「KING」と一致するもの

DENKI GROOVE - ele-king

 ひょっとしてジェシー・カンダの日本時代の記憶のなかに「Nothing Gonna Change」のジャケがあったことがFKAツイッグスのアルバム・ジャケに繫がっているのではないかという大胆な説を持ち出したのは三田卿で、リキッドルームの来日ライヴ直前の写真撮影のときにそのCDを持って来てくれと、流れによってはツイッグスに2枚持ってもらおうぜと企んだのけれど、まったくそんな流れにはならなかった。
 が、しかし、電気グルーヴの知名度からして、ジェシー・カンダの記憶に挿入されているかもしれないという説は、たしかにありうる。

 トーフビーツが「教科書」だと高らかに言った、電気グルーヴのニュー・シングル「Fallin' Down」がリリースされた。電気グルーヴは、テクノだなんだと言うまでに、もはや電気グルーヴという唯一無二のジャンルになっているのだろうが、「Fallin' Down」を聴いていると、クラフトワークやニュー・オーダーといった、石野卓球の好きな音楽をあらためて感じる。そして、その音、空間、ミキシングのクオリティには貫禄というか、老練さを感じる。ま、とはいえ、ジョージ・クリントンも73歳で新作を出していることだし、まだまだ行けるでしょう。

 当時収録されているのは、昨年リリースされた『25』に収録された“Baby's on Fire”のリミックスが2ヴァージョン。手がけているのは、Hoshina Anniversary、そして新作が注目される(((さらうんど)))。(((さらうんど)))のリミックスは、なるほど面白い。つまり、竹内正太郎は必聴盤というわけだ。
 なお、初回限定盤にはDVDも同封されている。ライヴ映像があり、また、買った人にしかわからないお、お、おそろしい……衝撃の発見がある! 

Techno

電気グルーヴ
Fallin' Down

ソニー

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Chicklette - ele-king

 2011年春、某クソバンドでクソな活動をしていた僕はLAにていくつかのクソなショウをこなし、オースティンまで13時間のドライヴで〈SXSW(サウス・バイ・サウス・ウエスト)〉へ向かった。僕以外の同乗者全員が運転できない過酷な状況の下、車内から見える、ただ永遠と広大な荒れ地と砂漠がつづく光景は、まさしくループするようで猛烈な眠気を誘い、時折道中に転がる大型野生動物の屍骸をよけて死にかけつつ疲労困憊の限界を超えて到着した先で無銭で同乗していたハイウルフが交換条件として提示していた宿先が確保できていなかったことはいまだに忘れることができない。

 ……といったことは以前に紙版『ele-king』のほうにも書いていて、何をくどくど同じことをほざいているかというと、そんな最悪な思い出もいまにつながる妙な縁を自分に残しているからである。はたしてそれが自分の現在を良いものにしているどうかは別として。

 DJ ドックディックとのユニット、ドッグ・レザーをはじめたばかりのソーン・レザー、現スカル・カタログ(SKULL KATALOG)のグリフィンを誘って、初めて対面したのもこのときであったし、エンジェルス・イン・アメリカ(Angels in America)のエスラに出会った(ナンパした)のもこのときであった。

 チックレット(Chicklette)は現在NY在住のエスラによるソロ・プロジェクトである。エンジェルス・イン・アメリカではシンガーを務め、DJデュオ、バンビ&チェブス(BAMBI & C.H.E.B.S.)としてモントリオールからボルチモア、ファー・ロカウェイを股にかけリジデントのパーティを主催する。ザリー・アドラーによる秀逸なアート・ピースとしても定評のあるカセット・レーベル、〈ゴーティー・テープス(Goaty Tapes)〉よりリリースされた初音源である前作『ロンリエスト・ビッチ(Loneliest Bitch)』(──そう、僕はいつだって誇り高きアバズレに人生を振り回されているのだ)は、USヘンテコ・ミュージック愛好家の間で話題を呼んだ。

スカル・カタログやDJドッグディックらとともに多くの時間をボルチモアのスクワット生活で過ごした、エンジェルス・イン・アメリカのクラストパンク・フォークとでも形容すべきサウンドが、この小汚い連中に多大なリスペクトを送りつづけるドラキュラ・ルイス(Dracura Lewis)ことシモーネ・トラブッチによる〈ハンデビス・レコーズ〉からのリリースとなったのは必然であったと言えよう。〈ハンデビス〉よりカセット音源『VH1 DRUNK』をリリースしたエンジェルスは同レーベルによるサポートの下、ヨーロッパ・ツアーも敢行したようだ。

 このたび、ハンデビスより満を持して発表されるチックレットのカセット音源がこのアンフェイスフル(UNFAITHFUL)である。シモーネによる毎度最高なCMはこちら。

 このアンフェイスフル、正直カセット音源であることがもったいない。

 ファルマコン(※リンクおねがいしますhttps://www.ele-king.net/review/album/004087/)と同等、いや、それ以上の女子的な闇と病巣を宿していながらも非常にバカバカしく、キッチュかつポップに聴かせてしまうセンスにはまさしく戦慄をおぼえる。エンジェルスでは、ある種拷問的に聴者に襲いかかっていた彼女の狂気は、このような形にまとめあげられるべきであったのかもしれない。ハンマービート、EBM、フォークソングと、ヴァリエーション豊かなトラック群にさらりと乗る底抜けに病んだリリック、それはまさしく1ドルショップに並ぶ、毒々しい蛍光色で輝く有害物質が桁外れに含まれた幼児玩具のようでもある。

 また、エンジェルスの相方であるマークもプロヴィデンスを拠点にフェアウェル・マイ・コンキュバイン(Farewell My Concubine)として活動する。こちらも『チックレット』に劣らない最高のポップ・センスとヘロイン・ライクな心地よすぎるダウナー・トリップ。ぜひともチェックしていただきたい。

 大反響を呼んだ、「対談:トーフビーツ×砂原良徳」に続いて、砂原良徳がリミックス・アルバムの全曲についてコメントしてくれた。90年代世代のヴェテランの耳に、新世代の音響はどのように聴こえているのか。どうぞ、お楽しみ下さい。

アルバムの1曲目は自分(まりん)のリミックスだから、2曲目からいきましょう。

2.populuxe  ― RAMZA Remix


tofubeats
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砂原:このひとは日本人なのね?

このひとは日本人だね。

砂原:僕以外は全員が日本人?

spazzkidはフィリピン出身でロサンゼルス在住のひと、ほかは日本人だと思う。で、このRAMZAさんはヒップホップ・シーンのひとですよ。Campanellaとか、日本のアンダーグラウンドのヒップホップ・シーンでは注目されているひとりですね。

砂原:へぇー! ヒップホップなんだ。僕はヒップホップというよりは、それこそ2000年代初頭に話題になっていた、エレクトロニカとかノイズっぽい印象を受けたんだよね。へー、ヒップホップだとは思わなかった。ノイズっぽいなと思ったほどだから。

トーフビーツは、わりとアンダーグラウンドなヒップホップ・シーンのひとにリミックスを依頼しているんだよね。アナログ盤にはブッシュマインドのリミックスが入っているし。

砂原:細かく切り刻んでやっている感じはあるけど、とにかくヒップホップには全然聴こえなかったな。どっちかっていうと、ノイズとテクノな感じ。で、僕は本当に情報がないんだけれども、このなかでは一番日本人っぽくはなかった。海外の同じ世代に頼んだのかな、みたいな。そういう感じがしたかな。で、ヒップホップをやっていてこの音になっているんだったら、自由度は高いと思うな。

実際そうだと思うよ。

砂原:とにかく、僕はこれ(このリミックス)を聴いた瞬間に、自分はドレスコードがあると思ってスーツを着ていったら間違いだったって思った。「スーツ着ていかなくてよかったじゃん!」みたいな(笑)。僕のリミックスがわりとまっとうにやっているからさ。そういう風に思ったことを憶えている(笑)。


3.Come On Honey! feat.新井ひとみ(東京女子流)― spazzkid Remix

砂原:これね! これはやっぱり日本人っぽい。日本人に聴こえたかな。日本のカルチャーをけっこうかじっているのかなって。

ところが、これはさっき言った、LA在住のフィリピン系のspazzkidっていうひとなんだよ。

砂原:へー! でも、どういうのを聴いてどういうことをやってるんだろうね。フィリピン系ってまったく想像がつかないよね。とくにネットにとって国境はよりないものになっているんだろうね。だって僕、これは日本人に聴こえたもん。「こいつは部屋が狭いね」って(笑)。

それはどういうこと? イメージ的に?

砂原:うん。日本人のクリエーターってすっごい狭い部屋に住んでいるイメージがあって、これを聴いたときも全体的なイメージとして、「部屋が狭い」っていうことが一番感じたこと。そういうひとたちってさ、スピーカーが近くにあるんだよね。

なるほどね。

砂原:スピーカーってある程度離して、自分を頂点に三角にして聴かないと音の全体がわからないんだけど、日本人のクリエーターってそこそこ有名なひとでも、スピーカーがめちゃくちゃ近かったりするからね。「そんなにモデルに接近してデッサンができるのかな」って僕は思うんだけど。だから、ヌード・モデルに接近して描いている状態だよね(笑)。

接写している感じ?

砂原:いや、接写っていうか、全体を描くために対象に近づいている感じがして。それは自分以外のリミックス全部に思った。どういう環境でどういうふうにやっているかは全然想像がつかないんだけど、とにかく2曲目、3曲目を聴いて思うのは、僕ら以上に国境や地域性がないんだなっていうこと。あと、カテゴライズも僕らの頃よりも曖昧になってきているんだなって感じる。


4.朝が来るまで終わることのないダンスを ― banvox Remix

先日も話したけど、このひとはEDMでブレイクしてて、UKでも名前が知れてるひとですね。トーフビーツ曰く、もともとヒップホップをやりたい子が、流れでEDMを作るようになったらそれがバカうけしちゃったっていう。

砂原:なるほどね。これも部屋が狭くて、日本人っぽいかなと。日本のオタクだから、クラブじゃなくてネットの方が濃いよね。

ベッドルーム感?

砂原:ベッドルームというか、パソコンのスピーカーとヘッドフォンだね。

まりんの世代でも、みんな最初はスピーカーが近くなかった?

砂原:でも極力離そうと頑張ってやってたけどね。いまのひとよりは遠かったと思う。そういう意識はあったから。僕も最初は自分の部屋でやっていたけど、距離はある程度取っていたよ。でも、いまはすごく近いひとが普通にいるからね。それじゃ音がわからないって僕は思うけど。

なるほど。

砂原:最近の音楽の特徴というか、リスナーの50パーセントがヘッドフォンもしくはイヤフォンかパソコンのスピーカーだよね。普通のスピーカーで聴くことが珍しくなっているし、場所もないし、かつ音楽を聴く時間なんてないのかもね。通勤時間を、よく言えば効率的に使った結果、それがこういうふうになったというか。

なるほどー、環境に応じてミキシングも変化してっていう?

砂原:僕はスピーカーで聴く方が好きなんだよね。ヘッドフォンで聴いていると違う感じになっちゃわないかな。

俺も個人的にはまったくそうなんだよね。

砂原:この間も、エンジニアの益子(樹)さんと話していたんだけど、ここ(耳)にものを入れて聴くことが、人間USBに限りなく近いというか。ファイヤー・ワイヤーとかUSBっていう、それがもう入り口な感じがちょっとしちゃうよね。奇妙だなって思う。

なるほどね。

砂原:僕もしなきゃいけないこともあるんだけどね。クリックが必要なときもあるから。

曲には勢いがあるよね。で、僕が普段聴いている音楽とくらべると、ベースがすごい控え目というか、耳に入ってこないんだよね。

砂原:音の広さがあまりないからね。ベースの周波数は低いから、ある程度の空間がないと効果的に響かないんだよ。エコーにも空間が必要なんだけど、その感じが全然ないな。すごく近くて、狭くて、ちっちゃくて、詰まってて。でもね、それがダメっていうわけじゃないんだよ。このリミックスの全部がそうだよなって感じがする。


5.CAND¥¥¥LAND feat. LIZ ― Pa’s Lam System Remix

神奈川県在住の3人組トラックメイカー。トーフビーツのネット・レーベル仲間だね。彼はこういう人たちをみんなに紹介したいんだよ。

砂原:もとは90年代に流行っていたR&Bとかに近いかったり、あとはドラムンベースっぽかったりとか……。ドラムンベースってなんだかんだ言って残ってるね。ドラムンベースも、もともとはレゲエとかダブからだもんね。

ブレイクビーツだし。

砂原:そういうものもあって、いまだにドラムンベースっぽい独特のテンポの取り方が残っているなって感じがするよ。あとは編集で切り刻んでる。この間思い出したんだけど、アクフェンとかがわりと近かったかな。切り刻んでポピュラーなものにするというか。

でもアクフェンはもっとポップ・アートでしょう?

砂原:そうなんだけど、切り刻んだ形をわっと広げて認知されたのって
あれが大きかったかなって、この前にふと思ったんだけど。

いまのチョップの仕方ってさ、というか近年では「エディット」じゃなくて「チョップ」って言うじゃない?

砂原:うん、言うね。

チョップという言葉で表現される感覚もソフトウェアと関係しているのかな?

砂原:すごく関係あるよ。昔は全部を手でやらなきゃいけなかったんだけど、いまは音量のレベルとかを見て本当にスパって切れるんだよね。だから昔は3、4日かかっていた作業がいまは一瞬でできるようになったから、こんな形でできるようになったというのがあると思うんだよ。

ドラムンベースだけど、やっぱりベースがあっさりしているね。逆にこれが個性というか、UKやアメリカから見たらこれは日本っぽい感じに聴こえるのかもね。そのへんも確信犯としてやっているのかな。それはそれで、ひとつの戦略としてありなのかなって気もしなくはない。

砂原:どうなんだろうね……やっぱ非情に日本っぽいかな。アメリカンな感じはないね。原曲にはR&Bというか黒人音楽の要素があるかもしれないけど。

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6.おしえて検索 feat. の子(神聖かまってちゃん)― PARKGOLF Remix


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砂原:の子くんの曲だね。パークゴルフ。いい名前だね。90年代っぽい。

札幌在住の1990年生まれの方ですね。やはり、トーフビーツの仲間で、このリミックスは、ガバっぽいよね(笑)。

砂原:ちょっとニコニコ動画っぽい感じというか。ん、やっぱりいままで聴いてきたなかで、一番ネットっぽい(笑)。基本的にみんな音符が細かいんだよね。ダカダカ、チャキチャキ、ドコドコ。

トーフビーツが電気グルーヴは教科書だって言ってたけど、電気っていっても時代によって音楽性は変化しているわけで、彼らは、『KARATEKA』とか、『DRAGON』より前の電気グルーヴの影響が強いような気がする。ちょっとレイヴっぽいノリとか。

砂原:電気にはそういう時期があったね。『VITAMIN』と『KARATEKA』の間くらいじゃない? 『FLASH PAPA MENTHOL』とかあのくらいの時代。あの頃は速くてけっこう細かかった。あと音も歪んでたし。しかし、そう考えてみると、この前も話したけど、人生っぽいところとかもあるのかも。あと、コードとかそういうのがダークじゃなくて、普通のメジャー・コードだったりするけど、人生とか電気もけっこうそういうのが多かったかも。

さすが俺みたいな年老いた人間はこのなかに入っていけないけど、若い子がこういう音楽でアがる気持ちも、わからなくはないというか。想像できなくはないかな。

砂原:まぁね。できなくはないけど、何かが欠けているような気もするし(笑)。

ハハハハ。

砂原:別に、かけていてもいいのかもしれないよ。そこはわからないんだけど、聴いた感じではベースの概念が薄いというか。土台が緩い感じっていうかね。それなりに長くやっているから、僕はこういうことを言っちゃうかもしれないけど、もうちょっと土台がガッシリした曲があってもいいかなって感じがしちゃうんだよね。いまは土台の上に乗り切らないものを乗せている感じがある(笑)。

ハウスが出てきたときも、ディスコ・ファンからは「こんなのは素人が作ったディスコでしょ!」って言われたわけだからね。

砂原:そうだよね。いつの時代も新しいものが出てくると、みんな大体はそういうことを言うしね。僕もその前の音楽を聴いているから、過去のことがデータとして蓄積されていると、そういうことしか言えないんだよ。ただ、時間が経たないとわからないこともあるから、それをダメだとは言わない。僕らがハウスをやっていた時代も、そういう批判をするひとはいたわけだしね。そのひとたちも、その前の世代から批判されていたわけだし。

新しいことが起きるときには、必ず賛否両論があるし、こうして更新されるものだろうから。

砂原:あと、声が高いのが多くない?

多い。

砂原:おおいよね(笑)。いわゆる、その、帰ってきた酔っぱらい的なさ(笑)。高い声のすっごく細かい編集ね。

トーフビーツはヴォーカリストの選び方にも特徴があるよね。

砂原:そうかもしれない。

なんで森高千里とボニー・ピンクなんだろうって。トーフビーツにとっての90年代イメージの象徴としてこうなったのかな。

砂原:どちらも90年代に主に活動していたわけだから。

でも、90年代リアル・タイム世代からすると、彼女たちが90年代を象徴するヴォーカリストなわけではないからね(笑)。

砂原:90年代を代表するヴォーカリストって誰?

たくさんいるけど。それこそUA、ACOとか。

砂原:それを言ったら、CHARA ACO UA、この3人だよね。

マネージャー氏:宇多田ヒカルとかも入るんじゃない?

宇多田ヒカルってなぜか90年代ってイメージしないよね。

砂原:それはまた90年代後半の方っていうか。

そうだね、前半と後半では時代の印象はぜんぜん違うもんね。

7.衣替え feat. BONNIE PINK ― Tofubeats Remix

砂原:うん、情報がやっぱり細かいね。

トーフビーツのリミックスは、彼の仲間とはちょっと違う感じがしたけどな。

砂原:うん。彼もそこの先頭に立っているという意識があって、「何か新しいことをやっていかなきゃ」っていうのがあるのかも。僕はそんな気がするけどね。だって彼はずっと変化しているでしょう?

そうだね。「しらきや」の頃からものすごく変化している。

砂原:あと、年齢のことも関係あるでしょう。

そこは大いにあるだろうね。

砂原:わからない。こっちが主流になる可能性もあるよ。僕はただの古い考えの人間になるのかも(笑)。


1.Don’t stop the music feat.高森千里 ― Yoshinori Sunahara Remix

ここで、あらためてまりんのを聴かせてもらってもいいですか。比較してみよう。

砂原:僕のはだいぶ違うと思うよ。まず、他のものと比べると「間」がありすぎるよ。

そうだよね。それが現代の特徴なのよ。要するに情報量の多さ。

砂原:でも社会の状況を音楽はなんだかんだ映し出していくからね。たとえば、戦前とか戦時中とかって、船でも飛行機でも大きければいいって時代があってさ。そうすると、テンポがゆったりして、うわーって曲が流行ったりするんだよね。今度、時間が忙しくなってくると、どんどんテンポが上がってきて、情報が多くなってくるとテクノみたいなものが出てきて、音が複雑に絡みあってきてさ。そうなってくると時代を映し出しているって意味では、僕のじゃないものの方が正しいかもしれないね。世の中ってこんなに情報は整理されてないもん。もっとめちゃくちゃだよ。

たしかにね。

砂原:こんなもの(自分のリミックス)はテメェの理想でしかないっていう(笑)。現実逃避だよ、俺(笑)。

ハハハハ。どっちが良いか悪いかじゃなく、やっぱり比べて聴くと、鳴りが全然違うね。

砂原:やっぱりスピーカーってこうなるんだけど、音が遅いほど耳に届くまでにやっぱり時間がかかるわけ。音が高くてその時間が短いほど、そのスピーカーの揺れが小さいから音が鳴り終わるまでの時間が短くて済むのね。

うん。

砂原:だから僕の曲って、ある程度揺れるからテンポも遅くないといけないから、そういう計算がなされているんだよね。さっき言った通り、無い物ねだりの子守唄ですよ。

トーフビーツはこれを望んでいたわけだし。

砂原:望んでいたのなら、それはそれでよかったんだけど、ただ僕は他のものとのギャップがすごいなと思って(笑)。

たしかにね(笑)。もうひとりくらいヴェテランを入れればよかったのにね。

砂原:「ひとりだけスーツであとはスエット」っていうのが、これはこれで面白いのかもね(笑)。

ただ、情報量の話で言うと、若いときって、大量の情報に対応できちゃうからさ。体がもう……

砂原:反能しちゃうんだと思う。

まりんの場合は、クラフトワークやYMOからきているから、彼らの音楽は基本、引き算だもんね。

砂原:そうそう! クラフトワークはとくにね。ただ、いまの子たちがこういう状態だけど、10年経ったらどういうふうになるんだろうっていうのは興味があるね。

うん。それはすごく興味があるね。

砂原:世代の特徴っていうのは明らかにあるから。何かが起きているし、何かが変化していくんだろうし、そういう楽しみや期待はあります。やっぱり、それでも時代は回っていくんだなって。不況と言われつつも、新陳代謝が起きているって思うし。


7.衣替え feat. BONNIE PINK ― John Gastro & Tofubeats 1960s Remix

それでは最後にもう1曲。トーフビーツが友人と一緒に手がけたリミックスです。

砂原:こういうまっとうな曲が最後に入っているんだ。彼って実は器用なんだよね。この前の対談でも言ったけど、わりと曲らしい曲ができるんだなっていう。ひとりで冷静になってっていう。彼はシーンを背負っているんだよ。

そうかもしれないね。

砂原:背負って自分が切り開いて、他の仲間も切り開いていくしかないし、自分が気づいたこともどんどんやって周りに見せて、自分にも周りにも刺激を与えていかなきゃいけない。自分だけじゃなくて、シーン全体のことを考えているし、こういう曲もやってみせたいしっていう意識があったんじゃないかな? この曲はわりとまとまっている方でしょう?

そうだね。リズムのノリとかも悪くないしね。

砂原:全然悪くないよ。僕は森高さんが歌った曲のトラックのリミックスをやったから、データの中身を見たんだけど、意外とちゃんとしてるんだよね。とくにベースの打ち込みを見たときに、「これってけっこう難しいんだけどな」って思ったんだよね。

なるほどね。

砂原:僕がやるときはそれをさらにエディットしたんだけどね。だから彼は器用ではあると思う。

ただ単に衝動で力任せにやっているのではなくてね。

砂原:うん。そういうコントロールが自分でできていると思うよ。

今回のリミックスで特に印象に残ったやつとかある?

砂原:印象に残ったものはとくにはないね。だけど、自分以外の全体の印象っていうのはあるかな。だから、「自分対他」っていう構図になっちゃったかなって印象。

とくにミキシングに関しては、全部で8曲あるなかで、他の7曲のまりんととのギャップは著しいね。

砂原:彼らの世代の特徴というか、ネット・ジェネレーションの特徴がよく出ていると思った。「これすげえ面白いじゃん! 無人島に持っていきたい」って思えるものは正直に言ってなかったけど、これがどういうふうに変化していくのかって興味は自然に持ったね。

なるほどね。

砂原:トーフくんだって最初はサンプルを切っていたノイズだったけどさ、どんどん変化してきているわけじゃない? だからどうなっていくのかなっていう。もっと僕が理解できないものになっていくかもしれないし、その逆なのかもしれなし、わからない。でも彼らもこの先どんどん経験値が増えていくわけだしさ。これからどうなっていくかもわからないわけで。

※また、ふたりの対談のカット部分は、3月末発売の紙エレキングvol.16に掲載予定です。

Just Off - ele-king

 米国生まれの漂泊のチェリスト、トリスタン・ホンジンガーはデレク・ベイリーのカンパニー、ミシャ・メンゲルベルグ、ハン・ベニンクらのICP、アレクサンダー・フォン・シュリッペンバッハやペーター・ブロッツマンとのグローブ・ユニティ、セシル・テイラーの欧州グループに名を連ねる歴戦の即興者であるばかりか日本にも浅からぬ縁がある。22年前の初来日のおりの近藤等則、ペーター・コヴァルト、豊住芳三郎との『What Are You Talking About?』はこの顔ぶれからすわ、ごりごりばりばりの即興かと身がまえたリスナーをあざやかにいなすフォービートあり、歌ものあり、全員が脳天から突き抜けて裏がえしになるかのような集団即興ありの、ジャズのポストモダンうんぬんのしちめんどくさい議論する以前の奇妙でひとなつこい顔つきでひとを喰った即興カーニヴァルの趣だった。そこでのトリスタンは弦を軋ませメロディを紡ぐだけでなく、調性と常道からの逸脱合戦を近藤とくりひろげながら、狂言回しとして即興の導線をきりもりした。それはたぶん、ことジャズにおいて、チェロの構造上の特性(音域とか)とそこから導かれた役割とが、彼の生来の資質とタマゴとニワトリさがらの関係なるところから来るものでありいまもそれは変わらない、というか変わりようがないけれども変わらないからといってなにか問題でも?

 ジャスト・オフはトリスタンと千野秀一、向島ゆり子、瀬尾高志との、上述のアルバムと同じくカルテット編成だがこちらは三艇の弦楽器に千野秀一の鍵盤を加えた変則弦楽アンサンブルが基調である。表題の『The House Of Wasps』の“Wasps”はトリスタン自身ライナーで断っているとおり、ホワイト・アングロ・サクソン・プロテスタントとは関係ない。もっといえばブラッキー・ローレス率いるメタル・バンドとも(たぶん)関係ない。これはまったくの余談だから読み飛ばしてけっこうだが、私はブラッキー・ローレスは血濡れたパブリックイメージを保つためみずからヤスリで歯を削り尖らせていたとむかしものの本で読んだ憶えがある。ものすごく痛いそうだ。トリスタン・ホンジンガーは歯を削ることはないであろう。しかしながらしっかりした歯並びの間から彼の発する音楽言語はもはやトリスタン・ホンジンガー固有の独立語といえるほどのものだ。トム・コラともハンク・ロバーツともちがう。無数の記号を散りばめるのに、ネコのようの軽やかに身をかわし、毛を逆立てたと思えば日だまりに丸まって前足を舐めるような弓づかいに指づかい。朗々としたバリトンに高音の金切り声。その声音は意味を伝えるためのみにあるものではない。私たちがラッキーなのは音はどんなものであれともかくも聴けてしまう、聴いてしまうことだ。

 ジャスト・オフもまた弦楽曲の既視感を借りながら形式を断裁し、飛躍をひそませることで異化しながら曲のかもす情感にゆさぶりをかけつづけ、沖縄民謡やらキャバレー・ミュージックやらフリージャズやらがひょっこり顔を出す数分の旅路のうちに手の内に掴まえていたはずのモチーフが気づけば雲散霧消している。これを現代音楽ないしインプロにくくって知ったふうになって遠ざけるのはもったいない。前半の組曲形式に、“Ace Of Wasps”“Queen Of Wasps”“Jack Of Wasps”などの「wasp」入りの曲の数々。そこでは12本の弦と白鍵と黒鍵が追いかけっこするうちに結び目にもつれたかと思えば解けていく。もちまえのユーモア感覚こそ今回はやや抑え気味だが、大道芸人は宮廷道化師にとりたてられたからといってやることに変わりはない。だからといって彼らはトリックスターなどではない。それもまたわかったつもりになるための道具にすぎない。『The House Of Wasps』にはただ蜂(wasp)の羽音に似た唸りがあり、複雑性の謂いともいえるそれに擬態/描写するトリスタン・ホンジンガーの変わらぬ資質があり、ジャスト・オフにしかできない協奏と狂騒がある。まったく自然だ。

Praezisa Rapid 3000を知っているか? - ele-king

 2012年、world's end girlfriendやSerphなどのリリースで知られる〈noble〉が、海外バンドとして初めて手掛けたPraezisa Rapid 3000。彼らはドイツはライプチヒを拠点として活動するトリオで、マウント・キンビー(Mount Kimbie)やアントールド(Untold)などベースミュージック勢との共演がある一方で、今回のツアーでもコラボレーションするように、〈Morr Music〉のSing Fangなどカラフルでドリーミーなエレクトロニカとも共振する音楽性が魅力的だ。今回報ぜられた来日情報は桜の頃を過ぎるが、楽しみに待ちたい。

■Praezisa Rapid 3000 - Japan Tour 2015

ドイツはライプチヒの新世代トリオ、Praezisa Rapid 3000。待望の初来日ツアーが今年4月に決定しました。
ドイツ東部ザクセン州の音楽都市、ライプチヒを拠点に活動するPraezisa Rapid 3000は、Simon 12345、Devaaya Sharkattack、Guschlingの3名からなるトリオバンド。ネパールやインド、中近東など、多国籍なエキゾチック・サウンドに最新のベース・ミュージックを掛け合わせた2nd アルバム『Miami/Mumbai』のリリースも記憶に新しい彼らが、今年4月に待望のジャパン・ツアーを行います。

東京公演には、昨年12月に1stフル『White Girl』をnobleよりリリースしたmus.hibaと、100%サンプリング製法を謳い、昨年11 月にVirgin Babylon Records より初のCD アルバムをリリースしたcanooooopyも登場。京都では、ベルリンのMorr Musicからリリースする共にアイスランドのアーティストSoleyとSin Fangとのコラボでの来日公演を行います。山形公演には、nobleとも何かと縁の深い現地在住のアーティスト/DJ のSHINYA TAKATORI も出演。埼玉公演には、kilk 勢に加え、2nd『Miami/Mumbai』にもリワークで参加した服部峻も大阪より駆けつけます。

今回のツアーには、Simon12345による別動トリオSimon12345 & The Lazer twinsのメンバー二人もサポート・ミュージシャンとして来日し、5人編成でのパフォーマンスを行います。

世界中の好事家たちを魅了する、錬金術師めいた抜群のコラージュ・センスで生み出されるレフトフィールド・ポップス、どこかユーモラスで謎めいた、新世代のハイブリッド・サウンドを、ぜひ生でご堪能ください。みなさまのお越しをお待ちしております。

■Tour Details

Praezisa Rapid 3000 - Japan Tour 2015

東京公演:
Miami/Tokyo
4月22日(水)
東京・渋谷 O-nest(https://shibuya-o.com/category/nest
Live Act: Praezisa Rapid 3000、mus.hiba、canooooopy
開場:19:00/開演:19:30
料金:3,000円(前売)/3,500円(当日)_ドリンク代別
チケット:ローソンチケット(Lコード:71522)/e+
問い合わせ:O-nest(https://shibuya-o.com/category/nest

京都公演:
night cruising「Praezisa Rapid 3000 Japan Tour 2015 "Döbeln/Kyoto"」+「sóley & Sin
Fang Japan Tour 2015 in Kyoto」
4月23日(木)
京都 METRO(https://www.metro.ne.jp/
Live Act: Praezisa Rapid 3000、sóley、Sin Fang、miaou
開場:19:00/開演:19:30
料金:3,000円(前売)/3,500円(当日)_ドリンク代別
予約:info@nightcruising.jp
問い合わせ:night cruising(https://nightcruising.jp/

山形公演:
Yamagata/Mumbai supported by RAF-REC
4月26日(日)
山形 sandinista(https://www.sandinista.jp/
Live Act: Praezisa Rapid 3000、SHINYA TAKATORI、about me
DJ:Satoru Akiyama (CSGB)、A-bit (slow motion)、Takatox、
Live Painting : SOLID
開場&開演:19:00
料金:2,500円(前売)/2デイズチケット : 3,000円(※27日のアフターパーティーとの通しチケット
です)/3,000円(当日)_ドリンク代別
予約:RAF-REC(https://rankandfilerec.com/)/sandinista(https://www.sandinista.jp/
問い合わせ:RAF-REC(https://rankandfilerec.com/

山形公演アフター・パーティ:
pr3k ancient spacebase
4月27日(月)
山形 RAF-REC(https://rankandfilerec.com/
DJ:Simon12345、Devaaya Sharkattack、;..(from Praezisa Rapid 3000)、SHINYA TAKATORI
(RAF-REC)
開場&開演:19:00
料金:1,000円(当日)
問い合わせ:RAF-REC(https://rankandfilerec.com/

埼玉公演:
Saitama/Detroit
4月29日(水)
埼玉・大宮 ヒソミネ(https://hisomine.com/
Live Act: Praezisa Rapid 3000、服部峻、Aureole、at her open door
開場:18:00/開演:18:30
料金:3,000円(前売)/3,500円(当日)_ドリンク代別
チケット:Peatix(https://peatix.com/event/72632)
問い合わせ:ヒソミネ(https://hisomine.com/

 

ツアー企画・制作:noble
共催:night cruising(4/23)、RANKandFILE RECORDS(4/26, 4/27)、kilk(4/29)
助成 ドイツ連邦共和国外務省
協力:Goethe-Institut ドイツ文化センター、HiBiKi MaMeShiBa (GORGE IN)
ツア


BURGER RECORDS JAPAN OFFICIAL STORE OPEN - ele-king

 BURGER RECORDSのジャパンオフィシャルウェブストアがオープン!! アメリカ本国から取り寄せたカセットテープはもちろん、日本オリジナルプロダクトのアパレル&雑貨を取り揃えております!初回購入者特典もありますのでチェックしてみてください!

JAPAN OFFICIAL STORE
https://burgerrecords.jp

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@BurgerRecordsJP

■ And A BURGER RECORDS STORE OPEN

2月20日(金)からAnd A渋谷店にて、And A BURGER RECORDS STOREがオープン!!

東京都渋谷区神南1-3-4 And A 渋谷店
TEL:03-5428-6720
営業時間:12:00~20:00

And A
https://www.and-a.com

□ about BURGER RECORDS

2009 年 LA のオレンジ・カウンティにて、ザ・メイクアウト・パーティ! (Thee Makeout Party!)というバンドのメンバーであった、リーとショーンによって設立された音楽レーベル兼レコードショップ。
 「ドライブ中にカセットで音楽を聴くのが好きだから」という理由で、カセットテープでの発売を中心に展開している。西海岸を中心に個性的なアーティスト・バンドを多数輩出。
 また、サンローランのクリエイティブ・ディレクターであり、音楽好きとして知られるエディ・スリマンも絶賛。レーベル所属アーティストであるザ・ガーデンズやレックスなどをモデルとして起用。
 さらにこれまでベックやダフト・パンクが登場したサンローラン ミュージック プロジェクト(SAINT LAURENT MUSIC PROJECT)において、バーガー・レコーズ所属のカーティス・ハーディングをフィーチャーするなど、ファッション界でも熱視線が注がれている。他にも、90年代より活躍するパンク・バンド、ザ・マフスが所属。


special talk : tofubeats × Yoshinori Sunahara - ele-king


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First Album Remixes

WARNER MUSIC JAPAN INC.

J-PopTechnoHouseEDMExperimental

Amazon iTunes

 つい先日デジタルで発売されたトーフビーツの『First Album Remixes』の1曲目が“Don't Stop The Music”の砂原良徳リミックス。新世代の作品にベテランが手を貸した最初のヴァージョンとなった。

 トーフビーツからは「現在」が見える。インターネット時代の(カオスの)申し子としての彼の音楽には、90年代を楽しく過ごした世代には見えにくい、重大な問題提起がある。ゆえに彼の楽曲には「音楽」という主語がたくさん出てくる。音楽産業、音楽文化、あるいは知識、音楽の質そのもの。

 自分が若かった頃に好きだった音楽をやる若者は理解しやすいが、自分が若かった頃にはあり得なかった文化を理解することは難しい。なるほど、ボブ・ディランは最近ロックンロール誕生以前の大衆音楽をほぼ一発で録音して、発表した。これは、インターネット時代の破壊的なまでに相対化された大衆音楽文化への本気のファイティングポーズなんじゃないだろうか……だとした、さすがディランだ。しかしもう時代の針を戻すことはできない。
 インターネット文化には、そもそもヒッピーの聖地近郊のシリコンバレーには、カウンターカルチャーの遺伝子がある、と今さら言うのは、80年代を懐かしんでいるわけではない。僕がUSの若い世代の音楽批評を読んでいてあらためて感じるのはそのことなのだ。ヴェイパーウェイヴの「日本」には、『ニューロマンサー』の「チバシティ」と似たものを感じるでしょう? それはずっとあり続けているのだ。
 が、しかし……それを反乱と呼ぶには、瞬く間に資本に取り込まれているのかもしれない。自由であるはずが、意外なほど窮屈だったりするのかもしれない。トーフビーツは、そうしたもうひとつの現実も知っている。親は、子供がライヴハウスに出演することよりも四六時中インターネットにアクセスしているほうを心配するだろう。電気グルーヴが登場したときのように、トーフビーツにも賛否両論の新しい価値観がある。ものすごーく引き裂かれたものとして。


だから電気グルーヴは聴かなきゃいけないみんなの教科書的なものなんですよ。──トーフビーツ
電気グルーヴが教科書ってどうかと思うけど(笑)。──砂原良徳

今日が初対面っていうのがあまりにも意外でした。

砂原良徳(以下、砂原):ハハハハ!

当然もう何回も会っているものかと。

砂原:クラブとかの入れ替わりで1回くらいはどっかのイベントでね。

トーフビーツ(tofubeats以下、T):それこそサーカスとかで1回くらい会っていてもおかしくはないんですけど。

砂原:会ってなかったね。

意外だよね。とにかく、今回のリミックス・アルバム『First Album Remixes』は、まりんが参加したってことが大きなトピックだから。トーフビーツ世代と電気グルーヴ世代がいままで一緒になることって、作品というカタチではなかったよね?

T:そうなんですよね。こっちからソニーに「マスターをください!」って言って“MAD EBIS”をリミックスしたことはあったけど。

砂原:あったねー! それは俺も聴いたよ。

T:実は僕、××(大手メジャーの新人発掘部門)に5年くらいいて。

砂原:あ、そこにいたんだ!

だってWIREに出てるんだよ。

T:WIRE08の一番上のちっちゃいアリーナに出てて。

しかも高校生で。

T:それで、てっきりそこからデビューすると思っていたら、ワーナーさんからデビューすることになって。

このひと(トーフのマネージャーのS氏)もそこだったんだよね。

T:だから、最後の最後に、これまでのリミックスをまとめたアルバムを出しましょうってなって、「“MAD EBIS”のパラをもらえますか?」って聞いたら、「DATがテープしかないから、スタジオに請求するから」という流れでいただいて作ったんですよね。

砂原:俺はそれを何で知ったんだっけな。電気のリミックスをやったんだって経緯を後で聞いたんだけど。

T:そのときに「“Shangri-La”じゃなくていいの?」みたいな話をされたって言いましたよね。

砂原:ははは、自惚れ。

T:ハハハハ!

あれは何年前?

T:まだ3、4年前ですね。

砂原:ちなみにいまはおいくつなの?

T:僕は24です。

砂原:まだ若いもんね。

T:90年生まれです。

砂原:90年生まれ! そうかぁ……。

それは……って感じだよね(笑)。

砂原:いやでもまぁ、そんなもんなんだろうね。

24歳のときって何してた?

砂原:電気グルーヴですよ。24歳のころはアルバムでいうと『DRAGON』のときかな。

ちなみにWIREに出ていながら、いままで面識がなかったじゃない? トーフビーツのなかで電気グルーヴとか砂原さんはどういう存在だったんですか?

T:卓球さんには僕はまだ会ったことないんですよ。

砂原:会ってないんだ。いずれはどっかで会うと思うけどね。

T:WIREは僕、2回出させてもらったんですけど、どっちもあいさつできなくて。

砂原:まぁ、DJしてないときは遊んでるからね。あと、あの日はあいさつしたりいろいろあるんだよね。

T:あとNHKの『MJ』でご一緒したときも、『メロン牧場』で「楽屋挨拶にきたら殴る」っていうのをまだ読んでいなくて、あいさつに行っちゃって、マネージャーさんに「ダメだから」っていわれて(笑)。

砂原:ハハハハ!

T:後から考えて、「そうだ! 『メロン牧場』を読んでなかった!」って。あの日はすごい後悔したんですよ。「ほんと、すいません」って。

WIREに出てたっていっても、まだ10代だったし、早い時間の出演で、早い時間に帰らなきゃならなかったしね。

T:そうなんですよ。だから帰らされてたんですよね。

砂原:そうかぁ。90年代に生まれたってことは、本当にうちらの音楽を聴いていたときは、4歳とか5歳っていってもウソじゃないっていうことだもんね。僕らのアルバムで『KARATEKA』って作品があるんだけど、あれはパカって開けたところに赤ちゃんが出てくるじゃん? あの世代ってことだもんね(笑)。

T:そうです(笑)。

砂原:恐ろしいな(笑)。

T:いま25周年じゃないですか? だから(電気グルーヴは)僕より年上なんですよ。

ハハハハ!

砂原:そうだね。まぁ、でもそのくらい時間はたってるよ。だって人間って20年ちょっとでこんなんになっちゃうんだよ(笑)?

T:でもそのときは『DRAGON』だったわけじゃないですか? 僕はまだデビューして間もないですけど、『DRAGON』のときは砂原さんはすでに何枚か出しているじゃないですか?

砂原:でもまぁ、あのときといまじゃ音楽のあり方が違うもんね。もっとリリースすることが主体だったというか。

そこは今日のテーマですよ。

T:そんな時代に生まれたっていう話ですから。

いま思うと象徴的だったね。トーフビーツがWIREに出たときに、ちょうど僕が〈マルチネ・レコーズ〉周辺の子たちをWIREに連れて行って。

T:ありましたね。

まだみんな高校生や大学生でね。4、5人で行ったんだよ。そのときに、みんなが「トーフくんが出てるんで」って言ってて。トーフは神戸で、みんな東京の子どもたちだからね。ネットでは知り合っていても、そんなに会えるわけじゃなかっただろうし。で、僕はそこで初めてトーフに会うんだけど、みんなを引き連れて会場に入ろうとしたときに、ちょうどタサカくんが通りかかって、「なんか引率の先生みたいだね」って言われてね。

砂原&T:ハハハハ!

おじさんが子どもたちを連れているようにしか見えないよね(笑)。でも、そのときの子供たちがネット・レーベル世代として日本のサブ・カルチャーに大きな影響与える存在になるわけだから。その晩のWIREではそういうことも起きていたんだよ。

T:その頃は、全員まだクラブに行ったことがない歳ですから。まだ18にもなっていなかったし。

砂原:でも本当にはじめるのってそのくらいの歳だったよね? 僕もライブハウスとかに出だしたのって高1とかだよ。中学の3年くらいのときに早いやつは出てたから。それを知って、「これはヤバいな」って焦った記憶があるくらいで。

T:おー。

砂原:高1でライブハウスに出てなかったら、もうやる気がないやつみたいな感じだったよ。

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ドミューンで初めて見たとき、「コイツ面白いな」というのと「いい顔してんな」って思った(笑)。──砂原良徳
宇川さんが悪意たっぷりで俺の顔のアップとかを超抜きまくってていまだにけっこう言われるんですよ。「コイツの説明よりも顔が面白い」って。──トーフビーツ

昔、もう何年も前だけど、トマドくんにインタヴューをしたとき、何に影響を受けたのか聞いてみたら、最初はライムスターとかが好きだったみたいで。

T:そうだ! 俺、その話、超好きなんですよね。

だから最初は日本語ラップが好きで、その延長で電気グルーヴへ……っていう。

T:リップ・スライムの“ジョイント”って曲を聴いて、2曲くらい聴いたらもうジャングルへいっちゃったんですよ。それで、この音楽をもっと聴きたいってなって電気グルーヴのラジオを聴いて。それで、こんなことになってしまいました、って出てきたのが僕の友だちのレーベルなんですよ。だから、日本語ラップを2曲くらい聴いて、あとはテクノを聴きだしたっていうのが僕らのヘッドというか。

砂原:へぇー!

T:だから電気グルーヴは聴かなきゃいけないみんなの教科書に的なものなんですよ。

砂原:電気グルーヴが教科書ってどうかと思うけど(笑)。

ハハハハ!

T:そこで流れていた当時の音源とかをシェアして、シカゴ・ハウスをチェックしてとかそんな感じでした。

砂原:なるほどね。

世代的に情報源がTSUTAYAなんだよね。小学校、中学校のお小遣いがないときはとくにね。

T:TSUTAYAだけで聴ける絞られた有名なテクノだけを。

砂原:でも野田さんとかが出していたコンピレーションはけっこうあるもんね。

石野卓球とやっていた『テクノ専門学校』ね(笑)。

T:そうなんですよ。あと、ソウルとかも『フリー・ソウル』でしか聴けない。ボサノヴァもコンピでしか聴けない。そういう感じでTSUTAYAで頑張るみたいな。そうやって最初はスタートしましたね。

そこでいきなり電気グルーヴの影響がね。90年代にはあまりなかったじゃない? 2000年代も出てこなかったと思うしね。

砂原:あんまり出てこなかったもんね。だから、それくらいの時間が一応必要だったというか。影響力もないわけじゃないけど。まぁ、こんなものなのかな、くらいに思っていて。だいぶ遅れて影響が出てきているところっていうのはあるのかな。

T:どうなんですかね。そのサイクルは意識したことがないですけど。

砂原:たまにイベントとか行って、若い子とかとごはんを食べながら話しをしてて「昔は何を聴いていたの?」って聞くと、「電気グルーヴとか」って言うんですよ(笑)。「いや、まじめに話しをしてよ!」「いや、まじめですよ!」みたいになるのね。

T:まじめですよ(笑)。

砂原:「えー! そうなの!」ってなることはありましたね。あとは「小学生のときに聴いていました!」とか。「ウソつけ! そんなことねぇだろ!」って思って計算してみたら当たってるっていう(笑)。

T:ハハハハ!


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First Album Remixes

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まりんは、トーフビーツの名前を当然知っていたんだよね?

砂原:いつ知ったかは憶えてないけど、最初は「またこんな名前付けやがって」って思った(笑)。

T:えー! 名前なんすか!?

砂原:まずその印象で、自分にインプットされて。それでドミューンか何かに出てたのを見たのかなぁ……。なんかね、サンプルを細かく切り刻む説明をしていたような気がする。

T:やってました。

砂原:だよね? それってやっぱり、音楽の手法としてはメインにくるものではないじゃないですか? それを主食とするような説明をしてて、「コイツ面白いな」というのと「いい顔してんな」って思った(笑)。

一同:(爆笑)

T:その日すごく憶えてるのが、宇川(直宏)さんが悪意たっぷりで俺の顔のアップとかを超抜きまくってて。

砂原:ハハハハ!

T:いまだにけっこう言われるんですよ。「コイツの説明よりも顔が面白い」って。

砂原:実はそのとき、顔を見たてたら、瀧の若い頃とちょっとかぶって見えたんだよ。

一同:(爆笑)

砂原:それでたぶん、いい顔だって思っちゃったんだよ。その後、ツイッターとかフェイスブックみたいなものが浸透してくるとさ、どんなことをやっているかが自動的に流れてくるじゃん? 

T:はい。

砂原:それで曲を聴いてみたら、意外と普通の……

T:顔のわりにはちゃんとというか(笑)。

砂原:普通というか曲っぽい曲をちゃんと作っていて、「あ、こういうのも作れるんだ!」って思って。でもサンプルを切り刻むのはずっと主食なんだなって。強く認知されたのは、どこがポイントだったの?

T:メジャー・デビューの前にボンってなったのは、テイ・トウワさんと今田耕司さんが作った曲を弾き直して作った曲がインディーズ・ヒットになったんです。そこでアルバムを出して、そのままメジャー・デビューって感じだったんで。

“水星”だよね。

T:そうですね。

でも、その前の“しらきや”とか。

T:それがターニング・ポイントになっていると言うのは、野田さんだけですよ(笑)!

トーフビーツには電気グルーヴにとっての人生みたいな時期があったんですよ。

砂原:そうそう。最初はその印象だったんだよ。

T:某グループのブートレグとかを作ったり、リミックスのCD-Rをゴニョゴニョとかしてて、高校のときはそれでお小遣いを作っていました。

“しらきや”っていう曲は初期の電気グルーヴに似ているといえば似てるよ。言葉のコンセプト的には。

T:どうなんですかね。ハイ・ファイ・セットのループで2ちゃんのコピペを読み上げただけなんですけど。

砂原:わりと初期衝動をそのままパッキングするようなね。

ようするに、白木屋でバイトしている友だちとの会話みたいな感じで、「あの頃の俺は時給いくらだった」みたいな。アホみたいな会話のなかのディレイのかけ方とか。

砂原:でもさぁ、そういうのって面白いよね。ああいうのって、何だろうね。そういうのは、そういうときにしか作れないし。そんなくだらないこと大人になったらやらないから、やっとくべきだよ。記録しておくべきだね。

T:大事にとってあります。

砂原:あとからすごく面白くなると思うんだよね。

しかも、なんで俺がトーフビーツを知ったかっていうと、静岡のクラブで“しらきや”がかかってたんだよね。電気グルーヴっていまでこそ誰もが評価しているけど、初期の頃は、当時の若い世代が熱心に支持していた印象があって、その感じも似ているんじゃないかと思った。

砂原:へぇー!

若い大学生くらいの子たちのパーティに行ったらアンセムになってたんだよね。

T:青臭いヤツらだ(笑)。

砂原:それは随分いびつな状況だ(笑)。

T:いびつな流行り方をしていって、最終的には就職しようってなったときに、ワーナーさんが申し出をくれまして。まぁ、一応は体良くアーティストっぽく収まった感じなんですよ。

砂原:なるほどね。まぁ、でも、ミュージシャンも野球選手みたいなものでポジションがなかったらすぐに「いけ」って言われるけど、外で空いていたら「じゃあうちで」っていうのはあるよね。

まりんのマネージャー氏の前で言うのもあれだけど、本来であれば電気グルーヴを見いだしたソニーがね(笑)。

T:その話は実際に野田さんとしていたじゃないですか?

砂原:でもねぇ、そうじゃないところの方がいいかも。やっぱり過去にこういうことがあったってところに、当てはめちゃうきがしない? 

たしかにね。

砂原:だからそれが必ず正解だというわけじゃないからね。

まりんも昔、(YMOがいた)アルファ・レコードから出したいって思ったものなの?

砂原:思ったこともあったけど、ほんの一瞬だけかな。スタジオが見たかったからね。2回くらい見たけど。

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サンプルを切るのもそうなんですけど、切ると現実じゃない音を出したりできるのがよくて。ピッチを落とすのもそれに近いというか。──トーフビーツ
そういう意味でいうと、僕も昔、音楽を聴いていたときに、タンテで自分が好きなところにピッチを合わせて聴いて「コレは落とした方がいいんだよ」とか、「45回転でもいける」とかね。──砂原良徳

それでまりんはトーフビーツの、顔やサンプリング以外では、他にどんなところが気になってたの?

砂原:その、ネット・レーベルと言っていいのか、電気グルーヴを子どものころに聴いていた世代と言っていいのかわからないけど、なんかそういう地位みたいなものがうようよあって。そのなかのわりと目立っているひとつなんだなって認知はしてたね。やっぱり気にしてみてたんじゃないかな。やっぱり記事とかあるとクリックして読んだりとかしていたと思うし。興味がなかったらクリックすらしないからね。


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音は今回のリミックスより前も聴いてたの?

砂原:ネットにあがってるのとかは聴いてたよ。

T:マジっすか! ヤバい。

砂原:だから、最初の初期衝動っぽいやつとかも聴いたことがあるし。あと、わりと普通っぽい曲を聴いたときに、こういうのも作れるんだって思ったかな。

T:それはありがたいです。

砂原:それでなんか、化ける兆候が見えてきたなってそのときは思った。それでアルバムが出たっていうから、聴いたんだけど、「あっ、普通に作るんだな」って思ったかな。ただ、普通なんだけど、サンプルを切り刻むのがね。

T:本当はそれをやりたいけど、メジャーにいくと権利のクリアランスとかもあるので。

砂原:でもそういうのを取り入れるバランス感というか、それはよくできてるなって。電気とかだとさ、そうじゃなくて初期騒動をそのまま7インチで出そうとかってなっちゃうこともあったけど、それをひとりでうまくまとめてる気はしますね。

T:電気グルーヴを見てて思うのが、僕はひとりなんで、それができないっていうのか、それがずっと俺の悩みというか。このひとといたら、俺を開放できるとか。あと、このひとがふざけてくれるから、俺はまじめにやろうとか、そういうのもないので。

砂原:ソロはねぇ、いいところもあるけど、バンドっていいよ(笑)。

ハハハハ! それは何周目かして言える意見だよね。

砂原:バンドってホントいいよ。楽しいしね。

T:いいな!って思いながら見てます。

砂原:僕自身音楽を聴いてきてさ、ソロで好きなひとがいなかったわけじゃないけど、やっぱり最初に好きになるのはバンドだよね。僕の場合は。クラフトワークだって、最初はラルフ・ヒュッターを好きになったわけじゃないし。

たしかに。

砂原:4人が並んでああやっている感じがよかったわけで。YMOやディーヴォやトーキング・ヘッズとかもそうだけど。あのへんはバンドとしてかっこ良かったというか。

そうだよね。そのバンドっていう単位も、現代ではカジュアルではなくなっているよね。この10年で、いろいろなものが変わったからね。たとえば、トーフビーツの『First Album』を聴いてひとつ思ったことがあって。アルバムのなかで、テーマとして「音楽」って言葉をくり返し使うじゃない? まりんがリミックスした曲も“ドント・ストップ・ザ・ミュージック”だけどさ、「音楽を止めないで」っていうのはクリシェ的なところもあるんだけど、トーフビーツが「音楽を」とかって言うとさ……アルバムのはじまりも「音楽サイコー」っていう言葉でしょ。で、「音楽で~」って歌がはじまって、なんか、大袈裟に言うと、「音楽」っていうものはいまどうなっているのか?っていうか。不自然なほど「音楽」という言葉が出てくるんだよ。

T:悲壮感が漂っていることが多いですからね。

「音楽」に、複層的な感情が込められている気がするの。それは夢であり、もはやたんなる消費物で、もはや過去の文化かもしれなとか……それは、トーフがインターネット時代に打ち込みの音楽をやっているということが、大きいと思うんだよね。初期の電気グルーヴがライヴハウスでやっていた時代とはぜんぜん別の世界でしょ。

砂原:うんうん。

だから、トーフビーツのアルバムを聴いていると、なんか問題提起を聞いているような気持ちになるんだよ。

T:みなさん打ち込みだけど、スタジオとかでやって、マスタリングへいって、トラックダウンもひとがやってとか、当たり前ですけど、結局僕は90%くらいが家ですもん。

あと、トーフビーツはわざわざ「僕はメジャー・デビューしました」ってすごく主張するんだけど、90年代に同じことを言ったとしても全然意味が違うというか。

砂原:うん。全然違うよね。

インターネット時代には、ヴェイパーウェイヴだとかチルウェイヴだとか、シーパンクだとかって、ある種のアマチュアリズムを面白がる文化空間があって。そこは、機会のチャンスの増えた分、音楽の価値が相対化している場所でもあるんだよね。だから、トーフの表現には、そのアンビヴァレンスがすごく出ている。

T:アンビヴァレンスというか、僕は単純に昔が羨ましいって一点張りなんで。

ハハハハ。でも『First Album』の前半なんかは、サンプリングをするにしてもスクリューしたりね、それは現代のネット音楽や若い世代が好んで使っている手法なんだよね。そういうディテールは、明らかに現代的なんだけどね。

砂原:あのピッチをすごく落とすのはなんなの? 西海岸のあれなの?

アメリカのテキサスにDJスクリューってやつがいてね。

T:「ピッチを下げたほうがよく歌詞が聴こえるじゃないか」って名言を残しているひとなんですけど。

砂原:なんか僕そういうのを探してたな。エイティーズのもののピッチをガツンと落としたものばっかりあって。そこに俺の曲のネタも入ってて。それで俺の曲とか聴いてんだって思って。

あー、まさにそのノリ。さっき言ったヴェイパーウェイヴとかって。

T:日本語は一番スクリューにいいっていう話しがあって。中高域が出てるから、下げるとちょうどよくなるっていう。

砂原:なるほどね。

T:僕は意味もなくピッチを下げるのが超好きなんです。普通に自分で聴くように、ピッチを70パーセントくらいにしたボニー・ピンクの曲とかがiPhoneに入っているんですよ。そういうのをやりたいみたいな。

砂原:あのピッチを落としたのを聴いたときに、意味はわからないけどすごくいいと思って。

T:DTMをやっていて一番いいのは、現実にはできない音が作れるってところが好きなんで。

砂原:例えばどういう音?

T:サンプルを切るのもそうなんですけど、切ると現実じゃない音を出したりできるのがよくて。ピッチを落とすのもそれに近いというか。

砂原:そういう意味でいうと、僕も昔、音楽を聴いていたときに、タンテで自分が好きなところにピッチを合わせて聴いて「コレは落とした方がいいんだよ」とか、「45回転でもいける」とかね。

T:『音楽図鑑』の“チベタン・ダンス”とかみんなが45でかけているのを見て、俺はあの曲はずっとあの速さだと思っていたんですよ(笑)。家で『音楽図鑑』を聴いてみたら、全然違うじゃんって。

ここ5年くらい、ずっとスクリューは流行りなんだよね。

砂原:あれ流行りなんだね。

アンダーグラウンド・シーンの流行りだよね。だから、トーフビーツは、ポップスを意識しているけど、アンダーグラウンドの要素もちゃんと入っている。そこも電気グルーヴっぽいんだけど、ただし現代では、そういうトレンドが生まれる場所はインターネットで、しかもそこでは音楽がタダでもある。

砂原:そうなんだよね。

だからトーフは、敢えてメジャーにいったってことを強調しなきゃいけない。

T:そうそう。いまはこれで生計を立ててるぞっていう。

そうすると、「音楽を止めないで」っていう彼の言葉も意味深に思えてくるんだよね。

砂原:「音楽を止めないで」は、音楽をやるひとの普遍的なテーマというか、それこそクラフトワークですら「ミュージック・ノン・ストップ」って言っているくらいだから(笑)。でもいまそう言うってことはそういう意味があるってことなんだね。

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俺がいま高校生だったらCDとか絶対に買わないと思うよ。──砂原良徳
データもクレジットカードがないから買えないしっていう話なんですよね。そうなるともう八方塞がりで。──トーフビーツ

インターネットはいろんなものを破壊しちゃったから。


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First Album Remixes

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砂原:そういうことができていたのって僕らくらいまでだよね。僕より下の世代とかだと、ACOとかスーパーカーのナカコーとかさ、あのへんの世代って多いじゃん? あの世代になってくると、それで生活できていたひとと、そうじゃないひとが分かれてきている感じがするんだよね。そのくらいからそうなってきていて、現代では、ほとんど難しいっていうことだよね。

そういう意味ではトーフビーツは、シーンというか現在に対して問いかけをしている存在でもあるんだよね。

T:あと、あんまり言いたくはないんですけど、「こうこうこうだから買ってくれ」って言うって感じですけどね。

砂原:難しいよね。昔だったら普通にCDっていう形しか方法がなかったから、お金を出していたんだけど。

T:いまは形がどうこうっていうよりも、あんまりみんな聴いてもないって気もしますし。

砂原:シーンとか音楽の内容とかよりも、システムの話になっちゃうけど、昔だったらCDやレコードの棚とかプレイヤーを買ってさ、そういうことをやらなきゃいけなかったじゃない? 音楽を聴くためのシステムとして、棚からプレイヤーから全部あったってことなんだけど、いまそれをきちんと代用できるものがないんだよね。

T:たしかに。

砂原:たとえば、iTuneで買っても歌詞カードはどこで見るんだよっていう。

T:クレジットも見れないし。

砂原:そうそう。そういうところがパーフェクトにできるシステムが存在していないわけ。お金を稼ぐことだけがその唯一の道じゃないと思うけど、世界中の音楽ビジネスを守っていきたいってひとがいたら、ある程度は合意して統合したシステムを作らないといけないと、守れないような気がしているんだよね。
 だから、「いまハイレゾって言っとけば、とりあえずは稼げるか」みたいな雑なビジネスをしようとしているひとはいっぱいいるでしょう?

ハハハハ。

砂原:そうじゃないひともいるけども、せっかくハイレゾにするんだったら、もうちょっと音楽が周りのことも巻き込んでカルチャーを作ってきたことを認識して、いままでできてきたことを当たり前のようにできるようにしなきゃいけないんじゃない? なんでそうしないのかなって思うんだけど。

T:それはホントにマジですよね。

砂原:音だけ良くなったらいいと思う?

T:僕、ハイレゾはあんまり信仰していないです。

砂原:まぁ、音が良いのはいいんだけどね。

T:先日、小室哲哉さんと対談させて頂いたんですけど、作っていたときの音質で聴ければ大丈夫だよっていう。

砂原:それはそうなんだけど、歌詞カードもクレジットもないし。ヴィジュアル的に音楽を聴くためのきっかけみたいなものを与えてくれないとうかね。

T:ハイレゾの機械はデカいし、液晶画面は小さいから、iPhoneよりもテンションが下がるんじゃねえかって思いますよね。

砂原:それでなんでiPodクラシックがバカ売れしてくるかっていうと、入れる曲そのものがなかったりとか、電話とプレイヤーが一緒になっていると、電話がかかってくると音楽を止めなきゃいけないからっていうのもあるんじゃないかな。「音楽を止めないで」って言っているのにさ(笑)。

T:そうそう。それはありますね。

砂原:あるでしょう? だから音楽プレイヤーは独立する必要性があると僕は思うんだよね。

友人にハイレゾでまた音楽に夢中になっている男がいて、それなりに魅力はあるんじゃないの。

砂原:ハイレゾ自体はそうなんだけど、なんでそこで止まるんだってね。

T:結局はヘッドフォンを売るためとか、そういうところに着地しているような気がしてて。

砂原:カルチャーを守ろうとか育てるっていう気があまりなくて、「とりあえずお金になるものはなんだ?」ってところしか考えていない感じがしちゃう。音が良いことだけで満足できるひともいるとは思うんだけどね。

T:自分のインタヴューでも言うんですけど、「最近は音楽そのものがカッコいいと思われていないんじゃないか?」説というものがあって。最近、マネージャーと〈トリロジー・テープス〉の話しをしていて、あれを聴いてカッコいいって話せるひとが国内に数百人くらいしかいない。「これをどうすればいいんだ!」っていう話になっても、「どうすることもできないよね」ってなるんです。そもそも「CDを出しました、買ってください」ってところを、昔に比べたら聴いているひとの10分の1くらいしか音楽をカッコいいと思っていないんじゃないかなって。

砂原:テレビを見ているとさ、これから音楽が流行りますってなってCDプレイヤーが出てきて、芸人が「えっ! いまどき!?」って言うシーンを何回も見てるよ。だから一般的な考えだと、CD買ったり、CDプレイヤーを持っていることって「いまどきそんなことあんの?」みたいなことなんだよ。

T:電車で隣のひととかを見ていても、携帯でYouTubeを開いて曲を聴いてる、みたいな。

それはホントに多いよね。ほとんどスマホでYouTubeで音楽聴いているよね。

T:それが悪いこととは言えないんですけど。でも昔みたいに、ウォークマンでカセットのミックスを聴いてる俺ってもうないわけで。それはどうにかならないのかってよく思うんですけどね。

砂原:YouTubeが潰れるだけで、状況は随分と変わると思うけどね。

T:YouTubeが潰れても状況は変わらないんじゃないですか?

砂原:いや、変わってくると思うね。YouTubeに情報が一極集中で蓄えられているのが僕は問題だとおもうんだよね。だから、それが分散していけば違ってくるんじゃないかな。投稿系はここで、聴く用の音楽はここ、みたいにね。でも、YouTubeがどういうものかよくわからないからね。日本のものでもないし。

トーフビーツの場合は、そこでネガティヴなことも言っているけど……

T:恩恵も超受けている世代でもあるんですよね。

砂原:もしYouTubeに違法アップロードがなくなったとしても、プロモーション的なことはそこでやるわけじゃん? そういう合法のものもあるわけで、それはこっちが認証するかしないかの話だから、それはそれでいいと思う。でも買ったCDを違法に拡散する権利を俺は獲得したと思っているひとがいるけども。

T:そのおかげで、僕たちが中高時代の音楽を聴けた側面も無視はできないというか。

砂原:それを言ったら、レコード時代からカセットのコピーとかはあったし。レンタル・レコード屋で堂々とカセットが売られていたりとか。そういうことは昔からある程度あったからね。みんながそうなったっていうのが問題なんだよね。

T:結局、それが普通になっちゃって、たまに大学生に会うんですけど、CDを買ったことがないっていうレベルのひともいるんですよ。CDドライヴがついていないパソコンもありますからね。

砂原:俺がいま高校生だったらCDとか絶対に買わないと思うよ。

T:でも、データも(高校生にとっては)クレジットカードがないから買えないしっていう話なんですよね。そうなるともう八方塞がりで。

砂原:なるほどね。カードがなきゃ買えないか。

T:母校の高校生に話を聞いたら、みんなPCでDJをはじめているんですよ。オートでピッチを合わせてくれるやるです。「曲はどうしてるの?」って聞くと「サウンドクラウドで落としてます」みたいな。どうしよう?ですよね(笑)。何もかける言葉がない、みたいな。

トーフビーツはインターネットの恩恵を授かりながら、アナログ盤も必ず出すじゃない? ホント引き裂かれているっていうか。

T:それはアナログを自分が買うからなんですけどね。

トーフのアナログ盤って売れているんだよね。CDもちゃんと売ってるでしょう。

T:でも、絶対的な量でいうと、1万って大学のひと学年より少ないわけですから。

まぁ、いまの時代を考えると、それだけでもね。

T:普通に考えて、1万売れたら僕らも「おー!」ってテンションが上がるんですけど、俺の母校のひとたち全員にCDが売れたらオリコンでデイリー1位だって思う虚無感というか。幕張メッセでフェスをやってて、ここにいるひとたち全員がCDを買ったらオリコンで絶対に1位って思う、あの感じが……。

砂原:いや、そう考えると1万なんて規模はすごく小さいよ。業界はそれに馴れちゃって、「1万、うぉー! やったー!」って感じかもしれないけど、冷静にみたら全然そうじゃないからね。

T:フェスもいいんですけど、「CDは買わなくて4千円のTシャツを買って帰るって、なんなんだそれ!?」って。

砂原:ハハハハ。

T:この状況はほんとにどうしよう?って思います。自分がそう思ってても、そうじゃないひとが大半だとしたら、俺にはこれはどうすることもできんと。でも「どうにかなるんやったら、一応ここにおったらおもろいかな」みたいな。この状況がどうなるか見てみたいなと。

砂原:昔は音楽を楽しもうと思ったら受け手に回ろうと思うことが多かったんだけど……

T:いまはみんなやり出すんですよね。

砂原:そう。やるってこと自体が音楽を楽しむ形に変わってきている。だから、電子楽器とかはそれなりに売れていると思うんだよね。

T:だから高校生のDJがめっちゃ増えているんですよ。

砂原:パソコンに何かをくっつける形で何かとりあえずはできるじゃない? そう考えると、受け手になるよりも送り手になって楽しもうってひとが多くて。たとえば、20人、30人のサークルみたいなものが星のように日本中にあってさ、定期的にイベントをやったりして。そこから爆発的に広がっていくことは稀だと思うけど、そういうものが点在していて音楽自体の勢いは、そういうところに担保されていると僕は思うんだよね。

T:楽器メーカーの調子がいいみたいな話ですよね?

砂原:だから消費していくという形だけじゃくて、消費しながらも送り手に回るっていうそういう状況に変わってきている感じがするかなって。

T:でも、純粋に音楽ファンとしてインストラクターと生徒だけみたいになるのって気持ち悪いなって気もするんですよね。

砂原:それはわかるね。

T:いま、DJスクールってむちゃくちゃあるんですよね。道玄坂にも大きいのができて。

砂原:学校を批判するわけじゃないけど、DJスクールって何を教えてくれるの?

T:知らないですよ、そんなの(笑)。言い方が悪いですけど、DJなんて30分あれば仕組みなんて全部わかるんですから。あとはそれをどうするかって話じゃないですか? ギターとかと全然違いますよ。

砂原:それこそ寺とかに3日くらい入って、最初の30分だけDJのインストラクションをしてあとは座禅でも組んで叩かれたりした方が、よっぽどいいDJができそうだよね(笑)。

T:座学みたいな話ですからね。

砂原:でさぁ、いろんなひとがいるんだけれども、たまにそういう若い子と接して「何かやってみなよ!」って言っても何をやっていいのかわからない。でも、何をどうやるかっていうことはみんなわかっている。この状況は異常だなって僕は思うんだよね。

T:最近よく言うんですけど、DTMをやっているひとは多いと。ただ、面白くないひともいると。

砂原:面白くないひとのほうが多いよ。好みは増えたよね。

T:でも、その溝は何なんだって話をみんなでしてたんです。たとえば素人とひとが、プロの描いた丸と素人が描いた丸を見分けられんのか、みたいな話で。僕らもDTMで作っている。それで若い子も作っていると。その間の違いを売上っていう意味でもそこまでちゃんと説明できていないし。

砂原:それはでも、説明できるものであったらつまらないと思うね。

T:でもそれで結局、「打ち込みってあんまりうまくないひとが多いんだ」ってイメージがついていって、「打ち込みとかダサくね?」みたいになったら大丈夫かよって思います。いまって音楽のほとんどが打ち込みですからね。いまのアイドルとかもそうですけど、よくわからないアイドルがいっぱい出てきて、良いアイドルもいるけど、「アイドルってつまんなくね?」ってあるけど、打ち込みがそうならないのかっていう。

砂原:わかる。たまにYouTubeとかに自分で作りましたってやつが上がってて、ヒドいのがあるときはあるよね。

T:あとはそれっぽいだけとか。上手いけど毒がないというか。

砂原:要するに手法だけを知っていてコアがないというか。

T:自分でお金を使って音楽を聴いていない、つまりギャンブルをして対価を得ていないから、そりゃそうだろって気もするんですよね。痛い目をみないと覚えないじゃないですか? だからネットで流行っぽいものを聴いて、それを作る方法を自分で調べて、それっぽいモノを作って俺に送ってくれたりするんですけけど「うーん」って思うんです。だけど、サークルでそうやってみんなで楽しいってなったら……。

砂原:わかるわかる。だから、それのことも言ってるんだよね。

T:だから自分が音楽をやるんだったら、説明をちゃんとしなきゃダメだ、みたいな。だからアナログを切ることもしないといけないわけです。それでも、わかってくれるひとはちょっとだろうって気持ちはあるというか。

砂原:若い子の方がそういう危機感はあるのかもね。

T:同世代に対しては余計ありますね。「コイツら、何も考えてないんだな」というか。

砂原:ちょっと、ソニーの会社にきてその話をみんなにこれからしてあげようよ。

ハハハハ。

T:そういうことを言ってたら、ソニーから3年くらい前にパーンってされて(笑)。「iTuneやりましょうよ!」、パーンッみたいな。

砂原:それでやってんじゃん、みたいなね。

T:あとあとね。あのときはスゲえ笑いましたよ。だからそのときはアグリゲーターと個人で契約して、僕はiTunesでシングルを出しました。そういう感じでやってましたね。

砂原:そういえば、ミュージック・アンリミテッドがなくなったんだよね? スポティファイに変わるんだっけ。あれは合併なの? 名前は消えるんだよね? それって吸収されたってことじゃないの(笑)?

T:まぁ、スポティファイの方がブランドは強いですよね。

砂原:データとして、いままでアナログやCDでできていたことがある程度は仮想現実として確立すれば、音楽産業にお金が入ってきて自分たちのやりたいことができると僕は思うんだよね。世界中のいろんな事情が関係あるからさ、どっちにいくかはわからないけど。最近、アナログが爆発的に売れてって言うひとがいるけど、あれは勘違いだから。

T:「爆発的」ではないですよね。

砂原:それこそスカイマークの株とかでもいいんだけどさ(笑)。

T:ハハハハ!

砂原:株を持ちまくったらちょっと上がるから。どんなもので落ちるときは大体落ちて、またちょっと上がるって感じだよね。だから、そのちょっと上がっているところを指して「去年の20倍」っていうのは、去年がすごく落ちていただけじゃんっていう。

でも、実際に工場にプレスを頼むと予約がいっぱいなんだよ。

T:まぁ、それは工場が減ったというのもありますからね。

UKとUSは事情が全然違っていて、ヨーロッパはどっちかっていうと昔のリイシュー版をアナログ180グラムで出すっていうのがメインなんだけど、USはトーフビーツじゃないけど、ネットの洗礼を世界でいち早く浴びている国なんだよね。最初にタワーレコードがなくなって、作品では稼げないかもという瀬戸際でやっている国だから、インディ・シーンにとってのアナログ盤、カセットテープは、ちょっと切実な問題かもね。

T:USとかってインディはフィジカルでちょろっと100、100くらいで出して、あとはデータで売ってツアーで回るって感じですよね。

砂原:「100、100」っていうのは100枚ずつ出すってこと?

T:そうですね。カセット100本、7インチ100枚とか作って。

砂原:100枚じゃねぇ……。

ちょっと話題になっている人でも、まあ、500枚限定から、いっても1000枚とかね。とにかく、音楽を取り巻くシーンは、こうやって変化しているわけですよ。

砂原:でも起こっていることは大体わかっているというか。気にはしていることだけどね。もし自分にたくさんのお金と決定権があったら、統一規格を作りたいなと。そうしたほうが、一番音楽って変わるんじゃないかなって僕は思うんだよね。

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すごいモノを作っているやつに「何を聴いてきたの?」って聞いて「いや、何も聴いてない」って答えられるのが一番恐いていうか、「うわぁ、お前すげえ!」って。──砂原良徳
でも、インターネットをやっていてわかったのは、何かしらをやっていたやつからじゃないと、結局は何も出てこないってことなんですよ。──トーフビーツ


tofubeats
First Album Remixes

WARNER MUSIC JAPAN INC.

J-PopTechnoHouseEDMExperimental

Amazon iTunes

PC一台で音楽が作れて、発表の場もあって、それは、民主主義的には良いとするじゃない? もうひとつ問題提起すると、インターネット時代の作り手の多くが、歴史から切り離されているってことだよね。まりんやトーフビーツにはバックボーンがあるけど、歴史なんてそんな重たいモノ、必要ないじゃんっていう考え方もあるし……

砂原:俺はそのなかからとんでもないものが出てくる可能性ってかなり高いと思っているけど。

それはたしかにあるんだよ。

砂原:それが一番恐ろしいというか、すごいところっていうか。

さっき言ったペーパーウェイヴやシーパンクみたいなものって、ひょっとしたら彼らにはある程度の知識はあるんだろうけど。

T:彼らはどっちかって言うと、歴史参照派ですよ。

砂原:すごいモノを作っているやつに「何を聴いてきたの?」って聞いて「いや、何も聴いてない」って答えられるのが一番恐いていうか、「うわぁ、お前すげえ!」って。

T:でも、インターネットをやっていてわかったのは、何かしらをやっていたやつからじゃないと、結局は何も出てこないってことなんですよ。

砂原:なるほどね。

T:これが逆に言うとよくわかるというのがあって。今回のリミックスにまりんさんを呼んで、僕の友だちもたくさん入れたのは、言い方は悪いですけど、僕の友だちはプロの仕事を全然見たことがないから、自分と同じレベルの素材をもらってどうなるかっていうのを、見てほしかったっていうのもあるんですよね。

あー、そこには熟練や経験も必要だと。

T:自分がメジャーにいって、マスタリングをひとにやってもらったりとか、そういうことの機会さえ普通のひとには与えられていないわけですよ。今回のまりんさんの納品のされ方とかも、「ちゃんとこのビット・レートで長さはこのくらいで納品してくださっていますよ」とか、「原曲のパラデータをちゃんと歌以外のところも使っていますよ」とか。そういうのって勉強というよりも経験と自分が習得した技術の上にしか絶対に築けないんですよ。突然の天才も出てくるんですけど、そいつも見ず知らずにうちにやっているから、意識して勉強しないで出てくるって話で。

砂原:そうだね。

T:その手の知り合いが長野にひとりいるんですけど、結局は見ず知らずのうちに勉強していたってことなんですよ。してないって思っていただけで。昔みたいに、勉強のためにスタジオに入るような端から見て明らかに歴史を勉強したっていうのがないだけで、逆に家にいながらもトップクラスの勉強ができる時代にはなってきているんですよね。

砂原:それはそれでいいよね。

T:だから、僕らも早い段階でDTMをはじめられたと思うんですけど。

砂原:昔ははじめるとなったら一大決心というか。出家に近い感じだったからね(笑)。

T:何十万とか、何百万の世界ですもんね。DTMがギターみたいになればいいって思ったりもするんですよね。

砂原:昔は僕がテクノをやろうと思ったら、ドラムマシンを買って、シーケンサーを買って、シンセサイザーを買って、MTRを買ってってさ、一通りやろうと思ったら最低でも5、60万はかかっちゃうわけ。でもギターのやつは5万円で済むわけ(笑)。ギターはスタジオに抱えて来れるじゃん? 俺なんか父ちゃんにお願いして、車で運んでもらって機材を一緒にセッティングしてってすげえ大変だったんだよ(笑)。昔はホントに大変だったけど、いまは逆に一番楽になっちゃっているもんな。

T:そうですね。

砂原:USBだけもってきましたとかさ。

T:ライヴとかでは、僕はラップトップだけなんですけど、家で作るときはどうしてもそれがいやで。ハードを使いたくて、使いたくて、みたいなのがすごくありました。僕の周りで一緒にやっているひとはけっこうお金をハードに使ってますね。逆にみんなパソコンだけの音だから、それだけでやっていても面白くないというか、ベッタリしちゃうから。ハードを買うくらいの努力はしなきゃ無理っていうか。

砂原:買えば全てを解決できるとは言わないけど、でもやっぱりそこにはそういう差がある程度は存在するよね。

T:そうそう。めちゃくちゃあればいいってわけでもないですけど、必要なものは必要だなと。

砂原:ただ僕は、それなりの時間を使って、すごく高い機材を使ったりとか、すごく高いスタジオを使ったりしてきたけど、たまにインターフェイスとパソコンだけですごい音が良いひととかいて、そのときは「うわぁ、恥ずかしいな、俺」って思うね(笑)。これを使えば間違いなく音がよくなるって機材はいまもあるんだけど、僕はそういうのを安易に採用しないようにしているんだよね。やっぱり、同じ土俵で戦いたいというのが自分のなかであって。にしてもお金は使わなきゃだめだけどね。

T:そんなことを言ったらプラグインだってそうじゃないですか? パソコンだけでやるひともプラグインに金を使っているかもしれないし。

砂原:昔はプラグインもすごく高かったんだよ。

T:って言いますよね。僕が高校のときと比べても、いまは当時の半分以下というかね。

砂原:いや、4分の1くらいじゃない?

T:僕は高校生のときにアカデミック版のエイブルトンを買ったんだけど、それでも8万円とかして、「学生じゃ買えねえよ!」ってなったのを憶えてますもん。

砂原:プラグインを買うにしても、WAVESに何十万と使ってたよ。

T:WAVESは良いやつだといまでも40万くらいはしますよ。でも年に1回くらいは安くなったりするっていう。あれ、すげえ腹立つんですよね(笑)。

砂原:腹立つよね(笑)。でも、昔は売れたらお金が入るからさ、たとえば、ファッション、映像、文学の世界のひとたちが音楽の世界に入ってくるんだよね。だから違うジャンルの融合みたいなものが盛んにあったような気がするんだけど。そういうのが一時よりは減っている感じがするね。

T:てか、いまは全員がお金がないっていう。ファッションも映像もデザインもないし。

 

※以下、続編&ele-king vol.16(3月30日発売)に続く……。

 昨年末、青山ブックセンター本店さんにスピーカーと大量の7インチを持ち込んで行われたあのイヴェントを覚えていますか? 止められるまで止まらない、保坂和志さん×湯浅学さんによる音楽とトークの会〈音楽談義 Music Conversations〉が、花にさきがけふたたび催されます! 今度の会場は下北沢のB&Bさん。どうぞ界隈の散策がてらにご観覧ください。
前から後ろから、斜めに読んでも楽しい『音楽談義』は、ライヴ版でもやっぱり楽しい!

■『音楽談義 Music Conversations』(ele-king books)刊行記念
保坂和志×湯浅学 続・音楽談義~サン・ラーかディランかそのほか

 それぞれ小説家と音楽評論家として活躍する同学年のふたりが、おもに70~80年代のロック、ポップス、歌謡曲までを語り明かす、紙『ele-king』の同名人気連載が『音楽談義 Music Conversations』として単行本化! 音楽論にして文学論であるばかりか、時代論で人生論。他の記事とは圧倒的に流れる時間の異なる本対談は、このスピードでしか拾えない宝物のような言葉と発見とにあふれています。
今回はその番外編となる出張トークイヴェント・その2! 雑誌のほうでは毎度紙幅の都合で泣く泣くカットする部分もありますが、イヴェントとこの新刊はそんなあたりもばっちり収録のディレクターズカット版。歌謡曲からサン・ラーにボブ・ディランまで、止められるまで止まりません!
ぜひ、ふたりにしか出せないグルーヴを堪能してください。

■著者紹介

保坂和志(ほさか・かずし)
1956年山梨県生まれ。90年『プレーンソング』でデビュー。93年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、95年『この人の閾(いき)』で芥川賞、97年『季節の記憶』で谷崎潤一郎賞、平林たい子文学賞を受賞。著書に『カンバセーション・ピース』『小説修業』(小島信夫との共著)『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』『小説、世界の奏でる音楽』『カフカ式練習帳』『考える練習』など。2013年『未明の闘争』で野間文芸賞受賞。近刊に『朝露通信』。

湯浅学(ゆあさ・まなぶ)
1957年神奈川県生まれ。著書に『音海』『音山』『人情山脈の逆襲』『嗚呼、名盤』『あなのかなたに』『音楽が降りてくる』『音楽を迎えにゆく』『アナログ・ミステリー・ツアー 世界のビートルズ1962-1966』『~1967-1970』『ボブ・ディラン ロックの精霊』(岩波新書)など。「幻の名盤解放同盟」常務。バンド「湯浅湾」リーダーとして『港』『砂潮』など。近刊に『ミュージック・マガジン』誌の連載をまとめた『てなもんやSUN RA伝 音盤でたどる土星から来たジャズ偉人の歩み』(ele-king books)がある。

出演:
保坂和志
湯浅学

時間:
2015年3月1日(日)

15:00~17:00 (14:30開場)

場所:
本屋B&B
世田谷区北沢2-12-4 第2マツヤビル2F

入場料:
1500yen + 1 drink order

詳細・お申込みはこちらから:
https://bookandbeer.com/blog/event/20150301_bt/


アイスランド・ミュージシャン・インタヴュー・シリーズ#2:
interview with Sindri Eldon(シンドリ・エルドン)

アイスランド・ミュージシャン・インタヴュー・シリーズ#3:
interview with Paul Fontaine(ポール・フォンティン)

アイスランド・ミュージシャン・インタヴュー・シリーズ#4:
interview with Leifur Bjornsson(レイファー・ビョーンソン)

 この2年、アイスランド・エアウエイブスというレイキャビックでおこなわれるフェスティヴァルで、アイスランドのインディペンデント・ミュージックの活き活きとしたシーンに感銘を受けた。フェスということもあって、都市自体が盛り上がっていたこともあるが、バンドのクオリティの高さ、年齢幅の広さ、国をあげてフェスをサポートする姿勢(飛行機に乗るとブローシャーが配られ、音楽プログラムには、エアウエイブスのチャンネルがある)などから、アイスランドという国にも興味が湧いた。
 初めてアイスランドに行ったときは、レイキャビック以外の郊外にも出かけたのでショックが倍だった。違う惑星かと思うくらい、厳しい自然の姿が目の前に広がる。これが日常なら、私たちは違った感覚も生まれるのではないかと思えるほど。

 ここに、アイスランド・シーンのキーパーソン3人のインタヴューを紹介する。3人とも、経済破綻に関係なく、アーティストはずっと貧乏だというが、バーに入るのに夜中の3時でも行列を作り、街で浮浪者を見たこともないし、治安も良い街では、その言葉の意味も、私たちの使っているそれとはちょっと違うのではないかと思えてしまう。
 街が小さくて、街を出て行っても、しばらくするとアイスランドに戻ってくる人が多いのもそのため?

 音楽、アートなどの文化に関しては、気候(寒くて外に出れない)、国民性(大酒呑みでフレンドリー)、アイスランドに対する批判的な意見はあるが、自分にはどうしようもない、ここに居るしかない、という一種の諦めが、創造性を掻き立て、クオリティが上げているのだろう。
 子供の頃から、文化に触れる機会が多々あることや(エアウエイヴスには親子連れに観客や18歳以下のバンドも多い)、アイスランドのイメージからは遠い、アフロ、レゲエ、ヒップホップ、ラップ・シーンまである多様性も、音楽シーンを独特にしている。それら音楽にアイスランド語が乗ると別物に聞こえる。
 平均的なアイスランド人はグローバリゼーションには関心がないようだが、シーンはとてもグローバリズムに感じる。

まず自己紹介をお願いします。

Sindri(シンドリ):僕は、あまり知られていないミュージシャンで、翻訳とソーシャル・メディアでお金を稼いでいます。

※Sindri Eldon
ミュージシャン(シンドリ・エルドン&ザ・ウェイズ)、ソーシャルメディア&翻訳家。アイスランド出身。
https://soundcloud.com/sindri-eldon

Paul Fontaine(ポール・フォンティン):僕はジャーナリスト/ライターのポール・フォンティンです。grapevine.isで僕の書いた記事が読めます。

※Paul Fontaine
ジャーナリスト、ライター。アメリカ、メリーランド州出身。
媒体grapevineで執筆。
Paulの記事はこちら: https://grapevine.is/author/paul-nikolov/

Leifur Bjornsson(レイファー・ビョンソン): 僕はレイファー・ビョンソンです。ロウ・ロアというバンドでキーボードやビート、サンプラーを担当しています。僕は、ロンドンで勉強をしていたアイスランド人の両親から生まれました。アイスランドに戻ってからは、西海岸の小さな街で育ち、怖いもの知らずの、とても自由な環境で育ちました。

※Leifur Bjornsson
アイスランドのバンドLow Roarのメンバー。アイスランド出身。
https://www.lowroarmusic.com

どのくらいアイスランド(レイキャビック)に住んでいますか。現地の生活について教えてください。

S:行ったり来たりしているけど、だいたいアイスランドに住んでいます。一番長くアイスランドから離れていたときで3、4年ぐらい。小さいときはロンドンに住んでいました。しかし、僕はアイスランドが大嫌いで、なんとか離れようとしています。頑固で頭が小さく、外国人嫌いで、貪欲な保守的な大バカ者と自己中心なスノッブが、不注意に共謀し、出来るだけ物を高く、視野を狭く、古い考えに持っていく、愚かで無意味な小さな国です。田舎は素敵ですが、それは人があまりりいないからです。

P:15年ぐらい前にアメリカからアイスランドに引っ越してきて、ここ8年はアイスランドの市民です。僕の人生のように、ここはとても快適です。

L:レイキャヴィックには高校に進学する為に引っ越し、それ以来ずっとここで暮らしています。レイキャヴィックは素敵な街ですが、小さいと感じる時が良くあります。幸運な事に、僕はバンドで、時々ここを離れる事が出来ますが、レイキャビックは、素晴らしい自然に囲まれているので、それもここに住む利点だと思います。

ポールはなぜイスランドに引っ越したのですか? アメリカからアイスランドに引っ越すのは簡単ですか?

P:僕は元々メリーランド州のバルチモア出身です(TVシリーズの「ザ・ワイア」を見たことあるならそこです)。アイスランドに引っ越したのは冒険心からです。1998年にヴァケーションで来て、国を旅行しているうちに何人かのアイスランド人に会い、同じ年の後半に、またこの新しい友だちに会いにきました。バルチモアに戻ってから、真剣にアイスランドに引っ越すことを考え始めました。何故なら……出来るときにやろうと決めたからです。もしうまくいかなかったら、戻ってきたら良いだけですし。結果うまくいったのです。ヨーロッパ以外の国から引っ越すとなるとアイスランドは難しいです。引っ越す前に、仕事と住むところが必要です(幸運にも僕には助けてくれる友だちがいました)。市民になりたいのなら、7年間は法に触れることができませんし、6ヶ月以上国を離れることは出来ません。ヨーロッパの人は、比較的簡単にアイスランドに引っ越せます。

バルチモアとアイスランド(レイキャビック)とではインディ・ミュージックシーンはどう違いますか。

P:面白い質問ですね。と言うのは、バルチモアとレイキャビックは同じようなインディ・ミュージックシーンがあると思うからです。お互いのショーに行き、サイドプロジェクトのためにメンバーを交換したり、バンドはお互いをサポートしています。ですが、アイスランドのミュージシャンは、バルチモアより世界に露出できる確率が高いと思います。

アメリカとアイスランドでは生活費などは違いますね。アイスランドは生活コストが高いですが、どの様に暮らしているでしょう。

P:アイスランドは世界で4番目に物価の高い国です。冗談じゃないです。しかも、右翼の政府は、食べ物の税を上げたばかりです。食べ物ですよ!

アイスランド語はとても難しい言語ですが、あなたはアイスランド語をはなしますか? もし話せないのであれば、そこに住んでいて疎外感など感じることはないのでしょうか。

P:僕はアイスランド語を話します。英語と同じ言語家族ですが、習得するのはかなり難しい言語です。僕は字幕のついたテレビをたくさん見て覚えましたが、この方法はオススメしません。僕もアウトサイダーの気持ちはわかります。まだ言葉を理解できない1年目は孤独でした。とにかく習えるだけ習って、移民の友だちも作り、結果たくさんのアイスランド人の友だちができました。

私は、2013/14年のアイスランド・エアウエイヴス時にレイキャヴィックに滞在し、ユニークなインディ音楽シーンと文化に魅せられました。アイスランドは、一度経済崩壊した国にも関わらず、少なくとも、同じように、経済的、将来の不安にさらされながら、活動している他の国のインディバンド達に比べて、とても元気で活発なエネルギーがあります。それはなぜでしょうか。

S:経済崩壊は、バンドの人たちに影響を与えませんでした。彼らは元々お金を持っていなかったし、崩壊しても、失うものがありませんでした。一般的に言って、この国はうまく渡っていて、ほとんどの人は借金のために働く賃金奴隷ですが、道で食べ物に困って倒れているわけではありません(いまの政府は、この10年の間にみんな貧困で死ぬように働きかけているけど)。なので、彼らは趣味でバンドをするための時間、お金、エネルギーがあります。ここの90%の音楽シーンはアマチュアが基本で、ミュージシャン、テクニシャン、ブッキング・エージェントも、本当の「仕事」を持ちながら、自分たちの音楽をサポートしています。ここにも、経済的、将来への不安はありますが、単純に、ミュージシャンでやっていける人はいないし、だから基本的に何も変わらないし、経済がどうであれ、僕たちは、やっぱり貧乏で必死にもがいているのです。

P:抜け目ない観察力ですね(笑)。たしかに、とくにレイキャヴィックは、長いあいだ、とても良い揺れ動くようなインディペンデント音楽シーンがあります。最近は、競合するようになりましたが、地元のバンドはお互いを助け合っていますし、違うバンドのメンバーたちが、同じ音楽シーンから出てきて、一貫性の感覚を加えます。正直に言って、インディペンデントミュージシャンは元々貧乏で、厳しい中で繁栄しプレイし続けるので、良くも悪くも、経済が音楽シーンに影響したとは思いません。

L:ここアイスランドは、たしかに生々しく、保存された才能に溢れています。音楽コミュニティはとても小さく孤立していますが、ほとんどのミュージシャンは、いくつかのバンドを掛け持ちし、リンクしています。アイスランドの音楽シーンの人びとは、音楽やアートを作ることだけに占領されず、ラジオやメディアなど、あらかじめ決められた基準にフィットしているような気がしますが、これが物事を本物で新鮮にしているのかもしれません。経済破綻のあるなしに関わらず、アートは発見されるのです。アイスランド通貨の低下など、良い面、悪い面はありますが、アイスランドは、いままでで最高に観光地として人気で、アイスランド文化やアートへの興味がどんどん上がりました。

レイキャヴィックに、マクドナルドやスターバックスがないのはなぜでしょうか?

S:マクドナルドやスターバックスが他の国で占めているニッチな部分を、ここでは他のチェーン店が占めています。マクドナルドの支店は、10年ほどありましたが、彼らは生き残れませんでした。なぜかはわかりませんが、アイスランドの人びとは、すでにドミノピザ、KFC、サブウェイなどを食べ過ぎていたので、マクドナルドがなくても困らなかったのではないでしょうか。スターバックスについては、アイスランドには、KaffitárとTe & Kaffiというふたつの地元のチェーン店があって、スターバックスと同じような機能を果たしているからだと思います。

P:はは、その通りです! 最後のマクドナルドがアイスランドを去ったのは2008年。マクドナルドの材料を輸入するにはコストがかかりすぎで、ちっぽけな値段でしかチャージできないからだと思います(マクドナルドには、彼らが生産した物しか使わないと言う、材料に厳しい規定があります)。それにマクドナルドは、ドミノピザなどの、他のチェーン店に比べ、アメリカンフードとして、そこまで人気がでなかったです。スターバックスに関しては、ここには、Te og Kaffi(tea and coffee) という同じようなチェーン店があって、すでにコーヒー市場を占領していて、さらには個人経営のコーヒーショップもあります。スターバックスのアイスコーヒーのボトルはスーパーマーケットで見かけますが、スターバックスがアイスランドで生き残れるチャンスは少ないと思います。小さな市場にたくさんの競争相手です。

 注:アイスランドで最後に出されたマクドナルドのチーズバーガー(2008年)が、6年たっても変わらないという記事がPaulも執筆する媒体に出ている。
https://grapevine.is/news/2015/01/26/last-mcdonalds-burger-sold-in-iceland-unchanged-after-6-years/

L:アイスランドにマクドナルドは昔ありましたが、スターバックスはないです。何故だかわかりませんが、大手の企業はこんな小さな市場、たった30万人の人口から、十分な利益が出ると思わなかったのでしょう。アイスランド人はクールなので、大企業はまわりにいらないという人もいますが、そうだとは思いません。アイスランドの郊外の生活を見たらわかると思いますが、何処でもあるような光景が広がっていて、全然クールだと思いません(笑)。

アイスランドの人びとは、反グローバリゼーションを意識しているのでしょうか? またアイスランドがEUに加盟しない理由はなんでしょうか?

S:アイスランドはEU加盟国ではありません。この問題はいまも続いていて、僕が覚えている限り、熱い討論になることもあります。いまの政府は、無能なハッカーと貪欲者、操られた田舎者によって成っていて、なかにはEUへの加入についての話し合いを辞めるように、任意に決める反社会者ギリギリの人もいます。なので、いまのところEUに加盟していませんが、いままで起こっていることを総体し考えると、それが良いのかもしれません。個人的にはどちらでも良いですし、正直に言って、僕の毎日の生活がからりと変わるとは思えないし、EU加入国になったら、魚が載っている馬鹿げたコインを使わなくてよいぐらいだと思います。
 反グローバリゼーションについてはわかりません。わかっているのは、グローバリゼーションがなければ、アイスランドは存在していないでしょう。我々はほとんどの物を輸入に頼っていますし、個人的に僕は、グローバリゼーションのプロです。でも君もわかっていると思いますが、僕にはアイスランド全体のことは話せません。

P:アイスランドから見て、グローバリゼーションとEUへの加盟は別の問題と考えています。平均的なアイスランド人は、彼らがグローバルな企業から買う製品は、発展途上国で低賃金で作られた物で、未開発で危険な時もあるとは、そんなに真剣に考えていません。
 EUについては、ほとんどのアイスランド人は加盟することに反対です。ただし、反対意見にも、問題について意見を混ぜています。いまの右翼の政府は加盟に反対していますが、反対の左翼は問題に対して国民投票を望んでいます。アイスランドがEUに加盟するのは、良くも悪くも、時間の問題だと思います。

L:グローバリゼーションはアイスランドではそんなに大きな問題ではないので、人びとはあまり気にしていませんが、EUは大きな問題です。EUに加盟しないのが、良いのか悪いのかわかりませんが、一般の人びとは良いと思っているのでしょう。アイスランドは、世界で10本の指に入る物価の高い国ですが、人びとはそんなにお金を稼ぎません。問題はアイスランドが他の国と天然資源を共有しないことかもしれませんが、僕にはわかりません。

ビョークのニューアルバムが発売されましたが、ビョークはアイスランドでも特別人気があるのでしょうか? レイキャヴィックで素晴らしいバンドをたくさん見た後では、ビョークもアイスランドではごく普通なのではと思いました。

S:君はだいたい正しいと思います。ビョークは、ここではそこまで人気ではありません。ヨーロッパで人気がでるまで、彼女やシュガーキューブのことを誰も凄いと思っていませんでしたが、ここでは良くある話なのです。実際同じことは、オロフ・アーナルズやオーラヴル・アルナルズ、アウスゲイル、オブ・モンスターズ・アンド・メンに起こっています。いまでも、ここでは彼らのことを聞いている人はあまりいません。彼らは、アイスランド以外で人気があるのです。ビョークは、ここ何年かでアイスランドの顔になってきましたが、いまでも平均的なアイスランド人はそんなに彼女を聞かないし、聞くのは他の場所と同じように、アーティなオルタナティブ・キッズのみだと思っています。

P:アイスランド人は、もちろんビョークが好きですが、他の国ほど彼女に対して大騒ぎはしません。彼らは、彼女を地元ではなく、グローバルシーンにいる、一人のアイスランド人としてみています。彼女を尊敬し賞賛していますが、地元で活躍するアーティストの方に注目しているのではないでしょうか。

L:アイスランドはビョークが誰かは知っていますが、知名度はそこまで大きくはありません。僕のまわりの人たちはビョークの作品を高く評価し、素晴らしいアーティストだと思っています。しかし地元のメディアや僕のまわり以外は、そこまでではありません。一般的なアイスランド人は、ビョークが世界的にインパクトあるアーティストだと思っていないのではないでしょうか。

シンドラはアイスランドが大嫌い、ということですが、どこに住んでみたいなど、希望はあるのでしょうか。

S:いま、シアトルに引っ越そうと思っています。僕の妻がシアトル出身で素敵な都市だし、快適に暮らせると思うのです。

アイスランドの音楽に共通する特徴は何だと思いますか? 自然主義的なところはひとつあると思うのですが。

P:難しいですね。アイスランドの音楽は、他の国の同様に多種多様です。世界的に知られているとは思いませんが、アイスランドのラップ・シーンもあります。一般的に言って、アイスランドのポップ音楽はインディ・テイストに、ソフトロック、アコースティック、フォーキーな感覚が備わったものが多いと思います。Of Monsters And Menなんかは良い例です。

L:自分のまわりの自然、話す言葉の響きなど、人は自分の置かれた環境に影響を受けるので、それがアートにも表れるのでしょう。ある場所の、全ての音楽に共通点を見つけるの、難しいです。恵まれたことに、たくさん種類のアイスランド音楽がありますから。

アイスランドで好きなバンドを教えて下さい。彼らはコミュニティとして存在するのか、より独立しているのでしょうか?

P:お恥ずかしいことに、そんなにたくさん「いま」のアイスランドの音楽を聴いていないのですが、僕がアイスランドのミュージシャンで好きなのは、100,000 Naglbitar、とくにアルバム『Vögguvísir fyrir skugguprins』、Emiliana Torriniのアルバム『The Fisherman's Wife』、Ragnheiður Gröndalのモノならなんでも。彼女の声は素晴らしいです。『Rokk í Reykjavík』のサウンドトラックや、Mammút、友だちのシンドリも、とても良い作品を作ります。

L:すでにレコードを出しているアーティストなら、Múm, Sin Fang, Sóleyなど。新しい物なら、Mr. Silla のニュー・アルバムは楽しみです。今日はいつも素晴らしいと思う、スロウブロウというアイスランドの古い音楽を聞いていました。新しい物、古い物、どちらも良い物がたくさんあります。

interview with NRQ - ele-king

 2014年12月29日午後8時過ぎ、インタヴューを終え、服部将典とともに宴もたけなわの階下に戻ると居間のソファの上でおくれてきた中尾勘二が牧野ジュニアともつれあっていた。嬌声をあげ激しく対等に遊んでいる。場のムードはだんだんによいよいで、敏腕ディレクターである〈Pヴァイン〉の安藤氏はほかに担当するバンドのライヴがあるので辞去され、取材を終えた吉田さんの頬はほのかに赤らみ、ホストの牧野氏はもてなしに忙しい。私はビールを2、3杯飲んだけれど酔うほどではない、というか取材なのでベロンベロンになるわけにいかない。ゆえに素面、シラフのMCなのであった。

 このインタヴューを読まれる前に、昨年初秋に出たエレキング別冊第1号をお持ちであれば、そのなかの中尾勘二と牧野琢磨の記事にお目どおし願いたい。コンポステラやストラーダでハナからジャンルにおいそれと括られなかった中尾勘二の多才、異才の一端をそこには記しており、本稿はそれを承けつつ、ひとまわり以上年の離れたバンドのなかで、打楽器および管楽器奏者あるいは作曲者として何を目論見、また初志というよりも音楽の本能というべきものを貫くことの楽しさと難しさについての彼の考えを補遺するものとなれば幸甚である。

 とまれ、ここで私がながながと書き連ねるのもヤボであろう。話のつづきにさっそくとりかかりたい。
 もっともっと遊んでほしそうな牧野くんの愛息に断って、二人は階段をあがり中尾勘二はこういった。
「あのひと(牧野ジュニア)は自分の意見を通したい、一度何かを思いついたら変えたくないんですよね。非常によくわかります。その発想も組み方まで私と似ている。思いつきなんですよ」


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その思いつきを完遂するんですよね。

中尾:思いつきでいってみようって感じなんですね。

外部から説得されて考えが変わることはありませんか?

中尾:まったくないです(笑)。

それは説得の仕方如何ではないですか?

中尾:それだけの力量あるひとがついぞ現れなかったということでしょうね。

いまに至るものもありませんか?

中尾:協調性に関しては、小学校の5、6年のときの先生が多少は軌道修正をしてくれました。4年生までの先生は完全に私にお手上げだったんですが、その先生にはその感じはありませんでした。お陰で若干協調性は芽ばえました。若干ですよ、若干。

先生たちの対応から大人を観察していたのかもしれないですね。

中尾:私のオヤジは教育者だったんですが、ああいうので先生が務まるのだろうかとつねづね思っていたんですよ。親子関係が悪かったわけではないですけどね。趣味は合うんです。山に連れていかれても山は嫌じゃないし、音楽も演歌とロックのレコード以外はたいがいあってそれが毎日のようにかかっていて、それはいいんです。だからちょっといびつでした。
 先生のアレは職業病なんですかね? 何かと絡んでくるんですよ。オヤジは家でも自習時間に回ってくる先生みたいな感じで、何か悪さをしているんじゃないかと監視するんですね。そのときの録音の記録が残っていますよ。

とにかく録音でした。ラジオが好きで。中波、短波ラジオを録音していました。

中尾さんが監視を録音されたということですか?

中尾:はい。オヤジが様子を見に来たところを録音したんです。いま聴いてもあれはゾッとします。足音が恐いんですよ。ドン、ドン、ドン、ドンとしだいに大きくなって、最初は小声ではじまるんです、九州弁で「何しよっとや?」って。それを4回繰り返すたびに声がだんだん大きくなり、最後は「何やってんだ!」と大声です。私はビビりながら「あっ、ちょっと録音を試している」というのに対して「ひとが喋っているのを録るんじゃない。このバカ野郎」みたいな返答をしているのが録音に残っています。恐怖政治のなかで私は録音に勤しんでいたんですね(笑)。

録音が世界との接点だったのかもしれないですね。

中尾:とにかく録音でした。ラジオが好きで。中波、短波ラジオを録音していました。昨日も聴き返したんですが、その頃に録ったものはいまもおもしろいですね。北朝鮮の70年代のアジ番組とかね。

朝鮮語だと何をいっているかわからないですよね。

中尾:日本人を洗脳するための日本語放送なのでわかるんです。私はそれでプロレタリアートとかブルジョアとか帝国主義ということばを憶えました(笑)。

北朝鮮からことばを輸入したんですね。

中尾:裏切り者集団とかね。当時のソ連のことなんですけど。フルシチョフとかブレジネフは裏切り者集団で、資本主義をとりいれているとかね(笑)。

でもそれはただの演説ですよね?

中尾:その喋り方が面白いと思ったんですよ。日本人はこんな喋り方はしないなと。NHKの喋り方ともちがうけれども、調子は日本語と似ているんですよ。当時は韓国の日本語放送も聴いていました。『玄界灘に立つ虹』とかね。それもテープが残っているんです。北朝鮮とは内容がだいぶちがいます。つまりスピーカーとか、マイクとか、電波を介していろんなことをやるということですね。録音をしてしまえば、そのなかに入っていけるような気がしたのかもしれないですね。

ご自分を音素に還元する感じなのでしょうか?

中尾:というよりラジオのマネがしたかったんでしょうね。そんなに高尚な考えではなかった。

テレビではなく、あくまでラジオなんですね。

中尾:ビデオが普及する前だったので映像をつくるのは現実的ではなかったし、テレビの画面のなかにはどうやっても入ることができなかった。ウハハハハハ。でもラジオはがんばればトランスミッターでFM音源を飛ばすことも当時はできたし、そこまでしなくてスピーカーから出ている音自体を、これは放送だと自分にいい聞かせれば、それは放送なんです。ただ再生して聴いているだけでも、これは放送だっていう設定の自分がそこに居れば、放送になりえるわけですよね。そこがテレビとはまったくちがいます。

中尾さんはインターネットのような現在のメディア環境に興味はありますか?

中尾:ないですね。

それは当時のメディアとまったくの別物ということでしょうか?

中尾:いや、延長線上にあると思いますよ。

じゃあなぜ興味をもたれないんですか?

中尾:自分のキャパを超えているんです。ネットを引くにはお金が要る。これはマジメにそうなんです。携帯を持たないのと同じで、経済的な理由ですよ。いまはだいぶ安いのがあるらしいですけどね。私は通信費は3000円までと決めています。

その上限はどこに由来するんですか?

中尾:NTTからくる請求書がだいたい2500円くらいから携帯のひとと長電話をしたときは3000円くらいだから。

なるほど(笑)。

中尾:それ以上は払いたくないですね。それに携帯ではファックスが受けられない。

携帯をもつ代わりに家の電話をやめなければならない?

中尾:経済的にはそうせざるを得ない。どっちを選ぶのかってなると、まだまだ家電いえでんとファックスでいけるだろうと。明日仕事があるかどうかわからない人生を歩んでいるので、とにかく、いまあるお金を大事に大事にしていかなきゃいけないわけです。

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私は18歳のときにはじめたビルメンテナンスを生業に収入を得て、その片手間に何かお誘いがあったら音楽の真似事をやっている、そういう設定になっているんです。


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しかし中尾さんはこれだけ長いこといろんなバンドで活躍されてきましたよね。

中尾:はっきりいってそれは関係ないですよ! プラマイで考えたらゼロかマイナス、いやはっきりとマイナスですね。ちゃんとした会社に入れるとは思いませんけど、それでもフルタイムで週6の仕事をすればもっと安定するはずなんです。演奏していたらそんなことできっこないじゃないですか? 音楽なんかやっているから貧乏なんですよ。こんなことに片足を突っ込んじゃったせいで──

片足ではないと思いますが。

中尾:いや、片足です! 私はビルメンテナンスの仕事をしているんですが、1年半前に定期で入っていた現場の仕事がほぼ7割くらいなくなったんです。これはもう家賃が払えないとなと、急遽借金をして引っ越しまして、部屋も広さを半分に、家賃をきりつめ、荷物を田舎に送り返して、要するに生活レベルをガクッと落とすことによって、ギリギリ生き延びることに成功したんです。でも定期的な収入は何も確約されていない。偶然この1年半はなんとかなっているだけで、来年以降のことはまったくわからないですね。そんなときネットなんてやっていられないですよ。ハハハハハ。

でも中尾さんの口ぶりには悲壮感をおぼえませんね。

中尾:額面どおりにこの状況を受けとめたら、私は本来3つくらいバイトをかけもちしなきゃいけないんです。それを「なんとかなるだろ!」と思うために現実をみないようにしているんです。そうすることによって、逆に何とかなっているともいえるわけですよね。あくせく昼も夜もバイトいれたりするべきなんでしょうけど、そういうのはいっさいしない。ないときはないときでいい、あるときに稼いでプールしておけばいいと思ったんです。でも逆にそのためには極端な節約ですね。通信費は3000円まで、外食は基本的にほとんどしない、酒もタバコもやらない、飲みに誘われても10回に1回しか行かないとかね(笑)。そうしている間もレコードを買ったりしなきゃいけないし。研究費ですからね!

名目は何でもいいと思いますが(笑)。

中尾:そのレコードも(税込み)108円のとかしか買わない。

逆にそうしてまで音楽はやらなければならない。

中尾:そんなことはないです。音楽がなければもう少し安定化が図れます。ちゃんと仕事をすればいいんですから。

それはまあそうですけど。

中尾:音楽でちゃんとお金を払ったひとなんてほとんどいないですよ。●●●とか●●●とかみんなもち逃げ、もち去り。

具体的な名称を出すのはやめてください(笑)。

中尾:いや、だって本当だもん! でもまぁ、私はミュージシャンじゃないっていう立場で自分はそう考えようと思っているんですよ。ミュージシャンだと考えたらこれはもう赤字で成り立っていないですよ。そんなもんでは食えない。私は18歳のときにはじめたビルメンテナンスを生業に収入を得て、その片手間に何かお誘いがあったら音楽の真似事をやっている、そういう設定になっているんです。
 大原裕くんには「中尾くんは音楽で食おうとか思わずに、仕事をしていてそれでやっているのは羨ましい」みたいなことはいわれましたよ。でもそれはミュージシャンでやろうとするから大変なことになっていくわけですよ(笑)。私はプロになりたいとか音楽で食いたいとか一度も思ったことはありません。でも小学生の頃の延長線上だと思えばべつに関係ないじゃないですか。自分で面白いと思ってやっていて、40何年にわたって研究がつづいていると思えば、別にそれはいいんじゃないか、ということですね。

“スロープ”ではバスドラとハイハットを足で踏みながらクラリネットを吹いています。これはコンポステラで鍛えられた技です。昔とったキネヅカでございますよ。

先ほど、片足を突っ込んでいるとおっしゃいましたが、片足だけでも抜け出せないこともありますよね。

中尾:いや、抜けだせますよ。

(笑)

中尾:前にもいいましたが、私は誘われるから外に出ているわけであって、自主的な活動はいっさいしていない。篠田(昌已)くんが私を誘ったから露出したのであって、それがなければ私は家でニヤニヤしながら録音しているだけなのはこれはたぶん変わらない。誘われなければ、ただひきこもるだけの話です。そりゃあ家では何かはやりますよ。そのちがいだけです。
 外に出るとなるとある種の責任が発生するじゃないですか。たとえば、メンバーだといわれちゃったりする。自分では無責任だと思っていても外部的には責任が発生しますよね。急にやめちゃったりとか、楽器を捨てたり譜面を破ったり、ライヴ中に「こんなバンドをやめてやる!」とか叫んだり、そんなことちょっとできない。

その状況がたまたまつづいているだけだと?

中尾:そうです。だからみんなは中尾勘二をもう呼ばなくていいと思えば、自然と元に戻る。

その点はNRQでも変わりませんか?

中尾:私の印象としては何らかの利用価値を見いだしたひとが、ちょっと試しに私を使ってみよう、と思いついた観があるんです。かかわったものすべてがそうです。だって譜面が読めない、コードがわからない、楽器をちゃんと習得しているわけではない。それに声をかけるのは、よほどの特殊な思いつきじゃないとありえないし。私だったら頼まないもん。ワハハハハ。

普通じゃない思いつきだから頼むということですよね?

中尾:でもそれって普通のメンバーの感じでもないじゃないですか? 何を考えているんだろうって逆にこっちが思います。「いい」といわれても何がいいのか。具体的にはいえないじゃないですか(笑)? あんまりそういうことをはっきり訊いたこともありませんが。

NRQが3枚めになって他のメンバーとの関係性に変化はなかったですか?

中尾:変わっているはずなんですよ。たぶん第三者が傍らにずっといれば分析できるんでしょうけど、なんせこういうのは灯台下暗しですからね。ガラッと変わったわけでもないですからね。でも、現実にどうなっているかっていうのは、私は自分の音源は自作の多重録音以外は聴かないので(笑)、ちょっと今回の作品がどうなっているのかよくわかっていないんですけども、印象としては何か変化があるんだろうなとは思います。でもそれが前作、前々作と異色な位置にあるとは思わないです。

今回は前作までより管楽器を多用されていますね。

中尾:アコースティック・アンサンブル的な思考が芽生えている、なんとなくそういった流れはあるかもしれません。一時期ブンチャカブンチャカやればいいのに、流れているきらいもあったので。

流れるというのはどういうことですか?

中尾:「ビートのある曲で掴みたい」といった考えに対する疑惑を、私は抱いていたことがあるんですね。ライヴのときの(曲の)並べ方とかね。そういうのもわかるけど、それはべつに他のひとがやればいいでしょ? そのことを私は口にしたわけではないので、みんなに気づかれたのかどうかわかりませんが、アコースティック・アンサンブル的にはなっているかもしれないですね。

その方向をとるにあたって、バンド内で話し合いはもたれていないということですよね。

中尾:でもリハをしているとどちらでもいい局面はいっぱいあるんです。新しい曲をやるとき、ドラムを叩くか管楽器を吹くか決まってないと試しにいろいろやってみるんですが、そのときに私の思いというか希望がね、ドラムはちょっとイヤだなというのがバレたのかもしれません。一般的にいえばドラムであればおさまるんです。そのぶんイージーなんですね。それに私は管楽器が上手なわけではないので(曲に)慣れるまではアラが出るというか、不安定な状態がわりとつづくんです。そういうときにバンドが我慢できるかという問題もあって、それを我慢すれば、ちがうかたちになる場合もあることに薄々気づかれているのかもしれない。

べつに気づかれたってかまわないじゃないですか(笑)。

中尾:ワハハハハ。

今回はほとんど一発録りなんですよね。

中尾:ほとんどそうですね。かぶせている曲もありますけど。

かぶせるなら、ドラムも管もどちらもできるはずですよね。でもそれを積極的にやろうとは思わないということですよね?

中尾:そうですね。それはライヴでやるときのこともあるということです。私なんか、コンポステラの経験もあるから、ドラムがなくてあたりまえだという、でも、それに対して、(ドラムが)あると安心というのはあるじゃないですか。つねにこのせめぎ合いですよね。

資料にありましたけど“スロープ”では──

中尾:バスドラとハイハットを足で踏みながらクラリネットを吹いています。これはコンポステラで鍛えられた技です。イヤイヤやっていたのが役に立ちました(笑)。でもじつはクラリネットを後でかぶせるためにプレイバックした場合、ノリを合わせるほうが難しいんですよ。だから一度にやるに越したことはないという理由もあります。レコーディングの日を置いてしまうと自分の音が別人のように聴こえることもありますよね?

そうですね。数日前の自分がやったことがわからなくなることはありますね。

中尾:それよりは、足りなかったり、アラがあったりでも同じひとが演奏したほうがいいんじゃないかという発想です。そっちのほうがリズムも管楽器のフレーズも安定します。

立ってベードラを踏みながら演奏するひとはいますが、両足で踏みながら管楽器を吹けるひとは見たことありませんね。

中尾:昔とったキネヅカでございますよ。

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インチキには合理性が大切なんです。インチキは即製であって、合理性がなければ、手間をかければかけるほど本格的になってしまう(笑)。ムダを省き、これだけあればそれに聴こえる、見える、相手を欺けるということですね。


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コンポステラでのときも、曲の要請から仕方なくやったんですか?

中尾:できるからやったんです。それでちょいちょいやっていました。トム・コラがメンバーだったスケルトン・クルーってあったじゃないですか? 篠田くんはあのバンドのようにメンバーが(楽器を)どんどんもちかえるのに憧れたていたみたいで、一度コンポステラで、3人の前にバスドラはじめ打楽器を置いてライヴをやったことがあるんですよ。そしたら、篠田くんと関島(岳郎)くんはぜんぜんできなくて(笑)、それはその1回でヤメになっちゃいました。私だけに残ったんです。

それを今回録音の場で実践したと。

中尾:吉田くんの曲中の繰り返しフレーズは、コンポステラでの私の苦い経験を彷彿させるものでもあったのです(笑)。

この前のインタヴューで吉田さんはコンポステラの影響は大きいとおっしゃっていましたね。

中尾:あるんでしょうけどね。私としてはイヤだけど、このほうがおさまるだろうと。それに、苦痛をおぼえる時間も最短で済む(笑)。

スタイルから発想までたぶんに合理的ですね。

中尾:インチキには合理性が大切なんです。インチキは即製であって、合理性がなければ、手間をかければかけるほど本格的になってしまう(笑)。ムダを省き、これだけあればそれに聴こえる、見える、相手を欺けるということですね。

練習や鍛錬はお好きではないですか?

中尾:それを意識しないことです。みずからなにかを追求する、それに時間を要するのは問題ないんです。いくらインチキでもやらないとできないからね。その結果、私自身笑えれば、うまくごまかせればいい。録音物としては「やり捨てゴメン」みたいなところは私にはありますよ。なにをやったのか憶えていない、レコーディングで「OK! ありがとうごうございます」といわれた瞬間に忘れてしまう(笑)。

あえて忘れるように自分を仕向けていませんか?

中尾:ちがいます。一所懸命ではないから憶えてないんです。もちろんフと思い出すこともありますよ。私は真剣に音楽のことを考えてない。それはある一部のひとには伝わっている。そういう人たちは私を誘うまい、と考えているはずなんです。

そういう方がいたとしても、私には音楽についての考え方のちがいとしか思えませんが。

中尾:それを音楽をマジメにやっていないと見なすんじゃないですかね。実際にマジメにやっていないですから、その評価はあたっていますけどね。

その側面では当りだとしても、でもマジメにやらないことをマジメにやっていると思うんですよ。

中尾:たしかに、いい加減にやることに真剣とはいえるかもしれない。でもだったら「ちゃんと勉強すれば?」といわれるんです。

その点を突き詰めたのは、中尾さんの独断場ともいえるかもしれない。

中尾:いや、そんなことない。このまえ、むかし録音したタモリの「オールナイトニッポン」を聴いたんですが、すごいですよ、あのひと。ニセ現代音楽とかね。タモリは30歳くらいで東京に出てきたときに、仕事がほとんどなくて暇でテープにラジオドラマとかを録音していたらしいんです。それで、そのテープを自分の番組で流しているのを私はエアチェックしていたんですけど、もうすごいんです。水を入れた瓶を吹いたり叩いたりしてニセ現代音楽をやっている上にデタラメなスペイン語でサルヴァドール・ダリが自作を語るナレーションが入るんです(笑)。

ダリのモノマネされてもだれだかわかりませんよね。

中尾:最初に日本語で「サルヴァドール・ダリはこういった」っていうんですけどね(笑)。

それはうまいですね。

中尾:さいきん新しくはじまった番組でも、フラメンコのギタリストとパーカッショニストの前でデタラメのファドを歌いあげていましたから私なんかぜんぜん敵わない(笑)。私は家で多重録音をニヤニヤしながら聴くくらいが関の山ですから上には上がいるということです。それがコンポステラとストラーダのせいで、マジメで真剣なひとだと思われてしまったので、そうじゃないということをね、死ぬ前にそのことをみなさんにお伝えしなければならない、自己開放をも兼ねたムーヴメントが私のなかに起こってきているのです。人前でデタラメに歌ったりするのも、そういうことに努めているともいえます。

コンポステラとストラーダのせいで、マジメで真剣なひとだと思われてしまったので、そうじゃないということをね、死ぬ前にそのことをみなさんにお伝えしなければならない、自己開放をも兼ねたムーヴメントが私のなかに起こってきているのです。

コンポステラをシリアスに聴いていたお客さんのなかにはそれを聴いて引いてしまうひともいるかもしれませんね。

中尾:お客さんにも悩んでいただいたほうがいいんです。一面的なところで納得されても困るじゃないですか。「こんないい加減なやつがやっていたんだ」って思ってもらいたい。それで「なんであんなふうに聴こえたんだろう?」と考えてもらったほうがよいのではないでしょうか? これも前にいいましたが、コンポステラはイヤではあったけれども、やるからには真剣であったわけで、シリアスさにはウソはないんです。しかし一方では人間はシリアスではないと伝えなければならない。そうすると「中尾勘二は切り捨てる」ひともいると思いますけど、逆に「中尾はいい加減なやつだ」だと思っているひとにもそこから別の発想が出てくるかもしれない。そういうふうに影響し合えば面白いかなと思いました。

ご自分の過去の活動に対する、自分なりの再定義を試みる時期なんでしょうか?

中尾:そうかもしれません。当時は「あー、終わってよかった」くらいの勢いでした。最後は篠田くんと絶交していましたからね。それがいまは、あれは何だったんだろうっていうのは考えます。ひとからいろいろ訊かれるたびに、いまの考えを含めて語るようになりました。そしてむしろ仲がおかしいときのほうが、なあなあのときよりもよかったのではないか、そういう話になってくるわけですよね(笑)。だからイヤななかで自分が何をするのかを考えるも、自分のためになるとは若いひとにいっているんですよね。「嫌いだからやらない!」というのは簡単ですけど、あえて嫌いなヤツのとこに入り込んで何をするのかというのも意義あることだと思います。私には「ゴキブリ共生論」というのがむかしからありましてね。

ほう。

中尾:「ゴキブリは嫌だ、見つけたら殺す」という考えはわりとあるじゃないですか?

普通ですよね(笑)。

中尾:でも全滅させるのはムリですよね。だったら嫌いなやつがうろちょろしていても、いいじゃないか、ともに地球で生きていけないだろうか。私はノンポリですけどね、宗教上の問題とかもそうやって考えればね。それにそう思えば、アジられて利用もされにくい。なびかないためにも、そういうゴキブリ思想をもっていたほうがいいんじゃないかと。

そうかもしれません。

中尾:それは音楽にも全部繋がっていて、思うわけですよ、あれはイヤだから、と排除しても、同じ地球上にいるかぎりかかわらないとしたら、自分の領分がどんどん狭くなるだけなんです。
 私は20代のときはすごく好き嫌いがはっきりしていましたから、イヤなら絶対にやらなかった。というより、イヤなことはまずできないし、拒否反応で体が動かなかった。音も出なくて、リハは行ったけど本番では逃げ出しちゃったこともあります。

そういうなかでも自分で何かやる道筋みたいなものを見いだせるようになったということですか?

中尾:いや、逆に自分を呼ぶひとが選んでくれるようになったんです。まちがって呼んだひとがそういう目に遭う(笑)。そのなかで諦めるひともいるでしょうし、もうちょっと出てくるかもしれないって粘るひとも出てくるかもしれない。いまは粘っているひとだけが残っているんじゃないでしょうかね。でもそれもいつかは愛想を尽かすかもしれない。転換期がきたらそれでおしまいかもしれないわけですが、どうなるかはわかりません。私は「なんとかお願いしますよ」と頼んだことなんてないですから。

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音楽を生け捕りにするのは難しいですよ。名曲は歩いているときに思いつくんですけど、ほとんど忘れます。


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中尾さんはNRQでここしばらく曲は書いていませんね。

中尾:今度出るアナログ盤用に曲を書いたんです。まあ駄曲ですけどね。

アナログ盤だけに収録するんですか?

中尾:そうみたいです。

どうしてまた?

中尾:もっていくのが遅かったからじゃないですか? それと、みんなにくだらない曲だということもちゃんと説明しちゃったから、みんなあまり真剣にとりくめない。

私はファーストの“台湾のおじさん”はよい曲だと思いましたよ。

中尾:あれは偶然できたようなものですから。あの曲は相当古いんですよ。パソコンでいろいろつくっていた頃の曲で、オクラ入りになりかけていたんです。それが、みんなが曲をもってこいとあまりにもうるさかったので、しょうがなくもっていったんです。

いまはパソコンでつくらないんですか?

中尾:環境を整えようと必死でとりくんではいますが、なかなか難しいですね。ネットをやっていないでしょ? いまのソフトはネット認証、ネット登録なので現行のものはまず使えない。それでちょっと前のMiniMacを2台買ってしまいました。クラシック環境で使える1台とOSXになりたてのヤツ。

がんばって2台買うなら、その分でネットを引きましょうよ(笑)。

中尾:ネットに接続するとアップデートの渦に巻き込まれるだけです。それくらいなら、壊れなければなんとかなるっていうのでいきたいんですよ。それでうまくいかなかったら、OS7.56くらいに戻れば済むハナシです。

OS7代の可動品があるんですか?

中尾:実家にあるんですよ。モノクロで、ヒューレット・パッカードの可動品のプリンターもあるので、それでMIDIといっしょにできる環境はあるわけですから、いざとなればそれを立ち上げればいいだけです。これからはコンパクトにいきたい。ソフトも新しくしたいなと思っているんですが、それがなかなかうまくいかない。プリンターが問題というのもありましてね。何も考えずに近所のハードオフでキャノンのプリンターをドライバーと説明書付570円で買ったんです。そしたら、OSが10.4くらいの中途半端なヤツで、最新のOSでもクラシックの環境でも動かないんです。

過渡期だったんですね。

中尾: OSXのMiniMacではプリントできるんだけど、クラシック環境のMiniMacではソフトがインストールできない。だったらPDFアウトにすればいいとか、いろんな技を試しているところなんです。

総じて中尾さんの家の外とは互換性のないシステムですね。

中尾:それでも、つくった曲を譜面でプリントアウトしてひとに配れる体制は復活させなきゃいけないと思っています。ここ6、7年そういう環境から離れていますから、それはいつでもできるようにはしないといけないとは考えているんです。外界と繋がるにはそれしかない。なんでもいいからインチキな譜面をつくってばらまいて、適当にやってもらう。

楽曲を自動的に譜面化するソフトを使われているんですか?

中尾:むかしはオールインワンのソフトはあまりなくて、シーケンスはシーケンスだけ、譜面は譜面だけ独立していたんですが、そこで手弾きでデタラメなアウトラインの雰囲気だけをつくるんです。それを頭のなかで四捨五入し、みずからクォンタイズをかけながら省略しつつ譜面ソフトで打ち込んで、正しいかどうかわからないから、再生しながら聴いてたしかめる(笑)。

めんどうな話ですね。アナログに収録される新曲もそうやってつくったんですか?

中尾:それはもうできていました。鼻歌ですぐに思いついて、それを忘れなかった。だいたい駅で切符を買ったときに忘れちゃったりするんですけど。ワッハッハ。みなさんは譜面を書けたり、もしくはiPadでつくっちゃったりするんだけど、私はそれはムリなので、公衆電話で歌って自宅の留守電に録音する手段も何回か試みましたが家で聴いてみると何をいっているのか見当がつかない(笑)。音楽を生け捕りにするのは難しいですよ。名曲は歩いているときに思いつくんですけど、ほとんど忘れます。たまたま生け捕りに成功した例もあるんですけど、たいした曲じゃなかった。いま私がいる従業員2名の会社で健康診断を受けに行くのに三鷹駅から会場の役所の施設まで歩いていたときに思いついたんです。そのときのシチュエーションもふくめ憶えています。

私はNRQ色をあの3人にもっと出してもらいたいと思うし、かたちになっていないものもふくめ、その因子はいっぱいあると思うんですよね。

そのときは曲の全体像が出て来るんですか?

中尾:そうです。つまり何かに似ているんですよ、ローランド・カークのつくる曲が何かに似ているように(笑)。断片のはっきりしたセオリーに適わないコラージュのようなものです。

それでも、コラージュにおける断片の位置関係には中尾さんは独自なものがあると思いますが。

中尾:それは音楽がわかっていないからヘンになっちゃうんですね。私はぶつかる音がきらいじゃないし、コードに合わない音もOKだと思っている、それがみんなを悩ませるんです。関島くんに「ここぶつかっているよ?」といわれたこともありますが、むしろぶつかっているほうが好きだったりするからヘンになっちゃうんですね。

作曲された曲についてそういう指摘を受けることはあるんですか?

中尾:しょっちゅうです。あとは、鼻歌を12音に置き換えるというズレるというのもあります。平均律で(音を)拾って調整するとニュアンスがちがってくることはありますね。先日「マヘル(Maher Shalal Hash Baz)30周年」のライヴに呼ばれて、短い曲ばっかりやったんですけど、「譜面が読めないからこれはやんなくていいや」と思って、ずっと座っていようとしたら、(工藤)冬里くんが1曲ずつ説明してくれるんですよ。メロディを弾いてくれたり歌ってくれたりして。そのメロディを聴かせてくれたときに歌ってごらんっていわれてマネたら、冬里くんは「低いでしょ?」というわけです。冬里くんは譜面が頭に浮かぶひとですが、それでも自分で歌って鍵盤でメロディを拾うと実際の音程よりもちょっと低いらしい。

頭のなかの音と身体で鳴らす音のあいだにズレがあると。

中尾:向島ゆり子さんにも私はちょっと低めに取っているといわれたことがあります。あとで聴き直すと気持ち悪いからわかるんですけど、それで12音に割り振っていくと、落とし所がズレていってヘンなことになっちゃうことがあるんですよ。

それがわかっていれば、作曲時にクォンタイズすればいいのではないですか?

中尾:それはもう諦め、それにより自分でも思ってもいない譜面ができあがるんです。だからやる気がしない反面、演奏によっては意外と面白くなることもある。

譜面を牧野くんや吉田くん服部くんに渡して、試しながら微調整していく?

中尾:お任せです。気になるところがあったら指摘しますが、私自身多重録音をしているときのことを考えたら、そこまでやりませんからそうなったらなったでいいんです。他の団体で「その曲はそうじゃない」といったことは1、2度ありますが、NRQではまだありません。NRQを思い通りに動かせないという悩みが牧野くんにはあったりするんですが、もうこの曲をやめようと私からいったことはありません。向こうはそう思っているかもしれないけど(笑)。

でももう5、6年はつづけてこらたわけですからね。

中尾:まだ何かでるんじゃないかと思っていますけどね。

どういったことか、具体的にことばにできますか?

中尾:私はとにかく、あのひとたちの色を出したい。自分のことをやるなら、多重録音という基本が私にはあるからいいんです。そういう意味ではあんまり曲をもっていきたくないんです。むしろNRQ色をあの3人にもっと出してもらいたいと思うし、かたちになっていないものもふくめ、その因子はいっぱいあると思うんですよね。ヘタにヘンな私の曲をやって、それが面白いとなったらそれはちがうと思うんですよ。「中尾がやっている面白いバンド」にはしたくないんですよ。彼らはネタが枯れたとかいったりすることありましたけど、まだまだだと思うんですよ。それをもっと出してほしいから私の曲をあまりもっていきたくない。もっていくなら、NRQを想定して新たにつくらなきゃならない。

それは今後の課題ですか?

中尾:そうですね。MiniMacがどうのこうのって体たらくですから全然進んでいません(笑)。生きているうちにはできないかもしれませんが。

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