「KING」と一致するもの

interview with Analogfish - ele-king


Analogfish
NEWCLEAR

Felicity / SPACE SHOWER MUSIC

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 最初に下岡晃が提案したアルバムのタイトルは『ディストピア』だったという話を、取材が終わってから知った。しかし、どうした理由からか、下岡はタイトルを『NEWCLEAR』に変更した。政府がいつ再稼働するのかうずうずしているようなときに、ある意味では挑戦的なタイトルだ。
 しかし、さらに考えてみれば、そういう時期に『ディストピア』を大々的に言うことも、面白かったのではないのかと思う。「ノー・フューチャー」とはっきり言うことで開ける未来もあるからだ。あるいは、音楽で「ウィー・アー・フューチャー」と言えば、アシッド・ハウスである。いずれにせよ、人生とはそんないいものではないと言うことは立派な激励で、ことに20世紀のロックは、「いいものではない」と言ってあげる役割を負ってきている。
 だから筆者は、アナログフィッシュがいかなる魂胆で、前向きになっているのかを知りたかった。311直後に『失う用意はある?それともほうっておく勇気はあるのかい』をリリースして、およそ半年後に『荒野/On the Wild Side』を出したロック・バンドは、311に照準を合わせるかのように、1年半ぶりのアルバムを発表した。1曲目の"Super Structure"は、もったいぶらずにさくっとはじまり、さくっと歌が入る。オーソドックスだが、ドライヴするリズムのハイテンションの曲調のなか、下岡晃が言葉を矢継ぎ早に出す。筆者が思うには、アルバムのベスト・トラックである。

 大都市にそびえ立つビルの最上階
 一人たたずむ男はコントロールフリーク
 管制塔から今も君の事じっとみつめてるんだぜ

 決められたルール与えられたコースから
 逃げるルートの裏の裏までもが想定内
 この街の中で彼の目から逃れる事なんて出来ない

 ザ・クラッシュの"コンプリート・コントロール"と同じ主題だ。こうした苛立ちは、"Watch Out(サーモスタットはいかれてる)"という曲にもうかがえる。そう言う意味では、アナログフィッシュは変わっていないと言えば変わっていない。
 とはいえ『NEWCLEAR』には、感傷的な要素も多分にある。失恋とも別離とも受け取れる"Good bye Girlfriend"のような曲はその代表で、それどころか、そのものずばり"希望"という曲さえある。「希望」「希望」「君の存在自体が希望だと思った」という素朴なラヴ・ソングなのだが、その曲に続くクローザー・トラック、やけのはらが客演する"City of Symphony"は、アップリフティングな、心温まるヒューマニズムの世界である......さて、アナログフィッシュがいま見ているところとは......さあ、今回は下岡晃に訊きたいことがたくさんあるぞ!

「忘れないぞ」っていう気持ちもあったし。子どものころ「ニュークリア(nuclear)」ってああやって(newclear)書くと思ってたんですよ。97年に京都議定書のときに言われてたのって、安全だし、CO2も削減できるし、クリーンなパワーだみたいなことばっかり言われてたから。

今日は下岡くんに食ってかかるぞ。

下岡:なんでですか(笑)。

嘘です(笑)。でも、ガンガン意見を言ってください。

下岡:はい。

『NEWCLEAR』というタイトルにしたのは、原発問題が中心にあるということを暗示しているわけですよね。

下岡:たぶんいくつか理由があったと思うんですけど。ひとつは、コンパクトで前向きなタイトルをつけたかったこと。あとは......でも原発のこともきっとあったんだろうなあ......「ニュークリア」って言ってるんだから。

はははは、それはそうでしょう!

下岡:なんか、「忘れないぞ」っていう気持ちもあったし。あと、子どものころ「ニュークリア(nuclear)」ってああやって(newclear)書くと思ってたんですよ。

へえ。核のニュークリアを。

下岡:そう。で、97年に京都議定書のときに言われてたのって、安全だし、CO2も削減できるし、クリーンなパワーだみたいなことばっかり言われてたから。

そうだよね。

下岡:で、ニュークリアって新しくてキレイだし、こうやって書くんだよなって勝手に思ったの。

僕も憶えている。環境問題にひっくるめられて、どんどん原発が促進されていったときだね。たしかにそういう時期がありました。

下岡:俺にとってはニュークリアはそれがいいなっていう(笑)

アルバムのトピックのひとつを言うと、いま下岡くんが言ったように、僕も前向きさにこだわった作品だと思ったんですけれども。この新作の方向性っていうのはどのような経緯で決まったんでしょうか?

下岡:方向性っていうのは、はじめから説明すると、ここに落とそうと思って作った盤ではぜんぜんなくて。あのあとけっこうすぐ、"抱きしめて"って曲を録ろうって話になったんです。

"抱きしめて"があのあとにすぐできた?

下岡:いや、"抱きしめて"も震災前に作ってあったの。で、ああいうこともあって、自分で歌う気がしなかったんです。でもそのうち、歌いたいような気持ちがムクムクと出てきて、で、歌ってみたら「いいぞ」って話になって。それで、まずそれを録ったんですよ。そこから月イチとか2ヶ月に1回とかのゆっくりしたペースで作っていって。それを集めたらこれになったっていうのが一番近いかな。

じゃあとくに意識的に方向性を決めたってわけじゃない?

下岡:ない。でも、最終的にNEWCLEARってタイトルにしようとしたのはまた雲行きが怪しくなってる中でここから新しくはじめようってステートメントを掲げようって思って。それが前向きかはわからないけれど市井のくらしの中にある希望みたいなのは拾っていこうと思った。そういう物まで一緒くたに失われたかのような感じがいやだったから。

"抱きしめて"って曲も311以前だったんだ。

下岡:そうです。

一種の疎開現象みたいなことを匂わせているフレーズが、"Good bye Girlfriend"とか"My Way"とか、いろんな曲で見受けられると感じたんですよ。だから"抱きしめて"なんかはどう考えても311以降に作ったのかなと僕は思っていたんだけど。「危険だから引っ越そう/遠いところへ引っ越そう」っていう言葉からはじまるわけだし。

下岡:作ったときは地震のことを思ってましたね。ずっと自分に来るべきものとして怖がっていたものだから。

ひとが東京から離れていく現象について言及が曲の断片から出てくると思うんだけど、それに関して下岡くん個人はどういう気持ちでいました?

下岡:あのときですか?

うん、だから"Good bye Girlfriend"みたいな曲もそういう想いがきっと入っているのかなと思って。

下岡:あれは(佐々木)健太郎が作ってて。あいつが何を言おうとしたかっていうのは、直接俺がすぐ口にできないんだけど。僕はこれは純粋なラヴ・ソングとして理解してる。でも、疎開現象については......。

僕の深読みなのかな。でも、けっこう周りにいました?

下岡:僕の近くに出てしまったひとはいなかったですけど、みんな考えてたし、一時期いなくなったひとはけっこういましたね。

それはけっこういたよね。

下岡:いました。俺もでも考えたけど、じゃあそこで何するんだろって思っちゃったっていうか。そのときってどうでした?

僕の周りではいるんだよね。子持ちが多い世代だから。

下岡:でも俺も子どもいたら絶対そう思うし。

僕、子どもいるけど思わなかったな(笑)。

下岡:そうなんだ。

周りからは「疎開したほうがいいよ」って言われたんだけど。できるひとは疎開したほうがいいかなって思ったんだけど、僕は現実的にできる状況じゃなかったし、長生きが人生の目的じゃないし。ただ、子供がいるといろいろ難しいよね。やっぱりそこで、最初に心のほうがやられてしまったってひとがいるじゃない?

下岡:たしかに。

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ある人に言わせれば、俺がいま言ってることなんて、「あんなこと言っちゃってるよ」的なことだったりするわけじゃないですか。でも、そういうのを逆にあんまり感じない。俺が見てないだけで、そういうひとは絶対いるんだけど。うん。いるけど、そういう面は少し薄らいできてるんじゃないかなという気がします。

下岡くんのなかで震災後のそういう動きは意識しているんですか?さっき1曲1曲には意味があるって言ってましたけど。

下岡:うーん......そこを意識してるっていうか、たとえば"抱きしめて"って曲で歌われてるのって、震災前にできた曲なんですけど。

じゃあ、そもそもこれは、どういうところからできた曲なんですか?

下岡:これは、僕は子どもの頃から地震が怖くてしょうがなかった、とにかく。長野で育ったんですけど、地震が怖くてどうしようもなくて。この曲作るときも「じゃあ、音楽やめて安全な所に引っ越すのか?」とか「そもそも安全な所ってあるのか?」ってずっと考えてて、で結局僕は東京に住んで音楽をやるっていうのを選んだんですけど。そうしていないと僕には意味ないから。

長野には地震ないじゃないですか~。

下岡:でも僕の住んでいたところは東海地震のナントカ区域にギリギリ入ってて。けっこう大規模な避難訓練とかがあったりして。そういうことを一回聞くと、「怖い怖い」ってなっちゃう子どもだったので、とにかく怖くてしょうがなくて。東京出てくるときにも引っかかったのが、関東大震災っていうのがあったって知ってるから、どうしようと思って。バンドやりたいけど地震が起きるかもしれないしっていうのは、ずっと考えながら暮らしてたから。
 で、抱きしめてを書いた後に地震があって、最初はやっぱり不謹慎じゃないかとか誰かを傷つけるんじゃないかとか思って歌えなかったんですけどニュースとかで震災の事を見てるとやっぱりどこにも行けなさっていうか、逃げ場の無さみたいな物を感じざるをえなかったり、被災して途方にくれてる人とか見てるうちになんかフツフツと歌おうかなって気に徐々になって。

サウンド的に言うとね、一言で言っちゃうとグルーヴを意識した作りになってるなと思ったんですけど、下岡くん的にはどんな風に今回のテーマと絡めて考えてました?

下岡:作りに関しては最初はサウンドのことがあって、ドラムとベースとギターがあるけど、ギターがなるべくコードを鳴らさないでって。

あんまガチャガチャしてないし、ストイックだよね。

下岡:ストイックにして、ドラムのリズムと言葉で持ってくようなイメージがあって。だから1、2曲目の感じ。

1曲目はほんとそれが顕著に出てるね。

下岡:1、2曲目の感じでぜんぶ作ろうという青写真を描いていたんですけど、作りはじめたらそうならなかったっていう(笑)。

でもギターの音数を減らして、ドラムやベースも派手なラインを弾くわけじゃないですか。そのミニマル感っていうのは今回のアルバムのテーマとどんな関係にあるんでしょう?

下岡:テーマとの関係っていうよりは音の少なさとグルーヴ感っていうのは今自分が伝えたいメッセージっていうか歌詞を伝えるのに一番理想的な形だったからですね。で、『荒野』でそういうのをやりはじめて、で、いちばん最初にアルバム作ろうって思ったときにそれをもう少し突っ込んでやろうってことだったんですよね。

今回のアルバムを作る上での最高のモチベーションって何だったんですか?

下岡:モチベーションっていうか、さっき言ったみたいに月に1曲とかふた月に1曲とかで曲を作ってたんですけど。まさにそれが言いたいことだったから、それを形にしたいっていう気持ちと、あとはその活動しているときに、たとえばライヴが盛り上がったりとか、動員が少し増えていったりっていう実感が伴ってたから、そういうものでしたね。

じゃあ活動そのものの手ごたえみたいな感じ?

下岡:うん、『荒野』以降の。

311直後にちょうど『失う用意はある?』が出たよね。あのタイトルが、はからずとも、現状ではマズいと思っていたひとたちの気持ちを代弁するような言葉になってしまったということを、2年前に話したと思うんですけど。実際、311以後、我慢するということを真剣に考えるようになったり。そういう、アナログフィッシュのメッセージ性に共振しながらリスナーは増えていってるわけだよね?

下岡:全然そうだと俺は思いますけど。言ってることは伝わってるって......そう思っているひとがいるんだなっていう理解の仕方をしてます。

具体的にどういうリアクションがあったの?

下岡:具体的にって言われると難しいですけど、単純にライヴが盛り上がるとか、あとは「あの曲のあの歌詞が好きです」って言われるとか。たとえば"HYBRID"っていう前作った曲とか、"PHASE"の「失う勇気はある?」のラインに何かを重ねてくれるひともいるみたいだし。
 でも、なんだろうな、それはバンドだから音楽が鳴っているときだけ作用するじゃないですか。俺はさっきそれが伝わっていると思うと言って、それは間違いないと思うけど、それはメッセージというよりは音楽全体についてみんな言ってるんだと思うし。ある人に言わせれば、俺がいま言ってることなんて、「あんなこと言っちゃってるよ」的なことだったりするわけじゃないですか。

政治アレルギーとか、シニカルに見れば「何を偉そうに」みたいなね。

下岡:そうそう。でも、そういうのを逆にあんまり感じない。俺が見てないだけで、そういうひとは絶対いるんだけど。うん。いるけど、そういう面は少し薄らいできてるんじゃないかなという気がします。

たとえば僕が住んでいるところの駅のTSUTAYAがあれ以来ずっと節電してるのね。夜になっても暗いわけですよ。でも、TSUTAYA全体が節電してるかと言えば、そういうわけじゃなくて。やっぱりそれに対して意識的なひとと忘れてしまったひとと、けっこう分かれている感じも片方ではして。

下岡:テレビとか見てても、アベノミクスみたいな論点がすごくクローズアップされていて、「いやいや俺忘れてないぜ?」っていう。

そこは今日の重要な議題だよね(笑)。

下岡:結局、あのときで俺がいちばん話したかった論点は、アベノミクスじゃなくて、どうやって幸せになっていくんだってことを考えるってことじゃないの、っていうかさ。アベノミクスっていうのはまた元の状態に戻そうって声高らかに言い出したようにも見えるから。だから、巻き戻るんじゃないかって気がしてるけど。疲弊してる経済を立て直すって事自体は大切なことだけど、経済大国を維持するために弊害もいっぱいあったのに。

ある意味、311直後にインタヴューしたときよりも、現在の方が希望が見えなくなってる感じもあると思うんですよ。たとえば、テレビなんて観るのも嫌になるぐらいのところがあるじゃないですか。

下岡:ありますね。

で、たまたま本屋に言ったらさ、『週間金曜日』が〈絶望〉の特集をしてたんだけど(笑)。

下岡:何それ(笑)?

いや、立ち読みしたんだけど、「自分たちから絶望を奪うな」って話なんだけど、僕には共感できる部分があった。絶望っていうのは必ずしもネガティヴなことではなくて、とことん絶望するっていうのは実は前向きなことだっていう話もあるしね。そういう意味で言うとさ、今回はアナログフィッシュはすごく希望を歌いたがっていると思ったのね。

下岡:たしかに。

なにゆえそこまで希望を歌いたかったのかっていうのが今日の取材の主題かなと思ったんですよ。

下岡:"希望"って曲がありますからね。

そう。

下岡:たしかになあ。

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あのときで俺がいちばん話したかった論点は、アベノミクスじゃなくて、どうやって幸せになっていくんだってことを考えるってことじゃないの、っていうかさ。アベノミクスっていうのはまた元の状態に戻そうって声高らかに言い出したってことだから。


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"抱きしめて"みたいな曲は、希望に溢れている曲とは思わないんですけど、やけのはらが参加した最後の曲("City of Symphony")なんかは、ちょっと無理してるんじゃないかなと思ってしまったぐらいで(笑)。

下岡:たしかに。でもさっきの「自分たちから絶望を奪うな」じゃないけれど僕も絶望することっていまとても大事な事だと思うんですよ。けど、僕が思う奪われるべきでない絶望ってのは例えば仕組みとか、システムとかそういうものについてであって、生きていくこと自体にじゃないって思うんですよね。このアルバムで僕らが歌った希望はただ生きてくことの個人的な希望で、いまの社会で生きる事への漠然とした不安とかについてだと思う。逆に仕組みとかについてはいままで以上につっこんで表現したつもりですけど。
 "City of Symphony"に関して言えば、ちょうどさっき言っていたみたいに疎開というか、ひとが出て行っちゃう、俺自身もそういうことしたほうがいいのかなって考えてる時期があって。でもあるときに、東京に住み続けようって世のなか的にも気持ちがぐっと戻ってきた瞬間があったんですよ。で、そのタイミングでその勢いをそのまま作ったっていう感じなんですよね。

なるほどね。

下岡:希望に満ちていると言いつつ、"Super Structure"とか、こうやって自分の作った曲見てると――。

前作からの延長は感じるよね。その"Super Structure"の曲中で、曲の場面が転換する部分、「踊る阿呆に見る阿呆」っていうのは何を意味してるんですか?

下岡:自分の好きなようにやろうってことじゃないですか(笑)。

ははははは、でも大事なことだよね。

下岡:あと持つ者と持たざる者じゃないけど、そういう奴らと僕も含めてつい踊らされてしまうひとたちのことです。

その踊らされてしまうひとたちも、べつにいいじゃんって感じなの?

下岡:この「踊らにゃソンソン」は、自分の好きなように踊れよっていうことです。風営法のこととかもあったし、911の後とかすごくよく覚えてるんですけど、あの後にテレビが保険のCMをガンガンやりはじめた感じとか。そういうのにかこつけて固まっていく感じっていうか、ああいうのがすごく気持ち悪いんですよ。

なるほどね。ちなみにこの1曲目の"Super Structure"は、最初のヴァースの、どこに息継ぎがあるんだっていうのもミソですよね(笑)。

下岡:そうですね(笑)、たしかに。上京してすぐのときに金がなくて、けっこう都庁で時間を潰したんですよ。タダで上れるじゃないですか。で、都庁ってスーパーストラクチャー工法っていう構造で作られてて。

へえー。

下岡:そのときに俺それ覚えて。10年以上前だけど、ずっと気になってて。石原さんみたいなひとが、あのてっぺんから見下ろしているイメージっていうか(笑)、なんかこうやってるイメージとか浮かんで。

社会っていうとすごく大きな言葉だけど、具体的に下岡くん個人がとくに問題意識として考えていることは何なんでしょう?

下岡:僕がいま気になってることは倫理とか道徳とかモラルとかって呼ばれる物がこの先どうなっていくんだろう? って思ってる。やっぱりどんどん薄まっていってる気がするから。僕自身もきっと僕の上の世代より希薄だし。
 でも例えば原子爆弾を作れるってなったら原子爆弾が作られてしまうように、きっとクローン技術であるとか永遠の命であるとか、そういうのっていつも興味が倫理観を越えていっちゃうから。なんかそれってどうにもなんないのかなって考えてる。平和とか幸せとかってなんかその先にある気がいまはするから。全部無いほうがおもしろいとか思うときもあるけど。あとはいまの形の資本主義やお金のこと。

そのあたりのことは今回のアルバムではとくに......?

下岡:やっぱり"Super Structure"とか"Watch Out(サーモスタットはいかれてる)"とかだと思う。

"Super Structure"みたいな曲は、歌っててやっぱり気持ちよさっていうのはある? 言いたいことをわーっと言ってるみたいな。

下岡:いやあ(笑)。アップアップしてます。息が続かないっていうか。

いや、気持ちよさそうに聞こえますよ。

下岡:ほんとですか。でもいいリズムのノリがありますけどね。

佐々木健太郎さんが歌詞を書いている"STAR"という曲で「聞こえてくるシュプレヒコールが僕を歩かせようとしたけれど/あの夜僕を閉じこめたのは同じ声だった気がしていた」っていうフレーズがありますよね。これがどういう意味なのか、彼には聞かなかった?

下岡:俺は聞かなかったです。

(笑)なんで? いちばん気になるフレーズじゃない(笑)!

下岡:うん。

受け取り方によっては、デモに対する違和感なのかなっていう(笑)。

下岡:俺はそういう風に取らなかったな。俺は最近の何となく忘れていったり、違うところに焦点を合わせようとしてるような、ぼんやりとした空気とかに対して歌ってると理解してる。とりあえず目先の希望みたいな。それって何となく僕らや、世界をここに導いたものと同じなんじゃない? って。だいたい僕らデモに対してそんなに違和感ないですからね。そうやって自分の意志を表現することは別にちっともおかしいことだと思わない。もっといろんな手段があっていいとは思うけど。

下岡くんはデモには行かないの?

下岡:行かない。行かないっていうか、いまのところ行ってないですね。あ、でも1回行きました。

アメリカではブルース・スプリングスティーンみたいな人が、そういうところにも積極的に参加するよね。アナログフィッシュにはブルース・スプリングスティーン的なところもあると思うし。ああいうさ、社会の矢面に立つ著名なミュージシャンは、日本では坂本龍一ぐらいしかいないと思うんだけど、そういうものに対する共感っていうのはやっぱりあるわけでしょう?

下岡:共感は全然あるし、ブルース・スプリングスティーンも好きなんだけど――。「ちょっとな」って思う部分もなくはない。音楽として最高に好きな音楽じゃないっていうのはあるけど、最高に憧れはしないです。坂本さんは尊敬してるし、すごくカッコいいと思ってるけど、自分がそういうことやるかって言ったら、少し違うとは思う。

スプリングスティーンのちょっと違うかなっていうのはどういうところ?

下岡:うーん......。なんだろうなあ......。少しマッチョな感じがする。そうやってひとの心をひとつにすることは、俺すごいと思うしカッコいいと思うけど、もしかしたらそういう風な束ね方をしたいんじゃないんじゃないかって感じが俺はすごくしてるっていうか。

もうちょっと違う伝え方をしたいっていう。

下岡:そうですね。なんかみんな自由にやってほしいって思いますね。

ところで、さっきラヴ・ソングという話が出たけど、今作はラヴ・ソングに落とし込もうとしているような痕跡がいろんな曲で見受けられるんですけど、それはどうなんですか?

下岡:健太郎に関してはわからないけど、でもこの"Good bye Girlfriend"って曲がほんと俺好きで、秀逸だなと思うけど。でもなんか、ラヴ・ソングを書いたっていう気は俺としてはあんまりないんだよな。たとえば"Isay"にしても――。

えー、これもかなり直球なラヴ・ソングな感じだけど。

下岡:そうですよね。「愛されるより愛せ」って思ったんですよね、ほんとに。

それはパーソナルな出来事なの? それともこれは象徴的な言葉として自分で書いてる?

下岡:あー、どっちなんだろうな。両方あるけど......

キリスト教だったら「隣人を愛せ」って言ったときに寛容さとか、そういうようなことを意味するじゃない?

下岡:そういう意味ではパーソナルな出来事かもしれないけど、なんかI sayってメッセージを歌ってるって意識なんですよね。自分にとってラヴ・ソングってそういうものじゃなくて。
 震災のニュースとか見てたら大事な人のこと考えちゃって。僕は結婚もしてないし子供もいないんですけど。僕もやっぱり愛されたいし、それ自体は否定しないけど、「愛する」があって「愛される」があるんだなって思ったんですよね。その逆じゃなくて。
 コンビニで音楽が流れてるじゃないですか。聴いてたらアイドルが「愛してる」っていう主旨のことを歌ってて、で、アイドルが歌ってる「愛してる」って結局あのひとたちは愛されるためのひとたちだから、「愛してる」って歌ってるけど表現の全体としては「愛して」っていう表現になってるっていうか。だから「愛せ」っていう表現ってそんなにあるのかなって思ったことをいま思い出しました(笑)。

そこが重要だったんだ(笑)。

下岡:いやわかんない。それが重要だったかは(笑)。でも、ラヴ・ソングっぽく聴こえる曲がけっこうあるんだな。自分が書いた曲に関してはラヴ・ソングと思って書いた曲はほとんどないんですけどね。

結果そうなったんだね。

下岡:うん、ないと思う。

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911の後とかすごくよく覚えてるんですけど、あの後にテレビが保険のCMをガンガンやりはじめた感じとか。そういうのにかこつけて固まっていく感じっていうか、ああいうのがすごく嫌いなんですよ。

下岡くんは時間があれば、わりとテレビのニュース番組とか見るの?

下岡:僕テレビ持ってなくて、観ないんですけど。地デジになったときにもういいやと思って。それでネットする時間がけっこう長くなってきてて、ネットしてると、テレビ観てるほうがいいなっていう気になってきてて(笑)。これやってるんだったらって、いま思ってるとこです。

ほう、それはなんで?

下岡:NHKとかすごく観たい番組があって。ダイオウイカのやつとかネットで見たんですけど。俺それすげー観たかったなと思って。

何それ?

下岡:深海にいるすごく巨大なイカの番組。世界ではじめて撮ったみたいなやつで。それ観たいなと思ったりとか。あとは、ネットでニュースを検索してて、意見とかコメントとかを見ると、けっこう気が滅入りません?

PCの前に座ると人格変わるひとがいるんだよ(笑)。僕はツイッターは、ele-kingで更新情報を流すぐらいで、個人的にはやらない。ただでさえ情報過多なのに。あれ、得意不得意があるじゃない?

下岡:はい、あります。俺もツイッターやらないですけど、なんかヤフーニュースとか見てると、下のほうにひとが書き込んでたりしてて。で、けっこう「ああー」ってなったり。でもこういうのが見られるっていうか、双方向性が魅力なのかなって思いもするけど。ひとが見るところは、テレビと同じで大きなお金を払っているひとたちのものがそこにあるから。結局どれだけ違うのかなと思ったりして。

僕とか櫻木(景、レーベルのボス)さんみたいなひとはサッカーを観るためだけにテレビがありますけどね。

(一同笑)

下岡:そう、スポーツが観られるっていうのがテレビのいいところですね。

ありがたいね(笑)。

下岡:いやマジで。スポーツとか、あとはNHKの自然ナントカみたいなやつとか。

(笑)たしかに。話を戻しましょう。"Watch Out(サーモスタットはいかれてる)"って曲も、"SuperStructure"と並んで、下岡晃節が出てるクールな曲だと思うんですけれども、この曲についてコメント下さい。

下岡:これは、えっと、資本主義的なことと、最近の中国との関係みたいなこととかレイシズムのことです。でもこれは去年の11月からああいうのが問題になって。なってっていうかずっと問題だったんだろうけど、なるべく浅く書くって言うと変だけど、あんまり掘らずにぱっと書こうと思って書いたから、いま聴いててもちょっとフワフワした気持ちになる自分がいる(笑)。

衝動的に書いたんだね。

下岡:音の感じとか言葉の出し方とか、ヒップホップ的にでなくやるのってどういうやり方があるのかなってずっと思ってたけど、すごく難しいんだなと思って、やってるときに。でももう少しそういうのをやってみたいなって気はしてます。

ヒップホップ的なやり方っていうのは、1曲目もそうだもんね。

下岡:でも音節の割り方がなんか違うんですよね。入れ方が。だからやけ(のはら)さんに聞いて勉強しようと(笑)。

それでやけさんが登場する......わけではないでしょ!?

下岡:(笑)わけじゃないけど。

ははは、今回、やけちゃんを呼んだのはなんでなんですか?

下岡:ちょうど櫻木さん繋がりで飲んだこともあるし、やけのはらさんも『荒野』もこれもいいって言ってくれてるし、僕もやけのはらさんのアルバムもすごく好きだったから。あれはほんと素晴らしい。新しいのもすごくいいけど。なんかシンパシーを感じるんだよな、あのひとの書くことに。

ほう、どういったところに?

下岡:うーん......なんか俺と似たようなことを言うときがあると思う。あとは――。

サンダル履いてるところとか?

下岡:(笑)それも好きです。あと、声と言葉の関係っていうか、やけさんと話してるときに、やけさんはマーシーの歌詞が好きだった言ってて、俺もそれはすごくよくわかって。好きなんだろうなって、なんかピンと来て。で、俺もすごく好きで。そういう美的感覚が、聴いてて安心するし。

さっき僕が「ちょっと無理してるんじゃない」って言った最後の曲は、どうやって作ったの? あらかじめコンセプトを打ち合わせて作った感じなの?

下岡:コンセプトは打ち合わせました。コンセプトは、街を歌うってことと、僕が好きな東京の景色があって。埼玉のほうから川沿いを走って池袋のほうに抜けていく高速を走ってるときの、うっそうと茂った東京がばーっと出てくる、で、日が暮れていく感じがすごく好きで。その気持ちを曲にしたいということを言って、はじめたと思う。

それは面白い話だね。町にプレッシャーを感じるんじゃなく、いつもとは違った眺め方、道順で接することで解放される心理地理学って、フランスの60年代の思想家は定義しているんだけど、その発想に近いかもね。ラッパーが町を描写したがるのもそういうことだと思うだけど、どうして自分の好きな東京を歌おうと思ったの?

下岡:ひとつは、さっき言ったみたいな疎開していく感じから、自分がぐっと東京に住むぞって感じとか、世のなかのひとたちが東京でやっぱりいいのかなって思いだしたタイミングが俺のなかではあって。そう思ったタイミングだったからっていうのと、もうひとつは、元も子もないですけど(笑)、やけさんも俺も小沢健ニさんの〈東京の街が奏でる〉を観に行ってて。

櫻木:元も子もない(笑)。

はははは。

下岡:(笑)で、その話をいっしょに飲んでしてたんですよ。「あれが良かった」とか「あそこは」とか。で、それもわりとそういうテーマだったんです。それもあったと思う。

どういうインスピレーションを与えたの? きっかけになったっていうのは。それはどういう作品なんですか?

櫻木:Tシャツとかも自分の好きな街のスカイラインみたいなのを描いてて。東京の街のペン画みたいなのを。オペラシティで2週間ぐらいやってたんですよね。

下岡:で、往年のヒット・ソングもやるんですけど、合間でポエトリー・リーディングみたいな感じで街のことを話したりして。それを話題にするなかで、俺たちも街のことを歌ってみるみたいな感じもあったんじゃないかな。

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たとえば話戻っちゃうけど、原発反対ってなったときに俺みたいに「反対だから反対だ」って思うひともいれば、「反対だけど、わたしも使ってる立場だから反対って言えない」みたいなひともいる。そういうのから自由になりたいっていうか。


Analogfish
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なるほど。では、最後の質問ですが、アナログフィッシュが理想とする社会っていうのは何なのでしょう?

下岡:(笑)それすごいですね。デカい質問。俺はなんか、もう少し自由でいたいと思うんですよ。いつも。なんか、絡め取られたくないっていうか。

法律に?

下岡:法律は、幸せに暮らすためには俺はある程度ルールは必要だと思うけど、そのルール自体がひとを見ていてほしいというか。ひとを向いていてほしい。

システムのためのルールではなくて、ひとのためのルールになってほしい?

下岡:なってほしいし、さっきの話したプレイグランドをもう少し離れて自由にやりたいと思ってる。自分の思うように。

何から一番自由になりたい? せめて大麻くらい合法にしてくれという自由であるとか。

下岡:(笑)。

真剣に医療に使ってる国だってあるわけだから。

下岡:はい、はい。

あるいは、フェミニズム的な自由であったりとか、同性愛的な自由であったりとか。環境問題的なことだったり。下岡くんが一番気にするところの自由っていうのを教えてほしいなと。

下岡:なんだろう、言うこときかされないっていうか。もう少しきっと明確に言えることがありそうなんだけど。たとえば話戻っちゃうけど、原発反対ってなったときに俺みたいに「反対だから反対だ」って言おうと思うひともいれば、「反対だけど、わたしも使ってる立場だから反対って言えない」みたいなひともいる。そういうのから自由になりたいっていうか。

(笑)それは何からの自由だろうね。

下岡:そういうのが無数に絡みまくって俺たち生きてて、べつにそれでやっていけはするけど、何だろう、あの共犯意識みたいなもので誰も何も言えなくなる感じが。

それは真面目さと言うよりも、誤謬だよね。

下岡:いやいや、それ思ったら言えよっていうところあるじゃないですか。でもその共犯意識も、何も言えなくなるためにあるじゃないかって気も考えようによっちゃするし。あの感じがイヤですね。

集団や規律みたいなものを優先してしまうというか。

下岡:想像力の無さから自由になりたいです。でも「反対だけど、わたしも使ってる立場だから反対って言えない」って人も想像力ってゆうかやさしさがありますよね。でもどう思ってるか表明した上で話した方がいい気がするけど。

じゃあ逆にさ、海外の文化でいいなって思うのはある?

下岡:ああー。たとえば俺はアメリカはすごくイヤなところもあるけど、あのひとたちって資本主義は資本主義で、原発はリスク高いから金出さないとかさ、なんか一貫してるじゃないですか。

でもその代わりにシェール革命っていうのがあるしねー。

下岡:そうそうそう! アメリカはそんな好きじゃないんだけど、そういう一貫してるのはいいと思うな。

いわゆる民主主義ってものに対して?

下岡:そうそう。あと、僕オーストラリアに住んでたけど、あのひとたちのひとのよさっていうか、単純に。変にアメリカを意識して、頑張ってはねつけてる感じとかも好きだな。

日本を見るときに海外から照射するっていうやり方もあるよね。日本のことだから日本にいれば、日本のものだけ追っていれば見えるって言うのも意外と違っていたりしてね。

下岡:俺すごく覚えてるんですけど、日本のひとたちがイラクに入っちゃいけないって言われているのに入って人質になって、「自己責任」って言われたことがあったじゃないですか。自己責任だから、国益を損ねてまで助けることないって。でもフランスかどこかが「彼らは守るために行ったんじゃないか、なんで日本は自己責任とか行ってるんだ」みたいなことを言ったら、もう世論がひっくり返って、「自己責任って言ったやつどいつだよ」みたいな話になったんですよ。なんか、その感じっていうか。最初に自己責任っていうものが出てきちゃう感じとかも、なんでかなって思う。
 でも、なんでかなって言いながら、俺も最初自己責任だろってそのとき思ったんだよね。俺そのときすごく後悔したの、なんか。俺ってなんか、ほんとつまんねーやつだなって思って。もうこんなこと絶対やだぞって思った。でも俺が政治的な音楽をやりたいかっていうと、べつにそんなことしなくてよければそれが一番いいなと思うし。必要があると思うことを、しないのが変だなと思って。

なるほど。なんか言い足りないことってある?

下岡:いや、どうかな......(笑)勘違いされたくないのは基本的にはこの世のなかが好きってことですね。

はははは、アナログフィッシュが理想とする社会とは何か?

下岡:そうですね。俺の理想か。

Jリーグの試合があるときは絶対仕事を休まなきゃならないとか。

櫻木:そうそうそう!

下岡:俺の理想は、将来の不安がないことですね。

安心して老後を過ごせる社会、自分も老年期に入りそうだから、なおさらそう思う(笑)。

下岡:そうですね。はははは! いきなり現実的になっちゃった(笑)。でも、僕社会のこととか、モラルとか倫理とかの話になると、絶対自分の祖母が出てくるんですよ。で、本とか読むよりも、祖母がああだったなって考え方をするほうが腑に落ちて好きで。俺の年だとそういうのができないからな、って思って。たとえば祖母は、いい悪いもすごくはっきりしてるし、で、彼女自身は大正に生まれてて、若いときはいまみたいに女性が自由に生きられたことは絶対ないだろうけど、でも全然不幸じゃなさそうだったし。ずっと土を触ってるとかさ。

おばあちゃんは大正のどのくらいの生まれなの?

下岡:えっと、大正11年の生まれですね。

じゃあ戦争を経験してるんだ。

下岡:経験してる。

けっして順調な人生だったわけじゃないよね。

下岡:じゃないはず。でもあのひとは、いい悪いがはっきり決まってて、そういうのが俺すごく好きだったんだよな。羨ましいと思ったし。

おばあちゃんの世代とは違って、いまの社会は流動化しているから、自分が生まれた場所で孫に話すことが限りなく少なくなっているというか。

下岡:でも、いまみたいな社会を維持していこうとしたときに、やっぱりまたひとが田舎に戻っていくってことはないのかな。

いや、それこそ現実に疎開現象とかさ。

下岡:Uターンみたいなものでひとが入ってるとは聞くけど。それだともたないんだよな、絶対。田舎って。何て言うんだろう。たとえば僕が田舎にいたときに、都会のひとが帰って来てはじめるお店とかって、都会のひとに向けてやってるお店っぽくって。田舎を売りにしたお店っていうか。田舎のひとが必要としてることじゃないって感じがして。いま田舎にひとが行ってるのって、もっと地に足がついてるのかな。もっと地に足着いてたらいいんだけど。

でも、福岡なんかは、311以後、人口が増えちゃって、音楽のシーンが賑やかになっているって二木信が言ってたよ。東京もローカルな感覚を取り戻しているし、なんか変わってきているよね。まあじゃあ今回はそんな感じで。

下岡:じゃあ、次にはもっと言えるように(笑)。

じゃあ、次のアナログフィッシュは『サージェント・ペパーズ~』だね(笑)。

MALA IN JAPAN TOUR 2013 - ele-king

 UKダブステップ・シーンのオリジネイターのひとり、シーンの精神的支柱のひとり、アンダーグラウンドの栄光、ダブ/レゲエからの影響をミキシングしたドープなサウンドでファンを魅了し、そして昨年の『マーラ・イン・キューバ』が国際的にヒットしたマーラが4月の後半、来日します。待望の再々来日ですね!
 盟友、ゴストラッドも出演します。行きましょう。

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〈MALA IN JAPAN TOUR 2013〉
4/19(FRI) 沖縄 at LOVE BALL 098-867-0002
4/20(SAT) 東京 at UNIT 03-5459-8630 www.unit-tokyo.com
4/21(SUN) 大阪 at CONPASS 06-6243-1666 https://www.zettai-mu.net/ https://conpass.jp
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DBS presents
"MALA IN JAPAN"

2013.4.20 (SAT) at UNIT

feat. MALA - DIGITAL MYSTIKZ

with: GOTH-TRAD
Jah-Light
Helktram

Vj:SO IN THE HOUSE

open/start 23:30
adv. 3150yen door.3800yen

info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

★UKダブステップ界の最重要人物MALA-DIGITAL MYSTIKZ。その存在はシーンのみならずジェイムス・ブレイク、エイドリアン・シャーウッド、ジャイルス・ピーターソン、フランソワKら世界中からリスペクトされている。キューバ音楽の精髄を独自の音楽観で昇華した金字塔アルバム『MALA IN CUBA』でネクストレヴェルへ突入、UKベースカルチャーとキューバのルーツミュージックを見事に融合させた音楽革命家である!4/20 (土)代官山UNITで開催する"MALA IN JAPAN"は、MALAの音を200%体感すべくUNITが誇るハイパワー高品質サウンドに加え、超強力サブウーファーを導入決定!共演はMALAのレーベル、DEEP MEDiの主力となる日本の至宝GOTH-TRAD。"Come meditate on bass weight!!!!!!!!!!!!!!!!" one love

★MALA - DIGITAL MYSTIKZ (DMZ, Deep Medi Musik, UK)
ダブステップのパイオニア、そしてシーンの精神的支柱となるMALA。サウス・ロンドン出身のMALAは相棒COKIとのプロダクションデュオ、DIGITAL MYSTIKZとして名高い。ジャングル/ドラム&ベース、ダブ/ルーツ・レゲエ、UKガラージ等の影響下に育った彼らは、独自の重低音ビーツを生み出すべく制作を始め、アンダーグラウンドから胎動したダブステップ・シーンの中核となる。'03年にBig Apple Recordsから"Pathways EP"をリリース、'04年には盟友のLOEFAHを交え自分達のレーベル、DMZを旗揚げ、本格的なリリースを展開していく。そして名門Rephlexのコンピレーション『GRIME 2』にフィーチャーされ、脚光を浴びる。また'05年からDMZのクラブナイトを開催、ブリクストン、リーズでのレギュラーで着実に支持者を増やし、ヨーロッパ各国やアメリカにも波及する。'06年にはDMZから"Ancient Memories"、"Haunted / Anit War Dub"のリリースの他、Soul Jazzからのリリースで知名度を一気に高める。また同年にMALAは自己のレーベル、Deep Medi Musikを設立、以来自作の他にもGOTH-TRAD、KROMESTAR、SKREAM、SILKIE、CALIBRE、PINCHらの作品を続々と送り出し、シーンの最前線に立つ。'10年にはDIGITAL MYSTIKZ 名義となるMALAの1st.アルバム『RETURN II SPACE』がアナログ3枚組でリリース、壮大なスケールでMALAのスピリチュアルな音宇宙を明示する。MALAの才能はFRANCOIS K、ADRIAN SHERWOOD、GILLES PETERSONらからも絶賛される中、GILLESの発案で'11年、彼と一緒にキューバを訪れたMALAは現地の音楽家とセッションを重ね、持ち帰った膨大なサンプル音源を再構築し、'12年9月、GILLESのBrownswoodからアルバム『MALA IN CUBA』を発表(Beatinkから日本盤発売)、キューバのルーツ・ミュージックとMALAのエクスペリメンタルなサウンドが融合し、ワールド・ミュージック/エレクトロニック・ミュージックを革新する。『MALA IN CUBA』によって新次元に突入したMALA、一体どんな旅に誘ってくれるのか必聴の来日公演!"Come meditate on bass weight!"
https://www.dmzuk.com/
https://deepmedi.com/

Ticket outlets:NOW ON SALE!
PIA (0570-02-9999/P-code: 193-594)、 LAWSON (L-code: 70189)
e+ (UNIT携帯サイトから購入できます)
clubberia/https://www.clubberia.com/store/
渋谷/disk union CLUB MUSIC SHOP (3476-2627)、
TECHNIQUE (5458-4143)、GANBAN (3477-5701)
代官山/UNIT (5459-8630)、Bonjour Records (5458-6020)
原宿/GLOCAL RECORDS (090-3807-2073)
下北沢/DISC SHOP ZERO (5432-6129)、JET SET TOKYO (5452-2262)、
disk union CLUB MUSIC SHOP(5738-2971)
新宿/disk union CLUB MUSIC SHOP (5919-2422)、
Dub Store Record Mart(3364-5251)
吉祥寺/Jar-Beat Record (0422-42-4877)、disk union (0422-20-8062)
町田/disk union (042-720-7240)
千葉/disk union (043-224-6372)

UNIT
Za HOUSE BLD. 1-34-17 EBISU-NISHI, SHIBUYA-KU, TOKYO
tel.03-5459-8630
www.unit-tokyo.com

interview with Lapalux - ele-king

 エイフェックス・ツイン"ウインドウリッカー"はとても悲しい曲だった。ポリゴン・ウインドウやコースティック・ウインドウなど、どうしても「窓」にこだわってしまう彼が最後にそれをリック=舐めて終わりになるというのも示唆的だった。ドアノブ少女ではないけれど、彼と世界の間に立ちはだかっていた「窓」を舐めることは、そのまま素直に受け取れば「(外に)出たいけれど、出られない」という感覚を伝えているようにも感じられた。出られないから悲しいのかどうかまではもちろんわからないけれど、あの悲しさはいまだに僕の耳から離れない。いつまでも尾を引いている。あれは一体、何だったのだろう。教えてチャタヌーガ・チュー・チュー。


Lapalux
Nostalchic

Brainfeeder / ビート

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 ラパラックスことスチュワート・ハワードがつくる曲はどれもうっすらと裏側"ウインドウリッカー"が貼り付いている......ように感じられる。同じようにR&Bをエレクトロニック・ダンス・ミュージックの中心部へと流し込んだディスクロージャーやインクといった優等生たちとはそこが決定的に異なっている(ぷんぷん丸こと橋元優歩がトロ・イ・モアも新作でR&Bに接近して......というようなことを書いていたけれど、たしかにソウルフルな印象はあるものの、あれはディスコの美学ではないだろうか?)。

 わかりやすくいえば、ジェイムス・ブレイク・オン・ドープとなるだろうか。それこそ優等生とははるかに縁遠い場所で彼のエレクトロニック・ソウルは鳴り響いている。窓の外に出たエイフェックス・ツイン。それだけではないけれど、ここでは少し偏った見方でアプローチしてみたい。

なんていうか解離性障害のような、薬をやってちょっと飛んじゃってるというか、そういう感じを音に表したかったんだよね。なんだろう......非日常的とかいうか......説明がとても難しいんだけど......

去年、「東京はクレイジー」とツイートしてましたけど、どこが?

スチュワート:あー、それね(笑)。去年、生まれて初めて東京に行ったんだけど、見るものすべてがクレイジーでビックリしたというか(笑)。もちろん本とかネットとか映画で日本を見たことはあるし、予備知識はあったと思ってたんだけど、実際、渋谷のホテルに泊まって窓から外を眺めたらあまりにもクレイジーな光景だなって(笑)。人の多さとかお店とか、とにかく何から何までなんていうのか......映画を見ているかのような、非現実な感じを受けたというか。うん、本当にいま考えてもクレイジーだよ(笑)。

DJ69には改名したんですか? DJはちなみに何年ぐらいやってますか?

スチュワート:爆笑! 違うよ、変えてないよ(笑)。その名前は僕が乗ったオーストラリア行きの航空券の番号で、なんか面白いなーと思っただけなんだ。自分がDJだと思ったことはないんだ、基本的にプロデューサーだしね。DJというより僕は自分の曲を演奏したいからライヴのほうが好きだし。ただときどき最近DJっぽい感じで回してる時もあるけど、基本的にDJではないよ。

自分の曲以外で、よくかける曲は何ですか?

スチュワート:うーん、そうだなぁ、基本的にいいテンポでミックスしやすいものを使うんだけど、例えばDJラッシュアワーとかDJスピンとかかけるかな。

そもそも音楽をやりはじめたきっかけは? 最初からいまのスタイルだった?

スチュワート:特別にきっかけというのはないんだけど......もう小さいころからずっと、ちょこちょこいろいろやってたからね。僕にとっては音楽を聴くことも作ることもとても自然に小さいころから生活のなかにあったというか。でも、スタイルは変わったかな。最初のころは僕、ラップとかしてたから(笑)。それから実験的なサウンド・デザインをやってみたり、アコースティック・ギターをやりはじめて音を重ねてみたり、オーバーダビングをたくさんやって音の質感に興味を持って。でも、いつもエクスペリメンタルな音は好きだったね。

音楽以外の道を考えたこともありますか?

スチュワート:スタジオ・エンジニアとかコンピュータ関係の仕事かな。というのも、小さいころから例えばラジカセを直すとか、家のオーディオ関係の配線とかそういうものに興味を持ってて、結構いじったりしてたんだよね。きっとこの仕事してなかったら1日中電気工事とかしてるかもね(笑)。

はは。ラパラックスは「lap of luxury (=富と快適さの状態)」 の意だそうですが、それを手に入れたいということ?

スチュワート:うん、そうだね、なんていうか音のラグジュアリーな質感とかを手に入れたいというのが元の意味なんだけど、基本的にこの意味が僕の音のイメージなんだ。

デビューEPを〈ピクチャー・ミュージック〉からリリースした経緯を教えて下さい。コアレスやシームスなどユニークな新人に目をつけるのが早いレーベルですよね。

スチュワート:僕がロンドンでいくつかライヴをやってたとき、友だちのジミーを介して、いまのマネージャーのアレックスがライヴを見に来てくれたんだけど、それでアレックス経由で〈ピクチャー・ミュージック〉のデイヴィッドからリリースしないかという話を貰ったんだ。いろんなことがタイミングよく回ってきたという感じかな。

デビュー・カセット「Many Faces Out Of Focus」が2時間で売り切れたというのは本当ですか? サウンドクラウドで聴く限り、初めから方向性に迷いがなかったという印象を受けますが、つくっ た本人はどれぐらい確信的だったのでしょう?
https://soundcloud.com/lapalux/sets/many-faces-out-of-focus

スチュワート:うん、そうなんだ。元々限定のカセットで出してみようという話があってリリースしたというのもあるんだけど、僕は音楽業界のこととかまったく知らなかったから売り切れたと聞いてものすごいビックリしたよ。確信的だなんてとんでもない! 売れるといいなーとは思ってたけど、僕は謙虚な性格だし、そんなスゴい売れるとは全く想像すらしてなかったから嬉しかったというよりショックだった方が大きいかも。

〈ブレインフィーダー〉には自分でEメールを送って、そのまま契約することになったそうですが、〈ブレインフィーダー〉のどこがそんなに魅力的だったのでしょう?

スチュワート:まず僕は元々、フライング・ロータスの大ファンだし、彼のことはスゴく尊敬している。それに〈ブレインフィーダー〉がリリースしている作品が好きだったのもあって彼らの目指すゴールと僕が進むべき方向が同じだというのは常々感じていて。だから僕にとってはここからリリースすることは夢がかなったという感じだね。

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僕は80年~90年初期が青春時代だからやっぱりカセットテープ世代だし、聴きたい曲をテープの中から探して早送りしたり、巻き戻したり、そのノスタルジックな雰囲気をこのアルバムでも感じ取って欲しかったんだ。

実は〈ブレインフィーダー〉からのファーストEP「When You're Gone」をジャケ買いして初めてあなたのことを知ったのですが、スリーヴに「She Is Frank」の写真を使うというのは誰のアイディアだったんですか? アルバムには"ケリー・ブルック"(イギリスのファッション・モデル)という曲もあるので、もしかするとあなたがファッション好きで、自分で考えたのかなとは思いましたが。

スチュワート:うん、実は彼女から連絡があったんだ。たぶん Radio1で僕の曲をなにか聴いてくれたようなんだけど、彼女はファッション業界とコネクションがあるし、僕も彼女の作品が気にってEPのジャケットをやってくれと頼んだんだ。それで「Some Other Time」と「When You're Gone」もやってもらったんだ。"ケリー・ブルック"は......理由というか、その...僕が彼女のファンだったっていうか......彼女が有名だからその名前にあやかろうというか(笑)。

あなたのつくる曲は一貫してメランコリックで、それが常にスウィートな響きを持っています。これは元からあなたが持っていた感情が自然と反映されたものなのでしょうか。それともブラック・ミュージックなどに親しむうちにあなたが表現したいと思うようになったものなのでしょうか。

スチュワート:基本的に音楽を作るとき、僕のなかにある過去の経験やその時の状況とか感情が反映されていると思うんだけど、なんていうか解離性障害のような、薬をやってちょっと飛んじゃってるというか、そういう感じを音に表したかったんだよね。なんだろう......非日常的とかいうか......説明がとても難しいんだけど、抽象的な感じのその雰囲気が好きだからそれを音に表わそうと思って、そうするとその懐かしさを表現するのにメランコリックな雰囲気が出てくると思うんだよね。僕のアルバムのどの曲にもそのメランコリックと哀愁は漂ってると思うんだけど、僕のなかにあるそういう感情を反映したら自然とこういう形になったんだ。

上がり下がりが激しくて、聴き応えもあるし、全体的にはなかなかヘヴィーなアルバムだと思います。自分では「ほこりと古傷だらけになったアンティークの金のライオン像(a gold antique statue of a lion covered in dust and scratches)」と喩えていましたけど、堂々とした感じはそうだとして、満身創痍というのはどこから来るイメージなのでしょう?

スチュワート:はは。言ったね、そんなこと(笑)。単純になんか言葉で説明した方がイメージがつきやすいかなというだけの意味なんだけどさ。音を説明するのはちょっと難しいし、少なくとも僕にとってはなんとなく説明されるとイメージを掴みやすいから自分の音を説明するのにこんな感じかなと思ったんだ。音とヴィジュアルは絶対リンクしてると思うから、音を説明するのにイメージがあった方がいいと思うし、我ながらいい表現と思うよ(笑)。

なんとなくディアンジェロ版"ウインドウリッカー"というか、"ウインドウリッカー"もあの映像とは裏腹に、とても悲しい曲調だったことが強く印象に残っているのですが、もしかして少しは影響を受けていますか"ガッター・グリッター"や"GUUURL"を聴いていると、とくにそう思うのですが。

スチュワート:うん、エイフェックス・ツインはいつも僕のインスピレーションの源でもあるし、影響は受けてるよ。ヒップホップと洗練されたデジタル音のミックスがスゴく好きだから、そのふたつを繋ぎ合わせることも多いね。

『ノスタルシック』が逆回しのような音ではじまるのはタイトル通り、過去に行くという意味ですか?

スチュワート:そうだね、アルバムのイントロだというのもあってアルバム全体のイメージを説明するのにわかりやすいものにしたかったっていうのもあるし、過去に行くっていうのもあるかな。それともうひとつは何度聴いてもまたアルバムの頭に戻って再度聞くという意味も含んでいるね。僕は80年~90年初期が青春時代だからやっぱりカセットテープ世代だし、聴きたい曲をテープの中から探して早送りしたり、巻き戻したり、そのノスタルジックな雰囲気をこのアルバムでも感じ取って欲しかったんだ。

"ワン・シング"から"スワロウイング・スモーク"まではいままでになく、ふわふわと幸せな雰囲気の曲ですが、デビュー当初よりも表現したい気分が少し変わってきたとか?("フラワー" は、しかし、かなりドープですね......)

スチュワート:うーん、どうだろう。つねに気分が変わるからとくにハッピーになってきたとかそういうのはないんだけど......今日はハッピーでも明日はまた違う気分かもだしね。特別意識してハッピーな感じを入れてるわけじゃないんだけど、アルバム全体に感情がブレンドされてる感じを出したつもりだよ。

ヴォーカル・サンプルと実際にヴォーカリストを起用した曲が混在していると、つくっていて混乱しないですか? それぞれに利点も違うのでしょうが。

スチュワート:どちらも一緒に出来ないものだよね、なんていうかサンプリングで必要なときもあれば生のヴォーカルが必要なときもあるし。だからそれを上手くミックスして使い分けようと思ったんだ。それぞれに良さがあるし、使い方が違うしね。だからアルバム全体を通してうまくバランスを取ったつもりだよ。

"ウイズアウト・ユー"の「ユー」は"ウェン・ユーア・-ゴーン"の「ユー」と同じ人のことですか?

スチュワート:ううん、違う人だね。ちょっと前に友だちを亡くしたんだけど......"ウェン・ユーア・ゴーン"はその友だちのことを歌ってて、誰か大事な人を失くすっていう歌なんだ......。"ウイズアウト・ユー"はとくに特定の思い描く人はいなくて、一般的にっていう意味だね。

最後にリミックスを手がけた曲の数がすでに尋常ではありませんが、自分で一番気に入っているのは?

スチュワート:リアンヌ・ラ・ハヴァス(Lianne La Havas)のリミックスが一番気に入っている。あとは自分のブートレグで、マリオがお気に入りかな。
https://soundcloud.com/lapalux/mario-let-me-love-you-lapalux

interview with 5lack - ele-king

たまにゃいいよな
どこか旅に出て
いまの自分を忘れて逃げるのも
東京は奪い合いさ、だいたい
パラサイトが理由をつけて徘徊
さよなら、fake friendsにバイバイ
本物ならまたどこかで会いたい
"早朝の戦士"(2013)

 先日福岡市を訪れて僕がもっとも驚いたのは、東京圏からの避難民の多さだった。「東京圏から福岡市への転入が急増 15年ぶり、震災避難が影響か」という記事は、2011年の東京圏から福岡市への転入者が前年比で31.5%増加し、1万3861人に上ったと報告している。その後も避難民は増え続けているようだ。
 福岡の友人夫婦は、彼らのまわりだけでも、震災以降(正確には、福島第一原子力発電所の事故が引き起こした放射能拡散があきらかになって以降)の本州からの避難民が30人はいると語った。さらに彼らの人脈をたどり範囲を拡大すれば、1000人は下らないのではないか、ということだった。最初は耳を疑ったが、実際に僕も福岡でたくさんの避難民と出会った。小さい子供連れの家族やカップル、ひとりで移住してきた若い女性らと話した。ラッパーや音楽家の移住者にも会った。福岡に居を移した友人は博多弁を巧みに使いこなし、繁華街の外れにあるアート・スペースのキーパーソンになっていた。彼らは新たな生活を営みはじめたばかりだったが、彼ら避難民と地元民の交流が町に新鮮な空気を送り込んでいるように感じられた。福岡は避難都市として、未来への静かな躍動をはじめていたのだ。

E王
5lack×Olive Oil - 50
高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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 東京のダウンタウン・板橋から登場したスラックが最新作『5 0』を東京と福岡を行き来しながら、福岡在住のビートメイカー、オリーヴ・オイルとともに作り上げたというのは、それゆえに実に興味深い。制作は2012年におこなわれている。  
 スラックが2009年に放った『My Space』と『Whalabout』という日本語ラップの2枚のクラシック・アルバムは、東京でしか生まれ得ないポップ・ミュージックだった。多くの人びとが、シビアな巨大都市の喧騒のなかを颯爽と行き抜く20代前半の青年のふてぶてしく、屈託のないことばと音に魅了されている。そして、シック・チームのアルバムを含むいくつかの作品を発表したのち、この若きラッパー/トラックメイカーは、日の丸を大胆にジャケットのアートワークに用いた『この島の上で』(2011年)のなかで、震災以降の東京の緊迫と混乱をなかば力技でねじ伏せようとしているかに見えた。逃げ場のない切迫した感情がたたきつけられている作品だ。その後、センチメンタリズムの極みとも言うべき『』(2012年)を経て、最新作『5 0』に至っている。

 すべてのビートをオリーヴ・オイルに託した『5 0』が、スラックのキャリアにおいて特別なのは、東京にこだわっているかに思えたスラックが移動を創造の原動力にしている点にある。『5 0』は福岡に遊んだスラックの旅の記録であり、旅を通じてアーティストとしての新たな展開の契機をつかんだことに、この作品の可能性と面白さがある。移動が今後、日本の音楽の重要な主題になる予感さえする。東京への厳しい言葉があり、福岡への愛がある。
 僕が、はっきりとスラックの「変化」を意識したのは、2012年9月28日に渋谷のクラブ〈エイジア〉でおこなわれた〈ブラック・スモーカー〉の主催するパーティ〈エル・ニーニョ〉における鬼気迫るパフォーマンスだった。実兄のパンピーとガッパー(我破)、スラックから成るヒップホップ・グループ、PSGのライヴだった。スラックはパンピーをバックDJにソロ曲を披露した。彼は初期の名曲のリリックを、フロアにいるオーディエンスを真っ直ぐに見据え、毅然とした態度で攻撃的に吐き出した。オーディエンスに背を向け、気だるそうにラップする、聞き分けのない子供のようなデビュー当初のスラックの姿はそこにはなかった。オリーヴ・オイルと制作を進めていることを知ったのもそのときだった。

 インタヴューは、僕が福岡を訪れる前におこなっている。大量の缶ビールを両手いっぱいに抱え、取材場所の会議室に乱入してきた野田努の襲撃によって、ゆるやかな離陸は妨害され、墜落寸前のスリリングな飛行がくり広げられることとなったが、スラックは言葉を選びながら4年前のデビューから現在に至る軌跡について大いに語ってくれた。スラックのひさびさの対面ロング・インタヴューをお送りしよう。


なんでもいいってことになったら、死んでるのと変わらないから。だからこそ、ヒマを潰す。自由を一周したら責任が生まれて、社会の仕組みが見えてきた。それを理解しないで社会のことをやっててもダメだから、ちゃんとこなして文句言おうと思ってますね。

対面インタヴューはひさびさですか?

スラック:ひさびさですね。シック・チームで雑誌の取材とか受けましたけど。

僕がスラックくんにインタヴューさせてもらったのが、2009年末なので、約3年前なんです。セカンドの『Whalabout』を出したあとですね。

スラック:3年前ですか。早いっすね。

早いですよね。この3年間は個人的に激動だったんじゃないですか。作品もたくさん出してましたし。

スラック:たしかに。

野田:超若かったよね。

いまと雰囲気がぜんぜん違う(笑)。

スラック:そうですよね。22歳と25歳じゃぜんぜん違う。

そうか、25歳になったんですね。

スラック:ってことは次のインタヴューは30くらいかな。

ハハハ。

スラック:もう子供みたいにはしてられないですよね。

スラック(s.l.a.c.k.)って呼べばいいのか、娯楽(5lack)って呼べばいいのか、どっちですか?

スラック:あれでいちおうスラックなんですよね。

5がSと読めるということで、スラックと。

スラック:はい。まあ、名前なんかなんでもいいや、みたいな。オフィシャル感みたいなのをはめこもうとすると大変なんですけど、勝手に自分のあだ名を変え続けてる友達とかいたじゃないですか。

なるほどね。そうゆうノリだ。

野田:(『5 0』のCDをみながら)ああ、オリーヴ・オイルといっしょにやったんだ!

スラック:そうです。

野田:これは聴きたいなあ。オリーヴ・オイルといっしょにやってるってとこがいいと思うね。

スラック:めっちゃ気が合って。

このアルバムの制作で福岡にちょくちょく行ってましたもんね。

スラック:はい。最近はオリーヴさんとK・ボムさんと仲良いです。

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オレがラップする「適当」を、気を抜いてとか楽天的にとか、ポジティブに受けとられれば良いですけど、責任のない投げやりな意味として受けとるのは勘違いかなって。

僕が今回インタヴューさせてもらおうと思ったきっかけは、去年の9月28日の〈エル・ ニーニョ〉のスラックくんのパフォーマンスに感動したからだったんです。PSGのライヴでしたね。

スラック:はいはいはい、あの日、やりましたね。

これまで感じたことのない鬼気迫るオーラを感じて。

スラック:オレがですか?

うん。「適当」っていう言葉は当初は日本のラップ・シーンに対する牽制球みたいな脱力の言葉だったと思うんですね。もう少し気を抜いてリラックスしてやろうよ、みたいな。

スラック:はいはいはい。

それが、より広くに訴えかける言葉になってたな、と思って。

スラック:漢字で書く「適当」の、いちばん適して当たるっていう意味に当てはまっていったというか。要するに、良い塩梅ということです。だから、いいかげんっていう意味の適当じゃなくて、ほんとの適当になった。まあ、でも、最初からそういう意味だったと思うんですけど、時代に合わせるといまみたいな意味になっちゃうんですかね。ちょっと前だったら、もうちょっとゆるくて良いんじゃんみたいな意味だったと思う。

自分でも言葉のニュアンスが変わった実感はあるんですか?

スラック:オレがラップする「適当」を、気を抜いてとか楽天的にとか、ポジティブに受けとられれば良いですけど、責任のない投げやりな意味として受けとるのは勘違いかなって。

なるほど。

スラック:あの日のライヴは良かったっすね。

自分としても良いライヴだった?

スラック:そうそうそう。

どこらへんが?

スラック:楽しみまくりました。アガり過ぎて、終わってからも意味わかんなかった。

さらに言うと、スラックくんにとっても東日本大震災はかなりインパクトがあったのかなって思いましたね。スラックくんのライヴを震災後も東京で何度か観てそう感じたし、『この島の上で』のようなシリアスな作品も出したじゃないですか。実際、東京はシリアスになって、それはますます進行してると思うし、そういう緊迫した状況に対して、あの日のライヴの「適当」って言葉が鋭いツッコミになってるなって感じたんですよ。

スラック:いまやるとたしかに地震前とは違いますね。

野田:『この島の上で』を出すことに迷いはなかったの?

スラック:えっと......

野田:なんて真面目な人間なんだろう、って思ったんだけど。

スラック:そう言われますね。「真面目過ぎだよ」って。でも、自然に出しましたね。かなり混乱はしましたね。

混乱というのは、『この島の上で』を出すことについて? それとも東京で生きていくことに?

スラック:人の目はぜんぜん意識してなかったですね。たまたまああいう曲調の音楽が作りたかっただけだと思うんですよ。そこに自分の精神が自然にリンクした。自分が真面目になったイメージもなかったんですよ。

野田:わりと無我夢中で作っちゃった感じなの?

スラック:そうっすね。でも最近まで、「元々自分が音楽をどういう精神でやってたんだっけ?」ってずっと悩んでたような気がしますね。

野田:ぶっちゃけ、日の丸まで使ってるわけじゃない? 「右翼じゃないか」って受け取り方をされる可能性があるわけじゃない。

スラック:あの頃は、愛国心というか、「自分は日本人だ」みたいな意識が強くなってたんです。

『この島の上で』のラストの"逆境"はストレートに愛国心をラップした曲だよね。

スラック:なんて言ったらいいんですかね。あれはある意味ファッションですね。日本人がいまああいう音楽を残さないでどうするっていう気持ちがあった。歴史的に考えて、日本の音楽のチャンスだった思うんです。

野田:よく言われるように、国粋主義的な愛国心もあれば、土着的な、たとえば二木みたいに定食屋が好きだっていう愛国心もあるわけじゃない?

ナショナリズムとパトリオティズムの違いですよね。

野田:愛国って言葉はそれだけ幅が広い。いまの話を聞くと、あれだけ時代が激しく動いたわけだから、記録を残したかったっていう感じなの?

スラック:うーん、いろんな気持ちが同時にありました。いま上手くまとまりませんけど、全体的に描きたかったのは日本でしたね。

僕はタイトルの付け方が面白いと思ったんですよ。「この国」って付けないで、「この島」と付けたところに批評性を感じた。その言葉の違いは大きいと思う。

スラック:そうっすね。とりあえず、日本人がいまこういうことやってるぜっていうことを主張したかった。だから、音楽のスタイルも日本っぽい音を使いました。

国もそうだけど、震災以降、「東京」もスラックくんの大きなテーマになった気がしました。どうですか?

スラック:そうっすね。いろんな街に行って、東京って形がない街だなって思ったんですよ。

今回のアルバムにも東京に対する愛憎が滲み出ているじゃないですか。東京を客観的に見る視点があるじゃないですか。

野田:でも、"愛しの福岡"って曲もあるよ。

それは東京から離れて作ったからでしょ。

スラック:けっこう東京は嫌いではありますね、いま。

野田:おお。

スラック:嫌いっていうか、他の街に行くと、自分が実は騙されてんじゃないか、みたいに思うんです。

東京に住んでいてそう感じる?

スラック:はい。東京は「パラサイティスティック」ですね。

「パラサイトが理由をつけて徘徊」("早朝の戦士")っていうリリックがありましたね。ここで言うパラサイトってどういうことなの?

スラック:自分で生み出す感じじゃないということですね。

たとえば、誰かに乗っかってお金を儲けるとか。

スラック:そうですね。

もう少し具体的に言うと?

スラック:言い辛いんですけど。

他人をディスらなくてもいいので(笑)。

スラック:そうっすね。多くの人が自分発祥のものじゃないことをやっている気がするんです。

それはたとえば、日本にオリジナリティのある音楽のスタイルが少ないと感じる不満にも通ずる?

スラック:それもそうですし、市場とかを考えても......、うーん、何か落ち着か なくなってきた......

野田さんがいきなりディープな話題に行くからですよ! もうちょっとじっくり話そうと思ってたのに(笑)。

野田:そんなディープかねぇ?

ディープでしょう。

スラック:いや、ぜんぜん大丈夫です。

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人の目はぜんぜん意識してなかったですね。たまたまああいう曲調の音楽が作りたかっただけだと思うんですよ。そこに自分の精神が自然にリンクした。自分が真面目になったイメージもなかったんですよ。

ちょっと仕切り直しましょう。まず、今回のアルバムについて訊かせてください。オリーヴ・オイルといっしょにほぼ全編福岡で作りましたよね。作品を聴いて、東京を離れて感じたり、考えたことが反映されてるんだろうなって思ったんです。

スラック:そうですね。普通に落ちちゃうぐらい、東京にいたくなくなりましたね。

去年、それこそ〈エル・ニーニョ〉で会ったときに、「東京、離れるかもしれませんよ」って思わせぶりな言い方してましたもんね。

スラック:ハハハ。

野田:東京生まれ東京育ちじゃない。でも最近は、東京村みたいにもなってきてない? 「スラック以降」、とくにそういう感じがするんだけど。

スラック:だから、オレみたいな位置の人がいっぱい出てくればいいなって思う。なんかこうサービス業になってるんですよ。

野田:でも、それは東京だけに限らないんじゃない?

スラック:でも、スピード感があるからこそ、スピードが遅いことに対して文句を言うんですよね。

情報の速さに慣れてるんだよね。便利さに慣れてるっていうことですよね。

スラック:それもそうですし。

野田:それは東京じゃなくて、ネットじゃない?

スラック:ネットはありますね。ネットも携帯も超アブナイと思う。いつか電気と人間がひっくり返るときがくる気がしますね。

震災が起きた直後に"But This is Way / S.l.a.c.k. TAMU PUNPEE 仙人掌"をYouTubeにアップしましたよね。で、3月20日に〈ドミューン〉の特番に出てくれた。そのときに「情報被曝」っていう言葉を使っていて、それがすごく印象に残ってる。『この島の上で』の1曲目"Bring da Fire"でもその言葉を使ってたよね。どういうところからあの言葉が出てきたの?

スラック:起きなくていい争いが起きる可能性が何百倍にも増えてると思うんです。昔は恋人ともすごい距離歩かなかったら会えなかったのに、電話ができる回数分ケンカが増えて別れる率が上がってるとか(笑)。たとえば、そういうくだらないことが超増えてる。だから、もうちょっとシンプルに人間になって、五感を使っていきたい。

野田:フリーでダウンロードして音楽聴く人間は、意外と文句ばっか言うんだよ。サービス業じゃないんだっていうのにね。

スラック:料理人とかもそうですけど、客から文句があったら、「帰れ!」って言えばいいんじゃないかなって。それで潰れるのは店なわけだし。

この数年間でスラックくんに対する周りの見方も大きく変化したと思うんですよ。いろいろ期待もされただろうし、プレッシャーを感じているんじゃないかなって。

スラック:いや、それはないですね。みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。

ハハハ。つまり、スラックくんが評価できるアーティストが少ないってことですか?

スラック:日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。

それに似たようなことを3年前のインタヴューでも言ってたね。「無闇にタレント化したり、ブログを頻繁に書いてみたり、そういうのが目立ってて。なんでそこを頑張ってんだよ」って(笑)。

スラック:音楽のスタイルや実力で出てきたヤツもそっちに流されてる気がする。

インターネットやSNSの弊害なのかもしれないですよね。SNSで発信したり、表現したりしないといけないという強迫観念に縛られているのかもしれない。ただ、それは音楽産業の構造の問題でもあると思う。経済的に厳しいから、ミュージシャンが、プロデューサーやプロモーターの役割も担わなくてはいけない現状があるから。

スラック:というか、ネットとカメラを使うDIYみたいのが主流になって、誰でもプロっぽく作れるから、リスナーが本物を見抜けないんじゃないすかね。まあ、どちらにしろ、プレッシャーの感じようがない。

自分に脅威を感じさせる存在がいない、と。

スラック:数人しかいないですね。

野田:本人を目の前にして言うのもなんだけど、スラックはぶっちゃけ、下手なメジャーよりも売れちゃったと思うんだよね。自分が売れて、周りからの反応ではなく、自分自身に対するプレッシャーはなかったの?

スラック:うーん。

野田:そこは動じなかった?

スラック:動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。

野田:なるほどね。『My Space』と同じような気持ちで作ったということだ。

スラック:ある意味ではそうです。自然に真面目にやったんです。

『この島の上で』のような誤解をされかねない作品を出して、その評価や反響に賛否あっても、ぶれることなくいままで通り音楽を続けていく自信があったと。

スラック:そうっすね。でも、無意識ですね。それと、Ces2と出した『All in a daze work』を『この島の上で』のあとに出したんですけど、『この島の上で』の前に完成してましたね。

スラックくんの作品を昨日一晩で聴き直したんですよ。『情』がとくに象徴的だけど、ある時期から、泣きの表現、センチメンタルな表現に力を入れはじめた印象を受けたんですよ。

スラック:『情』では景色を描きたくて、映画を作るようなイメージで作ったんです。日本人の誰もが共感できるものっていうか。

叙情や情緒になにかを託していると感じたんですよね。

野田:サンプリングのアレもあるだろうけど、フリーダウンロードで配信したのはなぜなの?

スラック:あれはなんででしたっけ?

マネージャーF:『情』は、いままでお客さんがCDを買ってくれてたり、ライヴも観てくれたりすることへのお返しっていう意味があったんでしょ。

スラック:そうだ、そうだ。まあ、ネタのこともあるけど、かなりの赤字になるのが決まってたんですけど、正規の作品ばりにガッツリ作ったんですよ。

マスタリングもばっちりやってますよね。

スラック:そうです。行動で示したかったですね。

野田:律儀な男だね(笑)。

自分のファンに対して、愛があるんですね。

スラック:そうっすね。いや、でもファンに対して、愛はたぶんないです。

えぇぇー(笑)。ファンががっかりするよ。

スラック:でもやっぱり両想いは難しいですよ。オレのことを理解しきれるわけがないし。

厳しいね。

野田:いやいや、そりゃそうでしょ。

スラック:もちろん感謝はしてますけど。

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いろんな街に行って、東京って形がない街だなって思ったんですよ。けっこう東京は嫌いではありますね、いま。嫌いっていうか、他の街に行くと、自分が実は騙されてんじゃないか、みたいに思うんです。

ここまでの話を聞いて思うのは、スラックくんはひとりひとりの音楽リスナーに音楽を聴く耳を鍛えてほしい、育ててほしいという意識があるんだなって思いましたね。

スラック:それもありますね。

野田:あるんだ!? オレは、どっちかって言ったら、スラックはまったく頓着しないタイプなのかなって思ってた。

いや、あるんじゃないですか。

スラック:真面目とふざけが同時にあって、どうでもいいっちゃどうでもいいんですよね。でも、なんでもいいってことになったら、死んでるのと変わらないから。だからこそ、ヒマを潰す。自由を一周したら責任が生まれて、社会の仕組みが見えてきた。それを理解しないで社会のことをやっててもダメだから、ちゃんとこなして文句言おうと思ってますね。

それは3年前にインタヴューしたときには感じてなかったことなんじゃない。

スラック:感じてませんでしたね、たぶん。

ハハハハハ。22歳でしたもんね。

スラック:そうですね。だから、あのときはもう文句ばっかでしたね。

野田:ヒップホップってアメリカの文化じゃない? 日本人もアメリカ的なものに憧れて、ヒップホップにアプローチしていくところがあるでしょ。スラックはアメリカから押し付けられたアメリカに満足できないということを暗に主張したいのかなって感じたんだけど。

スラック:でも最近、オレはアメリカの自然なヒップホップをやるんじゃなくて、オレらの自然な生活感のあるヒップホップじゃないと無理があると思ってますね。これ、ちょっと話が違いますか?

野田:いやいや、そういうことだよね。あと、必ずしもアメリカが良いわけではないでしょ。日本以上に過酷なところがある社会だからさ。

スラック:そうですよね。

野田:アメリカに憧れる気持ちは、音楽好きのヤツだったら、若い頃は誰にでもあったと思う。でも、海外をまわってから日本をあらためて見直すってこともある。たとえば、幸いなことに、アメリカほどひどい格差社会は日本にはまだないと思うからさ。そういう意味での日本の良さだったらオレは理解できる。

スラック:そうですね。愛国心というか、オレが日本人であることが問題なだけで。

野田:それは思想とかじゃなくて......

スラック:自分のチームを立てるしかないってことですね。

野田:自分の親や町内や地元が好きなようなもんなんだね。しょうがないもん、そこで生まれちゃったんだから。

スラック:そうそう。だから、楽しみたい。日本の道路をアメリカやイギリスの国旗を付けた車が走ってるのを見て、「なんだろう?」、「日本はどこに行ったんだろう?」って思うときがある。「日本にももっと楽しむところがいっぱいあるはずなのに」って。そういう意味で、ファッションって言い方をしたんです。

たとえば、日本文化のどういうところを楽しもうと思ったの?

スラック:ガイジンが面白がる日本を楽しんでみたり。

ガイジンのツボを突く日本ははこういとこなんじゃないか、と。

スラック:ガイジンというか世界に対してですね。それが日本の金になっていくって発想だと思います。

シック・チームは海外のラッパーやトラックメイカーと交流があるし、スラックくんの周りにもいろんな国の友だちがいますよね。そういった人たちとの会話のなかで生まれた発想ですか?

スラック:いや、オレがひとりで走ってましたね。ただ、地震のあと、スケーターの仲良いヤツと話しても、スケボーの世界も海外に対して、「日本人ならどうする?」、「オレらはなにを作る?」って方向に向かっていったらしい。

国を大きく揺るがす大震災や原発事故が起きて、日本人のアイデンティティを問い直す人たちが多かったってことなんですよね。

スラック:多いんじゃないすかね。どうなんすかね?

野田:多かったとは思うけど、K・ボムやオリーヴ・オイルはそういう意味では、ずば抜けた日本人でしょ。言ってしまえば、日本人らしからぬ日本人でもあるじゃない。

スラック:逆にオリジナル、本物はこれだよって。

野田:みんなが思う日本人のパターンに収まりきらない日本人だよ。

スラック:怒られるかもしれないけど、Kさんもオリーヴさんも友だちっぽいんですよね。良い意味で気をつかわないし、怒らしたら恐いんだろうなっていうところが逆に信用につながっている。

K・ボムの凄さは、あの動物的な直感力だと思うんだよね。

スラック:運動神経なんですよね。オリーヴさんも音作りの運動神経がすごい。一気に作って、完成してるんです。速いんですよ。

スラックくんは、K・ボムというかキラー・ボングのアヴァンギャルドな側面についてはどう思う? ある意味で、ヒップホップから逸脱してるじゃないですか。〈エル・ニーニョ〉のときも、PSGのライヴのあとに、メルト・ダウン(キラー・ボング、ジューベー、ババ、オプトロン)の壮絶なライヴがあって、〈ブラック・スモーカー〉は、そういう異色な組み合わせを意図的に楽しんでやってると思うんだよね。

スラック:もちろんKさんには音楽の才能を感じますし、Kさんが違うジャンルの音楽をやっていても理解できる。むしろ、リスナーからは似たようなシーンにいるように見られていても、オレはぜんぜん感じないヤツもいますよ。

そこの違いみたいなものはリスナーやファンにわかってほしい?

スラック:まあ、わかったほうがいいとは思いますけど、半々ですね。理解してほしいっちゃほしいけど、それでみんなが傷つくのはかわいそうっちゃかわいそうですよね。迷いがありますね。だから、日本のシーンってまだぜんぜん形になってないと思います。これから20代以下の若いヤツらがたぶんすごいことになる気がします。

スラックくんの活動を見てると、自分が100%出せるイベントやパーティにしか出演しないというか、けっこうオファーを断ってるじゃないんですか?

スラック:そうですね。みんながどんぐらい受けてるかを知らないけど、たとえばモデルにしろ、嫌いな服は着れないし、完全に自然が良いですね。

安易に手を取り合わなかったり、オファーを断ることで守りたい自分のスタイルや信念はなんなんですかね?

スラック:けっこう生々しい東京の話になってきちゃいそうですね、そうなると(笑)。単純にだるい人間関係とか良くないものとの関係とか、ニセモノやイケてない関係とかが多いですよね。そういうのはあんまり信用してない。

スラックくんの攻撃性みたいなものはそこまで曲に反映されてないですよね。

スラック:そうなんすかね? 意外と出してますよ。

そうか、意外とラップしてるか(笑)。

スラック:次出すやつとかヒドイなあ。

野田:トゲがある?

スラック:そのときの気持ちはもう忘れてる感じですけど、イライラして曲書いて発散しましたね。

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みんなは新しく出てくるアーティストに盛り上がってるけど、オレはまるでよくわからないアーティストばっかりなんで。日本のリスナーのハードルがそんなに高くないんじゃないかって思いますね。音楽を聴いてんのかな?って。

少し話を変えると、3年前にインタヴューさせてもらったときに〈ストーンズ・スロウ〉から出すのが、ひとつの夢でもあるという話をしてましたよね。久保田利伸を例に出したりして、ディアンジェロみたいなブラック・ミュージックを消化して、表現したいと。その当時語ってた理想についてはいまどう考えてます?

スラック:〈ストーンズ・スロウ〉はいまは興味ないですね。オレはいまそっちじゃないですね。オレはただJ・ディラが好きだったんだなって思いますね。

野田:J・ディラのどんなとこが好きだったの? サンプリングをサクサクやる感じ?

スラック:彼のスタイルが、90年代後半以降のヒップホップのスタンダードになったと思うんですよ。

最近、トライブの『ビーツ、ライムズ&ライフ~ア・トライブ・コールド・クエストの旅 ~』って映画が上映されてて、すごい面白いんだけど、あの映画を観て、あらためてトライブからJ・ディラの流れがヒップホップに与えたインパクトのでかさを実感したな。

スラック:セレブっぽいっていうか。音楽としてヒップホップの人が追いつけないところに行こうとしはじめると、結果的にモデルがいっぱいいるようなオシャレな音楽になっていく。そうやってブレていく人たちが多いと思う。そうなるとあとに引けなくなるし。

それこそ漠然とした言葉だけど、スラックくんは「黒さ」に対するこだわりが強いのかなって。

スラック:黒さだけじゃないんですよ。自分もアジア人ですし。

野田:白人の音楽で好きなのってなに?

スラック:ラモーンズとかですね。

一同:ハハハハハ。

スラック:なんでも好きですよ。ピクシーズとかカート・コバーンも好きだし。

野田:ラモーンズって、けっこう黒人も好きなんだよね。

スラック:極端にスパニッシュっぽいものとかラテンっぽいものも好きです。

いま、スラックくんが追ってる音楽はなんですか?

スラック:ディプセットとかジュエルズ・サンタナとか聴いてますね。中途半端に懐かしい、あの時代のヒップホップにすごい癒されてて。いま聴くと、オレが好きなヤツらって、ここらへんの音の影響を受けてんのかなーって思ったりして。

シック・チームでもひと昔前に日本で人気のあったアメリカのラッパーをフィーチャーしてましたよね? えー、誰でしたっけ?

マネージャーF:エヴィデンス。

そうそう、エヴィデンス! あのタイミングでエヴィデンスといっしょにやったことに意表を突かれましたね。

スラック:ダイレイテッド・ピープルズですね。

そう、ダイレイテッド・ピープルズ! 日本でもコアなリスナーの間で人気あったじゃないですか。面白い試みだなと思いましたね。

スラック:だから、「これはもしかして日本人がいまちょっと来てるんじゃねぇのか」って思った。でも、いままでの日本の打ち出し方ってイケテないのが多いから、そこは慎重にかっこよくやりたいんですよ。

野田:ダイレイテッド・ピープルズに、90年代の『ele-king』でインタヴューしましたよ。

スラック:マジすか?

野田:マジ。当時はパフ・ダディがポップ・スターだったじゃない? ダイレイテッド・ピープルズやエヴィデンスは、そういうものに対するカウンターとしてあったよね。

スラック:オレの周りは年齢層も30歳ぐらいの人が多くて、ナインティーズ推し派が多いんですけど、オレはネプチューンズとかも好きなんですよ。オレはサウスが流行ってた時代に育ってるけど、その中でナインティーズっぽいことをやってた。だから、「ファレルとかも良くない?」って思う。

日本では、90年代ヒップホップとサウス・ヒップホップの溝はけっこう深いしね。

スラック:深いし、ナインティーズ推し派の人たちはやっぱ固いっつーかコアですよね。あと、オレの世代でもまだやっぱ上下関係が残ってて、オレはそれを否定して少数派になっちゃった。だから、もうちょっとやりやすい環境を求めて、いま動き回ってますね。

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動じませんでしたね。だから、『この島の上で』の話に戻ると、「こういうアルバムもオレは出すんだよ」くらいでの気持ちでしたね。「このデザイン、ハンパなくない?」、みたいな。

良い音楽を作るためにはしがらみを取っ払わないといけないときもあるよね。

野田:いや、良い音楽を作るためには独善的でなければならないときもあるんだよ。ジェイムズ・ブラウンみたいに、「おい! ベース、遅れてるぞ。罰金だ!」って言うようなヤツがいないとダメなときもある。

スラック:たしかに言えてますね。だから、人と上手くやるのって難しいですね。とくに日本のお国柄とか日本人の精神もそこにリンクしてくるから。日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティブに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。

野田:お父さん、すごい音楽ファンなわけでしょ?

スラック:そうですね。

野田:スラックは、『My Space』と『Whalabout』を出したときにメジャーからも声をかけられたと思うのね。「うちで出さない?」って。

スラック:はいはい。

野田:それを全部断ったわけじゃん。断って自分のレーベル、高田......、なんだっけ?

スラック:高田音楽制作事務所(笑)。

野田:でも、いわゆるアンダーグラウンドやマイナーな世界に甘んじてるわけでもないじゃない。

スラック:はい。

野田:だから、「第三の道」を探してるんだろうなって思う。アメリカの第三のシーンみたいなものが、ダイレイテッド・ピープルズとかなんじゃない。

あと、レーベルで言うと、〈デフ・ジャックス〉とかね。

野田:そう、〈デフ・ジャックス〉とかまさにね。

〈ストーンズ・スロウ〉も精神としては近いでしょうね。

野田:まあそうだね。そのへんの「第三の道」というか、いままでにない可能性に関しては諦めてない?

スラック:うーん、どうですかね。自分の立場が変わって、シーンをもっと良くすることができる位置にきた気はします。元々の人には嫌われたりするかもしれないけど、シーンを自分の色にできる影響力を持った実感もちょっと出たし。やらないことも増えたり、変なことやるようになったり。「第三の道」っていうの探してるかはわからないですけど、元の自分のままでいることはけっこう無理になりましたね。いまの自分の立場になって、昔の自分みたいなヤツが出てくるのを見て、「オレはこんなことしてたんだ」って思うこともある。そういう経験をしてきたから、後輩には良くしようって。そういう変化をもたらすきっかけにはなれるんじゃないかなってたまに思っちゃう。

シーンについて考えてるなー。

スラック:「なんでオレがこんなことしなきゃいけないんだよ!?」って思いながら、「オレがやってんじゃん」みたいな。

ハハハ。

スラック:いまオレが言ったようなことをやる専門のヤツがいっぱいいたらいいのにって思う。でも日本人は、有名なラッパーに「なんとかしてください」ってなっちゃうんですよ。アナーキーくんみたいに気合い入れて自分を通してやり遂げて、曲もちゃんと書くってヤツがもっと存在していいと思う。言い訳ばかりはイヤですね。

野田:日本の文化のネガティブなことを言うとさ、やっぱり湿度感っていうか、ウェット感がある。たぶんそういうところでけっこう惑わされたのかなって思うんだけど。

あと、派閥意識みたいなのも強いですからね。それがまた面白さなんだけど。

野田:日本人がいちばんツイッターを止められないらしいんだけど、なぜ止められないかって言うと、そこで何を言われているか気になって仕方がないというか、人の目を気にしてるからっていうさ、そうらしいよ。

スラック:ああ。

野田:自分が参加しないと気になってしょうがないんだって。二木はとりあえず、そういう人の目を気にしちゃってる感じをファンキーって言葉に集約してなんとか突破しようとしてるわけでしょ。あれだね、スラックは理想が高いんだね。

スラック:理想はたぶん、高いかもしれない。

そういう意味でもスラックくんの存在はすごい重要だと思う。

スラック:あとオレは、カニエやファレルに負ける気で音楽は作ってないすね。

野田:カニエとファレルだったらどっち取る?

スラック:ファレルですね。

野田:あー、オレと同じだなあ。じゃあ、ファレルとカニエの違いはどこ?

スラック:まあ、いちばん簡単に言えば、最初は見た目なんですよ。あと、ファレルは最終的に音が気持ちいいし、器用だし、音楽だけに留まってない。音楽のセンスが違うところに溢れちゃってる。あの人とかもう、究極の楽しみスタイルじゃないですか。チャラい上等じゃないですけど。

野田:それって逆に言うと、実はいちばんずるい。

スラック:ずるいですね。

野田:バットマンの登場人物でいうジョーカーみたいなヤツじゃん。人を笑わせといて、実は殺人鬼っていうようなさ。

すごい喩えだ(笑)。

スラック:ネプチューンズというか、ファレルは作る音で信用得てますよね。それは周りからのディスで止められるものじゃない。

野田:フランク・オーシャンとかはどうなの?

スラック:フランク・オーシャンは好きっすよ。

野田:オッド・フューチャーは?

スラック:オッド・フューチャーも最終的に好きになりましたね。

野田:あのへんはファレル・チルドレンじゃない。

スラック:そうですね。メインストリームの良いものを真似して、でも惑わされずに、あの世代のアングラ感やコアな感じを出してますよね。だから、信用できる。

考えてみれば、フランク・オーシャンも「第三の道」を行ってるアーティストですよね。

野田:そうだね。

スラック:彼はなんか人生にいろいろありそうな音してますよね。

野田:そうそう。で、オッド・フューチャーにレズビアンがひとりいる。

たとえば、日本のヒップホップで「第三の道」って言ったら、やっぱりザ・ブルー・ハーブじゃない。

スラック:よく聴いてたし、オリジナルだし、彼らのはじまりを思うとすごいと思いますね。「ガイジンもなにこれ?」って思うような、日本っぽいことをやって、それをやり通してるし。

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日本はいますごい絶望的だと思うし、そのなかでポジティヴに楽しんで生きていけるヤツがある意味勝ち組だと思う。社会的に勝ち組と思ってるヤツらもいきなり明日にはドン底になって動揺する可能性だってある。親父とも最近、そういう日本のことを話したりするようになって。

スラックくんの言う「日本っぽい」っていうのがなにを意味するのかもう少し訊きたいな。たとえば、『この島の上で』の"まとまらない街"や"新しい力"では、日本の伝統音楽というか邦楽をサンプリングしたようなトラックを作ってるでしょ。

スラック:たとえば、久石譲の音楽をCMや映画で聴いたりして、オレらだけが本当の意味で楽しめることに、みんな気づいてると思うんですよ。しかも、それでかっこ良ければ、ばりばりガイジンに対しても自信満々で行けるって。

「日本っぽい」オリジナルな音楽を作るというのは、いまでもスラックくんのひとつのテーマ?

スラック:ああ、でも、もう、ぶっちゃけいまはゆるいです。いろいろやってみて、疲れてきて、いまはもういいや、みたいな。地震のあと、坊さんの話を勉強したり、善について考えたりもして。でも、オレには無理だなって。全部を動かすスタミナはオレにはなかった。だから、いまはそっちは放置プレイです。

野田:でも、日本っていうのはAKBとか、オレはよく知らないけど、アニメとかさ、そういうのもひっくるめて日本だからさ。

スラック:そうすね。

野田:そういう意味で言うと、いまスラックが言ってる日本ってすごい偏った日本だと思うんだよね。

スラック:だから、オレはオレで、自分の好みをもっと広めたい。

野田:スラックの同世代の他の子はやっぱりアニメを観てたりしたでしょ。

スラック:そうですね。

野田:携帯小説を読んだりとかさ(笑)。

スラック:オレの世代はめっちゃ携帯世代ですね。でも、若いヤツらって意外と真面目で、時代は大人たちの裏で変わっていると思う。

野田:オレもなんか、スラックより下の世代と話が合うんだよね。

それぐらいの世代ってフランクだよね。

スラック:タメ語っぽいヤツは多いですね。

野田:オレなんかスラック以上に先輩後輩の上下関係のなかで育ってるから。

スラック:若いヤツらはオレの立場とかどうでもよくて、みんなはっきり言ってくるんで。「それ違くない?」って。それがけっこう当たってたりして、自分の邪念に気づけるし、面白いすね。だから、20歳未満の世代にも期待してますね。

野田:そのぐらいになると、「インターネットは単なる道具っしょ」っていう距離感なのね。

スラック:たしかに。

野田:さっぱりしているよね。

スラック:いまの若いヤツに対しては「プライドなんて育てない方がいいよ」って言いたいっすね。東京はダメだし、警察はギャングだし。もうちょっと賢い、本当に強い選択をしないと。暴力は損することも多いから。うまくなかに入り込んで壊すような、風穴を開けるようにならないとダメだと思う。ダメっていうか、そうしないと良くはならない。

東京の状況を良くしたいって気持ちもあるっていうことなのかな。

スラック:ありますね。最近、けっこう自分が良くねぇ時代にいるんじゃないかって気づき出して。オレらの親世代とかはちょうどバブルの子供世代だったりして、地震ではじめて動揺した世代だと思う。

野田:お父さんは何歳なの?

スラック:50中盤ぐらいなんで。

野田:えー、じゃあ、ぜんぜんバブルじゃな......い......いや、バブルか。

スラック:バブルの若者で、戦争にも当たってないし、なんにも触れてなくて、めっちゃ平和ボケ世代なんですよ。

野田:運がいいんだよ。

ある意味羨ましい。

スラック:そうそうそう。だから、その子供世代とかがまさにオレらとかで、いま大変な不景気に立たされてる。オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

いやあ、すごいおもしろいインタヴューだけど、野田さんの襲撃によって話がとっ散らかったなあ。......あれ、野田さん、どこ行くんですか?

野田:トイレですよ!!

一同:ダハハハハハッ。

『5 0』のことも訊きたくて。いちばん最後の曲、"AMADEVIL"ってなんて読めばいいんですか?

スラック:これはオリーヴさんがつけましたね。

意味はわかります?

スラック:いや。

ラストのこの曲の音が途中で消えて、そのあとにまた曲がはじまるでしょ。僕はその曲がアルバムのなかでベストだと思ったんですよね。

スラック:"BED DREAMING"だ。なんかベッドの上から一歩も出ないような日に書いた曲なんですよね。

福岡と東京を行ったり来たりしながら録音したわけでしょ。

スラック:行ったり来たりして、あっちで書いて、家で録ったり、それを送ったりしてましたね。去年の夏からですね。

そもそもどうしてオリーヴ・オイルとやろうと思ったんですか?

スラック:アロハ・シャツ着て過ごしたいなって。東京を置いといて。で、金にしちゃえって。

なるほどー。

スラック:長いラップ人生、なにをしちゃいけないもクソもねぇだろと思って、いろいろやろうかなって。あと、音を違うフィールドの人に任せたかったんですよね。これまで全部自分で仕切ってたから、任せれるアーティストとあんまり出会ってなかったんで。

2曲目に"愛しの福岡"ってあるじゃないですか。福岡の東京にはない良さ、面白さってどういうところですか?

スラック:人間ぽいすね。なんかこう、厳しいところと、緩いところがあって、日本人ぽい。また日本人出てきちゃった。

タハハハハッ。

野田:また口挟ませてもらってもうしわけないけど、福岡は日本の歴史において重要なところだよね。やっぱオリーヴ・オイルとやったっていうのが今回すごく面白いと思ったのね。オリーヴ・オイルもK・ボムもオレはリスペクトしてるトラックメイカーだけど、2人とも311があって、いわゆる感情的に涙の方向に行かなかった人たちじゃない。だから、そういう意味で言うと、『情』の叙情感とぜんぜん違うものじゃない。

スラック:たしかにそうです。

野田:『情』のあとだからさ、涙の路線の延長っていうのもあったわけじゃない。

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オレら世代はけっこうクソ......、クソっていうか、自由を尊重する気持ちだけは育って、でも手に入れる腕もないし、趣味もなけりゃ、ほんとにみじめだなって思ったりもします。好きなことがないとかは、大変だろうなって思いますね。

E王
5lack×Olive Oil - 50
高田音楽制作事務所 x OILWORKS Rec.

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今回のオリーヴ・オイルとのアルバムには一貫したテーマは最初からありました?

スラック:まず、オリーヴさんとの組み合わせがオレは最高だったんですよね。それと個人的には旅ですね。

たしかに旅はテーマだね。

スラック:東京側にも福岡みたいな街があるっていうのを伝えたかった。東京の身内に「おまえらもちゃんとやれよ」みたいなことも説明して、身内のことをディスすることによって、みんなの環境にもリンクすると思った。

たしかに、さりげなくディスってますよね。

スラック:そうですね。けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

いや、でも、それは勇気あるディスだと思いますよ。やっぱり福岡と東京を行き来したり、旅をしながら、東京や東京にいる仲間や友だちを客観的に見たところもあるんですかね。

スラック:そうですね。もちろんどこの街に行っても同じ現状があるけど。福岡にはオリーヴ・オイルっていう素晴らしくスジの通った人がいて、そこでKさんとも出会うことができた。たまたま福岡って街も良くて、あったかくて。

へぇぇ。

スラック:運ちゃんがまずみんなめっちゃ話しかけてきて。

野田:ガラ悪いからねー。九州のタクシー。

スラック:東京って街は最先端っていうよりは日本の実験室ですよね。東京が犠牲になって、周りを豊かにしてる気がしました。

地方が犠牲になって、東京を豊かにしてるって見方もあると思うけどね。原発なんてまさにそうだし。ただ、スラックくんの地方の見方を聞いていると、生粋の東京人なんだなーって思う。悪い意味じゃなくてね。

スラック:そうですね。たとえば、揉め事があったとして、他の地域だったらその場でケリがつくんじゃないかってことも、東京は引っ張って、引っ張って、引っ張って、みたいな。音楽のやり取りでも問題が起きると、じゃあ、本人同士で話し合って、決別するならして、仲良くするならすればってところまでが複雑。すごい街だなって思いますね。

どうなんだろう、大阪にしても、京都にしても、物理的に街が小さいっていうのもありますよね。人口も少ないし。たとえば、音楽シーンだったら、ヒップホップとテクノの人がすぐつながったりするし、シーンっていうより街で人と人がつながってる感じもあるし。人間の距離感が東京より近いんですよね。

スラック:ああ。

札幌に行ってもオレ、そう感じましたよ。ともあれ、板橋の地元で音楽をやりはじめたころと、付き合いが広がりはじめてからでは、なにかしらのギャップを感じてるってことなんだ。

スラック:オレは家で勝手に音楽をやりはじめただけなのに、そこを忘れちゃうんですよね、都心に出てやってると。しかもそこが重要なのに。なんか人がどうこうとか、責任が出てきて。地元帰ってくると、「いや違う。そうじゃない」ってなるんです。都心はシンプルじゃなさすぎて。

「鳴るぜ携帯/今夜は出れない/社会人としてオレはあり得ない/理由は言えない」("BED DREAMING")ってラップもしてますもんね。

野田:ハハハハハッ。

スラック:そう、電話の束縛も超苦手で。

このインタヴューの日程決めるやり取りも超スローでしたもんね。

スラック:電話出なかったりとかで、人と揉めたりしたんですよ。

たしかに揉めると思う(笑)。

スラック:そうなんすよね。揉めたり、怒られたりしましたね。でも、オレはそういうスタイルにマインドはないんですよ。彼女だってキレてこないのにって。

「社会人として失格」とか「だらしない」って言い方されたら終わってしまう話なんだろうけど、スラックくんには強い拒絶の意思を感じますね。そこに信念がある。

野田:信念あると思うね(笑)。

たぶん「第三の道」っていうのはそういうところからはじまると思うんだよね。社会的なしがらみから自由にやりたいわけでしょ。

スラック:そうですね。だから、そこは逆にわからせたいですよね。悪気はないし、ちゃんとやってる人に敬意もあるんです。ただ、こういうやり取りのなかでは敬意を表せないって思うときがあるんです。オレは自分のペースを保ってやりたいし、ストレスはやっぱりダメですね。

野田:まあ、アメリカはすごい孤立しやすい社会で、たとえばJ・ディラみたいな人でさえも、放っとけば孤立しちゃう。日本って逆に言うと孤立し辛い社会でしょ。

スラック:そうですよね。

放っといてくれない。

野田:「オレは独りになりたいんだ」って言っても。

スラック:それはそれで幸せなんだなって思いますけどね。

野田:そうだよ。

スラック:でも、まあ、そこも塩梅ですよね。そういう意味でも上手くできるヤツといるようにしたい。一般的には難しいことなんだと思いますけど。いまは、そういうこと考えまくった上で、生きてるときは気を抜いてますね。

野田:ところで、311前に愛をテーマにした『我時想う愛』を出したじゃない? あれはなんでだったの? しかも、ジャケなしで、いわゆる透明プラスティックのさ。

スラック:あれ、裏にジャケがあったんですよ。そういう意味でも、みんな、固定概念に縛られ過ぎだよって。

野田:ダハハハハ。

虎の絵があったよね。

スラック:あれがレーベル・ロゴで、黄色い人種ってことですね。

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けっこう身内のことばっかり否定してて、オレもカッコ悪いかもしれないけど、ただ身内だからとりあえず「カッコいい」ってなってる状態も変だと思うから。そこで調子に乗っちゃってる友だちも危ないとオレは思うから。

それで思い出したけど、あのアルバムに"I Can Take it(Bitchになった気分だぜ)"って曲があったでしょ。スラックくんが男と女の一人二役やるじゃない。

スラック:はいはいはいはい。ビッチ本人と説明にまわってる自分という設定でやったやつですね。

そうそうそう。ビッチになりきって女の子の気持ちをラップして、フックでスラックくん本人が出てきて、「オレはそうとは思わない」って優しく語りかけるでしょ。歌謡曲だと、男が女の恋心や気持ちを歌うパターンがあったりするけど、ヒップホップで男が女の気持ちをああいう形でラップをするっていうのはなかったことでしょ。あれは革新的な試みだと思った。

スラック:ビッチになった気分だったんですよね。

しかも、ビッチっぽい女の子の心の機微を上手く表現してるんだよね(笑)。

スラック:そうなんですよね。あの曲、いわゆる自称ビッチみたいな娘たちに評判が良くって。

いい話だなあ。

スラック:「わかる~」みたいになっちゃって。

野田:ねぇなぜ、あのときに愛っていうテーマを持ち出したの?

スラック:愛情を感じてたんだと思いますね。いろんなものから。しかもその後、めっちゃ地震とリンクしていったことは、まったく不意だった。

野田:そうだよね。よく覚えてるのが、ちょうどあのアルバムが出て、しばらくして311があって、〈ドミューン〉に出演してくれって頼んだ。それこそ、シミラボ、パンピー、K・ボムが出てくれた。

そう考えると、あのメンツはすごかったなあ。

スラック:そうですね。

野田:あのとき、1曲目で、アルバムの1曲目("But Love")をやったじゃない。

スラック:うんうん。

野田:あのときはすごく力を感じた。

スラック:そうっすね。愛っていうか、愛って言葉自体、たぶんあのときはもう日本化してたんですよね。

野田:ふぅーん。

スラック:愛っていう言葉が、響きとしてもいいだろうって思ったんです。オレ的には『我時想う愛』で一周した感じだったんですよ。あそこで『My Space』くらいに戻ったなって。『我時想う愛』を作ってるときは、「死ぬ気でやってないと後悔するぜ」ってことに仕事柄気づいたんです。そういう哲学は常に考えちゃうタイプなんです。そしたら、地震がたまたま起きて、ほんとに死ぬ気がしたから、あのアルバムと気持ちがリンクしたんじゃないかなって思うんですよ。だから、そうですね、うん、そういう本気で生きる、みたいなタイトルだと思うんですよね。タイトルはちょっと邦楽っぽいですね。東京事変じゃないけど。

野田:アハハハハ。

スラック:ニュアンスで言えば、中島みゆきとかウルフルズとかエレカシとかの言葉に近いのかもしれない。エレカシとか好きっすね。エレカシとかの言葉のニュアンスをラップで使いたかったんですよね。そこに日本人としての自然さ、侍とか忍者とかじゃない、日本人のオレらの自然さを出したかった。

なるほどね。

スラック:ブラック・ミュージックとかソウルで「~オブ・ラブ」って言葉やタイトルがあるじゃないですか。

うんうんうん。

スラック:それを日本で表現したら、ああなった感じです。ソウルのバラードにはバラの絵があったり、そういう時代のソウルのイメージですね。

へぇぇ。

野田:アナログ盤にしなかったのはなぜだったの? 

スラック:たしかに出そうと思ってたんですけど、この島が動いてそれで忘れてましたね。アナログにするっていう話はあったんですよね。いま自分の行動を振り返ってみても、やっぱり地震のあとは熱くなり過ぎたなーって思うんですよね。


大きなベッドにダーイブ
オレは人生を変える夢を見た
ふざけてる現実に手を振り
イカしたデザインの船で目指すのさ
そこは東京、アメリカ、中国にコリア、UK、ジャメイカ、帰り道、レイバック
光る星の近くを通る
クソも離れて見れば光るらしい
だけど本物も転がってる
そいつに触ると目が覚める
ここがトゥルーだぜ
まだオレはベッドの上
まだオレはベッドの上
"BED DREAMING"(2013)


5lack x Olive Oil 「- 5 0 -」 のrelease party

-平日にもSPECIALは転がっている!!―

この街、福岡で生まれた奇跡のSESSION !!

5lack x Olive Oil 「- 5 0 -」 のrelease partyを本拠地BASEで開催!!

第3月曜日はO.Y Street で祝福の杯を交わしましょう!!

*終電をご利用の方も楽しめるタイムテーブルとなっています*

2013.03.18 monday@福岡CLUB BASE
open 18:00 - close 24:00
ADV : 2,000yen (w1d) 【LIMITED 70】
DAY : 2,000yen
** 20:00までにご来場の方には1drinkをプレゼント!!

RELEASE GUEST: 5lack x Olive Oil

GUEST VJ: Popy Oil

CAST:
HELFGOTT
WAPPER
LAF with PMF
ARCUS
DJ SARU
MOITO
DJ KANZI

上映: 『LATITUDE SKATEBOARD』

** 当日「- 5 0 -」アイテム販売あり!! **

<WEB予約>
当日の18:00までに contact@club-base.netヘ『件名:5O release party』『本文:代表者名と予約人数』
をメールしていただいた方は前売料金での入場が可能に!!

【チケット取扱店舗】
Don't Find Shop 福岡市中央区大名1-8-42-4F 092-405-0809 https://www.oilworks-store.com/
TROOP RECORDS 福岡市中央区大名1-3-4シェルタービル3F 092-725-7173 https://trooprecords.net/
DARAHA BEATS 福岡市中央区天神3-6-23-203 092-406-5390 https://darahabeats.com/
TICRO MARKET 福岡市中央区大名1-15-30-203 092-725-5424 https://www.ticro.com/
famy 福岡市中央区警固1-4-1 2F 092-732-6546 https://www.portal-of-famy.com/

CLUB BASE
福岡県福岡市中央区天神3-6-12 岡部ビル5F
MAIL : contact@club-base.net
TWITTER : @BASEfukuoka

特設HP:https://0318-50-releasepartyatbase.jimdo.com/

Gold PandaとStar Slingerが春を運んでくる - ele-king

「とってもかわいらしいIDMスタイルですよ」「初期のマウス・オン・マーズと初期のエイフェックス・ツインが一緒にスタジオに入ったと想像してみてください」
(野田努 https://www.ele-king.net/review/album/001097/

 フル・アルバムをたった一枚リリースするばかり(2010年)なのだが、ゴールド・パンダには日本においてもしっかりとファンがついている印象がある。リリカルなメロディを持った彼のIDMにはそれほどの存在感があった。フォー・テットのファンからJディラのファンにまで快く迎えられているだろう。ダンス・フロアとベッドルームのはざまからじつにやわらかいエレクトロニカを届けてくれる。

 ゲストもまた注目である。CD、ヴァイナルともに日本でもよく売れたスプリット作『チームスvs スター・スリンガー』を手に取り、気になっていた方も多いはずだ。チームスは2011年にプロパーなリリースがあるが、スター・スリンガーは自主盤以外はリミキサーとしてさまざまなアーティストとの仕事の上にその名を見るばかりだ。洒脱にして繊細なエディット、心地よいドリーム感覚。彼の全貌があきらかになるとあれば、この機会を逃す手はない。

ゴールド・パンダの1年4ヶ月振りとなる来日公演が決定!
スペシャル・ゲストは現在題沸騰中のスター・スリンガー!!

傑作デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』から2年半、海外ではヴァイナル/ デジタルのみで発売される『トラストEP』に未発表曲他を追加収録した日本企画盤CDを3月にリリースし、年内には待望のセカンド・アルバムのリリースもアナウンスされているゴールド・パンダの1年4ヶ月振りとなる来日公演が決定! 更にスペシャル・ゲストとしてゴールド・パンダを始めウォッシュト・アウト、ゴー! チームなどのリミックスを手掛け注目を集め、2011年にメキシカン・サマーよりリリースしたUSノックスビルのプロデューサー、チームスとのスプリット作『チームスvs スター・スリンガー』が日本でもコアなレコード店を中心に大ヒットを記録したスター・スリンガーが待望の初来日!!

次世代のエレクトロニック・ミュージックを担う2 アーティストのカップリング・ツアーにご期待下さい!!!

■GOLD PANDA JAPAN TOUR 2013 SPECIAL GUEST STAR SLINGER

[東京公演]
2013/04/12(FRI) 代官山UNIT
OPEN/START:23:00
ADVANCE:¥3,500 / DOOR:\4,000
出演:GOLD PANDA, STAR SLINGER AND MORE
*20歳未満の方はご入場できません。また入場時に写真付身分証の提示をお願いしています。

[大阪公演]
EXTRA~Gold Panda Japan tour 2013 special guest Star Slinger~
2013/4/13(SAT) LIVE SPACE CONPASS
OPEN:20:00 / START:20:30
ADVANCE:¥3,000 (D別) / DOOR:¥3,500(D別)
出演:GOLD PANDA, STAR SLINGER AND MORE

主催/ 企画/ 招聘 : 代官山UNIT 協力 : YOSHIMOTO R and C CO., LTD.
MORE INFORMATION : UNIT / TEL 03-5459-8630 www.unit-tokyo.com


■GOLD PANDA (ゴールド・パンダ)

バイオグラフィー
英エセックスのチェルムズフォード出身で現在は独ベルリンに住むゴールド・パンダは、UKのインディ・レーベル、Wichitaがマネージメントとして手掛けるアーティストで、過去に日本に数年住んでいたこともあり、日本語の読み書きもできる。2009年に『Miyamae』『Quitters Raga』『Before』といったシングルをリリースし頭角を現し、2010年3月には初の来日公演を敢行、4月には先のシングルをまとめた日本オリジナル編集アルバム『コンパニオン』で日本デビューを果たした。2010年10月にはシミアン・モバイル・ディスコのジェイムス・ショーがミックスを担当したデビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』をリリース。彼の長年の活動が凝縮されたこのアルバムは大きな評価を獲得。年末には各媒体の年間ベスト・アルバムの1枚に選ばれ、英ガーディアン紙の「ガーディアン・ファースト・アルバム・アウォード2010」の獲得に至った。また同年10月には朝霧JAM 出演の為、再度の来日公演もおこなった。その後、ゴールド・パンダは世界中をツアー。2011年にはDJ Kicksのコンピレーションをリリース。同年9月にはメタモルフォーゼ2011に出演の為、来日。メタモルフォーゼは台風により中止となったが、札幌で単独公演をおこない、12月には東京/ 大阪で来日公演もおこなっている。

アーティスト・オフィシャル・サイト:https://www.iamgoldpanda.com/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://www.bignothing.net/goldpanda.html

 
■STAR SLINGER (スター・スリンガー)

バイオグラフィー
スター・スリンガーことダレン・ウィリアムスはマンチェスター出身のプロデューサー。2010年にビート集『Volume 1』をセルフ・リリースし、本作がピッチフォーク・メディア、スピン、デイズド&コンフューズドといったメディアから取り上げら注目を集める。2011年にはUSノックスヴィルのプロデューサーであるTEAMSと手を組んだ傑作スプリットEP『TEAMS vs. STAR SLINGER』をMexican Summerよりリリース。本作は限定プレスとの事もあり瞬く間にソールドアウトした。またスター・スリンガーはこれまでJuicy J、Project Pat、Lil B、Reggie BやTeki Latexとコラボレーションし、Gold Panda、Jessie Ware、Washed Out、Daedelus、The Go! Team、Broken Social Sceneといったアーティストのリミックスを手掛けている。

アーティスト・オフィシャル・サイト:https://starslinger.net/
ジャパン・オフィシャル・サイト:https://www.bignothing.net/starslinger.html

■新譜情報
ゴールド・パンダ『イン・シーケンス』
傑作デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』から2年半、ゴールド・パンダの新しい作品が遂にCDリリース。
海外ではヴァイナル/デジタルのみで発売される『トラストEP』に未発表曲他を追加収録した日本企画盤(全9曲初CD化)。

2013.03.13 ON SALE
¥1,260(税込)
日本企画盤(海外発売の予定はなし)
■収録曲目
1. MPB / MPB
2. MOUNTAIN / マウンテン*
3. FINANCIAL DISTRICT / ファイナンシャル・ディストリクト*
4. TRUST INTRO / トラスト(イントロ)**
5. TRUST / トラスト**
6. BURNT-OUT CAR IN A FOREST / バーント・アウト・カー・イン・ア・フォレスト**
7. CASYAM_59#02 / カシャム59#02**
8. MORE TRUST 8 / モア・トラスト8
9. HEALTH TOUR / ヘルス・ツアー
*taken from 『Mountain/ Financial District』(7”)
**taken from 『Trust EP』

CE$ - ele-king

CE$-(MOBBIN HOOD,she luv it)
DJではBASS/TECHNO/HIPHOP/GRIME/DUBSTEP/TRAPをプレーしたりしてます。
部屋ではHARDCOREとREGGAEをよく聴きます。
MIXCDも何枚かリリースしてますので、良かったらチェックしてみて下さい。
今年は新しいMIXCDと新しいパーティーも企画中です。
&全国の友達に、いつも有り難う御座います。
https://soundcloud.com/for2empty
https://soundcloud.com/mobbinhood
https://soundcloud.com/ces-5

【Chart for ele-king 2013 Mar.】※順不同


WDsounds exclusive mix/DJ HIGHSCHOOL (WDsounds)
レーベルinfoにも書いてあったけど、HIPHOPは現在のRUDE MUSICのひとつだという事を、改めて思わせてくれるMIX。

BEDTIME BEATS VOL.3/SONETORIOUS aka DJ HIGHSCHOOL(804 Productions)
Flunking This Semesterを聴いた時の衝撃は忘れがたいです。

presidents wolf mixWOLF 24 (PRESIDENT HEIGHTS)
ふとした時に気づいたら部屋で流してます。

Wake&Bake Basics Cough,Cough,Pass/GRINGOOSE(seminishukei)
&Prillmal Dessert Delights/GRINGOOSE(seminishukei)
耳に気持ちいいBREAKBEATS/HIPHOP/SOUL/FUNKが、街の温度と共に響いてきます。

・Misty the Sound Crack/ONE-LAW(FELLOWZ)
全曲本当に素晴らしいのですが「Coltez」が一番お気に入りです。
中毒性も凄いと思います。

P-SHOCK/Mr.PUG from MONJU(DOG EAR RECORDS)
&EARR/ISSUGU FROM MONJU(DOG EAR RECORDS)
DOGEARからのこの2作品は、純粋な彼らのHIPHOPであり、二人の美学がヒシヒシと伝わってきます。

FL$8KS/FLA$HBACKS(FL$Nation & Cracks Brothers.Co,Ltd )
完全なる新世代によるSUPA FRESHな1枚。

Telephone my girlfriend on a cold dai/MASS-HOLE(MidNightMealRecords)
これまでのMASSのMIXの中でも一番エロい感じですね。最高です。

〈SPF420〉第3回目が開催 - ele-king



 以前、ヴェイパーウェイヴ界隈のフェスティヴァル〈#SPF420 FEST〉の模様を本誌でお伝えしたが、きたる3月20日にその第3回目が開催される。苗場にも幕張にも長野にも行けずとも、お手元の機器がインターネットに接続されてさえいればこのフェスには参加できるので、ご安心を。会場はこちらです。

video chat provided by Tinychat

HTTP://WWW.TINYCHAT.COM/SPF420

 とはいえ、開催時刻には気をつけてほしい。米国東部時で3月20日22:00だが、日本標準時で考えると3月21日(木曜日)12:00である。平日ではあるものの、時間がある方はぜひこの戯れに混ざってみてはいかがだろうか。
 前回の様子は、チャットも込みで、以下の動画を参照していただきたい。

Transmuteo Live @ SPF420FEST2.0 from Transmuteo on Vimeo.

 今回の出演者で注目したいのは、情報デスクVIRTUALでもなくプリズムコープ(PrismCorp)でもなく、元来の名義での登場となるヴェクトロイド。もともとトロ・イ・モアをリミックスしていたように、ヴェクトロイドはそもそもチルウェイヴの潮流のなかで名を拡げていたアーティストだ。おそらく、今回はミューザックの垂れ流しではないだろう。どのようなライヴを披露するのか楽しみである。
 ほかにも、日本のツイッタラーからも愛されている、ジューク/スクリューが得意なDJペイパル。ヴェクトロイドともギャラリーで共演しているマジック・フェイズ。そして、サウンドクラウドにも音源のない、謎のツイッタラー=コーダック・キャメオがなにをするのか気になるところである。
 なお、フライヤーデザインはホワイトバックグラウンドによるもの。

 主宰のひとり、ストレスからプレスキットが届いたので、その言葉をもとに再構成したフェスティヴァルの詳細を以下にご紹介しよう。
 ストレスがこのフェスティヴァルを積極的にプロモーションしたがっているのは明らかで、自分たちの正体を隠したがるヴェイパーウェイヴ連中が、注目を集めた後にどのように振る舞っていくのかがこのイヴェントの一番の見どころともいえる。

 やあ、〈SPF420〉に興味をもってくれてありがとう。

 〈SPF420〉はタイニーチャット(HTTP://WWW.TINYCHAT.COM/SPF420)で開催されるオーディオ/ヴィジュアルのライヴ体験です。 この私=ストレスが、チャズ・アレン(またの名をメタリック・ゴースツ)とともに、きたる3月20日の〈SPF420〉を主宰しています。

 ショーのラインナップは以下のとおりです。

DJペイパル (DJ Paypal)(https://soundcloud.com/dj-paypal
コンタクト・レンズ (Contact Lens)(https://soundcloud.com/contactlens
ヴェクトロイド (Vektroid)(https://soundcloud.com/vektroid
マジック・フェイズ (Magic Fades)(https://soundcloud.com/magicfades
ブラックドアウト (Blackedout)(https://soundcloud.com/blvckedout
コーダック・キャメオ (Kodak Cameo)(https://twitter.com/fumfar

シュガー・C(Sugar C)(https://soundcloud.com/metallicghosts)我らがハウスDJ
トランスミューティオ(Transmuteo)(https://soundcloud.com/transmuteo)アフターパーティー主宰

 フェイスブックのイヴェント・ページもあります。
https://www.facebook.com/events/136903026484461

 前回の〈SPF420〉は2013年1月3日に行われました。ラインナップは、ヴェラコム/トランスミューティオ/プリズム・コープ/ラグジュリー・エリート/クールメモリーズ/インフィニティ?・フリーケンシーズ/メタリック・ゴースツ。
 そのときのいくつかのアーティストの音声は、以下にあります。
https://soundcloud.com/spf420

 以下は、1月3日(第2回目)についての記事です。

"Vaporwave and the observer effect", written by Leor Galil for The Chicago Reader:
https://www.chicagoreader.com/chicago/vaporwave-spf420-chaz-allen-metallic-ghosts-prismcorp-veracom/Content?oid=8831558

"『#SPF420FEST 2.0』から見るヴェイパーウェイヴ @ tinychat.com" written by ele-king.net (グーグル翻訳をおすすめします):
https://www.ele-king.net/review/live/002758/

"#SPF420FEST2.0" written by Jheri Evans for Decoder Magazne:
https://www.secretdecoder.net/2013/01/spf420fest20.html

 観客動員は、135人ものリスナーたちを記録しました。私たちはセルフ・プロモーション以外なにもしていませんが、このイヴェントを拡げていきたいと思っています。私たちの世界を、喜んで併合していきます。

音楽、ドラッグ、会話
XOXO,
SPF420: Roll The Dice ™

HTTP://WWW.TINYCHAT.COM/SPF420


 ストレスのプレスキットでは本誌の記事も紹介されているが、(ヴェイパーウェイヴ連中は散々つかっているというのに)どうやら日本語を読めないらしい。
 
 大麻を意味するスラング「420」に合わせて3月20日開催なのだと思われるが、では4月20日(マリファナ・デイ)にはなにかあるのだろうか?
 どうやら、やはり、ヴェクトロイドは期待を裏切らないらしい。〈ビアー・オン・ザ・ラグ〉から新作のリリースにも期待しよう。

なぜ「ヒキコモリ」は正しいのか? - ele-king

 なぜ「ヒキコモリ」は正しいのか?
 すべてが正しくオープンになる世界が、なぜ息苦しいのか?
 なぜ人は「なぜ?」と思わなくなっていくのか? 

 『もしインターネットが世界を変えるとしたら』(1996年/晶文社)でいちはやくインターネットと社会との関係を論じたメディア論の先駆者・粉川哲夫と、ele-kingではおなじみ三田格との待望の共著がドロップ! 映画を愛好するふたりとあって、映画からSNSまでの新旧のメディアを考察しながら、「有縁」から逃れられなくなりつつある社会と、そのなかでの「無縁」の可能性についてさまざまに対話をめぐらせる内容だ。

「社会主義」は、「社会」の終わりから始まった。それは、資本主義の危機でも あったが、資本主義はそれを取り込んで生き延びてきた。だから、いまの資本主義にとっては、「社会的なもの」は不要なのである。(粉川哲夫「序文」より)

 という圧倒的な切り口での「ヒキコモリ」論の相貌も持ちつつ、「メディアの憂鬱をいかに生きるか」(タイトル候補でもあったフレーズだ)超絶マジレスを打ち返し合う、風変わりで爽快な対談本!

 3.11から2年、原発問題、金融危機、などなど、激動する社会に生きる私たちに見える世界の正体とは......? みたいなよそゆきの宣伝文はさておいて、ひとまずご一読をおすすめしたい。ele-king books第3弾!

Andy Stott - ele-king

 すぐ隣で踊っているのがゲンイチで、その隣には渡辺健吾が......って、こ、これは......いったい、そしてライヴの最後にスピーカーからはジャングルが飛び出す。
 おい、いまは何年だ!? 1992年? 2013年だ。が、しかし......。
 ここにあるのが実はポスト・ハードコア・レイヴだと言ったら君は一笑に付すだろう。1991年~1992年のUKハードコアすなわちレイヴ伝説はもう過去こと。だが、レイヴの亡霊はブリアルのエレジーを介して、まばゆい太陽から寒々しい暗黒に姿を変えて甦った。それをインダストリアル・ミニマルと人は呼んでいる。アンディ・ストットはこの動きの火付け役であり、キーパーソンだ。昨年の『ラグジュアリー・プロブレムス』は日本でも異例のヒット作となって、リキッドルームという大きなキャパでライヴをやるくらいの注目と人気を集めるにいたったわけである。オリジナル世代もいたが、フロアには若い世代も混じっていた。

 まずはこの現象に関して簡単に説明してみよう。たとえば1991年~1992年あたりのテクノの作品のジャケを並べてみる。ジ・オーブでもサン・エレクトリックでもエイフェックス・ツインでも良い。初期のオウテカでも〈トランスマット〉のコンピでも、その時代にものなら何でも。続けて、アンディ・ストットの「パスド・ミー・バイ」「ウィ・ステイ・オールトゲザー」あるいはデムダイク・ステアやブラッケスト・エヴァー・ブラックあたりのジャケを並べてみる。ほら、20年前の色彩豊かなアートワークは灰色の美学へと、太陽の物語は血みどろの惨劇へと転換されたのがわかるでしょう。
 この新しい世代の美学に近しいものが20年前にもある。初期のジェフ・ミルズや初期のベーシック・チャンネル、あるいはアンディ・ストットのフェイヴァリットのひとつであるドレクシアなど......(ストットの初期の影響とマンチェスターのシーンについては紙ele-kingのvol.9に掲載の彼のインタヴューを参照)。

 かつて花田清輝が指摘しているような、風俗化したアヴァンギャルドのなれの果てとしてのホラー映画、『死霊のはらわた』のごとき、おぞましい映像の断片をバックに、スローなピッチのミニマル・ビートが脈打っている。ベーシック・チャンネルをマイナス8でミックスしながら、上物はアインシュツルツェンデ・ノイバウテンめいた不吉極まりない音響が飛んでいる。『ラグジュアリー・プロブレムス』で聴けるあの女性の声がなければ世界は永遠の闇に閉ざされていたかもしれない。が、この誇張されたアンダーグラウンド感覚は、今日の明るいクラブ文化が失ったものかもしれないな......と思った。そう、この怪しさ、このスリル、この不健全さ。ビートルズからブラック・サバスへ、ピンク・フロイドからスロッビング・グリッスルへ、23スキドゥーからシャックルトンへ、レイヴからインダストリアル・ミニマルへ......。

 会場で会ったベテラン・クラバーのY君が言った通りだった。これはサイケデリック・ミュージックであり、レイヴ・カルチャーであり......、いや、もちろんメタファーとして言うが、異教徒のそれ、亡霊として生き延びているそれだった。筆者も生ける屍体(社会から抹殺された者たち)のひとりして踊った。なるほど、身体が勝手に動く。これはマンチェスターからのアンダーグラウンド宣言だった。ゴシックでもインダストリアルでもなんでもいいではないか、そこにレイヴがあるのなら。もうこうなると、デムダイク・ステアも行きたい!

interview with Nick Cave - ele-king


Nick Cave & The Bad Seeds
Push the Sky Away

Bad Seed Ltd/ホステス

Amazon iTunes

 げっそり痩せた彼は、黒髪を後ろになびかせて、マイクを握っている。真っ白い肌、そして燃える瞳で、地獄の烈火のごとく憤怒する。本とドラッグを貪りながら、旧約聖書の言葉を使って、不浄な愛の歌を歌う。
 ニック・ケイヴといえばロックの象徴派として名高いひとり、リディア・ランチに「最高の詩人」と呼ばれた男だ。トライバル・リズムのゴシック・パンクの最重要バンドのひとつ、オーストラリアから登場したバースデー・パーティのヴォーカリストとして、彼は野蛮な生のあり方をまざまざと見せつけた後、1983年にはバッド・シーズを結成、翌年に最初のアルバム『フロム・ハー・トゥ・イタニティ』を発表している。
 ゴシック・パンク/ノーウェイヴの冷たい熱狂をブルースの叙情性へと繋げたこのバンドのオリジナル・メンバーには、アインシュツルツェンデ・ノイバウテンのブリクサ・バーゲルド、のちにデヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』のサントラを手がけるバリー・アダムソンがいた。バースデー・パーティ時代からの相棒であるミック・ハーヴェイは、一時期バリー・アダムソン、そしてクリス・ハース(DAF~リエゾン・ダンジュールズ)たちと一緒にクライム・&ザ・シティ・ソリュージョンとしても活動している。また、バンドには途中からウォーレン・エリス(ダーティ・スリー)も参加している。

 映画監督のヴィム・ヴェンダースはケイヴについて「彼の内面におけるすべての混乱と不安定さにも関わらず、彼の歌は純粋な愛への渇望と平和への憧れに向けられている」と説明しているが、80年代のバースデー・パーティ~バッド・シーズは、青々しく思春期的な、ディオニソス(酔いどれ)的な、ランボー(地獄の季節)やボードレール(悪の華)的な、極限的な、「内面におけるすべての混乱と不安定さ」を音楽として表現していたと言えるだろう。

 バースデー・パーティ時代の、トライバル・ビートと彼の魅力的な呪詛による"ズー・ミュージック・ガール"(1981年)、吸血鬼とのセックスを歌った"リリース・ザ・バッツ"(1981年)、バッド・シーズとしてのデビュー・シングルに収録されたエルヴィス・プレスリーの素晴らしいカヴァー曲"イン・ザ・ゲットー"(1984年)、ドラマチックな"ザ・マーシー・シート(恵み座)"(1988年)、黄金のように美しい"ザ・シップ・ソング"(1990年)、暗黒のブルース"ジャック・ザ・リッパー(切り裂きジャック)"(1992年)......ニック・ケイヴにはすでに驚異的な名曲がいくつもあるが、50歳を越えてもなおグラインダーマン名義で激しく歌い、そしてバッド・シーズとしても作品を作り続けている。先月リリースされた『プッシュ・ザ・スカイ・アウェイ』は、ガレージ・ロック色の強い『ディグ、ラザルス、ディグ!!!』(2008年)以来の、15枚目のアルバムとなる。
 以下、坂本麻里子さんによる貴重なインタヴューをお届けしましょう。

バッド・シーズの〝重み〟ということだね。その重みには気力をそがれかねない、と。しかし俺は歌詞を書いたところでスタジオに入るし、自分の側の用意はそれで整っている。今回は俺自身も前もって準備した歌詞に満足していたし、かなりこう「自分の務めは済んだ」という感じだった。

取材:坂本麻里子

ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズとしては5年ぶりの新作になりますが、グラインダーマンを経て再びバッド・シーズに戻り、彼らとスタジオに入ったときはどう感じましたか。

ニック・ケイヴ(NC):まあ......グラインダーマンも顔ぶれは同じだからね(笑)。

ええ。でも違うバンドではありますし。

NC:でも、同じとは言っても面子に多少違いはあるわけで、あれは......ある種ほっとさせられたというか。俺たちは今回、3週間スタジオに皆で住み込んだんだよ、文字通りの共同生活だった。だから連日連夜スタジオで過ごすって調子で、(作業が終わると)階上の部屋に上がって寝て、起きるとまたスタジオに戻り作業を再開と、3週間そんな感じだった。素晴らしかったね! とにかく喜びであり、またある意味救われもしたな、彼らのようにグレイトな連中と一緒だったわけだから。

そういう「住み込み」スタイルのレコーディングはこれまでにも経験済み?

NC:いやいや、まさか! 以前の俺たちにやれたとは思わないよ(笑)。

若い頃は互いと寝食を共にするなんて我慢できなかった?

NC:まあ......自分たちが若かった頃は、(自分たちだけではなく)外の世界に頼らざるを得なかった、そういうことだろうね。でも今回はその必要を感じなかった。スタジオから出ることすらなかったからね。

あなたは以前「名声があり、長い歴史と遺産を持つバッド・シーズをやるのは責任とエネルギーを伴う」とおっしゃっていましたが、久々のバッド・シーズとしての活動に気後れは? グラインダーマンのように身軽なバンドの後ではとくにそう感じたのでは? と思いますが。

NC:ああ......そうだね。思うに、バッド・シーズの〝重み〟ということだね。うん、そこは君の言う通りだ、その重みには気力をそがれかねない、と。しかしいったん俺たちがスタジオに入ってしまえば──俺は歌詞を書いたところでスタジオに入るし、自分の側の用意はそれで整っている。今回は俺自身も前もって準備した歌詞に満足していたし、かなりこう「自分の務めは済んだ」という感じだった。俺にしてみると......俺の仕事というのは、実際のところ俺が自分のオフィスで歌を書いているうちに作業が終わるようなもので。で、スタジオに入ると俺はそれらの歌をレコーディングすべく他の連中の手に委ねる、と。
 だからある意味彼ら(バッド・シーズ)の作品でもあるんだよ。共同分担の作業だし、協同作品という。だからなんだよ、ある意味とても満足感があるのは。それにまあ、彼らが自分の歌をダメにすることがないってのは、俺も承知しているしね。

信頼があるんですね。

NC:そう。彼らのことは信頼してる。

前作『Dig, Lazarus, Dig!!!』はギターがメインの、バッド・シーズにしてはロックな作品でした。恐らく(近い時期にファーストが録音された)グラインダーマンの影響もあったかと。

NC:なるほど、そうかもな。

それもあってロック寄りで多彩な作品になったと思うのですが、対して新作『Push The Sky Away』はまったく毛色の違うアルバムですね。

NC:それはまあ......ギタリスト(ミック・ハーヴェイ)が脱退したわけだから。ハハハハハッ!

(笑)ええ、それはそうですけども、この作品はこれまでとはまったく違うところから生まれたアルバム、という印象なんです。非常に美しい作品ですが、同時に未知の何か、という。

NC:そう思う? そう言ってもらえるのは嬉しいね。というか、ある意味俺たちもそう感じるよ。おそらく『Dig, Lazarus, Dig!!!』というのは、君が言うほど「グラインダーマンに影響された」というものじゃないにせよ......でも、グラインダーマンとバッド・シーズのメンバーは一部被っていたし、グラインダーマンに参加した連中は「やってやろうじゃないか! グラインダーマンでああいうことができるなら、俺たち(バッド・シーズ)だって同じようなことをやって構わないだろ!!」みたいな調子で。だから誰もがいつもよりもっとハードに演奏したりとか、そういう作品になったわけ。しかし、俺たちがもっとも避けたかったのは、同じようなレコード......グラインダーマンみたいなレコードをもう1枚作るということで。で......まあ、こういうレコードを作ろうと狙ったわけではないし、最終的にこういう出来になった、というだけなんだよ。
 ただ......思うにスタジオ、俺たちがこのレコーディングに使った綺麗なスタジオのことだけど、あの場所はすごくこう、ある意味奇妙な、マジカルな効果を俺たちにもたらしたと思う。そうは言ってもレコーディング・スタジオなんだけど、そこはもともとはフランス国内で第二の収集数を誇るクラシック音楽のレコード・コレクションを収蔵する場所でね(プロヴァンス:サン・レミにあるLa Fabrique Studios)。要は田舎にある豪邸なんだけど、室内の壁はこう......オーク材の美しい棚でできていて、そこにアナログ・レコードがびっしり詰まっているんだ。どこもかしこもね。スタジオのコントロール・ルームにしても......まあ、スタジオってのは大概ひどい場所なんだよ。でもあのスタジオのコントロール・ルームは図書館みたいな雰囲気で、そこに大きなデスクがデンと置かれてるっていう。あのスタジオの写真はネットでも見れるけど、あそこはとても、とても特別な場所で......そうだね、このレコードにはあの場所の何らかの魔法がかかってる、そう思うな。

美しいと同時に薄気味悪く、心に残っていくレコードですよね。もしかしたら、そのスタジオにあるたくさんのアナログ・レコードの古い霊が作品に入り込んだのかもしれません(笑)。

NC:ああ。そうかも、そうなのかもね? だからまあ、俺が言わんとしていたのは......要するに俺は、あそこにいるのが心底好きだったとういうこと。あのスタジオを去る時は悲しくなったくらいでさ。自分は基本的にスタジオが大嫌いな人間なのにね。スタジオに入るのは苦痛だよ。

それはどうしてですか?

NC:スタジオって場所の持つ性質のせいだよ。まあ......もちろんどのスタジオもそうだとは言わないけど、スタジオというのは概してこう......とてもソウルに欠けた感じの場所になり得るわけ。だから俺はいつだってスタジオから離れたくてしょうがないっていう。それで俺はスタジオ内ではすごくじれったくなるし、「さあ、さあ、さあ、さあ! やっつけよう」みたいな感じになるタイプなんだ。他の連中に聞いてみればいいよ、ほんと、スタジオ内の俺に付き合うのは悪夢だから。なのにあのスタジオには、何かがあったんだな......とにかくそこにいたくなる、そういう場所だったという。

歌詞を書き、ベーシックなアイデアを持ち込み......と、あなたが土台を敷いた上にスタジオで他者=バッド・シーズが加わる。その結果として音楽はあなたが予期しなかったものにもなりかねないわけですが、この新作は特に、あなたとしても最終的な内容に驚かされたんじゃないでしょうか?

NC:ああ。俺たち全員驚いたと思うよ......というのも、スタジオに入って1週間後にはすべてのレコーディングを終えていたんだよ。しかしその時点ではまだ、いったいどんな作品をレコーディングしたのか自分たちでも皆目分かっていなくてね。というのもとにかくすべてレコーディングしていって、それらを聴き返すって作業をしなかったから。それがどんなものだったかというと......(今作の)プロデューサーのニック・ローネイはちょっと不安がっていたね。
 というのも、あの時点でレコーディングした音源はどれもこう......これといったコーラス部もないし、横にえんえんと伸びていく感じの、なんというか流れに任せて漂っていくという風だったから、彼(ニック・ローネイ)もそこは気にしていて。しかも俺たち自身も何がレコーディングとして残ったのか分かっていなかったわけで、とにかくいったん腰を落ち着けてすべてを聴き返してみることにしたんだ。そこで俺にもやっと「ああ~、なるほど......こういう類いのレコードなのか」とわかったという。だからもう、そこでいきなり「よし、オッケー」みたいになったわけだ。でまあ、うん、自分でも作品にはとても満足している。本当にハッピーだね。

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かつてのレコードの長さから考えてみれば、これは実は短いレコードってわけじゃないんだよ。CDのフォーマットという尺度で考えると短い、というだけの話であって。過剰なまでに膨れ上がったというか、ときに終わりがない代物だよな、CDってのは。


Nick Cave & The Bad Seeds
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今回の作品向けに曲は多く書きましたか? 9曲入りと、前2作に較べて短いアルバムだと思いますが。 

NC:まあ、俺たちはいつだって簡潔なレコードを作ろうとしていると思うけどね。レコードというのは......だからかつてのレコードの長さから考えてみれば、これは実は短いレコードってわけじゃないんだよ。CDのフォーマットという尺度で考えると短い、というだけの話であって。過剰なまでに膨れ上がったというか、ときに終わりがない代物だよな、CDってのは。で、俺のレコードはすべて基本的には簡潔なちょっとしたもの、という。だから......入れようと思えば入れられた曲は他にあったけど俺たちはそのままにしておくことにした。

なるほど。1枚としてのまとまりに非常に配慮した作品で、これら9曲は分ちがたく結びついた、まるで家族のような曲群です。この9曲が自ずとアルバムにまとまっていった、ということなんでしょうか?

NC:ああ、その通り。たとえばとても美しい、"Give Us A Kiss"という曲があったんだ。誰もがいい曲だ、最高だと気に入っていた曲なんだけど、アルバムにどの曲を入れるか考えたときに、どうにもあの曲が作品の流れを壊してしまうんだよね。あの曲はまあ、実は俺のファースト・キス、ガキだった頃の初めてのキスについて歌ったもので。とにかくそういうことについての曲だったんだ。そこでなんというか、あの曲に後ろに引きずられることになるわけだけど、このレコードは実際過去を振り返る作品じゃないし、とにかく前へ、前へとゆっくりと進んでいるものなんだよ。だから、あの曲は入れずにおくことになった。入れようと思えば入れられた曲は他にもあったということだね。

個人的にこの作品はニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズの新たなはじまりを告げる作品ではないかと思います。非常に成熟し抑制された内容ですし、逆に言えば確信がなければここまで削ぎ落としたサウンドは出せないだろう、と。

NC:ああ。しかしまあ、さっきも話したようにまず俺たちは何もかもレコーディングしてみたんだよ。そこから腰を落ち着けてそれらの音源を聴き返す時間をとった、と。その時点での音源は君たちにいま聴いてもらっているフォーマットと実質変わりがないんだ。ところが俺たちは「ギターを足してみよう」だのなんだの......そこに音を加えはじめてね。ちょっとパーカッションも入れようかとか、数日間をあれこれやりながら費やしたわけだ。で、またあらためて皆で音源を聴き返してみたところ、結局そこからまた数日かけて足していったものをすべて取っ払うことになったという。というのも、何かしら......とにかくあれらの僅かな数の楽器がまとまって響く、その様がとても力強かったんだ。

おっしゃる通り音数は少なく、メロディは繊細で侘しく......と、このミニマムな作品はあなたの音楽の美しいエッセンスを提示してもいます。意図的なものではないのでしょうが、なぜこういう「純化されたバッド・シーズ」とでもいうべき方向性になったんだと思いますか?

NC:うん......まあ......俺たちがどうして今回こういう音になったのか、自分でも分からないんだ。ただ、俺たちが何か加えるたびに何かが損なわれていく感じがした、そこだけは分かっていた。何もかも......と言っても多少のオーヴァーダブはやっていてアコギはちょっと重ねたけど、俺にとってのこのレコードの美しさ、このレコードに驚かされる点のひとつというのは、ギターがほぼ皆無に等しいところでね。
 もちろん"Higgs Boson Blues"みたいな曲ではギターも鳴っているけれど、本当の意味でのいわゆる「ギター」が存在しないんだ。空間をすべて満たしてしまうようなギター・プレイがまったくないっていう。何かにギターを加えるとたちまちギターはすべてを固定して、空間を占領していってしまう。すっかりギターを取り除けば、とにかく......つねに音楽のなかに空間が存在することになる、というか。そこは今回俺たちが思い切りやった点だね。

そうやって削ぎ落とされたレコードですが、ただシンプルなだけではありません。とても細かくディテールに富み、考え抜かれた作品だと思います。

NC:そうだね。

ループやエレクトロのニュアンス、羽根のように軽いバッキング・コーラス、奇妙かつ不気味なノイズといった様々な質感の音にも引き込まれるわけですが、アルバム向けのバイオによれば「楽器以外のオブジェを使って生み出した音」も使ったそうで。具体的にはどんな楽器を使ったのですか。

NC:バイオの書き手がそう書いたのかもしれないけど、俺は知らないよ。

ああ、そうですか。あの箇所を読んで「スコット・ウォーカーみたいに、吊るした肉をぶっ叩きでもしたのかな?」と想像してしまったんですが。

NC:いやいや、肉は叩いてない(笑)。そういうんじゃなくて......そうだな、アインシュトゥルツェンデ・ノイバウテンのレコードみたいなことはやっちゃいないよ。ベルリンに住んでいた頃に彼らのレコーディングを見に行ったことがあってね。スタジオに入ったら、彼らは「ジュルル・ジュルル・ジュルルッ!」って感じの音に耳を傾けてるところだったんだ。それでコントロール・ルームに目をやると、肉屋から仕入れて来た臓物、内蔵だのなんだのが山積みされてた。

ひえええ!

NC:で、あごにマイクを括り付けられた犬どもがその臓物にガツガツ食らいついてたっていう(笑)。その様子を見ながら、ノイバウテンの連中は(眉をしかめ真剣そうな表情で)「こりゃいい、いい音がとれた!」って調子で。

(笑)しかし、非オーソドックスな楽器は何か使ったんですか?

NC:まあ、そこらへんはすべてウォーレン(・エリス)の仕業なんだよ。ほんとその手の音は彼が仕切っていて......でも、そういった音の数々を彼がどうやって仕込んでくるのか、それは俺には謎のままなんだ。

彼がいろんなトリックや楽器をスタジオに持ち込んで来る、という?

NC:いや、いや、いや、そうじゃない。彼があらかじめどこかでレコーディングしてくるんだよ。だから、彼がスタジオに来て(掃除機に似た音を真似る)「ブシュゥゥゥン......!」と何かしらの音を再生して、俺に聴かせるわけ。で、俺は「あ、それいいな。ちょっと待った、そのまま続けて」って調子でそのサウンドにあわせてピアノを付けていく、そんな感じで俺たちは曲を書いている。だから俺は彼が持ち込んで来るループだのノイズの正体が何なのか知らないんだ。でもある時彼の機材から「グィィィィ......ン、グィィィイ......ン!」って聞こえる音が出て来て、俺は「コオロギみたいな音だなぁ」と(笑)。
 ってのも彼は家でトカゲをいくつか飼っていて、その餌として生きたコオロギを与えてるんだ。奴の家に行ったことがあるから知ってるんだけど、彼はいち度コオロギをしまってある箱を落っことしたことがあって、以来コオロギは彼の家中に居着いてしまったっていう。

(笑)。

NC:だからウォーレンの家に行くと、聞こえるのは「イッ・イッ、イッ・イッ!」っていうコオロギの鳴き声ばかりというね。というわけで彼はそのコオロギを録音してスピードを遅くし、ビートを被せたりなんだりしてあの音を作り出したわけだ。

彼が様々な色の音を提供する、と。

NC:まあ、今回に限らず彼はこれまでもそうやってきたけどね。

で、そこからあなたは取り組んでいる歌にぴったりのサウンドを見つけていく、と。

NC:というか、それはスタジオ内での作業とは限らなくて、たとえば彼がループを送って来ることもある──ループを俺にメールしてくるわけ。それを自分のオフィスにあるサウンド・システムで流しながらピアノを付けていく、と。それは「ウン・ウン・ウン・ウン・ウンンン......」みたいなリズムというときもあるし、俺はそれにあわせてピアノを弾いてみる。"Wide Lovely Eyes"みたいな曲はそういうリズム感のあるループ(コン、コン、コンとテーブルを指で叩く)があって、俺がそこにピアノをつけて歌を書いていったものなんだ。そんな風にやっているんだよ。

今作の歌詞とあなたの歌唱は侘しく、哀歌という趣きすらあります。とはいえもっとも印象的なのは作品全体に一種の「疲れ」を感じることです。「人生のむなしさに対する疲労」とでもいうか......。

NC:人生のむなしさ(苦笑)?

私の解釈に過ぎませんが、なんらかの疲れが感じられるんです。

NC:そうかもね?

これらの歌詞のインスピレーションはどこから来たんでしょうか。

NC:さあな......どの歌も、それぞれに違う類いの曲だしね。それに何であれ、インスピレーションがどこから湧いて来たのか、それは俺にもわからないんだよ。
 というのも歌の元来のインスピレーションというのは、本当にちょっとした事柄やさほど意味のないごくありきたりな何かから出て来ることもあるわけでね。とにかく仕事に取り組むところから生まれるんだ。何もせずにダラダラしながら(椅子にどっかと腰掛け、天井に向けて両腕を伸ばす仕草をする)何かが自分にもたらされるのを待つ......っていうんじゃなく、歌詞のある一行をつなぎ合わせ、次には他のラインをあれこれと吟味してみて、それらを並べてみたらどうなるかやってみる、と。そういう細かい仕事なんだよ。

たとえば"Jubilee Street"という曲は、ブライトン(ニック・ケイヴが現在住んでいる街)に実在するジュビリー・ストリートにちなんだ曲なのかな、と思ったんですが。

NC:ああ。でもあれは......実際のあの通りは、歌に出てくる同じ名前の通りとは全然別ものなんだ。だから俺はあの(実在の)通りについての歌を書いたわけじゃない、という。実を言えば俺は他の通りとあの通りとを混同していて、ブライトンのジュビリー・ストリートがどこに当たるのかを知った時は「ああクソッ......これがジュビリー通りか。図書館のあるあの通りかよ!」って感じで(笑)。

すごくモダンな建築の図書館がある通りですよね。

NC:そうそう。だから、あれは別に実際のジュビリー・ストリートについて歌った歌じゃないんだ。でも他の人間に教えられたんだけど──俺はその事実は知らなかったんだけども──あのジュビリー通りというのは再開発された地域だそうでね。その以前はいかがわしい、赤線地帯めいた通りだったんだ。そうとは知らなかったけど、結局のところ自分は正しかったということになるな(笑)。

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ベルリンに住んでいた頃にノイバウテンのレコーディングを見に行ったことがあってね。スタジオに入ったら、彼らは「ジュルル・ジュルル・ジュルルッ!」って感じの音に耳を傾けてるところだったんだ。それでコントロール・ルームに目をやると、肉屋から仕入れて来た臓物、内蔵だのなんだのが山積みされてた。


Nick Cave & The Bad Seeds
Push the Sky Away

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こんな風に緻密でさりげなく、ニュアンスに満ちたレコードを作れるバンドはなかなかいないと思います。あなたとバッド・シーズの間のケミストリー、クリエイティヴな相乗効果は現在ベストな状態にある、過去でも最高の状態だと言えるでしょうか?

NC:そうだね。このレコードを作っている時に、何かが起きていたんじゃないかと俺は思っていて......障害物が一切なかったんだよ。とにかくこう、何かしら「宿命」めいたところがあったという。かと言って夢見がちな戯言を並べるつもりはないけども、本当に俺たちは......俺たち全員の中に、とにかく「何かが起きてるぞ」って感覚があったんだ。レコードを作るのは、時として──俺はこれまで山ほどレコードを作ってきたわけだけど──時としてレコード作りというのは忌々しい「闘い」なんだよ。まさに戦場で、いろんな人間たち、様々な思惑、そしてあれこれの予定等々に対して常に闘い続けるって調子なんだ。
 ところが今回はそうじゃなかった。このレコード作りにおいては何というか全員が同じ空気を吸っていた、という。うん......ある意味不思議なくらいエゴが欠けたレコードなんだよ、これは。今回はドラムがとても美しくて......トミー、トーマス・ウィドリアーがそのほとんどをプレイしている。以前は彼がドラムを担当していたけど、ジム(スクラヴノス)がそこに取って代わったわけだよね。でも今作ではドラムのほとんどをトミーが叩いているんだ。彼のドラムのタッチは非常に軽いものだから、その意味でも助けられたね。

この繊細で侘しい作品を聴いていて、ふと「これはニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズにとっての『On The Beach』(ニール・ヤング/1994年)かもしれない」と感じました。

NC:まさか!(満面の笑顔)......(照れくさそうに)冗談はよせよ!!

いや、マジな話です。

NC:(笑)わかった......最高だな。あれは俺のフェイヴァリット・レコードだからさ。

そうなんですか、それは知らなかった。

NC:そう言ってもらえてとてもハッピーだよ。

とくにあの作品の"Ambulance Blues"や......

NC:うん。それに"On The Beach"、アルバムのタイトル曲ね。ああ、そうだね......たしかに......嬉しいな(ひとしきり微笑む)。でもたしかに"On The Beach"という曲は、たとえば"Higgs Boson Blues"なんかのなかに何かしらの......うん、あのレコードからある程度影響を受けてる、というのは俺も感じる。だからそう言ってもらえるのはとても嬉しいよ。

『On The Beach』のとくにアルバムB面は、ただ静かに聴き続けられると同時に聴くたび何か発見がある、そこがとても好きです。あなたの新作にもそれと同じ性質があると思いました。

NC:まあ、彼(ニール・ヤング)があれらの曲をレコーディングしたときにはあるやり方ってのがあったらしいからね。自分の作品がそれと似たものなのかどうかはわからないにせよ、彼のやり方には何というか「ファースト・テイク」めいたところがあるんだよね、本当に。だから歌のなかで何が起こっているのか、それを発見していく感覚があるというのかな。それでも曲は前へ前へと進んでいくわけで、ときたま彼が生まれて初めてこの歌を歌ってるかのように聞こえることがあるんだよ。だからとても生々しい。
 で、俺たちのこのレコードもそれと同じと言いたいわけじゃないけど、たとえば"Higgs Boson Blues"はワン・テイクで録ったんだ。俺としてもあの歌がどんな風に展開していくか分かっちゃいなかったし......だから、俺たちはあの曲を前もって何度もプレイし練習したことがなかったという。

あれはアルバムのなかでもベストな1曲だと思います。

NC:ああ。すごくいいよな。俺も気に入ってる。

今回のアルバム・ジャケットですが、過去数作に較べ象徴的でミステリアスなものですね。コンセプトを教えてもらえますか。

NC:というか、コンセプトはないんだよ。あの写真は偶然の産物で......

「偶然撮影された」全裸女性を含む写真、ですか??

NC:(笑)わかった、わかった。だから、写真のあの女性は俺の妻なんだ。撮影されたのは俺の自宅の寝室。妻はフランス人写真家のドミニク・イサーマンと雑誌向けの写真撮影をやっていたところでね。妻はたまにモデルもやるんだ。で、あの時彼女は撮影の合間に衣装を着替えているところで、裸だったんだ。マントを着ての撮影をやったところで、そのマントの下は全裸だったという。で、ちょうど彼女がマントを脱いだ時に俺が「ハーイ、どう、うまくいってる?」なんて調子で寝室に入って行ったんだけど、ドミニクに「あっちに行って窓を開けてちょうだい!」と命令されて。寝室の雨戸はすべて閉め切ってあったからそれを俺が開けに行って、外の光が部屋に入ってきた途端スージー(・ビック/ニック・ケイヴの妻)はまぶしそうに顔をそむけた。その光景にドミニクが「パシャ! パシャ! パシャ!」とシャッターを切っていったという。それが済むと俺は部屋から追い出されたんだけどね、彼女達は撮影を続けようとしていたから。
 で、後になってドミニクの撮影したスージーの写真を見返していたら、窓を開けた時のあの写真に出くわして「おぉ!」みたいな。とても綺麗だし、かつミステリアスな、そういう類いの写真だったわけだ。そこで俺たちはこの写真をレコードに使おうじゃないか、と思いついたという。写りがいい写真だから、スージー本人としてもハッピーということでね(笑)。
 それでも12歳の子供をふたり持つ身としては、彼らの母親が素っ裸でレコード・ジャケットを飾るという事実に対処し切れていないけどね(笑)! しかしまあ、うちの子供も慣れるしかないか......名の知れた両親を親に持つ弊害のひとつだよ。

でしょうねぇ(笑)。

NC:得することだって他にあるしね。

ここしばらくバッド・シーズ、グラインダーマンの他に映画スコア、小説執筆等様々なプロジェクトも盛んです。まだやったことのないことで、チャレンジしたいのは? オプションや機会はいくらでもあるようですが。

NC:(軽く咳払い)というか、実はその選択肢をもっと狭めたいと思っているんだ。なんというか、俺はヤマアラシか何かみたいに「それっ!」とありとあらゆるチャンスを掴んでいったわけだけど、それはただ他の連中が俺にこれをやってほしい、あれをやらないかと依頼するようになったからなんだよ。で、その多くというのは......「自分はなんでこの仕事をやってるんだ?」みたいな。
 だから、たとえば俺は突如として映画脚本家になったわけ。なんでそうなったのかは自分でも分からないんだよ。何やかやでそういう風になって、いまや俺には映画脚本家としてのキャリアみたいなものまである。脚本家になりたいなんて、これっぽっちも思ったことはないのに。だから、そういったもろもろの多くを今後はやめようかと思っているんだ。間違いなく映画はそうだな......あれはもう......映画ビジネスってのは本当にひどい世界だから(顔をしかめる)。

来年はバッド・シーズのファースト・アルバムから30周年になります。

NC:......ああ。そうなんだってね。

何かアニバーサリーの企画はありますか?

NC:来年なんだ?

はい。

NC:うーん......(さして興味がなさそうに)まあ、何かするべきなのかもな。バッド・シーズの30周年?

ファースト『From Her To Eternity』は1984年リリースですね。

NC:そうねえ......でかい再結成ショウでもやる? ブリクサ(・バーゲルド)にミック・ハーヴェイに、アニタ・レーンも呼び寄せるとか(笑)。どうだろうな、もしかしたらね。ってのも、昨日誰かにそう言われるまで俺自身来年で30年になると気づいてなかったんだよ。

取材:坂本麻里子

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