「KING」と一致するもの

interview with D.L - ele-king

MixCDFunkJazzHiphop

『FREEDOM JAZZ FUNK“Everything I Dig Gonna Be Funky”』
Track List
01. LES DEMERLE / A Day In The Life
02. PLACEBO / Balek
03. LES DEMERLE / Moondial
04. PLACEBO / Humpty Dumpty
05. PAUL HUMPHREY / Do The Buzzard
06. LEMURIA / Hunk Of Heaven
07. BILLY WOOTEN / Chicango (Chicago Land)
08. WENDELL HARRISON / Farewell To The Welfare
09. MANFREDO FEST / Arigo
10. LES DEMERLE / Underground
11. PLACEBO / Bolkwush
12. JAZZBERRY PATCH / Jazzberry Patch
13. SOUNDS OF THE CITY EXPERIENCE / Getting Down
14. MANFREDO FEST / Jungle Kitten
15. IVAN BOOGALOO JOE JONES / Confusion
16. LES DEMERLE / Aquarius
17. HOT CHOCOLATE / What You Want To Do
18. THE WOODEN GLASS featuring BILLY WOOTEN /Monkey Hips & Rice
19. BOBBY COLE / A Perfect Day
20. ROY PORTER SOUND MACHINE /Out On The Town Tonight

 いまやヒップホップのみならず、ファンクやレアグルーヴ、そして、和モノDJとしても活動し、ファンですらBuddha Brandとしての活動を忘れてしまうほどに、DJとしての圧倒的な存在感を見せつけているD.Lが老舗レーベル〈Pヴァイン〉と組んで、今冬、ミックスCD『FREEDOM JAZZ FUNK』をリリースした。「Everything I Dig Gonna Be Funky」=俺のディグったものすべてがファンキーになるとの副題のついたこのCDは、〈Pヴァイン〉が誇る極上の音源をミックスしたというだけにとどまらない、D.Lにしか生み出せない太くファンキーなグルーヴに溢れた特別なものに仕上がった。ヒップホップやレアグルーヴ、フリーソウルのリスナーにはおなじみの名曲たちがD.Lの手により、そのイメージを一新しかねないほどのサウンドを手に入れている。4月、その第2弾となる『FREEDOM JAZZ FUNK “Mellow Storm”』がリリースされるのを目前に、まずは“Everything I Dig Gonna Be Funky”と刻まれたこの驚くべきミックスCDについてじっくり話をきいた。

■D.L / ディー・エル
Illmatic Buddha M.C's、Buddha Brandのキーマンとして90年代の日本のヒップホップ・シーンに旋風を巻き起こす。2005年の改名以前はDev Large名義でMC、プロデューサー、DJ、執筆業など多岐にわたる分野で活躍。レコードディガーとしても定評があり、ヒップホップはもちろん、Soul、Funk、Jazz、Rock、日本の歌謡曲まで貪欲にレコード探求を続ける。

フリーダム・ジャズ・ファンクっていう言葉が浮かんできて、じゃこれで作ろうって感じになってって。

柳樂:まずこれはどういうコンセプトで作られたのかっていうところから、はじめてもいいですか。

D.L:気づいたら、こうなっていました。コンセプトは無かったんです。無かったっていうか、いろいろ緻密に、どういうのにしようか、こういう楽曲があるよ、こんなのもあるよみたいなことを言ってるときに、フリーダム・ジャズ・ファンクっていう言葉が浮かんできて、じゃこれで作ろうって感じになってって。曲ありきで、曲からいろいろこうイマジネーションが膨らんでった感じなんです。

柳樂:たとえば、キーとなる曲はどういう曲ですか?

D.L:もともとビリー・ウッテン(Billy Wooten)の“イン・ザ・レイン”を入れたかったんですよ。“イン・ザ・レイン”をいちばん最後に入れようみたいな感じで。でも、もうそれ無くなっちゃったんで、次の作品に入れると思うんですけど、このアルバムで言うとやっぱプラシーボ(Placebo)とレス・デマール(Les Demerle)、そうだな、そのへんが、すごく絶対入れたいものだなって。やっぱり最初の4、5曲めくらいの間に入れて、試聴機にかかったときにそこで引っかかるようなものになったらいいなと思ってたんです。

柳樂:プラシーボが3曲で、レス・デマールが4曲入ってますもんね。

D.L:そうなんです。この2組をピックアップしたかったんです。あとアイヴァン・ブーガルー・ジョー・ジョーンズ(Ivan Boogaloo Joe Jones)のこの“コンフュージョン(Confusion)”とか、ジャズベリー・パッチ(Jazzberry Patch)とか、そのへんのジャズ色が強いと思ってるんで。

柳樂:このミックスCDを何回も繰り返し聴いたんですけど、とくにびっくりしたのがレムリア(Lemuria)で、ぜんぜんイメージが違いますね。

D.L:あーそうですね、たしかに。

柳樂:D.L.さんの昔のインタヴューで「メロディアスで軽くないやつがいい」とかって、そういう軽くなくてファンキーでちょっと重いものが好きだみたいな話をされているんですよ。でも、レムリアって軽くてメロウな印象があったんですけど、ここに入っているレムリアはまったく印象が違ってて。だから、「こんなんだったっけ?」と思って何回も聴いたんですけど。プラシーボとかもそうですね。今回この並びで、このミックスでぜんぜん曲の印象が変わったのかなと。どういうイメージで作ったんですか?

D.L:最初から最後までだーっと行っちゃうのもおもしろくないので、2ヵ所か3ヵ所、パッと変えるところを作ろうと思って入れたのがレムリアと、マンフレッド・フェスト(Manfred Fest)。そこがすごい変わるところだったんですよね。あと、なんて言うのかな。これはあくまでも〈Pヴァイン〉が持ってるグレートな音楽の中で作った74分20曲っていう感じなんで、たぶんいつも出してる自分のミックスCDのときは、もっと究極にどういう音を出したいかっていうところで引っ張ってくるので、そういった意味でちょっとは違うかもしれないですね。もしかするとレムリアはこの選曲には、自分の『ゲットー・ファンク(Ghetto Funk)』シリーズだったら入らなかったかもしれない。
あと個人的に思ったのがやっぱり1曲目のこれ(“ア・デイ・イン・ザ・ライフ(A Day In The Life)”を死ぬほど聴いてたんですけど、具体的にこの作業に入るまで、作曲者がジョン・レノンとポール・マッカートニーだなんてぜんぜん知らなくて、これはすごいびっくりしましたね。たぶんそう思ってる人も多いんじゃないかな。まだ原曲は聴いてないんだけど、ジョン・レノンとポール・マッカートニーの。どういうものなのか。ただ、こっちのこればっかり聴いてるから、あの、たぶんわかんないだろうな、原曲聴いたとき。そんな気がしますね。

柳樂:ちなみに、このへんのレス・デマールとかプラシーボとかって、なんかサンプリングとかもされてるんですか?

D.L:自分は、してないです。

柳樂:ご自分でサンプリングネタとして使われる曲とかも入ってるんですか?

D.L:いや、あのね、いっつもそうなんですけど、なるべく使った後に入れるかなんかで、使おうと思ってるのは入れないときが多かったですね、いままで。〈ビクター〉で、前に2枚ほどやったのがあるけど、あれも使おうと思ってるのは入れなかったです。

柳樂:普段のDJで使う曲が多いですか?

D.L:ぜんぜん多いですね。都内でやるときはかけてます。最近は、地方に行くときは和モノの、頭のおかしいムード歌謡しかかけないで45分とか1時間半とかなんで。

柳樂:D.L.さんいま和モノですよね。このあいだディスクユニオンの和モノのセールで整理券1番だったらしいですね? 並んでるんだいまだにって思って。

D.L:でも、もっとすごい人たちがいますよ。DJじゃない、一般のおじさん。50いくつだって言ってたけど、ずーっと高校生のときに聴いてた昭和40何年の音楽を聴いてるって人。あそこ行きました? 新宿の昭和歌謡館(ディスクユニオン)。

これ、全部■■■■にしてるんですよ。

柳樂:行きましたよ。

D.L:異常ですよね。入った瞬間から。

柳樂:階段から異常ですよね。

D.L:うん、そうそう。

柳樂:いま和モノがいちばんやばいですもんね。

D.L:やばいですね。だからおれ和モノのコンピもやりたいんだよね。めちゃくちゃかっこいいのあるから。名盤解放同盟とか、〈Pヴァイン〉から出てたやつはCDも廃盤で高いんですよね。やりたいなぁ。

柳樂:ははは。僕もしばらくD.L=和モノっていうイメージがあったので、今回のジャズ・ファンクのミックスCDは逆に新鮮でしたね。

D.L:そうですね。こういうのも普通に聴くんですけどね。

柳樂:でもずっと和モノでまぁかなりプレイされて、けっこう長いじゃないですか。なんか和モノずっとかけてきて、逆にそれでこういうレアグルーヴの掛け方が変わったり、発見があったりみたいのってあります? ちょっと変わり種のジャズ・ファンクみたいなのも多いじゃないですか。プラシーボみたいなのも。

D.L:そうですね。

柳樂:そのへんって、カウント・バッファローズ感っていうか猪俣猛感っていうか、石川晶感っていうか。そういう普通のUSのジャズ・ファンクと違う感じのグルーヴみたいなものが、このミックスにはあるのかなっていうのを感じたんですよ。

D.L:たしかに、そうですね。プラシーボというよりも、マーク・ムーラン(Marc Moulin)とか変なのいっぱい入ってるじゃないですか。あっちから聴いてからプラシーボに行ったほうなんで、自分のDJではよくありがちなメインストリームのジャズ・ファンクとか70年代のUSモノじゃない感じは、モロしてましたね。そういった意味でカウント・バッファローズとかめちゃくちゃなことしてるから好きなんですけど、ある種似たものを感じていたと言えばそうですね。

柳樂:なんかその感じなのかわかんないですけど、ザラザラした感じっていうか、ちょっとアンダーグラウンド感って言ったら違うかもしれないですけど、すごい太くて尖った感じがあって。全体的に。

D.L:これ、そうとうやばいミックスしてるよね。もうほとんどヒップホップなんですよ。楽曲は全部ジャズだけど。あと、これ、全部■■■■にしてるんですよ。

柳樂:!?

D.L:●●●●した上で■■■■■ってて。だからよく言われるんですよ。なんか太いですよね、あんな太かったっけなぁって。

柳樂:なるほどね、なんか音がすごいなと……

D.L:いままでありがちだった作り方のミックスCDではないんですよ。なんでそうなったかっていうと、MUROのやつ聴いたんですけど、すごい良かったんで、自分のはもっとアンダーグラウンドにできないかなっていうのがあって。

柳樂:そうですよね。だから僕がいちばん聴きたかったのは、レムリアとボビー・コール(Bobby Cole)が、そんな曲じゃなかったじゃんっていうことなんですよ。ボビー・コールはなんか、こういうミックスCDに入る感じの曲じゃないじゃないですよね、どちらかというとフリー・ソウル系で、もうちょっとライトな、爽やかな。

D.L:そうですね。

柳樂:だけどすげー粗いし音も太いし、これどうなってんだろうって思って。どういうミキサーをどういじったらこうなるんだろうなって思って。

D.L:じつはそういう強い▲▲▲▲▲になってるんですよ。だいたいいままで『ゲットー・ファンク』みたいなミックスCD って3日かかったのはほとんどないんですよ。これは全部合わすと5日くらいいってるかな。

いままで『ゲットー・ファンク』みたいなミックスCD って3日かかったのはほとんどないんですよ。これは全部合わすと5日くらいいってるかな。

柳樂:でもいままでそんなやり方したことないですよね。『ゲットー・ファンク』とか『テキサス・デス・ロック(Texas Death Rock)』とかでも。

D.L:そうですね。毎回こんなすごいのできればいいんですけどね。でも悲しいのは、誰も知らないんですよ。こんなすごいことをやってるって。もしかしたら音がちょっと怪しいなって思ってても、まさかここまで絵を描いてこうなんだなって思う人はいないんで。

柳樂:すごいなぁ……

D.L:このCDに入っても入らなくてもいいんですけど、■■■■を作ってもらうときに、その■■■■が変わる瞬間に、前のDJがいて後ろの前のレコードをひねりつぶすくらいズドンとくるつくりにしてくださいと言うんですよ。だからその、どの状態でもどこに行っても、誰の順番の後でも先でも、あ、絶対この曲かかっちゃうと前の人がかわいそうだなとか後の人かっこつかないだろうなっていう作りにしてくれってよく言います。だから全曲そういう感じになってるんです、本当に。

柳樂:たとえばそれはどういうところだったりします?

D.L:太いとこですね。いちばん太いところさらに太く。ちょっと困っちゃうのは、実際たとえばプラシーボの“ハンプティ・ダンプティ(Humpty Dumpty)”、これとか、なんて言うのかな。■■■■のほうがすごい太すぎるので、アルバムで▽▽▽▽▽▽▽の方をかける前に俺のをかけちゃうと▽▽▽▽▽▽▽のほうがつぶれちゃう感じになっちゃうんですよ、すごすぎて。すごいイコライジングしてもなかなか合わないものになってしまってて、最近出た■■■■に対して、やりすぎると困っちゃうななんて。かけれなくなっちゃって。それはもう、また▽▽▽▽▽▽▽のやつを■■■■作ろうかななんて思ってるんですけどね。

柳樂:ちなみにこれまではどうしてたんですか?

D.L:まぁ普通にできる範囲でちょろっとイコライザーとかいじるくらいで、他にできることは無かったと思いますね。

柳樂:じゃあ本当にそれですごい変わったんですね。

D.L:そうですね。あの、たとえば、うーんどうだろうな。クボタタケシってわかります? あいつとか、あの、DJのときにCDも多用するんで、たとえば坪井くん(illicit tsuboi)が作った曲とかもいつもヘビー・ローテションで入ってて、ああいう感じでそういうプレイをする人は、自分で加工したものを自分リミックスでかけるんでしょうけど、俺はそういうのやらなかったから。DJ Krushとか(DJ シャドウの)“オルガン・ドナー(Organ Donor)”の、すごい、もうなんだろうな、空爆にあってしまったようなすごいドラムのやつかけてて、こういうのいいな、なんて昔思ってたんですけど、まぁ、ああいうのを、こんどはいいなって思うんじゃなくて■■■■でかけちゃおうかなとか思ってるんですけど、なんかそういうことができたらいいな。

細かく叩くとすごい埃が出てくる危ないミックスCDです。

柳樂:じゃあ、でもご自分でDJするときのためにリミックスとかはされない?

D.L:ぜんぜんしなかったですね。あ、でも、■■■■作って以降は、いろいろ出てないのをやってるんだけど。KrushさんがMUROとやってる、“チェイン・ギャング(Chain Gang)”って曲、■■■■にしたから、よくかけてますね。

柳樂:そっか、ずっとプレイは基本■■■■ですもんね。

D.L:そうですね。あとそうだな、もっと本当はね、ちゃんとグルーヴよりのものをやりたいって考えたときもあったんだけどね、なんて言うのかな。MUROがやったフリー・ソウルのやつにけっこうもう好きなのが入っちゃってて、何曲か、2曲くらい、被ってるのあるかもしれないけど、あまりに向こうと合うともう意味ないから、そういうのはあえてやめようって入れなかったんですけど。あれはもうすごいいい選曲で、むちゃくちゃ、さすがだよな……

柳樂:MUROさんを意識してたんですね(笑)。

D.L:普通に考えると、あのキング(・オブ・ディギン)が3枚出した後に俺がやると人気ないなで終わっちゃうのかも知れないけど。けっこう、もうすごいガチガチかっこいい曲入ってるから、MUROがやると。だからハチマキしましたね、心で。それで、こういうものができたって感じですね。買える人はこの時期タワーで買えるから、逃さないでくれと言いたいんですね。こういうのなかなか作らないと思うから。

柳樂:そうですよね。

D.L:細かく叩くとすごい埃が出てくる危ないミックスCDです。あ、それちょっとかっこいいね。

柳樂:ははは。ザラッとしててちょっとスモーキーな感じで。

D.L:はい、そういう感じもありつつ。買ったリスナーの方は自分で叩いて埃を出してくださいと。

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あのね、すごい好きなのはね、また〈グルーヴ・マーチャント〉ですけど、なんかいちばん最初に浮かぶのはいつもそれなんですけど、

D.L: そういえば、ぜんぜん話が違うんですけど、びっくりするくらいすごい女の子がいるんですよ、ヤマハのエレクトーン・コンクールに出た女の子が、ビリー・ウッテン(Billy Wooten)の曲を弾いたんですよ。ビリー・ウッテンがその子のすごいプレイをYoutubeで見て驚いたっていう。俺はこの子をプロデュースしたいなって思ったんですよね、連絡とって。ジャズの曲だけどヒップホップ的アレンジで何か足してって何かやりたいなと。

柳樂:これ、すごいっすね。

D.L:こんな女の子が。しかもこの曲だもんね。音なりだすと、凍っちゃうくらいすごい。

柳樂:上原ひろみだってヤマハのコンクールがはじまりですもんね。

D.L:この人と、なんかできないかな。

柳樂:それ最高じゃないですか。

D.L:連絡つかないかな。このYoutubeに上げてるのがたぶんお母さんなんですよね。アカウント名がそんな感じで。それでメール送ってみたんですけど、返事こないですね。見てないっぽいなと。

柳樂:ヴィジュアル的にもおもしろかったですもんね。エレクトーンだから、めっちゃ足踏んでるし。そもそもコンクールの雰囲気が、何も期待させない感じがいいですよね(笑)。

D.L:そう、逆にね、なんだよすごいじゃんって気になっちゃうもんね。まったく期待させないあの感じ。

柳樂:のど自慢大会で突然フリースタイルはじめるみたいな感じですもんね。突然何か起きちゃったみたいな感じで。これは、ここで呼びかけましょう!
ちなみになんか、ジャズで好きな曲を3つ挙げるとどんな感じですか?

D.L:あのね、すごい好きなのはね、また〈グルーヴ・マーチャント〉ですけど、なんかいちばん最初に浮かぶのはいつもそれなんですけど、あの、オドネル・リーヴィ(O'donel Levy)『ブリーディング・オブ・マインド(Breeding Of Mind)』に入ってる“ウィーヴ・オンリー・ジャスト・ビガン(We've Only Just Begun)”。ピート・ロックが使ってたけど、あれすごい好きですね。うーん、なんだろう、あ、ボビー・ハッチャーソン(Bobby Hutcherson) “レイン・エヴリィ・サーズデイ(Rain Every Thursday)”。ドーナツ盤が、めちゃくちゃ太いんですよ。70年代に出てるのにありえないくらい太くて、で昔からかけてたんですけど、これすごい好きですね。あとなんだろう。あれはもしかしたらジャズ・ファンク、ジャズじゃないかもしれないけど、“ザ・ダーケスト・オブ・ライト(The Darkest Of Light)”、“ラファイエット・アフロ・ロック・バンド(Lafayette Afro Rock Band)”の。すごい好きですね。

柳樂:やっぱヒップホップなセレクトですね。最近のジャズで好きなバンドいたりしますか?

D.L:そういえば、レコードで買ってそれいまだにかけてるんだけど、日本のジャズバンドで、ベースがすごい太くて、なんだっけな、あのグループ。大阪のグループで……4年くらい前に買ったんですよ。ヴィレッジヴァンガードの、イチオシみたいな感じでしたね。アナログは限定でネットで売ってて、普通のとこでは売ってなくてそこで買ったんだけど、それすごいかっこいいんですよね。

柳樂:Indigo Jam Unit(インディゴ・ジャム・ユニット)?

D.L:そう。かっこいいんですよ。ベースが効いててすごいかっこいい音してて。一回観に行きたいなって思ってるんだけどね。

柳樂:Indigo Jam Unitって、年齢的には普通にBUDDHA BRANDとか聴いてたりしそうですよね。

D.L:そうなんですかね。

柳樂:たぶん。僕もそうですけど、世代的に先にヒップホップがあってからジャズじゃないですか。たとえば、アメリカのジャズ・ミュージシャンでもいまはピート・ロックが好きとか、もうそういうやつらばっかりで。

D.L:あ、そうなんだ。

柳樂:ロバート・グラスパーとかだと、「いまのジャズ・ミュージシャンにどういう音楽聴けばいいかレコメンドしてくれ」って言うと、「J・ディラ全部と、スラム・ヴィレッジ!」とかそんな感じ。みんなヒップホップを子どもの頃に聴いてて、で大人になってから学校行ってジャズ勉強して、でそのあとジャズやりながらヒップホップっぽい音楽もやってるみたいなやつがすごい多くて。たぶん日本だったら、リスナーとしてMUROさんとかD.LさんとかのそういうミックスCDも聴いてて、いまはジャズもやって、みたいなそういう人、絶対多いですよ。黒田卓也さんって世界的なトランペッターがいるんですけど、彼はDJスピナがすごい好きで、とりあえずアメリカ行ったときに、ニューヨークで、スピナのイベントがあったから行ったとか言ってましたよ。

D.L:そうなんだ。みんな影響うけてるんですね、ヒップホップに。

柳樂:だからジャズ・ミュージシャンとかで人間発電所聴いてましたとか、自分でアルバム作って最後にD.Lリミックス入れたりとかそういうやつ絶対いますよ。

D.L: 機会があればやりたいなぁ。

柳樂:しかし、Indigo Jam Unitとかも普通にチェックしてるのが、すごいっす。

ロックは10年以上ずっと、いつかこの俺がデスロックって呼んでるジャンルをフリー・ソウルみたいにしてやるって思ってたんですよ。

D.L:ヴィレッジヴァンガードに行って、あれ、なんだこのベースって言って、ちょっと待ってってずーと聴いてて、あ、もうやばい買ってくって言って。最初、しょうがないからCD買ったんですよ。それで、読んだら郵便でレコード買えるって言うんで、なんだそっちも買うハメになるじゃないかよって言ってる間に買って、CDはもうあんまり聴いてないんですけど、レコードばっかり聴いて。両方買っちゃいました。

柳樂:どん欲だなぁ。和モノとファンク以外だとどういうの買います? いまだにいろんなジャンル買う感じですか?

D.L:買います。でもね、昔は「曲作ろう」と思って買ってたんで、このエレピのこの音が好きとかこのドラムが好きとかそういう感じで買ってたんで、そういう使わないレコードがどんどん増えてって、これはドラムのハコ、これはベースのハコ、これはシンセのハコって、ぜんぜん曲なんて作りやしないから、もうそういう買い方やめよっかなって。作ろうと思えばすごいの作れるんだけど、出すタイミングが時代が変わってきちゃって、90年代頭とか、いま買っとけば、あとで曲出してリクープできるとか思ってたけど、もう絶対できないんで。だから、うーんダメだなぁってなってきちゃって。

柳樂:それ、やばいネタだけ貯まってるっていうことですか?

D.L:うーんそうなんだよね。ぜんぜん使わなくなっちゃってるからね。いちばんそれで使わなくなっちゃっててやばくてやろうとしてるのが、ロックですね。もうロックは10年以上ずっと、いつかこの俺がデスロックって呼んでるジャンルをフリー・ソウルみたいにしてやるって思ってたんですよ。キーボードがよく聴こえるとか、ブレイクが多めとか、ファンキーに聴こえるとか、そういうのデスロックって呼んじゃってます。

柳樂:そっか、ロックのミックスCD出してますもんね。

D.L:あ、そういえば、俺、メタルのDJもやるんですよ。

柳樂:マジっすか。それは、どういう……?

D.L:それはね、年に2回か3回やってる……。

柳樂:どこでやるんですか。

D.L:〈Organ Bar〉です。

柳樂:へー。

D.L:クボタタケシもいっしょに回してますね、メタルを。あと近藤くんっていうデザイナーの。BB、えーとブラックベルトジョーンズDCっていうんですけど。BBJDCかな。あと、ファンクのDJの黒田さん。黒田さんは、ドーナツ盤でメタルを集めてるんですよ。だからドーナツ盤でメタルをかけるの。

メタルはメタルのマナーに則ってメタルの人になりきって当時の熱さを思い出すみたいなのじゃないと意味ないんで。

柳樂:メタルは何が好きなんですか。

D.L:俺が担当するのは、ジャパニーズ・メタルの時間って感じで、Loudness(ラウドネス)とか44 Magnum(44マグナム)とかEarthshaker(アースシェイカー)とか、いろんなそういう、恥ずかしいものをかけるのが大好きなんですよ。

柳樂:それを、ヒップホップっぽい感じで繋ぐんですか?

D.L:いやクボタはね、すごいヒップホップっぽくかけるんですよ。ビッグビート2枚がけとか。そういうのつまんないから俺は違うんですけどね。メタルはメタルのマナーに則ってメタルの人になりきって当時の熱さを思い出すみたいなのじゃないと意味ないんで。

柳樂:メタル・マナーのDJってどういうスタイルなんですか。

D.L:いや、高校くらいのときは、藤沢のギター・クリニック・スクールに44 Magnumの人が来てて、そのギターを観に行ったりしてた頃の視線でかけますね。その頃の視点でディープ・パープルをかけるとか、オジー・オズボーンをかけるとか、そういう感じですね。

柳樂:やっぱギターを大事にする感じで。

D.L:そうですね。

柳樂:そこやっぱ太いとかじゃないんですね。

D.L:違いますね。うるさいって感じですね。ギターをうるさく。

柳樂:ラウドな感じで。

D.L:そうですね、そうなんですよ。ほんとみんなそこですね。黒田さんもそうなんだけど、高校くらい……ヘビメタ・ブームだったときに、聴いてたメタルを俺たちがかけるみたいな感じで。30年振りにみたいな。

柳樂:メタルはメタル・マナーでかけるって発言やばいですね。かっこいい。

D.L:ダメなんだよ、メタルなのにヒップホップ的にかけちゃうのって。トリックとかやっちゃうんだよ、メタルで。ガーチキチキ、ガーチキチキとか。ぜんぜんダメで。そういうのはやっちゃダメなの。すごい上手くても、ヒップホップを通った人がやるメタルと違うんで。ヒップホップが無かった頃から最初にメタル聴いてた人たちは。

“ウォーク・ディス・ウェイ”とか。なんだろね、偽物っぽく聴こえてた。どっちかっていうと“ロック・ボックス”のほうがもっとロックだった。

柳樂:やっぱもとは当時普通に流行ってたメタルとかがお好きで?

D.L:そうですね。トップ40系から入ってメタル行って。アメリカ行って最初に、アメリカン・トップ40とかヘビメタが流行ってましたね。LAメタルとか。それが93年、4年くらいで、その時にもうランDMCの“サッカー・M.C.’s(Sucker M.C.'s)”とか出ちゃったから、並行して聴くようになって、それ以降、そっちばっか聴くようになって。だからメタルのほうが先でしたね、じつは。

柳樂:そういう話を聞くと、“ウォーク・ディス・ウェイ(Walk This Way)”でエアロスミスとランDMCが共演した時代のことも納得できますよね。

D.L:そうですね。あの頃はぜんぜんよく聴こえなかったんですけど、“ウォーク・ディス・ウェイ”とか。なんだろね、偽物っぽく聴こえてた。どっちかっていうと“ロック・ボックス”のほうがもっとロックだった。エディ・マルティネス(Eddie Martinez)のギターのソロが入ってて。あれはロックだと思ったけど。ビースティ・ボーイズがきて、なんかアリだなって思いましたね。レッド・ツェッペリン使ってたり。あと“ファイト・フォー・ユア・ライト(Fight For Your Right)”。どっちかっていうとロックの曲に聴こえちゃった、ラップの曲よりも。あれがすごい開いた感じですよね。

柳樂:やっぱビースティってけっこう衝撃的だったんですね。

D.L:もうニューヨークにいて、白人と思えないくらいレッド・アラート(DJ Red Alert)もみんなかけてましたね。あれはたぶん、ラッシュの力でしょうけど。ランDMCとマンツーマンでライブをやらせたり、ラジオとかも回ってたみたいだから、すごい、“ホールド・イット・ナウ、ヒット・イット(Hold It Now, Hit It)”っていう曲があるでしょ。「ホールドナウホールドナウ」っていう。あれがもう、ランDMCの“ヒット・イット・ラン(Hit It Run)”と“ホールド・イット・ナウ”が、五分五分のタイミングで必ずローテションで組まれてて、すごい流行ってましたね。『レイジング・ヘル(Raising Hell)』もすごい売れてたけど、だんだんビースティの『ライセンスト・トゥ・イル(Licensed To Ill)』のほうがすごい人気になっちゃって。でも、俺たちはそのへんの曲にはあんま反応しなくて、俺たちが反応してたのは、“スロウ・アンド・ロウ(Slow And Low)”でしたね。たぶん80くらいしかないピッチの。ウォーーーっていう、「let it go, let yourself go」っていうあのやつですね。あれをラジオだとWBSより、Kiss FMよりもっとちっちゃいWNEWっていう小さいラジオ局があって、そこのGhetto DJみたいなやつがいて、ナイス&スムース(Nice & Smooth)のアルバムをプロデュースしたオウサム2(Awesome 2)なんですけど、そいつらがかけてるすごい人気ないラジオ番組があって、夜中2時からやってて、そこでそれがかかってて、それを毎週みんなチェックしてたんですよ。ビースティはそっちだなって感じでやってて。

柳樂:小さい番組はやっぱりそういうディープな曲を。

D.L:そうなんですよ。あともう1つ、DNA&ハンクラヴっていうDJの番組があって。そっちはね、ウルトラ・マグネティックMC’s(Ultramagnetic MC's)のいちばん最初のシングルをリリースしてる会社をやってたんですよ、DNAインターナショナルって。そこでは、「あのpeter piper picked papersって言ってる曲聴いたか、あんなのワックだぜ」ってランDMCの“ピーター・パイパー(Peter Piper)”をディスってる曲があって、それをかけてて。自分たちもそのほうがかっこいいなって思ってて、でも世の中はもう間違いなくランDMCを推してるんですよ。確実にランDMCが8:2くらいで優勢なんだけど、その2くらいのもわもわってしてる人たちはそっちのラジオを聴いて、絶対いいこっちのほうがいいって言ってた、そんな感じでしたね。

〈プロファイル〉が実際とてつもない、〈デフジャム〉なんかよりビッグなレーベルだったって知らないと思うんですよね。

柳樂:その頃いちばん好きなヒップホップって何でした?

D.L:ヒップホップで、なにかな。〈プロファイル(Profile)〉がすごい流行ってたんですよ。プロファイルっていうレーベル。だから〈プロファイル〉系のものはすごい好きでしたね。ぜんぜん流行ってなかったけど俺が好きだったのはドクター・ジキル&ミスター・ハイド(Dr.Jeckyll & Mr.Hyde)の“ファースト・ライフ(First Life)”って曲とか、あとディスコ・フォー(Disco Four)。ディスコ・フォーはね、何のため、why、was I born、nah mean、ガキの頃からのクエスション、なんだっけなあの曲。それで使ってる曲なんだけど、“ザ・キング・オブ・ヒップホップ(The King Of Hip Hop)”って曲。〈プロファイル〉ばっかり聴いてましたね。

柳樂:D.Lさんに〈プロファイル〉のイメージってあんまないですね。

D.L:あの、なんて言うのかな。いま日本にいる人、あの頃18くらいだった人はいま40いくつだろうけど、そのときニューヨークに住んでなかったんで、たぶん、〈プロファイル〉が実際とてつもない、〈デフジャム〉なんかよりビッグなレーベルだったって知らないと思うんですよね。すごい、毎週ラジオからかかる新曲のやばいのって〈プロファイル〉だったんで。渋谷の、いまもうなくなっちゃったけど、駅降りるとフリーマーケットみたいになってたんですよ、昔。そこでニューヨークのラジオを誰かがたぶん送って、それを日本でダビングして売ってたんですよ。今日はWBS、来週はKissのとか、日付違いで、けっこう何十本もあって、わけのわかんない人がやってたんですよ。そういうので聴いてたら多少はわかるけど、そういうので聴いてなかったらほとんど入らないから、〈プロファイル〉がすごい流行ってたのはたぶん知らないと思うんですよね。〈スリーピング・バッグ(Sleeping Bag)〉とかもすごい流行ってたし、ジャンパー作るくらい流行ってたし、なんて言うのかな、その時期そのタイミングで、ピークだったように見えるレーベルっていっぱいあるんですよね。〈ワイルド・ピッチ(Wild Pitch)〉もそうだし。

柳樂:へー。

D.L:これあの、ぜんぜんこの話と違うんだけど、ウルトラマグネティックMC’sの〈ワイルド・ピッチ〉の“トゥー・ブラザーズ・ウィズ・チェックス(Two Brothers With Checks)”のときに、日本におれ、ウルトラ呼ぼうと思って仲良くなってて、そのビデオの中に出てるんですよ。野球やるシーンで、〈ワイルド・ピッチ〉の社長と奥さんと息子と。で、1人足りなかったんでおれが入って、ホームベースのところで、一塁はこの人、二塁はこの人、三塁はこの人、ホームベースはこの人みたいな感じで、そこで野球っぽいことをやってるシーンがあるんだけど、そういうのちょっと出てる。
まぁ、いま何を言おうとしたかって言うと、〈ワイルド・ピッチ〉もいまもう無いし、本当にあったのってくらい誰も覚えてない、何でもないレーベルなんですけど、当時は、あの、宣伝にTシャツを作って配ってたり、宣伝用のレコードジャケットのサイズの段ボールを道路脇の柱にホッチキスで止めたりして、ビギーの宣伝だぜみたいにやったり、ストリート・プロモーションみたいなことやってたんですよ。で、俺たちみたいなのは、それを剥がして持って帰っちゃうみたいな(笑)。日本ではレーベルもあんまそういうことやんないなって帰ってから思ったけど、あっちではしょっちゅうやってましたね。
ステッカーがあとすごいいっぱいあって、もう、もちろんそれはもう〈ワイルド・ピッチ〉も〈プロファイル〉も〈デフジャム〉もどこでもそうなんだけど、なんで12インチの宣伝ごときにこんな2パターンも3パターンもステッカー作っちゃうのかなって、わけんねーなってくらいいろんなステッカーを貼って、流行ってない頃から貼っちゃって、あたかもすごい流行ってるって勘違いさせながらラジオですごいプッシュするんで、それがすごい蔓延してく……みたいなやり方とか。(O.C.の)“タイムズ・アップ(Time's Up)”のときのステッカーもそうだけど──こういうなんか、手のやつなんですけど、それなんか流行る前からいろんなとこに貼ってあって、何なんだろうこれ「タイムズ・アップ」、時間だぜみたいなタイトルで何なんだろ何なんだろと思ってたらぐあーっと来て。そういうのやってましたね。すごいお金かけて、それがプロモーションになるのかわかんないけどやっちゃってましたね。

12インチの宣伝ごときにこんな2パターンも3パターンもステッカー作っちゃうのかなって、わけんねーなってくらいいろんなステッカーを貼って、

あと、渋谷のシスコの、当時プロモでがんがん売れるからどんどんプロモの12インチをとってくれとってくれってきてて、シスコのレコード送る担当やってたんだけど、当時のマンハッタンとかブルックリンとかクイーンズに、その街の、まぁなんて言うのかな、プロモ盤を一挙に握ってるような、怪しいガキとかが一杯いて、そいつらから2ドル50とかでプロ盤買えるんですけど、「4枚しか売っちゃダメだって言われてるから4枚しか売れないよ」って言ってるやつに「倍の5ドル出すから倍の10枚くれ」って言うとそいつらも金がないから「お前に売るけど内緒だぞ」みたいな感じで10枚くらい売ってくれるんですよ。でそれをシスコで日本に送って、クボタが日本で受け取ってニューヨークは俺がやるみたいな感じでずっとやってた時期があったんだけど、そういう感じで、お金を持ってるから日本人に売っちゃうっていうのはあんまりよくないけど、実際イギリス人と日本人しかがっつり買わなかったから、日本に流れた当時のプロモ盤っていうのはそういうふうにやってたんですよね。でそういうふうにプロモ盤をいっぱい持ってる彼らは、レコードも持ってるけど、そいつの家とかに行くとそれといっしょにステッカーを束でいっぱい持ってたんですよね、いろんなタイプの。それももらって日本に送っちゃってたんですけど、なんかね、プロモのやり方とか、昔はそんな感じだったんですよね。

柳樂:すげーなんかストリートの、地道なっていうか。

ある日、レコードを買いに行ってそのあと歩いてたらクール・キース(Kool Keith)がいて、電柱に登ってて、ウルトラ・マグネティックって書いてあるステッカーを貼ってて……一生懸命。

D.L:うん、本当そうだったね。もうストリートの地道のどうのこうのって話でいちばん狂ってるのが、ニューヨークで、ジャマイカ・アヴェニューっていうところがあって、クイーンズの。まぁジャマイカ人がけっこういてジャマイカの風俗とかもあったからそこはジャマイカ・アヴェニューって感じで呼んでたんだけど、そこである日、レコードを買いに行ってそのあと歩いてたらクール・キース(Kool Keith)がいて、電柱に登ってて、ウルトラ・マグネティックって書いてあるステッカーを貼ってて……一生懸命。何やってんだって言ったら、お前ジャパニーズだなって下りてきて、ぜんぜん面識ないのに「お前と俺はこうやってステッカー貼ってるときに会うから、女紹介してくれ」みたいな、すごすぎて(笑)。最初にクール・キースと話したのはそれだったんだよね。で、実際あの、“トゥー・ブラザーズ・ウィズ・チェックス”のビデオのときに、当時の、まだ誰も知らなかったウエダカオリと、●●の彼女だった人ふたりを連れてったんで、よく見るとライヴのシーンで日本人の女が二人いる。よく見るとカオリちゃんと、チッチっていう……。

柳樂:カオリちゃん?

D.L:DJ Kaoriです。日本人の女よんでくれって言われたから。そうそう。

柳樂:マジで。クール・キースが電柱登ってたってのもやばいですね。

D.L:登ってたし、他の、普通のプロモーションをやる子どもたちがステッカーを貼るかのように自分もやってたみたいな感じで。すごいですよ。そんなもんだったんですよね。やつらもきっと契約金とかもぽーんと入るんだろうけどすぐ使っちゃってぜんぜんお金なくなるから自分でそういうことやってるって感じで。

柳樂:へーすげー。そっちにいないと本当そんなのわかんないですもんね。

D.L:そうですね。

柳樂:すごいアンダーグラウンドだったんですね。

D.L:そうですね。そのビデオのときに、結局そのカットすごすぎて写んなかったんだけど、クール・キースがシマウマ柄の超ハイレグみたいになってる怪しいパンツはいて、背中にピンク色の空気ボンベみたいのしょってて、裸で変な帽子かぶって、すごい感じで出てきてライヴとかやったんだけど、あんまりかっこよくなかったんだよ、正直。で、そこカットされてたね。もう、ウルトラのメンバーもみんな凍っちゃってて。1人だけ、やっぱ狂ってるんだよね。

柳樂:狂ってますね

D.L:もうね、クール・キースはベルヴューっていう精神病院に入院してた時期があったり、頭おかしい時期があったんですよ。でも、日本に来たときも頭すげー悪くて。BUDDHA BRANDでクール・キースのオープニングみたいなライヴやったときが1回あって。ロックバンドの54-71のバックの演奏になぜかクール・キースが入るみたいなアルバムが出てて。そのときに、ポルノ映画ほしいから、ポルノ買いに行こうって言われて、それは付き合わなかったんだけど、子どもがミニカーを欲しいって言ってるから連れてってくれっていうんで中野のまんだらけに行ったんです。その時に、3000円くらいの、べつにそんな高くないミニカーをずーーっと30分くらい眺めててずーーっとなんか言ってて「これを買ってってやらないと、俺のポルノのお土産はけっこうあるから子どもに何も買ってかないと怒るから、買ってってやりたいけど俺はもっとポルノを買いたいからこれを買う自信はないなぁ」とかずっと言ってんだよ独り言。で、また買わずに他のとこぐるって回ってまたそこ戻ってまたこうやってこれを買わないとどーのこーのって、結局買わないで帰ったんだけど(笑)。やっぱ変態なんだよね。自分のポルノのお土産はけっこう買ってったのに、子ども用のお土産は結局買わなかったんだよ。

柳樂:狂ってますね

D.L:もっとすごいのがね、楽屋で俺と話してるときに、白人のアメリカ人の女がここにクール・キースいるからってのを聞きつけて楽屋に来て。俺はクール・キースと真剣な話してたんだけど、女が横に来てハーイって言いはじめたら、こっちで話してるのに、もう顔はほとんど女のほうばっか向いてて、だんだん話がつじつまが合わなくなってきて、もういつの間にか横に女が座ってきちゃって、もういいやインタヴューみたいな感じになっちゃって、いやインタヴューじゃないや、このビジネスのトークはまた今度にしよう、明日でもいいから。こっちが忙しくなったから、こっちでちょっと話するからみたいな感じになっちゃって。めちゃくちゃでしょ、これやっぱ変わってないな、昔のあーゆー感じで、色気違いだなって感じで……

***********************

気づけば予定の時刻を超過していた。ミックスCDの話から、メタルDJ、そしてネットで見つけた新たな才能、アメリカでのヒップホップのプロモーションや親交のあったクール・キースの話まで、振れ幅の広い、ディープな話の連続だった。ちなみにここに掲載できた話題は半分にも満たない。いま、D.Lがとてつもなく危険なDJになっていることを我々の手ではここまでしかお伝えすることはできない。もし、そのさらなる答えが知りたければ、D.LのDJの現場に足を運んでほしい。そこにはファンク/レアグルーヴを自分の流儀でプレイするDJの究極の姿を見ることができるはずだ。

interview with Purity Ring - ele-king


Another Eternity - Purity Ring

ElectronicR&BDream Pop

Tower HMV Amazon iTunes

 デビュー・アルバムがリリースされ、フェス出演のためにはじめて来日したとき、彼らは近所の若い人か職場の後輩のような親しみやすさと素朴さをあふれさせていて、コリン・ロディックは「この服はミーガンの手作りなんだ」と黄色いズボンを示してみせた。このふたりがこの後〈フジロック(FUJI ROCK FESTIVAL)〉のステージに立つなど想像できない──つねにツアーの途上、というようなUSのインディ・アーティストたちのような活動とも異なり、本ユニットにおいてはベッドルームがとつぜんステージに直結してしまったというようなピュリティ・リングのたたずまいには、当時のドリーム・ポップの盛り上がりや、あるいはインターネットを前提とした音楽コミュニケーションを象徴するようなところがあった。

 ピュリティ・リング。カナダの男女デュオ。ネットで公開した音源が話題を集め、2012年に名門〈4AD〉からフル・アルバム『シュラインズ』をリリース。その後はレディ・ガガのオフィシャル・リミックスなど活動の幅が大きく広がった。同じくカナダのプロデューサーで〈4AD〉のレーベル・メイトでもあるグライムス(Grimes)にやや遅れるかたちで、しかしチルウェイヴやシューゲイズなど新しいサイケデリック・ミュージックの盛り上がりともシンクロしながら、同レーベルがふたたび輝いた時代を体現したユニットだ。
 それから約3年、今回取材に応じてくれたコリンの回答からは、純朴さや音楽に対する生真面目さは残しながらも、少しタフになった印象を受ける。新譜もまさにそんな印象だ。経験値の上がった無垢をどのように評価するか筆者には悩ましいところだが、『アナザー・エタニティ(Another Eternity)』はより多くの人に聴かれることになるだろう。

■Purity Ring / ピュリティ・リング
コリン・ロディック (Corin Roddick) とミーガン・ジェイムズ (Megan James)、カナダはハリファックス/モントリオールを拠点に活動する男女デュオ。ゴブル・ゴブル(現ボーン・ゴールド)のドラムとヴォーカルとして活動し、のちに独立して曲作りをはじめる。11年1月にインターネットで発表した音源が世界的な注目を浴び、英老舗レーベル〈4AD〉と契約、2012年7月『シュラインズ』で世界デビューを果たし、フジロック'12に出演のため初来日。ダニー・ブラウンやジョン・ホプキンスとの共演や、レディー・ガガの楽曲のオフィシャル・リミックスを行うなど精力的に活動。2015年3月にセカンド・アルバム『アナザー・エタニティ』がリリースされた。


俺もミーガンも映画を見たり本を読んだりはよくするし、テレビ・ゲームもする。あと、音楽を作る環境もよく変える(笑)。

ぐっとR&B色が強まりましたね。これは誰のアイディアなのでしょう?

コリン・ロディック(以下コリン):自分ではそんなこと考えなかったからさっぱり(笑)。最初のアルバムも、ドラムやプログラミング、使ったリズムのタイプとか、ヒップホップの要素はたくさんあったと思う。それとまったく同じリズムを使ったわけではないけど、今回のアルバムでもそういったリズムを使ってるから、そこかな? ニュー・アルバムではサウンドがもっとクリアになっているから、ヒップホップやR&Bの要素が前回よりもわかりやすくなっているんだと思う。自ら意識してR&B色を強めようとしたわけではないんだ。

あなたはもともとR&Bが好きでもあるんですよね。

コリン:そう。いろいろなタイプの音楽が好きだけど、その中でもR&Bはたくさん聴くよ。

その中でも自分の原点にあるような音楽とは?

コリン:うーん……難しい質問だな(苦笑)。パッとは思いつかないけど、お気に入りはジャネット・ジャクソン。だけってわけではないけど、彼女は王道だと思うし、素晴らしい作品をたくさん持ったアーティストだと思うから。

では次は、最近のR&Bで気になるものを教えてください。

コリン:そうだな……、アリアナ・グランデ(Ariana Grande)のアルバムはいいと思った。前よりもポップになってはいたけど、まだまだR&Bだと思うし、去年の俺のお気に入りのアルバムのひとつ。今年はいいR&Bのアルバムがもっとたくさん出てくるんじゃないかな。

また、とくに今作についてつよい影響を与えるような体験や音楽、表現などはありましたか?

コリン:俺もミーガンも映画を見たり本を読んだりはよくするし、テレビ・ゲームもする。あと、音楽を作る環境もよく変える(笑)。だから、そういったいろいろなものから影響や刺激を自然と受けてるんだ。どうやってかはわからないけど、そのすべてが自然と自分たちの音楽に入ってくる。この音楽とかこの映画とか、ピンポイントでこれっていうのは説明できないけどね。意識はけっしてしてなくて、そういった日々のまわりにあるものが、自分の脳というフィルターを通して音に出てくるんだよ。

レディ・ガガのリミックスは、ガガさん本人があなたたちの音楽を気に入られたからですよね? 

コリン:ははは(笑)。そう思いたいけどね。俺たちのリミックスを気に入ったっていうのは実際に聴いたけど。あの経験はクールだった。リミックスのオファーが来たのは光栄だった。彼女は尊敬すべきアーティストだし、おもしろい音楽をたくさん作ってる。関わることができてハッピーだったね。

あなたたちのドリーミーで抽象的な音と、レディ・ガガさんのある意味では直接的な表現や音では、真逆ともいえる性質を持っていると思いますが、彼女の音楽を料理するにあたってどんなことを考えましたか?

コリン:俺のアプローチは、とにかく彼女のヴォーカルだけはキープして、そのまわりのものを剥ぎ取っていくというやり方だった。そこからまた自分で曲を再構築していきたいと思ったんだ。リミックスというより、自分のオリジナル・ヴァージョンを作る、みたいな感じ。新曲を作るみたいにね。それだけは取り掛かる前から決めていた。DJがプレイしたいような作品とか、普通のリミックスとか、そんなのはぜんぜん頭になかったんだ。だからあのリミックスは、レディ・ガガの作品にも聴こえるし、ピュリティ・リングのトラックにも聴こえると思う。

ご自分たちにはどんなことが求められていると思いましたか?

コリン:ぜんぜんわからなかった。何も言われなかったし、頼まれたってことは俺たちの音楽を気に入ってくれてるからなのかなってことくらいしかわからなかったね。彼女の音楽と俺たちの音楽に何か通じるものがあったのかもしれないし。いま振り返るとおもしろいな。あのリミックスをやったのは、『シュラインズ(Shrines)』(2012年、ファースト・アルバム)を完成させて、『アナザー・エタニティー(Another Eternity)』を作る前、つまりその二つの作品の中間地点だった。『シュラインズ』のサウンドには戻りたくないけど、同時にどんなサウンドを作りたいのかもわからないっていう、変な時期だったんだよね。自分の中で、いろいろと模索している時期だったんだ。

レディ・ガガの音楽は聴きます?

コリン:彼女の音楽は好きだよ。全曲ってわけではないけど。これはポップ・スター全員に言えることだと思う。いいヒットもあるし、あまり魅力的ではない曲もある。レディ・ガガのようなビッグなポップ・スターたちは、本当にたくさんの人たちと作業しているから、音楽がアルバムごとに、もっと言えばアルバムの中の曲ごとに変わってくる。サウンドの形が、誰と作業するかで変化するんだよね。だから、自分好みの曲とそうでないものが出てくるんだけど、俺自身が好きな彼女の曲は何度も聴いてるよ。

ジョン・ホプキンスとのコラボレーションもありました。こうした他のアーティストたちとの仕事や関わりは、あなたたちの存在感ばかりでなく、音にも影響を及ぼしたのではないかと思いますが、いかがでしょう?

コリン:ジョン・ホプキンスに関しては、最初に彼と仕事したのは『シュラインズ』の中の“Saltkin”っていう曲。あの曲のミックスをやっていたときに困ってしまって、彼に連絡をとって協力を頼んだら、彼も興味をもってくれていたからお願いすることにした。だから、あの曲だけが『シュラインズ』の中で自分がミックスしなかった曲なんだ。彼はあの曲におもしろい要素を加えてくれた。だからそこから彼と近くなって、またいっしょにやろうということになったんだ。ショーもいくつかいっしょにやったし、リミックスもしてくれたし、ミーガンも彼の曲で歌ったりして、彼とはけっこう関わってる。彼と俺たちっていうのは、クールなコンビネーションだと思うんだよね。彼のサウンドへの取り組み方は自分たちに合ってるし、これからも彼といろいろ作業していきたいと思ってる。彼は確実に俺たちのお気に入りのアーティストだし、メロディとサウンドデザイン両方で素晴らしい才能を持ったアーティストだから。

中にはインディをジャンルだと思ってる人もいるみたいだけど、俺はインディっていうサウンドはないと思う。サウンドはサウンドだから。

また、かつてふたりで小さな空間で作っていたような音楽といまの音楽の間にどのような差を感じますか?

コリン:どうだろう……。音楽がどこから来てるかっていう根本は変わらないと思う。前はベッドルームで、いまはビッグなスタジオで他のアーティストたちと共演したりしているけど、俺たちにとっては全部同じに感じるんだよね。サウンドがいまと昔でちがうのは当たり前だと思うし。アーティストとして自分たち自身も成長するし、自分たちをさまざまなやり方でより表現できるようになる。でも、結局それがどこから出てきているかっていうのは変わらないんだ。ファーストとセカンドでサウンドがちがっていたとしても、どちらが良くてどちらが良くないとか、そういうことは思わない。それは、自然な変化だと思うから。

「インディらしさ」というものをどんなものだと考えますか?

コリン:それは難しい質問だね。インディ=インディペンデントだから、やっぱり誰の力も借りず、全部自分たちでやるっていうことじゃない(笑)? そういう意味では、俺たちはインディじゃないと思う。レーベルもマネージャーもいるからね。俺たちのためにがんばってくれているチームがいるし、たくさんの人たちに協力してもらってるから。その中でも自分たちのやりたいことはやらせてもらっているけどね。でもおもしろいのは、俺たちのレーベルはメジャー・レーベルと見なされていないし、俺たちもインディ・アーティストと思われてるということ。でも俺自身は、自分たちをインディ・アーティストだとは思ってない(笑)。結局、あまりちがいはないんだと思うよ。中にはインディをジャンルだと思ってる人もいるみたいだけど、俺はインディっていうサウンドはないと思う。サウンドはサウンドだから。世の中には、本当に自分たちだけで何でもやっている真のインディ・アーティストもいるよね。俺が最初にバンドにいたときは、全部自分たちでやっていたから、当時は自分たちをインディ・アーティストって言ってた。でも、言葉そのものの意味を考えたらもうちがう(笑)。インディやメジャーかなんて、いまの時代誰も気にしてないんじゃない(笑)?

以前〈フジロック・フェスティヴァル〉で来日されたときは、手製のランタン型のシンセサイザーのようなものを使用されていたと思うのですが、そうしたD.I.Y.な方法は今作に何か反映されていますか?

コリン:DIYはつねに可能だと思うし、大切だと思う。前の『シュラインズ』のライヴ・ショーでは、照明とかカスタム楽器とか、すべてを自分たちで作った。あのランタンもそう。オンラインでオーダーして自分で作ったんだ(笑)。あれはかなりやりがいがあった。当時は自分たちしかいなかったからね。そういったDIY精神はつねに大切。いまはニュー・アルバムのショーを構成しているところなんだけど、ビッグ・スケールだから他の人たちにも手伝ってもらってるんだ。以前よりも忙しいのと、スケールが大きいぶん、自分たちよりもスキルがある人に任せたくて。それでもDIY精神はまだあって、すべてのプロセスに俺たちも関わっているし、アイディアは全部自分たちのもの。すべてを把握してるっていうのもDIYのひとつだと思うし、これからもずっと大切だと思う。今回のライヴは、また一から作ってるんだ。前回とコンセプトは似てるけど、スケールがこれまでにないくらい大きくなってる。いまはまだ準備中だけどね。

録音環境で前作ともっとも異なっていると感じるのはどのようなところですか?

コリン:録音環境ではあまりちがいは感じないけど、いちばんのちがいは音楽の書き方。前回はお互い別々の街に住んでたから、音を何度も送り合ってたんだ。でも新作では、ほとんど同じ部屋で作業することができた。だから、もっと結束力が強くなってる。その場ですぐにフィードバックを与え合ったり、いっしょに曲を書いたり。そのプロセスの変化は、ライティングへの意識を確実に変えたね。

次回もそのプロセスで?

コリン:同じスペースで仕事をするほうが確実に得だと思う。簡単だし、何かエキサイティングなことが起これば、それをそのまま捉えることができる。それって重要なことだと思うんだよね。もう遠距離で曲は作らないと思う。

リスナーとして他の音楽を聴いているときも、俺はあまり歌詞の内容に耳を傾けてない。気になるのは、音のトーンなんだよね。

“ビギン・アゲイン(begin again)”には月と地球の比喩が出てきますね。地球が女性側のことであるように感じられますが、地球=大地に母性のイメージをみているのでしょうか?

コリン:これはミーガンに訊いてくれる(笑)? 歌詞はすべて彼女が書いてるから。

わかりました(笑)。今作では何度か「地球」のモチーフがあらわれますし、前作にも共通することですが、あなたがたの詞には「世界」を歌う、スケールの大きいものが多いですね。そしてそうでありながらも、歌われているのは「あなた」と「わたし」の愛についてだけだとも言えるように思います。こうしたテーマはあなたがたの音楽にとって不可欠なものでしょうか? ……というのもミーガンにお訊ねしたほうがよさそうですね。

コリン:俺にはわからないな(笑)。これもミーガンに訊いた方がいい。

歌詞に関して、あなたが意見するときもあるんですか?

コリン:内容に関してはノー。でも、メロディに対して意見は言うよ。あと、歌詞の「サウンド」。この言葉の音はこのメロディには合わないんじゃない? とか。歌詞の内容じゃなくて、俺は言葉の音を気にするんだ。歌詞の意味に関しては、すべてミーガンの仕事だからね。

なるほど。歌詞の聴こえ方ということですよね? おもしろい。

コリン:そうそう。気づいたんだけど、リスナーとして他の音楽を聴いているときも、俺はあまり歌詞の内容に耳を傾けてない。気になるのは、音のトーンなんだよね。ヴォーカルと歌詞に関しては、そこにフォーカスするんだ。

今回の収録曲のそれぞれの長さについて、とくに意図したところはありますか?

コリン:曲はなるべく短くするようにしてる。4分以上の曲は個人的にあまり好きじゃなくて。自分が音楽を聴くときもそうなんだ。早くポイントに達する曲が好きだし、ずっとダラダラした音楽はあまり好きじゃない。だから、ベストは3、4分。それが俺にとっては自然なんだよね。作る時点で、長いものを編集して3、4分にするというよりは、いろいろな音を集めて一つにした時点でそれくらいの長さになってることのほうが多いんだ。

“アナザー・エタニティ”というのは現世を否定するような意味合いがありますか?

コリン:このアルバム・タイトルはアルバム内の“ビギン・アゲイン”っていう曲から来てるんだけど、その曲はアルバムの中間に収録された曲で、ある意味アルバムの中心なんだ。歌詞から来てるから、これもミーガンに訊いたほうがいい(笑)。俺にとっては、いろいろなことに対してオープンになって、ひとつひとつを冷静に考えると、物事はサイクルになっていて、あることが起これば次に何かが起こって、それがまた繰り返し起こるって感じがするんだけど……説明が難しいな。言葉では無理(笑)。

物事はサイクルになっていて、あることが起これば次に何かが起こって、それがまた繰り返し起こるって感じがする。

あなたがたの音楽は、非常にドラマチックでシネマティックなものだと思うのですが、この作品に音をつけてみたいというような映像作品はありますか?

コリン:実現できたらすっごくクールだね! 俺はSFや未来的な映画を見るのが好きだから、そういった作品のために音楽を作れたら最高。あとはヴィデオ・ゲームかな。俺の音楽の書き方もシネマティックだし、可能ではあると思う。俺たちの音楽は、3分間の音の旅みたいな、聴いていていろいろなエリアにワープできるような作品だから。いままで一度もそういう(映像に音をつける)経験をしたことがないから、いつか経験できるのがすごく楽しみ。

カナダではいまどんな音楽がおもしろいでしょう? また、あなた方自身は、UKとUSではどちらの音楽シーンに親和性を感じますか?

コリン:わからないな(笑)。ロックでも、メインストリームでも、ポップでも、アメリカで流行ってるものがカナダでも流行ってると思うよ。最近よく言われてるけど、俺もあまり場所で音楽を考えないタイプ。ジャンルもそう。シーンとかは意識してないし、いまはいろいろな場所の音楽をどこでも聴くことができるから、そういう見方はしてないんだ。

今日はありがとうございました。

コリン:ありがとう! また日本にいけるのを楽しみにしているよ。

Chesterbeatty - ele-king

Often imitated never duplicated

※Shout out to "The Nation of HIPHOUSE(website)"
https://maesaka1991.blog.fc2.com/blog-entry-42.html

写真:CHESTERBEATTY

Jazzy Couscous - ele-king

 東京滞在フランス人2人に創始された〈Jazzy Couscous〉の初リリースが発表されました。〈Jazzy Couscous〉のコアメンバーは、AlixkunとKlodioです。
 Alixkunは、もうみなさまにはお馴染みですね。ハウスや和物DJであり、ele-kingのライターであり、『House Definitive』にも寄稿しています。はっきり言って、日本の中古市場においてジャパニーズ・ハウスの値を上げたひとりです。余計なことしないで欲しいです。DOMMUNEにも90年代和ハウスのDJミックスで出演したことがあります。
 Klodioはハウスシーンの新プロデューサーであり、デトロイト・ハウス、ジャズ、ソウル、とにかく黒い音に影響されたプロデューサーです。今回の「Toktroit」EPでは、彼の影響元であるデトロイトと東京の雰囲気を交えて、ソウルフールなバイブを提供しています。ele-kingとしては、初期URハウスの色も多少あって、ハイウェイでフールスピードなナイトドライブをイメージした“First Car”と“Futako Tamagawa”がおすすめです!
 今後Hugo LX, Brawther、寺田創一などの曲もリリースされる予定です。Toktroit EPは4月10日リリースされます。ヨロシクね。

https://www.facebook.com/jazzycouscous

ele-king vol.16  - ele-king

FKA Twigs撮り下ろし!
日本でのFKAツイッグス撮り下ろし写真が表紙に登場。
英国最新音楽特集     他
電子書籍版へのアクセスキーがついています

interview with The Wedding Mistakes - ele-king


Wedding Mistakes
Virgin Road

ElectronicaDream PopBreakcore

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 音楽をやることがけっしてイケてることにはならない時代に、それはむしろ本来的な自由さを取り戻しているともいえるかもしれない。格好よかろうが悪かろうが、カネになろうがなるまいが、やりたいからやるというあり方がデフォルトになった世界のほうが、音楽に多様性を生むという意味ではすぐれている。音楽不況というが、それは旧来的な産業システムにおける話であって、いまインディの層はかつてなく豊かだと言うこともできる。
 音楽の自由さを広げている要素はそればかりではない。情報環境の変化もある。ここに登場するような彼らにとって、そもそもアルバムをつくるということは盤をプレスすることではなくなっている。いまとなっては目新しいことではないが、彼らが「ファーストが出て……」などと語るときの「出る」というのは、ネット上にまとまった音源がアップされるというだけのことだ。それが「ジャケ」を持ったアルバム作品として当然のように認識されるようになったのが2000年代なかば、いわゆる「ネットレーベル」の流行以降。なんら資本の影響を受けることなく、かつレーベルというかたちを通してキュレーションされることで、シーンをもつくり得る力を持った作品たちが山のように登場し、主役になる時代の幕開けである。そして、それこそがThe Wedding Mistakesたちが生まれてきた場所でもある。MiiiとLASTorder、それぞれ独立してキャリアを持つふたりのプロデューサーによって結成されたこのユニットの背景には、ネットレーベルの風雲児たる〈Maltine Records(マルチネ・レコーズ)〉などの存在がある。同レーベルの古参であるMiiiはもちろんだが、今作のアートワークを手掛けたおじぎちゃん(セーラーかんな子とのDJユニット、ぇゎモゐとしても活動)を彼らに結びつけたのも〈マルチネ〉のtomadだという。そして、すこし離れたシーンで活動しながらも、それらに寄せるシンパシーはLASTorderも変わらない。社会全体としていい時代かどうか知らないけれど、世知辛くはあっても音楽的には二重に自由な環境を彼らはのびのびと泳いでまわっている。

 配信のみで昨年発表されたThe Wedding Mistakesのアルバム『Virgin Road』がフィジカル・リリースされた。そう、商業性のあるステージやフィジカルが流通する場所との行き来も自由である。インタヴュー中、ふたりの口から洩れた「逆にっていうのが嫌い」という考え方が印象的だった。過剰な情報空間において、メタなふるまいによってではなくまっすぐに喜びを得たいという気持ちには、切実に共感を抱く。ポスト・インターネットの感性だからこそつかめる純真さが、そこには顔をのぞかせている。Miiiのギークなブレイクコア、LASTorderの正統派にして抒情系の「ニカ」、音楽的にはさまざまな対照を持っているが、彼らはそうした地平に生まれたドリーミーなミュータントとして、ミューテイトするウエディングとして、明るい音響を築き上げている。

インタヴューのラストでティーザー音源をお聴きいただけます

■The Wedding Mistakes / ウエディング・ミステイクス
MiiiとLASTorderにより2013年に結成されたユニット。2014年11月にリリースされたデビュー作「Midnight Searchlight EP」はiTuensエレクトロニックチャート1位を記録。2015年2月にファースト・アルバム『Virgin Road』をリリース。
https://theweddingmistakes.com/virginroad/

LASTorder
2013年に発表したファースト・アルバム『Bliss in the loss』はタワーレコードでも大きく展開されロングセラーを記録。今年の7月には〈PROGRESSIVE FOrM〉よりセカンド・アルバム『Allure』をリリース。数々のリミックス制作も行う。

Miii
10代から楽曲制作を行い、〈Maltine Records〉の古参としてイベントには毎回出演、2枚のソロ作品を残す。日本屈指のハードコア/ベースミュージック・レーベル〈Murder Channel〉からファースト・アルバムを6月にリリース。東京女子流、夢見ねむ(でんぱ組inc.)等の公式リミックスも手がける。

中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって。(Miii)

(『ele-king vol.15』を差し出しながら)お若いおふたりですが、紙の音楽雑誌を読んでいた記憶とかってあったりするんですか?

Miii(以下、M):『DTMマガジン』を買って読むくらいですね。

おお、本当に実用的な読み方というか。

M:そうですね。音楽専門誌みたいなものを読んでいなくて。

LASTorderさんはどうですか?

LASTorder(以下、L):『サンレコ(サウンド&レコーディング・マガジン)』。

やっぱりおふたりとも機材よりなんですね(笑)。

M:機材を眺めて、「コレめっちゃほしい!」みたいなことを、ずっとやっていましたね。

ははは、いまは「今月このアルバムを聴かなきゃ」ってことを紙で確認するような感じはないですかねー。

M:でも、ディスク・レヴューのコーナーがいちばん好きなんですよね。

なるほど、それはわかりますね。興味はどっちかというと邦楽よりでした? 洋楽よりでした? ……まあ、そういうふうに括ることの是非はおいといて。

L:俺は邦楽よりだったかな。

M:中学生くらいのときは、ちょうどミクシィとかが出はじめたときだったんですよ。ミクシィはミクシィ・レヴューっていうのがあって、そういうのを見るのが好きでした。

それはアマゾン・レヴューみたいなものの黎明にあたるようなものですかね?

M:そうですね。新譜情報もインターネットで探していました。

あー。やっぱりそこは隔世の感が(笑)。だから、隣は何を聴く人ぞってね、「今月聴くべきアルバム」というような認識を、みんなで共有してるわけじゃないですよね。「今月はレディオヘッドの新譜がある」とか(笑)。

M:じゃないですね。

なるほど。それでは雑談はこのあたりにしまして。おふたりはそれぞれソロ活動がスタートなわけですけれども、そもそも畑違いなアーティストであるという印象があるんですよね。The Wedding Mistakesって名義は、「ふたりのウェディングがミステイクだ」というような意図があるとか?

M:名前は雰囲気というか語感でつけたものなんですが、最終的にそういうものだったのかと思わなくもないですね。ふたりでやろうとなったのも、そもそもは僕がLASTorderに声をかけたんですけど、かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜんちがうところにいたので。

L:あとジャンル的にも。

M:そうそう。だからそこをくっつけたらおもしろいなというのはありましたね。

かたやネット・レーベル、かたやCDをリリースしているという、ぜんぜん違うところにいたので。(Miii)

「異なったものの出会い」という認識はあったわけですね。LASTorderさんはどうでしょう?

L:エレクトロニカで同い年くらいのトラックメイカーって俺のまわりにすくないので、ネット・レーベル周辺には若いひとが多いから、友だちになってみようという感じで。ツイッターで近づいたりとかイヴェントに行っていたりしていたら、「いっしょに作ろう」って急に言われた感じですかね。

なるほど。それぞれのジャンルに固有の文法があると思うんですけど、おふたりは互いにそれほど共有してはいないと思うんですよね。それで、自然と制作上の役割もちがってくるような気がするんですが、ふたりの役割分担というと、LASTorderさんがウワモノ、Miiiさんがリズムみたいにすごくザックリで考えていいんですかね?

M:まさにその通りですかね。

お互いの役割について、何か話し合いみたいなものはあったんですか?

M:デモが送られてきて、それに展開をつけたり、ドラムをこっちで足したり変えたりして返して、それにまたレスポンスがくるみたいな形もある。初めから上とビート、つまり僕がビートを送って、それにメロディを付けて戻してくるみたいなパターンもありますね。最初はデモがあって、ふたりでそれを伸ばしていくことがメインでした。

それぞれに対して期待した役があると思うんですが。

M:僕は綺麗だけれど割れている……エレクトロニカというか、ノイズよりの音楽がすごく好きでした。それを自分でやるには限界があったので、LASTorderに打ち込みとかウワモノとかで耽美な雰囲気を出してもらって、そこに僕が壊れたビートをのっけたいという願望がありました。それから、LASTorderはちゃんとメロディが書けるひとなので、そういうところも求めていますね。

メロディね! 特徴ですよね。あと、“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”とかではヴォイス・サンプルがフィーチャーされているじゃないですか? ああいうのってLASTorderさんなんですか?

L:そうですね。

とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。(LASTorder)

へえー。HMVさんの無人島に持っていく俺の10枚、みたいな企画(無人島 ~俺の10枚~)を覚えていらっしゃいます? おふたりがそれぞれアルバムを挙げていらっしゃいますよね。あれをちらっと拝見しまして。LASTorderさんご自身の曲は、全体としてはエレクトロ・アコースティック志向というか。

L:はい、そうですね。

で、この無人島リストを見ますと、ジュディ・シル(Judee Sill)からはじまって、ベン・フォールズ(Ben Folds)からモリコーネ(Ennio Morricone)、Shing02さんにテリー・ライリー(Terry Riley)まで入っていますね。まずポップ職人的なものに惹かれてるんだなって思ったんですよ。そしてそういうものを志向しつつもミニマルなものに引き裂かれるという。

L:その通りです。全部言われちゃいました(笑)。

ハハハハ。そのポップ職人というところをもうちょっと訊きたいんですけれども。さっきの、メロディが強いという話とも重なってくると思います。目指しているようなアーティスト像もそのへんに?

L:目指しているアーティスト像はぼんやりしていますが、とにかくメロディを作るのが好きなので、メロディをのせることは、毎回、無意識的にしちゃっていますね。

無意識的な感覚なんですか?

M:それ、わかる。彼からは、どんな曲にも何かしら主旋律っぽいのがついて返ってくるんですよね。

なるほど。ポップ・ソングってフォームを、コンポーザーとして作っていきたいという意識なんですか?

L:たぶんそうだと思います。

そうすると、エレクトロニカという流れのなかだと、また少し変わっているというか。

L:エレクトロニカと言わせていただいているんですけど、そこまでエレクトロニカをやっていることでもないっていうか。

そういう感じもしますけどね。コキユ(cokiyu)さんとも親和性があるのがわかりますし、活動されている領域もそういうところなんだなっていう。ところで、ジュディ・シルなんて本当に深くて知性的な声だったりしますけど、ここでの“ハー・ミステイクス”のヴォーカル・トラックって、ある意味その真逆みたいな、薄さを持った音だと思うんですね。そういう声や音に対する憧れはあるんですか? ジュディ・シルが好きなら本来逆なような気もしますけど。

L:憧れはたしかにあるんですよね……そういう薄い感じには。でもそういうやり方や、ピッチを上げて散らす感じの音は、やり飽きているというか。ちゃんとした声を入れたいと思っていたりはするんですよ。

へぇー!

L:けっこう手持ちのものがないというか、機材とかが少なかったりとかしてなかなかできないんですけど……。自分で声をかけて誰かの歌を録るということもあまりないですし。

肉声ヴォーカルへの、一種のアンチというわけではなく? 

L:そうなんです。アンチとかではないですね。

なるほど、正直でいらっしゃいますね。では、ボカロとかはどうですか?

L:ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。最近はそんな気もしてきた。でも偶然、ぜんぜん聴かなかっただけっていう。

ははは、素通りしちゃったわけですね。

ボカロとかは通らなかったんですけど、もし出会っていたらいまごろはバリバリPな感じになってたかもしれない(笑)。(LASTorder)

L:どこかで避けていたのかもしれないですけど。

M:僕もボカロはぜんぜん通ってないんですよ。やっぱり、意外と流行っているといえば流行っているけれど、触れないでいいといえば触れないでいいというか。聴かなくても意外となんとかなるという感じですね。

すごくフラットに考えてみれば、ボーカロイドっていうのはただの音声ソフトというか、シンセサイザーなわけじゃないですか? しかもけっこう魅力的で使いやすい。でも、それを通らないっていうときには、暗にその奥にある何かを否定しているんじゃないですか?

M:ニコニコ動画のボカロPのカルチャーとして、ということですよね、たとえば。

そうそう(笑)、ちょっと意地悪な質問ですみません。一概には括れませんけれども、彼ら「P」のようなプロデューサーの音やあり方に対するおふたりの感想や評価がどんなものなのか、すごく興味があります。どうでしょう?

僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。(Miii)

M:いろいろありますけど、僕のイメージ的には、RPGとかで別の大陸に行くともっと強いモンスターがいるという感じですかね。物語を進めて行くと強いモンスターが出てくるという感じ……同人とかボカロの界隈ってそういうイメージがあります。僕はもともと音ゲーとかから入って、なんだかんだでネット・レーベルにたどり着いたんですよ。それぞれが別の島だけど、それぞれに大ボスというか、めちゃくちゃ強い、上手いひとがいて。で、その奥にも上手いひとがたくさんいる。 だけど、自分がそこまでたどり着くために経験値が足りないし、パワーもないという自覚もあって。避けているというとあれなんですけど、あまり交わらないようにしています。だからアーティストとして尊敬しているひとはいます。同年代にかめりあって子がいるんですけど、彼は同人とかボカロとかの流れのひとで、メロディも作れるし、過激でとんがっているもの作れるみたいな。そういう人材が、あっちにはいっぱいいるんですよ。そういうのは向こうのカルチャーにいないと得られないのかな、というのはあります。

なるほどなあ、“あっち”は分母がでかいし、エネルギーもあると。あと、音っていうよりも歌詞だったりイラストだったりも重要だし、それがいわゆる集合知ってやつでできあがるという、時代性としての鋭さもありますよね。LASTorderさんは、あちらの界隈を音楽というよりもカルチャーとして見ている感じですか? L:僕はそっちの界隈とも繋がりがなくはなくて、初音ミクのリミックスをやってみたりもするんですけど、みんなやっぱり……、言っていいのかわからないけれど……

言うだけいっときましょう。

L:お手軽に曲がひとつできるじゃないですか? 歌があって歌詞があってって。だからもっと手間をかければよくなるものがいっぱいあると思います。サウンド面ですぐれたひともいれば、ソング・ライティング面で優れているひともいたり、歌詞はそんなに詳しくないですけど上手いひともいるんでしょうね。ソング・ライティングが上手いひとが、サウンドも歌も全部お手軽に自分でできちゃうからそれですぐに作品を出せちゃう。いろんな可能性がいっぱいあります。ニコニコ動画を見たりしていると、ぜんぜん再生数が少ないやつでも歌がよかったりすることもあったりするし。

聴いているところは「生のヴォイスか」とか、そういう音質みたいなものじゃなくて、メロディとかですか? 

L:そうですね。

だったら必ずしも人格があり、美しい深みを持った人間の声である必要もない、と……ジュディ・シルとか書かれていると、声とか人間の歌礼賛なひとなのかなってちょっと思ってしまうので。

L:聴くぶんにはって感じですね。作っているときに、そうやって意識することはまったくないです。

なるほど。LASTorderさんとかが、ひとの声をどういうふうに考えているかに興味があったんです。

L:じつはそんなに……。何か考えるようにします。

M:ハハハハ!

子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。(Miii)

いやいや。逆に興味深かったです! いろんな思いがあって、生の声を避けているのかなと思ってたものですから。しかるに、Miiiさんのほうもおうかがいしたいと思うんですけれども、Miiiさんはもうなんというか、ブレイクビーツですよね(笑)。

M:そうなんですよ。

おふたりともルーツがはっきりとわかる。そういう意味でもおもしろいです。たとえば、同じようにMiiiさんの「無人島~」のリストを参照させていただくと、ヴェネチアン・スネアズ(Venetian Snares)はもちろんとしてナース(Nurse with Wound)とかworld's end girlfriend(ワールズエンド・ガールフレンド)も入ってましたよね。だからノイズ志向もあるんですけど、かといって、中村一義とか七尾旅人なんかはすぐれたポップ・ソングの作り手でもある。だから、ドリーミーなものやメロディ的なものにも憧れがありそう。

M:そうですね。楽器ができないので、そういうアーティストさんには純粋に憧れがあるし、中村一義とか七尾人は中学高校時代にめっちゃ聴いていたので、普通に大好きなんですよ。やっぱりメロディもすごいし、歌詞もめちゃくちゃいいし。

そしたら、いかにもバンドとかはじめそうですけれども?

M:あー、なんか……

L:ひと付き合いができないんでしょう?

M:ハハハハ。

そんな(笑)。ドライなツッコミが入りましたね。

M:その通りです。

なるほど。ひとりベッドルームでプロデューサーをやることを選んだと。

M:あと、バンドとかをやる以前にパソコンがあって、それで調べてなんとなく曲も作っていたから、「それでよくない?」みたいな感じでしたね。

なるほど。あと、やっぱり音ゲー的なものってブレイクビーツだったり、ブレイクコアだったりっていうものとの親和性が高いですよね?

M:そうだと思いますよ。曲が1分とか2分とか短いじゃないですか? そのなかで、ひとをどれだけ惹きつけるかという要素を考えなくちゃいけないし、だからこそ展開が突拍子もなくなるというか、変な感じになっていくんだろうなと思います。

音楽メディアがカバーしている範囲の外に独特のシーンがあって、独特の進化をしていますよね。ところでブレイクビーツってなんであんなに死なないんですかね? ずーっとありますよね。

M:ブレイクコアが全盛期だった2006年くらいってちょうど中学生だったんですけど、日本人でもいいアーティストがたくさん出ていて、そのへんがいちばんおもしろかったです。それこそヴェネチアン・スネアズみたいなちゃんとした音楽というか、レヴューの対象となるようなヤバいアーティストから、著作権完全無視のマッシュアップとか、本当にヒドいアーティストもたくさんいたけど、その全体がかっこいなという感じがあって。とくに〈マルチネ〉の初期も、いまでは「スカム」期みたいに言われるけれど、当時は「すげぇかっこいいことをやってる」と思って聴いていたので。自分にとってはそういうルーツというか、子どもがパンク・ミュージックにハマるみたいなものですかね。ちょうどブレイクコアがあって、いまだに生きながらえているのがすごくおもしろくて。

そういうカオスみたいなものに若い心が共鳴してシーンが盛り上がっていた感じはよくわかりますけどね。

M:いま聴いてみても、変なドラムンベースを入れていたりとか、BPMが200のものとかを普通にやっているんですよね。なんだかんだカッコいいなと思っていまも見てます。

メロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。(LASTorder)

なるほど。LASTorderさんはどうでした?

L:僕はシーンに憧れたりとかっていうことが逆になかったんですよ。

淡々とひとりで?

L:だからメロディを信じるしかないという感じだったので。音楽に話せる知り合いができたのも最近なんです。小中高なんて、友だちとは音楽の話なんてまったくしていませんでしたからね。自分が不勉強で周りの状況に疎いということもあるので、最近はひとから教えてもらって勉強させてもらってます。

最近はツイッターのタイムラインで音楽を聴くという感じで、スピードや情報の広がり方・受け取り方が以前とは大きくちがっていると思うんですが、2005年とかってまだそういうものが出てきているわけでもないですよね。当時、情報へはどうやってアクセスしていったんですか?

M:何をやってたかな……。IRCチャットっていう……

やっぱり、みんなちょっとしたオタクなんですね。

M:そうそう。僕は完全にそっちでした(笑)。

L:そういうのあったよね(笑)。

M:だから、いまでいうラインみたいな感じですかね? チャンネルっていう部屋みたいなものが用意されていて。

L:疎いけど、さすがにチャットはわかるよ!

M:そういうチャットがギークっぽくなったものがあって、周りでチームを組んだりして、たわむれたりって感じでしたね。

年齢層は若いひとばっかりなんですか?

M:多いのは20代とかでしたよ。

じゃあ、Miiiさんはちょっと早熟な感じ?

M:そうですね。僕が12、13歳のときでそのなかではいちばん若かったと思います。

ちなみに部活は(笑)?

M:部活は……、中学のときは吹奏楽部でした(笑)。

おっと! 楽器ができるじゃないですか!

M:それが、チューバだったんですよ(笑)。

L:ハハハハ!

それは潰しがきかねぇ(笑)。

M:「チューバをやっていました」って言っても、周りは「チューバ……?」みたいな感じなので(笑)。

LASTorderさんは何部だったんですか?

L:バスケ部でした。

そうなんですか? じゃあリアルが充実していらっしゃる?

L:バスケってそんなにイケてないですよ。普通に運動しているくらい。高校は帰宅部でした。

音楽を作りはじめたのはいつぐらいなんですか?

L:ピアノを4歳くらいのときにはじめて、なんか鍵盤で曲を作っていた記憶はボヤッとあるんですけど、ちゃんとDTMをはじめたのは高2くらいです。

おお、クラシックの素養もあると。ピアノで弾いて好きなった作曲家というとどんなあたりですか?

L:ピアノを弾いているときはぜんぜんおもしろくなかったんですよ。なんでこんな難しいのを弾かなきゃいけないんだって感じで。“ラ・カンパネラ”(フランツ・リスト)とか練習してたんですよね。そこからあまり好きになれずに、10歳から12歳のときはロック系が好きでした。でも、自分で曲を作るようになってから、あのときに練習していた曲がどんなだけすごかったってわかったんですよ。雰囲気的にはドビュッシーとかサティとかに魅かれますね。

じゃあ何というか、ギークと……

M:ギークとメインストリームでしょう? だってコピバンとかやってたんでしょう?

L:コピバンやってたね。

M:僕はやってないからさ。

へぇー! それって素敵なウェディングじゃないですか。ストーリーとしても、いいですね。

M:最初はバックグラウンドとか何も知らなくて、ただ「いい曲だね」って思っているだけだったんですよ。ふたを開けてみて、普段は絶対に出会うことのない遭遇だったんだとわかりました(笑)。 [[SplitPage]]

極端にポップになるか、わかりづらくなっちゃうかばかりで。そうじゃない「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかった。(Miii)



ハハハハ。なるほど。いろいろと見えてきたようですごくうれしいんですが、ではこのアルバムについて。今回はフィジカルで出るということですが、バンドキャンプでのリリースが2014年ということでいいですかね?

M:そうですね。

実際の制作年でいうといつぐらいの曲から入っているんですか?

M:2013年の6月くらいからの音源ですね。

じゃあ出会ったタイミングくらいにできた曲もあるんですね。以前から温めていたそれぞれのネタみたいなものもあるんですか?

M:それもあるんですけど、最終的にお互いでちょっとずつ手を加えてウェディング~の曲にしました。

その頃というと、ダンス・ミュージック界隈で盛り上がっていたのは……ジュークとか?

M:そうですね、旬のてっぺんみたいな感じですかね。僕はずっとダブステップとかブローステップとかが好きで、自分でもつくったりしてましたけど、ジュークは進んでやることはなかったです。でも、たとえばウエディングで曲をつくるときに、「試しにジュークっぽいことやってみようか」っていうようなやりとりはありましたし、そのくらいの距離では時流についていっていましたね。

なんか、自分たちの趣味をひたすらかたちにしましたっていうよりも、ある程度2013年っていう時代性のようなものも意識しているように感じるんですが。このころどんなものを聴いてました? あるいは、このアルバムでこんなことをやりたかったという目的なんかがありましたら教えてください。

M:僕がやりたかったのは、world's end girlfriendがいま僕らの年代だったとしたらどんなことをやるだろう……ってことですかね。あんなバランスのアーティストっていまあまりいないような気がするんですよ。もっと極端にポップになるか、もっとわかりづらくなっちゃうかで。それこそ〈ロムズ(ROMZ)〉系の存在もいないですし。そういう「ごっちゃ感」を2013年のなかでやりたかったということは、なんとなくあるかもしれません。

へえ、なるほど。

M:なので、当時聴いていたダブステップだったりの要素はちょこちょこ入れていたりしますし、ポストロックっぽいものも入れてみたり──

おお?

M:当時は下火だったとは思いますけど。

そう思いますよ。へえー! なんでだろ、ウエディングを紹介する文章で、ときどき「ポストロック」って言葉を見かけるんですけど、わたしそこだけはよくわからないんですよね。

L:それは、君の責任だよね。最初にポストロックみたいなこともやりたいとかって言ってたから、それがプロフィールとかに残っちゃって。

いや、突っ込んでるんじゃなくて、そんなルーツがあるんならおもしろいなと。だって、この10年もっともダサい音楽だったわけじゃないですか……その、個々のバンドの話じゃなくて、一時代前のものがいつだっていちばんダサいみたいなとこがあるから。

M:ははは! いや、でもたしかにこの10年間下火だったから出してきたかったっていうような気持ちはあったんですよ。

L:でも結局、やってみたらとくにポストロックにならなかった。

ははは! いや、そうですよ。どこまでをポストロックと呼ぶかですけど、去年は10年選手たちがけっこういい新譜を出してきたり、シガー・ロスも幻のファーストが国内盤で出たりね。また見直されて、カッコよくなるんじゃないかと思いますから。

M:僕はゴッドスピード(Godspeed You! Black Emperor)とか好きだったんです。

おお、なるほど。復活してますね。

M:2012年の新譜(『'Allelujah! Don't Bend! Ascend!』)はあんまりピンとこなかったですけど……。

L:まあそうやってポストロックだなんだ、って言ってて最初につくったのが、このアルバムの1曲め(“Preface”)なんですけどね。次につくったのが5曲め(“So Hot”)。それで俺は、ポストロック……やんなきゃいけないの? って思って、“Her Mistakes(ハーミステイクス)”のもとを渡したんです。「ぽい」やつを渡そうと思って。で、これで好きにやって、って。

M:そうだねー。

L:それで、無理やりギター入れたりして。

ああ! ギター入ってますよね。そういうことだったんだ。

M:そういうことじゃないっては思いつつ(笑)、でもポストロックって言葉は入れたくて、でもしばらくして消えていきましたね。僕たちのなかで関係なくなった(笑)。生音でやるという意味でなら、いまでも興味なくはないんですが。

なるほど(笑)。謎が解けました。ではもとの質問に戻ると、LASTorderさんは2013年に何を聴いていました?

L:僕は坂本慎太郎さんとか──、あれ? 2013年じゃないですかね? ずーっと聴いていました。 (※ソロ1作めは『幻とのつきあい方』2011年、2013年リリース作はシングル「まともがわからない」)

へえー、そうなんですか。

L:僕自身はまだあまりクラブ・ミュージックに接近してはいない時期でした。

たとえばTofubeatsさんだったりSeihoさんだったりは「対日本のポップ・シーン」っていうようなわりとデカいスタンスがありますよね。〈マルチネ〉という共通項もあるので、とくにトーフさんなんかはそれほど縁遠いアーティストではないと思うんですが、そういうスタンスはあまりThe Wedding Mistakesにはなさそうですね。この作品はどんなところに向かって放たれたものだと思います?

M:うーん、それこそ、僕が中学生当時エレクトロニカとかを聴いて衝撃を受けた、あのインパクトを持ったものになればいいなと思いました。10年経ったいまでもその頃の影響がみんなにウケたらすごくおもしろい……というか、いまその頃の音とか記憶ってウケるのか? みたいな。

ははは、リヴァイヴァルっていうより、自分的にはルネッサンスみたいな?

M:はは、そうかもしれないですね(笑)。

彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。(Miii)

LASTorderさんは? そのへんの感覚はふたりのあいだで共有されているものなんですか?

L:そう……かもしれない。

M:彼は彼の世界がすごくあるので、彼から出てきたものは僕はあまり突っつかないんです。そのほうがおもしろくなるんだろうなって思っていました。

L:できちゃったものを、ずらっと並べていくという感じもやっぱりあったので、どんな相手に向かって投げかけたものかというと、あまり顔は浮かばなくて。

わりとカジュアルなものなんですね。いつかふたりでつくったものがアルバムになるんだろうなっていう思いはありました?

L:あまり思っていなかったかもしれない。

M:曲がたまったからそろそろ出そうかという部分もあったと思います。そこもアルバムのおもしろさではありますよね。貯まってきたからそろそろ出そうか、といってパッケージしただけでもそれなりのものに見えてしまったりする。だからこそ、CD盤と同じように、ジャケットをおじぎちゃんにお願いしたりとか、リミックスを入れたりとか、しっかりと外枠を固めるようなことはやりました。

ああ、フィジカルはないけどフィジカルの盤みたいに、っていうのは意識されたわけですね。ところで、曲名は後づけかもしれないですけど、全体をとおして眺めると、なんとなく「ウエディング」ってコンセプトを立てているようにも感じられるんですね。そういうテーマ性はどうです? 意識してました?

L:文字、タイトル部分は僕が担当しました。僕としては、(この作品における)音についての方向性がまだもうひとつ見えてきていない気がしていたので、目に見える部分だけでも統一感を出したいなと思って。

M:アルバム・タイトルはすごく悩んだんです。そのとき「ヴァージン・ロード」ってすごくおもしろくない? って話になって。ウエディング・ミステイクスでヴァージン・ロードって、なかばギャグですよね。

ははは、ミステイクなのにねーって(笑)。

M:そうそう、そんなノリですよ。

なるほど、では曲名も、曲ひとつひとつにあらかじめ付与されていたものじゃないんですね。できたあとに加えられた物語というか。

M:そう……ですね。

「結婚」って、近代以降は自由恋愛とセットで考えられてきたものだったりもするじゃないですか。でも、いま必ずしも憧れるような響きは持っていないというか、そうロマンチックなものではないと思うんですね。「婚活」とか少子化問題とかいろいろ出てきて。だから「The Wedding Mistakes」ってその意味でもちょっと批評的にきこえるというか。なんなんですか、「ウェディング」って?

M:うーん、そうですね。「永遠の愛」とかって、めっちゃ誓いづらいと思うんですよ。結婚式とか神父さんまでいたりして、いちおう儀式的にやったりしますけど、しんどいものでもあると思うんですよね。恋愛は3年しかつづかないとかも言うし。結婚って、僕個人としてはロマンチックなものだと思うし、好きな制度ではあるんですけど、正直、矛盾したものもいっぱい抱えているよなとも感じます。「結婚は人生の墓場」なんていう人もいるわけで。だから、僕的には理想だったりするけど、そううまくはいかないよなっていう皮肉が含まれているかもしれません。

L:……。

ははは! Miiiさん、質問に対して噛み砕いて考えてくださったんですよね? ありがとうございます。LASTorderさんの沈黙は、Miiiさんの見解への違和感?

L:いえ、そんなに重く考えていたのねという……驚きです。 (一同笑)

L:僕にとっては結婚ってまだまだ遠いことで。

M:それは、そうだけど。

L:「永遠の愛」って口から出てくるとは思わなかった。ノリかなって……。

M:ああ、そう、ほんとには誓えないから、儀式として誓っておいて、じつのところはノリみたいな。でも、まだ当事者じゃないからあんまり言えないけど。だからユニット名に「ウエディング」って単語を入れるのはおもしろいというか意外というか、言葉選びとして気にした部分ではあります。

「逆に」っていうのが嫌い。(LASTorder)

はい、はい。その、結婚なにかヘンだなってところが一般的に共有されているから気になる名前なんでしょうね。でも最初に名前きいたときは、それこそウエディング・プレゼント(Wedding Present)とかから来てたりするのかなって思って。ギター・ポップ寄りなユニットなのかと思いました。ぜんぜんちがいましたね。

L:そうですね。ギター・ポップ……。あと、それこそ渋谷系みたいなものはあまり知らないというか、聴かないよね?

M:そうだねえ。

L:それから、シティ・ポップとか。

おお、トレンドじゃないですか。でも、いま渋谷系を標榜する人たちはむしろ90年代のJポップを掘ったりしてるんじゃないですか? まあ、標榜してるわけじゃないかもしれないですけど、それに当たるような人は。

L:僕は90年代のJポップなら大好きですよ。

あ、そうなんですか?

M:僕も、最近のちょっとアーバンな感じのノリのものとかはあんまり聴かないかもしれません。シティ・ラップとか。

えっと、「シティ・ポップ」って言葉でどういうものを指してます? そもそもが曖昧な言葉のようですけど、でも荒井由実とか、あるいははっぴいえんどとかを指しているのか、いまのバンドを指しているのか、よくわからなくて。

M:そうですね、最近のバンドとかのことですかね。もともとのシティ・ポップとか、アーバンな感じのものに憧れて、それが音になっているんだろうなって思うんですが、僕自身は東京生まれだけど「アーバン」な生活圏ではなかったので、そのへんの憧れにはそもそも疑いがあるというか。最終的には田舎に住みたい思いもあるし……。僕らくらいの年齢だと、そもそもその時代のこと知らないじゃないですか?

なるほど。いまの人は、その見たこともないなかば架空の都会性を、逆におもしろがるようなところがあるんだと思いますけどね。昔はもっとベタに憧れたかもしれないですけど。

L:その「逆に」っていうのが嫌い。

おおっ。

L:ヴェイパーウェイヴとかもそういうところありますよね。「逆におもしろがる」って……それって……なんなの。

M:それは、僕もわかるなあ。「逆に」っていうのは、いっこ上に立とうとしてるわけでしょ? そんなふうに考えなくても、90年代なら90年代で、いいものがあればそれは聴けると思うんですよ。それこそ中村一義とか僕は大好きですし。僕も、そういう感覚を無視した掘り返し方はしたくないですね。

中村一義は、「逆に」の思考をすべて吹き飛ばしてきた人だと言えるでしょうね。

M:ああ、そうかもしれません。

「逆に」っていうのは修羅の道で、いちどそれを言いだすとさらに上の「逆に」が際限なく出てくるから、超頭がいいか、それをはね飛ばす強さがないと死んじゃいますね。それでも行ってやろうというのもまたひとつの極道かなって思いますけど。ただ、「逆に」が嫌いだって言えるのは……ちょっと感動しました。

L:僕が普段から90年代の後半のJポップが好きって言っているのは、それは、実際に体験しているからなんです。幼稚園とか小学校の低学年の頃とかに、月に2回レンタル屋さんに連れていってもらって、ランキングの上位10位を借りてきて、それをダビングしてずっと聴くっていう毎日だったんです。本当に心から鈴木亜美とか好きなのに、いま同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。そう言っている目線が。

同い年の人とかに「(鈴木亜美)いいよね」って言って、「いいよね」って返してもらったりしても、何かちがう感じがいつもするんです。(LASTorder)

M:あー! わかった。言ってることしっくりきた。

なるほどー。

L:「あー、亜美ね!」って言われるときの……。たぶんそのときに「逆に」の感じが働いているんだと思うんです。

M:あー! うんうん。

L:こっちは逆もなにも……

ははは! マジだっていう。

L:そう。バカなの、俺? って思っちゃう……。

(一同笑)

L:ちょっと、共有できてるのにできてないみたいなところがすごくあるし。単純に、トラックがよくできてるとかっていうような見方をしてたりもするんだろうけど。それに、……まあ、いいや。

(笑)いやいや、話しましょうよ。

L:僕、あゆ(浜崎あゆみ)と宇多田(ヒカル)の同時発売の日とか、ちゃんと並んでますから。 (※浜崎あゆみ『A BEST』、宇多田ヒカル『Distance』の同時発売。2001年)

ああ、えっと……、ふたり同学年ですよね。Miiiさん何歳ですか?

M:13、4年くらい前ですかね? 8歳とかですね。

おお。そのころ何がいちばん熱かったです?

M:うーん、Jポップとかは聴いてなかったですね。ゲームやってました。

なるほどね。音ゲーとかも。

M:そうですね、いろいろやりましたけど、『beatmania(ビートマニア)』を買って。それが原体験といえば原体験ですね。

うーん、Miiさんはじつにルーツがはっきりしてますね。

L:俺は原体験はポケビ(ポケットビスケッツ)だよ。

M:それはさすがに、僕もテレビは観てた。

ああ、音楽というか芸能というか、テレビから出てきたものですね。そういう記憶は少なからず影響しているんでしょうね。

そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。(Miii)

さて、先ほどもちょっと話題に上がりましたが、ジャケットのデザインがおじぎちゃんさんなんですよね。とても素敵なんですが、おふたりともアニマル・コレクティヴ(Animal Collective)とか好きだったりします?

M:いや、好きっていえるほどはわからないですね。

なるほど。初期の作品のアートワークをアグネス・モンゴメリ(agnes montgomery)という人がやっているんですが、その人の作品のポスト・ヴェイパーウェイヴ・ヴァージョンって感じがするんですよね、おじぎちゃんさんのジャケは。

M:へえー。

コラージュなんですが。感性にも似たものがあるなと思うんですよ。

M:当時おじぎちゃんが自分のタンブラー(Tumblr)にどんどん画像を上げていたんですよ。コラージュでした。そのころからコラージュ──いまで言うネットの雑コラ感っていうか──はちょっと流行っていて、でもおじぎちゃんのはちょっとそういうまわりのものとはちがう感じがして。統一感というか、テーマみたいなものがあって、そのなかで色調とかも合わせてくる感じ。そこに自分たちの音に合ったイメージを持っていたんです。〈ROMZ〉のジョゼフ・ナッシング(Joseph Nothing)の、目の切り抜きがたくさん散りばめられているジャケット、あの気持ち悪いけど美しいという感じに衝撃を受けたんですけど、あれを見たときのことを思い出したんですよ。そういう、僕の源流にあったイメージとかインパクトが刺激されたというか……。それでお願いしました。

へえー。それこそコラージュはメタな編集作業でもあると思うんですけど、おじぎちゃんさんのとかアグネスのとかは、もっと肉そのものというか、そういうものを信じている感性なのかなと思いました。

M:やっぱり、ちゃんと考えられていたり、まとまっているものが好きなので、「できるだけ意味をなくそう」みたいなものとか、そういう感じのコラージュにはピンとこないというのが正直なところですかね。

なるほど、イルカとか、ヘンな塑像とかね(笑)。

M:あー。シーパンク(Seapunk)は……、嫌いじゃないですけども。

L:俺、髪を青くしてたことある。

え?

L:なんか、Seihoさんのイヴェントで、髪を青くしていったら安くなるやつがあったから。

(一同笑)

M:あー! あったかも。ウルトラデーモン(ULTRADEMON)のリリパとかかな。

ははは! 懐かしい。動機が安いなあ。LASTorderさんはジャケットとかアートワークについてディレクションした部分はあるんですか?

L:俺は……、ないかなあ。でも俺は俺でおじぎちゃんを見つけていたんですよ。それで、よくよくきいたらけっこう近いところで活動していて。それで、何かいっしょにできないかなと思っていたら、なんとなくあちらも似たことを思っていたみたいで。

へえ。

L:だから、だいたいさっきの説明と同じなんですけど、ちゃんと意味のあるものを感じるなと思って、共感するというか。

ふたりはけっこうバラバラなんだなと思いましたけど、同じようなところもあって、おじぎちゃんというのはそれを理解する補助線のような気もしてきました(笑)。

L:「こうしてください」ってふうにとくに注文していないんです。

M:そう、音源を送ったくらいで。

L:ウエディング・ドレスじゃないけど、そういう雰囲気の花のイメージがきて、あらためて、「ああ、自分たちはThe Wedding Mistakesなんだな」って思いました。

わたしもこの感じ、とても好きですね。

ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。(LASTorder)

さて、このユニットは一時的なものなんでしょうか? 期間限定のコラボみたいな。

M:えっと、正直な話、僕らが出会ったのが大学2年か3年のときで、もう卒業になるんですね。だからこの先忙しくなるだろうし、とりあえず1年半くらいやって、1枚2枚作品をつくって、楽しかったねって感じで終わろうと思ってたんです。だけど、こんなふうにリリースしてくれるところも見つかって、いまはちょっと長期的にやろうかというふうに思ってます。

L:俺も……、続けたいし、次はもっと作り込んだものをつくりたい。もっと、さらにいいものをって思える感触がいまのところあるので、まだやっていくつもりですね。

自分ひとりだとやれない部分が相手の中に見えているということですかね。

L:それがはっきりしたし、それを言いやすくなりました。

お互い評をもっと訊きたいですね。相手から盗んだ能力とかないんですか?

L:盗んだ能力は……ないですね。

M:(笑)

でも、データをもらってるわけだから、ある意味では盗み放題ですけども。

L:いや、データはこちらから渡すだけで、それを全部あっちが加工するんで……。

M:でも、たまにあげてんじゃん。こっちのも。

ははは!

L:でも、わざわざそれを解体したいという感じではないです。ソロの音はあまりゆがませたくないので……。だから、取り入れるということはなくて、どちらかというと自分の音を押しつけている感じです。

Miiさんは?

M:僕も押しつけられているということに関してはとくに何も、というかもっとやってくれって思ってるし、彼には自分の世界観がしっかりとありますから。僕は知識を体系的に取り入れて、それをどう生かしてブレイクコアとかの方程式で壊すかっていうようなことをやっていたので、LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。だから彼から送られてきたものについては全面的に信頼しているし、もし何かやろうとするなら、彼に言うんじゃなくて、自分で解体してどうかしたいって思います。  このアルバムでいえば、2曲め“ドラマティック・ビヘイビア(Dramatic Behavior)”とかは展開が突拍子もないんですけど。これははじめの1分半くらいの音をもらって、それをどう壊したらおもしろいかなって考えて、ジュークぽい低音を入れたりとか、最終的にゆがんだブレイクビーツを突っ込んでみたりとかしました。それはこっちで全部やったことなんですけど、そしたらすごく喜んでくれたし、ライヴでやってもすごくハマる曲になって。

LASTorderからもらった素材をどういじるかっていうところに熱量があるんですよね。(Miii)

ああー!

M:そのときくらいから、こっちでどうやるかというスタンスができあがっていった気がします。

たしかに2曲めは、ふたりともの個性がケンカするわけじゃないけどはっきり出てきてぶつかり合ってますよね。ほか、手ごたえのあった曲はどのへんです?

M:“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”とかもそうですかね。好き勝手やっている感じです。

ああ! Miiiさんの面目躍如! って感じの曲ですね。

M:そうそう、そうです!

で、LASTorderさんのメロディ性がより効いてくる。

M:当時はまだサウンドクラウド(SoundCloud)に曲を上げつつ、ライヴもやりつつっていう感じだったので、1曲めがまずサンクラに上がっていて、次に“ハー・ミステイクス(Her Mistakes)”が上がって、次、急にベースが入ったらおもしろいと思って。それで“スルー・オール・エタニティ?(Through All Eternity?)”を作ったんです。だから、特異点でもあります。

なるほど。では、この中にヴォーカルが入ったりなんて展開は今後考えられますか? すでにふたりともそれぞれのやり方で“歌っている”人たちではありますが。

M:歌は……考えてます(笑)。でも、そっちはまた別の方法論になりますから。デジタルでアルバムを出した後に『ミッドナイト・サーチライト・EP(Midnight Searchlight EP)』っていうEPをつくったんですけど、そっちは1曲だけがっつり歌ものが入ってるんですよ。でもそれはわりと僕らのいつものスタイルじゃなくて、僕が歌詞とかもつくって、編曲をふたりでやったっていう曲なんです。それで、ちょっと色合いとしては今回のアルバムとちがうものになってるんですね。だから歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。

歌ものって……R&B寄りなものとか?

L:というよりは、Jポップというか。

M:Jポップだけど、ちょっと毒というか、エグみのあるものを混ぜるので、おもしろい感じになるかとは思います。

L:そうですね……。でも、そういうものもやりつつ、また今度アルバムをやるとなったら、それはそれでちゃんとやりたい。歌ものかどうかというより、もっとちゃんとつくったものをやる。

ああ、ポジティヴな展開が期待できそうで、素晴らしいです。

歌をやったらまたちがったおもしろさが出てくるかもしれないと思っていて、次はそうなるかもしれないですね。(Miii)

ライヴはどんなふうにやってます? バースとウワモノで分かれて、けっこう即興的なかたちでふたりがセッションするんですか?

M:そこは僕の力不足もあって……、即興的に合わせるっていうのはまだできていないんですよ。鍛えたいところなんですけど。

おお、じゃそんなふうにやってきたいなって思いはあるんですね。……チューバ、やったらいいじゃないですか(笑)。

M:チューバかあ……!

(一同笑)

そこからすでにベースだったんですね。

M:いま思えば(笑)。

どうですか? ライヴについては。

L:いまライヴで悩んでいるような部分が大きいのはたしかですね。僕ひとりではそれほどライヴをしないので……。

M:月1回くらいがちょうどいいペースかと思いますけどね。

L:月1より、もうちょっとやったほうがいいんじゃない? CDを出したことで、CDを手に取ってくれた人がライヴに来たらいいなと思うし。

ちなみに、CDはタワレコさん渋谷だったら何階に置かれたいです?

M:いまは4階(クラブ系など)に置いていただいているんですよね。希望するとしたら……そうだなぁ、たとえばJポップのフロアとかにも置かれたいですね。

L:Jポップって、邦楽のロックのバンドとかも同じフロアにある? 

M:うん、いっしょなフロア。

L:じゃあ、ちょっと置かれたいです。でも4階に置いてくれるのはうれしい。

6階(エレクトロニカなど)とかは?

M:ああ、それもうれしいです。多義的なというか、ハードコアっぽい要素すら入っている作品なので、いろんな聴かれ方をしてほしいし、いろんなひとに聴いていただきたいですけどね。

もちろんそうだと思うんですけども、たとえばインターナショナルな展開は考えていないのかなと思いまして。べつにウエディングは特殊なキャラクターで売っているというわけではなくて、普通に国内外関係ない音楽のつくり方、発信をしてるように感じるので、海外レーベルから出したいみたいな気持ちがないのかなと。

M:海外でも認められればうれしいなというくらいで。あんまり詳しくはないんです。

L:海外でウケるのかどうかっていうのは知りたい。でも、海外の人たちにウケそうなもの、って思って作ってないから……。

なるほど。今日は意外にドメスティックな一面というか実像を見れてよかったです。なんか、とても自然なスタンスでいまという時代に音楽をつくっているなって思って。

M:そうですね、でも自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。

自分で聴いていて、日本人ぽい音楽なんじゃないかって思ってます。うまく言えないけど、日本人っぽい感情の出し方、つくり方。(Miii)

ああー。抒情性みたいな部分とか?

M:海外の音楽って、もっと音とかリズムとか一個一個の要素が太くて、それ全体でグルーヴをつくったりするところがあるという感じがします。こっちは、いろんな情報を配置するだけで、あとは聴くほうがその中から何を聴くのかを選んでいるというか……。だから、叙情みたいなものもそこから選んで聴き取るのかもしれないし。そういう意味ではメッセージといえるようなメッセージはないかもしれないというか。そこには多義的な、いろんな情報の層があるだけで。

ああー、たくさん神様がいる国、みたいな。八百万の。仏様もいっしょくたみたいな。

M:歌詞とかの情報量も多いし、情報の海があるだけって感じ……。つくる側の目線で言えば、自分は「この音だ」っていうのをドーンと出すのは正直なところ得意じゃないし、どんな音を足していったのかということもわりと感覚的で、理屈にもとづいたものではないし。

なるほど。

M:感覚的な話になってしまいましたが……。

いえいえ、音楽ですからね。言葉で言えれば音楽である必要もないし。ではリミキサーのHercelot(ハースロット)さんついておうかがいして終わりましょうか。

M:そうですね、もう、すごく好きなアーティストで、高校のころから崇拝していて。この曲(“Marriage for Dance”)については、トイポップみたいな可愛い要素をたくさん入れていただきましたけど、ご自身は「ロムズ・チルドレンだ」って言ってるくらい〈ROMZ〉が好きな方で、このリミックスはそういう人にお願いしなきゃ収まらないっていう思いはありました。

LASTorderさんは?

L:俺は……、というか、Hercelotさんにお願いしようと言い出したのは俺で。

M:そうですね。それを聴いて、たしかにそうだって思ったんです。

不思議ですね(笑)、ほんとにふたりは、バラバラで凸凹で、でも妙にシンクロしてる。ヘンなウエディングですよ。


BACON present EMILIO at Otsuka DEEPA - ele-king

 みなさん、映像コレクティヴBacon(ベーコン)をご存知でしょうか? 彼らのページにも表れているように、ポスト・インターネット的感覚が感じられる洗練されつつも混沌としたデザインはかなり強烈。去年開催されたファッションブランドC.Eのプレゼンテーションで、絶大な人気を誇るレーベル〈The Trilogy Tapes〉所属アーティストのRezzettによる音楽とともに投影された映像もBaconによるものです。そんな彼らが4月4日土曜日、イタリアより現代音楽の奇才Lorenzo Senniを招き、大塚のDeepaにてパーティを開催します。Baconのページにアップされている日本、韓国のポップスからレフト・フィールドなダンス・ミュージックを横断するミックスのアーカイヴを聴く限り、どんなイベントになるのかは当日現場に着くまで想像すらできません。1Drink、Gonbuto、BRFらDJ陣も参加。少しでも気になったら是非現場へ。

■BACON present EMILIO
2015/4/4(Sat)
@ 大塚DEEPA
Door: 1500yen(w1D)
Open/Start: 23:00

[main floor]
Lorenzo Senni(live)
1 Drink
Gonbuto
Brf
Youpy(live)
Carre(live)

[lounge floor]
Pootee
Oboco
Stttr
Strawberry Sex

※20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため顔写真付きの公的身分証明書をご持参願います。(Over 20's Only. Photo I.D. Required.)
Info : bcn.index@gmail.com

https://bacon-index.tumblr.com
https://otsukadeepa.jp

Bacon(ベーコン)

インターネットを中心に、映像制作やVJ、アパレルの発売など多岐にわたる活動を続ける謎の集団。

Lorenzo Senni(ロレンツォ・セニ)

1983年生、イタリア育ちのミラノ在住の音楽家。大学で音楽学を学び、プログラミングを駆使しながらも主にアナログ機材を用いた即興的かつ実験的な演奏を得意とする。近年は90'sハード・トランス・サウンドから強い影響を受けダンス・ミュージックを独自に解釈した楽曲を多く制作しており、新たなサウンドスケープの潮流を作り出すことに成功。自らレーベル「PRESTO!?」を主宰し、2012年にはEditions Megoから「Quantum Jelly」、2014年にはBoomkatから「Superimpositions」をリリース。それぞれが英FACT Magazineの50 Best Albums of 2012、2014にランクインするなど世界各国のメディアからも高い評価を受けている。

BROADCAST - ele-king


WORK & NON-WORK / NOISE MADE BY PEOPLE / HAHA SOUND / TENDER BUTTONS / FUTURE CRAYON / BROADCAST AND THE FOCUS GROUP INVESTIGATE WITCH CULTS OF THE RADIO AGE

 かれこれ4年前ですか。2011年1月14日、ブロードキャストのヴォーカル=トリッシュ・キーナンが肺炎による合併症のため、42歳という若さで死去した。この一報、世間では小さな出来事だったかもしれないけれど、ある種の音楽ファンには大きすぎるショックを与え、筆者などはいまだもってブロードキャストの名前を見聞きするたびに静かに悲しみが押し寄せるのを感じて、それを恐れてしまい、好んで再生することが何年も訪れない状態にあった。

 しかし、彼女の死から2年後の2013年に突然リリースされた同名映画のサウンドトラックであり、トリッシュ生前最後の録音作『バーバリアン・サウンド・スタジオ』における幽玄清浄なトリッシュの歌声、そして、いまやブロードキャストただひとりのメンバーとなってしまったマルチ・インストゥルメンタリスト=ジェームス・カーギルによる偏執的サウンド・コラージュ/エフェクト(それはスティーヴン・ステイプルトンの音響寵愛っぷりと十二分にタメをはる!)に浸ると、そんな危惧はどこへやら。再び扉を開けてしまったブロードキャストのめくるめく音響世界から抜け出せなくなっている私がいるのだ。

 そんな折に、ブロードキャストの旧作がまとめて6タイトルもリイシューされる、というのだからじっとしていられない。まずは、初期のEPを集めた〈ワープ〉移籍後初の顔見せとなるコンピレーション盤『ワーク・アンド・ノン・ワーク』(1997)。ここでは、ステレオラブが運営する〈デュオフォニック〉からリリースされた初期の超名作EP『ザ・ブック・ラヴァーズ』を筆頭に、サイケデリック畑でゆらゆらゆらめく60年代ソフトロック〜アシッド・フォークを正しく継承したポップ・エレクトロニクスを存分に聞かせてくれる。トリッシュの陰影豊かな歌声はもちろん、5人のバンド編成によるアレンジのエレガントさはピカいちで——同世代を駆け抜けたものの、いまや多くがどこかに消えてしまったポスト・ステレオラブな「サイファイ一派」にくくられながらも——その繊細さと特異な陰りはどこまでも孤高で豪華だ。
 つづく『ザ・ノイズ・メイド・バイ・ピープル』(2000)は、前述のコンピレーションでもすでに完成していた彼らの美学が一枚の作品として丁寧に結実したファースト。前作から3年ということもあり、ブロードキャストの肝であるアレンジ力に格段と磨きがかかり、リズム隊のしなやかさとキーボードのトリップ感には耳がくらむばかり。

 セカンドの『ハハ・サウンド』(2003)では、これまでのシネマティックでエレガントなサウンドにミニマルでクラウト・ロック的な昂揚感が加わり、ときに荒々しく、ときに宇宙に溶け入りそうなアナログ・シンセがあちこちを飛び回る。それはまるで、60年〜70年代にロックと電子音楽(現代音楽)を融合させた先駆者たち、たとえば、シルヴァー・アップルズ、ユナイテッド・ステイツ・オブ・アメリカ、50フット・ホースらのもつ蛍光色のアシッド感覚を彷彿とさせるもので、どこか冷ややかながらもハハの温もりも秘めたトリッシュの歌声がそこに不純物のない透明感を注ぎ入れる。チェコ発ゴスロリ・ホラーの古典的映画『闇のバイブル 聖少女の詩』の主人公ヴァレリーに捧げられた“ヴァレリー”や“ビフォア・ウィ・ビギン”など極上のバラードも用意されていてうっとり。

 そんな『ハハ・サウンド』の延長上にありつつも、トリッシュとジェームスによるデュオ編成となり、結成10年めにリリースされたサード『テンダー・ボタンズ』(2005)は、彼らのシュールレアリスム志向が穏やかに爆発した作品だ。トリッシュによる「自動筆記」から生まれたリリックは、無意識が作り出す超現実世界を描き出し、いつになく危ういノイジーなサウンドとダイナミクスを増したメランコリアが、(まるでヴェルヴェッツの2枚めのように)白い光と白い熱を放ちながら通りすぎる。トリッシュの歌唱にニコの亡霊が宿っているとしか思えない“テンダー・ボタンズ”から、ストロボライトのように眩いばかりのシングル曲“アメリカズ・ボーイ”につながる美しさはほんと永遠。ほとほと聞き惚れてしまう。
 そして、アルバム未収録だったEP曲やオムニバス提供曲を寄せて集めた編集盤『ザ・フューチャー・クレヨン』(2006)を経てリリースされたのが、ザ・フォーカス・グループとのコラボ作品『インヴェスティゲイト・ウィッチ・カルツ・オブ・ザ・レディオ・エイジ』(2009)である。ブロードキャストの2人同様、膨大なレコード・コレクション/ライブラリー音源を駆使したSFサイケデリック・コラージュ作品をリリースし、レーベル〈ゴースト・ボックス〉も運営するザ・フォーカス・グループことジュリアン・ハウスとの相性はばっちり! おとぎ話のように幻想的で奇特なやりとりは驚くほどにつうかあで、とびきりのユーモアの背後を「ラジオ時代の悪魔崇拝の考察」というきな臭いタイトルがもの言うように、どこまでもアヴァンギャルドでモンドでオカルティックな彼岸的音響がゆあーんゆよーんと漂い遊ぶ。トリーシャの歌というよりも不吉な語りによる木霊なんて、ノイズ・ファンの間でカルト的人気を集める幻覚サイケ・エレクトロニクス・デュオ=モーヴ・サイドショーのそれを彷彿とさせる瞬間まであるではないか。

 そんな不吉な予感にみちた作品を残してこの世を去ったトリッシュ・キーナン。魔性の魅力で男を惑わせて破滅に導くはずの「ファム・ファタール」は、思いもかけない不慮の病で唐突に人生の幕を閉じた。思えば彼らが〈ワープ〉から登場したのも唐突であった。97年といえば、エイフェックス・ツインがEP『カム・トゥ・ダディ』を、オウテカが4枚めのアルバム『キアスティック・スライド』を〈ワープ〉からリリースした年で、エレクトロニカ以前のジオメトリックな暴力性と、インテリジェンスな皮肉さがものの見事に融合し、時代をリードした何度めかのテクノのたけなわ期である。そんなアンチ・ロック・ムードな時代に、シーフィールらとともにバンド編成による最新エレクトリック・ミュージックを実践するブロードキャストを発信させた〈ワープ〉の目のつけどころには恐れ入るばかりだ。そして当時、その異色のラインナップを耳にしたとき、自分が測り知れない新時代に立っているような、そんな妄想を抱かせてくれたものだ。

 闇の奥にぽっと青白い火花を発して、そのままふっと消えてしまったかのごときトリッシュ・キーナンの声と存在。その優しげながらもどこか遠い印象を与える洗練された空虚がいまも耳の底に残る。しかし、結成20年めのいま、あらためてブロードキャストの諸作品を聴くこと。この良きタイミングのリイシューによって、彼らをリアルタイムで知らない世代に光明がもたらされ、彼らを語る際につきまとっていた暗い悲しみの渦が、さらさらと明るい未来に流れ出すのを感じられるのは筆者だけではないはずだ。

ムーン・デュオのインタヴューでも言及されている、彼らのもうひとつのホーム、〈セイクリッド・ボーンズ〉は、USアンダーグラウンドの2000年代から現在を語る上で重要なレーベルのひとつでございます。ゾラ・ジーザス(Zola Jesus)やクリスタル・スティルツ(Crystal Stilts)などはよくご存知かもしれませんね。レーベルのベースにあるのは、ムーン・デュオやサイキック・イルなどどっぷりと振り切れたガレージ・サイケですが、ゾラやクリスタル・スティルツをはじめ、ラスト・オブ・ユース(Lust Of Youth)やゲイリー・ウォー(Gary War)など、2010年前後のトレンドでもあったシンセポップやニューウェイヴ/ポストパンク・マナーが、やはりトレンドであった独特のローファイ文化と結びつき、さらにもうひとつトレンドであったインダストリアルやシューゲイズまで巻き込んでいったことは、このレーベルの鋭さを証すものでしょう。
彼らがマイナーでカルトなサイケ集団のようなたたずまいにもかかわらず、諸トレンドの奇妙な合流地点となっていたことは、次の10枚を眺めてみてもよくおわかりになるかと思います。じつにおかしな、そしてキュートなレーベルでございます。


Pharmakon - Abandon

NY出身の可憐な少女、マーガレット・チャーディエットによるファーマコンのデビュー・アルバム。絶叫、グロ、オカルティズム、ノイズ……こじらせすぎた女子による、振り切れすぎたエレクトロニクスは、ゲテモノとアートの狭間で凄まじい緊張感と違和感を放ちながら、ギリギリの官能を現出させてみせる。このジャケ同様、狂気のライヴ映像は閲覧注意!

Crystal Stilts - Delirium Tremendous

そもそもは〈スランバーランド(Slumberland)〉からのデビュー作『オールライト・オブ・ナイト』で脚光を浴びたオサレなバンドだったが、当時ネオ・シューゲイズなどと目されたあの淡麗なフィードバック・ノイズやポストパンク・マナーの影にはドロドロとアンダーグラウンドの血が流れていたのだろう。このサード・フルにはドラッギーなフォークやカントリー色までうかがわれる。

Lust for Youth - Perfect View

スウェーデンはコペンハーゲンの現在を象徴するレーベル、〈Posh Isolation〉を主宰するHannes Norrvideによるユニット。その持ち味であるスマートなダーク・ウェイヴには、皮肉やパロディではなしに、若いいらだちやポジティヴな攻撃性が感じられて清々しい。本作は2010年前後のシンセ・ポップ・リヴァイヴァル群のなかでも、ひときわナイーヴな美しさを放っている。

Amen Dunes - Through Donkey Jaw

本作の隣には、〈キャプチャード~〉と双璧をなす2000年代のローファイ・コロニー、〈ウッジスト(Woodsint)〉のウッズ(Woods)を並べずにはいられない。2014年の新作ではよりクリアに「歌」を取りだしてみせたエイメン・デューンズことデイモン・マクマホンだが、より混沌とした本作の、こだまのようにのんきで音響的なヴォーカルには、どこか神聖ささえ宿っているように感じられる。

Blank Dogs - On Two Sides

2000年代後半のUSインディを語る上で絶対に避けては通れない重要レーベル〈キャプチャード・トラックス〉主宰のマイク・スニパーによるユニット、その記念すべき〈トラブルマン・アンリミテッド〉からのファースト・アルバム。なんとセカンド・プレスからは〈セイクリッド~〉からも出ていたのだ。ダム・ダム・ガールズなど当時トンガっていたガレージ、ポストパンクから、シューゲ・カタログの発掘・リイシューにも余念ないブルックリン・アンダーグラウンドの雄。

Zola Jesus - Stridulum EP

ゴシックや〈4AD〉再評価の機運が高まる2010年前後のシーンに颯爽と現れた才媛。無機質なビートと不穏なノイズが構築するダーク・ウェイヴに、ケイト・ブッシュに比較されるヴォーカル。幼少から学んだというオペラの素養は、どこかトラウマチックで険のある彼女のアルトを艶めかせ、かつフラジャイルな魅力を加えている。本作はデビュー・フルの後のEP。ジャケももっともコンセプチュアルだ。

Gary War - Horribles Parade

世間的にはサード・フル『ジャレッズ・ロット(Jared's Lot)』が有名だろうか。アリエル・ピンクのバックも務めていたグレッグ・ダルトンによるセカンド・アルバム。激渋ジャケとは裏腹に、ファズとフィードバック・ノイズが効きつつも、〈キャプチャード・トラックス〉と同時代性を共有するローファイぶりがコミカルかつ愛らしい、アリエルの初期カタログを思わせるようなスキゾ系ポップ。

Psychic Ills - Hazed Dream

タイトルどおりヘイジーなサイケデリック・フォーク。ドリーミーというにはドープな空間性、〈リヴェンジ(Rvng Intl.)〉からのリリースにもうかがわれる、遠くアンビエントやドローンに接続していくような音響、ブルージーな楽曲、絶対に跳ねないヴォーカル。NYを拠点とし、現在は3人編成で活動。〈セイクリッド~〉らしさを構築する存在のひとつだ。

The Men - Open Your Heart

NYのなんともストレートなガレージ・サイケ・バンド。サーフ、ガレージ・パンクを軸に、かすかにメタルやハードコア的な要素も聴き取れるが、特筆すべきはそのポップ・センス。ぺなぺななプロダクションに愛唱すべきメロディが乗る。本当、憎めない。リリース量でも〈セイクリッド~〉において無視できない存在である。スタジオ・アルバムらしい完成度を求めるなら『トゥモロウズ・ヒッツ』を。

Slug Guts - Playin' In Time With the Deadbeat

プッシー・ガロア(Pussy Galore)やバースディ・パーティ(Birthday Party)の影響も色濃い、オーストラリアの“サバービア”・バンド。本作は2枚めのフル・アルバムとなる。参照点は渋いものの、絶妙に垢抜けないことを仮に「ぜつあか」と呼ぶなら、彼らはまちがいなくぜつあかマスターである。しかしそれが愛らしい……と思わせられるのは、そう、このレーベルの呪いである。

プラいち!- David Lynch - Eraserhead: Original Soundtrack Recording

言わずと知れた鬼才映画監督。彼が音楽制作も行うことはすでに周知のことだが、〈セイクリッド~〉からサントラもふくめなんやかやと7タイトルもリリースしているというのはなかなか本質的な事実! メジャー・リリースだと見え方もずいぶんと変わっていたのではないだろうか。

interview with Moon Duo - ele-king


Moon Duo Shadow Of The Sun
Sacred Bones / ホステス

PsychedelicRockFolkDrone

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 ムーン・デュオといえば、ピーキング・ライツ(Peaking Lights)に負けるとも劣らぬサイケデリック夫婦。しかしノリのほうはすこし胡散臭さが勝るのがムーン・デュオかもしれない。旦那のほうが元ウッデン・シップス(Wooden Ships)のメンバーであっただけに、重心低めのブルージーなサイケデリック・ロックが底流にはあるが、たとえば本インタヴュー内でも言及される“アニマル”のMV“スリープウォーカー”のMVなど、何かふざけたネタ感をぶっ込まずにはいられないという茶目っ気がある。毎回大きく作風を変えるわけではないが、マメにツアーに出て、生活と音楽とサイケが寄り添うような生き方をしているふたりにとっては、アルバムごとの色などよりは、そうした冗談やお茶目のほうがはるかに大事なものなのかもしれない。のんびりとまどろむようなスペーシー・ロックから、クラウトロック調、ブギ、ちょっとラフなガレージ・ナンバーまで、USのアンダーグラウンド・カップルのマイペースなノリをいっしょに楽しみたい。月のように、彼らはいつもそこにいる。振り返ったらついてくる!

■Moon Duo / ムーン・デュオ
サンフランシスコ出身の人気前衛サイケデリック・ロック・バンド、ウッドゥン・シップスのメンバーであるリプリー・ジョンソンと、妻であり元教師という過去をもつサナエ・ヤマダ(父親が日本人)夫婦によるプロジェクト、ムーン・デュオ。現在はポートランドに移住して活動をつづける。ザ・メン、ゾーラ・ジーザスなどを擁するブルックリンのブティック・レーベル〈セイクレッド・ボーンズ(SACRED BONES)〉と契約し、2011年に『メイジズ(Mazes)』、12年に『サークルズ(Circles)』の2枚のアルバムを発表。本作は約2年半ぶりとなる通算3作めのフル・レンス・アルバム。13年には都内4公演から成る初来日ツアーを敢行し、日本での知名度を上げている。

普通じゃない場所でライヴをするのが大好きなのよね。

リプリーのウッドゥン・シップスに比べると、ムーン・デュオはもっと柔軟で、ライヴをしやすいのではないでしょうか。フルのドラムセットもスタック・アンプも要らないですもんね。あなたたちはアート・ギャラリーやディスコなど、つまりライヴハウスではない会場でライヴをされてきたと思います。典型的なライヴハウスで演奏するのと何か違いはありますか ? もしあるならば、それはどのような違いでしょうか?

サナエ:普通じゃない場所でライヴをするのが大好きなのよね。アート・ギャラリーや教会でもプレイしたことがあるし、そういうライヴはとくにに想い出深いわ。たしかにいままでのムーン・デュオはそういう変わった場所でのライヴがしやすい編成だったけれど、最近ではドラマーが参加するようになったから、以前ほど簡単ではなくなった。とはいえ、それでもおもしろい機会があればいまでもやりたいと思ってる。前にサンフランシスコの〈ジ・エクスプロラトリアム(科学博物館)〉でライヴをしたんだけど、本当に素晴らしかった。


新作ではドラマーのジョン・ジェフリーと制作を行ないました。彼はアルバムのレコーディングのみの参加なのでしょうか?
 それとも、彼はムーン・デュオのメンバーとしてライヴに参加する、あるいは参加していたのでしょうか?

サナエ:じつは、ジョンにはもともとツアーに参加してもらう約束だけで、いっしょにレコーディングすることは考えてなかったの。2013年の夏のツアーで、フェスや野外のライヴの予定がいくつかあったから、そういう場所には生ドラムがあったほうがよさそうだと思ってね。でもやってみたら、ジョンがこのバンドにすごくしっくりくることがわかって、いまではライヴではもちろんのこと、新作のレコーディングにも参加してもらうことになったの。

今作のタイトルやジャケットはコールド・サンの『ダーク・シャドウズ』を思わせます。あの作品が好きですか? また、今作のタイトル『シャドウ・オブ・ザ・サン』は『ダーク・シャドウズ』を何かしらの形で参照しているのでしょうか?

サナエ:あのレコードは大好きよ! いままではこの作品とのつながりを考えたことはなかったけれど、言われてみればたしかに共通点があると思う。



ムーン・デュオのサウンドはある意味で、かなりミニマルでシンプルと言えるでしょう。過去には多くのアーティストたちにリミックスをされてきました。それらのリミックス作品からどのようなインスピレーションを受けますか? 今回のアルバムの曲のリミックスを依頼したいアーティストはいますか? もしくは既に作業は進んでいるのでしょうか?  もしそうであれば、現在取りかかっているリミックスを教えてください。

サナエ:サナエ:このアルバムの曲に関しては、まだリミックスを作る予定はないけれど、やってみたい気持ちはあるわ。過去のリミックス・アルバムでは、普通はあまりリミックスをやらないアーティストを起用したかったの。そういう人たちのほうが、どういうリミックスにすべきかっていう既成概念に縛られず、ユニークで一風変わったものを作ってくれそうだと思ったから。リミックスの出来にはもちろん満足してるわ。自分たちの音楽を他の誰かが解釈したものを聴くって、とてもおもしろい経験だった。それに、その経験を通じて、自分自身もまたちがった聴き方をできるようになった気がするわ。

私たちはツアーに長い時間を費やしているし、移動したりドライヴしたりということは、人生の大きな一部になってるから。

今作のジャケットがとてもカッコいいですね。日本のグラフィックデザインの黄金期のテイストが感じられます。これはどなたが手がけたのでしょうか?

サナエ:アルバムのジャケットは、ジェイ・ショウというアーティストが手掛けたものなの。彼はアルバムのジャケットだけじゃなく、映画のポスターなどもよくやっていて、70年代風のタッチが素晴らしいと思う。少しSFっぽくて、映画的なジャケットがいいなと思っていたから、彼のデザインが本当にぴったりだった。



今回に限らず過去品も含めて、ムーン・デュオの音楽はドライブをするときのサウンドトラックにピッタリなんですよね。作曲をしているとき、ツアーのことや車を運転することを考えますか?

サナエ:それはいい褒め言葉ね! 曲を書いているときにあえて考えているわけではないけれど、たしかに私たちはツアーに長い時間を費やしているし、移動したりドライヴしたりということは、人生の大きな一部になってるから。それに私自身、ぐいぐいと進むようなサウンドに惹かれるところもあると思う。 


ポートランドの地元の音楽シーンはどのような感じなのでしょうか? あなたたちはよく演奏はされていますか?

サナエ:ポートランドの音楽シーンはすごく盛り上がってる。住んでいるミュージシャンも多いし、毎晩どこかでライヴをやってる。それに、まだまだ小さなインディのレコード屋さんが頑張ってるわ。他のアメリカの都市では、そういう文化がなくなってきているから、本当にありがたいの。私たちはツアーしてばかりで、ポートランドに戻るとバンド活動をお休みすることが多いから、自分たちが地元シーンの一部とまでは思わないけれどね。でも、今回のアメリカ・ツアーのフィナーレは土曜日のポートランドのライヴなの。すごく楽しみにしてるわ。 


あなたたちのミュージック・ビデオはどれもある意味コミカルです。“アニマル”のビデオがどんなアイディアから生まれたかが気になります。なぜ映像ではプロのスケーターがスケボーを使わずにスケートをしているのでしょうか? 曲と映像のストーリーとの繋がりがいまひとつ理解できなかったんですよ。

サナエ:“アニマル”では、リッチー・ジャクソンという監督に依頼したの。彼の作品を私たちふたりとも気に入ってたから。ビデオを作ってほしいとお願いしたら、快諾してくれたわ。彼が好きなようにやってくれればいいし、どれだけ変わったビデオになっても構わないって伝えた。スケートボード以外のもので滑るスケーターというのは、リッチーのアイデアだった。その意外性が私たちも気に入ったわ。あのビデオは“無”や“欠落したなにか”っていうコンセプトをベースにしていて、そこが『シャドウ・オブ・ザ・サン』と共通しているところなの。

ポートランドの音楽シーンはすごく盛り上がってる。まだまだ小さなインディのレコード屋さんが頑張ってるわ。

ムーン・デュオは全てのアルバムを〈スケアード・ボーンズ〉からリリースしています。同じレーベルに所属するアーティストや作品からインスパアされますか?

サナエ:ええ、もちろん。サイキック・イルズやフォラクゾイドは大好きだし、それにジョン・カーペンターは特別ね。それに、〈セイクリッド・ボーンズ〉からリリースされているファーマコンやゲイリー・ウォー、アーメン・デューンズの作品はどれもおもしろくてユニークだと思う。

最近共演したミュージシャンやバンドで、誰が素晴らしかったですか?  また、見つけたお気に入りのレコードはなんですか?

サナエ:今回のツアーでは、ケヴィン・モービー、ネスト・エッグ、レキシー・マウンテン、ミラーズ、ホリー・ウェーヴに参加してもらったわ。個人的にやられたのは〈SXSW〉でいっしょにライヴをしたシタールとタブラのデュオ、Gourishankar Karmakar and Indrajit Banerjeeね。彼らを見ていると、まるで自分が宙に浮かんでいるかのような気分になったわ。最近のレコードだと、〈サヘル・サウンズ(Sahel Sounds)〉からのリリースにはずっと注目していて、Mdou Moctarの『Anar』とか、Mamman Saniの2枚のアルバムはよく聴いてるのよ。





サイケデリックな紳士淑女のみなさま、〈Sacred Bones〉のことはご存知?──ムーン・デュオ来日記念! セイクリッド・ボーンズの10枚+1

ムーン・デュオのインタヴューでも言及されている、彼らのもうひとつのホーム、〈セイクリッド・ボーンズ〉は、USアンダーグラウンドの2000年代から現在を語る上で重要なレーベルのひとつでございます。ゾラ・ジーザス(Zola Jesus)やクリスタル・スティルツ(Crystal Stilts)などはよくご存知かもしれませんね。レーベルのベースにあるのは、ムーン・デュオやサイキック・イルなどどっぷりと振り切れたガレージ・サイケですが、ゾラやクリスタル・スティルツをはじめ、ラスト・オブ・ユース(Lust Of Youth)やゲイリー・ウォー(Gary War)など、2010年前後のトレンドでもあったシンセポップやニューウェイヴ/ポストパンク・マナーが、やはりトレンドであった独特のローファイ文化と結びつき、さらにもうひとつトレンドであったインダストリアルやシューゲイズまで巻き込んでいったことは、このレーベルの鋭さを証すものでしょう。
彼らがマイナーでカルトなサイケ集団のようなたたずまいにもかかわらず、諸トレンドの奇妙な合流地点となっていたことは、次の10枚を眺めてみてもよくおわかりになるかと思います。じつにおかしな、そしてキュートなレーベルでございます。

Pharmakon - Abandon

NY出身の可憐な少女、マーガレット・チャーディエットによるファーマコンのデビュー・アルバム。絶叫、グロ、オカルティズム、ノイズ……こじらせすぎた女子による、振り切れすぎたエレクトロニクスは、ゲテモノとアートの狭間で凄まじい緊張感と違和感を放ちながら、ギリギリの官能を現出させてみせる。このジャケ同様、狂気のライヴ映像は閲覧注意!

Crystal Stilts - Delirium Tremendous

そもそもは〈スランバーランド(Slumberland)〉からのデビュー作『オールライト・オブ・ナイト』で脚光を浴びたオサレなバンドだったが、当時ネオ・シューゲイズなどと目されたあの淡麗なフィードバック・ノイズやポストパンク・マナーの影にはドロドロとアンダーグラウンドの血が流れていたのだろう。このサード・フルにはドラッギーなフォークやカントリー色までうかがわれる。

Lust for Youth - Perfect View

スウェーデンはコペンハーゲンの現在を象徴するレーベル、〈Posh Isolation〉を主宰するHannes Norrvideによるユニット。その持ち味であるスマートなダーク・ウェイヴには、皮肉やパロディではなしに、若いいらだちやポジティヴな攻撃性が感じられて清々しい。本作は2010年前後のシンセ・ポップ・リヴァイヴァル群のなかでも、ひときわナイーヴな美しさを放っている。

Amen Dunes - Through Donkey Jaw

本作の隣には、〈キャプチャード~〉と双璧をなす2000年代のローファイ・コロニー、〈ウッジスト(Woodsint)〉のウッズ(Woods)を並べずにはいられない。2014年の新作ではよりクリアに「歌」を取りだしてみせたエイメン・デューンズことデイモン・マクマホンだが、より混沌とした本作の、こだまのようにのんきで音響的なヴォーカルには、どこか神聖ささえ宿っているように感じられる。

Blank Dogs - On Two Sides

2000年代後半のUSインディを語る上で絶対に避けては通れない重要レーベル〈キャプチャード・トラックス〉主宰のマイク・スニパーによるユニット、その記念すべき〈トラブルマン・アンリミテッド〉からのファースト・アルバム。なんとセカンド・プレスからは〈セイクリッド~〉からも出ていたのだ。ダム・ダム・ガールズなど当時トンガっていたガレージ、ポストパンクから、シューゲ・カタログの発掘・リイシューにも余念ないブルックリン・アンダーグラウンドの雄。

Zola Jesus - Stridulum EP

ゴシックや〈4AD〉再評価の機運が高まる2010年前後のシーンに颯爽と現れた才媛。無機質なビートと不穏なノイズが構築するダーク・ウェイヴに、ケイト・ブッシュに比較されるヴォーカル。幼少から学んだというオペラの素養は、どこかトラウマチックで険のある彼女のアルトを艶めかせ、かつフラジャイルな魅力を加えている。本作はデビュー・フルの後のEP。ジャケももっともコンセプチュアルだ。

Gary War - Horribles Parade

世間的にはサード・フル『ジャレッズ・ロット(Jared's Lot)』が有名だろうか。アリエル・ピンクのバックも務めていたグレッグ・ダルトンによるセカンド・アルバム。激渋ジャケとは裏腹に、ファズとフィードバック・ノイズが効きつつも、〈キャプチャード・トラックス〉と同時代性を共有するローファイぶりがコミカルかつ愛らしい、アリエルの初期カタログを思わせるようなスキゾ系ポップ。

Psychic Ills - Hazed Dream

タイトルどおりヘイジーなサイケデリック・フォーク。ドリーミーというにはドープな空間性、〈リヴェンジ(Rvng Intl.)〉からのリリースにもうかがわれる、遠くアンビエントやドローンに接続していくような音響、ブルージーな楽曲、絶対に跳ねないヴォーカル。NYを拠点とし、現在は3人編成で活動。〈セイクリッド~〉らしさを構築する存在のひとつだ。

The Men - Open Your Heart

NYのなんともストレートなガレージ・サイケ・バンド。サーフ、ガレージ・パンクを軸に、かすかにメタルやハードコア的な要素も聴き取れるが、特筆すべきはそのポップ・センス。ぺなぺななプロダクションに愛唱すべきメロディが乗る。本当、憎めない。リリース量でも〈セイクリッド~〉において無視できない存在である。スタジオ・アルバムらしい完成度を求めるなら『トゥモロウズ・ヒッツ』を。

Slug Guts - Playin' In Time With the Deadbeat

プッシー・ガロア(Pussy Galore)やバースディ・パーティ(Birthday Party)の影響も色濃い、オーストラリアの“サバービア”・バンド。本作は2枚めのフル・アルバムとなる。参照点は渋いものの、絶妙に垢抜けないことを仮に「ぜつあか」と呼ぶなら、彼らはまちがいなくぜつあかマスターである。しかしそれが愛らしい……と思わせられるのは、そう、このレーベルの呪いである。

プラいち!- David Lynch - Eraserhead: Original Soundtrack Recording

言わずと知れた鬼才映画監督。彼が音楽制作も行うことはすでに周知のことだが、〈セイクリッド~〉からサントラもふくめなんやかやと7タイトルもリリースしているというのはなかなか本質的な事実! メジャー・リリースだと見え方もずいぶんと変わっていたのではないだろうか。

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