「KING」と一致するもの

快速東京 - ele-king

朝だ、灰色一色の朝がまたはじまるジェイク・バグ "ライトニング・ボルト"(2012)

僕はゾンビ 最低な気分
最低な世界に サヨナラできない
快速東京 "ゾンビ"(2012)

 ロックンロールは豪華紙ジャケット未発表曲入りのリマスター盤ではない。BOXセットやトリビュート盤ではない。楽器を上手に演奏して、当たり障りのない言葉を歌う音楽ではない。ロックンロールは人間じゃない。報道番組で「国防軍」という言葉が聞こえるようになってから数日後、世田谷の代田橋のライヴハウスでは、ロックンロールの散弾銃が発射されていた。僕は職業柄、ライヴの最中にメモを取ることが多いのだけれど、このときは、たったひと言「嘘つき」と書くのがせいいっぱいだった。快速東京というバンドに僕は完璧に撃ち抜かれた。そう、完璧に。

 快速東京の今年出したアルバム『ロックインジャパン』は、僕の今年のトップ10に入っている。きのこ帝国の『渦になる』とともに、2012年、もっとも夢を見ることのできる新世代のアルバムだ。『ロックインジャパン』の20分のなかに収録された16曲は、いわばRCサクセション+ブラック・サバス+バッド・ブレインズ+ラモーンズ(+初期のワイアー)、文字通りの「快速」な演奏に乗って、哲丸の激烈な言葉が飛び出す。「意味がなくたっていいよ/君がどうだっていいよ/明日がどうだっていいよ」「僕はゾンビ/最悪な気分/最低なアンタに/サヨナラできない」「なんか変だぜ/絶対になんか変だぜ」「ヒマだからお金を稼ごう/ヒマだからご飯をたべよう/ヒマだから息してる/ヒマだから戦争しよう」
 ブレイディみかこさんによれば、今年のUKにはパンク前夜を感じるそうだが、なるほど、快速東京を聴いているとその感覚をこの国でも理解できる。「ロックもパンクもめんどくさいぜ」と哲丸は歌う。「ロックンロールは人間じゃない/ロックンロールを説明するのもめんどくさいし」

 ミニマルでスピーディーで、グルーヴィーな演奏が間を開けることなく続く。フロアの最前列をだーっと女の子が陣取るのは、正しきロック・バンドの正しき風景である。哲丸(若い頃のイアン・ブラウンに似ている)は、ヤマツカ・アイと清志郎を足して二で割ったような、とんでもない動きをしながら、ジョン・ライドンのような形相で歌っている。哲丸とギターの一ノ瀬とのコンビネーションも素晴らしい。ベースとドラムは冷静さを失わずに、正確なリズムをキープする。最後の曲で、哲丸はフロアを走り、テーブルの上で歌った。熱狂する人たち、笑う人たち、そして冷ややかな視線を投げる人たちに客は分かれる。さくっとはじまって、さんざんわめいて、めいっぱい踊って、さくっと終わる。
 快速東京のライヴは『ロックインジャパン』の100倍良い。このバンドに課題があるとしたらそこだ。彼らのライヴ・パフォーマンスを録音物においても表現できたとき、時代は変わるだろう。
 めんどくさいし、この興奮状態のまま書いてしまおう。2011年の最大の発見がオウガ・ユー・アスホールだったとしたら、2012年は快速東京である......というのは嘘である。きのこ帝国もいる。噂のシャムキャッツのライヴもまだ見ていない。ceroも僕は良いと思った。ただ......もうひとつ思った。ジェイク・バグがUKに登場したようなことが、この国でも起きているのかもしれない。いい歳した連中が甘いR&Bのラヴ・ソングや誠実なシンガーソングライターに酔っているあいだ、子供たちは怒りを胸に、時代の荒野の向こう側からやって来たのである。

 追記:紙エレキングの次号では、快速東京のインタヴューが載ります。

interview with Derrick May - ele-king

 久しぶりだった。女子高生が踊っているような、10代が主役の若者文化の渦中にいたのは。その翌日この原稿を書いている。それで僕は、彼女たちにデリック・メイを紹介するとしたら、どう説明すればいいのだろうか......と考えている。
 デトロイト・テクノとは、テクノにとっての、ロックにおけるブルースのようなモノと言って通じるのだろうか。立ち帰る場所であり、一種のルーツだと。君たちがもし将来テクノを好きになったとしたら、いちどは訪れる場所だと。デリック・メイはそのルーツにおいて、3本の指に数えられる重要人物で、言葉がないゆえにカヴァーということのあまりないテクノ・ミュージックにおいては珍しく複数の人にカヴァーされている、当時もっとも多くの人に幸せを感じさせた曲"ストリングス・オブ・ライフ"の作者だと。
 世界でもっとも影響力のあったイギリスの『NME』というロック・メディアが、全盛期にもっとも肩入れしていたDJという説明もできる(その当時のデリック・メイの傍若無人ぶりと反抗を知れば、彼もまたロックンロールのひとりだということがわかってもらえるだろう)。
 実話としてこれもある。ノッティングガムからロンドンにやって来たふたりの青年のうちのひとりがマンチェスターのライヴハウスでストーン・ローゼズを発見して、もうひとりは1988年にデトロイト・テクノの記事を書いたと。1988年のその記事と同時に発売されたデトロイト・テクノのコンピレーションが、国際舞台で初めて「テクノ」という言葉が使われたときなのだと。そして、翌年にはデペッシュ・モードがそのゲットーな街を斜めに走るグラショット・アヴェニュー沿いの、デリック・メイのレーベル(そして当時は彼の住居でもあった)〈トランスマット〉を訪れている。

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 『ビヨンド・ザ・ダンス──トランスマット4』は、デリック・メイと〈トランスマット〉にとって4枚目のレーベル・コンピレーションだ。デリック・メイの実質的な制作活動は、80年代で終わっている。自身の曲に関して言えば、90年代以降は未発表曲しか出していない。彼には完成間近だったアルバムがあったが、そのリリースは見送られ、結局、当時録音された曲はこの20年のあいだ、前触れなく、1曲ずつ、地味~に発表されている。『ビヨンド・ザ・ダンス』にも新しい"未発表"がある。パズルのワンピースだ。
 もちろん『ビヨンド・ザ・ダンス』は、未発表曲のために発売されるわけではない。CDにして2枚組、全23曲には、〈トランスマット〉の眩しい歴史が編集されている。  ブックレットには、懐かしい写真もたくさんある。カール・クレイグ、ロラン・ガルニエ、ケニー・ラーキン、ステイシー・プレンといったベテラン勢から、トニー・ドレイクやマイクロワールドといったマニアにはお馴染みの名曲、そして、地味~に発表されている〈トランスマット〉の新人までが並んでいる。なにせ10年ぶりのレーベル・コンピレーションなので、選曲にもパッケージングにも気持ちが込められている。当然、良いアルバムだ。
 僕にはこの機会に、突っ込んで訊いておきたい話があった。11月末、代官山のエアーのレストランでデリック・メイと待ち合わせた。

この男は、若くて、怒りに満ちていて、革命を起こしたくてうずうずしている。しかしこの男は、レコード・ビジネスに疲れてぐったりしている。DJをしながら世界を回って、女の子とセックスしてダンスして、たまに東京にも住んでいる。このふたりはまったくの別人だ。

まずアートワークがすごく良いね。ブックレットには〈トランスマット〉レーベルの歴史がわかるように、古い写真、関わった人たちの写真がコラージュされている。歴史を見せようという意図が伝わってくるよ。

デリック:歴史だけじゃなくて、これからのはじまりの〈トランスマット〉も出したかったんだよ。

今回の『ビヨンド・ザ・ダンス──トランスマット4』を出すに当たって、いくつか僕のなかで「おや」と思ったことがあって、そのひとつが、デリックが25年以上にもわたるレーベルの歴史を初めて振り返ったということなんですよね。

デリック:そうだね。

たしかに過去には、1992年の『レリックス』のような、80年代のベスト盤みたいなコンピレーションはありました。でも、あれは、あくまでリズム・イズ・リズム中心の内容でした。今回のように、カール・クレイグの"クラックダウン"(1990)からケニー・ラーキンの"ウォー・オブ・ザ・ワールド"(1992)、そしてロラン・ガルニエ(ルドヴィック・ナヴァールやシャズ)の"アシッド・エッフェル"(1993)とか、〈トランスマット〉というレーベルの歴史を綴っているのは、今回が初めてなんですよね。

デリック:ああ、そうだね。ただし、今回のコンセプトは忘れられているものを選んだんではない。いま聴き返されるべきものを選んだ。いまの時代でも古くなっていないもの。たとえばジョン・アーノルドの"スパークル"(2000)、この曲は当時も売れたけど、早すぎたんじゃないかと思っていた。いまこそ、あのドラム・パターンは聴かれるべきだってね。

最近はまた、シカゴ・ハウスやデトロイト・テクノへの回帰みたいなことが起きているので、良いタイミングではありますよね。世界的にダンス・ブームだし。

デリック:もちろん。逆に言えば、今回"ヌード・フォト"や"ストリングス・オブ・ライフ"のような曲を入れなかったのは、知られていない曲に光を当てたかったというのもある。これからの〈トランスマット〉をよくするものじゃないかと。俺は過去に生きているわけじゃない。「いま」を生きている。その視点で選んだ。そして、こうなった。

なるほど。もうひとつ......、まあ、個人的には最大の興味は、デリックの未発表曲が入っていたことなんですよね。

デリック:(日本語で)うっす!

はははは。

デリック:ああ、"ハンド・オーヴァー・ハンド"ね。

あれ、良かったよ。

デリック:(日本語で)ありがとございます。

俺は好きだね。

デリック:そりゃあ、良かった。本当に。入れないほうが良いんじゃないとも思った。ものすごく考えたよ。

古い曲だからね。

デリック:最初は2~3曲入れようかなと思った。でも、気が変わった。あまりにも多くの才能が〈トランスマット〉にあることを再発見したから、できる限り、たくさんの人のたくさんの曲を入れたいと思った。本当に良い才能が揃っているよ。彼らの曲への注目が削がれるようなことはしたくなかった。それで"ハンド・オーヴァー・ハンド"だけを残した。
 この曲は、もともとは15分の曲なんだよ。このアルバムのために8分にエディットしたけど、フル・ヴァージョンは12インチで発表するよ。

それは楽しみ。

デリック:どう思った?

デリックらしい、メランコリックで美しい曲だよね。あのー、1993年に『ヴァーチュアル・セックス』というコンピレーション盤が出たじゃない?

デリック:(日本語で)うっす!

あのコンピで、初めて"アイコン"を発表したわけだけど、あんな曲が未発表曲であるってことに当時はすごく驚いて。普通「未発表曲」というと、ボツにした曲だったりして、質は落ちるけどマニア向けの曲として価値があったりするものじゃないですか。でも、"アイコン"は、通常言われる未発表というレヴェルじゃなかったでしょ。で、あとからあの曲は幻のファースト・アルバムのために録音した曲のひとつだって知って納得したんだけど。

デリック:ああ、そうだよ。アルバムのために録音した曲は、他にも9曲ある。

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俺のコンセプトは、ドラム・マシンの限界に挑戦することだった。ドラム・マシンでどこまでできるのかを見せたかった。しかし"ハンド・オーヴァー・ハンド"ではドラム・マシンに集中するんではなく、メロディや構成で、もうひとつのチャプターを見せるという考えだった。

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実は今日、そのことについて訊きたかった。ようやく幻のファースト・アルバムについて訊くことができる(笑)。いままでも訊きたくても訊けなかったからね。1992年にデリックは『イノヴェイター』というベスト盤を〈ネットワーク〉から出している。しかし、本当は、『イノヴェイター』ではなく、あなたのファースト・アルバムが出るはずだった。

デリック:そう、トレヴァー・ホーンとミーティングをしていた。彼は"ハンド・オーヴァー・ハンド"に興味を持ってくれた。デイヴ・ガーン(デペッシュ・モード)もこの曲で歌っても良いと言ってくれた。ビョークも気に入ってくれた。俺の当時のエージェントは、この曲で俺をポップスターにしようと企んでいた。彼らは俺がデペッシュ・モードやビョークのようなポップの一部になることを望んだ。それで俺は、トレヴァー・ホーンとエージェントと喧嘩した。和解できずに終わってしまった。

1992年の『イノヴェイター』のアナログ盤には、"ザ・ビギニング"が入ってないんですよね。なんで、初めてのベスト盤に"ザ・ビギニング"が入っていないのかがずっと引っかかっていましてね。そこで推理したんだけど、"ザ・ビギニング"にはデリックにとっての次のコンセプトが詰まっていた。しかし、UKの音楽業界がそれを理解しなかったってことなのかなと。

デリック:そう、理解されなかった。"ザ・ビギニング"は、リズム・イズ・リズムの最初のアルバムの1曲目に収録されるはずだった。だから『イノヴェイター』には入れなかった。"ケオティック・ハーモニー"、"ザ・ビギニング"、"アイコン"、"ハンド・オーヴァー・ハンド"......それから......。

ロング・アゴー? 

デリック:いや、あれは違......、いや、そうそう、イエス、イエス、イエス! 俺は......、本当にUKの音楽業界が嫌いだ。本当に大嫌いだ。本当に、本当に、だいっきらいだ! "ハンド・オーヴァー・ハンド"は一発録りだったな。たった1回で録った。心を込めて作った。

こうして、時期がズレながらも、当時の曲が発表されて、デリックの幻のファースト・アルバムの正体がじょじょに露わになってきているというのも面白いね。相当にメランコリックなアルバムだったんだなと思いますが。

デリック:そうだよ。そういうことだ。まあ、パズルだな。

インナー・シティがヒットしていた頃なんで、UKの音楽業界がリズム・リズムにヒットを求めるのもわからなくはないんですが、そんなにも考えに大きなギャップがあったんですね。

デリック:80年代の話から話そうか。俺とホアン・アトキンスとケヴィン・サンダーソンの3人は、(バーミンガムの)〈クール・キャット〉レーベルのニール・ラシュトンとディストリビューション契約を結んだ。俺らのレコードのUKやヨーロッパでの流通は、すべて〈クール・キャット〉が拠点となってやっていた。やがてケヴィンはインナー・シティとして〈ヴァージン〉と契約したが、俺は依然として〈クール・キャット〉だった。〈クール・キャット〉は大手の〈ビッグ・ライフ〉と契約していたから、〈トランスマット〉の作品はすべて〈クール・キャット〉~〈ビッグ・ライフ〉経由で流通していた。最初に揉めたのは、〈トランスマット〉の作品が、結局、〈ビッグ・ライフ〉傘下でしか流通しなかったということにあった。

デリック・メイがやりたかった音楽性が理解されなかったとか、そういうのが原因ではなかったんだ?

デリック:それは大いにある。ニール・ラシュトンは俺の音楽性をディレクションしはじめて、どんどん意見を言うようになった。たとえば"アルセム(R-Theme)"、これがリズム・イズ・リズム名義で出なかったのは、〈クール・キャット〉が気に入らなかったからだ。なぜ俺が好きな曲を自分のレーベルから出せないんだろう、俺はそう思った。〈ビッグ・ライフ〉は......、ヤズ(Yazz)っていただろう? ポップ・シンガーの女の子で、ああいうのを出したがっていた大手メジャーだ。最初〈クール・キャット〉は、〈ビッグ・ライフ〉からリズム・イズ・リズムのアルバムを出すつもりでいた。それで最初に"ザ・ビギニング"の12インチ・シングルのUK盤がリリースされた。しかし、〈ビッグ・ライフ〉は"ザ・ビギニング"を嫌った。〈ビッグ・ライフ〉は、"ザ・ビギニング"は完成度が低いと言ってきたんだ。

それは怒るよね。

デリック:アルバムのタイトルは『ザ・ビギニング・オブ・ジ・エンド』だった。〈ビッグ・ライフ〉は〈クール・キャット〉に圧力をかけてきて、そして俺と〈クール・キャット〉の関係も悪くなってしまったんだよ。

あのドラム・マシンをよりパーカッシッヴのように扱うのが、"ザ・ビギニング"のコンセプトだったと思うけど、その後の"アイコン"、"スエーニョ・ラティーノ"もそうだったし。

デリック:その通りだよ。あのときの俺のコンセプトは、ドラム・マシンの限界に挑戦することだった。ドラム・マシンでどこまでできるのかを見せたかった。そのリリースを終えたあとに、そして"ハンド・オーヴァー・ハンド"ではドラム・マシンに集中するんではなく、メロディや構成で、もうひとつのチャプターを見せるという考えだった。

そのパーカッションのコンセプトはどこから来たんですか?

デリック:俺は当時3つのドラム・マシンを使っていた。909と808、それから727と626も使っていた。基本は909と808を同期させて、スウィング・パターンのループを少しずつ変化させながら、独特なうねりを出すことを考えていた。いまでこそ簡単にできることだけど、当時は複雑な構成だったと思うよ。ドラム・マシンによるバウンシーな感覚を表現したかったんだ。
 俺は高校時代から、ホアン・アトキンスと一緒に毎日のように909で遊んでいたんだよ。パーティに909を持って行って、パーティを盛り上げる楽器のひとつとして、909を使った。ジェフ・ミルズがまだ909の存在を知るずっと前の話だぜ(笑)。ジェフがDJで909を使ったりするのは、誰のアイデアから来ていると思うよ?

はははは。〈ミュージック・インスティテュート〉?

デリック:いや、だから高校生時代からやっていたから。ジェフにこんど会ったら訊いてくれよ。その909のアイデアについて。

高校時代から知り合いだったの?

デリック:18歳の頃から知っているよ。

ザ・ウィザード。ジェフはもう有名なDJだったでしょう。

デリック:有名だったよ。ジェフは俺よりもつねに有名だった。ジェフはランDMCのようなポップな選曲もしていたからね。

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3つのドラム・マシンを使っていた。909と808、727と626も使っていた。909と808を同期させて、スウィング・パターンのループを少しずつ変化させながら、独特なうねりを出すことを考えていた。いまでこそ簡単にできることだけど、当時は複雑な構成だったと思うよ。

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話を戻すけど、デリックの性格を考えると、〈ビッグ・ライフ〉からダメだしされたぐらいで動揺するとは思えないんだけど。なおさら燃えてくるほうじゃないですか。あんたは、そんなことで心が折れるようなヤワな人間じゃないでしょう!

デリック:娘にも同じことを言われたよ。「ネヴァー・ギヴ・アップ!」って。

はははは。

デリック:もうどうしようもなかったんだよ。1991年~1992年は、ニール・ラシュトンが俺のマネージャーで、〈トランスマット〉も彼に半分預けていたところがあった。だから彼と揉めて、〈トランスマット〉を誰かに売ることも考えた。一文無しになったし、追い詰められたよ。

悔しさもあったでしょうね。

デリック:自分のレーベルだけでやっていれば良かったんだけど、〈ビッグ・ライフ〉みたいな大手と組んでレコード・ビジネスの世界に足を踏みれて......、その頃は学びながらやっていこうと思っていたんだけれど、でも、それが失敗だったな。"ビヨンド・ザ・ダンス"を作ったときも〈ビッグ・ライフ〉は理解しなかったんだからね。
 俺も自分で反省しているよ。当時の俺はマネージャーに頼りすぎていたんだ。世間知らずだった。だから、ニール・ラシュトンから意見を言われると、まるで自分を否定されたような気持ちになった。自分が追い出されているような気分になってしまったんだよ。それで、とにかくニールがレーベル経営のこともほとんどやっていたから、彼と別れて、俺は路頭に迷うような感じになった。それでもなんとか、2年かけてレーベルを立て直すことができた。新しいアーティストを集めて、また一からやり直そうと思った。

その立て直した〈トランスマット〉から何故、リズム・イズ・リズムのアルバムを出さなかったんですか?

デリック:(ブックレットに載っている20代のデリックの写真を指さしながら)この男は、若くて、怒りに満ちていて、革命を起こしたくてうずうずしている。(もう1枚の写真、現在の自分の写真を指さしながら)この男は、もうレコード・ビジネスに疲れてぐったりしている。すべてにクソ疲れている。DJをしながら世界を回って、女の子とセックスしてダンスして、たまに東京にも住んでいる。このふたりはまったくの別人だよ。

いや~(笑)。しかし、ホアン・アトキンスだって新しい作品を出しているんだから、デリックだって、新しいシングルを出したいと思っているでしょ? それとも怒りにまかせてスタジオを破壊したとか?

デリック:まさか! そんなことやるわけないだろう。

リー・スクラッチ・ペリーみたいに(笑)。

デリック:止めてくれよ、俺はそんなことはしない。いまでちゃんとスタジオはあるよ。ちゃんと証拠の写真だってあるよ。今回もアルバムも自分のスタジオを使ったんだ。

そういえば、今年デトロイトのベル・アイランド(デトロイト川の中州にある公園)でやった「デイパック・フェスティヴァル」について教えてください。

デリック:ベリー・ナイス。ジュディという友人がやったんだ。おまえは来るべきだったよ。

子供のためにやったんですよね?

デリック:そう、腎臓のない子供たちのためのチャリティでやった。デイパックには、腎臓のない子供たちの薬が入っている。薬を持ち歩かなければ外に出れないからね。だからデイパックを背中に背負った子どもたちのためのチャリティとしてはじまったんだよ。

ああ、それで......、それであんなにもそうそうたるメンツが出ていたんですね。デリック、マイク、ホアン、カール、ケニー、ムーディーマン......。

デリック:もちろん、フェスティヴァルには障害のない子供たちも遊びに来るよ。

それでワークショップをやったり、子供たちにDJや機材の使い方を教えたりしていて。

デリック:そうだね。でも、もともとは募金のためのフェスティヴァルなんだ。だから、みんなで協力した。金儲けのためにやったんじゃない。子供たちのためにやったんだ。

小学生を相手にベテランのDJたちがやっているのが良いなと思いました。

デリック:まったくそうだよ。でも、その根本にはもっとシリアスな理由があるけどね。子供たちを相手にしているけど、あくまで腎臓のない子供たちのためにやったんだからね。まあ、俺の娘みたいな変な子ばかりがそこに集まって(笑)、日中は子供たちみんなが楽しそうだったな。でも、夜になると子供たちは帰ってしまうから、ちょっと訳がわからなくなった。でも、日中は良かったよ。

子供たちにテクノやハウスの作り方、機材の使い方を伝えたいと思いますか?

デリック:すごくあるよ。来年はワークショップを増やして、子供たちにもっとたくさんのことを教えたいと思っている。ただ俺は、良い先生じゃないからな。精神的なことなら教えられるけど、テクニックに関しては良い先生じゃない。気持ちのあり方に関しては教えられるだろうな。子供たちにエネルギーを注入することはできるよ。

ターンテーブルの使い方を教えてないと。

デリック:ふぅ~。この写真を見ろよ!(といって、自分の娘、ソレンがDJミキサーをいじっている写真を見せる)

はははは、いいね。

デリック:彼女は俺のDJを知らないのに、クロスフェーダーをこう操作してやがった。

はははは、父親似じゃない。

デリック:そうなんだよ、それって俺のDJスタイルだろ(笑)!

才能があるんだね。

デリック:かもしれないな。

ソレンちゃんに自分の音楽を聴かせたの?

デリック:いや、俺は聴かせてない。母親がいちど、車のなかで聴かせたことがあるらしいけど、あんまよく憶えてないみたいだ。

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サック・マイ・ディック・サック・マイ・ディック・サック・マイ・ディック・サック・マイ・ディック!!!! 音質は良くはないけど、ファンキーで、ダーティーで、速くて......ってヤツだろ。俺、ああいうの大嫌い。

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いつか感想を聞くのが楽しみだね。ところでデリック、シカゴのフットワークについてはどう思う?

デリック:知らない。

ジュークと呼ばれている音楽だよ。新世代のゲットー・ハウス。

デリック:知らないな-。

けっこうテンポが速い最新のダンス・バトルで、デトロイトで昔、ジッツと呼ばれていた音楽とも似ている。

デリック:ああ、ハウスというよりもエレクトロを速くした感じじゃない。(早口で)トゥクトゥクトゥクトゥク!!!! パーパパパーララパーパパパーララ!!!! トゥクトゥクトゥクトゥク!!!! (甲高い声で)プッシー・プッシー・プッシー・プッシー!!!! サック・マイ・ディック・サック・マイ・ディック・サック・マイ・ディック・サック・マイ・ディック!!!! 音質は良くはないけど、ファンキーで、ダーティーで、速くて......ってヤツだろ。俺、ああいうの大嫌い。

〈ダンス・マニア〉は好きだったじゃない。

デリック:好きだよ。〈ダンス・マニア〉はそこまで酷くなかっただろ。もっとハウス寄りだった。

それがもっと進化したんだって!

デリック:でも、野田が言っている意味もわかるよ。ただ、俺はもともとエレクトロがそこまで好きじゃなかった。エジプシャン・ラヴァーのような好きなエレクトロもあるよ。でもホアンほど好きじゃなかったな。

なるほどね。エレクトロが好きか嫌いかでそこが分かれるんだね。

デリック:あんま若い人の音楽知らないんだよね。いまでもよく付き合っている若い世代は、セオ・パリッシュとオマー・Sぐらい。

いまでも〈トランスマット〉はグラショット・アヴェニューにある?

デリック:ああ、そうだよ。

昔は、グラショット・アヴェニュー沿いの〈トランスマット〉の隣には〈KMS〉(ケヴィン・サンダーソンのレーベル)があって、ダニエル・ベルの〈セヴンス・シティ〉があったけど、いまはもう誰もいなくなったでしょ。なんでデリックだけがいまでもグラショット・アヴェニューに居続けるの?

デリック:コミュニティのためだよ。あの辺のコミュニティにとってものすごく重要だからだ。良い写真を見せてあげよう。(iPhoneから写真を探して見せる)

結婚式?

デリック:そう、誰かがそのあたりで結婚すると、必ずここで写真を撮るんだ。それが〈トランスマット〉がそこに居続ける理由だ。(注:オフィスのあるビルの通り沿いの壁に、デリック・メイは〈トランスマット〉に関わってきた絵描きたちに絵を描いてもらっている。たとえば壁にはアブドゥール・ハックなどの絵が描かれている。いつしか、その大きな壁画の前で近所の教会で式を挙げた新婚さんたちが記念を写真を撮るようになった)

ああ、なるほど-。

デリック:もう〈トランスマット〉のビルは歴史の一部になったんだよ。それだけで、そこに居続ける理由が充分にある。

デトロイト・テクノのヒッツヴィルUSA(モータウンの拠点)だね(笑)。

デリック:はははは。

観光名所だ(笑)。

デリック:それもある。観光客が、テクノの生まれた場所としてそこを訪れて、写真を撮るんだ。

へー、初めて〈トランスマット〉に行ったときには、地下の部屋をアブドゥール・ハックがアトリエにしていて、事務所にはニール・オリヴィエラ(デトロイト・エスカレーター・カンパニー)がいたね。そしてグローバル・コミュニケーションがかかっていたんですよね。

デリック:ニールはいま、すごい、ハリウッドで二番目に有名な弁護士として活躍している。

えー、ホント! 映画のために大学院に再入学するっていうメールはもらってたんだけど。

デリック:もともと頭の良い男だったからね。

ミスター・スポックと呼ばれていたほどだもんね(笑)。

デリック:そうだった(笑)。ちなみに『ビヨンド・ザ・ダンス──トランスマット4』ではニールもライナーを書いているんだよ。(......と言って、見本盤を見せる)

ホントだ。

デリック:デリック・オーテンシオ(ニールが辞めた後のレーベル・マネージャー)にも書いてもらっている。覚えているだろ?

もちろん。

デリック:それからジョン・マックレディ(デトロイト・テクノについてよく書いていたUKの音楽ジャーナリスト)にも頼んだ。

へー、ホントに、歴史なんだね。

デリック:そういう意味でも、音源だけではなく、パッケージも含めて、とても良いコンピレーションになったと思う。野田、でも歴史だけじゃないんだ。とくにChronophoneってヤツの曲をよく聴いてくれよ。こいつは、若き日のロラン・ガルニエに匹敵する才能だと思う。

わかったよ。それでは今日はありがとう。相変わらずデリックがクレイジーで嬉しかったよ(笑)。いつか幻のファースト・アルバム『ザ・ビギニング・オブ・ジ・エンド』を聴ける日を楽しみにしているよ。

vol.5 『Hotline Miami』 - ele-king

 みなさんこんにちは。一年は早いもので、もう年末です。海外ゲーム市場も10月~12月はホリデー・シーズンといって、その年の目玉を中心に、数多くのゲームが集中的にリリースされる時期です。当然ゲーマーとしてもいまは一年でいちばん遊びまくる時期。それもあってこれから数回は新作を連続で紹介していくことになりそうです。

 今回ご紹介するのは10月にPCゲームとして発売された『Hotline Miami』。知り合いに薦められて遊んでみたのですが、これがすごく良かった。ゲームプレイ、物語、ビジュアルや音楽ともに文句なしで、今年遊んだなかでも屈指の満足度でした。ただ暴力表現が激しい作品なので、そういうのが苦手な人は注意です。

 この『Hotline Miami』は区分としては前回ご紹介した『Fez』と同じくインディーズのゲームなのですが、『Fez』がいわばインディーズ内におけるメジャーな立ち位置なのに対し、本作はインディーズ内においてもマイナーな存在と言えるでしょう。かくいう自分も本作を開発した〈Dennaton Games〉なんて知らなかったし、同スタジオの中心人物のひとり、“Cactus”ことJonatan Söderström氏のことももちろん知りませんでした。

  Cactusはスウェーデンで活動するゲーム・クリエイター。猛烈な多作ぶりで知られており、その数なんと40作以上! とはいえ、それらには一般的な意味での作り込みは皆無で、とにかくワン・アイディアのプリミティヴなゲーム・デザインをそのまますばやく形にすることを信条にしているのだとか。彼の公式HPを訪れると、荒削りのドットと極彩色で形成されたゲームの数々に触れることができます。


Cactusの過去作の映像。後の『Hotline Miami』につながるセンスを感じさせる。

 もっともこれまでの知名度はインディーズ・ゲーム界でも知る人ぞ知るという感じで、大舞台に出てくることはなかったようです。しかし今回の『Hotline Miami』の開発では、かつて上記映像にもある『Keyboard Drumset Fucking Werewolf 』をともに作ったDennis Wedin氏と合流し、〈Dennaton Games〉を設立。パブリッシャーにDevolver Digitalを据えて、満を持しての商業デビューを飾ったのです。

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■現代に蘇った暴力ゲーム

 そんな経緯から生まれた『Hotline Miami』は、これまでの下積みの厚さを感じさせるすばらしい出来栄えです。とくに過去作で多々見られた極彩色のエフェクトと偏執的な作風が、「80年代風サイコスリラー」というコンセプトに結実しており、その明快さが全体の完成度の高さにつながっていると言えます。今回はそれをさらに暴力表現、ゲームプレイ、物語の3点に噛み砕いて見ていきましょう。

 ゲームのタイプとしては8ビット・スタイルの見下ろし型のアクション・ゲームで、ひたすら敵を倒していくだけのシンプルなもの。この部分だけ抜き出して見れば、凡百のレトロ調インディーズ・ゲームと大差ありません。しかしながら血出まくり・惨すぎ・殺しまくりな猛烈なヴァイオレンス表現は近年見ない異質なもので、さらに眩いネオンやゆらゆら揺れるエフェクト、それにハイテンションな音楽が加わると、その体験はまさにサイコ或いはドラッギーという形容詞で言い表す以外にない強烈なものとなります。

ゲーム序盤の様子。ハイスピードで展開されるゲームに血とネオンと音の洪水。

 このような作風を見て真っ先に思い出すのが、かつて〈Rockstar Games〉が開発した『Grand Theft Auto: Vice City』か、あるいは『Manhunt』という作品。とくにタイトルからして物騒な『Manhunt』はスナッフ・フィルムの都市伝説をゲーム化した作品で、残虐な方法で敵を殺せば殺すほど高得点が得られるという狂った内容。シチュエーションから映像表現、ゲーム性まで『Hotline Miami』が影響を受けていることは明らかです。


『Manhunt』より。いままさに人を狩らんとするところ。ここから先はグロ過ぎるのでお見せできません!

 少し話が逸れますが、この手の作品は暴力ゲームと呼ばれ、ひと昔前までは少数ながらつねに存在していたジャンルです。しかし発売されるたびに世界各国で発禁処分になったり、ゲームは犯罪を助長する云々の論争の槍玉に挙げられたりと、なにかと物議をかもすジャンルでもありました。

 ここにはゲーム表現の限界や、超えてはならない倫理の壁といった命題がつねにあり、単なる愉快犯的な作品もあれば(大半はそれなんだけど)問題提起的な側面を備えた作品も存在して、独特の熱さがあったのです。ただ近年はそういった従来の事情とは別に、元々のニッチさが開発規模の巨大化の割に合わなくなってきたという商売上の問題から、廃れてきてしまっているように思えます。

 〈Rockstar〉もいまでこそ落ち着いた感がありますが、かつては『Manhunt』にしろ『Grand Theft Auto IV』以前の同シリーズにしろ、容赦ないセクシャル&ヴァイオレンス表現の常習犯だったのです。ただ〈Rockstar〉の場合はそんな暴力表現のなかに、いまの作風にも見られるセンスの良さが共存していて、それが独特の魅力やブランド性をかたち作っていました。

 『Hotline Miami』はそんな途絶えつつある文脈の上に立っている作品です。パッと見こそ荒削りの8ビット調ですが、それでも過剰な暴力は確かに表現されており、むしろ見た目の抽象性があらぬ想像力を掻き立てさえします。そして数々のエフェクトと音楽、80年代風で妙にハイ・テンションな雰囲気が織り成すインモラルなクールさは、まさにかつての〈Rockstar〉を引き継いでいると言えましょう。

■目くるめく殺しのルーティン・ワーク

 暴力ゲームと呼ばれるものは、実際のところそのセンセーショナルさに頼ってゲーム性をおざなりにしてしまったり、暴力表現の必然性の証明、ゲーム・プレイとの一致という部分で問題を抱えることが多いです。しかし『Hotline Miami』はその命題に、たしかな完成度と巧妙なトリックで応えています。

 本作のゲーム・ルールについて改めて説明すると、これは建物内にいる敵を倒していくアクション・ゲームで、プレイヤーは敵の落とした近接武器や銃器をとっかえひっかえしながら殲滅を目指します。具体的な様子は前項の映像にあるとおりで、幕間の日常シーンを含めても1ステージ3分に満たない、非常にハイ・スピードでインスタントなゲーム性が特徴です。

 ただしそれはノー・ミスでクリアできればの話であって、よっぽど慣れた人でもないかぎり、まずゲーム・オーヴァーになりまくります。なにせ敵の攻撃はすべて一撃死。反応もはやいし、複数人固まっているのが普通なので、何も考えずに突っ込めば間違いなく死ぬし、考えてもやっぱり死ぬ。


殺っては殺られてまた殺って・・・

 なので、プレイヤーは幾度となくゲーム・オーヴァーになりながら敵の配置を覚え、パターンを構築してクリアを目指すことになります。こういうゲームを一般的には”覚えゲー”と言いますが、クリア時の達成感とゲーム・オーヴァーの連続によるストレスとのさじ加減が難しいゲーム・システムでもあります。

 しかし本作はチェック・ポイントの感覚が絶妙で、且つやられても本当に一瞬、0.5秒ぐらいでやり直せるのがうまいストレス緩和になっていますね。敵を倒すのが爽快なのも、リトライのモチヴェーションになってくる。

 また敵を倒すというシンプルな目的ながら、発見されずに近づくというステルス要素もあれば、見つかった後どう捌くかというアクション要素もあり、そのアクションも近接武器を使うか銃器を使うかで事情はまったく変わってきます。そして何よりこれらがハイ・スピードなゲーム・プレイのなかで渾然一体となっているのがとてもおもしろい。

 ステルスとアクションのハイブリット作品というのはいまではなんら珍しいものではありません。ただ僕がいままで遊んできた作品はどれも、敵に見つかるまではステルス、見つかった後はずっとアクションという具合に、両者の境界とゲーム・プレイの差異は明確に線引きされていました。

 しかし『Hotline Miami』にはそのゲーム・プレイがシフトする境界というものがありません。と言うよりも目まぐるしく変わりまくる。映像を見ていただくとわかりますが、敵への接近から攻撃までが本当に一瞬の出来ごとで、ステルスしている1秒後には殴り合いになり得るし、さらにその1秒後には倒した敵の銃を奪って遠方の敵を狙い撃っていることも普通にあるのです。これらが継ぎ目なくシームレス移行しつづけていくゲームというものは、いままでにない体験でした。

 当然、操作中はなかなかの忙しさになるので、パターン化が重要になってきます。敵を殺しまくっては殺されて、より最適なパターンを導き出すため、さらに殺して殺されまくる。殺されまくってイライラが募ろうとも、それさえも糧にして再び挑む。それだけの中毒性が本作にはあるのです。

 そしてこの何度もリトライをする、せざるを得ないゲーム・メカニックが、じつは本作の物語、ひいては暴力表現の正当化につながる巧妙なトリックにもなっているのです。

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■『Hotline Miami』はプレイヤーを道づれにする

 なぜ何度繰り返してでも殺しをつづけるのか、その果てに何を求めているのか、またなぜ何度も繰り返すことができるのか。これが『Hotline Miami』の物語における、重要なテーマになっています。

 本作の物語開始時の設定は、ガール・フレンドを殺された主人公が復讐のため留守番電話の謎のメッセージに従いながら、暗黒街の殲滅を行っていくというもの。しかし程なくして殺されたというガール・フレンドとの出会いの場面が出てきて(上記プレイ動画の後半)設定に矛盾を感じさせたり、中盤以降は日常パートで頻繁に幻覚が出てくるなど混迷の色を濃くしていきます。


ステージ前後に挟まれる日常パートはストーリーを読み解く重要な場面だ

 その末にどのような結末をたどるのかは、ネタバレになるのでここでは書くことはできません。しかしたしかに言えることは、主人公が終始抱いていた復讐願望に、何度リトライしてでもクリアしたいプレイヤーの願望が重ね合わせられている節があるということですね。

 要はプレイヤーは主人公の共犯者に仕立て上げらてしまうわけです。本作は主人公のことを最終的に哀れで空虚な存在として描いている。それはつまり、クリアを妄執するプレイヤーのことをも同様に断罪しているのです。否定しようにも、何度もリトライを重ね、その度に暴力が振るわれることを是認し、その末にクリアしたという事実が言い逃れを許さない。お前もこの主人公と同じ、妄執に生きる哀れな存在だ、このゲームの暴力に意味があろうがなかろうが、ここまでクリアした時点でお前に意見する資格はないんだ! という具合です。

 容赦なくプレイヤーの努力を踏みにじるこの結末は、かつての『BioShock』でAndrew Ryanに対峙する場面、あるいはもっと古い作品なら『たけしの挑戦状』でクリア後に「こんなげーむにまじになっちゃってどうするの」と言われることに匹敵するメタな手のひら返しと言えましょう。

 それでも、いやそれだからこそ、僕はこの作品の物語が好きなんです。プレイヤー自身を当事者として巻き込んでしまうこと。これはゲームでしか成立しないストーリー・テリングのひとつです。それも丁寧なお膳立てをしてプレイヤーに能動的に没入させるのではなく、プレイヤーの無意識に働きかけて気づいたときには取り込まれてしまっていた、という状況を作る。これは相当至難の技のはず。僕も本作の仕掛けに気づいたときには、これは一本取られたと、痛快な気分になりました。

■まとめ

 傑作です。恐らく暴力表現とゲーム・プレイがひとつでもわずかに欠けていたら、本作の物語は成立しなかったことでしょう。それは他ふたつの要素を個々に見ていった場合でも同じです。暴力表現、ゲーム・プレイ、物語の3本柱がそれぞれを絶妙に補完し合い、それが”80年代風サイコスリラー”としての総体を抜群の完成度でかたち作っています。

 いまさらですが唯一欠点らしきものを挙げれば、ステージ・クリア後に手に入るマスクや武器の性能がイマイチ差別化できていないことが挙げられますが、そんなの些細な枝葉の要素に過ぎません。根幹のデザインが非常に優れているため、小技に頼らなくても十分すぎるほどおもしろい。この点は小技に頼りすぎで根幹が空っぽな最近のメジャー・ゲームはぜひ見習ってほしいところ。

 過激な表現の数々から、人をものすごく選ぶ作品なのは否定できませんが、最近の主流のゲームにはないアナーキーさを求めている人、または単純に完成度の高いゲームを求めている人に強くお薦め。このレヴューでひとりでも多くの人に興味を持っていただければ幸いです。



Bushmind(Seminishukei) - ele-king

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https://wdsounds.com/

Nipshit of 2012(順不同)


1
King 104 / Margarita

2
Lil Mercy & Mamimumemosu / 20mamimume12

3
Hoodies / Dogbite

4
Campanelra & Toshi Mamushi / K.B.P

5
D.U.O / Wish Wash

6
Bes & DJ One-Law / U Can't See Me

7
Owl Beats feat.Yuksta-Ill / Time Less

8
Rhyda feat.piz? / Yah Yah Yah

9
Tonosapiens feat.Rockasen / SquAll

10
Fla$hbackS / Gladiator

「REPUBLIC」 - ele-king

 2012年12月1日。日本のオーディオ・ヴィジュアル・イヴェントのパイオニア「REPUBLIC」が遂に終焉を迎える。書籍「映像作家100人」とのコラボレーションなどでも多くの話題を呼んだ本イヴェントが初回開催された2007年5月から5年の月日を経て、多くの映像作家や、ミュージシャン、DJ、VJといったアーテイストに「音と映像」の新しい関係を提示してきた。そんな「REPUBLIC」も10回目で遂に最終回となりフィナーレを迎える。

 そんな、最終回となる今回は、もっともフラットで自由な表現に溢れており、ホームグランドである「WOMB」のDAY TIMEでの開催となる。

 出演陣も豪華で、「bonobos」や「OGRE YOU ASSHOLE」、「ハイスノナサ」、「ATATA」などのバンド勢に、今年最も話題を呼んだMCでもある「田我流」、ネクストブレイクを期待される「転校生」、巷で話題のガールズラッパーのニューカマー「泉まくら」などのフレッシュな面々も揃える。
 さらに、sasakure.UK、TeddyLoid、okadada、DJ WILDPARTYなどネットから新しい音楽カルチャーを発信する面々に、骨太のビートを生み出すトラックメーカーの「Fragment」、「Himuro Yoshiteru」、「SUNNOVA」に、「dot i/o (a.k.a. mito from clammbon)」、「aus」といったジャパニーズ・エレクトロニカの雄と「DUB-Russell」、「metome」、「Avec Avec」、「Seiho」などの新世代のエレクトロニカ・シーン牽引するアーテイストが一挙に渋谷に集結する。

 また、映像面も「伊藤ガビン」や「原田大三郎」などのレジェンドとともにVimeoでの映像が海外でも高い評価を受ける「yusukeshibata + daiheishibata」、「吉田恭之」、「Kezzardrix」。そして、日本を代表するメデイア・アーテイストの「exonemo」と「FREEDOM」で一躍世にその名を知らしめた「神風動画」に気鋭のデザイン・チームの「TYMOTE」、「FREEDOMMUNE」や「TOWER RECORDOMMUNE」のヴィジュアルを手がけた「yasudatakahiro」など新旧のTOPヴィジュアル・クリエイターが最後の宴に映像で花を添える。

 そして、その豪華面々がこの日にしか見れない極上のオーディオヴィジュアル・ショーケースを準備。また、前回好評を博した各フロアの映像演出もさらにスケールアップ。プロジェクターと液晶モニターを大量に特設で用意し、「WOMB」の全フロアを余すところなく映像で包み込む。もちろん長時間にわたる開催にあたってのホスピタリティとしてFOODもご用意。


2012年12/01(Sat)
REPUBLIC VOL.10~THE FINAL~
@WOMB
13:30-21:30(予定)
当日¥4,500 / 前売り¥3,500 ※ドリンク代別途

【SOUND ACT× VJ】
bonobos × TYMOTE
OGRE YOU ASSHOLE × TBA
okadada × exonemo with 渋家 (VideoBomber set)
ジェイムス下地 × 神風動画
dot i/o (a.k.a. mito from clammbon) × Kezzardrix
Daizaburo Harada -Audio Visual Set-
田我流 × スタジオ石×SNEEK PIXX
sasakure.UK × まさたかP
ATATA ×伊藤ガビン+hysysk+matt fargo
aus × TAKCOM
ハイスイノナサ × 大西景太
DUB-Russell×(yusukeshibata+daiheishibata)
転校生 × 大橋史(metromoon)
TeddyLoid × COTOBUKI
Avec Avec × 超常現象 [水野健一郎. 水野貴信 (神風動画). 安達亨 (AC部). 板倉俊介 (AC部)]
DJ WILDPARTY × SUPERPOSITION
Fragment × ogaooooo
shhhhh × 最後の手段
泉まくら × 大島智子
Inner Science × Takuma Nakata
Yaporigami × yasudatakahiro
Hiroaki OBA - Machine Live - × らくださん
metome × 吉田恭之
Himuro Yoshiteru × maxilla
Seiho (Day Tripeer Records, +MUS, Sugar's Campaign)× 子犬+UKYO Inaba
munnrai(TYMOTE/ALT) × leno
hiroyuki arakawa × Shinji Inamoto
Free Babyronia × NOISE ELEMENT
Licaxxx × DEJAMAIS

【SOUND ACT】
SECRET GUEST LIVE!!!
SUNNOVA
MASTERLINK
i-sakurai with passione Team B
specialswitch
Narifumi Ueno ( Ourhouse / Arabesque )
neonao(futago traxx)
M'OSAWA
SHIGAMIKI
MAYU
motoki
iYAMA(konnekt, MESS)

【VJ】
BENZNE by VMTT
VideoNiks
blok m
アサヒ
VJ PLUM

【映像装飾】
S.E.E.D

【プロジェクション コーディネート】
岸本智也

【FOOD】
浅草橋天才算数塾
錦糸町izakaya渦

【ORGANAIZED BY】
ishizawa(sonicjam Inc.)

2012/12/01(SAT)渋谷WOMBにて終焉を迎える「映像と音の共和国」を見逃すな!!

https://republic.jpn.org/

 ロンドンとパリは列車で結ばれている。ユーロスターで所用2時間。時差が1時間なので往路は3時間、復路は1時間という幻惑を誘うタイムラグ。しかも海底を抜ける。その途方もなさに、果たしてパリに無事辿りつけるのかという幼児なみの不安が頭をよぎる。住んでいるロンドンの自宅で予約はウェブ上で済ませる。当日、無事に起床することができた。出国手続きを終え、無事列車にも乗れた。なんてことはない。新幹線のような快適な乗り心地。いつの間にか海を越えていた。地上を走っている時間のほうが長い。フランスののどかな田園風景を走り抜ける。と、パリのターミナル駅に着く。最初の驚きは、駅舎の壁面に途切れることなく続くグラフィティ。その後、5日間の滞在でパリはロンドンをしのぐグラフィティの街だと知る。

 ウェブ・マガジン『ピッチフォーク』のフェスティヴァルがパリで開催されるというのでチケットをとった。ジェームズ・ブレイク、ファクトリー・フロア、アニマル・コレクティヴ、ジェシー・ウェア、ラスティー......と話題のアーティストばかり。7月にシカゴで開催された同フェスティヴァルの様子をウェブで見ていたので即決だった。正直、ちょっとパリにも行きたい気持ちもあったし、フェスティヴァルでパリジェンヌがどんな風に狂気するのか見てみたかった。  同じ歴史を感じさせる都市とはいえパリは明らかにロンドンよりも落ち着いた街だ。そして悦ばしいことに食べ物が美味しい。いずれもロンドンがうるさ過ぎ、食べ物が不味い、とも言える。フランス語ができればパリは日本人にとって住みやすい街なんじゃないか。とはいえ、たった数日の滞在では計り知れない。街中にグラフィティが溢れかえっている。この意味するところは何だろう。アートの街だから許容されている? 確かにお金を出しても惜しくない立派な作品にストリートで出合ったりする。そして、スリの腕は世界一だから気をつけるよう散々言われた。しかもよく考えると、2005年にこの街では暴動が起きている。表面的に落ち着いているように見えても、他の欧州各国と同様に煮えたぎるものがある? でも、いち早く左派政権になったし、この落ち着きは余裕をしめしているのか......。などと色々と頭の中を駆け巡った。だけど街中を歩く人びとがオシャレで似合っていて、ただただ魅了され雑念もふっ飛ぶ。たった2時間の移動でロンドンとパリでここまで違うのか、と当然のことかもしれないが改めて驚く(ロンドンのコモン・ピープルは必ずしもオシャレじゃないから)。

 会場はパリの北東部に位置する〈Grande halle de la Villette〉。大きな倉庫を改造したのか、ちょうどサッカー・コートぐらいの広さで天井がやたら高いホール。フランスで『ピッチフォーク』が扱うようなオルタナティヴなロックやダンス・ミュージックがどこまで人気があるのか知らない。しかも、ほとんどが英語圏のアーティスト。ピークでも会場の6割ぐらいしか埋まらなかったので、すごく人気がある訳ではなさそう。でも、その分、会場のなかに逃げ場があって過しやすかった。耳にイギリス英語が飛び込んでくる。とくに2日目はイギリス人が多かった。結局、僕のようにユーロスターでロンドンから来たオーディエンスが多数いる印象。

 パリに着き、ホテルにチェックインしてから会場に入った。言葉が通じないので終止緊張していたせいか、疲れが出てボーとアルーナジョージなんかチェックしていたアーティストも遠巻きに見る。ティンバランドとミッシー・エリオットの出会いがいまのロンドンで実現されたら、と評されるこの異色ユニット。アルーナの愛くるしい佇まいが微笑ましかった。
 さて、いまはとにかくフジ・ロックでのライヴも終え話題になっているファクトリー・フロアに備えよう。アルコール片手にリラックスして会場を歩き回った。ロンドンのラフ・トレードが大きな物販ブースを出している。オフィシャルのバックをここで買う。片隅でジュエリーや靴なんかのハンドメイドの作品を扱ったフリー・マーケットも開かれている。オシャレ! いちいち立ち止まって見てしまう。そうこうしているうちにファクトリー・フロアだ。終止ストイックに展開するミニマリズム。退廃美はスロッピング・グリッスルのそれに近いが、さらに渇いている。この渇きは諦念に近いのか......。打ち鳴らされる音の粒の快楽に酔いしれる。どうしようもない寄る辺なさに身をゆだねる。恍惚とする......。
 その後、バンクーバーを拠点にするJapandroidsという謎のふたり組のロックバンドを見てポカンとしたり、The xx やSBTRKTのレーベル〈Young Turks〉からリリースのあるJohn Talabotで身体をほぐしたりしながら、ジェームズ・ブレイクに備えた。
 パリのジェームズ・ブレイクは都市のもつ気高さに演出され、いっそう高貴なものに映った。ヨーロッパを覆っているであろう無力感を一歩進めて絶望に至り、そこからの救済を希求しているような...、というと大袈裟? 不安定なトラックと彼の中性的な声が心の襞に分け入ってくる。見たことのない世界を見せてくれそうな予感に包まれる。
 午前1時頃、この日のヘッドライン、フランスのポスト・ロック・バンド、M83のやたらとテンションの高いライヴを横目にホテルに向かう。

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 2日目。午後5時開始。遅い朝に貴重なパリの1日を怠惰に過す。ルーブル美術館の近くにあるビルごとアーティストのスクワットになっている59 RIVOLIというスペースに行く。たくさんのアーティストの制作現場になっていて展示も無数にある。どれも個性的で目を惹く。街中で見かけたグラフィティと同じアーティストの作品もあった。1999年にはじまったスペースらしい。ヨーロッパではスクワットが違法ではない国がある。ちなみにイギリスでは2ヶ月前に住むことが違法になった。が、不思議なことに空いている建造物を一時使用することは違法になっておらず、まだスクワット・パーティなんかがある。
 少し遅れて午後6時頃開場についた。その日は目的がたくさんあった。まずはジェシー・ウェア。彼女を最初に見たのは5月にKOKOロンドンであったベンガのリリース・パーティだった。日本では考えられないが、ロンドンではダブ・ステップでモッシュが起る。DJも応酬してアオりにアオる。この日もそうだった。そんな、どちらかというと男くさい匂いが漂うパーティで、ジェシー・ウェアが登場すると変わった。たった1曲歌っただけなのに会場がしっとりとした雰囲気に包まれた。その後、ずっと気になっていたらジョーカーやSBTRKTと楽曲制作をしている歌手だと判った。ニュー・アルバムが発売される頃には、レコード屋のみならず駅の掲示板などにもポスターが貼られ、ちょっと盛上っていた。新作『DEVOTION』はイギリスのエレクトロニック・ミュージック・シーンを背景にしながら、しかし耳ざわりのよいソウル作品だ。ブロー・ステップのように過激/過剰に行きがちなシーンに淡々と距離をとっているとも言えるし、ただ自分の好きな音楽を黙々と追求しているだけにも見える。最近ではディスクロージャーと絡むなど趣味のよさ、立ち位置のうまさを印象づける。僕は新作をどう聞いたかと言うと、決して雰囲気がよいとは言えない不景気のロンドンで、ゆらぐことのないイギリスのアーティストとしての誇りのようなものを感じた。エイミー・ワインハウスは......あまりにもいまのイギリスの雰囲気を暴きだし過ぎている、と感じることもあるから。「DEVOTION=献身」が彼女を育んだミュージック・シーンに対するものであったら、それは素晴らしいことじゃないか。

 可愛い言葉づかいのジェシー・ウェア。肩の荷を下ろし一曲終わるたびに何やら語りだす。可愛い。歌いはじめると一気にオーラを身にまとう。特に凝った演出もなかったがその分、歌に集中できた。まだキャリアが始まったばかりのアーティストにありがちな衒ったところもなく純粋な歌がそこにあった。ジーンとする。
 続いてワイルド・ナッシング。80年代風、イギリスのギーター・ポップ・サウンドは日本人にとって聞きやすいがもはや"カルト"と評されている。ジャック・テイタム──実質、彼ひとりのバンドみたい──が、アメリカ人なのも共感できる。シンセも相俟ってキラキラしたギター・サウンドを、他国の過去の音に想いを馳せながら作っている感じ。わかる。新作『ノクターン』を愛聴していたのでライヴも楽しめた。なんだかんだいっても現代の解像度の高いサウンドとフェスの大音響の効果は心地よく、快感だった。

 ピッチフォーク・ミュージック・フェスティヴァルは個性派ぞろいのフェスティヴァルで、まったくノー・チェックでも意外なアーティストに巡り合う。例えばザ・トーレスト・マン・オン・アース。ボン・イーヴェルのツアーのフロント・アクトを務め知られるようになったというスウェーデンのアーティストだ。ボン・イーヴェルやベン・ハワードなんかの極楽系フォーク・サウンド。だけど、どこかボブ・ディランぽい。まとめると、現代スウェーデンのボブ・ディラン兼ボン・イーヴィル、その名もザ・トーレスト・マン・オン・アース。謎だが、謎めいた魅力があった。次に、初めて知ったけど欧米では結構知られているらしいロビンも強烈なシンガーだった。エレクトロニック・サウンドにのせ歌われるポップ・ソング。彼女独特のコケティッシュな魅力に溢れたステージ。どこか振り付けが80年代のアイドルっぽい。どうしても日本のアイドルを思い出してしまうステージをパリで、しかもピッチフォークのイベントで目撃するという倒錯感がすごかった。

 2日目のヘッド・ライナーはアニマル・コレクティヴ。新作『センティピード・ヘルツ』がこれまでの作品と一変していたので、ライヴはどうかと興味深く観た。新作の楽曲中心に進んでいく。リズムとサンプリングのおもちゃ箱をひっくり返したような躁状態が続く。サイケデリックなデコが虹色に怪しく明滅するステージのうえでたんたんと演奏したり機材をいじっている。変拍子や過剰なサウンド・エフェクトを駆使しながら不可思議な物語を感じるステージ。終盤は、これまでのアニコレのイメージどおりアシッドにフォークに展開し陶酔する。深夜2時近く、この日のパリの夜は時空が捩じれたまま深けていった。

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 さて3日目だ。またも遅い朝。昼食にパリに在住していたレゲエ・ライターの鈴木孝弥さんに教えてもらったアフリカ料理を食しに出向く。パリの南に位置する大通りブルヴァール・バルベス周辺はアフリカ人の街。その北側にあるセネガル料理屋シェ・アイダ。しかし...一向に見つからない。しばらく漂う。パリのアフリカ人街はヨーロッパ大陸に突然アフリカへの入口が出現したかのようで軽く混乱する。結局、見つからない。たぶん閉店したのだろう。何度か鈴木孝弥さんがこの店のメニューをお手本にして創った料理を東京で食して期待が膨らんでいたので、泣く。そのあと、ロンドンからの友人と落ち合い3日目のフェスティヴァル会場に向かう。

 この日、まずはプリティ・リングという4AD所属のユニットに度肝を抜かれる。声だけでなく佇まいもビヨークっぽいメガン・ジェームズと、均整のとれた体つきなのにラップトップに向かってひたすらヘッドバンギングするコリン・ロディックの男女二人組。クリック系のサウンドに浮遊感ただよう歌声。聴いているだけでひたすら気持ちいい。小さい体のメガンが時おりドラを打ち響かせるのでハッとし、ニヤっとする。
 3日目だけオール・ナイトだったのでお客さんも若く、オシャレ。ロンドナーだったら無造作にアーティストTシャツなんかで済ますところ、やっぱりパリッ子は違う。マフラーの巻き方や靴の合わせ方ひとつ違う。もしかして日本のクラバーに近いのかもしれないが、まあ、なんというか絵になる。パリッ子のファッションに憧れても、絶対に真似できない。さすが本場、なんて常套句を思わず心の中でつぶやく。ロンドナーよりも踊らないけれど、踊る姿が美しい。見惚れる。そして、この人たちのなかで踊っている自分はなんてオシャレなんだ、なんて自己満足。
 さて、このフェスティヴァルで一番楽しみにしていたグレズリー・ベアーだ。新作『シールズ』はバンド・サウンドの完成度と、楽曲としての先進性が同居する近年では希有な作品として聴いていた。これがいわゆるロックなのかどうかもはやわからないが、ロック編成の音楽の可能性みたいなものさえ感じていた。
 いたってクールに進んでいくステージ。サウンドに対して忠実でストイックな印象さえ受ける。しかし、だからこそ時おりサイケデリックに、またゴシックに展開するとき、音の渦に吸いこまれる。アンサンブルに酔い痴れ、コーラスワークの虜になる。
 しかしハイライトはグレズリー・ベアーではなかった。演奏が終わると、間断なくデェスクロージャーがはじまる。ピンとした空気が暴発して一気にパーティ・ムードへ。まだ20歳そこそこの兄弟のデュオ。"Tenderly"のようなUKガラージから、"Latch"のようなハウスまで気の利いたグルーヴが会場全体を覆う。うまい......と油断していたらジェシー・ウェア"ランニング"のリミックスが投下される。まるでドナ・サマーを初めてクラブで聴いたときみたいに、我知らず全身で踊っていた。

夜は長かった。トータル・エノーモス・エクスティンクト・ダイナソーズの変態的なエレクトロ・ポップに嵌ったと思ったら、グラスゴー出身のラスティーのDJセットにも終止引き込まれ、何度も雄叫びをあげる。このとき、客席前線の熱狂度はすごくて、オシャレなパリジェンヌが乱舞。なんというか、世界中どこにいっても変わらない。結局は、そういうことだ。

interview with LOVE ME TENDER - ele-king

夜目が覚めて自分が最悪な人間だと思ったとき
思い出して欲しい
街は下水道やサーカスのように面白い場所だということを
ルー・リード"コニー・アイランド・ベイビー"


LOVE ME TENDER
SWEET

Pヴァイン

Amazon iTunes

 街を歩くのは楽しい。とくに夜更けから朝方にかけては。僕にiPodはいらない。頭のなかにはたくさんの音楽が鳴っているから。
 ラヴ・ミー・テンダーのデビュー・アルバム『スウィート』が完成した。彼らは正真正銘のシティ・ポップス・バンドだ。彼らの先行シングル「トワイライト」は、本当の意味での今日の渋谷の道玄坂の裏側の世界が描かれているが、アルバム『スウィート』はそれをさらに発展させている。ドリーミーでダンサブルなソフト・ロックをバックに、ロマンティックな週末の夜の片隅の出来事の断片、休日のドライヴ、そしてビルの谷間に輝く朝日を描いている。
 ラヴ・ミー・テンダーは、ドラムを叩きながら歌を歌っているMAKIを中心に、サブカル界隈では賞賛とディスのリツイートを浴びている鍵盤担当の高木荘太、ふだんはDJをやっているサックスのACKKY、ベースのTEPPEI、ギターのARATAの5人から成る。彼らは、渋谷......といってもあんまりおしゃれ感のない裏通りの、そのまた裏通りの雑居ビルのなかにあるDJバーを拠点に登場した。クラブ・カルチャーは、いまや欧米でも、ホーム・パーティやウェアハウス・パーティといったアンダーグラウンドな広がりを見せている。より、地下に潜伏しながら堂々と音楽をやっているという、逆説的な態度を示している。ラヴ・ミー・テンダーの本質もそこにある。

いや、もう、ルー・リードの"ワイルドサイドを歩け"の感じじゃないですか。(高木壮太)

"メスカリーター"からはじまっているのが良いと思ったんですよね。〈メスカリート〉という場所は、まあ、知る人ぞ知る秘密の場所であり続けたわけじゃないですか。それがこう、明るみにでることはどうだったんでしょう?

壮太:いや、もう、ルー・リードの"ワイルドサイドを歩け"の感じじゃないですか。

ハハハハ。もう、カミングアウト、カミングアウト(笑)! まあ、それはともかく、この10年というのは、クラブ・カルチャーがかたやアゲハのようなビッグ・クラブにになって、その片方でDJバーのようなものが増えていった10年だと思うんですけど、 ラヴ・ミー・テンダーはそういう、増えていったDJバー文化から出ていったバンドなんだろうなと思ったんですね。そういう意味で、"メスカリーター"からはじまるのはもっともだなと思いました。

壮太:いやー、僕も最初、"メスカリーター"といったときはびっくりしましたよ。いまさらなんか語ることがあるのかって。

マキ:はははは。

壮太:どうなんですか、ラヴ・ミー・テンダー=〈メスカリート〉になっているんですか? お抱えバンドのように。

いや、それはもうそうでしょう。モータウンにおけるファンク・ブラザーズみたいなものでしょう。

マキ:他にもバンド、いますけどね。

壮太:他にもいるけど......、俺たちなの?

マキ:そうなっちゃいましたね。

壮太:だったら光栄です。すごいバンドいっぱいいるのに。

マキ:ニビルブラザースでもミシマでもない。

壮太:〈メスカリート〉の名前を汚さないようにしないと。

マキ:汚さないように。先輩に怒られないようにね。

そこは意識しているんですか?

テッペイ:レペゼン・メスカってことですか?

そう。

テッペイ:そこは俺、逆ですけどね。

まったくない?

テッペイ:むしろあれを壊したいですね。もう最近はメスカって言わないようにしてますからね。

堂々と歌っているじゃない(笑)!

テッペイ:いや、前に若い子から、友だちに「メスカ行こうかな」って言ったら「危ないから行かないほうがいいよ」と言われたと聞いたこともあって、もう絶対に言いたくない。悪いほうにとらえられている。

マキ:ホントにね。

なおさら、そこは良いほうに解釈してもらわないとですよね。世間の評判を覆しましょうよ。

壮太:浄化作業ですよ!

アッキーはもう長年DJをやってるわけですが、DJバー文化についてどう思ってますか?

アッキー:それはね、耳が肥えている人、10人ぐらいの前でやることじゃないですか。すごいうるさ型の人たちの前で、がっつり10時間とかやる、みんな訓練をしているんで(笑)。そういうDJカルチャーはそれ以前まではなかったかもしれないですね。

奥渋谷だけじゃなく、下北沢にもあるし、いろいろありますよね。けっこう名前のあるDJが、10人や20人でいっぱいになってしまうような空間でDJをやっていますよね。

アッキー:あれもう、うるさ型の人たちの前で、どれだけ濃いものを聞かせられるかっていうことだと思います。

マキ:修行だよね。

アッキー:朝3時以降とか、狂っちゃいますからね。それでも自分は淡々とやらなきゃいけない。

マキ:時空がゆがむ瞬間というんですか。

アッキー:解像度の上がり具合が、朝3時以降、クラブとはちょっと違う。クラブはだいたい5時や6時で閉まってしまうけど、DJバーは昼までやったりするじゃないですか。

たしかにね(笑)。

マキ:そこからさらにどん欲な人だけが残るっていうか。

アッキー:だからそれを毎晩マキちゃんとかが見てたから。

壮太:渋谷で一番遅くまで開いてる店。

アッキー:やっぱり、僕はDJバーに聴きに行くのが好きですね。

アラタ:たんに年齢層が、そのひとたちが高くなってきてるっていうのもあるんじゃないですか。

それも一理あるけど、だけどクラブはクラブでやっぱりたくさんできてて、そっちが好きなひとはやっぱりそっちに行ってたから。かたや、それとは違ったベクトルでもって、DJバーがたくさんできたなあと思って。

壮太:たとえば、ひばりが丘なんかにもDJバーが2軒あるんだけれども、そこはDJブースがインテリアになってるらしいんですよね。でも、DJバーといっていい流行ってる小バコは昔からあったでしょう。2丁目の〈ブギー・ボーイ〉とか。吉祥寺の〈ハッスル〉とか。

2丁目の〈ブギー・ボーイ〉って懐かしいねえ。

壮太:店にキースへリングがいてビール奢ったらTシャツに絵を描いてくれた。

ゲイ・ディスコですよね。

アッキー:新宿だったじゃない、文化的に。でもいまは、東京のなかでも吉祥寺、渋谷、って分散してきてて。

このあいだ三茶がすごいって聞いたよ。

アッキー:三茶もあって。そういう広がりっていうのはここ10年なんじゃないですか。で、地域性によってノリがぜんぜん違うんですよね。それが不思議、なんか(笑)。

壮太:昔何かだった店がああなってるの? 昔の若者はどこで溜まってたの? DJバーに来てる若者は。

アッキー:いや俺クラブだったからわかんない。DJバーとか行ったことなかったから、昔。

テッペイ:小バコなんじゃないの。10年前から、〈グラスルーツ〉に似たような店がいっぱいできたような感じがする。

アラタ:ああ、〈グラスルーツ〉ね。

壮太:〈グラスルーツ〉も最初ヒカルくんが回して誰もいない、客もいないって感じだったけど、平日でもみんな店にちょこちょこ行くようになって、超盛り上がるようになって。その後に三茶のバーもできたしさ、みんな繋がってたじゃない。〈グラス〉と三茶ってとくに。で、それのチルドレンな感じでしょ。

アラタ:〈フラワー〉とか関係ないじゃん、でも。あそここの間14周年で。〈グラス〉が15周年で。

壮太:そうだね。

〈フラワー〉って何?

アラタ:三茶の重要なバーなんですけど。六本木のとは違って。

ああ、聞いたことある。

アラタ:ポンタ秀一とかもよく来るらしくって。

テッペイ:〈グラス〉とか三茶で言うと初期の〈DUNE〉じゃん。小バコで盛り上がるみたいな。

メンバーのみんなは、どちらかというとDJバー的な密室的な、濃い空間が好きで。

アラタ:おしゃべりが好きっていうのがあるかもしれないですね。

マキ:おしゃべりですね、みんな。

テッペイ:テクノとかハウスとか、昔のクラブとかだと住み分けがあったかもしれないけど、DJバーだとハードコアのTシャツ着てテクノで踊るとか、そういうのを見て「お、カテゴライズされてなくて超おもしれー」と思って。デカいレイヴ行くよりも、そっちのほうが早いんですよ。ひとが集まってるから。

なるほどね。いま地方にもほんと増えているよね。それはあるシーンを形成しつつあるのかなという感じがするんですけど。でも、今回のアルバムの1曲目を"メスカリーター"にしたのはなんでなんですか?

アラタ:チルドレン・オブ・メスカリートとしての誇りじゃないですかね。

宣言というか。

壮太:いや単純に曲調なんじゃないの(笑)?

はははは。

壮太:メッセージ性なんかないでしょ(笑)。

マキ:あれはすごくわたしの気持ちが入っていて。

テッペイ:ライヴでもいつも1曲目でやっていて。

マキ:そう、なんか1曲目ぽい感じがして。

壮太:曲はデモ・テープの並びの通りなんですよ。デモ・テープに耳が慣れちゃったから、もうこれでいいや、みたいな。計算してないですね、この順は。

"ロマンティックあげるよ"がボーナス・トラックみたいな。

マキ:みたいな扱い。

壮太:俺はずっと反対してた、最後まで。

マキ:ははは、外圧が(笑)。

こうやって意見が分かれたとき、誰がまとめるんですか?

アッキー:まとまんないですね。まとまんないままぐちゃぐちゃーと進行していく。それが面白いんじゃないですか(笑)?

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時空がゆがむ瞬間というんですか。(マキ)
解像度の上がり具合が、朝3時以降、クラブとはちょっと違う。クラブはだいたい5時や6時で閉まってしまうけど、DJバーは昼までやったりするじゃないですか。(アッキー)


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神泉とか、その辺が曲のなかで舞台になってるじゃないですか。これはマキちゃん個人のものなのか、それともバンドで共有しているものなんですか?

マキ:バンドでも共有してるとは思いますけど、わたしはすごく濃い感じであの街にいたんで(笑)。どうしてもそういうワードが出ちゃいますけどね。

奥渋谷系とかって書いてるけど、実際は――。

壮太:神泉ですからね。渋谷じゃないですからね。

まあそうですよね。あの辺で、〈メスカリート〉やラヴ・ミー・テンダーの影響で何か生まれたりしたんですか?

マキ:何にも生まれていない。

ははははは、砂漠として(笑)。

壮太:巨大すぎて。ブラック・ホールだから。

マキ:ちょっとヘッドショップとかで、"マリフレ"がかかるぐらい。

一同:はははははは!

マキ:みんなにサンプルをこうやって渡してたから。

壮太:富裕層が朝3時ぐらいに物凄く狂ってるのを見てびっくりしたんですけどね。

アラタ:あと道玄坂が観光地化してるよね。

テッペイ:あそこ日光みたいじゃん、もう。

アラタ:黒人の人たちがタクシーのバンパーの上に乗って跳ねてたり、酔った白人のスーツの人たちが「俺は大使館職員なんじゃー」っつって警察官に絡んでたりするのを見たりすると、「敗戦国だなー」と思って。

はははははは!

テッペイ:たぶんまだ見れてない部分がいっぱいあると思う。うちらはたぶん、けっこうピースですよ。あんまり暴力とかなくて。もっと怖い部分とかあると思うし。

いやいや、でもみなさんじゅうぶん見てらっしゃるんじゃないですか。これはオフレコだけど、それこそ小林とかがさ、得体の知れないカラオケ・バーから悪酔いした客を引き連れてきて、緊張感が走ったり。

壮太:それはピースのほうですね。

テッペイ:アリのほうですね。

でもわけわかんないじゃない(笑)。

マキ:わけはわかんないですけど、受け入れてねじ伏せるみたいな感じで、けっこうピース。まとまりますね。あんまり暴力とかはね、3年に1回ぐらいしかないよね。

テッペイ:最近はさ、だって合法系はみんな暴力に行くじゃん。

まあその話は後でしようかなと思ってたんですけどね。でもバーってお互いの距離感が近い分だけ、いい面もあるけど、逆に言うと、それこそ一見さんという言葉があるように、入りづらいっていうのがあるじゃない?

壮太:どうしてもね、バーはそうじゃないですか。常連はお互いの悩みごとや弱点を知ってて仲良くなれるんじゃないですか。一回そういうイニシエーションを経ないと、常連にはなれませんね。入りづらいと言えば入りづらいですよ。俺も〈メスカリート〉とか絶対ひとりじゃ行けないですよ。

テッペイ:みんな一見さんじゃん、最初は。

アッキー:いやでも、誰かに連れて来られるんじゃない?

マキ:わたしも誰かに連れて来られて、すごい勢いでバーンってドア開けたのが最初なんですよ、やっぱり。すごいベロベロで。もう2回目場所も覚えてない、みたいな。

じゃあマキちゃんも偶然入った?

マキ:そうですね。その前にほかの〈メスカ〉のパーティでまあいろいろ出会って。

壮太:俺もコバに「中途半端な店があるから行こう」って言われて。

(一同笑)

アッキー:海の家からずっと繋がってるんだよね。

マキ:わたしも海のパーティが最初。

アッキー:そのときぐらいから、だんだんこういうゆるいサークルというか、いまの仲間ができていった感じがする。

壮太:〈スプートニク〉ができる前に、あの場所でパーティやってたから。2000年ぐらいの話なんですけど。

そうなんだ。誰が主催してやってたの?

壮太:コバがやってたのかな。

アッキー:でももう〈スプートニク〉なんじゃない? それって。たぶんそれの流れだよ。

でも、音楽をやるっていうのは、ある意味バーとは逆ですよね。もうちょっと不特定多数に投げかけるものじゃないですか。バーの閉鎖感とバンドとの開放感と、っていうのはどうなんでしょうね。

壮太:でもバーはあくまでも使い勝手のいい部室として使ってるから。

ははははは。

テッペイ:いや、むしろ逆ですよ。それを変えたくて、いま帯でDJ入れてるんですよ。同軸にしたくて。いままでギャップがありすぎたから。

アッキー:それ〈火曜メスカ〉でしょ?

テッペイ:そう〈火曜メスカ〉の話。ほかの曜日は知らないけど。

〈火曜メスカ〉って?

アラタ:火曜だけ俺らが〈メスカ〉を開けてるんですよ。いま俺とテッペイなんですけど。まあ部室状態で。

テッペイ:1時とかに開けてたから、「それヤバい」っつって、せめて午前の前から開けるようにして。23時とかに開けて、DJもふたりぐらい呼んで、実験的にやってます。

壮太:社会性を持たせたくないってこと?

はははは。

マキ:社会性って(笑)。

だいたい僕の世代だとバーって「ぼったくりバー」っていうイメージがあるからね。中途半端に行ったらヤバいっていう。

マキ:たしかに、いくらかわかんないし。

バンドがデビューしたのが去年ですよね。で、お店を中心にしてみんながいて。この10年に街っていうのはどういう風に様変わりしたと思いますか? 

マキ:変わったのかなあ......。

あんまり思わない?

マキ:自分も変わっちゃってるから(笑)。

いや(笑)。だってさ、昔はさ、平気で公園通りの雑居ビルに個人商店が作れたわけだけど。

マキ:たしかに。自分も10年でだんだん奥のほうに移動してるかもしれないですね、行動範囲が。

壮太:駅の近くとかチェーン店しかないわけですよね。で、駅から離れるにつれて個人商店が増えていくっていう構造なわけでしょ、繁華街って。

その離れる距離がどんどん広がってるよね。

壮太:奥に行けば行くほどディープになるという。どこでもそうなんじゃないかな。新宿でも池袋でも。駅前は和民とかケンタッキー・フライドチキンとか、なんかそういうのばかりで。奥のほうに行くとだんだん変なバーが出てくる。

アッキー:でも職質の回数は増えたよね。

マキ:奥のほうは増えたよね。

壮太:〈エイジア〉の通りは渋谷署のボーナス・ステージですよ。

はははははは!

壮太:マリオの地下の面みたいな。コインざくざくの面。

マキ:あそこは防犯カメラがないから。ラブホ街って、だからおまわりさんがすごい多いの。

壮太:なるほど。

アッキー:スケボーで街を移動できなくなりましたね。

そういう意味で言うと、街から猥雑なものをどんどん排除しようっていうのがこの10年であったと思うんですけど。たぶん〈メスカ〉なんかはそういう砦となって(笑)、ふんばっているんだろうなと。

マキ:でも不思議だよね。何にも起こらないっていうか。

壮太:〈エイジア〉の通りみたいなプラスイオンがガンガン出てるとこに行くと、ちょっともう。そういうときはBunkamuraの入り口に行って、Bunkamura見ながらタバコ吸って、「俺はスノッブ、俺はスノッブ」って思う。

一同:ははははは!

プラスイオンって(笑)。去年『トワイライト』を出して面白いリアクションはありましたか? 

壮太:ぜんぜん知らないライヴ・オファーが増えましたね。全部アウェーで。

テッペイ:夜が合うって言われる、ツイッターとか見てる感じだと。

いや、そりゃそうでしょうね。

テッペイ:いや、昔「海が似合う」とか言われてたんで。

アッキー:ええー、そんなことないでしょ。

マキ:そんな時代あったの?

テッペイ:実際海とかでやってたじゃん。新島とか。

アッキー:知らないバンドと対バンすると、びっくりする。

アラタ:でも、クラブの夜中でバンドがうちらしかいなくて、DJとかじゃなくて、たとえば〈新世界〉とかで夕方から夜にいると、知らない客層がいて、それはすごい新鮮。

ああー。〈新世界〉のお客さんなんかはどうです? けっこう受け入れられてる?

アラタ:世代が近いのか、意外とMCがウケる(笑)。あともっと若い世代もいて。

マキ:若いよね。

アラタ:呼ばれて行くと、意外と対バンで面白いのがいたりとか。

アッキー:イン・ジャパン(Inn Japan)とやったときとか、面白かったですね。

イン・ジャパンって?

アッキー:高円寺の〈クラブライナー〉っていうけっこうちっちゃいライヴハウスがあって、イン・ジャパンって言うバンドがいて。

アラタ:サブカル臭が強い感じ。

壮太:メタ・ヘヴィメタ・バンドですね。

※小林=コバ(渋谷で汚い遊びをしている人でこの人を知らなければモグリ)

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何にも生まれていない。(マキ)
巨大すぎて。ブラック・ホールだから。(高木壮太)
ちょっとヘッドショップとかで、"マリフレ"がかかるぐらい。(マキ)


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自分たちよりも若い世代のリアクションなんかはどうでした?

壮太:ほとんど若いですよ、どこ行っても。

テッペイ:うーん、でもウケるのサブカル系ばっかっすね、なんか。

(笑)。

テッペイ:ほかに見るものがないからこっちを見てくれてる、みたいな。〈メスカ〉といっしょだな。メンヘラの最終砦みたいになってるという。

アラタ:だからジャズトロニカにいるような綺麗なお姉さんはいないよね。

テッペイ:そう、いない(笑)。

アラタ:客層が羨ましい、ほんとに。

テッペイ:一瞬かわいい子だとしても、なんかここ(手首)に巻いてたりとかする感じでしょ(笑)? だから勘繰っちゃうよね、全員。

アッキー:OLが買わないってこと?

アラタ:OLはジャズトロニカ。

でも、これだけ危うい言葉を使ってたら、それはやむを得ないというか。それは敢えてわかっててやってるでしょう?

アッキー:わかっててやってるところも、個人的にはありますよね、やっぱり。

それは手ごたえとして、伝わるものなの?

アッキー:伝わってるとは思うんですけど、誤解してるひとが多くて。

どういう風に?

アッキー:壮太くんの人格イコールうちのバンドみたいな。

はははははは!

アラタ:それは違うっていう。

壮太以外:それは違う!

アッキー:でもそれを考えると、壮太くんはいまサブカルの砦なんじゃないかっていう。それは違うって言ってますけどね。

テッペイ:かあちゃんから「あんたのバンドのひと、ドラッグの話しかしないけど」とか言われて。

壮太:(爆笑)

えっ、そんなこと言われたの!?

テッペイ:それ親父の還暦祝いのときで。

でもお母さんがそこまでわかるってすごいよね!

テッペイ:だからラヴ・ミー・テンダーで検索すると、壮太くんのツイッターが出てくるらしくて。ツイッターのやり方までは知らないと思うんだけど、見れるのは見れるじゃないですか。そのせいで、じいちゃん家住めなくなったからなあ......。

アラタ:ははははは! そうなの(笑)!?

テッペイ:だってオッケーが出て、その次の日いきなりダメになったから。

アラタ:でも壮太くんの荷物は置いてあるっていう。

壮太:知らないっすよ。

テッペイ:そうやって情報を得るのが、いまはいろんな入り口があるじゃないですか。そうなっちゃうのはしょうがないんですよね。それはそれで面白いんですけどね。そういう広がり方をしていて。

そこでどのぐらい伝わるかっていうのは難しい話だなとは思うんですけど。

壮太:いちばん反響があったのはele-kingですよ。でもあれ音楽の話してないですけど(笑)。結局だから怖いもの見たさとかそういう感じで(笑)。

いや、そんなことないですよ(笑)。「コード進行が好きで」とか「細野さんが大好きで」とか、ちゃんと話してるよ。

マキ:ちょっとだけありましたね。

壮太:それがちょっとしかないからそこが映えるんですよ(笑)。

いやいや。めちゃくちゃ音楽の話してたよ。

壮太:ひひひひ。

でも普通、アレじゃないですか? ここまであからさまにドラッグねたを表現するっていうのはさ。ほかにそういうバンドがいないからでしょう?

テッペイ:いや意識してないですよ(笑)。

壮太:今回はしませんよ。もう卒業しました。

アラタ:うちのバンドは合法ドラッグ・覚醒剤は禁止ですから。

マキ:はい、そうですね。悪いものはちょっとやめていこうか。

なるほどね。シングルほど直球な言い回しはしてませんが。でも今回は控えめながらも、相変わらずそのスタンスは貫いてるなっていうふうに思ったんですけど。

テッペイ:曲もそうですね。ぜんぶなんかこう、中和した感じですね。たぶん、いままでよりも。

あくまでもラヴ・ミー・テンダーの確固たる主題なわけでしょう?

アラタ:いや、ぜんぜんそんなことは......(笑)。

マキ:ないですよね。

テッペイ:でもわかんないよね。次のテーマはもしかしたら子どものことばっかりになっちゃうかもしれない。

マキ:そうなっちゃうかもしれない。いやでも、出産こそドラッグかもしれないんで。

ああ、それはほんとにそうらしいよ。

マキ:それを期待してる。気持ちいいならやってやる! みたいな。

男性陣:(爆笑)

その前に究極の痛みを乗り越えての気持ちよさらしいですけどね。

テッペイ:デトックス(笑)。

マキ:デトックスで(笑)。

壮太くんみたいな、肝の据わったひとはともかくとして――。

壮太:いや、肝据わってないですよ。

ははははは。

壮太:俺ここ3年でうろたえてる姿を見られてるんで。

テッペイ:それ女関係だけでしょ? 女関係以外はすげー肝座ってますよ(笑)。

はははは(笑)。自分たちより下の世代からどういうリアクションがあったの?

アラタ:あるのかなあ......?

テッペイ:ライヴのあとにブログを書いてたのがあって、たぶん若いやつだと思うんだけど、そこには「演奏はすごい良かったけど、怖かった」って。

はははははは。

テッペイ:たぶん免疫がないひとから見たら、見た目どうこうじゃなくてオーラみたいなのがダメみたいで。だからそういうひとは次ライヴ来ないのかなあと思っちゃって。演奏はいいんだけど、うーんみたいな、そういうのはあるのかなって。

壮太:わかるわかる、でも。怖いって言われるよ。ただ年がいってるからじゃないの?

テッペイ:うん、それもあると思う。

それはどういう意味なんだろうね。

壮太:感情移入ができない。

マキ:ふふふふふ。

昔で言うと、スピード・グルー&シンキというかね。

テッペイ:免疫がないものに接すると、さいしょパーって来るじゃないですか。わーって。そのあとにそれを好きになるか嫌いになるかは、そのひと次第だと思うけど。

アラタ:つけ胸毛じゃなくて、つけリストカットみたいにしたほうがいいかもしれない、うちらは。

壮太:くくくく。

あとはパロディもあるわけでしょう? それを嗤うっていう。

アッキー:根本的にユーモアっていうのはすごくあるかもしれないですね。シリアスというよりは、なんちゃって感は。

なんちゃって感はすごくあるよね。だってHBでやってるマキちゃんと、ぜんぜん別なわけだから。こんなにメンバーに個性の強い方が集まっていて、レコーディングはうまくいったんですか?

壮太:いきました。

マキ:はい。でも出前がちょっとね。

テッペイ:壮太くんがピザがいいって言い張って、ほかのひとが違うっていう。

そこでもめるんだ(笑)?

アッキー:マキちゃん魚ダメだから寿司もダメだし。

マキ:出前問題がけっこう大変でしたね。

前に2枚を出したことによって、自分たちで自信を得たことはあったんでしょうか?

テッペイ:技術的なことですけど、3作ともエンジニアが違ったので、いままでのふたりも良かったんですけど、メリット・デメリットがあったから、今回それぞれ自分の楽器に関しては録りやすくなったと思うけど。自分の音をこうしたほうがいいっていうのがわかったんで、そこは早かったと思う。

マキ:もともと時間もないし、そういう意味ではけっこうどんどんどんどん進めていけましたけどね。

アッキー:やっぱ週1でリハーサルに入ってたのは良かったと思ってますけどね。週1で、4時間。

マキ:部活っぽく。

歌詞はどうなんですか? 

マキ:そうですね。日々の生活のなかではっと思いついたことを書きとめて。

"リバウンド"も。

マキ:まあそうですね。

テッペイ:あれはもう"DIET"のアンサー・ソングを作ろうっつって。

ああ、なるほどね。"ムードウーマン"とかね、いいですね。これムードマンへの返答として(笑)。

テッペイ:まったく意味ないです(笑)。ムーディだからじゃないですか。

壮太:俺の作った映画にムードウーマンって出てくるの。架空の人物。

マキ:そうそう、あれに出てくる。

ラヴ・ミー・テンダーを面白がってくれればいいなと思うんで、怖がられたっていうのはちょっと残念だなと思って。

マキ:あと怒られたりとか。

怒られるっていうのは何なんですか?

アラタ:どこのイヴェント行っても「こんなのめんどくさいよねー」とか言いながら、結局最後まで残って飲んでて。スタッフからしたら「早く帰んねーかなこいつら」みたいな(笑)。もうベロベロになってて。

アッキー:電気がバーッとついて「早く出てってください」っていう(笑)。

マキ:「いつまで飲むつもりなんですか」みたいなね、多いよね。どこでも。

テッペイ:楽屋で怒られたこともあったもんね。ステージで弾き語りか何かやってて、「静かにしてください」って。楽屋でうちらで盛り上がってて、声が全部なかに漏れてたみたいで(笑)。

アラタ:でもそれはお店の問題で。

テッペイ:ねえ?

アラタ:それを「静かにしろ」っていうのはおかしいでしょう。

マキ:いや、迷惑でしょ(笑)。

ははははは。

アラタ:〈FEVER〉の楽屋は最高ですね。

もうちょっと軋轢を起こすのかなって思ったんですよ、僕は。日本は冗談が通じないじゃないですか。冗談を、わりと真顔で怒ったりとか、笑ったら怒ったりとか。

マキ:怒られてますね。

テッペイ:いやあ、一番コアな部分は突かないようにしたいですよね。壮太くんがやりそうだけど。

なるほどね。壮太くんはそれを狙ってるでしょう?

テッペイ:壮太くんはうまくやってるけど、でも俺らがストッパーの役ですよね。たまにそれをぶっ刺しすぎてるから、「そこはやべえ」っつって(笑)。

壮太:デモの映像を使ったPVとか、すごい叩かれましたね。

マキ:そう、叩かれましたね。炎上しちゃって。

テッペイ:違法のモデルガンを3丁持ってて。しかも道玄坂の交番の前で撮ってたから(笑)。

だははははは。

アラタ:それデモじゃないじゃん。

マキ:それは"メスカリーター"だ。

そういうのは、バンド内では「しょうがないねー」っていう感じですか。

マキ:(笑)まあいっかー、みたいな。

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わけはわかんないですけど、受け入れてねじ伏せるみたいな感じで、けっこうピース。まとまりますね。あんまり暴力とかはね、3年に1回ぐらいしかないよね。(マキ)
最近はさ、だって合法系はみんな暴力に行くじゃん。(テッペイ)


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自分たちがやろうとしてることと、世のなかとの距離を改めて感じたところはあるのかな?

壮太:ライヴハウスとかでやりづらいですね。

ほう。なんでですか?

壮太:昔から嫌いなんですよ、ライヴハウスが。システム自体が。

それは音響的な問題?

壮太:いや音響的な問題じゃなくて。だってお金払って行かないでしょう、ライヴハウスに。「今日ライヴでも観ようかな」って。自分の知り合いのバンドが出てるなら行くようなもんで。本来は「ちょっと音楽でも聴きながらビール飲みてえな」ぐらいの感じなのに。

アラタ:アメリカとかね。

マキ:うん、そういう風に入りたい。

壮太:そうじゃなくて、なんか貸しスペースみたいになってるから。

テッペイ:客も下手したら入れ替え制みたいになってるもんね。

壮太:興味ないときのお客さんって、エレベーターの階数表示見てるみたいな表情でそのバンド見てるじゃないですか。「耳栓しろよ」っていう。ああいうのイヤですね。

クラブは雑多なひとが集まるから、そこはホントにライヴハウスとの違いだよね。

壮太:そうなんですよ。お客さんと一緒の高さでやって、俺たちが演奏してるときもお客さんがバラバラの方向向いて踊ってるみたいな状況のときが一番好きなんだけど。

マキ:うんうん。

ラヴ・ミー・テンダーにとって、もっともコアにあるものというか、中核を成すものは何だと思いますか?

アッキー:マキちゃんじゃないですか、やっぱり。

ほう......いやそれこのあいだも言ってましたよね。じゃあマキちゃんの次は?

テッペイ:最初はアフター・スクール感、放課後の感じって言ってたよね。

壮太:自分たちでもわからない。話し合ったこともないし。

「こういうことを歌ってるけど、ドラッグ・ソングのバンドだとは思わないでほしい」と言ってるわけじゃない? 

壮太:バンドが音を紡いでいるところ。バンドの部活感。その、何て言うんですかね。バンドとはこういうものですよ、というものを見てほしいですね。

バンドの部活感?

壮太:何て言うんですかね、典型的なバンドだと思うんですけど。集まってアンサンブルするときにどんなことが起こるかっていう。すべて起こってますから。

アッキー:誰かが大統領じゃないっていう感覚というか。誰かひとり出てるわけじゃないっていうか。

バンドの面白さっていうこと?

アッキー:マキちゃんはすごく象徴的なんだけど、演奏とかそういう部分で言うと、全員が同列というか。

アラタ:バンドやってるのが楽しいっていうことじゃないですか(笑)。

テッペイ:楽しそうに見られれば一番いい。

でもマキちゃんはHBもやってるわけだから、ラヴ・ミー・テンダーやらなくてもいいわけじゃないですか。

マキ:あ、そうですね、あはは。

(一同笑)

じゃあHBとラヴ・ミー・テンダーの違いは何ですか?

マキ:違い。違いはもう......それは全然違いますね。ギャル・バンドと。

アッキー:あれはやっぱり女子高でしょ。

マキ:女子部。

でも世のなかにはすごくバンドが数多くいるわけじゃないですか。ラヴ・ミー・テンダーは存在する必要はないじゃないですか。

アッキー:存在してないのかもしれないです。

(笑)ほら、これはCDの売り上げに直結する質問をしているつもりなので。

テッペイ:そうやって外向いちゃうとキリがないじゃないですか。

いいじゃないですか(笑)。

壮太:どうなんですか、アンディ

いやアンディはアンディなりに解釈してるんだから(笑)!

マキ:アンディが言う通りなんじゃないかな(笑)。

アラタ:でもまあ、たとえば下北で演劇系のひとたちとミュージシャンのひとたちをざっくり分けると、こういう言い方すると悪いけど演劇系のひとたちは頭でっかち。芝居論の話をしたりとか。ミュージシャンのほうがもっとバカというか、考えてないっていうと語弊があるけど、ほんと楽しいからやってる。快楽主義的な傾向が強いというか。

マキ:そうだよね。

アラタ:あるじゃないですか、そういうの。

はいはい。

マキ:終わらない討論を朝までやってる感じ。

そうそう。

マキ:そういうのじゃない。もっとくだらないことで朝までいるっていう。

アラタ:楽しいとしか言いようがない。

マキ:そう、楽しいからやってる。

アラタ:ほかのバンドとの差別化ってことで言われちゃうと、まあどのバンドも楽しいからやってんだろうなっていう。

アッキー:でも洗練されたポップ・ミュージックをやりたいっていうのが......俺はあるんだけどどうなの?

それすらも共有されてない(笑)。

アラタ:まあ洋楽志向ではある。

アッキー:それを通ったAOR感みたいなそういうことが。

AOR感はあるね。

アッキー:日本独特のポップスもあるじゃないですか。僕は80年代の終わりぐらいから見てるけど。そういうのはちょっとねじれ度が違うと思うんですよね。たとえばなんだろう、ボ・ガンボスとかフィッシュマンズとかが残したものを、そのまま置き換えたって子たちもたぶんいたりして。でもそことは違うっていうか何ていうか(笑)......。言いづらいな。

アラタ:AORとかそういうので言ったらさ、流線形とかキリンジとかのほうがそうかな、って。あれよりもうちょっとうちらのほうが綻びがあるっていうか、何だろうね。自分たちのことを言葉にしようとすると難しい。「どんなバンドやってるの?」って言われたら答えられない。

テッペイ:そう、俺も言えない。

アラタ:ざっくり歌ものメインでインストもある、みたいな(笑)。

なるほどね。どうですか、壮太くんは?

壮太:いやだから、奥渋谷系ですよ。渋谷の奥のバーで醸成されたもの。実際そうなんだから。それがどういうプロセスを経てそうなったかはちょっと説明できないですけど。そう思ってくれたら。メンバー募集で集まったバンドでもないし、ここでしかないケミストリーがあったわけで。そうとしか言いようがないですね。

テッペイ:まだ途中だからね。

壮太:バンドだけが落下傘で落ちてきたわけじゃなくて、周りの人脈とか細かいバー同士の繋がりとか、そういうのが全部くっついてる。ファミリーを形成してるわけじゃないけど、どうしてもそういうの濃厚ですよね。

まあそうだよね。だから、ちょっと硬い言い方になっちゃうけど、コミュニティ的なところもある。

壮太:そうですね。

ちなみにアルバム・タイトルは誰が決めるんですか?

マキ:あ、あたしが。今回は。

『スウィート』ってしたのはとくに意味があるの?

マキ:えっと、あんまりないんですけど。友だちがニューヨークに行ってて、帰ってきたときにお土産でくれたポストカードに、「LOVE ME TENDER SWEET」って書いてあって。それで、「これだ!」って(笑)。

ははははは。自分たちの音楽を形容するのに今回ぴったりかなって?

マキ:はい。ぴったりで。すごくピンと来ちゃったので、それにしちゃいました。

ところで、今日はみなさんが来るまでにアッキーと話してたんですけど、6日付のロイター通信によると、アメリカの2州でマリファナが合法化されたという。

アラタ:まあ連邦法が変わんないとっていうところではありますけどね。

まあそうだけどね。ただ、いわゆる多数決で嗜好目的の大麻の是非が問われたときに決まったっていうのはね。住民投票で可決されたっていうのは初めてのことなので。ここ数年のアメリカの大麻合法化の動きはすごいじゃないですか。それはいい悪いの問題じゃないですよ。日本ではもちろん違法ですからね。でも、まず情報として日本のニュース番組でそういうものがまったく報道されていない不自然さというかね。

壮太:いや、簡単ですよ。大麻の是非以前に、ドラッグの会話自体がタブーなんですよ。たとえばカニバリズムってあるじゃないですか、人間がひとを食うっていう。あれは日本人は話題にするでしょ、「お前人間の肉食える?」「いや」「腹減ってたら食うかも」っつって。でも欧米だとそういう話自体が禁止ですよ。おおっぴらには。そういう話題に触れること自体がひととしてマナーに反するみたいな。日本でのドラッグがそうですよ。ドラッグの是非論とかやってもしようがないですよ。ドラッグの話題に触れることがタブーだから。

逆に日本は少女ポルノに寛容でしょ。たとえばマッシヴ・アタックの3Dが反戦運動をやったときに、何でイギリス政府が彼を捕まえたかって言うと、少女ポルノですよ。

壮太:ええー。

ドラッグじゃなくてね。そっちのほうが向こうだと罪が重いから。こうした文化の差っていうか、きっとそういうことも含めて、ラヴ・ミー・テンダーは投げかけてるのかなっていう風に思うんですよ。

壮太:解禁して安くなるなら万々歳ですけど。俺はその問題を考えるけど、解禁しても吸うひとは増えないと思いますよ。

アラタ:それはそうよ。

日本文化の異分子ではあり続けようとしてるとは思うんですよ。アゲインストしてないにしても。

壮太:でもたしかに東京にしか居場所がないですね。もうどこにも住めません。東京じゃないと自分みたいなのの居場所がない。受け入れてくれるところが。

テッペイ:東京の数店舗しかない(笑)。

(一同笑)

テッペイ:そういう話は毎回してますけど、そこを直接曲に入れたくはないです。重くなるから。

いやいやわかりますよ。

テッペイ:だからたとえば、全曲スウィートな曲調だったらタイトルを『スウィート』にはしてなかったと思うし、そのギャップは絶対出したい。

そういう意味で言うとね、コンセプト自体がすごくギャップがあるよね。一番清潔感のある日本のポップスのスタイルを取りながら、いちばんタブーなことを言ってるっていうね。

アッキー:でもそれも意識してたわけじゃないですね。結果的にそうなっちゃったっていう。

ああ、そうなんだ。

壮太:なんか、カシミアのセーターを着てまつ毛の長いおぼっちゃんがいつもナイフ持ってるとか、そういう感じ。

ははははは!

壮太:そういうのあるじゃないですか。フリッパーズ・ギターとかもそうだったと思うし。

※アンディ(LMT担当の敏腕A&R)

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今回はしませんよ。もう卒業しました。(高木壮太)
うちのバンドは合法ドラッグ・覚醒剤は禁止ですから。(アラタ)
はい、そうですね。悪いものはちょっとやめていこうか。(マキ)


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ああー、なるほどなるほど。じゃあ、みなさんは自分たちのリスナー像っていうのは見えてる部分ってあるんですか?

壮太:オタクが聴いてるっていうのはあるんですけど――。

えっオタク聴いてる!? 

壮太:オタクは聴いてると思いますよ。

テッペイ:俺のイメージは、ヒップホップとか何かを20代前半で飽きたひとが寄り道して聴いてる感じがするかな。

壮太:フュージョン・ファンとかシティ・ポップ・ファンは聴いてないと思います。

マキ:怒られるよ、だって。

壮太:なんちゃってシティ・ポップ、なんちゃってフュージョンだから。本格派のひとは聴かないと思いますよ。聴くひとは変わったバンドと思って聴いてるんじゃないですか。

いまの壮太くんのなかで、とくに問題意識みたいなものがあったら教えてください。

壮太:社会的にですか? やっぱりシリアスになりすぎてるくせに、すごくカジュアルになってて、インテリが迫害されているし、かと言って冗談も通じないし、窮屈になるいっぽうですね。

ああ、なるほどね。たしかに。

壮太:俺とか完全に知性のひとなんですけど。キャラクターはフクロウみたいな感じなんですけど。ぜんぜんそういうのは受け入れられなくなってるなあと。尊敬されない。

ははははは!

壮太:もの知ってるとバカにされるっていう。

アラタ:いやそれ、日ごろの行いなんじゃないでしょうか(笑)?

壮太:そのくせ冗談が通じない。戦争コメディとかがぜんぜん作られなくなった。昔はあったでしょ。『M★A★S★H』ぐらいまではあったじゃないですか。朝鮮戦争ぐらいまでの戦争パロディは。湾岸戦争とかを舞台にした戦争コメディとか全然ないじゃないですか。アフガニスタンを舞台にしたものとか。

ああ、でもイギリスはありそうだよね。

アラタ:アメリカも『ヤギと男と男と壁と』っていうやつは、あれはイラク戦争だよね。あれはけっこう面白かったけどね、脱力してて。

アッキー:なんかあったよね、湾岸戦争でコメディ。アイス・キューブが出てたやつだと思うけど(注:デヴィッド・O・ラッセル『スリー・キングス』だと思われます)。

壮太:アメリカ大統領選もわけのわからない泡沫候補が出なくなった。昔はスパイダーマンの格好したやつとか、出てたのにいつも。キャプテン・アメリカの格好したやつとか。

アラタ:日本もね、参議院選でUFO党がどうとかあったよね。

壮太:そういうのがなくなってきてると思います。

息の詰まりそうな場面っていうのはどんなときに思いますか? 日々?

壮太:日々。

なるほど。じゃあ......。

壮太:自分がいま大恋愛をしているからかも。街を歩くとみんなうつ病に見える。

ははははは! 自分は楽しいのにっていう。アラタくんも恋愛中だっけ? 恋をしているほうがテッペイくん?

マキ:そうです。

じゃあアッキー、ほかに言い足りないことがあれば言ってください。脱法ハーブについてでも何でも。

アッキー:うーん......合法はやめたほうがいいですよね。

マキ:やめたほうがいいですね。

壮太:仕組みはわからないけど、これだけバッドな症例がいっぱい報告されるってことはやっぱ統計学的にもおかしい。

アッキー:若いひとが死ぬってニュースを聞くのはやっぱイヤですよね。

また脱法ハーブっていう言い方もイヤだよね。

アラタ:存在自体が姑息。法の抜け穴でっていうのが何か。存在してる過程自体が姑息だし、やだなあって。キマり方が孤独に陥るキマり方だし。

それで儲けてるひともいるわけだからね。

アッキー:DJバーはぜんぶ、合法ハーブを店で吸うのを禁止にしたほうがいいですよ。

DJバーで吸ってる?

アッキー:うーん、吸ってるひともいる。

アラタ:合法だからね、堂々と吸える。

とにかく、合法には手を出すなと。

アッキー:そういうプロパガンダをしてもいいんじゃないですか、DJバーが。

アラタ:身近でもね、20年覚醒剤をやってたひとが、最後は合法に手を出して死にましたからね。

ああ、危険なんですね。

アラタ:覚醒剤もすごく危険なドラッグなのに、それをちゃんと20年コントロールしてやってられるようなひとですら。キングギドラだっけ? そういう銘柄があるらしくて。

それはどういうやつなの?

壮太:バス・ソルトとして売ってるんですよ。

奇妙な世のなかだよね。

アッキー:ねじれがすごいですよね。

壮太:ラボの技術が法律を制定する速度を上回ったって、ただそれだけしょう。新薬を作る速度のほうが、法律を制定する速度より速くなったからこの現象が起こってて。そのいたちごっこはいままでもあったけど。ちょっとだけ化学式を変えて、新薬だっていうのは。この先はどうなるか予測がつかないです。

なるほどね。わかりました。今日はいろいろ話を聞きましたが、ラヴ・ミー・テンダーは基本的には、すごくロマンティックな音楽だと思ってるから。

マキ:ありがとうございます。

テッペイ:ラヴです、ラヴ。

壮太:化学式はやりません。

言い方は悪いですけど、すごくバカなことをやってるでしょう、この歌詞にしても(笑)。敢えてバカなことをやっているのはなにゆえなんでしょう?

壮太:計算してやってるわけじゃなくて、ほんとにイノセント感の表れだと思ってます。

テッペイ:冗談が好きなんですよ、ただただみんなほんとに。へへへ。

なるほど、わかりました。そんなところでしょうか。

アッキー:最後に一言。

お、なんですか?

アッキー:脱法には愛がない。これ、壮太くんが言った名言だと思ってます。

壮太:言ってたっけ、俺?

いいですね。バンド名がラヴ・ミー・テンダーってぐらいだからね。本質はあくまでそっちにあるってことですね。ではどもありがとうございました!

一同:ありがとうございました!

LOVE ME TENDER "SWEET" RELEASE PARTY ~また逢う日まで~
2012.11.28 (WED) SHIBUYA WWW
OPEN 18:00 / START 19:00

LIVE: LOVE ME TENDER / ホテルニュートーキョー / LUVRAW & BTB
DJ: 二見裕志

ADV 2,500 yen (+ drink fee) / DOOR 3,000 yen (+ drink fee)
TICKET: e+ / LAWSON [L: 70179] / WWW

INFO: WWW 03-5458-7685 https://www-shibuya.jp
LOVE ME TENDER https://lovemetender.mond.jp

vol.42 oorutaichi @ Japan Society - ele-king

 11月16日に、オオルタイチくん(愛称を込めてこう呼ばせていただきます)のショーが、NYのジャパン・ソサエティで行われた。彼のライブは、2009年のアメリカ・ツアー以来観ていないので、彼の音楽がどのように変化したのか、アメリカ人のオーディエンスはどう感じるのか。訊きたいことはいっぱいあった。ショーを次の日に控えて準備が忙しいさなかだったが、インタヴューをさせていただいた。


会場のポスター

お忙しいところ、時間をとっていただきありがとうございます。まず、オオルタイチくんが、ジャパン・ソサエティでショーをすることになった経緯を教えてください。

オオルタイチ:今年の3月に、横浜で芸術見本市みたいな、海外のパフォーマンス・アートのディレクターが集まるイベントがあり、僕はそこに、ダンサーの康本雅子さんとコラボレートして出演しました。そこに、ジャパン・ソサエティの塩谷陽子さんがいらっしゃっていて、アメリカに来ることがあればぜひ連絡して、と名刺をいただいたんです。僕も、新しいアルバムをリリースしてから海外ツアーをしていなかったので、またNYにも行きたい、と思い連絡をしたところ、こういうかたちであれば、という提案をしていただき、今回の開催になりました。

今回は、「コズミック・ココとオオルタイチ」という名義ですが、いつものショーとは違うのでしょうか。

オオルタイチ:塩谷さんが提案してくださった「パーティー」な感じにしたい、というイメージからはじまっています。『コズミック・ココ』というのは、僕の最新アルバムの名前で、そこから塩谷さんが「宇宙」というイメージを引き出されたそうです。今回は、20分/40分で2部に分けてプレイするのですが、参加するお客さんにも、宇宙をイメージしたコスチュームで参加していただくように呼びかけました。

以前にもアメリカでショーをしていますが、そのときの経験は、今回のショーや、それ以後のタイチくんの活動に変化を与えましたか。

オオルタイチ:前のアメリカでのショーは、2009年の3月でした。曲は変わっていますが、基本的なやり方は同じです。今回のジャパン・ソサエティのショーは、デコレーションがあったり、もっと雰囲気が出ると思います。

タイチくんの音楽は、宇宙的で、浮遊感漂う、無国籍な雰囲気を持っていて、そこにきき慣れない言葉が乗っていますが、何語なのでしょうか。あえて、理解しづらい言葉を使うことで、言葉の意味よりは、音やリズム、ビートに注目して欲しいということなのでしょうか。また、それは、海外のオーディエンスを意識してのことなのでしょうか。

オオルタイチ:まず言語に関しては、意図はないです。僕が音楽を作るときは、単純に、まずトラックをババっと作って、そこに即興で歌を載せて、いいラインだな、と思ったらそれを選んでいきます。自分がいいな、と思うものが、こういう言葉、サウンドになりました。海外のオーディエンスは、意識したことはないです。

ライブでは、タイチくんのパフォーマンスや映像も重要です。パフォーマンスにおいて、視覚的なものはどれほど意識していますか。パフォーマンスで、言葉は通じなくても、視覚で自分が訴えたいことが、オーディエンスに伝えられていると感じますか。

オオルタイチ:VJは、いつもスフィンクスという人たちに任せています。感覚的なことだけで、とくに込み入った打ち合わせもしないのですが、たしかに、大きな会場では、映像があると自分の音楽がより広がるのを感じますし、オーディンスに伝えるのを助ける気がします。

アメリカやその他日本以外の国でプレイするときに、気をつけていることなどはありますか。また海外でプレイするときのお客さんの反応の違いはありますか。

オオルタイチ:海外のお客さんは反応がストレートですね。音楽が入ってくるところにフィルターがないというか、入ってきたらそのまま、体の動きやモーションで、反応がダイレクトに伝わってきます。日本のお客さんにも、ストレートな反応をする人はたくさんいますが、やっぱりフィルターみたいなものを感じます。海外のお客さんは、すごい速いBPMのテンポにも、ガンガンついてきてくれます(笑)。日本の人は、体が動いていなくても、楽しんでいる、と感じるときもあります。

オオルタイチくんは大阪出身ですが、いまは東京在住とお聞きしました。東京に移った理由を教えてください。また東京に住む良い点と悪い点を教えてください。

オオルタイチ:東京には住んでないです(笑)。行きたいとは思ったのですが。いまは、もうちょっと音楽が作りやすくて、ある程度音を出せる環境をと思い、京都に引っ越しました。活動は東京が多くなり、WWWやネストなどでプレイしていますが、東京は、生活するのにお金もかかるし、大変だと思います。大阪は地元なので、盛り上げてくれる友だちもたくさんいます。

地元の大阪と、いま住んでいる東京で、タイチくんが、共感するオススメのアーティストを紹介して下さい。

オオルタイチ:東京出身で面白いと思うのは、トクマルシューゴくん、彼ももちろん好きですが、彼のバンドでパーカッションをしている、シャンソンシゲルというアーティストです。大阪では、みんな面白いんですけど、半野田拓くんという、サンプラーなどを使って、インプロをやっているソロギタリストが好きです。僕もいっしょにデュオみたいな形でやることもあります。

今回のアメリカ滞在はどれぐらいですか。いる間にぜひやってみたいことを教えてください。

オオルタイチ:今回は、全部あわせて3週間ぐらいです。NYの後は、西海岸(サンフランシスコ、ロス)に行って、合計7本ぐらいのショーをやります。やってみたいことは、無理だと思いますが、インディアンのコミュニティーに行ってみたいですね。自然というか、町とは違うところに行ってみたいです。あとは、レコード屋です(笑)。

このショーが終わった後の活動予定と、個人的に興味があり、今後やってみたいことなどを聞かせてください。

オオルタイチ:12月に東京と大阪で自分のイベント(※)をやろうと思っています。ソロでいつもやっている音楽を、生楽器でやるバンドがあってその企画です。個人的な興味は、最近田舎の方に引っ越して、生活を見直すというか、そんなにシリアスじゃないんですけど、いまはそういう時期なのかな、と感じています。

※オオルタイチ企画 / イーヴンシュタイナー Vol.7 and 8
東京 : https://www-shibuya.jp/schedule/1212/003056.html
大阪 : https://conpass.jp/2702.html

ライヴ・レポート
――コズミック・ココとオオルタイチ@ジャパン・ソサエティ 11/16/2012


オオルタイチ

 ジャパン・ソサエティに一歩入ると、エイリアンが頭の上でゆらゆら揺れる仕掛けのヘアバンドをつけた受付嬢たちに迎えられる。
 会場全体は、緑や赤のエイリアンのカラフルな風船や、金、銀、紫のピカピカしたテープ/ダングラーズで埋め尽くされ、アルミホイルや、エイリアンのヘアバンド、グロウ・ブレスレットやライト・セーバーなどを身につけた人たちがたくさんいる。
 メイン会場は奥だが、手前のスペースからもパフォーマンスを見ることができる。ジャパン・ソサエティの水を用いた風情ある雰囲気と、宇宙的な雰囲気、パーティー感、異国情緒、などなどがミックスされた独特の空間=コズミック・ココがそこにあった。ローカルのDJ Akiが、オオルタイチの登場まで、会場を盛り上げている。

 ショーは2部に分かれ、1部は前振り的セット。タイチくんは黒のTシャツで登場した。バイクのエンジン音からスタートし、あちこちにヒュンヒュン飛ぶスペーシーなビートや、ジャングリングでエスニックなヴォーカルが、多方向に駆け抜け、お客さんのヴァイブも急上昇。ダンスフロアはいつの間にか満員になっていた。

 2部は、タイダイ柄のカラフルTシャツに衣装替えし、ダンシーで、エレクトリックなチューンを連発する。1部は控えめだったタイチくんのパフォーマンスもどんどん前に出て、お客さんを煽ったり、ダンスも激しくなる。VJのスフィンクス・チームが、音楽と映像をシンクさせ、ムードを出し、会場と一体になって盛り上げる。反復的、アディクト効果のある音楽と映像が、全身に吸収され、お客さんも最高潮で、身体がルースになっていくのを感じる。いちばん前で見るのと、離れて後ろから見るのでは、また違う印象で、お客さんの動きを見たり、映像の手元を見たりして存分に楽しめた。タイチくんの音世界は、彼の着ていたTシャツのように色(特にカラフル)がついていて、それをうまく表現していると思う。


VJのスフィンクス・チーム


DJ Aki

 お客さんは、アメリカ人の男子が大半(オタク風)。今回のショーについて、ランダムに反応を聞いてみた。

ジャパン・ソサエティのお客さんの反応

このショーをどのように知ったか。

マックス(男):友だちから聞いた。

スコット(男):10月にジャパン・ソサエティで開催された、ホソエ・レクチャーの際に聞いた。

今回のショーの感想は?

マックス:とてもすばらしかったし、挑戦的だと思う。

スコット:すばらしかったの一言!

ショーのどの部分が印象的でしたか?

マックス:すべてだけど、ヴォーカルがよかった。あれは、ジバーリッシュなのかな。
(注)ジバーリッシュ......英語のタームで、スピーチのように話すことを指す。内容に意味がないことが多い。

スコット:VJも音楽も完璧だったし、なんといってもエネルギーに感動した。

日本のバンドとアメリカのバンドで、違いを感じますか? そうであれば、どのように。

マックス:難しい質問だけど、違いは感じる。日本のバンドは、キチンとオーガナイズされてる。アメリカのバンドはもっと感覚的かな。僕の個人的意見だけど。

スコット:日本のバンドは、もっとエモーションを感じる。アメリカのバンドは、ベース(低音)だけだね。もっと複雑なんだけど、ここだけでは、語れないよ。

1ヶ月にどれくらいショーに行きますか? どこの会場へ?

マックス:1回ぐらいかな。あまりいかない。

スコット:2~8回ぐらい。グラスランズ、パブリック・アセンブリーなどブルックリンの会場がほとんど。

好きなバンドを教えてください。

マックス:クラフトワーク、ギャング・ギャング・ダンス。

スコット:ボアダムス!

オオルタイチくんにメッセージを。

マックス:とても難しい仕事をしたと思う。こんな経験をさせてくれてありがとう。

スコット:次の夏に会おう!

 三田格+野田努が激しい議論の末に選出した約700枚にもおよぶテクノ作品を、全ページ・カラーで収録。これまでにありそうでなかったテクノの王道に迫るカタログとして、記念すべき一冊ができあがりました!

 本日から2日間、新宿タワーレコードのみの特設ブースで販売いたします! 編集部も参加、野田努もどこかのタイミングで現れますので、ぜひお声がけください!

 シュトックハウゼンからクラフトワークへ、クラフトワークからデトロイト・テクノへ、デトロイト・テクノからジャングル/ダブステップへ。アンビエント/ノイズ/インダストリアルからニューエイジへ。ムーグ・シンセサイザーからラップトップ・ミュージックへ......

 さまざまなジャンル名を横断しながら、この半世紀にわたって発展したエレクトロニック・ミュージックを追うスリリングな270ページ!
各年代ごとに最重要アルバムと最重要シングルを選んでいくスタイルなので、歴史を読み取りながらその発展を理解するには最適!
アート・ワークの変遷も、カラーなのでとても楽しく追っていくことができるのではないだろうか。

 毎日午前0:00くらいからバトルをはじめ、掲載作品の吟味を繰り返したという両氏。「載せられなかったボツ原稿も多いんだよねー」と、載らなかったさらに多くの作品を水面下にたっぷりと抱えた、熟議の末のベスト・チョイスであることをうかがわせる。

 「人から『テクノをわかりやすく説明してください』とたまに言われるんです。そういう時はかなり端折って『電子楽器で作った音楽』と答えているんですが、そうとも言えるかもしれないし、そうとは言えないかもしれない。(中略)長いあいだ使われてきたジャンル名にしてはあまりにも曖昧なんです。」というのは冒頭の対談からの引用だ。複雑に領域を拡大する電子音楽の起源や射程をどのようにとるか、このディスク・ガイドの前提となる対話が展開されている。
 応えて三田氏は、エレクトロニック・ダンス・ミュージックという「場」を異質なもの同士が共有したという歴史性にテクノの輪郭を捉え、「僕の場合はあくまでも軸足は90年代のレイヴ・カルチャーに置いておいて、そこから遡行できるものと発展したものとして認識できるものだけを対象にしたつもり。核になる時代がはっきりとあって、いかにも通時的なカタログのようにつくっているけれど、年代が持っている意味はまるで違う。」と述べる。
 二者の視点を反射しながら「テクノとは何か」ということから考え直す、重要作にして必携、保存版! このつづきはぜひお手にとって読んでください!


TECHNO definitive 1963 - 2013
テクノ・ディフィニティヴ 1963 - 2013

¥2,625(定価)¥2,500(本体)
三田格+野田努・共著
A5判 書籍:978-4-906700-62-2


掘り出し物は個人コレクションに! - ele-king

 昨年3月にはじまったという一箱レコード市をご存知だろうか?
 個人コレクターが集まり、ジャンルは問わないながらもレコード限定で店をひろげるイヴェントのようだ。公式サイトを見るかぎりでは誰でも出店できるが、スペースの関係上でひとり一箱、参加費は1000円。販売終了後はDJパーティーもあるとか。
 「ジャンクショップで安売りされているようなレコードはおすすめしません」とあるから、業者の在庫処分ではなく、あくまで個人の趣味と交歓の場所として企画されているのだろう。場所はバーで、飲食ができるのもうれしい。
 リアルな店舗を構えるレコード屋が減少の一途をたどるなか、フリー・マーケットのフォームをうまく応用しながら、レコード屋の持っていた意味を回復しようとするような取り組みではないだろうか。次回で6回めとなるようだが、時間や予定が合えば、こうした場所で休日を過ごすのもいいかもしれない。詳細は公式サイトでチェックしよう!

■公式サイト
https://www.oneboxrecordfair.com/

「第6回一箱レコード市まであと1週間です!!! 17:00からレコード市とフランス家庭料理、そしてライブDJ等。夜中まで楽しめる。
500円以下の箱が多いですよ!!」

■日時
2012年11月24日(土)17:00~

■場所
Bar Dynamo
東京都杉並区高円寺北3−1−1アサヒビル1F

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