「KING」と一致するもの

校了しました - ele-king

 7月から全17作のリイシュー・プロジェクトが進行中のカン、このクラウトロックの巨星をまるごと1冊特集した『別冊ele-king カン大全──永遠の未来派』、監修=松山晋也による文字どおり入魂の1冊が無事校了となりました。

 カンの歩みを詳細に追った巻頭「カンの物語」を筆頭に、カンが生まれた背景を探るべく、当時の戦後ドイツの状況やヨーロッパのフリー・ジャズ・シーン、シュトックハウゼンの存在などを掘り下げる論考も掲載。主要メンバー全員の貴重なロング・インタヴューに、カン本体だけでなくメンバーのソロ作品、さらにはカンの影響を受けた作品まで網羅した究極のディスクガイドもあり。

 全240ページ、1冊ぜんぶカン特集というのは日本初の試みであり、おそらく海外でもそうあるものではないでしょう。カンにかんする情報が凝縮されまくった濃厚な内容、今後もう二度と実現できないだろうクオリティ、まさに決定版と呼ぶべき仕上がりだと自負しています。

 発売は10月31日。ご期待ください。

 https://smarturl.it/CANbook

 最後にこの場を借りて、松山さんにお礼を申し上げます。この1週間、レコードや書物に囲まれた部屋のなかで、床に横になることもなく、また食卓につくこともなかった松山さん、心おきなく寝袋で休んでください。またバイクを二人乗りして鎌倉の海を飛ばしましょう。

【執筆者一覧】
明石政紀、岸野雄一、小林拓音、小柳カヲル、小山哲人、崎山和弥、柴崎祐二、竹田賢一、野田努、ジェイムズ・ハッドフィールド、東瀬戸悟、福島恵一、松平敬、松村正人、松山晋也、三田格

Young Girl - ele-king

 ちょっと異常だなと思うのが、新型コロナウイルスによる被害について語るときに欧米と日本を比較する頻度。ファクターXとか「日本はなぜ被害が少ないのか」という問いの立て方自体が間違っていて、被害が少ないのは日本だけではなく、東アジアとアフリカ大陸は全般的に死者数が少なく、アジア系の多い東欧も死者の数は4桁に届いていないところが多い。逆に言えばインド≡ヨーロッパ語族に被害は集中し、ネアンデルタール人のDNAを受け継ぐ人種がとくに危険だという仮説に僕は説得力があると感じた。アメリカと中南米で黒人に死者が多い理由も社会的要因はもちろんだけれど、わずかでも白人の血が黒人に混じっている率の高さを思えば、これも同じように説明がつくし。にもかかわらず、日本人が日本と欧米だけを比較し続ける心理はやはり「日本は欧米の一員」という意識が右派にも左派にも浸透しきっていて「アジアの一員だとは思いたくない」という意識が病的なほど強く働いてしまうからなのだろう。その一方で、安倍政権から菅政権へと権力が移譲されたプロセスは絵に描いたように東アジア的で、韓国やマレーシアでさえここまで民主主義を省略してしまうことはなく、欧米から見れば日本のやり方は中国や北朝鮮と大差ないものと映ったことだろう(森総理の時よりは大人数で決めたけどね)。行動原理はディープに東アジア的。意識は欧米か!。なんともスキゾフレニックな国民である。インダストリアルなリズムにうっとりとするようなメロディを掛け合わせたエイフェックス・ツインのファンが日本には多いわけである。

 「エイフェックス・ツインとスクエアプッシャーの肩の上に立っている」と自らプロフィールに記すヤング・ガールの2作目はドリルン・ベースならぬグリッチン・ベースで幕を開ける。“Vomit Nightmares(嘔吐の悪夢)”は突拍子もないブリープ音と穏やかなシンセサイザーのぶつかり合い。いきなり脳天に花が咲く。続く“The Low Men”もブチブチと途切れるリズムに断片的なメロディが浮かんでは消え、ぶり返しては断ち消える。なるほどエイフェックス・ツイン(やクラフトワーク)に多くを負っていることは確かで、いくつかストレートに曲名も浮かんでくる。とはいえ、オリジナルな要素も潤沢で、野山を駆けめぐるような“The Red Birds”に慌てふためく“The Black Gulls(黒いカモメ)”は独自の境地を感じさせる。アルバム・タイトルは『The Night Mayor(夜の市長)』となっているものの、いわゆるナイト・タイム・エコノミーとは無関係のようで、活動の拠点が「地球上で最も人が孤独になるオーストラリア西部」だと意味不明のアピールをしつつ、本人はいつも仮面で顔を隠し(前作では髭が見えていた)、アリアナ・グランデと同じ構図のジャケット・デザインには中途半端な自己顕示欲が感じられる(悪いとは言っていない)。自意識がねじくれていることがスキゾフレニックな音楽性には不可欠なのだろう。ゆっくりとネジがはずれていくような“Codeine”は、フィッシュマンズが♪風邪薬でやられちまったみたいな~と歌っていた咳止めのこと。日本では3年前に12歳以下の子どもには処方することが禁止となった風邪薬で、風邪もひいていないのに子どもが飲みたがる家庭麻薬として昔からつとに有名だった(アメリカの2010年代がコデイン→アヘン(オピウム)→フェンタニルと同じ成分の生成方法が変化しただけということも思い出す)。アルバムの後半はとてもナイーヴな展開で、前半の躁状態はどこかに陰を潜め、戯画的でありながら心に重くのしかかる曲が続く。そして、“Frustration Nightmares”でブチ切れ、“Sleep Paralysis(金縛り)”で異様なムードに反転。最後は朝が来てしまったということなのか、“Wake Up Wake Up Wake Up Wake Up Wa…(起きろ起きろ起きろ起きろ起……)“と、どこか暴力的な朝の描写で幕を閉じ、「夜の市長」はいなくなってしまう。夜だけが好きで、朝が嫌いな人にはマストのアルバムです。

 日に日に夜が長くなってきたせいか、「夜」をテーマとしたコンピレーション・アルバムも何種類かリリースされ、なかではポスト・ロックの中堅レーベルが企画した『A Little Night Music:Aural Apparitions from the Geographic North』がだんとつで良かった。全31曲とけっこうな曲数があり、オープニングとクロージングはオリヴァー・コーツ。『The Night Mayor』はちょっと怖い夜だったけれど、こちらはとても穏やかで、包み込んでくれるような夜の優しさや、つかみどころのなさを表現した曲が大半を占めている。目立ったところをかいつまんでいくと、久々に名前尾を見たゼリエノープル(Zelienople)やフェネスは安定した音楽性。気持ちのいい圧迫感とそれを凌駕する安心感がキャリアの余裕を感じさせる。グレッグ・コワルスキーやKi Oni(木鬼? カイ・オナイ?)はイマジネーション豊かで伸び伸びとしたコンポジション。広島でアンビエント・ミュージンクを展開するフジタ・ダイスケのMeitei / 冥丁は雨だかグリッチ・ノイズだかを背景に軽く打楽器を加えた寂しい曲(怪談好きのようです)。高木正勝もなぜか似たような発想で、こちらは雷雨とピアノ。メアリー・ラティモアはメランコリック、イリヤース・アーメドはエスニック・フォーク、フェリシア・アトキンソンはアンニュイと続き、驚いたのはシューゲイザイーのロータス・プラザが復活したこと(7年ぶり?)。これが迷宮のようなクラウトロック風のピアノ曲で、さすがでした。ハウスの人だとばかり思っていたフィット・オブ・ボディがジャズ風のスローナンバーを寄せているのも驚いた。元LAヴァンパイアのニック・マーキンによる温泉のような暖かさからルイーズ・ボックのオカルティックな響きまで、とにかく違和感のある曲が1曲もない。流れも巧みで、とても優れた編集センスだと強調したい。なお、収益はすべてレーベル所在地であるアトランタの女性団体に寄付されるそうです。とりわけ堕胎を希望している女性たちのサポートに(https://www.feministcenter.org)。

Autechre - ele-king

 長い間、オウテカのファンはふたつの陣営に分類される傾向にあった。デュオが発するあらゆる最新のメッセージを熱心に貪るリスナーたちと、『Tri Repetae』以来、ノンストップで抽象的な自慰行為に堕ちて行っていると感じていた人たちである。後者のほとんどが老人ホームに隔離されているいまとなっては、この論争は、問題がスタイルから量的なものへとシフトしている。過去10年の間のオウテカの一連のリリースは、それぞれの尺が2倍に延び、8時間に及ぶラジオ・レジデンシーを集約した『NTS Sessions 1-4』と題された作品で最高潮に達した。ここにはたくさんの素晴らしい音楽があったが、そこがまた問題でもあった──とにかく膨大だったのだ。

 オウテカのアウトプットに魅了された体験が、いつの間にか疲れ果ててしまうものへと変わってしまった人には、『SIGN』 は彼らの世界に戻ってくる良い機会となるだろう。ショーン・ブースとロブ・ブラウンの最近の作品の文脈で考えると、これほどメロディックなアルバムをリリースすること、1枚のCDに収まってしまうほど短いことは、ほとんどラディカルにさえ思える。そして『SIGN』は明らかに『elseq1-5』 と『NTS Sessions 1-4』で聞かれるようなアルゴリズミックな実験の延長戦上にあり、オウテカは、どうやって到達するのか忘れかけていたような所にまで踏み込んでいる。

 オープニングトラック“M4 Lema”では、ローラント・カイン風のサイバネティック(人工頭脳的)なノイズが、まるでコンピュータのメインフレームが咳払いをするような、シューッという音の斉射で未来を提示するが、突然、みずみずしく豊かなパッドと骨格のようなヒップホップのビートに変わり、時折サブベースがうねる。続く“F7”では、興味深いメロディが互いのまわりに円を描くように交差しながら、決着することはなく、『Oversteps』で登場していてもおかしくないようなものだが、いまやチューニングは従来の西洋的なものからは大きく外れた所で浮かんでいる。

 このトラックは、オウテカが未知のハーモニックな領域に踏み込んだ、より明白な事例のひとつで、ヴァーチャルな楽器を、平均律の暴政から離れるように促している。「esc desc」のシンセサイザーには『ブレードランナー』のような威光があるが、初めて聴くと、ヴァンゲリスがデッカードの空飛ぶ車で乗り物酔いをしているかのようだ。

 リピートして聴くことでこの違和感は薄れ、これは時間をかけて、できればまともなヘッドフォンでじっくり聴くべきアルバムであることが分かる。2018年にブースはele-kingに「ぼくはすべてのエレメントがあからさまではない、シネマティックな奥行きに惹かれるんだ」と語っており、『SIGN』 に収録されたトラックのいくつかは活気に溢れ、聴力の限界に達している。 陰鬱なトーンと貧弱な4/4拍子の“psin AM”は、ミックスのエッジの周りで踊る不安定なハーモニーがなければ、ほとんどヴォルフガング・ヴォイトのGASプロジェクトの見失われたトラックと間違えそうだ。オウテカが“sch.mefd 2”で、一定のビートを走らせるのは、他のエレメントとの間の相互作用がいかに予測不可能なものであるかを強調するために残しているのだ。

 おそらく最大のサプライズは、このアルバムの音の多くが、どれほど心を奪う響きに聴こえるかということだ。“gr4”には最も牧歌的なフェネスのような、薄織の温かさがある一方、超絶的なクロージング・トラックの“r cazt”は、坂本龍一の「async」時代のプレイリストに並べて入れても違和感がないだろう。オウテカは、エイリアンのように耳障りだと誇張されがちだが、『SIGN』 は彼らのとんでもなく〝ありえねぇ〟美しさを想い出させてくれる歓迎すべき作品だ。


by James Hadfield

For a long time, Autechre fans tended to fall into two camps: listeners who eagerly devoured every fresh transmission from the duo, and people who thought they’d been on a non-stop descent into abstract wankery ever since Tri Repetae. Now that the latter are mostly sequestered in retirement homes, the debate has shifted from questions of style to quantity. During the previous decade, each successive Autechre release seemed to double in length, culminating with the eight-hour radio residency collected on NTS Sessions 1-4. There was a lot of excellent music here, but that was also the problem: there was a lot of it.

If your experience of Autechre’s output has tipped over from enthralled to exhausted, SIGN is a good time to jump back on-board. In the context of Sean Booth and Rob Brown’s recent work, releasing an album this melodic—and short enough to fit on a single CD—feels almost radical. And while SIGN is clearly an extension of the algorithmic experiments heard on elseq 1-5 and NTS Sessions 1-4, it goes places I’d almost forgotten Autechre knew how to reach.

Opening track “M4 Lema” indicates what’s in store, when a volley of swooshing, Roland Kayn-style cybernetic noise—like a computer mainframe clearing its throat—suddenly gives way to lush pads and a skeletal hip-hop beat, bolstered by occasional surges of sub-bass. That’s followed by “F7,” whose intersecting melodies, circling around each other without ever quite resolving, could have appeared on Oversteps—except that they’re floating way outside conventional Western tuning now.
The track is one of the more obvious instances where Autechre venture into uncharted harmonic territory, coaxing their virtual instruments away from the tyranny of equal temperament. There’s a Blade Runner grandeur to the synths on “esc desc,” but on first listen, it’s like Vangelis getting motion sickness in Deckard’s flying car.

The strangeness is less apparent with repeat plays, and this is definitely an album to spend time with, preferably listening through a decent set of headphones. Speaking to ele-king in 2018, Booth said he was increasingly interested in “cinematic depth, where not every element is obvious,” and the tracks on SIGN teem with activity, some of it on the threshold of audibility. With its sepulchral tones and anaemic 4/4 beat, “psin AM” could almost be mistaken for a lost track from Wolfgang Voigt’s GAS project, if it weren’t for the unstable harmonies dancing around the edge of the mix. When Autechre leave a steady beat running, as on “schmefd 2,” it just serves to highlight how unpredictable the interplay between the other elements is.

Perhaps the biggest surprise is how inviting a lot of the album sounds: “gr4” has a gauzy warmth that recalls Fennesz at his most bucolic, while transcendent closing track “r cazt” wouldn’t sound out of place on a playlist alongside async-era Ryuichi Sakamoto. Autechre’s reputation for alien harshness is overstated, but SIGN is a welcome reminder that they can be pretty goddamn beautiful.

Nightmares On Wax - ele-king

 まさに90年代を象徴する1枚、ナイトメアズ・オン・ワックスの『スモカーズ・デライト』の25周年記念を祝して、〈Warp〉が12インチ・シングル「SMOKERS DELIGHT: SONIC BUDS」をリリース。レコードには、4月にリリースされた『Smokers Delight』25周年記念盤に収録された新曲「Aquaself」と「Lets Ascend」、そして『N.O.W. Is The Time』(2014) 収録の「Dreadoverboard」のファンクミックス「Dreadoverboard (Funk Mix)」の計3曲が収録されている。


SMOKERS DELIGHT: SONIC BUDS

 さらに、リリースに併せてナイトメアズ・オン・ワックスことジョージ・エヴリンが実際に見たという夢にインスパイアされた12分のショートフィルム (日本語字幕付) が公開されている。

Nightmares On Wax • ‘Smokers Delight’ (The Film)

KODAMA AND THE DUB STATION BAND & Jagatara2020 - ele-king

 嬉しいお知らせの到着だ。12月16日、ファン待望の12インチ2枚が同時発売される。
 ひとつは、こだま和文率いる KODAMA AND THE DUB STATION BAND による、じゃがたらの名曲“もうがまんできない”のカヴァー。もうひとつは、今年大復活を遂げたじゃがたら(Jagatara2020)による30年ぶりの新曲 “みんなたちのファンファーレ” と “れいわナンのこっちゃい音頭”。
 80年代を駆け抜けた両雄による入魂のアナログ・シングル×2、これは必携です。

※こだま和文のインタヴューはこちらから、OTOのインタヴューはこちらから。

元ミュート・ビートのこだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BANDが、こだまの盟友JAGATARAの大名曲「もうがまんできない」をカヴァー。
12インチ・シングルでリリース!

■昨2019年にリリースした初のオリジナル・フル・アルバム『かすかな きぼう』がきわめて高い評価を受けている、元ミュート・ビートのこだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BAND。彼らがたびたびライヴで披露してきた、こだまの盟友JAGATARAの大名曲「もうがまんできない」のカヴァーを、アナログ12インチ・シングルでリリースする。数あるJAGATARAの名曲のなかでも1、2を争う人気曲のカヴァー。まさにファン待望のリリースとなる。

■この曲はもともと、宮藤官九郎の作・演出による大人計画の舞台、ウーマンリブvol. 14「もうがまんできない」のために、音楽担当の向井秀徳のご指名で演奏し、録音したもの。だが、新型コロナウイルス感染拡大を受け、残念ながら舞台は中止に。しかし、宮藤官九郎監督のもと、WOWOWでのオリジナル番組化が実現。無事、この曲も使用されることになった。
https://www.wowow.co.jp/detail/170250/-/01

■なによりもまず、レゲエ・マナーに則ったこだまの歌唱がすばらしい。その滋味深い歌声には、江戸アケミのオリジナルとはまた違った味わいと説得力がある。バンドの演奏も盤石で、手塚貴博によるダブ・ミックスも冴え渡っている。乞うご期待。

■カップリングは、アルバム『かすかな きぼう』から、収録時間の関係でLPには収録されないクロージング・ナンバー「STRAIGHT TO DUB (Tez Dub Version)」。こちらも待望のアナログ化となる。

■Jagatara2020が2020年1月にリリースしたジャイアント・シングル「虹色のファンファーレ」から2曲の新曲、「みんなたちのファンファーレ」と「れいわナンのこっちゃい音頭」を収録した12インチ・シングルを同時発売。

《商品情報》
アーティスト:KODAMA AND THE DUB STATION BAND
タイトル:もうがまんできない
レーベル:KURASHI/Pヴァイン
商品番号:KURASHI-005
フォーマット:アナログ12インチ・シングル
価格:定価:¥2,500+税
発売日:2020年12月16日

収録曲
A. もうがまんできない
B. STRAIGHT TO DUB (Tez Dub Version)

https://dubstationband.weebly.com

日本のロック史における最重要バンドのひとつ、JAGATARAが奇跡の復活をとげ、Jagatara2020としてリリースしたジャイアント・シングルから、30年ぶりの新曲2曲を12インチ・シングルでリリース!

■日本のロック史における最重要バンドのひとつ、JAGATARA。1990年に中心人物のヴォーカルの江戸アケミの急死により解散〜永久保存となってしまった彼らが、2019年に江戸の志を受け継ぎJagatara2020として奇跡の復活。そして、江戸の30回目の命日にあたる2020年1月27日に渋谷クラブクアトロでイベント「虹色のファンファーレ」を開催。そのイベントに合わせてリリースした同名のジャイアント・シングルから、じつに30年ぶりの新曲2曲、「みんなたちのファンファーレ」と「れいわナンのこっちゃい音頭」をアナログ12インチ・カット。

■どちらもOtoの作曲で、南流石の作詞・リード・ヴォーカルによる「みんなたちのファンファーレ」は、JAGATARA再始動を自ら祝うかのような、文句なしに楽しい祝祭性に満ちあふれた楽曲。TURTLE ISLAND/ALKDOの永山愛樹の作詞・リード・ヴォーカルによる「れいわナンのこっちゃい音頭」は、辺境グルーヴと日本の音頭のハイブリッドといった感のきわめて秀逸なナンバー。どちらも西アフリカあたりの音楽のにおいを感じさせるJAGATARAならではの作品。アナログで躍動するJagatara2020のメッセージとグルーヴを存分に味わってほしい。

■JAGATARAの盟友こだま和文率いるKODAMA AND THE DUB STATION BAND による、JAGATARAの大名曲「もうがまんできない」のカヴァーを収録した12インチ・シングルを同時発売。

《商品情報》
アーティスト:Jagatara2020
タイトル:未定(虹色のファンファーレ)
レーベル:Pヴァイン
商品番号:P12-6999
フォーマット:アナログ12インチ・シングル
価格:定価:¥2,500+税
発売日:2020年12月16日

収録曲
A1 みんなたちのファンファーレ
A2 みんなたちのファンファーレ(カラオケ)
B1 れいわナンのこっちゃい音頭
B2 れいわナンのこっちゃい音頭(カラオケ)

www.jagatara2020.com

プログレッシヴ・ロックのアルファにしてオメガ

69年の結成前夜から50年にわたり、形を変え、スタイルを変えながらも常に先鋭的であり続けたキング・クリムゾンの全てがここに!

2001年に刊行された Sid Smith “In The Court of King Crimson” に大幅に増補加筆されたバンド・ヒストリーに加え、詳細な楽曲解説と膨大なライヴ音源レヴューを加えた決定版。

著者:シド・スミス
フリーランス・ライター。『クラシック・ロック』『プログ』『Uncut』『レコード・コレクター』『BBC Music』など、多数の雑誌、オンライン・マガジンで記事や評論を書く。またラジオやテレビで音楽記事の書き方について教えるほか、数百本にのぼるライナーノーツをメジャー、インディペンデント双方のニュー・リリース、リイシュー盤に寄せている。詳しくは@thesidsmith facebook.com/thesidsmith

監修:大久保徹
リットーミュージックが刊行するドラムとパーカッションの専門誌『リズム&ドラム・マガジン』編集部に在籍し、数多くのアーティスト取材を経験。2012~2014年には編集長を務め、別冊『パーカッション・マガジン2013』や国内唯一のヴィンテージ・ドラム専門書『Vintage Drum ReView』も制作する。2014年にフリーランスとなり書籍/ムックを数多く編集。主な編集/寄稿本は『THE DIG Special Edition キング・クリムゾン』『THE DIG Special Edition キング・クリムゾン ライヴ・イヤーズ1969-1984』『THE DIG Special Edition エマーソン、レイク&パーマー』『THE DIG Special Edition ピンク・フロイド』『THE DIG Special Edition ジョン・ウェットン』『ヒプノシス全作品集』『プログレ「箱男」』『すべての道はV系に通ず。』(以上、シンコーミュージック刊)、『イエス全史』『ダフ・マッケイガン自伝』『NOFX自伝』『誰がボン・スコットを殺したか?』(以上、DU BOOKS刊)など。キング・クリムゾン関係では、これまでビル・ブルーフォード、ジョン・ウェットン、パット・マステロット、ジャッコ・ジャクスジク、ギャヴィン・ハリソンにインタヴューを行なった。2018年刊行の編著『人生が「楽」になる 達人サウナ術』(ele-king books 刊)も書籍&電子書籍で好評発売中。

翻訳:島田陽子
早稲田大学第一文学部英文学科、イースト・アングリア大学大学院翻訳学科卒。(株)ロッキング・オン勤務などを経て、現在フリー翻訳者として様々なジャンルで活動。『レディオヘッド/キッドA』『レディオヘッド/OKコンピューター』『プリーズ・キル・ミー』(以上 ele-king books)、『ブラック・メタルの血塗られた歴史』(メディア総合研究所)、『ブラック・メタル サタニック・カルトの30年史』(DUブックス)、『フレディ・マーキュリーと私』(ロッキング・オン)他、訳書多数。

目次
Preface――序
LEVEL 1 The tournament's begun... 闘いが始まる……
LEVEL 2 And reels of dreams unrolled... そして夢が広がる……
LEVEL 3 A tangle of night and daylight sounds... 夜と昼の音が絡み合う……
LEVEL 4 It remains consitent... 常に変わらず流れるもの……
LEVEL 5 The jaws of life, they chew you up... 終わりが生む始まり……
After Crimson――キング・クリムゾンを去っていったメンバーたち、その後
Track by Track――楽曲解説
 チアフル・インサニティ・オブ・ジャイルズ・ジャイルズ&フリップ
 クリムゾン・キングの宮殿
 ポセイドンのめざめ
 マクドナルド・アンド・ジャイルズ
 リザード
 アイランズ
 太陽と戦慄
 暗黒の世界
 レッド
 ディシプリン
 ビート
 スリー・オブ・ア・パーフェクト・ペアー
 スラック637
 ザ・コンストラクション・オブ・ライト
 ザ・パワー・トゥ・ビリーヴ660
Annotated Gigography 1969-2003――ライヴ音源レヴュー

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧

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TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
7net(セブンネットショッピング)
ヨドバシ・ドット・コム
HMV
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Marie Davidson & L'OEil Nu - ele-king

 「アプリケーションは拒否した?/私はあなたの機能の奴隷ではありません/あなたは気晴らしの大量兵器が欲しい/私はあなたにデモンストレーションする/あのー、ところで、これは金儲けするレコードではありませんから/今回、私は敗者の視点で調査します/言葉は気にしないでね/それが裏切り者のブレイクダウン」
 彼女の新プロジェクト、マリー・デイヴィッドソン&ルウィユ・ニュはこんな風に、敗者の弁からはじまる。裏切り者(レネゲイド)とは、彼女自身。なにからの? クラブ・カルチャーからの。
 「私のスピーチをもっと良くしようなんていう、あなたのアドヴァイスなどいらない/あなたの政治の話にも興味なし/あなたの意志は株式相場のように変動/あなたの仮面舞踏会はグロテスクだし、あなたのその格好ときたら計算しすぎ」

 “Renegade Breakdown”は敗者の曲にしてはファンキーなエレクトロ・ディスコで、歌詞には相変わらず男性社会へのアイロニーがあり、アグレッシヴだ。転んでもただでは起きない人になっているようにも感じられるが、この場合タイトルは「裏切り者の挫折」とでも訳すべきなのだろう。もっともマリーは2016年に『Adieux Au Dancefloor(ダンスフロアにさよなら)』なる題名のアルバムを出している。内的にはつねに葛藤があったのだろうけれど、彼女の出世作となった前作『Working Class Woman』のサウンドの骨格にあるのはテクノやハウスといったクラブ・ミュージックだったし、しかしそれ以前となるともっとぐちゃぐちゃな電子音響だったりもする。ちなみに彼女のデビュー・アルバムのタイトルは『Perte D'Identité(アイデンティティの喪失)』。

 「捨てることはなんも恥ずかしくない/最初から必要なかったから/すべてを取り戻してやる/商品になんかにしがみついてたまるか/もし香水があるのなら、その名は「ノーコラボ」/コラボレーションへの期待などありません/警察は必要なし/自警するから/私が作るすべてに背く/怒りが私のすべて」
 
 マリーの20代はたいへんだったと、彼女は『ガーディアン』の取材で打ち明けている。アルコール依存症、睡眠薬中毒、慢性的な拒食症。彼女はクラブ・カルチャーの浅はかな側面に関しては嫌悪しているが、しかしクラブと決裂した大きな理由はそこではない。それは彼女の悪化する健康状態に起因している。前作にあった“Workerholic Paranoid Bitch”とは自分のことで、あの曲のヒステリックな感覚は自虐でもあったのだろう。いずれにせよ、マリーがこれ以上音楽を続けるには、クラブ以外のほかのやり方を探すしかなかったと。
 そんなわけで、彼女はミュージシャンで夫のピエール・ゲリノーとプロデューサーでマルチ楽器奏者でもあるAsaël Robitailleといっしょにバンドを組むことにした。バンド名はフランス語で「肉眼=L’OEil Nu」。
 表題曲は途中で転調し、マリーはフランス語でシャンソン調に歌う。カナダのモントリオールの住民の大半がフランス系で公用語はフランス語。カナダのメディアではイアン・F・マーティンの記事もフランス語に訳されている。

 『Renegade Breakdown』はポップ・アルバムを目指して作られたアルバムで、マリアンヌ・フェイスフルやビリー・ホリデー、それから同郷の歌手ミレーヌ・ファルメールを参照しているという。なるほど、マリアンヌの『ブロークン・イングリッシュ』のように心身共にボロボロになったところからの回復はアルバムのテーマとしてたしかにあるのだろう。が、マリーが良いのは、拙訳で申し訳ないけれど、引用している歌詞を読んでいただければわかるようにパンチの効いたユーモアがあるところだ。幻滅や惨めさや自分の弱さを歌いながら傷口を見せびらかすのではなく、風刺やジョークをまじえてそれを観察し、怒りも忘れずに、そしてクラブの外側にある人生を綴ろうとする。
 
 いろんなスタイルをシャッフルした『Renegade Breakdown』はスタイリッシュで、ポップ・アルバムとして充分に楽しめるアルバムだ。前作の“Work it”のようなずば抜けたハウス・トラックがないのは残念だが、アコースティック・ギターをバックに歌う内省的な“Center Of The World”、キャッチーなエレクトロ・ポップな“C'est Parce Que J'm'en Fous”、ラウンジ・ジャズを展開する“Just In My Head”、そして美しいバラードの“My Love”やフレンチ・ポップな“La Ronde”などなど、一度で好きになれるような曲がアルバムの大半を占めている。
 彼女が活動をはじめた10年前はちょうど同郷のグライムスが脚光を浴びはじめた頃で、同じリハーサル・スタジオを使っていた自分たちはアンダーグラウンドのなかのさらに下の下だったとマリーは件の取材で回想している。つまり自分は何もないところから来たんだと、そんな風に腹を括れたことで、なんとか自分の居場所を見つけることに成功したと。クラブから外の世界へと出たときの、その広さのなかで。

 「私のたった一度限りの人生は反戦略的/それは喜劇と悲劇のあいだに横たわっている」



※CDとアナログ盤には歌詞が掲載されている。

DISTANCE 2020 - ele-king

 これは果敢な試みだ。静岡県沼津市の「泊まれる公園」こと INN THE PARK にて、11月6日(金)から8日(日)の3日間、野外フェス《DISTANCE》が初開催される。

 ラインナップにはじつに贅沢な面々が並んでいて、DJ Nobu、dj masda、Mars89 らをはじめ、エレクトロニック・ミュージックの最前線で活躍する気鋭たちが一挙集結。寺田創一、食品まつり、YPY、鴨田潤らはライヴを披露、人気テクノ・イベント《KONVEKTION》を主催する Takaaki Itoh & DJ YAZI は初めてのB2Bに挑戦する。

 名前にもあらわれているように、出口の見えないこの時代だからこそのフェスになるようで、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐべく、定員数を制限しての開催となる(沼津市役所とも相談済みとのこと)。マスク着用、ソーシャル・ディスタンスなど、ガイドラインに沿いつつ秋の野外で音楽を楽しもう。

[開催概要]

名称:DISTANCE 2020 ***Limited Open Air Music Festival***
日程:2020年11月6日(金)~8日(日)開場15:00~閉場21:00
会場:INN THE PARK(静岡県沼津市)

料金:前売3日通し券(400枚限定)18,000円 / 前売25歳以下限定3日通し券(100枚限定)10,000円
駐車:前売パーキング券(180枚)無料
宿泊:近日公開(会場内テントサイト及び宿泊棟のほか、近隣にも宿泊施設がございます)
チケット販売:https://www.residentadvisor.net/events/1426560

出演:Akiram En, DJ Nobu, dj masda, Eugene Kelly, guchon, Jun Kamoda [Live], Mari Sakurai, Mars89, Soichi Terada [Live], Takaaki Itoh & DJ YAZI, YPY [Live], 食品まつり a.k.a. foodman [Live] and more * Sound Design: OtOdashi sound system * Lighting: Nagisa * Decolation: 密林東京

※料金・宿泊・注意事項・新型コロナウイルス感染拡大防止対策について下記を必ずご確認ください。
https://note.com/distance___fest/n/n84d2eb115c8f
https://www.facebook.com/events/370934564086868
https://twitter.com/Distance___fest
https://www.instagram.com/distance_festival/

Sound Patrol 久々にやります - ele-king

Yosuke Tokunaga - ''''''' | .TOST

AmbientExperimental

E王

 ようやく涼しくなって過ごしやすくなってきたけれど、ここはむしろ氷点下の世界。なにもかもが凍りついている。2012年あたりから作品を発表しつづけている Yosuke Tokunaga は、いまだ謎に包まれているアーティストだ。どうやら東京にいるらしいこと、おもに自身のレーベル〈.TOST〉を足場にしていること、それくらいしかわからない。
 彼の存在を編集部に教えてくれたのはじつは、かのザ・バグである。ちょうど1年前にリリースされた『7 Patterns』についてケヴィンは、「ベリアルやDJクラッシュ、スコーンのように冷たい氷のカクテル。なんでみんなもっと彼のことを讃えないのかわからない!」と讃辞を送っている。
 最新作『'''''''』(なんて読めばいいんだ?)でもベリアル直系の凍てついたサウンドは健在で、日本からこのような表現が生まれてきたことがすばらしい。もうすぐ冬もやってくることだし、まさにこれから聴き込みたい音楽だ。

FLATPLAY - Slightedge | NATIVE ARCHIVES / BAYON PRODUCTION

Techno

 少しまえから90年代リヴァイヴァルはトレンドのひとつとして定着していたわけだけど、この極東の地もその機運としっかりリンクしていて、新たな才能が登場してきている。D.A.N. のサポート・メンバー、篠崎奏平のソロ・プロジェクトである FLATPLAY がもう、ストレートにデトロイティッシュなサウンドを響かせているのだ。
 D.A.N. のメンバーと同年代とのことなので、現在20代後半。リアルタイムではないその世代がデトロイト・テクノに影響を受け、みずからの音楽の糧としていることじたいが、いまの音楽シーンのある側面をよく物語っている。
 河村さんによるインタヴューによれば、若き時分にホアン・アトキンスを知ったことがそうとうデカかったようで、とくに『The Berlin Sessions』に大いに刺戟されたのだという。同記事ではデラーノ・スミスの名もあげており、いやこれはほんとうにデトロイト・サウンドにぞっこんなんだろう。
 かくして FLATPLAY は2018年、それこそ〈Transmat〉から出ていてもおかしくなさそうなトラックの詰め込まれたファーストEP「First Extended Play」をリリースすることになるのだが(D.A.N. の櫻木大悟と〈TREKKIE TRAX〉の andrew によるリミックスも収録)、つい先月、さらに洗練度を高めたシングル「Slightedge」が送り出されている。
 1曲目の表題曲からしてリスペクトのかたまりだ。キックとハットが確たるコンビネイションで土台を形成、ダビーなシンセが曲の色彩を決定し、どこかオリエンタルな、あるいは未知の「異国」を喚起させるヴォーカルがさりげなくオリジナリティを主張してもいる。2曲目 “Orpus” はよりダブ・テクノの要素を強めたスタイルでミニマリズムを探求しているが、こちらもメロディの部分に独特の悲哀が宿っている。3曲目の “Orpus (Altone rephrase)” はそのダブ・ヴァージョンで、ベーシック・チャンネル一派を想起させる仕上がり。
 一周、いや、もう二周まわったのかもしれない。このように20代後半の世代が、そしてDJのようにクラブを主戦場とするわけではないミュージシャンが、独自の要素を加えつつデトロイトやベーシック・チャンネルの遺産を継承していることは、素直に喜ぶべきことなのだろう。

XTAL - Aburelu | 813

Electronica

 90年代から活躍するDJ/トラックメイカーの XTAL (旧名義 CRYSTAL)が4年ぶりに発表した2枚目のソロ・アルバム。
 (((さらうんど)))JIN TANA & EMERALDS のメンバーでもあり、K404 とのユニット TRAKS BOYS として2016年まで川崎の工場の屋上でレイヴを開催していた彼は、本作でダンスとはべつの試みにチャレンジ。ときおりギターがシューゲイズ的なノイズを鳴らしたりもするが、基本的には美しさを追求したエレクトロニカ・サウンドが展開されている。

Various Artists - REITEN presents ENSō 2020 | REITEN

ExperimentalAmbientTechno

 ベルリンを拠点に活動するサウンド・アーティストの Kosei Fukuda も要チェック。レーベル〈REITEN〉を主宰し、すでに10枚以上の12インチを送り出している彼は、この4月に宇都宮で電子音楽のフェス《REITEN presents ENSō 2020》の開催を予定していたものの、COVID-19 の影響により延期に。このまま立ち止まっているわけにもいかないからだろう、7月24日に同名のコンピがリリースされている。
 レニック・ベルイヴ・ド・メイなど、フェス出演予定だった各国のアンダーグラウンドの精鋭たちが参加しており、エクスペリメンタルなテクノ~アンビエントの最前線を堪能することができる内容だが、なかでも先日紹介した YPY をはじめ、Fukuda 本人の手による本作全体のコンセプトを体現する2曲、ヴェテランの ENA、あるいは Katsunori Sawa や Yuji Kondo など、日本人アーティストたちが気を吐いている印象があり、各人の今後の動向が気になってくるコンピだ。

R.I.P. 加部正義 - ele-king

 1966年6月にゴールデン・カップスの一員としてデビューし2020年9月26日に世を去ったルイズルイス加部こと加部正義氏のゆうに半世紀を超える音楽歴には当然ながら幾度かの転轍点があるが、それが描く軌道をふりかえれば、この国のロックがたどった道のりそのものだった、そのことを私たちはもっともっと知らなければならない。
 先の述べたとおり、加部正義はGSの一翼を担うゴールデン・カップスのベーシストとしてキャリアをスタートした。若い読者に超訳まじりにご説明さしあげると、GSとはグループ・サウンズの頭文字をつづめた、1960年代なかごろのベンチャーズやビートルズら舶来サウンドのあいつぐ上陸に感化された若者たちを中心にまきおこった流行の総称で、かまえこそロックだったが中身は歌謡曲というか、芸能事務所主導だったことは、のちにタイガースとテンプターズからPYGに転じたジュリーやショーケンやサリーへのロック・ファンからのすげない態度にもうかがえる。とはいえこの構図は定説あつかいだったふしがあり、かくいう私も、高校のころ、これから日本のロックを一所懸命聴くぞ!と誓ったそばからGSは歌謡曲だからやめとこうと思ったくちだった。その頑迷な思いこみがとけたのは黒沢進さんらの浩瀚な研究や、80年代なかば以降、レコードからCDへの媒体のきりかえにともない、過去の名作が廉価で入手できる体制がととのったことにもよる。
 耳をならすと、なかには歌謡曲ロックの枠組みからハミだすフリーキーな響きもそこかしこに聴きとれる。世界史との時間軸を確認すると、当時は68年を中心とした政治の季節で、米国西海岸にはグレイトフル・デッドやジェファーソン・エアプレインやクイックシルヴァー・メッセンジャー・サーヴィスらシスコ・サウンドが存在感を増した時期ともかさなる。すなわちサイケデリックの誕生である。海の向こうの動きにもっとも直截に反応したのは鈴木ヒロミツや星勝らのモップスでその名も『サイケデリック・サウンド・イン・ジャパン』(1968年)なるデビュー・アルバムを世に問うたことは、海外の最新動向を伝達する回路でもあったGS期の邦楽の位置づけも裏書きする。スパイダースのように音楽的なオリジナリティを積極的に打ち出す例もあったが、ポップ音楽では日本はまだまだ後進国であり、海外の最新動向の紹介も本邦楽団の重要な役割のひとつだった。上述のモップスのアルバムでも鈴木ヒロミツと星勝によるバンドのテーマソング風の “アイ・アム・ジャスト・ア・モップス” をのぞく全曲がカヴァーか職業作家の手になる提供曲(1曲目の “朝まで待てない” はのちに一世を風靡する作詞家阿久悠のデビュー作)である。
 このような分業制は内田裕也大瀧詠一らをまきこんだ日本語ロック論争の下地でもあるが、話が広がりすぎるのでいまは措く。留意したいのは、いまだ支配的だった和魂洋才の和と洋の線引きである。加部のいたゴールデン・カップスもそのことでは例外ではなかった。1948年横浜は本牧に生まれた加部正義は中学でギターを手に、高校のころには米軍キャンプで演奏をはじめていたという。のちのパワー・ハウスの竹村英司らとのミッドナイト・エクスプレスをへて平尾時宗(デイヴ平尾)とグループ・アンド・アイにベースで加入したのは66年、これが翌年に活動拠点の店の名前をとってゴールデン・カップスに改称する。デビュー・シングルは「いとしのジザベル」で、なかにし礼と鈴木邦彦への外注だが、静から動への弾けるような展開は彼らのキャラクターをうまくいいあてている。なかでも楽曲内を駆け抜けるランニングベースのうねりながら加速するグルーヴは加部の持ち味のひとつで、リードベースの呼び声も高いそのプレイスタイルは爾来、アンサンブルの牽引車の役目を担っていく。本領発揮の場はなんといってもスタジオよりライヴであり、私はその観点からカップスの最高傑作は69年の『スーパー・ライヴ・セッション』だと断言したくなる。
 とはいえ全9曲中オリジナルは掉尾をかざる “ゼンのブルース” のみ。のこりはブルース、R&B、お気に入りのナンバーか、前年に出たアル・クーパーとマイク・ブルームフィールドの『スーパー・セッション』の援用からなる。名うてのミュージシャンを糾合しその化学反応に期待するスーパーセッション方式の本邦へのもっともはやい導入例だが、方法論以上に注目すべきは彼らの演奏の質である。ガレージの鋭利な切っ先が反射させるステージライトがかもしだす酩酊感とでもいえばいいだろうか、デイヴ平尾、エディ藩、マモヌ・マヌーにミッキー吉野らコンボが発するテンションはきわめて高い。ルイズルイス加部のベースは音楽空間の下部を滑り、曲をかさねるごとに内圧を高め、パワー・ハウスの陳信輝と柳譲治が加わる “ゼンのブルース” はどんづまりにひしめく魑魅魍魎の図を想起させる。このような現場が昭和40年代の横浜の地に存在していたことは当時の日本でロックの受容が急速にすすみつつあったことをものがたる。むろん決定権をにぎるのはいまだ大人だが、バンドの仕組みやロックへの理解度は格段に高まっていた。これが60年代末から70年代初頭にかけてのスーパーセッション方式の重用につながっていく。そのことはあの『ジャップロック サンプラー』(和書は白夜書房より2008年刊行)でジュリアン・コープも誤解と曲解まじりに指摘する点でもある。コープは陳信輝、水谷公夫、柳田ヒロ、クニ河内らの名前のなかで前述の『スーパー・ライヴ・セッション』については「ブームの尻馬に乗ろうとした」(165ページ)とすげないが、前後関係をみるとカップスのが先である。というのはさておき、器楽演奏に焦点をあてたこの方式は70年代前半のニューロックにきわめて親和的であり、この潮流からは多くの演奏家が輩出している。大音量の長尺の演奏を旨とするスタイルゆえ、そのほとんどはギタリストだが、加部正義はそのなかで例外的なベーシストとして70年代以降のロック史で異彩を放ちつつづけるのである。
 陳信輝とのフード・ブレイン、スピード・グルー&シンキ、ジョニー・ルイス&チャー──、加部正義が名を連ねるバンドがことごとく無頼派集団風なのは演奏の場を共同作業より勝負の場ととらえるからか。男性原理を尊ぶ60年代末の時代の影もおちている。それにより幅をきかせるハードな不良のロックの向こうを張るように、スピード・グルー&シンキはジュリアン・コープが「アンフェタミンの入手にまつわるブルース・ベースの葬送曲」と形容する “Mr. Walking Drugstore Man” にはじまるわずか1年あまりの活動で日本という社会と時代をつきぬけようとする。71年の『イヴ 前夜』と翌年の『スピード、グルー&シンキ』の2枚がこの日中、日仏、米比混血児トリオがのこした音源のすべてであり、作風には同時代人であるジミの影もちらつくが、フード・ブレインで未消化に終わった実験性をフリークアウトぶりでとりかえすかのごとき濃度と(加)速度はやはり圧巻である。
 その後復活したデイヴ平尾とゴールデン・カップスや、山口冨士夫とビショップとのリゾートに参加し活動の場を広げつつも、めまぐるしく変わる状況に疑問をおぼえた加部正義は自省の期間をもうけようと旅にも出たが、帰国をまちかまえていたかのように、78年にはチャーに乞われてジョニー吉長とのジョニー・ルイス&チャーの一員として前線に舞い戻ることになる。のちにピンク・クラウドと名をあらためるトリオの本邦ロック史における功績はいくつもあるが、私のような後発組には大人のロックなるものがもしあるとして、説教くささ抜きにかっこよくあるべきにはどうすればいいかおしえてくれたのも彼らだった。ロックなどというものは、バンドマンなどというものは楽器をかまえた姿がさまになってなんぼであり、テクニックなどいうだけヤボである──といいたげな余裕と色気と自由な精神。その中心で加部正義はハードなロックを中心に、ファンク、フュージョン、ラテンやAORにいたるまで、さまざまなモチーフに芯の詰まったグルーヴでしなやかに応じている。その融通無碍な音楽性は80年代を席巻し来たるべき90年代以降の多様性と横断性をさきがけてもいたが、そのような状況から出来した並列化と細分化はロックという坩堝を旧式の調理道具とみなす風潮も用意した。むろんこれは概況にすぎず、加部正義は21世紀以降も、いくらか間遠にはなったとはいえ、TENSAW の鈴木享明、富岡義広らとのぞくぞくかぞくなどで活動を継続していた。鈴木、富岡は加部の94年のソロ『eyeless sight』でもリズム隊をつとめた間柄でもある。それ以前にも加部にはチャーがプロデュースした83年のはじめてのソロ『ムーン・ライカ・ムーン』とマシュー・ザルスキーJr.と加部みずからプロデューサー役を買って出た『コンパウンド』(1985年)の2作のソロもある。ことに後者は旧知の清志郎との合作で “非常ベルなビル” と題した、ふてぶてしさと脱力を誘う諧謔ぶりが同居するハードなロックンロールもおさめている。このロック的な、あまりにロック的な佇まいは2020年9月26日以降も、加部正義の音楽から陽炎のようにたちのぼってくる。

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