「KING」と一致するもの

9月のジャズ - ele-king

 去る9月6日にジャズ・ベーシストのリチャード・デイヴィスが亡くなった。有名なプレーヤーというわけではなく、どちらかと言えば脇役で光るタイプだった。マイルス・デイヴィス、エルヴィン・ジョーンズなどとの共演で知られるほか、ヴァン・モリソンの『アストラル・ウィークス』、ブルース・スプリングスティーンの『明日なき暴走』、ポール・サイモンの『ひとりごと』など、ジャズを離れてロック方面のアルバムにも参加している。ただ、1970年代には商業的な成功を収めることはなかったものの、とても良質なリーダー・アルバムを〈ミューズ〉に残している。『ザ・フィロソフィー・オブ・ザ・スピリチュアル』(1972年)、『エピストロフィー&ナウズ・ザ・タイム』(1972年)、『ディーリン』(1974年)がそれで、スピリチュアル・ジャズやジャズ・ファンクの観点から再評価されたアルバムだ。


Yussef Dayes
Black Classical Music

Brownswood Recordings

 サウス・ロンドンには優れたジャズ・ドラマーが数多いが、そのひとりであるユセフ・デイズのソロ・アルバム『ブラック・クラシカル・ミュージック』がリリースされた。彼のキャリアは2010年代初頭に兄弟のアーマッド、カリームたちと結成したユナイテッド・ヴァイヴレーションズに始まり、テンダーロニアス率いるルビー・ラシュトンへの参加、カマール・ウィリアムズと組んだユセフ・カマールと、サウス・ロンドンのジャズを牽引する動きを見せてきた。2020年にはトム・ミッシュとコラボした『ワット・カインダ・ミュージック』を発表して話題を集める一方、アルファ・ミストビンカー・アンド・モーゼススウィンドルなどいろいろなアーティストの作品への参加や共演をおこなっている。リーダー作としてはチャーリー・ステイシー(キーボード)、ロッコ・パラディーノ(ベース)とのトリオ編成のライヴ・アルバム『ウェルカム・トゥ・ザ・ヒルズ』(2021年)があり、ほかにユセフ・デイズ・エクスペリエンスというグループで同じくライブ音源となる『ライヴ・アット・ジョシュア・ツリー』(2022年)があるが、『ブラック・クラシカル・ミュージック』は初めてのスタジオ録音によるリーダー・アルバムとなる。

 『ウェルカム・トゥ・ザ・ヒルズ』はトニー・ウィリアムズ張りのテクニカルな演奏を見せるジャズ・ロック路線の作品で、『ライヴ・アット・ジョシュア・ツリー』はサックスを加えたフュージョン調の作品だったが、『ブラック・クラシカル・ミュージック』はよりルーツ色の濃い作品となっている。アルバム・タイトルにあるように、彼のルーツであるカリブやアフロ・キューバン色を感じさせる作品が多く、“アフロ・キューバニズム” というそのものズバリのアフロ・キューバン・ジャズも収録する。タイトル曲も急速調のアフロ・ジャズで、往年のマッコイ・タイナーあたりを彷彿とさせる作品だ。“ジェラート” ほか、ドラムだけでなく種々のパーカッションも組み合わせて有機的で躍動感に富むリズムを作っている点も特徴だ。なお、編成はユセフ・デイズ・トリオを発展させ、そこにシャバカ・ハッチングス、トム・ミッシュなどいろいろなミュージシャンが加わる形となる。

 シャバカ・ハッチングスをフィーチャーした “レイジング・アンダー・ザ・サン” はレイドバックしたカリビアン・ジャズ調のナンバーで、トム・ミッシュと共演する “ラスト” は彼らのアルバムの『ワット・カインダ・ミュージック』の延長線上にある作品。“ターコイズ・ギャラクシー” はコズミックな雰囲気を持つエレクトリック・ジャズで、ザ・コメット・イズ・カミングに近い作品。彼の生まれたばかりの赤ん坊の声を乗せたメロウ・フュージョンの “ザ・ライト”、ダンサブルなサンバ・リズムを刻む “チェイシング・ザ・ドラム”、フレットレス・ベースが活躍する南国風のブギー “ジュークボックス”、ジャミラ・バリーのスウィートなヴォーカルをフィーチャーしたメロウ・ソウル “ウーマンズ・タッチ” など様々なタイプの作品が並ぶ。『ブラック・クラシカル・ミュージック』とはユセフ・デイズのルーツを示すと共に、黒人音楽の根底にあるものも指していると思うが、ジャズにしろ、ソウルにしろ、ブギーにしろ、黒人音楽の幅広さや寛容性も感じさせる内容だ。


Matthew Halsall
An Ever Changing View

Gondwana

 2000年代後半よりジャズ・トランペッター/作曲家として、〈ゴンドワナ・レコーズ〉主宰者として、マンチェスターのジャズ・シーンを牽引してきたマシュー・ハルソール。リーダー・アルバムやレーベル所属のミュージシャンが結集したゴンドワナ・オーケストラのアルバムなど作品は数多く、『アン・エヴァー・チェンジング・ヴュー』は2020年の『サルート・トゥ・ザ・サン』から3年ぶりの新作。以前レヴューした『イントゥ・フォーエヴァー』(2015年)のときと参加ミュージシャンは幾分入れ替わっていたりするものの、楽曲の傾向や演奏スタイルはさほど変わってはおらず、基本的にはアリス・コルトレーンのように瞑想的で穏やかなスピリチュアル・ジャズや、ジョン・コルトレーン直系のモード・ジャズをやっている。世の中の流行やトレンドなどとは一切無縁で、自身の音楽を愚直に追及するマシュー・ハルソールを改めて示すアルバムだ。

 そうした中で今回のアルバムで印象的なのは、カリンバのようなアフリカ発祥の楽器をハープやグロッケンシュピール、チェレスタなどの西洋楽器と絡めて使い、アフリカ音楽と西洋音楽を結び付けるような演奏を見せる点だ。表題曲や “カルダー・シェイプス”、“マウンテンズ、ツリーズ・アンド・シーズ” などがそうで、ハルソールもトランペット以外にカリンバやグロッケンシュピール、チェレスタなどをマルチに演奏している。土着的なフルートやザイロフォン、ハープなどを絡めた “ナチュラル・ムーヴメント” もそうで、アフリカ音楽と西洋のジャズ、そしてミニマル・ミュージックやメディテーション・ミュージックなどの要素も融合したアルバムとなっている。


Khalab
Layers

Hyperjazz

 イタリアのDJカラブもアフリカ音楽と縁の深いアーティストで、マリ共和国のシンガー/パーカッション奏者のババ・シソコと共演した『カラブ&ババ』(2015年)や、西アフリカのマリ難民キャンプに避難する音楽家集団と共演した『ムベラ』(2021年)をリリースする。ほかに『ブラック・ノイズ2084』(2018年)というアルバムがあり、こちらもアフリカ音楽の要素はあるが、エレクトロニクスの比重の大きいより実験的なサウンドで、シャバカ・ハッチングス、モーゼス・ボイドらサウス・ロンドンのアーティストと共演している。カラブなりの解釈によるアフロ・フューチャリズムの作品と言えるだろう。

 カラブの新作『レイヤーズ』は『ブラック・ノイズ2084』を継承した作品と言える。『ブラック・ノイズ2084』にも参加したトマッソ・カッペラート、クラップ・クラップなどイタリア勢に、ヤズー・アーメッド、タマラ・オズボーン、テンダーロニアス、エマネイティヴなどのイギリス勢が入り混じった編成で、ラッパー/ポエットのジョシュア・イデンハンやシンガーのアレッシア・オビーノなども参加。アレッシア・オビーノの神聖なヴォイスがフィーチャーされた “ドローン・ラー” は、そのタイトル通りサン・ラーの “スペース・イズ・ザ・プレイス” を想起させる不穏なナンバー。重厚なベース音に支配されたダークな “コンシャス・フレンドシップ” はジャズとベース・ミュージックの中間をいくような作品。トライバルな “トンネル・オブ・ジェラシー” はアフロ、ジューク、グライム、ゴムが融合したような世界。クラップ・クラップが参加した “アシッド・ワクチン” は、サンズ・オブ・ケメットのようなホーン・アンサンブルがアシッド・ハウスをやったらというイメージだろうか。テンダーロニアスのフルートが印象的な “ロマンティック・ロコ” は、インダストリアルなビートとアラブからアフリカにかけてのミステリアスなジャズが融合。トマッソ・カッペラートがブロークンビーツ調のドラムを叩く “フィメール・サイド” は、カリンバ風の音色を取り入れるなどカラブが好むアフリカ的なモチーフに彩られる。同じく “メンタル・コーチ” でもカリンバが用いられ、「アフロ・フューチャー・ビート・シェイク」と形容されるカラブの面目躍如たるナンバー。


Kurt Elling And Charlie Hunter
SuperBlue: The Iridescent Spree

Edition

 グラミー賞も受賞したアメリカのカート・エリングは、現代における男性ジャズ・シンガーの最高峰に数えられるひとりであり、基本的にはジャズの正統的なヴォーカル・スタイルを継承している。ただし、ギタリストのチャーリー・ハンターと組んだ『スーパーブルー』(2021年)では普段とは異なる一面を見せていた。チャーリー・ハンターとは彼のカルテットの『ソングス・フロム・ザ・アナログ・プレイグラウンド』(2001年)でも共演していて、このアルバムにはモス・デフやノラ・ジョーンズなども参加しているなど、ある意味で現在におけるジャズとヒップホップ、ネオ・ソウル、ファンクなどとの結びつきを先駆けた作品でもあった。そんなエリングとハンターの共演作『スーパーブルー』は、ジャズ・ファンク・バンドのブッチャー・ブラウンのDJハリソンがキーボード、コーリー・フォンヴィルがドラム及び共同プロデューサーを務めていて、言わばブッチャー・ブラウンの演奏でカート・エリングが歌ったと言える。エリングはヴォーカリーズというスキャットを駆使した即興的な歌唱スタイルを得意とするが、ジャズ・ファンク調のナンバーでも見事にそれが生かされていた。ただし、一方的にブッチャー・ブラウンの型に押し込めるのではなく、エリング本来のブルージーな持ち味を生かした楽曲作りもおこなっており、DJハリソンやフォンヴィルのプロデュース能力の高さも垣間見せていた。

 その『スーパーブルー』の続編となる『スーパーブルー:ザ・イリディセント・スプリー』がリリースされた。前作と同じくカート・エリング、チャーリー・ハンター、DJハリソン、コーリー・フォンヴィルというラインナップ。オーネット・コールマンのカヴァーの “オンリー・ザ・ロンリー・ウーマン” は、ダブステップを取り入れたようなスペイシーなトラックで、フォンヴィルの小刻みなドラミングに対しエリングのダイナミックで広がりのある歌唱が異色の組み合わせとなっている。ジョニ・ミッチェルのカヴァーの “ブラック・クロウ” はリズミカルなジャズ・ファンク・スタイルで、お得意のスキャットを絡めた即興が光る。“ノット・ヒア/ノット・ナウ” はエディ・ハリスのジャズ・クラシック “フリーダム・ジャズ・ダンス” を彷彿とさせる曲調で、エリングの歌もこの曲に歌詞をつけたエディ・ジェファーソンの歌唱を思い起こさせる。

Shin Sasakubo & Jamael Dean / Daniel Villarreal - ele-king

 原雅明主宰のレーベル〈rings〉から最新作2枚が同時発売される。1枚は、秩父の個性的な音楽家、笹久保伸とLAのジャズ・ピアニスト、ジャメル・ディーンによる共作。もう1枚は、ドラマーのダニエル・ヴィジャレアルによるラテン・グルーヴあふれるインプロヴィゼーション作品で、昨年の『Panama 77』に収めきれなかった演奏が収録される。ジェフ・パーカーも参加しています。好きな音楽の幅を広げてくれるかもしれない2枚、チェックしておきましょう。

SHIN SASAKUBO(笹久保伸) & JAMAEL DEAN 『Convergence』
2023.10.25 CD Release

笹久保伸の38作目となるアルバム『Convergence』は、ロサンゼルス出身の天才ジャズピアニストでありビートメイカーでもあるJamael Dean(ジャメル・ディーン)とのコラボレーション作品。独創的な音楽世界観を持つ2人が出会い、そして融合した、聴く者を魅了する多彩な音楽性を放つ傑作!!

ジャズ・ピアニストのジャメル・ディーンとそのアルター・エゴであるビートメイカー/ラッパーのジラは、LAのジャズとヒップホップをナイジェリアのヨルバの伝統歌へと繋げた。そして、秩父の笹久保伸の音楽と結びついた。端正なビートとアルカイックなドラム、鍵盤、ギター、歌、サンプリング音が織り成す、真に融和的で研ぎ澄まされた世界がここにはある。2人のルーツの出会いが生んだ、この上なくリアルで美しい音楽だ。(原 雅明ringsプロデューサー)

【リリース情報】
アーティスト名:SHIN SASAKUBO & JAMAEL DEAN
アルバム名:Convergence
リリース日:2023年10月25日
フォーマット:CD
レーベル:rings / chichibu label
品番:RINC111
JAN: 4988044093393
価格: ¥3,080(tax in)

販売リンク:
https://rings.lnk.to/qrAn5Rjl
オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/shinsasakubo-jamael-dean-convergence/

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Daniel Villarreal『Lados B』
2023.10.25 CD Release

2020年にドラマーのダニエル・ビジャレアル、ギタリストのジェフ・パーカー、ベーシストのアンナ・バタースが、2日間のレコーディングで完成させ高い評価を集めた『Panama 77』に収めきれなかった即興演奏の数々を、『Lados B』としてアルバム・リリース!!異なる音楽的影響を持つ3人が創り出す、美しく鮮やかな音の色彩は圧巻!!

グルーヴ感溢れる『Panama 77』をリリースしたパナマ出身のドラマー、ダニエル・ビジャレアルのBサイドと言えるインプロヴィゼーションにフォーカスしたのが本作。ジェフ・パーカーのギターとアンナ・バタースのベースという、LAジャズの最前線にいて、ポップスのフィールドでも引く手あまたの二人を迎え、自由度の高い、素晴らしいトリオでの演奏を聴ける。ラテンのグルーヴとジャズのインプロヴィゼーションの、幸福な出会いから生まれたアルバムだ。(原 雅明 ringsプロデューサー)

【リリース情報】
アーティスト名:Daniel Villarreal(ダニエル・ビジャレアル)
アルバム名:Lados B(ラドス・B)
リリース日:2023年10月25日
フォーマット:CD
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC112
JAN: 4988044093409
価格: ¥2,970(tax in)

販売リンク:
https://ringstokyo.lnk.to/xrleJTUP
オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/daniel-villarreal-lados-b/

国葬の日 - ele-king

 ちょっと前にグラフィック・デザイナーの石黒景太と話をしていたら「まるで安倍晋三なんかいなかったみたいだ」という話になった。TVを観ているととくにそう思うし、安倍晋三という人は初めからいなかったように世の中は動いていると。いわゆる「忘れっぽい」ではなく、安倍晋三がいたことは知っているのに誰も触れないで避けていく。それこそ少し前の流行語でいえば、安倍晋三がいなかった世界線を暗黙のうちにつくりあげようと示し合わせている無意識の国家事業みたいだと。裁判が始まったらそうではなくなることはわかっているけれど、それまでの雰囲気はそれこそ「忘れてしまう」だろうから、このことはちょっと書いておきたい。もちろん、銃撃から1年後にTVの報道番組は事件を振り返ってはいた。ついこの間まで一国の首相で、しかも在任期間が最長だったともてはやされていた人物なんだから当たり前だと言いたいけれど、それにしては素っ気なく、事件が起きた直後に「安倍元首相がやったことは今後の検証を待ちましょう」と語っていた口が何ひとつ検証めいたことは口にせず、次のニュースに移っていく。最近になってFBIがが多くの資料を公開したことで新たな事実が明るみに出たケネディ暗殺事件の方が長めの特番として組まれていたほどである。

 安倍晋三のことを多くの人が口にしない理由のひとつは安倍信者の存在だろう。からまれたら大変。攻撃されたら面倒っちー。実際、事件から1年というタイミングで刊行された岩波書店の「世界8月号 安倍政治の決算」と安倍晋三の国葬をテーマに撮られたドキュメンタリー映画『国葬の日』はそれがどんな内容なのかも判明する前にSNSは凍結され、情報サイトが落ちたりして、安倍信者から攻撃を受けたのではないかという噂の方が先に広まった。内容がどんなものかわかる前につぶすというのは考えることも許さないというのに等しい。「触れない」や「避ける」から一歩でも踏み込むと封殺される。及び腰になるのも仕方がないのかもしれないと思わせる。安倍晋三がいなかったかのように振る舞う原因はそれだけではないだろうし、何かもっと恐ろしい心理が働いているのではないかと思うけれど、はっきりとはわからないので、むしろ僕はその報を受けて『国葬の日』を観てみようと思った。安倍晋三については大きく3つの点で評価できなかったので、たとえ全国民が賛成でも僕は国葬には反対しようと思っていたし、「国葬」について何か考えさせてくれるかなと思ったので。

 『国葬の日』はしかし、大いなる空振りだった。安倍晋三の「国葬」についてのドキュメンタリーではなく、タイトル通り国葬の「日」にカメラを向けた作品だった。「国葬」が決定するまでのプロセスを追うでもなく、関係者は1人も写っていない。TVで中継された式次第の断片もなく、三浦瑠璃が着ていたというアレキサンダー・マックイーンの喪服すら見ることができなかった。日本国民はその日、何をしていたかというドキュメンタリーなのである。導入こそ会場の入り口が撮影されていたものの、次の場面では今日が何の日かも知らなかったというテキ屋の人たちに話を聞いたり、日本中あちこちに飛んで同じように道行く人にマイクを向けていく。被災地ではガレキを片付けるのに忙しく、それどころではないという様子が映し出され、辺野古では基地建設に反対する人たちが警察に追い立てられていく。結婚式に出ていた花嫁の父だったかは強烈な安倍信者で「国葬」支持を訴え、どちらかといえば賛成という声も多く拾われている。内容を見ないでサーバーをダウンさせた安倍信者は……まいっか。安倍信者のほとんどが、そして、安倍を支持する理由として外国に向けて見栄えが良かったからとインスタ映えみたいな理由でしか安倍を推していないのは脱力感を倍増させた。80年代に中曽根が支持された理由と同じかよと。賛であれ否であれ、どの立場の人も「国葬」についての意見がとにかくバカらしい。銃撃事件のあった現場に花を供えていた女性は安倍の死を深く悲しんでいるのかと思いきや「あんまりよくわかってないんですけどね」と笑い出す始末(この人が一番衝撃だった)。「国葬」については何ひとつわからないけれど、何十年か後に安倍晋三が神格化され、偶像として異様な力を持ち始めるようなことが起きた場合、このドキュメンタリーを流すと「あれっ」という空気になって妙な気運は打ち砕かれるかもしれないなとは思う。

 自分の意見がない。日本人の特徴はこれに尽きると思った。「国葬」についてもう少し何か意見があるだろう。どうしたってそう思って観てしまう。低レベルだけど、仕方がない。意見がない人たちの行動原理はなんなのか。それは相も変わらず村社会の一員として動いているということだと思うしかなかった。安倍のお膝元だった下関でのインタビューがとくに興味深かった。安倍支持か反安倍か。はっきりしてる人はまだいい。自分がどの意見に属していれば有利か。あるいは安全か。村からはみ出さないようにしているというニュアンスばかりが言葉の端々からこぼれ落ちる。これは自民党や野党が思想集団でもなんでもない集まりだということと同じで、自分はどこにいれば有利なのか、あるいは安全なのか、いつでも動けるようにしておくためには思想を持たないほうがいいということにつながっている。「国葬」をめぐって国民は「分断」なんかされていない。多くの人は有利な方に付こうとしているだけ。いつでも動けるようにしておく。思想を固定しまうと動けなくなる。とにかく曖昧にしておく。極端なことをいえば、この作品が伝えていることは別に「国葬の是非」ではなく、まったく異なる質問でも結果は同じだったと思う。繰り返すけれど、この作品を見ても「国葬」については何ひとつわからない。「村社会」だけがくっきりと映し出されている。横断性のない社会。個人が認められない社会。肩書きでしか動かない社会。どれだけ新自由主義が既得権益に切り込んだつもりでも、競争の土壌となる基盤は何も変わっていない。古過ぎてクラクラする。

 上映の後に大島新監督に対する質疑応答の時間があった。会場から出た2番目か3番目の質問に「国葬当日に反対の声を挙げに行ったけれど、あまり面白くなかった」というのがあった。正直な声だと思った。日本人は見知らぬ同士が同じ場所にいた場合、その場を共有して楽しむ力に欠けている。クラブやデモに行っても最後のところで突き抜けた感じにならないのはそのせいで、村ごと移動して、村ごと騒がないと羽目を外せない。感情を解放できない。エモくならない。個人でその場にいて、個人でその場の人とつながる能力が低い。村社会の映画だなーと思って観ていたら、追い討ちをかけるように村社会の感想が続くとは。最近、日本各地の駅に設置されたストリート・ピアノが相次いで撤去されているのも同じことで、うるさいとか、ちゃんと弾かないとか、様々な理由がこれには付けられているけれど、その場に居合わせた人たちがその場を共有して楽しむことができないことが最大の原因だと僕は思っている。芸大のピアノが売られ、ストリート・ピアノが撤去され、それらはみなタケモトピアノに集結しているのだろうか。

絵夢 〜 KITCHEN. LABEL 15 in Tokyo - ele-king

 日本人アーティストも多くリリースするシンガポールのレーベル〈Kitchen. Label〉が15周年を記念しライヴ・イヴェントを開催する。2023年11月15日(水)@渋谷WWW。同レーベルに『古風』『古風II』を残し、この11月には新作『古風III』のリリースを控える広島の冥丁をはじめ、アンビエント・フォーク・デュオ Aspidistrafly、新進気鋭のプロデューサー Kin Leonn、最近レーベルに加わった東京のサウンド・アーティスト Hiroshi Ebina が出演する。レーベル・ショウケースという形式はまだ知らない新しい音楽を見つける絶好のチャンスでもある。ぜひ足を運んでおきたい。

 なお、10月20日発売の『別冊ele-king アンビエント・ジャパン』には冥丁による特別寄稿が掲載される。そちらもチェックしていただければ幸いです。

『絵夢 〜 KITCHEN. LABEL 15 in Tokyo』

◆日程 : 2023年11月15日(水)
◆時間 : OPEN 18:00 / START 18:30
◆会場 : 東京・渋谷 WWW(https://www-shibuya.jp/
◆チケット:前売 ¥4,500 / 当日 ¥5,000(共に税込・ドリンク代別 / 整理番号付き)

◆出演:
冥丁
ASPIDISTRAFLY Ensemble with Kyo Ichinose
Kin Leonn
Hiroshi Ebina

◆音響 : 福岡功訓(Flysound)

◆チケット販売:e+ (9/23(土)10:00〜より販売開始)
https://eplus.jp/kitchen-label/

◆主催 : KITCHEN. LABEL (https://www.kitchen-label.com/)
◆協力 : Inpartmaint Inc. (https://www.inpartmaint.com/)
◆お問合せ : info@kitchen-label.com

◆詳細HP
https://www.inpartmaint.com/site/38321/

[イベント概要]
シンガポールの音楽レーベル【KITCHEN. LABEL】が15周年を記念したライブイベントを2023年11月15日(水)東京・渋谷WWWにて開催。レーベルアーティストの冥丁、ASPIDISTRAFLY、Kin Leonn、Hiroshi Ebinaが出演。

haruka nakamura、いろのみ、冥丁など、数多くの日本人アーティストの名作をリリースし、またその美しいパッケージデザインにも定評のあるシンガポールの人気インディー・レーベル【KITCHEN. LABEL】が、2023年11月15日(水)に東京・渋谷WWWにて15周年記念となるレーベルショーケースを開催する。シンガポールからはASDPISIDTRAFLYとKin Leonn、日本からは冥丁とHiroshi Ebinaが出演し、それぞれの音楽的美学を披露する。

ショーケースのヘッドライナーを務めるのは広島を拠点に活動するアーティスト【冥丁】。11月中旬リリース予定のニューアルバム『古風Ⅲ』も取り入れた「古風」シリーズのライブセットを披露する。シンガポールのアンビエント・フォークデュオ【ASPIDISTRAFLY】は、一ノ瀬響(ピアノ)、徳澤青弦(チェロ)率いるストリング・カルテット、湯川潮音(クラシック・ギター)を迎えた特別アンサンブルで最新アルバム『Altar of Dreams』をライブ初披露、また前作『A Little Fable』の名曲も演奏予定。初来日となるシンガポールのアンダーグラウンドシーン気鋭の若手プロデューサー【Kin Leonn】は10月下旬リリースのニューアルバム『mirror in the gleam』からのライブセットを、インディーロック・バンドSobsのRaphael Ongによる映像と共に初披露。そして、レーベルに新たに仲間入りした東京在住のサウンドアーティスト【Hiroshi Ebina】はアンビエント・セットを披露する。

「これまでレーベルとアーティストを応援してくれた日本のリスナーの皆さんと一緒に15周年を迎えられることを嬉しく思います。タイトルに名付けた「絵夢」という言葉は、私たちのアーティストが共有する世界を完璧に具現化するものを探し求めた末に生まれました。”浮世絵”からとった「絵」と「夢」を掛け合わせたこの言葉には、音を通して鮮明な夢の風景を描くという私たちの使命が込められています。このイベントは、私たちのレーベルの過去、現在、そして未来を紹介するものとなるでしょう。」Ricks Ang(KITCHEN. LABEL)

[アーティスト・プロフィール]

冥丁
photo by Akio Yamakawa

日本の文化から徐々に失われつつある、過去の時代の雰囲気を「失日本」と呼び、現代的なサウンドテクニックで日本古来の印象を融合させた私的でコンセプチャルな音楽を生み出す広島在住のアーティスト。エレクトロニック、アンビエント、ヒップホップ、エクスペリメンタルを融合させた音楽で、過去と現在の狭間にある音楽芸術を創作している。これまでに「怪談」(Evening Chants)、「小町」(Métron Records)、「古風」(Part I & II)(KITCHEN. LABEL) よる、独自の音楽テーマとエネルギーを持った画期的な三部作シリーズを発表。
日本の文化と豊かな歴史の持つ多様性を音楽表現とした発信により、The Wire、Pitchforkから高い評価を受け、MUTEK Barcelona 2020、コロナ禍を経てSWEET LOVE SHOWER SPRING 2022などの音楽フェスティバルに出演し、初の日本国内のツアーに加え、ヨーロッパ、シンガポールなどを含む海外ツアーも成功させる。また、ソロ活動の傍ら、Cartierや資生堂 IPSA、MERRELL、Nike Jordanなど世界的なブランドから依頼を受け、オリジナル楽曲の制作も担当している。
https://www.instagram.com/meitei.japan/


ASPIDISTRAFLY(アスピディストラフライ)
photo by Ivanho Harlim

2001年に結成されたシンガポールを拠点に活動する、ヴォーカリスト/コンポーザーApril LeeとプロデューサーRicks Angによる男女ユニット。アンビエント・フォークとミュジーク・コンクレートを融合させたサウンドやApril のスモーキーなアルト・ヴォーカルに芸術性の高い演出を加え、彼女の詩的な物語に生命を吹き込んでいる。これまでに『I Hold A Wish for You』(2008)、『A Little Fable』(2011)、そして最新作となる『Altar of Dreams』(2022)の3枚のアルバムをKITCHEN. LABELよりリリース。最新作には米NPRの”Song of the Day”に選出された「The Voice of Flowers」や、SUGAI KENとのコラボレーション曲などを収録。
また、一ノ瀬響、haruka nakamura、小瀬村晶、青葉市子などの日本人音楽家や、Gucci、Roger Vivier、LAD MUSICIAN、NARSなどのブランドとのコラボレーションも行っている。ASPIDISTRAFLY以外では、Aprilはアートディレクターとして、デザイン、写真、ファッションの分野で活躍。RicksはKITCHEN. LABELを運営し、良質な音楽を洗練された美しいアートワークの特殊パッケージデザインとともにリリースしている。
https://www.instagram.com/aspidistrafly/


Kin Leonn(キン・レオン)
photo by Christopher Sim

​​シンガポールのアンダーグランドシーンのサウンド・アーティスト、DJ、作曲家として多才な存在感を放ち、「アンビエント・ボーイ」の愛称を持つシンガポール新世代アーティスト。2018年に1stアルバム『Commune』をKITCHEN. LABELよりリリース後、ベネズエラのアンビエントの先駆者Miguel Noyaとの共演や日本のサウンドアーティストHiroshi EbinaとのコラボレーションEP『“Faraway Vicinity』(2022)をリリースする他、プロデューサーやミキサーとしてYeuleとの様々なコラボレーションやModeratやYunè Pinku.のリミックスにも参加。
ロンドン・カレッジ・オブ・ミュージックを首席で卒業し、2021年にはスパイク・ステント賞を受賞。作品のリリース以外にもマルチ・チャンネルの音響インスタレーションや映画のサウンドトラックも多数手掛ける。直近では、2023年カンヌ国際映画祭でプレミア上映されたAnthony Chen監督による長編映画『The Breaking Ice』のサウンドトラックを担当した。
https://www.instagram.com/kinleonn/


Hiroshi Ebina
photo by Yoichi Onoda

東京在住のサウンドアーティスト。活動は多岐に渡り、アンビエントミュージックの作曲・演奏や、雅楽奏者としての活動、フィルムカメラを用いた写真作品の作成も行なっている。ニューヨークでの活動を経て、2018年より日本での活動を再開。作曲にはモジュラーシンセを中心にテープマシンや多種多様なアコースティック楽器を用いる。近年はKITCHEN. LABELやMystery Circles、Seil Recordsより作品を発表している。
「偶発性」はHiroshi Ebinaの音楽を語る上で欠かすことのできない要素である。真白の紙の上に点や線を広げるように音と並べていき、法則を与えることで音楽を形作っていくプロセスを取っている。作曲の際はリズムやピッチといった側面だけでなく、音の触感や音と音との間の無音部分などを重視している。
https://www.instagram.com/he_soundvisual/

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#絵夢 #KITCHEN15INTOKYO #冥丁 #ASPIDISTRAFLY #KINLEONN #HIROSHIEBINA

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Christopher Willits & Chihei Hatakeyama - ele-king

 およそ20年にわたり〈12k〉や〈Ghostly International〉といったレーベルからリリースを重ねてきたエレクトロニカ~アンビエント作家のクリストファー・ウィリッツテイラー・デュプリー坂本龍一とのコラボでも知られる彼だが、このたび2019年以来となる来日公演が決定している。今回の公演では最新アルバム『Gravity』からの楽曲に加え、未発表の新曲も披露する予定とのこと。岐阜・大禅寺と神田・POLARISでの2公演、いずれも畠山地平との共演だ。この秋注目のアンビエント・ライヴのひとつ、見逃せません。

 ちなみに、10月20日発売の別エレ最新号『アンビエント・ジャパン』には畠山地平のインタヴューを掲載しています。ぜひそちらもチェックを。

Christopher Willits – Japan Live Performances – October 2023

クリストファー・ウィリッツの2019年以来となる来日が決定致しました。昨年Ghostly Internationalから最新アルバム『Gravity』をリリースしましたが、そこからの楽曲に加え、未発表の新曲も披露する予定です。
また、日本での公演は、複数のアルバムで共演した故・坂本龍一氏の友情と指導に捧げられているとのことです。

2004年の初来日イベントから、ウィリッツは日本で熱心なリスナーの支持を集めてております。彼の日本への愛と尊敬は、天河寺、伝書会館、大島洞窟、坂本さんとの複数のコラボレーションなど、これまでの公演で示されているように、心からの生涯の旅路です。

Christopher Willits – Japan Live Performances – October 2023

▶︎7th October @DAIZENJI Gifu

▶︎14th October @POLARIS Tokyo

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LISTENING IN THE TEMPLE
『大禅寺でリスニング』

日程:10月7日(土)
会場:岐阜・大禅寺

時間:17:00 – 21:00
料金:ADV ¥5,500

LIVE:
Christopher Willits
Chihei Hatakeyama

チケット:https://listening-in-the-temple.peatix.com/

クリストファー・ウィリッツと畠山地平のライブセットによる世界最高峰の没入型アンビエント・ミュージック・イベントを岐阜県の歴史ある大禅寺で体験しませんか?

この魂の癒しとなるイベントは、大禅寺住職の根本一徹紹徹上人の指導による瞑想で調和のとれた夕べのはじまりを迎えます。畠山地平につづきクリストファー・ウィリッツの上演は彼の親愛なる友人である坂本龍一氏へのトリビュート・ライブパフォーマンスを披露。両公演とも、原音に忠実な四音没入型サウンドで、深遠なリスニング体験に最適な音の聖域を作り上げることでしょう。

ライブ終了後には、軽食を囲んで談話などのために集まります。この親密なイベントが、みなさんとのつながりや絆を感じるひとときとなることを楽しみにしています。

「やわらかくしなやかなに流れるものは、硬く強固なものに勝る」– 老子

Sponsored by Envelop (https://envelop.us/)

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Christopher Willits / Chihei Hatakeyama

日程:10月14日(日)
会場:POLARIS, Tokyo

時間:OPEN 19:30 / START 20:00
料金:ADV ¥4,000 / DOOR ¥4,500 *別途1ドリンク代金必要

LIVE:
Christopher Willits
Chihei Hatakeyama

チケット:https://polaris231014.peatix.com/view

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CRISTOPHER WILLITS:
クリストファー・ウィリッツ(Christopher Willits)はミズーリ州はカンザスシティ出身で、現在はサンフランシスコを拠点に活動しているミュージシャン/アーティストである。彼は地元カンザスシティのアート研究所で絵画、写真、ビデオ/インスタレーション・アート、サウンド・アートを学んでおり、ミルズカレッジではフレッド・フリス(Fred Frith)やポーリン・オリヴェロス(Pauline Oliveros)に師事し、電子音楽の修士号も取得している。多岐に渡るその活動はコンポーザー、プロデューサーに留まらず、フォトグラファー、フィル ムメイカー、システム・デザイナーにまで及ぶマルチぶりだ。電子音楽とギターを融合させるスタイルのパイオニアであり、自身が作成したソフトウェアを駆使 して、複雑に練り込まれたパターン、テクスチャー、ハーモニーなどで彩り豊かな視聴覚パフォーマンスをみせ、音と光が重なり合い、没入させる独特のサウン ドを構築している。それはかつてピッチフォークに「ギターでペイントをしているようだ」、Nownessに「魅惑的で複雑なエレクトロニック・サウンドス ケイプ」と称された。90年代後半から音楽活動を開始し、自身のソロだけでなく、坂本龍一やブルックリンのサウンド・アーティスト、テイラー・デュプリー(Taylor Duepree)等とのコラボ、マトモス(Matmos)とのサブコンシャス・アトラクション・ストラテジーズ(Subconscious Attraction Strategies)、ヘラ(Hella)のドラマーで、先日惜しくも解散したデス・グリップス(Death Grips)のメンバーでもあった、ザック・ヒル(Zach Hill)とブレイクコアのパイオニア的存在、キッド606(Kid 606)とのトリオ編成によるフロッシン(Flossin)などのプロジェクトがあり、これまでに20枚以上の作品をリリースしている。それらは自身の主宰するOverlapをはじめ、テイラーの12K、Fällt、Sub Rosa、Nibble Records、Ache Recordsなど様々なレーベルから発表されており、近年はGhostly Internationalに所属している。2014年には、これまでの集大成とも言えるオーディオ・ヴィジュアル・プロジェクト作品『OPENING』をリリース。そして2017年には『Horizon』、2019年には『Sunset』をリリース。収録曲は数千万再生を記録している。2022年には現時点での最新作である『Gravity』をリリースし、深いリスニングへの意図を持ったスローダウンし、感じ、癒すためのツールだという極上のアンビエント・ミュージックを披露し、幅広いリスナーに支持されている。

畠山地平:
1978年生まれ、神奈川県出身、東京在住の電子音楽家。2006年にKrankyより1stソロ・アルバム『Minima Moralia』を発表。以降、デジタル&アナログ機材を駆使したサウンドで構築するアンビエント・ドローン作品を世界中のレーベルからリリース。そのサウンドはリスナー個々人の記憶を呼び覚まし、それぞれの内的なストーリーを喚起させる。2013年より音楽レーベル『white Paddy Mountain』を主宰。2023年には音楽を担当した映画『ライフ・イズ・クライミング!』が公開。近年は海外ツアーにも力を入れており、2022年には全米15箇所に及ぶUS Tourを敢行した。またマスタリングエンジニアとしても活躍中。

PACIFIC MODE 2023 - ele-king

 来る10月21日&22日、川崎・東扇島東公園にて野外パーティ《PACIFIC MODE 2023》が開催される。ベルリンのDJファート・イン・ザ・クラブ、ニューヨークのハウス/フットワーク・プロデューサー、クッシュ・ジョーンズに、今回が初来日となるアンビエント・アーティスト、マリブーやウラらが出演。日本からも強力な面々が勢ぞろいする。
 主催は、これまでSustain-Releaseのサテライト・イヴェント「SR Tokyo」などを企画してきたPACIFIC MODE。野外パーティは今回が初とのこと。
 詳細は下記をご確認ください。

PACIFIC MODE 2023

NY-東京発のPACIFIC MODEが送る“都会を遊ぶオープンエア・パーティ”が10月21日土曜午後から22日日曜午前にかけ川崎のベイエリアにて開催。チケットも即日販売。

海外からダンス・アクトとしてDJ FART IN THE CLUB、KUSH JONES、PLO MANに加え、アンビエントのライブ・アクトとして初来日のMALIBUとULLAが登場、国内からDJ TRYSTERO、E.O.U、FOODMAN、LIL MOFO、MARI SAKURAI、SAMO、SUIMIN、ULTRAFOG、YELLOWUHURU、ローカルのクラブ・シーンの中核を担うDJ/アーティストがラインナップ。

これまでNYブルックリン発のレイヴ・パーティSustain-Releaseのサテライト・イベント「SR Tokyo」含む企画、招聘、ジャパン・ツアーを行い、並行して都内やNYのベニューを中心に様々なイベントを開催をしてきたプロモーターPACIFIC MODE。今回初となるオープンエア・パーティではこれまでの活動の軌跡を辿るように、午後から夕方にかけるアンビエント/エレクトロニック・ミュージックの静隠なムードから、夕方から夜へかけじっくりとダンスへと向かい、深夜のハイ・エナジーなレイヴへ到達、朝方のアフターへと流れる。PACIFIC MODEのクラブを起点としたダンス・エレクトロニック・ミュージックのエネルギーを野外という開かれた都会の空間で遊んで欲しい。

Title: PACIFIC MODE 2023
Date: 2023/10/21 SAT 12:00 - 22 SUN 10:00
Venue: 川崎東扇島東公園 / Higashi-Ogishima Higashi Park Grass Field
Instagram
Website
Ticket

UNDER 23: ¥6,000 *Photo ID Required / 年齢確認のため要写真付ID
CATEGORY 1: ¥9,000 *LTD / 数量限定
PARKING / 駐車券: ¥2,000
TENT / テント券 (一張り): ¥2,000 *LTD 50 / 50枚限定

DJ FART IN THE CLUB [DE/KR]
DJ TRYSTERO
E.O.U
FOODMAN
KUSH JONES [NY]
LIL MOFO
MALIBU [FR]
MARI SAKURAI
PLO MAN [DE/CA]
SAMO
SUIMIN
ULLA [DE/US]
ULTRAFOG
YELLOWUHURU

PA: SHOTA MURAKOSHI, SEMMEI KAI (WHITELIGHT)
LIGHTING: HITOSHI SATO

PR: Loca1 W0rld
Creative Direction: mamastudio™
Music of video: ICEE MAN by KUSH JONES

promoted by PACIFIC MODE

■ ガイドライン
PACIFIC MODEでは、お互いが尊敬し、助け合い、そして安心して楽しむことができる環境づくりを目指しています。
困っている方や、体調が優れない方がいたら、スタッフや周りの人に知らせてください。

■ チケット
・18歳未満の方は保護者同伴の場合のみご入場いただけます。保護者の方はお子様にケガ・事故等がないよう十分ご注意ください。
・中学生以下はチケット不要です。
・電子チケットは必ず、紙に印刷してご持参ください。スマートフォンの電池切れや、電波が弱い等の原因により、QRコードをご提示いただけない場合は受付できません。
・電子チケットの転売・譲渡は禁止されており、当事者間の自己責任となります。このような行為により入手されたチケットが、二重利用等により受付時無効となっていた場合は、当方は一切責任は負いません。
・不正入場が発覚した場合、理由の如何にかかわらず身柄を警察に引き渡します。
・開催期間中は再入場が可能です。
・UNDER23チケットにつきましては、ご入場時に有効な写真付き身分証明証(コピー不可)をエントランスにてご提示ください。ご提示いただけない場合は、当日料金との差額分をエントランスにて追加でお支払い頂きます。
・前売りが規定枚数に達した場合、当日券の販売はございません。

■ 持ち込み物
・持ち込み不可品 アルコール類/カン/ビン/違法物/危険物/ペット等の動物の同行は禁止にさせて頂きます。
・安全面、環境面の観点から、エントランス付近で荷物チェックを行います(再入場も含む)。アルコール類/カン/ビン類については発見次第没収し、違法物/危険物については即時退場/通報等の措置を取らせていただきます。
・ソフトドリンクを持参される場合は、カン/ビン類以外の容器に事前に移し替えてください。会場内ではカン/ビン類の回収は行いません。
・美しい会場を守るため、ポイ捨ては厳禁です。所定のゴミ捨て場までお持ちの上、分別にご協力ください。
・煙草のポイ捨ては厳禁です。
・主催者の許可なく個人の楽器、スピーカー、レーザー等を会場内で使用することは、固くお断りします。

■ 運営
・会場内外において、他のお客様のご迷惑になるような行為を行ったり、スタッフの指示に従わない方については、強制的に退場していただきます。その際、チケットの払戻し等は一切致しません。
・会場内・外での事故・紛失・盗難・ケガ・病気等の責任は、一切負いません。
・雨天決行。但し、台風など開催不可能な荒天の場合を除きます。
・会場は普段から風が強いエリアになります。テントを建てられる方はテントが飛ばされないように十分にご注意ください。破損した場合や、怪我をされた場合につきましては、責任を負いかねます。
・会場は都内近郊で10月の開催ですが、風が強くなり冷え込む場合もありますので、上着や雨具などをご準備ください。
・会場内は火気厳禁となります。バーベキュー等はできませんので、お食事はフードエリアの飲食出店をご利用ください。
・会場内には公園の来場者専用の駐車場もありますが、お車でご来場される方は必ず駐車券を購入し、PACIFIC MODEの係員に沿ってイベント専用の駐車場をご使用ください。
・会場内の映像・写真が公開されることがありますので予めご了承ください。
・出演アーティストのキャンセルや変更、本番中の中止等をやむを得ず行う場合がございます。これに伴うチケットの払い戻しは行いません。
・主催の判断によりやむを得ず運営上のルールを変更する場合がございます。これに伴うチケットの払い戻しは行いません

Lost New Wave 100% Vol.1 - ele-king

 パンク、ポスト・パンクから初期ヒップホップへと、日本においてつねにストリート&オルタナティヴな回路から音楽を発信してきた高木完が、この度、〈Lost New Wave 100%〉なるイベントをやることを発表した。これは、1978年から1980年なかばまで、渋谷 センター街奥の雑居ビルにあった伝説的カフェ&バー 〈NYLON 100%〉と店の初代プロデューサーだった中村直也氏に捧げられている。 プラスチックスをはじめ、東京ブラボー、ゲルニカなどもライヴをした〈NYLON 100%〉は、この時代、店内にはイーノやクラフトワークやポスト・パンクがかかっているような尖った店で、その歴史は2008年にはアスペクト社から刊行された『NYLON100% 渋谷系ポップカ ルチャーの源流』に詳しい。今回はアオイデンキの協力のもと、当時通りからも見えた青く光る店名のネオンサインをイベント時に再点灯。
 今回のラインナップは、上野耕路、久保田慎吾、泉水敏郎らによる8 1/2、Phew、ヒカシューといった当時から活動している人たちに加えて、下の世代からはShe Talks Silence(奥沢のViva Strange Boutiqueの店長さんがvoです)も出演。これだけのメンツが揃うことはまずないです。12月1日、場所は代官山スペースオッド(http://spaceodd.jp)。日本のポスト・パンク/ニューウェイヴを堪能しよう。


8 1/2(photo by Yuichi Jibiki)


Phew (photo by Masayuki Shioda)


ヒカシュー


She Talks Silence

K.A.N presents
Lost New Wave 100% VOL.1

8 1/2 / ヒカシュー / Phew / She Talks Silence 高木完(DJ)
2023 年 12 月 1 日 (金)
開場 19時 開演 19時半
前売 5500円(税込) 当日 6000円(税込) (特製缶バッジ付き)
ドリンク代別途
Daikanyama SPACE ODD
〒150-0033 東京都渋谷区猿楽町 2-11 氷川ビル B1.2F
イープラス> https://eplus.jp/lostnewwave/
ローソンチケット> https://l-tike.com/search/?lcd=74460 L コード 74460
チケットぴあ> https://w.pia.jp/t/lostnewwave100/
問合せ:SPACE ODD ☎ 03-6452-5671 http://www.spaceodd.jp

FOREIGN AFFAIRS - ele-king

 渋谷の〈JULY TREE、早くも第四回目となる今回の展示は、パンク・バンド、ザ・クラッシュの1982年、唯一の来日公演を追った10日間のリアル・フォト・ドキュメントと言っても過言ではない写真集『ザ・クラッシュ 1982 ジャパン』で知られ、70年代後半からキャリアをスタートさせジャンルを問わず内外のミュージシャンのポートレイトからライブの現場まで、音楽が聴こえる写真を撮り続けている写真家、菊地昇(きくちしょう)!
 日本のカメラマンとして初めてジャマイカのレゲエ・サンスプラッシュを撮影し、2018年にはビームス広島、原宿トーキョー カルチャート by ビームスにてレゲエ・ミュージシャンとジャマイカの風景に焦点を絞った写真展 『"KEEP ON SHOOTING" Photographer meets Rockers Uptown』を開催するなど近年はレゲエやザ・クラッシュの印象の強い菊地昇が、本展示では原点回帰とでもいうべきそのキャリア初期に、あの伝説の小さな呼び屋“トムス・キャビン”を立ち上げた麻田浩との出会いから撮影した1977年トム・ウェイツの初来日公演をはじめトーキング・ヘッズ、ラウンジ・リザーズ等数々のロック・アーティストの’70年代後半~’80年代にかけての来日時のパフォーマンスやオフショットを活写した、これまであまり展示してこなかった作品を中心とする待望の写真展『FOREIGN AFFAIRS~Sho Kikuchi Photo Exhibition』を開催いたします。
 タイトルの『FOREIGN AFFAIRS』はまさにトム・ウェイツ初来日の年、1977年にリリースされた同名アルバムからの引用であり、当時の邦題は“異国の出来事”!
 異国としての日本を訪れたあんなアーティストやこんなアーティスト、フライヤーにも使用した1977年当時、まだ西武劇場と呼ばれていた今のPARCO劇場の客席で煙草を燻らすトム・ウェイツのポートレイトをはじめ、菊地昇自身がセレクトした、日本を舞台とするアーティストたち写真の展示を9月24日(日)よりスタートします!

 会期中、展示作品の受注によるオリジナル・プリントの販売も予定しております。
 この機会を是非お見逃しなく!
(会期:9月24日(日)~10月15 日(日)予定。詳しい営業日時はSNSをご参照下さい。)
 
■菊地昇SHO KIKUCHI:プロフィール
‘70年代後半、横浜元町裏で友人と2人でジャズ喫茶ミントンハウスを共同経営する。 常連のお客さんから借りたカメラで、来日したフリージャズのミュージシャン、スティーヴ・レイシーを撮影したのをきっかけに、ジャズ雑誌の編集長から声をかけられカメラマンになった。 以降、音楽雑誌、レコード会社の依頼でジャズ、ロック、レゲエ、ヒップホップからクラシックまで様々な音楽の現場を撮影。内外を問わず数多くのアーティストのジャケットに起用される。1982年には日本のカメラマンとして初めて、ジャマイカで開催されていた大規模なレゲエ・ミュージック・フェスティバル、レゲエ・サンスプラッシュを撮影。1983年、ヒップホップ史における最重要映画『ワイルド・スタイル』公開時、日本プロモーションのために来日した36人のスタッフ&キャストによる日本人が初めてヒップホップに触れることになった伝説的イベントを密着取材したことでも知られる。2004年刊行のザ・クラッシュの1982年唯一の来日公演を追った写真集『ザ・クラッシュ 1982 ジャパン』は2010年の復刻を経て今なお人気を博す。
これまで『ジャパンスプラッシュ展』『The Clash in Japan』『"KEEP ON SHOOTING" Photographer meets Rockers Uptown』等全国各地で数々の写真展を開催。



■展覧会情報
『FOREIGN AFFAIRS』Sho Kikuchi Photo Exhibition』
会期:9月24日(日)~10月15 日(日)。詳しい営業日時はSNSをご参照下さい。
会場:JULY TREE(ジュライ・トゥリー)

■イベント情報
【菊地昇写真展を記念してのオープニングレセプションのお知らせ】
9月24 日(日)にJULY TREEにて本展示を記念したささやかなオープニングレセプションを開催いたします。(15時スタート予定。)

〈店舗情報〉
JULY TREE(ジュライ・トゥリー)
住所:153-0042
東京都目黒区青葉台4-7-27 ロイヤルステージ01-1A
・HP: www.julytree.tokyo
InstagramTwitter
営業日: 基本月火休館13時~18時ではございますが不定期での営業となります。
*営業日等お問い合わせについてはJULY TREE 公式Instagram、Twitterにてお願いいたします。

CONNAN MOCKASIN & TEX CRICK - ele-king

 残暑お見舞い申し上げます。

 9月も終わりに差し掛かり、もうじき暑い夏が終わるんだなぁと感慨に耽る近頃ですが、皆様はいかがお過ごしでしょうか?
 熱いと言えば…!

 10月1日に、白金台にあるレストランLIKEで、コナン・モカシンとテックス・クリックのライヴが急遽決定いたしました! この夏、昔から交友のある二人は東京で再会、二人で計画しイベントをオーガナイズしたそうです。ライヴはコナン・モカシンとテックス・クリックが二人で一緒に、それぞれの曲を交互に演奏するそうで、他では見れないレアな編成の貴重なショーになること間違いでしょう!会場では、彼らの友人である、フォトグラファーのYuki Kikuchiの写真集(ZINE)も発売されるそうです。
 シェフが食したい料理を気ままに作る、アットホームな空間のレストランLIKEで、美味しいご飯を食べながら、彼らの音楽と共に、夏の終わりを堪能したい方は、ぜひ下記の情報をチェックしてください~!

■イベント概要・情報

タイトル:
CONNAN MOCKASIN & TEX CRICK 一緒に演奏する [Performing as a duo]
LIVE :
CONNAN MOCKASIN & TEX CRICK
日時:
10/1(日) 
OPEN18:00 START19:00 - CLOSE 22:00
※ラストオーダー 21:30

場所:
LIKE
東京都港区白金台4-6-44 3F
03-5422-8183
https://like-restaurant.peatix.com/
IG: @like_restaurant_
※飲食物の持ち込みNG

チケット:
予約受付はこちらのリンクから:
https://peatix.com/event/3705868
前売り券 ¥3500
当日券 ¥4000
(先着限定100名まで)
※当日は撮影が入ります。


■バイオグラフィー:

CONNAN MOCKASIN
Photo: Yuki Kikuchi

ニュージーランド出身のConnan Mockasin(コナン・モカシン)はデビューアルバム『フォーエヴァー・ドルフィン・ラヴ』で一躍注目を浴び、レディオヘッドのツアーサポートやシャルロット・ゲンズブールのプロデュースに抜擢される。その後、東京にあるホテルの一室でレコ―ディングされたセカンドアルバム『キャラメル』でR&Bの要素を加えたサウンドでさらに高い評価を獲得し、稀代のカルト・アイコンとしてその存在を揺るぎ無きものとした。ミュージシャン達からの支持も厚く、ブラッド・オレンジことデヴ・ハインズとのコラボ、サム・ダストとのユニットによる『ソフト・ヘア』などのリリースのほか、ジェイムズ・ブレイク、MGMTなどのアルバムに参加した。今人気大沸騰のスティーブ・レイシーも大ファンで、コラボが噂されている。
https://www.youtube.com/watch?v=oBf-EBSgWnw
@connanmockasin

TEX CRICK
Photo: Darla Bell

オーストラリア出身のテックス・クリックは、ソフトでハートフルかつ、知性的で軽快なピアノ・ベッドルーム・ポップをメロディックに奏でるシンガー・ソング・ライター。
オーストラリアの南海岸にある小さな町出身の彼は、ジョン・キャロル・カービー、ワイズ・ブラッド、キリン・J・カリナンといったアーティストのツアー・キーボーディストとして音楽活動を始動。その後、ニューヨークで偶然出会ったマック・デマルコと意気投合し、2021年、マック・デマルコの自主レーベル、マック・レコード・レーベルからソロ・デビュー作「Live In... New York City」をリリース。ノスタルジックなポップとソフト・ロックにゆるやかに根ざした独自のライティング・スタイルを確立したクリックは、同レーベルから最新作「Sweet Dreamin’」を10月13日にリリースする。
https://www.youtube.com/watch?v=YfcyRN6hT3c
IG : @texcrick

YUKI KIKUCHI
ZINE『LOSS ANGELS』

国内外の音楽シーンを中心に、現行のリアルなカルチャー・シーンを写真や文章で記録してきたYuki Kikuchi。新しい写真集『LOSS ANGELS』は、好きじゃなかったロサンゼルスに魅了されてしまった理由が記録された一冊。
IG:@yuki_not_rinko

interview with Loraine James - ele-king

 ある意味、このアルバムを紹介するのは簡単だ。まずは1曲目を聴いてくれ。その曲の、とくに2分ぴったりに入るドラミングに集中して欲しい。もちろん同曲は、入りのシンセサイザーの音色もその沈黙も美しい。だが、ドラムが入った瞬間にその曲“Gentle Confrontation(穏やかな対決)”には風が吹き抜け、宙に舞い、曲は脈動する。彼女は「私はものすごく疲れているし、退屈だ」と繰り返しながらも、そのサウンドは唐突に走り出し、ものすごいスピードで駆け抜ける。スクエアプッシャーとエイフェックス・ツインのドリルンベースを受け継いで、独自に発展させたのがロレイン・ジェイムスであることにいまさら驚きはないが、あらためてここには彼女の魅力が凝縮されている。夢見る旋律と躍動するリズムが合成され、世界が開けていくあの感覚だ。
 ロレインの音楽にはつねにメランコリアがつきまとっている。今作はまさにその内的な「穏やかな対決」がサウンドと言葉に、さらに繊細に表れている。ロンドンの、ストリートやその地下からわき上がるグライムやドリルのリズムは、ここではアンビエント/エレクトロニカのフィルターを通り、ほかのものに生まれ変わっている。ときにはジャジーに、ときにはソウルに聞こえるが、しかしその背後には必ずロンドンの薄暗い香気が漂っているのだ。“Glitch The System”などはまさにそれで、このグライム化したドリルンベースは、90年代の〈Warp〉が踏み込めなかった領域である(もっとも、ブレア以前のロンドンには今日ほどの格差はなかったろうし、今日ほどの荒廃はなかっただろう)。
 それはそうと、ここでぼくがあえて特筆したいのは、モーガン・シンプソンとの共演、“I DM U”なる曲だ。ブラック・ミディがまさかここにいるとは想像だにしなかったが、彼がドラムをたたくその曲“I DM U”は90年代なかばくらいのジャズに傾倒したカール・クレイグを彷彿させる。“Cards With The Grandparents” のちょっとしたリズムの遊びも素晴らしいし、ハードコアなリズムとドリームポップが併走する“While They Were Singing ft Marina Herlop”もまた素晴らしい。
 エレクトロニック・ミュージックがいまも進化しているのだとしたら、多かれ少なかれ埃にまみれながら、ロレインのアルバムのように一歩踏み出すのだろう。言うまでもなく、この音楽はベッドルームから路上に繋がっているし、路上から夢想へと、そしてその夢想からまたリアルなこの薄汚れた世界へと繋がっている。彼女は疲れてもいるが、動いてもいるし、退屈だが、夢見てもいるのだ。「穏やかな対決」という、すなわち相反するモノ同士が同居する両義性を秘めたこのアルバムをぜひ聴いて欲しい。今年のベストな1枚だ。

100万回聴いたことがあるようなものは作りたくないなって。ただどっかで聴いたことがあるようなものがやりたいときもあるけどね。そこに自分なりのひねりを加えるのが好きだから。

昨年のあなたの東京でのライヴは素晴らしく、オーディエンスの反応もとても良かったと思いますが、日本での思い出を聞かせてください。

ロレイン:驚きがいっぱいあって、たくさんのものを見聞きして、日本語が喋れないから覚えたいなあと思った。とにかくすごく美しくて、会った人はみんな優しくしてくれて、オーディエンスも音楽を楽しんでくれてる感じだったし、ライヴ後にちょっと話したりサインしたりして、本当に楽しかった。

あなたの新譜がこんな早く聴けるとは思っていなかったので、これは嬉しい驚きでした。ライヴやツアーで忙しいなか、よくこんなにそれぞれが凝っている曲が16曲も入ったアルバムを完成させましたね。これら楽曲はおそらく作り貯めていたもので、それをいっきにブラッシュアップしてしまった感じですか?

ロレイン:何というか、いつも、ある日アルバムを作りはじめようと思い立って、あまり時間をかけるのが好きじゃなくて最長半年くらいで作るんだけど、その期間は書ける時に書くという感じ。今回は確かにライヴで忙しかったからいつもよりも少し大変というか、時間がかかったかもしれないけどね。

そして、1曲目の“Gentle Confrontation”を聴いたとき、これは素晴らしいアルバムに違いないと確信しました。美しくて、力強くて、エモーショナルです。とくにこのドラム・プログラミングが自分には突き刺さりました。そしてアルバムを最後まで聴いたら、作品全体が、自分がそのとき予感した以上に素晴らしくて、すっかり打ちのめされてしまいました。レーベルのプレス資料には「10代のロレインが作りたかったであろうレコードだ。アルバムの音楽的傾向も、その時代を反映している」と書かれています。たしかにここにはDNTEL、ルシーンテレフォン・テル・アヴィヴといった10代のあなたの影響を与えた人たちのサウンドが入っていますが、それだけではないでしょう? 2曲目の“2003”の歌詞にあるように、自分のルーツを見つめたかったというのはあったと思いますが。

ロレイン:たしかに“2003”はこれまででもっとも自分の弱い部分が出ているというか、あれは父についての曲で、これまで彼について曲を書いたことがなかったから。もちろんDNTEL、ルシーンといったサウンド以上のものが含まれているし、あれはティーンエイジャーの頃に通学のときに聴いてたりしたもので、音楽の部分での今の自分を形成したもので。彼らの音楽については、ソフトでエモーショナルなものを感じていて、そういう部分を自分自身のなかから引き出して音楽に取り入れるのを助けてくれたというか。何だろう、去年はいろいろ考えることが多くて……家族とか、人生ってあっという間だなとか。今回のアルバムは7歳くらいの頃から現在の27歳までに受けてきた影響が入っている、ある意味タイムカプセルみたいなもの。DNTEL、テレフォン・テル・アヴィヴはもちろんロックやR&Bもあるというね。

ぼくは、ワットエヴァー・ザ・ウェザー名義の作品やジュリアス・イーストマンにインスパイアされた『Building Something Beautiful For Me』を発表した後に続くアルバムとしては、ものすごく自然に感じました。(ドラムベースからIDM、アンビエント、ベース・ミュージック、R&B、シンセポップ、エレクトロニック・ミュージックのいろんなスタイルが混在し、またときに生演奏も取り入れながら、あなたの自身のサウンドとなって展開されている)あらためてこのアルバムのコンセプト、生まれた経緯などについて話してもらえますか?

ロレイン:まず作りはじめたのが去年の5月くらいで、その時点ではまだどういう感じにしたいのかは自分でもわかっていなくて。というか毎回、アルバムが何についてのアルバムになるか、最初は全然わかってない。ただ今回は、いつもコンピュータ内で作ることが多いから、ちょっとそこから出たいなっていうのはあった。だからペダルを買って、いままでアルバムで使ったことはなかったけど使ってみたりした。テクニカル面でいうと自分が最後まで面白がって作れるものがやりたいというのがあったと思う。実験的なものというか。参加してほしい人のアイデアもいろいろあって、でもそれが途中で変わったりもして。とにかく、いろんなものを入れるんだけど、その辻褄が合うように、ランダムにならないようにしたいっていうのは思ってた。そこは実際まあまあ達成できたんじゃないかなと思ってる。ひとつのアルバムに全部入れて融合させるっていうね。16曲もあるから実はちょっと心配だったんだけど、「そこは気にせず楽しもう」ということにして(笑)。新しいことをやってみたり、自分にとっては作っていて一番楽しいアルバムだったよ。

まだ聴けてないのですが、mouse on the keysとも一緒にやったそうですね。その曲はどんな風に作られていったのでしょうか?

ロレイン:mouse on the keysはずっと大ファンで、10年くらい前にロンドンで観たことがあって。それで、メッセージを送ってみたらどうなるかやってみようと(笑)。「あなたたちの大ファンです。アルバムに参加してくれませんか?」という感じで。実は去年の東京でのライヴで2秒くらい会ったんだけどね。とにかくまずこちらからキーボードを演奏したものを送って、そしたら彼らから音源が送られてきて、それを合体させたという。もしよかったら取材のあとその曲送るね。

通常のドリルの感じも好きだけどね。でも自分はそれを再現できないのがわかっているというか、元々の文脈があるわけで、自分がそこに属していないのに、そこで生まれたものをそのまま盗むっていうことはできないし。

最初は1曲目の“Gentle Confrontation”が圧倒的に好きだったんですが、アルバムを何回も聴いていると、中盤に集めた、実験色が強いいくつかの楽曲が好きになりました。“Glitch The System”、“I DM U”や“One Way Ticket To The Midwest ”、“Cards With The Grandparents”のような曲ですが、これらは、それぞれ曲のコンセプトも違っていて、たとえば“I DM U”ではブラック・ミディのMorgan Simpsonの生ドラムとの共演があって、“One Way Ticket〜 ”は穏やかなアンビエント風で、“Cards With〜”はラップが入ったコラージュ的で実験的な曲です。実験的なドラムンベースとアンビエントと歌のコラージュの“While They Were Singing ft Marina Herlop”も素晴らしい。こうした曲を聴いていると、あなたには、エレクトロニック・ミュージックのなかで、何か斬新なことをやろうという野心があるんだなと思うのですが、今回あなたがやった音楽的探求について話してもらえますか? 個人的に“I DM U”は、とくに好きです。シンプルだけど、ものすごい推進力があって、深いエモーションも感じます。

ロレイン:“I DM U” はライヴのドラマーが欲しいと思っていて、モーガンのことは大ファンだし、彼のドラムって普通じゃないというかクレイジーでしょ(笑)。元々あの曲には電子ドラムを使っていたんだけど、なんかもっとライヴ感が欲しいと思ってそれで彼にお願いした。“Cards With The Grandparents” は私と祖父母がカードゲームをしているところを録音してカードを切ってる音をスウィープサウンドっぽくしたり、曲にテクスチャーと動きを出して、それを楽器みたいにするのが面白かった。それからマリーナ・ハーロップとの曲は、たとえばいい感じのシンセがあって、でもドラムが必ずしも1,2,3,4じゃなくてちょっと動くとか、そこで一瞬だけ混乱させたりして。そこにマリーナの歌が重なって、その軽やかさとドラムのハードな感じがミックスされるっていう。とにかく実験しつつ遊びながらやってみて、「ああこのリズムパターンはいままでやったことないかも」ということが起こったり、たまに自分自身も混乱しちゃったりして、でもそれも面白いっていう、一番はそこだった。

野心についてはどうですか?

ロレイン:うーん……頭の隅にはあるかもしれない。というか、100万回聴いたことがあるようなものは作りたくないなって。ただどっかで聴いたことがあるようなものがやりたいときもあるけどね。そこに自分なりのひねりを加えるのが好きだから。

“confrontation(対決)”という言葉があり、アルバムには力強さもありますが、同時にメランコリックで、内省的なところもあると感じました。『Reflection』も内省的でしたが、あのときとは違う感情が注がれていますよね。あなたはいまアーティストとしては順風満帆で、悲しくなるようなことはないと、おそらくあなたの表面しか知らない人間は思うでしょう。じゃあ何があなたをメランコリックな気持ちにさせるのか、話してもらえますか? そしてこの“confrontation”の意味についてもお願いします。

ロレイン:どうだろう、私の心はいつもあっちに行ったりこっちに行ったりしているからなあ……。ああでも父が亡くなって今年で20年だから、去年作っているときも、このアルバムが発売されるのがちょうどその年になるんだなっていうのは意識していたと思う。別にそれについて話そうと思っていたわけじゃないけどね。“2003”を作っているときに、元々はラッパーを起用しようかと思ってたけど、結局は自分ひとりで歌詞を書いて完成させることにして。でもそうだね、子どもの頃のことは結構考えていたかもしれない。よく理解できていなかったこととか、幼すぎてきちんと消化しきれていなかったこととか。だからアルバム制作が進むにつれて、特にメランコリックにしようと思ってないのに気づくとメロディがそうなっていたみたいな部分はあったかもしれない。ああでも元々DNTELとかにもメランコリーな部分があるし、そういうサウンドに惹かれがちなんだと思う。

Confrontationの意味については?

ロレイン:まず過去と向き合うということ。これまでちゃんと向き合ったことがなかったし、自分の気持ちについて語ってこなかったから。音楽はそういう気持ちを吐き出させてくれるものだから、言葉があってもなくてもね。あと時間が経過したことで、自分の気持ちを以前よりも作品に込められるようになってきたのかもしれない。

歌詞を書いて16曲あるうちの9曲であなたは歌を歌っています。言葉でも伝えたいことがあるからだと思いますが、今作でとくに重要な歌詞はどの曲なのでしょうか? やっぱり“2003”ですか?

ロレイン:うん、絶対そうだと思う。実はあの曲を何度かライヴでやったんだけど、何回か、歌わなくていいかってなったんだよね。ちょっと恥ずかしいというか、弱さを曝け出す感じがして、それでインストゥルメンタル・ヴァージョンにしちゃったり。あとクラブとかでやると、曲の内容に対して演奏する状況が合ってないというか、そういうのもあったし。でもアルバムが出たらもっと歌う場面が増えると思うから、まあ楽しみだけど、どうなるんだろう(笑)。

曲名にメッセージがこもったダブステップ風の“I’m Trying To Love Myself”に歌詞/歌がないのは、なぜでしょうか?

ロレイン:何だろう、自分のことが好きになれない時期ってあると思うんだけど、大人になるにつれて少しずつ自信が出てくるっていう。あとはこの曲でDNTELの“Anywhere Anyone”って曲のサンプルを少し使っていて、その曲に“How can you love me if you don’t love yourself”って歌詞があって、その曲を元にしているというか。とにかく口数が多い感じの曲にはしたくないっていうのがあったんだよね。

進化してると思う。たとえばいまドラムンベースの新時代になっていたり……まったくの、本当に新しいっていうものはないと思うけど、20年前のものを、影響を残しつつ新しくするっていうことは起こってるんじゃないかな。

今回のアルバムを制作するに当たって、あなたをもっとも感動させた出来事があれば教えてください。

ロレイン:“Cards with The Grandparents”を作ったこと。ふたりとも高齢で、でもなかなか会えてなくて、特にパンデミック中は彼らを感染させないように、っていうのもあって2年くらい会えてなかったから。曲を作り終わって聴いたときにはグッとくるものがあったし、今後ライヴでやるときもちょっとエモーショナルになりそうな気がする。

“Tired of Me”のリズムはおそらくドリルから来ていると思うのですが、あなたは昔から、ある意味ストリートでもっとも悪評の高いこのスタイルをあえて用いています。それはあなたがドリルの音楽的なおもしろさに着眼しつつも、ドリルにまつわる偏見を打破したいというのもあるんじゃないかと思うのですが、どうなんでしょうか?

ロレイン:そう、別の文脈に嵌めるのがすごく好きだから。もっとエレクトロニックで実験的な感じにするとか。通常のドリルの感じも好きだけどね。でも自分はそれを再現できないのがわかっているというか、元々の文脈があるわけで、自分がそこに属していないのに、そこで生まれたものをそのまま盗むっていうことはできないし。でもサウンドとしてすごく興味深くて、面白いドラムパターンがあったり、もう明らかにドリルだとわかったり。それに対して「これをもっとグリッチっぽくしたらどうなるだろう」とか、「ディストーションかけたらどうなるだろう」とか、そうやっていろんなジャンルの音楽をいじってみるのが楽しい。

“Speechless”のイントロのシンセサイザーの音が大好きで、まさにあなたのサウンドだと思いますが、あなたにとってエレクトロニック・ミュージックは、いったいどんな意味を持っているのでしょうか? 大きな質問ですが、エレクトロニック・ミュージックというのはこんなにも素晴らしいものだということを、あなたの言葉で説明して欲しいのです。

ロレイン:そうだなあ……私にとっては……私は自分が聴いたものを自分自身の音楽に作り替えるのが好きで、これまで刺激を受けてきたたくさんのエレクトロニック・ミュージックもそうだし、たとえば40代の白人男性が作ったものだったり、でも自分は明らかにそうではないから、影響を受けた音楽を自分の人生の視点から再分脈化するというか、つまりそれは彼らとはかなり違う視点だったりする。あと一般的にエレクトロニック・ミュージックっわりと冷たい印象というか、エモーショナルじゃないし無防備でもない感じがあるでしょ。でも自分はそれとは違うことがしたいと思って、そこに自分の気持ちを込めてもいいし、すごく温かいものにだってできるし、真面目なことを語ってもよくて、別に機械的なものである必要はない、コンピュータっぽいものである必要もない。機械的がダメってことではなくて、それ以外のものであってもいいっていうことなんだけど。それでもいいし、それ以上でもいいと思うんだよ。うん、だから、エレクトロニック・ミュージックはこうであるっていうのを広げるというか。だってエレクトロニック・ミュージックはコンピュータだけでも冷たいだけでもなく、それ以上の部分がもっとたくさんあるから。

あなたから見て、エレクトロニック・ミュージックはいまも進化していると思いますか?

ロレイン:進化してると思う。たとえばいまドラムンベースの新時代になっていたり……もちろん自分が好きなもの、好きじゃないものっていうのはあるけど、いま嫌いでも今後大好きになるかもしれないし、あといまって90年代を彷彿させるものだったり、00年代っぽいものが来ていたり、だから新しいけど懐かしい感じのものとか。まったくの、本当に新しいっていうものはないと思うけど、20年前のものを、影響を残しつつ新しくするっていうことは起こってるんじゃないかな。

とにかく、最高のエレクトロニック・ミュージックのアルバムをありがとうと言いたいです。また、お会いできる日を楽しみにしています。さよなら。

ロレイン:来年また行きたいと思ってる。それじゃあ、また。

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