「KING」と一致するもの

interview with Yosuke Yamashita - ele-king

ドラムの森山がとりあえず一番凶暴になりまして、ドーンと打ち込んでくる。それに対して僕は最初は指で応じていたんですが、森山のドーンは強烈ですから、こっちも負けずにやってやるというので、ダーンと打ち返した。それが肘打ちのはじまりですね(笑)。

 山下洋輔トリオが結成から50周年を迎える。それに併せて12月23日(月)に新宿文化センターにて、「山下洋輔トリオ結成50周年記念コンサート 爆裂半世紀!」と題したイベントが開催される。歴代のトリオ参加者である中村誠一、森山威男、坂田明、小山彰太、林栄一らはもちろんのこと、三上寛、麿赤兒、そしてタモリさえもが参加する、めったにお目にかかることのできない集大成的な催しである。遡ること50年前、すなわち1969年に病気療養から復帰した山下は、ピアノ、サックス、ドラムスという特異な編成で、既存のジャズに囚われることのない「ドシャメシャ」なトリオを結成した。ときを同じくしてギタリストの高柳昌行は吉沢元治、豊住芳三郎らと結成したニュー・ディレクションで最初のアルバム『インディペンデンス』を録音し、ピアニストの佐藤允彦はドラマーの富樫雅彦らとともに耽美的な傑作『パラジウム』を発表している。あるいは富樫、高柳、吉沢、高木元輝という黄金のカルテットによる先駆的な即興作品『ウィ・ナウ・クリエイト』がリリースされたのも同年である。のちに日本のフリー・ジャズと総称される立役者たちが出揃った1969年は、まさしく日本のフリー・ジャズの幕開けを告げたきわめて重要な年だったと言ってよい。

 彼らの道行は70年代に入ると勢いを増すとともにそれぞれに大きく分かれていったように思う。あるいはそれぞれのオリジナリティが確立されていったと言うべきだろうか。そのなかでもわたしたちが思い起こさなければいけないのはおそらく、山下洋輔トリオが決してエリート主義に陥らなかったということである。むろん万人に受ける音楽などないし、誰もが聴かなければならない唯ひとつの音楽などこの世にはない。とはいえミュージシャンが聴衆を選別することほど不毛なこともない。日本においてフリー・ジャズというある種の特殊な音楽が、ジャンルの壁を超えて様々なミュージシャンの基層にあり、そしていまもなお聴衆を惹きつけているのだとすれば、それは間違いなく山下洋輔トリオがあくまでも「開かれた場所」において活動することに徹してきたからに他ならない。このことは先日、誰もが出入りできる東京タワーの麓で開催された「アンサンブルズ東京」において、大友良英──大友は山下ではなく高柳に師事していた──によるフォルムを持たない即興的なアンサンブル、あるいはノイジーなギターの響きを聴いたときに、いまもなおかたちを変えて受け継がれているとともに、これからも確保していかなければならないものなのだと強く感じた。であればこそわたしたちは、開かれた過激さを纏う山下洋輔トリオの活動と当時の同時代的な状況について、単に過ぎ去った時代を回顧するのではなく、アクチュアルな問題意識をともなってあらためて振り返る必要があるだろう。(細田成嗣)

既成のものをぶち壊せという運動もたしかにありましたが、僕らに関して言えば、音楽を政治的なメッセージとして演奏したことは一度もないです。そういうことを音でもできるよというか、自然に壊しちゃってるところが結果的には一致していましたけどね。

山下洋輔トリオが結成された1969年にはまだフリー・ジャズというものが存在しなかった。正確に言うとのちにフリー・ジャズと呼ばれるような音楽は、その頃の日本ではニュー・ジャズと呼ばれていたと聞いています。ニュー・ジャズ、つまり新しい音楽に取り組むという意志が、当時の山下さんにもあったのではないでしょうか。

山下洋輔(以下、山下):ええ、ありましたね。ただしもちろん手本になるものはありました。ピアノのセシル・テイラーやアルト・サックスのオーネット・コールマンなど、アメリカではじまっていたフリー・ジャズ運動です。最初の頃の僕は正統派だったので、あの人たちの音楽に近寄ってはいけないと考えていました。けれども考えがガラリと変わったんですね。トリオを結成する1年半前に僕は病気をして、しばらくピアノが弾けなくなっていました。回復してから病気になる前のバンドを再結成してリハーサルをはじめたんですが、どうしてもその音楽が当時の自分の気持ちにそぐわなかった。何かもっと力強くて激しいものを求めていたんです。リハの直前にベースの人が就職をしてバンドを辞めるということもあって、ピアノ、サックス、ドラムという偶然、セシル・テイラーと同じ編成になってしまった。そこで何をやろうかなって思ったときに、みんなデタラメに勝手に音を出したらどうなるかやってみた。そしたらとても面白い後味があったんです。そのときに一緒にはじめたテナー・サックスの中村誠一は、ジョン・コルトレーンの来日コンサートを客席で聴いていたんですよね。66年に日本でコンサートをやったコルトレーンは、もう完全にフリー・ジャズになっていて、「あのコルトレーンがどうしてこんなメチャクチャをやるんだ!」と驚くほどでした。ですから、ああいうことをやるんだなと理解して、すぐに誠一はできましたね。それからドラムの森山威男は、一所懸命にフォービートをやるよりも、自分勝手なことをいきなりやる方が大好きだ、っていうのをそのときに発見しましてね。彼は藝大の打楽器科出身で、誠一は国立音大のクラリネット科出身。ふたりともどういう音楽が世の中にあるのかを知っていたわけで、そのどれとも似ていないものをやる、ということを最初の動機にしてトリオをはじめられたんですね。

何にも似ていない音楽をやるにあたって、既存のジャズを破壊するような心持ちもあったのでしょうか。

山下:それもあります。やはり似てしまうというのはいままでの秩序があるからですね。それまでジャズが「これが決まりだ」といって守ってきたものを、全部忘れたっていいんじゃないかなと。むしろ忘れてやろうよと。そういう考えになりました。それが自然と破壊につながるわけですね。

開かれた場所、誰もが足を踏み入れることのできる場所で、遭遇してもらう。特別なところと知ってわざわざ足を運ぶのではなくて、普通の場所に行ってみたらとんでもない奴らがいた。そういう状況を求めたかったんです。

たとえばピアニストのスガダイローさんは「自分は山下洋輔のモノマネでいいと割り切っている」とおっしゃっていたことがありました。そのうえで彼自身のオリジナリティが出ていると思うのですが、いまのお話を伺うと、そういったこととは異なるスタンスが感じられます。

山下:そうですね。彼はわざと宣言してはじめたわけですが(笑)、ジャズの掟に囚われずにやるという最初の段階では、僕もピアノのセシル・テイラーの肘打ちを、ああいうこともやっていいんだっていう手本にしていましたよ。とはいえテイラーのやることを全部真似するという意識はなかった。似てしまうところもあるだろうけれども、自分はあくまでも自分の勝手をやってるんだと思っていました。ドラムとサックスとピアノで同時に演奏するわけですが、それまでのジャズにあったようなテンポやコードという決まりがありませんから、そういうものは頼りにしないで、お互いの演奏を聴き合いながら、「ああ言えばこう言う」といった応酬でやっていくわけです。そのうちにドラムの森山がとりあえず一番凶暴になりまして、ドーンと打ち込んでくる。それに対して僕は最初は指で応じていたんですが、森山のドーンは強烈ですから、こっちも負けずにやってやるというので、ダーンと打ち返した。それが肘打ちのはじまりですね(笑)。それをなんどもやっているうちに自然と音楽の技法になっていきました。

アメリカで生まれたジャズという音楽を日本でやることに関してどのように考えていらっしゃいましたか。

山下:ジャズの面白さは第二次世界大戦の前から日本に伝わっていました。演奏する人たちもたくさんいた。けれどもやがて敵性音楽だから禁止だと言われることもあって、やはり日本でジャズが本格的に花開いたのは戦後になってからでしょうね。たとえばドラムのジョージ川口さんのバンドなんかは、中学生の頃僕も聴きに行きましたよ。ジャズは映画音楽にも使われ、ダンス音楽にも使われ、自然と我々のなかに入ってきました。そのなかでも特にモダン・ジャズと言われるものは、自分の自己表現としてこの音楽をやっていた。ダンス音楽や映画のバックなんかじゃないと。それは小説や絵画、映画といったものと同じで、いわゆる普遍的な芸術表現分野なんですよ。どの国の誰がそこに参加してもいい。新しい表現をやっていける。そういうジャンルとしてジャズというものが近代に登場してきたんですね。ひとりひとりが面白い即興演奏をする、そのなかで誰が好きで面白いっていうふうに聴く。そういうジャンルができたときに、そこに我々も入っていったということですね。

その中でもモダン・ジャズを続けていく人もいれば、フリー・ジャズと言われるものを試みていく人もいました。現在に比べれば当時はフリー・ジャズに同時代的な勢いがあったように思います。

山下:ジャズの歴史が長く続けばプレイヤーもたくさん出てきます。その中で自分の表現を求めたいと思ったときに、いままでのやり方では満足できないと考える人がたくさんいたんだと思いますよ。そのことと、あの頃の時代的な背景というものを関連づけて考えてもいいかもしれませんね。ちょうど60年代後半から70年代にかけてというのは、世界的に学生運動というのが盛んな時期で、既成のものをとにかく壊すということに価値があるんだというような考え方がありました。ですから我々がものごとを壊しても、それを「ああ、あいつらは音楽でそれをやっているんだな」って、たとえば学生運動をやってる人たちが共感してくれるとか、学校に呼んでくれるとか、そういうこともありました。そういうことが背景になってるという一面はありましたね。

『DANCING古事記』というアルバムも、そうした学生運動との関わりのなかで生まれた作品ですよね。

山下:そうなんです。早稲田のバリケードの中でやりましてね。発案したのはテレビ・ディレクターの田原総一朗さんでした。彼が担当していたテレビ番組に僕らを出して、学生運動の最中に突っ込んだら火炎瓶が飛んできてメチャクチャになって我々が逃げ惑うであろうと、それをカメラに撮りたかったらしいんですが、案に相違して学生たちはみんなシンとして聴いてしまった(笑)。これは面白かった。テレビ番組のために作ったので録音が残っていて、それをのちに麿赤兒さんが面白いからと言って『DANCING古事記』というアルバムにしてくれた。そのおかげでいまだに伝わっているわけで、幸運なことですね。

当時は政治や状況というものが、音楽と強く結びついていたのでしょうか。

山下:政治状況は政治状況ですごかったし、既成のものをぶち壊せという運動もたしかにありましたが、僕らに関して言えば、音楽を政治的なメッセージとして演奏したことは一度もないです。そういうことを音でもできるよというか、自然に壊しちゃってるところが結果的には一致していましたけどね。

山下さんは1972年に、若松孝二監督の映画『天使の恍惚』の劇伴を務められてもいます。それもまた、ポリティカルな意識というよりも、自然と面白いものを求める流れの中でコラボレートすることになったのでしょうか。

山下:若松孝二さんはピンク映画を利用して社会派の新しい表現をぶち込んでしまうっていうことをされていましたね。それは言ってみれば現状破壊みたいなもので、そういうことでは僕と根が一緒なんですね。それを感じ取っていたからなのか、我々と一緒にやったら面白いだろうという話が向こうから来て。そこに相倉久人さんという絶好の方がおられてね。相倉さんは若松さんのことも我々のこともよく知っていましたから、この両方が結びつくのは面白いと考えてくれた。実情を申せば、「台本も何も読まなくていい、とにかく君たちは演奏しなさい、画面に合わせて僕が全部つけてあげるから」と言われて、そうやってあの映画はできたんですよ。そういういろいろな幸運が重なってできるんですね、ものごとっていうのは。

批評家の平岡正明さんとはそうした流れのなかで出会っていったのでしょうか。

山下:ええ、平岡さんは相倉さんと一緒に行動していましたからね、僕にも注目してくれて。いろいろなことを面白おかしく書いてくれましたね。すべてを革命に結びつけたりして(笑)。ああいう言い方もあるなと思いました。

■山下さんの活動について書いていた音楽批評家だと、他にもたとえば副島輝人さんがいます。

山下:副島さんとはちょっと距離がありましたね。でも最初のリハーサルで我々がメチャクチャをやったときに、その場にいて見届けていたのは副島さんなんですよ。まあ、後に我々のことを書くのは相倉久人さんが多かったこともあり、副島さんが主に手がけるのはまた別のフリー・ジャズのグループになった。

副島さんはその頃のジャズをめぐる音楽批評について、「ニュー・クリティシズム」という言い方で、平岡さんや相倉さんのほか、間章さんや清水俊彦さんなどに言及していたことがありました。

山下:間章さんは何だか僕たちの悪口を言っていたという印象があります(笑)。ですからあまり近寄りませんでしたし、特に個人的に付き合うということもなかったですね。急に出てきたフリー・ジャズというものについて、色々な人が色々なことを言いました。やっぱりすごく強い印象を得たのでしょうね、書きたくなるのはもちろんわかりますよ。そこで好みが出てくるのは仕方のないことで、それはそれでいいと思ってました。清水俊彦さんもおられましたね。最初の頃のことはよく覚えてないんですが、後年になってさまざま認めてくださったことが印象に残っています。

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フリー・ジャズだから我々も自分勝手と言えば自分勝手なんですけど、相手のことも理解しながらやるっていうのが我々の基本でもあるんですよ。いまはこいつはこうやりたいんだな、じゃあ俺がやったらあんたがやりなさい、っていうふうに考えるんです。

トリオ結成前の山下さんが、1965年にサックスの武田和命さん、ベースの滝本国郎さんとともに富樫雅彦カルテットでおこなった演奏が、日本で最初のフリー・ジャズだったと書かれていることもあります。どのようなグループだったのでしょうか。

山下:僕らがのちにはじめるやり方とは少し違っていました。ちゃんとテンポがあったんですね。ただしコードはもうなくていいというところまできていました。それとそれまでのモダン・ジャズでのアドリブのやり方は、ワンコーラスというのがあって、それを3回か4回やったら次の人に渡すっていう寸法が大体決まっていたんですけれど、あの富樫のカルテットではとにかく自分のやりたいことが出てくるまでいつまでやってもよかった。ですから当時としては長い演奏がよくありましたね。で、相倉久人さんがずっと聴いていてくれまして、司会もしてくださっていた。それで相倉さんの執筆したものの中に「日本で最初のフリージャズ」といった文言が残されることになったんです。

それよりもう少し遡ると、1963年に録音された『銀巴里セッション』というアルバムがあります。銀巴里では毎週金曜日の昼にジャズ・セッションがおこなわれて、オールナイトのイベントも開催されていたと聞いています。山下さんにとって銀巴里での活動はどのようなものだったのでしょうか。

山下:あれはとても進歩的な試みでした。その頃のミュージシャンはダンスホールとかキャバレーとか、そういうところが主な仕事場だったわけです。つまり演奏だけを聴かせるための場所がなかった。本当に演奏だけで食えているのは一部のミュージシャンだけでした。たとえばジョージ川口さんのビッグ・フォアとか、白木秀夫さんのグループなどですね。そういう人たちだけがお客さんに演奏を聴かせる機会があったんです。こうした状況をどうにかしようということで、ギターの高柳昌行さんとベースの金井英人さんがふたりで組んで、シャンソン喫茶の銀巴里にかけあって、金曜の昼間だけ貸してもらった。そこにお客さんに来てもらって、生のジャズを聴かせる。いわゆる有名バンドではない人たちが、演奏だけを聴かせるということをはじめたわけで、これは画期的なことだったんですよ。それで若手も呼んでくれまして我々にも声がかかった。若い日野皓正もいましたし、富樫雅彦もいました。そういう人たちが集まっては金曜日にセッションを繰り広げるとても素晴らしい場になっていました。そういう盛り上がりを受けて、近所にあったキャバレーがジャズ・ギャラリー8と名前を変えて、「うちも毎日ジャズのライヴをやっていいよ」とオーナーが言い出した。そこに先ほどの富樫カルテットが出るようになるわけです。

そのあと新宿の旧ピットインの2階にニュージャズ・ホールというスペースがオープンしました。ちょうど山下洋輔トリオと同じでニュージャズ・ホールも今年で50周年なんですが、ニュージャズ・ホールには山下さんは一度も出演しなかったと聞きました。そこには何か理由があったのでしょうか。

山下:ありましたね。ニュージャズ・ホールというのは、ニュー・ジャズだ、フリー・ジャズだっていうことを標榜しましてね。どこか「お前らにはわかんないだろうけど」っていう態度でこもっちゃう感じがあったんです。僕は下の階にあった普通の「ピットイン」で、ありとあらゆるジャズが聴けるけど、こういうものもあるよというやり方をしたかった。それははっきり覚えていますね。ニュージャズ・ホールでやるのは「来たい奴だけ来なさい」という感じで。そうするともう通の世界になってしまう。そういうのは嫌だったんです。誰もが聴ける場所に出て行くけれど、自分らのやることは変えない。メチャクチャに聴こえるならそれでいいと。その同じ場所で次の日には普通のジャズ・バンドがやっている。そういうふうに開かれた場所、誰もが足を踏み入れることのできる場所で、遭遇してもらう。特別なところと知ってわざわざ足を運ぶのではなくて、普通の場所に行ってみたらとんでもない奴らがいた。そういう状況を求めたかったんです。

ニュージャズ・ホールにはサックスの阿部薫さんがよく出演していました。彼のことは当時どのように見えていたのでしょうか。

山下:独りだけでやるのを好んだ人でしたね。阿部薫というサックス奏者がいて、ひとりでピアノも弾いたりしている、っていうことは前から知っていました。実際に演奏も聴いて、やはりすごい奴だと認識していました。一度か二度、彼の方から望んだのかこちらから声をかけたのか、飛び入りみたいなかたちで一緒に演奏したこともありましたよ。阿部はもうとにかく自分勝手でしたね(笑)。フリー・ジャズだから我々も自分勝手と言えば自分勝手なんですけど、相手のことも理解しながらやるっていうのが我々の基本でもあるんですよ。いまはこいつはこうやりたいんだな、じゃあ俺がやったらあんたがやりなさい、っていうふうに考えるんです。変なサービス精神ではなく、音楽家のあり方として、お互いにみんなが表現できた方が面白いからなんですね。けれども阿部には一切その配慮がなかった。自分がくたびれるまでひとりで吹いていましたね(笑)。音楽が阿部のものだけになってしまって、せっかくいる共演者の表現を封殺するのはつまらないんです。

よく外国帰りのミュージシャンが、あっちでは大ウケだったのに日本では全然ダメだ、日本人は聴く耳がないなんて言うこともあるでしょ。けれどもアーティストがそう言っちゃダメだなと思いました。

阿部薫さんと一時期は行動をともにしていた高柳昌行さんは、山下さんからするとどのような存在だったのでしょうか。

山下:もともとは僕にとっては素晴らしいモダン・ジャズのギタリストだったんですよ。それがフリーになってからはあんまり近寄れなかったというか。高柳さんはやっぱりニュージャズ・ホールにこもる方で、聴きたい奴だけが来いというような厳しさがありました。高柳さんのお弟子になった人とも付き合いがありましたから、いろいろな話を聞きましたね。高柳さんの言葉として伝え聞いたところによれば、客が増えるのは良くない、客が増えていくような音楽をやっているのは堕落だ、こんなことを言っていたそうですね。

それは厳しいですね。

山下:厳しいでしょ。いいねって言われて客が増えちゃうのは、これはもう堕落であるという、そういう考え方をするんですね。僕らはそこは違います。やることは変わらないけど、それを面白がって来てくれる人が増えたらいいと、単純にそういうふうに考えてましたからね。

客が増えるのは堕落だというのは、山下さんの活動に対して高柳さんがおっしゃっていたのでしょうか。

山下:いいえ、違います。一般論として、おそらくご自分についてもおっしゃっていたんじゃないでしょうか。半分冗談なのかもしれませんが、それは客に来てもらうために自分が不本意なことをやっているんじゃないか、そういうことをしてしまうことへの戒めだったのかもしれませんね。僕たちはなるべく多くの人にとにかく聴いてほしい、わかってほしい、でもそのために音楽を変えることはしない、ということでずっとやってきました。

反対に、フリーになって以降の高柳さんの活動で、山下さんから見て評価できるところはございますか。

山下:それはありますよ。モダン・ジャズをやっていた人がフリー・ジャズをやりはじめて、しかもその後もそのまんま、それこそわかってたまるかの勢いで音を出し続けていましたからね。これは尊敬に値することです。同時に高柳さんは銀巴里セッションというものをはじめた人ですからね。そういう意味では僕にとっては恩人なんです。初めて人前で演奏を披露することができたのは銀巴里セッションのおかげですからね。それまでももちろん仕事はしてたんですが、それはダンスホールでありキャバレーであり、バーであって、人を飲ませて踊らせる役目の音楽だったわけで。純粋に自分の演奏を聴いてもらうという場は銀巴里が初めてだったわけですから。僕にとっての高柳さんの存在は、そのことと一緒になっていますね。

ニュージャズ・ホールは1971年に閉店しますが、一方で山下洋輔トリオは70年代になるとむしろ活動のピークを迎え、国際的にも広く知られるようになっていきます。初めて海外で演奏したときは、どのような反応が返ってきたのでしょうか。

山下:我々がピットインで演奏してるのを、ドイツのマネージャーがたまたま立ち寄って聴いて、いままでとは違うメチャクチャさにびっくりして、これはヨーロッパに連れていったら面白いと考えたようです。それで彼の招きでツアーができたわけですよ。最初に行ったときから、聴衆の反応には過大な期待はしていませんでした。もちろんそれを聴いて喜んでくれる人がいれば嬉しいことではあるんだけど、まずは外国の人の前で自分たちが演奏できることが嬉しいわけですからね。そういう気持ちで行ったんです。生まれて初めてのヨーロッパはルクセンブルグのジャズ・クラブでした。演奏したら最初のうちはやっぱり唖然とした反応でしたが、途中で帰ってしまう人はいませんでした。それで2セット目の終わりくらいに、熱狂的な拍手がだんだん沸き起こってきた。楽しんでくださっている人もいるようだということがわかって嬉しかったです。その次がメルス・ニュージャズ・フェスティバルだったんです。『クレイ』というアルバムに収録されている演奏です。野外のジャズ・フェスティバルだったこともあって、お客さんはたくさんいましたね。それでも我々がやることは一切変えずに、前のジャズ・クラブと同じようにドシャメシャにやったわけですね。そしたらすごい騒ぎになった。これはもちろん嬉しかったですよ。演奏の途中から歓声が上がったり、ソロが終わったら大きな拍手があったり。終わってから楽屋に戻ってビールを飲んでたんですけど、客席の声が全然おさまらないんですね。ドイツ語で「ツーガーベ」っていうんですが、アンコールが鳴り止まない。それでもう一度やってこいと言われて、また出ていきました。振り返ってみればメルス・ニュージャズ・フェスティバルで大成功したことになるんですが、もうその瞬間はね、ほとんど実感がないんですよ。僕たちは普段通りにやっただけでしたから。それでもこれだけ騒いでくれたのは嬉しかったですけどね。そしてこれがそれ以降のヨーロッパ・ツアーにつながるわけです。メルスははじまってまだ3回目だったんですが、ドイツ全土で評判になっていまして、そこで大ウケをした奴らだっていうので、ベルリン・ジャズ・フェスティバルのプロデューサーが目をつけた。それでその年の秋のベルリン・ジャズ・フェスに呼ばれてしまった。こういうことが起きたんですね。傍から見たら大成功物語ですよね。でも僕らにはあまりその実感がありませんでした。やる場所さえあれば思いっきりやるという態度のままでしたね。

ヨーロッパで演奏したときの客席の反応と、日本で銀巴里やピットインで演奏していたときの客席の反応に、違いを感じることはありましたか。

山下:ありましたね。ヨーロッパの方が思い切り反応が返ってきます。演奏が良ければ全力で拍手してくれるし、大騒ぎしてくれますね。ヨーロッパに行く前から同じトリオでピットインで演奏していたんですが、やはりそんな大騒ぎにはならない。それは熱狂的な人たちはいてくれたんですが、会場全体がそうだというのではなかったですね。ヨーロッパでは本当に全体が応えてくれる。そういうふうに感じましたね。

それは聴く人たちの文化の土壌ができ上がっていたとも言い換えられるでしょうか。

山下:そう言えるでしょうね。ヨーロッパの人たちは昔からアメリカのジャズを聴き手として受け止めてきましたからね。他所からジャズをやりにくる人たちには慣れてるわけですね。昔の僕のエッセイにも書きましたけど、ヨーロッパではどこに行っても大ウケしたんですが、このことは日本に帰ったら忘れなければいけないと思ったんですね。よく外国帰りのミュージシャンが、あっちでは大ウケだったのに日本では全然ダメだ、日本人は聴く耳がないなんて言うこともあるでしょ。けれどもアーティストがそう言っちゃダメだなと思いました。ヨーロッパと日本ではお客さんが違うのであって、日本で大ウケするためにはそのために日本でコツコツと積み上げていく時間がなきゃいけない。そう思っていました。ヨーロッパはヨーロッパ、日本に帰ったらまたあらためて「こいつら何をやってるんだ」っていう目にさらされるだろう、そういうふうに覚悟していました。

2009年にはトリオ結成40周年記念コンサートが開催されました。40年経って日本の文化の土壌や聴き手の反応は変わったと思いましたか。

山下:40周年記念コンサートでは日比谷野外音楽堂が満員になりましたからね。僕らのやっていることに騒いでくれる人たちは昔に比べれば増えたように見えますけど、一般の聴衆というよりも、昔から聴いてた人たち、我々と同世代の人たちが集まってくれたという方がやっぱり大きいと思います。これは自分への戒めとしてそう思ってるということです。もちろん20代や30代で聴いてくれる人たちもいるんですよ。ダイローなんかが僕のやり方からはじめたんだと言ってくれて、若い人に聴衆を作っているのはとても良いことだと思うけれども、だからといって胡座をかいていたらいけないですからね。

山下洋輔トリオは1983年に一度解散しています。それはおそらく山下洋輔トリオというフォーマットでできることをやり尽くしたというところもあったのではないかと思います。

山下:そうでしょうね。

しかしお話を伺ってきて、今年の50週年記念コンサートでは、山下洋輔トリオというフォーマットを回顧するのではなく、むしろその新たな姿を目撃することになるのではないかと思いました。

山下:ぜひとも期待してください。僕にとっては今回のコンサートはまた新たな出会いです。昔やっていた仲間たちとの再会ではあるけれど、いまお互いにできることをすべてぶつけ合うという意味では、トリオをはじめた頃と何ら変わりません。みんな元気にしていますし、お互いのことをよく知っているぶん、昔のトリオにはなかったいろいろなコミュニケーションのあり方が聴かせられるんじゃないかと思います。それがとても楽しみですね。

山下洋輔 トリオ結成50周年記念コンサート 爆裂半世紀!

公演名:山下洋輔 トリオ結成50周年記念コンサート 爆裂半世紀!
公演日時:2019年12月23日(月)
開場 17:15 / 開演 18:00
会場:新宿文化センター 大ホール
料金:全席指定
【前売】S席 ¥8,000(税込)/ A席 ¥7,000(税込)
【当日】S席 ¥9,000(税込)/ A席 ¥8,000(税込)
出演者:
山下洋輔(p)
中村誠一(ts)、森山威男(ds)、坂田明(as)、小山彰太(ds)、林 栄一(as)
ゲスト:タモリ、麿 赤兒、三上 寛、ほか
MC:中原 仁
備考:
※3歳以上要チケット
※出演者ならびにゲストは都合により変更になる場合がございます。あらかじめご了承ください。
主催:ジャムライス
共催:(公財)新宿未来創造財団・朝日新聞社
運営:ディスクガレージ
お問い合わせ:ディスクガレージ 050-5533-0888(平日12:00~19:00)

TICKET:一般発売日 2019年9月7日(土)10:00~
●チケットぴあ https://w.pia.jp/t/yosuke-pr/
0570-02-9999
Pコード:154-242 ※要Pコード
●ローソンチケット https://l-tike.com/
0570-084-003
Lコード:72519 ※要Lコード
●イープラス https://eplus.jp/yosuke/
●CNプレイガイド https://www.cnplayguide.com/yosuke_trio50/
0570-08-9999(10:00~18:00)
●ジャムライス https://www.jamrice.co.jp/yosuke/
●新宿文化センター(窓口のみ) 03-3350-1141(9:00~19:00/休館日を除く)

Godtet - ele-king

 後に〈Big Dada〉からアルバムを送り出すことになるMC、サンパ・ザ・グレイトのミックステープでプロデューサーを務めたマルチ楽器奏者のデイヴ・ロドリゲスが、ゴッドテットとして新たなアルバムをリリースする。ハイエイタス・カイヨーテのサイモン・メイヴィンや、〈Rhythm Section International〉の 30/70 のジギー・ツァイトガイストらが参加しているとのことで、現在のオーストラリア・ジャズ・シーンの盛り上がりを伝えてくれるアルバムに仕上がっていそうだ。

GODTET
II

民族音楽からのサンプリング、アナログ感のある暖かい質感のビート、楽曲に寄り添ったギター・プレイ&エフェクト使い、メロディアスなコード進行……

Sampa The Great のプロデュースもこなすオーストラリアのマルチ奏者/プロデューサー Godriguez が中心となって結成された GODTET(ゴッドテット)。
Hiatus Kaiyote や 30/70 のメンバーも参加したジャズ~ダウンビートの名盤かつ新作『II』がCDリリース!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/godtet

オーストラリアという国、土地については何も知りません。ただ、そこから登場してくる音楽にこの数年来、強く惹かれてきました。ハイエイタス・カイヨーテを筆頭に、 30/70 やジギー・ツァイトガイストなど、気にせずにはいられない音楽を届けてくれる存在が次々と現れてくるからです。マルチ奏者、プロデューサー、ビートメーカーのデイヴ・ロドリゲスのプロジェクト、ゴッドテットが作り出すのは、そのコミュニティから登場した最新で最高のサウンド、そう言って間違いありません。 (原 雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : GODTET (ゴッドテット)
タイトル : II (ツー)
発売日 : 2019/10/23
価格 : 2,400円 + 税
レーベル/品番 : rings (RINC59)
フォーマット : CD

Tracklist :
1. Max Lush Carlos
2. Blown Bamboo Pipes
3. Enumerating
4. Alice
5. Oubladi (feat Mariam Sawires)
6. Zawinul
7. Christ Gat God
8. Magnibro
9. Struck Bamboo Pipes
& Bonus Track追加予定

ダブステップ・シーンへ日本からの新風 - ele-king

 アリーナ級の会場を揺さぶりながら消費されてしまったサウンドとは別に、ダブステップは今もコンクリートで囲われた地下のダンスフロアで新しい血を受け入れながら進化を続けている。昨年、Dave Jenkinsが「UKダブステップ:復活の背景」というレポートのなかで「新世代のプロデューサーたちはこれまでとは異なるビートやベースに影響を受けながらユニークなトラックを生み出しており、ウェーブ・ミュージック、ガラージ、トラップ、ハーフタイム、グライムなどが、ダブステップのエナジーとフォーカスを活性化させている」と記していたことが、ここ日本の各地でも目に見えるようになってきた。

 この半年の間に、ダブステップの「復活」に大きな貢献を果たしている3つのレーベル、〈Gourmet Beats〉、〈Trusik Recordings〉、〈Subaltern Records〉からリリースを続けた日本人クリエイターを知っているだろうか。Goth-Trad率いるパーティBack To Chillを中心にDJとしての活動もしているCity1を紹介しよう。

 アメリカでラジオDJも務めダブステップ界ではレジェンド的存在のJoe Niceが主宰する、〈Gourmet Beats〉の21作目として4月にリリースされた「Tribal Connection EP」は、ダブステップのイメージを越え、よりニュールーツに寄ったダブや、ジャングル的な躍動感をテッキーに表現したような曲など、彼のバックグラウンドの幅広さを聴かせてくれた。
 ブログとして2010年にスタートし、多くのインタヴュー記事やテキストでダブステップをサポート、2015年からレーベルもスタートさせたTrusikからは、7月に『Buluu』をリリース。ヘヴィなビートとベースに、サイバーな音空間や神秘的なサウンドを編み込んだ。
 オンラインでベルリン〜ロンドン/ブリストル〜パリ〜ハンブルグで繋がるSubaltern Recordsからは、8月に『Speak Out EP』をリリース。この3作の中では最もダブステップの王道に近い3曲入りで、タイトル曲にはブリストルを中心に活躍するラッパーであり詩人Rider Shafique(11月に来日決定)が参加している。

 2011年に沖縄から上京し、国内コンピレーションやJ.A.K.A.Mのリミックス・アルバムに参加。ミュージシャンだった両親の影響で沖縄古典舞踊の太鼓を習い、トライバルへの憧れや低音に対する嗅覚を無意識に培ってきたというルーツを持ち、沖縄のチャンプルー文化を意識しながら独自のサウンドを模索してきたCity1。短期間に3つの海外レーベルからヴァイナルをリリースするのは単なる偶然か、それとも幸運なのか──City1に話を訊いてみた。

 「〈Gourmet Beats〉、〈Trusik〉、〈Subaltern〉以外にも、気になったレーベルには、5年くらい前からデモを送っていました。〈Trusik〉はレーベル側からSoundcloudや各国のDJがFMでプレイしてくれたダブを聴いてオファーが来たんです。ただ、当初から現場ではプレイしてくれてたのですが、具体的なリリースの話は特に無かったので、ちょっと諦めかけてた時期もあったのですが(苦笑)その後も、納得のいく曲を作っては送ってを繰り返していたら、昨年、各レーベルから『サインしたい』と一気にオファーをいただきました」という。
 ネットによくあるアドバイスで「デモは厳選した数曲に絞った方が良い」という点について、彼は「30曲くらい、納得いく曲をまとめて送りました」とあっさり答える。「好きなDJやレーベルに、Dropboxでまとめたリンクを送ると割とみんなチェックしてくれます。DJだとラジオで4〜5曲くらいプレイしてくれたりもするので、作曲は幅を意識しつつ」。また彼の場合は、Goth-Tradが海外でCity1の曲を何度もプレイしていることもアピールに繋がっているだろうと言う。「リリースが決まるまで、レーベルにはデモをしつこく何度も送りました(笑)。そのやり取りで特に感じたのは、打ち続けられる情熱があるか、スタミナを試されている雰囲気は常にありましたね。実際に会わずにサインすることになるので、本気の熱があるか無いかは試されている感じはしました」
 リリース時期は、各レーベルの進行状況をふまえつつ連携をとりながら適度な間隔を開けて決定したそうだが、3作での曲の割り振りはどのようになされたのかを質問すると「各レーベルの反応を見たかった事もあり、特に色分けはせずデモを全部送りましたが、リリースしたいという曲は被らなかったです。レーベルのセレクションを見て、逆に『なるほど』と感じたところです」
 チャンスを奪い合うわけでなく、自身のポリシーを頑に守りつつ互いのカラーを尊重して連携するのは、ダブステップ・シーンが今なお面白く、そして力強く続いている理由でもあるだろう。また、彼が各レーベルから「ユニークなサウンドだねと言われた」通り、bpm140前後でヘヴィなベースを土台にした“何でもあり”なダブステップの自由さが、この3作のリリースで証明されているように思う。
 連続リリースで注目を集め、現在では他レーベルからのオファーも格段に増えているという。この先は「あるアーティスト主宰レーベルのコンピレーションに参加するので、近々アナウンスがあると思います。アルバムも年内に仕上げられるよう進めていて、内容はダブステップではないのですが、それを通過したダイレクションにはなっているので、また別の一面を楽しんでいただければ」とのこと。

 また、日本のシーンについては「国内でも世界基準の動きをしているDayzeroとKarnageのレーベル〈Vomitspit〉や、Back To ChillクルーのHelktramやMøndaigai、そしてBS0xtraクルーなど、次世代のリリースや活動が活発化している状況に対して、ダブステップがメインのイヴェントが少ないと感じているので、各地とも連携して何か出来ないかと思案中」と、まずは日本国内の状況を活性化させることが重要だと強く話してくれた。それにはクリエイターやDJだけでない、シーンとなるべき全体でのサポートとユニティが必要だ。筆者のようなライター、メディア、イヴェンター、ヴェニュー、カメラマンやデザイナー、その裏方まで……。そして、これを読んでいるあなたの参加も希望したい。興味のある方はCity1にメッセージを送ってみてほしい。


CITY1
soundcloud : https://soundcloud.com/djcityone
bookings : city1dubstep@gmail.com
Instagram : https://www.instagram.com/city1dubstep/
Facebook : https://www.facebook.com/DJCITY1



City1 ‎
Buluu EP
Trusik Recordings


City1
Tribal Connection EP
Gourmet Beats


City1 feat. Rider Shafique
Speak Out EP
Subaltern Records

Scrimshire - ele-king

 これまで浪人アーケストラジ・エクスパンジョンズをリリースしてきた南ロンドンの〈Albert's Favourites〉が、レーベル主宰者であるアダム・スクリムシャーのオリジナル・アルバムをリリースする。スクリムシャーは様々な楽器を弾きこなし、自ら歌うこともでき、プロデュースもDJもどんとこいという多彩な音楽家。今回のアルバムには、ジョージア・アン・マルドロウチップ・ウィッカム、トランペッターのエマ・ジーン・ザックレイらが参加しているとのこと。発売は10月9日。

Scrimshire
Listeners

“現代のニーナ・シモン”とも称される Georgia Anne Muldrow に、新世代UKジャズ期待のトランぺッター Emma-Jean Thackray も参加!!
注目のUKジャズ・レーベル〈Albert's Favourites〉の主宰者でもある Scrimshire が才能を遺憾なく発揮させたオリジナル・アルバムをリリース!!

Official HP: https://www.ringstokyo.com/scrimshire

ヴォーカリスト、マルチインストゥルメンタリスト、プロデューサー、そしてDJでもあるアダム・スクリムシャーは、アコースティック・ギターで弾き語りもすれば、数々の名リエディットでも知られる、マルチな才能に恵まれた真の音楽家。スクリムシャー名義でのソロ作はそんな彼の豊かな音楽的素養が遺憾なく発揮された素晴らしい内容です。rings で紹介したマーク・ド・クライヴ・ロウ、ジ・エクスパンジョンズやイル・コンシダードのメンバーも参加した間違いない一枚! (原 雅明 rings プロデューサー)

アーティスト : SCRIMSHIRE (スクリムシャー)
タイトル : Listeners (リスナーズ)
発売日 : 2019/10/9
価格 : 2,400円 + 税
レーベル/品番 : rings (RINC58)
フォーマット : CD

Tracklist :
1. Theme for Us (feat. Joshua Idehen & Chip Wickham)
2. The Socials (feat. Soothsayers)
3. Life Is Valuable (feat. James Alexander Bright)
4. Before
5. After (feat. And Is Phi)
6. I Never (feat. Madison McFerrin)
7. Won't Get Better (feat. Emma-Jean Thackray)
8. Don't Stop Here (feat. Ego Ella May)
9. Thru You (feat. Georgia Anne Muldrow)
& Bonus Track 2曲収録予定!!

φonon - ele-king

 勢いが増してきました。2018年にローンチした EP-4 の佐藤薫によるレーベル〈φonon(フォノン)〉が、きたる10月11日になんと、一挙に3タイトルを発売します。1枚は正体不明の歌手マダム・アノニモ、もう1枚はテンテンコ、そして A.Mizuki によるラヂオ・アンサンブル・アイーダの計3枚です。それぞれ強い個性を放つアーティストだけに(約1名ナゾですが)、どれもリリースが楽しみです。詳しくは下記をご覧ください。

〈φonon(フォノン)〉のニュー・リリース3タイトル
2019年10月11日(金)発売


●Madam Anonimo(マダム・アノニモ)
『il salone di Anonimo(サロン・アノニモ)』
(SPF-011・税別2,000円)

〈φonon〉初の歌モノ作品。70歳を超えるというソプラノ女性歌手、Madam Anonimo (アノニモ夫人)の「il salone di Anonimo (サロン・アノニモ)」だ。その名は匿名であり無名、そもそも名前は不要であり、アノニモは仮の名でしかない。60年代よりアングラ劇団などで歌っていたという彼女だが、その歌声による作品は半世紀を経ながら本作が初となる。アルバムは異形のカバー曲集となっており、東西の有名楽曲が14トラック収録されている。
〈φonon〉ではおなじみの楽士、森田潤が音楽プロデュースを担当。アノニモ本人による自録りに近いアカペラ音源を基に、モジュラー/電子自動演奏による一人集団即興を繰り広げ、アノニモの部屋を彩っている。シャンソン~カンツォーネ~オペラからアメリカン・ソングブック、そしてサイケロック~現代音楽から“革命的”軍歌まで、独自の解釈とパラフレーズが黒く輝いている。──アノニモ夫人とは何者なのか?

ライナーノーツ・佐々木敦、市田良彦
ジャケットデザイン・内山園壬
※初回プレス限定ボーナスCD付

試聴リンク
https://audiomack.com/artist/onon-1/


●Tentenko(テンテンコ)
『Deep & Moistures(ディープ&モイスチャーズ)』
(SPF-012・税別2,000円)

新時代のミュータント・ポップを体現するテンテンコ。自主レーベル〈テンテン・レコーズ〉から毎月発表してきたプライベート作品のCD-Rは、これまでに約50枚のコレクションを形成しているが、中でも15枚以上のシリーズとして人気の高い“Deep & Moistures”から選りすぐった13トラックに、未発表曲を加え全14トラックがコンパイルされたのが本アルバム。
鋭い重工業ビートで脳髄に切り込んでくるかと思えば、鼓膜をスルーしたノイズで内臓を刺激したり、人懐こくキャッチーなリフで急所をくすぐる……。歌メインのテンテンコ名義作品やライヴとは異なる趣の収録曲たちは、カシオトーン、リング・モジュレーター、オシレーター、サンプラー、ポータブル・シンセ──などの機材を自ら操って作られ、自宅スタジオで録りためたトラック、ライヴやイベントのために制作した作品などから構成されている。テンテンコの、宅録とライヴの現場というスペースを自由に往き来する活動スタイルと、アーティストとしての柔軟な姿勢が表現された“一家に一枚”の決定盤だ!

ライナーノーツ・伊東篤宏
ジャケットデザイン・Material

試聴リンク
https://audiomack.com/artist/onon-1/


●Radio ensembles Aiida(ラヂオ・アンサンブル・アイーダ)
『by chance ≒ by choice(バイ・チャンス ≒ バイ・チョイス)』
(SPF-013・税別2,000円)

A.Mizuki のソロ・ユニットであるラヂオ Ensembles アイーダ。これまでに発表された『IN A ROOM』と『From ASIA』の Radio Of The Day シリーズ2作に続くサード・アルバムが本作。前2作同様、BCLチューナー片手に訪れたタイ/アメリカ/日本──各地でのフィールド・レコーディング音源を素材としながらも、本作では、複数音源を恣意的にミックスしたり、サイコロをロールして出た数字による偶然の順番で並べてミックスしたりと、トラックごとに異なる脱々構築的な試みが成功している。
従来の手法を深化~発展させ、仕掛けられた偶然と意図的/恣意的な選択とが限りなくイコールに近づこうとする空間に、脱構築と構築がせめぎ合う不確定的コンポジションが奇跡的に成立し、不可思議な時空を表出させる。意図と恣意と選択、選択は仕掛けられた偶然、偶然は選択された必然──と、リスナーに“人が何に価値を見いだすのか?”を問う、価値への挑戦とも言える意欲作だ。なお、テンテンコ、佐藤薫、森田潤が参加し、時間指定された進行表でBCLラヂオを演奏した19年平成ラストデイ@DOMMUNEの“φonon Radio Orchestra”ライヴ演奏も収録している。

ライナーノーツ・中原昌也
ジャケットデザイン・河村康輔
マスタリング・noguchi taoru

試聴リンク
https://audiomack.com/artist/onon-1/

KANDYTOWN - ele-king

 いよいよ本体が動き出す。2016年のファースト・アルバム『KANDYTOWN』以来、RyohuGottzBSCIO にと、メンバーそれぞれが精力的に活動を続けてきた KANDYTOWN だけれど、ついにクルーとしてのセカンド・アルバム『ADVISORY』が10月23日にリリースされる。3年ぶりに総勢16名が再集結した新作は、いったいどんなサウンドを聴かせてくれるのか。まずは9月6日に先行配信される新曲“HND”を待とう。

KANDYTOWN
2019年10月23日(水)に2ndフル・アルバム『ADVISORY』リリース決定!
初回限定盤には O-EAST でのワンマンライヴ「LOCAL CONNECTION」の模様をおさめたDVDとスペシャルフォトブック!
そしてアルバムから新曲“HND”が9月6日(金)に先行配信決定。

ラッパー、DJ、トラックメイカー、アートディレクターなど総勢16名が所属する国内屈指のヒップホップ・クルー:KANDYTOWNが、メジャー1stフル・アルバム『KANDYTOWN』から3年振りとなる2ndフル・アルバム『ADVISORY』が10月23日(水)にリリースとなることが発表となった。クルーの活動と並行してそれぞれのソロ作品がリリースされる中、総勢16名が再び集結し制作されたアルバムは全15曲収録。前作同様、エンジニアは The Anticipation Illicit Tsuboi 氏が担当。なお、初回限定盤には5月3日(金祝)に O-EAST にて開催されたワンマンライヴ「LOCAL CONNECTION」の模様をおさめたDVDとスペシャルフォトブックが付属されている。

そして、数量限定の先着購入特典(通常盤・初回限定盤共通)として、TOWER RECORDS では“Harder”、Amazon では“Abstract”といった未発表楽曲1曲入のCDが決定したのでこの機会をお見逃しなく。

更に9月6日(金)にはアルバムから新曲“HND”が先行配信されることがアートワークとともに発表となった。
この楽曲は Neetz が手掛けたトラックに MUD、BSC、DIAN といった3人のMCが参加している。

そんな KANDYTOWN は東京・大阪での Zeppツアー開催を控えており、こちらの日程・チケット等詳細は後日発表予定とのことなので続報を待とう。

【Digital Single「HND」】
Title: HND
Words: MUD,BSC,DIAN
Music: Neetz
Release Date: 2019.09.06 (Fri)

【KANDYTOWN 2nd ALBUM「ADVISORY」】
Title: ADVISORY
Release Date: 2019.10.23 (Wed)

Track List
01. HND
 Rap: MUD, BSC, DIAN / Music: Neetz
02. Slide
 Rap: IO, Neetz, Gottz / Music: Neetz
03. Last Week
 Rap: IO, Gottz, MUD / Music: Neetz
04. Core
 Rap: KIKUMARU, Holly Q, DONY JOINT / Music: Neetz
05. Local Area
 Rap: Gottz, Neetz, KEIJU / Music: Neetz
06. Take It
 Rap: Gottz, KIKUMARU, MUD / Music: Neetz
07. Knot
 Rap: Ryohu, KEIJU / Music: Neetz
08. In Need
 Rap: KEIJU, Holly Q, KIKUMARU, Ryohu / Music: Ryohu
09. So Far
 Rap: Holly Q, Gottz, MASATO, BSC, DIAN / Music: Neetz
10. Legacy
 Rap: Holly Q, MUD, BSC, DIAN / Music: Neetz
11. Bustle
 Rap: Ryohu,Holly Q, Gottz, Neetz / Music: Neetz
12. Imperial
 Rap: Gottz, Neetz, Ryohu / Music: Ryohu
13. Winelight
 Rap: Ryohu, Gottz, IO / Music: Ryohu
14. Cruisin'
 Rap: Ryohu, MASATO, DONY JOINT / Music: Ryohu
15. Until The End Of Time
 Rap: DONY JOINT,Holly Q, IO / Music: Neetz

Produced by KANDYTOWN LIFE
Mixed by The Anticipation Illicit Tsuboi @ RDS Toritsudai

■TOWER RECORDS 限定 先着購入特典:「Harder」
■Amazon限定 先着購入特典:「Abstract」
■先着購入特典:オリジナルステッカー
※いずれも数量限定となります。
※ステッカーは TOWER RECORDS、Amazon 以外のチェーン/店舗が対象となります。
※一部店舗では対応していませんので事前に店舗へお問い合わせください。

【PROFILE】
東京出身の総勢16名のヒップホップ・クルー。
2014年 free mixtape 『KOLD TAPE』
2015年 street album 『BLAKK MOTEL』『Kruise』
2016年 major 1st full album 『KANDYTOWN』
2017年 digital single 『Few Colors』
2018年 digital single 『1TIME4EVER』
2019年 e.p. 『LOCAL SERVICE』, major 2nd full album『ADVISORY』

ロンドンで感じた熱いヴァイブス - ele-king

■ 2019年8月16日 午前7時

 トランジットのバンコクから12時間のフライトを経て、ヒースロー空港に到着した。バンコクの30度超えと高湿度から、ダウンが必要な寒さへ。寒暖差による疲労と、その前の中国ツアーの疲れもあって、空港ホテルで仮眠をとることにした。

 今回のメイン・イベントは、Bussey Building で開催されるサウンド・クラッシュだ。ジャンルを超えた異種格闘技のようなクラッシュに、日本からは Eastern Margins として Tohji、Taigen Kawabe (Bo Ningen / Ill Japonia) と僕が参加することになった。

 Whatsapp と LINE を使いながらサウンド・クラッシュについて連絡を取り合う。事前にオンラインでの打ち合わせのみだったものの、Double Clapperz の相方の UKD の制作と Taigen さんのアイディア、Tohji のラップが噛み合い、準備はなんとか間に合った。

 その日の午後には最終の打ち合わせのため、東ロンドンのダルストンに向かった。サウンド・クラッシュのヘッドライナーの Tohji とは、2年半ほど前にメールをもらって以来の付き合いだ。拠点としているのが西東京の近いエリアだとわかり、色々遊んだり制作したりしていた。また、Taigen Kawabe さんはこの機会で初めてお会いすることができた。


■ 2019年8月16日 午後5時


(左:てぃーやま、右:Yaona Sui)

 打ち合わせのためダルストンで Taigen さんと、Tohji と Tohji チームのてぃーやま(@k11080)と Yaona Sui(@llllllll.llllllll.llllllll)と合流。打ち合わせがひと段落したところで、Taigen さんからダルストンの移り変わりの激しさを聞いた。古くはレイヴの街として知られており、The Albi や Birthdays、Dance Tunnel といった小さなクラブも軒を連ねていたが、再開発等の理由で閉店してしまったという。確かに昨年訪れたときに比べて、新しい建物が増えて街並みのカラーが変わってきたなと感じた。

 その足で、NTS Radio のスタジオがある Gillet Square に向かった。NTS Radio はロンドンを拠点とした、アンダーグラウンドからメインストリームまで、さまざまなアーティスト、ミュージシャン、ラッパーに開かれたラジオ局だ。Aphex Twin が特別番組をやったり、Mixpak、Denzel Curry、Onra、Bone Soda などさまざまなジャンルのアーティストがレジデントを担当するなど、ロンドンの音楽シーンの中心的なラジオ局である。

 スタジオの目の前はスケートができる公園になっていて、オープンな場所になっている。公園でたむろする人びとを横目に、ロンドンに帰ってきたなと感じながらスタジオに入った。


(Photo from NTS Radio)

https://www.nts.live/shows/guests/episodes/tohji-16th-august-2019

 ラジオでは Tohji が制作にインスパイアを受けた曲や Twitter でファンが作ったマッシュアップ動画を紹介していた。いい意味で肩の力が抜けていて、ふざけながら放送をしていて、あっという間の時間だった。

 放送中なによりも驚いたのは、日本時間では深夜3時の放送にもかかわらず多くの日本のファンがリアルタイムで聴いていたことだ。彼が起こしている熱狂を感じた。

■ 2019年8月16日 午後11時

 ラジオが終わった足でそのままサウンド・クラッシュが開かれるペッカムに向かう。パーティを主催した Eastern Margins は、Lumi が主催するロンドンのレギュラー・パーティだ。以前紙版の ele-king コラムでも紹介させていただいたが、ロンドンに住むアジア系の人々に対してスペース・居場所を作るというコンセプトでスタートしている。今回はスペシャルな一晩としてサウンド・クラッシュが開催された。会場となった南ロンドンのペッカムの Bussey Building にはサウンド・クラッシュを楽しみにした約500人のお客さんが来場した。ロンドンの普通のクラブでない場所でおこなわれたイベントで、この規模はかなり驚きだ。


(Photo by @asiangirrlfriend

 お客さんの中にはアジア系を含め、セクシュアリティやエスニシティの多様なお客さんがいて、Eastern Margins が実践する「セーファー・スペース・ポリシー」に則って、みんなが居やすい場所となっていると感じた。以前ベルリンのクラブ OHM でプレイしたときの空気に近かった。

 クラッシュの内容は、TT (fka Tobago Tracks) がグライム・ベースラインをプレイし、ICEBOY VIOLET や M.I.C といったMCが口撃すると、〈Warp〉からデビューした Gaika が率いる The Spectacular Empire がクラシックなダンスホール・スタイルで応戦。Kamixlo 率いる Ángeles y Demonios はハードコアな4つ打ちで盛り上げるなど、ジャンルを超えたサウンド・クラッシュが熱を帯びた。お客さんもそれぞれのジャンルを受け入れつつ、ダブやMCに盛り上がっていった。


(Photo by @asiangirrlfriend

 Taigen Kawabe のソロ・プロジェクト ILL JAPONIA のラフなライヴと、Tohji のUKデビュー・ライヴでは満員のフロアの注目を集めた。Tohji の英語の「俺たちはモールからやってきた、わかるだろ、俺はモール時代のリーダーなんだよ」という言葉はお客さんにも刺さったように見えた。確かにショッピングモールは世界中のどこにでもあるし、そのバックグラウンドから生まれるヴァイブスは、国境を越えて共有できるものだ。シンプルな彼のメッセージが海を越えてロンドンの若者と共鳴している感じがした。

 3時間に及ぶサウンド・クラッシュを制したのはMCが入り乱れて盛り上げた地元のクルー TT。彼らの優勝をフロアが拍手で称えた。お互いを認め合う雰囲気が溢れた素晴らしい一晩だった。
 長い1日の疲労感と達成感を感じつつ、Uber を捕まえてホテルに帰ったのは朝の7時だった。

■ 2019年8月24日 午後5時

 サウンド・クラッシュで出会った M.I.C は、TT の一員としてエネルギー溢れるMCを披露していた。そんな彼が、Reprezent ラジオでのショーに招待してくれた。Reprezent ラジオは Brixton Pop という場所にある。蒸し暑い地下鉄を乗り継いで、Brixton に向かった。


(手前が KIBO (237 mob)、奥が M.I.C

 ジャマイカ系やアフリカ系のルーツを持つ人びとが多く暮らすこのエリアでは、翌日から開催予定のカーニヴァルを前にして賑わいにあふれていた。Reprezent Radio のラジオ局がある Brixton Pop でも屋台やサウンドシステムのステージが大盛況で、そんな街のエネルギーに押されてか、M.I.C と 237 mob の KIBO との2時間セッションも熱に溢れたセットとなった。ライヴセットやサイドMCで鍛えられたフリースタイルとふたりのエネルギーには感嘆するばかりだった。

 約1週間のロンドン滞在の端々で感じたのは、他のクルーに対するリスペクトだ。例えばセッションした M.I.C が「言葉はわからないけど Tohji は凄くよかったよ、(対戦相手ではなくて)お客さんとして見たかったよ」と言ってたように、お互いが違う生まれ育ち、違う言語を話すことをリスペクトして、言語や違いを超えたヴァイブスを共有するという姿勢が感じられた。

 言葉やバックグラウンドの違いを認め合い、それぞれをリスペクトした上で、共有できるヴァイブスを掴みにいく。インターネットで分断された時代に、感性を通じて繋がれる。そんなアイディアをロンドンで見つけたような気がした。

Yanis Varoufakis × Brian Eno - ele-king

 バイクで通勤し、皮ジャンで演説する大臣──そんな政治家が他にどれくらいいるだろう? 見た目も主張もユニークなギリシャの元財務大臣ヤニス・ヴァルファキスは、今年になって一気に邦訳が刊行されはじめたので、その存在が気になっている方も多いだろう。ダイヤモンド社の『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』と明石書店の『黒い匣 密室の権力者たちが狂わせる世界の運命』はしょっちゅう本屋で見かけるし、何を隠そう、最近 ele-king books も彼の主著『わたしたちを救う経済学』(原題『And the Weak Suffer What They Must? (弱者は耐えるのみ?)』)を発売したばかりだ。ちょっとだけ宣伝しておくと、第二次世界大戦後の世界経済の流れを、物語を読むように俯瞰できる1冊で、なぜいまヨーロッパが大変なことになっているのか、その原因がわかりやすく記述されている。
 で、本題。そのヴァルファキスと、ご存じアンビエントのゴッドファーザー=ブライアン・イーノが、11月4日にロンドンで開催されるトーク・イヴェントに出演、互いに意見を交わすことになった。一見まったくちがう世界に属しているように見えるふたりだけれど、じつは彼らは「本当に民主的なEU」の創出を目指す運動「DiEM25(Democracy in Europe Movement 2025)」で共闘する仲で(イーノは DiEM25 のテーマ曲も担当)、すでに4年前に『ガーディアン』紙でも対談している。今回の議題は「カネと、権力と、ラディカルな変革への呼びかけ」だそうで、ごく僅かな人びとのみ豊かにし、残りの大多数を貧困に陥れるグローバルな金融システムが、いかにわたしたちの社会の首を絞めているかについて語られる模様。
 主催はロンドンのインテリジェンス・スクウェアードという、世界各地でトーク・イヴェントを展開している企業で、当日の司会はBBCのジャーナリスト、リテュラ・シャーが務める。会場はチェルシーのカドガン・ホール。現地在住の方、または渡英予定のある方はぜひご参加を。

https://www.intelligencesquared.com/events/yanis-varoufakis-and-brian-eno-on-money-power-and-the-need-for-radical-change/

Mika Vainio Tribute - ele-king

 電子音楽の前進に多大なる貢献を果たしながら、惜しくも2017年に亡くなってしまったミカ・ヴァイニオ。きたる10月19日に、怒濤の《WWW & WWW X Anniversaries》シリーズの一環として、彼のトリビュート公演が開催されることとなった。会場は WWW X で、発案者は池田亮司。彼とカールステン・ニコライのユニット cyclo. や、行松陽介、Haruka など、そうそうたる面子が出演する。パン・ソニックをはじめ、さまざまなプロジェクト/名義でエレクトロニック・ミュージックの最前線を切り開いてきたミカの面影をしのびつつ、出演者による音の追悼を体験しよう。

WWW & WWW X Anniversaries "Mika Vainio Tribute"

極北の中の極北、電子音楽史に名を残すフィンランドの巨星 Mika Vainio (Pan Sonic) のトリビュート・イベントが Ryoji Ikeda 発案の元、WWW X にて開催。Mika Vainio とコラボレーション・ライブも行った同世代の Ryoji Ikeda と Alva Noto とのユニット cyclo. の8年ぶりの東京公演が実現、欧州やアジアでも活躍中の行松陽介と Haruka 等が出演。

テクノイズ、接触不良音楽、ピュア・テクノ、ミニマルとハードコアの融合、といった形容をされながら、90年代初期に Ilpo Väisänen (イルポ・ヴァイサネン)とのデュオ Pan Sonic の結成と同時に自身のレーベル〈Sähkö〉を立ち上げ、本名名義の他、Ø や Philus といった名義で、インダストリアル、パワー・エレクトロニクス、グリッチ、テクノ、ドローン、アンビエント等の作品を多数リリース、アートとクラブ・ミュージックのシーンをクロスオーバーした実験電子音楽のパイオニアとして、2017年の逝去後も再発や発掘音源のリリースが続き、新旧の世代から未だ敬愛され、後世に絶大な影響を与える故・Mika Vainio (ミカ・ヴァイニオ)。本公演では昨年音源化が実現し、〈noton〉よりリリースされた Mika Vainio とコラボレーション・ライブも行った Ryoji Ikeda の発案の元、Mika Vainio のトリビュート企画が実現。同じくそのコラボレーション・ライブに参加し、〈noton〉主宰の Carsten Nicolai (Alva Noto) が来日し、2人のユニット cyclo. で出演が決定。DJにはここ数年欧州やアジア圏でもツアーを行い、ベルリン新世代による実験電子音楽の祭典《Atonal》にも所属する行松陽介と、DJ Nobu 率いる〈Future Terror〉のレジデント/オーガナイザーであり、プロデューサーでもある Haruka が各々のトリビュート・セットを披露する。 ピュアなエレクトロニクスによる星空のように美しい静閑なサウンドス・ケープから荘厳なノイズと不穏なドローンによる死の気配まで、サウンドそのものによって圧倒的な個性を際立たせる Mika Vainio が描く“極限”の世界が実現する。追加ラインナップは後日発表。

WWW & WWW X Anniversaries "Mika Vainio Tribute"
日程:2019/10/19(土・深夜)
会場:WWW X
出演:cyclo. / Yousuke Yukimatsu / Haruka and more
時間:OPEN 24:00 / START 24:00
料金:ADV¥4,300(税込 / オールスタンディング)
チケット:
先行予約:9/7(土)12:00 〜 9/16(月祝)23:59 @ e+
一般発売:9/21(土)
e+ / ローソンチケット / チケットぴあ / Resident Advisor
※20歳未満入場不可・入場時要顔写真付ID / ※You must be 20 or over with Photo ID to enter.

公演詳細:https://www-shibuya.jp/schedule/011593.php

Mika Vainio (1963 - 2017)

フィンランド生まれ。本名名義の他、Ø や Philus など様々な別名義でのソロ・プロジェクトで〈Editions Mego〉、〈Touch〉、〈Wavetrap〉、〈Sähkö〉など様々なレーベルからリリースを行う。80年代初頭にフィンランドの初期インダストリアル・ノイズ・シーンで電子楽器やドラムを演奏しはじめ、昨今のソロ作品はアナログの暖かさやエレクトロニックで耳障りなほどノイジーなサウンドで知られているが、アブストラクトなドローンであろうと、ミニマルなアヴァン・テクノであろうと、常にユニークでフィジカルなサウンドを生み出している。また、Ilpo Väisänen とのデュオ Pan Sonic として活動。Pan Sonic は自作・改造した電子楽器を用いた全て生演奏によるレコーディングで知られ、世界中の著名な美術館やギャラリーでパフォーマンスやサウンド・イスタレーションを行う。中でもロンドンのイーストエンドで行った警察が暴動者を鎮圧する時に使う装置に似た、5000ワットのサウンドシステムを積んだ装甲車でのギグは伝説となっている。ソロや Pan Sonic 以外にも、Suicide の Alan Vega と Ilpo Väisänen とのユニット VVV、Vladislav Delay、Sean Booth (Autechre)、John Duncun、灰野敬二、Cristian Vogel、Fennesz、Sunn O)))、 Merzbow、Bruce Gilbert など、多数のアーティストとのコラボレーション、Björk のリミックスも行う。2017年4月13日に53歳の若さで永眠。Holly Heldon、Animal Collective、NHK yx Koyxen、Nicholas Jaar、Bill Kouligas (PAN) など世界中の世代を超えたアーティストたちから、彼の類稀なる才能へ賛辞が贈られた。
https://www.mikavainio.com/


Photo: YCAM Yamaguchi Center for Arts and Media

cyclo.

1999年に結成された、日本とドイツを代表するヴィジュアル/サウンド・アーティスト、池田亮司とカールステン・ニコライ(Alva Noto)のユニット cyclo.。「サウンドの視覚化」に焦点を当て、パフォーマンス、CD、書籍を通して、ヴィジュアル・アートと音楽の新たなハイブリッドを探求する現在進行形のプロジェクト。2001年にドイツ〈raster-noton〉レーベルより1stアルバム『. (ドット)』を発表。2011年には前作より10年振りとなる2ndアルバム『id』、そして同年、ドイツのゲシュタルテン出版より cyclo. が長年リサーチしてきた基本波形の可視化の膨大なコレクションを体系化した書籍『id』を出版。
https://youtu.be/lk_38sywJ6U

Ryoji Ikeda

1966年岐阜生まれ、パリ、京都を拠点に活動。 日本を代表する電子音楽作曲家/アーティストとして、音そのものの持つ本質的な特性とその視覚化を、数学的精度と徹底した美学で追及している。視覚メディアとサウンド・メディアの領域を横断して活動する数少ないアーティストとして、その活動は世界中から注目されている。音楽活動に加え、「datamatics」シリーズ(2006-)、「test pattern」プロジェクト(2008-)、「spectra」シリーズ(2001-)、カールステン・ニコライとのコラボレーション・プロジェクト「cyclo.」(2000-)、「superposition」(2012-)、「supersymmetry」(2014-)、「micro | macro」(2015-)など、音/イメージ/物質/物理的現象/数学的概念を素材に、見る者/聞く者の存在を包みこむ様なライブとインスタレーションを展開する。これまで、世界中の美術館や劇場、芸術祭などで作品を発表している。2016年には、スイスのパーカッション集団「Eklekto」と共に電子音源や映像を用いないアコースティック楽器の曲を作曲した新たな音楽プロジェクト「music for percussion」を手がけ、2018年に自主レーベル〈codex | edition〉からCDをリリース。2001年アルス・エレクトロニカのデジタル音楽部門にてゴールデン・ニカ賞を受賞。2014年にはアルス・エレクトロニカがCERN(欧州原子核研究機構)と共同創設した Collide @ CERN Award 受賞。
https://www.ryojiikeda.com/

Carsten Nicolai (Alva Noto)

本名カールステン・ニコライ。1965年、旧東ドイツのカールマルクスシュタット生まれ。ベルリンを拠点にワールドワイドな活動を行うサウンド/ビジュアル・アーティスト。音楽、アート、科学をハイブリッドした作品で、エレクトロニック・ミュージックからメディア・アートまで多彩な領域を横断する独自のポジションを確立し、国際的に非常に高い評価を得ている。彼のサウンド・アーティストとしての名義がアルヴァ・ノトである。ソロ活動の他、Pan Sonic、池田亮司との「cyclo.」、ブリクサ・バーゲルトなど注目すべきアーティストたちとのコラボレーションを行い、その中でも、坂本龍一とのコラボレーション3部作『Vrioon』『Insen』『Revep』により、ここ日本でも一躍その名を広めた。2016年には映画『レヴェナント:蘇りし者』(アレハンドロ・ゴンザレス・イニャリトゥ監督)の音楽を坂本龍一、ブライス・デスナーと共同作曲し、グラミー賞やゴールデン・グローブ賞などにノミネートされた。また、1996年に自主レーベル〈Noton〉をByetone 主宰の〈Rastermusic〉と合併し〈Raster-Noton〉として共に運営してきたが、2017年に再解体し、Alva Noto 関連の作品をリリースする〈Noton〉を再始動。
https://www.alvanoto.com/

行松陽介 (Yousuke Yukimatsu)

2008年 SPINNUTS と MITSUKI 主催 KUHIO PANIC に飛び入りして以降DJとして活動。〈naminohana records〉主催 THE NAMINOHANA SPECIAL での KEIHIN、DJ NOBU との共演を経て親交を深める。2014年春、千葉 FUTURE TERROR メインフロアのオープンを務める。2015年、goat のサポートを数多く務め、DOMMUNE にも出演。PAN showcase では Lee Gamble と BTOB。Oneohtrix Point Never 大阪公演の前座を務める。2016年 ZONE UNKNOWN を始動し、Shapednoise、Imaginary Forces、Kamixlo、Aïsha Devi、Palmistry、Endgame、Equiknoxx、Rabit を関西に招聘。Arca 大阪公演では Arca が彼の DJ set の上で歌った。2017年、2018年と2年続けて Berlin Atonal に出演。2018年から WWW にて新たな主催パーティー『TRNS-』を始動。Tasmania で開催された DARK MOFO festival に出演。〈BLACK SMOKER〉からMIX CD『Lazy Rouse』『Remember Your Dream』を、イギリスのレーベル〈Houndstooth〉のA&Rを手掛ける Rob Booth によるMIXシリーズ Electronic Explorations にMIXを、フランスのレーベル〈Latency〉の RINSE RADIO の show に MIX を、CVN 主催 Grey Matter Archives に Autechre only mix を、NPLGNN 主催 MBE series に MIX TAPE『MBE003』を、それぞれ提供している。
https://soundcloud.com/yousukeyukimatsu
https://soundcloud.com/ausschussradio/loose-wires-w-ausschuss-yousuke-yukimatsu

Haruka

近年、Haruka は日本の次世代におけるテクノDJの中心的存在として活動を続けている。26歳で東京へ活動の拠点を移して以来、DJ Nobu 主催のパーティ、かの「Future Terror」のレジデントDJおよび共同オーガナイザーとして、DJスキルに磨きをかけてきた。彼は Unit や Contact Tokyo、Dommune など東京のメジャーなクラブをはじめ、日本中でプレイを続けている。また、フジロックや Labyrinth などのフェスでのプレイも経験。Haruka は、緻密に構成されたオープニング・セットからピークタイムのパワフルで躍動感のあるテクノ・セット、またアフターアワーズや、よりエクスペリメンタルなセットへの探求を続ける多才さで、幅広いパーティで活躍するDJだ。このような彼特有の持ち味は、Juno Plus へ提供したDJミックスや Resident Advisor、Clubberia のポッドキャスト・シリーズにも表れている。ここ数年都内で開催されている Future Terror ニューイヤー・パーティでは長時間のクロージングセットを披露、2017年にはロンドン・ベルリン・ミュンヘン・ソウル・台北・ホーチミン・ハノイへDJツアーを行なうなど、着実に活動の場を広げている。
https://soundcloud.com/haruka_ft
https://soundcloud.com/paragraph/slamradio-301-haruka

Klein - ele-king

 2016年の『Only』で一気に頭角を現した、エレクトロニック・ミュージックの次世代を担うタレントのひとり、クラインが新たなアルバムを送り出す。2017年に〈Hyperdub〉からEP「Tommy」を、翌2018年には手ずから「CC」をリリースし、同年にはミュージカル『Care』のスコアも手がけていた彼女だけれど、今回の新作は18ヶ月かけて制作されたという。彼女自身が新たに起ち上げたレーベル〈ijn inc.〉からのリリースで、ゴスペル歌手のジェイムズ・クリーヴランドや作曲家のスペンサー・ウィリアムズ、18世紀の調性音楽などからインスパイアされたものになっているとのこと。注目すべきは収録曲“For What Worth”において、NYの前衛派サキソフォニスト、マタナ・ロバーツとコラボレイトしている点だろう。なお、発売とおなじ9月6日にクラインは、ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーにてパフォーマンスをおこなうことも決定している。紙エレ22号には彼女のインタヴューが掲載されているので、そちらもチェック。

artist: Klein
title: Lifetime
label: ijn inc.
catalog #: IJNINC001
release date: September 6, 2019

Tracklist:
01. Lifetime
02. Claim It
03. Listen And See As They Take
04. Silent
05. For What Worth feat. Matana Roberts
06. Enough Is Enough
07. We Are Almost There
08. Never Will I Disobey
09. Honour
10. Camelot Is Coming
11. 99
12. Protect My Blood

https://klein1997.bandcamp.com/album/lifetime

Boomkat

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