「KING」と一致するもの

interview with Matthew Herbert - ele-king


Matthew Herbert
A Nude (The Perfect Body)

Accidental/ホステス

ElectronicNoiseExperimental

Tower HMV Amazon

人間が生きていくうえで、不可避的に身体が立ててしまう音=ノイズを用いて音楽を創ること。マシュー・ハーバードが新作で実践したコンセプトである。起床から睡眠まで。体を洗い、何かを食べ、トイレにゆく。それらの音たちは、極めて個人的なものであり、必然的に人間の「プライベート/プライバシー」の領域問題を意識させてしまう過激なものでもある。いわば音/音楽による「裸体」?

 そう、マシュー・ハーバートが新作で実践したこのコンセプトは、「音楽」における「裸体」の概念を導入する、という途轍もないものなのだ。むろん、いうまでもなく「映像」と裸体の関係はつねに密接であった。ファッションフォトであっても、ポルノグラフィであっても同様で、いわばジェンダーとプライバシーの力学関係が複雑に交錯する「政治」空間であったともいえるだろう(政治とは力学である)。同時に芸術においては「裸体」は、普遍的ともいえる主題でもあった(ヴィーナスから村上隆まで)。裸体、それはわれわれの知覚や思考に対して、ある種の混乱と、ある種の意識と、ある種の美意識と、ある種の限界を意識させてしまうものなのである。

 では、映像が欠如した「音楽」のみによる「裸体」の表現は可能なのか。ハーバートは身体の発するノイズ、そのプライベートな領域にまでマイクロフォンを侵入させ、それを実現する。急いで付け加えておくが、それは単なる露悪趣味では決してない。そうではなく。そうすることで、人間の身体のたてる音=ノイズを意識させ、聴き手にある自覚を促すのである。われわれは、何らかに知的営為を行う「人間」であるのだが、同時に日々の生存をしていくために「動物」として音を発する。これは極めて当たり前の行為であるはずなのだが、われわれの社会は「人間」が「人間」であろうとするために、その動物性を綺麗に隠蔽する。

 彼は、2011年に発表した『ワン・ピッグ』において、一頭の豚の、誕生から食肉として食べられるまでの音を再構築(サンプリング)し、「音楽」としてリ・コンポジションしていくことで、われわれの視界から隠蔽される食肉の問題を「意識」させたが、本作においてハーバートは「身体の発する音」を極めて美しいエクスペリメンタル・ミュージックへと再生成することで、われわれが発する「音」(動物的な?)のありようを「意識」させていくのだ。映像から切り離された音たちは、ときに自律性を発しながらも、ときに音それじたいとして主張をし、ときに元の状態がわからないサウンド・エレメントに生成変化を遂げたりもする。だが、それでも聴き手は「この音は、生活していくうえで、生物としての人間が、ごく当たり前に発する音」だと意識せざるを得ない。ハーバートが求めるものは、それである。「意識していないものを意識させてしまうこと」。それこそがサンプリング・アーティストとしての彼が「社会」に仕掛けていく「革命」なのではないか。

 しかし同時に、本作に収録された「音楽」たちが、とても美しい点も重要である。彼はまずもって才能豊かな音楽家だ。とくに本作のディスク2に収録された楽曲を先入観抜きで聴いてほしい。OPNやアンディ・ストットに匹敵するインダストリアル/アンビエントが展開されている、といっても過言ではない。だが、この美しいエクスペリメンタル・ミュージックたちは、ときに人間の排便の音で組み上げられているのだ。ハーバートは「ボディ」(ある女性とある男性だという。そしてハーバート自身の音は入っていない)の発する音の群れと、「音楽」のセッションを繰り広げているというべきかもしれない。

 今回、マシュー・ハーバートから本作について、社会について、興味深い言葉を頂くことができた。サンプリングが社会的な行為であり、同時に破壊でもあるとするなら、本作は、いかなる意味で「音楽」といえるのか。このインタヴューは、衝撃的な本作を聴く上での最良の補助線になるだろう。このアルバムを聴き、このインタヴューを呼んだあなたは、もはや「自分の発する音」に無自覚ではいられなくなる。

■Matthew Herbert / マシュー・ハーバート
1972年生まれ。BBCの録音技師だった父親を持ち、幼児期からピアノとヴァイオリンを学ぶ。エクセター大学で演劇を専攻したのち、1995年にウィッシュマウンテン名義で音楽活動をスタートさせる。以降、ハーバート(Herbert)、ドクター・ロキット、レディオボーイ、本名のマシュー・ハーバートなどさまざまな名義を使い分け、次々に作品を発表。その音楽性はミニマル・ハウスからミュジーク・コンクレート、社会・政治色の強いプロテスト・ポップに至るまでジャンル、内容を越え多岐にわたっている。また、プロデューサーやリミキサーとしても、ビョーク、REM、ジョン・ケール、ヨーコ・オノ、セルジュ・ゲンズブール等を手掛ける。2010年、マシュー・ハーバート名義で「ONE」シリーズ3作品(One One, One Club,One Pig)をリリース。2014年には4曲収録EPを3作品連続で発表。2015年には名作『ボディリー・ファンクション』『スケール』を彷彿とさせる全曲ヴォーカルを採用した『ザ・シェイクス』をリリースし、来日公演も行った。

世界をいまのままの状態で受け入れることに歯止めをかけるために。大切なもののために。闘い始めるために。探したのは逸脱したサウンドだ。

どうして、このようなコンセプトでアルバムを作ろうと考えたのですか?

MH:僕が考えていたのは、まず、サウンドを使って「世界を変えたい」ということだった。いま、世の中は間違った方向に進んでいると思う。だから僕は、それを変えたい。もしくは衝撃を与えたい。ただ、人にショックを与えて終わりではなく、みんなの考え方や受け止め方をそれによって変えることができればとも思っている。そして僕らが人生を送っていく上でのありきたりのパターンを混乱させるんだ。世界はすごい勢いで、どんどんおかしなことになっているからね。ドナルド・トランプしかり、ファシズムの台頭しかり、気候の変化しかり、核兵器しかり。僕らは、いまの自分たちのあり方を急いで変える必要があると思う。というわけで僕は予定調和を壊すようなサウンドや発想を探し求めた。世界をいまのままの状態で受け入れることに歯止めをかけるために。大切なもののために。闘い始めるために。探したのは逸脱したサウンドだ。たとえば、ショッキングだったり、不快だったり、あるいは耳馴染みがなかったり、奇妙だったり、そういう感覚を促す音だ。それは何だろう? と考えたとき、思い至ったのが自分自身の音、できれば聞きたくない音だったんだ。他人がトイレに行く音とか、そういう聞きたくない音に耳を向けていく。あ、そういえば日本には、自分の「その音」を、ほかの人が聞かなくて済むように音を隠すシステムがあるよね(笑)?

はい(笑)。

MH:他人が大便をする音なんていうのは誰も話題にはしない。誰もがやっていることなのに、それってすごく不思議だよね。誰もがすることなのにさ。何も特別なことじゃない(笑)。そんな「誰もがせざるを得ないことなのに」というのが、ひとつの出発点になったんだ。「そうか、僕がまず理解すべきなのは他人の肉体に感じる違和感なのかもしれない」と。そのためには誰か他人の肉体の音を録音してみる必要があるなと考えはじめて、それから何カ月か経ったところで僕は、それは、つまり、「ヌード」ってことだと思い当たったんだ。「裸にむき出しになるということだ、なるほど!」と。まあ、そんな感じで6カ月から8カ月ぐらいかけて発展していった発想なんだよ。ある日、目を覚ましたら急に「そうだ、これをやろう!」とひらめいたわけではない。少しずつ少しずつ、毎日そのことを考えていくうちに、そう、植物のように水をやり続けていたら、ある日、「あ、これってサボテンだったのか!」「あ、メロンがなったぞ!」となるような感覚だね。ここに至るまでのプロセスは、まさに進化の過程だった。

「ボディ」に、つまりは互いの存在に耳を傾け、受け入れる必要があるんだ。突き詰めれば人はみな同じ。女王様だってウンチはするし、カニエ・ウエストだってそう。

日本のトイレの消音システムは「自分の音を聞かれたくない」という感覚なんですよね。

MH:ああ……、だとしたら、それはそのまんまいまの世界がはらんでいる危険性だと思うよ。この資本社会において「もっとも重要な人物は自分である」と思い込まされて人は生かされているんだ。すべて自分が中心。自分自身が、個人が、すべてである、と。でも、それは真実じゃない。人は他人との関わりの中でしか生きていけない。車だってそうだ。僕は自分では作れないから誰かに造ってもらわないと、運転して子どもたちを学校へ送ることもできない。子どもたちに勉強を教えるのも、家族の食べるものを育てるのも、誰かにやってもらわなければ僕にはできない。だったら僕にできることは何か? というと、それは音楽を作ることであり、それが僕なりの社会貢献であり、教えてあげられることというのかな。
でも、それだって聴いてくれる人がいなければできない。とにかく、人はお互いを必要としているし、力を合わせる必要があるんだ。力を合わせなければ、たとえば気候の変化に歯止めをかけることもできない。消費を抑えるとか、移動を少なくするとか、みんなでやらなければ意味がないんだから。行動を共にする必要があるんだよ。そして、そのためには隣人に目を向ける必要がある。お互いに対して、あるいはお互いのために、いったい何ができるのかを考えなければならない。僕としては、このレコードは、そのあたりのことを表すメタファーになっていると思う。「ボディ」に、つまりは互いの存在に耳を傾け、受け入れる必要があるのだ、と。突き詰めれば人はみな同じ。女王様だってウンチはするし、カニエ・ウエストだってそう。みんなやることだ。そこを認めることができたら、人間性を協調させることが可能になるかもしれない。ひいてはそれがより健全な体制を生み出すことに繋がっていくんじゃないかな。

たしかに街中でもヘッドフォンをして周りの音をシャットアウトしている日本人もとても多いです。

MH:でも、それを責めることもできないけどね。だって世の中はどんどん騒々しくなっている。たとえば、これは最近じゃ常套句になってしまっているから僕がここでわざわざ言うのも申し訳ないようだけど(笑)、渋谷の町はその典型じゃないかな。音楽、テレビ、呼び込みの声。「こっちへ来てこれを買え!」という声が店やレストランから流れてくる。何かの統計を見たけど、人間の話す声はこの15年ぐらいで10%ぐらい大きくなっているらしいよ。まわりがうるさいから声を大きくしないと聞こえない。つまりマシーンの音に埋もれないように、人は声を荒げなければならなくなっているらしい。そういう意味じゃ、ヘッドフォンをしたくなる気持ちもわかるよ。あと、それで何を聴いているのかってのもあるよね。もしかしたら「沈黙について」なんていう番組を聴いていたりして(笑)。あるいはノーム・チョムスキーの講義だったりして。そう、何を聴いているのかわからないというのもまた、問題ではある。結局、人と人が繋がっていない、ということなんだから。

いまとなってはもう、ピアノもギターもドラムも僕は聴く必要を感じない。シンセサイザーだってそう。もちろん、それぞれ時と場所によっては素晴らしい音に聞こえるけれども、それが音楽の未来だとは僕は思わない。

「世界を変える」いう意味では『ワン・ピッグ 』(2011)もそうでしたね。豚の誕生から食べられるまでを音にして、聴いている人に「気づかせる」……。

MH:そう。最近、僕は音楽がすごくひとりよがりで無難なものになってしまっていると感じているんだ。いまとなってはもう、ピアノもギターもドラムも僕は聴く必要を感じない。シンセサイザーだってそう。もちろん、それぞれ時と場所によっては素晴らしい音に聞こえるけれども、それが音楽の未来だとは僕は思わない。だからナイトクラブで『ワン・ピッグ 』 を演奏して、あの大音量で聴かせる、というのは僕に言わせれば興味深くもあり、衝撃的でもあり、おかしくもあり、ちょっとバカバカしくもあり、それでいて、ごく真剣なことでもあったわけで。

さて、本作ですが、実際はどのくらいの期間で完成させていったのでしょうか。

MH:僕と「ボディ」とでやったんだけど、レコーディングは2日間かな。2日半ぐらいだったかもしれない。その音源をほかの録音機材に移して、さらに2週間ぐらいかけてあれこれ録音した。というのも彼女がその間にウンチをしなかったから(笑)。それで彼女に録音機を預けておいて、あとで催したときに録ってもらった。それでよかったと思いつつも振り返ると、違うやり方にするべきだったかなとも思ってしまう。もしかしたら最初からボディに録音機材を預けて彼女に委ねてしまったほうがよかったかもしれない。それはいわば画家が絵筆をモデルに預けるのと似た行為だよね。それってかなり斬新な解放であり、彼女にとってはそこから先の責任を自分で負えるわけで。

いま、とても驚いたのですが、本作の「ボディ」は女性だったのですね。

すごく迷ったところなんだけど、ありがちな「白人男性が見つめる女性の肉体」という視点では終わりたくなかった。

結果的にこのレコード上のジェンダーは、レコードから聴こえてくる以上に交錯しているんだよ。

MH:うん。そこはすごく迷ったところなんだけど、ありがちな「白人男性が見つめる女性の肉体」という視点では終わりたくなかった。女性の身体を見つめる、あるいは身体に耳を傾けると特定のイメージが、あらかじめできてしまいそうだから。でもその一方で、僕ではない誰か他人であることも重要だった。男性の「ボディ」にすると皆、単純にそれが僕だと思うだろうし、それだとあまり面白くない。それに僕が自分の身体が発するノイズを自分で録音して発表するのでは、あまりにも内向き過ぎる気がして、つまらないと思った。他人の音を録音する方が、僕には遥かに興味深い。他人という意味で僕と異性である必要があるとも思ったんだ。ただし、彼女には、また別の男性も録音するよう指示を出しておいた。男性のノイズも一部、取り入れるようにと、ね。だから結果的にこのレコード上のジェンダーは、レコードから聴こえてくる以上に交錯しているんだよ。女性の音かと思えば、実は男性の音も入っている。つまり、単体の女性のボディだけではない、ということ。

しかも、ご自身の音は入っていないのですね。私はハーバートさんの音も入っているものと思っていました。

MH:僕は何の音も立てていない。僕のノイズはこのレコードにはいっさい入っていないよ。僕じゃない。彼女は本当に大いなるコラボレーターだったよ。自分がウンチをする音を自分で録音して送ってくれる女性は、そう大勢はいないと思う。僕自身、このプロジェクトに取り掛かる以前は彼女のことを知らなかったんだ。あとオルガズムもそうだよね。あるいは洗い物をしたり、食事をしたり。正反対に眠るという、ものすごく無防備な状態も他人のために録音させてくれるなんてね。本当に彼女はこのレコードの重要な一部だよ。

ヒトの身体、とくに裸体というものに、聴覚だけで対峙するというのは、僕らがこれから検討していくべき使用価値の高いツールなんじゃないかな。

「裸体=ヌード」は、古来から絵画や彫刻などの芸術において普遍的な題材ですよね。しかし同時に映像のない音楽においては、「裸体」の表現は困難とも思います。だからこそ、このような方法論で音楽=ヌードが実現できるとは! と驚きました。

MH:そうなんだよ。このプロジェクトには 「パーフェクト・ボディ」という副題が付いているんだけど、それがエキサイティングだと僕は感じている。目で見るものではないからこそ「美」や「姿形」は問われず、人種も関係ない。聴いている側には、彼女が日本人なのか、ロシア人なのか、アフリカの人なのかスペイン人なのかもわからない。年齢もわからない。体の様子もわからない。男女の区別もつかない。いわゆる伝統的な感覚で美しいのかどうかもわからない。これこそ本当の意味での解放だと僕は思っている。ヒトの身体、とくに裸体というものに、聴覚だけで対峙するというのは、僕らがこれから検討していくべき使用価値の高いツールなんじゃないかな。そして人間はみな、食べないわけにはいかない。トイレにも行かなければならない。そうせざるを得ないし、しなければ生存していけない。そう考えると、「非の打ちどころのないボディ=パーフェクト・ボディ」とは、「機能するボディ」、つまりは「生きているボディ」なんじゃないか。そこからすべてがはじまっているんだ。

「命を糧として食べる」というと、ますます 『ワン・ピッグ』 の続編という感じすらしますが、その意識はありましたか?

MH:なかったよ。おかしいよね。インスピレーションというのは湧いてくるのを待つしかないんだ。自分のやっていることや決断の整合性も、あとになってようやく見えてくる場合もある。『ワン・ピッグ』 ときは、ここまでまったく考えていなかった。発想が浮かんだのは 『ザ・シェイクス』(2015) を作った後だ。実際、そう考えるとイライラするよね(笑)。自分の中にある発想に、脳みそが追いついてくるまで時間がかかって、それを待っているしかないわけだから。そして急がせることもできない。いまもまさに、その問題にぶち当たっているところだ。次のレコードをどうしようか考えているところなんだけど、まだ脳みそが追いついてこないんだ(笑)。

ちなみにハーバートさんは他人が発する音は不快ですか?

MH:う~ん……、このレコードを作ってから少しよくなったかな。でも好きではない。たとえば劇場で隣の人の呼吸音がすごく大きかったりすると、勘弁してくれ! と思ってしまうほうだ(笑)。それが、このレコードを作ることで少しは容赦できるようになった。というか、ひとつの音として受け入れられるように少しはなった、というのかな。あんまり気にしないで、ひとつの音だというふうに脳内でイメージするようにしている。

ある意味、ジャズのレコードみたいに考えればいいのかなとも思った。彼女の出す音が主役。僕がするべきことは、とにかく彼女の音を支えて、伴奏につくことだけだった。

録音された「音=ノイズ」の数々を、「音楽」としてコンポジションしていくにあたって何がいちばん重要でしたか?

MH:テーマの設定から入ったんだ。最初は、どう収拾をつけたらいいのかわからなくて、12時間の記録ということにした。1時間めは目覚め、2時間めは朝食、3時間めはジョギングというようにね。だけど、それがうまくいかなくて、こういう「行動別」のまとめになったんだ。ひとつのトラックが「洗う=「ボディ」のメインテナンスについて」というように、そのモデル(ボディ)が風呂に入るその時間がそのまま曲の長さになった。栓をした瞬間にはじまって、栓を抜くところで終わる。それが12分とか13分だったかな。だから難しかった。難しかったんだけど、ある意味、ジャズのレコードみたいに考えればいいのかなとも思った。モデルがマイルス・デイヴィスで、僕がバンドというふうに想像してみることにしたんだ。ソロイストをサポートする役が僕だ。彼女の出す音が主役。であれば僕は、彼女のすることをすべて受け入れて支えていけばいいんだとね。基本、彼女は全般的に物静かで行儀がよいから、僕がするべきことは、とにかく彼女の音を支えて、伴奏につくことだけだった。僕自身の構成とか音楽的な決断を押し付けるのではなくて、ね。

“イズ・スリーピング”は睡眠中の録音ですが、ディスク1をまるごと、この睡眠にした理由を教えてください。

MH:あの録音がその長さだったからだよ。彼女が僕のために録音してくれたものが、その尺だったんだ。そうか、じゃあ、このトラックは1時間にしないとダメだな、と(笑)。だって、どこで切ればいい? というか、切る理由は何? 3分で切るか4分で切るか、あるいは20分か? で、じつはこれが今回のレコードで僕がいちばん気に入っている「音楽」なんだ。たぶん、それは独自のリズムがあるからだと思う。

この1時間はまったく編集されていないんですね。

MH:してないよ。そのまんまだ。起きたことがそのまんま。

『ア・ヌード(ザ・パーフェクト・ボディ)』全曲試聴はここから!

僕がやろうとしたこと、あるいは僕が興味を持っていたことは、さまざまなポーズなんだ。僕は今回の作品の中で、ポーズというものの音楽における同義語は何だろう? ということに取り組んだ。

ディスク2の方は編集やアレンジがされていますね。サンプリングによる反復と逸脱という、いかにもハーバートさんらしいトラックが展開されていました。

MH:あははは。

「反復」というものがが、音楽、ひいては芸術において、どのような効果をもたらすとお考えですか?

MH:僕がやろうとしたこと、あるいは僕が興味を持っていたことは、さまざまなポーズなんだ。人間は、じつにさまざまなポーズをとる。モデルが何かに寄りかかっているポーズや、椅子に腰かけているときポーズまで。どれも静止したポーズだけれども、その人の一連の行動の中において、特定の一瞬でしかない。わかる? 静止しているけれども、モデルにとっては前後と繋がりのある動きの一環である、ということ。つまり動作と静止の「はざ間」の状態だね。そう考えるとすごく不思議だ。アートの世界では、その中の一瞬を切り取って静止した形で表現するけれど、音楽ではそうはいかない。発想がそもそも違うから。だから僕は今回の作品の中で、ポーズというものの音楽における同義語は何だろう? ということに取り組んだんだ。長尺で、これといった変化も起きない作品でも、目の前で、いや耳の前で、ほんのちょっとした震えや揺らぎが起きている。

私はこのアルバムを、不思議と美しい音響作品として聴きつつも、反復的な“イズ・アウェイク”や“イズ・ムーヴィング”、リズミックな“イズ・シッテング”などには、どこかハウスミュージックのような享楽性を感じてしまいました。

MH:ふふふ……。

で、なぜか『ボディリー・ファンクションズ』(2001)収録の“ジ・オーディンエンス”などを想起してしまったんです。

MH:マジで !? へぇぇ。

「声の反復」の感じなどから、そう感じたのですが、いかがでしょうか?

MH:そう言われてみるとたしかにそうかも。僕の頭にはぜんぜん、なかったけどね。僕が興味を持ったのは、モデルには声があるから、ノイズもメロディも、すべて彼女の声からできている、という点なんだ。それが僕にとってはとても興味深い転換なんだ。絵に描かれたものを見ただけでは、そのモデルがどんな声をして、どんな音を立てているのかわからないけれども、音楽のポーズにおいてはモデルにも声があり、その声のトーンや質にも彼女らしさがあり、それが僕のメロディや構成を生み出す上で助けになっている。ハウス・ミュージックは今回のレコードでは僕は参照していななかったけど、反復によるリズムは有効だと思う。グルグルグルと同じところを繰り返し、めぐりめぐることによって特定の場所にハマっていられるから、そこで何かひとつの発想を固定することができる気がする。そういう意味で反復やリズムは、僕にとってはものすごく重要だ。ひとつのツールとして。

MH:じつはひとつ、ぜひとも大きく扱いたかった音があった。それが「肌」だったんだ。「肌」というか「接触」かな。

アルバムに使われた音以外も、さまざまな音素材を録音されていたと思いますが、音を選ぶ判断基準について教えてください。

MH:まずは因習的な伝統を網羅しておきたかった。たとえば“イズ・イーティング”ではいろいろな食べ物を食べているんだけど、繰り返し登場する食べ物はリンゴなんだ。それはアダム&イヴが提示するものに繋がるからであり、リンゴが非常に象徴的な存在になったわけ。それで僕が「よし、じゃあリンゴでいこう」と決めて、7分とか、そんなものだったかな(ちょっと正確に覚えてないけど)、リンゴ1個を食べ終わるまでの時間をそのまま1曲にした。また、さっきいったように「風呂に入る」時間をそのまま録ってたり、さらに「爪を切る」音や「髪をとかす」音も、あとから乗せてある。つまり、サウンドのクラスタというかグループを作ったわけだ。彼女は風呂に入っているんだけれども、同時に「髪をとかす」音や「乾かしている」音も鳴っているという。いわば音の群像だね。かつ、ひとつひとつの音が明瞭に聴こえてほしかった。それが何の音か? とわかる程度に。いまひとつ明瞭ではないと判断した音は使わなかった。それが判断基準のひとつだね。

録音・制作するにあたって、苦労した音というのはありますか。

MH:小さな音はすごく扱いづらかったな。じつはひとつ、ぜひとも大きく扱いたかった音があった。それが「肌」だったんだ。「肌」というか「接触」かな。手のひらで腕をこする感じとか。そういわれると、すぐに思い浮かべることはできる音だと思うけど、これが録音で拾うのは難しくて。皮肉にも僕がもっとも録音で苦労したのが「やさしさ」ということになってしまった。やわらかで、やさしくて、ごくシンプルな感覚。人間同士の「接触」の重要性は誰もが語るところだし、それが僕の訴えたかったことでもあるのに、これを捉えるのに、これを表現するのに、すごく苦戦してしまった。マイクの宿命で、どうしてもドラマチックな音の方がよく拾えるし、技術的にちゃんと録音可能なんだよね、うんと静かな事象よりも……。おもしろいことに、まだそうやって手の届かない部分が人間の身体にはある。マイクの力が及ばない部分がある。そう考えると、ある意味、なかなかに詩的だよね。

MH:誰かが小便をしている音、と言ったときに一般的に思い浮かべる音は、じつは水と水がぶつかる音であって肉体の発する音ではない。僕としては肉体の発する音と環境音との区別にこだわって、環境音は使わないよう細心の注意を払った。

つまりサンプル音源などは、まったく使っていないわけですね。

MH:うん、それはぜんぜんしていない。「ボディ」の音だけだよ。録音は、最初はホテルの部屋ではじめたんだ。「白紙のキャンヴァスを用意する」的な考え方。ただ、たとえば誰かが小便をしている音、と言ったときに一般的に思い浮かべる音は、じつは水と水がぶつかる音であって肉体の発する音ではない。僕としては肉体の発する音と環境音との区別にこだわって、環境音は使わないよう細心の注意を払った。大便だってそうだよ。あれだってウンチが水にぶつかる音であって、聴けば、すぐに「あ、これは……」とわかるだろうけど、肉体の音ではないんだ。別物だ。そこが僕にとってはチャレンジだった。肉体の音だけを抽出するということがね。風呂に入っているときの音も、水の音に頼って音楽を作ってしまわないように心掛けた。面白みはそこにあるんじゃなくて、「洗う」という行為の方にあるんだから。大便はね、彼女がじつは下痢をしていたんだよ。驚いたことに、彼女はその状態でありのままを録音してきた。本当に勇気のある女性だよね。おかげで物体が彼女の肉体を離れる瞬間の音をとらえることができたわけ。そんな感じで、環境の音を入れ込まないように、できるだけ努力した。

「音」であっても、個人のプライバシーの領域になればなるほど、他人には不快に感じてしまうかもしれません。そして本作は、そんなプライバシーの領域に足を踏み込んだ内容だと感じました。

MH:そう、まったくそのとおりだよ。でも、人間だって結局は動物だからね。もっと洗練された生き物だと思いたがっているけれど、要はただの獣だ。僕らはじつは農場に移り住んだところで、羊を飼っている。その羊が草をはむときに立てる音が最高に美味しそうでね。同じなんだな、と。人間も何も変わらない動物で、だからやることも同じなんだよ。ただ互いのそういう行為の音を聴くことに慣れていないだけ。

となると、ハーバートさんにとって「音楽」と「非音楽」との境界線が、どこにあるのか気になってきます。

MH:うん、そこは僕自身、興味を持つところ。というのも、今回のこれも着手するにあたって「どうしてわざわざ音楽にするんだろう、ただのサウンドのままで十分かもしれないぞ」と考えたから。

MH:判断が難しいときがあるんだよ、何をもって「音楽」と呼ぶのか。ただ「音」を聴くのと「音楽」を聴くのとの違いは何なのか。

なるほど。

MH:でもね、判断が難しいときがあるんだよ、何をもって「音楽」と呼ぶのか。ただ「音」を聴くのと「音楽」を聴くのとの違いは何なのか。だから、さっき話した、彼女(ボディ)がマイルス・デイヴィスで音楽はバンドとして彼女のサポート役に回る、というのがひとつの答になるかな。「洗う」が入浴である以上、そこでラウドでアグレッシヴな音楽を奏でるのは明らかに不適当だよね。彼女はただリラックスして静かにお湯に浸かったり身体を洗ったりしているだけ。その事実、そこに乗せる音楽を定義づける。自分で考えて音楽を乗せるというよりは、風呂の情景を優先して自分は身を退く。風呂というランゲージや、そこでの時間の流れに身を委ねるしかないんだ。

ハーバートさんの方法論は物理的には制約が多いかもしれないけれど、不思議と「自由」に音楽をしているように思えます。

MH:ものすごい自由度だったよ。何しろいまは音楽を作りながら自分で下さなければならない決断があり過ぎるほどある時代だ。音ひとつ作るのにも、使えるシンセサイザーが山ほどあって、出せる音が何百万通りもある。さらにはそれを加工する方法がまた何百万通りもある。選択の自由を与えてくれているようで、音楽を作る上では、出だしからものすごい労力が必要になる。だったらむしろ「リンゴを食べる音だけで音楽を作る」という枠組みをはっきりさせておいた方が、音楽を作るという作業に専念できる。そこに僕は自由を感じる。
たとえていうなら、京都に「RAKU」(楽茶碗)って綴りの茶碗を作る工房があるんだけど、僕は、そのお茶の茶碗をすごく気に入っているんだ。その茶碗は16世紀から、おおよそ同じ作りだ。そこに僕は「作るのは茶碗。そして基本的に、こういう作り」というのがわかっている安心感の上で、思いきり制作の手腕を磨くことに専念できる、喜びみたいなものを感じるんだ。同じ枠組みの中で、どうしたら機能的で、特別で、興味深い作品を作り上げられるか。そこが勝負であって、窯を作るところからはじめなくてもいい。もちろん、そこからはじめたい人もいるだろうし、「さて、この土を練って何を作ろう」というところからはじめるのが醍醐味だと思う人もいるだろうけど、僕は「作る」という技にすべてを集中させたいから、ほかは制約しておくことがとても大事だったりする。そうしないとまったく収拾がつかなくなってしまうから。

同じ枠組みの中で、どうしたら機能的で、特別で、興味深い作品を作り上げられるか。そこが勝負であって、窯を作るところからはじめなくてもいい。僕は「作る」という技にすべてを集中させたいから、ほかは制約しておくことがとても大事だったりする。

この作品を舞台化する計画があるそうですね。

MH:いまのところ1回だけなんだけど、ロンドンのラウンド・ハウスでやる予定だよ。希望としては振付師についてもらって、いくつかのボディを登場させ、それに動きを与えて……。まだ最終的な案ではないんだけど、観ている人のそばを通りかかるボディの気配から何か感じるとか、あるいは通りすがりに何か匂いがするとか……。でもけっこう不安もあるんだよ。というのも、そもそもこのレコードの主旨としてボディの見た目に捉われないというのがあるわけだから、舞台化してもボディを普通に露出することは避けたい。そこにはこだわりたいんだ。具体的には来月あたりから打ち合わせに入るので、それからだね。

舞台作品は、アナウンスされているインスタレーションの展示とは違うものなのですか。

MH:うん、ナショナルギャラリーに常設するアート作品として寄贈する話もある。そっちの発想としては、ギャラリーの床とか壁とか天井とかに穴を空けて、そこに頭を突っ込むと音が聞こえてくる、というやつにする。目で見るのではなくて、聴く。音源は建物のどこかに仕込むことになると思うんだけど。そんな感じかな。

「三次元的な体験」ですね。

MH:そうだよ。そもそも、このレコードに影響を与えたものは、さまざまなアートなんだ。音楽だけに限らない。というより音楽以外の「アート」だ。出来上がったものも「音楽作品」というよりは「芸術作品」と自分は考えている。

「世界を変えること」が目標だとおっしゃっていたこのアルバムですが、満足するような反応は返ってきていますか。

MH:う~ん、まだちょっと早いかな。日本では7月1日のリリースだしね。まだキャンペーンもはじまったばかりで、反応らしい反応も返ってきていない状態だ。ラジオで流れるかどうかというのもポイントだね、わりとアダルトなトラックに関しては。まあ、だから、現状まだ世界を変えるには至っていない(笑)。

つまり、僕の次のレコードは、いわば目に見えないレコードってことになるかな。

もしかすると気分を害する人もいるかもしれませんが、「警鐘」という意味では大成功でしょうね。

MH:いや、人を嫌な気持ちにさせるつもりはないんだ。ただドナルド・トランプに消えてもらいたいだけ。

彼がこのレコードを気に入ってしまったらどうしましょう?

MH:あははは。いや、あいつがこれに興味を持つはずがない。自分にしか興味がない人間だから、他人の音になんか興味を持つわけがないよ。あるいは自分でカラオケをやるとか? 自分が風呂に入ったりウンチしたりする音を自分で録音して、このレコードのカラオケに乗せて流す。トランプによるトランプのためのトリビュート・レコード(笑)!

(笑)。ちなみに本作の楽曲を象徴するような素晴らしいアートワークは誰が担当したのですか?

MH:写真はクリス・フリエルだ。この国では有名な風景写真家の作品で、アートワークは僕の作品を長年手掛けてくれているサラ・ホッパーがやってくれている。『ボディリー・ファンクションズ』も彼女のアートワークだったよ。中にはフォノペイパーというものを使っているんだけど、これを使うと写真を読むことができるんだ。写真の上に電話をかざすと、写真からノイズが出て、モデルが曲のタイトルを語る声が聴こえる。そして表はグラフをイメージしている。「幽霊を測ろう」としているようなイメージ。

しかし、ここまで究極的な録音・音響作品を完成されたとなると、どうしても「次」の作品も気になってしまいます。

MH:次にやることは決まっているよ。次は本だ。『ミュージック』(MUSIC) というタイトルの本を書いたんだ。これは、僕が作ることのないレコードの解説書。つまり、僕の次のレコードは、いわば目に見えないレコードってことになるかな。

目に見えないレコードとは! それはすごい! つねに意表をつきますね。

MH:あははは。それをめざしているよ。

ROSKA Japan Tour 2016 - ele-king

 すべての音が出尽くしたとさえ言われているダンスミュージック。けれども、クラブで流れる曲は絶えず表情を変え、様々なスタイルが生まれている。もちろん、そのなかでトップDJとしてプレイし続けるのは容易なことではなく、今回来日するロスカの遍歴を見るだけでもそれが手に取るようにわかる。UKファンキーの重要プレイヤーとしての顔も彼にはあるが、時にはコールドなテクノから、図太いダブステップ、さらに艶かしいハウス・ミュージックまでも彼のDJデッキからは飛び出してくるから驚きだ。
 2015年に若手のスウィンドルと共に来日したときは、両者の相互作用もあり、ときに激しくときに緩やかにフロアの腰を突き動かす、UKブラックミュージックの「黒さ」を体感することができた。現在もラジオやクラブの一線で活躍するロスカが、どのように現在のシーンを切り取るのか注目しよう。イベントは今週末、東京(3日)と大阪(2日)で開催される。パート2スタイルやハイパー・ジュースなど、東京ベース・シーンのプレイヤーたちも出演。

 6/25に惜しまれながら閉店したアザー・ミュージックは、6/28に最後のインストアライブを行った。バンドは、75ダラービル、リック・オーウェン率いるドローンでジャミングなデュオである。5:30開演だったが、4:30にすでに長い行列が出来ていた。こんな人数が店内に入るのかなとの心配をよそに、時間を少し過ぎて、人はどんどん店の中に誘導されていく。すでにレコード、CDの棚は空っぽ、真ん中に大きな空間が出来ていた。こんながらーんとしたアザー・ミュージックを見るのは初めて。たくさんのテレビカメラやヴィデオが入り、ショーはリック・オーウェンの呼びかけでスタート。デュオではじまり、順々にスー・ガーナーはじめ、たくさんの友だちミュージシャンが参加し、ユニークで心地よいジャムセッションを披露した。たくさんの子供たちも後から後から観客に参加し、前一列は子供たちでいっぱいになった。私は、ジャム・セッションを聴きながら、いろんなアザー・ミュージックでの場面がフラッシュバックし、なきそうになった。インストア・ショーが終わると、彼らはそのままストリートに繰り出し、この後8時から、バワリー・ボールルームで行われる、「アザーミュージック・フォーエヴァー」ショーへ、マタナ・ロバート、75ダラービルなど、この日のショーで演奏するミュージシャンとプラスたくさんのアザー・ミュージックの友だちが、セカンドライン・パレード率い誘導してくれた。アザー・ミュージックの旗を掲げ、サックス、トランペット、ドラム、ギター、ベース、などを演奏しながら、アザー・ミュージックからバワリー・ボールルームまでを練り歩いた。警察の車も、ニコニコしながら見守ってくれていたのが印象的。バワリー・ボールルームの前で、散々演奏したあと、みんなはそのまま会場の中へ。


Geoff & daniel @ other music staff。私個人的にとってもお世話になりました。


Juliana barwick


Frankie cosmos

 バワリー会場内もたくさんの人であふれていた。コメディアンのジャネーン・ガロファロがホストを務め、バンドを紹介する(いつの間にか、アザー・ミュージックの共同経営者ジョシュ・マデルに変わっていたのだが)。ジョン・ゾーン、サイキック・イルズ、マタナ・ロバーツ、ビル・カラハン、ヨラ・テンゴ、ヨーコ・オノ、ジュリアナ・バーウィック、シャロン・ヴァン・エッテン、フランキー・コスモス、ヘラド・ネグロ、メネハン・ストリートバンド、ザ・トーレストマン・オン・アースがこの日の出演陣。ドローン、サイケデリック、ジャズ・インプロ、フォーク・ロック、ポップ、ロック、アヴァンギャルド、エレクトロ、インディ・ロック、ファンク、ラテン、ビッグ・バンド、などそれぞれまったくジャンルの違うアーティストを集め、それがとてもアザー・ミュージックらしく、ヘラド・ネグロのボーカルのロバート・カルロスは、「これだけ、さまざまなミュージシャンを集められるなら、アザー・ミュージックでミュージック・フェスティヴァルをやればいいんじゃない」、というアイディアを出していた。オーナーのジョシュが、バンドひとつひとつを思いをこめて紹介していたことや、お客さんへの尊敬も忘れない姿勢がバンドに伝わったのだろう。


Sharon Van etten

 サプライズ・ゲストのヨーコ・オノが登場したときは、会場がかなり揺れたが、ヨーコさんのアヴァンギャルドで奇妙なパフォーマンスが、妙にはまっていておかしかった。ヨ・ラ・テンゴとの息もばっちり。個人的に一番好きだったのは、トーレスト・マン・オン・アースとシャロン・ヴァン・エッテン、ふたりとも、個性的な特徴を持ち、いい具合に肩の力が抜け、声が良い。最後に、アザー・ミュージックの昔と今の従業員たちが全員ステージに集合し、最後の別れをオーナーのジョシュとクリスとともに惜しんでいた。スタッフを見ると、なんてバラエティに富んだ人材を揃えていたのか、それがアザー・ミュージックの宝だったんだな、と感心する。スタッフに会いにお店に通っていた人も少なくない(私もその中の一人)。バンド間でかかる曲も、さすがレコード屋、アザー・ミュージックでよく売れたアルバム100枚が発表されたが、その中からの曲がキチンとかかっていた。最後のアクトが終わり、みんなで別れを惜しみながら、写真を取ったり挨拶したり。会場で、最後にかかった曲はコーネリアスの“スター・フルーツ・サーフ・ライダー”だった。21年間、ありがとうアザー・ミュージック。

https://www.brooklynvegan.com/yoko-ono-yo-la-tengo-sharon-van-etten-bill-callahan-more-played-other-music-forever-farewell-pics-review-video/

■Other Musicで売れたアルバム100枚

1. Belle and Sebastian – If You’re Feeling Sinister
2. Air – Moon Safari
3. Boards of Canada – Music Has the Right to Children
4. Kruder and Dorfmeister – K&D Sessions
5. Yo La Tengo – And Then Nothing Turned Itself Inside Out
6. Os Mutantes – Os Mutantes
7. Neutral Milk Hotel – In the Aeroplane Over the Sea
8. Sigur Ros – Agaetis Byrjun
9. Arcade Fire – Funeral
10. Magnetic Fields – 69 Love Songs
11. Belle and Sebastian – Boy with the Arab Strap
12. Cat Power – Moon Pix
13. The Strokes – Is This It
14. Yo La Tengo – I Can Hear the Heart Beating As One
15. Talvin Singh Presents Anokha: Sounds of the Asian Underground
16. Joanna Newsom – Milk-Eyed Mender
17. Interpol – Turn on the Bright Lights
18. Cat Power – Covers Record
19. Cornelius – Fantasma
20. Serge Gainsbourg – Comic Strip
21. Belle and Sebastian – Tigermilk
22. Godspeed You Black Emperor – Lift Your Skinny Fists
23. Amon Tobin – Permutation
24. DJ Shadow – Endtroducing
25. Animal Collective – Sung Tongs
26. Dungen – Ta Det Lugnt
27. Beirut – Gulag Orkestar
28. Belle and Sebastian – Fold Your Hands Child, You Walk Like a Peasant
29. Clap Your Hands and Say Yeah – S/T
30. ESG – South Bronx Story
31. Cat Power – You Are Free
32. Broadcast – Noise Made by People
33. The Notwist – Neon Golden
34. Animal Collective – Feels
35. Mum – Finally We Are No One
36. Elliott Smith – Either/Or
37. White Stripes – White Blood Cells
38. Bjorn Olsson – Instrumental Music
39. Boards of Canada – In a Beautiful Place
40. Tortoise – TNT
41. Handsome Boy Modeling School – So How’s Your Girl?
42. Antony and the Johnsons – I Am a Bird Now
43. Zero 7 – Simple Things
44. Broken Social Scene – You Forgot It in People
45. Flaming Lips – Soft Bulletin
46. Devendra Banhart – Rejoicing in the Hands
47. Panda Bear – Person Pitch
48. My Bloody Valentine – Loveless
49. Kiki and Herb – Do You Hear What I Hear?
50. Thievery Corporation – DJ Kicks
51. Boards of Canada – Geogaddi
52. Yeah Yeah Yeahs – S/T EP
53. TV on the Radio – Desperate Youth
54. Yo La Tengo – Sounds of the Sounds of Science
55. Sufjan Stevens – Greetings from Michigan
56. Stereolab – Dots and Loops
57. Tortoise – Millions Now Living Will Never Die
58. Neutral Milk Hotel – On Avery Island
59. Le Tigre – S/T
60. ADULT. – Resuscitation
61. Langley Schools Music Project – Innocence and Despair
62. The Shins – Oh Inverted World
63. Slint – Spiderland
64. Air – Premiers Symptomes
65. Roni Size – New Forms
66. Shuggie Otis – Inspiration Information
67. Nite Jewel – Good Evening
68. Fennesz – Endless Summer
69. Bonnie ‘Prince’ Billy – I See a Darkness
70. Radiohead – Kid A
71. Stereolab – Cobra and Phases Group Play Voltage in the Milky Night
72. Franz Ferdinand – S/T
73. Amon Tobin – Supermodified
74. Fischerspooner – S/T
75. Stereolab – Emperor Tomato Ketchup
76. Cat Power – What Would the Community Think?
77. Elliott Smith – XO
78. TV on the Radio – Young Liars
79. UNKLE – Psyence Fiction
80. The Clientele – Suburban Light
81. Clinic – Walking with Thee
82. The xx – xx
83. Serge Gainsbourg – Histoire de Melody Nelson
84. Vampire Weekend – S/T
85. J Dilla – Donuts
86. Massive Attack – Mezzanine
87. Joanna Newsom – Ys
88. Sufjan Stevens – Illinoise
89. Portishead – S/T
90. Jim O’Rourke – Eureka
91. Pavement – Terror Twilight
92. Modest Mouse – Lonesome Crowded West
93. Sleater-Kinney – Dig Me Out
94. Tortoise – Standards
95. Sam Prekop – S/T
96. Blonde Redhead – Melody of Certain Damaged Lemons
97. Arthur Russell – Calling Out of Context
98. Aphex Twin – Selected Ambient Works Vol. 2
99. Grizzly Bear – Yellow House
100. Avalanches – Since I Left You

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Fishmans - ele-king

 今年は『空中キャンプ』と『ロング・シーズン』から20周年。フィッシュマンズ結成25周年ということで、1996年12月26日赤坂BLITZでのライヴがCD2枚組でリリースされる。名曲“ナイトクルージング”や30分にもおよぶ大作“ロング・シーズン”が演奏された感動的な夜の録音である。ちょうどそのライヴの少し前に、水越真紀さんと当時バンドの拠点だった淡島通り沿いのワイキキ・ビーチ・スタジオを訪ねた。リハで捻挫したといって、松葉杖をして佐藤伸治がやって来た。
 その当時も時代は大変だった。フィッシュマンズの強い気持ちのあり方は、しかしやがて訪れるよりハードな時代を生きるためのリハーサルだったかのようだ。この揺れ動く世界から逃げずに、そして「歩き出そうよ」と歌えたら、それはいま素晴らしいことに違いない。
 本作『LONG SEASON’96~7』は、zakが新たにミックスを加えている。彼はまったく音の魔術師だ。あらためて最高のダブ・ミキサーであることを確信した。あの日いた人もいなかった人も、必聴である。


フィッシュマンズ
LONG SEASON’96~7 96.12.26 赤坂BLITZ Live

ユニバーサル ミュージック

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Interview with Stuart Braithwaite (Mogwai) - ele-king

 2011年の9月、グラスゴーの小さなフェスでモグワイのライヴを見る機会があった。デリック・メイからジ・オーブ、ワイルド・ビースツなどのジャンル、新旧織り混ざったラインナップ、さらにザ・フォールの次という出番のなか、堂々とメイン・ステージの大トリを務めていた。ステージ上にはファンには馴染み深いセルティックのタオル、エフェクター、そしてスコットランドの国旗のシールが貼られたギター。客席にはスコティッシュ・アクセントで騒ぐ、スコティッシュ・ピープルたち。「荘厳」や「轟音」といったモグワイにかぶさる常套句ももちろん当てはまるライヴだったが、サウスロンドンのグライムMCが畳み掛けるような息づかいで自分の団地についてラップするのを聴いたときのような、圧倒的なローカリティに打ちのめされた夜として記憶に残っている。

 その年に出たアルバムは『ハードコアは死ぬことはないが、お前はちがう(Hardcore Will Never Die, But You Will)』だったが、彼らはそこにシリアスな意味を込めたわけではない。モグワイは2015年に結成20周年を迎えた平均年齢40歳のレペゼン・グラスゴーの「ヤング・チーム」だが、その20年という短くない期間において、彼らはこれまで音楽について、またそれ以外の事柄についても、あまり深くは語ってこなかったし、言葉を使うときは、シンプルなイメージ表現かジョークかのどちらかだったように思う。モグワイを取材した経験のある先輩ライターが「モグワイって音を聴くと思慮深そうだけど、メンバーはそこまで考えているわけでもない」なんて言っているのを聞いたこともある。音楽がすべてを語っていると言えば、それまでなのだが。

 だが近年のモグワイの活動を見ればわかるように、彼らの音や行動の裏には確固たるステートメントが存在しているようだ。2014年にスコットランドのUKからの独立を問う国民投票が行われ、独立派のカルチャー・アイコンとしてキャンペーンの先陣を切っていたのは、何を隠そうこのヤング・チームである。投票が近づくなか、彼らはインタヴューに応え、同郷のミュージシャンたちとライヴまでも行った。投票の結果、反対票が過半数を上回りスコットランドは独立することができなかったのだが、ギター上のナショナル・フラッグが一度もなびかなかったわけではない。彼らのホームであり、スコットランド一の人口を持つグラスゴーでは独立賛成票が過半数を超えていた。あの日、彼らの音楽は人々の声になっていた。


Mogwai - Atomic
Rock Action Records / ホステス

RockPostrock

Tower HMV Amazon

 10年代も折り返した2016年、モグワイから強烈な1枚『アトミック』が届いた。ドキュメンタリー作家マーク・カズンズがイギリスの公共放送BBCのために作成した、広島の原爆投下以降の原子力と人間の関係を描いた作品『アトミック・リヴィング・イン・ドレッド・アンド・プロミス(Atomic Living in Dread and Promise)』のサウンドトラックをモグワイが担当し、その楽曲を発展させアルバムに仕上げた作品というだけあって、楽曲の内容もタイトルも、いままで以上にヘヴィーだ。ドキュメンタリーにはヒロシマだけではなく、フクシマも出てくる。つまり、モグワイの音はスコットランドから遠くに住むわれわれにとっても無関係ではないのだ。何度も繰り返し聴くのには適さないかもしれないが、聴かないでいることはためらわれるアルバムである。

 偶然にも米国オバマ大統領が広島を訪問した翌週、モグワイは『アトミック』を携え、広島を終着点とした日本ツアーを行った。取材に応じてくれたのは、チームのキーマンであるギターのスチュアート・ブレイスウェイトだ。彼らが考えてないって? まったくそんなことはなかった。原子力の特別な知識をいっさい使わず、「なんかおかしいよな」という素朴な疑問から編み出された彼のシンプルな言葉にはちゃんと切れ味がある。わからないことであっても閉口しないこと。2011年のあの日以来、列島の人々が学んだ教訓を彼の言葉から思い出す。六本木EXシアターの楽屋裏、スチュアートが口を開けば、そこはグラスゴーだった。

■MOGWAI / モグワイ
1995年にスチュアート(G)、ドミニク(B)、マーティン(Dr)、バリー(Vo,G, Key)によって結成されたグラスゴーの重鎮バンド。翌年、自身のレーベル〈ロック・アクション・レコード 〉 よりシングル「Tuner/Lower」でデビュー。数枚のシングルなどを経て、グラスゴーを代表するレーベル〈ケミカルアンダーグラウンド〉と契約、97年にデビュー・アルバム『モグワイ・ヤング・チーム』を発表する。以来、現在までに7枚のスタジオ・アルバムをリリース。フジロック'06でのトリや、メタモルフォーゼ'10の圧巻のステージその他、来日公演も語り草となっている。2015年10月、ベスト・アルバム『セントラル・ベルターズ』を発表。この4月には、広島への原爆投下70年にあわせて昨年放送されたBBCのドキュメンタリー番組『Atomic: Living In Dread and Promise』のサントラのリワーク集『アトミック』もリリースされた。5月には3都市をまわるジャパン・ツアーを開催し成功を収めている。

去年はまるまる『アトミック』の制作をしていたってことになる。

とうとう東京、大阪、そして広島を回る日本ツアーの開始ですね。けっこうスケジュールは詰まっているんですか?

スチュアート・ブレイスウェイト:いや、そうでもないな。今日は金曜日に日本に着いてから、伊豆に住んでいる友だちの家でゆっくりしていたよ。

すごく良いところじゃないですか(笑)。スチュアートさんはまだグラスゴーに住んでいるんですよね? バリー(・バーンズ)さんはドイツに住んでいるようですが、他のメンバーの方もグラスゴー在住ですか?

スチュアート:俺の住んでいる場所はあいかわらずグラスゴーのウエストエンドだよ(笑)。バリー以外はグラスゴー近郊に住んでいるけど、彼もグラスゴーに家を持っている、集まろうと思えば簡単に会える。

あなたが運営しているレーベル〈ロック・アクション(Rock Action)〉の調子はいかがですか? 

スチュアート:おかげさまで忙しくしているよ。2016年に入ってからもマグスター(Mugstar)とデ・ローザ(De Rosa)のアルバムを出したばかりだし、2015年もセイクレッド・ポーズ(Sacred Paws)やエラーズ(Erros)のアルバムを出せたしね。おっと、それから俺たちモグワイの新作も〈ロック・アクション〉からのリリースだ(笑)。グラスゴーのバンドが多い。リメンバー・リメンバー(Remember Remember)のグレアム(・ロナルド)は最近アメリカへ引っ越しちゃったんだけどな。

ではモグワイの新作『アトミック(Atomic)』について訊いていこうと思います。今作は2015年に放映されたBBCのドキュメンタリー番組(『Atomic Living in Dread and Promise』)のサウンドトラックのために作られたアルバムだとのことですが、制作にはどのくらいの時間がかかったのでしょうか?

スチュアート:最初にできた曲は“ファット・マン(Fat Man)”で最後にできたのは“イーサー(Ether)”だ。制作は2015年の春からはじまって、夏にサントラのためにレコーディングをして、秋にはアルバム用に作業をしていたね。だから去年はまるまる『アトミック』の制作をしていたってことになる。

たしかに、いままでの俺たちのやり方とはぜんぜん違うよな。ジョークを言う余地はなかった。

Mogwai / Ether

これまでのモグワイのインタヴューを読み返してみると、曲名やコンセプトにそこまでこだわっていないという趣旨の発言もされています。ですが、今回は「原子力」というとても明確なテーマがあり、曲名も“リトル・ボーイ(Little Boy)”や“ファット・マン(Fat Man)”といった、その黒い歴史を象徴するワードが多く、いままでのモグワイとはかなり対照的な作品だとも言えるでしょう。今回は制作にあたって、テーマに合わせて一から曲を作っていったのでしょうか?

スチュアート:まず「原子力」というテーマがあって、それに合わせて曲を作っていった感じだ。核技術、核爆弾、原発事故といったトピックがドキュメンタリーには登場するんだけど、それらに準じた事柄から名前がとられている。曲ができてから曲名をつけたんだけどね。たしかに、いままでの俺たちのやり方とはぜんぜん違うよな。ジョークを言う余地はなかった(笑)!

曲を作る段階でBBC側からあらかじめ映像や脚本を渡されていたのでしょうか? 

スチュアート:曲を作りはじめた初期段階から、監督のマーク・カズンズ(Mark Cousins)とは打ち合わせをしていて、そのときに映像に使用する予定の映像を見せてくれた。戦争や科学など、いろんな側面から核を捉えた映像だったね。ドキュメンタリーが完成する前だったから、そのときに見た映像の時系列はバラバラだったんだけど、着想を得るには十分だった。

映像制作陣から具体的な曲のディレクションはありましたか?

スチュアート:マークからディレクションがあったわけじゃなくて、基本的にバンドで自由に曲を作っているよ。もちろん映像に曲をフィットさせた部分もある。良いコラボレーションができたと思う。

広島を訪れる前から核兵器に反対していたけど、実際に平和記念公園へ行ってみたら自分は原爆についてほとんど何にも考えていなかったんだなって思わされたよ。

このアルバムの曲名には、一般的な日本人にはあまり馴染みのないものがあります。たとえば“U-235”は広島に投下された原爆に使用されたウランの同位体のことですが、恥ずかしながら僕はいままで知りませんでした。このサウンドトラックを作っている間、ご自分で原子力の歴史についてお調べになったのでしょうか?

スチュアート:ラッキーなことに、俺たちには化学者の友だちがいてさ。彼にも監督との打ち合わせに参加してもらって、そこで具体的な技術や核の歴史についても話してもらった。じつはその友だちに曲のタイトルをつけるのを手伝ってもらったんだよね(笑)。監督のマークにもテーマに関する助言をしていたよ。名前はアンディ・ブルー(Andy Blue)っていうんだけど、重要人物なのにアルバムにクレジットするのを忘れていたぜ(笑)! ははは!

アンディさんはモグワイのブレーンですね(笑)。一応事実確認なんですが、スチュアートさんはCND(注1)のメンバーなんですよね?

スチュアート:そうだよ。ドラムのマーティン(・ブロック)もメンバーだ。

メンバーになったきっかけを教えていただけますか?

スチュアート:俺はずっと核兵器には反対の立場をとってきた。10年くらい前にギグで広島へ行ったんだけど、そのときに平和記念公園にも行ってね。あれはでっかい体験で、その後にCNDのメンバーになることを決心した。  広島を訪れる前から核兵器に反対していたけど、実際に平和記念公園へ行ってみたら自分は原爆についてほとんど何にも考えていなかったんだなって思わされたよ。

スコットランドでは一般の人々は核兵器や原子力についてどのようなイメージを抱いているのでしょうか?

スチュアート:核は悪いものだって思っている人は多いと思うよ。とくにグラスゴーは近くに原子力施設があるから、核エネルギーに関して危機感を持っている人は一定数いる。それなのに政府は、「原発は雇用をつくっています」的ないい加減な情報を流しているんだよね。数千人規模の雇用を生み出しているって言っているくせに、実際に働いているのは数百人ってところだ。

原発の問題は原子力そのものだけではなくて、かなり複合的な問題だ。

日本でも同じようなことが起きていました。原発の安全神話が広告やメディアを通して世間に流布して、真実が見えにくくなっていった。原発産業の構造もいびつで、原発周辺住民にはお金を払っていたりしますね。住む場所によっても問題に対する意識が違ったりもします。

スチュアート:うんうん、そうだよな。原発の問題は原子力そのものだけではなくて、かなり複合的な問題だ。スコットランドには人口の少ない北部にも原子力施設があるんだけど、その地域の人々は違った考え方をしているかもしれない。

2011年の6月に、大量発生したクラゲが冷却装置に侵入したことが原因で、スコットランドのトーネス原発が停止しました。福島の原発事故の後だったので、日本でも反応している人が多かったですね。ちょうどその出来事の後、僕はグラスゴーにいて、それについて現地の人と話してみたんですけど、原発の停止を知らなかったり、「まぁ、事故が起きたわけじゃないだし」と言う人もいたりしました。原子力関連のニュースはあまり話題にならないんですか?

スチュアート:あの事件はよく覚えているよ。スコットランドのメディアはたいしたことないからなぁ(笑)。情報をかなり絞っているから、詳細がなかなか一般層に伝わっていないんだ。

まずはサン・ラーだろ。それからウィリアム・オニーバー(William Onyeabor)の“アトミック・ボム”。あとボブ・ディランの“戦争の親玉”だな。こういった曲を聴ききながら、原子力について考えるようになったのかもしれない。

スコットランドに限ったことじゃないですよ。ところで、日本には『ゴジラ』や『鉄腕アトム』など、原子力を背景に生まれた文化のアイコンがありますが、そういったものには馴染みはありますか?

スチュアート:『ゴジラ』は大好きだよ! あの作品に原子力と関連した背景があるとは考えて観ていたわけじゃないけど、たしかにその繋がりはかなり説得力があるね。

原子力について歌った曲で、何が真っ先に思い浮かびますか?

スチュアート:何曲か思い浮かぶな。まずはサン・ラーだろ。それからウィリアム・オニーバー(William Onyeabor)の“アトミック・ボム”。あとボブ・ディランの“戦争の親玉”だな。こういった曲を聴ききながら、原子力について考えるようになったのかもしれない。
 自分たちが曲を書いているときも、もちろん同じようなことを考えていた。でも同時期に作っていたすべての曲が、原子力に関する曲だったわけじゃない。自分がやっているもうひとつのグループのマイナー・ヴィクトリーズの曲を作っていたんだけど、その時は気持ちを切り替えて作っていた。自分が作る曲は、その時々でその裏にある伝えたいものは変わってくる。

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人間なんだからそれぞれの自分の考えを持っていて当然だし、俺たちがやることに対して反対意見があって当然だと思う。それでも俺は自分の意見を持つことが大事だと思うし、自分とは違った意見を持つ人々に対しても耳を傾けるべきだと思うし、そうすることに間違いなく価値があるんじゃないかな。

2011年の福島での原発事故のあと、日本では多くのミュージシャンたちが反原発を表明しました。彼らは賛同得た一方で、もちろんさまざまな批判にもあいました。今回、モグワイも原子力への考えを明確にしたわけですが、異なる立場の人々から自分たちが批判を受けるであろうことは予測していたと思います。なぜあなたたちは、そのようなリスキーな選択をする決心をしたのでしょうか?

スチュアート:人間なんだからそれぞれの自分の考えを持っていて当然だし、俺たちがやることに対して反対意見があって当然だと思う。それでも俺は自分の意見を持つことが大事だと思うし、自分とは違った意見を持つ人々に対しても耳を傾けるべきだと思うし、そうすることに間違いなく価値があるんじゃないかな。
 多少はリスキーなことかもしれないけど、今回のプロジェクトは素晴らしいものだってわかったから、自分たちの主張を前に出す決断をすることができた。原子力に関するステートメントだけではなく、俺たちのアティチュードや信条とも共鳴する部分がこのプロジェクトにはあったしね。
 もし自分たちが特定の意見??今回は原子力に関するもの??がなかったとしても、このプロジェクトを進めることができたかもしれない。俺たちの役割は曲を作ることだったからさ。このレコードにある政治的なテキストは監督のマークが考えたもので、俺たちはその考えを広める役割を担っただけだしな(笑)。でも音楽にだけではなく、さらには俺たちの考えにも耳を傾けてくれた人たちもいて嬉しかったよ。

原子力に関するバンドのなかでの意見はみんな一致しているのでしょうか?

スチュアート:もちろん。メンバー全員が同じ意見を100パーセント共有している。

偶然ですが、あなたたちが広島公演を行うのとほぼ同タイミングで、アメリカのオバマ大統領も広島を訪問するんですよね。

スチュアート:彼が訪問するなんて思いもよらなかったよな。日本の人たちがどの程度、普段から広島について考えているかわからないから、今回のオバマ大統領の訪問がどんな意味を持つのか、俺にはよくわからないんだけどね。モグワイがほぼ同じ時期に広島に来ることになるなんて、すごい偶然だよな。

本当に核兵器が必要なのかどうか疑問だし、核兵器を管理するお金を貧困層にまわせばいいのにと思う。なんかおかしいよな。

核軍縮を訴えたプラハ宣言が大きなきっかけとなり、2009年にオバマ大統領はノーベル平和賞を受賞しました。しかし、現段階でアメリカは核軍縮に向け具体的な努力をしているとは言えません。オバマ大統領に対して何か意見はありますか?

スチュアート:彼が核軍縮を訴える姿はかっこいいけどね(笑)。本当に核兵器が必要なのかどうか疑問だし、核兵器を管理するお金を貧困層にまわせばいいのにと思う。なんかおかしいよな。

このアルバムやドキュメンタリーのプロジェクトを通して、あなたたちが成し遂げたいこととは何でしょうか?

スチュアート:このアルバムやプロジェクトがどのような効果を及ぼすまでは俺にはわからない。でも、歴史を振り返ってみて、過去に起きたことを知るきっかけになればいいと思う。具体的に何が変わるかはわからないけど、多くの人々が、この原子力について考えるようになればそれでいいんだ。

スコットランドの独立を支持する意見のなかには、UK全体の政治のなかで、スコットランド票がまったく機能していないというものがある。つまりUKの政治にはスコットランドの声が届いていないということだ。


Mogwai - Atomic
Rock Action Records / ホステス

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それではスコットランドに関連する質問をさせてください。モグワイは2014年のスコットランド独立を問う国民投票に合わせて、独立賛成派として同じくスコットランド出身のフランツ・フェルディナンドらとともに、独立派を支援するキャンペーンを行っていましたが、投票の結果、賛成票が過半数に届かずスコットランドは独立することはできませんでした。現時点から振り返ってみて、あなたはスコットランドの独立をどのように捉えていますか?

スチュアート:いまだって俺はスコットランドの独立を支持しているし、そうするべきだと思っているよ。たしかに俺たちは国民投票前に独立派のキャンペーンにも関わっていたから、票を得られなかったのはけっこう辛い経験だったことは事実だ(笑)。でも機会があればまた俺たちは関わるだろう。

スコットランド人の学生やミュージシャンに独立について意見を聞いてみたのですが、リベラルな意見を持った人々も独立を支持していますよね。またイングランドの労働党のサポーターにも、スコットランドの独立を肯定的に捉えている人々がいます。ですが、周辺国や日本には、保守派や「クレイジーな右派」が独立支持の多くを占めていると思っている人が多い印象があるんですよ。

スチュアート:実際にはぜんぜん違うのにね。スコットランドの独立を支持する意見のなかには、UK全体の政治のなかで、スコットランド票がまったく機能していないというものがある。つまりUKの政治にはスコットランドの声が届いていないということだ。なぜスコットランドも構成国のひとつなのに、イングランド側が決めた方針で核兵器やイラク戦争に国の金が使われなきゃいけないんだ? 難民問題に対するUKの対応だってひどいよな。独立派のなかには、スコットランドが政治的に自由になって、よりリベラルで社会主義的な姿勢を国政に反映させることを望む声だってあったんだよ。クレイジーな戦争なんてうんざりだって意見もあった。いまは少し変わってしまった部分もあるけどね。そういった人々にとって、当時のSNP(注2)は良いオルタナティヴに見えた。

セルティックは60年代にヨーロピアン・カップで優勝したことがあるんだけど、そのセルティックとレスターが重なって見えてさ。

残念ながら、日本にはユナイテッド・キングダムがどういう仕組みになっているのか、スコットランドがどういう立場にいるのかを理解している人が多いとは言えません。モグワイがもし次に大きなプロジェクトに取り掛かるとしたら、スコットランドへの理解を深めるようなものがいいかもしれませんね。現に僕はあなたのギターに貼ってある、スコットランドの国旗のシールがきっかけになって、スコットランド人のアイデンティティについて考えるようになりましたから。

スチュアート:日本はスコットランドから遠いからなぁ(笑)。それはやってみる価値があるかも。国際的なサポートを集めるのは大事だよな(笑)。

最後に政治とはまったく関係のない、フットボールのトピックへ移りましょう。リーグは違いますが、今年イングランドのプレミアム・リーグでは地方の弱小チームだったレスターが優勝しました。あなたはグラスゴーのセルティックの熱心なファンだと知られています。レスターの優勝はあなたのセルティック愛へ何か影響を及ぼしましたか?

スチュアート:隣の国のことだけど、めちゃくちゃ良い話だと思ったよ。とてもインスパイアされた。セルティックは60年代にヨーロピアン・カップで優勝したことがあるんだけど、そのセルティックとレスターが重なって見えてさ。当時のセルティックはいまよりももっと規模が小さなチームだったんだけど、さらに大きなイタリアやスペイン、そしてイングランドのチームに勝利したわけだから。

去年、清水エスパルスという日本のJリーグのチームが下部のリーグへ降格してしまったんですが、エスパルス・ファンにもレスターは大きな希望を与えたみたいです。国際的にものすごく勇気を与える存在ってなかなかいないですよね。

スチュアート:うわぁー、それは残念だったね。いまもセルティックはヨーロッパのなかでは小さなチームだから、レスターの優勝にはすごく大きな希望をもらったよ(笑)。こんなに広い範囲でインスピレーションを与えるってすごいことだよな。

(注1)
CND(Campaign for Nuclear Disarmament)、核軍縮キャンペーン。1957年に設立された反核運動団体。

(注2)
SNP(Scottish National Party)、スコットランド国民党。スコットランドの地域政党で、UKからの分離・独立、親EUを主張する。2015年5月のUK総選挙で、 SNPは56議席を獲得し、保守党と労働等につぐ第三党になった。

 つい先日、yahooニュースでの原稿をまとめた『ヨーロッパ・コーリング』を岩波書店から発表したばかりのブレイディみかこだが、ブレグジットのインパクトがネットでニュースで騒がれている今日、彼女に休む時間はないだろう……なにしろ時間が進む速度は、あまりにも速すぎる。サッカーと同じだ。昔はブラジル型の遅攻が格好良かったが、いまでは速さがないと試合に勝てない。疲れるのは無理もない。
 そんな疲れる時代において、ブレイディみかこのコラムがその痛快さ、切実さをもっていまや多くの人に読まれていることは、同じ言葉を扱っている人間にとって実に勇気づけられることである。
 コラムニストは社会学者ではない、主語が「私」だ。ミュージシャンにも似て、「私」の目で世界を見る。その昔セックス・ピストルズに触発された彼女は、英国ブライトンで暮らしながら、きっといまでもセックス・ピストルズに触発され、彼女が好きな日本の文化(伊藤野枝、坂口安吾、えー、ほかにもいろいろ)を忘れることなく、同時にまた英国に同化することなく(イギリス在住日本人には、自分をイギリス白人だと勘違いしているが多い、アメリカにも)、しかし、日本ではあまり見ない、あまりに描かれてはいない、ある種の人たちに強い共感を寄せる。
 小さな政府が現れ、所得による階層分化がはじまったのは80年代だが、90年代にその流れは加速し、2000年代になってからはさらに深刻さを増している。いや、もうダムは決壊しているのだろう。我々の目の前で。ブレイディみかこは、まさにそのあり様=時代を捉えているわけだが、彼女が共感し、言葉にしているのことの多くは、新自由主義にひどい目にあっている人たち/抗っている人たちについてである。たとえるなら、ケン・ローチのようなアプローチでコラムを書いていると言えるだろう。
 
 さて、最高に格好いい装丁の『ヨーロッパ・コーリング』刊行に乗って、『アナキズム・イン・ザ・UK』も重版した。いま読み返しても、今回のブレグジット前夜の英国が描かれているし、彼女の洞察力やユーモアもさることながら、生きていくことの彼女の力強さには心が打たれる。音楽で言えばこちらはソウル・ミュージック。未読の方はこの機会にぜひ手にとって欲しい。


アナキズム・イン・ザ・UK
──壊れた英国とパンク保育士奮闘記──
ブレイディみかこ(著)

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Bim One Productions - ele-king

日本にいながらにして世界で活動することは、今日においてはさほど難しいことではなくなった。東京のビム・ワン・プロダクションズがそのなかで埋もれずに個性を発揮しているのは、楽曲制作の実力だけではなく、足を動かして海外に出向く行動力、そして誰と何をどうやるかを見極める鑑識眼も彼らに備わっているからだろう。ふたりの軌跡をたどってみれば、そこにはザ・バグことケヴィン・マーティンや彼が見出したイスラエル出身の新世代シンガーのミス・レッド、そしてグラスゴーのダブ帝国、マンゴズ・ハイファイなど優れたミュージシャンたちの姿がある。
国境を越えた相互のコミュニケーションから生み出された楽曲はレゲエ/ダブ、ひいてはベース・ミュージック全体で着実にサポーターを獲得してきた。今回リリースされるアルバムでは、独自の音楽ネットワークを通して、ビム・ワンのふたりが作ってきたリミックスや新曲が収録される。共同体とは何かが問われている現在、こうして移動と交流から作り出された音楽を聴くことができるのは嬉しいことだ。
発売は7月20日を予定。今回も数々のミュージシャンの名前がクレジットされ、解説はディスク・ショップ・ゼロの飯島直樹氏が担当している。

Easy Skanking ft. Sr.Wilson | Forthcoming Album - Crucial Works

Bim One Productionは東京をベースに活動するレゲエのリズムの進化を促すエレクトロニック・レゲエ・リズム・プロダクション。メンバーに東京オリジナル・ラガマフィン・グループRub-A- Dub Marketのサウンドの要であるe-muraと、DJ兼トラックメーカーである1TA a.k.a. DJ 1TA-RAWが在籍。「世界基準のサウンドシステム・ミュージック」をコンセプトにドスの効いたサウンドプロダクションを提供、国内のみならず海外のアーティストとのコラボレーション、Remixなど様々な形で作品を生産。2014年結成にて同年3月にはフランスのレゲエMC、Shanti Dとのコラボレーション曲が収録された「Gun Shot E.P.」を世界リリース。2015年行われたDry & Heavy Dubコンテストにて見事優勝、UKのBBC Radioでもデヴィット・ロディガンやトドラ・ティーなどがへヴィー・プレイし海を越えてスマッシュ・ヒットした「Don't Stop The Sound」など、勢いを増す新星レゲエ・クリエーター・チーム待望の作品集が『Crucial Works』だ。

(リリース情報)
アーティスト: Bim One Productions
アルバムタイトル: Crucial Works
レーベル: Bim One Productions / Riddim Chango
品番: BIMPCD-001
発売日: 7/20 (水)
定価: 2340yen(税抜)
解説:飯島直樹(Disc Shop Zero)
Track List:
1. Bim One Productions feat. Shanti D - Dubshot
2. Bim One Productions feat. Pablo Gad - Hard Times VIP
3. Natty King - System (Bim One Mix)
4. Bim One Productions feat.Junior Dread - No Cocaine
5. Bim One Productions feat.Macka B - Don't Stop The Sound
6. Pupa Jim - UFO (Bim One RMX)
7. Mungo's Hi-Fi feat. Mr.Williamz - Thousand Style (Bim One RMX)
8. Danny-T feat.Parly B - Dreader Than Dread (Bim One RMX)
9. Original One feat.Parly B - Mi Bredren (Bim One Mix)
10. Bim One Productions feat. Sr.Wilson - Easy Skanking
11. Mr.Williamz - Pull Over (Bim One RMX) - Pure Niceness
12. Bim One vs Dry & Heavy - Jam Rock (Respect Remix)
13. Bim One Productions feat. Sr.Willson - New Life
14. Mungo's Hi-Fi feat. Cornel Campbell - Jah Say Love (Bim One RMX)

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『ele-king』のバックナンバーはもちろん(vol.5〜vol.18)、『テクノ・ディフィニティヴ』『ハウス・ディフィニティヴ』など人気のディスクガイド“definitive”シリーズ、「ジム・オルーク」号や「読書夜話」号も好評の『別冊ele-king』、まだまだ売れ続ける萩原健太さんの『70年代シティ・ポップ・クロニクル』やブレイディみかこさんの『アナキズム・イン・ザ・UK——壊れた英国とパンク保育士奮闘記』といったロングセラー名著、そして『赤塚不二夫 実験マンガ集』『きのこ漫画名作選』といった漫画作品に、TwiGyさんの自伝『十六小節』など話題の新刊書籍まで、ele-king booksも気づけば60冊超のカタログ数。

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 イーストヴィレッジにあるアザー・ミュージックは、私がNYで一番通ったレコード屋である。NYに引っ越す前から、NYに来たらまず最初に行く場所だったし、イースト・ヴィレッジに引っ越してきてからは毎日通った。ウィリアムスバーグに引っ越してからも、週に3日は通ったし、自分のレーベルや友だちのレコードなどを置かせてもらった。インディ・シーンにいる人たちにフレンドリーなレコード屋さんだった。スタッフもアニマル・コレクティブ、ジャー・ディヴィジョン、ヌード・ビーチなどのメンバーで、みんなバンドをやっている。
 

 2016年5月、アザー・ミュージック(https://www.othermusic.com)が6月に閉店するというニュースが流れた。アザー・ミュージックは、1995年にタワーレコードの向かいに、タワーにない「他の=other」ミュージックを扱うという名目でオープンした。
 2006年にタワーレコードがクローズした後も、アザー・ミュージックは、独自のインディ・セレクションで、世界中の音楽ファンに支えられていたのである。行くたびに、たくさんお客さんが居た。スタッフと長々雑談し、CDを片手に抱えきれないほど持っている人も珍しくなく、インストア・イヴェントとなるとじつにたくさん人が入った。いわば私たちの拠点だった。

 アザー・ミュージックの閉店日と同じ日6月25に、これまた老舗のNYのレコード屋、ウエスト・ヴィレッジのレベル・レベルも閉店した。レベル・レベルはUKの輸入盤が多いレコード屋で、ディヴィッド・ボウイの曲から店名をとっている。28年の歴史に幕を下ろす原因は、NYのとんでもない家賃の値上がりである。

 2016年という年は、もう何が起こってもおかしくない気もするが、このニュースは、音楽業界の変化、個人店経営、消費者のお金の使い方を、現実的に受け止める良い機会となった。コアなファンの貢献だけでは、個人経営店のNYの家賃は賄えないのだろう。
 同じことがNYのDIY音楽会場にも言える。シークレット・プロジェクト・ロボット、アクロン、グランド・ヴィクトリー、そしてパリセイドまでが閉店、もしくは引っ越しを迫られている。もちろん、何処かでパーティは引き継がれるのだけど。

 自分のレーベル、コンタクト・レコーズの一番最初のコンピレーションにアザー・ミュージックのミラーをジャケットに使わせて貰ったなー(1998年)、と思いを馳せながら、かくいう本人も、15年住んでいるウィリアムスバーグのアパートメントを今月末に追い出される。気がつけば周りはコンド(※新築マンション)だらけ、ヒップな近所になったが、もうここは、アーティストや個人店には厳しい。リーズナブルな家賃を求めて、もっと東、北、南へ動くしかないのだ。ああ、NY。

https://www.othermusic.com

https://www.recordstoreday.com/Venue/5664

https://www.brooklynvegan.com/other-music-closed-for-good-rebel-rebel-too

interview with Tim Hecker - ele-king


Tim Hecker
Love Streams

4AD / ホステス

ElectronicaAmbient

Tower HMV Amazon

なんとジョン・カサヴェテスだという。そう、アルバム・タイトルのことである。詳しくは本インタビューを読んでいただきたいが、いわれてみれば『ラブ・ストリームス』だから、そのままである。しかし私は迂闊にも〈4AD〉からリリースされたばかりのティム・ヘッカー最新作のアルバム・タイトルと、ジョン・カサヴェテス、晩年の傑作がまったく結びつかなかった。本当に迂闊であった。いや、しかし、どう聴いても、どう考えても、いっけん関係がないではないか(言い訳)。

 だが、ある。この異質にして、まったく関係のないもの、それらが、ごく曖昧に、しかし奇妙な必然性を伴いつつ融解するように共存していくさまは、まさにティム・ヘッカーのアンビエント/ドローンそのものともいえる。むろん、私が愚かも指摘してしまったように、「ジョン・コルトレーンの『ア・ラブ・シュプリーム』(『至上の愛』)と「ジョン」繋がりの洒落かもしれないが、いずれにせよ一筋縄ではない。
もしかすると、ティム・ヘッカーの音楽にはシュールレアリスム的な壮大な「無意味さ」が横たわっているのではないか、そう感じてしまうほどに彼の回答は魅力的なはぐらかしやユーモアに満ちていた。同時に「声」と「ハーモニー」の存在の重要さについて語る彼は、やはり「全身音楽家」でもあった。この魅力的な二面性こそが、「ティム・ヘッカー」そのものなのだろう。

 ともあれ、はぐらかしと誠実さが入り混じった彼の言葉は、シンプルな返答ながら滅法おもしろいのだ。「ホワイトネオン」「麻、白い馬のサウンド」「殺風景な崖の端っこ」などと、この最高傑作をサラリと魅力的に表現するかと思えば、一方では自身を「教会音楽が滅びるのを阻止しようとしている寄生性のエイリアンみたいな存在」とまで語るティム・ヘッカー。なんとも魅力的な人物ではないか。

 本インタビューの奇妙にしてイマジネティブな言葉たちから、あなたは何をイメージするだろうか? 私にとっても、そしてたぶん、あなたにとっても待望のティム・ヘッカー・インタビュー、ついに公開。アンビエント・ファンならずとも熟読してほしい。

■Tim Hecker / ティム・ヘッカー
カナダ、バンクーバー出身。1998年にモントリオールのコンコルディア大学に入学。卒業後は音楽業界から離れ、カナダ政府で政治アナリストとして就職。2006年にマギル大学で都市騒音のリサーチをはじめ、同大学において「音の文化」に関しての専門家として講義を行った。 テクノに興味を持ちはじめたものの、趣味の範囲に収まっていた音楽活動を本格化させ、2001年にデビュー作『ハウント・ミー、ハウント・ミー、ドゥ・イット・アゲイン』を発表。2011年にワンオートリックス・ポイント・ネヴァーことダニエル・ロパティンとともに『インストゥルメンタル・ツアリスト』を発表。2013年に9作め『ヴァージンズ』を発表。本年2016年、10作めとなるアルバム『ラヴ・ストリームズ』をUKの〈4AD〉からリリースする。

今回のアルバムをつくったときのクエスチョンは“ホワイトネオン、麻、白い馬のサウンドにアプローチした、穏やかではない仰々しいアルバムをどうやったら作ることができるか”だった。

前作『ヴァージンズ』から3年を経ての待望の新作ですが、この3年のあいだに、あなたの音楽やサウンドに対する意識の変化はありましたか?

TH:アルバムごとにアプローチは変化していると思う。前回のアルバムでは、“初期のスティーヴ・ライヒの作品が流れているスピーカーをワイルドな犬の集団が襲ったらどうなるか”というアイディアからスタートしたんだ。そして今回のアルバムをつくったときのクエスチョンは“ホワイトネオン、麻、白い馬のサウンドにアプローチした、穏やかではない仰々しいアルバムをどうやったら作ることができるか”だった。……つまり、ぜんぜん違うサウンド、テクニック、そして楽器を使うということさ。おもに声だね。

今回は『ハーモニー・イン・ウルトラヴァイオレット』(2006)以来、アルバムをリリースされてきた〈クランキー〉から離れ、〈4AD〉からの最初のリリースになったわけですが、ヘッカーさんにとって〈4AD〉というレーベルは、どのような意味を持つレーベルなのでしょうか?

TH:〈クランキー〉と同じくらい、すごく大きな存在だよ。深い歴史のあるレーベルだし、リリース作品の内容も経営法もいまだに素晴らしいと思う。

本作はモントリオールやロスアンゼルスでレコーディングされたとのことですが、レコーディングには、どれくらいの時間がかかりましたか?

TH:いろいろな場所でバラバラにレコーディングしたから、だいたい1年半くらいかかった。もちろん、1年半ずっとレコーディングしていたわけではないよ!

僕は“アンビエント/ドローン”といったものに楯つく音楽を作ろうとしているし、もしそういった典型的なスタイルに近づいてきてしまったとしたら、それは失敗を意味するのかもしれない。

素晴らしく美しい“ミュージック・オブ・ジ・エア”、曲名からして象徴的な“ヴォイス・クラック(Voice Crack)”、さらには“ヴァイオレット・モニュメンタル・Ⅰ”などに代表されるように、今回のアルバムには「声」の要素が大胆に、かつ分断的に導入されており驚きました。アンビエント/ドローンな音楽性(もちろん、それだけに留まらない音楽性であるのは十分に承知していますが)であるあなたの作風に、「声」を導入した意味について教えてください。

TH:そう。僕は“アンビエント/ドローン”といったものに楯つく音楽を作ろうとしているし、もしそういった典型的なスタイルに近づいてきてしまったとしたら、それは失敗を意味するのかもしれない。声を取り入れたかったのは、チャレンジでもあったし、趣があって、満たされていて、かつ美学的にも魅力的だと思ったからさ。

さらに、アルバム全体においてハーモニーやメロディがより明確になり、同時にさらにエモーショナルになっているように聴こえました。あなたにとってメロディやハーモニーとは、音楽にどのようなものをもたらすものですか?

TH:なんだろう。自分の作品は、基本的にハーモニーやメロディがけっこうモチーフになっていると思う。少なくとも、僕自身はそう思うね。作品の碇のような存在で、それを中心に自分の作品が出来上がっていると思う。でももちろん、今回の作品ではそれがもっと明白だし、率直だと思うね。それは、自分が意識したことでもあるんだ。

そのような「声」と「ハーモニー」の大胆にして繊細なコンポジションによって、本作におけるどの楽曲も、まるで21世紀の教会音楽、賛美歌のような崇高さを感じました。あなたにとって教会音楽は、どのような意味を持つのでしょうか? また、ご自身が西洋音楽の末裔にいるという意識はありますか?

TH:そういった音楽の末裔だという意識はないね。僕は、宗教音楽を提供する現代人というよりは、教会音楽が滅びるのを阻止しようとしている寄生性のエイリアンみたいな存在なんだ。崇高なものにはもちろん心を奪われるときもあるけど、それよりも「画家が絵を分析、検査するようなアプローチVSそういった絵画の内容を実際に信じてプロモーションすること」という面が強いと思う。それが意味をなせばの話しだけどね。

僕は、宗教音楽を提供する現代人というよりは、教会音楽が滅びるのを阻止しようとしている寄生性のエイリアンみたいな存在なんだ。

同時に、たとえば1曲め“オブシディアン・カウンターポイント(Obsidian Counterpoint)”の冒頭のシンセのミニマルなシーケンス・フレーズなどに、どこかテリー・ライリーなど60年代のミニマル・ミュージック的なものも感じました。本作に60年代のミニマル・ミュージックの影響はありますか?

TH:過去の作品に比べると、この作品ではそういった音楽の影響は少ないと思う。でも、そういった作品からの愛はつねに持っているし、これからも持ち続けると思うよ。

どこかジョン・コルトレーンのアルバムを思わせる印象的なアルバム・タイトルですが、このタイトルを付けた意味を教えてください。

TH:おもしろいことに、このアルバム・タイトルは、もう一人のジョン・C、ジョン・カサヴェテスの1980年代初期の映画(『ラヴ・ストリームス』1984年)を参照しているんだ。

前作に続き、カラ・リズ・カバーデール(Kara-Lis Coverdale)がキーボードで参加されていますが、本作における彼女の貢献度を教えてください。

TH:彼女は、制作のはじめの段階のセッションで何度かパフォーマンスしてくれたんだ。

同じく、ベン・フロストも参加されていますね。彼はあなたのサウンドに、どのような変化をもたらすアーティスト/エンジニアなのでしょうか?

TH:彼は僕の友人。しっかりとした強い意見を持っていながらも繊細な人間で、すごく深い技術の知識を持っている。彼はコラボレーターというよりも、相談役のような存在なんだよ。

ヨハン・ヨハンソンがコーラル・アレンジメントで参加されています。彼に何か具体的なディレクションを出しましたか?

TH:最初の頃にできたものを彼にいくつか送って、それに合唱のアレンジを書いてくれと頼んだ。それから8人のアンサンブルといっしょにアイスランドでそのセッションをレコーディングしたんだ。

現代社会を称賛しながら、殺風景な崖の端っこや隙間でダンスしているような作品だと思う。

曲名に、ヴァイオレットやブルー、ブラックなどの色彩をイメージさせる言葉が入っており、アルバムのアートワークも色彩豊かで、前作のモノクロームな色合いとは対照的でした。サウンドにもどこか「色」を感じるような気がしました。本作に(もしくは、あなたの音楽に)おける「色彩」とは、どのような意味を持つものでしょうか?

TH:たしかにそうだね。僕自身は、ヴィヴィッドでありながらも地味なものを求めていた。グレースケールVSハイパーカラーで作業することが多いけど、その2つのアプローチを対比するおもしろいものを発見しつつあるんだ。僕にとっての音楽制作において、色というものは、アイディアを考えるという段階ですごく大切な役割を果たすものだね。

“ブラック・フェイズ”のMVなどをみると、現代社会に警告的な作品なのでは? とも思いました。本作は、現在世界の不穏さを反映しているのでしょうか?

TH:現代社会を称賛しながら、殺風景な崖の端っこや隙間でダンスしているような作品だと思う。

音楽にかぎらず、本作を制作するに当たって影響を受けたものを教えてください。

TH:本当にさまざまなものから影響を受けていて、それが一つにまとまっているんだ。布だったり、音楽の論題だったり、ネオン、友人、コラボレーターたち……いろいろだよ。

最後に現在進行形のプロジェクトなど、差し支えつかえない範囲で教えていただけますか?

TH:いまはアルバム制作からは離れて休みをとっているところなんだ。でも、日本の雅楽の同調システムに関して調べていて、たったいまも、このインタヴューに答えながらそれをやっているところだよ!

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