「KING」と一致するもの

Chart JET SET 2012.10.29 - ele-king

Shop Chart


1

Greg Foat Group - Girl And Robot With Flowers (Jazzman)
11年のシングル、アルバムは一瞬で完売。エレガントでサイケデリックでグルーヴィーな独自の世界を進化させた話題の新作が登場です。即完売必至の1000枚限定プレス!!

2

Frank Ocean - Thinking About You (Unknown)
2012年にアルバム『Channel Orange』で公式デビューを果たしたR&bシーンの注目株Frank Oceanによる"Thinking About You"の5リミキシーズ! どれも原曲を生かしたナイスな仕上がり!

3

Martha High & Speedometer - Soul Overdue (Freestyle)
Vicki Andersonをカヴァーした大ヒット・シングル続く待望のアルバムは、ソウル/ファンク名曲の数々をカヴァー。

4

Egyptian Hip Hop - Syh (R&s)
鮮烈なデビューから早くも2年。遂に出たアルバムから500枚限定の7インチが登場!!

5

Kendrick Lamar - Good Kid, M.a.a.d City
玄人をも唸らせるフリースタイル・スキルを持つ若手ラッパーが、Cd/mp3音源でのリリースやDrake, 9th Wonder等の客演を経て、遂にAftermathからメジャー1stアルバムが投下されました!

6

Stepkids - Sweet Salvation (Stones Throw)
2011年の1st.アルバムが高い評価を得た西海岸の腕利きトリオ、Stepkids。年明けリリース予定のセカンド『Troubadour』からの先行12インチが到着です!!

7

Enzo Elia - Balearic Gabba Edits 3 (Hell Yeah)
Enzo Elia自身の主宰する要注目のイタリアン・レーベルから、ヴァイナル・オンリーで展開される大人気シリーズ"Barearic Gabba Edits"第三弾!

8

Beauty Room - Beauty Room ll (Far Out)
A.o.r.、ブルーアイド・ソウル、ソフトロックまで取り込んだ、洗練を極めた究極の都市型音楽が誕生!!

9

La Vampires With Maria Minerva - Integration Lp (Not Not Fun)
ごぞんじ100% silk主宰者Amanda Brownのソロ名義、La Vampires。当店超ヒットのItal、Octo Octaに続くコラボ盤は、ロンドンの女性クリエイターMaria Minervaがお相手です!!

10

Sir Stephen - House Of Regalia (100% Silk)
12"「By Design」が最高だったニュー・オーリンズの鬼才クリエイターによる8曲入りアルバム。アシッド・ハウス~ヒップ・ハウス~アーリー・90's・ハウスを極めた入魂の全8トラック!!

Pete Swanson - ele-king

 紙エレキング7号にてインタヴューをおこなったピート・スワンソンが「狙ったぜ!」というようなニュアンスで語っていた最新12インチはお馴染み〈タイプ〉から。
 じつは7号の編集会議の際、当初インタビュー候補としてあがっていたのはピートではなくプルリエントことドミニク・フェルノウであったのだが、プルリエントの近年の作品、およびコールド・ケイヴでのナル感がちょっとアレなんでピートにしないッスか? と僕が個人的にゴリ押ししたのだ。三田さんにアレも最近ピコピコじゃん! と言われ、聴いていなかった彼の『マン・ウィズ・ポテンシャル』を聴いてたしかに予想以上のピコピコ感ではあるものの、決して彼のピコピコはいまにはじまったものではなく、イエロー・スワンズ時代から隙あらばノイズ・エレクトロ・セットであるダヴ・イエロー・スワンズで存分にヴォコーダー、ノイズ、ドラムマシンを駆使したダンサブル・ノイズを展開してきたわけだ。え? テクノイズって言うの? なんかモッサイなーそのターム......ちなみにダヴ・イエロー・スワンズの「Live During War Crimes」のシリーズでのリリースを率先しておこなってきたスウェーデンの〈リリース・ザ・バッツ〉は今年をもって活動を停止するので興味がある方はいまのうちにゲットすることをお薦めする。またひとつ良質なレーベルが消えていく......

 そして先日のele-king TVにて敬愛するカネイトやジェイムス・プロトキンの話題の際、三田さんが仰っていた「切迫してユトリが無なさすぎるサウンドはしばしばキツイ」というニュアンス。
 たしかにその通りだと思う。しかし超個人的なことを言えば僕はカネイトを聴いているときもそのサウンドを聴きながら死にてー、とか殺してー、とか思ってるというよりは(思ってるときもあるよ)暗すぎてマジウケルー。みたいな感覚で聴いていることが多い。はたまたバーズムの出所後初の音源を聴いたときもそのあまりの純粋ブラック・メタルっぷりに、教会燃やして人殺しといてコイツ全然反省してねーよ(爆)......とか。自分にとってのリアリティのなさが作り上げる距離感、それがユーモラスに思われるわけだ。シリアスすぎるサウンドだからといってシリアスに聴く必要などない。その聴者が作り上げる距離感もまた重要なのだ。

 そういう意味でこのピート・スワンソンの『プロ・スタイル』は演奏者、サウンド、聴者の距離感を逆手に取った作品に僕には思えるのだ。
 まずこのジャケにやられる。そしてタイトルにやられる。「A1. Pro Style A2. Pro Style (VIP) B. Do You Like Students ?」
 そして針を落としてスピーカーから放出される『マン・ウィズ・ポテンシャル』の延長線上のラディカル・テクノ・サウンドに腰を抜かす。この冷たいスピード感、いわゆるところのシャブ感みたいなモンはあたかもノルウェジャン・ブラックメタルのそれを思わせる......コ、コレがプロスタイルッスかピート先輩......と、思わず自宅でブチ上がりながらも呟きそうになってしまった。
 彼自身が言うところの音楽における究極性であるノイズを、これほどまでポップに仕上げてしまうセンス、それは彼と作品との距離感に他ならない。ピート・スワンソンはこのダヴ・イエロー・スワンズからつづくテクノイズ・スタイルとイエロー・スワンズからつづく超ハーッシュなフォークのようなスタイルの音源をほぼ交互にリリースしている。それは純粋に彼に尽きせぬインスピレーションがあるのと同時に(控えめに言っても彼の作品はどれも情念的だ。)自らがつくり上げるサウンドのなかに身を包まれていたいという欲求なのだ。
 それは往々にしてプロセスの段階でカタルシスを迎えるものである。完成した作品はつねに必ずひとり歩きをはじめる。ピートにはおそらくマスタリング・エンジニアとしての客観性が完成させた自身の作品をユーモラスに茶化すゆとりがつねにあるのだと僕は思う。まぁ、すごい漠然としたニュアンスで言えば、むちゃくちゃブルータルな音源をつくって、これが俺の想いだ!......って言うんじゃなくてこんなんできちゃったけど笑える? みたいな。

 そもそも最近の〈タイプ〉自体にそんな雰囲気が漂っている。この変化は個人的に大歓迎だ。ちなみに冒頭でさんざんな言い方をしたドミニクであるが、〈タイプ〉からリリースしている彼の最新プロジェクト、ヴァチカン・シャドウにはハマっている。〈ノット・ノット・ファン〉のブリットもゴリ押ししてたけども、彼のローブドアの昨今のサウンドを聴いていると納得だ。ドローン・ミュージックを通過したエレクトロとビートの再構築に僕はワクワクされっぱなしである。

HB, Traxman etc. - ele-king

 10月に入ってからいちにち中、寝て、食事して、雑務をこなしているとき以外は電子音楽を聴いている。聴いては書いて、聴いては書いて、聴いては書いている。三田格と『テクノ・ディフィニティヴ』というカタログ本を作っているのだ(自分の人生で来る日も来る日もテクノばかり聴いているのは、これで3度目である。レコードやCDを探すのが本当に大変で、あると思っていたものが見つからないと本当に悲しい)。
 聴いているのは、基本的には好きな音楽なので楽しい。とはいえ、禁欲的な生活をかれこれ10日以上も送っていると週末ぐらいは派手に遊びたくなる。そういう事情がなくても、トラックスマンには絶対に行こうと決めていたのだが、ちょうど同日の7時から渋谷でHBのライヴがあると教えられたのでそっちも行くことにした。HBのライヴを見て、続いてヴィジョンでクラークやサファイア・スローズなんかのライヴを聴いて、そして最後をジュークで締めようという企みだ。そうだ、二日酔いになるくらい酒を飲んでやる。


 7th Floorに到着するとムーグ山本がDJをしていた。ムーグさんはバーニング・スター・コア(ドローン)なんぞを、それから僕の記憶がたしかなら、『男と女』のテーマ曲かなにかをミックスしていた。しばらくしてHBが登場。じつは初めて見たのだが、これがまた、なんでいままで見なかったのだろうと後悔するほど良いライヴだった。
 HBとは女性3人組。アルバムも2枚出している。メンバーのひとりはラヴ・ミー・テンダーのドラマーのMAKIで、この日は彼女の産休前の最後のライヴだった。

 彼女たちの音楽は、メビウスとコニー・プランクとマニ・ノイメイヤーの3人によるクラウトロックの古典『ゼロ・セット』からメビウスのパート=電子音を抜いて、電気ベースを加え、パーカッションとディジュリドゥなどの生楽器を絡ませた......とでも言えばいいのか、シンプルな構成だが、多彩でオーガニックなグルーヴが次から次へと出てくる。演奏力の高さだけではなく、ユーモアもあるし、見た目も格好良い。

 30分ほど演奏すると、この晩のゲストとして柚木隆一郎が登場。久しぶりに見た彼は、リズムボックスをバックにソウルを歌ったティミー・トーマスのように、i-Padとコンパクトなミキサーを使ってソウルを歌った......が、この晩の彼はあまりにもはしゃぎすぎだった。しかし、その日7th Floorを埋めたオーディエンスにはそれが大受けだった。ところどころでは演奏の巧さも見せたり、余裕のパフォーマンスだった。

 DJを挟んでふたたびHBが登場。1曲目は4/4キックドラムを活かした踊りやすい曲で、あとは最後までエネルギッシュに突っ走った。小さな会場での割れんばかりの大きな拍手は、彼女たちのまったく素晴らしい演奏にふさわしいものだった。

 それから僕は、カメラマンの小原とヴィジョンに向かった。
 1時にはクラークのライヴがあるんじゃないかと勝手に思っていた。ブンやサファイア・スローズなんかのライヴも聴けるだろうとか図々しく。実際は1時間づつずれていた。12時前にクラブに入ってしまったので、小原といっしょにビールを飲みながら身体を休めつつ、どうしたものかと思案する。結局、1時前に我々をゲストで入れてくれたビートインクの方々に「どうしてもジュークを聴きたくなってしまいました」と謝って、代官山のUnitへ急ぐことにした。

 到着したときは、いわば「フットワーク講座」として日本人の方が丁寧に踊りのレクチャーをしているところだった。
 フロアは良い感じで埋まっていた。シカゴからやって来たダンサーが手本で踊ってみせると、フロアの温度は上がる。
 HBのメンバーのひとりは、前半の1曲、ディジュリドゥを吹いた曲を終えたあとに「これでやっとお酒が飲めます」とMCで言っていたものだが、フットワークもまた酒を飲んでいたらとてもじゃないが、踊れるものではない。汗が30メートル遠方まで飛んできそな勢いでダンサーは踊っている。
 日本人のダンサーも踊りはじめる。シカゴのダンサーがフロアに飛び降りて、踊って、しばらくすると何人かも踊りはじめる。とても良い感じ。このなかに自分も入れたら、さぞかし楽しいだろう!

 僕が思ったのは、これは現代版『ワイルド・スタイル』だなということだった。エネルギッシュで、ハードで、若々しい。昔『ワイルド・スタイル』で見たような光景が21世紀にアップデートされている。スポーツの要素も入っている(笑)。トラックスマンはステージで記念撮影したり、上機嫌だった。しばらく、日本人DJのフルトノのプレイを聴いていた......が、このあたりから記憶が断片的になっているのである......。スタートが早すぎた。翌日は当然のように二日酔いだった(おぇ)......ので、詳しいレポートは斎藤君にまかせるとしよう

野田 努

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UNIT PRESENTS
TRAXMAN with Red Legends footworkers : A.G. & DJ MANNY
@代官山UNIT & SALOON 斎藤辰也

 とあるレーベルのスタッフいわく、最近は若者がクラブに来ない、という。そう、きみみたいな人を、音楽を目的にひとりでクラブに来ている若いやつを見かけなくなったんだ、という。それはブラワン(Blawan)のDJを観に代官山UNITに行ったときの会話だったのだが、正直に言えば、23才の僕もクラブにはさして行かない。そのときUNITに行ったのも、注目していたレーベル(ジョイ・オービソンとウィル・バンクヘッドの〈ヒンジ・フィンガー〉)がブラワンのEPをリリースしていたから、どんな人なのか見たくて珍しくクラブに出向いていただけである。
 し か し 、 だ 。 そんなクラブに馴染みはないという人のなかでも、掲題の日を心待ちにしていたひとは少なくないだろう。当日の1週間ほど前から、僕は毎日のように胸騒ぎがしていた。あのクドいBPMとベースに向けた好奇心、昂揚感、恐いもの見たさが総出で湧き上がっていた。トラックスマンという超ド級のストレートさゆえに意味がよくわからなくなりそうなネーミング・センスに心が焦がされていた。

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 これは最新のブラック・マシン・ミュージックである。アフロ・フューチャリズム以外の何物でもない。西欧文化的なるものの内なる厳しいせめぎ合いだ。明日への新たな起爆剤、未来に向けて大いに狂ったダンス・ミュージックである。
野田努
Bangs & Works Vol. 2(The Best Of Chicago Footwork) のレヴューにて ------------

 会場に向かおうと0時過ぎに電車に乗ろうとするが、遅延。一刻もはやく会場に行きたいのに電車がこない。寒いホームを起爆剤に、線路に向けて大いに狂いそうになったが、なんとか深夜1時過ぎに恵比寿駅に着き、代官山UNITまで走った。これはすでにフットワークであったかもしれない。
 汗だくになりながら会場に着き、受付を済ませ、地下への長い階段を降りて、メインフロアに入り、ステージのほうへ駆け寄ると、ダンサーとして来日していたAGや、日本のフットワーカーによるステップのレッスンが行われている。DJ Mannyは、前日のDOMMUNEでも発表されていたが、飛行機に乗っていなかったので来日ならず。フロアは、動けなくなるほどではなかったが、前に行くのはためらわれるほど多くの人で賑わい、あたたまっていた。ヒリヒリした緊張感と熱気が会場にむせかえっていることを期待していたので、実際の和やかなレッスンの雰囲気に面食らったが、なによりまずフットワークというものがどういうものであるかを脚を動かすことでせめて来場者のみんなに覚えて帰ってほしいというアーティストたちの心意気がさっそく伝わってきた。この日この場所でみな一様にぎこちなく脚をがたがたと動かした記憶を、誰もが忘れないだろう。クラブに行く人間の誰もがうまくダンスできるわけではない。一口に踊るといっても、それは自分なりに体を揺らして動かすという喩えであることもしばしばあることだろう。しかし、このときばかりはダンスのできない人たちでさえ、恥らいながらも、型のあるダンスとして、脚をまずは動かした。なんとなくコツをつかんだ人たち、まったく要領を得ないままの人たち、基礎をあらためて確認したダンサーたち――この熱心なレッスンが20分ほど続くと、会場はじゅうぶんに熱くなった。

 DJ Fulltonoが見事なスピンをするうち、いつの間にかステージの手前、フロアの前線にてひとりのオーディエンスが大きく動きがむしゃらに踊りだしたことで拓けたスペースにサークルが成立し、周りの注目を集め始めた。誰しもがこれは幕開けの合図だと予感したに違いない。間もなくして、ステージからAG(いや、日本のダンサーだったろうか)が勢いよくサークルへ飛び降り、本場のフットワークを堂々と見せつけた。「おおおおー」という拍手喝采に包まれたそのスペースに、ステージ上のダンサーがつぎつぎと降りていった。モニターに映すカメラが間に合わないほど一連の流れはあっという間に起こった。カメラがやっとそのサークルを捉え、モニターに映されたダンサーのフットワークを観て誰かが言った。「(脚が)早すぎてカメラが追いついていない!」
 トラックスマンがその様子をステージ上から見守っていた。険しくもありしかし嬉しさの垣間見えるなんともいえない表情を浮かべながら、ときおりマイクを握り「DJフルトーノー!」とか「お前らもっと踊れ!」みたいに煽っていた。トラックスマン本人は踊らなかった。あんたも踊ってくれよ! という気持ちが会場にいたひとたちの半分以上の頭にチラッとよぎったことだろうが、彼は「俺は踊らないんだ」とボソッとつぶやいていた記憶がある。それもまた可愛らしくもあり、AGらダンサーがしっかり活躍している手前、彼自身はあくまでプロフェッショナルDJとしてのみステージに立っていたかったのではないかとも思う。ダンスに関しての主役は、あくまでAGをはじめとしたダンサーら、そしてオーディエンスひとりひとりなのだと。この夜、あくまで彼はダンスを盛り上げる役に徹していた。
 ステージから降りてきたダンサーたちがひととおり回し回しで踊った後、サークルを記録撮影していたカメラマンもカメラを投げ出して見事なフットワークを決めた。オーディエンス側から、つぎつぎと男子たちが背中を押されながらサークルへ飛び込み、みな一様に達者なフットワークを披露していく。みなさん踊れるんじゃないですか!
 その流れが15〜20分くらい続いた頃だろうか、突如、白Tシャツとタイトな白パンツできめ、髪をひとつに結んだ女性がサークルに現れ、すぐさまフットワークを踊りだした。一瞬、なにが起きたかわからなかったが、すぐに会場は感動の叫びと拍手喝采をその女性に送った。「うおおおおおおおおーーー!」。
 それを見て、ここまでサークルで踊っていたのは男子だけだったことに気付いた。会場には男性とおなじくらい女性もいたと思う。そしてギャルからすればいわばオタクとでも形容されてしまいそうな容姿の人、会社帰りらしきスーツ姿の人、久しぶりにクラブに遊びに来たのかもしれない年齢層の高めな人、ほんとうに「ヤンキー」(野田編集長談)の人、そして男女問わず若人もたくさん駆けつけていた。言ってみれば僕もそのうちのひとりだ。ふだんクラブに行かない若人さえ、この夜は、UNITで起きることを目撃しなければという気持ちがあったに違いない。そしてこの夜の感動を象徴するものが、オーディエンスとダンサーによって自発的に拓かれたサークルであり、サークルに飛び込まずとも自分の立ち位置でこそこそと脚を動かすオーディエンスであり、そして、女性がフットワークを踊りだした瞬間であり、そこに送られた握手喝采だった。トラックスマンが踊らなかった真意を、僕はそこに見えているような気がしている。このパーティの主役は、それぞれに脚を動かすオーディエンスだった。
 ふと僕の隣を見ると、おじさんから「森ガール」と形容されてしまってもおかしくなさそうな、ふわっとしたファッションのロングスカートを履いた小柄な女性が愉しそうに脚を動かしていた。僕もうやむや恥ずかしがっている場合ではないと、負けじとフットワークを試みた。


 やがてDJ Fulltonoの流すトラックはフェイドアウトし、トラックスマンはそのままDJ Fulltonoが用いていたMacBookに自分の外付けハードディスクをぶち込んだ。前日のDOMMUNEでも自慢げに見せびらかしていたが、彼のツアー機材はポケットにつっこんだハードディスク2個のみ。パソコンはバトンタッチなので一度フェイドアウトする必要があったのだろう。シカゴではよくある話、なのか。ワイルド。無音を利用してトラックスマンがコール&レスポンスをオーディエンスに要求し、観客も熱心に応える。「セイ、ゲローDJズ!セイ、テックライフ!」という具合だったろうか。すぐにはプレイせず、とにかく観客を煽りまくり、オーディエンスが声を振り絞ったころ、ようやく始まった。高速BPMの忙しないハイハット、ボボボボボボボボと響く衝撃的な低音――(史実的にどれほど劇的な瞬間なのかは理解できていないのだが)ついにトラックスマンが日本でプレイしている! この日メインの「盛り上げ役」を、オーディエンスは各々の喜びの声援とダンスとで迎えた。
 前日のDOMMUNEでいわゆるジューク/フットワークの楽曲をふんだんに披露したからか、トラックスマンのDJプレイはそれらに拘らず、むしろハウス・ミュージックを積極的にプレイしていたように思う。これもまた、ジューク/フットワークの種明かしをして日本のオーディエンスに叩き込む意図があったのだろう。矢継ぎ早に切り替わっていく楽曲群(トラックス)。それは彼なりの「Lesson」だったのではないだろうか。
 とはいえジュークもガンガンかけていた。おそろしいほど短く切り刻まれクドイほどループされるYMOの"ファイアークラッカー"のリフも、J.ディラによるファーサイドの"ランニン"とおなじスタン・ゲッツ&ルイス・ボンファによるボサノヴァも、DOMMUNEのときとはカットアップのエディットが違っていたような気がしたがどうだろうか。トラックスマンはマイクを握っていなかったが、同じことは繰り返さないぜという意気込みをひそやかに感じられた瞬間だった。ノトーリアスB.I.G.がくりかえしくりかえし哀しげに歌う。「Kickin' the door, waving the 44」! 彼は自分の出前からステージで煽りまくっていたので、自分のDJ中に針をちょびっとスキップさせてしまったあと、ステージから突如消え、しばらくして戻ってきたときに「おしっこ」なんて言ってたのも印象的だった。
 その後も高速の"ストリングス・オブ・ライフ"をプレイし、さらにブラック・サバスの"アイアン・マン"のリフをほぼそのままジュークに落とし込んだミックスを披露し、多くの人が笑いながら頭をふり腕をふり盛り上がっていた。どれも大ネタもいいところだったが、それらのキャッチーさでリスナーをジュークにぐいぐい引き付けていくトラックスマンの"Lesson"は大成功だったのではないかと思う。なにせほとんどの人が笑顔で、身体を、脚を、おもいおもいに動かしていた。野田編集長は「『ワイルド・スタイル』だと思った」と振り返っているが、まさに。ヒップホップの初期衝動にも似たフレッシュな勢いを、この夜、僕はジュークに見い出していた。いや、見せつけられたのだ。それによって突き動かされ、踊ったのだ。この日は踊りました。身体を揺らしたことの比喩ではなく、はっきりと、ダンスをしました。どう考えてもがむしゃらで下手くそだったとは思うが、はっきりそう言える。なぜか誇らしくもある。僕は踊りました。フットワークを踊りました。
 なにはともあれ、このパーティを最初から最後までステージではしゃぎながら盛り上げていたBooty Tunesの皆さんに、ありがとうございました、おつかれさまでしたと言いたい。DJ Aprilのハッピーなはしゃぎっぷりと熱にあてられて、オーディエンスも突き動かされていた部分が確実にあったと思う。
 この日、これから盛り上がろうとしているゴルジェ(Gorge)というジャンルのアーティストHANALIもライヴで出演していたということだが、僕は観ることができなかった。しかし、それは今月27日に開かれる「Gorge Out Tokyo 2012」のレポートで触れることにしたい。
 もし次クラブでジュークが聴こえたら、そこではフットワークのサークル/バトルがもっともっと多発的に興ればいいなと思う。そして、僕も踊れたらいいなと思う。部屋で練習もしている。いずれにせよ、この夜が波及して、もっと小さい数々のパーティーで人々がフットワークを踊るときがくるだろう。そのときこそ、トラックスマンとAGがシカゴから来日した意味が結実するのではないだろうか。

 以上、ジュークに詳しくもない、クラブに通わない、踊りらしい踊りをしない23歳男子によるレポートでした。ありがとうございました。フットワーク踊りましょう。

斎藤辰也

vol.3 ジョジョ展 - ele-king

 「ジョジョ展」ッ! その素敵な好奇心がわたしを行動させたッ!
 本コラムでは、初回から『平清盛』という、このサイトではアウェーすぎる題材を扱い、さらに2回連続でねちっこく語ったことにより、空気が読めないパーソナリティを十二分に見せつけてしまった。たぶん旧来のele-king読者の方は、まだこのコラムの存在に気づいていないと思う。
 しかし今回のテーマは、世界的な漫画家・荒木飛呂彦先生の原画展である「ジョジョ展」ッ! ご本人は50代にして20代と見まごう若々しさを保っていることでも有名であり、控えめに言っても美の化身である。また、作品内に洋楽ネタがディ・モールト(非常に)ふんだんに取り入れられていることが有名だ。ele-king読者も当然、200%の方が『ジョジョの奇妙な冒険』を愛読していることだろう(来世にも読む計算)。

 とはいえ、わたしはけっして人気取りのためにジョジョを扱うのではない。ジョジョ第6部のあおり文句「愛=理解」にならって言えば、わたしにとっては「ジョジョ=人生」であり、それはコーラを飲んだらゲップが出るっていうぐらい確実である。さらに、わたしは他人から見たら気持ち悪いほど荒木飛呂彦先生を敬愛しているがため、本コラムでは「氏」ではなく「先生」という敬称をつけさせてもらう。
 今年は荒木飛呂彦先生の画業32周年、ジョジョ連載25周年の節目であり、豪華企画が目白押しとなっている。さきごろ始まった地上波アニメと、年末に発売されるゲームはじつに「ふるえるぞハート」だが、数ある企画のなかで最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も最も「燃え尽きるほどヒート」なのは、やはり原画展であろう。

荒木飛呂彦原画展 ジョジョ展 (11月4日まで)
https://www.araki-jojo.com/gengaten/

 本来、マンガやアニメは、使い捨ての大量複製商品として作られ、安価に流通するポピュラー・カルチャーである。しかし今日では、そのなかでも価値があると認められた作品について、原画や資料が、美術館やそれに準ずる機関で展示されるようになった。ジブリや、昭和を彩った漫画界の巨匠たちにいたっては、常設のための施設(水木しげる記念館など)まで擁している。荒木飛呂彦先生に関して言えば、本格的な原画展がようやく今年開催というのは、遅すぎるぐらいである。

 しかしほんの10数年前まで、一般的に美術館で展示されていたのは、ゴーギャンやロダン、また古文書や仏像といった、いわゆる「アート」もしくは「文化財」であった。マンガに見た目が近いものに、村上隆氏や会田誠氏の一連の作品があるが、これらは「ポピュラー・カルチャーの商品として作られたものがたまたま後にアートとしての価値を得た」というわけではなく、初めからアートとして制作されたものである。
 美術館に展示される栄誉に浴したからには、それが何であろうと等価に扱われるべきではないか、という考え方もある。もちろん美術的な価値に関しては、わたしもそれに異論はない。しかしここでは、前者を「エンタメ系」、後者を「アート系」と分けて考えたい。なぜならこの二者は、そもそも生産の目的や様式がまったく異なるだけでなく、展示の際に観客から求められるものも異なるという意味で鋭く対比されるからである。

 これまで両者の展示を少しばかり観てきて、しろうと目にもわたしが強く感じたのは、展示において、エンタメ系作品は、アート系作品ならば起こりにくい(起こってもいいはずだが、起こることが抑制されている)難題を抱えている、ということである。

 エンタメ系の展示の抱える難題とは何か。それは「作品世界に入りたい」という読者(観客)の典型的な願望と、「原画展示」という形式とが、明らかに相容れず、アンビバレントな関係にあることである。
 『ジョジョの奇妙な冒険』を読んだなら、たいていの人は、「トニオさんのうンま~い料理が食べたァい!」だとか、「ブチャラティたちが戦ったローマのコロッセオに行ってみたいッ!」といった、「作品世界に入りたい」という素朴にして強固な願望を持つだろう。白紙にインクで生み出された世界のなかに入りたいとまで読者に思わせるのは、簡単にできることではない。まさに「俺たちにできないことを平然とやってのけるッ! そこにシビれる! あこがれるゥ!」といったところか。ちなみに、現実ならぬ夢の世界に肉体ごと入りたいという、この手の願望を満たす施設のなかで最も有名な場所は、ディズニーランドであろう。

 ジョジョ展は、優れたエンタメ作品につきものの、読者のこの願望に大いに配慮している。たとえば人気キャラクターの等身大フィギュアや、作品内のキーアイテムを数多く作成・展示している。個人的に気に入ったのは、ちょっと奥まった壁面から飛び出していて見落としがちなところが奥ゆかしい、「シャーロットちゃん」である。
 最新技術を駆使した方法として特にすばらしいのは、ARカメラによる波紋体験である(東京展のみ)。これは床に投影された円形の水面の映像なのだが、円の中に観客の影を感知すると、映像に本物の水のような波紋が生じる。これにより、ツェペリさんになりきって水面を歩く体験が可能なのである。
 また、仙台展限定であるが、実在のLAWSONの1店舗が「OWSON」になるという付属イベントがあった。限定グッズを買うために長蛇の列ができてしまい、作中の閑静なOWSONとは似ても似つかぬ大賑わいになってしまったのはご愛嬌だが、S市(仙台市)に突如として現れたOWSONには、わたしも感極まり少々漏らしかけた。ジョジョ展の仕掛けではないのだけども、わたしは「花京院」「広瀬」というS市内の地名(ジョジョには同名のキャラクターが登場する)にすらも大興奮し、同行者に「ただの地名ですよ」とあきれられた。


仙台市のLAWSON。このジョジョ展に合わせ、原作中に登場する「S市杜王町OWSON」へと様変わりした

 しかしながら。ここまででお気づきの方も多いだろうが、この展覧会の眼目は「原画展」であり、「ジョジョランド」ではない。いわゆる「アート」として鑑賞する対象は、あくまでも壁に掛けられた原画なのであり、作品世界を三次元に立体化したオブジェや、町ぐるみの仕掛けなどはおまけにすぎない。アート系の展示においては、作品世界に入りたいという願望が生じるかどうかもあやしいし、そのような願望が推奨されることもほとんどないだろう。ルノワールの静物画の中に入ってりんごをつかみたいという人に配慮して、同じ構図でりんごを置いたりする展示は、別にあったとしても問題はないと思うが、少なくともわたしは見たことがない。(ちなみに、近代芸術の成立以前は、むしろエンタメ系に近い鑑賞がなされていたことは、木下直之『美術という見世物――油絵茶屋の時代』を参照。)

 もちろん、ジョジョ展の主役たる200枚以上の原画は、掛け値なしにすばらしいものだ。独特の大胆なアングル、人体をひねるポーズ(ジョジョ立ち)、エロティックにして意志の強い表情、色彩のコントラスト。荒木飛呂彦先生の作品は常に新しく、「絵」という最も古くて単純な芸術の形式に、まだまだ未踏の地があったのかという驚きを与えてくれる。特にこの1年の間に描かれた新作の、ピンクを基調とするポップな透明感には、ピンクという色はこんなにも美しかったのか、と新たなときめきを覚えさせられた。初期の作品では、余白に「ためし塗り」の筆あとが見られたり、なぜかストレイツォが描いてあったり、バックが白いまま残されていたりするが、こうしたところに作画の現場を盗み見た気がして、新鮮でとてもうれしい。

 アートとして鑑賞する態度というのは、大雑把にいってこのようなものだと思うが、このとき、「作品」と「わたし」は分離される。「わたし」が肉体のまま「作品」のなかに入ってしまうような夢(錯覚ともいう)は、物としての原画を目の前にすることによって、打ち消されてしまう。
 だがひとたび作品から視線をそらすと、自分の足が水面に波紋を刻んでいたり、作品内のアイテムが現れたりする。こうしてジョジョ展では、夢と現実を行き来するような奇妙な感覚が、(現実が圧倒的に優勢ではあるのだが、)間断なく訪れる。
これがもしディズニーランドなら、ウォルト・ディズニーの原画を見せる必要などなく、等身大で現れ愛想をふりまいて踊るキャラクター(中の人などいない)や、あたかも本物のようにそびえたつシンデレラ城など、夢を見せるだけでいいのである。アート系の展示なら、作品の世界を現実化しようなどと努力する必要はなく、原画を並べるだけでいい。「夢を見せる」「原画も見せる」"両方"やらなくっちゃあならないってのが「エンタメ系の展示」のつらいところだ。

 原理的に考えて、このふたつを両立させるのは無理難題であると思う。「これは絵です(現実)」「これは絵ではありません(夢)」という、真逆の命題を同時に立てようとしているのである。スタンド能力でもないと、実現できそうにもない。しかし、二次元のキャラクターを現実化するスタンドである「ボヘミアン・ラプソディ」をもってしても、その作動によって作品中(二次元)のキャラクターは消えてしまうという設定なのだから、せっかくの原画が穴だらけになってしまう。

 溶けたチョコレートでグラスの底に作ったわずかな傾きのような、このきわどい角度をすり抜けることは可能なのか。さまざまなエンタメ系の展示で方法が模索されてきていると思うが、ジョジョ展においてそれは、漫画家「岸辺露伴」の存在にかかっている。

 岸辺露伴(通称、露伴ちゃん)は『ジョジョの奇妙な冒険』のキャラクターで、『週刊少年ジャンプ』に連載を持つ天才漫画家である。この設定からわかるように、このキャラクターは全キャラクターのなかで唯一、わたしたちの生きている「この現実」との接点を持つ。
 岸辺露伴は、ジョジョ展以前のルーブル展(2009年)、GUCCI展(2011年)からトリビュートされていた。『岸辺露伴 グッチに行く』においてはGUCCIの実在の衣装とバッグを身に着けた姿で描かれ、このとき作られた等身大フィギュアも実在のスニーカーを履いていた(これらの衣装、バッグ、スニーカーは実際の商品であり、購入することができる......「お金」があればだがッ!)。今回の仙台展で発行された『杜王新報』ではついに、荒木飛呂彦先生その人との対談までもなしとげた(ちなみにここで、荒木飛呂彦先生が波紋戦士であることが、おそらく初めて公式に証言された)。
 さらにジョジョ展では、岸辺露伴の仕事机と、荒木飛呂彦先生の仕事机が、まるで等価のもののように近く展示されている。わたしははじめ、岸辺露伴の仕事机が、他のさまざまなものをさしおいてまで展示されなければならない理由がよくわからなかった。しかし、こうは考えられないか。荒木飛呂彦先生の仕事机は、本物を持ってきたわけはないので(それだったら仕事ができないから)、よく似た偽物。岸辺露伴の仕事机は、偽物を展示する意味がないので、本物。この地点で「本物」と「偽物」、「現実」と「夢」が逆転する。

 巧妙なことに、荒木飛呂彦先生の仕事机には、キャラクターの岸辺露伴を描いた生原稿が載っている。一方で、先述の『杜王新報』では、岸辺露伴が荒木飛呂彦先生について心中でさまざまに思い描いている。いったい、どちらがどちらを描いているのか? 図と地、夢と現実が反転していくトリックアートのような効果が、こんなにも入念に作りこまれた例を、わたしはほかにしらない。もういちど言うが、原画がすばらしいことは論をまたない。それとは別に、展示をひとつの作品として見たとき、ジョジョ展がエンタメ系においても突出した存在感を示したのは確かであろう。
 
 とはいえ、岸辺露伴のようなメタ的立ち位置のキャラクターを登場させ、原作で活躍させることも含めて、長い年月をかけて展示を作りこむことは、エンタメ系の展示においていつでもできることではない。そもそも岸辺露伴のように現実との接点を緊密に結ぶことができるキャラクター造形は、今日のマンガやアニメにおいてかなり特異であると思う(架空のキャラクターに混じって実在の編集者や漫画家が描かれる『バクマン。』にすら、岸辺露伴ほどのメタ的キャラクターはいない)。だからほかのエンタメ系の展示は、夢と現実をきわどく両立させるための、ほかの方法をそれぞれに模索しなければならない。難題である。しかしだからこそわたしは、アート系よりもエンタメ系の展示で新しいものが生まれるのではないか、という期待を持つのである。

 ジョジョ展とはあまり関係ないのだが、最後にひとつ、小咄を。
 先述のとおり、S市内には花京院という地名がある。今夏、ぶらりジョジョ散歩をしていて、「花京院スクエア」という建物を発見した。それだけならば特筆すべきことはないのだが、なんと、「花京院スクエア」と書いてある礎石のようなもの(?)が、「三角形」なのである。これを見たときわたしは「スタンド攻撃を......受けているッ!?」と戦慄した。さらにこの建物について少し調べてみたら、「三菱地所」の所有なのだという。いったい、スクエアなのか、三角なのか、菱なのか。さらに写真をよく見ると、「SQUARE」の「S」が抜けているのも地味に怖い。このようなミステリーが偶然にも開催地域に仕込まれているのが、「ジョジョ展」の持つ凄み、その血(地)の運命(さだめ)なのだ。


スクエアなのに三角形。これも開催地域に仕込まれたミステリーなのか

 もしかしたら、S市花京院だけではなく、六本木にも恐ろしいスタンド使いが潜んでいるかもしれない。それでも、いやそれだからこそ、読者はジョジョ展に行かざるを得ないに違いない。
 覚悟はいいか? オレはできてる。

ROOM FULL OF RECORDS - ele-king

 さまざまな配信サイトやデジタル機器の発展のおかげで、我々は世界中の良質な音源をたやすくゲットできるようになった。
 デスクトップ・ミュージックは、一昔前なら高価な機材を揃えなくては実現できなかった表現をパーソナルなモノにしてくれて、アーティストの金銭格差を縮めてくれた。
 これはとても歓迎することではあるのだが、ここ最近日本のアンダーグランド・シーンにわざわざアナログでリリースをする若者が増えて来たことは特筆するように思う。HOLE AND HOLLANDDJ P-RUFFの7インチ、まだ未見だが主に中央線沿線で活動を続けるBlack SheepもカセットテープによってMIX TAPEを新規でリリースしているという具合。
 彼らに共通して私が面白いと感じるのは、私のような昭和生まれのヴァイナル・ノスタルジー世代が「レコードこそ至上」と言うのとは違い、主に20代~30代前半でデジタル技術の恩恵を最大限に享受しながらも、自身の表現の手段としてアナログフォーマットを選択しているところだ。
 今回そんな流れから紹介させて頂くのは、長年CLUB MUSICを発信し続けている「manhattan records」内に設立されたヴァイナル専門のROOM FULL OF RECORDSだ。

 今年に入って着々とリリースを重ね、日本国内はもとより、つい先日東欧のディストリビューターとも契約した。日本発のヴァイナルがいよいよ世界各国へと発信される。一昔前ならこういう話も多々聞かれたことではあるが、前述の通り世界的にデジタル化が進む昨今では賞賛に値することだ。

 このレーベルの陣頭指揮を取っているのが、元CISCO HOUSE店にて長年店長を勤めていた野口裕代嬢。レーベル躍進の理由もうなずけると言えばそうなのだが、そこには並々ならぬ彼女の愛情と熱意が込もっている。
 私が何より嬉しいのは、こう言った先人のノウハウや熱意が若い世代といい具合にリンクしはじめていることだ。このような現象はDJカルチャーに留まらずさまざまな場面で起こっている(例えば宮大工や農業等)。
 ある意味技術革新も飽和状態になりつつある昨今、若者が自らの感性で失われつつある文化を選択している。そしてこういった伝承の精神こそが何でも画一化されて行きやすい今日において素晴らしい文化を守るヒントになっているのだと私は考える。

 随分前置きが長くなってしまったが、今回ご紹介させて頂くレコードはその〈ROOM FULL OF RECORDS〉から第3弾シングルとして発売されたばかりの「The Dubless - JAMKARET」だ。
 グループを率いるRyo of DEXTRAXは小生も関わらせてもらった「20years of Strictly Rhythm" Mixed by DJ NORI & TOHRU TAKAHASHI」でRE-EDITをお願いした彼の新ユニットである。〈Strictly Rhythm〉のときには来るべきデジタル時代を表現すべく「サンプリングスポーツの面白さ」として彼にRE-EDITを依頼したのを覚えている。今作とはまったく真逆の発想でお願いしたのだが、見事なEDIT-WORKを披露してくれたのも記憶に新しい。
 そんな彼が現在の地元である「吉祥寺Cheeky」にて開催されているPARTY「JAMKARET」にてUZNKと出会い結成されたのが、「The Dubless」だ。
 前作は同じく吉祥寺を地元とするLighthouserecordsの増尾氏にオープンリールのMTRを借りて作られたCD-R版のみのミニアルバム。思えばこの時からこのユニットの方向性は定まって居たのかも知れない。せっかくのCDであるのに悪く言えば「こもった音質」だったり、良く言えば「どこか懐かしい音質」を感じる意欲作であり問題作だった。余談だがこの夏の暑さでマスターのテープが少しノビ気味になったらしく「もう2度と同じマスターで違うアプローチが出来なくなった」と本人は嘆いていたが、そんな2度と同じ物が作れないからこそ、その時一瞬の価値が高まるとも僕は感じている。

 末筆だが最近デジタル機器を存分に駆使してる友人のMOODMANが、最近のデジタル音源をその店の出力機器に合わせマスタリングを自ら施し、同じ音源でも3種類は用意して臨んでいると言う話も付け加えておく。
 要は画一化されてると思われやすいモノでもどれだけの手間や愛情を注いだかでフロアでのプレゼンテーションの幅は広がり、その気を感じることもDJとクラウドとの素敵な相関関係としてのCLUBの醍醐味ではないだろうか。それは音質博士のウンチク話とは別次元の話だ。
 この辺の話は小生も熱くなりすぎるので、The Dublessの新作の紹介は彼らとも親交の厚い長谷川賢司にお願いしよう。(五十嵐慎太郎)

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The Dubless
JAMKARET/Blackkite

ROOM FULL OF RECORDS

 ライブ・アクトの出来るアーティストの作品をオリジナル+ダンス・リミックスという形態でヴァイナル化。〈ROOM FULL OF RECORDS〉の第3弾リリースとなる本作、Ryo of DextraxとUZNKからなるユニット、The Dublessの人気曲が遂にアナログ化~!!!
 吉祥寺を拠点に活動するryo of dextraxが、地元のナイスなミュージックバー"bar Cheeky"で仲間たちと開催しているパーティ名をタイトルに冠した "JAMKARET"は大気圏を突破し無重力の宇宙空間まで一気に飛び抜けるかのような強い推進力と高揚感に溢れたバレアリック・チューン。
 スペイシーなエフェクトとウネりまくるベースがやけにカッコイイ"Blackkite"はまさに漆黒のサイケ・ファンク!
 そして、Rondenionによるリミックスはカット&ループとエフェクトがムーディーマンやセオ・パリッシュに通じるデトロイト・ハウス・フィールでよりフロアー仕様!
 彼らのロッキッシュなサイケ・メタル感とUR的なヘヴィー・ファンク感が渾然一体となって聴く者を次元上昇へと誘うフロアーフィラー3チューンを180gのヘヴィー・ヴァイナルに収めた一枚!
 是非、フロアーに向けガンガン鳴らしていただきたい。末筆になるが、ジャケのアートワークも素晴らしい!  (Kenji Hasegawa)

The Dubless リリースPARTY @新世界
https://shinsekai9.jp/2012/10/12/dubless/

オウガ・ユー・アスホール - ele-king

 飄々としながら、ほとんど同じテンポで繰り返される『100年後』は、退屈さえも受け入れようとするオウガ・ユー・アスホールらしい開かれ方をしたアルバムだ。はったりはなく悲観もない、そして実はとんでもなく無理してはったりをかまし、悲観しているとも言えるが、たやすく涙に流されることをここまで拒んでいる作品はない。
 そんな問題作『100年後』から"素敵な予感 different mix"、12インチ・アナログ用の別ミックスのPVです。メンバーが企画制作すべてをてがけた意欲作。ele-king先行公開!



会いに行ける〈raster-noton〉。 - ele-king

 Olaf Benderとともにドイツのエレクトロニック・ミュージック・レーベル〈raster-noton〉の共同設立者として知られるFrank Bretschneiderの来日ツアーが行われる。東京公演は落合soupの6周年記念イベントとともなっており、スタッフ諸氏にも熱が入る。

 新宿区の落合を拠点として東京のDIYスペースの中でも異彩を放つsoupは、これまでに5周年記念としてMika Vainio(ex-Pan sonic)を迎える他、Mark Fell (SND)の単独ソロ公演やMark McGuire (Emeralds)のアンコール公演&DJ、日本初の100% Silkレーベル・ナイト、Dustin Wongの100分間ノンストップ・ソロ公演等々、「銭湯下のDIYスペース」という特殊な場所性を彩ってきた。配管工事や内装、音響設計、現場の進行やPAにいたるまですべてをDIYに行っているばかりか、スタッフ全員がノー・ギャランティ(売り上げはすべてサウンド・システムや店舗工事に回しているとのこと!)でイヴェントに携わるといった驚くべきアティテュードで運営されている。それぞれにラーメン屋を、電気技師を、保育士をと別々の仕事に従事しながら、音楽を紐帯として結びつく彼らは、みな90年代後半から2000年代の〈raster-noton〉などウルトラ・ミニマリズムに強く影響を受けてきたといい、今回の招聘にいたった背景がほの見えてくる。

 ツアーにはFrank Bretschneiderによるプロデュースのもと〈raster-noton〉初の女性アーティストとして注目を集めるkyokaが全公演に帯同。公演によってはフランク自身によるレクチャーなども開催予定とのことで見逃せない。

https://ochiaisoup.tumblr.com/post/..

 追加のDJに関しては、お客さんにライヴに集中していただきたいということで公表はしない方針のようである。

Frank Bretschneider & kyoka Japan Tour 2012

カールステン・ニコライ(aka. Noto/Alva Noto)らと共にベルリンを拠点に活動する、raster-notonの共同設立者、フランク・ブレットシュナイダーが来日ツアーを行います。
演奏家/作曲家/映像作家であり、レーベルraster-notonの運営と並行してエレクトロニック・ミュージックの過激な還元化と、サウンドとヴィジュアルとの相互作用から生じる美学の最前線を切り拓いてきた彼は、90年代後半のウルトラ・ミニマリズムやサウンドアートを強力に牽引、現在に至るまで絶大な影響力を誇っています。

■2012.10.10 (Wed) at Sapporo Provo
Open/Start 20:00/20:30

Frank Bretschneider
kyoka
sofheso
jealousguy

DJ: Mitayo

https://d.hatena.ne.jp/meddle/20121010

■2012.10.12 (Fri) "時間の音楽" at Kanazawa beta lounge
START 23:00

Frank Bretschneider
kyoka
Riow Arai
Kyosuke Fujita
Susumu Kakuda

https://susumukakuda.tumblr.com/post/31120576060

■2012.10.12 (Fri) Frank Bretschneider 特別レクチャー
"音と映像との相互アクション" at Kanazawa NEW ACCIDENT

20:00-21:00

*20名の入場制限があります。当日はお早めにご来場ください。
https://susumukakuda.tumblr.com/post/31120371870/frank

■2012.10.14 (Sun) "patchware on demand
-shrine.jp 15th anniversary party-" at Kyoto Metro

Open/Start 18:00

guest live :
Frank Bretschneider (Komet, raster-noton)
Christopher Willits (12k, Ghostly International, Sub Rosa)
kyoka (raster-noton)

shrine.jp live :
Toru Yamanaka
Marihiko Hara
dagshenma(higuchi eitaro) + Ikeguchi Takayoshi
genseiichi
HIRAMATSU TOSHIYUKI
plan+e
(大堀秀一[armchair reflection]&荻野真也&糸魚健一[PsysEx]+古舘健[ekran])

act :
tsukasa (post or dry?)
tatsuya (night cruising)

https://www.metro.ne.jp/schedule/2012/10/14/index.html

more lectures to be announced.


*ライヴ公演は10/10(水)札幌Provo、10/12(金)金沢beta lounge、10/13(土)落合soup、10/14(日)京都Metroとなります。

■Frank Bretschneider

プロフィールはこちらから

■Kyoka (onpa/raster-noton)

2012年にドイツのraster-notonより、レーベル初の女性ソロアーティストとなる作品『iSH』をリリース。これまでに坂本龍一等とのStop Rokkasho 企画、及び、chain music、Nobuko HoriとのユニットGroopies、Minutemen/The Stoogesのマイク・ワットとのプロジェクト、onpa)))))レーベルから3枚のソロアルバムなど、ヨーロッパを中心に活躍してきたKyoka。
ポップと実験要素がカオティックに融合された大胆かつ繊細なサウンドは、これまでも世界の多くの人を魅了してきた。
2012年4月にはSonar Sound Tokyoに出演、6月にはパリのセレクトショップcoletteのコンピレーションに楽曲「ybeybe (ybayba editon)」を提供。現在、フルアルバム制作中。

「どういう音楽を聴いてきたら、こういうものを作る女性になっちゃうんだろう?」─坂本龍一─

DJ Nobu - ele-king

 昨年から今年にかけてDJ NOBUには何度落ちた気分を救われたことだろう? 3月ASIAでのPARTY、Liquidroomでの7時間セット、そしてFREEDOMMUNEのときの名だたる世界中のアーティストの中でのPLAY。どれも私にとっては年間BEST PARTYに入ると言っても過言では無い感動をもらった。そんなDJ NOBUが新たに始動したレーベル〈Bitta〉と、彼の地元千葉で様々なPARTYを展開する「SOUND BAR mui」による共同オーガナイズPARTYが原宿神宮前の新スポット「garaxy」にて開催される。

 今回彼らが招聘するのはドイツのアンダーグラウンド・クラブ・ミュージック最重要レーベル〈Workshop〉だ。
 レーベルにスタンプのみをプリントしただけの謎めいたアートワークと、その優れた空間性を持つユニークかつ越境的なサウンドにより 世界中に熱狂的な信者を持つ、ドイツのアンダーグラウンド・ヴァイナル・レーベル。
 今回はレーベル・ショーケースということで同レーベルの看板アーティストであるKassem Mosse(カッセム・モッセ)によるLiveとレーベルを主催するLowtec(ロウテック)によるDJ、そしてDJ NOBU、GENKI NAGAKURAのDJというラインナップ。聞き覚えの無い方もいるかもしれないが、かつてMo' Waxのメイン・ヴィジュアル・ディレクターとして名を馳せ、いまはHonest Jon'sやスケートボード・ブランドのPalaceのアートワークを手掛ける英国の人気グラフィック・デザイナー、Will Bankhead(ウィル・バンクヘッド)のお気に入りのアーティストがKassem Mosseだ。またWillが運営する自主レーベル"Trilogy Tapes"から10年にKassem Mosseによる無題のカセットテープ作品が、また今年に入ってMix Mupとの共作LP"MM/KM"がリリースされており、その縁もあってかKassemのUKでの活動は純粋なテクノ/ハウス系というよりはダブステップ以降のボーダーレスな感覚を共有するパーティへの出演が多い。

 なお、前日は名古屋で良質なPARTYを発信し続けるClub MAGOでも同レーベルのショーケース・パーティが開催される。(五十嵐慎太郎)

workshop night

Featuring 
KASSEM MOSSE (WORKSHOP / MIKRODISKO / FXHE - LIVE) *EXCLUSIVE LIVE IN TOKYO
LOWTEC (WORKSHOP / NONPLUS / LAID - DJ)
DJ NOBU (FUTURE TERROR / BITTA - DJ)
GENKI NAGAKURA (STEELO - DJ)

2012.10.20 saturday night
at Galaxy

B1F 5-27-7 Jingu-mae, Shibuya-ku, Tokyo
open/start 22:00
adv 2,500yen  door 3,000yen

presented by Bitta & SOUND BAR mui

Ticket available at DISK UNION(SHIBUYA CLUB MUSIC SHOP, SHINJUKU CLUB MUSIC SHOP, SHIMOKITAZAWA CLUB MUSIC SHOP, CHIBA)、TECHNIQUE

*limited 200 people only 
*If you buy a ticket, you can enter with precedence
*You must be 20 and over with photo ID

*本公演は入場者200名限定での公演となります。
*開演時のご入場は前売り券をお持ちの方を優先させていただきます。
*20歳未満の方、写真付身分証明書をお持ちでない方のご入場はお断りさせて頂きます。

https://www.futureterror.net/news/dj_nobu/workshop_night.html 

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workshop night (Nagoya)

Featuring
Kassem Mosse (Workshop / Mikrodisko / FXHE (live))
Lowtec (Workshop / Nonplus+ / Laid - DJ & Live)
DJ Nobu (Future Terror / Bitta - DJ)
Se-1 (Black Cream - DJ)

Second Floor "旅路" @ Lounge Vio
DJs
Chee (Discosession/Organic Music)
Kaneda
DJ Avan (Pigeon Records)

2012.10.19 friday night
at CLUB MAGO

open/start 23:00
adv 2,500yen(1day) door: 3,000yen

presented by Gash & Black Cream
tour coodinated by Bitta

https://club-mago.co.jp/


 さらに、10/19(Fri)@名古屋MAGO、10/20(Sat)@ 神宮前Galaxyでのworkshopレーベルショーケースの開催を記念して、今回workshopが来日企画として特別に制作した日本限定発売の12インチ盤を各会場にて販売する事が決定!
 いまのところ詳細不明ですが内容はKassem MosseとLowtecの楽曲を収録したものとなる模様。
 プレス枚数は全世界で超限定50枚というプレミア必至の激レア盤です!

 昨年開催した一回目の「シブカル祭。」は、アート(立体、平面)からファッションから写真からパフォーマンスからフードまで、「女の子のための」と謳われていただけあって、妙齢のオッサンである私なんか、その、なんというか陽(ヤン)なパワーに圧倒されて、会場の渋谷のパルコから走って家に帰った憶えがあるが、前回の好評を受け、「シブカル祭。」が帰ってきました!

 2012年の「女子」たちに課せられたテーマは「女子のミックスカルチャー祭」。なんでも、昨年秋の第一回で、展示で隣り合ったクリエイター同士が意気投合して、合同展や共同制作の話がもちあがるなど、個を集めたフェスティヴァルから横軸の視点へ、「シブカル」という器そのものが参加クリエイターとの相互作用で、変質しつつあることを象徴するテーマが、今回は設けられました。つまり「ガーリー」のいいかえだと思われた「女子」カルチャーがその射程をじょじょに広げつつある現状を体現する文化祭が「シブカル祭。2012」といえるわけで、そんなこともあり、われわれ「ele-king」も、「シブカル」とコラボレートすることになりました。

 10月22日(月)の渋谷クラブ・クアトロ。

 この日は「ele-king LIVE at シブカル」と銘打って、TADZIO、平賀さち枝、Sapphire Slows、石橋英子、2012年秋にele-kingがレコメンドしたい4組のアーティストにご登場いただきます。
 今年リリースした『23歳』で、躍動感あふれるキュートな歌世界を構築した平賀さち枝、その風貌に似つかわしくないささくれだったガレージ・サウンドで好事家のみならず、ファンが急増中のTADZIO、紙『ele-king』Vol.6の特集でもブレないスタンスを表明し、海外での評価も高いSapphire Slows、ライヴの1週間前にピアノ・ソロ作『I'm armed』(傑作です)をリリースする石橋英子。かそけき音から轟音まで、フォークからIDMまで、弾き語り女子から宅録女子まで、ほかでは考えつかない、まさに「ele-king」らしいダイナミック・レンジを体感できる「ele-king LIVE at シブカル」にぜひおこしください! 当日は、メイン・アクト以外にも、DJやパフォーマンスで、意外なゲストもあるかもしれません。 (編集部M)

 ele-kingでは「ele-king LIVE at シブカル」に読者ご招待します。info@ele-king.netに、お名前とご連絡先、件名に「シブカル祭読者招待」と明記の上、メールしてください。抽選の上、当選者の方にご連絡さしあげます。締切は10/19(金)までとさせていただきます。


平賀さち枝

Sapphire Slows

TADZIO

石橋英子


シブカル祭。音楽祭2012
ele-king LIVE at シブカル

10.22 (Mon) @渋谷CLUB QUATTRO

石橋英子
平賀さち枝
Sapphire Slows
TADZIO
and more...

18:00 OPEN/START

チケット前売り:¥2,000(tax in / 1 drink order ¥500 / 整理番号付)

チケットぴあ:0570-02-9999(Pコード:181-353)
ローソンチケット:0570-084-003(Lコード:72495)
e+:https://eplus.jp

主催:シブカル祭。2012実行委員会 www.shibukaru.com

interview with Egyptian Hip Hop - ele-king

E王
Egyptian Hip Hop Good Don't Sleep
R&S Records/ビート

Amazon iTunes

 ドラムがいてベースがいてギターがいてヴォーカルがいて......ロック・バンドというスタイルがポップのデフォルトではなくなってすでに久しい。欧米においてはそうだ。メディアはギター・バンド時代の到来を煽っている。来年は本当にそうなるかもしれない、が、しかし現状でポップを代表するのはR&Bだ。ダンスであり、アンダーグラウンドではエレクトロニック・ミュージックである。

 エジプシャン・ヒップホップとはカイロのキッズによるラップ・グループではない。マンチェスターの4人の白人の若者によるロック・バンドだ。メンバーのひとりは、ジョニー・マーからギターを習っている。それだけでひとつの物語がひとり歩きしているが、彼らの音楽がストーン・ローゼズやザ・スミスやジョイ・ディヴィジョンのように、激しいまでに言いたいことを内包している音楽というわけではない。
 エジプシャン・ヒップホップの音楽はまどろんでいる。夢見がちなテイストで統一されている。そして、UKではなにかとパリス・エンジェルス(マッドチェスター時代の人気バンドのひとつ)の甘いダンサブルなフィーリングを引き合いに出して説明されている。アンビエント・テイストがあれば「ドゥルッティ・コラムみたいだ」と言われ、ファンクのリズムを取り入れれば「クアンド・クアンゴみたいだ」と書かれる。「マンチェスターのロック・バンド」というだけで夢を見れるというのも、若い彼らには迷惑な話だろうが、ある意味すごいと言えばすごい。
 17歳で結成されたこのバンドは、なにせその2年後にはハドソン・モホークをプロデューサーに迎えた12インチ・シングルを2010年に〈Moshi Moshi〉から発表している。それは15年前で言えば、エイフェックス・ツインがジェントル・ピープルを後押ししたようなものだ。

 エジプシャン・ヒップホップのデビュー・アルバムは結局、〈R&S〉からリリースされることになった。〈Moshi Moshi〉からの12インチではエレクトロ・タッチの、わりと真っ当なインディ・ダンス的側面を見せた彼らだが、アルバムでは思い切りよく方向転換をしている。
 タイトルは『グッド・ドント・スリープ』=「良きモノは眠らない」、そう、おわかりでしょう、これはおそらく、「チルウェイヴ」や「ヒプナゴジック」や「ダルステップ」なるモードへの反発だと思われる。連中は先手を打っているのだ。

 ところが、先述したように、夢見る『グッド・ドント・スリープ』にはポスト・チルウェイヴへのリアクションだと思われるフシがある。ファンクに挑戦しつつも、アルバムは気体のようなアレックス・ヒューイットのヴォーカリゼーションと心地よいダンサブルなビートをともなって、基本、柔らかく、ドーリミーに展開する。カインドネスをトロ・イ・モワへのUKからの回答と呼べるなら、エジプシャン・ヒップホップはウォッシュト・アウトに喩えられるかもしれない。

 いやいや、とはいえ、このバンドにはチルウェイヴの中道路線にはないサイケデリックと呼びうる音響がある。"Alalon"──僕には2004年のアニマル・コレクティヴの名曲"ザ・ソフィティスト・ヴォイス"を思い出させる──は最高の1曲だし、最後の曲"Iltoise"では甘美なアンビエントで着地させる。そこには、みんなと一緒に何度も何度も繰り返しトリップした、あの永遠の夏が待っている。
 それはサン・アロウないしは一時期のディアハンター/アトラス・サウンドのフィーリングとも重なるだろう。ただし、エジプシャン・ヒップホップのそれはUKらしくスタイリッシュで、とにかく録音が素晴らしい(USインディの商標であるローファイではない)。
 取材に答えてくれたのは、アレックス・ヒューイット。このバンドを作った張本人でもある。

Egyptian Hip Hop - Alalon
https://soundcloud.com/r-srecords/egyptian-hip-hop-alalon/s-gYPdV


僕たちの音も聴かずにどこから来たか訊いて「マンチェスター」とわかると「あ、マンチェススターね」って感じで音も聴いてもないのにひとくくりにされる。しかし、僕たちの音はマンチェスターの音じゃないと思う。

まずは結成までの経緯を教えてください。メンバー4人はどのように出会ったのでしょう?

アレックス・(以下、AH):会った場所はみんなバラバラなんだけど、最初に僕とアレックス(ピアース)が学校で同じ音楽の授業を受けて仲良くなったんだ。でもその後僕たちは違うカレッジに進んだんだけど、カレッジに行くちょっと前にニックと僕が知りあって、アレックス(・ピアス)は自分が進学したカレッジでルイスに会って、でもそれとは別で僕はルイスと知り合った。でもそのとき僕は音楽とはまだやってなかったんだけど、その出会いをきっかけに一緒に音楽をやるようになって、ルイスもアレックスを知っていたことから一緒にやろうって声をかけて、そこにニックも加わってみんなでやるようになったんだ。

4人ともマンチェスターで育ったんですか?

AH:うん、僕たち全員マンチェスターっ子だよ。

17歳のときバンドを結成したそうですが、最初はどのような共通意識のもとにバンドはじまったんですか?

AH:最初はただ面白そうだからっていう理由だったんだ。EHHの初期のステージは、僕とルイスのふたりでやってんだけど......。あ、もちろん他にも友だちに手伝ってもらってステージにはもっと人はいたけど、別にメンバーではなかったしね。
 でも本当にただ楽しいからやってただけで、それによって自分たちで曲を作っていたから披露してみたいのもあったしね。バンドの結成のいきさつってみんなそんな感じではじまってるんじゃないかな。

今日、ベッドルームでPCを使って音楽を作っている人たちが多いなかで、バンドという形態を選んだ理由は?

AH:4人で集まった時点で、コンピュータなんかやるより生で演奏したっていう気持ちが強かったんだ。もちろんコンピュータも使うけど、バンドのほうが楽しいからね。

ジョニー・マーからギターを教えてもらったという話は本当ですか?

AH:うん、本当だよ。ニックが12歳くらいのときジョニー・マーの息子と一緒にバンドをやってたんだよ。活動期間は短かったんだけどね。ニックはジョニー・マーと一緒に数回遊んでてもらったりしてたし、それにニックはザ・スミスの大ファンだしね。もちろんニックはすでにギターを弾けていたから弾き方というよりテクニックを教えてもらってた感じだね。

マンチェスターといえば、他にも、バズコックス、マガジン、ジョイ・ディヴィジョン、ザ・フォール、ドゥルッティ・コラム、ザ・スミス、ストーン・ローゼズ、ハッピー・マンデーズ、808ステイト、オアシス、オウテカなどなど、たくさんの素晴らしいバンドや歴史的な作品を出している街ですが......。

AH:すごいとは思うけど、時々そのことが面倒くさいと思ったりもする。僕たちEHHの音も聴かずにどこから来たか訊いて「マンチェスター」とわかると「あ、マンチェススターね」って感じで音も聴いてもないのにひとくくりにされる。
 僕が思うのは、僕たちの音はマンチェスターの音じゃないと思うんだ。僕たちだけじゃないと思うけど、とくにマンチェスターのようにムーヴメントがあったような都市の出身だったりすると勝手にそこにくくられるっていうのがある。聴けば全然違うのにさ。もちろんマンチェスターのバンドでいいバンドもたくさんいるんだけどね。
 例えば僕たちのアルバムの最後の曲とか結構エレクトロなナンバーで、これは808ステイトやジャロっていうアーティストとも近い音だと思うんだよね。よくマンチェスターだからってニュー・オーダーとも比較さえるけど、いちどだってインスパイアされたことはないんだ。

とくに好きなバンド、目標としたいようなバンドはいますか? 

AH:うーん、そうだなぁ、BE MY NERDはいいバンドだよね。あといま自分がすごい好きなのがWeird Jeroっていうバンドなんだけど、シューゲイザーっぽい、ニューグランジっぽい感じなんだ。あとはGreat Wavesっていうバンドも好きなんだ。彼らはとくにライヴがすごいんだよ。いま僕のお気に入りはこのバンドかな。

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正直言えば、DJの曲にも仕事にもとくに興味がないんだ。魅力もそんな感じないし。エレクトロミュージックは好きだけど、DJについては本当によくわからないんだ。

E王
Egyptian Hip Hop Good Don't Sleep
R&S Records/ビート

Amazon iTunes

とてもユニークなバンド名だと思うのですが、エジプト人でもないし、ヒップホップでもないのに、なぜエジプシャン・ヒップホップなんですか? その名前はどこから取ったのでしょう?

AH:最近よく名前について考えることがあるんだ。自分たちでも気付かなかったけど、実はけっこう深い意味があるんじゃないかと思ってるんだ。もちろんつけたときは、とくに考えずに付けたんだけど。いま思うと普通のバンドと違う名前だよね。通常は誰かの名前とか、なんか単語でつけたりするんだけど思うし、みんなもそういうもんだと思ってると思うけどね。ジャンルによってなんとなくバンド名も予想できるしね。
 たしかに変な名前だと思うけど......最初に付けた時はただ面白いからつけただけなんだけどさ。このバンド名でみんな、音を聴いたら混乱するだろうなって思ったのもあるんだけどね(笑)。だって僕たちがEgyptian Hip Hopという名前で音楽をやっているんだから、何にだってなれると思ったんだ。だって僕たちの音楽を聴いて音を想像できないでしょ? だから僕たちの哲学としては名前に囚われないってことだね。

2年前に〈Moshi Moshi〉と契約して、ハドソン・モホークをプロデューサーに迎えて1枚の12インチ・シングルを出しましたが、そのいきさつを教えてください。

AH:以前から僕たちはハドソンの作品をよく聴いていたし、すごく好きだったんだけど、僕たちのマネージャーが彼のマネージャーを知っていて、最初はREMIXを依頼したんだ。でも結局一緒に作ってみようって話になったんだけど。
 〈Moshi Moshi〉に関しては「一緒にやらないか?」と打診をもらってて、彼らの実績がすごくいいし、いろいろいいバンドの音源をリリースしてたからいいなって思って。ハドソンのスタジオは凄い設備でいい機材が揃ってて本当に有名なすスタジオなんだなって思ったし、そういうところでやるにもいい経験だったよ。

ダウンロードで音楽を聴くことが常識であるあなたがた世代にとって、ああいう風にレコードを出すことは特別な意味があるのでしょうか?

AH:レコードを作ること自体とても重要なことだと思うんだ。クオリティの問題もあると思うけど、「盤」と言うこと自体が僕は重要だと思ってるんだ。たしかにインターネットだと誰でも手に取れるし、探すことができる。でもレコードやCDってそれ自体がアートだと思うんだよね。ジャケットとかもそうだけど、僕たちにとっても自分たちがどういう音楽をやりたいかっていうことを証明してくれる大事なものだと思ってるよ、インターネットで音楽を流すよりずっとね。それにレコードを持っていれば後で聴き返したりして聴き返すこともできて、音楽に感謝できる瞬間でもあると思うしね。

最終的に〈R&S〉と契約したのはどうしてでしょうか?

AH:最初はユニバーサルと契約する予定だったんだ。でもいろいろあって話が流れて。〈R&S〉はいいアーティストをいっぱい抱えているし、僕たちがやりたいと思ったことを全部理解してくれて、僕たちにとっても〈R&S〉こそが僕たちが求めていたレコード会社なんじゃないかと思ったから契約したんだ。

あの12インチ・シングルを出したあと、しばらく音沙汰がなかったのは何だったのでしょうか? 自分たちの納得するサウンドが完成するのに時間がかかったということなんですか? とても完成度の高いデビュー・アルバムだと思いました。

AH:正直僕たちもなんで2年になってしまったのかはよくわからないんだけど......最初のEPを作ったとき、有名なプロデューサーやエンジニア、すごいスタジオ、とにかく過度な期待のなかで作業をしなくちゃなんなくて、その上結構すぐにその環境に溶け込まなきゃいけなかったんだ。出来上がりはもちろんよかったけど、自分たちが想像していたものとはかなりちがう感じに仕上がったんだ。
 その後、前作よりクオリティが下がってもいいから「自分たちらしい音」にできないかってことをずっと考えていて。もっといろいろインスピレーションを受けたものを反映したりね。それにライヴで新しい曲もやりたいなって思ってたし、もっとアートっぽく、自分たちらしい音楽が詰まった1stアルバムにしたいと考えてて。
 だから急がずに自分たちがやりたいことをじっくりやりながら、自分たちらしさが詰まったアルバムを作ろうと思って、時間とかをあまり考えず作業をはじめたんだ。決して経済的には長期化するレコーディングはいいことではなかったけれど、いいものを作りたいと再度クオリティを重視する方向で作業していたんだ。だからこんなに長くかかってしまったっていうのはあるんだけどね。

すごく独特の音の質感を持っていると思いました。独特の反響音、夢のなかにいるような質感、こうしたある種別世界的な音を創出することに関して、どのような考えをもってるのか、ちょっとコメント願います。

AH:いままで聴いてきたいろいろな音楽に影響されてできた音っていうことはあると思うんだ。何の音楽と比べてそういう質問をされているのわからないけど、いろんな音を研究してもっと音でスケールを広げられないかと試行錯誤してきたから、そういう特殊な音を出せるようになったのかもしれないけどね。独特のヴァイヴを出すこととかね。

録音がとても良いですよね。ベースラインもドラムも綺麗に鳴っています。自分たちのサウンドを探求するのに時間がかかったんじゃないですか?

AH:そうだね、いろいろ試したりして時間はかかったかもしれないね。もちろんこれからたくさん変わっていくとは思うけれど、まずは自分たちらしい音を出すことが重要だと思ってたから、その音を探すまでにけっこう試行錯誤を重ねた部分があったかな。僕たちはどんどん変わっていきたいし、それってすごく重要なことだと思うしね。

好きなDJがいたら教えてください。

AH:リミックス以外であんまりDJに興味がないんだ。エロル・アルカンは好きだけど、彼以外にとくに知らないっていうのが本音かな。正直言えば、DJの曲にも仕事にもとくに興味がないんだ。魅力もそんな感じないし。エレクトロミュージックは好きだけど、DJについては本当によくわからないんだ。

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