015年、ソロ・アルバムのレコーディングとともに、舞台『死刑執行中脱獄進行中』(主演:森山未來、原作:荒木飛呂彦、演出:長谷川寧)の音楽を担当する。2016年、ソロ・アルバム『黄金の館』をリリース。

(中学時代は)90年代です。でも自分の生きている時代の音楽は意識して聴いたことがなかったんです。とりあえずまわりの連中が聴いていないものを聴いていたい──。

吉田:2013年に記事を書かせていただいたのをきっかけに、「残響のシンフォニー」という言葉が最初にあって、曲にしようと思ってつくったんです。そういった心構えはつねにありますし、冨士夫さんのギターはほんとうに子どものときから聴いていました。生演奏で聴いたというよりライヴ盤ですよね。2枚組の『村八分ライヴ』をよく聴いていて、完コピしようと切磋琢磨していた時期がありました。

原稿には十代のころ、ビートルズやビーチ・ボーイズをコピーしていて、チャー坊からギターをもらったくだりがありましたよね。

吉田:父親がチャー坊と仲がよくてつながりがあったので、自分が音楽に興味をもちはじめたのを聞いてギターをもってきたんだと思うんですね。最初に触るギターがいいほうが巧くなるからこれ使えって。

それは真理ですね。一方で村八分と関わりがありながら、ビートルズやビーチ・ボーイズにも興味をもっていた。省念少年が最初に感化された音楽といえばなんでしょうか。

吉田:まずはビートルズが大きくて、はじめてLPを買ったのは中学のころのビーチ・ボーイズです。『サーフィンU.S.A.』でした。

中学時代というと――

吉田:90年代です。でも自分の生きている時代の音楽は意識して聴いたことがなかったんです。とりあえずまわりの連中が聴いていないものを聴いていたい、でもコレクターになるほどのお金は当然ない。『サーフィンU.S.A.』はとくにあの時代のグループがツールにしていたというか、カヴァー曲が多いじゃないですか。カヴァー曲もありつつ、エレキ・ギターのテイストとコーラスがよくてそれを聴くのが好きでした。

もうギターは弾いていたんですね。

吉田:はい。

ビートルズやビーチ・ボーイズをコピーして、しだいにオリジナルをつくるようになった?

吉田:順序としてはそうなります。

最初につくったオリジナル曲も中学時代だったんですね。

吉田:憶えていませんが(笑)、たぶんギターのリフとかでつくったのだと思います。でもそれをバンドで演奏しようとはそのころ思っていませんでした。バンドはやっていたんですが、オリジナルをやるよりはカヴァー曲でした。そのうち、チャー坊のギターを預かっていたので彼の追悼コンサートに出るようになって、それが毎年やってくるなかで、村八分の曲を披露することになるわけです。それで、ああ日本語で歌うのって難しいんだなと思ったんですね。自分で曲を書くようになって、英語がそう得意なわけでもないですから日本語でやりたいと思うようになりました。
 それこそ、僕の学生時代はゆらゆら帝国が出てきたころで、坂本慎太郎さんの日本語の使い方がほんとうに衝撃的でした。ゆらゆら帝国の『3×3×3』にははっぴいえんどの『風街ろまん』と並ぶ衝撃を受けたんです。くるりはじつはほとんど知らなくて。当時京都では(京大の)吉田寮が話題でしたが、チェルシーを掘り返して聴いていたりとかは、あまりなかったんですね。

坂本慎太郎さんの日本語の使い方がほんとうに衝撃的でした。ゆらゆら帝国の『3×3×3』にははっぴいえんどの『風街ろまん』と並ぶ衝撃を受けたんです。

ゆらゆら帝国の音楽も日本語のロックという文脈で聴いていたんですね。

吉田:言葉のチョイスとリズムを崩さないのがすごいと思いました。はっぴいえんどが「ですます」調にいたるのもリズムを考えてのことだと思うんです。音楽としての歌詞のあり方があったと思うんですが、(はっぴいえんどは)時代がちがったし、リアルタイムでそれを感じていたわけでもないので、それこそ細野さんの音楽を聴いているといっても後追いですから。日本語の音楽、しかも新譜として衝撃的だったということを考えるとゆらゆら帝国は大きいですね。

『3×3×3』は98年くらいでしたね。

吉田:サイケ耳で音楽を聴くのがそこで一気に流行ったというか、再認識があったと思うんです。「スタジオ・ボイス」でもやっていましたね。

そういわれると、なまなかな気持ちで仕事しちゃいけない気になります。

吉田:(笑)ゆらゆら帝国のポップさは独特だったと思うんです。それこそニプリッツのヒロシさんもかわいいじゃないですか、ロック・スターとしてのアイドル的なものがあると思うんです。

そのご意見はよくわかりますが、「いいね」がどれくらい押されるかといえばやや不安ですね(笑)。

吉田:(笑)でも細野さんにもかわいらしさがあるし、それは必要な要素かなと最近思うんですが、自分にはどうも――

いや、かわいいと思いますよ。

吉田:やめてくださいよ(笑)。

売り方が変わるかもしれませんが(笑)。そういった先達のやってきたことは、ご自分で音楽をやる段になると意識されますか。

吉田:あると思いますよ。

デモをつくりこみすぎると、だったらそれでいいじゃんとなってしまう。その時期にたまたまエンジニアの尾之内和之さんに再会したんです。

それでイミテーション的になったり反動的になることもあると思うんですが、吉田さんの音楽はとても素直だと思うんです。おそらく批評的な視座は強くもたれていると思うんですが、そこに拘泥しないおおらかさを感じます。細やかですが閉塞的ではない。

吉田:素直にやった結果だとは思いますよ。自分は自分が好きなミュージシャンや尊敬するミュージシャンにたいして、こういうものをつくったんだよという、ミュージシャンにはそういうところは絶対あるじゃないですか。でもそれだけになってもよくないと思うんです。たとえば、ライヴに来ているひとのなかで、音楽をやっていないひとのほうがよく聴いてくれたりする。ミュージシャンが音楽をちゃんと聴いていないと、いちがいにはいえないですが、ライヴに来てくれる方には音楽をすごく細かいところまで聴いていて、こういったひとたちに聴いてもらいたいというのはどういうことか、このアルバムが開けているのだとしたら、そういったことを考えていたからかもしれない。

『黄金の館』の制作をスタートしたのはいつですか。

吉田:昨年の2月です。2014年にくるりを脱退してからとりかかってはいたんです。ソロ・アルバムをつくるために辞めたわけではないんですが、つくらないとはじまらないし、自分のエンジンをかけていきたいという気持ちもありました。とりあえず録音やなと思って、本格的にレコーディングに入る前にも1~2曲、録音も自分でやったんですが、自分で録音ボタンを押して演奏するのだとなかなかうまくいかないところもあった。デモをつくってどこかのスタジオであらためて録ろうとも思ったんですが、今度はデモづくりに自分のエネルギーがドンといっちゃった。デモをつくりこみすぎると、だったらそれでいいじゃんとなってしまう。その時期にたまたまエンジニアの尾之内和之さんに再会したんです。彼はドイツのクラウス・ディンガーのところにいたんですが、ディンガーが亡くなって、ドイツにいる理由がなくなって、日本に帰ってきたら震災が起こった。京都に戻り、これからどう音楽にかかわろうかというところでの再会だったんです。

再会したということはそれ以前からお知り合いだったということですね。

吉田:三日月スープの前にすみれ患者というバンドをやっていたことあったんです。すみれ患者ではそれこそ即興で灰野敬二さんや高橋ヨーカイさんといっしょにライヴしていたこともあったんですが、そのバンドのルカちゃんという女の子の旦那さんになったんですね、尾之内さんが。彼はもともと日本画をやっていたころに椹木野衣さんと知り合ったようで、これからはドイツだよと助言を受けたそうなんですね。

ノイさんですからね。

吉田:そうですね(笑)。尾之内さんがどういう経緯でクラウス・ディンガーにつながったのかはわかりませんが、サブトレというユニットでドイツで活動していたこともあったようです。彼は音楽をつくるというより録音を通して活動していきたかった。その時期にたまたま再会して、いっしょにやることになったのが2013年の暮れです。

省念さんとしては、ご自分の音楽を外から見る視点がほしかった?

吉田:それはあります。『黄金の館』は宅録のアルバムなんですね。僕も、スタジオを構えたといっても、録音する空間と使う楽器はありますが、さらに録音機材まで用意すると破産しますからね(笑)。

くるりに参加して感じたのは、彼らはことレコーディングではほんとうにいろんなことを試すんですね。そこで感じたのは、あっ、試していいんだということの再認識だったんです。

そのわりにはというとなんですが、すごくよい音録りですね。曲ごとにその曲に合った録り方をしていると思いました。

吉田:そこにはかなりこだわりました。そういっていただけるととてもうれしいです。

スピーカーで聴いているときとヘッドフォンで聴くとき、イメージもだいぶちがいます。

吉田:音については、CDにする前、マスターの段階でかなり迷いもあったんです。ここを聴かせたいという部分を再現するには、聴いていただく方の再生機器の壁があるのも事実なので。そこではだいぶ悩みました。尾之内さんとミックスをしながら、いまやっていることは無意味なんじゃないかといったこともありました。絵でいえばずっと下地を塗っているような感覚ですよね。

『黄金の館』はおのおのの曲の情景がはじまりと終わりでちがうような感覚をおぼえました。いろんな要素がはいっていますね。

吉田:くるりに参加して感じたのは、彼らはことレコーディングではほんとうにいろんなことを試すんですね。そこで感じたのは、あっ、試していいんだということの再認識だったんです。ホーム・レコーディングでそれを試すのとちゃんとしたスタジオではもちろん次元がちがいますが。僕は昨今、スカスカな音楽が流行っていると思うんですね。音数が多い曲でいろんなことを試すのは、それは難しいわな、と思う反面、尾之内さんとの挑戦でもありましたし、今後もいっしょにやっていくための雛形にしたい気持ちもありました。

くるりでの活動が糧になったということですね。

吉田:くるりはメジャーで活躍しているバンドですし歴史もあって、くるりにいたときはそれをどうにか身体にいれようと思っていたところはありました。そこにいたのもたしかに自分なんですが、いざひとりではじめようとするとそこにいた自分が身体中にのこっていて、いま考えるとそれもいいことなんですが、一発めにそれが出てもいいのかということは考えました。それで時間がかかったのもあったのだと思います。

名刺代わりというと軽く聞こえるかもしれませんが、『黄金の館』は吉田省念というミュージシャンのいろんな側面を出したよいアルバムだと思いました。

吉田:ありがとうございます、欲ばりました。この前、ようやく岸田さんにこんなのつくったんですと電話して、お会いして音源を渡せたんです。スッとしました、ホントに。どう思ったかはさておいて、音を渡せたのはよかったです。

省念さんにとって、くるりに参加された経験は大きくて、無意識にせよ、それをふまえていたのかもしれないですね。

吉田:それもあって丁寧につくりたかったんだと思います。そうじゃないとちゃらんぽらんになるというか、いままでの自分を否定することになるから。

80年代にニューウェイヴをガッツリ追いかけていたオッチャンがいまは会社をやっていて、時間みてライヴに来てくれる、そういう方がなにか感じて、いいやんといってくれるのは素直にうれしいですよ。

アルバムをつくるにあたり先行した構想はありましたか。

吉田:全体の構想は曲を仕上げていくなかでできていきました。曲の順番は不思議なもので、曲を用意したときに、これは1曲め、2曲め……といった具合に13曲めまですんなり決まりました。9、10、11曲めはちょっと入れ替えましたが、最終的にほとんど変わっていません。

7曲めの“夏がくる”からB面といった構成ですね。

吉田:そうです。

前半と後半に厳密に分けられるとは思いませんが、A面のほうがブリティッシュ的な翳りの要素が強くて、B面はアメリカっぽい印象を受けました。

吉田:そうですね(笑)。オタク的なものが出たんでしょうか。

私のようなオッサンがニヤリとするのはどうなんでしょうか。

吉田:開けている、というのはそのような意味でもあるのかもしれませんね(笑)。

うまいこといいましたね(笑)。

吉田:でも思うんですけど、80年代にニューウェイヴをガッツリ追いかけていたオッチャンがいまは会社をやっていて、時間みてライヴに来てくれる、そういう方がなにか感じて、いいやんといってくれるのは素直にうれしいですよ。あの感じ、それに近いと思われるのは、僕はイヤなことではないです。そもそも引用を隠す技倆もない(笑)。ストレートにやるしかないんです(笑)。

ギター、ベース、チェロ、鍵盤、マリンバ――『黄金の館』で省念さんは数多くの楽器を演奏されていますね。

吉田:楽しんでやっているだけなんですけどね。ひととかかわって音楽をつくることは、他者に自分のイメージを言葉で説明するとことからはじまるじゃないですか。それってすごくたいへんで、そこで生まれる食いちがい、化学反応こみでバンドをやるのは楽しいですが、今回のレコーディングでは基本的に自分でいろいろやりたいなとは思っていました。

フォークウェイズから出ていたエリザベス・コットンやバート・ヤンシュを聴いて、アコースティックでもこんなグッと来る、攻めてくる音楽があるんだと思ったんですね。

細野晴臣さんや柳原陽一郎さんにはどのような意図で参加をお願いされたんですか。

吉田:細野さんには直接お会いしました。ライヴに行ったときに「僕は晴れ男なんだよ」とおっしゃっていたのを聞いて、「晴れ男」という曲でシュパッパというスキャットを入れてもらいました。できればもう1曲参加していただきたかったので「デカダンいつでっか」でもコーラスをお願いしました。僕はレス・ポールが大好きで、「晴れ男」はレス・ポール風のアレンジにしたかったんです。彼も宅録でしょ。細野さんにお会いしたときも、メリー・フォードのこととかも話して、細野さんに「ビーチ・ボーイズではじめて買ったのは『サーフィンU.S.A.』なんです」と話したら、僕もなんだよ、とおっしゃられて、それでもりあがったこともあります。

時代はちがいますが。

吉田:そうなんですけどね(笑)。それで、まず音を聴いていただき、コメントもいただけたので、スキャットを入れていただけませんか、と。

細野さんのアルバムで好きなのは『Hosono House』?

吉田:いちばん聴いたんじゃないですかね。三日月スープのころ、ドラムがない古いスイングにのめりこんでいたときちょうど細野さんが東京シャイネスをやられていて、うわーっと思ったこともあります。なので『Flying Saucer 1947』もよく聴きました。いまの細野さんの音楽を聴いて、はっぴいえんどを聴き直したとき思うことはまたちがうんですね。


コーラスに細野晴臣を迎えた“晴れ男”


当時なぜアコースティック・スウィングに惹かれたんですか。

吉田:フォークウェイズから出ていたエリザベス・コットンやバート・ヤンシュを聴いて、アコースティックでもこんなグッと来る、攻めてくる音楽があるんだと思ったんですね。ロバート・ジョンソンを聴いたときとの衝撃よりもそれは大きくて、自分もマーチンのギターが要るな、と。ギターを買ったのもあって、その方面にいったのはあります。

ギター・サウンドの側面だけとってもノイジーなロックからアコースティックなスウィングまで、省念さんのなかには積み重ねがあるんですね。

吉田:自分の好きなものとやることがつねに混じり合うというのはなかなか難しいと思うんですよ。好きなことって、音楽だけじゃなく多岐に渡るじゃないですか。それを交えるのは時間がかかるし、難しいことだと思うんです。

ムリにやっても接ぎ木になるだけですからね。

吉田:自分のタイミングでそれをうまくやりたいというのはテーマとしてあるので、『黄金の館』はそこにすこしは近づけたのかなとは思います。

曲をつくり、13曲溜まり、必然的にこのようなアルバムになっていった。それが昨年の2月ということは、丸1年かかったということですね。

吉田:ホーム・レコーディングとはいえ、尾之内さんにも僕にも生活もあるから、そのあいだを縫ってつくっていたところもあり、時間がかかったのは仕方ない面もありました。最初というのもあって、時間をかけてやり方を模索するほうがいいと考えたのも大きいです。

制作でもっとも留意された点を教えてください。

吉田:ギターの音を聴いて反応していただけるとうれしい、というのはそこにこだわりがあったんでしょうね。ピアノにこだわるといっても、僕の拙いピアノだと限界がありますがギターは慣れ親しんでいるのでその分重視したかもしれません。

山本精一さんも、声を楽器として意識されているといったようなことをおっしゃっていて、その考えには共感できます。それがないとメッセージと伝えることが先行してしまうので。

歌もいいですけどね。歌手でだれか、省念さんが模範にされた方はどなたですか。

吉田:うーん(といってしばし考える)。

歌い手としてご自分を意識されないですか。

吉田:三日月スープをやっていたころ、僕は自分のことをギタリストだと思っていたんですね。歌ってはいるけど、僕にとっての歌は歌じゃない、ギターが弾けたらうれしいと思ってやっていたんですね。ところがあるとき、お客さんに怒られたんです。歌がよかったといわれたときに、「そうですか」と返したら、なんでそんなこというんや、と。舞台に立って声も出していて、声はなんといっても強いんやから、もっとそこに意識もてやといわれて、ビッとなったんです。山本精一さんも、声を楽器として意識されているといったようなことをおっしゃっていて、その考えには共感できます。それがないとメッセージと伝えることが先行してしまうので。

曲は部分からつくりますか、全体を考えますか?

吉田:全体像がバッと出てきます。全体が出てきて、今回はそれを自宅でそのまま(記録媒体に)写した感じでした。曲はライヴで変化することもあるんですね。歌詞の細かいところなんかはとくにそうです。自分にはマイブームのようなものがあって、言葉にすごく意識があるときとメロディや曲に意識があるときがわかれていて、それによって歌詞が先行したり曲が溜ったりします。冨士夫さんの文章を書いたときは言葉の時期だったので原稿を書くのも自然だったんですよ。最近は曲が溜まって歌詞を乗せる作業が後追い気味なんですが。

言葉の意味性、なにを伝えるかということについてはどう考えます?

吉田:なにかをうまく伝えられるほどの言葉の技倆は僕にはないです。でも自分も好きな音楽って、もちろん言葉は聞くんですが、音楽って曲が流れている時間をいっしょにすごすわけで、そのとき自分のなかに入れられる情報には限界があると思うんです。限界値までの言葉の選び方があって、自分にはそれしかできない。それを超えられれば、より詩的なものを伝えることもできるかもしれませんけど。村八分なんてものすごくシンプルじゃないですか。

「あっ!」とかね。

吉田:あれは日本語のロックの究極のかたちだと思うんです。あれを十代でやるのはすごい。

狂気さえ感じます。

吉田:でもいいんですよ、かたちを残したんですから。ひとから見たら普通じゃなくても、じっさいはバランスがとれていたんだと思うんですよ。音楽以外の表現に意識を向けたこともあったでしょうしね。

音楽以外への興味ということを考えると、たとえば親父さんと省念さんは畑がちがうわけですよね。ヨシダミノルさんについて、いまにして思うことはありますか。

吉田:絵の描き方を教わったことはないですが、美意識のようなものをもって、それを生活をつづけながら守るということをずっとやっていたんだと思うんです。そういうところは教えてもらったところです。美術だと物質的なことも大きくて――

とくに「具体」の方でしたからね。

吉田:そうです。音楽はかたちのないものを元につくるものですからその点ではちがいますが、意識の面では教えてもらった気もします。

音楽は年齢とともにあるものだし、自分のつくる音楽で意識的に若がえるより、自分の(美)意識がかたちになったときのよろこびみたいものをつねに高めることを望んで生活するのは、テーマでもあります。

生活によって音楽は変わると思いますか。

吉田:そう思います。

それはよいことですか、できれば生活と音楽は独立したものであったほうがよいと思いますか。

吉田:自然なことなんじゃないですか。音楽は年齢とともにあるものだし、自分のつくる音楽で意識的に若がえるより、自分の(美)意識がかたちになったときのよろこびみたいものをつねに高めることを望んで生活するのは、テーマでもあります。生活形態というのは流動的に肉としてついてくるものかもしないです。

10年後には10年の生活を積んだ味のある音楽をやっていると思いますか。

吉田:ねえ!

逆に若がえったりしてね。

吉田:よく老成しているといわれますからね(笑)。

いまでは固定したバンドはあるんですか。

吉田:京都で演奏するときは今年は吉田省念バンド、まだ名前はないですが、バンド形態でも演奏できるようにはしています。次の作品はそのメンバーもいいかたちで巻き込めたらいいなとは思っています。


ライヴでもお馴染みの曲“水中のレコードショップ”

『黄金の館』というタイトルはもともとはイヴェント名ですよね。

吉田:そうです。

それをアルバムのタイトルにもってきたのはどのような意図だったのでしょう。

吉田:イヴェントは次が27回めですから、2年とすこし、やっていることになります。それとともに学んだこともあったのでタイトルにしました。

そもそもその名前にした理由はなんですか。

吉田:自分だったら銀色が好きなんです(笑)。

なにをいいたいかよくわかりませんが、つづけてください。

吉田:(笑)金色って狂った感じというか、『メトロポリス』という映画があるじゃないですか。

フリッツ・ラングの?

吉田:そうそう。あの映画の金色のロボット、マリアの感じが金の魅力とともに深いなにかを物語っていて、それを出せたらいいんじゃないかと(笑)。

なるほど、といいたいですが(笑)。

吉田:館というのは空間ですよね。画家におけるアトリエ、ミュージシャンにとってのスタジオといった、空間=館からはじまったもいいんじゃないかと思ったのもあります。建築と音楽にも近いところがあるじゃないですか。

19世紀には建築は凍った音楽といったらしいですからね。

吉田:そうでしょう。音響は場所にもよりますし、それもあって館という言葉にも音楽との共通性があると思い名づけました。

つまりはビッグ・ピンクですね。

吉田:(笑)

そこからまたすばらしい音楽がうまれることを期待しています。

吉田:がんがんつくりますよ!



〈吉田省念ツアー情報〉
■5/24(火) 下北沢・レテ「銀色の館 #3」*弾語りソロワンマン
■5/26(木) 三軒茶屋・Moon Factory Coffee *弾語りoono yuukiとツーマン
■6/5(日) 名古屋・KDハポーン「レコハツワンマン」*京都メンバーでのバンドセット guest:柳原陽一郎
■6/14(火) 京都・拾得 「黄金の館」
■6/30(日) 下北沢・440 「レコハツワンマン」 *バンドセット Dr.伊藤大地、Ba.千葉広樹、guest:柳原陽一郎
■7/14(木)京都・拾得 「黄金の館」
■7/18(月) 京都・磔磔 *詳細未定
■7/24(日) 大阪・ムジカジャポニカ
■8/7(日) 京都・西院ミュージックフェスティバル

Savage Young Taterbug - ele-king

 これまで別名義も含め、気の向くままにカセット音源を発表してきた──ウェット・ヘアーのショーン・リードによるアートワークとプリントが美しいレーベル、〈ナイト・ピープル〉から──サヴェージ・ヤング・テイターバグが満を持してヴァイナル作品を発表。この作品は現在のローファイ・アメリカーナの記念碑となるだろう。

 もう3年も前のものになるがテイターバグやトレーシー・トランスのツアー日記から彼らの生活を改めて垣間みてみよう。

 〈ゴーティー・テープス(Goaty Tapes)〉のザリー・アドラーは、彼らのように拠点または定住地を持たない表現者を“カジュアル・ジャンク”と呼び、少し前にその表現と生活を紹介したカセット・コンピレーションやジンを出版していた(https://goatytapes.com/#!/record/casual-junk/)。こちらは醜悪なLAアートブック・フェアにて偶然遭遇したザリーより購入した。20ドルは暴利だがトレーシー・トランスをはじめオルファン・フェアリーテイル(Orphan Fairytail)、ロシアン・ツァーラグ(Rusian Tsarlag)などの世界各地の流浪アーティストが共有/昇華させる創造力をまとめてあるので、このテイターバグの『シャドウ・オブ・マルボロマン(Shadow of Marlboro Man)』を聴いて仕事を放擲する考えが浮かんだ人は読んでみるといい。

 ホーボー、ビートニク、ヒッピー、ドリフターといったホームレスのサブカルチャーはアメリカ人の開拓精神を体現しているのである。時に車の荷台なり長距離キセルの貨物列車なりで揺られながら、大陸を横断していくヤング・ホームレスの儚く美しい開拓精神をテイターバグはもっとも体現していると言えるだろう。ゴミクズ・デッドヘッズ、発狂ベッドルーム・アシッド・フォーク、なんとでも呼ぶがいい。昨年エリジア・クランプトンが自身の性的マイノリティーや血統のテーマを“アメリカン・ドリフト”と題したように、少数派こそが持ち得る底抜けの自由がここにはある。

interview with Seiho - ele-king


Seiho
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 世界の終わりには広告だけが残る。単位はピクセル、資本主義に食い尽くされた世界。エレヴェーターから景色を見る。高解像の過去と低解像度の未来。抵抗することはできない。感覚は麻痺しているが、ただクリックするだけでいい。なんてドリーミーな、このヴァーチュアルな広場……よそよそしいほどの無人のビル……
 たとえばこのように、我々の生活を浸食する仮想現実空間の、一見ノーマルな、その異様さ、その不穏さを捉えようとした音楽が2011年から2012年にかけて台頭した。OPNの『レプリカ』もハイプ・ウィリアムスもジャム・シティも、ファティマ・アル・カディリも、そしてヴェイパーウェイヴも、時代への敏感なリアクションだった。それはテクノとは呼べない。もちろんハウスでもエレクトロニカでもない。なにしろそれは感情を記述しないし、心地良い電子的音響でもない。視覚的な音楽という点では、アンビエントに近いかもしれないが……。
 日本にもこうした感覚の音楽がある。仮想現実のなかの薄暗いアンダーグラウンドに散らかっている音楽、テクノロジーに魅惑されながら同時に抵抗している音楽。セイホーのライヴにはそれを感じる。ピクセルの空間を切り裂くような感覚。彼の最新作『コラプス』にもそれは引き継がれている。

野菜も曲もオートマティックになって、なんでもかんでもタダになって、食材も送られてくるようになったら、僕の音楽もタダでいいです。

今作は本当に力作で、素晴らしいアルバムだと思うんですけど、ダンサブルな前作とはだいぶ印象が違う作品になりましたね。ジャズを粉々にカットアップしたはじまりも面白かったんですが、2曲目のパーカッシヴな展開もスリリングで、いっきにアルバムに引き込まれていきました。

セイホー(以下、S):ありがとうございます。この作品を作ったのが2014年から2015年なんですよ。前のアルバムが出たのが2013年。「I Feel Rave」が出て、『Abstraktsex』が出て、それから2年くらい止まったんですよね。ブレーキがかかっていたというか、エンジンがかからなかったというか。でもライヴは続いてました。

ここ数年は東京のクラブの月間スケジュール表を見ると10回くらいセイホーの名前が出てたんじゃない(笑)?

S:はははは(笑)。逆に言えばライヴに逃げていたというか。そうしないと制作モードに全然なれなくて。そのときに作っていた曲がこのアルバムの中核になるものですね。ライヴでは派手なことをやっていたんですが。

エンターテイメントもしていたしね。

S:だから途中からそこの折り合いがつかなくなってしまって。作品自体はこういうものがずっと作りたかったんですけど。

作っているときはどんな感じで作っているの? ライヴのような激しく動きながら作っているわけじゃないでしょ?

S:僕って作品を作るときとか……、たぶん人間性が変なんですよね。それをどう一般の人にわかってもらえるように折り合いをつけるかみたいな生き方をしてきたので。幼稚園のときも小学校のときも、自分の変なところをどうキャッチーに見せるかを考えていました。僕はあんまり普通にしようという気はあんまりなくて、変なところをどんどん包括してキャッチーにしていけば輪の中に入れるみたいな。

あのキャッチーさの裏にはそんな屈折した自意識があったんですね(笑)。

S:でも2010年に〈Day Tripper Records〉をはじめたときから2015年までのいろんな目標を立てていたんですよ。どんなフェスに出たいか、どんな作品を作りたいか、みたいな。でもそれが意外にも2013年くらいに全部かなってしまって。

なんとも、控え目なヴィジョンだったんだね(笑)。

S:はは、ほんまそうですね(笑)。

もっとでっかい夢があるでしょう!

S:いやいや(笑)。レーベル・メイト全員でフェスに出るのもソナーでかなったし、フジロック、サマソニに出るのも2013年で実現したし。だからこの2年間は目標がなく進んでいた惰性の期間でしたね。でもこのアルバムを作ってみて、そういう状態だったのは自分だけじゃなかったと気づいたというか。

世代的に共有する意識があったと?

S:「去年どんなアルバムがよかった?」と話したときに、みんな2013年の12月に出たものを挙げたことがあって。それはつまりみんな2年くらい新譜を聴いていないってことかと(笑)。それから同じ世代の間で空気がボヤッとして止まっているように思えたところがありました。

その空気の止まった感じというのは面白いね。あの頃セイホー君がやっていたことは、強いて言えば、海外の〈Lucky Me〉が一番近かったよね?

S:近かったですね。

シーンの動きが止まって感じてしまったのって、たとえばどんな場面でそれを感じたの?

S:SoundCloudやBandcampが遊び場として利用できていたのが、そうじゃなくなってきたというか。twitterの発言もそれはまではラフだったのに、厳密でなければいけないというか、アーティストとしてどう見られているかが大きくなってきたり……。

かつてあったアナーキーさがどんどん制限させれていった?

S:経験は、1回しかできないじゃないですか。インターネットを介してみんなが繋がっていく高揚感って、たぶん1回しか経験できないんですよ。たとえばUstreamがはじまったとき、クリスマスに岡田さんがDJをして一気に(SNSを介して)注目されたときとか、やっぱすごい高揚感があったんですね。ぼくのように大阪でレーベルをはじめた人間に、東京のクラブからオファーがきたりとか。SNSを通して音楽が広がるのをダイレクトに経験できた時期が2010年以降にあったんです。でもいまtwitterでライヴをオファーされても、もはやそんなの当たり前の話ですからね。この間アメリカ・ツアーに行ったんですけど、「いつもfacebookを見てるよ」って言われたんですけど、そういうことが物珍しく感じられなくなったというか。それが2010年だったら、すごい新鮮に思えたのかもしれないんですけど。

先日、京都のTOYOMUというビートメイカーがBandcampに上げた作品が世界的にどえらいことになったばかりで、インターネットにまだポテンシャルはあると思うけどね。俺はセイホー君のライヴを見て、「新しいな」って思ったんですけど、それが惰性でやっているようには見えなかったんだけどさ(笑)。まだ大阪からやってきたばかりのパワーが、そのときはみなぎっていたんだろうね。

S:いまもライヴをするモチヴェーションが下がったわけではないです。でも、折り合いをつけるために、パワーを使っていたというか。どこの馬の骨かわからん若者を、どうしたら見てもらえるかを考えるじゃないですか? でもその環境がある程度でき上がったときに、それと同じパワーを使えなくなったというか。

俺はあの路線でもう1枚作ってほしかったけどね。

S:でもそういうことなんですよね。逆に言うと、あの路線で作らなくなったのも、たぶん何かがスタートしているからなんです。2015年の11月くらいに、僕のなかの2016年がはじまっている(笑)。2020年までの目標がそのときにできたんですよ。オリンピックをどうするか、みたいなところまで(笑)。

なんだ、それは(笑)。

S:はははは。そこから折り合いをつけていけば、いままでの作品はまた作れるから、今作は種まきから収穫が終わったあとの冬の時期なんですよね。でも冬の時期も悪くはなかったな、みたいな。

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「去年どんなアルバムがよかった?」と話したときに、みんな2013年の12月に出たものを挙げたことがあって。それはつまりみんな2年くらい新譜を聴いていないってことかと(笑)。それから同じ世代の間で空気がボヤッとして止まっているように思えたところがありました。


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ライヴを「動」とすると、こちらは「静」なわけだけど、俺はセイホー君のライヴがすげーと思ったんだよね。あの、30秒と同じループが続かないスピーディーな展開、デジタル時代のスラップスティックというか、すっごい新しいと思ったんだよね。
 ちょうどセイホー君が脚光を浴びた頃は、ヴェイパーウェイヴとかシーパンクとか、新しいキーワードも一緒に出てきたでしょ。初期のジャム・シティみたいなベース・ミュージックも更新されたり、いろんなところで新しい動きが見えたときでもあった。そういうなかにあって、セイホー君がライヴで繰り広げるときの素速い展開って、インターネットの画面をどんどんクリックする感覚と重なるんだよね。すごい情報量が流れているというか。

S:上の世代から情報が多いって言われるんですけど。でもトーフ君とかまわりの人たちと話していると、情報が多いやつらはもっといるんです(笑)。情報量を多くした意図はないんですけどね。

なんていうかな、ここに情報過剰の竜巻があるとしたら、それを切り刻んでコントロールしているような音のイメージがあって。

S:そこは意識しているかな。サンプリングするにあたっても、食材の切り方よりも、食材をどう選ぶかって行為の方を重視しているっていうか。切るという行為に僕はフェティッシュをあんまり感じなくて。僕の選び方って文脈から外れているんですよ。サンプリングって脈絡を大事にするじゃないですか? でもそれはどうでもよくて、なんでそれを僕が選んだかが重要なんですよね。聴き心地とかフェチな部分で音を選んでいるんですけど、それが羅列されるので情報量が多いように聴こえるのかな。

展開の速さが情報量を彷彿させるんじゃないかな。曲で展開するって、じょじょに上がっていくとか、最初には白だったのに気がついたら赤になっていたとか、そういう言い方があるとしたら、セイホー君の場合は、白が来たと思ったらいきなり三角に展開するとか。そこにカタルシスがあるじゃない?

S:僕は音楽を作るときに頭に浮かぶヴィジュアルを参考にすることが多いですね。カメラの長回しは好きなのですが、ストーリーに沿った時間軸の組み立てに興味が無く、無駄な長回しや、ストーリーと関係ないカットが好きです。

そうでしょ。その感じは思い切り出ているよね。

S:たとえばSF小説を読んでいても、人の話を聞いていても、話の内容がまったく頭に入ってこない。でもラストのひとことで、理解はできないけど感動できる瞬間ってあるんです。それは『裸のランチ』みたいなビート文学を読んでいても、僕は同じ感覚があるんです。カットアップですよね。それが意味もなくチョップされているわけではなくて、その作者の選択によって切り刻まれることによってすべて経験したら、作者と似たような感情が芽生えてしまう、みたいな。

なりほどね。ぼくは、圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにしているんでね、本当に頭のなかが真っ白になるようなライヴだったんで。しかし、毎回あのテンションでライヴを続けるのもたいへんだよね。しかも、「新世代代表でセイホー」みたいなブッキングも多かったと思うし、「なんで俺はここにいるんだろう?」って思ったりもしたんじゃない?

S:あります(笑)。でも僕の場合は外に出ていないと自分の家に帰れないんですよね。

イベントに出まくってもストレスはなかった?

S:ないです。僕の場合、(ライヴを終えて)家に帰ってくる道が楽しいんですよ。崎陽軒のシュウマイ弁当を買って新幹線で食うっていう(笑)。帰ることによって、自分が来た場所を認識できるじゃないですか? ぼくが拠点を東京に移さないのも、大阪から来ているという点をみんなが見てくれているからで。自分がどこから来ているかはすごく大事なことですね。

じゃあ、とくに今回は、ライヴを終えたときの感覚が出ているのかな。しつこいけど、ライヴの激しさを残してほしかった気も正直あるなぁ。

S:2013年以降、みんなの高揚感が分岐しちゃったのも大きいんですよね。みんなが共有していた良さがあったのに、それをみんなが見てしまったがゆえにバラバラになってしまって。

世代の共有意識が分裂していったということ? たとえばトーフビーツが真面目にJポップを目指すようになったのもそういう話なのかな?

S:だと思います。何をしても許される世界にパッと入ったから、何をするかが重要になってしまって。13年、14年は散らばったというよりは、支度をはじめた感じですね。

あの頃はいくつだったの?

S: 23、24歳のときですね。

まあ、あの頃が時代の風に乗ってやっていたとしたら、今回は、ある意味では、自分がやりたかったことを自分できちんと見せることができたとも言えるよね?

S:でも僕はこの作品をあまり解釈できていなかったんです。作品が僕の思想や哲学の先を行ってしまっているんです。

それはたいへんだね(笑)。

S:いままでの作品って、作る前からそこがかなり明確だったんですよ。だから、すでに頭のなかにでき上がっている曲の設計図をコピーするだけだったのが、なぜかわからないけど設計図が渡されていてそれを作っても、やっぱりわからないみたいな(笑)。

はははは。

S:でもここ2年くらいのものを聴いていると、作品から哲学を教わることも多いんです。1曲目の“Collapse”を作ったときに、僕は人がいない世界を想像していたんですよ。

それはディストピア?

S:そうだと言えばそうなんですけどね。たとえば、50年後のTwitterを見てみたら何が書いてあるんだろう? みたいな。誰もいないのに広告だけが出続けている状態というか。現実世界では人は誰もがいないのにジュースは配送されているし、自販機でもジュースが買えるし、蛇口をひねれば水も出てくるし……。そういう世界ですよね。単純にわかりやすく説明しちゃいましたが、僕にとって自然現象(雨が降る、水が流れる)と人間社会の現象(商品の配送や、水道、コンビニに人がいて商品を買えるなど)は、両方とも同じ自然現象、事象として捉えていて。人間特有の社会形成も自然現象の一部として考えているんです。

へー、そういうイメージなんだ。聞かなければ良かった(笑)。

S:はははは。

それでなぜジャズなの?

S:あれをぼくはジャズという捉え方をしていないんですね。フィールド・レコーディングの音は、自分で録ったものとサウンドライブラリーの映画用の音源とふたつ使っているんです。演奏の方も自分で録ったものとサンプルのものが両方あるんです。これはどっちが良い悪いというわけではなくて、そこがずっとボヤッとしていて。想像のなかで言うと、スピーカーから流れているのか、そこで流れているのか、僕らにとって関係のない世界というか。演奏している人が人間であるかどうかも関係ないというか。そういう要素として、僕のなかでジャズには人の温かみがないんですよ。

その感覚が面白いよね。ジャズをカットアップして、それがコラージュと言われようがミュジーク・コンクレートと言われようが、そういうコンセプト自体は目新しいことでない。でも曲を聴いたときに「面白い」と思ったんだよね。なんかこう、異次元的な感じがしましたよ。

S:トランペットが宙に浮いて演奏していたら楽しいじゃないですか(笑)。

はははは、そういう感じあるよね。そうやって音を細かく設計するのには時間がかかるの?

S:全体を作るのはめちゃくちゃ早くて、それを削る作業の方が長いです。

音数を削っていくということ?

S:音数も、ニュアンスも。例えばジャズでブレスの音が入ると、一瞬で人が吹いてるってわかるわけだから、その音をカットしていく。ピアノもタッチの音がしたら人が弾いているってわかるから、そこを修正していくとうか。逆に人間味のないアナログ・シンセサイザーを、どう人間が演奏しているかのように見せるために削るというか。だから作り方は彫刻を削る作業に似ているんですよね。

今回は前作よりはいろんな曲が楽しめるじゃない? エイフェックス・ツインにたとえるならポリゴン・ウィンドウっていうかさ。

S:ここ数年であまりにも多くのジャンルが出てきたじゃないですか? それこそヴェイパーウェイヴやシーパンク、〈PC Music〉まわりの音もそうだし、ロウ・ハウスやハウスのリヴァイヴァルも含めて。それを僕らは大喜利的に楽しんでいたんですよ。このお題で自分がどうするか、みたいな。でもいろいろ出まくった結果、自分のなかでそれをひとつ決めるのも楽しくないというか。かといって、その全部から良いとこ取りの音楽を作ろうという気もしなくて、そのときの自分の気持ちに従ったらこうなったというか。ヴァリエーションをつけることが目標だったわけではなくて、いろいろ経由してきたから、結果的にいろんなジャンルが生まれてしまったんです。

なるほどね。さっき言ったようなコンセプトがある以上、アルバムの曲順は考えられているんだよね? 後半はアブストラクトになっていくもんね。

S:〈Leaving Records〉の要望に合わせたんですけど、ホントは2曲目と3曲目は逆がよかったんですけどね。でもおっしゃるように、曲順も含めて世界を表現したかったですね。

〈Leaving〉からリリースすることは意識したの?

S:マシュー・デイヴィッドといっしょにツアーを回ったのが2012年なんですが、楽屋裏でマシューがアルバムを作ろうと言ってくれて。そのときは「OK、OK」みたいな(曖昧な)感じで終わったんですけど、その後、僕がオベイ・シティというニューヨークのアーティストとEPを出して、マスタリングをしてもらったのがマシューだったんですけど、そのときに正式にオファーをもらいました。2014年ですね。僕のなかではストップがかかっていたときですね。「どうしようかなぁ。〈Leaving〉のカラーもあるしなぁ……」と思ったままいろいろ作ってました。でも2015年の真ん中ぐらいで、「もしかして、いままで作ってきたものって意外とまとまるんじゃないか?」と気づいたんです。それでこの作品ができたって感じですね。あとは、マシューがハマっているニューエイジ・カルチャーですよね。マシューが考えるヒッピー思想的な部分。

マシューが考えるヒッピー思想的な部分とセイホー君は全然ちがうんじゃないの?

S:その部分と、僕が思う人がいなくなった世界がミスマッチにリンクする部分があったんです(笑)。

ほほぉ。

S:僕が思うヒッピーたちって、自分が強いんですよね。キリスト教と対極的だと僕は思っていて。アメリカ人の友だちと話していてわかったんですけど、キリスト教ってひとつの運命というか結末を進むじゃないですか? でもヒッピーの人たちって、偶然の連続のなかに結末を見ていくみたいな。その偶然の連続みたいなものを決断するのは自分自身だから、人間が強くないとああいう思想は持てないなと。

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喪失感よりも、機会が増えているだけなので、マイナスのものは僕らにとってひとつもないですよ。アーティストはiTunesで働いているわけじゃないから、iTunesがない世界も作れるわけじゃないですか? 


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今回の『コラプス』は魅力的な作品だけど、〈Leaving〉から出ているから良いのではなくて、この作品が面白いんだと思ったけどね。

S:このアルバムで現在やっていたことが、将来わかりやすいものになっているといかに証明できるか、みたいな。いまからそこに折り合いをつけていくと、2020年に普通の人が過去アルバムを聴いたときに「めっちゃポップやん! 当時にそんな難解に思われてたん?」って言われるような形にどうしていくか、みたいな。

それはまたよくわからないことを(笑)。しかし、まあ壮大な計画があるんだね。

S:はははは。

ぼくはさっきそのライヴとの対比を喋ったんですけど、よく考えてみれば、吐き出し方が違っているだけで、根本は変わってないというか、今回のエディット感もライヴの脈絡のない展開力と繫がっているんだろうね。

S:そうなんですが、そこはまだ僕もわかっていないんです(笑)。これをライヴでやるのも違うし、これをライヴでやれるような環境が2020年までにできるのか、いまのライヴ・セットにこれが組み込まれていくのかもわからないんです。けど、どういう曲を作りたいか決める前に、曲ができちゃうから難しいですよね(笑)。

実験的なことをやっても、セイホー君がやるとポップに見えるでしょ。そのキャラがそう思わせるのかもしれないけど。

S:大阪人っていうのもあるかもしれないんですけど、ギリ笑ってくれないと面白くないじゃないですか? 

ヨージ・ビオメハニカさんにも繫がる何かが(笑)。

S:それで阿木(謙)さんとの繋がりが出てくるんですね(笑)。僕が好きな映画監督もそうなんですけど、複雑な人であればあるほど、人懐っこいじゃないですか。

若い人はステージ上のエネルギッシュなセイホーが聴きたかったんじゃない?

S:今回はとくに僕よりも上の人に聴いてほしいんですよね。そもそも僕は同世代の音楽を全然聴いてこなかったし、上の人に聴いてもらって正直な感想が欲しかったというか。同世代って、何をしても繋がれるじゃないですか。音楽に限らずスポーツをやっているやつらとも、同世代だからわかるんですよね。音楽の良いところは、同世代じゃない相手ともわかり合えること。もともとの音楽体験が親とのコミュニケーションだった。オヤジやオカンと話すために音楽を聴いて、それについて語るみたいな。だから上の世代の人にも聴いてほしいし、逆に言えば、もっと下の世代にも聴いてほしいけど。

楽しみにしていることって何ですか?

S:最近はお茶会が楽しいんですよね。

面白い人だね、セイホー君って。

S:あと関西でやってるアポストロフィーってイベントがあって、同じメンバーで定期的にやっているんですが、そのイベントで生花をやっていて楽しいです。この前も東京でイカと生花のイベントをやりまして。まな板にイカを置いてそこに花を生けていくっていう(笑)。そういうのを仲間同士でやっているのが一番楽しいですね。

セイホー君が大切にしていることって何ですか?

S:僕は貧困層に生まれたわけじゃないですけど、家は商売をやっていて不安定だったので、品だけは良くしたいという思いがあって。貧乏人なのに肘をついて食べるのはカッコ悪いみたいな。だからこそ礼儀作法は大事やし、どんなに貧しくても品は保ちたいなと。さっきのコミュニケーションでいうと、礼儀さえ良くて学さえあれば、上の人とも喋れるじゃないですか。それがなかったら下とも話せないんですよね(笑)。お互い礼儀ができていたら小学生だろうが年寄りだろうが、フラットに喋れる。品というのは、レストランへ行ってマナー通りに使えるのが大事ということではありませんよ。例えばフレンチへ行って肘をつくのは礼儀が悪いし、けれども、アメ村の三角公園では友だちと酒飲みながらカップラーメン食べている方が品が良いんですよね。その場所に合った品の良さがあって、それってその場所に対する知識や学があるかってことにつながってくるんじゃないかと思うんです。

その場に合った品の良さかぁ……セイホー君はさ、ファイル交換世代じゃん? CDを買わない世代だよね? そういう世代に属していながら自分の作品は発売するじゃない? そこはどう考えている?

S:野菜がタダでできる時代になったらタダで配るかなぁ。そのぐらいの感じ。やっぱり作る時間があって、作る人がいて、そこに時間がかかっている以上は物々交換をしなきゃいけないというか。野菜も曲もオートマティックになって、なんでもかんでもタダになって、食材も送られてくるようになったら、僕の音楽もタダでいいです。

世のなかの動きはそれとは真逆へ行っているじゃない?

S:そうですよね(笑)。そうかー、ファイル交換か。でも交換は悪いことではないし。

音楽産業は遅れているように見える?

S:それよりも、音楽というものを、あまりにも聴くものにし過ぎたというか。例えばUSJにタダで行かないじゃないですか? 音楽を聴くという行為がエンターテイメントとして成立できる土壌を作らなかったことは、業界としては悪かったと思いつつも、いまだにそこをきっちりやっている人もいるし。

昔の音楽が好きだっていうけど、お父さん世代の音楽の消費のされ方といまは違うよね。フィジカルがないとか、アルバム単位では聴かないとか、そうしたことへの喪失感ってある?

S:喪失感よりも、機会が増えているだけなので、マイナスのものは僕らにとってひとつもないですよ。iTunesがない世界もアーティストとしては作れるじゃないですか? iTunesで働いている人は無理だけど、アーティストはiTunesで働いているわけじゃないから、iTunesがない世界も作れるわけじゃないですか? だからレコード会社がなくなろうが、マネージメント会社がなくなろうが、僕たちはギターが1本あって駅前で歌えばミュージシャンになれるので、……とは言いつつ、難しいですけどね。音楽業界の人たちも音楽が好きな人たちだから、全員で考えなきゃいけない問題ではあるんですよね。そこはちょっと最近大人になって言い切らないようになったんですよね(笑)。

まわりの友だちとかはCDを買う?

S:買っているやつはいますよ。買うというのも体験と一緒で、僕がお茶会やるのも、原宿の女の子がわざわざパンケーキを食べにいくのと、あんまり変わらないことなので。音楽を聴くという体験にまで持っていければ、問題はないのかなと思います。

お茶会って、どういう人たちが来るんですか?

S:おじいちゃんとかおばあちゃんですね(笑)。

だよね(笑)。……ちなみに2年間でライヴをやった本数はざっくりどのくらいなの?

S:月に6本くらいやっていたと思います。

すごいね。そういうもののフィードバックっていうものが、逆説的に今回の作品になったのかぁ……

S:けっこうそうですね。ライヴはライヴでめちゃくちゃ楽しくって、新しい出会いも増えるし。最近、クラブの店長と同い年ぐらいになってきたんですよね。これって大事なことじゃないですか。理解者が増えるほど理解が広まるから、上の世代と状況は変わらなくなるというか(笑)。

DJをやろうとは思わないの?

S:たまにやるんですけど、そんなに好きじゃないですね。でも、DJって自分が知らない曲もかけられるじゃないですか? あれはすごいですよね(笑)。これからはDJ的な立ち位置の子が増えてほしいですね。なんでかというと、作るということもそうなんですけど、キュレーション能力もどんどん問われていくと思うからです。オーガナイザーもキュレーターみたいなところがあるじゃないですか? DJでもそっちの立ち位置へいく人が増えるのかなと思って。

イベント全体を考えるってこと?

S:それもそうだし、あのアーティストとあのアーティストが一緒にやったらいいのになっていうのものの間を取り持つ役割をDJが担って、そこで完成したエクスクルーシヴを自分のセットで流すとか。そういうことができれば面白いかな。

欧米をツアーしてどこが面白かった?

S:アメリカが面白かったですね。とくにフライング・ロータスの後にやったときがいちばん震えましたね。フライング・ロータスが僕のことを紹介してくれて、そっからライヴやったんですけど、けっこう盛り上がって。

受け入れられたと?

S:はい。

やっぱオープンマインドなんだね。

S:意外とロンドンは今一でしたね。〈PC Music〉系のイベントだったこともあったと思うんですけど。

セイホー君の場合は、見た目では、そっちのほうに解釈されても不思議じゃないし(笑)。

S:まったくそうで、アメリカでもインターネット/ギーク系のオタクが集まるようなイベントにも呼ばれましたね。

そういうときはどうなの?

S:日本と同じですよ。

それはそうだよね(笑)。

Prettybwoy - ele-king

 東京を拠点に活動するガラージ/グライムのプロデューサー、プリティボーイ(Prettybwoy)が、5月17日にフランスの前衛的なベース・ミュージックのレーベル〈POLAAR〉から「Overflow EP」をリリースすることが発表された。強靭かつミニマルなキックの連打、卓越したメロディ・センス、ワイリーのデビルズ・ミックスを彷彿させる無重力感などなど、聴きどころ満載な力作に仕上がっている。大きな話題となった重要レーベル〈Big Dada〉のコンピレーション『Grime 2.0』への参加から早3年。プリティボーイは決して速度を落とすことなく、確実に前へ進み続けているようだ。

Prettybwoy – Overflow – POLAAR



 彼にだけ追い風が吹いているわけではない。この数年の間に現れたパキン(PAKIN)や溺死、ダフ(Duff)といったMCたちの活躍は頼もしい。またダブル・クラッパーズ(Double Clapperz)らに代表される新世代プロデューサーもめきめきと頭角を現し、彼らは日々シーンを活性化させている。「本場のヤツらと共演したらエラい」などと言うつもりは毛頭ないが、シーンのプレイヤーたちが〈バターズ〉のイライジャ&スキリアム(Elijah & Skilliam)や、若手最有力MCのストームジー(Stomzy)といったグライム・アーティストたちと共演するまで、日本のグライムは大きくなった。

 シーンが勢いづくこのタイミングでリリースされた作品の裏にある、プリティボーイの意図とは何だろう。また、現在のシーン全体を、彼はどのように見ているのだろうか。今回届いたインタヴューはそれをうかがい知れる興味深いものになっている。『ele-king』に登場するのは実に3年ぶり。ジャパニーズ・ガラージ/グライムのパイオニアに、いまいちど注目しよう。

文:高橋勇人

Prettybwoy(プリティボーイ)
UK GARAGE / GRIME DJ in Tokyo。DJキャリアのスタート時から、独特の視点からガラージ / グライムをプレイし続けるDJ/プロデューサー。 ガラージ、グライム、ダブステップ、ベースライン等、時代と共に細分化していった音楽全てをガラージと捉え、自身のDJセットでそれらを「1時間」に表現する孤高の存在。 国内シーンで定評のあるビッグ・パーティにも度々出演。 自身ではパーティ「GollyGosh」主宰 。 また、「レジェンド オブ UKG!/神」等と称されるDJ EZのラジオ番組KissFMで楽曲“Dam E”が紹介される。 2013年、英〈Ninja Tune〉の傘下レーベル〈Big Dada〉からリリースされたコンピレーション『Grime 2.0』に、グライム・オリジネイター等と共に、唯一の日本人として参加。収録曲“Kissin U”は英雑誌『WIRE』等にも評価され、インスト・グライム DJのスラック(Slackk)らによってRinseFM、NTS、SubFMなどラジオプレイされるなどして、独自のコネクションで活動中。

Artist: Prettybwoy
Title: Overflow EP
Label: POLAAR
Release Date: 2016.05.17
Truck List:
1. Overflow
2. Vivid Colour
3. Humid
4. Flutter


Interview with Prettybwoy

Interviewer:Negatine=■

EPのリリース、おめでとうございます。まずは今回のリリースまでの経緯、リリース元であるフランスのインディペンデント・レーベル、〈POLAAR〉について教えて下さい。

プリティボーイ(Prettybwoy以下、P):僕が「Golly Gosh」というパーティを久しぶりに開催したときに、期間限定でEPをバンドキャンプに発表したんですが、〈POLAAR〉がその曲をとても気に入ってくれて、SNSでメッセージをくれたんです。その時点で、2015年12月に出たコンピレーション『Territoires』の構想に僕の作品がぴったりだっていう話だったから、すぐ「いいよ、喜んで」って僕が返事したところから関係がはじまりました。EPのリリースも早い段階で決まっていましたね。ちょうど1年前のいまの時期でした。
 〈POLAAR〉はフランスのリヨンという都市に拠点を置くレーベルです。設立してから今年で2年目。「シネマティック・ベース・ミュージック」をコンセプトに掲げているとおり、メロディやムードと低音を大切にしていると思う。フロア(FLORE)という女性アーティストが中心になって活動をしています。実際、僕も連絡のほとんどは彼女としていますね。彼女は〈Botchit & Scarper〉などからもリリースしていて、ブレイクス寄りな作風だけど、好きなもの、聴いてきたものは似ているような気がします。レーベルのメンバーのひとりが最近日本に住みはじめました。それ以外はみんなフランスにいます。また、ゼド・バイアスやマムダンス、マーロ、スクラッチャDVA、アイコニカ、ホッジ、ピンチなども過去に出演したことのあるパーティを定期的に開催しています。

今回のEPの内容についてお尋ねします。とてもタイトで洗練されたラインナップですね。また、聴き手によっても色々な解釈が生まれそうな深みも持ち合わせていて、プリティボーイのスタイルが更に進化しているのが感じ取れます。このEPにはコンセプトみたいな物はありますか?

P:この4曲は作った時期もバラバラなので、明確なコンセプトというものはないんです。けど、いわゆるグライムっていうイメージから逸脱したグライム、みたいな作品群になっていると思います。グライム、ガラージDJっていう僕の経験と蓄積から、作りたい音楽を素直に作った結果がこのEPです。

自身が描いているそれぞれの曲のイメージなどあれば教えて下さい。

P:・“Overflow”
僕の製作のなかで、グライムっぽくないグライムが1周して、改めてグライムを作ろうって思って作った曲です。DJセットの中に欲しかったものを素直に作りました。

・“Vivid Colour”
僕、田島昭宇さんの絵が昔から好きで、そのなかでもとくに和服的なふわっとした衣服を着ている女性の絵が好きで、『お伽草子』という作品の弓矢を持った女性のイラストを見ながら、何となく作りました。因みにキャラクターで一番好きなのは『MADARA2(BASARA)』のバサラと芙蓉(フヨウ)で、その芙蓉のイラストから出来た曲もあります。僕なりのサイノ・グライム(注:東洋的な旋律をもったグライムのスタイル)です。

・“Humid”
グライムってどこまで拡大解釈していいのかな? そう考えるきっかけを作った曲で、このEPの中では最初に作りました。梅雨の時期に出来たのでタイトルもじめっとしてます。確か、メロディラインをMIDIキーボードで演奏して録音したのもこの曲が初めてだった気がします。いまはけっこうキーボードを弾いていますが。

・“Flutter”
この曲は、地下アイドルのCD-Rの曲をサンプリングしています。地下アイドルやそれに類する女の子に対して、僕がイメージする「儚さ」みたいなものが曲として具現化した気はします(笑)。

今回のEPの曲はマスタリングまで自身で行っているんですか?

P:いえ、自分で行ったのはミックスダウンまでで、マスタリングはレーベルの方でエンジニアに送っていると思います。誰に頼んでいるのかは定かではないんですが、出来上がりを聴いてとても満足しています。

使用機材などがあれば詳しく教えて下さい。

P:基本的にPC1台で全ての工程を行っています。ソフトはFL Studio、それにRolandのオーディオインターフェイスと、MIDI鍵盤がAlesis Q49とKORGのnanoKey2、モニターはヘッドフォンで行っていてRoland RH-300を使用しています。ソフトシンセはFL Studio純正のものしか最近は使用していません。

また作曲の過程など教えて下さい、コンセプトが先にあって組み立てて行くんですか? もしくはインスピレーションに任せて作曲して行くのでしょうか?

P:とくに決まった形はない……、かなぁ? 自分の経済状況だったり、日本や世界で起きているニュースに触発されたり、SNSを見ながら思ったことを音にしたり、お気に入りのまだそんなに売れてないタレントのインスタとかツイッター動画からサンプリングしてループを作ったり……。その時々の身の回りの空気とか自分の気分が要素として大きいと思います。もともと僕はガラージやグライムが音楽の基盤になっているので、今回はどう逸脱しようかとか、どんな要素をプラスしようかっていう思考で音楽を作っています。だから、iPhoneで音楽を聴きながら外を歩いている時とかに、そういうこと考えていますね。それ以外の時間は絶対何かしら他の作業をしているので。

曲作りの時、好みのルーティン等はありますか?

P:ボーカルもしくはサンプリング・ボイス、主旋律となるループ、キック、パーカッション……という順番が多いですね。ボーカルがないときは主旋律とサンプリング・ボイスの有無、たまにキックのパターンから決めることもあります。サンプリングは先ほど触れたSNS動画の事ですね。最近、かなりの頻度でコレは使っています。iPhoneのマイクで録音された音声、周囲の音、ノイズ、これら全てが面白く使えることもあります。一番面白いのは、それがアップロードされた時にそれを即サンプリングして曲に使うこと。「いま」っていう、妙なリアル感が生まれる気がします。また、何がUPされるのか予想できない面白さもありますね(笑)。

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このEPに先駆けて配信された“Hansei feat. Duff & Dekishi”も素晴らしい曲ですが、こちらはどういった経緯で完成した曲なのでしょうか?

P:ありがとうございます。もともとMCのDuff君と「何か作ろうよ」って話になって、仮のビートを送ったんです。そうしたら、それに仮録りを被せて送ってきてくれて、少ししたら溺死君も参加してくれることになって出来上がりました。トラックはディープにしたかったので、仮トラックより大分変えてしまったのですが、結果的にふたりの声とのハマリ具合も良かったと思います。

タイトルの「ハンセイ」にはどのような意味が込められていますか?

P: 意味はそのままで、特にひねりも何もないです。この曲のインスト・ヴァージョンを最初のレーベルのコンピレーションに入れるという話になった時に、「反省」を英語、フランス語に翻訳する話もしたんだけど、「『ハンセイ』の響きも字面もとても良いよ」って言ってくれたので、そのまま日本語で行くことにしました。

Prettybwoy - Hansei feat. Duff & Dekishi



これからグライムやガラージはどうなって行くと思いますか? またどうあるべきだと思いますか?

P:そのふたつを分けるべきではないと思います。その方が音が面白くなると思う。ガラージの時からそうだったんですが、「コレもガラージでいいの?」っていう新発見が一番楽しいんです。その面白さを自分も続けて行きたいし、アグレッシブな部分は残して行きたいと思っています。クールにまとまりすぎないのも大事なのかなと。

グライムやガラージで影響を受けたアーティストを教えて下さい。

P:多すぎて挙げきれないので、今回はJスウィート(J-Sweet)を選びます。ガラージとグライムの両面から見て良かったです。

またそれ以外のジャンルから影響を受けたアーティストなどがいましたら教えて下さい。

P:いま80年代の坂本龍一の作品群はだいぶ聴いていますね。

日本のグライム・シーンも少しずつですが盛り上がってきていますね。それについてどう思いますか? またこれからどうなっていって欲しいですか?

P:そうですね。先日もボイラールームにダブル・クラッパーズやグライムMC勢もスケプタ(Skepta)と一緒に出演していました。シーンの存在を着実に外へアピールできていると思います。僕が以前、〈Big Dada〉の『Grime2.0』に参加したときに比べたら、考えられないくらい前に進んでいると思いますし、良いコミュニティ関係が築けていると感じていますよ。今月5月21日に新宿ドゥースラーで行われる「That's Not Me! 2」がそれをよく表していると思います。楽曲的にもMC的にも、10数年前にグライムが誕生した時のような荒削りでアグレッシブなエネルギーで満ちている気がするんです。これをうまく取りまとめ、リリースやパーティを開催できるような集合体/レーベルのような存在があったらいいな。グライムだけじゃなく、ベース・ミュージックを総合的に扱えるようなものです。正直、いまの僕にはそんなに時間的余裕がないので、アーティスト以外にそういう人材がいたら良いですね。

日本国内にはグライムのレーベルは少ししかありませんし、活動もまだまだこれからだと思います。海外のインディペンデント・レーベルに見習うべき部分等がありましたら教えて下さい。

P:海外といっても、僕がやり取りしているのはごく限られたレーベルしかないんです。でもそのなかで共通しているのは、レーベルが扱うジャンルがグライムだけじゃないという点。ダブステップだったり、ジューク、テクノ寄りのものだったり様々です。もちろん、グライム一本で真っ向勝負もいいとは思うんですが、もっと幅広い層にアピールできるような作品群があっても良いんじゃないかと思います。
 それと、向こうのレーベル・オーナーは、ライターとかを他でやっていたりする人がけっこう多いですよね。だから、基本的なプレゼンの仕方は心得ている。または、そういった形を熟知しているからこそ、プロモーションをあえてしなかったりするレーベルもあるんです。でもこういう音楽をやっているだけでは、金稼げないと思うので、どうやってプラスに持っていくかは難しいのが現状なんです。日本で同じようにやるのはかなり大変です。同じようなプロモーション方法でやっていても、気づいて貰えないですからね。

■Prettybwoy Schedule

5/13 金 
OUTLOOK FESTIVAL 2016 JAPAN LAUNCH PARTY @ UNIT + UNICE + SALOON

5/17 火 
Overflow EP 発売

5/21 土 
THAT'S NOT ME! 2 Prettybwoy “Overflow EP” release party @ 新宿ドゥースラー
Special Guest : MC ShaoDow (from UK/DiY Gang)

6/3 金 
MIDNITE∵NOON - KAMIXLO JAPAN TOUR 東京 @ Circus Tokyo



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