「KING」と一致するもの

The Host - ele-king

 ダブステップは、昨年、ジェームズ・ブレイクがアルバムを出す前から風船がはぜるように空中分解して、四方八方に飛んでいる。風に流れたボックスカッターは、ポスト・ダブステップという境界線のぼやけた領域で、片足半分をIDMに入れながら、ダブステップのドラムパターンの癖を引きずっていた。

 元から彼はダブステップの部外者だった、とも言える。昨年、ele-kingのレヴューで僕はこう書いている。「2006年のデビュー・アルバムのときから、彼の音楽はより幅の広いものだったが、強いて言えばそれはIDMとダブステップ/グライムのブレンドだった。ロンドンで生まれたウォブリー・サウンドを、その外側にいる人間が面白がって、IDMテクスチャーのなかに大胆に取り入れたのがバリー・リンで、それはロバート・フリップに傾倒したギタリストが安いPCを手に入れて、ヒップホップとスクエプッシャー、ハウスとテクノ、UKガラージとジャングル、そして 2004年に〈リフレックス〉がリリースしたコンピレーション・アルバム『グライム』に強く影響を受けて生まれた音楽だった」
 「彼の重たいベースとダブの空間、細かくチョップされたブレイク、そしてIDMテクスチャーによる独創的な展開にはユーモアと軽妙さがあり、オリジナル・ダブステップのドープな感覚に対して「ごめん、わかるけど、きついわ」と口をねじ曲げていたリスナーにとっては「むしろこっち」と言わせる魅力がある」(/ele-king/review/album/001772/

 北アイルランドのバリー・リン......彼のザ・ホスト名義による最初のアルバムがこれ、『ザ・ホスト』だ。アルバムを聴いていると、彼が名義を変えた理由が理解できる。ザ・ホストはベース・ミュージックの影響を引っぱってはいるものの、明らかに他の場所に移動しているからだ。ボックスカッターも軽かったが、さらに軽い空間を創出して、柔らかいアンビエントを展開している。そして彼はギターやベースを弾いて、サイケデリックなサウンドスケープに彼なりの味を与えている。
 とはいえ、『ザ・ホスト』は、ジャンル別に整理するレコード店泣かせのアルバムだ。浮き足立ちながら、バリー・リンはスタイルを気にせず好きなように作っている。よくわらないけれどシュールなアートワークが、ザ・ホストの落ち着きのなさをうまく表している。"ネオ・ゲオシテチーズ"の素っ頓狂なIDMで惹きつけておきながら、"隠れた形而上学"ではクラウトロックの電子宇宙を広げ、"Org"ではドラムンベースを引用する。"午前3時のサーフィン"では電子ノイズの雨を降らせ、メロウなギターを重ねる。"雨のシーケンス/眼内閃光パターン"でもギターを手に取り、ベースを重ねて、チルアウトな感覚を際だたせる。"カナヴェラル岬の夏至"では素晴らしい夢の境地に足を踏み入れ、そしてラスト2曲まで「サイケデリック・ミュージック」の領域へまっしぐら......といった具合だ。
 この彷徨は、いったいどこに落ち着くというのであろう。とにかく彼は向きを変えた。UKのベース・ミュージックの過渡期を象徴する1枚である。

青葉市子 - ele-king

 4月8日、桜も満開に近づき、代々木公園ではお花見を楽しむ人たちに溢れるなか、僕は原宿の〈VACANT〉で定期的に開催されている青葉市子さんの独奏会に参加してきた。〈VACANT〉は原宿から連想されるそれとは大きく異なる、木と鉄をコンセプトにした、一種原宿から切り離された内装と、アットホームな空間が魅力的なフリースペースで、イヴェント・スペース、アート・スペース、ギャラリーなどの他にも、ショップやカフェも展開している。

 会場に入り、客席を見渡し、あらためてこの1年での変化にまず驚く。僕がはじめて青葉市子さんの演奏を見たのは去年の震災前の新宿タワーレコードのインストア・イヴェントで、当時お客さんも30人程度だったのに比べ、当日は100人近くのお客さんが集まり、以前よりも世代が分散されている事にも気づく(先日行われた新宿タワーレコードのインストア・イヴェントも数多くの人が集まっていた)。

 日が暮れ出しはじめた夕方の18時頃、ひっそりと会場に姿を現し、「こんばんわ」のひと言を言い終え、深く息を吸い込み、そして青葉市子さんの演奏は静かにはじまった。白いワンピース、クラシックギター、楽譜、いままでと変わらない風景も立ちこめるなか、彼女自身の変化にもじょじょに気づかされていく。演奏が続くなか、音と空間が交わり、声にも表情が見えはじめてきた頃、どこかあどけなさが残る印象の裏に、見えない自信と演奏を楽しんでいるさまが垣間見れ、当時僕が見た彼女のそれとは大きく異るものを感じさせられた。しかし、いままでと変わらない線の細い、しかしどこか力強い、声という楽器が奏でる音色と、優しく包み込むように奏でられるギターの音色が情景を鮮やかにし、透き通るまばゆい音の風景にお客さんたちは彼女の世界を旅し、深く入り込んで行く。目をつむって音を聴く人。何か答えを見つけるように深く考え聴き込む人、笑みがこぼれ、彼女を幸せそうに見つめる人、表情もさまざまだ。一部が終わり、二部が少しあいだを開けて開始される。

 途中のMCでは七尾旅人さんのカヴァーを少し披露したり、細野晴臣さんの"悲しみのラッキースター"(デイジーホリデイでも以前披露)、この日のために用意した妖怪人間ヴェムの曲などを披露。演奏中の間や、アレンジ、即興性、遊び心のある空間の演出などにもこの1年で培ってきた良い意味での余裕が感じられた。演奏も終盤に差し掛かり、サード・アルバム『うたびこ』からの楽曲、"奇跡はいつでも"、"ひかりのふるさと"を披露。いままで異なっていた表情もこの場面ではたくさん目をつむって聴き込んでいる様子が多く伺えた。ここで僕は以前彼女が演奏中のMCで、こんな難しい時代だからこそ、こういう場では自分を解放して欲しいと言っていたのをふと思い出した。
 アンコールを含む2時間弱の演奏全てが終わり、彼女は「終わりです」とだけ言い残し、ひっそりと独奏会は幕を閉じた。青葉市子さんの音楽は僕らの意識のなかに内在する音や感覚であって、こんな時代だからこそ信じたい、そして触れて欲しい音だなとつくづく思った。終了後、久しぶりに会う彼女にいくつか質問をしてみた。


お疲れさまです。

青葉:ありがとうございます。

いくつか質問していくのでよろしくお願いします。まず、〈VACANT〉で演奏会を開かれてますけど、〈VACANT〉を選ぶ意味とか理由とかありますか?

青葉:うーんと、なんというか、堅すぎず、緩すぎず、っが良いかなと。以前はクラシックホールなどで演奏していたんですけれど、自分がどういう場所で演奏したら良いのか当時は定まってなかったんですね。この期間いろんなところで演奏して、〈VACANT〉さんでも演奏させて貰った時に凄く音の響きが良くて、それで木で作ってあるから何か温かい音になるかなと。お客さんにも皆こう、ちゃっと椅子に座るんじゃなくて、伸び伸びしてもらいたくてここを選びました。

演奏中のMCでたまに同世代の方が今日はたくさん来てくれて嬉しいとおっしゃてたりするじゃないですか、青葉さんの周りには細野(晴臣))さんや、小山田(圭吾)さん、七尾(旅人)さんなど、比較的年上が多い気がするのですが、平成生まれだという意識とか自覚みたいなものはあったりしますか?

青葉:うーん、それは全然ないですね。ただやっぱり同じ時代を同じように成長しながら生きてきた人達と自分の音楽を共有できることはとくに嬉しいなとは思っています。

なるほど。

青葉:刺激を受けた時期が同じ人たちってやっぱり勘が鋭いというか、言いたい事をすぐキャッチしてくださったりしますし。でも平成生まれとして意識をして活動をする、みたいなことはとくにないです。

今日もたくさんいろんなアーティストさんの楽曲をカヴァーしてましたね(当日は細野さん、ユーミンさん、七尾さんなどをカヴァー)。去年の夏にお話したとき、あんまり意識して自分から音楽を聴かないっておっしゃってたのが凄く印象的だったんですが、あれ以降その意識とか変わったりしましたか?

青葉:変わってないですね。この曲を聴こうみたいなことがあんまりなくて。これはたぶん言っちゃいけないことなのかもしれないんですけど、貰ったCDとかもあまり聴かないんです。私は生で鳴ってる音が一番好きで、CDとかは、そこで鳴っているもの、という感覚しかどうしてもなくて。うーん、これは凄く難しいんですけど、私は目に見えないもの、例えば会話とかその場でしか起こらないもの、ライヴもそうですよね。そういうものが好きです。

今日の演奏でもすごく感じたことなのですが、以前よりも今おっしゃっていた、その場でしか起こらない、例えば即興性、MCなんかもそうなんですけど、青葉さん自身以前より楽しんで取り組んでいるのが凄く印象的で。

青葉:多少上手になったのかなとは思いますけど(笑)、うーん、そうだなあ、臨機応変の力っていうのは場数を踏んで、ちょっとは出来るようになってきたかなとは思うけれど、こう来たらこうしようみたいなのは全然考えてないです。

ずっと僕個人的に気になってたことがあって、SOUNDCLOUDに、Joe Meekみたいな打ち込みのエレクトロの曲とかをアップしてらっしゃるじゃないですか、ああいう曲をこれからもっと全面に押し出して、例えばアルバムに入れてみたり、ライヴでも取り入れてみたりとかは考えてたりはしないんですか?

青葉:おお、凄い。それどんなライターさんにも訊かれたことなかったです(笑)。アンテナが凄いですね。

やった(笑)!

青葉:実はそういうのは凄く興味があって、なんでもできるものはやりたいので、できればいいなーとは密かに思ってます。あれはMacのガレージバンドで適当に遊んだだけなんですけど(笑)。ちゃんと機材も揃えたいんですけど、まだお金が......(笑)。

そういうものは小山田さんとかたくさん持ってると思うので借りたらいいと思います(笑)。

青葉:ふふふふふ(笑)。小山田さん、要らないものがあればください(笑)。

そういうセットでも小山田さんとか、細野さんとかとライヴで絡めたら面白そうですね。新しい世界が広がりそうで。

青葉:私もそう思ってます。出来る事は全て取り入れたいと思ってるので。エレキギターとかもいつかまた使ってみたいなあとも思ってるので、是非楽しみにしててください(笑)。

なおさら今後も期待ができそうですね。楽しみにしております。お疲れさまです、以上です。短いインタヴューでしたが、今日はどうもありがとうございました。

青葉:なんかひっかき回されてすごく面白かったです(笑)。話を聞いてて、事務的な人が多いなかで、いまみたいなスタイルはとても楽しいし、そのスタイルを変えないで頑張って欲しいです。

は、はい! ありがとうございます(笑)。僕と世代がまったく一緒ですし、初めてのインタヴューが青葉さんで本当に良かったです。僕自身もすごく取り組みやすかったです。本当にありがとうございました。


 僕は去年行われた青葉さんとアミーゴさんが企画をしたイヴェントから、青葉さんをひとつの目標としてここまで頑張ってきたので、こういう形での再会は信じられないくらい嬉しくて、帰り道震えが止まらなかったです。

 青葉さんはこの演奏会の翌日、「RISING SUN ROCK FESTIVAL」への出演を発表。僕ももっともっと頑張らなくてはと強く思った。〈VACANT〉でのライヴは来月の5.12(土)も開催予定。素敵な空間で、彼女が言う、生の音はたしかに鳴っています。是非会場へ!

曽我部恵一BAND - ele-king

季節を背に 文:木津 毅

「人生は前にしか進まない。後ろに進んだら大変だ」 
――アキ・カウリスマキ『過去のない男』より


曽我部恵一BAND
Rose Records

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 どこかのインタヴューで、曽我部恵一がアキ・カウリスマキの作品を観ていたく感銘を受けたと話していたのを読んだ記憶があるが、それは非常に納得のいくものっだった。僕にとっては、フィンランドで自分のスタイルを頑なに曲げずに映画を撮り続けてきたカウリスマキと、曽我部恵一が表現していることは極めて近いところにあるように思えるからだ。そして、そのキャリアのなかでも態度としてもっとも近いのが曽我部恵一BANDであって......いや、まずは、カウリスマキの話からはじめよう。
 アキ・カウリスマキが映画で主人公に据えるのは、必ずと言っていいほど経済的な弱者や労働者だ。しかもそれは、格差やホームレス、グローバリズムや失業といった同時代の社会問題を反映させたものであり、彼らは豊かな国・フィンランドのイメージから程遠い貧しい暮らしをしている。だが、カウリスマキの映画なかでは、彼らは貧しく生きていない。監督が敬愛する古典映画のスタイルを借りてきて作り上げた厳格なミニマリズムのなかで、貧しき者たちは映画の主人公となる。彼らは終始無表情だが、とりあえず前を向き、そして恋をしたり労働をしたり、あるいはファム・ファタールに惑わされたりしながら(!)、なぜだか味わい深い物語を生きていくのだ。
 曽我部恵一BANDがファースト・アルバムでやっていたことはまさにそれだった。大して金もなく何ら特別でもない、迷ってばかりの若者たちがそこでは歌の主人公となって、ロックンロールの力でリリカルな物語を転がっていく。冒頭で引用した台詞は、ホームレス同然の暮らしをしているおじさんが場末の酒場で呟くものだ。曽我部恵一が、天使を「サラリーマン風の、冴えないおじさん」だとしたのととても似通ってはいないだろうか。

 ただしこれまでのアルバムでは、そうして匿名的に物語を紡ぎつつも、曽我部恵一やバンド・メンバーの固有性もその内側に入り込んでいた。バンドにとって3作目となるこのセルフ・タイトル・アルバムにおいてもそれは変わらないが、15曲で70分近いヴォリュームを通して、より群像劇的な、短編小説集のような形式になっている。オープニングの"ソング・フォー・シェルター"では、とりあえず曽我部恵一そのひとの言葉で幕を開けるが、そこにエフェクト・ヴォイスを駆使したコーラスを重ねることによって、多声的なものとして視点を広げている。そうして、15曲で様々な男女の生活の描写やそこに宿る感情がひとつずつ現れて去っていく。また、これまで曽我部恵一BANDがやってきたようながむしゃらなロックンロールだけでなく、思いがけずグルーヴィなダンス・フィールがある"ロックンロール"、アンビエント風の小さなトラック"誕生"、ノイズがとめどなく流れて収拾のつかないまま終わる"胸いっぱいの愛"、ラフな録音の生々しいフォーク・チューン"たんぽぽ"......と音楽的にも雑多だ。より多くの登場人物が、ここには集まっているようだ。
 そしてこれまでよりも、遥かに苦い味が加わっている。胸がときめくようなラヴ・ソングも変わらずあるが、それ以上に、やりきれなさ、無力感、行き場のなさ......そうしたものがこのアルバムをどうしようもなく貫いているように思える。冒頭の"ソング・フォー・シェルター"で設定されるのは、「壁に貼ったジョーストラマーのポスターがはがれ落ちる」、そんな地点だ。「今日のサイレン/明日の雨/この歌は僕たちの隠れ家のため」――非常事態を経験した、その後を生きるわたしたちの歌。曽我部恵一BANDはかつて、青春そのものを、迷える若者たちのある種代役としてロックンロールを鳴らすことで生き直すようなことをしていた。しかしバンドは、ここではその季節を後にしようとしている。
 なかでも象徴的なのは"街の冬"だ。生活保護を必要とする「とっても仲のいい」姉妹と、事務的な対応をするしかない区役所のおじさん。その侘しいはずの物語はしかし、アップテンポの激しいロックンロールで演奏される。あくまで温かく語られる姉妹の日々、上りつめるエレキのソロ、悪戯っぽく跳ね回る鍵盤、そして着地点を見つけないまま疾走し続けるビート! ここではたしかに貧困が描かれているが、絶対にそれを貧しい生き方として扱いはしない。その気迫において、この曲を社会や政治の歌だと簡単に呼ぶことは憚られてしまう。これはつまるところ、この国の片隅で埋もれそうになっている、ある人生についての歌だ。僕には生活保護ギリギリの生活をしている知人もいるし、公務員をしている友人もいるが、彼らが共に毎日必死に生活していることを知っている。空疎なシステムが生み出したそのあいだの埋まらない溝でこそ、曽我部恵一BANDはロールする。

 そうしてアルバムは、ラスト・トラック"満員電車は走る"へと集約されていく。興味深いのは、ブルース・スプリングスティーンの新作『レッキング・ボール』に収録された"ランド・オブ・ホープ・アンド・ドリームズ"とモチーフが共通していることだ。その「国」にいるあらゆる人間を乗せて、走る汽車/電車......。ただ決定的に違っているのは、スプリングスティーンが記号的に様々な人間を汽車に乗せるのに対して、曽我部恵一は満員電車に乗るひとびとの生活を具体的に活写していることだ。そして前者が、それがたとえアメリカン・ドリームの破れかぶれの残滓としての「希望と夢の土地」だとしても目的地を持っているのに対して、後者には向かう場所などない。ただ、「からっぽの心を詰め込んで」わたしたちの満員電車は走るのである。それがこの国だということなのだろう。もはや明るい未来なんてまったく見えない場所でこそ、このフォーク・ソングは鳴らされているようなのである。それでも、人生は前にしか進まないのだから。
 最後には、また曽我部恵一そのひとが発声したものへと言葉は還っていく。「心がどうしようもないとき/あなたの心が壊れてしまいそうなとき/音楽は流れているかい?/そのとき音楽は流れているかい?」

文:木津 毅

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広く問われるべき15曲 文:竹内正太郎


曽我部恵一BAND
Rose Records

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 ロックはいまだ社会的にアクチュアルな音楽たり得るのだろうか? 21世紀の、しかも、2011年3月11日以降のこの国で?

 あるいはこうした問いはいま、ほとんど意味を持たないのかもしれない。だが、少なくとも曽我部恵一BANDにとっては愚問ではないだろう、私はそう思う。そう、ロックンロールと作者の実人生、あるいは不定形な社会との接触面、そこにどんな表現が成り立つのか? 『キラキラ!』(2008)は、ある時代のひと時において、そのアンサーとして完璧な作品だった。日常にふと訪れては気まぐれに去っていく、ごく個人的な幸福の感情を、できる限り現在形で捉えようとする、誇りを持った内観の表現。海の向こうで戦争がはじまることを自覚しながらも、その破壊や暴力と同じ空の下に生きる私たちの、膿んだ成熟社会にも成り立ついくつかの幸福をハッキリと証言すること。あるいは、学者に社会問題視されるような頼りない生活にも、キラキラしたとっておきの感情が湧き得ること。そう、彼らは反論者だった。「まず曽我部恵一BANDのあり方がコンセプチュアルだから、時代に対するカウンターであって欲しいと思ってる」、かつて弊誌・野田編集長のインタビューに曽我部はそう答えている(『remix』誌・216号)。

 結論的に言うなら、3年ぶりのフルレンス『曽我部恵一BAND』は、これまでの曽我部恵一BANDとは大きく距離を置いた作品である。そう、曽我部恵一BANDは、曽我部恵一BANDであることをある意味ではやめている。ジャケットの写真は暗転し、トレードマークの笑顔は(おそらくは意図的に)消されている。『ハピネス!』(2009)から「プレゼント」(2009)にかけて、緻密にまで煮詰められた、煌めくようなポップ・パンクのギター・プロダクションは、"サマーフェスティバル"など、ごくいち部の限定的な立場に控えられ、tofubeatsのリミックスが先行で話題になったダンス・トラック"ロックンロール"に代表されるように、アレンジの制約、楽曲の形式という点で大幅な解放が見受けられる。全体的にはアコースティック・セッションを織り交ぜたいく分かメロウ・アウトした作品となっており、とくに、ザ・バンド風の柔らかいアメリカン・ロックで兵士の最期を看取る"兵士の歌"、あるいは、"ブルー"(2007)の続編のような美しいバラード、ポストモダニティ・ライフにおける実存不安に静かに潜っていくような"月夜のメロディ"では、近年のソロ・アルバムのような素晴らしい歌声が聴ける。

 議論となるのは、アルバムの最後を飾る"満員電車は走る"で、曽我部はそこで、狂気的なまでの密度で詰め込まれた満員電車にもれる、誰かの声にならないツイート、軋むような心の声を拾って読み上げる、という、ある種の三人称表現を採用している。そこからやがて一億二千七百六十万にまで一気に飛躍する、観察と想像によるその描写は、一級のポップ作家による社会への思いやりであり、素朴な優しさでもあるが、カメラの立脚は、対象からはやや遠く思える。だから、私が気になったのは、音の変化ではなく、多くの曲で言葉の分解能が下がっているように思われたことだ。例えば、「街は知ってる/ぼくたちの情けなさや優しさを」と歌う"ポエジー"や、「悲しい世界ねって/貧しい世界ねって/泣きながら揺れてた」と歌う"たんぽぽ"は、確実に誰かの姿をとらえつつも、言葉の握力はやや弱いようにも思える。もちろん、具体性をある程度排し、一般性を追求することは、ポップ・ミュージックの普遍性でもあるが、過去二作における実人生の、街の、人びとのホットな接写を前にすると、本作における詩作の立場はやや曖昧で、聴き手の顔を想像しようとすると、そこには靄がかかる。

 忌憚なく述べよう。「キラキラしていてね/いつもきみ/ずっと負けたってかまわない」"キラキラ!"、「ハードコアな人生かも/だけどトキメキのパスポート持ってる」"I Love My Life"と歌った前二作を、仮に誇り高き敗北主義の表明だったとすれば(それはインディペンデンス・ロッカーの態度として見事な説得力を生んでいた)、大量の留保を抱え込んだいまの日本で、曽我部にはもっと歌えることがあったのではないか、とも思う。
 その点、"街の冬"は、本作屈指の傑作であると同時に、提起する問題のあり方として異彩を放っている。報道でも大きく取り上げられた、社会から驚くほど呆気なく孤立してしまった札幌の姉妹が過ごした孤独の冬を、優しくエモーショナルに歌うこの曲は、まずそのアッパーさにおいてショッキングだ。曽我部はそこで、享楽的な鍵盤、踊るようなラインをなぞるベースが、まるで何かを祝福するかのようにファンキーに跳ねるなか、生活保護の申請者を取り上げ、同情のトーンで揃えられた世論を遠ざけるように、健康で文化的な最低限度の生活が保障されなかった日々にも、たとえ一瞬ではあっても美しい時間、あたたかい時間があったのでは、という、希望の眼差しを投げかける(そして、曲は最後、ちぎれるように終わる)。

 マクロな社会欠陥がどれほど近くに忍び寄ろうとも、人間として正しい生き方に立てば、個人の幸福はいつだって強く成り立つということ。曽我部恵一BANDの核となってきたそうしたメッセージ性をドラスティックに展開した、このような曲を擁しながらもなお、本作の立場がやや曖昧に見えるのは、カウンターすべき相手の曖昧さが、前掲のインタヴュー時に比してさらに増しているからでもある。そう、言うまでもなく、私たちの身の回りの世界は絶えず変化し続けているし、この国の曖昧さはますます高くなったように見える。だから、3月で断絶したままの誰かの日常や、原子力危機に晒された飼い殺しのような日常がある一方で、それでもなお、絶望の国に生きて、ディズニーランド的な幸福を何不自由なく享受できて「しまう」日常も混在する曖昧さそのものを、彼らには取り上げて欲しかった気もする。津波が引いた境界線や、同心円状に描かれた分布図以上に、私たちの日常は細分化されてしまったのだから。繰り返そう。果たして、ロックはいまだ社会的にアクチュアルな音楽たり得るのか? 21世紀の、しかも、2011年3月11日以降のこの国で? 判断はすべての聴き手に委ねたい。発売はもちろん、〈Rose Records〉から。広く問われるべき15曲である。

文:竹内正太郎

Shop Chart


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Rocket Juice & The Moon

Rocket Juice & The Moon Rocket Juice & The Moon Honest Jon's / UK / 2012/4/11 »COMMENT GET MUSIC
2012年<HONEST JON'S>が送るスーパー・プロジェクトROCKET JUICE & THE MOONフルアルバム!TONY ALLENの燻し銀ドラム捌きを軸に繰り広げられる極上ネオ・アフロ・グルーヴ!

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Rocket Juice & The Moon feat. Erykah Badu

Rocket Juice & The Moon feat. Erykah Badu Manuela / Mark Ernestus Dub Honest Jon's / 2012/4/11 »COMMENT GET MUSIC
超実力派ミュージシャン達によるスペシャル・プロジェクト=ROCKET JUICE & THE MOON、フル・アルバムより先行10"シングル2種同時リリース!こちらはそのアルバムには未収録となるERYKAH BADUをフィーチャーしたネオ・アフロ・ソウル!C/WにはMARK ERNESTUSによるダブ・ミックスを搭載です!

3

Vakula

Vakula Leleka 002 Leleka / UKR / 2012/4/11 »COMMENT GET MUSIC
毎度フレッシュな衝撃を届けてくれる脅威の4トラックス!スタンプラベルの限定盤。様々なレーベルから物凄い勢いでリリースを重ね、そしてそのど れもが圧倒的なクオリティを誇るというウクライナの天才VAKULAによるオウンレーベル<LELEKA>第2弾!

4

Tom Noble

Tom Noble Dancing Hard Clone Loft Supreme Series / 2012/4/11 »COMMENT GET MUSIC
レーベル前作収録のTOM NOBLE"DANCING HARD"リミキシーズ!ディスコ・マエストロ=AL KENTによる爽快ブギー・ディスコ・リミックス◎!

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Joaquin Joe Claussell

Joaquin Joe Claussell Unofficial Edits And Overdubs Vol.1 Sacred Rhyth Music / US / 2012/4/9 »COMMENT GET MUSIC
先行プロモCD/12"/7"いずれも好評の「UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS」シリーズ、お待たせの総集編2CD!新たに生まれ変わった「BODY & SOUL」クラシックをはじめ、名楽曲の数々、勿論初音盤化多数!全23トラック(スキット含む)!

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Rocket Juice & The Moon

Rocket Juice & The Moon Leave-Taking / 1-2-3-4-5-6 / Forward Sweep Honest Jon's / UK / 2012/4/11 »COMMENT GET MUSIC
超実力派ミュージシャン達によるスペシャル・プロジェクト=ROCKET JUICE &THE MOON、フル・アルバムに先駆け10"シングル2種同時リリース!こちらはそのアルバム収録ナンバー3曲の先行シングル・カット!ハイブリッドな極上モ ダン・アフロ・グルーヴ◎

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Animation

Animation Sanctuary (Joe Claussell's Two Part Hidden Revealed Remix) Sacred Rhythm Music / US / 2012/3/25 »COMMENT GET MUSIC
「UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS」シリーズも絶好調のJOE CLAUSSELLが手掛けるジャズ・リミックス・プロジェクト!電化マイルスへのオマージュを込めたANIMATIONによる楽曲を独自解釈によりクラ ブ・サウンドでアップデートした限定2トラックス10"!

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Kenji Takimi

Kenji Takimi Middle Tempo(≒Life) Crisis Dad Gag / JPN / 2012/4/14 »COMMENT GET MUSIC
<CRUE-L>主宰瀧見憲司ニュー・ミックス!バレアリック~スロー・ハウス/ニュー・ディスコ/リエディットetc..独特すぎる世界観で繋 いだ圧巻の約70分。

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Joaquin Joe Claussell

Joaquin Joe Claussell Unofficial Edits And Overdubs 12" Promo Sampler Part ? Sacred Rhythm Music / US / 2012/3/17 »COMMENT GET MUSIC
推薦盤!LTD.300pcs.!!!!「UNOFFICIAL EDITS AND OVERDUBS」シリーズ・アルバムから先行プロモ・サンプラーEP第2弾!こちらも初12"化音源収録/限定プレスというレアリティの高い一枚です!

10

V.A.

V.A. Ahyewa Soundway / UK / 2012/3/16 »COMMENT GET MUSIC
QUANTICエディット収録!アンディスカヴァリーな上質ワールド/辺境ミュージック復刻の権威<SOUDWAY>からDJユースなアフリカ物 リエディット12"到着しました!

Chart by JET SET 2012.04.16 - ele-king

Shop Chart


1

Jazzanova Feat. Paul Randolph

Jazzanova Feat. Paul Randolph I Human (Sonar Kollektiv) »COMMENT GET MUSIC
リリースを控える最新アルバム『Funkhaus Studio Sessions』から、"Still Music"や"Mahogani"周辺での活躍知られるベーシスト/シンガーPaul Randolphを招いた話題作が到着。

2

Kenji Takimi

Kenji Takimi Middle Tempo(=Life) Crisis (Dad Gag) »COMMENT GET MUSIC
甘くドリーミーな導入からスローモー~ミドル・ディスコ、テックハウス・スクリューを挟みながら活気を帯びていく瀧見氏ならではの世界観。"Sexual Balearic"をテーマとした心地良いレイドバック感覚やアダルトな艶、高揚をかき立てるワイルドなグルーヴが絶妙な塩梅で織り交ぜられ、幅広いシチュエーションでお楽しみ頂ける最高のミックスとなっています。大推薦!!

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Discodromo & Massimiliano Pagliara

Discodromo & Massimiliano Pagliara Samba Imperiale (Cocktail D'amore) »COMMENT GET MUSIC
鬼才イタリアン・デュオDiscodromoが主宰する"Cocktail D'amore music"最新作3番。"Live At Robert Johnson"からのリリースが好評となっているMassimiliano Pagliaraを迎えた大注目作が遂に解禁です!!

4

Boys From Patagonia

Boys From Patagonia Rimini '80 / It's So Exciting (International Feel) »COMMENT GET MUSIC
Davide Armour & Philipe Masceranoからなるイタリア~パタゴニアを繋ぐ新鋭ユニットBoys From Patagoniaによる話題の1stシングル。Todd Terje, Soulclap, Bicep, Balearic Mike, Soft Rocks, Lovefingersらが挙ってサポート中!!

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Yakaza Ensemble Meets Syunoven

Yakaza Ensemble Meets Syunoven Yakaza Ensemble Meets Syunoven Ep (Crosspoint) »COMMENT GET MUSIC
Joe Claussellが賛辞を送る話題の12インチ。呪術的なトラックをフロア仕様にアップデータしたリミキサーの手腕が光る1枚です。

6

Rickey Calloway

Rickey Calloway Work It (Funk Night) »COMMENT GET MUSIC
Dap-Kingsとのコラボも素晴らしかったファンク・ヒーロー、Rickey Callowayのニュー!! 今回はバックにWill Sessionsを従えての新作です!!

7

Kindness

Kindness Gee Up (Female Energy) »COMMENT GET MUSIC
2009年のデビュー・7インチ「Swingin' Party」のB面曲だった激人気曲が12インチで登場!!B-1は完全新曲、B-2は「Swingin' Party」の別ヴァージョン!!

8

Pillowtalk

Pillowtalk Soul Edits (W + L Black) »COMMENT GET MUSIC
Wolf+Lamb所属のSF人気新星トリオPillowtalkによる'60年代ソウル名作エディットEP!!

9

Ari up

Ari up Forward (Ska In The World) »COMMENT GET MUSIC
即完売したVic Ruggieroとのコラボ作"Rare Singles And More~"に続き、Ska In The WorldからAri Upの貴重音源が限定7"リリース!!

10

Will Sessions

Will Sessions True Story (Funk Night) »COMMENT GET MUSIC
『The Elmatic Instrumentals』が大ヒットとなったWill Sessions。A面はPhat Kat"True Story"を下敷きにしたナンバーで、壮大なストリングスが予想以上の感動です!!

The Hacienda Oiso Festival - ele-king

 2012年の夏はストーン・ローゼズがフジロック初日のヘッド・ライナーとして登場。4月にはモリッシーの10年振りの来日公演、伝説のクラブ〈ハシエンダ〉の名を冠したハシエンダ・フェス、5月にはノエル・ギャラガーの日本武道館公演、サマーソニックにはニュー・オーダーが出演、突然のマンチェスター・リヴァイヴァルだ。本国イギリスではハッピー・マンデーズがオリジナル・メンバーで復活、マンチェスター公演のゲストはインスパイラル・カーペッツ。ローゼズの再結成を契機に、さまざまな形であの時代が思い出され、世界中からこの夏への期待が高まっている。僕自身もこの夏はここ数年ないほど楽しみだ。あの時代を懐かしみたいということではない。まだ体験したことのない、自分のなかの小さな革命のようなものを期待している。

 4月28~29日、大磯ロングビーチで開催されるハシエンダ・フェスにピーター・フックは自身のバンドによるジョイ・ディヴィジョンの2枚のオリジナル・アルバムの再現ライヴをおこなう。もちろんベズもやってくる。

 ココに紹介するのは、去る1月、渋谷〈VISION〉で開催されたパーティ「THE HACIENDA」のために来日した際にやったインタヴュー。これを読んだら、GWは大磯に行きたくなるはず!

interview with Peter Hook

まず音楽をはじめたきっかけを教えてもらえますか?

PH:う~ん、10代の頃はそんなに音楽に興味はなかったんだよ。ごく普通にポップスを聴くぐらいでね、はじめに買ったレコードもケニー・ロジャースの「ルヴィー、ドント・テイク・ユア・ラブ・トゥー・タウン」だし。でもいま聴いても名曲だよ(笑)。まだ家にはあるはずさ。普通にポップスが好きな子供だったよ、それからハード・ロックを聴きはじめて、レッド・ツェッペリンやディープ・パープルなんかのね。だからジミー・ペイジが俺のギター・ヒーローだったよ。ロックよりも女の子のほうが重要だったんだ(笑)。

フットボールは?

PH:俺はマンチェスター・ユナイテッドの練習場の横に住んでたことがあるんだけど、子供の頃はまったく興味がなかったんだ。ほんとにクレイジーなファンになったのは20歳ぐらいだよ。90年代はベッカムやギグスもよくハシエンダに来てたよ。俺がハシエンダのバーにいると「ハーイ、フッキー」(ベッカムのオカマっぽい口まねで)って声かけてきたよ(笑)。

ジョイ・ディヴィジョンの結成のきっかけはマンチェスターでのセックス・ピストルズのライヴですよね? でもシンプルなパンク・バンドにならなかったのはなぜですか?

PH:バンドを組んで、はじめはピストルズのコピーとかをやっていたけど、練習するにつれてもっと違うスタイルでやりたくなったんだ。

プロデューサーであるマーティン・ハネットの影響もありますか?

PH:そうだな、彼はホントに難しいやつで、クレイジーではないんだけど、かなりエキセントリックなやつだったよ。彼のなにがすごいかを説明するのは難しいけど、俺たちにはいい仕事をした。彼がプロデュースしたジョイ・ディヴィジョンのサウンドは30年たっても素晴らしいだろう? 彼のアイデアはいつも神秘的で、なんというか、カタリ派的(神秘主義的キリストの一派)なんだ。ちょうどいま、俺はジョイ・ディヴィジョンについての本を書いている、そこでレコーディングについての分析もやってるんだ、いまのようにテクノロジーがない時代に、いったいどうやってあのサウンドを作ったのかホントにわからないんだよ。彼は専門的な勉強をしたわけではないのに。

どんなレコーダーを使っていたんですか?

PH:はじめは4トラックの古いレコーダーで『アンノウン・プレジャーズ』のときには24トラックのアナログ・レコーダーだったよ。24トラックあれば充分だね。ニュー・オーダーのレコーディングでバーニーはヴォーカルだけに99トラック使ったこともあったよ、まったくバカげてる(笑)。

映画『コントロール』で描かれていたレコーディング風景は事実に忠実だったんですね。

PH:そう、俺もあの映画のプロデューサーのひとりだからね。あの映画はまずアントン・コービンに監督を頼む前に俺たちが企画していた。もちろんアントンは最高の映像を作ってくれた、なぜなら彼ほど俺たちを知っているやつはいないからね、知り過ぎていてこまるぐらいだったよ。あの映画はシリアスでダーク、アントンの感性もかなり衒学的だし、とても重いものだけど、美しいフィルムだと思うよ。実際に俺の思い出のなかのあの時代もモノクロなんだ、ダークなんだよ。ラストの"アトモスフィア"はすばらしいだろ、でも"アトモスフィア"はイギリスでもっとも葬式に使われる曲ナンバー・ワンなんだよ(笑)。

『コントロール』のオープニング、イアンの部屋にはデヴィッド・ボウイのポスターが貼ってあるのが印象的でした、ボウイは好きでしたか?

PH:もちろん、ジョイ・ディヴィジョンの前の名前のワルシャワは彼の曲から取ったんだ。そう、とくにブライアン・イーノがプロデュースしたアルバムのキーボードのサウンドはほんとに参考にしたよ。『ヒーローズ』は大好きだね。

ニュー・オーダーは数多くのダンス・リミックスを作ってますが、あなたのフェイヴァリット・リミックスはどれですか?

PH:俺たちはいつも自分たちで誰にリミックスを依頼するか選んでいたんだ、俺の好きなリミキサーはアーサー・ベイカーだな、あんまりベースをカットしないからね(笑)。最悪だったのはシェップ・ペティボーン、ベースをバッサリカットしやがったよ(笑)。アーサーがやった"1963"も"レッツゴー"も最高だよ。

ニュー・オーダーで好きな曲はなんですか?

PH:"リーブ・ミー・アローン"だね、スコット・フィッツジェラルドの『夜はやさし』を思い出すんだ。美しい本だよ、ちょうどレコーディングのときに読んでいてね。最高のベースラインを思いついたよ。

1988年に『テクニーク』のレコーディングで行ったイビサはどうでしたか?

PH:もちろん最高だったよ、トニー・ウィルソンには人生でいちばん高くついた休暇だってさんざん絞られたけどね。とにかくレコーディングもせず毎日パーティだったよ。

当時はどんなDJがプレイしてました?

PH:人気があったのはアルフレドだね、でも、俺はイビサのDJのどんどん曲をミックスしてしまうスタイルは好きじゃなかった、なんせ2分ごとに曲が変わるんだ、いい曲かけてるのに。マンチェスターのDJたちはイビサのスタイルを持ち帰ったけど、自分らに合うようにプレイ・スタイルを改良したんだ。それがよかったよ。

イビサでニュー・オーダーの曲はかかってましたか?

PH:いやぜんぜん、「ファインタイム」も出る前だし彼らはたぶん「ブルー・マンデイ」も知らなかったんじゃないかな。

最初のエクスター体験もイビサですか?

PH:もちろんそうだよ、じゃなきゃあんなにパーティに行かないさ。でも俺は言っておきたいんだけど、俺たちニュー・オーダーやハッピー・マンデーズ、〈ファクトリー〉の連中が90年代初頭にドラッグをグラマラスに見せてしまったことは、ホントに後悔している。あれは間違いだったと思うよ。多くの友だちが死んだり、心を病んだりしてしまった。もしいま俺の子供たちがドラッグやりたいなんて言ったらブン殴って止めるよ。カーニヴァル・ライフは楽しそうに思えるけど、人生に必ず大きな借りを作っているんだ、だからいつかその借りを返さないといけなくなる。そんなことはまったくバカげているよ。

ではハシエンダ・フェスについて話してください。

PH:俺はいま、マンチェスターで〈ファクトリー〉というクラブを運営している。そのコンセプトは過去が未来をクリエイトするってことなんだ。〈ハシエンダ〉は今年でオープンから30周年、自分らの思いやアイデアや多くのエネルギーとさらに多くの金(笑)......を注ぎ込んだのもが、また何かを生みだして欲しいってことだよ。オリジネイターの俺がジョイ・ディヴィジョンのアルバム再現ライヴをやる、マッドチェスター時代の代表バンドであるシャーラタンズも出る、〈ハシエンダ〉のクラブ時代のヒットメイカーだったエクスプレス・ツゥーがいて、最新のダンス・クリエイターやバンドが出るんだ、いいパーティにならないわけないだろ? 日本だけでなくポーランドやイギリスでもこのセレブレイト・パーティはやるんだ。

最後にトニー・ウィルソン、アラン・マッギー、ジェフ・トラビスの3名についてあなたの印象を聞かせてください。

PH:あー、インディ・レジェンドね(笑)。トニーには実に大きな影響を受けたよ、兄貴みたいなもんさ、彼はまさにエキセントリックという言葉ぴったりの男だったね、そしてホントに芯からの英国的なひねくれ者というか、変わった男だった。金にはまったく興味がなかった、すごいことだと思うね。
 アランはいい友だちだよ、あいつもかなり変わってるけどね。彼もトニーからかなり影響受けてたはずだよ。いまはリタイアして悠々自適だけど、またなにかやらかすんじゃないかな?
 ジェフは俺にとって学校の先生みたいなもんだよ、「先生これ教えてください!」って感じでね。彼がインディ・レーベルのあり方を変えたし、みんなに教えたんだ。いろんな仕事を彼と一緒にしたよ、ときにはひどい喧嘩もしたけど(笑)。
 いまの時代にはもう彼らのような人物はいなくなってしまったのが残念だね。彼らのようなキャラクターがいろんな人に夢を与えたとも言えるしね。ヒットを生みだすためにレーベルをやっていたんじゃない、彼らは自分の好きなものをリリースしたかったんだ。いまはもうレコード・レーベルの持っていたマジックは解けてしまったんだよ、残念だけど。


interview with Bez

あなたの年齢を教えてください。

B:いま47だよ、今年48になる。

生まれも育ちもマンチェスターですか?

B:いや、サルフォードっていうマンチェスターの隣町だよ。みんなマンチェスターっていえばひとつの町って思ってるけど実際は隣のサルフォードもそれなりに大きな町なんだ。

初めて買ったレコードがなにか覚えてますか?

B:買ったんじゃなくて盗んだんだけど(笑)、ベイ・シティ・ローラーズだったよ、まだ10歳ぐらいだったかな? でも15のときにスペシャルズの"メッセージ・トゥー・ルーディー"を聴いてから、音楽を真剣に聴くようになったよ。

ということは、10代の頃のあなたのヒーローはジョー・ストラマーとかジョニー・ロットンですか?

B:いや、ロックよりもフットボールに夢中だったから、マンチェスター・ユナイテッドのプレイヤーだったね。12か13の頃にパンクがブレイクしてからレコードを買うようになったよ。両親の古いレコード・プレイヤーを占領してね。そしてタバコを吸うようになった(笑)。それからスペシャルズでスカを知って、ノーザンソウルとかにハマっていった。

ショーン・ライダーと出会ったのもその頃ですか?

B:そのちょっとあとぐらいかな、1984年あたりだね。あいつはかなりのワルだったから(笑)、名前は知ってたんだ。まわりの友だちにも「おまえはショーンと気が合うぜ」って言われていたから、初めてショーンと会ったときに「おまえがショーンだろ」って言ったら、あいつも「おまえがベズだろ」っていう感じで、すぐつるむようになった。で、ハシエンダ〉に一緒にニュー・オーダーのギグを見に行ったよ。

その頃の〈ハシエンダ〉はどんな感じだったんですか?

B:1985年には金曜日のパーティでマイク・ピッカリングがシカゴ・ハウスをプレイしてたよ、〈ハシエンダ〉はロンドンより早かったんだ。

初めてのE体験もハシエンダですか?

B:いや、初めては85年のイビサだったよ。ほんとに夢のようだったね、あんなきれいな島でひと晩中最高の状態で踊れるんだから! ハッピー・マンデーズがダンス・ビートを取り入れるのはほんとに自然なことだったよ。俺たちはバンドだけど、俺たちが最高と思うサウンドをやりたかったんだ。

あなたたちの最大のヒット作『ピルズンスリルズ・アンド・ベリー・エイク』はポール・オークンフォールドのプロデュースですが、どんな感じでレコーディングしたんですか?

B:重要なのはオーキーとスティーヴ・オズボーンのふたりなんだ。スティーヴはロックのバックグラウンドを持っていたし、オーキーはヒップホップとアシッド・ハウスだった、このふたつの要素がミックスされてあのアルバムができたんだよ。バンドがセッションして彼らがビートを提案してね。

ハッピー・マンデーズでのいちばんクレイジーな思い出を教えてもらえますか?

B:う~ん、90年代前半のツアーはほんとにすべてがクレイジーだったから難しいな......。ブラジルでロック・イン・リオっていうすげえフェスに出たときのことかな。あんまりひどくて言えないけど、よく死ななかったなとは思うよ。本気でね。

なぜマンデーズは解散してしまったんですか?

B:最大の原因は成功してしまったからだよ、メンバーがみんな勝手な主張をはじめたんだ。メンバー同士の口論はほんとに酷いもんだったよ、そこにマネージメントやレコード会社、出版なんかのいろんな奴がでてきてさらに事態を混乱させた。よく考えたらほんとにバカげたことだけどそれが友情を完全に壊してしまったんだ。

映画『24アワー・パーティ・ピープル』はどう思いました?

B:俺は見てないんだよ......ていうか見たくない。映画の制作前に監督のマイケル・ウィンターボトムとミーティングして脚本を見せてもらったんだけど、俺たちの描かれ方がほんとに酷かったんだ、しかもコメディだろ? 俺たちは確かにメチャクチャなこともやってきたけど、全部真剣だったんだ。それに何人かの友だちも死んでるしね。俺から言わせてもらえばコメディになるようなものじゃない。だからいちども見てないんだよ。

今回の来日であなたは「ヴァイブレーション・プロバイダー」ってクレジットですがイギリスでも同じようなことをやってるんですか?

B:そう、実は若者たちがやっているいろんなパーティをサポートしてるんだ。俺のふたりの息子も最近パーティをはじめてね。とくにまだ若くてクラブに行けない子供たちが昼間に集まってやるようなパーティとかを応援してるんだ。それに俺がいたら安全だろ(笑)? これはガッシュ・レイヴ(GASH RAVE)というキッズのためのフリー・パーティなんだ。キッズにDJやパーティをどうやってやるのか教えてるんだ。俺たちはほんとにパーティ・カルチャーに育ててもらったようなものだから、恩返しをしてるんだよ。

そこではどんな音楽がプレイされてるんですか?

B:いまのキッズはやっぱりダブステップが好きだね、そこにドラムンベースやミニマルなハウスをミックスしてるよ。最近はオールドスクールなアシッド・ハウスも混ざってきてるよ、これなら子供の付き添いできたオッサンでも楽しめるしね(笑)。

ドラッグの問題はないですか?

B:前よりは無くなったよ、音楽以上にドラッグを流行らせてギャングをのさばらせることの恐ろしさをちゃんと教えてるんだ、ドラッグをやることがギャングにパワーを与え、最後には自分たちの楽しむ場所さえ取られるってことをね。俺たちはそれでほんとに酷い目にあったんだよ。でもちゃんと教育することでまた新しい革命が起こせるはずさ。

最後にストーン・ローゼズがヒートンパークでやる再結成ライヴには行きますか?

B:もちろん、今年いちばんの楽しみだね。

2012年4月28、29日(土、日)ハシエンダ大磯フェステイバル
ハシエンダ30周年を祝す記念フェスがG.W.に大磯にて開催決定!
PETER HOOK & THE LIGHT、THE CHARLATANS、CARL CRAIG、SHARAM、☆TAKU TAKAHASHI、TOQUIO LEQUIO TEQUNOSを筆頭にトップDJ、バンドが2日間に渡り、繰り広げる音の祭典!!!
https://www.fac51thehacienda.jp/
前売券プレイガイド、レコード店で絶賛発売中!

interview with Dirty Three - ele-king


Dirty Three
Toward the Low Sun

Drag City/Pヴァイン

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 オーストラリアのメルボルーンで1992年に結成されたインストゥルメンタル・ロック・バンド、ダーティ・スリーは、美しく、そして激しい情熱を捉える。見た目は無骨だが、ステージングは派手で、場末の古い酒場で暴れているジャズ・ロック・パンク・ブルース・バンドのように聴こえる。
 メンバーのひとり、ヴァイオリン弾きのウォレン・エリスは、現在パリで暮らし、ニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズのメンバーとしても活動しているが(あるいはグラインダーマンやキャット・パワー、プライマル・スクリームなどのアルバムにも参加している)、そうした連中が持っているブルース感覚と似たものをダーティ・スリーからも感じる。打ちひしがれているが、優美で、激しい。
 ドラムスのジム・ホワイトは現在ニューヨークで暮らし、長いあいだシカゴの〈ドラッグ・シティ〉(ジム・オルークなどのリリースで知られる)のスモッグのバックを務めている。ギタリストのミック・ターナーのみが、いまでも地元メルボルンに残ってソロ活動をしている。〈ドラッグ・シティ〉からは、すでに何枚ものソロ・アルバムを出しているので、ご存じの方も多いことと思われる。とにかく、3つの異なる大陸にそれぞれが暮らしながら、ダーティ・スリーはバンドとして存続しているわけだ。昨年のこの時期は、「アイル・ビー・ユア・ミラー」のために来日もしている。
 新作は7年ぶり、通算9枚目のアルバム。タイトルが言うように、音楽からは真っ赤な夕日が差し込んでくるようだ。フォーキーな響きが打ち出され、メロウで、日没の輝き、黄昏好きにはたまらない、その美学はたっぷり入っている。燃え殻のにおいが漂う......彼らが世界中で愛され続けている理由がよくわかる。取材に答えてくれたのはミック・ターナー。

僕らはどのジャンルにも属していない。僕らは『ダーティー・ハリー』のように、悲しい存在でもありながら、危険で謎、そしてエキサイティングなんだ。

7年ぶりの新作、素晴らしかったです。1曲目から飛ばされました。まずはこの7年という年月について、そして今回の録音がどのようにはじまったのか説明を願いします。

ミック:2009年にパリでデモ録りを何曲かして、2010年の頭から実際のレコーディングをはじめて、2011年のなかばには作業は終わっていたね。離れて暮らしているし、なかなか集まれないから時間がかかったんだ。僕はメルボルンだし、ウォレンはパリ、ジムはニューヨークだからね。スタジオに入るときは、本当に曲の骨格ぐらいしかなくて、スタジオに入ってから形付けていった感じだね。
 最初のセッションから帰ってきたときは、もう失敗したと思い込んでたけど、1年後に聴き返したら、意外に気に入ってね。温もりがあって、親密な音だったうえ、とても生なレコーディングだったんだ。自分たちの醍醐味であるライヴの即興の演奏力というのも捕えられたと思うし。重ねた音は少なかったし、最終的なサウンドにもとても満足しているよ。前回のアルバムから自分たちのソングライティングも成長したと思うし、いままで以上に曲に奥行が出ていると思うんだ。

そういえば昨年、「アイル・ビー・ユア・ミラー」の出演者として来日しているんですよね。僕もあの場にいたのですが、どの出演者も良すぎて、すっかり酔っぱらってしまいました。あのときのご感想を。

ミック:楽しい時間だったよ。みんな東京が大好きだし、行くときは必ず良い思い出ができるよ。

あのとき一緒に出演したゴッドスピード・ユー・ブラック・エンペラーとダーティ・スリーは意外とファンが重なっているようですね。たしかに、ともにヴァイオリンの音色を活かしたインストゥルメンタル・バンドですが、ふたつのバンドには共通しているところがあると思いますか? 

ミック:けっこう違うと思うな。地理的にも違うところから来ているし、僕らは3人しかメンバーがいないから、より自由度もあるいっぽう、大人数のバンドの厚みとかは出せない。単純にアプローチが違うと思うんだ。彼らの音楽も好きだし、個人的にも何度も会っているし、彼らが成し遂げてきたことや、芸術に対する姿勢は尊敬しているよ。

ダーティ・スリーは1992年のメルボルンで結成され、その後、同郷のニック・ケイヴ&ザ・バッド・シーズへの参加、そしてメンバーそれぞれこの20年、国際的な活動を展開しいていますが、結成前のことなどいまでも覚えていますか? 

ミック:覚えているよ。メルボルンにある小さなバーの床で毎週金曜日に3時間ほど演奏していたんだ。バックグラウンド・ミュージックのはずで、何も練習せずにその場で思いついたことをやっていた。とても解放的でエキサイティングだったよ。そのときからヴァイオリン、ギターとドラムだったけど、その場にあった道具は何でも楽器にしていたよ。ほうき、バケツ、ホース、おもちゃの楽器もね。20~30分にもおよぶ、流れるような曲とかもやっていた。爆音になるものもあれば、静かな曲もね。とにかく何も考えずにやって、曲が自然と形になっていった感じだよ。終わったときにはどこにいたか忘れるくらい、没頭していたね。

初期の頃、影響を受けた音楽について話していただいていいですか?

ミック:僕とジムはいわゆるポスト・パンクなバンド、ヴェノム・P・スティンガ―で1986年からやっていたね。でもいろんな音楽に影響されたよ。個人的にはルー・リード、ヴェルヴェッツ、ジョナサン・リッチマンやラッフィング・クラウンズは大きな影響だったね。

バンド名に「ダーティ」という言葉を入れた理由は何でしょうか?

ミック:クリント・イーストウッドの『ダーティー・ハリー』から取っているんだ。僕らは自分のルールで音楽をやっていたし、どのジャンルにも属していない。独立した存在だと思っていたんだ。あの映画のキャラクター同様にね。悲しい存在でもありながら、感動を与えつつ、危険で謎で、そしてエキサイティングだ。まだ変わっていないと思うよ。

そして2曲目の"Sometime I Forget You're Gone(ときどきあなたがないことを忘れる)"や3曲目の"Moon On The Land(陸地の月)"、そして4曲目の"Rising Below(下方に上がる)"にもため息が出るような美しい旋律があります。6曲目の"Rain Song(雨の歌)"のアコースティックな響き、8曲目の"Ashen Snow(灰の雪)"のメランコリーもそうですが、アルバム全体的にも美しさ、優しさというものを感じます。

ミック:いつもそのような要素はあったと思う。スタイルを気にしたことはないんだけど、初めてアコースティック・ギターとより多くのピアノを使ったかもね。

今回の音楽的主題について教えてください。たとえば1曲目の"Furnace Skies(灼熱の空)"にはフリー・ジャズ的な衝動も感じるし、5曲目の"The Pier(埠頭)"や"That Was Was(それはそうだった)"にもブルースにも似た打ちひしがれた感情を感じます。ロックはもちろん、クラシックの要素など、いろいろ混じっていると思いますが

ミック:ウォレンが若い頃に聴いていたようなワイルドなジャズを掘り起こしていたし、不和のなかの動きを引き出そうとしていたと思う。自分はもっと疾走感のあるリズムと強いメロディを出したかった。そしてジムはドラムを感情的な表現の道具として追求していた。これらの要素がぶつかり合ったり、融合したりした結果がこのアルバムだと思う。

コンセプチュアルな作品なのでしょうか?

ミック:どうだろうね。別々の物語が一同に展開している感じかもな。

アルバムのタイトル『トゥウォード・ザ・ロウ・サン』にある"The Low Sun"とは?

ミック:サンセット(夕日)だね。

ああ、「夕日の方へ」という意味なんですね。では、最後の曲の"You Greet Her Ghost(君は彼女の亡霊を歓迎する)"も、とても複雑な思いを想起させる曲ですが......。

ミック:自分の目の前にはもういない人だけど、自分のなかにはいる人と会話をしている感じだね。

月とか雪とか空とか曲名に出てきますが、自然というのはテーマだと思いますか?

ミック:よくわからないな。単にきれいな音楽を作るだけに留まりたくないんだ。リズムを取ったり、高揚したり、涙を流したりする以上のことをしたい。聴き手が自分の魂に触れること実現させたいと思っている。

ダーティ・スリーは、社会的な音楽だと思いますか?

ミック:社会ではないね。もっと個人的、私的な戦いだよ。

では、バンドにとってのもっとも重要な信念のようなものは何でしょう?

ミック:バンドとしては、自分たちに素直でい続けることだね。

毎回印象的なアートワークですが、今回のイラストは何を暗示しているのでしょうか?

ミック:ドラゴンだ。大きな戦いで、馬は死に、ドラゴンの爪で握られている。黒いオウムはそっぽを向いていて、白い犬が絶望の目で見ている。カラスは軽蔑した目で見つめ、蛾は無表情でいる。しかし、ふたつの剣があり、ひとつは獣に刺さり、血が流れている。

日本という国に対してどんな印象を持っていますか?

ミック:日本にはいつも魅了されるよ。美しい場所だし、人びとはみんな優しいし、敬意を持っている。日本人の友だちも多いし、移り住んだオーストラリアの友だちも多くいるよ。でもまだ知らないことばかりな気がするし、僕のいる社会とはまったく違うし、まだ表面を少し削ったくらいで、すごく奥の深い国だと思う。
 メルボルンと東京にはどこか音楽の見えない橋があるようにも思っているんだ。お互いのアンダーグラウンドで活動するミュージシャンの交流によって、小さなバンドでも行き来してライヴができるような、不思議な繋がりはあるような気がするよ。

どうもありがとうございました。また日本でお会いできることを期待しています。

■オブ・モントリオール @ウエブスター・ホール(3/30 & 3/3)

 オブ・モントリオールが3月末、2日連続でニューヨークの1000人規模の会場、〈ウエブスター・ホール〉に登場した。2日ともオープニングを変え(30日:ハード・ニップス、コンピュータ・マジック、31日:キシ・バシ、ロンリー・ディア)、セット・リストも少し変えた。両日行っても十分に価値のある演出だった。初日観て、翌日も行ってしまった人も少なくなかった。
 メンバーは、前回のツアーから比べてぐっと削ぎ落され、8人だった。演奏もタイトになっていた。新しいメンバーのサックスプレイヤー、パーカッション、ドラマー、バイオリンが、オブ・モントリオールの音をさらにフレッシュに、そしてセクシーに活気づけていた。
 フロントマンのケヴィンは、1日目はグレイのスーツに、下は赤のフリルシャツ、2日目は白のラインが入ったスカイ・ブルーのジャケット、下も青のシャツと鮮やかな色。目にはブルーのラメ・アイシャドーとファッションも抑えめながらいつも通りだ。他のメンバーも 多色使いのエスニック・パターンのポンチョ(BP:ギター)、白のAラインのワンピース(ドッティー:キーボード)、全身シルバーのラメのトップ(ザック:サックス)はなど、他のメンバーの個性的なファッションも全体のバランスを保っていた。
 ショーは、ニュー・アルバム『Paralytic Stalks』からの曲がほとんどで、1曲目はケヴィンがキーボードを弾きながらはじめた。今回のツアーでは、ケヴィンは、キーボード、ギター、ヴォーカル、そしてパーカッションなどさまざまな楽器も手がけていた。曲前半に白の風船を観客に向けて飛ばし、それがセット中いろんな所でふわふわしている演出で、スクリーンをそれぞれのメンバーの前において、サイケデリックなヴィジュアルと曲をシンクさせたり、いつものボディースーツのメンバーが所々に登場し、そして曲を盛り上げ、ケヴィンに絡んだり、奇天烈なパフォーマンスをぶちまけた。

 このアルバム『Paralytic Stalks』で、ケヴィンは自分の人生について突き詰めている。基本的に彼のアルバムはパーソナルなものだが、今回もさまざまな苦しみや、葛藤、精神的な危機、さらに「人間とは」というユニヴァーサルな域にも達している。楽器的にも、ペダス・スティール・ギター、ホンキー・トンク・ピアノ、チェロ、ホーン楽器など、いままでとは違う要素を取り入れ、いままでに使ったことのない手法で新しい曲を創造している。ケヴィンの表現がオーディエンスを引きつけて離さないのは、こうした深さがあるからだ。

 2時間ほどのパフォーマンスはいままで見たオブ・モントリオールのなかでも力強く、完成度も高かった 。ステージ全体をカレイドスコープのように使ったマジカルな音楽オーケストラはとてもリズミカルだった。私は1日目はいちばん前、2日目は2階席から見た。全体が見渡せる2階席からは、リズムをキープするバンドの姿、そして彼らが本当に楽しんで演奏している一面も見れた。スクリーンにはバックとフロントでは違う映像が映し出され、シンク感覚も興味深かった。スピリチャライズドをもう少しカラフルにした感じとでも言おうか、オブ・モントリオールをフジロックで見たら、曲といい、演出といい、場所とも自然とも、シンクロするのだろう。アンコールはアルバム『Skeletal Lamping』(2008)、『Hissing Fauna, Are You The Destroyer?』(2007)などからの往年のヒット曲を集めた物だった。バランスの取れた選曲の良さもショーをより価値のある物にしていた。

 観客は圧倒的に若者が多い。バンドをなかばアイドル化している感もある。ケヴィンやBPが少しでもステージ際に近づくと、みんな手を伸ばし、彼らに触れようとする。BPがアンコールで観客にダイヴしたときには、大騒ぎになり、後ろのほうまで流されていってしまった。

 ショーの後、ケヴィンといろいろ話した。彼は私と会うたびに、〈コンタクト・レコーズ〉がオーガナイズした最初の日本ツアーがどれだけ楽しかったのかを話する。日本の観客が熱く受け入れてくれたことに感動し、彼ら自身が心から楽しめたと語る。「あのときは日本のオーディエンス本当に僕らを好きだということがわかったんだ」と彼は言った。そのショーの最後の曲を演奏し終えると、ケヴィンは感極まってダイヴした後、そのままダンス・パーティに流れ込み、朝までみんなで踊った。「こんなことはほとんどない」と、彼は言う。商業的に成功したわけではなかった。贅沢なホテルに泊まれたり、ギアなども誰かが用意してくれるようなツアーでもなかった。それでもバンドにとって、最初の日本ツアーは最高の出来事だった。実はその後も彼は、何度か日本に戻っている。が、しかし、そのときはもう「日本の人はそこまで僕らのことを好きじゃないのかもね」と言っていた。


■ワイルド・フラッグ@ウエブスター・ホール(4/1)

 ......というわけで、私は3日続けてこの〈ウエブスター・ホール〉に来ている。今日はワイルド・フラッグのライヴだ。スリーター・キニーのキャリー、ジャネット、ヘリウムのメアリー、マインダーズのレベッカというガールズ・スーパー・バンドである。昨年10月のCMJで見て以来、私のなかでナンバーワン・ライヴに位置づけられている彼女たちのパフォーマンスを再び見に行った。チケットはもちろんソールドアウト。

 観客は、スリーター・キニーのファンだったに違いないある程度の年齢層(?)から最近の若者まで幅広かったが、昨日のオブ・モントリオールに比べると女の子が多かった。物販にはCD、レコード、Tシャツ、メンバーの顔Tシャツがあった。それらはショーの前から景気良く売れていた。
 オープニングはレーベル・メイト(マージ・レコーズ)であるホスピタリティ。彼女たちもCMJ(このときもワイルド・フラッグの前座)で見ているが、全体の印象的はまあ、......あどけないよちよち歩きの赤ちゃん。演奏はしっかりしているが、良くも悪くも若い。ナダ・サーフ(今週末4/6,7と2連夜でNYに戻ってくる!)のオープニングだったパロマーやラ・ラ・ライオットに音的にも姿的にも被るところがあった。

 さて、ステージにスモークが降り、ワイルド・フラッグが登場。メアリーは赤と黒の太めボーダー・シャツに黒のタイトパンツ、キャリーは黒のシャツ黒タイト・ジーンズ、ジャネットは幾何学模様のワンピース(自分用の扇風機持参)、レベッカはベージュのトップに黒のミニスカート......とメンバーの個性もばっちり。
 後ろからスポットライト、さらに電飾の色がめくるめく変わっていきステージに色を添える。オープニングはメアリーのヴォーカル曲でスタート。その後はキャリーと交互にヴォーカルをチェンジする。バンドのなかにヴォーカリストがふたり(メアリー、キャリー)、ギタリストがふたり(メアリー、キャリー)、ベースがなくて、キーボード(レベッカ)とドラム(ジャネット)。ふたつバンドができそうだ。

 今回はCMJで見たときとくらべ、がつんと来ることはなかった。別に演奏が悪かったわけではない。1回観ているため何となく読めてしまったのか、彼女たちが演奏を重ねて新鮮さが抜けてしまったのか......はわからない。観客を引きつけるパワー、ただならぬオーラーは相変わらずだが。
 私は写真を撮るために2階席にあがり、「1分だけ写真を撮らせてください」といちばん前にいた女性に頼み込んで写真を撮っていたら、本当に1分で「タイムアウト!」と後ろに返されてしまった。1分も見逃したくないほど好きなのだ。申し訳ない気分になった。
 ステージのいちばん前には男の子もかなり居て、一緒に歌など口ずさんでいる。メアリーとキャリーのギターの絡み、キャリーがバスドラの上に載って、ギターをかきならし続けるパフォーマンス(しかもハイヒールで!)などはワイルドフラッグの姿勢を表している。これこそ女の子がお手本にしたい、男に媚びないバンドの姿である。ラスト・ソングはシングル曲"ロマンス"で、シンガロングが会場に響き渡る。アンコールは、ビーチボーイズの"ドゥ・ユー・ウォナ・ダンス?"などのカヴァー・ソングを披露。

 今回ワイルド・フラッグを見に行った理由のひとつに、野田編集長から日本ではワイルド・フラッグはアメリカのように知られていないし、そこまで盛り上がっていないと聞いことがある。今回のオーディエンスはインディ・キッズからもっとゆるい音楽ファンまでいろいろだが、ショーに行くという行為はアメリカではお茶を飲みに行くのと同じぐらい日常的な行為だ。ライヴがはじまってもひたすら友だちとぺちゃくちゃお喋りして、飲み続けている人たちも少なくない(日本ではライヴ中に喋っていると怒る人がいるらしい!)。そもそもライヴとは、ビールを飲みにいったらバンドもやっていた、じゃあついでに見ていこうか、なんてのりだ。まあ、〈ウエブスター・ホール〉という場所がファンシーで、アンダーグラウンドではないのだけれど、ワイルド・フラッグはインディのなかでもより一般の人にも受け入れられている。音楽に使えるお金をそこそこ持っていて、前売りチケットを1週間前からオンラインで買う層である(byトッドP)。
 日本ではライヴを見に行くとなると、何かあまりにも特別な行為なのかもしれない。自分が楽しみたいというより、もっと緊張感のあるものなのだろうか。アメリカでライヴを観ることは、もっとリラックスしているし、テキトーだ。この考えの違いが日本でまだまだインディが受け入れられない理由なんだろうと思いつつ、ワイルド・フラッグの熱狂的なライヴを観ていた。日本とアメリカの温度差の違いもあるだろうし、言葉がわからないというハンデもある。しかし、ホントはシンプルに楽しめばいいだけのことなんだけど。

interview with Tanlines - ele-king

少しのあいだ迷子になって
別の方向を見た
何が問題かって
ひとりぼっちだってこと
"リアル・ライフ"


Tanlines
Mixed Emotions

True Panther/ホステス

Amazon iTunes

 ブルックリンのタンラインズ(ジェシー・コーエンとエリック・エムのデュオ)は、ニュー・オーダー/デペッシュ・モード......そして、そう、おまちどおさま、ヘアカット100・リヴァイヴァルを代表する。つまり、クラブ・ミュージックの影響を......全面的に思い切り受けているインディ・ロック・デュオである。と同時に、アニマル・コレクティヴの『メリーウェザー・ポスト・パビリオン』(2009)が火付け役となったトロピカルなるコンセプト――南国パーカッションとエレクトロニカとの融合によるこの2~3年のインディ・シーンに起きたバレアリック現象――と共鳴しながら、他方で彼らはトーク・ノーマル、ホリー・ファック、!!!などといったちょっとパンクな連中のプロデュースを手がけている。
 タンラインズをもっとも特徴づけるのは、強いポップ志向だ。ベッドルーム系にありがちな自己撞着はない。シザー・シスターズ(個人的にはそれほど嫌いではないブルックリンのグラム系4人組)のような陰謀性はなく、ダフト・パンクのようなシニカルな態度もない。もちろん急進性も実験性もない。ある種の実用的なダンス・ポップだ。
 ルーティンから逃れることが音楽のできる最良のことだとしたら、タンラインズの『ミックスド・エモーションズ』は優秀な1枚と言えるかもしれない。そのご機嫌なノリに反するかのような陰影のある言葉は彼らの音楽がファスト・フードのように浪費されることを阻んでもいるが、思うにこれはポップ・ソング復権運動の一種で、ラジオから"ブラザーズ"(アルバムの1曲目)が流れて、3回目にはそのメロディを覚え、そして10回目に聴いたときに好きになれたら、タン ラインズの勝ちだ。早い話、ヴァンパイア・ウィークエンドやMGMTのあらたな競争相手の登場である。たとえば......海辺のクラブのカフェで黄昏どきに流れ ているトンプソン・ツインズを想像したまえ、それはひょっとしたらタンラインズなのだ!

悲しいけど、同時にそれをジョークにできてしまうようなもののことさ。ちょっと大人な感情だ。すべての物は同時にいろいろな意味を持っているっていうことを認識できる。それが僕らの美学になっている。そして、それを表す言葉が欲しかった。

生まれはどこちらですか? 

エリック:僕(エリック)はピッツバーグ出身で、ジェシーはワシントンD.C.近くのメリーランド出身だよ。僕は10代の時に自分自身大好きなバンドだったドン・キャバレロに参加して、その後イアン・ウィリアムスと一緒にストーム&ストレスを結成しているよ。

そしてあなたがブルックリン(ニューヨーク)のシーンにアクセスするまでの話を教えてください。

エリック:僕らふたりともそれぞれ2002年か2003年ぐらいにブルックリンに引っ越したんだ。他のたくさんの若者にとっても同じようにね。僕らにとっても「21世紀にニューヨークに引っ越す」っていうことは=「ブルックリンに引っ越す」っていうことだった。

9.11のときは何をしていましたか? 

エリック:そのときはまだウィスコンシンの大学に行っていて、ニューヨークからは何千マイルも離れたところにいたよ。

いずれにしても、ブルックリンには若い才能を惹きつける理由があったということですよね? 

エリック:だね。ただ、ほとどの人にとって何より魅力的だったのは、もうホントに家賃が安いってことだったんじゃないかな。

80年代のシンセ・ポップからの影響は意識していますよね?

エリック:それは間違いない。子供の頃に聴いていたブルース・スプリングスティーン、REM、トーキング・ヘッズ、ティアーズ・フォー・フィアーズなんかに影響を受けていると思うよ、どんな人間でも子供の頃に耳に入っていた音楽に影響されずにいられないのと同じさ。ロバート・パーマーとかね......。

ダンス・ミュージックからは当然影響されていると思いますが......。

エリック:もちろん。決まったお気に入りはないけど、ぱっと頭に浮かぶものではジョン・タラボット、ユルゲンパープ、フォー・テットなんかは大好きだよ。

アルバムのエンジニアをジミー・ダグラスにした理由を教えてください。彼はティンバランド、アリーヤ、ミッシー・エリオットなどヒップホップ/R&Bからテレヴィジョンやロキシー・ミュージックまで手がけているベテランだそうですね。

エリック:僕らがジミーを選んだというよりも、お互いに選んだっていうほうが正しいな。もしかしてジミーが僕らみたいなプロジェクトと仕事をしたいと思ってくれるんじゃないかと思ってレコードを送ってみたんだ。彼がやったティンバランドの作品や、アレサ・フランクリン、レッド・ツェッペリン、ロキシー・ミュージック、テレヴィジョンなどアトランティック時代の作品からも彼の作風などは知っていたからね。彼はアルバムを気に入ってくれて、それで僕らはマイアミに10日間行って彼と仕事をすることになったんだ。素晴らしい経験だったよ。

『ミックスド・エモーション』というタイトルはアルバムの内容にとても合っていると思うのですが、どうしてこの言葉を思いついたのですか?

エリック:「Mixed Emotions」っていうのは僕らのマスコットで、僕が「ウィンキー・サッド」(ウィンクしている悲しい顔)って呼んでいる顔文字についての表現だよ。悲しいけど、同時にそれをジョークにできてしまうようなもののことさ。ちょっと大人な感情だよね。すべての物は同時にいろいろな意味を持っているっていうことを認識できるってことでもある。それが僕らの美学になっているんだ。そして、それを表す言葉が欲しかった。で、付けたのがこの名前さ。

エモーショナルで優しいメロディ、気持ちの入った歌いっぷりにタイラインズの心意気のようなものを感じるのですが。

エリック:僕らはタンラインズの音楽を「実存主義ポップ(エグジステンシャル・ポップ)」って呼んでいるんだ。僕らのスピリットはアップテンポなビートと粘っこいメロディにメランコリックなヴォーカルにある。あらゆるものはそれぞれ同時にいろんな意味を持っていて、同時にいろんなものでもあるんだ。80年代からの影響も感じられるだろうし、同時に現代的な影響もある。それぞれの曲は楽しくもあるし悲しくもある。そういう組み合わせが僕らの音楽のスピリットになっていると思うよ。

すべての歌詞は、ファンタジーでもロマンスでもなく、苦いリアリズムが描かれていると思うのですが、"イエス・ウェイ"や"ラフィング"のような曲は、いまの時代の暗い風に対するあなたたちのリアクションでしょうか? たとえば「いつだって笑っていよう/そこが安息の場所じゃなくても」"ラフィング"なんて、なかなか重たい歌詞じゃないですか。

エリック:それは幅の広い質問だね! 僕らの作るものにはどれも完全に前向きだったり明るいものっていうのはないと思う。だいたいはジェシーが明るいパートを書いて、エリックがダークな部分を作るんだ。陰陽思想みたいな感じなんだね。

「癌を患っている親類のために書いたファンク」なんていう書かれ方もされていますよね。いっけん前向きですが、悲しみや苛立ちもあるという?

エリック:僕らの曲のヴォーカルや歌詞の多くは、自分が世界のどこにいるのかよくわからないままに年をとることの不確実さや不安を反映していると思う。

そういえば、ニューヨークでは「オキュパイ・ウォール・ストリート」がありました。いま世界に動揺があるのはたしかだと思いますが、タンラインズはそこにどのように立ち向かっていこうと考えていますか?

エリック:良い質問だね。僕らはふたりとも個人的に、世界情勢について詳しいし、自分の意見も持っている。僕は「オキュパイ・ウォール・ストリート」の現場を訪れたし、震災(3.11)の義捐金を寄付したりもした。それが僕らの音楽にどういった影響を与えているかははっきりとはわからないけど、そういうことが僕らの人格に影響していると思うし、僕らの人格が作る音楽を形作っているんじゃないかな。他の多くの影響と同じように、明白というよりはもっと微かで無意識的な影響だと思うけれど。

メモリー・テープスやグラッサー、エル・グインチョなどリミキサーとしても活躍してますね。あなたによって良いリミックスとはどんなものでしょうか?

エリック:僕にとってのいいリミックスの定義は、「聴いたときにまったく新しいバンドみたいに聴こえる」っていうこと。個人的にお気に入りのリミックスはオ・ルヴォワール・シモーヌのやつだね。聴いてみると、誰かのリミックスじゃなくて新しいアーティストの作品みたいに聴こえるんだ。

ニッキー・ミナージュ、ラナ・デル・レイ、M.I.A.の3人のなかでもっとも評価しているのは?

エリック:たぶん、M.I.Aだと思う。

マドンナの新曲"MDMA"は?

エリック:聴いたことないんだ。マドンナのスーパー・ボウルでのパフォーマンスは見たんだけど面白かったよ。

タンラインズは明白なまでにポップ・ソングを追求していると思いますが、良い音楽の定義とはなんだと考えますか? それはいまも昔も同じだと思いますか? 

エリック:良い音楽っていうのはつまり、誰かの人生にとって何らかの意味がある音楽のことじゃないかな。僕にとってもいくつか聴いただけですぐに僕の人生のある時期に戻ったような気分にさせるような曲があるけど、そういう曲はとても強力な力を持っているし音楽の持つ魔法を証明していると思う。

理想とするポップ・ミュージックとはどういうものでしょうか?

エリック:初めて聴いたときにすぐにいっしょに口ずさめる曲っていうのが良質なポップ・ミュージックだと思うよ。

Music of Yann Tomita - ele-king

 大阪・中崎町NOONで2009年より毎年恒例となっている(2010年にはサマーワークショップも同場所で開催)ヤン富田ライヴ『Music Of Yann Tommita』を今年も開催します。2009年から恒例となった大阪での電子音楽家:ヤン富田 コンサート。数えること今回で5回目を迎えます。
 大阪NOONならではの、4時間半から5時間にわたる充実したコンサートを是非お楽しみください。また、2009年に同場所で行なわれたライヴの様子は「YANN TOMITA A.S.L. SPACE AGENCY」と題したアート作品集にも収められている。

Music of Yann Tomita

2012-04-29 SUN. at.NOON
OPEN 18:00 START 19:00
前売り¥4,500 当日¥5,000
NOON 06-6373-4919 / MarginalRecords06-6541-0039
info@noon-web.com
https://shop.marginalrecords.net
2012 Audio Science Laboratory
チケット予約
info@noon-web.com
tuttle@marginalrecords.net

LIVE:ヤン富田
OPEN:18:00~
OPENING DJ :TUTTLE
18:30~THE SOUNDS OF AUDIO SCIENCE LABORATORY ARCHIVES
LIVE START:19:00

 ここ数年お手伝いさせて頂いて、個人的には私がいつも思うことはひとつです。「ヤン富田が実践する電子音楽が聴きたい」ということに尽きるのです。毎年ご来場くださるオーディエンスの方々もそういう意識だと思います。
 ここ数年で海外からも新旧含め、様々な電子音楽のレコードやCDが活発にリリースされるようになりました。日頃その海外からの音源を聴くことが仕事柄増え、扱うことも多くなりましたが、90年代から一貫して感じるヤン富田さんの行う「電子音楽」とは印象が違います。そこには60年代から氏が聴いてこられ、体感された膨大な音源の蓄積と経験、さらにアシッド・カルチャーやエキゾチック、モンド・ミュージック、80年代初期のHIPHOPの衝動も的確に捉えた希有な人物像から生まれる寛容性をもって、無邪気、意識的に創造するという領域に勇気をもって、踏み込んでいく姿が投影されていると感じるからなのです。人から与えられたスタイル、様式に自分を誤魔化して参加するのは簡単だし、ある種の逃避でもあり、安堵感もある。だが、普通に暮らしても先の見えない時代に突入したいま、そのような行動は新たな表現、考え方を模索しようと気付いている人達には必要ありません。ここに到底追いつけない、とんでもない先人がいます。されど氏の「電子音楽」にはいつも魅了され、勇気をもらうのです。   
 いや本当になかなかありませんから。
 おかげ様で今回5回目の公演となります。アカデミックな領域を軽く飛び越えた圧倒的なヤン富田の個性溢れるLIVEを堪能して下さい。
(MarginalRecords:DJ TUTTLE a.k.a.MarginalMan)


ヤン富田
 最先端の前衛音楽から誰もが口ずさめるポップ・ソングまでを包括する 希代の音楽家。音楽業界を中心に絶大なるフリークス(熱烈な支持者)を国内外に有す る。日本初のプロのスティール・ドラム奏者、日本で最初のヒップ・ホップ のプロデューサー、また音楽の研究機関、オーディオ・サイエンス・ラボを主宰する。近年(2006~8年)の作品として、書籍「フォーエバー・ヤン・ミュージック・ミーム 1」ヤン富田著(アスペクト刊)、そのサウンド・トラックとして「フォー エバー・ヤン・ミュージック・ミーム2」、国内外にカルトな人気を誇るDOOPEESの「ミュージック・ミーム3」、2007年には 「エビス・ザ・ホップ」CFでコーネリアスとの競演が話題となる。
  2008年には、CD, DVD, BOOK からなるセット『変奏集』、電子音楽の講義とその演奏からなるドキュメンタリー、『サマー・ワークショップ・電子音楽篇』(DVDx2+BOOK)がある。2009年11月には、お台場の日本科学未来館に於いて「ヤン富田・コンサート」が開催された。また2009年冬期から2011年の展開として、アート作品集「YANN TOMITA A.S.L. SPACE AGENCY」(写真集、エッセイ、ライヴ・ドキュメンタリーCDx2からなる書籍、宇宙服のパジャマ、T-シャツ、キャップ、トランク・ケース、以上 TOKYO CULTUART by BEAMS) がある。

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