「KING」と一致するもの

C.E presents Low Jack, Rezzett & Tzusing - ele-king

 ファッション・ブランドC.Eによる最新パーティが9月8日(金)に開催される。ヴェニューはVENT。パリからロウ・ジャック、ロンドンからレゼット、上海/台北からツーシンとなかなかに強力な面子で、これは楽しい一夜になること間違いなしだ。詳細は下記よりご確認を。

[9月4日追記]
 当日、会場限定のTシャツが販売されるとのことです。これは行くしかない!


interview with Jessy Lanza - ele-king

 2010年代に登場してきたエレクトロニック系のアーティストのなかでも、ジェシー・ランザは独自のポジションを築いてきた。〈Hyperdub〉のなかではかなりポップな立ち位置だけれど、メジャーの豪華なサウンドやハイパーポップの過剰さとは相容れない。折衷的で冒険心はあるもののけっして前衛主義というわけでもない。R&Bを基調としたその親しみやすいシンセ・ポップ・サウンドは、ヴォーカル面でよく比較されるFKA・トゥイッグスケレラとも大きく異なっている。意外と、彼女に似ているアーティストっていないんじゃないだろうか。

 カナダ出身、現在はLAに居を構えるジェシー・ランザ通算4枚目のアルバム『Love Hallucination(愛の幻覚)』は、ハウス・ビートの “Don't Leave Me Now” で幕を開ける。ご機嫌な曲調とは裏腹に、車に轢かれかけ広場恐怖症になった経験から生まれたというこの曲につづくのは、2ステップ調の “Midnight Ontario” に軽快なエレクトロの “Limbo”。どれもからだを揺らしたくなる曲だ。静かなアンビエントR&B的側面も有していたファースト『Pull My Hair Back』(2013)以降、『Oh No』(2016)、『All The Time』(2020)と徐々にダンサブルな要素を増やしていった彼女だけれど、持ち前のはかなげなヴォーカルとシンセ・ポップ・サウンドはそのままに、新作序盤では身体性への欲望がひとつの壁を超えたような印象を受ける。
 おそらく同時並行で『DJ-Kicks』(2021)を制作していたことが影響しているのだろう。プレイするトラックに自身のヴォーカルを載せていくスタイルはケレラのミックスとおなじだが、こちらはテクノ~ハウスが軸で、ジェシー・ランザのなかのアグレッシヴな一面が展開された作品といえる(レーベルメイトのロレイン・ジェイムズとの共作曲も収録)。パンデミック中~直後におけるフロアへの渇望を表現したかのような同ミックスの余波は、確実に今回の新作にも及んでいる(じっさいはクラブにはそんなに行かないらしいが)。

 べつの意味でも序盤の3曲は重要だ。2曲目は〈LuckyMe〉のジャック・グリーンとの、3曲目はテンスネイク名義で知られるドイツのハウスDJマルコ・ニメルスキーとの共同プロデュース作品であり、また、これら3曲すべてにポスト・ダブステップ期における重要人物のひとり、ピアソン・サウンドことデイヴィッド・ケネディが参加している。これは彼女のキャリアにおける画期といっていいだろう。というのも、従来彼女がジェレミー・グリーンスパン(ジュニア・ボーイズ)以外のプロデューサーをアルバムに起用したことはなかったからだ。
 テーマは信頼だという。阿吽の呼吸というわけにはいかない未知の他人と共同作業をやっていくには、たしかに、相手を信頼しておく必要がある。おなじく初めてのプロデューサー、ポール・ホワイトを迎えた “Marathon” ではひとりよがりのセックスが歌われている。他者の存在について考えることを促す歌詞だし、そもそも今回の新作はほかのひとに提供するためにつくられた曲たちがもとになっているのだ。だから「愛の幻覚」なるタイトルはたんに恋愛関係にとどまらず、広く人間同士の関係をあらわしているとも解釈できる。その点でも本作は、多くの人びとが孤独に浸ったパンデミック以降の感覚を体現する作品といえるだろう。

 もちろん、勝手知ったるグリーンスパンとのコンビもいい成果を残している。個人的には、ちょっとだけドレクシアジ・アザー・ピープル・プレイスを想起させる “Drive” にぐっときた。これまでもフットワークやYMOなどさまざまな音楽を貪欲に参照してきたジェシー・ランザ。その好奇心はいまなお健在のようだ。

このアルバムのテーマのひとつが「信じる」ということだった。自分以外の人たちを信頼する、ということ。

お住まいは現在もシリコンヴァレーですか?

JL:いいえ。いまはロサンゼルスに住んでいる。いまはちょうどカナダで家族と過ごしているところなんだけど。パンデミックの期間中はシリコンヴァレーに住んでいて、その後ロサンゼルスに引っ越した。

シリコンヴァレーはITの街のイメージがありますが、音楽カルチャー的にはどのような場所なのでしょう?

JL:そう、そのイメージが強いと思う。リンジー・バッキンガムのようなシリコンヴァレー出身のアーティストはいるけど、音楽シーンがあるという感じではないかな。とくにいまは大きな動きはないと思う。

パンデミックの年に出た『All The Time』以来3年ぶりのアルバムですね。パンデミック以降のこの3年、どのように過ごされていましたか?

JL:まずはロサンゼルスに引っ越したことが大きかった。前作が出たあと、ツアーにも出られなかったから、それ以外は本当に何もしていなかった気がする。じつはそのころグリーンカードが下りるのを待っていたから、国外に出ることもできなかったのよ。グリーンカードを待っている間に、『Love Hallucination』のほとんどの曲を書き上げて。そういう意味では充実した時間だった。普段はライヴをやったり、旅をしたり、家族に会いに行ったり、なかなかじっくり曲づくりに向き合う時間がないから。

ロサンゼルスに引っ越されたのは何か理由があったんでしょうか。

JL:主人の家族がサンフランシスコにいるからわたしたちもシリコンヴァレーに住んでいたんだけど、IT関係の仕事をしていなければあまり住む意味がない場所だった。ロサンゼルスは同じ州だけどもっといろいろなことが起こっていて、ここには文化があるから。それに、シリコンヴァレーは物価がものすごく高い。夫が映像関係の仕事をしていることも、ロサンゼルスに住むことにした大きな理由のひとつね。

以前のインタヴューで、家の離れのツリーハウスをスタジオとして利用していると仰っていましたが、新作はロサンゼルスで制作されたんですよね? 木に囲まれて音楽をつくることと、通常のスタジオでの作業との違いはなんですか? そうした環境の違いが、あなたの音楽に影響を与えたと思いますか?

JL:もちろん大きな違いがある。自分を取り巻く環境に木しかない場所は、とても静かだからヴォーカルを録音するのに理想的で。でも、自分が作品づくりをするときの環境はなによりも、わたし自身の精神状態を大きく左右すると思う。木々に囲まれていると精神的に落ち着くし、わたしを取り巻く環境が音楽に与える影響はとても大きいと思う。自分自身をケアしてあげられるか否かということよりも、環境のほうが影響力は大きいと思う。

人間関係がメイン・テーマであることは間違いない。とくに、恋愛関係。恋愛をしているときのわたしは脆弱で自信がなくて。

2021年に名ミックス・シリーズの『DJ-Kicks』を手がけたことは、あなたにどのような経験をもたらしましたか?

JL:『DJ-Kicks』を制作しているとき、同時に『Love Hallucination』の曲を書いていたから、自分にとっては大きな挑戦だった。それに、入れたい曲をまとめたウィッシュリストのなかの何曲かは権利の関係で収録できなかったこともあったし。でも、自分がDJとしてプレイしたい曲と、自分自身の楽曲とのギャップを埋めるようなものをつくってみたかったから、とても興味深かった。わたし自身のヴォーカルを足していく作業も面白い試みだったと思う。DJをやっていると自分の個性がだんだん薄まっていくように感じることもあるんだけど、そこにあえてわたしにしか出せないヴォーカルを乗せることで、新しい境地を開けたように思う。なにか特別なことをやりたいという思いがあったのは間違いない。

その『DJ-Kicks』に収録された “Seven 55” ではロレイン・ジェイムズをフィーチャーしていました(https://www.youtube.com/watch?v=myYggI17_cs)。彼女の音楽の魅力はどこにあると思いますか?

JL:彼女は唯一無二の存在だと思う。彼女がプロダクションを手がけたものは一聴してすぐに彼女の音楽だとわかるほどの個性を持っているから。

これまでもあなたの音楽はダンス・ミュージックからインスパイアされていましたが、『DJ-Kicks』からはよりあなたのダンス・ミュージックへの愛が伝わってきました。クラブにはよく行くのですか?

JL:う~ん。いいえ(笑)。以前よりもDJする機会が本当に多くなって、クラブに行くと仕事モードになってしまうから純粋に楽しめないのよね。それに、わたしが生まれ育った町にはクラブというものがなくて……バーのようなところはあるけど、TOP40の音楽がかかっているような場所だったから、クラブという感じではまったくなかったし。だから、自分のなかにクラブ・カルチャーのようなものがなくて。クラブを純粋に楽しんでいた時期がないから、それを懐かしく思うようなところもない(笑)。

クラブでDJをするときはどんなふうにセットを組み立てているんですか?

JL:そうね……とにかくヴォーカルがある曲をかけるのが好きなの。だから、ハウス・ミュージックをかけるのが好きだし、それにディスコなんかを混ぜて。メロディのあるダンス・ミュージックが好きだから。そう、自分がクラブに遊びに行って、聴きたい曲をかける感じかな。もちろんみんなが楽しんでもらえるようなものをプレイしているつもりだけど、メロディがあってヴォーカルのある音楽が好きだから、そういうものを選んでかけている。

若いころからそうしたヴォーカル・ミュージックを聴いてきたんでしょうか?

JL:そうね。R&Bがずっと好きだったから。

『DJ-Kicks』も同時進行でつくっていたから、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックもたくさん聴いた。ひとつに絞るのは難しいけど、プロデュースの優れたシンセ・ポップをたくさん聴いていたのは間違いない。

では、新作の話に戻りましょう。これまで長らくジェレミー・グリーンスパンとコンビを組んできて、今回の新作もそうなのですが、初めて彼以外のプロデューサーが参加してもいます。彼以外ともやってみようと思った動機はなんですか?

JL:わたしにとって、それまでに会ったことのないひとと仕事をするのはとても怖いことだった。ジェレミーのことは長年知っているし、ついついやりやすいひとと一緒にやってしまいがち……アーティストとしてどうすべき、ということはべつにしてね。でもこのアルバムをつくるにあたって、少し冒険してみようと思って。たとえばジャック・グリーンの音楽は長年聴いていたし、友人を通して知っていたからぜひ彼と一緒にやってみようと。よく知らないひとがスタジオに来てジャム・セッションすることは本来はとても緊張してしまうから得意ではないんだけど、あえて自分の背中を押したところがある。なにか新しい挑戦をしてみたかったのよ。このアルバムのテーマのひとつが「信じる」ということだった。自分以外の人たちを信頼する、ということ。

ピアソン・サウンドが選ばれた理由はなぜですか?

JL:彼の音楽も長年知っていたし、彼のファンなの。友人の友人だったこともある。ロンドンで1週間ほどオフがあったときに彼にコンタクトをとって。当初はミックスだけしてもらう予定だったんだけど、彼のスタジオで一緒に過ごしているうちにとても仲よくなって、プロデュースもお願いすることになった。

このアルバムの曲づくりをしている段階で、今回はいろいろなひとたちとコラボレーションすることを考えていたんですか?

JL:いいえ。実際の制作に入る前に曲はほとんどできあがっていて、そのときは誰とコラボレーションしようというようなことはとくに考えていなかった。曲を磨く段階になって、いろんなひとのアイディアが欲しいと思うようになってきた感じ。もともと今回一緒にやったひとたちとはメールや電話ですでに話をしていたから、実際にお願いするのに支障はなかったけれどね。

先ほど、今回のアルバムのテーマのひとつに「信じる」ということがあったと仰っていましたが、もう少し具体的にアルバムのテーマを教えてください。

JL:これまでにわたしが経験してきた人間関係がメイン・テーマであることは間違いない。とくに、恋愛関係。恋愛をしているときのわたしは脆弱で自信がなくて。だから、タイトルも『Love Hallucination』にしたのよ。脆くて傷つきやすいから、自分がよく知らないひとを信用することが難しい。でも、ひとを信じることのたいせつさを痛感してきたところもあって、自分自身を変えたいという思いがあった。作品づくりにおいても、これまでのわたしはジェレミーのような気心の知れたひととしかやってこなかったし、ミュージック・ヴィデオはつねに夫とつくってきたから、自分の世界の狭さというものに焦りも感じていたのね。だからこそ、このアルバムで「信頼」と「脆弱さ」というテーマを描いてみた。

ひたすら「わたしは自分が嫌い」と繰り返される “I Hate Myself” は、曲調は明るいにもかかわらず心配になってしまう内容です。このリリックはご自身の体験を踏まえて書かれたものですか?

JL:この曲は不思議な過程を経てできあがった。書きはじめたころはけっこう複雑で散らかった感じだったから、歌詞をどんどん削ぎ落としていって、最終的に「I hate myself」という一行だけが残ったのよ。この曲は、YouTubeにアップされていた動画がベースになっているんだけど。プリファブ・スプラウトの「I hate myself」というフレーズをひたすらループして、ずっと馬が走っているだけの動画。わたしはけっして自分を憎んでいるわけじゃない(笑)。ただ、最初に書いたヴァージョンよりもずっと良い出来になったと自負してる。

元ネタの動画はサイケデリックな感じなんですね?

JL:その通り。検索したら出てくると思う。

“Drive” は海中にいるような感覚を持った曲で、雰囲気はダークではありませんが、ドレクシアを思い浮かべました。彼らの音楽のどのようなところが好きですか?

JL:そう言ってもらえるなんて驚いた(笑)。じつは、この曲のシンセ・パートを書いているとき、ドレクシアのひとりのサイド・プロジェクト、ジ・アザー・ピープル・プレイスを思い浮かべていたのよ! たしか彼の名前はジェラルド・ドナルドだったと思うけど(編注:TOPPはドレクシアの本体にして中心人物、ジェイムズ・スティンソンのプロジェクト)。それでエレクトロな楽曲にしたいと思って、ドラム・パートもジ・アザー・ピープル・プレイスっぽい感じを想定してつくった。この曲はとくにお気に入り。ジェレミーがパーカッションを足してくれて、よりエレクトロっぽい雰囲気のある曲に仕上がって。言ってみれば、ドレクシアとジェレミーの曲という感じね(笑)。

歌詞の面でもサウンドの面でも、制作中に参照したものがあれば教えてください。

JL:制作中はいろんなバンドを聴いていた。プリファブ・スプラウトもそうだし、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークもよく聴いていたかな。それにシンセ・ポップのバンドもいろいろ聴いていたし……『DJ-Kicks』も同時進行でつくっていたから、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックもたくさん聴いた。ひとつに絞るのは難しいけど、プロデュースの優れたシンセ・ポップをたくさん聴いていたのは間違いない。

興味深いですね。では、本作でもっとも苦労した曲はどれでしょう?

JL:“Gossamer” ね。この曲はかなりトリッキーだった。自分でも好きな曲なんだけど、方向性がなかなか定まらなくて。ヴォーカルを入れるべきかどうか悩んでいて……というのも、テクノ・ポップ調にしたかったから。それでイエロー・マジック・オーケストラを聴いているうちに、自然と方向性が固まっていった(笑)。彼らがやっていることがとても好きで、それに共感することでなにかを得ることができたという感じかな。

それは面白いです。ところでヴォーカリストとしてのロールモデルがいたりするんでしょうか?

JL:そうね……プリンスはとても好き。ボウイの歌い方も好きね。それに、高橋幸宏と細野晴臣。彼らの控えめな歌い方にとても共鳴する。挙げたひとたちは全員ちがう個性を持っているけど、その組み合わせがわたしのシンギング・スタイルを形づくっているんじゃないかな(笑)。控えめな歌い方がとくに好き。若いころは、わたしにアメリカのアイドルみたいな歌い方を勧めてくるひともたくさんいたけど……セリーヌ・ディオンみたいなね。でもわたしの声はそういう歌い方には向いていないし。そうね、イエロー・マジック・オーケストラのスタイルにはとても影響を受けていると思う。控えめでいて、ポップでとても効果的なシンギング・スタイルだと思う。

あなたの音楽ではフューチャリスティックな部分と、どこかレトロな感覚がうまく同居しているように感じます。それはご自身でも意識していますか?

JL:ある意味でどこか過去に生きているところがあるのかもしれない(笑)。家族が昔の話をしたりするからかもしれないけど、30年くらい前はいろいろとおもしろいことが起こっていたし、観るもの、読むものもたくさんあった印象がある。昔のほうがよかったとは言わないけど、前時代を生きているところはあるのかも(笑)。

一方で、あなたの音楽にはフューチャリスティックな要素もありますよね。

JL:そうかもしれない。人間は未来を夢見る生きものでもあるから。

その通りですね。では最後に今後のご予定をお聞かせください。ツアーでしょうか?

JL:ええ。9月22日のサンフランシスコから全米ツアーがはじまる。その後、11月から12月はヨーロッパ・ツアーに入るから、秋から冬にかけてたくさんライヴをやる予定。しばらくツアーに出られなかったから、とても楽しみにしている。

本日はありがとうございました。日本でもあなたのショウが見られる日を楽しみにしています。

JL:わたしも楽しみにしている! 2024年のはじめには行きたいと思ってて。まだ日本に行ったことがないから、すごく行きたいと思いつづけてる。日本で会えるのを楽しみにしている。

手術は「新しいセックス」なのか

『スキャナーズ』『ビデオドローム』『裸のランチ』『クラッシュ』など、独自の倒錯的な映像表現で世界に衝撃を与えてきた巨匠、デヴィッド・クローネンバーグ。

その8年ぶりの新作『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』。本作の主人公は肉体に新たな臓器が次々と発生、それを公開手術で摘出するというパフォーマンス・アートを行う芸術家です。

本書では監督本人の取りおろしインタヴューに加え、作中に登場するガジェットの設定資料画像、長年にわたりコラボしている映画音楽の大家ハワード・ショアと本作の鍵を握るメイクアップ・アーティストへのインタヴューも掲載。

カンヌ映画祭でプレミア公開され大いに論議を呼んだ原点回帰とも言われる問題作に多角的に迫るとともに、この特異な映画作家の全貌に迫ります!

目次

■巻頭特集 『クライムズ・オブ・ザ・フューチャー』
Cross Review
グロテスクかつ官能的な進化 真魚八重子
「創造的な癌」が導き出すレゾンデートル ヒロシニコフ
Interview
デヴィッド・クローネンバーグ「我々はまだ、人間の身体を理解していない」
設定資料
Interview
ハワード・ショア(作曲家)「デヴィッドとのコラボレーションは私の映画の仕事全てのバックボーンになっている」
アレクサンドラ・アンガー&モニカ・ペイヴズ 鍵を握る特殊メイクアップ・アーティスト

Biography
ボディ・ホラーの五十年 柳下毅一郎
Filmography
クローネンバーグの出発 『Transfer』『From the Drain』 森本在臣
プロトタイプとなる初期長編たち 真魚八重子
医学的かつ現代的で身体に焦点を当てたもの 『シーバース/人喰い生物の島』 伊東美和
たしかなインパクトを残した日本初上陸作 『ラビッド』 山崎圭司
「本物のB級映画」に徹したキャリアの特異点 『ファイヤーボール』 山崎圭司
離婚経験から生まれて怒りの怪物『ザ・ブルード 怒りのメタファー』 上條葉月
偶像破壊としての頭部破壊──人間の頭をぐちゃぐちゃにすることはなぜかくも気持ち良いのか? 『スキャナーズ』 後藤護
マクルーハンの見た悪夢 『ビデオドローム』 後藤護
「スティーヴン・キング原作映画」選手権の上位にランクし続ける傑作メロドラマ『デッドゾーン』 てらさわホーク
『ザ・フライ』が描いた本当の恐怖とは てらさわホーク
「現実」に対する挑戦としての『戦慄の絆』 高橋ヨシキ
「作家であることを証明せよ」――バロウズへの憧憬と反撥 『裸のランチ』 ヒロシニコフ
幻想を愛する 『エム・バタフライ』 児玉美月
工業時代のポルノグラフィ、としての『クラッシュ』 高橋ヨシキ
現実と虚構のあわいを漂うゲーム世界 『イグジステンズ』 山本貴光
混乱する意識のなかで垣間見る母の影 『スパイダー/少年は蜘蛛にキスをする』 真魚八重子
多重に描かれる愛と暴力 『ヒストリー・オブ・バイオレンス』 森本在臣
二つの生を生きる男の哀切な物語 『イースタン・プロミス』 真魚八重子
手堅い歴史描写に潜ませた真にスキャンダラスな要素とは 『危険なメソッド』 吉川浩満
現代アメリカ文学の最高峰、その「ほぼ」忠実な映画化 『コズモポリス』 佐々木敦
ロサンゼルスに幻惑されて 『マップ・トゥ・ザ・スターズ』 上條葉月
COLUMN
変異する音楽――クローネンバーグとハワード・ショア 森本在臣
デザインが形作るクローネンバーグ映画の世界 高橋ヨシキ
日の目を見ないままに終わった企画の数々 てらさわホーク
ボディ・ホラーの現在地からクローネンバーグを探求する ヒロシニコフ

執筆
伊東美和、上條葉月、児玉美月、後藤護、佐々木敦、高橋ヨシキ、てらさわホーク、ヒロシニコフ、真魚八重子、森本在臣、柳下毅一郎、山崎圭司、山本貴光、吉川浩満

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
◇7net(セブンネットショッピング) *
ヨドバシ・ドット・コム
◇Yahoo!ショッピング *
HMV
TOWER RECORDS
◇紀伊國屋書店 *
honto
◇e-hon *
◇Honya Club *
◇mibon本の通販(未来屋書店) *

全国実店舗の在庫状況
◇紀伊國屋書店 *
◇三省堂書店 *
丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
◇旭屋書店 *
◇有隣堂 *
◇くまざわ書店 *
◇TSUTAYA *
◇未来屋書店/アシーネ *

*追ってリンク先を追加予定。

Gooooose - ele-king

 昨年の中国は長引くロック・ダウンと、これに反発した市民たちが大規模なデモをやめなかったことは日本のニュースでも報道された通り。とくにティック・トックに流れてきた映像は暴力的な場面が多くて驚かされた(デモ参加者の多くは後に逮捕され、投獄を覚悟した少女の予告映像がネット上に出回るなど余波はけっこう長引いた)。そんな時に上海で自宅にこもり、身の回りのものを詳細に観察し、最終的にはそれらを使ってサウンドを組み立てたというジャングリストによる4作目。鉛筆や靴下、ビスケットの包装紙や肉野菜などが持つカタチに強く惹かれ、あるいはそれらの由来をサウンドに反映させたという。『Rusted Silicon』(『テクノ・ディフィニティヴ』P245)から4年ぶりとはいえ、この間にDjスコッチ・エッグとの『JAC』(20)やウィアードコアの展示「オリエント・フラックス」のために33emybwとつくった『Trans-Aeon Express』(22)といったジョイント作も続いたので、グーーーーースことハン・ハンの勢いはむしろ増してきたと考えたほうがいい。荒削りでシャープだった前作と較べて、ラスティ並みにゴージャスで無駄にスケール感を増大させたサウンドが次から次へと続き、かつてなく多様なアプローチはかなり楽しめる。以前よりもソフィスティケイテッドされているのにアルバム・タイトルの『Rudiments』はなぜか「基礎」とか「初歩」の意。いまは亡き下北沢ゼロでなにげなく買ったカセット・テープがきっかけで聴き始めた上海の〈SVBKVLT〉もこれで59作目を数え、ハウイー・リー、Prettybwoy、Rilla、パラアディソ(Tsvi+セヴン・オービッツ)、スリックバック……とラインアップもけっこう派手になってきた。ビョーク『Fossora』にフィーチャーされたガバ・モーダス・オペランディも〈SVBKVLT〉がインドネシアで発掘した逸材。

 『Rudiments』は以前と比べて全体に混沌としたイメージをうまくコントロールしている。前傾と後景がくっきりと分かれ、奥行きのあるサウンドは開放感を増し、これがポスト・ロックのダック・ファイト・グースをやっていた時代から引きずっていたハードコア的な感性との決別にもつながっている。ポスト・ロックの名残を感じるものとしてはゴキブリを題材にした “Turn A Roach To A Cleaning Bot” があり、小刻みなスウィング・ドラムにサビで集中的にシンセサイザーを被せる “Chips”(この曲は低音が出るスピーカーで聴いて!) など以前は考えられなかったようなファニーな曲も増えている。長引くロック・ダウンが人に与える影響は本当に様々だなあと思うばかりだけれど、中国ではコロナの影響で若者の失業率が26%台と発表され、これが実際には46%以上という声もあり、親から給料をもらって家事を手伝う「専業子ども」が増えているというから、そうした層にはベッドルーム・テクノによって世界と繋がれることは価値が増しているに違いない。オープニングの “Burning Smartphones At A Sunset Desert(夕陽の砂漠で燃えているスマホ!)” はどこか達観した響きのあるアンビエントで、同じくメローな感性を押し出した “Boids” (の後半)も複数の波がぶつかり合うような構成でなんとなく時間の感覚を麻痺させる。コロナ前に70年代の繰り返しばかりだとシーンを批判していたわりに “Boids” は70年代を巧みに取り入れた面があり、あの発言は同族嫌悪だったのかなと思ったり。

 エイフェックス・ツインの新作でも “Parallax Mix”と称してドラムファンクが取り入れられていたけれど、『Rudiments』でも “Sandbox” や “Don’t Think”ではスクエアプッシャーを思わせるドラムファンクが暴れまわり、手数の多いドラムの楽しさを堪能させてくれる。個人的には途切れがちなドラムファンクに断片的なメロディを切り貼りしたような “Gin & Broccoli” がベスト。このところ相次いでリリースされたメサクとブラワンとエイフェックス・ツインのシングルがどれも似た感じで、続けて聴いているとポリゴン・ウインドウの新作でも聴いている気分になっていた(上にラザロやバッテクノ&トリスのアルバムも同じ方向を向いていた)ため、『Rudiments』は少しばかり変化球を試してみたという感じに聞こえてくる。また、最後のところでどうしても行儀良くできない展開が期せずして楽観主義を呼び込んでしまうという雰囲気もぜんぜん悪くない。

『エリザベート 1878』 - ele-king

 昨11月にウェブスター英英辞典が英語圏の流行語大賞(word of the year)として選んだ「ガスライティング(Gaslighting)」は同じ年に日本で流行語大賞となった「村神様」と違ってアグレッシヴな思想的起爆剤となり、論点は現在も拡大し続けている。「ガスライティング」というのは心理学用語で元は心理的虐待を意味していたものが、最近は男性が女性に劣等感を抱かせるテクニックを表すスラングとして狭い意味で使われることが増えている。「ガスライティング」の語源は30年代に書かれた戯曲に由来し、何度か舞台化され、TVドラマになり、最終的にはハリウッドでリメイクされた『ガス燈』(44)が作品的には最も有名。同作でイングリッド・バーグマン演じるポーラ・アルクィスト・アントンはロンドンで新婚生活を始めるも言葉巧みな夫の計略にはめられて自分は病気だと思い込む。「また忘れたの?」「覚えてないの?」と何度も畳み掛けられているうちにポーラは自分の記憶力に問題があると信じ込んでしまう。他人と話をさせないようにして孤立させるのが「ガスライティング」のポイントで、ポーラがこうした状況に追い込まれるのは女性たちの社会的立場が多いに関係し、他人と話をする機会が少ない女性がいわば「ガスライティング」の餌食にされやすいことも『ガス燈』では前提となっている。「ガスライティング」は#MeToo運動を受けて2018年のイギリスで最初に流行語となり、以後、様々な記事が書かれるようになると心理学の専門家がその濫用を懸念し、Z世代というワードが日本では間違った意味で定着してしまったように、素人考えが暴走していくことに警鐘を鳴らし始める。これに対してミシガン大学の社会学助教、P・L・スウィートは「ガスライティング」はフェミニズムが発見した問題解決の有効な手段であり、専門家が警鐘を鳴らすこと自体に大きな疑問を投げかけた(日経サイエンス2023年6月号)。「ガスライティング」は言葉だけでなく、身体的な虐待を伴えばDVに発展する可能性もあり、これらを連続性のなかで認識するためにはもっと「ガスライティング」について多くの例証を挙げることが急務だと反論したのである。これに呼応したかのようにフォーブスやワシントン・ポストも今年に入って具体的な事例だけでなく、「ガスライティング」から身を守る具体的な方法だったり、女性のガスライターによって男性が被害に遭ったケースなども報じ始める。僕の目に入った限りではどの記事も非常にシリアスで、「専門家」が危惧したようにトローリングと同じ意味で使うゴシップ記事もそれなりにはあるようだけれど、そっち方面は三浦瑠璃さんにでもお任せいたしましょう。


 マリー・アントワネットから約100年後のハプスブルグ家を舞台にした『エリザベート1878』はヨーロッパ随一の美女と謳われたエリザベート妃が40歳を過ぎて、自らの美貌の衰えと向き合っていく話である。ピチャピチャと水の音から始まるオープニングはエリザベートが浴槽に身を沈め、息を止めているシーンから始まる。エリザベートは1分11秒間、息を止めていたにもかかわらず、「40秒ぐらいだった?」と女官たちに訊く。自らの能力を過小評価(=ガスライティング)しているという暗喩なのだろう。『エリザベート1878』の原題は『Corsage(=コルセット)で、作中では何度もコルセットをきつく締め上げるシーンが描かれる。皇妃としての務めは美しくあることであり、ほかには「何もしなくていい」とか「政治に興味を持つな」と言われ続けてきたことは想像に難くない。ここであからさまに夫である皇帝フランツ・ヨーゼフがエリザベートに対して抑圧的な態度を示すわけではない(当時の女性たちを取り巻く環境については主役を演じたヴィッキー・クリープスがパンフレットに掲載されたインタビューで事細かに語っていて、これがとてもわかりやすい)。その辺りを図式的に描かないことが『エリザベート1878』の巧妙なところで、しかし、皇帝が18歳の人妻アンナと談笑しているところをエリザベートは目撃し、アンナの若さを意識せざるを得なくなるとエリザベートは葛藤を抱え込み、いわば勝手に追いつめられていく。一方でエリザベートの娘ヴァレリーは宮廷の作法を身につけ、かつての自分のようになり始める。エリザベートは何をやってもうまくいかず、何をしたいのかわからない行動を繰り返す。エリザベートは衝動的な行動でしか自分を表現できない自分自身にも苦しめられ、どの場面からも彼女の焦燥感が激しく伝わってくる。皇妃という立場でそれなりに好き勝手なことができるにもかかわらず、ハーレー・クインや羌瘣のように次々と問題を解決していくわけではないところがエリザベートに対するシンパシーをかえって増幅させる面もある。はたして自分は存在しているのかいないのか。40歳を過ぎたら女は用済みという、宮廷全体になんとなく漂うムードはそれこそガスライティングの親戚のようなものだろう。(以下、ネタバレ)エリザベートは美しい妃でいることに訣別しようと腰まで伸びていた髪を切り落とす。これがパティ・スミスかヴィヴィアン・ウエストウッドを思わせる初期のパンク・ヘアにしか見えず、エリザベートの髪を毎日、手入れしてきた女官たちは彼女の頭を見て泣き崩れる。ふてくされたような表情はしかし、ようやくエリザベートの意志とマッチしたかのように見え、エリザベートは揚々とイタリアまでタトゥーを入れに出掛けていく。


『エリザベート1878』は史実を忠実に再現しているわけではなく、中指を立てるポースや「君主制は人気がない」といった歴史を鳥瞰するセリフなど現代的な要素が意識的に散りばめられている。とくにポップ・ソングは効果的に多用され、プロモーション・ヴィデオのように挟まれる場面もある。なかではミック・ジャガーがマリアンヌ・フェイスフルに書いたデビュー・シングル〝As Tears Go By〟をエリザベートたちが無表情で聴く場面が秀逸で、「金も自由も手にしたのに・・・」「無邪気な子どもたちのようにはもう笑えない私」といった歌詞がエリザベートの内面をあぶり出すだけでなく、マリアンヌ・フェイスフルが世界で初めて愛想をふりまかず、ニコリともしなかったアイドル歌手であった事実(https://www.youtube.com/watch?v=S8EykQaZ8CU)とオーヴァラップし、「大衆や男たちの期待に応えない=宮廷の期待に応えない」というステートメントとしても効果的に作品の転換点を示すことになる。さらにいえばマリアンヌ・フェイスフルはそれでもエンジェル・ヴォイスの持ち主として持て囃され、アイドル歌手として成功したのであり、現在でいうところの塩対応のアイドルに先駆けた存在(峰不二子のモデルにもなった)であったにもかかわらず、当時の恋人でもあったミック・ジャガーが手を焼くほどヘロインにのめり込み、酒とタバコで喉をつぶし、〝As Tears Go By〟からわずか15年後にはガラガラのダミ声で歌う「大人の女性」に様変わりしていたこと(https://www.youtube.com/watch?v=f2tbc81Ujno)とも『エリザベート1878』はイメージをダブらせる。タバコを吸い、医者にヘロインを勧められてボロボロになっていくエリザベートはマリアンヌ・フェイスフルがやっていたこととまったく同じことをやっていて(これは偶然の一致)、フェイスフルがソフィア・コッポラ監督『マリー・アントワネット」で同じハプスブルグ家のマリア・テレジアを演じていたことも奇妙な符号に思えてくる。マリア・テレジアというのはハプスブルグ家を最盛期に導いた女帝であり、しかし、同時に皇帝(夫)の背後にいてエリザベートのような皇妃をガスライティングしていく主体が実は同じ女性だったということも『エリザベート1878』ではふんだんに描かれている。作品の終盤、あらゆることから吹っ切れたエリザベートは18歳のアンナを宮廷に呼び出し、皇帝の愛人になってくれと依頼する。彼女はまるでマリア・テレジアや自分を苦しめたゾフィー大公妃と同じように宮廷内の采配を振り始めたかのようである。エンディングにはさらにいくつか象徴的なシーンが続き、そのほとんどは僕には解釈不能だった。『女王の教室』よろしくエンドロールの映像で自由気ままに踊るエリザベートがいつの間にか髭を生やしていたことはとくに意味不明だった。あれは……?

Aphex Twin - ele-king

 みなさん、7月28日にリリースされたエイフェックス5年ぶりの新作EP「Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760」はもうお聴きになりましたか?
 まさにそのリリース日である先週末、エイフェックス・ツイン本人だと推定されている「user18081971」なるアカウントが、サウンドクラウドに2曲のトラックを投稿しています。
 タイトルは “Short Forgotten Produk Trk Omc” と “2nd Neotek Test Trac Omc” で相変わらず意味がよくわかりませんが、2006年から07年につくられたもののようです。

 そしてサプライズはつづき、翌29日にはさらなる新曲 “matriarch test 3+Om1 Cass+909 edit1 F6 omc+1” も公開。いったいどれほど曲をストックしているんでしょうね。

 〈Warp〉からの最新EPのほうにも動きがあります。表題曲のオフィシャルMVが、今夜深夜1時(日本時間8月1日1時)に解禁される予定です。MVとしては前回の “T69 Collapse” 以来。手がけるのはおなじみ Weirdcore。もうページは公開されていてカウントダウンがはじまっていますので、1時にそなえましょう。
 最新作「Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760」の魅力について佐々木渉と編集長が語りあう対談は、こちらから。

Aphex Twin - Blackbox Life Recorder 21f (Official Video)
https://youtu.be/e_Ue_P7vcRE


talking about Aphex Twin - ele-king

 『Syro』のときはロンドン上空に「A印」の飛行船が飛んだ。今回の『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』では、QRコード化した「A印」のポスターが世界のいろんなところに貼られて、人がそれをレンズに合わせると、そこには新たな「A」の世界が広がった。まだ試してはいないが、フィジカルにはさらにこの先の仕掛けもあるそうだ。相も変わらず、リチャード・D・ジェイムスは私たちを楽しましてくれる。彼もまた、楽しんでいる。もっとも、30年前はしばしばし“子供” と形容されたRDJも、近年は政治や社会に関する発言もしているように、永遠のピーターパンではなかった。それでもまあ、彼のテクノはいまもおおよそ微笑み(失笑、苦笑、冷笑、呆れ笑い……)のなかにある。

 5年ぶりの新作、4曲入り『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』がリリースされた。まさかの出来事、諸君! これを楽しまない手はないですぞ。無類のAFX好きで知られる佐々木渉氏を北海道から呼んで、終わりなきリチャード談義に花を咲かせるとしましょう。(野田)

佐々木渉(ささき・わたる)
サンプリング音源の販売などを手がけていた札幌の企業、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社で2007年にソフトウェア「初音ミク」を開発。すぐさま動画サイトなどで火がつき異例の大ヒットとなる。ジャズや電子音楽などを愛好、これまでエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーのライナーノーツも執筆している。

野田努(のだ・つとむ)
ele-king編集人。

■悪夢と笑いのA印

N:5年ぶりのエイフェックス・ツインの新作、 『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』……曲名は、相変わらず意味わかんないね(笑)。

S:個人のライフログとかに触れているんだと思いますが、それにしても不明ですよね。前みたいに制作機材の名前とか埋め込まれてたほうがましだったのか? いや、その方がニッチ過ぎて、わからないって説もありますよね(笑)。

N:とくに『Drukqs』(2001年)以降はどんどん加速しているよね、曲名の意味のわからなさが。

S:そうですね、曲のなかでも変なことしてましたよね。曲のなかに自分の顔のデータを仕込んでいたのを思い出します(苦笑)。でも、悔しいけど、そういう遊び心があるのがエイフェックスらしいというか、しっくりきますよね。世のなかのエイフェックスが好きな連中が、彼の悪戯を語る度に、リチャードの神話が妄想の中で肥大化していく。そんな感じでエイフェックスがずっと続いていっているし、再発見されるし、これからも続いていくんだろうなと思います。個人的にはSoundCloudでの音源バラマキ戦略がショックでした。あっ! これでエイフェックス・ツインが大量の楽曲をバラ撒いて、ファンを撹乱させたことで、本人の作品群がネットのなかに散らばっていく。それを元にファンが自分で真剣に選曲して『アンビエント・ワークス3』とか命名して公開してるじゃないですか、ファン同士が自分のなかのエイフェックス・ツイン像を交換してる訳ですよ。こういう行為に走らせる魅力がありますよね。エイフェックス・ツインには。

N:サンクラでバラ撒かれた音源も一応アレでしょう、もともとは匿名で上げたはずなのに。なんでわかっちゃうんだろう(笑)。(*最初はuser48736353001 名義でアップロード、途中からはuser48736353001名義)

S:音……サウンドの雰囲気でわかっちゃんじゃないですか。リチャードにしか作れない雰囲気だから。とくに『Syro』(2014年)以降は、作り込まれていて説得力がある。

N:『Syro』以降は、第三期リチャードというか。『Drukqs』から『Syro』までの13年間のリチャードもまたひとつの時代のリチャードで、だってあの時期はAFXとして〈Warp〉からはremix集しか出していない。新作を出したのは〈Rephlex〉からで、「Analord」シリーズ(2005年)と、あとThe Tuss(2007年)でしょ。その13年間があって、〈Warp〉から『Syro』を出す前には、なぜか飛行船をぶち上げて(笑)。あそこからなにかが変わりましたよね。


Syro(2014)*セールス的にも大成功だった。


Drukqs(2001)*いっさいの商業性から遠ざかった00年代AFXのはじまり。

S:そうですね。元々、楽曲の作風も分裂しているけど、その活動時期でも分裂してますよね。『Syro』以降はどの曲も、大分作り込まれているし、比較的分かりやすいテーマで降りてきてくれて、安心して聴ける、なんかシャイなリチャードが目を合わせてくれたぐらいの、出会いの感覚が(笑)。

N:たしかに、 “Minipops 67” がキャッチーだったでしょ、あれが先行公開されたことは大きかったよね、『Syro』は。

S:そうですね。

N:“Windowlicker” (1999年)以来でしょ、ああやってちゃんとポップに仕上げたのは。『Drukqs』がメジャー最後のアルバムだったこともあってか、すごく難しいアルバムだったから。例の「Analord」シリーズはとことんアナログ機材を使い倒したシリーズであって、The Tussもだけど、決してポップではなかった。で、いきなり “Minipops 67” が。メロディアスで歌も入ってるし。

S:彼は、いつでもキャッチーになろうと思えばなれるし、美しいアンビエントも作るし、いつでも凶悪な音も作れるということですよね。そんな彼だから、リスナーも「次はどんな作品が出てくるんだろう?」って期待してしまう。自分もいろんな作風の作品を一挙に聴いて、「エイフェックス・ツインは怖い!」って印象から入りました。学生時代の思い出深いトラウマです(苦笑)

N:それはどこの(時期の)作品?

S:『...I Care Because You Do』(1995年)あたりです。音楽のフレーズとかメロディが違うというか。めちゃめちゃ歪んでたり、かと思えばめちゃめちゃ狂ったドラムンベースになったり、「この人の感情どうなってるんだろう?」というのがわからなくて怖かったですね(笑)。


,,,I Care Because You Do(1995)*いまあらためて聴くとすごい完成度。

N:今回のアー写も怖い。言うこときかないのはどの子じゃぁ〜、がるるるるぅって。しかし……なるほど! あれが最初だったんだ。あれはだってほら、いちばんハードな作品というか、それこそアメリカのメジャーの〈Sire Record〉に移籍して二番目のアルバムで。メジャー第一弾が『Ambient Works Vol.2』(1994年)で、第二弾が『...I Care Because You Do』という。並のアーティストなら、メジャーに行ったら少しはポップな路線を考えてしまうものだけど、リチャードは真逆いったよね。「ここまでやってやる!」みたいな。

S:そうですね。

N:まあ、いま聴いてもカッコいいし、完成度の高い名作だと思うけど。『...I Care Because You Do』のときは、凶暴というよりは子供が暴れるみたいな、ギャグもあっただろうけど。のちの「Come To Daddy」(1997年)にも繋がるよね。


Come To Daddy(1997)*ぐぉぉぉぉぉ。

S:それを実現して、世のなかに提示して、しかもそれがウケてしまう人はなかなかいないですよ。当時は、本当に怒りそのもの、感情や、感覚そのものを鳴らして音楽にしているように聴こえました。

N:『Ambient Works Vol.2』は、いまでこそ最高のアンビエント作品だけど、当時の基準で言ってもアブストラクト過ぎて、リアルタイムではほとんど理解されなかった作品でね。で、佐々木さんが最初に聴いたエイフェックスは、彼のキャリアのなかでは、ちょうどいちばん激しいサウンドを出していた時期、すごいときに当たってしまったね(笑)。ぼくみたいに『Selected Ambient Works 85-92』(1992年)から入ったリスナーとは対極。だって、「Ventolin E.P」(1995年)の時代でしょ?

S:「Ventolin E.P」は、本当に影響を受けましたね。ずっと笑い声だけのトラックが入っていたりして。当時の自分のなかの既成概念を壊してくれましたね。


Ventolin(1995)*いま聴いてもカッコいいAFX流トリップホップ。

N:リミックス・ヴァージョンであったよね、いつの間にか曲が気持ち悪い笑い声ばっかに展開するのが。あれは、もう、ぶっ飛んだ(笑)。(* “Ventolin” Praze-An-Beeble Mix)

S:当時のele-kingのエイフェックス・ツインのインタヴューとかも、「滞在先のホテルのエアコンのノイズ音がすごく良かった」とか言ってたり、毎回衝撃的でしたもんね。テンションも違うし、言ってることもハチャメチャだし(笑)。なんかこう、嘘なのか本当なのかも全然わからないのが、クリエイティヴでカッコいいと思っちゃいました。って……すいません、僕の思い出を(笑)。

N:いや、どうぞどうぞ(笑)。僕ね、ele-kingをスタートした年に、来日公演を手伝ったんですよ。『...I Care Because You Do』が出る前くらいかな。そのときの印象は、すごく素朴な普通の青年でした。なんら変人ではない……すでに戦車は買ってましたけどね(笑)。「戦車持ってるの?」って訊いたら「持ってる」って。でもそれも、なかばギャグとして買ってる気がする。僕が接したときの本人は、大人しい好青年でした。とはいえ、90年代なかばの彼の音楽はエキセントリックで、クレイジーだった。90年代前半のリチャード、作品で言えば『Ambient Works Vol.2』までのリチャードにはロマンティックな牧歌性がまず前面にあって、それは彼の大きな魅力だったんだけど、『...I Care Because You Do』から「Windowlicker」までの90年代後半のリチャードって、これはこれでまたすごかった。

S:そうですね。やっぱりひとつひとつが焼き付くようなインパクトがあって。良い意味でショックだった。自分のなかでは、その辺のリチャードの記憶って時系列がぐちゃぐちゃになってて。インパクトが強いところがまばらにあって。普通だったら時系列順にこのアルバムが出て、あのアルバムが出て、って思い出せるんですけど。変名が多かったこともあって、崩れているんですよね。好きなんですけど、なんかちょっとリチャードの存在も作品も自分にとっては悪夢というか(笑)。悪夢と言っても “Windowlicker” の悪夢と『Selected Ambient Works vol.2』の悪夢はまた全然違うし。でもやっぱり、好きなんですよね。理不尽な恐怖体験だったので、その分、タイムレスなんです。


Selected Ambient Works vol.2(1994)*来年でリリース30周年の名作。

N:たしか3回目に来日したときだったかな、リチャードのライヴに合わせて〈Warp〉の創始者たちが「Donkey Rhubarb」(1995年)の着ぐるみ姿でステージで踊ったんだから、笑える悪夢だったね(笑)。

S:「Donkey Rhubarb」も好きだったなぁ……あの頃のリチャードの音楽って、いまも全然笑えちゃうし、それでいていまだ怖いし、若いネット世代の子たちにも普通にスッと入っていける感覚があるし、「これはヤバい音楽だね。ヤバい人がやっているよね。」ってすぐわかるような雰囲気をちゃんと持っていると思うんです。


Donkey Rhubarb(1995)*またMVが楽しかった。

■最高のアーティストとは自分のことをアーティストだと思っていない人たち

N:アルバムごとに作品のテーマがちゃんとあるじゃない。『Ambient Works Vol.2』はビートレスなダーク・アンビエント、『...I Care Because You Do』ではハード・エッジなトリップホップ路線を追求して、『Richard D. James Album』(1996年)ではドリルンベースをガッツリやって完成させる。『Drukqs』では、プリペアード・ピアノとポスト・ドリルンベースみたいな感じをやって、「Analord」シリーズではアナログ機材のみでどこまでできるかとか。たとえばスクエアプッシャーは、ほとんどずっとドリルンベースを追求して、発展させていくわけだけど、リチャードはいろんなことをやってるよね。

S:リチャードの作ってきたものって、ジャンルを問わず「リチャード印」で。ビートの有る無し含めて、いろいろなスタイルあるのに全部結びついちゃってて。

N:それってなんなんだろうね。

S:それは……なんなんでしょうね(笑)。彼の音には気配がある。

N:すべてにあの「A印」が(笑)。『Syro』を出したときのピッチフォークのインタヴューで、けっこう重要なことを言っているんですよ。ひとつは、「最高のアーティストとは自分のことをアーティストだと思っていない人たちのことであり、自分のことをアーティストだと思っている人間ほど迷惑でつまらない人間はいない」ということ、ふたつ目は「この世界で最高のダンス・ミュージックの形態というのはジャングルだ」と。リチャードの音楽を考える上で、このふたつのことは重要ですよね。しかもね、「ジャングルっていうのは自動車整備工やペンキ屋をやっているような人たちが作った音楽だ」ということも言っている。そういう「非音楽家」を賞揚しているわけ。イーノは自分を「非音楽家」と呼んだけど、リチャードのいう「非音楽家」から見たらイーノなんかぜんぜん「音楽家」なわけで。リチャードは、彼の作品を聴けばわかるように、ジャングルを音楽的な側面はもちろんのこと、ある種階級闘争的というか、社会的な側面からも評価しているんだよね。

S:そしていま、ジャングルは来てますからね。勢いのある怒涛のビート感が、若い子たちに刺さっている。進化が目立つ音楽ジャンルになってる。

N:だからさ、AFXが同じテクノと括られても、クラフトワークやYMOとの違いはそこにある。クラシックを背景にもって、高価な機材にめぐまれた環境とはまったく別のところから生まれたテクノの代表だよね。

S:そうですよね。でも、たぶんそのアプローチには奥行きがあると思います。その時代の機材って適当に選んでいるわけではなくて、安い機材のなかでも面白いものを、個性をちゃんと機材のなかに見出していて、自分でカスタムしたりエフェクターを工夫して、いちばん美味しいところを「Aphex印」で引き出して、ほかの人には出せない味付けで出しているみたいな。

N:昔、佐々木さんがDOMMUNEでいろいろ解説してくれたけど、『Syro』のジャケットに140以上の機材リストを載せたじゃない。あれもすごいよね。140以上だよ!

S:140以上の機材があるってことは140種の機材を選んで、シンセサイザーとエフェクターとサンプラーと、パッチベイを通してシーケンサーにサウンドアウトはミキサーに…って感じで組み合わせて繋げないといけないんですよね。頭のなかに綿密な設計図がないと繋げた上でどれがどのようになっているかはわからない。あと、サンプラーをめちゃめちゃ使ってるので、実際には140どころの話じゃないんですよ。自分のライブラリに落とし込んでいる大量のドラムマシンとか、シンセやヴォーカルのショットの音とかがあるわけで。それをどうやって管理というか把握しながらやっているんだろうなぁ、把握してないのかもしれないですけど。しかも、どの曲を聴いてもエイフェックス・ツインのブレイクビーツは古くならないというか独特な音圧や、歪感が加えられている、「なんで毎回毎回このオリジナリティの高い水準に行けるの?」みたいな感じがあるんです。普通どこか有りがちな音になったりするはずなんですけどね、細部まで作り込まれた、すごい高密度な音という印象なんです。

■『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』の謎解き

N:あとは、未完成に向かうというか。そういう感じを残すじゃないですか。

S:エイフェックス・ツインは『Syro』以降、モジュラーシンセサイザーを大きく取り上げた作品集も公開していました。2014年の『Modular Trax』とか。その流れもあってか、今回の『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』のジャケットはBuchlaというメーカーのシンセモジュールのパネルをコラージュしたものなんですね。

N:へえ。全然気づかなかったな。

S:伝説的なアメリカ西海岸のシンセサイザーで、日本でも販売されているんですが、例えばskylabってシンセモジュラー・システムになると250万くらいする、高級で特殊なシンセですね。。リチャードが、フジロックの2017年のときに、カセットを山積みにして売ってましたよね。そのなかの半分ぐらいがBuchlaのシンセを使った曲でした。ただBuchlaで面白い音を出して遊んでいる、脱力した珍しい作品も入ってました。そこから5年以上経って、ジャケットにどん! とシンセのパネルを載せている、という。本当にこのシンセが好きなんだろうな、と思います。

N:それはなに、上モノの音とかを?

S:高周波とかには「けっこうBuchlaっぽいな」という音はあるんですけど、極端に目立たせる使い方はしていない。Buchlaで、よく知られているのは、西海岸のアヴァンギャルドや即興演奏家や、ニューエイジのシーンで、Buchla奏者という人がいるくらいなんですけど。

N:西海岸のニューエイジとリチャードって、まったく繋がらないんだけど(笑)。

S:ele-kingでもBuchla奏者のチャールズ・コーエン氏が、記事になっていましたね

N:なるほど。しかし、こんな早く新作が聴けるとは思ってなかったですね。『Syro』は本国では、ナショナル・チャートに入ったほどのヒット作で、気を良くしたんだと思うけど、その後立て続けに「Computer Controlled Acoustic Instruments Pt2 (EP)」(2015年)と「Orphaned Deejay Selek 2006-08」(2015年)、「Cheetah EP」(2016年)と出して、そして「Collapse EP」(2018年)も出した。この「Collapse EP」はウケたじゃないですか、とくに “T69 Collapse ” が。これも複雑な曲で、いろいろ詰め込んだ感もあって、CGもすごい見ごたえがあるやつだった。ここからピタっと出さなくなったから、また10年ぐらい出ない時期が続くのかなと思ったんですよ(笑)。そしたら意外とこんなに早く新作を出した、というのがまず驚きだった。


Collapse EP(2018)*10年代にリリースされたEPのなかではダントツ。

S:やっぱりコロナが明けて、今月(2023年6月)ですかね、Sonar Festivalのときに2曲入りの「Barcelona 16.06.2023」というEPを出してたじゃないですか。このときのライヴは、前半がファンクっぽいビートだったり、従来のリチャードの延長線上っぽい包み込むようなサウンド主体だったんですけど、後半はドラムが狂喜乱舞するようなパートが続いていてすごいカッコいいんです。後半のところは前作の「Collapse」と似ている。発展型と言っても良い。ところが、音源としての「Barcelona 16.06.2023」は割りとシンプルなテクノで、今回の『Blackbox Life Recorder〜』はドラッギー過ぎずサイケデリック過ぎない、もっと落ち着いていて、グルーヴィーだけどインテリジェントな感じになっている。なんだろう。変に、ファンが求めるような、刺激的な楽曲を出すことに固執していない。

N:すでに賛否両論だよね、これは。いつものことだけど、期待が大きいから。

S:否定的な意見もありますよね。しかし、こういう雰囲気のテクノだったり、Buchlaとリズムマシンの素晴らしい邂逅を、リチャード以外の誰が更新してくれるのかというと疑問ですね。リスナーとしては、もうちょっと自分たちの時代をカッコよく、新しさで満たしてほしい、という需要もあるのでしょうけど。

N:くだんのピッチフォークのインタヴューで、リチャードは「自分にはもう探求すべきものがないんだよね」って正直に言っちゃってるんだけど、『Blackbox Life Recorder〜』を聴いたときその言葉も思い出した。ただし、このシングルにはリチャードの魅力が詰まっている。エイフェックス・ツインの魅力が凝縮されているじゃないですか、1曲目の “Blackbox Life Recorder 21f” なんかは。ブレイクビーツの感じも良いし、「A印」のシンセ音も良い。ドラムがデヴェロップしていく感じも良い。笑いもちゃんとあるし。

S:笑える感じは良いですよね。あと、誤解を恐れずに言うと、凄く小さい音でもカッコいいんですよね。小さいドラムの音って全クラブ・ミュージックのプロデューサーが恐れるものだと思うんですけど、小さいく鳴らしても存在感がものすごい独特の音で、うわ、カッコいい! っていう感じになる。空間も感じ取れるし。で、めちゃめちゃデカくて歪んでるドラムの曲も……。

N:“in a room7 F760” のこと?

S:そうです、このドラムの歪ませ方はいままでやってなかった感じだな、でも待てよ? あったかも、ってリチャードのライブラリを聴き返してしまって、結局、リチャード沼にハマってしまうような(笑)。こんな曲あったっけ? カウベルこんなに鳴らしてたことあるっけ? みたいな感じで、リチャードを聴き始めると、あれこれ記憶を参照したくなって、アーカイヴのなかに迷い込んでいってしまうような感覚が楽しい。他のコーンウォール出身のプロデューサーのアプローチとは大分違うなと思います。ワゴンクライストやマイクパラディナス、スクエアプッシャーの近作を聴いても、こんなに複雑な心境にならないですね。もっと、音楽アイディアも素直でのわかりやすい。リチャードだけ訳がわからない部分が多い。やっぱりリチャードの無限回廊みたいな音楽世界に浸っていたい感覚になります。水玉を見ると草間彌生を思い出すぐらいの感覚というか、リチャードのシンセ音を聴くとリチャードだな、っていうふうに感覚的に反応してしまいます(笑)。

■リチャードのリズム

N:そうだね。あるいは、自分がどこから来たのをリチャードはまた再確認しているのかもしれないね。俺はレイヴ・カルチャーから来たんだと。実際、彼はコーンウォールのレイヴでDJをやっていたわけでね。実際のところはわからないけど、今回は、リズムに重点を置いていることはたしかでしょ。 “in a room7 F760” もそうだし、 “zin2 test5” もそう。

S:それだけリズムを綿密的にコントロールできるようになった、ということだと思うんですよね。ビートの縦軸となる音響的な面、横軸となるタイミング的な面、音色の奥行きや接近感までコントロールしている感じが強い。リチャードが体得してきたスキル、ドラムマシンやシーケンサーの使い方が極まっているので、スキルや経験に裏打ちされているので説得力がある。知識と基礎がしっかりしてるので複雑な作りの曲でも、リラックスして作れるので良い結果に結びつく。昨今の音楽ではリミッターで音圧を稼いでデカい音で、Trapでもなんでも歪んだ808のドラムを鳴らすのがカッコいい、というのがあるんですけど、その流れとも全然違う。リチャードは「お前ら、まだ808しか使ってないのか。広い世界の可能性を見ろよ」と言うような風に、マイナーなドラムマシンでバキバキに仕上げてくる(笑)。メインストリームと離れて、天邪鬼なのがカッコいい。

N:“in a room7 F760” なんかはさ、途中からジャングルになるように、リズムの変化があるっていうか。

S:しかもすごい新鮮に繋がっていくじゃないですか。ライヴでもどんどんビートが移り変わっていくし。リチャードによる流動性のあるリズム、という感じになっていって。ジャンルもなくなっていって。リズムのスタイル自体がパノラマのように広がっていく。

N:「リチャード宇宙」が膨張してるんだね。

S:(笑)。それも間違いないと思うんですけど。

N:今回のプロモーションで、QRコードがあったじゃん。あれは面白かったね。僕はけっこう、上がってしまった。

S:開いたら “Blackbox Life Recorder 21f” のアンビエント・ヴァージョンだった。

N:あのQRコード化した「A印」ポスターは見事でしたね。

S:効率的にデザインされた、なんならグッズとかTシャツとかまでですけど……毎回欲しいですもんね(笑)。

N:ちゃんとエンターテイメントしているからなぁ。

S:気持ち良い凝ったエンターテイメント。やっぱりこう、いまはネットですべてがデジタル化されてて、音楽もデータ化されてデジタルだし、伝わり方もデジタルだし。話題になったら伝播される。リチャードは顔芸していた頃から、突飛な話題が伝播されるのを感覚的に知っていて、面白い言動もしていて、以前からこのネット時代を想定していたんだな、と。邪推してしまいます。ただし、いろんな音楽が新しい触れ込みで出てきても、アンビエントの名盤が増えても、僕らは『Selected Ambient Works 85-92』を聴いちゃうわけじゃないですか。繰り返し聴いてしまう、あれを作った彼の新作を心待ちにしてしまう。

N:アルバムを出すのかなぁ?

S:出してほしいですけどね。

N:リチャードの場合は気まぐれだったりするから。これが序章、予告編なのか、次はまた5年後なのか……誰も知らないからね。

S:でも、デジタルツール下での自己表現が当たり前になって、InstagramとかTikTokを眺めるのも日常で、触れられるアートとしてTeamlabさんの展示に遊びに行くような、そういう陽キャなデジタル人たちに対して、僕らは陰キャに家で首をかしげながらリチャードの新譜とMVを、「どういうつもりなのかなあ……」と眺めているほうがテンション上がって楽しかったりする(笑)。リチャードが作品を作り続けてくれるなら、いつまでも待ちたい。自分たちのヒーローがアルバムを出してくれるところまで元気に待たなければ、と思いますね(笑)。

N:もう我々の希望ですね。「A印」のためにがんばるぞと。

■裏技を教えてくれない友だちみたいなものです

S:繰り返しになるんですけどSonarのライヴセットもすごくカッコよかったみたいで。アルバム出さなくても、ライヴ行けば楽しそうだなあ……と。リチャード自身も肩肘張らずにシンセやリズムマシンで遊んでいて、楽しんでいる感じがするんですよね。彼が人生を楽しんでいないイメージがなくて。

N:それは言えてるね。

S:音源を聴かせてもらうことによって、彼に楽しい時間を僕らは分けてもらってる、っていう。「リチャード、今日どのシンセで、何して遊んだのかな?」みたいな。所謂、ゲーム実況に近いくらい(笑)

N:いや、僕はそこまではいってないです(笑)。まだ修業が足りないですね、リチャード業が足りてない。リチャードは、「金のためにやってる」ってよく言うでしょ。インタヴューで「あの年はよくライヴをやったね、金のために」とか。いちいち「金のために」って言うところがいいんだよね。ってことはつまり、「金のために」やっていないこともあるわけだから。もともと、上昇志向があって、なにがんでも音楽でのし上がってやるみたい野心があってこうなった人じゃないでしょ。デビュー作の「Analogue Bubblebath」なんか、レーベル側の話が長くなるのが面倒で、出して良いよって言ったそうだし。この人の原点ってやっぱり「Analogue Bubblebath」だな、ってつくづく思いますね。今回の『Blackbox~』を聴いても。やっぱ、あそこに行くんだな、と。


Analogue Bubblebath(1991)*ジャケットは94年の再発盤。三田さんはリアルタイムで買ったオリジナル盤を所有しているんだよなぁ。

S:稼いだ「お金」を上手く使って新しいことや楽しいことに繋げてるって信じたいですね。デイヴ・グリフィスとAI合成ソフト「samplebrain」作ったりしてますし。リチャードは、このソフトの可能性について「泡立った泥の音とTB303のかけあわせたり……」って発言してるのですが、やはりリチャードってポコポコした音とか、グニャグニャした音とか、そういう方向をいまだに純粋無垢に追求して楽しんでるという。

N:あと、間の抜けた人の声とかね(笑)。

S:ですね(笑)。で、つまり(エイフェックス・ツインは)新しい技術も使って、シンセも買っているわけですよね。「新しいことを探求する余地がない」と言いながらも、たぶん面白そうなものがあったら無垢に使って楽しんで、変な音が出たら次の曲に使ってみよう、とやっていること自体、新しいことではないかもしれないですけど、今日もまた新しい音を作って面白がってるじゃん、というのは枯渇しているようにはとても思えない。最高に楽しそうだな、っていう感じですよね。(今回のジャケットにも)リチャードの顔がまた埋め込まれてるとか……初心を忘れない(笑)。

N:本人もやっぱ意識してるみたいなんですよね、笑いを取るっていうのは。

S:でも、自分のギャグに拘って、いちばん笑ってるのが自分、じゃないのかな(笑)。等身大の個人的な笑いだから、聴いてる我々も子どもに帰れるというか。そうそう今、お仕事でご一緒している「松田直」さんって、サウンドエンジニアの方と、音楽のお話をするのですが。エイフェックス・ツインについて話したことがあったんです。メジャーではSKI-HIさんのミックスをしたりしながら、ご自身はフランソワ・ケヴォーキアンなどの音作りを研究してて、めちゃくちゃ詳しいという、音作りのエキスパートの方なんですけどね。で、その方が言うには、Amigaという昔のコンピュータのトラッカーソフトウェアのサウンドの美味しいニュアンスをリチャードは使っている。しかも、絶妙にAmigaやCommodore64というような昔のパソコンの音をを工夫して使っているんじゃないかとおっしゃってて(笑)。『Syro』のリストにはAtariってコンピュータの記載があったんですけどね。その辺、リチャードには音作りの秘伝のタレみたいな技法があって、AmigaやAtariにいろいろぶっ込んだやつをまたCASIOとかAkaiの古いサンプラーに入れたり、AIで歪んだドラムサウンドをかけ合わせたり、なんかいろいろなことをやってるんじゃないかと。機材リストは晒すけど、料理の仕方が特殊だから、みんな本人の音に辿り着けない。ゲームの裏技を教えてくれない友だちみたいなもんですね(笑)。

N:ははは。教えてくれないよねえ。『Selected Ambient Works 85-92』の頃も、最古の曲が本当に14歳の頃の曲なのか、という疑問もあったし(笑)。14歳で作りはじめたのは間違いないだろうけど。まあ、リチャードの音楽は飽きないところがすごいよね。聴くたびに発見がある。前聴いたときにはベースがよく聴こえたんだけど、新しく聴くとドラムが……。というような。


Selected Ambient Works 85-92(1992)*昨年はリリース30周年の名作。

S:ひとつひとつの音にも、音と音の間にも、凹凸感があるんですよね。ハードウェアや古いデジタルサンプリング機器を使うことで、たくさんのデジタル・アナログ変換が行われているのが凹凸感にも繋がっている。パソコン完結だけだと荒っぽい凹凸になりにくいんですよね。『Drukqs』のころはちょっとPC完結の感じもありましたけど、またすぐに戻っていって。パソコンだけで合理的に音楽を作る人がこれだけ増えたことによって、アンチテーゼとして昔の時代のテクノロジーによるアナログや古いデジタル機材を扱う故、結果的にエイフェックスの音が差別化されちゃった、という印象です。安い機材を面白く使ったり、センスの良くリズムを組んだり、音遊びで空間を作ったりという意味だったら、最近のアフリカの若い子とかはカッコいいビート・ミュージックを作っていますけど、音の深みみたいな方向がリチャードとは全然違っていて。その差が面白い。どっちも好きなんですけどね(笑)。リチャードは、センスもスキルも円熟している印象があります。

N:深いですねぇ、リチャードの世界は。フィリップ・グラスが “Heroes”を手がけたとき、なんかのインタヴューで「なんでエイフェックス・ツインにリミックスを依頼したんですか」と訊かれて、「彼の音楽は私にはまったく理解できないからだ」と答えたのね。そう言えてしまう、フィリップ・グラスもすごいんだけど。普通、クラシックから来ているような人って理解できないものは却下しちゃうから。で、たしかにリチャードには、いまだにその「理解できない」ところがあるからね。それもまたすごい。


〈8月3日追記〉

N:この対談の後、作品がリリースされ、いくつかわかってきたことがあるので軽く追加しましょう。まず、QRコードからダウンロードした「YXBoZXh0d2lu」というアプリを使って、実物のジャケットをスキャンすると、立体が飛び出してきて、いろいろ楽しめるということ。これはぜひトライして欲しい。フィジカルを買う楽しみというものがある。それから、MVが公開されたことで今回の “Blackbox Life Recorder 21f”が、どうやら亡くなったリチャードのご両親に捧げられている曲ではないかということ、曲名もそのことにリンクしているのかもしれないね。

S:「Girl/Boy ep」のときも彼の兄弟へのパーソナルなメッセージ性があったと思いますが、表現の仕方が進化してますよね。彼の曲の成熟度は、リチャードのスキルを体現するセンスや彼の人間性も物語っていて、個人史と交差する際に、こんな見せ方ができるのかと思いましたね。

N:それゆえに、ピースなフィーリングをもった曲になったのかもしれないね。

S:彼のフォーリングは、異常気象に代表される社会不安や、ありがちな「暗さ/終わり」を超えていると思います。エイフェックス・ツインの表現は、ユーモアを介していて、その上で有機的な方向性を帯びてますよね。ネット時代では「暗さ」や「死」の引用が氾濫しているし、それゆえリチャードの行為はより深さを増しているというか、家族への想いをシンプルに表現することの深さも痛感します。

N:可笑しさもありつつも、慈愛のこもった曲というかね。リチャードのお母さんの声は、 “Come to Daddy”の「Mummy Mix」で聴けますね。 ところで「YXBoZXh0d2lu」ですが、まだまだなんかあるかもしれないっていう噂がありますね。あくまでも噂ですが……。ということで、まだまだ続きがありそうな夏のAFX祭り、楽しみましょう。

Maceo and All The Kingsmen - ele-king

interview with YUKSTA-ILL - ele-king

 1982年生まれ、三重県鈴鹿市在住のラッパー、YUKSTA-ILL(ユークスタイル)を知らずして、東海地方のヒップホップとその歴史について語ることはできない。彼は00年代後半からいままでブレることなくコンスタントに作品を発表し、そのたびに全国をツアーで回っている。以下のインタヴューでは、東京、大阪、名古屋などの大都市ではない地域でアンダーグラウンドな音楽をつづけることの困難とそれを乗り越えてきた経験の一端が語られる。

 YUKSTA-ILLは00年代後半にはヒップホップとハードコアが独自に深くつながる名古屋、東海地方のストリート・カルチャーの土壌が生んだ突出したラップ・グループ、TYRANTの一員として活動。その後、15、16年に『WHO WANNA RAP』とそのリミックス盤『WHO WANNA RAP 2』という決定的な作品を発表した大所帯のクルー、SLUM RCに参加。個性豊かな面々が混じりけのないラップの魅力で競い合う美しさにおいて日本語ラップ史に残る2枚のアルバムだ。TYRANTとSLUM RCは、「日本語ラップ史」における重要度に比してあまりに評価が追いついていないと言わざるを得ない。が、YUKSTA-ILLについて語るべきことはそれだけではない。

 YUKSTA-ILLのラップの特異性は、「どんな奇妙で変則的なビートでもラップしてやろう」という好奇心と冒険心から生まれている。日本でこれだけラッパーが増えた現在でも、YUKSTA-ILLのような、ブーム・バップとトラップの二元論やトレンドに囚われない冒険心を持つラッパーというのは少数派だ。ダニー・ブラウンが風変わりとされ、唯一無二であるように。良くも悪くも、一般的にラッパーは、その時代のトレンドの形式や様式のなかで個性やスキル、人生経験を競い合うものだ。すでに約10年前、ビートメイカー、OWLBEATS『? LIFE』(12)におけるYUKSTA-ILLのラップは、まさにele-kingのレヴューにおいて、実験的なエレクトロニック・ミュージックの観点からも驚きをもって評されている。

 だから、YUKSTA-ILLが今年4月に発表した通算4枚目のアルバム『MONKEY OFF MY BACK』は、“オルタナティヴ・ヒップホップ” と言えよう。彼がこれまでリリースしたファースト『questionable thought』(11)、セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』(17)、サード『DEFY』(19)がそうであったように。彼はアルバム以外に、盟友=ATOSONEとの12分間の実験作品『ADDICTIONARY』(09)、KID FRESINOやPUNPEE、16FLIPら東京のビートメイカーとの共作EP『tokyo ill method』(13)、あるいは、『MINORITY POLICY OPERATED BY KOKIN BEATZ THE ILLEST』(15)や『ABYSSS MIX』といった自身の楽曲などを仲間のDJがミックスする作品を残している。後者のミックスは、YUKSTA-ILLの未発表曲、リミックスなどとアメリカのラップを混ぜてミックスしていくDJ BLOCKCHECKの手腕によって、YUKSTA-ILLの多彩なフロウがいかにグルーヴィーであることを伝えている。

 本作では、呪術的なムードが漂う “DOUGH RULES EVERYTHING”、ジャズのドラムロールの一部をループしたような騒々しいビートでCampanellaとスキルを競い合う “EXPERIMENTAL LABORATORY(その名も「実験室」)” の2曲が象徴的だ。両者ともOWLBEATSのビートだ。その他にMASS-HOLE、KOJOE、ISAZ、UCbeatsのビートがある。さらに、山口のラッパー、BUPPONとの “BLOOD, SWEAT & TEARS” はいわば “ローカルからの逆襲” である。このふたりが、あのtha boss(THA BLUE HERB)と共作した “HELL'S BELLS”(『IN THE NAME OF HIPHOP』)の続編としても聴ける。

 今年41歳になる彼は自主レーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を立ち上げ、最新作をそこから出した。音楽を、表現をつづけることが闘いなのだと言わんばかりに。ライヴで渋谷にやってきたYUKSTA-ILLに話を訊いた。

YUKSTA-ILL - BLOOD, SWEAT & TEARS feat. BUPPON

工場が多くて、トラックもめちゃめちゃ多い。物流が産業の中心だから、東北や九州から来た出稼ぎの労働者の人も多くて、そういう人がお店やクラブに迷い込んでくることもあるんですよ。

4年ぶりのアルバムですね。この数年間はどう過ごしていました? コロナもあったじゃないですか。

YUKSTA-ILL:前のアルバム『DEFY』を2019年2月に発表してから約1年はツアーを回っていましたけど、2020年の年が明けてほどなくして世の中コロナになってしまって。ライヴが決まっていても、緊急事態宣言やまん防(新型コロナウイルス感染症まん延防止等重点措置)で延期か中止になるからライヴに向けてのモチベーションが保てなくて。そのころNYの街もロックダウン中で、当時はまだ現地にいたSCRATCH NICE、GRADIS NICEから届いたビートで、『BANNED FROM FLAG EP』(20)を作って。それからは、水面下で曲は作り続けていましたけど、三重からはあまり出なかったですね。近くの公園にバスケのゴールができたから、早朝にバスケして、散歩してるおじいちゃん、おばあちゃんと戯れて、帰って午前中からリリックスを書いたりしてました。

マイペースにやっていたと。

YUKSTA-ILL:アルバムを出したら、曲を引っ提げて全国を回りたいじゃないですか。『NEO TOKAI ON THE LINE』のときはOWLBEATSと、『DEFY』のときはMASS-HOLEといっしょに全国を回りました。俺は、フル・アルバムを出すというのはそういうことだと思っていますから。『BANNED FROM FLAG EP』を出したあとも、三重以外でも呼んでくれる土地には行きましたけど、中止や延期の可能性も高かったから自分からはアプローチはしなくて。心置きなくライヴをできるまではアルバムを出すタイミングじゃないと思っていましたね。

ライヴをやってナンボですからね。

YUKSTA-ILL:ホントそうなんですよ。だから、とりあえず曲を作り溜めてそれから考えようと。

たとえば、“JUST A THOUGHT” の冒頭の「時として なんなら飛び込みてぇ/脱ラッパー宣言 『例えば』とか『もし』の視点」っていうリリックはコロナ禍での鬱積した気持ちの表れなのかなと。

YUKSTA-ILL:田舎は人が落ち着くのが早くて、まだ若いのにクラブやライヴ・ハウス、遊ぶ場所に来なくなる人も多いんですよ。名古屋や東京のような都会では、年齢層高めでも遊んでいる人が多いじゃないですか。そういう都会に行くと、ずっとやってるヤツ、ギラついているヤツにも会って自分のマインドを保てるけど、田舎はそうじゃないから。それに追い打ちをかけるようにコロナも流行して、俺自身も三重にこもりっきりになって、プライヴェートでもいろいろあって、そういうなかから出てきたリリックスですね。ラップを辞めるつもりはないですよ(笑)。ただ、やっぱり人生についていろいろ考えるじゃないですか。だから、「『例えば』とか『もし』の視点」と書いているし、曲の最後は、「どこまで行こうとも根本 芯はDEFY」と締めている。『DEFY』は前のアルバムのタイトルで、「ブレない」「確固たる」という意味。そこに最後は戻るという構成になっている。アルバムのなかでいちばん早い段階ぐらいでできた曲ですね。

リリックで面白かったといえば、“DOUGH RULES EVERYTHING” の「金だ金だ金だ金だ金だ」っていうフックの反復ですね。

YUKSTA-ILL:これは、J・コールが金について歌った “ATM” っていう曲のオマージュなんですよ。J・コールとゴタゴタがあったリル・パンプへのアンサー・ソング(“1985”)があるじゃないですか。あの曲と同じく『KOD』に入っていますね。フックで「Count it up, Count it up」ってくり返す箇所が「金だ金だ」に聴こえるし、意味としても「金を数える」だからサンプリングしたんです。俺のフックの「あの世に持って行けんけど/ないと生きていけん」というリリックも、その曲の「Can't take it when you die, But you can't live without it」の和訳なんですよ。

J. Cole - ATM

なるほど、そうだったのか。ユークくんは、J・コールについて前回のインタヴューでも語っていましたね。やはり好きなラッパーのひとり?

YUKSTA-ILL:J・コールはカッコいいと思いますね。J・コールは、バスケへの愛があるし、プロのバスケ選手にもなったじゃないですか(バスケットボール・アフリカ・リーグのルワンダのチーム「Patriots」に一時所属、試合への出場も果たした)。ラップのリリックスにもそういうのを盛り込んでくるんですよね。だから、俺も無条件にフィールしている。『The Off-Season』(2021年)のアルバムのジャケでもバスケット・ゴールが燃えているし。それと、J・コールの出身地のノースカロライナ州はアメリカの田舎なんですよ。そういうローカルな感じも好きですね。

ユークくんはアメリカのどこに住んでいたんでしたっけ?

YUKSTA-ILL:ペンシルベニア州のポコノですね。フィラデルフィアやニューヨークに近い山地で避暑地みたいな場所です。子どものころに4年ぐらい住んで、現地の学校に通っていました。日本人は俺と妹しかいなかったですね。物価が安いからポコノに住んでNYに出稼ぎに行く労働者も多かったみたいだし、黒人の人も多くて、クール・G・ラップやDMXのリリックにもポコノの名前が出てくる。だから、なおさらヒップホップにのめり込みましたね。

ということは、ラップはアメリカで始めたんだ。

YUKSTA-ILL:高校生のころ、ポコノの地元のヤツらがラップをはじめて、俺もそこに交じった感じです。クルーとまでは言えないけど、集団になって。で、そのなかのひとりの父ちゃんがビートを作っていて、アメリカによくあるベースメント、要は地下室をスタジオにしていたんです。そこにみんなで集まってやっていましたね。

最初は英語でラップしていた?

YUKSTA-ILL:いや、それが日本語でやるんですよ(笑)。一時帰国したときに、ちょうど “Grateful Days”(1999年)がオリコンで1位になっていたんです。しかも当時、ヤンキーもFUBU(90年代のヒップホップ・ファッションを代表するブランド)とか着ていたじゃないですか。それで、「日本でもヒップホップが来てるのか! ヤベェ!」って興奮したんですけど、周りのヤツらに話をよくよく聞いてみると、音楽は浜崎あゆみを聴いていると。俺はそれぐらい日本の事情を何もわかっていなかったから。いまだから言えますけど、自分でリリックを書きはじめる前は、“Grateful Days” のZEEBRA氏のヴァースを向こうのヤツらの前でキックしたりしていました(笑)。すると向こうのヤツらも「こいつヤベエよ! ライムしてるぜ!」ってなって。

はははは。いい話。

YUKSTA-ILL:あと、『THE RHYME ANIMAL』(ZEEBRAのファースト・アルバム/98)の “I'M STILL NO.1” のヴァースもやりましたね。そうそう、フォースM.D.'Sっているじゃないですか。そのうちのひとりがポコノで服屋をやっていたんですよ。そこに遊びに行って、「俺、ラップするんだよ」ってラップをやってみせたりしていました(笑)。もちろん、その後はちゃんと自分で日本語でリリックを書くようになりますね。

ポコノには、日本人が他にいなかったということでしたけど、差別も厳しかったですか?

YUKSTA-ILL:まあ、どこ行っても差別みたいのありましたね。車でモールに行って買い物して帰って来たらタイヤの空気が抜かれていたり。アジア人だからってそういうことはありましたよ。俺、中学生のころはバスケ部だったし、向こうにはコンビニ感覚でゴールがあるからとうぜんやっていたんです。ちょうど(アレン・)アイバーソンが登場して活躍しはじめる時代です。そのアイバーソンの必殺技にクロスオーバー・ドリブルっていうのがあって。俺はそのドリブルを中学生のころに習得していたから、アメリカでもそれをかましたら、向こうのヤツらがぶち上がっていましたね(笑)。

それでリスペクトをゲットしたと。

YUKSTA-ILL:そうそう。それでリスペクトを得て打ち解けていったのはありましたね。そもそも俺は、バスケからヒップホップに入ったんです。アイバーソンが出てきて、バスケとヒップホップがリンクしているのを知ってヒップホップに興味を抱いた。今回のアルバム・タイトルの『MONKEY OFF MY BACK』もよくスポーツ選手が使う諺みたいな言葉で、「肩の荷を下ろす」とか「苦境を脱する」みたいな意味合いで、“FOREGONE CONCLUSION” の最後で、この言葉を使うコービー(・ブライアント)のインタヴューをサンプリングしているんですよ。

なるほど。

YUKSTA-ILL:当時、日本のバスケ雑誌にも、毎月1ページだけ、ヒップホップのアーティストが紹介されるコーナーがあって。アメリカにいるときに、日本から雑誌を取り寄せてもらって、そのコーナーを隅から隅まで読み込みましたね。1回目がZEEBRA氏、2回目がDEV LARGE氏、3回目がK DUB SHINE氏で、4回目がYOU THE ROCK★氏でした。その雑誌を読んで、日本にもヒップホップがあるのを知ったぐらいですから。

00年に、ナイキのキャンペーンで、ZEEBRA、DEV-LARGE、TWIGYの3人がバスケットをテーマにした “PLAYER'S DELIGHT” を作っていますよね。

YUKSTA-ILL:ありましたね。

[[SplitPage]]

DJをやるようになって、ライヴに行った先々の土地でレコードを買う楽しみができて、ヒップホップの新譜のLPをDJでかけたいから買うようになりました。

ところで、今回の作品は、自身の自主レーベル〈WAVELENGTH PLANT〉の第一弾リリースじゃないですか。このタイミングで自分のレーベルを作ろうと思ったのはなぜですか?

YUKSTA-ILL:自分の地元の三重の鈴鹿・四日市を色濃く形作るためにはやっぱりレーベルを立ち上げてやった方がいいと思ったんですよね。

ピッチダウンさせたソウル・ヴォーカルをループしているような “TBA” を作っているUCbeatsさんはユークくんの地元・鈴鹿のビートメイカーなんですよね。

YUKSTA-ILL:そうっすね。地元の鈴鹿・四日市の現場にも20代前半ぐらいの若いヤツらも増えましたけど、UCbeatsは、俺とその若いヤツらのあいだぐらいの世代ですね。UCbeatsは、鈴鹿にあるゑびすビルという複合ビルに〈MAGIC RUMB ROOM〉というスタジオを持っていて、自分もそこにいたりしますね。〈KICKBACK〉(三重県のハードコア・バンド、FACECARZのヴォーカルのTOMOKIが営む洋服屋)もあって、2階が〈ANSWER〉っていうライヴ・ハウスです。もともとヤマハ楽器のビルだから防音の扉もしっかりしているんです。

YUKSTA-ILL - TBA

〈WAVELENGTH PLANT〉というレーベル名はどこから?

YUKSTA-ILL:WAVELENGTHには「波長」とともに「個人の考え方」という意味があり、さらに、鈴鹿・四日市は工業地帯だからPLANTと付けました。ロゴは四日市コンビナートと、波形データをイメージしてデザインしてもらいました。

鈴鹿や四日市はどんな町なんですか。やはり労働者の町?

YUKSTA-ILL:そうですね。工場が多くて、トラックもめちゃめちゃ多い。物流が産業の中心だから、東北や九州から来た出稼ぎの労働者の人も多くて、そういう人がお店やクラブに迷い込んでくることもあるんですよ。だから、仕事を選ばなければ仕事はあって職には困らない地域とも言えます。で、鈴鹿の隣町の四日市が三重ではいちばん栄えている町で、そこに〈SUBWAY BAR〉というクラブがあるんです。

そこが、地元の活動の拠点なんですね。

YUKSTA-ILL:そうですね。今日バックDJとして(渋谷に)来てくれてるキヨシローっていうヤツが〈TRUST〉ってパーティをやっていて。俺がライヴをやるときもあれば、「レコード持って行っていい?」ってDJやりに行く回とかもあるんですよ。コロナ前に1982S(YUKSTA-ILL 、ISSUGI、仙人掌、Mr PUG、YAHIKO、MASS-HOLEの1982年の6人から成るヒップホップ・グループ)が中目黒の〈SOLFA〉でDJオンリーのパーティをやるときに、MASSくんから「DJできる?」って声かけられて、そこで初めてDJしました。

ああ、そうだったんですか。

YUKSTA-ILL:今回のアルバムのCDの特典に、DJ 2SHANの『BLUE COLOR STATE OF MIND』ってミックスCDを付けているんですけど、そのDJ 2SHANは四日市で〈RED HOUSE〉っていうレコ屋をやっている。レコードでDJする彼にDJを教えてもらって、本番に臨みましたね。MASSくんも悪い男だから、俺は初めてのDJなのにメインフロアの1時ぐらい、しかも16FLIPのDJの前に組まれて(笑)。この世のDJの皆さんには謝りたいぐらいですけど、つなぐだけで盛り上がってくれてほっとしました(笑)。DJをやるようになって、ライヴに行った先々の土地でレコードを買う楽しみができて、ヒップホップの新譜のLPをDJでかけたいから買うようになりました。和歌山にラッパーのSURRYくんがやっている〈Banguard〉っていうお店があるじゃないですか。

おお~、SURRYくん! わかります。

YUKSTA-ILL:嫁の地元が和歌山で、〈Banguard〉にも行く機会が増えて。あのお店はヒップホップのみならずレコードの品ぞろえがいいんですよ。それで行くとテンションが上がって、行くたびに何かを買って帰るようになりましたね。DJをやるようになってから新しい視点が加わりましたね。“JUST A THOUGHT” の「まるでレコードの溝 はみ出るニードル 対応には全神経集中する肉眼を駆使」とかは前の俺からは出てこないリリックスですし。DJをちゃんとやっている人にたいして、俺なんかが大それたことは言えないですけど、楽しみが増えたって感じです。ソウタ(ATOSONE/RC SLUM主宰/ブランド「Comma Violeta」のオーナー)もたまに「〈COMMON〉(ATOSONEが名古屋にオープンしたGallery&Bar)でDJしないか?」って誘ってくれますし。

三重のヤツらは才能があるのに発信しようとしないヤツらも多いんですよ。だから、〈WAVELENGTH PLANT〉では、若くてやる気はあるけど、右も左もわからないヤツをサポートしたい。

DJは楽しいですよね。音楽との関わり方のチャンネルがひとつ増えますよね。ユークくんの周りにはお手本になる良いDJがたくさんいるんじゃないですか。今回のアルバムでもビートを2曲手掛けているISAZもミックスCDをコンスタントに出していますし、ぼくは彼のミックスCDがすごく好きで。

YUKSTA-ILL:ISAZのビートは軽やかですよね。あと瞬発力がある。じつは今回のアルバムは作り溜めてきたものをいろいろ調整して作り上げたんです。KOJOEくんが大阪にいたときにいっしょに作品を作っていたんですけど、その途中で沖縄に行っちゃったんで(笑)。

KOJOEさんは、東京、大阪に〈J.STUDIO〉という音楽スタジオを作って、東京はMONJUに、大阪はTha Jointzに任せて、さらにスタジオを作るために沖縄の那覇に移住したんですよね。

YUKSTA-ILL:そうなんです。KOJOEくんもいろいろプロジェクトを抱えている人なので、俺の考えるペースではアルバムが出ないと判断してスウィッチを切り替えて。KOJOEくんとのプロジェクトはいずれなんらかの形で発表するとして、俺のフル・アルバムをまず出そうと。それで、KOJOEくんに了承を得て、KOJOEくんと作った曲からピックアップして、今回のアルバムに収録した。ただ、KOJOEくんのビートをそのまま使っているのは2曲だけで、ほとんどビートは差し替えました。すでにREC済みのアカペラをビートメイカーに送ってビートを作ってもらって、送り返してもらって、さらにラップを録り直してブラッシュアップしていった。だから、けっこう迷走した時期もあって。俺はフル・アルバムを出すときにはやい段階でタイトルやコンセプトを決めて作っていくんですけど、今回は溜まった曲を並べていった。そうしたら、ぜんぜんまとまりがなくて、ISAZの2曲は、アルバムがじょじょに肉付けされていくなかで、アルバムに足りない部分を加えた曲だった。いままでと違う作り方をして完成させることができたのは新しい経験でしたね。

そもそもユークくんとKOJOEさんとの出会いっていつですか?

YUKSTA-ILL:KOJOEくんが2009年にアメリカから帰国してからの付き合いなんで長いんですよ。KOJOEくんが帰国して最初のライヴは〈MURDER THEY FALL〉(1998年に第1回が開催された東海地方のハードコア、ヒップホップ、ストリート・カルチャーを象徴する重要イヴェント)で、自分はそこにTYRANTとして出演していたんです。それからじょじょに親しくなっていった。仲が良いからこそ、KOJOEくんからは厳しく言われますね(笑)。

“TIME-LAG” はKOJOEさんのビートですが、ベースラインがカッコいいですね。

YUKSTA-ILL:いいですよね。WELL-DONE(大阪を中心に活動するクルー、Tha Jointzのラッパー) との “GRIND IT OUT” は、俺がTha Jointzのみんなも出てる大阪のイヴェントに行ったときにやることになった曲です。まだKOJOEくんも大阪にいました。ただ、KOJOEくんのビートをOWLBEATSのものに差し替えていますね。

OWLBEATSさんも精力的に活動していますよね。〈OILWORKS〉から出した『ON-SHOCK』も今年出した『BAN-ZOK-HEADZ』も素晴らしかった。

YUKSTA-ILL:鹿児島出身のOWLBEATSとも古いです。OWLBEATSはファースト・アルバム『? LIFE』を〈RC SLUM〉からリリースしていますけど、その前から、鹿児島や沖縄にはよくライヴで行っていましたし、名古屋や地元以外で、いちばんライヴで行っている土地が鹿児島ですね。というのも、自分たちの周りは昔からハードコアとヒップホップのつながりは強くて、OWLBEATSはLIFESTYLEという鹿児島のハードコア・バンドと仲が良くて、名古屋にいっしょに来ていたんですよ。WELL-DONE も元々ハードコア・バンドをやっていましたしね。OWLBEATSが2015年にOTAI RECORDが主催して〈club JB'S〉で開催したビートメイカーのバトル・イヴェント〈BEAT GRAND PRIX 2015〉で優勝したときは、俺らは誇らしかったですよ。ブレずに自分のスタイルでやり続けていますよね。

“SPIT EASY” にはALCIとGIMENが参加していますけど、すこし前に東京で観たALCIのライヴがめちゃくちゃパワフルでした。

YUKSTA-ILL:ALCIと兄貴のBRUNOの日系兄弟のライヴもすごいですよ。ぜひ観てほしいですね。兄弟だから出せるグルーヴがあって、あれは他のヤツらには真似できないっすね。ALCIはいまは名古屋にいますけど、四日市に2年ぐらい住んでいた。ヤツは、〈SUBWAY BAR〉で「AMAZON JUNGLE PARADISE」ってずっとやっているオープンマイクのイヴェントに三重に住む前から来ていて、ラッパーとしてそこで培ったものは大きいと思います。ALCIのソロ・アルバム『TOKAI KENBUNROKU』でも1曲やっています。でも、三重のヤツらは才能があるのに発信しようとしないヤツらも多いんですよ。だから、〈WAVELENGTH PLANT〉では、若くてやる気はあるけど、右も左もわからないヤツをサポートしたい。今回は自分のアルバムだけど、俺だけのレーベルじゃなくて、地元の他のヤツらにもみんなのレーベルと思ってほしいんです。

Rudeboy The Story of Trojan Records - ele-king

 ジャングル、ダブステップ、グライム……UK音楽を特徴づける要素のひとつにベースがあることはよく知られた話で、そのベースがジャマイカから来ていることも言わずもがなであるが、では、具体的にはそれがどうやってとなると、意外とよくわかっていなかったりするし、レゲエの白人層への拡大に白人労働者階級のスキンヘッズが一役買っている話も、その詳細までは知らなかったりする。
 映画『ルードボーイ』と言われれば、多くのパンク・ファンは「おお、ザ・クラッシュの映画ね」と来るのだろうが、今回上映される『ルードボーイ』は、それとは決して無関係ではない別の映画。1960年末にUKで生まれたレゲエ・レーベル〈トロージャン〉の物語であり、同時にジャマイカの音楽がいかにしてUKに伝わり広がったのかという物語である。これ、最高に面白いです。
 
 まず、以下の言葉のなかで3つ以上に反応する人は必見。
 スキンヘッズ、モッズ、パンク、2トーン、スカ、ロックステディ、レゲエ、サウンドシステム、UKサブカルチャー。
 あるいは以下の曲のなかで3つ以上、好きな曲がある人も必見。
 Desmond Dekker & the Aces “007 (Shanty Town)” 、Ken Boothe “Everything I Own” 、The Maytals “Pressure Drop” 、Bob & Marcia “Young Gifted & Black” 、The Upsetters “Return Of Django”、Desmond Dekker “You Can Get It if You Really Want” 、John Holt “Ali Baba” 、Dandy Livingstone “Rudy, a Message to You” 。
 あるいは、以下の人物の現在の生身の姿を見たい人も。
 マーシャ・グリフィス、バニー・リー、ポーリーン・ブラック(ザ・セレクター)、ケン・ブース、ダンディ・リヴィングストーン、デリック・モーガン、ネヴィル・ステープル(ザ・スペシャルズ)、ロイ・エリス……。リー・ペリーも颯爽と登場しております。(グライム・ラッパーのケイノも出演しています)
 
 以上です。今週末からロードショー。

『ルードボーイ:トロージャン・レコーズの物語』

監督:ニコラス・ジャック・デイヴィス
撮影:ジョナス・モーテンセン 編集:クリス・デュベーン

出演:ロイ・エリス、リー・スクラッチ・ペリー、デリック・モーガン、ポーリーン・ブラック、ドン・レッツ、ケン・ブース、トゥーツ・ヒバート、ザ・パイオニアーズ、マルシア・グリフィス、バニー・リー、キング・エドワース、ダンディ・リヴィングストン、ロイド・コクソン、ネヴィル・ステイプル、デイヴ・バーカー


2018/イギリス/英語/85分/DCP
原題:Rudeboy The Story of Trojan Records
日本語字幕:上條葉月
配給:ダゲレオ出版(イメージフォーラム・フィルム・シリーズ)
http://www.imageforum.co.jp/rudeboy

2023年7月29日より
シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443