「KING」と一致するもの

"In a Strangeland"はカーボンコピーではない。アンドレア・エンブロのドラミングは、深く突進する足音とパキっとしたエナジーとの特徴的な組み合わせである。ヴォーカルは死にものぐるいの声とカレン・Oとキム・ゴードンの溝を手玉に取る。"In a Strangeland"はイミテーションではなく、インスピレーションの結実である。 『Pitchfork』

ノーウェイヴがもしいまも生きているのなら、ブルックリンのデュオ、トーク・ノーマルがその目安となる。ドラマー、アンドレア・エンブロの驚くべきほど正確なパーカッション。ギタリストのサラ・レジスターは彼女のオノから不協和音ノイズとおぞましさを引き出す。 『Lost At E Minor』

トーク・ノーマルはライト級ではない。ダークでムーディで、リズミカルだ。しかしそれは我々が好んで耳にするようなフレンドリーな音ではない。 『Time Out New York』

芸術気取りの音楽が野蛮さへと奇妙に変換される進化の歴史がある。ニューヨークのふたり組、トーク・ノーマルはこのヘドロ状の葬送歌というブランドの耳を維持し続けている。それはもっとも素朴なやり方で完璧に実現しているのだ。 『The Fader』

 彼女たちの音楽の背後にはNYのノイズ・ロックの系譜が広がる。烈しいギターと声があり、他方ではまるでミュータント・ディスコを思わせるようなドライヴするビートもある。が、もっとも重要なことは、女性ふたりによるこのバンドの音楽が素晴らしくパワフルであるということだ。『ピッチ・フォーク』は彼女たちの音楽を「いまはヴェルヴェットの次元にまでは到達していないかもしれないが、将来そのぐらいの魔法を引き起こすことも可能であることを保証しよう」と評価する。

 今回のジャパン・ツアーは彼女たちだけではない。各公演における共演者たち――待望のアルバムのリリースを控えている七尾旅人、コラボレーション・アルバムを完成したばかりのiLL、同じくアルバムを発表したばかりのあふりらんぽのPIKA、空間現代とオオルタイチ等々にも注目して欲しい。

6/9 SHIBUYA O-NEST w/オオルタイチ、空間現代 他
open/18:30 start/19:00 ¥3500(tax in) ドリンク別
O-nest 03-3462-4420
6/13 京都METRO w/iLL、OUTATBERO 他
open/18:00 start/18:30 ¥3500(tax in) ドリンク別
METRO 075-752-2787
6/14 心斎橋FANDANGO w/iLL、太愛鼓(PIKA drum solo)
open/18:30 start/19:00 ¥3500(tax in) ドリンク別
FANDANGO 06-6308-1621 
6/15 新代田FEVER w/iLL, 七尾旅人
open/18:30 start/19:00 ¥3500(tax in) ドリンク別
FEVER 03-6304-7899
チケット e+ / ローソンチケット / チケットぴあ

interview with Talk Normal - ele-king

 ブルックリンのふたりの女は実験的なノイズ・ギターとドライヴするドラミングを容赦なくぶちまける。ブルースの偉人、サン・ハウスの曲を残忍な都会の地響きへと変換する。ローリー・アンダーソンの芸術を絶え間ないフィードバックのなかに爆発させる。圧倒的にパワフルな音をかき鳴らす噂のトーク・ノーマルが突然来日することになった!


Talk Normal /
Sugarland

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 ティーンエイジ・ジーザス&ザ・ジャークスやソニック・ユース......とかくそれらの名前を引き合いに語られるトーク・ノーマルは、ドラマーのアンドレア・エンブロ(77ボア・ドラムに参加している)、そしてギターのサラ・レジスタ(マスタリング・エンジニアとしてのキャリアを持ち、ソニック・ユースの『ダーティ』をはじめ多くの作品に関わっている)のふたりからなる。昨年末にデビュー・アルバム『シュガーランド』を発表、これが都内の輸入盤店で評判となって、あっという間に売り切れている。今年に入ってからはCDRのみの発売だったシングル「シークレット・コグ」がヴァイナルとして発売され(1曲目がサン・ハウスのカヴァー)、これもまた話題となった。トーク・ノーマルはいま日本で流行の"ブルックリン系"と表象されるアーティでソフトなバンドと違って、鋭くやかましいバンドである。雑誌の表紙を飾るファッショナブルな男の子バンドの影に隠れながらも、しかしライヴハウスで力強い"音"を演奏しているふたりの女性によるバンドだ。その生の音をどうかこの機会に聴いて欲しいと思います。

トーク・ノーマルは、ローリー・アンダーソンが本で着ていたTシャツにインスパイアされたの。"Talk Normal"って書いてあったんだけど、サラがそれを組み立て直して、その単語をテープで冷蔵庫に貼ってあったの。

トーク・ノーマルのアルバム『シュガーランド』が出たとき、東京の輸入盤店で話題になって、わりと早く売り切れてしまったんですよ。知ってましたか?

アンドレア:とてもスィートね。

まずは、トーク・ノーマルの結成までの経緯を知りたいのですが、サラさんはすでにマスタリング・エンジニアとしてのキャリアがありますよね。

サラ:私はミュージシャンとしては、まだ4年ぐらいだけど、エンジニアは18歳のときからはじめたの。そう考えるとかなり長いわね。基本的にフリーランスだけど、いまでもスタジオでマスタリングをすることもあるわ。アンドレアもプロフェッショナル・エンジニアよ。

ふたりは、同じことをしているのですか。

サラ:いいえ、アンドレアは基本的にライヴ・サウンドやパフォーマンスに関連したことが中心。他にラジオなど、いろんなヴァラエティがあるわ。

例えばどんなところでやっているのですか?

アンドレア:私は長いあいだトニック(エレクトロ、アンビエント、ノイズなどNYの老舗ライヴハウス)でライヴ・サウンドを担当していたの。あと、バワリーボール・ルームとか。大きなビッグ・バンド、例えば、ミシェル・ンデゲオチェロ(R&B)、ダイアマンダ・ギャラス(アヴァンド・オペラ)や 最近はオ・ルヴォアール・シモーヌなど。ミシェル・ンデゲオチェロとは、2回日本にも行ったことがあるのよ。彼女は90年代の人でとてもナイスよ。

サラ:私は、ずっと音楽で何かやりたいと思って、エンジニアになってレコードを作りたいという、大きなアイディアがあったの。ミュージシャンかエンジニア、どちらもなりたかったんだけど、後になって、ミュージシャンになることにもなってよかったわ。

ふたりはどこであったのですか?

アンドレア:大学で、ふたりともNYU(ミュージック・テクノロジー科)に通っていたの。

同じクラスですか?

サラ:いいえ、私はエンジニア、彼女はパフォーマンスを勉強していたの。

トーク・ノーマルはどのようにスタートしたのですか。

サラ:アンドレアはAntonius Blockというバンドをやっていて、私はそのバンドが好きで、そこに加入することになったの。そのバンドが終わって、私たちは続けて練習をしたり、プレイしていたの。それがトーク・ノーマルになったの。

アメリカといえども、女性でエンジニアを目指すというのもまだまだ少数じゃないですか? 

サラ:そうは思わない。たぶん、多くはなってきているのかな。この仕事をやっているからかもしれないけど、私はまわりでいつも見ていると思う。

バンド名の由来は?

アンドレア:トーク・ノーマルは、サラが、ローリー・アンダーソンが本で着ていたTシャツにインスパイアされたの。"Talk Normal"って書いてあったんだけど、サラがそれを組み立て直して、その単語をテープで冷蔵庫に貼ってあったの。その単語は私のなかでも成長していって。バンドに名前が必要になったとき、これを使うのは自然なことだったの。

 

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私はこの"トライバル"という言葉に対して、何か平和なものを見つけたいけど、その用語に対しては憤慨している。なぜなら、私はロック・シンコペーションがプレイできるけど、あえて選んでいない。

最初からふたりでやろうと思ったんですか?

アンドレア:私たちは、よく誰かとプレイしているわ。この前のアルバムは3人だった......? いいえ、ふたりね。レコーディングでは、友だちなどゲストミュージシャンを招いて、ベースやいろんなサウンドを加えていっているの。新しい曲はベースやサックスや他の音が入ったりしているわ。7月の末にソニック・ユースとプロスペクト・パークでショーをするんだけど、このときは何人かと一緒に音を組み立てていってプレイしたいと思っているの。

なぜデュオ・バンドが最近増えたと思いますか?

アンドレア::簡単にバンドが組めるからかな? じゃあ、一緒にプレイしようか、とか。でも、ふたりだけで音の隙間を埋めるのは簡単じゃないと思うけど。この形態は最近はじまったことじゃないし、日本のルインズといちど一緒にショーをしたことがあるんだけどすごいと思う。あと、ミック・バーとかね。

トーク・ノーマルの音楽を手短に言うならば、ノイズとトライバル・ビートだと思うんですけど、いかがでしょう?

アンドレア:OK、じゃあトライバルについて話そう。

サラ:たまに言われることがあるんだけど、トライバル・ビートという意味がいまいちわからない。私たちの典型的なドラムセットは、スネアドラム、そんなにシンバルを使わないけど、それがトライバルなビートかしら、それよりシンコペーションを使うと思うけど。

ちなみにックンロールの8ビートにある種の違和感のようなものがあるんでしょうか?

アンドレア:すでに自分は長いあいだやっているけど、とくにドラムプレイに関しては、伝統的でないアプローチにいく傾向があるの。はっきりしていないことをするのは、クリエイターとしての自分にとっていつでも重要なことよ。"トライバル"という言葉に関しては、ドラマーとしての女性に、より一般的に投げられる言葉で問題もあるわよね。彼女たちが、キック、スネア、ハイハット、シンコペーションを少なく、タムを中心としたビートを選ぶからかしら。私はこの"トライバル"という言葉に対して、何か平和なものを見つけたいけど、その用語に対しては憤慨している。なぜなら、私はロック・シンコペーションがプレイできるけど、あえて選んでいない。たんに女性のドラマーの、大きな分類にひとまとめにされている。これが"ダンサブル"や"地球の"という意味なら受け入れるけど......、でもこれが人びとをダンスさせるかしら。たぶん、これはダンスという意志ではなく文脈ね。少なくとも私たちトーク・ノーマルは、私たちのアイディアの文脈を与えようとしている。

それではトーク・ノーマルの音楽をふたつの単語で表して下さい。

サラ:ノイズ&ポップ

アンドレア:ノイズ&ドライヴィン・ビート

ホント、すごいパワフルなノイズですよね。『シュガーランド』もヒリヒリしたノイズからはじまる。トーク・ノーマルのノイズはどこから来るんでしょう? あなたがたの感情から? 

アンドレア:みんなオリジナル・サウンドを作ろうとしているし、ノイズって言う音楽は人びとが毎日聴くような音楽じゃないわね。よりレアで、魅力的で、エッジなサウンドだと思う。

リディア・ランチなどノーウェイヴからの影響はどの程度あるんですか?

サラ:そんなにないわ。

アンドレア:私たちの音楽が、ニューウェイヴから影響を受けているとは思わないけど、彼女の作った音楽が、私たちが好きな音楽だというのはわかる気がする。

ビキニ・キルのようなライオット・ガールからの影響はありますか?

アンドレア:名前は知っているけど、ビキニ・キルはほとんど聴いたことがない。

サラ:私はまったく聴いたことがないの。でもいつかは聴いてみたいわ。

トークノーマルはどのような音楽に影響を受けているのですか?

サラ:自分の聴く音楽すべてに影響を受けていると思うのだけど、私の音楽の趣味の範囲はとても広いの。この仕事(エンジニア)をしているからもしれないし、すべてのことに興味があるからかもしれないけど、ほとんど何でも聴くわ。トップ40から、ビヨンセにもインスパイアされるし、スモール・バンドまで、点数を付けたりもしないし。私はたんに音楽が大好きなの。

では、最近好きなバンドはいますか?

サラ:この質問はアンドレアが担当ね。彼女はリストを持っているの。

アンドレア:Air Waves、PC Worship、Future Islands、US Girls、MNDR、 Zola Jesus、Rainbow Arabia、Antimagic、Jana Hunter、Coldcave、Real Estate、Xeno & Oaklander、Wet Dog、Explode Into Colors、3rd Law、 Golden Grrls、Peepholes、Trash Kit、tuneyards......。

サラ:このあいだ、アザー・ミュージックの横に出来た新しい会場(Annex)でマーサ・ウェインライトと共演したんだけど、普通にしていたら遭遇しなかったかもしれないけど、すべての瞬間がとても良かったわ。

トーク・ノーマルには政治的なところ、いわゆるフェミニズム的なところはありますか?

アンドレア:フェミニズムはないわね。

サラ:政治的に大きなメッセージがあるとしたら、たぶん来年ね(笑)。

 

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女の子はいつも真剣に実験音楽を作っていたと思う。ただ、いままで露出がなかったから、気にもされなかったんだと思う。

なんか最近のブルックリンのバンドを聴いていると、アニマル・コレクティヴやMGMT、ヴァンパイア・ウィークエンドのような男の子のバンドがソフトになって、トーク・ノーマルのような女性のバンドがアグレッシヴになっているような......というのは早とちりですかね?

サラ:ハハハハ。

アンドレア:それは面白い意見ね。私は、これらのバンド(アニマル・コレクティヴやMGMT、ヴァンパイア・ウィークエンド)と同じレヴェルにいるとも思っていないんだけど。

これは日本から見た意見ですが......。

アンドレア:日本の人たちが、こういう風に思っているならとてもワイルドね(笑)。ただ、アグレッシヴな音楽をやっている男の子のバンドもたくさんいるし、ソフトな音楽をやっている女の子のバンドもたくさんいるわよ。

ちなみにアニマル・コレクティヴ、MGMT、ヴァンパイア・ウィークエンドの3つのなかで好きなバンドはいますか?

サラ:聴いたことがあるのは、MGMTかな。アニマル・コレクティヴは是非、聴いてみたいわね。

アンドレア:アニマル・コレクティヴは好きよ。

じゃあ、パティ・スミスとコートニー・ラヴとではどっちが好きですか?

サラ:どちらも平等に好きよ。違った角度で。

アンドレア:インスパイアという意味ではパティ・スミスだけどね。

昨年、〈Not Not Fun Records〉が女性バンドばかりを集めた『My Estrogeneration』というコンピレーションを出しましたよね。トーク・ノーマルも"Warrior"を提供してましたが、ああいうコンピを聴いていると、実験的な音楽をやる女性バンド(USガールズ、サン・アロウ、ポカハウティッドとか)がどんどん増えてきているんじゃないかと思うんですけど、どうです?

サラ:単純な話、たくさんの女の子バンドがノイジーな音楽を作っているわ。でもそれが男の子バンドよりも多いかどうかはわからない。

アンドレア:女の子はいつも真剣に実験音楽を作っていたと思う。ただいままで大量の露出がなかったから、気にもされなかったんだと思う。おかしいのは、人びとがすべての女の子をひとつのプールに放り込んで、彼女たちが勝手に自分の好きなように泳いでいるのが良いみたいに言うの。この分類や区別には気をつけたいと思う。新しいことを盛り上げようとするのはわかるけど、それが本当にあるのかないのか......。個人的に、レコードは、男性中心、男女混合のものを、女性中心のものと同じぐらい見るわ。

この10年でUSのインディ・ロックはどのように変化したと思いますか?

サラ:たぶん人びとはいろんな方向に向かっていると思う。よりたくさんのジャンルができたし、たくさんのレーベルがあるけど、オリジナルなレーベルはなくなったわね。何でもピック・アップするようになったし。本当の意味でメジャー・レーベルもなくなったし。バンドはあまりツアーをしなくなってきたわね。やっぱりインターネットの影響は大きいわね。

 

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希望をなくした、特定の感情からインスパイアされている。私は"戦う曲"が書きたくて、怒りに乾杯し、モチベーションを動かすつもり。

トーク・ノーマルの言葉について話を訊きたいのですが、歌詞の面では誰の影響を受けたんですか?

サラ:違う方向からいろいろね。すべてが断片的で、私とアンドレア、両方が何かを持って来て、それを組み合わせていく。でき上がったものをまた、いろいろ変えてみたり......。

"Hot Song"や"In A Strangeland"のような曲、あるいは"Warrior"のような曲にもパンキッシュというか、ものすごい熱を感じるのですが、歌詞はどんなことをテーマにしているのですか?

サラ:"Hot Song"はね、私たちが練習をしている場所の近所に、たくさん子供がいるんだけど。この曲では、子供たちにスマイルを与えることはできなかったということがテーマ。子供は子供、違う文化だからね。

アンドレア:"In A Strangeland"は、20世紀の作家、ジェイムズ・ボールドウィンの小説『もう一つの国』からの影響よ、とてもエナジーを受けている。

サラ:"Warrior"は、何か具体的なことをしたいと思っていて、自分たちを強く、エキサイトさせようとしていたのね。

"Warrior"はまた狂った曲ですが、あの曲の狂おしさはどっか来ているのですか?

アンドレア:クレイジーさはすべて私たちのなかにあるの。PILのジョニー・ライドンは、自由なヴォーカル表現に特定の焦点があったわ。歌詞は、希望をなくした、特定の感情からインスパイアされている。私は"戦う曲"が書きたくて、怒りに乾杯し、モチベーションを動かすつもり。

"Uniforms"みたいな曲には社会風刺が込められているんじゃないですか?

アンドレア:いいえ、たぶんどこかのラインに"政治的な"ことが含まれているのかもしれないけど、全体的の曲の意志は、政治的でなく、むしろただたんに、社会的、政治的、個人的ないらだちなどの、心の底からの確信したリストなの。

"Transmission Lost"が大好きなんですが、あの曲の主題を教えてください。

アンドレア:さっきも言ったように、このテーマは、サラが見た霞んでいる夢から来ているの。彼女が選んだこの言葉は、夢をとても美しく描写し、曲のすべてだと思うし、その後、私たちでいくつかの言葉を当てはめていったの。最初にサラが、まどろみから覚め、夢を書き留められないぐらい、長く待ったように、ゆるいコンセプトが、そのメモリーをフェイドアウトさせるのでなく、より明確に待っていたことを発展させたの。

『シュガーランド』というアルバム・タイトルは何を意味していますか? 

アンドレア:"シュガーランド"という言葉には、いろんな意味があって、元々は"Transmission Lost"の歌詞からとったの。歌詞がタイトルにあれば賢いし、ファンが自分の方法で見つけたら、より面白いと思ったの。この歌詞には、"ドリームランド"という詩的なテーマがあって、さっきも言ったようにサラが見た夢にインスパイアされているの。彼女のドリームランドだけは、本当にどこかにあって、"Transmission Lost"にあるドリームランドは、より曖昧な意味なの。そして"シュガーランド"という単語は、トニ・モリソンの本『ソロモンの歌』から引用したの。彼女は本の中で、詩的に"シュガーマン"という言葉をよく使っていて、私はいつも彼女の文章に、詩的なものを感じていたし、彼女の文章を口ずさむようになったの。あとはたんに"Sugarland"という言葉が好きだったの。シンプルで定番で、ちょっと遊び心もあって......。みんなはトーク・ノーマルを激しいサウンドと見ているだろうけど、これが私たち自身を表すと考えているの。

ゆらゆら帝国がお好きだそうですね。残念ながら彼らは解散してしまいましたが。

アンドレア:彼らがアメリカツアーをしたときにいちどサウンドを担当したことがあるの。サイケデリックでとても良いわよね。

1曲誰かのカヴァーをやるとしたら何をやりたいですか?

アンドレア:デペッシュ・モードなら何でも。あとは......The Ampsかな。

オールタイム・トップ・5のアルバムを挙げてください。

サラアンドレア:ロキシー・ミュージック『フォー・ユア・プレジャー』、ザ・クリーチャーズ『フィースト』、ローリー・アンダーソン『ビッグ・サイエンス』、デペッシュ・モード『ソングス・オブ・フェイス・アンド・デヴォーション』、カニエ・ウェスト『808's & ハートブレイク』、ロバート・フラック『ファースト・テイクス』、ブライアン・イーノ『テイキング・タイガー・マウンテン』......他にもたくさんあるけど。

それじゃ、日本で会えるのを楽しみにしています。最後にこれを読んでいるリスナーにメッセージをお願いします!

アンドレア:日本に行くのはとても楽しみ。この機会を頂けたのはとても光栄なことね。

サラ:とにかくエキサイト。待ちきれないわ。

 

interview with The XX - ele-king

 長身のオリヴァーは紳士的に軽く会釈して、ロミーはまるで蝋人形のように無表情で、そしてジェイミーときたら......。無理もない。昨年、20歳そこそこの新人でありながら最高の賛辞を集めたUKのバンドの初来日だ。次から次へと取材をこなし、疲れているのだろう。正直、こっちも申し訳ない気持ちになってくる。

ニューヨークにくらべてロンドンが憂鬱な街だとは思わないけど、聴いてきた音楽の影響は間違いなくあるわね。私は憂鬱な人間じゃないけど、好きな音楽は悲しい音楽だったわ。

■お疲れのところ時間を作ってもらってありがとうございます。

一同:......。

■そういえば、「アイランズ」のリミックス・シングルが出てますよね。とても興味深いリミキサーを4人起用してますが、とくにロンドンのダブステッパー、アントールド、ロサンジェルスのトラックメイカー、ノサジ・シングのふたりの起用が良いですね。とくにアントールドは良かった。

オリヴァー:リミキサーって、いままでは旬のアーティストのなかからみんなで選んでいるんだけど、アントールドに関しては実はアントワープで彼のDJを聴いて、すごく面白いと思ったんだよね。

■バンドの好みで言うと、誰がいちばん良かったですか?

ロミー:ノサジ・シングよね。

オリヴァー:彼とはアメリカで1ヶ月ぐらい一緒にツアーをまわったんだよ。それですっかり仲良くなったんだ。それもあってお願いしたら、素晴らしいリミックスを上げてきてくれた。

■ジェイミーは?

ジェイミー:(小さな声で)僕はみんなと同じ意見。


The XX / The XX
Young Turks /Hostess

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 ザ・XXのデビュー・アルバム『XX』(これをチョメチョメって読んだ人はすごい)は、いま僕の言葉で簡潔に表すなら「ダブステップ以降のポップ・ミュージック」である。「ブリアル以降」、と言い換えても良い。セカンド・サマー・オブ・ラヴ以降の『スクリーマデリカ』のように......、が、しかし『XX』は『スクリーマデリカ』と違って、まばゆい陽光よりも真っ黒な闇の光沢を選んでいる。

■みんな黒が好きですね。今日のみなさんの服装も黒だし(ジェイミーのキャップも黒だった)、作品のアートワークも黒です。黒、夜......あなたがたのこういった感覚は3人に共通するものなんでしょうか?

オリヴァー:これだけ長く一緒にいると(彼らは幼なじみでもある)、着ている服も似てくるんだよ(笑)。意識していたわけじゃないけどね。アートワークの黒は、タイムレスな感覚、普遍性のようなものを表しているんだ。特定の何かを表現するものにしたくなかったし、黒はいつの時代でもクールでしょ。

■ザ・XXの音楽が夜の音楽だから黒ってわけじゃないんだ?

オリヴァー:アルバムのアートワークに入っている写真もぜんぶ自分たちの作品なんだけど、それら写真にしても黒いカヴァーにしても、すべては自分たちの音楽を聴いて出てきたものなんだよね。だから、すべては音楽に密接している。

ロミー:そう、写真は意外と明るい色も使っているわよね。だけど、夜の影響は間違いなくあるわ。実際に曲作りをしているのも夜だし、夜の要素は入ってきて、それが黒にも繋がっていると思うわ。

■みなさんがアルバムのなかで好きな曲は何ですか? 僕は"シェルター"がいちばん好きなんですが。

オリヴァー:聴いて好きなのは"スターズ"だね。これは16歳のときに書いた曲なんだけど、いまでも恥ずかしくない。いまでもこのときの気持ちがある。ライヴで演奏する曲で好きなのは、"シェルター"だね。

ロミー:私は"シェルター"が好きよ。もともと自分が作ったデモがあって、ずっと忘れられて、そのなかに埋もれていた曲なの。それを見つけてオリヴァーと何としようとカタチにした。個人的にも思い入れがある曲なの。ライヴでやるのが好きなのは、"ナイト・タイム"。あの動きがある感じがライヴでは良いのよ。

ジェイミー:曲の構成では"ナイト・タイム"かな。プロダクションという意味では、"ハート・スキップド・ア・ビート"だね。ライヴで好きなのは......、"シェルター"だね。

■ブリアル、マッシヴ・アタック、ポーティスヘッド......。

オリヴァー:いまキミは僕らが本当に好きなバンドを3つ挙げたよ(笑)。

■ハハハハ。こうしたメランコリアへの共感について話してもらえますか?

オリヴァー:ブリアルは素晴らしい。彼の音楽を聴き込んでいると、なんて美しい世界なんだろうと驚くんだ。さりげない美しさというかね。マッシヴ・アタックとポーティスヘッドに関しては、デビューしてから一貫して質の高い音楽を作っている。大好きだ。

■ちなみにマッシヴ・アタックではどのアルバムが好きですか?

オリヴァー:僕らはiTuen世代だから曲単位でしか聴いてないだけど......、曲で言えば"プロテクション"だね。

ロミー:"エンジェル"も最高だわ。

オリヴァー:"ガール・アイ・ラヴ・ユー"もね。あの歌を歌っている男性の歌手が、ホントにあり得ない美しというか......、女性的な声で......あれ誰が歌っていたんだっけ?

■ホレス・アンディですよ。素晴らしいですよね。で、ジェイミー?

ジェイミー:......んー......"プロテクション"かな。

■ああいうメランコリーはUK特有のものだと思うんですけど。

オリヴァー:気候のせいだよ(笑)。

■ハハハハ。

オリヴァー:そこしか知らないからね。他の国に住んだことないし。

ロミー:ニューヨークにくらべてロンドンが憂鬱な街だとは思わないけど、聴いてきた音楽の影響は間違いなくあるわね。私は憂鬱な人間じゃないけど、好きな音楽は悲しい音楽だったわ。

■悲しい音楽を楽しむというのは、どういうものなんでしょうね?

オリヴァー:強いエモーションを聴くということだと思う。悲しみというのは烈しく感情を揺さぶるでしょ。

ロミー:音楽的なところにもその悲しみがあるわけよね。たとえばダンス・ミュージックで、アップリフティングな曲調でも歌詞は悲しいうのが私たちは好きなんだと思う。その対極的なものがひとつの曲のなかにあるというか。

■ダブステップはよく聴く?

オリヴァーロミー:ジェイミー!

ジェイミー:最近はダブステップはもうあまり聴かないんだよね。ダブステップから発展した曲をよく聴くんだよ。UKファンキーや、あるいは僕らのリミックスをやってくれている人たちとか。

■みなさんクラブに遊びに行くような感じじゃないでしょ?

ロミー:彼(ジェイミー)がクラブ担当なので(笑)。

ジェイミー:イギリスに戻ったらなるべくクラブに行くんだ。そして、UKの最新の音楽を聴くことにしているよ。

■歌詞について聴きたいんですけど、言葉の面で影響受けた人はいますか?

ロミー:言葉は......多くの場合、他の音楽の歌詞からの影響が大きいわ。詩を読むのも本を読むのも好きだけど、文学からの影響と言うよりは歌詞からの影響ね。たとえばスティーヴィー・ニックスの作る歌詞であるとか、いろいろよね。

オリヴァー:僕は......ローリン・ヒルの"エックス・ファクター"の歌詞が大好きなんだ。

■音楽がなしうる最高のことって何だと思いますか?

オリヴァー:エスケーピズムはそのひとつだろうね。

ロミー:ムードを変えることだと思うわ。気持ちを変えるのよ。そして音楽を聴いていると現実を忘れることができるわ。しかも音楽を聴いていると、自分の人生を反芻するのよ。音楽のそんなところが好きだわ。

 翌日、ジェイミーはDOMMUNEでDJをやった。これがホントに格好良い選曲で、ガラージやファンキーを交えながら、ピンチの"ゲット・アップ"やフォー・テットの"シング"など、たしかにダブステップから発展した音を彼はスピンした。彼のDJが終わったときに、ブースまで言って「ナイスDJ!」と握手を求めるとジェイミーは初めて笑顔を見せた......のである。

 

1. Moody aka Moodymann / Ol' Dirty Vinyl | KDJ

E王 1990年代後半にムーディーマンやセオ・パリッシュらによって押し広げられたテンポ・ダウンされたハウス・ビート。そのキックとキックの「間」には漆黒のサイケデリックが埋め込まれているかのようで、我々を排水溝に吸い込まれていく水のようにゆっくりと別の場所へと連れて行く。ザラついたサンプル同士が交錯し、幻聴のような効果を生む彼らのトラックは実験的でもあるのだけど、それ以上に官能的で、セオの霞がかかったような半覚醒状態のトロけ具合は本当に素晴らしいと思うし、ムーディーマンに至ってはエロとサイケは同義語みたいなものだろう。

 そういえば今年の3月にロンドンでおこなわれた〈Red Bull Music Academy〉のトークショーに登場したムーディーマンことケニー・ディクソン・ジュニアは、まわりにはべらせたセクシーな黒人女性たちにヘアー・セットをさせたり、酒を作らせつつ「マザ・ファッキン!」を連発しながら喋りまくり、勝新的俺流な時空のネジれを発生させていた。しかし、何だったのだろうアレは......。

 そしてムーディーマン(Moody名義)の新作「Ol'dirty Vinyl」は、その濃度にむせるようなジャケット・ワークに包まれて届けられた。内容はいつも以上にヴァラエティに富んでいて、タイトル曲の"Ol'dirty Vinyl"などは珍しく爽やかな雰囲気もありつつ「気分がいいと思ったらいつの間にかあの世だった」というような感じだし、"We Don't Care"はKDJ自身のVoがのるジャズ・ナンバーで、"No Feed Back"は歪みまくったギターがのたうつKDJ流ブラック・ロック。そして、彼らしいセクシーなハウス"It's 2 Late 4 U And Me"の後には、混沌とした電子音楽" Hacker"が待っているという具合だ。

 ある意味、寄せ集め的な作品集なのだけど、最近それなりに洗練されていく傾向をみせていたことに若干不満を感じていた僕のような人間からしたら、この自由度の高い錯綜ぶりは大歓迎だ。さぁ我々をエロとサイケの奈落の一番深いところまで連れて行ってくれよ、KDJ。

2. Missing Linkx / Got A Minute | Philpot

 オールドスクールなシカゴのエッセンスやアレやらコレやらをデトロイトのフィルターを通して再定義した俗に言うビートダウンの種子は様々な場所へと伝搬し、そのBPMと同様にゆっくりと、しかし確実にそれぞれの場所で独自の発展を遂げている。ドイツのソウルフィクション(Soulphiction)、モーター・シティ・ドラム・アンサンブル(Motor City Drum Ensemble)、ニューワールドアクアリウム(newworldaquarium)、イギリスのトラスミー(Trus'me)やロシアのヴァクラ(Vakula)(UKの〈Firecracker〉からリリースされるシングルが素晴らしい)などなど、エトセトラエトセトラ。ようするに国境を越え、それぞれがあちらこちらの地下で重心低めのディープなリズムを響かせているというわけだ。

 そしてその影響力は巡り巡って、昨年ひっそりとリリースされた日本のモンゴイカ a.k.a. T.Contsuの12インチにまで及んでいたりもする。モンゴイカ(戸田真樹)とは、ヒップホップ・ユニットの降神をはじめとした〈Temple ATS〉のアートワークを手掛ける画家でありトラックメーカー。その彼が、自身の〈Close Eye Recordings〉から出した「KIMI EP」のローファイでスモーキーな4つ打ちには、やはり何処か日本的な叙情と孤独が忍び込んでいて、その事実がとても面白く思う。

 このようにデトロイト・ビートダウンが拡散し、かつ各エリアで様々なヴァリエーションを見せるなかで、ドイツのSoulphiction及び彼の主宰するレーベル〈フィルポット〉は、もはやフォロワーという域を越えた存在になりつつある。ソウルフィクション(Michel Baumann)のアナザー・プロジェクトであるというミッシング・リンクスの前作「Who to Call」に収録さていれた"a Short History of..."は、強烈なバネをもった美しい野獣のようなファンクだったし、この新作の「Got A Minute」も削ぎ落とされた筋肉のようなビートが脈打っている。

 ドイツから放たれたこれらの音は、本家とはまた異なる種類の緊張感を漂わせ、非常にシンプルでタイトだ。黒人音楽をサンプリングしてそれっぽく仕上げただけのフォロワーも多いけれど、リスペクトとコピーは別ものだし、ときにはリスペクトなんて言葉は忘れるべき。

3. G.I.O.N. / Echoes of Our Minds Pt.1 | Human Race Nation

 ちょっと手前味噌なのだけど、僕がリミキサーとして参加した作品を紹介させていただきたい。HUMAN RACE NATION(以下HRN)から出たG.I.O.N.の「Echoes of Our Minds Pt.1」がそれだ。言うまでもなく、デトロイトから影響を受けつつ、そこから受け取ったものを独自に展開し活動している者は日本にも存在する。音楽ユニットG.I.O.N.として硬派なミニマリズムを追求するフジサワ・アツシとコシ・シュウヘイによるHRNもそのひとつ。

 HRNは長野で活動しながらもドイツ経由でワールドワイドにヴァイナルをリリースするという、ローカリズムとグローバリズムを兼ね備えた日本では非常に希有なレーベルである。 今まで彼らは地元長野でデトロイトやドイツを中心としたアーティストを迎えたパーティーを行い、地道にコネクションを築いてきた。それは2007年のシングルでのフランク・ムラー、本作における元UR、ロス・ヘルマノスのメンバーのDJ S2ことサンティアゴ・サラザール、そして次のリリースでのDJ3000とレニー・フォスターのリミキサー起用にも繋がっている。一方そこにトラックス・ボーイズや岩城健太郎、d.v.dとしても活動するJimanicaや僕などの国内リミキサーも混ぜることにより、既出の4枚のヴァイナルはちょっとした異文化交流の機能も果たしてもいる。

 「Echoes of Our Minds Pt.1」は昨年末にヨーロッパでリリースされ、G.I.O.N.のオリジナル、DJ S2 REMIX、僕の手掛けたREMIXそれぞれが、ベルリンのBerghainのレジデントDJであるMarcel Dettmannや、フランスの Syncrophone(Theo ParrishとかAnthony Shakirのリミックス盤を出している)のオーナーDidier Allyneらのチャートに入るなど高い評価をもらった。しかし、ヨーロッパで品薄となり、日本には極少数しか入荷されない状態で残念だったのだが、近々ディストリビューターを変えて再リリースされるとのこと(そんな理由もあり、出てから少し時間が経っている本作を敢えて紹介させてもらった)。そして間もなく「Echoes of Our Minds Pt.2」の方も出るようだ。

 彼らとは今後も諸々関わっていく予定で、実際に現在進行中のプロジェクトもある。そういえば僕と彼らの最初の接点はというと、確かmixiのデリック・メイのコミュに僕がパーティの告知を書き込んだのを、HRNのフジサワくんが見てコンタクトをとって来たのがそもそもの始まりであった。ここはmixiとデリックに感謝するべきなのだろう。

4. Don Williams / Detroit Blue Ep | A.R.T.Less

 〈A.R.T.〉〈B12〉に〈ラッシュ・アワー〉、〈プラネットE〉と、このところAS ONEことカーク・ディジョージオがリリース・ラッシュである。同じく90年初頭のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノを代表するアーティスト、B12が同名のレーベルを一足先にリスタートさせたのに続き、カークもかつて自身が運営していたA.R.T.を復活させたりと、何だかこの辺り盛り上がっている模様。一時期〈モワックス〉などでリリースしていた生ドラム再構築モノは封印し、完全にテクノ/ハウスへ舵を切っているものの、音自体は〈A.R.T.〉の頃の音というよりも、疾走するリズム+エレガントな上モノのコンビネーションの、昨今割りとよくあるデトロイト・フレイヴァーのテック・ハウスという感じのものが主だったりする。

 そんななか、ドイツの良質なディープ・ハウスレーベル〈Mojuba〉のサブ・レーベルである〈a.r.t.less〉は、その〈A.R.T.〉とカール・クレイグの名曲"At Les"を掛け合わせたような名前からもわるように、恥ずかしいほどの初期デトロイトへの愛が丸出し状態だ。更にオーナーであるドン・ウィリアムス自身の「Detroit Black EP」からはじまる黒、赤、青のデトロイト三部作は、モロに初期〈トランスマット〉。とくに青盤は初期のカール・クレイグ、ひいてはインテリジェント・テクノであり、もうところ構わず「好きだ~!」と叫んでいるような1枚。

 思えば当時のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノというのは、結局のところ初期のカール・クレイグのサウンドのコピーだった。例えばデリック・メイのラテンにも通じるようなバウンドするリズム感ではなく、それは 69名義で豪快な実験を繰り広げる以前のカール・クレイグ、ようするにPsyche名義での"Elements"や""Neurotic Behavior"などの音を指す。孤独で繊細で壊れやすく、思わず「詩的」なんていう恥ずかしい言葉がまるで恥ずかしいと思わなくなる程に、それは魅惑的な青白い輝きを放っていた。そう、色で言うとデリック・メイは赤で、カール・クレイグは青だ。

 それにしても、このドン・ウィリアムスの「Detroit Blue Ep」は、何だかこちらが赤面するくらいの青臭さに満ちていて、これをどう評価するべきなのか正直僕にはわらない。しかし、カール・クレイグがPsycheで描いた音世界は、当の本人でさえもう作れない類いのものだと思うし、結局その後放置されたままになっているのもたしか。その先の音が知りたい。

5. DJ Nature / Necessary Ruffness EP | Jazzy Sport

  DJ ネイチャーことマイルス・ジョンソン。またの名をDJ MILO。ネリー・フーパー、ダディー・G、3D、マッシュルームが在籍していたブリストルのDJチーム、ワイルド・バンチの中心人物である。82年から86年まで活動したこの伝説的DJチームは、その後のUKサウンドの核、つまりパンク~ニューウェヴの残響とレゲエのサウンドシステムとヒップホップの接点を体現した存在であり、解散後、ネリー・フーパーはSOUL II SOULを、そしてダディー・G、3D、マッシュルームはマッシヴ・アタックとして活動することとなる。一方のMILOはUKの喧噪と離れ、ニューヨークのハーレムで黙々と音を紡ぐこととなるのだが、それはなかなか世に出ることはなかった。しかし、元ワイルド・バンチという伝説に彼を閉じ込めるべきではないし、実際に彼の音楽はブリストルで得たものを更なる深みに向けて解き放ったものである。

 そして今年、彼の12インチが日本の〈ジャジースポート〉から届けられた。この「Necessary Ruffness」と題されたヴァイナルに収録されたトラックは、いずれもディープ・ハウスよりもさらにディープでロウなハウスであり、そのくぐもった音質が独特の空間を生み出していて、それは意識しているのか無意識なのか、デトロイトのビートダウンやベルリンのシーンなどとも共振する類いのものになっている。そして、その音楽性は日本の〈DIMID〉から2003年にリリースされたMILOの初のアルバム『Suntoucher』(表記はDJ MIL'O)ですでに示されていた。

 ここで個人的な話しを少々。2004年に出た僕のS as in Soul.名義のアルバムは、元々は〈DIMID〉から2003年に出る予定だったのだが、途中でA&Rが独立することとなり、それに伴い1年後に〈Libyus Music〉の第一弾としてリリースされた。当時の〈DIMID〉~現〈Libyus Music〉の竹内君とS as in Soul.のリリースの打ち合わせしている時、このMILOのアルバムを出すべきかどうかを相談されて、僕は絶対出すべきだと答えたのを憶えている。そのことがどれだけの影響したのか知らないが、あのアルバムが世に出るキッカケを僅かでも与えることが出来たのならば、それは非常に光栄なことだ。

 僕としては、現在のマッシヴ・アタックよりもMILOの音のほうが遥かに魅力を感じるのだけれど、そんな比較など本人からしたら迷惑な話しでしかないだろう。この12インチの後に控えているというニュー・アルバムを楽しみに待つのみだ。

CHART by DISC SHOP ZERO 2010.05.14 - ele-king

Shop Chart


1

G.RINA

G.RINA DSZ - melody & riddim - お楽しみ企画 DSZ / JP / 2010.4.17 »COMMENT GET MUSIC
DISC SHOP ZERO開業17周年記念として制作した非売品7インチ。当店でお買い上げの方に差し上げております。1. Mashed Pieces - Do Me (Joker x G.Rina) / 2. Yellowmen - Working Hard Since 1975 (M.Kitten × G.Rina)

2

IKONIKA

IKONIKA CONTACT, LOVE, WANT, HAVE HYPERDUB / UK / 2010.4.16 »COMMENT GET MUSIC
8bitなシンセの感触とガラージ的ビート、そして太く柔らかいベースから生まれるセクシーなグルーヴ。最高!

3

VON D

VON D MISS MAUI / MOON ECLIPSE BLACK ACRE / UK / 2010.4.5 »COMMENT GET MUSIC
MISS MAUIを迎えた70年代ソウル~ジャズ・ファンク味もあるA面、WARRIOR QUEENを迎えたB面、どちらも強力!

4

UP, BUSTLE & OUT

UP, BUSTLE & OUT SOLILOQUY COLLISION / GE / 2010.4.16 »COMMENT GET MUSIC
ブリストル~メキシコ~キューバ~ジャマイカ~トルコ......など、これまでサウンドで世界各地を放浪してきた彼らの経験が全て溶け合わされた、ユラユラと陽炎のように漂う境界線上の音楽。

5

J:KENZO

J:KENZO TROPIC THUNDA / COUNTERACTION ARGON / US / 2010.4.1 »COMMENT GET MUSIC
ヒプノな感覚とトライバルなビートをミックスさせ、UKファンキーも通過したフューチャリスティックな密林グルーヴを披露。

6

CHASING SHADOWS / JAKES

CHASING SHADOWS / JAKES DREAM ON / BOOM BOOM BASS HENCH / UK / 2010.4.1 »COMMENT GET MUSIC
「DO YOU LIKE BASS?」というアジと「ブ~ンブ~ンブ~ン」という鼻歌から一気にパーカッシヴでハイテンションなビート&リズムの嵐に展開するビッグ・チューン!

7

LEWIS B

LEWIS B PINBALL SMOKING SESSIONS / UK / 2010.4.6 »COMMENT GET MUSIC
もはやジャジーではなくジャズをダブステップのフォーマットで展開した異色作。

8

JOSE JAMES

JOSE JAMES WARRIOR REMIXES BROWNSWOOD / UK / 2010.4.9 »COMMENT GET MUSIC
BENGAの名曲「EMOTIONS」カヴァーをSBTRKT、JUS ONE、ROCKWELLという気鋭がリミックス。

9

COW'P

COW'P BASS CHIP MIX PART2STYLE / JP / 2010.4.11 »COMMENT GET MUSIC
規リリースされていない8-bitチップ・チューンからレゲエ・テイストのものを厳選&自作ゲームボーイ・トラック+マッシュアップも多数収録の"ありそでなかった!DJ MIX。

10

JOKER

JOKER TRON KAPSIZE / UK / 2010.4.13 »COMMENT GET MUSIC
説明不要のブリストル期待の星。以前からダブプレートで話題になっていた曲を片面美麗エッチング(同名映画をモチーフに!)でリリース。

 5月に入り、ニューヨークは真夏模様になったり寒くなったりはっきりしない天気が続く。私は、カフェの近くにある公園、マカレン・パークでときどき運動をしている。エクササイズ・クラブというチームを組み、2人、4人、あるときはひとりで、時間があう人たちが集まってしたい運動をするという、健康的な集まりである。私はランニング、ストレッチ、バドミントンを専門にしている。この日はとても天気がよく、最高のエクササイズ・クラブ日和だった。日本とは違う種類だが、桜が満開で、ベンチに座っているおじいちゃんおばあちゃんが微笑ましい。週末はピクニックをする人、BBQをする人、読書をする人など、てんやわんやの人ごみになるのだが、エクササイズ・クラブはだいたい平日の昼間なので、人はそんなにいなく、運動するにはちょうど良い。

 i-Podを聴きながら、ランニングする人、ストレッチをする人、ドッチボールをするキッズなどを横目に見ながら、今日は5マイル、次は7マイルなど、どんどん距離を伸ばしていき、完走したときの爽快感に浸る。最高に良いショーをみた後の爽快感と似ている。一昨年までは、向かい側のマカレン・パーク・プール(プールといっても長年使われていない跡地)で、夏のフリー・コンサートが行われていた。MGMT、ヤーヤーヤーズ、ソニック・ユースなどたくさんのバンドがプレイして、毎週通っていたが、いまでは本当のプールに生まれ変わるべく建設中だ。

 こう書くと、なんて健康な日々を過ごしているのかと思われるが、実はほとんど毎日が夜遅くまで働き、ライヴハウス通い。先日は、〈パリ・ロンドン・ウエスト・ナイル〉というパフォーマンス・スペースのクロージング・パーティに朝の3時頃までいた。うちのカフェから2ブロック程先にある一角に、〈グラス・ランズ〉、〈ディス・バイ・オーディオ〉、〈ウエスト・ナイル〉という3つのライブハウスが並んでいる。そのなかの〈ノン・プロフィット・スペース〉と〈ウエスト・ナイル〉が、先日4/13に幕を閉じた。リースが切れたので、グリーン・ポイントに引っ越すのだそうだ。https://www.shinkoyo.com/parislondon/

Zeljko
〈ウエスト・ナイル〉のZeljko

 平日の夜だからといって、そんなに人はいないだろう、と思っていたのだが、なんと会場の前に人が溢れている。なかを覗くと、人ごみのなかで、エクスペリメンタルなロック・バンドがごりごりにパフォーマンスしている。そこで、この場所を仕切っているZeljkoを捕まえたので、インタヴューを慣行。

Ele-king: 今日でこの〈ウエスト・ナイル〉がクローズするそうですが。

Zeljko:そう、今日がラスト・ナイトなんだ。来てくれてありがとう。

Ele-king:まずは、この場所〈ウエスト・ナイル〉を紹介して下さい。

Z:ここはアーティストが住み、仕事をする、〈ノン・プロフィット・スペース〉。5~7人が集団が活躍している。〈ウエスト・ナイル〉は、2006年ぐらいにラフにはじまって、ここに引っ越して来たときは、バスルーム以外は壁も何もなかったんだ。コステス、トニー・コンラッド、ノウティカル・アルマナック、ライト・アサイラム、ブラック・パス、アキ・オンダ、ヴァンピリアなど数えきれないバンドがプレイしてきたよ。「https://www.shinkoyo.com/parislondon」からArchiveに行くとリストがみれるよ。

Ele-king:ショーはどれぐらいの割合でやっているのですか。

Z:だいたい1週間に1~2回、1ヶ月に1~2回の時もあるけど。ショーは口コミとeメール・リストのみ。

Ele-king:今日プレイしているバンドを紹介して下さい。

Z:スケルトンズ、ウィッシュ、ミラーゲイト、ザ・ガマット、フレディナイトライカー、ザ・ナスティズ。僕は、ウィッシュって、ヴォーカルありの、エピック・ダンス・ミュージックなバンドをやっているよ。アニマル・コレクティブをもっとダンシーにしたような感じ。スケルトンズとミラーゲートは友だちで、Shinkoyo(僕らのアートコレクティ))のパートナーでもある。ナスティズは、火曜日に公式に解散する前に、ここでラスト・ショーをして、ザ・ガマットは隣のグラスランズでサウンドを担当しているデリックのバンド。

Ele-king:次のスペースは、いままでと同じような活動をするつもりですか? 名前は同じですか? またいつ頃からはじめるのでしょうか?

Z:次はグリーン・ポイントに引っ越すんだけど、ここは住居兼でなく仕事場だけにしたい。次の場所は、〈ノース・ウエスト・ナイル〉とでも呼ぼうかと思っている。僕らには、コラボレート・グループがカリフォルニアのオークランドにもいて、同じようなことをやっている。彼らのスペースは〈イースト・ナイル〉っていうんだ。ショーは、5月ぐらいからやっていきたいね。

Ele-king:ウエブ・サイトには、「paris london france tokyo berlin texas los angeles georgia cleveland」とありますが、これが〈ウエスト・ナイル〉の正式な名前ですか?

Z:僕らは最初に〈パリ・ロンドン・ニューヨーク・ウエストナイル〉って付けたんだけど、ときどき別の都市の名前を適当に当てて遊んでた。ファッション・ブランドのフラッグ・シップ・ストアがある都市名を適当に並べて遊んでたんだけど、ブランド名はなくして、都市名だけにしたりとか。基本的にジョークで、僕らのスペースのフレキシブルさを表していると思う。

 

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 次の日はライアーズのショーへ。ニューヨークは〈バワリー・ボールルーム〉と〈ミュージック・ホール・オブ・ウィリアムスバーグ〉の2回の公演。今回は〈バワリー〉のほうへ行く。

ライアーズ
新作が話題のライアーズ

 ニュー・アルバム『Sister World』を引っさげてのツアーは、ソールド・アウト。ロスアンジェルスとプラハでレコーディングされたというこのアルバムは、前回までのライアーズのレコードと同様に、超現実的で恐ろしい雰囲気を醸し出しているが、それと当時にいまにも雷が落ちてきそうな、ダークで不思議なテンションのバランスを保っている。このテンションが、いかにもライアーズだ......とライヴを観てあらためて思った。

 決して張っちゃけ過ぎず、一歩寸前のぎりぎりのところを上手く綱渡りしている。ライヴ・セットも5人にパワーアップして、いつものように楽器を取り替えたり、オーディエンスとのキャッチボールもきちんとこなし、知的なエナジーに満ちあふれていた。後ろにいた女の子は、全部歌詞を覚えていてずっと一緒に歌っていた。

 『Sister World』が完成したと同時にアンガスもベルリンからLAに移り、3人が同じ都市に暮らすようになった。観客のなかには、元々ブルックリンでスタートした同じ仲間のバンド、ヤーヤーヤーズのメンバーもいた。LAとブルックリン、いまアメリカのインディ・シーンでいちばん気になるふたつの都市である。共演はどちらもFol Chenという、カリフォルニアのバンドで、US/ヨーロッパ・ツアーはずっとライアーズと一緒にツアーを回っている。メンバーのひとりは、ライアーズのサポートメンバーとしてプレイしていて、アンガスAとエアロンと一緒の学校に通っていたらしい。〈Asthmatic Kitty〉から作品を出している。

****

 カフェからベッドフォードアベニューを南に下がり、ブロードウェイを右に曲がると、『カプリシャス・マガジン』というフォト雑誌のスペース、ギャラリーがある。4月23に開かれたそのアート・オープニングに行ってきた。

 アンドリュー・ロウマンとニコラス・ゴットランドの〈スモーク・バス〉というショーで、日本でもよくショーをしている、アーティストのピーター・サザーランドがキュレーターを務めている。

 ギャラリー関係者や、ミュージシャン、アーティスト、うちのカフェのお客さんもたくさんいて、外もなかもわやわやしている。フロントとバックに部屋がふたつある、ゆったりしたギャラリー兼仕事スペースだ。この展示は、キャンプ、自然、探検がテーマで、フレッシュ・エア・ファンドという非営利団体のベネフィット・ショー。作品をひとつひとつに物語を思い浮かべ、どんな状況でこの写真が撮られて、ここに飾られるまでの過程を考えたり、リラックスした、開放感溢れる雰囲気に包まれていく。音楽もそうだが、アートで人の気持ちを動かす事ができるのは素晴らしい。こういう風に、音楽やアートをしっかり堪能し鑑賞できるような感覚を養っていきたい。

 

 5月5日、日本ではこどもの日だが、アメリカではCinco de mayo(シンコ・デ・マヨ)という、アメリカ人にもっとも良く知られている祝日である。スペイン語で「5月5日」の意味で、メキシコの祝日なのだが、メキシカンがたくさん住んでいるここアメリカでは、すでにアメリカの祭日になっている。メキシカン・ビール、テキーラ、サルサ、タコス、トルティーアなどを食べて飲んで、お祭り騒ぎをするのだが、私たち日本人や他の人種の人たちも、ここに住んでいると関係なくそれに便乗して、マルガリータなどを飲んでお祭り騒ぎをする。

ウィザード
ライトニング・ボルトのベースのブライアンのバンド、ウィザード
ハード・ニップス
日本人女性によるハード・ニップス!

Nobody can stop girls!

 ニューヨークにいると、アイルランドのセント・パトリックスディ、中国人の旧正月、ドイツ人のオクトーバー・フェストなど、いろんな民族の祝日をもれなく体験できる。ちょうどこの日は、ハード・ニップスのCDリリース・パーティで、チーズ・バーガー、ウィザード(ライトニングボルトのメンバー)、エイリアン・ホエール(USA イズ・ア・モンスター、タリバム!、ネッキングのメンバー)が共演。ハード・ニップスは、グリッター仕様のCDリリース・パーティという事もあり、ラメいっぱいの華やかなステージを披露した。

 かなり盛り上がっていたが、バンドが変わるごとに観客がごっそり変わり、それぞれのバンドの個性が面白かった。ウィザードは、ライトニング・ボルトのベースのブライアンのバンドで、このバンドではドラムを叩いている。かなり久しぶりのショーで、バンドも観客も大興奮。彼らもライトニング・ボルトと同じくフロアでプレイした。チーズ・バーガーは元々プロヴィデンスの3ピース・バンドだったのが、いまでは5人に増え、この日はオリジナル・メンバー、ヴォーカリストのJoeが飛び入り参加。このバンドは、ビール缶を投げるのがお決まりのようで、観客は容赦なくビール缶をステージに投げ、最後のほうでは、会場からさっさと電源を切られ追い出されていた。ここでもやはり「ハッピー・シンコ・デ・マヨ!!」と叫んでいた。

 

第3回 FULXUS - ele-king

終わりなき日常のフルクサス〈三〉
1984ヨーゼフ・ボイス〈二〉

 その日の夕方、水戸芸術館のヨーゼフ・ボイス展から妻の両親の家にもどった全員は食卓を囲んだ。毎回歓待を受けるので恐縮するのだが、この日もはやばやとテーブルにプレートがだされ、肉と野菜が並べられた。義母は、この年の女性がなべてそうであるように、「東京から来てクタビレタでしょう。ウフフフ」と笑いながら、一連の動作でビールの栓を抜き、私の前にあるコップになめらかに注ぐとテーブルの正面に座り、彼女の夫は私の左手で空をみあげるように新聞を開いていた。食卓にはザックリ切った野菜が入ったボールと、酒のアテは数種の漬け物と惣菜、妻の父が那珂湊から買ってきた肉厚に切られたマグロやタコの刺身があったが、この日はサイコロ状の鯨肉がメーンだった。
私は水戸駅の繁華でないほうのロータリーから妻の実家の方に向かう途中に鯨肉を食べさせる店がみえ、いつか入ってみたいその前を通るとき力強く宣言していたが、途中からそれをいうのはオヤクソクになっていた。水戸はアンコウ鍋が名物のはずだが、私はアンコウ鍋は食べたことがなく、「アンコウはじつにおもしろい。マジすごい」とおもにそのルックス面からアプローチしてきたが、鯨肉は給食でもでていたからおおよそ察しはつく。リュウグウノツカイとかトカゲギスとか、そこには深海魚は図鑑で見て楽しむものだという、たぶんジュール・ベルヌの『海底二万里』あたりから得た興味本位というか強化ガラス一枚を隔てて覗きみるような距離感があって、それをいえば鯨にだってメルヴィルの『白鯨』という忘れられない本があるが、『白鯨』には逆に移入した。といっても、主役である隻脚のエイハブと話者のイシュメルのどちらかではない。話のなかの彼らは当然役割を備えていたが、私はイシュメルの後ろにいてエイバブを観察するようでもあり、舳先から海原を眺めるエイバブの血眼になった眼を借りたようでもあった。モービー・ディックでさえあった。外洋に連れ出されたというか。

白鯨 ハーマン・メルヴィル
白鯨

岩波文庫

Amazon

私ははじめて読んだのはもう20年以上も前だから、エイハブと白鯨を善/悪、聖/俗、そのほかなんでもいいが、なにかの象徴になぞらえ神話的虚構として読んだわけでは全然なくて、メルヴィルの捕鯨に関する詳細な叙述もあって、ハウトゥというほど役立つわけではないが、抽象に昇華されきってない智恵に、暑い夏の日の真っ昼間に浜辺の木陰で涼をとる近所のオヤジとか老人とかがヒマツブシで語りだす虚構というより、どこまでいっても海しかない私の郷里のシマに伝わるシマの(ドン・キ・ホーテ的な)奇譚のように読んだ。私がまだ小さかったころには、シマにはハブに噛まれた足を毒がまわらないよう切り落とした着流しの老人が杖をついて歩いていて、その精悍な嘉手苅林唱似の顔つきをエイハブに重ねていたからかもしれない。

「最近の鯨は焼きすぎるとマズくなるからさっさと食え」

 妻の父親は北関東のひと特有のそっけなさでいった。彼らはいまは水戸に暮らしているが、元は栃木の出である。

「シャリシャリ感が残るくらいでちょうどいいですかね」と私は聞き返した。

「調査捕鯨で獲った鯨は元々が漁ではないから、船も冷凍の設備がちゃんとしてないのよ。見てよ、このニコゴリみたいな赤い色。これはそのせいよ。高いのにヤんなっちゃうよな、まったく」

「すみません。気をつかわせて」

 私はビールをついだ。

「勝手にやるから気にしなくていいよ。まあ調査捕鯨もそのうち禁止されるだろうから鯨はもう食えなくなっちゃうよなあ。鯨ベーコンなんてなあ、よく食ったんだがなあ。あんたのころもあったの? そう。でもまあ、もう食えなくはなるわなああチキショウメ」

 最後のは妻の父の口癖である。

「シー・シェパードなんか物騒ですからね。でも捕鯨は世界的にみると禁止する流れなんでしょうね」

「商業捕鯨と調査捕鯨を混同しちゃいかんよ。日本が外洋でやっているのは調査捕鯨であって、調査捕鯨は商業捕鯨を再開するためのものでしかありません。商業捕鯨は日本の沿岸でやっている伝統的なものか、IWCの管轄に入らないクジラを対象にしたものなんよ。ウィキペディアによると『IWCの商業捕鯨モラトリアム決議に対して、国際捕鯨取締条約 (ICRW) 第5条に基づく異議申し立てを行ったノルウェーが1993年に再開を宣言し、ミンククジラを対象に沿岸捕鯨を行っている。近年の捕獲実績は年に600頭前後で、2006年は1052頭の捕獲枠に対し捕獲実績は546頭である。アイスランドも2006年に商業捕鯨再開を宣言してナガスクジラとミンククジラ各7頭を捕獲したが、翌年に再停止している。ただし、日本への輸出のめどが立てば直ちに商業捕獲を再開するとしている』とあるのが商業捕鯨でシー・シェパード体当たりしているのは調査捕鯨。市場にでまわってるのは調査捕鯨の副産物である鯨肉しかないので、それをおいしく安価で提供するというお題目はそもそも成り立たないのであろう」

「システムというか流通的にどうしても良質の鯨肉を提供できないなら調査捕鯨は止めればいいじゃないですか?」

「それを止めると商業捕鯨の前提が崩れるべ。科学的論証のある乱獲に当たらない水産資源の有効利用は伝統的な食文化を保護すると主張しないとな」

「その伝統的な食文化が非捕鯨国には倫理観に抵触するんですよ」

「それはあらゆる文化の摩擦にいえるのではないかね。オレは21世紀はそういう時代だと、10年ほど前にさかんにいわれており、ここ数年またちがう局面に入ってきたと思う。国家によらない覇権主義、もう覇権主義の言霊みたいなものだな。それに対抗するには、偶然ある瞬間にであう無名の人びとの集団が有効だとしても、捕鯨はひとりではできないしな。かといって、利害関係が対立する複数国が関係する問題を、国際機関を調整弁として利用して一色に染めようとしてもな。生殺与奪の話には宗教観はからむもんだからな」

「調査捕鯨の名目で獲るからややこしくなったのではないですかね。調査という割には肉食ってると。非捕鯨国にしたら主従が逆転した現状があり看過できないと」

「それはあくまで副次的な問題だべ。オレなんかむしろ、環境問題のグローバル・スタンダードの押しつけな気はするけどな。畜産や養殖みたいに生産計画を立てられるのは倫理を問われないが、たとえ統計学的な推移は提示できても、クジラみたいに生態がよくわらからない、しかもオレらとおなじ哺乳類は希少種であってもなくても、捕獲すべできでないとはわかるけど、それはむしろ神秘主義のにおいがあるな」

「というと?」

「かつてクジラを滅ぼそうとした科学を使ってクジラの象徴性を守るということよ。文化のソウコクは科学的データの積み上げでは対処できなのではないかな」

「タバコも同じですね」

「あれは健康にわるいからダメに決まっとろう」

 妻の父は北関東特有のアクセントで尻上がりにいった。

「大麻はタバコより健康に害がないそうですが、マリワナは吸ってもいいですか?」

「オレはガンジャのことなんか知らんよ、コンチキチョウ」

 私たちは食卓でこんな話をした気になったのは日中に『ボイスがいた8日間』を見て思うことがあったからである。お暇なら前回を読んでいただきたいが、水戸芸術館で私は妻と子と妻の両親ともいっしょだったのだった。外出するときいつもフィッシャーマンズ・ベストを着てキャップをかぶる義父は、アイテムだけみるとボイスとかぶっており、年の頃も彼が最後に日本を訪れたこのときと同じ60代なかばである。この年齢になると男はボイス化するのだろうか? もし読者はここまできて私がムダ話で字数をかせいでいると思われるのは心外である。ネットの原稿に字数などそもそもない。あるのは余白だけだ。広大な階層化したスペース。あるいは自律した集合知の堆積。ボイスがこの時代に生きていたら、私は彼はこれまで「任意の触媒」とみなしてきたマルチプル作品をネット的なコミュニケーションにどう対応させるか、あるいは転用するかたいへん興味がある。

 

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終わりなき日常のフルクサス〈三〉
1984ヨーゼフ・ボイス〈二〉

 マルチプルとは、既製品をそのまま使ったり、簡単に手を加えたりした普及版の美術品で、一点ものより安価で売られる。ボイスは生前800点ほどのマルチプル作品を制作しており、今回の展示の大半もマルチプル作品だった。私は前回、草月会館でのナム・ジュン・パイクとのアクション「コヨーテ・」をとりあげたが、これは展示の最終部にあたる第9室のものであったのでそこに来るまで多くのマルチプル作品の間を縫ってきた。材料は、木材、フェルト、既存もしくはオリジナルの印刷物、ネガフィルム、映像フィルム、ラッカー盤やヴァイナル、ビンとかカンとか多岐にわたり、いずれの作品もボイスの手を経るか監修を受け、エディションが付されているものがほとんどである。ややばらつきはあるものの約30×21×6センチの直方体の前面をとりはらった木箱に鉛筆で書きこみをした「直観」、オープンリールの録音テープを厚手のフェルトに埋めこんだ「ヤー、ヤー、ヤー、ヤー、ヤー、ネー、ネー、ネー、ネー、ネー」、ボイスがじっさいに使った橇を作品化した「そり」を普及版化したマルチプルの「そり」、よくしられた「フェルト・スーツ」や、レモンの酸性成分によってうまれる電流で電球に光を灯す指示のある「カプリ・バッテリー」 ―はボイスが日本を去った85年の作品なのだけど― など、事物とその組み合わせで一見して不可解だがそのウラに素朴な思考の跡があるマルチプル作品は、ボイスの哲学を他者に喚起させる非限定的な「任意の触媒」だが、彼の哲学は彼の履歴が背景にあるせいで神話的ですらある。

第二次大戦中、ドイツの空軍兵だったボイスはクリミア半島上空でソ連軍に撃墜され、重傷を負ったが遊牧民のタタール人に助けられた。脂肪を塗られフェルトでくるまれたおかげで一命をとりとめたことから彼はフェルトと脂肪を長くモチーフにしてきたが、それらの素材はマルチプルになることで、アーティスト、政治活動家、教育者、思想家=ボイスの本文をおぎなう脚注として、この美術史上の巨人の神話性を強化するようにふるまいはじめるが、しかし私はボイスの神話性とはほんとうはシカメ面で考えこむものでもない。
「1921年、クレーフェ、絆創膏を貼った傷跡展。1922年、クレーフェ、近郊モルカライの牛乳展。1923年、コップ一杯の口ヒゲ展(内容はコーヒーと卵)。1924年、クレーフェ、異教徒の子たちの公開展~」とつづく彼の有名なジャーマン・ジョークみたいな自筆年譜(ボイスは1921年、クレーフェに生まれた)を真に受けるべきというか、ボイスの神話が体温をもち、偉人伝の枠をはみだして、演劇的にツクリモノめいてくることに私は無上の喜びさえ感じる。フルクサス的といっていいそのユーモアには思考を外側へ浸透させるものがあり、その目でみてまわると驚くのだ。初期の素描を再編したリトグラフの筆の運びの見事さ、シルクスクリーンや写真作品のデザインの素朴な力強さ、既製品をマルチプル化した資本主義批評であり、デュシャン的でもウォーホル的でもある一連の「経済の価値」シリーズのマルチプルでさえ、そこにはやはり厳密な審美眼を感じた(もっともデュシャンのシュールなエスプリともウォーホルのポップさともちがうボイスのマルチプルは、三者を順番にデュシャン=レコメン→ボイス=クラウト・ロック→ウォーホル=パンクと並べるとしっくり......こないかもしれない、時代背景もまるでちがうし。また普及版であるマルチプルは原曲とリミックス、原曲とエディットの位置にあるとすると、マッシュ・アップではない。ザ・KLF的な非合法性はない。音楽と決別して活動を休止したKLFは作品をまるっきり発表しなくなり死んだデュシャンを思わせる(死後に遺作が発見されたが、KLFもそうなるのだろうか)。

 とはいえ、妻は「いまの潮流にはデュシャンのアイデアのためのアイデアや、ウォーホルのような色彩のあるポップさより、ボイスの落ち着いた、渋さがふさわしいでしょうね」といい、私はそれに同意した。

 私たちはいっしょに水戸芸術館にはいっていた。私はマルチプルひとつひとつを丹念にながめていたが、妻は興味のある作品を中心に見てまわった。娘は第2室にあった加工前のフェルト原料の7本のロールを作品化した「プライト・エレメント」をさわったのを注意されやる気がなくなり、義父母は「あーうーん」とう唸りながら足早に先に歩いていった。彼らは早々にちりぢりになった。彼らのうち誰がただしい鑑賞者だったのだろう。

 会場でもらったパンフレットにはこうある。
「ボイスは本当の資本とは貨幣ではなく、人間の創造性だと語り、わたしたちが生きる世界や社会を、人間の創造性によって未来へと造形する「社会彫刻」の概念を提唱しています。そして、その「社会彫刻」に関与するための潜在能力が備わっている存在として、「人間はみな芸術家である」と語りました。こうして、ボイスは社会に積極的に関与する新しい芸術/家のモデルを提示したのです。」

 これがボイスの代表的な言葉である「すべての人間は芸術家である」であり、「社会彫刻」である。

 ここで流通/交換可能な貨幣のアナロジーになっている創造性とは特定の行為でなく、また、生活の創造性という恣意的なものでもない。「私は芸術家ではあるが、それはたいしたことではない。どんな芸術的な行為も社会の光の中に出なければ輝かない」とボイスがこの展覧会の映像資料のひとつで語ったように、創造性が芸術の社会化であると仮定するなら、社会彫刻では、たがいに触発され啓蒙し合い、積極的にそこに関与する任意の人たちの共同体が作り手となり、芸術家は中心から退く。共同体ではボイスのアクションのひとつの手法でもある「対話」が重視され、対話を通して社会彫刻は構築物としての志向性がきめられる。私はここに、ボイスのマルクス主義(もっといえばプラトン主義で古典的な弁証法)への愛憎と、理想主義者としての倫理と、またすこしの危うさを感じもする。第二次対戦の残響とみえなくもない。その危うさとは、68年5月の革命(とバタイユと)をふまえ、共同体をもちえない者の共同体を友愛(フラタリティ)さえもちだし論じたブランショの『明かしえぬ共同体』に指摘された全体主義への親和性の要件をボイスの思想が一見して満たすということだ。

 私はそのことを考えると黙りそうになるが、ここまで読んでこられた辛抱強い読者よ、思い出してほしい。戦争で死にかけてタタール人に助けられた彼は、西洋と非西洋の境界線で生と死の境目をただよった男でもあった。私は誤解を承知でいえば、ボイスの獣性と理性が混じり合った彼の作品に惹かれてきたと、今回の回顧展をまわって気づいたのだった。アイデアのスケッチにすぎない(?)マルチプルの野趣はディオニュソスというほどむこうみずではないけれども、飼い慣らされない荒々しさで水戸芸術館に転がっている。私は順路をめぐりながら、彼のトレードマークである茶色の十字架や、「野兎の血」と題した作品のビニール製の封筒のなかで、4・のウサギの血がまるでこのあと食卓でだされるクジラの肉にはりつきニコゴリを連想させる凝血になっているのをみながら、「キリスト教的というよりこれは、キリスト教前史というか、ヘルマン・ニッチュとかのウィーン・アクショニストのジオラマみたいだよなー」とつぶやいている。

 そして私は、思わず作品にさわってしまった娘の手に残ったフェルトのザラついた感触と同じ位置に作品をみる行為を置くこと、現在の時制のなかで彼の作品を回想しつづけることで、美術史にすでに固有の場所を占め、象徴的にさえなってしまったヨーゼフ・ボイスという巨大な構築物をガウディのあの教会のように未完の現在につなぎとめることができるのだと思った。

 これこそ、ボイスの行為/芸術(芸術/行為も可)のアルケミーである。

 

Shop Chart


1

L?K?O

L?K?O Bed Making... BLACK SMOKER RECORDS / JPN »COMMENT GET MUSIC
傑作チルサイケMIX CD再発!DOMMUNEでのPLAYも素晴らしく、再放送もされたL?K?OのMIX CD。あの「BLACK SMOKER」からリリースされた本作は、寝室におけるエロス的空間処理、またの名をムード作り、そんなBGMからの視点をサイッコーにサイケデリックにMIXした内容。R&Bのアカペラと、ダビーなバックトラックで異常なとろみが滲みでています。(I)

2

AMEL(R)A a.k.a. ADE FELA

AMEL(R)A a.k.a. ADE FELA Pria Vol.2 BLACK SMOKER RECORDS / JPN »COMMENT GET MUSIC
西新宿から世界中のアンダーグラウンドでVIVIDな音源を提供、シーンから一目も二目も置かれるレコードショップ「LOS APSON」の店主、山辺圭司氏によるMIX CDが「BLACK SMOKER」より到着!インド北東部の神話に"SHOCK HERTS!!!"されたということで、「アレ」な匂いがプンプン。最初から最後まで、途切れないあやしさ。というか、"妖かし"です!(I)

3

RICK WILHITE PRESENTS

RICK WILHITE PRESENTS Vibes New & Rare Music Part B RUSHHOUR / US »COMMENT GET MUSIC
3CHAIRSのメンバー、RICK WILHITEのレコ屋「VIBES」が送るコンピレーション、そのアナログカット第二弾!THEO PARRISHによる未発表音源がヤバい!暗闇のなかで演奏するJAZZ BANDのような、ダークでシリアス、ミニマルで実験的なGROOVE。また逆面には「VEGA RECORDS」からもリリースするRICARDO MIRADAによるアーバンなHOUSEを収録!(I)

4

REVENGE

REVENGE Final Chapter Versionitis (Vinyl 1) WHITE / UK »COMMENT GET MUSIC
あぶな音源RE-EDIT!MARK Eと共に注目が集まるREVENGEが先日リリースしたRE-EDIT音源集に収録されていたMJのスリラーのRE-EDITが12"でリリース!知らない人は宇宙人ぐらいかも!?、なスリラーを尺もたっぷり、焦らしに焦らして展開する鬼フロアー仕様!STILLOVE4MUSICのANDY ASHによるBARRY WHITEのEDITもA-1に収録!(I)

5

GUILLAUME & THE COUTU DUMONTS

GUILLAUME & THE COUTU DUMONTS Can't Have Everything CIRCUS COMPANY / FRA »COMMENT GET MUSIC
間もなくアルバムもリリースされる、フランスの個性派プロデューサーGUILLAUME & THE COUTU DUMONTSによる先行12"。同郷のDOPをフューチャー、アップテンポでアグレッシヴなJAZZ FUNK MINIMAL!生系の音では最高の部類に入る、素晴らしいプロデュース力。逆面のあんにゅいなSAX使いが光るDEEP HOUSEもさすが!(I)

6

RAUDIVE

RAUDIVE Paper EP MACRO / GER »COMMENT GET MUSIC
アヴァンギャルド・ミニマル!UKのベテランプロデューサーOLIVER HOによるRAUDIVEの新作は、現代音楽的側面からテクノにアプローチをする才人STEFAN GOLDMANの「MACRO」レーベルから。A-1!コンテンポラリーっぽいホーンとDEEP MINIMALが合わさった変態的な作品。変わった音をお求めの方に・・・。(I)

7

ミスターメロディー /やけのはら/タカラダミチノブ

ミスターメロディー /やけのはら/タカラダミチノブ Hey Mr.Melody presents Chouja-Machi Saturdaymorning TIME PATROL / JPN »COMMENT GET MUSIC
TOKYOとは違った形で進化し続ける横浜、ハマの名物パーティー「HEY MR.MELODY」のMIX CD!ミスターメロディー、タカラダミチノブ、やけのはらの三人によるスプリットMIXという変則的な作りながら、すごいまとまり。パーティー明け、または休日のノリが出た、ゆるーいMIXです。店頭演奏時、問い合わせが最も多いCDでもあります!(I)

8

LE LOUP

LE LOUP Erotic City REMAKE MUSIC / FRA »COMMENT GET MUSIC
Chocopop Jazzの大ヒットでおなじみREMAKE MUSICからまたも悶絶必至の一発! NYの重要レーベル・WOLF + LAMB MUSICの作品にリミックスで参加しているパリジャン・LE LOUPによる、PRINCE"Erotic City"エディット! トビ系のウワモノとディレイではめてくる相当に中毒性の高い逸品!(Y)

9

MOODY AKA MOODYMANN

MOODY AKA MOODYMANN Ol'dirty Vinyl KDJ / US »COMMENT GET MUSIC
LP3部作第3弾は90年代に製作した音源やロンドンレコーディングなど(詳細はインナースリーヴに)お蔵入りだった音源をピックアップした興味深い1枚。音も相変わらず、そしてマットなスクリーンジャケはレコードを手にする喜びを増幅させてくれます。チェックはお早めに。(S)

10

HUNGRY GHOST

HUNGRY GHOST Illuminations INTERNATIONAL FEEL / BEL »COMMENT GET MUSIC
今年上半期を象徴するレーベルになるであろうウルグアイ発のレーベルinternational Feel。Hungry Ghostなるアーチストのオリジナル、Daniele Baldelli&DJ RoccaとMarcellus Pittman(3 Chairs)という誰も思いつかないようなリミキサー陣のカップリング、全ての音が「ヤバい」としか表現できません。(S)

New Residential Quarters - ele-king

 子どもを寝かしつけた9時近くにたまたまアクセスしたドミューンの五所純子さんの番組でかかった小室哲哉がまだ初々しかった時期の曲を聴きながら、そういえば私の妻も小室哲哉の曲が主題歌だった映画を小学生のころ見たと言っていた。私の妻は五所さんやChim↑Pomのみなさんと同年かすこし年長のはずだが、小室哲哉は彼らが過ごしてきた年月の一部だった。番組は終わった。私はそのまま、私と同郷で(たしか)同学年のヒカルくんのDJを見続けたのだが、10時を過ぎたころにヴィラロボスのトラックに、私の故郷の島では誰もが知っている、坪山豊が作曲し、島の最大の娯楽である闘牛のアンセム(?)でもある「ワイド節」がピッチをあげてミックスされたのを聴き、4月に入ってから普天間基地(の一部)の移設問題で島が揺れてきたのを考えはじめた、というか、この1月はそのことばかり考えていてele-kingの原稿を全然書いてなかった! ここから基地問題について書きはじめるといくら字数を尽くしても終わりそうにないので止めますが、私は忘れてならないのは、沖縄と沖縄周辺をめぐる基地の問題は歴史、政治、地政学(ポスト冷戦構造とか現実問題としての東アジアとかアメリカとか)、地方の振興策とか地域間の格差とか、複数の力学が入り組んだ"問題の系"であるがゆえに政治的であることは当然としても、鳩山がいう「公平な負担」というのは、この前の戦争(というのは1945年に敗戦した戦争だ)で沖縄と同じくアメリカに統治され53年に日本へのクリスマス・プレゼントとして(本当なんですよ)返還されたその島にも当てはまるのかということだ。美辞麗句として吐かれた「公平」の言葉は少数の記憶を曖昧に覆い隠そうとする――逆進税である消費税が新自由主義の残滓としてでもまだ議論されるのはその見せかけの「公平」さのせいだろう――が、記憶はある者の身体を通して他者の身体に伝達される――それは語りでも歌でも記された言葉でもいい――ことで、53年はおろか沖縄の本土復帰の日にも間に合わなかった私がヒカルくんのDJから考えたように、歴史修正主義の隠蔽をこえる広がりを持ちうるのではないか。

 私は長くなりましたが、なにを言いたいのかというと、音楽をめぐる記憶の仕組みです。90年代の手法だったサンプリング~リミックス~カットアップ~コラージュ(はちがうか)、つまり編集文化にはセンスやリスペクトの裏書きがあり、方法に自覚的なかぎり改竄や盗用といった言葉さえ、ラディカリズムに落としこまれてきたが、「ネタ」は濫用されることで背景にある体系から独立し、「ネタ」というより情報のようにふるまいはじめ、アーカイヴは10年前よりずっと味気なくなった。私はメディアの問題は無視できないと自戒しないわけにいかないが、アーカイヴはもうエントロピーの上限に達してしまったのだろうか? それともバベルの図書館のように際限はないのだろうか? 私はいまの時点ではどちらともいえないけど、USTREAMのリアルタイム性はアーカイヴの座標に時間という新しい次元をもちこみ、そこに流れてくる膨大なテキストデータは共有の概念をSNSのようにコミュニティ内に蓄積させず、タイムラインに沿って離合集散することでコミュニティの舞台であるアーカイヴをも活性化させてはいるのだと思う。いまさらだが、私はTwitterのユーザーではないのでおもしろさはよくわらかないが、つぶやくよりつぶやかれることで主体の時間に他者の時間が割りこんでくることのおもしろさがある気がする。それは動物化の別の局面かどうかを検証するのは他稿にゆずるとしても。

 音楽のアーカイヴは時間を取り戻して音楽的になった、と書くとまるっきり同語反復なのだが、音楽はほかのどのカルチャーよりも時間(時空)がフォーマットに密着したものだからこの変化は原点回帰のようにも思える。しかしそれはたんに戻っただけではない。

 NRQをご存じだろうか?
 ギターの牧野琢磨に、二胡とマンドリンを担当する吉田悠樹とコントラバスの服部将典、ドラム、クラリネット、アルト・サックスの中尾勘二からなるインストゥルメンタル・クァルテットでNRQは新興住宅地を意味するニュー・レジデンシャル・クォーターズの略称である。ネット・メディアにはあるまじき遅さで恐縮ですが、彼らは今年のヴァレンタインにファースト・アルバム『オールド・ゴースト・タウン』を〈swi〉からだした。彼らはセッションや別バンドでも活動するミュージシャンたちで、吉田悠樹は前野健太とデヴィッド・ボウイたちの一員だし、服部将典はこのサイトの読者によく知られているであろうShing02の歪曲バンドでの活動をあげればよいだろうし、中尾勘二はコンポステラやストラーダでポピュラー音楽史に足跡をのこしてきた。牧野琢磨は私もメンバーの一員である湯浅湾のギタリストでもある。なんて書くと「また身内でテキトーに褒めあって!」とけなされそうなのだが、私がここまでムダともいえる冗舌を弄してきたのは、いいものはいいと言いたいからだけじゃなく、彼らは私を考えさせるからだ。彼らの音楽はブルースやジャズや軽音楽などの古き良き時代の音楽のエッセンスを抽出したものと思われがちだがそうではない。いや、そうでないことはないかもしれない。NRQの音楽には過去への憧憬がたしかにあるが古典の再解釈ではない。大谷能生はそれをライナーノーツのなかで「あたらしい過去」と呼んでいる。私は前段に書き忘れたが、ゼロ年代までの激化したリヴァイヴァル・ブームは近過去を消費して古典へ接近することになったが、その時点で古典を音楽にとりいれるのはそれまでのリヴァイヴァルの手法も超えなければならなかった。私なりに大谷能生の言葉を煎じ詰めると、「あたらしい過去」には2種類あって、HOSEやcore of bells――関係ないがこの前のライヴには感動した――のように形式の外から形式を操作するメタフィジカルなやり方と、あくまで音楽の内側で音で語る方法があって――もちろんこれは明確に線引きできるものではなく、あくまで比重の問題だ――NRQは後者だと思う。NRQというか、牧野琢磨といいかえてもいい。牧野琢磨は厳密にギタリストであり、彼の言語はギターである。ギターとシールドと数個のエフェクターとアンプと振動する空気があれば牧野琢磨は語るだろう。その語り口にはギターを習得するうちに彼の身体に流れこんだ数多のブルースメンの記憶が介在しているはずだ。彼のファースト・ソロの『イン・ザ・サバーブス』(grid)にすでに兆候はあったが、「古いゴースト・タウン」と名づけたNRQのファーストに作曲と演奏と録音の形であらわれている。編曲と作曲をメロディに溶けこませた吉田悠樹の二胡であるとか、服部将典の強くて味わい深いコントラバスとか、NRQとHOSEとふいごにもいる中尾勘二については長い別稿が必要なほど、それぞれが音楽のゆたかな記憶をもつひとたちだから、『オールド・ゴースト・タウン』を聴いているいまこのときも、「NRQが『ワイド節』をカヴァーしたらおもしろいかもな」とか「私も楽器練習しようかな」とか「5月14日の彼らのレコ発(@マンダラ2)はどうなるのかな?」とか、私は触発され考えはどうどうめぐりするようでいて、彼らの音楽がそうであるように、螺旋を描き、あたらしい場所にたどりつきそうだった。

Caribou - ele-king

 カリブーとは、簡単に言えば、フォー・テットとともに聴かれてきた人である。2001年にマニトバ名義で〈リーフ〉から発表したデビュー・アルバム『スタート・ブレイキング・マイ・ハート』によって脚光を浴びた彼は、柔らかな抒情派エレクトロニカ路線をそのまま進むのかとおもいきや、セカンド・アルバムではソフト・ロック調のメロディを注入し、そしてカリブーと名前を変えてから発表した2005年の3枚目では、もしジャンル分けをするなら迷わずロックの棚に並べられるであろう作品を出している(ありがちと言えばありがちな、クラウトロック風味のロックだったが)。まあ、IDMスタイルからロックへ......これはこの10年におけるひとつの流れで、カナダ人のダン・スナイスもそのひとりというわけだ。ちなみに彼は数学博士である、見た目もふくめて。

 彼はそして、〈シティ・スラング〉に移籍して2007年に『アンドーラ』を発表しているが、さすがにこれには参った。マニトバ時代から、彼の音楽には救いようのない楽天性があったとはいえ、まさかこの人がMGMTみたいなカラフルなサンシャイン・ポップスをやるとは、ショッキングでさえあった(......というほどではないか)。そしてマニトバ名義から数えて5枚目となる新作『スウィム』はダンス・ミュージックときた。最初は警戒した。この人と僕のあいだに接点はない、そう思っていた。が......、聴いているうちに緊張はほぐれ、感動が押し寄せてくる。それは驚くべきことに、まるでアーサー・ラッセルが歌っているようなダンス・ミュージックなのだ。そう、70年代のニューヨークを生きた偉大なるディスコの実験主義者、アーサー・ラッセルだ。彼の直接的な影響を感じる作品というのを僕は初めて聴いたかもしれない。アルバムのタイトルは"スウィム"――そう、おそらくは"レッツ・ゴー・スウィミング"(ラッセルの代表曲)からの引用だろう。

 リキッド・ダンス・ミュージック――カリブーは自分のダンス・サウンドをこのように定義しているが、たしかにこれは揺れるような音に特徴を持つ。音は左右のスピーカーを時差を持って往復する。ドップラー効果めいた揺らぎが目眩を与える(これをちまたでは"ドップラー・エフェクト・ダブ"と呼ぶ)。そして......まさにラッセルのダンス・ミュージックがそうであるように、実にしっかりとしたベースがあり、そして、そう、深いエコーのかかった"歌"がゆらゆらと揺れている。もしいまラッセルが生きていてミニマル・テクノに興味を覚えたら、こんなアルバムを作っていたかもしれない(ラッセルは70年代、スティーヴ・ライヒやフィリップ・グラスら、オリジナル・ミニマリストたちのグループにいた)。

 カリブーは主に、セオ・パリッシュ、リカルド・ヴィラロボス、カール・クレイグ、ジェームズ・ホールデンらに影響を受けたと告白しているが、多くの人からアーサー・ラッセルとの類似点について指摘されていることも明かしている。「それを言われて嬉しかったんだ。なぜなら僕は彼の声が大好きだし」、カリブーは『ピッチフォーク』の取材でこう答えている。「この2年で、彼は僕のヒーローとなったんだから」

 「泳ぎなさい」というタイトルは嘘じゃない。リスナーはこの数学博士の作った音の波を泳げるだろう。ユーモラスな"オデッサ"やドップラー・エフェクト・ダビーな"カイリー"も良いが、マニトバ時代のドリーミーなIDMサウンドをセオ・パリッシュがハウス・リミックスしたような"ボウルズ"の深いトリップがさらに良い(曲中ではアリス・コルトレーン的なハープの音が響く)。ディスコのベースがうなり、かたやメランコリックなシンセが波のように押し寄せる"ハンニバル"も忘れがたい。

 アルバムの最後の曲にも美しい憂鬱の感覚がある。歌は空中を舞って、衝突して落下するように消える......ダンス・ミュージック特有の強烈なはかなさが漂う。もういちど、この独創的なカナダ人の音楽に耳を傾けてみようと思う。

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