「KING」と一致するもの

interview with Roots Manuva - ele-king

 彼女は俺の心を開き
 俺をウィードのように巻いて吸い
 そして、もぬけのからにする
“ミー・アップ!”


ROOTS MANUVA
Bleeds [帯解説・歌詞対訳 / ボーナストラック2曲収録]

BIG DADA/Beat Records

Hip HopReggaeUK Soul

Amazon

 あの爆音、あのベース、あのバリトン、そして、あのヘビー・プレッシャー(重圧)……
 デビュー作『ブランド・ニュー・セカンドハンド』のリリースから16年、ロドニー・スミスが最新アルバム『ブリーズ』と共に帰ってきた。このアルバムは、1999年以来6枚目、もしくはコンピレーション・アルバムの『ダブ・カム・セイヴ・ミー』、『オルタネイトリー・ディープ、スマイル&ヴァージョン』、『ダッピー・ライター』をカウントすると9枚目の作品となる。ロドニー・スミスとは、レフトフィールド、ゴリラズのアルバムに参加した男であり、ビートルズ『イエロー・サブマリン』の自身のヴァージョンを発表した男であり、そして、ニュー・アルバムでバリー・ホワイトとマックス・リヒターの両方をサンプルしている男のことだ。

 UKでは、ディジー・ラスカルがヒットを放ち、ワイリーがドンと構え、クレプト&コナンが大西洋をまたぎ、JMEは暴走、そしてストームジーとスケプタが勢いを増している。そんな中、ルーツ・マヌーヴァは崇高とリスペクト、そしてルーツを兼ね備えている。ルーツ・マヌーヴァとはroots manoeuvre 、つまり、ルーツを巧みに操る男ということ。
 その名が全てを語っているのだ。自分よりも8年先にデビューしたマッシヴ・アタックのように、ルーツ・マヌーヴァはサウンドシステムの精神を引き継いでいる。スラム街で育まれ、あらゆる音楽がその周辺に漂うサウンドシステム。ジャマイカン・ファミリーの歴史におけるその精神と崇高の全てが、彼が放つ音とラップに注ぎ込まれているのだ。

俺はいまだに、“ジャマイカ生まれのイギリス人としての自分とは何か”を定義しようとしているし、それがいったい何なのかを追求している。アメリカのラッパーたちは、自分たちが一体どんな存在なのかを即座に答えることが出来るだろう。例えばカニエ・ウエストは“俺は中流階級のパプテスト派だ”と答えると思う。でも俺は、自分が労働者階級のペンテコステ派だと明言は出来ないんだ。何故なら、俺は教会に行かないからね。

 「ひとりひとりバックグラウンドが違うだけで、俺たちは皆、同じスピリットのなかに生きているんだ」
 ゆったりと腰掛け、サウスロンドンの冬の空をサングラス越しに見上げながら彼は言う。「俺はいまだに、“ジャマイカ生まれのイギリス人としての自分とは何か”を定義しようとしているし、それがいったい何なのかを追求している。アメリカのラッパーたちは、自分たちが一体どんな存在なのかを即座に答えることができるだろう。例えばカニエ・ウエストは“俺は中流階級のパプテスト派だ”と答えると思う。でも俺は、自分が労働者階級のペンテコステ派だと明言はできないんだ。何故なら、俺は教会に行かないからね。でも同時に、ペンテコステ派の教会に通っていたバックグラウンドはある。自分が一体何者なのかを定義出来るようになるには、あと15年はかかるだろうな」

 瞑想的でありながらも自信に満ちた歌詞を通して、ロドニーは、彼が与えられるもの、もしくは、自分が与えることを許されたものを人びとに提供している。そして大抵、それはありふれた風景の中に潜んでいるのだ。彼は“敢えて”お茶目でワルな部分を前面に出しながらも魅力とユーモア溢れるラッパーであり、皆を招き入れつつも“俺を怒らせるなよ”と警告している。その内容は、普遍的でありながらもパーソナルなものでもあるのだ。パトワによって暗号化された言葉の数々は、意識の流れとして届けられる。懺悔、信仰、信念、正義、救済、贖罪、倫理、誘惑、疑念、不正、罪……その全てがニュー・アルバムという1枚の布に織り込まれているのである。
 
 「この作品は、経験の数々が織りなす多層構造。ダークなユーモアがありながらも明るいユーモアもあり、悲劇もあるが安息もある」と彼は語る。「俺は痛みを表現するのが好きなんだ。痛みを感じるというのは良いことだし、痛み以外にも喜びや愛だって表現されている。俺はライターだから、ただただ書き続けるんだ。でも、その書いている内容が、一体どこから来たものなのかは俺にはわからない。大抵の場合、自分とその内容に繋がりさえ感じないんだ」

 これまでにリリースされたアルバムからのトラックを聴いてみよう。 “ウィットネス(ワン・ホープ)”、もしくは、まるでペンテコステの教会でダブル・ブッキングされてしまい、同じ空間の後ろでドレクシアが同時にプレイしているような“レット・ザ・スピリット”のドクドクと脈打つベース音。そこには光と暗闇、昼と夜といった感情のミックスとコントラストが常に存在し、これでもかという重低音、深いローエンドの周波数がそれを支えている。
 「俺はいまだに「ダブ・カム・セイヴ・ミー」を聴くんだ」
 自身の過去の作品を聴くかという質問に、彼はこう答えた。「昔、『ブランド・ニュー・セカンドハンド』が大好きな女友だちがいて一緒にアルバムを聴いていたんだけど、聴くたびに最高だと思ったね。でも彼女と一緒に時間を過ごさなくなってから、あの素晴らしさを感じることができずにいるんだ(笑)」

俺は運が良かったわけじゃないんだ。働いて働いて、働きまくってきた。いま手にしているものは、得るべくして得たもの。何をするか、いくら稼ぐかは問題じゃない。凛とした態度で、尊敬の念を持ちながら働くことが大切なんだ。適当にダラダラとやっていれば、リスペクトなんてこれっぽっちも得られないさ。

 最新アルバムのクリエイティヴ・チームには、フォー・テット、ウィズ・ユー(スウィッチ)、マシンドラム(日本盤)といったメンバーが名を連ねている。フレッド・ギブソンもそのひとりであり、彼は、ブライアン・イーノ/カール・ハイドのアルバム『サムデイ・ワールド』への貢献でもっともよく知られている。
 「ルーツ・マヌーヴァ(というプロジェクト)は、ロドニー・スミスだけで成り立っているわけではない」と彼は言う。「このレコードには、俺のヒーローたちが集まっているんだ」
 〈On-U sound〉との繋がりがアルバムによりまとまり感を与えているのには頷ける。プロジェクト・マネージャー的役割を果たしたエイドリアン・シャーウッドは、多くのトラックにおいて、タックヘッドのキース・ルブラン、スキップ・マクドナルド、ダグ・ウィムビッシュ(“俺はただのベース・プレイヤーではない。俺はサウンドシステムなんだ”と自身のウェブサイトで語っている)のサウンドをレコーディング。このトリオは、〈Sugar Hill Records〉からリリースされた「ザ・メッセージ」と「ホワイト・ラインズ」でも共演している。

 「エイドリアン・シャーウッドは、このアルバムの制作担当だった」と彼は説明する。「俺は14トラックのアルバムを作ろうと提案したんだ。でも彼らが、“ダメだ。14トラック・アルバムは作らない。お前が作るのは10トラック・アルバムだ。気持ちはわかるが、そうした方がいい”と言ってきた。結果、UKではアルバムに10曲が収録されて、日本盤にはそれに2曲が追加されたんだ」
 「アルバムを聴いたとき……」と彼は続ける。「作品としては仕上がっていた。でも、あれは俺のチョイスではなかったんだ。もし俺に決定権があれば、15曲は収録されていただろうな(笑)」
 
 「アルバムはワンテイクでレコーディングした。天才だよな(笑)。それに、何よりも満足したのは、ローファイに仕上げたこと。このアルバムはなんというか……」
 ここで彼は一旦口を休め、微笑み、セールスマンの声を真似て、両腕を大きく広げた。「“スタジオへようこそ。ここで何が出来るのかをお見せしましょう! この上下にスライドする78チャンネルをご覧あれ。0.17秒の箇所のステレオ・エフェクト、お次にコーラスの最初の箇所に入ってくるエフェクトをご試聴下さい”。座っていられるから良いんだ。俺はただ、自分が好きなサウンドが出てくるまで待っていればいいだけだからね」

俺のひい爺さんが俺たちに何を望んでいたかっていう話をいまでも聞くんだ。俺の爺さんが俺たちに何を必要としていたかという話も聞く。俺のお袋が1年半前に亡くなったから、いろいろな話が出てきたんだ。おかしな話だよな。母親が死んでから、生きていたとき以上に彼女を知るようになった。

 アルバムは、“ハード・バスターズ”の「Most broke cunts are all true bastards. And most rich cunts are even more bastards(金のないアホどもの殆どが真の出来損ない。そして金持ちのアホどもの殆どは、それにも増して出来損ない)」という歌詞ではじまり、「この曲は号泣のツールキットだ」と彼が微笑みながら語る“クライング”に続く。
 そして3曲目、フォー・テットがプロデュースした“フェイスティ2:11”で、リスナーは奇妙で風変わりな、そして不思議な世界に引き込まれていく。この曲を、彼は「“ウィットネス(1ホープ)”の従兄弟のようなトラック」と表現している。「ボートレース」という言葉を優雅にリピートするコーラスが特徴的なこの曲では、「フロウェトリー」という動きの流れが表現されている。スラング、ジャマイカ語、英語という遊び場を言葉が駆け回り、文化を絡め、つなぎ合わせているのだ。「これはラップについてのラップで、俺はラップに関してラップするのが好きなんだ」と彼は言う。「フェイスティ」は、ジャマイカ語のスラングで無礼で横暴な人を意味する。
 「俺には、スペインに住んでいる息子がいるんだ。今朝彼と話をしていた時、息子と話す時の言葉に気をつけなければと本気で思った。スラングを使って話したら、息子は俺が何を話しているのかさっぱり分からないだろうからね。彼に理解してもらうには、言葉をハッキリと発音しなければならない。一方で、イギリスに住んでいる長男に対しては、自分の両親が俺に話していたのと近い話し方で会話するんだ。イギリス訛りをより多く使う。息子はあまりその訛りを理解してはいないけど、俺は理解出来るようになって欲しいんだ」
 “ドント・ブリーズ・アウト”の歌詞には美しい感受性と楽観性が含まれ、“ワン・シング”では「When I shake my tambourine, I shake that ever so keenly/I do my best to get a Lamborghini/My girlfriend love snakeskin bikinis(タンバリンを振る時は、精一杯振りまくる/ランボルギーニを手にするためなら何だってやる/俺の彼女はヘビ皮のビキニが好きなんだ)」という笑いを誘う歌詞もあり、言葉のリズムが、ペンテコステのタンバリンのピュアな精神と消費者主義の増強した誘惑を結びつけている。
 「ランボルギーニは欲しいよ」と笑いながら彼は言う。「でも、100万ポンド貯まるまでは買わないだろうな。そんな大金程遠い(笑)人生で100万ポンドなんて手にすることはないだろうし。金ができたら絶対に買うけどな」
 微笑みながら彼は続けた。「でも、必要ってわけじゃないんだ。俺はそんな考え方はしない。自分が得てきたもののために仕事がしたいし、それを得るために仕事をしてきた。俺は運が良かったわけじゃないんだ。働いて働いて、働きまくってきた。いま手にしているものは、得るべくして得たもの。何をするか、いくら稼ぐかは問題じゃない。凛とした態度で、尊敬の念を持ちながら働くことが大切なんだ。適当にダラダラとやっていれば、リスペクトなんてこれっぽっちも得られないさ」

息子たちといるとき、俺がラガ・ミュージックを聴いていると、あいつらが毎回「親父、頼むから俺たちの言語の音楽をかけてくれない?」と言ってくる。いつも文句を言っているんだ。「何で俺の両親はこんなダサい音楽が好きなんだろう!?」ってね。

 「俺のひい爺さんが俺たちに何を望んでいたかっていう話をいまでも聞くんだ」と彼は続ける。
 「俺の爺さんが俺たちに何を必要としていたかという話も聞く。俺のお袋が1年半前に亡くなったから、いろいろな話が出てきたんだ。おかしな話だよな。母親が死んでから、生きていたとき以上に彼女を知るようになった。お袋若かったときの話、彼女が何をしてきたかという話を聞いた。苦労したけど、彼らは同時に人生を楽しんでいたんだ。お袋はいつも、俺が彼女ほど苦労というものを理解していないと言っていた。でも俺は、彼女が素晴らしい人生を送っていたということを知ったんだ。俺と違って、彼女にはポケットマネーがあったからな(笑)
 俺のひい、ひい、ひい爺さんは、運良くキューバへ引っ越した。彼は、ジャマイカから初めてキューバへ行ったジャマイカ人のひとりだったんだ。そこでせっせと働いて、金を稼いだ。俺たちの出身地からすると、その場所はかなり田舎で、何の変哲もないところだった。でも、いま自分のルーツを振り返ると、彼らは昔よりも断然裕福なんだ。いまや、俺の家族は何軒か店を持ってるんだぜ! すごいよな。店のオーナーなんだ。なかには違法なことをやってる親戚もいるけど、そのことに関してはあまり話さないでおこう(笑)」

 アルバムのラスト・トラック“ファイティグ・フォー”を、彼は「家庭内での葛藤、家族の人間関係」についてだと表現している。何度か結婚し、息子も数人いる彼にとって、家庭内での葛藤は、“ファイティング・フォー”の境界を余裕で超えているのだ。
 「息子たちといるとき、俺がラガ・ミュージックを聴いていると、あいつらが毎回“親父、頼むから俺たちの言語の音楽をかけてくれない?”と言ってくる。いつも文句を言っているんだ。“何で俺の両親はこんなダサい音楽が好きなんだろう!?”ってね」
 しかし彼は、息子たちがルーツ・マヌーヴァとして活動する父親を誇りに思っているのは知っている。「(ルーツ・マヌーヴァの音楽を)好きは好きなんだ。でも、あいつらは、いまのままじゃ物足りないらしい。“親父、そろそろアデルとコラボしたほうがいいぜ。デイヴィッド・ゲッタとか! 期待してるんだから、頼むよ!”だってさ」
 これこそ“ヘビー・プレッシャー”(重圧)だ。


TOYOMU - ele-king

2015年音楽まとめ日記

Miss Red - ele-king

 イスラエルのMC、ミス・レッドのミックス・テープ『マーダー』が先週より公開されている。プロデュースはザ・バグこと、ケヴィン・マーティンが担当。マーティンがイスラエルにツアーで赴いたときから、その交友ははじまった。いま彼女はアンダーグラウンドで注目を集めているMCのひとりだ。昨年リリースされれたザ・バグのアルバム『エンジェルズ&デビルズ』や、日本のビム・ワン・プロダクションのシングル「ナー・ボーイ」にもミス・レッドは参加している。
 今回の『マーダー』には、マーク・プリッチャードやアンディ・ストット、マムダンスといった豪華プロデューサーも参加している。文句なしの強力なトラックのうえで、ミス・レッドの妖艶な声が揺れる様は圧巻。こちらのサイトにてフリーでミックスを聴くことができるので、是非チェックしてほしい。マーク・プリッチャードとの“マーダー”は、後日ミス・レッドの〈レッド・レーベル〉より7インチでリリースされるとのこと。


Murder – Miss Red

Miss Red /Murder / Red Label
01 Mad
02 Murder (Mark Pritchard riddim)
03 No Guns
04 What Would You Like (Andy Stott riddim)
05 Rollercoaster
06 Ganja Man
07 Sugar
08 Lean Back (Stereotyp riddim)
09 Trash It
10 Fever
11 Pull It Up (Mumdance riddim)
12 Leggo (Evian Christ riddim)
13 1 Dog Shot
14 Come Down

Lyrics/Vocals - Miss Red
All riddims built by - The Bug (unless otherwise stated )
Produced The Bug
Mastered by Stefan Betke aka POLE


パーソナルなの? 地球規模なの? - ele-king

 ミステリー・ジェッツ……あのミステリー・ジェッツだ。「テムズ・ビート」なんて呼ばれて親しまれたあの頃から時が止まっているひとは驚いてしまうかもしれない。コンスタントにリリースをつづけてきた彼らだが、1月に発売される新作『カーヴ・オブ・ジ・アース(Curve of the Earth)』ではスケールを増しているどころではない。その一端を先行シングルのヴィデオにて確認することができるだろう。彼らがフォーカスする生命の神秘とは──?

UKロックの異端児ミステリー・ジェッツが先行シングル「Telomere」のビデオを公開!
ミステリー・ジェッツ結成史上、最高傑作『カーヴ・オブ・ジ・アース』は来年1月15日発売!

今作ビデオはUNKLE「Hold My Hand」やフォクシーズ「Youth」を手掛けたジェームズ・コープマンが監督を務めています。今作ビデオでは生物の染色体の末端を保護する役目を担い、細胞老化に影響を与えるTelomere(テロメア)という生命の神秘をテーマを女性ダンサーとボーカル/ギターであるブレイン・ハリソンが泥に塗れながらエモーショナルに歌い上げている。

シングル「Telomere」に関して、作曲を担当したボーカルのブレイン・ハリソンがコメントを寄せている。「昨年の冬にスタジオを離れて、テムズ川に停泊するボートの上で1週間滞在していたんだ。携帯電話も通じない、TVもない場所で幾つかの本を持ち込んでた。そうした中、「全ての苦境や栄光は僕らの血の中に流れ生きている」というミラン・クンデラの祖先に関する本の中の文章に出会ったんだ。Telomere(テロメア)は僕らのDNAの末端にあるキャップ状のもので染色体を保護している。まるで靴ひもの先端の部分の様にね。 そして、それらは染色体の秘密を保持させ、究極の永続性を得る為のものだ。僕はこういった決して理解できない生命と死という共依存関係にあるアイディアが好きなんだ。ヘンリーと僕がこのような表現主義のアプローチで歌詞を書いのは今回初めてになるね。これは僕らのリスナーが点と点を繋ぐ事ができる良い機会になると感じたし、同様に映像作家にこの曲のビデオを依頼する時にこのアイディアを使ってもらう事にしたんだ」。

Mystery Jets - Telomere

ミステリー・ジェッツ史上最もパーソナルで完成された最高傑作と呼び声も高い彼らの最新アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』。先月に開催されたHostess Club Weekenderにて新作アルバムの楽曲を最初から最後まで演奏するというスペシャルセットを披露、未公開の楽曲をライブで初体験でき日本のファンも大いに盛り上がりました。バンド本人達もライブ後に「日本のオーディエンスは最高だよ。未だ聞いた事の無い音源なのに楽しんで受け入れてくれたようだったね。」と手ごたえを感じていました。

2012年にリリースされた『ラッドランズ』以来3年振りとなる最新作『カーヴ・オブ・ジ・アース』は2013年夏と2015年夏の2回に分け ロンドンにてレコーディングされた。ボーカリストであるブレイン・ハリソンが行ったテムズ川河口に ある隔離された小屋でのセッションに加え、東ロンドンにあるボタン工場跡地に自らのスタジオを建てアルバムを完成させた。プロデュースは共にスタジオを建てた、マシュー・スウェイツの手助けを受け、バンド・メンバーであるブレイン・ハリソン、ヘンリー・ハリソン、ウィリアム・リース、ドラマーであるカピル・トレヴェディ、そして新規加入のベーシスト、ジャック・フラナガンの全員で制作されており、ミステリー・ジェッツ史上最もパーソナルで完成された最高傑作と言えるだろう。

■新作情報

アーティスト名:Mystery Jets(ミステリー・ジェッツ)
タイトル: Curve of the Earth(カーヴ・オブ・ジ・アース)
海外発売日:2016/1/15(金)
レーベル:Caroline / HOSTESS
品番:HSU-10058

【トラックリスト】
1. Telomere
2. Bombay Blue
3. Bubblegum
4. Midnight’s Mirrior
5. 1985
6. Blood Red Balloon
7. Taken by The Tide
8. Saturine
9. The End Up
10. Spiralling (日本盤ボーナストラック)
11. Kickass (日本盤ボーナストラック)
※日本盤はボーナス・トラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ付
新曲「Telomere」iTunes配信スタート&アルバム予約受付中!

■バイオグラフィ
ブレイン・ハリソン、ウィリアム・リース、カピル・トレヴェディ、ジャック・フラナガン、ヘンリー・ハリソンからなるUK出身ロック・バンド。2006年にはフジロックにて初来日。80's、プログレッシヴ・ロック、サイケデリック・ロックと全ての良いとこ取りをしたようなキャッチーなサウンドでここ日本でも高い人気を誇る。2010年6月には名門レーベル〈ラフ・トレード〉移籍後初となるサード・アルバム『セロトニン』をリリース。そして12年4月、オリジナル・メンバーであるカイが脱退するも通算4作目となるアルバム『ラッドランズ』をリリースしHostess Club Weekenderで来日。15年11月、新メンバー、ジャック・フラナガンを迎え入れ5枚めのニュー・アルバム『カーヴ・オブ・ジ・アース』を2016年1月15日にリリース予定。2015年11月にHostess Club Weekenderにて3年ぶりの来日を果たした。

interview with Dornik - ele-king

 それは秘密の歌だった……それがドーニクの甘くとろけるラヴ・ソングのはじまりだった、ということである。ツアー・ドラマーとして活動していた彼の歌を発見したのはそのフロントにいたジェシー・ウェアーで、彼女の後押しがなければシンガーとして活動する気はなかったという。だから彼のデビュー・アルバムにあるのは野心からはほど遠いベッドルームのイノセンスであり、それはプリンスやマイケル・ジャクソンの物真似からはじまったものだったとしても、彼の内面のもっとも柔らかい部分に忠実なものだ。


Dornik

R&B

Tower HMV Amazon iTunes

 ドーニクのチルなR&B、スウィートなソウルとファンクは近年の傾向を思えば、やや遅れてやってきたという印象もなくもないが、そのぶん、チル&B、あるいはオルタナR&Bと呼ばれたもののひとつの到達点にいるとも言える。ドラマーとはいえ組まれるリズムはいたってシンプルで、ファルセット・ヴォイスとコーラスが徹底して中心に置かれている。そこに寄り添っていくシンセ・サウンドはバーのカクテルに反射するライティングのようにきらびやかで、どこか現実離れしている。そしてそこで歌われるのはたいてい、「彼女」や「きみ」の前に屈するばかりのか弱い男、敗者としてのラヴ・ソングである。近年のメール・シンガーによるR&Bが提示した現代性とは恋の敗者であることの快楽であり、そしてドーニクの歌はその純粋さゆえに、その心地よさに溺れることへの抵抗が一切ない。「強く強く強く みんな強くありつづけよう」と繰り返す“ストロング”は見事な反語である。

 ドーニクはもう脚光を浴びて、フロントマンとしてステージに立っている。作風は外の世界を意識したものに変わっていくだろうし、それに合わせてサウンドも歌詞のテーマも変わっていくと思われる。だからこのデビュー作『ドーニク』は、彼にとってもリスナーにとっても永遠に不可侵な領域として残ることになるだろう。

野心はなかったよ。あくまで趣味だったから。でも、こっそり思ったことはある、かな。僕が歌ったらひとはどう思うだろうか、って。

デビュー・アルバム『ドーニク』は堂々たるシンガー・アルバムになっていますね。

ドーニク(以下D):ははは。

フロントマンになろうという意志がなかったとは思えないくらいですが、アルバムを作る以前から歌うことが好きではあったのですか?

D:うん、やっぱり、好きだからやったんだと思うよ。それまでは趣味のようなものではあったけど、楽しんではいた。

基本、ひとりで歌っていたということですが。

D:そう。たまに思うよ、いまこれが楽しいと思うのは、みんながチヤホヤしてくれるからなのかな、とか(笑)。あんまり自信がなかったからね、他にひとがいいと思ってくれるかどうか。否定される場合だってある得るわけで……(笑)。でも……うん、趣味でやってたことだし、音楽を作るのは大好きだけど、フロントマンになることはべつに考えてなかった。

最初はドラマーだったあなたに、シンガーになるという希望や野心はあったんでしょうか。

D:野心はなかったよ。あくまで趣味だったから。でも、こっそり思ったことはある、かな。僕が歌ったらひとはどう思うだろうか、って。従兄弟の前で歌うと「よう、おまえ、歌うべきだよ!」って言われたし、そう言えば、従姉妹のひとりからは「あんた、いつか歌うことになるわよ」って言われたことがあるんだ。でも、そのときは「ない、ない」って……、じつはむかついて「歌うもんか! 僕はドラムでいく!」って抵抗したくらいでね(笑)。でも、彼女の言うとおりになったね。

歌はどうでしたか。同じように自由に自分を表現できると感じましたか。

D:もちろん! というのも、前から頭の中にアイデアがあったから、それを放出するって感覚だったんだ。ドラムのグルーヴとか、コードも頭にあったし、メロディなんかも外に出していくっていう感じで……。うん、これも間違いなく自分を表現するひとつの方法だよ。解放って感じ。自分自身を解放するように表現して、レコーディングして、そしたらそれをみんなが気に入ってくれるというオマケがついてきた(笑)。

歌いはじめるにあたってお手本にしたシンガーはいますか。

D:マイケル・ジャクソンとか……、つまり影響された人ってことだよね?

そうですね。

D:うん、マイケル・ジャクソン、プリンス、マキシ・プリースト……レゲエのアーティストだけど彼の音楽が大好きなんだ。子どもの頃、彼の音楽もずいぶん聴いて育った。あとはディアンジェロとか。うん、でもマイケル・ジャクソンとプリンス、だな。いや、マイケル・ジャクソンとプリンスとマキシ・プリーストかな……。

(通訳):マキシ・プリーストの名前はいままで出なかったですね(笑)。

D:そうだね(笑)。彼も大好きなシンガーで、あのヴォーカルはすごく好き。レゲエ的な背景の一部に彼がいる。

レコードに合わせて歌ったりしていたんですか?

D:うーん……うん。たぶん、ね。自分のベッドルームで、だけど(笑)。自分の部屋で。それにしても、マキシ・プリーストのことをすっかり忘れてたなあ。彼の大ファンなのに。うん、あとはマイケル・ジャクソンとプリンス。

僕はいつも「もっと早く生まれたかったなあ」って言ってた。そうしたら最高の音楽に囲まれていられたのに。

マイケル・ジャクソンやプリンスが超ビッグだった80年代は、振り返るときらびやかなイメージがあるんですが、あなたは80年代生まれでしたっけ?

D:1990年生まれだよ。だから80年代は生まれる前……というか、2日違いで80年代に間に合わなかった(笑)。誕生日が1月2日だからね。

(通訳):80年代を丸々見逃してしまったわけですね(笑)。

D:うん、僕は時代としては90年代の人、だね。

そんな未体験のあなたから見た80年代のイメージって、どんな感じですか。

D:同じだよ。ライトがピカピカしてる感じ。ギラギラしてて……っていうのが僕の80年代のイメージ。だからマイケル・ジャクソンとプリンスが、80年代という時代そのものだよね。すごく……(笑)、ファンキーで、直球で。

(通訳):あなたのご両親の時代、ですね。

D:そう、ふたりとも実際に体験してる。僕はマイケル・ジャクソンのビデオやプリンスのビデオを観て雰囲気を掴んでいた、という感じかな。僕はいつも「もっと早く生まれたかったなあ」って言ってた。そうしたら最高の音楽に囲まれていられたのに。いまも素晴らしい音楽はいっぱいあるけどさ。でも……結局、物事は繰り返すからね。「歴史は繰り返す」って言うから。

いまグレイトだと思う音楽は?

D:ジ・インターネット。彼らの大ファンなんだ。すごくいい。本当に素晴らしい。ジャングルも驚異的なアーティストだ。あとはケンドリック・ラマー。ディアンジェロも復活したね。復讐の復活劇(笑)、すごいアーティストだよ。マジで尊敬してる。

最近の男性シンガーソングライターにはR&Bに寄る傾向が見られて、トレンドになっているという声もありますが、あなたはどう思いますか。

D:うーん、あるね、たぶん。R&B系の曲は多いし、そういうのが戻ってきてる感じはする。ミゲルとかフランク・オーシャンあたりのことを言ってるんだと思うけど……。それがいまのムードらしい。いいことだよ。

あなたの曲では弱さや情けなさも率直にさらけ出されているように思えますが――

D:あはは。

これはあなたの生の感情がダイレクトに反映されたもの?

D:そうさ。あのときの僕の立ち位置だ。個人的な体験や、他の人の体験や……うん、男女問わず自分を表現できる時代、それを生きるあの年齢の人間ならではのね(笑)。

(このアルバムに反映されているのは、)あのときの僕の立ち位置だ。個人的な体験や、他の人の体験や……うん、男女問わず自分を表現できる時代、それを生きるあの年齢の人間ならではのね(笑)。

ラヴ・ソング?

D:うん、そうだね、ラヴ・ソング。若い10代の……いや、10代の終わりに書いた曲。次のアルバムでは、もっと主張したいことがある。

近年は男性シンガーが自身のフェミニンさを出すことを恐れなくなったし、あなたもそのひとりだと感じます。

D:うん(笑)。

あなたにとって、音楽にフェミニンさは必要なものですか?

D:そうなんだろうね。トレンドもあるし。

(通訳):いっぽうでは女性たちがもっとこう……

D:そう、独立してる(笑)。

それはラヴ・ソングの一種のマナーとして強調されたものなのでしょうか? それともあなたの一面?

D:ほんの一面だよ。いまの僕はまた別の場所にいる。

(通訳):そう?

D:うん、いまはいる場所がちがうんだ。

(通訳):どこにいる?

D:うーん、いまにわかるよ。すぐにわかる。

(通訳):つまり、もう次の作品に取りかかっているということ?

D:いくつかアイデアはあるんだ。まだきちんとまとめる時間を持てないんだけど、ちょっと声をメモっておいたり、インストで思いついたのを書き留めたりしはじめてる。ホテルの部屋でやったりしてるよ。ジェシー(・ウェア)とのツアー中はよくやってた。ショウが終わるとバスに乗り込んで、ベッドがこう、段々に重なっているところでアイデアをまとめたり。

(通訳):そういうツアーだったんですね! ああいうバス、何ていうんでしたっけ……。

D:ベッドが段々になってるやつ、ね。そこに小さなキーボードを持ちこんで、インストのアイデアを練ったりしてた。メロディとかも。だから、いくつか寝かせてあるやつがあるんだ。完成を待ってるアイデアが。でも、ファースト・アルバムはそういう意味で完成させるのが大変だった。なんか、昔に逆戻りするみたいな感じでさ。時間を遡って昔のアイデアを完成させるより、自分ではつねに先に進んでいたいんで、なんかヘンな感じだった。でも、もうすぐ新しいのを作れるから。

やりかたに正解はなくて、とはいっても、たいていリズムが最初に出てくるのはたしかだね。ドラムが最初、ってことになるのかな。

さて、そもそもがドラマーということで、リズムはこうあるべき、というような信念から音楽がスタートするんでしょうか。そこから曲を書いていく?

D:うーん、やりかたに正解はなくて、とはいっても、たいていリズムが最初に出てくるのはたしかだね。ドラムが最初、ってことになるのかな。でも、コードが頭にある場合もあるから、それに合わせてドラムを作っていくこともあるし、何が先であってもアリなんだ。正しいやり方、というのはない。ドラマーだ、というのは間違いなく影響してると思うけど。

このアルバムではシンプルなリズムでチルアウトな志向を強くしているように感じます。

D:うん、意味はわかる気がする。コード進行なんかは、いわゆるチルアウトしたスムースな感じだから。

それは意識的に?

D:いや、単純にあの時の自分の気分。それが表れただけだよ。僕はあらためて「よし、今日はこういう音楽を作るぞ」なんて考えたことないし、何であれその時に自分が感じているものが表に出てくるって感じなんで、「スムースでチルな感じのを作ろう」と思ったわけではまったくない。

(通訳):つまり、フィーリングのままにトラックをまず作って、リリックはその後なんですね。雰囲気に合わせて、ということですか?

D:うん、そういうこと。

(通訳):じゃあ、歌詞に女性的な面が表出したとしたら音楽に原因がある?

D:そのとおり。音楽に合わせたんだ。音作りやコード進行や、頭の中にあったメロディが、ああいう歌詞を導き出したんだと思う。そうじゃない曲もあったけど、そういう曲はわりと新しめで、アルバムにはフィットしない気がしたんだ。きっかけになったのが“サムシング・アバウト・ユー”っていう、かなり古い曲だろ?

(通訳):あれはどれくらい前の曲?

D:うーん、あれは4年前かな? ……うん、そう、ちょうど4年前だ、書いたのが2011年だから。その後に書いた新しめの曲は、あれとは収まりが悪かったんだよね。だからわざわざ昔にさかのぼって“ストロング”あたりを仕上げて使うことになったんだ。あれも同じ頃の曲だから。そんなわけで、使わずに取ってあるやつがまだあるから、これから完成させてやらないと。もっと最近のアイデアを使っていきたいし。あのアルバムは、自分ではもうずいぶん昔みたいに感じてるんだよね。次にいく準備は万端だ。

ところで、リズム面でもっとも大切にしていることは何ですか。

D:あんまり頭では考えてないんだよね……。

(通訳):ドラム録りから入るんですよね。

D:そうだね、まずはドラムを録るけど、場合によってはコードから入れて、ドラムは後ってこともあるよ。自分ではドラムを最初に入れておく方が好きで、その後にコード……とやっていく方が、その逆よりもやりやすい。コードが先にあると、ドラム・パターンにそのつじつまを合わせるのが大変だったりするから。まあ、どっちのやり方でもイケるし、実際、どっちもアリなんだけど……うん、やっぱり自然と出てくるのは僕の場合、ドラムみたいだね。

(通訳):パーカッション類も自分で?

D:うん、パーカッションもいくつかやるし、ドラム・キットと、あとは鍵盤を少々。キーボードは僕のメインの楽器じゃないから技術的には大したことないし、耳で覚えたんで、「こうしたい」というのが頭の中で鳴っていて、それを何とか鍵盤に移し替えるというやり方。譜面は読めない。ぜんぶ耳なんだ。頭の中で鳴っているのをそのまんま外に出そうとしてるだけ。

そうだなあ……いま、この瞬間に聴くとしたら『サイン・オブ・ザ・タイムス』だろうな。大好きなアルバムだ。

あなたはこのアルバムを「サマー・アルバム」だと説明していますね。

D:うん。誰かに「どんなアルバムですか?」って訊かれて、夏のアルバムだと思うって答えた記憶がある。

(通訳):いまもそう思う?

D:そうだね。それこそチルアウトした、夏のバーベキューって感じのヴァイブがあるんじゃない? フィーリングとして、ね。あるいは……いや、どうだろう、ちがうかな。季節を問わず聴いてもらっていいんだけど、僕にとってはやっぱり夏かな。ドライヴしながら、とか。僕が作りながら感じていたのはそれだから。僕の頭にあったイメージ、というか。ああいう夏の、チルアウトした……チルアウトした感じ。

(通訳):では次は冬のアルバム、ですかね(笑)。

D:かもね。まさに! 夏のアルバムにならないことはたしかだよ。

では、難しい質問です。もっとも好きなプリンスのアルバムは何でしょう?

D:まいったなあ、難しいよ、好きなのがいっぱいあって。ええと……1枚選らばなきゃいけないの? そうだなあ……いま、この瞬間に聴くとしたら『サイン・オブ・ザ・タイムス』だろうな。大好きなアルバムだ。でも、そのときによるんだ。うん、いま、最初に聴くとしたらそれ。

(通訳):あのアルバムの、どういうところが好きですか?

D:ファンキーなところ。めっちゃファンキー。中でも“ハウスクエイク”が好きなんだ。

もっとチャレンジして、とにかく上達したい。できるかぎりの道具を使いこなしてミュージシャンとして、アーティストとして成長していきたい。

プリンスは独りで何でもやってしまう人ですが、あなたもその方向を目指したい?

D:うん、もちろん! ああいうところを目指して成長していきたい。うん、やっぱりそうだよね。僕はひとをあてにするのが好きじゃないし、できることなら自分でね。だから、そのときの必要に応じてやっていけたら、ということだね。共同作業に対してもオープンに構えていたいし。でも、それは意図的にではなく、「この人といっしょにやらなくちゃ」っていうのではなくてフィーリングが合えば、ということ。こっちがオープンに構えているところにフィーリングのピッタリくる話があればいっしょにやるし、そうじゃなければ……ね(笑)。

(通訳):それはそれでいい、と。

D:うん。

現時点でミュージシャンとしてチャレンジしてみたいことはありますか。

D:挑戦してみたいこと……うん、すべてにおいてベターになること。ドラム・プレイもそうだし。実際、ドラムをプレイできないのは寂しいしね。ピアノももっと上手くなりたいし、ギターもね。ギターも独学でやってるんだ。そういうのにもっとチャレンジして、とにかく上達したい。できるかぎりの道具を使いこなしてミュージシャンとして、アーティストとして成長していきたい。

ピアノで曲を書くこともあるんですか。

D:たまに、ね。まだそんなにだけど、たまに書くよ。コードとかメロディはギターでも書いてみたいし、そのへんがチャレンジってことになるんだろうな。それに楽器が変わるとちがう書き方に繋がったりするんで、曲作りのまったく新しい世界が開けると思う。だから、自分にできるかぎりのことを学んでいきたい。それがチャレンジだね。

(通訳):可能性は天井知らず、と(笑)。質問に戻りまして、リズムでとくに惹かれるタイプのリズムってありますか。レゲエ、アフリカン、とエスニックなリズムにも親しんできたようですが。

D:僕は4つ打ちが好き。4つ打ちにハズレは無い。いい感じに鳴ってるドラムで4つ打ちっていうのが、いちばんハードなグルーヴだ。あれはたまらない! ハードって、プレイするのが難しいって意味のハードじゃないよ。とにかくパワフルだって意味のハードで、あれには踊りたい気分にさせられる。なんといってもグルーヴィだ。J・ディラ、とかさ。僕はJ・ディラの大ファンなんだ。彼のグルーヴは信じられない! どうかしてるよ。あと、クエスト・ラヴとかね。ああいうリズム……、シンプルに聴こえるけどじつは簡単じゃないし、普通の人がやれば普通になるけど、彼らがやるとじつに個性的で、ちょっとモタってたり走ってたり……ああもう、なんか説明できないよ! 要はフィーリング。フィーリングなんだよね。うん、ああいうのがまとめて大好きなんだ。

Elijah & Skilliam - ele-king

 ロンドンを拠点にグライム・シーンを牽引するイライジャ&スキリアム。現在のロンドンは家賃の上昇などの問題で、シーンを支えたクラブやレコード店がどんどん姿を消している。2年前に閉店してしまったクラブ、ケーブルはイライジャとスキリアムが運営するレーベル〈バターズ〉がパーティを開催していた場所だった。そんな状況であってもグライムのパーティは終わることなく、DJやプロデューサーたちはラジオやツアー、リリースをとおして人々に喜びを与え続けている。イライジャとスキリアムがいるのはその最前線だ。先日、イギリスの「ファクト」が制作した〈バターズ〉のドキュメンタリーからは、現在のシーンの空気感がひしひしと伝わってくる。
 今回、イライジャ&スキリアムは去年に続き2度目の来日となり、12月11日に東京、28日に名古屋、大晦日31日に大阪の順での公演を予定している。ハイパージュースやプリティボーイらが東京公演に出演し、名古屋ではダブル・クラッパーズ、大阪ではセスといった気鋭のプロデューサー/DJたちがイライジャ&スキリアムと共演する。明日12月10日にふたりはドミューンにも出演するので、是非チェックしてほしい。ツアーの情報は以下のとおり。

【東京】
DBS presents
Elijah & Skilliam Japan Tour2015

日時:
2015.12.11(Fri)
OPEN/START 23:00

場所:
TOKYO CIRCUS

料金:
ADV:2,500yen/DOOR:3,000yen

出演:
Elijah & Skilliam (Butterz,UK)
with.
HyperJuice
Prettybwoy
Sakana

《1st Floor》
HELKTRAM
DIMNESS
maidable
Chocola B

Ticket outlets:
https://peatix.com/event/127181

info:
TOKYO CIRCUS:TEL/03-6419-7520
https://circus-tokyo.jp/

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【名古屋】
GOODWEATHER #43 ELIJAH & SKILLIAM

日時:
2015.12.28(Mon)
OPEN/START 22:00

会場:
CLUB JB’S

料金:
ADV/ 2,500yen DOOR/ 3,000yen

出演:
GUEST : Elijah & Skilliam
dj noonkoon feat. Loki Normal Person
NOUSLESS feat, AGO
DJ UJI feat. BRAVOO
Double Clapperz
MOMO

Photographer: JUN YOKOYAMA

info:
https://www.facebook.com/events/1634818833446707/

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【大阪】
CIRCUS COUNTDOWN 2015 to 2016
ELIJAH&SKILLIAM

日時:
2015.12.31(Thu)
OPEN 20:00

料金:
DOOR/ 2,015yen

出演:
CE$
SATINKO
TUTTLE
m◎m◎
BIGTED
Keita Kawakami
D.J.Fulltono

Photo Exhibition Jun Yokoyama

info:
https://circus-osaka.com/events/circus-countdown-2015-to-2016/


ELIJAH & SKILLIAM (Butterz, UK)

UK発祥グライムの新時代を牽引するレーベル/アーティスト・コレクティブ、Butterzを主宰するELIJAH & SKILLIAM。
イーストロンドン出身のELIJAHとSKILLIAMは05年、郊外のハートフォードシャーの大学で出会い、グライム好きから意気投合し、学内でのラジオやブログを始め、08年にGRIMEFORUMを立ち上げる。同年にグライムのDJを探していたRinse FMに認められ、レギュラー番組を始め、知名度を確立。10年に自分達のレーベル、Butterzを設立し、TERROR DANJAHの"Bipolar"でリリースを開始した。11年にはRinse RecordingsからELIJAH & SKILLIAM名義のmix CD『Rinse:17』を発表、グライムの新時代を提示する。その後もButterzはROYAL T、SWINDLE、CHAMPION等の新鋭を手掛け、インストゥルメンタルによるグライムのニューウェイヴを全面に打ち出し、シーンに台頭。その後、ロンドンのトップ・ヴェニュー、Fabricでのレギュラーを務め、同ヴェニューが主宰するCD『FABRICLIVE 75』に初めてのグライム・アクトとしてMIXがリリースされる。今やButterzが提示する新世代のベースミュージックは世界を席巻している!
https://elijahandskilliam.com/
https://butterzisthelabel.tumblr.com/


 『トレインスポッティング』や『スラム・ドッグ・ミリオネア』のダニー・ボイルが監督した新作映画『スティーヴ・ジョブズ』をロンドンで観た。脚本は、『ソーシャル・ネットワーク』『マネーボール』のアーロン・ソーキン。ソーキンお得意の、しゃべりまくる個性的な登場人物たちの言葉の応酬でドラマを展開する奇妙なセリフ劇である。ダニー・ボイルだし、iTunesやiPodを発明したジョブズを主人公にした映画なのだから、音楽的なのかと思ったら、まったくそんなことはない。皆が知ってるジョブズの功績、iPhoneやiTunes、iPadなどは影も形もないし、U2のボノみたいなミュージシャンが彼の素晴らしさを讃えるわけでもない。ただ、ジョブズのカリスマ性を炙りだすのに、彼にとってのステージ、“発表会”という場とその舞台裏にフォーカスしたという意味では、十分にライヴ的な映画とは言えるかも。

 批評家のウケは極上だったこの映画、あまりにコアなところを狙いすぎたのか、すでに公開された海外各国での興行成績はふるわなかったようだ。さて、電気グルーヴの映画のレヴューをするのに、なぜこんなに長々と別の映画のことを書いたかというと、異端の存在でありながら26年も続いてきた“電気グルーヴの歴史”を総括する映画なんてものこそが、こういう罠に簡単にはまりそうだからだ。だってあの卓球と瀧が、ストレートな回顧ものを撮らせるわけがないと思うじゃない。監督もテレビ/映像業界でサブカルのご意見番的に有名で、なおかつかなりの電気ファンを自認する大根仁だというし。それこそ、ファンのオタク度を測るようなレア映像や特殊なシーンばかりをつなげたり、主だったできごとはすでに皆当然知っているものとして省いてしまったりネタとして処理するというような作りだってありえたと思う。もしくは、ダニー・ボイルのジョブズ映画に倣うなら、野村ツアー以前(つまり、『Vitamin』以前)のライヴ3回のバックステージでの様子や会話を捉えた楽屋裏映像だけで構成しちゃう、みたいなことも。
 いや、そういう“マニアの皆さん大歓喜”な映像がまったく入ってないというわけではないんだけど、この映画がすげーまっとうに作られていることに最初はちょっと面食らって、でもどんどん自分もその映像の一部になっていくような感覚を得て、最後には「うわ〜、電気グルーヴってやっぱりものすごい存在だわ。この人たちとこんなに長い歴史の時間を共有できてホント良かった」みたいな感慨を抱いた。仕事で電気に関わったようなひとたちはもちろん、劇場にこの作品を見に行こうと思っちゃうようなひとも皆、それぞれの思い出のフラッシュバックとともに、そういう感覚に包まれるんじゃないかと思う。

 初めて世に出るという89年8月の大阪でのデビュー・ライヴの映像から、ほぼ時系列にそって電気グルーヴの歴史をなぞりつつ、国内外の17人の関係者の証言を随所に折り込むことで、内と外から電気グルーヴとは何か? をすげーまっとうに炙りだす。昨年の〈Fuji Rock Festival ‘14〉グリーンステージでのライヴは、今回の映画で主要なステージのフッテージとしてたくさん使われているんだけど、WOWOWで放送された同時期のソロ・ライヴの様子を収録した番組を見た人だったら、類似性と大きな違いに気付くはず。〈塗糞祭〉のライヴでは、CMJKや砂原良徳、DJ TASAKA、スチャダラパーといったゲスト陣にインタヴューして、やはり電気グルーヴのことを語らせていた。今回も同じようなメンツが話している。でも、やっぱり今回の方が取材に時間をかけているだろうし、楽屋コメントよりもずっと冷静に、いきなり内臓に切り込んでくるみたいな鋭さが見られる。もっと重要なのは、(僕らはよく知ってるけど)普段はほとんど表にでてこない、マネージャーの道下さん、元所属レーベル社長の中山さん、リキッドルームの山根さん、ROCKIN’ON JAPANの山崎さんといったひとたちが喋っていることだ。油断しているとすぐ足下をすくわれ毒を盛られるという、いたずら好きで辛辣で、斜に構えたイメージの電気グルーヴではなく、ある意味ものすごい愛されキャラとしての電気の本質が彼らの証言によってだんだんと見えてくるのが、いい。
 歴史的な映像の大半は、VHSテープに残っていたようなざらざらのローレゾ映像なわけで、新撮のインタヴューや最新のライヴのきれいな映像は、否応なく目立ってしまう。そんな風に暗闇のでかいスクリーンに旧知の連中の顔が大写しになって次々出てくると、「うわぁみんな老けたなぁ」と思うのは当たり前だ。でも、不思議なことに映画が進むにしたがって、どんどんその老けたおっさんたちが、卓球と瀧だけじゃなくて、彼らと一緒に歴史を作ったきたCMJKやまりんやTASAKAたちみんなが、超かっこいいじゃんという印象に変わってくる。いやいや、ほんと、マジだって。そういう効果をしっかりだすために、今現在リアルにかっこいいしルックスだけでモテそうな関係者一番の若手、agraphこと牛尾くんを出さなかったじゃないかなとか勘ぐりたくなるくらい。

 もっとディテールのこと(特にKAGAMIへの言及のことなんか)を本当は話したいんだけど、まだ公開前だし、それはこれから観る皆さんの楽しみをスポイルしちゃうと思うので、やめておきます。どっかのパーティーのバー・カウンターとかで、誰かと語りあいたいわ。
 でも、実はこの映画の一番のターゲットって、電気グルーヴのことをあまりよく知らない人じゃないかなとも思うんだよね。テレビや映画に瀧が出てるの見て「へぇ、この人ミュージシャンなんだ」って興味持ったり、偶然フェスでライヴを体験してとか、そういう入り口でいきなりこの映画観たら、最高だろうなぁ。僕も、自分の子供がもう少し大きくなったら絶対これ見せようと思ったし!

札幌のギター・ポッパーたち - ele-king

 日本のインディ・シーンが見えないところで地殻変動をはじめているかもしれない。このアルバムを聴いてそう思った。
 欧米ではあたりまえのように、過去を掘り起こし参照しながら新しいバンドが登場してくる。パンクにせよ、ギター・ポップにせよそのフィールドにいるなら知らなければいけない数多くの名盤の上に新作が連なってゆく。それがまたオーディエンスにフィードバックされながらシーンが形成され、受け継がれてゆく。

 日本で継続的なシーンが生まれてきづらいのはそのあたりに理由があるとつねづね思ってきた。しかしいま、地方のローカルなコミュニティから飛び出してくる20代前半のバンドはそのサウンドも活動のスタンスも、これまでとはちがった価値観を持っている。

 札幌を拠点に活動するTHE SLEEPING AIDES AND RAZORBLADESは、僕が深く関わっているレーベル〈KiliKiliVIlla〉から今年アルバムを出したNOT WONKに多大な影響を与えている。どちらのバンドにも共通しているのは貪欲なまでに音楽を追求する姿勢だ。彼らは自分が生まれる前の音楽でもほんとによく知っている。70年代のパンク、80年代のギター・ポップ、90年代のUK/USそれぞれのインディ・シーン、僕らレーベルのスタッフとバンドが集まると、いつもそんな話ばかりしている。それがほんとに楽しいのだ。30歳ちかい年齢差があるにもかかわらず。

 90年代生まれの彼らが60年代から90年代まで、それこそT・レックスからプライマル・スクリームまで楽しみながら引用、カヴァーしている様子からは音楽好きのあるべき正しい姿を感じる。このアルバムを聴くと世界各地のローカルなインディ・バンドから、ギター・ポップ、パンク、ニュー・ウェイヴまでを連想させる、きっと彼らは毎日音楽の話ばかりしているにちがいない。
 そうやって自分たちが愛してきた名曲、名盤をオーディエンスに伝えようとしている。いやもしかしたら彼ら自身がわかってくれるオーディエンスを見つけようとしているのかもしれない。まるでニッキー・サドゥンのようなヴォーカルの歌声から筆者が勝手に想像しただけなんだが。

 景気の低迷も音楽業界の構造の変化も、彼らにとっては当たり前の日常として、ロックを聴きはじめたときからあったものだし、むしろどうでもいい人たちがまったく入ってこない歓迎すべき状況なのかもしれない。彼らのようなバンドが自分たちのできること、やりたいことを工夫しながら実現していくことがひとつのアティチュードの表明でもあるはずだ。

 特筆すべきは、このアルバムの取り扱いは全国の専門店だけでなく個人で商品を仕入れてライヴ会場や友人関係に販売する個人ディストロとネット・ショップが販売の中心となっている。こういうかたちでシーンに参加することも可能だし、それが地域のコミュニティの活性化にもなり、また各地に散らばるコミュニティを結び少しずつ広がってゆく現象が起きているのだ。音楽を配信とYoutubeでしか聴かない人にはけっして届かないだろうが、ロックやパンクに特別な夢を見ている人は自分でたどりついてほしい。このアルバムを見つけた人同士は絶対に話が合うはずだから。

 アナログ盤にちゃんとプレスされたCDが封入されて税込で2,000円! 世界を広げてくれるかもしれない買い物としては安いはずだ。

(与田太郎)

THE SLEEPING AIDES AND RAZORBLADES
FAVORITE SYNTHETIC

DEBAUCH MOOD
品番:BEBAUCH-009
https://debauchmood.blogspot.jp

THE SLEEPING AIDES&RAZORBLADES
/ MY STRANGE HEADACHE


Myths Of The Far Future - ele-king

 12月15日、原宿のVACANTでアシッド・フォークのイヴェントが開催される。出演は、UKからGrimm Grimm(Koichi Yamanohaによる)。今年、〈ATP Recordings〉からデビュー・アルバム『Hazy Eyes Maybe』をリリースしたばかり。
 他に、マヒトゥ・ザ・ピーポー(GEZAN)とKohhei Matsuda(Bo Ningen)と、強力なラインナップ。映像はTakashi Watanabe。



Future Brown - ele-king

 〈ハイパーダブ〉からのリリースでも知られるファティマ・アル・カディリ。LAのビート・ミュージック・デュオであるエングズングズのダニエル・ピニーダ&アスマ・マルーフ。シカゴ・ジュークの天才児Jクッシュ。この4人によるプロデューサー集団、フューチャー・ブラウンが来日する。今年の頭に〈ワープ〉よりリリースされたファースト・アルバムでは、グライム、ジューク、トラップ、ゲットー・ハウスなどが起こす鮮やかな音の化学反応が大きな話題を呼んだ。アルバムには多くのMCが参加していたように、今回の来日講演にはMCのローチ―が4人とともにステージに上がる。ファティマ・アル・カディリは去年も日本へやってきたが、フューチャー・ブラウンの来日は今回が初となる。スーパー・グループのセットを是非体感してほしい。


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