「KING」と一致するもの

 クリスチャン・フェネス、久々に〈Editions Mego〉からのリリースとなる新譜『ベーチュ』がいよいよ来週登場する。ele-kingでももちろんインタヴューを敢行! 後日の公開を待たれたし! だがそのまえに、音響とポップスの境界で取り組みをつづける日本の重要アーティストたち、小山田圭吾、坂本龍一、デイヴィッド・シルヴィアン、高橋幸宏、各氏のコメントが発表されているのでご紹介しよう。

クリスチャン、アルバム完成おめでとう。
美しいノイズのシャワーがいい気持ち! 小山田圭吾

ロマンティックやなあ! 坂本龍一

クリスチャン・フェネスの新しいアルバムには圧倒的な美しさがある。『エンドレス・サマー』の残響がこだまする、陽光が降り注ぐようなオープニング曲「Static King」、容赦なく無慈悲な「The Liar」、すばらしく壮大な「Liminality」、この3曲だけを取っても、『ベーチュ』はクリスチャンのこれまででもっとも力強い作品だといえる。

クリスチャンの作品は、うらやましいほど幅広い層に届いているようだ。そのラディカルな音の実験ゆえに、もしくは、それとは裏腹に、彼が手がけるほぼすべての作品における、パワフルに感情をかき立てる高潔さに魅了されるオーディエンスは増えるばかりだ。彼が用いるしばしば対立的な音の間の表面上の二分は寛容な心と結びつき、彼がソロやその他の作品の制作過程で取り除く感情の激しさについて何の弁解もせずに、彼をその先駆的な美的感覚に多様なコンテクストを見出すことのできる無二のアーティストたらしめている。まさに、彼の信奉者の多くが映画やダンス、演劇、ソフトウェア・デザイン、そしてもちろん、オーディオといった、横断的な芸術分野に存在しているように。

個人としては、クリスチャンは謙虚で物静かだがユーモアがあり、心の広い人間である。 表現者としての彼は、刺激的にダイナミックで、リスクをいとわない。彼の作品に通底する誠実さはもちろん、彼自身の中に存在するものなのだ。 デイヴィッド・シルヴィアン

フェネスを知ったのは、教授と彼との一連の仕事からだったと思う。しかしその音自体はYMOのライヴでの共演時に初めて、「あ、これがフェネスの音なんだ」と実感するまでよくわかっていなかったかもしれない。ただ実験的な音をだすギタリストと言ってしまうとかなりイメージが違うだろう。その複雑で静かな激しさと繊細さ等々…は、本当に彼独自のものだと思う。
このフェネスの新譜は、そんな音達がひっそりとしかし力強く溢れる、まさにアーティスト、フェネスの世界。
あのプレイ中の長身のたたずまい、愁い顔とよくマッチするなぁ……。(これは余談ですけどね……) 高橋幸宏

*コメントの無断転用を禁止します。


ついにクリスチャン・フェネス、2008年の『ブラック・シー』以来となるニュー・アルバム! フェネスの名を決定的なものにしたあのエポックメイキング作『エンドレス・サマー』(2001年)の流れを汲む、かつ同作をもしのぐあまりにも感動的な大傑作!!

HMV Tower
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FENNESZ 『Bécs』
フェネス/ベーチュ

¥2,500 + tax
14.04.28 in stores
解説付
日本盤のみのボーナス・トラック1曲収録

Tracklist:
1. Static Kings
2. The Liar
3. Liminality
4. Pallas Athene
5. Bécs
6. Sav
7. Paroles
8. Around The World*
*Bonus Track


interview with Teebs - ele-king


Teebs
Estara

Brainfeeder/ビート

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 いったい何故にどうして、いつからなのか……。自分がどうしてこの地上に存在しているのかを考えたときに、倉本諒なら迷わず、ぶっ飛ぶためだと言うだろう。ティーブスにしろマシューデイヴィッドにしろ、そしてフライング・ロータスにしろ、LAビート・シーンの音は、どうにもこうにも、フリークアウトしている。それらは、「ビート」という言葉で語られてはいるが、サイケデリック・ミュージックとしての表情を隠さない。日本で言えば、ブラックスモーカー、オリーヴ・オイル、ブン、ダイスケ・タナベ、ブッシュマインドなどなど……。彼らはストリートと「あちら側」を往復する。
 ティーブスは、そのなかでもとくに内省的で、ひたすら夢幻的だ。僕は恵比寿のリキッドルームにあるKATAで開催中のTeebs展に行った。12インチのレコード・ジャケをキャンパスにした彼の色とりどりの作品がきちんと飾られている。幸いなことに平日の昼下がりでは、客は僕ひとりしかいなかったので、ゆっくり見ることができた。鮮やかな色彩で塗られらコラージュは、どう考えても、ピーター・ブレイクがデザインした『サージェント・ペパーズ〜』のアップデート版で、また、彼の音楽世界をそのままペインティングに変換しているかのようだ。ヒップホップのビートに液状の幻覚剤が注がれているのだ。
 ティーブスの新作『Estara』には、プレフューズ73、ラーシュ・ホーントヴェット(Jaga Jazzist)、ジョンティ(Stones Throw)、そして、シゲトも参加している。僕がKATAに展示された彼のアートでトリップしていると、Teebsはふらっと姿をあらわした。感じの良い、物静かな青年だ。

マッドリブの初期のものとか、カジモトとか。僕は当時12歳で、そんな変な音楽を聴いている12歳は僕だけだったと思う。かなり主流からは離れている音楽だけど、僕はそういうのが大好きだった。

生まれはブロンクスだそうですが、いつまでそこに住んでいたのですか?

Teebs:良く覚えていないんだけど、2歳くらいだったかな。

通訳:かなり小さいときだったんですね。

Teebs:そう、でも10歳くらいの時まで毎年NYには帰ってたんだ。親戚がいるからね。

どんなご両親でしたか? 

Teebs:母親は、クールで寛容な人だった。彼女は物書きで、ブラジルやバルバドスで起こっていたことなどを小さな出版社の雑誌に書いて世界を救おうとしていた。母親は、ジミヘンやカリブ音楽なんかを聴いてた、クールな女性だった。父親は数学者で、とても厳しい人だった。僕はあまり彼のことを知らなかった。でも、仕事熱心で家庭をしっかり支えていたからクールな人だったよ。

あなたにどんな影響を与えましたか?

Teebs:父親には勤勉さを教わったよ。僕が内向的なのも父親譲りだと思う。でもそのおかげで、自分の面倒がちゃんと見れるようになった。母親は「あなたのやりたいことをやりなさい」みたいな感じだったから、父親と母親両方からの影響で一生懸命に好きなことをやる、というバランスが上手く取れるようになったんだと思う。

日本盤の解説を読むと、ご両親が音楽好きで、レゲエやアフロ・ミュージック、ジミヘンなどを聴いていたそうですが、子供の頃のあなたもそうした音楽を好みましたか?

Teebs:母親がかけていた音楽で、アメリカの音楽は馴染みもあったし好きだったね。カリブ音楽は、まあまあ好きだった(笑)。当時、僕は幼すぎたからね。家では、夜中の3時までそういう音楽をかけてダンス・パーティをしていた。

通訳:それは子供にとっては刺激が強すぎますよね。

Teebs:その通り。「もう寝たいんだよ……」って思ってた。だから当時はまったく理解できなかった。大人になるまではね。いまではそういうリズムがどこからか聴こえてくると笑みがこぼれるよ。誰がかけてるんだろう? って気になっちゃう。

当時ラジオでかかっているヒット曲や最新のヒップホップ/R&Bのほうが好きでしたか?

Teebs:僕は87年生まれだから90年代だよね。ヒップホップが僕のすべてだった。変わったものが好きだった。僕には兄がいて、彼から色々教わったんだ。僕の年齢じゃ本当はまだ知るべきじゃなかったことなんかもね(笑)。兄の影響で、とても変わったヒップホップが好きになった。

通訳:例えばどんなのですか?

Teebs:変わっているというか、ポップ・ミュージックにはないような感じのもの。MADLIBの初期のものとか、QUASIMOTOとか。僕は当時12歳で、そんな変な音楽を聴いている12歳は僕だけだったと思う。マッシュルームを食って音楽を作っているやつの作品を聴いてる12歳なんて僕だけだったと思うよ(笑)。

通訳:12歳でQUASIMOTOとは、たしかに変わってますよね。

Teebs:うん、かなり主流からは離れている音楽だけど、僕はそういうのが大好きだった。当時そういった変わったヒップホップや、アンダーグラウンドなヒップホップは、あまり良い出来ではなかったのかもしれなけど、誰にも知られてなかったていうことが、僕にとってはクールだった。その世界にどっぷりのめり込んだね。

通訳:それはやはりお兄さんの影響?

Teebs:そう。だから、当時起こっていたクールなものは全て見逃した。Q-Tipが全盛期のときも、僕は「いや、でもSwollen Membersってのもいてさ……」なんて言ってた。

通訳:カナダのグループですよね。

Teebs:そうそう(爆笑)。そういう奴らにすごくはまってて……。

通訳:アンダーグラウンドな。

Teebs:うん。本当にそれがクールだと思ってた。だから、主流な音楽は全然聴いてなかった。Living Legendsがはじまった時期は、Circusなどの複雑なラッパーが好きで、それからラップをやっていたころのAnticonも好きだった。そしてDef Jux。Def Juxには僕の人生をしばらくのあいだ、占領されたね。あと、バスタ・ライムス。彼は一番好きだったかもしれない。初めて買ったアルバムはバスタ・ライムスのだったなぁ。

通訳:彼はポピュラーな人ですよね。

Teebs:そうだね。僕が聴いていたときも既に人気があった。でもファンキーですごく奇抜だった。

ずいぶんと引っ越しをされたという話ですが、どんな子供時代を過ごしたのか話してください。

Teebs:引っ越しが多かったから、兄と遊ぶことが多かった。僕の親戚はみんな東海岸なんだけど、東海岸に住んでいるとき、アトランタにいたときは従兄たちと遊んでいた。従兄たちがやんちゃだったから、一緒にバカなこともやってた。デカいTシャツを着てね(笑)。

通訳:まさに90年代ですね。

Teebs:うん。90年代、ヒップホップ、アトランタ。で、Wu-Tangをずっと聴いてた(笑)。そんな感じで適当に遊んでたよ。それからカリフォルニアに引っ越してチノに来た。そしたら、いままでの(東海岸の)感じとまったく違った。スケボーがすべてで、僕もスケボーにはまっていった。そのきっかけが、変な話で、ビギーの曲をラップしている奴がいて、僕もそのリリックを知ってたからそいつの隣に行っていきなり一緒にラップしたんだ。そいつは「え、お前だれ?」みたいな感じだったけど、一緒にラップしたんだ(笑)。ラップが終わって握手したら、そいつが「俺はこの町でスケボーやってて友だちもたくさんいる。お前も俺らのところに遊びに来いよ」って言ってくれた。

通訳:それでスケボーをやり始めたんですね。

Teebs:うん、スケボーをはじめて、スケボーのおかげで聴く音楽もさらに幅広くなった。単なる変わったラップ、アングラなものだけじゃなくて、変わったプロダクションの音楽なんかも聴くようになった。Mr. Oizoを初めてきいたのもそのとき。
 それからエレクトロニックなヒップホップを聴くようになり、その流れでエレクトロニック音楽を聴くようになった。友だちはロックにはまってるやつらもいて、AC/DCのカヴァー・バンドをやっていて、僕も一緒になってやってみたんだけど、上手くいかなかったな。見てのとおり、その方面では芽が出なかったよ(笑)。僕はあまり上手じゃなかったからバンドにも入れてもらえなかったくらいだ。

通訳:バンドでは何をやっていたの?

Teebs:ギターを弾こうとしてた。友だちはスケボーのロック/パンクな感じが好きだったみたい。だからその方面で音楽をやってみたけど、まあ、そんなにうまくいかなかった。とにかく、スケボーが全てを変えた。たくさんの音楽を知るきっかけになったよ。音楽がどんなにクールなものか、ってね。

通訳:私もスケーターカルチャーは大好きです。スケーターはみんなカッコイイですよね。

Teebs:スケボーをやる人はいろんなことがわかってる。普通の人が持つ人間関係の悩みなんかを、早々に乗り越えて、経験や開放性を第一にして生きている。

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90年代、ヒップホップ、アトランタ。で、僕はウータンをずっと聴いてた(笑)。そんな感じで適当に遊んでたよ。それからカリフォルニアに引っ越してチノに来た。そしたら、そこはがすべてで、僕もスケボーにはまった。


Teebs
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子供時代のいちばんの思い出は何でしょう?

Teebs:たくさんあるよ。バカなこともたくさんやった。僕が通っていた高校は新しくて、まだ建設中だったときがあった。僕たちが第一期生だった。最初は全校で30人しかいなかった。新設校だったんだ。まだ工事中だったとき、夜中に学校に行って鍵を盗んで建設用のゴーカートを乗ったりしてた。ゴーカートは家まで乗って帰るんじゃなくて、ただ乗りまわして遊んでた。それから、建設用の大型機械とかも乗ってたな。

通訳:ええ!?

Teebs:ああ、死にそうになったときもあったよ。そういうバカ騒ぎをやってた。

通訳:悪ガキだったんですね(笑)。

Teebs:いや、バカなだけだよ。小さな町で退屈して、何か面白いことをしたかっただけさ。そこに、機械の鍵があったから……
 そういう、バカなことをした思い出はたくさんあるよ。アキレス腱を切ったときもよく覚えている。血がものすごく出たんだ。スケボーをしていてガラスの上に転んだんだ。急いで病院に運ばれたよ。あれはクレイジーだった。

旅はよくしましたか?

Teebs:家族とは時々した。他の州に行く程度だけど。あと、ロンドンにも一度、家族で行った。それから母国のバルバドスとマラウイにも一回ずつ行った。とても美しい所だった。それはとても貴重な体験だったから、家計をやりくりして実現させてくれた両親は心から尊敬している。

画家を志そうと思ったきっかけについて教えて下さい。

Teebs:とにかく絵を描くことが好きだった。それから正直、兄の影響が大きい。兄はマンガが大好きで、アニメの絵を描くのが大好きだった。最初はグラフィティだったんだけど、次第にアニメにすごくはまっていっていた。僕たちはLAのMonterey Parkというエリアに住んでいたんだけど、そこに住んでいる黒人は僕たちだけだった。他はみんなアジア人。アジアって言ってもいろいろなアジア人がいて、中華系が一番多かったけど、日本のアニメやゲーム・カルチャーの影響はその町にも強く表れていた。僕と兄は、そういったアニメやゲームの世界に囲まれていた。ゲーセンに行ってバーチャルな乗り物に乗ったりして遊んでた。
 兄は当時からクールなキャラクターの絵を描いていた。兄を見て、アートを通してアイデアを絵にして置き換えることができるのは、クールだと思った。素晴らしいことだな、と思った。自分でもやってみようと思った。僕たちは引っ越しが多かったから、友だちを作るのが結構大変だった。だから兄にいつもくっついていたんだけど、彼には「あっちいけ!」なんて言われてたから、ひとりで遊ぶようになった。アイデアを考えてストーリーを生み出し、それを絵にすることができるんだ、と思ってペンを使って自分のヴィジョンを見つけることにしたのさ。

ちなみに何歳から画家としての活動が本格化したのでしょう?

Teebs:2005年。高校の終わりの頃。スケボーショップでバイトしていて、僕は店でもいつも落書きしてた。そしたらショップのオーナーが、店で展示会をやらないかと言ってくれた。それがきっかけで、画家としての活動をすることになった。小さな町で展示会をやった。そしたら人からの反応があった。「すごいよ、これ!」なんて言ってくれた。びっくりしたけど、そこからもっと絵を描きたくなって、それをコミュニティのみんなと共有したかった。

あなたのペインティングは、抽象的で、ときには具象的なコラージュを使います。色彩にも特徴があります。あなたのペインティング表現に関しての影響について話してもらえますか?

Teebs:中世の作品、宗教画などがすごく好き。ヨーロッパの大昔の絵。昔のキリスト教のアート。そういったものの影響はとても大きい。色彩が鮮やかなところがすごいと思う。
 宗教画を見ると、「教会に毎日来ないと神から罰せられるぞ!」というメッセージが強烈に伝わってくる。その信仰心というのはすさまじくて、狂信的なほどの信仰心から生み出される作品というのは、本当にクレイジーだ。その作品に注がれる感情も強烈だ。その真剣な姿勢がとても好きだった。構成も好きだった。初期の大きな影響は宗教画。それからスケボーがアートに影響を与えた。いまは、なんだろう、人生という大きなかたまりかな。

あなたにとって重要な主題はなんでしょう?

Teebs:人とコミュニケーションが取れるポイントを、なるべくストレートな物体を使わずに、見つけて行くこと。なるべく意味のわからないものを使って。線や記号だけを使って、人に語りかけたい。そのアプローチが気に入っている。「より少ないことは、より豊かなこと」みたいな。自分自身を作品に登場させるのも好きだし、観察者を作品の中に描写するのも好き。その概念でいろいろ遊んでみる。例えば、今回のレコード・ジャケットの展示で、4本線は人を表している。作品の中に4本線があるときがある。それは僕にとって大切で、自分や家族を表している。「U」の記号は、他の人を表す。それも頻繁に使われている。作品を見てまわると、結構見えてくるよ。そういうシンプルな形やマークを使うのが好きなんだ。

ファースト・アルバムのアートワークにも、今回のジャケにも使われていますが、青、赤、緑のリボンのようなペイントは何を意味しているのでしょう?

Teebs:円の中にそれがたくさんあったら、自由形式というか体を自由に動かしている、ということ。あれは僕のしるしのようなもの。僕が頭のなかをスッキリさせているとき、リラックスしているとき、パレットを白紙に戻すというとき、その絵が出来る。それを描くことによって、自分の中にあった緊張やストレスが緩和されていく。心身のバランスが取れて、安心した気分になる。

あなたが花のモチーフを好むこととあなたの音楽には何か関連性があるように思いますが、いかがですか?

Teebs:関連性はあるかもしれない。花をアートのモチーフに使う理由と、自分が音楽をつくる理由とでは結構違いがあるけど、花が生れて形を変化させながら成長して枯れる、というのは音楽と共通するところがあるかもしれない。音楽も一時的に開花して、その後は徐々に消えて行くものだから。そのパターンは似ているかもしれない。

LAにはいつから住んでいるのですか?

Teebs:LA中心部に移ったのは2009年。チノには2001年からいたけど、LAの中心部に引っ越したのは2009年。

では、音楽活動をするきっかけについて教えてください。

Teebs:最初は兄のためにヒップホップのビートを作ろうとしたのがきっかけ。クールだと思ったんだ。兄はラップができたんだけど、僕はできなかった。だから僕はビートを作ろうと思った。

通訳:ではお二人でデュオをやっていたとか?

Teebs:いいや。兄は、兄の友だち同士で音楽活動をしていた。彼の友だちと一緒に制作をしていた。兄は多方面に活動している人だった。僕は、音楽を制作するということに興味を持ち始めていた。でもひとりでビートを作っていただけ。ビートを兄と兄の友だちに提供していた。それが音楽活動のきっかけだね。

通訳:いまではエレクトロニックな音楽を作っていますが、ヒップホップからエレクトロニックへと進化していったのは、やはりクラブへ行きはじめたからでしょうか?

Teebs:そうだよ。最初は、音楽の表現方法を深めるために、いろいろな音楽を聴いた。それから、クラブにも行きはじめた。その両方をしているうちに、サウンドでも自分のアイデンティティを確立していきたいと思うようになったんだ。ヴィジュアルな要素で、自分のアイデンティティを確立していくのと同じようにね。

どのようにしてLAのシーンと関わりを持つようになったのでしょうか?

Teebs:最初はDublabを通じてだね。〈Brainfeeder〉にも所属しているMatthewdavidがMySpaceで「君はクールだね、俺たちと一緒に音楽をやろうぜ」と言ってくれた。当時、LAシーンは既に盛り上がっていたけど、僕はまだチノにいたから、シーンのみんなとはMySpaceを通じて知り合った。

通訳:MySpaceに音楽をアップしていたんですね。

Teebs:うん。で、「君はクールだね」と言われた。僕もDublabはクールだと思ってたから嬉しかった。そこから、お互い、音楽をメールで送るようになった。それからDJ Kutma。彼のおかげでLAシーンと繋がり、LAの皆に僕のことを知ってもらうことができた。

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高校の終わりの頃。スケボーショップでバイトしていて、僕は店でもいつも落書きしてた。そしたらショップのオーナーが、店で展示会をやらないかと言ってくれた。それがきっかけで、画家としての活動をすることになった。小さな町で展示会をやった。


Teebs
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Teebsという名前の由来は?

Teebs:たくさんのニックネームを経てTeebsになった。僕の本名はMtendere(ムテンデレ)というんだけど、その名前を見るとMがtの前にあるから、発音がむずかしいと思われてしまう。マラウイの言葉で「Peace(平和)」と言う意味なんだ。チェチェワ語というんだけど、チェチェワ語の名前にしてくれてよかったよ。だって英語で「Peace」なんて名前だったら恥ずかしいだろ? 「Peace、お前、世界を救ってくれるのか?」なんて言われそうだ。とにかく僕の本名はそういう語源なんだけど、Mがtの前にあるから、みんな覚えにくいし言いにくい。だからニックネームになった。で、いつかTeebsになって、それがいまでもニックネームになってる。

通訳:Teebsは気に入っていますか?

Teebs:もちろんだよ。でも本名も好きだ。発音するのが難しくなければいいのにと思う。でもTeebsは楽しいし、人が発音しても楽しいし、僕の名前で遊んでもらっても楽しい。いまでも使っているのは気に入っているからだよ。本当はTeebsになった裏にはストーリーがあって、グロいから、いつか、オフレコで話すよ(笑)。

初期の頃にデイデラスとスプリット盤を出したのは、やはり彼の音楽にシンパシーを感じたからでしょうか?

Teebs:デイデラスは本当に大好きで、エレクトロニック音楽のプロダクションに興味を持ちはじめたのは、彼の音楽を聴いたからなんだ。普通のヒップホップのビートとは全く違うものだった。デイデラスのライヴを見て、すごく興奮した。そして、ダンスっぽいビートを作って彼に送ったんだ。友だちも、彼ならとくに気に入ってくれるかもしれないと思ったほどだから。何ヵ月も彼からの反応はなかった。だから、もしかしたらすごく嫌だったのかも、と心配した。ようやく彼から連絡があって、「最高だよ、毎日かけてる。一緒に音楽を作ってみようぜ」と言ってくれた。それから〈All City〉が声をかけてくれて「デイダラスと一緒に音楽制作をしないか」と言われた。すでに、デイダラスと音楽を作っていたところだったから、本当に良いタイミングだったよ。

通訳:デイデラスとは既に友だちだったんですね。

Teebs:ああ、かなりよく知っている方だった。でも、彼は西に住んでいて、僕は東というかチノに住んでいたから実際に会う機会は少なかったけどね。

Teebsの音楽にはビートがありますが、非常にドリーミーで、日本でもボーズ・オブ・カナダを聴いているようなリスナーから支持されています。ヒップホップ以外からの影響について話してもらえますか? とくに今回のアルバムには、ジャガ・ジャジストのラース、イタリアのポピュラス、シゲトなど、さまざまなスタイルのアーティストが参加していますよね。

Teebs:エレクトロニック音楽の影響は大きかった。ボーズ・オブ・カナダは、僕が音楽をはじめてからずいぶん後に知ったんだ。ボーズ・オブ・カナダを聴いたときは、「クールな音楽をやっている人がいるんだな!」ってびっくりしたよ。Dabryeの初期の作品はクールだった。ヒップホップ色が最近のものより少なかった。あとは、Vincent Galloの古い作品とかも良いね。他は、ギターだけで作られた、Bibioの初期の作品。きれいな音楽をたくさん聴いていた。ヒップホップとバランスをとるためだったのかもしれない。

通訳:ではヒップホップとエレクトロニカは同時期に聴いていたのですね。ヒップホップからエレクトロニカへと移行したのではなく。

Teebs:ヒップホップが先だったけど、それにエレクトロニカを追加した。ヒップホップは大好きだった。それから西海岸ではインディ・ロックも人気だった。IncubusとかNirvanaとか、そういのにもはまってたね。

エレクトロニカ/IDMスタイルの音楽でとくに好きなモノは何でしょう?

Teebs:いまはとくにいない。誰かを聴いて、ものすごく興奮するというのは最近ないな。

通訳:では過去においてはどうでしょう?

Teebs:ドイツの二人組がいて、Herrmann & Kleineというんだけど、かなり変態。Guilty pleasure(やましい快楽)って言うの?

通訳:ドイツのエレクトロニカですか?

Teebs:そう。ストレートなエレクトロニカで、しかもかなりハッピーなサウンド。自分の彼女にも、それが好きなんて言わない(笑)。Herrmann & Kleineは密かに好き。それからコーネリアスもすごく好き。彼の音楽を聴いたときはぶったまげた。すごくクリエイティヴで遊び心に溢れてる。でも音楽的にも、とてもスマート。彼は天才だよ、大好き。

プレフューズ73との出会いについて話してもらえますか?

Teebs:インターネットなんだ。それから、プレフューズ73がLAに来たときに、友人に紹介してもらった。Gaslamp Killerとプレフューズ73が一緒にショーをやって、その時に友人が僕たちお互いを紹介してくれた。それ以来、彼とは連絡を取り合って、彼のアルバムのアートを僕が描いたんだけど、そのアルバムは結局リリースされなかった。すごく楽しみにしていたのに残念だったなぁ。プレフューズ73も「あのアルバムについては悪かった。最後で意向が変わったんだ。その代わりと言ってはなんだが、次のアルバムは音楽の面で一緒に作業できたらと思う」と言ってくれた。なのでギアをアートから音楽に切り替えて、一緒に音楽を作った。

テクノのDJ/プロデューサーでお気に入りはいますか?

Teebs:テクノの人の名前は全然知らない。でも最近はテクノやハウスについてたくさん学んでいるところ。僕にとってテクノは、家で聴く音楽でもないし、誰が好きと言ってその人の音楽をフォローする感じでもないし、自分でコレクションを持ちたいというわけでもない。だけど、クラブで誰かが、かっこいいテクノをかけていると、メロメロになっちゃって、クラブで酔っぱらいながらそのDJに「あんた、すげえカッコイイなあ〜!!」なんて言っちゃう。ブースのそばでめちゃくちゃ興奮してるやつ、よくいるだろ? 僕はそうなっちゃうタイプでね(笑)。

通訳:好きではあるんですね。

Teebs:大好きだよ。自分がその音のなかにいるのが好き。次の展開が読めずに音をそのまま楽しむのがすごく楽しい。

ドリーミーと形容されるとのとサイケデリックと形容されるのでは、どちらが嬉しいですか?

Teebs:言葉としては、サイケデリックという言葉はとにかく最高だよね。でも僕の作る音楽はどちらかというと、サイケデリックというより、ドリーミーだと思う。でも、僕も、もともとはサイケデリックな音楽を聴いていたから、サイケデリックのほうが嬉しいかな。でもどっちでもいいや(笑)。

新作の『エスターラ』というアルバム・タイトルの意味を教えて下さい。

Teebs:Estaraは、僕がアルバムを作っていたときに住んでいた通りの名前。言葉として、とても美しと思った。言葉の意味を調べていくうちに、スペイン語の「〜である(Esta=To be)」だとわかった。「〜である」というのは、物理的にそこにいる、という意味と、その時の精神状態という意味がある。僕のファーストアルバムを振り返って、今回のアルバムを合わせると、円を一周して、元の位置・状態に戻る、ということになる。以前の状態を経て今回の状態へとなる、という意味なんだ。

曲が、“Piano Days”〜“Piano Months”と続きますが、今作におけるピアノの意味について教えて下さい。

Teebs:ピアノの美しさや簡潔さを表現したかった。本当に素敵な楽器だ。

通訳:ピアノは弾けるんですか?

Teebs:ああ、遊び感覚ではよく弾くよ。君をうっとりさせるほど、ちゃんと弾けるわけではないんだけど(笑)、僕とピアノとしばらくの時間があれば、何らかのものは生れてくる。“Piano Days”〜“Piano Months”と一緒にしたのは、理由があって、このアルバムはリスナーにとって、口直しのようなものであってほしいと思っている。このアルバムを聴いて、頭がスッキリして、心身ともに白紙な状態に戻ってもらえたらいいと思う。“Piano Days”を聴いたあとに、リスナーにもう少し、そのアイデアの余韻に浸ってもらっていたかったから“Piano Months”を次に持ってきた。

“Hi Hat”、“NY Pt. 1”、“NY Pt. 2”など、シンプルな曲名が良いのは何故でしょう? 

Teebs:直接的だから。なるべく直接的であるようにしている。物事もなるべくシンプルであるのが良いと思うから。

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デイデラスは本当に大好きで、エレクトロニック音楽のプロダクションに興味を持ちはじめたのは、彼の音楽を聴いたからなんだ。普通のヒップホップのビートとは全く違うものだった。デイデラスのライヴを見て、すごく興奮した。


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同じアメリカですが、カニエ・ウェストやファレル・ウィリアムスのような文化と、あなたがたの文化との大きな違いはどこにあるのでしょう?

Teebs:カニエの文化は、オーディエンスが大勢いるからそれに対応してアイデアやサウンドを表現していかなければいけない。そして、もっとポップの要素がたくさん入っている。それに比べて、僕たちの文化はもっと実験的で、ゆるくて、独特だ。僕たちの文化から生み出される良いアイデアが、フィルターを通して彼らの文化に表れている。そういう仕組みだと思う。みんな、僕たちの世界をのぞいて良いアイデアがないかと探す。それを彼らのプロダクションに活かすというわけさ。

通訳:それに対して否定的な感情はありますか?

Teebs:いや、ないよ。僕の作品から何かを取ったと聞いたら、それは一種の称賛として受け止める。僕がやっていることが評価されて取られているわけだから称賛だと思うね。本当にそっくりそのまま盗まれていたら否定的になるけど、それ以外だったら自分が正しいことをしているという意味だから、いいや。金のことはあんまり気にしない(笑)。

今後の予定を教えて下さい。

Teebs:Obeyの服のラインから洋服をリリースする。それは夏には出ると思う。とても楽しみにしている。プレフューズ73とは今後も、さらに一緒に制作をする予定。アメリカでアートの展示会をやる予定で、海外でも、もう何カ所かでやろうかと考えてる。去年、あまり活動的じゃなかったから、今年はいろいろな分野で活動していきたいと思っているよ。

※朗報! 5月23日、フライング・ロータス率いる《ブレインフィーダー》のレーベル・パーティーが史上最大スケールで日本上陸!

FLYING LOTUS
THUNDERCAT
TEEBS,
CAPTAIN MURPHY
TAYLOR MCFERRIN
MONO/POLY
AND MORE …

2014.05.23(FRI) 新木場ageHa
OPEN/START 22:00 前売TICKET¥5,500
※20歳未満入場不可。必ず写真付き身分証をご持参ください。
YOU MUST BE 20 AND OVER WITH PHOTO ID.
企画制作:BEATINK 主催:SHIBUYA TELEVISION 協賛:BACK CHANNEL

www.beatink.com

Flying Lotus (フライング・ロータス)
エレグラ2012、昨年のフジロックと急速に進化を続ける衝撃的オーディオ・ヴィジュアルLIVE『レイヤー3』、次はどこまで進化しているのか?その眼で確かめよ!

Thundercat (サンダーキャット)
昨年の来日公演でも大絶賛された天才ベーシストのバンドによる超絶LIVE!強力なグルーブとメロディアスな唄を併せ持つ極上のコズミック・ワールドへ!

Teebs (ティーブス)
1台のサンプラーから創り出される、超絶妙なグルーブ感と限りなく美しいアンサンブル。真のアーティストの神業に酔いしれろ!

Taylor McFerrin (テイラー・マクファーリン)
ロバート・グラスパーやホセ・ジェイムズと共演するなど、その実力でデビュー前から大注目を集めるブレイク必至の逸材が、遂にアルバムと共に来日!

Mono/Poly (モノ/ポリー)
超ヘビーなベースに、コズミックなサウンドスケープとグリッチなHIP-HOPビーツで注目を集める彼が遂に来日!

and more...

WATER(POOL):BRAINFEEDER DJs ステージ
● ブレインフィーダー所属のアーティスト達などによるDJ!

BOX(TENT):JAPANESE DJs ステージ curated by BRAINFEEDER
● ブレインフィーダーがキュレーションし選んだ日本人DJ達によるステージ!

ISLAND [メイン・バー&ラウンジ]:
BRAINFEEDER ON FILM& BRAINFEEDER POP-UP SHOP

● Brainfeeder On Film:映像作品上映エリア:ブレインフィーダーにゆかりの深い映像作品を一挙上映
● Pop-Up Shop:CDやアナログはもちろん、レーベルや関連アーティストのレアグッズを販売!
  この日しか買えないプレミアム・グッズも!
● Back Channel:人気ブランドBack ChannelとBrainfeederの限定コラボTシャツを販売!

ART:[LIVE PAINTING]&[EXHIBITION]
● ブレインフィーダー関連アート作品などの展示やライブ・ペインティングを展開!

※各ステージの更なる詳細は後日発表予定!

TICKET INFORMATION
前売チケット:¥5,500
●イープラス [https://eplus.jp]
●チケットぴあ 0570-02-9999 [https://t.pia.jp] (Pコード: 225-408)
●ローソンチケット 0570-084-003 [https://l-tike.com] (Lコード:72290)
●tixee(スマートフォン用eチケット) [https://tixee.tv/event/detail/eventId/4450]
●disk union (渋谷クラブミュージックショップ 03-3476-2627 /
新宿クラブミュージックショップ 03-5919-2422 /
下北沢クラブミュージックショップ 03-5738-2971 / 吉祥寺店 0422-20-8062)
●BACKWOODS BOROUGH (03-3479-0420)
●TIME 2 SHOCK (047-167-3010)
●FAN (046-822-7237) ●RAUGH of life by Real jam (048-649-6866)
●LOW BROW (042-644-5272) ●BUMBRICH (03-5834-8077)
●NEW PORT (054-273-5322) ●O.2.6 (026-264-5947)

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interview with Bing Ji Ling - ele-king


Bing Ji Ling
Sunshine For Your Mind

Rush Productions / AWDR/LR2

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 ビン・ジ・リンの『サンシャイン・フォー・ユア・マインド』の売れ行きが好調のようだ。アコギの透明な音と彼の美しい歌声は、敵を作らないというか、多くの人に親しみやすいもの。トミー・ゲレロのバックを務めながら、地味~に自身の手によって自身の作品を発表してきた彼だが、いまではすっかりソロ・アーティストとしての人気をほこっている。

 そこで彼が歌っているのは、ドナ・サマーやリル・ルイスといった人たちのダンス・ミュージックの古典、そしてプリンスやシャーデーなどの80年代ポップスのカヴァーだが、カヴァーであることさえ気がつかないほど、『サンシャイン・フォー・ユア・マインド』はビン・ジ・リンの綺麗な歌声を聴かせるように作られている。

 もっとも、ギターの弾き語りが魅力のこの男がクラブでDJもすることはあまり広くは知られていない。スキルもしっかりある。日本のクラブでも過去プレイしているが、そのときもオーディエンスを驚かせている。彼がドナ・サマーやリル・ルイスの曲を弾き語りでカヴァーするのも、彼の音楽人生を振り返れば意外なことではなかったと言えるのだろう。
 現在NY在住だが、若い頃に西海岸のレイヴ・カルチャーの洗礼を浴びた彼に、ダンス・ミュージックの思い出を語ってもらった。なかなか興味深い話になったので、ダンス・カルチャー全般に関心がある人にも読んでいただきたい。『サンシャイン・フォー・ユア・マインド』がMORのバレアリック版かどうか……判断は読者に委ねよう。

初めてレイヴに行った1993年は僕にとって大きな年だった。会場はサンフランシスコからハイウェイ1に乗って、1時間くらい離れた、まわりに何もない場所にあるビーチだった。つまり、すべてから自由な場所だった。

『サンシャイン・フォー・ユア・マインド』で、あなたはクラブ・ミュージックの有名な曲をカヴァーしていますが、どんなふうにあなたがダンス・カルチャーと出会い、そしてどのように関わっていったのかを今日は教えて下さい。

ビン・ジ・リン(以下、BJL):とっても面白い話だよ。そして、本当の話でもある。僕が若かった頃、たぶん高校生だったと思うけど、ラジオでソウルllソウルなど80年代のものを聴いていたけど、ダンス・ミュージックの歴史なんて知らなかった。ダンスとの出会いはそれよりもっと前の1980年で、僕は1972年生まれだから、当時8歳くらいだったと思う。その年にYMCAのディスコ・ダンス教室に連れていかれたんだけど、それが僕のディスコを理解するようになったキッカケだね!

8歳ってすごいですね(笑)。

BJL:高校生のときはアンダーグラウンドのダンス・ミュージックはあまり知らなかった。最初に衝撃を受けた80年代のグループはソウルllソウルで、初めて聴いたときに「なんだこれ!?」ってなったよ。あのサウンドが大好きだった。そうやって学んでいったんだ。
 それで1993年のサンフランシスコで、ウィキット・クルーのレイヴ・パーティに行った。クルーのメンバーはトマス・ブルック、DJガレス、イエノそしてマーキー。彼らはイングランドのケンブリッジ出身で、 80年代後半イギリスのアンダーグランドのレイヴ畑からやってきた。彼らはDJハーヴィーのイベントによく行っていた。DJハーヴィーはイングランドでは早くから活動していて、彼らがそのイベントに出入りしてたのは80年代後半だったと思う。そして1991年に彼らはイングランドからサンフランシスコにやってきて、イングランドと同じスタイルの、つまり良い感じのレイヴ・パーティをはじめたんだよね。

当時のヨーロッパにおけるレイヴ・カルチャーはよく語られていましたけど、アメリカのレイヴについてはあまり聞いたことがなかったので、興味深い話ですね。

BJL:だろうね。ウィキット・クルーのパーティはすごくアンダーグラウンドだったんだ。彼らはいま、その頃のシーンについてのドキュメンタリーを作ってるよ。そのレイヴ・パーティーはサンフランシスコでとても影響力があった。なにしろ、DJハーヴィーを崇拝してたような輩がはじめたんだからね。

今回の新作でリル・ルイスやドナ・サマーのような、ディスコやハウスのクラシックのカヴァーを歌ってますけれども、あなたのようなシンガーがダンス・ミュージックからどんなインスピレーションを得たのかと。

BJL:初めてレイヴに行った1993年は僕にとって大きな年だった。会場はサンフランシスコからハイウェイ1に乗って、1時間くらい離れた、まわりに何もない場所にあるビーチだった。つまり、すべてから自由な場所だった。そこで別の惑星からやってきたみたいなサウンドシステムがアシッド・ハウスを流していて、みんなエクスタシーをやってた。「おいおい、なんだよこれは!?」って感じだったよ(笑)。

はははは、そのときのフィーリングをいまでも保ち続けていると思いますか?

BJL:もちろんだよ! いまはそのフィーリングを当時とは違ったふうに捉えているけどね。当時はみんなレイヴに感動していたし、エキサイトして幸福になりたいと思っていた。いまでもそのことを大切にしているよ。

レイヴを体験して、DJをはじめたりとか、打ち込みでダンストラックを作ろうとは思わなかったんですか?

BJL:1993年から最初の5年くらいは、レイヴやクラブにただ踊りに行っていた。ただ音楽を聴きたかったし、パーティにも行きたい年頃だったんだ(笑)。単純に楽しんでいたかったし、実際、最高に楽しかったよ。
 1998年から1999年のどこかで初めてターンテーブルを手に入れた。DJは趣味としてやっていたね。DJをやっている友だちはたくさんいた。そして、彼らはみんなプロとして活動していたよ。
 いまは誰でもDJになれるよね? 当時はDJになるためには、レコードをたくさん持っていること、良いレコードを持っていること、そしてそれらを上手くプレイすることが必要条件だった。もちろん、僕もレコードを持っていたけど、彼らの前では恐れ多かったね。DJをやっている彼らに比べたら、僕のレコードの数は不十分だったから、自分にはDJはできないと思った。

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最近流行っているEDMみたいなのをやっている人たちはデヴィッド・マンキューソやパラダイス・ガレージさえも知らないよ。彼らは自分自身についてしか興味がないし、そこにはルーツや歴史が欠如しているんだよ。


Bing Ji Ling
Sunshine For Your Mind

Rush Productions / AWDR/LR2

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DJハーヴィとマンキューソのどこが好きなんでしょうか?

BJL:ふたりともどんなスタイルの音楽でもプレイするから好きだね。彼らを好きな理由は共通している。マンキューソは年上だし重要な人物だ。そして、ハーヴィはマンキューソから多くを学んでいる。彼らがプレイすると、すべての音楽を聴いている気分になる。例えばさ、ふたりのプレイって、(低い声で)ドゥー、って鳴っているとするといきなり、(高い声で)キュイーンってなったりするだろ? そういうダイナミックさも良いよね。ふたりともプレイの幅は広く、ダイナミックでセンスも最高。彼らのプレイを聴いているときは、ジェットコースターに乗っている気分になる。途中で帰りたくても帰れないんだ(笑)。

子供たちを正しい道に導くためにあなたに是非話して欲しいことなんですけど(笑)、EDMとDJハーヴィやマンキューソとはどこが違うと思いますか?

BJL:残念だけど、違いはたくさんあるね(笑)。

(一同笑)

BJL:思うに一番大きい違いはこうだね。例えばさ、どんな時代でも偉大な芸術家になるためには、自分が使う媒体の歴史を理解しなきゃいけない。もし画家だったら、描くことについてたくさん知っていれば、よりよい画家になれる。歴史の全てを知っている必要はないけれど、それを認識してなきゃダメだよね。最近流行っているEDMみたいなのをやっている人たちはデヴィッド・マンキューソやパラダイス・ガレージさえも知らないよ。彼らは自分自身についてしか興味がないし、そこにはルーツや歴史が欠如しているんだよ。
 EDM以降の新しいDJたちは本当にクリエイティヴなことをやっているし、彼らは自分たちが使う媒体の歴史を深く理解している。僕はそういうふうにプレイしなきゃだめだとは言わないけど、少なくとも認識はしておく必要はあると思うんだよね。マンキューソと同じようにやれっていうわけじゃない。ダブステップをやるんだったら、少なくとも彼がどういう人でどういうパーティをしていたか認識をしていたほうが良いっていうことだよ。

僕もその意見に賛成します。

BJL:ありがとう。

……ですが、他方で、歴史を知ることがそんなに重要なのかという考えもあります。なぜあなたは、歴史を知ることが重要だと思いますか?

BJL:たくさんのことが歴史から学べると思うんだ。自分の能力について、自分が何をしているのか、自分のアートフォームについてとかさ。過去を振り返れば、新しいもののどこが問題かにも気付くことができる。ただ、一番重要なのは、歴史との繋がりがなくなってしまうということだよ。これは音楽に限ったことじゃなくて、いまの世のなかのすべてに言えることだと思う。音楽において言えば、歴史の欠如が、ミュージシャンと音質やダイナミクスについての繋がりを断ち切っているんじゃないかな。歴史を知っていれば、そういうところに自ずと繋がっていくもんだよ。建築にしても、料理の作り方にしてもさ、いまは機械で大量生産しているよね? 歴史を学ばず、簡単に作れてしまう。そのせいで、最悪な料理を口にするようになったんだよ(笑)。

そうすることでボロ儲けている人がいるからなんでしょう。話は変わりますが、美しい歌声を持っていながら、もっと早い段階で、90年代にシンガーとして作品を発表しなかったのは何故なんですか?

BJL:アリガトウ。高校時代にバンドで演奏し、大学でもバンドをやっていた。それらのバンドでレコーディングもしたんだけど、2003年になるまで作品を発表する機会がなかったんだ。90年代はいまと音楽業界も違っていたからね。当時はレコード会社と契約しなければ作品をリリースできなかったから、iTunesにどんどん曲をアップするわけにもいかなかった。だから歌ってはいたけど、リリースに至らなかったんだ。90年代には3つのバンドに在籍してデモテープも作っていたけど、発売することはなかったね。

なるほど。あなたは自分で、自身のキャリアについてどう思っているんですか?

BJL:まあ、そうだよね(笑)。そりゃ、90年代のときから音楽を作りたかったし、挑戦はしていたよ! 自分のバンドもあったし、ギグもこなしていた。デモを作って、曲を書いてさ。だって、それがやりたいことだったからね。実はいくつかのレコード会社と契約する機会はあったんだ。でも、レコード会社が僕たちのことをコントロールしようとしていたから断った。会社はなんでもやろうとするし、取り分とかもおかしかったからさ、「結構です。全部自分でやりますよ。」って具合にね。
 だから、僕は、結局、自分のレコードを自分で録音して、自分でリリースもしたし、自分でアートワークもやったよ。僕はすべてを自分の力でやった。ショーのプロモーションとかもね。そうやりはじめて7年になるけど、そうしたら自分のバンドが人気になって世界に出れるようになった。だから質問の答えは、僕のキャリアは長くて険しい道だった、ということだね(笑)。やっと自分の音楽をリリースできるようになって、ツアーもできるようになったから、とても楽しいよ。

ビン・ジ・リンはアイスクリームという意味ですが。あなたの音楽はまさにアイスクリームのように甘い音楽だと思います。

BJL:ワオ。ありがとう!

なんでアイスクリームという意味の名前をつけたんですか?

BJL:実は自分で名付けたわけじゃなくて、上海にいたときにみんながビン・ジ・リンって呼ぶようになったんだ。上海で最初にライヴをしたときに、「なんていう名前なの?」って聞かれたんだ。だから本名の「クィン」って答えたんだ。そしたらさ、「え? クリム? クリームっていう名前なの? アイスクリーム?」って彼女は言ったんだ(笑)。「違うよクィンだよ!」「えっ、クリーム? アイスクリーム? ビン・ジ・リン?」こうして、僕はビン・ジ・リンと呼ばれるようになったんだ。それから上海を歩いていると「ビン・ジ・リン元気~?」って言われるようになったよ。

(一同笑)

BJL:それでサンフランシスコに戻ってこのアルバムを作りはじめたんだけど、そのときにビン・ジ・リンっていう名前を使おうと思った。

今回のアルバムでドナ・サマーの“ラヴ・トゥ・ラヴ・ユー・ベイビー”をカヴァーが意外だったのですが、そのカヴァーについてのコメントをお願いします。

BJL:そうだよね(笑)。子供の頃からずっと聴いていて、素晴らしい曲で大好きだったんだ。それと、ループペダルで曲を作ることが好きで、あの曲のフレーズ(口ずさむ)を使おうと思ってたんだ。それをライヴでやろうと思ったのが、ドナ・サマーが亡くなった日だったんだけど、その日はダンス・ミュージックが好きなオーディエンスもたくさん来ていて、その日はエモーショナルになって、みんなで合唱したよ。それからその曲をよくプレイするようになった。クロアチアに行ったときも、イギリスに行ったときも、ダンス系のイベントだったらその曲をやると、みんなが楽しんでくれたね。

なるほど! 聞いてよかったです。ありがとうございました!

BJL:ありがとう!

GOODWEATHER presents AKKORD JAPAN TOUR - ele-king

 モイーズ監督が解任されても、シティが優勝戦線から脱落しても、いまマンチェスターは熱いのだ。いつまでもマッドチェスターとか言ってるんじゃないぜ。
 今週は、たいへんだ。なにせ、日曜日にはリヴァプールとチェルシーの決戦もあるし、週末にはアコードのDJもある。え? アコードが誰かって? やれやれ、それでは教えてあげよう。

 アコードは、マンチェスターを拠点に活動をするプロデューサーのインディゴとシンクロによるユニットだ。これまでに、4枚のシングルとEP、1枚のアルバムをリリースしている。それらの作品のなかでは複雑なビートが絡み合い、怪しげなヴォイス・サンプリングや強烈なベースが飛び交う。黄金比や数学をコンセプトに取り込んだり、サイマティクスという音の周波数が示す形状パターンをミュージック・ヴィデオに取り込んだりと、プロダクションの方法も独創的である(インディゴの身体には黄金比を取り入れたタトゥーが刻まれている)。先日のボイラー・ルームで披露したDJセットにもその独創性が表れている。



 ふたりはアコード名義以外でも多くの作品をリリースしている。最近では、インディゴはニュージーランドの実験的なドラムンベースのレーベルである〈SAMURAI MUSIC〉のサブ・レーベル〈SAMURAI RED SEAL〉から「Storm EP」を、シンクロはベルギーの〈R&S〉傘下の〈APPOLLO〉から「Lost Here EP」を発表したばかりだ。
 アンビエントからテクノやダブステップまで、常にひとつのスタイルに縛られることなく作品を発表してきたふたりだが、この2枚のEP では、動的なインディゴと静的なシンクロというふたつの個性が表現されている。

 マンチェスターが彼らのホームであることも忘れてはいけない。元インディ・キッズにはお馴染みの街だが、近年でも素晴らしい作品がたくさん生まれている。5月に来日するアンディ・ストットとデムダイク・ステア。ダブステップ界隈で活躍するコンパやエイカー。ロック・バンドではエジプシャン・ヒップホップもいる。彼らは故郷を離れることなく、現在もマンチェスターに住んでいる。

 著者は一度だけマンチェスターを訪れたことがあるが、全てがコンパクトにまとまっているという印象を受けた。シティ・センターをワンブロック歩けばレコード屋さんがあり、サウンド・システムが入ったクラブがあり、ミュージシャンにも出会える。音楽を楽しむ人にも、音楽を作る人にも最高の環境がマンチェスターにはある。だが、環境だけがアコードの幾何学的なサウンドや、アンディ・ストットの暗黒なビートを作り上げたのではない。何がシーンや彼らのサウンドを作り上げたのか。それは誰にもわらない謎だ。

 アコードを惹きつけた黄金比は自然のあらゆる場所に存在している。貝の渦巻きにも、葉っぱの並び方にも、もちろん音の波形の中にもそれはある。優れた音楽に何らかの規則性があるとするならば、それは黄金比によるものなのだろうか。彼らの音を聴けば、そのヒントくらいは掴めるかもしれない。そして、その絶好のチャンスが今回のアコードのジャパン・ツアーだ。シーンの最先端には何があるのか、そしてそれがどのように生まれたのか。そこに耳をすましてみたい。

 主催は名古屋を拠点に活動する GOODWEATHERであり、ローガン・サマやスウィンドルをゲストに迎えたパーティも記憶に新しい。東京公演では、GOODWEATHERにレギュラーで出演している日本を代表するベース・クルーのPatry2Style Sound。インディゴも所属する〈SAMURAI MUSIC〉からEPを出したばかりのBack To ChillのレジデントDJのENA。同じくBack To Chillのレジデントである100mado。独自のスタイルでテクノを追求する GONNO。 GOODWEATHERクルーからはNOUSLESSとSAVが登場する。25日は是非LOUNGE NEOへ。
(Y.T)

GOODWEATHER#35 AKKORD JAPAN TOUR “Golden Rule and Causality”
April 25, 26 and 28, 2014


interview with TADZIO - ele-king


TADZIO
TADZIO II

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 どこでもアウェー……。ホームがない。タッジオは、いつでも浮いている感じがする。居場所をなかなか見つけられないのだ。あいつやあの娘のように。
 タッジオは、容姿の整ったふたりの女性がやっているロック・バンドだが、色気を売りにしているわけではない。媚びている風には見えないし、わかりにくいこともない。ギターが鳴って、8ビートが打たれる。人はダンスするわけでもないし、リーダーと部長と互いを呼び合うふたりをじーっと見ている。演奏からは、「クソ」だの「ファック」だのと、汚い言葉がはっきり聴こる。
 インディ・ロックを深読みするアメリカ人にとって、きゃりーぱみゅぱみゅはミシマの内臓に重なり、下山からはアメリカ文化の支配への日本人のアンビヴァレンスを想起させるのなら、タッジオは……タッジオは……、いったい何なのか。いまのところ日本では機能しない何かだろう。そして、その機能のしなさこそが、このバンドの魅力だ。
 いくつかの曲は、日本のラジオではオンエアーするわけにはいかないだろうし、女性が口にして欲しくない言葉を言っているのかもしれない。サウンド的にもスタイル的にも、たとえアメリカ文化に支配されたとしても、たいていの場合は日本社会の歯車として機能できるものなのだが、彼女たちときたらそうはいかない。音と言葉はノイズとして存在している。

 2011年にデビュー・アルバム『TADZIO』をリリース、およそ3年ぶりのセカンド・アルバム『TADZIO II』が去る3月にリリースされた。前作よりも、格段にアップグレードされている。以下の取材から、彼女たちの“佇まい”を少しでも感じ取っていただけたら幸いである。

深刻なやつなんか絶対に好きじゃない(笑)!

じゃあ、よろしくお願いします。

部長&リーダー:お願いしまーす。

セカンド・アルバムまでずいぶん長くかかりましたね。

リーダー:3年かかりました。

部長:私がちょっと骨折してたというのもあるんですけど、それで1年以上は延びまして。

リーダー:そうだね。骨折して、その後喧嘩したからすごい延びました(笑)。

そうそう。巷では不仲説も聞きましたけど。

(一同笑)

リーダー:まあ、話し合いをしまして。とことん思いのたけを全部言い尽くして、じゃあスタジオやりますか、みたいな感じで。

ライヴはコンスタントにやってたんでしょ?

リーダー:喧嘩してからライヴもあんまりやってなかった(笑)。骨折治ってから、ライヴは結構やってたよね。

部長:うん。タイに行ったのも骨折の後ですし、ちょこちょこライヴは入っていたんですけど、去年の7月か6月にふたりでぶつかって、そこからはしばらく休んでいましたね。

リーダー:喧嘩をする前はスタジオにはずっとコンスタントに入って曲を作っていたんですけど、単純に曲が思うようにできなかったので長くかかったというのもあります。

部長:そうだね。(難航したのが)最後の1、2曲くらい?

リーダー:なんか、記憶が全然……昔を思い出せない(笑)。

喧嘩がそれだけ激しかったんだね(笑)。

(一同笑)

部長:記憶を消された(笑)。

ちなみに骨折はどこの骨を折ったんですか?

部長:左足のすねを2本折ったんですけど、骨折の直前までふたりですっごく詰めてて。めちゃくちゃ忙しくて、ふたりでスタジオにもがーっと入って。

リーダー:そうそう。これまでには出そうってね。

部長:わーわーって詰め込んでいたときに、ポキッといってしまって。

なるほど、調子が出てるときにね。TADZIOって曲を作るときにどこから作るんですか?

リーダー&部長:どこから?

言葉から作るのか、音から作るのかっていったら、絶対に音だよね。

部長:うん。

リーダー:音。

音から作るときはどこからつくるんですか?

部長:ふたりでとりあえず音を出してるんですよ。ギターもじゃーっと弾いてて、ドラムはばーってやってて、それでリーダーが良いと思ったフレーズとかがあったらそれを拾って、いまのもう1回やってみようってそこからドラムを合わせてみたりとかって感じですね。

なるほどね。イヴェントで部長とは何回か偶然会ったことがあるんだよね。そのたびに、僕は部長に酔っぱらいながら、「打ち込みやった方が良いよー! 打ち込み!」って言ってたんですけど、ものの見事に裏切られました(笑)。

(一同笑)

リーダー:打ち込みの道具とか持ってないし(笑)。

(一同笑)

リーダー:(ギターとドラムだけで)できちゃったから。ふたつだけで10曲分ね。

部長:打ち込みとかはTADZIOではないかなーって思いましたね。

やっぱりロック・サウンドがしっくりくる?

リーダー:へ? ロックですかね……?

僕からしたら、むちゃくちゃロックだと思います。

(一同笑)

少なくともジャズやテクノじゃないです(笑)!

部長:できたらそういう(ロックという)解釈をしてもらっているのかな、という感じで。ふたりでは「ロックを作ろう!」とか、そういう気負いもなく、ただ面白いものをギターとドラムだけで作りたいという感じで……

すさまじいロックンロールですよ。

部長:どうしてそういう風になったのかわかんないですね。ただ、リーダーが弾くギターの感じがそういう方へ向かっていて、前に作っているときとは違うなとは思っていたんですけど、そのまま流れる感じに作っていって結局ロックみたいになったのかも。

ライヴの場数をこなしていったことが今回のアルバムにフィードバックされていると感じましたがどうでしょう?

リーダー:そうですね、そう思います。あと、ギターもファーストのときと違うんですよ。

自分で1年前より上手いとは思いますか?

部長:そうは思わないです!

僕が最初に見たときは、ギターのチューニングも合っていない感じだったのが、わりとしっかりとしたサウンドになっているというか。

リーダー:それは多分、回数をやったからただ単に(笑)。

(一同笑)

リーダー:ちゃんとギターのコードを押さえているんだと思う。最初はコードを押さえていなかった。

ファーストのときはコードの概念もなかった?

リーダー:なかったと思います。聴こえてくる音を使ったみたいな感じかな。

なんというか、デレク・ベイリー的な境地に(笑)。上手くなっちゃいけないというのは自分たちのなかにありましたか?

リーダー:いや、上手くなりたい! まわりは「上手くならない方がいい」とか言うけど、普通は上手くなりたいでしょ。

部長:野田さんが聴いた感想は、ロックってことですか?

僕は、そんなロックンロールな人間じゃないから、あくまでも、サウンド的なことで。ロックだなーと。最近、ハウスばかり聴いてて、ギターとドラムを聴いたのが、すごく久しぶりだったんで。

リーダー:ああ、じゃあ良いね。

部長:言ってることはすごくわる。でも、別にそういう(ロックな)ことを目指して作ってなかったから。

一発録音じゃないんだよね?

リーダー:今回は違う。

部長:違うんです。

リーダー:別々。

部長:ギターも被していますよ、1曲だけ(笑)。

リーダー:だからすごくキレイで上手いというか。

部長:ミックスも前と変わってます。今回はこれがすごく大きいと思います。エンジニアの瀬川氏からアイディアを沢山もらって、ファーストとは違う感じにしようって。

たしかに、音に、リスナーを拒む感じはないですよね。ある意味聴きやすいとも言えるし。

リーダー:それを目指しましたから。よかった。

TADZIOをライヴハウスで見ると、いっつも、その場に溶け込めてない感じがあるんですよね。

部長:浮いている感じですか?

リーダー:浮いていると思う。

あと、お客さんもどういう反応をしていいかわからない感じじゃない?

リーダー:うんうん。

部長:それはどうなんですかね?

やってる側はどんな感じなんですか?

部長:ひかれるのはすごく嫌なんですよ。でも自分たちではどうすることもできないから、(お客さんが反応に困るのは)どうなのかなと思いますけど。

お客さんがノってきたことはありますか?

リーダー:場所によって。

部長:うん。場所によってはありますね。

踊ったりとか?

部長:うん。そういうことも場によってはあります。

TADZIOを聴いている人たち、自分たちのオーディエンス像ってありますか?

リーダー:やっぱり、おじさんたちが多いかな。

部長:うん、結局(笑)。

でも、僕が何度か見たときのおじさんは僕しかいなかったですけどね。

リーダー:でも、(聴いてくれている人に)10代はいない。

20代は?

リーダー:20代もあんまりいない気がする。

部長:うん。わかんないですね。いま誰が聴いているかわからないですね。

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でも、ホントできない。友だちとか。ホント悲しい。


TADZIO
TADZIO II

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TADZIOって、つねに自分たちのホームがなくて、つねにアウェイでやっている感じじゃないですか?

部長:それはありますね。ホームがない(笑)。

凄いことですよね(笑)。

部長:なんでですかね(笑)。このバンドが出るときはこのバンドも出るみたいなことがあるじゃないですか? TADZIOと同じ時期に出てきたバンドにも何個かそういうグループみたいなものがあって、そのなかのどこにもTADZIOは入っていなくて……(笑)

恐れられてるんじゃないの(笑)?

部長:まあ別にいいけど。

リーダー:入りたくもないけど。なんか、ホームがいらない。

かっこいいね!

リーダー:ってことにしとく(笑)。

あまりにも毒づきすぎて、浮いているんじゃ?

部長:全然、毒づいてないですよ?

ずいぶん毒づいてるじゃない(笑)。

部長:まあ、歌詞はアレですけど、楽屋では大人しいもんですよ(笑)。

楽屋で暴れてたらね、部屋とか破壊して(笑)。

部長:やっぱ歌ですかね。みんな歌詞を「こわー」って思ってるんですかね。

リーダー:でも、ホントできない。友だちとか。

部長:(笑)

なんか悲しいですね(笑)。

リーダー:ホント悲しい。

部長:バンド仲間とかもね……

女性とかでもいない?

部長:そのくらいの人たちがいないんですよね。逆に、ちょっと上のバンドの人たちはTADZIOのことを気に入ってくれたり、こっちもすごく好きですね。

仲が良いバンドって誰がいます?

部長:仲が良いバンド(笑)。

リーダー:仲の良いバンドはいないよね。個人的に友だちとかはいるけど、バンド同士ってなると……

部長:でも、The Popsとかさ。

リーダー:あー。

部長:まあ、ちょろっと(笑)。

リーダー:久土'n'茶谷とか……

部長:The Popsていうバンドの茶谷さんがドラマーのバンドですけど。

リーダー:でもおじさんですね。40オーヴァー。

それはおじさんですね(笑)。

(一同笑)

部長:2マッチ(・クルー)もすごく好きですし。

それもおじさんだね(笑)。

部長:そう考えるとみんなおじさんだな(笑)。若い人、いるかな。同年代とかでいないよね?

リーダー:仲が良いのはいないよね。

部長:みんなおじさんですね(笑)。

いいじゃないですか、孤高の存在で。さすがですね。

リーダー:あんまよくない(笑)。

レコ発のときに誰と一緒にやるかってなったときには苦労するよね(笑)。

リーダー:苦労する。いっつも苦労する(笑)。

やっぱ、毒づいてばかりいるから。

リーダー:そんなに毒づいてはいないと思うんですが(笑)。

「おまえのねぇちゃんビッチ」とか。

リーダー:ちゃんと意味があってのことだから、毒づいているわけではないんですよ。

「みんなえげつない」とか。

部長:でも、そんなに……

「あとは死ぬだけ」とも言ってるよ(笑)。

リーダー:でも、本当にあった話とかもだし。

どういうの?

リーダー:頭の悪い男とか。頭の悪い人がいて……

嫌な思いをしたとか?

リーダー:そうです。

“Old Bitch”という曲はがあるじゃないですか。これは気の毒だと思いました。

部長:気の毒? 主人公が?

そうそう。だって、高齢化社会だし。

部長:えー! どこでそう思ったんですか?

「ジジババ、ファックユー」とかさ、最近、自分も歳をとってきたので、だんだんとおじいさんとおばあさんの方に感情移入することが多くなってしまって。

部長:でもディスっておいて、自分も歳をとってっちゃうっていう。

リーダー:これは自分たちに対する曲だから。

あー、そうなんですね。

リーダー:でも、ジジイとババアにも聴かせたい。

歌詞はリーダーが全部書いてるんでしょ?

リーダー:ふたりです。全部スタジオで。

歌詞書くの楽しいでしょ?

リーダー&部長:楽しい!

好きな女性アーティストっていますか?

リーダー:スリッツは好きです。

どんなところが好きなんですか?

リーダー:全部。女子バンドだったら一番好きかな。ビキニキルも好き。

部長は?

部長:スリッツは好きですけど、スパッと出てこないな……、最近は友人がやっているのを聴きに行ったりとか、そういうのは多いんですけど。

リーダー:SOKO。最近ではその人が好き。全然TADZIOと違う。ひとりでやってる。

歌ってる人?

リーダー:歌ってる、レズ。見た目もかわいい。

TADZIOは、自分たちの内面を出している感じ?

リーダー:なんか、思い出とかをね。

部長:うん、思い出とか! タイの思い出とか。あと何だろう……。別にそんなにキツいメッセージ性はないと思っているんですけど。

言葉がたくさんあっても言葉が入ってこない音楽があるんだけど、TADZIOの場合は、嫌なくらい言葉が入ってくるんだよね。憎たらしいほど言葉が入ってくるんで。

リーダー&部長:(笑)

だからみんな自分のこと言われているみたいになって、しょぼーんとしちゃうんじゃないのかな(笑)。

部長:それはやだー。最悪ですね。ネガティヴ・ライフやだ……。

ポジティブな曲もやればよかったね(笑)。

リーダー:「えげつない」とか結構明るいと思うんだけど。

えー(笑)! だって、「えげつない」って何度も言ってるんだよ?

リーダー:「えげつない」が悪い言葉だと思ってなかった。

これは、前向きさを表していたんだ?(笑)

部長:(笑)

リーダー:だから曲調が明るい。

でも、やっぱTADZIOは、もっとダーティーな言葉、「Bull Shit」とか「Bitch」とかさ、そういう、いわゆる強い言葉が耳に残るという、妙な才能があるよね。絶対にラジオでかからないでしょ。

リーダー&部長:しょぼーん(笑)。

でもそれだけ、何か力があるんですよ。

リーダー:でも、ポップだから良いかなって。ポップに悪口。

大げさに言えば、日本社会が求めていない女性を地でいっている感じがあるじゃないですか。たとえば日本のアイドルや女性シンガーに「おまえ」とか「ファッキンクソムシ」とか、そんな言葉を言える自由なんてないでしょう。

部長:なるほど。

だから、立派なもんですよ、TADZIOは。

(一同笑)

ここまで日本社会に逆らっているんだから。

リーダー:そうかな。

部長:全然そんなことは……。思い出とか多いですけどね。ふざけた歌詞だし。

リーダー:ちゃんと意味があって。

過去の嫌な思い出とかをさ、ここまでなんか……。

リーダー:面白いからね。

部長:語感の響きで作っている部分もあるんです。だからビッチってネガティヴなワードかもしれないんだけど、普通に言えば、リズム感が良いというか。

リーダー:ビッチってだけ聴くと(語感が)かわいいしね。

部長:そうだね。えげつないとかもそうだし。でも、「えげつない」も、意味は多少後から付けましたけど、言葉がキッカケとしてあって、そこからリズム的な感じで作っているし、そんなにネガティヴじゃないと思う。

(一同笑)

リーダー:基本的にネガティヴじゃない。

部長:そうそう。でも、そう取られちゃうのかな。

いやいや、ネガティヴとは言ってないですけど、反抗的だっていうね。

リーダー:でも、真実だから。

部長:(笑)

「ファッキンクソムシ」とかさ、歌っていると気持ちいい?

リーダー:うん、まあ、ライヴは気持ちいいよ。

絶対にNHKではかからないもんね。

リーダー:ピーだまた。

部長:ははは。

リーダー:でも、なんか言いやすいしね。

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「えげつない」も、意味は多少後から付けましたけど、言葉がキッカケとしてあって、そこからリズム的な感じで作っているし、そんなにネガティヴじゃないと思う。


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話ちょっと逸れますけど、タイはライヴで行ったんですか?

部長:ライヴで行きました。

タイのどこに?

部長:バンコクで三カ所でライヴをしてきました。

ウケたでしょ? タイで。

部長:うん、良かった。ウケましたね。

リーダー:盛り上がっているって言うよりは、みんな写真を撮ってった。

(笑)

リーダー:公園とかでも撮ってきて、やたら近くで(笑)。女の子でバンドをやっている人たちがタイにいないらしくて。

部長:なんか珍しがられて。

あー。

リーダー:お金とか、こう出されたり……。

それ、そうとう勘違いされてるんじゃない(笑)?

(一同笑)

リーダー:でも楽しかった。

部長:環境が最悪だったのもすごく面白くて。音もひどかったし。

リーダー:ねっ、ヒドかったね。

部長:でも、タイの他のバンドの人たちはそれが当たり前でやってるからね。すごいなー、と思って、面白かったです。

僕はさっきからジェンダーの話というか、日本では、TADZIOみたいな女性バンドがいないって言ったんですけど、女性としてのやりづらさみたいなものって感じたことはありますか?

部長:ないです。

リーダー:パンツが見えるくらい(笑)。

それってチラリズムで挑発してるんじゃないんですか?

リーダー:いや、短パンをはいていたら、そっちのほうが見えるということを教えてもらって(笑)。

短パンの方が見えるって何が?

リーダー:パンツが。スカートより短パンの方が足を上げたときにパンツが見えるってことです。

あははは(笑)

リーダー:それくらいかな。

部長:とくにないですね。

なにかこう、このサウンドには、おふたりのフラストレーションが注がれているんじゃないんですか?

部長:うーん、そんなつもりもないです。それって、はけ口的な感じってことですか?

リーダー:ライヴをやればすっきりするけどね。作りながらそういうのはないかな。

パンクってことは意識していない?

部長:意識して……

リーダー:ないですよ(笑)。

部長:「なにやってるの?」って言われて、「何やってるんだろ」っていつも思う。

リーダー:バンドを(やってる)。そういうのを考えた方がいいのかしら。

日常生活で何を聴いているんですか?

部長:普通にCDを買ったり……

リーダー:さっき言ったSOKOとか、最近……バースデー・パーティのギターの人のソロかな。

ローランド・ハワード......

リーダー:そう! ローランド! 1曲がよかった。見た目も素敵だし。中性的というか。

部長:私は、うーん、何だろう。直ぐにパッと出てこない。ミックス CD ばっかり聴いていた気がする。

リーダー:私はあとハードコア・バンド。

部長:私は全然わらないです(笑)。

リーダー:ハードコアのライヴも行くし。カッコいい。みんな、もう熱過ぎる。

じゃあ、自分も一緒になって?

リーダー:いや、身の安全を確保して。

(一同笑)

リーダー:本当に危ない。それこそ、骨折とかしちゃうよね。

リーダーはハードな音楽が好きなんですね。

リーダー:好きかな。スリップ・ノットとか。でも良いイヤホンが無いんですよ。

普通に聴けばいいじゃないですか。

リーダー:移動中に聴くことが多いから。コンビニで買ったイヤホンは低音が一切抜けてて。

部長:スカスカ……ラジオみたいな音がするもんね。

部長が聴いているの?

部長:最近買ってよく聴いてるのはKING OF OPUS。他にはメルト・バナナや灰野(敬二)さんのミックスCDを聴いてました。あとDAFがもうすぐ来日するからまた聴いてる。

ポップ・ミュージックは聴かない?

リーダー:ジーザス・アンド・メリーチェインは好き、大好き。

音楽以外で好きなことって何があります?

部長:うーん、なんだろう。

リーダー:映画!

部長:『白いリボン』を一昨日見ましたね。ミヒャエル・ハネケ。面白いというか、いつも後味が悪い感じですよね(笑)。まあ、普通でしたね。

リーダー:最近、何を見たかな。

部長:『マスター』も見たかな。まあ、普通。『ブギー・ナイツ』の方が面白かった。

リーダー:私は、ラース・フォン・トリアーを見返してました。

深刻な作品が好きなんじゃないですか?

リーダー:深刻なやつなんか絶対に好きじゃない(笑)!

部長:(笑)

■みんなで行こう、TADZIOのレコ発ライヴ!
──『TADZIO II』RELEASE PARTY

5.2 (fri) 渋谷 TSUTAYA O-nest
OPEN 19:00 / START 20:00
ADV ¥2,500 / DOOR ¥2,800 (+ DRINK)
LIVE: TADZIO / HAIR STYLISTICS / KIRIHITO / オシリペンペンズ
DJ: COMPUMA / 37A (PANTY)
VJ: IROHA

チケット:O-nest / ローソン[L: 78450](4/24~) / e+

https://shibuya-o.com

interview with ROTH BART BARON - ele-king


ROTH BART BARON - The Ice Age
Felicity

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 よく伸びるファルセット、管と弦の美しいアンサンブル、おだやかなエレクトロ・アコースティック。そして澄んでつめたい空気のにおいや、どこか異国的な風景をたずさえたフォーキー・ポップから、このユニットのとらえがたいサイズが見えてくる。2008年に結成された東京のデュオ、ROTH BART BARON。2人組だが音はバンドの想像力をもって広がる。そしてそれがなぜかとてもUS的なエッセンスをもっていることに、おそらくは誰もが不思議な驚きを覚えるだろう。ボン・イヴェール、フリート・フォクシーズ、あるいはアイアン・アンド・ワイン……USインディ、それも豊かにアメリカーナを鳴らすバンドたちの音が、けっして猿真似ではなく、しかし強烈な共通点をもってたちあがってくる。

 目黒に生まれ育ったという彼らが、なぜこんな音楽性を持っているのか、そして今作キー・モチーフでもある氷河期とはなんなのか。日本固有の土着性からも、「ガラパゴス」的な発想やおもしろみからももっとも遠い、大柄でおおらかなスタイルの楽曲の謎を解くべく、まだ寒さののこる春先の渋谷にてROTH BART BARONに向かい合った。本当に東京ネイティヴだというのに、そして、いたって普通のたたずまいのふたりなのに、渋谷の高架下やビル群や駐車場のネオンなどにはどうも馴染まない気がする。ライヴ活動を活発化させたのもわりと最近で、当然ながらライヴ・シーンから浮上してきたわけでもなく、そうした人脈図にも組み込まれていない。〈フェリシティ〉が謳うように、そこには本当に「二人ぼっち」の存在感がある。
もしかすると、彼らは彼らふたり自身の──ROTH BART BARONの──ふるさとや原風景を求める旅の途上にあるのかもしれない。USと書いたが、それはもちろん本来のUSとは異なるものだし、そもそも彼らはUSらしさをねらっているわけではない。強いていえば、どこでもないものがたまたまUS的なものと結びつくかたちで表れているというだけだ。歴史からも土地からも切り離されたところで、まるで言葉やイメージをひとつずつ覚えていくかのように紡ぎ出されていく楽曲=ROTH BART BARONの物語。インタヴューの後、「氷河期」というのはそのゼロ地点でもあるかのように、いよいよ白く輝くように感じられた。想像や空想はまだまだ膨らむ。

ROTH BART BARON
中原鉄也(drums/piano) Tetsuya Nakahara
三船雅也(vocal/guitar) Masaya Mifune

2008年結成、東京出身の2人組ロックバンド。2010年に自主制作によるファーストEP「ROTH BART BARON」、2012年にはセカンド EP「化け物山と合唱団」をリリース。日本の音楽シーンだけに留まらず、SoundCloudをはじめとする音楽系SNSサイトから多くの賞賛コメントを受けるなど、海外での評価も高い。2014年1月には初となるNYツアーを成功させる。

もしかしたら僕たちは、氷河期がやってきてももう絶えることができないのかもしれない……そこに克服とかパワーを見るか、絶望を見るか。(三船)

今作は『ロットバルトバロンの氷河期』ということで。曲の中にも、窓の外に氷河期が来ているという描写がありますね。これは予言のようなものなのか、それとも、そうなってくれればいいのにというような一種の願望だったりするんでしょうか?

三船:そうだな、どちらもですね。どちらか、ではない。来るかもしれない/来たらいいのに/もしかしたらもう来ているのかもしれない……現在、過去、未来、すべて入っているというか。

三船さんから出てきたイメージなんですか?

三船:そうですね、以前の『化け物山と合唱団』(2012年)をつくっていた頃から、少しずつ発想していたものではあります。「氷河期」っていうものがずっとあったなあ。それを「何かにならないかな」ってずっと泳がせていましたね。

すごく大振りな言葉──喚起力というか、物語性も強い言葉ですよね。カタストロフィとしての氷河期、いちど世の中をリセットしてしまいたいというような意味合いが含まれていたりしますか?

三船:ぜんぜんないわけではないと思いますけどね。でも、聴く人がそれぞれ「氷河期」っていう言葉をどうイメージしてくれるのか。そのプロセスが大事だと思っています。自分自身も、音楽を聴いたり絵を見たりしたときに、それに接して自分なりの答えを出したという経験がとてもよいことだったと感じるから。そのためのスペースを残しておきたいとは思います。だから、とくに「リセット」にかぎったイメージではないですね。そこまで世の中を嫌ってはいないです(笑)。

ははは、たしかに。音からはヘイトみたいなものは感じないです。とはいえ、現実の世界に対する限りない違和感が核にあるんじゃないかなってふうには思いますけど、どうですか?

三船:ああー。

ストレートに世界を愛しているわけではないというか。

三船:ストレートには愛してないかもしれないけど、違和感というものはみんな持っているんじゃないですか。通奏低音のようにノイズが鳴っているという感じがします。

なるほど。今作はそれをなんとなく感覚的に盛り込んでみました、という感じではなくて、しっかりと三部展開がとられていますね。「氷河期」はその中心にある、すごく重要なイメージだと思います。それで、もうちょっと掘り下げてお訊きしたいんです。『ドラえもん』の劇場版みたいな──

三船:『ドラえもん』(笑)?

はい(笑)、そういうファンタジックなのどかさもなくはないと思うんですけど、もうちょっとシリアスなものじゃないかなあと。このなかの、世界との距離感というものは。詩的な飛躍の強さというか。

三船:うーん、そうだなあ……。

たとえば、あったかい時代じゃないですよね、氷河期というのは。生命が絶えたりもして。

三船:うん、「氷河期」っていうと、たとえば恐竜が絶滅した理由なんじゃないかと言われたり、何かが絶えてしまうんじゃないかというイメージはありますよね。生命が栄える印象はないかもしれないけど、でも、いまは氷河期なんじゃないかという学者さんもいて。

へえー!

三船:周期的に氷河期というものはやってきている、って。でもふつうにみんな生きているわけで、もしかしたら僕たちは、氷河期がやってきてももう絶えることができないのかもしれない……そこに克服とかパワーを見るか、絶望を見るか。そんなふうに空振ってる言葉としてもおもしろいなって思います。

絶えることができないのかもしれないと! すごい、人類規模の一大叙事詩じゃないですか。

三船:ふと、そんな環境の中に身を置いたらどうなるのかなあ、とか思って。このあいだもすごい大雪が降りましたよね。僕ら、これを外国に行って録ってきたんですけど、向こうに行くずっと前から「『氷河期』みたいなタイトルにしようか」っていうことを言ってたんです。そして帰ってきてみれば、何十年ぶりの寒波が来ていた(笑)。

おお、たしかに(笑)。すごい雪でしたよね。

三船:アメリカでも数十年に一度の大寒波に襲われて髪も凍るし、車は氷柱をつけて走っているし、帰国後にも日本で大雪に見舞われていちばんにやったことが雪かき。メンバーに「お前がそんなタイトルにするからだ!」って言われたんですよ。あのときは東京じゃないみたいな量の雪が降っていて……。「すみません!」って言いましたけどね(笑)。なんだか連れてきちゃったみたいで。

ははは。氷河期を連れてきちゃったんですね。

三船:公園とかへ行くと、子どもたちは狂ったように遊んでいましたけど……。

狂ったように(笑)。そうでしょうね。あの規模だとちょっとした祝祭感がありましたよね。

三船:そう、その祝祭感──子どもじゃなくなると薄らいでいくものかもしれないけど、でも僕たちはまだ遊べるかもしれない、そんな意味も(アルバムには)あったかもしれませんね。ほんと、大人からすれば雪かきを台無しにするような遊びをしているわけですけれども。



三船雅也

ああ、それは重要なお話ですね。中原さんは「氷河期」についてどうです?

中原:「真っ白」っていうイメージがあるし、それを含めて、この先につづく道筋が見える……ばーっと白い視界のなかに道が延びている感じなんです。だから、ファースト・アルバムということもあるし、自分では「道」という意味合いを感じていました。それにさっき三船も言ったように、それぞれの人が感じるためのスペースがあるなって。

道であったり、三船さんだったら生命の蠢きのようなものであったり、閉塞性とは逆の感じなんですね。

中原:閉ざされたイメージはとくにないですね。

三船:でも、まあ、「就職氷河期」とか言うしね。すごくキャッチーな言葉だし、氷河期のイメージも画一的だけど、でもその言葉をいちばん最初に考えた人のなかには、そういう「氷河期」があったってことだよね。

中原:人によってイメージがそれぞれある、というところだと思います。

三船:真っ白だしね。

なんか、時代は細部へ細部へと意識を尖らせる方向に向かっていて、なかなか「氷河期」のように大振りでファンタジックな表現は成立させづらいと思うんですよね。

三船:以前はポッケにメモ帳を入れて、アイディアを書き留めていましたけどね。あるときさらさらと、手が止まらなくなってできあがったりするんですよ。詞については、そういうときの感覚を信用しているかなあ。ラーメン屋であんまりラーメンがおいしくなかったっていうような感想も、きっと詞のなかに出てきていると思います。

ははは。でもラーメン屋のラーメンがおいしくなかった、という些末な日常表現はあまりされないじゃないですか? 「あるある日常」ではないし、そういうところから少し遠いところで書かれているというか。

三船:そうですね、なんだろうなあ。ミシェル・ゴンドリーとかスパイク・ジョーンズとか、扉を開けるとちがう世界に行っちゃったりするじゃないですか。ああいう飛躍の仕方を今回の作品はしているなって思います。普通の生活シーンはすごくリアリティに富んだセットなんだけど、突然、ダンボールの世界に行っちゃうとか、ああいう感じです。


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「じゃあ外国に行って録ってみたらおもしろいんじゃないか」っていう話を冗談でしていたんですよ。僕は前からそういうところに憧れがあったし、日本語でものを考えない人といっしょに音楽を作ったらどうなるんだろうっていうところにも興味があって。(三船)

それは曲の作り方というところにも結びついてくると思うんですが、別世界へのアクセス・ポイントという点では、今作のプロダクションについても言えるんじゃないですか。すごくきちんと録られていると思うんです。ぐっとクリアになって洗練された音で、丁寧にミックスされている。『化け物山と合唱団』とかは、もっとロウな感じが出ていたと思うんですよ。ラフというか。その感じが今回は抑えられて、きちんと録られることで、異世界とか幻想世界へのワープが容易になったという気もします。録音について考えていたことをきかせていただけますか?

三船:『化け物山~』のツアーで京都に行って、その帰りに高速道路を走っていたときに、「次はどうしようかなー」っていうことを考えていたんです。

あ、「次」という意識があったんですね。『化け物山~』の次、という。

三船:ありましたね。といっても、ほぼ最初のアイディアでもありますけれども。それで、「じゃあ外国に行って録ってみたらおもしろいんじゃないか」っていう話を冗談でしていたんですよ。僕は前からそういうところに憧れがあったし、日本語でものを考えない人といっしょに音楽を作ったらどうなるんだろうっていうところにも興味があって。別の言語で思考している人といっしょに仕事をすることがおもしろそうに思えました。前作の反省点もあるし、あのときの車の中では海外録音の話ですごく盛り上がったんですよ。「いいね、行こうよ」って言って。僕はインターネットでそういうスタジオを探したりするのが好きなので、「こことここ!」って15か所くらいを挙げて、選んでいきましたね。

あ、自分たち発信だったんですね。しかもけっこう絞り込んで。

三船:そうですね。音楽をやっていてよかったな、とか、心がどきどきしたりとか、そういう、魂が震えるような体験を大事にして音楽を作っていこうよって考えたときに、それに忠実であろうとした結果、こうなった(海外録音になった)という感じですかね。
 そしたらなぜか、本当にかたちになっていってしまった(笑)。

そうなんですね。ブライアン・マクティアーの名前もすでに出ていましたか?

三船:出ていましたね。

じゃあ、本当に好きなんですね。

三船:ブライアン・マクティアーは、シャロン・ヴァン・エッテンが初めて日本ツアーをしたときに話しかけて、教えてもらってたんです。彼女はべろんべろんに酔っぱらっていましたけどね。ひどい……いや、本当にいいライヴでした。
 僕は、上から下まで埋め尽くすミックスがあんまり好きじゃないんですよ。最初は「おっ!」ってなるけど、ずっと聴いていられない。合理的なんだけど、何か違う。……あんなのは、日本人にアメ車作れって言っているようなものだなと思います。それに、アメ車作りたいなら向こうの人に聴かなきゃなって。

うんうん、なるほど。……しかし、アメ車の意識があるわけですか。

三船:いや、ないですよ(笑)! たとえです。

いやいや(笑)、土着の音をつくっているんじゃなくて、どこか外から日本を見つめるような視点があるんだなあと思いまして。

三船:そうですね、それがぶつかったときにどうなるのかなという興味がありますね。


僕たちが録ってもらいたいと思っている人がたまたまアメリカにいたというだけで。海外に行くことが目的ではなくて、録りたい音を録りにいきました。(中原)

「ガラパゴス」って言葉に顕著ですけど、ある閉塞性のなかで生まれてくる奇形的な表現に対して賛否あるじゃないですか。それは、「外は見なくていい」というヘンな開き直りに結び付く場合もあると思うんですが、対しておふたりの音は、わりと徹底的に日本の音楽を対象化するようなものだなと感じるんですよ。わざとじゃないかもしれませんが。まずもってアメリカ録音ですし。

三船:そうですね、対象化はしていると思います。ガラパゴスっていうのも、悪いだけでもいいだけでもないし。ただ、風通しが悪いなっていうことは感じますね。「世界ふしぎ発見」が好きなんですよ、僕(笑)。単純に、世界のいろんなところに行ってみたいなって思うし、日本にも見ていないところがいっぱいあるし。
 今回だって、たまたまアメリカだっただけで、岩手にしようかとか、今作だって半分は山梨の山小屋で録っているし……日本という国が嫌いということではぜんぜんないんです。ただ、今回外国に行くのは初めてだったんですけど、いろんなことが頭でっかちになっちゃっていて、少しガス抜きをしなきゃということは感じました。

中原さんはどうですか?

中原:海外に行って初めての体験というのはいろいろあったんですが、僕たちが録ってもらいたいと思っている人がたまたまアメリカにいたというだけで、とくに「海外に行ってきたぞー!」という感じではないんです。海外に行くことが目的ではなくて、録りたい音を録りにいきました。

なるほど、よくわかります! ところで、ボン・イヴェールだったりスフィアン・スティーヴンスだったりというアーティストたちへの共鳴があると思うんですが、どうですか? 彼らというのは、やっぱり、フォーク──アメリカやカナダというそれぞれの土地の歴史や、土着のものへの愛、あるいはその反転としての憎しみ、なんかの間で歌っていると思うんですね。そういう部分への共感は?

三船:共感はあるんですよ。でも、なんだろう……僕ら東京生まれの東京育ちだしなあ。

ははは。では山梨には何を求めたんですか?

三船:山梨は、あれです。僕たちはいわゆる「音楽スタジオ」っていうジャンルの部屋が好きじゃないんですよ。ライヴハウスも好きじゃない。なんか、そこの音に鳴っちゃうんですよね。それは避けたいし、音楽を作る環境じゃねえなってふうにも思います。

オーガ・ユー・アスホールも長野ですよね。

三船:すぐ近くですよ!

音環境については、ちょっと似たようなお考えを持っていらっしゃるかもしれないですね。

三船:それから、地元愛か……。ジャスティンは、ほんとに地元の兄ちゃん、って感じでしたよ。でも、いま「地元の音」っていうものが日本にあるかといえば、ないような気がするなあ。

音のアイデンティティって、単にヨナ抜きにすればいいのかっていうような話とちがいますからね。

三船:そうですね。東京に住んでいると、とくにそのへんはコンプレックスだったりはしますね。いろんな人間がたくさんいるし、ウチも3代東京に住んでますけど、アイデンティティっていうのが、あんまりないんですよね。何がここで鳴るべき音なんだろう、この景色に合う音楽ってなんなんだろう、っていうときに、なかなか合うなっていうものが思いつかない。


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スタジオ・ワークが好きなんですよ。変な音が入っているのがすごく好きで。ビーチ・ボーイズとかもそうだけど、スタジオでしか作れない音のすごさというか、そういうものが生み出すマジックとかが好きですね。(三船)

東京のどちらですか?

三船:僕は目黒ですね。

おお、目黒。

三船:とっても微妙な……、サンマぐらいですね。

ははは! 西東京の文化みたいなものともちょっと離れていますよね。

三船:うん、そうですね。

でも、小さいころの目黒の思い出が鳴っているという感じでもないですしね。知らないうちに、彼らの音と土地と国との関係の仕方に、自分たちにはないものを感じとって惹かれたのかもしれませんね。

三船:音楽的な土壌の豊かさ。それからアイディアの豊かさですかね。音色の感覚とか。子どもの工作のような感じで作っているところにときめくのかもしれません。

ローファイへの憧れってそんなに強くないですよね。きちんと録られていて、構築されていて。

三船:スタジオ・ワークが好きなんですよ。変な音が入っているのがすごく好きで。ビーチ・ボーイズとかもそうだけど、スタジオでしか作れない音のすごさというか、そういうものが生み出すマジックとかが好きですね。そういうところはあるかもしれません。

その妙味はありますよね。曲作りは基本的に三船さんですか? 中原さんは、三船さんの世界観や音楽性のなかで、とくにここを強調したい、ここを展開したいというようなところはありますか?

中原:先に歌詞があって、それに対しての解釈やイメージをふくらませるという場合もあるんですけど、もっと単純にサウンドとして自分の気持ちいい部分にはめていくということが多いですかね。

それをまたフィードバックして──

中原:そうですね。いっしょにスタジオに入って、これはいいね、悪いね、という判断をしていきます。

そこで2人組というところの特徴も出てくると思うんですが、音楽性を伸張していくというだけなら、単純に人数を増やすということも考えられるわけじゃないですか。2人以上はとくに必要ではない?

三船:必要なんですけど、気の合う友だちがいなかったということですね。シャイだし、僕ら。それに、音楽をやろうっていうことで集まったわけじゃなくて、もともと友だちだったふたりだから、よけいに近づきづらいんじゃないですかね。中学生の頃から続いているんですよ。

中原:最近は少しつながりもできてきましたけどね。



中原鉄也

でもたしかに、バンド同士のつながりとか、それが生むライヴ・シーンのなかから浮上してきたという感じではないですもんね。ちょっと独立したあり方だと思います。

三船:そうなんですよね(笑)。

ふたりで籠っているからこその雰囲気や音楽性というのはありますから。

三船:まあ、あんまりよくないなあとは思いながら……。

へえ? そうですかね? ライヴはそこまで頻繁にはやっていないんでしょうか。

三船:最近は、ちょこちょこと。がんばってはいます。

そうですよね。とくに意図的にライヴをしなかったというわけではないですよね。

三船:そういうわけではないですね。最近はとくに、頭の中で鳴っている音を外に出そうとすると、どうしても手が2本じゃ足りないなって思うことが多くて。それで、ゲストを呼んだりはしていますけどね。

『化け物山~』の生っぽさ、ある意味でのラフさは、今回はわりときれいに削られて構築性が高くなっている。そのことがこの『ロットバルトバロンの氷河期』の物語性や想像力をより生かしているというふうに感じるんですが、そのへんには意図があったりしますか?

三船:僕は、より生々しくなったなと感じるんですけどね。

中原:うん。

三船:前のほうが、ビニールを一枚かぶっていたというか。

中原:そうだね。

三船:膜が張られていたというか。それを破っていく感じでした。

なるほど、「生っぽさ」の解釈ですね。一発録りとか、ローファイとか、そうしたものが「生っぽさ」の記号になりすぎているかもしれません。──丁寧に手をかけられたプロダクションによって、テーマの生々しさがきちんと彫りだされている、と思いました。

三船:それはそうかもしれませんね。ただ、「洗練」ということに関しては観念的にしか言えなくて。前よりももっとプリミティヴになって、純度が上がったことは間違いないと思います。

中原:音にもっと隙間も生まれていますし。埋めてないです。

なるほど。

三船:余分なものが混ざっていないですね。引き算の美学を導入したわけではないんですが、前よりも油っ気がないというか(笑)。

油っ気(笑)。それはミュージシャンとしてのひとつの成長だったりするわけですか?

三船:うーん、なんか、前より楽しくなりましたね。というか、楽しい瞬間がそこにいっしょにレコードされてたらいいなって思っていました。そこは意識したつもりではありますね。だから、テクスチャーとかコンセプトをがちがちに決めていったのではなくて、スタジオで起きるハプニングとかを大事にしていて。大きなスケッチは見えていたけど、ディテールとかその場で起きたアクシデントを収めた一枚という感じなんですよね。

たしかに、まさに「隙間」がありますよね。

三船:台本がある感じにはしたくないな、というか。

はい。音としての豊饒さが目指されているのはとてもよく感じられます。


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僕はもともと戦闘機とか、第二次世界大戦中の戦艦とかが子どもの頃から好きなんですよ。(三船)

一方で、どうしても訊いてしまうのが「戦闘機」「爆撃機」といった詞が出てくる点についてなんですが。これは異世界の爆撃機ではなくて、我々の生きる社会や空気と地続きのところを飛ぶものですよね?

三船:うーん、社会的なこととか、政治的なこととか、生物的なこととかって、人間として生きる以上は避けて通れないことというか。(世界を構成する)要素のひとつだと思っているので、あまりそこを意識して遠ざけたり近づけたりということはしないですね。フラットに見ています。
 ただ、僕はもともと戦闘機とか、第二次世界大戦中の戦艦とかが子どもの頃から好きなんですよ。

おっと!

三船:働く車とかが好きで……。人を殺した機械だっていう前に、単純にメカとして好きっていう。それでそんなモチーフが出てくるのかもしれません。

もうちょっと美学的なところで出てきているイメージなんですかね。

三船:そうかもしれませんね。

ただ、戦争というのは、それなりに緊張を強いられるテーマであるとも思います。それから、USインディにあって日本に薄いもののひとつでもありますね。

三船:うん。逆に、どうして避けるのか不思議だなと思いますね。生きている以上、転んでケガをするし、生きている以上ケンカもするだろうし、それと同じことです。無菌室にいるのもいいだろうけど、僕は実際にケンカもしたし、いじめられもいじめもしたし、そのなかで激しく後悔したこととか、やり返したいと思ったこととか、いろいろある。みんな、そうじゃないのかな?

中原:人それぞれだろうね。

三船:そうだね(笑)、人それぞれ。だから、逆に言えばそこまで戦争というテーマを意識しているわけではないです。無責任といえば無責任かもしれないけど。

中原:彼(三船氏)がもともと持っている性格かもしれないですね。思っていることはちゃんと言うし、何かを隠したりすることもないし。

状況をみて発言したりしなかったりするというような、計算があるわけではないと。

中原:そこまでないでしょうね。

その正直さみたいなものは、ヴォーカルの表現にも出ているかもしれませんね。すごくきれいに伸びていくヴォーカル。

中原:人柄が音に出るじゃないですか。彼の人柄の延長のようなものなのかなと思います。

なるほど。中原さんからそう分析をいただきましたが、どうですか?

三船:ありがとうございます! ……でも、どうなんでしょうね。

ははは!

中原:変に着飾ってはいない、ということですね。

絶対、着飾った音楽だとは感じませんからね。

三船:よかった(笑)。

ははは。この飾らなさが、ちゃんと評価されて信頼を得ているということに心を動かされますけどね。海外のファンの方なんかはどうですか?

三船:なんだろう、英語じゃないからどうだとか、歌詞がわからないとかって言われたことは一度もないですね。

ああー。そうなんですね。歌に出ているんですね。

三船:みんな勝手に解釈してくれますしね。「なんでこんな狭いところでやってるんだ!」って言ってもらったりしたこともあります。たまたま旅行で来ていたスウェーデン人のカップルがすごい喜んでくれて、そのお兄ちゃんのほうが、「CDいくらだ?」って、くしゃくしゃのお札を渡してくれたりとか(笑)。

中原:「それだけでいいよ」って(笑)。

そんなふうな交換が、音楽にとってはいちばん幸福なありかたかもしれないですよね。

三船:うん、おもしろかったですね。

詞にこだわって聴くのが失礼に思えてくる音楽ですけど、“バッファロー”っていうのもすごくアメリカですよね。

三船:バッファローっていうのも、飛行機の名前なんです。

あ、そうなんですか? なるほど、「あの戦闘機」の名前なわけですか!

三船:そうですね。ゼロ戦にボコボコにやられる、ドラえもんみたいなかたちのコロコロしたかわいい飛行機なんですよ。ほんとにぶりぶりしてかわいいやつなんですけどね(笑)。

へえー。この曲の詞は女の子のとらえかたがおもしろいですよね。これ、男の子だったら撃ち落しには行けないんですか?

三船:その詞は──よくわからないです(笑)。僕は(アーシュラ・K・)ル=グウィンって作家が好きで。『ゲド戦記』の作者としても知られる、60年代に活躍した女性作家ですけれど、彼女はフェミニストなんです。そして、ファンタジーの世界の中にフェミニズムに対するスタンスをすごく織り込んでいる。そういう影響があるかもしれません。いつか原書で読みたいなって思っているんですが……。

なるほどなあ。

三船:手塚治虫さんも、ものすごくかわいい女の子を描いたりするじゃないですか。誰かのインタヴューで、「手塚治虫はまるで女の子の心もいっしょに飲み込んで生まれてきたようだ」っていうような発言があったような気がするんですが……。男の子と女の子では明確にちがうところがあるけれど、男の子だからこう、女の子だからこう、ということのあいだに、実際はすごくグラデーションがあると思うんです。そこは、僕らの考えるべきスペースとして広がっているものじゃないかな。

へえー。そのグラデーションというかスケールのようなものを容れる幅が、おふたりの音楽のなかにはあるかもしれませんね。それがとても自然に目指されているのがいいですね。

三船:小学校低学年くらいの、男の子と女の子の間の垣根がない頃の感覚ですかね。その感じをやりたかったのかもしれません、いま思えば。

ああー。「あいだ」のものへの優しい視線があるのかもしれないですね。無理やり当てはめると、「氷河期」だって生命と死のあいだに厳しく横たわるものというか。あとは、日本とUS的なものとの不思議な狭間。


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あんまり東京に生まれたということを意識したことはないんですが、「帰る家」がある人はいいなって思ったりしたことはありますよ(笑)。(三船)

……東京生まれって、そこに何か関係あるんですかね?

三船:あんまり東京に生まれたということを意識したことはないんですが、「帰る家」がある人はいいなって思ったりしたことはありますよ(笑)。実家に帰るっていう感覚もよくわからないし、東京というところを目指して「上って」いくという感覚もないですし。

ふるさと的なものへの憧れはありますか?

三船:僕はありますね。原風景みたいなものへの、というか。

この、アー写に映った沼とかは? 原風景的なものだったりします?

三船:なんでしょうね?

中原:その写真はボツになったやつなんですが……。

ははは! これはボツですか。でも、ROTH BART BARONのふるさとのようなものが、どこかに像を結んでいたりするのかもしれませんね。

三船:なんだろう、そういうものを探しているところはありますね。

中原さんはどうですか?

中原:僕も東京生まれ、東京育ちなんで、帰る場所というようなものはあまりイメージできないですね。あったらいいな、という憧れはちょっとあります。


「上京」っていう感覚は、僕もわからないですね。目指すべき憧れの地というものもないから、そういうところではハングリーさが足りないかもしれないです。なんか、そんなふうに言われたりもします。(中原)

三船:お正月でたくさんの人がご実家に帰られたあとは、この辺はすごく静かで、おもしろいですよ。

中原:うん。それから「上京」っていう感覚は、僕もわからないですね。目指すべき憧れの地というものもないから、そういうところではハングリーさが足りないかもしれないです。なんか、そんなふうに言われたりもします。

ええっ! そうなんですか。でも、それと同じで、守りたい東京のイメージというものもとくにないかもしれないですね。

三船:でも、みんなが心に描く東京があるなら、守らなきゃいけないということになるんじゃないかな。……わかんない、みんなの勘違いが寄り集まっている街が東京だと思っているから。
 いま話していて思いだしたんですが、僕の父親はボートの修理工なんですよ。それで、台風のときなんかは、水かさが上がったり大洪水になったりするから、丘に泊めてある舟を縛っておかなきゃいけないんです。そうじゃないと商売上がったりだから、大人の人たちがものすごい勢いで作業をする。みんな半分水に浸かりながら必死にやっているのに、そんなことお構いなしに幼少期の僕は自転車に乗って遊びまわったりしていて……そういうことを強烈に覚えていますね。原風景のようなものかもしれません。

ボートってよるべないものでもありますから、なにか象徴的ですね。


それから、以前の『化け物山と合唱団』っていうタイトルにも入っていますけど、「合唱団」というものに何か思い入れがあったりしますか? 三船さんの声はひとりだけど、合唱的だと感じるときがあって。

三船:「クワイアー」っていうものが作り出すあの感じ……。宗教音楽にも感じるし、ボーイ・ソプラノを聴いたりしても感じるんですが、ああいう教会音楽のようなものは人間に向かって鳴っているものではないじゃないですか。人間を超越したものに向けられている音が好きなのかもしれないです。

ああー!

三船:……っていうとちょっと電波くんな感じになりますが(笑)。

ぜんぜん。まさに、です。よくわかります。

三船:バッハとかもそうですね。

だから日本っぽくないんですかね。空気に向かって、共感に向かって投げるのが日本的なポップ・ソングだとすれば、ROTH BART BARONのはある絶対的なものに向かって投げられる音というか。

三船:アンノウンなものに対してではなくて、見えないけれども人間がどこかで感じているはずのもの。ちょっと複雑だけど、そういうものに向けている気がします。いま思っただけですが。

なるほどなあ。神秘的っていうんじゃなくて、ふつうとちょっと違うところに向けて歌われているんですよ。

三船:向こうでも、「アンユージュアル」ってよく言われました。よくわかんないんですけど。

それ、どういうニュアンスなんでしょうね。わたしもよくわかりませんが、きっと何か本質的なことを言っているんでしょうね。

三船:ははは。べつに、そうなるように目指しているわけではないんですけどね。

最後にそのお話が訊けてよかったです。ありがとうございました。


Arca - ele-king

 5月16日(金曜日)、実験好きで知られる恵比寿リキッドルームで、アーカの来日がブッキングされていることはみなさんご存じでしょう。
 はい、カニエ・ウェストの『イーザス』に4曲も提供している人です。アトモス。フォー・ピースの前座も務めています。ベネズエラ出身ですが、メキシコのレーベルからも出したり、〈Hippos In Tanks〉(ローレル・ヘイローやハイプ・ウィリアムスのリリースで知られる)からはミックステープ『&&&&&』もリリースして、マサやんも大絶賛という……。



 アーカは、ヒップホップの突然変異です。デジタル世界の奇怪な生命体のようです。感情に訴えるものがあります。喩えるなら、15年ほど前に不気味に登場したクラウデッドをコンピュータの廃棄場で蘇らせたようですが、よりシュールで、美しく、そして得体の知れない妖気を発しています。
 いずれににしても注目の公演です。

Arca(DJ set)

2014.5.16 friday
LIQUIDROOM
open/start 21:00 - midnight
adv.(4.19 on sale!!)
⇒3,000yen→LIQUIDROOM店頭&メール予約
⇒3,300yen→PIA[P-code 230-898]、LAWSON[L-code 77636]、e+、DISK UNION(取渋谷クラブミュージックショップ/新宿クラブミュージックショップ/下北沢クラブミュージックショップ/吉祥寺店)、TECHNIQUE、and more

*20歳未満の方のご入場はお断り致します。年齢確認のため、顔写真付きの公的身分証明書をご持参ください。(You must be 20 and over with photo ID.)

info LIQUIDROOM 03-5464-0800 https://www.liquidroom.net


▼Arca
ArcaことAlejandro Ghersiはベネズエラ生まれ、現在はロンドンを拠点とするミュージシャン/プロデューサーである。2012年にリリースされた『Stretch 1』と『Stretch 2』(共にUNO NYC)と昨年リリースされた『&&&&& 』(セルフ・リリース)は非常に高く評価され、そのプロダクション・ワークはグーグルで検索可能な多くのアーティスト達から絶賛された。現在、テレパシーで相通じるという幼馴染みでもある映像アーティストJesse Kandaと『&&&&』を映像化した『Trauma』の制作に取り組んでいる。このマルチメディア作品は2014年に世界中で公開される予定である。

https://arca1000000.com/
https://soundcloud.com/arca-2/uenqifjr3yua


Modern Love Showcase - ele-king

 先日、ミリー&アンドレア名義にて、刺激的なアルバム『Drop The Vowels』をリリースしたばかりの、アンディ・ストットとマイルス・ウィテカー(デムダイク・ステア)が絶好のタイミングで来日する。アンディ・ストットはもちろんライヴPA。デムダイク・ステアはライヴとDJ。
 5月9日(金曜日)、代官山ユニット。共演は、KYOKA(アルバムをベルリンの〈ラスター・ノートン〉から出したばかり)、AOKI takamasa、Twin Peak ほか強力なメンツ。
 これは行くしかないでしょう。

■Modern Love Showcase meets Kyoka “IS(Is Superpowered)” Release Party

2014.5.9 FRIDAY @ DAIKANYAMA UNIT & SALOON

Live Acts: ANDY STOTT(Modern Love), DEMDIKE STARE(Modern Love), KYOKA(Raster-Noton, p*dis), AOKI takamasa(Raster-Noton, op.disc), miclodiet(Sludge-Tapes), Twin Peak(FUTURE TERROR, BLACK SMOKER)
DJs: Miles a.k.a. MLZ(DEMDIKE STARE), dj masda(CABARET), YASU(ARTEMIS, Make Some Noise)

Open/ Start 23:30-
¥3,500(Advance), ¥4,000(Door)
Information: 03-5459-8630(UNIT)
You must be 20 and over with photo ID.

Ticket Outlet: PIA(P: 229-716), LAWSON TICKET(L: 76302), e+(eplus.jp), diskunion Club Music Shop(渋谷, 新宿, 下北沢), diskunion 吉祥寺, Jet Set Tokyo, TECHNIQUE, UNIT and Clubberia(www.clubberia.com/ja/store/)


interview with John Frusciante - ele-king

 「囲い込むこと」「容れ物」といった意味をもつ単語である「enclosure」をタイトルに冠したアルバムをリリースしたのは、かつてレッド・ホット・チリ・ペッパーズにおいて泥臭いカッティング・リフやブルージーなギター・ソロで聴衆を沸かせ、惜しまれつつも2009年に脱退すると、エレクトロニクスを駆使したまったく新たな音楽の探究へと乗り出していったギタリスト、ジョン・フルシアンテである。
 本盤はそうした彼の5年にわたる仕事を総括するものであり、抒情的でときに陰鬱な歌声とサンプリングされた種々雑多なドラム・パターンがポリリズミックに絡み合う、実験的でありながらもソング・ライターとしての資質をいかんなく発揮した、まさに集大成と呼ぶにふさわしい作品だ。いつものようにバルーチャ・ハシム氏によって行われた公式インタヴューにおいて、彼は次のように述べている。

 伝統的なソングライティングを非伝統的な方法でプロデュースするということがコンセプトだよ。ポップ・ソングを書いたけどプロデュースの方法によって、まったくポップ・ミュージックのコンテクストから外しているんだ。ここ30年間のエレクトロニック・ミュージックのプロダクション方法を使っているけどソングライティングは60年代や70年代のスタイルを継承している。伝統的な音楽の思考をモダンなエレクトロニック・ミュージックの思考と融合させたんだ。

00年代の音楽シーンをいわゆる「ミクスチャー」と呼ばれた強烈なファンク・ロック・スタイルで風靡し、いまなお支持の衰えないモンスター・バンド、レッド・ホット・チリ・ペッパーズのギタリストとして活躍したジョン・フルシアンテ。欠員を埋める形で中途から加入した彼は、しかし、バンドに叙情的でエモーショナルな「歌」の力を呼び込み、名ギタリストであるとともに名ソングライターとしての力量を遺憾なく発揮した。後のソロ活動においては多様なミュージシャンたちと関わりながら精力的にアルバム・リリースを重ねている。その求道的なまでの音楽探求の姿に心酔する方も多いのではないだろうか。

 このようなコンセプトがもっとも活かされた楽曲は“ラン”だろう。歌をリズムの基盤とすることによって、さまざまなドラム・パターンの組み合わせを試みることができるようになる。ジャンルは違うがジャズの帝王マイルス・デイヴィスが『ネフェルティティ』において実践してみせたような、メロディー/ハーモニーとリズムの役割を逆転させることによって、闊達なドラミングを楽曲の原動力にするという発想。もちろん、ジョンの場合はさらに歌がある。4つ刻みで発展していく歌にたいして3、5、7あるいはその2倍の数で分割しようとする無謀な取り組みは、しかしたしかに成功している。

 あの曲ではどのバンドもやったことがないようなドラムを取り入れている。歌はスローな4/4だけど小節ごとにドラムの拍子が変わっていく。でもぴったり4/4の歌と合う。小節の中でドラムのスピードが変わっていくように聴こえるよ。ギターとヴォーカルを先にレコーディングしたけど、そこにはまるようにさまざまな拍子のドラムを切り刻んでおいた。あの曲を作るのは楽しかったよ。ブラック・サバスっぽい曲を作って、スローな曲であればいろいろな拍子のドラムをはめ込めると思ったんだ。

 ジョンはグルーヴについてはどのように考えているのだろうか?

 グルーヴというのはつまり音符と音符の間の「間」のことなんだ。ドラム・プログラミングをやるようになってから、すべての音楽は「間」の作り方に基づいていることがわかった。60年代と70年代のブラック・サバスは「間」の作り方が得意だった。彼らは巨大な空間を音で作り出したし、彼らほど広々としたグルーヴを演奏しているバンドはいなかった。

 グルーヴが「間」であり、そこから生み出されるのが「巨大な空間」であるという。ジョンは『エンクロージャー』について、「おもに空間を埋めることに焦点を当てて」おり、「スペースに音を埋め尽くす作業」に専念したのだとも語っている。こうしたキーワードに照らし合わせてみると、ジャケットが禅における円相図のようにも見えてくるだろう。

 赤い枠に囲まれたジョンは語る。

 音楽というのはひとりの人間よりも大きな存在であり人間の知識よりも遥かに賢い存在なんだ。(……)音楽を作る行為は俺よりも大きな存在の中に入り込んで包み込まれるような感覚なんだ。(……)だから、自分の周りに円を描いたのは音楽を作ったり演奏しているときの自分が感じる「包み込まれる」感覚を意味している。

 「enclosure」とはつまり、音楽に関わること、しかし思いのままに音を取り扱うのではなく、遥かに偉大な「音楽」のなかであるがままに包みこまれるということだったのである。しかしジョンと禅の関わりを云々することを遮るように、彼はこうも述べる。

 音楽そのものがメッセージなんだ(……)音楽そのものがコミュニケーションの手段なんだ。音楽は情報であり何かを伝える方法だ。音楽というのは受け取って与えるものだ。

 音楽はメッセージである。同時に、コミュニケーションの手段でもある。わたしたちは彼の音楽を聴くときに、音楽に乗せて運ばれてきたなにものかを受け取ると同時に、音楽そのものを受け取る。だから、ジョンが語ることのすべては、じつは彼の音楽に耳を傾けることで受け取ることもできるのである。

ジョン・フルシアンテ、集大成

ジョン・フルシアンテのニュー・アルバム『Enclosure』。
2012年の『PBX Funicular Intaglio Zone』にはじまる、エレクトロニクスを大きくフィーチャーした近作数タイトルの集大成、一連の作品の最終作となる節目のアルバムだ。
日本盤には限定ボーナスも多数収録されている(日本盤ボーナス・トラック2曲/Blu-spec CD 2/ジョン・フルシアンテ超ロングインタビュー/歌詞対訳)。

 『Enclosure』は、過去5年間における音楽での目標をすべて達成した作品なんだ。 このアルバムはブラック・ナイツの『Medieval Chamber』と同時期にレコーディングされ、サウンドが違うかもしれないけど、同じクリエイティヴ・プロセスによって生み出された。 一つの作品から学んだことが、もう一つの作品にフィードバックした。
 『Enclosure』は『PBX』からはじまった僕の音楽による最後のメッセージだ。
ジョン

Enclosure, upon its completion, was the record which represented the achievement of all the musical goals I had been aiming at for the previous 5 years. It was recorded simultaneously with Black Knights' Medieval Chamber, and as different as the two albums appear to be, they represent one investigative creative thought process. What I learned from one fed directly into the other. Enclosure is presently my last word on the musical statement which began with PBX.
John

■John Frusciante / Enclosure
日本盤特典:9曲+日本盤ボーナストラック2曲=全11曲収録/Blu-spec CD 2/
ジョン・フルシアンテ超ロングインタビュー/歌詞対訳付
税込価格:2,300円
発売日:2014.04.08
レーベル:RUSH x AWDR/LR
収録曲:
1.Shining Desert
2.Sleep
3.Run
4.Stage
5.Fanfare
6.Cinch
7.Zone
8.Crowded
9.Excuses
10.日本盤ボーナストラック
11.日本盤ボーナストラック

Tower HMV Tower

Millie & Andrea - ele-king

 1(800)999-9999は、ホームレス、自殺、家出、虐待など、アメリカで、緊急時に対応するフリーダイヤルの電話番号だ。ふたりの老人が座るバス停には、そして次のように書かれている。「何故なら、路上の生活とは行き止まりである(その先に人生はない)」
 先のない人生──この暗示的かつリアルな言葉、バスを待つふたりの老人──この暗示的かつリアルな場面は、見事にミリー&アンドレアのデビュー・アルバムの音楽に意味を与えている。無理もない、事態の深刻さは日本でも同じ。僕は、日本でロック・バンドをやっている連中の一部がよく口にする「ジジイ/ババア」という言葉を笑って言えるほど良い社会を生きていない。身内に高齢者がいる人にはよくわかる話だ。人生をデッドエンドにしているのは特定の世代ではないのだ。

 マイルス・ウィッテカー(デムダイク・ステア)とアンドレア(アンディ・ストット)のコンビは、しかし、この見事なアートワークに反して、「先」を探索している。

 『ドロップ・ザ・ヴォウルズ』は、純然たる新作というわけではない。既発の曲がふたつほど混じっている。ミリー&アンドレアは、Discogsを見ると2008年にはじまっている。マイルス・ウィテカーに紙エレキングが取材したのは2012年の初頭だったが、そのとき彼は、「自分たちの音楽はたぶん他の誰よりも正直なだけだ」と言った。
 また、彼は紙エレキングにおいて、自分のフェイヴァリット10枚の最初にナズの『イルマティック』を挙げている。
 あるいは、アンディ・ストットの来日時のライヴを思い出してもらってもいい。あのときもジャングル/レイヴ・ミュージックへと展開したものだが……

 昨年の、ミニマリズムをダーク・アンビエント的に咀嚼したマイルス・ウィテカーのソロ『Faint Hearted』(https://www.ele-king.net/review/album/003212/)もユニークな作品だったが、コンセプトとして「追い詰められた我らの時代を描く」ということを言えるなら──ウィテカーが言うところの正直な表現という意味において──、昨年のザ・ストレンジャー(ザ・ケアテイカー、ウィテカーが尊敬するひとり)のアルバムの世界観にも近く、しかもジャングル・リヴァイヴァル/ハウス・リヴァイヴァルと「リヴァイヴァル」続きの現代にあって、アントールドのアルバムと同様に、『ドロップ・ザ・ヴォウルズ』には、結局は後戻りできないという感じも良く出ている。
 まあ、アートワークの良さもたしかに大きい。『ラグジュアリー・プロブレムス』もあの写真でなかったら……と自分の耳を疑いたくなるほど、〈モダン・ラヴ〉はうまいことをやっている。また、本人たちは「正直……」と言うものの、ベタな日本人からすると、いかにも英国風のアイロニーも効いていて、アルバムには“Stay Ugly”すなわち「醜くくいつづけよ」などという曲がある。「stayなんたら」はひとつのモットーでありクリシェだが、スマートなのものは信じるなとでも言いたげな逆説的な曲名である。

 実際、これはスマートなジャングルではない。単純明快なグルーヴではないし、目から血を流している少女でもない。折衷的で、無残にも圧縮機で潰されたごときジャングルに喩えられる。“Temper Tantrum”(オリジナルは2009年)のようにレイヴ・ミュージックとして機能すしやすい曲もあるが、気持ちに突き刺さるのは“Stay Ugly”のような、奇妙極まりない曲だ。

 それでも、誰もがこのアルバムに秘められた享楽性を否定できないだろう。ミニマル・テクノ調の“Spectral Source”からはアンダーグラウンド・ダンス・ミュージックとしての楽しみの感覚が滲み出ている。ジュークめいたエレクトロ・スタイルの“Corrosive(腐食)”は、僕にはドレクシアへのオマージュにも聴こえる。近年のブリアルの支離滅裂さからすれば、ずいぶんと聴きやすい。
 ジャングルの新解釈(ニュー・スクール)とテクノとの結合という観点では、マンチェスターのアコード(Akkord)とも重なるところはあるのかもしれない。ジャングルというスタイルには、アンダーグラウンド・ミュージックが良かった時代の記憶があるばかりではなく、音楽的にもまだ開拓する余地があり、横断的に、そしていろんなアプローチを取り入れることができるのだ。
 とはいえ、ひとつの曲のなかの階層は、こちらがより深い。タイトル曲の“Drop The Vowels”は、装飾性のない、パーカッシヴなブレイクビートと低く暗い音響との掛け合いだ。マイルスの、デムダイク・ステアにおけるダーク・アンビエント/ドローンの実験と、そしてアンディ・ストットのダンス・ビートとが刺激的な一体化を見せている。
 つまり、全8曲というのは物足りないようにも感じるが、幸いなことに、事態の深刻さによって身動きが取れないほど圧せられているわけではないようだ。このアルバムには動きの感覚、リズムがある。いたずらに微笑みはしないだけだ、正直な表現として。

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