「KING」と一致するもの

B.B.KING - ele-king

 それは、まるで公民権運動の時代に逆戻りしたような風景に見える。思い思いのメッセージを掲げたプラカードを抱えながら路上に集まる、ブラック・ピープル。「私たちを撃たないで」、路上の上では小さな子供やお母さんたちがスローガンを掲げている。2015年、新しいブラック・ムーヴメント、#BlackLivesMatterが拡大している(紙エレキング17号を参照)。
 こういう時代において、音楽はムーヴメントのサウンドトラックとなる。2015年はケンドリック・ラマーの『ピンプ・トゥ・バタフライ』がそれに選ばれた。久しぶりに圧倒的なインパクトで“黒さ”を見せつけたこの作品のなかには、こんなフレーズが出てくる。「40エーカーの土地とラバ1匹よこせ」「あぁ、アメリカよ、悪いビッチだな。俺たちがコットンを積んでリッチになったのに」

 南北戦争以降のアメリカの南部、奴隷制のなか綿畑で働く最下層の農民たち、ミシシッピ川周辺、そこにはアメリカのポピュラー・ミュージックにもっとも大きなインパクトを与えたエリアがある。今日我々が耳にしている音楽の大いなる基礎となったブルースなる音楽は、そもそも南部のスタイルである。グリール・マーカスの『ミステリー・トレイン』がロバート・ジョンスンからはじまるように、そこはすべての出発点と言ってもいい。
 2015年5月14日に他界したB.B.キングは、ミシシッピの孤児の小作農からブルース歌手となり、やがて白いアメリカ中間層にも支持されるようになった通用「ブルースの王様」である。
 この度、日暮泰文氏の監修のもと、ele-king booksから刊行することとなった『キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング』は、1980年に本国アメリカで刊行されたブルース研究の古典の1冊である。社会学の観点から、アメリカ黒人史の観点から、そして音楽学の観点から、ブルースの王者を分析した名著で、ことにシェアクロッパー・システム(小作人制度)という、ブルースの背景のひとつであり、当時の農民たちを縛り付けていた制度に関する踏み込んだ研究がされている。ケンドリック・ラマーがジャケのなかで、ドル札を見せびらかす理由がよくわかるだろう。
 また、本書においてはブルースが、どのように白いアメリカのなかで受け入れられていったのも詳細に語られている。それはある意味もっとも白いフォーク・リヴァイヴァルと呼ばれるムーヴメントだったのだが、そのあたりの話も興味深い。
 もちろん、B.B.キングは白い黒いといった人種を超越した、まさにアメリカを代表するブルース歌手/ギタリストであり、エンターテイナーだった。この機会にどうぞ、振り返って見て欲しい。
 なお、当然原書にはない、著者、チャールズ・ソーヤーによる弔辞も掲載している。

チャールズ・ ソーヤー
染谷和美 (翻訳)
日暮泰文 (監修),
『キング・オブ・ザ・ブルース登場-B.B.キング 』
ele-king books
Amazon

Yasuyuki Suda (inception records) - ele-king

2015.11.29

GUITAR POP definitive 1955 - 2015 - ele-king

ギター・ポップの古今を訪ねる、名盤500枚の旅。

好評のディスクガイド、“ディフィニティヴ・シリーズ”最新刊!フォーク・ロック、ボサノヴァ、カントリー・ポップからネオアコへ、そして、21世紀のギター・ポップへ。

これは、ギター・ポップをめぐる成熟と未成熟の物語だ──。
変わることなく、しかしその不変の輝きによっていつの時代においてもファンを生みつづけてきたギター・ポップ。
本書は、ポスト・パンク期の名門レーベルやバンド、国内においてはネオ・アコースティックとして愛され親しまれたアーティストたちはもとより、彼らに先行する存在へと遡行し、また、新しい世代の音にその遺伝子と普遍性とをたずね、年代順に掲載するディスク・ガイドです。

ラテン・ポップス、ソフト・ロック、ネオ・アコースティック、ギター・ポップ、そして現在。
5つのカテゴリーでつぶさに眺める、新しいギター・ポップ本!

好評のele-king books“ディフィニティヴ・シリーズ”最新刊として登場です。


監修:
岡村詩野

執筆者:
北中正和、木津毅、坂本麻里子、沢井陽子、土屋恵介、デンシノオト、中村義響、野田努、橋元優歩、増村和彦、松村正人、松山晋也、水越真紀、三田格、与田太郎

 今年もっとも輝いた顔のひとつである。ハープを抱いた歌姫、フリーフォークのアイコン、確実にUSインディの一時代を築いたこのシンガー・ソングライターは、しかし同じところにはとどまっていない。ディヴェンドラ・バンハート『クリップル・クロウ』から10年、アニマル・コレクティヴ『フィールズ』からも10年だ。はやすぎて恐ろしい。

いま彼女は街に両足をつけ、ひとりの女として、歌うたいとして、そのなかに渦巻く感情のドラマツルギーでこそわたしたちを魅了する
(木津毅によるレヴュー、ご一読をお奨めしたい! )

 そう、新しいジョアンナは新しい歌をうたっている。それは今作を支えた編成とともに見るときもっとも鮮やかに、そしてもっとも直接的に感じられるだろう。東京はグローリア・チャペルでの公演も楽しみだ。

■Joanna Newsom Japan Tour 2016
ジョアンナ・ニューサム ジャパン・ツアー2016

 2015年秋にリリースされた最新アルバム『ダイヴァーズ』の興奮冷めやらぬ中、その歌声とハープで世界を魅了しつづけるジョアンナ・ニューサム6年ぶりのジャパン・ツアーが決まりました。彼女の歌とグランド・ハープ、ピアノを囲む今回の演奏家はライアン・フランチェスコーニ、ミラバイ・パート、ピーター・ニューサム、そしてヴェロニク・セレットの4人。もちろん『ダイヴァーズ』の大きな音楽世界を支えた選り抜きのメンバーたちです。さて、手を伸ばせば、世界でもっとも鮮やかなユートピアがそこで待ち受けています。息を吐き、足で蹴り、浮かび上がるダイヴァーたちの群れ。もちろん次はあなたが飛び込む番!

■ジョアンナ・ニューサム(Joanna Newsom)
米カリフォルニア州ネヴァダ・シティ生まれのハープ奏者/シンガー・ソングライター。グランド・ハープの弾き語りというユニークなスタイルで2000年代音楽シーン最大の「発見」のひとりでもある。これまでに『ミルク・アンド・メンダー』(2004年)、『Ys』(2006年)、『ハヴ・ワン・オン・ミー』(2010年)、『ダイヴァーズ』(2015年)と4枚のアルバムを米ドラッグ・シティ(国内盤はPヴァインから)より発表し、その世界観を大きく拡張。その音楽要素をジャンル名で回収することはおろか、もはや大きな「音楽」としか名づけられない唯一無二の個性となった。近年は2014年のアカデミー賞2部門にノミネートされた映画『インヒアレント・ヴァイス』に女優として出演、ナレーションも手がけるなど活躍の場を広げている。

公演

1月26日(火)
大阪 大阪倶楽部 4階 大ホール(06-6231-8361)
大阪府大阪市中央区今橋4-4-11
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/5,500円(当日)*全席自由席
予約受付は12月7日正午より開始します。
予約:Cow and Mouse(cowandmouse1110@gmail.com)
予約方法:件名に「ジョアンナ・ニューサム大阪公演」と明記の上、お名前(フルネーム)、お電話番号、チケット枚数をご記入いただき、上記メール・アドレスまでご送信ください。確認後、購入方法を折り返しお知らせいたします。なお、携帯電話から申し込まれる方は、PCメールの拒否設定をされていませんようご確認ください。また、会場内はすべて自由席、ご来場順でのご入場となります。
大阪公演問い合わせ先:ハルモニア(080-3136-2673)、
Cow and Mouse
cowandmouse.blogspot.jpwww.facebook.com/cowandmouse

1月27日(水)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:30pm/開演 7:30pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

1月28日(木)
東京 キリスト品川教会 グローリアチャペル(03-3443-1721)
東京都品川区北品川4-7-40
開場 6:00pm/開演 7:00pm
5,000円(予約)/6,000円(当日)*全席自由席

東京公演前売りチケット:
スウィート・ドリームス・プレス・ストア(sweetdreams.shop-pro.jp
*12月7日正午より、上記ウェブサイトにて特製チケットの販売を開始します。なお、送料として一律200円がかかりますので、あらかじめご了承ください。また、会場内はすべて自由席、チケットの整理番号順でのご入場となります。

企画・制作:スウィート・ドリームス・プレス
招聘:Ourworks合同会社
協賛:株式会社P-VINE
共催:Cow and Mouse(大阪公演)
音響:Fly-sound(東京公演)

Sweet Dreams Press
www.sweetdreamspress.com
info.sweetdreams@gmail.com

JOANNA NEWSOM: Divers
ジョアンナ・ニューサム/ダイヴァーズ
発売日:2015年10月23日
品番:PCD-18803
価格:定価:¥2,480+税

TRACK LISTING:
1. Anecdotes
2. Sapokanikan
3. Leaving the City
4. Goose Eggs
5. Waltz of the 101st Lightborne
6. The Things I Say
7. Divers
8. Same Old Man
9. You Will Not Take My Heart Alive
10. A Pin-Light Bent
11. Time, As a Symptom


世界はまだダニエル・クオンを知らない - ele-king

入学おめでとうございます - ele-king

 いきなりですが、赤塚不二夫先生生誕80周年記念行事のひとつとして、今週から、まさかのバカ田大学の特別講義がはじまります。場所は東京大学。ジム・オルークのファンにもお馴染みの坂田明先生、ドミューン宇川直宏先生の講義もあります。この機会をお見逃しなく。

 追記:先日、晴れて文庫化された、赤塚りえ子氏の名著『バカボンのパパよりバカなパパ』の後書きは大友良英氏。帯には氏の言葉が書かれています。「今の日本には赤塚不二夫が足りない!!」。
 赤塚不二夫生誕80周年祭、来年の9月14日まで続くそうです。

■バカ田大学
・開催日程:2015年12月1日(火)~2016年3月31日(水)
・開催場所:東京大学 山上会館(東京都文京区本郷 7-3-1)
・授業料 1コマ5,500円(税込/受講者全員にオリジナルノート付き) ※未就学児童入場不可
《チケット購入方法》一般発売日: 2015年11月14日(土) ・チケットぴあ https://w.pia.jp/t/akatsuka80/ Tel0570-02-9999
セブン‐イレブン/サークルK・サンクスで直接購入可能。 ・アーク https://ark.on.arena.ne.jp

■講師

河口洋一郎
2015年12月1日(火)

みうらじゅん
2015年12月5日(土) 2016年2月20日(土)

安齋肇
2015年12月5日(土) 2016年2月19日(金)

宮沢章夫
2015年12月26日(土) 2015年12月26日(土)

坂田明
2016年1月12日(火) 2016年2月18日(木)

浅葉克己
2016年1月28日(木) 2016年2月28日(日)

喰始
2016年2月6日(土) 2016年2月10日(水)

三上寛&宇川直宏
2016年2月14日(日) 2016年2月27日(土)

泉麻人
2016年2月19日(金) 2016年2月27日(土)

(※まだまだ続くそうです)

ダニエル・クオン - ele-king

Ha Ha, Just notes 増村和彦

 ──『ノーツ』というアルバム・タイトルが象徴する掌編的小曲は、集合体となって、永遠に未完のまま無限に続く可能性を燻らせている。

 Pヴァインのオフィシャル・インフォにも「ポピュラーミュージック症の重篤患者」とある通り、彼の音楽的な素養には驚くばかり。アルバムに収録された小曲はトラック数の数倍に及ぶというメロディ・メイカーぶりはビートルズを彷彿させるほどであるし、奇抜でありながら普遍性を身に纏うアレンジやミックスにキース・オルセンやカート・ベッチャーを重ね合わせるかもしれない。その手のことは、枚挙に暇がないが、裏側から対象を眺めるような観察観の鋭さは、言わば「aに対するa´」を勝ち得ている。作品からaを探し出すことは簡単かもしれないが、さまざまな音楽遺産の中から彼のa´を見出した時一つの幸福感を味わえるに違いない。それは同時に、音楽遺産の上に新たな視点を提示してくれる。
 そのような経験的な音楽の領域に説得力を持たせているのが、詩的な領域だ。何もコンセプトや歌詞のことではない。各曲は物語としては掌編的に完結していくが、そこにカタルシスはない。不満なき完結はある意味では死を意味する。はちきれんばかりのリビドーが(#5“mr.kimono”の頭のローズ・ピアノなんて手で掴めそうだ)、浄化されることなくアルバム全体を流れつづけることによって、長編のようないつ終わるとも知れない味わいを持たせている。タイトルの「note」と「複数形」の意味をそこに見た気がした。

 彼にそんなことを言ってもきっと「haha, just notes」と言うはずだ。それはそうにちがいない。矛盾するように同居するムードの気楽さが作品をしてベタつかせていない。各所に散りばめられたフィールド・レコーディングが、自己の中に入り込もうとするものでなく、映画の1コマのような効果を与えていることも象徴的だ。時に顔を出すシニカルな側面にも深刻さはない。これもタイトルが示すところであろう。

 たしかに、このアルバムにハイライトやメッセージ性はないかもしれない。彼の場合は、さまzまな倒錯や幻想の形態化自体がユーモアや物語を帯びながら音楽をなしていくところがあるように思う。それは、自己満足の空しい作業かもしれないが、閉ざされた空間で日曜日にしか愛好されない音楽の中にあって、稀有な存在であり、われわれはそのようなものに心酔するはずだ。

 ……なんだか難しいように書いてしまったかもしれないが、最後に一つ。ここまで歌が聴けるアルバムもなかなかないだろう。

増村和彦

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呪われたようにポップ 松村正人

 さきほど『ele-king』本誌にジム・オルークの原稿を書き終えた勢いというか熱さめぬままというか惰性というか、そういうもののまま、ジョン・フェイヒィの“Requiem For Molly”を聴いていたとき、それとアイヴズの交響曲4番と異同にあらためて慄然とし、本稿でそれをもちこんだのはそこに書き漏らしたためなのだが、この傾向を、かつて私たちはジムの音楽を述べるにあたりアメリカーナと呼びならわしたものの、ことばの深いところでそのことを考えてはこなかった。不在あるいは架空のルーツといい条、語りの構造を語らないことで片手落ちになっており、これは保坂和志が『遠い触覚』でリンチ(のおもに『インランド・エンパイア』)を語るさいのフィクションがたちあがるときの「遠さ」とも重なるが、このことについては別稿に譲るとして、私たちは音楽にドリームないしドリーミィの単語を被せるときその形容詞を甘くみすぎている。

 もっとも私は夢をほとんど見ないし、見たとしても脈絡のないものばかりなので実感はないが世の中にはどうも楽しい夢もあるらしい。願うだけであるものが手に入る万能感、おしよせる多幸感──それを音楽にこじつけると、いや、音楽はいまや思うことのすべてをだれもがひとりでたやすく実現できる、まさに夢の世界だが、想像できる範疇でできた音楽などとるにたらない。私はなにがいいたいかというと、夢の力学とはガタリがカフカを述べるにあたりもちだした「夢の臍」から来るもので、それはほとんど受動的な万能感といえるほどのある種の恐慌状態を指すとものであり、万能なのは夢そのものであり見る側ではない。というと付け焼き刃のフロイト派のようであり、しかも音楽をふくむフィクション全般を語るにそれをもちいることの、ジジェクめいたあやうさももちろんあるのだけど、なんかしっくり来ないのよ、柳沢慎吾に「いい夢見ろよ」といわれるたびに、うーむとなってしまう私としては。いい夢見たことないし。

 私はシンガー・ソングライター、ダニエル・クオンを知ったのは、このレヴューを引き受けてからという、はずかしながらクオンさんヴァージンの私だが『ノーツ』には巷間のドリーム・ポップに私の抱いてきたどこか食えない感じとは似ても似つかないものをもっている。略歴そのほかは健筆な著者の別稿をご参照いただきたいが、森は生きているの岡田拓郎、増村和彦はじめ、牛山健、小林うてなといった、数年前の日本移住後、東京インディ界隈で培った人脈を投入した『ノーツ』は、私は浅学ぶりをさしひいても確実にポップ度は増した。私が空手形を切っていると思われる方もおられようが断言します、『ノーツ』以上にポップな作品がおいそれとつくれるわけがない。それほどこのアルバムは呪われたようにポップだ。作者ではなく音楽がそうなっている。

 幕開けの“fruit, not apple”の果実(リンゴではない)を囓る音のほのめかすもの、つづく“hop into the love van”でダニエル・クオンは私たちをトリップに誘い出す。飛び乗るのはラヴ・ヴァン。ケン・キージーのバスを思わせるところもあるがあれほどトリッピーではない。行く先々には見知った顔も見える。ある停留所ではポール・マッカートニー卿のまわりをパイロットとエミット・ローズをはじめ、その音楽的遺伝子を受け継いだ無数の子どもたちがとりまき、たがいのポップ・センスの捻れぶりを競い合っている、人垣をかきわけるとジョンストンのほうのダニエルと鉢合わせして意気投合しないともかぎらない。どこを切っても、口ずさめそうなほど耳なじみがいいのに、場面はくるくる展開する。飛躍するというほどではないのに、全体的には断片の集積の印象を残す。『ノーツ』の表題はそこに由来するのかもしれないが、そこにはキース・オルセンやロイ・トーマス・ベイカーといった彼の偏愛の対象だというプロデューサーの手がけた作品名がメモってあるだろう。前者はフリートウッド・マックとかフォリナー、後者となるとクイーンであり、前述のパイロットもサードはロイのプロデュースだった。これだけ見ると音楽性はさておき、先日のレヴューされたジェームス・フェラーロに通じるガジェット感があり、クオンはそれをある種の付随音楽──というと即座に映画音楽を想起される方がいるかもしれないが、私がいいたいのは部分と全体のかかわりであり、クオンの『ノーツ』は全体がすべてに先行する。ところがそれはテーマとかコンセプトとかではない。まっしろなノートがまっさきにあるのである。ソフト・ロックにせよ、ロウファイであれラウンジであれ、そこには自由に書き込む余白がある。ブライアン・メイの亡霊さえ召還可能だろう(まだ死んでないが)。フィールド録音の多様は音楽と外との流通をはかる。そうすると音楽はフェイヒィにかすかに似た歪みをともなうが、特異なソングライティング・センスは埋もれないどころか、ますます際だっていく。このような作品はバンドではなかなか難しい。ゆえに『ノーツ』は東京のアンダーグラウンドの若い住人たちにも新風を吹きこむ作品として歓迎されるにちがいない。お年を召した方のなかにはモンドを想起される御仁もおられよう。しかもメロディが中心にしっかりあるから、訴えかけるのは好事家にとどまらない。肌ざわりから、カセットを出すのもひとつの手だとも思いました。

松村正人

『ノーツ』についてのノート - ele-king

 今回のアルバムのA&Rを務めました、柴崎と申します。日々、いろいろなアーティストの皆さんのCDやレコードの制作を担当させてもらっています。そんな中、今回はダニエル・クオンというこの特異なアーティストとアルバム『ノーツ』について、制作に関わったものとして、その魅力と妙味が皆さんへ伝わって欲しい…という思いのもと、おこがましくも筆を取らせていただいております。アルバムの内容の論評については他執筆陣の皆さんが手がけられていると思いますので、ここではレコーディングを進めていくにあたってのエピソードや私が感じたことを中心に、記してみたいと思います。

 私が初めてダニエルと出会ったのは、東京・高円寺の〈円盤〉で月例開催されているイヴェント「不明なアーティスト」において。一般的には未だ名が広く知られているとはいえないけれど個性的なアーティスト諸氏を迎え、まずはじめに演奏を披露してもらい、その後に企画者の新間功人氏(1983, ENERGISH GOLF etc)と不肖私を交え、昨今ミュージシャンに訊く機会もなかなか無いであろう「最近お気に入りの音楽」について改めてじっくりトークをするという趣旨の集まりなのですが、2013年6月に行われたその第1回目ゲストの一人としてダニエル・クオン氏を迎えたのでした。それまで私は漠然とした知識で彼の活動や存在は把握していたのだけれど、実際にどんな音楽を奏で、どんな人となりなのかといったことはその時点では失礼ながらよく知らずにいました。また、その時のライヴ演奏もじつをいうとあまり記憶に残っていなくて(本イヴェントの第1回目ということもあり「自分もこの後トークショーへ登壇する」ということへの緊張が烈しかったもので……)なんとも不甲斐ない限りなのですが、よく憶えているのは、彼の特異なキャラクターとその音楽趣味でありました。6月にもかかわらず外套を羽織り、終始俯き気味の姿勢で、日本語と英語を交えてポロリポロリと語るその姿容のインパクトもさることながら、彼が好む音楽として紹介していた数々のレコードのチョイスの興味深かったこと。チャールズ・アイヴス、ポール・マッカートニーの『マッカートニー2』、石川セリ、スコット・ジャレットなどなど……。その乱脈なチョイスからうかがわれる音楽嗜好に強く惹かれた私は、さまざまなレコード・トリビアでダニエルともども大盛り上がり、お陰様でトークショーは快調、お客様にもご満足いただいた(のではないか)……という一幕となりました。

 その後私も何やかやと日々を過ごす中、当時ファースト・アルバムをリリースしたばかりだった森は生きているのメンバー岡田拓郎氏よりある日、「ダニエル・クオンの『Rくん』(*1)聴きました? すごいですよ」と聞かされ、「ダニエルってあのダニエルか」と思った私は早速入手し、果たしてびっくりしたのでした。すごくて。あの、嬉しそうにレコードの話をするうつむき加減の青年の姿容と、この極めて刺激的な作品の内容が非常にすんなりと自分の中で結合していくのでした。「エクスペリメンタル」や「アヴァンギャルド」と形容しても、どこかそれだけでは捉え得ないユーモアや諧謔も色濃く匂い立ち、すっかり気に入った私は人に会うと「『Rくん』、いいよねー」などと喧伝する日々となったのでした。そんな知ったようなことを喧伝しながらも、実際に彼に再会する機会には恵まれること無く日々は過ぎていったのですが、2013年の冬ころだったかと思いますが、ある時ダニエルが新しいアルバムを作ろうとしているという情報をキャッチし、実際本人に再度会ってみて、どんな作品つくりたいのか、聞いてみましょうということになりました。その再邂逅の場でもはじめは俯き気味の彼でしたが、お互いにアルコールがからだに入ると饒舌になるという生理現象を最大限に活用し、具体的なアルバム制作のことはうちやって、エミット・ローズやクイーン、スパークス、フリートウッド・マック、フランク・ザッパなどなどのレコードについて、前述の岡田氏の他に同席していたPadok氏も巻き込んで、ただただみんなしゃべりまくり……その日のことはよく覚えていません。

 いま振り返って思い出したのですが、ダニエルと会うとお酒を飲んでばかり……。ひたすら最近聴いているレコードの話や彼の日々の生活の鬱屈についてなど、まるで制作と関係無いようなことばかりを話していた気がしますが、もちろんダニエルも私もサボっていたわけではなく、ゆっくりとしたペースではあれど、アルバム制作に向けての準備は着々と進んでいき、2014年春頃には録音担当のPadok氏と具体的な製作方法を吟味し、スタジオを選定(*2)するなど具体的な作業がはじまっていきました。

 そして……そこからはもう一気呵成、怒涛の工程で、と書きたいところであるのですが、まさしくここからが彼の真の才気と本領を思い知ることに……。溢れ出るアイデアが溢れるままに任せる彼のレコーディング・ワークに、私やPadok氏、ドラムス担当の牛山健氏も頭に「??」を浮かべながらも応えていく日々。そもそも楽曲の「構成」を決め込んでからレコーディングに臨む、といった一般的な手法は彼にとってはあくまで手法の一つでしかなく(当たり前と言っては当たり前なのですが)、次々に変化を遂げていく楽曲に、その日のその日のラフミックスを聴く私は「あれがこの曲でこれがあの曲で、これがこう録り直したからこうなって、こういう楽器が入っているファイルが最新でこれが前のやつで……」と頭のなかが沸騰寸前、というか沸騰してしまい……そこで悟ったのです。これは一度自分の中の自明性を破壊せねばならぬ、と。何を大袈裟な、というハナシですが、ダニエルの提出するアイデアのスピード感に追いついていくためには、このようなある種の達観というか、「なんでもこいや」的に自分の心身を大きなアンテナに化し、ある種のアフォーダンス状態に自分をおいて……とかとかぐるぐると考える日々。私などからすると「ここにそんなフレーズを!? え、逆にあそこはなにも手を付けないの!?」といった具合で喫驚するばかりでしたが、煩悶しつつも一方で確信めいたような態度とともに、スタジオでいろいろな想念を爆発させながら試行錯誤を繰り返しているダニエルの姿が印象的でした。この時期、増村和彦氏を招いたパーカッション録音(増村氏は後に数曲のドラムスでも演奏に参加)や、小林うてな氏を招いたスティール・ドラムの録音なども行っています。

 そして、2015年に入ってからも散発的にスタジオ作業を続けながら、入れ替わるように、牛山氏宅などでの録音や、ダニエル一人によるレコーディングとミックスの作業に入っていくことになります。同時にレコーディング機材環境の整備や新たな曲への制作などを行いながら、今回のアルバム『ノーツ』に特徴的に聴かれるフィールドレコーディングの作業も彼は日常的に行っていたようです。彼本人もその方法を私に語ってくれたことがありますが、映像的な感覚を重視して、それぞれの音を採集し、配置していくという行き方の元、モノクロの下書きに彩色されるように加えられていく音の数々。都市生活に浸っている我々には当たり前すぎて見過ごし聞き逃してしまうような日常的な雑音(電車の発車ベルであったり、街頭での演説であったり、遊戯にふける児童の嬌声であったり……)が、音として掬い取られていくようでした。

 あるとき、ダニエルがお気に入りとして挙げた小説として、19世紀末フランスの作家J.K.ユイスマンス(*3)による小説『さかしま』があります。この象徴主義の巨匠の代表作は、日本では澁澤龍彦訳によっても読まれている古典的名著でありますが、遺産を食いつぶしながら隠遁生活を送る貴族である主人公デ・ゼッサントが、蕩尽の限りを行うばかりで物語的な筋というものもとくに無い、だけれど非常に特異な魅力を湛えた小説です。デカダンの大伽藍的な作品として世に評価されていることもあり、ダニエルもそのようなデ・ゼッサントの浮世を厭うピカレスク的な一面に共感を抱いているのかな? と思ったりもしましたが、どうやらもっと違った共通点があるような気がしてきました。


ジョリ・カルル・ユイスマンス
『さかしま』(1884)
※桃源社 1962 /
光風社 1984 /
河出文庫 2002
 
澁澤龍彦訳

 デ・ゼッサントはまあ確かに、現代の視点から見ると、経済的な生産活動を忌避してただ個人的な消費と愉楽に遊ぶいわゆる「ダメ人間」ではありますが、重要な点はそうした彼の生活風紀上の特異さについてではなくて、もっと根本的な、モノや美を観るときの視点という気がするのです。たとえば、デ・ゼッサントが、色彩に対して異常なコダワリを開陳しながら屋内の調度品の配置を物語っていくところなど、まるでダニエルがさまざまな楽器の音色効果とその配置を嬉々として語っている顔が浮かんでくるみたいです(ちなみに、ダニエルはデザイナーでもあります)。また、「健康的な読み物」としてのディケンズの小説を読み触発されたデ・ゼッサントが、思い立ってロンドンへ旅行しようと外に出かけようとしたけれど、どうせ旅先では不愉快なことがたくさんあるんだろう……と月並みな旅行中に具体的に起こりうる不愉快な事案を次々に思い浮かべたとたんにロンドン行きを翻意にして、そして、そうした想念が膨らんでくるにしたがい、そもそもそういう想念をもって起こりうる自体が事細かに心に浮かんだ時点でもう彼の地(ロンドン)に行ったのも同然だからもはや行かなくてもいい、むしろ想念上のロンドンの方が事実自分にとっては気味のよいものであろうと嘯く場面……。そんな場面に見られるような、ユイスマンスならではの曲折したユーモアについても、ダニエルのそれと共振をしているのではないかと感じます。これは、単なる主人公デ・ゼッサントの負け惜しみ的述懐というわけではなく(一見そう感じさせるところにユイスマンスの卓越したユーモアセンスがあるわけですが)、頭のなかで想念がインフレーションを起こした時に現れる滑稽を愛でるような筆致で描かれたこのロンドン旅行取り止め事件は、世に広く共有される現場・経験重視的な思考法への軽蔑と撹乱、想念の側に美徳の盃を取らせる象徴的な勝利宣言でもあるとも読めるわけです。そして、ダニエルにおける「音」と小説のここでのトピックたる「旅」が並置されるとき、大勢の人に経験されることでさまざまな意味付与をされクリシェへと成り下がってしまった「意外性に乏しいポップミュージック」(=多くの人に経験されたであろう「意外性に乏しいロンドン旅行」)を珍重するよりも、自らの頭の中に渦巻く想念を培養基として、ポップ・ミュージックの意味性を撹乱し、いきおい想念の自由さを浮かび上がらせるようなダニエルの創作態度との関連性も見えてくるようです。また、デ・ゼッサントが語る、西洋宗教芸術へのペダンチックな興味や、信仰や形而上学的問題への志向性などといった部分でも、本アルバム『ノーツ』の歌詞に数々の現れる宗教的キーワードと何がしかの関係性があるのではないかしら……? あるいは、「シンガーソングライター」という形容を極度に嫌うダニエルのこと、ユイスマンスの反私小説的態度及び反自然主義的な態度にも共鳴をしているのか……? ああ、また頭が沸騰してきました……。

 何やら下手くそなユイスマンス論めいてきてしまったのでこのあたりで止しますが、一方で大変重要なのは、デ・ゼッサントが想念のみの世界に閉じこもるのではなく様々な嗜好品や優れた芸術品の価値を積極的に愛でながら独自の思想を語っていくように、ダニエルも自らの想念のみに拘泥するわけではもちろんなく、これまでに産み落とされてきた優れたポップ・ミュージックへの憧憬を隠そうとしないということでしょう。彼と会う度に語られるエミット・ローズ、スパークス、ルパート・ホルムズ、10ccなどへの敬愛には、それらの先達たちが彼らの想念とともに作り上げた音楽が担ってきたラジカルリズムへのシンパシーと、そうして不断に蓄積されてきたポップ・ミュージックの豊穣な歴史を愛でる確かな視座、そうした重ね合わせを感じるのです。

 こういった考えは、今年夏からのアルバム制作の終盤の頃、彼自身による執拗なダビング作業と音響効果の追求(一般的な「ミックス」という工程上の用語と、ニュアンス的にどうも違うので、「音響効果の追求」と書きます)の日々の中でいろいろとやりとりしながら、私の中で徐々に深まっていったものでした。徐々に歌入れを進める中で明らかになっていく歌詞世界に窺われる、音韻そのものとしての言葉を無遠慮に配置することで意味を無力化していこうとするような鋭敏な感覚と、一方で同時に意味性の連鎖の中に違和を創出してゆくような高度なユーモア性といったもの。あるいは、「A~B~サビ~A~B」といったような一般的なポップ・ソングの構造を食い破るように「A~B~C~D~E……」と、作業を経るごと増殖分裂をしながらアップデートされていく曲構成にしても、ポップ・ソングの定石性へのラジカルな批評になっているようでいて、ポップ・ソングそのものへの理解と偏執とそのフォーマットへの愛が逆説的にほとばしってくる……。そういった二重性というものが彼の創作に通底する態度であり、突出した魅力なのではないか、という考えが日々私の中で強く沸き上がっていき、いよいよマスタリングを経て完成した時に確信となりました。

 つらつらと書き散らしてきましたが、そもそもインサイダーたる私がこのように作品をホメるのも恥ずかしいのですし、こそばゆいことおびただしい。だけれども自信を持っていうことができますが、このアルバムはいわば、ラジカルと歴史的豊穣の重ねあわせの中にたゆたっているポップ・ミュージックのイデアをはっしと掴み、作品の中で充分に輝かせることに成功している、相当に稀なる一作ではないでしょうか。そしてさらには、そうした重ね合わせ状態のテーゼが、どこまで意図的に仕組まれているのかといったこと自体がまた別のミステリーであるという、三次元的な奥行きを持った構造も見え隠れするという……。
 うーん、でもたぶん、ダニエルは苦笑を浮かべながら「柴崎、おまえは考えすぎだ」と言いそうです!
ダニエル・クオンの最新アルバム『ノーツ』、是非末永くお聴きいただけましたら幸いです。きっと、ずっとあとになっても新鮮さを失わない作品だと思いますので。

*1
ダニエルが変名「Rくん」名義でリリースした、前作に当たるアルバム『Rくん』のこと。

*2
宅録とフィールドレコーディング中心の『Rくん』の反動もあり、一般的なスタジオ環境にてドラムをレコーディングしたり、生ピアノでの録音など、いわゆる「一般的な」の制作手法を踏襲するような進め方にトライしたいというダニエルの希望もあり、何曲かのリズム・レコーディングはそうした方法で行いました。

*3
ジョリス=カルル・ユイスマンス。19世紀フランスにおいて象徴主義を代表する作家として活躍した。代表作に、本文でも触れられている『さかしま』がある。

 ダニエル・クオンを知ったのは3年か4年前のこと。都内の小さなライヴ・スペースで行われたイヴェントで、出演者のひとりがたまたま彼だった、という些細なきっかけだった。詳細は曖昧だが、ギターを抱えて椅子に腰かけ、少し訛りを含んだような英語詞で――時おり日本語も織り交ぜながらゆったりと歌い上げる、といった調子で、あくまで印象は典型的なシンガー・ソングライターのそれだったはずと記憶している。そして、そんな彼のインティメートな弾き語りに当時の自分が重ねて見ていたのは、たとえば王舟やアルフレッド・ビーチ・サンダルの北里彰久、あるいはパワフル・パワーの野村和孝といった、これもちょうどその頃に近い圏内でたびたび演奏を見る機会に恵まれた同じシンガー・ソングライターたちの音楽だった。

 もっとも、その時すでに彼は日本でのレコーディングを経験済みで、さらにこの少し前(2010年)にはファースト・アルバム『ダニエル・クオン』を日本でもリリースしていたことを自分は後になって知るわけだが。ともあれ、そんな彼の音楽が、あの頃の東京の――あえて言えば東京のインディ・シーンの風景にとてもよく馴染んで聴こえたことを思い出す。


ダニエル・クオン『ダニエル・クオン』
(Motel Bleu / 2010)

 といったダニエル・クオンについての個人的な原体験を記憶に留めていたこともあり、その数年後に次作の『Rくん』(2013年)を最初に聴いたときはすっかり意表を突かれた。かたや、ひとつ前の『ダニエル・クオン』は、ざっくりと言えばいわゆる弾き語りがメインで、ギターとピアノを中心に練られた演奏とウォーミーな歌声に、彼自身が敬愛するというエミット・ローズやポール・マッカートニーはおそらくもちろんのこと、ランディ・ニューマンやハリー・ニルソン、トッド・ラングレン等々の耳慣れた名前を連想したくなる一枚、というのが順番を前後して後日聴いたところの雑感。いまだったらトバイアス・ジェッソ・Jrなんかとも並べて聴きたい、70年代のシンガー・ソングライターの系譜を窺わせるグッド・メロディとグッド・ソングが詰まったアルバムだったが、対して、『Rくん』も基本的には弾き語りがベースではあるものの、その冒頭いきなり飛び込んでくるのは、ジョン・フェイヒィも思わせる緩やかなギター・アルペジオではじまる『ダニエル・クオン』のオープニングからは想像外の、ハーシュ・ノイズのように耳を劈く雨音(?)のサンプル。そして以降、ナレーション、館内放送、逆再生したような効果音、自然音や生活音の類、はたまた「AMSR」風の細かいブツ音が曲のいたる箇所で顔を覗かせ、なにやら奇想めいた気配が醸し出されていくのだった。


ダニエル・クオン『Rくん』
(R / 2013)
Amazon

もっとも、その手の演出は『ダニエル・クオン』でも一部に散見でき、相俟ってそこには初期のデヴェンドラ・バンハートにも通じる仄暗さ、あるいはフリー・フォークが幻視したサイモン・フィンやティム・バックリーへの愛着、さらにはピーター・アイヴァースやロイ・モンゴメリーのウィアードなサイケデリアに対する好奇心さえ聴き取れなかったわけではない。が、『Rくん』においてはそうした、一見ジェントリーな歌いぶりの裏にある種の衒いのようなものとして見え隠れしていたアウトサイダーな嗜好が横溢していて、その深い綾のように刻まれたツイステッドなポップ・センスはさながら、〈ポー・トラックス〉に発掘された頃のアリエル・ピンクかその師匠筋にあたるR・スティーヴ・ムーア、いやいやジョー・ミークやレイモンド・スコット、ブルース・ハックあたりのカートゥーン趣味も思わせる感触に近い、と言ったらさすがに印象論で解釈を広げすぎだろうか。エレクトロニックな音色が増えてループも活用されたテクスチャーは、それこそフォークとアンビエントやニュー・エイジとの間、言うなればノスタルジアとヒプナゴジアとの間を揺れ動くようで、それが2013年の作品であるという理由から強引に何かに紐付けさせてもらうとするなら、ジェームズ・フェラーロと〈ビア・オン・ザ・ラグ(Beer On The Rug)〉のYYUを両隣に置いて鑑賞したくなる代物――というのが、はなはだ一方的だが『Rくん』に対する個人的な評価だったりする。


ダニエル・クオン『ノーツ』
(Pヴァイン / 2015)
Amazon

 そんな驚きが先立った『Rくん』と比べると、まずはより歌にフォーカスが当てられた、という印象も受ける新作の『ノーツ』。ケレン味たっぷりのファルセットやスキャット。旋回するコーラス。いろんな種類の楽器がにぎやかなアンサンブルを奏でるなか、時おり主張するエレキ・ギターが妙に可笑しい。けれどもちろん、『ノーツ』にはそうした歌や演奏以外の音も相変わらずたくさん詰め込まれている。遠くで聞こえる吹奏楽や子どもの合唱。果実をかじったり葉物を切ったりする音。ぐつぐつと沸騰した鍋。踏切の警笛音や商店のブザーといった雑踏のBGM。そうして音楽と多様な具体音が織りなすレイヤーを聴きながら、ふと、ある高名な音楽家の「ミュージサーカス」という作品のことを思った。それは、大きな建物のなかだったり公園のようなひとつの空間を舞台に、異なる音楽やパフォーマンス、多くの出来事が同時に行われるという、一種の演劇的なイヴェント。まあ、そこまで大掛かりではないまでも、しかし、ダニエル・クオンの音楽もまた聴いていると、さまざまな場所から音が立ち上り、互いに無関係であるようなそれらが結ばれることで、縁日的とでも言いたい愉快な光景が姿を現し目の前に迫ってくるような感覚に襲われるのだ。あるいは、試しに『ノーツ』を聴きながら近所を散策してみてもいい。すると、身の周りの環境音や具体音とさらに混じり合うことで聴取は拡散し、その瞬間、そもそも私たちは「音楽」だけを純粋に聴くことはできない、なんてことに気づかされるかもしれない――と。たとえばそんなふうにもダニエル・クオンの音楽は私を楽しませてくれるのである。

ダニエル・クオン - Judy


当日会場にて対象書籍(※)ご購入のお客様は、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント! サイン会にもご参加いただけます!

※『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ISBN 978-4-907276-35-5)が対象となります
※先着70名様までのご参加となります。

福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践されている、
ネイチャーライター、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

そして、野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍の一方、
音楽的なこだわりの深いライブ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開しておられる野島健児さん。

職業も生活スタイルも異なるお二人ですが、
そのバックボーンにはとってもユニーク&クリエイティヴな子ども時代のご経験が。

この度開催されるのは、
その驚くほど豊かな遊びの記憶をたどりながら、
現在の多彩な活動や、
それを支える考え方、ものの見方について、
いっしょに思考をめぐらせるトークライブです。

何かにはっとする瞬間が必ずあるはず。
トークのあとは“兄弟セッション”もいっしょに楽しみましょう!

***

チケットについてはこちらから
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833
注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

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福岡県糸島市の住宅地の一角、
子どもたちから「こうもりひろば」と呼ばれているガレージを拠点に、
とってもユニークなあそびのプロジェクトを実践している、
ネイチャーライター/ものづくり作家、
「マイマイ計画」こと野島智司さん。

会員制でも教育施設でもない、
野島さん自身のための“ただの遊び場”を開放して、
まず自分がいちばんに遊びながらも、
「あそんでいる人の存在が、誰かのあそびをひらく」瞬間について、考えつづけています。
絵を描いたり、自然の素材やがらくたで何かをつくったり、
猫やトカゲと遊んだり、
そうしているうちに今日もいろんな子どもがやってきて──

ときおりは“ヘンテコどうぶつ”づくりや“こうもり探検”などのワークショップも開催、
そのほかにもお手製の絵はがきや“ナゾマイマイ”(磁石のかたつむり)などの製作、
写真や日々の取り組みを書きつづったりと、
「マイマイ計画」の活動は、ささやかだけどとっても多彩。
その活動のスタイルとともに
小さいままに、でも人から人へ、ゆっくりと広がりつづけています。

そんな野島さんは、
じつは小中高校に通わずに、自給自足を試みる一家とともに山中で育ち、
大学では動物学や教育学などを数々の研究室で学ばれたという、
珍しいご経験の持ち主でもあります。

自然と遊びに彩られ、
遊びからつながる学びにあふれた、
驚くほど豊かな体験の数々、
そして、そんな環境を根っことした現在の多彩な活動や、
思いがけない考え方、
やさしくて時間をかけたものの見方──

そんな野島さんの半生と活動が、一冊の本になりました。

『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』(ele-king books、2015)

そして今回開催されるのは、
この本の中、
とくに野島さんの子ども時代について書かれた第2章について、
じっくりと読み解くトークライヴ。

野島さんの実のお兄さんであり、
人気声優さんとしてご活躍中の野島健児さんをお迎えして、
その驚くばかりにクリエイティヴィティあふれる、
子ども時代の遊びのエピソードを掘り下げます。

うーん、もういっかい子どもに戻ったら、
自分もぜったいこんなふうに過ごしてみたい……!

音楽的なこだわりの深いライヴ・イベントや、
朗読会にワークショップの開催など、
一様でない表現活動を展開されるお兄さん・健児さんからも、
そうした豊かなバックボーンについて、
インスピレーションあふれるお話がきけるはず。

あそぶこと、学ぶこと、
自然のこと、
そして、マイマイ計画の活動を支える
「あそびらき」という考え方について、
さまざまな角度からお話をうかがいます。
トークの後は「兄弟セッション」も!?

21世紀日本のための“遊ぶ”哲学、ライブ編!



■『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』詳細
https://www.ele-king.net/books/004598/

マイマイ計画 (野島智司) × 野島健児 presentsマイマイセッション!

野島智司・著 『マイマイ計画ブック かたつむり生活入門』刊行記念トークライブ@ HMV&BOOKS TOKYO

開催日:
2015年12月11日(金)
19:00開演(18:00整列開始、18:30開場)

場所:
HMV & BOOKS TOKYO 6Fイベントスペース

内容:
トークショー

出演:
野島智司さん(著者/弟) ゲスト:野島健児さん(声優/兄)

プログラム:
Chapter1 talk!「やまの生活」
Chapter2 think!「世界はあそぶとこだらけ」
Chapter3 play!「マイマイセッション」

チケット:
3500円(+ローチケ手数料)
HMV&BOOKS TOKYO6Fローチケカウンターおよび全国のローチケ・Loppiにてチケットをご購入ください
詳細ページ
https://www.hmv.co.jp/st/event/22833

注文ページ
https://l-tike.com/search/?keyword=34965
Lコード:34965

限定特典:
当日会場にて書籍ご購入のお客様限定で、智司さん健児さん“子ども時代の写真”ポストカードをプレゼント&サイン会へのご参加

注意事項:
※トークショーはチケットをお持ちの方のみ参加できます。
※当日のご入場は、整理番号順になります。
※イベント当日は、チケットを忘れずに必ずお持ち下さい。
※イベント内容・出演者は予告なく変更する場合がございます。ご了承ください。
※イベント参加券は紛失/盗難/破損等、いかなる理由でも再発行は致しませんのでご注意下さい。
※イベント実施中の撮影/録音/録画は一切禁止とさせて頂きます。
※会場内にロッカーやクロークはございません。手荷物の管理は自己責任にてお願い致します。

【お問い合わせ】HMV&BOOKS TOKYO 電話番号:03-5784-3270(11:00~23:00)

書籍情報:
https://www.ele-king.net/books/004598/

出演者プロフィール:

■野島智司 のじま・さとし
1979年東京生まれ。東京農業大学農学部卒。北海道大学大学院地球環境科学研究科修士課程修了。同大学院教育学研究科修士課程修了。九州大学大学院人間環境学府博士後期課程中途退学。自然と人との関わりについて、動物生態学、社会教育学、環境心理学など、さまざまな角度からフィールドワークを行う。マイマイ計画(https://maimaikeikaku.net)主宰。著書に『ヒトの見ている世界蝶の見ている世界』(青春出版社)『カタツムリの謎』(誠文堂新光社)など。


■野島健児 のじま・けんじ
声優・朗読・ライブ
主な出演作品
PSYCHO-PASSシリーズ 宜野座伸元役
干物妹!うまるちゃん 土間タイヘイ役
スターウォーズ反乱者たち エズラ・ブリッジャー役



書籍売り場ではおふたりによる選書コーナーも!
いまを“あそびらく”30冊

野島智司さん、野島健児さんご兄弟が選ぶ、30の“わくわく”

マンガ、絵本から、自然科学まで。
現在の生活の中に“あそび”のスキマをひらいてくれる本を、
野島智司さん×野島健児さんが選んでくれました!
売り場ではコメントカードつきでご紹介しています。

忙しい人も時間がたっぷりの人も、
今日からわくわくするための一冊を見つけてくださいね!

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