ジュネヴィーヴ・アルターディが歌う姿や歌詞を見ると、ついつい感情移入して、こんな気分の歌なんだろうな、と様々な感情が沸き起こる。しかし一方で、その感情表現で普通このハーモニーはないだろう、というような曲作りをしている気がして、冷静に音楽を聴いてクールだなと思ったりもする。実際、ジュネヴィーヴの歌は簡単に気持ちよく歌える展開にならず、聴いていくと「予測できること」からどんどん遠ざかっている。「ハーモニーと珍しいキーチェンジをつなぎ合わせて、メロディで接着する方法」という、ファンがジュネヴィーヴのチャンネルで書いていた説明には、なるほどと思った。そんな彼女の理知的にもみえる音楽プロセスや、音楽的リテラシーの高い人には出せないような感覚──衝動的で哲学的、皮肉でロマンチック、パンキッシュで繊細──といった絶妙なバランス感や身体的な感覚についても興味があった。
今回の新作『Forever Forever』は、ラップトップ上で制作された前作『Dizzy Strange Summer』から一変、ルイス・コール(ds)、ダニエル・サンシャイン(ds)、ペドロ・マルチンス(g)、チキータ・マジック(Syn-Bs)、クリス・フィッシュマン(p)といった多くのメンバーが参加した、スタジオ・レコーディングだ。彼女が書いたビッグ・バンドのための曲が半数を占め、これまで積み上げてきたオーケストレーションのスキルがミュージシャンたちとの信頼関係によって一層発揮されている。ひとつひとつの素材が生き生きと立体的に描き出されているのだ。振り返れば、今作の重要人物、ベドロ・マルチンスが2019年に出していた、アントニオ・ロウレイロ(ds)、フレデリコ・エリオドロ(b)、デヴィッド・ビニー(as)、セバスティアン・ギレ(ts)、ジュネヴィーヴとのライヴ・アルバム『Spider’s Egg (Live)』では、ジュネヴィーヴの声がペドロのギターと有機的に重なる瞬間があり、今作に通じるような音色のレイヤーを聴くことができる。ここで共演したデヴィッド・ビニーは2021年にジュネヴィーヴを迎えたシングルもリリースしており、彼女がいかに現代の俊英たちに影響を与えているかよくわかる。
そんなジュネヴィーヴが、新作に向かうまでのマインドや、それを形成している生活環境について答えてくれたことは、私たちにも前向きな生き方の示唆を与えてくれるものだった。
昨年12月のルイス・コール来日公演のオープングステージを見た人は、ジュネヴィーヴが、今作でも存在感を誇るチキータ・マジックこと、イシス・ヒラルドらと組んだ女性チームの表現力の強さに目と耳を奪われたことだろう。そこで断片的に見せていた様々な感情を『Forever Forever』では、愛や感謝、安心といった肯定的な側面に目を向け、それらをミュージシャンたちとともに丁寧に表現している。もちろん彼女の言う「変なコードを使ったりというところは変わらない(笑)」のだけれど。
ポップ・ミュージックがシンプルなコードのみを使ったものでなければならないとは思わないし、ジャズは複雑なコードを多用するべきだとも思わない。ジャンルや曲のタイプに縛られずに自分の書きたいように書いている。
■まずイシス・ヒラルドと、フエンサンタ・メンデスとの来日のパフォーマンスのことを聞きたいのですが、このふたりとはいまどんな活動をしているんですか?
ジェネヴィーヴ・アルターディ(Genevieve Artadi:以下GA):イシスとはよく一緒にやっていて。私も彼女のニュー・アルバムの “Dreams Come True” という曲で歌っているし、彼女が私の曲に参加してくれることもあれば、私が彼女の曲に参加することもあるし。パフォーマンスはよく一緒にやっているけど、共同で曲を書いたことはないから、近いうちに曲作りをすることを考えているところ。フエンサンタとは知り合って間もないんだけど、唯一一緒にやったのは、ルイス・コールのメトロポール・オーケストラとのコラボレーションプロジェクトだった。
■あなたたちのパフォーマンスは様々な感情の表現があって、女性の感覚もうまく出ているように感じて私は共感したんですが、そういう部分も意識してスタートしたんですか?
GA:あまり男性とか女性とか深く考えたことはないんだけど……とにかくバンドのヴォーカルとして歌いたいと思っていたから、彼女たちとバンドを組んだら楽しいと思った。曲のいくつかは女性的な特性を持っているし、ヴォーカルをレイヤーで重ねるのが好きだから、女性の声の方がいいと思って。とにかく一緒にやったら面白そうと思ったのが理由かな。もちろん男性のミュージシャンともたくさんプレイしているし自分の音楽性に合えば、そこにこだわりはない。なにか主義主張があって決めているわけではなくて。ヴァイブが合えばという感じ。
■イシスは、あなたの新作にも参加していますね。新作を作るとき、彼女からどんなインスピレーションをもらいましたか?
GA:彼女には制作の初期の段階から本当に深く関わってもらった。彼女は本当に面白いアイデアをたくさん持っていて、一緒に完成させた曲がいくつもある。それに、彼女から教わったこともいくつもある。例えば、私がきちんと音程を保っていないときは目で合図してくれたり。ライヴのときにはシンセも担当してくれていて、左手でコードを弾いて、右手でメロディを弾きながら歌も歌う。彼女はドラムマシーンもプレイする。彼女の曲を一緒にやったとき、すごく面白いリズムをドラムマシーンで編み出して。全然違う場所からやってきたようなオフセットのリズムで、それを曲にマッチさせていくのがとても興味深かった。それに、何と言ったらいいか……彼女の音楽は、とても強烈な個性と雰囲気を持っていて。そこにとてもインスパイアされる。
働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。
■あなたの音楽の経験で気になったことがあるんですが、幼少期にポリネシアン・ダンスをやっていましたよね。あなたの音楽につながっているんじゃなかと思って。
GA:うーん(笑)、そうね……10年ほどやっていたんだけど、ポリネシアン・ミュージックってとてもパーカッションの要素が強くて。6人くらいドラマーがいて、全員が違うリズムを刻んでいる。ダンサーは、リーダーのような人がいてその人の動きに合わせていく感じなんだけど、あまり頭で考えずにリズムを取りながら自由に踊れる感じ。だから、頭で考えずに自然とリズムを自分の中に取り込むことには役立ったかもしれない。それにメロディがとても綺麗で。綺麗なメロディをリズムに乗せるということは身についたかもしれない。
■そもそもポリネシアン・ダンスに興味を持ったのはどういうきっかけで?
GA:母がフィリピンに住んでいたことがあって、そのときに興味を持ったみたい。詳しいことはわからないけど、先生をつけてそれなりに本格的にやっていたんだって。子どもの頃、母が姉にポリネシアン・ダンスを教えていて、それで家族でパームデールに移り住んでからも姉はいろいろなグループと一緒にダンスを続けていて。そこで知り合った女性……私の将来の義姉になる人なんだけど、彼女の家族はサモア人で、「一緒に踊らない?」と誘ってくれたのがきっかけでやり始めた。
■面白いですね。それとブラジル音楽との関わりも興味があるんですが、あなたはアントニオ・カルロス・ジョビンの “Caminhos Cruzados” から影響を受けていますね。あなたの作ったビデオで知りました。
GA:カレッジ時代にヴォーカル・グループを指導していた先生に教えてもらった。初めて聴いたとき、「ワーオ、これは一体何!?」って感動して。あんな美しいメロディやハーモニーや歌声はそれまで聴いたことがなかった。色鮮やかで豊潤で……それでいて余計な装飾が何もなくて。見せびらかすような派手な演出は一切なくて、ただ感情の深みが表現されていて。この曲が持つメロディやハーモニーの展開にとにかく惹きつけられた。その頃、10曲かそのくらいブラジル音楽の曲について学んだんだけど、本格的にブラジル音楽を聴くようになったのは数年前にペドロ・マルチンスに出会ってから。
■ペドロは今回のアルバムの全曲でギターを弾いているし重要な存在ですよね。彼との出会いと今回のコラボレーションのきっかけを教えてください。
GA:もともと私がこの “Caminhos Cruzados” を自分で歌った動画を投稿したことがきっかけだった。それをペドロが観て「君がポルトガル語で歌えるのは知らなかったよ」ってメッセージを送ってきて。ペドロがブラジル出身のミュージシャンだったことは知っていたけど、実際に会ったことはなかった。それで私がロンドンにいるときに、彼がメッセージを送ってきて。「ちょうどロンドンでアルバムのミキシングをしていて、君のショーを観に行きたいんだけど」って。それで、「一緒にステージでプレイしてみない?」と訊いたら、快諾してくれて。でも実際に顔を合わせたのはステージの上なの。その前に会うタイミングがなかったから、「ペドロ・マルチンス!」って彼の名前を呼んで、それでペドロがステージに上がった。それが出会い。そのあとすぐにペドロが、友人でベースプレイヤーのフェデリコと一緒にLAに来た。それで私たちの家に滞在して、セッションしたり一緒にギグを観に行ったり、音楽的なことを中心にして親交を深めていった。
■なるほど。あなたの作品にブラジル音楽はどんな風に入っていますか?
GA:いかにもわかりやすい形で取り入れているとは思わないし、そうするつもりもない。どこかで影響を受けてはいるんだろうけど、自分の曲を書くときはあまり意識していないと思う。ただ、ブラジル音楽の持つ美しいメロディやハーモニーを思い出して、そんな曲を書いてみたいと思うことはある。
■その曲作りのことなんですが、ジャズのヴォイシングやヴォーカル・アンサンブルをカリフォルニア大学で学んでいますよね。このときの経験はどのように生かされていますか?
GA:大学に通う前にもバンドを組んでいたことはあるけど、当時は曲の書き方もよく理解していなかったから、同じようなコードやメロディばかり繰り返し書いていた。だから、大学で違うコードの使い方やメロディの書き方、管弦楽法や他のミュージシャンと一緒に音楽を演る方法やインプロヴィゼーションの方法なんかについて広く学ぶことができたと思う。その上で私がいちばん気を付けていることは、自然な流れで曲を書くこと。ひとつのパートに固執して、そこで立ち止まってしまわないようにすること。教師は、曲の構成についてある一定のルールがあることをとても重要視していて、ここでこのコードは間違っている、このコードの次はこれが正しい、という法則に則っているけれど、私はなるべくフォーマットのようなものは考えずに、自然に、好きなように書くように心掛けている。ポップ・ミュージックがシンプルなコードのみを使ったものでなければならないとは思わないし、ジャズは複雑なコードを多用するべきだとも思わない。ジャンルや曲のタイプに縛られずに自分の書きたいように書いている。いちばん大切なことは、私が何を表現したいかということだと思っているから。だから、もちろん大学で学んだ音楽理論は役には立っているけど、それよりもコードの持つトーンや色味や、音楽の歴史のようなものの方が身についているような気がする。
[[SplitPage]]なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。
■前作からあなたの声の質感も変化しているように感じます。あなたは技術的にどうやって声をコントロールしていますか?
GA:それについては意識的にかなり自分でも努力してコントロールしている。今回のアルバムに関して言えば、曲作りとスタジオでのレコーディングの間にかなり時間があったから、何度も何度も歌を練習した。いくつかの曲はライヴで演奏したりもした。それで、実際にスタジオに入ったときには、ほぼワンテイクでレコーディングするようにしたかった。家で録音してみて歌い方を考えたりして、スタジオでは完璧に歌いこなすことで、歌に集中できるようにして。
■私は前作の『Dizzy Strange Summer』を聞いて、愛の複雑さや自由への欲求を感じました。これを聞いた後に新作『Forever Forever』を聞くと、気持ちが洗われるような美しさや秩序を感じました。このアルバムを作るまでにどんな気持ちの変化がありましたか?
GA:いくつか大きな出来事があったけれど、いちばん大きかったのはペドロとの出会い。彼と付き合うようになったのは、私にとって本当に大きな変化だった。自分自身と向き合うようになったというのかな。自分の問題に向き合えるようになった。彼との関係を深めていく中で、瞑想を始めたり、本を読むようになったり、ティク・ナット・ハンやラム・ダスのビデオを観たり……自分を見つめ直したり、より健康な生活を意識するようになった。ちょうど彼と出会った頃は自分をもっと解放すべき時期に来ていたんだと思う。それまでの私は働きづめで、自分の時間を楽しむ余裕がなかった。余裕がないから、自分勝手に生きていたと思う。それは自由とは違う。いまは「気が狂っていた時期はもう終わり」という感じ(笑)。
■(笑)どんなことを毎日の習慣にしているんですか? いまお話にも出ましたが、健康的な食事生活や、瞑想など何かルーティーンにしているものがあれば教えてください。
GA:可能な限りヴェジタリアンを選択している。充分なプロテインが摂れないときは卵を食べたりするけど、なるべくヴィーガンの食生活を貫くようにしていて。あとは1日2回、毎日瞑想する時間を持つようにしている。本当は瞑想する日もあればしない日もあるというようにしていきたいんだけど、瞑想するのとしないのでは私の心身の状態が全然違うの。
■以前に比べて、精神的に落ち着いたり穏やかになったりしたと感じますか?
GA:そうね、前ほど感情的な起伏もないし、周囲の人たちに対してとても忍耐強くなったと感じる。自分の心の中に余裕が生まれたというか。家でひとりでいるときは前から心に余裕があったんだけど、逆にだらしなく過ごしてしまっていたし(笑)。でもいったん外に出ると、自分の社会での立ち位置というか、役割をつねに考えてしまっていた。なるべく聞き役に徹して、相手に緊張感を感じさせないようにしたり。私と話した人はみんな「君と話していると自分らしくいられる気がする」というようなことを言ってくれるんだけど、私自身は気を使いすぎてクタクタになってしまっていた。でもいまは人付き合いを円滑にできるだけのエネルギーを得た感じ。
■先ほどお話しに出たティク・ナット・ハンのことをもう少し聞きたいです。
GA:私は何かの問題にぶつかると、すぐにグーグルに訊いちゃうよくないクセがあるの(笑)。でもそんな問題の答えをググってみても「そんなやつ追い出しちまえ」「あなたはそんな目に合うべき人間じゃない」みたいな、怒りに満ちた答えしか見つからなくて。でも、その自分の問題と仏教、ってググると、もっと根本的な解決方法が見つかることに気づいた。そこからティク・ナット・ハンのような名前に行き着いて、彼の本を読んだりビデオを観たりした。彼の言葉には本当に助けられた。
■彼の教えであるマインドフルネスについて、あなたはどんな風に考えていますか。
GA:とても美しい考え方で……すべての人に彼の教えを実行してほしいと願っている。例えば、彼はイスラエルやパレスチナの人たちをひとつに結ぶことができると語っている。どんな人間同士でもコミュニケーションは可能であるということ、互いをコントロールすることは可能であるということ。それは戦いで相手を屈服させるという意味ではなくて、互いを尊重し合うということ。自分自身を大切にすることができれば他人を大切にすることもできる。自分の愛する人を大切にすることができるということ。私はほとんどの場面ではかなり忍耐強い人間だとは思うけど、いくつかの地雷があって、それを踏まれると怒りをコントロールできなくなるところがあった。でも、彼の教えを実行していく中で、かなり自分を律することができるようになってきたと思うし、これからも続けていきたいと思っている。
■ティク・ナット・ハンのそんな考えは、あなたの今の音楽にも影響していますよね?
GA:そうね、そう思う。歌に対するアプローチに影響を与えていると思うし、音楽づくりのプロセスの中で、自分自身を律して根気強く向き合うことを教えてくれたと思う。自分の頭の中で考えすぎずに、人の意見もよく聞くようになったと思う。それに、自分の音楽をよく聴いて、いま自分がやるべきことや置かれている状況をよく理解することで、すべてのことがうまくいくようになったと思う。
できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。
■では今回のアルバムは、具体的にはどのような順番で作られたのですか?
GA:曲を書くときはいつもできるだけ自分の頭の中にあるアイデアを明確にしてから書くようにしている。ジャム・セッションは緊張するというか、得意ではないからそこから曲を作ることはほとんどない。2019年にスウェーデンのノーボッテン・ビッグ・バンドから、専属の作曲家にならないかというオファーがあって。それでコンサート用の曲をいくつか書いてデモを作った。コンサートが終わったあと、書き下ろした曲の半分を自分のソロ・ルバムに入れたいと思って。だからこのアルバムの曲のいくつかはふたつのヴァージョンが存在することになる。それからアルバム用に曲を書き足していって、スタジオでバンド・メンバーと相談しながら「ここにこれを入れよう」「このソロは誰が弾く?」という調子で作っていった。ああ、中にはそれより前に書いた曲もあるね。いちばん古いものは2017年頃に書いたんじゃなかったかな。とにかく、スタジオでみんなでアイデアを出し合って作ったものだけど、全体的なヴィジョンはすでに私の中にあって、それを明確にしてからレコーディングに入るというプロセスが私のやり方。
■参加したミュージシャンからどんなアイディアや個性を引き出しましたか?
GA:ルイス・コールは全体に魔法を使ってくれた。それにピアノのクリス・フィッシュマン、ダニエル・サンシャインはドラムを何曲かと、ミックスとマスターを担当してくれたし、ヘンリー・ハリウェルがエレクトロニックな部分をやってくれた。彼は、私が作ったデモの何曲かのドラムをもっとクールなものにしてくれたりした。それと何曲かではダリル・ジョンズがベースを弾いてくれている。
■Knower でのデビュー時からあなたの作曲の才能はとても評価されているし、今回特にあなたのプロデュース能力も発揮された内容だと思います。プロデューサーという立場で、この作品をどのように解釈し作ったか教えてください。
GA:そう言ってもらえて嬉しい。ありがとう。今回は、当初はビッグ・バンドのために作曲したから、いままでのようなプロセスは踏めなかった。いつもはデスクに向かって自分のアイデアをクリアにしていく作業なんだけど、どんな音を実際に入れるかというのはそれほど選り好みしないで曲を作っていった。でも、今回はここでサックスを入れる、ここで自分のヴォーカルをレイヤーで重ねる、というそれぞれのパートを曲作りの段階で細かく決めていく必要があった。もちろんどうしても隙間ができるから、それを少しずつ埋めていく感じの作業だった。ビッグ・バンドとレコーディングするわけだから、全てのパートにおいて私が指示を出せなければ曲を作ることは不可能でしょう? だから作曲と同時にプロデュースもすべておこなうというプロセスだった。演奏する人たちが興味を持ち続けられるように、その上で私がどんな曲にしたいか、そのヴィジョンを明確にするということに集中した。このアルバムはその延長上にあるものだと解釈している。
■歌うことだけではなくプロデュースをすることや曲を作ることのやりがいはなんですか? 挫折しそうになったときは、どうやって乗り越えましたか?
GA:私はけっこう選り好みするタイプ。歌を歌うときは、その曲が「良いもの」(笑)でなければイヤなの。私はつねに自分がどんなものを求めているのか、明確なヴィジョンがあるけれど、それをどうやって実現すればいいかはわからない。とてもフラストレーションを感じる。自分が信頼している人と曲作りをするときはスムーズにやりたいことに近づけることができるけど、そうでない場合はまずは意思表示して、私の描いているものを理解してもらう必要があるでしょ? それがなかなか伝わらなくて、相手も「結局何がやりたいの? 自分にどうして欲しいの?」って戸惑うことになってしまう。すごく時間が掛かるし、できあがったものに完全に満足することはほとんどない。大体いつも、自分が表現したいことの半分くらいしか表現できない。でも、私はすべてを完璧に表現したい。だから、私は信頼する人たちと一緒に音楽を作るべきだという風に考えるようになった。もちろん誰かと一緒に作品を作るときは、それぞれのスケジュールを合わせなければいけないから、途中で長いこと待つ時間が必要になることもあるし、スケジューリングは本当に大変な作業。それでも、スタジオでコラボレーションをするのはとても好き。音楽づくりはそもそも共同作業だと思っているし。だから、私はプロデュースをするときも、みんなの意見にとてもオープンであるようにしている。それも、ただイエス・ノーを言うだけの存在ではなくて、いろいろな意見やアイデアを交わしながら一緒に作っていくことに積極的だと思う。でも最終的な判断を下すのは自分。自分の作品をプロデュースするということは、自分に決定権があって、最終的には自分の満足のいく作品にできるということ。とてもやりがいを感じる。
■とても興味深いですね。スタジオでの作業を見てみたいです。今後コラボレーションしたいアーティストや、これからの予定を教えてください。
GA:そうね……ライアン・パワーとぜひ何か一緒にやりたい。ステレオラブのレティシア・サディエールともぜひコラボレーションしてみたい。とにかく自分の好きな人たちと何か一緒にやれたらいい。ビョークともやってみたいけど……彼女がオファーを引き受けてくれるとは思えないけど(笑)。それと、すでに次のアルバムの構想ができあがっている。アニメを大量に観ていた時期だから、それに影響を受けたロックっぽい内容になるかもしれない(笑)。今回のアルバムとはかなり違ったものになりそうだけど、それでも変なコードを使ったりというところは変わらないと思う(笑)。