「Ord」と一致するもの

 2013年にリリースを開始、瞬く間に多面的なリリースを展開してきた〈ハウンズトゥース(Houndstooth)〉を説明するには、その母体であるナイト・クラブと、レーベルのA&Rについて触れないわけにはいかない。


印象的な〈Fabric〉のロゴ

 〈ハウンズトゥース〉の母体は、ロンドンの大型ナイト・クラブ〈ファブリック(Fabric)〉。1999年10月にオープンし、2007年、2008年には『DJマガジン』の「Top 100 Clubs in the World」の1位に輝いた、イギリスを代表するクラブのひとつだ。メインは土曜の、「fabric」というハウスやテクノを中心にした夜。金曜は「FABRICLIVE」というサウンドクラッシュ的な夜で、ヒップホップ、ダブステップ、ドラム&ベース、インディ・ミュージック、エレクトロなど、折衷主義というキーワードのもと、意欲的なキュレーションのプログラムが繰り広げられている。日曜は「WETYOURSELF」というイヴェントが2009年から開かれている。2001年には〈ファブリック・レコーズ〉を設立し、「fabric」「FABRICLIVE」という、クラブ・ナイトのコンセプトを反映させたDJミックスのシリーズを毎月交互にリリース。2012年に、ロブ・バターワース(Rob Butterworth、ディレクター)とレオ・ベルチェッツ(Leo Belchetz、マネージャー)がレーベルの担当に着任し、ミックスだけでないアーティスト主体の新レーベルを立ち上げる構想が生まれる。そこで抜擢されたのが、〈ハウンズトゥース〉のA&Rを務めるロブ・ブース(Rob Booth)だった。


2012年リリースの〈Electronic Explorations〉コンピレーション。
MP3のほうは61トラックを収録

 ロブ・ブースはダブステップを中心にしたエレクトロニック・ミュージックのシーンではすでに知られた存在だった。2007年から「エレクトロニック・エクスプロレーションズ(Electronic Explorations)」というポッドキャストを運営してきた彼の経歴は、90年代前半に遡る。デトロイトとバーミンガムのテクノに魅せられ音楽にハマった彼は、1997年、メアリー・アン・ホブス(Mary Anne Hobbs)のラジオ番組「ブリーズブロック(Breezeblock)」に出会い、さまざまなスタイルのエレクトロニック・ミュージックに愛情を抱く。その後、音楽ビジネスを学び、LTJブケム(LTJ Bukem)の〈グッド・ルッキング・レコーズ(Good Looking records)〉での経験を経て、ロブはメアリー・アン・ホブスの番組を制作していたサムシン・エルス・プロダクションズ(Somethin' Else Productions)で働くことになる。アンダーグラウンドなエレクトロニック・ミュージックを、彼が愛したラジオのようなスタイルで紹介するかたちでスタートした「エレクトロニック・エクスプロレーションズ」は、あっという間に人気のポッドキャストとなった。そして、ジェイムス・ブレイク(James Blake)、ピアソン・サウンド(Pearson Sound)、2562などの新しい才能をいち早く紹介したロブのキュレーターとしての手腕は、多くの音楽ファンや関係者から信頼を集めることになった。「エレクトロニック・エクスプロレーションズ」は、2012年からレーベルとして作品のリリースも開始。第1弾の12インチにはアコード(Akkord)、ミラニーズ(Milanese)、カーン(Kahn)、ラックスピン(Ruckspin)の楽曲が収録されている。


〈Houndstooth〉のロゴはジャケット・デザインにも多用されるモチーフだ

 2013年、〈ハウンズトゥース〉はベルリンのコール・スーパー(Call Super)の作品をレーベル1番としてリリース。以降、キング・カニバル(King Cannibal)として知られるディラン・リチャーズ(Dylan Richards)のハウス・オブ・ブラック・ランタンズ(House Of Black Lanterns)、デイヴ・クラーク(Dave Clarke)のユニット、アンサブスクライブ(Unsubscribe)、シンクロ(Synkro)とインディゴ(Indigo)によるアコード、スノウ・ゴースツ(Snow Ghosts/Hannah Cartwright+Alight)、アル・トゥレッテ(Al'Tourettes)のセカンド・ストーリー(Second Storey)、ポール・ウールフォード(Paul Woolford)のスペシャル・リクエスト(Special Request)、スローイング・スノー(Throwing Snow/Alight)など、新しい才能もしくは、すでに著名なアーティストの別名義に焦点を絞ってリリースを続けている。


Call Super / The Present Tense(HTH001)


Akkord ‎/ Navigate EP
(HTH005)


Snow Ghosts ‎/ And The World Was Gone(HTH011)

 筆者の私見だが、これには、たとえばラジオで流れてふと気になった曲について探っていくような感覚を、同レーベルのリリース作品にも持ってもらいたいという運営側の思惑があるのではないかと考える。『レジデント・アドヴァイザー』のインタビヴューで、ディレクターのロブ・バターワースは「すでに実績を持っている人たちではなくて、フレッシュな人選で我々独自のアイデンティティを見出したかった」と述べている。いまのところ〈ハウンズトゥース〉からは、まったくの新人のリリースはない。しかし、まるで「FABRICLIVE」のクラブ・ナイトをオーガナイズするようにキュレートされた面々によるリリースが、今後どのように広がっていくのか、その動向が楽しみなレーベルのひとつであることは疑いようがない。

https://www.fabriclondon.com/

https://www.houndstoothlabel.com/

Throwing Snow - ele-king

 再生ボタンを押すと非西洋的な音色と旋律が妖しげに鳴らされたと思ったら、およそ1分でそこに大胆に乱入してくるもの凄い低音。痺れる幕開けだ。大作映画がはじまるような思わせぶりなイントロにしておきながら、まず、これはベースがキーの音楽なのだとそこではっきりと宣言する。アルバム・タイトルが『モザイク』で、そのオープニング・トラックが“アヴァリス(強欲)”。不敵だ。自分をイントロデュースする術をよくわかっている。スローイング・スノウを名乗るロンドンのロス・トーンズが正確にいくつなのか知らないが、この年若いプロデューサーは、デビュー作でダブステップが認知されて以降の10年のエレクトロニック・ミュージック・シーンをひとまず簡単に総括してしまおうと言わんばかりの態度である。軸はダブステップを端とするベース・ミュージック、それとややアブストラクト・ヒップホップ。そこにドラムンベース、IDM、テクノ、ハウス、ジャングルを少しずつ、そしてもちろんアンビエント。それを、そう、モザイク壁画のようにあるべき場所に迷いなくすっすっと配置していく手際のよさ。この音楽的語彙の豊富さと編集能力はネット世代ならではなのかもしれないが、それにしても、このクールな佇まいはどうだろう。

 ポスト・ダブステップのプロデューサーがハウス回帰していくなかで、ポストのその先はどうなるんだろうとぼんやりと思っていたが、その回答例のひとつがここにあるのではないだろうか。先に言ってしまうと、決定的に新しいものがあるとは思わない。が、非常に折衷的なスローイング・スノウのビート・ミュージックには、そのぶつかり合いから生まれ得る何かを模索する野心がふつふつと感じられる。にもかかわらず、不思議とガツガツとした印象は受けない。たとえば4曲めの“リングイス”では前半パンタ・デュ・プランスを思わせるような澄んだ高音の金属音を反復させたかと思えば、途中で強烈なベースがそこに割りこんでくる。しかしその入り方はとってつけたような感じではなく、あくまでも平然としているのだ……まるであらかじめ、それらが出会うことは決められていたかのように。あるいは、キッドAというシンガーを招聘しているらしい“ヒプノタイズ”は(声質が似ているため)ビョークがついにダブステップのプロデューサーと組みましたと言われればあっさりと信じてしまいそうな完成度の高さとメジャー感でこそ勝負している。ハイライトのひとつは先のEPでも話題になった“パスファインダー”だが、そこにはヒプノティックで烈しいビートと生音のギターの断片、地を這うベースとムーディなシンセの和音があり、それらはしかしこんがらがることなく同居している。

 アルバムは“マエラ”と“オール・ザ・ライツ”のドラムンベースでエネルギーの上昇線を描き、“ドラウグル(亡霊)”のアンビエント・テクノで一気にダウナーな地点まで持って行く(かと思えば、途中入ってくる硬質なビートでまたドライヴする)。それにつづくラスト、“サルターレ(パーツ1&2)”がアルバムのなかでは比較的オーソドックスなテクノ・トラックとなっているのも興味深い。キックは4/4を打ち、その裏をハットがしっかりと刻みながら、光が溢れるようなメロディが視界に広がっていく。そのクオリティたるや、「そういえば、こういうのもできるけどね?」ぐらいのソツのなさだ。

 「モザイク」というからには、それぞれのパーツが役割を果たして全体像が結ぶ何かがあるはずである。ほとんどのヴォーカル・トラックでメランコリックな女声が聴けることや、禍々しくも圧倒的な“ザ・テンペスト”のヴィデオなどにトーンズ独自の審美眼、その気配が発揮されているように思うが、それとてまだまだほんのいち部だろう。スケールの大きな才能の登場……そしてこのデビュー作離れした余裕は、ビート・ミュージックのこの先をわたしたちに夢想させるにはじゅうぶんだ。

Throwing Snow feat. Adda Kaleh - The Tempest from Rick Robin on Vimeo.

DBS presents PINCH Birthday Bash!!! - ele-king

 ピンチはデジタル・ミスティックズと並ぶダブステップのオリジネーターのひとりだ。彼の作品からリスナーたちはダブステップとは一体何なのかを学び、これからこのジャンルで何が起ろうとしているのかも考えられるようになった。
 従来のダンス・ミュージックでは一拍ごとにキックが鳴らされていた。だが、キックの数を半分に減らしたハーフ・ステップという手法とウォブル・ベース(うねるエフェクトが施されたベース音)がダブステップでは主に用いられ、この魔法にかかると140BPMという決して遅くはないスピードが緩やかに進行する。2005年にピンチがスタートしたレーベル〈テクトニック〉の最初のリリースは、Pデューティー(ギンズ名義でも活動)との共作シングルであり、A面に収録された“ウォー・ダブ”は当時のアンダーグラウンドの空気を詰め込んだかのようなダブステップのナンバーだ。
 この曲に対して、B面に収録された“エイリアン・タン”でも140BPMでハーフ・ステップが用いられているが、その上で速く鳴らされるパーカッションやベースのうなり方がそれまでのダブステップとは違ったノリを作り出している。ピンチと同じく、現在もブリストルに住むRSDことロブ・スミスは、ダブステップを140BPMという曲のスピードの中で自由に遊ぶ音楽と定義しているが、ピンチもいち早くその「遊び方」に目をつけた人物だった。

 ピンチは、2013年に新たなレーベル〈コールド・レコーディングス〉をスタートする。2枚目のリリースが、当時19歳でイングランドのバースにある大学で音楽を専攻していた気鋭のプロデューサーのバツ(BATU)だったように、ピンチは新たな才能の発掘にも力を入れている(現地点での〈テクトニック〉からの最新リリースは、ブリストルの若手クルーであるヤング・エコーのひとり、アイシャン・サウンド)。 新人から経験のあるプロデューサーが〈コールド・レコーディングス〉には集まっている。この新しいレーベルでキー・ワードとなるのは、「120-130BPM」だ。

 今週末、ピンチは日本にやって来る。昨年は、エイドリアン・シャーウッドとともにエレクトラグライドでライヴ・セットをプレイしたが、今回はDJピンチとしてDBSのステージに再び立つことになり、本国イギリスでもなかなか体験することができない2時間半のロング・セットを予定している。もちろん、たくさんのレコードとダブ・プレートを携えて、だ。
 その日、同じステージに立つゴス・トラッドは現在、85BPMという未知なる領域を開拓しており、先日のアウトルック・フェスティヴァルにオーサーとして来日していた〈ディープ・メディ〉のレーベル・メイトのジャック・スパロウに、「これは未来だ」と言わしめた。同じくその夜プレイするエナも、ドラムンベースとダブステップを通過した定義することが大変難しい音楽を探究しながらも、国内外を問わず確実な支持を集めている(〈サムライ・ホロ〉から3月にリリースしたEPは既にソールド・アウト)。
 「ポスト・ダブステップ」という言葉が(安易であるにせよ)使われるようになった現在、プロデューサーたちは、大きな変化を常に求められている。だが、この日DBSに集まるピンチを始めとする先駆者たちは、リスナーたちの期待を軽々と越え、これからいったい何が聴かれるべきなのかを決定してしまうような力を持っている。

6.21 (SAT) @ UNIT
DBS presents PINCH Birthday Bash!!!

Feat.
PINCH (Tectonic, Cold Recordings, Bristol UK)
GOTH-TRAD(Live)
ENA
JAH-LIGHT
SIVARIDER

Extra Sound System:
JAH-LIGHT SOUND SYSTEM

Open/Start 23:30
Adv.3,000yen Door 3,500yen

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 232-858)、 LAWSON (L-code: 79718)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、TECHNIQUE(5458-4143)、GANBAN(3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS(090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、Dub Store Record Mart (3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

Caution :
You Must Be 20 and Over With Photo ID to Enter.
20歳未満の方のご入場はお断りさせていただきます。
写真付き身分証明書をご持参下さい。


interview with Lone - ele-king


Lone
Reality Testing

R&S RECORDS / ビート

AbstractIDMHip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

 僕の目の前にあるアルバムのジャケットの表面では、冷たく映るビルの写真がトイ・カメラの多重露光で作り出したようなカラフルな画像のコラージュに飲み込まれる寸前だ。その異なる2つの世界の境目に悲しい目をした青年がひとりたたずむ。彼はローンという名前で知られるマット・カトラーという男で、このアルバム『リアリティ・テスティング』を作り出した張本人だ。

 ここ日本では、2009年、アクトレスの〈ワーク・ディスク〉から発表した(CDR作品をのぞくと)セカンド・アルバムにあたる『エクスタシー&フレンズ』は、何の宣伝も、たいした情報もなしに、口コミでゆっくり広がった。その透明感とビートは、ボーズ・オブ・カナダがヒップホップをやっているようだとも当時はリスナーから言われたそうだが、実際、ローンは自分のルーツとなった音を臆することなく作品で表現してきた。
 2年前の『ギャラクシー・ガーデン』(スペイシーなイソギンチャクがいるジャケット)では、それまでのヒップホップ的なサウンド構築から離れ、これってマッド・マイクじゃんと言いたくなるようなコード感やリズムに、当時ハドソン・モホークやラスティたちの作品に見られた細切れになったビートのシャワーが降ってくる。決して新しいとは言えないスタイルを彼は参照するのだが、向いている方向が完全に後ろ向きではないのだ。懐くかしく、どこにもない音である。

 前作ではマシーン・ドラムと共演、その後はアゼリア・バンクスにも楽曲をするなど、ローン(lone:孤独の意)という名前からはかけ離れた活動にも着手していたが、今作で彼はまたひとりだけの世界に戻った。故郷のノッティンガムを離れ、マンチェスターに新居を構え、自分専用のスタジオまで家の中に作ってしまった彼は、「ヘッドフォンがあればどこでも一緒」と言い切ってしまう。
 ちなみに、彼のDJセットは基本的にハウスやテクノをメインにした、本人曰く、多くの人を楽しませることを主軸としたものだ。孤独でサービス精神がある。面白い男だ。

 今作『リアリティ・テスティング』でローンが奏でる音はヒップホップ色が強い。それも90年代を想起させるものだ。ジャイルス・ピーターソンが2014年のベスト・トラックに選んだ“2 is 8”では、切り刻んだフレーズのループや乾いたドラムの質感がセンス良く鳴っている。
 もちろん、そのリズムの上には現在の彼を形作るアンビエントやテクノのエレクトロなメロディがある。時代や場所を越えた音楽が自分の経験則でブレンドされ誕生する、現在のシーンにはない「新しい」サウンド。ローンは、やはり孤独な男だった。

DJのときはレコードは使わないんだ。でも音楽を聴くときのメインはレコード。レコードを聴くのも好きだし、レコードのノイズをサンプルするのも好きなんだ。音に暖かくてナイスな質感をもたらしてくれるからね。そういうサウンドが好きなんだ。

前作の『ギャラクシー・ガーデン』から2年が経ちましたが、どのような活動をされていたのでしょうか?

ローン:アルバムを作っていた。『ギャラクシー・ガーデン』をリリースしたあとは、しばらく『ギャラクシー・ガーデン』と似たような曲ばかりを作った。それがあまり好きじゃなかったから、少しタイムアウトをとることにしたんだよ。そこから新しいインスピレーションを探しはじめて、違う音楽を聴きはじめたのさ。前作とは違うものが作りたくてね。で、いちどアイディアが浮かんでからすぐ制作に取りかかって、1年でアルバムを完成させたんだ。つまり、自分が何にハマっているかを見つけ出すのに1年かかったってことだね(笑)。

制作活動以外に何か活動はされてたんですか?

ローン:DJもたくさんしてたし、ツアーでいろんな場所を回ってたんだ。それがなければ、もっと早くアルバムを完成させることが出来たかもしれないけど。そういう他の活動で制作はどうしてもスローダウンしてしまうからね。

いろいろな場所を回るといえば、来日されたこともあるんですよね。あなたは2012年に〈R&S〉のショウ・ケースで来日しており、その後のインタヴューで、日本にまた行きたいと答えていましたが、日本のどんなところが気に入ったのでしょうか?

ローン:そうそう。渋谷のWOMBでプレイしたんだ。あそこは僕のお気に入りの場所だよ。日本は大好きなんだ。本当に最高の旅だった。何を気に入ったかって? 何でもだよ(笑)。自分が住んでる国と全然違うし、食べ物も素晴らしいしね。

日本では何をしたんですか?

ローン:渋谷を歩いたくらい。友だちと一緒にいろいろ食べたり、変な店を回ったり(笑)。めちゃくちゃ楽しかった。

前回のアルバムをリリースしたとき、自分のスタジオを作ることを計画しているとおっしゃっていましたが、どのような楽曲制作環境で今回のアルバムを制作したのでしょうか?

ローン:マンチェスターの予備部屋のあるアパートに引っ越して、その部屋からベッドを出して小さなスタジオを作った。いまでもまだ使ってるし、今回のアルバムもそこで作った。なんてことのない普通の小さなスタジオさ(笑)。すごく小さいんだけど、自分のスペースがあるのってやっぱりいいよね。

これからロンドンに引っ越すんですよね? またスタジオを作らないといけませんね(笑)。

ローン:そうなんだよ(笑)。ロンドンだともっと家賃が高いから大変だけど、また作らなくちゃね。やっぱり自分が住んでるアパートに作りたいな。さすがにまずはどこかのスタジオをレンタルするだろうけど、いずれね。

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エレクトロニック・ミュージックをどうやって組み立てていくかの基礎を知ってるだけで、他の人がどうやってるのかは知らない。そっちの方がオリジナルになれると思うんだ。だから、手法が新しい必要はなくて、「あまり理解してない」、「知識がない」っていうことが他との違いを生み出してるんだと思う。

あなたはデータでDJをしますが、作品に散見されるレコード・ノイズからレコードへの愛着も感じられます。CD、レコードのうち、どのメディアを使って普段音楽を聴きますか?

ローン:そう。DJのときはレコードは使わないんだ。でも音楽を聴くときのメインはレコード。レコードを聴くのも好きだし、レコードのノイズをサンプルするのも好きなんだ。音に温かくてナイスな質感をもたらしてくれるからね。そういうサウンドが好きなんだ。

レコードはよく購入するんですか?

ローン:けっこう買うよ。前よりは買う枚数が減ったけどね。DJのためにデジタルでも曲を買うからさ。でもレコード・ショッピングはいまだに大好だよ。

ダンス・ミュージック以外でよく聴くジャンルとミュージシャンは誰ですか?

ローン:どうだろう……。しょっちゅうエレクトロを聴いてるからな……。よく聴くのはテクノとかヒップホップ。エレクトロ以外のものはあまり聴かない。バンド系の音楽も少しは聴くけど、昔のものが多いかな。あとは昔のソウル・レコードとかで、とくにこれっていうのはない。アルバムの制作中は自分の音楽をずっと聴いているしね。

今回のアルバムを作る上で現在のクラブ・シーンから影響を受けている部分はありますか? 

ローン:うーん、デトロイトのクラブ・ミュージックはそうかもしれないな。新しいデトロイトの音楽からは影響を受けていると思う。でも、クラブ・シーンそのものから影響は受けていない。僕のアルバムは自分のヘッドフォンや車のなかで聴く方があっていると思うから。

前作の『ギャラクシー・ガーデン』ではマシーン・ドラムやアネカと共演をし、2013年にはアゼリア・バンクスに楽曲提供をしています。他のミュージシャンたちと楽曲を制作するうえで心がけていることはありますか?

ローン:他のミュージシャンと作業するってことは、すでにその人たちの音楽、やることが大好きってことがわかって共演しているってこと。だから、ただただその人たちのアイディアを曲に持ってきてもらうってことだけでハッピーなんだ。あとは、彼らが持ってくるものが自分の作品に合うことを期待するだけ。そんなわけで、あまり話し合ったりはしないんだよね。流れに任せるだけ。とにかく彼らのやることが好きだから、一緒に出来るってだけで嬉しいんだ。

現在、コラボレーションしてみたいミュージシャンはいますか?

ローン:いや、いまのところいないね。このアルバムもひとりで作完全にインスト・オンリーで作りたかった。でも、これからだれかと共演することは考えるかもしれない。ラッパーとか面白そうだな。アール・スウェットシャツやジョーイ・バッドアスが大好きなんだけど、彼らとコラボできたら最高だろうね。ラッパーと一緒にヒップホップを作りたい。自分のアルバムでというよりは、彼らのために曲を作る感じかな。

“レストレス・シティ”や“オーロラ・ノーザン・クォーター”といった、特定のモノや状況を表した曲のタイトルが多いですが、そのなかで“2 is 8”は暗号のような響きを持っています。このタイトルは何を示しているのでしょうか?

ローン:あの曲はね……、曲を作っているとき僕はときどき紙に書いたりするんだ。とくに楽器に関しては本格的なトレーニングを受けたわけではないから、どうすればいいかわからないことが多々あるんだよ。だからときに自分のやり方でどうにかその音を作らないといけないことがある。で、その書き留めてたなかに"2 is 8"っていう言葉があって、それが良く見えたんだよね。みんなにはわからないかもしれないけど、"2 is 8"っていうのはこの曲のビートがどうやってできたかっていうのを表した暗号みたいな感じなんだよ(笑)。他人には暗号のように見えるだろうけど、僕にとっては意味があるんだ。

今作を日々の記憶を収めた日記のようなものだと答えていますが、普段の生活でどのようなものから音楽的にインスパイアされますか?

ローン:生活で起こるすべてのこと。友だちや家族、彼女との人間関係とか、自分が聴いている音楽といった自分の周りにあるもの全てだよ。それが自然と音に出てくるんだ。正直、それがどう繋がってるのかとか、どうやって出てくるのかは自分でもわからない。曲を作るとき、僕はあまり考えごとはせずに流れにまかせているからね。曲のなかで何かピンとくるものがあると「これあの日のことかな?」とかあとで思ったりするよ。言葉にしづらいけど、インスパイアされる事柄は、主に人、人生、音楽だね。あとは経験。そこからの影響が大きいと思う。

今作『リアリティ・テスティング(Reality Testing)』とは、心理学で用いられる用語で、自分の内面が現実世界とどれだけ一致しているかを試すことを意味していますよね? なぜこのタイトルをアルバム名にしたのでしょう?

ローン:僕が使っている意味でのリアリティ・テスティングっていうのは、夢のなかでどれくらいリアリティが意識できてるかっていうのをテストすることを表している。夢のなかの自分がどれだけ「目覚めているか」をテストすることだね。僕の音楽には夢っぽい部分もあるし、リアルな部分もある。自分にとっては、アルバムのサウンドが、自分が起きているときと夢のなかにいるときの中立のサウンドに感じられるんだ。だからそのタイトルにしたんだよ。

前作では、リズムやベースやコードから分かるように、テクノやハウスのスタイルが印象的でしたが、今作には“2+8”のような90年代のヒップホップを土台にしているとも思える曲があります。そこにはどのような意図があったのでしょうか?

ローン:さっきも言ったけど、前に作っていたような音楽を再び作りたくなかった。『ギャラクシー・ガーデン』とは全然違うものを作りたかったから、そこでまたヒップホップを聴きはじめてハマっていった。すごくインスパイアされたし、自分の音と混ぜることで結果違う音楽になったけど、最初はストレートなヒップホップを作りたかったくらいなんだよね。

あなたの表現する音は新鮮でユニークですが、そこで使われる手法は現在のあなたの音楽を形作っているヒップホップやテクノのシーンで長年使われてきたものです。決して新しくはないジャンルの音楽に、これからどんな可能性があると思いますか?

ローン:だね。僕はとくに新しいことはやってない。僕は、他人がどうやって曲を作っているかっていうのをあまり学ばないようにしているんだ。エレクトロニック・ミュージックをどうやって組み立てていくかの基礎を知ってるだけで、他の人がどうやってるのかは知らない。そっちの方がオリジナルになれると思うんだ。だから、手法が新しい必要はなくて、「あまり理解してない」、「知識がない」っていうことが他との違いを生み出してるんだと思う。僕は、あまり「これが正しい」とかそういうことは気にしないんだ。ただ自分が音楽作りを楽しんでるだけで。
 可能性はかなりあると思うよ。だって音楽はつねに変わっていくものだからさ。新しいスタイルの音楽はつねに出てきているし、そのヴァリエーションも豊富だよね。いまの時代、より多くの人が音楽を作っているから、いまからスタイルが多様になっていくと思う。これからもっとクレイジーになるんじゃないかな。僕みたいにあまり構成を理解できなくてもミュージシャンになる人がたくさん出てくるわけだからね。自分のやり方で作ったら違うものが出来た、みたいな機会も増えはずだ。だからジャンルの新旧は関係なく、数年後には音楽の可能性はもっと広がっていくと思うよ。

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影響を受けたアーティストっていうのは、ボーナスみたいなものなんだよ。ボーズ・オブ・カナダも他のアーティストに影響は受けているだろうけど、彼らは彼らのやるべきことをやってるわけだからね。自分で自分の曲を作るっていうのがまず前提。


Lone
Reality Testing

R&S RECORDS / ビート

AbstractIDMHip Hop

Tower HMV Amazon iTunes

あなたはノッティンガム出身ですが、生まれ育った街でどのようにしてクラブ・ミュージックと出会ったのですか?

ローン:10代の頃、ヒップホップのイヴェントがあったらから、そこに行くようになったんだ。クラブ・シーンとはまた違うけど、そこで街に来たお気に入りのDJがプレイするのを聴いていたよ。オウテカとかスクエア・プッシャーみたいな、後々までインスピレーションを受けるアーティストたちもたくさん来ていたね。それがクラブ・ミュージックを体感した最初の経験なんだ。

10代の頃に〈ワープ〉のミュージシャンに大きな影響を受けたそうですが、なぜその音楽に惹き付けられたのですか?

ローン:〈ワープ〉の作品の魅力は、ジャンルが定まっていないこと。他にはない新しい音楽を常に作り出していると思う。そこがエキサイティングだ。ルールに制限されてないしね。テクノのレコードを聴けばどのアーティストでもテクノに聴こえてしまうけど、例えばボーズ・オブ・カナダなんかのレコードは他と全然違う。そこがすごく面白くて、どんどんハマっていったんだよ。

大きな影響を受けたミュージシャンに、あなたはマッドリブや、いま言ったようにボーズ・オブ・カナダを挙げていますが、彼らの音楽は現在のあなたにどんな影響を与えていますか?

ローン:いまは正直どう影響を受けてるかはわからない。いまはもっといろいろな音楽に影響を受けてるからね。もちろん、彼らの初期の音楽には衝撃を受けたのは事実だ。僕の活動の基盤を作ってくれたアーティストたちだということに変わりはない。だから、いまも直接的ではなくても影響は受けてるかもしれないね。
 でも、ずっと同じものから影響を受けていると、退屈してしまうんだ。そうすると、音楽がダメになってしまうと思う。自分をハッピーにするものを作らないとね。彼らも自分たちで音楽を作っているし、僕もそこに影響を受けて曲を作り始めた。影響を受けたアーティストっていうのは、ボーナスみたいなものなんだよ。ボーズ・オブ・カナダも他のアーティストに影響は受けているだろうけど、彼らは彼らのやるべきことをやってるわけだからね。自分で自分の曲を作るっていうのがまず前提。僕が作ろうとしているものもそれと同じなんだ。

それではあなたが音楽を作るようになったきっかけを教えて下さい。

ローン:最初は9か10歳くらいだったと思う。古いレイヴ・ミュージックなんかを聴いていて、自分が最初に気に入った音楽がそういうジャンルだった。自分で言うのもなんだけど、クリエイティヴな子供だったから、自然にそういう音楽の自分のヴァージョンを作りはじめた。テープレコーダーしかなくて、最悪の環境だったけどね(笑)。それから15歳くらいでコンピュータを買ってもっと真剣にやりはじめたんだ。もっと曲作りに興味を持つようになって、自分の世界にどっぷりつかってキーボードを弾いたりするようになった。そんな流れかな。

ノッティンガムからマンチェスターへ引っ越したことは、あなたのキャリアにどう影響を与えましたか?

ローン:たくさんの人に出会ったことは変化のひとつだった。クラブにも行くようになって、自分がクラブで聴きたいと思う音楽を作るようになったっていうのも影響のひとつだね。でも、それ以外はあまり変わってないんだ。家にいてヘッドフォンをつけている分にはどこにいたって同じだからね。


ルーク・ヴァイバートだね。彼がエイフェックスツインとDJしているのを見たんだ。それは自分が行った最初のフェスでのことだから、2002年だと思う。彼らはジャングルやヒップホップをプレイしていて、テクノもたくさんかかっていて、僕が大好きな音楽だらけのセットだったんだ。

日本であなたの人気のきっかけになった作品は2009年発表の『エクスタシー&フレンズ』でした。国によって、あなたの音楽の受け入られ方にどのような違いがありますか?

ローン:違うとは思うけどあまり直接意見は聞かないから、あくまでも現場で自分が感じる範囲での話だけど、日本ではとくにクリエイティヴなものが好まれているような気がする。そっちのほうが日本っていう場所にも合っているしね。日本の文化や映画もクリエイティヴだし。だから、僕の音楽のような作品は日本では受け入れてもらいやすいのかも。

あなたのアルバムのジャケットのアート・ワークはとても刺激的です。『エメラルド・ファンタジー・トラックス』のジャケットのような時間を忘れてしまうような美しい写真を使ったものから、今作の現実と夢の世界が入り交じった抽象的なものまであり、音楽を聴かずともあらゆるイメージが伝わってきます。あなたの作品にとって、ジャケットはどう重要なのでしょうか?

ローン:ジャケットやアートワークは音楽と同じくらい重要なものだ。レコードを聴くときも、僕はいつもアートワークを見る。良いレコードっていうのは、音楽とアートワークのふたつが繋がっていると思うんだ。相乗効果で、それぞれがより良く感じられる。アートワークとの繋がりが強い方が、音楽もより良く聴こえると思うしね。
 だから、自分のレコードでは毎回その繋がりをかかさないようにしているんだ。僕自身のレコードの楽しみ方は、音を聴きながら、またはその後でジャケットやなかのスリーブを見ること。そのアートワークに情報がつまっていたりもするから音楽とアートワークとの繋がりは本当に大切だと思うよ。

ライブセットよりもDJセットを披露することが多いそうですが、なぜ自身を表現する手段としてDJを選んだのですか?

ローン:エレクトロのライブってめちゃくちゃつまらないと思うんだ(笑)。ひとりの人間がコンピュータの後ろに立っているだけだろ? 今年は僕もライヴをするけど、DJの方は音楽に焦点があたっているから好きなんだ。プレイする人間はメインじゃないし、DJがやるべきことは音楽を皆のために選ぶこと。そっちの方がパソコンの後ろに立っているより楽しいんだ。

では自分のライブをやる時は、どうやってオーディエンスを楽しませることが出来ると思いますか?

ローン:まだあまり経験がないから何とも言えないんだけど、アートワークを担当してくれたトム・スコールフィールドにステージへ来てもらおうかと思っているんだ。ビジュアルを取り入れるっていうのが今考えている次のステップかな。ビジュアルの要素があれば、人が見に来る意味が出来ると思うから。

前回のボイラー・ルームでの自身の曲にDJ スピナなどのヒップホップを混ぜ合わせたDJセットが印象的でしたが、現在はどのようなセットでDJをすることが多いですか?

ローン:自分が音楽を作る上で影響を受けた音楽をたくさん流しているよ。でもあまりヒップホップはプレイしないんだ。みんなクラブへダンスをしに来ている場合が多いからね。だからテクノやハウスをプレイすることが多いかな。あと、もちろんそれに影響を受けた自分の音楽もプレイする。あとはセット全体が楽しいことを心がけていて、あんまりシリアスなDJセットはやらないんだよね。

いままでの人生で最高のセットを披露したDJは誰ですか?

ローン:そうだな……。たぶんルーク・ヴァイバートだね。彼がエイフェックスツインとDJしているのを見たんだ。それは自分が行った最初のフェスでのことだから、2002年だと思う。彼らはジャングルやヒップホップをプレイしていて、テクノもたくさんかかっていて、僕が大好きな音楽だらけのセットだった。当時16歳だったから、年齢もあってそういう音楽を探求するのがめちゃくちゃ楽しかったんだよね。サウンドシステムでジャングルみたいな音楽を聴くのは初めてだったから、「ワーオ! 超クレイジーだな!」って感激したんだ(笑)。

あなたのレーベルである〈マジック・ワイヤー・レコーディングス〉の最後のリリースは2012年でしたが、今後のリリースの予定はあるのでしょうか?

ローン:今実はそれに向けてイタリアの若いプロデューサーと一緒に作業しているところなんだ。僕の活動やツアーで忙しかったからなかなか進められてなかった。でもそれが落ち着いたら、今年と来年はもっと新しいアーティストのレコードをたくさんリリースしたいと思っているよ。

最後に次回作をリリースするまでの計画があれば教えて下さい。

ローン:まずはライブだね。今年はツアーでいろいろ回るんだ。でもすぐに次のレコードを作りたいね。ビートのないアンビエント作品っていうのがいま考えているプランで、ドラムの音のない美しいものを作りたいと思っているんだ。どうなるかわからないけど、とりあえずトライしてみて様子を見てみるよ。これから数週間はロンドンへの引っ越しでバタバタするだろうけど、スタジオを見つけ次第、たぶん来月くらいには作業を始められるんじゃないかな。

なるほど。ありがとうございました。

ローン:こちらこそ。また次回日本に行けるのを楽しみにしているよ!

LIL' MOFO - ele-king

奇数月第2水曜日、新宿OPEN "PSYCHO RHYTHMIC" 主催。夜の匂いの染み込んだレコード
を、ざっくりしかし心を込めてプレイ。レゲエ・ヒップホップ・ダンスミュージック、
さまざまなパーティーにて放蕩する人たちの琴線に触れ、お酒も良く出ると評判に。
https://mofobusiness.blogspot.jp/
https://soundcloud.com/lil-mofo-business
https://www.mixcloud.com/LILMOFOBUSINESS/

2014/6/13 NOMAD(AIR) DAIKANYAMA
2014/6/14 GRASSROOTS HIGASHIKOENJI
2014/6/15 VINCENT RADIO SHIMOKITAZAWA
2014/6/19 GARAM KABUKICHO
2014/6/20 KATA(LIQUIDROOM) EBISU
2014/6/21 GOODLIFE LOUNGE KITASANDO
2014/6/28 TIMEOUT CAFE(LIQUIDROOM) EBISU
2014/6/29 TORANOKO SHOKUDO SHIBUYA

本日の「iPODで聴いてます」 2014.6.4


1
Meyhem Lauren & Buckwild - Silk Pyramids - Thrice Great Records

2
Andre Nickatina - Cupid Got Bullets 4 Me - Fillmoe Coleman Records

3
Delroy Edwards - Slowed Down Funk Vol. 1 - L.A. Club Resource

4
Delroy Edwards - 55 min Boiler Room mix - BOILER ROOM

5
Ben UFO - Never Went to Blue Note - BOILER ROOM

6
Asusu - FABRICLIVE x Hessle Audio Mix - fabric

7
Omar S - Romancing The Stone! - FXHE

8
KALBATA & MIXMONSTER - CONGO BEAT THE DRUM - FREESTYLE

9
HOLLIE COOK - TWICE - Mr Bongo

10
King Krule - 6 FEET BENEATH THE MOON - True Panther

The Bug - ele-king

 ケヴィン・マーティン──UKのエレクトロニック・ミュージック・シーンにおけるレフトフィールド、大いなるアウトサーダー。テクノ・アニマル(ゴストラッドにも多大な影響を与えている)、あるいはエクスペリメンタル・オーディオ・リサーチ(ソニック・ブームとケヴィン・シールズによる電子音楽/アンビエント/ドローン・プロジェクト)などでの活動をはじめ、最近では〈ハイパーダブ〉からのキング・ミダス・サウンドの作品がお馴染みだが、彼にとってもっとも知られたソロ・プロジェクトと言えば、ザ・バグだろう。

 エイフェックス・ツインの〈リフレックス〉から2003年に出した『Pressure』は、ダブ、レゲエ、ブレイクコアが渾然一体となった作品で、2004年に同レーベルからの12インチ、ウォーリアー・クイーンをフィーチャーした「Aktion Pak」は、いま聴いても最高の輝きをほこっている。また、UKグライムやダンスホールのMCたちをごっそりフィーチャーした、2008年のアルバム『London Zoo』は、その年のベスト・アルバムの1枚だった。
 ザ・バグの魅力を手短に言えば、パンク時代のドン・レッツやジョー・ストラマ-、そして90年代初頭のマッシヴ・アタックへと連綿と繋がっている、ジャマイカ音楽にインスパイアされたUKサウンドシステム文化の再解釈にあると言えるだろう。ダブがあり、ラップがあり、そしてメッセージはポリティカルだ。いまでは『London Zoo』は、やがて暗く荒れ狂うロンドンを予見した興味深い作品としても聴ける。

 さて、ケヴィン・マーティンのザ・バグ名義の新作『エンジェル&デビル(Angels & Devils)』が8月16日にリリースされる。
 客演には、デス・グリップスゴンジャスフィ、そして前々から話題になっていたグルーパー、そして、とんでもないアルバムを発表したばかりのインガ・コープランド、そして、例によって、ウォーリアー・クイーンやフロウダンなどといった路上で鍛えられた凄腕のMCたちがいる。
 アルバムには、言葉としても、サウンドとしても、さまざまな暗喩が仕掛けられているが、『エンジェル&デビル』が6年の歳月を経て発表するに相応しい力作であることは間違いない。 

 まずは、アルバムのリリースに先駆けて、デス・グリップスが初めて外部のアーティストとコラボレーションした“Fuck A Bitch”、そして〈ワープ・レコーズ〉の神秘主義者ゴンジャスフィが激しく陶酔する“Save Me”を聴いていただこう。


THE BUG
Angels & Devils

BEAT / NINJA TUNE

amazon >>> https://amzn.to/1s22puC
Tower Records >>> https://bit.ly/1peKGxW
HMV >>> https://bit.ly/1peKm2k


interview with Martyn - ele-king


Martyn
The Air Between Words

Ninja Tune/ビート

TechnoHouse

Amazon iTunes

 そもそも2009年にマーティンが脚光を浴びた理由は、ダブステップにインスパイアされたリリースにおいて、わりと直球にデトロイト・テクノからの影響が反映されていたからだった。当時としてはそれがシーンにとってはまだ珍しく、斬新だったわけだが、20年前のレコードが輝いているこの1~2年に関して言えば、時代が要請するひとつのスタイルにまでなっている。まあ、いっときのスタンダードである。
 オランダのアイントホーフェンという街には、90年代に〈Eevo Lute Muzique〉という素晴らしいレーベルがあった。オランダのテクノといえばガバとトランスといった時代に、このレーベルはデトロイトのエモーショナルな旋律とテクノ・ファンクを取り入れることで、大きくて、派手で、ドラッギーで、マッチョで、アグレッシヴなシーンとは別の、小さいがセクシーで親密な道を切り開いた。その同じ街で、90年代半ばのテクノとドラムンベースを聴いて育ったマーティンが、ダンス・ミュージックにおけるへヴィメタルとも形容されるEDMのアメリカで暮らしながら、デトロイティッシュ・サウンドを追求することは必然と言えば必然だ。
 2011年の前作『Ghost People』は〈ブレインフィーダー〉からのリリースだったが、今回の『The Air Between Words』は〈ニンジャ・チューン〉からとなった。方向性にとくに変化はない。彼がこれまでのやってきたことがさらに洗練されているだけである。強いて言うなら、今回はカール・クレイグ・スタイルというか、徹底的にメランコリックで、ジャズの響きを引用しながら、ときにはっとする美しさを打ち出している。フォー・テットが参加して、インガ・カープランドが歌っているのも本作のトピックで、この人選からもおわかりのようにテクノ色が強く、彼らが参加した2曲ともクオリティが高い。とくにフォー・テットとの共作は、ああ、このコード感、デトロイトやなー、である。

デトロイト・テクノが好きな理由は、そこにソウルを感じるからだ。ダンス・ミュージックでありながらメランコリックな感覚があるし、哀愁がある。一方、EDMは基本的にすべてがアグレッシヴなんだよ。

ものすごくお忙しいそうですが、毎週末DJがあるといった感じなのでしょうか?

マーティン:そうだね、毎週末DJはいまも忙しくやってるよ。

最近、TVドラマの『HOUSE OF CARDS』をずっと見てまして、あのドラマの舞台がワシントンじゃないですか。あなたは見てましたか?

マーティン:うん、僕も観てる。僕、あまりTV観ないんだけど、長いシリーズのドラマはたまにちょこちょこ観てて、例えば『True Blood』とかも。『HOUSE OF CARDS』は僕が住んでるワシントンが舞台だからなんだか身近に感じるし、それに少し政治的なエッセンスを感じるのも魅力のひとつかな。僕は政治についてアメリカで少し勉強したりしてたからちょっと興味があるのもあって楽しんでみているよ。

アメリカは大きな国ですし、ヨーロッパと比較してテクノやハウスが広く理解されているとは思えない印象を持っているのですが、実際のところあなたはどう感じていますか?

マーティン:アメリカとヨーロッパでは全然違うというのが僕の印象だね。例えばアメリカにはEDMと呼ばれているシーンがあるけど、EDMは、クラブ・ミュージックというよりは、もっとレイヴ風のものなんだよ。逆にクラブではハウスがメインなんだと思う。だから僕の場合はクラブでギグすることもとても多いんだけど、いまはアメリカでプレイ出来ることをとても楽しんでいるよ。

“Forgiveness Step”という言葉は、今回のアルバムのキーワードですが、何を意味しているのでしょう?

マーティン:“Forgiveness Step”のアイディアは、アルバムにも参加してくれてるコープランドと一緒に作業したものなんだけど、アルバムにもあるように、この曲は3パートに分かれている曲なんだよ。“Forgiveness Step 1”,“2”はアルバムで、“3”はEPに収録されているんだけど、基本的には同じアイディアの元に作った曲ではある。しかし、3曲ともがそれぞれ少し違う意味合いを持つ曲なんだ。
 だから、その言葉と言うよりも、アルバム自体を3段落に分けたかった、というのが大きい。そして、3段落ともつながっているということを明確にしたかった。それに「Forgiveness(許す)」ということを実際する場合には、3段階を踏まないと謝罪したことにならないだろう? そういう意味合いも含まれているんだ。

今回はあなたの重要なルーツであるデトロイト・テクノというコンセプトが、これまで以上に、さらに追求されていますよね?

マーティン:何にせよ、僕がオランダでクラブに行っていたときによくシカゴやデトロイト・テクノがかかってたからね。これも影響を受けたもののひとつかもしれないよね。僕にとっては自分のDNAのなかに組み込まれているような感じだから、もう自然に出てくるものなんだよ。だからとくに意識して追求したというより、自分の好きな音を追求したら自然にそうなったという感じなんだと思う。

デトロイト・テクノやディープ・ハウスと最近のEDMとはどこに違いがあると考えますか?

マーティン:デトロイト・テクノが好きな理由は、そこにソウルをとても感じるからだ。ダンス・ミュージックでありながら、メランコリックな感覚があるし、哀愁がある。一方、EDMは基本的にすべてがアグレッシヴなんだよ。だから、その違いは大きいと思う。もちろん、どんな音楽を聴こうと個人の自由だ。ただし、僕個人に関していえば、やはりエネルギーを魂を感じる音楽が好きだ。単純に楽しくて軽いノリの音楽よりもね。

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今回のアルバム制作をする前、自分の音がなんだか流されているような気がして、自分らしい音が何なのか模索していたんだよ。

ところで、アメリカに移住してから、実際にデトロイトには行かれたのでしょうか? 誰か仲良くなったDJ/プロデューサーはいますか?

マーティン:デトロイトには3回行ったことがあって、1回はフェスだったね。で、2回は自分のショーをやるために行ったんだけど、とても興味深い場所だよね。あんまりデトロイトの人との付き合いはないんだけど、カイル・ホールは知ってるよ。いろいろな人に会うことで刺激を受けるのはいいことだと思うしね。

ヨーロッパのベース・ミュージックと、アメリカで流行っているベース・ミュージックとの違いに戸惑いことはありますか?

マーティン:正直言ってベース・ミュージックがなんなのかよくわからないんだよ。もともとはダブステップからはじまって、ハウス・ミュージックにベースが乗ってるっていうことだろ?

アメリカで流行っているトラップは?

マーティン:ごめん、これについては全くわからないや(笑)。

5年前と比較して、ダンス・カルチャーの良くなったところと悪くなったところについて話してもらえますか?

マーティン:たくさんの音楽があるっていうのはいいことだとは思う。ただ、時代が変わって音楽が聴き手に届く速度は速くなっている。曲が完成してからリスナーに届くまで2~3日で世界中に広まる。そこはいいことだと思うよ。
 でも、たしかに悪い面もある。例えばクラブで演奏しているとオーディエンスは音楽を聴きに来ているというよりも、写真を取ることに必死で、それをFacebookとかinstagramにアップロードして、自分のステータスを周りに伝えることに重きを置いている人が目に付くようになったのは事実だ。演奏を聴いてない人が多いと思う。まあ、プレイしている僕たちも、もっと人の気を惹かせられるようにしなくちゃならないんだろうなとは思うんだけど。

今回のアルバムのひとつの特徴として、古い機材を使って、バック・トゥ・ベーシックな音を追求していることが挙げられますよね?

マーティン:今回のアルバム制作をする前、自分の音がなんだか(時代に)流されているような気がして、自分らしい音が何なのか模索していたんだよ。そんなときに昔の機材を使ってみたら驚くほどしっくりくることがわかって、それをアルバムに反映しようと思ったんだよ。

新作は、ダンス・ミュージックではありますけど、強制的に踊らせるような音楽ではありません。むしろ、前作以上にじっくり家でも聴ける作品になったと思います。あなたは、音楽によって、ただダンスするのではなく、もっといろんなことを感じて欲しいと考えているのでしょう? 

マーティン:音楽を制作している過程ではどういうシチュエーションで聴いてもらえるかとかは、あまり考えずに作っているんだよね。もしそれを聴いて踊ろうがベッドで静かに聴こうが、僕にとってはどっちでもかまわないんだ。良いメロディの良い曲が仕上がればそれでいいわけだからさ。

ジャズのフィーリングは意識して取り込んだものですか?

マーティン:うん、ちょっと意識したかな。僕の家族はみんなジャズが好きなんだけど、家にはつねにジャズのレコードがあったし、自然に触れある環境下にはあったと思うよ。

僕は、とくにアルバムの後半、6曲目の“Two Leads and”以降が、面白く感じましたけれど、あなた自身はこの作品のどんなところが好きですか?

マーティン:前半部分も良いよ(笑)。人によって前半が面白いと言う人もいれば、君のように後半が面白いと思う人もいる。みんなが好きなように解釈してくれていいと思う。僕はもちろん全部を通して好きだけどね(笑)。

UR風のコード展開の、フォーテットとの2曲目“Glassbeadgames”は今回の目玉のひとつですが、彼とはどうして知り合ったんですか?

マーティン:フェスやライヴで何度かしか会ったことがなかったんだけど、会ったら必ず音楽の話をしていた。その話の流れで、いつか一緒にやりたいねって話になった。で、お互いにアイディアを出し合ってオンラインで素材を受け渡ししながら彼と作業したんだ。僕たちふたりとも移動が多いし、スタジオに入る日を調整してやるよりオンラインで作業した方が効率的だからね。

インガ・コープランドを起用していますが、僕は個人的に彼女のユニークなスタンスが大好きです。あなたは彼女の音楽のどんなところが好きですか?

マーティン:彼女が書く、メロディアスで美しいメロディが好きだな。そこがいいなって思う。

歌詞ではどんなことを歌っているのでしょう?

マーティン:歌詞は正直あんまりわからないんだ。僕にとっては、まずは彼女の声が重要であって、とくに歌詞の意味を考えたりしたことはない。彼女も歌詞について、とくに意味については多くを語らないしね。自分の内から出てくるものを反映しているんだと思う。

あなたが最近お気に入りの音楽について話して下さい。ジャンル問わずです。家で、ひとりになったときに聴きたい音楽とか。

マーティン:90年代初頭のテクノをよく聴いているよ。その頃の〈ワープ〉の作品が大好きなんだ。オウテカ、アクトレス、LFOなんかもよく聴いてるね。他にはジャパン、YMOも大好きなんだ。だから、80年代の音楽も良く聴くね。

ところで、ワールドカップが間近ですが、母国のことは気になりますよね? ロビン・ファン・ペリシーやロッベン、スナイデルらのこととか。

マーティン:もちろんサッカーは大好きだよ! そして自分の母国オランダ・チームを応援する。前回はファイナルで負けたから、今回こそ優勝すると思うよ!

作曲家と考える「4分33秒」 - ele-king

 絶賛発売中の『「4分33秒」論——「音楽」とは何か』が、イヴェントとなって本屋B&Bさんに登場! 批評家・佐々木敦にとって長年のテーマのひとつであったジョン・ケージの「4分33秒」。『「4分33秒」論——「音楽」とは何か』は、このあまりにも有名な作品について、佐々木さんが全5回・15時間をかけて語り倒した連続講義「4分33秒を/から考える」を一冊に収めたものです。
 しかしながら、「4分33秒」を/から考えることに終わりはありません。いまもなお、この作品からさまざまなことを考えつづけることが可能なのです。
 本書刊行を記念して、今回は作曲家の鈴木治行さんをゲストにお招きし、現役の作曲からの視点も交えて「4分33秒」を/から考えていきます。

 現在の音楽において「4分33秒」とはいかなる意味を持つのか? 「4分33秒」以降を生きるわたしたちにとっての音楽とは?

イヴェント&フェア情報!

イヴェントやフェアも続々決定。
情報は随時更新いたします

■佐々木敦『「4分33秒」論——「音楽」とは何か』刊行記念トーク・イヴェント
『「4分33秒」論』を/から考える

日時:
6月22日(日)
14:30~16:30(14:00開場)
出演:
佐々木敦(批評家)
鈴木治行(作曲家)
場所:
本屋B&B
世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F
入場料:
1500yen + 1 drink order
サイト:
https://bookandbeer.com/blog/event/20140622_a_sasakiatsush/


■近藤譲×佐々木敦トークショー

批評家・佐々木敦さんが、ケージを理解するうえで「とりわけ重要な本」と位置づけたのが、7月にアルテスパブリッシングから復刊される作曲家・近藤譲さんの処女音楽論『線の音楽』(初版1979年)。この2冊と、コジマ録音から初CD化される『線の音楽』のリリースを記念して、近藤さんと佐々木さんの初顔合わせによるトークショーを開催することになりました。

日時:
7月23日(水)
19:30~
出演:
近藤譲
佐々木敦
場所:
お茶の水のブック&カフェ「エスパス・ビブリオ」
サイト:
https://www.artespublishing.com/blog/2014/06/11-1519

詳細は追ってお知らせします!


interview with the insect kids - ele-king


Insect Kids
Blue Ghost

P-Vine

Indie RockPsychedelic

Tower HMV iTunes

 昆虫キッズはストレンジなバンドだ――そういう意味ではオルタナティヴだと言ってもいい。いったいこのバンドの音には、そしてフロント・マンである高橋翔の言葉にはどのような参照軸が設定されていて、あるいはどこへと向かっているのか、そのような凡庸な分析やストーリーは真っ向から排していくのが昆虫キッズの音楽である、と彼/彼女らの音楽を聞くたびにそう思わされる。未来から鳴っているのか、過去から鳴っているのかわからない。昆虫キッズの音楽は自ら歌っているように「時間軸が/変だ 変だ 変だ」。

 オルタナティヴ・ヒップホップ・グループとされているヤング・ファーザーズは、“オルタナティヴ”とはなにかにアゲインストする表現であって、自分たちはそのような態度で音楽をやってはいないから“オルタナティヴ”・ヒップホップではない、と語った。そういう意味では昆虫キッズはオルタナティヴ・ロックではないのかもしれない。なぜなら彼/彼女らのコアは、(少なくともこのインタヴューで知りえたかぎりでは)大いなる空白だから。

 パンクに憧れ、ロックの夢を見るグレイト・ホロウ=昆虫キッズ。最新作『BLUE GHOST』をリリースし、そのリリース・パーティを控えるこのバンドのフロント・マン、高橋翔との対話を(考えのズレや行き違いも含めて)ぜひお楽しみください。

■昆虫キッズ
2007年、東京都にて結成。のもとなつよ(Bass/Vo)、佐久間裕太(Drums/Cho)、高橋翔(Vo/Gt)、冷牟田敬(Gt/Key/Vo)の4名で活動。数枚の自主制作盤リリースののち、2009年にファースト・アルバム『my final fantasy』にてデビューする。翌2010年にセカンド・アルバム『text』を発表。ツアーや各種イヴェントへの出演が増え、2011年には2枚のシングル「裸足の兵隊」「ASTRA」、2012年にはサード・アルバム『こおったゆめをとかすように』、アルバム未収録曲を集めた「みなしごep」と快調にリリースをつづけ、2014年5月、これまでの活動の転機ともなる4枚め『BLUE GHOST』が発売された。


デジタルだけでの録音はあまり好きじゃなくて、これまでやっていなかったんだよね。でも、やってみないとわからないなと思って。

以前、高橋さんにお会いしたとき「『こおったゆめをとかすように』ですべて出しきった」というようなことをおっしゃっていました。

高橋:えっ、そんなこと言ってた?

はい(笑)。最初の3作は3部作ようなものだとも。

高橋:そう。後づけだけど、3作できたときにバンドとしてひとつのものとしてできあがったから、区切るタイミングかなと思ったんだよね。このまま『こおったゆめをとかすように』から地続きで4枚めを作るというより、いったんラインを引いてなにかを意識的に変えなきゃなと思った。

変えた部分というのは具体的にどういうところですか?

高橋:今回は佐藤優介くん(カメラ=万年筆)に録音とミックスを任せて、客観的な意見を訊いたりしたこと。それと、これまでの作品はテープの音だったんだよね。ファースト(『My Final Fantasy』)はカセットテープとハードディスクで、セカンド(『text』)とサードはオープンリールで録った。デジタルだけでの録音はあまり好きじゃなくて、これまでやっていなかったんだよね。でも、やってみないとわからないなと思って。やってみて、どういうメリット/デメリットがあるのかを把握したかった。演奏する側の人間は変わらないけれど、ちょっと「引っ越し」したいなと。1駅くらいだけど、ちょっとちがう町に行ってその町の環境がどうなのか見てみたい――そういうことを試みてみたいと思った。

優介くんがレコーディングとミックスをやったことによってどういう音になったと高橋さんは思いますか?

高橋:優介くんはファーストからずっと聴いてくれてたんだよね。もともと面識はあったけどそれほど深く話す関係でもなく、その距離感がすごく良かった。彼はひとつのジャンルに特化せずにオールマイティに聴いているから、いっしょにやるならそういう人がいいなと思った。ミックスの段階で「好きにやってみて」と優介くんに投げて、どうなるのかが聴きたかったんだよね。俺がまったく手をつけず、他人がやったときにどういうふうになるのかなというのが気になったから。結局、その後いろいろと発注しちゃったんだけど(笑)。

ちょうど作業中の優介くんに会ったときに「高橋さんと佐久間(裕太)さんの意見が対立していて困っている」という話をしていました。

高橋:佐久間くんは佐久間くんの聴きかたがあるからさ、またちがうし。俺には俺の聴きかたがあるから。たぶん対立しているわけじゃないけど、板挟みでちがう意見を言われるから困ったんじゃないのかなあ。もちろん他のメンバーの意見は聞くけど、だいたい自分で決めているかな。これまでは8割がた完成ミックスを自分のなかで決め込んで、かつちょっと余白を残しておいて、意見を聞いて残りの2割を埋めていくというやりかただったんだけど。

単純に意味不明にもしたくないし、かといって濃厚なメッセージがあるようにもしたくない。どっちにも寄りたくないんだよね。

今回、前作までのヒリヒリとした感じよりも、全体的に少しリラックスしたような感じや軽快さが曲調に出ているように思いました。そこは意識的に雰囲気を変えようとしましたか?

高橋:それはあまり意識していないかな。曲を作るときはそのときの気分が元手になっているから、ヒリヒリしているときはそういうものができるのだろうし。一回そういうものを作ってしまえば、また同じようなものを作りたいとは思わないんだよね。それとはちょっとちがうものを作りたい。そういう反動はあると思う。

なるほど。リード・トラックの“Alain Delon”はなぜ「アラン・ドロン」なんですか?

高橋:サビのメロディーを作ったときに、それが「アラン・ドロン」っていうふうに聞こえただけ(笑)。

それほど意味はない?

高橋:ごめんね……申し訳ないけど……(笑)。空耳アワーのような感じで(笑)。でも、「アラン・ドロン」ってなにか意味があるような感じがするよね。

高橋さんの歌詞は韻をたくさん踏んでいたり、リズムを重視していることも多いと思います。歌詞はどのように書いていますか?

高橋:歌詞は曲を作るときに、同時進行で書く。歌のメロディができたら思いついたことをパッと羅列して、そうすると楽曲のキーワードになる言葉が出てきたりするんだよね。それをつなげて、自分で補足する。だから、そういう作りかたの時点でほとんど自己統制は破綻している。そうやって意味があるのかないのかわからないようなものを書くっていうのは意識しているかもしれない。単純に意味不明にもしたくないし、かといって濃厚なメッセージがあるようにもしたくない。どっちにも寄りたくないんだよね。その中間くらいが温度としていい。

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9割は嘘を言っていて1割は本当のことが入っているような、俺はそういうのが好きなんだよね。どこかに真実が紛れ込んでいるのがおもしろいと思う。

冒頭の“GOOD LUCK”や初期の“恋人たち”のような情景描写的なものと、言葉のリズムに寄ったものと、高橋さんの歌詞にはモードがふたつあるように感じます。そこにはどのようなちがいがありますか?

高橋:曲のタイプによってわけているんじゃないのかな。曲自体のニュアンスでまた変わるんだろうね。そこまで自分で分析できていないよ(笑)。歌詞は曲と同時に書きたいから、おおまかなプロットのようなものを立てて、そこから寝かして、少しずつ手直ししていってできあがる。

けっこう時間をかけるんですね。

高橋:すぐできる曲もあるし、できないものはずっとできないんだよね。歌入れの当日の朝に書いたものもあるし。できないときはできないっていうのは自分でわかっているから、その場合は待つしかなくて、待っていればそのうちどうにかなる。

歌詞を書くときはどういうことを考えて、どのような言葉を落とし込もうとしていますか?

高橋:考えすぎると自分の地の感じが出るから、それはあまりしたくなくて。意識している部分と無意識の部分とが織り交ざっているんだけど、結局書くのは自分だから自分のなかの言葉しか出てこない。でも自分の癖みたいなものに頼らないようにはしている。自分の「節」みたいなものはあまり作りたくないなと思って。

ずっと歌詞の抽象的な話になって恐縮なのですが、個々の歌詞に場所や舞台は具体的にありますか?

高橋:ある。“Metropolis”だったら、タイトルどおり近未来っぽい、SFっぽい感じとかを出したかったし。でも、そういう一曲がきっかけで、ひとつの世界観に傾倒しちゃうんだよね。“冥王星”も“Metropolis”に近いものが出たし。トータルで見ると、今回のアルバムはSFの影響を受けているなあって思った。そのときにSFを読んでいたわけじゃないんだけど、星新一とかアシモフが好きなんだよね。

そこに言いたいことを組み込んだりはしますか?

高橋:入っているんじゃないかなあ。9割は嘘を言っていて1割は本当のことが入っているような、俺はそういうのが好きなんだよね。どこかに真実が紛れ込んでいるのがおもしろいと思う。ぜんぶフィクションで書いているつもりはないよ。やっぱりどこかに本当のことが入っているとは思う。それがどこかって言っちゃうのは野暮だけど、でもどこかにはあると思う。飲み屋で友だちと芸能ゴシップについて話したりするのが好きなんだけど、そういうものを嘘だとも本当だとも思っていないんだよ。でも、ひとつのネタがいろんな人を介して伝言ゲームのように膨張していくのがおもしろい。「真実よりもよくできた嘘のほうがおもしろい」って。それはまさにそのとおりだと思う。……でも歌詞なんてさ、無意識だよ。意識して書けない。なんの意識もないところではたらいている部分があるって、インタヴューをやっていると気づくんだよね。本当は「なんもねえよ! 俺がやりたいことに意味なんてあるわけないじゃん!」って言いたい。でも、それを言ったら終わりだからさ。

でも、アルバム4枚ぶんの言葉を高橋さんが書いているわけですから、そこにはどのようなものがはたらいているのかを知りたいんですよ。

高橋:みんな孤独を愛してくれと思うんだけどね(笑)。孤独はかわいいもの、愛でるべきものだよ。歌詞っていうのはもう、そこで言葉として放っているものだから、結局それを説明するっていうのは非常に難しいんだよね。

それ自体、野暮な話ではありますからね。

高橋:それでも追求したいっていうのはわかるよ。でも、そうなると心理学みたいになっちゃうから。


血眼で探し当てた宝箱を開けたら子どもの頃の古い写真が一枚だけ入っていたようなバンド。

ところで、ファーストをリリースしたとき、高橋さんはおいくつでしたか?

高橋:2009年だから、23歳か24歳かな。

その当時をいま振り返ると、どんな感じですか?

高橋:これは訊かれたときによく答えていることなんだけど、正直に言って昆虫キッズは「続けよう」っていうスタンスではやっていなかった。バンドをはじめた当初はCDが出ればそれがゴールだったんだけど、せっかくだからライヴをやって、地方へも行って――そんなふうにやっていたら新しい曲ができて、曲が溜まったから次のアルバムを作る。昆虫キッズはそういう行動の延長線上でずっとやってるんだよね。血眼で探し当てた宝箱を開けたら子どもの頃の古い写真が一枚だけ入っていたようなバンド。

では、昆虫キッズのコアは空白なんですか?

高橋:うん。そうだと思うよ。バンドをやっている上でのコンセプトや信念が「ほしい」と思うぐらいにないもん。

なるほど。高橋さんが昆虫キッズでやりたいこと、やろうとしていることってなんですか?

高橋:いまの4人のメンバーで足並み揃えてできることならなんでもいい。4つのピースがないとできないことだからさ。そういうバンドとしてのバランスっていうのはすごく意識している。バンドって、ずっと続けているとそのコミュニティに所属している感じがしてひとつの家族みたいなものになってくる。不思議な関係性だよね。

では、4人のメンバーがイコール昆虫キッズということなんですね。

高橋:うん。だれか1人が辞めたらダメだなって思ってる。代わりがいない。

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いま、「ロック・バンド」ってどういうバンド? 自分たちはロック・バンドなのかなあっていう疑問がある。

高橋:ところで、ヴェルヴェット・アンダーグラウンドは何枚めが好き?

僕は3枚めですね。

高橋:絶対3枚めでしょ! 俺もそう。でも俺はジョン・ケイルが好きなんだよなあ。(※)

なんでですか?

高橋:なんか中途半端だから(笑)。

アカデミックなほうへも、ロックのほうへも振りきれない感じがありますね。絶対に権威になれない感じが。

高橋:なれないね。そこにかわいげがある(笑)。

もしジョン・ケイルの音楽を一言で表わせって言われたら困るような音楽家ですよね。

高橋:そう。そういう人が好き。いまだにジョン・ケイルが何者なのかわからないよね。そんなにジョン・ケイルのことは知らないんだけど、なぜかシンパシーはある。

ジョン・ケイルを言語化できない感じは、昆虫キッズとも似ているかもしれませんね。

高橋:天野くんはこのアルバムはロックとパンクだったらどっちだと思う?

うーん……。

高橋:いま、「ロック・バンド」ってどういうバンド? 自分たちはロック・バンドなのかなあっていう疑問がある。つねに思うのは、(アルバムを指しながら)こういうものを聴いて10代の子が「こういうバンドをやりたいなあ」って思ってくれたら、それがひとつのゴールなんだよね。

それはロック的な夢ということですか?

高橋:ロックというよりバンドの、だね。

高橋さんがさっき訊かれた「ロック」と「パンク」という、その両者のちがいは高橋さんにとってはどういうものですか?

高橋:パンクは弱い人間から生まれた音楽だと思う。社会的にも経済的にも追い込まれて、あらゆる面で淘汰されてしまいそうな人というか。ロックはもっと計画的で、エンターテイメントというか、芸能文化のレール上にあるのかなあと思う。同じようなものとして考えていたけど、やっぱりちがうと思うんだよね。ラモーンズはパンクだなって思うのは、追い込まれたけどそこから脱出できる強さがあった人たちだから。世間がどうとか社会の情勢がどうとか関係なく、それでも前に出てこられる強さがある――俺の思うパンクっていうのはそういうこと。
それ(“変だ、変だ、変だ”)は自分自身にも言っているし、対外的にも言っている。「変じゃないこと」がなくなってきちゃったなあって。ノーマルにやることが逆に難しいような。  でも、いまはそういうものがあまりない。日本だと、より難しいと思う。嫌な言いかただけど、そういう時代じゃないというか。でもやっぱり、いつもそういう人たちが出てこないとダメじゃないかなあと思うんだよね。お笑いで言えば、たとえばダウンタウンみたいに泥のなかから這い出て栄光を掴んできたような人たち。いまはなにかを始めようという時点でそのフィールドがある程度整備されていて、なんでもやりやすい。みんな同じ整った環境でスタートできるから、そこにはそれほど差がない。そうなると、そこから突出することは難しい。そうなると、えげつないほどの力やとてつもない個を持ったやつがいても出てこられないと思うし、そいつの受けとめられかたもちがってくるんじゃないかなあ。
 たとえばどついたるねんが1970年代や80年代に出てきたとしたら、またちがっていたんだろうね。どついたるねんがじゃがたらと同じ時代にいたらどうだろう……。江戸アケミにぶっとばされるかな(笑)。いま、なんでもできちゃうっていうのは、また重荷なのかもしれないね。だから、音楽自体の持っている魅力というか、魔力みたいなものが霞んじゃう気がするんだけどね。

僕は昆虫キッズの音楽はどこかマージナルな場所から聴こえてくるように思います。そういう意味では「パンク」的です。

高橋:たぶん、自分はそういうものに憧れてはじまったけど、憧れは捨てなきゃ次にいけない。パンクの思想や方法とは別の角度からバンドをディレクションするのも自分の仕事だから。そこで訪れる変化のタイミングを受けとめて、アメーバのように細胞分裂を繰り返していて、得体の知れないものになると思う。

だから、そうやって4人でバンドをやっている?

高橋:そうだね……。そうだと思う。

“変だ、変だ、変だ”という曲のタイトルがまさに昆虫キッズだと僕は思うんですよね。

高橋:そうだね。それ(“変だ、変だ、変だ”)は自分自身にも言っているし、対外的にも言っている。「変じゃないこと」がなくなってきちゃったなあって。ノーマルにやることが逆に難しいような。普通にやることがいちばん大変かもしれないよね。


※誤解を招くおそれがありましたため「でも」を加えております(6/12訂正)

昆虫キッズ『BLUE GHOST』発売記念公演「Stay Ghost」

会場:東京・渋谷WWW
公演日:2014年6月11日(水)
開場 18:30 開演19:30
出演者:昆虫キッズ、高島連 with ハイハワ原田

チケット料金:前売¥2,800  当日¥3,300
(各税込、Drink代別途¥500 全スタンディング)

・プレイガイド予約
(1) チケットぴあ コード:230-962
(2) ローソンチケット コード:77728
(3) e+ https://eplus.jp/sys/main.jsp

・WWW店頭

・メール予約
the_insect_kids@yahoo.co.jpまで、お名前、ご来場人数(お1人様につき4名まで予約可能)、連絡先を明記の上メールをお送り下さい。
※公演前日6/10(火)まで受け付け致します。
※当日受付にて前売料金をお支払い頂きます。
※ご入場順はプレイガイド、WWW店頭チケットご購入者が優先となります。
※やむを得ずご来場できなくなった場合、お手数ではございますがその旨ご連絡をお願い致します。

チケット絶賛発売中

主催:P-VINE RECORDS
お問合せ:渋谷WWW 03-5458-7685

Your Favorite Music About Rain - ele-king

 梅雨入りどころか、先週は記録的な大雨。靴下まで濡れるし、傘は面倒だし、電車やバスに乗っても、街を歩いていても、良い気持ちになれません。
 しかし音楽は、これまで、数多くの雨にまつわる曲を生んできました。下手したら、晴天の曲よりも多いかもしれません。“雨に唄えば”、“セプテンバー・イン・ザ・レイン”、“悲しき街角”、スコット・ウォーカーの“イッツ・レイニー・トゥデイ”、ボブ・ディランの“激しい雨”、忌野清志郎の“激しい雨”、ザ・ビートルズの“レイン”、レッド・ツェッペリンの“ザ・レイン・ソング”……、エコー&ザ・ビバインーメンの“オーシャン・レイン”、プリンスの“パープル・レイン”、アデルの“セット・ファイヤー・トゥ・ザ・レイン”……ザ・サルソウル・オーケストラにもトム・モウルトンのミックスした“サン・アフター・ザ・レイン”があります。アンダーグラウンド・レジスタンスにもアシッド・レイン・シリーズの“ザ・レイン”というハード・テクノがあります。ブリアルの“アーチェンジェル”には、真夜中の雨の気配が横溢しています。宇宙を創造するサン・ラーには、“ザ・レイン・メーカー”があります。
 とにかく雨の音楽は、あまりにも多くあります。ニーナ・シモンの“アイ・シンク・イッツ・ゴナ・トウ・レイン・トゥデイ”、マディー・ウォーターズの『アフター・ザ・レイン』やザ・テンプテーションズの『ウィッシュ・イット・ウッド・レイン』、さもなければザ・レインコーツを聴きたくもなるでしょう。
 雨は、ザ・ビートルズの“ロング・アンド・ワイディング・ロード”に歌われているように、往々にして、敗北、試練、冷たさ、孤独、人生の悲しみなどの暗喩として使われます。自分に相応しすぎるので、ここはひとつ「雨ニモマケズ」で……、いや音楽ファンらしく、雨のまつわる音楽を聴きながら過ごしましょう。エヴリシング・バット・ザ・ガールが『雨のない砂漠のように』と言ったように、雨が降らなければ乾いてしまうのです。ムーディーマンの盟友、ノーマ・ジーン・ベルには“ラヴ・ミー・イン・ザ・レイン”という曲があります。
 それでは、ぜひ、読者のみなさまからの「私の好きな雨の音楽」もメールして下さい。

My Favorite Music About Rain

野田努

1. RCサクセション – 雨上がりの夜空に
2. Horace Andy - Ain't No Sunshine
3. The Beatles - Fixing A Hole
4. Mute Beat - After The Rain
5. Ashra - Sunrain
6. Velvet Underground - Who Loves The Sun
7. Carpenters - Rainy Days And Mondays
8. The Jimi Hendrix Experience - Still Raining Still Dreaming
9. Herbie Hancock Rain Dance
10. Faust ‎– It's A Rainy Day Sunshine Girl

伊達トモヨシ(Illuha, Opitope)

Steve Reich - It's Gonna Rain

ライヒの初期作品は理論的にはラップトップで簡単に再現出来るんだろうけど、その音楽の持つ力はきっと再現出来ない。ライヒの作品を聴くと初期から現在に至るまで、理論的な音楽では再現出来ないものが音楽の中にしっかりと存在しているといつも思う。「音楽とは何なのか?」という根源的な命題を提起するから、僕は今でもたまに思い出しては彼の音楽を聴く。
「雨の音楽」ということで真っ先に思い浮かんだのは、この歌の曲名というよりも「rain,rain,rain」という音の響きだった。ライヒは何故、数ある音の中から"It's gonna rain"を選んだのか。雨の音楽というテーマをもらうまで、そのことを考えて聴くことはなかったけど、少なくともライヒ自身はあえてこの言葉と音を選んだに違いない。おそらく雨の音のミニマリズムに端を発しているであろうこの曲は、雨という現象を表す単語が「レイン」という響きを含む単語でなかったら、この音楽は生まれなかったんじゃないかと思う。
 三部作になっているこの音楽において最初の「rain,rain,rain」というレゾナンス、つまり「ウィーンウィーンウィーン」という音楽的な反響の存在によって、音楽的な成功を納めていて、この曲の存在があってこその作品で、正直なところ後の2曲は技巧的ではあっても音楽として1曲目ほどの力はない。雨というミニマリズムと「レイン」という音楽的な単語の偶然の一致に対する驚きが、この音楽を作品にまで至らしめたように感じられてならない。音楽の言語起源説を想起させるこの作品は、論理や言語では表現しえない、音楽でなければならない理由が存在しているライヒならではの音楽だ。
 今日はたまたま雨だったので、雨音のなかでこの歴史的な音楽を聴いてみた。雨音という自然現象のなかに内包されたミニマリズムの美しさを抽出して作品化するという芸術のあるべき姿を僕はこの曲に見る。梅雨時の低気圧によって低下する免疫能がもたらす憂鬱も、雨音のミニマリズムへの歓喜で乗り越えられる。

ヨーグルト

Malcom Mcdowell - Singin' in the rain

 すぐ頭に浮かんだのは、マルコム・マクダウェルが映画『時計じかけのオレンジ』のなかでアドリブ全開で奇妙なダンスを繰り広げながら、マルコムの仲間達が縛り上げた無抵抗の老人を何度も蹴り飛ばす場面。
 「雨に唄えば」を朗らかに歌いながら、強盗と強姦を犯すマルコムマクダウェル。まったく褒められた行為ではなく、むしろ最悪な状況を映し出しているのに、映像の美しさと「雨に唄えば」のノー天気なメロディーと、マルコムのすっとぼけた歌声が凄惨な場面を中和しているような不思議な後味が残り、時計じかけのオレンジを見たあとは、雨が降ると脳裏をマルコムマクダウェルがよぎるようになったのは自分だけではないはず。
絶対にこんな奴に自宅に強盗に来て欲しくはないんだけど…… 


山田光(hikaru yamada and the librarians)

 パッと思いついたのがブリリアント・グリーンとThis Heatの曲しか無く、これではマズいということで、”rain”と打ち込んだ自分のiTunes検索窓から雨空を見上げて思い出した曲を挙げさせて頂きます。

Rhodri Davies Ko Ishikawa - Three Drops Of Rain / East Wind /Ocean
ヴァンデルヴァイザー楽派のアントワーヌ・ボイガーによる笙とハープのためのコンポジション。空白も多いが今聴くとちゃんと標題音楽に聴こえる。つまり梅雨にボーっと聴いても最高!

Gil Evans & Lee Konitz - Drizzling Rain
邦題が驟雨とつけられた菊地雅章の曲。リー・コニッツと晩年のギル・エヴァンスのデュオですがこれはほんとにオススメです。素朴で手探りなピアノは貴重。梅雨そのものに浸れそうな曲想。気分転換にはならない。

Cory Daye - Rainy Day Boy
雨の音と雷がちゃんとサンプリングされている都市音楽。外goしましょう!

小畑ミキ - 雨はいじわる
一人GSというジャンルが昔あったそうで、グループサウンズ風の楽曲を歌う60年代のアイドルの人。最近では自殺したと思われてたフレンチポップのアイドルがFacebookに現れてファンを驚かせた事件などありましたが、この人もシングル6枚出して引退後は消息不明、その後自身の犬猫写真をアップしているサイトにアイドル時代のことを書いて再発見されていました。(現在は削除)。

Dominique Barouh et David McNeil - Sur Un Barc, Sous La Pluie
ピエール・バルーの元妻の歌唱による可愛い曲。邦題が“ベンチで、雨の中”。可愛くて雨のなかで聴いても空気変わります。ドミニク・バルーさんが歌っている曲はこの世に4曲しかないのですが、そのうち1曲をまだ聴けていません。持ってる人いたら連絡ください。

木津毅

1. Tom Waits - Downtown Train
2. Bonnie “Prince” Billy - Raining in Darling
3. The National - England
4. R.E.M. - I’ll Take The Rain
5. Bruce Springsteen - Wreck on The Highway
6. Rihanna - Umbrella feat. JAY-Z
7. Bob Dylan - Buckets of Rain
8. Buddy Holly - Raining in My Heart
9. 尾崎紀世彦 - 雨のバラード
10. BJ Thomas - Raindrops Keep Fallin’ on My Head

 必ずしも雨は降っていなくてもいい。でも雨の歌では歌い手の心は濡れていてほしい……と思って選んだら、(リアーナも含めて)どこぞのおっさんのような並びになってしまいました。けれども雨の歌は、中年がむせび泣くようなウェットな感覚をかばってくれるのでこれでいいのです。おそらく。「ダウンタウン・トレインに乗れば 今夜、きみに会えるだろうか/すべての俺の夢が まるで雨のように ダウンタウン・トレインに降り注ぐ」……。

竹内正太郎

金延幸子 - 空はふきげん

ブレイディみかこ

1.The Beatles - Rain
2.The Pogues - A Rainy Night In Soho”
3.Eva Cassidy - Over The Rainbow

 天候に恵まれない国に住んでいると、いつの間にか自分も人と会った時にまず天気の話から入る。という悪癖を身に着けていることに気づきますが、いつも天気について文句を言っているUKの人間にジョン・レノンが喝を入れたのが “Rain”。「雨だろうが晴れようが心の持ちよう一つだ」という歌詞はブリット・グリットの真骨頂。サウンド的にも、ビートルズはオアシスがやってたCHAVアンセム路線をオアシスよりうまくやることができたバンドだったとわかります。
 “A Rainy Night In Soho”は、”Fairytale of New York”の雨の日版。これを聴くと、詩人としてのニック・ケイヴは秀才で、シェーン・マクゴワンは天才なんだと思います。
 エヴァ・キャシディが歌った“Over The Rainbow”は、ただもう声のトーンが好きで。雨の多い英国では虹を見る機会も多く、従って願いをかけるチャンスも多いですが、一度も叶ったことはありません。

与田太郎

The Kinks - Rainy Day In June(1966 Pye Records)
The Pogues - A Rainy Night In Soho(1986 Stiff Records)
The Men They Couldn’t Hang - Rain, Steam & Speed (1989 Silvertone)

 今年の梅雨はW杯に釘付けで過ごします。どうでもいいことですが、The Men They Couldn’t Hangのこのアルバムはローゼズの1stと同じ年に同じレーベルから出ました。

GONNO

Frankie Knuckles - Rain Falls
Jon Hopkins - Colour Eye
山下達郎 - スプリンクラー
Torn Hawk - Money Becomes Only Itself
Suzanne Kraft - VI
Jon Hassel - Rain
Central Line - Waling Into The Sunshine

ダエン(duenn label)

John Hassell_Brian Eno - Delta Rain Dream
Steve Reich - It's Gonna Rain
Ellen Allien - Sun The Rain(Tim Hecker Remix)
Bebu Silvetti - Spring Rain
The Beatles - Rain
西田佐知子-アカシアの雨がやむとき

 雨の中では霧雨が好きです。そんな雨好きアンビエントっ子な私がセレクトしてみました。よろしくどーぞ!

大久保潤

The Beatles - Rain
Burt Bach - Raindrops Keep Fallin' On My Head

 いずれも少年ナイフのカヴァーが好きです。

橋元優歩

1. Julianna Barwick & Ikue Mori - Rain and Shine at the Lotus Pond
(‎FRKWYS, Vol. 6) - Rvng Intl.
2. Baths - Rain Fall (Cerulean) - Anticon
3. Serengeti & Polyphonic - My Patriotism (Terradactyl) - Anticon
4. 多田武彦 - 雨
5. Pavement - Carrot Rope - Domino
6. Anna Ternheim - Summer Rain (alternate take feat. Nina Kinert, Ane Brun, First Aid Kit and Ellekari Larsson of The Tiny)

松村正人

Rain Tree Crow - Rain Tree Crow - Virgin / 1991
Stanley Cowell - Musa - Ancestral Streams - Strata East / 1974

 レインツリーは別名モンキーポッドといい、雨を予知し雨が来る前に葉をたたむのでこの名前になったらしいが、ほんとうは陽の光に反応し明るいと葉を開き暗くなると閉じる。アメリカネムノキともいい、大江健三郎の連作短編の題名にも同じことばがあるけれどもそちらは想像上の「雨の木」だろう。それより日立製作所の「この木なんの木」の木といったほうが通りがいいだろうか。
 レイン・トゥリー・クロウは1991年に結成した、デヴィッド・シルヴィアン、ジャンセン、バルビエリ、カーンからなる、つまりジャパンのリユニンであり、アルバム1枚で終わってしまったが、一昨日のような梅雨寒の日にこの冷たく湿った彼らの音楽はしっくりくる。小糠雨にふさがれた昨日のような日は雨の曲ではないけれどもスタンリー・カウエルの絹でできた驟雨のようなソロ・ピアノをいつまで聴いていたいが、私は梅雨のはっきりしない天気は好きではない。極寒か酷暑かどっちかにしてほしい。

三田格

1. フィッシュマンズ - Weather Report - Polydor(97)
2. Missy Elliott - The Rain(Supa Dupa Fly) - Elektra(97)
3 . Gazebo - I Like Chopin(小林麻美/雨音はショパンの調べ) - Baby Records(83)
4. Madness - The Sun And The Rain / Stiff Records(83)
5. Rihanna - Umbrella - Def Jam Recordings(07)
6. The Rolling Stones - She's A Rainbow - London Records(67)
7. Cornelia - Stormy Weather - Exceptional Blue(12)
8. Jon Hassell + Brian Eno - Delta Rain Dream - Editions EG(80)
9. Howard Devoto - Rainy Season - Virgin(83)
10. Ashra - Sunrain - Virgin(76)
11. ヤプーズ - 大天使のように - テイチクエンタテインメント(88)
12. Roxy Music - Rain Rain Rain - Polydor(80)
13. J.D. Emmanuel - Rain Forest Music - North Star Productions(81)
14. 大沢誉志幸 - そして僕は途方に暮れる - Epic/Sony(84)
15. Madonna - Rain - Maverick(93)
16. Normil Hawaiians - Yellow Rain - Illuminated Records(82)
17. 川本真琴 - 雨に唄えば - Antinos(01)
18. John Martyn - The Sky Is Crying(ElmoreJames) / Independiente(96)
19. 山下達郎 - クリスマス・イブ - ワーナーミュージック・ジャパン(83)
20. Felix Laband - Rain Can - African Dope Records(02)
次 RCサクセション - 雨の降る日 - ユニバーサルミュージック(13)
or Felt - Rain Of Crystal Spires - Creation Records(86)

 年間で300から400近くの映画を観るけれど、そのうち50本は邦画に当てている(週に1本ということですね)。洋画は10本観て5本が外れ だと感じ、邦画は10本観て9本が外れだと感じる。この時に覚える深い脱力感を乗り越えてなお前進できるネトウヨが果たしていまの日本にどれだけ いるだろうかと思いつつ、それでも僕が邦画を観ているのはもはや怖いもの見たさとしか思えず、なかば平衡感覚を失いながら「『女子ーズ』観た?」 などと木津くんにメールしてしまう(返信は「そんなコワいもの観ませんよー」という常識ライン)。そのようにして右翼も遠巻きにさせる邦画界では ありますが、ひとつだけ名作の法則があります。洋画だと食事のシーンがよく撮れている作品はたいてい名作だと言われるように(粉川哲夫しか言ってない?)、邦画は「雨」がよく撮れている作品は名作の可能性が高く、最近だと、あまり好きな監督ではなかったのに(つーか、『ユリイカ』を観て3日も偏頭痛で寝込んだというのに)青山真治監督『共食い』が非常によかった。ATGのような憂鬱を表現する「雨」ではなく、激動を伝える「雨」が よく撮れていて、その意味が最後にわかるところも驚きだった。……しかし、それにしても、ほかにサンド、デムダイク・ステア、レインコーツ、カン、 ユーリズミックス、クインシー・ジョーンズ、チャンス・ザ・ラッパー…と、レイン・ソングはあり過ぎでしょ〜。マニック・ストリート・プリー チャーズによる『雨にぬれても』のカヴァーは途中までペイル・ファウンテインズにしか聴こえないのはご愛嬌。

シノザキ サトシ(禁断の多数決)

The Cascades - 悲しき雨音
武満徹 - Rain Spell
Ashra - Sun Rain
Ellen Allien - Sun the Rain
Gene Kelly - 雨に唄えば
Madonna - Rain
谷山浩子 - 催眠レインコート
Jon Hassel and Brian Eno - Delta Rain Dream
B・J・Thomas - 雨にぬれても

高橋勇人

1. LIBRO - 雨降りの月曜
2. Don Cherry - Until The Rain Comes
3. Pharaoh Sanders - After the Rain
4. MarkOne - Rain Dance
5. Little Dragon - Stormy Weather
6. Jephe Guillaum and Joe Clausell - The Player Acoustic Mix-
7. Pinch - Angels in the Rain
8. Nick Cave & The Bad Seeds - Ain’t Gonna Rain Anymore
9. Leonard Cohen - Famous Blue Raincoat
10. Prince - Purple Rain

the lost club

the lost club - ”rain”

照沼健太

Beck - Mutations

しんしんと降る雨が、あきらめ、寂しさ、悲しみ、心地よさといったさまざまな色に染まりながら、やがて止んでいく。そんなアルバムだと自分では思っています(妄想)

白井 哲

荒井由実 - ベルベット・イースター

二木信

井上陽水 - 夕立

天野龍太郎

Burial - Dog Shelter
cero - 21世紀の日照りの都に雨が降る
Chance The Rapper - Acid Rain
Faust - It's A Rainy Day, Sunshine Girl
Randy Newman - I Think It's Going To Rain Today
Ray Charles - Come Rain Or Come Shine
Tom Waits - Rain Dogs
遠藤賢司 - 外は雨だよ
大瀧詠一 - 五月雨
テニスコーツ - 雨パラ

25年間生きてきて、雨というものの楽しみかたを僕はまだ持ちえていない。雨は大っ嫌いだ、不快だ。本もレコードも洗濯物もダメにしてしまうし。有史以前より雨という気象現象とつきあってきた人類が、雨への対策法としていまだ傘と雨合羽という原始的な道具を用いている、というのはなんて馬鹿げたことだろう! ……とりあえず僕は心底雨を憎んでいる(全身がすっぽり入るカプセルみたいなものがほしいなあ)。
昔のロックンロールやリズム・アンド・ブルースには雨についての歌って多いように思う。日本のフォークにも。ブリアルのトラックに聞かれるレコードのスクラッチ・ノイズはまるで雨の音みたいだ。ところで、ビートルズには「雨なんて気にしないよ」という“レイン”があるけれど、ローリング・ストーンズには雨についての歌ってなにかあったっけ……?

畠山地平

大滝詠一 - 雨のウェンズデイ

 1982年発売の大滝詠一のシングル『雨のウェンズデイ』。雨はウェンズデイ? 何故か腑に落ちるものがある。これが詩の持つ力なのかと納得していたのだけど、水曜日という名称からして、水という言葉が入っているではないか! まさか大滝詠一のオヤジギャクなのか。
 雨が降る海岸での男女の別れを歌った曲という事で、ここで描かれているシーンは有りがちなのだけど、どこか遠い昔に起きたことのようなそんな気がしてくる。大滝詠一の音楽はアメリカン・ポップスのものなのだけど、この歌詞の感性は万葉集の東人のような、そんな古来からの、そして貴族ではなく、土民たちの感性を感じてしまう。80年代に描かれる大滝詠一の愛はウクライナ問題、放射能、中国の海洋進出、集団的自衛権など世界や日本がシビアな状況になりつつあるいま、ある意味虚無感すら漂わせる距離を感じてしまうがゆえに、逆に心に響くのかもしれないと思った。

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