「Ord」と一致するもの

Martin Rev - ele-king

 demolition。取り壊し。破壊。打破。解体。爆破。そのタイトルにふさわしく、ディストーションで歪みきったドラム・サウンドでブルータルに幕を切るMartin Revのソロ・アルバム最新作。

 もはやSUICIDEの新作を望めなくなった今、ソロと書くのも蛇足でしょうか。A面B面ともに17曲ずつ、1分前後の曲が並ぶ怪作です。彼のこれまでの作品群が、多種多様なソングライティング能力を既に証明していますが、これまでは比較的アルバム単位で楽曲の大まかな傾向を揃えていた節も見受けられました。しかし今作は非常に混沌とした内容です。そして冒頭の“Stickball”のように歪みきったドラム・サウンドはこれまでになかったもの。何かがこれまでとは違う。そう感じずにはいられません。

 その混沌とした内容の中でも、主にフィーチャーされているのは映像作家Stefan Roloffとのコラボレーションの成果をソロ・アルバムで披露したと思しき、亡き妻Mariに捧げられた前作『Stigmata』の流れを汲んだ楽曲です。シンセ・オーケストレーションと声だけで壮大な曲や優しいメロディーにあふれた曲を構成していた前作。Stefanとのコラボレーションをチェックしていなかった僕は『Stigmata』が出た時点でその作風にとても驚きました。そしてその内容とタイトルに対して、自ら十字架を模したかのようなジャケットの写真がただならぬ気配を漂わせていました。

 SUICIDEとして今は亡きAlan Vegaと共に活動し、ことによるとディズニーのサントラも担当できそうなMartin。そんな彼の最新作は全体的にはサウンドトラック・アルバム的と言えそうですが、サウンドトラック・アルバムにありがちな、ひとつのテーマのヴァリエーションが様々に変奏されるのではなく、ひとつひとつの独立した楽曲が34曲収録されています。そして短い曲ばかりなのですが、アイデアのスケッチという感じがなく、プリミティヴではあるけれどもそれぞれが確固たる完成度を誇っているように感じられます。

 “My Street”はお得意のオールディーズ・リファレンスなフレーズに歪みまくったディストーション・ギター(キーボードかも)でリフを弾くという、これが俺の道だと言わんばかりの格好良さ。でも2分しかやってくれませんのでループ再生をオススメします。“Into The Blue”はまたしても歪みきったディストーションまみれのドラム・サウンドが炸裂します。音を出してご家庭で聴かれる場合には、非常に迷惑な音量設定です。次にかかるとても美しい“Requiem”になると“Into The Blue”であわてて下げにいったボリュームをまた上げにいかないといけません。しかしここまで楽曲間の音楽性や音量のギャップが共に激しいアルバムもそうそう無いと思います。

 “Now”は新機軸で、激しく、深いリヴァーブのかかったドラム・サウンドが、『Stigmata』の流れを汲んだ壮大なオーケストレーションと融合しています。とてもかっこいい。この曲は2分半もやってくれています。でももっと長くやってほしい。“In Our Name”はなにやら意味ありげで歌詞をちゃんと聴き取れれば良いのですが、最後に「Now you're gone」と言っているのは僕にもわかります。我々の名において。SUICIDEの事なのでしょうか。美しい“Vision Of Mari”はおそらく亡き妻の事を想って作られた曲でしょう。本当に美しいメロディーを書ける素晴らしいソングライター。3、3、7拍子のようなリズムを刻む“RBL”も非常にノイジーな音色に包まれています。

 この流れでRock'n'RollなMartin節炸裂の“Creation”が来るとそのギャップにも興奮しますが、次の“Toi”がまた可愛らしい曲で、子供をあやすかのような優しさを湛えています。続く“Pièta”では優雅なメロディーが奏でられますが30秒で終わってしまい、次の“It's Time”も30秒で終わってしまいます。冒頭の“Stickball”、“Into The Blue”、“Back To Philly”、“Beatus”、“Concrete”と、ドラム・ソロがインタールードのように挿入され、主にシンセサイザー・オーケストレーションによる短い楽曲が多数収録された本作も終盤に差し掛かり、“She”ではドラム主体のサウンドにMartinの囁くような歌がのり、壮大な、しかし非常に短い“Darling”、“Excelsis”の2曲がアルバムを締めくくります。

 最後の2曲のような楽曲をもっと構築した、長い組曲のようなものを作ってほしいし、David Lynchの映画をAngelo Badalamentiの代わりにMartinがサウンドトラックを担当したら面白そうだから、何かの間違いでそんな事が起こりはしないかと期待し続けていたいし、もっと彼の楽曲で驚かされたいので、まだまだ元気でいてほしいと願う僕の胸をジャケット・アートワークの1stアルバムとの相似性が妙に騒がせますが、Alanの遺作となってしまった『IT』のジャケットの「EXIT」大写しに比べれば安心できるというもの。

 YouTubeで見られる最近のLive映像では、インナースリーヴの写真のように、色とりどりのカラフルでどぎつい色合いに照らされたMartinの音が、全体的にノイジーな音色になってきているのが感じられます。ウィキペディアによると彼は1947年12月18日生まれ。この情報が正しいとすると今年で70歳になる彼。老いてますますアグレッシヴになっていますが、それは78歳で亡くなったAlanとて同じ。『IT』は現行の〈Jealous God〉などのEBMリヴァイヴァル的楽曲群やインダストリアル・トラックなどと混ぜても使えるような曲満載のアルバムでした。それに比べてMartinの『Demolition 9』はほとんどの曲が1分前後、長くても2分台、短くて奇妙な曲が多く収録されたNot DJ friendlyなアルバムですが、音楽の価値は当然そんな事とは関係なく、“Requiem”や“Vision of Mari”、“Toi”などの美しい曲と荒々しい楽曲たちを壮大なオーケストレーションでつないだMartin Rev独自の孤高のアルバム。そしてこのこれまでにない荒々しさは、MariとAlanに先立たれた喪失感と無縁ではないでしょう。

 先日DOMMUNEのECD 7時間特集番組でECD氏がDJの最後にSUICIDEの“Cheree”をかけていましたが、今YouTubeではMartinのソロ・パフォーマンスによる“Cheree”を見ることができます。キーボードを指ではなく拳や手の平、腕で叩くように演奏し、音階とリズムとノイズを同時に出しながら歌うMartin。長年の経験に裏打ちされた荒々しい演奏です。

 ECD氏とRev氏の健康を願って、筆を置きたいと思います。

Jack Peoples - ele-king

 若者たちのあいだでニューエイジが流行しているという。たしかに昨年は大統領選挙や国民投票があったし、今年に入ってからもテロは起こり続け、列島のはるか上空では楽しそうにミサイルが飛び回っている。これは、つらい。このような情況にブリテン島の人びとも危惧の念を抱いたのか、先月、ブライアン・イーノら19人の有志たちが首相のテリーザ・メイに対し、合衆国に圧力をかけて朝鮮半島の緊張を解消するよう求める声明を発表している。曰く、キューバ危機以来最大の核戦争の脅威が引き起こされている。曰く、いま必要なのは軍事的な解決ではなく脱エスカレイション(de-escalation)である。相変わらず国際情勢は混迷を極めている。つらい。人びとが現実から逃避したくなるのもわかる。
 でもここで忘れてはならないのが、それはあくまで星の数ほどある「つらみ」のうちのひとつにすぎないということだ。国際問題とは言うなれば「大きなつらみ」である。当然ながらそうした「つらみ」とは異なる次元の「つらみ」も存在するわけで、オーウェン・ジョーンズはそういう「小さなつらみ」にこそ目を向けなければならない、と言っているのだと思う。たとえば、あまりに低い賃金で長時間労働を課された多くの人たち……アニメ業界の悲惨な話はよく耳に入ってくるけれど、それはおそらく氷山の一角にすぎないのだろう。とりわけ「クリエイティヴ系」と括られる職種は厄介で、「創造的な仕事だから」「意義のある仕事だから」という言葉が魔法のような効力を発揮する。いわゆる「やりがい搾取」というやつである。クリエイティヴな作業なのだから金を要求すべきではない――そんな雰囲気が漂っている職場も多いことだろう。それも、他人から言われている分にはまだよくて、労働者自身が「これはやりがいのある仕事だから(低賃金でいい、残業代も要らない、休日もなくていい)」と、自らを追い込んでいる敵たちの思想を見事に内面化してしまった暁には、もう取り返しのつかないところまで来ていると考えたほうがいい。電通の例を挙げるまでもなく、そりゃそんな毎日を過ごしていたら現実逃避のひとつやふたつ、したくもなろうというものだ。

 去る9月3日に没後15周年を迎えたジェイムズ・スティンソン。かつてドレクシアの一員として、大西洋に廃棄された奴隷の子孫という役を演じ、ハードなエレクトロを生み出すことで次々と「復讐」の物語を紡いでいった彼は、「大きなつらみ」に立ち向かう勇敢なる戦士だった、とひとまずは言うことができる。しかし他方で彼は、ジ・アザー・ピープル・プレイス(以下、TOPP)という名義のもと、「小さなつらみ」を見つめる作品も残している。2月にリイシューされた『Lifestyles Of The Laptop Café』は、日々の営みにおけるさまざまな感情に目を向けた、どこまでも愛おしいアルバムだった。
 このたび発掘されたスティンソンの未発表音源も、その路線に位置づけられるものである。これらの音源は2000年代初頭にTOPP名義でリリースされた2タイトルのすぐ後に発表される予定だったもので、どうやら『Lifestyles Of The Laptop Café』と同じセッションで録音されたものらしい。スティンソンの死により長いこと日の目を見ることのなかったそれらの音源をコンパイルしたミニ・アルバムが、本作『Laptop Cafe』である。ただし、今回の名義はTOPPではなくジャック・ピープルズとなっている。同じテーマの曲たちになぜべつの名義が与えられているのかは不明だが、TOPPもジャック・ピープルズも「ピープル」という部分は共通している。「people」とは要するに「人民」のことである。それはすなわち、「小さなつらみ」を抱えながら日々を生き抜いている者たちのことだ。
 TOPPのアルバムと同じように、1曲め“Song 06”の出だしから穏やかな陽光が差し込んでいる。子どもが無邪気に玩具で遊んでいるかのような2曲め“Song 02”や3曲め“Song 01”も微笑ましく、聴き手を優しく包み込んでひだまりのなかへと導いていく。収録された6曲のサウンドはいずれも粗く、それが意図されたものなのかどうかはわからないけれど、そのロウファイさがかえってジャック・ピープルズの音楽の持つ日常性を際立たせている。
 興味深いのは4曲めの“Song 04”だ。このアルバムのなかでもっとも力強いビートで始まるこのトラックは、間歇的に挿入される太いベースに支えられながら、調子っぱずれなスティールパンの調べを呼び込み、カリブの風を招き入れている。そこに微かなハープのような音まで紛れ込まされていて、これは当時のスティンソンにとって新機軸だったのではないだろうか。

 没後15周年だとかエレクトロ・ブームだとか、単にそれだけが理由じゃないんだと思う。今年に入ってからジェイムズ・スティンソン絡みのリリースが相次いでいるのは、一部の人たちのあいだにニューエイジ的なるものの氾濫に対する懸念があるからではないだろうか。もちろん、逃避することそれ自体は悪いことではない。資本主義社会のなかを生きるというのはただそれだけでじゅうぶんつらいことなのだから、逃避はむしろ生活を維持していくうえで必要なことである(再生産)。だがそこで、内面的かつ崇高な精神世界を志向するのか、それとも日々の「小さなつらみ」を静かに見つめ返すのか。両者のあいだには大きな違いが横たわっている。だからスティンソンのこの遺作は、「ピープル」であるところの僕たちに、ニューエイジに代わる新たな選択肢を与えてくれているのだと、そう思われてならない。

汚れたダイヤモンド - ele-king

 木津毅が巣鴨の喫茶店で語気を荒げた。「今年のワー○○・ワンは『パトリオット・デイ』ですよ!」(次の中から○○にふさわしい言葉を選びなさい。1・ルド 2・スト 3・ワー)。今年の映画の話である。「そこまで言うほど……」とも思ったけれど、日夜、アメリカ社会の分断に心を寄せ、傷つき、もがき苦しんでいる木津くんらしい感情の高まりだと思い、僕は「そうだね」と相槌を打つだけにした。ピーター・バーグ監督による『パトリオット・デイ』はボストン・マラソンがかつては女性の参加を認めなかったことを回顧する作品……ではなく、2013年にボストン・マラソンを狙って起きた爆弾テロをジャーナリスティックに再現した作品で、テロに屈せず、市民たちが「ボストン・ストロング」を合言葉に一丸となって危機を乗り越える姿が描かれている。犯人を特定するまでのプロセスや住宅地に逃げ込んだ犯人を追い詰める緊迫感、妻が主人公に惚れ直しちゃったり、ケヴィン・ベーコン演じるFBI捜査官の嫌味な感じなど娯楽映画に期待する要素はだいたい満たされていて、逃亡する犯人たちに中国人が脅されるなどトピカルなレイシズムへの配慮も抜かりがない。三度の飯より愛国心という人が観れば小田急線や帝京高校のように愛国心が燃え盛ること請け合いでしょう。メラメラ。


© LFP‐Les Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions

 そう、愛国心はまあ、いいです。この場合にはない方が不自然である。しかし、愛国心とセットで語られることが多い家族の描き方には少し微妙なものがあった。それ以前に犯人たちのことは何も語られていないに等しく、実際には犯人たちの親族がTVを通して投降を呼びかけていたことは完全に無視されている。詳しくはわからないけれど、当初ホームグロウンではないかと言われていたテロリストたちはチェチェンからの難民であり、違う州には親戚も住んでいたそうで、犯人たちが何に反発し、誰に疎外されていたかは何も検証されていない。それは必ずしもアメリカだけの問題だけではなかったのかもしれないし、どこからがアメリカという国の問題なのかがわからない。犯人の家族も含めて執拗に頑なさを強調するだけで、むしろイスラム系に対するイメージを各人が好きなように膨らませればいいというつくりなのである。トレント・レズナーの音楽がその感情をまた効果的に盛り上げていく。上手いんだな、これがまた。


© LFP‐Les Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions

 テロと家族について考えるきっかけは意外なところからやってきた。テロとはなんの関係もない『汚れたダイヤモンド』という映画がそれだった。相変わらずフランス映画が低調なので、新人監督のデビュー作というだけで観てみようかと思い立った。なので、いつものこととはいえ設定もジャンルもわからないままに同作を観始める。最初は押し込み強盗の話かと思った。主人公のピエール・ウルマン(ニールス・シュネデール)が手際よく民間人の家から美術品を奪い取り、親分みたいな人が売りさばいてくれる。美術品を見る目があれば効率もいいんだろうけど、どうでもいいような絵を盗んだりもして、あぶく銭をせしめるという訳にはいかないらしい。普段は便利屋のようなことをしている。そこに警察がやってきて逮捕されるのかと思ったら、生き別れとなっていた父の死を知らされる。葬式のシーンでは彼が親族とは異常に仲が悪いということが示唆され、にもかかわらず、いとこのガブリエルに金額の大きな仕事を発注されてピエールはアントワープまで出掛けていく。まあ、話はここからである。いとこの会社というのは宝石商で、彼はだんだん宝石商の仕事にも興味を持ち始める。


© LFP‐Les Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions

 宝石商の仕事というのがまずは興味深かった。ピエールとガブリエルはインドに出かけ、下請け業者の労働環境を視察する。ダイヤモンドのカットというのは、どちらかというとアーティスティックな仕事であることが一方では強調されているにもかかわらず、そこではグローバル化による工場労働の実態がクローズ・アップされる。ピエールが属していた窃盗グループのリーダーはアブデル・アフェド・ベノトマンが演じており、彼は実生活では銀行強盗などによって何度か刑務所に入っていたこともある役者である。監督は当初、この役を『クスクス粒の秘密』や『アデル、ブルーは熱い色』の大ヒットで知られるチュニジア出身のアブデラティフ・ケシシュ監督に役者として演じるよう依頼したところ、ケシシュからベノトマンを推薦されたのだという(このようなキャスティングの仕方だけでも新人らしからぬ大胆さに感心してしまう)。そして、作品内に移民たちのフォーメイションががっちりと組まれた上でピエールがインドを視察するという物語が進められ、ここで後半の展開に向かって大きな布石がひとつ打たれることになる。途上国の人たちと同じ目線になるという発想がないため、同行していたガブリエルはこれらの動きにまったく気がつかない。


© LFP‐Les Films Pelléas / Savage Film / Frakas Productions / France 2 cinéma / Jouror Productions

 物語のクライマックスは『トイストーリー2』を5分か10分に凝縮したようなものだった。『トイストーリー2』ではウッディが古い仲間と新しい仲間のどちらを選択するか迫られたあげく、思いもよらない解決法でエンディングを導き出す。ウッディたちはオモチャなので人種やトポスといったファクターに左右されることはなかったけれど、人間というのはやはりそう簡単には行かない。『トイストーリー2』で起きた奇跡はここでは何ひとつ起こらなかった。ヨーロッパの家族主義からハグれたピエールはウッディとは正反対のコースに足を踏み入れ、残酷な結末へと加速度を増していく。そう、「窃盗グループ」の存在には実に説得力があり、ピエールはいわば『パトリオット・デイ』におけるテロリストの位置に立たされたも同然だと僕には見えた。この作品に少し時事的なバイアスがかけられているとしたら、それこそヨーロッパという共同体がいま、テロリズムへとなびいていく息子たちに「待ってくれ」と呼びかけているとしか思えなかったことだろうか。それはただの願望にしか思えなかったし、監督自身はそれを「罠」と表現している。家族や擬似家族の呪縛からすべて解き放たれることが唯一の解決法だという意味では『トイストーリー2』ではなく、親を失うことで初めて(アメリカの国家制度の中で)個人として解放される『プレシャス』を想起すべきだったのかもしれない。そうだとしても、しかし、ヨーロッパというのは国家も家族も少し複雑に過ぎるのだろう。監督が望むように、この作品を希望的な結末と受け取ることは僕にはやはり難しかった。ダイヤモンドを扱っているだけに、本当に光も闇もすべてが屈折し過ぎていた(ピエールという役名はちなみに60年代に強盗などで知られる極左の活動家、ピエール・ゴールドマンにちなむらしい)。

 共同体からハグれてしまった人物像に興味があるのか、アルチュール・アラリの2作目は小野田少尉を題材にしたものだという。2010年代はじめからハリウッド寄りになり、どこか方向性が怪しくなっていたフランス映画がどことなく軌道修正を始めたのかなと思う昨今、新人では『アスファルト』のサミュエル・ベンシェトリしか目につかなかった中で、アルチュール・アラリの登場はかなり期待すべきものがあるように思う。つーか、ミシェル・ルクレールやレア・フェネールは新作を撮らないのかな~。



Ben Frost - ele-king

 世界的な成功を収めた前作『A U R O R A』から3年。ついにベン・フロストのニュー・アルバム『ザ・センター・キャンノット・ホールド』がリリースされる。発売日は9月29日。この新作はなんとスティーヴ・アルビニとともにレコーディングした作品となっており、なんでも制作中のスタジオではスピーカーがぶっ飛んだそうで……いったいどんな内容に仕上がっているのやら。稀代のプロデューサーがさらなる高みへと挑んだ意欲作、注目である。

エレクトロ・ノイズの鬼才ベン・フロスト、スティーヴ・アルビニとの
レコーディングによるニュー・アルバム(9/29)より新曲「lonia」を公開!

前作『A U R O R A』での大成功の後に発表されたこの曲(「スレッショルド・オヴ・フェイス」)は、前作を踏襲したものではない。それはまるで雪に反射した太陽の光で視界がきかない、そんな境地で制作されたようなサウンドだ。 ― Pitchfork

世界的な大成功を収めた前作『A U R O R A』(2014年)から3年、エレクトロ・ノイズの鬼才ベン・フロストは、スティーヴ・アルビニとのレコーディングで生み出されたニュー・アルバム『ザ・センター・キャンノット・ホールド』を9月29日にリリースする。ニュー・アルバムは、シカゴにあるスティーヴ・アルビニのスタジオで約10日間に渡ってレコーディングされ、その制作期間中にスタジオ空間で鳴らされたサウンドは、時に制御不可能になり、ベン・フロストとスティーヴ・アルビニに対し熱く激しく張り合うかの如く火花を散らしたのだった。ニュー・アルバムはそのスタジオで起こったドキュメントである。

プリズムから放たれるスペクトル、その虹色の中の鮮やかな群青色をサウンド化したというニュー・アルバム、アートワークやミュージック・ビデオなどヴィジュアル全般がこの鮮やかな群青色で統一されている。

■アルバム制作概要
2016年夏、ベン・フロストはシカゴに降り立った。それはあのスティーヴ・アルビニとの共同作業に入るためであった。約2週間を超える期間に制作された、今まさに崩壊しそうなくらい膨大に膨らんだ音の塊を、ガランとしたスタジオの中に並べられたアンプ群に流し込んだ途端、スピーカーの方がぶっ飛んだのだった。またスタジオのガラスの向こう側では、アルビニがスタジオで演奏された音源を縦横無尽にぶった切っていった。

轟音と静寂のシューゲイズ/エレクトロ・サウンドの決定打となった前作『A U R O R A』(2014年)は、『ピッチフォーク』で「ベスト・ニュー・ミュージック」を獲得するなど世界的な成功を収め、またブライアン・イーノ、ティム・ヘッカー、ビョークなどとのコラボレーション、映画音楽制作など多岐にわたる活動を続けてきたベン・フロスト。その飽くなき挑戦を続けてきた彼が新たに踏み込んでいった先は、シカゴでのスティーヴ・アルビニとの共同レコーディングだった。

■商品概要

アーティスト:ベン・フロスト (Ben Frost)
タイトル:ザ・センター・キャンノット・ホールド (The Centre Cannot Hold)
発売日:2017年9月29日(金)
品番:TRCP-217
JAN:4571260587144
ボーナス・トラック収録
解説:三田 格

[Tracklist]
1. Threshold of Faith
2. A Sharp Blow In Passing
3. Trauma Theory
4. A Single Hellfire Missile Costs $100,000
5. Eurydice’s Heel
6. Meg Ryan Eyez
7. Ionia
8. Healthcare
9. All That You Love Will Be Eviscerated
10. Entropy In Blue
11. Meg Ryan Eyez (Albini Suspension Mix) *ボーナス・トラック

[amazon] https://amzn.asia/7pXtgi6
[iTunes/ Apple Music] https://apple.co/2wygh41
[Spotify] https://spoti.fi/2hB7QSX

■プロフィール
1980年、豪州メルボルン生まれ。2005年、アイスランドのレイキャビックに移住。 Bedroom Community 創設者ヴァルゲイル・シグルズソンなどとともに音楽活動をおこなう。2003年、デビュー・アルバム『Steel Wound』リリース。2010年、ブライアン・イーノからの依頼により、映画『惑星ソラリス』にインスパイアされた作品を制作。また、スワンズの『The Seer』や、アンビエント、ドローン・ミュージック界の重鎮ティム・ヘッカー、ビョークの「Desire Constellation」のリミックス、映画のスコア作品も多く手掛けるなど活動は多岐に渡る。前作『A U R O R A』(2014年)は、『ピッチフォーク』で「ベスト・ニュー・ミュージック」を獲得するなど世界的な成功を収め、同年来日公演を東京と大阪にて実施。2016年夏、新作の制作をスティーヴ・アルビニとともにおこない、2017年にその作品群からの最初の作品「スレッショルド・オヴ・フェイス」(EP)を7/28にデジタル配信にて、ニュー・アルバム『ザ・センター・キャンノット・ホールド』を9/29にリリース。

ethermachines.com
mute.com

Arca × Ryuichi Sakamoto - ele-king

 最新作『Arca』も好評なアルカが、なんと坂本龍一のリミックスを手がけました。原曲は坂本の最新作『async』収録のタイトル・トラック“async”で、このリミックス・ヴァージョンではアルカ本人が歌っております。しかも日本語で。去る7月にはOPNが坂本龍一のリミックスを発表しましたが、今度はアルカということで、現在エレクトロニック・ミュージックの最尖端を走り続けている2巨頭いずれもが坂本龍一と邂逅したということになります。この交差は2017年を象徴する出来事かもしれません。教授のリミックス・アルバム、楽しみですね。

奇才アルカが坂本龍一をリミックス
Ryuichi Sakamoto - “async - Arca Remix" (async Remodels)

ビョークやFKAツイッグス等のプロデューサーとしても知られ、今年〈XL Recordings〉からサード・アルバム『Arca』をリリース、初出演となったフジロックでは、ヴィジュアル・アーティスト、ジェシー・カンダを伴ったAVセットも話題になった他、ビョークのステージにも上がるなど、ますます注目を集めるアルカが、坂本龍一の最新アルバム『async』のタイトル・トラック“async”のリミックス・ワークを公開した。『Arca』でも全面に打ち出された自身の歌声がここでも披露されており、日本語の歌詞が歌われている。

async - Arca Remix (async Remodels)
https://youtu.be/aKxPhAb6OMA

本楽曲は、ワンオートリックス・ポイント・ネヴァーが手がけた“Andata (Oneohtrix Point Never Rework)”、アルヴァ・ノトによる“disintegration (Alva Noto Remodel)”、エレクトリック・ユースによる“andata (Electric Youth Remix)”に続いて公開されたもので、その他、コーネリアス、ヨハン・ヨハンソン、モーション・グラフィックス、エレクトリック・ユースなどの参加が明かされている。

Andata (Oneohtrix Point Never Rework)
https://youtu.be/G0p647mDqT0

andata (Electric Youth Remix)
https://youtu.be/6g9LEBYJ1oU

disintegration (Alva Noto Remodel)
https://youtu.be/sxZ9AwIPDa4

早くからカニエ・ウェストやビョークらがその才能を絶賛し、FKAツイッグスやケレラ、ディーン・ブラントといった新世代アーティストからも絶大な指示を集めるアルカ。セルフタイトルとなった本作『Arca』は、2014年の『Xen』、2015年の『Mutant』に続くサード・アルバムとなり、〈XL Recordings〉からの初作品となる。国内盤CDにはボーナス・トラックが追加収録され、解説書が封入される。

label: BEAT RECORDS / XL RECORDINGS
artist: Arca
title: Arca
release date: 2017/04/07 FRI ON SALE

国内盤特典 ボーナス・トラック追加収録 / 解説書封入
XLCDJ834 ¥2,200+税

yahyelと語り合うマウント・キンビーの魅力 - ele-king


Mount Kimbie
Love What Survives

Warp / ビート

ElectronicKrautrockNeu!Post-Punk

Tower HMV Amazon iTunes

 うん、これは良いアルバム。4年待った甲斐がある。マウント・キンビー、3枚目となる『Love What Survives』、これが〈Warp〉からリリースされて、10月には東京/大阪での来日ライヴも控えている。
 今回同じステージに立つyahyelの篠田ミルといっしょに、あらためてマウント・キンビーについて語った。

野田:マウント・キンビーはいつ聴いたんですか?

篠田:えっと、2010年かな。ファーストが出たタイミングですね。あの頃はまだ高校生でしたね。

野田:ジェイムス・ブレイクとかも同じ時期に聴いたの? 「CMYK」が出た年なんですけど。

篠田:まさしくそうですね。でもジェイムス・ブレイクを本格的に聴いたのはやっぱり「Limit To Your Love」以降ですね。

野田:当時の高校生はマウント・キンビーってどう聴いたの(笑)?

篠田:かなり背伸びしていたというか、僕は中学生のときに『rockin'on』の「ベスト・ディスク500枚」みたいな本を偶然買って、それをパラパラ読んでTSUTAYAに行って大量に借りるみたいなことをしていて。その時代はまだ継続して『rockin'on』を読んでいて、たしか『rockin'on』の誌面にマウント・キンビーのファーストが出ていて。

野田:へー、意外だね。『rockin'on』なんてその辺あんまわかってないじゃん。

篠田:なんか違和感があったんですよね。これはなんか違うし、書いてある単語がよくわからなくて。ダブステップとかポスト・ダブステップってなんだよっていう(笑)。全然わからないなと思って借りて、最初聴いたときもしっくりこなかったというか、まだギター・ロック少年だったからこの人たちがどういうところから来ているのかわからなかったんですよね。まあ聴いてはいたんですけど、それがそのときの感想ですかね。

野田:僕はアナログで買ったな。むちゃくちゃリアルタイム。どんな時代だったかと言うと、マウント・キンビーが出てくるちょい前は、USではチルウェイヴがあったり、ビーチ・ハウスに代表されるドリーム・ポップがあったり。ヒプナゴジック・ポップなんていう言葉が生まれたり、OPNが出てきたのもこの時期だよね。いっぽう、UKではジェイムス・ブレイクが「CMYK」で脚光を浴びる。マウント・キンビーはそれに続いたよね。

篠田:雨後の筍感というか(笑)。

野田:当時からマウント・キンビーは完全にずば抜けていたけどね。彼らの音響は、ジェイムス・ブレイクよりもドリーミーだったから、USの流れともリンクしやすかったし。篠田君はチルウェイヴの頃は何を聴いていたんですか?

篠田:当時はインディ・ロックが強かった印象があって、2008年あたりはMGMTとかヴァンパイア・ウィークエンドとか聴いていたんじゃないかなあ。あとはアーケイド・ファイヤーとか。

野田:10代だったら普通そうだよね。当たり前だよ(笑)。

篠田:トロ・イ・モアとかウォッシュト・アウトとかもなんとなく聴いていたんですけど、そんなに本のめりじゃなくて。その本のめりではないなかにマウント・キンビーやジェイムス・ブレイクがあったというのが僕らの世代だと思うんですけど。とりあえず潜った音像のものが流行っているのかな、みたいな。これあんまりあがんないけど気持ちいいな、くらいの程度で聴いていた印象があります。

野田:当時、マウント・キンビーやジェイムス・ブレイク、あと、〈ヘッスル・オーディオ〉やアントールドとか、ああいうのはポスト・ダブステップという言葉で括られていたんだけど、それは何かというと、明確な理由があるのね。だいたい2008年~2009年の時点で、すでにダブステップはTVのCMでも流れるような、無茶苦茶コマーシャルな音楽にもなっていて、ウォブリー・ベースを入れたクリシェにもなっていたのね。それがやがてブロー・ステップと呼ばれ、EDMにも連なっていくんだけど、そういうマッチョな商業レイヴ化したダブステップへの反論みたいな格好で、音楽の面白さを取り戻そうとした動き全般がポスト・ダブステップと括られたものだったよね。だからレコード店に行けば必ず発見があるみたいな、ものすごく重要な時期で、「CMYK」もピアソン・サウンドも、そうとうショックがあったよ。で、〈ヘッスル・オーディオ〉やアントールドなんかがベース・ミュージックにテクノのセンスを混ぜたのに対して、マウント・キンビーはR&BとIDMのセンスを取り入れたよね。あれはすごく新鮮だったな。yahyelって、やっぱりR&Bヴォーカルが際立っているんだけど、トラックを聴くとマウント・キンビーとの接点はあるように思えるんだけど、実際のところ、どうんですか?

篠田:曲を作るときに参考音源としてたまに挙がることはありますね。たとえばマウント・キンビーの“Made To Stray”の最初のビートみたいなのいいよねえ、みたいな参照のされかたはされるけど、マウント・キンビーっぽい音像に仕上げようみたいな感じで進んだことはそんなにないっちゃないですね。

野田:篠田君はさっきの話では、もともとインディ・ロックを聴いていたんだけど、なぜエレクトロニック・ミュージックになったの?

篠田:2010、11年くらいにジェイムス・ブレイクやマウント・キンビーが出揃って、2013年くらいに彼らがセカンドを出すじゃないですか。そのあいだでかなり地場が変わった感じというのがあって、ギター・ロックが死んでいっているのを目の当たりにしつつ、おもしろいことがこっちで起きているというのがあって。ギターを持っていた人間がこっちをやれるんじゃないか、というのはぼんやりとありましたね。
 というのも当時僕は大学生で普通にベースを弾いてギター・ロック・バンドをやっていたんですよ。でも音楽的にはつまんねえなっていう感じはあって(笑)。ギター・ロックをあまり聴かなくなっているなかで、それこそジェイムス・ブレイクやマウント・キンビーのセカンドみたいなものがあったり、そのあとにインディR&Bとかのポスト・ダブステップのサウンドで歌モノを作っている人たちが出てきて、それをすごく聴いていたんですね。それで2013、14年あたりでそれをやりたいなってことになってきたのかな。

 

野田:篠田君の人生の重要な時期でジェイムス・ブレイクやマウント・キンビーが当たったんだね(笑)。

篠田:まさに成熟していく過程ですよね(笑)。

野田:彼らが尊敬していたひとりがBurial(日本盤表記:ブリアル)なんだけど、「CMYK」なんかはブリアルの『Untrue』の影響下にあるでしょ。R&Bサンプルの使い方は完全にあの流れだよね。本当はヴォーカルをスタジオ録りしたいんだろうけど、そんなお金がないからサンプリングするっていう。マウント・キンビーもR&Bサンプルを使っているよね。あとは〈Night Slugs〉の連中とかさ、みんなそんな感じだよね。ボク・ボク(Bok Bok)とかさ。

篠田:ジェイムス・ブレイクの別名義(Harmonimix)かなんかでスヌープ・ドッグとかとR&Bをやっていましたよね。

野田:デスチャとかも使ってるし。あれブートでヴァイナルが出たんだよ。持ってるけど。しかしさっきも言ったけど、あの当時は、UKとUSではスタイルや出自は違うのに、感覚的には微妙にリンクするようなところがあったよね。チル&Bとかさ。

篠田:そうですね。受容のしかたとしてはそんな離れたものを聴いている印象はなかったですね。

野田:マウント・キンビーのファーストとセカンドだとどっちが好きなの?

篠田:セカンドですね。

野田:おお~。ぼくは断固としてファースト派だったんだけど、今回の取材にあたってセカンドを聴き直したのね。そうしたらすごくいいと思った。

(一同笑)

野田:自分がベース・ミュージックという文脈にこだわり過ぎていたなと思ったんだよね。いまは全然そこに対するこだわりがないんで、わりとまっさらに聴けて、すごくいいと思ったね。

篠田:ダブステップとかベース・ミュージックの手法で歌モノをやるというところからそういうものを聴く体験がスタートしているので、セカンドはすごくピンと来て、文脈を知らなかったからむしろファーストはわからなかったんですよ。

野田:あのファーストはマニア受けだからね。ベース・ミュージックにIDMの要素を取り入れたのがドリーミーな音楽っていうか。

篠田:ボーズ・オブ・カナダっぽさというか。

野田:そうだね。ただ、マウント・キンビーが素晴らしいと思うのはあの言葉とジャケットですよね。マウント・キンビーのファースト『Crooks & Lovers』は2010年でしょう。あのジャケットの写真って、おそらくチャヴ(chav)なんですよ。それで2010年ってキャメロン政権のスタートした年なんですよね。つまり、UKの緊縮財政がはじまった年で、政治的な意味でいうとああいうチャヴに表象される下層階級の人たちをキャメロンがものすごく批判しはじめた時代だよね。その時代にあのタイトル(『ペテン師と恋人たち』)と写真で出すというのは考えさせられるものがあるじゃないですか。

篠田:あのふたりはサウス(・ロンドン)でしたっけ? (サウス)だったら身の回りにチャヴがいるのが当たり前の光景だったんでしょうね。

野田:とにかく、深読みしたくなるタイトルと写真だよね。篠田君が好きなセカンド・アルバムのタイトルもいいよね。『Cold Spring Fault Less Youth』。なんていうの、「冷たい春の間違いのよりすくない若さ」って、すごいタイトルじゃない! 今回のタイトルもすごくおもしろいよね。『Love What Survives』で。「生き残るものを愛せ」なんだけど、ジャケットを開くと「But Don't Hate What Dies」、「しかし死せるものを憎むな」という言葉が記されている。マウント・キンビーは言葉もうまいよ。

篠田:そうですね。

野田:ポスト・ダブステップって言われた人たちって、ダブステップがダメになったときに出てきて、結果としてUKのクラブ・ミュージックを蘇らせるんだけど、そのほとんどがもともとダブステップをやっていた人たちじゃないでしょう? 自分たちの帰属するスタイルがとくにあるわけじゃない。マウント・キンビーなんかは本当にそうで、逆に言えばなんでもできるんだよね。そこはyahyelと似ているのかなと。

篠田:たしかにそうですよね。初期のジェイムス・ブレイクはまだフロアへの意識があった気がするけど、マウント・キンビーは初めからないですもんね。ブリアルの手癖みたいなものが乗り移っているな、みたいな瞬間はファーストとかでチラホラ見られるけど、ダンスフロアの人たちではないですよね。本人たちもインタヴューで「ダンスフロアに向けるというのがどういうことなのかよくわからないし、あんまりそれは意識していなかった」みたいなことを言っていたんじゃないかな。

野田:ある意味では、ひょっとしたらセカンドが本来の自分たちの姿なのかもしれないよね。

篠田:そうだし、これ(サード・アルバム)も賛否両論が分かれると思うんですよ。でもこれも本来の姿だなっていうだけで。

野田:本当にそう思う。

篠田:とくに1、2曲目はものすごくギター・ロックの響きがするというか(笑)。ドラムの作りかたから構成からギターまで、まあクラウトロックなのかな。

野田:クラウトロックだよねえ(笑)。ノイ!というかね。

篠田:1曲目とかダイヴ(DIIV)のアルバムに入っていてもおかしくないなあって鳴りをしていて。でもマウント・キンビーってずっと一貫してギターを持ってライヴをやっているじゃないですか。ファーストでも使っていたし。

野田:そこはやっぱ共感する?

篠田:そうですね。若かったらこれやりたかったなというサウンドだったというか(笑)。むしろ成熟したサウンドではない感じがしたんですよね。

野田:昨年パウウェルが出てきたっていうのもあるのかもね。強いて言えばアルビニ系の感性も内包しているというか。あと、セカンドでは歌っているのがキング・クルールだけだったけど、今回は複数のヴォーカリストを使っているよね。

篠田:ミカチュー(MICACHU)とか。

野田:ミカチューとやっている曲いいよねー。いまいち日本には伝わってこないけど、彼女はUKではものすごく評価が高い人。

篠田:あれはめちゃくちゃいいですね。

野田:今回の目玉として、ジェイムス・ブレイクとやった曲が2曲あるけど、“We Go Home Together”はけっこう実験的なビートのある曲で、アルバムのクローザーとなるもう1曲の“We Go Home Together”は最高に美しい曲だったね。アルバムでは、クラウトロック的というかパウウェル的というか、躍動感を前面に出した曲とちょうど対を成しているかのようだね。We Go Home Together”は良い曲だよ。ジェイムス・ブレイクのメランコリックな感覚がいい感じで映えているね。

篠田:ジェイムス・ブレイクはどれくらい作業をしているんですかね。歌っているだけなのかなあ。

野田:どうだろうね。エレクトーンぽい音とか、“How We Got By”のピアノとか弾いているのかね。“We Go Home Together”なんか、そのままベタに歌わせても予定調和だから、トラックはだいぶ捻ってはいるよね。

篠田:たしかに。

野田:“How We Got By”は共同プロデュースしているようだけど。それにしてもジェイムス・ブレイクとは7年ぶりのコラボだってね。もともとは同じところからはじまって……。

白川:同じ学校でね。同じ学生寮にいたらしいですよ。

野田:ええ、そうなんだ。

篠田:YouTubeに3人で一緒にライヴしている動画がありますよね。

野田:では、あらためて彼らとのライヴ・ツアーの意気込みを(笑)?

篠田:いや、負けないぞっていうのがあるんですけど。

野田:はははは。

篠田:こういうタイプの音楽をバンド・フォーマットでやるという点では間違いなく先達だし、影響を受けていますね。たぶんバンド・フォーマットでやったのって彼らくらいじゃないですか? ジェイムス・ブレイクも結果的にバンド隊でやっているけど、バンド然としているというか。彼らがいて、ボノボがいてというか。作るときは全然バンド・スタイルで作らないけどライヴだとバンド・スタイルでやる、というのってじつはなくて。yahyel自身もそれは僕たちの新しさだと思っているところなんですけど……、とはいえ彼らは先達で(笑)。それをどう更新したかを見せなきゃというのはひとつありますね。だから原形を示してくれたのは彼らなんですけど、進化させたのは僕たちだっていう自負はあるくらい(笑)。

野田:素晴らしい(笑)。本当にライヴを見るのが楽しみなんだけど。篠田君がマウント・キンビーのライヴで楽しみにしているところはなんですか?

篠田:まず何人で来るのかってところですね(笑)。4人らしいですけどね。マウント・キンビーのふたりとドラムとギターですかね。もうひとつ楽しみなのは、新作にもフィーチャリング曲が4曲入ってますけど、それをどうやって再現するのかというところですかね。あとはやっぱり同じジャンルをライヴでやる人間として、どれくらい同期でやるのかは気になりますね。

野田:yahyelはどういうライヴをやるの? バンドでやるの?

篠田:バンドですね。基本的にビートはドラマーだし、シンセは半分弾いていてループものはシーケンスにしてで杉本が出していて。僕はヴォイス・サンプルとかパーカッシヴなサンプルを叩いていてって感じなんですけど。僕らは逆にビートの同期を増やしてみたいという欲求があって。それがマウント・キンビーまでに敵うかどうかはわからないですけど。というのも僕らはフジロックくらいまでのあいだにテクノ返りしていたというか、かなり、テクノを聴いていて。

野田:へえ、どのへんのテクノですか?

篠田:思いっきりベルリン界隈の〈Ostgut Ton〉のものを聴いていて。

野田:それはめちゃくちゃベルリンだね(笑)。

篠田:新鮮に思えましたね。僕らのなかではあのザ・ジャーマンな感じがすごく新鮮なんですよね。だから前作とか今回のシングルにはまだJ Dilla以降というか、ネオ・ソウルっぽいズレたビートへの志向というのがかなりあったと思うんですけど、いまはわりとあれがそんなでもないというか。合う曲ではやってもいいけどそんな全面に押し出さなくてもいいなっていうのもあって、ここ半年くらいはイーブンな4つが面白いなと(笑)。

野田:へー、その新しいyahyelのサウンドがどんなになるのかも楽しみだね。

(了)


Mount Kimbie
Love What Survives

BEAT RECORDS / WARP RECORDS

ElectronicKrautrockIDM

Tower HMV Amazon iTunes

Mount Kimbie - ele-king

 ドミニク・メイカーとカイ・カンポスによるマウント・キンビーは、2010年代のビート・ミュージックにおいて常に新しいサウンドスケープを生みだしてきたバンド/ユニットである。いわゆるポスト・ダブステップの先駆的な存在として知られる彼らだが、その音楽性はひとつのジャンルに収束・回収できるようなものではない。ダブステップ、ベース・ミュージック、アンビエント、ヒップホップ、テクノなどの様々なエレクトロニック・ミュージックが渾然一体となってなり、まさにマウント・キンビー的としか言いようのないビート・ミュージックを形成しているのだ。
 しかし、である。では「マウント・キンビー的な音とは何か?」と考え直すと、今度は途方に暮れてしまう。なんというか不意にどこかに逃げ去ってしまうような身軽さを感じられるのだ。一時期はジェイムス・ブレイクが共にプレイしていたことでも知られ、2010年代のビート・ミュージックにおいて先駆的な存在である彼らだが、いまだ実体が掴み切れない謎な感覚がある。じじつ、この新作『ラブ・ホワット・サバイブス』でも、彼らはスタイルをまたも変貌させている。
 『ラブ・ホワット・サバイブス』は、2013年のセカンド・アルバム『コールド・スプリング・フォルト・レス・ユース』以来、実に4年ぶりのアルバムである。3年の月日をかけて制作された楽曲群が11曲(日本盤にはボーナストラックが1曲追加されている)収録されているが、当然のことながら本作もまた新たなサウンド・モードへと突入しており、安直な自己模倣には陥っていない。その名を知らしめたファースト・アルバム『クルックス&ラヴァーズ』(2010)とも、〈ワープ〉に移籍し多くのリスナーを獲得した『コールド・スプリング・フォルト・レス・ユース』ともまったく違う音楽性へと変貌を遂げている。それでいてやはりマウント・キンビーはマウント・キンビーであるという分母、つまりはビート・ミュージックの実験と現在の追求という点では一貫しているのだ。

 では、どういった変化なのか。端的にいって現行インディ的・パンク的というか、非常に開放感に満ちたシンプルでパンキッシュな音楽性を展開しているのだ。と同時に何かに祈るような深い崇高さすらも感じさせる。パンクと崇高。二重性こそ本作のポイントではないかと思う。具体的にはシンプルなビートをサウンドのテクスチャーに気を使いながら組み上げ、シンセサイザーのノイジーな音とレイヤーさせている。じっさい、アルバムは主にコルグ社MS-20とデルタといった2台の古いシンセサイザーを用いて制作されたというのだが、これは自分たちのこれまでのプロセスをいったん払拭し、新たな音楽を生み出すためのクリエイティヴな制限とでもいうべきものであろう。
 その結果、アルバムのサウンドは、単に新しいだけでも、単に古いだけでもない独特な質感を生み出すことに成功している。カイ・カンポスは本作を称して「パンクかつジャンキーで、ロバート・ワイアット的な音質」と語っている(アルバムのキーのひとつに3コードのコード進行とパンキッシュなビートがあるように思える)。パンクとロバート・ワイアット。いわば攻撃と静謐か。本作特有の二重性が端的な言葉で語られているといえる。

 アルバム前半はパンキッシュなモードでスピード感と開放感に満ちた楽曲を収録している。 アンビエントなイントロから次第に前面化してくる乾いたビートと電子ノイズが気持ち良い1曲め“Four Years and One Day”、前作(“You Took Your Time”、“Meter, Pale, Tone”)にも参加したキング・クルエルの掠れた声のシャウトと、前のめりのハットとビートが焦燥感に満ちているハードコアな2曲め“Blue Train Lines”、70年代のクラウトロックと80年代のテクノポップをミックスさせたような3曲め“Audition”、インディ/エクスペリメンタル・ミュージック界隈を魅了し、そのうえグラミー受賞の映画音楽も手掛けたミカチューを招いたニューウェイヴ/レゲエな4曲め“Marilyn”、そしてトライバルなリズムとパンキッシュでシンプルなコード進行とシンプルなビートをミックスさせたインストである5曲め“SP12 Beat”を経て、アンドレア・バレンシーを迎えた90年代のステレオラブを思わせるエクスペリメンタル・ミニマル・ポップの6曲め“You Look Certain (I'm Not So Sure)”まで一気に駆け抜ける。まるで現代のキッズたちに向けたパンク・ミュージックのように。


 そして、インタールード的なピアノ・トラックの7曲め“Poison”を転換点とし、アルバムにはメランコリックなムードが満ちてくる。ロバート・ワイアットがエレクトロニック・ミュージックで復活したようなジェイムス・ブレイクのヴォーカルの8曲め“We Go Home Together”、80年代初頭のニューウェイヴな雰囲気が濃厚な9曲め“Delta”、ドミニク自身がヴォーカルを披露している10曲め“T.A.M.E.D”(彼らはこの曲を「マウント・キンビー版のポップ・ソング、完全にぶっとんでいるポップ・ソング」と語っている)と、シンプルな中にどこか内省的な香りを漂わすトラックを続けて展開するのだ。


 アルバム・ラストである11曲め“How We Got By”において再びジェイムス・ブレイクを召喚し、まるで深い祈りのような曲を披露する。ブレイクのシルキーな声と雨粒のような透明なピアノと霧のごとき電子音が交錯し、崇高なムードすら漂わせる名曲である。この曲を持って『ラブ・ホワット・サバイブス』はしめやかな終焉を迎えるわけだ。
 このように『ラブ・ホワット・サバイブス』は前半と後半で対照的な音楽を展開している。光と影。動と静。陰と陽。太陽と雨。もしかするとこの二重性はドミニク・メイカーがアメリカの西海岸に移住し、ロサンゼルスとロンドンの両都市を行き来するようにアルバムが創り上げられてきたことにもよるのかもしれない。
 そして何よりこの二重性は、希望と絶望が混じり合う2017年以降の都市やストリートのムードに思いのほかしっくりと馴染む。無邪気に未来を求めるだけでもない。しかし単なる懐古趣味でもない。いわば、未来/ノスタルジア。そう、彼らはまたも時代にアジャストするサウンドスケープ/サウンドトラックを作り上げたのだ。
 いずれにせよ『ラブ・ホワット・サバイブス』は、2017年におけるビート・ミュージックの転換を刻印した記念すべき作品である。もはやビート・ミュージックはエレクトロニック・ミュージックのクリシェを反復する必要はないと宣言しているように聴こえてくる(今年リリースされたアルバムではジャンルと音楽性の融解/越境という意味において、ローレル・ヘイローの新作『ダスト』に近いかもしれない)。
 ジョイフルで、美しく、時代を、都市を、ストリートを疾走し、深い祈りを捧げる「音楽」であること。『ラブ・ホワット・サバイブス』には、そんなアティテュードがサウンド全体に漲っているように感じられた。まるで2017年の大人たち/子供たちに捧げる“キッズ・アー・オールライト”のようだ。

Hardfloor - ele-king

 相変わらずぶりぶりびきょびきょ言っております。たまりません。こういう音に対するフェティシズムをこそ「萌え」と呼ぶのでしょう。ドイツ最強のアシッドハウス・デュオ、ハードフロアがニュー・アルバムを9月27日にリリースします。アートワークはデザイナーズ・リパブリック。そしてなんと日本盤には、9月16日に公開される映画『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 1』のために書き下ろされた新曲がボーナス・トラックとして追加収録されます。この秋はアシッド漬け確定ですね。ここはひとつ、みんなでぶりぶりびきょびきょしちゃいましょう。

結成25周年!!
アシッドハウスの雄“HARDFLOOR(ハードフロア)”
最新作『The Business Of Basslines』リリース決定!!
2017年秋公開『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 1』挿入曲
「アクペリエンス 7」も収録!!

アシッドハウス・サウンドを追求し続け、彼らが手掛けたニュー・オーダー、デペッシュ・モード、電気グルーヴらのリミックス作品が今でもダンスフロアのアンセムとして輝く、クラブ・シーンで最も尊敬されるユニットのひと組、ハードフロアの新作『The Business Of Basslines』が9月27日にリリースされることが決定した。

ドイツ、デュッセルドルフ出身のオリバー・ボンツィオとラモン・ツェンカーのふたりによるハードフロアは、ドイツでまだアシッドハウスやテクノが産声を上げたばかりの1991年に結成。翌年1992年に発表した9分に及ぶ「アクペリエンス 1」はクラブ・シーンに衝撃を与え、彼らの名を世界中のクラブ・シーンに知らしめるきっかけともなった作品だ。また、TVアニメ・シリーズ『交響詩篇エウレカセブン』第12話のサブタイトルとしてもこのタイトルが用いられていたのでご存じのアニメ・ファンの方も多いことだろう。

本作の日本盤(のみ)には、9月16日(土)より全国107館でロードショーを開始する『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 1』(総監督・京田知己、脚本・佐藤大、キャラクターデザイン・吉田健一)の為に書き下ろされた「アクペリエンス 7」を収録。また、ジャケット・デザインは、〈WARP〉レコードのレーベル・ロゴや、エイフェックス・ツイン、オウテカをはじめとするアーティストたちのジャケット、ロゴ、マーチャンダイズでも数々の革新的デザインを生み出し、世界中に多くのフォロワーを輩出した、世界で最も影響力のあるデザイナー集団のひとつThe Designers Republic™が手がけるなど、ヴィジュアル面においても注目の作品だ。

前作より3年ぶり、通算10作目のアルバムとなるハードフロアの新作『The Business Of Basslines』は結成25周年となるハードフロアの記念すべき作品として9月27日にU/M/A/Aよりリリースされる。

【作品情報】
発売日:2017年9月27日
タイトル:The Business Of Basslines
価格:税抜2,500円
品番:UMA-1097

【トラックリスト】
01. 25th Acidversary
02. The Business Of Basslines
03. Ode To Mondrian
04. Gypsi Rose
05. Computer Controlled Soul
06. NNAMFOH
07. Can´t Stop - Won´t Stop
08. Married To The Knob(s)
09. Neurobot Tango
10. Bazzid
[bonus track]
11. Acperience 7 (※『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション 1』挿入曲)

HARDFLOOR: https://shop.hardfloor.de/
UMAA: https://www.umaa.net/

『交響詩篇エウレカセブン ハイエボリューション1』
©2017 BONES/Project EUREKA MOVIE
https://eurekaseven.jp/

Tricky × Kahn - ele-king

 ブリストルの王者、トリッキーが9月27日にニュー・アルバムを発売する。それに先駆けて、配信オンリーにてリミックスEPがリリースされたのだけれども、そこになんとカーンが参加しております。どこまでもダークなムードにどこまでもヘヴィなベース……この組み合わせが失敗するはずがない! というわけで要チェックです。なお同EPにはヒートウェイヴとフォルティDLも参加。ちなみにアルバムの方は、ロシアのトップ・アーティストとのコラボが多く含まれており、またホールのカヴァーも収録されているとのこと。

トリッキー、9/27発売の13枚目のアルバム『Ununiform』より、
リミックスEP&先行シングルをリリース。

NOW ON SALE
トリッキーの13枚目のアルバム『Ununiform』より、リミックスEPをリリース。
“The Only Way”、”When We Die feat. Martina Topley-Bird”の2曲を
Kahn、FaltyDL、The Heatwaveがそれぞれリミックス。

アーティスト:TRICKY
タイトル:MIXED BY...VOLUME 1
発売元:!K7 RECORDS / FALSE IDOLS / ウルトラ・ヴァイヴ
品番:デジタルのみ
価格:デジタルのみ
収録曲目:
01. The Only Way (Kahn Remix)
02. When We Die feat. Martina Topley-Bird (The Heatwave Remix)
03. When We Die feat. Martina Topley-Bird (FaltyDL Remix)
購入先:https://k7.lnk.to/MixedbyVolume1

「何年も前にレストランで皿洗いの仕事をしてた時に古いジューク・ボックスがあって、『Maxinquaye』のCDが入ってたんだ。僕はキッチンから抜け出してそのアルバムをプレイして仕事に戻るっていうのがしばらくの間の日課だったんだよ。擦り切れるほど聞いたね。トリッキーの音楽を聴いて以来、音楽にのめり込んで行ったよ。彼の声のトーンとプロダクションのコンビネーションはいつも僕のとても深いところに刺さるんだ。素晴らしいよ」(フォルティDL)

「トリッキーの音楽が俺の人生や音楽家として、どんな影響を与えてきたを言葉にするのは難しいな。彼のアルバムをCDウォークマンで何回も繰り返し聴いて、リリックを覚えて彼の作品の独特な雰囲気に浸っていたガキの頃からずっと音楽と一緒だったんだ。それはブリストルで音楽を学ぶ上で一番大事な部分だったし、今でも俺の音楽や詩の大事な部分であり続けている。彼のいくつかの曲は俺の人生の大事な記憶に結びついているし、自分のアイデンティティの一部でもあるんだ。だから彼の新作のリミックスを頼まれたのはとても光栄だよ。実を言うと最初は自分の最も影響を受けたアーティストと仕事するのに少しビビったんだけど、この仕事は素晴らしい経験になったよ。また近いうちに一緒にやりたいね」(カーン)

「トリッキーのリミックスを手がけるなんてすごいことだよね。10代の頃からとても影響を受けてるし、彼はジャンルをまたいでブレイクしたジャマイカン・ブリティッシュの代表的な存在でもある。グライムやUKガラージ、UKヒップホップが出てくる前にマッシヴ・アタックとかトリッキーがリリックを紡ぎだし、ベースをブチかまして時代を作ってきたんだ。ヒートウェイヴがどんなUKのサウンド・システムになるかのインスピレーションはワイルド・バンチから得たものなんだよ」(ザ・ヒートウェイヴ)

NOW ON SALE
BBC6ミュージックのローレン・ラヴァーンの番組で世界初公開となったトリッキーのニューシングル“Running Wild”は、若い頃の焦りや焦燥をテーマにしたリリックを南ロンドン出身の新人女性シンガー、ミナ・ローザが歌うレイドバックしたダークなフューチャー・ソウルだ。

ミナ・ローザは今秋行われるヨーロッパでのツアーにもヴォーカリストとして参加することが決まっている。

アーティスト:TRICKY
タイトル:RUNNING WILD FEAT. MINA ROSE
発売元:!K7 RECORDS / FALSE IDOLS / ウルトラ・ヴァイヴ
品番:デジタルのみ
価格:デジタルのみ
収録曲目:
01. Running Wild (feat. Mina Rose)
購入先:https://k7.lnk.to/RunningWild

【TRICKY "ununiform"】
2017.9.27 ON SALE

アーティスト:TRICKY(トリッキー)
タイトル:ununiform(アンユニフォーム)
発売元:!K7 RECORDS / FALSE IDOLS / ウルトラ・ヴァイヴ
品番:K7SCDJ350[国内流通仕様]
価格:¥2,300+税
その他:解説付
収録曲目:
01. Obia Intro
02. Same As It Ever Was (feat. Scriptonite)
03. New Stole (feat. Francesca Belmonte)
04. Wait For Signal (feat. Asia Argento)
05. It’s Your Day (feat. Scriptonite)
06. Blood Of My Blood (feat. Scriptonite)
07. Dark Days (feat. Mina Rose)
08. The Only Way
09. Armor (feat. Terra Lopez)
10. Doll (feat. Avalon Lurks)
11. Bang Boogie (feat. Smoky Mo)
12. Running Wild (feat. Mina Rose)
13. When We Die (feat. Martina Topley-Bird)

ワイルド・バンチのDJマイロなどを迎えた2016年リリースの『Skilled Mechanics』に続く本作は、自らのファミリーを含んだルーツに回帰する内容に仕上がっており、そのほとんどをベルリンで、そして内4曲をロシアはモスクワでレコーディング。ベルリンに移住して以来、11時に寝て9時に起きるという朝方にシフト、酒も飲まずヘルシーな生活の中で自らを見つめ直し、ベルリンのクリスマスの喧騒を避け3週間モスクワに滞在し、その時に現地のラッパーとコラボレイト曲を作り上げた。彼曰く20年ほどロシアのヒップホップ・シーンはチェックしているらしく、ロシア訛りのアクセントが気に入っているそうだ。コラボレイターはロシアのトップ・アーティストばかりで、カザフスタン生まれのスクリプトナイト(Scriptonite)は“Same As It Ever Was”、“Blood Of My Blood”、“It's Your Day”にフィーチャーされ、ロシアで最も人気があるヒップホップ・レーベルを運営するプロデューサーであるギャズゴールダー(Gazgolder)が手がける“Bang Boogie”には90年代からロシアのシーンを牽引するスモーキー・モー(Smokey Mo)をフィーチャーしている。さらに本作では今や伝説となったファースト・アルバム『Maxinquaye』収録の大クラシック“Aftermath”にフィーチャーして以来、公私に渡り彼の重要なコラボレーター/ミューズであったマルティナ・トップリーバード(2003年リリースの彼女のアルバム『Quixotic』以来のコラボレート)と久々に共演しているほか、LAでパパラッチされた女優のアーシア・アルジェント、さらに自らのレーベル、〈ファルス・アイドルス〉から2015年にアルバム『Anima』をリリースした女性シンガー、フランチェスカ・ベルモンテを迎え、共演曲である“New Stole”は、そのアルバムに収録された“Stole”のリテイク・ヴァージョン。そしてニューカマーも多くフィーチャーしており、〈ワーナー〉から『Devoted』というアルバムをリリースしているリチュアルズ・オブ・マインのヴォーカリスト、テラ・ロペス、“Running Wild”で美声を聞かせているミナ・ローズ、さらにアヴァロン・ラークスは、コートニー・ラヴのバンド、ホールの1994年の代表曲“Doll Parts”のカヴァーである“Doll”にフィーチャー。彼のファースト・アルバムにも冠されている自らの母の死を目の当たりにしたのが生まれてから最初の記憶という彼の凄惨な生い立ちは、これまで繰り返しテーマとして通底していて、サウンドと共にダークな彩りが彼の持ち味になってきたが、本作は生と死を双方の側から眺める視点と共にピースな雰囲気を湛えた作品に仕上がった。それは今回のアルバムで完全に自らのレーベルで全てを取り仕切ることで初めてレコード会社との軋轢やあらゆる財政的なプレッシャーから解放されたことと、ベルリンでの3年間を通じて自らのルーツ(彼の祖父はブリストルで伝説となっているサウンド・システムを作り上げたレゲエDJ、ターザン・ザ・ハイプリースト)を振り返ることでより一層自ら表現したい音楽に向き合えたというこの2つの要素が色濃く反映した結果だろう。まさにトリッキー節が全編に漲ったサウンドは美しく壮麗で以前にも増してパーソナルな本作『ununiform』はトリッキーが新たなステージに到達したことを知らせる充実作。

MORE INFO:https://bignothing.net/k7.html

Move D & Thomas Meinecke - ele-king

 米国ではここ数年、警官による人種差別的な射殺事件が相次いでいる。そのような情況に対する歎きや憂いや怒りの念は、ケンドリック・ラマーやビヨンセといった大御所たちを筆頭に、すでに多くの音楽作品へと昇華されているが、それらの思いは大西洋を越え、ユーラシア大陸にまで到達しているようだ。
 ハイデルベルク出身のベテラン・ハウスDJ、ムーヴ・Dことダーヴィト・ムーファン。ハンブルク出身の著述家/ラジオDJ/音楽家、トーマス・マイネッケ。このふたりは90年代終盤から何度もコラボを重ねており、非常にコンセプチュアルな作品を発表し続けている。たとえば2011年の前作では、『Lookalikes(そっくりさんたち)』というタイトルのもと、シャキーラ、グレタ・ガルボ、ブリトニー・スピアーズ、ジャスティン・ティンバーレイク、ジョセフィン・ベイカー、セルジュ・ゲンスブールの6組がピックアップされていたが、6年ぶりにリリースされた新作『On The Map』では、“Norfolk”、“Washington DC”、“Houston”、“East St. Louis”、“Watts”という、ブラック・カルチャーと縁の深い5つの地名が並べられている。アートワークがどこかブライアン・イーノの『アンビエント』シリーズを想起させる点や、リリース元がカッセム・モッセの〈Ominira〉であるという点も興味深いが、もっとも着目すべきなのはやはり、現在の合衆国の情況から大いに刺戟されたと思われるそのコンセプトだろう。
 リベリア共和国初代大統領の故郷であり、軍港を中心に発展した軍事都市であり、ティンバランドの出生地でもある、バージニア州ノーフォーク。言わずと知れたアメリカ合衆国の首都=政治経済の中枢であり、他方でジェリー・ロール・モートンの録音が収蔵されたアメリカ議会図書館を擁するなど、文化都市としての側面も持つワシントンD.C.(ちなみにライナーノーツには、その先駆たる古代エジプトのアレクサンドリア図書館のことを想起すれば、この地はサン・ラの宇宙とも繋がっている、というようなことが書かれている)。かつてライトニン・ホプキンスに活躍の場を与える一方、NASAの主要拠点たるジョンソン宇宙センターを抱え、また昨年象徴的なアルバムをリリースしたビヨンセを世に送り出した地でもある、テキサス州ヒューストン。デューク・エリントンのヒット曲にその名を刻み、あるいはマイルス・デイヴィスを育み、人口の97%がアフリカ系によって占められる、イリノイ州イーストセントルイス。そして、かつてジョニー・オーティスがナイトクラブをオープンした場所であり、1965年に大規模な暴動が発生した地区でもある、カリフォルニア州ロサンゼルスのワッツ。
 アルバムは全体的にダウンテンポを基調としており、ゆったりとしたビートがリスナーに最高の心地良さを提供する。そういう意味でこの作品はチルアウトとしての機能も具えているわけだが、しかし、随所に挿入されるジャズ~R&B~ファンクの断片とさまざまな音声たちが、夢の世界と現実世界との橋渡しをしている。各トラックにはその地に関連づけられた要素が落とし込まれていて、“Washington DC”はサン・ラのようだし、“East St. Louis”はマイルスの『On The Corner』のようである(というかこれ、サンプリング?)。あるいは“Norfolk”で繰り返される「We need peace」という言葉――合衆国でいま何が起こっているのか。聴き手に快楽と同時に思考の契機をも与える、とてもコンセプチュアルなアルバムである。

 そしてムーヴ・Dの創作意欲は枯れることを知らないようで、このマイネッケとの共作とほぼ同時に、べつのプロジェクトのアルバムもリリースされている。ムーヴ・Dと、彼とともにレアゲンツを組んでいるジョナ・シャープ、同じくムーヴ・Dとともにマジック・マウンテン・ハイを組んでいるジュジュ&ジョーダッシュのふたりが一堂に会したスーパー・グループが、マルホランド・フリー・クリニックである。
 トータルで80分を超えるかれらのデビュー・アルバムは、4人が昨年ベルリンでおこなったライヴをもとに制作されている。セオ・パリッシュに憧れるヨーロピアンたちがより洗練されたスタイルでジャムを繰り広げたらこうなりました、というと語弊があるかもしれないが、こちらのアルバムも心地良さと実験性との間のバランスの取り方が巧みで、全体を貫通するその熱量には黙って屈服するしかない。“Boneset”や“Gone Camping”のスペイシーさもたまらないが、白眉は“Ebb & Flow”のイルな展開だろう。

 2017年はベテラン勢が地味ながらも良質な作品のリリースを続けている印象があるが、この『On The Map』と『The Mulholland Free Clinic』の2作もそういう類のアルバムだと思う。ムーヴ・D、50歳、絶好調である。

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