「KING」と一致するもの

 

 こんにちは、NaBaBaです。年の瀬迫る今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。今年もあっという間に過ぎてしまいましたが、ゲーム業界的には非常に盛り上がった1年でした。PlayStation 4とXbox Oneの二大次世代機も北米と欧州ではついに発売となり、どちらも品切れ続出の大人気のようです。

 そんな僕もじつはPlayStation 4の北米発売日である11月15日に、ロサンゼルス旅行に行ってきました。あいにくゲーム機そのものは手に入らなかったのですが、発売日の深夜販売に合流してみたり、個人のゲーム・ショップで店員さんたちといっしょに遊んだりして、向こうのゲーム熱を直に感じてきたのです。

 
L.A.市内のゲーム・ショップ『World 8』にて。店員さんたちと開封したてのPlayStation 4で遊んだときの様子。

 そしてこのロサンゼルスを舞台のモチーフにしているのが、今年最大の超大作である『Grand Theft Auto V』です。〈Rockstar Games〉の看板シリーズであり、昔『Grand Theft Auto III』が日本で発売されたときには、その暴力的内容から神奈川県で有害図書に認定されるという事件もありました。そうしたことから名前だけは知っている方も多いのではないでしょうか。

 そんなシリーズの最新作である本作は発売されるや否や、数々の記録を打ち立てています。まず開発費が約2.65億ドルと歴代ゲーム1位(2位は前作『Grand Theft Auto IV』の1億ドル)で、しかも発売初日に8億ドル以上売り上げ、発売6週で約2,900万本も売り上げるなど、化物みたいな数字が目白押し。さらにVGX等の数多くのアワードでもGame of the Yearを受賞しています。

 そんなあらゆる面において今年を代表し、また今世代の集大成と呼ぶにふさわしい本作のレヴューで以て、このコーナーも今年を締め括りたいと思います。

■進化・改善と新要素

 先程『Grand Theft Auto V』を今世代の集大成と呼んだのは、何も比喩的な意味ばかりではありません。〈Rockstar Games〉の作品としては、今世代に発売された『Grand Theft Auto IV』のオープンワールドゲームとしての骨格の上に、『Red Dead Redemption』の自然表現やランダムミッションシステム、『Max Payne 3』のシューティングシステム等といった長所を組み合わせた、正しく字のままの集大成として仕上がっているからです。

 舞台となるSan Andreas地方は、都市部と自然が織り成す、〈Rockstar Games〉の作品の中ではもっとも広大なもの。そこに詰め込まれているアクティヴィティも膨大で、現代のロサンゼルスに存在するであろう、あらゆる事物を徹底的に再現し、その上で現実では体験できないフィクションを織り交ぜています。シリーズはおろかオープンワールドゲームの中でも史上最大の物量だと密度と言っても過言ではありません。

 
シリーズ最大の舞台を、もっとも洗練されたゲーム・システムで楽しめる。

 さて、こうした進化と改善に対して、今回からの新要素はなんといっても3人の主人公によるザッピングシステムでしょう。本作ではMichael、Franklin、Trevorというそれぞれまったく別の境遇の3人組が、お互い協力して数々の犯罪に挑んでいきます。そしてゲーム的にもプレイヤーはこの3人を使い分けながら攻略していくことになり、ゲーム全体を通して非常に重要なシステムとしてフィーチャーされています。

 ではここから、前半はオープンワールドとメインミッションについて、後半は世界観の考察を交えながら、シナリオに対してこのザッピングシステムが持つ功罪について、考えていくことにしましょう。

本作の特徴についてはこの公式解説動画がもっとも纏まっている。

■3人の主人公と3種類の視点

 オープンワールドゲームとしてのこの主人公のザッピングシステムは、まずはミッション中でなければ基本的にいつでも自由に操作キャラを切り替えられるという点で、遊ぶ上での利便性に寄与しています。たとえば別々の場所にいる主人公たちを切り替えることで移動の手間が多少省けるし、また、いまやっていることに飽きても他の主人公に切り替えることで、心機一転して別のことに取り組むきっかけになるのが面白い。

 しかしそれ以上に個性や行えることが違う主人公たちを切り替えることで、ひとつの舞台を三者三様の角度から楽しむことができるのが効用としてはもっとも大きいと感じます。典型的なのがTrevorで、彼の破滅的な性格、言動はプレイヤーの遊び方をも自然と暴力的な方向に導いていく。MichaelやFranklinでは性格的に似合わない大量虐殺もTrevorだったら起こし得るし、実際そういう趣旨のイベントもたくさんあります。

 
Trevorの狂気はプレイヤーの暴力的衝動を掻き立ててくれる。

 前作『Grand Theft Auto IV 』でリアリティとシリアス路線の観点からトーン・ダウンしたシリーズ元来の暴力的ハチャメチャプレイが、Trevorというキャラによってリアリティを損なうことなく実現できた意義は大変大きい。シリーズのどのタイトルのファンにとってもうれしい改善だと言えます。

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■格好良い+ 格好良い +格好良い=超格好良い!

 『Grand Theft Auto V』の遊びの本軸となるメインミッションでも、先程のザッピングシステムは効果を発揮しており、ここではひとつの出来事を多角的に、かつよりスペクタクルに描き出すものとして、さらには攻略における戦術的オプションとしても機能しています。

 本作のメインミッションは前述した通り、3人が協力して大仕事に挑むパターンが多い。プレイヤーは異なる役割の3人を任意に切り替えたり、または自動で切り替わったりするなかでひとつのミッションを攻略していくことになります。

 これは簡単に言えば、3人の主人公の格好良い瞬間を切り貼りして、全体が構成されているという感じ。なので展開が常に引き締まっていて中弛みがなく、ひとつの出来事を多角的に見れるので物語としての厚みも増す。また役割が3人に分散するので、従来のゲームに見られた、主人公がひとりで全部やるみたいなことが起きず、リアリティにも貢献しています。

ミッション中のザッピングシステムの機能は、映像を直接見てもらうのが理解する近道だろう。

 メインミッションでは大抵の場合頻繁にキャラクターを切り替えることになりますが、こうしたシステムで懸念材料になるのが、キャラクターを切り替えたときに状況が把握しきれず混乱しかねないことだと思います。しかし本作では不思議なくらいこの問題は起きませんでした。

 それは良くも悪くもこのシリーズのミッションには、もともと戦略の自由度が無いからなのでしょう。とくに04年発売の『Grand Theft Auto: San Andreas 』以降のミッションは紋切型ばかりで、大局的な目線で立ち回りを考えたりといった、創意工夫を許す余地がありません。この点がいままでは欠点のひとつとして度々指摘されてきたわけですが、しかし本作に限ってはその指示された通りやればいいという単純さが、むしろ主人公を使い分ける際に混乱を抑制するプラスの効果を生んでいるのです。

 また違う立場のキャラクターに切り替える機能は戦略の幅には寄与しなくとも、局所的な戦術という意味では自由度を増やしてくれています。たとえば1人が迷路のような場所を進み、もう1人が遠方からスナイパー・ライフルで援護するというシチュエーションの場合、片方の操作に専念するか、交互に使い分けるか、またその割合等もプレイヤーの裁量に委ねられるのです。

 
定番の狙撃で援護する場面も、する側とされる側を自由に切り替えられるとなれば俄然面白くなる。

 そうした点を考えれば、紋切型という根本的な構造自体は変わっていませんが、むしろ紋切型としては、従来のゲームには無いシステムがとても新鮮で、かつそれがしっかり機能していて、とても面白いものに仕上がっていると思います。

■リーマンショック以降のアメリカ社会を切る

 問題はシナリオで、ザッピングシステムがほぼ完璧に機能していると感じた先の2件に比べて、こちらは不満に感じる部分が結構ありました。しかしその点を語る前に、まずは本作の全体的な世界観から考察していきたいと思います。

 このシリーズの世界観の特徴は、一貫してアメリカ社会の風刺であると思っていますが、本作ではとくにその傾向が強い。なぜなら今までのシリーズはギャングやマフィアといった裏社会の出来事を中心に描いていたのに対し、本作ではより一般人と表社会に近いところで物語が展開されるからです。

 もっともわかりやすい例が主人公たちに仕事を依頼するクライアントや敵対者たちで、これまでのような裏社会の犯罪者はほんのわずかで、かわりに実業家やFIBやIAA(FBIとCIAのパロディ)の捜査官、パパラッチやエクササイズ・マニアだとかいった、ほとんどが表社会や公的機関の人々。そんな彼らが金を稼ぐため、社会で生き残るため、あるいは狂気の結果として、主人公たちに不正行為の外注をするわけです。

 
実業家のDevin Weston。儲け話でそそのかしながら、報酬を出し渋る嫌な奴だ。

 さらに街を見回してみると、現代社会のさまざまな事物が強迫観念的に誇張されて描かれています。経済問題やセレブの堕落といった話題がニュースの紙面を賑わせ、IT会社のCEOは児童労働を高らかに宣言し、保守主義と社会主義の知事候補が日々過激な罵り合いを繰り広げ、TwitterやFacebookを模したSNSを見ると人々はヤクやセックスの話ばかりしている。

 
現実では建前の奥に隠している本音も、本作では皆堂々と曝け出している。

 そこから浮かび上がってくるのはリーマンショック以降のアメリカの姿です。不景気や相次ぐ社会問題に喘ぎ、しかしかつての栄華を捨てきれずに体裁だけ整えようと、皆が必死になっている姿がそこにはある。劇中ではどれも表現が過激で往々にしてコミカルに見えるますが、捉えている問題は極めて現実的でシリアスなものです。

 そんな世界において、主人公たちはある意味ではもっとも被害者なのかもしれません。なにしろほとんどの場合クライアントからは報酬が支払われない。これまでのシリーズでは仕事を請け負えば必ず報酬がありましたが、本作では何かと理由を付けてケチられたり、そもそも初めから無銭労働を強いられる場合も多い。

 当然主人公たちはジリ貧です。物語的にはもちろん、ゲーム的にも出費だけがかさみ、そのうち何もできなくなり、最終的には自ら企画立案した仕事=強盗に挑まざるを得ない状況に追い込まれていく。

 
本作の自主的な強盗の動機は、基本的に生活苦なのである。

 つまり本作は本質的には労働者の物語なのです。これは言うなればウォール街を占拠せよ運動で語られた、1%の富める者と99%の貧する者たちによって繰り広げられる死の舞踏なのです。問題の発露、あるいは解決に犯罪行為が選ばれているだけで、問題そのものはわれわれ一般人の生活のなかにあるものを捉えている。

 そして本作の凄いところは、こうした社会風刺を言うまでもなくオープンワールドゲームとして表現している点にあります。これまでゲームに限らずあらゆるメディアに社会風刺的な作品は存在しましたが、風刺の対象となる社会そのものを仮想現実的に再現してしまうことに関しては、このシリーズに勝るものは他にありません。とりわけ本作はいままで以上に一般人の目線に立った世界観と、先述したシリーズ最高のゲーム・システムが組み合わさり、シリーズとしてもメディア作品としても風刺表現のひとつの極みに達していると言えます。

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■三兎を追う者は何とやら

 問題はここから。世界観と全体的なテーマは文句なしですが、3人の主人公個々の物語として見ると話は違ってきます。結論から言えば主人公が3人になったぶん、視点が分散してしまい、両者とも十分に掘り下げきれないまま話が終わってしまう印象を受けました。

 少なくとも中盤までは大変面白い。ストリート・ギャングと決別し、より現実的な方法で成功を望むもうまくいかず悶々としているFranklinは同世代として共感できるし、家庭崩壊と己の性に苦しむMichaelはいままでのゲームには無かったキャラクター像でとてもユニークです。そんなふたりに正真正銘の外道であるTrevorが合流し、毎回乱痴気騒ぎをしつつも全体的に駄目な方向に堕ちていく様子は、まさに現代版死の舞踏といった感じで、悲劇でも喜劇でもありながら独特の緊張感がある。

 
ついには家族に出て行かれてしまうMichael。

 しかし後半以降になると途端に展開がマンネリ化してしまいます。まずFranklinは本人の目標を早々に達成してしまい、話の本筋にあまり絡まなくなってしまう。TrevorはMichaelのことをチクチク言葉責めするばかりで関係に進展がほとんどないし、3人のクライアントもほぼFIBに固定化されてしまう。

 
Franklinはときどき元ギャング仲間との絡みがあるだけで、後半はほとんど彼自身の物語が展開されない

 こうした後半のマンネリ化に続いて、終盤で物語が収束していく段になっても、個々の出来事にいまひとつ説得力が欠けているのです。極めつけはエンディングです。3種類に分岐するのですが、どれもいままで積み重ねた伏線を回収しきれずに終わるか、もしくはまるで打ち切りマンガのように強引に風呂敷を畳む感じになってしまい、いずれにせよ不満が残ります。

 以上のようなシナリオになってしまったところに、3人主人公というシステムの難しさを感じずにはいられません。エンディングについて、「もっと尺を取って個々の伏線にしっかり決着をつけるべきだった」と言うのは簡単ですが、おそらく律儀にそれをやっていたらただでさえ長大な物語がさらに気の遠くなる長さになっていたに違いありません。後半のマンネリも、3人の個々の物語を展開しつつ、本筋の大きな物語に歩調を合わせることの困難さが露呈してしまっています。

 どうすればうまくいったのか簡単には思いつきませんが、つまりはそのワン・アイディアが足りなかったということでしょう。結論としては一般的なゲームのシナリオとしてはユニークさも完成度も十分と言えますが、個人的にシリーズ最高だったと思っている『Grand Theft Auto IV 』の主人公Nikoの物語と比べると、今回の3人の物語は数段落ちるのが残念でした。

■まとめ

 お金をつぎ込めるだけつぎ込み、現在考えられる究極のゲームを作ったとしたら? その答えのひとつが『Grand Theft Auto V』であり、その圧倒的物量は前代未聞の領域。新しいシステムも含め全体的な完成度はとても高い。

 唯一、シナリオの後半以降の粗が目立ってしまうのが玉に瑕ですが、現代アメリカの風刺としてはこれ以上無いほど極まっており、総合的に見て『Grand Theft Auto』シリーズの名に恥じない傑作と断言できます。ゲーマーは勿論、普段ゲームに興味の無い人にも手にとってほしいと感じる逸品。

 最後に、『Grand Theft Auto V』はとても多義的な作品です。今回はゲーム・システムと物語という観点からレヴューしましたが、よりアメリカン・カルチャーに根ざしたところから本作を考察することもできるでしょうし、犯罪映画の数々と比較して語ることもできるでしょう。

 そして『ele-king』的には何よりも音楽ではないでしょうか。本シリーズは毎回劇中のラジオという形で、時代性に即したさまざまな実在の楽曲が収録されていますが、本作もまた古くはザ・スモール・フェイセスの『オグデンズ・ナット・ゴーン・フレイク』から、近年ならジェイ・ポールの『ジャスミン』等、幅広いジャンルの曲が選ばれています。

 こうした観点からのレヴューも非常に興味深いに違いありませんが、あいにく僕は音楽の専門化ではないので書くのは難しい。むしろ他の誰かが書いてくれないかな! という淡い期待を寄せつつ、本年のレヴューを締め括らせていただきたいと思います。それでは皆さん、よいお年を。



Varius Artists - ele-king

 クズだと思われていた音源が何十年後かに突然光沢を帯びるのはいまでは珍しい話ではない。『コズミック・マシーン』は1970年代にフランスで制作された電子音楽を集めたものだが、高尚な現代音楽や芸術分野における成果ではなく、ジョルジオ・モロダーとクラフトワークの衝撃、シンセの普及、そのどさくさに紛れて産み落とされた、ディスコをはじめとするダンス・ミュージック、ライブラリー系の商用音楽や著名なアーティストが電子機材を手にしたばかりの熱にうなされて(さもなければ気まぐれで)作ったかのような楽曲が20曲収録されている。言わばフレンチ・エレクトロの青写真、コズミック・ディスコの視点から編まれたコンピレーションである。これから正月/新年を迎えるにあたって、実にユルくて、最高に腑抜けた音楽なので紹介しよう。
 ジャン=ジャック・ペリー(フランスというよりも、世界史な観点で言って大衆電子音楽の先達)やセルジュ・ゲンズブール、ジャン・ミッシェル・ジャールといった説明不要の大御所に混じって、ディスコ・ファンにはお馴染みのセローン、ベルナール・フェヴレ(ブラック・デヴィル・ディスコ・クラブ)の名前もある。なんとダフト・パンクのトマ・バンガルテルの父親がプロデュースした作品もあるが、これがネタというよりも、本気でなかなか良い。他の収録曲はだいたい面白い。4/4キックドラム、ロボティックな反復、ぶ厚く、ときにキラキラしたアナログ・シンセ音は、きっとあなたをアウタースペースに導いてくれるでしょう。電子機材を大衆音楽に使用するにあたっての「型」が確立していない時代の楽曲なので、テクノの珍品集というか、発想がいまより自由だし、3~40年前のガラクタがアートに見えるといったら大げさだが、聴いて楽しいことはたしかだ。クラウトロックにも似た、どこまでもスマートになりきれない面白さもある。

 とはいうものの、結局、音楽は時代の映し鏡という側面があり、それが電子音楽であれ、レアグルーヴであれ、そして流行のモードが90年代になろうとも、人が70年代の音楽を愛するのは、作品に吹き込まれたオプティミスチックな空気ゆえだろう。今日いかなる電子音楽を聴いても、良くも悪くもここまでお気楽な調子にはならない。ele-kingが好んで紹介しているようなダーク・アンビエントだの、インダストリアル/ゴシックだの、ヤング・エコーなど、とんでもございません! さすがゲンズブールは、電子音を使ってインダストリアルな質感を醸し出しているのだが、それにしても今日のそれとは比較にならない。

KABUTO - ele-king

 KABUTOは千葉出身、東京在住のDJ。KABUTOが少年時代を送った1980年代~90年代はパンク以降の音楽、クラブ・カルチャーの隆盛、ファッション、スケート・ボード、あらゆるユース・カルチャーが混然となった時代である。当時10代のKABUTOは千葉の街で、日々次々と生み出される新しく刺激的なムーブメントの数々を、ヤンチャな遊びの過程で貪欲に吸収して育った。
 そして2000年代になり、KABUTOは地元の先輩であるDJ NOBUからの誘いで、始動間もない〈FUTURE TERROR〉に加入する。千葉という街で何の後ろ盾もなく、仲間たちによる手づくりで始められた〈FUTURE TERROR〉……それがどれだけ特別なものであるかは、インタヴュー本文でKABUTOの言葉から知ってもらうべきだろう。とにかくKABUTOは〈FUTURE TERROR〉のオリジナル・メンバーであり、後に彼は〈FUTURE TERROR〉を脱退し東京に移るが、いまでもKABUTOの言葉は〈FUTURE TERROR〉への愛と敬意にあふれている。それからKABUTOは〈FUTURE TERROR〉で得た大いなる経験と理想を胸に歩み、彼はいま、東京のダンスフロアからもっとも信頼されるDJのひとりとなった。頼るものはDJとしての心と技、ただそれだけだったであろうが、それゆえに彼の周りには、新しい仲間たちも集まってきた。

 現在のKABUTOのホーム・グラウンドは、全国の音楽好きから愛される東高円寺の〈GRASSROOTS〉で自らオーガナイズする〈LAIR〉。それと、和製グルーヴ・マスターと名高いdj masdaが運営し、ベルリン在住のyone-koも名を連ねる代官山UNITの〈CABARET〉である。KABUTOのプレイ・スタイルの片鱗は、2009年に〈DISK UNION〉からリリースしたMIX CDシリーズ"RYOSUKE & KABUTO - Paste Of Time Vol.1/2"や、この秋サウンドクラウドにアップされた"Strictly Vinyl Podcast 010"等でも触れてもらえると思う。だができることならぜひ、パーティの現場でこそ、彼のDJと人柄を味わってもらいたい。なお2013年12月13日、現時点でのKABUTOの最新のプレイのひとつである〈CABARET〉では彼は朝6時過ぎからブースに登場。ミニマルとディープ・ハウスを行き来し気持ちよく踊らせる持ち味を発揮した後、荒々しいシカゴ・ハウスをはさみつつどこまでも加速するようなKABUTOのプレイにダンスフロアの歓声はどんどん膨らんでいった。時計は7時半を回っていた。

 それではKABUTOの初めてのインタヴューをお届けする。KABUTOと長年交流する五十嵐慎太郎(〈Luv&Dub Paradise〉主宰)をインタヴュアーとして、過去、現在、そしてこれからについて存分に語ってもらった。


俺、全部同時進行なんです。「(特定の)この音楽で育った」っていうのはないんですよね。そういう音楽の聴き方をしていたのは先輩とかの影響もあるから、千葉での遊びがルーツとも言えるかもしれないですね。

■五十嵐:俺、カブちゃんとは常に会うような関係ではないけど、お互いの要所要所では何度も会って、熱い話をしてるんだよね。それこそカブちゃんが〈FUTURE TERROR〉を離れるにあたって考えていたこと、その当時の目標やヴィジョンなんかも含めて、個人的には以前にも話を聞いてるんだ。それからしばらく経って、KABUTO君の近年のDJ/オーガナイザーとしての活躍ぶりは、すごく注目されるべきものだと俺は強く思っていて。それでインタヴューという形で改めて、KABUTOというDJのこれまでの歩みや、何よりもKABUTO君がこの先、DJとしてやろうとしていることについて、じっくり話を伺おうと思ったんです。
 まず、カブちゃんが〈FUTURE TERROR〉を辞めたのはいつなんだっけ?

KABUTO:2008年に辞めたから、5年ですね。

■五十嵐:いきなり言っちゃうけど、その頃カブちゃんは、NOBU君が〈FUTURE TERROR〉というパーティを何もないところから作って、みんなの信頼を勝ち得るまでのものすごい大変さをわかった上で、「そこに挑戦したい」と言っていたんだよね。そして「それで、俺がDJとしていまより良くなっていったとしても、それは〈FUTURE TERROR〉のおかげなんだ」とも話していた。

KABUTO:本当にそう思います。

■五十嵐:これからあらためて聞くけど、カブちゃんがその頃から思ってきたことに、ここに来て近づいてきたのかなって俺は感じてるんだよね。

KABUTO:やっとちょっとは見えたかなって感じですね。

■五十嵐:まず、11月15日にカブちゃんがいま〈GRASSROOTS〉で主宰してる〈LAIR〉の6周年があったじゃない(その日のゲストはムードマンと、DJスプリンクルズことテーリ・テムリッツだった)。あれは本当に素晴らしかったね。あの雰囲気を作り上げたっていうのがさ。DJはもちろん良いに決まってるんだけど。

KABUTO:プラス皆の人間力ですよね。

■五十嵐:その一方で2013年になり〈womb〉や〈ageha〉の〈ARENA〉のような大きな会場のメインも務めたり、活躍の場を広げてきているよね。そんなこといろいろと思い出してたら、こないだの〈FUTURE TERROR〉の12周年(2013年11月23日)のフロアでさ、朝、俺がHARUKAのDJで踊っていたら、NOBU君がカブちゃんのところに来て、「お前、去年あたりからいい動きしてるよ」って、俺の目の前で話し出してさ(笑)。それを見た時に、お互いの気持ちをメチャメチャ感じて、何故か俺が感動しちゃって。俺が泣いてどうするんだっていう(笑)。

KABUTO:NOBU君とは、もう出会って20年ですよ。俺が17のとき。共通の知り合いがいて、ある日その人とNOBU君とで俺の地元に来たことがあって、そのときに初めて会って。凄い覚えてますね。RYOSUKE君(同じく元〈FUTURE TERROR〉)も17のときから知っていて、俺はRYOSUKE君が当時やっていたバンドをよく見に行ってましたね。

■五十嵐:RYOSUKE君がやってたのはハードコアのバンドだったんだっけ?

KABUTO:そうです。RYOSUKE君は、ハードコアだけじゃなくてレアグルーヴとかいろいろな音楽を聴いてる感じで、当時の俺はメチャメチャ影響受けてるんですよね。RYOSUKE君とは、高校生の頃、俺が船橋のバーみたいな所でDJしてたときに、初めて話したのは凄い覚えてます。

■五十嵐: RYOSUKE君も年上だよね? 当時のふたりはどんな関係だったんだろう。街の兄貴分みたいな感じ?

KABUTO:兄貴って、そこまで仲良くなれなかったですね。

■安田:遊びに行くといる、格好いい先輩みたいな?

KABUTO:そう。千葉に〈LOOK〉っていうライヴハウスがあって、そこによく遊びに行っていたんですけど、最初は話もできなかったですね。「ちわっす」「おつかれさまです」って感じで。

■五十嵐:ガハハハハ(笑)! そのときが17歳っていうと、1992、93年ぐらいか。そのときはどんなDJしてたの?

KABUTO:そのDJのとき、(ビースティー・ボーイズの)『CHECK YOUR HEAD』からのシングル・カットをかけてたんですよ。そうしたらRYOSUKE君が反応して、話かけてくれて。

■安田:KABUTO君の音楽のルーツっていうと何なんですか?

KABUTO:うーん、強いていうならスケート・カルチャーがルーツですね。スケートのビデオで使ってる音楽っていろいろじゃないですか。それをすごい観てたから、いろんな音楽を聴くようになったんですよ。
 あと姉が洋楽好きだったので、それでピストルズとかを聴いたのが小6とか。で、ガンズとかのハードロックからヘヴィー・メタル。スレイヤー、メガデス、というのが中1、中2ぐらい。
 で、中3になるとスケートもはじめて、メタリカ、アンスラックス、レッチリとかレニー・クラビッツを聴いていて、それからジミヘンやクラプトンとかも聴くようになりました。で、高校生になるとスーサイダル(・テンデンシーズ)とかバッド・ブレインズとかを聴く一方でHIP HOP、R&Bも聴いてて、テレビでは〈BEAT UK〉を観てたり。そういう感じで、聴いてきたものは皆とそう変わらないんだけど、ゴチャゴチャでいろいろ聴いてたんですよね。だから「昔何聴いてたの?」って聞かれると「全部!」って答えてて。レゲエやスカ、キンクスもスペシャルズも大好きだったし。昼間はスペシャルズ聴いて、夜になったらサイプレス(・ヒル)聴いて、みたいな(笑)。またゆったりしたい日にはスティーヴィー・ワンダーやプリンスも聴いてたし。だから「(特定の)この音楽で育った」っていうのはないんですよね。あと、そういう音楽の聴き方をしていたのは先輩とかの影響もあるから、千葉での遊びがルーツとも言えるかもしれないですね。

■五十嵐:ロックとクラブ・ミュージックが交わる時期というか、とにかくいろいろ新しいものが出てきた時代でもあったよね。

KABUTO:そうですね。アンスラックスとパブリック・エネミーの“ブリング・ザ・ノイズ”とか、ビースティーとかNASも人気があって、それで元ネタを掘り始めたりするんですよね。

■五十嵐:『パルプ・フィクション』等の影響でのレアグルーヴもあったしね。

KABUTO:映画の影響もありましたね。高校の時に『さらば青春の光』を見たり、マット・ヘンズリーの影響でVESPAが流行って乗ったりもしてましたね。

■五十嵐:90年代にはフィッシュとか、ジャム系のバンドも出てきたけどそういった音は?

KABUTO:俺はフィッシュとかは通ってないんですよ。その頃は俺、日本のハードコアがすごい格好いいと思ってた時期ですね。下北沢の〈VIOLENT GRIND〉とかもよく一人で行ってました(笑)。そういえば、NOBU君はニューキー・パイクスと繋がってたりして。

■五十嵐:そうなの?

KABUTO:そうなんですよ。そこでAckkyさんとも繋がるんですよ。

■五十嵐:なるほどね! Ackkyもニューキー・パイクスのライヴに客演で参加したこともあったみたいだもんね。
 そういう、90年代からいまへと連なる人の繋がりもあるわけだけど、ミクスチャーとかHIP HOPの世代の人たちから、バンドとDJの間の壁がまるっきりなくなったと俺は感じていて。要するにNOBU君世代ぐらいからなのかな。それまではクラブとバンド、ラップとバンドの垣根はすごく高かったように思うんだけど、サイプレス・ヒルとかガス・ボーイズが出てきたあたりから変わってきたんだよね。

KABUTO:それが、俺が高校生の頃ですね。俺、全部同時進行なんです。ハードコア聴いてる時期に〈MILOS GARAGE〉に行ったり、平日の青山〈MIX〉、あと〈BLUE〉とかも、千葉から遊びに行ってたし。四つ打ち行く前にアシッド・ジャズ、ラテンとかも聴いていて、ビバ・ブラジル(Viva Brazil)のスプリットのレコードを買ったらその逆面にサン・ラが入ってたりして。後に気付くんですけど、当時はサン・ラってわからず聴いてましたね。

■五十嵐:カブちゃんはバンドだけじゃなくDJの方にも、すんなり入っていったんだね。

KABUTO:クラブ・ミュージックの最初は、地元の仲良い年上の友だちが、兄弟でレコードすごい持ってて。その家がたまり場でよくDJして遊んでたりしてたんです。そこで電気グルーヴの『VITAMIN』や『オレンジ』とかを初めて聴いて、あとは〈ON-U〉とかのダブを聴いたり。高校のときはハウスとかテクノってあまりピンとこなかったんですけど、シカゴ・ハウスを聴いたときに「何だこれ!?」って思って衝撃を受けて、そこからハマってったんですよ。

■五十嵐:その頃、RYOSUKE君とかNOBU君はもうDJやってたの?

KABUTO:NOBU君は出会った頃はまだそんなにやってなかったはずですね。あまり正確には覚えてないんですけど。その頃トリップ・ホップも流行ってたじゃないですか。スカイラブ(SKYLAB)とか〈MAJOR FORCE〉、デプス・チャージ、セイバーズ・オブ・パラダイスとか、それでアンディ・ウェザオールが〈新宿リキッドルーム〉でやるときに、地元の友だちとNOBU君と一緒に行ったんですよ。それがクラブで初めての四つ打ち体験。19ぐらいの時かな?

■安田:四つ打ちを聴きはじめてからはどうなったんですか?

KABUTO:その後、ハタチぐらいからの何年か、毎年のようにアメリカに遊びに行ってた時期があるんですよ。地元のスケーター仲間がアメリカに住んでたから。いろんな街に旅行して、クラブもいろいろ行きました。ニューヨークに行ったときには(ジュニア・)ヴァスケス聴きに行ったりとか(笑)。NYでは他にも〈Sonic Groove〉と〈Drumcode〉の共同開催みたいなパーティとかにも行ったし。ちょうど年越し時期のフェスっぽいパーティで、NYのフランキー・ボーンズ、シカゴのマイク・ディアボーンやポール・ジョンソン、ヨーロッパからもアダム・ベイヤー、ニール・ランドストラムとか、いろいろ出てましたね。サンフランシスコではQ-BERTとか聴いてるけど、レコードはテクノを買って帰ってきました(笑)。ロスアンジェルスに行った時はたまたまカール・クレイグとステイシー・パレン、デトロイトのふたりが出るパーティがあったから、それに遊びに行ったりとかしてました。

■五十嵐:ここまで、若いときの音楽の話には「地元の仲間」という言葉が頻繁に出てくるから、やっぱり「千葉」はカブちゃんにとってとても重要な要素なんだね。カブちゃん自身は、住んでいたのは千葉のどのあたりなの?

KABUTO:僕は成田で、〈FUTURE TERROR〉の最初の4人のなかでは僕だけ住んでる所が離れてるんですよ。

五十嵐:成田ってどういう感じの街だったの?

KABUTO:成田山と空港くらいで田舎です(笑)。で、外国人が多い。地元の仲間はみんなスケーターでしたね。

■五十嵐:それにハードコアとか、バンドや音楽が好きな仲間も。

KABUTO:そうですね。皆で滑って、飲みに行ったり。その頃俺らまだ未成年だったけど、悪い先輩達と遊ぶのがすごい楽しかったし。そこからもう夜遊びの方にシフトしていくタイミングですね。

■五十嵐:俺の地元の静岡もそうだけどさ、そういうので生活は成り立たないじゃない。

KABUTO:成り立たないですね。

■五十嵐:どうしてたの?

KABUTO:普通に働いてました。まず車がほしいんで、お金貯めなきゃ、ってなって。高校卒業してすぐ車ゲットして。これで東京のクラブにも遊びに行ける! って。もうみんな乗せてパーティ行ったりとか、ウロチョロウロチョロしてましたね。俺、就職するとか大学に行くとか、全然考えなくて。まず遊び。

■五十嵐:ガハハハハ(笑)!

KABUTO:パーティの楽しさを知ってしまったので、もうひたすら遊びに行ってました。

■五十嵐:千葉で自分でパーティもやってたの?

KABUTO:いや、やってないです。俺が22歳くらいの時にRYOSUKE君が〈MANIAC LOVE〉でDJシャッフルマスターと〈HOUSEDUST〉っていうパーティでDJをやってて、それに結構遊びに行ってて。その頃にDJ RUSHとかPACOUみたいなDJを初めて現場で聞くんですよね。後で知るんですけど、その頃、KURUSU君(FUTURE TERROR)もRYOSUKE君と遊んでるんですけど、俺はその頃はまだKURUSU君のことは知らなくて、実際に知り合うのはもう少し後なんですよね。

■五十嵐:そうなんだ?

KABUTO:俺とKURUSU君がリンクしたのが、たしか(2000年前後に大人気だった)SUBHEADが来日した後くらいだったかな。
 SUBHEADが来日して、渋谷道玄坂の〈MO〉ってクラブでやってた〈Maximum Joy〉ってパーティでプレイしたことがあったんですけど、そのパーティがすごいヤバかったんですよ。ちなみに〈FUTURE TERROR〉の第1回目のゲストが、そのSUBHEADのフィルとMAYURIさん(metamorphose)なんですよ。
 その〈Maximum Joy〉には俺は客として遊びに行ってて、そこからクリスチャン・ヴォーゲルとか、No Future系にもハマっていくんですけど、そこにはNOBU君たちもいて。それから何年かして誘われるんですよね、〈FUTURE TERROR〉に。

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デトロイトで音を作っている人たちって、結構生活が厳しいながらも、やっぱり音楽の力を信じてやってたりしますよね。自分も(進学はせずに)仕事して、働いた後にパーティの準備するために集まったりしてたんで、そういうところが当時ちょっと自分とダブって感じて、デトロイトの音楽にハマったっていうのもあるかもしれないですね。

■五十嵐:〈FUTURE TERROR〉はこないだ12周年だったから、2001年ぐらいに始まってるわけだよね?

KABUTO:俺は1回目の〈FUTURE TERROR〉のときはDJじゃなくて。実は1回目は遊びにも行ってないんですよ(笑)。
 俺、その時パーティが開催されることを全く知らなかったんです。地元で仲良かった友だちはそれ行ってて、俺は後から聞いて「え、そんなのやってたの!?」みたいな。で、それが集客も良かったらしくて、レギュラーでやってみようかってなったらしいんですけど、俺はもう、全然知らずに。
 だけど、ちょっと経った頃に……当時よく、音楽好きな友だちと、家でいろんな音楽聴きながらDJしてたんですよ。そしたらある日、NOBU君からいきなり電話がかかってきて「DJやらない?」って言われて。「レコードあるんでしょ?」「はい」って、「今度こういうのやるんだけど、どう? RYOSUKEとKURUSUと4人で」って。だから正式には、俺は2回目からなんですよ。

■五十嵐:なるほどね。

KABUTO:その時は結婚式場を借りて、システムを入れてやるって話で。でも、その時俺はパーティのやり方がなんにもわかんないから。必死にDJやるだけでした。

■五十嵐:俺、その辺の話は静岡にいる時に、何かの雑誌で読んで知った。パーティを自分たちで一から作り上げて。千葉にね、静岡の自分と同じ気持ちの人たちがいるんだってシンパシーを感じてたんだよね。環境がなければ自分たちで作るしかないっていう。

KABUTO:俺はもう、右も左もわかんないし、DJしかやってなかったんですけど。ただ言われたことをひたすらやって。「この時間に集合ね」って言われたら行って、システムを運ぶのを手伝ったりとか、その程度でしたけどね。その前に、自分がパーティに行ってクチャクチャに遊んで、っていう経験はあるんですけど、それを自分がやるとなったらどうやればいいかっていうのは、わかってなかったですね。

■五十嵐:東京のクラブで遊んでて、それを地元の千葉で再現したいっていう気持ちだったの?

KABUTO:うーん、東京で遊んでて、なんだろう、その時期はRYOSUKE君も〈HOUSEDUST〉を辞めていて、NOBU君は空手に打ち込んでた時期なんですよね。たぶん、また遊びたくなったからはじめたんだと思うんですけど。パーティをやるスキルはみんなあったと思うんだけど、日本のシーンに対するアンチテーゼ的な感じで最初ははじまってるんで。

■五十嵐:商売気とかの部分かな?

KABUTO:当時の東京のノリにちょっと飽きちゃったというか。やっぱり地元でやりたいっていうのも強かったと思うんですよね。

■五十嵐:遊びではじめたことに、だんだん気持ちが入っていったって言う感じ?

KABUTO: 初めはNOBU君に誘ってもらったけど、なんで俺を誘ってくれたのかはわかんないですね。聞いたこともないですけど。
 最初の〈FUTURE TERROR〉でのDJは警察に止められて途中でダメになったし、それからは数々のいろんなことがあるわけですけど。当時は「地元でやろう」ということだけを考えてたと思うんですけどね。それが徐々に、徐々に大きくなっていくというか。結婚式場からレストランに移ったり、場所も変えつつ。あ、レストランの前に別の箱があって。潰れて空いてた箱なんですけど、そこでパーティできるって話になって、〈FUTURE TERROR〉で最初にテレンス・パーカーを呼んだのはそこなんですよ。そこでみんなで何日か前から集合して、ホコリだらけのところをみんなで掃き掃除から全部やったりして。そのパーティが凄く強烈でしたね。それまでのパーティも楽しかったんですけど、そこで気持ちが一気に入った感じですね。

■五十嵐:ゼロから自分たちで作っていった、っていう。

KABUTO:強烈に憶えてますね。

■五十嵐:テレンス・パーカーも感動して〈Chiba City〉っていうレーベルを作っちゃったりね。

KABUTO:すぐやめちゃいましたけどね(笑)。最初DJ引退するって言ってたんだけど、その時の〈FUTURE TERROR〉で「やっぱり辞めない」ってなって、それからいまだに辞めてないんですけど。テレンスもそれぐらい強烈なインパクトを感じたんだと思うんですよね。(壁や天井から)水滴も垂れるし、最前列はタバコの火も点かないぐらい酸欠で。みんなメチャクチャ踊ってて。本当、初めて「ハウス」を感じた日だったかもしれない。

■五十嵐:伝説として話は聞いてる。

KABUTO:あれ遊びに来た人はみんな結構憶えてるんじゃないかなぁ。当時はいろんなMIX音源を聴けるサイトは〈Deephouse Page〉ぐらいしかなくて、来日前はそれでチェックするしかなかったんだけど、テレンスはHIP HOPとかいろいろなセットも結構やってたから「当日はどんなDJやるんだろう?HIP HOPやったらどうする?」とか、心配したりもしてたんですよ(笑)。けど、その日はURから始まって、ゴスペルやらディスコやらを2枚使いでかけたりしてて、何じゃこのDJは! って皆ひっくり返ったっすね。

■五十嵐:みんなで何日も前から集まって準備してそこに至る、って、いいなぁ。

KABUTO:みんなでマスクして(笑)。でも千葉のそのDIYスタイルはずっとそうで。その後やった会場はレストランだったけど、そこも何日か前から集合して、壁に防音やったりしてました。そこで本当、パーティをつくるっていうのはこういうことだと教えてもらって……「教えてもらった」って言っても、言葉で何を言われるわけじゃないですけど。

■五十嵐:今日はいろいろ訊こうと思ってたんだけど、その全部の答えがいまの話に集約されていたというか。そういうパーティ体験があったからこそカブちゃんは、ただスキルを磨くだけのDJにはならなかったんだね。

KABUTO:DJのスキルがあっても気持ちがないと……NOBU君のDJを見てたらわかると思うんですけど、たまに(ミックスを)ミスりますよ、NOBU君でも。だけど人間力で持っていけるんですよ。あれはNOBU君にしかない部分だと思うんです。あのイケイケな感じでミックスしてオラーッて、フロアが盛り上がっちゃうんですよ。ああいうDJ、誰にでもできることじゃないから、それをずっと見てると、そういう感覚に陥っちゃうというか。

■五十嵐:スキルは大事だけど、パーティを楽しみたいという気持ちはもっと大切なんだよね。

KABUTO:そう。その気持ちがグルーヴになって現れるし。あとひとつ言えるのは、〈FUTURE TERROR〉のお客さんってメチャメチャ踊るんですよ。常にダンスフロア。そういうダンスフロアの雰囲気。踊った人にしかわからない感覚ってあるじゃないですか。DJの皆もそうで、その感覚を持ったDJが揃ったな、とは思いましたね。

■五十嵐:高橋透さんが同じこと言ってた。透さんはソウルのダンサーやってたの。チーム組んで。透さんが言うには、俺たちは音楽評論家じゃないんだ、ダンスして遊ぶ仲間なんだ、って。

KABUTO:やっぱり、踊ったときにしかわからない感覚、ダンスフロアにいる時にしかわからない聴こえ方、見え方って重要じゃないですか。それをみんな知ってるんですよね。それを言葉で確認したりしないですけど、自然とDJもそうなるというか。〈FUTURE TERROR〉が最初ハウスやってたのも、そこから今のテクノに移行していって耳がどんどん変化していくのも、踊ってる人ならではの感覚があるゆえにだと思います。

■五十嵐:ダンスの楽しさを、人一倍味わっちゃってる人たちなんだよね。

KABUTO:そうなんですよね。いまの〈FUTURE TERROR〉に来てる人は知らないかもと思うんですけど、最初は歌物がガンガンかかってましたからね。ゴスペルとか。デトロイト・ハウスが好きすぎて、実際みんなでデトロイトまで遊びにに行っちゃいましたし(笑)。
 デトロイトで音を作っている人たちって、結構生活が厳しいながらも、やっぱり音楽の力を信じてやってたりしますよね。自分も(進学はせずに)仕事して、働いた後にパーティの準備するために集まったりしてたんで、そういうところが当時ちょっと自分とダブって感じて、デトロイトの音楽にハマったっていうのもあるかもしれないですね。俺の勝手な妄想かもしれないですけど(笑)。仕事してキツいけど、その日のためにみんな気持ちをそこに持っていくというか。
 ひとつ、すげー嬉しかった話してもいいですか(笑)? さっき話したテレンスを呼んだ回の後なんですけど、デトロイトからテレンスとスティーヴ・クロフォードのふたりを一緒に〈FUTURE TERROR〉に呼んだ時があったんです。そこでNOBU君は(海外からゲストをふたり招く大切なパーティを)、テレンス、スティーヴ、俺、の3人だけで一晩やらせてくれたんですよ。そのときもお客さんパンパンで。すげー嬉しかったですね。任されたっていうのもあったし。スティーヴの前にやったんですけど、DJ変わるときお客さんすごい拍手してくれて、テレンスとスティーヴも来てくれてワーッってなって。本当嬉しかったですね。NOBU君はサラッと俺を指名してくれたというか。RYOSUKE君やKURUSU君でもいいはずなのに。でも俺に振ってくれたんです。

■五十嵐:それぞれがDJスキルを見せつけるためにパーティをやってるんじゃないんだよね。

KABUTO:それをすごい感じましたね。

■五十嵐:こないだ(2013年11月)、カブちゃんが〈ageha〉の〈ARENA(メインフロア)〉でやってたじゃない? 同じ日にNOBU君は〈ageha〉の中の〈ISLAND〉でやってたんだけど。いまの話を聞いて、その日のことともリンクすると思った。

KABUTO:俺は初めてNOBU君が〈ARENA〉でやるときも行ってたし、正直みんなも、〈ARENA〉はNOBU君だと思ってたと思うんですよ。最初話が来た時は、自分が本当に〈ARENA〉でやるとは思ってなかったし。今までやってきたことがちょっとずつ繋がってきた瞬間でもありました。

■五十嵐:カブちゃんが〈ARENA〉でやるって知ったときは、俺もめちゃめちゃ嬉しかった。11月にはその〈ARENA〉があって、インタヴューの最初に言った、〈FUTURE TERROR〉12周年におけるNOBU君の「お前、この1年いい動きしてるよ」という言葉があった。その時に俺は「やっぱり思ったとおりだな」って感じたんだよね。あれは同じクルーとしての言葉でもあるけれど、ひとりの男同士としての言葉なんだよね。

KABUTO:本来DJとしては、そういうの持ち込まない方がいいのかな、って思うところもあるんですけど、やっぱり千葉の人間ってそこが熱いのがいいところだから。そういうのがダメな人もいるんですよ。でもやっぱり俺はそういうところ出身の人間なんで。そういう人たちのパーティはやっぱ熱いから。泣けるっすよね。

■五十嵐:だからデトロイト・ハウスにも泣けるんだよね。

KABUTO:感動するし、流行り廃りじゃないスタイルで、本当にここ(胸に手を当てて)。気持ちの部分。いちばん芯の部分をちゃんとわかってる人にしかできないパーティというか。〈FUTURE TERROR〉もダメな人にはダメだと思うんですよ、でもそれはまだ、本当の〈FUTURE TERROR〉を知らないなって。 

■五十嵐:最近になってNOBU君を知った人には案外知られてない部分かもしれないし、もっとアナウンスをしたい部分だと思うんだよね。

KABUTO:常に100%。本気な人ですね。

■五十嵐:KABUTO君もそうなんだよ。

KABUTO:その影響を受けてるから。それは身体で教えられたというか、見せられましたね。言葉では何も言われてないですね。

■五十嵐:それで〈GRASSROOTS〉の〈LAIR〉も同じ11月に6周年。「本当に素晴らしかった」という感想は最初に伝えたけど、あの光景を見た時に、カブちゃんがいままで頭に描いてたことが、形になってきたことの表れだと俺は思ったんだよね。6年経って、それについてはどう?

KABUTO:元々は〈GRASSROOTS〉が10周年のときに、(店主の)Qさんから「カブちゃんやってみる?」って言われて、「いいんすか?」って、最初はホント気楽にはじめさせてもらったんです。そのときは〈FUTURE TERROR〉に在籍してたんで、〈LAIR〉はもうちょっとパーソナルなパーティ……自分のスタイルでパーティをやれたらいいかなと思ってました。その後すぐに〈FUTURE TERROR〉を抜けるんですけど、千葉で教わった、パーティを一から作っていくことを目標にしてやっていきたいと思ってましたね。6年本当あっという間でした。やっと少しは良い感じにやれてきたかなと。

■五十嵐:いま話してくれた、「結果的に〈FUTURE TERROR〉を辞めることになったけど、自由にやれることにもなったんで、千葉で教わった、パーティを一から作っていくことを目標にしてやっていきたいと思うんです」という話が実は、このインタヴュー冒頭で俺が言ったことなんだよね。俺がブッキングさせてもらった姫路の〈彩音〉で、酒でベロンベロンになりながら2時間ぐらい同じ話をずっとしてたよ(笑)。

KABUTO:だはは! ありましたね(笑)。元〈FUTURE TERROR〉の人間として、このパーティの凄さを、もっと知らしめたかったっていうのもありましたしね。

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これから厳しくなっていく環境のなかで、どれだけ工夫してサヴァイヴしていくか。それは、その人がこれまでやってきたことが全部出ちゃう部分だと思うけど、そこからいい音楽は絶対生まれてくると思っていますね。やっとみんな本気で考え始めたんじゃないかって思ってて。「なぜパーティをやってるのか」ということを。

■五十嵐:そして、〈LAIR〉が軌道に乗ってきた2009年には、カブちゃんとRYOSUKE君のスプリットのMIX CDシリーズ(『Paste Of Time』)を〈DISK UNION〉からリリースしたじゃない。あれは俺、いまだに聴いてる。さっきカブちゃんが「踊った人にしかわからない感覚を大事にしているDJが〈FUTURE TERROR〉には揃った」という発言をしていたけど、あのCDの空間の捉え方はまさしく、自宅ではない音の響き方を知ってる人たちのものだと思うんだ。
 去年、〈DOMMUNE〉の番組でベルナー・ヘルツォークの映画(『世界最古の洞窟壁画 3D 忘れられた夢の記憶』)を紹介する番組に俺が関わったときに、あの日の〈BROADJ〉をRYOSUKE & KABUTOにお願いしたのも、『Paste Of Time』からの流れなんだよ。あの映画は、それまで言われていた人間の起源を大きく塗り替えた、3万2千年前の洞窟壁画にまつわる作品なんだけど、それを〈DOMMUNE〉の番組前半で紹介するなら、番組後半の〈BROADJ〉は「あのふたりに頼んでみたい」と思ったんだ。

KABUTO:なんだろう、(『Paste Of Time』でやったように)空間をイメージするっていう行為というか、ある空間の中でダンスするとか、みんなパーティでやってることなんですよ。

■五十嵐:俺が素晴らしいと思ったのは、ふたりは映画に合った、洞窟という空間による音の響きを意識した選曲とミックスをちゃんとしてくれたのよ。空間プロデュースという側面でのDJの役割を見事に果たしてくれて、印象深いんだよね。

KABUTO:俺も、「洞窟」っていうテーマは初めてで(笑)、しかも何万年もさかのぼるっていうのは初めての感覚で、悩みましたけどね。

■五十嵐:何万年も前の人も、現代の人も、根本のところでは同じなんだよね。それを音で見事に表現してくれた。

KABUTO:あのときの録音はたまに自分でも聴いてます(笑)。でも、そうやっていろいろな現場でDJやれるのはありがたい話ですよね。いま、同じ〈CABARET〉チームのyone-koやmasda君と出会ったのもそうだし。yone-koに関しては、静岡にDJで行った時に、静岡のKATSUさんから「yone-koってのが東京にいるからよろしくね」って言ってもらったことがあって。でも実は俺は、当時から〈CABARET〉が気になってたんですよ。日本人の音源も結構チェックしてたから、The Suffraggetsも聴いてたし。で、静岡から戻ってきてから、〈CABARET〉に遊びに行って。そこで、「yone-ko君っすよね?」って、俺から話しかけたんですよ(笑)。「今度タイミング合ったら一緒にやろうよ」って。それがファースト・コンタクトですね。
 その後、さっき五十嵐さんが言った『Paste Of Time』を俺とRYOSUKE君とで出した時に、「リリース・パーティやらない?」って話になったんですね。それで「ふたりだけでやるのもなんだから、誰か呼ぼうか」ってなった時に、yone-koがいいんじゃないか、と。そのときにyone-koと初めて一緒の現場でDJやって、yone-koが俺らのDJにも反応してくれて。それですぐyone-koはわかってくれたと思うんですよね。その時、音楽の話はそんなにしてないと思うんですけどね。

■五十嵐:音で通じ合った。

KABUTO:そう、それで俺が「〈LAIR〉でもDJやってよ」って。逆にyone-koは自分が〈SALOON〉でやってた〈Runch〉に呼んでくれたり。そういう風に、とんとん拍子に。
〈CABARET〉のメンバーは、最初yone-koしか知らなかったんですよ。他のメンバーとは誰も喋った事なかったから。顔は知ってたんですけど(笑)、話しかけるのも照れくさいしって感じで。で、〈CABARET〉に遊びに行くようになって、yone-koと話してるときにmasda君が来て、「KABUTO君だよね?」って話しかけてくれて「よろしくっす」みたいな感じで。で、少し経ってyone-koはベルリンに行くんだけど、ある時にmasda君と話してて、「〈CABARET〉どうするの?」って聞いたときに、「パーティは続けたい。手伝ってくれない?」って言われて。で、俺、レギュラー・パーティも〈LAIR〉しかなかったから「いいよ」って。俺、最初、裏方の手伝いかと思ったんですよ。一足早く現場に入っていろいろケアしたりとか、そういう意味での手伝いを頼まれてるのかと思って返事したら「いや、DJで」って(笑)。

■五十嵐:そりゃそうだよ(笑)

KABUTO:それで2012年に〈CABARET〉に正式に入って、いきなりスコーンってやらせてもらって。そのとき思ったのが、「masda君、けっこう腹くくってんなぁ」って。本気だなって思ったんですよ。

■五十嵐:カブちゃんからの影響も強いと思うんだけど。

KABUTO:本当っすか。本気でやろうとしてる人には魅力を感じるし、そういう人じゃないとやりたくないし。

■五十嵐:一緒に本気でやれる新しい仲間ができて、それが〈CABARET〉ということなんだね。それじゃあ、この先の目標は? カブちゃんは〈FUTURE TERROR〉を離れるときから「DJとしても上を目指す」とも話していて、いまは事実、全国津々浦々に呼ばれるようになっているわけだけれど。

KABUTO:目標……大げさですけど、遊びに来てくれた人の人生を変えられるようなパーティをやることですかね。「このパーティがあったから、俺の人生変わっちゃったんだよね」って、来てた人に言わせてみたいですね。それだけかも。俺もパーティで人生狂わされたし(笑)。もちろんいい意味で。〈FUTURE TERROR〉で人生狂わされた人、価値観変わった人結構いると思うんですよ。それを伝えてくってわけじゃないですけど、人生巻き込み型パーティっていうか。生き方に対してもそうだし、全てにつながるじゃないですか。いろんな考えがあってもちろんいいんですけど、やっぱり音楽ってすごい原始的なもので、リズムはずっとあったものだから(人間にとってすごく大切なもの)。それはやっぱ、ずっと伝えないといけないっていうか。テクノだろうがハウスだろうが、基本、根っこの部分は一緒だと思うんですよ。お客さんの人生を変えるぐらいのパーティをしたいっていうのは、永遠のテーマですね。〈FUTURE TERROR〉を抜けてからですけど、やっぱりそれは常に目標というか。

■五十嵐:この生きづらい時代の、パーティの存在意義という話にもつながるよね。ただ楽しみたいだけなのに、どうにかして奪いに来ようとする奴らがいるからね。

KABUTO:それと戦う意味で音楽があると思ってるし。

■五十嵐: 〈LAIR〉に行ったときもさ、あのお客さんの優しさ。

KABUTO:そうなんですよね。

■五十嵐:あれはある意味理想郷だった。あれを目指したいと思ったよ。具合悪そうな奴がいたら「大丈夫ですか?」とか。「金なくて困ってる」っていう奴がいたら……。

KABUTO:一杯おごるとか。そういうことじゃないですか。助け合いの精神。「全てパーティから学んだ」って言ったら大げさかもしれないですけど……俺、元々は凄い人見知りなんですよ。さっきyone-koに自分から話しかけたって言ったじゃないですか。何かそれから、自分からいろんな人に話しかけるようになったんですよ。だいたい酔っ払ってんですけど(笑)。
 最近仲良くしてるSatoshi Otsuki君もそうで。(田中フミヤの)〈CHAOS〉にOtsuki君が来てたときに、「Otsuki君今度一緒にやろうよ!」って話しかけて、そうしたら「MIX聴いてましたよ」なんて言ってくれて「おっ!」みたいな。だからそういう、ベクトルが合う感覚というか、あ、この人全然大丈夫だわ、って嗅ぎ分ける感覚とか、そういうのもパーティから学んだし。だから、自分から行かないと何も開かない、待ってても何も来ない、っていうのは本当に、千葉にいたときに教わったことっていうか。

■五十嵐:ヴァイブスで繋がると、偏見も取れるしね。

KABUTO:そう。例えば〈CABARET〉はマニアックな音を出してるんだけど、みんなシュッとしてて、出で立ちもスマートじゃないですか。最初は俺、〈CABARET〉クルーとこんな仲良くなるなんて思ってなかったけど、なんだろう、〈CABARET〉に入るって決まったときに、俺のキャラがプラスに働くと想像できたんですよ。yone-koやmasda君みたいに知的で、膨大な知識のあるDJと、俺みたいなタイプのDJが一緒にやれたらいいパーティができるなっていうのが。バランスですよね。どっちが行き過ぎてもダメだから。お互い切磋琢磨して、バランスがとれてると凄くいい。それが今の〈CABARET〉なんですよ。

■五十嵐:違う人との調和ってことだよね。本当にここのところね、カブちゃんがずっと前から言ってたことが形になってるという感触を、きっと本人がいちばん感じているはずなんだよ。

KABUTO:そうですねぇ。感じられるようになったかな。

■五十嵐:周りも、そういうステージも用意してきているし。

KABUTO:なんか、DJ度胸じゃないけど、海外のDJが出るパーティで、そのゲストDJの後にやることが何回かあって。その時もまぁ普通に緊張はするんですけど、〈FUTURE TERROR〉のときに比べたら全然余裕、って正直思いましたね。当時は、NOBU君の後にDJすることほど、緊張するものはなかったですね。当時みんなNOBU君を観に来てるって感じもあって、お客さんはNOBU君で散々踊りつくして、DJ変わるとき「次DJ誰? まだ踊れるの?」みたいな空気があるじゃないですか。そういう現場を経験してきたから、外タレのときは緊張は少なくて。やっぱそれは、千葉でやってきた甲斐があったなぁ、っていうのは東京に出てきてから感じましたね。

■五十嵐:俺は、カブちゃんが実際いま好きな音楽とかも詳しくはチェックしてないんだけど、皆がカブちゃんやNOBU君に求めてるものっていうのは、パーティ=人なわけじゃん。

KABUTO:人生捧げてる人たちですから(笑)。

■五十嵐:だから俺はもう、今後の活躍を……。

KABUTO:「このまま散ってやるよ」って感じですね(笑)。

■五十嵐:ガハハハハ(笑)。

KABUTO:だからもう、そこの覚悟を決めてる人と決めてない人との違いは、俺のなかではものすごくデカいんですよ。東京でやってても、辞めちゃう人もいるじゃないですか。

■五十嵐:みんなセンスは凄くいいのにね。

KABUTO:そう。でもなんだかんだ言って、いまは東京で見せてナンボってところは実際あると思う。

■五十嵐:世界との玄関口だしね。

KABUTO:世界中見てもこんなクレイジーな街ってないと思ってるんですよ。本当、東京って独特な狂い方じゃないですか。だからそこで勝負できるっていう幸せも感じないといけないし、ここで生活することの大変さもそうだし、ここでDJできることのありがたみを感じながらプレイして、その気持ちをお客さんに伝えられるかどうかってことですよね。

■五十嵐:プレイがいいのは大前提としてね、そこに気持ちがないと、この街ではサヴァイブできないよね。

KABUTO:ニュースを見てても、これから厳しくなっていく環境のなかで、どれだけ工夫してサヴァイブしていくか。それは、その人がこれまでやってきたことが全部出ちゃう部分だと思うけど、そこからいい音楽は絶対生まれてくると思っていますね。

■五十嵐:だからいま、突きつけられてるんだろうね。

KABUTO:そう、やっとみんな本気で考えはじめたんじゃないかって思ってて。「なぜパーティをやってるのか」ということを。風営法(の問題)もあるし。デトロイトなんか2時までしかパーティできないですからね。それでもたくさんいい音楽が出てくる。普段の生活はキツかったりするのに。厳しい状況になればなるほど、音楽って良くなっていくじゃないですか。それに比べたら東京はまだ恵まれてるんですよ。すごい数のクラブやパーティがあるんですよ。

■五十嵐:本当に、いまの東京は凄いんだよね。

KABUTO:だけど実際は、(本気で)やれてる人はほんの一部じゃないですかね。でも歳とるとだんだん感覚が研ぎ澄まされてくるというか、同じような人が自然と集まってくるんですよね。どんどん辞めて抜けていくから、そういう人しか残んなくなってくるし。それでみんなで協力して盛り上げようとか、そういうことでもいいし。皆でできることがたくさんあると思うんです。

■五十嵐:こないだ俺、ele-kingのチャートで『求めればソウルメイトと必ず会える都内のDJ BAR&小箱10選 pt.1』ってやったけど、「ソウルメイト」ってそういうことなんだよね。若い人に「ソウルメイト」とか言うと笑われるかもしれないけど(笑)。

KABUTO:ジャンルとかじゃないんですよね。だから俺は〈GRASSROOTS〉でパーティやってるし。〈CABARET〉に入る前、〈LAIR〉にmasda君を呼んだ時なんですけど、秋本さん(THE HEAVYMANNERSの秋本武士)とかKILLER-BONGとかがフラッと来たことがあったんですよ。普段やってるクラブじゃ有り得ないですよ。masda君がDJやってるところに秋本さんがいるとか。で、Qさんが「これで秋本さんを踊らせたら凄いよね」とか言うんですよ。俺も本当、そう思って。ジャンルとかは無し。人と人。だから俺も、全然知らない人がやってるパーティ行ったりしてるんですよ。それで新しい感覚を覚えるし、いろんな考え方を知ることもできる。だから〈womb〉も〈AIR〉も遊びに行くし、逆にそこで遊んでる人たちが〈GRASSROOTS〉に来てくれるようになったりするんです。「こんなとこあったんだ、ヤバいね」って言ってくれて「でしょ?」って。でもキッカケがなかっただけで。そのキッカケづくりができたのはデカかったかな。そうすると「ひとりでGRASSROOTS来ちゃいました」とか言う人も出てくるんだけど、何でもいいんですよ。そうやっていろいろな音楽を聴いて、いろんな感覚や価値観を感じてもらえば、やってる意味があるというか。別にDJ巧い人でも、その感覚がなかったら俺はあんまり魅力を感じないし。NOBU君の凄さってそういうところにあるのかなって。〈BERGHAIN〉でやってて、〈GRASSROOTS〉でもやるっていう。

■五十嵐:それをやってたのは、ラリー・レヴァンなのかもね。

KABUTO:そういう感覚を身につけるのはすごい重要だと思いますね。場所を選ぶ嗅覚というか。その場の匂いを感じ取ってそこにガッと行けるというか。

■五十嵐:パーティがあれば幸せでしょ?

KABUTO:幸せですよ。パーティで皆で踊ったり、いろんな人と出会えたり、いろんなジャンルの音楽や人が交じり合う瞬間って、やっぱり楽しいし、幸せだって思います。それがいま自分がいちばん感じやすいのが〈GRASSROOTS〉なのかな、とか思ってますね。そこでいろいろなジャンルの人が交差して新しいものが生まれたら凄くいいし。「俺は違うことやるよ」って思うのもいいし。それを全部含めて、パーティでしかできない感覚というか。そこが全てですね。

■五十嵐:なんか、安心したよ(笑)。さっきからNOBU君、NOBU君、って言ってるけど、カブちゃんにとってはNOBU君発信だったものが、KABUTO君が発信することによって伝わっている人というのが、着実に増えているという風に俺は実感してるんだ。カブちゃんのいないところでね。それこそ、〈CABARET〉にしか行ったことのなかったお客さんが「KABUTOさん良かったです」と。そういうのを耳にしていると、おべんちゃらみたいだけど、カブちゃんは有言実行したんだな、と思う。

KABUTO:俺も意地ありますから(笑)。〈FUTURE TERROR〉を辞めた時の気持ちがずっと原動力になってますから。これからもずっと続いていくでしょうけど。

■五十嵐:いまでも〈FUTURE TERROR〉にはLOVEなんだね。

KABUTO:もちろん。当時〈FUTURE TERROR〉に関わった全ての人には本当感謝してます。お客さんとケンカしてるの五十嵐さんに見られたりとかあったけど(笑)。

■五十嵐:でもちゃんとその後仲直りしてたじゃん(笑)。音楽の前に人ありき、だもんね。

KABUTO:そういうところを感じられたら、また音楽が楽しくなるし。全てですよね、音楽と、人と、その人生。それについてくると思ってるんですよ、パーティって。そこにいるいろんな人に出会って、そこから生まれるものってたくさんあると思うんで。だから、グイグイ来る若い子に「シッシッ、あっち行け」なんて、絶対誰もやらないと思うんですよ。相当ヒドくない限りは(笑)。そういう若い子を増やしたいですね。ちょっとしたことでもいいんですよ。いいパーティだなって思って最後まで遊んだなら、グラス片付けたり、皆に「おつかれさまでした」って声かけてから帰るとか。なんでもいいんで、自分の方からパーティに関わって楽しんでほしいですね。そうすればもっと楽しくなるし。

■五十嵐:そろそろまとめようか。俺が話してほしかったこと、ほぼ全部言ってくれたよ。

KABUTO:あとは〈CABARET〉をよろしくお願いします。これから先も面白い動きがあるし。それで来年で〈CABARET〉は15周年だから、パーッと何かやるか、っていう話もしてて。DJも、〈CABARET〉関連デザインを担当してくれてるMAA君も含めてみんなでいいパーティやりたいと思ってます。

■五十嵐:常に応援してます。これからもその調子で頑張ってください。最近住居がご近所さんにもなったし(笑)。

KABUTO:まだまだ話したいエピソードは山ほどありますけど(笑)、今後の活動を楽しみにしててください。

■ KABUTO on line DJ MIX
CB-157 KABUTO
https://soundcloud.com/clubberia/cb-157-kabuto

Strictry Vinyl Podcast 10 KABUTO
https://soundcloud.com/strictlyvinylpodcast/svp010

■ DJ schedule
12/28(SAT) Mood and Voltage@cafe domina名古屋
12/30 (MON) KARAT@Solfa w DJ SODEYAMA
12/31 (TUE) TBA
1/10 (FRI) GRASSROOTS
1/18 (FRI) CABARET - a leap of faith edition - feat KAI from berlin
2/1 GIFT feat CASSY @AIR afterhours

- ele-king

OGRE YOU ASSHOLE - ele-king

 いま現在、私を完璧にトランスさせることのできる日本のバンドは、オウガ・ユー・アスホールであります。『homely』以降の彼らのライヴは、「ドリーミー」なんて生やさしいものではない、まさしく「サイケデリック」そのもの。「ロープ」という曲は、ヴァージョンによっては「ドープ」と呼ばれているけれど、私はライヴで演奏されるこの曲を世界中の人に推薦したいと思う。ライヴ会場で聴かなければ、この曲の真実は伝わらないし、そして、20分にもおよびであろうこの演奏を聴いたら、その日たとえどんなに嫌なことがあったとしても、1日のうちに2回以上も電車のダイヤルが乱れても、満天の星のなかをドライヴできる。初めての人は、日本にこんなバンドがいたことに驚きを覚えるでしょう。日本にもこんな、強いてたとえるなら、初期ピンク・フロイドとカンが混ざったようなバンドがいるのです。最新号の紙ele-kingの表紙も飾っています。
 というわけで、12月28日恵比寿リキッドルーム。今年最後のフリークアウトを楽しみましょう!


Compilation Albums - ele-king

 コンピレイションを3~4枚。

Various Artists - New German Ethnic Music  Karaoke Kalk

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 エレクトロ・アコースティックならぬエレクトロニカ・アコースティック系の〈カラオケ・カルク〉が企画したのはドイツのフォークロアをマーガレット・ダイガスやウールリッヒ・シュナウスをはじめとするクラブ系のプロデューサーたちが電子化するというもので、1970年代にヘンリー・フリントがアメリカでブルースやカントリーをエレクトロニック化した「ニュー・アメリカン・エスニック・ミュージック」に習ったものだという。このところドイツでは過去の音楽に関心が集まっているらしく、移民たちがドイツに持ち込んだ音楽を浮き上がらせるためにリミックスという手法を選択したのだとか。なるほどトーマス・マフムードは北アフリカ起源のグナワをダブに変換し、グトルン・グットはクロアチアの無伴奏男性合唱、クラッパに重いベースをかませて高い声を引き立てている。マーク・エルネストゥスの興味はモザンビークに移ったようですw。

 元の曲がわからないのでジャーマン・ネイティヴのようには楽しめないものの、基調となっている重苦しさはブルガリアン・ヴォイスを思わせるものが多く、オープニングのムラ・テペリはまったくそのまんま。言われてみれば明らかにトルコ系の名前だったカーン(エア・リキッド)はかつての出稼ぎ先だったギリシア音楽をゴシック風にアレンジしてみせる(古代を中世化させたわけですね)。奇しくも2013年はトルコ人9人を殺害したネオ・ナチで唯一自殺しなかった女性、ベアテ・チェーペの裁判がドイツ中の注目を集め続けた年だけにトルコ系のプロデューサーが健在だったというだけで嬉しい知らせといえる。ワールプール・プロダクションズのエリック・D・クラークがキューバ系だったということも初めて知った。
 グルジアや南米からのエントリーもあって、2013年には相変わらずモンド気分な『ザ・ヴィジター』をリリースしたマティアス・アグアーヨと第2のジンバブエと化しているベネズエラのニオベはそれぞれヴェトナム・カン・ホーというフォーク・ソングとスペインのルネッサンス合唱を題材にレジデンツ風ラウンジ・ミュージックに仕上げている(そう、個人的には南米組、圧勝です)。つーか、トラック・リストは面倒くさいので以下を参照。
https://www.inpartmaint.com/shop/v-a-new-german-ethnic-music-immigrants-songs-from-germany-electronically-reworked/

HouseIDM

Various Artists - Scope Samurai Horo

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 なんだか補完しあっているようだけど、同じドイツから〈サムライ・ホロ〉がコンパイルした『スコープ』は期せずして、フォークロアとはなんの関係もないのに、似たような重厚さにに支配され、フェリックス・Kのヒドゥン・ハワイと同じく、ベーシック・チャンネルを通過したストイックかつスタイリッシュなミニマル・ドラムンベースを聴かせる。イギリスからASCや最新シングルがまさかの〈トライ・アングル〉に移ったニュージーランドのフィスなど、集められたプロデューサーはドイツだけとは限らず、このところ頭角を現しつつあるサムKDCや2011年に『テスト・ドリーム』が話題となったコンシークエンスの名前もあるものの、まるでひとりの作品を通して聴いているような統一感があって、その意志の堅さには恐れ入る。こういった音楽をマイナー根性ではなくファッショナブルな感覚で聴いていただけたら。



ExperimentalDrum'n'BassIDM

Various Artists - We Make Colourful Music because We Dance in The Dark
Greco-Roman

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 大量に吐き出される音楽にはやはり無意識が強く反映され、日本のそれには奇妙な躁状態が表出しているように(なんで?)、ヨーロッパはいまだ深い闇に沈んでいるようである。2017年までにEUからの離脱を国民投票で決めるだなんだと騒がしくなってきたイギリスは、しかし、まったく雰囲気が違っていて、ディスクロージャーのシングルをリリースしてきたグレコ・ローマンがコンパイルした『ウイ・メイク・カラフル・ミュージック・ビコ-ズ・ウイ・ダンス・イン・サ・ダーク(僕たちは暗闇で踊るのだから、カラフルな音楽をつくるのさ)』は(思わずタイトルで買ってしまったけれど)、たどたどしさをなんとも思っていない勢いと若さに満ち満ちている。ディスクロージャーとデーモン・アルバーンのDRCミュージックに参加していたトータリー・イノーマス・イクスティンクト・ダイナソー以外はまったく知らないメンツだったけれど、バイオとテルザがとても耳を引き、調べてみたら前者はヴァンパイア・ウィークエンドのクリス・バイオで、それこそヴァンパイア・ウィークエンドのトラックを使い回したハウス・ヴァージョン。ハーバートがデビューさせたマイカチューのプロデュースによるテルザはゼロの飯島さんもお気に入りのようで、「踊ってんじゃなくて戦ってんのよ/輝いてんじゃなくて燃えてんのよ/触ってんじゃなくて感じてんのよ」という歌詞を気だるげに歌っています。


Various Artists - Young Turks 2013 Young Turks

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 この辺りのシーンの火付けは野田努が言うようにジ・XXなんだろう。同じくレーベル・コンピエイションとなる『ヤング・タークス2013』はジ・XX「リコンシダー」にサウンド・パトロールで紹介したFKAトゥィッグス「ウォーター・ミー」とまー、レア・シングルばりばりで、コアレスのニュー・プロジェクト、ショート・ストーリーズ「オン・ザ・ウェイ」まで入ってますよ。いやー、こんなに勢いがあったら、そらー、EUも飛び出しちゃうかも知れませんねー。とはいえ、ギリシャを見放さなかったことで、EUには現在、周辺から弱小国が相次いで加入を決め、入れてもらえないのはトルコだけという感じになっています。〈ヤング・タークス〉というのは若いトルコ人という意味だけどね。

ExperimentalHouseAmbientElectro

ele-king vol.12  - ele-king

〈巻頭インタヴュー〉オウガ・ユー・アスホール
〈第二特集〉ブリストル・ニュー・スクール
〈第三特集〉ポスト・ジャズ菊地成孔            他
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Ultramarine - ele-king

 ウルトラマリンなんていったい誰が覚えているんだっていうの。誰も覚えていないよ。これだけ消費が速い世界で15年ぶりに新作を出したからといって、誰も騒ぐまい。誰もね。あの弱っちい清水エスパルスが試合で信じがたい逆転勝利を果たした次の週だったから、気分が良かったのだ。レコード店の新譜コーナーに面出しされている「Ultramarine」の文字に驚き、何も考えずに買って、そしてそのままだった……、それから後味の悪いリーグ最終戦の日に、家で聴かれないまま放置されているこのレコードに気がついて……で、わりと頻繁に聴いている。
 実は、僕はいまでも覚えている。1993年6月26日(27日だっけ?)、昼間の1時かそのぐらいだ。グラストンベリーの、心地良い初夏の風を浴びながら、NMEステージの芝生に寝っ転がって、ウルトラマリンの演奏を聴いていた。なかば微睡みながら聴いていたので、どんな音だったのかは思い出せないが、その演奏が素晴らしかったことだけは覚えている。素晴らしかったというのは、その時代のその時間帯にもっとも相応しい音を出していたということだ。
 ウルトラマリンとは、サマー・オブ・ラヴの余韻がまだ残る時代に、ハウスとダブとジャズとフォークとカンタベリー的な牧歌性とをかき回し、透明な音色と美しい旋律にろ過したバンドだった。いまとなっては90年代の音楽の秘密のひとつと呼べるかもしれない。ロバート・ワイヤットをゲストに招いたり、ケヴィン・エアーズの曲を歌ったり、後にカール・クレイグがリミックスを手がけていることからも、ウルトラマリンの音楽がどんな傾向のものだったのかお察しいただけると思う。ジャケに大きく「STAR」という文字の描かれた『Every Man And Woman Is A Star』(1991年)は忘れることのない名作だが、しかし同時に忘れたい作品でもある。あまりにも甘く、お茶目かつ無垢で、負けることにも慣れた大人が振り返るには気恥ずかしくもあるのだ。ウルトラマリンは、その後メジャーの〈Blanco Y Negro〉に移籍して、『United Kingdoms』(1993年)や『Bel Air』(1995年)など何枚かのアルバムをリリースしているのだが、当時、瞬間的だが多くのリスナーを惹きつけたウルトラマリンは、ゆっくりと忘却の彼方へと葬られていくのである。

 しかし、橋元あたりが「ドリーミー」という言葉をやたら使う度に、ウルトラマリンも知らないクセに何言ってんだか……と思っていたのも事実だ。それでは久しぶりに聴いてみようじゃないか。そして、試しに『Every Man And Woman Is A Star』に針を落とすと、「あれ、こんなだっけ、こんなだっけかな?」と、自分のなかで虚妄と化したグラストンベリーの思い出との落差に居心地の悪さを覚え、結局のところ、音楽作品というよりもウルトラマリンそのものがタルホ的な郷愁となっていることを悟る。
 が、『ディス・タイム・ラスト・イヤー』、衝動的だったとはいえ買ってしまった以上は、貧乏根性も手伝って、聴かなければと思って聴いていると、やはり良いナー、ウルトラマリン、こんなに良かったっけ……と感心する。本当に素晴らしい。尖っているわけではないが、むしろ尖っていないからこそ素晴らしい。彼ら自身も、15年ぶりに新作を出すからには、いまこの時代に自分たちの音楽の受け入れ先があることを感じているのだろう。音楽性の幅もあり、質の高い音響を作れるスキルを持っている連中だが、『ディス・タイム・ラスト・イヤー』は方向性も間違っていない。90年代の諸作と比較すると(もともと角が取れている連中だったが)さらにまた角が取れている。つまり、より平穏でアンビエントなテイストを注ぎながら、『Every Man And Woman Is A Star』の頃の淡い幻覚と切ない旋律も捨てることなく、ゆったりと展開する。その力の抜け具合が片足はクラブに浸かっていた昔よりも良い。ブラジリアンの混じった“ファインド・マイ・ウェイ”、フュージョン風の“アイコンタクト”、アシッド・ハウスのベースを透明なポスト・ロックにろ過した“デコイ・ポイント”、陶酔のアンビエント・ダブの“ウィズイン・リーチ”……いいぞいいぞ、完璧に現実逃避させてくれる。そして、聴き込んでいると、20年前の6月のサマセット州の農場で聴いた音はたしかにこんな感じだったと思えてくるのだ。……あのとき、「絶対にどんなことがあっても、自分はまたここに戻ってこよう」と29歳の自分は心に誓ったものだが、あれ以来行っていないし、残りの人生のなかでももう行かないんじゃないかと思う。いや、正確に言うなら、1993年6月のサマセット州は、もうあの場所にはないのだ。『Every Man And Woman Is A Star』は、2003年、〈ラフトレード〉によってリイシューされ、ボーナス盤には1993年のグラストンベリーでのライヴ演奏が1曲収録されている。僕はその1曲を聴くためだけに、いつかそのCDを買う可能性がないとは言えないが、極めてゼロに近い。 

interview with Lea Lea - ele-king


Lea Lea
Pヴァイン

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 あの手この手で続けられるM.I.A.バッシングを見ていると、マドンナが『トゥルー・ブルー』(86年)を出した頃を思い出さざるを得ない。どこか挑戦的な女を見ると無性に腹が立つ男がいるということなのかなんなのか、理由は後から取ってつけたような批判が後を絶たず、何を歌っても三流扱い、映画『シャンハイ・サプライズ』に出れば「ワースト・アクトレス」に認定と、それはもうスゴい言われようだった。「フェミニズムを10年遅らせた」という女性たちからの批判も凄まじかったし、マドンナも脇が甘いというのか、批判を寄せつけないという雰囲気からはほど遠く、むしろ呼び込んでいるような風情まであった。いまのM.I.A.にも、そうした「呼び込む」感じというのはあって、「無性に腹が立つ人たち」の琴線を刺激していることは確かなんだろうけれど、これだけ時代が経っていれば、それがマドンナと同じものであるはずがなく、格差社会やイスラム差別といったイッシューも重なっているだろうから、なかなか見えにくいとは思うものの、どこがどう変わったのか、そこが気になるところではある。M.I.A.は一体、時代の何を刺激しているのだろうか。

 ジャマイカのテリー・リンもフォロワーにたとえられたけれど、リー・リーことリー・リー・ジョーンズにもM.I.A.と重なる部分があるように思われる。彼女について考えることもひとつの方法ではないかと思い、具体的にM.I.A.の名前を出して、どこか影響があるか訊いてみたところ、これは完全にスルーされてしまった。それだけ脈があると考えればいいのか、それともぜんぜん見当はずれだったのか。ひとつ、面白かったのは、リー・リーも政治的な歌詞を過剰に歌う反面、楽園に対するイメージも強く持っていたことで、イギリスにはこれまで戦闘的なシー・ロッカーズから浮かれモードのベティ・ブーへ、あるいは、グランジ・ロックのヴードゥー・クイーンからラウンジ・ミュージックのアンジャリへと、極端な方向転換を試みたフィメール・ミュージシャンがどの時代にもそれなりにいたことで、そこには政治とパラダイスが裏表に存在しているという観念がどうしても認められてしまう。「なにも戦いたくて戦っているわけじゃないから」と、彼女たちは言っているかのようだし、M.I.A.に通じる部分もそこかなーと思ったり。

ヴォーカルのレンジとパフォーマンスと社会的なメッセージのバランスを取ろうといつも思っています。

店頭で見かけたジャケットのヘア・デザインが気になって興味を持ちました。ドクロの髪飾りは何を意味していますか?

リー・リー:昔からドクロのデザインには魅了されてきました。ヴィジュアルも美しいだけでなく、感情にもうったえかけてきます。わたしたちはみな、頭蓋骨を持っています。みな、骨格を持っていて、それはわたしたちが生存している証拠の裏にあるものですよね。

音楽をやりはじめたきっかけや、現在に至る過程を教えてください。

リー・リー:音楽家の家庭に生まれたので、子どものころから歌いはじめ、パフォーマンスしてきました。15歳のときにプロとして音楽を作りたいと気づいて、そのときはヒップホップのバンドに参加しました。18歳のときに初めてソロのリリースがありました。そのとき以来、順調に物事が進んでいますね。

派手になり過ぎない演奏やどこか覚めた雰囲気を残した歌い方だと思いましたけど、それは意識して?

リー・リー:ヴォーカルのレンジとパフォーマンスと社会的なメッセージのバランスを取ろうといつも思っています。このことを常に忘れないようにし、どの曲も慎重に考えて作りこんでいます。

曲はどうやってつくるのですか?

リー・リー:いろんなやり方があります。最初にメロディーが浮かぶこともあれば、先に詞を思いつくこともあります。キム・ギャレットとジャック・ベイカーといっしょに作曲と制作を進めてきました。型にはまった作曲方法がないので、かえってイノヴェイティブでエキサイティングなものになりました。

ホレイス・アンディとはどんな関係? 彼から学んだことはありますか?

リー・リー:アルバムのプロデューサーのジャック・ベイカーに紹介してもらいました。残念ながら、ジャマイカに行ってホレイスといっしょにレコーディングはできませんでした。まだ実際には会ったこともないのです。彼は音楽の生きる伝説で、彼の音楽からは沢山影響を受けてきました。

先行シングル『ブラック・オア・ホワイト』のリミックスにGOTH-TRADを選んだ理由は?

リー・リー:GOTH-TRADとは共通の友人を通して数年前にロンドンで知り合いました。すぐに意気投合したのです。いっしょに仕事をしたいとずっと思っていました。『ブラック・オア・ホワイト』のリミックスを誰にしようか考えたときに最初に浮かびました。光栄にも彼は引き受けてくれて、あのリミックスはお気に入りのひとつです。



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殴られて、めった刺しにされて、残酷に苦しめられてから生き埋めにされるより、「AK-47」で瞬時に撃ち殺してほしいとその女性は懇願しているのです。それは寛大な処罰の象徴であり、選択の余地のない世界からの現実逃避において間違いを引き起こすものでもあります。


Lea Lea
Pヴァイン

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クラブにはよく行く方ですか? どこで音楽を聴くことが多いですか?

リー・リー:そこまで頻繁にクラブへ行く方ではありません。むしろライヴハウスにバンドを見に行ったり、温かい雰囲気で盛り上がっているようなバーでDJプレイを見ている方が好きですね。こういうところで新しい音楽を聴くのは大好きで、いろんな影響を受けます。

歌詞がわからないのでタイトルから内容を想像するだけなのですが、“アパルトヘイト”や“ブラック・オア・ホワイト”は人種差別だとして、“デッド・ガール・ウォーキング”は死刑制度に関する曲ですか?

リー・リー:どちらも人種差別についてではありません。

あ、違うんですか。

リー・リー:“アパルトヘイト”は経済的な隔離がテーマです。不正を生み出し、世界中のコミュニティは分裂させられています。“ブラック・オア・ホワイト”は判断(ジャッジメント)や、さまざまなイデオロギー/パーソナリティー/文化に対してオープンになれないことについて歌っています。両方とも社会問題が根底に強くあるので、そこからの波及効果で人種差別に関しても読み取れるのかもしれませんね。“デッド・ガール・ウォーキング”も死刑制度に関する歌ではなく、わたしたちは必ず死ぬ運命にあることをテーマにしています。

なるほど。ドクロに繋がるテーマなんですね。アメリカでいま、もっとも人気があると言われている“AK-47”ではおそらく自動小銃の残酷さを訴えていると思いますが……



リー・リー:“AK-47”はアメリカとの国境近くに住んでいるメキシコ人の女性の視点で書かれています。麻薬戦争の起きている過酷な地帯のことです。殴られて、めった刺しにされて、残酷に苦しめられてから生き埋めにされるより、「AK-47」で瞬時に撃ち殺してほしいとその女性は懇願しているのです。メキシコの国境付近に住む人々にとってはこのような恐ろしいことが日常なのです。この場合には「AK-47」は寛大な処罰の象徴であり、選択の余地のない世界からの現実逃避において間違いを引き起こすものでもあります。

“ブラック・オア・ホワイト”のヴィデオで日本刀を振り回しているのは?

リー・リー:あの刀に暴力を助長する意味はありません。自由意志のヴィジュアル的なメタファーとして使いました。自分と他人を守り受け入れるためにも使えますし、傷つけるためにも使えるものです。

フェミニズムがバックラッシュの憂き目にあって以来、女性ミュージシャンの書く歌詞は社会や男性に期待しなくなり、女性から女性に向けられたものが増えました。日本では「女子会コミュ」とか言うんですが、音楽ではその最大の成果がケイティ・ペリーやアメリカのハイヒール・モモコと化しているニッキー・ミナージュだと思います。あなたはそういった流れに属するよりはM.I.A.やジャマイカのテリー・リンに近い立場を選択したと考えてよいですか? そうだとしたら、そのようにしようと思った理由は?

リー・リー:わたしの興味は社会問題について歌って、音楽を作ることです。人権や男女間のことなどにも触れますね。

『モーヴァン』や『ハッピー・ゴーラッキー』、あるいは最近の『フィッシュタンク』といったイギリス映画を見ていると、イギリスの若い女性たちは異様なほど追い詰められているというか、ほとんど全員テロリスト予備軍に見えてしまいますが、実際はどうなんでしょう? 最近の映画であなたがいいと思った作品があったらそれも教えて下さい。『アリス・クリードの失踪』なんかはイギリスらしくていい作品だと思いましたけど。

リー・リー:正直に言うと、これらの映画は見たこと無いのです……。でも女性のメイン・キャラクターがステレオタイプではない役をするような映画は大好きです。『ハンガー・ゲーム』でのカットニス・エヴァディーンは最高でしたね!

ああ、めちゃくちゃ強い女性像ですね。アメリカ型というか。あ、イギリスにも『タンク・ガール』があったか。ちなみにイギリス以外の国で暮らすとしたら、どこがいいですか?

リー・リー:タイ~カリフォルニア~ハワイの順番に住みたいです。基本的に暖かくてビーチが近くて、時間がゆっくりな感じのところならどこでも言ってみたいですね。

現時点での目標はなんですか?

リー・リー:当面の目標は世界ツアーをすることです。日本にも行ってぜひパフォーマンスしてみたいです!

ひとりだけ死者を蘇らせることができるとしたら、誰にしますか?

リー・リー:マリリン・モンローです。女性の中でももっとも美しく、知性があって、創造性に溢れるエネルギッシュなひとだからです。

あれー、僕といっしょですね。理由もほとんど同じだなー。へー。

ele-king vol.12 - ele-king

 ときにファンタジーはリアリズム以上に人を鼓舞しますよね。クリスマス・キャロルのように、あるいは公民権運動の長くて暑い夏、デトロイトの人びとの気持ちをとらえたのがモータウンの華麗なビートだったように……というわけで、なかばこじつけがましくてナンですが、人が何かとファンタジーを求めるこの季節、オウガ・ユー・アスホールの巻頭インタヴューとともにはじまる2013年のベスト・ファンタジー号です。
 2013年度のベスト・アルバム30枚、ジャンル別のベスト(ハウス、テクノ、ヒップホップ、ワールド、アンビエント/実験音楽)、ぜひ、あなたの音楽生活の参考にしてください。出戸学の超偏愛的なベスト10、ミツメの2013年によく聴いた音楽も一読の価値アリです。座談会には田中宗一郎先生もご登場しております。
 しかも、今回は「ブリストル・ニュー・スクール特集」です。20年ぶりに燃え上がるブリストル・サウンド、ぜひチェックしましょう。
 さらに菊地成孔のロング・インタヴュー、大好評の「保坂和志×湯浅学の音楽対談」、マニアックな記事としては「ウッドマン×ケス(ペイズリー・パークス)、ネオ・グラフィズムはベース・ミュージック界の洒落モノ、フェイド・トゥ・マインドなどなど。
 紙エレキングの12号、ファンタジーの季節にぴったりですよね。発売は今週金曜日(22日)。ネットばかり見ていないで、紙を見ましょう、心の健康のためにも。(ちなみに先日のエレグラ、物販ブースにて、みなさまに募った「ele-kingの年間ベスト3予想」、用意した200枚のアンケート用紙がわずか3時間ほどで無くなるほどの盛況でしたが、なんと、正解はありませんでした……よって、もっとも正解に近い方、3名様には、メールアドレスのほうにメールを送らせていただきます。予想アンケートを書いていただいたみなさまには本当に感謝です。あらためてお礼申し上げます)

ele-king Vol.12

目次

〈連載ネオ・グラフィズム〉
FADE TO MIND 4

〈巻頭インタヴュー〉
オウガ・ユー・アスホール◎野田努/小原泰広 14

〈特集〉
2013◎野田努 26
〈座談会〉ハウスと90Sリヴァイヴァルで対抗軸がはっきりした2013年に人は書を捨てクラブに行ったのか?◎木津毅×田中宗一郎×野田努×橋元優歩×松村正人×三田格 26
〈年間ベスト〉2013年エレキングランキング30(1~10)◎木津毅/野田努/橋元優歩/松村正人/三田格 40
〈インタヴュー〉ミツメ◎中村義響 49
2013年エレキングランキング(11~20)
〈論考〉音楽の論点2013 
ハウス◎島田嘉孝 59
DJブラウザ インタヴュー◎野田努 64
ウッドマン×ケス(ペイズリー・パークス)ジューク放談◎ 67
ヒップホップ◎sypht aka アイデアの神様 74
実験音楽◎デンシノオト 76
テクノ◎山崎真 77
ワールド◎Shhhhh 79
2013年エレキングランキング(21~30) 81
〈インタヴュー〉アクトレス◎野田努 86

〈第二特集〉
ブリストル・ニュー・スクール◎飯島直樹 92
〈コラム〉耳栓とレーベルの街◎Yusak Shigeyasu 96
〈コラム〉欧州ドリフト日誌 エンプティセットと出会うの巻◎倉本諒 99
〈インタヴュー〉ペヴァラリスト◎Yusak Shigeyasu 102
〈ディスクガイド〉ザ・マッス・オブ・ブリストルズ・ニュー・スクール◎飯島直樹/野田努/三田格
〈コラム〉ドラムステップの行方◎三田格
〈インタヴュー〉岡田利規◎九龍ジョー/菊池良助 114
〈特別企画〉
音楽談義その3:保坂和志×湯浅学◎松村正人/菊池良助 120
〈カルチャーコラムEKかっとあっぷあっぷ〉
本◎松村正人 136
映画◎木津毅×三田格 138
アート◎岡澤浩太郎 140
演劇/舞台◎プルサーマル・フジコ 142

〈連載〉
本日の鳩みくじ◎西村ツチカ 129
アナーキズム・イン・ザ・UK外伝◎ブレイディみかこ 144
二木ジャーナル◎二木信 148
キャッチ&リリース◎tomad 150
光と闇がそなわり最強に見えるレヴューV2◎金田淳子 152
ナポレオン通信◎山本精一 154
音楽と政治◎磯部涼/小原泰広 158

〈第三特集〉
ポスト・ジャズ◎松村正人 161
菊地成孔◎野田努/松村正人/菊池良助 162
ヘテロフォニック・グルーヴ・ミュージック2◎山口元輝 172
ポスト・ジャズ~ディスクガイド10◎細田成嗣 176

〈巻末特集〉
マイ・プライベート・チャート10◎178
天野龍太郎/あらべぇ/OMSB(Simi Lab)/小林祐介(THE NOVEMBERS)/Seiho/竹内正太郎/田中宗一郎/伊達伯欣/デンシノオト/トクマルシューゴ/トビー・フェルトウェル/直枝政広(カーネーション)/野田努/橋元優歩/D.J.Fulltono/前田毅/Madegg/松村正人/三田格/ミツメ/嫁入りランド

表1 出戸学(オウガ・ユー・アスホール) 撮影=小原泰広
表2~3 撮影=菊池良助
表4 サファイア・スロウズ×倉本諒 撮影=小原泰広


●註記
戸川純「ピーポー&メー」は著者都合により休載します。

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