「KING」と一致するもの

EL NINO - ele-king

 とにかく、ふだんは滅多に聴けないような、いろんな音楽がかかり、忘れがたいライヴが見れます(BLACK SMOKERSも出る)。いまエレキングで自らのきつい体験を綴ってくれているKLEPTOMANIACも出演します。チェックしましょう。

 『国産エクスペリメンタリズムの臨界 EL NINO がasiaに帰還』
 まるで黒い煙がかかっている。まっすぐに歩けないほどの音圧と、快楽に依存する耳と頭。驚異的な集中力が収穫する音楽の核と電子と即興が導く甘美な漆黒。フリー・ジャズやヒップホップ、ビートやダブ、テクノ、ノイズが融合する紛れもないオリジナリティを有しながらも、それは形容し難く、融通無碍の怪物に圧倒、翻弄される歓びに身をまかせる。

2003年5月の第1回から20年の節目を迎える、
BLACK SMOKER RECORDS主力イベントEL NINOがasiaに帰還だ。

LIVE:BLACKSMOKERS(K-BOMB, JUBE, BABA, DJ YAZI, CHI3CHEE) 、ENDON、鬼の右腕
DJ:Akie、Masa a.k.a Conomark、DJ Yazi(Black Smoker Records)、KLEPTOMANIAC、K8(TYO GQOM)、Lil Mofo、Lily、OG Militant B、Torei(Set Fire To Me)
特殊照明 VJ:ROKAPENIS
音響:Hironobu Kobayashi
舞台美術:HEAVEN HUG
Art work :Kosuke Kawamura
Food :マガリビ by kidotama

2023/9/23(sat)23:00-
@clubasia
DOOR(当日): 4,000yen
ADV TICKET(前売): 3,000yen
clubasia zaiko - https://cultureofasia.zaiko.io/buy/1veR:uQ2:8293a

Brainstory - ele-king

 EP「RIPE」が日本でも受けたあのバンド、マイルスやコルトレーンを敬愛し、新世代チカーノ・ソウル、ロック、ブラジルなどをミックス、鋭くもユーモア溢れる独創的なサウンドを展開する3人組、ブレインストーリーがついに来日です。10月、行きましょう。

BRAINSTORY:


photo by Carlos Garcia

 出身はインランド・エンパイアと呼ばれるロサンゼルスの郊外。ジャズをルーツに、ソウル、ロック、フォーク、ラテン、ブラジル、サイケデリアなど多種多彩な音楽/カルチャーに影響を受けて独創性高いサウンドを完成させた実力派。2014年、チカーノ・バットマンのベーシストであるエドゥアルド・アレーナスのプロデュースでEP『BRAINSTORY』を自主制作。2019年にはBIG CROWN RECORDSから『BUCK』を発表し、抜群の演奏・歌唱力による悦楽的なグルーヴと甘いサウンドは大きな話題に。続いてインストをメインにした傑作EP『ライプ』(国内発売MUSIC CAMP, Inc.)を2021年にリリース。日本でも多くのファンを獲得した。またレーベルメイトであるR&Bの歌姫、LADY WRAYのNPR タイニー・デスク出演時にバック・バンドとして登場してその実力を広く知らしめた。フィンランド出身でレーベルメイトである大人気歌手、ボビー・オローサのUSツアーでも共演している。来年早々には待望の新作を発表予定。今回が初来日となる。http://m-camp.net/brainstory2023.html

☆10/20(金)小岩 BUSHBASH
Open/Start:19:00☆予約¥6,500/当日¥7,000(+1D別)
LIVE: BRAINSTORY/FIXED☆DJ: Dopey/HANKYOVAIN
BUSHBASH (03-6657-9939)/紙チケット販売:BUSHBASH webshop
主催:RIVERSIDE READING CLUB/BUSHBASH

☆10/21(土)Peter Barakan's LIVE MAGIC
会場:恵比寿ガーデンプレイス
ザ・ガーデンホール / ガーデンルーム
OPEN 12:00 START 13:00(イベント開演時間)
主催・企画:Peter Barakan’s LIVE MAGIC!事務局

☆10/22(日)代官山 晴れたら空に豆まいて
Open:18:00/Live:19:30☆予約¥6,500/当日¥7,000(+1D別)
LIVE: BRAINSTORY/TINY STEP “Southside” Trio☆DJ: Trasmundo DJs/DJ Holiday/DJ Slowcurv
晴れたら空に豆まいて (03-5456-8880☆15-22時)/MUSIC CAMP, Inc. (042-498-7531☆10-20時)/Peatix/紙チケット販売:トラスムンド 

☆10/23(月)代官山 晴れたら空に豆まいて
Open:18:00 Live:19:30☆予約¥6,500/当日¥7,000(+1D別)
LIVE: BRAINSTORY/LES KHMERS☆DJ: Sato Mata/Takashi Shimada/El Shingon
晴れたら空に豆まいて (03-5456-8880☆15-22時)/MUSIC CAMP, Inc. (042-498-7531☆10-20時)/Peatix/紙チケット販売:トラスムンド

企画/制作:HARE MAME INTERNATIONAL/BARRIO GOLD RECORDS/MUSIC CAMP, Inc.
招聘:株式会社ベルリンの庭で 
☆Big thanks to Big Crown Records

創造の生命体 - ele-king

 連載第二回目は、KPTMがBZDによってどのような不調を経験し、やがてそれが処方薬の離脱症状によって引き起こされているということを認識するに至ったのかをたどる。話を聞いていると、BZD問題の極めて難しい点の一つは、そもそもの心身の不調や異常がBZDによって引き起こされていることを認識・自覚することであるようだ。

 どんな症状であれ、何よりもまずは原因を突き止めなければ、それを克服するための根本的な取り組みや努力もできない。しかしながら、BZDの副作用がどのようなものなのかがまだあまり周知されていないために、自覚のないまま原因不明の症状に苦しんでいる人も多い。KPTMもそんな一人だった。では、彼女の場合はどのようにしてそれを自覚するに至ったのか、彼女の体験を共有することが、周知のきっかけになれば幸いだ。

 とはいえ、ひとくちにベンゾジアゼピン系といっても、めまい、耳鳴り、肩こり、睡眠を促すものからパニック障害の緩和等々、様々な用途や強さの薬が様々な症状に対して処方されている。また、薬がどのように作用し、どのような反応を起こすかには個人差があり、長期服用しても離脱症状を経験せずに断薬できる人もいれば、服用し始めてからすぐに副作用を感知する人もいる。そのため、医師にも診断が非常に難しいのが現実である。ここに紹介するのは、KPTM一個人の体験であり、症状や服用歴が同じでも、必ずしも同じ副作用や離脱症状が引き起こされるわけではないことはあらかじめ強調しておきたい。また、これからこの連載でも掘り下げていくが、実際に不調の原因がBZDの副作用や離脱症状だったという判断に至っても、急な断薬や減薬は極めて危険なので、服用中の方はくれぐれも自己判断で行わないようくれぐれもお願いしたい。これは、KPTMが最も伝えたいメッセージの一つでもある。

PTSDとBZD

 BZD服用のきっかけは様々だ。レクリエーション、いわば遊びで気持ち良くなるために飲んでみる人もいれば、この薬なしでは日常生活に支障をきたすという人もいる。KPTMの場合は、海外で「怖い思い」をしたことが引き金となった。どのようなことがあったのかについては、彼女も語りたがらないので聞いていない。ここでは、めまいから始まり、後に「そのことを思い出すとパニック発作のような、胸が締め付けられて血の気が引いていくような」PTSD(心的外傷後ストレス障害)症状を緩和するために飲み始めた、という事実を踏まえるだけで十分だろう。KPTMがこのことを神経内科医に相談したところ、「セパゾン」というBZD系の薬が処方された。

 BZDを服用すると、その症状は抑えられた。それ以外はそれまで通りの生活・活動が続けられた。「私はもともと薬が嫌いなので、お医者さんに『飲みたくない』というと、『これは軽いやつだから、一生飲んでも大丈夫。いつ飲んでもいいし、頓服で使えるよ』って言ってました。『調子悪くなりそうな時に飲んで』みたいな感じでしたね。父が薬剤師なので聞いてみると、『うちの病院でもよく処方される比較的軽い薬だよ』って言ってました」

 これが2005年前後のことだ。当時、少なくとも日本においては、医師も薬剤師も厚労省も、この薬について継続的に服用することの危険性を認識していなかった。「軽い」薬だという説明を受けて、KPTMは1日1錠、これを服用するようになった。そうすることで、PTSD症状を起こす心配をしなくて良くなり、しばらくはまたスムーズに日常生活を送ることができるようになっていた。はじめから「依存したくない」という気持ちが強かったので、あらかじめ1日1錠以上は飲まないと決めていた。

『私に起きたこと①』

  • 1. 元々の私は、ストレスから心身を守ってくれるGABAのおかげで、どんな困難があってもたくましく元気に生きていた
  • 2. あるとき、あまりにも大きすぎるストレスを受けつづけ、私のGABAは働く能力を失ってしまった
  • 3. 長期のストレスでめまいや貧血を起こすようになり
  • 4. 病院に行って相談してみた。薬が嫌いだった私は「副作用が強く依存性のある薬は嫌だ」と医者に伝えると
  • 5. “セパゾン”というベンゾジアゼピン系の薬を処方された。医者が「とても軽くて安心安全なクスリだ」と強調していたのを信じ、中の自分(GABA)は嫌がっているのに、生きるために飲むことにした

何かがおかしい

 しかし、次第に何かがおかしいと感じるようになる。「自分もそうだったんですけど、多分みんな、この薬を飲んでいることをなるべく気にしないようにしているところがあると思います。飲んでいることが、なんとなく良くない気はずっとしているんですよ。ごまかしている感じがずっとある。良くないだろうなと思いながら、止められない。なんか体の調子がおかしいなあと思いながら、それを意識するとよけいに悪化するような気がして、なるべく考えないように、考えないようにしていましたね。多分、この薬を飲んでいる人の多くはそんな感じだと思います。『なんかヘンだな』と思いながら、それがこの薬のせいだという因果関係までは考えないようにして生活していた。(KPTMが牽引した女性アーティスト集団)WAG.のメンバーで、最も親しい友人の一人である○(マル)ちゃんにも言われました『KPTMちゃん、ずっと昔にもこの薬がおかしい気がするんだって言ってたよ』って。だから、やっぱりずっと感じてはいたんですよね」

 薬の作用により、その頃の記憶は混乱している。「離脱症状が出始めた頃の記憶はぐちゃぐちゃです。あまり思い出せません」そして心身の不調はさらに悪化していった。「薬剤師の父も、精神薬系のものは何がどういう症状に効くという情報としては把握していても、なぜその効果がもたらされるのか、『頭がぐちゃぐちゃになる』と訴えてくる患者さんを、どう理解していいのか分からなかった、と言っています。分からないから、やや避けてきたところがあるとも。お医者さんも同じだったのかもしれないと思います」

 「離脱症状」と言うと、薬を減らしたり、止めたりした瞬間から始まるのかと思っていたが、そうとは限らない。「私の場合は『常用量離脱』になったんですよね。つまり、それまで飲み続けてきた量では足りなくなる状態です。同じ量を飲んでいても効き目が十分ではなくなり、不調になり、普通は病院に行って処方量を増やしてもらうことになります。少し増やすことで、前と同じような落ち着いた状態に戻ることができるけれど、結局そうやって量は増え続けていくことになるわけです。でも、私の場合は基本的に飲みたくなかったので、1日1錠以上は増やさなかった。『これ以上はイヤだ』という気持ちが強かった。だから足りなくて不調になっていきました。それが薬が足りないせいだと認識していなかったので、もし認識して薬を増やしていれば、もっと状態は楽になったとも言えます。でも増やさなかったので、それによって引き起こされた不調を何年も我慢していた。少し出かけたりすると尋常じゃない疲労感に襲われて、家に帰ると何もできない。それがもう限界になって、動けなくなったのが2014年頃です」

 その状態で広島に帰ってきた。そのころは、自力では体温調整ができなくなっていて、33℃台になったかと思えば、40℃台がずっと続いたりしたという。常用量を増やすことを拒んだせいで離脱症状に苦しむことになったわけだが、では、その頃に医者に言われるがままに常用量を増やしていたとしたら、今頃はどうなっていたのだろうか。思いを巡らせずにはいられない。

 「増やし続けて飲み続けると、ゾンビみたいになってしまう場合がありますね。両親の近くにもそういう人がいて。ずっとボーッとしていて、『心ここに在らず』という状態が長い。意思がなくなって、感情もあまりなくなっていく。時間の経過とか空間の把握もよくわからなくなっていくんですよね。遠近感もぐちゃぐちゃになります。痛いとか辛いとかいう感覚は抑えられるけれど、そのぶん他のすべての感覚も鈍っていってしまうようです。少しオカルトっぽくもあるんですが、ここではない、異次元に入っていってしまうような奇妙な感覚に陥ったりして。自分だけがおかしくなったような感覚で、生きることが苦痛になってしまう。それがなぜ、どのようにしてそうなるなのかはまだ解明されていないようですが、少しでも、この世界にこういうことが起こっている、こういうことを経験している人がいるということだけでも、伝えることは大事なのかなと」

 しかし、先に触れたように個人差がかなりあるのも事実だ。「ラッパーの知り合いの子で、『15年間眠剤を飲み続けていたけど最近止めた』って言ってた人がいて、その人はなんともないって言ってるんですよ。びっくりしました。だから、飲み続けて量を増やしても、大丈夫な人もいるみたいです。かと思えば、私のインタビューを読んだ人から、『私も15年くらいずっと眠剤を飲んでいて、一度止めてみたらリアルに2ヶ月間一睡もできなかった。だから、また飲んでいるけどいずれ止めたい』という人が連絡をくれたりも。実は、密かに悩んでいる人がたくさんいて、『誰にも相談できなかったから、インタビュー読んで救われました』という連絡はいくつかもらいました。薬を飲んでいることって、なかなか人には言えないんですよね。私もほとんど話したことなかったです。『自分の中で何が起こっているんだろう?』って、自分だけで悩んでしまう」

『私に起きたこと②』

  • 6. 1日1粒ずつ飲んでいると、弱ったGABAの代わりにストレスからベンゾジアゼピンが守ってくれて、なんとかやり過ごせるようになったが、いつの間にかないと調子が悪くなるようになり、長期的に服用することになった
  • 7. 10年後、原因不明の高熱や低体温やめまいや貧血や疲労感がしょっちゅう起きるようになり、日常生活が困難になってきた
  • 8. よく観察してみると、守ってくれるはずのベンゾジアゼピンが自分のGABAを殺していて、自分で自分を守る機能がなくなっていることに気がついた
  • 9. これはまずいと思い、自分の機能を取り戻すため、ベンゾジアゼピンを飲むのを中止してみた
  • 10. ストレスから守ってくれていたベンゾがなくなり、自分のGABAも機能せず、誰も助けてくれない状態になり、あらゆる症状がどんどん出てきた
  • 11. この世界の全てがストレスに感じられ、いてもたってもいられない狂気の魔境世界へ突入してしまった。言葉にできない異常で奇妙な体験で、人間が入ってはいけないアンタッチャブルワールドにふみ込んだような感覚だった

常用離脱症状と減薬・断薬による禁断症状

 常用離脱症状は、いろんな形で出た。頭の中が混乱し、めまいも酷く、急激な体温の上昇や下降、神経痛で体のあらゆるところが痛く、内臓もおかしい。「あらゆる病院であらゆる検査をしました。お腹も変になるからエコー検査して、脳波も検査したし、脳脊髄液減少症じゃないかとか... でも検査結果には大した問題がなくて。なんでそんなに調子が悪いのか分からなかった。だから色んな健康に関する情報をチェックするようになって、例えば白砂糖が悪いんじゃないか、って白砂糖を抜いてみたり、色んなものを排除してみることも試したけど、全然良くなってこない。だから調べ続けていたら……出てきたんですよね、ネットで。『BZDの離脱症状』というものを知って、その症状の記述を見たらことごとく一致していた。『これだ』と確信しました」

 不調の原因が見つからぬまま苦しみ続け、消去法で最後に残ったのがBZDだったというわけだ。BZDを飲み続けることが良くないようだということは、ずっと薄々気づいていた。「確信は、多分ずっとあったんだと思います。でも疑いもあったというか」しかし、長かったのはそれを確信してからの道のりだった。この薬を「飲み続けることを止める」とどうなるのか、KPTMが思い知らされる出来事が起こる。

 「広島に弱って帰ってきたあとに、一度東京でWAG.のパーティーを企画したことがあって、ゲストにDJ YASさんが出てくれることになったんです。それで、せっかくのパーティーだし、クリーンな状態で楽しもうと思って、東京に行く7日前くらいに薬を抜いてみたんですよ。で、なんかどんどん体調が悪くなっているのを感じながらも東京へ行き、パーティー中に久しぶりに色んな人に会って、ワーッって楽しくやってるんだけど、だんだん誰が誰だか分からないような変な気分になってきて。どんどん『何かおかしい、ヤバイ!!』って、すごい危険を感じたんですよね。とにかくすごく怖くなって、イベントの途中でその日泊まらせてもらっていた友達の家にタクシーで一人で帰りました。お風呂に入って、BZDを飲んでから寝た。そしたら、次の日はまるで何もなかったみたいにケロッとしてたんですよ。逆に楽しいくらいの気分になっていた。その体験が強烈で。その時に初めて、アンタッチャブルな世界を体験してしまったと思ったんですよね。それが禁断症状というものだった」

 しかし、自分自身でそれを確信しても、それを医者を含む周囲の人に説明し、理解してもらうことが次なるハードルだった。「広島に帰ってきて病院に行って、『この薬を抜くと体が痙攣したり変になるから、この薬の方に問題があると思う』って言ったんですよ。経過報告として。そのころにはBZDの減・断薬に関する本とかも出始めていたので、その本を持っていってお医者さんに見せたりして。そしたら、後になって親に聞いたら、『あの子は総合失調症の気があって、妄想を言っている』ってその先生が言ったらしくて(笑)。それには『オイ!』と思いましたよね。でもそういう診断をされている人もいるかもしれない。本当のことを言っているのに、虚言だと思われてしまう。両親が薬のせいだと相談に行ったのに『時間の無駄だ』と言った医者もいました。この薬の問題点を訴えている人はかなりいるのかもしれないけど、『気が狂ってる』で処理されてきている人が潜在的にかなりいるかもしれないんですよね。でも、本当に妄想を言う人も診療に来るわけだから、お医者さんも難しいだろうなという気もしますが……」

『私に起きたこと③』

  • 12. これはとんでもなくヤバいことが自分に起きてると感じ、ベンゾジアゼピンを飲んで一晩寝ると症状は落ち着いた
  • 13. ベンゾジアゼピンがないと生きられない状態になっていることに愕然とし、自分がどこにもいなくなったように感じた
  • 14. 少し減薬しただけでも離脱症状が起きるため、水溶液タイトレーションという方法で少しずつベンゾジアゼピンを抜きながら自分を取り戻す決意をし、まずは1g(100%)から0.1g(90%)を抜いてみた
  • 15. 10%抜いた分の離脱症状にしばらくの期間耐え、自分の生命力を取り戻し、ある程度楽になるまで地獄の苦しみを我慢
  • 16. 少し離脱症状が落ち着いてから次の減薬に入る。前回と同じ0.1g(10%)ではキツすぎたから0.05g(5%)抜いてみた
  • 17. それでも地獄の苦しみを味わいつづけ、毎日限界で耐えられなかったが、なんとか根性で乗り越えた

精神科医療と精神薬処方

 KPTMは、そもそものメンタル・ヘルスの問題の診断や、薬の処方にまつわる難しさも指摘する。「メンタルのことってお医者さんも患者の言葉を通してしか症状が把握できないので、どの症状をこちらが言うかによって病名や処方される薬が変わってくる場合がある。患者本人が認識していない部分は分かりようがないので、処方の精度というのはその程度なんじゃないかと思うんですよね。私もいろんなお医者さんに診てもらいましたけど、結局、聞かれた質問に答えるから、違うことを聞かれたら他の医者に言ったことと違う答えになるじゃないですか。それで診断が決まっちゃうから『テキトー!!』って思いましたよね。何を引き出す先生かによって、処方される薬も変わる場合がある。『こういう症状の人にはこういう薬』っていうのがあらかじめ決まっているんだと思うから、ある程度目星をつけて、そのパターンに沿うように誘導尋問していくみたいなところもあるのではないか、と。多くの医者の診断って、前例のみに頼っていると思うんですよ。いまここにいる目の前の患者の症状ではなくて、過去を向いているんですよね。そういう意味では、患者だけが最先端を知っている」

 原疾患の診断ですらも難しさが伴うのだから、処方薬の効果や副作用を測ることはさらに輪をかけて難しくなる。薬からの離脱症状は原疾患を増幅させるので、薬を増やすことに繋がりがちになり、そのせいで薬が不調の原因になっている場合でもそれに気づきにくい。「BZDは原疾患を『ないこと』にしてしまう薬だと感じます。ないことにすると、やっぱり怒るんですよ、体が。人間って無視されたら傷つくのと同じで、人間の体の中もそうだと思います。自分の中からの叫びをないことにすると、めちゃめちゃ傷つくし怒るんですよ。(体からの)メッセージですから」

『私に起きたこと④』

  • 18. 抜けば抜くほど耐性がつくのに時間がかかり、少しの減薬でも耐えられないレベルの離脱症状が出るため、0.01g(1%)の極少量ずつ抜く方法にした
  • 19. 2年半の間、減薬しては離脱症状を耐え、また減薬しては離脱症状に耐えるという、先の見えない苦行を繰りかえし、残り50%にまで減らしたが離脱症状がひどくなるばかりで、これ以上減らすことができず身動きがとれずどうしていいかわからなくなった
  • 20. どん詰まりのある時、衝撃的な覚醒体験をして、狂気の世界に突入した
  • 21. 狂っていた私は無敵モードになり、これまで少しずつの減薬を頑張っていたのに、一気に30%も抜いてしまった
  • 22. 当然のごとくものすごい離脱症状が私を襲った。この世界の全てが恐怖に感じ、どんどん魔境へおちいり、異常な神経の痛みで何もかも全てが耐えられない極限状態になった
  • 23. 自我が崩壊し、3次元を認識できなくなり、目もろくに見えず、言葉を失い、痛み以外の全ての感覚がなくなってしまった。身体の中は火傷が剥き出しているような強烈な炎症状態で、家族とも誰とも地球の全てとコミュニケーションをとることができなくなり、まるで冥王星へぶっ飛ばされたような異常世界を1年間彷徨いつづけた

薬物中毒と薬物依存の違い

 薬物中毒と薬物依存の違い薬物依存に関しては、あまり縁のない人にとっては中毒との違いすら分かりにくいかもしれない。中毒となって止められない状態と、依存によって止められない状態は何が違うのだろうか。「普通の薬物中毒の場合は、成分が体から抜けて、いわゆるデトックスができたら終われると思うんですよ。シャブにしても、時間はかかるかもしれないけど、体の中から成分が抜けて、2度と同じものに手を出さなければ離脱症状から解放されるはず。でも、BZDの場合は神経そのものを傷つけてしまってそれが障害を起こすから、早く抜こうとするとよけい大変なことになってしまう。傷が治らないことには、薬だけ抜いても治らないので、傷を治しながら徐々に抜いていかないといけないんです。だから、意思とか気合いの問題ではないんです。我慢できないから飲むというのは精神的薬物依存ですが、飲まないと体がおかしくなってしまう、機能しなくなってしまう状態、要するに離脱症状が出るのが身体的薬物依存です。『(意思が)弱いから薬を飲んでしまう』という精神的依存ではない」と強調する。

周囲に理解者がいることの重要性

 「自分でネットでいろいろ調べて、最初に『アシュトン・マニュアル』(イギリスの精神薬理学者であるヘザー・アシュトン氏がBZDの作用や離脱症状、及びその治療メソッドをまとめた、1999年に発表されたマニュアル)を見つけた時に、『これは誰にも信じてもらえないんじゃないか』って思いましたね。私も基本的にはネットの情報はあまり信用しないようにしているんで、私自身も半信半疑で見ていたら、見事に自分の症状とビンゴで全て当てはまってしまって。でも、やっぱりネットって色んな人が色んな主張をしているから、『薬のせいにして逃げている』みたいな考えもけっこうあるし、これは絶対に親に分かってもらえないからどうしようか、と思いましたね。私は自分で調べた資料をまとめて、親にメモをいっぱい書くなどして伝えたんです。ベンゾの離脱症状だということに理解を示してくれた両親が、『協力するから微量減薬をがんばろう』って言ってくれて、それが一つの大きな安心になりましたよね。そこで分かってもらえなかったら、ずっと大変だったと思います」

 次のステップは、実際に断薬をするために薬を減らしていくことだったが、これが途方もないプロセスだった。意志が弱いから薬を飲んでいたわけではないのと同様に、身体的な薬への依存には、どんなに強い意志を持っていても逆らえない。「急に減らしたり抜いたりすると大変なことになるので、薬を水に溶かして、その水の量を1%ずつ減らして抜いていくという方法を父がネットで発見してくれました。『ワイパックス』の断薬に成功した方の個人ブログがあって、それを参考にしました。そのブログを参考にしている人は多いと思います。その方は、BZD問題を啓蒙する活動をされています。『アシュトン・マニュアル』には、離脱症状の原理みたいな部分は説明されて自分に何が起きているかについては理解できるんですが、具体的にどう抜いていくかという説明は不十分というか、人によってかなり差があるので」

 とにかく、離脱症状を訴えてもお医者さんには信じてもらえず、回復するために参考になるものは『アシュトン・マニュアル』しかなかったという。「両親は、2018年にできた『全国ベンゾジアゼピン薬害連絡協議会』という組織のメーリングリストには入っていたみたいです。私は自分自身にも疑いを持っていたというか、本当は違う理由なのに、『薬のせいにして逃げていないか、自分?』ていう自問自答を繰り返していました。だから、特に外部の組織などに相談を持ちかけることはなく、まず抜いてみてどうなるかを自分で実験してみよう、というところから始めました。減薬を始めた最初の半年くらいは、XX月XX日、これだけ抜いたらXX時にすごい耳鳴りがきた、みたいな記録をノートにびっしり書いたりしていたんですけど、嫌な症状ばかりだから、自分で自分にその記憶を植え付けているような気がしてきて、『これ良くないかも』と思って止めました。でも、記録して研究することで、自分でも私に起きてる体調不良は薬のせいだ、っていう確信を得たかったところもありますね。医者が頼れなかったから、自分で実験してみるしかなくて。バカなものも含め、色んな実験を自分でしてみた。もうトライしてみるしかなくて。『この状況を逆利用してやるわ!』って腹をくくったんです」

こうして、KPTMとBZDの長く壮絶な戦いと、そのための様々な実験が始まった。

『私に起きたこと⑤』

  • 24. あり得ない状態を根性で我慢し、耐え続けて1年後、言葉が少しずつ戻り、それと同時にこの世界を認識できるようになり、人としての自分が戻りはじめてきた。気がついたら身体の中には、激痛を走らせる巨大ムカデが生まれていた。
  • 25. ある日鍼灸師のP先生と出会い、田舎にあるP先生の鍼灸院へ住ませてもらうことになった。自分の意志も感情もわからなくなり、焦燥感と痛みでギリギリの状態の中、身体が勝手に動くことにただ従う日々を送った。
    畑仕事をしたり料理や家事をしたり、自分が何をしているのかわからない狂った状態のまま時間がすぎた
  • 26. 6ヶ月後、ギリギリ状態でもこの時点でまだ残り20%のベンゾジアゼピンを飲みつづけていることに絶望を感じ、強烈な離脱症状の地獄はわかっていたが、薬を抜かないことには自分が戻らないと思って、ある日勇気を持って思い切って完全断薬を決行した
  • 27. やはり地獄の離脱症状はとてつもなかったが、魔境の中で死に引っ張られ続け、強烈な痛みに唸りながらも自分の生命力を信じてなんとか生き続けた
  • 28. 離脱症状に耐え続け、1年後くらいから少しずつ家族のこと、友だちのこと、音楽や自然を感じられるようになってきた。自分がKLEPTOMANIACで絵と音楽をやる人だという本来の自分を思い出してきた
  • 29. 現在、まだまだ続く激しい離脱症状に耐えつづけ、自分の中のベンゾに破壊されたGABA(生命力)を再生しながら、ムカデと共に共存して生き抜くことを決意し、毎日を乗り越えている。歩くのも動くのも困難で、痙攣がたびたび起きる状態の中生き続けていられるのは、長い間応援して協力してくれて助けてくれる家族や友だちの存在のおかげ。遠くで応援してくれるみんなのおかげ。
    本当にありがとう!

■国産エクスペリメンタリズムの臨界 EL NINO がasiaに帰還!KLEPTOMANIACも出演を果たします!
https://clubasia.jp/events/4383

Minyo Crusaders - ele-king

 これはほんとに見て欲しい、我らが民謡クルセイダーズのドキュメンタリー映画、『ブリング・ミンヨー・バック!Bring Minyo Back!』が9月15日より、ヒューマントラストシネマ渋谷で上映されます。やった!
 もちろん、みなさんよく知っての通り、民謡クルセイダーズは素晴らしいバンドです。真の意味でハイブリッドで民衆的で、この国の宝石であり国境を越えたダンス・ミュージック・バンドである彼ら・彼女らの音楽は、すっかり国内外でファンを増やしているわけですが、映画『ブリング・ミンヨー・バック!Bring Minyo Back!』は、この大所帯バンドのもっとも本質的なところや文化的系脈をみごとに掘り起こし、J-POPでハイパーポップで再開発でクールな日本からは見えない日本をあぶり出して見せてもいます。素晴らしいです。後半の世界ツアーの映像なんかは、ほとんど『タージ・マハル旅行団「旅」について』の現代ラテン・ヴァージョンというか……あのDIYな文化交流の感じを彷彿させますよ〜。


「ブリング・ミンヨー・バック!Bring Minyo Back! 」
(2022年/日本/90分 /16:9/カラー/ステレオ)
プロデューサー・ディレクター・撮影・編集:森脇由二
出演:民謡クルセイダーズ、Frente Cumbiero、ピーター・バラカン、 久保田麻琴、岸野雄一、大石始、元ちとせ、俚謡山脈、東京キューバンボーイズ、コデランニー
配給:ALFAZBET
■公式Twitter@BringMinyoBack
■公式Instagram @bringminyoback
9月15日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開

民謡とは、⺠衆の生活の中から自然発生的に生まれ、伝承されてきた音楽である

 本作は、失われた音楽「日本民謡」をもう一度「民の歌」として蘇らせるため、クンビア、ラテン、アフロ、レゲエなど様々なダンス・ミュージックとの融合を試みるバンド、民謡クルセイダーズに5年間密着したドキュメンタリーである。民謡クルセイダーズは、東京・福生を拠点に活動するバンドで、日本各地の民謡にラテンやアフロビートをミックスして独自のアレンジを加えている。2017年に発売した1st アルバムは、ピーター・バラカン、ライ・クーダーなどから激賞され、2019年にはワールドツアーを行い、南米コロンビア、ヨーロッパ各国、オーストラリア、ニュージランドを回り、2021年にはアメリカの音楽業界で影響力のあるチャンネル「Tiny Desk Concert」に日本人として初めて出演している。
 本作の撮影は2017年から開始し、2019年のワールドツアーにも同行。彼らが民謡を再構築して現代のオーディエンスに「民謡を取り戻す」過程に密着している。コロンビアでは現地のバンド Frente cumbiero とセッションし、民謡のさらなるアップデートを模索する。
 また、元ちとせや久保田麻琴などの著名なミュージシャンや、ピーター・バラカンや岸野雄一などの評論家へのインタビューを通して、「民謡とは何か」を探っていく。2022年にピーター・バラカン氏が監修する音楽映画祭『Peter Barakan‘s Music Film Festival 2022』にて上映された際には「日本が誇る唯一無二のグルーヴをもつバンド!」「踊りたくなる最高のドキュメンタリー!」「皆で踊り唄えば世界は平和だよ!とまで思ってしまった」など絶賛が相次いだ本作。この度、2022年のヨーロッパツアーのライヴ映像を追加収録した完全版として待望の単独公開が実現した。

民謡クルセイダーズ【プロフィール】

 かつて戦後間もない頃、偉大なる先達――東京キューバンボーイズやノーチェクバーナが 大志を抱き試みた日本民謡とラテンリズムの融合を21世紀に再生させる民謡クルセイダー ズ。 東京西部、米軍横田基地のある街、福生在住のギタリスト田中克海と民謡歌手フレディ塚 本の二人を中心に2011年に結成。 失われた音楽「日本民謡」をもう一度「民の歌」として蘇らせるため、クンビア、ラテン、 アフロ、レゲエなど様々なダンス・ミュージックとの融合を試み、2017年にファースト・ アルバム『Echoes of Japan』をリリース。各方面で絶賛され、人気フェス出演を果た す。 2019年には同作がイギリスでリリースされ、コロンビアやヨーロッパ・ツアーを敢行。 今や世界中の音楽ファンを虜にする彼ら。民謡の魅力に目覚めること間違いなし。

8月のジャズ - ele-king

 今月は通常のジャズというより、民族音楽の要素強い、個性的な作品が集まった。また、ベルギーやモンゴルなど、あまりジャズとは馴染みのない国々の作品も集まっている。


Ash Walker
Astronaut

Night Time Stories / ビート

 最初に紹介するのは、ロンドンのDJ/プロデューサー/マルチ・ミュージシャンのアッシュ・ウォーカーによる『アストロノート』。以前紹介した『アクアマリーン』から4年ぶりのニュー・アルバムで、『アクアマリーン』同様にクルアンビンやレイファー・ジェイムズらをリリースする〈ナイト・タイム・ストーリーズ〉からとなる。『アクアマリーン』にはヤズ・アーメッドが参加していたが、今回も彼女のほかにジョー・アーモン・ジョーンズオスカー・ジェロームエビ・ソーダなどが参加し、ジャズ勢とのコラボが目立つ。特にエビ・ソーダは全面的に演奏を担当しており、レゲエやダブの影響が強いアッシュ・ウォーカーとの相性は抜群と言えるだろう。また、アンプ・フィドラー、スライ・フィフス・アヴェニューなどUS勢も参加していて、前作からさらに活動範囲を拡大している。

アシッド・ジャズとダブ、アフリカ音楽やエキゾティックな民族音楽、バレアリックなブレイクビーツが一緒になったナイトメアーズ・オン・ワックス直系のUKクラブ・サウンドに、UKジャズからの影響を感じさせたのが『アストロノート』だったが、本作でも心地よいメロウネスと深海を潜航するようなダビーなサウンドは健在だ。アンドリュー・アションのヴォーカルをフィーチャーした “レッティング・ゴー” がその代表で、艶やかなエレピとエコーで増幅された音像が幻想的な風景を描いていく。“バビロニアン・トライアングル・オブ・キャプティヴィティ” はエビ・ソーダとがっぷり四つに組んだ作品で、重心の低いダブ・サウンド上でホーン・アンサンブルが哀愁に満ちたフレーズを奏でていく。スライ・フィフス・アヴェニューが管楽器を奏でる “タイム・ゲッツ・ウェスティッド” は、アッシュ・ウォーカーの指向するダブとソウルとジャズが融合した最上の仕上がりを見せてくれる。ジョー・アーモン・ジョーンズとオスカー・ジェロームが参加する “オートメーション”、ヤズ・アーメッドがフリューゲルホーンを演奏する “デトロイト・ヴェルヴェット・スムース” はアルバム中でも極めてダビーな楽曲で、ほかの地域にはないUKならではのジャズとダブの親密さを伺わせる。


Chief Adjuah (Christian Scott aTunde Adjuah)
Bark Out Thunder Roar Out Lightning

Ropeadope

 アメリカの新世代ジャズにおける最重要トランペッターのひとりであるクリスチャン・スコットは、ロバート・グラスパーやテラス・マーティンらと結成した R+R=Now での活動のほか、トム・ヨークのアトムズ・フォー・ピースやXクランのツアーにも参加するなど、ジャズ・ミュージシャンでありながらオルタナティヴな活動もおこなっていることで知られる。彼はニューオーリンズ生まれのアフリカ系アメリカ人で、祖先は西アフリカから奴隷としてアメリカに連れてこられ、その後逃亡して自給自足生活を送ったマルーンと、もう一方の祖先はニューオーリンズの先住民であるマルディグラ・インディアンとされる。自らのジャズをストレッチ・ミュージックと呼んでいて、そこにはトラップと伝統的な西アフリカのパーカッション、ニューオーリンズのアフロ・アメリカンの音楽の融合があり、ジャズの規範定義を超えて拡大させるというクリスチャンの野心が込められている。2012年の『クリスチャン・アトゥンデ・アジュアー』以降は、しばしばアトゥンデ・アジュアーという名前を用いて自身のルーツを反映させた作品を展開しているが、アトゥンデとアジュアーは現在のガーナにあった古代都市の名前である。

 彼の最新作『バーク・アウト・サンダー・ロアー・アウト・ライトニング』はチーフ・アジュアー名義となり、これまで以上にニューオーリンズのアフロ・アメリカン文化の色彩が強まっている。ここで彼はトランペットを一切演奏せず、自身で作った打楽器や弦楽器を演奏している(西アフリカ発祥の弦楽器のンゴニをカスタマイズしたものや、シンセサイザー・パーカッションなど)。また、マーカス・ギルモア(ドラムス)などが参加しているものの、双子の兄弟で映画監督でもあるキール・エイドリアン・スコットや、姉妹のアミナ・スコットなども参加していて、叔父のサックス奏者であるドナルド・ハリソン・ジュニアやその父親であるドナルド・ハリソン・シニアに捧げた楽曲を収めるなど、自身のファミリー・ツリーを非常に意識したものとなっている。ニューオーリンズの伝統的なフォーク・ソングに “アイコ・アイコ” があり、これまでにドクター・ジョンやワイルド・マグノリアスらが歌って有名になったが、“ゾドカン・アイコ” はクリスチャン・スコットなりの “アイコ・アイコ” と言えよう。15分を超す表題曲は原始的な弦楽器と打楽器をバックに一族のヒストリーを朗読したもので、アルバム最後に呪術的なヴードゥー風の楽曲となって再び登場する。祖先の文化や音楽を自身の音楽としてさらに前進させる意欲的な作品となっている。


schroothoop
MACADAM

sdban ultra

 同様にニューオーリンズのセカンド・ライン・グルーヴと、アフロ・キューバンや北アフリカの伝統的なリズム、アラビアのジャズなどをモチーフとするのが、ベルギーのシュリュートフープ。2019年にブリュッセルで結成されたリック・スターレンス(管楽器、弦楽器)、ティモ・ファンティヘム(ベース、ギター、クラリネット)、マルホ・マックス(パーカッション)によるトリオで、廃材や古い金属資材などを楽器に改造して音を奏でるという異色のグループである(グループ名はオランダ語でゴミ置き場の意味)。2020年にデビュー・アルバムをリリースし、そこでは前述のアフロ、ラテン、アラブ、東洋などの民族音楽に、ジャズやフリー・インプロヴィゼイション、前衛音楽やインダストリアル・ミュージック、エレクトロニクスといった要素も交えたもので、ロンドンのイル・コンシダードあたりに近い印象だ。

 新作の『マカダム』は民族音楽やフリー・ジャズなどに加え、ダブやアンビエント、ドリルなどの要素、ピッチシフト・ディレイやリヴァーヴ・エフェクトなどエレクトロニクスを交えたもので、前作の音楽的実験をさらに推し進めたものとなっている。ミニマルなビート・ミュージックに土着的なフルートや瞑想的なマリンバ、動物の鳴き声のような楽器はじめ摩訶不思議な音色の楽器群が絡む “ブリックシェイド”、エキゾティックなアラブの旋律にテクノやインダストリアル・ミュージック的なアクセントを加えた “ブロイーハード” など、独特の世界を繰り広げている。なお、リリース元の〈sdban ultra〉には、ほかにもブラック・フラワー、Brzzvll、スタッフ(STUFF.)など、それぞれの個性を持つベルギーの若いアーティストたちが所属していて、UKやUSなどとは異なる独自のジャズ・シーンを形成している。


Enji
Ulaan

Squama

 独特の個性という点では、ミュンヘン在住のシンガーのエンジも特筆に値するアーティストだ。彼女はモンゴルのウランバートル生まれで、本名はエンクヤルガル・エルケムバヤル。労働者階級の家庭に生まれ、ユルトという遊牧民族の円形型移動テントで育ったが、もともとアーティストになることは考えていなかった。ドイツに移住して小学校の音楽教師をしている中で、国際文化交流機関のゲーテ・インスティテュートのプログラムに参加したことでジャズへの興味が生まれ、カーメン・マクレエ、エラ・フィッツジェラルド、ナンシー・ウィルソンといったジャズ・シンガーたちに触発され、自身で作曲をするようになったそうだ。そうしてシンガーとして活動をおこなうようになり、セカンド・アルバムとしてリリースした『ウルスガル』(2021年)は、モンゴルの伝統的な民謡のオルティンドにジャズとフォークを融合した独自の作品として高い評価を集める。

 エンジのニュー・アルバムとなるのが『ウラン』で、表題曲の中で彼女はモンゴル語でそれが家族から愛情をこめてつけられたニックネームであると述べている。自分が誰であるのかを改めて問いかけたアルバムである。前作同様にフェイザーというジャズ・バンドのメンバーでもあるポール・ブレンドン(ギター)、エンジと同じくモンゴル出身のムングントフ・ツォルモンバヤル(ベース)を伴奏者に迎え、新たにマリア・ポルトガル(ドラムス)、ジョアナ・ケイロス(クラリネット)を加えてバンドを拡大している。モンゴルに帰る途中の飛行機の窓から見た初秋の絶景を曲にした “ウゼグデル” はじめ、モンゴルの自然をモチーフに故郷の言葉で誠実に歌うナチュラルな作品集。アコースティック・ギターやクラリネットをバックに牧歌的に歌う “ドゥルナ” など、モンゴルの広大な大平原が浮かんでくるようなアルバムだ。

Brian Eno - ele-king

 いまNetflixで見れるUKのテレビ・ドラマ・シリーズ『トップボーイ』、見てます? なかなか面白くて、すっかりハマってしまいました。これはね、UKグライムの世界というか、UKドリルの世界というか、主演がグライム・ラッパーのケイノ(演技がうまい)とUKガラージの顔役だったソー・ソリッド・クルーの元メンバー、アシュリー・ウォルターズ。ロンドンの東側の貧困層が住んでいる公営団地を舞台にしたギャングスタ物語というか、最初はチャンネル4ではじまり2シーズンで打ちきりだったところ、これをYouTubeで見たドレイクが、「こんなおもろいものを途中で打ち切るなんて」と自腹を切ってプロデューサーとなり、同じ主演でいまNetflixでやっているわけです。新シリーズにはリトル・シムズとデイヴも出演しているのですが、リトル・シムズがまたかっこよくて、すっかりファンになってしまいました。
 まあ、そんなUK発のブラックスプロイテーション、犯罪ドラマのサントラを手がけているのがブライアン・イーノという、なんともこれまた興味深い組み合わせ(最初のシリーズを監督したヤン・ドゥマンジュが、この手のアーバン・ドラマの予定調和に抗する意味で、敢えてイーノをぶつけている)。しかもですよ、じつは『トップボーイ』の原案/企画立案者、最初の脚本を書いたローナン・ベネットなる人物がまたとんでもない方だったりします。現在は小説家であり労働党に所属する政治家として活動していますが、北アイルランド出身のこの人は、19歳のときにIRA関連の強盗事件に関わったとして逮捕され、さらにまたアナキストとして爆破事件未遂でも逮捕され刑務所に送りこまれたり、他方では、アナキスト・ワッピング自治センター設立にも関わっていもいます(アナルコ・パンク・バンドのポイズン・ガールズはCRASSとともにその資金調達のためレコードを制作し、リリースしている)。つまり本物のアナキストだったという、それがいま、ジェレミー・コービンをサポートし、『トップボーイ』の脚本を書いているところにUKの文化の奥深さを感じますね。

 さて、制作陣からしてそんな濃い背景を持っているドラマ『トップボーイ』の公式サウンドトラックがついにリリースされることになりました。『トップボーイ』のテーマ曲は、イーノの手がけたサウンドトラック作品をコンパイルした『フィルム・ミュージック 1976-2020』(2020年)の1曲目に収録されたほど印象的な曲だったので、とうぜん今回のアルバムには期待が集まるでしょう。完全未発表曲も収録された『Top Boy (Score from the Original Series)』は9月29日ビートから発売予定です。

 『トップボーイ』では、最初から私は自分の好きなように仕事をする自由を与えられていた。 音楽と雰囲気を作り、映像作家に思うように使ってもらう。私は作品のアイデアをできるだけ吸収し、そこから多くの音楽を作り「ほらどうぞ、好きなように使ってくれ」と伝える。
 従来のハリウッド的手法でスコアを書いていたら、興奮や危機感を煽ろうとする誘惑に駆られるだろう。でも『トップボーイ』は、劣悪な状況に置かれた子供たちの話なんだ。だから私は、外的世界で彼らに起こっていることだけでなく、子供たちの内的世界も探求した。多くの音楽は意図的に素朴で、ある意味単純なものになっている。メロディーはシンプルで、洗練されていないし、大人っぽくもない。
──ブライアン・イーノ

label: BEAT RECORDS / NETFLIX MUSIC
artist: Brian Eno
title: Top Boy (Score from the Original Series)
release: [Digital] 2023.09.01 [CD] 2023.09.29


Carlos Niño & Friends - ele-king

 ジャズ、ヒップホップ、ニューエイジなどを横断するLAシーンのキイパースン、カルロス・ニーニョ。9月20日に新作『(I'm just) Chillin', on Fire』がリリースされるのだけれど、ゲストがかなり大変なことになっている。ララージ、アンドレ3000、カマシ・ワシントン、これは豪華だ。80分を超す2枚組の大作とのことで、期待しましょう。

Carlos Niño & Friends 『(I'm just) Chillin', on Fire』
2023.09.20 2CD Release

カルロス・ニーニョ&フレンズの最新作は、カマシ・ワシントンやジョシュ・ジョンソン、アウトキャストのアンドレ・3000等、カルロスが築き上げてきた表現に共鳴する、強力なミュージシャンが集結した80分を超えるCD2枚組の大作!!

カルロス・ニーニョの「エナジェティック・スペース・ミュージック」は留まることを知らない。LAジャズのメッカでありヒップホップとの結節点でもあったラマート・パークを皮切りに、ウッドストックやベニス・ビーチで録音されたライヴやセッションには、カマシ・ワシントンらLAのフレンズに加えて、南アフリカのズールー音楽を継承するシブシレ・シャバやメキシコの先住民族の音楽を探求するルイス・ペレス、そして路上でフルートを吹き始めたアウトキャストのアンドレ・3000までを招いている。一つのアイデアからシームレスな音楽が生まれること、そのシンプルで大切な事実をこのアルバムは伝えている。(原 雅明 ringsプロデューサー)

[リリース情報]
アーティスト名:Carlos Niño & Friends
アルバム名: (I’m just) Chillin’, on Fire
リリース日:2023年09月20日
フォーマット:2CD
レーベル:rings / International Anthem
品番:RINC109
JAN: 4988044091092
価格: ¥3,300(tax in)

ライナーノーツ: CHEE SHIMIZU

Tracklist :​

1.Venice 100720, Hands In Soil (feat. Josh Johnson, Nate Mercereau, Jamire Williams)
2.Mighty Stillness (feat. V.C.R, Josh Johnson, Nate Mercereau, Jamire Williams)
3.Love Dedication (for Annelise) [feat. Surya Botofasina]
4.Flutestargate (feat. Deantoni Parks, Nate Mercereau)
5.Maha Rose North 102021, Breathwork (feat. Laraaji, Photay)
6.Transcendental Bounce, Run to it (feat. Maia, Deantoni Parks, Nate Mercereau)
7.Taaaud (feat. Sibusile Xaba, Jamael Dean, Nate Mercereau)
8.Spacial (feat. Sibusile Xaba, Jamael Dean)
9.Am I Dreaming? (feat. Surya Botofasina, Luis Perez Ixoneztli)
10.Etheric Windsurfing, flips and twirls (feat. Adam Rudolph, Jesse Peterson)
11.Boom Bap Spiritual (feat. Surya Botofasina)
12.Woo, Acknowledgement (feat. Surya Botofasina, Nate Mercereau)
13.Sandra’s Willows (feat. Surya Botofasina, Aaron Shaw)
14.One For Derf (feat. Surya Botofasina, Aaron Shaw)
15.Conversations (feat. Andre 3000, Nate Mercereau, Cavana Lee, Mia Doi Todd)
16.Essence, The Mermaids Call (feat. Woo, Nate Mercereau)
17.Eightspace 082222 (feat. Kamasi Washington, Surya Botofasina, Aaron Shaw)
18.Credits and Thank Yous for DSP Listening (Instrumental Score by Nate Mercereau) (Japan Bonus Track)

販売リンク:
https://ringstokyo.lnk.to/VxLKy8

オフィシャル URL :
http://www.ringstokyo.com/carlos-nino-friends-im-just-chillin-on-fire/

Snow Strippers - ele-king

 かつて、ウィッチハウスと呼ばれる esthetic な音楽があった。

 時は2010年前後。エレクトロニック、ポスト・パンク、インダストリアル、ノイズ、レイヴ、チョップド・アンド・スクリュード、デコンテクスチュアライゼーション、ダーク・アンビエント、チルウェイヴ、ダブステップ、ブラック・メタル、ディストーション、エフェクト、リヴァーブ、オカルト、ホラー、ゴシック、デカダンス、ジャンク、ヒスノイズ、バランス、アンバランス……それらすべてがNYのクラブ・シーンで邪悪に手をつなぎ、ウィッチ・ハウスは産声をあげた。グループ名や曲名にユニコードテキストを使うことで正体をくらますような仕草を見せ、ミステリアスな人物たちによって、劇的でゾッとさせるようなアンセムが多く降誕した。

 SALEMの美意識と、狂騒のサウンド。ミシガン州出身のふたりは、ウィッチ・ハウスの先駆的存在としておどろおどろしく不均衡な音を精緻にまとめ上げ、リスナーの不安感を喚起し刺激し続けた。オカルト思想を強く打ち出した『King Night』(2010年)は金字塔であり、その後もクリスタル・キャッスルズから Sidewalks and Skeletons に至るまで、様々な音楽家が様式美に陥る一歩手前でノイジーな音に拘泥し破壊性を取り戻すことを繰り返していたように思う。

 けれども、当時ウィッチ・ハウスの登場は早すぎたのではないだろうか? 音楽面でのシーパンク(SeaPunk)との同時代性や、このジャンルを語る上で重要なレーベル〈Tri Angle〉がブログを起点に始まったという時代的背景はもちろんあるものの、そのサウンドや世界観のトーンは極めて2020年代的でもあると感じる。現在のカルチャー・シーン全体が、ゴスに感化されているからかもしれない。中でも SALEM のヒップホップ/トラップの解釈はどう考えても2010年代を経過した以降の音であり、それを証明するかのように、ウィッチ・ハウス周辺のプレイヤーたちは10年代末になり再び動きはじめた。oOoOO は2018年に、SALEM は2020年に久方ぶりのアルバムをリリースし、時を同じくして〈Tri Angle〉はレーベルの活動を終了した。

 ウィッチ・ハウスの音楽性にようやく時代が追いつく中で、いや、むしろ2010年代を通してずっとこの音楽は生きていたのだという思いが強くなった。たとえば、ウルフ・アリスの一部のノイジーなナンバー。グライムスの初期作品。クラウド・ラップやフォンクなど、このジャンルのエキスを取り入れることで新たなニュアンスを獲得していった音楽も多々ある。もちろん、シーンにおいて重要なプロデューサーである BLVCK CEILING が途切れることなくリリースを重ねてきたという功績もあるだろう。結果的に、ウィッチ・ハウスはますます今の時代になくてはならない音楽となった。国内でも2022年にポスト・パンク・バンド Ms.Machine の 1797071 が意識的にポスト‐ウィッチ・ハウスを定義するようなアルバム『D1$4PP34R1NG』をリリースした。主にフェミニズムの文脈で魔女の再考が果たされている昨今、むしろ思想的にも芸術的にもウィッチ・ハウスの時代がやってきていると言ってよい。ウィッチ・ハウスのエキスをいかに作品へと活かしていくかは、実は重要なテーマになっているのではないだろうか。

 そして、2023年。スノウ・ストリッパーズの三作目『April Mixtape3』は、かつてウィッチ・ハウスがノイジーな暴力性からレイヴィーな様式へと変化していったバトンを継承し、落ち着かないテンポで疾走する快作だ。サウンドの基軸はあくまでEDMだが、ウィッチ・ハウスの不穏な妖しさと絡み合うことで、明快な曲構造を基本としながらもどこか展開が見通せないようなスリルを生んでいる。それは、ハイパーポップ以降の、未来像の提示がないままあらゆる方向へ加速し続けるやけくそのカオス・ミュージックとしても機能しているように聴こえる。ザラッとしたテクスチャは粗野な印象を与え、一曲目 “Again” のMVに映る通り、本作からは荒廃した野原や郊外の景色が連想されたりもする。

 そもそもスノウ・ストリッパーズは、ミシガン州デトロイトを拠点に2021年にデビューしたエレクトロクラッシュ・デュオであり、その実体は謎に包まれたままだ。MVの作風やSNSの世界観に見られるナンセンスでチープなセンスは音楽性にも通じるところがあり、トランスやチップチューンの影響も多く観察できる。2022年には『The Snow Strippers』と『April Mixtape2』という2枚のアルバムをドロップ、その瑞々しい才能は業界中を駆け巡り、リル・ウージー・ヴァートが最新作『Pink Tape』収録の曲 “Fire Alarm” に起用するまでに至った。そのウージーは本作『April Mixtape3』の最終曲 “It’s A Dream” にも参加、トランシ―なビートに乗ってラップを披露している。両者は恐らく、ジャンクでダークなサウンドに潜むわずかな煌めきに望みを託す点において共鳴しているのかもしれない。その証拠に、本作では、迫りくる不安感の中で時折一筋の光が射すようにきらめくシンセやヴォーカルの声がどこか官能的ですらある。

 しかしそういった曲展開の面白さ、垣間見える官能性という側面以上に、『April Mixtape3』に宿る美点とは “刺々しく突き刺すような運動性” のように思う。“Again” からドライヴするドラムとベースの瞬発力がスタッカートし続け、あらゆる曲で甘美なシンセと殺伐としたグリッチがサディスティックに襲ってくる。EDMとして基本的なリズムは安定傾向にあるものの、挿入する音や声、エフェクトのアイデアが豊富で、それらが衝突し合い歪な雰囲気を生んでいるためナイフでつんざくような体感があるのだ。

 なぜだか、私は本作を聴く度に、ヴィターリー・カネフスキー監督の映画『動くな、死ね、甦れ!』(1990年)を想起してしまう。ラフさと作為の境界を行き来するような身体感覚をエンジンに、声、雑音、光の一つひとつがぶつかり交差し、その弾けた刺々しさが画面を覆い尽くしてしまうような危うさ。スノウ・ストリッパーズの躍動感は、カネフスキーのチクチクギザギザした運動性そのものだ。つまるところ、本作から香るポスト‐ウィッチ・ハウス的感性とは、快にも不快にも繋がるような多く詰め込まれたアイデアを2020年代のレイヴ的スピード感でもって駆動させている点にあるのだろう。不穏な刺々しさが追いかけてくる/止まる/追いかけてくる/止まる……という短距離走の反復として。

 “Again” でスノウ・ストリッパーズは告げる。「The glimmer chases after me/I watch the dreams we both narrated/Quietly bleed out in my sleep(きらめきが私を追いかける、二人で見た夢が眠りの中で静かに滲んでいく)」と。

『動くな、死ね、甦れ!』で、主人公の二人は逃げ続けている。殺気立ったカメラの中で、野原を駆けながら少年少女は叫ぶ。「ナイフを持ってる! 逃げるの!」

 日本にもアンビエントに特化したフェスティヴァルがある。山梨県北杜市のキャンプ場で3日間にわたって開催される〈Off-Tone 2023〉がそれだ。
 森のなかでゆったりとアンビエントを満喫するというこのフェスは、コンセプトもロケーションも最高だが、出演者たちの顔ぶれも面白い。ヴィジブル・クロークスとのコラボレーションで、若い世代にもその名が知られた尾島由郎&柴野さつき、あのタージ・マハル旅行団にも参加していた長谷川時夫によるSTONE MUSIC、そして日本のアンビエント史における金字塔イノヤマランドといったリジェンドたちに混じって、スガイケンやKaito、Miki Yui、井上薫、Chee Shimizu、Tomoyoshi Date等々。サイケデリック・ロックの申し子、ヤマジカズヒデの出演も興味深い。主催側が、この音楽をほんとうに好きでやっていることが伝わってくる。じつはこのフェス、10年以上前からずっと続いている。ジャンルを横断しながら横になって聴く楽しみを拡張するという、90年代のレイヴ・スピリッツを継承し、着実にその支持を集めてきているのだ。今回はコロナ禍で3年の中断明けの再開。かつてザ・KLFの『チルアウト』のなかの「アンビエント・ハウス宣言」に記されたように、それは「風を愛し、星々に語るだろう」。ぜひぜひチェックしてください。

 アンビエント・ミュージックのレーベル運営・イベント制作を行うOff-Tone(オフトーン)は、2023年10月13日(金)から10月15日(日)の3日間、「べるが 尾白の森キャンプ場(山梨県北杜市白州町)」にて、アンビエントミュージック・環境音楽・サウンドアートにフォーカスした野外イベント「CAMP Off-Tone」を開催します。
 日本のアンビエント・ミュージック黎明期より活動を行う伝説的なアーティストの他、さまざまなバックボーンを持った日本を代表する音楽家が集い、山梨県甲斐駒ヶ岳のふもと、日本有数の名水をはぐくむ白州の森の中で、この日この時だけの特別な音楽を奏でます。音楽と森の音を聴き、感じ、考え、ゆっくりと眠る3日間をお楽しみください。
 イベントでは各アーティストによるライブやDJパフォーマンス、サウンドインスタレーションの他、キッズワークショップ、イベントのテーマに沿った本を読める移動図書館、地域の食を楽しむフードエリアも出現します。

イベント名称:CAMP Off-Tone 2023
開催期間:2023年10月13日(金)~10月15日(日) 
(10/13 15:00 開演、10/15 17:30終演)
開催場所:べるが 尾白の森キャンプ場
イベントホームページ:https://www.offtone.in/camp/

チケット販売サイト(入場券、駐車券、キャンプサイト・オートキャンプ・バンガロー)
直販:https://pucatronictv.official.ec/categories/5299307
ZAIKO:https://zaiko.io/event/357888

出演者:
Atoris, Ayami Suzuki, DJ蟻, Chee Shimizu, 今西紅雪, INOYAMALAND, Kaoru Inoue, KAITO aka Hiroshi Watanabe, KOSS aka Kuniyuki, Miki Yui, MINGUSS, Matsusaka Daisuke, Moshimoss, SUGAI KEN, Sound Furniture, STONE MUSIC(長谷川時夫 / タージ・マハル旅行団), Tomo Takashima, Tomoyoshi Date, ヤマジカズヒデ+NARASAKI, 塩尻寄生, 尾島由郎&柴野さつき, 小久保隆+楯直己 

【Webページ】 https://www.offtone.in/camp/


尾島由郎&柴野さつき


イノヤマランド


Miki Yui


ヤマジカズヒデ
 
新機軸となるステージやビジュアルデザイン
 ステージデザインや会場全体の演出に、日本科学未来館やタイのWonderfruit festivalなどを手掛ける建築家の遠藤治郎を迎え、立体音響なども組み込みながら、さまざまな境界を曖昧にする新たな演出で、フェスの常識に新たな挑戦をします。メインビジュアルとなるアートは、生活芸術家の檻之汰鷲による木彫のコラージュ作品。フライヤーなどのグラフィックデザインはAtorisのメンバーで、Kankyo Recordsなど、アンビエントシーンの重要なデザインを手掛ける大澤悠大が担当し、新たなCAMP Off-Toneのイメージを作り出しています。

開催地域への理解を深めてくれる美味しい料理が集結!
 フードエリアでは、会場のある北杜市や山梨県を中心とした店舗が出店します。 一方、地域外のお店も地元食材を使用したメニューがラインナップされ、イベント参加者は自然の中で音楽を楽しみながら開催地域の美味しさも感じることができます。Off-Toneは、美味しく食べる中で地域理解にも興味を持つことができる、食と音による地域との連携を実施します。

 韓国のハードコア・シーンを先導するソウルのバンド、SCUMRAID。そのドラマーである JUYOUNG が楽器をギターに持ち替えヴォーカルも担当、東京のガレージ・シーンで活躍するドラマー YAKUMO(MAGNATONES/TOKOBLACK)とともに結成したバンドが THE VERTIGOS だ。新ベーシスト Sako を迎えて完成させたファースト・アルバム『LIVE TODAY ONLY』が今週発売されている。疾走感あふれるパンク・サウンドに注目しよう。

THE VERTIGOS 待望の1st アルバムが本日遂にリリース!!

韓国HARDCOREバンドSCUMRAIDのドラマー JUYOUNG(Vo/G)、東京GARAGEシーンでMAGNATONES・TOKOBLACKでも活動しているYAKUMO(Dr)が中心となり結成されたTHE VERTIGOSが新ベーシストSakoを迎え入れ、1st Album『LIVE TODAY ONLY』を本日リリース!

コロナ禍に曲を創作し2019年に発売し評判となった1st シングル盤を完売させて以来のリリースとなる今作は、ドライブ感が増しよりパワーアップした作品となっております!

[THE VERTIGOS - LIVE TODAY ONLY Official Teaser]
https://youtu.be/lwa-283kUIA

[Streaming/Download/Order]
https://p-vine.lnk.to/581pMM

[リリース情報]
アーティスト: THE VERTIGOS
タイトル:LIVE TODAY ONLY
フォーマット:CD/LP/DIGITAL

CD:
発売日:8月16日
品番:PCD-25370 
価格:¥2,500+税

LP:
発売日:2024年1月24日
品番PLP-7678 
価格:¥3,980+税

[収録曲]
Live today only
I don’t mind
Stuck
Tiger fur
Picky
Focus on yourself
Out of my head
꿈이야 생각하며 잊어줘 (Forget me as if it was a dream)
Unseen world
Something to me

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