「KING」と一致するもの

 先週土曜は、ブシュウィックの会場シェ・スタジア(liveatsheastadium.com)で、インディ・ロックDIYのショーケースを見た。エド・シュレイダーを見に行ったのだが、結果見たすべてのバンドが面白かったのでひとつずつレポートします。日本のレコード店で見つけたらチェックしてみて!

■フリー・ブラッド:freeblood.bandcamp.com

 !!!のメンバーでもあったジョンがはじめたバンドで、昔、著者が働いていたカフェにメンバー、ふたりでよく来ていたので、ライヴを見にいっていたのだが、最近はご無沙汰していた。メンバーが、ふたりから4人になり、黒髪の女性から、金髪で赤い口紅、レザージャケットのLAっぽい女の子に変わっていた。サウンドは前と大きな変わりはなく、男女ツイン・ヴォーカルにギターとビートが乗ったエクスペリメンタル・ポップ・ソウル。ジョンはドラムを叩きながら歌い(片手にマイク、片手にスティック)、たまに鐘も鳴らす。前の女子メンバーが、お酒をステージに持ってきたりしていたので、関係は良好であるらしい。
 ショーの後に話したら、バンドは10年ぐらいやってるとか、日本ツアーも経験済み。

■ジャマイカン・クイーンズhttps://jamaicanqueens.com/

 今日の大発見! 男の子3ピースで、インディ・ポップと呼ぶには新しいので、サザン・ラップを取り入れたトラップ・ポップと呼んでみる。スタイルは、ウエィブスに近いかな?
 メンバーは、メインの男の子が、ギター、シンセを弾き、歌を歌い、ベースガイは、弾きながら、スティックを持ってエレキドラムを叩いたり、シンセを操作したり、ふたりともマルチ・プレイヤー。
 中盤で、メガネ、三つ編み、金髪、赤ニット、タイト黒パンツの可愛い女子が、1曲ゲストヴォーカルで登場する。ふわふわした高い声が裏返るところが、少しグライムスを思い起こさせる。2012年に結成されて、すでに全米ツアーも敢行する、2013年注目バンド。『Lマガジン』でも、このバンドを、なぜもっとみんなが注目しないのかと熱い思いが書かれている。
 
https://www.thelmagazine.com/...

■エド・シュレイダーズ・ミュージック・ビート:https://edschradersmusicbeat.blogspot.com

 何年か前にp.s1(クイーンズにある現代美術館)で彼らのプレイを偶然見て以来、もう1回見たいと思っていた。M.I.Aか本の展覧会を見に行って、帰ろうと、館内から外に出るときに、階段の踊り場でセットアップしていたのが彼らだった。ライトニングボルトに、ポップ・ソングを乗せた(+叫び系)と言ったらわかりやすいかな。

 2ピースで、ベースとフロア・タムそして歌、というシンプルなセット。ヴォーカル(エド)はフロア・タムを叩きながら、ライトのスイッチ(タムのなかから照らしている)を足でオン・オフしたり、Tシャツでタムを覆って音を調節したり(タムに直接ペンで演目が書いてある)、自分の家の鍵の束をタムに載せてジャラジャラ音を出しながらそのまま叩いたりの新世代感覚。普通、家の鍵をドラムに載せて音を出そうなんて発想は古典的なバンドには起こらないだろう。
 上半身裸で、タムにライトをチカチカさせ(下から照らすのでゴースト見たいに見える)、あまりに近くで見るので(ステージでなくフロア)、例えば、'I can't stop eating sugar'を言い続けているだけの歌なのに、訴えかけ方がハンパなく、がんがん心動かされる。
 すべての歌が短く、いきなり終わるし、後奏がないし、アカペラがあるし、ところどころで今日のバンドや会場、お客さんに感謝の念を忘れないし、とっちらかっているパワフルさがこのバンドの魅力。

 会場の都合で、共演バンドがバラバラなことが多く、目当てのバンドが終わるとさっさと帰ってしまうことも多いなか、今回は、最初から最後までいたお客さんが多かったように思う。共演バンドが、お互いを尊敬し合い、今日を「いままででいちばんのショー」、と思ってプレイするバンドの姿勢と気合が見えた。
 仲が良いので、一緒にツアーしているのかと思ったが、実際はバラバラで、フリー・ブラッドはプロヴィデンス、ジャマイカン・クイーンズはフィラデルフィア、エド・シュライダーは、フィラデルフィア(ジャマイカン・クイーンズとは違うショー)から別々に来たらしい。
 こんな貴重な瞬間に立ち会え、こんなバンドたちがいる限り、ショーに行くのはやめられない。オーガナイズをしたシェ・スタジアムに感謝しつつ、来週は誰が来るか、チェックしたら、ミネアポリスからハーマー・スーパースターの友だちの日本人男の子ふたり組が来るみたい。

interview with Jeff Mills - ele-king

 ハード・ミニマルとは、ジェフ・ミルズがひとりで切り拓いたダンスのサブジャンルだ。最近ではそれが、大雑把に言って、インダストリアル・ミニマルとして呼び名の元でリヴァイヴァルしている。20年後にして、『ウェイヴフォーム・トランスミッション』のようなサウンドをふたたび聴くことになるとは思ってもいなかった。そして、ジェフ・ミルズがそうしたリヴァイヴァル現象を良く思っているはずもなかった......。

 昨年の、彼自身のレーベル〈アクシス〉20周年を記念してのベスト盤『シーケンス』を経てリリースされるジェフ・ミルズの新作は、驚くべきことに、宇宙飛行士である毛利衛との共作となった。毛利衛がストーリーを書いて、ジェフ・ミルズが音を加えた。『ウェア・ライト・エンズ』=明かりが消えるところ=闇=宇宙ないしは宇宙体験がテーマだ。

 精力的な活動を続けながら、とにかく迎合することを忌避し、誰もやっていないことにエネルギーを注ぐデトロイト・テクノの重要人物のひとりに話を聞いた。

僕のインダストリアルな感覚は、もともとファイナル・カットのスタイルから来ている。当時、デトロイトでウィザードとしてDJをやっていたときも、インダストリアルとハウスとテクノをミックスしていた。


Jeff Mills
Where Light Ends

U/M/A/A Inc.

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Jeff Mills
SEQUENCE-A Retrospective of Axis Records(2CD Japan Edition)

U/M/A/A Inc.

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この取材では、新作の『ウェア・ライト・エンズ』について、そして、昨年の〈アクシス〉レーベル20周年にも焦点を当ててやりたいと思います。

ジェフ:これから何をしたいのか、何を考えているのか話すことのほうが興味深いかもしれないけどね。

ぜひ、過去と未来のふたつで。

ジェフ:何かについての作品を作るというプロジェクトをやり続けてきている。その基盤がいまできていて、それは10年、15年前にはなかったことだから、ぜひ先のことについても話したいんだ。

若い読者も多いので、昔のことも訊かせて下さい。

ジェフ:オッケー。

昨年、〈アクシス〉レーベル20周年企画のBOXセット『シーケンス』を出しましたが、ジェフが自分で書いたそれぞれの曲に関するコメントが面白かったです。そのなかで、〈アクシス〉レーベルのマニフェストとして、最初に「AXISは失敗を犯さない。失敗とは目的と計画が明確ではない場合にあり得ることであるからだ」とありますよね。ジェフらしい言葉だなと思いましたが、これはあなたの人生にも当てはまることですか?

ジェフ:ノー(笑)。人生には当てはまらない。

はははは。

ジェフ:アイデアにチャレンジして、そしてうまくいかなかったとしても、それが他の場面で役に立つこともある。失敗を失敗として片付けてしまうことはない。アクションを起こしてからアイデアをキャンセルしたこともない。別の機会をうかがうということもつねに考えているから。
 それは、自分以外の、ほかのインディペンデント・レーベルをやっている人たちの視点を変えることでもある。つねに、正解はない。状況が変われば結果に結びつく。だからすべてはポジティヴであって、ネガティヴに捉えることはないと思っている。

なるほど。失敗と言えば、"コンドル・トゥ・マヨルカ"という曲のエピソードも面白かったですね。プロモーターが迎えに来なくて、マヨルカ島行きの飛行機に乗り遅れて、せっかくの休暇が台無しになった話です。あの曲に、まさかそんな背景があったとは(笑)......その旅費は、その曲を作ることで取り戻せたのですね?

ジェフ:あのときは、まったくがっかりした。とてもタフな体験だった。いまのようにビジネスクラスに乗れるわけではなかったし、まだ空の旅にはいろいろな制約があった。あのときの自分にできることは、このバカげた体験に関するトラックを作ることだけだった。お金のためというか、ちょうどのその頃、『ウェイヴフォーム・トランスミッションvol.3』(1994年)を作っていたので、旅ということで、そのアルバムにもうまくハマるんじゃないかと考えた。当時はDJとしてツアーするのも乗り継ぎなど大変だったな。若かったからできたんだと思う。

『ウェイヴフォーム・トランスミッションvol.1』の1曲目は、"デア・クラング・デア・ファミリエ"というラブパレードのテーマ曲でもあったトラックを使っていますが、初期のあなたにとってベルリンとはとても重要な都市だったと思います。当時のベルリンに関する思い出を教えてください。

ジェフ:初めてベルリンに行ったのは、1989年だった。インダストリアル・バンドのファイナル・カットのメンバーとして行った。そのときにトーマス・フェルマンやモーリッツ・オズワルドたちと知り合った。
 デトロイト・テクノの初期の頃、デリック・メイ、ホアン・アトキンス、ケヴィン・サンダーソンたちはイギリスを中心にツアーしていた。そこで、僕とマイク・バンクスはドイツを選んだ。最初、僕たちにとってのドイツの窓口は、〈トレゾア〉だけだった。〈トレゾア〉が自分たちの音楽に興味を持ってくれたからね。そして、リリースできるかもしれないという話から、デトロイトとベルリンとの関係がはじまった。ちょうどデトロイトでも、デリックやホアンたちとは別の、テクノの進化型が生まれつつあった時期だった。ベルリンではラヴパレードやメイデイがはじまって、メディアも創刊されて、すべてが新しかった。

当時のあなたの作品は、とてもハードでした。あのハードさはどこから来たものなんでしょうか?

ジェフ:ああいうインダストリアルな感覚は、もともとファイナル・カットのスタイルから来ている。当時、デトロイトでウィザードとしてDJをやっていたときも、インダストリアルとハウスとテクノをミックスしていた。ミート・ビート・マニフェストとスクーリー・DとDJピエールをミックスするようなスタイルだね(笑)。だから音楽を制作するうえでもいろいろな要素が加えられた。それにマイク・バンクスは、フォースフルな(力を持った)音楽の必要性を考えていた。また、ヨーロッパのクラウドの規模がだんだん大きくなって、1万人規模の人たちを動かすことを考えると、密度であったり、強さを持ったものではないと効果はでなかった。
 最初にヨーロッパに行ったときは、僕にはそんな考えはなかったよ。ヴォーカル・ハウスだったり、ハードではない音楽をプレイしていた。しかし、ハードでなければダンスしてもらえない。相手のドイツ人はそんなにうまくダンスできる人たちでもない。それで考えたのが、もっとカオティックで、踊れなくてもうわーっと熱狂できるような、そしてよりハードでより速い音楽を目指した。必ずしもそれがもっともやりたいことではなかったけれど、効果はあった。自分では、ソウルフルな音楽を作りたいと思っていたんだけどね。

初期の頃のあなたはヘッドフォンだけを使って、低い音量で作っていたとありますが、そのことも意外に思いました。その理由を教えてください。

ジェフ:音量を下げたほうがすべてのフリーケンシーが聴こえるんだ。スタジオでは、たいていニア・フィールド・スピーカーで音像が目の前に来るようにセッティングしているんだけれど、大きくしてしまうと、音のエンヴェロープが前ではなく頭の後ろで鳴ってしまい、どうなっているのかわかなくなる。もちろん大きな、ちゃんと設備の整ったスタジオなら大きな音を出してもすべての音がしっかり聴こえる。しかし、インディペンデントでやっている小さなスピーカーでは難しい。フルステレオの音の領域を聴くには、小さな音量のほうがいいこともある。さらにヘッドフォンで聴けば、サウンドのロスが少ない。これがレコーディングの話だ。
 ところが現場では、スピーカーがぜんぜん違う。ロウが強くて、中域がなくて、高音が強いという、いわゆるクラブの音になるので、スタジオで作業していたときの音との違いに気がつく。だから現場でどう鳴るのかを補正しながら作っていくようになるんだ。90年代なかばのトレンドは、各チャンネルの音量を目一杯上げて作ることだった。それがエレクトロニック・ミュージックがミニマルになっていく大きな要因でもあったし、ある意味、音が画一化されていく要因でもあった。
 音楽はどういう風に聴くかでも変化するものだろうね。現代のPCDJたちは、ヘッドフォンすら使わなくなっている。つまり、出音で、オーディエンスに聴こえる音と同じ音でDJしているわけだ。それによってサウンドのクオリティは良くなってくべきだ。

あなたのベースに対する考え方を教えてもらえますか? あなたのベースのアプローチの仕方はユニークだと思います。

ジェフ:ベースラインは、デトロイトの音楽にとって重要な要素だ。僕は、メロディとベースを同時に弾いている。右手でメロディを弾いて、左手でベースラインを弾いている。右手と左手が同時に鍵盤を押すことはない。ベースとメロディが同時に鳴っていることはないんだ。タイミングがあって、順序がある。普通のやり方とは違っているから、独特なベースになっているんだと思う。

パーカッシヴな感覚ですか?

ジェフ:そうだね。パーカッションに近いと思う。

あるジャズ・ミュージシャンによれば、あなたの音楽は譜面に書くとブルースだそうですね。自分では意識していますか?

ジェフ:それは僕が生まれてから生きてきた長い人生の経験、環境から来ていることだ。子供の頃に何を聴いて、そして、どれが良い音楽なのか、そうした判断力などすべてと関係している。モータウン、ジャズやブルース、ゴスペルからの影響を無視して語るわけにはいかない。音楽は、自分がどういう風に感じているのかを反映するものだから、デトロイト・テクノにはある種のブルース・フィーリングが滲み出ているんだろう。

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いまだにうまく説明できないことが多くあることに驚きを覚えた。とくに宇宙の暗さ、闇の深さ、黒さは、僕たちが見ている黒さを越えた黒さがある。地球にはない黒さだから、その説明が難しいんだろう。

あなたがデトロイトを離れて久しいですが、デトロイトに戻らない理由をあらためて教えてください。

ジェフ:そこは、もう自分が育ったデトロイトではないからだよ。犯罪や経済のことを言っているんじゃない。人が変わってしまった。80年代なかばには多くの人がエクソダスした。90年代には人びとの精神が変化してしまった。自分がDJするためだけでも戻らない理由は、トゥー・マッチだからだ。どこでやるのか、誰のパーティでやるのか、ベルリンもそうだが、小さなエリア内に多くのプロデューサーがいると、批評も度が過ぎて、別のことでジャッジされてしまう。人間関係のちょっとした政治が生まれてしまう。そういう人間関係がある場所では、純粋に楽しめない。たとえばウィザード名義でデトロイトでやったとしても、昔踊っていた人たちは来ないし、何でヒップホップをかけているの? と思われてしまう。昔のように、聴いたことがない音楽を聴きに来る人たちが少なくなってしまった。フェスティヴァルをやっても、当たり前のメンツが出るだけだからね。

もし100万円で宇宙旅行に行けたら行きますか?

ジェフ:100万円じゃ安いだろ(笑)!

あ、そうか(笑)。では、いくらまでだったら真剣に宇宙旅行を考えますか?

ジェフ:いくらにしようか......(笑)。うーん、まあ、1億で行けるなら払う(笑)!

新作の『ホエア・ライト・エンズ』を作るきっかけになった宇宙飛行士との対話ですが、あなたがもっとも強く印象に残っている話なんでしょうか?

ジェフ:彼には多くの質問をしたんだけど、いまだにうまく説明できないことが多くあることに驚きを覚えた。とくに宇宙の暗さ、闇の深さ、黒さは、僕たちが見ている黒さを越えた黒さがある。地球にはない黒さだから、その説明が難しいんだろう。他には、大気や湿気がないから、どれだけ外がクリアに、鮮明に見えるか、そのことを彼がいまだにうまく説明できないこと。もう20年も講演会などで話していることなのに、いまだに説明できないこと、それが実に興味深かった。

その宇宙飛行士、毛利(衛)さんが今回の作品に寄せたコメントも興味深いですよね。「彼の音楽を聴いた私は、正直、宇宙で聴きたいものではないと感じました。なぜなら、宇宙ではむしろ自分が地球にいたことを感じられるような安心感を得たいからです。彼の音楽は、まさに宇宙そのものを表現していました」とありますね。

ジェフ:宇宙にいるというのは、いつ危険な目に遭うかわからない。決してイージーな場所ではないから。僕の音楽が毛利さんにそういう緊張感を思い出させたのではないだろうか。そして僕の音楽が宇宙とはそれほど遠くはない、いつか行ける場所であるんだという身近な感覚をもたらしているのであれば、それはいいんじゃないかと思う。

「AXISは未来の音楽を制作しているのではない。未来を考える理由を制作している」とあなたは言いますが、「未来を考える」には何らかの問題意識があるはずです。それは何でしょうか?

ジェフ:メンタル的なこと、精神病的な状況に問題を感じている。アメリカでは、診療心理学的にアウトな状態ではなくても、精神病的になっている人が大勢いる。ある種の躁鬱病的に、現実を正しく受け止めることができない人がたくさんいるのではないかと思う。現実を受け止められず、現実の社会を合理的に捉えることができない人たち、非論理的なことが社会に浸食するかもしれない。たとえば、インターネット上では、クレイジーなことを書き込んでいるのに、いざ人前に立つと普通に振る舞っている人がいる。そういう潜在的な、おかしい人たちがこれから増えていくだろうね。

ひとりのオーガナイザーが同じ時間帯、同じギャランティでDJをやって欲しいと、ただし、場所だけは自分で選べと言われたらどんなところでDJをやりたいですか?

ジェフ:僕たちと一緒に成長していった人たちに囲まれてやりたい。昔から知っている友人たちと一緒に、音楽で繋がっている人たちに囲まれてやりたい。音楽のコンテクストも理解している人たち、音楽の背景も理解している人たちのなかで。そのパーティはスペシャルなものになるだろう。

ふだん、家にいるときに、自分がリラックスするためにはどんな音楽を聴いていますか?

ジェフ:ジャズをよく聴いている、あるいは......ディスコを聴くことも多いね。

ディスコを聴いていたらリラックスするというか、気持ちが上がってしまいませんか?

ジェフ:いや、全盛期のディスコは、最高の演奏者による最高の録音物でもあるから。クオリティが高く、とてもプロフェッショナルな作品が多いし、ダンス・ミュージックとしてはもっとも進化した形態だったと思う。最高級の職人芸による賜物だよ。いまのダンス・ミュージックはもう、ホームスタジオで、ひとりで作るものになっているけど、ディスコの時代のプロダクションには、才能あるベーシスト、最高のドラマーがいて、最高のスタジオと素晴らしいエンジニアもいる。そうした最高のクオリティを楽しむためにディスコを聴くんだ。

"ジ・インダストリー・オブ・ドリーム"では、「人類は夢を生産する目的のための家畜に過ぎない」というコンセプトがありますが、これは何のメタファーなのでしょう?

ジェフ:僕たちが家畜を飼っているのではなく、僕たち自身が家畜かもしれないという発想から来ているんだけど、それはあくまでも、『ザ・メッセンジャー』(2011年)というアルバムのために描いたシナリオのいち部。僕はふだん考えていないことを考えるきっかけを作っているんだ。

それでは最後の質問ですが、ここ数年、90年代初頭のテクノがリヴァイヴァルしていますが、どう思いますか?

ジェフ:まったく興味がないし、実につまらない現象だと思う。現代は、90年代とは環境も違うわけだし、いまのテクノロジーを使えばずっと進化した音楽を作れるはずだ。いまさら90年代に戻る必要などない。

しかし、ときとして、歴史を知ることも必要なのでは?

ジェフ:いや、そうは思わないな。いまさら"ストリングス・オブ・ライフ"を知る必要もない。若い人たちは、歴史に囚われずに未来を見て欲しいと思う。


JEFF MILLS(ジェフ・ミルズ)新作動画公開、と同時に「宇宙新聞」(号外)を発行!!
毛利衛氏とのコラボによる新作アルバム『Where Light Ends』いよいよ発売!!

日本科学未来館館長・宇宙飛行士 毛利衛氏とのコラボレイトによるジェフ・ミルズの新作『Where Light Ends』が、本日4月3日(水)に発売される。

これまで宇宙をテーマに作品を作り続けてきたジェフ・ミルズが実際の宇宙体験を持つ宇宙飛行士とコラボレイトして作品を作り上げたことや、ジェフとして初めて他アーティストによるリミックス作品を自身のオリジナル・アルバムに収録したことでも話題を呼んでおり、KEN ISHII、Q'HEY、Gonno、DUB-Russell、MONOTIX、Calla Soiledらベテランから気鋭のアーティストまでが名を連ねる作品となっている。

そして今回、『Where Light Ends』の発売と同じくして公開されたのがアルバムからの1曲“STS-47: Up Into The Beyond”をフィーチャーした新作動画「Jeff Mills "Where Light Ends" Comic Video」である。

「Jeff Mills "Where Light Ends" Comic Video」


この動画では、本アルバムの制作にあたるジェフ・ミルズ自身の姿と、毛利氏のオリジナル・ストーリーの中で描かれた宇宙観が表現されたもので、ジェフが幼少期にSF作品に触れ多大な影響を受けたアメリカン・コミックの手法が用いられている。

この動画の制作を手がけたのは、LA在住のGustavo Alberto Garcia Vaca(グスタボ・アルベルト・ガルシア・ヴァカ)とKenny Keil (ケニー・ケイル)というふたりのアーティストで、それぞれ音楽とコラボレイトした作品も多数発表しており、今回は英語版に先駆けて日本語Ver.が公開された。

また今回、来日中のさまざまなイヴェントで配布されたのがジェフ・ミルズ発案による「宇宙新聞(スペース・タイムス)」である。この新聞のなかでは『Where Light Ends』が作られるにいたった経緯や、関係者のインタヴュー、宇宙関連の基礎的情報から最新のトピックスまで紹介されている。JEFF MILLSの作品をリリースしている音楽レーベル、〈U/M/A/A〉のHPで見ることができるのでこちらもぜひご覧頂きたい。

宇宙新聞Link(U/M/A/A)
https://www.umaa.net/news/p517.html

JEFF MILLS アーティスト・プロフィール [U/M/A/A HP]:
https://www.umaa.net/what/wherelightends.html

4月に行きたい10の場所、その1 - ele-king

 2005年にデビュー作をリリースして以来、スペイン民謡集のカヴァーやシューマンやブラームスへの参照を通して独特のフォーク・スタイルを確立してきた異才、ジョセフィン・フォスターが来日する。フリー・フォーク・ムーヴメントへの関心が高まっていた当時は、そうしたムードのなかでさらにその名が知られるようになった。じっと動向を追ってきたファンの方もいらっしゃるだろう。最新作『Blood Rushing』は「WIRE」の2012年ベスト・アルバムにも選ばれ、じっくりとした活動の積み重ねの上に、いままさに彼女の時代が花開こうとしている。
 今回のツアーには先に挙げたスペイン民謡カヴァー作品『Anda Jaleo』でもお馴染みのギタリスト、ヴィクトール・エレーロが同行。4月23日(火)のWWW公演では彼女との親交も深いというドラマー、田中徳崇が加わる。また同日は灰野敬二もソロで登場。フォスター本人も興奮する豪華な組み合わせが実現した。全国10ヶ所で行われる公演のうちには、ボアダムスのYOSHIMIなどの参加も伝えられている。見逃せない機会だ。

Josephine Foster、待望の初来日。
WWW公演の共演には灰野敬二が決定。

 最新作『Blood Rushing』がイギリスの雑誌「WIRE」の2012年ベスト・アルバムの一枚として選ばれ、発売時には表紙も飾ったJosephine Foster。デビュー以来、最も来日が待望されていたアーティストの一人である彼女の初来日が決定しました。近年の彼女の作品・ライブには欠かせない、スペイン人ギタリスト・VICTOR HERREROも共に来日。WWW公演ではJosephineがシカゴで活動していた時期に親交の深かったドラマー田中徳崇を迎えます。共演には灰野敬二がソロで登場。Josephine自身も「とても名誉なこと」と云うこの組み合わせが実現するのはもちろん今回が初めてです。じつに幅広い音楽に造詣が深く、数々のジャンルのミュージシャンと多彩な共演を行ってきた灰野敬二とJosephine Fosterの一夜限りの邂逅。お見逃し無く。

■2013年4月23日(火)渋谷WWW
JOSEPHINE FOSTER & VICTOR HERRERO JAPAN TOUR APRIL 2013
出演:
JOSEPHINE FOSTER & VICTOR HERRERO with 田中徳崇(Noritaka Tanaka)
灰野敬二 Keiji Haino
open 18:30 / start 19:30
前売 ¥3,500 / 当日 ¥4,000(共にドリンク代別)
<TICKET>
▶メール予約
www.info@www-shibuya.jp
contactwindbell@gmail.com
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予約ご希望の方は各公演・予約受付EMAIL address宛に
公演日時・出演者名を件名とし、
・お名前(カタカナフルネームでお願いします)
・予約枚数
・連絡先(メールアドレス、電話番号)
を明記の上、メールを送信してください。
ご入場は受付時にお伝えする整理番号順となります。
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▶WWW・シネマライズ店頭販売
▶ローソンチケット[L:72848]
問い合わせ:WWW 03-5458-7685
主催:WWW
企画制作:WWW / windbell
イベント詳細URL → https://www-shibuya.jp/schedule/1304/003630.html

《出演者プロフィール》
■Josephine Foster
ジョセフィン・フォスター

アメリカ・コロラド州出身。
15歳で歌い始め、ロッキー山脈のログキャビン教会、葬儀や結婚式でも歌っていたという。
オペラ歌手になることを夢見てクラシックを学んだがシカゴ移住後自ら曲を書くようになる。
数年の間歌を教える教師として働くかたわら、Born Heller、The Children's Hour などシカゴの様々なバンドのライヴやレコーディングに参加。
自主制作でいくつかの作品をリリース後、2005年に1stアルバム"Hazel eyes I will lead you"をリリース。
2ndアルバム"A wolf in sheep's clothing"ではシューマン、ブラームス、シューベルトの歌曲を披露。
2009年リリースの4枚目のアルバム"Graphic as a star"は19世紀のアメリカの詩人・エミリー・ディッキンソンの詩に曲をつけた意欲作。
スペインの詩人・劇作家 フェデリコ・ガルシア・ロルカが採譜・編曲による
スペイン民謡集"Colleccion De Canciones Populares Españolas"に取り組んだ2010年リリースのアルバム"Anda Jaleo"、
スペイン各地に伝わる様々なトラディショナル、ソングブックの数々からの楽曲をとりあげた2011年リリースのアルバム"Perlas" の二作を
「Anda Jaleo/Perlas deluxe edtion」二枚組(WINDBELL four 112-113)としてリリースしたのが初の日本盤発売となった。
半年開けずにリリースされた最新作「Blood Rushing」(WINDBELL four 115)は
イギリスの雑誌「WIRE」の2012年のベスト・アルバムの一枚として選ばれ(発売時には表紙にもなっている。)、
ここ日本でも主にミュージシャン、DJたちが2012年のベストの一枚に選んだ。
ブリジット・フォンテーヌ、カレン・ダルトン、アネット・ピーコック、ニコ、バルバラ、ロッテ・レーニャ、ウム・クルスーム...など真のレジェンドたちに連なり、
まもなく名門NONESUCHから新作をリリースするデヴェンドラ・バンハートと同様に未来の子供たちが発見することになる現代を代表するアーティストの一人。
デビュー以来、最も来日が待望されていたアーティストの一人である彼女が遂に初来日する。

■灰野敬二
1952年、千葉県生まれ。非常に厳格な「音」へのこだわりをもとに、現在でも実験的な前進を続ける野心的な音楽家であり、ロック、サイケデリック、ノイズ、フリー・ジャズ、フ リー・ミュージックなど、扱う音楽のジャンルは非常に多岐に亘る。いかなるジャンルに着手するときにも極めてプリミティヴな即興性が大きな意味を持つ。
1970年代より活動を続け、常に新たなスタイルを探し続ける野心的な音楽家である。挑戦的で実験的な作品群は、日本のみならず海外での評価も高い。リリースしたレコードやCDは優に100を超える。ソニック・ユースのサーストン・ムーアをはじめ、彼を信奉するミュージシャンは世界的にも数多い。
一般的なイメージとしては、幾重にもエフェクトがかかったギターによる轟音とやや上ずったトーンでの絶叫や激しいヴォイスパフォーマンスをからめた、ノイズ的でもあるサイケデリック・ロックとガレージ・ロックの過激な折衷で知られている。しかし演奏する音楽のフォーマットはじつに幅広く、トラディショナルなブルースやジャズ、ハードコアにも意識を持つほか、哀秘謡において歌謡曲やフォーク、童謡、オールディーズなロックンロールをカヴァーしたり、雅楽や民族音楽(多くの民族楽器を我流でマスターする)、現代音楽、ノイズといったポピュラー音楽の埒外へのアプローチも行う。数々のジャンルのミュージシャンと多彩な共演を行う懐の深さを持ち、 演劇・舞踏・絵画といった他分野の芸術からの影響も大きい。
特筆すべき点はその音量に関してであり、尋常ではない大音量から微かに聴きとれるかどうかの繊細な音まで使いこなす。かつて「ライバルは雅楽」と述べたことから、轟音から静寂までといった極端なレンジ差をもった音楽は、「間」の感覚に関する延長線上のアプローチであるとされる。聴き取りにくいながらレパートリーの中には歌詞があるものも多く、音楽性の苛烈さと相反する内省的で柔らかなリリシズムを持ち味とする。
自らの作るべき気配を佇ませる場所を「黒」という色に求めており、身につける服や作品のジャケット等はほぼ黒一色に統一されてい る。また、黒という色は白を含め全ての色が混ざっており、黒という色のように全て(の音楽のジャンル)を内包したいと語っている。このことからも分かるように、彼は黒という色に対して並々ならぬ思い・考えを持っている。
2012年5月に還暦を迎え、7月には初のドキュメンタリー映画『ドキュメント灰野敬二』が公開された。

JOSEPHINE FOSTER & VICTOR HERRERO

■4月11日(木)神戸 bar Gospel
開場 19:00 開演 20:00
料金¥4000(1 drink + 1 plate Korean Tapas 付/限定 50 set)
予約受付 contactwindbell●gmail.com

■4月12日(金)岡山 城下公会堂
https://www.saudade-ent.com/index.php
開場19:00 開演20:00
料金 ¥3500(+1 drink)
予約受付 info●saudade-ent.com

■4月14日(日)金沢 shirasagi / 白鷺美術
https://www.shirasagi-art.net/
開場 19時 開演 20時
料金 ¥3500(前売)¥4000(当日)
予約受付 info●shirasagi-art.net
with 垣田 堂
https://do-kakita.cu-tablet.com/

■4月15日(月)大阪 Grotta dell Amore
(グロッタ・デ・アモーレ - ニューオーサカホテル心斎橋B1F)
https://www.newtone-records.com/
開場 19:30
料金 前売 3300円 当日 3800円
予約受付 info●newtone-records.com
with YOSHIMIOLAYABI (YOSHIMI with AYA+AI from OOIOO)
https://ooioo.jp/

■4月17日(水)京都 Urbanguild
https://www.urbanguild.net/
開場18:30 開演19:30
料金¥3500(+1 drink)
with 林拓
https://hayactaku.ciao.jp/

■4月18日(木)岐阜 nakaniwa
https://www.pand-web.com/
開場 19:00 開演 20:00
料金 前売¥3500 当日¥4000(+1 drink)
予約受付 info●pand-web.com

■4月19日(金)名古屋 KD ハポン
https://www2.odn.ne.jp/kdjapon/
開場18:30 開演 19:30
料金¥3500(+1 drink)
予約受付 kdjapon●gmail.com
with Gofish
https://www.sweetdreamspress.com/search/label/Gofish
https://dopplernahibi.jugem.jp/

■4月20日(土)立川 gallery SEPTIMA
https://galleryseptimablog.blogspot.jp/
開場19:00 開演19:30
料金¥3500(1drink付)
予約受付 galleryseptima●gmail.com
     contactwindbell●gmail.com

■4月21日(日)代官山 MAMA TARTE
開場20:00 開演20:30
料金¥4000(1drink付)
予約受付 contactwindbell●gmail.com

■4月23日(火)渋谷 WWW
https://www-shibuya.jp/index.html
開場18:30 開演19:30
料金 前売:¥3500 /当日:¥4000(共にドリンク代別)
予約受付
www.info●www-shibuya.jp
contactwindbell●gmail.com
WWW・シネマライズ店頭販売
ローソンチケット
出演:JOSEPHINE FOSTER&VICTOR HERRERO with 田中徳崇(Noritaka Tanaka)
灰野敬二 Keiji Haino
https://www.fushitsusha.com/
https://www.doc-haino.com/

予約ご希望の方は各公演・予約受付EMAIL address宛に
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Horace Andy - ele-king

 レゲエを聴かないリスナーが、マッシヴ・アタックの衝撃的デビュー作『Blue Lines』(1991)でホレス・アンディの存在を知ってから、もう20年以上経った。その後も彼の声はマッシヴ・アタックのブリストル・サウンドにとって透徹したフェティシズムの対象であり続け、今日まで彼らの作品に欠かせない要素になっている。そして、レゲエ歌手がモダンなダブ/エレクトロ・サウンドの"ヴォーカル・パート"に用いられるトレンドの嚆矢ともなった。
 もちろん、当初"トリップ・ホップ"と形容されたマッシヴ・アタックのサウンドはレゲエ、ヒップホップ、ダブ、ダウンビート、アンビエント等々のファクターを縫うものだったわけで、レゲエ自体とは薄からぬ血縁があった。しかし彼らの音のなかにレゲエから引かれていたものは、レゲエの軽快で陽性の側面よりもむしろ、鋭利な重量感に雄弁な精神性が宿るダブの前衛と、同時にそこからにじみ広がるアンビエントなサウンドスケイプであり、そこにメタリックな光沢さえ感じさせるアンディのハイ・トーン&ヴィブラート唱法が強烈なマッチングを見せたのだった。

 そうしたアンディの特質と合致した彼の代表作として、とくにマッシヴ・アタック以降のファンが愛聴するのが、NYの〈ワッキーズ〉レーベルに残された名盤『Dance Hall Style』だ。ここで聴かれる80年代初頭のワッキーズ・サウンドの、音が地面に重くめり込んで歪んでしまったかのようなドラム&ベイスの暴力的なブースト、それから硬く無機質なダブの質感は、それまでのジャマイカ産の音とは明らかに異なっている。そしてルーツ・レゲエの陰影から冷たい闇のエッセンスだけを抽出、培養したようなそのサウンドが、90年代以降のブリストル・サウンドや欧州のダブ・クリエイションの新潮流にとって、ひとつのプロトタイプとなったことは間違いない。マッシヴ・アタックが『Blue Lines』収録の"Five Man Army"でアンディに『Dance Hall Style』の収録曲"Cuss Cuss"や"Money Money"のリフレインを歌わせたり、続く2作目『Protection』では同じく『Dance Hall Style』収録の"Spying Glass"を丸々アンディ本人を迎えてカヴァーしたのは、自分たちのサウンドの指向性(ルーツ)のひとつを示した、リスナーに対する種明かし的啓蒙だと言えるだろう。

 2000年代に入って、その〈ワッキーズ〉レーベルのカタログがベルリンのテクノ・プロダクション/レーベル:ベイシック・チャンネルによってリイシュー配給されたことも象徴的な出来事だったが、その後もレゲエとディジタル・ダブとエレクトロニカの分野の相互干渉と拡張はヨーロッパ全体で実に自然な成り行きのなかで進行し、折りに触れてジャマイカの源流を仰ぎ見ながらも、独特の、低温度でダークでヘヴィーなサウンドを醸成してきた。

 本作はその"支流"の最先端から、またも欧州型ダブ・エレクトロ・クリエイションとホレス・アンディとの相性のよさを再発見しよう、という企画である。とはいえアンディは近年も(彼らもブリストル・サウンドの代表的ユニット)アルファとのコラボでアルバムを発表したり(『Two Phazed People』)、UKハウス界のレゲエ通アシュリー・ビードルとも、〈ストラット〉レーベルの人気の異種ジャンル交配シリーズ〈Inspiration Information〉の一環でアルバムを作ったり、クラブ・ミュージック・クリエイターからの引きが切れなかったゆえに、いまとなってはこの種の作品に新鮮味を感じない人も多いだろう。

 ただ、本作の出口はハンブルクのダブ・レーベルの名門〈エコー・ビーチ〉だけに、その支持者がヌルい音で満足しないことはプロダクション側が一番よくわかっている。参加したクリエイターはレーベルに縁の深い名だたる面々で、ブリストルの顔役ロブ・スミス(RSD)、ベルリン・レゲエ・シーンの重鎮フロスト&ヴァグナーのオリヴァー・フロスト、ベルリンのダブ・テクノ・クリエイターのラーズ・フェニン、オーストリア/ウィーンから世界的名声を獲得したダブ・バンド:ダブルスタンダート、スイスのダブ・ユニット:デア・トランスフォーマーetc.......。

 肝心の収録曲は、前掲"Cuss Cuss"や"Money Money"、さらには"Skylarking"など、アンディのクラシック・チューンの焼き直し。〈エコー・ビーチ〉は、UKの名レゲエ再発レーベル〈ブラッド&ファイアー〉の古典ダブ音源を新世代のテクノ・クリエイターにリミックスさせた刺激的な〈Select Cuts〉シリーズの発売元でもあるから、昔の曲を聴かせるならこれもリミックス企画でよかった、という声も上がりそうだ。あるいは、この面々の作る音で新たに吹き込むなら、新曲のオリジナル・アルバムが聴きたかった、という意見も出るに違いない。しかしながら、ミニマル・ダブもダブステップもブレイクビーツもクラシカルなダブのセオリーもすべてが手段として前提化している上に、楽曲自体にも目新しさがない、というところまで自らハードルを上げておいて、この面々でアンディ・クラシックスの2013年版を提示しようとするわけで、つまりはそのレーベルの野心とクリエイターそれぞれの手腕とイマジネイションこそがまさに聴きどころだと捉える人なら、多くの曲でかなりスリリングな体験ができるはずだ。

 7楽曲で15トラック。つまりダブ・ミックスへの展開まで収録した曲があれば、同一曲を複数のクリエイターがそれぞれのヴァージョンにいちから作り変えた曲もあって、豊かなヴァージョニング・アートの妙が展開される。といっても、奇矯なトラックやミックスで驚かせるわけではない。還暦越えにしてなおもみずみずしいアンディの声は、その美点を削がぬようにとても丁重に扱われている。そしてカネに狂わされる人間の性(Money Money)、仕事、階級社会、若者の退廃(Skylarking)、善悪観念(Bad Man)、争いごと(Cuss Cuss)といった普遍的な曲のテーマ、直截的でシンプルな歌詞のリフレインも入念に強調されながら、サウンドとヴォーカルの調和はどれも見事に保たれている。これエイドリアン・シャーウッドがアレで使った技じゃん、というようなツッコミが免れないパーツもあったり、全トラック同じように感心できるわけでもないが、1曲1曲が濃密な仕事の集積であることはたしか。12インチ・シングル4枚とかにバラして出してもらうとよろこぶ人も多いんじゃないか。

 微妙にムッシュ・アンドレやバンクシーもどきなグラフィティ仕立てのジャケットはぞっとしないが、中身はきちんとヨーロッパのストリートの音がする。さすがに20年前のインパクトは望むべくもないにせよ、この我らがレゲエ・レジェンドは、変わらず新しい音に興味と理解を示し、そしていまもその上で自分の特性をきちんとアピールできている。

interview with Daughter - ele-king

〈4AD〉といえば、最近はバウハウスでもコクトー・ツインズでも『ディス・モータル・コイル』でもない。それはすでにディアハンターであり、アリエル・ピンクであり、セント・ヴィンセントであり、グライムスであり、インクのレーベルである......そう認識する世代が登場してきている。こうして眺めると、まるで新興レーベルのようにリアルなリリースが行われているのがわかる。設立から30年以上、音楽的には多様性を受け入れながら、レーベル・カラーはいまだ鮮やかに保ち、イメージ的にも商業的にも現役としての存在感を失っていない。つくづく〈4AD〉は偉大である。


Daughter
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 ロンドンの3ピース、ドーターもまたその歴史の末端に名を連ね、その現在を更新する存在だ。まずは音を聴いてほしいと思う。ウォーペイントがいわゆる「オルタナ」のギター・ロックを2000年代のサイケデリック/シューゲイズ――ディアハンター以降の感性で書き換えたように、彼らもまた、いまの〈4AD〉がロックに向かい合うとどうなるかという最も美しい例のひとつを示している。グライムスの浮遊感も、ピュリティ・リングのイノセンスも、セント・ヴィンセントのような芯もある。しっかりとしたソング・ライティングと、まさに〈4AD〉的な幽玄を感じさせるヴォーカル、エレクトロ・アコースティックの繊細で叙情的な音響構築。深めのリヴァーブがかけられたギターはディアハンターとジョン・フルシアンテを大胆につなぐ。ドラミングには時折シー・アンド・ケイクを彷彿させるポストロック的なマナーまで見え隠れする。

 「マイ・ブラッディ・ヴァレンタイン......最近まで聴いたことがなかったの。『聴かなきゃいけないものリスト』に入ってるわ。」「兄がレッド・ホット・チリ・ペッパーズをよく聴いていたわ。」「〈4AD〉はずっとファンだったの。知っているのは最近のアーティストだけど。」と語るヴォーカル(ギター)、エレナの姿はまさに若きインディ・リスナーの正像でもある。イゴール(ギター)とレミ(ドラム)についてはこの限りではないが、オタクや勉強型ではないナイーヴなバンドの素直な言葉を拾うことができた。知識としてではなく時代の空気として、〈4AD〉の音楽は彼らの身体に取り込まれている。

わたし自身、自分のことをとくに「ギタリスト」だとは思っていないの、技術的にも自分がなりたいと思うレベルに達していないし。

あなたがたの音楽はけっしてストレートな意味で明るく元気なものではなく、よく比較されるジ・XXやウォーペイントにしてもそうだと思います。むしろ内向的で沈み込むような憂愁があり、ジ・XXなどはディストピックなモチーフすら感じます。あなたがたをふくめ、そうした音楽がなぜこのように多くの人々から熱望されているのだと思いますか?

エレナ:うーん、他の人たちがどうしてそういうものを望むのかはわからないけれど、わたし自身について言えば......わたしはそういうちょっと悲しげな音楽をよく聴くんだけど、そういうのを聴くと落ち着くし、ある意味気分がよくなるっていうか、反動で気が楽になるような気がするの。わたしたちの音楽はメランコリックだけど、そのなかにどこか前向きさを感じてもらえるようなものにしたいと思っているわ。書いている歌詞は暗いものが多いんだけど、逆に音はどこか希望を感じさせるようなものにしようとしているし、そういうバランスが必要だと思う。

〈4AD〉の幽玄的なテイストは設立当初の80年代からレーベル・カラーでもありますが、ご自身たちの音楽と〈4AD〉の相性についてどのように感じていますか?

エレナ:じつは〈4AD〉から話が来る前からずっとレーベルのファンだったし、いつかサインしたいと夢見ていたの。〈4AD〉のこれまでの所属アーティスト、とくにわたしがよく知っているのは最近のアーティストたちだけど、みんなクリエイティヴさのレベルが飛び抜けて高いと思うし、わたしたち自身サインしてみて、これまでのところとても上手くいっている。契約する前にわたしが想像していた通り、アーティストをとても信用してくれて、わたしたちの好きなようにアルバムを作らせてくれたわ。わたしたちはもちろんこれまでの〈4AD〉の所属アーティストたちをとても尊敬しているし、そのぶんすごく自分自身からのプレッシャーっていうか、こんな素晴らしいアーティストたちに囲まれているんだから、それに負けないいいものを作らなきゃ! っていう緊張感はあるわね。サインできて本当にうれしいし、なんだか夢みたいだわ。

ギターにもとてもロマンチックで叙情的なセンスを感じます。ウォーペイントにはジョン・フルシアンテの影響もあるようですが、あなたやイゴールはどうですか? インスパイアされるギタリストがいれば教えてください。

エレナ:わたしが子供のころ、兄がよくレッド・ホット・チリ・ペッパーズを聴いていたからわたしも横で聴いていることは多かったけど、特別彼らから影響を受けたとは思わないな。ウォーペイントは好きだし、彼女たちの音楽の方が自分ではよく聴いているわ。でもある意味、親が聴いていた音楽とか、昔聴いていたものすべてがどこかでいまの自分に影響を与えていると思うから、それが影響を受けたもののリストのトップには挙がらないにしても、どこかに反映されているのかもしれない。わたし自身、自分のことをとくに「ギタリスト」だとは思っていないの、技術的にも自分がなりたいと思うレベルに達していないし。だから直接的にインスパイアされているギタリストってあまり思いつかないわ。ヨンシー(シガー・ロス)はおもしろいギタリストだと思うし、イゴールはヨンシーがやっているのと同じボウイング(チェロ等の弓を使った奏法)を使っているから、結構影響を受けているんじゃないかな。わたし自身はギターの技術よりもっと、ギターがいかに曲や歌詞と合うかっていうことの方を重視しているの、ずっと前から歌詞を書くことに強い興味があったから。わたしの両親がニール・ヤングやボブ・ディラン、デヴィッド・ボウイとかが好きでよく聴いていたこともあって、彼らはわたしの好きなギタリストたちだけど、必ずしも彼らのギターの弾き方が好きな理由っていうわけでもないような気がする......。最近はインターポールにはまっていて、とくに彼らのギターの音がとても好きだし、あとは、ジミ・ヘンドリックスなんてギターをやっていたら尊敬せずにはいられないけれど、わたし自身のスタイルとはまったく違ったものだし、わたしじゃ真似もできないわ!

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歌詞はとてもわたしにとって大事で、いろいろな感情や、暗い考えとかいったマイナスのエネルギーを昇華させて吐き出すことができるの。自分が音楽を聴くときも、歌詞を聴くことで他の人の考えていることを知るのが昔から好きね。


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非常にイマジナティヴな弾き語りのスタイルだと思うのですが、ではたとえばリンダ・パーハックスやサンディ・デニーなど、ブリティッシュ・フォークの女性シンガーへの憧憬があったりしないですか?

エレナ:じつを言うと、どちらも知らないわ......。ギターも歌もほとんど独学だったし、わたしのスタイルに影響を与えている人を挙げるとするなら、それってギターを教えてくれたりした友人たちなの。わたしが最初にギターをはじめたころは、ジョージっていう友だちがギターのコードやいろいろなテクニックを教えてくれたし、そういう友だちが影響としてはいちばん大きいわ。ジェフ・バックリーは昔からすごく好きだったし、彼のギターのスタイルが好きだから影響は受けているかも。でも基本的には、友人や知人がギターを弾いているのを見て「これってかっこいい!」と思ったものを自分でもやっているだけだから、有名なミュージシャンからそれほど影響を受けているかどうか自分でもわからないの。わたしが前にソロでやっていたころの音楽はいまよりもっとフォークっぽかったと思うけど、それってただ単にわたしが弾けるのがギターだけだったからそういうふうに聴こえていただけで、必ずしもフォークのつもりでやっていたわけじゃないっていうか......。他の楽器が入ったいまは音楽的にも変化したと思うわ。

音楽を大学で学ばれたということですが、それぞれどのようなことを専門にしていたのですか?

エレナ:そう、わたしとイゴールのふたりとも北ロンドンの音楽のカレッジで、1年間のソングライティングのコースに通っていたの。そしてレミは同じ学校でドラムの学部コースに通っていて、その最後の年にわたしたちに出会って全員卒業するのとほぼ同時にバンドがはじまった感じね。

いまのバンドに生かされている部分はありますか?

エレナ:ソングライティングって教えるのが難しいものだし、「はい、これが作曲の仕方です」って言えるようなものがあるわけでもないし、自分に合っている部分を選んで学ばなきゃいけないものだと思う。わたしにとっては、いろいろなソフトウェアを使ってプロダクションをしたりトラックを組み立てたりっていう技術はそこで初めて学んだから、それがとても役に立っているわ。そもそも私たちが出会ったのがカレッジでだったから、それがなければバンドも存在しなかったしね(笑)。でも学校に行ったことでわたしの作曲の仕方とかが変わったかと言われるとわからないな。作曲するときの素材や題材みたいなものは変わったけれど、それはただ単にわたしの年齢や経験とともに変わった部分だと思うし。あと、学校で人前で演奏したりすることで、自信はついたと思うわ。いまもまだ人前に出ることにすっかり慣れたわけじゃないけど、学校に行く前よりはずっとましになったんじゃないかな(笑)。

曲はやはり詞からできるのでしょうか? まだ歌詞がないのですが、スタイルからも音楽からも言葉が重要なのではないかと感じさせる作風ですね。

エレナ:曲によるわ。歌詞とメロディーが同時に出てくることも多いし、そういうときはとても自然な感じにまるでアイデアが頭のなかからこぼれ落ちて来るみたいで、すごく気持ちいいの(照れ笑い)。でも家にいなかったりしてギターが弾けないようなときとかは、歌詞だけ書きつけておいて、あとでギターとかピアノとかを使ってメロディーを作ったりするの。今回のアルバムではやり方を変えようと思って、たとえば"ウィンター"はイゴールが作った、ちょっと変わったギターのループをもとに曲全体を組み立てていって、あとで別に歌詞を書いたんだけど、そういう新しいやり方はとても楽しかったわ。まだまだわたしたち自身試行錯誤したり、チャレンジし続けているところ。歌詞はとてもわたしにとって大事で、いろいろな感情や、暗い考えとかいったマイナスのエネルギーを昇華させて吐き出すことができるの。自分が音楽を聴くときも、歌詞を聴くことで他の人の考えていることを知るのが昔から好きね。もちろん歌詞だけじゃなくて音楽も同じく重要だけど、わたし自身は自分のことを「シンガー」や「ギタリスト」というよりも、「ライター」だと思っているわ。

わたし自身は自分のことを「シンガー」や「ギタリスト」というよりも、「ライター」だと思っているわ。

たとえば"スティル"などで生のドラムにリズムボックスのような電子ビートが混じってきたりするのは、誰のアイディアなのでしょう? リズムもドーターの音楽の大きな要素だと思いますか?

エレナ:"スティル"に関して言えば、あの曲はアルバムを作りはじめたころに、わたしとイゴールふたりで1週間くらい別の所へ行って、デモを作ることにしたの。ふたりともエレクトロニックなサウンドをアコースティックの音と組み合わせるっていうことに対して興味があったから、そのとき作った最初のデモの時点で既にエレクトロニックな要素が入っていたわ。ただふたりのうちどちらがそのときそのアイデアを出したかはちょっと思い出せないな。私たちはいつもずっといっしょに音楽を作っているから、どっちが何をやったかとかあまりはっきり覚えていないんだけど、あのときはイゴールだったかも......。

ドラムパートもふたりで作っているんですか?

エレナ:そう、最初のデモのときはわたしとイゴールでリズムまで作って、その後でレミがアレンジを少し変えたりして、生のドラムのレコーディングをしたわ。レミはすごく才能のあるドラマーで、わたしたちが作ったビートを何倍もいいものにしてくれるの。でも自分たちでリズム・パートを作って、どこでドラムが入ってくるかとか、どこで休止するかとかを決めるのはいいことだと思う。

あっという間に人気に火がつき、USにまで飛び火しているわけですが、それがあなたがたの目指している音楽の妨げになったりするということはありませんか?

エレナ:このレコードを作っていたときは、わたしたちはずっとスタジオにいてほとんど出歩くこともなかったし、ツアーをしている間も忙しすぎていろいろ見聞きする時間もなかったから、その質問に対する答えは「ノー」ね。あまりそれについて深く考えないで、そういうものが妨げになってしまわないようにしていたわ。まだ作っている段階で他の人たちが「いいアルバムになるに違いない!」とか言っているのを聞いたりしていると、やる気が削がれるっていうか、変に考えすぎてしまって創作の仕方に影響が出てしまったりするから、そういうのに注意を向けてしまうのって危険だと思う。
今回のわたしたちは、できるだけ隔離された場所で自分たちについて書いてあることを読んだりせずに、「これがわたしたちの作りたいもの」っていうのを一から作っていって、結果的に他の人たちがそれを気に入ってくれるといいな、って感じだった。まずは自分たちが誇りに思えるものを作ることが大事だもの。でも正直言って、イギリス国内のプレスを見ていて、わたしたちが特別派手に取り上げられているとは思わないわ。ちゃんと読んでいるわけじゃないからよくわからないけど......(笑)。でも雑誌とかですごくもてはやされているバンドを見るとちょっと同情するときもある。とくにまだアルバムができていないバンドにものすごく期待がかかっていて、無理に急いでアルバムを完成させなきゃいけなくなったりとかするのってよくないことだと思うの。アルバムには完成するタイミングっていうものがあるし、他の人たちが完成してほしいときにはい、完成! っていうものじゃないから。

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スペルも子音だらけだし、声に出してみても堅い感じがするのに、脆さみたいなものも感じさせるところが好き。


Daughter
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ミックスやマスタリングについて、バンド側からの要望や、描いていたイメージはありますか?

エレナ:ええ、いままでのEPとかよりももっと「オープン」なサウンドにしたいと思っていたんだけど、ミキシングをしてくれたケン・トーマスに会ったとき、彼が「もっと幅の広がりが感じられる音にしたらよくなるんじゃないか」って言ってきて、わたしたち全員「それこそまさしくやりたいことだ!」ってすごく興奮したわ(笑)。彼はとても腕がいいし、以前彼が手がけたシガー・ロスやM83のレコードはとってもいい作品だから、彼といっしょに仕事ができることになったときはうれしかった。プロダクション全般では、イゴールが舵取り役として進めていってくれたからよかったわ。おかげで、わたしたちの誰も知らないプロデューサーとスタジオでじっと座って、どうしていいかわからないなんてことはなかったもの。マスタリングに関してはわたしにとっては何もかもが未知の世界ね! アビーロードでやったんだけど、すごく興味深かったわ。ジェフが機材のつまみやボタンを押したりしているうちに音がどんどんよくなっていって、まるで魔法みたい! 技術的なことはわたしにはわからないけど、とにかく彼はアルバムの音をすごく良くしてくれたの。

ドーターという命名は何に由来するのでしょう?

エレナ:特別何かはっきりした理由があるわけじゃないんだけど、単純にその言葉が気に入ったの。言葉の意味合いはフェミニンで、女性であるわたしや歌詞にも関連性があるけど、それでいて男の子がふたりいるスリー・ピース・バンドの名前としてはミステリアスさがあって、それに字面だけを見るとなんだか強そうじゃない? スペルも子音だらけだし、声に出してみても堅い感じがするのに、脆さみたいなものも感じさせるところが好き。そして「娘」って「子ども」でもあるから、守ってあげなきゃいけないような感じもあるし。いろいろな解釈のできる言葉よね。

ドーターはアコースティックな弾き語りを主体にエレクトロニックなプロダクションも構築していきますね。こうした発想の根本には、なにか手本とする音楽があるのでしょうか?

エレナ:うーん、そういうプロダクションの部分はイゴールにきかないといけないけど、でもイゴールにとっていちばん大きな影響を与えているのはレディオヘッドね。ナイジェル・ゴドリッチのプロダクションの仕方とかにもかなり影響を受けているんじゃないかしら。わたしたち3人はそれぞれ音楽の趣味が結構違っているんだけど、レディオヘッドはわたしも好きだし。でもそうやってそれぞれ違う音楽の好みを持っているっていうのもわたしたちの音楽に大きな影響を及ぼしていて、3人全員の趣味がミックスされたものになっていると思う。

方法としてはウォーペイントのほかにもエズベン・アンド・ザ・ウィッチやセント・ヴィンセントなどにも通じると思います。相対的にロックに停滞感があるように感じられるなかで、これらのアーティストやあなたがたは新鮮なかたちでロックを再提示しているようにも見えます。それが女性の手によってなされている点も興味深いです。ロックについて、また彼女たちについてどのように思いますか?

エレナ:難しい質問ね! エズベン・アンド・ザ・ウィッチはじつは聴いたことがないんだけど......これも「聴かなきゃいけないものリスト」に入れなくちゃね(笑)! でもウォーペイントもセント・ヴィンセントも好きだし、感情をかき立てるようなところがある音楽よね。どちらも本当にクリエイティヴで、セイント・ヴィンセントのギター・サウンドなんてまるで違う世界の音みたいだし、ウォーペイントもすごくのびのびとした独創性があると思う。だからわたしたちもそういった部分で彼女たちと共通する要素を持てているといいな、と思うけど、ただ自分たちがそういうシーンみたいなものに属しているのかはよくわからないわ。計算しつくしたような音楽じゃなくて、一瞬一瞬を大事にしたものを作りたいと思っているから、それが結果的に他のバンドとの共通項になっているのかも。わたし自身は10代とかのころから男性アーティストばかり聴いていて、最近まであんまり女性の音楽って聴かなかったし、いまでも聴くのは大半が男性アーティストね。べつにとくに何か理由があるわけじゃないんだけど。だから正直言ってあんまり女性だからどう、とか考えたことがないわね。

ところで、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインはリアルタイムで経験していますか? よかったら彼らの新譜についての感想や、まわりの人々の反応をきかせてください。

エレナ:いや、最近まで彼らの音楽は聴いたことがなかったの。イゴールが最近マイ・ブラッディ・ヴァレンタインを聴きはじめて、ふたりとも聴くようになったけど、彼らが活動停止する前はまだすごく若かったし、彼らの昔からのファンとは言えないわね(笑)。最近聴くようになったのも彼らの昔のレコードで、新しいアルバムはまだ聴いてないから、「聴かなきゃいけないものリスト」に入っているわ!

Rock'n'Roll!!!! - ele-king

ロックンロール~、イエ~! ロックンロールは人間じゃない~

ヤン富田・オーディオ・サイエンス・ラボラトリー公式blog開設のお知らせと、GW5/5(日)浅草アサヒ・アートスクエアでのパフォーミング・アーツ「実存と構造と生命体」公演開催のお知らせ。

稀代の音楽家マエストロ・ヤン富田主宰・オーディオ・サイエンス・ラボラトリーの公式のblogが開設されました。2006年以降、日本科学未来館、GALLERY360°、原美術館、新潟・ビュー福島潟、YCCヨコハマ創造都市センター、恵比寿LIQUIDROOMといった独自の雰囲気と圧倒的な存在感をもった環境で、近年精力的に公演を行っている音楽家にして研究者ヤン富田の、それぞれの公演当日の記録、そして一部公演のSET LISTなども掲載された、貴重なアーカイヴが、遂に公開されました。
https://asl-report.blogspot.jp/

そして、来るGW5/5(日)には、浅草アサヒ・アートスクエアにて、ヤン富田パフォーミング・アーツ「実存と構造と生命体」が昼の部と夜の部の一日2公演で開催される事となった。まさに"体験する" という言葉がぴったりな、そのパフォーマンスのひとつひとつが新作ともいえる、氏のバリバリの立体音響な最新の公演もお見逃し無く。(コンピューマ)

ヤン富田 パフォーミング・アーツ
『実存と構造と生命体』

実存を音、構造を音楽として位置づけると、
音には発する音そのものの理由が生ずる。
その音の理由を解放するパフォーマンス。

日時:5月5日(日)
昼の部 14時30分開場/15時開演
夜の部 18時開場/18時30分開演

会場:アサヒ・アートスクエア
会場へのアクセス
https://asahiartsquare.org/ja/access/
東京メトロ銀座線「浅草駅」4、5番出口より徒歩5分
都営地下鉄浅草線「浅草駅」A5番出口より徒歩10分、
「本所吾妻橋駅」A3出口より徒歩6分
東武線「浅草駅」より徒歩6分

料金:前売り3800円/当日4300円

出演:ヤン富田

前売り予約・問い合わせ:WINDBELL
https://windbelljournal.blogspot.jp/2013/03/55.html

主催:オーディオ・サイエンス・ラボラトリー
アサヒ・アートスクエア協力事業

フューチャー・ガラージの使者 Satol - ele-king


Satol
harmonize the differing interests

Pヴァイン

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 昔クラブのフロアは、隣で踊っている人が見えないほどに真っ暗だったが、最近のクラブには闇がない。今日のインダストリアル・ミニマルにしろ、ニュースクール・オブ・テクノにしろ、ブリアル以降の流れは、クラブに闇を、暗さを、アンダーグラウンドを取り戻そうとする意志の表れとも言えないでしょうか。「フューチャー・ガラージ」と形容されるSatolも、そうした機運に乗っているひとりである。
 Satol(サトル)は、いわゆる新人ではない。一時期ベルリンに住み、すでに3枚のアルバム──『madberlin.com』(2010)、『Radically Nu Breed's Cre8』(2010)、『Superhuman Fortitude』(2011)──を出している。昨年、故郷である大阪に戻ってからは地元での活動に力を入れている。今回がデビューというわけではないし、すでにキャリアがある。とはいえ、〈Pヴァイン〉から出る新作『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』が、多くの人の耳に触れる最初の機会となるだろう。
 彼の音はブリアル直系の冷たく暗い2ステップ・ガラージの変形で、インダストリアル・ミニマルとも共通する音響を持っている。セイバース・オブ・パラダイスを彷彿させる刃物がこすれ合う音、ひんやりとしながらも、ダンスをうながすグルーヴが響いている。3月はO.N.Oとツアーをして、その闇夜のガラージを日本にばらまてきたようだ。
 彼の名前はまだ全国区になってはいないかもしれないけれど、Satolの作品が素晴らしいのは疑う余地のないところ。ブリアル~Irrelevant
Irrelevant~Satol......ニュー・インダストリアル、そしてフューチャー・ガラージの使者を紹介しましょう。



アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。

生まれは大阪ですか?

Satol:愛媛の松山です。

では、大阪に住まれたのは?

Satol:僕が2歳のときからです(笑)。

そういうことですね(笑)。

Satol:いま親は、河内長野というところです。僕は、大阪市内です。

Satolさんはいまおいくつですか?

Satol:33です。

じゃあ、けっこうキャリアがありますね。

Satol:まあ、そう言ってもらえれば(笑)。

バンドをやっていたんですよね?

Satol:10代から20代にかけて、5~6年、バンドをやってましたね。

どんなバンドでしたか?

Satol:ハードコアです。

ああ、それって大阪っぽいんですかね?

Satol:そうですね。大阪にはハードコアがありますし、先輩もみんなどうだったんで。

いつぐらいからクラブ・ミュージックにアプローチしたんですか?

Satol:20代の前半のときにはヒップホップが好きでしたね。ウェストコーストも、2パックも、ノートリアスも、いろいろ好きでしたね。

ヒップホップのクラブには行っていたんですか?

Satol:20歳のときぐらいから行くようになりました。

DJはどういうきっかけではじめるんですか?

Satol:DJはやったことないんですよ(笑)。

えー、そうなんですか。ベルリンで暮らしながらDJやらないなんて......いちばんメシの種になるじゃないですか?

Satol:エイブルトンという機材、あるじゃないですか。僕はエイブルトンを使ってのライヴ・セットなんですよ。エイブルトンには自信があります(笑)。

先ほど、最初はヒップホップだと言ってましたが......

Satol:もっと最初を言うと、ブルー・ハーブとかなんですよ。精神的なものが大きかったんですよね。自分に正直になっていくと、まあ、いろいろなパイオニアも言ってることだと思うんですけど、自分に正直になっていくと、メロディが生まれてくるんですよ。悲しいことも思い出して、悲しいメロディも生まれる。それから、UKガラージのブリアルが好きになりましたね。

ブリアルがファーストを出したばかりの頃?

Satol:ファースト・アルバムです。

2006年ですね。それが大きなきっかけですか?

Satol:あと僕、ファッションが好きなんですよ。モードっぽいものが。

それがすごく意外ですね。パリコレみたいな?

Satol:そうそう、ミラノとか。あの、暗く、シュールな感覚が好きなんですよ。

好きなデザイナーは?

Satol:アレキサンダー・マックイーンは好きですね。

ビョークとかやってた......僕は、ジョン・ガリアーノとかの世代なんで(笑)。

Satol:格好いいですね。そういえば、ブリアルの曲は、絶対にショーで使われているだろうと思っていたら、アレキサンダー・マックイーンが使っていたんですね。

へー。まあとにかく、ブリアルがきっかけで作りはじめたんですか?

Satol:いや、ホントに最初に作りはじめたきっかけはブルー・ハーブとかなんですよ。ロジックとか使って、作りはじめましたね。クラッシュさんとか、ONOさんとか。

関西と言えば、クラナカ君とかは?

Satol:それが、僕は、まだお会いしたことないんですよね。

タトル君は?

Satol:いや、まだ知らないんです。

絶対に会ったほうが良いですよ。それはともかく、ブルー・ハーブがきっかけだったら、ラップを入れるでしょう。言葉が重要な音楽ですから。

Satol:ええ、そうですね。ですから、実は自分でそこもやっていたんですよ。

ラップしていたんですか?

Satol:いや、ラップというか......アンチコンのホワイの歌い方をアートって呼ぶらしいんですけど、頭のなかで浮かぶ言葉をオートマティックに出していく感じなんですけど、シュールレアリスムに似ているというか。それを僕もやっていました。それだとふだんは出てこないような、グロテスクな、ダークな言葉も出てくるんですね。だからラップじゃないですよね。ブルー・ハーブも韻を踏んでいますけど、アメリカのラップとは違いますよね。そこが好きでした。大阪だと土俵インデンとか。凄い研ぎ澄まされた人で、基本短髪な方で、僕らのイメージとしては僧侶みたいな人がいるんですけど、最初に自分でイヴェントをやったときに声をかけました。それとMSCの漢でした。

そこに自分も出て?

Satol:出ました(笑)。

ONOさんとツアーをまわるのも、その頃からの繋がりがあるんだ?

Satol:いや、全然なかったです(笑)。

ただ、いっぽうてきに好きだった?

Satol:ブルー・ハーブの全員が好きでした。ヌジャベスさんも好きでした。

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ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。


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とにかく、2006年にブリアルを知って、それでガラージに行くわけですね。

Satol:はい。

そこから〈madberlin〉と出会って、それでベルリンに移住するまでの話をしてもらえますか?

Satol:まず、知り合い4人でクラブをはじめるんです。〈ルナー・クラブ〉っていうんですけど。テクノ、エレクトロ、ハウスに特化したクラブでした。あとは、自分がやりたいことをやってました。300人ぐらいのキャパで、入るときは400ぐらい来てましたね。そのクラブをやっているときにkill minimalを呼ぶんですよ。2009年ぐらいですか。

kill minimal?

Satol:マドリッドからベルリンに移住したヤツで、僕は本名でジュアンって呼んでるんですけど。

〈madberlin〉のmadって、Madridのmadだったんですね。狂ったベルリンじゃなかったんですね(笑)。

Satol:ハハハハ。マドリッドのほうとかけているんですけど、ただ、本人いわく「あのmadでもいいよ」と。

kill minimalを呼んだのは?

Satol:いっしょにやっていた連中が好きやったんですよ。ビートポートで聴いて、みんな好きだったんです。僕はあんま好きじゃなかったんですけどね。カローラ・ディアルっていう女の子とジュアンが〈madberlin〉をやっていたんですど、ふたりとも日本に来るのが夢だったみたいで、「ありがとうございます」みたいな、で、ふたりともスペイン人的な情熱的な人で、人懐こい人間で、それで、なんだか僕がふたりと仲良くなってしまったんです(笑)。そのときジュアンから、「エイブルトンを教えるから、おまえ、これでがんばってみろ」って言われて、教えてもらうんですよ。エイブルトンは、ベルリンに本社があるドイツのソフトなんですね。〈madberlin〉のアーティストのほとんどが使っていて、「難しいけど、面白い」って言ってましたね。ジュアンはベルリンで、そのソフトの使い方の講師のようなこともやっていました。

スペインは不況で、仕事がないから、多くの若者がベルリンにやって来たというけど、そのなかのひとりだったんでしょうかね?

Satol:ハハハハ、そんな感じだったと思います。kill minimalはいまは、ヨーラン・ガンボラ(Ioan Gamboa)という名前でやっています。

今回のアルバム『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ(異なる利害関係を調和)』の前に、〈madberlin〉から3枚出しているんですよね?

Satol:はい。〈madberlin〉もかなりゆっくりやっているレーベルですから(笑)。

ベルリンに移住したのは?

Satol:いまから1年ちょっと前ですね。音楽活動が日本ではやりにくいかなと思ったんですね。いまは、反骨精神でがんばってますけど、でも、クラブで下手したらJ・ポップとか流れるんですよ(笑)。レディ・ガガとか。オールジャンルというか。

昔のディスコですね。ヒット曲がかかるみたいな。

Satol:そう、ディスコ化しちゃってるんですよ。

それはきついですね。

Satol:大阪はそうですよ。ガッツリ音楽をやっている人間には活動しにくいところです。

それでもう、ベルリンに行こうと?

Satol:そうです。後、特にクラブ摘発の件が大きく左右しました。

〈madberlin〉から作品を出しているという経歴もあって、アーティスト・ビザを収得できたんですか?

Satol:僕の場合は、マグレですね。簡単に取れる時期がありましたけど、いまは難しいです。

ユルかったですよね。

Satol:そうですね、昔はユル過ぎましたね。

良いことでしたけどね。では、ベルリンではジュアンたちといっしょに住んでいたんですか?

Satol:弁護士といっしょに(笑)。カイ・シュレンダーという。ハハハハ。彼のおかげです。

本当に良い友だちを持たれましたね。

Satol:ただ、いまは大阪でがっつりやっていますけどね。要するに、ビザが取れてしまったので、もういつでもベルリンに戻れるからっていうか、「もう一回大阪でがんばってみよう」って思うようになったんですね。ベルリンでがんばるんじゃなくて、大阪でがんばってみようって。

素晴らしい(笑)。

Satol:ホント、なんか、ギャグです(笑)。ただ、日本から逃げたみたいな後ろめたさもあったので、やり残したことをやってみようっていうか。そういう気持ちでしたね。日本の重力から逃れるのは良いと思うんですけどね。ビザは、僕にとっては、免許証みたいなものです。

今回リリースされることなった『ハーモナイズ・ザ・ディファリング・インタレスツ』ですが、何で、P-VINEから出すことになったんですか?

Satol:アンダーグラウンドなところを探すのが好きで、まあ、P-VINEをアンダーグラウンドって言ったら失礼かもしれないけど、とにかく送ってみて、そして栃折さん(担当者)に連絡しました。

Satolさんのスタイルは、「フューチャー・ガラージ」と呼ばれていますが、その定義について教えてください。

Satol:ガラージとダブステップの雑種ですよね。ブリアルの流れの、2ステップな感じで......。

ハウスのピッチで、アトモスフェリックで、それで、金属音のような効果音、ちょっとインダストリアルな感じもあって、アンディ・ストットなんかとも感覚的に似ているなと思ったんですよね。

Satol:ありがとうございます。アンディ・ストットは前から好きだったみたいです、名前は覚えないんですけど、曲は聴いてました。

Satolさんの音楽もひと言で言えば、非情にダークですよね。

Satol:ハハハハ、そうですね。

暗いなかにも艶があるというか。

Satol:日本では味わえないことをベルリンでは味わえるので、その経験も活かしつつ......。

ベルリンではクラブに行きました?

Satol:かなり行きました。たくさん行きましたけど、とくにベルグハインとトレゾアはすごいと思います。

どんなインスピレーションを受けましたか?

Satol:スタイルとしてはテクノやミニマルなんですけど、しかし音楽性は幅広いという、変な広がり方があって、それは影響されました。

しかし、冷たい音楽ですよね。

Satol:ゴス・トラッドさんは「ダーク・ガラージ」と呼んでくれました。

何を思って作っているんですか?

Satol:いや、もう思いつくままにやっています。ひたすら、テーマから逸れていくというか......僕は音楽をやる意味は、聴いてくれた人が前向きになってくれるかどうかなんです。

前向き?

Satol:外れたこと言ってるかもしれませんが、勇気というか。

このダークな音楽で? こんなアンダーグラウンドな音楽で?

Satol:ハハハハ、だから、逆にこんな音楽でもいいんだよっていうことをわかってくれたら。

こういうアンダーワールドな音楽のどこに価値があると思いますか?

Satol:アンチ・エスタブリシュメントなところ、アナーキーなところ、反骨的なところ......やっぱあとは、自分が正直になれますよね。自分にも社会にも正直になれる。生きていれば、いつもニコニコしていられるわけじゃないですよね。だから「冷たい、暗い」というのは僕のなかで褒め言葉です。冬だけど、でも、寒くないっていう感じでしょうか?

ああ、そういうことですか。

Satol:寒いけどやっていける、というか。

ブリアル以外に、Satolさんに方向性を与えた人っていますか?

Satol:ロシアのガラージですかね。名前は出てこないんですけど、ロシアのフューチャー・ガラージはよく聴いていました。

フォルティDLは?

Satol:やっぱ好きですね。

しかし、ブルー・ハーブ、DJクラッシュ、そしてゴス・トラッドというとひとつの世界が見えてくるようですが、Satolさんはそこにパリコレもあるんですよね(笑)。

Satol:いや、もう好きです。ウォーキングのときにかかる音楽が大好きです(笑)。

interview with inc. - ele-king


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 肌を出すことが、兄弟が親密にくっついていることが、モノクロームの表象が、こんなにキマるなんておかしい。インクのアート・ディレクションは水際立っている。上質というよりは完璧。ある強い美意識が、音とヴィジュアルとを貫いているのがわかるだろう。肌と肉とはときに機械のような精密さと硬質さをもって映りこみ、ときに機械をさびつかせるブルーを醸し出す。「肌と肉」を音に置き換えても同様だ。そして実際に見て聴いて納得してもらうより他ないが、それらはいずれも、方法ではなくて精神性によって磨かれたかのように鈍い光を放っている。細い煙とシーツがゆれるばかりのPVが成立するのは、そこに研磨された意識や心のありかを検知できるからである。金のかかった一流品という雰囲気ではないが、きわめてハイセンス、そしてとても気高いものがある。

 ハウ・トゥ・ドレス・ウェルのセカンド・フル、トロ・イ・モワのサード・フル、そして本作。少なからずインディ・ミュージック・ファンには意識されていることだろうが、ポスト・チルウェイヴやその傍流にあった音たちの着地点のひとつとして、ストレートなR&B志向を挙げることができる。何度も述べるように「チル・アンド・ビー」などという呼称はまさしくそうした傾向を象徴するものだ。出自は違えど、たとえばいまライが評価され歓迎されていることも、同じようなムードが広く共有されていることを証している。レコ屋の店頭でライと本作の両方を買われた(迷われた)方も多いのではないだろうか。アンダーグラウンド・シーンから誕生したシンガーたちによるポップス回帰の流れは、一抹のノスタルジーを巻き込みながらも、確実に新しくリアルな息づかいを感じさせている。インクはこの流れを率先する大きな才能であり、表現の精度という点でも抜きん出て高く、ジャンルを超える訴求力を秘めた存在でもある。「いまらしいね」ということと「いい音楽だね」ということがともに備わっている。2枚のEPのリリースの後、フル・アルバムの完成がまさに待望されていた。

 どんなオシャレなふたりかと思っていたが、会ってみると筆者の「オシャレ」の観念など所詮は富士山に対するマッチ棒みたいなものだったことを痛感した。盛ることや飾ることとはほど遠い、やはり肌を多く露出するファッションだったが、それは肌の表面にもその内側にもじっと視線を凝らしている人間に可能な格好なのだということを想像させる。肌を出す人がみなそうだと言うのではない。だがインクにとって肌とは心であり――ヴィジュアルであり音であり――布をかけるべきものではない。そのことは以下の回答からもよくわかるだろう。隠す部分の少ない肌=音。これが彼らの美しさであり完璧さであり、表現そのものの本質でもある。

時が経てば、僕たちの音楽そのものが語りだすと思うよ。僕らはいちど音楽を作ってしまった。これ以上できることはないんだ。

いきなりですけど、「ピッチフォーク」がかつてあなたがたの音楽を指して「誰でもプリンスのマイナー曲から盗みを働ける」と評していましたが、これはある意味では的を外した議論です。オアシスを指してビートルズのパクリだと怒る人はいないわけで。ただ、実際に比較をされることについてはどうでしょう。プリンスというのはおふたりにとってどのような存在ですか?

アンドリュー:音楽的な影響ということでは、特筆すべき名前はないかもしれない。ただ、時が経てば、僕たちの音楽そのものが語りだすと思うよ。僕らはいちど音楽を作ってしまった。これ以上できることはないんだ。だけど別の次元で、このできあがってしまった音楽たちが自然にいろんなことを示してくれると思う。

ダニエル:「ピッチフォーク」は読まないんだ(笑)。

アンドリュー:そもそも「ピッチフォーク」は時代に遅れつつある。僕たちはもう別のレベルで動きはじめているんだ。もっと新しい、新しすぎて記事に載らないようなことをやろうとしているんだよ。それに、メディアを通さずに直接リスナーに届くものが作れたらいいなと思ってる。だから、日本であなたのように『3』からちゃんと聴いてくれている人がいるというのはうれしいよ。

ははは、なるほど。『3』と比較すると、今回はさらにスムーズになった印象があります。『3』はもっと大胆に音の空白を使っていたというか、ローファイでノイズ感も強め、とってもエッジイな仕上がりだと思いました。今回は、よりポップスとしての洗練を目指したということなのでしょうか?

アンドリュー:感覚的に作ることが多いから、狙って違いを出そうと思ったわけではなかったんだけど、このアルバムに関しては冬に作ったから、あたたかくて、オープンで、癒しの要素があるかなとは思うよ。

僕の個人的な見解に過ぎないけど、90年代は音楽に主張があった最後の時代だと思う。音楽自体、ギターの音色ひとつにもステートメントがあった。それはもはやクラシックと呼んでもいいものじゃないかな。

プロダクションについてのこだわりがあるのかどうか、というあたりをもう少しお訊きしたいです。USのインディ・ロックとかシンセ・ポップはしばらくローファイなものが優勢だったと思うんですね。今回はもう少しスタジオ録音的な、整った印象があったので、そのあたりはどのくらい意識されたのかな、と。

アンドリュー:プロダクションということで言うと、今回は『3』やこれまでのものよりもクリーンでピュアな音を目指したんだ。耳にどう聴こえるか、身体にどう作用するか、フィジカルな意味でもちょっと違うものになったかなとは思っているよ。とくに低音にはこだわっていてね。TR-808を使ったりして。ギターはグランジな感じにした。そういうところにはこだわりがあったといえばあったんだ。ただ制作の途中段階で、思いつきで新しい方法を試したりということはしなかったよ。限られた楽器のなかでやっていくということが自分たちの方法に合っていると思った。音数は減らしてるんだ。

グランジという言葉が出てきましたけれども、いま若いアーティストの作品において90年代のR&Bが参照されることがすごく多いなと感じるんですね。インクにはもちろんR&Bのルーツも感じるわけですが、その他の90年代の音楽にもやはり原体験や思い入れがあるのでしょうか。

アンドリュー:僕の個人的な見解に過ぎないけど、90年代は音楽に主張があった最後の時代だと思う。音楽自体、ギターの音色ひとつにもステートメントがあった。それはもはやクラシックと呼んでもいいものじゃないかな。それ以降のものには、何を主張したいのかが伝わってこない。少なくとも僕にはね。2パックやカート・コバーンが何を言いたいのか、それは明瞭なことだし、何よりも歌詞のなかにそれがはっきりあった。メッセージの明確な音楽という意味では90年代が最後だよ。そういうものを聴いてきたのが90年代だった。初めて行ったライヴはスマッシング・パンプキンズなんだ。そしてミッシー・エリオットは革新的なヴィデオを作ろうとしていた。

なるほど。そのあたりでひとつの切断線が引けるとは思います。一方でハウ・トゥ・ドレス・ウェルとか、R&Bに接近しながら独特の音作りをするアーティストも目立っています。共感を覚える同時代のアーティストを教えてもらえませんか?

アンドリュー:同世代の音楽というよりは、先輩になってしまうんだけど、ラファエル・サディークには曲作りの方法も含めていろいろと教えてもらったし、手本にしているところがあるよ。あとはこれから出てくるだろうなというアーティストたち。L.A.の〈フェイド・トゥ・マインド〉というレーベルにトータル・フリーダムというDJがいて、彼にもインスパイアされるところが大きい。どちらかというとバンドよりもDJに影響を受けるかもしれないね。ヘッド・フット・バイ・エア、ニッキー・ブロンコ、ケレラ、フィジカル・セラピー......まだ無名なんだけど、今年以降名前を聞くことも多くなるんじゃないかな。ジェイムス・フェラーロとかね。アリエル・ピンクのキーボーディストがルームメイトで、友だちの音楽から学ぶことも多い。つるんでるから、いっしょにプロジェクトをやらなくても何かしらを共有していたりはするんだ。友だちがいちばんいい影響をくれるよ。

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肌より以上に脱ぐことはできない。すべてをさらけ出しているときがもっとも人間らしい。そして、よりヒューマンでありたいと僕は思う。


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R&B系のシンガーの作品には、ここのところオートチューンの使用も顕著でした。声を変調することについて、あるいは変調しないことについて、何かお考えがありますか? おふたりは生の声をとても繊細に使われますね。

アンドリュー:声の変調ということ自体には否定的ではないよ。ただ、生々しくて守られていない......人の身体から出てくるそのままの声に魅力を感じるよ。たまたまこの前友だちの家に遊びに行ったときに、ヴィンセント・ギャロのライヴを隠し録りしたものがあって、いっしょに聴いてたんだ。ギャロの声がすごく生々しくて、すごく魅力的だった。ラッパーにしてもそうだけど、僕は「その声」「その響き」が欲しいんだ。だから極力、加工はしないようにしているよ。加工していくのではなくて、練習をして、積み重ねて生まれてくるワン・テイク、内側から出てくるパフォーマンスというものが自分には魅力的に感じられるよ。だから自分もそうするんだ。

おふたりは男性のデュオにして、ノー・スリーヴで肌の露出も多い。それをすごくスタイリッシュにヴィジュアル・イメージとして用いていますね。80年代のある文化へのオマージュでもあるように思われますが、他方でマッチョイズムに対するとても微妙な距離も感じさせます。おふたりにとっての男性性とは美学的なものですか?

アンドリュー:ええと......。こういうことはあまり語ったことがないので、言葉にするのが難しいな。でも、時として何も身につけない、何も隠さないことがいちばん美しく見えることがあると思う。肌より以上に脱ぐことはできない。すべてをさらけ出しているときがもっとも人間らしい。そして、よりヒューマンでありたいと僕は思う。僕たちのゴールは、僕たちのことをすべてわかってもらうことだと思っている。表面も内面もね。そのふたつを裏返して全部を見てもらいたいと思っているんだ。そしてできることなら聴いているひとにも、聴いているあいだは同じようであってほしい。そう思っています。

外の世界を遮断するという意味での「ノー」ではないんだ。むしろ自分のなかの世界に目を向けるという意味の「ノー」。

先ほどメッセージを大切にしていると言っておられましたが、それも裸になるということと関係がありますね。歌詞では実際にどのようなことを歌われているんですか? まだ詞も翻訳も手許になくて。

アンドリュー:今回の『ノー・ワールド』はどちらかというと内に向いていて、自分を見つめ直したり自分を癒すというような内容が多い。そして祈りや自分を守るというテーマ。"エンジェル"という曲があるんだけど、この世のなかで、できることなら善でありたいという祈りと、そしてどちらかというと楽観的な歌詞に思われるかもしれないけど、暗い時間を抜けたあとの答え、辛さや困難を知った上での希望へ向けた答えを歌ったつもりなんだ。ポスト・グランジとしての――暗い時代を知った上での――答えがあると思うんだ。いまはその中間かもしれないけど、怒りや葛藤ののちの時代として僕は希望になる答えを見つけたい。そのほかは自然の摂理とか、「侘び寂び」についての歌だよ。

なるほど。じゃあ、『ノー・ワールド』の「ノー」は否定のノーじゃないんですね。

アンドリュー:外の世界を遮断するという意味での「ノー」ではないんだ。むしろ自分のなかの世界に目を向けるという意味の「ノー」。これはタイトルをつけたあとのことなんだけど、フィオナ・アップルが何かの賞を受賞したときに、「わたしがこんな立場にあることをあなたはすごいというかもしれないけれど、すごいということはない。わたしは自分のなかだけを見つめてここまで来たのだから、あなたもそうすればいいのよ。」っていうようなことを言っていて、それを思い出したよ。それにはすごく共感するし、どちらかというと、外の世界とどう接するかというよりは、自分のなかを見つめるということを大切にしたいと思うよ。

Chart Meditations 2013.03 - ele-king

Shop Chart


1

Ferial Confine - The Full Use Of Nothing Siren Records
英ドローン作家Andrew Chalkによる初期のノイズ名義、Ferial Confineの伝説的な85年録音ものが遂にCD再発。金属の軋みノイズの種を水分多めで育てあげ、野に放ち、野生化させたような、生々しく儚い感触があります。

2

Cankun - Culture Of Pink Hands In The Dark
Not Not Funでお馴染みのシンセシスト、Cankunの新LP。Co LaやHeatsick、Peaking Lightsらに通じる抜け感のポップさ、継ぎ接ぎのビートからは南国の風が吹き抜けて何処までも心地良くダンスします。

3

Robert Lawrence / Mark Phillips - The Dadacomputer: The Birth Of 5XOD Iceage Productions
81年の知られざるインダストリアル/電子音楽な怪作がCD再発。目玉はMinimal WaveのVAに収録されていたComputer Bankでしょう。早過ぎたアシッドハウス+インダストリアルとも言うべきバキバキの劣悪電子音が駆け巡ります。

4

MV & EE - Fuzzweed Three Lobed Recordings
ベテランのサイケ夫婦MV & EEの最新作。雄大なドローンのサイケデリア、優しく響くコーラスの調和、B面の組曲では爆発的な熱量のインプロ放出ありと、膨大な作品数と比例した宇宙ドローンの無限の広がりは目を見張るものがあります。

5

Gnod - Presents.. Dwellings & Druss Trensmat
サイケバンドGnodが突如として、ポストパンクやインダストリアル/ミニマル・テクノの黒い影響を感じさせる極圧振動ビートを発表。破壊力抜群で、再生した途端に目や耳には感じ取れない分厚く黒い雰囲気がモクモクと沸き上がります。再入荷予定あり。

6

Birds Of Passage / Je Suis Le Petit Chevalier / Motion Sickness Of Time Travel / Aloonaluna - Taxidermy Of Unicorns Watery Starve Press
現行地下シンセ界の強力女性作家4名によるスプリット2カセット。葉っぱや毛糸が挟み込まれたパッケージ+大判ジンという丁寧な作りで、フィジカルでこその感動があります。

7

CHXFX - The Unhaptic Synthesizer Further Records
Maurizio Bianchi、Kplr、Hieroglyphic Being、Conrad Schnitzler系の狂ったの出てきました。緩やかに起動した電子機器が徐々に勢力を増し、脱線&分離&集合を繰り返す強力な電子音の嵐。

8

Transmuteo - Transmuteo Aguirre
全新人類に...現行ニューエイジの雄、Transmuteoによる初LP。ナレーションに載せて満ちるデジタルの波、夕陽が浮かぶ楽園風景、神経内の機械都市が活発化するアシッド、ヴェイパー的スクリューなどなど、3Dヴァーチャルな世界観の更なる拡張がなされています。

9

Alex Cima - Cosmic Connection Private Records
シンセ狂レーベルPrivate Recordsより、79年のコズミック過ぎるディスコ/ジャズのカルト名盤が遂に再発。黄ばんだネオン管から広がる華やかな町並みや、快適な宇宙生活を夢見る幻想が、シンセの音色からモクモクと立ちこめて虜にさせてくれます。

10

S.M. Nurse - 30th Anniversary: 1980?-?1983 Domestica
80年代初期のオランダ地下のミニマルシンセユニットが発掘。プロト・テクノ/アシッドな熱量、秀逸なサンプリング、歪な電子音と男女ボーカルのダンスからなる圧倒的なグルーヴと、文句無しに唸らせられる必殺曲ばかりです。
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