「KING」と一致するもの

Seiichi Yamamoto - ele-king

 コロナ禍中の3月に「無観客かつ無配信」という独創的なライヴを敢行し注目を集めた山本精一が、4年ぶりとなるニュー・アルバム『カフェ・ブレイン』を7月6日に発売する。リリース元は、EP-4の佐藤薫が主宰する〈φonon〉で、京都・東京でのレコ発ライヴも決定しているとのこと。いったいどんな刺激的なサウンドが構築されているのやら、いまから楽しみです。日本が誇る奇才の、次なる一歩を見届けよう。

〈φonon (フォノン)〉のニュー・リリース
2020年7月16日(木)発売

●山本精一
『CAFÉ BRAIN』(カフェ・ブレイン)
(SPF-016・税別2,000円)

『待望4年ぶりのソロ・アルバムは時下清福の脳内風景ミュージック』
佐藤薫(EP-4)監修による「φonon (フォノン)」レーベルが COVID-19 禍中にお届けする最新作は、リビングレジェンド山本精一による久々の完全ソロ・アルバム。自身のライヴで使用した音源やライヴ録音などを素材としながら、新たな演奏を加えてアレンジ。山本の脳細胞から多層的に分泌漏れしたたる、諧謔と知性そして狂気と浪漫の音風景──

商品説明:
〈φonon (フォノン)〉は、EP-4 の佐藤薫が80年代に立ち上げたインディー・レーベル〈SKATING PEARS〉のサブレーベルとして2018年2月に始動。主にエレクトリック/ノイズ/アンビエント系の作品を中心にリリースする尖鋭的なレーベル。

2020年、COVID-19 禍の最中にラインナップされる作品は、待望久しい山本精一によるソロ・アルバム『CAFÉ BRAIN/カフェ・ブレイン』だ。コマーシャル・リリースとしてのソロ名義作品は16年の『Palm』以来4年ぶりとなるアルバム。ライヴ用に制作した素材やライヴ録音のフラグメントに新録を重ねながらトリートメントを施し、ミックスからマスタリングまで山本自身の手技で仕立てられた完全ソロ作品となっている。アブストラクトな構成主義的トラックから、ダークに加速するアンビエント音像まで──瞬間に音が音を侵食し、あるいは拒絶し、またある刹那にそれを感受する──その狭間で軋むような、山本精一らしい多層的アスペクトを包み込む脳内音風景がひろがっている。

ジャケットデザイン・Material

アーティスト情報:
1958年兵庫県生まれ。1980年代より現在までボアダムス/想い出波止場/羅針盤/ROVO/MOST/PARA──など多くのユニットで作曲やギター演奏を担当する中心メンバーとして活躍。ノイズから弾き語りまで、ソロ作品も多く発表している。近年は須原敬三、西滝太、senoo ricky と組んだユニット(Super Playground、Sea Cameなど)で活動することも多い、関西アンダーグラウンドシーンの最重要人物の一人。文筆家として小説やエッセイ作品も多く著述している。

アーティスト:Seiichi Yamamoto/山本精一
アルバムタイトル:CAFÉ BRAIN/カフェ・ブレイン
発売日:16/7/2020
定価:¥2,000 (税別)
品番:SPF-016
JANコード:4562293383179
発売元:φonon (フォノン) div. of SKATING PEARS
流通:インパートメント

トラックリスト:
01. SKIP #2
02. objet C
03. In ◯
04. up-age #1
05. up-age #2
06. Fairway
07. Hazara

φonon (フォノン)レーベル・サイト:www.skatingpears.com

●リリース・パーティー決定!
《CAFE BRAIN / ~山本精一 NEW ALBUM リリース記念 LIVE~》

出演:山本精一

VJ:井上理緒奈(京都) ※東京のVJは未定
SOUND OPERATOR:井上潤一

京都 2020年7月16日(木) 20:00~ アップリンク京都 
東京 2020年7月25日(土) 20:00~ アップリンク吉祥寺

いずれも前売り3500円 当日4000円  

詳細は後日発表

Cuushe - ele-king

 これは嬉しいニュースだ。〈Flau〉レーベルのアーティスト、Cuusheが数年ぶりの音楽活動に復活する。〈Flau〉レーベルとCuusheは、3年前に窃盗及びオンラインハラスメント被害に遭っている(https://jp.residentadvisor.net/news/42385)。機材やデータが盗まれたレーベルの被害も大きかったろうが、オンラインハラスメントに遭ったCuusheの精神的なダメージは察するに余りある。彼女がいま音楽活動に復活できたことに編集部としても心から拍手したい。
 さて、その第一歩だが、新しいバンド・プロジェクトFEMのメンバーとしての再始動になるそうだ。6月20日には7inch Single「Light」がリリースされる
 このB面のリミックスには、Iglooghostが参加しているそうだ。
 また、11月にはCuusheのオリジナル・アルバムのリリースも予定されている。

■ FEM - Light

タイトル:Light
アーティスト:FEM
DIGITAL発売日:2020年6月12日
7” 発売日:2020年6月20日
発売元:Fastcut/FLAU

tracklist:
1. Light
2. Light (Iglooghost Remix)

■ リリース詳細:
https://flau.jp/releases/light/

Cuusheがボーカルを務める不定形バンド、FEMのデビュー7inchがリリース!
Cuusheが新しくスタートした不定形バンドFEMと共に再始動。どこまでも柔らかでメランコリックなギターのレイヤー、オーストラリアのアヴァン音響ジャズ・グループTangentsのEvan Dorrianによるダブステップ~ポストロック的なリズムと交わることで様々な情景を浮かび上がらせ、90年代のJ-POPへのオマージュを込めたというメロディーとCuusheでは聴くことのない力強い歌声は彼女の新境地を見せてくれます。B面にはデビューEPよりCuusheが2作続けてゲスト参加するなど交流の深いBrainfeederのIglooghostがリミックスを提供。すべてがやっと始まっていくかのような期待を感じさせるに相応しいシングルが完成しました。fastcutとFLAU初のコラボレーション作品、7inchは限定クリア・ヴァイナル仕様。


Cuushe

Julia HolterやTeen Dazeらがリミキサーとして参加したEP『Girl you know that I am here but the dream』を2012年にリリース。デビュー作収録の『Airy Me』のミュージックビデオがインターネット上で大きな注目を集める中、全編ベルリンでレコーディングされたセカンドアルバム 『Butterfly Case』を発表。独創的な歌世界が海外の音楽メディア/ブログで高い評価を獲得。近年はアメリカTBSのTVドラマ「Seach Party」、山下敦弘 x 久野遥子による「東アジア文化都市2019豊島」PVへの音楽提供や、PlaceboのStefan Olsdal、Iglooghost、Populousらの作品にゲスト参加。長らく自身の音楽活動からは遠ざかっていたが、今年新たなプロジェクトFEMと共に再始動。秋にはCuusheのニューアルバムの発売も予定している。

Black Lives Matter Protest in London - ele-king

 5月25日にアメリカ合衆国のミネアポリスで白人警官によって黒人男性のジョージ・フロイド氏が殺害され、それに端を発する人種差別撤廃を掲げる抗議運動「Black Lives Matter(以下、BLM)」が、現在世界各地で行われている。先週末の日曜日、6月7日にイギリスのロンドンで開催された抗議集会に僕は参加してきた。この記事では、そこで自分が見たものを記していきたいと思う。
 ロンドン市内での大規模な抗議は5月31日から合計4回開催されており、この日のデモの開始地点は、ロンドン中心地のテムズ川の南に位置するエリア、ヴォクソールにあるアメリカ大使館(『007』シリーズに出てくるMI6本部の建物もここにある)。現在のコロナ禍に対応するため、抗議運動の主催者からは、マクスの着用が求められていた。抗議には多くの年齢層が参加していたが、20代から30代の若者が多かった印象を受けた。人種は黒人系を中心に、白人層やその他のバックグラウンドを持つ者も大勢集まっていた。政府の発表によれば、この一週間のロンドンの抗議運動には、合計137500人が参加し、警察からは35人の怪我人を出し、逮捕者は135人に登ったというが(The Guardian, 2020) 、僕の周りでは終始、平和的に抗議が行われていた。
 今回のデモには多くのアフロ/カリブにルーツを持つミュージシャンや俳優などの文化人も参加している。先週はディズニー版『スター・ウォーズ』三部作にフィン役で出演していたジョン・ボイエガがハイド・パークの集会でスピーチをし、他にはグライムMCのストームジーやUKラップのデイヴ、サックス奏者のヌビヤ・ガルシアなど、多くの人物が抗議に参加した。サウンド・カーで音楽を披露するわけではなく、文化の現在を形成する者たちはイギリスを生きる黒人として、一般人と同じ立場から、彼らはその声を届けにきていた。
 この日の天候は決して良くはなかった。そして、徐々に規制が緩和されているとはいえ、イギリスはまだコロナ禍によるロックダウン(都市封鎖)の最中である。都心部から電車でだいたい40分ほど離れた場所に位置する、サウスイースト・ロンドンのルイシャム地区、ブロックリーに住む僕は、自転車で目的地まで向かう必要性を感じていた。いくつかの駅は閉鎖され、運行本数は減らされているものの、電車やバスは動いているし、「不要不急」の使用を避けるように要請されているだけで、実際は使用することはできる。しかし、出来る限り感染のリスクを下げるため、お互いの「ソーシャル・ディスタンシング」を保ちながら、近所に住む友人たちと雨に降られながら、僕は自転車で集合場所へ向こうことにした。
 現場に到着する10分ほど前から、歩道と自転車道は抗議への参加者でいっぱいだった。バスターミナルがあるものの、普段はそれほど混むことはないヴォクスホールだが、駅周辺に自転車を駐めるのは困難なほどの人混みだったため、そこから少し離れた公園の柵に自転車をくくり付け、アメリカ大使館へと向かった。この時点で携帯がネットになかなか繋がらない。ロンドンでは、大勢が密集する地域ではよく起こることだ。僕は以前、三日間で100万人以上が集まるノッティングヒル・カーニヴァルで同じ現象を経験したことがある。電波が悪くなるのに十分な人数がこの時点でもう集まっていた。
 集合時間の2時から30分ほど遅れ現場に到着した。集合エリアでは、脱中心的にいたるところでシュプレヒコールが巻き起こっていた。すでに道路は閉鎖され、集合地点であるアメリカ大使館へは到達できないほどの群集ができあがっている。「Black Lives Matter」、「No Justice! No Piece!(正義がなければ平和もない)」、「I can't breathe (息ができない)」、「Fuck Donald Trump!」「What's his name? George Floyd!」など、25日以降、世界中で叫ばれている言葉が群集から飛び出してくる。参加者たちがヒートアップするなか、大使館前にいるグループからの掛け声で、集合エリアの参加者は跪き、拳やプラカードを掲げ、1分ほど沈黙によって抗議の意を示した。


(抗議マーチの起点となったアメリカ大使館近くのヴォクソール橋)

 その後、参加者たちは列を作り、徐々に移動を開始する。ヴォクスホールの再開発によって奇妙な形のタワマンが立ち並ぶエリアから橋を渡り、川の北川の伝統的でポッシュな建物が立ち並ぶエリアをぬけ、一般的市民が住めるレベルの建物がやって見えてくる。周知の通り、ロンドン中心地の家賃は恐ろしいほど高騰しているが、そんなエリアでも公営住宅は存在している。窓からは「Black Lives Matter」のプラカードを掲げた家族や子供たちが、シュプレヒコールを路上に向けて叫んでいる。
 この周辺には、ロンドンで最も混雑する駅のひとつ、ヴィクトリア駅があり、普段は多くの車が行き交っているのだが、この日はその道路も抗議マーチによって封鎖された。立ち往生し、不満が募っている周囲のドライバーたち……、と思いきや、その多くからは抗議への賛同を示すクラクションが聞こえてきた。なかには、わざわざマーチが進行する道路に車を駐車して、車中から音楽を流し、窓から上半身を乗り出してプラカードを掲げる者もいた。


(マーチが通る場所に位置するバス停や電話ボックスには、「Black Lives Matter」や「George Floyd」、「ACAB(All Cops Are Bastards:すべての警察はクソ野郎)」などの文字が書かれていた)

 ヴィクトリア駅周辺のビル街を抜けると、国会議事堂があるウェストミンスター地区がある。いわゆる「ビッグベン」で知られる、現在は修復中の時計台が見下ろす議会広場を中心に、このエリアもすでに抗議の参加者たちで溢れていた。この広場にはデビッド・ロイド・ジョージやウィンストン・チャーチルといったイギリスの歴代政治家とともに、マハトマ・ガンジーやネルソン・マンデラといった国外の政治指導者たちの銅像も並んでいる。その周辺では有志の若者たちがマスクと手の消毒液を無料で配っていた。広場でしばらく休憩したのち、僕は抗議の終着地点に向かった。首相官邸がある、ダウニング・ストリートである。


(議会広場のネルソン・マンデラ像)

 混雑する通りを進むと、ゲートが閉まったダウンニング・ストリートの入り口では、群集がザ・ホワイト・ストライプスの “Seven Nation Army” の替え歌を大合唱していた。この歌は、前回の総選挙時にはジェレミー・コービン支持者らが「オー、ジェレミー・コービン!」の替え歌で合唱したことでも有名だが、今回の歌詞は「Boris Johnson is a racist!(ボリス・ジョンソンは人種主義者)」である。政府機関が入る周囲の建物には抗議者がよじ登り、壁には「Black Lives Matter」の文字が殴り書かれていた。この場所では先日6日の抗議では抗議者と機動隊が衝突した場所でもある。けれども、この日は建物や信号によじ登る者はいたものの、警察の介入はなく、暴力的な場面に遭遇することもなかった。通りには過去の大戦での戦没者を追悼する記念碑もあり、そこに座ろうとする者を注意する抗議参加者たちもいて、秩序立ったなかで抗議は進行していった。そこでしばらくシュプレヒコールをし、僕たちは南へと帰ることにした。時刻は5時近く。国会周辺からは一向に人が減る気配はなかった。


(ダウニング・ストリート周辺の抗議)

 この原稿の目的はあくまで抗議の様子を紹介することなので、イギリスにおけるBLMの考察などには踏み込まないが、最後にひとつだけ触れておきたいことがある。先ほどの「彼の名前は?」のシュプレヒコールで、ジョージ・フロイドに加えて、組織的な人種差別の犠牲者となった者たちの者たちの名前が叫ばれていた。そのなかのひとりに「Stephen Lawrence(スティーブン・ローレンス)」がいる。
 1993年4月23日、サウスイースト・ロンドンのエルタムのバス停で、友人ともに外出していた18歳の黒人青年、スティーブン・ローレンスが、16〜17歳の5人組の白人の少年たちによって刺殺されるという凄惨な事件が起きた。殺害は彼が黒人だったからという、あまりにも稚拙で愚劣な人種主義的動機によるものだった。
 このような残忍な犯行であったにもかかわらず、逮捕された5人は証拠不十分で不起訴となる。このような不当な事態を受け、被害者の母親であるドーリーン・ローレンスは警察側に正当な捜索をするように抗議運動を開始する。この遺族が中心となった活動により、警察内部での組織的な人種的偏見から、捜査そのものが適切に行われていなかったことが判明した。これを機に、イギリス国内における、この事件や人種政策に対する関心は大きな高まりを見せる。容疑者のうちゲーリー・ドブソンとデービッド・ノリスに有罪判決が出たのは、2012年。それぞれ禁固15年2月以上と14年3月以上の判決が言い渡された。事件発生からあまりにも長すぎる時間が流れ、刑の内容も十分とは思われないものの、関係者の努力により形で事件は大きな進展を見せた。
 多文化主義が謳われるロンドンだが、権力レベルで人種差別が行われている制度的人種主義とそれが引き起こす問題が広く認知されるようになったのは、27年前の事件を境にしたことにすぎない。スティーブン・ローレンスの命日は、今日も人種差別撤廃を意識づける日として、毎年多くの者に追悼されている。ドーリーン・ローレンスは人種差別撤廃の活動を今日も続けており、2020年に入ってから、キア・スターマーを新たに党首に選出した最大野党の労働党によって、ローレンスは党の人種関連アドバイザーに任命されたばかりだ。
 文化面に与えた影響も大きい。ロンドンを拠点に活動するサックス奏者、シャバカ・ハッチングスは積極的にイギリスのブラック・ムーヴメントにコメントをしてきた人物のひとりだ。彼が率いるバンド、サンズ・オブ・ケメトの2018年作『Your Queen Is A Reptile』は、歴史上に名を残す黒人女性たちの名前を曲名に関したアルバムで、終曲の名前は “My Queen Is Doreen Lawrence” であり、今作には彼女への大きな敬意が込められている。ハッチングスとも繋がりがある、グライムを産んだ音楽家であるワイリーもSNSで、この事件に関する投稿をローレンスの命日とBLMプロテストの日にしていた。イギリスのギラついた音楽は、人種主義へのカウンターとして、今日も鳴り響いている。
 2011年、ロンドンで警官が黒人男性を射殺したことを発端に、イギリス全土で大規模な暴動が発生した。それから9年後、海を渡ったアメリカで起きたジョージ・フロイドの事件がトリガーとなり、今回のロンドンでの大規模なBLMの抗議運動へと繋がっている。イギリスは政治的にも、デモグラフィー的にもアメリカとは決して同じではない。しかし、警察や権力による日常的な人種主義的偏に対する怒りという意味では、この運動には国境は存在しない。そこには分断を超えていくようなエネルギーが満ち溢れている。帰り際、発煙筒からピンク色の煙が上がるチャーチル像の近くでスティーブン・ローレンスとジョージ・フロイドの名前を耳にしたとき、僕はそんなことを考えていた。


(議会広場のチャーチル像。この銅像には、このあと、「チャーチルは人種主義者(racist)だった」の落書きがされる。)

[参考資料]

The Guardian (2020), “Bid to defuse tensions as Black Lives Matter protests escalate”
AFP (2012), “18年前の黒人少年刺殺事件、白人被告2人に禁錮刑 英国”
•スティーブン・ローレンス事件と制度的人種主義の関連は、イギリス人ジャーナリスト、Richard Power Sayeedが著書『1997: The Future that Never Happened』(Zed Books, 2017)で、現在の英国の人種政治と絡めて詳しく書いている。

いま、新しい現実が広がる──

何が終わり、何が始まるのか
ニュースでは語られなかった、社会・科学・文化からの検証

インタヴュー:
上野千鶴子、内田樹、宮台真司、ブライアン・イーノ
天笠啓祐、宇都宮健児、ヤニス・ヴァルファキス、ほか


目次

INTERVIEW インタヴュー

内田樹 失ったものを数えるよりも、残っているものを数えること
天笠啓祐 新型コロナウイルスとは何か?──科学的見地から探る原因と対策
ブライアン・イーノ × ヤニス・ヴァルファキス ウイルス後の世界を考える
宮台真司 絶望こそが希望である──パンデミックが照らし出す未来への道筋
上野千鶴子 政治は女の方が向いている──コロナ禍が可視化した女性差別の実態
五野井郁夫 日本は軍隊がないからこそ戒厳令を敷かなくて済む──世界各国の対応と日本との見比べ
桔川純子 住民がお互いにワクチンになった──市民の自発性をベースにしたソウル市のコロナ対策
宇都宮健児 緊急事態宣言の意味──本当に困っている人たちに必要なこととは
重光哲明 ウイルスは万人に平等に襲いかかる?──フランス在住の医師が語る公衆衛生と疫学の重要性
篠原雅武 新しい感覚の構造に私たちは気づきつつある──エコロジーの観点から見たパンデミック
ダニエル・ミラー 多くは壊滅的な打撃を被っている──音楽産業とりわけインディ・シーンの将来について
ブライアン・イーノ 利益の出ないモノをいかに大切にすることができるか──再解釈される文化とアート

COLUMN コラム

イアン・F・マーティン コロナ・ローカリズム──瀬戸際のライヴハウスから
坂本麻里子 ユートピアはこうして描かれる──ブライアン・イーノからウィリアム・モリスへ
後藤護 疫病文化逍遥──ファクトからネオグロテスクへ
仲山ひふみ アポステリオリな思考
高島鈴 洪水と生存──誰も外に出ない家の中で
白石嘉治 トンネルをぬけて風にふかれる──あたらしい精神の形式について
三田格 ホリデー・イン・ザ・サン(密)

表紙写真:小原泰広


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Kamaal Williams - ele-king

 かつてユセフ・デイズ(先日トム・ミッシュとの共作を発表)と組んだユニット「ユセフ・カマール」でUKジャズ・ムーヴメントに先鞭をつけたヘンリー・ウー。2018年にはカマール・ウィリアムス名義でこれまたすばらしいアルバムを送り出している彼が、ついに同名義でセカンド・アルバムをリリースする。ジャズやファンクはもちろん、エレクトロニック・ミュージックからの影響も巧みに落とし込んだ、彼らしい内容に仕上がっている模様。南ロンドンのシーンからはずっと良質な作品が出続けているので、これも要チェックです。

Kamaal Williams

ユセフ・デイズとのユニット、ユセフ・カマールでの活躍でも知られる
ヘンリー・ウーことカマール・ウィリアムスが待望の最新作『Wu Hen』を
7月24日リリース! 新曲 “One More Time” を公開!

俺たちがジャズを学んだのは教室ではなくて、ストリートなんだ ──Kamaal Williams (Henry Wu)

トム・ミッシュとの共作で話題のユセフ・デイズと組んだユニット、ユセフ・カマールとしての活動が絶大な評価を受けたことでその名を知らしめ、ヘンリー・ウー名義でフローティング・ポインツが主宰する〈Eglo〉、〈MCDE〉、〈Rhythm Section〉といったレーベルからリリースした12インチが、DJより支持を集めているカマール・ウィリアムス。自身が運営する〈Black Focus〉より待望の最新作『Wu Hen』を7月24日にリリースすることをアナウンスし、同時に新曲 “One More Time” を公開した。

Kamaal Williams - One More Time (Official Audio)
https://youtu.be/Q3vJLO0pXWU

『Wu Hen』は南ロンドンを拠点にクロスオーバーに活動するアーティスト、カマール・ウィリアムスことヘンリー・ウーによるセカンド・アルバムであり、これまで以上に聴き手を高みへと誘うアルバムとなっている。

これはマインド革命であり、精神的な反抗だ。新しい高みに到達するためには、物質的な世界から自分自身を切り離し、実体のないものに力を見出すことが必要なんだ。それがアートとか音楽っていうものなんだ。原始的な感情であろうと、何か深いものであろうと、それをただ感じるんだよ。そして、俺の作品全体には潜在的に共通した要素がある。もし絵を描いているなら、それは絵を描いている時に感じることだ。作品を見ている人も、音楽を聴いている人も、それを感じることができる、なぜならそれは嘘偽りのないものだから。 ──Kamaal Williams (Henry Wu)

アルバムのタイトル『Wu Hen』は、ヘンリーのおばあちゃんが子供の頃に彼につけたニックネームでもある。彼の台湾側の家系は呉王朝の出身で、呉という名前は「天国への入り口」という意味である。『Wu Hen』では、彼の家系から現在の精神的な使命に至るまでの道のりが描かれており、Othelo Gervacio による雲のようなカバーアートにもそれが反映されている。

「俺たちがジャズを学んだのは街角であって、教室ではない」とヘンリー・ウーは公言しているが、その言葉は至極真っ当なものだ。彼がアーティストとして受けてきたヒップホップ、グライム、UKガラージ、ハウスに70年代のファンク、ソウル、ジャズを重ね合わせることで、自身が “ウー・ファンク(Wu Funk)” と表現する独自フュージョンを生み出している。

今回のアルバムには、ストリングにミゲル・アトウッド・ファーガソン、べースのリック・レオン・ジェイムス、サックスのクイン・メイソン、ロサンゼルスを拠点にするドラマー、グレッグ・ポール(カタリスト・コレクティブ所属)、ハープ奏者アリーナ・ジェジンスカラ、ラッパーのマック・ホミー、そしてケイトラナダとの共作で知られるローレン・フェイスがボーカルとして参加している。中でもフライング・ロータスとの共同制作を始めレイ・チャールズ、ドクター・ドレ、メアリー・J・ブライジなどと共作をしているミゲル・アトウッド・ファーガソンは、彼らしい特徴的なストリングスのサウンドを披露しており、鮮やかな色彩と豊かな深みを与えている。

『Wu Hen』は多様な色合いに満ちた作品だ。“Street Dreams” の軽やかで美しいメロディーから “One More Time” の爆発的なブレイクビーツのドラムに繋がるさまは、エロクトロニック・ミュージックとファンクの力強い混成となっている。“Toulouse” と “Pigalle” がロニー・リストン・スミスやジョン・コルトレーンのような古典的な雰囲気を持っている一方、“Hold On” にはコンテンポラリーな感覚があり、カマールはローレン・フェイスの甘美な歌声とともに情感豊かなR&Bサウンドを提示している。『Wu Hen』のスタイルはロイ・エアーズによるフュージョン作品を想起させるところもあれば、それを支えるリズムはむしろ鈍重なヒップホップを思わせるものであり、海賊版ラジオの音声を細かくつぎはぎしたサウンドが、それとはわからないように織り交ぜられている。

待望の最新作『Wu Hen』はデジタル、国内盤CDで7月24日リリース、輸入盤CD/LPは8月14日リリースとなっている。国内盤CDにはボーナストラックが収録され、輸入盤LPは通常のブラックヴァイナルに加え、限定のレッドヴァイナルが発売される。

label: Black Focus / Beat Records
artist: KAMAAL WILLIAMS
title: Wu Hen
release date: 2020.07.24 Fri On Sale
国内盤CD BRC-643 ¥2,200+tax
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入

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TRACKLISTING
01. Street Dreams (feat. Miguel Atwood-Ferguson*)
02. One More Time
03. 1989*
04. Toulouse*
05. Pigalle
06. Big Rick
07. Save Me (feat. Mach-Hommy)
08. Mr.Wu
09. Hold On (feat. Lauren Faith)
10. Early Prayer
11. 3 Yourself (Bonus Track for Japan)

CRASS Remix Project - ele-king

 ビョークを発掘したことで知られる〈One Little Indian〉が、興味深いプロジェクトを始動している。

 伝説のアナーコ・パンク・バンド、クラス(CRASS)が昨年、デビュー作『The Feeding of the Five Thousand』(1979)に新たな息を吹き込むべく、同作のオリジナル・トラックをフリーでダウンロードできるようにし、みんなにリミックスを呼びかけていたのだけれど、結果、プロ・アマ問わず100ほどの応募があったそうで、このたびその成果が12インチEPとしてリリースされる。〈XL Recordings〉のボス、リチャード・ラッセル(rLr 名義)と、グラッサーによるリミックスだ。すべての収益は、DV被害に遭っている女性や子どもたちを支援する慈善団体の Refuge に寄付されるとのこと。

 プロジェクトの詳細はこちらから、リチャード・ラッセル・リミックスの試聴・購入はこちらから。

artist: Crass
title: Normal Never Was
label: One Little Indian
release: 24th July 2020

tracklist:
A: Bomb (rLr Remix)
AA: Do They? (Glasser Remix)

「実用向け音楽」の逆襲 - ele-king

 この度、〈Pヴァイン〉の新たなリイシュー・シリーズ「A JOURNEY TO LIBRARIES」が始動し、第一弾として2タイトルがリリースされた。これを機会に、ライブラリー・ミュージックとはいったいどんな音楽なのかをイントロダクション的に紹介しつつ、その魅力について考えてみよう。

 ライブラリー・ミュージックとは、主にヨーロッパを中心とした各地で制作された(ている)、非市販音楽の総称である。一般的に、テレビ、映画、ラジオ、CM等の放送業界では、その映像コンテンツになにがしかの音楽を使用する際、主に3通りの手段を用いる。一つは、既存市販音源を使用するパターン。ここでは、使用希望者は原盤を管理するレーベルと使用料の交渉のうえ覚書を結び(新譜作品などの場合、当該楽曲のプロモーションを企図する「タイアップ」という扱いで、使用料が免除されることも多々ある)、著作権管理団体(JASRAC等)へ使用申請をおこない、使用料を支払う。二つ目は、例えばCM制作などで、音楽制作会社が受注しオリジナル音楽を新制作する場合。ここでは原盤使用料を支払わなくてよい反面、新制作であるがゆえの制作業務やミュージシャンのブッキング作業などが発生することになる。そして三つ目が、ライブラリー・ミュージックを使用する、という場合だ。この方法によれば、使用希望者は過去の(あるは常にアップデートされる)膨大なアーカイヴ(この性質が図書館に似ていることからも、「ライブラリー」ミュージックと呼ばれる)から、雰囲気に合わせた任意の曲をピックアップし、自由に使用することができる。また、ライブラリーミュージックの専門業者は、基本的に著作権・著作隣接権を一元的に管理しており、規定の使用料さえ支払ってしまえば、煩雑な事務処理も省かれるというわけだ。ライブラリー・ミュージックとは、まずもってこういった業界的背景の中で、利便的に供給され、使用されてきたものだ。

 世の中に日々リリースされる「アーティストによるオリジナル作品」に慣れきってしまっている我々音楽リスナーの感覚からすると、こうした「実用向け音楽」というのは、いかにも「魂の抜けた」「積極的に聴く価値のない」音楽と思われるかもしれない。たしかに大方のライブラリー・ミュージックは、(当然ではあるが)いかにもお手軽かつ保守的な「聞き流し用」音楽なので、その見方が間違っているとはいい難い。しかしながら、膨大に残されてきた音源の中には、現代の聴取感覚で接してみてもブリリアントとしかいいようのない逸品も隠されているのだ。
 こうした「再発見」は、主に90年代、ロンドンを中心としたDJシーンで推進されていった。60年代以来様々な専門レーベルで制作され、80年代にむけて更に需要が膨らんでいったライブラリー・ミュージックだが、アナログからCDへの変遷に際して、過去の「古臭い」ヴァイナル音源が大量に破棄されるという潮目がやってきたのだった。それまではごく少数が一般の中古レコード店やバザールに「流出」する程度だったそれらヴァイナルが、この期に及んで多数一般へセコハンとして出回るようになり、常に「未だ知られざる音楽」を求めるDJたちに発掘されることとなった。いわゆる「ディグ」の遡上に載せられたライブラリー・ミュージックは、それ以来加速度的に注目をあつめることになり、まめまめしいDJやアーカイヴィストの手によって様々なコンピレーションが発売されるという事態が起こった。かねてより中古レコード市場では、ラウンジ・ミュージックやヨーロッパ映画のサントラ盤などの発掘ブームが興っていたこともあり、そうした志向にもうまく共振したということも大きいだろう。また、主に70年代産のものはサンプリング・ソースとして相当に優れたものも多く、こうした視点から徐々にビートメイカーの間へも浸透していった。

*ランダムに、私のお気に入りのライブラリー・ミュージック有名どころをピックアップしたので、本記事のBGM代わりにどうぞ。

 今回、リイシュー・シリーズの第一弾にラインナップされたノルウェーの音楽家、スヴェン・リーベク(Sven Libaek)がライブラリー名門英〈Bruton Music〉傘下の〈Peer International Library Limited〉に吹き込んだ74年作『Solar Flares』も、まさにこうしたレア・グルーヴ的観点から評価された作品だ。本格的なソウル~ファンク系のオリジナル作品の水準からするといかにも甘やかに聴こえるかもしれないが、気品を感じさせるオーケストラル・サウンド、ソフトロック的とすらいえるポップなメロディー(ただし、ライブラリー作品なのでノン・ヴォーカル)、ときにアナログ・シンセサイザーが闖入するスペーシーな味付けなど、ライブラリー・ミュージックならではの華やぎが何より素晴らしい。あくまで付随すべき映像を邪魔することなく「引き立てる」ために制作された作品ゆえの、清涼感と喉ごしの良さは、他のジャンルには得難い魅力といえる。

 これまで述べてきた通り、ライブラリー・ミュージックというのは、はじめから映像等の副次的な存在として自らを規定する音楽であるがゆえ、使用目的物それ自体より目立ってはいけない。そのため、実際の使用にあたっては、なにがしか特定のテクスチャーや時代性が(「未来的」とか「ノスタルジー」とかあえてそうする場合を除いて)取り除かれていることが求められる。したがって、「古臭い」ものは忌避され(フューチャリスティックな映像に、カクテル・ピアノ音楽は(異化効果を狙うとき以外は)フィットしないだろう)、そのときどきのポピュラー音楽の流行へ、主に音色面において相乗りしようとする傾向がある。具体的にいえば、16ビートのファンキーなジャズ・ファンクが流行ればそのようなものが量産されるし、ディスコやテクノポップ、あるいはヒップホップの流行を察知すれば、シンセサイザーやシーケンサー、サンプラーを用いた「それ風」のトラックが量産される、と言った具合だ。この良い意味での軽薄さこそが、(実はかつてライブラリー・ミュージックを制作していたのはヨーロッパでも有数の実力派ミュージシャンばかりであったという事実や、彼らの高度なスキルや実験精神と接合されるとき)我々後年のリスナーをしていかにも好ましい「時代性」を愛でさせることになっているのだ。その折々の流行が、ときに拡大的にときにいびつな形で昇華されているのを聴くのは、普段から過去よりの音楽にロマンを感じてしまう(私のような)人間からすると、たまらない体験なのだ。

 さて、ここ近年のライブラリー・ミュージックへの興味も、かつてのレア・グルーヴ的なものが主導する感覚からやや変異してきているようにも思う。ポピュラー音楽シーンにおいても、80年代リヴァイヴァルなどを経由し、シンセウェイヴやヴェイパーウェイヴが勃興して以降、かつては唾棄すべきものとされていた「いかにも」なシンセサイザー・サウンドやデジタル・リヴァーヴ等の特徴的イコライジングが、むしろクールなものとして再帰してきたという流れがあるが、ライブラリー・ミュージック再発見においても、そういった視点が立ち現れてきた。主に80年代を通して盛んに制作されたライブラリー作品は、一部を除きいまだ深く発掘されているとはいい難い状況なので、ライブラリー発掘の第一世代に間に合わなかった者にとっては、探求の楽しみが残されているというのも魅力だし、それゆえにオリジナル盤を(ライブラリー・ミュージック発掘の主戦場であるネットに限らず実店舗でも)お手頃価格で入手する可能性も残されている。音楽的なバラエティという点においても、著名アーティストが作る「シリアス」なテクノやアンビエントにも通じるような(ある意味でより先鋭的とすらいえる)逸品もあったりして、侮れない。

*ランダムに、個人的お気に入りをピックアップしたので、本記事のBGM代わりにどうぞ。

 上述のスヴェン・リーベクと同時再発となった、英音楽家ジェフ・バストウ(Geoff Bastow)による独〈SONOTON〉からの86年作『The AV Conception Volume 1』(ライナー執筆は筆者。お買い上げよろしくお願いします!)も、そういった文脈から味わってみたい一作だろう。ジェフ・バストウは70年代からジャズ・ファンク的ライブラリー・ミュージックを作ってきた音楽家だが、ドイツへ移住し、ミュンヘン・ディスコ〜イタロ・ディスコ・シーンでも活躍した人。その経歴から推測されるように、電子音を扱わせても一級品で、80年代を通じて様々な電子ライブラリー・ミュージックを量産しているのだが、中でも本作はあのテレビ朝日系の長寿討論番組『朝まで生テレビ』のオープニング・テーマとして長く使用されている “POSITIVE FORCE” (テーテーテッテレッテー!というアレ)が収録されているという飛び道具的ネタもある。同曲のヴァージョン違いの各トラックはいかにもサンプリング向けだし、全体的にもまさしく「ルーツ・オブ・シンセウェイヴ」というべきレトロ・フューチャリスティックな魅力に満ちている。

 今後も「A JOURNEY TO LIBRARIES」では様々なライブラリー・ミュージックの名盤(ときに珍盤)がリイシューされていくようなので、是非引き続きチェックしてほしい。

 最後に、新録のライブラリー・ミュージック・シーン(?)にも触れておこう。レコード・ディグ文化との結びつきが強いためどうしても過去のカタログに注目が集まりがちなライブラリー・ミュージックだが、もちろん現在でも盛んに制作はおこなわれている。もしかすると制作曲的にいえば、70~80年代の勢いを上回っているのではないかと思う。現在のライブラリー・ミュージックは、かつてのようにフィジカルメディアとしてまとめられることはごく少なく、各ライブラリー・ミュージック配給社がオンライン上で公開し、ダウンロード販売するのが主流となっている。日々テレビで耳にするような「いかにも」な実用音楽が多数を占めてはいるが、一般的な音楽リスナーへは可視化されていないだけで、ときにかなり先鋭的なトラックがまじり込んでいたりするので油断がならない。主にエレクトロニック・ミュージック(あるいはその亜種としての各種プラグインを駆使した生音風サウンド)が多くを占めるが、DAWの浸透によって音楽制作の簡便性が格段に飛躍したこととも連動しているだろうし、またこのような傾向は、それまでの専門性の高い(=ある意味閉鎖な)プロ作家中心の制作体制から、徐々にインディペンデントなアーティストがライブラリー・ミュージックへ参入する新しい体制の萌芽を促してもいるようだ。例えば〈Hyperdub〉の主要アーティストのひとり Ikonika こと Sara Chen や、ベルリンを拠点とする BNJMN こと Ben Thoma など、普段のオリジナル作品制作とリリースという枠組みを超えて音楽的な(「実用」向けという制限付きの)冒険に臨む音楽家にとって、新たなフィールドとなりつつある。また、70年代を中心に人気作の多いライブラリー・ミュージック大手〈KPM〉の再発を手掛けてきた〈Be With Records〉からは、〈KPM〉ブランドのもと、あのバレアリック系デュオ SEAHAWKS のライブラリー作品が発表されるなど、注目すべき例も出てきている。こうした動きは、通常リリース以外の形態を模索するアーティストたちの経済的なインセンティヴとも合致したフィールドとして、今後も活性化していくだろう。そういった動きにも是非注目してもらいたい。

追記:手前味噌な話になってしまうが、実をいうと私自身も現在、新録ライブラリー・ミュージック企画のディレクションに関わっており、近々詳細をお知らせできるのではないかと思っている。お楽しみに。

ライブラリー・ミュージック(放送用音源)として制作されながらも音楽作品としても決して聴き逃すことのできない “今だからこそ聴くべき” 名盤2作品がついにリイシュー!

-ライブラリー・ミュージック名盤リイシューシリーズ:A JOURNEY TO LIBRARIES-
「ライブラリー・ミュージック」とは、TV/映画/CMその他のために制作されたプロユース用音楽の総称。「BGM」として旧来のリスナーからは看過されがちだったといえるが、一流のプロフェッショナルたちが手掛けた作品には、今こそ多くの音楽ファンに広く聴かれるべき黄金の鉱脈が眠っているのだ!

レア・グルーヴのディガー達によって発掘されてきた、ジャズ/ファンク/イージー・リスニングといった視点からも高いクオリティを備えた70年代の諸作、そして、電子楽器の普及とともに拡がりをみせた当時の “シンセサイザー・サウンド” が、シンセウェイブやヴェイパーウェイヴを経た今だからこそ再評価すべき80年代の作品など、時代やカテゴリを越えたライブラリー・ミュージックの魅力を多角的に紹介していきます!

【第一弾リリース!】

『ジ・AV・コンセプション ヴォリューム・ワン』ジェフ・バストウ
テーテーテッテレッテー!あの『朝まで生テレビ』テーマ・ソング収録作がついに再発! UKの名ライブラリー作家ジェフ・バストウが1986年にドイツの名ライブラリー・レーベル〈SONOTON〉からリリースしたルーツ・オブ・シンセウェイブ~フューチャリスティック・ファンク~アンビエントなキラー盤が世界初リイシュー!
* 試聴可 https://smarturl.it/GeoffBastow_AV

『ソーラー・フレアズ』スヴェン・リーベク・アンド・ヒズ・オーケストラ
あの海洋パニックムービー『ジョーズ』にも影響を与えたと言われるカルト・ドキュメンタリー『インナー・スペース』など数多くのオリジナル・サウンドトラックやTV音楽を手掛けてきたノルウェー出身の鬼才、スヴェン・リーベクが1974年に発表した激レア・ライブラリー作品が世界初紙ジャケットCD仕様でリイシュー!
* 試聴可 https://smarturl.it/SvenLibaek_Solar

[アルバム情報]



タイトル:The AV Conception VOLUME 1 / ジ・AV・コンセプション ヴォリューム・ワン
アーティスト:GEOFF BASTOW / ジェフ・バストウ
レーベル:P-VINE
品番:PCD-24942
定価:¥2,400+税
発売日:2020年6月3日(水)
世界初CD化&紙ジャケット仕様/初回限定生産/日本語解説:柴崎祐二

最終金曜日、テレビで夜更かしをしたことのある全国民が知っているであろう、あの、「テーテーテッテレッテー!」というフレーズ。テレビ朝日が誇る長寿番組『朝まで生テレビ』のテーマ・ソングとして有名なそれは、実はUKの名ライブラリー音楽作家ジェフ・バストウによる “POSITIVE FORCE” という楽曲だったのだ! ジョルジオ・モロダーに師事し、80年代シンセ・サウンドの真髄を継承する彼が作り出した「新しいオーディオ・ヴィジュアル時代」を賛美するライブラリー・ミュージックは、シンセウェイブ~ヴェイパーウェイヴを経て、新時代DTM全盛の今と激共振する、スーパーデューパーな逸品! “POSITIVE FORCE” のクールなヴァージョン違いを含め、今こそ聴きたいフューチャリスティックなキラー・トラックが満載! アートワークも最高! 【1986年作品】

《収録曲》
01. Current Advances 1
02. Current Advances 2
03. Current Advances 3
04. Current Advances 4
05. Current Advances 5
06. Horizons 1
07. Horizons 2
08. Horizons 3
09. Horizons 4
10. Positive Force 1
11. Positive Force 2
12. Positive Force 3
13. Positive Force 4
14. Positive Force 5
15. Positive Force 6
16. The AV Conception 1
17. The AV Conception 2
18. The AV Conception 3
19. The AV Conception 4
20. Expo 1
21. Expo 2
22. Expo 3
23. Expo 4



タイトル:Solar Flares / ソーラー・フレアズ
アーティスト:SVEN LIBAEK AND HIS ORCHESTRA / スヴェン・リーベク・アンド・ヒズ・オーケストラ
レーベル:P-VINE
品番:PCD-24943
定価:¥2,400+税
発売日:2020年6月3日(水)
世界初紙ジャケットCD仕様/初回限定生産/日本語解説:小川充

1960年代から作曲家/アレンジャーとして数多くの映画、TV音楽を残してきたスヴェン・リーベクですが、その幅広い音楽性とハイセンスな作曲能力でライブラリー音楽も手掛けていたのは有名な話で本作はロンドンの “ピア・インターナショナル・ライブラリー” にて制作された1枚。放送用BGMというにはあまりにもクオリティが高く、ジャズ・ファンク、フュージョン、ラウンジ、イージー・リスニング、エキゾといった幅広いスタイル、さらにはモーグ・シンセをフィーチャーしたまさにコズミック・ファンクとも言うべきサウンドも取り込んだレア・グルーヴファンの間でも非常に評価の高いアルバムです! 【1974年作品】

《収録曲》
01. Solar Flares
02. Stella Maris
03. Lift Off
04. Destination Omega 3
05. Conversations With Hal
06. No Flowers On Venus
07. Quasars
08. Meteoric Rain
09. Space Walk
10. Infinite Journey
11. In Nebular Orbit
12. And Beyond

interview with Marihiko Hara - ele-king

 静謐で流麗なピアノを軸に電子音やフィールド録音を配置(コンポーズ)した霊妙な音響空間でモダン・クラシカルの俊英と目される原 摩利彦は、ジャンルを意識して曲をつくることはあるかとの私の問いにPCの画面の向こう側で柔らかな笑顔をうかべて以下のように述べた。「モダン・クラシカルについては意識することはあります。ただこれは僕の作曲のポリシーなのですが、ジャンルから音楽をつくらないようには心がけています。だからといって僕の音楽が独自のジャンルだとは思っていませんが」ひかえめながら表現の土台にある倫理というほど大袈裟ではないにせよ、誠実さをおぼえるこの発言は原 摩利彦の音楽のたたずまいにも通じるものがある。
 2000年代後半に本格的な活動をはじめたことをふまえるとはや10年選手。自作曲のみならず、現代アートから舞台芸術や映像作品にも活動領域を広げつつ、野田秀樹やダムタイプとの協働作業などをとおしてかさねやキャリアはけっして浅くはないが、原 摩利彦の音楽はアルバムのたびに清澄さを増すかにみえる。環境音までもが響きに還元し楽音と交響する2017年の『Landscape In Portrait』から3年ぶりのソロ作はダイナミックな和声進行と質朴な旋律で幕を開ける。ピアノ一台、選び抜いた音で奏でる響きが原 摩利彦の現在地をしめすかのような、アルバム・タイトルも兼ねるその曲の題名を“Passion”という。その語義について作者は「情熱」や「熱情」という私たちのよく知る意味のほかに「受け入れること」があると注意をうながしている。バッハの“マタイ受難曲(Matth?us-Passion)”や今年3月に世を去ったペンデレツキの代表曲のひとつ“ルカ受難曲(St. Luke Passion)”にもみえるキリスト教でいうところの「受難=Passsion」の原義に中世にいたって感情をあらわす意味が加わったと原 摩利彦は説明するが、この言葉を掲題した理由については、十代のころ、音楽家になることを決意したさい、やがて訪れるにちがいないよろこびと苦難に思いをいたしたことにあるという。そのことを証すように『Passion』には十代のころにつくったという溌剌とした“Inscape”はじめ、邦楽器の使用など、近年の舞台~展示作品への参加で得たアイデアをもとにした楽曲など、幅広い傾向をとらえるが、作品の総体は原 摩利彦という音楽家の原点である清澄な場所を照らすかのようである。
 そこにある「受難」と「情熱」、あるいは「受け入れるつよい気持ち」──「Passion」という単語の両価的な意味がこれほど身につまされることもない、緊急事態宣言下の5月14日、京都と東京をオンラインで結んで話を訊いた。

能管を使用した「Meridian」などでは電子音と区別がつかないようなトランジションを施しています。邦楽器のものとされている音の響きと西洋に由来するとされている電子音響がひとつながりにつながっていくようなイメージといいますか、因襲的なものから響きだけをきりとって配置する、コンポジションですよね。

原さんはいま京都ですか。

原 摩利彦(以下原):京都です。ずっと自宅です。

街の雰囲気はいかがですか。

原:一昨日ぐらいからちょっとずつ、僕の家のちかくのお店は開きはじめています。近くのカフェも、テイクアウトの営業ははじまっているみたいですね。

日常が戻りはじめている、というほどはないにせよ──

原:その準備をはじめていると感じでしょうか。僕は窓から眺めているだけですが。

『Passion』の制作はコロナ・パンデミックの前にはじまっていたんですか。

原:そうです。(音楽にかかわる)テキストについてもこうなる前にしあがっていました。ですからアルバムにはいち個人の気持ちは反映していますが、世界状況を考えていたわけではありません。

とはいえ結果的には暗喩的といいますか、現在の状況につながる側面が生まれてしまった。

原:自分の出した言葉の意味が変わってきたと思っています。

制作作業の開始はいつだったんですか。

原:集中して作業したのは去年の1月から8月ですね。それまでにいろんなほかのプロジェクトの断片などをつくりためていたので、その期間を入れるともう少し前になりますが。

いつも断片からアルバムをつくりあげていかれるんですか。

原:かならずしもそうではありません。アルバムをつくろうというとき、ある断片、断片といってもまとまった部分もあるんですが、入れたいというのが集まってきたらアルバムになる感じですね。それが全体の半分以下くらい。サウンドトラックなどのプロジェクトでは作曲したすべての作品を発表できるわけではないですし、舞台などでは再現がむずかしかったりもするので、つくりかえて自分のディスコグラフィに入れたいというのがあります。

原さんは舞台の劇伴などにも携わっておられますが、お仕事以外の曲づくりも日常的にされているんですか。

原:いま家にはピアノがないんですが、キーボードなどでつくっていますね。練習を兼ねた即興のような作曲のようなことをふだんからやっています、その一方でコンピュータはつねにさわっていて気になるソフトウェアを試したりしています。そこで生まれたアイデアをノートに記したりして最終的に曲になることもありますよ。

そのような積み重ねがあって去年のはじめにアルバムになりそうだと気づいたということですね。

原: 6月だったと思うんですが、アルバム1曲目の“Passion”という曲に意図的に書こうと思ってとりくみました。それができてきたとき、いけるんじゃないかなと思いました。

アルバムを象徴する曲が必要だと考えたということでしょうか。

原:たしかにそう考えました。

どういった曲が必要だとお考えになったんですか。

原:すっごく具体的にもうしあげますと(笑)、いきなりテーマがはじまる、これまでの楽曲よりも力強いメロディをもったテーマですね。形式としてはピアノのソロをやりたいと思っていました。ほかの曲はこれまでのものや新しいもの、いろいろですが、流れていくような感じがあると思うんです。1曲目にはリスナーと面と向かっている曲が必要だと思い、試しているうちにできました。

そのころにはおぼろげながらアルバムの輪郭も浮かんでいたんですよね?

原:はい、最後につくったのがアルバムでも最後の“Via Muzio Clementi”なんですが、それは8月のなかばにアルバムのまとめ作業をするためにローマに滞在したときに、もう1曲つくれないかと試してできた曲です。それもあって柔らかい雰囲気になっていると思います。


Photo by Yoshikazu Inoue

おだやかさという観点からイタリアの作曲家ムチオ・クレメンティをモチーフにとりあげたんですか。

原:(笑)いえ、滞在したアパートの前の通りが“Via Muzio Clementi”日本語でいうと「ムチオ・クレメンティ通り」というクレメンティが生まれた土地だったんですね。

牧歌的なピアノ曲を書く作曲家でその作風を意識したかと思ったんですが、ちがいましたね(笑)。

原:そうなんですが(笑)、ひとつめの和音がGメジャーのすごくシンプルなんですね。クレメンティの音楽は和音構成がすごくシンプルで、その点はちょっと関連があるかもしれません。

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Photo by Yoshikazu Inoue

ページをめくったら、シュトックハウゼンの直筆で「いまきみのデモを聴いているけど、すごくパーソナルでSomething Magicalだから音楽をつづけろ」とあったんです。そのあと、ループはとりのぞけとか6thは止めろとかあるなかに、「less Sweet」と書いてありました。

『Passion』では笙や能管やサントゥールといった邦楽器、民族楽器を使用されていますが、これらの楽器の音色の使用にはなにか意味的なものはございますか。

原:邦楽器にかんしてはじつはかかわりがこれまでもありました。というのは、僕の通っていた中高一貫校では中学校のころから週に一度能の謡(うたい)の授業があったんですね。火曜日の5時間目でしたが、6年間謡を習って高校3年生のときに文化祭で仕舞を舞って卒業するというのが伝統だったんです。そのときは「小袖曽我」という演目でした。僕には瑠璃彦という弟がいて、弟もそこで能をやって、卒業後素人弟子(註:能楽師の子でないもので、能楽師より直接指導を受けるもの)になって、いまでは能に携わる仕事しています。2013年に山口県のYCAMで野村萬斎さんが坂本龍一さんや高谷史郎さんと協働で制作された《LIFE-WELL》のドラマトゥルクに入ったり、能の研究をやったりしているので邦楽は身近な存在でした。仕事でも、実際にナマで聴ける機会、これは《繻子の靴》という2016年京都芸術劇場でのお芝居でも自分の音楽とともに邦楽器を鳴らす機会がありました。そのときは能管でしたが、笙にも別の機会で接する機会がありまして、そのとき、楽譜を書いて、邦楽器にメロディを担ってもらってこちらが伴奏をするというやり方ではなくて、電子音響的なアプローチで楽曲としてなりたたせられるのではないかと思ったんです。それがいまならできるのではないかと思い挑戦しました。じつは『Passion』で吹いてもらっているのはすべて古典曲をベースにしたものなんです。サントゥールのほうもやり方は同じです。

楽器の歴史性や記名性とよりも響きに着目されたと。

原:笙はいわゆる「日本の和」のような音ではないと思うんですね。ティム・ヘッカーしかり、アプローチの方法はいろいろあると思うんです。電子音楽との親和性も高いこともわかっていましたが、今回重視したのは音色の部分です。能管を使用した“Meridian”などでは電子音と区別がつかないようなトランジションを施しています。邦楽器のものとされている音の響きと西洋に由来するとされている電子音響がひとつながりにつながっていくようなイメージといいますか、因襲的なものから響きだけをきりとって配置する、コンポジションですよね。

笙や能管とちがってサントゥールは中東の楽器ですね。なぜとりいれたのでしょう。

原:京都の法然院でのコンサートあと、若いサントゥール奏者の方からSNSでコメントをいただいて交流がはじまったんです。僕はSNSを通じて親交深めることはふだんあまりないんですが、和楽器をとりいれることで日本と西洋の対比がテーマだと思われるとイヤだなと思ったとき、ペルシャ楽器の演奏者とつながりができたので、流れに身を任せました。

西洋と東洋の対比はいかにものテーマですものね。

原:僕は(西洋と東洋の)融合というテーマも好みではないんです。対比だったら武満(徹)さんがバリバリやられていることですし。

武満さんは無視できないですよね。

原:武満さんは音楽はもちろん、文章も僕は好きなんです。武満さんの作品の主要な舞台はコンサートホールでしたが、たとえば「November Steps」ではそこにオーケストラと尺八や薩摩琵琶をならべる、いうなれば対比ですよね、そうやって対比をつくったのもそうですし、笙とオーケストラのための「セレモニアル(An Autumn Ode)」でも笙とオーケストラに重なるところがほとんどなくて、宮田(まゆみ=笙奏者)さんの吹かれる笙の音が客席後ろから来て移っていって戻っていく。「ふつう」という語弊がありますが、邦楽器をオーケストラと一緒にバーンと鳴らした気持ちいいところを敢えてせず、深いところまで考察されていたのを知ったときは感動しました。それに、京都にいるとわかりますが、和と西洋の融合をテーマにした企画が多いんですよ。そういうのを横目でみながら、自分はそういうアプローチじゃないな、と思ったこともあります。武満さんのどの曲から具体的な影響を受けたとはいえませんが、武満さんの書かれる文章の文体もそうですし、映画もが好きで、映画音楽については武満さんはキャッチーな曲を書かれるじゃないですか。

ジャズなんかをよく使われますね。

原:ジャズの響きはありますね。僕が好きなのは『波の盆』というハワイの日系人たちを描いたドラマ(1983年、日本テレビ系列。実相寺昭雄監督、倉本聰脚本)のサウンドトラックで、あれほど美しいストリングスオーケストラはないと感じますし、劇伴ではないですが武満さんがハープとフルートで復元したサティのコラール「星たちの息子」も大好きです。勅使河原宏監督の『利休』(1989年)のサウンドトラックではいまの「ザ日本」の源流でもある室町時代が舞台であるにもかかわらず、音楽では同時代のルネサンス期の音楽を引用するセンスにはものすごくしびれます(笑)。

原さんも劇伴のお仕事をされていますが、付随音楽を書かれるさい、いま言及された武満さんのような方法論は意識されますか。

原:野田秀樹さんの『贋作 桜の森の満開の下』の30年ぶりのリメイクのときは笙を使いました。夜長姫というすごく不思議な主人公がいて、音色によるライトモチーフ的な意味合いで笙をもちいました。

キャラクターにあてはめる音色ということですね。

原:いちおうメロディもつけたんですが、子どものような鬼のような夜長姫の人物像をふまえて音色から笙を選択しました。とはいえ方法論としては模索しているところで、構築するのはこれからだという気がしています。

劇伴をつくるのとご自分を作品を手がけられるときの構えでもっともちがうのはどの部分ですか。

原:ふだんの自分の語法を、かかわる作品が拡張する感じはあります。そこに甘えて、自分では控えているやり方をやってしまうとか、そういうこともありますけど(笑)。

原さんにとっての禁じ手とはなんですか。

原:甘くなることです。油断するとメランコリックといいますか、甘くなりすぎるんです。甘くなるという言葉で思い出したんですけど、2005年にシュトックハウゼンが品川に「リヒト」の公演で来日したんですね。

私もそれ行きました。

原:僕も行ったんですよ。21歳のときで、長いサインの列に並びながらドキドキしていたんですけど、そのときデモテープを持参したんです。サインをもらうとき、シュトックハウゼンにデモの入ったCDRを渡して、それから3ヶ月ぐらいしてからだったと思いますが、シュトックハウゼンの事務所からフェスティヴァルの冊子が届いたんです。ところが日づけをみると会期はもうすぎている。どういうことなんだろうと思って、ページをめくったら、シュトックハウゼンの直筆で「いまきみのデモを聴いているけど、すごくパーソナルでSomething Magicalだから音楽をつづけろ」とあったんです。そのあと、ループはとりのぞけとか6thは止めろとかあるなかに、「less Sweet」と書いてありました(といって原氏は小冊子を画面にむける)。

(画面を凝視して)あっほんとだ、直筆ですね。「Dear Marihiko」とありますね。

原:最後に「きみは映画音楽の作曲家になるんじゃないか」と書いてくれてあるんですね。

シュトックハウゼンの戒めだったんですね(笑)。

原:冊子が出てきて思い出しました(笑)。

2005年というと原さんが本格的に音楽活動にとりくみはじめた時期ですね。

原:そうですね。

野田:そこでちゃんと返事を送ってくるシュトックハウゼンも偉いというか意外に律儀ですね(笑)。

原:横暴(!?)だというウワサをよく聞いたこともあり(笑)、たしかに意外でした。冊子がみつかってシュトックハウゼンの「甘くなりすぎるな」という助言を思い出しました。とはいえここはいいかなといいますか、意識的に甘くするのは問題ないと思うんですが、無意識のうちに手癖でそうなるのは抑えるようにしています。

シュトックハウゼンにはセリー音楽のころのピアノ曲から電子音楽まで、幾多の形式の作品がありますが、原さんにとって電子音響とピアノの響きに差異や優劣はありますか。

原:電子音響とはいえ、これまでシンセサイザーはほとんど使ってこなくてピアノの残響をドローンとして伸ばした音を転調させたり重ねたりしていたので抽象的な電子音響であっても僕の場合ピアノと地続きなんです。ピアノ、電子音響とフィールドレコーディングも等価ですし、その点ではさきほど話題になった邦楽器も同じです。等価の意味も平面的な等価性ではなくて、たとえば見方を変えたとき、楽曲のなかでは音量だったりするんですが、笙の音量をあげると前に出てくるように聞こえるけれども、しばらくすると背景になる。フィールドレコーディングでもそうです。ただ背景を担うだけではなく、ときどきそれが主役になる。つねに相対的に動くようにオートメーション音量などを書いています。

フィールドレコーディングが効果音の役割を担うわけでないわけですね。

原:それだけではないということですね。よくやる方法としてはフィールドレコーディングとピアノを同じトラックに入れるとして、ピアノをミュートしたときフィールドレコーディングだけで流れがちゃんとできているかはちゃんと確認します。流れというのは変化ですね。音のシナリオとでもいえばいいでしょうか。波の音があってしばらく静かになって鳥の声が聞こえるとか、それがうまく構成できればフィールドレコーディングはたんなる雰囲気とは一線を画した音になるのだと思います。ある意味では西洋音楽でいう多声音楽(ポリフォニー)的な思考だとは思うのですが。

複数の声部が動きながら関係し合う関係ということだと思いますが、原さんの音楽で特徴的なのはそれが楽音だけでなく現実音でも意識されている点だと思います。

原:そういっていただけるとうれしいです。

たとえばメシアンは鳥の声を楽音に置き換えますが、原さんは現実音をもってきて楽音と同じ目線で考えようとする。

原:テクノロジーの恩恵もあるとは思います。メシアンの当時はいまほどハンディには記録もできなかったでしょうし。


Photo by Yoshikazu Inoue

フィールド録音はどれくらいの頻度でやられますか。

原:最近はけっこうご無沙汰で、こないだ雷が鳴ったときくらいですね、キッチンでいろんな音を録ったりしたこともありましたが。いまは外出できませんが、僕は出張が多いので、宿泊先で朝起きたときその周辺で録ったり劇場に行くまでずっとレコーダーをまわしたり、そういうふうにしてフィールドレコーディングしています。

都会と自然の音はちがうと思います。日本と海外でも音はちがいますか。

原:たしかバルセロナには野生のインコがいたと思うんですよ。すごくやかましい元気な鳴き声なんです。そういう音が特徴的だと思いましたし、東北の山で音を録ったときは鹿の猟をしている銃声が入ったり、土地土地に特徴はありますよね。余談になりますが、東北の件は映像作品のための取材といいますか、音集めだったんですが、録音した日の夜に地元の寿司屋さんに行ったら年配の常連さんのご夫婦とうちとけてお話をしたことがあったんです。その方がいうには、ここの音はほかとなにがちがうのかとことで、作品のために関係のある土地の音を録るのは大事なんだというのは僕の意見としてあったんですが、それだけだと納得していただけなくて、それがフィールドレコーディングのむずかしいところだと思いました。よほどの特徴がなければクレジットやキャプションがなければ伝わらないというむずかしさですよね。その意味では今回はフィールドレコーディングは僕ではない、ちがうひとにたのみましたし、どこで録ったかということは書いているんですけど。

『Passion』でほかの方が録音したフィールド録音の音源を使用されたのはなぜでしょう。

原:メシアンの話ではないですが、さいきんの録音はすごくハンディなので自分で録るということがあたり前になってきていると思うんです、とくに音楽制作の場においては。それをもう一回問い直すといいますか、大問題というよりは素朴な疑問としてフィールドレコーディングは自分で録らなくてもよいのではないかと考えたということです。ただデイスクをつくるとき、パートの役割としてピアノはこのひととか、アレンジはこのひと、フィールドレコーディングはこのひと――ということはよくあったと思うんですね。僕の場合はそうではなくて、自分もそれ(フィールドレコーディング)をするけど、今回はあえて別の方に依頼したということです。

『Passion』はアルバムとしては前作『Landscape in Portrait』から数えて3年ぶりになります。アルバムからは表題曲が、ついでこの取材の直前に「Vibe」が公開になっています。「Passion」の次に「Vibe」を選んだのはなぜですか。

原:「Passion」の語義には「情熱」と「受難」という二面性があって、そのことを敷衍すると僕の音楽をおもうに構成する要素はピアノと電子音響というふたつの要素で、リズムの面ではビートがある楽曲とビートレスな音楽、静謐な音楽という二面性があると思うんです。1曲目の軸となるものを最初に解禁したので、もうひとつ側面を象徴するのはどれかとなったとき「Vibe」であろうということですよね。

そしてアルバムのリリースまぎわに世界は変わってしまいました。そのなかで原さんの音楽はどのようにうけとめられるとお考えですか。

原:ああ(といってしばし考えこむ)自分の音楽のひとつの特徴としては聴きやすいといいますか、受け入れやすい、耳にやさしいとかよく寝られる、とよくいわれていて、今回もそう聴かれることが多いとは思いますが、それに加えて、『Passion』というタイトルもふくめて、かつて僕が曲にこめていて密かにわかってほしいと思っていた側面が自然と伝わるような、無意識でもそこを聴いていただけるのではないかとも思っています。ただし『Passion』はこの世界にたいして、こう思うんだと表したくてつくったものではなくて、じっさいリリースがおくれてこの状況になったんですが、言葉はむずかしいですが「自然」、ここでいう「自然」はなるべくしてそうなったという意味での自然ですが、この作品がたどった課程のように自然に末永く聴いてもらえるとうれしいです。

野田:緊急事態宣言が出て、音楽シーンは甚大な被害を被りました。そのなかで音楽はなぜ人々の生活に必要なのか、ということを考える機会があると思うんです。原さんはどういうふうに思われますか。

原:いま家の前の通りはものすごく静かです。これまでと比べものにならないくらい静かです。静かなのは一瞬は気持ちいいと思うんですが、これまでの世界は音楽があるなかでの静寂だったから気持ちよかったと思うんです。今度はそれが音楽がなくなったときの静けさはまったく意味がちがうと思います。静かになっていい、という意見は音楽がたくさんあるなかでの発言であって、音楽がなくなった世界はだれも想像していないと思いますが、音楽にかぎらず、映画も演劇も文化が完全になくなったのを想像して、そこで気づくこと、あるいは想像したとき胸が一瞬ドキッとすることがあれば、その一瞬の感覚を大事しながら、考えていけたらいいなと思っています。

野田:コロナウイルスというものが音楽に影響をあたえると思いますか。

原:一時的には影響はあると思いますが、それが永続的につづくかといえば、循環していく気はするんですね。

野田:パンデミックが終わったあともまたもとの世界に戻ると思います、それともちがった世界がはじまると思います?

原:世界としては戻らないと思います。早く日常の世界に戻りたいというよりは、僕は新しい世界に切り抜けたいという気持ちのほうがつよいです。ちょっと暖かくなったらすぐにみんな街に出るように、人間はすぐに忘れるので、日常に戻っていくという感覚になるとは思いますが、世界は変わっていくのだと思います。

INFORMATION

オフノオト
〈オンライン〉が増え、コロナ禍がその追い風となった今。人や物、電波などから距離を置いた〈オフ〉の環境で音を楽しむという価値を改めて考えるBeatinkの企画〈オフノオト〉がスタート。
写真家・津田直の写真や音楽ライター、識者による案内を交え、アンビエント、ニューエイジ、ポスト・クラシカル、ホーム・リスニング向けの新譜や旧譜をご紹介。
フリー冊子は全国のCD/レコード・ショップなどにて配布中。
原 摩利彦、agraph(牛尾憲輔)による選曲プレイリストも公開。
特設サイト:https://www.beatink.com/user_data/offnooto.php

Bearcubs - ele-king

 家から15分ほど歩くと遠くから小さな悲鳴が聞こえてくる。そのまま「悲鳴」に向かって歩いていくと、どんどん悲鳴は大きくなり、複数の声になっていく。やがて視界にメリーゴーラウンドが飛び込んできて悲鳴の正体がジェットコースターだと判明する(ゴーよりヒヤアーの方が遠くまで聞こえるんですよ)。豆乳や野菜ジュースを買おうと後楽園のドンキホーテに向かって歩いていると、いつも経験することである。最初の頃はなんだかわからなくて気味が悪かったけれど、最近は悲鳴が小さいと少し物足りなく感じたり。夕方ぐらいに行くと東京ドームから「ドーン」という地鳴りが轟いてくることも。一拍遅れて「ワー」という歓声。野球だろうか。それともコンサートか。中日戦の時は試合が終わる前に帰らないと道が通れなくなってしまう。嵐のコンサートの時は「友だちの1人に加えてください」という札を持った少女がポツポツと道に並んでいる(多分「チケット売ってください」の意)。後楽園の周囲にはマンションも多いので、僕のように散歩ついでに悲鳴を聞くどころか、1日中、一定間隔で悲鳴を聞いている人もいるのだろう。いまは静まり返っているけれども。観覧車もピタッと止まったまま。

 都会の喧騒や佇まいをテーマにして子熊ちゃん(Bearcub)はセカンド・アルバムをつくったという。子熊ちゃんことジャック・リッチーは映画のサウンドトラックをつくるために半年前からベルリンで暮らし、パブで働いていたロンドンとの違いをあれこれと噛み締めたものらしい。アルバム・タイトルの『Early Hours』というのは朝までクラブで遊び、そのあとの時間=午前中のこと。別な目で見た日常。もつれた日常や友だちと喧嘩して仲直りしたとか、そういう些細なことを歌詞にしたと本人は話している(基本的にはどうにでも取れるような書き方だという)。クラブからの朝帰りは確かに妙な体験である。同じ風景が同じ機能を果たしているようには思えない。牛丼屋が何のためにそこにあるのかもわからず、みんなで大笑いしてしまう(キマっているわけではありません)。会社に向かって行く人たちと逆方向に進んで行くことも、それだけでレッドピルを飲んだような気分になれた。誰かの家に転がり込んで、そのままグズグズと寝てしまうまでの時間。少しでも資本主義の外側に出た気分だろうか。

 デビュー・アルバムはジェームス・ブレイクの下手くそな模倣という印象だったものが(本人はベリアルやフライング・ロータスに影響を受けたそうだけど)、2年ぶりとなる新作は格段の成長を遂げている。リズムが全体にしっかりとしてきたというか、マック・デ・マルコがエレクトロニック化したといえば細野ファンなどの関心を引けるだろうか(引かなくていいんだけど)。オープニングからもの悲しくてテンポのいいタイトル曲。淡々としてクールな“Diversions”へと受け継がれ、日常の隙間に溶けていくような淡いメランコリーが持続する。ザ・XXを思わせる“Même Langue”から、まさかのゴムを取り入れた“Everyplace Is Life”。ブレイクでゆっくりと曲の叙情性にひたらせるあたりは前作にはなかったスキル。セイント・エティエンヌやヴァンパイア・ウイークエンドのファンもこれは納得だろう。スティール・パンを取り入れた”Overthinking”は「考えすぎ」というタイトル通り、内省的なラテン・ポップスで控えめなアレンジはもう職人技の域。短いインストゥルメンタルを挟んで“Rubicon Guava”ではシクスティーズを思わせつつペイル・ファンテインズがトラップやUKガラージを取り入れたような展開に……残りはお楽しみということで。最後の最後までとてもいい。


Marihiko Hara - ele-king

 今後のモダン・クラシカルを担う新世代のホープ、電子音やピアノ、フィールド・レコーディングを駆使する作曲家の原摩利彦、その最新作たる『PASSION』が本日6月5日、ついにリリースされている。
 発売に合わせ、原みずからがしたためたという収録曲それぞれにまつわるエッセイが公開されているのだけれど、穏やかな筆致でさまざまなエピソードが綴られていて、これがまた味わいのあるテキストなのです。1曲ごとに写真もあり、世界各地の風景やポール・クローデル『繻子の靴』など、アルバムを聴きながら想像力を膨らませるのにぴったり。

アルバム《PASSION》全曲によせる小文
 https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=11181

 また同時に、リリース記念ライヴの開催も発表されている。明日6月6日(土)20時より、原のインスタグラム・アカウントにて配信、トークもあるとのこと。

ライヴ配信はこちらから(6月6日20時~)
 https://www.instagram.com/marihikohara/

ピアノと電子音、世界各地の音が共存することで描かれる、新しい音世界
森山未來や坂本龍一、野田秀樹など各界のアーティストから称賛される音楽家、原 摩利彦。
最新作『PASSION』が本日リリース!

label: Beat Records
artist: 原 摩利彦
title: PASSION
release date: 2020.06.05 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-619 ¥2,400+税
購入特典:「Scott Walker - Farmer In The City (Covered by Marihiko Hara)」CDR

TRACKLISTING:
01. Passion
02. Fontana
03. Midi
04. Desierto
05. Nocturne
06. After Rain
07. Inscape
08. Desire
09. 65290
10. Vibe
11. Landkarte
12. Stella
13. Meridian
14. Confession
15. Via Muzio Clementi

【『PASSION』購入特典】
録り下ろしのスコット・ウォーカーの名曲 “Farmer In The City” カヴァー音源をプレゼント。

今作の購入特典に、このために原がアレンジし録り下 ろした、Scott Walker の名曲のカヴァー音源を収録したCDR「Scott Walker - Farmer In The City (Covered by Marihiko Hara)」が決定! 数量限定なので、お見逃しなく!

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