「KING」と一致するもの

FLOATING POINTS & MARK FARINA - ele-king

 2011年もっともはずれがなかったレーベルとは......〈Tri Angle〉〈Planet Mu〉 そして〈Eglo〉でしょう!
 ダブステップにおけるソウル/ジャズ部門のトップ・レーベル、〈Eglo〉を主宰するフローティング・ポインツが金曜日、DJします。
 そして土曜日は、サンフランシスコの偉大なDJ、マーク・ファリナです。そして同時土曜日の代官山〈UNIT〉では、この10年、安定した人気をほこるロンドンのドラムンベースのレーベル、〈ホスピタル〉からNU:TONE とLOGISTICS がDJプレイ! 忘年会の帰りでもいいし、なんでもいいです。どちらかに行きましょう!

■FLOATING POINTS

2011/12/16(fri) DAIKANYAMA UNIT & SALOON
OPEN/START 23:30
ADV. 2,500yen (limited 150)
DOOR 3,300yen (with flyer 2,800yen)

DJ:FLOATING POINTS (Eglo records)
KAZUMA (PHENOMA/mo'wave/stillecho)
5ive (COS/MES)

SALOON
DJ:INNER SCIENCE
AMETSUB (nothings66)
LIVE:
DAISUKE TANABE

MORE INFORMATION : UNIT 03 5459 8630 www.unit-tokyo.com
YOU MUST BE 20 AND OLDER WITH PHOTO ID

■MARK FARINA

Primitive Inc. 5th Anniversary

2011/12/17(sat)
22:00 open/start
adoor: ¥3,500- / with flyer: ¥3,000-

@eleven
web: https://go-to-eleven.com/

DJ:MARK FARINA (Mushroom Jazz/OM/from San Francisco)
HIROSHI WATANABE a.k.a. KAITO (Kompakt/Klik Records)
DJ YOKU (A Hundred Birds)
DJ ENDO (CONVERGE+/King Street Sounds)

Lounge DJ:MARK FARINA -Mushroom Jazz Set- (Mushroom Jazz/OM/from SanFrancisco)
CALM (Music Conception)
DJ KENSEI (Coffee & Cigarettes Band)
KZA (Force of Nature)
DJ SHIBATA (Thousand Finger/探心音/the oath)

Live: Paint: VIX
Food: KOYO
Host: Niiiyan & NAGOYA
Primitive Inc.
web: https://www.primitive-inc.com
twitter: https://twitter.com/primitive_inc

■NU:TONE + LOGISTICS
DRUM & BASS SESSIONS 2011
"HOSPITAL X'mas"

2011.12.17 (SAT) @ 代官山UNIT
feat. NU:TONE + LOGISTICS (NU:LOGIC)
with: ☆Taku Takahashi
TETSUJI TANAKA
DJ MIYU

vj/laser: SO IN THE HOUSE
saloon: "DOGGY"SACK, Eccy, DJ PRETTYBWOY, Endless,Rolling Maestro
open/start 23:30
adv. \3500 door \4000
info. 03.5459.8630 UNIT
https://www.dbs-tokyo.com

Hessle Audio Japan Tour - ele-king

 シャックルトンの来日が大成功だったというじゃないですか。東京も大阪も、素晴らしいリアクションがあったようです。行った人がみんな「良かった」と言っています。人が入っただけではなく、盛り上がったんです。いよいよ日本のダンスフロアにも、本格的にダブステップ~ベース・ミュージックの火が着いたようですね。
 ダブステップ~ベース・ミュージック系で言えば、2011年、最後の注目パーティはこれです。〈ヘッスル・オーディオ〉です。みなさんが大好きなジェームズ・ブレイクのシングルもアルバムが出るずいぶん前にリリースしています。それもひねりのきいた良い曲ですが、やはり2011年にリリースされたコンピレーション・アルバムが本当に素晴らしい。ポスト・ダブステップにおける最良のレーベル・コンピレーションだと思います。
 まあ、なんにせよいまこのタイミングでラマダンマン(ピアソン・サウンド)というポスト・ダブステップ・シーンにおいてだんとつに人気のあるDJ(M.I.A.のリミックス、レディオヘッドのリミックス、いろいろある)、そしてレーベルの相方であるパンジアがふたり揃って来日すること自体ワクワクする。
 どうか逃さないように!


2011.12.22 Thu Before Holiday

7even Recordings & Basement Ltd. present
Hessle Audio Japan Tour
feat. Pearson Sound aka Ramadanman & Pangaea
at UNIT

OPEN: 23:30
DOOR: 3000yen(adv.) | 3500yen(door)

[UNIT]
-DJ-
Pearson Sound aka Ramadanman
Pangaea
ENA
Greg G
Yusaku Shigeyasu

[SALOON]
-DJ-
Dx
100mado
Audace
A Taut Line
CHAM+i

[SHOP]
DISC SHOP ZERO


「ダブステップ = ハーフステップ」の概念にとらわれないベース・ミュージックが持つ自由な可能性を拡張し続ける「Basement Ltd.」が新天地〈UNIT〉にて5回目の開催を高らかに宣言。ジャンルの壁を飛び越え評価を獲得する最重要レーベル〈Hessle Audio〉のショウケースがここ東京で実現します!
 レーベル・オーナーでもあるふたり、かつてはRamadanmanとして既存の音楽を独自に再構築した鮮烈な作品を世に放ってきたPearson Sound、そしてそのアザーサイドとも言えるエクスペリメンタル感溢れる強烈なプロダクションで知られるPangaeaをフィーチャー!
 彼らを中心に生み出される、UKガラージ、テクノ、ハウス、ジュークなど新旧を問わない数多くの要素を含んだプロダクション、DJスタイルは今まさに聴かれるべきサウンドといっても過言ではない。後に説明不要なまでに評価を得たJames Blakeや、Ricardo Villalobosにヘヴィー・プレイされたJoeなどと言った才能をいち早く発掘するなど、その審美眼には定評がある彼らが魅せる"次なる"サウンドに期待が高まる。

 〈7even Recordings〉からのリリースが高い評価を得たENA、そしてBasement Ltd.のレジデントGreg GとYusaku Shigeyasu、SALOONでは東京のベース・ミュージックを牽引するSoiからDx、「Back to Chill」レジデントである100mado、Diskotopiaのプロデューサー、A Taut Line、レーベル〈Inductive〉から〈Audace〉、そしてディープ・フロウ・ドラムンベース・パーティ「NEON」からCHAM+iが登場、
 さらには確固たる信念のもと良質な音楽・文化を届けているDISC SHOP ZEROをUNIT内に設置し、全方位からマッシヴなベースラインを保証!

https://hessleaudio.com
https://soundcloud.com/hessleaudio

ON-U - ele-king

 UKがほこるダブ・レーベル〈ON-U〉、その30周年を祝祭するパーティが週末の金曜日に渋谷の新しいクラブザ・ヴィジョンで開かれる。
 まだ22歳くらいのエイドリアン・シャーウッドがポスト・パンク時代のロンドンで立ち上げたこのインディ・レーベルが素晴らしいのは、エイドリアンが「ダブ・レゲエ」というコンセプトからまったくズレなかったことである。AOちゃんの記事にも書いたように、雑食性がきわめて高いことがこのレーベルの特徴でもあるが、しかし、世のなかのトレンドがインディ・ロックになろうがヒップホップになろうがテクノになろうが、〈ON-U〉はこの30年間、飽きることなくダブ一筋である。それがゆえにUKにおいて、あるいは国際的にも、〈ON-U〉はもっともリスペクトを集めるインディ・レーベルのひとつとなっている。
 エイドリアン・シャーウッドの久しぶりのDJが聴けるのも嬉しいが、オーディオ・アクティヴの再結成、AO、LIKKLE MAI、クラナカ、ムードマン、内田直之、アルツ、ケンセイ、O.N.Oといった日本勢も頼もしい。ダブステップからオーセンティックなダブまで、あらゆる手を使って低音は揺れるだろう。
 行くべし!


ADRIAN SHERWOOD
"DUB SESSIONS : ON-U SOUND 30th SPECIAL"

出演:
ADRIAN SHERWOOD (ON-U 30th SPECIAL DUB MIX)
AUDIO ACTIVE (live dub mix by ADRIAN SHERWOOD)
AO INOUE
NAOYUKI UCHIDA (featuring guest: LIKKLE MAI)
KURANAKA 1945
MOODMAN
DOUBLE BARREL
NAOYUKI UCHIDA
PART2STYLE SOUND
O.N.O (MACHINE LIVE)
ALTZ
DJ KENSEI

2011.12.9 (Fri)
open / start : 23:00
SOUND MUSEUM VISION
ticket : adv. 3,500yne / door 4,000yen
※二十歳未満の入場不可。IDチェック有り、要写真付きID持参
offical site : beatnik.com/on-u

interview with AO - ele-king

 〈ON-U〉というレーベルは、レゲエに関してオーセンティックな価値観を持っているものの、異種交配/雑食性ということに関しても積極的だった。プリンス・ファー・アイやビム・シャーマンといったオーセンティックなアーティストの作品を出しながら、マーク・スチュワートのメタリックなダブを手がけたかと思えばニューヨークのシュガーヒル・ギャングからはタックヘッドを引き抜いて、他方でエイドリアン・シャーウッドはアインシュテュルツェンデ・ノイバウテンのようなインダストリアル系の仕事もこなしている。最近の日本では〈ブラック・スモーカー〉がそうした混交をいとわない活動しているが、このレーベルは2011年にドライ&ヘビーの新作を出している。


AO INOUE
Arrow

ビート

Amazon iTunes

 AOは......通称はAOちゃんは、リスナーにはドライ&ヘビーの元MCとして知られている。10年以上も昔の話だが、ストイシズムの極みとも言えるドライ&ヘビーのステージにおいて、AO、そしてLIKKLE MAIといったシンガーは熱のこもったヴェイブレーションを伝えていた。MAIちゃんはソロとしてのキャリアを積んで久しいが、このたびAOは、まるで世間の意表を突くかのように、初めてのソロ・アルバムを発表する。

 その作品『アロー』におけるAOは、10年前に我々がステージで見ている彼ではない。マイクを握らず、彼は電子機材を操作している。アルバムは全曲インストだ。
 『アロー』はベース・ミュージックと括られるかもしれないが、ダブステップではない。収録された何曲かをオーディオ・アクティヴの大村大助がサポートしているように、アルバムは〈ON-U〉直系のハイブリッディなエレクトロニック・ミュージックを展開する。エイドリアン・シャーウッド流の広義のダブ、アンドリュー・ウェザオールのエレクトロ・ファンク、そしてダンスホールやグライム......そうしたものがミックスされている。

 2011年という年は、リトル・テンポやザ・ヘヴィーマナーズといったこの国の異端的なダブ・バンドが素晴らしいアルバムを発表している。ドライ&ヘビーやオーディオ・アクティヴも復活した。こんどはAO......そう、AOちゃんの出番である。

何にも知らないときにですね、インターセプターに入って、ただひたすらテープを聴いて、ビッグ・ユースとかI・ロイとか、カタカナで起こしていくわけですよ。「これ何だろう、英語にしてったらこういう風になるんだ」とか。アクセントも違うし、まず何言ってんのかわかんないし。

今日はAOちゃんのすべてを語ってもらうってことでお願いします。

AO:はははは!

俺、AOちゃんの踊りは何度も見ているんですけど、音楽活動はドライ&ヘビーが最初だったんですか?

AO:その前に、MIGHTY MASSA――長井(政一)さんがやっていたインターセプター(INTERCEPTOR)というバンドがあったんですね。で、当時は下北沢にZOOっていうクラブがありまして、そこのハコバンみたいなバンドだったんです。で、そのバンドが、アグロヴェーターズとかナイニー・ジ・オブザーヴァーとか、ああいうものばかりをカヴァーするようなバンドだったんですね。

カッコいいですね。

AO:メンバーも面白かったんですよね。ドロップスっていう女性だけのスカバンドの人たちがいたりとか。10数人ぐらいのバンドだったんですけど、たまたま僕そこ誘われて。MAIちゃんがコーラスでいたりとか。メイン・ヴォーカルはカルティヴェーター(Cultivator)でも活躍しているラス・ダッシャー(Ras Dasher)。で、僕はまあトースティングで。

その頃からトースティングなんですね。ちなみに何年ですか?

AO:ええっと、何年ですかねえ......ZOOがSLITSになるあたりですね。

じゃ、93年あたりだね。

AO:で、たまたま誘っていただいて、ライヴも何回かやったんですよね。その頃ちょうど秋本(武士)さんが力武(啓一)さんというギタリストといっしょにオーディオ・アクティヴを飛び出たあとにインターセプターに入ってきて、そこから別に独自のセッションがはじまっていって、で、95年ぐらいにドライ&ヘビーになったんですね。そのままドライ&ヘビーに入ってっていう形ですね。

じゃあドライ&ヘビーは最初からメンバーとして?

AO:そうですね。まあ流動的に、少人数で秋本さんと力武さんがドラムマシーン使ってセッションっていう時期もあったので、そのあたりは自然になっていったっていうのはありますね。

じゃあインターセプターが媒介になって?

AO:そうですね。

AOちゃんはじゃあ最初からレゲエだったんですね?

AO:そうですね。音楽活動は初めからレゲエ・バンドだけですね。いままでずっと。

しかしアグロヴェーターズやナイニー・ジ・オブザーヴァーをカヴァーするっていうのは、当時としては、世界的に見ても少なかったでしょうねぇ(笑)。

AO:たぶんそうだったと思いますね(笑)。長井さんもちょうどその頃、サウンドシステムのスピーカーを作りはじめた頃で、月1本ずつ増えてったりとかっていう状況で。でもまあ、イヴェント自体少なかったですし、ましてや内容の濃いものっていうのはなかったですよね。

[[SplitPage]]

何とも言いようがないですけどね、あの頃の感じって(笑)。ガーッっと練習やって、みんなでガーッって飲んで朝まで喋って(笑)。「オラーッ!」ってみんなで帰って(笑)。そういうのの繰り返しでしたね。

なぜレゲエに惹かれたんですか?

AO:レゲエに惹かれたのは......高校ぐらいのときだったと思うんですけども。まあ、初めは黒人音楽が好きだったんです。子供の頃を申しますと、ロバート・ジョンソンをモチーフにした『クロスロード』っていう映画があったりとか、80年代パルコのCMにマハラティーニ&マホテラ・クイーンズが出てたりとか。あと当時『サラフィナ』っていうミュージカル観に行ったりとか。わりと親の影響っていうのもあるんですけど......アパルトヘイトだとか人種問題だとかっていうのも、けっこう積極的に話題に上がるような家だったので、そういうのもあってですね。黒人音楽のソリッドな感じとか、メッセージ性みたいなものっていうのに関心があったんですよ。

生まれはどこですか?

AO:僕は吉祥寺です。

家のなかにブルースのレコードなんかがあるような感じ?

AO:いや、そんなになかったんですよ。レコードって言っても大した量じゃなくて、そのなかにあったのが憂歌団だったりとか(笑)。ロバート・ジョンソンだったりとか、かと思えばアストラッド・ジルベルトだったりとか......まあその当時流行ったものを親が買ったものがあっただけだと思うんですけど。で、中学校のとき同級生で金持ちの奴なんかがみんなハワイやアメリカに旅行してくると、カセットを買って来るんですね。それがオールドスクールのヒップホップだったり、ジェームズ・ブラウンだったりとか。で、そういうの全部まとめて僕ら「ブラック、ブラック」って言って、「ブラック聴こうぜ」って言って、聴いて興奮してたみたいな。高校生ぐらいになってくると、色気もついてくるし、だんだんいろいろと興味が出てきて、「もうちょっと何かこう、生々しいものないかな」と思って、あったのがレゲエだったんですね。自分のなかで勝手に、「黒人音楽のなかで、いちばん真髄だ!」みたいな。リズムがシンプルで......いま思うと、録音がすごくラフだったりそういうのもあると思うんですけど。何かこう、泥臭くてすごくソリッドな感じが。

それ面白いですね。ブラック・ミュージックの文脈からレゲエいくって、僕なんかよりもひと世代上によくあった感覚ですよね。

AO:そうですね。パンクとかニューウェイヴって、ほんとにまったく聴いてないんですよ。

それってAOちゃんの世代では逆に珍しいよ。ちなみに最初に好きになったのは?

AO:ボブ・マーリーとデニス・ブラウンですね。YOU&Iとか貸しレコード屋さんが当時はまだあったんですけど、並んでいるものもそんなに多くはなかったんで、片っ端から聴いて。そのとき、80年代のサウンドじゃなくて古いほうが何か好きだったんですよね、

レゲエに入って、なぜ楽器ではなくトースティングってところから?

AO:友だちと飲み会とかでペラペラペラペラ口真似をしてたんですけど、「AOちゃんインターセプター入んなよ、何かそういうの上手そうだし」って言われて、「じゃあちょっとやってみよう」と(笑)。高校のとき、おちゃらけで学園祭バンドみたいなので歌ったりはしてたんですけど。ほんとに小節の数も数えられないときぐらいに......何にも知らないときにですね、インターセプターに入って、ただひたすらテープを聴いて、ビッグ・ユースとかI・ロイとか、カタカナで起こしていくわけですよ。「これ何だろう、英語にしてったらこういう風になるんだ」とか。

はははは。

AO:自分が将来音楽をやって、しかも歌をやるような人間だとは思ってなかったです、ティーンの頃は。好きで聴いてはいましたけど。

しかしまた、よりによってI・ロイやU・ロイをコピーするっていうのは、すごく至難の業ですよね(笑)。

AO:そうですね、ほんとに。

アクセントも違うし。

AO:アクセントも違うし、まず何言ってんのかわかんないし。それをまず先人たちにいろいろ訊くわけですよね(笑)。「これ何なんですか」とか、あとは歌詞の訳本を買ったりとかですね。まあ何か、いろんな要素があってそうなった、というか。ただ、いつだったか......芝浦にジョニー・クラークとビッグ・ユースが来たんですよね。で、そのときにインターセプターが前座でやってて、友だちに誘われて。何回かZOOで観てたんですけど、レコード買いはじめた自分が「わあ、なんてカッコいいバンドなんだろう、そのものじゃないか」っていうのがあって。そのときにはやっぱ「歌いたいな」と思ったのはたしかですね。

へえー。

AO:入る前にインターセプター観て、ほんと感動しちゃって。すごいカッコいいと思いました。「こういうことやってる人いるんだ」って。だから初めの頃は、そんなに「シンガーになりたい」って感じではなかったと思います。

日本でレゲエに触発されて音楽活動をはじめる人たちってたくさんいるわけですけど、ルーツ系のトースティングやりたいって人はそんなに多くはないじゃない?

AO:そうですねー、でも何かやっぱり、憧れだけで(笑)、「カッコいいと思っちゃったのはしょうがない」っていうのはあって。

インターセプターがあって、そのあとドライ&ヘビーも誕生する。ドライ&ヘビーのライヴのなかで、僕もAOちゃんのステージングを初めて観たんです。ドライ&ヘビーは基本、秋本くんと七尾くんが中心にいたバンドでしたが、AOちゃん自身にとって、ドライ&ヘビーとはどんなバンドでしたか?

AO:自分の20代の人生はすべてドライ&ヘビー、って感じだったですね。あのふたりの圧倒的な影響下にあったので。

AOちゃんは秋本くんたちの何才下なの?

AO:えっと......4つか5つ下じゃないですかね。僕とK(The K)とウッチー(内田直之)が3人同い年なんです。

エイドリアン・シャーウッドが良いことを言ってるよね。あの当時、ドライ&ヘビーほど真面目にルーツ・レゲエを演奏してるバンドは世界のどこを探してもいなかった、みたいなね。音を聴いて誰もそれが日本人だとは思わなかった。それがヨーロッパの連中、とくにドイツの連中にすごく影響を与えて、ダブ・バンドの登場を促したみたいなね。

AO:たしかにあの頃、「絶対に日本人だと思われたくない」、「海外でも通用する音にしたい」とかね、みんなそれぞれのオタク性というか、とにかく根性みたいなものが、ものすごく集結してたと思うんですよね(笑)。みんな無我夢中で、ライヴもないのにスタジオに入ったり、そういう修練の賜物じゃないかなと思いますね。

ドライ&ヘビーはあの当時、国内では賛否両論がありましたよね。「オリジナリティがない」という意見もあった。でも結果を言えば、それで逆に世界に影響を与えてしまったわけですよね。これはすごいことだと思うんだよね。

AO:まあけっこうはっきりしてましたからねー。そこはみんなマニアックな気質の人たちが集まってましたし、若かったし根性もあったから、まあほんと気合みたいなものがあったと思いますね。

当時、AOちゃんは自分個人の活動っていうのは?

AO:ないですね、まったく。もうドライ&ヘビーだけ。

DJもやってなかった?

AO:DJも初期はやってなかったですね。レコードは買い集めてましたけど。ほんとにめったにDJなんかやってなかったですし、クラブ行って踊るようなことはありましたけど。あとはひたすらドライ&ヘビーで週に1回リハやって、リハが終わるとそのまま飲み会やって、っていう(笑)。「ああでもない、こうでもない」って。

あらためて濃いバンドだったんだなって思いますね(笑)。

AO:濃いと思いますよ(笑)。濃いし、太いし(笑)。みんな強烈だったんで。集まってるメンバーのなかにいろんなもの、自分にないものを見出してましたね。内田くんからもいろんなものを学んだし。秋本っちゃんや七尾くんからは芸術的なことやスピリッツ的なことをたたき込まれたし。バンド内では、たぶん音楽的なことは僕がいちばん素人だったんですよね。自分の好きなことだけの知識っていうのももちろんありましたけど、みんながみんないろんな知識を持ち寄って来るんですね。無我夢中でしたね。練習も、週に1回3時間から4時間っていうのは確実にありましたね。吉祥寺のスタジオに入ってやって、で、そのあとに何倍かの長さの飲み会があって(笑)。

ハハハハ! 飲み会は重要ですよね!

AO:初期の頃はなかなかライヴの予定がなくて。それでも何年もスタジオに入ってましたね。95年の頃にいまのメンバーってなってますけど、流動的にはその前からはじまってたわけです。インターセプターの頃から僕は並行して、秋本っちゃんと力武さんとドラムマシンと入ってましたから。そのなかで秋本さんが、例の「七尾(茂大)って奴がいてさあ」ってね。そんな感じでメンバーが固まってきましたね。MAIちゃんもインターセプターやって、同時にドリームレッツ(DREAMLETS)なんかもやってたんですよね。それが「私もやりたい」ってことになって、で、ウッチーは新宿の飲み屋辺りから秋本っちゃんが引き連れてきたんですよ。

ほー。飲み屋(笑)?

AO:どっかで知り合ったって言ってましたよ。「すげーのがいてさあ!」って。「専門学校でPAの勉強、レコーディング・エンジニアの勉強してて、ダブやりたいっていう奴がいてさあ」って。当時、髪の毛フサフサでかわいいウッチーが。

へえー(笑)。

AO:ウッチーとの出会いも衝撃的だったな。彼は同い年で、全然自分にないものを持ってたんで。機材のことだとか。こだわりっていうか、彼のオタク気質みたいなものにすごく共感して(笑)。

なるほどね。

AO:何とも言いようがないですけどね、あの頃の感じって(笑)。ガーッっと練習やって、みんなでガーッって飲んで朝まで喋って(笑)。「オラーッ!」ってみんなで帰って(笑)。そういうのの繰り返しでしたね。

ハハハハ。ほとんど部活だよね(笑)。

AO:そうですね。何かもう、そういうのにいっさい馴染めなかった人種があちこちから集まってきて、初めてそういう部活的なものをやってたんだと思います(笑)。

でも何か、すごくいい話ですよ。

AO:はははは! そうですね(笑)。

だってあの当時、真顔でアグロヴェーターズみたいなバンドをやろうということ自体が、ちょっと音楽知ってる人間からすれば「お前どうかしてるんじゃないか」っていうような話なわけでしょ(笑)。でも、そんなことお構いなしにやってしまうところに自由を感じるんですよね。それこそ〈ON-U〉的というかね。

AO:ああー、そうですねえー。

時代の風を気にせずに、好きなように自由に生きるっていうのが何よりもいいですよ。

AO:同時期にどういうものが流れてたのかなって思うと、逆行はしてたのかなって思いますね(笑)。

90年代初頭って、あのリトル・テンポだって最初はラップ入れたりしていたような時代ですよ。ドライ&ヘビーは逆行してるというか......、というかまあ、流行など気にせず自由にやっていたんでしょうね。

AO:自由、不自由すら意識せずに、夢中になってやってたような気がしますね。好きで、憧れだけだと思います。なぜかアグロヴェーターズとかオブザーヴァーとかウェイラーズとか、レゲエでも当時のレゲエじゃなくて70年代後半のものとか、それ以上に古いものとかに惹かれたっていうのはありましたね。いまみたいにそんなに情報もなかったわけですから。それぞれの人たちの思い込みっていうのも集まってプラスされて、憧れがもっとビルドアップされていたと思うんですよ、それがたまたまルーツだったのかもしれないですけど。もちろ、まわりに流れてる音楽は自分の好みに合わないなっていうのはありましたけどね。

[[SplitPage]]

結局、みんなあそこで人間関係も学んでたと思うんですね。誰がどうってことでもないですし......ただ個人的には、もともとは秋本くんとの繋がりっていうのが大きかったんですよ......僕のなかではドライ&ヘビーっていうのはほぼ秋本くんだったわけです。

いまでも日本の音楽リスナーって真面目というか、思い詰めているというか。たまに読者からメールいただくんですが。

AO:そうなんすか(笑)?

たとえばフィッシュマンズの再評価なんか、人によっては恋愛ぐらいしかもう夢は残されていないんだ、ぐらいの。

AO:おおおおお! マジっすか(笑)。これはもう、僕のような人間は失敗談を語りながら、面白おかしく生きていくしかないですかね(笑)

佐藤伸治さんはアグロヴェイターズも好きだったろうけど。

AO:佐藤伸治さん、僕が昔会社員やってたときお店によく来てたな。

へー。そうなんですかー。

AO:下北沢の洋服屋にいたんですけど。彼のちょっと身内の人が同じ会社に働いてて、晩年にもよくいらっしゃってましたね。僕その頃店で『ワン・パンチ』のデモとかかけてた(笑)。直接話したことはないんですけど。

面白いですね。やっぱ同じ場所ですれ違っているんだね(笑)。同じレゲエに触発された音楽でもぜんぜん出し方が違うもんね。

AO:どう思ったんだろうなー。

それはもう、「レゲエがかかってる」って思ったんじゃない(笑)?

AO:でしょうね(笑)。ああいうの嫌いなのかなと思ったけど。僕はフィッシュマンズは、もっとも苦手とするあたりですけど(笑)。

当時から好き嫌い分かれるバンドだったからね。誰からも好かれるバンドなんていないし。

AO:僕、ミュート・ビートも聴かなかったんで。

えー、ほんと?

AO:はい。若い頃、直接こだまさんにも言っちゃったんですけど(笑)。

「すいません! だけど僕は......」て(笑)?

AO:覚えてらっしゃいましたね、つい最近まで。

ミュート・ビートは僕の世代では神でしたからね。

AO:だから逆に、むしろその正反対を行こうと思ってはじめたのがドラヘビだったんですよね。

ああ、なるほどー。むしろ超えなきゃいけないみたいな感じ?

AO:まあいまとなっては「なるほど!」って思いますけどね。その後いろいろお話しする機会もあって、先人として、いまのこだまさんの雰囲気とか、「すごい」と思いますけどね。

逆にそのくらいの強い気持ちがないと自分たちでやってられないだろうし。

AO:そうですね、みんな迷いはなかったですよね、たぶんね。そのためにいろんなものを犠牲にしましたけど(笑)。さっきも言ったように、初期の頃はライヴの予定もなかったし、リリースの予定ももちろんなかったわけですし、それでもバンドがありましたからね(笑)。

やっぱもう、こういう生き方しても良いんだっていうね。勇気づけられる話だよそれ。

AO:僕がごく幼い頃にブラック・ミュージックを聴いたときに感じたのはそれだったかもしれないですね。ジェームズ・ブラウンでもいいですけど、彼らの生々しい感情表現、単純に「こういうのもアリなんだ」って思っちゃったっていうのはあると思います。「ここまで感情を剥き出しにして表現していいんだ」っていうか。そういうのはあったかもしれないです。実際、そこに憧れてたのかもしれない。社会的なメッセージもすごく重要だったんですけど。

じゃあドライ&ヘビーがセカンド・アルバムの『ワン・パンチ』出してから調子が出てきて、で、『フル・コンタクト』あたりからバンドに亀裂が入るわけでしょう? 

AO:はい、そうですね。

で、中心メンバーの秋本くんが抜けて、そのあと残されるわけじゃないですか。どのような気持ちであの時期を過ごしてたんですか?

AO:あの、これはほんとに、僕が話すっていうのもエラいことになっちゃうと思うんですけど、結局、みんなあそこで人間関係も学んでたと思うんですね。誰がどうってことでもないですし......ただ個人的には、もともとは秋本くんとの繋がりっていうのが大きかったんですよ......僕のなかではドライ&ヘビーっていうのはほぼ秋本くんだったわけです、とくに初期の頃は。圧倒的な影響下にあったわけです。七尾さんもそうなんですけど、秋本くんはすごかったんですね。

秋本くんはサッカーで言うところのFWタイプの人だよね。しかも身体ごと行くっていう感じのね。

AO:彼が辞めることに関しては、僕はあまり話をしてなかったんです。「それはどういうことか?」とか。ただ、それまでの個人的な感情の繋がりとして、「他にやりたいことあるんでしょ?」って言ったら「そうだ」って言ってました。「だったらそれはやるべきだ」って僕は言って。で、その後のバンドの亀裂に関しては、それぞれの立場のいろんな意見がありますから。

そうだよね。言ってることがそれぞれ違うけど、みんな正しいみたいなね。

AO:ただ、すでに海外ツアーも行って、とても熱心に支持してくれるお客さんっていうのも現れてきたときだったので、ドラヘビの意味っていうのが自分のなかでさらにまた大きくなっていたのも事実なんですね。僕は個人的には続けたいとすごく強く思っていたんですね。まあ、内部はほんと大変でしたけどね(笑)。

察します。ひとつの歯車が狂うと大変だよね。

AO:だからたぶん、人間関係の勉強っていうのを同時にそこでみんながしてたんだと思います。

バンドを維持するっていうのは、商売としてとか、どっかで割り切らない限り、難しいよね。ドライ&ヘビーに限らず、それはもうバンドでは起こりうることだからね。

AO:起こりえますね。

で、秋本くんが辞めて、秋本くんなしのドライ&ヘビーで『フロム・クリエイション』が出て、そのあと自然消滅していくわけじゃないですか。

AO:僕はドライ&ヘビーを脱退したのは去年なんですね。まあ七尾さんに「辞めます」と言ったのが去年だったんですね。

じゃあドライ&ヘビー自体は......。

AO:あってないようなものって状態で、休止しているとかなくなったとかって言われたりもしますけど、たしかに曖昧な認識のままでしたね。

2011年は〈ブラック・スモーカー〉から出したしね。

AO:ありましたね。それまでも、たとえば「秋本っちゃんとふたりでやりたい」って七尾さんから電話かかってきたりはしてたんですけど。でもやっぱそのたびに話がこじれたり......(笑)。まあでも、ドラヘビは2007年ぐらいまではライヴやってましたね。MAIちゃんがいない状態でもやってたんですよ。ベースはPATAさんがいて、レコーディングもあったんですよね、2006とか、2007年まで。それはまあ全部お蔵入りになってるんですけどね。

AOちゃんはバンドの窓口になっていたんですか?

AO:マネジメントやブッキングはやりましたね。まあ何となくそうなったんですよ。

そうかそうか......。でもさあ、なんかドラヘビの話聞いていると気持ち良いんだよねー、いつかドラヘビ物語を書きたいですね(笑)。

AO:犬も食わないような話ですよ、実際!

バンドに関わった人たちは、いまでもみんな好きなんだと思うんだよね。心底嫌いだったら、いちいち感情的にならないでしょう。

AO:いや、それはそうだと思いますけど。でもドラヘビに関しては、僕はほんとに責任を感じてますね。ただこうして発言してしまうと、それが政治的な力にもなってしまいますしね。

デリケートな問題だよね。秋本くんには秋本くんのリアリティがあるだろうしね。

AO:それはほんとそうですよ。僕には僕のリアリティもあるし、誰かが全体的にまとめるなんてことは不可能なんでしょうね。でも、何かちょっと申しわけないな、って。そういう気持ちは僕にはありますね。とくにリスナーの方にはね。支えてくれたファンとか。

だからこそのドライ&ヘビーだったのかな、って気もしますけどね。

AO:鬼っ子みたいな。まあ何かこう、お騒がせみたいなところはあったと思うんですけど。

メジャーと契約しているバンドみたいに大人の会話ができるような感じのバンドでもなかっただろうからね(笑)。だからこその演奏だったと思うし。

AO:そうですね。まあ姿勢であるとかグルーヴとか、あのころ体現してたとは思うんで。みんなギリギリまで、限界超えてまでやってたんで、それはやっぱり(笑)。

仕事のほうはどうしてたんですか?

AO:音楽だけでは食えたことないから、いまもバイトやってますよ。ドライ&ヘビーの欧州ツアーに出るまでは......99年だったかな2000年だったかな、それぐらいまでは普通に会社員として働いてましたね。バンドのいろいろなタイミングで職を失ったりってことはあったんですけど、普通に働いてましたね。

音楽との関わりっていうのは本当にドライ&ヘビー一本だったんだね。

AO:そうですね、はい。

[[SplitPage]]

ZETTAI-MUとかデカいかもしれないですね。ドラヘビの初期の頃に、レゲエ以外のイヴェントにけっこう呼ばれてたんで。ほとんどレゲエ以外のイヴェントでしたね、テクノとかジャングルとか。ヒップホップとか。そういうものがけっこうあったかもしれないですね。


AO INOUE
Arrow

ビート

Amazon iTunes

じゃあ、ソロ・アルバムを今回こうして作ることになったいいきさつみたいなものは、どのようなものですか?

AO:えっと......去年、ちょっと個人的なこととかいろいろなことが重なって。ドライ&ヘビー脱退したりとか、その前に2007年に立ち上げたマカファットっていうユニットがあったんですけど、それもうまくいかなくなりまして。で、自分の音楽人生を振り返るタイミングが思いっきりあったんですよね。そのときにドライ&ヘビーも辞める決意っていうのもあって。
 で、自分の過去を振り返ったとき、2003、4年ぐらいに作っていた音源があったんですね。リリースとかまったく関係なく、好きで作っていた打ち込みの音源なんです。お蔵入りにしてたんですよね。大村(大助)さんに借りたハードディスク・レコーダーに入ったものがずっと埃かぶってたんですけど、聴いてみようかなって思って。時間も経っているからけっこう客観的に聴ける。そしたら、思ったよりもいいかもしれないって。
 最初は、その音源を自主で出そうかな、ひとりだけで作ったものとして出してみたいなって思ってたんですよね。そしたら、大村さんとか「いいじゃん」って言ってくれたんですね。それで話が〈ビート〉から出そうってことに進展したんです。

実は僕も最初に聴いたのが大村くんの車のなかだったんだよね。聴いたときは〈ワープ〉か〈ニンジャ・チューン〉の新人かと思って、「誰?」って訊いたら「AOちゃん」って言われて、すごくびっくりした。「AOちゃんって、あのドラヘビでマイク握っていた人?」って(笑)。まさか打ち込みやってるとか思わなかったし。

AO:はははは。打ち込みはもともと2000年初頭からDJをはじめときに自分が好きでかけてるものとかに影響を受けて「俺も打ち込みたいな」とか、「この曲とこの曲のあいだにかける曲を作ってみようかな」とか、そういうぐらいの感じではじめたんです。

DJはいつからはじめたんですか?

AO:DJを本格的にはじめたのは......2002年ぐらいじゃないかなあ。2000年代初頭ぐらいですね。

じゃあ『フロム・クリエイション』の――。

AO:の、前ぐらいですね。友だちのイヴェントに呼ばれるようになって――下北沢でやったり恵比寿でやったり、レゲエのイヴェントだったり、レゲエじゃないイヴェントだったりもしました。ダンス・ミュージックとの出会いってことを言うなら、ZETTAI-MUとかデカいかもしれないですね。ドラヘビの初期の頃に、レゲエ以外のイヴェントにけっこう呼ばれてたんで。ほとんどレゲエ以外のイヴェントでしたね、テクノとかジャングルとか。ヒップホップとか。そういうものがけっこうあったかもしれないですね。

なぜレゲエを作らなかったんですか? レゲエからの影響はもちろん感じるけど、全然別物ですよね。

AO:もろルーツのトラックも実はあるんですけど、今回ちょっと入れてないんです。いわゆるレゲエ風のものっていうのは"Naha"って曲しかないですね。それはまあ、DJやってるときからレゲエのフレイヴァーがある新しいダンス・ミュージックっていうものに惹かれてましたからね。ドライ&ヘビーを通じて〈ON-U〉を知ったり、海外ツアーの体験を通して、「東京にフィットするような、新しいリアリティを感じる音はないかな」っていうのはあったかもしれないですね。単純にレゲエと混ざったダンス・ミュージックが好きだったっていうのもあったんですけど。とくにバイリとかグライムは衝撃でしたね。それまでもニュー・ルーツやラガ・ハウスも聴きかじってはいたんですけれども、さらにもっと自由なものっていうか、そういうものに出会ったような気がしました。新鮮な驚きっていうか、それでだんだん自分でもやってみたくなってきましたね。

でもDJでかけてたのはレゲエでしょう?

AO:初期の頃はけっこう混ざったものをかけてましたね。わざわざ古いラガ・ヒップホップを掘ったりとか。それから〈ワープ〉や〈ニンジャ・チューン〉も聴くようになって、ダンス・ミュージックもどんどん好きになっていきましたね。

AOちゃんがバイリ・ファンキ好きだっていうのは意外だったな。だってアゲアゲじゃないですか、バイリ・ファンキは。

AO:そうですね、ええ。僕けっこうアゲアゲ好きですよ(笑)。昔から(笑)。

僕はAOちゃんの作品聴いて、やっぱ〈ON-U〉っぽいなと思った。あとエレクトロっぽいというか、テクノっぽいなと思ったんですよね。

AO:実は、テクノとハウス・ミュージックの境目もはっきりよくわかってないんですけどねー。でもやっぱり、アンディ・ウェザオールが関わったものは好きでしたね。

ああ、なるほど。トゥー・ローン・スウォーズメンとか?

AO:トゥー・ローンも好きでしたけど、でもどっちかって言うと〈ロッターズ(・ゴルフ・クラブ)〉のほうが好きですね。

『アロー』の1曲目なんかファンクだもんね。

AO:そうですね。あとね、おそらく2000年代初頭にダンスホール・レゲエのジャマイカのヴァージョンばかりをすごく聴いてるときがあって、そのなかにとんでもないトラックがあるんですよね、テクノにもハウスにも聴こえるような、よくわからないような。

へえー。それは面白そうですね。

AO:すごい面白い。ジャマイカので、ついついそういうものにけっこうシンクロしちゃって。グライム、バイリっていうのもあったんですけどね。ただ、テクノに関してはウェザオールですね。それから、いわゆるバレアリックみたいな感じ、いろんなジャンルに精通しいてそれを再構築する感じは大好きですね。ドラムンベースも好きでしたけどね。

『アロー』のBPMはだいたいハウスのBPMですよね。

AO:ああー、そうかもしれないですね、はい。

ダブステップは?

AO:僕は聴きはじめたのがかなり遅いですね。意識的に聴きはじめたのが一昨年ぐらいから。コード9みたいなのが好きですね。

ああ、レゲエやダブが好きな人はあれは好きだよね。

AO:このあいだ出た『ブラック・サン』、あれもすごく良いと思いました。

あれはちょっとダブステップから逸れた感じも出てますよね。

AO:そうですね。やっぱダブステップは3拍目に落ちるスネアだったりとか、僕のなかではワンドロップの延長で聴けるんです。昔、ゴス・トラッドに「ダブステップって何なんですか?」って訊いたら、彼は「いまの向こうのダブ・プレートのカルチャーだ」って答えてくれました。すごく新しい、若い音楽だという印象をずっと持ってましたから、ちょっと気後れして、あんま積極的には聴いてこなかったんですけど、ようやく最近〈ハイパーダブ〉とか聴くようになりました。でも、まだ知らないものばかりですけどね(笑)。

さんざんU・ロイやI・ロイを聴いてたら、もう「ダブはもういいや」とか(笑)。

AO:はははは。でも昔はニュー・ルーツも聴いてましたけどね。

[[SplitPage]]

いま日本の若い子は、逆に現実を知りすぎていて、僕らの若い頃なんかよりはシビアな思いをしてるという気がするんですよね。色気づいた頃にはすでに景気も悪いわけで。これ聴いて「バカやってるな」と思ってもらえたら、嬉しいですけどね(笑)。


AO INOUE
Arrow

ビート

Amazon iTunes

AOちゃんの作品はいわゆるダブステップではないけど、底辺にあるのはダブだなって思うんですよね。さっきも言ったように〈ON-U〉っぽいんです。雑食性が高い。いろんなものが混じってるから、強いてジャンル分けするならベース・ミュージックと言うしかないだろうな、って思ったんですけど。

AO:そうですね。

でも、UKのベース・ミュージックとはぜんぜん違うんですよね。

AO:そうですね、感情表現の延長でしかないのかなって思うんで......。

でもダンス・トラックが多いし、グルーヴィーじゃないですか。

AO:ははは。踊れるってのはいいですよね。踊れる曲にしたいなっていうのはたしかにあったんです。

ベース・ミュージックって、いまや国際的なジャンルでしょ?

AO:ベース・ミュージックの、誰もがそこに参入できるという、そういう自由な雰囲気は感じとってはいたと思うんですよね。そこの土地土地のリアリティでグッとなっていって、それがバーンと広がる瞬間みたいなものっていうのはたぶんレゲエでもあったと思いますし。そういう動きみたいなものっていうのは、UKガラージとかにも感じてましたし。

作品のなかでトースティングを入れなかったっていうのは?

AO:そうですね。というかまったくはじめからインストですね、これは。

1曲目のMCはサンプリング?

AO:あれサンプリングですね。基本、自分の声は入ってないです。口笛は入ってますけどね。ヴォーカル・アルバムにするっていうのはまったく考えてなかったので。インストでやりたかったんです。

いや、誰もがこれ、「まさかAOちゃんってあのAOちゃん?」っていう風に思ったでしょうね(笑)。

AO:そりゃあそうですよね、普通に考えて(笑)。ただ、たとえばダブステップはサウスロンドンとか、ジャングルもロンドンの公団住宅とか、その地域地域の特殊性みたいなものがあるじゃないですか。日本でもそれができないかと思ったんですよね。自分のリアリティを素直に表したインスト作品っていうか。

自分でトラックを作りたいっていう欲望があったんですね。

AO:衝動というかね。7~8年前、ドラヘビがメインって考えると、メインの活動とは関係なくやっていたとはいえ、わざわざサンプラーを買ってシンセを買ってやってるわけですから。

機材を揃えるのって勇気いるよね。僕も20代のときにサンプラーを買ったんだけど、男の36回ローンだったもん(笑)。

AO:はははは。僕もそんなようなもんです。何だろう、音楽が好きだし、もともと機械をいじるのも好きなんです。僕の場合は2000年代の初頭に、MPCも小さくなって、シンセも小型になって、運良くハードディスク・レコーダーも借りられて。いろいろ偶然があったんですね。

やっぱり自信があったでしょ(笑)?

AO:いや、自信はほんとにないんですよ! マジで。

はははは。

AO:ですし、はっきり言って、まわりに止められてましたからね。

「やめてくれ」って? 

AO:そうですよ、ほんとに。「絶対こんなのはやらないほうがいいよ」とか「向いてねえ」とか、いちばん近しい人たちに言われてましたから。

はははは!

AO:聴かせたりすると「拷問だね」って言われて。

それは逆説的な愛情表現でしょう(笑)。

AO:僕はそれをけっこうそれを素直に受け止めてしまって、しかも自分は痛い目見ないと気づかない性格だっていうのも大きくあるんで(笑)。それで、まあ、昨年、それまでの自分を振り返ったときに、「バンド活動と女とドラッグと借金と、他に何がある?」ってね(笑)。それで自分と向き合って、自分の曲を客観的に聴いてみようって。昔自分が作ったものをいま聴くと、何て言うんですか、すごく怖いもの、怖くて暗いものだろう、っていうイメージがあったんですけれども。

自分の作品が?

AO:しっちゃかめっちゃかだろうし、ダメなんだろうなって思ってたんですよね。でも、聴いてみたら「意外と大丈夫かもしれない」って思えたんです。

いや、でもホントに格好いい作品ですよ。ポスト・ダブステップのテクノ感覚みたいなものと近いのかなと僕は思ったんだけど。

AO:基本は感情表現なんです。少しの衝動みたいなものと、心象風景みたいなものを込めているつもりではあるんですけど。何かやっぱり、そういうものがすごく自分にとってはいいんだなと思います。ダンス・ミュージックを聴いてても思うものもありますし。

ちなみにDJはどれくらいの頻度でやってるんですか?

AO:えっと、いまはもうずいぶん少なくなっちゃって、月1回2回ですけど、ピーク時はやっぱ年に100箇所以上やっていましたね。

へえー。

AO:で......沖縄や北海道の方まで。海外はなかったですけども。

何年間ぐらい?

AO:ピークだったのが2、3年間ぐらいですね。それは2003年、2004年、2005年ぐらい。あとは自分で皿をかけて自分で歌うっていう、そういうセットでもけっこう回ってました。だから秋本っちゃんがやめてからのドライ&ヘビーっていうのは個人の課外活動っていうのも盛んな時期であって。

ソロ活動ね。

AO:そうですね。それは積極的にやってきた部分もあったんですよね。ちょっと個人的にも思うところがあって。

そういう風にDJで回った影響っていうのがきっとあるんだろうね。

AO:すごくありますね、それは。いろんな場所で、規模にかかわらず現場で受けた印象、すごい瞬間っていうのがたくさんあったので。北海道でもどこでもいいんですけど。けっこういろんなジャンルのイヴェベント呼んでもらえたんで、何か......そうですね......まあ言葉にうまくできないんですけど(笑)

『アロー(ARROW)』ってタイトルにしたのは何でなんですか?

AO:「矢」っていうのは現状を打破していくとか、一本の意志みたいなものの象徴にしたいなって思ってですね。「三本の矢は折れない」って日本の言い伝えがあるじゃないですか。今年震災と原発事故がありましたよね。それがいま、矢は折れちゃってるような状況だと思いますし。あと、『ブロークン・アロー』って映画にもなったんですけど、アメリカ軍の作戦コードで核兵器がなくなっちゃったときのコード・ネームが「ブロークン・アロー」っていうのがあって。だから矢が折れちゃってるっていうネガティヴなイメージと、それと「これからもう、ほんと何とかしていくしかねえんだよ」っていう状況なので、これはもう希望を込めて、いいかもしれないと。

なるほどね。僕はそこにもうひとつ、ドライ&ヘビー的ながむしゃらさを付け加えたいですけどね。

AO:そうですね。

まあ、ドライ&ヘビーよりソロのほうが自由を感じますけどね。

AO:はははは。レゲエって、ジャマイカ風にやってみたりとか、ラスタにのっとってみたりだとか、ルーツではこれしちゃいけないとか、いろんな道を踏んで行く楽しみ方もあると思うんですけど。そういうのは、まあひと通りけっこうやってきて。今度は自分のなかで生まれたものだけを出したいと思ってこれを作ったわけで。若い世代に言いたいのは「俺みたいな奴でもできるんだぞ」ということですよね。

イギリスのインディ文化なんて「他人からどう思われるか」じゃなくて、「俺でもできるんだぞ」と「俺はこれが好き」の集積だもんね。

AO:そうですね......いま日本の若い子は逆に現実を知りすぎていて、僕らの若い頃なんかよりはシビアな思いをしてるという気がするんですよね。色気づいた頃にはすでに景気も悪いわけで。

こういうときこそジャマイカン・ザムライの出番だね。「俺を見ろ!」的な。これやったらバカと思われるかもしれないけどやっちゃうっていう。

AO:そうですね、ひょっとしたらそうかもしれない。まあ何か、これ聴いて「バカやってるな」と思ってもらえたら、嬉しいですけどね(笑)。

そうだよね、バイリ・ファンキだもんね。

AO:そうですよ!

Chart by STRADA RECORDS 2011.12.08 - ele-king

Shop Chart


1

WHO KNOWS?

WHO KNOWS? SAY GOODBYE TO THE JOBS EP WHO KNOWS?(JPN) »COMMENT GET MUSIC
DJ HarveyやIdjut Boysら大物DJらがこぞってプレイしヒットとなったKenji Takimiによるリエディット・シリーズ第1弾、第2弾に続く待望の第3弾12インチが到着!グルーヴィーなベースにエレガントなストリングスやピアノが印象的なインスト・ディスコのA面、ロウでラフなレア・グルーヴ的濃厚ジャズ・ファンク・ディスコのB面共に圧倒的なグルーヴ感!今作も見逃せません!

2

MOODYMANC

MOODYMANC FATHER LANDED(UK) »COMMENT GET MUSIC
UKはマンチェスターのディープ・ハウス・アーティストDUBBLE Dの覆面プロジェクトMOODYMANCがROBSOULやREADYMADEのリリースでお馴染みTERENCE TERRYのレーベルLANDEDからリリース!エレピのコードにマリンバのフレーズを効果的につかったディープ・ダブ・ハウスなオリジナルと、デトロイト・ハウスのベテランRICK WADEによって新たに加えられたクラビやシンセで抜群にかっこいいジャズ・ファンク・ハウスに仕上がったミックスなど3曲収録のビートダウン~ディープ・ハウス派必須の一枚!

3

A DRUMMER FROM DETROIT

A DRUMMER FROM DETROIT DRUMS #1 FIT SOUND(US) »COMMENT GET MUSIC
3 CHAIRS第4のメンバーMARCELLUS PITTMANによるファースト・リリースで幕を開けたデトロイトのテクノやハウスのディストリビューターを手がけるFITのセルフ・レーベルFIT SOUNDから謎のユニットによるレーベル第四弾が登場!フロア向けの強力なツール作品となっておりA面はドラム、コンガ主体のパーカッション・トラック、B面はシンセFXやサンプル・フレーズを用いた軽やかなビート・ダウン・トラックと、どちらも即戦力間違いなしの強力盤!

4

NICONE & SASCHA BRAEMER

NICONE & SASCHA BRAEMER ROMANTIC THRILLS PART1 STIL VOR TALENT(GER) »COMMENT GET MUSIC
NICONEとSASCHA BRAEMERコンビのアルバム「ROMANTIC THRILLS」の先行シングルがOLIVER KOLETZKIのSTILL VOR TALENTからリリース!エスノ風味のジャーマン・テック・ハウス系といった感じですが中でもB1収録のCAJEのアコギのアルペジオを使ったスペイン~ブラジル風味なトラックがオススメ!ディープ系のトラックから飛び道具まで幅広く使えそうな個性的な一枚です!

5

K&B

K&B NO MORE HITS 15 NO MORE HITS(ITA) »COMMENT GET MUSIC
NICOLASのリリースでお馴染みイタリアのディスコ~リエディット・レーベルNO MORE HITの第15弾はDINER CITY SOUNDからデビューしたばかりの新鋭K&Bによるもので、73年MOTOWNのFOUR TOPS「AIN'T NO WOMAN(LIKE THE ONE I GOT) 」とAL GREENの傑作メロー・ソウル「LET'S STAY TOGETHER」をそれぞれリエディット!エヴァー・グリーンな不朽の名作を現代のフロア向けに絶妙にチューン・アップしたいつもながらの手腕が光る安心の内容!クラシックス・ファンからビートダウン・ファンまで幅広くオススメできる傑作です!

6

MIKE HUCKABY

MIKE HUCKABY MY LIFE WITH THE WAVE SYNTH(US) »COMMENT GET MUSIC
ECHOSPACEことDEEPCHORDがレーベル第一弾だった、デトロイト・ハウスのベテランMIKE HUCKABYが運営するレーベルSYNTHから2007年にリリースした名盤「MY LIFE WITH THE WAVE」が限定再プレス!シンセ・マニアが一度は憧れるWALDORF WAVEで全てのサウンドが作られたという本作はECHOSPACE系テック・ダブのA面もさることながらB面に収録された2曲が最高!LARRY HEARDを思わせる優しくまろやかなテック・ハウス風味に仕上がっておりDEEPHOUSEファンは必聴です!

7

KENNY DIXON JR(MOODYMANN)

KENNY DIXON JR(MOODYMANN) ULTRA RARE JAN REMIXES & EDITS WHITE (FR) »COMMENT GET MUSIC
Moodymann関係のレア作品を集めた「Private Collection」シリーズに続く新シリーズ!Norma Jean BellやAmp Fiddler絡みの作品でMoodymann aka Kenny Dixon Jr.がミックス等を手掛けた曲を全4曲収録!いずれも今となってはオリジナル盤はレアですのでこれは嬉しい!

8

LATECOMER

LATECOMER COSMIC CART MCDE(EU) »COMMENT GET MUSIC
MOTOR CITY DRUM ENSEMBLEのレーベルMCDEから新人ユニットLATECOMERの作品が登場!この曲、MOTOR CITY DRUM ENSEMBLEのDJ KICKSからのMIX CDに収録され12インチ・カットを熱望されていたもの!ピアノやストリングス、ウッド・ベースを用いた生系モダン・ジャズ・サウンドにエレクトロニクス少々といった非常にエレガントで上品なCARL CRAIGといった感じのディープ・ハウスなオリジナルに、リミックス・バージョンとしてPHILPOTレーベル総裁SOULPHICTIONが参加しておりビートダウン・ファンも満足、充実の一枚です!

9

CHOCOLAT'S

CHOCOLAT'S EL CARAVANERO-JOE CLAUSSELL EDIT SALSOUL (US) »COMMENT GET MUSIC
77年リリースのアルバム「Kings Of Clubs」に収録されていたJOE CLAUSSELLのフェイバリット・チューンChocolat's「El Caravanero」がナント12インチでしかもJOE CLAUSSELLによるエディット・ヴァージョンで登場!濃厚なパーカッションやオルガンにヤラれる極上のアフロ~ラテン系ダンス・クラシック!マスト!

10

ORLANDO B.

ORLANDO B. THE HARLEM CONNECTION EP UNDER TONES(UK) »COMMENT GET MUSIC
KOLOUR RECORDINGS傘下のUNDERTONESよりYOREの作品も大好評のORLANDO Bが登場!YORE人脈を活かしリミキサーには日本が誇るビートダウン・アーティストKEZ YMが参加、KDJやTHEOといった本家以外では同ジャンルのトップともいえる品質の高さを誇る二人だけに内容は保障付!そして本作で当店的にプッシュしたいのはB面収録の「BACK 2 BASICS」!先日K ALEXIのリミックスも大好評だったMARVIN GAYE「I WANT YOU」ネタの強力作品に仕上がっています!

少年ナイフ - ele-king

 90年代ごろから日本のバンドが海外のインディ・レーベルからリリースされることも増えてきた。しかし実際には多くの場合、日本への輸出をあてこんでのものだという。海外でライヴをやったけど客はほとんど日本人なんて話もよく聞く。そんな中で本当に受け入れられているバンドを見極めようとしたときに、目安になるのがやはりツアーだろう。毎年のように1ヶ月とかそれ以上の海外ツアーに出ているバンドであれば間違いない。
 ちなみに「○○(ソニック・ユースとか)のオープニング・アクトで全米ツアー」みたいなのもあまりアテにならない。日本人と違ってむこうの客は真面目にスタート時間から来たりしないので、前座なんか見てないことが多いのだ。もちろん、別に海外で受けたから偉いというわけでもないとは思うが。
 よく言われる話だが、欧米のライヴハウスは日本のように機材が充実していることもなく、日々の移動距離も日本とは比べ物にならない過酷なものだ。そんななかで年中ツアーをしていればバンドが鍛えられるのも頷ける。アメリカのインディ・バンドなんかのライヴを観ると、上手い下手とは違う部分での地力みたいなものを感じることは多い。

 そんななか、かつて「世界でもっとも有名な日本のバンド」と呼ばれた少年ナイフは現在も精力的に海外ツアーをおこなっている。今年も8月から9月にかけて1ヶ月以上のヨーロッパツアー。そして先日も10月から11月にかけて1ヶ月以上の北米ツアーから戻ってきたところだ。
 そして帰国してすぐに今度は国内でのツアーである。12月2日、東京の新代田FEVERを皮切りに名古屋、大阪の三都市。毎年12月におこなわれる「Space X'mas Tour」の2011年版、というわけだ。ちなみにナイフは7月と12月にこの三都市のツアーをするのが恒例になっている。関東のファンにとっては貴重な機会なのです。このツアーはゲストを迎えることも多いが、今回はワンマンだ。

 FEVERのフロアに流れるストーン・ローゼスの音量が下がると客電が落ち、ナイフによる"We Wish You A Merry Christmas"が流れてメンバーが登場。本日発売のクリスマスカラー(赤と緑)のタオルを掲げている。その日売りたいタオルを持って出てくるというのは矢沢永吉に学んだのだろうか。衣装は昔からおなじみのモンドリアン風ワンピース。意外とメンバーチェンジをしているバンドだが(ディープ・パープルには及ばないがラモーンズくらいには変遷している)、衣装は代々引き継がれているのである。

 ツアータイトルにもなっているラモーンズ~バズコッコス系クリスマスソングの名曲"Space Christmas"でライヴはスタート。三曲目の"Twist Barbie"あたりからフロアも温まってくる。私はいつもは最前列付近で観てるのだが、珍しくちょっとうしろから観ていると、とにかくみんなニコニコしている。年季の入った(元)インディ・キッズみたいな白人のカップルが手をつないで踊ってたりして、会場の雰囲気はハッピーだ。
 おなじみのパンク・ナンバーで会場も盛り上がったところで中盤ではちょっと珍しい昔の曲をやったりするのもワンマンならではの楽しみだ。フェスなんかだと持ち時間も短いし、なかなかそうはいかないからね。"Redd Kross"はLAのあのベテラン・パワー・ポップ・バンドのことを歌った曲で、レッド・クロスの"Shonen Knife"という曲に対するアンサーソング。オリジナル・ベーシスの美智枝さん作のサイケポップ・ナンバー"I Am A Cat"を昨年加入したドラムのえみさんが歌い、オリジナルドラマーの敦子さんが歌っていたビートルズの"Boys"はベースのりつこさんが歌う。珍しく何曲かで直子さんがギターを持ちかえ、リッケンバッカーの美しい響きを聞かせる場面も。

 少年ナイフといえば「脱力系」とかそういうイメージがあると思うのだが(シャッグスのことを「少年ナイフの元祖」なんて書いているブログを見かけたこともある)、いまでは演奏上はそういう側面はほとんどない。現在のリズム隊は非常にタイトで、MCの際に「ツアーで食べ過ぎて、安定感がつきました(笑)」なんて話をしていたが実際のところ安定感があるのは間違っていない。
 2008年加入のりつこさんはバキバキに重い音色と長い髪を振り下ろす派手なヘッドバンギングがやたらと絵になるし、えみさんはズシっとした重量感のあるドラマーである。本編最後の"Economic Crisis""コブラ vs マングース"というメタル系ナンバーの二連発など、歴代メンバーでもっともヘヴィな演奏だろう。とくに後者のスローパートなど、ボリスのファンも納得! というくらいだ(余談だが、えみさんは髪を少し短くしたようで、ライヴEP『We Are Very Happy You Came』のジャケットのこけしみたいで可愛かったです)。

 アンコールでは今年リリースされたラモーンズのカヴァー集『大阪ラモーンズ』から3人それぞれがヴォーカルをとって"ロックンロール・ハイスクール""シーナはパンクロッカー""KKK"の三曲。ナイフのファンならラモーンズが嫌いなはずはないのでもちろん多いに盛り上がる。

 二度目のアンコールは配信でリリースされたばかりの新曲"Sweet Christmas"を披露。ナイフとしては三つ目のクリスマス・ソングで、これがまたラモーンズ・スタイルの名曲なのである。今回の配信リリースには、この曲のアコースティック・ヴァージョン、そしてオープニングSEで使われた"We Wish You A Merry Christmas"も収録。今年のクリスマス・ソングはこれ一択でしょう。どうせなら7インチでほしいと思ったらイギリスではアナログでリリースされているらしいので、現在入稿直前の紙『ele-king vol.4』の仕事がひと段落したら輸入盤屋に探しにいこうと思う(なかなか届かない原稿をジリジリしながら待っていたら、野田編集長からこの原稿を催促するメールが届いたのです)。

 MCでアナウンスされていたが、今年の年末は少年ナイフが初めてスタジオで練習をしてから30年。そして来年の春には初めてのライヴから30年。『大阪ラモーンズ』に続き、来年も30周年企画はいろいろとあるようだ。楽しみですね!

 会場で会った知人は最初は「今日はワンマンだし、長そうですね......」なんて言ってたのだけれど、終演後には満面の笑顔で「最高でしたね! 間違いないっすね!」と大興奮だった。まあ、そういうことだ。悪いこと言わないから機会があれば観に行くといい。ロックの楽しさってのはこういうものですよ。

interview with Baths - ele-king


Baths
Cerulean

Anticon

Review Amazon iTunes

 バスは周知のとおりデイデラスやフライング・ロータスの周辺から浮上したビート・シーンの鬼っ子だが、リスナーの多くはインディ・ロック寄りの層なのではないかと思う。彼のサンプリングには他人からの引用というものがなく、ほぼ自作の音源しか用いられていないし、ライヴを観れば想像以上に「歌」への比重が置かれていることもわかる。実際のところ、ウォッシュト・アウトやトロ・イ・モワのような宅録ポッパーたちと近いところにモチベーションがあるのかもしれない。内向的で潔癖的な感覚も共通している。彼らの潔癖とは、ミストのように淡く広がる肯定感と、その肯定する対象への絶対的な距離感という、背反する感覚の表象ではないだろうか。ベッドルームから平熱で世界を祝福するチルウェイヴのマナーが、時代の作法としてバスにも流れ込んでいるように感じる。
 しかし、バスにおいてはそれはもっと激しいエモーションの奔流、エネルギーの過剰として表れるようだ。"プリー"の明るく天上的な響きと、どもって暴れ回るビートの攻撃性とは、背反し、摩擦を起こしながら、ともに彼の純粋さや若さを描き出す。屈託なく、恐れを知らない、本当に14歳の過剰を純粋培養したような音である。また、アートの世界からの影響や日本のカルチャーへの憧憬というものも彼の音楽を立体的にしていることがよくわかる。そうしたアーティスティックなアーティストとしての存在感が、今回のライヴとインタヴューのなかではっきりと増した。『セルリアン』は、若さがもたらした偶然と奇跡のアルバムではない。バスはもっともっと、大きくなるだろう。

僕はビョークが好きなんだ。彼女はソングライティングをエレクトロニクスやビートにミックスするのがとても上手くて、僕はその影響を受けているから、ビートも歌も同じくらい大事にしてる。

今回の滞在で3回のライヴを終えられたわけですが、いかがでしたか?

バス:3回ともまったく違うシチュエーションだったから、それぞれが特別で、すごく楽しかったよ。よけい日本が好きになったし、すぐにでも帰ってきたいね(笑)。

ドミューンなんかは少し変わった体験だったのではないでしょうか。オーディエンスがいないことでなにか変化が生まれたりはしませんか?

バス:過去にイタリアで一度だけウェブのライヴを経験したことがあるけど、ドミューンはサウンド・システムがほんとに素晴らしくて、オーディエンスがいないことは関係なしにほぼいつもの感じのライヴができたよ。ベースもよく出せたし。クラスカのほう(※24日のプレ・パーティ)は音響が少し弱い分、歌に集中できて、それはそれでよかったけどね。

私が観たのは25日のフィーバーの公演なんですが、ほんとにエモーショナルで、エネルギーに満ちたライヴだなと感じました。バスにおけるエモーションの発火点というのはいったい何なんでしょう? ビートですか、歌ですか?

バス:僕は音楽をはじめるにあたってソング・ライティングから入っているので、歌や作曲に重点を置いているんだけど、その後エレクトロも好きになってビートにも傾倒していった。僕はビョークが好きなんだ。彼女はソングライティングをエレクトロニクスやビートにミックスするのがとても上手くて、僕はその影響を受けているから、ビートも歌も同じくらい大事にしてる。

ビートに関しては、あなたはよくフライング・ロータスやデイデラスと比較されますね。でも3人ともまるで音の個性が違います。私のイメージだと、フライング・ロータスっていうのはすごくヒロイックで......

バス:ふふふ。

孤独で......

バス:うん。

タフネスがあって......

バス:うん。

ブルー。

バス:うんうん。

デイデラスの場合は愛、そして愉しみ......プレジャーとかジョイ、というイメージです。

バス:イヤー! あと、ダンディ、ね。

(笑)はい。で、バスはというと、力の定まらないものすごいエネルギーと攻撃性だと思うんです。すごく攻撃的だと感じます。それはたとえば14歳の少年が持っているようなエネルギーですね。まだ無方向的でどんなものにでもなり得るというような。この見方についてどう思われます?

バス:そのキーワードはじつにしっくりくるね。僕については、いま言ってくれたようなイメージを持ってもらえてうれしいよ。自分自身でもそういう作品だなって思っている部分がすごくあるんだ。アルバムの曲によっては、たとえば"ユア・マイ・エクスキューズ・トゥ・トラベル"とかは、若気のいたりっていうような感じをわざと出してもいる。僕はまだとても若いし、20歳のときの曲なんかには未熟な部分もたくさん残っていて、そういうものを含めたエネルギーが凝縮されたアルバムだと思うよ。

ああ、そうですね。さらに言うなら『魔女の宅急便』のほうきに乗れないキキですね。技術的に未熟という意味ではまったくないんですが、ほうきが暴走してるんです。巨大な才能と可能性が放出されるべき出口を求めて暴れている。

バス:キキね! それは素敵だ。

私はあなたのアーティスト写真もすごく好きなんですが、たとえばこのフライヤーに使用されているもの(※1)。顔に白い線が一本引かれていますよね。白い線と、白い犬。この2つはバスの純粋性を象徴しているんじゃないかなって思うんですよ。それは自分のピュアさであると同時に、なにか外界を遮断するような線なのではないかと。あの線は何なんですか?

バス:いやあ、じつはそんなに深い答えがあるわけではなくて......。実際のところ、ありのままの自分を見せるのにためらいがあって、もうちょっとなんかクールに撮れないかなって思ってやってみたというのが正直なところなんだ。でも白い線については、アルバムのイメージ・カラー......青と白なんだけど、それを際立たせるのは狙いではあった。できあがってみたら思ってたよりも印象的に仕上がっていて、自分でもびっくりしたよ。

※1

[[SplitPage]]

"プリー"を書いたときには僕は少し落ちこんでいた。世界は真っ暗だってくらいのテンションだったかもしれない。それがすごく表現されているとは思うよ。いまは、まったく違うテンションで、そんなことは全然思ってないんだけど。

白と青がコンセプトだというのは、タイトルの『セルリアン』にも表れていますが、『セルリアン』というイメージはどこからきたものなんですか? そしてそれは何を表現しているんでしょう?

バス:セルリアンという色自体、たくさんの段階を持った色なんだ。このジャケットでも薄いところや濃いところがあるけど、そのどれもがセルリアン。いろんな可能性を秘めているという比喩だね。それにセルリアンっていう言葉は、ラテン語では「ヘヴン」とか「スカイ」とかそういうポジティヴな意味を持ったものなんだ。そういうところにも惹かれたし、バラエティをもった概念だと思ってタイトルに選んだんだ。それにこのセルリアンという言葉はアルバムを作る前から頭の中にあった。曲を作っているときも、「これは"セルリアン1"。これは"セルリアン2"」って感じでイメージしてたから、バラバラでありながらどこか統一感のあるものになっていると思う。

へえ! いいお話がきけました。実際にそういう天国、天上的な雰囲気がすごくありますね。アニマル・コレクティヴ以降のインディ・ロックには何らかの形でそういった肯定的なムードが示されているようにも感じるのですが、あなた自身のロック体験というものについてうかがいたいです。バスはビート・シーンの俊英という枠に収まらない、とてもロック的な存在だと思うんですが。

バス:ロックの影響はとてもあって、音楽をはじめたばかりの頃はクラシックだったんだけど、そのあとにエレクトリック・ベースとかギターとかそういうものをひと通りさわって、それからネフューズといういわゆるマスロック・バンドを組んだんだ。バンド体験は大きいよ。僕はベースだったんだけど、まずライヴというものをどうやってするかってことを学んだし、ひとりでやるのとはエネルギーが全然違う。観客からのフィードバックとか、メンバー同士での掛け合いなんかも一人でやるときには体験できないことだから、総合的にはとても得がたい経験だったよ。あと、バンドのほうがミステリアスなことができるしね。あの頃のことを思い出すと、うれしくてテンションあがっちゃうな。

バンドの方がミステリアスだっていうのはおもしろいですね。ところでもうちょっと白い線の話でひっぱりたいんですが(笑)、あのようなヴィジュアル的な見せ方を含め、バスには実際にとてもアート的な雰囲気を感じます。お母様が画家だともうかがいましたが、そのような環境や美術の世界から影響を受けていると思いますか?

バス:たしかに、育った環境のなかにアートというものが大きく含まれていたので、そういう影響は知らないうちに受けていると思う。調べてくれたように、母親は画家で水彩画と油絵をやってる。とてもクラシカルなものを描いてるんだ。父はテレビの脚本家をやってて......だから、そういうクリエイティヴィティといったものはどこかで受け継いでいるのかなとは思うよ。僕自身は、音楽でもアートでも映画とかその他の表現ジャンルでも、いちばん大事なのはそこにきちんとエモーションやハートに訴えかけるものがあるかどうかだと思っている。それに、シンプルな表現が好きなんだ。シンプルでありながら多くのことを語っているものがね。マンガやアニメとかでも、白い紙にさらっと線だけが描かれた絵コンテみたいなもの......そこにストーリーがあって、自分の想像力を自由にふくらませることができるようなものに惹かれる。たとえば、E.E.カミングスっていう詩人が好きなんだけど、彼は詩の朗読をしながらスケッチをするんだ。ほんの3~40秒くらいでささっと描いちゃうんだけど、そのなかでとっても好きなのが、ふたりの人が手をとりあっていて月が出ている絵なんだ。ほんとにシンプルで、だけどそこにいろんなストーリーを想像して何時間でも眺めていられる。ていうか、ビョークもE.E.カミングスの詩を使ってるんだ。"サン・イン・マイ・マウス"って曲なんだけど。あとは、ファッションの世界ではアレキサンダー・マックイーンも大好き。ニュー・ヨークのエキシヴィジョンには行けなかったけど、オンラインで全部みて、すごくインスパイアされたよ。いま挙げたものの全部に共通するのが、シンプルであることと、シンプルでありながらそこにきちんとストーリーが存在すること。だから自分が表現をするうえでも、派手派手しい形をとるのではなくて、シンプルだけど......

象徴性の高いもの?

バス:そう、潔くて、たくさんのものをインスパイアできるものにしたいと思ってる。それは僕が日本のカルチャーが好きということにもつながると思うんだけど、日本のカルチャーはシンプルなものが多いよね。トータルに、僕の表現はそういうものにしていきたい。

うんうん、だから、ほら、つながったじゃないですか、白い線! フライング・ロータスの場合、それはお面になるんですよ。けど、バスは一本の線になるんです。シンプルの極致ですね。ビョークもそこまでシンプルではない。あの一本の線の喚起力っていうのはすごくて、バスというアーティストについてとても正確に表現し、伝えてくれるものだと思います。

バス:撮ってるときは無意識にやったことなんだけど、たしかにそうかもしれないね。いまこうやってアナライズしてもらって、やってよかったって思えるよ! すごくいい写真に思えてきた(笑)。

ははは、そうですよ! しつこくてすみませんねー。では、アートつながりでもうひとつ。"ラヴリー・ブラッドフロウ"のミュージック・ヴィデオがありますね(※2)。あれにはまさに日本のファンタジー、ジブリ的な世界が......

バス:(独り言で)あ、ジブリって言った。

あははっ、さすがにジブリは耳が拾っちゃうんですね! 三鷹にも行ったんですよね。......そう、で、そのジブリ的な世界が展開されていると思ってんですが、あんな舞台を設定したり、侍をモデルにしたのはなぜですか?

バス:ディレクターがふたりいて、アレックスとジョーっていうんだけど、メインのアレックスが僕と同じようなカルチャーやアーティストに影響を受けているんだ。影響を受けていたものをリスト・アップしたらほとんどカブっていたくらい。で、いちばんはじめにいろんなアイディアがあったんだけど、その中でざっくり決めていたことが日本を舞台にしようということと、アニメーションにしようということなんだ。ふたりとも石岡瑛子という日本のアーティストの衣装デザインが好きで、その雰囲気を取り入れたいと思ったのもある。それからあまりにベタにアニメっぽいものではなくて、また違ったレヴェルに引き込めるものにしたいとも思った。ほんとにいろんなことを考えていたんだけど、3分のヴィデオにするにはあまりに壮大なアイディアばっかり出てきちゃって......。僕はパッケージでもアートワークでも曲でもパフォーマンスにしても、すごくこだわりをもってやってるんだ。アレックスは僕のそういうこだわりを僕以上に理解してくれてて、歌詞の内容やメッセージについても彼の方が深くいろんなものを感じとってくれてた。だから、途中からクリエイティヴ・コントロールがすべてアレックスの手に移ってしまったんだ。現場での僕はADみたいなもので、「サンドイッチ買ってきて」とか言われてパシリになってたよ(笑)。

ははは。

バス:(笑)そのくらい彼を信用して全面的に任せたんだ。あとは何度も出てきている「シンプル」ってキーワードなんだけど、ここでもそれは大事にした。けど、印象的にはしたいけど、ショッキングにしたくはなかったんだ。穏やかにこのイメージを伝えたかった。『もののけ姫』の雰囲気だね。とてもインスパイアされているよ。自然とか、生命の息吹とか、そんなものを大事に表現したかった。最後、お侍が死んで、土になって、葉っぱとかになって戻ってくるんだ。

ああ!

バス:輪廻転生っていうかね。そんなふうに命を表現した作品なんだ。たださっきも言ったけど、そんなテーマだとふつうは3分のミュージック・ヴィデオじゃなくて映画の規模になっちゃうよね。アレックスとジョーはとても上手にまとめてくれたと思う。すごく満足してるんだ。

うんうん。すごくよくわかります。じゃ"ブラッドフロウ"っていうのは人間の血流というより、宇宙の血流、宇宙のブラッドフロウってことなんですね。

バス:イエス。そうだね! 歌詞からはストレートな意味でとれるけど、自分の血の流れっていうことでは必ずしもないんだ。それはインスピレーションだったり、比喩的なものだったりもするし。

はい。うんうん、今のですごくよくあの歌詞の意味がわかりました。なるほどなあ。あの曲ってどのパートからできたんですか?

バス:ええと、2年くらい前に作ったからいま一生懸命思い出しているんだけど......確実なのはベース・ラインからできたってことだね。

ベース? へえ。

バス:なんとなくベースを弾いてたときに、日本ぽい感じのフレーズだなっていうのが出てきて、それを録音して重ねていったんだ。で、何度も聴いていろいろ録音しているうちに、すごくダークな雰囲気が生まれてきた。そのダークな雰囲気に自分自身がインスパイアされて詞が出てきたんだ。そんな順序だね。このアルバムは、基本的にはポジティヴなものとして作っていたんで、すごくダークなものっていうのは入れているつもりがないんだけど、結果的にはこの曲はダークなものになったかもしれない。

ダークっていう言葉、じつは私もキーワードとして考えていたものなんです。いま聞いてとてもその言葉が響きました。『セルリアン』というタイトルについて話してくださったように、このアルバムには天上的な雰囲気がありますね。明るくて透明なものです。でもそのなかに攻撃性とか暗さというものが分かちがたく張りついていると思うんです。実際に"プリー"なんかには「ダーク・ワールド」ってモチーフが出てきますよね。「セルリアン」は同時にダーク・ワールドを表現してもいるんじゃないかって......あなたは、この世界がほんとに「ダーク・ワールド」だって思いますか?

バス:ええと......この、いま生きている世界がダークな場所だってふうには思っていないよ。他の曲でも、必ずしも書いたことが本心からそう思っていることだというわけではないんだ。と言いつつも、"プリー"を書いたときには僕は少し落ちこんでいた。世界は真っ暗だってくらいのテンションだったかもしれない。それがすごく表現されているとは思うよ。いまは、まったく違うテンションで、そんなことは全然思ってないんだけど、ライヴで演奏するとその時のエモーションがすごく戻ってくるんだ。だから聴いてくれるオーディエンスの人びとにもそれが伝わってしまうんじゃないかな。歌詞の内容は恋の話なんだけど、実際に自分はそのとき恋愛をしていなかったんだ。でも恋愛というものがどういうものか、どんな気持ちになるのかっていうのは、一般的な情報としては知っているから、曲を書くときにそのキャラクターにはなりきれる。そういう演じていた部分もあるかな。よくこういう取材とか友だちからの質問で、恋愛の相手は誰なんだ? ってきかれたりするんだよね。でも相手はべつにいないんだ。

"プリー"の演奏はほんとに心に残りますよ。逆に冒頭の"アポロジェティック・ショルダー・ブレイド"は教会音楽的な響きを持っていて、ずばり天上のイメージなんですが、あの「ヒュー」っていうモチーフはなんですか?「ヒュー」がコンピューターから這い出したってことを祝福する音楽なんですか?

バス:あははは! あれ、くだらないんだけど、ヒュー・ジャックマンのことなんだ。

(一同笑)

が、出てきたんですか(笑)? このインタヴュー、締まらないじゃないですか!

バス:いや、ヒュー・ジャックマンが好きで......あはは! 夢の話なんだ。夢ってすごくロマンチックなものなんだけど、実際の内容はすごくバカみたいでありえなかったりするよね!

あれ、あのワン・センテンスしかなくて(※「ヒューがコンピュータから這い出していった」という一行のみの詞)、しかもむちゃくちゃハイ・トーンで感情こめて歌うじゃないですか(笑)。

(一同笑)

バス:一番はじめに指摘してくれたように、このアルバムはすごく若さにあふれたものなんだ。若いときの攻撃性とかパッションとかエモーションが詰まってるって言ってくれたけど、この曲なんかはまさにそうで、若気のいたりですらあるよ。このときは、こんなふうにやるのが超おもしろいって思ったんだ!歌詞はもっとあったんだけど、全部切ってこれだけにした(笑)。

超、印象的ですね。全部切って正解ですよ。ええと、時間がないということで、私まだまだいろいろ聞くことあったんですけど......

バス:さっき、ダークネスって話も出たけど、次の作品は「ダーク」なものにしよう、そういうインテンスなものにしようと思ってるんだ。楽しみにしててください。アリガトウ!

※2

DUBBY - ele-king

2011.12.3チャート


1
Andreas Reihse - Romantic Comedy - m=minimal

2
Gold Panda - DJ Kicks (Peaking Lights Dub) - !K7

3
The Kham Lingtsang Band - Solen - Unknown

4
Discossession - Manitoba - Crue-L

5
Legowelt - Poverties Paradise EP - Echovolt

6
Extrawelt - Neuland (Robag Wruhme Rekksmow) - Darkroom Dubs

7
Luv Jam - Outlander - We Play House

8
Tyedye - Fisherman's Bend - Italians Do It Better

9
Seahawks - Invisible Sunrise LP - Ocean Moon

10
Brain Machine - Alpha Beta Gamma (Von Spar Remix) - Titan's Halo

Chart by JET SET 2011.12.05 - ele-king

Shop Chart


1

FRISCO

FRISCO VIRTUAL INSANITY »COMMENT GET MUSIC
各方面から絶賛されている5thアルバムから、注目の7"シングルが登場!Alton Ellis定番曲のオケに絶大な人気を誇るRickie-Gのヴォーカルという、鉄板の組み合わせによる傑作カヴァー。エレガントな一時を演出してくれる カップリングの"Ska Devil"共に必聴です!

2

WHO KNOWS?

WHO KNOWS? SAY GOODBYE TO THE JOBS EP »COMMENT GET MUSIC
前2作も恐るべしカルト・ヒットを記録、DJ Harvey, Idjut BoysらトップDJのへヴィ・プレイも話題となった"Crue-L"ボス瀧見憲司氏手掛けるリエディット・シリーズ"Who Knows?"から待望の新作Vol.3が新着。

3

ONUR ENGIN

ONUR ENGIN SWEET POWER / SUMMER MADNESS »COMMENT GET MUSIC
ビッグ・ヒットを記録したセルフ・レーベル最新作Vol.5からの勢いをそのままに、原曲の陶酔感を最大限に引き出しながらフロア・アップデートを果たした特大傑作リエディット2作品をカップリング。

4

TERRENCE PARKER

TERRENCE PARKER LOST TREASURES VOL 1: LOVE'S GOT ME HIGH »COMMENT GET MUSIC
京都発"TR Kyoto"からの12"リリースも記憶に新しいデトロイトの重鎮Terrence Parkerによる'95年作品"Love's Got Me High"を、現行シーンの要人2方がリミックス。両サイド共にお勧めです。

5

MASAMATIX

MASAMATIX MOVIN' EP »COMMENT GET MUSIC
2011年6月に長い沈黙を破りついにリリースされたソロ・アルバムからDJユースな楽曲2曲に加え、Boof名義で放ったEPのヒットが記憶に新しいMaurice Fultonによるリミックスを収録!

6

MURO

MURO SUPER CHRISTMAS BREAKS -REMASTER EDITION- »COMMENT GET MUSIC
Diggin Ice~Diggin Heatシリーズ各種のCD化がすべて特大ヒットを記録している「King of Diggin'」=Muro氏の名作復刻シリーズ。番外編として本作「Super Christmas Breaks」がCD化です!!

7

SOUNDSTREAM / SOUNDHACK / T.S.O.S.

SOUNDSTREAM / SOUNDHACK / T.S.O.S. SOUND SAMPLER VOL.1 »COMMENT GET MUSIC
相棒ErrorsmithとのデュオSmith N Hackも既に伝説化している解体/再構築ディスコ天才SoundstreamことSoundhack。謎の新鋭T.S.O.S.も交えた超強力コンピ12"がこちら!!

8

FORD & LOPATIN

FORD & LOPATIN SNAKES / FLYING DREAM »COMMENT GET MUSIC
もはや説明不要のUSインディ・シンセ最高峰デュオ、Ford & Lopatin!!アルバム"Channel Pressure"未収録の2曲をカップリングした完全限定クリア・ヴァイナル!!

9

MAIN STEM

MAIN STEM ELECTRIC CHURCH »COMMENT GET MUSIC
Prins Thomas主宰"Internasjonal"から昨年デビューを果たし、Chicken Lipsの"Lip service"からのシングル作品やリミックス・ワークで頭角を現した、Ben Shenton, Robert Johnston & Tim Silverを中心とした新生ディスコ・ユニットThe Main Stemによる待望のデビュー・アルバムです。

10

ONRA

ONRA CHINOISERIES PT 2 »COMMENT GET MUSIC
前回と同様に、今回もベトナム他東南アジア産の60's/70's音源縛りによるサンプリング・ビート集。前作のアウトテイクを煮詰めた結果、それを遥かに凌ぐ仕上がりになりました!

Thee oh sees, total control, doomsday student, the beets
@285 kent ave
Nov.17.2011


Thee Oh Sees
Carrion Crawler / Dream
In the Red Records

AmazoniTunes

 チケットはソールドアウトだし、最初はとくに乗り気でなかったというのに、午後10時ぐらいになると私は会場に向かっていた。会場に着くと、いちど入場して、そしてスタンプをもらった人までもが再入場できなくなっている。ドアの兄さんは、暴動が起こる寸前のようにみんなから文句の攻撃を浴びさせられていて、かなりかわいそうだった。いずれにしてもかなり大変な状態なのだろう。
 仕方なく、私は隣の会場のグラスランズでひと休みする。このふたつの会場は隣合わせで私はよく行ったり来たりしている。
 そこでのライヴを見いつつ15分ぐらいが経って、もういちどトライしようと外にでる。するとドア付近で怒っていたかたまりが、いち列にきちんと並んでオーガナイズされているで。少しずつ列は動いているようだ。罵声を浴びさせていたキッズのひとりは、入るときに「さっきは怒鳴ったりしてごめん」とお兄さんに謝っている。よく見ると、その日のオーガナイザーのトッドPが入場を規制している。さすがだなと思っていると、彼はウィンクしながら私をこっそり裏から入れてくれた。

 場内はサウナかと思うほどの熱気だった。何も見えないので、とりあえず頑張っていちばん前に行こうする。が、人が多すぎて動けない。
 すると場内をウロウロしているトッドPがいたので、彼の背中についてなんとか最前列まで行けた。そしてトータル・コントールの最後の演奏がが少し見れた。
 というか、この状態でひとつのバンドの演奏が保つのだろうかと思うぐらい場内は息苦しい。そして案の定、ジ・オー・シーズ(Thee Oh Sees)がはじまった瞬間には集団は大揺れに揺れ、スピーカーは倒れ、人が上から降って来る。危険な状態だ。私はなんとか壁際に移動する。それでも人がどんどん攻撃的にぶつかってくる。後方を見ても大変な数の人だ。ライトニング・ボルトの観客と同じようなタイプだが、もう少し若いし、圧倒的に男が多い。

 ジ・オー・シーズ(theeohsees.com)は、最近(5月ぐらい)新メンバーとしてインテリジェンスのラーズ・フィンバーグを迎え、5ピースになった。ニューアルバム『Carrion Crawler/ The Dream』も11月15日に〈In the Red〉から、リリースされたばかりだ。マーチ(物販)テーブルには、そのリリース以外にシルクスクリーンのツアー・ポスター($20)、ゲロをはいてる(?)ジ・オー・シーズのキャラのイエローとブラックTシャツ($15)、ライトに照らされたその先には、そのスマイル・キャラが浮かび上がっている。たしかすべてJPDのデザイン。ディテールは細かく、しかも可愛いので、思わず買ってしまう。

Photos by Eric Phipps for Impose Magazine
https://www.imposemagazine.com/photos/thee-oh-sees-at-285-kent

 ジ・オー・シーズの楽曲自体はそれほど攻撃的というわけではないのだが、どうしてキッズはこんなにエキサイトしているんだろう。トッドPは「何かあれば、すぐに音楽はストップする」とアナウンスしている。そのあいだにも暴れすぎているキッズを横目に、いまにも倒れそうな大型スピーカーを必死になって抑えているキッズがいる。ステージのJPDはあまりにもフロアがキチキチなので、「あがって来いよ」とキッズを煽っている。
 そしてステージはキッズで溢れ、これって逆ライトニング・ボルト? と思わず笑ってしまう。しかしたしかに、フロアの威圧感が少々マシになった。JPDはステージから「ビールないかな?」と言っている。ステージからバーまでは、人が多すぎてまず行き来できそうにない。
 いよいよスピーカーの音が出なくなった。しばらくその状態で演奏していると、手にビールを持ったトッドPがステージに颯爽と現れる。そして大急ぎでスピーカーの抜けたコードを探して、無事に音を戻す。フロアからは大声援だ。彼こそはインディー救世主。ジャンクヤード、クイーンズの端のダイブバー、工場スペース、冷蔵庫屋......どこでも普通にショーをオーガナイズしている。

 7~8曲目で私は、暑さと危険感で外に出た。人を掻き分けて外へ出るのに余裕で5分かかった。外ではまだ人が待っている。そしてまだ人が入ってきている。物販をもういちど見に行こうとしても、そのまわりで踊っているキッズ達がいて、テーブルにも近寄れない。どういうことだ!

 とにかく、ふたたび最前列には戻れない。隣のグラスランズに移動する。そこのスタッフたちとしばらくハングアウトしていると、トッドPが現れ、「キッズたちがナッツ(気が狂ってる)になってるの見たい?」と言う。
 私は彼のあとについていく。道を回ってこう行くとここに出るのねと、285 kent aveのステージの真裏に来た。たしかにキッズが大暴れの真っ最中だ。ハラハラと、気が気でなかっただろう彼の顔にもやっと笑顔が見えていた。
 ジ・オー・シーズのショーは何回も見ている。新しいとは思わないのだが、いつも見たくなる。彼らがニューヨークにいると聞くと、憑かれたようにショーにきている。今回何度も名前を出しているが、ライトニング・ボルトと同じように、何か大きな魅力がある。ちなみに彼らは同じ時期のRISD(ロード・アイランド・スクール・オブ・デザイン)出身。私は10年ほど前の同じ日に、偶然彼らに出会った。比べたくなくてもつい比べてしまう。この話は機会があればぜひ。

 翌日(nov.18)はマンハッタンのル・ポワソン・ルージュでのショーだ。そして、それを終えると彼らは北へ向かう。今回のツアーは(w/トータル・コントロール、)11月4の日オースティンのファン・ファン・ファン・フェストを皮ぎりに、サウスを東へ、イーストコーストを北へ、ミッドウエストを通り、西海岸に戻るという丸1ヶ月強のツアー。サンクスギビング・デーはさすがに休んだそうだが、その前日(シカゴ、ダブルショー)も次の日(ローレンス)も演奏している。ジ・オー・シーズはほとんどツアーが生活である。1年に3~4回はツアーをしている。それがジ・オー・シーズというバンドなのだ。

  1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114 115 116 117 118 119 120 121 122 123 124 125 126 127 128 129 130 131 132 133 134 135 136 137 138 139 140 141 142 143 144 145 146 147 148 149 150 151 152 153 154 155 156 157 158 159 160 161 162 163 164 165 166 167 168 169 170 171 172 173 174 175 176 177 178 179 180 181 182 183 184 185 186 187 188 189 190 191 192 193 194 195 196 197 198 199 200 201 202 203 204 205 206 207 208 209 210 211 212 213 214 215 216 217 218 219 220 221 222 223 224 225 226 227 228 229 230 231 232 233 234 235 236 237 238 239 240 241 242 243 244 245 246 247 248 249 250 251 252 253 254 255 256 257 258 259 260 261 262 263 264 265 266 267 268 269 270 271 272 273 274 275 276 277 278 279 280 281 282 283 284 285 286 287 288 289 290 291 292 293 294 295 296 297 298 299 300 301 302 303 304 305 306 307 308 309 310 311 312 313 314 315 316 317 318 319 320 321 322 323 324 325 326 327 328 329 330 331 332 333 334 335 336 337 338 339 340 341 342 343 344 345 346 347 348 349 350 351 352 353 354 355 356 357 358 359 360 361 362 363 364 365 366 367 368 369 370 371 372 373 374 375 376 377 378 379 380 381 382 383 384 385 386 387 388 389 390 391 392 393 394 395 396 397 398 399 400 401 402 403 404 405 406 407 408 409 410 411 412 413 414 415 416 417 418 419 420 421 422 423 424 425 426 427 428 429 430 431 432 433 434 435 436 437 438 439 440 441 442 443