「KING」と一致するもの

 カメラのシャッター音と強靭なリズムが聴こえてきたので興奮しながら踊っていると、DJブースの前で跳ねまわっていた男が「ジャム・シティだ!」と叫び、とつぜん僕に飛びかかってきた。びっくりさせるなよ! ああ最高だよ、わかってるから、落ち着け。いや、まだ落ち着かないでくれ。みんなそれぞれ好きなだけ踊り狂っていよう。フロアには走り回って遊ぶパーティ・ピープルまでいた。
 いやしかし、待て、いったい僕はどこから来てここに辿り着いたんだっけ? そして、ここはどこだったっけ?

 ときは2013年3月某日の夜。東京・渋谷の街を見おろす商業施設ヒカリエの9階のホールでは、その立地に似つかわしくない奇妙な光景が繰り広げられていた。ファッション・ピープルが見守るなか、ロンドン・アンダーグラウンドの深い闇に根を張るウィル・バンクヘッド(The Trilogy Tapes)がジョイ・オービソンをプレイしている。それだけではない。自身の新曲を響かせながら、〈C.E〉のファッション・モデルとして大画面で堂々登場したのは、なんと我らがゾンビー。新作『ウィズ・ラヴ』のリリースを控えているゾン様、こんなところでいったいなにを!?

 ファッション・ショーが終わり、なだれこむようにしてパーティは開かれた。DEXPISTOLSや〈キツネ〉のふたりやVERBALといった名の知れた出演陣がDJをしていたが、その一方、すこし離れたもうひとつのフロアでは、海を越えてやってきたアンダーグランド――その熱狂の予感が渦を巻いていた。
 それは〈REVOLVER FLAVOUR〉と題された、デザイナー:KIRIによる饗宴だった。
 日本から1-drink(石黒景太)が迎え撃ったのは、先に述べたウィル・バンクヘッドに加え、ロンドンの〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルとしてLAに基地をかまえる〈フェイド・トゥ・マインド〉(以下FTM)の面々。〈FTM〉をキングダムとともに運営するプリンス・ウィリアム(Prince William)、同レーベルに所属し、アメリカのアート・ミュージック・シーンをさすらうトータル・フリーダム(Total Freedom)
 彼らのプレイから飛び出したのは、グライム/UKガラージ/ドラムンベース/ジャングル/レゲトン/リアーナ/サウス・ヒップホップ/R&B/ジューク/ガラスが粉々にされる音/赤子の泣き声/獰猛な銃声/怯えたような男の叫び声/乱打されるドラムなどなど。
 〈FTM〉について知っていた人はその場でも決して多くなかっただろう、が、とにかくフロアはダンスのエネルギーで溢れていた。レーベルのヴィジュアル面を担っているサブトランカ(Subtrança)によるヴィデオゲームめいたCGのギラギラした冷たいライヴVJも、このイヴェントの奇怪さと熱狂を促した。

 それにしても、ヒカリエとベース・ミュージック――そのコントラストは〈FTM〉にうってつけだった。ぜひレーベルのウェブサイトやアートワークを見て欲しい。そこでは、発展していく文化やテクノロジーと、留まることのない人間の物欲や暴力と、地球を支配する自然界の力とが、ワールド・ワイド・ウェブのなかで拮抗と核融合を重ねながら爆発を起こし、我々の脳――PCの液晶ディスプレイへ流れだしている。すでにわれわれの実生活において、文明は現代のテクノロジーやデザインの(快適な)成果として現れつづけている(最近はじまった『to be』というウェブ・サーヴィスはもはやヴェイパーウェイヴを作るためのツールにしか見えない......)。〈FTM〉は、そんな現実を生きる活力として、LSDでもSNSでもなく、ダンスとソウルを主張する。すなわち、心へ(Fade to mind)、と。


Kingdom
Vertical XL

Fade to Mind

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 間もなく〈FTM〉から、レーベル・オーナーでもあるキングダムの『ヴァーティカル・XL』がリリースされる(先行公開されている曲は"バンク・ヘッド"と題されている)。

 以下は、〈FTM〉の共同オーナー:プリンス・ウィリアムと、サブトランカの片割れ:マイルス・マルチネスとの貴重なインタヴューである。取材を受けるのは初めてとのことだった。サウンドトラックにはぜひこのミックスを。
 いつなにが起こるかわからないのはデジタルの世界もアナログの世界もおなじ。インターネットが見れなくなる前に、いますぐ印刷するのをおすすめしたい。

 夏以降、〈FTM〉のアクトが来日する動きもあるようなので、詳しくはまた追ってお知らせしよう。どうか、ダンスとソウルをあなたに。

90年代のレイヴ・カルチャーは逃避主義的すぎた。僕らは人びとに触れあいがあってほしいし、「いま」を生きてほしいんだ。クラブの外に出たとき自分たちがどこにいるのかを認識してほしいんだ。僕らのメインドラッグは珈琲だよ(笑)。

今回はわざわざ来日してくれてありがとうございます。まさかこんなに早くあなたたち〈FTM〉に会えるとは思いませんでした。日本に来るのは何回目ですか?

マイルス・マルチネス:僕は2回目だよ。最初の来日は2001年で、アシュランド(トータル・フリーダム)も同じ。ングズングズ(Nguzunguzu)はソナーが初来日だ。

プリンス・ウィリアム:僕も同じころが最初で、今回は2回目だ。前にきたときは〈アンダーカヴァー〉や〈ベイプ〉とかストリート・ウェアのファンでただの買い物客だったんだ。だから、KIRIやSk8ightthingをはじめ、ファッションに携わるみんなとこうして仕事ができるなんて夢みたいな出来事だよ。いつか日本の生地をつかった服をつくりたいね。

では、もともとファッションにはつよい興味を持っていたのでしょうか?

プリンス・ウィリアム:もちろんだよ。僕は人口の少ないテキサスのちいさな町で育ったんだけど、そういったカルチャーをディグしたんだ。

マイルス・マルチネス:ヴィジュアル・アーティストとして、映像も音楽もファッションもすべて表現という意味では共通しているものだと思っているし。

プリンス・ウィリアム:実際〈フェイド・トゥ・マインド〉のほぼみんながアートスクールに通っていたんだ。アシュランドとマイルスはレーベルのなかでももっとも精力的に現代アートの世界でも活躍していて、ほかのみんなは音楽にフォーカスしつつ、やっぱりアートはバックグラウンドにある。新しくてユニークでイノヴェイティヴであるカルチャーそのものを提示するっていう共通のアイデアが僕たちを動かしているし、繋げている。僕らは〈FTM〉をライフスタイルそのものだと考えているよ。〈FTM〉はみんなが友だちで、強い信頼関係にあるんだ。

マイルス・マルチネス:アシュランドはアートスクールには通っていなくて、ただただアーティスト/ミュージシャンとしてのキャリアがあるんだ。彼は学校にいってないことを誇りに思っているよ。

日本の音楽やアートあるいはカルチャーでなにか惹かれるものはありますか?

プリンス・ウィリアム:音楽にもアートにもすごく魅了されているよ。マイルスは日本のアニメーションが好きだよね。僕はコンピュータ・グラフィックスが好きだ。

マイルス・マルチネス:日本のアートだと草間弥生や森万里子が好きで、日本のアニメもたくさん好き。広告もいいし、ヴィデオ・ゲームとかも。全体的に、ファッションもデザイナーもいい。葛飾北斎なんかの古典的な美術も好きだよ。

プリンス・ウィリアム:プリクラも。

マイルス・マルチネス:プリクラ、いいね。

プリンス・ウィリアム:音楽なら、坂本龍一のことは〈FTM〉のみんなが大好きだよ。YMOのこともね。とても大きな影響力があるよ。つまり何が言いたいかというと、日本のテクノロジーに惹かれるんだ。

マイルス・マルチネス:YAMAHAとかシンセサイザーとかね。

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インターネットの文化にはさまざまな問題も感じている。たくさんのリサイクルで溢れているし、多くの人びとが好きなだけ情報を享受しているばかりで、自分から何かを還元している人は少ないよね。その状況には文化的に何か問題がある気がするんだ。

なるほど。テクノロジーについてはまたのちにお訊きしますが、その前にまず〈FTM〉のヴィジュアル面を大きく担っているサブトランカの活動について聞かせてください。ちょっと気になっていたんですが、ジャム・シティのヴィデオを手がけたのはあなたの相方であるダニエラ(Daniela Anastassiou)ですか? 変名かなと思ったのですが。

マイルス・マルチネス:あれは違うんだ。僕たちはングズングズ(Nguzunguzu)マサクーラマン(Massacooramaan)のヴィデオを手掛けていて、〈FTM〉以外ではSFのショート・フィルムをサウンドトラックまで手掛けて、小規模な映画祭で上映したこともあるよ。

〈REVOLVER FLAVOUR〉でもライヴですばらしいVJをしていましたね。以前にジェームス・フェラーロやインクのメンバーのライヴでもマッピング映像を披露しているそうですが、そういった上映作品はウェブにアップなどして公開しないのですか?

マイルス・マルチネス:僕たちは変人だと思われるかもしれないけど、レアなライヴの感覚が好きなんだ。サイバー・カルチャーには深く入れ込んでいるし、影響を受けてはいるんだけど、僕たちはインターネットに対して懐疑的でもあって、オンラインだと簡単に見過ごされてしまうこともある。だから僕たちはライヴ・ヴィジュアルにこだわって、体験としてレアでありたいんだ。変なことかもしれないけど、それが自分たちにとってここちよいやり方なんだ。

プリンス・ウィリアム:僕はそれがクールだと思うけどな。

〈FTM〉はウェブサイトをとてもアーティスティックに作っていますし、コンピュータ・グラフィックによるアート・ダイレクションも、インターネットにおける情報の無茶な重層感/合成感といいますか、テクノロジーのごった煮感が強く表れていると思いますが、それでも同時にインターネットに対して懐疑的になるのはなぜでしょう?

プリンス・ウィリアム:インターネットは定義上、現れては消えて、臨時的だから。僕たちはクラシックな瞬間を作りたいんだ。それにとても言いたいのは、僕たちがおなじ部屋にいて初めておなじ瞬間をいっしょにわかちあっているという共通の体験を大切にしたいということだよ。ヴュアーの類としてではなくね。

マイルス・マルチネス:インターネットの文化にはさまざまな問題も感じている。たくさんのリサイクルで溢れているし、多くの人びとが好きなだけ情報を享受しているばかりで、自分から何かを還元している人は少ないよね。その状況には文化的に何か問題がある気がするんだ。もちろん僕はインターネットを愛しているよ。たくさんのひとが色んなものを見れるし、それは偉大なことだと思う。でも、レコードを手にして初めてアートワークを見る事ができたり、映画館に行かないと作品を見れない事だったり、現実世界のそういう制限的、だけど経験的な部分に僕は強く惹かれるんだ。たくさんのものがコピー&ペーストされていくインターネットとは違って、新譜のレコードを実際に手にするあの瞬間のような、その経験自体を僕はクリエイトしたいと思っているから。

プリンス・ウィリアム:タンブラーのことは知ってるでしょ? みんなが素材を拾って、再投稿する。そこでは新しいものを作らなくてよくなる。クリエイトするエナジーを使わないかわりに、「これイイネ!」「あれいいね!」ってライクすることでリサイクルにエナジーをつかっているだけなんだ。なにかを作っている気になれるのかもしれないけど、実際には借りているだけだ。それじゃあ新しいコンテキストは生み出せない。

マイルス・マルチネス:インターネットはたくさんのものを見れるかもしれない。それはたしかにクールなことだ。でも、僕たちはミステリーが好きだし、ミステリアスでいたいんだ。ファティマ・アル・カディリ(Fatima Al Qadiri)もングズングズも一目見てミステリアスでしょう。人知れぬ存在というか。

プリンス・ウィリアム:そう、僕たちはアンダーグラウンドを愛しているんだ。とても実験的なエッジ(力)として。

なるほど。〈FTM〉は、ポスト・インターネット的な意匠が共通していながら、現状いかに面白い素材を拾ってきてリサイクルできるかを匿名で競っているヴェイパーウェイヴとはまったく逆の哲学を根源でお持ちなのですね。
 〈FTM〉のレーベルを強く印象づける要素としてアートワークがとても大きな役割を果たしていると思います。サブトランカとはどのようにして手を組むことになったのでしょうか?

プリンス・ウィリアム:レーベル初期のアートワークはエズラ(キングダム)が担当していて、彼はコンピュータ・グラフィックのとてもクラシックなスタイルをとっている。マサクーラマンのアートワークの真んなかにあるオブジェなんかにそれが現れているね。ただ、彼も音楽にフォーカスしていくうちに時間が限られていってしまったんだ。マイルスはングズとも親友だったんだよね。

マイルス・マルチネス:ングズの作品はファーストEPからアートワークを担当しているよ。

プリンス・ウィリアム:当初〈FTM〉のアートワークを写真だけで作ろうと思っていたんだけど、イメージ通りにはいかなかったんだ。そこで3Dグラフィックをデザインできるひとを探しているところに、ングズと仲のよいマイルスたちサブトランカがいたんだ。自然な運びだよ。マイルスと初めて会った時からもうファミリーみたいに打ち解けたんだ。エズラがアート・ディレクターみたいなもので、マイルスはとてもコンセプチュアルなアイディアにもとづいたデザイナーでありクリエイターだ。エズラがちいさなアイディアをもっていたとして、マイルスはそれを実現に導いてくれる。

マイルス・マルチネス:最近はファティマの『デザート・ストライクEP』のアートワークを担当したり、ボク・ボク(Bok Bok)から『ナイト・スラッグス・オールスターズ・ヴォリューム2』の依頼も受けたりしているよ。

サブトランカのツイッターの背景には写真がたくさん並べてありましたが、あなたのアートワークの基礎には写真があるということなんですね。

マイルス・マルチネス:僕はヴィジュアル・アートやフォトグラフィーやペインティングや3Dを主に学んで、相方のダニエラ・アナスタシアはアニメーションなど映像が基礎にあるんだ。僕はもともと映画業界で働いていたこともあったし、ウィル(プリンス)は写真を勉強していたり、それぞれみんなの背景があって現在のアートワークがかたちつくられているんだよ。僕のアートのコンセプトは「現実と非現実のブレンド」から来ているんだ。

プリンス・ウィリアム:僕たちは「現実と非現実」の狭間にいるね。

〈ナイト・スラッグス〉もしかり、〈FTM〉も唯物的でフューチャリスティックなテクノロジーをアートワークの題材に用いていると思うのですが、それはどういった思想に基づいているのでしょう?

プリンス・ウィリアム:そうだなあ。僕たちは「いま」を生きなければならない。僕たちはクリシェとしてのレトロな音楽をつくりたくはないんだ。いまを生きている僕たちはたしかに過去から影響を受けているけども、僕たちがはじめてガラージやグライムを聴いたときのような衝撃を――音楽の原体験をファンに与えたいんだ。でもそれらを真似したり、おなじことを繰り返したくはない。そのとき、テクノロジーというのはコンテンポラリーであることの大きな要素ではあるよね。でも同時に、最新のシンセサイザーだけを使うわけではない。もちろん、ヴィンテージのサウンドも使う。ヴァイナルのほうが音がよいのもおなじで、過去からのものを活かすこともする。そう、僕たちのコンテクストで意味を成すことが大事なんだ。

マイルス・マルチネス:過去と現在の状況から何かを想定出来るという意味では、フューチャーという概念はすごく面白いと思う。

プリンス・ウィリアム:でも「いま」であるいうことはやっぱりすごく大切で。先進的であるという事ももちろん大切だけれども、リリースする作品は常に今を意識しているし、リスナーにも今好きになってほしいと思っている。2年後に再評価されるとかそういう物ではなくてね。とても難しい部分ではあるのだけれど、そういったバランスを大切にしながら、つねにイノヴェイティヴでいたいんだ。

マイルス・マルチネス:ただただ物事を先に進めて行きたいと思っている。前進だね。

プリンス・ウィリアム:そう、前進していくんだ。ただ、フューチャーという言葉はいまではレトロの文脈で使うことが多いよね。70年代とかクラシックなSFとかが持っていた「どんなことが起こり得るか」の想像力を愛してはいるけど、僕らはやっぱり現代に強く根ざしているし、〈FTM〉の哲学は「いま」(now)だよ。

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僕たちは「いま」を生きなければならない。僕たちはクリシェとしてのレトロな音楽をつくりたくはないんだ。いまを生きている僕たちはたしかに過去から影響を受けているけども、僕たちがはじめてガラージやグライムを聴いたときのような衝撃を、音楽の原体験をファンに与えたいんだ。

なるほど。未来的なイメージとの差異から現代(いま)を浮かび上がらせるということでもあるのでしょうか。
 それでは、レーベルそのものについて話を伺いたいと思います。〈FTM〉は、ロンドンのボク・ボクらによる〈ナイト・スラッグス〉の姉妹レーベルとしてLAで運営されていますね。まず、ングズングズをリリースをしたいということから〈FTM〉が始まったというのは本当ですか? 

プリンス・ウィリアム:そのとおり、それがとても大きな理由だね。彼らは最初のEPをフリーでリリースしていた。色んなバンドをリリースしているレーベルからオファーがあったみたいだけど、旧いコンテキストのうえで紹介されて理解を得られないんじゃないかと僕たちは心配だった。だから僕たち自身のコンテキストを作ったんだ。それにングズングズとマイクQ(Mike Q)が〈ナイト・スラッグス〉の色とは違っていたのもあって、キングダムと手を組んで〈FTM〉を立ち上げてレコードを出すことにしたんだ。
 それまで僕はブログをもっていたから、それをつかってレーベルをやろうとしていたんだ。例えば、ガール・ユニット(Girl Unit)はとてもシャイだったから当時隣の家に住んでたのに初期のデモ音源をボク・ボクに直接送れなくて、僕に渡してきたから、それを僕がボク・ボクに「これを聴くべきだよ」って繋いだんだ。だからもしそのとき僕がレーベルをはじめていたら、きっとガール・ユニットやキングダムと契約していただろうね。
 その年に〈ナイト・スラッグス〉がはじまっていい仕事をしはじめて、僕たちは「オーケー、僕たちの出る幕はないな」と一旦は思ったんだけど、まだやる余地があるのを見つけたんだ。
 そうして〈FTM〉は〈ナイト・スラッグス〉を基にして生まれたんだ。アレックス(ボク・ボク)がロゴをデザインしてくれたり、ミキシングやマスタリングなどのすべてにおいて彼から学んだんだ。リリースする作品に関しても彼の意見を常に参考にしていたよ。

ボク・ボクとはどのようにして出会ったんですか?

プリンス・ウィリアム:インターネットだよ。マイスペースを通してだね。キングダムは当時デュオでDJをしていたボク・ボクとマナーラ(Manara)に出会ったんだ。キングダムはガラージや2ステップやグライムといったイギリス発の音楽にとても大きな影響を受けていて、ボク・ボクたちはサザン・ラップやアメリカ発のクラブ・ミュージックに影響を受けていた。お互いの国のカルチャーへの興味が交差して、その強いコネクションがあってそれぞれのサウンドが築かれていったんだ。

〈FTM〉とおなじくングズングズやファティマ・アル・カディリをリリースしている〈ヒッポス・イン・タンクス〉や〈UNO NYC〉など、他のレーベルとはなにか交友関係があるのでしょうか?

プリンス・ウィリアム:〈ヒッポス・イン・タンクス〉のバロン(Barron Machat)はいい友だちなんだ。でも他の多くのレーベルもそうだけど、バロンもレイドバックしてるんだ。ングズングズがデモを送っても彼はそれを受け取るだけだった。でも僕たちはフィードバックを返して、ミックスに入れたり、好きなレコードをプレゼントしたりした。〈FTM〉は他のレーベルと違ってデモを受け取ってリリースするだけじゃないんだ。アーティストをプッシュして、彼らによりよいものを作ってほしいと思っている。僕らはアーティストのために働きたいし、リリースに際してたくさんのエナジーをつかうよ。お金や資源を投じるだけじゃなくてね。〈ヒッポス〉のようなレーベルと僕たち〈FTM〉の契約するときの違いはそういうところかな。〈UNO NYC〉もレイドバックしてるからね。でもどちらが正解ということじゃない。〈FTM〉にはクリエイティヴなプレッシャーがあるんだ。アーティストにはクリエイトする環境で生き抜いてほしいから。だから、ほかのレーベルとは違うシステムで動いていると思う。
 〈FTM〉と〈ナイト・スラッグス〉はふたつでひとつのレーベルだと思う。僕たちはビヨンセやリアーナ、クラシックなR&Bに大きな影響を受けている。エモーショナルな歌が大好きだ。ブレンディーのレコードは去年のお気に入りだな。ジェシー・ウェアもわるくないけど、彼女の場合はスタイルに重きがあるよね。僕はエモーショナルなものが欲しい。メアリー・J. ブライジのように。

「フェイド・トゥ・マインド(心へとりこまれる)」というレーベル名はプリンスがつけたそうですね。レーベル・コンセプトについてキングダムはクラブ・ミュージックに心を取り戻すと語っていたと思うのですが、つまりそれまでのクラブ・ミュージックに対する批評的な視点があるということでもあるのでしょうか? また、レーベルをスタートさせてから2年経ちますが、現状どのような感想をお持ちですか?

プリンス・ウィリアム:それはちょっと誤解で、僕たちはそれまでのクラブ・ミュージックに対して不満があったわけではないよ。レーベル名の意味については、ただ僕たちがやりたいこと――クラブにソウルを吹き込みたいということを語っているだけだよ。エズラ(キングダム)はとてもスピリチュアルでミスティカルな人間なんだ。メディテーションに興味があって、「身体の外の経験」――すなわちそれが「フェイド・トゥ・マインド」なんだ。そこにクラブ・ミュージックがあるとき、人びとにソウルフルな体験を味わってほしい。僕たちはクラブに/リスナーにエナジーを注ぎこみたい。朝の起き抜けに音楽を聴いて起きたり、夜の疲れているときクラブに行ったりするでしょう。僕たちはそういうものを欲しい。ハイエナジーな音楽を。

さきほども挙げられていたガラージや2ステップなど、なぜイギリスの音楽に惹かれるのでしょう?

プリンス・ウィリアム:繰り返しになるけども、僕たちはただイノヴェイティヴなレコードを作っていく。けれど、それと同時に一般的な人びとやストリートにもアピールしたいと思っている。人びとがソウルフルになれる実験的なクラブ・ミュージック――たとえば、グライムはとてもクリエイティヴでイノヴェイティヴだ。さまざまなジャンルに派生していける可能性も秘めていたしね。
 全体的にイギリスの音楽は、ソウルフルでありながらとても冷たい、温かいのにハードなんだ。驚くべきバランスで成り立っている。ロンドンにはとてつもない緊張感があって、それがすばらしい音楽を生み出しているんじゃないかな。そういうところに影響を受けているね。トレンドが移り変わって、リアクションがあって。イギリスの音楽はヴォーカルやアカペラをまったく色の違うトラックに乗せたりするけど、ヴォーカルを新しいコンテキストに組み込むというのは僕たち〈FTM〉にとっても設立時からずっと鍵であるアイディアだった。それもあって、ケレラ(Kelela)のようなオリジナルなシンガーをレーベルにずっと迎えたかったんだ。

イギリスの音楽というところで、ブリアルやアンディ・ストット、また、国は違いますがR&Bのハウ・トゥ・ドレス・ウェルなどにはどのような感想をお持ちですか?

プリンス・ウィリアム:僕はとても〈ハイパーダブ〉に影響されたけど、もっとエネルギーのあるレコードを好んでいたから、ブリアルを最初聴いたときはチルな感触がマッシヴ・アタックのようなトリップ・ホップのように感じられた。そんなにプレイすることもなかったし、おおきな影響を与えられた存在とは言えない。エズラ(キングダム)はヴォーカルのマニピュレーションがとても評価されているけど、どちらかというとドラム・ン・ベースからの影響が強いね。
 アンディ・ストットはどんな音楽なの? 知らないな。
 ハウ・トゥ・ドレス・ウェルよりも、僕はインク(Inc.)の方が好きだ。近しい友だちでもあるしね。
 僕は音楽においてダイナミクスが聴きたいんだ。ただ悲しいものだけじゃなくてね。僕たちの音楽は、悲しかったり、ハッピーだったり、ハイエナジーだったり、すべてがひとつの瞬間に起こる。でもハウ・トゥ・ドレス・ウェルはとってもとっても悲しくてとっても沈んでいるよね。沈みっぱなし。彼のプロダクションとかサウンドは好きなんだけど、僕は音楽にアーク(弧)が欲しいんだ――クラシカル・アーク――『クラシカル・カーヴ』さ。

(一同笑)

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〈FTM〉と〈ナイト・スラッグス〉はふたつでひとつのレーベルだと思う。僕たちはビヨンセやリアーナ、クラシックなR&Bに大きな影響を受けている。エモーショナルな歌が大好きだ。ブレンディーのレコードは去年のお気に入りだな。ジェシー・ウェアもわるくないけど、彼女の場合はスタイルに重きがあるよね。僕はエモーショナルなものが欲しい。メアリー・J. ブライジのように。

ングズングズも含め、〈FTM〉のみなさんのDJプレイはダンスを強く希求するハイエナジーなものでした。本誌でも工藤キキさんが〈GHE20G0TH1K〉(ゲットーゴシック)の客のファッションについて「90'Sのレイヴの独自の解釈?」と表現していましたし、PROMの甲斐さんも「まるでレイヴだった」と話してくれました。あなたたち自身は、たとえばかつてのレイヴ・カルチャーないしはセカンド・サマー・オブ・ラヴに対して憧憬はありますか?

マイルス・マルチネス:僕個人的にはオリジナル・クラブ・ミュージックというのは、ヨーロッパではなくアメリカ発祥のそれであって、シカゴ・ハウス/シカゴ・ジューク/デトロイト・テクノなどかな。初めて好きになった音楽はヒップホップで、それからすこし違う文脈でハウスやテクノを知るようになった。

プリンス・ウィリアム:僕も初めはヒップホップから入ってデトロイト・テクノのようなものを知った。でもエズラはまったく違くて、彼はヨーロッパのクラブ・ミュージックに入れ込んでいた。彼も僕もドラムンベースは大好きだし鍵となる影響を受けているし、ドラムンベースは僕のなかでヒップホップとテクノとを繋いでいる橋なんだけれど、僕がヒップホップに入れ込んでいる一方で、エズラはR&Bに入れ込んでいた。ラジオでかかる音楽を実験的なテリトリーに引き込みたいというアイディアがあったんだ。ヨーロッパの国営放送では実験的なレコードがかかるよね。それはただのポップではない。アメリカのラジオは崩壊したシステムで成り立ってる。DJに金を払わなければいけない。良いレコードをつくってラジオでかけてもらうということがアメリカではありえないんだ。
 はじめてレイヴが起こった頃に僕は14歳だったし、レイヴはヴィジュアル面でとてつもなく大きい影響があったこともたしかだ。フライヤーとかモーション・グラフィックとか、エズラもアート・ダイレクションにすごくレイヴカルチャーの影響を受けているよ。

マイルス・マルチネス:そう、そのとおり。

プリンス・ウィリアム:でも同時に、90年代のレイヴ・カルチャーは逃避主義的すぎた――ディプレスやデジャヴからの逃避。僕らはひとびとに触れあいがあってほしいし、「いま」を生きてほしいんだ。クラブの外に出たとき自分たちがどこにいるのかを認識してほしいんだ。なにも日々の仕事から離れさせようとか落ち込んでいるのをカヴァーするとかではなく、僕は気分の沈みをクリエイティヴィティに変えるのを助けたいんだ。僕らのメインドラッグは珈琲だよ(笑)。

カフェインもなかなかですからね。プリンスはコンセプトについて語ると一貫していますし、〈FTM〉が逃避ではなく、いま現実を生きる活力としてのダンスを主張しているというのがよくわかりました。それでは、最近聴いた音楽でよかったものと、うんざりしたものを教えてください。

プリンス・ウィリアム:インク。インクだよ。僕たちのもっとも好きな音楽だし、とてつもない影響をもらっているし、新しいアルバム『ノー・ワールド』はつねに車でプレイしている。
 不満をいうなら、トラップだね。あれはカウンター・カルチャーじゃないと感じるし、事実あれはアメリカのラジオでかかっている。たとえば、ビヨンセがトラップに乗った音楽がある、一方でトラップのインストゥルメンタルだけの音楽がある。どっちがほしいだろう? 僕はビヨンセが欲しい。わかるかな。僕はトラップのインストじゃなくてビヨンセがあればいい。それにトラップはサザン・スタイルのヒップホップだ。でも南部じゃないひとたちがたくさんトラップを作っているでしょう。そんなのはリアルじゃないよ。ただのトレンドだ。

マイルス・マルチネス:僕はDJラシャドが好きだな。新作はもちろん、古いのも。クドゥーロも好きだし、グライムも好きだし......なんていうかな。

プリンス・ウィリアム:マイルスはとてもポジティヴだからね。

マイルス・マルチネス:はは(笑)。好きじゃないものは聴かないから。音楽雑誌も読まなくなったし、欲しいものをは自分で探すようにしてる。僕はングズングズが大好きだし、ジャム・シティもキングダムもファティマ・アル・カディリも......シカゴの音楽も、マサクーラマンも、E+Eとかも...とにかく友達はすばらしい音楽を作るし、それが好きなだけだよ。

それでは最後の質問です。あなたたちが日本にくるまえ、2年前に、震災と原発の事故があったことはご存知ですよね。日本国内の市民である僕たちでさえ安全だとはとても言えないのですが、そんななか自国を離れ、わざわざ日本に来るのは不安ではなかったですか?

マイルス・マルチネス:この世界では日常的に汚染だとか放射線とか僕たちにはわからないクレイジーなことが起きているし、いつも死に向かっているようなものだよ。それに、日本にはいつだってまた行きたいと思う場所で、それは事故のあとも変わらないよ。

プリンス・ウィリアム:僕が思うに、〈FTM〉は恐れではなくポテンシャルによってここまで来ることが出来た。僕らのクルーが恐れについてどうこう話をすることすらないよ。日本はすばらしい場所だし、いつだってサポートしたいと思うカルチャーがある。アメリカでもカトリーナのあとのニュー・オリーンズとおなじで、僕たちはそこに行ってお金を回してカルチャーを取り戻したいと思ったし、実際、日本の経済的な状況は前に来た時よりもおおきく変わったのを今回は肌で感じることもできた。
 ストリート・カルチャーもおおきく変わったね。前に来日した時はコンビニに入れば『smart』とかストリート・ファッションの雑誌がたくさんあった。でももうそういうのが見られないよね。ストリート・カルチャーはもっと狭くなってしまった。みんな年を重ねてソフィスティケイトされた。でもそれは悪いことじゃなくて、ただシフトが起こっただけだと思う。
 とはいえ、実際に住んで生活をしている人とアメリカにいる僕とでは経験としてまったく違うのだろうと思う。(311の頃)日本の友達にはすぐ電話したんだけど、僕はとても心配だったよ。
 災害時にすぐにメディアがポジティヴな話題に切り替えたり、人びとの間で実際に被害の話ばかりするのが良くないという風潮があったというのは、やっぱり日本の文化的な面も大きいと思う。そこには悪い部分もあるかも知れないけれど、僕はそれは日本の良い部分でもあると思うんだ。恐れの話をしてもしょうがないというときもある。それはポテンシャルと自信を生む事もあるし、このように気の利いた社会というのはそういうメンタリティによって支えられているとも思うんだ。だから僕たちはまた機会があれば日本に来たいし、出来る限りサポートしたいと思っている。ここの文化からはすごく影響を与えられているから。

なるほど。これからも〈FTM〉を躍進させて、僕たちを思いっきり踊らせてください! ぜひまたお会いしたいです。今回はありがとうございました。

すでに伝説だ - ele-king

 嵐で中止を余儀なくされた伝説の1回目、私と野田さんと三田さんと磯部くんでネット中継による開演前の前説を行い、果たしてこの巨大な会場が埋まるんだろうかと抱いた不安が杞憂に終わった2回めを経て、3回目となるフリー・フェスティヴァルを、ドミューンは、宇川直宏は「FREEDOMMUNE 0 〈ZERO〉 ONE THOUSAND 2013」と銘打ち今年も開催する。
 すでにご承知の方も多いと存じますが、第1弾ラインナップでペニー・リンボーが登場すると聞いたときはさすがに魂消たが、第2弾は瀬戸内寂聴氏であることを知ったときは尻子魂を抜かれる思いがした。アナーコ・パンクの雄、というか、言葉そのものであるCRASSについては、昨年ジョージ・バーガーの同名書が日本語で読める彼らの足跡を詳述して、どうせなら再結成して来日とかしないかと念じていたが、CRASS名義ではないもののペニー・リンボーがイヴ・リバティーンといっしょに来るとなると、CRASSの表現に少なからぬ恩恵を受けた、心ある音楽ファンはアガるなというほうがムリである。しかもその次に天台宗名誉住職にして小説家の瀬戸内寂聴さんが出るとなれば、島に住んでいる私の母もあわててパソコンを買いに走ったくらいだ。

 フリードミューンの特設ページではいまのところこのふたりの出演の告知のみだが、この絶妙な異化効果は、フェスティヴァルを組織する行為そのものが宇川直宏の作品であることも意味している。とはいえ、CRASSのアナーキズムその可能性の中心にあるものが暴力や闘争ではなく――古くさい言葉だが――友愛であるなら――それはパンクの遺構などではなく、DIYの先年王国主義なのかもしれず――飛躍を承知でいえば、それはそのまま瀬戸内寂聴氏にもあてはまるものであり、私たちは彼らの法話から、昨年の明け方のマニュエル・ゲッチングの"E2-E4"に感じたのと同じ、いやそれ以上の法悦を得るだけでなく、マーガレット・サッチャー亡き後の世界の狼煙を、幕張に集うひとたちだけでなく、回線でつながった全世界から東北の地に向けてあげることにもなるだろう。


■東日本大震災被災地支援イベント
DOMMUNE FREE FESTIVAL
FREEDOMMUNE 0 〈ZERO〉 ONE THOUSAND 2013

■日時:7月13日(土)
■場所:幕張メッセ
■時間:17時開場~翌朝5時
■URL:https://www.dommune.com/freedommunezero2013/

vol.51:オタクはヒップスター? - ele-king

 先週はアーヴィング・プラザ(Irvingplaza.com)という比較的大きめの会場に、アナマナグチという8ビット・パンク・ポップ・ダンス・バンドを見に行った。

 メンバー4人、ニューヨーク・ベースの彼らの特徴を上げる:「蛍光色」「アニメ」「ヴィデオゲーム」「ライトアップ」「かわいい」「おたく」
 サイト(https://www.anamanaguchi.com)からもわかるように、彼らには、たくさんのこだわりとアイディアがある。それに同意する人がいかに多いのかという結果として、最新アルバム「endless fantasy」を作るためにキックスターターで、189.529(=200万弱)をレイズした(https://www.kickstarter.com)。

 会場は、半分がおたく男子(ナード、ギーク、でもスタイリッシュ)。彼らに向ける声援もアイドルのようだ。目を閉じるとゲーム音楽が流れ、目を開けると蛍光カラーのライトが反射するステージが飛び込んでくる。
 このライトに関して言うと、ベースのジェイムス(彼のベースの弦は、4色とも蛍光カラー、ネットで購入したらしい)は自分の家の地下室にライト研究室を持つぐらい、蛍光ライトにこだわり、さらに映像と音のシンク、ステージでのプレゼンテーション全てをケアしている。ギターのアリーは、蛍光グリーンの髪に(最近黄色から変えた)、蛍光オレンジのキャップ、蛍光ピンクのTシャツに、蛍光イエローのギターで、見た目はアニメキャラ。

 メンバーが着ていたのは、ブルックリンのファッション・レーベルRHLS/ルフェオ・ハーツ・リル・スノッティ(https://rhls.com/)、ウィリアムバーグ・ファッション・ウィークエンドでもおなじみの彼らは、アナマナグチと同じ世界観、ファンタジーの世界を生きている。ウィリアムズバーグにmovesというコンセプトストアも運営している(https://movesbrooklyn.com/)。

 基本インストなのだが、ゲスト・ヴォーカルが入る曲もある。今回は、アイルランド人の女子(歌が下手なきゃりーぱみゅぱみゅ風)と、女性R&Bシンガーがアナマナ好みにサンプリングされていた。ライヴの最後には、今日の観客から引っ張り出されたような、ヒップスター女子ふたりが登場(柄物レギンスにボーイフレンドT)、歌い終わったあとは、客席へダイヴするのだった。
 彼らの音楽は、アメリカのアタリや日本の任天堂、サブカルのごちゃ混ぜ感を、音楽+映像をプラットフォームに表現している。インディ・バンドのように心に訴えかける力やハングリー感はないが、音楽に対する熱意やアイディアは相当ある。オタクというと気持ち悪いというイメージもあるだろうが、新世代のオタクはヒップスターなのだ。バンドというフォーマットにこだわらず、自分が操作できる装置を使って、自分たちの娯楽を作っている。



 このショーを見ながら、私はオブ・モントリオールを思い出した。どちらも現実を忘れさせるほど、ファンタジーの世界を捻り出している。ヴィジュアルやステージでのパフォーマンス、ライティングに定評があるが、その裏では果てしない奮闘を繰り広げている。
 ちょうどアナマナグチのショーの3日後に、オブ・モントリオールを見たのだが、ステージを盛り上げるゲスト(シアトリカル・パフォーマー、女性ヴォーカリスト)、ライトショー(白い布を来た人がステージの中心に立ち、そこに映像が当てられる)など、音楽以外にさまざまなおまけが付いてきて、アナマナグチよりストーリー性を感じた。
 ライトショーは前回もあったが、今回は人の体のラインや形によってライトの当て方を変え、まるで動くプラネタリウムを見ているようだった。新曲からヒット曲をまんべんなくミックスし、全曲スムースに進む。まったくソツがない。
 バンドとして全体を見たとき、勢いなのか、新しいことをやっているワクワク感なのか、アナマナグチの方にパワーを感じたが、オブ・モントリオールは経歴も長いし、今回のツアーも後半に差し掛かっている。そこを差し引いても、オブモンはオーディエンスを楽しませること、アナマナグチは自分たちが楽しむことをいちばんとしているように思えた。
 オブ・モントリオールはその足で、日本(6/1タイコクラブ)に行くので、多くの人に是非ライヴを体験して欲しい。

interview with AOKI takamasa - ele-king


AOKI takamasa
RV8

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 村上春樹がなぜ海外であんな評価されているのかと、英国在住のある人に尋ねたところ、エキゾチック・ジャパンではないところが良いのではないかという答えをもらった。欧米の理屈のなかで解釈できると。なるほど。
 これ、読み替えれば、世のなかにはエキゾティズムをかさにして輸入されるものは多くあれど、ハルキはそれを売りにしていない、ということにもなる。三島由紀夫も、相撲も舞踏も、オタク文も、良い悪いは別にして、エキゾティズムないしは物珍しさとして受け入れられているフシは隠せない。とくにパリとか、博覧会気質の伝統なのだろうか......。アメリカとか......。
 エキゾティズムは使いようだ。本サイトで公開されているアシッド・マザーズ・テンプルのインタヴューを読めば、こうした眼差しを逆手にとるように、敢えて確信犯的に利用しているところが見える。YMOにもそれがあった。ケンイシイやDJクラッシュもそれを利用している。ボー・ニンゲンの写真を見ると、ジャックスのような髪型が欧米では「JAP ROCK」のイメージとして機能していることがわかる。

 しかし、今日、欧州でもっぱら評判の日本人電子音楽家のひとり、タカマサ・アオキ(青木孝允)の音楽にそれはない。彼が何人だろうと、髪型がどうであろうと彼の人気とは関係ない。大阪出身のこの音楽家の作品の評判は、純粋な音としてヨーロッパ大陸で広がっている。
 彼は、新世代への影響力もある。赤丸急上昇の大阪のレーベル〈Day Tripper〉を主宰する25歳のセイホーがテクノを作るきっかけは、ヨーロッパへ渡航する前のタカマサ・アオキだった。

 2001年1月、東京の〈Progressive Form〉からデビュー・アルバム『Silicom』をリリースした彼は、その後、同レーベルからの諸作、そして〈Cirque〉やロンドンの〈FatCat〉、〈Op.disc〉や〈Commmons〉、ベルリンの〈Raster-Noton〉等々、さまざまなレーベルからコンスタントに作品を発表し続けている。どの作品もファンから好まれているが、とくに2005年に〈FatCat〉からリリースしたツジコノリコとの『28』(これはちとエキゾだが茶目っ気がある)、そして、〈Op.disc〉からの『Parabolica』(2006年)、〈Raster-Noton〉からの「Rn-Rhythm-Variations」(2009年)といった作品は彼の評判を決定的なものにしている。また、初期の頃は、オヴァルやSNDあたりのグリッチ/エレクトロニカ直系の音だが、〈Op.disc〉と出会って以降は、より強くダンス・ミュージックを意識するようになったと言う。

 今作『RV8』は、この7~8年のあいだに発表した12インチ・シングルの「Mirabeau EP」や「Rn-Rhythm-Variations」、今年に入って〈Svakt〉からリリースされた「Constant Flow」、これらミニマル・テクノの新しいヴァリエーションとしてある。エレクトロニカの実験精神を残しつつも、作品はファンキーに鳴っている。押しつけがましくはないが、確実にダンスのグルーヴを持っている。バランスが良いのだ。
 彼のファンクは上品で、アンビエントめいたところもあるので家聴きにも適している。ルーマニアのアンダーグラウンド・パーティの起爆剤としても使われ、アート・ギャラリーのBGMとしても機能している。サカナクションの音楽にもフィットするし、ヨーロッパを自由に往来する感覚はNHK'Koyxeиにも通じている。新作のマスタリングは砂原良徳、いま、タカマサ・アオキの音楽には、10年前よりもさらに多くの耳が集まってきている。

テクノは、ぜんぶの音楽の最終地点だという気がするんですよ。全ジャンルの......ダンス・ミュージックは当たり前だけど、クラシックも、ブレイクビーツも、レゲエも、ダブも......ぜんぶみんな......

青木君は、なんでそんなにテクノという言葉にこだわっているの?

青木:テクノは、ぜんぶの音楽の最終地点だという気がするんですよ。全ジャンルの......ダンス・ミュージックは当たり前だけど、クラシックも、ブレイクビーツも、レゲエも、ダブも......ぜんぶみんな......

ロックも?

青木:あ、ロックも......あるかもしれないですね、(小節の)頭にしかタイミングがないような、パンパンパンって(笑)。ギターのディストーションの質感とかね、あれもテクノだし、サカナクションのようなバンドもそうだし、ぜんぶの音楽の行き着く先がテクノだという気がしますね。

それは斬新な意見ですね(笑)。テクノとは、普遍的な音楽であり、雑食性の高い音楽であると。

青木:ハイブリッドの極みですね。そして、シンプリシティの極みというか......すべてシンプルにして、すべて飲み込んで、すべてどうでもいい、踊るーっということに意識を集中させるのがテクノだと思うし。そういう意味で、コンピュータも生音もふくめて、ぜんぶを統括するのがテクノだと思いますね。

すごいね。

青木:個人的にそう思っています。音も好きやし、字面も好きやし。

字面(笑)。

青木:アルファベットで書いてもカタカナで書いても。

自分の音楽のハイブリッド度合いは高いと思う?

青木:わからないです。自分はそれはただ意識して作っているだけなんで、それが他を比較してどうかはわからないです。自分ではそういうものなんだと思い込んで作っています。

青木君は、最初からテクノだったの?

青木:中学生のときから打ち込みの音楽が好きになって、高校生のときに機材持っている友だちに教えてもらって作った。ジャンルとかはぜんぜん知らなくて、ただ、自分が好きなリズムを打ち込んで作れるってところに興味があったんですよね。リズムに興味があったんで。それがテクノだろうがレゲエだろうがヒップホップだろうが、良いリズムであればなんでも良かった。

メロディよりもリズムだったと。

青木:リズムっすね。

なぜヒップホップにはいかなかったの?

青木:ヒップホップは作ってたんですけど......、ちょっと言葉汚い感じが自分には合いませんでした(笑)。

ハハハハ。

青木:でも、ヒップホップのトラックは好きですよ。だって、最初に作ったのはヒップホップでしたからね。自分で叩いた音か、レコードのドラムブレイクをサンプリングして作ってましたからね。ヒップホップのスタイルなんですよ。ブレイクビーツというのかヒップホップというのか、僕、そういうジャンル分けはわかんないんで。

リズムの面白さを追求するなら、それこそブレイクビーツ、ジャングルとかドラムンベースとか、他にもあるじゃないですか。そうじゃなくていまのアオキ君のスタイル、ミニマルな方向性に行ったのはどうしてなんですか?

青木:作為的なものよりも、問答無用に感動するほうに意識がいったかもしれない。「こうだから良い」とか、「この人だから良い」とか、ただ「良い」っていう。何も知らずに初めてそこに来た人が「良い」と思えるようなもの、「なんか知らんけど良い」っていうか。そういう思考を挟まない良さがリズムにはある気がしました。

ピート・ロックが作るビートだって、本能的に「良い」と感じてると思うよ。

青木:わからないです。ピート・ロック知らないです。

DJクラッシュでもプレミアでも、本能的に「良い」ということだと思うんだけど。

青木:僕、聴いてないんで、わからないです。

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F1とか、レースのエンジン音にすごく興味があって。あれって、アンプとかスピーカー関係なく、モノが燃焼によって鳴っているじゃないですか。スピーカーとか関係なく音が鳴るってところにすごい興味があって。ぜんぶのパーツがその回転させるためだけにあって、良い素材を集めてあの音が鳴るっていうところに美しさを感じて。


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青木君が本能的に「良い」と思った作品って何?

青木:ファンクのレコード、ドラムのブレイクとか、リズム、「誰か知らんけどココ良い」とか。

はぁ。

青木:そういう感じ。

いちばん最初に興味を持ったのは、エンジン音なんですか?

青木:F1とか、レースのエンジン音にすごく興味があって。あれって、アンプとかスピーカー関係なく、モノが燃焼によって鳴っているじゃないですか。スピーカーとか関係なく音が鳴るってところにすごい興味があって。ぜんぶのパーツがその回転させるためだけにあって、良い素材を集めてあの音が鳴るっていうところに美しさを感じて。

はぁ。

青木:クラブが、ダンスという機能のためにすべての機材があるように。とにかくあの鳴る感じがすごいと好きで、しかも美しい音で。野蛮で美しいところに。あんだけ金かけて、ただ速く走るためだけに金をかけているあのアホさ。

ハハハハ。

青木:それとダンス・ミュージックに近いモノを感じたんですよね。

エレクトロニック・ミュージックに行ったのは何故?

青木:自分に演奏技術がなかったのと、自分が欲しい音を作るとき、サンプラーとシーケンサーが便利だった。

最初はどんな風にはじめたの?

青木:高校生のときに同級生がたくさん機材を持っていて、そこでサンプラーの使い方とか教えてもらった。高校卒業した頃はバンドでやったりしていたんですけど、大学に入って、バイトして、やっとコンピュータを買えるようになって。98年ぐらいからですかね。

目標としていたアーティストっていますか?

青木:衝撃を受けたのは、エイフェックス・ツインとか、オウテカとか、SNDとか、......あとは......マイク・インクって人。あとは、名前は知らないですけど、ヒップホップのトラック、黒人のグルーヴの感じられるものは好きでしたね。失礼だけど、名前を覚えていないんで。

ブラック・ミュージックのことは本当に好きなんですね。

青木:子供の頃に影響を受けたのものはずっと残るのかなって。父親が聴かせてくれたスティーヴィー・ワンダーとか、マイケル・ジャクソンとか、そういうのはとにかく好きですよ。

そういう黒い感じを前面に出すような方向にはいなかったんですね。

青木:物真似はしたくなかったんですよ。日本人のフィルターを通してその影響を出したほうが良いだろうと思って。

僕は、青木君の音楽は、最初イギリス人から教えられたんだよ。昔から知っている某インディ・レーベルの人から、「タカマサ・アオキ知ってるか?」「すげー、良いよ」って何度も言われて。で、意識して聴くようにしたんですけど、結局、彼らが青木君の音楽のどこを「すごい」と思っているかと言うと、リズムだったりするんだよね。本当に、ビートなんだよね。

青木:そうなんですよ。それが問答無用に良いっていうことで、赤ちゃんが踊ってしまうのもリズムなんですよ。

サッカーはイギリス生まれなのに、イギリス以外の人たちがどんどんうまくなってしまったように、ダンスのリズムも、アフリカ起源だけど、いまでは人種を問わず、いろんな国にうまい人が出てきていると思うんですよね。

青木:僕もそう思います。DNA的に見てもみんなアフリカに行き着くし、根本的にはいっしょだと思うんですよね。そもそも、宇宙の摂理自体がひとつのリズムを持っていると思うから、宇宙のなかで生まれた人間には同じリズムが宿っていると思っているんです。それにいちばん正直なのがアフリカの音楽なんだと思います。

なるほど。先日、青木君は、スイスの〈Svakt〉というレーベルから12インチを出しましたよね。たまにレーベルをやっている人とメールのやりとりするんだけど、彼いわく「とにかく自分はタカマサ・アオキのファンで、リリースできて嬉しい」と。で、「君は何でそこまでタカマサ・アオキが好きなんだ?」と訊いたら、「ホントに彼の音が好きだ(i really like the sound he has)」と。「とてもピュアで、生で、アントリーティッドなところがね」と言ってきたね。

青木:向こうの人らは、そこで鳴っている音が良いか悪いかで判断してくれる人が多いんで、ヨーロッパはやりやすかったですね。

今日はぜひ、ルーマニア・ツアーの話をうかがいたかったんですが。

青木:あー、それ流れちゃったんですよね。ポーランドも。昔、ライヴでは行きましたけど。

ヨーロッパは何年いたんですか?

青木:7年。住んだのは、2004年から2011年です。最初の4年はパリで、あとの3年はベルリンに住んでましたね。

日本にいたらやってられないっていうか、ヨーロッパに可能性を感じて行ったんですか?

青木:ライヴのオファーが多かったんでね。2001年からライヴで、2~3ヶ月行くようになって、ギャラも良いですからね。日本は、年功序列もあるし......。

日本じゃ食っていけないと。

青木:ライヴでは食っていけなかったですね。僕らはCDでは食っていけない時代のミュージシャンなんで、ライヴやって、ライヴやって、それでお金を稼ぐしかなかったんですよ。駆け出しの頃は、ギャラがもらえるのって東京ぐらいだったんですね。でも、東京で何回もライヴをやることもできないし、ライヴ・セットを何回も変えるわけにもいかないじゃないですか。で、やりたくない仕事をやりながら、ちょこちょこ東京と大阪でライヴをやるんだったら、ヨーロッパに行ってライヴをやったほうが収入が良いと思って。

向こうにいってしまうと、ブッキングも増えるものなんですか?

青木:僕の場合は増えましたね。バルセロナのソナーに出たら、その影響で、ぶわーっと1年ぐらいブッキングが決まりましたね。で、次にいったら、別のオーガナイザーが来ていて、「おまえ、うちのフェスティヴァルに来いよ」みたいなね。「あ、行く行く」って、次決まるとか。それでぽんぽんぽんぽん、2年~3年やってましたね。
 能の勉強をするのにドイツ行っても意味ないように、ダンス・ミュージックが栄えたところはヨーロッパだと思うんで、その文化が栄えた場所の空気吸って、メシ食って、人と接して、社会感じて、それで初めて本質が見えると思って。自分が音楽を続けるなら、ヨーロッパに行ったほうが良いだろうと。

へー、すごいなー。

青木:いや、ずっと綱渡りですよ(笑)。ぜんぜんすごくないです。

いやいや、その行動力とか、素晴らしいですよ。しかし、せっかく渡欧して、成功したのに、帰国したのは何故なんでしょうか?

青木:いろんな理由があるんですけど、じいちゃんが死にかけてました。帰ってきて、1年だけでもいっしょに過ごすことができたんで良かったです。他に犬も死にそうやったんで。

日本が恋しくなったというのはなかった?

青木:ずっと恋しかったです。日本食もそうだし、母国語で喋れるのも良いし。ビザがいらないというのも最高やし。ヨーロッパも日本も自由であるけど不自由でもあるし、そのバランスをどう取るかっていう。まあ、7年もおったし、最初は3~4年で転々としたかったんですよね。だから、パリで4年、ベルリン3年、いま大阪2年目だから、次はどこに行こうかなと思っていますね。

生まれも育ちも大阪?

青木:そうですね。

関西って、面白い人がどんどん出てくるよね。NHKyxとか、セイホー君とか、マッドエッグとか。

青木:情報が関係ないんだと思いますよ。

大いなる勘違いの街だと思うんだよね。デトロイトやマンチェスターだって、大いなる勘違いの街だから。独創的なモノが生まれる。

青木:ハハハハ。そうかもしれないですね。あと、何かあっても「へー、そうなんかー」みたいな、情報をそのまま受け入れないっていうか、そういうところがあるんだと思います。

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ライヴでは食っていけなかったですね。僕らはCDでは食っていけない時代のミュージシャンなんで、ライヴやって、ライヴやって、それでお金を稼ぐしかなかったんですよ。駆け出しの頃は、ギャラがもらえるのって東京ぐらいだったんですね。


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青木君が作品を作るうえでのインスピレーションはどこにあるの?

青木:F1。

たとえば初期と後期......、え、F1!!!!

青木:F1。

そこまでFIが好きなんだ(笑)。

青木:F1と宇宙の摂理ですね。F1の音が入っているCDもあります。

へー。

青木:文明のあり方と宇宙の生成。

ハハハハ! 最高、それサン・ラーだね(笑)。

青木:サン・ラー(笑)。でもそれは、ほんまに、人間として当たり前のことやと思うんですよ。文明に毒されて思考が限定されると、どうしても文明がすべてになっちゃうと思うんですけど、でもそこから解放されると、宇宙がすべての源だとわかると思うんです。
 僕がF1に興味があるのは、宇宙摂理に反した文明があって、その文明の究極の形がF1だと思うんですよ。石油、技術、戦争、広告、地球の文明のいろいろなものが集中しているのが、戦争とF1だと思うんです。ふたつのうち戦争は、人殺しで、ださいし、かっこ悪いけど、F1は誰がいちばん速いんやということを何十億もかけてやるアホさと、凶暴なエンジンを持ちながら、そのできあがったマシンの美しさと、そういった多面性が現代文明を象徴している気がする。

文明としていま猛威をふるっているのはコンピュータだと思うんだけど。

青木:F1もコンピュータ無しではあり得ないですよ。

あー、そうか。

青木:制御にしても、管理にしても。F1は軍事と同じで、地球上のすべての技術が集約されているんですよ。公開されている技術ですね。

つまり、ツール・ド・フランス(by クラフトワーク)なんて言ってる場合じゃないと。

青木:いや、別にそれはそれで良いんですけど。僕も自転車大好きなんですけど。人力も良いけど、作ったものを乗りこなすっていうのに興味があるんです。

そうした青木君の写真機に対する偏愛と繋がっているの?

青木:いや、写真は、地球に初めて来たっていう気持ちで、「アホやな地球文明。まだモノ燃やしているわ」とか。

ハハハハ。

青木:まだ競い合って、争って、どんぐりの背比べしているっていう。まだ自然を破壊してコンクリートの建物たてているっていう、その面白さ。それを記録する気持ちで。

そんなシニカルな......それは機械が好きだからっていうことではないんだ?

青木:機械も好きですけど、「地球オモロイ」みたいな感じですね。「地球、変なとこー」みたいな(笑)。

初期の頃からそうだったんですか?

青木:疑問に思うことが多かったですね。「なんでそんなことせなあかんの」とか。

「地球オモロイ」は、いろんな思いが詰まっているんでしょうけど、やっぱ国境を何度も超えながら思ったことでもあるんですかね?

青木:それもあります。そして、国境を何度も超えたことで、わかったこと、自分なりに理解できたこと、腑に落ちたことが多くて。自分の疑問に対する答えでもあったし。

F1は実際に観に行ったの?

青木:いや、日本では行ったけど、ヨーロッパでは行ったことがないです。ヨーロッパって、ほんま階級社会だから。サッカーはいちばん下のスポーツで、F1やクリケットや乗馬はほんまトップの階級のモノですね。

そんな糞忌々しい文化を(笑)。

青木:いや、糞忌々しくないです(笑)。その人たちはただ生まれながらにそうなっているだけなんで。生まれてから金持ちなんでね。

なるほど。青木君は、もうひとつ、ダンス・ミュージックということを強調するけど、世のなかにたくさんのダンス・ミュージックがありますよね。EDMっていうんですか?

青木:いや、知らないです。

なんか、ダンス・ミュージックが大流行なのね。たとえば、DJでも、アニメの歌とかアイドルの曲とかアッパーなハウスをまぜるような人がけっこういて、それで踊っている人もいるのね。そういう音楽もダンス・ミュージックなわけですよ。自分がやっている音楽とそういう音楽もダンスという観点で見たら等価だと思いますか?

青木:ダンス・ミュージックには、魂が入っているモノと装飾だけのモノがあると思うんですよ。それは音楽全般に言えることですけど、そこに魂が入っていれば、同じだと思います。

その魂というのは、別の言葉で言うとどういうことなんだろう?

青木:純粋な思いじゃないですかね。「○○っぽいのを作ろう」じゃない音楽。

ヨーロッパなんかとくにダンス・ミュージックが根付いているからいろいろなモノがあるじゃないですか。そういうなかで好きなモノを嫌いなモノもあったわけでしょう?

青木:自分は作っているばっかで、あんま聴いてないので、うまく答えられないですね。ただ、ライヴで呼ばれて、その場で他の人の音楽も聴いて思うのは、あまりにも自己主張が強いダンス・ミュージックはちょっとしんどかったですね。

自己主張が強いモノね、なるほど。

青木:そうじゃない人のほうが踊りやすかったですし、心地よかったですね。

ダンスを強制するようなものは好きじゃない?

青木:そうですね。うぉぉぉぉーみたいな、そういうのが好きな時期もあったんですけど。歳のせいかもしれませんが。

アンビエントというコンセプトは意識している?

青木:自分が聴いてきた音楽のハイブリッドがテクノなんで、当然、アンビエントもそのなかに入っています。しかも、いまのステレオの技術では、わりと簡単に立体音像が作れるんですよね。たとえミニマルであっても、そのなかにアンビエントを挟み込むことができるんです。そういう意味では意識していると言えますね。
 僕もジャンルに詳しいわけじゃないんで、アンビエントが何なのかよくわかってないんですよね。それでも、打点のない、ビートがないけど、リズム感のあるような音楽は好きはですね。

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自分が聴いてきた音楽のハイブリッドがテクノなんで、当然、アンビエントもそのなかに入っています。しかも、いまのステレオの技術では、わりと簡単に立体音像が作れるんですよね。たとえミニマルであっても、そのなかにアンビエントを挟み込むことができるんです。そういう意味では意識していると言えますね。


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最近、日本の作品で、お金を出して買ったCDは何ですか? 

青木:キリンジ。

どういう人?

青木:ふたり組の。めちゃくちゃ良いですよ。

詳しいなー(笑)。

青木:それは京都在住のDJのkohei君が教えてくれたんですけどね。すごい音楽に詳しい先輩で、魂籠もった音楽をよく知ってはるんです。

レコード店はよく行く?

青木:行ってないですね。お金がなくて。機材買うお金とレコード買うお金は両立できないです。ほんまにDJで使いたい曲があるときは行きますけど、それ以外では行かない。

青木君は機材に対してはどう考えているの? 90年代末はちょうどソフトウェアを使いはじめた時期だったけど、最近はまたモジュラー・シンセが流行ったり、いろいろ考えがあるじゃないですか。

青木:レーサーと同じで、自分のフィーリングに合ったマシンが欲しいですね。ベースの鳴り、キックの密度、ハイハットのシャープさ、シンセの広がり、温かさ、そういうのが自分の感覚に合うかどうかで判断していますね。それがぜんぶ組み合わさったときに自分なりのドライヴができる。まあ、そんなに機材を買えるほどのお金もないんでね、昔のヤツをずっと使ってますけど。

ライヴの本数はいまも多い?

青木:ずっと多いです(笑)。

コンピュータを持ったブルースマンみたいだね。機械を持って世界のいろいろなナイトクラブを回って、演奏して、金を得るみたいな。

青木:不思議な仕事ですよ。みんなが踊っているのを見ながらやっているというのは。純粋に楽しいです(笑)。

日本では〈ラスター・ノートン〉を支持している層とフロアで踊っている層との溝があるように思うんだけど、ヨーロッパでは実験性とダンス・ミュージックがしっかり重なっているんでしょうか?

青木:正直、自分のことで精一杯だったんで、ヨーロッパのシーンのことまでわからなかったんですけど、やっぱ、金払って実験みたい人って、そんなにいないと思うんですよ。自分やったら、実験のためだけには行かないです。ダンスがあるから、そこに金払っても行きたいと思うんで、そこは重要かなと思いますね。僕は、自分の音楽が人の心を高揚させて、日々のストレスを忘れさせて、良い気持ちになってくれたら最高なんです。それだけですね。すべてに対してアウトサイダーかもしれないですね。シーン関係ないし、ジャンル関係ないし......。

今回のアルバムの収録曲には曲名が"rhythm variation 01"とか"rhythm variation 02"とか、順番に数字になっているじゃない?

青木:意味を持たせたくないからです。ダンス・ミュージックに意味はないからです。思考が働かないほうが、無心に踊っているほうが自分をより解放できるし。

曲名がある作品もあるじゃないですか。

青木:仕方なく......ですね。

はははは。

青木:字面とかね。もちろん、言葉があったほうが曲に入りやすいかなと思って付けたものもありますけど、今回に関しては、踊るためだけなんで。

この先、やってみたいことは何でしょうか?

青木:F1のエンジンを使って。

ハハハハ。

青木:音源としてF1のエンジンを使いたいですね。

シュトックハウゼンのヘリコプターみたいだね(笑)。でも、鈴鹿サーキットって、日本でいちばん爆音を出せる場所かもね。

青木:いつか、野外フェスでライヴをやって、トレイラーで、「AOKI LIVE powered by HONDA F1」とかやりたいですね。

ハハハハ。

青木:子供の頃、レーサーになりたかったんです。いまでもレーサーになれるなら、音楽とかぜんぶ止めてなります!

わかりました。今日はどうもありがとうございました。

Washed Out - ele-king

 梅雨前のこの時期こそ、日本にとって最高の季節ですな。竹内のようにトーフビーツや大森靖子を通勤のBGMにしたり、住所不定無職を家聴きしているあつい男がいるいっぽうで、インクやライの家聴きを楽しんでいる野田のような疲れた男もいる。いずれにせよ、この最高の初夏の後には最悪な梅雨が待っている。そして、それさえ乗り越えれば、夏だ。
 チルウェイヴのエース、ウォッシュト・アウトがセカンド・アルバムをリリースする。橋元が喜び、木津は耳をふさぐであろう、が、第三者から見れば、ライもウォッシュト・アウトも同類である。そう、ピュリティ・リングも......。
 『パラコズム』というアルバム・タイトルで、コンセプトは『指輪物語』で知られるJ・R・R・トールキンやC・S・ルイスの『ナルニア物語』のようなファンタジー小説や架空の世界にインスパイアされている。と資料に記されている。「逃げる」が主題である。
 "ストロベリー・フィールズ・フォーエヴァー"のメロトロン・サウンドからの影響、あるいはレゲエのリズムが入るなど、デビュー・アルバムとは比較にならないくらい音楽的な展開がある。前作の籠もった感覚は新作にはなく、解放的だ。この音楽はあなたをすっかり骨抜きにするだろう。ウォッシュト・アウトのセカンド・アルバム『パラコズム』8月7日、日本先行発売! 
(※ちなみに次号の紙ele-kingでは「この夏オススメの部屋聴きchillout特集あり。ウォッシュト・アウト=アーネスト・グリーンのインタヴューも掲載予定っす)

interview with The National (Matt Berninger) - ele-king

 スティーヴン・スピルバーグの『リンカーン』は伝記映画ではなく、黒人奴隷を合衆国全土から解放するための憲法修正案を下院で通すためにリンカーン(ダニエル・デイ=ルイス)が行った政治工作の描写にほとんどの時間を費やしている。保守的な議員には見返りを与える代わりに票を求め、逆にあまりに急進的な議員(トミー・リー・ジョーンズ)には「みんなビビるから、まあ、ちょっと妥協してくれや」と言うのである。何としてでも、修正案を通す......その執念に駆られた男の物語。つまり、100年後実現しているかもしれない理想のために、「いま」見失ってはならないものについての映画であり、ここにはふたつの時間が出現しているように思える。つまり、過去から見た未来としての現在と、未来から見た過去としての現在だ。前者については、ここから黒人の大統領が誕生するに至るまで、を思わせるし、後者については、未来のアメリカのために医療保険改革に奮闘(し、票集めを)したオバマ政権が重なって見えてくる。いま見失ってはならないもの......スピルバーグはそれだけ切実に現在のアメリカを見ているということだろうし、また、「見失った」日本に住むわたしたちには重いものである。

ひるませるような屈辱の白い空の下で
"ヒューミリエーション(屈辱)"


The National
Trouble Will Find Me

4AD / Hostess

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 ザ・ナショナルはいつも、「いま」を生きる名もなき人びとの物語を歌っている。だが、その現在は自覚的でも気高くもない。「彼ら」がいるのはいつもそんな場所である。屈辱、後悔、悲哀、諦念、混乱、卑屈さ......そういったものに囚われて、身動きが取れない人間たちの歌を、ヴォーカルで歌詞を担当するマット・バーニンガーが韻を踏みながら滑らかなバリトン・ヴォイスで歌う。
 バンド・メンバーは仕事をしながら音楽活動をする時代を経て、サウンドの緻密さとスケールを増すことで世界に評価され、そしてその言葉においてアメリカで絶大な支持を得るに至った。前作『ハイ・ヴァイオレット』のレヴューにおいて、『ピッチフォーク』は「もしザ・ナショナルがたんに良いだけでなく重要なのだとすれば、それはロック・バンドがあまりうまく描かない瞬間というものを描いているからである」とし、『タイニー・ミックス・テープス』はそこに描かれた沈痛さを「時代精神」と呼んでいる。その歌のなかには、アメリカの内部で埋もれそうになっている生が息づいていたのである。

 先の選挙戦におけるオバマの支援ライヴ、同性婚支持のアーティストが集まったコンサートへの参加などを経て発表される『トラブル・ウィル・ファインド・ミー』においてもまた、作品のなかには政治的なメッセージがあるわけではない。厄介ごと(トラブル)に見つからないように怯える人間たちの取るに足らない日々が、しかし詩的な言葉で表現されている。双子のアーロン兄弟のサウンドはより思慮深さを増し、英国ニューウェーヴやポスト・パンク、レナード・コーエンのフォーク、ポスト・クラシカル......といった要素が丁寧に織り込まれ、静かな高揚や陶酔を湛える。知性と理性をもって。
 ザ・ナショナルがたんに良いというだけでなく重要なのだとすれば......それは、彼らの描く物語がヘヴィなときでさえ、そこには音楽的なスリルと色気が宿っているからである。自らの死を甘美に夢想する "ヒューミリエーション"は、クラウト・ロック調の反復でじわじわとその熱を上昇させる、が、沸点に達することなく終わっていく。それはまるで、地面に足をつけて生きる人びとをそっと鼓舞するかのようだ。

 ザ・ナショナルが日本にもいれば......と僕は思わない。マットが以下で話しているように、彼らは何もアメリカに生きる人びとに向けてのみ歌っているわけではない。この歌はとくに進歩的でも立派でもない、「いま」を見失いそうなあらゆる人びとのそばで鳴らされている。ポスト・パンク風の"ドント・スワロー・ザ・キャップ"では「俺は疲れている/俺は凍えている/俺は愚かだ」と漏らしながら、しかしこう繰り返されるのである......「俺はひとりじゃないし/これからもそうはならない」。

自分たちがやっているロック・バンドに興味を持って、ロック・ソングに注目して聴いてくれる人がいるのが、どんなにラッキーなことか、どんなに恵まれているか......。

今日はお時間いただいてありがとうございます。家にいるんですか?

マット:ああ、ブルックリンにいるよ。

新しいアルバム『トラブル・ウィル・ファインド・ミー』を聴きました。素晴らしいアルバムだと思います。

マット:それはよかった。ありがとう。

そのアルバムの話に入る前に、ここに至る数年の間に起きたバンドに関係あるかもないかもしれないいくつかの出来事について振り返ってコメントしていただきたいのですが......。

マット:ふむ。

ひとつはR.E.M.。あなた達にとっても音楽的にお手本のような存在だったバンドだと思いますが、彼らがあの時点で解散を決めたことについて何か思うところはありましたか。

マット:まず、彼らが僕らにとって道しるべとなる灯りのような存在だったのは、その通り。とくに、マイケル・スタイプは僕らのバンドの友だちであり、一時期は擁護者でもあった。彼からは本当に良いアドバイスをいくつももらったし、そんなアドバイスのひとつに、けっして当たり前だと思うな、というのがあったんだ。自分たちがやっているロック・バンドに興味を持って、ロック・ソングに注目して聴いてくれる人がいるのが、どんなにラッキーなことか、どんなに恵まれているか......と。それがひとつ。
 あと、彼はすごく洞察力のある人だ。友だちや兄弟のような存在だといっても、やっぱりバスのなかでいっしょに暮らすように旅をして回るのは大変なことで、ときとしてバンド内の状況が悪くなる場合もあるわけだよ。彼も彼のバンド・メンバーも、そんな暗い時期を何度も経験して、くぐり抜けてきた。そんな彼が僕に言っていたのは、「忘れちゃいけないのは、バンド以前に友だちだということだ。バンドより先に友だちだったことを忘れちゃいけない」ということで、僕らはまさに友だちであり兄弟であるところからはじまっているバンドだから、彼に言われて、バンドそのもの以上に個人的な繋がりを重んじるということを改めて大切に考えるようになった。あれは良いアドバイスだったよ。
 彼らの決断は、要はバンドとしてレコードを作るのをやめる、ということだと僕は理解しているけれど、そうだな......どうなんだろう。まあ、僕としてはそれを尊重するよ。個人的には彼らにもっとレコードを作ってもらいたいと思うし、あそこで立ち止まらないでほしかったけど、彼らの選択は尊重したいと思う。状況は変わるもので、それはそれとして人生の違う段階へ進まざるを得ないときだってあるさ。そうすることに決めた彼らの選択は、とてもエレガントで美しいものだったんじゃないかな。これでもし将来、彼らがまたレコードを作ることになったとしても、それを侮辱するひとはいないだろうし。とにかく、彼はものすごく品のあるひとだ。ものすごく良いひとで、頭の良いひとでもある。彼のすることなら、何であれ僕は全面的に認めるし尊重する立場だ。

ありがとうございます。もうひとつは、「俺たちは自分たちで支え合う(We take care of our own)」と歌ったブルース・スプリングスティーンについてなのですが。あのメッセージに共感するところはありましたか。

マット:そうだなあ......わからないや、というか、あまりよく把握していないんだ。ブルース・スプリングスティーンとの関わりはいままでに無かったわけじゃないけれど、この件については、はっきりしたことは言えない。「We take care of our own」という彼のメッセージに関しては、僕らにそのままあてはまるものだとは思わないし、確信も持てない。その点においては、あまり繋がりは感じないな」

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僕らが熱心に政治的な活動をしたり社会的な意識を強く持っているのは個人として、つまり僕ら5人がそれぞれにやっていることであって、僕はこのバンドがそうだとは思っていないんだ。

少し変わった質問からはじまってしまいましたが――。

マット:いや、いいんだけど。

こういった質問をしたのは、ザ・ナショナルもいま、かつての彼らのような、オルタナティヴなロック・ミュージック・シーンをリベラルな側から代表する存在になっているのではないかと考えたからです。

マット:ああ。

いまの答えからすると、必ずしもそれは自覚的ではない?


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マット:いや、言ってることはわかるんだ。ただ、「we take care of own」という、あのメッセージに関しては、曲自体が何を言おうとしてい るのか僕がちゃんと把握できているかどうかわからないんで、こういう返事になってしまう、ということで。まあ、僕らもオバマを支持したりなんかしてきたから、そういうレッテルを貼られている部分はあると思う。とくに、海外から見ると僕らはものすごく政治的に熱心に動いている、政治的な意識の高いバンドであるかのような印象を受けるかもしれない。実際そうだしね。ただ、僕らが熱心に政治的な活動をしたり社会的な意識を強く持っているのは個人として、つまり僕ら5人がそれぞれにやっていることであって、僕はこのバンドがそうだとは思っていないんだ。マイケル・スタイプだってそうだったんじゃないかな。
 オバマの件......対立候補ではなくバラク・オバマの支援に回ったのは、ああいうケースにおいては自分の立場を決める必要があるからにすぎない。僕はいまだにアメリカは本来あるべき状況から20年遅れていると思っている。社会問題の進展具合からすると、ね。甚だしく遅れている。オバマになってからも、まだ全然本来あるべきところに到達していない。アメリカはつねに後ろ向きな勢力との闘いがあって......まあ、どの国にも似たような状況はあるんだろうけど、アメリカには極めて後ろ向きで保守的な動きがあって、とくにここ10~15年はそれが非常に危険な様相を呈している。ジョージ・W・ブッシュの時代はもちろんだったけれど、もっと最近になっても、悪い連中が力をつけて危険になっている......ということは僕もはっきり言えるし、そういった問題はロック・バンドなんかよりずっと重要なんだよ。だけど、僕らの音楽がリベラルであるとか、進歩的であるとかいうふうには思わない。むしろ僕らの音楽は、単純にロマンスと恐怖心についてのものがほとんどから。

よくわかります。日本もまさにいま、そういう状況がありますし。

マット:うん。

乗り越えていけたらいいのに
だけど僕は悪魔と共に身を潜めてる
"デーモンズ"

そしておっしゃるように、ザ・ナショナルの曲に描かれているのはアメリカの普通のひとたちの日常であり感情ですよね。ただそれが、アメリカの真ん中あたりの、とくにリベラルでもなさそうな人びとのことを描いているようも思えます。あなた方がニューヨークという大都市を拠点にするリベラルなバンドなのになぜだろう、と思うこともあるんです。たとえば、前作の"ブラッドバズ・オハイオ"や、"レモンワールド"の「ニューヨークで生きて死ぬなんて、俺には何の意味もない」というフレーズに、そんな印象を受けるのですが。

マット:うーん、たぶん僕の視点というのは、こう説明した方がわかってもらえるかな。要は、どこに属しているのか自分でもわかっていないひとの視点だと思うんだよね。ニューヨーカーでも、アメリカ人でも、あるいは男でもない。もちろん、そういう事実に影響されていないとは言わないけれども、アメリカのニューヨークに住む白人男性であるという事実は、わずかな......ごくごく小さな、小さな要素でしかない。僕らの曲が言わんとしていることへの影響は、ごくごく微々たるものだと思う。だから、例えば世界の......どこでもいいや、どんな人種でもいい、どこかの女性が聴いても恐らく共感してもらえると思うんだよね。その、僕が考えていることに対して、それも、かなり近い形で。

なるほど。

マット:とにかく僕はそう思うんだ。僕の興味をひくこと、わくわくさせることは、アメリカ人だから、でも、男だから、でも、アメリカの白人男性だから、でもない、と。僕にとって重要なこと、僕が考えたり書いたりしていることは、たぶん......これは僕の推測だけど、たぶん同じことを考えて、同じように感じているひとが大勢いるはずなんだ。そういう、大きなことなんだよね。大きな......普遍的なこと。

いまの僕は善良 しっかりしてる
背が前より高く見えるとデイヴィは言う
だけどそのことが理解できないんだ
どんどん小さくなってる気がずっとしてるから
"アイ・ニード・マイ・ガール"

たしかに。そうやってあなた方の曲は日本のリスナーにも響いているわけですが、しかし、そこには不器用で苦しんでいるひとが多く登場しますよね。

マット:ああ。恐怖心、不安、あとは......喪失感、悲しみ......そして愛。そういうのは誰でも理解できる感情だから。ムラカミ(村上春樹)なんかは、僕からするとまったく違うところから出てきたひとだけど、彼の書いていることを僕は理解できる......と思う。それも、彼が書いているのがそういう大きな、当たり前の......いや、当たり前ではないにしろ、人間の心の、人間関係の素晴らしさを......素晴らしさと、あと悲しみもちゃんと描いているからだと思う。

たしかに、個人的なことを書いているようで、それが普遍的なテーマになる、というのはありますよね。あなたの場合も、あくまで個人的なことを書いているんだけれども、それが結果的にアメリカのポートレートになっていく。

マット:うん、僕自身は「これが僕の感じていること、考えていることですよ」と言っているだけなんだ。自分なりに推測すると、僕が自分に対して正直にそういったことを書いているから、他のひとにも伝わるんじゃないか、と。こんなことにこだわっているのは自分だけなんじゃないか、という恐怖心は、じつはつねにある。

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ニューヨーカーでも、アメリカ人でも、あるいは男でもない。もちろん、そういう事実に影響されていないとは言わないけれども、アメリカのニューヨークに住む白人男性であるという事実は、わずかな......ごくごく小さな、小さな要素でしかない。

なるほど。では音的な話を。新しいアルバムには、あなたたちが影響を受けてきたであろうさまざまな要素――パンク、70年代のシンガーソングライター、イギリスのニューウェーヴ、90年代のオルタナティヴ・ロック、クラシック音楽など――が見事に融合しているように思えますが、制作にあたってバンド内で合意していた音的なテーマはあったんですか。


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マット:いや、僕らはあらかじめレコードについて話し合うということはしない。それどころか、完成するまで方向性の確認なんかしないに等しい。......うん、昔はもっと話し合っていたけれども、最近はむしろ、曲が勝手に発展していくに任せて、僕らはその後を追いかけていく、という感じ。今回、ある程度自分たちが自信を持っているという自覚はあったように思うよ。いままでのレコードだったら入れていなかったかもしれないような、聴いた感じがセンチメンタルすぎる曲とか、古風すぎるからもっとクールに、モダンにしたい、とかいう曲が出来ても今回は気にせずに、とにかくどんどん書いて、僕らが恋に落ちた要素を素直にレコードにしていったんだ。
それを後から改めて聴いたいまだからわかるのは、ああ、ここには僕らの大好きなものや影響が集約されているな、ということ。ニュー・オーダーからロイ・オービソンにまで及ぶ僕らのレコード・コレクションの、あっちもこっちも入っているな、とね。でも、いずれにせよ意識的ではなかったし、戦略会議のようなものは僕らにはあり得ない。いろいろなもののミックス――漠然としたミックス――が僕らで、いまとなってはそれ自体が意味を持つようになっている。だからもう、話し合いは必要ないんだ。

つまり、これぞザ・ナショナルのサウンドだ、という作品だ、と。

マット:思うに、たぶんこのレコードは......うん、最もピュアかもしれないね。良い曲を書くということ以外には何も考えていなかった、という意味で、良し悪しは別として僕らの本質をいままでの作品以上に体現しているんじゃないかな。

はい。では、これが最後の質問になりますが。はじめの方でお話したようなことを踏まえて、あなた方はアメリカのバンドだということに意識的ですか。

マット:ふむ......意識はしてないよ。だけど、きっと音楽には僕らの気づかない形で滲み出てはいるんだろうな。アメリカ的なバンドでありたいと思っているわけではないし、アメリカのバンドであることを重要視しているわけでもないし、アメリカに対しては僕なりにたくさん愛情を感じている一方、それと同じくらいの怒りとフラストレーションも感じているし、だからといってアメリカのバンドであるということを意識するかというと......いや、してないな......うん、僕は自分たちがアメリカ的なバンドだとは思わないよ。音楽的な影響でいったら、英国のバンドや、どこの国か知らないけれどもクラシックのコンポーザーとか、作家ではムラカミだったりするわけで、そういうものから受けた影響は、恐らくアメリカ的なものから受けた影響に勝るとも劣らない。アメリカ人がやっているバンドである以上、DNAの一部であり成長過程の一端であるアメリカ的なものは否定できないし、僕らの音楽の一部にも間違いなくなっている。それはこれからもなっていくんだろうけれども、僕らはそのことにことさら意識的ではないし、それだけのバンドだとは思っていない、ということだ。

Charles Bradley - ele-king

 1948年生まれ、少年期をニュー・ヨーク/ブルックリンで過ごしたチャールズ・ブラッドリーは、14歳のとき(1962年)にアポロ劇場でジェイムズ・ブラウンを見て衝撃を受け、その歌真似をしはじめ、自分も歌手になることを心に決めた。しかし、その道に順調に敷石は並べられなかった。若くして野宿生活を余儀なくされ、職業訓練でコック職を得てからはヒッチハイクで全米を転々とする。その間の音楽活動も実を結ばず、1990年代半ばまでの約20年間は、カリフォルニアでアルバイトで食いつないでは、歌手として小さな仕事を取る暮らしを送っていたという。
 90年代の後半には、ブルックリンのクラブでジェイムズ・ブラウンの物まねパフォーマンスの仕事をするようになるが、およそ50歳になってもまだ"自分の歌"を聴いてもらえる機会をつかめなかったばかりか、それ以降もペニシリン・アレルギーで命を落としそうになったり、ガンショットによって弟を失ったり、芽の出ない下積み生活に深刻な不幸が追い討ちをかけるという、話に聞くに散々な日々を送りながらも、とにかく歌うことは止めなかった。
 そしてJBなりきり芸人と化していたチャールズ・ブラッドリーは、遂にそのブルックリンのクラブで、〈ダップトーン(Daptone)・レコーズ〉の主宰者、エンジニア兼レーベルの中心バンド:ダップ=キングス(Dap-Kings)のバンマス/ベイシストでもあるゲイブリエル・ロスの目に止まるのだ。

 ブルックリンに拠点を置き、ファンク、ソウル、アフロ・ビートを主な守備範囲とする〈ダップトーン・レコーズ〉は、今世紀創業の新興ながら、当初からディジタル録音を一切行わず、アナログ・レコードをリリースの基本メディアとしていることで知られているインディ・レコード会社/レーベルだ。音楽の種類とサウンドの質に硬派な職人気質のこだわりを示す同プロダクションは、チャールズ・ブラッドリーのよく言えばヴィンテージ・スタイルの、悪く言えば堅物の唱法/個性を丸ごと評価し、この歌手を、そこから大切に"育てはじめる"。
 そしてレーベル最初期の2002年から、ブラッドリーの7インチ・シングルが定期的にリリースされはじめ、その計8枚のドーナツ盤によってじっくりと仕上げられた長い長い下積みの努力が、ダップトーン内のダナム(Dunham)・レコーズからのファースト・アルバム『No Time For Dreaming』に結実したのは2011年、ブラッドリー62歳のことだった。

 歴史上のA級ソウル・シンガーたち(O.V. ライト、ジェイムズ・ブラウン、シル・ジョンソン、ジョニー・テイラー、ボビー・ウォマック......)の面影がちらつくブラッドリーの歌のなかには、むしろそれゆえに、彼のそうした偉人たちには及ばない部分が浮き彫りになる。率直に言えば、それは"華"と呼ばれる類のものだろう。だけど一方でこの男の"歌"とは、そこを補って余りある誠実さと熱量なのだということ、この質実剛健を絵に描いたようなたたずまいと生命力それ自体が歌い、メッセージと化しているような存在感なのだということもまた、聴けばすぐにわかる。歌唱力ばかりか、"華"にも運にも恵まれたスターたちの圧倒的な輝きのなかには望むべくもない、古いソウル名盤には刻まれていない種の"ソウル"が、62歳の"新人"シンガーにはあった。それでこの男に日の目はようやく、しかし当たるべくして当たり、人びとはこの素敵な、同時にほろ苦い美談を愛でては、"あきらめずにやっていれば、いつかはものになる"、という教訓をそこから汲み取った。そしてジャケットで寝っ転がっている当人が、「夢を見てる時間はないのさ。起きて仕事しねえとナ(gotta get on up an'do my thing)」と歌うのに感じ入った。

 そして、その初作で広く賞賛され、ここにきていよいよ仕事期の本番を迎えたブラッドリーが、"たった2年しか"インターバルを置かずにこの4月に放った2作目『Victim of Love』がとにかくみずみずしいのだ。苦み走り、枯れ味も立つ、還暦を越えて久しいシャウターが、このフレッシュでエネルギッシュな歌い飛ばし方一発ですべてを魅惑的に潤していくカッコよさは、実力派歌手の技巧的成熟とは全く質の違うものだ。長い潜伏期の果てに、"はらわた"からマグマのように噴出する歌だ。

 サウンドの面では、自己紹介盤にふさわしくファンキー~ディープ・スタイルを重視したファースト作よりも、少し曲調が多彩な広がりを見せた。歌メロには60~70年代ポップスの薫りもするし、サイケ・ロック/70'sモータウン・サイケ風のアレンジもある。総じてダークでスモーキーな前作から明るくカラフルな方向へ歩みを進めた印象を受けるのは、この間に彼が浴びたスポットライトの光量も反映している気がするし、今作のリード・チューン"Strictly Reserved for You"のPVの彩度も関係していると思う。

 それにしても、都会に疲れた男がベイビーを愛の逃避行に誘うそのPVの、絶妙に制御されたダサあか抜け具合が素晴らしい。苦労人の背中に染みついた陰影も、人としてのチャーミングさも殺がずに映し出しながら、現代的な色彩感やカットと、わざと古臭いPV風に演出したゆるい絵づらとを繋ぎ合わせている。このセンス、バランス感覚に、〈ダップトーン/ダナム・レコーズ〉と、ブラッドリーの専属バンド:メナハン・ストリート・バンド(Menahan Street Band)に特徴的な"ネオクラシック哲学"が見て取れる。

 ダップ=キングスや、人気アフロ=ビート・バンドのアンティバラス(Antibalas)にブドーズ・バンド(Budos Band)などから精鋭たちが集い、ブルックリンの通り名を冠したメナハン・ストリート・バンドの演奏は、一聴するとかなりオーソドックスな70's南部サウンドのようでいて、細部にはソウル・マニアの白人ならではの美感とイマジネイションがさりげなく補われている。言わば21世紀のスティーヴ・クロッパーやドナルド・ダック・ダンたちが、60~70年代サウンドの洗練の一段先で、今の耳が望む痒いところにさらに手を延ばしたような音作りだ。メナハン・ストリート・バンド名義で洒脱な(ジャケットからして!)インスト・アルバムを2作出していること、そしてその1枚目『Make the Road by Walking』(Dunham)のタイトル曲を、ジェイ=Zが2007年の"Roc Boys (And the Winner Is)"で効果的にサンプリングしていたことを記憶している人も多いだろう。

 さらにチャールズ・ブラッドリーの2枚目が今年4月にリリースされたのと同じタイミングでジェイ=Zが発表したニュー・シングル「Open Letter」(内政問題に発展した、ビヨンセとのキューバ渡航について言及した内容が話題を呼んだ)では、ブラッドリーの1枚目に入っていた"I Believe in Your Love"をサンプリングしている。ブルックリンの話題の新多目的スタジアム《バークレイズ・センター》の昨年のこけら落としに抜擢され、8公演を全ソールド・アウトにした地元愛に篤いブルックリン・ボーンの超スーパー・セレブが、地元インディ・レーベルの〈ダップトーン〉の作品をバックアップし、さらには62歳でデビューしたブラッドリーのセカンド作のリリースに、前作からのサンプリングで花を贈るなんていうのは、なかなかにいい話である。

 しかし、何にも増していい話だと思うのは、ブラッドリーがこの5月、遂に、彼が50年前にあのJBを見たアポロ・シアターに、齢60代半ばにしてデビューすることだ。夢は叶うものなのだ......。ブラッドリーの歌が、しみじみ、生きる歓びの歌に聴こえてくる。

interview with Baths - ele-king


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 天才の中二病は格が違う。前作の青(『セルリアン』)が天上を描き出したのとは対照的に、今作の黒が象徴するのは地獄のモチーフ、そして破壊、終末、死、無気力だ。天から地下への、まったく極端な直滑降。あの天衣無縫に暴れまわるビートは、どうやらそのエネルギーの矛先を地の底に向けて定めたようである。かつて"ラヴリー・ブラッドフロウ"が生命やその輪廻をおおらかに、そしてアニミズム的に描き出したのとはまるで異なる宗教観が、『オブシディアン』には強く表れている。ビートは直截的に鈍重に、きらきらとしたサンプリングは地響きのようなノイズに姿を変えた。それが、彼がこの間しばらく患っていたことに関係しているのは間違いないが、筆者にはもうひとつ別の病のかたちが見えてくる。若き魂に特有の病、破壊や死や傷や毒を求めてやまない、あのやっかいで輝かしい――「中二」の――病である。14才を10も過ぎているが、この制作期間にデフトーンズを聴いていたというのだから、やっぱりティーンだ。ミューズに愛され、デイデラスら偉大な先達から愛され、音も経歴もまったく怖いもの知らずなこの天使はいま、ありったけの力と思いを、そのべったりと暗い淵に注いでいるかに見える。

 名門〈アンチコン〉からセカンド・アルバムをリリースする「LAビート・シーンの鬼っ子」――フライング・ロータスやデイデラスにもつづく血統書付きの才能、ハドソン・モホークらに並べられる新世代の筆頭――バスは、その輝かしい肩書きをまるで引き受ける様子がない。今作はそうしたシーンを熱心にチェックしている人や、アブストラクトなヒップホップ、IDMなどのファン、クラブ・リスナーたちではなく、まさに「ブルーにこんがらがった」ベッドルームの青少年たちにふさわしい。死とか運命とか、替えのきかない「きみ」に執着するような、ロマンチックでドラマチックで激しいエモーションが、まるでそのエネルギーを削がれることなく切り出されている。もしあなたが『カゲロウデイズ』にイカれているなら、あなたにこそ聴いてほしい作品だ。『セルリアン』は歴史に残るが、今作は若いたくさんの人の胸にひっそりとインストールされるべきものである。バスはこの新作を「優れた一枚」ではなく、ある種の人間にとって「必要な一枚」に仕立て上げてみせた。
 国内盤にはしっかりとした対訳がついているから、彼がどれだけ今作で灰色や黒や破壊や無気力の病や、あるいはそれと同じだけピュアな恋を歌っているのか読んでみるのもおもしろい。だがテクニカルでありながら青く柔らかい感情のかたまりであるようなビート・コンプレックスは、ヴァイオレンスやネガティヴィティもまぶしいエネルギーに変えてしまう。

 人類の歴史はもはやチルアウトの方向にしか進まないのかと思っていたが、個々の小さな人生にはまだまだバスのような激しさと潤いが必要なようだ。PCのプレイヤーでかまわない、今宵、ベッドルームで逆回転のミサを執り行おう。『オブシディアン』とともに。

つねづね、LAビート・シーンというカテゴリから抜け出すように努めてきました。僕が達成しようとしているものではないからね。僕の目標はまさに『オブシディアン』が僕にしてくれたものだよ。

たとえば、ある種の良識や凡庸さに絡めとられていくことを大人になることだとするならば、あなたは今作でもまったく大人になりませんね。すごいと思います。前作『セルリアン』は、その「子ども/少年」のエネルギーが天上へ向かっていましたが、今作では地の底=死に向かっているように思います。死や破壊のモチーフが出てきたのは、あなたの経験した病気と関係がありますか?

バス:このアルバムの計画は『セルリアン』ができる以前からあったんだ。すごく暗い感じのトラックはいくつかすでに作っていたんだけど、たしかに病気になったことによって、アパシーであるということについての理解がより一層深まったよ。曲を書く気力も情熱も何もない状態で。こんな心理状態はいままでいち度も体験したことがなかったから、アルバムの核をなすテーマのひとつにもなった。本当に変(ビザール)な感覚だったよ。

ペストのイメージに行き着いたのは何がきっかけです? またあなたはそれを恐れますか? それとも魅了されるという感覚なのでしょうか?

バス:どちらもだよ! 悲しみや怒り、恐怖を通り越していた時代だった。人間の歴史においても最も暗くアパセティックな時代であったとも言われているよね。そんな衝撃的な題材を見過ごすわけにはいかなかったんだ。またこのテーマをいかにしてポップ・ミュージックに落としこむかという考えはすごく面白かった。

"インター"がキリエ、"アース・デス"がグローリア、"ノー・アイズ"がクレド、"マイアズマ・スカイ"がサンクトゥス、"ウォースニング"がアニュス・デイ。わたしには、『オブシディアン』が、ラストを1曲めとして冒頭へといっきに逆走する「反転の(暗黒の)ミサ曲」というふうに感じられました。宗教音楽については念頭にありましたか?

バス:わお! そんなこと考えもしなかったけど、本当に素晴らしい関連性だね! とても光栄だよ! ミサ音楽や中世の時代の音楽はたしかに聴いていたけど、そこからテーマ等を特に見出すというよりは、それらの音楽が持っている雰囲気から影響を受けたんだ。

死、終末、破壊、無気力、テーマは重く暗いですが、音にはそれがとてもロマンチックに出ているとも思います。それがとてもあなたらしいように思うのですが、ご自身にはそう感じられませんか?

バス:そういったプッシュ・アンド・プル、足し算と引き算、明と暗みたいなものこそが、僕が全体を通して『オブシディアン』で求めていたものだよ。音楽自体は(少し暗い要素のある)エレクトロ・ポップ・ミュージックにも聴こえるけど、歌詞は完全に暗くて、ときどきそれらが調和していない部分もあるかもしれない。けれど、その違和感や一致しない感覚こそが大事であって、それが他のアルバムにも共通して浸透していると言えると思うよ。

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中世というのは、悲しみや怒り、恐怖を通り越していた時代だった。人間の歴史においても最も暗くアパセティックな時代であったとも言われているよね。そんな衝撃的な題材を見過ごすわけにはいかなかったんだ。


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今作では複雑と呼ばれるあなたのビート・メイキングが、まっすぐに、リニアになっているように感じました。"オシュアリー"のハンマー・ビートも意外でしたし、"ノー・アイズ"の16ビートとか"フェードラ"や"インター"の8ビートなんかが生む切迫感は、『セルリアン』にはなかった感覚であるように思います。今作の激しいテーマがそうさせたのでしょうか?

バス:はい、と言ったら嘘になってしまうんだけど、そう考えるのも良いと思う。このアルバムには異なったタイプの緊張感がたくさんあるんだけど、たぶんそれらは偶然に生まれたものかもしれない、はは。とにかく一曲一曲、互いと違ったものでありながら、テーマ的には同じ、という感じにしたかったのはたしかなんだ。そんな目標があったから、流れで聴くとビートが互いを押し合って、緊張感や切迫感みたいなものが生まれたのかもしれない。

また、鉄槌のように重たい音やビートもありますね。"ウォースニング"もそうですし、"ノー・パスト・リヴズ""アース・デス"もそうです。インダストリアル的ですら、またブラックメタル的ですらあります。音楽的なインスピレーションとして何かヒントになったものがあるのでしょうか?

バス:あなたがいま言ったとおりだよ! インダストリアルな音、鉄、うるさくて、寒々と荒れ果てたような音楽に影響を受けたんだ。これらの音は、僕が開拓したかった新しい別のサウンドを見つけ出すのに大きな役割を果たしたと思う。友だちのジミ--が紹介してくれたエンプティセットというグループはその点においてとても大きなインスピレーションになったよ。

今回の作品で、「LAビート・シーンの鬼っ子」といった印象を大きくはみ出ることになったと思うのですが、あなた自身には実際のところ「LAビート・シーン」を牽引するという意識があるのでしょうか?

バス:つねづね、LAビート・シーンというカテゴリから抜け出すように努めてきました。僕が達成しようとしているものではないからね。僕の目標はまさに『オブシディアン』が僕にしてくれたものだよ(ビート・シーンからはみ出してくれたということ)。だからあなたがそう感じてくれたことはとても光栄だね。

雨のサンプリングが好きなのですか? 前作の"レイン・スメル"につづいて今作でも"マイアズマ・スカイ"に使われていますが、今回は「本降り」という感じで雨音が激しくなっていますね。

バス:はは、雨のサンプリングは前作から今作まで続いた小さな恋心とか片思いってところかもしれない。外の世界にあるものをなんでもサンプリングするのが好きなんだ。まったく音楽的じゃない音たちを、ポップ・ミュージックという文脈に入れることによって音楽的にするという感覚はスリリングで大好き。現に"インコンパーチブル"のほぼすべてのリズムは、石を投げたり、それが欠けたりする音からできているんだ。

「運命」という言葉も何度か出てきますが、あなたはあなたの生が運命に規定されていると感じることはありますか?

バス:自分の人生が運命づけられているとはまったく思わないけど、そう考えること自体とても宗教的な感覚だよね。ときに自分の人生やこのアルバムが宗教的な何かに畏怖の念を抱いているように感じると同時に、まったくそういうことと合致しないときもある。よく神を恐れたり、自らの罪を認識したりしているような信心深い人の視点から歌詞を書くこともあるよ。

いちばん時間をかけたのはどの曲でしょう? 録音についてとくにこだわった点があれば教えて下さい。

バス:"フェードラ"が長い間しっくりこなくて、構想を練るのにも時間がかかったんだ。とにかくなぜかすごく時間がかかった。 僕はアルバム全体をひとつのものとして捉えてもらいたいから、なにか特別こだわった点を挙げるのは避けようかな。

今作までのあいだに世界をまわってツアーをされたことで、何かご自身に変化はありましたか? また、何か音楽上で大きな出会いがあったりしましたか?

バス:多くのとても重要な出会いがあったし、個人的に憧れている人々とも会ったり、いっしょにショーをしたりする機会もあった。ツアーで会った人々の数は本当にクレイジーなくらい多かったよ。自分自身の変化について言えることは、世界中の人々はみんな同じ、ということに気づけたことかな。最高な人もいれば、嫌なやつ、美しい人、かっこいい人もいて、世界中どこにいても同じなのだなと思った。そしてそれは素晴らしいことであるとも思えるよ。

この制作の間、よく聴いていた音楽があれば教えてください。

バス:そうだなあ、アゼダ・ブース(Azeda Booth)とエンプティセット(Emptyset)のふたつは確実に大きな影響を与えてくれたよ。他にもたくさんいると思うけどね。デフトーンズ(Deftones)もたくさん聴いたと思う。

DJ BAKU - ele-king

 ヒップホップのクリシェを破壊し、ノイズをぶちかます若きターンブリストとしてシーンに忽然と現れ、躍動的で、ラジカルなカットアップによる2006年の『Spinheddz』、ダンスの熱狂が注がれた2008年の『Dharma Dance』のリリース......あるいはDIYシーンのコミュナルな感覚を意識したフェスティヴァル〈KAIKOO〉の主催など、DJバクは、ゼロ年代、もっとも果敢な試みをしているひとりだ。
 いま、シーンの革新者は、5年ぶり3枚目となるアルバムのリリースを控えている。ゲストには、N'夙川BOYSのリンダとマーヤ、mabanua、Shing02、Carolineなど。
アルバム・タイトルは『JapOneEra(ジャポネイラ)』。発売は6月26日予定。注目しよう!


https://djbaku.pop-group.net

EP-4、来るべき二夜 - ele-king

 もしや寝首でもかかれたのではあるまいかと思わせた、昨年の衝撃的な復活劇からはや一年、別働隊の活動もふくめ、その活動はひきもきらないEP-4(unit3については、いま出ている紙のエレキング9号をご参照ください)によるイベントをふたつ。

 5月18日土曜、恵比寿リキッドルームの「クラブ・レディオジェニク」は1980年、EP-4誕生の場となった京都のクラブ・モダーンを一日かぎりで復活させるコンセプトのクラブ・イベント。ゆえにスタートは24時きっかりだが、遠い記憶をいたずらに伝説のベールにつつむのではなく、ミラーボールの下にさらし、現在のオーディエンスに届けようとするのは、クラブ・カルチャー黎明期の実験主義者の面目躍如たるものだろう。メイン・フロアではフルバンドのEP-4をはじめ、佐藤薫みずから人選したという、ドライ&ヘビー、JAZZ DOMMUMISTERS(菊地成孔+大谷能生)、かつて佐藤薫がプロデュースしたニウバイルがライヴを行い、ムードマンと、宇川直宏が15年ぶりのDJプレイを披露する。だけでも気が抜けないのに、2階のタイムアウト・カフェには中原昌也、コンピューマ、Shhhhh、Killer-BongがDJで登場する、水も漏らさぬ布陣である。
 その3日後、EP-4の生誕祭にあたる5月21日の生地京都でのライヴでは、オリジナル・メンバーである佐藤薫、ユン・ツボタジ、鈴木創士に、山本精一、千住宗臣、須藤俊明、家口成樹、YOSHITAKE EXPE、つまりほぼPARAの面々が加わることでEP-4がどのような化学変化を起こすのか、新作にとりかかっているという彼らの今後を占うのにも恰好の夜となるにちがない。


写真:石田昌隆

公演情報

「クラブ・レディオジェニク」
2013年5月18日(土)
恵比寿リキッドルーム
開場・開演:24時

■1F MAIN FLOOR
Live:
EP-4
DRY&HEAVY
Jazz Dommunisters(菊地成孔×大谷能生)
ニウバイル

DJ:
MOODMAN
宇川直宏(from DOMMUNE DJ SYNDICATE=UKAWA+HONDA+IIJIMA)

■2F Timeout Cafe
DJ:
中原昌也
compuma
Shhhhh
Killer-Bong

「EP-4 / 5・21@京都」
2013年5月21日(火)
京都・KBSホール
会場:18時 開演:19時

Guest:
KLEPTOMANIAC+伊東篤宏、ALTZ.P
VJ: 赤松正行
DJ: YA△MA


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