「KING」と一致するもの

Film Patrol - ele-king

 アカデミー賞のノミネートが発表されると「あーもうバレンタインの季節だー」と妙な焦燥感に駆られるのですが、映画好きにとっても忙しい季節の到来ではないでしょうか。「海外の映画が入ってこないー」というのは定番のボヤキですが、最近は意外にけっこう入ってきているかな、という気もします。まさかズビャギンツェフの過去作が観られると思ってなかったし、ゴダールの3Dもあるし、ヌリ・ビルゲ・ジェイランもようやく入ってくるはずだし、むしろそのスピード感について行くのに必死です……が、今年もたくさん、映画館で映画を観ましょう。

 というわけで、現在公開中、あるいは間もなく公開の注目作をいくつかご紹介。


ジミー、野を駆ける伝説
監督 / ケン・ローチ
出演 / バリー・ウォード、シモーヌ・カービー、ジム・ノートン 他
配給 / ロングライド
2014年 / イギリス=アイルランド=フランス
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町 ほかにて公開中。
©Sixteen Jimmy Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Element Pictures, France 2 Cinema,Channel Four Television Corporation, the British Film Institute and Bord Scannan na hEireann/the Irish Film Board 2014llllllll

 ブレイディみかこさんの『ザ・レフト UK左翼セレブ列伝』のケン・ローチの項を読んだ方には、あるいはケン・ローチのフィルモグラフィを追っている方には、この映画について説明することはあまりない。80を目前としたイギリスの至宝が、相も変わらず、持たざる者たち、貧しき者たち、労働者たち、庶民たち……の尊厳について見つめるばかりである。舞台は内戦後の1930年代のアイルランドで(つまり『麦の穂を揺らす風』(2006)の後)、故郷の片田舎に庶民たちが集うホールを作った実在の活動家ジミー・グラルトンの半生を取り上げている。とはいえ、原題を『JIMMY’S HALL』(ジミーの集会所)としていることからもわかるが、この映画の中心はグラルトン以上に「ホール」である。そこでは金のない村人たちが芸術やスポーツを学び、詩を朗読し、政治について議論し、そして週末にはダンスをしに集まる。もっとも重要なのは、これはそのホールを「再建する」話だということだ。明らかにローチ監督は、現代のイギリスに……世界に向けてこの史実ものを撮っている。貧しき者たちへの教育がますます失われてゆく時代にあって、その場所をいまいちど「手作りで」生み出そうというのである。たとえ焼き払われようとも。
 ケン・ローチの映画では、何よりも「彼ら」の顔がどのように見えるかということに最大の注意が払われている。たとえば『エリックを探して』(2009)でのエリック・カントナを含めるおっさんたち、『明日へのチケット』(2005)でのセルティック・サポーターの少年たち、そして『ケス』(1969)でむっつり黙っていた少年が自分の鷹について語りはじめるときの、胸の奥から何か熱いものが生まれてくるときの表情。本作での美しいシーンはなんといっても老若男女がホールでダンスに興じるところで、彼らの生きた顔たちを見ていると、いつまでもこの時間が続けばいい……と思わずにはいられない。『ルート・アイリッシュ』(2010)の厳しさにはいくぶん慄き、『天使の分け前』(2012)での切実な優しさにはため息をついたが、本作にはそのどちらもがあり、そして、別れのシーンはローチ監督からのメッセージが含まれているようでなんとも切ない。エルマンノ・オルミやアキ・カウリスマキ、そしてローチといったヨーロッパの大御所監督たちの近作を観ていると、そこにあるのは失われていくふるき良き理想主義のように見えてしまうことがある。けれども彼ら自身は僕の勝手な寂寥感をよそに、そんなこと知ってるぞ、だからどうした、という頑固じじいの佇まいでその信念を曲げることはない。

予告編

ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して
監督 / アルノー・デプレシャン
出演 / ベニチオ・デル・トロ、マチュー・アマルリック、ジーナ・マッキー 他
配給 / コピアポア・フィルム
2013年 フランス
シアターイメージフォーラム ほかにて公開中。

 精神分析の映像化でありつつ、同時に対話と友愛の物語。ハンガリー生まれのユダヤ人にして「民族精神医学の確立者」であるジョルジュ・ドゥブルーの著作を基にしているが、彼が実際に行った、第二次大戦後すぐのモンタナ州で精神を病んだアメリカン・インディアン(ネイティヴ・アメリカンという呼称のない時代だ)の対話療法について描く。デプレシャン作品における、これまでのようなずけずけとした言葉の応酬は抑えられ、かわりに、じつに丁寧にじっくりと「他者」へと分け入っていく過程が描かれている。そしてまた、アメリカという20世紀の大国のなかで、ふたりの異邦人/マイノリティが出会い、別れるというある「縁」についての映画でもある。
 この、アメリカを舞台としたフランス映画のふたりの辛抱強い対話を思い返しながら、いまフランスで起きていることを思う。そこには何か、「他者」あるいは「異邦人」を理解しようとする態度が決定的に足りていないように感じられる……。自らの内面の混乱に苦しむインディアンに扮するベニチオ・デル・トロはいまなお、アメリカのなかで自らをマイノリティだと感じるという。だから本作でわたしたち観客が見つめるのは彼の苦難そのものであり、そして、この映画では本質的な意味での癒しを探求しようとする。

予告編

ビッグ・アイズ
監督 / ティム・バートン
出演 / エイミー・アダムス、クリストフ・ヴァルツ 他
配給 / ギャガ
2014年 アメリカ
TOHOシネマズ渋谷 ほかにて、1月23日(金)より公開。
©Big Eyes SPV, LLC. All Rights Reserved.

 ポップ・アート時代のアメリカで絵画〈ビッグ・アイズ〉シリーズを世に放ち人気を博したウォルター・キーンの作品は、じつはすべて妻マーガレットが描いたものだった……という、ティム・バートン監督久しぶりの実話もの。で、搾取される妻=DVものとも言えるし、著作権マーク©への大いなる皮肉もこめられているだろうけれど、バートン作品として見るとこれは『ビッグ・フィッシュ』(2003)と似た構造なのではないかと思う。つまり、あるホラ話がアメリカの歴史を作った、というのである。バートンはいつでも、そうした作り話が現実を動かしうる力について描こうとしてきた。しかしながら、ホラ話が現実と折り合いをつける『ビッグ・フィッシュ』と比べると、現実がホラ話を打ち負かしてしまう本作の顛末を、バートン作品としてどういう変化と見なせばいいのだろう。60年代のアメリカを突き動かした「嘘」を、告発したいのか懐かしみたいのかの判断が非常に難しく、バートンのあの時代への複雑な感情を見る思いがする。
 話はやや逸れるけれど、今年のアカデミー賞で最多ノミネートとなったアレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督の『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』(https://www.foxmovies-jp.com/birdman/)がティム・バートンの『バットマン』(1989)のメタ映画となっているのも、何とも興味深い話である……『バードマン』はヒーローものを演じたかつてのスター(虚構のヒーロー)が、ブロードウェイのアート作品での成功(実際的な俳優としての評価)を得ようとする話、らしい。どちらが偉いのではなく、どちらも混乱しながら共存するのがアメリカということなのだろうか。

予告編

6才のボクが、大人になるまで。
監督 / リチャード・リンクレーター
出演 / エラー・コルトレーン、パトリシア・アークエット、イーサン・ホーク 他
配給 / 東宝東和
2014年 アメリカ
TOHOシネマズシャンテ ほかにて、公開中。
©2014 boyhood inc./ifc productions i, L.L.c. aLL rights reserved.

 こちらもアカデミー賞ノミネート。『ビフォア~』三部作は言うに及ばず、リチャード・リンクレーターは時間がつねに不可逆であることを逆手にとって、その「瞬間」をロウな感触のあるものとして立ち上げることに長けている。『ビフォア~』3部作ではそれぞれ「ある一日」を描くことでそれ以前と以降がシームレスに、しかしはっきりと異なる世界になり得るということを示していたが、この映画では、ある家族の物語を12年にわたって同じキャストで撮りつづけている。それは大変な労力と時間を要するということ以上に、もっと単純な映画の問題として、絶対に「撮り直せない」。そのことは少年時代(原題は『Boyhood』)が二度と戻らないことをあっさりと、しかし強く宣言する。ここで映されているのは、ほとんどが誰の身にも起こるような些細な出来事の積み重ねに過ぎないが、しかしそれこそが映画的な呼吸になっていく。

 主役に抜擢されたエラー・コルトレーン少年がどこか不格好な思春期を経て、しかし本当に精悍な青年へと成長しているのには無条件に胸を打たれるものがある。この映画は21世紀のアメリカにおいて、落ちぶれていく中年ではなく真っ直ぐに育っていく少年を描くということには大変な手間がかかるということの証明でもあるが、だからこそ一際瑞々しい輝きを湛えているのだろう。

予告編

映像をBaconが、音楽はRezzettが再編集! - ele-king

 スケートシング、トビー・フェルトウェルらによる東京発のアパレル・ブランド〈C.E〉より2015 Spring/Summerのルックムービーが公開された。

 これは、昨年末〈Tokyo Fashion Week VERSUS TOKYO〉にて披露されたプレゼンテーションの模様を俯瞰カメラでシュートし、このルックムービー用にBacon(足下から視界までコントロールする方々)が映像をエディット。

 そして、当日もライヴをこなしたRezzett(英国より現れた謎に満ちたニューカマー、しかし一聴してソレとわかる電子音を司る2人組)によって新たにマスタリングを施された内容は一見の価値あり。もちろん当日のライヴ音源を使用している。

 ムービー公開に合わせて、今回もニューヨークのSplay/がC.Eのウェブサイト・リニューアルを担当(www.cavempt.com)。
 New York / London / Tokyoと張り巡らされるC.Eネットワークが、オンライン上にて結実した世界は2015年も増殖膨張をつづける。

声の束、光の束 - ele-king

 2006年、『サングイン(Sanguine)』がもたらした清新な驚き、そして、やがてめぐってくるアンビエントの一大潮流を予見するかのようなたたずまいは、いまもなお鮮やかに記憶されている。あれから知らぬうちに時が経っているが、彼女の方法論にはさして大きな転換もなく、かといってまったく古びない。トレンドではなく彼女自身の固有性として、その方法がいかに際立ち、インパクトのあるものであったか、いまさらにして認識を深めさせられる。バーウィックの音楽を教会という願ってもない環境で聴ける(東京公演)という来日公演の意趣に敬意を表するとともに、10年代のインディ・ミュージック最高の存在のひとつとしてぜひとも目撃したい。
 売れ行き好調とのことなので、お急ぎを。

■FOUNDLAND feat. Julianna Barwick
https://foundland.us/archives/956

1/23(金)
東京・品川教会グローリア・チャペル(品川区北品川4-7-40)
adv./door 4,000/4,500yen
open 18:00/start 19:00
w. 石橋英子
shop: Linus Records
ご予約・お問い合わせ:FOUNDLAND

1/24(土)
新潟・新潟県政記念館(新潟市中央区一番堀通町3-3)*SOLD OUT!
adv./door 3,500/4,000yen(県外3,000yen/18歳以下無料)
open: 16:30 / start 17:00
w.福島諭+濱地潤一、青葉市子
ご予約・お問い合わせ:experimental rooms
*現在新潟公演は定員のため、ご予約受付を終了しております。たくさんのご予約ありがとうございました。

1/25(日)
神戸・旧グッゲンハイム邸(神戸市垂水区塩屋町3-5-17)
adv./door 3,500/4,000yen
open 17:30/start 18:00
w. Cuushe
ご予約・お問い合わせ:FOUNDLAND

1/26(月)
大阪・島之内教会(大阪市中央区東心斎橋1-6-7)
adv./door 3,500/4,000yen
open 18:30/start 19:00
ご予約・お問い合わせ:FOUNDLAND

前売メール予約:件名を「FOUNDLAND vol.22」とし、
本文に「お名前/人数/希望公演日/ご連絡先」を記入の上、foundlandjp(at)gmail.comまでメールをご送信ください。
メールの返信をもってご予約とさせていただきます。
3日以内に返信が無かった場合、恐れ入りますが、ご再送をお願いいたします。


interview with Sherwood & Pinch - ele-king


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

0N-U SOUND / TECTONIC / ビート

DubWorldBass MusicSoulReggae

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 『レイト・ナイト・エンドレス』には姿勢がある。音楽は、時代と関連づけて語られるものであると同時に、何度も繰り返し体験できる楽しみなのだ。ふたりのベース探求者は、アルバムを通して、そう主張している。
 実際、これはクオリティの高いアルバムだ。話題性のみで終わらせないぞと、意地でも良い作品にするんだという気概を感じる。ヴァリエーションも豊かで、ロマンティックな側面もある。以下のインタヴューで本人たちが言っているように、これは、「クラブとリヴィングを繋げる音楽」だ。

 簡単に、ふたりの紹介をしておこう。
 エイドリアン・シャーウッドという人物の名前は、少なくとも5年音楽を聴いたら覚えることになる。それほど彼は、コンスタントに、ポストパンク時代から延々と、スタジオの卓の前に座って、フェーダーやつまみをいじりながらダブ・ミキシングをし続けている。
 音の電気的な加工、あるいはミックスを変えることがひとつの創造行為として広く認識される前から、彼はその技術をジャマイカの一流ミュージシャンに囲まれながら磨いてきた。ジャマイカ大衆音楽、すなわちレゲエは、音のバランスにおいてベースの音量を上げたことで知られている。ことレゲエから派生したダブは、ベース・ミュージックという言葉が生まれる前からの低音の音楽で、ベースの扱いに関しては歴史があり、研究の成果がある。
 シャーウッドは〈On-U Sound〉という主にレゲエ/ダブを出しているレーベルの主宰者としても知られている。いまでこそ白人や日本人がレゲエ/ダブをやったところで文句を言われることはないが、シャーウッドが活動をしはじめた時代は、白人が関わっているだけでレゲエ・ファンから「偽物」と言われていた時代だった。つまり、文化的な観点においても、シャーウッドは先駆者のひとりである。

 いっぽうのピンチ(ロバート・エリス)は、ダブステップ世代を代表するDJ/プロデューサー。人気と実力を兼ね備えたひとりだ。〈Tectonic〉を主宰し、最近では新レーベルの〈コールド〉が話題になった。ちなみに、ピンチがブリストルに生まれた1980年は、シャーウッドが〈On-U Sound〉をスタートさせた年でもある。それは、1958年生まれのシャーウッドが22歳の年で、彼が初期ブリストル・シーンのゴッドファーザー、マーク・スチュワートらと交流をはじめた頃だ。

 まさに親子ほど年が離れ、世代の異なるふたりだが、『レイト・ナイト・エンドレス』には、しっかりそれぞれの長所が出ている。ダブステップ系のグルーヴもあれば、いかにもシャーウッドらしいダブの宇宙とルーツの香気も広がっている。ふたりの調和が取れているのだ。
 それは時代の風向きとも合っている。細分化するダブステップ以降のダンス・ミュージック/商業化されたレイヴ全盛の現代において、足元を見つめる慎重なプロデューサーたちは、自分たちの立ち帰る場所を求めている。ある者はハウスへ、ある者はテクノへ、ある者はジャングルへ、そしてある者はダブへと向かっている。ハウスが来ているように、長いあいだ埃をかぶっていたダブもいま、たしかに来ているのだ。
 が、まあとにかく、今作においてなによりも重要なのは、この作品を家で聴いたときに気分良くなれること。アルバムのなかばあたりのメロウな雰囲気は、とくに素晴らしい。
 力作と呼ぶに相応しい作品を完成させたふたりに、昨年末、スカイプで取材した。

“ムード”を描写してるんだ。このレコードを聴いたら、真夜中のダンスやまったりした雰囲気、そういうのが延々と続くようなムードが反映されてるのがわかると思う。だよな?

通訳:こんにちは。今日は宜しくお願いします。

ピンチ(以下、P):こちらこそ。いま、エイドリアンを呼ぶから待ってね。(スカイプで招待)

エイドリアン・シャーウッド(以下、A):ハロー!

通訳:部屋のクリスマス・デコレーションが素敵ですね。(※取材は昨年のクリスマス前におこなわれた)

A:娘が飾ってくれたんだ。いいだろ?

P:ツリーも光ってるしね。

さっそくいくつか質問させて下さい。「Music Killer」のスリーヴアートは誰のアイデアだったんですか? あのキミドリのスマイリー(の逆の表情)ですが。

P:あれはスポティファイ(※欧米では有名だが、インディ・シーンでは不評の配信サービス)のマークをイメージしたんだ。周りはあんまり気に入ってなかったけどな……

A:でも俺たちは気に入ったから使うことにしたんだ。

P:だね。アンハッピーなスポティファイ・フェイス。

A:ロブとチャットしてて……

P:で、その会話の中であのアイディアが出て来たんだ。

A:そうそう。

P:俺は面白いと思ったんだよね。

A:基本、俺はスポティファイとかそういったものが好きじゃないんだ。それを表現したのがあのマークなんだよ。

P:当時、スポティファイが話題になってたからね。まあ、スポティファイはスポティファイ。好きな人はそれでいいとは思うけど。

通訳:日本って、まだスポティファイがそこまで普及してないんですよ。

A:それはいい。さすが日本だ。先進国だからスポティファイがないのさ(笑)。日本人はいまだにCDやヴァイナルを買うし。

P:デジタル時代になって、音楽は使い捨てになってきてしまってるからね。危険だと思う。CDやヴァイナルを買えば、それを聴こうとする気持ちが強くなると思うんだ。デジタルだと、音楽のチョイスが無限になってしまう。でも形として手元にあれば、それをもっと聴こうとするんじゃないかな。

A:最近は情報が飛び交いすぎてる。音楽もそうだし、だからハイプがすごいんだ。もう誰を信用していいのかわからない。昔はレコード店に行ってオススメを聞いたりしてたのにね。他のアーティストとの交流も前より減ったと思う。俺はプロモーションのために流された情報は信じたくないし、そういういまの時代だからこそ、人の信頼を得ることが大切だと思ってるんだ。ロブと俺のCDは信用できる内容だよ。是非聴いて欲しいね。

『Late Night Endless』というタイトルは、ふたりのセッションのことを喩えているんですか? それとも、この音楽の性質のようなものを表しているのですか?

A:あれは、“ムード”を描写してるんだ。このレコードを聴いたら、真夜中のダンスやまったりした雰囲気、そういうのが延々と続くようなムードが反映されてるのがわかると思う。だよな?

P:だね。本当にそう。あと、俺が音楽を作るのも大抵深夜だし。

通訳:クリエイティヴ・タイムってよくいいますもんね。

P:静かでピースフルだからね。メールを返さなくてもいいし、電話もならないし。夜中って好きなんだ。そういう時間だとマジックも生まれやすいし。

A:このレコードを作ったときも、深夜の作業が多かったよな。

通訳:作業はどうでした?

A:かなり楽しかったよ。自分たちの創造力を探求したんだ。そこからマジックが生まれたし、いつもと違うムードで作れたのがよかったね。

通訳:ロブ、あなたはどうですか?

P:エイドリアンと夜中の2時とか3時まで作業するのは楽しかった。作業する度にどんどん楽しくなっていったんだ。

先に出たふたつのシングルがわりとダブステップ(ベース系)のマナーで作られていましたが、今回のアルバムで予想以上に音楽性が幅広くて驚きました。ピンチにしたらフロア向けの曲はたくさん作っているわけで、このプロジェクトでのアルバムにおいては、クラブ・リスナー以外の人たちにも届けたいという気持ちがあらかじめあったのだと思いますが、いかがでしょうか?

P:2枚のシングルは、もう少しダンスフロアを意識して作ったんだ。でも今回のはアルバムだから、リスナーをさまざまなエナジーへと誘い込む音楽の旅を作る事ができた。だから、いろいろな幅広いサウンドを取り込むことを意識したんだ。それが出来るのがアルバムの特権だからね。

A:このレコードを聴いたら、完璧な真夜中のレコードっていうのがわかると思うよ。家でも楽しめるし、すごく瞑想的であると同時に、クラブでプレイすることも出来る。そんなレコードなんだ。

P:だね。

A:クラブとリヴィングを繋ぎたいんだ。俺が作って来たレゲエのレコードもそう。サウンドシステムでもスピーカーでも楽しめる作品。僕とロブは、ダンス・フロアのムードを持ちつつ家でも楽しめる作品を完成させることが出来たと思う。

P:エンジニアが、ダンスフロアでもプレイしたくなるインパクトを音に加えてくれたと思う。それもあって、ベースのフィジカルなインパクトを持っていながら、音の深さや緻密さも持ったレコードが出来たんじゃないかな。そのふたつのレベルを兼ね備えてる。だからサウンドシステムでも楽しめるし、ヘッドフォンや家で注意して聴きながら音の細かさを楽しむことも出来るんだ。

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クラブとリビングを繋ぎたいんだ。俺が作って来たレゲエのレコードもそう。サウンドシステムでもスピーカーでも楽しめる作品。僕とロブは、ダンス・フロアのムードを持ちつつ家でも楽しめる作品を完成させることが出来たと思う。


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

0N-U SOUND / TECTONIC / ビート

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今回エンジニアにベルリンのダブプレート&マスタリング(のラシャド・ベッカー)を起用していますね。

P:俺はラシャドの大ファン。彼は俺がシャックルトンとやったアルバムを手掛けてくれたんだけど、そのときにすごく良いエンジニアだなと思って。忙しすぎてなかなかつかまらないけどね(笑)。

通訳:じゃあ、ピンチが彼にオファーしたんですね?

P:そうだよ。今回もすごく良い仕事をしてくれたと思う。

A:かなりね。

通訳:制作中に会うことは?

A:俺は会ってない。

P:彼はベルリンに住んでるから、こっちに呼んだり会いに行くよりデータを送った方が安いんだ(笑)。

1曲目の“Shadowrun”のビート、細かいエフェクトは、まさにシャーウッド&ピンチですね。お互いの特徴がうまく混ざっている曲のひとつですが、これを1曲目にすることに迷いはなかったですか?

P:トラックの順番がすんなり決まるってことはまずない。でも“Shadowrun”に関しては、最初に持ってくるのがいいんじゃないかって、しっくりきたんだよね。曲の順序ってすごく大事なんだ。音楽の“旅”を作るのにはそれがすごく重要だから。
(エイドリアンがクリスマスの飾りの人形をカメラの前で左右にいったり来たりさせる)

通訳:何してるんですか(笑)?

A:いや、旅っていうから漂わせてみたんだ(笑)。……このトラックは、他のトラックと比べてもっとS&Pっぽい自然なトラックだったからね。まずそこから入っていって、期待以上のものに入っていくっていうのが良いと思った。今回は、境界線を越えて、たくさんの面での可能性を探求したんだ。もっとお決まりのこともやろうと思えば出来たけど、でも、自分たち自身もいつも以上のことに挑戦したかったんだよね。“Bring Me Weed”や“Music Killer”みたいな(フロア向けの)曲だらけのアルバムは作りたくなかったんだ。
 例えば、俺の前回のアルバム『Survival & Resistance』と比べると、このアルバムには全く違うフレイヴァーが詰まってる。このアルバムでは、俺とロブのアイディアや音の調和が探求されてるんだ。それが出来たことをすごく誇りに思う。妥協することなく、ふたりの融合によって新しいものを作り出すことが出来た。だから新鮮なサウンドでもあるし、10年経っても飽きないレコードが完成したと思うよ。

P:本当にタイムレスな作品だと思う。未来的とかそういうのでもなくて、特定の時期に当てはまらない作品を作りたかったんだ。ある意味、参考となっているのは〈On-U Sound〉や俺のダブステップの背景だけど、同時にそのどのサウンドでもない。その要素の間を自由に動き回ることが出来るというか。そういう作品がこのアルバムなんだよ。

まさにその通りで、曲ごとに趣向が違っていて、聴き応えのあるアルバムですよね。たとえば、“Wild Birds”みたいなエレガントな曲は、アルバムの目玉のひとつだと思うんですが、この曲に関してコメントください。

P:そういってもらえると嬉しいね。

A:どのトラックだって?

P:“Wild Birds”だよ。

A:ああ、あれか。

P:俺はあのトラックが大好きなんだ。

A:あれはアシッド・トリップみたいな音楽だな。ダブ・チューンだと思う。セットの最初に流す、みたいな感じだな。

P:だな。ムードを変える曲だね。1年くらい、自分のDJセットの最初に、この曲の初期のヴァージョンを流してたんだけど、すごく良かったんだ。その部屋にどんなエナジーやムードが出来ていても、この曲をプレイするとパッと雰囲気が変わる。リセットボタンを押してる感じ。いちから新しいエナジーを生み出していくんだ。大好きなトラックだね。トリッピーなヴァイブがあって。

“Wild Birds”におけるふたりの役割をそれぞれ教えて下さい。

P:俺が自分で作ったリズムやサウンドをエイドリアンに持っていって、そこから何を乗せることが出来るかを探していったんだ。スキットを入れたり、ピアノやサンプルを加えたり。で、それをアレンジした。で、そのあとエイドリアンがデスクでボタンをいじりながら魔法をかけてくれたんだ(笑)。

A:ははは(笑)

“Stand Strong”も素晴らしい曲ですね。メロウでエキゾティックな歌とパーカッションが魅力的だと思いました。歌っているのではどなたですか? 

P:あれはTemi(テミ)だよ。

通訳:『Ten Cities』(※〈サウンドウェイ〉からのコンピレーション)で一緒にやったTemi?

P:そう。俺がラゴスに行って、テミと何曲か作業してたんだけど、そのときたまたまこの曲の初期のヴァーコンのインストが手元にあって、それにヴォーカルを乗せてみれくれないかと彼女に頼んだんだ。そしたらそれが最高でね。ふたりとも結果に大満足で。彼女はナイジェリアのヨルバ語で歌ってるんだ。
 先にインストのアイディアがあって、彼女がその上から歌って、そこからまた音を変えていって。声やムードがインストにフィットしたんだ。嬉しかったね。君がパーカッションを魅力的と言ってくれてよかったよ。あのバランスをとるのにすごく時間をかけたから(笑)。

A:ははは(笑)、かな~り長く(笑)。

通訳:どれくらいかかったんですか(笑)?

P:思い出したくもないよ(笑)。エンドレスだったから(笑)。

通訳:今後、共演するヴォーカリストは増やしていきたいのでしょうか?

A:イエス。ロブはこれまでに俺と同じくらい様々なアーティストと作業してきたし、彼はテミを始めとするいろいろなヴォーカリストとの作業を楽しんで来た。既に共演したことのあるヴォーカリストももちろんいいけど、他のヴォーカリストも含め、いるかロブとヴォーカル・アルバムを作れたらいいなとは思うね。可能性はあるかも。

P:だね。

通訳:どんなヴォーカリストとコラボしたいですか?

A:マイケル・ジャクソン。

P:エルヴィス。

A:エルヴィスいいな。

P:ジョン・レノン、ジミ・ヘンドリックス(笑)。

通訳:亡くなってないとダメなんですか(笑)?

A:ははは。世の中には素晴らしいヴォーカリストがたくさんいるからね。このアルバムにはテミやビム・シャーマンなんかが参加してくれているけど、彼らとまた作業したいとも思う。やっぱり、内面でも繋がりを持てる人間とコラボしないと。今回も、だからこそチームとして良い仕事が出来たと思うし。

P:たしかにそうだ。

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本当にタイムレスな作品だと思う。未来的とかそういうのでもなくて、特定の時期に当てはまらない作品を作りたかったんだ。ある意味、参考となっているのはON-U Soundや俺のダブステップの背景だけど、同時にそのどのサウンドでもない。その要素の間を自由に動き回ることが出来るというか。


Sherwood & Pinch
Late Night Endless

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このアルバムの「アフリカ」について訊きます。“Africa 138”という曲がありますよね。ピンチには、2009年の“カッワーリー(Qawwali)”という、アフリカンなリズムを披露した人気曲があります。

P:あれは、アフリカンというより、スーフィーが参考になっているんだ。スーフィーっていうのはスピリチュアルな音楽のフォームで、“カッワーリー”はヴォーカル・ベースの音楽なんだけど、“カッワーリー”全体のポイントが意識なんだ。スピリチュアル・メディテーションみたいな。そのアイディアやムードが好きで、自分と音楽のスピリチュアルな繋がり、みたいなものを元にしてヴォーカルなしで書いたのがあのトラックなんだよ。

通訳:そうなんですね。で、質問なんですけど、エイドリアンには『スターシップ・アフリカ』というクラシックがありますよね? つまり、お互いの音楽に「アフリカ」はこれまでもあったと思いますが、今作においても“Africa 138”があります。

A:すべてのリズムはアフリカから来てるんだよ。ロブはラゴスに行ってたくさんの若手アーティストたちと出会ってるし、テミもそのひとり。ロブのパーカッションのほとんどもアフリカンだし、興味深いビートのほとんどはアフリカから来てるんだと思う。あそこが起源なんだよ。

P:俺はポリリズムが好きなんだけど、ダンス・ミュージックの面白い面の多くがアフリカのパーカッションに通じてると思う。ローランド808を見てみても、あのサウンドのほとんどがアフリカのパーカッションを基に作られてるしね。モダンなものとして受け入れてるけど、実はアフリカの伝統的なフォームが基になってる。ダンス・ミュージックに限らず、音楽におけるアフリカのパーカッションの影響はすごく深くて浸透してる。それと離れて音楽を作る方が無理ってくらいさ。

通訳:あの曲はどのようにして生まれたんですか?

P:“Africa 138”は最初の方に作った品のひとつ。そこから変わっていったんだ。いろいろな面白いリズムさサウンドのコラージュみたいな作品だと思う。

A:あれは、元々は俺がビム・シャーマンと一緒に何年も前に作っていたトラックなんだ。

P:だから最初に作りはじめて、時間があったからこそどんどん変化していった。

では、“Run Them Away”はどうでしょう? これはもう、エイドリアンらしいルーツ・レゲエを基調にした曲ですが、この曲にはメッセージも込められていますよね? 

A:あの歌詞は、最近世界を操ってるバカな奴らを排除しようっていう内容なんだ。彼らが何をやってるかとか。

ベース・ミュージックとルーツ・ダブとのミックスということについては、かなり意識的に取り組んだのでしょうか?

A:俺たちは、あまりそのふたつを違うものとして捉えてないから……ダブステップがシーンに来たとき、すでに好きな音楽だったから、俺にとってはすごく良かったんだ。ジャングルもそうだし、すぐに繋がりを感じることが出来たんだ。ロブもそうだと思う。ルーツを辿ると同じだから、ダブステップやベース・ミュージックは好きだね。俺にとっては、すべてが調和してるんだ。トーンやパワー、マイナーコード、それが全部重なった音楽が好きなんだ。同じだから、1972年~1973年のルーツ・ミュージックとコンテンポラリーなベース・チューンのバック・トゥ・バックは自然なんだよ。“Run Them Away"も、すごく自然に出来たしね。

“Gimme Some More”はベース系のリズムで、とくにダブの強度が強い曲ですが。

A:君が言うように、ダブの強度が強いトラックではある。ロブが最初にリズムを作って、そこから俺たちで色を加えていったんだ。このトラックは、どちらかというとロブが率いた作品で、そこに俺がアイディアやオーバーダブを加えていった。

P:俺が作ったものはすべてデスクに行って、エイドリアンの魔法の手にかかる。だから、必ずダブの要素は入る。このトラックには、ダンスフロアの良いグルーヴが入ってると思う。だからそこまでルーツは感じないけど、ダブとのコネクションは確実にあるトラックだと思うよ。

“Different Eyes”も面白いリズムなんですけど、この曲のメロディラインは、ルーツ・レゲエ的で、しかしビートがハイブリッドですよね。

P:このトラックは、90年代初期のブリストルを感じさせるんだ。俺が昔から聴いてきた音楽でもあるし、ルーツっぽさももちろんあるけど、この曲はもっとヒップホップ・クオリティが強い。

A:これは、アルバムのなかでも一番ダブステップなトラックだね。

“Precinct Of Sound”のような、敢えてクラシックなダブステップ・スタイルを使いつつ、エイドリアンのスペーシーなダブ・ミキシングが活きている曲も面白いですね。

P:Andy Fairley(※かつてON-Uからアルバムを出している)のヴォーカルが少し入ってるんだ。彼は多分、クラシックなON-U Soundのヴォーカルだから、それをもっとコンテンポラリーな環境におとしこむのことは意識したね。自分の初期のダブステップの作品とか。すごくパワフルな作品が出来上がったと思う。

ああいうミキシングはスタジオで一発録りなんですか?

A:ノー(笑)。完璧な作品を作りたくて、何度もミックスしたんだ。たくさんのアイディアを何度も試したんだよ。

P:アルバムには、オンもオフも含めて制作に2年かかったんだ。だから、書いたけどアルバムに使わなかったトラックもたくさんある。出来が悪かったからじゃなくて、アルバムのムードにフィットしなかったからっていう理由でだよ。トラックとトラックの繋がりは大事だから。最終的には269くらいミックスがあった(笑)。

A:ははは(笑)。

P:ムードを繋げるっていうのがチャレンジだったし、かなりの時間を費やしたから、皆にはそれを評価して欲しいな(笑)。

通訳:是非、CDを買って何度も聴いて欲しいですね(笑)。

P:2枚買って、1枚は母親にあげて(笑)クリスマスだから(笑)。

「Bucketman」とか、「マリワナ」とか「スモーキング!」とか、笑える声ネタもありますが、こういうのはエイドリアンが集めて来るんですか?

P:あれはダディ・フレディだったよな?

A:そう。いつも人がスタジオに出入りするから、そういうレコーディングを録リためておいているんだ。あれは2、3ヶ月前に録ったダディのヴォーカル。最近のなんだよ。かなり前に録ったものもいくつかあるけどな。ダディのヴォーカルは使ったことがなかったから、今回使ってみることにしたんだ。アルバムにすごくフィットするだろうと思ってね。

絶対に笑いながら作っていたと思うんですね。

A:毎回笑いが耐えなかった。レコーディングのプロセスは、クリエイティヴでありつつ、マジックでありつつ、そして何より楽しくないといけない。だから仕事と思わずに楽しめるのさ。スタジオの時間は楽しい時間でなきゃ。ロブとはそれが出来てる。彼と作る作品だけじゃなくて、制作過程にも感謝してるんだ。

通訳:どんな風にリスナーには楽しんで欲しいですか?

P:聴くにふさわしいシチュエーションはたくさんあるよ。夜中に聴くのがいいかもね。ムードがいいから。でも、どこで聴いていてもそういうムードに導いてくれると思う。とにかく、あまり先入観をもたずに耳をすまして欲しい。少なくとも、2~3回は聴いて欲しいな。

A:ロブが言ったように、毎回プレイするたびに違う何かを発見して欲しいね。たくさんレコーディングしたし、ミックスしたり、いろいろなものが詰まってるから。だから家でも楽しめるし、クラブでも楽しめるんだよ。

ピンチにとって、このアルバム制作はどのような意味を持つのでしょう? 

P:たくさんある。自分が昔から聴いてきたエイドリアンの素晴らしい音楽でもあるし、そこからさらに音を探求するっていう素晴らしい経験だった。これは彼との作業という経験のシンボルだし。楽しい時間も含め、すべてがポジティヴな経験だよ。

ダブを長年作ってきたエイドリアンとの作業は、ピンチのダブステップの解釈にも影響を与えましたか?

P:エイドリアンが俺のダブステップの見方を変えたとは思わない。俺たちは、自分それぞれが持つ要素を使って音楽を作ってるだけだから。

〈コールド〉で試みているテクノ・サウンドとこの作品とはどのように関連づけられますか? 

P:うーん……関連はとくにないよ。“Shadowrun”にはちょっとその要素が見られるかもしれないけど、他のトラックはとくにそういうのはないと思うな。

エイドリアンにとってこのプロジェクトは、どのような意味を持ち、今後、どのようにご自身のキャリアに活かされるものなのでしょう?

A:ロブに出会えたことは本当に嬉しいんだ。俺は常に自分が共感出来る何か新しいもの、新しい才能を探しているからね。彼はまさにそういう存在なんだ。世の中、才能のある人間はたくさんいるけど、メンタリティが合わないことも多い。でもロブとは共感が出来るから作業が楽しいんだ。共通点もあるし、互いの創造力をエンジョイしてる。ロブは若くて才能があるから、一緒にいてプラスだらけなんだよ。良い人間と働けば、それが作品に反映される。ロブでもプリンス・ファーライでも(笑)、良い環境で作ることが大事だからね。それ以上のものはない。だから本当に彼と作業が出来てハッピーなんだ。ギグも、レコーディングも、ただ飲みにいくだけでも、彼と一緒ならすべてが楽しみになるんだよ。

P:たしかに。

客観的に見て、『Late Night Endless』はダブ・ミュージックを更新できたと思いますか? 

P:更新とか、あまりそういうのは考えてない。未来に進もうとか、未来のことを考えたりはしてないんだ。俺たちは、ただ昔からのサウンドのインスピレーションを使って、いま自分たちが楽しめるものを作ってるだけだから。

通訳:もし、『Late Night Endless』のライバルがいるとしたら、何(作品名/アーティスト名)だと思いますか?

A:『サージェント・ペッパー』だな(笑)。

P:同じだったり似たレコードは他にはない。2015年に買うべき唯一のアルバムさ(笑)。

一夜限りの貴重ライヴ - ele-king

 結成31年。ザ・ウォーターボーイズが新作を携えて来日、初となる単独来日公演を行う。アイリッシュ・トラッドへの傾倒をひたむきに作品化してきたマイク・スコットの仕事は、ニューウェイヴ世代ばかりでなく、あまねく音楽ファンに愛されるべき。ele-kingでもインタヴューを公開予定です。ぜひ彼の音と言葉に触れ、来日までの時間を豊かにふくらませてみてください──。

PEALOUTの近藤智洋も参加した、ウォーターボーイズの約4年ぶりとなる新作がリリース!
4月には東京にて初の単独公演が決定!
期間限定で全曲試聴も!

 今年で結成31年を迎える大御所バンド、ウォーターボーイズ。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどからの影響を受けたその独自の音楽性、そしてスコットランドの吟遊詩人とも評される歌詞は国内外で高い評価を受けている。

 今年のフジロックではバンドとして念願の初来日も果たした彼らの4年ぶりとなる新作『モダン・ブルース』が、1月14日(水)に発売を迎える。国内盤は1週間先行リリースのうえ、2曲のボーナストラックを収録。
 また今作には、PEALOUT時代に「フィッシャーマンズ・ブルース」のカヴァーを演ったことでマイク自身とも親交のある近藤智洋の演奏が使用されている。

 そんな中、アルバム発売に先駆けてさらに嬉しい情報が入ってきた! なんとウォーターボーイズにとって初となる単独来日公演が東京にて4月に開催されることが決定したのだ。1夜限りの貴重なライヴとなっているので、この機会をお見逃しなく!

 また、現在期間限定でニュー・アルバム『モダン・ブルース』の全曲試聴を実施しているので要チェック!

ウォーターボーイズアルバム全曲試聴はこちら:


■公演情報
2015/4/6 (月) 渋谷クラブクアトロ
open18:30/ start 19:30 ¥8,000(前売/1ドリンク別)
お問い合わせ:03-3444-6751(SMASH)
※未就学児童の入場は出来ません。

チケット情報
主催者先行予約:1/27(火)スタート予定
2/7(土)プレイガイド発売開始予定
※共に詳細は1/20(火)に発表


Amazon Tower Amazon

■アルバム情報
アーティスト名:The Waterboys(ウォーターボーイズ)
タイトル:Modern Blues(モダン・ブルース)
レーベル:Kobalt
品番: HSE-60200
発売日:2015年1月14日(水)
※日本先行発売、ボーナストラック2曲、歌詞対訳、ライナーノーツ 付

<トラックリスト>
1.Destinies Entwined
2.November Tale
3.Still A Freak
4.I Can See Elvis
5.The Girl Who Slept For Scotland
6.Rosalind You Married The Wrong Girl
7.Beautiful Now
8.Nearest Thing To Hip
9.Long Strange Golden Road
10. Louie's Dead Body (Is Lying Right There)*
11. Colonel Parker's Ascent Into Heaven*
*日本盤ボーナストラック

※新曲「Destinies Entwined」iTunes配信中&アルバム予約受付中!(高音質Mastered For iTunes仕様)
https://itunes.apple.com/jp/album/modern-blues/id946840347?at=11lwRX

■ショートバイオグラフィー
1983年結成、英国エジンバラ出身のマイク・スコットを中心としたUKロック・バンド。ケルティック・フォーク、アイルランド伝統音楽、プログレ、カントリー、ゴスペルなどの影響を受けている。バンド名はルー・リードの曲の歌詞から名付けられる。初期はNYパンクの影響を受けたニューウェーブバンドとしてスタートし、U2フォロワー的な扱われ方もされていた。2014年にフジロックで初来日を果たし、2015年1月に約4年ぶりとなるニュー・アルバム『モダン・ブルース』をリリース。
同年4月には初の単独来日公演が決定。


こだま和文 - ele-king

 最近何が驚いたかって、ぜんぜんダブのイメージのないパンダ・ベアがキング・タビーからの影響を取り入れたらしい新作を発表するかと思えば、Back To Chillのレーベルを始動させたゴス・トラッドがいまだからこそダブのベースの凄みを強調しようとする。UKでは、エイドリアン・シャーウッドとピンチは世代を超えたダブ・アルバムを作って、リリースしたばかり。そして日本のダブの先駆者、こだま和文が還暦を迎える。1月29日には、その一大イベントが開かれる。ここしばらく「ダブ」というキーワードは表だってこなかったけど、これは、ダブの季節の到来、本当にあるかも。

  以下、リキッドルームからの熱いメッセージです。

還暦のエコーこだまする宴へ

 30年以上にわたるエコーの連なりをこの国の音楽シーンに響き渡らせ続けてきた男、こだま和文。還暦を迎える、現在もそれは継続した響きの連なりを 持っている。ミュート・ビート、世界初のライヴ・ダブ・バンドとして東京の音をひとつ、1980年代に前進させた。これを発端にして、そして“レゲエ” や“ダブ”という言葉を外しても、彼がいなければ、果たしてこの国のアンダーグラウンドからポップ・ミュージックにいたるまで、それらがいまと同じ形に なっていったかというのを考えるばかりである。ソロ・アーティストとしても数々の名作を残し、1990年代以降から現在にいたるまでの中心的プロジェク ト“DUB STATION”での、ある種、ヒップホップやベルリンのリズム&サウンドやミニマル・ダブへの回答のような、そのスタイルは唯一無二の存在感を放ってい る。そして、フィッシュマンズのファーストなど、プロデュース作においても、やはりその動きはこの国の音楽シーンに消せない刻印をくっきりと残している。 新作が待たれるばかりだが、ライヴや客演での活動は、いまだ活発だ。

 先ごろ、ミュート・ビート以前の、これまで謎の多かった、その若き半生を綴った近著『いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった』が刊行されたばかりだが、こだま和文がこのたび還暦を迎える。

 この日、これまで共演や客演などでそのリスペクトを示してきたEGO-WRAPPIN’、bonobos、ORESKABANDなど、その遺伝子を 持つアーティストたち、そして後期ミュート・ビートのメンバーでありこだま和文の朋友、故江戸アケミ率いるじゃがたらでもキーボードを務め、先ごろ円熟の ソロアルバム『遠近(おちこち)に』をリリースしたばかりのキーボーディスト、エマーソン北村も出演。

この宴、祝う。

▼EGO-WRAPPIN’
1996年 中納良恵(Vo、作詞作曲)と森雅樹(G、作曲)によって大阪で結成。2000年に発表された「色彩のブルース」や2002年発表の「くちばしにチェ リー」は、多様なジャンルを消化し、エゴ独自の世界観を築きあげた名曲として異例のロングヒットとなる。以後、作品ごとに魅せる斬新な音楽性において、常 に日本の音楽シーンにて注目を集めている。2014年5月には、オダギリジョー主演テレビ東京系ドラマ24「リバースエッジ 大川端探偵社」の主題歌・劇中歌、エンディングテーマの3曲を収録した、New Single「BRIGHT TIME」をリリース。
https://www.egowrappin.com

▼bonobos
2001年結成、2003年『もうじき冬が来る』でメジャー・デビュー。レゲェ/ダブ、ドラムンベース、エレクトロニカ、サンバにカリプソと、様々なリズ ムを呑み込みながらフォークへ向かう、天下無双のハイブリッド未来音楽集団。ROCK IN JAPAN、FUJI ROCK FES、RISING SUN ROCK FESなど、毎年数多くの野外フェスに出演し、ライヴ・バンドとしても確固たる地位を築いている。他アーティストへの楽曲提供、演奏サポートなど、それぞれ のソロ活動も精力的に行われ、2010年にはvo.蔡、dr.辻ともにソロアルバムも制作/発表。2014年3月5日には6thアルバム『HYPER FOLK』をリリース。さらに8月20日には初のライヴ・アルバム『HYPER FOLK JAMBOREE TOKYO.1/2』をライヴ会場限定販売にてリリース。
https://www.bonobos.jp

▼ORESKABAND
2003年に大阪・堺にて結成し、ライブを中心に活動するガールズ・ブラスロックバンド。3Rhythms&3Hornsの楽器構成。The Specials から絶大な影響を受けており、結成当初からスカバンドとして活動してきたが、活動を続けていくにつれて、2トーンをより精神的なものとして捉え、音楽のス タイルやジャンルをさまざまな方向に広げ、より自分たちらしい音楽を追求するようになる。2008年に全米46都市ツアーを行ってから、精力的に海外と日 本での活動を続けている。
https://www.oreskaband.com

▼エマーソン北村
ミュージシャン。オルガン・シンセを中心とする鍵盤演奏及び作編曲を行なう。ニューウエーブのバンドで音楽活動を始め、「ワールドミュージック」全盛 の’80年代末、JAGATARAとMUTE BEATに参加。’90年代前半にはライブハウス「代々木チョコレートシティ」及びそのレーベル「NUTMEG」においてあらゆる個性的な音楽、特に初期 のHip Hopやレゲエの制作に関わる。その後忌野清志郎&2・3′sを皮切りにフリーのキーボードプレイヤーとして活動。ロック畑からオルタナティブな 分野まで、音数は少ないが的確な演奏と音楽を広く深く理解する力によって、インディー/メジャーを問わない数多くのアーティスト・バンドをサポートしてき た。また、レゲエの創成期からジャマイカで活躍したミュージシャン、ジャッキー・ミットゥーの音楽を出発点としてリズムボックスと古いキーボードによるイ ンストゥルメンタル音楽を作っており、「エマソロ」と呼ばれる一人ライヴを全国各地や海外で展開している。2014年7月、オリジナル曲を中心としたソロ アルバム『遠近(おちこち)に』を、自身のレーベルからリリース。
https://www.emersonkitamura.com

▼松竹谷 清
1957年、北海道・札幌市生まれ。80年代から90年代初頭 に掛けて”TOMATOS”のリーダーとして活躍。メンバー には、じゃがたらのNABE CHANG(Bass)、EBBY(Guitar)や ミュート・ ビートの松永孝義(Bass)、今井秀行(Drums)ら が在籍。TOMATOSは、80年代にじゃがたら、ミュート・ ビート、S-KENと共にTokyo Soy Souceというライブ・イ ベントを企画、 シリーズ化して、それまでの日本のロック とはまた違った新たな音楽シーンを作った。彼らの活動が ベースにあった上で、後にリトルテンポやフィッシュマン ズが生まれた といっても過言ではない。又88年には、ス カの創始者ローランド・アルフォンの初来日公演 “Roland Alphonso meets Mute Beat”でサポート・ギタリストとし て参加、 後世に語り継がれる感動のライブとなった。その 後、ローランド・アルフォンとは2枚のアルバム 『ROLAND ALPHON SO meets GOOD BAITES with ピアニ カ前田 at WACKIES NEW JERSEY』、『Summer Place』を 一緒に作り、リリースした。
近年は、”吾妻光良&The Swinging Boppers”、“西内徹バ ンド”、“松永孝義”のアルバム等に参加。その天真爛漫 な存在感、ブラック・ミュージックの粋なエッセンスを日 本語に 置き換えた唄は、キャリアと共により味わい深さを増している。

▼こだま和文
1981年、ライヴでダブを演奏する日本初のダブ・バンド「MUTE BEAT」結成。通算7枚のアルバムを発表。1990年からソロ活動を始める。ファースト・ソロアルバム『QUIET REGGAE』から2003年発表の『A SILENT PRAYER』まで、映画音楽やベスト盤を含め通算8枚のアルバムを発表。2005年にはKODAMA AND THE DUB STATION BANDとして 『IN THE STUDIO』、2006年には『MORE』を発表している。プロデューサーとしての活動では、FISHMANSの1stアルバム『チャッピー・ドント・ クライ』等で知られる。また、DJ KRUSH、UA、EGO-WRAPPIN’、LEE PERRY、RICO RODRIGUES等、国内外のアーティストとの共演、共作曲も多い。現在、ターン・テーブルDJをバックにした、ヒップホップ・サウンドシステム型のラ イブを中心に活動してしている。また水彩画、版画など、絵を描くアーティストでもある。著述家としても『スティル エコー』(1993)、『ノート・その日その日』(1996)、「空をあおいで」(2010)『いつの日かダブトランペッターと呼ばれるようになった』(2014)がある。
https://echoinfo.exblog.jp

主催:上村勝彦
企画:上村勝彦
協力:LIQUIDROOM

2015.01.29
OPEN / START 18:00 / 19:00
ADV / DOOR ¥3,500(税込・ドリンクチャージ別)

LINE UP
EGO-WRAPPIN'、bonobos、ORESKABAND、エマーソン北村、松竹谷 清、こだま和文
*エマーソン北村の一人ライヴ「エマソロ」は開場時に行われます。

TICKET
チケットぴあ [250-653] ローソンチケット [74120] e+ LIQUIDROOM 12/13 ON SALE

INFO
LIQUIDROOM 03(5464)0800


 本作はニック・ケイヴのフィクショナルなドキュメンタリーであると共に、わが街ブライトンのフィクショナルなドキュメンタリーでもある。
 わたしは彼のように車を運転しないので、車を運転する人と道端を歩く人間とでは、同じ街に住んでいても見ている風景がこんなに違うのかと驚いた。本作にはブライトンの「ストリート」の部分がまったく出て来ない。舗道に落ちた犬糞やビールの缶や酔っ払いの吐しゃ物が見えない。ドラッグとアナキストの街ブライトンが、緑色の田園風景と静かな海岸の街のように見えるのだ。
 が、ひとつだけわたしが見ているブライトンと、本作中でニック・ケイヴが見ているブライトンに共通する点があった。それは雨である。
 雨、雨、雨、雨、雨。この街にはいつも冷たい雨が降っている。例え晴れていても雨が降っている。だから道端を歩く人間はエンドレスで濡れぼそっている。車の中にいる人はそれを眺めているだけだとしても。

             *****

 本作は、ニック・ケイヴが、ニック・ケイヴという名の、「いかにもニック・ケイヴらしい人」を演じているフィクションだ。しかし、ドキュメンタリー映像と呼ばれるものだって、作り手が自分でイメージする「いかにもそれらしい」誰かの姿を撮ったものだから、その点では同じだろう。で、面白いと思ったのは、最初から芝居として脚本を演じている同作のほうが、ドキュメンタリーとして取られた作品よりも真実に近づく瞬間があるような気がしたことだ。
 例えば、ニック・ケイヴが過去に繋がりのあった人々を自分の車に乗せて1対1で会話するシーンである。
 後部座席に座っていたのは、なぜPVハーヴェイではなく、カイリー・ミノーグなのだろう。「僕がバッド・シーズを脱退した理由はね……」と助手席でバンド脱退の内幕について話しているのは、なぜミック・ハーヴェイではなく、ブリクサ・バーゲルトなのだろう。
 映画に出演しているメンツより、彼の人生の中でずっと重要な役割を果たしたであろう人々の不在のほうが、よっぽど雄弁に何かを物語っている(ミック・ハーヴェイは大昔の写真の中で登場するのみだ)。
 同じことはニックの妻にも言える。彼女と出会った瞬間について、ニックがやたら演劇的に語っている印象的なシーンがあるが、妻は若き日の写真でしか登場しない。生きて動く彼女のほうは、窓ガラスに映った人影として登場するだけだ(これもある意味、写真と言えるだろう)。
 かろうじて彼の息子たちは出演しているが、なんかオカルト映画に出て来る子供の幽霊のようで、これまた生きた子供という気がしない。つまり、本作には、現実の彼にとって最も重要だろう人びとが、静物画のような存在でしか登場しないのだ。それは言葉や音楽や映像を通してニック・ケイヴという作品を作ることを職業にしてきた男の手の内を見るようでもある。

 現実の自分とフィクショナルなニック・ケイヴを厳格に区別するストイシズムによって、彼は欧州ロック・インディー界の聖域になった。強烈な若き才能が群雄割拠したUKポストパンク時代に、オーストラリアから出て来たセカンド・リーグ・バンド的位置づけだったバースデイ・パーティーのニック・ケイヴが現在の地位を築くなどと誰が想像しただろう。
 彼をポストパンクの生き残りレジェンドにしたのは才能でもカリスマでもない。
 もはやダンディズムといってもよいほどのストイシズムだ。

 「あなたが一番恐れているのは何ですか?」
本作中で心理学者に聞かれたフィクショナルなニック・ケイヴは、こう答える。
 「記憶を失うことだ」

 ゴダールの「ワン・プラス・ワン」を髣髴とさせる作風の映画の中では、心理学者とニックの会話もいかにも思わせぶりで、「記憶を失うこと」という言葉も詩的に響く。
 が、このばばあにはそれがやけにリアルに聴こえた。この台詞を口にした57歳のニックにもその感覚はあったはずだ。
 彼は記憶を失うことを恐れる理由についてこう語る。
「これまでやってきたことを続け、自分で納得できるレベルに達せなくなる時が来るのではないか。その思いが僕を不安にさせる。なぜなら、記憶こそが僕自身であり、僕たちの魂や生存の意味は、すべて記憶に結びついているからだ」。

 数年前から、このばばあもふとした瞬間に自分がいま何をしていたのか忘れることがある。年を追うごとにそういう瞬間が増えてきた。聞いた話によれば、これは瞬間的に認知症が訪れている状態だそうで、老いるということは、その瞬間が次第に時間になり、期間になり、やがて恒常に近い状態になることだという。
 いいことも、悪いことも、美しいことも、醜悪なことも、わたしが生きて見てきたことをすべて覚えているのはわたしだけだ。記憶こそがわたしなのであり、わたしは記憶に基づいて物事を考え、判断し、言葉を使って定義する。生きるということはそのエンドレスな連続作業だ。が、記憶が減少するということは、やがてわたしがその作業をできなくなる日が来ることだ。

 あとどのくらい残されているのだろう。

 市井の保育士でさえそんなことを考えてしまうのだ。ニック・ケイヴのような人になればこの暗い予感はどれほどのものだろう。

 ラストシーンのニックはブライトンの浜辺に立っていた。
 そこはわたしの職場の近くで、夏場にはランチ休憩に1人で座ってサンドウィッチを食っている場所なので、こんなに劇的に見えるものなのかと笑った。
 その浜辺に仁王立ちしているニック・ケイヴからカメラは徐々に遠ざかり、やがて彼は風景の一部となってだれなのか判然としなくなり、最後には見えなくなる。
 記憶とは、自我である。
 だが人間は徐々にそれを失い、そこから引き離され、やがて誰だがわからない存在になって消える。

 この映画を見てから、『Push The Sky Away』は拍子抜けするほどストレートな老いの音楽ではなかったかと思うようになった。
 そして死んだと言われて久しいロックを蘇らせるのは、実はそれを牽引してきた人々でしかないのではないかという気さえしてきた。
 自由だの革命だのといった俳句の季語みたいになったロックのテーマではなく、「老い」という誰もに平等に訪れるリアルから目を逸らさない姿勢こそが、現代の真のロックではないかと思えてきたからだ。  
 最近のニック・ケイヴやデヴィッド・ボウイを見ていると、そんなことを思索してしまう。

Sherwood & Pinch MIX音源 - ele-king

 明日(1月14日)リリースされるシャーウッド&ピンチの待望のアルバム『レイト・ナイト・エンドレス』、聴き応えのある力作です。シャーウッドのダブ/レゲエ、そしてピンチのダブステップという、それぞれの長所がほどよく調和しているところが最高だと思います。前半は軽快にダンスしながら、後半は夜の闇にしっとり溶けるような、メロウな展開がまた素晴らしくて、とても完成度の高い作品になったのではないでしょうか。
 で……、そのアルバム発売を記念して、ただいまシャーウッド&ピンチのエクスクルーシヴ音源が聴けます! 
 これを聴いてワクワクして下さい。

1. Shackleton / King Midas Sound 'Deadman, Death Dub remix' (Honest Jons)
2. Ishan Sound 'Namkah (Kahn remix)' (Tectonic)
3. Sherwood & Pinch 'Music Killer' (On-U Sound vs Tectonic)
4. Scientist 'Burn Them' (Hawkeye)
5. Sherwood & Pinch 'Bucketman' (On-U Sound vs Tectonic)
6. Pinch 'Croydon House VIP' (Dubplate)
7. Mumdance & Logos 'Legion VIPinch mix) (Tectonic/Dubplate)
8. Pinch & Mumdance 'Double Barrelled Mitzi Turbo' (Tectonic/Dubplate)
9. Andy Fairley 'System Vertigo' (On-U Sound)
10. Pinch & Shackleton 'Greedy Life' (Honest Jons)

interview with Panda Bear - ele-king

 2000年代のUSインディを代表するバンド、いやむしろ2000年代をUSの時代にしてきたアーティストたちを象徴する存在ともいえるアニマル・コレクティヴ。その双輪として彼らの音楽を駆動してきたのは、現在はそれぞれソロとしても活動しているエイヴィ・テアとパンダ・ベアという対照的な才能である。  といった説明はもうとくに不要かもしれない。いまではパンダ・ベアの新作、というだけでじゅうぶんに盤を手にする理由になる。そうなるだけの作品を彼は残した。『パーソン・ピッチ』(2007年)──かの逸盤はさきの10年のシーンに広がるサイケデリックの大きな水脈の上流にあって、それいちまいでチルウェイヴの胎盤にもなったのだ。

 その彼ことノア・レノックスの5枚めとなるソロ・アルバムはその名も『パンダ・ベア、死神に会う(パンダ・ベア・ミーツ・ザ・グリム・リーパー)』。「死神」にはリテラルな「死」ではなく、「その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する」イメージが重ねられていると彼は話してくれた。かたちを変えて続いていく命というモチーフは、そもそもアニマル・コレクティヴと名乗る彼らの中に共通する感覚なのかもしれないが、とくにレノックスには色濃いように思う。

 もしあなたにとっての「アニマル・コレクティヴ」が、たとえば『フィールズ』の“グラス”や“パープル・ボトル”のエクスペリメンタリズムだったとしたら、あなたが聴いているのはおそらくエイヴィ・テアだろう。『センティピード・ヘルツ』(2012年)なども筆者からすればエイヴィ色の強いアルバムという印象だ。対して『キャンプファイア・ソングス』(2003年)や『サング・トングス』(2004年)などはパンダ・ベアの息づかいを強く感じる。というか、実際に息が……ノア・レノックスの声がたっぷりと注ぎ込まれたアルバムになっている。
 テアが吹き込むのが瞬間的な生命感の横溢だとすれば、レノックスが吹き込むのはまさに彼のロングトーンそのものともいえる、連続的な息=生き。いま子どもを育てる時間の中で、生活がふたつあるように感じるという彼は、今作において、そのいくつもの命の重なりをヴォーカルの層となして水平に広げていく。彼のいう死=変化はあくまでそのなかでゆっくりと生起していくのだと感じる。大鎌を手にするおどろおどろしいはずの死神は、いまはまるでそれを櫂のようにあやつり、なめらかに時を運んでゆく水先案内人のよう。“トロピック・オブ・キャンサー”などに感じるのは、そうした水平方向への流れをもったサイケデリアだ。かつてはループのなかに夢と無限を見出していた、ミニマルな彼の音楽性は、もしかするとここでひとつの方向をめざしてリニアに延びていくという無限を得たのかもしれない。年齢をかさねてパンダ・ベアが出会ったのは、むしろ生きることをみちびく死神……「思ってねーよ」って言われるとしても、そこはそう、空想したい。

■Panda Bear / パンダ・ベア
米NYを拠点に活動するバンド、アニマル・コレクティヴの中心的メンバーのひとり、パンダ・ベアことノア・レノックス。アニマル・コレクティヴとして現在までに9枚のスタジオ・アルバムを、パンダ・ベアとしては4枚のソロ・アルバムを発表。ソロの3作めとなる『パーソン・ピッチ』(2007年)は米音楽批評サイト「Pitchfork」の年間チャートにおいて第1位を獲得するなど、個人のキャリアにおいても高い評価を得ている。

僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。


Panda Bear
Panda Bear Meets The Grim Reaper

Domino / ホステス

Indie RockPsychedelicAmbient Pop

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今作は『キング・タビー・ミーツ・ロッカーズ・アップタウン』や『オーガスタス・パブロ・ミーツ・リー・ペリー・アンド・ザ・ウェイラーズ』からインスピレーションを得たアルバムだとのことですね。ダブに接続する要素は『パーソン・ピッチ(Person Pitch)』の頃から強かったと思いますけれども。

ノア・レノックス:『パーソン・ピッチ』にかぎらず、ダブとの接続は毎回あると思うよ。僕にとって、プロデューサーという面でいちばん強く影響されているのは確実にダブ・ミュージックだからね。ああいうタイプのサウンドを聴いて以来、自分が唯一プロデュースしたと思えるサウンドが、ダブのようなサウンドだったんだ。

意識的にダブに接近するのは今回がはじめてではないと。

レノックス:はじめてではないね。でも、今回が他の作品よりも影響が濃く出ているっていうのはあるかもしれない。前からやってはいたけど、もっとわかりにくかったんじゃないかな。リヴァーブやディレイは普段から使っているし、そういった部分は自分にとってジャマイカのプロデューサーとのリンクなんだ。

そうしたプロデューサーたちの作品とはどのように出会って、どのようなところに惹かれたのでしょう?

レノックス:はじめて出会ってから馴染むまでには、じつは時間がかかっていて。18歳のとき、当時いっしょに住んでたルームメイトがダブの大ファンで、彼が聴いてたのを耳にしていたときは、僕はあまり理解できなかったんだ。で、彼があるときキング・タビーの『ルーツ・オブ・ダブ』っていうレコードをくれて、それをヘッドフォンで聴きながら歩くようになってからすぐにファンになった。ダブの深いベース音やザラついたハイハットとスネアのコンボ、リズムやサウンドが大好きになって、すごく特徴のあるサウンドだなと気づいたんだ。ちょっと湿ったような、雨っぽいフィーリングがあるところが魅力的だったんだよ。

今作はリズムが強調されたアルバムでもあると思います。わたしは“シャドウ・オブ・ザ・コロッサス(Shadow of the Colossus)”や“ロンリー・ワンダラー(Lonely Wanderer)”など、過去作もふくめあなたの3拍子や8分の6拍子の曲が大好きなのですが、こうした曲はメロディからできるのでしょうか?

レノックス:今回のアルバムに収録された曲に関しては、最初にできたのはリズム。あとはインストやアレンジを経て、いちばん最後にメロディができるっていうプロセスだった。
 僕がよくやったのは、最初にドラム、そしてシンセのようなインストのサウンドを作ったりサンプルを作って、そこからそれをレゴのブロックのように組み立てていくっていうやり方。その組み合わせ方に変化を加えていくんだよ。基本的には、音を何度も聴いて、そこに小さな捻りや変化を加えていった。で、そうしていくうち、何ヶ月も後になってやっとメロディが頭に思い浮かびはじめるんだ。望遠鏡で何か遠いものを見ていて、焦点が合わないとボヤけてはっきりと見えないでしょう? 最初はそんな感じ。でも、要素や色がわかってくるとはっきりはっきりとイメージが見えてくる。そうやってメロディができていくんだよ。ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。僕は、あまり計画をたててメロディを作ることができないんだ。曲ができ上がるまで待たないといけないんだよね。

ゆっくりとしたプロセスの中で、メロディやリズムや歌詞がナチュラルに浮かんできて、自然と形を成していく。

テクノなどはあまり聴かれませんか?

レノックス:よく聴くよ。ダブと同じくらいインスピレーションを受けてる。ハウスのような、他のフォームのダンス・ミュージック、クラブ・ミュージックよりもテクノを聴いてる。ヒップホップもそうだね。そういった音楽にはつねに影響を受けてるんだ。

ダフト・パンクとのコラボレーション曲(“ドゥーイン・イット・ライト(Doin' it Right)”)は16ビートでしたが、リズムにおいて意識したことや、新しく気づいたことはありましたか?

レノックス:作っていくうちに、ブレイクを使うことにフォーカスを置こうという方向性がだんだん見えてきた。リズム的に、もっと揺れるような、力のこもりすぎていないものを作りたいっていうのもあったね。リズムに関して意識したのはそこ。あとは、僕は普段から、典型的ではないちょっと変わったリズムを作るのが好きなんだ。

今回の録音はさまざまに場所を変えて行ったそうですね。『パーソン・ピッチ』などには「ベッドルームの中で世界を体験する」というような感覚があるのですが、今作は「いろいろな場所でただひとつのノア・レノックスを体験する」というアルバムのように感じました。複数の場所で録音したのはなぜでしょうか?

レノックス:レコーディングではなくて、いろいろな場所で曲を作ったんだよ。ほとんどは家で作って、その他はツアー中。何度か家を引っ越したりもしたから、それで点々とした感じになる。引越しのたびにスタジオをセットアップしてね。あるときはビーチの近くに住んでいて、そこのガレージにスタジオを作って作業していたし、街に住んでいたときは、そのアパートの地下室にスタジオを作って作業をした。あとは、ツアー中のホテルだね。たくさん移動していたからそうなったんだ。
 最終的なレコーディングはちゃんとした場所でやりたかったから、自分の場所ではなくて、ヴィンテージの機材や何百ドルもするギアがある場所を借りたよ。そういう環境はいままであまりなかったけど、ずっとやってみたいと思っていて、今回やっと着手したんだ。

普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。(“クロスワーズ”)

前作にひきつづいて、プロデューサーにソニック・ブームを迎えていますが、彼と試した音作りやアイディアでとくに印象深いことはどんなことですか?

レノックス:ピートは、サウンドを普通では思いつかないような場所に持っていってくれるんだ。彼は普通とはちがう何かを感じとれる。人の耳をくすぐるというか、そういうサウンドを作ることができるのが彼。ピートにはいろいろな才能があるけど、その部分は僕なんかよりかなり優れていると思う。彼の才能の中でも、目立ったクオリティだね。

今回もサンプラーを中心とした曲作りでしょうか。生音の素材がもちいられることが減ったようにも思いますが、いまの録音スタイルについて教えてください。

レノックス:サンプラーを中心としたっていうのは、もちろんこのレコードと『パーソン・ピッチ』をつなぐ要素ではある。でも、『パーソン・ピッチ』のほうがもっとそれに徹していたね。マイクを使ったのはヴォーカルを録るときだけで、あとはすべてハードウェアやコンピュータの中で作業したから、ライヴ・サウンドは本当にわずかだったんだ。『トムボーイ(Tomboy)』はその逆で、ライヴ・パフォーマンスが多かった。全部にマイクを使ったわけじゃないけど、より多くギターの生演奏が使われているからね。
 今回のレコードに関しては、マイクが少ないという点では『パーソン・ピッチ』に帰還している。でも、今回はパーカッションは自分でやったりしてるから、そこはちがうんだ。

一方で、くるみ割り人形のサンプリングなど、ブラスやハープ、ピアノなども中盤では印象的に登場します。楽器の音色としてもっとも好きなものは何ですか?

レノックス:“クロスワーズ(Crosswords)”っていう曲があるんだけど、あれを作っていたときはスタジオにグランドピアノがあって、あのピアノ・パートが“クロスワーズ”の曲の印象を変えたんだ。それまではなかった「個性」を曲に吹き込んでくれた。普通のピアノには聴こえないからもしれないけど、あれが僕がアルバムのなかでいちばん気に入っている楽器の音色だね。

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今回初めて意識したのは、「自分についてだけを書かない」ということだった。それは、いままでのどの音楽ともちがう。

“ミスター・ノア(Mr Noah)”とはあなたのことですか? ファンキーで、タイトな生ドラムも入り、アルバムのなかではもっともやんちゃなグルーヴを感じる曲ですが、あなたのドラマーとしてのアイデンティティが反映されていると捉えるのは的外れでしょうか?

レノックス:そう。自分のことだよ。セルフ・ポートレイトみたいな曲。ドラマーとしてのアイデンティティか……考えたことなかったな。リズム的にはかなりシンプルだと思うけど。

今作中、もっともパーソナルだと思われる曲と、もっとも自分のこれまでのアーカイヴから離れていると感じられる曲を教えてください。

レノックス:今回初めて意識したのは、「自分についてだけを書かない」ということだった。今回は、自分だけの考えや経験とはちがうものを書きたかったんだ。それは、いままでのどの音楽ともちがう。もちろん、曲を書きはじめるときは自分の考え方や経験からスタートするけど、そこから歌詞にひねりを加えたり、フレーズを変えたりしていった。今回は自分のことに関しては語りたくなかったから、みんなが経験したり、誰でも考えるようなことにフォーカスしたんだ。誰もが抱える問題や葛藤、喜びとかね。自分以外の人と、よりコミュニケーションがとれるように。

詞の内容に引っぱられて作られた曲はありますか?

レノックス:それはないね。クールだなと思うアイディアを見つけて、曲の一部で使おうかな、と思うこともある。でも、詩を書いてそこから曲を作るってことはまずない。さっきも言ったように、僕はその方法がわからないからね。

『Panda Bear Meets The Grim Reaper』というのは、とても可愛らしい、愉快なタイトルだと思いました。あなたにとって「The Grim Reaper(死神)」とはどのようなものですか?

レノックス:このアルバムはコンセプト・アルバムではないんだけど、このタイトルは文字通りの「死」を意味しているんじゃなくて、変化を表しているんだ。何かが変化して、その存在がなくなってしまう前に新しい何かに変化する、みたいな。今回のアルバムの曲がそんな感じだからね。永遠になくなってしまうんじゃなくて、変化して生まれ変わる、というか。

このタイトルは文字通りの「死」を意味しているんじゃなくて、変化を表しているんだ。

死神、精霊、生物(Animal Collective)、あなたにまつわる音楽にはそうした自然と超自然のモチーフがとけあって存在していますね。きっとあなたにとって親しいイメージであり、あなた独特の生命観なのだと思いますが、そうしたものに向かうルーツはどんなところにあったと思いますか?

レノックス:自分たちも動物だからだと思う。僕たちもそういったものの一部だから。だからそういったことについて考えるし、音楽にも反映されるんだと思う。動物が持つ衝動と人間の衝動には似ている部分もあるし、逆に動物だけが持つ能力もあるし。人間って路頭に迷ったりするけど、動物は天真爛漫だったり。そこが魅力的なんだ。

あなたのソロ作品はアートワークも素晴らしく、いつも何らかの象徴性をそなえた、とても喚起的なヴィジュアルが用いられていました。今回はうって変わって、タイポグラフィ的なものになっています。これにはあなたからのディレクションがあったのですか?


『Panda Bear Meets The Grim Reaper』のジャケット

レノックス:そうだよ。でも、あれを作ったのはピートの友人のマルコ。ピートと僕のツアーのポスターを作ってくれたのが彼で、そのデザインがすごくよかったから、彼にいくつかデザインしてみてくれと頼んだんだ。そしたら、すごくたくさんアイディアを送ってきてくれてね。その中から、いちばん印象的だったものを使うことにした。他のも素晴らしかったから、そのうち使うと思う。タイトルの単語の頭文字を取って使う(PBMGR)っていうのは僕のアイディアだったけど、あとは全部マルコがデザインしてくれたんだ。

以前にもインタヴューさせていただいたことがあるのですが、そのときあなたは、ポルトガル(ヨーロッパ)は古い歴史を持っていて、アメリカが新しい国だと感じるとおっしゃっていました。ヨーロッパに住まうことで、音楽の歴史性を意識することはありますか?

レノックス:いまはインターネットがあるから、どこからでも、何にでもアクセスできる。だから、どこに住んでいようと何かに影響されずにはいられない時代だと思う。自分のオリジナルだと思っても、それは必ず自分が触れたことのあるものからきているわけだしね。

土地のトラディショナルな音楽から影響を受けることはありますか?

レノックス:住んでいれば触れてはいるから、もちろん影響はされていると思う。でも、自分がどう影響されているのかはわからない。何かに影響されていたとしても、それをコピーしようとは思わないし、その影響が反映されていることに気づいたら、そこに必ず変化を加えるようにしてるんだ。

新しい音楽に触れるのはインターネットを通してであることが多いですか?

レノックス:そうだね。あとは友だちはまわりにいる人たちから情報をもらったり。

業界にいると、情報量がすごそうですね。

レノックス:そうなんだ。音楽に詳しい人がまわりにたくさんいてくれてラッキーだと思う。

『ヤング・プレイヤー(Young Prayer)』や『パーソン・ピッチ』に戻るという意味ではないのですが、次はぜひアコースティックな作品を聴きたいです。いかがでしょう?

レノックス:ははは(笑)。ギターと自分でツアーしたいっていう夢はあるんだ。いまは、機材をいくつも運んで移動するのが面倒くさくて(笑)。だから、バンドとギターでツアーするのって魅力的なんだよね。いつか実現させると思う。いろんな意味でやりやすいと思うから(笑)。

生活がふたつある感じかな。ひとつは自分のためで、もうひとつは他人のため。親になると、世界がガラっと変わるよ(笑)。

差支えがなければ教えてください。お子さんは家庭教育と学校教育のどちらでお育てになりたいと思いますか?

レノックス:状況によるね。あとは教師がどんな人かによる。どちらも善し悪しがあると思うから、本当にそのときの環境によると思う。僕の子どもは一人はあまり社交的じゃないから、そういう場合は学校にいってそういうスキルを身につけるのもいいと思うし、もう一人はその逆だから、まわりにある学校の環境や教師によっては家庭教育もいいかもしれないし。場合によるね。

前作のジャケットでは聖母が涙を流していましたが、あなたにとって「父」というとどんな存在で、どんなモデルやイメージを思い浮かべますか?

レノックス:それはつねに変わるんだ。父親になる前はぜんぜんちがうイメージを持ってたけど、なってからそれは変わったし、いまだに変化しつづけてる。まだ自分でもわからないんだ。状況によって変わるんだよね。子どもがいるといないじゃ、生活の視点がまったくちがう。自分の人生を生きているのに、そうじゃないというか……(笑)。生活がふたつある感じかな。ひとつは自分のためで、もうひとつは他人のため。親になると、世界がガラっと変わるよ(笑)。自分は学校に通っていなくても、通っているリズムで生活するわけだからね。

ARTHUR RUSSELL - ele-king

 長い時間を経て、ようやく真っ当な評価を与えられ、さらにまた年月のなかで光沢を増していく音楽があるけれど、アーサー・ラッセル(1952-1992)とはまさしくそんなアーティストだ。最近、複数の世代の複数の人との話のなかで「アーサー・ラッセル」の名前が出てきたり、いまになって「アーサー・ラッセルの本を読みましたよ」と言われたり、実感として、アーサー・ラッセルって、また来ているんだなと思う。
 倉本諒(彼のドリーム・プッシャーは今年の台風の目になるだろう……)は、よくよく100%シルク的なものをハウスになりきれてないなんちゃってハウスのような書き方でこバカにしているが、しかし、ハウスそれ自体が、そもそもディスコから「素人ディスコ」とバカにされた音楽であり、そして、ディスコとは当時のダンスの王道であるファンクの側から「ファンクのない音楽」とバカにされた音楽である。つまり、オーソリティーから低俗で軽薄だと揶揄されたものこそが、ディスコであり、ハウスなのだ。しかもそれらを特徴付けるのは、キラキラした気取り屋たちのどろどろの快楽主義。そんな世界に、まったく自由な発想で「実験」と「現代音楽」と「ポップ」を注入したのが、アーサー・ラッセルだった。

 この度、アーサー・ラッセルの以下の4枚のCDが〈Pヴァイン〉から再発された。ぜひこの機会に、ひとりでも多くの音楽ファンが彼の作品に触れてくれたらと思う。(編集部)

■『ファースト・ソート・ベスト・ソート』
 現代音楽時代の、入手困難な初期作品、『Tower Of Meaning』(1983年)+1977年/1978年のライヴ音源『Instrumentals, 1974 - Vol. 2 』(1984年)の未発表曲集 Instrumentals, Vol.1』とのカップリング。アーサー・ラッセルのモダン・クラシックな側面が輝いている。
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■『ワールド・オブ・エコー』(1986年)
 歌モノを愛したアーサー・ラッセルの名盤。歌とチェロとミキシングによる唯一無二の声のダブ・アルバム。必聴盤。
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■『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』
 彼は、現代音楽からディスコに接近したが、その後ポップスにも挑戦している。本作は、2004年に〈ラフ・トレード〉からリリースされた、80年代なかば以降のポップ・ソングを収録したアルバムで、トレイシー_ソーンもカヴァーした“ゲット・アラウンド・トゥ・イット”収録。『NME』の「あなたの知らない100枚の偉大なるアルバム」の1枚に選ばれている。
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■『ラヴ・イズ・オーヴァーテイキング・ミー』
 2008年にリリースされた未発表音源集だが、あまりのデキの良さに、その年の『ピッチフォーク』や『FACT』や『WIRE』などの年間ベストに選ばれている。70年代の作品から91年まで幅広く収録。意外に聞こえるかもしれないが、ラッセルのフォークソングが実はすごく良い。
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●タワーレコードにて「アーサー・ラッセル・キャンペーン」実施中!

【対象店舗】
タワーレコード渋谷店
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タワーレコード秋葉原
タワーレコード名古屋パルコ店
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タワーレコード梅田大阪マルビル店
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【特典内容】(特典は先着購入者順にお渡し、無くなり次第終了。)
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(※下記対象商品4タイトル中2タイトルの同時購入での先着特典)

【対象商品】(いずれもアーサー・ラッセルの作品です)
・『ワールド・オブ・エコー』(品番:PCD-24376)
・『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』(品番:PCD-24377)
・『ファースト・ソート・ベスト・ソート』(品番:PCD-18781-2)
・『ラヴ・イズ・オーヴァーテイキング・ミー』(品番:PCD-24378)

●ディスクユニオンでは特典付き!

【ディスクユニオン限定特典】

『アーサー・ラッセル/ 4タイトルまとめ買いセット』 をお買上のお客様に先着で、ディスクユニオン・オリジナル『コーリング・アウト・オブ・コンテクスト』のジャケット・デザインのマグカップを差し上げます。
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