それは、まるで公民権運動の時代に逆戻りしたような風景に見える。思い思いのメッセージを掲げたプラカードを抱えながら路上に集まる、ブラック・ピープル。「私たちを撃たないで」、路上の上では小さな子供やお母さんたちがスローガンを掲げている。2015年、新しいブラック・ムーヴメント、#BlackLivesMatterが拡大している(紙エレキング17号を参照)。
こういう時代において、音楽はムーヴメントのサウンドトラックとなる。2015年はケンドリック・ラマーの『ピンプ・トゥ・バタフライ』がそれに選ばれた。久しぶりに圧倒的なインパクトで“黒さ”を見せつけたこの作品のなかには、こんなフレーズが出てくる。「40エーカーの土地とラバ1匹よこせ」「あぁ、アメリカよ、悪いビッチだな。俺たちがコットンを積んでリッチになったのに」
南北戦争以降のアメリカの南部、奴隷制のなか綿畑で働く最下層の農民たち、ミシシッピ川周辺、そこにはアメリカのポピュラー・ミュージックにもっとも大きなインパクトを与えたエリアがある。今日我々が耳にしている音楽の大いなる基礎となったブルースなる音楽は、そもそも南部のスタイルである。グリール・マーカスの『ミステリー・トレイン』がロバート・ジョンスンからはじまるように、そこはすべての出発点と言ってもいい。
2015年5月14日に他界したB.B.キングは、ミシシッピの孤児の小作農からブルース歌手となり、やがて白いアメリカ中間層にも支持されるようになった通用「ブルースの王様」である。
この度、日暮泰文氏の監修のもと、ele-king booksから刊行することとなった『キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング』は、1980年に本国アメリカで刊行されたブルース研究の古典の1冊である。社会学の観点から、アメリカ黒人史の観点から、そして音楽学の観点から、ブルースの王者を分析した名著で、ことにシェアクロッパー・システム(小作人制度)という、ブルースの背景のひとつであり、当時の農民たちを縛り付けていた制度に関する踏み込んだ研究がされている。ケンドリック・ラマーがジャケのなかで、ドル札を見せびらかす理由がよくわかるだろう。
また、本書においてはブルースが、どのように白いアメリカのなかで受け入れられていったのも詳細に語られている。それはある意味もっとも白いフォーク・リヴァイヴァルと呼ばれるムーヴメントだったのだが、そのあたりの話も興味深い。
もちろん、B.B.キングは白い黒いといった人種を超越した、まさにアメリカを代表するブルース歌手/ギタリストであり、エンターテイナーだった。この機会にどうぞ、振り返って見て欲しい。
なお、当然原書にはない、著者、チャールズ・ソーヤーによる弔辞も掲載している。
チャールズ・ ソーヤー
染谷和美 (翻訳)
日暮泰文 (監修),
『キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング 』
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