「KING」と一致するもの

Hair Stylistics - ele-king

 ヘア・スタイリスティックス=中原昌也のビート集、ビート・ミュージックだ。僕はこの27曲65分にも及ぶ、ビート集を聴いて、心の底から愉快な気持ちになった。発売から2ヵ月以上経つが、いまだによく聴いている。いま、日本でもビートメイカーのレヴェルはぐんぐん上がっていて、彼らは海外のムーヴメントのフォロワーとは異なるオリジナリティを獲得している(という物言いそのものが古臭い!)。コンピレーションとしてまとまっている、『Lazy Replay』や『Sunrise Choir - Japan Rap&Beat』は、日本のビートメイカーのいまを知るためのひとつの参考になるだろう。とはいうものの、良し悪しの問題ではなく、やはりLAのビート・ミュージックや、SoundCloudやbandcampにおける世界的なモードは大きな影響力があり、日本のビートメイカーの多くもその時代の空気のなかにいる。
 ヘア・スタイリスティックスのビート・ミュージックからはそのような空気と同じ匂いがするが、それは中原昌也が90年代の暴力温泉芸者の頃からずーっとやってきたことがたまたまいまの時代の空気にフィットしただけだとも言える。おそらく、このビート集がもう5年早くリリースされていたら、中原昌也のコアなリスナーには届いたとしても、鎮座ドープネスをフィーチャーした曲(“This Neon World Is No Future”)が収録されるには至らなかったのではないだろうか。3年前から制作がはじまったというこの作品が、2013年に世に出たというのは素晴らしいタイミングだ。いや、タイミングではなく、『Dynamic Hate』が素晴らしいのだ。

 好き嫌いといった趣味はあるにせよ、多くのビートメイカーやビート・ミュージック・フリークは、この作品を聴いて考え込むのではないだろうか。「いま“新しい”と言われているビート・ミュージックが果たして本当に“新しい”のか」と。『Dynamic Hate』は、“ビート・ミュージック”という既存の土俵に揺さぶりをかけるビート・ミュージック集だ。中原昌也自身はそんな大それたことを意図していないだろうが、そのような問題提起を孕んだ作品でもある。例えば、アルカの『&&&&&』はたしかに面白いと思うし、いまの時代に支持される理由もわかる。ただ、インターネットの大海原には、アルカに匹敵する才能はゴロゴロ転がっている。僕なんかよりも、SoundCloudやbandcampで日夜ビート・ミュージックをディグっているビート・フリークの諸氏がそのことをよく知っているだろう。カニエ・ウェストが『イーザス』で大抜擢しなければ、アルカがこれほど脚光を浴びることはなかっただろうし、もっと言えば、アルカの分裂的な手法は子供騙しと表裏一体でもある。

 中原昌也は、紙版『ele-king vol.11』のインタヴュー「いよいよ脈打つヘイト」で、「ビート=黒人のものっていう図式もなくなってきたじゃないですか。黒人だからいいビートをつくれるわけじゃない。そういった状況は後押しするものがあったかもしれない」と語っている。さらに、「昔はブギ・ダウン・プロダクションズとマイナーなノイズをいっしょに買うと気ちがい呼ばわりされたものです。僕の頭のなかで常に共存はしていましたけど、そういうことを共有できる友だちはいなかったですよね」とも言う。興味深い発言だ。ラス・Gの『Back On The Planet』の土臭くコズミックなビート、アートワークに接すると、やはりいまだアフロ・アメリカンの音楽家には、拠り所にすることのできるルーツや、アフロ・フューチャリズムのような思想が脈打っているのだなと思う。 “ビート=黒人”という図式があったのかは議論を差し挟む余地があると思うけれど、ビートをグルーヴと言い換えれば、たしかに“グルーヴ=黒人”という図式はあったと思うし、いまだに根強く存在すると思う。

 僕が『Dynamic Hate』を面白いと思った最大の理由は、いち音いち音の音色のヴァラエティとコンビネーションが耳を楽しませてくれるところにある。耳のチャンネルが面白いように次々に切り替わっていくのだ。資料に拠れば、本作は「Ensoniq SP1200、AKAI MPC3000などのサンプラー、ROLAND TR-808などのリズムマシン、ARP2600などのシンセサイザーなど、数々のヴィンテージ・アナログ機材を使っ」て制作し、カセットデッキに録音しDATに起こしたというから、その音色は想像できるだろう。
 一応断っておくと、僕はなにもローファイなサウンドに拘ることが、音への誠実な態度であると言いたいわけではない。グルーヴィーなビートもあれば、グルーヴをあえて否定しているようなビートもある。それが不思議で、興味深くて、何度も聴いてしまう。中原昌也流の諧謔精神ももちろんあるが、そのような態度よりも、とにかくビートのユニークさに耳がぐいぐい惹きつけられる。そして、中原昌也流の分裂的な手法もある。というか、『Dynamic Hate』を聴けば、先ほどのブギ・ダウン・プロダクションとノイズの話ではないが、それが実は分裂でもなんでもなかったことがわかるし、僕自身もいまだからこそその感覚を実感できる。10年前は頭では理解しているつもりでも、実感としてそのことがわからなかった。マントロニクス流のエレクトロ・ファンクとウェルドン・アーヴィンのジャズ・ファンクの名曲“We Getting` Down”をミックスしたような“Empire of Plesure”があり、“No Funk (Tk1)”というタイトルなのに、ベースとキーボートがシンコペーションしているファンキーなビートがある。エキゾ・ブレイクビーツとでも言いたくなる“Music For The Murder Festa”と、シンセサイザーがうなりを上げ、ノイズを撒き散らし、シンプルなビートがズンドコ叩きつけられるタイトル曲からは、中原昌也の気合いと激情が溢れ出しているように思う。手を叩いて大笑いしながらでも、難しい顔をして議論しながらでも聴ける作品だが、いまビート・ミュージックを追っているのであれば、無視できない作品だ。

- ele-king

RP BOO JAPAN TOUR 2013 - ele-king

 今週末、東京大阪、やばいっす。ジューク人気が急上昇するなか、シカゴからそのシーンの重鎮、RP ブー(今年、 名作『Legacy』を出している)が来日するの知ってる? 楽しいから、絶対に行ったほうが良いよ。

RP Boo - Legacy JP (Planet Mu)


 来日のサポートにはシーンを牽引してきた〈Booty Tune〉、CRZKNY (Dubliminal Bounce)、Satanicpornocultshop (Negi)、〈SHINKARON〉、Keita Kawakami (Dress Down)をはじめ、ジュークと共鳴するゴルジェ、テクノ、ベース、ヒップホップ / ラップなどの周辺ジャンルと華麗にクロスオーバー、そしてフットワークのバトル・トーナメントで優勝したTa9yaや準優勝の女性ダンサーHarukoなど多くのダンサーもジャンルを超えて結集した、若手を中心にベテランや中堅も織り交ぜ、もはやこれがジュークであるとは言えないほど多様化するハイブリットな国内シーンとそのカルチャーを堪能出来るキレキレのラインナップをお見逃しなく!

≈ RP BOO JAPAN TOUR 2013 ≈

〈東京公演〉

11.23 (SAT) @ Shinjuku LOFT Tokyo
OPEN/START 23:30 ADV 3,000 yen | Door 3,500 yen

shinjuku LOFT Presents
SHIN-JUKE vol.5

RP Boo (Planet Mu from Chicago)
D.J.Fulltono (Booty Tune)
Satanicpornocultshop (negi)
hanali (Gorge In, Terminal Explosion!!)
HABANERO POSSE
ALchinBond
Booty Tune crew
SHINKARON crew

More Info:
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/loft/18988


〈大阪公演〉

11.22 (FRI) @ Club Circus Osaka
OPEN/START 21:00 ADV 2,500 yen | Door 3,000 yen

Booty Tune & Dress Down Presents
SOMETHINN3

RP Boo (Planet Mu from Chicago)
D.J.Fulltono (Booty Tune)
Keita Kawakami (Dress Down)
DJ TUTTLE (Marginal Records)
Quarta330 (Hyperdub)
terror fingers (okadada + Keita Kawakami)
CRZKNY (Dubliminal Bounce)
DjKaoru Nakano
Paperkraft (Alt)
AZUpubschool (doopiio)

More Info:
https://circus-osaka.com/events/booty-tunedress-down-presents-something3


interview with Dorian - ele-king

E王
Dorian - midori
felicity

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 シャーマンはDMTで神様と交信するが、ドリアンはお茶をすすって野山を見る。彼の通算3枚目のアルバム『ミドリ』は、フライング・ロータスの前作をお茶の間ラウンジとして再現したような作品である。おびただしいカットアップによるポップアート、ダウンテンポのサイケデリック・サウンドなのだが、彼は宇宙を見ることもなければ、精神世界に向かうこともない。では、ただのイージー・リスニングかといえば、全然そうではなく、ほどよく甘美で、少しばかりドラッギーな音響がスムーズに駆け抜けていく。しかも『ミドリ』は、たんなる心地良い音響という感じでもない。エモーショナルだし、ユーモアもある。リズムは温かく、リスナーをさまざまなヴァリエーションで楽しませる。音は優しく、そして、リスナーにとっての心地良い場所を喚起する。個人的にドリーミーな音からはこのところ離れたんですけれど、はっきり言って、『ミドリ』はオススメです。
 本当は、言いたいことがたくさんあって、もう喉元まで出かかっているのだけれど、僕の質問が悪く、うまく言葉を引きだせなかった……以下のインタヴューを読んでいただいて、本人の控え目な言葉の背後に、何か他とは違うものを作ってやろうという、けっこうなアンビシャス、パッションがあったことを察してていただければ幸いである。 

子どものころ行ったことあるけれどもそれ以降行ってないなってところとか、こういうところが近所にあるのは知っているけれども行ったことなかったなとか、そういうところに行ってみたいなという。

じつはドリアンくんと会うのってすごく久しぶりだよね。初めて会ったのって……覚えてます?

ドリアン:リキッドルームの……。

いや、違う違う(笑)。

ドリアン:あ、違います?

あれでしょ、もう4年以上前? 七尾旅人のライヴを観に行ったとき、やけのはらが紹介してくれたんだよ。「彼はドリアンくんっていって、今度いっしょにやる」って。六本木の〈スーパー・デラックス〉の階段のところで。

ドリアン:ああー、そんなに前ですか!?

だから僕がまだ『remix』やってたころですね。

ドリアン:そうですよね。

あのころドリアンくん、まだハタチとかそれくらいじゃない?

ドリアン:そんな前じゃないですよ(笑)! 25、6とかそれぐらいだったと思いますね。

20歳ぐらいかと思っていた。とにかく、今日、お久しぶりに会えるのが楽しみだったんですよ。ていうかドリアンくん、生まれ、静岡のどこなんですか?

ドリアン:島田市です。

あ、島田なんだ。いいところじゃないですか。

ドリアン:何にもないんですけれども。山と川と……以上、みたいな(笑)。

はははは、あとちょっと、若干商店街って感じでしょう?

ドリアン:そうですね。島田市って言うとそうですね。僕はいわゆる島田市とはちょっと離れたところで。平地なんですけど藤枝寄りで。六合駅の近くですね。

僕は静岡市なんですけど、安倍川越えて用宗よりも西側ってよくわかってないんですよ。

ドリアン:そうですよね。

ただ、今回個人的に放っておけなかった理由のひとつは、やはりその静岡を訪れて作ったっていうところですよ。同じ静岡人として、その話をまずはお伺いしたいなと思ったんですけれども。

ドリアン:はい。静岡……これ、ちょっとわかりやすく書いてあるんで語弊がある部分もあるんですけど……。

今回のリリースの資料を書いた小野田雄も静岡ですからね。

ドリアン:作るために訪れたと言うよりは、子どものころ行ったことあるけれどもそれ以降行ってないなってところとか、こういうところが近所にあるのは知っているけれども行ったことなかったなとか、そういうところに行ってみたいなというのも含めつつ──まあ誰と行ったとかは書かなくてもいいんですけども(笑)──ちょっと彼女と旅行に行こうと思って。じゃあ、自分がよくわかるところで、いいところで、っていうことを考えて寸又峡なんかに行ったりしたんですけれども。

寸又峡って金谷からの電車で行くところだっけ?

ドリアン:そうですね。けっこう川根のほうで。

川根のほうだよね。いいところですよね。秘境な感じ。あの二両しかない電車も好きだな。

ドリアン:そうですね、かなり山奥で。その頃ちょっと作りはじめていて、断片なんかはチラホラ出はじめていた頃で、それが。そのときは、ただただ作るっていう感じだったんで。落としどころとか、そういうところがあまり明確ではなかったんですけれども。その旅行が1泊2日だったんで、いろんなところをレンタカーで周ったりしてるなかで、ちょっとピンと来たというか。

インスピレーションが沸いてきた?

ドリアン:はい。僕だと静岡の風景は具体的に浮かぶんですけど、聴いたひとにとっても、ある、そういう場所が浮かぶように、そういうものに沿って曲を置いていくというか。そういうものがしっくり来るんじゃないかな、とそのときピンと来たというか。

自分の故郷だけれども、遠かった場所みたいな。

ドリアン:それはあると思いますね。離れることで故郷がかなり美化された部分ってあると思うんですけど、自分で。

でも具体的に実際に行ったわけですからね。

ドリアン:はい。

静岡って中途半端に東京と離れていて、中途半端に近くて、とにかくいろんなものが中途半端じゃないですか。

ドリアン:そうですね、中途半端ですね(笑)。

都会じゃないし、ド田舎でもないから、あんま故郷って感じもなくて、東京出てきちゃうひとは、静岡に戻らないひとが多いでしょ? 「ま、いっか。いつでも帰れるし」と思いながらズルズル帰らないから。僕なんかもそうで、高校3年生まで静岡になんてべつに何の思い入れもなかったんだけど、久々に帰ってみると「あれ、こんなにいいところだっけかな」っていうぐらいの(笑)。

ドリアン:そうなんですよね。まさにそうなんですけれども、僕も。

そういう感覚ってきっと誰にでもあるんでしょうね。10代って人生で一番生意気な時代だから、自分の故郷なんかたやすく愛すことなんかできないじゃない(笑)。

ドリアン:そうですね。

若さゆえに心も広くないし。でもさ、島田って、こんなにお茶畑だらけだっけ?

ドリアン:島田はけっこうそうですね。県内でも一番生産量が多い、イコール全国で一番多い、となると思うんですけど。

そうか、牧ノ原台地か。とにかく、お茶畑の風景がドリアンくんの原風景じゃないけど、なんか見直してみたらこんなに良かったんだ、みたいな。

ドリアン:そうです、そうです。

あそこから富士山って見える?

ドリアン:見えます。これはちょっとデフォルメされすぎですけど、この半分ぐらいには見えますね。

富士山、でかいからね、当たり前だけど(笑)。で、さっき言ってたみたいに、ドライヴしながらインスピレーションを受けて、これをひとつテーマにしようと思ったんだろうけど、今回の音楽をそこからどういう風に具現化していった、曲として落とし込んでいったんでしょう? 小野田雄はドリアンが「自宅で好んで聴いていたというマーティン・デニーとかレス・バクスター云々」とかってことを書いてますけど、それはあったの?

ドリアン:ええ。そうですね……。

小野田雄、テキトーなことを書いてるわけではない(笑)?

ドリアン:いや、すごくわかりやすく言うと、そういうことだと思うんですよね。

はははは。じゃあ、いいんだ。ただ、今回のアルバムは、いろいろ言えちゃうよね。ラウンジ・ミュージックとかね。ダウンテンポとか、カットアップとか。でも、たしかに小野田雄が言う通り、景色が浮かぶ音楽ですよね。

ドリアン:ああ、そう言ってもらえると。

1曲目に使ってるのは(映画の)『男と女』のフレーズ? 「ダバダバダ~」ってやつ。(註:フランシス・レイ作曲)

ドリアン:ああー、そういうことですよね。でも、全然それではないですけど。

ただ似てるっていうだけか。

ドリアン:そう言われてみれば似てますね。でもそれとは全然関係ない、100円ぐらいで売ってるようないわゆる「ムード大全集」みたいな、そういうタイプのレコードには同じような曲しか入ってないっていう。そういうなかにあった音色というか、それを使ったというか。曲のなかでこのフレーズが良かったからこれ使おう、って感じではやってないんで。いったん全体像みたいなものとか構成とかを頭のなかでまずイメージして作って、紙か何かに書いて、で、曲のキーやテンポやコード進行なんかも決めて、こういう音色でこういうコードがいいってことを決めてからサンプル回すってことをやってたんで。

なるほど、では制作する上で今回すごくキーになったことって何かある? ひとつはサンプリングのやり方みたいなもの?

ドリアン:やり方もそうですし、サンプリングそのものですね。僕いままで、サンプリングを主体にした作り方っていうのをほとんどしてこなかったので。ファーストとか、それより前もそういうことはしてこなかった、っていうのはあったので。

ドリアンくんのイメージってディスコとか、ダンス・ミュージックって強かったから。今回はガラリと方向性を変えましたよね。言うなれば、ドリアンくん流のイージー・リスニングだよね。小野田雄は「エキゾチカ」とか「チルアウト」とか、いろいろと書いてますけどね。イージー・リスニングみたいなものは自分のリスニング経験としてはあったの? 

ドリアン:ほんとここ1年、2年の話ですね。

たとえばボサノヴァのギターも入ってたりするじゃない。ああいったブラジル音楽的なものとかさ。

ドリアン:ボサノヴァに関しては、10年ぐらい前に少し興味を持ったことがあって。そんな詳しい話ではないんですけど、少しなぞった程度に名盤みたいなものを買っていろいろ聴いてた時期があって。「いつかこういうのがやれたらいいな」ってことは頭の片隅にはあったんですね。だから音楽の、なんていうか楽典的な部分というか、そういったものはかなり高度な音楽だとは思うんですよね。そういうものもその当時は追いついてなかったっていうのもあって、やろうにもできない部分もあったりとか。今回こういうものを作るにあたっていろいろとピンと来たものがあったので。そのなかで思い出して、「あ、いまだったら、あれができるかもしれない」みたいなことも思って。

ちょっとネオアコっぽいところも好きだな。

ドリアン:あ、ほんとですか。

意識した?

ドリアン:ああー、ネオアコとかそういったものに関しては、僕はかなり通ってないですね。たしかに、そういったことを言われるんですけど、いままでも。たとえば一番近くのやけさんなんかにも、「そういう感じあるよ」っていうことを言われて。だけど本人はとくに通っていないという。

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ダンス・ミュージックだろうがJ-POPだろうが、けっこう共通して同じような質感になってきてるなって。それでいいのかな、みたいなことは思ってましたけど。いいならいいんですけど、僕は「それはちょっとな」って思ったりとか。

E王
Dorian - midori
felicity

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ドリアンくんは最初からダンス・ミュージック?

ドリアン:本っ当に一番最初を言うと、小室哲哉とかTMネットワークとか……。中学生で、小室哲哉ぐらいしか指標がなかったんですけど、そのころ。知識もないし田舎ですし、やっていることを聞いているとtrfをやってたりして。そういうののリミックス盤が出てたりして。要はレイヴみたいなものをそこから知っていった、みたいなことがあったりして。基本的にはそこからジュリアナのコンピとかを借りたりして……。

それはすごい(笑)。

ドリアン:で、そのなかでカッコいいものを吸収して、「ああー、これか」みたいな。ハウスみたいなものとか、ジャングルであったりとか。そういう風になっていったんですけど。

なるほど。直球でダンス・ミュージックだったんだね、ほんとに。では、こういったエキゾチック・ミュージックっていうかさ、イージー・リスニング的なものっていうのは、ほんとにごく最近のドリアンくんのモードなんだ?

ドリアン:そうですね。でも、そのきっかけみたいなものをほんとに掘り下げていくと、中学校のときに隣の席の女の子が好きだったんですけど。僕そのころ打ち込みをはじめてて、たぶん優越感を感じてたんだと思うんですけど、ほかのひとがやってないから。

はいはいはい。

ドリアン:で、僕は音楽を詳しいはずだと思い込んでて。その子に「どういう音楽聴くの?」ってそういう話をしたら、「私テイ・トウワ好きなんだよね」ということを言われて。「ヤバい、何にも知らないぞ」みたいなことを思って。

シャレてるねー。

ドリアン:「新しいの全然聴いてないから、貸してもらえる?」みたいなことを言われて、知ってる体で。「これは……」みたいなことを思って。もしかしたら、そこが最初かもしれないですね。もし、これと共通するものがあるとしたら。

なるほど、なるほど。たしかにテイさんの音楽にはそういう要素もあるもんね。それはテイ・トウワのどのアルバムだったの?

ドリアン:借りたのは、『Sound Museum』だったんですけれど、帯の裏にはファーストも出てるよ、みたいなこともあったと思うんですけど。「そうか、これを知らないとほんとに知らないことになるからマズいな」と借りに行ったりしたんですけど。『Future Listening!』とか。

へえー。やっぱりそれは、打ち込みをはじめたばかりの少年の耳でテイさんなんかを聴くとショッキングなものなの?

ドリアン:そうですね。

どの辺りが? やっぱりサンプリング?

ドリアン:サンプリングもそうですし……サンプリングはサンプリングでも、あのジリッとした質感とか、ビットの低いものであったりとか。サンプリングっていうとヒップホップの要素があると思うんですけど、ヒップホップのイメージしかなかったので、たとえばファンクだとかソウルだとかジャズだとか、そういうものをサンプリングするものなんだっていう固定観念はあったので。「あ、べつに何でもいいんだ」ってことを思ったりはありましたね。

ああー、なるほど。

ドリアン:あと楽典的な知識もかなり少なかったので。ドミソとかそういうものぐらいしかわからなかったんですけど、4つとか5つの和音が普通に入ってて、「この響きは何だ」とかそういうものはありましたけれども。

とにかく、ずっとダンス・ミュージックで来て、ここ1年ぐらいでこういったイージー・リスニングというかね、今回のアルバムみたいなモードのきっかけはあったんですか?

ドリアン:まずは、いままでみたいな感じのものに対する疑問は、2枚目(『studio vacation』)ができた辺りからちょっと感じてたんですよね。もうちょっと違うラインを模索したいなっていう気持ちはけっこう大きくなっていて。そのおかげでいろいろとお話をもらったりとかはあって、それはありがたいことなんですけど。

まあ仕事として。

ドリアン:そうですね。だからそういうものも作っていたんですけど。

それは何? ダンスに疲れたっていう感覚なの?

ドリアン:ダンスに疲れた……? もちろんクラブに行って、遊んで踊ってっていうのは変わらず好きなことではありますし、これからも自分のなかでは続いていくことだとは思うんですけれども。やっぱり家でそういうものに向き合うのは正直ちょっとしんどくなってきた。

(笑)あ、でも逆に年取ると、家でしかそういうものと向き合いたくなくなってくるよ。俺ぐらいにまでなってくると(笑)。

ドリアン:(笑)行きたくなくなってくるってことですか?

気持ちにカラダが付いていかないんだとね。夜の2時まで起きてられるのがやっとというか。悲しいことに……いや、悲しくはないんだけど、全然。

ドリアン:あとは、やけさんのライヴは僕もいなければできないみたいな形になってるんで、やけさんのライヴでいろんなところへ行っていろんな方面でやるようになったりすると、それで忙しくなったりもして。やっぱ、クラブの比率っていうのがけっこう少なくなっていたっていうのもあって。バンドでやったりとか、まあバンドに限らずダンス・ミュージック以外のいろんなところでやることも増えて。やっぱり、自然と聴き方とか受け取り方とかもどんどん変わっていったと思いますね。

なるほど、幅が広がったということですね。作り手としてそこは意識しました?

ドリアン:それももちろんしましたね、はい。

アゲる音じゃなくて、落ち着かせる音じゃないですか、今回は。

ドリアン:そうですね。

で、そういう平穏さっていうのはドリアンくん自身のなかでも求めてたようなところはあるのかな?

ドリアン:そうですね、はい。基本的にもう……疲れてるから。

ははははは!

ドリアン:そういうところはありましたね。

自分自身がそういうものを求めているからっていう。

ドリアン:そうですね。あと、これがすごく独特で、個性的で、他にはないものっていう風には思わないですけど。こういうタイプの音楽っていうのは、世のなかには他にも全然あると思うんですけど。それにしたって全部同じような曲ばっかりだよな、みたいなことは思っていて。世のなかが。そういうことも思ってましたね。曲のタイプっていうことに限らず、なんかもう質感そのものが全部同じに聞こえるなっていうのは思ったんですよね。

なるほどね。

ドリアン:ダンス・ミュージックだろうがJ-POPだろうが、けっこう共通して同じような質感になってきてるなって。それでいいのかな、みたいなことは思ってましたけど。いいならいいんですけど、僕は「それはちょっとな」って思ったりとか。

僕は静岡という中途半端な街とはいえ、飲み屋とかパチンコ屋とか映画館が並んでいる歓楽街で育ったので。街って全然嫌いじゃないんですけども。でも渋谷とか、東京の街が最近すごくうるさくなったじゃないですか。宣伝カーとか、電子広告とかね。ほんとにやかましいな、っていうのがあって。若いひとたちが最近、自分たちの感覚でこういう「反やかましくない音楽」をやりはじめてるのが僕は興味深いなとずっと思ってたんですよね。

ドリアン:渋谷歩いていて入ってくる音に関しても、全部お金が絡んでいるように思えて。

まあ実際そうだしね(笑)。

ドリアン:すごいなあ、って。

街宣車と同じぐらいうるさいよね、音楽がんがん鳴らしてる宣伝のトラック。

ドリアン:ほんとにそうなんですよね。もう、すでに音楽でもないっていうか。そう思っちゃいますよね。こんなエラそうなこと言っていいかわかんないですけど。

ガンガン言いましょうよ。

ドリアン:(笑)

『midori』っていうこのタイトルは、たぶんだけど茶畑の緑から来てるの?

ドリアン:いやこれは、個人的には意味があるようなないような、なんですけど。ほんとはもっと他のタイトルも考えてたんですけど。いままでのように、「なんとか・なんとか」みたいな。ちょっと説明的な。そういう感じで考えてたんですけど、かなり迷路に入ってしまって。それでどうしようかって考えると、曲を作っていたときに頭にぼんやり浮かんでいたイメージが大体緑色のものだったんですよ。なんか音楽やってるひとっぽい言い方でヤですけど。

ははははは!

ドリアン:(笑)共通してそういうイメージがあったんで、じゃあこれは「緑」だろう、と。そんなにイチイチ説明する、これは具体的に○○ですとか、いうようなものじゃなくてもいいと思って。なんかもう、ありとあらゆるものが、「これは●●です」、「これは△△です」ってわからないとダメみたいな。

わからないって良いよね。徹底してわからないってことは重要だよね。

ドリアン:「だからもうちょっと、自分で考えろ」みたいなことは思うんですよね。

小野田雄が書いてるように、現代のマーティン・デニーって言い方もあるのかもね。でもさ、イージー・リスニングは当時はバチェラー・パッド・ミュージック──「独身者の音楽」って言って、50年代から60年代にかけて、小金があってまだ結婚していない独身の男が家に帰って酒を飲みながらリラックスして楽しむみたいなものだったから、セクシーな女がジャケットに載ってたりするでしょ。でも、この『midori』は、そういう独身者の音楽でもなければニューエイジでもなければ美化された日本でもなく、新幹線から見えるすごく平凡な日本の「緑」って感じがして、それがいいなって。

ドリアン:ツツジなんかも植え込みとかに普通に生えてますもんね。

そういうことも考えてやられたのかなって。

ドリアン:いま言われると思いますけど、そこまで考えてなかったかもしれない。なんかでも、ジャケットのイメージとしては実際にとある場所があるんですけど。そこをモチーフに手を加えてって感じになりましたね。

これは大井川鉄道でしょ?

ドリアン:これ大井川鉄道ですね。ほんとならこの辺に走ってるはずなんですけど。

ははははは。

ドリアン:そういう位置関係ですけど。

とにかく、マーティン・デニー風なセクシーな女性があってもおかしくはない音なわけじゃない。商品としてはそれでも成り立つと思うし。でも、『midori』の新しさって、この絵が象徴してるかなって。

ドリアン:たしかにそれぞれの曲の風景のなかで、ひとが出てくることはないですよね。詞があるわけじゃないから一概にそういうことは言えないし、そういうことを言ってしまうことで聴くひとに固定観念を与えてしまうのもちょっと怖いんですけれども、個人的には主人公から見た景色でしかないので。ひとが登場することはない。

このサイケ感ってけして60年代的なサイケ感ではないし、ああいうイージー・リスニング的なスタイリッシュなものも拒否してるし、もうちょっとリアルな感じが……リアルと言ったらサイケな感じとまったく矛盾してるけど(笑)。

ドリアン:わかりますけどね(笑)

日常と地続きなサイケ感がよく出てると思ったんですよね。そこが僕は好きです。

ドリアン:ありがとうございます。

そこは狙ったんでしょ?

ドリアン:はい、そうですね。サイケ感……それはまあ、結果的にそういう風に見えるっていうところがあるんですけれども。何て言ったらいいんですかねえ……狙ったような……。

じゃあ意図せずに、気がついてみたらこうなってたって感じなんだ?

ドリアン:イメージとしてはこういうジャケットがいい、っていうのが漠然とあった。以上。みたいなところがあるんですけれども。

直感的だったんだ。

ドリアン:はい、そうですね。女のひと的なことを言ったらこっちのなかに入ってますけど。

何が?

ドリアン:いや女のひとが。

(笑)あ、アー写にね。このアー写いいよね。

ドリアン:そうですね。静岡だし、お茶だし、ということですね。構図とか設定だとかは、写真を撮ってくれている寺沢美遊ちゃんが考えてくれて。

へえー、なるほどね。なんか、お茶割を飲みたくなりますよね(笑)

ドリアン:あ、ほんとですか(笑)。それは飲んでください。

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すべて均一化してきてる気がするんですよね。服装だってそうだと思いますし、食べるものだってそうだと思いますし。生活する行動のラインもそうだと思いますし。でも音楽もさっき言ったようにそうだと思うし。

E王
Dorian - midori
felicity

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またしても小野田雄が資料に、これは「ネイチャー・トリップだ」なんて適当なことを書いてますけど、そうなんですか?

ドリアン:うーーーーん。

「気の遠くなるようなパズルに興じながら、彼が描こうと試みたのは架空のネイチャー・トリップだ。」と(笑)。

ドリアン:まあ、「気が遠くなるようなパズルには興じ」ましたけど。

おおーー(笑)

ドリアン:まあそう捉えてくれても……。

90年代にもこういうラウンジ風の音がクラブで流行ったことがあって、僕は好きだったんですけど、その時代のラウンジ・ミュージックってドラッギーだったんですよね。

ドリアン:あ、なるほど。

いわゆるハマり系な音が入っていて。ジェントル・ピープルみたいなものとか。それに比べるとすごく、小野田雄が言ってるネイチャー・トリップっていう意味もわからなくはない。さすが小野田雄だ。

ドリアン:べつにそれでもいいと思うんですけど。べつにそうじゃないとも言おうとも思わないんで。

でもほんといいアルバムだよ、これ。これたぶん、好きなひと多いと思いますよ。

ドリアン:ほんとですか。それだといいんですけどねえ。いままでのものは拒否感を持つひとはだいぶ拒否感持つタイプの音楽だったとは思います。

アッパーなダンスのドリアンを期待してるひとからすると裏切られた蟹になるかもだけど、そこを裏切りたかったわけでしょう?

ドリアン:そうですね。それこそ何て言うか……。

小野田雄は何でもかんでもバレアリックにするからね。ほら、これも「バレアリックだ」って書いているよ。(地中海じゃなくて)駿河湾だっていうのにね。

ドリアン:はははははは。

でも、たしかにこれはバレアリックですよ。

ドリアン:でもほんと、何でもいいとは思っていて。どういう風に受け取ってくれても。

まあそうだけどさ。でもどういう風に受け取ってもらってもいいけど、俺はこれを作りたかったんだってことだよね。

ドリアン:そうですね。

でもほんとすごくいい作品ですよ。

ドリアン:ほんとですか(笑)。

いや、マジマジ。聴いた瞬間、すげーいいじゃんと思って。

ドリアン:ありがとうございます。

ドリアンくんってこんな音楽作ってたんだと思って、昔の聴き直したらやっぱ違ってた(笑)。

ドリアン:そうなんですよね。

面白いよね。

ドリアン:何て言うか、すべて均一化してきてる気がするんですよね。服装だってそうだと思いますし、食べるものだってそうだと思いますし。生活する行動のラインもそうだと思いますし。でも音楽もさっき言ったようにそうだと思うし。

とくにネットって、ひとと違うことを言ったりすると叩くじゃない。

ドリアン:そうでしょうねえ。

音楽やってるひとは元々変わり者っていうか、ひとの目を気にせず生きていくようなね。

ドリアン:そう思うんですけど、それなのに音楽まで同じように聞こえるようになってる。それは僕がだんだん年を取っているっていうこともひとつの原因だと思うんですけども。それにしても、っていう風に。

そういう意味では今回のアルバムは逆に、メッセージになってますよ。

ドリアン:エラそうかもしれませんが(笑)

もっとエラそうなこと言おうよ(笑)。

ドリアン:ありがとうございます。

ところでなんでドリアンって名前にしたの?

ドリアン:ああー。これは僕がつけたわけではないんですけれども。DJとかをはじめたときに、友だちが「フライヤー作るけど、名前何にする?」って聞かれて、「あ、そうか」って。べつに本名でも良かったんですけど、「じゃあせっかくだから考えるよ」って言って。で、そのときいっしょに住んでるひとがいたんですけど、隣の部屋に行って、「いまこういう電話が来たんだけど、何がいいと思うかな?」って言ったら1秒ぐらいで「ドリアン」って言われて。「じゃあそれで!」って。なんか、覚えやすいしいいかな、って。

はははは。

ドリアン:しかもそんなに長く続けるつもりもなかった。

DJをはじめたころは、どんなスタイルだったんですか?

ドリアン:僕、ありがちなんですけど、普通に〈RAW LIFE〉にやられた世代なんですよ。

なるほど。それで小野田雄なんだね。

ドリアン:はい。だからその当時のきてた感じというか、コズミック的なものだったり、ディスコ・ダブと言われるものであったりとか。そういうところから入って。

へー、そうだったんだね。今日はどうもありがとうございました。

ドリアン:ありがとうございました!

 ドリアンは、文中に出てくる優しい男=小野田雄、そしてエレキングでDJチャートをかき集めてくれる暑苦しい男=五十嵐慎太郎と同じ静岡人である。ドリアン君、もっともっとCDを売って、いつか僕たちを見下してください。黒はんぺんを食べながら、お互いがんばりましょう。

恋するリベラーチェ - ele-king

 2010年代前半は、多くの同性愛者たちにとって激動の時代であったと……のちに振り返られることになる予感がする。英米仏をはじめとる、同性婚の是非の議論、あるいはロシアやウガンダでの同性愛者弾圧とそれに対する抵抗運動など、話題に事欠かないからだ。まあ、日本はそこから取り残されているわけだが……、ひとまずここでは、そんな時代を象徴する1本のアメリカ映画について取り上げよう。

 今年はスティーヴン・ソダーバーグ監督作品の当たり年で、日本で公開されるのは『マジック・マイク』、『サイド・エフェクト』、そして本作『恋するリベラーチェ』で3本目であり、そしてそれらすべての水準が高い。テクニックは抜群ながらもどうにも器用貧乏に見えなくもないソダーバーグだが、劇場映画の監督を引退すると表明してから開き直ったのだろうか(本作はテレビ映画であり、今後は拠点をそちらに移すらしい)、なかなかどうしてここのところ悪くない。いや率直に言って、面白い。
 『チェ』二部作以降辺りからソダーバーグはアメリカの近現代史を様々なアングルで捉えているようなところがあり、たとえば『チェ』は資本主義の揺らぎをアメリカの国内外から同時に映したような作品であったし、『ガールフレンド・エクスペリエンス』はリーマン・ショックを擬似的なドキュメンタリーのようにしながら後景にし、『インフォーマント!』では企業社会と資本主義の歪みを、『コンテイジョン』ではグローバリズムと格差を取り上げ、『エイジェント・マロリー』……は置いといて、『マジック・マイク』は高度資本主義社会に「それでも」乗る人間と降りる人間との分岐を、そして『サイド・エフェクト』は精神疾患さえも市場に飲み込まれていく様を描いていた。そして程度の差はあれどすべての作品において、冷たい肌触りが貫かれている(なかでも『コンテイジョン』の冷徹さは出色)。



 本作『恋するリベラーチェ』は1950~70年代に絶大な人気を博したステージ・ピアニスト、リベラーチェのプライヴェートを描いており、すなわち彼と同性の恋人との愛憎に満ちた年月についてを映し出している。同性愛者の人生をテーマにしたのはそれがアメリカにおいてタイムリーであるからに違いなく、さらにそのなかでもリベラーチェを選んだところにソダーバーグの利口さが見える。ユーチューブなどで検索すればいくつか出てくるだろうが、彼のステージというのがまずとんでもない。宝塚歌劇団以上に絢爛な衣装を身にまとい、舞い、そしてそれ以上ないほどデコレートされたピアノの鍵盤を叩きまくる。その派手なステージングによって悪趣味の代名詞ともされたリベラーチェだが、この映画を観ると、彼自身そのことを自覚した上で楽しんでいたようである。宮殿のような邸宅での、虚飾にまみれた日々も含めて。
 しかし同性愛者であることを、彼は楽しんでいなかったようだ。いや、もちろん、好き放題のセックスはつねにそこにあった。が、それはあくまでクローゼットな愉しみであって、徹底して彼はゲイであることを世間に隠していた。ここでは、おばちゃんみたいなカツラをかぶるマイケル・ダグラスとムッチムチのマット・デイモンの奇妙な、しかしごく真っ当な蜜月の日々とその破綻が語られていく。そして映画の後半、デイモン演じる恋人と裁判沙汰になるとき、ふたりの生活は婚姻関係と同質のものであったと振り返られる。さらに時が過ぎ、エイズがアウティング(性的志向を当事者以外が暴露すること)する彼の秘密……。すなわち、この映画では現代に至るまでの同性愛者たちの前史が、いくらかの感傷とともに確認されていくのである。ごつい指輪をいくつもはめたリベラーチェの姿がどれだけ下品で悪趣味であろうとも、そうして死んでいく彼の姿は、自らのアイデンティティを封印したまま刹那的な性行為を重ね、歴史の隙間に消えていった数多の同性愛者たちと何ら変わらない。だからだろうか、映画の終わりはソダーバーグ映画らしからぬセンチメントが漂っている。

 たとえば同性婚やカミングアウトが議論されるとき、同性愛はセックスの嗜好に過ぎないのだから、表立って語られるものではないと言われるときがしばしばある。しかしそれはひどい話で、「セックス以外」の同性愛者たちの生活だって当然あるわけである。欧米で有名無名を問わずにゲイたちがカミングアウトを続けるのは、セックス以外の……いや、セックスを含めた人生について、次の扉を開くためだ。そしてそれは、自分の人生だけに向けたものではない……けっして出会うことのない同性愛者たちのクローゼットの扉さえも開くことにもなる。 ヘイト・クライムであるとか、シャレにならない現実だってあるわけだし。
 さて日本では、ブレイディみかこさんが『アナキズム・イン・ザ・UK』の「ミッフィーの×と『初戀』」の項で引用している岩佐浩樹氏の発言の通り、「日本で暮らしているとどうも、社会的にはクローゼットなままで「なんとなく」ゲイでも大丈夫っぽい、という薄気味悪い感じがある」。わかりやすく目に見えるホモフォビアもないが、だからと言って10代の少年がクラスメイトにカミングアウトできるような社会とはほど遠い。昨年のフランク・オーシャンのカミングアウトに胸を打たれて以来僕はずっとその理由について考えているが、回答はまだしばらく見つかりそうもない。……ないのだがしかし、この映画のマイケル・ダグラスの悟ったような慈愛に満ちた笑顔を見ていると、リベラーチェの亡霊がクローゼットに消えた魂を引き連れて、やがて「ここ」にやって来るような気がしてくるのである。

予告編

Mark E - ele-king

 マーク・Eとか、モーター・シティ・ドラム・アンサンブルとか、スルーしてきたんだけど、五十嵐慎太郎が口うるさく推薦するものだから聴いています。UKの若い連中のお陰で、ディープ・ハウスが時代のムードに合ってきたというのもあるけれど、デトロイト系ビートダウン──せかさず、ゆったりとしたグルーヴ、エモーショナルでソウルフルなテイスト──の人気はハウス冬の時代においても衰えずにいたし、メロウなハーモニーとオードルスクールなフィーリングを持っているマーク・Eの今回の来日、ハウス時代のいま、実に良いタイミングじゃないでしょうか。
 2004年にジャネット・ジャクソンが「R&Bジャンキー」を出して、その3年後にUKはバーミンガムのマーク・Eは「R&Bドランキー」を出しているけれど、彼のR&B使いのうまさはつねに賞賛されています。既存の曲をダンス仕様に編集し直すことをハウスの世界はエディット(リエディット)と言いますが、五十嵐は彼をエディットの「職人」と呼んでいます。職人とは、わけもわからずサンプリングするのではなく、元ネタについてもよくわかっている人です。今月のオススメのディープ・ハウス、ディスクロージャーやザ・XXで踊って楽しかった人には大推薦。

以下、五十嵐から来たメールのコピペ。

 職人プロデューサー「Mark E」のJAPANツアーが久々に開催される。
JISCOレーベルではその類い稀なEDITワークで人気を獲得し、その後自身で立ち上げた「MERC」レーベルもコンスタントにリリースを重ね、地味で地道なスタンスとそんな性格を表してるかの様なそのサウンドが、本国イギリスはもちろん日本でも着実にコアなファンを獲得し、昨今のUKハウス再注目の波を牽引しているひとりと言っても過言ではないだろう。2011年の3.11の混乱のなか、いち早く来日してその親日ぶりも評判な彼なので今回のツアーを相当楽しみにしているようだ。
 名古屋では地元の信頼も厚い老舗のCLUB JB'sでの開催が決定した。
また代官山AIRのPARTYでは共演予定のDJ陣がDJ AGEISHI、DJ SHIBATA、GONNOと、これまた日本が誇る職人気質な最高なDJ陣。そしてラウンジでは新進気鋭の要注目若手DJ陣に交じって先日20周年を迎えたIDJUT BOYSのConradが参加すると言う豪華な顔ぶれで開催される!

Mark E (Merc, Spectral Sound/from UK)
 英国ウエスト・ミッドランズ州ウォルヴァーハンプトンにて生まれ、その後家具デザインを学ぶためにバーミンガムに移り住む。当時バーミンガムではちょうどクラブシーンが盛り上がっていた時期で、大学卒業後もそのままバーミンガムに住むことになる。Jisco Musicからリリースされた”Scared”をきっかけに、一躍Mark Eの名は広まり、ディスコ エディットやビートダウンという言葉に収まりきらないMark Eマジックは〈Endless Flight〉、〈Running Back〉、〈Golf Channel〉、〈Internasjonal〉、〈Sonar Kollektiv〉などからリリースされた。また、ここ数年で数多くのリミックスも続々と手がけており、remixerとしてのMark Eも勢いがとまらない。2009年には自主のレーベルMERCを始動し、アナログレコードとコンピレーションCD『Mark E Works 2005-2009』Vol.1と2をリリースしている。
 「本当の音楽は消耗品じゃないと思うんだよね。僕も音楽制作と向き合ってる時は、時間がたっても聴けるモノを常に意識してる。僕が古いディスコに惚れてるように、20年たってもみんなが楽しめるような音楽を創りたい。」 (Vendor Mag vol.5 Mark E Interviewより)
 2011年にファースト オリジナル アルバム『STONE BREAKER』を〈Spectral Sound〉より発表、プロデューサーMark Eの音世界が濃縮された作品となっている。
 〈Running Back〉から" THE BLACK COUNTRY ROOTS EP”を近々リリース予定であり、また現在セカンド・アルバムを制作中とのことである。

Merk Music:
https://mercmusic.net
https://twitter.com/mark_e_merc
https://www.facebook.com/pages/MERC/124366710936688


11.22(金) 名古屋 @ Club JB’S
Guest DJ: Mark E
DJ: Shou Ino (Buddy/indicate), Beepay (body to body/Mooving), Uchida (izumi), Hose (Mooving)

open 22:00
Advanced 2500yen
Door 3000yen

Info: Club JB’S https://www.club-jbs.jp
名古屋市中区栄4-3-15 丸美観光ビルB1F TEL 052-241-2234

NU-DISCOの旗手MARK Eが今年もAIRのフロアを魅了

 ビートダウン的感覚とソウル/ディスコ・エディット感覚を昇華させた独創的 なダンストラックでテクノ~ハウスシーンからも大きな注目を集め、リミキ サーとしての手腕も絶賛されるMARK Eが、約1年3カ月ぶりにAIR再登場を果た す。前回はNU-DISCOの旗手らしい変幻自在のプレイでフロアを見事に魅了して くれただけに、まさに待望の夜といえるだろう。国内からは、世界へ活躍の幅 を拡大中の次世代シーンの雄GONNOが昨年に続き連続参戦。そして今回は、東 京のダンスミュージック・ヒストリーを見つめ続けてきた大ベテランDJ AGEISHIも参加する。国境や世代の壁を超えて構築される、素晴らしい音空間 へ。

11.23(土/祝) 東京 @ AIR
COMMUNION
"Mark E JAPAN TOUR"

MAIN:
Mark E, DJ AGEISHI (AHB pro.), GONNO (WC/Merkur/International Feel), DJ SHIBATA (探心音/the oath)

B1F LOUNGE:
FUSHIMING & YO.AN (HOLE AND HOLLAND), COZU (COGEE & MAMAZU), HOBOBRAZIL, KILLY & 7e (Romanescos), Asyl Cahier, Conrad McDonnell(Idjut Boys)

Nomad: Vendor Crew

open 22:00
AIR Member 2500yen with 1Drink
With Flyer 3000yen with 1Drink
Door 3500yen with 1Drink

Info: AIR https://www.air-tokyo.com
東京都渋谷区猿楽町2-11 氷川ビルBF TEL 03-5784-3386

TOTAL TOUR INFO: AHB Production www.ahbproduction.com


 みんな大好きアンチバラス! 昨年、『セキュリティ』から5年ぶりとなる新譜『アンチバラス』をリリースしてその健在ぶりを印象づけ、いまなおアフロ・ビートを革新しつづけるバンドとしてリスペクトを受けるブルックリンの10年選手たちが、来月じつに8年ぶりとなる来日公演を行う。「懐かしいなー」は、新鮮な驚きに変わるかもしれない。彼らは12月の東京、金沢、福岡で、どのようなステージを見せてくれるのだろうか。

 初期作品の中心人物で、現世においてレトロ・フューチャーなダンス・グル―ヴの復興に寄与している所属レーベル、〈Daptone Records〉のオーナー、ガブリエル・ロスは彼らの存在をこのように定義する。
「リズムだけが素晴らしいアフロ・ビートを形成するのだ。これはリズム・セクションだけのことではない、ホーン、ヴォーカル、キーボード、全てが一体となりリズムを放出する。それだけでは物足りない、そこに聴き手、受け手が何かを期待し、揺り動かされ、予感し感じる。この全てのことがあってグル―ヴが作用するのだ」

“闘争するアフロビート・バンド”アンチバラス12月緊急来日!

アフロビート・サウンドを継承するブルックリンのバンド、アンチバラスの8年ぶりとなる来日公演「Organic Groove ~Our True Calling~ feat. Antibalas」が12月に決定し、12月15日に開催される東京公演に三宅洋平率いる(仮)ALBATRUSがゲスト出演することが発表された。

近年ではアフロビートの始祖フェラ・クティの伝記的ミュージカル「FELA!」のスコアを担当するなど音楽的にも更なる進化を遂げてきたアンチバラス。サウンドの継承のみならず、政治的な闘争という精神性も受け継いだ数少ないバンドとしてグローバル社会の矛盾に異を唱え、戦争に費やされる膨大な汚れた金を、よりポジティヴなエネルギーに浄化する、そんなメッセージ唱え続けてきた。一方の三宅も今年参議院選挙に出馬、選挙活動を祭りに見立てた「選挙フェス」を通し住民主権型の社会へのシフトを訴えてきた。

国は違えど日米の闘争するミュージシャン2組の「共闘」が実現の場は、実に3年ぶりとなるイヴェント〈Organic Groove〉の招聘によるもの。00年代初頭から刺激的かつ創造性に溢れたミュージシャンたちを紹介してきたイヴェント3度めの復活の場として、日米を代表するメッセージ性の強い両アーティスト。東京公演(12/15 @Daikanyama UNIT)のチケット販売は11月2日よりスタートする。

■2013.12.15 sun
Organic Groove ~Our True Calling~ feat. Antibalas
@Daikanyama UNIT / Saloon / UNICE ※3会場同時開催

https://www.organicgroove.net/

LIVE :
Antibalas
(仮)ALBATRUS
and more bands and DJs to be anounced!!!
OPEN / START : 17:00
TICKET :
adv: 6,500yen(1drink fee charged @door / All Standing)


electraglide 2013 - ele-king

 11月29日金曜日、幕張メッセ国際展示場にて開催される「エレクトラグライド2013」、当日のタイムテーブルが発表された。はい、ご覧の通りである。


 空間を2フロアに仕切った前年と違って、今年は巨大空間にふたつのステージを設置、交互にパフォーマンスをする。つまり、「カブリなしで全てのショウを観ることが可能。次から次へとノンストップで繋がって行くパフォーマンスが、濃密なヴァイブを生み出し、フロアをそしてひと夜のパーティを最高の一体感に包み込む」と、主催するビートインクは鼻息荒いメールを昨晩、関係者にいっせいに送った。
 そして、「さらにタイムテーブルに注目せよ! まさに息つく暇もない疾風怒濤のランニング・オーダー!」だと豪語。メールのなかでは、下記のような当日のシミュレーションまでする。ビートインクもそれほど気合いが入っているのだ。
 私などはのんびり派なので、グラストンベリーでもブライトンのフェスティヴァルでも、メタモルフォーゼでも、非合法レイヴでも、いっつも、適当に遊んで適当に飲んで、座って誰かと話しているほうなので、みなさんも「~を見なきゃいけない」なんてプレッシャーを自分にかけずに、楽しみましょう。酒飲みは配分を間違わないこと。(レイヴでもフェスでも、音楽なんてなにひとつ覚えていないけど、久しぶりに話した友人との会話だけはよく覚えているなんてザラ。そう、主役は君たちなのだ!)
 セオ・パリッシュのときまでに生存者がどれほどいるのか、注目したい。

NOSAJ THING × 真鍋大度 × 堀井哲史 × 比嘉了
フライング・ロータスやケンドリック・ラマーも認めるL.A.ビートの逸材ノサッジ・シングと、パフュームの演出をはじめ世界的認知度を飛躍的に上げ続ける真鍋大度率いるライゾマティクスの面々が世界初公開となるオーディオ・ヴィジュアル・セットで登場。electraglide 2013のイノヴェイティヴな幕開けを告げる。

FACTORY FLOOR
アシッド、パンク、ディスコ、インダストリアルを3ピースで配置しながら、破壊力抜群のライヴ・パフォーマンスに中毒者続出!! ポストパンク、クラウトロックのDNAを現代のミニマリズムでモダナイズした緊張感溢れるグルーヴが暴力的な興奮へと昇華していく様は必見(失禁)!!

MACHINEDRUM
IDM~エレクトロニカ、ヒップホップ、ポスト・ダブステップ、ジュークとビート・ミュージックの潮流を掴みながら、そのドープネスをポップに錬金してきた奇才が最新作にして傑作『VaporCity』リリース後の初舞台をエレグラで披露!ディープでヴェイパーな街のサウンドトラックが幕張メッセを覆い尽くす!!

SHERWOOD & PINCH
全てのベース・ミュージック・フリークが狂喜した最強のドリーム・タッグが再びここ日本を襲撃!! ダブ・サウンドのルーツと未来が邂逅した“今”を鳴らす、陶酔と覚醒のレベル・ミュージックが来場者の足腰、そして魂を直撃!! 衝撃のヘヴィウェイト・ダブに応答せよ!!

JAMES BLAKE
先日マーキュリー賞を受賞し、名実ともにUKを代表するアーティストとなったジェイムス・ブレイクが2013年のワールド・ツアーのファイナル公演としてelectraglide初登場!視覚も魅了する大がかりな舞台演出の機材を持ち込みフル・セット(日本初上陸!)で行われるショウ! さらにヴァージョンアップした唯一無二のJBワールドは、再び伝説の一夜を更新するだろう。

2manydjs LIVE
EDM前夜からロックとダンスの垣根をブチ壊し、キラー・チューンとキラー・チューンを掛け合わせた“マッシュ・アップ”の洪水でフロアを掌握するパーティ奉行がなんと10年ぶりにエレグラに降臨!かかっている曲のアートワークがリアルタイムでシンクロしていく最強のパーティ・エンターテインメントを投下!


!!! (chk chk chk)
即完! 大合唱!! 汗まみれの肉弾戦!!! となったプレミア来日公演も記憶に新しい、最狂のモンスター・グルーヴ・バンドが帰還! ロック・フリーク、パンクス、テクノ・ヘッズをまとめて飲込む狂乱のグルーヴで幕張メッセのフロアがダンサーの洪水で溢れかえること必至!!!

MODESELEKTOR [DJ SET + 909] with Pfadfinderei
貪欲なまでに雑食なサウンドで世界中のダンスフロアを狂喜乱舞させてきたデュオが遂にエレグラ初参戦! 今回は新機材とTR-909を組み込んだDJセットに盟友であるマルチ・メディア・アーティストPfadfindereiがVJとして帯同した圧巻のオーディオ・ヴィジュアル・セットを本邦初公開!!

THEO PARRISH
デトロイトのブラックネスを体現し続けるこの男がまさかのelectraglide 2013出演!百花繚乱のパフォーマンスを抜けた後に、ソウル、ジャズ、ファンク、ディスコ、テクノ、ハウス……すべてのミュージック・ラバーを祝福する至高のDJプレイが今年のエレグラを大団円へと誘う!!

まだ間に合う!前売TICKET!
前売 ¥8,800 / 当日 ¥9,800
※18歳未満の入場は不可、入場の際写真 付きIDの提示をお願い致します。
※お買い求めいただいたチケットは返品できません。

詳細はこちらから>>> www.electraglide.info

Beatkart ( https://shop.beatink.com ) 限定、チケット購入特典決定!
Beatkartでチケットをご購入いただいたお客様に先着でバッジ型オーディオ・プレイヤーelectraglide 2013限定PLAYBUTTONをプレゼント!

electraglide2013 限定PLAYBUTTON
SHERWOOD & PINCH「MUSIC KILLER (EXTENDED VERSION)」
(限定数:500個 / 収録:CDEP未収録Version / 収録分数:4分14秒)
※無くなり次第終了となります。

PLAYBUTTONとは >>>
https://www.memory-tech.co.jp/new/product/package/playbutton.html


国内最大級のエレクトロニック~ダンス・ミュージック・フェス『エレクトラグライド』開催!
electraglide2013

FEATURING:
JAMES BLAKE
2manydjs LIVE
!!!
MODESELEKTOR [DJ SET+909] with Pfadfinderei
THEO PARRISH
SHERWOOD & PINCH
FACTORY FLOOR
MACHINEDRUM
NOSAJ THING x 真鍋大度 x 堀井哲史 x 比嘉了

2013/11/29 (FRI)
幕張メッセ国際展示場
OPEN/START 20:00

TICKET:
前売 ¥8,800/ 当日 ¥9,800
※18歳未満の入場は不可、入場の際写真 付きIDの提示をお願い致します。
※お買い求めいただいたチケットは返品できません。

前売TICKET販売詳細:
チケットぴあ 0570-02-9999 [ https://t.pia.jp/ ] (Pコード:209-961)
ローソンチケット 0570-084-003 [ https://l-tike.com ] (Lコード:72626)
イープラス [ https://eplus.jp ]
tixee(スマートフォン用eチ ケット)[ https://tixee.tv/event/detail/eventId/1829 ]
Confetti [ https://confetti-web.com ]
ビートインク [ https://shop.beatink.com ]

店頭販売(ABC順)
BEAMS RECORDS [ https://www.beams.co.jp/shops/detail/beams-records ]
ディスクユニオン [ https://diskunion.net ] (渋谷Club Music Shop / 新宿Club Music Shop / 下北沢Club Music Shop / お茶の水駅前店 / 池袋店 / 吉祥寺店 / 町田店 / 横浜西口店 / 津田沼店 / 千葉店 / 柏店 / 北浦和店 / 立川店 / 高田馬場店 / 中野店 / web shop)
GANBAN [ https://ganban.net ]
HMV [ https://www.hmv.co.jp ](ルミネ池袋店 / ららぽーと横浜店 / ららぽーと柏の葉店 / イオンモール船橋店)
JET SET TOKYO [ https://www.jetsetrecords.net ]
more records(大宮) [ https://more-records.shop-pro.jp ]
大麻堂東京店 [ https://www.taimado.com/blogtokyo ]
TECHNIQUE[ https://www.technique.co.jp ]
TOWER RECORDS [ https://www.tower.jp ](新宿店 / 秋葉原店 / 池袋店 / 吉祥寺店 / 川崎店 / 町田店 / 柏店 / 津田沼店)
TSUTAYA TOKYO ROPPONGI / TSUTAYA三軒茶屋 / SHIBUYA TSUTAYA / 代官山蔦屋書店 / TSUTAYA横浜みなとみらい店 [ https://www.tsutaya.co.jp ]

他一部CDショップにて

INFO:
BEATINK 03-5768-1277 beatink.com
SMASH 03-3444-6751 smash-jpn.com smash-mobile.com
HOT STUFF PROMOTION 03-5720-9999 doobie-web.com

企画制作:BEATINK / SMASH / DOOBIE
後援:SHIBUYA TELEVISION
協賛:CA4LA / PLAYBUTTON

www.electraglide.info


ジェイムス・ブレイク、アンダーワールド、フライング・ロータスらの楽曲を収録したスペシャル・コンピレーションがiTunes Japan限定で発売決定!

electraglide 2013の開催を記念して、出演者のジェイムス・ブレイク、チック・チック・チック、シャーウッド&ピンチ、マシーンドラム、ノサッジ・シングの楽曲はもちろん、2000年の初開催以降に出演したアンダーワールド、オービタル、フライング・ロータス、スクエアプッシャー、LFO、DJケンタロウなど、これまでにエレグラのラインナップを彩ってきたアーティストの代表曲が収録されたコンピレーション『electraglide 2000-2013』がiTunes Japan限定でリリースされる。

15曲が収録された本コンピレーションは、11/20 (水)にリリースされ、12/10(火)までは期間限定価格1200円で配信される。いよいよタイムテーブルや会場のレイアウトまで発表され、開催まで17日と迫ったelectraglide 2013の予習はもちろん、エレグラの歴史を振り返ることができるコンピレーションとなっている。

V.A
『electraglide 2000-2013』

Beat Records
11月20日発売
価格:¥1,200 (期間限定価格)

■ iTunes ■
https://itunes.apple.com/jp/album/electraglide-2000-2013/id739026681

●トラックリスト
01. !!!(chk chk chk) - Slyd (Patrick Ford Extended Mix)
02. Orbital - Wonky
03. Tim Deluxe - It Just Won t Do (feat. Sam Obernik)
04. Hudson Mohawke - Joy Fantastic (feat. Olivier Daysoul)
05. Nosaj Thing - Eclipse/Blue
06. Clark - The Pining pt2
07. Machinedrum - Eyesdontlie
08. James Blake - CMYK
09. Sherwood & Pinch - Music Killer
10. Flying Lotus - See Thru To U (feat. Erykah Badu)
11. DJ KENTARO - Kikkake (feat. DJ KRUSH)
12. Squarepusher - Energy Wizard
13. Amon Tobin - Journeyman
14. Underworld - Two Months Off
15. LFO - Freak

『 Songdrop 』予習に便利な出演アーティスト音源まとめ特設サイト登場!

イギリスの音楽キューレーションサービス「Songdrop」がelectraglide 2013特設サイトをオープン。Songdropは、YouTube、bandcamp、Soundcloud、Vevo等、様々なソースからの音楽をプレイリスト化して聴けるサービス。
出演アーティストのオリジナル音源だけでなく、アーティストによるDJセット、リミックス、ライブ音源も聞くことができ、electraglide 2013の予習に大変便利。
https://songdrop.com/electraglide/line-up-2013

■マシーンドラム大阪公演!
featuring:
MACHINEDRUM, and more

数々のプロジェクトやプロデュースでいまや引く手あまたの奇才マシーンドラム。傑作と呼び声も高いニューアルバム『ヴェイパー・シティー』を何とニンジャチューンからリリースし、ヘッドライン公演で大阪を襲来!

11/30 (SAT) CIRCUS
OPEN/START 21:00前売 3,000 YEN / 当日 3,500 YEN ※入場時にドリンク代別途500円必要
INFO: 06-6241-3822

今週末11/15(金)に行なわれるNeuture01@ageHa にエレグラブースが出店!
現地にて前売りチケット発売!
https://www.neutralnation.net/


 小さな子どもたちが親から離れ、ちょっとした冒険に出る。生まれて初めて親から離れ、ひとりで大仕事を終えて誇らしげな顔で戻ってきた我が子を、親は号泣して抱きしめる……幼児持ちにとっては世界でいちばんスリリングなロードムービーといっても過言ではないテレビ番組『はじめてのおつかい』(日本テレビ)。いつもは子どもの人権に配慮した作りになっているのですが、今年の1月14日に放送されたあるおつかいは、なかなかにハードなものでした。

 お使いに出されるのは、まだ足取りもおぼつかない3歳の女の子。家から遠く離れた2軒(うち1軒は混雑した量販店)のお使いという過酷なミッションに当然応えられるわけもなく、道に迷って泣いて帰ってくる。つれなく追い返そうとする母親。娘に対するものとは打って変わったねこなで声で5歳の息子を呼び、「○○く~ん、途中まで送ってあげてくれる?」。まだお使いをしたことがないという5歳の兄は、威張って妹を送り出す。妹のお使いの内容のうちひとつは、兄のおやつを買ってくるというもの。まわりの大人たちの助けで兄のおやつをどうにか買い、量販店にたどり着いた3歳の女の子は、大人たちでごったがえす店内で突き飛ばされ、尻餅をつき、疲れ果ててその場で眠ってしまう。けなげにも3時間かけておつかいを終えた女の子を、お母さんはそっけなくねぎらうだけ。あれ、感動の抱擁は? 号泣は?

 「虐待じゃないか!」ええ、みなさんそう思いますよね。私もあやうくクレーマーと化すところでした。しかし最後に大人になった彼女が歌手デビューしたという映像が映り、そのおつかいが21年前に撮影されたものであることがわかると、「ああ、そういえば昔の女の子の扱いってこうだったワ」と、妙に納得してしまう自分がいたのでした。

 女の子を男の子と同様に大事に育てる。この風潮は当たり前のように見えて、少なくとも庶民の世界ではさほど長い歴史のあるものではありません。現代女児文化は、女児の扱いの変化を措いては語れないでしょう。1970年代の女児育児書のベストセラーをいま読み返してみると、「女の本分は家事育児であるから、子供ができたら仕事はやめるべき」「女の子が知識をひけらかしたらかわいげがなくなるので厳しく注意せよ」「夫に文句を言われても言い返さずに「本当に気がつかなくてごめんなさい」と謝る妻に育てなくてはならないので、女の子が高慢な態度をとったらことあるごとに指摘するべきである」「女の子は清潔と貞節を教えよ。白以外の下着は女性には不適切である」などという内容でのけぞってしまいます。いまこんな育て方をしたら(特に娘の退職や下着の色を勝手に決めたりしたら)、「毒親」呼ばわりは必至です。とはいえ、女性のロールモデルが従順な妻/母のみで、婚家に従わなければ路頭に迷うしかなかった時代、現代育児の主流であるところの「自主性の尊重」や「褒め育て」なんてもってのほかだったのかもしれません。

 女児の扱いの変遷は、女児のネーミングからも見て取られます。明治安田生命保険の生まれ年別女性名ランキングを見てみましょう。幼くして子どもが亡くなることの多かった大正時代には「千代」「千代子」「久子」などの長寿を祈る名前が、昭和初期には「幸子」「節子」「信子」「孝子」「貞子」などの貞節を重んじる名前が、高度成長期には「由美子」「久美子」「明美」「真由美」などの美しさを意識した名前がトップ10に入るなど、そのときどきの世相に合わせた意味をもつ名前が流行するのですが、1980年代中盤からちょっとした異変が。「麻衣」「彩」という、文字上の意味だけでは親の願いをくみ取ることが難しい名前が上位に登場するようになったのです。「麻衣」という名前に、「麻の衣類のように吸湿性が高いが保湿性には乏しい女の子になってほしい!」といった願いが込められているようには思えません。期待されているのはきっと、「麻」という漢字がイメージするさわやかさと、「まい」という語感のかわいさ。2000年以降はイメージ重視の傾向に拍車がかかり、「さくら」「葵」「陽菜」「萌」「優花」などの植物名を盛り込んだ名前が全盛になります。21世紀に入っていきなり植物大好き人間が増えたとも考えづらいので、植物のかわいらしく優しいイメージを我が子に投影してのことでしょう。女児名に使われる人気漢字ベスト25を見ると、「愛、菜、花、心、美、奈、結、莉、優、音、咲、希、乃、彩、陽、子、桜、香、羽、衣、那、紗、里、梨、葵、華」となっており、やはり植物、布系強し。末尾に付けるとかわいい語感になる「那」「奈」「菜」「乃」も人気です。また、皆さんご存じのとおり「難読名前」「キラキラネーム」と呼ばれる個性的すぎる漢字遣い・読み方の名前も増えてきました。語感や字面のイメージが優先されるようになったのは、少女マンガに親しんだ世代が親になったせいもあると思います。例えば大島弓子の1970~80年代の作品のヒロイン名を書き出してみると、なずな、衣良、いちご、黄菜(きいな)、鞠、果林、杏子(あんず)と、現代の名付けセンスを先取りしたものが多いのです。少女マンガのヒロインの要件は、どのようにふるまっても愛されうるかわいさと、主人公を張るに足る個性的でワン・アンド・オンリーの存在であること。私たち現代の親も、娘に同じ事を期待しています。もはや女児は量産型の家事要員でも、嫁に出すまで貞節を守らせる交換財でもありません。自ら芽を出し世界に一つだけの花を咲かせるまで親が水をせっせと運んでやる、愛護されるべきかわいらしい存在なのです。

 女の子の個性や自主性が尊重され、かわいがられるようになったこと自体は、良い傾向であるには違いありません。娘がピンクのグッズを好むなら買ってあげたい。自分みたいに紺や茶色のお下がりを着て怒鳴られてばかりいた抑圧的な娘時代は送らせたくない。お気に入りの服を着た娘を思う存分かわいいと褒めてあげたい。そう思うお母さんは、決して少なくないでしょう。


デコ盛りネイル……。(左『ぷっちぐみ』2013年1月号、右『キラ★プリ』vol.7)

 しかし娘にねだられて購入したピンクずくめの女児雑誌をめくっているうちに、ふと思うのです。幼児向けの雑誌ですら、ファッション、コスメ、アイドルなどの情報がちりばめられている。こんな小さなうちから「女は見た目が重要」という価値観を内面化して大丈夫なんだろうか。かわいいかわいいと育ててきて、もちろんそこには性的な含みはないけれど、世間的には「かわいい」というのは容姿を含めた性的な価値の高さを意味しているわけで、つまり性的役割の重さに絶望する娘時代を過ごしたはずの私も、知らず知らずのうちに我が娘に別の重たい性的役割を押しつけていることになってやしないだろうか。キラデコ好きという趣味は尊重してあげたいけど、親としては別の価値観も提示する必要があるのでは……。

 またも私は考え込み、キラデコ好きな娘のために夜ふかししてLEDが光る折り紙作りに励んでしまうのです。


そういうことじゃないって、わかってはいるんですけど。


ギークマム 21世紀のママと家族のための実験、工作、冒険アイデア
(オライリー・ジャパン)
著者:Natania Barron、Kathy Ceceri、Corrina Lawson、Jenny Wiliams
翻訳:星野 靖子、堀越 英美
定価:2310円(本体2200円+税)
A5 240頁
ISBN 978-4-87311-636-5
発売日:2013/10 Amazon

interview with Richard H. Kirk (Cabaret Voltaire) - ele-king

 1970年代末、スロッビン・グリッスルとともにノイズ・インダストリアルの代表とされていたのがキャバレー・ヴォルテールだった。僕は、しかし、SPKと出会うまでノイズ・ミュージックに価値を見出せることはなかった。キャバレー・ヴォルテールも初期はどこがいいのかさっぱりわからなかった。『レッド・メッカ』(81)や「スリー・マントラス」(80)が面白くないとはとても言い出せない空気のなか、そのようなものがやたらと持ち上げられていた1981年がしぼみはじめ、やがてブリティッシュ・ファンク・ブームがやってくる。それを逸早く察知したかのように〈ヴァージン〉がディーヴォやDAFをフィーチャーした『メソッド・オブ・ダンス』というコンピレイション・シリーズをリリースしはじめ、「踊るニューウェイヴ」の時代がやってくる。ノイズ・グループだと思われていたキャバレー・ヴォルテールが『2×45』(82)をリリースしたのは、そのようなタイミングだった。それはニュー・ロマンティクス(それはそれでよかったけど)とはまったく違う雰囲気で、ノイズ・インダストリアルに分類されていたミュージシャ……いや、ノイジシャンたちが『ファンキー・オルタナティヴ』というコンピレイション・シリーズをリリースしはじめる5年も前のことだった。『2×45』に続いて80年代中期に〈ヴァージン〉からリリースされた『ザ・クラックダウン』(83)、『マイクロフォニーズ』(84)、『カヴァナント、スウォード・アンド・ジ・アーム・オブ・ザ・ロード』(85)の再発を機にリチャード・H・カークに話を訊いた。

E王
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シェフィールドはおどろおどろしく淀んだ感じでたくさんのビルがあった。世界大戦のダメージも残ってた。しかし、都市部を抜けて10分もすると美しい田園風景がひろがっている。そして、君はそこでたくさんのマジック・マッシュルームを見つけられると思う。

ちょうど40年前(73年)にシェフィールドで結成したそうですが、最初からキャバレー・ヴォルテールを名乗ってたんですか? また、3人はどうやって知り合ったんですか?

リチャード・H・カーク(以下、RHK):1973年あたりに活動を始めたんだけど、キャバレー・ヴォルテールを名乗ったのは75年からなんだ。というのはそのとき初ライヴがあって、そのために呼び名が何かしら必要だったからね。
 もっと熱心なヤツもいたんだけど、まわりの友だちの何人かがクリスを学校の頃から知ってたから、僕らは当時の夏、一緒にインターレイルでヨーロッパに行ったりしたんだ。クリスはいくつかベーシックな録音機材を、僕が4トラックのテープレコーダーを持ってて、それからエレキ用のピックアップ付きクラリネットも手に入れた。僕らは実験的にクリスの家のロフトで音楽を作りはじめた。それから何人かがやってきたりしたんだけど、数年前からちょっと知ってた(ステフェン・)マリンダーに一緒にやらないかと誘ったんだよね。そのときが、キャバレー・ヴォルテールとして後に知られる、きちんとしたユニットが出来た瞬間だった。

ダダ運動に興味を持ったきっかけを教えて下さい。ステフェン・マリンダーによればウィリアム・S・バロウズとブライオン・ガイシンの影響でカット・アップやテープ・ループをはじめたそうですが、ということは『レッド・メッカ』(81)までの作品にはブライアン・ジョーンズの『ジャジューカ』(71)が多少なりとも陰を落としていたのかなと思えてしまいます。

RHK:ダダ運動に魅かれたのはそのコンセプトがアートと戦争にあったから。そこではそれまでにあったアートをいったん解体し、何か新しいものに置き換えようとしていて、僕らはサウンドや音楽に対してそれと同じことをやろうとした。
 ステフェンがバロウズやガイシンに関して言ってるのもすべて正しいというわけではない。キャバレー・ヴォルテールは、彼らのことを知る前にすでにカットアップやテープ・ループを取り入れている。もちろんこのようなことを誰かがすでにやってたというのを聞いて鼓舞されたところがあった。多くの部分を学ばせてもらったから、彼らのことを知れたのは実に嬉しかった。
 キャバレー・ヴォルテールのなかで最初にバロウズの本を買ったのは、僕だ。シェフィールドにある本屋で『裸のランチ』を注文したのさ。それはもう驚愕だったよ、まったくパワフルな本だった。それに当時、僕は画像や文章を使ってカット・アップやコラージュをやってて、それが最終的にいくつか初期キャバレー・ヴォルテールのジャケットになったりもした。ダダイズムの創始者トリスタン・ツァラも紙袋に書いてある文字をランダムにピックアップして、それを詩にしたりしてたし、それは1915年あたりかな? たぶんガイシンがカット・アップをやりはじめる50年くらい前だ。
 『ジャジューカ』のことは知ってたし、ちらっと聞いたこともあるけど、アルバムをちゃんと手にしたのは1982年になってからなんだ。つまり『レッド・メッカ』のあと。しかし東洋の音楽にはつねに興味を持ってたね、トランスチックなエフェクトの感じが好きだったから。

時期的に見てグラム・ロックにもパンク・ロックにも影響されなかった音楽性のままラフ・トレードからデビューしたということになります。実際にそうなんでしょうか? 70年代に、同時代的に気になっていたミュージシャンがいたら教えて下さい。「ウエイト・アンド・シャッフル」などはザ・ポップ・グループを思わせます。

RHK:僕はデヴィッド・ボウイやロキシー・ミュージックのファンでもあったし、いくつかのパンク、ポストパンクも、そのなかにはザ・ポップ・グループも含まれてるけど、たしかに気に入って聴いていたね。だけど「ウエイト・アンド・シャッフル」が彼らみたいに聴こえるんだったら、たぶんそれは彼らもマイルス・デイヴィスやダブ、フリー・ジャズといった僕らと同じ音楽に影響されたからだろう。僕らは通常のアーティストの真似はしない。影響ということで言うと、いつも過去や未来のものに目を向けてる。

なぜ、スタジオに「ウエスタン・ワークス」と名付けたんですか? また、シェフィールドのいい点と悪い点をひとつずつ上げて下さい。

RHK:スタジオのあったビルが古い工業用ビルで、そこが「ウエスタン・ワークス」という名前だった。それをそのままスタジオの名前にした。シェフィールドに関して言えば、当時が、ちょっとおどろおどろしく淀んだ感じでたくさんのビルがあったし、まだ第二次世界大戦のダメージも残ってた。しかし、都市部を抜けて10分もすると美しい田園風景がひろがっている。そして、君はそこでたくさんのマジック・マッシュルームを見つけられると思う。

ははは。『ザ・ヴォイス・オブ・アメリカ』(80)の裏ジャケットに機動隊の写真が2点も使われているのはなぜですか?

RHK:僕が。『ザ・ヴォイス・オブ・アメリカ』のアートワークを作った。当時(それにいまも)僕らが生きている世のなかにある権威主義的な感じがうまく出てる、この種の写真を使うのがふさわしいと思った。

『レッド・メッカ』はさまざまな意味で転機となった作品だと思いますが、タイトルはイランで起きたホメイニ革命と関係があるんですか? 『スリー・マントラ』から『2x45』にかけてアラビア風の旋律が頻出するのは誰かの影響ですか?

RHK:先ほども言った通り、僕は東洋の音楽、また東洋社会と西洋社会の違いにはつねに気を払っていて、だから“ウエスタン・マントラ”や“イースタン・マントラ”(*この2曲で『スリー・マントラ』は構成されている)のような曲に行き着いたわけさ。このふたつのカルチャーがじきにぶつかるだろうという予想が実際に現実になったのが1979年だった。ホメイニ革命が、のちに911/2001年のニューヨークのツインタワー爆破まで続くイスラム原理主義のスタート地点だった。それからアメリカで右派キリスト教原理主義者の存在がより浮き彫りになった。実際、このふたつのカルチャーは極めて似通ったもので、アメリカ政府が当時のソビエトと戦うために、アフガニスタンでビン・ラディンのムジャヒディーン/アルカイーダの訓練、資金援助、武装化を行ったんだから、当然といえばそうなんだけど。

『2x45』は明らかにダンス・レコードを意図した最初の試みですが、何がきっかけであそこまで振り切れたんでしょう。当時は本当にショックで、立体ジャケットが破けるまで何度も何度も聴いてしまいました。

RHK:『2x45』はよりダンサブルなレコード作りへシフトした最初の作品だった。大きな方向転換でもなく、単に進化していっただけだね。君がいま僕らの初期の作品を聴いてくれたらきっとダンス出来ると思うし、それらでもたいていループを使ってるからね。

〈ファクトリー〉からリリースされた「ヤッシャー」(83)はオリジナルのほうがぜんぜんよくて、ジョン・ロビーのリミックスはあまりいいとは思いませんでしたが、「ドント・アーギュー」(87)でまた顔合わせしているということは、ニューヨーク・スタイルからもそれなりに得るものがあったからですか? ニュー・オーダーの「ブルー・マンデー」がやはり同じ年にアーサー・ベイカーの方法論を取り入れていたわけですけど。

RHK:僕らはニューヨークのエレクトロには大きな影響を受けている。ジョン・ロビーは、アーサー・ベイカーとともに、その中心人物だった。彼が“ヤッシャー”をリミックスさせてくれないかと尋ねてきたとき、それはすごいアイデアだと思ったものだよ。たしかに君の言うように、オリジナルよりよかったというわけじゃないけど(リミックスっていうのは往々にしてそうなんだけど)、しかし、まったくの別もので、僕らが現状から一歩前に踏み出せたということ、おかげであらためて自分たちのミックスや音楽の聞かせ方と向き合うことが出来たわけだから。

『ザ・クラックダウン(=弾圧)』に「The」が付いているということは、何か特定の事件があったということですか? また、ダンス・レコードであるにもかかわらず、このような不穏なタイトルをつけたのはぜですか? まるでレイヴ・カルチャーを先取りしたようにさえ思えてしまいますが。

RHK:この当時の政治をとりまく情勢は抑圧的なものだった。イギリスのサッチャー、アメリカのレーガン、右翼勢力が僕たちを弾圧していたようなものだった。

『ザ・クラックダウン』以降、観念的な音楽性がすべて消え去って、官能的なダンス・ミュージックに純化されていくということは、クリス・ワトソンがひとりで観念的な部分を担っていたように見えますが、そのような理解でいいでしょうか。あなたとマリンダーはフィジカルな音楽がやりたかったと?

RHK:その見解は正しくはない。キャバレー・ヴォルテールには“担当”はないし、僕たちは何かにおいてリーダーというものを置かなかった。バンド自体は僕とクリスではじめて、あとからマリンダーが加わったものだけど……。この3人のグループはともにダンス・ミュージックをエンジョイしていた。けれど、当時は真剣にそれに打ち込んでたわけではなかったね。クリスが1981年に去ってからは、僕たちは自分らの音楽をもっとダンスフロア仕様にしようと決めた。彼と一緒にやっていた頃のようなモノをまた繰り返すことはしたくなかった。あらたに考えながら一歩前に進み出した瞬間だった。

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僕は本当に、イラク戦争や大切な古代遺跡の破壊には反対していた。目的もなしに、それも誤った情報のもとに行われたんだよね。結局大量破壊兵器なんて見つからなかったし、イラクはいまや以前よりもっと危険なところになってしまった。

『コード』(87)で初めて外部からプロデューサーを入れたのはなぜですか? あまり必要だったとは思えないのですが。『マイクロフォニーズ』(84)から『コード』まではファンクとインダストリアルのどちらに比重を置くかで延々と葛藤が続いていたようにも思えたので、その結論をエイドリアン・シャーウッドに委ねたとか、そういうことでしょうか。

RHK:『コード』に関しては、実はエイドリアンが参加する前にほとんどの形は出来上がってたいた。EMI/パーロフォンとの契約後、自分らのスタジオを24ch仕様にアップグレードし、そして、プロデューサーの起用も決めた。ポップスのフィールドではない人間を起用したかった。
 エイドリアンは一緒にやるにはとてもよいプロデューサーだった。ダブやレゲエにも相当詳しかったから、参加すると面白くなるかなと思ったんだ。彼はシェフィールドに来てくれて、僕らと一緒に作業をしたあと、ロンドンのスタジオでミックスした。すごくいいサウンドのアルバムに仕上がっているよ。僕らのアルバムではいちばん売れたんじゃないかな。ちなみに僕らがEMIと契約した当時、EMIは世界で10番目に大きな武器製造会社でもあった。冷戦が解けて黙示録を迎えたら、我々は兵器類を安く買えるかもなどと言い合ったものだよ。

シェフィールドから出てきたフラ(Hula)やチャック(Chakk)はキャバレー・ヴォルテールが育てた後輩ということになるんでしょうか。レコード制作ではマーク・ブライドンやマーク・ギャンブルがイギリスではハウス・ムーヴメントを先導したように見えるので、どういう関係だったのか気になります。

RHK:キャバレー・ヴォルテールは本当にたくさんのフォロワーを生んだよね、シェフィールドのなかだけじゃなく。チャックは僕らのスタジオで「アウト・オブ・ザ・フレッシュ」を録音し、それを僕らのレーベル、〈ダブルヴィジョン〉からりリースした。この作品がチャックをMCAのレーベル契約へと導いたんだ。それにフォン・スタジオ(Fon Studios)も誕生し、そこからいくつかの初期UKハウスが生まれた場所として知られることになった。その後、マーク・ブライドンやロブ・ゴードン(Fon Force)と『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』(90)で何曲かトラックを一緒にやったし、ロブ・ゴードンともゼノン名義で一緒にレコードを作った。

サンプリング・ミュージックは現代のダダイズムだと思いますか? それともまったく別物?

RHK:サンプリング・ミュージックは、とくにヒップホップはカットアップ・テクニックのほうに繋がってると思うよ。ダダイズムというよりはむしろね。

『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』で決定的に変わったのはベース・サウンドでしたが、それがハウス・ミュージックから学んだいちばん大きな影響ということになりますか? 曲によってはかなりファンキーで、テン・シティまで参加しているし、キャブスだと思えなかった人も多かったと思います。『ボディ・アンド・ソウル』(91)や『カラーズ』(91)では同じハウスでもストイックな曲調に戻っているので、あれはやはり一時の気の迷いということなのか。

RHK:『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』は、僕にとってキャバレー・ヴォルテールのアルバムのなかではお気に入りにはならなかったね。ホントに多くが外部からの影響でキャブスのサウンドが薄まってしまった。しかしながらマーシャル・ジェファーソンや当時のシカゴのハウス・ミュージックのパイオニアたちと一緒に出来たのは素晴らしい経験だった。アルバムと一緒に出した5曲入りのいい感じのアナログEPもあったよね。それらはウエスタン・ワークスでミックスされたから、キャバレー・ヴォルテールらしさが出てると思う(*アナログ初回のみに入っていた『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティEP』のこと)。

ちなみにレイヴ・カルチャーのことはどのように受け止めていたのでしょう。

RHK:レイヴ・カルチャーはその初期は面白かったけど、すぐに商業的になってしまったよね。

また、『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』(90)までキャブスがフォン・スタジオを使わなかったことや、〈ワープ〉から別名義でのリリースはあってもキャブス名義のアルバムをリリースしていないことも不思議に思います。『プラスティシティ』(92)や『インターナショナル・ランゲージ』(93)は〈ワープ〉のカラーにもピッタリ合っていたと思うのですが。

RHK:実はちょっとだけ『グルーヴィー、レイドバック・アンド・ナスティ』のときにフォン・スタジオを使ってるんだよね。「ザ・カラーEP」は当初〈ワープ〉からリリースの予定だったんだけど、結局自分らのレーベルからリリースすることになって、『プラスティシティ』や『インターナショナル・ランゲージ』も同様だった。これらのアルバムは当時からホントすごいアルバムだったし、その時代にたくさん出てた〈ワープ〉の作品とも相性が良かったと思うよ。

DJパロットとのスウィート・エクスソシストはどのようないきさつではじめたのですか?

RHK:パロットのことは、80年代半ばのシェフィールドのクラブシーンで知ったんだ。ウエスタン・ワークスに彼を誘って、僕がやっていた初期ハウス・ミュージックのトラックをいくつか手伝ってもらってたんだよね。そのちょっと後、彼がファンキー・ワームをはじめて、そのプロジェクトを終えてから、僕に「テストーン」を一緒に作らないかと誘ってきたんだ。その前、1986年に僕がキャバレー・ヴォルテールのライヴで彼にDJをやってくれるように頼んでたりもしたし。

「ヤッシャー」(83)や「ジャスト・ファッシネイション」を20年後にリミックスしているのは、やはり愛着がある曲だったからですか? リミックスがジ・オール・シーイング・アイ(=DJパロット)というのはわかりますけど、オルター・イーゴにリミックスさせるというアイディアはどこから? ジョン・ロビー同様、オルター・イーゴもあまりいいリミックスには思えませんでしたが……

RHK:オルター・イーゴのリミックスは〈ノヴァミュート〉からの提案だったんだ。僕はいいと思うけどね、(オリジナルとは)全く違うものだし。

同じく自分でリミックスを手掛けていた「Man From Basra Rmx」というのはイラク戦争と何か関係があるんですか? 

RHK:それはその通り。それにこの曲はプリンス・アラーとタッパ・ズッキー(*ともにルーツ・レゲエのアーティスト)による「Man From Bosrah」にも掛けてたんだ。僕は本当に、イラク戦争や大切な古代遺跡の破壊には反対していた。目的もなしに、それも誤った情報のもとに行われたんだよね。結局大量破壊兵器なんて見つからなかったし、イラクはいまや以前よりもっと危険なところになってしまった。

キャブスのスリーヴのデザイナーは、ネヴィル・ブロディ、ポール・ホワイト、デザイナー・リパブリックと一流どころが揃っていますけど、個人的にいちばん好きなデザイン・ワークはどれですか?

RHK:とくに好きなものはないね。しかし『#8385』(*今回、再発された3枚のアルバムを収録したボックス・セット)の新しいデザインはなかなかいいんじゃないかな。

いま、現在、ライヴァルだと思うミュージシャンは誰ですか?

RHK:ライヴァルはいないよ。

キャブスの活動停止後、30以上の名義を使って活動されていますが、その理由について教えて下さい。

RHK:過去にとらわれることなくオリジナルな音楽を作って行くためにやったことさ。

最後に、キャブスの再活動についてお話いただけますか?

RHK:キャバレー・ヴォルテールは“再活動”はできない。何故なら、いままでいちども活動をやめたわけではないからだ。つまり、メンバーが去って行っただけさ。クリス・ワトソンが1981年に脱退し、ステフェン・マリンダーが1993に脱退した。いまでは僕がただひとりのメンバーで、もっと多くのライヴやレコーディングもこれからやっていくと思うけど、懐かしい曲はやらないつもり。すべては新しいものになると思う。
 是非日本でもまたライヴしたいね。1982年の東京、大阪、京都でのキャバレー・ヴォルテールのライヴはすごくいい想い出でいっぱいで、それにライヴ音源を収録したんだ。結局そのライヴ・アルバムのミックスでその後3週間も東京にいることになったけど(笑)。

*日本でのライヴを収録した『ハ!』はマスター紛失のため、91年にミュートから再発されたものは、いわゆるアナログ起こしだったりする。ちなみにツバキハウスでライヴを終えたキャブスはその後、六本木のクライマックスに現れ、ナンパしまくりだったと(その時、DJをやっていた)メジャー・フォースの工藤さんが教えてくれた。そりゃあ、いい想い出でいっぱ……(後略)

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